第3章 プーチン政権の構造改革(2000-2006) 1....

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- 21 - 第 3 章 プーチン政権の構造改革(2000-2006) 1.プーチン政権の課題と改革プログラム 1.1 プーチン政権の課題 (1) プーチン政権が誕生した 2000 年を境に、ロシアは新しい改革の局面に入った。1998 年の通貨危機から 2 年を経て、ロシア経済は、専門家の予想を遥かに超えた速さで回復し た。回復の主要な理由は、通貨切り下げによって、国内商品の競争力が向上し、国産メー カーにとって失われつつあった市場が回復した。さらに、財政面においても、1998 7 1 バレル当り 10 ドル原油価格が高騰し(表 31 参照)、ロシアの輸出の 50%を占める エネルギー資源、石油と天然ガスの輸出収入が大幅に増加すると共に、1998 年に行われた 債務負担の軽減により財政への圧迫が緩和された。 ロシアの原油価格の推移 ( URALSUS$/1 バレル) 1997 29 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 30 16.62 9.57 24.38 20.93 19.40 30.31 27.44 37.36 53.48 60.06 出所:Energy Information Administration, US Government H.P. 石油生産および輸出量の推移 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 100万バレル 0 50 100 150 200 250 300 350 400 450 500 100万t 石油生産(100万バレル/日) 石油輸出 石油生産(100万t/年) 出所:本村眞澄(2005p.83 2000 3 月の大統領選挙でプーチン政権が誕生した。プーチン政権は、危機回復を目指 して、事実上改革を凍結したプリマコフ政権に代わって、改革路線に戻った。 90 年代の財政赤字に悩まされたロシア経済は、 1998 年の通貨危機回復とともに克服が可 能となり、2000 年以降は黒字に転じた。1998 年から 2001 年にかけては、国際原油価格の 29 1997 年―2005 年、12 月末時点。

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Page 1: 第3章 プーチン政権の構造改革(2000-2006) 1. …31財務省の発表によれば2005 年の財政黒字は15,360 億ルーブル(対GDP7.2 %)である。RIA

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第 3 章 プーチン政権の構造改革(2000-2006)

1.プーチン政権の課題と改革プログラム

1.1 プーチン政権の課題

(1) プーチン政権が誕生した 2000 年を境に、ロシアは新しい改革の局面に入った。1998年の通貨危機から 2 年を経て、ロシア経済は、専門家の予想を遥かに超えた速さで回復し

た。回復の主要な理由は、通貨切り下げによって、国内商品の競争力が向上し、国産メー

カーにとって失われつつあった市場が回復した。さらに、財政面においても、1998 年 7 月

に 1 バレル当り 10 ドル原油価格が高騰し(表 3-1 参照)、ロシアの輸出の 50%を占める

エネルギー資源、石油と天然ガスの輸出収入が大幅に増加すると共に、1998 年に行われた

債務負担の軽減により財政への圧迫が緩和された。

ロシアの原油価格の推移 ( URALS:US$/1 バレル)

199729 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006*30 16.62 9.57 24.38 20.93 19.40 30.31 27.44 37.36 53.48 60.06

出所:Energy Information Administration, US Government H.P.

石油生産および輸出量の推移

0123456789

10

1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004

100万バレル

050100150200250300350400450500

100万t

石油生産(100万バレル/日)

石油輸出

石油生産(100万t/年)

出所:本村眞澄(2005)p.83

2000 年 3 月の大統領選挙でプーチン政権が誕生した。プーチン政権は、危機回復を目指

して、事実上改革を凍結したプリマコフ政権に代わって、改革路線に戻った。 90 年代の財政赤字に悩まされたロシア経済は、1998 年の通貨危機回復とともに克服が可

能となり、2000 年以降は黒字に転じた。1998 年から 2001 年にかけては、国際原油価格の

29 1997 年―2005 年、12 月末時点。

Page 2: 第3章 プーチン政権の構造改革(2000-2006) 1. …31財務省の発表によれば2005 年の財政黒字は15,360 億ルーブル(対GDP7.2 %)である。RIA

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上昇とともに、ルーブル切下げ及び予備設備と予備労働力があったことによって国内産業

が再生し、ロシア経済は内需拡大に支えられた回復と、その後は平均 7.1%の経済成長を遂

げた。 2002 年~2005 年の成長は、国際原油価格の高騰と輸出拡大によるもので、平均 6.4%の

成長率を遂げた。

実質GDP の成長率、対GDPの財政赤字(黒字)(%)

-10

-5

0

5

10

15

1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005

-10

-5

0

5

10

実質GDPの成長率、%

対GDPの財政赤字(黒字)、%

出所:IMF, Russian Federation:Basic Data, 1997-2003、1998-2004 、ロシア財務省のデ

ータ31 失業率は 2000 年以降、8.0%のレベルで維持され、徐々に下がっている。同時に、賃金、

年金が増加し、生活の安定化が図られている。

失業率、賃金、年金、所得(実質、%)の推移

05

101520

2530

2000 2001 2002 2003 2004

0

5

10

15

20

25 失業率、% 

年金の伸び率、%

賃金の伸び率、%

収入の伸び率(国民一人当たり、%)

出所:IMF, Russian Federation:Basic Data, 1998-2004 プーチン大統領の就任から、ロシア経済のマクロのパフォーマンスが改善されたことを

背景に、政府が構造改革の実施に積極的に取り組むことができた。

30 2006 年 1 月 27 日。 31財務省の発表によれば 2005 年の財政黒字は 15,360 億ルーブル(対 GDP7.2%)である。

RIA Новости, 19.1.2006

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ゴルバチョフ政権の改革は、市場経済への移行が可能にした政治的な改革や市場経済の

一部の構造または私的所有を認める法律が採択され、本格的な経済改革への序曲であった。

エリツィン政権の経済改革は、価格自由化及び企業民営化によって市場経済メカニズム導

入であったが、市場経済に不可欠なインフラ、とりわけ投資家の権利の保証・保護システ

ム、倒産法、透明な迅速な仲裁及び裁判手続きの制度が欠如していた。さらに、複雑かつ

頻繁に修正・訂正される税制度の下で、企業の経済活動、事業見通し、また、国の財政の

建て直しが進まなかったため、税制度改革及び裁判制度の改革などが不可欠であった。2000年、2001 年の一般教書の中では、税制度改革及び裁判制度改革の重要性が訴えられた。 (2) 国内・海外企業を問わず、複雑かつ不透明であるライセンス、許可、商品標準化(サー

ティフィケーショーン)32等多数の行政の手続きは、公務員の汚職の温床になり、事業の発

展を妨げていた。商品の標準化は一つの例に過ぎないが、開業の際にライセンス制度の存

在、手続きの複雑及び複数の行政機関の参加によって長期化、柔軟性の欠如は、「一つの窓

口」制度、つまり、一つの事業に関する手続きは一つの行政機関で行われる制度の導入も

行政改革の一部となった。公務員制度の見直し、省庁の再編、政府機関のスリム化が図ら

れ、行政効率の向上の目的で行政改革もプーチン政権の優先上位に挙げられた。 (3) エネルギー市場に限らず、鉄道事業においても自然独占の見直しがなされ、競争原理の

導入と自然独占の存続が必要と認められる部門をまず峻別し、内外からの投資を活性化す

る試みがなされた。 (4) 90 年代においては、経済の先行きに対する不安や政府に対する信頼の欠如があり、また、

銀行セクターの脆弱さを背景にマネー・ロンダリングを含むロシアからの資金流出(キャ

ピタル・フライト)の問題が深刻であった。

-10.00

-5.00

0.00

5.00

10.00

15.00

20.00

10億ドル

1994 1996 1998 2000 2002 2004

純資金流出(非金融セクター)

純資金流出

出所:Central Bank of Russia, Balance of payments, 1994~2005

32 2002 年時点、ロシアにおける 80%の商品はサーティフィケーショーンであったのに対

して、ヨーロッパでは 4%。商品標準は 20,000 強が存在し、中小企業の調査によれば、

商品の標準化は、コスト高の中で 4 位を占めた。(Erik Berglfőf(2003) p.103)

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この資金流出に歯止めをかけるためには、政権への信頼の回復と経済状況の改善、及び

