第2章 地域づくり構想 - itoman · 第2章 地域づくり構想 1.地域づくり構想...

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-41- 第2章 地域づくり構想 1.地域づくり構想 (1)地域づくり構想の考え方 貴重な自然の活用と保全 【沖縄観光の現状】 沖縄観光はリピーターが増加し、行先が多様化している。 このため、誰もが行く定番の観光地よりも、自分の興味のある場所やほかの人からあまり知 られていない自分だけの場所を求めるなど、訪問先が多様化している。 【本島南部観光の現状】 これまで本島南部の観光といえば、修学旅行生を対象とした平和学習や慰霊などが定番 であったものの、近年利用者数が減少傾向にある。 世界遺産に登録されてから、歴史観光が注目を集め人気が高まっている。 【歴史資源】 南部地域には世界遺産となった斎 場御嶽を中心に、信仰と一体となっ た歴史文化が残されている。 地域として誘客に取り組んでおり、 今後も集客の増加が予想される。 【自然環境・景観】 南部地域に広がる雄大な海浜景観 や森林景観は大きな魅力である。 南部には豊かな自然が残されてお り、自然体験などのフィールドとし て魅力が高い。 時代に合わせた新しい観光の魅力を提供 琉球回廊(宿 すく みち )構想 南部地域の歴史資源の活用 県内各所に残る歴史資源を有機的につなぎ、周遊観光を誘導する。 利用者がテーマを持って周ることのできるコースを複数用意する。 【糸満市観光の方向性】 糸満市には三山分立時代のグスクなどの歴史資源が立地し、また、当時の宿道(すくみち) 沿いにはカー(井泉)や御嶽など、習俗と一体になった歴史資源が多く残されている。 糸満市にはジョン万次郎の上陸地であることなど、これまで注目されてこなかった歴史資 源が存在し、歴史の新たな切り口を提供することができる。 糸満市に残された自然海岸や丘陵地の森林など、豊かな自然環境は魅力が高い。 糸満市は、地域独自の歴史・文化・自然環境を活用した歴史観光・自然観光を推進する。

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Page 1: 第2章 地域づくり構想 - Itoman · 第2章 地域づくり構想 1.地域づくり構想 (1)地域づくり構想の考え方 貴重な自然の活用と保全 【沖縄観光の現状】

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第 2 章 地 域 づ く り 構 想

1.地域づくり構想

(1)地域づくり構想の考え方

貴重な自然の活用と保全

【沖縄観光の現状】

沖縄観光はリピーターが増加し、行先が多様化している。

このため、誰もが行く定番の観光地よりも、自分の興味のある場所やほかの人からあまり知

られていない自分だけの場所を求めるなど、訪問先が多様化している。

【本島南部観光の現状】

これまで本島南部の観光といえば、修学旅行生を対象とした平和学習や慰霊などが定番

であったものの、近年利用者数が減少傾向にある。

世界遺産に登録されてから、歴史観光が注目を集め人気が高まっている。

【歴史資源】

南部地域には世界遺産となった斎

場御嶽を中心に、信仰と一体となっ

た歴史文化が残されている。

地域として誘客に取り組んでおり、

今後も集客の増加が予想される。

【自然環境・景観】

南部地域に広がる雄大な海浜景観

や森林景観は大きな魅力である。

南部には豊かな自然が残されてお

り、自然体験などのフィールドとし

て魅力が高い。

時代に合わせた新しい観光の魅力を提供

琉球回廊(宿す く

道みち

)構想

南部地域の歴史資源の活用

県内各所に残る歴史資源を有機的につなぎ、周遊観光を誘導する。

利用者がテーマを持って周ることのできるコースを複数用意する。

【糸満市観光の方向性】

糸満市には三山分立時代のグスクなどの歴史資源が立地し、また、当時の宿道(すくみち)

