第7章 ひずんだ結晶からの回折 diffraction from deformed...

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名古屋工業大学大学院 結晶構造解析特論担当:井田隆(名工大セラ研) 20208 26 更新 第7章 ひずんだ結晶からの回折 Diffraction from deformed crystallites 第4章で原子の振動運動によるランダムな構造の乱れの影響,第5章・第6章で結晶の大 きさが有限であることの影響を考えましたが,ここでは構造欠陥 structural defects ストラクチュラル ディフェクツ を含む場合について考えます。現実の物質では,多い少ないの差はあるとしても,必ず構 造の欠陥が含まれていると考えられ,場合によってはそのせいで回折ピーク形状に無視で きない変化が現れます。逆に,回折ピーク形状を詳しく調べれば,構造欠陥についての情 報を得られる場合があり,このことは材料評価の目的で重要です。材料が用いられる目的 によっては,構造欠陥の少ないのが良い材料だとは限らず,構造欠陥の多い方がむしろ良 い材料だという場合もありますし,ちょうど良い量の欠陥が含まれるのが良い材料だと言 うこともありえます。 やや特殊なX線回折測定装置を利用して巨視的な歪み strain を評価する方法として(測定 ひず ストレイン できるのは歪みであるにも関わらず)「応力測定」と呼ばれる方法がありますが,このこ とについてはここでは割愛します。 ごく一般的な粉末X線回折測定でも顕著に影響の現れる場合のある微小歪み microstrain びしょうひず マイクロストレイン と呼ばれることを念頭に置いた話題を提供します補足 7.A7.1 点欠陥 point defect 結晶構造の乱れにはいろいろな種類のものがあるので,構造欠陥をどのように評価すれば 良いかは複雑な問題です。しかし構造欠陥の次元性に注目すれば大まかに以下のように分 類されます。 空孔 vacancy 格子間原子 interstitial 置換型固溶体 substitutional solid solution

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  • 名古屋工業大学大学院 「結晶構造解析特論」

    担当:井田隆(名工大セラ研)

    2020年 8 月 26 日 更新

    第7章 ひずんだ結晶からの回折     Diffraction from deformed crystallites 第4章で原子の振動運動によるランダムな構造の乱れの影響,第5章・第6章で結晶の大きさが有限であることの影響を考えましたが,ここでは構造欠陥 structural defects

    ス ト ラ ク チ ュ ラ ル デ ィ フ ェ ク ツ

    を含む場合について考えます。現実の物質では,多い少ないの差はあるとしても,必ず構造の欠陥が含まれていると考えられ,場合によってはそのせいで回折ピーク形状に無視できない変化が現れます。逆に,回折ピーク形状を詳しく調べれば,構造欠陥についての情報を得られる場合があり,このことは材料評価の目的で重要です。材料が用いられる目的によっては,構造欠陥の少ないのが良い材料だとは限らず,構造欠陥の多い方がむしろ良い材料だという場合もありますし,ちょうど良い量の欠陥が含まれるのが良い材料だと言うこともありえます。

    やや特殊なX線回折測定装置を利用して巨視的な歪み strain を評価する方法として(測定ひず ストレイン

    できるのは歪みであるにも関わらず)「応力測定」と呼ばれる方法がありますが,このことについてはここでは割愛します。

    ごく一般的な粉末X線回折測定でも顕著に影響の現れる場合のある微小歪み microstrain びしょうひず マイクロストレイン

    と呼ばれることを念頭に置いた話題を提供します(補足 7.A)。

    図 7.1 点欠陥 point defect

    結晶構造の乱れにはいろいろな種類のものがあるので,構造欠陥をどのように評価すれば良いかは複雑な問題です。しかし構造欠陥の次元性に注目すれば大まかに以下のように分類されます。

    空孔 vacancy

    格子間原子 interstitial

    置換型固溶体 substitutional solid solution

    http://takashiida.floppy.jp/education/crystal-structure-analysis/

  • (i) 点欠陥 point defect:ゼロ次元の構造欠陥です。本来原子があるべき位置の原子がポ イ ン ト ディフェクト

    抜けている場合(空孔 vacancy)や,本来は原子が存在しないところに原子があるヴ ェ イ カ ン シ

    場合(格子間原子; 侵入型固溶体 interstitial)不純物原子が本来の原子の代わりにインタースティシャル

    同じ位置を占める場合(置換型固溶体 substitutional solid solution)などがこサブスティテューショナル ソ リ ド ソ ル ー シ ョ ン

    れにあたります。図 7.1 に代表的な点欠陥による構造の乱れ方の模式図を示します。ただし,金属酸化物で酸素空孔がある場合,イオン結合が弱まるためにむしろ格子が膨張するように変形するのが普通のようです。

    (ii) 線欠陥 linear defect :1次元の構造欠陥です。転位 dislocation がその代表的なリ ニ ア ディフェクト ディスロケイション

    ものです。転位には,螺旋転位 screw dislocation と刃状転位 edge ら せ ん ス ク ル ー エ ッ ジ

    dislocation (補足 7.B)とがあります。図 7.2 に2種類の転位を模式的に示します。空孔が1次元的に配列した文字通りの「線欠陥」も存在するようですが,普通のX線回折で観測にかかるほど高濃度に存在する例は稀かもしれません。

    まれ

    (iii) 面欠陥 planar defect:2次元の構造欠陥です。積層不整 stacking fault (補足 プ ラ ナ ー ス タ ッ キ ン グ フォールト

    7.C)が代表的なものです。結晶の表面あるいは界面を2次元の構造欠陥とみなすこともできます。

    図 7.2 転位 dislocation

    試料中で非化学量論組成化合物(固溶体など)の化学組成が偏った分布を持つ場合には,それに対応して格子定数にも分布が現れます。

    また,特に小さい粒子では,表面に近い部分と核に近い部分で空孔や格子間原子の濃度が異なり,格子面間隔の違いの影響が現れる場合もあります。

    刃状転位

    edge dislocation

    螺旋転位 ら せ ん

    screw dislocation

  • 7-1 Vegard の法則  Vegard’s law

    点欠陥が存在する場合には,欠陥の周囲では単位格子の形が歪み,欠陥から離れていくにつれて本来の単位格子の形に近づくはずです。しかし,複数の点欠陥がランダムに配置している場合には,「原子の振動運動によるランダムな原子変位があるのと同じこと」で,「平均的な面間隔」は一定の値を取り,結果として回折ピークが広がるような影響を本来は示さないはずです。

    固溶体の組成と格子定数(あるいは単位胞体積)の間に直線関係が成り立つことを Vegard の法則と呼びます。Vegard 則が成り立つことは多く,この関係を用いれば,観測ヴェ ガ ー ド

    された回折ピーク位置あるいは格子定数,単位胞体積から固溶体の組成を推定できる場合があります。また,観測結果が Vegard 則を満たす場合に,それを根拠として「均一な固溶体が形成されている」と主張される場合もあります。

    もちろん,Vegard 則が成立しない場合もあります。特にペロブスカイト構造と呼ばれる構造を持つ物質の場合,固溶量を変えると原子配置が「ねじれる」ような変形の仕方をすることが普通に起こり,格子定数は Vegard 則を満たさない一方で単位胞体積は Vegard 則を満たすような場合もありますし,単位胞体積も Vegard 則を満たさない場合もあります。Vegard 則に従わないことが,その物質の物性や機能性・安定性などの変化と密接な関係を持つこともあります。

    実際には,固溶体試料では,観測される回折線幅が広くなりがちになる傾向はあります。粉末X線回折測定では,比較的広い範囲の試料が観測対象になり,観測される回折図形は,試料の中の異なる位置にある結晶粒からの回折強度を足し合わせたものです。もし固溶体試料の化学組成が不均一であれば,異なる位置の試料が異なる位置の回折ピークを示すことになるので,その重ね合わせとして幅の広がった回折ピークが観測されます。