1998 年の通貨危機の際に打撃を受けた銀行セクターの強化と信頼回復のための改革が必要

であった。改革の成果は 2005 年になって漸く見られ、非金融セクターにおける資金流出が

資金流入を下回ることとなった。 (5) グローバリゼーションの影響も過小評価ができない。第 2 章に見たように、1992 年の

IMF への加盟は、ロシア国内経済政策に極めて大きな影響を及んだことは周知のとおりで

ある。さらに、2007 年と予想される WTO への加盟は、ロシアの国内産業・農業の政策を

始め、経済の幅広い分野に影響を及ぶことが予測されている。 1.2 プーチン政権の改革プログラム

(1) プーチン政権の構造改革路線については、大統領の一般教書(2000 年~2005 年)、

「2010 年までのロシア連邦の発展戦略」(2000 年 6 月 28 日)、「2008 年までのロシア連邦

政府の主な活動」(2004 年 7 月 28 日)、2006 年 1 月 19 日に閣議で決定された「ロシア連

邦の社会経済発展の中期(2006 年―2008 年)プログラム」に記述されている。 (2) 90 年代には経済低迷によって貧困の拡大、貧富格差、福祉制度の遅れが目立った。その

ため、社会保障の改革、とりわけ年金、住宅・公共料金改革、教育制度改革がアジェンダ

に上がった。これらの構造改革に加えて、地方自治体改革、郵政改革及び軍事改革が、大

統領の一般教書における優先順位の高い構造改革課題として取り上げられている。 (3)「2010 年までのロシア連邦の発展戦略」の重点は、銀行セクター改革、税制改革、自然

独占改革である。銀行セクター改革の促進、税制改革路線は「2008 年までの政府の活動」

プログラムにおいても継承されることなり、さらに社会分野における教育、住宅等の拡充

とともに、防衛産業、航空産業、通信、ハイテク分野の発展が重視され、金融市場の強化、

中小企業の支援策も織り込まれている。 (4) 2005 年 10 月 21 日付けの大統領令によって大統領府直属の優先的国家プロジェクト評

議会が設置された。2005 年 12 月 21 日付け優先的国家プロジェクト評議会幹部会によって、

「健康」、「教育」、「住宅」及び「農工コンプレックス」の4つの優先的国家プロジェクト

が承認された。「健康」プロジェクトは、「第1次33の医療・健康衛生の発展」及び「住民へ

の高度医療の保障」の2つの柱からなっている。「教育」プロジェクトは、「祖国の最良の

教育モデルの支援および発展」、「近代的な教育技術の導入」、「世界レベルの国立大学およ

びビジネス・スクールの設立」、「学校における養育レベルの向上」及び「軍における専門

教育の発展」からなっている。「住宅」(正式名は「ロシア国民への手頃で快適な住宅」)プ

ロジェクトは、「住宅の手頃さの向上」34、「住宅ローンの規模の拡大」、「住宅建設の規模の

拡大及び公共インフラストラクチャ施設の近代化」、「連邦法に定められた市民への住宅提

供に関する国家義務を果たすこと」からなっている。「農工コンプレックス」(正式名は「農

33 地区担当医者の専門レベルの向上(研修を受けた医者の人数を増やすこと)、医者の兼務

を減らすこと、外来診療所における検診待ちの期間を 1 週間までに短縮すること等。 34 若い世帯の住宅の購入時の補助金提供。

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工コンプレックス発展」)プロジェクトは、「畜産業の加速発展」、「農工コンプレックスに

おける小事業体の発展」及び「若い専門家(または家族)の手頃な住宅の保障」の 3 つの

柱からなっている。 (5)「ロシア連邦の社会経済発展の中期計画(2006 年―2008 年)」では、教育の近代化、医

療保険制度の近代化、住宅市場の形成、所得格差の是正、雇用制度・年金制度の改善、行

政改革、国家資産の民営化及び管理、天然資源の利用方法の改善、財政改革、官民パトナ

ーシップの発展、中小企業振興策、所有権の保護、コーポレート・ガバナンスの発展及び

経済成長を制約する産業構造の是正策などが取上げられている。産業構造の是正策の中に

は、「2010 年―2015 年、燃料・エネルギーコンプレックス発展」、「2010 年までの運送分野

の発展」、「2010 年までの科学・イノベーション分野の発展」、「2012 年までの情報・通信分

野の発展」、「2015 年までの防衛産業コンプレックスの発展戦略」、「2015 年までの航空産業

の発展戦略」及び、「2015 年までのロケット・宇宙産業の戦略発展」等が含まれている。 本稿では、それぞれの具体的な改革について一般教書に登場している順に述べるととも

に、産業戦略全般、航空機産業及び経済特区について詳しく述べる。

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2. 改革分野

2.1 税制改革

税制の現状及び問題点

新たな経済状況に税制を適合させるため、規制の部分的な見直しが頻繁に行われた。し

かし、これによってロシアの税制は複雑かつ不透明な制度となり、結局納税規律を妨げる

ようになった。さらに、企業活動のインセンティブや投資意欲の阻害を招き、経済発展へ

の支障をきたす状態に陥った。この反省から、透明な税制の再構築が優先度の高い課題と

して上げられ、2000 年の「ロシア中期経済発展プログラム」(通称「グレフ35のプログラム」)

では税制改革が重要な課題として取り挙げられた。

税制改革の趣旨及び進捗状況

(1) 税制改革の具体的な課題としては、税の負担を軽減すること、税制度の簡素化、法律及

び規制の恣意的な解釈から納税者を守ることであった。2001 年から 2005 年までに税制改革

はほぼ終了し、ロシアの税制は大きく変わった。

(2) 税制改革は、新税法第一部(2001 年)と新税法第二部(2002 年)の採択によって大き

く前進した。税法の第一部 5条の発効によって、ロシア税制全体を安定させ、1年度内に数

回行われていた税法の変更に終止符を打った。また、税法違反の懲罰措置を統一化させ、

納税者と税務当局との間で「推定無罪」の原則を導入した。新税法第二部は、連邦及び地

方、市町村の税金の徴収を規定しているもので、各章では各税についての法律が定められ

ている。

(3) 新税法の発効時点で付加価値税は 20%として設定され36、社会的に重要とされる商品に

対する税率は 10%とされた37。1998 年からは 5%の税率の売上税が導入されたが、2004 年に

廃止された。2001 年 1 月 1日からは、税金徴収の向上の目的で所得税を一律 13%に設定し、

以前の累進的な所得税率(12%、20%、30%の段階課税)制度は廃止された。一律税の導

入とともに、基本的な控除及び社会的な控除も増加され、同時に自営業に関わる控除可能

な費用の算出方法も簡素化された38。これらの控除を受けるためには、所得の申請が必要で

あるため、以前には隠されていた所得も表に出るとの期待があった。一方、所得税の大幅

な引き下げと共に、税務当局による納税管理・コントロールも強化され、結果的には納税

35 ゲルマン・グレフ(Герман Греф)、1964 年生まれ。2000 年からは経済発展貿易省大臣。 36 2004 年 1 月 1 日には 18%まで引き下げられた。 37 社会的に重要とされる商品、例えば子供用品に対する付加価値税は 10%と設定されてい

る。 38 新税法によって、自営業の控除可能な費用の算出方法は、2つ認められた。1つは以前

と同様で、全ての費用を書類で裏づけ、申請することによって規制の下で控除可能な金額

が算出されるもので、以前と変わらない方法。2つ目は、費用を裏づける書類が無くても、

収入の 20%が費用として認められるもの。

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額の急増に資することとなった。一律所得税導入の効果により、2001 年には対前年比で徴

