事業戦略と知財戦略三位一体の経営戦略...

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1 事業戦略と知財戦略 事業戦略・開発戦略・知財戦略の 三位一体の経営戦略を考える 創成セミナー2007 2007年11月13日 創成国際特許事務所 弁理士佐藤辰彦

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事業戦略と知財戦略

事業戦略・開発戦略・知財戦略の三位一体の経営戦略を考える

創成セミナー2007

       2007年11月13日

         創成国際特許事務所

       弁理士佐藤辰彦

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事業戦略と知財戦略

1.日本の知財改革の流れ

2.企業に求められるもの

  事業戦略・開発戦略・知財戦略の三位一体の経営戦略

3.グローバル・スタンダードをめぐる経営戦略

①事例研究1: DVDプレイヤーの事例に学ぶ

②事例研究2: 携帯電話の事例に学ぶ

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1.日本の知財改革の流れ

あらゆる分野で

知財を創造し保護し活用して

産業を活性化する

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競争力順位

0

5

10

15

20

25

30

1994 1996 1998 2000 2002 2004 2006

(年)

順位

米国

香港

シンガポール

台湾

日本

英国

ドイツ

低迷する日本の競争力

・わが国は1991年の1位から、2005年には21位

・しかし、科学技術競争力では2位を維持(95年以降)(1位は米国)

IMD (World competitiveness Year book)

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    米国における知的財産戦略プロパテント政策で産業競争力を強化した米国

1978年 カーター大統領知的財産裁判機能の強化提言

1979年 カーター大統領「米国産業技術政策に関する大統領教書」技術移転促進法の提言等

1985年 レーガン大統領「産業競争力委員会」“ヤングレポート”国外市場での知的財産権保護強化等提言

このプロパテント政策により、・特許出願件数増(10万件/年→18万件/年)・特許訴訟の増加と損害賠償金額の巨大化(ポラロイド VS コダック)1,200億円・バイ・ドール法:大学からの特許出願とベンチャー企業設立増・知的財産権の貿易収支が1988年には約255億ドルへ増

米国の産業競争力が大幅に向上した。

・1982年CAFC(特許高等裁判所)創設

・1980年バイ・ドール法(政府援助の研究成果を民間の開発者へ帰属させる制度)

・1988年スペシャル301条成立(2国間交渉) (知的財産保護の不十分な国を優先監視する制度)・1994年ウルグアイ・ラウンドでTRIPS成立(多国間交渉) (知的財産保護の最低水準を設定)

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わが国の知的財産行政の動向   ~知財立国にむけて~

・1997年     「21世紀の知的財産権を考える懇談会報告」(特許庁)         (プロパテント政策の議論、21世紀の知的財産の目指す方向)・1998年     「工業所有権審議会小委員会報告」(特許庁)           (米国のプロパテント政策を高く評価)・2002年2月   小泉前首相が国会で「知財創造立国宣言」・2002年7月  「知的財産戦略大綱」(政府、知的財産戦略会議)・2002年11月 「知的財産基本法」成立・2003年7月  「知的財産戦略推進計画」(政府・知的財産戦略本部)・2005年4月  知的財産高等裁判所の創設・2006年1月  知財人材育成総合戦略の策定・2006年12月 国際標準総合戦略の策定

    知財立国に向けて急激な改革が進んできている

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知的財産推進計画2003-2007

知的財産戦略本部(総理大臣を本部長とする)

あらゆる分野で知財を創造し保護し活用して

産業を活性化する

出典 知的財産戦略の進捗状況2007 

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8出典: 知的財産戦略推進事務局

活 用活 用

創 造創 造

� � �� � �

知的創造サイクル発明の保護を通じて発明の活用を促進し更なる発明を創造させる

収収  益益

発発明明

・・

創創作作

知知的的財財産産権権

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知財政策関連セクター国家のすべての機関が関与

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知的財産戦略本部関係セクター2006年政府関係セクター図

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日本の知財制度改革の状況

創造・保護・活用・人材分野別改革の進展

0

20

40

60

80

100

120

140

160

180

200

85 87 89 91 93 95 97 99 01 03 05 07

分野別改革項目累計件数

(1目盛20件)

