生研センター研究報告会...平成24 年度 生研センター研究報告会開催次第...

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ISSN 1880-0637 平成24年度 生研センター研究報告会 平成25年3月14日 独立行政法人 農業・食品産業技術総合研究機構 生物系特定産業技術研究支援センター

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Page 1: 生研センター研究報告会...平成24 年度 生研センター研究報告会開催次第 1.開催日時 平成25年3月14日(木) 2.場 所 大宮ソニックシティ「小ホール」

ISSN 1880-0637

平成24年度

生研センター研究報告会

平成25年3月14日

独立行政法人 農業・食品産業技術総合研究機構

生物系特定産業技術研究支援センター

農 業 機 械 化 研 究 所

Page 2: 生研センター研究報告会...平成24 年度 生研センター研究報告会開催次第 1.開催日時 平成25年3月14日(木) 2.場 所 大宮ソニックシティ「小ホール」

平成 24年度 生研センター研究報告会開催次第

1.開催日時 平成25年3月14日(木)

2.場 所 大宮ソニックシティ「小ホール」

(さいたま市大宮区桜木町 1-7-5 TEL: 048-647-4111(代))

3.日 程

1)開 会 10:00

2)挨 拶 10:00~10:10

(1)(独) 農業・食品産業技術総合研究機構

(2)農林水産省

3)情勢報告 10:10~10:40

(1)農林水産省 生産局

(2)農林水産省 農林水産技術会議事務局

4)生研センターの研究内容報告 10:40~12:00

(1)基礎技術研究部

(2)生産システム研究部

(3)園芸工学研究部

(4)畜産工学研究部

(5)評価試験部

(6)特別研究チーム(エネルギー)

(7)特別研究チーム(ロボット)

(8)特別研究チーム(安全)

《 昼 食 》 12:00~13:00

5)個別研究報告 13:00~17:00

(1)原発事故によって放射性物質に汚染された農地の除染への対応

①農地周辺(法面、農道)を除染する表土削り取り機の開発と適応性

②遠隔操縦及び自律作業可能な無人トラクタの開発と除染作業への適用

③放射性物質汚染地域内水田等における除染作業用トラクタの開発

《 休 憩 》

(2)農用車両の電動化に関する基礎研究

(3)タイヤ等の付着土壌による路面汚染軽減技術の開発

(4)ヤガ類超音波防除装置の開発と適応性拡大

(5)新型キャベツ収穫機の開発

(6)農用運搬車の転倒時運転者防護について

6)総合討議 17:00~17:30

7)閉 会 17:30

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目 次

1.原発事故によって放射性物質に汚染された農地の除染への対応

(1)農地周辺(法面、農道)を除染する表土削り取り機の

開発と適応性 ········································· 1

(2)遠隔操縦及び自律作業可能な無人トラクタの開発と

除染作業への適用 ···································· 11

(3)放射性物質汚染地域内水田等における

除染作業用トラクタの開発 ···························· 21

2.農用車両の電動化に関する基礎研究 ······················ 31

3.タイヤ等の付着土壌による路面汚染軽減技術の開発 ········ 39

4.ヤガ類超音波防除装置の開発と適応性拡大 ················ 49

5.新型キャベツ収穫機の開発 ······························ 59

6.農用運搬車の転倒時運転者防護について ·················· 67

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農地周辺(法面、農道)を除染する表土削り取り機の開発と適応性

園芸工学研究部 八谷 満、深山大介、千葉大基、宮崎昌宏、

市来秀之(現生産システム研究部)

企画部 落合良治、高橋正光

農研機構 中央農業総合研究センター 細川 寿、小林 恭

共同研究実施会社 (株)ササキコーポレーション、(株)クボタ、ヤンマー(株)

はじめに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 2

1.農地周辺除染用作業機の開発の背景・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 2

2.農地周辺除染用作業機の特徴・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 2

1)法面表土削り取り機・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 3

2)農道表層剥ぎ取り機・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 3

3.開発機による現地適応性試験・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 4

1)法面表土削り取り機の作業性と除染効果・・・・・・・・・・・・・・・・・ 5

2)農道表層剥ぎ取り機の作業性と除染効果・・・・・・・・・・・・・・・・・ 6

3)除染作業時の粉じん曝露実態・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 8

4.開発機の適応性拡大・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 9

おわりに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・10

参考文献・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・10

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はじめに

平成 23 年 3 月 11 日の東日本大震災に伴い発生した福島第一原子力発電所事故では、水素爆発に伴う

大量の放射性物質が放出され、福島県を中心とした広い範囲に未曾有の放射能汚染をもたらし、我が国

の農林水産業に多大な影響を及ぼした。我が国の農地が大規模に放射性物質に汚染される初めての事態

であり、原発事故からの復旧・復興は最大かつ最優先の課題である。これまで、様々な機関において周

辺地域の土壌等の汚染状況の調査・研究が精力的に進められるとともに、面積が大きく、食糧生産の基

盤である農地の復旧を目的として放射性物質除去のための技術開発が試みられてきた。

農地土壌の汚染に当たっては2つの観点から取り組む必要がある。農地土壌や畦畔、農道、水路、周

辺の森林等に蓄積した放射性物質からの放射線による被ばく(外部被ばく)と、放射性物質に汚染され

た農産物を食品として摂取することによる被ばく(内部被ばく)を同時に低減する必要がある。外部被

ばく対策としては、空間線量率の低減を目的とする除染対策を行い、内部被ばく対策としては、農作物

への放射性物質の移行低減を目的とする吸収抑制対策を実施する必要がある。

本稿では、前者の外部被ばく対策を取り上げ、汚染表土の削り取りを目的として開発した、農地周辺

除染用作業機の特徴とこれを用いた現地実証試験の結果について報告する。

1.農地周辺除染用作業機の開発の背景

1986 年のチェルノブイリ原子力発電所の事故では、農地に降下した放射性物質は、事故後 10 年経

過した後においても土壌表層に集中して存在していたとされる 1),6)。この度の事故においても同様の

状況であれば、表層の土壌を除去することにより汚染された農地を利用可能な状態に回復させること

が期待される。すなわち、削り取った汚染土壌を全てほ場から持ち出して放射性物質の濃度を低減す

ることが肝要であるが、併せて廃棄土壌として処理することから排土量はできる限り少なくすること

が求められる。

平成 24 年度から本格的な農地除染を開始するに際して、農林水産省は平成 23 年度第3次補正予算

でプロジェクト研究「森林・農地周辺施設等の放射性物質の除去・低減技術の開発」を立ち上げ、こ

の中で「農業用施設、畦畔、農道等の除染技術の開発」を公募した。これに対して、農研機構 生物

系特定産業技術研究支援センターがプロジェクトリーダーを務め、農機メーカー各社、農研機構 中

央農業総合研究センター並びに農研機構 農村工学研究所が参画する農地周辺除染技術コンソーシア

ムを組織して応募し、平成 23 年 12 月下旬に採択された 2)。本課題の目標は、畦畔、法面、農道及び

用排水路といった農地周辺それぞれの場面に応じて、土壌表層に集中する放射性物質を省力的に安全

に取り除く4つの機械化技術を開発し、その適応性を検証することにあった。平成 24 年度において

は、「農地・森林等の放射性物質の除去・低減技術の開発」プロジェクトのもとで、上記開発機を供

試して引き続き現地試験を実施した。上記4つの場面に応じた各機種のうち、特に法面表土及び農道

表層を対象とした2機種の概要は以下のとおりである。

2.農地周辺除染用作業機の特徴

農地周辺除染用作業機の開発コンセプトとして、①農業生産現場における除染作業を前提として、

営農手段またはその延長線上で可能となる作業システムを実現すること、②作業適応範囲の広いシス

テムとすること、③短期開発を前提として既存技術の組合せ及び改良を原則とするものの、信頼性の

高いシステムとすることが挙げられる。これらを前提条件として、開発が実施された。

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1)法面表土削り取り機 3)

開発した法面表土削り取り機は、機関出力 55kW 以上の外部油圧機構を有するトラクタ3点リン

ク(JISⅡ型)直装用の作業機である(表1、図1)。

当該機は、トラクタの側方にオフセットし、

進行方向と直交した側を上下 50°まで回動

可能であることから、法面がトラクタ走行面

に対して上下に傾斜していても上記範囲で

あれば表土の削り取りができる。有効作業幅

は 1,600mm で、削り取り深さは3cm と5cm

の2段階に設定できる。削り取った表土は作

業部側方に排出され、フロントローダ等で集

土し易いよう筋状の排土列を形成する。

表1 法面表土削り取り機の主要諸元

項 目 仕 様

機体寸法(mm) 全長 2,000×全幅 2,100×全高 1,050

機体質量(kg) 460

有効作業幅(mm) 1,600

装着方式・規格 3点リンク・Ⅱ型

適応トラクタ(kW) 55~77

作業深さ(mm) 30,50 の2段階

作業速度(m/s) 0.06~0.42

掘削爪 95mm ピッチ,34 組

作業部に設けられた進行方向と直交する3本の回転軸には、それぞれ削り取り深さを安定させて

一定に維持するためのローラー、フラットな削り取りを可能とする形状で 95mm ピッチにより配列

された計 34 組の掘削爪、掘削爪で削り取られた表土

を作業部左側方に搬送するスクリュコンベヤが取り

付けられている。

図1 法面表土削り取り機の外観と平面図

2)農道表層剥ぎ取り機 4)

