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微生物由来酸化鉄ナノ粒子を利用した植物病害防除技術
岡山大学大学院環境生命科学研究科農生命科学専攻(植物病理学)
教授 豊田 和弘
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私たちの生活は植物なしでは成り立たない
• 食用• 観賞用
• 薬用• 景観• 防壁
• 環境保全・修復• 遺伝資源• 園芸療法
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世界の食糧安全保障を脅かす七大病害
コムギ赤さび病 バナナ黒シガトカ病
スツリガ属寄生植物 ダイズさび病イネいもち病
ジャガイモ疫病
キャッサバ黒すじウイルス病
(12 February 2010 Vol. 327 Science)
赤で囲んだ病害はカビによる
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毎年10億人分に相当する食料が病害によって失われている
植物病の克服は人類の最重要課題である赤の数字はイネの病原体の数を示す
66%
12%
12%
10%
カビ(>80%)
ウイルス・ウイロイド(~9%)
細菌(~9%)
66%
12~15%
12%
10%
10億人分の食料
ウイルス >800種
細菌 >100 種
線虫 >3,000種
カビ >10,000 種
50
9
8
4 カビによる病害は全体で8割を占め、重要病害が多い
植物病の原因と損失の現状
病害
虫害
雑草害
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一目で分かる農作物生産額の現状病害・虫害・雑草害によって毎年 36.5% が失われている
Δ50%
100.0
Δ36.5%
63.5 30.0
(Agrios 2004)
期待される収量実際の収量
化学農薬を使用しなければ、さらに半減する!
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従来技術とその問題点
食の量と質の確保は、人類にとって最重要課題の1つである。病害による損失は、毎年、全生産額の約15%(約10億人分)と推定されている。しかし、さらなる農地拡大は地球環境へ負荷を与えることが危惧されており、損失を軽減する方策の一刻も早い策定が望まれている。また、近年のエネルギー状況に鑑みれば、化石(投下)エネルギーを減少させた作物生産は避けて通れない課題である。
本発明は、微生物が作る酸化鉄ナノ粒子を活用して、植物を病害から保護し、さらに作物の生長を促進するという優良な効果をもつ技術である。
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新技術の特徴・従来技術との比較• 植物保護効果は病原菌が生成する活性酸素種との相互作用(補足)とそれに伴う抗菌性物質の生成による付加的・相乗的効果と考えられる。
• 人工合成および組成制御が可能であり、病原体や植物の種類によって最も効果的な組成が調整可能。
• 病原菌の特定のタンパク質に作用する化学農薬とは異なり、活性酸素種から電子を奪うだけなので、耐性菌出現のリスクは極めて低いと考えてよい。
• 微生物が作る酸化鉄ナノ粒子またはそれを模倣した合成物を使用するものであり、取扱いが簡便で長期間保存可能である。
• 減農薬へ向けた代替資材として期待される。
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Leptothrix sp. が常温、常圧、中性 pH 下で生成するチューブ状酸化鉄
Leptothrix sp.-produced Biogenous
Iron Oxide (L-BIOX)
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500 nm
内径:1.08 μm
L-BIOXの外観★チューブ状構造
内径:1.08±0.16 mm外径:1.35±0.14 mm厚さ:0.14±0.05 mm
(186個を測定)★主構成元素比:
Fe:Si:P = 75:20:5
★表面構造:マスクメロン状繊維幅 20 nm の繊維が複雑に絡み合った無機・有機複合体
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L-BIOX の超高倍率 TEM 像
500 nm
10 nm
3 nm
L-BIOX の一次粒子直径:3 nmアモルファス構造c.f. 合成酸化鉄の粒子径(~20 nm)
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低コストでクリーンな微生物由来新規ナノ化合物
• Li 電池負極材料• 高活性化学触媒• 高級赤色顔料• 3次元培養基質• 植物生長補助資材• 植物保護資材
工業および環境・バイオ分野での新機能材料
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L-BIOX と接触したエンドウ褐紋病菌胞子のタマネギ鱗片表皮への侵入率
50 μm
L-BIOX なし
侵入菌糸
胞子
発芽管
*
L-BIOX (0.5 mg/ml)
胞子
発芽管H2O 0.1 0.5 1.0
**
******
L-BIOX (mg/ml)
* は侵入部位を示す
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(接種後24時間目の様子を示す。*は侵入部位)
50 μm
胞子発芽管
分散化 L-BIOX(0.5 mg/ml)
胞子
侵入菌糸 *
L-BIOX なし
侵入菌糸
胞子
付着器*
胞子
付着器
*
胞子
侵入菌糸
胞子
M. pinodes C. higginsianum B. cinerea
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130 年の歴史が証明する「ボルドー液」の卓越した植物保護効果
硫酸銅 生石灰
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ボルドー液の効能
• 植物表面に散布されたボルドー液の粒子は、葉や果実、幹などの表面を覆い、外部からの病原菌侵入を防ぐ。
• 雨露、空気、病原菌が分泌する有機酸によって、不溶性銅(ボルドー粒子)から徐々に銅イオンが溶け出し、病原菌の表面に吸着される。銅イオンは病原菌の酵素系を阻害するので、ボルドー液は非選択的で幅広い病原菌に適用可能である。
