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企業管理の文脈におけるドイツのストック・オプション会計制度(石川)
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〈論 説〉
企業管理の文脈におけるドイツのストック・
オプション会計制度N.Herzig / U.Lochmann の所説に基づいて
石 川 祐 二
目 次Ⅰ はじめにⅡ ストック・オプション制度の現状Ⅲ ストック・オプションの税務上の取り扱いⅣ おわりに企業管理の文脈における意味
Ⅰ はじめに
本稿は,企業の経営管理上,会計制度が戦略的に適用される形態の解明を
試みるものである。したがって,会計制度は,単に企業の状態を報告する
ための仕組みとは捉えられていない。むしろ,戦略的な意図のもとに企業に
よって利用されうる仕組みとして捉えられている。このような理解のもと,
「企業の経営管理の文脈における会計制度」につき,本稿は考察を展開する
ものである。
さて,本稿で取り上げる具体的な考察対象は,「ストック・オプション」
(Aktienoption / stock option)の会計制度である。このストック・オプショ
ンに関する法整備がドイツ連邦共和国(以下ドイツと略す)においてなされ
たのは,1998年に施行された「企業領域における統制および透明性に関す
る法律1)」(Gesetz zur Kontrolle und Transparenz im Unternehmensbereich;以
下 KonTraGと略す)を通じてのことである。その KonTraGの草案理由書で
は,ストック・オプションの機能として,「動機付け」(Motivation)の問題
が取り上げられている2)。企業の経営管理に関わる会計問題を考える上で
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の視点の一つとして,この動機付け機能は注目に値する。しかし,ストッ
ク・オプションの会計問題に関するドイツでの議論はこのことにとどまら
ない。たとえば,ストック・オプションに関する税務上の問題などについ
ても議論がなされている3)。そこで,ここでは特に,ストック・オプショ
ン制度を導入した企業側の税務に関し,ドイツの会計制度の枠組み内での
問題に焦点を当てる。具体的には,そのような問題が中心的に取り上げら
れている Norbert Herzigと Uwe Lochmannの共著論文“Steuerbilanz und
Betriebsausgabenabzug bei Stock Options4)”(「ストック・オプションに関す
る税務貸借対照表と営業支出控除」)にしたがって考察を加えることにする。
それにより,税を含めた会計制度と企業の経営管理との関係につき,明確化
を試みるものである。
では,ストック・オプション制度の現状を概略的に見た上で,Herzig /
Lochmannの所説を考察することにする。
Ⅱ ストック・オプション制度の現状
前述の通り,ドイツにおけるストック・オプション制度の成立は,1998
年に施行された KonTraGでの規定による。具体的には,つぎの三つの規定
がそれに関わるものである。すなわち,第一に,株式法第 71条第1項第8
号において,自己株式取得許容事由として株主総会決議に基づく取得が認め
られた。第二に,株式法第 192条第2項第3号においては,新株引受権の授
権可能範囲が拡張された。そして第三に,その新株引受権に関する決議に際
しては,当該引受権に関わる重要な条件について確定することを要する旨が,
株式法第 193条第2項第4号で定められたのである5)。これらの規定により,
ドイツ企業がストック・オプションを利用することが可能となったのである。
しかし,ストック・オプションに関する会計制度上の問題に関しては,整
備が完了しているわけではない。むしろ,現時点(2002年 12月現在)にお
いては,その整備が図られている最中であるといえる。具体的には,「ドイ
ツ会計基準委員会」(Deutsches Rechnungslegungs Standars Committee;以下
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DRSCと略す)によって,2001年 6月 21日に,「ドイツ会計基準第 11号草案
ストック・オプション・プランならびに類似の報酬形態に関する貸借対照表
計上6)」(Entwurf Deutscher Rechnungslegungs Standard Nr.11 Bilanzierung von
Aktienoptionsplänen und ähnlichen Entgeltformen)が公表されている。とはい
え,それが正式な基準としては公告されていないのである。したがって,本
稿で取り上げるストック・オプションの会計制度は,このような整備に向け
た議論の中における問題であることに注意を要する。
さて,本稿で取り上げる Herzig / Lochmannの所説は,この基準第 11号
草案を受けて展開されたものである7)。そのため,彼らの所説もまた,制
度的な整備の途上における議論の一つなのである。それを踏まえたうえで,
以下,彼らの所説を考察する。
Ⅲ ストック・オプションの税務上の取り扱い
Herzig / Lochmannの所説においては,ストック・オプションに関して,
それを制度上の問題として捉える場合,上述のドイツ会計基準第 11号草案
との関連のみが議論されているわけではない。すなわち,現行のドイツ税法
との関連が取り上げられているのである。ここにおいて,税法は,会計制度
の枠組みにおける重要な構成要素の一つと考えられているのである。以下で
は,そのような理解の上に立ち,ストック・オプション会計制度の問題が考
察されるものである。
(1)ストック・オプションの形態
Herzig / Lochmannは,ストック・オプションに関して,その「税
務貸借対照表」(Steuerbilanz)における取り扱いを,「営業支出控除」
(Betriebsausgabenabzug)との関係から検討している。その際,議論の前提
として,ストック・オプションを以下の三つの形態に分類している8)。
①「会社法上の基盤を伴うストック・オプション」(Stock Options mit
