[火力発電所の運転(改訂版)] Ⅰ.運 転 概 要 3.監視記録...2015/05/12  ·...

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49 Vol. 66 No.5 1.中央操作室 1.1 火力発電所の監視制御方式の変遷 わが国の火力プラントは日本経済の高度成長ととも に,設備の合理化により容量は次々とスケールアップさ れ,新技術が積極的に採用された。高効率,高温高圧化 に伴いボイラは亜臨界圧貫流型から超臨界圧貫流型に移 行し,さらに近年はコンバインドサイクル発電が主流と なった。現状では,高効率化・低炭素化を推進するべく, IGCC(ガス化複合発電)やA-USC(先進超々臨界圧 発電)の開発・実証が成され,バイオマス混焼や老朽石 炭火力のリプレースが行われている。また,火力設備は 再生可能エネルギーの大量導入時の系統安定化対策に不 可欠な存在であり,今後も極めて重要な設備である。 このような主流設備の変化に対応して制御技術面でも 大きな変革がみられ制御装置は空気式から電気式に移行 し,ディジタル計算機が導入された。制御装置と密接な 関係にあるマンマシンについて見るとボイラ,タービン, 発電機をそれぞれ個別に監視,制御していた分散操作方 式から中央操作室で総合的に監視制御する集中監視操作 方式へ,さらに計算機など大幅に活用した集中自動方式 へ移行してきた。図1にマンマシンに見る制御方式の変 遷を示す。 1.2 火力発電所監視制御システム 火力発電所における監視制御システムは,少人数によ る効率的な運転・監視をはかるため,特殊操作以外の起 動停止を含む通常運転操作に必要な情報は,全て中央操 作室に集中し,オペレータが効率よく監視・操作を行え るシステムとなっている。 最近の大型コンバインドサイクル発電システムに採用 されている,監視制御システムの特徴について述べる。 (1)全面的なディジタル式制御装置の採用。 (2 )ユニット毎のタービン・ボイラ制御装置・監視 制御装置と,多ユニットを総括監視・制御する共 通計算機システムで構成し,発電所共通のネット ワークに接続。 (3 )信頼性向上をはかった装置の機能分散とシステ ムの冗長化設計。 [火力発電所の運転(改訂版)] Ⅰ.運 転 概 要 3.監視記録 323 入門講座 図1 マンマシンに見る制御方式の変遷 第一段階 〜昭和 31 分散監視 制御方式 o発電所の主要設備が複数の部屋に おいて監視され、一部の操作も行われ る方式。 この方式は本来、分業体制で運転に従 事する考え方に基づく。 o電気式監視計器の普及 o電気式制御装置の普及 o計器、操作器の小型化 o計算機エレクトロニク スの高信頼化 oディジタル技術の普及 第二段階 昭和 32 年〜 集中監視 制御方式 o主要設備の監視が原則として2ユ ニット分一つの集中監視室において 行われる方式。 機器操作は一部集中監視室で行わ れるが、現場で手動で行われるものも 多い。制御装置も空気式が主流であ る。 第三段階 昭和 44 年〜 集中操作 制御方式 oほぼすべての操作が中央操作室で 行われる方式。なお中央の監視機能 は、ボイラ炉内監視テレビや計算機利 用により強化されている。制御装置に もエレクトロニクス技術が導入され 高性能化している。 第四段階 昭和 55 年〜 自動操作 制御方式 oほぼすべての運転操作、監視が計算 機を利用して行われ、起動停止操作に ついても自動化が進められている。

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Ⅰ.運 転 概 要

49

Vol. 66 No.5

1.中央操作室

1.1 火力発電所の監視制御方式の変遷

 わが国の火力プラントは日本経済の高度成長ととも

に,設備の合理化により容量は次々とスケールアップさ

れ,新技術が積極的に採用された。高効率,高温高圧化

に伴いボイラは亜臨界圧貫流型から超臨界圧貫流型に移

行し,さらに近年はコンバインドサイクル発電が主流と

なった。現状では,高効率化・低炭素化を推進するべく,

IGCC(ガス化複合発電)やA-USC(先進超々臨界圧

発電)の開発・実証が成され,バイオマス混焼や老朽石

炭火力のリプレースが行われている。また,火力設備は

再生可能エネルギーの大量導入時の系統安定化対策に不

可欠な存在であり,今後も極めて重要な設備である。

 このような主流設備の変化に対応して制御技術面でも

大きな変革がみられ制御装置は空気式から電気式に移行

し,ディジタル計算機が導入された。制御装置と密接な

関係にあるマンマシンについて見るとボイラ,タービン,

発電機をそれぞれ個別に監視,制御していた分散操作方

式から中央操作室で総合的に監視制御する集中監視操作

方式へ,さらに計算機など大幅に活用した集中自動方式

へ移行してきた。図1にマンマシンに見る制御方式の変

遷を示す。

1.2 火力発電所監視制御システム

 火力発電所における監視制御システムは,少人数によ

る効率的な運転・監視をはかるため,特殊操作以外の起

動停止を含む通常運転操作に必要な情報は,全て中央操

作室に集中し,オペレータが効率よく監視・操作を行え

るシステムとなっている。

 最近の大型コンバインドサイクル発電システムに採用

されている,監視制御システムの特徴について述べる。

 (1)全面的なディジタル式制御装置の採用。

 (2�)ユニット毎のタービン・ボイラ制御装置・監視

制御装置と,多ユニットを総括監視・制御する共

通計算機システムで構成し,発電所共通のネット

ワークに接続。

 (3�)信頼性向上をはかった装置の機能分散とシステ

ムの冗長化設計。

[火力発電所の運転(改訂版)]