収額が 46.7%上昇、2002 年には対前年比 39.7%上昇した39。さらに、以前は4つに分かれ

ていた福祉関連税(年金、医療等)が統一社会保険に纏められることになったことで、税

率は 39.5%から 35.6%まで引き下げられた。2005 年 1 月 1 日付で、税法二部 24 条の改訂

によって、統一社会税は再び、35.6%から 26%までに引き下げられた。

2002 年 1月からは法人税が 35%から 24%に引き下げられた。法人税の 24%のうち、7.5%

が連邦予算、14.5%は地方予算、2%は市町村予算として納められている。尚、立法機関は

特定納税者に対する税率を 24%より引き下げる権限を有するものの、最低税率は 10.5%と

定められた。

<税制改革骨子>

1. 個人所得税の一律 13%(2001 年) 2. 統一社会税(給料に対する税)は 39.5%から 35.6%まで引下げ(2001 年) 3. 5%の売上税の廃止(2001 年) 4. 法人税の 35%から 24%への引下げ(2002) 5. 付加価値税の 20%から 18%への引下げ(2004 年) 6. 統一社会税の 35.6%から 26%への引下げ(2005 年)

(4) こうした税制改革の結果、過去には高い税率の下で活動を余儀なくされていた商業銀行、

証券取引所、ブローカー、保険会社などがその他の企業と同様の税率を受けることとなり、

均等税率を享受できるようになった。

GDP に占める主要な税金徴収の比率(%)

2000 年 2001 年 2002 年 2003 年

所得税 2.4 2.9 3.3 3.4

社会税 7.4 6.8 7.6 7.4

法人税 5.4 5.7 4.3 4.0

輸出税 2.3 2.5 1.8 2.3

輸入税 0.9 1.2 1.2 1.2

輸入付加価値税 1.4 1.8 2.0 2.1

国内付加価値税 4.9 5.3 4.9 4.6

売上税 1.3 1.6 1.7 1.8

資源使用税 3.0 3.1 4.3 4.2

その他の税金 5.0 3.7 3.0 2.0

合計 33.9 34.7 34.1 33.1

(出所:”Transition” CEFIR, 2004 年 7 月―9月 http://www.cefir.ru)

上記データからは、税制改革の実行によって所得税及び資源使用税の徴収が増加し、法

人税及び「その他の税金」のシェアが減少したことが読み取れる。さらに、納税負担は、

加工産業より一次産業(石油、天然ガス、鉱石等)へのシフトが見られ、懸念されている

39 2004 年には、ロシア人は 5,745 億ルーブル納税し、2005 年の上半期には 3,405 億ルー

ブル納税した。法人税、付加価値税についで、所得税の納税金額が 3 位である。

(Комсомольская правда, 11.10.2005)

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「オランダ病」によって産業構成、輸出構造の歪曲化を是正する役割も果たしている40。今

後の課題としては、土地税、個人財産税、法人財産税の改革があげられる。

2.2 裁判制度改革

裁判制度の現状及び問題点 (1) ロシアの裁判制度は、憲法裁判所、通常の裁判所及び仲裁裁判所からなる。憲法裁判所

は、監視機関であり憲法に違反している法令を廃止する権利を有している。通常の裁判所

の範疇には、最高裁所、地方裁判所、地区裁判所、軍事裁判所及び調停裁判所が含まれて

いる。仲裁裁判所は最高仲裁裁判所、管区仲裁裁判所及び連邦構成主体(共和国、地方、

州、モスクワ市、サンクトペテルブルク市、自治共和国、自治州)の仲裁裁判所からなる。 (2) ソ連時代から残っていた裁判制度の変革の必要性は、90 年代初めころから政府によっ

て意識されていたが、1992 年 6 月 26 日付けの「裁判官のステータス」についての法が採

択された後はしばらく注視されなかった。1994 年には、ソ連時代の憲法裁判に関する法律

の代わりに、1994 年 7 月 21 日付でロシア連邦の憲法裁判法が採択された。そして、1993年の新しい憲法の解釈についての議員等からの照会が多くなったことによって裁判制度が

再び注目を集めるようになった。1996 年 12 月 31 日には「ロシア連邦の裁判制度」につい

ての法律が採択された。しかし、裁判官の収入は低いままで、裁判過程の中でも結審の客

観性及び透明性が欠如していた。 (3) 裁判の実情を見ると、所有権保護、倒産手続き等の法律が存在しているが、財政困難の

ために、裁判官の人数が不十分であり、新情報技術の導入が遅れているため、司法手続き

がしばしば長期化している。さらに、裁判官の汚職問題の背景には、低額報酬制度があっ

た。また裁判所建物も不足しており、2001 年には、2,717 の裁判所建物の中で、事実上、

司法活動を行うことが不可能であるのが 719 ケ所あった。162 の裁判所建物は、支障を来

たしかねない状態にあった。 (4) 中・東欧の体制移行諸国と比べればロシアへの海外直接投資が小規模であることの理由

の一つとして、法的なインフラの未整備、新しいビジネス環境に適応できていない裁判官

の知識不足などが指摘されている41。2005 年における調査でも、海外投資の流入の妨げと

して、汚職、行政の障壁、法律の歪曲的な解釈及び適用、さらには、矛盾した法制度が挙

げられている42。 裁判制度改革の趣旨及び進捗状況 (1) 2001 年、2002 年の一般教書で取り上げられた裁判制度の改革では、新規の民法、刑法、

仲裁法の採択及び仲裁裁判制度の効率化が重要な項目とされている。また、司法制度の技

40 Anna Ivanova, Michael Keen, Alexander Klemm (2005) p.411,に算出された数字は上

記の数字と多少異なるが、同様の傾向を示している。 41 Jonscher, Charles Нефтегазовая вертикаль 2002, No12 42Нефтегазовая вертикаль,новости 25.4.2005

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術的な面、人事、物資的な面における改善も改革に織り込まれている。具体的な改革は「ロ

シア裁判制度の発展、2002 年―2006 年」2001 年 11 月 20 日付けで採択されたプログラム

に基づいて実施されている。2002 年―2004 年には、司法制度の整備のため、より多くの国

家予算が充当された。

司法制度の整備のための予算規模の推移

0

5,000,000

10,000,000

15,000,000

20,000,000

25,000,000

30,000,000

35,000,000

2001 年 2002年 2003年 2004年

0

0.2

0.4

0.6

0.8

1

1.2

1.4

%1000ルーブル

対GDP、%

出所:Госкомстат, Россия в цифрах 2005

<裁判制度改革骨子>

1. 民法、刑法、仲裁法の新規採択 2. 仲裁裁判の機能強化 3. 裁判官、職員の増員、連邦裁判官の補佐官の役職の導入、仲裁裁判の裁判官及び行政

官の補佐官の役職の導入 4. 裁判官及び司法事務官の給与の引上げ 5. 裁判所建物の建設、再建、修理と共に、裁判官、職員用の住宅の建設(購入) 6. 司法活動に必要な物資の確保 7. 司法制度の IT 化 「裁判制度の発展、2002 年~2006 年」プログラムの実施のために、2002 年から 2006 年

までに 44,865.6 百万ルーブルの予算が充てられ、そのうち固定資産投資額は 7,042.3 百万

ルーブルである。43司法制度の効率を向上させるためには、裁判官及び裁判所職員の給与の

引き上げ及び司法活動に必要な物資の提供のための 37,823.3 百万ルーブル予算(2002 年~

2006 年)が割り当てられた。予算の 74.5%は、裁判官及び裁判職員の報酬向上に使用され

る。

43 予算額は年別の内訳は、2002 年―7,999.0 百万ルーブル(内:1,819.2 百万ルーブルは固

定生産投資)、2003 年―8,463.2 百万ルーブル(内:1,505.8 百万ルーブルは固定資産投

資)、2004 年―8,387.5 百万ルーブル(内:1,387.4 百万ルーブルは固定資産投資);2005年―9,303.1 百万ルーブル(内:1,165.5 百万ルーブルは固定資産投資);2006 年―10,719.8百万ルーブル(内:1,164.4 百万ルーブルは固定資産投資)である。出所:「ロシアの裁判

制度改革」の実施について、2006 年 1 月 19 日。

Page 10: 第3章 プーチン政権の構造改革(2000-2006) 1. …31財務省の発表によれば2005 年の財政黒字は15,360 億ルーブル(対GDP7.2 %)である。RIA

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(2) 2006 年までは、裁判官の平均給与を 28,500 ルーブルまで引き上げるとされていたが、

