総合的な学習の時間に活用するメディアリテラシー指導モ...

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- 53 - F1-07 総合的な学習の時間 総合的な学習の時間に活用するメディアリテラシー指導モジュールの作成 岡山市立芳泉小学校 教諭 研究の概要 メディアリテラシーの中の「メディアを主体的に読み解く能力」を中心に取り上げ,総合的な学習の時間に活 用するメディアリテラシー指導モジュールを作成した。モジュールは,学習指導案と指導資料や掲示物のセット で構成し,10分~15分程度で指導できる内容にまとめている。このモジュールを使って授業を実践したところ, モジュールのねらいが達成されたことなどから メディアリテラシーの育成に一定の効果があることが分かった キーワード メディアリテラシー,モジュール,総合的な学習の時間,情報教育 はじめに 現代の社会は,マスメディアから送られてくる大量 の情報に満ち溢れ,私たちの生活に様々な影響を与え あふ ている。また,コンピュータや携帯端末などのパーソ ナルメディアからインターネットを通じて,比較的容 易に,個人が世界中に情報を発信することも可能にな ってきた。 このような,メディアとのかかわりが不可欠な高度 情報化社会を生きる子どもたちにとって,メディアの 特質を理解し,メディアから発信される情報を鵜呑み にせず,批判的に分析したり,評価したりする力であ る「メディアリテラシー」を身に付けることがますま す重要になってきている。 総合的な学習の時間は,自ら学習に取り組み,主体 的に判断し,よりよく問題を解決する資質や能力を育 てることなどをねらいとしている。このことから,メ ディアに主体的にかかわり,メディアから発信される 情報を能動的に選択,活用するメディアリテラシーの 育成に適していると考える。また,実際に様々なメデ ィアを活用する機会も多いことから,総合的な学習の 時間にメディアリテラシー育成をねらいとした単元を 設定し,実践することが望ましいと考える。 しかし,現在,多くの小学校では,各校の特色を生 かした総合的な学習の時間の全体計画が作成されてお り,単元を大幅に変更したり,数十時間に及ぶメディ アリテラシー育成を目的とした単元を新たに作成した りすることは,かなりの時間と労力を要する。 そこで,既に作成されている総合的な学習の時間の 単元指導計画を大幅に変更することなく,メディアリ テラシー育成に有効な指導方法について探ることとし た。 研究の目的 総合的な学習の時間において,既存の単元指導計画 を大幅に変更することなく,効果的にメディアリテラ シーを育成するための指導方法を探る。 研究の内容 メディアリテラシーについて (1) 本研究で取り上げるメディアリテラシー 小学校学習指導要領ではメディアリテラシーにつ いて直接には触れられていないが,情報教育の指針 を示す「情報教育の実践と学校の情報化 (文部科 学省,2002)のコラムの中でメディアリテラシーが 取り上げられ その指導の必要性が述べられている メディアリテラシーは,様々な定義が提唱されて いるが,旧郵政省の「放送分野における青少年とメ (2000) ディア・リテラシーに関する調査研究会報告書」 では,メディアリテラシーとは,次の要素からなる 複合的な能力としている 3) メディアを通して伝達される情報に対して,正し い見方や判断ができるようにすることは,今後ます メディアを主体的に読み解く能力。 情報を伝達するメディアの特質を理解する能 力。 メディアから発信される情報について,社会 (クリティカル)に分析・評価・吟味 的文脈で批判的 し,能動的に選択する能力。 メディアにアクセスし,活用する能力。 メディアを通じてコミュニケーションを創造 する能力。特に,情報の読み手との相互作用的 (インタラクティブ)コミュニケーション能力。