Ⅰ.運 転 概 要 3.監視記録

323入門講座

図1 マンマシンに見る制御方式の変遷

歩進術技明説式方階段

第一段階

〜昭和 31 年

分 散 監 視

制御方式

o発電所の主要設備が複数の部屋に

おいて監視され、一部の操作も行われ

る方式。

この方式は本来、分業体制で運転に従

事する考え方に基づく。

o電気式監視計器の普及

o電気式制御装置の普及

o計器、操作器の小型化

o計算機エレクトロニク

スの高信頼化

oディジタル技術の普及

第二段階

昭和 32 年〜

集 中 監 視

制御方式

o主要設備の監視が原則として2ユ

ニット分一つの集中監視室において

行われる方式。

機器操作は一部集中監視室で行わ

れるが、現場で手動で行われるものも

多い。制御装置も空気式が主流であ

る。

第三段階

昭和 44 年〜

集 中 操 作

制御方式 oほぼすべての操作が中央操作室で

行われる方式。なお中央の監視機能

は、ボイラ炉内監視テレビや計算機利

用により強化されている。制御装置に

もエレクトロニクス技術が導入され

高性能化している。

第四段階

昭和 55 年〜

自 動 操 作

制御方式 oほぼすべての運転操作、監視が計算

機を利用して行われ、起動停止操作に

ついても自動化が進められている。

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May 2015

 (4�)中操での操作集中化をはかった,VDU(Visual�

Display�Unit)による集中化と一元化を図った高

度な監視機能と操作性を有するマンマシンイン

ターフェイス。VDUは,従来のCRTに代わり,

LCD(Liquid�Crystal�Display)によるマウスオ

ペレーションを採用。

 (5�)監視機能の一層の充実と情報の共有化を目的と

した大型モニタの採用。

 (6�)運用中のネットワーク連携から回路を隔離し,

定期点検時の各種試験を行う専用VDUの設置。

 (7�)紙による記録計を排除し,運転記録データの保

管用データサーバによるディジタルデータ記録保

管方法に移行。

 図2に火力発電所における監視制御システムの構成例

を示す。

1.3 マンマシンインターフェイス

 (1)中央操作室の構成と機能

 火力発電所の運転監視は,常時オペレータが在席する

中央操作室に集中化され,通常の運転監視については自

動化コンソールに配置されたLCDで行い,非常時やバッ

クアップ時の緊急を要する操作は,補助制御盤に配置さ

れたハードスイッチにより行うよう区分されている。

 プラントの運転操作は全自動化されていることから,

オペレータ業務の主体は「監視」である。少人数で効率

よく監視・操作を行う必要があるため,VDUは,迅速

な画面呼び出しや,運転状況の明確な表示と共に,ヒュー

マンエラー防止を考慮した仕組みを構築している。

 また,防災監視が必要な箇所は監視カメラが配備され,

ガス検知器や火災感知器が動作した場合は,中央操作室

に配置された構内監視モニタに自動で対象箇所を映し出

す等,現場確認の一助となる機能を備えている。

 (2)操作・監視機能の概要

 近年のマンマシンインターフェイス技術の進歩によ

り,従来のハード機器による操作・監視器具類は,非常

用等を除きVDU化された。

 ①操作機能

 現在では,LCDの表示画面で操作や監視を行うVDU

オペレーションが主体となっている。

 CRTオペレーション導入当初は,電動弁・電磁弁と

いったプラント運転に大きく支障を与えない範囲に限定

されていたが,実績の積重ねにより,回転機操作,バー

ナ操作,コントロールステーション操作など,その範囲

を拡大してきた。現在は,VDUによる,ユニット運転

操作や補機の起動・停止操作等の主要な監視操作を全て

行なっている。

 各ユニット共通の計算機と,VDUオペレーションを

おこなうOPS(Operator�Station)は,システムを独

立分離し機能分散をはかっている。OPS�は共通計算機

故障やメンテナンスの際に,各ユニットの運転に必要な

情報をLCDに表示できるバックアップ機能を有してい

324

図2 火力発電所の監視制御システムの構成例

大型スクリーン

(1U) )通共()U4(

共通制御装置

●共用設備操作・監視・NG系統・アンモニア・所内ボイラ・純水製造・取水口・補助蒸気etc

タービン(GT/ST)制御装置

●負荷制御●GT燃料制御●入口案内翼制御●起動停止制御●ST蒸気弁制御●熱応力制御●保護機能

排熱ボイラ/補助制御装置

●ドラム水位制御●タービンバイパス

制御●蒸気温度制御●脱硝制御●薬品注入制御●冷却水温度●復水器水位●水素ガス温度●循環水可変翼

etc

監視入力/シーケンス制御装置

●警報監視●マスタシーケンス

制御●配開装置制御

<中央操作室>一般業務用LAN

(ネットワーク)

保護

インタロック

タービン

監視計器励磁装置

ファイア

ウォール

運転記録データサーバ

運転記録ゲートウェイ

プリンタ

(2U) (3U)