2005 年末、現在、裁判官の平均給与は 59,200 ルーブルであり、改革の目標を既に上回っ

ている。さらに、2006 年の予算では、2006 年 7 月 1 日から裁判官の給与の 32%引き上げ

が織り込まれており、2007 年には 7.5%の引き上げが予定されている。2002 年から 2006年の間、裁判官の人数を 5,347 人(その中に調停裁判官は 2,097 人)及び 23,443 人の裁判

所職員を増員する予定である。2002 年には、殆どの行政区に陪審裁判制度が導入された。

2005 年現在、改革の実施によって、一人の裁判官の月当たりの担当件数は大幅に減少して

いる。調停裁判制度の導入も完了され、5,977 人の調停裁判官が司法活動を行っている。2002年から 2006 年にかけては、裁判所建物の建て直し、修理また、必要な物資補給、司法制度

の IT 化の予算として、6,265.9 百万ルーブルが充てられている。2001 年から 2005 年の間、

地方裁判所のコンピュータ化は 90%に達し、地区裁判の場合も 50%となった44。 一方、司法制度をより発展させるためには、引き続き新しい「ロシア裁判制度の発展、

2007 年―2011 年」連邦プログラム案の提案が予定されている。

2.3 行政改革

行政制度の現状及び問題点

80 以上の分野における企業活動を規制する許認可制度及び汚職問題は、企業にとってコ

ストの増加につながり、経済活動発展の妨げになっていた。

汚職問題においては、汚職の度合いを示している CPI(Corruption Perceptions Index,

Transparency International)45で見たロシアの状況は、中・東欧の体制移行諸国と比較し

て深刻であった。

The Corruption Perceptions Index、1998-2005

1998 年 2000 年 2002 年 2004 年 2005 年 国

スコア 位置 スコア 位置 スコア 位置 スコア 位置 スコア 位置

ロシア 2.4 76 2.1 82 2.7 71 2.8 90 2.4 126

ポーランド 4.6 39 4.1 43 4.0 45 3.5 67 3.4 70

ハンガリー 5.0 33 5.2 32 4.9 33 4.8 42 5.0 40

チェコ 4.8 37 4.3 42 3.7 52 4.2 51 4.3 47

スロバキア Na Na 5.5 28 3.7 52 4.0 57 4.3 47

(注)「スコア」は、1 から 10 までの数値。数値が低いほど汚職度合いが高い。「位置」は

汚職の少ない順。ちなみに 2005 年では 156 カ国中、一番汚職の少ない国はアイスランドで

1位(スコアは 9.7)。

出所:www.transparency.org

44 2006 年 1 月 19 日閣議、「ロシア裁判制度改革」の実施についての経済発展貿易省グレフ

大臣の報告。 45 CPI のスコアは1から 10 まであり、スコアが高い方が汚職の少ない度合いを示している。

Page 11: 第3章 プーチン政権の構造改革(2000-2006) 1. …31財務省の発表によれば2005 年の財政黒字は15,360 億ルーブル(対GDP7.2 %)である。RIA

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行政改革の必要性については、1998 年 2 月、エリツィン大統領の一般教書において初め

て言及され、さらに、首相に就任したキリエンコの演説には、肥大した官庁組織の見直し

について述べられている。しかし、1998 年 8 月の通貨危機後、行政改革を含む構造改革が

事実上凍結になったため、官庁組織の再編問題は手付かずであった。

2001 年 4 月、プーチン大統領の一般教書の中で「ようやく行政改革への準備を始める必

要がある」と述べられ、改革の幾つかの提案が出された。

行政改革の趣旨及び進捗状況

(1) 行政改革の一貫として規制緩和が積極的になされた。2002 年 1 月 15 日からは、議会の

決議によって、ライセンスの必要な事業種類を 15 分の 1までに引き下げ、新規企業登録の

手続きを簡素化し、企業の検査を 2 年間で1回以上行うことを禁止した。2003 年 1 月 1 日

からは、新規小企業の検査を設立から 3年間免除した。その結果、行政改革の前と比べ 2004

末には新規企業の登録は 1.5 倍の早さで可能になった。新規企業登録は、「一つの窓口」の

導入によって、法律で定められている 5日間で進められることになった。登録料金は 2,000

ルーブルであり、以前の 3,000 ルーブルよりも安くなった46。

2005 年、事業ライセンス関連法47の改訂によって、49 種類のライセンスの段階的な撤廃

が見込まれている。2007年 1月 1日から建設業務及び観光業務に関わる許可は撤廃される。

(2) 2003 年に「行政改革委員会」が設立され、省庁の再編及び公務員の報酬の見直しが行わ

れた48。経済発展省が各省庁の機能を調査した結果、5,600 の機能があることが判明し、

「省・局・部門」の再編が行われた。内閣の委員会は 220 から 14 まで削減され、大統領府

の局は 23 から 12 まで削減された。さらに、大統領府の職員数が最大 954 人と定められ、

改革の前に比べて、250 人(20%)削減された。

2004 年 1 月 1 日当時、国家行政機関、司法機関、保安及び防衛機関を含む行政分野では

82,000 の機関が活動しており、この分野の職員の平均報酬額は、8,331 ルーブル(2004 年)

であり、経済全体の平均報酬を 22%上回っていた。

46 Ведомости, 16.11.2005, No 215(1496) 47 「各事業のライセンスにかかる連邦法の改訂について」2005 年 7 月 2 日。 48 2003 年 7 月 23 日、大統領令「2003 年―2004 年における行政改革の実施について」。

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出所:Госкомстат, Россия в цифрах 2005

2004 年 4 月 10 日、大統領令 No519 によって、一部の上級公務員の給与が引き上げられ

た。大統領令によって、中央当局の国家公務員は職階によって 2倍から 13.6 倍の給与の引

き上げが行われた。一年間の報酬の中には以下の手当が含まれている。

<年間の公務員給与引き上げ対策>49

1. 資格の級に見合った手当(基本給(月額)の 4か月分)

2. 勤務の特別な条件のための手当(基本給(月額)の 14 か月分)

3. 年功のための手当て(基本給(月額)の 3か月分)

4. 勤務の成果ボーナス(基本給(月額)の 3か月分)

5. 毎月の報奨金(省の場合、基本給(月額)の 42 か月分、連邦機関の場合、36 か月分)

6. 生活援助(基本給(月額)の 2か月分)

全体的には、公務員の年間報酬の 15%が基本給であり 85%が手当である。

一方、上級国家公務員の場合には、給与及び手当以外の、特権の形での報酬が存在してい

る。連邦省庁の幹部は、各省庁に付属している病院での医療を無料で受ける権利を持ち、

保養所の使用も無料である。各省庁の次官は公用車を利用でき、第 1 次官の場合には、公

用車の利用を公私共に認められている。

なお、 2005 年以降の行政改革の第二弾は、汚職の排除に焦点を当てることになった。

2.4 自然独占改革

2.4.1. 電力産業改革

電力産業の現状及び問題点

49 2004 年 4 月 10 日、No519 の大統領令、第 13 項。

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(1) ロシア統一エネルギーシステム株式会社(以下 RAO UES)は、1992 年 8 月 15 日、No923