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F1-07 総合的な学習の時間

総合的な学習の時間に活用するメディアリテラシー指導モジュールの作成

岡山市立芳泉小学校 教諭

森 本 敏 行

研究の概要

メディアリテラシーの中の「メディアを主体的に読み解く能力」を中心に取り上げ,総合的な学習の時間に活

用するメディアリテラシー指導モジュールを作成した。モジュールは,学習指導案と指導資料や掲示物のセット

で構成し,10分~15分程度で指導できる内容にまとめている。このモジュールを使って授業を実践したところ,

, 。モジュールのねらいが達成されたことなどから メディアリテラシーの育成に一定の効果があることが分かった

キーワード メディアリテラシー,モジュール,総合的な学習の時間,情報教育

Ⅰ はじめに

現代の社会は,マスメディアから送られてくる大量

の情報に満ち溢れ,私たちの生活に様々な影響を与えあふ

ている。また,コンピュータや携帯端末などのパーソ

ナルメディアからインターネットを通じて,比較的容

易に,個人が世界中に情報を発信することも可能にな

ってきた。

このような,メディアとのかかわりが不可欠な高度

情報化社会を生きる子どもたちにとって,メディアの

特質を理解し,メディアから発信される情報を鵜呑みう の

にせず,批判的に分析したり,評価したりする力であ

る「メディアリテラシー」を身に付けることがますま

す重要になってきている。

総合的な学習の時間は,自ら学習に取り組み,主体

的に判断し,よりよく問題を解決する資質や能力を育

てることなどをねらいとしている。このことから,メ

ディアに主体的にかかわり,メディアから発信される

情報を能動的に選択,活用するメディアリテラシーの

育成に適していると考える。また,実際に様々なメデ

ィアを活用する機会も多いことから,総合的な学習の

時間にメディアリテラシー育成をねらいとした単元を

設定し,実践することが望ましいと考える。

しかし,現在,多くの小学校では,各校の特色を生

かした総合的な学習の時間の全体計画が作成されてお

り,単元を大幅に変更したり,数十時間に及ぶメディ

アリテラシー育成を目的とした単元を新たに作成した

りすることは,かなりの時間と労力を要する。

そこで,既に作成されている総合的な学習の時間の

単元指導計画を大幅に変更することなく,メディアリ

テラシー育成に有効な指導方法について探ることとし

た。

Ⅱ 研究の目的

総合的な学習の時間において,既存の単元指導計画

を大幅に変更することなく,効果的にメディアリテラ

シーを育成するための指導方法を探る。

Ⅲ 研究の内容

1 メディアリテラシーについて

(1) 本研究で取り上げるメディアリテラシー

小学校学習指導要領ではメディアリテラシーにつ

いて直接には触れられていないが,情報教育の指針

を示す「情報教育の実践と学校の情報化 (文部科」

学省,2002)のコラムの中でメディアリテラシーが

, 。取り上げられ その指導の必要性が述べられている

メディアリテラシーは,様々な定義が提唱されて

いるが,旧郵政省の「放送分野における青少年とメ

(2000)ディア・リテラシーに関する調査研究会報告書」

では,メディアリテラシーとは,次の要素からなる

。複合的な能力としている3)

メディアを通して伝達される情報に対して,正し

い見方や判断ができるようにすることは,今後ます

① メディアを主体的に読み解く能力。

ア 情報を伝達するメディアの特質を理解する能

力。

イ メディアから発信される情報について,社会

(クリティカル)に分析・評価・吟味的文脈で批判的

し,能動的に選択する能力。

② メディアにアクセスし,活用する能力。

③ メディアを通じてコミュニケーションを創造

する能力。特に,情報の読み手との相互作用的

(インタラクティブ)コミュニケーション能力。

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ます重要になってくる。このような能力を身に付け

ていくための基礎として,様々なメディアや,そこ

から発信される情報等の特質について理解すること

が必要と考える。そこで,本研究では「メディアを

主体的に読み解く能力」の中のア「情報を伝達する

メディアの特質を理解する能力 (以下「メディア」

の特質の理解力」という。)を中心に取り上げて進める。

(2) 先行研究

メディアリテラシー育成を目指した授業は,国語

科や社会科などの教科や総合的な学習の時間などで

多く実践されるように は,なってきた。高橋ら(2002)

高学年の総合的な学習の時間において,情報の特性

を科学的に理解する学習を取り入れた単元モデルを

作成し,実践を行った結果,メディアリテラシーの

育成に効果が 国あるとしている 。また,松野(2003)は,1)

