case report vol.1 北里大学における エンドパット2000 導 …case report vol.1...

循環器予防医学の一次予防、二次予防での介入効果指標として血管内 皮機能が面白いのではないかということで興味を持ち、当初はFMDを 測定しようかと思っていました。専属の技師さんがいなければ難しい のではないか、また再現性は保てるのかという不安があり、私の恩師の おひとりである増田 卓教授(北里大学医療衛生学部)にご相談したと ころ、簡易操作で専属の検査技師も不要なエンドパットの存在を知り ました。まだ、エンドパットが日本で発売される前の段階、おそらく 2006年前後だったと思います。発売後、早速導入させていただくこと となり、最初はエンドパットをメタボリック外来の患者さんで使用開始 しました。そこでエンドパットの効果が確認できましたので、4年半前か ら心臓リハビリテーションや循環器疾病管理の効果判定指標として 活用しています。 喫煙者の場合はまず禁煙、そして一般的な心臓のリスクファクターの 管理ができているかを見直します。もしそれらがすべて合格であった 場合には、各ファクターをより詳細に検討し、治療・管理します。脂質を 事例として挙げるなら脂質の管理の「質」を見直します。すなわち通常 の数値だけではなく、LDLコレステロールの粒子数を示す指標、酸化 LDL、EPA/AA比など、その他の細かな部分を見直すわけです。コレス テロールの質の部分まで見て管理することによって、血管内皮機能が さらに改善する例も少なくありません。ただ、実際に最も頻度的に多 く、かつ改善の余地が大きいものとしては、「運動不足」がキーワード になります。もし、予想以上に血管内皮機能が低下している患者さん がおられた場合には、まずこのキーワードを疑ってみてください。私が 勤務している北里大学病院のメタボ外来では、思い当たる介入をすべ て行ってみて、改善しなければ違った方向のアプローチを実施し、繰り 返し検査を実施継続していくという「ステップワイズアプローチ」の手 法を取り入れています。 心臓リハビリテーションの部分に関してまずお話ししますと、この分野 においては患者教育が非常に重要な治療要素となります。運動療法 以外にも食事療法、禁煙指導などを含めた総合的な疾病管理を促進し ていくことが重要となります。私は単に血液検査データがどうなった のか、体重がどうなったか等にとどまらず、予後が改善するといった具 体的なエビデンスのある指標を患者さんに提示したいと考えてエンド パットを導入しました。エンドパットのデータが良くなったことで、患者 さんに「このまま現在の心リハプログラムを継続していきましょう」と いった継続の動機付けを促す言葉の根拠とする、そして悪くなった場 合には「お薬を新しくしてみましょう」等の治療方向の変更などもその 一つです。このような患者さん個人個人に合った具体的な治療効果が 見え、トータルな疾病管理が可能となった効果を実感しています。 具体例として、ある内皮機能への介入を実施している患者さんで、前回 値と今回値とでRHIのデータに変化が見られず、改善されない要因が 見当たらないことがあったので、何か思い当たることはないか確認して みたところ、こっそり喫煙を続けていたことが判明したこともありまし た。このようなことからも、心臓リハビリの分野だけでなく、循環器の 疾病管理全体においてエンドパットは大変有効な検査方法だと考え ています。これは薬の効果判定にとどまらず、患者さんの生活習慣の 改善を経時的に観察し、心臓リハビリの際には患者さんのモチベー ション維持へ役立てていく、そういった活用をエンドパットにおいて は心がけております。 北里大学東病院 心臓リハビリテーション室 エンドパット2000 導入事例のご紹介 北里大学における 血管内皮機能検査装置のご導入から現在までの経緯を教えてください Q A エンドパットのデータが悪かった場合にはどのような治療を実施されていますでしょうか? Q A 血管内皮機能検査導入の効果はいかがでしょうか? Q A 北里大学 医療衛生学部 リハビリテーション学科 理学療法学専攻 准教授 北里大学大学院 医療系研究科 循環器内科学 専任 准教授 【認定医・専門医など】 総合内科専門医、循環器専門医、心臓リハビリテーション指導士 東條 美奈子 先生 Minako Yamaoka-Tojo, MD, PhD, FACP, FAHA 【略歴】 1995年3月 山形大学 医学部 卒業 1999年3月 山形大学大学院 医学研究科 卒業 2000年4月 北里大学医学部 内科学(循環器内科)助手 2003年4月 米国エモリー大学 循環器内科学 博士後研究員 2005年5月 北里大学医学部 循環器内科学 研究員 復職 2009年6月より現職 CASE REPORT vol. 1

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Page 1: CASE REPORT vol.1 北里大学における エンドパット2000 導 …CASE REPORT vol.1 本当にサポートが必要な患者さんに、いかにして「頑張ろう!」という