及び 1992 年 11 月 5 日、No 1334 の大統領令によって設立された。2004 年の市場占有率は、

発電所の総生産能力において 72.4%であり、電力生産量は同 70.0%、ロシア全体のエネル

ギー供給においては 32.3%であった50。

(2) 2000 年における電力産業の構造は次のとおりである。政府は”Rosenergoatom”社(ロ

シア原子力エネルギー)の 100%所有権を保有し、10 の原子力発電所を運営した。さらに、

政府は電力部門の総合事業会社 RAO UES51の株式の 52%を保有した。RAO UES は、44(建設

中の 8発電所を含む)の発電所の株の 20%~100%を保有している。RAO UES は、エネルギ

ー企業の 71 社、発電所、送電線(220kw 以上)、配電線(100kWatt 以下)、制御、販売会社

の株式の 45%~100%を保有するとともに、地方の総合エネルギー企業(Irkutsk’energo

社, Tat’energo 社、Bashkir’energo 社のそれぞれの株式の 21%、Novosibirsk’energo

社の株式の 14%)のシェアを有していた。他方、当時、エネルギー市場における独立系エ

ネルギー会社も存在した。

電力分野における独占的な構造は、非効率を生み出し、90 年代には次のような問題が起

きていた。

<90 年代におけるロシア電力部門の問題点>

1. エネルギー使用量、設備の効率、発電所の生産能力の立ち遅れ

2. 発電コスト削減、エネルギー消費節約等へのインセンティブ不足

3. 地方での停電等の障害の他、大規模な事故の可能性の内在

4. 電力料金未払問題

5. 電力企業の財務状況の不透明、情報の未開示

6. 新規市場への進出困難

さらに、2000 年以降も電気料金の値上げは著しく、住民に対する 100 キロワット当たり

の電気料金が 2000 年の 39.16 ルーブルから 2004 年には 93.15 ルーブルと 2.3 倍に増加し

ている52。

電力産業改革の趣旨及び進捗状況

(1) 電力産業改革の基本は、市場原理に基づき、可能な限り地方における電力の競争市場を

創出することにある。改革の目標には、電力部門の独占構造の廃止、省エネルギーの促進、

コストダウンのための効率的なメカニズムの導入などが挙げられている53。

改革の主要な目的は、電力部門の効率を向上させ、投資の促進によって産業を発展させ

ることにあり、ロシアにおいて安定したエネルギー供給を確保することである。これを実

現するために、規制緩和、エネルギー市場の創設、新規事業促進政策にプーチン政権は高

50 RAO UES の HP より。 51 ロシア統一エネルギーシステム株式会社、政府の株式持分は 52%、その他の株主は 48%。 52 Госкомстат, Россия в цифрах 2005 53 2003 年 3 月 26 日「連邦電力法」が採択された。

Page 14: 第3章 プーチン政権の構造改革(2000-2006) 1. …31財務省の発表によれば2005 年の財政黒字は15,360 億ルーブル(対GDP7.2 %)である。RIA

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い優先度を与えている。そして、改革の趣旨はエネルギー部門における自然独占部門と競

争原理の導入可能な部門の分離である。競争市場原理の導入可能な分野としては、発電及

びエネルギーの販売への新規参入が重要と見なされており、これらの分野においては、市

場を創設し、市場価格メカニズムを導入することである。他方、従来のシステム全体の管

理・制御においては、組織再編を行いながら国家管理体制を強化する予定である。

<電力産業構造改革の実施目標>

1. 販売システムの管理会社における政府のシェアを 50%以下

2. 連邦送電会社の政府シェアを 75%程度

3. 地域間の配電担当企業の政府シェアを 50%程度

4. 原子力発電所の政府のシェアを 75%程度

5. 水力発電所の政府のシェアを 50%程度

6. 火力発電所、独立系のエネルギー企業、販売会社、修理・サービス企業の政府のシェ

アを 50%以下

7. 極東ホールディングなど隔離したエネルギー・システム・ホールディング社の政府の

シェアを 50%程度

(2) 今後の改革の流れの中で設立される新組織は、分業原理に基づいて設立される。分野別

に設立される新規企業は、いくつかの地方における同機能の部門を統合することになるた

めに、企業規模は、これまで地方に存在した独占企業の規模を上回ることも予想されてい

る。たとえば、送電線は「連邦電線会社」の管轄に入り、配電事業は地域間の配電企業に

移行され、地方の管理・制御事業は全ロシアシステム・オペレーターに移管されることに

なる。

(3) 地方のエネルギー株式会社の再編は 2003 年から始まっており、とくに 2004 年には積極

的に行われた。2004 年には、地域をまたぐ企業の設立が着手され、2005 年には、予定され

た7つの卸売り発電企業の登録が完了、予定されている 14 の地方発電所の中からは 13 の

企業登録手続きが終了した。また、2005 年には4つの地域間配電企業が設立された。

(4) なお、これらの電力改革は 2006 年までに完了する予定であったが、2005 年 12 月の閣議

にて 2008 年まで実施が延長された54。改革の結果、現在の RAO UES は解散することとなる

が、それに代わって、6つの卸売電企業及び連邦送電会社が市場におけるプレイヤーにな

るものと考えられる。なお、チュバイス55によれば 2008 年までには電力市場の自由化が完

成する予定である56。

2.4.2 ガス産業改革(ガスプロム改革)

ガス産業の現状及び問題点

54 2004 年 12 月 24 日、閣議にて「電力部門における改革の実施について」、産業エネルギ

ー省フリステンコ大臣報告。 55 アナトーリー・チュバイス( Анатолий Чубайс)1955 年生まれ。1998 年 4 月から RAO

UES の社長。現在に至る。 56 出所:RAO UES の HP より(www.rao-ees.ru);Ведомости 2005.11.22.

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(1) ロシアの天然ガス埋蔵量は世界シェアの 26.9%である。1997 年から 2003 年の間の生産

と輸出の推移は以下のとおりである。

0

100

200

300

400

500

600

700

立方メートル

1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004

ロシアの天然ガスの生産と輸出(単位:10億立方メートル/年)

天然ガス生産

天然ガス輸出

出所:本村眞澄(2005)、p.82、83,. Interfax 2005 年 2 月 8 日付け(2004 年天然ガス生産

量)。International Oil Daily 2005 年 1 月 26 日付け(2004 年天然ガス輸出量)。 (2) 天然ガス産業の構造は自然独占であり、独占企業であるガスプロム社のシェアは 2001

年で 90%であり、2004 年には 86%であった57。

現在の問題としては独占的構造によるコスト削減意欲の欠如から来る問題、また、料金

値上げ問題がある。住民の月間の一人当たりガス料金は、2000 年から 2004 年の間において

5.66 ルーブルから 14.36 ルーブルに上昇し、約 2.5 倍に増加している。

さらに、ガスプロム社の主要な資産であるパイプラインは老朽化している58。設備の老朽

化の比率は 56%であり、コンプレッサーの老朽化が特に進んでおり、89%である。ガス田

開発や設備投資には資金が不可欠であるが、ガスプロム社の不透明な財務状況が投資家に

懸念を与えている。十分な投資ができない場合には、2006 年~2008 年にはガス不足が生じ、

国内市場における需給バランスが崩れる場合には国内価格が高騰する恐れがある59。さらに、

ガスプロムの会計上の不透明さは以前から投資家や関係者の批判の的であった。

57 The Moscow Times, 8.6.2001.,”Gazprom in Figures,2000-2004, www.gazprom.ru” 58 2005 年現在のパイプラインの使用年数は次のとおりである。21 年~35 年使用されたパ

