第3章 3-2....

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IEEJ:2003 年 11 月掲載 1 第3章 3-2. OPEC 加盟国別の石油政策 1 エネルギー動向分析室 研究員 ジェームス・イーストコット 3-2 主要(中東)OPEC 産油国の対アジア市場政策 3-2-1 アジア市場に対する石油販売の現状と政策 (1) サウジアラビア A.政策決定組織 サウジアラビアの基本石油政策については、2000 年1月にファハド国王の勅令により設 立された石油・鉱物資源問題最高評議会 (Supreme Council for Petroleu Affairs:SCPM)が石油・天然ガス鉱物資源政策全般、国営石油会社であるサウジアラムコ の CEO 人事を始めとする全般的な経営方針の最終決定権を有している。SCPM はファハド国 王が議長を務め、アブダッラー皇太子(副首相)、スルターン国防・航空相 (第 2 副首相)、 サウド外相、ナイミ石油・鉱物資源相、サウジアラムコ CEO など 11 人で構成されている。 石油・鉱物資源省は石油、天然ガス、その他鉱物資源に関連した政策を策定している。ま た国営石油企業であるサウジアラムコを始めとしたこの分野で活動する企業の監督を行っ ている。サウジアラムコはサウジアラビア国内の炭化水素の開発・生産から販売に至るま での操業を行っており、アジア市場への販売も担当している。サウジアラムコの企業組織 は以下のとおりである(図 3-2-1) 2 1 本報告は、平成 14 年度に経済産業省資源エネルギー庁より受託して実施した受託研究「OPEC の生産・価 格政策と石油市場に与える影響に関する調査」の一部である。この度、経済産業省の許可を得て公表でき ることとなった。経済産業省関係者のご理解・ご協力に謝意を表するものである。 2 なお、サウジアラビア、クウェート、アラブ首長国連邦、イラン、イラク、カタールについて、その政 策決定組織および原油生産・輸出量と原油グレードの2項目(A、B)に関しての説明は、小森吾一「第 3 章 3-1. OPEC 加盟国別の石油政策」と重複する部分もあるが、本節において OPEC 産油国の対アジア市場政策 を論じるため、あえて再度論述することとした。

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第3章 3-2. OPEC 加盟国別の石油政策1

エネルギー動向分析室 研究員 ジェームス・イーストコット

3-2 主要(中東)OPEC 産油国の対アジア市場政策

3-2-1 アジア市場に対する石油販売の現状と政策

(1) サウジアラビア

A.政策決定組織

サウジアラビアの基本石油政策については、2000 年1月にファハド国王の勅令により設

立された石油・鉱物資源問題最高評議会 (Supreme Council for Petroleum and Mineral

Affairs:SCPM)が石油・天然ガス鉱物資源政策全般、国営石油会社であるサウジアラムコ

の CEO 人事を始めとする全般的な経営方針の最終決定権を有している。SCPM はファハド国

王が議長を務め、アブダッラー皇太子(副首相)、スルターン国防・航空相 (第 2 副首相)、

サウド外相、ナイミ石油・鉱物資源相、サウジアラムコ CEO など 11 人で構成されている。

石油・鉱物資源省は石油、天然ガス、その他鉱物資源に関連した政策を策定している。ま

た国営石油企業であるサウジアラムコを始めとしたこの分野で活動する企業の監督を行っ

ている。サウジアラムコはサウジアラビア国内の炭化水素の開発・生産から販売に至るま

での操業を行っており、アジア市場への販売も担当している。サウジアラムコの企業組織

は以下のとおりである(図 3-2-1)2。

1本報告は、平成 14 年度に経済産業省資源エネルギー庁より受託して実施した受託研究「OPEC の生産・価

格政策と石油市場に与える影響に関する調査」の一部である。この度、経済産業省の許可を得て公表でき

ることとなった。経済産業省関係者のご理解・ご協力に謝意を表するものである。 2 なお、サウジアラビア、クウェート、アラブ首長国連邦、イラン、イラク、カタールについて、その政

策決定組織および原油生産・輸出量と原油グレードの2項目(A、B)に関しての説明は、小森吾一「第 3章

3-1. OPEC 加盟国別の石油政策」と重複する部分もあるが、本節において OPEC 産油国の対アジア市場政策

を論じるため、あえて再度論述することとした。

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図 3-2-1 国営石油会社サウジアラムコの企業組織

出所:Arab Oil & Gas Directory 2001、修正 MEES 45:33 19 August 2002

B.原油生産・輸出量と原油グレード

原油について、サウジアラビアは世界最大の原油生産・輸出国であり、2001 年末時点の確

認埋蔵量は 2,618 億バレルである3。サウジアラビアの 2002 年平均生産量は、755.1 万 B/D

(中立地帯の半分を含む)であり、2000-01 年の OPEC 減産政策の影響で、2002 年の原油

生産量は前年比 5.2%の減少となった4。生産量のほぼ 85%の原油は輸出している。

サウジアラビアの原油については、5つの主な品質等級があり、Arab Super Light (API

50.6°)、Arab Extra Light(API 38.4°)、Arab Light (API 34°)、Arab Medium (API

31.8°)、Arab Heavy(API 28.7°)である。

サウジアラビアの原油生産は、国営石油会社サウジアラムコが独占管理しており、同社

の石油生産能力は 1050 万 B/D である5。グレード別の生産量については、2001 年時点で見

るとおおよそ軽質原油:70%、中質原油:10%、重質原油:20%から構成されている。

C.原油販売方法

サウジアラビアの販売政策の基礎は、外国石油精製企業との期間契約である。期間契約

3 BP Statistical Review of World Energy、2002 年 6 月版 4 石油専門誌 MEES、2003 年 1 月 13 日 pp A7 5 PIW International Crude Oil Market Handbook 2001-2002 年版(pp B47)

President & Chief Executive OfficerAbdallah S. Jum'ah

Exploration & ProducingSenior Vice President

Abdulla S. al-Saif

Informationtechnology

Managementservices

Law

Corporate planning

International OperationsSenior Vice President

Abd al-'Aziz al-Khayyal

Engineering & OperationServices

Senior Vice PresidentSalim al-Aydh

Industrial Relations &Affairs

Senior Vice PresidentYusif Rafie

Finance & ControllerSenior Vice President

Muhammed Z. Al-Iraani

General Counsel andSecretary

Stanley E. McGingley

Refining Supply andDistribution

Senior Vice PresidentSa'ad al-Shaifan

Executive Vice PresidentSadad I. Al-Husseini

Gas OperationsSenior Vice President

Dhaifallah al-Utaibi

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は一年更新でバイヤーとの間で仕向地条項により転売を禁止するとの制約がついており、

スポット販売はほとんどない。その他には外国石油会社とのジョイント・ベンチャー(JV)

があり、米国ではスター・エンタープライズ、韓国:S-Oil、フィリピン:ペトロンとの JV

に対して全体の原油輸出量の約 20%(130 万 B/D)を販売している。

80 年代後半においてサウジアラビアは、同国の市場シェアを拡大・確保するためにネット

バック方式を一時導入したが、原油価格の急落を引き起こしたこともあり、同方式を放棄

し、地域別に指標(価格参照)を変えたフォーミュラ価格方式を導入した。米国向けの価

格は、オクラホマ州のクッシングでの WTI スポット市場価格に基準しており、同様に欧州

向けの期間契約価格は、2000 年以降「B Wave」(ブレント先物価格の加重平均)に連動して

いる。アジア・太平洋地域向けについては、ドバイ(とオマーン)のスポット価格の月平均

に連動している。

D.アジア市場の位置付け

サウジアラビアは GDP の約 5 割を石油収入に依存しており、その動向はサウジアラビア

にとって死活的に重要なものである。近年にサウジアラビアの人口は急激に増加している

ことにつれ、現在の生活水準を守るために、今後の石油収入の確保・拡大することが重大な

課題となる。サウジアラビアにとっては、今後の石油収入を確保するために販売先との安

定的な関係確保は重要なことである。また、石油収入の最大化も重要である。こうしたこ

とを実現させるために、アジア市場はサウジアラビアにとって極めて重要な市場となって

いる。アジアの石油需要が大きく拡大していること、中東地域以外に主要な代替供給源が

ないため安定的な販売が可能であること、アジアのバイヤー自身が安定的な購入への志向

を持っていること、欧米市場での単価よりも高く販売できることがその主な理由である。

サウジアラビアは、3大石油市場(アジア、米国、西欧)でバランスを取りつつ原油を販

売している。2001 年のシェアは、アジア:49%、米国:25%、欧州:18%であった6。アジア

のシェアは最大であるものの、米国市場もサウジアラビアにとって重要である。なお、米

国市場への販売については、前述の合弁事業の存在も関係している。こうした結果、サウ

ジアラビアの原油輸出における地域別シェアでは、欧州向けが 1998 年の 27%から 2001 年の

18%に低下した。

日本はアジア最大のバイヤーであり、2001 年にはサウジアラビアから 94.3 万 B/D の原油

を購入した。この量は、アジア地域全体の 32%を占め、サウジアラビア全体販売量の 16%を

占める。販売量は、1990 年の 70.4 万 B/D から 2001 年の 94.3 万 B/D に増加した(図 3-2

-2)。

6 OPEC 統計 2001 年版、pp83

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図 3-2-2 サウジアラビアの地域別での原油輸出量(1990 年~2001 年)