当該機はイタリア FAE 社製ストーンクラ

ッシャ(型式名:STC125)をベースに改良し

た。ストーンクラッシャとは、畑にある小石

を粉砕して再度畑に戻す作業機であるが、ベ

ースとして採用した機械はその中で最も小

型のタイプである(表2、図2)。当該機に

ついては、機関出力 66kW 以上のトラクタ3

点リンク(JISⅡ型)直装用の作業機であり、

地面の凹凸等に影響を受け難く、安定したけ

ん引力と砕土深さが期待できるハーフクロ

ーラ仕様のトラクタを推奨としている。

表2 農道表層剥ぎ取り機の主要諸元

項 目 仕 様

機体寸法(mm) 全長 1,500×全幅 1,760×全高 1,360

機体質量(kg) 1,850

有効作業幅(mm) 1,340

装着方式・規格 3点リンク・Ⅱ型

適応トラクタ(kW) 66~81

作業深さ(mm) ~300

作業速度(m/s) 0.06~0.19

粉砕歯本数(本) 30

平行リンク

ローラー,

掘削部(掘削爪)

搬送部(スクリュコンベヤ) 排出孔

シリンダ

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当該機の全幅は 1,760mm(有効作業幅=

1,340mm)であるが、その作業幅がトラク

タの左右クローラ間隔より狭く、そのま

までは農道端(路肩)への適応性が低い

ため、適応性を高めるために左右にオフ

セットできるよう改良を施している。

図2 農道表層剥ぎ取り機の外観と概要

オフセット量は4段階で、最大 260mm 移動可能である。当該機は、進行方向とは逆回転するロータ

で表土と共に石礫を掘り起し、超硬合金であるタングステンカーバイト製の粉砕歯と受歯によって粉砕

するもので、最大径 30cm の石を3cm 程度にまで粉砕可能である。粉砕径は、後部カバーの開度を変え

ることにより調整可能である。砕土深さを調節する場合には、3点ヒッチにより適切な高さに調節する

と共に、ソリの角度が0°になるようトップリンクの長さを調整する。

3.開発機による現地適応性試験

上記開発機の適応性を検証するために、福島県飯舘村伊丹沢地区および飯樋地区においてそれぞれ

平成 24 年3月中旬および6月下旬に現地試験を実施した。試験に当たっては、各開発機のオペレー

タを現地農業生産者に依った。試験項目は、作業能率、表土断面プロファイル(作業精度)、土壌の

放射性物質濃度、空間線量率および作業環境粉じん濃度とした。

法面の表土プロファイルについては、レーザーセンサを用いた形状測定装置(生研センター試作機)

を用いて 0.5cm 間隔でスキャン、進行方向に3箇所測定して地表面高さを算出した。農道の表層プロ

ファイルについては、農道両脇に設置した杭に測量水糸を水平に張り、竹尺で糸から表層土までの垂

直距離を横方向に 10cm 間隔、0.5cm の分解能で法面と同様に進行方向に3箇所測定した。

放射性物質濃度は依頼分析によるもので、調査は3月試験時のみとしたが、対象とする放射性物質

はセシウム(以下、Cs)であり、半減期 2.2 年の 134Cs と同 30 年の 137

Cs である。空間線量率の測定

にはシンチレーションサーベイメーター(日立アロカメディカル TCS-172B)を用いて、地表から1

cm 高さ及び1m 高さとした。なお、地表から1cm 高さの測定は、コリメート法(サーベイメーター

の検出器を鉛遮蔽体で覆い、周囲の放射線の影響を除外して測定対象地表面から発せられる放射線の

みを測定)と併せてコリメートに依らない方法とした。

また、粉じん濃度の測定に際しては、オペレータ口元近傍と作業場所周辺にデジタル粉じん計(柴

田科学 LD-5:光散乱式)を設置し、ローボリュームサンプラ(柴田科学 LV-40BR+A 型ホルダ)によ

平面図

側面図

※ クローラ端より外側にソリが出るようセット可

クローラ

ソ リ

ストーンクラッシャ

オフセット機構

ソ リ側面図

クローラ

ソリ

ストーンクラッシャ

オフセット

機構

平面図

※クローラ端より外側にソリが出るようセット可

ソリ

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る並行測定とした。

1)法面表土削り取り機の作業性と除染効果

供試トラクタは、58.8kW のクボタ社製 SMZ805-PC(半装軌式)とした。

現地(飯舘村伊丹沢地区)の供試ほ場法面(土質:

黒ボク土)の汚染実態を把握するため、斜面鉛直方向

に深さ 10cm までの土壌を5cm 毎に分取して、土壌中

放射性 Cs 濃度の垂直分布を測定した。

この試料の分析結果によれば、放射性 Cs(134Cs

+137Cs)の存在割合は表層0~5cm において約 73%

が沈積していた(図3)。本結果を踏まえて、当試験

地において当該機の削り取り深さ設定を5cm として

作業を実施した。その除染効果を表3と表4に示す。

放射性Cs濃度が 77,212Bq/kg乾土の処理前に対して、

処理後の表層5cm においては 16,371Bq/kg 乾土と約

78%低減した。これは、上記の土壌中放射性 Cs 濃度の

垂直分布割合と概ね合致する。なお、放射性 Cs のう

ち、137Cs の濃度が処理前後いずれにおいても約 62%を占めていた。地表1cm の空間線量率(コリメ

ート法)においても、処理前の 1.37μSv/hに対して処理後は 0.27μSv/hと約 80%の低減率となり、放射

性 Cs 濃度とほぼ同等の除染効果が確認された。

表3 法面の除染効果 -放射性 Cs濃度(試験地:飯舘村伊丹沢地区)

放射性 Cs 濃度(Bq/kg 乾土) 低減率

(%) 処理前 処理後

134Cs 137Cs 計 134Cs 137Cs 計

29,458 47,754 77,212 6,293 10,078 16,371 78.8

注1)ゲルマニウム半導体検出器で分析(日立協和エンジニアリングへの依頼分析による)

注2)処理前の試料採取:平成 24 年 3 月 11 日、処理後の試料採取:平成 24 年 3 月 15 日

処理前後の土壌試料はいずれも0~5cm の表土を採取

表4 法面の除染効果 -地表1cmの空間線量率(試験地:飯舘村伊丹沢地区)

空間線量率(μSv/h) 低減率(%)

処理前 処理直後 処理 42 日後 処理直後 処理 42 日後

1.37±0.24 0.27±0.08 0.22±0.02 80.3±2.0 83.7±2.7

注1)コリメート法による

注2)処理前の測定:平成 24 年 3 月 14 日、処理直後の測定:平成 24 年 3 月 15 日

平成 24 年6月に実施した現地試験では、排土量を可能な限り少なくするために表土を薄く確実に

削り取ることを目的として、削り取り深さ設定を3cm として連続作業を行った。図4の法面表土を

対象として、作業速度 0.08m/s で作業を進め、4.4a/h の作業能率を得た。

法面麓に形成された排土列は約 30cm 幅の筋状を成し(図5)、その排土量は 3.0t/a と1m3容量のフ

0 20,000 40,000 60,000 80,000 100,000

5-10

0-5

放射性Cs濃度 [Bq/kg乾土]

法面

の深

さ[

cm

134Cs 137Cs

図3 土壌中放射性 Cs濃度の垂直分布

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0.0

1.0

2.0

3.0

4.0

地表1cm(コリメート法) 地表1cm 地上1m

空間

線量

率[µ

Sv/h

]

処理前

処理1

処理2

0

10

20

30

40

50

0 30 60 90 120 150 180

ほ場

面か

らの

高さ

[cm

]

法肩からの距離 [cm]

処理前

処理1回目 (処理後の排土列)

レキシブルコンテナバッグ約3袋/a となった。しか

し、図示したように、法面の凹凸によって全面が一

様に削られず、総じて 2.5±1.8cm(平均値±標準偏

差)とやや浅い削り取り深さであった。結果として、

地表1cm の空間線量率(コリメート法)は処理前

の 0.60±0.09μSv/hに対して 0.24±0.05μSv/hと 59%

の低減率に留まった。そこで、同様の機械条件で法

面下部を中心に再度処理した結果、0.16±0.03μSv/h

となり、処理前に比して 73%の低減率が得られた

(図6)。

図5 処理前後の法面表土プロファイル(試験地:飯舘村飯樋八和木地区)

図6 法面処理による除染効果(試験地:飯舘村飯樋八和木地区)