1総合

2保護

3創造

4活用

5人材

わが国の知財改革は2003年後に加速されて急激に進んでいる    

出典 知的財産戦略の進捗状況:知財戦略推進計画2006参考資料から作成

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日本の知財制度改革の状況特許制度改革の流れ(累積70-06)

保護分野の改革は国際情勢を反映して比較的早くから制度改正が行なわれてきた。                     出典 知的財産戦略の進捗状況:知財戦略推進計画2006参考資料等から作

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日本の知財制度改革の状況制度環境【インフラ】改革の流れ(累積)

知的財産推進計画2003以来の政策により多くの点でインフラ整備が急激に進んだ。

出典 知的財産戦略の進捗状況:知財戦略推進計画2006参考資料等から作成

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知的財産推進計画20072007年5月30日知財戦略本部決定

 ・知的財産を戦略的に活用する。

  知財を経営の中核と位置付け、

    事業戦略・開発戦略・知財戦略を

      三位一体として経営することが重要。

 知財戦略は事業の競争優位を確保するためにある。

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事業戦略

知財戦略開発戦略

三位一体の経営戦略

知的財産を自社の競争力の源泉として経営戦略の中に位置づけ、これを事業活動に組み入れ、収益性と企業価値の最大化を図るために、

事業戦略と研究開発戦略と知財戦略との三位一体が必要。

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2.グローバル・スタンダードをめぐる    事業戦略・開発戦略・知財戦略の        三位一体の経営戦略から学ぶ

①事例研究1: DVDプレイヤーの事例

②事例研究2: 携帯電話の事例.

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国際競争と技術標準(規格)

• 90年代の冷戦構造の崩壊により世界経済の一体化が進む。

• 製品の互換性・インタフェースの点で技術標準(規格)は一層グローバルな広がりを持つようになった。

• コンピュータなどの分野では,単独の事業者が,技術標準(規格)を獲得し,世界の製品市場を独占するようなケースも現れるようになった 。

  (例)

   マイクロソフトパソコンのOS    インテルパソコンのMPU

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標準の種類

③デファクト標準(de fact standard)

②フォーラム標準

①デジュール標準(de jure standard)“de jure”はラテン語の「法にあった」、「法律上で正式の」の意。公的標準。

公的な機関で明文化され公開された手続きによって作成された標準。

“de fact”はラテン語の「事実上の」の意実質標準実質的に国際市場で採用しているいわゆる「世界標準」。法的根拠はないが市場での競争力で勝ち抜いた標準。

関心のある企業などが集まって結成された“フォーラム”が中心となって作成された標準。公的ではないが、“デジュール標準”のような開かれた手続きを持つ。特に、先端技術分野の標準を作成する場合によく利用される。

(例)Windows

(例)写真フイルム感度ISO100ISO400  :

無線通信で接続

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国際競争と技術標準(規格)

・従来の標準化活動は

 既存の主流技術(デファクト標準:事実上の業界標準)の追認する形態が中心であった。

・自社が開発・推進している技術を戦略的にデファクト標準(規格)に昇格させることによってビジネスを有利に展開しようとする企業活動が急増している。

・国際標準化は国際競争力強化の観点から国などに

よるマクロ・レベルの政策目標 となっている 。

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ネットワーク効果と技術標準(規格)

 ネットワーク効果

 ネットワーク産業(IT関連産業,電機・情報通信産業など)においては「独り勝ち」現象が起きやすい傾向にある。

  ひとたびユーザーの増えた製品は,ますますユーザー数を増やし,短期間で,他規格の製品を排除して市場を独占する。

 

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ネットワーク効果と技術標準(規格)

ネットワーク効果による技術標準の形成

• ティッピング TIPPING(傾けること)   競争の初期の段階で多くのユーザーを獲得した製品は,ネットワーク効果のため

に,ますます多くのユーザーを引きつけることになる。

・ クリティカル・マス CRITICAL MASS  ティッピングが起きる製品普及の臨界点

・ 独り勝ち   勝者はますます有利になり,敗者はますます不利,市場競争の勝敗は一方的な

ものとなる(独り勝ち)。勝ち残った技術規格が事実上の技術標準となる。・ ロックイン LOCK IN 技術標準は,新しい技術が容易にとって替わることができない堅固な地位を占める