共通計算機・運転日誌作成

・ユニット起動停止制御・スケジュール・性能・寿命消費計算

・燃料データ管理・環境データ管理・運転記録装置へのプラントデータ伝送

<自動化コンソール> <定検コンソール><当直長机>

OPS OPS OPS OPS OPSスクリーンコントローラ OPS OPS/共通計算機

LCD LCD LCD LCD LCD LCD LCDLCD

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る。

 OPSは多重化され信頼性は高いが,万一の故障を考

慮し,ユニットの安全停止を前提にハードスイッチを設

けている。

 ②監視機能

 従来,中央盤に設置していた指示計については,

VDUの系統図画面に,また,記録計については,VDU

のトレンド表示画面に,記録保管については,運転記録

データサーバにそれぞれ移行されている。

 また,中央盤のサイズを決定する重要な要素の一つで

あった警報窓も,大幅な集約化がはかられている。全て

の警報項目を重故障と軽故障に分類し,その集約を数個

の警報窓に割り当てる。警報が発信するとオペレータは,

鳴動と警報窓の色により,警報発信の重要度を察知し,

同時にLCDに表示された,具体的で詳細な要因を確認

することで,迅速な処置対応を行うことができる。

 情報の共有化を目的に,大型モニタを設置している。

LCD表示画面と同機能に加え,現場画像情報等を4画

 ③その他

 起動停止や負荷変化などの主要イベント時に,音声を

面表示など任意に切替え監視することができる。

 用いて告知する音声通報装置があり,特にオペレータ

が注意を払うべきポイントを知らせる。

 (3)自動化コンソールおよび補助制御盤の機能

 自動化コンソールと補助制御盤の機能について,その

一例を以下に紹介する。

 ①自動化コンソール

 自動化コンソールは,オペレータコンソールとも呼称

されているように,オペレータが常時在席し運転操作・

監視を司る盤であり,ユニット設備や共通設備を操作・

監視するLCD数台で構成されている。

 ユニットの起動停止は,制御装置と計算機により全自

動化されており,オペレータはLCD画面上の自動化進

行許可ボタンを指示通り(ボタンのフリッカーもしくは,

メッセージに従って)クリックすることにより,目標と

する出力まで到達することができる。

 したがって,自動化システムにより順調に起動停止が

進められている限りにおいては,オペレータの業務は状

況監視が主体となっている。

 ユニット起動停止時の監視はLCD2~3台を使用し,

通常の負荷運転中は1台を標準に設計されている。

 VDUは主に下記の表示機能を有している。目的の画

面表示を行うには,画面上で該当するユニットボタンを

選択後,それぞれの機能を選択することで表示が可能に

なる。

・自動化画面

 自動化進行状況を表示するとともに,自動化進行時の

各種メッセージを表示する。

・警報画面

 警報発生時に,警報要因メッセージを表示する。

・系統図画面

 発電プラントの機器系統や運転状況をグラフィック表

示する。

・トレンド画面

 予め設定されたデータやオペレータの任意選択データ

を,トレンドグラフ等に表示する。

・制御ロジック画面

 警報メッセージなどから該当する制御ロジックを表示

する。

 ②補助制御盤

 補助制御盤は,緊急操作スイッチや防災設備の操作監

視機器が配置され,VDU操作監視機能のバックアップ

として位置付けられている。

 VDUでの操作・監視は画面上で選択操作を行った後

に表示される事となり,目的の操作監視画面にたどり着

くには,若干の時間を要する場合がある。

 そのため,緊急や防災関係の操作・監視項目について

は,即応性を重視し,補助制御盤にハード機器を配置し

ている。

 近年,計算機やネットワークの信頼性が向上したこと

と,経済的な合理性からハード機器によるバックアップ

機能を設けない回路も設計されている。

 補助制御盤の機器配置は,オペレータや当直長が座位

の状態で,監視が容易な位置である,中段に大型モニタ,

上部に数個の警報窓,最上部に構内監視用モニタを配置

し,下部には監視の必要が無い,ユニット緊急停止スイッ

チ等を設けている。

 (4)VDUによる運転監視

 プラント監視は少人数によるVDU監視が主流にな

り,プラントの運転・操作・監視の要として,その機能

の高度化がはかられた。

 VDUの操作面においては目的の操作項目画面への速

やかな展開,プラント状態把握の迅速化といった点に留

意し開発された。

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 VDU導入時は,従来のハードスイッチ操作からの移

行であり,オペレータが慣れた指操作から違和感無く移

行するため,赤外線方式によるタッチスクリーンが採用

された。しかし,操作時の反応感度や画面上の情報密度

の優位性から,パソコン操作本来のマウスオペレーショ

ン方式が主流となった。

 また,LCD画面サイズも従来の21型(4:3)から,

23型(16:9)に変わり,解像度の向上と共に,一画

面上に表示できる情報量が大幅に増え,警報発信時の要

因等が詳細に表示でき,対応処置の迅速化に寄与してい

る。

 従来,VDUはユニット毎に設置されており,他ユニッ

トの監視を行う場合は,当該LCDまで席を移動してい

たが,近年は,同じLCDで多ユニットの状態表示を可

能にし,利便性を向上させている。また,OPC毎に独

立してネットワーク接続を行っているので,信頼性の高

い設備になっている。

 新たな機能面では,警報発信時などに制御ロジック図

の確認を要する場合,従来は入出力リストやロジック図

等の机上確認と,席を移動し制御装置用保守ツールで確

認を行っていたが,新機能では,警報メッセージから該

当する制御ロジックを同LCD画面上(制御装置用保守

ツールとデータ連携)にポップアップ表示を行うことが

でき,該当ロジック確認までの時間短縮および図面確認

間違いによるヒューマンエラー防止に役立っている。

 最近のVDUマンマシン対話機能の画面構成と各エリ

ア機能例を以下に述べる。

 ①マンマシン対話機能の画面構成例

 LCD画面は,オペレータが迅速に判断できるよう,

目的毎にエリア分けを行った画面構成を基本としてお

り,下記の4つのエリアに分かれる。基本画面の各エリ

アを図3に,画面構成例を図4に示す。

・トップエリア

 操作対象ユニットの選択状態,ユニットの運転状態,

最新警報メッセージ,日付,主要プロセス値を表示する。

・対話操作エリア(4画面表示)

 系統図やトレンド等任意選択した画面の4画面表示を

標準とし,必要により拡大縮小ができる。

・機能選択エリア(ボトムエリア左)

 機能選択するためのプルアップメニューを表示する,

使用頻度の高い機能は専用ボタンが配置されている。

・画面操作エリア(ボトムエリア右)

 対話操作画面の拡大縮小操作,大型スクリーンに転写

操作,画面のハードコピーを要求するボタンを配置して

いる。

 ②マンマシン対話機能の画面展開例

 画面の展開や呼び出しの方法は,ボトムエリアの機能

選択メニューからプルアップメニューを呼び出し目的の

326

図3 基本画面の各エリア

ボトムエリア

トップエリア

対話操作エリア

年月日時刻

発電所出力

大気温度

ANN表示********************

除外

定修 MW MW 定検 MW

1号 2号 3号 4号共用

画面2画面1

画面3 画面4

全機能

選択系統図

4画面

表示トレンド 自動化 サブループ 印字情報 保守サービス 上位メニュー 前画面 次画面 大型スクリーン ハードコピー

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図4 基本画面の構成例

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機能を選択する。選択された画面は通常画面の他,ウィ

ンドウ画面も表示される。これらの画面から,さらに詳

細画面への展開も可能になっている。

 全機能選択ボタンからの呼び出し選択方法例を図5に

示す。

 マンマシン対話操作は,マウス操作で全て行うことが

可能になっている。キーボード入力も用意されているが,

数値入力が必要な箇所は,画面上のプルダウン機能から

数値をマウス選択することで,入力可能になっている。

 また,右クリックのショートカットメニューも用意さ

れ,画面呼び出し等の操作回数を少なくすることも配慮

されている。

� (5)VDUオペレーション

 VDUオペレーションは,調節制御のステーション操

作,弁の開閉操作,機器の入・切操作をLCDに表示し

た操作画面で行うことである。

 系統表示画面から目的操作までの選択方法例を図6に

示す。

 まず,操作対象のユニットを選択するが,ユニット名

称と共にユニットカラーがそれぞれ決められており、

ヒューマンエラー防止の観点から,それらを確認しなが

ら操作を進める。

 操作画面の自動・手動切替え等のモード切替えの際は,

モード選択後,再確認するための確認ボタンをクリック

する二段アクションとなっており,これもヒューマンエ

ラー防止機能の一つである。

328

設備区分 機能区分 個別機能

共通、ユニット プラント監視 トリップシーケンス

トレンドグラフ表示

経過値データ収録

振動データ収集

モーダル円表示

ets

一覧サービス データ一覧

警報点一覧

データ設定一覧

不良入力点一覧

ets

プラント管理 運転日誌

環境計算

積算値

性能計算

ets

CRTオペ一覧 操作端一覧

異常一覧

手動一覧

トリップ一覧

ets

年月日時刻

発電所出力

大気温度

ANN表示********************点検 MW 定検 MW

除外

1号 2号 3号 4号共通

rpm

画面1

全機能

選択系統図

4画面

表示トレンド 自動化 サブループ 印字情報 保守サービス 上位メニュー 前画面 次画面

大型

スクリーンハードコピー

共通

1号

2号

3号

機能1

機能2

機能3

個別機能1

個別機能2

個別機能3

①②

図5 全機能選択ボタンからの呼び出し選択方法例

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図6 系統表示画面から目的操作への選択方法例

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 目的の操作画面を表示する初期表示画面は系統表示画

面のほか警報監視画面やサブループ進行画面等,いずれ

の画面を選択中でも,目的の操作画面表示は速やかにで

きるようになっている。また,操作時に必要な情報を,

操作フレーム画面表示内のボタン選択により,関連する

系統図やトレンドグラフ,ロジック図をウィンドウ画面

で表示できる機能となっている。

 (6)共通計算機機能

 共通計算機の機能は,従来は分散設置されていたユ

ニット計算機や環境データ処理計算機,燃料データ処理

計算機,高速故障記録収集装置等の機能を一つの計算機

に集約したもので,発電所の統括的計算機である。

 そのため,設備の重要性から計算機の演算部や重要

データの入出力部,ネットワーク部は,冗長化がはから

れている。

 共通計算機の主な機能一覧を図7に示す。

 (7)大型モニタ

 70インチ~110インチ程度の大型モニタは,中央制

御室のオペレータや当直長席から一番見やすい位置で補

助制御盤の中央部に設置されている。

 従来の設置目的は,中央盤上の指示計・記録計を読み

取りに行くことなく,離れた場所から複数のオペレータ

が同時に必要情報を共有することであった。

 現状では,オペレータが監視する全ての情報はVDU

で表示されているので,通常運転監視においては大型ス

クリーンの必要性はないと言えるが,トラブルや災害時

に必要とするプロセスデータ情報や現場画像を効率よく

共有監視し,迅速な対応を行うことを目的に設置されて

いる。

1.4 その他の監視・記録装置(システム)