語科と社会科の合科的な単元を設定し,そこへ,メ

ディアリテラシーに関する活動を入れた実践を行

ーのい,国語科と社会科におけるメディアリテラシ

育成につながる学習指導の在り方を示している 。2)

(3) モジュール

平成15年12月の小学校学習指導要領一部改正で,

総合的な学習の時間の全体計画を作成することが明

示されたが,既に各校の特色を生かした総合的な学

習の時間の全体計画を作成している小学校も多い。

それを,大幅に変更し,メディアリテラシーの育成

をねらいとした単元を新たに作成することは容易で

ない場合が考えられる。また,駒谷(2003)は,メデ

ィアリテラシー教育に興味を持ち実践を希望しなが

らも,メディア環境やカリキュラム,教材の不足,

教師の意識の低さなどから実践を断念している場合

も多いことを指摘している 。3)

, ,「 」そこで 本研究では メディアの特質の理解力

の育成を目指して,

メディアリテラシー

指導モジュールを作

成し,既存の総合的

な学習の時間の単元

の学習活動と関連さ

せながら活用するこ

とにした(図1 。)

なお,モジュールと

は「完結した働きを

する最小単位」 と4)

いった意味を持つ。図1 モジュールの活用イメージ

2 メディアリテラシー指導モジュールの作成

(1) 作成の方針

メディアを主体的に読み解く能力を身に付けるた

めに,モジュールは「メディアの特質の理解力」の

育成を目指す。モジュールの作成に当たっては,教

師にとって「だれでも 「容易に」指導ができるこ」

とを目指す。

総合的な学習の時間の単元の学習活動の中で,モ

ジュールの内容と関連するところに組み込んで,指

導しやすくするために,メディアリテラシー指導モ

ジュールは,学習指導案と指導資料や掲示物のセッ

トで構成する。また,指導に掛かる時間も10分~15

分程度で行えるようにする。

(2) 作成

総合的な学習の時間では,ディジタルカメラやビ

デオカメラによる撮影,新聞作りなどの活動がよく

, ,行われることから これらと関係のあるメディアや

そのメディアから発信される情報の特性にかかわる

内容のモジュールを試作した(表1 。)

表1 試作したモジュールのタイトルとねらい

学習指導案には,ねらいとメディアリテラシーに

かかわるポイント,資料を使った具体的な指導の仕

方を載せている。初めてメディアリテラシーに関す

る指導を行う教師にも理解しやすくするため,視覚

的に捉えやすいように工夫した(図2 。)とら

3 予備調査

(1) ねらい

授業実践を行う前に,数名の教師に授業の中でモ

ジュールを使ってもらい,感想を聴取することで,

モジュールを改善するための情報を得る。

① 【アップとルーズ】

同じ被写体を撮影しても,撮り方によって印象が変

わることを知る。

② 【組写真】

写真を組み合わせながらストーリーを作成する手法

を知る。

③ 【写真と見出し】

写真や見出しの使い方で,印象が変わってしまうこ

とがあることを知る。

④ 【新聞記事】

新聞記事は,情報の送り手の考えが含まれているこ

とを知る。

⑤ 【身の回りのメディア】

身の回りにある,たくさんのメディアから伝達され

る情報は,正しいものばかりではないことを知る。

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(2) 概要

・ 期間:平成16年7月1日~7月8日

・ 対象:岡山市立芳泉小学校 教諭4名

(3) 改善点

授業後, 授業者との話し合いで出された感想は,

表2のとおりである。これらより,目当ての明確化

と,活動の精選による時間の短縮化を図る必要があ

ることが分かった。

表2 授業者の感想

4 モジュールの改善

(1) アップとルーズ

7枚の写真を見比べて,話し合いをしていたが,

2枚だけ使用するように改善した。残りの5枚は必

要に応じて活用する参考資料とした(図3 。)