循環器予防医学の一次予防、二次予防での介入効果指標として血管内

皮機能が面白いのではないかということで興味を持ち、当初はFMDを

測定しようかと思っていました。専属の技師さんがいなければ難しい

のではないか、また再現性は保てるのかという不安があり、私の恩師の

おひとりである増田 卓教授(北里大学医療衛生学部)にご相談したと

ころ、簡易操作で専属の検査技師も不要なエンドパットの存在を知り

ました。まだ、エンドパットが日本で発売される前の段階、おそらく

2006年前後だったと思います。発売後、早速導入させていただくこと

となり、最初はエンドパットをメタボリック外来の患者さんで使用開始

しました。そこでエンドパットの効果が確認できましたので、4年半前か

ら心臓リハビリテーションや循環器疾病管理の効果判定指標として

活用しています。

喫煙者の場合はまず禁煙、そして一般的な心臓のリスクファクターの

管理ができているかを見直します。もしそれらがすべて合格であった

場合には、各ファクターをより詳細に検討し、治療・管理します。脂質を

事例として挙げるなら脂質の管理の「質」を見直します。すなわち通常

の数値だけではなく、LDLコレステロールの粒子数を示す指標、酸化

LDL、EPA/AA比など、その他の細かな部分を見直すわけです。コレス

テロールの質の部分まで見て管理することによって、血管内皮機能が

さらに改善する例も少なくありません。ただ、実際に最も頻度的に多

く、かつ改善の余地が大きいものとしては、「運動不足」がキーワード

になります。もし、予想以上に血管内皮機能が低下している患者さん

がおられた場合には、まずこのキーワードを疑ってみてください。私が

勤務している北里大学病院のメタボ外来では、思い当たる介入をすべ

て行ってみて、改善しなければ違った方向のアプローチを実施し、繰り

返し検査を実施継続していくという「ステップワイズアプローチ」の手

法を取り入れています。

心臓リハビリテーションの部分に関してまずお話ししますと、この分野

においては患者教育が非常に重要な治療要素となります。運動療法

以外にも食事療法、禁煙指導などを含めた総合的な疾病管理を促進し

ていくことが重要となります。私は単に血液検査データがどうなった

のか、体重がどうなったか等にとどまらず、予後が改善するといった具

体的なエビデンスのある指標を患者さんに提示したいと考えてエンド

パットを導入しました。エンドパットのデータが良くなったことで、患者

さんに「このまま現在の心リハプログラムを継続していきましょう」と

いった継続の動機付けを促す言葉の根拠とする、そして悪くなった場

合には「お薬を新しくしてみましょう」等の治療方向の変更などもその

一つです。このような患者さん個人個人に合った具体的な治療効果が

見え、トータルな疾病管理が可能となった効果を実感しています。

具体例として、ある内皮機能への介入を実施している患者さんで、前回

値と今回値とでRHIのデータに変化が見られず、改善されない要因が

見当たらないことがあったので、何か思い当たることはないか確認して

みたところ、こっそり喫煙を続けていたことが判明したこともありまし

た。このようなことからも、心臓リハビリの分野だけでなく、循環器の

疾病管理全体においてエンドパットは大変有効な検査方法だと考え

ています。これは薬の効果判定にとどまらず、患者さんの生活習慣の

改善を経時的に観察し、心臓リハビリの際には患者さんのモチベー

ション維持へ役立てていく、そういった活用をエンドパットにおいて

は心がけております。

北里大学東病院 心臓リハビリテーション室

エンドパット2000 導入事例のご紹介北里大学における

血管内皮機能検査装置のご導入から現在までの経緯を教えてくださいQA

エンドパットのデータが悪かった場合にはどのような治療を実施されていますでしょうか?QA

血管内皮機能検査導入の効果はいかがでしょうか?QA

北里大学 医療衛生学部 リハビリテーション学科 理学療法学専攻 准教授北里大学大学院 医療系研究科 循環器内科学 専任 准教授【認定医・専門医など】総合内科専門医、循環器専門医、心臓リハビリテーション指導士

東條 美奈子 先生Minako Yamaoka-Tojo, MD, PhD, FACP, FAHA

【略歴】1995年3月 山形大学 医学部 卒業1999年3月 山形大学大学院 医学研究科 卒業2000年4月 北里大学医学部 内科学(循環器内科)助手2003年4月 米国エモリー大学 循環器内科学 博士後研究員2005年5月 北里大学医学部 循環器内科学 研究員 復職2009年6月より現職

CASE REPORT vol.1

Page 2: CASE REPORT vol.1 北里大学における エンドパット2000 導 …CASE REPORT vol.1 本当にサポートが必要な患者さんに、いかにして「頑張ろう!」という