2)農道表層剥ぎ取り機の作業性と除染効果

供試トラクタは 77.2kW のヤンマー社製 EG105(半

装軌式)とした。

現地(飯舘村伊丹沢地区)の供試ほ場脇の農道の

汚染実態を把握するため、深さ 10cm までの土壌を5

cm 毎に分取して、土壌中放射性 Cs 濃度の垂直分布

を測定した。この試料の分析結果によれば、放射性

Cs(134Cs+137

Cs)の存在割合は表層下5cm において

約 90%が沈積していた(図7)。前項で示した、放射

性 Cs が表層0~5cm に 70%程度が沈積していた法

面に比して、農道の表層においては比較的高い割合

で留まっていることが確認された。また、法面と同

0 20,000 40,000 60,000 80,000 100,000

5-10

0-5

放射性Cs濃度 [Bq/kg乾土]

農道

の深

さ[

cm

134Cs 137Cs

図7 土壌中放射性 Cs濃度の垂直分布

図4 法面表土の除染作業

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0

10

20

30

0 50 100 150 200 250 300 350

高さ

[cm

横方向の距離[cm]

処理前 処理後(剥ぎ取り+集土)

様に農道でも、深さにかかわらず放射性 Cs のうち137

Cs が 62%を占めていた。当該機による除染作業の

様子、処理前後の農道表層プロファイル及び除染効

果をそれぞれ図8、図9及び表5に示す。

当該機は、2つの試験地において 0.11~0.13m/s

の速度で剥ぎ取り作業を行った。3.4m 幅の農道であ

れば、一往復作業で対応することとなり、100m 長

を 30~35分程度で処理できることになる。しかし、

除染作業体系としては、剥ぎ取った汚染土壌をすべ

て集土・除去してはじめて放射性物質の濃度を低減

せしめる。そこで、本体系では剥ぎ取った汚染土壌をすべてフロントローダで集土し、トラックへ積

み込むこととした。試験結果によれば、作業能率は約 1.2h/a となり、その時間内訳は剥ぎ取り作業が

16%、集土及び搬出作業に 84%を占めた。

図9に示すように、農道の箇所による凹凸の差異はあるものの、総じて 5.9±2.8cm(平均値±標準

偏差)の剥ぎ取り深さであった。また、砕土した土壌の篩分析結果によれば、粗礫(19.0~26.5mm)

は 11%、中礫(2.0~19.0mm)は 57%、細礫(2.0mm)以下は 32%とほぼ中礫以下であることを確認

した。農道であるため、比較的小さな石しか含まれていなかったことから、作業部の後部カバーを開

き気味(粉砕径が大きくなる条件)で作業したにもかかわらず良好な砕土状態であった。

図9 処理前後の農道表層プロファイルの一例(試験地:飯舘村伊丹沢地区)

表5 農道処理による除染効果 -放射性 Cs 濃度(試験地:飯舘村伊丹沢地区)

測定位置

放射性 Cs 濃度(Bq/kg 乾土) 低減率

(%) 処理前 処理後

134Cs 137Cs 計 134Cs 137Cs 計

右路肩 65,758 104,808 170,566 2,361 3,858 6,219 96.4

右轍部 6,123 9,859 15,982 149 206 355 97.8

中 央 13,114 21,064 34,178 157 255 411 98.8

左轍部 12,574 20,345 32,919 118 192 311 99.1

左路肩 71,800 114,799 186,599 3,940 6,244 10,185 94.5

平 均 33,874 54,175 88,049 1,345 2,151 3,496 97.3

注1)土壌試料はいずれも0~5cm の表土を採取、ゲルマニウム半導体検出器で分析

注2)処理前の試料採取:平成 24 年 3 月 11 日、処理後の試料採取:平成 24 年 3 月 15 日

平成 24 年3月に実施した現地試験では(表5)、表土の深さ0~5cm における放射性 Cs 濃度は処

理前 88,049Bq/kg 乾土であったのに対して、剥ぎ取って集土した処理後には同0~5cm において

3,496Bq/kg 乾土となり、97%と極めて高い低減率を得た。なお、左右の路肩における除染効果は中央

部に比してやや低い傾向が認められた。理由として、左右の路肩は農道中央部に比して傾斜面を有す

図8 農道表層の除染作業

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0.0

1.0

2.0

3.0

4.0

5.0

左路肩 左轍 中央 右轍 右路肩 左路肩 左轍 中央 右轍 右路肩 左路肩 左轍 中央 右轍 右路肩

地表1cm(コリメート法) 地表1cm 地上1m

空間

線量

率[µ

Sv/h

]

処理前

処理後

るため、剥ぎ取り深さがやや浅くなることに起因すると考えられる。地表1cm の空間線量率(コリ

メート法)においては、処理前の 1.38μSv/hから処理後は 0.20μSv/hへと約 85%低減し、高い除染効果

を得て、処理1ヶ月半を経過した後でも 0.21μSv/h と処理直後と同等であることを確認している。

平成 24 年6月に飯舘村飯樋八和木地区にて試験を実施した際の除染効果を図 10 に示す。

処理前の地表1cm 高さ(コリメート法)、地表1cm 高さ及び地上1m における空間線量率は、そ

れぞれ 0.72±0.12μSv/h、4.13±0.23μSv/h 及び 3.08±0.09μSv/h であった。これに対して、剥ぎ取って

集土した処理後においては 0.21±0.10μSv/h、1.09±0.32μSv/h 及び 1.74±0.15μSv/h となり、その低減

率はそれぞれ 71%、73%及び 43%であり、1回の剥ぎ取り作業によって比較的高い除染効果を得るこ

とができた。なお、前述した3月の試験結果と同様に、左右の路肩における除染効果が中央部に比し

てやや低い傾向が認められたが、同様の理由によるものと考えられる。

図 10 農道処理による除染効果 -地表1cm及び地上1mの空間線量率(試験地:飯舘村飯樋八和木地区)

3)除染作業時の粉じん曝露実態

除染作業に際しては、放射線障害防止のための被ばく管理や効率的な作業体系の構築に必要とされ

る情報を提示し、より安全な体系化技術を提供する必要がある。上記開発機による作業者等の放射線

被ばく量を抑制・低減する技術の効果を確認するため、労働安全に係わる作業環境要因として粉じん

曝露実態を調査した。上記開発機はトラクタを基幹とする作業機であることから、トラクタキャビン

内のオペレータ口元近傍、及び作業場周辺環境の粉じん濃度とした。

除染電離則における作業環境粉じん濃度測定の対象粒径は、作業環境測定基準第2条第2項に定め

る、じん肺を対象に考える吸入性粉じん(PM4:4µm、50%cut)と異なり、内部被ばくを対象に考

えた総粉じんに近い気中から鼻孔や口を通って吸

引されるインハラブル粉じん(吸引性粉じん、100μm、

50%cut)を測定対象としている 5)。繊毛のある気管

より上部に沈着した粒子は移動して消化器へ移動

する可能性が大きいと考えられるためである。

農地周辺除染作業時におけるトラクタキャビン

内の粉じん濃度は、法面除染時に 0.23mg/m3、農道

除染時に 0.47mg/m3であった。同様に、作業場所か

ら約5m 離れた地点においては、法面除染では 0.23

mg/m3、農道除染時には 0.98 mg/m

3であった(表6)。

これらは、除染電離則で高濃度粉じん状態と定めら 図 11 除染作業時の粉じん測定

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0

10

20

30

0 30 60 90 120 150 180

ほ場

面か

らの

高さ

[cm

]

横方向の距離 [cm]

処理前

集土後(処理後の排土列)

作業速度:0.09m/s

処理後

れる 10mg/m3を大きく下回っており、一概には言えないが、作業者や周辺環境の被ばく防止に対して

両開発機の作業部のフルカバー構造が寄与していると思われる。

表6 除染作業時の粉じん濃度

除染対象 相対粉じん濃度(cpm) 換算粉じん濃度(mg/m3) 土壌・気象条件

キャビン内 作業場周辺 キャビン内 作業場周辺 含水比(%) 風速(m/s)

