carhart 4 ファクターモデルの 条件付きモデルへの …...概要 概要...

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. . Carhart 4 ファクターモデルの 条件付きモデルへの拡張と 投資戦略への応用 齋藤 勇紀 一橋大学大学院 国際企業戦略研究科 金融戦略・経営財務コース 2015/3/20 齋藤 勇紀 (一橋大学大学院 ICS) Carhart 4 ファクターモデルの条件付きモデルへの拡張と投資戦略への応用 2015/3/20 1 / 43

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Page 1: Carhart 4 ファクターモデルの 条件付きモデルへの …...概要 概要 本研究では, 状態空間モデルを用いて, Carhart 4ファクターモデルを 条件付きモデルに拡張することで,

.

......

Carhart 4ファクターモデルの条件付きモデルへの拡張と

投資戦略への応用

齋藤 勇紀

一橋大学大学院 国際企業戦略研究科金融戦略・経営財務コース

2015/3/20

齋藤 勇紀 (一橋大学大学院 ICS) Carhart 4 ファクターモデルの条件付きモデルへの拡張と投資戦略への応用2015/3/20 1 / 43

Page 2: Carhart 4 ファクターモデルの 条件付きモデルへの …...概要 概要 本研究では, 状態空間モデルを用いて, Carhart 4ファクターモデルを 条件付きモデルに拡張することで,

概要

概要

本研究では, 状態空間モデルを用いて, Carhart 4ファクターモデルを条件付きモデルに拡張することで, アセットプライシングモデルの精度向上を図る.

次に, 米国株式市場のデータを対象に, MCサンプラー Stanを用いたマルコフ連鎖モンテカルロ法 (MCMC)によるモデル推定を行い, アセットプライシングのテスト, および近年注目されている情報量基準であるWAICによるモデル選択を行う.

最後に, モデル選択により選ばれた条件付きモデルを用いて投資戦略への応用を検討する. S&P500の構成銘柄を投資ユニバースとしてパーティクルフィルタを用いたモデル推定を行い, αを予測しその方向性に賭ける戦略を検討の上, バックテストを行う.

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はじめに

はじめに

1980年代以降, CAPMでは説明することができない小型株効果やバリュー株効果, モメンタム効果といった, いわゆるアノマリー効果がこれまでに報告されてきた.

これらアノマリー効果を説明するために, いくつかのモデルが提案されてきた. それらの方向性は, 以下の 2つに大別されると考えられる.(Cochrane(2005))

マルチファクターモデル条件付きモデル

こうした先行研究を踏まえた上で, 近年目覚しく発展している計算機統計及びベイズ統計の手法を用いることでモデルの拡張を行い, アセットプライシングモデルの精度向上を図る.

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先行研究

マルチファクターモデル

APT(Ross(1976))や ICAPM(Merton(1973))を理論的背景として,様々なマルチファクターモデルが提案されてきた.

.

......

FF3ファクターモデル (FF(1992), FF(1993))

rt − rf ,t = α+ βMKTMKTt + βSMBSMBt + βHMLHMLt + ϵt .

Carhart 4ファクターモデル (Carhart(1997))

rt − rf ,t = α+ βMKTMKTt + βSMBSMBt + βHMLHMLt + βMOMMOMt + ϵt .

AMP3ファクターモデル (Asness et al. (2013))

rt − rf ,t = α+ βMKTMKTt + βVALVALeverywheret + βMOMMOMeverywhere

t + ϵt .

FF5ファクターモデル (FF(2014))

rt − rf ,t = α+ βMKTMKTt + βSMBSMBt + βHMLHMLt

+βRMWRMWt + βCMACMAt + ϵt .

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先行研究

条件付きモデル

条件無し CAPMを条件付き CAPMに拡張し, CAPMを救おうとする試み.

条件無し CAPM:E [r ]− rf = βMKTE [MKT ].条件付き CAPM:Et [rt+1]− rf ,t+1 = βMKT ,t+1Et [MKTt+1].

以下のように数多くの手法が提案されている.

スケーリングファクター (Jagannathan and Wang (1996), Lettau andLudvigson (2001))ローリング OLS(Lewellen and Nagel (2006), FF(2006))DCC-GARCHを用いた DCBモデル (Bali et al. (2014))状態空間モデル (Jostova and Philipov (2005), Ang and Chen (2007))

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先行研究

状態空間モデル

状態方程式と観測方程式の 2本の方程式からなるモデル..状態空間モデル..

......

yt ∼ p(yt | xt ,θ) (観測方程式),

xt ∼ p(xt | xt−1,θ) (状態方程式).

y は観測可能な変数であるのに対し, x は観測不可能な潜在変数.

状態方程式/観測方程式に線形性と正規性のいずれか, もしくは両方の仮定が置けない場合でも, MCMCやパーティクルフィルタを用いることで推定が可能となる.

近年の計算機の劇的な性能向上により, MCMCやパーティクルフィルタの推定が現実的な時間の中で可能となってきている.

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アセットプライシング

モデル

FF3ファクターモデルとともに, 近年の実証分析におけるベンチマークとなっている Carhart 4ファクターモデルの βを, 状態空間モデルの枠組みにて変動させる.

しかしながら, 変動させるのは βだけでよいだろうか.