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gesellschaftsrechtlicher Grundlage)
②「経営上の基盤を伴うストック・オプション」(Stock Options mit
betrieblicher Grundlage)
③「計画的購入」(Programmkauf)
第一に,①会社法上の基盤を伴うストック・オプションとは,その選択権
と結びついた「履行猶予者の義務9)」(Stillhalterverpflichtung)が,増資の枠
組みにおいて発行される会社の新株と結びついた形態を意味している。した
がって,この形態おいては,その義務を果たすために「出費 10)」(Aufwand)
が生じることはないのである。第二に,②経営上の基盤を伴うストック・オ
プションとは,その選択権と結びついた「履行猶予者の義務」が,「会社財
産」(Unternehmensvermögen)の積極側記入を導く形態である。すなわち,
引き渡すべき株式を新たに作り出すのではなく,むしろ,市場に流通してい
る「自己持分」(Eigene Anteile)を買い戻すのである。そのため,この形態
において,その義務を果たすためには出費が生じることになるのである。第
三に,③計画的購入とは,自社株に関する「オプション権」(Optionsrecht)
自体を,従業員への引き渡しを目的として,第三者から購入する形態である。
この場合には,企業が負うことになる「履行猶予者の義務」は存在しない。
ただし,購入に際して出費が生じるのである 11)。
このようにストック・オプションの各形態を分類することによって,その
形態ごとに税務上の取り扱いが分析されることになる。以下,各形態ごとに,
順次その分析を追うことにする。
(2)会社法上の基盤を伴うストック・オプションに関する税務上の取り
扱い
① 商法上の貸借対照表計上に関する諸提案
Herzig / Lochmannは,会社法上の基盤を伴うストック・オプションに関
して,まずは,現在主張されている商法上の貸借対照表計上に関する諸提
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案に検討を加えている。この形態においては,その権利行使がなされたと
きに,従来の持分所有者に属する財産によって,権利行使者たる従業員へ
の報酬がまかなわれるものと考えられているという。いわゆる資本の「水
増し効果」(Verwässerungseffekt)が生じるのである。このとき,「人件費」
(Personalaufwand)が,いわば「出資」(Einlage)の過程において生じてい
るとされる。そのために,人件費に関する記帳と同時に「資本準備金」
(Kapitalrücklage)へも記帳がされるというのである。ここで,従来,出資は
「財産対象物」(Vermögensgegenstand)の増大を基本的仮定としている。し
かしながら,ストック・オプションに関しては,それが従業員の将来の労
働給付と結びつくものであるために,その労働給付に対しては,具体的な
財産対象物としての形態での請求権は存在しないという。したがって,上
述のような見解では,商事貸借対照表が従来のあり方から乖離するという
点に問題があると,指摘されているのである。また,このような問題点に
関しては,つぎの反論がなされることもあるという。すなわち,従来の持
分所有者が自らの新株引受権を放棄したことが,会社への出資にあたると
いうのである。しかし,このような主張についても,それは「転換社債」
(Wandelschuldverschreibung)に関する貸借対照表計上の商法上の解釈であっ
て,それ以外のケースに適用することについては疑問が残るとされるのであ
る 12)。
また,彼らは,DRSCの基準第 11号草案に関しても取り上げている。そ
の草案の付録 B・パラグラフ B9においては,低利子の転換社債における
「利子効益」(Zinsvorteil)部分と同様に,ストック・オプションの反対給付
である労働給付も会社の財産増大に相当するとされている。そのために,商
法典第 272条第2項第2号 13)をストック・オプションにも適用する旨が,
パラグラフ8において規定されているのである。しかし,この草案の規定に
関しては,次のような問題点があるという。すなわち,転換社債の確定的な
プレミアム部分とは異なり,ストック・オプションの発行に際しては,従業
員の特定の労働給付に関する確定した請求権が存在しないというのである。
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たしかに,DRSCもこのことを認めているというが,行使の際の出資に関す
る限りでは,次のような方法をもって反証しているという。すなわち,実
質的に発現した労働給付の価値を,「報酬期間 14)」(Vergütungszeitraum)に
わたり,その経過に応じて資本準備金へと組み入れるという方法である。そ
して,その時の労働給付の価値評価は,もっぱら付与時のストック・オプシ
ョンの価値をもってなされ,それが期間配分されるのである。ところが,こ
のような DRSCの方策は,基礎的な「正規の簿記の諸原則 15)」(Grundsätze
ordnungsmäßiger Buchführung)と衝突するものであると,彼らは指摘する。
というのも,DRSCの方法では商法上の許容性と目的適合性から乖離するの
であり,人件費(=資本準備金)として記帳された金額が労働給付に対して
実質的に与えられた報酬とは一致しないためであるという。このようにして,
彼らは DRSCの草案に関しても,疑問が残るというのである 16)。
以上のように,Herzig / Lochmannは,現在の商事貸借対照表におけるス
トック・オプション計上に関する諸提案には問題があることを指摘している
のである。このことを念頭に置いた上で,次に,税務貸借対照表上の取り扱
いについての彼らの考察を見ることにする。
② 税務貸借対照表における計上に関する問題
ドイツにおいては「基準性原則」(Maßgeblichkeitsgrundsatz)が存在する。
そのため,Herzig / Lochmanは,税法の観点からして,実質的に,商法上
の出資が税法上の出資でもあるのかということに疑問を呈する。前述した現
在の諸提案にしたがえば,会社法上の基盤を伴うストック・オプションの計
上が商法上の出資概念から乖離するために,税法上の取り扱いが問題になる
のである。ここで,税法の意味における資本会社への出資は,会社への参与