    特にセラミックスの分野では,反応の進行の速くない「固相化学反応」「固溶」「固相での原子拡散」によって物質が合成されることが多く,回折ピークの幅が広いことは「化学反応」「固溶」が充分に進行しておらず,「化学的に不均一な状態になっている」と解釈するのが普通です。そのような場合に,均一な固溶体を作製したければ,試料を再粉砕して焼き直して,もう一度X線回折測定をします。観測される回折ピークの幅が充分に細くなるまで粉砕・焼き直し・X線回折測定を繰り返すのも普通です。

    7-2 もっとも単純な歪みモデル Most simple model for deformation

    構造に歪み(変形 deformation) がある場合の最も単純なモデルを紹介します。このモデひず デフォーメイション

    ルでは,格子定数が一定の値ではなく,試料中で局所的に異なる値を持ちうるとします。結晶試料の中に比較的多くの線欠陥が含まれている場合には,実際にこのようなモデルに近い状況になっている場合があると考えられています。

    積層不整の影響が支配的な場合には,このようなモデル化はふつう用いられません。このことについては後で述べます。

  • 弾性体理論(フックの法則 Hooke’s law が成立するとみなせる固体に適用できる理論)では,3次元の物質の「歪み strain」は,「変位」の方向と「変位の変化」の方向とに違い

    ひず ストレイン

    があることから,2階のテンソル量(3行3列の行列)として表現されます。

    例えば「圧縮歪み compressive strain」,「引っ張り歪み tensile strain」,「剪断歪み コ ン プ レ ッ シ ヴ ストレイン テ ン シ ル ストレイン せんだん

    shear strain」 と呼ばれるものなどがあり,セラミックスなどの焼結体や合金など現実のシ ア ー ストレイン

    物質では,これらの多様な歪みが「微小歪み microstrain 」として共存する場合がありまマイクロストレイン

    す。ここでは単純な「縦波型歪み p-wave type strain」つまり「一軸方向に沿った圧縮・膨たてなみ ストレイン

    張」が局所的に生じているとみなせる場合について考えます。

    弾性体理論で「歪み」の大きさは,「変位の大きさ 」を「その変位が生じる距離 」で割った値 として表され,無次元量(無名数;単位のつかない数)になります。

    試料全体の平均的な面間隔が と表されるとして,試料中の微小な区域 1 で回折面と垂直方向に歪み が生じている場合に,この区域 1 での面間隔は と表されることになります。歪みが大きくなければ,このとき面間隔の逆数は と表

    されます。 別の微小区域 2 で歪み が生じていたとすれば,この区域での面間隔は ,その逆数は と表されます。

    微小歪みの統計分布をどのように扱うかにはいくつかの選択がありそうですが,「等しい体積を持つ微小区域に分割し,その微小区域の歪みの値 についての統計分布とする」あるいは(同じことですが)「歪み の値の等しい微小区域の体積に相当する値の重みをつけた統計分布」と言う考え方をとるのは自然でしょう。

    現実の物質の微小歪みの統計分布は,弾性的な変形であれば,直観的にはむしろ指数関数や双曲線関数のような性格を持つ関数で表されることが想像されます。ここでは話を単純化するために,(現実的ではないかもしれないことを前提として)微小歪みの統計分布が平均 0,標準偏差 の正規分布に従う仮想的な場合について考えます。この時,微小歪みの確率密度関数は,

    (7.2.1)

    と表されます。

    粉末X線回折強度は試料の体積に比例します。回折角 に対する強度曲線が,面間隔の逆数 に対して と言う関数で表されるとします。単純化して,これがブラッグの法則に対応するディラックのデルタ関数:

    (7.2.2)

    で表されるとします。

    Δl l′ σ = Δl /l′

    dσ1 d1 = (1 + σ1) d

    d*1 ≈ (1 − σ1) d*σ2

    d2 = (1 + σ2) d d*2 ≈ (1 − σ2) d*

    σσ

    ε

    fG (σ, ε) =1

    2πεexp (− σ

    2

    2ε2 )2θ

    d* I(2θ, d*)

    I(2θ, d*) = δ (2θ − 2 arcsin λd*2 )

  • 微小歪みの影響を受けた回折強度曲線は

    (7.2.3)

    と表されます。

    (7.2.4)

    とすれば,

       

         

      (7.2.5)

    の関係から,

    (7.2.6)

    となり, として, が小さい値の場合には,

    の関係から,

    (7.2.7)

    IG(2θ, d*, ε) = ∫∞

    −∞I(2θ, d*) fG(σ, ε) dσ

    = ∫∞

    −∞δ (2θ − 2 arcsin λ(1 − σ)d*2 ) 12πε exp (−

    σ2

    2ε2 ) dσ

    x ≡ 2θ − 2 arcsinλ(1 − σ)d*

    2

    2θ − x = 2 arcsinλ(1 − σ)d*

    2⇒ sin

    2θ − x2

    =λ(1 − σ)d*

    2

    ⇒λd*

    2− sin

    2θ − x2

    =λσd*

    2⇒ 1 +

    2λd*

    sinx − 2θ

    2= σ

    ⇒ dσ =1

    λd*cos

    x − 2θ2

    dx

    IS(2θ, d*, ε)

    = ∫∞

    −∞δ (x)

    1

    2πεexp [− 12ε2 (1 + 2λd* sin x − 2θ2 )

    2

    ] 1λd* cos x − 2θ2 dx=

    cos θ

    2πελd*exp [− 12ε2 (1 − 2λd* sin θ)

    2

    ]=

    cos θ

    2πελd*exp −

    2ε2λ2d *2 ( λd*2 − sin θ)

    2

    =↑

    λd *2 ≡sin θ0

    2 cos θ

    2πε sin θ0exp [− 12ε2 sin2 θ0 (sin θ0 − sin θ)

    2]2θ = 2θ0 + Δ2θ Δθ

    sin(θ0 + Δθ ) ≈ sin θ0 + Δθ cos θ0

    IG(2θ, d*, ε) ≈2

    2πε tan θ0exp [− (Δ2θ )

    2

    8ε2 tan2 θ0 ]

  • となります。これは,回折ピークの形状がピーク位置 ,ピークの幅を標準偏差

    として表した値が

    (7.2.8)

    となるようなガウス型の回折ピーク形状になることを意味します。

    ここで には「歪み strain の二乗平均根 root mean square(標準偏差 standard deviation)」というはっきりした意味があり,歪みによる回折ピークの広がりは,回折角 を rad

    ラジアン

    単位で標準偏差として表した時には,「二乗平均根 root mean square 歪み(歪みの標準偏差)」の2倍 の 倍になると言う単純な関係があります。

    ところで,シェラーの式で示されていたように,有限サイズによる回折ピークの広がりは に比例します。トータルの回折ピークの広がりが,サイズ効果とひずみ効果との単

    純な和で表されるとすれば(このことも現実的でないかもしれないことを前提として),

    (7.2.9)

    両辺に をかければ

    (7.2.10)

    したがって,横軸に , 縦軸に を取ってプロットを作ったときに,全体が直線に乗る場合には,切片 がサイズ効果,傾き が歪み効果を表すことになります。このプロットのことを ウィリアムソン・ホール Williamson-Hall プロット,このような方法で「サイズ」と「ひずみ」の効果を分離しようとすることをウィリアムソン・ホール法(Williamson & Hall, 1953) と呼びます。

    図 7.2.1 ウィリアムソン−ホール Williamson-Hall プロット。(等方的な場合)