VARモデルによる経済変数の予測という文脈ではあるものの,Nakajima(2011)は回帰係数だけを時変とし, 誤差項の分散を定数とした場合, 誤差項の分散の変動分も回帰係数の変動として現れてしまうことをシミュレーションによって確認している.

この研究の結果を踏まえ, βと固有ボラティリティのそれぞれを定数(Constant)とするか時変 (Stochastic)とするかにより, CBCV,SBCV, CBSV, SBSVの 4つのモデルを比較対象とする.

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アセットプライシング

CBCV(Constant Beta Constant Volatility)モデル

.CBCVモデル..

......

rt − rf ,t = α+ βMKTMKTt + βSMBSMBt + βHMLHMLt + βMOMMOMt

+σr ϵt , ϵt ∼ N (0, 1).

βも固有ボラティリティも定数とした, 最もシンプルなモデルである.

パラメータ:α, βMKT , βSMB , βHML, βMOM , σr

潜在変数:なし

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アセットプライシング

SBCV(Stochastic Beta Constant Volatility)モデル

.SBCVモデル..

......

rt − rf ,t = α+ βMKT ,tMKTt + βSMB,tSMBt + βHML,tHMLt + βMOM,tMOMt

+σr ϵt , ϵt ∼ N (0, 1),

βMKT ,t = βMKT ,t−1 + σMKTηMKT ,t , ηMKT ,t ∼ N (0, 1),

βSMB,t = βSMB,t−1 + σSMBηSMB,t , ηSMB,t ∼ N (0, 1),

βHML,t = βHML,t−1 + σHMLηHML,t , ηHML,t ∼ N (0, 1),

βMOM,t = βMOM,t−1 + σMOMηMOM,t , ηMOM,t ∼ N (0, 1).

βがランダムウォーク過程に従い時変すると仮定したモデルである.

パラメータ:α, σMKT , σSMB , σHML, σMOM , σr

潜在変数:βMKT ,t , βSMB,t , βHML,t , βMOM,t

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アセットプライシング

CBSV(Constant Beta Stochastic Volatility)モデル

.CBSVモデル..

......

rt − rf ,t = α+ βMKTMKTt + βSMBSMBt + βHMLHMLt + βMOMMOMt

+exp(ht/2)ϵt , ϵt ∼ N (0, 1),

ht = µ+ ϕ(ht−1 − µ) + σhηh,t , ηh,t ∼ N (0, 1).

固有ボラティリティが確率ボラティリティモデルに従うと仮定したモデルである. 非線型正規の状態空間モデルとして表現される.

パラメータ:α, βMKT , βSMB , βHML, βMOM , µ, ϕ, σh

潜在変数:ht

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アセットプライシング

SBSV(Stochastic Beta Stochastic Volatility)モデル

.SBSVモデル..

......

rt − rf ,t = α+ βMKT ,tMKTt + βSMB,tSMBt + βHML,tHMLt + βMOM,tMOMt

+exp(ht/2)ϵt , ϵt ∼ N (0, 1),

ht = µ+ ϕ(ht−1 − µ) + σhηh,t , ηh,t ∼ N (0, 1).

βMKT ,t = βMKT ,t−1 + σMKTηMKT ,t , ηMKT ,t ∼ N (0, 1),

βSMB,t = βSMB,t−1 + σSMBηSMB,t , ηSMB,t ∼ N (0, 1),

βHML,t = βHML,t−1 + σHMLηHML,t , ηHML,t ∼ N (0, 1),

βMOM,t = βMOM,t−1 + σMOMηMOM,t , ηMOM,t ∼ N (0, 1).

βがランダムウォーク過程に従い時変した上で, 固有ボラティリティが確率ボラティリティモデルに従うと仮定したモデルである.

パラメータ: α, µ, ϕ, σh, σMKT , σSMB , σHML, σMOM

潜在変数:ht , βMKT ,t , βSMB,t , βHML,t , βMOM,t

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アセットプライシング

推定方法 (MCMC)

CBSVモデルと SBSVモデルは, いずれも非線形正規の状態空間モデルであるため, 最尤法や GMMでの推定は一般に難しいといわれている. そこで, 各モデルの推定には一律でマルコフ連鎖モンテカルロ法(MCMC)を用いることとする. 全ての推定においてイテレーションは 6,000回とし, 最初の 1,000回はバーンインとして捨てた. また,事前分布には無情報事前分布を用いた.

ただし, 本研究においては, 複数のモデルそれぞれに対して, 複数のポートフォリオをテストアセットとして推定を行う必要があるため,計算リソースの観点からも効率的なサンプリングが望まれる. そこで, MCサンプラーの Stanを用いた.

伝統的なMHアルゴリズムと比して, Stanの方が計算に掛かる時間も短いことに加えて, サンプリング後の収束診断という観点からもより効率的なサンプリングが行えた.

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アセットプライシング

データ

使用するデータは米国株式とし, 全て French氏の HPより取得した.1962/1∼2014/6の月次リターンを使用.