のために生じる「貸借対照表計上能力のある財産効益」(bilanzierungsfähiger
Vermögensvorteil)の贈与であるとされる。そのため,出資の対象物は,原
則的には貸借対照表計上能力のある「経済財」(Wirtschaftsgüter)であると
いう。ここにおいて,彼らは次のように主張する。すなわち,税法上の出資
概念について独自の目標を設定するためには,商法上の出資が税法上の出資
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と同一ということはなくなり,むしろ,税法上の出資概念に合致する場合に,
商法上の出資が税法上の出資にもなりうるというのである。このように,商
法上の出資概念ではなく,税法上の出資概念を中心に据えることで,彼らは
計上に関する諸提案に改めて検討を加えるのである 17)。
そこで,まずは,商法上はストック・オプションと転換社債とが同様に扱
われるとされることに基づき,転換社債の税務上の取り扱いに触れている。
このとき,転換社債の税法上の取り扱いに関しては,商法とは異なる独自の
評価もなされるという。特に,「大法廷」(Großer Senat)の判決 18)を理由の
一つとして,商法上は出資にあたるものとして資本化される低利子の転換社
債における利子効益部分に関し,税務貸借対照表上は「出資能力」(Einlage-
fähigkeit)がないとされるのである。このように,彼らは,転換社債に関す
る商法上の規定が税法上適用できないことを表明している。それをもって,
商法上は転換社債とストック・オプションが同様に取り扱われるとしても,
税務上,その規定を転換社債に適用できない以上,ストック・オプションに
も適用できないことが示されているのである 19)。
つぎに,DRSCの基準第 11号草案に関して検討が加えられている。ここ
においても,その基準草案の提案が税法上の出資にあたるものとして取り
扱い得るかにつき,問題とされている。この点に関して,彼らは,財産対
象物の不在を無視して,行使された労働給付を出資として受け入れるという
DRSCの“トリック”は,税務上,何ら効果を発揮しないと批判している。
その理由としては,会社への参与という根拠が否定されるために,持分に応
じたオプション価値で労働給付を評価・記帳することが,税務上できないこ
とが挙げられている。また,ストック・オプションの労働給付による経済的
効益と転換社債の利子効益との類似性を DRSCが強調しているものの,か
えってそのことが,上述のように税務上の出資の根拠としては不十分となっ
てしまうことも挙げられている。さらに,ストック・オプションの付与に際
しては,特定の労働給付に対する固定化された請求権が生じないため,物的
な使用権のような「経済財」は全く存在しないことも理由とされている。し
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たがって,資本会社の税法上の出資概念に関する既存の諸原則に従えば,会
社法上の基盤を伴うストック・オプションについて,DRSCの勧告を税務貸
借対照表に受け継ぐことは認められないというのである 20)。
以上のように,Herzig / Lochmannは,会社法上の基盤を伴うストック・
オプションに関する現在の諸提案が,商法上の出資概念のみならず,税法上
の出資概念からも乖離することを示しているのである。
③ 営業支出の控除税法上の出資の法律要件拡大
これまでの Herzig / Lochmannの論理においては,会社法上の基盤を伴
うストック・オプションには,出資としての性質が備わっていないとされて
いる。しかし,彼らは,出資の法律要件を拡大して解釈することにより,論
理転換を図っている。これは,営業支出の控除に関わる問題である。ここで
は,その内容を見ることにする。
まず,税法上の出資に関して法律要件が定められている目的は,次の二つ
であるという。第一に,非課税で形成された財産またはすでに課税された財
産が,営業用財産(Betriebsvermögen)へと移転された後に,新たに課税対
象とされることを防ぐという目的である。第二に,営業上生じたすべての費
用の控除を確保するという目的である。したがって,これらの目的に適う
のであれば,出資の法律要件は拡大も制限も正当化されうるというのであ
る 21)。
つぎに,ストック・オプションに関して,それが出資とは解釈されなかっ
た理由として,労働給付が経済財ではないということが挙げられる。とすれ
ば,上記の法律要件の目的が,労働給付が出資となることを妨げているので
はないのである。したがって,経済財という問題点に関しては,それを脱す
るように,出資法律要件を拡大することが考えられるという。すなわち,被
用者において課税される効益部分を出資とみなすように,解釈するというの
である。また,同時に,会社においては相応の営業支出が控除されるという。
そして,このように解釈した場合においても,出資の法律要件の目的からは
外れることがないとされる。なぜなら,課税対象となる効益部分を出資とす
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ることは利益修正であると見ることもできるが,しかしながら,労働給付は
将来の企業価値を向上させるという形態で利益として実現するため,この問
題を二重負担の回避という第一の目的に結び付けうるためであるという。ま
た,第二の目的については,ストック・オプションに関しては資本会社にお
ける「費用性の出資」(Aufwandseinlage)が適用されないために,無関係な
ことであるという。すなわち,従来の株主に水増し効果による費用負担が生
じているのではなく,従来の株主から新株主への財産移転前に,従来の株主
において財産効益が実現しているため,費用の発生とは言えないというので
ある。このとき,財産効益分は新株主となる従業員の労働報酬として課税さ
れるために,社員レベルでの二重負担の回避は,この効益を新たな持分の取
得原価とすることによって達成されるという。このようにして,出資概念を
拡張することで,会社法上の基盤を伴うストック・オプションに関し,それ
を出資とみなすことが論理付けられているのである 22)。
これまでの Herzig / Lochmannの主張に関して注意を要することは,会
社法上の基盤を伴うストック・オプションについては,出資概念を拡張する
ことを通じてのみ,営業支出の控除が導かれうるということである。すなわ