出所:OPEC 統計各版より作成

その他のアジア・太平洋の販売量については、近年急速に拡大し、1990 年の 97.2 万 B/D

から 2001 年の 201 万 B/D に大幅な増加をした。その結果、サウジアラビアの全輸出量にお

けるシェアも 1990 年の 22%から 2001 年には 33%となった。この背景はアジア地域の発展途

上国における高い経済成長とそれに伴う石油需要増大である。その典型的な例が中国であ

り、90 年代後半までサウジアラビアからの輸出はほとんどなかったが、2001 年には約 18

万 B/D、2002 年には約 23 万 B/D と急拡大してきた7。サウジアラビアは石油需要が急速に増

大しつつある中国を戦略的重要市場として強化を図っている(詳細についてのことは本章 3

-2-2を参照)。

アジア全体としては、サウジアラビアからの原油販売は 1990 年の 168 万 B/D から 2001

年の 295 万 B/D と大幅な伸びを示した。世界全体でのシェアも 37%から 49%に増加し、アジ

ア市場はサウジアラビアにとって極めて主要な地域であることが明らかである。2001 年の

サウジアラビアからの国別原油販売量の現状は以下の通りである(図 3-2-3)。

7 中国石油統計、2001 年版

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600

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1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001

輸出

量(万

B/D

その他

アフリカ

中東

西欧

東欧

南米

北米

アジア太・平洋その他

日本

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図 3-2-3 サウジアラビアの 2001 年の国別原油販売構成

出所:World Oil Trade:An Annual Analysis and Statistical Review of International Oil Movements、2002 年 9 月版

より作成

石油製品の輸出量については、2001 年の全輸出量が 110 万 B/D と原油と比較してかなり

小規模であるものの、大半はアジア市場に輸出している(図 3-2-4)。1990 年から 2001

年にかけて、アジア向けの割合が 60%から 67%に増加した。しかし、最近の動向としてアジ

ア向けの輸出量は、アジア地域における精製能力の過剰(石油製品供給の過剰)の影響も

あって 1999 年に記録した輸出相手先におけるシェアのピーク(75%)から過去 3 年間減少

する傾向を示している。

米国24%

日本17%

韓国12%

その他22%

中国3%

イタリア3%

南アフリカ共和国3%

オランダ3% 台湾

4%

シンガポール5%

フランス4%

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図 3-2-4 サウジアラビアの地域別での石油製品輸出量(1990 年~2001 年)

出所:OPEC 統計各版より作成

(2) クウェート

A.政策決定組織

クウェートの基本石油政策については、石油産業が国営化された前年(1974 年)に設立

された最高石油評議会(Supreme Petroleum Council:SPC)がクウェートの石油政策全般

に関する意思決定機関となっている。SPC の議長はサバーハ(Sheikh Saad Al-Abdullah

Al-Salem Al-Sabah)首相が務め、主要閣僚ならびに民間の有識者によって構成されている。

石油・天然ガス関連の政策案件は国営石油会社である KPC(Kuwait Petroleum Corp)が起

案し、SPC の認可を受ける。次に閣議において審議された後、国民議会で承認を受け、最後

に首長が裁可することになる。首長は決裁した政策について首長令を発布し石油省あるい

は KPC に実行させる。KPC は石油省の監督・指揮下で国内外の炭化水素産業一般および関連

する事業を行っている。従って、アジア向け販売も KPC(KOC)が管轄している図 3-2-5

に KPC の組織を示す。

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1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001

その他

アフリカ

中東

西欧

南米

北米

アジア太平洋

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図 3-2-5 国営石油会社 Kuwait Petroleum Corporation の企業組織

出所:KPC の公式ホームページ http://www.kpc.com.kw、(財)日本エネルギー経済研究所より作成

B.原油生産・輸出量と原油グレード

クウェートの 2001 年末時点の原油確認埋蔵量は 965 億バレルである。世界全体でも、サ

ウジアラビア、イラク、UAE に次いで 4位となる。クウェートの 2002 年平均生産量は、185.3

万 B/D(中立地帯の半分を含む)であり、同年の原油生産量は、前年比 9.3%減少となった。

生産量のほぼ 60%の原油は輸出している。クウェートで生産・輸出する原油は、クウェート

という 1 品質だけである。同原油は、中東原油の中でも重質サワー(API 32.4°、硫黄分

2.55%)原油である。

C.原油販売方法

クウェートはその原油のほぼ全量を期間契約によって販売している。前述したように、

クウェート原油は重質サワーであるため、販売単価が相対的に低く、販売自体も決して容

易とはいえない面がある。この問題に対応するため、クウェートは石油製品輸出を強化し、

国営石油会社 Kuwait Petroleum Corp(KPC)

Chairman

Sheikh Saad Al-Abdullah Al-Salem Al-Sabah

Kuwait Oil Company (KOC)

国内開発・生産の担当会社

Chairman & Managing Director

Ahmed Rashed Al-Arbeed

Kuwait Petroleum International

(Q8)

KPC の下流子会社

Kuwait National Petroleum (KNPC)

石油製品の生産・輸出の担当会社

Chairman & Managing Director

Hani Abdul Aziz Hussein

Petrochemical Industries Co (PIC)

石油化学の担当会社

Chairman & Managing Director

Saad AlShuwaib

Kuwait Oil Tanker Co (KOTC)

タンカー会社(原油・石油製品)

Chairman

Abdullah H. Al-Roumi

Kuwait Aviation Fuel Co (KAFCo)

ジェット燃料の担当会社

Kuwait Foreign Petroleum

Exploration Co (KUFPEC)

海外の石油探鉱会社

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外国の下流部門に投資する(3-2-2参照)ような多様化政策へと進んだ。

KPC は、世界 3大石油市場において原油を販売している。クウェートはサウジアラビアと

同様に地域別にフォーミュラ価格方式を利用し、各地域の指標原油を基準として調整項を

付加する。米国向けの価格は、WTI 価格マイナス硫黄分のディスカウントに基づいており、

サウジアラビアと同様に欧州向けの原油価格は、2000 年以降「B Wave」を基準価格として

いる。欧州市場においては、イランおよびロシアとの競争力が激しいため、現時点では欧

州に所有している石油会社向け以外にあまり販売をしていない。クウェートにとってはア

ジア市場が極めて主要である。アジア地域向けについては、ドバイとオマーン指標価格の

月平均に基づいたフォーミュラ価格方式を採用している。KPC は、スポット市場にも 3 万

B/D の原油を販売し、この大半はアジアおよび米国に行く。クウェートも原油販売について

は、仕向け地条項と転売規制を課している。

D.アジア市場の位置付け

クウェートは、3 大石油市場(アジア、米国、西欧)のいずれにも原油を販売している。

2001 年のシェアは、アジア:61%、米国:20%、欧州:13%であり、アジアのシェアが大きい

ことが明らかである8。米国のシェアもクウェートにとって重要であり、同シェアは 1990 年

の 12%から 2001 年の 20%に増加した。

日本はアジア最大のバイヤーであり、2001 年にはクウェートから 41.1 万 B/D の原油を購

入した。この量は、アジア地域全体の 56%を占め、クウェート全体販売量の 34%を占めてい

る。また 1つの市場対策としてクウェートは、顧客の要請で 90 年代後半からアジア向けの

販売原油には、軽油製品収量を増やすため、若干の灯油を原油にブレンドするようになっ

た。日本のバイヤーは安定供給志向が極めて強く、クウェートからも期間契約で原油を購

入している。日本向けの販売量は 1989 年の 16.4 万 B/D から 2001 年の 41.1 万 B/D となっ

た(図 3-2-6)。

その他のアジア・太平洋向けの販売量は、近年急速に拡大し、1989 年の 22.6 万 B/D から

2001 年の 32.8 万 B/D に大幅な増加をした。その結果、クウェートの全輸出量におけるシェ

アも 1989 年の 26%から 2001 年には 27%となった。その内、2001 年においては、インド及び

韓国向けの販売量が増加し、各々17.5 万 B/D、21 万 B/D の原油を期間契約の下で販売した。

8 OPEC 統計 2001 年版、pp83

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図 3-2-6 クウェートの地域別での原油輸出量(1989 年~2001 年)

出所:OPEC 統計各版より作成

アジア全体としてはクウェートからの原油販売は 1989 年の 39.4 万 B/D から 2001 年の

73.9 万 B/D と大幅な伸びを示した。そのシェアも同年間に渡って 46%から 61%に増加し、ア

ジア市場はクウェートにとってますます重要な市場になりつつあることが明らかである。

2001 年のクウェートからの国別原油販売量の現状は以下の通りである(図 3-2-7)。

図 3-2-7 クウェートの 2001 年の国別向けの原油販売構成

出所:World Oil Trade:An Annual Analysis and Statistical Review of International Oil Movements、2002 年 9 月版

より作成

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1989 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001

輸出

量(万

B/D

)

その他

アフリカ

中東

西欧

東欧

南米

北米

アジア太・平洋その他

日本

日本28%

米国18%

韓国13%

オランダ9%

台湾9%

シンガポール9%

OECD欧州その他3%

その他11%

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前述のようにクウェート原油が重質サワーであるため、製品に加工して付加価値を上げ

て石油収入を増大するという目的で原油から石油製品の主要な輸出国となってきた。湾岸

戦争によって一時的に精製能力が低下したが、その後復興でクウェート国内の精製能力は

拡大した。その結果、クウェートは湾岸諸国において最も主要な石油製品輸出国の 1 つと

なっている(図 3-2-8)。

図 3-2-8 クウェートの地域別での石油製品輸出量(1990 年~2001 年)