テストアセットとするポートフォリオは以下の通り. (Lewellen et al.(2010))

サイズと B/Mでダブルソートした 25ポートフォリオサイズとモメンタムでダブルソートした 25ポートフォリオ業種で分類した 30ポートフォリオ

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アセットプライシング

MCMCによる SBSVモデルのパラメータの推定例 (Stan)

0100200300400

−0.008 −0.006 −0.004 −0.002

α

0.00.51.01.5

−11 −10 −9 −8 −7 −6

µ

05

101520

0.80 0.85 0.90 0.95 1.00

φ

02468

0.1 0.2 0.3 0.4 0.5

σh

−0.008

−0.006

−0.004

−0.002

0 10002000300040005000

α

−11−10

−9−8−7−6

0 1000 2000 3000 4000 5000

µ

0.800.850.900.951.00

0 10002000300040005000

φ

0.10.20.30.40.5

0 1000 2000 3000 4000 5000

σh

0.000.250.500.751.00

0 10 20 30

α

0.000.250.500.751.00

0 10 20 30

µ

0.000.250.500.751.00

0 10 20 30

φ

0.000.250.500.751.00

0 10 20 30

σh

050

100150

0.01 0.02

σMKT

0102030

0.02 0.04 0.06 0.08

σSMB

0255075

100

0.00 0.02 0.04

σHML

0

10

20

30

0.00 0.03 0.06 0.09

σMOM

0.01

0.02

0 10002000300040005000

σMKT

0.020.040.060.08

0 10002000300040005000

σSMB

0.00

0.02

0.04

0 10002000300040005000

σHML

0.000.030.060.09

0 10002000300040005000

σMOM

0.000.250.500.751.00

0 10 20 30

σMKT

0.000.250.500.751.00

0 10 20 30

σSMB

0.000.250.500.751.00

0 10 20 30

σHML

0.000.250.500.751.00

0 10 20 30

σMOM

Figure: Stanにより推定されたパラメータの分布, サンプルパス, 自己相関. テスト対象ポートフォリオはサイズと B/Mでソートした 25ポートフォリオのうちの Small-Growthポートフォリオで, 1962/1∼2014/6の月次リターンを使用.

いずれのパラメータにおいてもサンプルパスの自己相関はほとんど無く,パラメータ空間から効率的にサンプリングできていることが見て取れる.

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アセットプライシング

MCMCによる SBSVモデルの潜在変数の推定例 (Stan)

0.8

0.9

1.0

1.1

1.2

1960 1970 1980 1990 2000 2010

βMKT

1.00

1.25

1.50

1.75

2.00

1960 1970 1980 1990 2000 2010

βSMB

−0.50

−0.25

0.00

0.25

1960 1970 1980 1990 2000 2010

βHML

−0.4

0.0

0.4

1960 1970 1980 1990 2000 2010

βMOM

0.02

0.04

0.06

1960 1970 1980 1990 2000 2010

Idiosyncratic SV

Figure: Stanにより推定された潜在変数. 実線が平均値. 点線が 95%信用区間. 水平線はOLSによる推定値. テスト対象ポートフォリオは, サイズと B/Mでソートした 25ポートフォリオのうちの Small-Growthポートフォリオで, 1962/1∼2014/6の月次リターンを使用.齋藤 勇紀 (一橋大学大学院 ICS) Carhart 4 ファクターモデルの条件付きモデルへの拡張と投資戦略への応用2015/3/20 15 / 43

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アセットプライシング

アセットプライシングのテスト/モデル選択

アセットプライシングのテスト時系列回帰により得られた αの信用区間にゼロが含まれるか時系列回帰の決定係数

モデル選択アセットプライシングモデルの実証分析にて伝統的に用いられてきた上記指標だけではなく, 近年注目されている情報量基準であるWAIC(渡辺 (2012))を用いて, より統計的な観点からもモデル選択を行った.

.WAIC..

......

WAIC = −2N∑i=1

log Eπ(θ|y)[f (yi |θ)] + 2N∑i=1

Varπ(θ|y)[log f (yi |θ)].

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アセットプライシング

αの 95%信用区間に 0が含まれるポートフォリオの数

Table: モデル別に αの 95%信用区間に 0が含まれたポートフォリオの数

CBCV SBCV CBSV SBSV

Size-B/M 19/25 17/25 17/25 19/25Size-MOM 15/25 13/25 13/25 10/25Industry 24/30 23/30 26/30 24/30

合計 58/80 53/80 56/80 53/80

時系列回帰の αの 95%信用区間に 0が含まれるポートフォリオの数が多いほど, アセットプライシングモデルとしては優秀と考えられる. 若干ではあるが, βを定数とおいた CBCVモデルと CBSVモデルのほうが正しくプライシングできているポートフォリオの数が多い.

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アセットプライシング

モデル別の決定係数のバイオリンプロット

0.80

0.85

0.90

0.95

CBCV SBCV CBSV SBSV

Size−B/M 25 Portfolio

0.875

0.900

0.925

0.950

0.975

CBCV SBCV CBSV SBSV

Size−MOM 25 Portfolio

0.2

0.4

0.6

0.8

CBCV SBCV CBSV SBSV

Industry 30 Portfolio

Figure: モデル/ポートフォリオ別の時系列回帰の決定係数のバイオリンプロット

CBCVモデルや CBSVモデルと比べて, SBCVモデルや SBSVモデルの方が決定係数が高い傾向がある.