法 面 7.6 7.7 0.23 0.23 28.5 1.7

農 道 15.7 32.5 0.47 0.98 21.2 1.9

※ 換算粉じん濃度(mg/m3)=質量濃度変換係数(K 値、mg/m3/cpm)×相対粉じん濃度(cpm)、K 値を 0.03 と設定

4.開発機の適応性拡大

薄層で土壌の表層を削る法面表土削り取り機について、現地試験の過程で、現地生産者等から農地

周辺のみならず農地土壌の除染技術にも適用できないかとの要望が挙がった。これを受けて、前述の

法面表土削り取り機の排土機構を一部改良して水田表層土の削り取り作業を試みた。排土機構の改良

は、平坦ほ場面を対象とした表土削り取りを前提としたものであり、排土を搬送部の左端部の排出孔

から後方内側に排出・盛土しながら排土列を形成するため、幅 1.5m のブレードを斜めに設けた。

削り取り深さ設定を3cm として、作業速度 0.09m/s で連続作業を行った結果(図 12)、削り取り深

さ 2.9±1.4cm と薄層で概ね均一な作業精度を確保しながら、作業部左端から約 30cm 内側後方に排土

列を形成し、4.9a/h の作業能率を得た。削り取った排土量は約 30t/10a と換算され、約 30 袋/10a のフ

レキシブルコンテナバッグの発生が見込まれる。図 13 に示した処理前後の表層土プロファイルから

は、処理面が概ね均平であるとともに、後作業のフロントローダ等で集土しやすいよう、排土列の幅

は約 40cm、高さ約 20cmの筋状に形成されていることが確認できる。

図 12 法面表土削り取り機(一部改良)による水田表層土の削り取り作業と往復処理後の様子

図 13 法面表土削り取り機(一部改良)による処理前後の水田表土プロファイルの一例

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おわりに

放射性物質汚染対処特措法は、原子力発電所の事故に伴う放射性物質の拡散による汚染への対処に関

し、国、地方公共団体、関係原子力事業者等が講ずべき措置等について定めることにより、環境の汚染

による人の健康又は生活環境への影響を速やかに軽減することを目的とし、平成 24 年1月1日に全面

施行された。その中では、国が責任を持って除染を行う地域として警戒区域又は計画的非難区域等を除

染特別地域に指定し、平均的な空間線量率が 0.23μSv/h 以上の地域を含む市町村を汚染状況重点調査地

域に指定しており、各地域で除染実施計画の策定が進められてきた 6)7)。

これまでに農地除染実証事業の対象として約 30ha が除染実施されているが、この結果としてフレキ

シブルコンテナバッグ 25,000 袋分の排土が発生しており、仮置き場の確保は困難を極めているとの話を

聞く。こうしたことからも排土の減容化は必要不可欠な対処法であり、さらに農業生産現場における除

染作業を前提とすれば、上述したトラクタを基幹とする機械技術は営農手段又はその延長線上で提供で

きるものと考える。今後とも、当該技術の実証・普及の取組みの実施に向けて、地方自治体、民間企業、

関係団体及び試験研究機関等との連携を密にしながら、放射性物質対策をより一層推進していく所存で

ある。

謝 辞

現地試験に際しては、福島県飯舘村復興対策課除染担当 万福裕造氏(国際農林水産業研究センター

企画調整部より出向)、農林水産省農林水産技術会議事務局研究統括官室(食料戦略、除染)土原健雄

研究専門官、現地生産者の高野靖夫さん他の皆様に多大なるご協力を得た。記して感謝の意を表する。

参考文献

1)INTERNATIONAL ATOMIC ENERGY AGENCY (IAEA),2006,Environmental Consequences of the

Chernobyl Accident and their Remediation: Twenty Years of Experience,33-34.

http://www-pub.iaea.org/mtcd/publications/pdf/pub1239_web.pdf

2)宮崎昌宏,2012.東日本大震災からの復興をめざして-農地周辺除染用作業機の開発-.農業機械

学会誌.74(4),251.

3)戸田勉,前山達哉,2012.法面表土削り取り機の開発.農業機械学会誌,74(4),259-264.

4)小竹一男,福田喜孝,野呂茂生,2012.農道表層剥ぎ取り機の開発.農業機械学会誌,74(4),252-258.

5)厚生労働省電離放射線労働者健康対策室,2012.除染等業務特別教育テキスト改訂版,

http://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/anzen/dl/120118-04-zentai.pdf

6)農業環境技術研究所.2012.農業環境技術研究所編.第 29 回土・水研究会資料「福島第一原子力

発電所事故による農業環境の放射能汚染-この一年の調査・研究と今後の展望」.つくば.pp56.

7)環境省,2012.原子力発電所事故による放射性物質対策.http://www.env.go.jp/jishin/rmp.html

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遠隔操縦及び自律作業可能な無人トラクタの開発と

除染作業への適用

基礎技術研究部 山下貴史、塙 圭二、吉永慶太、中山夏希、

窪田陽介、小林 研、西村 洋(現企画部)

生産システム研究部 林 和信、紺屋秀之、山田祐一、宮原佳彦

はじめに‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥12

1.無人トラクタの概要‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥12

1)システムの開発方針‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥12

2)システムの構成‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥13

3)システムの運用方法‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥16

2.遠隔操縦による作業性能‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥17

1)畦畔併走試験‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥17

2)ロータリ耕うん試験‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥18

3.遠隔操縦と自律運転による除染作業‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥19

おわりに‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥19

参考文献‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥19

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はじめに

わが国の農業就業者人口の減少と農村地域での高齢化・女性化による労働力不足が問題視されるよ

うになって久しい。これに加えて近年では、政府による食料自給率向上のための取組みや、農産物の

輸出入自由化の議論が活発になるなど、以前にも増して生産コストの削減と競争力確保のための省力

化が強く望まれるようになった。他産業では IT(情報技術)や RT(ロボット技術)の目覚ましい発展

を原動力に、オフィスや工場などの生産現場における自動化・省力化が進んでおり、これらの技術の

農業分野への適用による農業生産技術の革新が期待されている。その一つとして、農用車両のロボッ

ト化があり、生研センターにおいては農用トラクタの自律化を中心に技術開発を行ってきた 1),2)。

一方、2011年の福島第一原子力発電所事故で放出された放射性物質によって汚染された農地・農道

の除染方法として、農用トラクタを用いた表土剥ぎ取りが検討されている 3~7)。しかし、これらの作

業時には、放射性物質を含む土ぼこりを吸引する事による内部被ばくや、周辺環境からの外部被ばく

が懸念されるため、農用トラクタにはオペレータを保護するための特別な対策が必要である。よって

その対策のとして、乗車中のオペレータが受ける放射線量を低減させるシールドキャビン付きトラク

タ(本資料:平成 24年度生研センター研究報告会資料「放射性物質汚染地域内水田等における除染作

業用トラクタの開発」参照)を開発した。また、別の方法として、上記の自律化技術を適用すること

で、オペレータが搭乗することなくトラクタを遠隔操縦、または自律運転させることで被ばく自体を

回避する無人トラクタを開発した。ここでは、この無人トラクタについて報告する。なお、本研究は

農林水産省の「新たな農林水産施策を推進する実用技術開発事業」における課題「放射能汚染地域内

水田等における除染作業用トラクタおよび作業機の開発」において実施された。

1.無人トラクタの概要

1)システムの開発方針

開発にあたっては、水田での表土剥ぎ取りによる除染作業で行われる砕土・集土・排土作業の

うち、最も粉じんが発生し内部被ばくの危険が高い砕土作業に適応することを想定した。また、

汚染地域での利用を考慮すると、自律運転に必要なほ場の詳細な測量地図が無くても利用可能な

ことや、汚染地域外からでも遠隔操縦と自律運転の監視ができることなどの機能が必要であるた

め、過去に生研センターにおいて研究された自律化技術 1),2)と遠隔操縦技術 8)を参考に、下記の

方針で開発することにより、既往技術の既知の問題点の改善と性能の向上を狙った。

(1) 自律運転では難しい畦畔際(ほ場の最外周部)の作業はオペレータが遠隔操縦で行う。

(2) 最外周部以外はオペレータの運転負担軽減のため自律運転で行う。

(3) 測量地図が無くても、遠隔操縦による無人トラクタの走行軌跡を基にほ場地図を作成できる。

(4) 無線通信によりカメラ映像を送受信することで目視範囲外の遠方からでも遠隔操縦ができる。

(5) 砕土作業が正確に行われていることを確認するためのセンサを備える。

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(6) トラクタ作業経験者が直観的に利用できるように遠隔操縦ではトラクタの操作系を再現する。