イプラインは全体の 40.7%、11 年~20 年は 30.9%。また、35 年以上は 17.3%、10 年以

下は 11.1%。(ガスプロム社の HP より、www.gazprom.ru) 59 Компания, No21, 30.5.2005

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ガス産業改革の趣旨及び進捗状況

(1) 天然ガス産業の改革は、エリツィン政権時代から始まり、プーチン政権には、「ガスプ

ロム改革60」として受け継がれている61。ガス産業改革の目的は以下のとおりである。

第 1 にガス産業の効率を向上させること、第 2 には投資家にとってガス産業の魅力を向

上させることである。2001 年 5 月 30 日、ガスプロム社長にミルレル氏62が就任して「ガス

プロム改革」の第 1、第 2段階が実施されている。

(2) ガスプロムの独占体制の改革は、電力産業の改革と同様で、自然独占の部分と競争原理

の導入可能な分野を分ける方法が採用されている。パイプラインは非競争分野と見なされ、

新規開発部門に市場原理を導入することで、新規企業にとっては市場へのアクセスを容易

にするといった構想である。一方、独占構造の排除、とりわけガスプロム社本体の分割(生

産と輸送の分離)については、経済発展貿易省とガスプロムとの間で考え方の違いが生じ

ていた。しかし、無理に本体を解体することは避け、コア部分は残したまま再編するとい

うガスプロム社のビジョンが主流になっている。

(3) 2003 年には、ガスプロム改革の第 1段階が終了した。第 1段階ではガスプロム社の資産

をはじめ、ガス産業全体の資産の調査が行われた。2008 年までに実施される第 2 段階の目

的は、垂直型の総合企業としての効率向上である。その手法としては、ガスプロム社本体

から副業的な事業を分離独立させ、天然ガス・液体炭化水素の採掘及び運送部門の専業事

業をコア事業とすることにある。同時に専門外の事業、さらには採掘、運送事業において

もそれぞれの子会社の形にすることで財務状況をより明確に把握できるようにすることが

狙いとなっている。再編の結果としては、天然ガス及び液体炭化水素の採掘、運送、加工、

地下及び販売など、それぞれの部門に発生するキャッシュ・フローが分割して把握される

ために透明性が向上すると期待されている。中核事業に集中すること以外には、メインテ

ナンス・修理業務、ガスの分配網及び福祉インフラ部門を分離し、独立組織にすることが

改革の第 2 段階の内容である。2004 年には、分配網を軸として事業を行う株式会

社”Gazpromregiongas”が設立された。さらに、各子会社の投資部門に代わって、地方別

に投資会社を設立する予定である。

(4) 2006 年 1 月には、ガスプロム社株式に関する規制のうち、非居住者のシェアは従来の

20%までという制限があったが、これが撤廃・緩和された。ただし、同時に「ロシア連邦

60 1989 年、ガス産業省は省ごと国営ガス・コンツェルン、つまり「ガスプロム」(GGK

Gazprom)に移行・設立された。その後、大統領令(1992 年 11 月 5 日)及び閣僚会

議の政令(1993 年 2 月 17 日)を受けて、1993 年には株式会社「ガスプロム」(RAO Gazprom)が設立された。主な活動は、天然ガス、ガス凝縮液、石油の採掘、天然ガス

及びガス凝縮液の加工、ガスパイプライン運送、国内外の消費者への天然ガスの販売業

務である。 61 1997 年 4 月 28 日「自然独占における構造改革の主なテーゼについて」大統領令、No426

1999 年―2001 年。政府の依頼によって、ロシア連邦エネルギー委員会、経済発展貿易

省及びエネルギー省は、「ロシアのガス産業発展の構想」を作成。 62 アレクセイ・ミルレル(Алексей Миллер)1962 年生まれ。2000 年からエネルギー省

次官、2001 年 5 月 30 日からガスプロム社社長である。現在に至る。

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におけるガス供給法」の改訂63により、ロシア政府のシェアは 50 %プラス 1株以上と定めら

れている64。また、非居住者による株式取得に際して必要とされていた連邦金融市場庁

(Federal Financial Market Service )65の許可が不要となり、さらには株式の売買取引

所指定もなくなった。ガスプロム社の株式市場の規制緩和によって同企業の時価総額が急

増している。2006 年 5 月 5 月 10 日現在、ガスプロム社の時価総額は 3000 億ドルを上回っ

て、世界第 3位の企業である 66。

2.4.3 鉄道改革

鉄道部門における現状及び問題点

(1) 現在、ロシアの鉄道の総延長距離は、87,157km であり、米国についで2位である。

国別の鉄道の総延長

87,157

23,577

227,736

71,898

0 50,000 100,000 150,000 200,000 250,000

鉄道の総延長、km

中国

米国

日本

ロシア

出所:米国 CIA ファクト・ブックより http://www.odci.gov/cia/publications/factbook/

改革が実施されるまで、ロシアの鉄道部門では独占的構造が存在し、競争原理が欠如し

ている中で、コスト高及び運賃の値上がりも目立っていた。100 キロ当たりの運賃は、2000年の 29.00 ルーブルから 2004 年の 94.64 ルーブルまで、3.3 倍に増加している67。 (2) 2003 年 10 月 1 日付でロシア鉄道省が廃止されると同時に、輸送関係業務が新規「ロシ

ア鉄道株式会社」に譲渡され、管理は運輸省が担うようになった。「ロシア鉄道株式会社」

は、国営企業であり政府が株式の 100%シェアを保有している。同企業は、駅ビル、車庫、

63 2005 年 12 月 8 日、議会で採択。 64 ガスプロム社の子会社が親会社の株式の 10.74%を国営企業「ロスネフチガス」に売却し

たことによって政府のシェアが 50%を超えた。 65 証券市場をはじめ、ロシアの金融市場のモニタリング機関。 66 Ведомости, 10.05.2006 67 Госкомстат, Россия в цифрах 2005

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操車室、20,000 台の機関車、貨物車両と乗客車両を合わせて、600,000 車を所有し、運営

している。

鉄道部門改革の趣旨及び進捗状況

(1) 鉄道改革は、2001 年の「鉄道構造改革」の政府令、及び「2003 年―2005 年、鉄道構造

改革プログラムの実施計画」68の下で行われている。

電力及びガス産業改革と同様に、鉄道事業においても非競争部門(自然独占)と市場原

理を導入できる部門を分けるのが改革の趣旨である。第 1 段階においては、鉄道省の管轄

にある資産について調査・評価が実施され、専業外の事業を切り離し、新規に「ロシア鉄

道株式会社」とすることとし、これは 2003 年 10 月1日に設立された69。設備投資プログラ

ムに改革の重点が置かれ、車両の近代化とともに、レール敷設等のインフラ投資に大きな

重点が置かれている70。2005 年には全投資額の 70%がインフラ投資に充てられる。

(2) 鉄道事業における市場原理の導入の結果として、民間列車が登場した71。鉄道改革の第

2 段階における「ロシア鉄道株式会社」から連邦旅客列車カンパニー72が独立することによ

って、国営企業と民間企業の両者が運輸市場のプレイヤーになった73。

(3) 改革の結果としては、2004 年 6 月に初めてロシア鉄道株式会社が Moody’s Investors

Service による格付が与えられた。2005 年には Fitch 社が、”BBB”の格付け(ロシア連邦

ソブリン格付けと同様)を与えるとともに、2010 年満期の総額 350 百万ドル及び 2012 年満

期の総額 175 百万ドルの社債に対して、ロシア国内格付基準で AAA 格付けを与えた74。

国際格付け機関によるランキングが与えられたことにより、将来の国際金融市場におけ

る資金調達につながり、投資活動の活発化が期待できることになった。

(4) 2005 年には鉄道改革の第2段階が終了した。「ロシア鉄道株式会社」の経営陣が取り

組んできたコスト削減及び事業の効率性向上の結果、運送量は 10%増加し、運行の安全性

や財務状況が改善された。2005 年には「ロシア鉄道株式会社」を 13 億人の乗客が利用し、

貨物量は約 13 億tであった。ロシアの国内全体の輸送市場における同企業のシェアは、利

用者の人数では 41%であり、貨物量では 39%であった。また、2005 年の財務状況は純利

益額が 113 億ルーブルであり、国への配当金は 10 億ルーブルであった。 (5) 2006 年、改革の実施は第 3 段階に入る。改革の一貫として、「ロシア鉄道株式会社」

の傘下企業に連邦乗用車管理会社(Федеральная пассажирская дирекция (ФПД) の設立が予定

されている。新企業は 7 の地方管理会社をまとめ、46 の車庫及び 25,500 台の乗客車両を保

68 No384,2001 年 5 月 18 日及び No283、2003 年 5 月 6 日の政府令。 69 No585,政府令。社長には元鉄道大臣の Fadeev 氏が就任した。新会社に譲渡された資産

額は 15,357 億ルーブルである。 70 2004 年には、「ロシア鉄道」株式会社がサハ共和国にある Tommot-Kerdem 線に 40 億ルー

ブルを投資することを発表した。 www.reformarzd.ru 71 モスクワとサンクト・ペテルブルグの間で、”Grand Express”という名のホテル列車の運

転が開始された。 72 政府が 100%株式を保有する。 73 www.reformarzd.ru 2005 年 12 月。 74 RIA Novosti, 17.11.2005

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有する予定である75。

2.5 銀行セクター改革

銀行セクターの現状及び問題点

(1) 1998 年の通貨危機以降、ロシアの銀行セクターは速い速度で回復を遂げた。1998 年か

ら 2003 年の間、銀行セクター総資産の対 GDP 比は 31.5%から 41.8%まで増加し、自己資

本比率は 4.8%から 6.1%まで増加した。対 GDP 比で見ると、非金融セクターへの融資は

8.2%から 18.0%まで、居住者の預金高は 8.0%から 11.9%まで上がった。

2004 年末の金融機関の数は 1,605 であり、その中で銀行業務を行う機関数は 1,329 であ

る。法人取引トップの 5 位の銀行は次のとおりで、ズベルバンク(Sberbank)が 1 位を占

めており(1,658,000 口座、Moody’s 格付けで Aaa.ru)、アルファバンク(Alfa Bank)が

2位(60,000 口座,Standard&Poor’s 格付けで ruAA-))、モスクワバンク(Bank of Moscow)