(2) 写真と見出し

1枚の写真を見て,見出しを付ける活動をしてい

たが,異なった見出しの付いた写真を見比べて,話

○ 学習指導案や指導資料がセットになっているので準備がしやすい。

○ 具体的な資料を使って指導できるため,理解させやすい。

△ 「組写真 「写真と見出し」では,実際に,児童に写」真の組み替えや見出し作りをさせたが,20分~40分と時間が掛かってしまった。

△ 「アップとルーズ」では,様々なアングルから撮った写真を見比べ,その違いについて話し合わせたが写真の枚数が多く時間が掛かった。

△ 「写真と見出し」では,ねらいが写真と見出しのどちらにあるのかがあいまいなため,指導しづらかった。

し合う活動に改善した。ねらいについては「写真や

見出しの使い方で,印象が変わってしまうことを知

る 」から「見出しには,情報の送り手の考えが含。

まれていることを知る 」に変更し,見出しに重点。

を置くことにした。

5 授業実践

(1) ねらい

作成したモジュールを,総合的な学習の時間の単

元の学習活動に関連させながら活用することで,モ

ジュールのねらいが達成され,その後の学習活動の

中で生かされているかどうかを検証する。

(2) 授業の概要

・ 期間:平成16年10月29日~12月3日

・ 対象:岡山市立芳泉小学校 第5学年児童199名

・ 授業の概要

第5学年では 「みんなが Only One」をテーマと,

して,総合的な学習の時間に取り組んだ(図5 。)

まず,子どもの権利条約やユニセフの活動に触れ,

人権や人権を守るために活動している人々について

関心を持つようにした。次に,ビデオやブックトー

ク,その他の資料から,様々な人権問題や,人権を

守るために努力してきた人々について学習し,そこ

から自分が関心を持った内容について自分なりの課

題を設定し,追究していく活動を行った。最後に,

自分たちが調べて分かったことや考えたことなど

を,表現方法を工夫して,友達に伝える活動を行った。

この単元の学習活動の中に,モジュール「身の回

図2 モジュール「アップとルーズ」学習指導案

図3 モジュール「アップとルーズ」の改善

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りのメディア」と「写真と見出し」を組み入れて,

メディアリテラシーについての指導を行った。モジ

ュールを用いた指導は,いずれも15分程度で行うこ

とができた。

① 身の回りのメディア

「人権について調べよう」の学習活動では,自分

が関心を持った内容について,図書資料やインター

ネットを活用して調べた。この調べ学習の前にモジ

ュールを用いた指導を行った。提示した指導資料の

一部を図4に示す。

プレゼンテーションソフトで作成した指導資料を

プロジェクタ

ーで提示し

,指ながら

導を行った。

まず,メ

ディアを通

して伝達さ

れる情報を

送っている

のは人であ「 」 ( )図4 身の回りのメディア 指導資料 一部

ることを押さえ,どのような人が情報を送っている

かを児童に考えさせた。児童は,身の回りにあるた

くさんのメディアから伝達される情報は,正しいも

のばかりではないことに気付いていった。そこで,

受け取った情報が正しいかどうかを判断するため,

たくさんの資料を集めて,その中から正しい情報を

選ぼうとする意識を持ちながら,調べ学習をするよ

うに伝えた。

なお,モジュールの効果を調べるために,モジュ

ールを用いた指導を行う学級と,用いない学級を設

定した。

② 写真と見出し

「人権について分かったことを伝えよう」の学習

活動で,スピーチ大会を行った。これは,調べたこ

とと関係した写真1枚に見出しを付けた作品を,プ

ロジェクターで提示しながらスピーチを行うもので

ある。その作品の作成時に,モジュールを用いた指

導を行った。図6にモジュールの掲示物を示す。

作品を一通り作成した後に,同じ写真に異なる見

出しを付けた掲示物A,Bを黒板に提示しながら指

導を行った。

図5 単元指導計画

・ユ ニ セ フ の 活 動 や 子 ど も の 権 利 条 約 な ど の 学 習 を 通し て,身 の 回りの 人 権 問 題,差 別,偏 見 に 目 を 向 け,自 分 で 計 画 を立 て て 意 欲 的 に 調 べ た り,目 的 や 相 手 に 合 わ せ た 表 現 を し た りす る こ と が で き る。 〈問 題 解 決 力〉・人 権 に つ い て 協 力し て 調 べ た り,考 え た りし た こ と を 分 かりや す く 伝 え 合 う こ と が で き る。 〈コ ミ ュニ ケ ー ション力〉・人 権 に つ い て 学 習し て き た こ と を 基 に,自 分 た ち の 生 活 を 振 り返 る こ と が で き る。 〈自 己 評 価 力〉・様 々 な メ デ ィアから正し い 情 報 を 収 集,選 択,活 用し,伝 え 方 を 工 夫し て 相 手 に 分 かり や す く 伝 え る こ と が で き る。