ち,逆にそのような解釈を加えない限りは,出資も営業支出の控除も起こり
えないということである。
(3)経営上の基盤を伴うストック・オプションに関する税務上の取り
扱い
① 商法上の貸借対照表計上に関する諸提案
経営上の基盤を伴うストック・オプションに関しては,履行猶予者の義
務を果たすために,自己持分の買戻しが行われることから,会社財産にお
いて負担が生じることになる。この負担は,権利行使時点の「相場価値」
(Kurswert)と「引渡相場」(Bezugskurs)行使価格との差額に相当
する「行使効益」(Ausübungsvorteil)の高さで生じるとされる。したがって,
この高さでの費用が企業にも生じることになる。なお,通常は,銀行を媒介
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する形でこのような処理がなされるという。すなわち,企業が銀行に対して
株式の取得と引渡しを委託し,そして,銀行に対して行使時の行使効益にあ
たる金額を支払うという形態である。また,行使時点よりも早く買戻しをし
た場合には,帳簿上の費用と,履行猶予者の義務に関する価値が乖離するこ
ともあり得る。しかし,どのような形態をとるにしても,費用が生じる点に
おいて相違はない。さらに,自己持分を取得した際には,これを資本の払戻
しと見る考え方もあるというが,Herzig / Lochmannによれば,商事貸借対
照表上では財産対象物として積極側記入するというのである。なぜならば,
そのように捉えることで資本取引ではなくなり,費用が発生すると考えられ
るからである 23)。
このときに問題となることは,企業にとって,その費用がどのように模写
され,期間配分されるのかということである。この点に関し,従来のドイツ
経済監査士協会の見解では,ストック・オプションの権利付与時の全体価値
を負債項目として設定し,また,その後の決算時の全体価値が負債として計
上された金額を上回る場合には,「発生するおそれのある損失に関する引当
金」(Drohverlustrückstellung)を設定するということが提案されている。こ
の提案においては,オプションの付与をもって,すでに提供された労働給付
に対して報酬が与えられているという仮定が存在しているという。しかし,
このような提案は,彼らには受け入れられていない。なぜならば,彼らにお
いては,ストック・オプションの付与は,通常,将来の労働給付に対する変
動的な報酬をもたらすと解されているためである。したがって,商法上で支
配的な見解は,つぎのものであるという。すなわち,ストック・オプション
の付与と行使の間には企業の「履行の遅れ」(Erfüllungsrückstand)が存在し
ており,その金額を不確定な債務に関する「負債性引当金」(Verbindlichkeits-
rückstellung)として模写するというものである 24)。
さて,企業の履行の遅れに関する引当金の評価方法としては,二つの方法
があるという。一つは,報酬期間にわたり,その時間経過に応じて費用配分
し,それに応じた引当金を設定するという方法である。ただし,ストック・
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オプションに関しては費用額も報酬期間も確定的ではないために,費用の見
積などを要し,配分が不十分な形で行われてしまうという。他の一つは,履
行の遅れに関する金額を,株式相場と引渡相場との差額をもって算定する
方法である。この場合,見積に関する問題を回避できると同時に,変動的
な報酬手段としてのストック・オプションの性質も反映されることになると
いうのである。ただし,これら二つの方法に関しては,どちらをとったとし
ても最終的な費用額は同額となり,両方法ともに現在の正規の簿記の諸原則
に合致するものであるという。したがって,どちらの方法が採られるかは,
DRSCの基準が確定した段階で決定されることになるというのである 25)。
以上のように,商事貸借対照表上,経営上の基盤を伴うストック・オプシ
ョンは,費用を計上すると同時に,反対項目として引当金が設定されるもの
と,Herzig / Lochmannは考えている。このとき,負債性引当金として処理
するか,あるいは発生するおそれのある損失に関する引当金とするかという
問題は,後述する税務貸借対照表についての問題にも関わるために注意を要
する。
② 税務貸借対照表における計上に関する問題
商事貸借対照表へ計上する場合,上述のように費用の発生と引当金の設定
が行われる。一方,税務貸借対照表に関しても費用計上が行われることにな
るが,第一に,この費用がどのような性質を持つものであるかが検討される。
この検討がなされる背景には,法人税法第8b条第2項および第3項の規定
が存在する。そこでは,2002年より,資本会社における持分の処分から生
じた利益と損失については,非課税とされているのである。このとき,経営
上の基盤を伴うストック・オプションに関わる自己持分の処分がこの取引に
あたるのかについて,問題とされる。なぜならば,税務貸借対照表に計上さ
れる費用がこの損失にあたるとするならば,結果的に,税務上は考慮されな
いことになるからである。この点に関し,上記の規定は持分処分から生じる
利益減少を問題としているのみで,所有目的に関する区分はしていない。と
すれば,ストック・オプションは報酬目的であるために通常の処分とは異な
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る意味を持ちうるとはいえ,営業支出の控除を行いえない可能性が生じてし
まうのである。しかしながら,Herzig / Lochmannは,権利行使に際して従
業員へ提供される持分について,企業が法的所有権も経済的所有権も取得し
ないという解釈をすることによって,この問題を回避できるという。すなわ
ち,行使効益部分については,これを,企業が従業員による直接的な持分獲
得の補助金として与えているものと解するのである。この解釈にしたがえば,
発生した費用行使効益部分は報酬としての性質を有することになる
という。ゆえに,法人税法第8b条第2項および第3項の規定には当てはま
らないものとして,営業支出の控除が確実化されるというのである 26)。
第二に,費用の性質が問題とされる一方で,その反対項目として消極側記
入される項目に関しても,その性質が問題とされている。すなわち,「履行