    2θ0

    ⟨(Δ2θ )2⟩1/2

    ⟨(Δ2θ )2⟩1/2 = 2ε tan θ0

    ε2θ

    2ε tan θ

    1/cos θ

    Δ2θ = X /cos θ + Y tan θcos θ

    (Δ2θ ) cos θ = X + Y sin θsin θ (Δ2θ ) cos θ

    X Y

    (Δ2Θ

    )cos

    Θ(∘

    )

    0.2

    0.1

    0.0

    1.00.80.60.40.20.0

    X

    Y

    sin θ

  • 「Williamson-Hall プロットが直線にならない」のは良くあることで,「Williamson-Hall 法を使えば結晶粒径と歪みを同時に評価できる」と言うより,「評価できる場合がある」とでも考えた方が良いでしょう。

    線欠陥(転位)が局所的な歪みの原因となる場合には,結晶のひずみ方は異方性を示します。たとえば,(111) 面内で [110] 方向に原子層がずれるような線欠陥が含まれる刃状転位の場合,111 面の面間隔はあまり影響を受けず,これと平行ではない方向に面間隔の分布の影響が現れることになります。このような場合, 111 反射の回折ピークは広がらないけれど 100 反射や 110 反射の回折ピークが広がるということが起こりうるわけです。

    また,結晶の粒が特定の方位に沿って大きく成長するような晶癖 habit を持つ場合にしょうへき

    も,第6章で扱ったサイズ効果によるピークの広がりが回折角(あるいは面間隔)だけでなく面指数によって変化します。このように結晶方位に対して回折線幅の広がり方が異なっていることを異方的(非等方的)な線幅の広がり anisotropic line broadening

    ア ナ イ ソ ト ロ ピ ッ ク ライン ブ ロ ー ド ニ ン グ

    と呼びます。

    異方的な線幅の広がりがある場合,Williamson-Hall プロットは直線状にならないのですが,各データ点のミラー指数を Williamson-Hall プロットに書き入れておけば,どのような異方性があるかがわかる場合があります。これを「指数付きの Williamson-Hall プロット」 indexed Williamson-Hall plot と呼びます。単純に特定の結晶方位に対してひずみやサイズの異方性があるだけならば,プロットの全体が直線にならなくても,たとえば 100, 200, 300, ... 反射の線幅の Williamson-Hall プロットは一つの直線にのり, 111, 222, 333, ... 反射のプロットが別の直線にのるというような傾向が示される場合があります。Williamson-Hall プロットが見かけ上直線にのっている場合であっても,異方性が現れているか確認する意味で Williamson-Hall プロットに指数をつけておくことは重要です。

    積層不整の影響が顕著な場合にも Williamson-Hall プロットは直線になりません。また,この場合には線幅の広がり方は結晶方位に対して単純な関係を示さず,もっと複雑なものになります。このことについては次節で述べます。

    7-3 積層不整に関するペーターソンの理論     Paterson's theory for stacking fault

    立方最密充填構造では,三角格子状に配列した原子面( (111) 面)が というパターンで積み重なっていると見ることができます。この積層のしかたが一部崩れて

    (i) のようになったり,(ii) のようになったりすることがあります。このような構造欠陥が積層不整と呼ばれます。(i) のパターンの積層不整は,(111) 面に平行に上下の面を逆向きにずらすような変形のしかた(剪断変形

    せんだん

    shear deformation)をしたときに現れるもので,変形不整 deformation fault とシ ア ー

    ⋯ABCABCABC⋯

    ⋯ABCABABCABC⋯ ⋯ABCABCBACBA⋯

  • 呼ばれます。(ii) のパターンの積層不整は,結晶の成長過程で現れうるもので成長不整 growth fault または双晶不整 twin fault と呼ばれます。

    以下では変形不整に話を限って,積層不整の影響でどのように回折ピーク形状が変化するかについて詳しく調べます。双晶不整の場合については省略しますが,基本的には同じ考え方で回折ピーク形状を導くことができるとされています (Paterson, 1952)。

    7ー3ー1 変形不整の影響を受けた回折ピーク形状の計算 Calculation of diffraction peak profile affected by deformation fault

    立方最密充填構造(面心立方構造)の単位格子ベクトルを , , とします。格子定数は とします。このときベクトル , , は,長さがいずれも で互いに直交するベクトルです。

    111 方向への原子面の積層の不整について考える場合には,この方向が c 軸となるような六方格子で考えるのがわかりやすいでしょう。

    六方格子の単位格子ベクトルを,以下の式で定義します。

    (7.3.1.1)

    (7.3.1.2)

    (7.3.1.3)

    これらのベクトルの関係を図示すると図 7.3.1.1 のようになります。

    図 7.3.1.1 立方格子から六方格子への変換

    ベクトル と の外積 が

    a b c aa b c a

    aH = − a + bbH = − b + ccH = a + b + c

    0 a

    b

    c

    aH

    bHcH

    aH bH aH × bH

  • (7.3.1.4)

    と言う値をとることから,この六方格子の体積 は

    (7.3.1.5)

    となることがわかります。六方格子の逆格子ベクトルは,

    (7.3.1.6)

    (7.3.1.7)

    (7.3.1.8)

    です。

    図 7.3.1.2 立方最密充填構造の原子配列と六方格子,縮小した六方格子.

    図 7.3.1.2 のように , , を定義して,さらに細かい格子に区切ります。 , , で区切られる格子は「周期構造の単位にはなっていない」ことに注意してください。立方最密充填構造の場合には,この縮小六方格子あたりの原子の個数は 1 になります。この格子の体積は

    (7.3.1.9)

    となり,逆格子ベクトルは

    (7.3.1.10)

    (7.3.1.11)

    (7.3.1.12)

    です。

    aH × bH = (−a + b) × (−b + c) = a × b − a × c − b × b + b × c= ac + ab − 0 + aa= a (a + b + c)

    VH

    VH = (aH × bH) ⋅ cH = a (a + b + c) ⋅ (a + b + c) = 3a3

    a*H =bH × cH

    VH=

    (−b + c) × (a + b + c)3a3

    =c − a + b − a

    3a2=

    −2a + b + c3a2

    b*H =cH × aH

    VH=

    (a + b + c) × (−a + b)3a3

    =c − b + c − a

    3a2=

    −a − b + 2c3a2

    c*H =aH × bH

    VH=

    a + b + c3a2

    : A

    : B

    : C

    bH

    b′

    c′ cH

    b′

    a′ aH

    bH

    a′ ≡ aH /2 b′ ≡ bH /2 c′ ≡ cH /3a′ b′ c′

    V′ =VH12

    =a3

    4

    a′ * =b′ × c′

    V′ =

    2 (−2a + b + c)3a2

    b′ * =c′ × a′

    V′ =

    2 (−a − b + 2c)3a2

    c′ * =a′ × b′

    V′ =

    a + b + ca2

  • 結晶全体からの回折強度は

    (7.3.1.13)

    で表されます。ここで は位置 にある縮小六方格子(原子1個分)の構造因子です。含まれている原子の数は常に1個なので, の絶対値

    は位置によらず一定ですが,位相はこの格子中で原子がどの位置にあるかで変

    わります。

    散乱ベクトルを,

    (7.3.1.14)

    と表すことにします。ここでは , , は(離散的な値に限らずに)連続的な値を取りうるとします。ここで, , , とすれば,

    (7.3.1.15)

    となります。さらに,

    (7.3.1.16)

    と書きなおします。ここで, は

    (7.3.1.17)

    と定義されるとします。 は「並進ベクトル が結晶中に存在して

    いる割合」を表します。 が小さい場合には 1 に近い値で,

    が大きくなると結晶からはみだす分があるので徐々に小さい値にな

    ります。ここでは結晶が充分に大きく, は常に 1 に等しいとみなすことができるとします。

    積層欠陥があるとしても原子は最密充填されていると考えれば,1原子層の中での原子の並び方は三角格子状に決まっていて,それ以外の配列のしかたはありえません。1原子層の中での原子の相対位置が同じなので, が等しい格子についての構造因子 は等しいはずです。つまり,