出所:OPEC 統計各版より作成

(3) アラブ首長国連邦:アブダビを中心に

A.政策決定組織

UAE の基本石油政策については、連邦政府下に石油・鉱物資源省が設置されているものの、

OPEC など対外的窓口として機能しているのみで実質的な行政権限はなく、基本的に各首長

国が自国のエネルギー関連事項に関する責任と権限を有している。このため、政策担当機

関も各首長国により異なっている。UAE において天然資源のほとんどを保有しているアブダ

ビでは、石油関連事項の決定はハリーファ皇太子が議長を務める最高石油評議会(Supreme

Petroleum Council:SPC)の管轄下に置かれている。SPC は政策の立案・推進、政府及び政

府機関の所有する会社の管理規則の策定、予算の審査・承認に関する全ての権限を有して

おり、アブダビ国営石油会社である ADNOC(Abu Dhabi National Oil Company)が SPC の管

轄下で活動している。図 3-2-9 に ADNOC の組織図を示す。アブダビ以外の首長国では、

石油鉱物資源関連の行政機関(石油庁など)を設置している国が多いが、実質的には首長

もしくは首長家一族が権限を有している模様である。以下ではアブダビの状況を中心に説

明する。

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1989 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001

輸出

量(万

B/D

)

その他

アフリカ

中東

西欧

南米

北米

アジア太・平洋その他

日本

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図 3-2-9 国営製油会社 Abu Dhabi National Oil Company の企業組織

出所:Arab Oil and Gas Directory、2001 年より作成

B.原油生産・輸出量と原油グレード

原油について、UAE の原油生産のほとんどは、アブダビ首長国から生産されている。2001

年末時点の UAE の確認埋蔵量は 978 億バレルであり、中東地域では第 3 位(世界シェアは

9.3%)となる9。UAE の 2002 年平均生産量は、195.2 万 B/D であり、同年の原油生産量は、

前年比 8.2%減少となった10。UAE で生産された原油の特徴は、他の中東地域の原油に比べ、

軽質・低硫黄ということである。原油の品種としては、アブダビ首長国の Thamama Condensate

(API 57.5°)、Murban(API 40.4°)、Zakum(API 39.2°)、Umm Shaif (API 37.2°)、

Upper Zakum(API 34°)、Abu Bukhoosh(API 31.6°)、ドバイ首長国の Dubai(API 31°)、

シャルジャ首長国の Sharjah Condensate(API 50°)等がある。

9 BP Statistical Review of World Energy、2002 年 6 月版 10 石油専門誌 MEES、2003 年 1 月 13 日 pp A7

Exploration &ProductionDirectorate

Shared ServicesDirectorate Finance DirectorateRefining & Marketing

DirectorateHR & AdminDirectorate

Abu DhabiCompany forOnshore OilOperations

(ADCO)

ChemicalsDirectorate

National GasShippingCompany(NGSCO)

Abu Dhabi GasLiquifaction(ADGAS)

Gas ProcessingDirectorate

Abu DhabiMarine

OperatingCompany

(ADMA-OPCO)

ZakumDevelopment

Company(ZADCO)

NationalDrilling

Company(NDC)

Abu Dhabi OilRefiningCompany

(TAKREER)

Abu DhabiPetroleum Ports

OperatingCompany

(ADPPOC)

Abu DhabiDrilling

Chemicals andProducts

(ADDCAP)

NationalPetroleum

ConstructionCompany(NPCC)

Ruwais FertilizerIndustries(FERTIL)

Abu DhabiPolymersCompanyLimited

(BOROUGE)

BOROUGESingapore

Abu DhabiNational Tanker

Company(ADNATCO)

Abu Dhabi GasIndustriesLimited

(GASCO)

Abu Dhabi GasCompany(ATHEER)

ADNOC Organization Structure

National MarineCompany (NMS)

60%

60%

88%

100%

100% 67%

60%

70%

100%

60%

60%

100%

70%

51%

68%

100%

Page 12: 第3章 3-2. OPEC加盟国別の石油政策eneken.ieej.or.jp/data/pdf/790.pdfIEEJ:2003年11月掲載 1 第3章 3-2. OPEC加盟国別の石油政策1 エネルギー動向分析室

IEEJ:2003 年 11 月掲載

12

C.原油販売方法

原油販売政策について ADNOC は、ほぼ全量を期間契約あるいは政府間ベースで販売して

いる。全体的にはアジア向け、特に日本向けが非常に多い。ADNOC の期間契約の価格方式に

関しては、1ヶ月毎の遡及ベースで決定されるが、個別のそれぞれの原油は前月のドバイ原

油スポット価格(プラス硫黄分プレミアム)と緩やかな連動性を持っている。エクイティ

ー生産者の期間契約価格は、通常 ADNOC の価格と直接に結び付いており、スポット市場の

販売は前者と同様である。なお、ADNOC の原油販売についても、仕向け地条項と転売規制が

課せられている。

D.アジア市場の位置付け

UAE にとって、アジア市場は最大の顧客である。2001 年には UAE は 3 大石油市場(アジ

ア、米国、欧州)に一応は原油を販売していたものの、シェアは極めて不均衡であった。

2001 年のシェアは、アジア:96%、米国:1%、欧州:0.3%である。1990 年代前半において

欧州は、UAE にとって一定の重要性を持つ販売先(10%前後)であったものの、アジアの石

油需要が伸び、アジア市場において欧米市場での単価よりも高く販売できる(アジアプレ

ミアム)ことを受け、欧州向けの販売量を徐々に削減した。アブダビの原油は、高品質の

中間留分が多く得られるため、アジアの購入者にとってかけがえのない大事な原油となっ

ている。

日本はアジア最大のバイヤーであり、2001 年には UAE から 106.7 万 B/D の原油を購入し

た。この量は、アジア地域全体の 62%を占め、UAE 全体販売量の 60%を占める。販売量は、

1990年の81.5万B/Dから2001年には106.7万B/Dまで大幅に増加を示した(図3-2-10)。

図 3-2-10 UAE の地域別での原油輸出量(1990 年~2001 年) 単位:万 B/D

出所:OPEC 統計各版より作成

その他のアジア・太平洋向けの販売量については、1990 年の 70.1 万 B/D から 1999 年の

0

50

100

150

200

250

1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001

その他

アフリカ

中東

西欧

東欧

南米

北米

アジア太・平洋その他

日本

Page 13: 第3章 3-2. OPEC加盟国別の石油政策eneken.ieej.or.jp/data/pdf/790.pdfIEEJ:2003年11月掲載 1 第3章 3-2. OPEC加盟国別の石油政策1 エネルギー動向分析室

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13

79 万 B/D に増加したものの、1999 年以降減少する傾向に転じ、2001 年には 65.7 万 B/D と

なった。その結果、UAE の全販売量におけるシェアは 1990 年の 37%から 2001 年には 37%と

横ばいである。

アジア全体としては、UAE からの原油販売が日本向けの増販を受けて 1990 年の 151.6 万

B/D から 2001 年の 172.4 万 B/D と若干増加した。そのシェアも 80%から 96%に増加し、アジ

ア市場は UAE にとって極めて主要な地域であることが明らかである。2001 年の UAE からの

国別原油販売量の現状は以下の通りである(図 3-2-11)。

図 3-2-11 UAE の 2001 年の国別向けによる原油販売割合

出所:World Oil Trade:An Annual Analysis and Statistical Review of International Oil Movements、2002 年 9 月版

より作成

石油製品の輸出量については、90 年代に渡って年々増加する傾向にある。原油と同様にア

ジア向けの輸出量が比較的多い(図 3-2-12)。1990 年から 2001 年にかけて、日本向けの

シェアが減少する傾向にあった(65% → 12%)。その一方、日本を除くアジア・太平洋向け

の輸出量シェアが同期間にかけて 25%から 50%の大幅な増加を示した(1997 年には一時的に

75%を突破)。

日本57%

韓国20%

タイ8%

シンガポール4%

その他6%フィリピン

3%

オーストラリア2%

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14

図 3-2-12 UAE の地域別での石油製品輸出量(1990 年~2001 年)

出所:World Oil Trade:An Annual Analysis and Statistical Review of International Oil Movements 各版より作成

(4) イラン

A.政策決定組織

イラン石油省の管轄下に、石油産業を担当する NIOC(National Iranian Oil Company)、

ガス産業を担当するNIGC(National Iranian Gas Company)、石油化学工業を担当するNPC

(National Petrochemical Company)、石油精製・輸送を担当するNORDC(National Oil

Refining & Distribution Company)という国営企業4 社が活動している。

石油大臣がNIOC、NIGC、NPC の3 社の会長を兼務し、石油省の各担当次官が社長を兼務

しているなお、現在の石油大臣はBijan・ザンガネ氏である。2002 年4 月、イラン議会は

エネルギー問題を包括的に取り扱う「エネルギー最高評議会(Supreme Energy Council)」

の設立を承認した。アジア向けの原油販売を担当するのはNIOCである。図3-2-13にNIOC

の組織図を示す。

0

5

10

15

20

25

30

35

40

45

1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001

その他

アフリカ

中東

欧州

南米

北米

アジア太・平洋その他

日本

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15

図 3-2-13 国営石油会社 NIOC の企業組織

出所:NIOCの方式ホームページhttp://www.nioc.org、(財)日本エネルギー経済研究所より作成

B.原油生産・輸出量と原油グレード

イランの原油確認埋蔵量は 2001 年末時点で 897 億バレルであり、世界第 5 位である11。

イランの 2002 年平均生産量は、347 万 B/D であり、同年の生産量は、前年比 6.4%減少とな

11 BP Statistical Review of World Energy、2002 年 6 月版

National Iranian Oil

Company

国営石油会社

探鉱・生産子会社 その他子会社

NIOC South

Khuzestan 州、Pars 州の陸上

Chairman:

NIOC Central

Khuzestan 州、Pars 州以外の陸上

Chairman:

Pars Oil & Gas

北・南 Pars プロジェクトと Asaluyeh 生産プラント

Chairman:

Khazar Exploration and Production

Co. (KEPCO)

カスピ海地域

Chairman:

NIOC Offshore

その他の沖合地域

Chairman:

Iranian Offshore Engineering (IOEC)

沖合でのエンジニアリング

National Iranian Drilling (NIDC)

掘削

Oil Engineering and Construction (NIOECC)

石油エンジニアリング、建設

National Iranian Tanker (NITC)

海上輸送

National Inter-trade (NICO)

マーケティング・販売(英国・カナダ・

シンガポール向け

Petropars

Channel 諸島登記の管理会社

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16

った12。イランの国内需要は着実に増加しており、同国の原油輸出量は生産量のおおよそ 60%

に過ぎない(2002 年の輸出量は、前年比 7.6%減の 200.7 万 B/D となった13)。イラン原油に

ついては、5つの主な品質等級があり、Lavan Blend (軽質原油 API 34.3°)、Iran Light

(軽質原油 API 33.1°)、Foroozan Blend (重質原油 API 30.7°)、Sirri(重質原油 API

30.3°)、Iran Heavy(重質原油 API 30.2°)である。輸出量については、2001 年時点で

見ると全体の中おおよそ Iran Light:35-45%、Iran Heavy:45-50%、海上グレード:12-18%

から構成されている。海上で生産された原油については、ほとんどが輸出され、全体生産

量の 26%を占める。

C.原油販売方法

イランの原油販売については、1980 年代に始まるアメリカの対イラン経済制裁の結果、

イランはアメリカ向けに原油を販売することができなくなった。その結果、かつてアメリ

カ向けであったこの余剰分の多くは、地中海の製油業者との間での期間契約で販売してい

る。イランの原油輸出の多くは、期間契約によるものの、他の中東産油国と比較した場合、

一定量(約 30 万 B/D)の原油はスポット市場で販売している(この大半はアジア向けとな

る)。イランは、原油マーケティングに関して多様なアプローチを利用している。例えば、

バーター協定や原油と石油製品のスワップ、消費地に近い地域の石油在庫からの販売や

pre-financing deals 等が伝統的な FOB 期間契約の他にマーケティング方法として使われて

いる。

欧州向けの価格については、2001 年 1 月から「B Wave」を基準価格(ブレント先物価格

の加重平均)としている。アジア向けの期間契約原油の価格決定については、基本的にド

バイとオマーンのスポット価格月次平均値を基準としたフォーミュラ価格である。なお、

イランの原油販売についても、仕向け地条項と転売規制が課せられているが、同一国内で

の転売は認められている。

D.アジア市場の位置付け

アメリカによる対イラン経済制裁の結果、イランはアジア市場をより重視するようにな

った。イランの伝統的な期間契約は、主にアジアのバイヤーとの間で結ばれており、特に

日本、韓国、そして最近は中国が重要である。

イランは、3大石油市場(アジア、米国、西欧)の内アジアと欧州だけ原油を販売してい

る。2001 年のシェアは、アジア:49%、欧州:34%である。アジアのシェアは最大であるも

のの、欧州のシェアも大きく、イランにとって重要であることが分かる。しかし、欧州市

12 石油専門誌 MEES、2003 年 1 月 13 日 pp A7 13 Ibid、2003 年 3 月 17 日 pp A13

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17

場においては、ロシアからの輸出拡大による厳しい競争の影響を受け、欧州の全体シェア

は 1990 年の 57%から 2001 年の 34%まで減少した。このシェアの低下はイランにとってかな

り懸念することである。

日本はアジアの最大のバイヤーであり、2001 年にはイランから 53.6 万 B/D の原油を購入

した。この量は、アジア地域全体の 45%を占め、イラン全体販売量の 22%を占める。販売量

は、1990 年の 38.8 万 B/D から 2001 年の 53.6 万 B/D に増加した(図 3-2-14)。

その他のアジア・太平洋向けの販売量については、近年急速に拡大しており、1990 年の

22.8 万 B/D から 2001 年の 66.6 万 B/D に大幅に増加した。その結果は、イランの全輸出量

におけるシェアは 1990 年の 10%から 2001 年には 27%となった。その背景は、アジア地域の

発展途上国における高い経済成長とそれに伴う石油需要増大である。その典型的な例が中

国であり、90 年代後半までイランからの輸出はごく限られていたが、2001 年には約 22 万

B/D、2002 年には約 21 万 B/D となっている14。

図 3-2-14 イランの地域別での原油輸出量(1990 年~2001 年) 単位:万 B/D

出所:OPEC 統計各版より作成

アジア全体としては、イランからの原油販売は 1990 年の 61.6 万 B/D から 2001 年の 120

万 B/D と大幅な伸びを示した。そのシェアも 28%から 49%に増加し、アジア市場はイランに

とっての重要性を格段と高めている。2001 年のイランからの国別原油販売量の現状は以下

の通りである(図 3-2-15)。

14 中国石油統計、2001 年版

0

50

100

150

200

250

300

1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001

その他

アフリカ

中東

西欧

東欧

南米

北米

アジア太・平洋その他

日本

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18

図 3-2-15 イランの 2001 年の原油輸出の地域構成

出所:World Oil Trade:An Annual Analysis and Statistical Review of International Oil Movements、 2002 年 9 月版

より作成

イランの石油製品輸出量については、近年の精製能力拡大によって全体的に増加する傾

向にある。特に過去 2-3 年間では、この増加が顕著である(図 3-2-16)。

図 3-2-16 イランの地域別での石油製品輸出量(1990 年~2001 年) 単位:万 B/D

出所:World Oil Trade:An Annual Analysis and Statistical Review of International Oil Movements 各版より作成

日本22%

韓国9%

中国9%

イタリア8%

その他17%

スペイン3%

フィリピン4%

台湾4%

トルコ4%

ギリシャ4%

OECD欧州その他7%

南アフリカ共和国5%

非OECD欧州その他4%

0

5

10

15

20

25

30

1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001

その他

アフリカ

中東

欧州

南米

北米

アジア太・平洋その他

日本

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19

(5)イラク

A.政策決定組織

サダム・フセイン政権において石油省が国営石油会社 INOC を通じて石油・天然ガス部門を

管理していた。また INOC の管轄下に石油・天然ガスの探鉱・生産・精製・販売等に関する、10

の子会社が設立されていた。さらに、INOC はタンカーによる原油輸出子会社も保有してい

た。サダム・フセイン政権時点のイラクの石油産業組織を図 INOC 企業組織は図 3-2-17 を

示す。

図 3-2-17 サダム・フセイン政権時代の INOC 企業組織

(出所)「海外エネルギー動向:イラク(2003 年 3 月更新)」、(財)日本エネルギー経済研究所ホームページ

(http://eneken.ieej.or.jp)、p.5.

INOC(Iraqi National Oil Company):石油・ガス産業全体を統括

SCOP(State Company for Oil Projects):上流・下流プロジェクトの企画・エンジニアリング

OEC(Oil Exploration Company):探鉱

NOC(Northern Oil Company):イラク北部・中部での上流プロジェクト

SOC(Southern Oil Company):イラク南部での上流プロジェクト

SOMO(State Organization for Oil Marketing):原油販売、OPEC との折衝・調整

IOTC(Iraqi Oil Tankers Company):タンカーによる原油輸出

NRC(Northern Refinery Company):イラク北部の製油所

SRC(Southern Refinery Company):イラク南部の製油所

MRC(Central Refinery Company):イラク中部の製油所

NGC(Northern Gas Company):イラク北部でのガス開発・生産

SGC(Southern Gas Company):イラク南部でのガス開発・生産

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20

2003 年 3 月には米主導の対イラク戦争が開始され、サダム・フセイン政権は崩壊した。前

述の INOC 以下の産業組織は機能停止した。その後占領軍の主導の下で 2003 年 5 月にはイ

ラク石油産業の諮問委員会(Oil Advisory Board)が元米国 Shell のキャロル氏(Phillip

Carroll)を委員長、元 SOMO の議長のオスマン氏(Fadhil Othman)を副委員長として設置

された15。なお、暫定的な組織の設置と大臣が任命されるまでイラクの石油部門を一時的に

管理する「暫定管理委員会(Interim Authority Management Committee)(図 3-2-18)」

が発足し、当面イラク石油部門の運営・管理にあたることになっている。

図 3-2-18 イラク石油部門の暫定管理委員会

(出所)Middle East Economic Survey, May 12, 2003 より作成。

なお、同委員会のメンバーは以下の通りである。

委員長:サミール・ガドバン(Thamir Ghadhban)