本当にサポートが必要な患者さんに、いかにして「頑張ろう!」という

気持ちをもってもらえるかに全国の先生方はご苦労されているのでは

ないでしょうか?この「頑張り」の見える化ツールとしてエンドパットは

大変有効だと考えています。従来から使用されている測定指標も確か

にあるのですが、より鋭敏で短期間にその頑張りの効果が反映される

ものとしてエンドパットは最も効果的なツールだと思います。実際にデ

モンストレーションや学会の展示でエンドパットの測定をしていただ

ければ、この部分は実感していただけるのではないでしょうか?ただ、

当院での導入時、エンドパットは大変高額だったこともあり、一回ごと

の検査に失敗しないよう、また再現性よく検査をするために環境に非

常に気を遣いました。しかし、今では価格も手頃な導入しやすいものと

なってきており、すべての環境において特別神経質になることなく検

査が行えることもわかってきました。私としましては、実臨床の開業医

の先生方や心臓リハビリテーションにおいてエンドパットは十分にお

役に立てる効果的な機器だと考えています。むしろ、生活習慣病の患

者さんを多数抱えておられる、地域の一次予防を担っておられる開業

医の先生方にこそ、導入していただきたい検査かもしれません。

まず、地域の開業医の先生との血管内皮機能検査を通じたデータの共

有ということは非常に重要なポイントだと思います。まずそのために

は、血管内皮機能検査を広く普及させること、さらには、患者さん自身

にとっても、頑張りの目標値として用いることができるように、血管内

皮機能に基づく疾病管理の重要性と有効性を確立していくことがます

ます重要になってくると考えています。たとえば、高血圧や糖尿病の管

理において、ピンポイントの血圧値や血糖値も重要ですが、もう少し

長期的なトレンドを見たい場合には、HbA1cや家庭血圧測定記録が

役に立ちます。同様に、生活習慣病や動脈硬化の危険因子全体を改善

するための包括的管理において、エンドパットは個々の検査数値のと

りまとめ指標として位置付けられていく可能性があると思います。当

院では心臓リハビリテーションを含めた循環器疾患の疾病管理という

形でエンドパットを導入していますが、前述の通り、もともとはメタボ、

肥満外来での活用スタートでした。これらのデータ蓄積から、現在は、

“包括的指標”としてエンドパットを活用しています。我が国において

も、疾病管理を要する肥満やメタボの患者さんが増えてきており、地域

全体の心血管病予防対策として、開業医の先生方にエンドパットを導

入していただく意義は非常に大きいと感じています。PWVやABIなど

の動脈硬化検査はかなり普及していますが、硬くなってしまった血管を

やわらかくすることはできないので、その前段階の血管内皮障害を反

映するエンドパットの検査が開業医の先生方の元に普及し、循環器疾

患の予防と治療に役立てられることが期待されます。

予防医学、循環器疾病管理の分野において力を発揮できるのがエンド

パットだと思っています。今後はさらに重点を置く部分を絞り込んで、

血管内皮細胞の健やかさという部分にフォーカスを当てていきたいと

考えています。たとえば血管の内皮部分には「魚の体表面のぬめり」の

ような「グリコカリックス」というゲル層が存在しています。動脈硬化の

初期段階で「グリコカリックス」が損傷を受けることが病理組織学的に

も確認されています。このグリコカリックスがはがれ、内皮細胞が損傷

されると、血管壁における酸化ストレスや炎症が亢進してしまうのです

が、このような血管内の変化は実際に外から目で見ることができませ

ん。エンドパットはこのグリコカリックスの損傷度合を推測しうる唯一

のツールになるのではないかと考えています。さらなるグリコカリック

スと内皮機能の関連に関しては今後の課題ですが、損傷を受けた血管

であってもグリコカリックスがしっかりと再生してくれば、血管内皮機

能を健やかに保ち、心血管イベントの抑制につながるのではないかと

考えています。

北里大学における エンドパット2000 導入事例のご紹介

全国の血管内皮機能検査の導入を検討されている方々へのメッセージはありますでしょうか?QA

今後の内皮機能検査に関しての地域の開業医の先生とのかかわり合いはいかがでしょうか?QA

今後の先生の研究についてコメントをお願いしますQA

CASE REPORT vol.1

クラス分類 : 管理医療機器、 特定保守管理医療機器

製造販売元:イタマー・メディカル・ジャパン株式会社製造元: Itamar Medical Ltd.(イスラエル)

医療機器承認番号 22500BZI00008000

エンドパット2000血管内皮機能測定に●PAT検査はデータの再現性に優れており、

 どなたでも大きな差異なく測定できます。●操作は簡単で、短時間で操作方法を習得できます。●採血を必要としないので非侵襲的に検査でき、 患者さんの負担を軽減します。

03-5996-8000(代表) Fax 03-5996-8091東京都新宿区西落合1-31-4 〒161-8560 http://www.nihonkohden.co.jp/

SP64-082資料No. 8113’15.1. SE. C.

顔写真は本人の同意を得て使用しています。