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オープン戦略とクローズド戦略

・クローズド戦略   ネットワーク効果が働く場合,企業としては,自らの技術を技術標準とす

ることに成功しその技術を要する製品市場を独占することが最善の戦略

・オープン戦略   単独で対抗技術との競争に勝つことは,営業力等の限界もあって現実

には容易ではない。

   ネットワーク効果が働くために,早期に自己の技術を用いた製品を普及させることが競争戦略上必要。

   自らの技術を同業他社に公開し,その技術を用いる製品の陣営を拡大した上で市場競争に臨み,自己技術を用いた製品を普及させ,これによって自己技術の技術標準化を図る戦略

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標準化戦略と事業戦略(事例研究1)

日本企業が国際標準を主導的に形成したDVDプレーヤーで敗退の事例

・2005年のDVDプレーヤー生産の世界市場シェアは中国企業が49㌫で日本が22㌫

・日本企業のDVD分野からの実質的な撤退が進む。

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DVDフォーラム

1995年DVD統一規格成立

1997年DVDフォーラム成立

日本が主導する最大フォーラム型国際標準化機関

加盟企業構成(20ヶ国237社:2004年)

 日本企業 86

 その他のアジア諸国 70

 北米企業 50

 欧州企業 31

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DVDフォーラム

1993  TAZフォーマット;東芝

1994  Multi-Media CD(MMCD)ソニー・フィリップス連合

•   SD(Super Density Disc)アライアンス成立:

      東芝・松下連合

1995  DVD統一規格(SD技術をベース)

1997  DVDフォーラム成立(82社)

•   日本企業のDVDプレーヤーの世界シェア95㌫

•   日本企業75㌫・中国企業10㌫

2005  日本企業22㌫・中国企業49㌫

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標準化の特性

 DVDは多数の企業が参加するオープンな場で標準化された。(モジュラー型オープン・スタンダード)

  標準化はその本質に ・技術情報のマニュアル化とオープン化を内包する。 ・基幹技術や基幹部品の相互依存性を排除する。   →誰でもが作れる世界ができる。                 ↓①初期の段階では多くの擦り合わせ要素を内部に持っていた。

②その後のコストダウン設計や大量生産のプロセスで徐々にモジュラー型へと転換された。

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標準化の特性

③標準化を裏で支える多数の専業メーカーが輩出し、ファームウエアのモジュール群内蔵のチップ・セットと基幹部品が流通する。

④製造設備を購入し、部品を単純に組み合わせるだけ製品ができる。

⑤キャッチアップ型工業国(中国)から多数の企業が市場参入する。

⑥ここから熾烈な価格競争が始まり異常な価格の下落を招く。

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標準化の特性

⑦キャッチアップ型工業国(中国)の企業は

 非常に少ない開発コストと安い人的資源で市場に参入しコスト競争を仕掛ける。

⑧基礎技術開発・基幹部品などの製品開発などの新規市場開拓に膨大なリソースを投入した日本企業は価格大きな下落で粗利が急激に減少し競争力を失う。

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DVD関連事業の構造小川紘一「DVDにみる日本企業の標準化事業戦略」2006.3.23

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日本企業の新たな勝ちパターン

・日本企業のコア・コンピタンスを武器に新規コンセプトの製品を生み出し国際標準化をリード→主導的な技術革新でモジュラー型を擦り合わせに戻す。

 (開発戦略) ○先取りした性能競争・高機能化でモジュラー型を擦り合わせ型の製品に

する。日本企業のコア・コンピタンスは擦りこみ型技術力

・国際標準に知財を擦り込むことでモジュラー型が進んでもパテントプールを通じて収益を確保する。

 (知財戦略) ○日本の開発技術とその特許を国際標準に擦り込む。

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日本企業の新たな勝ちパターン

・知財の権利の機能を強化する。知財を無視して異常な価格競争を仕掛けるキャッチアップ型工業国企業対策が重要。(知財戦略)

 ○国際標準に知財を擦り込んでも権利の実効性がないかぎり効果が期待できない。

• 擦り合わせ型企業とモジュラー型企業との垂直企業連合で価格競争に勝つ。(事業戦略)

○ 擦り合わせ技術・知財・ブランドによる優位性とモジュラー型企業のコスト競争力を統合したビジネスモデル

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競争力あるビジネスモデル小川紘一「DVDにみる日本企業の標準化事業戦略」2006.3.23