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アセットプライシング

モデル別のWAICのバイオリンプロット

−4000

−3600

−3200

−2800

CBCV SBCV CBSV SBSV

Size−B/M 25 Portfolio

−3750

−3500

−3250

−3000

CBCV SBCV CBSV SBSV

Size−MOM 25 Portfolio

−3000

−2500

−2000

−1500

CBCV SBCV CBSV SBSV

Industry 30 Portfolio

Figure: モデル/ポートフォリオ別のWAICのバイオリンプロット

いずれのポートフォリオについても SBSVモデルが選択された.

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投資戦略への応用

アセットプライシングテストの結果と投資戦略への応用

アセットプライシングのテストにおいては, 条件無しモデルと本研究において考案した条件付きモデルとの間にほとんど差はなかった.この結果は, Lewellen and Nagel (2006)らと整合的である.

しかしながら, WAICによるモデル選択においては, SBSVモデルが選択される結果となった. よって, これ以降は, SBSVモデル及びそれを拡張したモデルに絞って考えていくこととする.

ここまでは, アセットプライシングモデルの評価を行うために αを定数とし, その大きさをプライシングエラーとして捉えた. しかしながら, αも時間に依存して変動すると考えたほうがより直観に合うことに加えて, 投資戦略への応用可能性も広がるであろう. そこで投資戦略への応用にあたり, αも時間に依存して変動するモデルを検討する.

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投資戦略への応用

SBSV-RWモデル.SBSV-RWモデル..

......

rt − rf ,t = αt + βMKT ,tMKTt + βSMB,tSMBt + βHML,tHMLt + βMOM,tMOMt

+exp(ht/2)ϵt , ϵt ∼ N (0, 1),

ht = µ+ ϕ(ht−1 − µ) + σhηh,t , ηh,t ∼ N (0, 1),

αt = αt−1 + σαηα,t , ηα,t ∼ N (0, 1),

βMKT ,t = βMKT ,t−1 + σMKTηMKT ,t , ηMKT ,t ∼ N (0, 1),

βSMB,t = βSMB,t−1 + σSMBηSMB,t , ηSMB,t ∼ N (0, 1),

βHML,t = βHML,t−1 + σHMLηHML,t , ηHML,t ∼ N (0, 1),

βMOM,t = βMOM,t−1 + σMOMηMOM,t , ηMOM,t ∼ N (0, 1).

SBSVモデルでは定数としていた αが, ランダムウォーク過程に従うとしたモデルである.

パラメータ: µ, ϕ, σh, σα, σMKT , σSMB , σHML, σMOM

潜在変数:ht , αt , βMKT ,t , βSMB,t , βHML,t , βMOM,t

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投資戦略への応用

SBSV-AR1モデル.SBSV-AR1モデル..

......

rt − rf ,t = αt + βMKT ,tMKTt + βSMB,tSMBt + βHML,tHMLt + βMOM,tMOMt

+exp(ht/2)ϵt , ϵt ∼ N (0, 1),

ht = ϕh0 + ϕh

1ht−1 + σhηh,t , ηh,t ∼ N (0, 1),

αt = ϕα0 + ϕα

1 αt−1 + σαηα,t , ηα,t ∼ N (0, 1),

βMKT ,t = βMKT ,t−1 + σMKTηMKT ,t , ηMKT ,t ∼ N (0, 1),

βSMB,t = βSMB,t−1 + σSMBηSMB,t , ηSMB,t ∼ N (0, 1),

βHML,t = βHML,t−1 + σHMLηHML,t , ηHML,t ∼ N (0, 1),

βMOM,t = βMOM,t−1 + σMOMηMOM,t , ηMOM,t ∼ N (0, 1).

SBSVモデルでは定数としていた αが, AR(1)過程に従うとしたモデルである.

パラメータ:ϕh0, ϕ

h1, σh, ϕ

α0 , ϕ

α1 , σα, σMKT , σSMB , σHML, σMOM

潜在変数:ht , αt , βMKT ,t , βSMB,t , βHML,t , βMOM,t

齋藤 勇紀 (一橋大学大学院 ICS) Carhart 4 ファクターモデルの条件付きモデルへの拡張と投資戦略への応用2015/3/20 22 / 43

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投資戦略への応用

モデル別のWAICのバイオリンプロット

−4200

−3900

−3600

−3300

SBSV SBSV−RW SBSV−AR1

Size−B/M 25 Portfolio

−4000

−3500

SBSV SBSV−RW SBSV−AR1

Size−MOM 25 Portfolio

−3500

−3000

−2500

−2000

−1500

SBSV SBSV−RW SBSV−AR1

Industry 30 Portfolio

Figure: モデル/ポートフォリオ別のWAICのバイオリンプロット

いずれのポートフォリオについても SBSV-AR1モデルが選択された. そのため, 投資戦略は SBSV-AR1モデルを用いて検討していく.

齋藤 勇紀 (一橋大学大学院 ICS) Carhart 4 ファクターモデルの条件付きモデルへの拡張と投資戦略への応用2015/3/20 23 / 43

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投資戦略への応用

推定方法 (パーティクルフィルタ)

アセットプライシングモデルの実証分析においては, フルサンプルの情報を用いた推定が行われることが多い. 本研究においても, フルサンプルの情報を用いてMCMCによる推定を行った. 一方, 投資戦略のバックテストを行う際には, アウトオブサンプルにてテストを行うことが望ましい. よって, これら二つの目的においては, モデルの推定手法を分ける必要がある.