 計算機機能以外の中央操作室で可能な監視・記録装置

の一例を以下に示す。

 (1)運転記録データ利用システム

 運転記録データ利用システムは,定期的に共通計算機

より送られてくるプラントデータ,各種日誌データ,メッ

セージデータおよび環境データ等を,数年間にわたり大

容量のデータを保存する。そのデータを一般業務用LA

Nに接続した業務端末より,社内の全火力機のプラント

データ他を横並びで検索など,多角的に使用できるシス

テムである。

 運転記録データ利用システム概略例を図8に示す。

 運転記録データ利用システムの保存機能と,計算機

VDUのトレンド機能により,中央操作室から記録計の

設置を不要とした。これにより,盤サイズの縮小や保守

管理(チャート・インク入替え,定期点検)の軽減がは

かられた。

 業務端末でのデータ利用は一般ブラウザで可能であ

り,業務端末に専用ソフトウェアのインストールを行う

必要はない。必要な機能(アプリケーションソフト)は,

WEBアプリケーションサーバ上に搭載し,サーバ側で

実行される。

 (2)構内監視テレビ

 構内監視テレビシステムの設置目的は,地震,台風お

よび豪雨等の一般災害,ならびに火災,危険物漏洩事故

およびクラゲ襲来時等において現地を迅速かつ的確に把

握することと,平常時においても,防爆対象となるNG,

油,高圧ガスおよび化学薬品取扱い設備等の全域を確認

することである。

 また,少人数体制下の監視業務を補うため,各大型ポ

330

分  類 機  能 分  類 機  能

CRTオペレーション CRTオペレーション 定期点検保守 定期点検保守

プラント監視 トレンド表示 ネットワーク伝送 制御監視ネットワークデータ

一覧サービス 運転記録データ利用装置データ

警報監視 燃料取引テータ

事故解析(高速故障記録) 大気監視伝送装置データ

タービン振動 自動火災報知機データ

大型スクリーン表示 タービン振動解析装置データ

グラフィック表示 設備管理システムデータ

プラント管理 運転日誌

積算値サービス

ボイラ・タービン寿命消費率計算

性能計算

起動損失計算

燃料消費管理

環境データ処理

図7 共通計算機の主な機能一覧

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ンプ類の起動停止時の監視や,通常運転時の軸受け部潤

滑油状態の監視を行う。

 モニタテレビは補助制御盤上部に配置し,監視が必要

な箇所の映像を順番に映し出す。また,ガス検知器や火

災感知器等の各種センサが動作した場合,センサ動作と

連動し自動で対象箇所の映像をモニタ表示する機能に

なっている。

 監視の用途に応じて一般的な工業用カメラ以外に,高

感度カメラ,赤外線カメラ等の特殊カメラの採用や,画

像処理による警報監視機能など,さまざまな工夫がなさ

れている。最近では,安価なウェブカメラを使用する例

もある。

 主な監視対象箇所は以下の通り。

 ①油・絶縁油使用箇所

 ガスタービンエンクロージャ内,軸受け油タンク周辺,

密封油装置周辺他

 ②高圧ガス関連箇所

 水素ボンベ室,アンモニア設備他

 ③化学薬品関連箇所

 純水装置薬品タンク周辺,排水処理装置薬品タンク周

辺他

 ④設備の状態監視

 給水ポンプ周辺,循環水ポンプ周辺,排煙監視,取水

口設備,炉内燃焼状況監視他

 (3)タービン監視計器

 高速回転をするタービン軸と車室の間隙は非常に狭く

熱的な膨張の状態,タービン軸の湾曲や振動の状態など

を,起動停止の過程および運転中監視する必要があり,

一般的に次のような監視計器が設置されている。

・回転速度:タービン軸の回転数

・�弁開度:蒸気加減弁を動作させるカム軸の回転角度な

ど加減弁開度を表わすもの

・�偏心:タービン軸の曲がりに起因する軸中心が回転中

心に対し振れる幅

・�伸び・伸び差:タービン車室の軸方向の伸び,車室と

軸の相対的な伸びの差

・�振動:タービン,発電機の軸受または車軸の振動の振

れ幅

・�軸位置:蒸気の推力によるタービン車軸における軸方

向の相対的変位

・�タービン金属温度:起動停止時や負荷変化時における

タービン各部の金属温度

 ①振動監視装置

 タービン発電機振動監視装置は,タービン,発電機の

振動に起因する重大事故を未然に防止するため,異常振

動を検知すると警報を発生しオペレータに知らせる。さ

らに状況が悪化しトリップ域に入るとタービンをトリッ

プさせる機能を持っている。

 (4)電力系統現象記録装置

 電力系統の安定運用においては,電圧や周波数に対す

る系統特性を把握することが重要である。特性を的確に

把握し潮流運用の限度や負荷しゃ断量を正しく設定する

ことは,系統安定運用に不可欠である。そこで,系統特

性を把握できる電力系統現象記録装置の設置を行ってい

る。

 従来はペン書き式の自動オシログラフであったが,現

在はネットワーク対応の計算機システムで構築されてい

る。

331

図8 運転記録データ利用システム概略例

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火 力 原 子 力 発 電

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May 2015

 (5)防災監視盤

 迅速な対応が必要な防災機器についてはVDUでの操

作化は行わず,ハードスイッチとモザイクパネルで構成

した,構内防災系統表示パネルを防災監視盤に構築して

いる。これは,少人数による防災対応を考慮し,一括し

た監視操作のもと,迅速な対応を行うために設けられた

ものである。

 防災監視盤には消火ポンプ,非常用ディーゼル消化ポ

ンプ,泡消火設備,粉末消火設備等の起動と停止および

表示,系統上に表示した火災表示,ガス検知,漏油検知

等の警報表示を設けている。

2.現場監視盤(装置)