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標準化戦略と事業戦略(事例研究2)

日本企業が国際標準を主導的に形成した携帯電話3Gで劣勢の事例

現状• ITM-2000:ITU(国際電気通信連合)で策定された

3Gの携帯電話システム

• 現在の携帯端末では第3世代に入っておりITM-2000というジュール・スタンダード(公的標準)の枠の中でW-CDMAとCDMA2000のデファクト・スタンダード(事実上標準)を争う2重構造となっている。

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標準化戦略と事業戦略(事例研究2)

第2世代・欧州を中心としたGSM,日本のPDC、米国のUSDや

PSCなどが乱立。

              ↓

・日本はNTTドコモが独自規格であるPDC規格を採用し全ての日本の機種はPDC規格。

              ↓

・国際的にはマイナーな規格となり日本の携帯端末機メーカーは国際標準であるGSM規格市場で苦戦 。

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標準化戦略と事業戦略(事例研究2)

第3世代への日本の挑戦

・NTTドコモはIMT-2000では国際標準を取ることを目指した。

・当初欧州と日本とがW-CDMAでまとまりかけた。

・クアルコムは基本特許を武器に日欧の主導にストップをかける。

・W-CDMAはクアルコムのCDMAONEとの互換性を奪うもの

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標準化戦略と事業戦略(事例研究2)

・IMT-2000はGSM陣営とCDMA陣営の既得権を反映した妥協の産物として5つの標準の並存を認める形となった。

・5つの標準のうちNTTドコモとエリクソンの共同開発したW-CDMA方式とクアルコムが開発したCDMA-2000が有力規格となった。

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標準化戦略と事業戦略(事例研究2)

  クアルコムの事業戦略(選択と集中)

 水平分業の中でのプラットフォームの主導権を握る戦略

 ①CDMAの技術について基本特許を保持し、そのライセンス料と、通信とアプリケーションを1チップ化した半導体、OSなどの基幹ソフトの3つでその領域のトップを目指す。

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標準化戦略と事業戦略(事例研究2)

 クアルコムの事業戦略(選択と集中)

� CDMA2000の規格の提唱者であるが、W-CDMAまでを含むCDMAを用いたモバイルコミュニケーション市場の拡大のためにあらゆる活動を行なうことに集中 。

③あらゆる種類の携帯端末に対する「チップセットとソフトウエア」を提供することに注力。

④この領域に絞り込むことで端末メーカーの開発負担を軽減する。

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標準化戦略と事業戦略(事例研究2)

 クアルコムの事業戦略(選択と集中)

第三世代携帯の開発企業はCDMA技術を使用することでクアルコムに売上高の4-6.5%のライセンス料を支払っている 。

 携帯電話の開発費に占める割合は10%といわれその約半分がクアルコムの収入になっている。同社の2004年の売り上げの27.3%がロイヤリティ収入になっている。

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標準化戦略と事業戦略(事例研究2)

 クアルコムの勝因

・W―CDMAとCDMA2000とを並存する流れを作り、双方の標準に共通なかつ必須の特許についていずれの規格においてもほぼ同一のライセンス契約を締結することで、どの規格が普及したとしてもクアルコムが利益を得る体制を作った。

 ・CDMAの普及から利益を得るという戦略を追求するためにライセンスの管理、半導体とOSの開発以外の携帯電話関連事業を売却 して事業を集中。

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標準化戦略と事業戦略(事例研究2)

 クアルコムの勝因

・ クアルコムによる第3世代の主導権は第2世代にお

けるCDMAONEによる市場制覇にある。

・ 第2世代のCDMAONEの市場に合わせたインフラ整備が整っていることが、クアルコムの基本特許とあいまって第2世代と第3世代との互換性が必須である状況が生まれている。

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まとめ技術開発優位・基幹技術の特許化により基本特許の確立

市場形成優位・基本特許の実施基盤の先行実現

技術標準優位・基本特許を国際標準内に擦り込む

技術保有優位・基幹技術を閉じ込めたチップとソフトの供給で基幹部品の事業に集中

ビジネスモデル優位・基幹部品の購入とロイヤリティ支払い必須のビジネスモデルを構築