非線形の状態空間モデルをアウトオブサンプルにて推定する方法の一つとして, Liu and West (2001)によって提案されたパーティクルフィルタ (PF)がある. このアルゴリズムは, 比較的単純であるにもかかわらず, 逐次的にパラメータと潜在変数を同時に推定できるため, 常にアウトオブサンプルでの推定が可能となる.

粒子の数は 5,000として推定を行った. なお, 最初の 250営業日は,バーンインとして捨てた.

齋藤 勇紀 (一橋大学大学院 ICS) Carhart 4 ファクターモデルの条件付きモデルへの拡張と投資戦略への応用2015/3/20 24 / 43

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投資戦略への応用

データ

使用するデータは, 2014年 10月末時点の S&P500の構成銘柄の1990/1/3∼2014/10/31の日次リターンとした. ブルームバーグから日次の価格データ (配当・株式分割等調整済み)を取得し, 日次リターンを算出した.

2014年 10月末時点の S&P500の構成銘柄だけをユニバースとして投資戦略を検討するため, 相応の生存バイアスが掛かっていることが予想される. 本研究では, それに対して, 以下の対策を行った.

ロングオンリー戦略の場合は, 上記ユニバースからベンチマークを設定し, そのパフォーマンスと比較することロングオンリー戦略とあわせて, ロングショート戦略も検討すること

なお, 同期間の日次のファクターリターンは, French氏の HPより取得した.

齋藤 勇紀 (一橋大学大学院 ICS) Carhart 4 ファクターモデルの条件付きモデルへの拡張と投資戦略への応用2015/3/20 25 / 43

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投資戦略への応用

PFによる SBSV-AR1モデルのパラメータ推定例 (AAPL)

0.000

0.001

0.002

1990 1995 2000 2005 2010 2015

φ0α

0.70

0.75

0.80

1990 1995 2000 2005 2010 2015

φ1α

0.000

0.002

0.004

0.006

1990 1995 2000 2005 2010 2015

σα

−0.40

−0.35

−0.30

−0.25

1990 1995 2000 2005 2010 2015

φ0h

0.95

0.96

1990 1995 2000 2005 2010 2015

φ1h

0.000

0.005

0.010

0.015

1990 1995 2000 2005 2010 2015

σh

0.01

0.02

0.03

0.04

1990 1995 2000 2005 2010 2015

σMKT

0.015

0.020

0.025

0.030

0.035

1990 1995 2000 2005 2010 2015

σSMB

0.000

0.005

0.010

0.015

0.020

1990 1995 2000 2005 2010 2015

σHML

0.00

0.01

0.02

0.03

1990 1995 2000 2005 2010 2015

σMOM

Figure: 実線が平均値. 点線が 95%信用区間. 1990/1/3∼2014/10/31のアップル社の日次リターンを使用. このうち最初の 250営業日はバーンインとして捨てた.

いずれのパラメータも概ね収束していると考えられる.

齋藤 勇紀 (一橋大学大学院 ICS) Carhart 4 ファクターモデルの条件付きモデルへの拡張と投資戦略への応用2015/3/20 26 / 43

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投資戦略への応用

PFによる SBSV-AR1モデルの潜在変数推定例 (AAPL)

−0.01

0.00

0.01

0.02

1990 1995 2000 2005 2010 2015

α

0

1

2

1990 1995 2000 2005 2010 2015

βMKT

−1

0

1

1990 1995 2000 2005 2010 2015

βSMB

−1.5

−1.0

−0.5

0.0

1990 1995 2000 2005 2010 2015

βHML

−2

−1

0

1

1990 1995 2000 2005 2010 2015

βMOM

0.010.020.030.040.050.06

1990 1995 2000 2005 2010 2015

Idiosyncratic SV

Figure: 実線が平均値. 点線が 95%信用区間. 水平線は OLSによる推定値.1990/1/3∼2014/10/31のアップル社の日次リターンを使用. このうち最初の 250営業日はバーンインとして捨てた.齋藤 勇紀 (一橋大学大学院 ICS) Carhart 4 ファクターモデルの条件付きモデルへの拡張と投資戦略への応用2015/3/20 27 / 43

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投資戦略への応用

PFの推定に伴うESSの確認

0

50

100

150

3000 4000 5000

Mean of ESS

0

1000

2000

3000

4000

5000

1990 1995 2000 2005 2010 2015

Transition and Distribution of ESS

Figure: 左図は銘柄別に ESSの値について時系列方向に平均しそれらをヒストグラムとしたもの. 右図は銘柄横断でみた ESSの代表値の時系列遷移. 実線が平均値. 点線が90%信用区間.

いずれの銘柄に対しても, PFの推定は概ね安定しているものと考えられる.

齋藤 勇紀 (一橋大学大学院 ICS) Carhart 4 ファクターモデルの条件付きモデルへの拡張と投資戦略への応用2015/3/20 28 / 43

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投資戦略への応用

αのAR(1)モデルの係数の分布

0

10

20

30

40

0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9

φ1α

Figure: SBSV-AR1モデルの係数値をすべての銘柄について計算し, それらをヒストグラムにしたもの.