*SOMO:ムハンマド・アリ・ラジャブ(Muhammad Ali Rajab)[同社の元幹部]16

*探鉱:アブ・アル・カリム・ラシード(Abu al-Karim Rashid)[掘削部門の元チーフ]

*Northern Oil Company:アディル・カザズ(Adil Qazzaz)[同社の元幹部]

*Southern Oil Company:ジャバール・ライビ(Jabbar Laibi)[同社の元幹部]

*Gas Filling Establishment:フセイン・アル・ハディシ(Husain al-Hadithi)

[元石油省次官]

*財務:ラドワン・アル・サディ(Radhwan al-Sa’di)[留任]

15 Middle East Economic Survey、2003 年 5 月 12 日 16 5 月 21 日、その日前に就任したアリ・ラジャブ(Ali Rajab)氏に代わって就任した(Middle East Economic

Survey、2003 年 5 月 26 日)

暫定管理委員会

SOMO 探鉱 Gas Filling Establishment 技術

Northern Oil Company

Southern Oil Company

財務

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21

* 技術:ファリ・アル・カヤット(Falih al-Khayyat)[留任]

B.原油生産・輸出と原油グレード

イラクの 2001 年末時点の原油確認埋蔵量は、1,125 億バレルであり、世界全体では、サ

ウジアラビアに次いで第2位となっている17。イラクの2002年平均生産量は、対前年比12.9%

減の 201.4 万 B/D であった18。なお、イラク戦争前の維持可能生産能力は、IEA によると 250

万 B/D と推定されている。

イラクで生産・輸出する原油は、Basrah Light(API 33.7°)、Kirkuk(API 35.1°)と

いう 2 品質である。1998 年以降、原油輸出量を増やすため、前述の 2 原油へのルメイラ原

油のブレンド比率を上げたり、または、石油製品(ナフサ、燃料油)をブレンドしたりす

るようになった。しかしその結果、原油品質の低下がもたらされたともいわれている。

INOC の管轄下で Basrah Light 原油は、SOC 国営石油会社によって生産されており、その

一方 Kirkuk 原油は、NOC 国営石油会社によって生産されている。1998 年~2000 年にかけて

のグレード別の輸出量は、Basrah Light:60%、Kirkuk:40%で販売していた19。

C.原油販売方法

イラクは 1990 年 8 月に隣国クウェートに侵攻してから現在に至るまで、国連による経済

制裁を受けている。1996 年 12 月に第 1次人道支援プログラム(Oil for Food Program)に

よって 6年ぶりにイラク原油の輸出が再開された。同プログラムは、180 日間毎に国連の監

視下で原油輸出をイラクに認めるもので、輸出収入は国連が管理して人道支援物資(食品・

医薬品等)の購入等に充当された。同プログラムでは、イラク側は SOMO が実務を担当する

が、原油販売価格(フォーミュラ)等は、国連の承認事項であり、基本的にはイラク側に

裁量権はなかった。なお、価格はサウジアラビアの価格をフォローするのが基本であった

とされる。

Oil for Food Program 以外ヨルダンが、イラクの唯一の法的(国連)に認可された販売

先である。しかし、イラクは近年トルコ等に原油(4万 B/D)・石油製品(3万 B/D)を密輸

しており、また最近稼動再開の Banias 原油パイプラインを通じてシリヤに原油(10~15 万

B/D)の密輸出を行ってきたと見られている20。

17 BP Statistical Review of World Energy、2002 年 6 月版 18 Platts Oilgram News、2002 年 4 月 9日;MEES、2003 年 1 月 12 日 19 PIW International Crude Oil Market Handbook 2001-2002 年版(pp B29) 20 PIW International Crude Oil Market Handbook 2001-2002 年版(pp B30)

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22

D.アジア市場の位置付け

イラクは、1990 年以前 3 大石油市場(アジア、米国、西欧)でバランスを取りつつ原油

を販売した。1989 年のシェアは、アジア:19%、米国:20%、欧州:34%であった。1996 年

末の Oil of Food プログラムの開始以降、イラクの原油輸出は大幅に増加し、1999 年には

年平均で 200 万 B/D を上回った。しかし、そのころからイラクは WMD 査察問題を巡って国

連(英米)と対立するなどの状況に応じて石油輸出を一時的に停止するなどの動きを見せ

はじめた。また SOMO がバイヤーに対して国連の枠外で割増料金(Surcharge)を支払うよ

う要求を強めたこともあり、輸出量は低迷した。なお、Oil for Food プログラムの下での

イラク原油販売は SOMO が国連の承認の下でロシア(Machinoimport、Sidanco)、イタリア、

中国などの貿易業者等と販売契約を結び、その貿易業者が最終的バイヤーに販売する形態

が多い21。こうした状況から、2001 年の 3 大石油市場シェアは、アジア:3%、米国:54%、

欧州:23%となった。このように米国がイラク原油最大のバイヤーとなっている。

イラク原油について日本は、小規模のバイヤーであり、2001 年にはイラクから 5,400 B/D

の原油を購入した。この販売量は、アジア地域全体の 11%を占め、イラク全体販売量の 0.3%

を占める。販売量は、1989 年の 19.9 万 B/D から 2001 年の 5,400 B/D に減少した(図 3-2

-19)。1996 年に国連下で開始された Oil for Food Program に伴って日本向けの販売量は

1996 年の 3,300 B/D から一時は 2000 年の 7.2 万 B/D に増加したものの、2001 年には 5,400

B/D に減少した。

図 3-2-19 イラクの地域別での原油輸出量(1990 年~2001 年)

出所:OPEC 統計各版より作成

21 PIW International Crude Oil Market Handbook 2001-2002 年版(pp E161)

0

50

100

150

200

250

1989 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001

販売

量 

(万

B/D

)

その他

アフリカ

中東

西欧

東欧

南米

北米

アジア太・平洋その他

日本

Page 23: 第3章 3-2. OPEC加盟国別の石油政策eneken.ieej.or.jp/data/pdf/790.pdfIEEJ:2003年11月掲載 1 第3章 3-2. OPEC加盟国別の石油政策1 エネルギー動向分析室

IEEJ:2003 年 11 月掲載

23

その他のアジア・太平洋向けの販売量については、1990 年以前は重要なバイヤーであり、

1989 年の販売量は 24.5 万 B/D であった。1996 年には国連の管理下による Oil for Food

Programでイラクの原油輸出を再開したことに伴ってアジア・太平洋向けの販売量が2000年

の 15.5 万 B/D に大幅な増加をした。その結果、イラクの全販売量におけるシェアも 2000

年には 11%となった。しかし、2001 年には同地域向けの販売量は 4.19 万 B/D まで減少した

(全販売量の 2%)。

アジア全体としては、イラクからの原油販売は、湾岸戦争前の 1989 年の 45.5 万 B/D か

ら 2001 年の 4.7 万 B/D と大幅に減少した。しかし、この間 2000 年には 22.7 万 B/D の輸入

を記録するなど激しく変動している。2001 年のイラクからの国別原油販売量の現状は以下

の通りである(図 3-2-20)。

図 3-2-20 イラクの 2001 年の国別向けの原油販売構成

出所:World Oil Trade:An Annual Analysis and Statistical Review of International Oil Movements、 2002 年 9 月版

より作成

イラクの石油製品販売量については、1991 年の湾岸戦争前には欧州を中心に販売してい

た。3大石油市場における 1989 年時点の販売シェアは、アジア:5%、米国:10%、欧州:85%

であった。しかし、同戦争後イラクからの石油製品販売は、ほとんど行われていない(図 3

-2-21)。

米国37%

OECD欧州その他18%

アジアその他8%

フランス5%

オランダ5%

中東その他4%

イタリア4%

カナダ4%

スペイン3%

非OECD欧州その他4%

その他8%

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24

図 3-2-21 イラクの地域別での石油製品輸出量(1990 年~2001 年)

出所:World Oil Trade:An Annual Analysis and Statistical Review of International Oil Movements、

各版より作成

(6) カタール

A.政策決定組織

カタールの基本的石油政策については、国営石油会社 Qatar Petroleum(QP)が同国にお

ける炭化水素部門を全て管轄している。また、石油・ガスの探鉱・掘削事業の監督に関する

任務を財務・石油省の石油事業部から引き継いだ。QP の企業組織は図 3-2-22 のとおりで

ある。現在、カタールの石油相および QP の CEO は、Abdullah Bin Hamad Al-Attiyah 氏で

ある。QP はアジア市場への販売も担当している。

B.原油生産・輸出と原油のグレード

原油について、カタールの確認埋蔵量は 2001 年末時点で 152 億バレルであり、世界全体

の 1.4%の埋蔵量を保有している。カタールの 2002 年平均生産量は、64 万 B/D であり、同

年の生産量は、前年比 6.0%減少となった22。生産量のほぼ 90%の原油は輸出している。カタ

ールの輸出収入に関しては、石油収入が重要であるが、Qatargas(1996 年 9 月から)およ

び Rasgas(1999 年 2 月から)の 2つの LNG プロジェクトによる輸出収入が最も重要になっ

た。中東諸国においてカタールは、この天然ガスへとのシフト戦略に関してかなり成功を

収めている。カタール原油については、4つの主な品質等級があり、North Field Condensate

II (API 56.0°)、Dukhan(API 41.1°)、Qatar Marine (API 36.2°)、Al Shaheen(API

30.0°)である。

22 石油専門誌 MEES、2003 年 3 月 17 日 pp A13

0

1

2

3

4

5

6

7

8

9

1989 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001

販売

量 

(万

B/D

)