猶予者の義務」がいかなる性質を有するのかにつき,税務の観点から検討さ
れているのである。この点に関し,民法上の構想にしたがって,経営上の基
盤を伴うストック・オプションの権利付与と権利行使は別の契約である
「二契約理論」(Zweivertragstheorie)と見ることで,権利行使時におけ
る企業の負担をこの義務と結び付け,その負担については発生するおそれの
ある損失に関する引当金を計上するとの見解もあるという。しかし,彼らは
これを受け入れず,つぎのように考えている。すなわち,履行猶予者の義務
は,労働関係に関する貸借対照表法上の「双務性」(Synallagma)を有する
事項に帰属するものと見るのである。このとき,二契約理論のように,スト
ック・オプションに関する取引を分断して考えることはできなくなるという
のである 27)。
この双務性に関して,彼らはさらに詳細な検討を加えている。ストック・
オプションに関しては,原則として,それが未確定な継続的権利関係として
の労働給付の枠組みにおける給付交換の一部である,とみなされるという。
ここで問題となるのは,履行猶予者の義務も労働関係も,未確定な状態にあ
るということである。というのも,この権利・義務が未確定である限り,原
則的に貸借対照表に計上されなくなるからである。しかしながら,給付と反
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企業管理の文脈におけるドイツのストック・オプション会計制度(石川)
∫ 47 ∫
対給付に関して推測される均衡が,当事者の「予先給付」(Vorleistung)や
「履行の遅れ」によって一時的に妨げられている場合には,上の原則非
計上は当てはまらないという。ここにおいて,労働関係については,副
次的なものも含め,その労働給付獲得に要したすべての反対給付が含まれな
ければならず,ストック・オプションは明らかにこの労働給付に対する反対
給付であるとされる。そして,その権利行使までは,労働者からの予先給付
も企業側の履行の遅れも存在すると考えられるために一時的に均衡が妨げら
れ,ストック・オプションに関しては,上述の非計上の問題が回避される。
したがって,税務貸借対照表において,双務性を有する契約として計上され
ることになるという。具体的には,履行の遅れに関わる部分が計上されるこ
とになるのである 28)。
このような論理立てによって,Herzig / Lochmannは,費用とその反対項
目の計上を主張しているのである。このことは,経営上の基盤を伴うストッ
ク・オプションに関する税務上の効果について主張するために築かれた論理
である。その点については,次項で見ることにする。
③ 営業支出の控除引当金の性質・先物取引に関する規定
「履行の遅れ」は,従業員が労働給付を提供し,企業がその反対給付のす
べてないしは一部を提供していない場合に生じる。上述したように,企業は
これに関して消極側計上を行うことになるが,その具体的な項目をいかなる
ものにするのかについては,まだ明らかにされていない。そして,その具体
的な項目がいかなるものになるかということは,税務上の営業支出の控除に
関わる問題となる。ここでは,まず,その点に関する検討が加えられる。そ
してさらに,先物取引に関する規定についても検討されることになる。これ
も営業支出の控除に関わることである。以下,その内容を見ることにする。
Herzig / Lochmannによれば,この経営上の基盤を伴うストック・オプ
ションに関する履行の遅れは,通常,「不確定な債務に関する引当金」(Rü-
ckstellung für ungewisse Verbindlichkeiten)として模写されるという。なぜな
ら,企業にとっての義務は,権利行使前の段階では金額や履行時点などが不
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駒沢大学経済学論集 第 34巻第3・4号
∫ 48 ∫
確定といえるためである。このような引当金は,「負債性引当金」の性質を
有するものとして,消極側計上されるというのである 29)。
しかし,そのような計上のためには,履行の遅れの発生に関して,過去の
期間における経済的原因の発生が必要とされるという。換言すれば,ストッ
ク・オプションから生じる将来的な報酬を,過去の期間における労働給付と
関連付ける事が必要とされるのである。このとき,労働給付に関するこのよ
うな関連づけは,通常は期間を媒介としてなされる。したがって,履行の遅
れに関する引当金計上にあたっては,「報酬期間」を確定することが不可欠
となる。この報酬期間としては,これを権利付与から行使までの期間とする
考えや「授権期間」(vesting period)とする考えがあり,処理の規定が明確
化はされていない。しかし,いずれにしても,どちらかの構想にしたがって
処理され,負債性引当金として消極側計上がなされると同時に,積極側にお
いて営業支出が計上されることになるというのである 30)。
ところで,これまでのところでは,消極側に引当金として計上される場合
に,それが「負債性引当金」であるとされている。しかし,これが「発生す
るおそれのある損失に関する引当金」であるという見解も存在するという。
この見解では,履行の遅れに結びつくのは権利付与時のストック・オプショ
ンの価値であり,履行猶予者の義務におけるその後の金額の増加は,発生す
るおそれのある損失にあたると考えられている。問題は,発生するおそれの
ある損失に関する引当金の場合,所得税法第 5条第 4a項の規定により,税
務上は課税対象外とされてしまうことにある。言い換えれば,営業支出の控
除が行われないことになるのである。そこで,Herzig / Lochmannは,この
ような見解をつぎのように否定している。すなわち,ストック・オプション
に関する履行の遅れは,不確定な債務ゆえに金額を権利行使前には確定でき
ず,また,提供された労働給付を直接的に評価することもできないというの
である。したがって,履行猶予者の義務においては,常に履行の遅れが考慮
されることになる。つまり,上述された見解のようにストック・オプション
に関わる価値の変動を分断して考えることはできないというのである。この
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企業管理の文脈におけるドイツのストック・オプション会計制度(石川)
∫ 49 ∫
ように,発生するおそれのある損失に関する引当金として計上される可能性