 現場監視盤や現場制御装置は,少人数運転体制に対応

して,中央操作室での集中監視操作化に移行され,個別

警報要因やプロセスデータ指示値や通常運転に必要な遠

隔操作は全て中央操作室のVDUで行えるようになって

いる。そのため,計算機へのデータ伝送中継盤の役目も

担っている。

 現場(ローカル)盤の例を以下に示す。

2.1 ガス検知盤

 ガス検知盤はガス検知器を設置した場所や,ガス濃度

が一つの盤で確認できるようにしたものであり,計算機

へのデータ伝送中継盤としても機能している。ガス濃度

が,ある規定値以上になると,中央操作室のLCD画面

に警報表示と指示値を表示するようになっている。

 (1)ガス検知器

 危険なガスが漏洩し滞留しやすい場所であるタンク廻

り,バーナ廻り,ポンプ廻り,調整弁廻りや底部などに

ガス検知器センサを設置し,万一漏洩があった場合に危

険濃度以下で警報を発信させる装置である。

 ガス検知器の設置場所,設置点数などは使用燃料や設

置場所により異なり,図9に,その使用分類を示す。

 測定方法には熱線型半導体式や接触燃焼式,半導体式

などがある。

 ガス検知器は,これら燃料ガスの滞留を監視する目的

の他に,水素ガス,アンモニアガス等の万一の漏洩があっ

た場合に備えて必要な箇所に設置している。

2.2 水質管理計器

 火力プラントで使用される水質管理計器として電気伝

導率計,pH計,溶存酸素計,溶存水素計,ヒドラジン計,

シリカ計,濁度計,全鉄計などがある。これらの計器に

より系統内の水質を常時監視し,水質が基準値をはずれ

た場合は警報を発信し必要な処置をとる。また,導電率

計,ヒドラジン計は薬注ポンプの自動制御を行うために

も使用される。各計器の測定点および目的等を表1に示

す。

2.3 検塩装置

 復水器の細管漏洩を早期に発見するためにホットウェ

ルの水を検塩ポンプで循環し,導電率計で常時監視して

いる装置である。検塩装置により海水の漏洩が発見され

た場合は漏洩の程度や個所の確認を行い,復水器の片側

332

図9 ガス検知器の使用分類

屋外

自然通風が考えられるので滞留が少なく検知点数も減少する。

屋内

屋外に比べて滞留が予想される為、検知点数も増加する

危険源より上部漏洩ガスの蒸気密度が空気より小さく、拡散性に富んでおり滞留しにくい。

危険源より下部漏洩ガスの蒸気密度が空気より大きく、拡散性に乏しいので底部等に滞留しやすい。

検出器の設置位置設置場所による設置点数 使用燃料 使用目的

原油

ナフサ

メタノール

天然ガス

プロパンガス

ブタンガス

BFG

COG

可燃性ガスの検知

COなど人体に有毒なガスの検知

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Ⅰ.運 転 概 要

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Vol. 66 No.5

停止操作や脱塩装置運用変更,薬注ブロー等を適切に実

施する。

参 考 文 献

(1)火力原子力発電技術協会:火原協会講座「計測制

御と自動化」火原協会講座「ボイラ」火原協会講座「燃

料および燃焼」火原協会講座「タービン・発電機」

  入門講座[計測と制御](平成21年度改訂版)第

Ⅴ章コンバインドサイクルの制御Vol.�60 No.8 

Aug.�2009

333

表1 計測項目や計測展とその目的

計測項目 対 象 水 測 定 点 管理事項 目  的

分 析 計 測 室

電気伝導率 ホットウェル水 ホ ッ ト ウ ェ ル 出 口 水質変化監視 ・海水漏洩検知および回収ドレンの復水汚染の監視復 水 復 水 ポ ン プ 出 口 水 質 監 視 ・検塩計との2重管理

水質変化監視 ・�起動時復水器停止中に侵入した残存ガスにて指示上昇するが,指示の下降傾向,pH値より漏洩判断する。

給 水 脱 気 器 出 口 水質変化監視 ・給水の純度,薬注処理後の水質確認エ コ ノ マ イ ザ 入 口

ボ イ ラ 水 ド ラ ム 水質温度監視 ・全固形物量の監視,フローの判定飽 和 蒸 気 水質変化監視 ・純度低下とキャリオーバの監視過 熱 蒸 気再 燃 蒸 気

純 水 補 給 水 純 度 監 視pH 復 水 復 水 ポ ン プ 出 口 適 正pH保 持 ・復水系統の腐食防止

給 水 エ コ ノ マ イ ザ 入 口 〃 ・給水  〃ボ イ ラ 水 ド ラ ム 〃 ・�ボイラ内処理薬品量過不足判定,フローの判定

溶 存 酸 素 復 水 復 水 ポ ン プ 出 口 脱気効果確認 ・復水の脱気状況,適正薬品量の判定脱 気 器 入 口 〃 ・脱気器の性能確認,HPヒータの腐食防止脱 気 器 出 口 〃 ・        〃低 圧 ヒ ー ダ ト レ ン 濃 度 監 視