沿いにはカー(井泉)や御嶽など、習俗と一体になった歴史資源が多く残されている。

糸満市にはジョン万次郎の上陸地であることなど、これまで注目されてこなかった歴史資

源が存在し、歴史の新たな切り口を提供することができる。

糸満市に残された自然海岸や丘陵地の森林など、豊かな自然環境は魅力が高い。

糸満市は、地域独自の歴史・文化・自然環境を活用した歴史観光・自然観光を推進する。

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第2章 地域づくり構想

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2.琉球回廊(宿す く

道みち

)構想の可能性

(1)琉球回廊(宿す く

道みち

)構想の基本的な考え方

「琉球回廊(宿道)構想」は、本島南部に存在する歴史資源が連携することで、魅力を高めることを

意図しており、個々の歴史資源で長時間のプログラムを組むことは困難であるものの、複数の歴

史資源が連携し、周遊観光に誘導することで、半日コース・1日コースなど、利用時間の延長と魅

力を高めることが可能となる。

それぞれテーマを持ったコースを複数設定することが重要であり、利用者の好みに合わせた利用

が選択できるとともに、次回の来訪時には別のコースを周るなど、リピーターの獲得が期待できる。

沖縄県内にはいくつかの歴史観光コースが設定されており、「ジョン万次郎コース」もこれに続く、

新しいコンテンツとして育成する。

【沖縄県内の主な歴史をテーマにしたコース設定】

沖縄の世界遺産観光:ユネスコ世界遺産に登録された歴史資源を回るツアーで、各市町村や旅行代

理店が独自のツアーを立ち上げている。

主な見所は、今帰仁城跡、座喜味城跡、勝連城跡、中城城跡、首里城跡、園比屋武御嶽石

門、玉陵、識名園、斎場御嶽である。

琉球歴史回廊:沖縄総合事務局が策定した歴史観光プロジェクトで、県内各地域がそれぞれの歴史

文化に光を当てる活動や事業をとおして、魅力ある景観づくりや生き生きとした交流の輪

を広げ、住民が主体的に地域づくりにかかわっていくことを目指した事業である。

設定された拠点は首里ウヤグニ(総合)、中城ムヌガタイ(歴史物語)、読谷山ムラアシビ(村

遊び)、コザチャンプルー(複合文化)、勝連キムタカ(豊穣村島)などである。

東御廻い(アガリウマーイ):琉球の祖神アマミキヨが久高島に降り立ち、各地を巡ったことにちな

んで、琉球国王が王国安泰・五穀豊穣を祈願する行事であり、後に一般化していった。

現在は、沖縄の聖地を巡る観光コースとして、各市町村がプロモーションしており、来訪

者が増加傾向にある。

主な歴史資源は、那覇市の園比屋武御嶽、与那原町の御殿山、親川、南城市の場天御嶽、

月代グスク(月代宮)、テダ御川、斎場御嶽、知念城跡、知念大川、受水張水、ヤハラツカ

サ、浜川御嶽、ミントングスク、玉城城跡である。

複数の歴史資源が連携することによって観光メニューとし

ての役割を持たせる。

複数の歴史資源を使い分けることによって、好みに合った

多様なテーマを設定。

多様なテーマを用意することで、周遊観光機会が増える。

重要人物にスポットをあてて、琉球回廊の付加価値を高め

る。

歴史資源の連携

複数のテーマ設定

リピーターの獲得

ジョン万次郎コース

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第2章 地域づくり構想

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■展開例 ~ジョン万次郎コース~

ジョン万次郎の生涯は、教育的効果が高く、エデュ

ケーショナル・ツーリズム(※)のテーマとして優れて

いる。

ジョン万次郎が上陸し、沖縄県内に滞在した際の所

縁の地をつなぎ、彼の功績や当時の沖縄歴史文化

を学ぶことができるコース設定とする。

ジョン万次郎がたどったコース周辺にある史跡の復

元整備の可能性を検討するとともに、解説サインなど

を設置してジョン万次郎を通して、当時の街並みや

社会を知ることのできる観光コースを整備する。

糸満市は、ジョン万次郎の上陸地である大度海岸

(小渡浜)があり、さらに当時の宿道(スクミチ)沿いに

摩文仁番所や真壁番所、報得橋などがあり、これら

を拠点化した歴史観光を提供するとともに、万次郎

が訪れた豊見城市の翁長集落や那覇市の小禄番所

などと連携を図り、ジョン万次郎をテーマとした観光

コースの創出を図る。

ジョン万次郎上陸地(糸満市大度海岸<小渡浜>)

琉球回廊(宿道) ~ジョン万次郎コース~(糸満-豊見城) 琉球回廊(宿道) ~ジョン万次郎コース~(豊見城-小禄)

翁長集落

兼城番所跡

報得橋

真壁番所跡

摩文仁番所跡

ジョン万次郎上陸地

豊見城番所跡

小禄番所跡

ジョン万次郎記念碑(豊見城市高安) (※)エデュケーショナル・ツーリズム

「学ぶ」エデュケーションと「旅行、レクリエーション」ツーリズムとを組み合わせた造語で、観光とは違う視点で「学ぶために来る」「学びあって帰る」こと。

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第2章 地域づくり構想

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(2)糸満市の歴史資源と活用の可能性

1)対象となる歴史資源と活用の考え方

糸満市には多くの歴史資源があるものの、本調査においては、ジョン万次郎をテーマとした観光コ

ース設定を検討するため、彼のたどった大度海岸(小渡浜)から小禄番所に至るルートを中心に歴

史資源を調査する。

また、時代設定については、ジョン万次郎が滞在した琉球王国時代末期(おおむね 1850 年前後)

に存在していた史跡を対象とする。

ジョン万次郎がたどったコースを基本としつつ、各所に存在する歴史資源をとおして、糸満市の成

り立ちや生活、文化、風習まで理解できるように広がりのある情報提供を実現する。

また、現在整備が進められている「(仮称)糸満市文化・平和・観光振興センター」は、糸満市観光

の拠点施設として、情報提供や同センターを起点とした地域観光の運行を検討しており、歴史資

源とセンターあるいは歴史資源同士の連携などを検討する必要がある。

2)市内全域にわたる歴史資源

①地勢

糸満市の地形は、島尻層群の琉球石灰岩が断

層をなして隆起し、複数の丘陵地形が形成され

ていることが特徴である(下図)。

こうした断層の間の平坦地には人が生活して集

落が形成され、また、丘陵地形にはグスクが築か

れ、眼下の集落とあわせて一つの地域を形成し

ていった。

こうした丘陵地は、市内各所で確認することがで

き、事実を知った上で糸満市の風景を眺めれば、

その成り立ちを実感することができる。

《活用タイプ》

・ 利用の主目的とはなりにくいものの、このような丘陵地形は市内各所から容易に確認す

ることができ、地域の成り立ちを知る上で貴重な情報となる。

《活用に向けた課題》

・ 情報提供を適切に行うことが大切であり、サインの設置やガイドによる説明、「(仮称)

糸満市文化・平和・観光振興センター」を活用した情報提供などが必要である。

丘陵から見た糸満市の地形

図 糸満市の地形の成り立ちと地形

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第2章 地域づくり構想

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3)大度地区の歴史資源

①大度海岸(小渡浜)

ジョン万次郎が上陸した海岸であり、詳細は不明

な点が多いものの、上陸後一晩岩場に隠れたこ

となどいくつかの逸話が残されている。

基本的に自然海岸であり、当時から大きな変化

はないと考えられる。

現在、記名サインは整備されているものの、記念

碑や解説サインなどは設置されていない。

《活用タイプ》

・ ジョン万次郎の足跡をたどる上で、最初に訪れる意義のある目的地である。

・ 現状では、単なる自然海岸であり利用時間は短くなると考えられる。

《活用に向けた課題》

・ すでに上陸地であることを示す記名サインは設置されているものの、さらに記念碑や歴

史解説サインなどを設置することでさらに情報を拡充し、ジョン万次郎上陸のロマンを

感じられるような整備をすることが大切である。

②古道跡・古墓群

ジョン万次郎が上陸した大度海岸(小渡浜)の近

くには、古道跡、古墓群があるといわれている。

特に古道跡ついては、ジョン万次郎が上陸し摩

文仁番所に向かった道に近いと考えられ、当時

の様子を知る手掛かりとなる。

ただし、現在は森林に覆われており、詳細な位

置、形状については未確認である。

《活用に向けた課題》

・ 未確認のため詳細な活用タイプ、課題ともに不明である。

・ 活用にあたっては、アクセス道路を整備する必要があり、事業費が大きいと考えられる。

・ 誘導サインなどの情報提供が必要である。

古道・古墓群の位置

大度海岸上陸地

古墓群

古道跡

現在の大度海岸(小渡浜)