が,論理的に回避されているのである 31)。
さらに,彼らは所得税法第 15条第4項についても言及している。この規
定は,「先物取引」(Termingeschäfte)から生じた損失を営業から生じたその
他の収益をもって補償すること,ないしはこの損失を控除することを禁じた
ものである。一般的には,オプション取引がこのような先物取引に該当する
と考えられるため,ストック・オプションに関してもこの規定との関係が問
題になるという。しかし,たとえ経営上の基盤を伴うストック・オプション
を先物取引であるとみなそうとも,この規定にいう損失にはあたらないとさ
れる。なぜならば,当該規定は「真正の利ざや取引」(echte Differenzgeschä-
fte)に関するものであって,貸借対照表法上の双務性を有するストック・オ
プションには当てはまらないからであるという。この論理にしたがえば,経
営上の基盤を伴うストック・オプションに関わる費用を,税務上,控除でき
ることになるのである 32)。
以上見てきたように,Herzig / Lochmannは,経営上の基盤を伴うストッ
ク・オプションに関して,不確定な債務に関わる負債性引当金を計上し,そ
れに伴う費用についてはこれを営業支出として税務上控除可能であるという
ことを,論理付けているのである。この点を導き出すにあたって,会社法上
の基盤を伴うストック・オプションとは異なる論理立てがなされていること
には,注意を要する。
(4)計画的購入に関する税務上の取り扱い
計画的購入という形態では,企業が自社のオプション権を獲得してそれを
従業員へと引き渡すために,その権利の獲得に関する出費が生じる。この
出費に関しては,貸借対照表法上の双務性を有するものであり,商事貸借対
照表上と税務貸借対照表上,同様に取り扱われなければならないとされる。
具体的には,ストック・オプションが従業員の将来の労働給付に対して付
与されるのであれば,その出費が「予先給付」に相当し,「計算区分項目」
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駒沢大学経済学論集 第 34巻第3・4号
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(Rechnungsabgrenzungsposten)として積極側計上されなければならないとい
うのである。そして,その計算区分項目は,報酬期間にわたって,「費用発
現的に」(aufwandswirksam)配分して記帳されることになるのである。また,
仮に,オプション権自体に目減りが生じたとしても,前述の経営上の基盤を
伴うストック・オプションと同様に,それが先物取引に関わる損失とはされ
ないというのである 33)。
このように,計画的購入に関する税務上の取り扱いに関しては,費用発現
的という用語からも明らかなように,営業支出の控除が生じることになるの
である。また,Herzig / Lochmannは,この形態を他の形態よりも簡潔に論
じている。これは,商法上と税務上での取り扱いに違いがないとされている
ことに起因すると考えられるのである。
以上,Herzig / Lochmannは,ストック・オプションの形態を三種に分類
したうえで,それらの税務貸借対照表上の取り扱いについて,論じているの
である。ここでは,各形態において,その税務上の取り扱いが異なるものと
なることに注意を要する。
(5)コンツェルンにおけるストック・オプションの税務上の取り扱い
これまでの Herzig / Lochmannの議論は個別企業に関するものであるが,
彼らはさらに,企業集団としての「コンツェルン」(Konzern)におけるスト
ック・オプションの税務上の取り扱いについても論じている。ここでは紙幅
の関係から,十分にその内容を取り上げることはできないが,補足的にその
エッセンスだけでも示しておきたい。
そこで扱われているコンツェルンにおけるストック・オプションとは,そ
の「親会社」(Muttergesellschaft)の株式を「子会社」(Tochtergesellschaft)
の従業員に対して付与するものを指す。このとき,子会社の従業員が親会
社から直接的にストック・オプションを獲得するケース「直接的獲得」
(Direkterwerb)と,まずは子会社が親会社からストック・オプション
を譲渡され,それを子会社の従業員が獲得するケース「間接的獲得」
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企業管理の文脈におけるドイツのストック・オプション会計制度(石川)
∫ 51 ∫
(Zwischenerwerb)とがあり,それぞれについて,子会社の親会社に対
する対価支払についての協定を結ぶか否かということも問題とされている。
このような状況設定の上で,Herzig / Lochmannは,個別企業のケースと同
じように,ストック・オプションの三つの形態に関わらせて,詳細な分析を
加えている。その結果,獲得に関するケースや親子会社間の協定にも影響を
受ける形で,ストック・オプションの各形態ごとに,税務上の営業支出の控
除に関してそれぞれ異なる帰結が生じるとしているのである 34)。
このように,彼らは,コンツェルンのケースに関しても,ストック・オプ
ションの形態に応じて営業支出の控除に関する税務上の相違が生じることを
明らかにしている。個別企業におけるストック・オプションの税務上の取り
扱いと同様,このような相違が論じられていることには注意を要する。
Ⅳ おわりに企業管理の文脈における意味
これまでに考察した Herzig / Lochmannの所説をまとめることにより,
それが企業の経営管理の文脈において持つ意味の明確化を試みる。
ストック・オプションの導入に関する法律上の整備がなされた後も,2002
年 12月現在に至るまで,その会計処理に関しては,DRSCによる基準草案
が提示されたのみで,確定的な規定および基準は明確化されていない。その
ような現行の制度状況下で,基準草案を含めたいくつかの諸提案を踏まえて,
Herzig / Lochmannはストック・オプションの会計処理に関して検討を加え
たのである。このとき,特に問題の中心に措定されたのは,税務上の営業支
出の控除である。
その問題に検討を加えるにあたり,ストック・オプションが三つの形態に
区別されている。すなわち,会社法上の基盤を伴うストック・オプション,