その他

アフリカ

中東

欧州

南米

北米

アジア太・平洋その他

日本

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25

図 3-2-22 国営石油会社 Qatar Petroleum の企業組織

出所:Arab Oil and Gas Directory, 2002, Arab Petroleum Research Center, p331 を参考に(財)日本エネルギー経

済研究所作成。

C.原油販売方法

カタールの原油販売について同国の原油グレードは、アブダビと同様に他の中東地域の

原油に比べ、軽質・低硫黄の原油であるため、日本および韓国向けの販売量が非常に多い。

しかし、西アフリカまたは北海の軽質原油に比べ、硫黄分が高いため同原油に比べてカタ

ール原油の価値は若干低めである。カタール原油のほぼ全量は、アジアバイヤーとの間の

期間契約で販売し、特に日本向けが非常に多い。しかし、近年中国向けの販売量が増えて

いる。アジア向けの期間契約の価格決定について QP は、オマーンの Ministry of Oil and Gas

国営石油会社 Qatar Petroleum (QP)

National Oil Distribution Company (NODCO):石油精製

Qatar Liquefied Gas Company (Qatar Gas):LNG の生産・輸出 Chairman:Faisal M. Al Suwaidi

Ras Laffan Liquefied Natural Gas (RasGas):LNG の生産・輸出

Qatar Fertilizer Company (Qafco):肥糧の生産・販売 (75% QP、25% Norsk Hydro(ノルウェー)のジョイント・ベンチャー)

Qatar Petrochemical Company (Qapco):石油化学 (80% QP、10% Adofina(仏)、10% (イタリア)のジョイント・ベンチャー)

Qatar Fuel Additives Company (Qafac):メタノール・MTBE の生産

Qatar Vinyl Company (QVC):石油化学

Qatar Chemical Company (Q-Chem):石油化学

Gulf Helicopters Company (GHC):ヘリコプター事業

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26

(MOG)の前月平均価格に基づいたフォーミュラ価格方式を採用している。

D.アジア市場の位置付け

カタールは、アジア市場以外ほとんど原油を販売しない。2001 年の 3 大石油市場(アジ

ア、米国、欧州)のシェアについては、アジア:93%であり、欧米向けの販売はほとんどな

い。この傾向は、過去 10 年間に渡って続いてきた。

日本はアジアの最大のバイヤーであり、2001 年にはカタールから 42.7 万 B/D の原油を購

入した。この量は、アジア地域全体の 76%を占め、カタール全体販売量の 71%を占める。販

売量は、1990 年の 24.2 万 B/D から 2001 年の 42.7 万 B/D へと大幅に増加した(図 3-2-

23)。

その他のアジア・太平洋の販売量については、近年急速に拡大し、1990 年の 5.2 万 B/D

から 2001 年の 13.4 万 B/D に増加した。この量は、カタールの全輸出量におけるシェアに

関して 1990 年の 15%から 2001 年には 22%となった。アジア地域の発展途上国は、近年高い

経済成長率を示しており、同成長による石油需要増大がおもな理由である。その例が中国

であり、90 年代後半までカタールからの輸出はほとんどないものの、2001 年には 3万 B/D、

2002 年には 9,000 B/D となっている。

図 3-2-23 カタールの地域別での原油輸出量(1990 年~2001 年)

出所:OPEC 統計各版より作成

アジア全体としては、カタールからの原油販売が1990年の29.4万B/Dから2001年の56.2

万 B/D と大幅な伸びを示した。そのシェアも 85%から 93%に増加し、アジア市場はカタール

にとって極めて主要な地域であることが明らかである。2001 年のカタールからの国別原油

販売量の現状は以下の通りである(図 3-2-24)。

0

10

20

30

40

50

60

70

1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001

その他

アフリカ

中東

西欧

東欧

南米

北米

アジア太・平洋その他

日本

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27

図 3-2-24 カタールの 2001 年の国別向けの原油販売構成

出所:World Oil Trade:An Annual Analysis and Statistical Review of International Oil Movements、 2002 年 9 月版

より作成

カタールの石油製品輸出量については、かなり低水準に推移しており、近年にはその他

向けの販売量が比較的に多いため、動向分析が極めて難しい(図 3-2-25)。アジア向けの

輸出量が多い(その他を除けばほぼ全量)。尚、カタールは 1997 年以降、北米向けの販売

を開始し、2001 年には北米のシェアは 7%となっている。日本向けの販売量は、1990 年の

1.7 万 B/D から 2001 年には 1.1 万 B/D に減少し、同年にはほぼ横ばいに推移していた。

図 3-2-25 カタールの地域別での石油製品輸出量(1990 年~2001 年) 単位:万 B/D

出所:World Oil Trade:An Annual Analysis and Statistical Review of International Oil Movements、 各版より作成