    (7.3.1.18)

    I (K) = ∑ξ,η,ζ

    ∑ξ′ ,η′ ,ζ′

    Fξηζ (K) F*ξ′ η′ ζ′ (K)exp {2π iK ⋅ [(ξ − ξ′ )a′ + (η − η′ )b′ + (ζ − ζ′ )c′ ]}

    Fξηζ (K) ξ a′ + η b′ + ζ c′

    Fξηζ (K)

    Fξηζ (K)

    K = h′ a′ * + k′ b′ * + l′ c′ *h′ k′ l′

    ξ′ = ξ + ξ′ ′ η′ = η + η′ ′ ζ′ = ζ + ζ′ ′

    I (K) = ∑ξ,η,ζ

    ∑ξ′ ′ ,η′ ′ ,ζ′ ′

    Fξηζ (K) F*ξ+ξ′ ′ ,η+η′ ′ ,ζ+ζ′ ′ (K) exp [2π iK ⋅ (ξ′ ′ a′ + η′ ′ b′ + ζ′ ′ c′ )]= ∑

    ξ,η,ζ∑

    ξ′ ′ ,η′ ′ ,ζ′ ′ Fξηζ (K) F*ξ+ξ′ ′ ,η+η′ ′ ,ζ+ζ′ ′ (K) exp [2π i (h′ ξ′ ′ + k′ η′ ′ + l′ ζ′ ′ )]

    I (K) =∞

    ∑ξ′ ′ =−∞

    ∑η′ ′ =−∞

    ∑ζ′ ′ =−∞

    Vξ′ ′ η′ ′ ζ′ ′ Jξ′ ′ η′ ′ ζ′ ′ (K) exp [2π i (h′ ξ′ ′ + k′ η′ ′ + l′ ζ′ ′ )]Jξ′ ′ η′ ′ ζ′ ′ (K)

    Jξ′ ′ η′ ′ ζ′ ′ (K) = ∑ξ,η,ζ

    ∑ξ′ ′ ,η′ ′ ,ζ′ ′

    Fξηζ (K) F*ξ+ξ′ ′ ,η+η′ ′ ,ζ+ζ′ ′ (K)

    Vξ′ ′ η′ ′ ζ′ ′ ξ′ ′ a′ + η′ ′ b′ + ζ′ ′ c′

    ξ′ ′ a′ + η′ ′ b′ + ζ′ ′ c′

    ξ′ ′ a′ + η′ ′ b′ + ζ′ ′ c′

    Vξ′ ′ η′ ′ ζ′ ′

    ζ Fξηζ (K)

    Fξηζ (K) = Fξ+ξ′ ′ ,η+η′ ′ ,ζ (K)

  • という関係は常に成り立ちます。 も と にはよらない値になり, のみで変化するものになります。したがって, と書くこともできます。

    結局,式 (7.3.1.16) は

    (7.3.1.19)

    と書けます。さらに, と が整数でないときには ,

    となるので, は, と が両方とも整数の時にだけゼロでない値を持ちます。このことを前提とすれば,

     (ただし と は整数) (7.3.1.20)

    と書いても一般性は失われません。

    3種類の原子層 , , について,原子層 を基準にすれば,原子層 は の分ず

    れた位置,原子層 は の分ずれた位置にあることが図 7.3.1.2 からわかります。

    したがって,構造因子を以下のような式で表すことができます。

    (7.3.1.21)

    (7.3.1.22)

    (7.3.1.23)

    ここで, 枚だけ離れた2つの原子層が , , という関係にある場合の確率

    を,それぞれ , , と表すことにします。当然

    (7.3.1.24)

    という関係は常に成り立ちます。このとき の期待値 は

    (7.3.1.25)

    と言う式で表されます。式 (7.3.1.21)–(7.3.1.23) の , , の値を代入すれば,

    Jξ′ ′ η′ ′ ζ′ ′ (K) ξ′ ′ η′ ′ ζ′ ′

    Jξ′ ′ η′ ′ ζ′ ′ (K) = Jζ′ ′ (K)

    I (h′ , k′ , l′ ) =∞

    ∑ξ′ ′ =−∞

    e2π ih′ ξ′ ′ ∞

    ∑η′ ′ =−∞

    e2π ik′ η′ ′ ∞

    ∑ζ′ ′ =−∞

    Jζ′ ′ (h′ , k′ , l′ ) e2π il′ ζ′ ′

    h′ k′ ∞

    ∑ξ′ ′ =−∞

    e2π ih′ ξ′ ′ = 0∞

    ∑η′ ′ =−∞

    e2π ik′ η′ ′ = 0

    I (h′ , k′ , l′ ) h′ k′

    I (h′ , k′ , l′ ) =∞

    ∑m=−∞

    Jm (h′ , k′ , l′ ) e2π il′ m h′ k′

    A B C A Ba′ + 2b′

    3

    C2a′ + b′

    3

    FA (K) = F0 (K)

    FB (K) = F0 (K) exp (2π iK ⋅ a′ + 2b′ 3 )FC (K) = F0 (K) exp (2π iK ⋅ 2a′ + b′ 3 )

    m A⋯A⏟

    m

    A⋯B⏟

    m

    A⋯C⏟

    m

    P0m P+m P−m

    P0m + P+m + P−m = 1Jm (K) ⟨Jm (K)⟩

    ⟨Jm (K)⟩ =13 [FA (K) F*A (K) P0m + FA (K) F*B (K) P+m + FA (K) F*C (K) P−m

    +FB (K) F*B (K) P0m + FB (K) F*C (K) P

    +m + FB (K) F*A (K) P

    −m

    +FC (K) F*C (K) P0m + FC (K) F*A (K) P

    +m + FC (K) F*B (K) P

    −m]

    FA (K) FB (K) FC (K)

  • などとなり, と が整数であることなどから,最終的に

    (7.3.1.26)

    と言う形式が導かれます。

    以下では,式 (7.3.1.26) に含まれる確率の値 , , が,変形型積層不整 deformation- type stacking fault の出現する確率 によってどのように表されるかを求めます。導出の詳細については付録を参照して下さい。

    はじめに, の値を求めます。第ゼロ層は 層だとします。第 層が 層になるのは以下の4通りの場合しかありません。

    「 のつぎに 」,「 のつぎに 」, 「 のつぎに 」が来る確率はいずれも で,「 のつぎに 」, 「 のつぎに 」, 「 のつぎに 」 が来る確率はいずれも です。したがって,

    (7.3.1.27)

    となります。

    また,

    (7.3.1.28)

    (7.3.1.29)

    の関係も成り立ちます。これらのことから, について,以下の漸化式が導かれます。

    (7.3.1.30)

    初期値 , についてのこの式の解は

    ⟨Jm (K)⟩ =13

    F0 (K)2

    =13

    F0 (K)2

    {P0m + exp [− 2π i(h′ + 2k′ )3 ] P+m + exp [− 2π i(2h′ + k′ )3 ] P−m+P0m + exp [− 2π i(−h′ + k′ )3 ] P+m + exp [− 2π i(h′ + 2k′ )3 ] P−m

    +P0m + exp [− 2π i(2h′ + k′ )3 ] P+m + exp [− 2π i(h′ − k′ )3 ] P−m}= ⋯

    h′ k′

    ⟨Jm (K)⟩ = F0 (K)2

    [P0m + P+me−2π i(h′ −k′ )/3 + P−me2π i(h′ −k′ )/3]