および,経営上の基盤を伴うストック・オプション,計画的購入である。そ
れぞれの形態に関する詳細な商法上・税務上の会計制度についての検討と,
そこで明らかにされた問題に対する論理的補完を通じて,各形態に関して,
営業支出の控除が生じることが明らかにされた。また,個別企業のケースの
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駒沢大学経済学論集 第 34巻第3・4号
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みならず,コンツェルンのケースについても,同様の問題に検討が加えられ
ている。ただし,営業支出の控除が生じるとはいえ,以下に示すように,形
態ごとに異なる帰結が生じることになる。
第一に,会社法上の基盤を伴うストック・オプションについては,少なく
とも DRSCの論理立てでは,既存の諸原則の枠組みにおいて,出資も営業
支出の控除も生じないことになってしまうとされた。そこで,彼らは出資の
法律要件を拡張するという論理を組むことで,それが認められた場合には,
営業支出の控除も生じうるとしているのである。
第二に,経営上の基盤を伴うストック・オプションについては,権利の付
与から行使の間で,企業に履行の遅れが生じ,これを負債性引当金として模
写するとともに,同額の費用が計上されるものとされた。このとき,この費
用を税務上の営業支出として控除可能にするために,発生するおそれのある
損失に関する引当金ではないこと,通常の持分の処分には当たらないこと,
先物取引真正の利ざや取引ではないことなどが,論理付けられたの
である。
第三に,計画的購入に関しては,それを積極側の計算区分項目として計上
し,報酬期間にわたって費用化することが明らかにされた。これは,現行制
度の枠組みにおいても特に問題がないとされ,他の形態に比べて簡潔に論じ
られていた。
さて,彼らの所説の結論部分では,コンツェルンのケースについても簡潔
に触れながら,このような相違が提示されている 35)。ここでは,そのよう
な相違が論理的に提示されること,それ自体の意味を考えることにする。換
言すれば,何故このような相違が論じられるのか,ということに目を向ける
のである。このとき,そのような相違が論じられることの意味の一つは,企
業(コンツェルン)の経営管理の文脈において明確化できると考えられる。
すなわち,税法を含む会計制度上その制度上の問題点も包括した上で
の取り扱いの相違は,少なくとも論理的には,経営管理上の意思決定に
おける選択対象としての諸代替案になりうるということである。彼らが述べ
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企業管理の文脈におけるドイツのストック・オプション会計制度(石川)
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たように形態ごとに税務上の取り扱いが異なるのであれば,ストック・オプ
ション制度を企業が利用する場合に,その形態のうちでどれを選択するかに
つき,現行制度の状況・問題点を踏まえて決定する必要性が生じることにな
ると考えられる。企業は税法という企業外部の制約条件を考慮したうえで,
自社に有利な戦略的意思決定を行うことになると考えられるのである。ここ
において,税法を含めた会計制度上の処理の相違が企業の戦略的意思決定の
場面で影響を持つ可能性につき,論理的に明確化されているのである。いわ
ば,会計制度をいかに利用することが自社に有利であるかということが,企
業管理上の問題として浮上するのである。
したがって,ストック・オプションに関する会計制度は,単に,企業が
その情報を外部に提供するための仕組みとは考えられていない。むしろ,
Herzig / Lochmannの所説において論じられていることからすれば,その会
計制度は企業の戦略的意思決定の場面においても意味を持つものとして捉え
られることに,注意しなければならないのである。
注1)「企業領域における統制および透明性に関する法律」の条文に関しては,本稿では,つぎのサイトからダウンロードしたものを参照している。http://www.bmj.bund.de/download/gkontrag.doc(24/09/1999にダウンロード)また,その内容に関しては,遠藤久史稿 ,「ドイツ株式法・商法等の改正とコーポレート・ガバナンスへの対応(一・二)」,『会計』,(一);第 154巻第6号12月号,1998,(二);第 155号第1号1月号,1999.に詳しい。2)Ⅱ. Z u d e n e i n z e l n e n Vo r s c h r i f t e n : Z u N u m m e r 24 u n d 25 - §§ 192 und 193 AktG , Entwur f e ines Gesetzes zur Kontro l l e und
Transparenz im Unter nehmensbereich, http ://www.bmj .bund.de/
download/kontrag.exe (24/09/1999 に ダ ウ ン ロ ー ド ), S.61-62.
3)たとえば,動機付けの問題も踏まえたうえで,ストック・オプションと税務との関係についての重要性が,つぎの論文で指摘されている。Winter, Stefan,
Zur Eignung von Aktienoptionsplänen als Motivationsinstrument für Manager,
in: Schmalenbachs Zeitschrift für betriebswirtschaftliche Forschung (ZfbF), Heft
12, Dezember, 1998, S.1131-1134.
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駒沢大学経済学論集 第 34巻第3・4号
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4)Herzig, Norbert und Uwe Lochmann, Steuerbilanz und Betriebsausgabenabzug
bei Stock Options, in: Die Wirtschaftsprüfung (WPg), Heft 7, Jahrgang 55, 1.April
2002, S.325-344.