ヒドラジン 給 水 エ コ ノ マ イ ザ 入 口 適正濃度保持 ・適正薬品量の判定シ リ カ ボ イ ラ 水 ド ラ ム 濃 度 監 視 ・キャリオーバの防止

蒸 気 飽 和 蒸 気溶 存 水 素 蒸 気 過 熱 蒸 気 濃 度 監 視 ・�過熱器管のオーバーヒートの検知と相互の指示比

較にてタービン内部事故の監視再 燃 蒸 気 〃濁 度 復 水 復 水 ポ ン プ 出 口 濃 度 監 視 ・起動工程の監視

給 水 脱 気 器 出 口全 鉱 エ コ ノ マ イ ザ 入 口

ド レ ン 低 圧 ヒ ー タ ド レ ン高 圧 ヒ ー タ ド レ ンウォータセパレータタンクドレン

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火 力 原 子 力 発 電

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May 2015

1.運転支援システム

1.1 はじめに

 火力発電を取り巻く近年の状況変化としては,需給運

用面での変化(ミドル・ピーク化),コンバインド火力

比率の増大,燃料の多様化,経年設備の増大などがあり,

電力自由化に伴う収支改善のためのさらなるコスト低

減,地球温暖化の懸念やCO2削減に対応したIGCC

(Integrated�Gasification�Combined�Cycle)発電の実

機検証,CCS(Carbon�Capture�and�Storage)の検

討など,様々な社会的に配慮すべき事柄も山積している。

 しかし,電力系統運用上の火力電源に期待される役割

は,社会情勢の急変による電源構成比率変化に対応でき

る電源バッファ機能,昼夜の需要変化や太陽光,風力な

どの負荷追従の困難な電源を補う高い周波数調整機能な

どがあり,今後しばらくは変わることはないと考えられ

る。

 このような状況下で,運転員には安全・高効率運転が

求められることから,プラント状態監視や起動停止操作

を支援する機能として「計算機システム」が構築されて

いる。

 一方,保守に係わる課題として建設後30~40年を迎

える経年火力のトラブル増加がある。経年火力は効率が

低いため低稼働となっているものの,他電源トラブル時

の代替えへの期待と設備の使い切りの両面から,リプ

レースされず夏季の重負荷時にのみ運転する場合があ

り,その際のトラブルが高稼働プラントに比較して多い

ため,設備診断技術や予兆把握による適切な保守管理が

求められている。

 運転中設備の状態診断監視をはじめとする予防保全技

術は,1990年代に過大な期待が集まりAI(Artificial �

Intelligence;人工知能),ファジー理論,メンバーシッ

プ関数などが一部適用されたプラント異常/設備診断装

置,運転支援装置の導入が,いくつかの発電所で部分的

に行われた。これらの装置は10数年使用されたものの,

装置劣化に伴って更新されることはなく拡大・継続的な

導入には至っていない。

 トラブル予兆管理やプラント性能低下検知の手法とし

ては,プラント履歴データ傾向管理が有効かつ確実であ

り,「運転記録データ利用システム」が各社に導入され

ている。更にこれらの膨大な運転データをビッグデータ

として取扱い,故障の予兆検知や予防保全に利用する手

法が開発され,一部の原子力プラントに導入されるなど

拡がりをみせており今後の動向が注目される。

 本項では火力電源の運転支援機能を担う,計算機シス

テムおよび運転記録データ利用システムを含んだ発電所

運転管理システムの概要について述べる。

1.2 計算機システム

 (1)計算機システムの機能

 火力発電所における計算機システムは,単なるデータ

ロガに端を発し,現在では自動化システムの中心的役割

を果たしている。

 図1に計算機システムがどのように発展してきたかを

示す。

 計算機システムの機能は,プラントの状態監視に関す

るもの,起動・停止操作に関するもの,そして,データ

管理・高効率運転に関するものから成る。

 (2)起動・停止操作支援

 計算機によるプラントの起動・停止自動化システムは,

次の事項を目標として発展し,現在では,�海水ポンプ起

動から目標負荷到達まで,また通常運転時の負荷増減そ

して海水系統の停止までと全自動化を達成するに至って

いる。

 a.安全性・信頼性の向上

 b.省力化による経済性確保

 c.機器の寿命延長および事故の未然防止

 d.高効率運転の確保

 一方,制御装置のディジタル化により,自動化システ

ムはユニットネットワークを中心として総合ディジタル

化システムとして,図2に示すように,統一のとれた構

成となった。

 殆どの操作が自動化され,自動化システムの動作は,

機器操作メッセージとしてCRTもしくは音声通報装置

により,運転員が把握できるようになっている。しかし

Ⅰ.運 転 概 要4.運転支援

334

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Ⅰ.運 転 概 要

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Vol. 66 No.5

ながら自動化の発展による少人数運転体制化により,1

人当りの監視範囲は増えており,次のような問題点が存

在する。

 a.自動化システムが渋滞した場合の対応が困難。

 b.�めったに操作しない自動化から除外されている操

作の負担が大きい。

 (3)プラント起動スケジュールの最適化

 近年の火力発電プラントは負荷調整用としての役割が

強く,起動・停止が頻繁となるにつれ,電力供給の安定

性,経済性の面から従来にも増して起動時間の短縮と起

動完了時刻の高精度化が望まれている。

 この課題に対する従来技術としては,オフラインスケ

ジューリングとオンライン制御による方式がある。前者

の方式としては,プラントの温度レベルに応じて,予め

定められた複数の起動モードの中から一義的に起動スケ

ジュールを決定する方法や,メタルマッチングチャート

を用いて起動スケジュールを作成する方法が採られてい

る。また後者の方式としては,ボイラ動特性の自己回帰

335

図1 火力発電所における計算機システムの機能推移

図2 自動化システムの変遷

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May 2015

モデルとタービン熱伝達モデルを用いた熱応力予測によ

り,昇速率および負荷変化率をオンラインで逐次最適化

する方法がある。

 上記オフライン方式によると起動完了時刻は正確であ

る反面,起動時間は長くなりがちである。また,オンラ

イン方式によると起動時間の短縮には有効であるが,起

動完了の時間的正確さに欠ける点がある。

1.3 発電所運用管理システム

 火力発電所の運営目標は,①設備信頼度�②環境性能�

③熱効率などの維持・向上に大別される。これらの目標

を実現していくための手段として,設備の運転・保守に

ついての対策を行うが,これら対策の実施にあたっては,

①運転中のプロセスデータ,�②停止時に行う点検データ

の解析・評価が必要となる。

 近年,これら運転中のプロセスデータ,停止時の点検

データの集積・解析について「発電所運用管理システム」

による支援が行われている(表1)。

 (1)�運転状態値等のオンラインデータを扱う業務の支援

 火力発電所の運転業務は運転操作に加え,実データに

基づく設備管理,法令に基づく適切な運用管理が求めら

れており,効率管理,設備診断,運用管理などをより合

理的かつ,きめ細かく適切に実施しなければならない。

本業務における計算機の役割は,具体的には性能試験・

起動停止損失のデータ処理など,火力発電所における膨

大なプロセス情報の処理作業を合理化するとともに,プ

ラントの効率向上や設備診断,運用管理のための,より

きめ細かな情報提供を行うことにある。

 運転状態値などのオンラインデータを扱う次の業務に

ついて,本システムによる支援が行われている。

 ①熱効率管理業務

 周期的な運転状態値の蓄積と,これらに基づくユニッ

ト性能試験,起動停止損失管理,運転日誌作成など。

 ②運転データ管理業務

 時系列に記録された各種の運転データをもとにした設

備トラブル原因分析,機器の劣化管理,タービン・ボイ

ラの寿命管理,主機の各部温度圧力超過時間管理,さら

にデータ加工によるプラント状態の統計管理,NOx�な

どの環境管理。

 ③本社ホスト伝送データ管理

 本社ホスト計算機で保安日誌,発電実績処理に必要な

運転・停止などのデータ伝送および保存。

 ④ユーティリティ運転実績など

 水/排水処理装置などユニット共通設備の運転実績

データの収集および保存。

 (2)�点検データのオフラインデータを扱う業務の支援

 これまでは,設備補修に係わる業務に対する計算機に

よる支援は,工事等の業務運営を中心とする定型作業を

対象にしたシステム化が進められてきたが,現在では設

備のより高度な運用に対応し,かつ将来の運用見通しに

基づいた設備保全計画・運用計画を立案するための判断

材料の提供が求められている。

 このような高度な情報を提供するためには,一火力発

電所だけでなく,火力部門全発電所の膨大な量の運転・

設備保全管理データを基礎としたシステム構築が必要で

あり,これには直接設備を運用管理している発電所での

的確・効率的な情報収集と,その情報に基づいた的確な

判断の二つを主眼としたシステム構築も重要となる。

 本業務におけるシステム導入のねらいは,次のとおり

である。

 a.安定供給を目指して

 設備保守履歴,設備劣化傾向およびトラブル情報等に

より設備状況を把握し,予防保全を主体とした類似機器

への水平展開等,早期対処による設備信頼度の維持向上。

 b.費用低減を目指して

 設備点検時期の一定インターバル管理(TBM:Time�

Based�Maintenance)から設備コンディション管理

(CBM:Condition�Based�Maintenance)への転換,

適時・的確保守の実施。

336

表1 各システムの基本的担務機能

システム 担務機能 システム構成例本店業務処理システム 業務処理支援 ホスト計算機 本店発電所業務処理システム

発電所運用管理システム設備管理システム オフラインデータ処理支援運転記録データ利用システム オンラインデータ処理支援 アプリケーションサーバ,データベースサーバ 発電所ユニット制御システム 計算機システム オンライン監視支援