が 3 位(58,300 口座 )、ウネシュトルグバンク(Vneshtorgbank)が 4 位(58,000 口座,

Standard&Poor’s格付けで BBB(A-),外貨建て、予想))、ソッドビジネスバンク(Sodbusiness

Bank )が 5位(50,000 口座)である。76

(2) 2005 年末には預金市場における国営のズベルバンクのシェアは、55%強であり、こうし

た独占的な構造が金融セクターの発展の妨げになっている。また、銀行セクター総資産は

GDP の 40%であり、産業発展に必要な投資を提供する規模にはなっていなことが経済全体、

及び金融システムの弱点である。銀行セクターを強化する改革が、今後の経済発展のため

に不可欠である。

銀行セクター改革の趣旨及び進捗状況

(1) 銀行セクター改革は、「ロシア連邦銀行制度発展戦略」77(5 年間プログラム)及び、「ロ

シア連邦銀行セクター発展戦略 2004 年~2008 年」78また、2005 年 4 月 5 日で採択された

「2008 年までのロシア連邦銀行セクターの発展戦略」79の下に実施されている。

75 www.pro-rzd.com、27.2.2006 76 2006 年 2 月現在、Moody’s(www.rating.interfax.ru)は、51 のロシア銀行に格付けを

行っている。Standard&Poor’s(www.standardandpoors.ru)では 35 の銀行が格付けさ

れている。 77 2001 年 12 月 30 日、カシアノフ首相(当時)及びゲラシェンコ中央銀行総裁(当時)に

よって調印された。 78 2004 年 2 月 11 日、閣議にて採択。 79 政府及び中央銀行の共同声明、2005 年 4 月 5 日。

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<銀行セクター改革骨子>

1. 銀行セクターの危機を防止することを可能とする安定した銀行制度の構築

2. 家計の貯蓄及び企業の貯蓄を集約し、融資及び投資に動員する銀行業務の向上

3. 投資家、債権者、預金者の銀行制度への信頼度の向上

4. 預金者及びその他、銀行の債権者の権利保護の強化

5. 不誠実な商業活動の金融機関の使用防止

6. 2004 年からの国際会計基準の導入

7. 金融機関再建庁(ARCO)80の管理下で倒産に陥った金融機関の再建

8. 新規金融機関の自己資本額及び自己資本比率に関する規制強化

9. ロシア中央銀行によるモニタリング・システム強化

10. 住宅ローン制度の発展

11. 預金保険制度の構築

(2) 現在は、自己資本 5 百万ユーロ以上の銀行にとっての最低自己資本比率は 10%であり、

5 百万ユーロ以下の場合では 11%である。一方、自己資本比率が定められた下限を下回る

場合には当該銀行の倒産を防止するために、中央銀行が関与する義務が定められている。

自己資本比率が 2%以下に下がった場合には、中央銀行が市中銀行の銀行業務ライセンスを

取消す義務がある。2006 年 1 月 19 日の「銀行及び銀行業務」法及び「金融機関の倒産」法

の改訂によって、銀行業務のライセンスの取消の基準は、自己資本比率 2%から 8%までに

引き上げられることになった。

(3) 新しく設立される銀行の自己資本額は 5百万ユーロ相当のルーブル額と定められている。

さらに、2005 年からは自己資本比率が 10%以上と定められ、これらの規制を満たさない銀

行についてはライセンスが取消される。また 2007 年からは、自己資本比率の 10%規制はノ

ン・バンクの金融機関など、全ての金融機関に対し有効になる。同時に、全ての金融機関

の自己資本額が 5百万ユーロ相当以上と定められる。

(4) また、ロシア中央銀行の銀行セクターに対するモニタリング機能強化政策の下で、銀行

と企業との取引リスクを算定する目的で、債権者と債務者との融資取引についての情報を

開示するシステムが構築される予定となっている。

全体の構想としては、家計の貯蓄を投資にも転換させる効果的な銀行制度の構築、ロシ

ア国内金融市場において外資系金融機関と競争できる銀行セクターの育成、銀行セクター

の安定性の向上、預金者保護制度の構築、投資家、債権者、預金者から高い信頼を受ける

銀行セクターの育成である。また、戦略プログラムには具体的な数字も取り上げられてい

る。具体的な目標としては、2009 年 1 月 1 日までに、総資産、自己資本、融資の対 GDP 比

をそれぞれ 56%-60%、7%-8%、26%-28%にすることである81 。

(5) 効率的な銀行制度は、高度経済成長率を達成するためには必須であり、とくに 1998 年

80 1998 年の金融危機の際に設立された金融機関再建のための専門政府系機関。 81 銀行セクターがプログラムのとおり発展していく場合、銀行セクター成長率は GDP の成

長率を上回る計算になる。仮に GDP の平均成長率は 7%であれば、銀行セクター総資

産の増加率は 15%、自己資本の増加率は 13%、融資の伸び率は 17%である。(Николаев И.А.(2004) p.256)

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に失われた信頼の回復が先決である82。そのため、預金保険制度導入、また、国際会計基準

に適合した会計制度の導入、情報開示の徹底、銀行活動のモニタリング、必要な場合の倒

産手続きの確定、債権者権利の保護等が改革の重要なポイントになっている。

(6) 銀行のモニタリング機能は中央銀行が担っているが、預金保険制度は「預金保険庁」が

担当している。預金保険制度は、2段階に分けられて導入される。第 1段階は、財務状況が

安定した銀行が任意加盟する段階である。一方、その時に加盟しなかった銀行は銀行業務

を引き続き行うことが認められる。第 2 段階は、国際会計基準が導入されてから 1 年以上

経過した後、実施される。第 2 段階では、預金保険制度への加盟が義務付けられる。加盟

が認められない銀行は、個人預金の扱いの許可が取消される。

(7) 一つの銀行の一口座あたりで保証される預金の最大金額は 100,000 ルーブルであるが、

複数の銀行に口座を開設することや、同一銀行において家族の口座を開設することによっ

て保証される金額を増やすことは可能である。他方、一定の条件を満たした銀行に限って

預金保険制度に加盟することが可能になる。2004 年 4 月現在、120 の銀行(全体の 10%)

が預金保険制度に加盟を申請している。他方、この制度に加盟していない(加盟が認めら

れていない)銀行は新規預金を受け入れることが不可能となる。ズベルバンクは預金保険

制度に 2007 年から加盟83することになった。預金保険制度の導入によって、銀行セクター

の独占構造が改善されると予想されている。

2.6 地方自治体改革(中央・地方財政改革)

自治体制度の現状及び問題点 (1) 地方自治体に関する問題については、プーチン大統領の国家評議会での「ロシア連邦に

おける地方自治体:現状及び発展の展望」報告書(2002 年 10 月 23 日)の中で述べられて

いる。大きな問題の1つとしては、地方自治体の経済基盤が脆弱であり、市場経済におけ

る新しい社会体制の法律が未整備・未完成であることが指摘されている。中央政府及び地

方自治体との関係についての権限などには具体性が欠如している部分があることや、90 年

代に採択された地方自治体法とその後にできた連邦の税法及び財政法との間に隔たりがる

ことも記述されている84。 (2) 2000 年 5 月、プーチン大統領の就任後、全国の地域が 7 つの連邦管区に分類され、大

統領の全権代表者が地域を監視する制度が設けられた。

82 2004 年 OECD のデータによれば、ロシアには銀行預金は 480 億ドル、「箪笥預金」は

400 億~800 億ドルと見なされている。OECD(2004), p.1 83 ズベルバンクの預金保険制度への加盟は移行期間を置いて実施される。ズベルバンクの

保険料はロシア中央銀行の特定口座に集約され、預金保険制度への加盟の後、保険料が

全体のシステムと統合される。 84 Путин В.В. «Местное самоуправление в Российской федерации: состояние и

перспективы развития», доклад на Государственном совете Российской Федерации, 23.10.2002.