〈情 報 活 用 能 力〉

主 な 学 習 活 動 評 価 規 準

☆「自 分 を 大 切にす る こ と」「他 人 を 大 切にす る こ と」に つ い て 考 え る。・権 利の 絵 本の 読 み 聞か せ・子ど も の 権 利 条 約 カ ードゲ ー ム

☆『子 ど も の 権 利 条 約』に つ い て 調 べ る。☆ 権 利 を 守 る た めに 活 動し て い る ユ ニ セ フに つ い て 調 べ る。

○ 友 達 と 積 極 的 にか か わり合 い を 持 ち な がら,活 動 や 話し合 いを 進 め て い る。 〈コ ミ ュニ ケ ー ション力〉

○ 自 分 や 友 達 の 人 権 や,人 権 を 守 る た め に 活 動し て い る 人 々に つ い て 気 付 き,理 解 を 深 め よ う と し て い る。 〈問 題 解 決 力〉

○ 調 べ た こ と や 考 え た こ と を,分かり や す く ま と め て い る。〈問 題 解 決 力〉

☆ い ろ い ろ な 差 別,差 別に立 ち 向かった 人 た ち に つ い て 知り,自 分 が 関 心 を持った 内 容に つ い て 調 べ る。・ビ デ オ視 聴「石 井 十 次 そ の 愛の 心」・学 校 司 書の 先 生 の ブックトー ク

人 権 問 題 → 民 族,人 種,性 な どの 差 別 や 偏 見人 物 → ガンジ ー,マ ザ ー・テレサ,石 井 十 次 な ど

・図 書 資 料,インタ ー ネットの 活 用

○ 活 動 や 話 し 合 い を 基 に,人 権 に 関 す る 課 題 を,主 体 的 に 見 いだ し て い る。 〈問 題 解 決 力〉

○ インタ ー ネットや 図 書 資 料 な ど を 適 切に 活 用し,正しい 情 報 を収 集,選 択,判 断し て い る。 〈情 報 活 用 能 力〉

○ 調 べ た こ と を 基に,自 分 な りの 考 え を 持って い る。〈問 題 解 決 力〉

○ 調 べ た こ と を 基に 自 分 の 暮 らしを 見 詰 め 直し て い る。〈自 己 評 価 力〉

☆ 伝 え る 方 法 を 考 え る。新 聞 ポスタ ー 紙 芝 居 パンフレット 作 文スピー チ(簡 単 な プレゼン テ ー シ ョン資 料 を 用 意し て 学 級 の 中 で スピ ー チ 大 会 を行 う。)

☆ 発 表 会の 準 備 を す る。 スピー チ 原 稿(2分 間 程 度)プレゼン テ ー ション資 料(写 真1枚に見 出しを 付け た も の)

○ 調 べ た こ と や 考 え た こ と を,表 現 方 法 を 工 夫し て, 伝 え て い

る。 〈問 題 解 決 力〉

〈ねらい)

発 表 会 (スピ ー チ 大 会)

人 権に つ い て 考 え よ う

人 権に つ い て 調 べ よ う

人 権に つ い て 分 かった こ と を 伝 え よ う

学 習 過 程

つか

・ 見 出しには,情 報の 送り手 の考 え が 含 ま れ て い る こ と を知 る。

○ コンピュー タ を 使っ て,自 分 の 伝 え た い こ と が 表 れ た プレゼン

テ ー ション資 料 を 作 成し て い る。 〈情 報 活 用 能 力〉

○ 自 分 の 考 え を,友 達に 分 かり や す く 伝 え たり,友 達 の 考 え を 聞き取ったりしよ う と し て い る。 〈コ ミ ュニ ケ ー ション力〉