• 銅イオンには、植物体内でエチレン生成を促進する作用があり、ボルドー液の散布によって生長と病原菌に対する抵抗性が促進される。
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L-BIOX を成分とする「ボルドー様液」の調製
Control CaO CuSO4+ CaO
L-BIOX+ CaO
- CaO (0.5 g) CuSO4 (0.5 g)CaO (0.5 g)
L-BIOX (0.5 g)CaO (0.5 g)
それぞれを水に溶解(懸濁)し、液量 を 100 ml に調整した。なお、各液には 0.02% (v/v) Tween20 を添加した。
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L-BIOX を成分とする「ボルドー様液」によるアブラナ科炭疽病の発病抑制
H2O CaO CuSO4 + CaO L-BIOX + CaO
写真はコマツナ葉面をそれぞれの溶液で処理して1日後に炭疽病菌の胞子懸濁液を噴霧接種し、7日後の様子を示す。
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人工合成(組成制御)した酸化鉄ナノ粒子のキュウリ炭疽病に対する影響
無処理 Si30
Si65
接種後9日目の様子を示す
Si30 Si50 Si65Si0 Si1 Si10 Si20Si の重量比(%)を変えた人工合成酸化鉄
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******
********
検定菌エンドウ褐紋病菌(Mycosphaerella pinodes strain OMP1)
除鉄処理すると L-BIOX の侵入阻害作用は著しく低下する
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カビ胞子は活性酸素種を作って侵入する
TEM image (CeCl3 reaction)
Ap
Ih
Ih
epep
5 mm
BIOX (+)
O2-
H2O2
O2-
シメシメ!
H2O2
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L-BIOX との接触面で何が起こっているのか?
カビ胞子から電子(e-)を奪う?
Fe3+L-BIOX + O2
-fungus → Fe2+ + O2
L-BIOX がもつ抗酸化作用の評価
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L-BIOX がもつ抗酸化作用
L-BIOX (mg/ml)
Ant
ioxi
dant
act
ivity
IC50 = appox. 10 mg/ml
100 10 1 0.1 0.01 0.001 0
L-BIOX の希釈系列 蒸留水
キサンチンオキシダーゼ+
ヒポキサンチン
O2- 発光法で測定
発光阻害率で評価可
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L-BIOX によるカビ胞子の侵入阻害はフェントン反応(鉄毒性)が関連する?
Fe3+ + O2- → Fe2+ + O2
Fe2+ + H2O2 → Fe3+ + OH- + OH.(フェントン反応)
O2- + H2O2 → OH. + OH- + O2
ハーバー・ワイス反応
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侵入に必要な活性酸素種を奪うとともに鉄毒性によって侵入力が低下する!?
(推定作用メカニズム)
O2-
O2 O2
L-BIOX
Fe2+ ?
Fe3+
鉄毒性(抗菌性)
活性酸素種の補足
H2O2(フェントン反応?)
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無機材料を軸とする植物保護資材の研究開発(国内の状況)
• クエン酸鉄(Ⅲ)錯体の光酸化還元反応の病害防除への適用(農研機構野茶研・花き研)
• 酸化マグネシウムナノ粒子によるトマト青枯病に対する全身的な抵抗性誘導作用(山口大農・宇部マテリアルズ・山口県農林総セ)
• 微生物由来酸化鉄ナノ粒子を利用した植物保護技術
植物保護剤及び植物病害の防除方法(PCT/JP2014/056963・WO2014/148396)
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想定される用途
• 植物保護資材• 植物生長・土壌調整剤としての利用・葉圏および根圏(土壌)域での有用元素の溶出
・有害物質の除去・回収
• 不溶性抗酸化剤・液相、固相で使用可(回収可能、再利用可)
• 抗酸化作用に着目すると、日常生活用品の防カビやコンクリート腐食防止剤といった用途に展開することも可能と思われる。
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実用化に向けた課題
• 葉圏および根圏における長期間にわたって定着させる製剤技術⇒粉剤や水和剤等
• 作用メカニズムを明らかにする• 組成制御した酸化鉄ナノ粒子の中から、対象となる病原菌や植物との組み合わせによって最も効果の高い酸化鉄ナノ粒子を推奨する。
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企業様への期待
• 葉圏(根圏)への効果的な散布・定着技術については、展着剤の選定によりある程度克服できると考えている。
• 製剤化や溶出制御の技術を持つ企業様との共同研究を希望。
• (回収可能な)抗酸化剤の開発または利用を考えている企業様には、本資材が有効と思われる。
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本技術に関する知的財産権
• 発明の名称:植物保護剤及び植物病害の防除方法• 出願番号 :特願2013-056674• 出願人 :国立大学法人岡山大学
• 発明者 :白石友紀、豊田和弘、高田 潤、久能 均
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お問い合わせ先
国立大学岡山大学
研究推進産学官連携機構 知的財産本部
金 栄燦
TEL 086-251-8476FAX 086-251-8467e-mail [email protected]