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第2章 地域づくり構想

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4)米須地区の歴史資源

①摩文仁番所跡

ジョン万次郎が最初に訪れたのが摩文仁番所で

ある。

摩文仁番所は元々、摩文仁集落の南端に位置

するハンタ原にあったといわれており、1713 年

(尚敬王代)に米須に置かれた(※)と記録に残さ

れている。

この土地は、長年にわたりJAおきなわが営業し

ており、現在はその建物を民間事業者が利用し

ている。

現在は、当時の様子を残す痕跡はない。

《活用の可能性と課題》

・ 復元計画などもなく活用は困難である。

・ 観光バスなどを正面に停車し、番所跡であることを説明するなどの利用は可能であると

考えられる。

(※)出典:沖縄「歴史の道」を行く(監修:新城俊昭 著:座間味栄議 出版:むぎ社)

②米須グスク

米須グスクは、三山分立時代に米須按司によっ

て築城されたグスクで、ジョン万次郎の時代よりも

古い時代の物である。しかし、彼が訪れた時に

存在はしていた。

二重に張り巡らされた野面積みの城壁や石畳、

階段などがよく保存されており、当時の姿が残さ

れている。

《活用タイプ》

・ ジョン万次郎と直接の関連はないものの、琉球の歴史文化を知る上では貴重な史料であ

り、観光の主目的となり得るポテンシャルを有している。

・ このグスクだけで長時間の利用は困難であるものの、数個所のグスク巡りコースの一つ

に選定される可能性は十分にある。

《活用に向けた課題》

・ すでにサインは設置済みであるものの、さらに拡充することで魅力が高まる。

・ 文化財の保護策に十分配慮した上で、一部森林を伐開することにより、グスクの全体像

が見渡せるよう魅力を高める。

・ アクセス性を向上させるため、誘導サインの拡充、駐車場の整備が必要である。

摩文仁(米須)番所跡地

米須グスク

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第2章 地域づくり構想

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③まき橋

米須地域から県道 7 号線を北上し、丘陵地を越

えた辺りの道路下にある史跡で、築造年代不明

の石積みアーチ橋が残されている。

周辺では唯一の宿道の遺構であるものの、道路

からはまったく見えず案内サインなども設置され

ていない。

《活用の可能性と課題》

・ 道路下にあり当時の景観を思い浮かべるような魅力度の高い演出が必要である。

5)真壁地区の歴史資源

①真壁番所跡

ジョン万次郎が摩文仁番所の次に連れていかれ

たのは、真壁番所であったと考えられている。

現在はJAおきなわの集出荷場として利用され、

当時の様子を知る手掛かりは残されていないも

のの、地域から番所の復元が要望されており、こ

れが実現した場合、歴史観光の一つの魅力とな

る可能性を有している。

《活用の可能性と課題》

・ 現状では、歴史資源が何も残されておらず活用は困難である。

・ 将来的に真壁番所が復元された場合、その整備内容によっては魅力が高まる。

②真壁グスク

真壁グスクは、三山分立時代のグスクであり、ジョン万次郎

の時代よりも古い時代の物であり、彼が訪れた時にすでに

存在していた。

現在は公園として利用されているものの、歴史を強調した整

備とはなっていない。

《活用の可能性と課題》

・ 現状でも利用することは可能であるものの、グスクで

あることが理解できるよう往時の景観を意識した整

備が望まれる。

・ 真壁地域には歴史資源が多く残され、魅力も高いこと

から、その象徴として、グスクの果たす役割は大きい。

現在のまき橋の様子

真壁番所(現在は JA おきなわの集出荷場)

真壁グスク

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第2章 地域づくり構想

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③真壁集落

往時の真壁集落は区割りが大きく、ほかの地域

より豊かであったと考えられる。

また、グスクと集落はセットであると捉えることが

できるものの、県内のほかの集落では条里制じ ょ う り せ い

(土

地区画精度)が敷かれておらず、真壁地域の条

里制の土地利用は特異な存在である。

また、個々の屋敷の規模が 200~600 坪程度と、

県内のほかの集落よりも突出して大きく、見応え

のある集落が残されている。

集落内には石積みなども多く残され、見所が多

い。

《活用の可能性と課題》

・ 地域に残された集落景観は魅力が高く、滞在型観光の拠点となる可能性を有している。

・ 集落全体で買い物や食事などのアクティビティ(観光地などでのさまざまな遊びなど)