○ 目 当 て に 照らし て,適 切 な 振り返りを し て い る。〈自 己 評 価 力〉

・ 身 の 回りに あ る,た く さ んの メ デ ィアから伝 達 さ れ る 情 報 は,正 しい もの ばかりで は な い こ と を知 る。

第 5 学 年

・ メ デ ィアから伝 達 さ れ る情 報 は 正 しい も のば かり で は な いこ と を理 解して い る。

・ た く さ んの 資 料 を集 め て,そ の 中から正し い 情 報 を選 ぼ う として い る。

〈ね らい) 〈評 価 規 準)

・ 見 出 しに は 情 報 の 送り手 の 考 え が 含 ま れ て い る こ と を理 解して い る。

・ 自分 の伝 え た い こ と が 表 れ た 見 出し を付けて い る。

〈ね らい) 〈評 価 規 準)

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掲示物A,Bを比較し,それぞれ何を伝えようと

しているかを発表する中で,児童は,見出しには情

報の送り手

の考えが含

まれているこ

とに気付い

そていった。

して,スピ

ーチ大会で

情報を発信

, ,する際 自分たちの考えがしっかりと伝わるように

見出しも工夫するよう伝えた。その後,自分の付け

た見出しについて振り返り,自分の伝えたいことが

より表れた見出しになるように修正を加えた。

6 結果と考察

(1) 身の回りのメディア

① 児童の感想より

, 。指導後の児童から 表3のような感想が出された

表3 児童の感想(一部)

多くの児童が情報の確認をしようとする旨の感想

を書いており,メディアから伝達される情報は,正

しいものばかりではないことを,おおむね理解でき

たのではないかと考える。

② 児童へのアンケートより

モジュールを用いた指導を行った二つの学級(以

下「モジュール群」という )と,用いていないも。

う二つの学級(以下「非モジュール群」という )。

を対象として,アンケート調査を実施した。そのア

ンケートの中で「資料を探すときに,書いてある内

容が正しいかどうかを考えましたか 」という質問。

に対して 「ある」と回答した児童の割合をグラフ,

に示したものが図7である。両群を比較すると,モ

図7 アンケート調査の結果(一部)

・ 情報をすべて,本当かなと調べるのは大変だけど,す, 。ぐに信じこまずに 少しずつ調べればよいと思います

・ 一つの情報だけだと,本当に正しいかどうか分からないから,いくつかの情報と比べたりして,正しい情報を,みんなに伝えたりしたいです。

図6 「写真と見出し」掲示物

。 ,ジュール群の方が2倍以上多かった このことから

モジュールを用いて指導すれば,書いてある内容が

言うこと正しいかどうか,よく考えるようになると

ができる。

また,この両群を対象にして,課題について調べ

た際に,収集したWebページの数と図書の数を調

査して集計した(図8 。図から分かるように 集) ,

めたWebページと図書の数は,モジュールを用い

て指導を行った方がいずれも多かった。

( )図8 収集したWebページと図書の数 児童一人当たり

, ,これは モジュールを用いて指導することにより

児童が,たくさんの資料を集めて,その中から正し

い情報を選ぼうとしたためではないかと考える。

③ 学級担任へのアンケートより

,表4に示すような感想が出された。学級担任からは

学級担任の感想(一部)表4

総合的な学習の時間だけではなく,社会科の情報

を扱った単元でも,情報の正しさを確認しようとす

る意識が働いていたことがうかがえる。

①~③より,モジュール「身の回りのメディア」

を活用することにより,ねらいとした「身の回りに

ある,たくさんのメディアから伝達される情報は,

○ 複数の情報(本,インターネット)の中から,共通するものや,より分かりやすいものを探すことができていた。

○ 情報の選別については,社会科の情報単元との関係もあり,得た情報については検証した方がよいという意識は高まったと思う。

○ 社会科「わたしたちの生活と情報」のところで,総合的な学習の時間でやったことと関連して,その情報が正しいのかどうか考えてみる必要性があることは意識していたようだった。

△ 情報の正誤の判断については,十分な知識がない状態では困難であるし,そこまでの思考に至る子どもは少ないと思う。

△ インターネットで調べている途中に,情報が図書資料と違っていることに気付いても,どちらが本当の情報なのか,迷っている児童がいた。実際に,児童の既習事項だけでは判断が難しい面がある。