(7) 不測の事態での緊急停止と、遠隔操作による復帰機能を備える。

2)システムの構成

開発した無人トラクタ遠隔操縦・自律運転システムは主に無人トラクタ本体とオペレータが駐

在する基地局から構成され、2者間で無線通信により情報が送受されることで遠隔操縦と自律運

転を実現する(図1)。

(1) 無人トラクタ

市販の 37kWトラクタをベースに、トラクタの基本操作を搭載した制御 PCでコントロールで

きるようロボット化している。遠隔操縦・自律運転に必要な情報は、RTK-GPS受信機と IMU(慣

性航法装置)から位置姿勢情報、I/Oモジュールを介してトラクタのセンサや ECUからエンジ

ン・PTO回転数、速度段、前後進ギア、燃料残量等のトラクタ状態を常時計測可能で、さらに

トラクタ周辺の映像を撮影するためにカメラ5台(前左右に各1台、後方・作業機確認用に1

台、右サイドミラー用に1台)、キャビン内の空間線量を計測するために小型線量計を装備し

ている。これらにより、オペレータがトラクタに搭乗している時に得られる情報や可能な操作

のほとんどを制御 PCを介して把握、操作可能である。また、制御 PCには車両制御プログラム

が導入されており、遠隔操作時には基地局のオペレータからの操作指令によりトラクタを運転

制御し、自律運転時には各種センサ情報と経路計画に基づき、直進走行、切返し旋回、作業機

操作等の制御を連続的に実行可能である(図2)。

低線量区や 汚染地域外

放射能汚染地域

無線通信

情報提示装置

運転操作装置

オペレータ

無人トラクタ

基地局

図1 システムの構成

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(2) 作業機

作業幅 1.9mのパワーハロー(バーチカルハロー)をベースとして、表土の剥ぎ取りに必要

な耕深を遠隔で調節するためのローラ型耕深センサと耕深調節機構を備える(図2)。ローラ

型耕深センサは地表面と作業機ツメ最下部間の距離を計測するポテンショメータと作業機の傾

きを計測する傾斜計から構成されており、これらの計測値を基に幾何計算を行うことで耕深を

算出する。また耕深調節機構は、トラクタの外部油圧出力を動力として油圧シリンダにより作

業機のゲージ輪高さを変更することで耕深調節を可能としている。これとは別に、耕うんロー

タリなど一般の作業機も通常のトラクタと同様に使用可能である。

(3) 基地局

基地局は市販ミニバン車の荷室に設置しており、無人トラクタのオペレータはトラクタに搭

乗する替わりにこの基地局に駐在する(図3)。主に情報提示装置と運転操作装置から構成さ

れており、トラクタキャビン内の運転操作系を再現したコックピットになっている。情報提示

装置はディスプレイやスピーカ等からなり、トラクタのカメラ映像や作業音、アナログメータ

表示のエンジン回転数などのトラクタ車体情報や空間線量等が逐次オペレータに提示される。

また、非搭乗による情報不足を補うために、ディスプレイの GIS画面上で車両位置や車体傾斜

等の情報提示、基地局側から車両を写した安全監視カメラの映像が合わせて提示される。運転

操作装置はハンドル型コントローラ、ペダル、レバー、非常停止ボタン等からなり、オペレー

タの運転操作を操作情報に変換する。GIS画面の表示には生研センターで開発した GIS営農情

報管理システム「FARMS(ファームズ)」を拡張改良した作業ソフトウェア(以下、FARMS)を

用いており、トラクタの移動軌跡の表示や、この軌跡や地図情報から自律運転用の経路計画を

自動生成する機能が付加されている。

カメラの視野角

前方カメラ

後方カメラ

作業機

耕深調整用 油圧シリンダ

制御 PC

サイドミラーカメラ

耕深センサ

空間線量計

IMU

GPSアンテナ

無線通信アンテナ

多色回転灯

非常停止ボタン

操舵装置

LRF

側方カメラ x2

図2 無人トラクタの構成

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(4) 通信装置

無人トラクタと基地局は無指向性アンテナと無線 LAN装置をそれぞれ備えている。これによ

り基地局からは遠隔操縦に関する操作情報や経路計画、トラクタの制御 PCからは操作情報への

応答やトラクタ車体情報、自律運転の制御状態などが約 20Hzで送信される。また、カメラ映像

は H.264規格で圧縮され基地局へ連続的に送信される(図4)。図1のシステム構成による通

信範囲は半径約 1kmで、無人トラクタと基地局間の一部に有線を利用する、または無線通信設

備を活動地域に複数台設置するなどの拡張により通信範囲を延長・拡大することが可能である。

左カメラ映像

右カメラ映像

前方カメラ映像

後方カメラ映像 サイドミラー カメラ映像

安全監視カメラ映像

・作業範囲設定 ・作業幅 &重複幅設定

・作業経路設定

・航空写真画像 ・ほ場形状 ・トラクタ 現在位置

・予想旋回半径

・作業経路 ・作業軌跡 ・進行方位 ・隣接行程

・予想作業跡 ・操舵角 ・通信状態

FARMS画面

制御用 PC

スピーカ

・キャビン内作業音

情報表示メータ

・GPS衛星配置 ・GPS受信状態 ・トラクタ姿勢角度 ・トラクタ操舵角度 ・空間線量 (現在値積算値) ・クーラント温度 ・バッテリ電圧 ・燃料残量 ・PTO回転数 ・エンジン回転数 ・主・副変速段 ・走行速度 ・運転モード・状態 ・作業機高さ ・耕深

シャトルレバー ・前進⇔停止⇔後進

ペダル ・右ブレーキ ・左ブレーキ ・擬似クラッチ (シャトルレバー連動)

運転装置 ・操舵 ・主変速段変更 ・作業機昇降(クイック) ・スロットル切換(Low⇔High) ・方向指示器・ハザードランプ ・安全監視カメラ PTZ(追尾機能調整)

作業機レバー ・作業機昇降

操作盤 ・非常停止 ・駆動モード切換(2駆⇔4駆) ・作業モード切換(走行・耕耘) ・PTOモード切換(自動・手動) ・PTO駆動 ・耕深制御切換 ・耕深調節 ・エンジン始動 ・運転モード切換(遠隔・自律)

ブザー ・操作可否報告 ・異常報告

図3 基地局の構成

操作情報(UDP:20Hz),経路計画(UDP)

カメラ映像 x4( UDP:ストリーミング)

位置情報, 制御情報, 機体情報(UDP:20Hz)

前方カメラ映像( UDP:ストリーミング)

音声(UDP:ストリーミング)

・各情報は独自にフォーマットを定義 ・キャリアは無線 LAN(IEEE802.11g/n)

無線通信

基地局

安全監視カメラ

カメラ映像 ( UDP:スト

リーミング)

無人トラクタ

リモコン

操作信号 (特定小電力 315MHz)

図4 通信内容

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(5) 安全装置

無人トラクタの周囲は5台のカメラ映像により左後方を除き概ね全方位を見渡すことが可

能である。また、基地局に備える安全監視カメラは GPSの位置情報を基に無人トラクタを自動

追従するため、オペレータが特段の操作をしなくても無人トラクタの周辺状況を監視すること

が可能である。また、トラクタ前方に LRF(レーザ測距センサ)を装着することで、トラクタ

前方に障害物を検出した場合は自動的に停止することができる。

不測の事態に備えた緊急停止機能としては、自律運転可能なトラクタであることを考慮し、

トラクタのエンジン非常停止ボタンをトラクタ本体に2つ、トラクタ―基地局間の無線通信を

介して基地局に同じ機能のボタンを1つ備えている。さらに、無線通信とは別系統の特定小電

力無線を用いたリモコンでも同様に非常停止が可能である(図4)。この機能でエンジンを非

常停止した場合であっても、予備バッテリにより無人トラクタの制御系に電源が供給されてい

るため、安全確認後に基地局からの復帰命令を出すことでエンジンの再始動が可能である。ま

た無線通信は、無人トラクタの制御 PCと基地局の PCにより相互に監視されており、通信が一

定期間遮断されるなど不安定になった場合は自動的にトラクタを停止・待機させることが可能

である。さらに無人トラクタの制御 PCはマイコンが状態を監視しており、制御 PCから応答が

無い場合は即座にエンジンを非常停止させることで機器故障時の安全性を高めている。

3)システムの運用方法

本システムを用いた砕土作業の手順は、(1)対象ほ場の最外周をオペレータが遠隔操縦で作業し

同時に FARMS が走行軌跡を自動的に記録する、(2)遠隔操縦が終了したら FARMS が走行軌跡か

ら作業経路計画を自動生成しトラクタに送信する、(3)オペレータが運転モードを「遠隔」から「自

律」に切換えて、無人トラクタが自律運転で残りのほ場内部を作業する、という流れになる(図

5)。事前に詳細な測量地図を持つほ場の場合は、走行軌跡ではなく測量地図を基にして作業経

路計画を生成することもできる。また、生成された作業経路計画の一部を修正したい場合はマウ

ス操作により容易に経路を変更することができる。無人トラクタの自律運転中は、オペレータは

カメラ映像や FARMS 画面を見ながら監視を行い、必要に応じて耕深調整が可能である。

図5 経路計画の生成(FARMS画面)

(1) 遠隔操縦(走行軌跡記録) (2) 作業経路計画の自動生成 (3) 自律運転(遠隔監視)