自動制御ユニット計算機ボイラ・タービン制御装置等

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Ⅰ.運 転 概 要

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Vol. 66 No.5

 c.効率的,迅速かつ適正厳格な業務処理

 多種多量な設備情報の一元管理と業務処理の効率化実

現などがある。これらを実現するために,計算機として

具体的に次の手段によって支援する。

 ①設備情報管理

 対象設備の仕様,点検・取替等の工事履歴,点検計測

データ,管理値等の設備台帳管理

・設備仕様

・設備図面,文書

・点検施工範囲

・点検計測データ

・管理値等設備診断諸元

・設備保守履歴

・作業予定表

 ②設備図面管理

 設備図面,技術文書等をCAD/イメージ情報やデー

タとして管理

・設備構造図,機器配置図,配管系統図等

・運用保守技術連絡票,点検・改造・修理技術情報等

 ③設備診断支援

 点検計測データを基にした設備状態の定量的な診断

・傾向管理

・余寿命管理

1.4 発電所運用管理システム構築例

 前節では発電所の技術業務について,運転状態値など

のオンラインデータを扱うものと,点検データなどのオ

フライン業務を扱うものに分けて説明したが,本節では

前者を運転記録データ利用システムの例で,後者を設備

管理システムの例で説明する。

 (1)運転記録データ利用システム

 本システムで使用するプロセスデータは,ユニット計

算機から入力する。ユニット計算機は発電日誌作成機能

を主体としたデータログから,プラント全自動化を行う

システムまで多岐にわたり,入力点の総数も前者では数

百点だが,後者では1万点余りに及ぶものまである。こ

れらデータを取り込むため,ユニット計算機と運転記録

データ処理計算機をネットワークにて接続する。システ

ム構成例は,前項「3.監視記録」図8参照。

 ネットワークを通じて定期的(例:1分ごと)に伝送

されてくるデータはディスクアレイに10年以上保存さ

れる。かつての磁気ディスクは一時保存用で数ヶ月後に

データが間引かれて(例:10分ごと)光ディスクにデー

タ保存されることが一般的であったが,近年の急激な磁

気ディスク小型大容量化と価格低減により現在の形と

なった。

 磁気ディスク技術は日々進化しているので,更なる

データの高密度化(数秒単位の収録)や保存スパンの長

期化が図られつつある。

 (2)設備管理システム

 設備保全計画・運用計画を立案するには,それぞれの

設備における膨大な保守履歴や設備情報を収集すること

が重要になっている。また,対象となる設備は主タービ

ンなどの大型機器から計測器などの数が多くある小型機

器まで様々あり,管理方法が異なる場合がある。

 設備管理システムには,設備保全計画・運用計画の立

案をサポートするために,点検修理工事はもとより日常

小修理,設備図面など当該設備関係する情報を一元的に

紐づけることができ,かつ,関連する運転実績,過去の

不具合情報,設備診断結果なども容易に活用できる機能

が搭載されている。

5.運転記録データ利用システム

 (1)システムの概要

 火力発電所における運転記録データ利用システム(以

下,本システム)の業務は,プロセス情報,操作情報を

使用して運転管理業務の効率向上,トラブル時の原因解

析に寄与することである。

 図4にWeb上でのメニュー画面例を示す。

 図5に,本システムの位置づけを,主に計算機システ

ムを中心として示す。本図に示すとおり,火力発電所に

おける計算機システムは,その取り扱う情報の種類ごと

に階層構造化されている。この中で,本システムはユニッ

トごと,あるいは共通設備対応で設置された監視制御を

担当するユニットレベルの監視制御システムの上位に位

置する。その主な業務としては,監視制御システムで扱

う運転履歴情報を収集・蓄積し,ユーザの様々な目的に

あった形に加工して提供することである。

 したがって,ユニット計算機,共通設備計算機が主に

実時間データを扱っているのに対して,本システムでは

主に経時的データを対象とし,数年にもわたる分単位の

データを極めて広範囲かつ大量に扱う点に特色がある。

 (2)システムの機能構成

 a.伝送/収録処理

 発電所内各設備からのプロセス情報を周期的に伝送入

337

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力し,磁気ディスク上のデータベース上に格納してゆく。

 b.検索処理

 磁気ディスク上にデータベースとして蓄積されたデー

タを,端末からの要求に応じて検索し,目的の形式に編

集してユーザに提供する。

 c.データ編集処理

 各発電所では種々の日常業務が行われているが,これ

らの中にプロセス情報を使用して行う業務がある。代表

的なものとしてはプラントの性能(熱効率等)管理や起

動停止損失管理などが挙げられる。これらの機能におい

ては目的とする業務に応じて各設備から収集されたプロ

セス情報を編集・加工して提供する必要があり,本処理

においてこれを行う。

 近年はこれらデータの表示用に汎用表計算ソフトウェ

アを利用することが多い。

 d.本社データ伝送処理

 各発電所に設置された本システムで収集したデータの

中から本社で管理が必要な主要なプロセスデータおよび

性能数値などの情報(「発電実績データ」と称している)