    P0m P+m P−mα

    P0m A m A

    0 m − 2 m − 1 mA ⋯ A B AA ⋯ A C AA ⋯ B C AA ⋯ C B A

    A B B C C A 1 − αA C B A C B α

    P0m = P0m−2(1 − α)α + P0m−2α(1 − α) + P

    +m−2(1 − α)(1 − α) + P

    −m−2αα

    P0m−1 = P+m−2α + P

    −m−2(1 − α)

    P0m−2 + P+m−2 + P

    −m−2 = 1

    P0m

    P0m + P0m−1 + [1 − 3α(1 − α)] P0m−2 = 1 − α(1 − α)

    P00 = 1 P01 = 0

  • (7.3.1.31)

    ですが,この式は,以下の式のように書き直すこともできます。

    (7.3.1.32)

    式 (7.3.1.31), (7.3.1.32) を

    (7.3.1.33)

    として書き直せば,

    (7.3.1.34)

    となります。同じようにして,

    (7.3.1.35)

    (7.3.1.36)

    の関係も導かれます。また,対称性から

    (7.3.1.37)

    (7.3.1.38)

    (7.3.1.39)の関係があります。

    ( は任意の整数)のとき,式 (7.3.1.26)

    (7.3.1.26 再掲)

    の関係は,単純に となります。さらに,式 (7.3.1.20)

    (7.3.1.20 再掲)

    あるいは

    P0m =13

    +13 [− 12 +

    3(1 − 2α)i2 ]

    m

    +13 [− 12 −

    3(1 − 2α)i2 ]

    m

    P0m =13

    +23 [− 1 − 3α(1 − α)]

    mcos {m arctan [ 3(1 − 2α)]}

    3(1 − 2α) = tan θ ⇔ θ = arctan [ 3(1 − 2α)]

    P0m =13

    +13 [− 1 − 3α(1 − α)]

    m(eimθ + e−imθ)

    =13

    +23 [− 1 − 3α(1 − α)]

    mcos(mθ )

    P+m =13

    −13 [− 1 − 3α(1 − α)]

    m

    (1 − 3i

    2eimθ +

    1 + 3i2

    e−imθ)=

    13

    −13 [− 1 − 3α(1 − α)]

    m

    [cos(mθ ) + 3 sin(mθ )]P−m =

    13

    −13 [− 1 − 3α(1 − α)]

    m

    (1 + 3i

    2eimθ +

    1 − 3i2

    e−imθ)=

    13

    −13 [− 1 − 3α(1 − α)]

    m

    [cos(mθ ) − 3 sin(mθ )]

    P0−m = P0mP+−m = P−mP−−m = P+m

    h′ − k′ = 3N N

    ⟨Jm (K)⟩ = F0 (K)2

    [P0m + P+me−2π i(h′ −k′ )/3 + P−me2π i(h′ −k′ )/3]

    ⟨Jm (K)⟩ = F0 (K)2

    I (h′ , k′ , l′ ) =∞

    ∑m=−∞

    Jm (h′ , k′ , l′ ) e2π iml′

  • (7.3.1.40)

    で表される強度は あるいは ( は任意の整数)のときにのみゼロでない値を持ち, , がそれ以外の値をとる時は強度ゼロになることがわかります。これは, ( は任意の整数)のとき,積層不整のあるなしにかかわらず,どのような の値に対しても で鋭い強度ピークが現れることを意味しています。このことは,(111) 面の積層に不整があったとしても,(111) 方向に平行な散乱ベクトルを持つような回折については Bragg の法則でいう「格子面」による散乱の干渉の仕方は影響を受けないということから直観的に理解できます。

    のときには,式 (7.3.1.26) の関係は

    (7.3.1.41)

    と書き直せます。この関係と式 (7.3.1.40) とから,

    (7.3.1.42)

    となります。

    I (h′ , k′ , lH) =∞

    ∑m=−∞

    Jm (h′ , k′ , lH) e2π imlH/3

    l′ = N′ lH = 3l′ = 3N′ N′ l′ lH

    h′ − k′ = 3N Nα lH = 3l′ = 3N′

    h′ − k′ = 3N ± 1

    ⟨Jm (K)⟩ = F0 (K)2

    (P0m + P+me∓2π i /3 + P−me±2π i /3)

    ⟨I (h′ , k′ , lH)⟩ =∞

    ∑m=−∞

    F0 (K)2

    (P0m + P+me∓2π i /3 + P−me±2π i /3) e2π imlH/3

    = F0 (K)2

    [−1

    ∑m=−∞

    (P0m + P+me∓2π i /3 + P−me±2π i /3) e2π imlH/3

    +1 +∞

    ∑m=1

    (P0m + P+me∓2π i /3 + P−me±2π i /3) e2π imlH/3]= F0 (K)

    2

    [∞

    ∑m=1

    (P0m + P−me∓2π i /3 + P+me±2π i /3) e−2π imlH/3

    +1 +∞

    ∑m=1

    (P0m + P+me∓2π i /3 + P−me±2π i /3) e2π imlH/3]= F0 (K)

    2

    {1 +∞

    ∑m=1

    P0m (e2π imlH/3 + e−2π imlH/3)

    +∞

    ∑m=1

    P+m [e2π i(mlH∓1)/3 + e−2π i(mlH∓1)/3]

    +∞

    ∑m=1

    P−m [e2π i(mlH±1)/3 + e−2π i(mlH±1)/3]}= F0 (K)

    2

    [1 + 2∞

    ∑m=1

    P0m cos2π mlH

    3+2

    ∑m=1

    P+m cos2π (mlH ∓ 1)

    3

    +2∞

    ∑m=1

    P−m cos2π (mlH ± 1)

    3 ]

  • 式 (7.3.1.42) に式 (7.3.1.34), (7.3.1.35), (7.3.1.36)

    (7.3.1.34 再掲)

    (7.3.1.35 再掲)

    (7.3.1.36 再掲)

    を代入して,強度の期待値 を と読み替えることにすれば,

    (7.3.1.43)

    この式を次の式のような形式で表すことにします。

    (7.3.1.44)

    以下の関係があることがわかります。

    P0m =13

    +23 [− 1 − 3α(1 − α)]

    mcos(mθ )

    P+m =13

    −13 [− 1 − 3α(1 − α)]

    m

    [cos(mθ ) + 3 sin(mθ )]P−m =

    13

    −13 [− 1 − 3α(1 − α)]

    m

    [cos(mθ ) − 3 sin(mθ )]⟨I (h′ , k′ , lH)⟩ I (h′ , k′ , lH)

    I (h′ , k′ , lH)

    = F0 (K)2

    (1 + 2∞

    ∑m=1

    { 13 + 23 [− 1 − 3α(1 − α)]m

    cos(mθ )} cos 2π mlH3+2

    ∑m=1

    { 13 − 13 [− 1 − 3α(1 − α)]m

    [cos(mθ ) + 3 sin(mθ )]}× (cos 2π mlH3 cos 2π3 ± sin 2π mlH3 sin 2π3 )

    +2∞

    ∑m=1

    { 13 − 13 [− 1 − 3α(1 − α)]m

    [cos(mθ ) − 3 sin(mθ )]}× (cos 2π mlH3 cos 2π3 ∓ sin 2π mlH3 sin 2π3 ))

    = F0 (K)2

    (1 + 2∞

    ∑m=1

    { 13 + 23 [− 1 − 3α(1 − α)]m

    cos(mθ )} cos 2π mlH3+2

    ∑m=1

    { 13 − 13 [− 1 − 3α(1 − α)]m

    [cos(mθ ) + 3 sin(mθ )]}× (− 12 cos 2π mlH3 ±

    32

    sin2π mlH

    3 )+2

    ∑m=1

    { 13 − 13 [− 1 − 3α(1 − α)]m

    [cos(mθ ) − 3 sin(mθ )]}× (− 12 cos 2π mlH3 ∓

    32

    sin2π mlH

    3 )