走行軌跡

無人トラクタ位置

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2.遠隔操縦による作業性能

無人トラクタの遠隔操縦は直接目視ではなくカメラ映像を主な情報源とした運転操作であり、振動

や傾斜などのトラクタ搭乗時の体性感覚の欠落や、カメラ映像や運転操作情報の遅延など、トラクタ

搭乗時よりも運転・作業性に悪影響を与えると考えられる要素がいくつかある。また、開発したシス

テムは主として表土剥ぎ取り除染作業における砕土作業を対象としているが、一般のトラクタ作業に

も適用可能である。よって、システムの基本性能を確認するため、生研センター附属農場の水稲収穫

後水田において遠隔操縦による畦畔併走とロータリ耕うん作業の2種の試験を実施した。

1)畦畔併走試験

畦畔際でのトラクタ作業を想定して、無人トラクタを乗車運転または遠隔操縦して 50mのコン

クリート畦畔に併走し、作業機端とコンクリート畦畔との距離(以下、偏差)を計測、比較する

ことで遠隔操縦による運転性能を確認した(図6)。作業機は、右端にプリズムを設置した作業

幅 2.0mのロータリとし、走行時には PTO クラッチを切りヒッチを最下げの状態にした。畦畔の

位置(図6内の基準線)と走行時のプリズム位置は自動追尾パルストータルステーション

TOPCON GPT-9000A により計測した。被験者は 30~40代の男性3名(被験者Aは 10年以上のト

ラクタ作業経験を有する熟練者、Bは1年以上のトラクタ作業経験が有り 10 時間以上の無人トラ

クタの遠隔操縦経験を持つ遠隔操縦熟練者、C はトラクタ作業と遠隔操縦ともに経験が少ない非

熟練者)とし、各被験者が「乗車」運転と「遠隔」操縦の2試験区を3試行ずつ実施した。また

各被験者には、作業機を畦畔になるべく近づけるように指示した。

試験結果のうち、各被験者において乗車運転―遠隔操縦間で偏差平均と標準偏差を比較すると

概ね同等であり、遠隔操縦であっても乗車運転並みの高い精度で運転走行が可能であることがわ

かった(表1)。または、試験後に被験者からの聞き取りにより、乗車運転時のサイドミラーの

視認と同様に、遠隔操縦時にサイドミラーカメラの映像で畦畔際まで作業機を寄せることができ

るとの感想を得た。

被験者 熟練度

走行速度

[m/s]

偏差平均 [cm]

(標準偏差)

乗車 遠隔 乗車 遠隔

A トラクタ熟練 0.46 0.42 4.0(1.7) 5.4(2.2)

B 遠隔操縦熟練 0.42 0.44 6.1(1.6) 5.1(1.5)

C 非熟練 0.45 0.43 6.1(1.7) 7.1(1.5)

サイドミラー カメラ

偏差

プリズム

基準線

図6 畦畔併走試験風景と定義項目

表1 畦畔併走試験結果

※ 偏差平均は走行した 50mのうち 10~40m区間の偏差の平均値。 また、表内数値は3試行の平均値

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2)ロータリ耕うん試験

自律運転時に GPS 測位精度の低下や、ほ場内障害物の発見などの不都合が発生した場合は遠隔

操縦に切換えて作業を継続する必要がある。そこで、自律運転は用いず遠隔操縦のみによるトラ

クタ作業の性能を把握することを目的に遠隔操縦によるロータリ耕うん試験を行った。作業オペ

レータは畦畔併走試験における被験者Bとし、同形状の矩形ほ場2筆を無人トラクタに乗車運転

する「乗車」区と、遠隔操縦する「遠隔」区にわけて作業を行った。遠隔操縦におけるトラクタ

の旋回方法は除染作業への適用を想定して土壌表面をなるべく荒らさない設定になっているため

本試験では乗車運転時とは異なる「切換し」による旋回方法とした。トラクタの車両位置や機関

回転速度等のすべての計測データはシステムに搭載しているセンサにより取得され、FARMS に

よって自動記録されたものを用いた。

遠隔操縦による作業も乗車運転によるものと同様に均一な行程間隔で残耕なく作業すること

ができた。左右偏差(各行程での進行方向に直角な方向のずれ量)の標準偏差は遠隔操縦の方

がやや大きかった(図7、表2)。また、ほ場作業効率は遠隔操縦の方が 10%以上少なかった

が、これは往復行程における旋回方式の違いによるところが大きいと考えられた(図8)。

項目 乗車 遠隔

ほ場 水稲収穫後水田

ほ場面積 [a](長辺×短辺) 各区 12.4

(50×24.8m)

土性 SiC

含水比 [%] 47.6 50.0

貫入抵抗※1 [kPa] 807 612

機関回転速度 [rpm] 2040 2039

旋回方式※2 Uターン 切換し

前輪倍速、片ブレーキ 使用 未使用

作業機 耕うんロータリ

作業幅 [m] 2.0

作業行程 往復 4.5+周回2周

設定行程間隔 [m] 1.8

左右偏差(標準偏差) [cm] 4.1 5.3

平均作業速度 [m/s] 0.45 0.41

全作業時間 [min] 29.6 39.0

ほ場作業量 [a/h] 25.1 19.1

ほ場作業効率 [%] 77.3 64.7

0 5 10 15 20 25 30 35 40

乗車

遠隔

全作業時間 [min]

耕うん 前進

後進 旋回

停止

往復行程 周回行程 空走

図8 ロータリ耕うん作業試験結果-作業時間の比較

0

10

20

30

40

50

60

70

80

0 10 20 30 40 50 60 70 80

南北方向 [m]

東西方向 [m]

乗車

遠隔

乗車_耕うん

遠隔_耕うん

ほ場外形

図7 ロータリ耕うん試験結果-走行軌跡

表2 ロータリ耕うん試験条件と結果

※1 深さ 15cmまでの平均円錐貫入抵抗 ※2 「切換し」は「旋回⇒後進⇒旋回」で 180°旋回する方式

※ 軌跡の記録位置は後車軸中心のほ場表面への投影点

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3.遠隔操縦と自律運転による除染作業

除染作業現地試験の詳細については本資料「放射性物質汚染地域内水田等における除染作業用トラ

クタの開発」において報告されているので無人トラクタ作業に関する結果概要について記す。

試験ほ場の最外周を遠隔操縦にて作業した後、残った内部を自律運転によりトラブル無く砕土作業

を行うことができた。しかし、ほ場作業量は 10.1a/hと少なく速度向上と作業効率改善の必要性が認

められた。また、耕深は設定した目標耕深に概ね一致しており耕深センサと耕深調節機構の有効性が

確認された。

おわりに

本研究により、遠隔操縦と自律運転を融合することで、オペレータの被ばくを回避しながら除染の

ための砕土作業が実施できることを示した。農地・農道除染では今回現地試験を行った水田での砕土

作業以外のトラクタ作業も多く検討されている。よって、さらなる被ばく回避のためにはこれらの作

業へ適用を拡大する必要がある。

また、開発した無人トラクタと遠隔操縦・自律監視システムは、通常の農作業で行われる耕うん・

砕土にも適用可能であるため、農作業の超省力化技術として期待されるロボット農作業体系の適応性

と安全性の向上に寄与すると考えている。

現地試験の実施においては、現地生産者の高野靖夫氏、福島県飯舘村復興対策課の万福裕造氏、農

林水産省農林水産技術会議事務局の土原健雄氏、中央農業総合研究センターの小林恭氏、細川寿氏を

はじめ多くの皆様に多大な協力を頂いた。厚く御礼申し上げる。

参考文献

1)行本修ら,2001.耕うん作業を行う自律移動ロボットに関する研究.農業機械化研究所研究報告,

32,1-96

2)松尾陽介ら,2012.ロボットトラクタの開発.農業機械化研究所研究報告,41

3)長坂ら,2012.表土削り取りによる農地の放射性物質の除去技術―農業機械を利用した手法―.

機械化農業,7-11

4)宮崎昌宏,2012.東日本大震災からの復興をめざして―農地周辺除染用作業機の開発―.農機誌,

74(4),251

5)小竹一男ら,2012.農道表層剥ぎ取り機の開発.農機誌,74(4),252-258

6)戸田勉ら,2012.法面表土削り取り機の開発.農機誌,74(4),259-264

7)戸田勉ら,2012.畦畔表土削り取り機の開発.農機誌,74(4),265-270

8)生研機構,1996.位置制御技術の開発.平成7年度事業報告,6-7

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放射性物質汚染地域内水田等における除染作業用トラクタの開発

生産システム研究部 重松健太、吉野知佳、宮原佳彦、紺屋秀之、市来秀之、山田祐一

評価試験部 堀尾光広、塚本茂善、皆川啓子、原田一郎

中央農業総合研究センター 小林恭、細川寿

共同研究実施会社 井関農機(株)、(株)クボタ、三菱農機(株)