を提供することができれば、長時間の利用も可能である。

・ 利用の前提として、駐車場を十分に確保することが必要である。

④真壁古民家

建物自体は明治時代の物であり、屋敷の地割り

や井戸、フール(豚の飼育小屋兼便所)、石積み

など、歴史的な資源が多く残され、当時の生活

の様子を実感することができる。

現在は沖縄そば屋として営業し、多くの県民、観

光客が訪れている。

《活用の可能性と課題》

・ 現状でも大きな魅力となっている。

・ 真壁地域においてほかに集客施設は立地していないものの、同様の取り組みをする民間

事業者の出現により地域としての魅力を高めることが可能であり、知名度向上などの相

乗効果が期待できる。

写真の石積みは後の時代の物と考えられるが、集落内

には立派な物が多い。

現在は沖縄そば屋を営業している。

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第2章 地域づくり構想

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⑤ウフガー

集落名に残されたウフガー(方形石組井戸)で、

規模が大きく段状の石積みとなっていることなど、

魅力の高い井戸であると考えられる。

現在は、取水のためコンクリート製のボックスが設

置され、景観を阻害している。

《活用タイプ》

・ 単体で集客することは困難であるものの、集落の構成要素として大きな魅力となる可能

性を有している。

《活用に向けた課題》

・ 取水のためのコンクリート製のボックスが景観を阻害しており、設置者と協議した上で

撤去することが可能であれば魅力は高まる。

・ 石積み周辺は地区によって定期的に除草が行われており、その形状を見ることができる。

6)大里地区の歴史資源

①高嶺番所跡

ジョン万次郎が真壁番所の次に連れて行かれた

番所であると考えられている。

現在は、発掘調査が終了し、利活用に向けた整

備を検討している。

整備内容は基本的には芝生広場としながら、一

部に出土した瓦や陶器など遺物の展示施設を

計画している。

《活用の可能性と課題》

・ 歴史を活用した整備を計画しており、地域の歴史学習の役割を担うことが期待されてい

る。

・ 周辺の嘉手志ガー、南山城跡などと連携した活用を図ることで、歴史観光の拠点として、

魅力を高めることが可能である。

ウフガー(井戸)

高嶺番所跡

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第2章 地域づくり構想

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②嘉手志ガー(カデシガー)

南山城跡と高嶺番所の間に位置する方形石組

み井戸で、現在も水量が豊富で、地域住民の憩

いの場となっている。

当時は交通網が発達していないため、こうした井

戸は水分補給のできる貴重な休憩場所であり、

記録には残されていないものの、ジョン万次郎も

休憩に利用した可能性はある。

地域の子どもたちの利用も多く、訪れる観光客も

増加しており駐車場問題が発生している。

《活用タイプ》

・ すでに観光バスなどが訪れており、沖縄の歴史を知る上で魅力の高い歴史資源である。

・ 子どもの遊びなどとして、長時間の利用も可能である。

《活用に向けた課題》

・ 南山城跡とともに観光協会などの歴史観光ツアーで活用されているものの、周囲の史跡と

連携強化などさらなる活用が期待されている。

・ アクセス性を向上させるため、誘導サインの拡充および駐車場の整備が必要である。

③南山城跡

南山城跡は、三山分立時代に歴代の山南王の居城として栄華を誇り、発掘調査においておびた

だしい数の土器、青磁、白磁器が出土したことなど、当時の繁栄をしのぶことができる。

切石積みの立派な城郭を見ることができるものの、これは大正時代に積み直された物であるとい

われており、それ以前は野面積みの城郭で場内に一部が残されている。(※)

小学校の敷地内であるものの、自由に出入りすることができ、観光客の利用も可能な状態となって

いる。

(※)出典:沖縄のグスクめぐり(監修:当真嗣一 編著:むぎ社編集部 出版:むぎ社)

立派な切り石の石垣は大正時代の物である。

嘉手志ガー

本来の石垣は野面積みであった。

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第2章 地域づくり構想

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《活用タイプ》

・ 規模の大きな城郭は魅力が高く、観光の目的地となり得る魅力を有している。

《活用に向けた課題》

・ 駐車場など、アクセスの整備が課題である。

・ 小学校の敷地内に位置していることから、児童と観光客の分離が課題となる。

・ 嘉手志ガーとともに観光協会などの歴史観光ツアーで活用されているが、周囲の史跡と

連携を強化しさらなる活用が期待されている。

出典:沖縄のグスクめぐり(監修:当真嗣一 編著:むぎ社編集部 出版:むぎ社)

④馬場跡

嘉手志ガーと高嶺番所跡との間の道路は特に広

くなっており、当時は馬場として活用されていた。

馬場は、集落で綱引きといった祭事が行われるな

ど、特別な空間であった。

適切な情報提供がなければ単に道幅の広い道路

としか認識されないため、情報提供が大切であ

る。

糸満市観光協会などが歴史観光コースとして活用

している。

《活用の可能性と課題》

・ 適切な情報提供がなければ、現地においての馬場の認識できる人は少ないと考えられ、適

切な情報提供が重要である。

・ 現状でイベントなどを開催することは可能であり、場所の意味に基づいた利用は必然性が

高いと考えられる。

7)照屋地区の歴史資源

①報得橋

元は木橋で尚円王の時代に石橋として改修され

た物であり、ジョン万次郎も渡ったと考えられてい

る。

戦火で完全に破壊されたと考えられていたものの、

一部が発見されたことから移築復元された物であ

る。

《活用の可能性と課題》

・ ジョン万次郎の足跡をたどる上では、重要な史跡であり、重要度が高い。

・ 利用にあたっては、駐車場整備が課題である。

馬場跡(大里)

報得橋(移築復元)

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第2章 地域づくり構想

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②照屋ガー(ティラガー)

元々集落の生活用水として利用されていた井戸

であり、現在も簡易水道の水源として利用されて

いる。

ジョン万次郎がたどったコースと離れているため、

利用はなかったと考えられる。しかし、照屋地区

に残された歴史資源であり、抽出している。

コンクリートの囲いは比較的最近整備された物と

考えられ、チンマーサー(街道)や拝所など、当

時の歴史資源も残されている。

《活用の可能性と課題》

・ アクセス手段の確保が課題であり、また、駐車場の確保が必要である。

・ 住宅地の中にあること、簡易水道の水源となっていることなど、観光活用にあたっては

生活に影響を与えないように必要な措置を講じる必要がある。

現在の照屋ガー(ティラガー)

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第2章 地域づくり構想

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8)賀数地区の歴史資源

①兼城番所跡

琉球国旧記(1731 年編纂)の時代には、兼城間

切番所は嘉数邑(賀数)に置かれていたと記録さ

れている。当時は、首里王府からの宿道(スクミ

チ)の利便性や上納の集積に不便が生じ、移設

された番所がいくつもあり、これもその一つである。

(※1)