    I(h′ , k′ , lH) = C∞

    ∑n=0

    (an cos 2π nlH3 + bn sin 2π nlH3 )

  • (7.3.1.45)

    (7.3.1.46)

    (7.3.1.47)

    (7.3.1.48)

    ここで の記号は に対応させています。

    式 (7.3.1.45)–(7.3.1.48) の関係を使えば,式 (7.3.1.44) はさらに書き直せて,

    (7.3.1.49)

    となります。

    ここで,一般的に

    の関係があるので,式 (7.3.1.49) について のときの和を計算すれば,

    a0 = 1

    an = 2 { 13 + 23 [− 1 − 3α(1 − α)]n

    cos nθ}−{ 13 − 13 [− 1 − 3α(1 − α)]

    n

    [cos nθ + 3 sin nθ]}−{ 13 − 13 [− 1 − 3α(1 − α)]

    n

    [cos nθ − 3 sin nθ]}= 2 [− 1 − 3α(1 − α)]

    ncos nθ

    b0 = 0

    bn = ± 3 { 13 − 13 [− 1 − 3α(1 − α)]n

    [cos nθ + 3 sin nθ]}−{ 13 − 13 [− 1 − 3α(1 − α)]

    n

    [cos nθ − 3 sin nθ]}= ∓ 2 [− 1 − 3α(1 − α)]

    nsin nθ

    ± h′ − k′ = 3N ± 1

    I(h′ , k′ , lH)

    = C {1 + 2∞

    ∑n=1

    [− 1 − 3α(1 − α)]n (cos nθ cos 2π nlH3 ∓ sin nθ sin 2π nlH3 )}

    = C {1 + 2∞

    ∑n=1

    [− 1 − 3α(1 − α)]n

    cos ( 2π nlH3 ± nθ)}= C {1 + 2

    ∑n=1

    [− 1 − 3α(1 − α)]n

    cos ( 2π nlH3 ± nθ + nπ)}= C 1 + 2

    ∑n=1

    [− 1 − 3α(1 − α)]n

    cos [2π n ( lH3 + 12 ± θ2π )]

    1 + 2∞

    ∑n=1

    rn cos nθ = − 1 +∞

    ∑n=0

    rn (einθ + e−inθ) = − 1 + 11 − r eiθ +1

    1 − r e−iθ

    =1 − r2

    1 + r2 − 2r cos θα ≠ 0, 1

  • (7.3.1.50)

    となります。この式 (7.3.1.50) と式 (7.3.1.33)

    (7.3.1.33 再掲)

    を使えば,積層不整の出現頻度 によって回折ピーク形状がどのように変化するかがわかります。

    この式で表される強度分布を計算してグラフにすると図 7.3.1.3, 図 7.3.1.4 のようになります。

    図 7.3.1.3 変形型積層不整についての Paterson モデルによる回折ピーク形状。の場合( )

    I (h′ , k′ , lH) = C1 − [1 − 3α(1 − α)]

    1 + [1 − 3α(1 − α)] − 2 1 − 3α(1 − α) cos [2π ( lH3 + 12 ± θ2π )]=

    32

    Cα(1 − α)

    1 −32

    α(1 − α) − 1 − 3α(1 − α) cos [2π ( lH3 + 12 ± θ2π )]

    3(1 − 2α) = tan θ ⇔ θ = arctan [ 3(1 − 2α)]α

    12

    10

    8

    6

    4

    2

    0

    2.52.01.51.00.50.0-0.5

    Paterson's modelfor deformation fault

    α = 0.1 α = 0.2 α = 0.3 α = 0.4 α = 0.5

    h′ − k′ = 3N + 1 C = 1

    lH

  • 図 7.3.1.4 変形型積層不整についての Paterson モデルによる回折ピーク形状。 の場合( )

    図 7.3.1.3, 図 7.3.1.4 から,積層不整の出現頻度 が大きくなるとピーク位置が ( は任意の整数)からシフトし,回折線幅も広がる傾向が現れることがわ

    かります。また,式 (7.3.1.50) からは想像しにくいのですが,個々のピーク形状の計算値が

    と表されるような半値全幅 ,積分幅 の Lorentz 型ピーク形状に近いこともわかりまローレンツ

    す。

    式 (7.3.1.50) から, のときのピーク位置は

       

    ( は任意の整数) (7.3.1.51)

    と表せます。

    一般的に

     ( )

    の関係が成立することから,ピーク位置は

    12

    10

    8

    6

    4

    2

    0

    2.52.01.51.00.50.0-0.5

    Paterson's modelfor deformation fault

    α = 0.1 α = 0.2 α = 0.3 α = 0.4 α = 0.5

    h′ − k′ = 3N − 1 C = 1

    αlH = 3N′ ± 1 N′

    fL(x; w) =1

    π w (1 + x2

    w2 )−1

    2w π w

    h′ − k′ = 3N ± 1

    lH3

    +12

    ± θ2π

    = N′ ′ ⇒ lH = 3N′ ′ −32

    ∓3

    2πarctan [ 3(1 − 2α)]

    N′

    arctan(x + dx) ≈ arctan x +dx

    1 + x2dx ≈ 0

    lH ≈ 3N′ ′ −32

    ∓3

    2π [arctan 3 −2 3α1 + 3 ] = 3N′ ′ − 32 ∓ 32π ( π3 −

    3α2 )

    lH

  • (7.3.1.52)とも書けます。

    つまり,変形型積層不整の出現確率 とピーク位置のシフト量 は比例関係にあり,

    と表されます。

    次に,ピークの線幅(広がり)の値を求めます。回折強度図形の周期性から,ピーク一本

    分の積分強度は,一つのピークの位置 を として, で表さ

    れるはずですが,式 (7.3.1.49)

    (7.3.1.49 再掲)

    から

    (7.3.1.53)

    となります。もし一つのピークごとに面積が 1 となるようにしたければ

    (7.3.1.54)

    とすれば良いことがわかります。

    ピーク位置 での強度は

    (7.3.1.55)

    と表され,以下の式:

    = 3N′ ′ −32

    ∓12

    ±3 3α

    4π= 3N′ ′ − {21} ± 3 3α4π = 3N′ ± 1 ± 3 3α4π

    α ΔlH

    ΔlH ≈ ±3 3α

    peak lH ∫peak lH+3/2

    peak lH−3/2I(h′ , k′ , lH) dlH

    I(h′ , k′ , lH) = C 1 + 2∞

    ∑n=1

    [− 1 − 3α(1 − α)]n

    cos [2π n ( lH3 + 12 ± θ2π )]

    ∫peak lH+3/2

    peak lH−3/2I(h′ , k′ , lH) dlH = ∫

    3/2

    −3/2C {1 + 2

    ∑n=1

    [− 1 − 3α(1 − α)]n

    cos2π nl

    3 } dl= C {3 + 2

    ∑n=1

    [− 1 − 3α(1 − α)]n

    ∫3/2

    −3/2cos

    2π nl3 } dl

    = C {3 + 2∞

    ∑n=1

    [− 1 − 3α(1 − α)]n [ 32π n sin 2π nl3 ]

    3/2

    −3/2}= 3C

    C =13

    lH = (lH)max = 3N′ ± 1 ±3 3α

    I (h′ , k′ , (lH)max) = C32

    α(1 − α)

    1 −32

    α(1 − α) − 1 − 3α(1 − α)

  • (7.3.1.56)

    で積分幅 を定義すれば,式 (7.3.1.53), (7.3.1.55) から

    (7.3.1.57)