5)各規定は,以下の通りである。なお,条文の訳は,鈴木義夫著 ,『ドイツ会計制度改革論』,森山書店,2000,pp.95-96.による。株式法第 71条第1項第8号「最高で 18ヵ月間有効となる株主総会の授権に
基づき,最低および最高の対価ならびに 10パーセントを超えてはならない基礎資本金に対する持分を確定する。自己株式での取引は,目的上,除外される。第 53a条が取得および売却に対して適用されなければならない。証券取引所を通じての取得および売却がこれを満足させる。その他の売却は,株式会社がこれを決定することができる。第 186条第3項,第4項および第 193条第2項第4号が当該事案において準用されなければならない。株主総会は,これ以上の総会決議を行うことなしに,自己株式を回収する権限を取締役に授与することができる。」株式法第 192条第2項第3号「同意決議もしくは授権決議により,会社また
は結合企業の被用者および業務執行機関の構成員に対して新株引受権を授与することに関して。」株式法第 193条第2項第4号「第 192条第2項第3号による決議に際して,
新株引受権の業務執行機関の構成員および被用者への配分,成果目標,取得期間および行使期間,および初回行使に関する待機時間(2年以上)も」6)本稿では,ドイツ会計基準第 11号草案に関して,以下のサイトよりダウンロードしたものを参照している。http://www.standardsetter.de/drsc/docs/
drafts/11.html(14/05/2002にダウンロード)なお,「ドイツ会計基準第 13号草案」が「ドイツ会計基準第 11号」として公
告されている。したがって,各号の基準についての草案としてではなく,草案として第何号であるかという意味で,番号が付されていると考えられる。7)Herzig, Norbert und Uwe Lochmann, a.a.O., S.325.
また,DRSCのウェッブ・サイトにおいて,基準第 11号草案に関する論文として,彼らの所説が示されている。詳しくは,http://www.standardsetter.de/
drsc/bibliography.php?medialist=2&tid=11を参照のこと。8)Herzig, Norbert und Uwe Lochmann, a.a.O., S.325.
9)ここでいう「履行猶予」とは,ストック・オプションの権利行使時までは,会社が自社株をストック・オプションの権利行使者に引き渡さなくてよい事を意味している。しかし,権利行使時には自社株の引き渡しを行わなければならないのであり,その引き渡しのために株式を準備しておく義務のことを「履行
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企業管理の文脈におけるドイツのストック・オプション会計制度(石川)
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猶予者の義務」と呼ぶ。なお,“Stillhaltung”とは,静止・自重・支払い猶予などの意味を持つが,Herzig / Lochmannの所説における意味を踏まえて,ここでは「履行猶予」という訳を当てた。
10)一般に,“Aufwand”という用語に対しては「費用」という訳語を当てる。しかし,この場合に限って,この用語が会計的な意味での「費用」という意味合いではなく,むしろ現金(および現金等価物)の流出という意味合いで利用されていると考えられる。したがって,あえて「出費」という訳語を当てた。
11)Herzig, Norbert und Uwe Lochmann, a.a.O., S.325.
12)Ebd., S.326.
13)商法典第 272条第2項第2号「2次の各号に掲げるものを資本準備金として表示しなければならない。2.持分を取得するための転換権付社債および選択権付社債の発行に際して得られた金額」(第1号および第3号,第4号は省略;なお,条文訳は,宮上一男,W・フレーリックス監修,『現代ドイツ商法典(第二版)』,森山書店,1993,p.80.による。また,その内容も同書,p.84.に詳しい。)
14)報酬期間とは,一般に,ストック・オプションの譲与から支払停止期間末までのことであり,授権期間(vesting period)ともいわれる。ただし,別の見解もある。
15)「正規の簿記の諸原則」に関しては,鈴木義夫著,『現代会計論』,森山書店,1988.および鈴木義夫著,『現代ドイツ会計学』,森山書店,1994.に詳しい。
16)Herzig, Norbert und Uwe Lochmann, a.a.O., S.326-327.
17)Ebd., S.327-328.
なお,「基準性原則」に関しては,鈴木義夫著,『ドイツ会計制度改革論』,pp.67-92.を参照のこと。
18)判決は,「連邦財政裁判所」(BFH)の次のものが参照されている。BFH vom
26. 10. 1987, GrS 2/86, BStBl. Ⅱ 1988, S.348.
19)Herzig, Norbert und Uwe Lochmann, a.a.O., S.328-329.
20)Ebd., S.329-330.
21)Ebd., S.330.
22)Ebd., S.330-331.
23)Ebd., S.331-332.
24)Ebd., S.332.
なお,Herzig / Lochmannが参照しているドイツ経済監査士協会の見解は,つぎのものである。IDW Stellungnahme BFA 2/1995, Bilanzierung von
Optionsgeschäften, in: Die Wirtschaftsprüfung (WPg), 1995, S.421 f.
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駒沢大学経済学論集 第 34巻第3・4号
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25)Herzig, Norbert und Uwe Lochmann, a.a.O., S.332-333.
26)Ebd., S.333-334.
27)Ebd., S.334.
28)Ebd., S.334-336.
29)Ebd., S.336.
30)Ebd., S.336-337.
31)Ebd., S.337-338.
32)Ebd., S.338.
33)Ebd., S.338.
34)Ebd., S.339-344.
35)Ebd., S.344.