兼城間切番所は現在の兼城小学校グラウンドの

位置にあったと伝えられ、番所の前には座波馬

場があった。馬場は、現在のJAおきなわ糸満兼

城支所辺りまで続いていたといわれている。(※2)

当時は琉球松の並木が美しかったと伝えられているものの、その痕跡は残されていない。

《活用の可能性と課題》

・ ジョン万次郎の通った道をたどる上では重要な史跡であるものの、当時の痕跡は残され

ておらず活用は困難である。

・ 道幅が狭いため観光バスを正面に停車した場合、交通の妨げとなることが懸念される。

(※1)出典:今帰仁村歴史文化センターホームページ

(※2)出典:沖縄「歴史の道」を行く(監修:新城俊昭 著:座間味栄議 出版:むぎ社)

痕跡が何も残されていない現在の兼城番所跡

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第2章 地域づくり構想

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②ビービルの拝所・旧道

兼城番所の北側には賀数グスクのある丘陵地が

残され、「賀数のウナンチヂ」と呼ばれている。

(※1)

その西側には、座波ビービルと呼ばれるビジュ

ルを祀る拝所があり、座波と兼城の人々によって

配されていたといわれている。(※2)

拝所の周辺には、かつての旧道が残されてい

る。

《活用の可能性と課題》

・ ジョン万次郎が通ったと考えられる宿道が残されている。

・ 利用にあたって周辺の景観整備を行うほか、駐車場などのアクセス手段の確保やサイン

の設置などが必要である。

(※1)(※2)出典:沖縄「歴史の道」を行く(監修:新城俊昭 著:座間味栄議 出版:むぎ社)

③賀数ガーおよび賀数集落内の石積みなど

ジョン万次郎がたどったと考えられる兼城間切番所のあった賀数地域は、集落内や畑の周辺など

に多くの歴史資源が残されている。

賀数ガーや集落の石積み、拝所、石橋、賀数グスクなどの歴史資源を見ることができる。

《活用の可能性と課題》

・ 当時の資源が残されており、歴史的な景観を楽しむことができる。

・ 利用にあたって、駐車場などのアクセス手段の確保やサインの設置などが必要である。

・ 地域の生活環境の中にあることから、周辺住民の理解が必要である。

賀数ガー 賀数集落内に残された石積み

座波ビービルの拝所

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第2章 地域づくり構想

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9)翁長(豊見城市)の歴史資源

豊見城市翁長地区は、厳密には糸満市外であるものの、ジョン万次郎の軌跡をたどるためには重要

な歴史資源であり、以下に主要な史跡をリストアップする。

①ジョン万次郎記念碑

ジョン万次郎は糸満市の大度海岸(小渡浜)から

上陸し、その後、豊見城村翁長に滞在を命じら

れた。

そのことを記念して、現在の翁長共同利用施設

に記念碑が建立されている。

《活用の可能性と課題》

・ ジョン万次郎の足跡をたどる上では、重要な史跡であり重要度が高い。

・ しかし、アクティビティが限定されており、滞在時間は長くないと考えられる。

・ 位置を明示するための誘導サインが必要である。

②高安家

ジョン万次郎が滞在していた屋敷であるが、当時

から残されている物はヒンプン(家の門の内側に

ある目隠し)のみである。

まだ若かったジョン万次郎は、このヒンプンを飛

び越えて外に出ていたという逸話が残されてい

る。

高安家の末裔が生活しており、現在も高知県の

中濱家と交流が続いているといわれている。

《活用の可能性と課題》

・ ジョン万次郎の足跡とたどる上では外せない歴史的資源であるものの、現在は個人住宅

であり生活の場となっていることから、積極的な誘客は図りにくいことが課題である。

ジョン万次郎記念碑

高安家とヒンプン

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第2章 地域づくり構想

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③馬場跡(豊見城市翁長)

ジョン万次郎は滞在中に綱引きなどにも参加し

たと記録が残されており、その舞台となったのが

馬場跡であった可能性がある。

道幅が広いという点は、当時の様子が残されて

いるものの、それ以外の歴史資源は確認されて

いない。

《活用の可能性と課題》

・ サインなどで情報提供することが必要である。

・ 石張りや並木など当時の歴史景観を感じさせるように整備し、魅力の創出が必要であ

る。

10)小禄(那覇市)の歴史資源

①小禄番所跡

ジョン万次郎は、小禄番所を越え古城村まで連

行された後、引き返したと伝えられている。

現在は住宅地となっており、当時の様子をうかが

い知ることはできないものの、番所があったことを

示す解説サインが設置されている。

《活用の可能性と課題》

・ ジョン万次郎との関連の深い場所であるものの、サインが設置されるのみであり当時の

様子を思い浮かべることは困難である。

・ 短時間立ち寄りながら位置を確認することはできると考えられる。

馬場跡(豊見城市翁長)

小禄番所跡地(那覇市)

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第2章 地域づくり構想

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11)ジョン万次郎コース以外の市内歴史資源

ジョン万次郎がたどったコースとは離れているものの、当時の様子を知ることのできる歴史資源に

ついて調査し、その概要と可能性をまとめる。

■武富地域

①土帝君(トゥティークン)・そのほか御嶽・拝所

この周辺には、土帝君(トゥティークン)、ビジュル

神などの御嶽が集中して残されている。

この地域では、旧暦の9月にその年に生まれた

子どもの無病息災などを祈願する「ビジュルムヌ

メー」が行われ、多くの参詣者が訪れる。

土帝君は本来、中国の神であり何らかの形でこ

の地に伝わってきたものと考えられる。

《活用タイプ》

・ 土帝君(トゥティークン)・ビジュル神、前ヌ御嶽など、多くの御嶽・拝所が残されてお

り、また、風習なども残されていることから、ポテンシャルが高く、観光の魅力となる

可能性がある。

・ ただし、現状では御嶽単体しか残されておらず、周囲の景観が残されてないことなど改

善点がある。

《活用に向けた課題》

・ 史跡自体は、現在も地域の行事で使用されており、その利活用については地域の理解が

必要である。

・ 駐車場や誘導サインなど、アクセスの整備が課題である。

・ 周辺の道路など、景観全体で歴史を感じられるようにすることで、魅力が高まると考え

られる。

武富の土帝君(トゥティークン)