    と表されます。図 7.3.1.5 に , , とした時に式 (7.3.1.50) の Paterson モデルで計算される図形と,同じ積分幅 を持つ Lorentz 型曲線:

    (7.3.1.58)

    とを比較します。

    βH ≡∫

    peak lH+3/2

    peak lH−3/2I(h′ , k′ , lH) dlH

    I (h′ , k′ , (lH)max)βH

    βH =3 [1 − 32 α(1 − α) − 1 − 3α(1 − α)]

    32

    α(1 − α)=

    2 − 3α(1 − α) − 2 1 − 3α(1 − α)α(1 − α)

    =[1 − 1 − 3α(1 − α)]

    2

    13 [1 − 1 − 3α(1 − α)] [1 + 1 − 3α(1 − α)]

    =3 [1 − 1 − 3α(1 − α)]

    1 + 1 − 3α(1 − α)

    3 [1 − (1 − 3α2 )]2

    =9α4

    h′ − k′ = 3N′ + 1 α = 0.1 C = 1/3βH

    ILor(lH; α) =1

    βH1 +

    π2 [lH − (lH)max]2β2H

    −1

  • 図 7.3.1.5 変形型積層不整についての Paterson モデルによる回折ピーク形状(式 (7.3.1.50))( )と 近似 Lorentz 型形状(式 (7.3.1.58))の比較。

    , の場合

    このように「積層不整による回折ピークの広がり」が Lorentz 型線形で良く近似されるロ ー レ ン ツ

    ことは,驚くようなことではなく,当然のことのようです。

    ここでは,それぞれの積層不整の生ずるイベント(事象)が互いに独立であることを仮定しており,このようなイベントの現れ方は,ポアソン過程 Poisson process と呼ばれるものです。回折を起こすための構造の「可干渉長さ」(coherent length; diffracting domain

    コヒーレント レンクス ディフラクティング ド メ イ ン

    length)の分布は,ポアソン過程に従うイベントの「間隔」の分布に対応し,それは指数レンクス

    分布と呼ばれる統計分布に従います。指数分布の確率密度関数(打ち切り指数関数 truncated exponential function) のフーリエ Fourier 変換の絶対値の二乗は Lorentz 型関数トランケイテッド エクスポウネンシャル ファンクション

    になります。

    7-3-2 粉末回折パターン powder diffraction pattern

    粉末回折では,異なる反射面からの回折であっても,同じ回折角を持った回折ピークは同じ位置に重なって現れます。例えば,粉末回折測定で観測される立方晶構造の ピークは, , , , , , , , 反射の8種の反射が重なったものです。この一群の反射は結晶構造の対称性から,面間隔も回折強度も等しくなるはずで,等価反射 equivalent reflection と呼ばれますが,積層不整が存在する場合には「等価反射」がイ ク ィ ヴ ァ レ ン ト リ フ レ ク シ ョ ン

    等価ではなくなります。

    前節までは回折ピーク形状を擬似六方格子の面指数 を使って表しましたが,ここでは立方格子の面指数 を使って表し直します。

    lH

    4

    3

    2

    1

    0

    2.52.01.51.00.50.0-0.5

    Paterson's model Lorentzian

    C = 1/3h′ − k′ = 3N + 1 α = 0.1

    {111}111 111̄ 11̄1 11̄1̄ 1̄11 1̄11̄ 1̄1̄1 1̄1̄1̄

    h′ k′ lHhkl

  • 格子ベクトル , , , , , と対応する逆格子ベクトルとの関係をまとめなおすと,以下のようになります。

    (7.3.2.1)

    (7.3.2.2)

    (7.3.2.3)

    (7.3.2.4)

    (7.3.2.5)

    (7.3.2.6)

    立方晶の面指数 と六方格子の面指数 との関係を求めるために,

    (7.3.2.7)

    の関係を使えば,

    (7.3.2.8)

    (7.3.2.9)

    (7.3.2.10)

    (7.3.2.11)

    (7.3.2.12)

    (7.3.2.13)

    となり,

    (7.3.2.14)

    (7.3.2.15)

    となります。たとえば立方晶での指数 なら,擬似六方晶での指数について , などとなるわけです。

    粉末回折測定の場合, は, から離れたり に近付いたりする挙動に関しては と同じことなので,粉末回折ピークがシフトする挙動について考える場合には,結局 だけを考えればよいのです。したがって,「立

    方晶でのミラー(反射)指数の和の絶対値」が3の倍数, のときには

    鋭い反射になるはずですが,3で割って1あまる のときにはブロー

    a b c a′ b′ cH

    a′ =−a + b

    2

    b′ =−b + c

    2cH = a + b + c

    a′ * =2 (−2a + b + c)

    3a3= −

    43

    a* +23

    b* +23

    c*

    b′ * =2 (−a − b + 2c)

    3a3= −

    23

    a* −23

    b* +43

    c*

    c*H =a + b + c

    3a3=

    13

    a* +13

    b* +13

    c*

    hkl h′ k′ lH

    K = h′ a′ * + k′ b′ * + lHc*H = ha* + kb* + lc*

    h′ = K ⋅ a′ =−h + k

    2

    k′ = K ⋅ b′ =−k + l

    2lH = K ⋅ cH = h + k + l

    h = K ⋅ a =−4h′ − 2k′ + lH

    3

    k = K ⋅ b =2h′ − 2k′ + lH

    3

    l = K ⋅ c =2h′ + 4k′ + lH

    3

    h′ − k′ =−h + 2k − l

    2lH = h + k + l

    11̄1h′ − k′ = − 2 lH = 1

    −lH = 3N ∓ 1 lH = 0 lH = 0lH = 3N ± 1

    lH = h + k + l

    h + k + l = 3N

    h + k + l = 3N + 1

  • ドで高い回折角にシフトした反射になり,3で割って2あまる のと

    きにはブロードで低い回折角にシフトした反射になります。

    たとえば, 反射と の2つの反射は なので鋭い反射ですが,

    , , , , , の6つの反射はいずれも となるので高角側にシフトしたブロードな反射になります。

    粉末回折実験では,実際に測定される回折ピーク形状の横軸は,回折角 あるいは散乱

    ベクトル の長さ に相当する値です。これらを横軸に取ったとき

    に,ピークシフトや線幅の広がりはどのように表されるでしょうか?

    この問題を解くには,はじめに小さな1つの単結晶からの回折強度分布を,散乱ベクトルを変数とする3次元の逆格子空間でイメージするのが良さそうです。完全な結晶の場合,散乱ベクトルの終端が3次元の逆格子点の上にあるときだけ回折強度が現れるので,回折強度分布は(逆)格子状の鋭い斑点として現れます。積層不整がある場合には斑点の位置が逆格子点からずれて,さらに幅が広がることになりますが,回折斑点位置のシフトも幅の広がりも の方向に沿ってのみ起こります。

    図 7.3.2.1 左:積層不整を含む場合の回折斑点;右:粉末回折パターン

    粉末回折強度分布はこの回折斑点を(逆格子空間の)原点の回りに回転させたときのタマネギ状の軌跡を半径方向に横切ったときの強度分布に対応します。回折斑点と粉末回折強度分布の関係を図 7.3.2.1 に示します。 今問題にしている状況では,回折斑点位置のシフトも幅の広がりも の方向に沿ってのみ起こるのですから,粉末回折強度分布を求めるには, の方向に沿った回折強度分布を,半径方向 に投影した値を求めれば良いのです。

    の方向に沿ったシフトは, のときに,

    (7.3.2.16)

    h + k + l = 3N − 1

    111 1̄1̄1̄ h + k + l = 3N

    111̄ 11̄1 11̄1̄ 1̄11 1̄11̄ 1̄1̄1̄ h + k + l = 3N + 1

    K K = K =2 sin θ

    λ

    cH

    c*H a′ *

    c*Hc*H K = d*hkl = ha* + kb* + lc*

    c*H h + k + l = 3N ± 1

    (ΔlH) c*H = ± { 12 − 32π arctan [ 3(1 − 2α)]} c*H ≈ ± 3 3α4π c*H

  • で表され,シフトの

    (7.3.2.17)に沿った方向への射影は

    (7.3.2.18)