はじめに‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥22

1.開発目標‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥22

2.開発したシールドキャビントラクタの概要‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥23

1)A 機‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥23

2)B 機‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥23

3)C 機‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥24

3.放射線遮蔽性能‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥24

1)調査方法‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥24

2)結果の概要‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥25

4.防じん性能‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥25

1)調査方法‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥25

2)結果の概要‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥26

5.除染作業への適用‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥26

1)試験方法‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥26

2)結果の概要‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥27

おわりに‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥29

参考文献‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥29

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はじめに

2011年 3月 11日の東日本大震災に伴う福島第一原子力発電所事故により、放射性物質が降下し、

農地を含む東日本の広範囲が汚染された。汚染された農地の除染は、被災地の復興、特に基幹産業で

ある農業の再興において不可避の課題である。政府は、2011年 8月に「平成二十三年三月十一日に発

生した東北地方太平洋沖地震に伴う原子力発電所の事故により放出された放射性物質による環境の汚

染への対処に関する特別措置法」を制定し、これに基づき除染作業を実施することとしている。

今回の事故で降下した放射性物質の大半を占める放射性セシウムは、土壌の表層に集中することが

過去の研究や調査1)で明らかにされており、表層土壌の除去、あるいは作物の根茎が達しない地中深

くに埋没させること等で農地を利用可能な状態に復帰させることが期待できる。農地の除染を目的と

して表層土壌の除去作業を実施する場合において、農地で円滑に稼働する機械が求められる。農用ト

ラクタとこれに装着する作業機は、農地で作業を行うことを想定して設計されていることから、除去

作業においても効率的な作業が可能と考えられる。

一方で、農地除染に従事する作業者の安全については、外部および内部被ばく防止の対策が求めら

れている。農林水産省が 2011年 9月に取りまとめた「農地土壌の放射性物質除去技術(除染技術)に

ついて」では、「高線量下での作業技術の検討が必要」とされ、特に、土ぼこりなど放射性粉じんの飛

散防止等の必要性が指摘されている。しかしながら、現行の農用トラクタで農地除染を行うことを前

提として、作業者の外部および内部被ばくの防止を考慮して開発された機種はない。

そこで、生研センターでは、①外部および内部被ばくの防止を目的としたシールドキャビン付きト

ラクタ(以下、シールドキャビントラクタ)の開発、②安全かつ効率的なほ場内表土除去方法、につ

いて研究を行うこととした。ここでは、開発したシールドキャビントラクタ2)の概要と福島県飯舘村

の農家ほ場において行った除染作業試験について報告する。

なお、本研究は、2011年度は農林水産省の「新たな農林水産政策を推進する実用技術開発事業」で

採択された「放射能汚染地域内水田等における除染作業用トラクタおよび作業機の開発」において、

2012年度は同省の「農地・森林等の放射性物質の除去・低減技術の開発」で採択された「高濃度汚染

地域における農地土壌除染技術体系の構築・実証」において取り組み、井関農機(株)、(株)クボタ

および三菱農機(株)と共同で実施したものである。

1.開発目標

本研究の目標は、放射線による運転者の被ばく抑制機能を有したシールドキャビントラクタを開発

することとし、具体的には以下のとおりとした。

① キャビン内部でトラクタの運転操作を行う作業者の放射線外部被ばく量を同地点における機体周

辺の外部被ばく量に比較して概ね 50%以下に低減する。

② キャビン内部への外部からの放射性物質(粉じん)の侵入を極力低減する。(運転者が作業時に高

価で重厚な防じんマスクを装着する必要ない程度の空気清浄レベルを保持する。)

③ 上記の①および②の機能を有し、通常のキャビン付き農用トラクタ(以下、キャビン付きトラク

タ)として必要な構造および機能等に関する要件を満たす。

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2.開発したシールドキャビントラクタの概要

開発したシールドキャビントラクタA、B機および民間企業が開発したC機の主要諸元を表1に示す。

各機の特徴は以下のとおりである。

1)A機

A機の外観を図1に示す。A機は、国内市販のキャビン

付きトラクタ(機関出力 62.5kW、セミクローラ仕様)を

ベースとして、放射線遮蔽素材を装着するとともに、防

じん空調装置を搭載したものである。A機のコンセプトは、

ベース機のフレームに大幅な改造を加えずに必要な機能

を備えることであり、各種機器を後付けで装着または搭

載することで被ばく抑制機能を付加することとした。

放射線遮蔽素材には、鉛板を採用し、座席付近、キャ

ビン床面、ドア下側、天井および後輪フェンダに装着し

た。防じん空調装置には HEPAフィルタおよびキャビン内

空気与圧型空調システムを採用し、外気を HEPAフィルタを通してキャビン内に取り込み、エアコン

のファンで与圧する構造とした。HEPAフィルタはキャビン上に搭載した。機器の追加による質量増

加量は約 200kgであった。

2)B機

B機の外観を図2に示す。B機は、国内市販のキャビン付きトラクタ(機関出力 58.8kW、セミクロ

ーラ仕様)をベースとして、キャビンを米国市販の農薬散布作業用トラクタ向けキャビンに交換し、

放射線遮蔽素材を装着するとともに、防じん空調装置を搭載したものである。B機のコンセプトは、

作業性を担保しながら被ばく抑制機能を最大限向上させることであり、シャーシフレームを含めて

大幅な改造を行うこととした。

図1 A機の外観

供試機 A機 B機 C機

機関出力(kW) 62.5(85PS) 58.8(80PS) 92.9(126PS)

走行部仕様 セミクローラ セミクローラ フルクローラ

全長(mm) 5,100(フロントローダ含む) 3,955 4,420

全幅(mm) 2,020 1,890 2,640(防じん空調装置含む)

全高(mm) 3,260(防じん空調装置含む) 2,765(防じん空調装置含む) 2,680

質量(kg) 5,000(フロントローダ含む) 6,120 6,110

質量増加量(kg) 200 2,600 1,000

放射線遮蔽素材 鉛板 鉛板、鉛ブロック、含鉛ガラス 鉛板、鉄板

防じん空調装置 HEPAフィルタ、空気与圧型 HEPAフィルタ、空気加圧循環型 HEPAフィルタ、空気加圧循環型

表1 シールドキャビントラクタの主要諸元

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放射線遮蔽素材には、鉛板、鉛ブロックおよび含鉛ガ

ラスを採用し、鉛板および鉛ブロックは露出しないよう

に鉄板等で被覆して、オペレータの肩より下方五面に、

ドア部はアクセスのため可動式の遮蔽壁として、含鉛ガ

ラスはキャビンガラスの内側にそれぞれ装着した。また、

放射性遮蔽素材の装着により視界が狭くなったことから、

前輪付近と後方の視界を補うカメラを設置し、キャビン

内のモニタで作業者が確認できるようにした。防じん空

調装置には HEPAフィルタおよびキャビン内空気加圧循環

型空調システムを採用し、外気を HEPAフィルタを通して

キャビン内に取り込み、ブロアで加圧し、エアコンで循環させる構造とした。HEPAフィルタとブロ

アはキャビン上に搭載した。機器の追加による質量増加量は約 2,600kgであった。

3)C機

C機の外観を図3に示す。C機は、民間企業が独自に開

発した機種であり、国内市販のキャビン付きトラクタ(機

関出力 92.9kW、フルクローラ仕様)をベースとして、放

射線遮蔽素材を装着するとともに、防じん空調装置を搭

載したものである。

放射線遮蔽素材には、鉛板および鉄板が採用され、キ

ャビンの下側を中心に前後左右および床面に放射線遮蔽

素材を組み合わせて、天井には鉄板が装着されている。

防じん空調装置には、HEPAフィルタおよびキャビン内空

気加圧循環型空調システムが採用され、外気を HEPAフィルタを通してキャビン内に取り込み、ブロ

アで加圧し、エアコンで循環させる構造となっている。HEPAフィルタとブロアはキャビン右側方に

搭載されている。機器の追加による質量増加量は約 1,000kgであった。

3.放射線遮蔽性能

シールドキャビントラクタ3機種を供して、福島県飯舘村内において、キャビン内外の空間線量率

を測定し、放射線遮蔽性能を調査した。

1)調査方法

福島県飯舘村内の農家ほ場および農道において、シンチレーションサーベイメータ(日立アロカ

メディカル、TCS-172B)を用いて、キャビン内外の空間線量率を測定した。調査の様子を図4に示

す。測定は、キャビン内では床面から高さ 1cmとハンドル付近で行った。キャビン外ではトラクタ

の周囲 4方向の地上 1mで行い、その平均値を機体周辺外部の測定値とした。

図2 B機の外観

図3 C機の外観

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2)結果の概要

放射線遮蔽性能調査の結果を表2に示す。機体周辺

外部の空間線量率が 2〜7μSv/h の条件下で、キャビン

内部の空間線量率は機体周辺外部に対して、A機で 59%

(床面付近約 30%)、B機で約 13%(床面付近約 5%)、

C機で 36〜57%(床面付近約 10%)となった。以上の

結果から、開発したシールドキャビントラクタが放射

線遮蔽性能の開発目標を達成したことを確認した。ま

た、除染作業が実施されている居住制限区域(空間線

量率 20~50mSv/年(2.3~5.7μSv/h))において、シー

ルドキャビントラクタを適用することで、作業者の被

ばく量を被ばく管理の必要のない空間線量率 2.5μSv/h以下へ低減することが可能と考えられた。

4.防じん性能

シールドキャビントラクタ3機種、キャビン付きトラクタおよびキャビンなし農用トラクタ(以下、

キャビンなしトラクタ)の5機種を供して、中央農業総合研究センターにおいて、キャビン内外の粉

じん濃度を測定し、キャビンの防じん性能を調査した。

1)調査方法

中央農業総合研究センターの開閉式屋根付きほ場

(5a、土性:SL、含水比:17~21%)において、各供

試機に同じパワーハロー(MASCHIO、DC-3000)を装着

し、作業速度を約 0.3m/sに設定し、表土破砕模擬作業

を 10分間(ほ場内を 2周作業)行った。その際のキャ

ビン内外の粉じん濃度をデジタル粉じん計(柴田科学、

LD-5)とローボリュームサンプラ(柴田科学、LV-40BR 図5 防じん性能調査

A機

飯樋 伊丹沢 長泥 伊丹沢 長泥

機体周辺外部 2.57 2.3 7.05 3.39 7.05

キャビン内ハンドル付近

1.37(59.3)