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第2章 地域づくり構想

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■北波平地域

①石積・石畳

北波平集落に残された石積みと石畳はジョン万

次郎がたどったコースから離れ、実際に利用した

可能性は低いものの、当時の宿道の景観を知る

のに有効な歴史資源である。

規模は小さいものの、当時の雰囲気を残してお

り、また、同じ集落内には、石積みや拝所などこ

れ以外の歴史資源も点在している。

《活用の可能性と課題》

・ 規模が小さいため、これだけで満足させることは難しくはあるものの、当時の集落の姿

を知る上では、短時間でも立ち寄る価値があると考えられる。

・ 集落内にあり生活空間と重なることから、利活用には地域の理解が必要であり、また、

駐車場、誘導サイン、案内サインなどを整備し、アクセス性を向上させる必要がある。

■兼城地域

①兼城番所跡

ジョン万次郎が訪れる前の時代は、この場所に

兼城番所があったと考えられる。

現状では何も残されておらず、番所があったこと

を想像することは難しい。

《活用の可能性と課題》

・ 現状での活用は難しく、復元やサインの設置

などが必要である。

・ 復元に先立って、発掘調査などが必要である。

②兼城樋川(ヒージャー)

兼城番所跡近くにある樋川(ヒージャー)で、『琉

球国旧記』に兼城村に所在すると記されている

のはこの井戸の可能性がある。(※)

糸満市内には、樋川(ヒージャー)形式の井戸が

ほとんど分布していないため貴重な存在である。

《活用の可能性と課題》

・ 周辺整備および駐車場など、アクセス整備が

必要である。

北波平に残される石積みと石畳

兼城樋川(ヒージャー)

(※)出典:琉球の水の文化誌(著:長嶺勳操 出版:沖縄村落史研究所)

現在の兼城番所跡

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第2章 地域づくり構想

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③兼城グスク跡および集落景観

兼城グスクは高台の上にあり、兼城按司が築いた物であるとされ、尚巴志によって南山城が滅ぼ

された際、照屋グスクにいた波平門中がこの地に移り住んできたと伝えられている。(※)

集落内には、城郭とは明らかに異なる石積みが多く残されており、これらも歴史的風致景観を創

出することに寄与している。

集落内には石積みのほか、下川権現壕、御嶽、拝所、チンマーサーなど歴史資源が多く残され、

また、赤瓦の屋敷なども残されている。

《活用の可能性と課題》

・ 歴史的な風致景観を残しており、市内でも特に魅力の高い地域である。

・ 現状では、散策以外にアクティビティがないため、長時間の利用は困難であるものの、

カフェなどの娯楽要素が加われば、集客効果は高いと考えられる。

・ 集落内に位置しているため、地域の理解が必要である。

・ 駐車場などのアクセス手段を確保することが必要である。

(※)出典:九州・沖縄ぐるっと探訪 HP

■潮平地域

①潮平ガー(スンジャガー)

大正時代に造られたムラガー(集落の共同井戸)

で、ジョン万次郎の時代とは異なっており、戦前

の生活の様子を知る上で貴重な歴史資源であ

る。

また、優れた石造建築物として、国の登録文化

財に登録されている。

《活用の可能性と課題》

・ 琉球文化特有の優れた石造構造物として、見学する価値のある歴史資源である。

・ 柵の改良など景観に配慮することで、魅力が高まると考えられる。

立派な石垣が残されている 赤瓦が残された屋敷

潮平ガー(スンジャガー)

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第2章 地域づくり構想

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■南波平地域

①波平ガー(ハンジャガー)

来歴は不明である。

集落からやや離れた位置にあり、現在は周囲が

雑草で覆われているため、存在を確認することも

困難な状況となっている。

しかし、中に入ると保存状態の良い見事な石積

みが残されており、見応えのある歴史資源であ

る。

《活用の可能性と課題》

・ 石積み自体は保存状態が良く、そのまま公開することも可能である。

・ しかし、アクセスが悪く位置も分かりにくいため、案内サインや駐車場などの整備が必

要である。

■福地地域

①波平玉ガー(ハンジャタマガー)

来歴は不明である。

国道 331 号沿いの民間敷地内にあり、位置が確

認しにくい。

円形の石積みが特徴的であるものの、上部には

コンクリートの覆いが設置されている。

《活用の可能性と課題》

・ 公開にあたって、コンクリートの撤去などの整備が必要である。

・ また、アクセスしにくい位置にあるため、サインや駐車場の整備が必要である。

・ 民間の敷地内にあり、権利者の理解が必要である。

波平玉ガー(ハンジャタマガー)

波平ガー(ハンジャガー)