いずれの銘柄についても, 係数は概ね 0.5∼0.8のレンジに収まっている. これより,αの半減期は, 1週間以内であることがわかる.

よって, αの平均回帰性はかなり高いものと考えられる.

齋藤 勇紀 (一橋大学大学院 ICS) Carhart 4 ファクターモデルの条件付きモデルへの拡張と投資戦略への応用2015/3/20 29 / 43

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投資戦略への応用

投資戦略(ロングオンリー)

αの平均回帰性に賭ける以下の投資戦略を検討する. なお, 用いるパラメータと潜在変数は, 時点毎の粒子の平均値とする.

.ロングオンリー戦略..

......

...1 今, 時点 t をある月の月末とし, 全ての銘柄について, 次の指標値を計算する.

α̂t+1m|t − αt

σα

ここで, α̂t+1m|t は, 今月末からみた翌月末の αの予測値であり, PFにより推定されたパラメータ, 潜在変数を用いた AR(1)モデルより計算できる. つまり, この指標値は, 今月末から翌月末までに得る(失う)であろう αをそのボラティリティ1単位あたりに換算したものと考えることができる.

...2 計算した値をソートし, 上位 XX%の銘柄に対して, 等ウェイトでロングポジションを保有する.

...3 以降, 毎月末に同じ方法でリバランスを行う.

齋藤 勇紀 (一橋大学大学院 ICS) Carhart 4 ファクターモデルの条件付きモデルへの拡張と投資戦略への応用2015/3/20 30 / 43

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投資戦略への応用

バックテストの基本統計量(ロングオンリー)

Table: ロングオンリー戦略の基本統計量. 平均, 標準偏差は年率換算した上で%表示. t値は Newey-Westの HAC標準誤差を用いて計算. benchmarkは, その時点でユニバースに存在する全ての銘柄を等ウェイトでロングし, 月次リバランスを行うポートフォリオ.loXXは, ロングオンリー戦略で上位 XX%をロングし, 月次リバランスを行うポートフォリオ.

Mean t(Mean) SD SR

lo10 22.88 6.38 16.89 1.35lo15 22.08 6.10 16.40 1.35lo20 21.79 6.19 16.12 1.35benchmark 19.68 5.48 15.79 1.25

全ての戦略においてベンチマークを平均リターン及びシャープレシオで上回っている. 保有する銘柄を増やすとリターンは低下するが,その分ボラティリティも低下するため, シャープレシオはほとんど変化しないことが確認できる.

齋藤 勇紀 (一橋大学大学院 ICS) Carhart 4 ファクターモデルの条件付きモデルへの拡張と投資戦略への応用2015/3/20 31 / 43

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投資戦略への応用

バックテストの累積リターン(ロングオンリー)

1

10

100

1990 1995 2000 2005 2010 2015

variable

lo10

lo15

lo20

bm

Cumulative Return(Long Only)

Figure: ロングオンリー戦略の累積リターン. 縦軸は常用対数. benchmarkは, その時点でユニバースに存在する全ての銘柄を等ウェイトでロングし, 月次リバランスを行うポートフォリオ. loXXは, ロングオンリー戦略で上位 XX%をロングし, 月次リバランスを行うポートフォリオ.齋藤 勇紀 (一橋大学大学院 ICS) Carhart 4 ファクターモデルの条件付きモデルへの拡張と投資戦略への応用2015/3/20 32 / 43

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投資戦略への応用

投資戦略(ロングショート)

次に, ロングオンリー戦略をロングショート戦略に拡張する.

.ロングショート戦略..

......

...1 今, 時点 t をある月の月末とし, 全ての銘柄について, 次の指標値を計算する.

α̂t+1m|t − αt

σα

ここで, α̂t+1m|t は, 今月末からみた翌月末の αの予測値であり, PFにより推定されたパラメータ, 潜在変数を用いた AR(1)モデルより計算できる. つまり, この指標値は, 今月末から翌月末までに得る(失う)であろう αをそのボラティリティ1単位あたりに換算したものと考えることができる.

...2 計算した値をソートし, 上位 XX%の銘柄に対して, 等ウェイトでロングポジションを保有する. あわせて, 下位 XX%の銘柄に対して, 等ウェイトでショートポジションを保有する.

...3 以降, 毎月末に同じ方法でリバランスを行う.

齋藤 勇紀 (一橋大学大学院 ICS) Carhart 4 ファクターモデルの条件付きモデルへの拡張と投資戦略への応用2015/3/20 33 / 43

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投資戦略への応用

バックテストの基本統計量(ロングショート)

Table: ロングショート戦略の基本統計量. 平均, 標準偏差は年率換算した上で%表示. t値は, Newey-Westの HAC標準誤差を用いて計算. lsXXは, ロングショート戦略で上位XX%をロング, 下位 XX%をショートし, 月次リバランスを行うポートフォリオ.