    から,面間隔 の逆数 を横軸にとったときのシフト後のピーク位置を ,シ

    フト前のピーク位置を とすれば,

    (7.3.2.19)

    となります。回折角を横軸に取ったときのピーク位置のシフトは,ブラッグの式

    を微分した の関係を使って,

    (7.3.2.20)

    となります。

    積分幅についても同様に, の方向に沿った積分幅が,

    (7.3.2.21)

    で表されることから,波数表示でははすう

    K = h′ a′ * + k′ b′ * + lHc*H = ha* + kb* + lc*

    c*H =a + b + c

    3a3=

    13

    a* +13

    b* +13

    c*

    d d* = 1/d d*peakd*hkl

    d*peak − d*hkl = (ΔlH) c*H ⋅KK

    = ±h + k + l

    3 h2 + k2 + l2a {12

    −3

    2πarctan [ 3(1 − 2α)]}

    = ±h + k + l

    3 h2 + k2 + l2a {12

    −3

    2πarctan [ 3(1 − 2α)]}

    d* =2 sin θ

    λΔd* =

    (Δ2θ ) cos θλ

    =(Δ2θ ) d*

    2 tan θ

    2θpeak − 2θhkl =2 (d*peak − d*hkl) tan θ

    d*

    = ±2 h + k + l tan θ

    3 (h2 + k2 + l2) {12

    −32

    arctan [ 3(1 − 2α)]}≈ ±

    3α h + k + l tan θ

    2π (h2 + k2 + l2)

    c*H

    βHcH =3 [1 − 13α(1 − α)]1 + 1 − 3α(1 − α)

    cH

    Δd* = βHcH ⋅KK

    =3 [1 − 1 − 3α(1 − α)]

    1 + 1 − 3α(1 − α)cH ⋅

    KK

  • (7.3.2.22)

    で表され,回折角 表示では

    (7.3.2.23)

    となります。

    以上のことをまとめて図示すると,(111) 面の積層に変形不整がある場合の粉末回折パターンは図 7.3.2.2 のようになります。

    図 7.3.2.2 面心立方格子の (111) 面の積層に変形不整がある場合の粉末回折ピーク形状の変形とシフトのパターン。

    回折ピークは鋭い , の2つの「 が3で割り切れる」反射と,高

    角側にシフトしたブロードな , , , , , の6つの「 を3で割ると1あまる)反射が重ね合わされたものです。したがって,実測のピーク形状は「ピーク頂上付近は鋭いが,裾がかなり広がって,全体としてわずかに高角側にシフトした非対称なピーク形状」になります。

    ピークは , , , , , の6つの「 を3で割ると2あまる」反射からなりますが,これらはすべて同じように低角側にシフトしてブロードになります。実測のピーク形状は「全体に幅が広く低角側にシフトした形状」になります。

    =3 [1 − 1 − 3α(1 − α)] h + k + l

    [1 + 1 − 3α(1 − α)] h2 + k2 + l2a≈

    3α h + k + l

    4 h2 + k2 + l2a2θ

    Δ2θ =2Δd* tan θ

    d*=

    2 [1 − 1 − 3α(1 − α)] h + k + l tan θ[1 − 1 − 3α(1 − α)] (h2 + k2 + l2)

    =3α h + k + l tan θ

    2 (h2 + k2 + l2)

    {111} 111 1̄1̄1̄ h + k + l

    111̄ 11̄1 11̄1̄ 1̄11 1̄11̄ 1̄1̄1 h + k + l

    {200} 200 2̄00 020 02̄0 002 002̄ h + k + l

  • ピークは鋭い 型の6つの「 が3で割り切れる」反射と高角側にシ

    フトしてブロードな 型の6つの「 を3で割ると1あまる」反射との重ね

    合わせですから,実測のピーク形状は定性的には ピークと同様に「ピーク頂上付近が鋭く裾が広がり,全体にわずかに高角側にシフトした形状」になります。ただし,

    ピークと比較して鋭いピーク群と広がったピーク群の強度の比が異なるので,全体としての ピーク形状は ピークと少し異なったものになります。

    ピークは鋭い 型の「 が3で割り切れる」反射と,高角側にシフトし

    てブロードな 型の「 を3で割ると1あまる」反射,さらに低角側にシフ

    トしてブロードな 型の「 を3で割ると2あまる」反射の重ね合わせになります。

    他の反射がどうなるかを自分で確かめてみると良いでしょう。

    (補足 7.A)粉末X線回折測定による微小歪みの評価

    著者のような方法論研究者も装置製造会社も共通して「『粉末X線回折測定』『ピーク形状分析』で微小歪みが評価できる」意味のことを言うことが多いと思いますが,「評価できるように見える場合もある」程度であることが実情に近いかもしれません。

    結晶粒子の大きさの影響と構造欠陥の影響,積層不整の影響,化学組成の不均一性の影響などが,本質的にはっきりと区別できない場合もありますし,そのような性格を持つ材料が良い材料と言うこともあり得ます。構造欠陥にも歪み方にも多様性があります。実用材料で微小歪みの評価ができたとして,それがどのような意味で重要なのかも場合によって変わります。

    それでも「微小歪み」を評価しようと試みることには意味があります。「微小歪みの影響がどのように回折ピーク形状を変形させるか」について基本的な考え方を知ることは重要と思います。

    (補足 7.B)「螺旋転位」と「刃状転位」?

    「転位」は dislocation で,「転移」は transition です。この2つの言葉は,まったく意味が違うので間違えなディスロケイション トランジション

    いように注意してください。自分の知る範囲では「刃状転位」は「はじょうてんい」と読む人しか見たことがありません。「は」は「刃」の訓読みで「じょう」は「状」の音読みなので,「はじょう」という読み方

    くん おん

    は「湯桶読み」と呼ばれる「例外的な読み方」に分類されます。それでも「じんじょう」のように音読みでゆとう おん

    読まれる例を実際には聞いたことがありません。英語では edge dislocationなので素直に日本語に変換してエッジ

    「刃」とすれば訓読みになりますが,「はてんい」も聞いたことがありません。「はじょう」という読み方は

    に違和感があれば「エッジ」と呼べば良いかもしれません。

    「螺旋転位」は「らせんてんい」と言う読み方しか聞いたことはありません。

    (補足 7.C)「積層不整」

    英語の stacking fault の語から感じる印象はむしろ「積層不正」「積層欠陥」に近いと思いますが,「積層不正」という表記をみることはありません。「積層欠陥」としても構わないと思いますが,「積層不整」とい

    {220} 22̄0 h + k + l

    220 h + k + l

    {111}

    {111}{220} {111}

    {311} 311̄ h + k + l

    31̄1̄ h + k + l

    311 h + k + l

  • う表記の用いられる場合の方がやや多い印象があります。「積層不整」は,少し気取った言い方の感じもしますが,強い違和感があるほどではありません。

    参考文献7

    Paterson, M. S. (1952). “X-ray diffraction by face-entered cubic crystals with deformation faults,” J. Appl. Phys. 23, 805–811. [doi: 10.1063/1.1702312]Williamson, G. K. & Hall, W. H. (1953). “X-ray line broadening from filed aluminium and wolfram,” Acta Metall. 1, 22–31. [doi: 10.1016/0001-6160(53)90006-6]

    https://doi.org/10.1063/1.1702312https://doi.org/10.1016/0001-6160(53)90006-6