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第2章 地域づくり構想

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■束里地域

①上里グスク跡

南山城跡の出城として、上里按司によって築城

されたと伝えられている。

現在は、森林に覆われていて、全体像を把握す

ることはできないものの、大規模な城郭は見応え

があるといわれている。

《活用の可能性と課題》

・ 森林を伐開し、城郭の全体像を見ることができる状態にすることが必要である。

・ その上で、必要に応じて城郭の復元など、当時の様子が想起できる景観を取り戻すこと

で魅力が高まる。

・ 駐車場、サイン、園路、トイレなど、利用のための施設整備が必要である。

■喜屋武地域

①具志川城跡

喜屋武岬の断崖上に築かれた城であり、足元に

広がる青く澄みきった大海原は壮観である。

由来については諸説あるものの、県内には「具

志川城跡」と呼称されるグスクが3カ所あり、どれ

も海に面し、築城形式も似通っている。

すでに復元・公開がなされており、多くの観光客

が訪れている。

《活用の可能性と課題》

・ すでに復元・公開が済んでおり、現状で活用することができる。

・ 市内のほかのグスクの整備・公開を進め、グスク周遊コースを設定し連携を図ることで、

魅力が高まると考えられる。

復元・公開されている具志川城跡

木に覆われている上里グスク跡

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第2章 地域づくり構想

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12)調査のまとめ

①歴史資源のタイプ分けに関する考え方

琉球回廊(宿道)構想におけるジョン万次郎コース周辺には、ジョン万次郎が見た可能性のある歴

史資源が多く残されている。

これらの歴史資源については、歴史的な価値に加え、観光振興の視点から、観光客に魅力を伝

え、いかに集客に寄与できるかという評価も考えられる。

本調査において抽出された歴史資源について、その価値は多面的であるため、異なった視点か

ら評価・分類し、その活用方法や留意点を以下に整理する。

②歴史時代による分類

ジョン万次郎コースは、基本的に彼がたどったコースを追体験し、歴史に思いをはせることを目的

としたコース設定と同時に、当時の歴史や習俗などの社会全体を学ぶことが可能なコースであり、

ジョン万次郎をきっかけとし、琉球文化全体に対象を広げることができる。

ジョン万次郎コースに残された歴史資源は、比較的当時の様子を残している史跡もあれば、中に

は何も残されていない物もあり、1つ目の視点としては、ジョン万次郎とのかかわりによって分類す

ることができる。

《ジョン万次郎が訪れたと考えられる保存状況の良い歴史資源》

比較的、当時の状況をよく残していると考えられ、また、立地条件などから、ジョン万次郎も見たと

考えられる歴史資源は以下のとおり想定される。

大度海岸(小渡浜)、真壁集落、嘉手志ガー、報得橋、高安家のヒンプン(豊見城市)など

※ただし、ジョン万次郎が訪れたかは想定である。

《ジョン万次郎が訪れたと考えられるものの、当時と様子の変わってしまった歴史資源》

位置は判明しているものの、当時状況が残されていない歴史資源は以下のとおりである。

摩文仁番所跡、真壁番所跡、高嶺番所跡、兼城番所跡(賀数)、小禄番所跡、翁長集落の馬

場(豊見城市)など

《ジョン万次郎は訪れていないと考えられる一方、保存状況の良い歴史資源》

当時の残存する歴史資源は数少ないため、彼が見ていなかったとしても同じ時代の史跡は、当時

の様子を想起する上で利用価値が高い。

米須グスク、武富の土帝君(トゥティークン)およびそのほか御嶽、北波平の石積・石畳、

兼城グスク周辺の集落景観(兼城)など

③利用タイプによる分類

《利用目的形成型》~長時間利用の可能性がある物~

特に魅力が高く、その歴史資源を利用するために多くの観光客が訪れ、かつさまざまなアクティビ

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第2章 地域づくり構想

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ティを提供することで、長時間の利用に対応できる可能性のある歴史資源である。

南山城跡(整備が必要)、真壁集落(店舗など民間事業者の集積が必要)、兼城集落(店舗など

民間事業者の集積が必要)、武富の土帝君(トゥティークン)・そのほか御嶽(整備費が必要)

など

《利用目的形成型》~短時間利用となる物~

魅力が高く多くの観光客が訪れると考えられるものの、アクティビティが用意されていないなどの理

由によって、短時間の利用が主体になると考えられる歴史資源である。

大度海岸(小渡浜)、摩文仁番所跡、真壁番所跡、嘉手志ガー、報得橋、高安家(豊見城市)、

翁長の馬場跡(豊見城市)、小禄番所跡(那覇市)など

《景観構成要素型》

それ自体は観光客を誘引するだけの魅力を有していないものの、そこに存在することでその空間

自体の魅力向上に寄与し、景観の形成要素として魅力の高い物。

真壁の石積み、真壁のウフガー、北波平の石積み・石畳、照屋ガー、兼城樋川(ヒージャー)、

潮平ガーなど

④評価のまとめ

日常生活では気づかないものの、糸満市内にはさまざまな時代の痕跡が街中に残されており、適

切な情報を提供することで活用を図り、価値を高めることができる。

実際にジョン万次郎が訪れた場所や当時の生活が理解できる史跡など、それぞれに特色があり、

その歴史資源に合わせた活用を検討することが大切である。

特に南山城跡や真壁集落など魅力の高い歴史資源は、大きな可能性を有しているものの、活用

のために大掛かりな施設整備などが必要になると考えられ、糸満市、各区および住民が協働で取

り組む必要がある。

また、単体で集客を図ることが困難な歴史資源であっても、それが存在することによって景観の向

上に寄与している物も数多くあるため、その価値を適切に評価し、特性を生かした活用を図ること

が必要である。

(3)活用イメージ(モデルコース展開例)

1)利用者に合わせたコース設定

沖縄県に訪れる観光客の約8割はリピーターであり、定番の観光地に飽き足らず、自分にあった

新しい観光資源を探すようになっている。

特に歴史観光の中でジョン万次郎コースを選択する観光客は、これまでに何度も沖縄に訪れてい

るいわゆるヘビーユーザーが多いと考えられ、すでに多くの観光地を巡っているため、自分だけ

のオリジナルの体験を求めていると考えられる。

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第2章 地域づくり構想

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ジョン万次郎がたどったコースを基本としながら、その中でも自分の好み合わせたバリエーション

が複数あると考えられる。

以下に提示するコースは、各人が好みに合わせて自由に歴史資源やコースを選択することを想

定した上で、利用の可能性を示した展開例であり、コースの造成にあたっては、施設整備も含め

た検討が必要である。

2)歴史を忠実にたどるジョン万次郎中心型コース(展開例)

ジョン万次郎に対して、特別な思い入れを持った利用者が選択すると考えられるコースで、ジョン

万次郎と同じ道をたどり、彼の見た世界を追体験するためのコース設定である。

※真壁番所が復元整備されたと仮定して利用を提言している。

※上記は展開例であり、活用の可能性を示している。実現化に向けて、施設整備を含めたさらなる検討が必要である。

3)グスクなども取り入れた琉球文化堪能型コース(展開例)