Mean t(Mean) SD SR

ls10 7.04 3.09 10.12 0.70ls15 6.70 3.10 8.78 0.76ls20 6.47 3.41 7.70 0.84

全ての戦略において統計的に有意な正のリターンを上げられている.保有する銘柄を増やすとリターンは低下するが, それ以上にボラティリティが低下するため, シャープレシオは上昇することが確認できる.

齋藤 勇紀 (一橋大学大学院 ICS) Carhart 4 ファクターモデルの条件付きモデルへの拡張と投資戦略への応用2015/3/20 34 / 43

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投資戦略への応用

バックテストの累積リターン(ロングショート)

0

1

2

3

4

1990 1995 2000 2005 2010 2015

variable

ls10

ls15

ls20

Cumulative Return(Long Short)

Figure: ロングショート戦略の累積リターン. lsXXは, ロングショート戦略で上位XX%をロング, 下位 XX%をショートし, 月次リバランスを行うポートフォリオ.

齋藤 勇紀 (一橋大学大学院 ICS) Carhart 4 ファクターモデルの条件付きモデルへの拡張と投資戦略への応用2015/3/20 35 / 43

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投資戦略への応用

ロングショート戦略のリターンの源泉

Table: ロングショート戦略の月次リターンを Carhartの 4ファクターに STR(ShortTerm Reversal)ファクターを加えた 5ファクターに OLSで回帰した結果. 平均と αは年率換算した上で%表示. 下段の t 値は Newey-Westの HAC標準誤差を用いて計算. lsXXは, ロングショート戦略で上位 XX%をロング, 下位 XX%をショートし, 月次リバランスを行うポートフォリオ.

Mean α βMKT βSMB βHML βMOM βSTR R2

ls10 7.04 6.99 -0.08 0.14 0.19 -0.15 0.18 0.17(3.09) (3.00) (-1.11) (2.86) (2.98) (-4.05) (3.20)

ls15 6.70 6.75 -0.08 0.11 0.24 -0.16 0.14 0.25(3.10) (3.60) (-1.40) (2.95) (4.57) (-5.12) (3.16)

ls20 6.47 6.40 -0.06 0.09 0.23 -0.14 0.14 0.28(3.41) (4.15) (-1.34) (2.66) (5.55) (-5.18) (3.26)

いずれの戦略においても平均リターンのほとんど全ての部分を αが占めている.STRファクターを含めた全てのファクターエクスポージャの値は小さく, 加えて決定係数も低いため, リターンのうちファクターリスクプレミアムで説明できる部分は小さい.

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結論と今後の課題

結論

本研究では, 状態空間モデルを用いて, Carhart 4ファクターモデルを条件付きモデルに拡張することで, アセットプライシングモデルの性能向上を図った.

次に, 米国株式市場のデータを対象に, MCサンプラー Stanを用いたマルコフ連鎖モンテカルロ法 (MCMC)によるモデル推定を行い, 従来のMCMCと比較して効率的なサンプリングが行えることを示した. アセットプライシングのテストにおいては, 本研究において考案した条件付きモデルと従来の条件無しモデルとの間にほとんど差はなかった一方で, 近年注目されている情報量基準であるWAICによるモデル選択においては, 条件付きモデルが選択される結果となった.

最後に, 拡張した条件付きモデルを用いて投資戦略への応用を検討した.S&P500の構成銘柄を投資ユニバースとしてパーティクルフィルタを用いてモデルの推定を行い, αを予測しその方向性に賭ける戦略を検討の上,バックテストを行った. その結果, 統計的に有意な正のリターンが獲得できる可能性があることを確認した. 加えて, 考案した投資戦略により得られたリターンが, ファクターリスクプレミアムからくるものではなく, それ以外の部分, つまり αである可能性が高いことを確認した.

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結論と今後の課題

今後の課題

オプションプライスに含まれる「フォワード・ルッキング」な情報を用いることで, アセットプライシングモデルの性能を向上させられる可能性.

準乱数や GPUを使用することによるパーティクルフィルタの推定精度の向上.

市場で観察される資産価格の変動パターンにより即した形でのモデルの拡張.(⇒ Appendixのモデルの拡張例を参照)

時変させている β や固有ボラティリティを用いたファクターリスクパリティやファクターリスクバジェッティングといったポートフォリオ構築法.

βの変動にランダムウォーク過程ではなく定常過程を仮定することで, βの方向性を予測した投資戦略の可能性.

取引コストやターンオーバーを考慮したパフォーマンス分析.

考案した投資戦略の日本市場への適用.

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主要参考文献

主要参考文献

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齋藤 勇紀 (一橋大学大学院 ICS) Carhart 4 ファクターモデルの条件付きモデルへの拡張と投資戦略への応用2015/3/20 39 / 43

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主要参考文献

主要参考文献

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齋藤 勇紀 (一橋大学大学院 ICS) Carhart 4 ファクターモデルの条件付きモデルへの拡張と投資戦略への応用2015/3/20 40 / 43

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Appendix

MCMCによる SBSVモデルのパラメータの推定例 (MH)