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正しいものばかりではないことを知る 」ことは達。

。 , ,成できたと考える また たくさんの資料を集めて

その中から情報を選ぼうとするなど,その後の学習

活動の中で生かされていると言える。

さらに,総合的な学習の時間だけではなく,社会

科の情報を扱った単元でも,モジュールで学んだこ

とが生かされていると言える。

(2) 写真と見出し

図8の掲示物Aを提示して 「何を伝えようとし,

ているのか 」と問い掛けたときの児童の発言の中。

に 「危険なことをしている 「危ないからやめて, 。」

ほしい 」というものがあった。一方,掲示物Bに。

対して 「小さいのにすごいなあ 「最後まで頑張, 。」

って降りてほしい 」という発言があった。このこ。

とから,それぞれが何を伝えようとしているのかを

発表し合う中で,同じ写真に付けた見出しであって

も,その見出しの付け方によって,伝えたいことは

異なるということとともに,見出しには情報の送り

手の考えが含まれているということに気付いたこと

が分かる。

次に,児童が調べたことと関係した写真1枚に付

けた見出しが,モジュールを用いた指導の前後でど

のように変わったか比較する(表5 。)

児童が調べた内容は,ほとんどが人権を守るため

に努力してきた人物についてだったので,最初に作

った作品は,その人物の写真に人物名のみを付けた

表5 見出しの修正例

キング牧師は勇気がある人

敵味方関係なく看病したすごい人ナイチンゲール

キング牧師

石井 十次 石井 十次「孤児たちの父親」

ナイチンゲール

(指導前) (指導後)

ものが多かった。モジュールを用いた指導後は,集

, ,めた資料や 自分のスピーチ原稿を見直すなどして

およそ8割の児童が見出しを変更し,自分の伝えた

いことがより表れるように工夫していた。

以上から,モジュール「写真と見出し」の活用に

より,ねらいである「見出しには情報の送り手の考

えが含まれていることを知る 」ことは達成できた。

と考える。また,自分の伝えたいことが表れた見出

しを付けることができたと言える。

Ⅳ 成果と課題

総合的な学習の時間の既存の単元指導計画を大幅に

変更することなく,児童のメディアリテラシーを育成

するため,メディアリテラシー指導モジュールを作成

した。そして,モジュールを,総合的な学習の時間の

単元の学習活動と関連付けて活用したところ,モジュ

ールのねらいを達成することができるとともに,その

後の学習活動にも生かすことができた。したがって,

「メディアの特質の理解力」の育成に,一定の効果が

あったと考える。

しかし,受け取った情報が正しいかどうか判断して

。 ,いくことは難しい モジュールによる指導のみならず

情報の真偽を確かめる場や時間を設定して,互いに話

, ,し合ったり モジュールで学んだことを生かす活動を

何回も繰り返し行ったりすることも必要と考える。ま

, 。た 児童の機器操作能力等を考慮していく必要もある

Ⅴ 終わりに

児童のメディアリテラシーを育成するためには,様

々な教科や領域の学習活動においても,メディアリテ

ラシー育成にかかわる取り組みが必要である。その際

にも,メディアリテラシー指導モジュールの活用は,

効果を発揮すると考える。そのためにも,今後とも,

活用しやすいモジュールを整えていきたいと思う。

○引用・参考文献

1) 高橋伸明ほか:小学生のメディア・リテラシー育成のための単元モデル,日本教育工学会第18回大会講演論

文集,2002

2) 松野哲也:国語科と社会科におけるメディアリテラシー育成に関する研究,岡山県教育センター平成14年度

1か年及び前期6か月長期研修員研究報告書,2003

3) 駒谷真美:小学校におけるメディア・リテラシーの授業実践,国立教育政策研究所紀要第132集,2003

4) 日本教育工学会:教育工学事典,実教出版,p.100,2000

○Webページ

http://www.soumu.go.jp/joho_tsusin/pressrelease/japanese/housou/000831j702.htmlア)総務省郵政事業庁 :