日本62%

韓国16%

中国4%

米国0%

オーストラリア2%

シンガポール10%

タイ4%

フィリピン2%

0

2

4

6

8

10

12

14

1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001

その他

アフリカ

中東

欧州

南米

北米

アジア太・平洋その他

日本

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28

3-2-2 アジア下流部門への取組状況と今後の展望

(1) 中東 OPEC 産油国の下流部門活動の歴史

中東 OPEC 産油国の下流部門戦略は、各国政府が現地の上流部門操業会社を支配すること

から始まった。これによって、各国は原油の販売者としての地位を確立した。また、第 1

次石油危機による歳入の増加により、中東産油国は自身の下流部門戦略を展開する動機と

機会を得ることとなった。初期の戦略は、中東産油国国内に大規模な輸出能力を確立する

ことであった。

この背景には以下の 4つの動機があった。

1)原油輸出だけに限定された地位からの多角化

2)主要な産業分野としての石油精製(及び石油化学)産業の育成

3)石油販売における付加価値の最大化

4)国際石油産業における垂直統合の確立

下流部門戦略の遂行については、上述の理由によって、輸出志向の精製能力の確立とい

う壮大な計画が 1973~75 年の時期に立案された。しかし、この計画の大半のものは棚上げ

された。主な理由は以下の通りである。

1)過剰な精製能力の出現により収益性が著しく低下する可能性が懸念されたこと。

2)第 1 次石油危機以降の急激なインフレで中東産油国国内での製油所建設コストが高騰

したこと。

3)上述の問題もあって製油所、または石油化学工場の建設が、果たして自国にとって主

要な開発分野になるかどうかについての懸念が増大したこと。

結局、1970 年代以降に相当な石油製品輸出能力を作り上げたのはサウジアラビアのみで

あり23、またその規模は当初の計画に比べれば遥かに縮小されたものとなった。

こうしたことを受け、1980 年代には下流部門戦略の変更が見られ始めた。この新戦略を

最初に開始したのはクウェートであり、同国は海外での下流部門に投資を行う新戦略を展

開した。この新戦略の動機は以下の通りであった。

1)この種の投資は将来の世代のための資金を創設する「投資戦略」の一環であったこと。

2)クウェートは、その原油が重質かつサワーであるので、販売単価が相対的低く、かつ

その販売には困難が伴うことがあると判断したこと。

3)下流部門進出は原油価格が下落した場合のヘッジングになると考えられること。

23 サウジアラビアの製油能力は 1970年の 43万 B/Dから 1980年 49.5万 B/D、1990年 186万 B/Dとなった。

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29

その結果、中東産油国による海外石油下流資産を獲得する一連の活動が開始された24。こ

のようなクウェートの戦略に次いで、その後サウジアラビア、及びより小規模ながらアブ

ダビも同様の戦略を展開した。これら中東産油国の海外企業の獲得およびその計画につい

ては以下、国別に詳しく説明する。なおクウェート及びサウジアラビアの海外下流活動に

おける重要な特徴は、海外で獲得した製油所に自国の原油を供給し、操業上の垂直統合を

強化することであった。しかしこのことは、メジャーを始めとする国際石油産業での一般

的傾向とは対照的であった。というのは、メジャーを始めとする国際石油産業においては

系列会社同士の間での石油のやりとり(原油生産子会社から精製子会社への供給等)にこ

だわらず効率性を追求して広く「市場」からの調達する割合が増大しているからである。

なお、参考として主要中東 OPEC 産油国の海外下流事業進出例を表 3-2-1に示す。

24 この動きについては中東産油国だけでなく、ベネズエラ等も活発な展開を見せた。2002 年時点における

ベネズエラの海外における下流資産は単純合計で 287 万 B/D となっている。

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30

(2) アジア市場における主要 OPEC 産油国の下流部門戦略

A. サウジアラビア

サウジアラビアが現時点で取得している海外下流資産(精製能力)は単純合計で 223 万

B/D であり、そのうち 73 万 B/D はアジアにおける資産である。アジアは伝統的にサウジア

ラビアの石油(原油および石油製品)の天然のはけ口(ナチュラル・マーケット)であると

認識されていた。また、アジアは将来の世界の石油需要の増加の大半が生ずる地域である

と認識されている。そこでサウジアラビアとしてはその重要なアジア地域での安定的な販

売を確保し、プレセンスを強化するため 1990 年代以降進出を活発化してきた。これまでに

遂行された、または交渉中のアジアにおける下流部門のジョイント・ベンチャーの概要は以

下の通りである25。

1991 年、サウジアラムコは韓国の精製会社 Ssangyong(現 S-Oil)の権益 35%を取得して

いる。現時点では同社の Onsan 製油所の精製能力は 52 万 5,000B/D である。サウジアラム

コは同製油所の必要原油の 8~9割を供給している。

1992 年には、サウジアラムコは台湾国内に 15 万 B/D の CPC とジョイントベンチャーによ

る製油所建設の可能性に関して台湾当局と話し合った。しかし、同プロジェクトは、プロ

ジェクトの経済性に問題があったこともあり、結局は全く前進しなかった。

また、1990 年代に入ってサウジアラビアは日本における合弁製油所計画を検討しはじめ

た。日本側のパートナーは日本石油、ジャパンエナジー、アラビア石油等であり、サウジ

アラビア側と 50:50 で合計 45 万 B/D の精製能力を有する合弁事業が検討された。しかし、

本プロジェクトも経済性の問題から合意に至らず 1993 年 11 月に解消した。

サウジアラビアは 90 年代以降、中国市場に強い関心を抱くようになった。第 1には 1994

年にサウジアラムコは中国の Sinochem との間で山東省の青島(Qingdao)港に面して能力

1,500 万トン/年の製油所を建設する計画を検討した。しかし、中国政府との協議は保有株

式のシェア、製油所の位置付け(輸出製油所とするかどうか)等を巡って難行し、結局 1996

年に中央政府の最終決定により、このプロジェクトは解消された。第 2には 1994 年からサ

ウジアラムコと Sinopec の間で交渉されたプロジェクトである。これは、広東省の茂名

(Maoming)にある 17 万 B/D の既設の製油所に 10 億ドルの資金を投入して生産能力を 10

万 B/D 増強するプロジェクトである。このプロジェクトも結局進捗を見せなかった。これ

は 1990 年代半ば以降、中国政府が新規製油所および能力増強を全体として一時凍結したこ

とも大きく影響している。

25 サウジアラビアは既に米国と欧州(ギリシャ)においては、製油資産を保有し、自国の原油を供給して

いる。

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31

1993 年には、サウジアラムコはフィリピンの Petron 社民営化に際して 40%資本参加した。

Petron は、同国国営石油会社 PNOC の精製・製品販売部門の子会社であった。同社は、Bataan

に 15 万 5,000 万 B/D の製油所と 860 のガソリン・ステーションを保有している。同取引は

入札にかけられ、5億 3,200 万ドルでサウジアラムコに落札した。同取引の重要な点は、サ

ウジアラビアが同製油所で処理される原油の 8~9割を供給することであった26。

1997 年にサウジアラムコは、インドの Hindustan Petroleum Corporation (HPCL)との間

で Punjab 近傍における能力 900 万トン/年の製油所建設計画を発表した。しかし、これも

インド市場における参入規制と経済的な問題から実現に至らなかった。次いで、サウジア

ラムコはシェルとジョイントベンチャーを創立し、インドの製油・販売会社において各々

25%出資、残りの 50%をインド国内会社が保有するという形態での参入を計画した。2002 年

後半に同合弁事業を開始する予定であったものの、インドの石油部門に対する規制緩和が

大幅に遅れているため、まだ実現されていない。

2002 年 10 月、中国政府は、Fujian Petrochemical Company (FPCL、Sinopec と福建省政

府の間のジョイント・ベンチャー)、に関する福建総合石油製品・石油化学製品プロジェクト

の共同フィージビリティ・スタディを承認した。サウジアラムコは、同プロジェクトの権益

25%を保有することになっている。また外資としてエクソン・モービルも同じく 25%資本参加

する。このプロジェクトについては、既設製油所の生産能力を 24 万 B/D に拡張し、年間 80

万トンの石油化学製品のコンプレックスを建設する計画である。

B. クウェート

Kuwait Petroleum Company (KPC)の下流事業戦略においては、アジアは欧州と共に主要

目標となっている。これはアジアがクウェートの原油・製品の主要輸出先であるからである。

アジアでの下流部門へより多くのアクセスを確保する目的で、長期的な供給関係を設立す

る多くのプロジェクトが交渉されてきた。アジア地域に約 40 万 B/D の製油能力を確保する

ことが KPC の目標とされている。

1995 年 9 月に、KPC とインド IOC は Orissa(インド北東部)州に 12 億 4,000 万ドルをか

けて 12 万 B/D のグラスルーツ製油所を建設するための MOU に調印した。同製油所について

は 25 万 B/D にまで能力を拡張する計画もあった。同製油所からの製品はインド国内で販売

される計画であり、ジョイント・ベンチャーのエクイティ比率は 48%が民間部門、IOC と外

国企業(クウェート)が 26%とされている。同計画は 1996 年 2 月にインド政府が認可し、

2003/4 年には稼動開始を目標としていた。また、西海岸に面する Cochin 製油所(20 万 B/D)

に関しても同様な取引が交渉された。しかし、その後これらのプロジェクトは全く進展し

26 なお、1999 年に入ってから Petron への供給は 6割程度に引き下げられている。

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ておらず、その後 KPC は、むしろ、リライアンス製油所あるいはマンガロル製油所など既

存の会社への資本参加を図る意向に戦略をシフトしているともいわれている。

パキスタンでは、Baluchistan という南東部の州の Hub 近郊のジョイント・ベンチャー製

油所建設に関して、MOU が調印された。8~9 万 B/D の同製油所はクウェート原油を処理す

る計画である。

シンガポールにおいては、KPC は 1990 年にシンガポール石油に 10.6%資本参加した。

クウェートはタイの下流部門にも関心をもってきた。1990 年代後半には新規製油所(30

万 B/D)建設が検討されたが、経済危機による需要低迷でキャンセルされた。なお、1990

年には同国ガソリン小売市場に参入し、約 200 カ所のサービス・ステーションを運営してい

る。

クウェートとインドネシアの私有投資家のコンソシアムは、Sulawesi(インドネシア南

部)州の Silayar 島に製油所建設(精製能力 22.5 万 B/D)を検討している。同コンソシア

ムは、1996 年に Himoco Selaria という民間会社(クウェート 60%、インドネシア 40%)も

創立した27。

C. UAE

アブダビの海外下流部門への動きは、サウジアラビアおよびクウェートに比べても、あ

まり情報がなく、かつ小規模である。アジアでは、パキスタン、韓国で活動しているが、

欧州においても、下流部門の獲得に動き出している。1998 年に IPIC(ADNOC とアブダビ投

資公社の 50:50 出資による国際投資会社)はスペインの Cepsa の株式 10%を取得し、その

後その割合を 20%に増加した。同取引の一環として、スペインの Cepsa の 32 万 B/D の製油

ネットワークに 6万 B/D の原油を供給することとした。また 1995 年に、IPIC はオーストリ

アの OMV の株式の 19.4%を取得した。権益の獲得以外の関係は明らかでなく、実際 OMV は原

油供給の長期契約をはっきりと断っている。しかし現時点では、OMV が民営化を進めた結果、

IPIC は OMV の最大の株主になった。以下ではアジアでの展開を説明する。

1974 年に、Abu Dhabi National Oil Company (ADNOC)が 40%、パキスタン政府が 60%のジ

ョイント・ベンチャーの Pak-Arab Refining Company (PARCO)が設立された。しかし、最近

に至るまで同社の唯一の活動は、1981 年に操業を開始した Karachi と Multan を結ぶパキス

タン国内の 10 万 B/D パイプラインの操業であった。1970 年代の後半に、PARCO は製油所の

27 Weekly Petroleum Argus、2003 年 2 月 10 日

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33

建設を計画したが、国内の石油部門の操業におけるパキスタン政府の規制もあって進展は

殆ど見られなかった。しかし、1990 年代後半になってようやくプロジェクトは進展し、

Multan の近傍の Mahmood Kot に 10 万 B/D の製油所建設と 1億 4,500 万ドルをかけた製品用

パイプラインの拡張工事が開始した。同製油所プロジェクトは、7億 5,600 万ドルをかけて

2001 年 2 月に稼動開始した。同製油所はアブダビ原油を処理することになると見られてい

る。同プロジェクトの復活は、規制緩和と石油部門に対するパキスタン政府の規制的な態

度の緩和によるものである。なお、パキスタン State Petroleum Refining and Petrochemical

Corporation(PERAC)は、Singd 州にある Badin で 3 万 B/D の製油所を建設する計画を持っ

ていた。同製油所はパキスタン・韓国・UAE の合弁であったが、結局このプロジェクトはキャ

ンセルされた。

1998 年の 10 月には上述の IPIC28が韓国の現代石油の株式の 50%買収を発表している。

D. イラン イランの下流部門への動きは、他の中東地域 OPEC 加盟国より早かった。当時、NIOC の下

流部門戦略(消費国における投資・ジョイントベンチャー操業への参加)は、OPEC 加盟国に

とって物議を醸す政策であった。

当初のプロジェクトは、インド政府・NIOC・AMOCO(現在 BP)との間のジョイント・ベン

チャー(Chennai Petroleum Corporation Ltd.、旧 Madras Refineries Ltd.)であり、1969

年にインドで Madras 製油所を稼動開始した。原油供給契約については、15 年に渡って NIOC

は 5 万 B/D の Dariush 原油を独占的に供給することとなっていた。現在にもこのプロジェ

クトは続いており、NIOC は同プロジェクトにおいては 2002 年 3 月時点で権益 15.38%を保

有している29。

1976 年 1 月に、イラン NIOC・韓国 SsangYong との合弁で韓国・イラン石油会社を創立し、

1978 年にイラン・韓国製油所を稼動開始した。同合弁事業の原油供給契約についてイラン側

は、15 年間契約で 5 万 B/D のイランの重質原油を国際市場価格で供給することとなってい

た。NIOC は当初の 1,700 万ドル基本投資に対して 15%の株主資本利益率が保証された。し

かし、1980 年には、SsangYong グループが再編成された際、新らしい親会社である SsangYong

セメント会社は NIOC の全権益を買収した。

1991 年 5 月には、パキスタン政府と NIOC はパキスタンに製油所を建設する計画に関する

28 IPIC (International Petroleum Investment Company)はアブダビの国営石油会社 ADNOC とアブダビ投資

公社の 50:50 出資による国際投資子会社。 29 Chennai Petroleum Corporation の方式ホームページ http://www.cpcl.co.in の 2001-2 年 Financial