沖縄独自の琉球文化は、人気の高いコンテンツであり、首里城をはじめ世界遺産には多くの観光

客が訪れている。

ジョン万次郎コースは、そのまま当時の宿すぐ

道みち

であることから、これをたどることで当時の風景を追体

験する。

県内の世界遺産を一通り巡り、新しいコンテンツを求めている再訪頻度の高いリピーターが対象

になると考えられ、観光開発を感じさせない「穴場」が好まれると考える。

※武富集落、北波平石畳、南山城跡、真壁ウフガー、上里グスクが復元整備されたと仮定して利用を提言している。

※ハンジャガーについては、草刈り、清掃および駐車場の整備が必要である。

※上記は展開例であり、活用の可能性を示している。実現化に向けて、施設整備を含めたさらなる検討が必要である。

4)適度に食事・休憩を取り入れた娯楽型コース(展開例)

先の2つのコース設定は、観光客の知的欲求を満たし、自分が興味を持った分野の史跡見学を

目的としたコースであり、このような観光客は一部であると考えられる。

適度に琉球文化を見学し、遊びもしたいという人向けの娯楽要素の高いプランを例示する。

スタート 大度海岸 摩文仁番所跡 真壁番所跡※ 嘉手志ガー

高嶺番所跡 報得橋 ジョン万碑 高安家 小禄番所跡 終了

スタート 武富集落※ 南山城跡※・嘉手志ガー

米須グスク ハンジャガー※ 上里グスク※ 具志川グスク 終了

北波平石畳※ 真壁ウフガー※

スタート 南山城跡※・嘉手志ガー

具志川グスク 兼城集落めぐり※ 終了

真壁集落めぐり※ 真壁番所跡※

喜屋武ノロ殿内

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第2章 地域づくり構想

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※南山城跡、真壁番所が復元整備されたと仮定して利用を提言している。

※真壁集落、兼城集落については、カフェ、そば屋、土産品店などが複数立地すると仮定し、コースを設定している。

※上記は展開例であり、活用の可能性を示している。実現化に向けて、施設整備を含めたさらなる検討が必要である。

参考:全国の集落景観を活かした観光まちづくり事例

常滑市(愛知県)は陶器の町として有名であり、その街並みは陶器を用いた修景の魅力が高

く、陶器を購入しない人も散策に訪れ、多くの人でにぎわっている。

街中には、陶器店だけでなく、お洒落なカフェやベーカリーショップが立ち並び、街中を一

日中楽しむことができる。

伊勢神宮(三重県)には古くから門前町が栄え

てきたものの、徐々にコンクリートの建物が立

ち並び景観が損なわれ、販売額も落ち込むよう

になった。

約 20 年前に景観条例などを制定し、江戸期の

街並みを再現するとともに地元の菓子店が主

体となっておかげ横丁を整備し、景観の向上を

図ることで多くの集客に成功している。

(4)琉球回廊(宿す く

道みち

)構想の実現に向けた課題の整理

歴史資源はそもそも人が生活した痕跡であり、古い集落内に残されている。このため、周辺住民

の生活環境と極めて近い位置にあり、ソフト面・ハード面での丁寧な対応が必要であり、以下に概

要をまとめる。

1)必要な施設整備

①駐車場

市内の歴史資源を活用する上で、最も問題となることは駐車場の確保であり、現状では道路など

に駐車して利用するしかなく、交通を妨げ、安全上の問題が生じている地域もある。

このため、有料・無料を問わず、集落単位で1カ所程度の駐車場を確保することが望まれる。

町全体で江戸期の景観を生み出している。

陶器を使い個性を活かした街並み カフェなどお洒落な店舗が立ち並ぶ。

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第2章 地域づくり構想

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②トイレ

多くの人が訪れる場合、トイレの設置も必要である。特に観光バスなど、利用人数が多く、参加者

の体調もさまざまであるため、必要性が高い施設である。

③サイン

多くの歴史資源は、集落内にあって幹線道路から入り組んだ位置にあるため、誘導サインを整備

し、位置を明示することが望まれる。

情報がなければ、場所の意味や当時の使われ方など、現地を見ただけでは理解することができな

いことも多くあり、解説サインの設置などが重要である。

解説サインについて、近年は ICT 技術の発展がめざましく、バーコードを読み込むことでホームペ

ージに簡単にアクセスできることから、整備される「(仮称)糸満市文化・平和・観光振興センター」と

連携した情報提供の仕組みなどについても導入を検討する。

2)地域の理解

先に述べたように、歴史資源の多くは古くからある集落の内部に位置しているため、そこで暮らす

人の生活との軋轢が生じることが懸念される。

このため、地域の理解は必要不可欠であり、公開の理由や公開することによって得られるメリットな

ど丁寧に説明することが大切である。

公開が地域に与えるインセンティブは多岐にわたると考えられ、カフェなど起業の可能性や地域

ガイド、駐車料・入場料収入など、地域や住民に利益をもたらす仕組みづくりについても積極的に

検討・提示することが大切である。

3)歴史価値の認識と保全

本調査の中で取り上げた歴史資源の多くは、琉球王国時代の文化を伝え、当時から受け継がれ

てきた地域の宝である。

このため、それぞれの歴史資源について、歴史的な価値を認識するとともに、これらを次世代に受

け継いでいくために必要な保全策を検討することが大切である。

4)効果的な宣伝・広告

今後、県内では同様の取り組みをしようとする地域が増えていくと考えられ、その魅力によって成

功の可否が決まると考えられる。

このような社会条件の中、成功を収めるためには宣伝・広告によって、地域の魅力をより多くの人

に伝えていくことが大切であり、効果的な手法を検討することが大切である。

旅行市場の全体像としては、旅行する人としない人の二極化が顕著であり、旅行する人はすでに

多くの観光地を巡り、そことの比較の中で、価値を見極めていると考えられる。このため、顧客のニ

ーズを的確に判断するとともに、ほかとの差別化を図って集客を高めていくことが必要である。