を,社内LAN�を経由して本社計算機に伝送する。

 e.データの保存

 収集されたデータは,運転履歴情報(プラントデータ),

管理情報(運転日誌等)共に10年以上にわたってシス

テム内に保存される。したがって,そのデータ容量は数

百ギガバイトから数テラバイトに及ぶのが普通である。

 これらデータは複数のディスクアレイと呼ばれる磁気

ディスクに保存されるが,1台のディスクアレイが故障

してもデータが残される仕組みであるRAID5で構成さ

れる場合が多い。また1日に1回,1日分のデータを更

なる外部記憶媒体にバックアップ保存するようなシステ

ムも導入されている。

 (3)機能体系

 本システムは収集保存した運転記録データをもとに

様々な発電所管理業務支援を行っている。従来は標準機

能と,発電所個別機能を分けて導入した例もあったが,

発電所個別機能が発電所ごとにバラバラに統一なく導入

された結果,導入後も利用頻度の低い機能が相当数に

上ったことと,使い勝手の良い汎用表計算ソフトウェア

でのデータ加工の方が自由度が高いと気付いたことか

ら,近年では統一された最小限の標準機能のみ導入し,

データ加工・編集は汎用表計算ソフトウェアで行うシス

テムが一般的である。

 a.運転データ管理機能

 本システムに蓄積されたデータを任意あるいは定期的

に検索して,経年変化の把握や,トラブル時の原因分析

や管理情報を取出し編集する機能である。

 この範疇に分類される代表的な機能としては以下に示

すものがある。

・履歴データ検索機能

・運転データグラフ表示機能

・メッセージデータ管理機能

 以下に各々の機能の概要を説明する。

338

図4 メニュー画面例 図5 火力発電所における運転記録データ利用システムの位置付け

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Ⅰ.運 転 概 要

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Vol. 66 No.5

 (a)履歴データ検索機能

 日常使用するプラント内の検索ポイントなどの管理項

目を予め検索ファイルとして登録しておき,必要に応じ

て任意要求,あるいは実行周期を指定して自動実行する

ことにより,本システムのデータベースから検索ファイ

ルに登録されているポイントの情報を検索し,グラフ表

示または汎用表計算ソフト形式ファイルに出力する機能

である。

 汎用表計算ソフト形式ファイルに出力した場合,その

後のデータの加工・編集作業を作表ソフトウェアの豊富

な機能を使用して行うことが可能となる。

 本機能では検索したデータをもとにユーザが様々な加

工・編集を加えて最終的に目的とするグラフ・帳票を得

る作業が中心となるが,プラントトラブル解析において

は本機能で得られた経時的なトレンドグラフを直接報告

書に貼り付けて利用する例も多い。

 (b)運転データグラフ表示機能

 本システムで扱っている情報の中から,ポイントを任

意に指定して過去データのみならず現在データも対象と

してT-Yグラフ上に表示する機能である。また,汎用

表計算ソフト形式ファイルにデータを出力することも可

能である。

 (c)メッセージデータ管理機能

 ユニット計算機に不定期に印字される警報発生/復

帰,接点変化,自動化などのメッセージを本システムで

管理する機能で,時系列にメッセージを表示したり特定

ポイントの変化頻度グラフ表示が可能である。

 b.熱効率管理機能

 プラントの熱効率の動向を監視することにより,劣化

傾向の把握や整備点検計画の立案および運転方法の改善

に役立てることができる。

 管理の対象となる設備の内容は発電所ごと,ユニット

ごとに異なっているため,それぞれの設備に応じて管理

項目および手法を定めて適切に管理を行っていく必要が

ある。熱効率管理の代表的な内容を以下に記す。

・日々の発電実績・熱効率管理

・性能試験記録管理

・起動停止時の損失熱量管理

 c.報告書作成機能

 発電所では,官庁報告用,本社報告用および所内管理

用などの多種多様な報告書を作成しているが,本機能は

これら報告書のうちプロセス情報を使用してまとめる報

告書について,本システムにより任意または自動的に編

集を行うものである。

 d.本社データ伝送機能

 本社では各発電所の主要運転データを使用して全社規

模での統括的な管理を行っているが,これに必要なデー

タを本システムと本社に設置されたホスト計算機間で社

内LANを用いたデータ伝送により行っている。具体的

にはユニットごとの発電実績データを本社ホスト計算機

にファイル転送を行い,これにより保安日誌や官庁提出

用の発受電月報などの作成を行っている。

 e.その他機能

 プラントの現在値を系統図上で監視したいというニー

ズのため「系統図表示機能」を設けている例もある。そ

の他,本システムの運用方ユーザの保守に必要なユー

ティリティ機能が設けられている。

6.設備管理システム

 (1)システムの概要

 従来の火力発電所における設備の点検保守は,設備点

検時期の一定インターバル管理(TBM)が主であったが,

近年はコスト面を含めた設備状態に合った設備コンディ

ション管理(CBM)が主流となっている。よって,設

備管理システムは従来の機能に加え,CBMを支援する

機能が求められており,実装される機能としては大きく

次の4つに分けられる。

・設備情報管理

・設備図面類管理

・設備診断支援

・保全計画策定支援

 (2)設備情報管理

 設備情報管理システムは,保全管理サイクルの中で発

生する多量な情報(工事報告,点検履歴,設備図面・仕

様等)を一元管理するために設備台帳を使用し蓄積して

いくことにより,設備の状態を的確に把握し,設備の信

頼度を維持しつつ保全費用の低減,保修業務運営の継続

的改善を図ることを支援する機能となっている。

 a.設備台帳

 設備台帳は管理する設備の種類別に燃焼用空気供給

ファンなどの大型機器を管理するための台帳と,計測機

器や弁など複数の同仕様が数多くある機器を管理するた

めの台帳等がある。

 b.点検保守履歴管理

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 定期点検や日常修理等の情報は,設備台帳単位に管理

される。情報は,測定結果などの数値情報,点検結果の

良否情報や専用入力シートに記入されたファイル情報,

機器図面・仕様・写真などのドキュメント情報など様々

な形態があり,大量な情報となる。

 c.懸案事項・推奨事項管理

 定期点検を行った結果は,7(2)b.点検保守履歴管

理のとおり設備台帳単位に管理されているが,点検結果

が良好であった場合や基準値内に収まっている場合で

も,次回以降の定期点検での保守が必要な場合や,経過

観察が必要となる場合があり「懸案事項」として報告さ

れる。また,過去の点検・保守履歴を考慮した次回以降

の点検保守の計画検討に考慮すべき事項は「推奨事項」

として報告される。

 (3)設備図面類管理

 発電所で管理している設備図面類は,イメージデータ

やCAD�データとしてサーバで保管される。管理の対象

は設備図面だけではなく,完成図書や取扱説明書,技術

文書,連絡文書等も含まれる。設備図面の数は膨大にな

るため,ユニット別,設備別等体系化して管理されてい

る。

 (4)�設備診断支援

 設備稼働率の向上,保守費用の適正化のためには,設

備の状態を適確に把握し適切な時期に保守を行っていく

ことが必要不可欠である。

 設備の点検・保守の要否,実施時期等の最終判断は人

間によって行われるが,その判断の元となる情報には

様々なものがある。具体的には以下のようなものが考え

られる。

○1.7(2)cで述べた懸案事項・推奨事項

○運転中の不具合情報

○他発電所・他社等での事象を踏まえた水平展開事項

○メーカ等から発信される技術情報

○余寿命・傾向管理による情報

 a.余寿命管理

 余寿命管理は,設備の寿命消費傾向を示すことにより,

点検時期・交換時期決定の判断材料となる。例としては

主要配管の減肉傾向を把握し,次回の肉厚測定時期・配

管交換時期を決定するような際に利用される。配管減肉

の傾向は,材質によって一概に定まるものではなく,使

用圧力・使用温度・流速,およびそれらの変化の状況/

形状(直管や曲がり管等)によって異なる。

 そのため,これらの管理は,実際の肉厚測定結果を使

用して,それぞれの部位の傾向を把握し,最小必要肉厚

になるまでの年数を計算し交換時期等を決定している。

実際には一つの配管をとっても,その形状によって部位・

測定箇所は複数箇所となり,大量のデータとなる。シス

テムでは蓄積されたデータを使用し,一つの部位の複数

測定箇所の中から代表点を選定し,前回測定値との比較

からの減肉速度,および今回の測定値と減肉速度から最

小肉厚になるまでの年数を計算する。

 b.設備不具合管理

 プラント運転中に様々な不具合が発生するが,これら

が発生した際の業務の流れは概ね以下のようになる。

(a)不具合発生

(b)応急処置の実施

(c)原因追及・恒久対策の検討

(d)他プラント・類似設備への水平展開の検討

(e)恒久対策・水平展開の実施

 これらの業務を確実・円滑に実施していくために,以

下の点を考慮したシステムが構築されている。

○�情報共有:速やかに関係箇所に情報が伝わる,関係者

が確認できる

○�進捗管理:業務の流れがどこまで進んでいるのかが容

易に把握できる

○�関連システムとの連係:保全計画作策定時に当該設備

の不具合情報の収集ができる.

 (5)保全計画策定支援

 以上のような設備の点検・保守結果や診断結果等を踏

まえ,プラントごとの定期点検時期を考慮しながら各機

器の保全計画を策定する。保全計画においては,対象と

なる設備の点検保守結果,懸案事項・推奨事項,図面情

報などが設備台帳をキーとして紐付いているため,漏れ

なく抽出することができる。

 抽出した情報は,定期点検の施工範囲策定に密接な情

報となるため,工事設計(施工範囲・内容等)を行う工

事管理システムとのデータ連係も必要となる。

参���考���文���献

(1)仲居・福永・鍛冶・松本・阿部・山本・清水,「火

力発電所の運転支援システム」,火�力原子力発電�385

号(1988)

(2)〔計測と制御〕第ⅩⅠ章 発電所運用管理システム

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