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<7つの連邦管区> 1. 中央連邦管区(首都、モスクワ市) 2. 北西連邦管区(サンクト・ペテルブルク市) 3. 南連邦管区(ロストフ・ナ・ドヌ市) 4. 沿ボルガ連邦管区(ニージニー・ノブゴロド市) 5. ウラル連邦管区(エカテリンブルグ市) 6. シベリア連邦管区(ノボシビルスク市) 7. 極東連邦管区(ハバロフスク市)

(3) 2005 年 1 月 1 日現在、ロシア連邦には 21 共和国、6地方(クライ)、49州(オブラス

チ)、2 特別都市(モスクワ及びサンクトペテルブルク)、1 自治州、10 自治管区の 89 の連

邦構成主体85があり、その下に 1,866 地区、1,099 市及び 24,373 の農村がある。ロシアに

おける地方自治体の活動は、「ロシア連邦における地方自治体」法(1995 年 8 月 28 日採択)

によって定められている。その法律によって町村には自治体ステータスが与えられ、所有

権、予算及び市民による行政官の選出が確保された。一方、連邦と自治体との間での歳入

予算の分配手続きなどについての具体的な記述がなかった。 自治体自治体改革(中央・地方財政改革)の趣旨及び進捗状況 (1) 2003 年 10 月 6 日付で改訂版「ロシア連邦における地方自治体法」が採択され、同法が

2006 年 1 月 1 日に発効したことによって自治体の独立性は向上されるとみられている。改

訂法によれば、自治体は地区、町村、市の3つのレベルで定められ、2006 年からは年金、

防衛関連費用、高等教育(大学)、学術の費用が連邦予算から支払われるのに対し、自治体

は医療関係、教育及び住宅・公共料金にかかる補助金などを負担することになっている。

地方自治体改革の実施に伴い、公的資金の拠出においては地方自治体の負担がより大きく

なるものと予想されている。 (2) ベスランで発生したテロ(2004 年9月 1 日)を契機に、2004 年 12 月 12 日、プーチン

大統領は地方知事の選挙制度を廃止する国家機構を定める改訂法に署名し、地方知事は事

実上、大統領により任命されることになった。

85 その後、連邦構成主体の改編があり、2006 年 5 月 1 日現在では 88 となっている。

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0

5

10

15

20

25

30

1000ルーブル

2004年 2005年 2006年 2007年 2008年

連邦・地方の財政支出(国民一人当たり)の見通し

連邦予算

地方予算 

予算以外の連邦基金

出所: Министерство финансов «Бюджетная реформа в действии 2006-2008»

2.7 教育制度改革

教育制度の現状及び問題点

(1) 教育課程は 4つの段階に分けられている。第 1段階は就学前教育であり、第 2段階は初

等教育(3年)、第 3段階は一般中等教育(8年)、そして第 4 段階は専門教育である。初等・

中等教育は合計 11 年であるが、義務教育は 9年である。なお、大学教育の平均年数は 5年

間である。義務教育の年数の 9年間は、初等課程入学の年齢を 6歳 6ヶ月から可能とし、3

年間であり、そして、中等教育の終了は 15 歳までと定められているが、終了年齢の上限は

18 歳で86、4 級から 9級までと定められている。なお、就学前の教育は幼稚園で行われ、年

齢は 2歳から 7歳までである。

(2) 1988 年から 1998 年の間、出生率が半減したことを反映し、就学前の教育機関に通って

いる児童の人数が 54%まで減少し、教員の人数も 31%減少した。2003 年には、就学前の教

育機関の 8割は市立幼稚園であり、予算不足のため、教員の平均月給は、360 ルーブル(約

1,500 円)87であった。 (3) 教員は最も低い所得層に属しており、2004 年時点においては、経済全体の平均月給

(6,832 ルーブル)の 62%(4,254 ルーブル)であった88。市場経済移行過程で財政赤字が

続いた 1998 年までは、教育分野へ国家予算の配分は減少していた。その結果、2000 年には

2百万人の児童(全体の 10%)が通学していないこと、また、学校の設備や教材の更新が

遅れ、教育課程が円滑でないことが指摘され始めた。さらには、大学の入学にあたり 40%

86 ロシア連邦「教育法」1995 年 7 月 12 日、2004 年 3 月 5 日改訂版。 87 Федеральное агенство по образованию, «Дошкольное образование: задачи,

проблемы» 88Федеральное агенство по образованию, Госкомстат Россия в цифрах 2005

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の受験生と受験生の両親の 30%が不正入学問題に直接・間接的に係わったとの報道もある89。

(4) ロシア教育制度は、長期間に亘って見直されたことがなかったため、政府にとっては質

の高い、誰でも受け入れる現代的な教育制度の構築が重要な課題である。

教育制度改革の趣旨及び進捗状況

2001 年 10 月 25 日には、「2010 年までのロシア教育制度の現代化構想」が採択され、教

育改革が始まった。

<教育制度現代化構想骨子>

1. 12 年の中等教育の導入

2. 統一国家試験の導入

3. 統一国家試験の結果に基づき大学入学の決定

4. 統一国家試験の結果に応じた国家支援(奨学金)の決定(「お金が成績についてくる」

という構想の導入)

5. 教育の基準化の促進

2000 年当時は、教育分野への国家予算の配分が 2.8%であったが、2004 年には 4.9%に

までに引き上げられた90。また、2006 年度予算では、対 2005 年比 35%の配分増加91が織り

込まれている。

2.8 住宅・公共料金改革

住宅・公共料金制度の現状及び問題点

(1) 2003 年の国民1人当たりの住宅面積は 20.2 平方メートルであり、また、住宅分野への

建設投資は固定投資全体の 14.3%であった92。

(2) 90 年代後半から住宅価格の値上がりと同時に、公共料金も値上がり傾向にあった。

89 Аванесов В.С. (2000) 90 Rosbalt 通信社、09.12.2004 91 Министерство финансов «Бюджетная реформа в действии 2006-2008» 92Николаев И.А. (2004),p.163

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出所:Госкомстат Россия в цифрах 2005

住宅価格の値上がりと同時に、公共料金も値上がりしている。2003 年には、国民一人当

たりの所得の 7.2%が住宅・公共料金の支払いに充てられ、これまでで最も高い数値になっ

た93。

出所:Госкомстат Россия в цифрах 2005

93Николаев И.А. (2004), p.165

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出所:Госкомстат Россия в цифрах 2005

(3) さらに、2002 年には住宅管理などで 52,000 企業が事業を行っており、うち 61.6%が赤

字であったことなどから住宅管理分野においても非効率的な企業運営の状況が示された。

改革の趣旨及び進捗状況

(1) 住宅分野における改革は、2001 年 9 月 17 日付の「住宅」国家プログラムの、「ロシア連

邦の住宅・公共サービス・コンプレックスの改革及び現代化」サブプログラムの下で実施

されている。改革は 3段階に分けて行われる。2002 年~2003 年の第 1段階では、現在の住

宅分野における国営企業及び住民による料金の未払い問題を解決し、公共料金の補助金制

度を廃止する予定である。2004 年~2005 年の第 2 段階では、住宅・公共サービス分野に

おいて市場原理を導入し、競争力のある環境を整備する予定である。さらに、2006 年~2010年の第 3 段階では、この分野の持続可能な発展を確保するための、投資の誘致、また、銀

行融資を促すために国家保証また地方自治体保証の制度を導入する。

(2) 住宅・公共料金改革の中では、社会保障政策も重要な役割を果たしている。住民の生活

レベルが低下しないための、以下の具体策が織り込まれている。

<社会保障面における住宅・公共料金改革の骨子>。

1. アパートに設立される住宅所有者の管理組合による 2003 年までのアパート経営

実施

2. 民間の住宅関連サービス会社設立

3. 住宅・公共サービス分野への投資誘導メカニズム構築

4. 公共サービス料金に関する連邦基準の設定、2003 年以降、家計による公共

料金の全額支払い、家計収入における公共料金の支払い比率 25%上限、25%を超への補助

金給付

5. 低収入家庭に向けの補助金制度構築