0100200300400500

−0.008 −0.006 −0.004

α

0.00.51.01.52.0

−9 −8 −7

µ

05

1015

0.80 0.85 0.90 0.95 1.00

φ

02468

0.2 0.3 0.4 0.5

σh

−0.008

−0.006

−0.004

0 10002000300040005000

α

−9−8−7

0 1000 2000 3000 4000 5000

µ

0.800.850.900.951.00

0 10002000300040005000

φ

0.20.30.40.5

0 1000 2000 3000 4000 5000

σh

0.000.250.500.751.00

0 10 20 30

α

0.000.250.500.751.00

0 10 20 30

µ

0.000.250.500.751.00

0 10 20 30

φ

0.000.250.500.751.00

0 10 20 30

σh

020406080

0.02 0.03 0.04 0.05

σMKT

0102030

0.02 0.04 0.06 0.08 0.10

σSMB

010203040

0.02 0.04 0.06 0.08

σHML

0

10

20

0.050 0.075 0.100 0.125

σMOM

0.020.030.040.05

0 10002000300040005000

σMKT

0.020.040.060.080.10

0 10002000300040005000

σSMB

0.02

0.04

0.06

0.08

0 10002000300040005000

σHML

0.0500.0750.1000.125

0 10002000300040005000

σMOM

0.000.250.500.751.00

0 10 20 30

σMKT

0.000.250.500.751.00

0 10 20 30

σSMB

0.000.250.500.751.00

0 10 20 30

σHML

0.000.250.500.751.00

0 10 20 30

σMOM

Figure: MHアルゴリズムにより推定されたパラメータの分布, サンプルパス, 自己相関.テスト対象ポートフォリオはサイズと B/Mでソートした 25ポートフォリオのうちのSmall-Growthポートフォリオで, 1962/1∼2014/6の月次リターンを使用.

パラメータによっては自己相関が相応に残ってしまっており, Stanのそれと比べると非効率的なサンプリングとなっている.

齋藤 勇紀 (一橋大学大学院 ICS) Carhart 4 ファクターモデルの条件付きモデルへの拡張と投資戦略への応用2015/3/20 41 / 43

Page 42: Carhart 4 ファクターモデルの 条件付きモデルへの …...概要 概要 本研究では, 状態空間モデルを用いて, Carhart 4ファクターモデルを 条件付きモデルに拡張することで,

Appendix

MCMCによる SBSVモデルの潜在変数の推定例 (MH)

0.6

0.8

1.0

1.2

1.4

1960 1970 1980 1990 2000 2010

βMKT

1.0

1.5

2.0

1960 1970 1980 1990 2000 2010

βSMB

−0.5

0.0

0.5

1.0

1960 1970 1980 1990 2000 2010

βHML

−0.4

0.0

0.4

1960 1970 1980 1990 2000 2010

βMOM

0.02

0.04

0.06

1960 1970 1980 1990 2000 2010

Idiosyncratic SV

Figure: MHアルゴリズムにより推定された潜在変数. 実線が平均値. 点線が 95%信用区間. 水平線は OLSによる推定値. テスト対象ポートフォリオはサイズと B/Mでソートした 25ポートフォリオのうちの Small-Growthポートフォリオで, 1962/1∼2014/6の月次リターンを使用.齋藤 勇紀 (一橋大学大学院 ICS) Carhart 4 ファクターモデルの条件付きモデルへの拡張と投資戦略への応用2015/3/20 42 / 43

Page 43: Carhart 4 ファクターモデルの 条件付きモデルへの …...概要 概要 本研究では, 状態空間モデルを用いて, Carhart 4ファクターモデルを 条件付きモデルに拡張することで,

Appendix

モデルの拡張例.SBSV-AR1 モデルの拡張例..

......

rt − rf ,t = αt + βMKT ,tMKTt + βSMB,tSMBt + βHML,tHMLt + βMOM,tMOMt

+exp(ht/2)wt , wt ∼ GHSKT (βSK , ν),

wt = µw + βSK zt +√ztϵt , ϵt ∼ N (0, 1), zt ∼ IG(

ν

2,ν

2),

ht = ϕh0 + ϕh

1ht−1 + σhηh,t , ηh,t ∼ N (0, 1),

Cov(ηh,t ,wt−1) = ρ,

αt = ϕα0 + ϕα

1 αt−1 + σαηα,t , ηα,t ∼ N (0, 1),

βMKT ,t = βMKT ,t−1 + σMKT ηMKT ,t , ηMKT ,t ∼ N (0, 1),

βSMB,t = βSMB,t−1 + σSMBηSMB,t , ηSMB,t ∼ N (0, 1),

βHML,t = βHML,t−1 + σHMLηHML,t , ηHML,t ∼ N (0, 1),

βMOM,t = βMOM,t−1 + σMOMηMOM,t , ηMOM,t ∼ N (0, 1).

リターンの分布の歪度と尖度を捉えるため一般化双曲型非対称 t 分布を当てはめ, 確率ボラティリティの誤差項とリターンの誤差項に相関を入れることでレバレッジ効果を導入した.パラメータ:βSK , ν, ϕ

h0, ϕ

h1, σh, ρ, ϕ

α0 , ϕ

α1 , σα, σMKT , σSMB , σHML, σMOM

潜在変数:ht , αt , βMKT ,t , βSMB,t , βHML,t , βMOM,t

齋藤 勇紀 (一橋大学大学院 ICS) Carhart 4 ファクターモデルの条件付きモデルへの拡張と投資戦略への応用2015/3/20 43 / 43