Report。

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34

MOU を調印した。しかし、経済性の問題からプロジェクトは大幅に遅れた。1998 年 9 月に、

プロジェクトはパキスタンの Economic Coordination Committee による承認を受けたもの

の、なかなか進行しなかった。このプロジェクトは、Karachi 周辺の Balochistan 州にある

Hub で合弁(パキスタン PERAC:50%とイラン NIOC:50%)製油所を建設し、処理原油は、全

量イランが供給するというものである。生産計画によれば、同製油所は 25 年間に渡って年

間 600 万トン(生産能力 13 万 B/D)のイラン産重質原油を処理する予定である。なお、2002

年 12 月、イランのハタミ大統領のパキスタン訪問に際して、このプロジェクトの最終合意

で調印する予定であったものの、2003 年 5 月現在まだ明らかではない。

近年、イランはインドとの間で強固な協力関係を築くことに関してあらゆる努力をして

いる。その努力は徐々に効果を生じつつあり、2003 年 1 月にインド・イラン政府間で炭化水

素部門における Joint Working Group(JWG)を設立することで合意した。同 JWG の目的は、

両国の石油・ガス部門におけるプロジェクト実施を促進することである。2003 年 5 月にイラ

ン・インド政府は、原油および LNG の供給に関する MOU を調印した。原油の MOU についてイ

ンドは、1年間契約で 10 万 B/D の原油を購入することで合意している30。

さらに、NIOC はいくつかのインドに対する下流部門プロジェクトを検討している。この

プロジェクトは、インド南部に 2 基の製油所、石油製品を効率的に輸送できる湾港施設、

製油所に電力を供給するための 350 MW 発電所に関する 3つの建設プロジェクトを検討して

いる。また NIOC は 2003 年に、フィリピンとの間で製油所の JV に関する協力の可能性につ

いての交渉を開始した31。

(3) 今後の展望

中東 OPEC 産油国にとって、市場シェアの維持・拡大は依然として重要課題である。アジ

ア市場では、今後も堅調に需要拡大が続くものと予想されている。しかし、新たな供給源

としてロシアのポテンシャルが注目されるようになり、サハリンでの石油生産の増加に加

え、東シベリアからは大規模なパイプライン・プロジェクトも真剣に検討されている(中国

向け 60 万 B/D、ナホトカ向け 100 万 B/D)。

さらには戦争終結後、いずれかのタイミングではイラクが石油市場に復帰し、その資源

ポテンシャルを考えると今後大幅に生産量を拡大する可能性は十分にある。その上、イラ

ク以外の中東 OPEC 産油国自身も生産能力拡大を計画していることから、今後、産油国内の

競争がさらに強化されていく可能性は高い。

30 専門石油誌 Platts ‐ Oilgram News、2003 年 5 月 14 日 31 Dow Jones、2003 年 1 月 25 日

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従って成長するアジア市場での販売量を確保・拡大していくためのアプローチとして下

流事業への進展はこれからも持続的に検討・展開されていくものと見られている。これは、

特に最も成長性が高い予想されている中国・インド市場等が対象になろう。

なお、下流部門に対する戦略に関しては、第 1に、垂直統合型の操業を強化して、精製・

下流マージン(たとえそれ自体は魅力的なものでない場合でも)と上流部門での収益の双

方を通して原油価格変動リスクをヘッジすることが有効かどうかに関する議論が多く見ら

れるようになっている。第 2 に、歳収不足によって国営石油会社の活動範囲が徐々に狭く

なっていることも注目すべきであろう。この結果、下流部門投資に対するどのような決定

においても、経済性が重要視されるようになるだろう。

しかし、その一方で現在は、投資を決定し、プロジェクトを実施する「チャンス」であ

るとの見解もある。すなわち、これは「まだ我々がプロジェクトを取扱える間にそれを実

行してしまおう」ということである。このような見解は、初期段階における投資家は最良

のオプションを手にすることができ、遅れればわずかの「残り物」しかないという考えに

基づいている。アジア市場はその成長ポテンシャル、市場自由化の動きから「機会」を提

供すると認識されてはいるが、このような機会は無制限であるとも考えられてはいないの

である。

最後に、アジアにおいても高まる環境に対する関心から生じる圧力によって投資機会が

抑制されうる。アジア諸国においては、特に短期間に生活水準が急速に上昇した諸国にお

いて、公害・大気汚染等の地域的な環境問題に対する対応の必要性が高まる可能性がある。

例えば、台湾、韓国、タイおよびシンガポールでは無鉛ガソリンが導入され、またマレ

ーシア、フィリピンおよびインドネシアもその導入が計画・進歩されつつある。同様にして、

台湾、韓国およびタイ等では重油およびディーゼル油に対して厳しい硫黄分規制を導入し

ようとしている。これらの全ての動きは、中東 OPEC 産油国にとって、アジア市場の下流部

門への投資の商業的な魅力を低下させる可能性のある原因と見なされよう。

3-2-3 アジアプレミアム問題に対する産油国側の姿勢

アジアプレミアムとは、同一の中東原油の価格に関してアジア向けと欧米市場向けで差が

あり、基本的にアジア向け価格が割高であることを指している32。1990 年代末以降、日本を

始めとするアジア主要消費国において、このアジアプレミアムの存在は、割高なエネルギ

ーコストから生じる国際競争力上の問題、過剰な所得移転等の観点から問題視されるよう

32 1990 年代以降の平均で、アジア向けの中東原油価格は 1バレル当たり約 1ドル欧米市場向け価格より

割高であった。

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になってきた。

一方、プレミアムを受け取る側の産油国サイドでは、こうしたアジア消費国の動きを既

に十分認識している。産油国代表も参加する様々な国際会議において、プレミアム問題が

議題の一つとしてアジア消費国側から取りあげられる場合が多くなったからである。その

最も代表的な例は、2002 年 9 月に大阪で開催された第 8回国際エネルギーフォーラム(IEF)

の場における議論であろう。世界の代表的な産消対話会議であるこの IEF において、日本、

韓国、インド等のアジア消費国はアジアプレミアムについて問題提起をした。

産油国側が、アジア消費国がこれを問題視していることを認識したことは、一つの重要

なステップではある。しかし、この「認識」と問題解決のための具体的な取り組みの間に

は大きな隔たりがある。産油国側にしてみれば、最近の原油価格高騰にもかかわらずその

財政・経済事情は決して楽観を許さず、追加的収入をもたらすアジアプレミアムを自ら放

棄するようなインセンティブは全くない。前出 IEF の前後において、中東 OPEC 産油国側か

ら時としてアジアプレミアム問題に取り組む用意があるといった発言の報道があるが33、現

時点で判断する限り、具体的な動きは全くなく、一種の「リップサービス」と理解すべき

であろう。石油収入の最大化を図る産油国として、購入者側が高い単価を理由に購入削減

を実行しない限り(そして実際に「プレミアム」を支払い続けてくれる限り)、価格差(プ

レミアム)の維持を図り、その購入者向け販売を持続することは、経済合理性に完全にか

なったものである。アジア消費国側の声に対応して、産油国はアジアプレミアム発生メカ

ニズムに関連性を持つ指標原油変更には積極的な姿勢を示している。指標原油としての信

頼性を失ったドバイに代わる新しい指標が必要なことは産油国側も十分認識しているため

であるが、本質的には指標原油の変更だけではアジアプレミアム問題は解決しない。

産油国はアジアの石油事情を十分に熟知している。アジアには中東に変わる十分な代替

供給源がなく、安定供給に対する強い志向が存在していることをよく認識しているのであ

る。従って、よほど大きな変化が生じない限り、アジアの購入者はアジアプレミアムを支

払い続けざるを得ない状況にあると考えていても不思議ではない。従って、先に述べたと

おり、自らアクションをとって問題解決を図ろうとする可能性は非常に低いといえよう。

しかし、中東産油国側は、彼らにとって最も重要なアジア市場の販売を左右するかもしれ

ない要因として、アジアプレミアムを巡るアジア諸国の動きには注目している。また、最

近、日本あるいは中国向けの新しい供給源としてロシアからの原油パイプライン計画が話

題を集めているが、これもアジアプレミアムも含め対アジア販売全体に影響する問題とし

て中東産油国は大いに関心を持っている。また、イラクの市場復帰によって、新たな追加

33 例えば、2003 年 1 月 14 日付の WMRC Daily Analysis はカタールと韓国のアジアプレミアムを巡る協議

を報道している。

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供給がアジア市場に流れることの影響も他の中東産油国にとっては競争条件を変える要因

になるとして注目している。

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