0.31(13.5)

0.93(13.2)

1.21(35.7)

4.01(56.9)

キャビン内床面

0.48(29.8)

0.14(4.1)

0.46(6.5)

0.35(10.3)

0.67(9.5)

測定場所

空間線量率2)(μSv/h)

B機 C機供試機

試験場所

1)()は機体周辺外部を 100 とした場合の空間線量率の比 単位:% 2)シンチレーションサーベイメータ(日立アロカメディカル、TCS-172B)を使用。

表2 放射線遮蔽性能調査結果 1)

図4 放射線遮蔽性能調査

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+A型ホルダ)を用いて測定し、比較した。調査の様子を図5に示す。各測定器は、キャビン内では

作業者口元近傍に、キャビン外ではほ場中央の地表面から高さ 1mに設置した。なお、開閉式屋根付

きほ場は、ほ場外枠の長辺にレールが敷設され、ガントリシステムで移動する屋根が設置されてお

り、土壌が降雨などの影響を受けにくいほ場である。

2)結果の概要

防じん性能調査の結果を表3に示す。デジタル粉じん計で測定した作業者口元近傍の相対粉じん

濃度は、キャビンなしトラクタに対し、B機で 0.4%、C機で 1.1%、キャビン付きトラクタで 8.4%

であった。ローボリュームサンプラで測定した粉じん濃度は、ほ場中央に対し、B機で 0.2%、C機

で 0.1%、キャビン付きトラクタで 0.9%であった。以上の結果から、シールドキャビントラクタは

キャビン付きトラクタと比較して、防じん性能が高いことを確認した。表土破砕作業等の粉じんが

発生し易い作業において、作業者の放射性粉じん吸入による内部被ばく防止のためには、キャビン

付きトラクタを使用し、これに防じん機能を有する空調装置を付加することが望ましいと考えられ

た。また、シールドキャビントラクタを使用することで日本産業衛生学会が許容濃度3)の勧告値と

して公表している吸入性粉じんの濃度 2mg/m3を大幅にクリアし、作業者の内部被ばく量が最小限に

抑えられる見通しを得た。なお、A機は調査後に空調装置に故障があったことが判明したため、再度

調査を行う予定である。

5.除染作業への適用

シールドキャビントラクタ2機種および遠隔操縦と自律運転が可能な無人トラクタ4)(以下、無人

トラクタ、平成 24年度生研センター研究報告会資料「遠隔操縦及び自立作業により除染作業が可能な

無人トラクタの開発」参照)を供して、福島県飯舘村内の農家ほ場において、表土除去による除染作

業試験を実施した。

1)試験方法

農家ほ場(31.5a、黒ボク土、含水比 85.1%)に試験区(8.6a)を2区設け、シールドキャビント

キャビンなし キャビン付き A機2) B機 C機

6,200520

(8.4)-

25

(0.4)

70

(1.1)

ほ場中央 31.54 63.27 - 22.12 73.7

作業者口元40.62

(128.8)

0.57

(0.9)-

0.04

(0.2)

0.08

(0.1)

相対粉じん濃度3)(cpm)

粉じん濃度4)

(mg/m3)

供試機

1)相対粉じん濃度の()はキャビンなしを 100 とした場合の比、粉じん濃度の()はほ場中央を 100 とした場合の比。 単位:%

2)A機は空調装置に不具合があったため、測定値なし。 3)デジタル粉じん計(柴田科学、LD-5)を使用し、作業者口元近傍で測定。 4)ローボリュームサンプラ(柴田科学、LV-40BR+A型ホルダ)を使用。

表3 防じん性能調査結果 1)

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ラクタ B機および無人トラクタにパワーハロー(B機:MASCHIO、DL2000S、無人トラクタ:スガノ、

RA190SP)を装着し、2つの試験区で表土破砕作業を実施した。その後に、シールドキャビントラク

タ A機にリアグレーダ(井関農機、KRD2440-P)およびフロントローダ(三陽機器、JVLA95PC(バケ

ット LAD5500))を装着し、無人トラクタで表土破砕作業を実施した試験区で集土・排土作業を実施

した。その際の除染効果、作業能率、作業精度および放射線遮蔽・防じん性能を調査した。

除染効果は、試験区内 12地点(9m×8mメッシュの中央地点)において、表土除去前後に、シンチ

レーションサーベイメータ(日立アロカメディカル、TCS-172B)を用いて、地表 1cm(表面コリメー

ト法:サーベイメータの検出器を鉛製の遮蔽体で覆い、周囲からの放射線の影響を除外して測定対

象地表面からの放射線のみを測定する方法)と地上 1mの空間線量率を測定し、その低減度合いを調

査した。また、同地点において、採土器を用いて地表面から深さ 15cmまでの 5cmごとの土壌サンプ

ルを採取し、外部機関で放射性物質の分析を行い、放射性 Cs濃度を算出し、放射性物質の除去効果

を調査した。作業能率は、作業速度および作業時間を固定ビデオカメラ、GPSロガーを用いて記録し、

ほ場作業量等を算出した。作業精度は、試験区内 216地点(2m×2mメッシュの中央地点)において、

各作業の前後に測量器(TOPCON、GPT9000A)を用いて土壌表面の高さを測定し、耕深および作業高

さを算出した。放射線遮蔽・防じん性能は前述3、4と同様の方法で調査した。各作業の様子を図

6に示す。

2)結果の概要

除染効果のうち空間線量率の低減効果を表4に示す。表土除去前後の空間線量率は地表 1cm(表面

コリメート法)で 0.74μSv/hから 0.25μSv/hに、地上 1mで 3.42μSv/hから 1.89μSv/hに減じ、

表土除去後の空間線量率は、除去前に対して地表 1cmで 34%、地上 1mで 55%であった。一方、放射

性物質の除去効果は、土壌に含まれる放射性 Cs濃度(地表面から深さ 15cmまでの平均)で 5,474Bq/kg

乾土から 1,795 Bq/kg乾土へ減じ、除去後の濃度は、除去前に対して 33%であった。また、深さごと

の放射性 Cs濃度から地表面から深さ 5cmまでの土壌に全体の 95.3%の放射性 Csが含まれていること

を確認した。このことから、シールドキャビントラクタが除染作業へ適応可能であることを確認す

るとともに、表土除去による除染の効果を把握した。

図6 除染作業試験

B機 表土破砕作業

無人トラクタ 表土破砕作業

A機 集土作業

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作業能率を表5に示す。ほ場作業量は B機の表土破砕作業で 26.9a/h、無人トラクタの表土破砕作

業で 10.1a/h、A機の集土・排土作業で 3.0a/hであった。このことから、集土・排土作業の作業能

率が極端に低く、その向上を図るために作業方法だけでなく作業機も含めた検討が必要と考えられ

た。

作業精度は、表土破砕作業の耕深が B機で 28.8±11.2mm、無人トラクタで 33.8±8.5mmであり、

概ね 30mmの耕深で作業を行うことが可能であった。また、A機による集土・排土作業によって更に

10mm程度の表土の削り取りが確認された。このことから、集土・排土作業に用いる作業機にも尾輪

等の作業高さを調整する機能の付加が必要と考えられた。

放射線遮蔽・防じん性能を表6に示す。キャビン内部の空間線量率は、機体周辺外部に対して A

機で 59%(床面付近 22%)、B機で 17%(床面付近約 9%)、無人トラクタで 79%(床面付近 50%)

となった。無人トラクタをキャビン付きトラクタ対照機(放射線遮蔽素材を装着していないため)

とすると、シールドキャビントラクタの空間線量率の低減効果が確認できた。一方、相対粉じん濃

度は、ほ場内に対して A機で 20%、B機で 8%であった。相対粉じん濃度から算出した換算粉じん濃

度(質量濃度変換係数:0.03 mg/m3/cpm)が除染電離則が高濃度粉じん状態と定める 10mg/m3を大き

測定高さ 1cm4) 1m 1cm

4) 1m

平均 0.74 3.420.25

(34)

1.89

(55)

最大 0.95 3.57 0.37 2.87

最小 0.47 3.28 0.12 1.64

標準偏差 0.13 0.07 0.09 0.36

空間線量率2)(μSv/h)

表土除去前 除去後3)

1)無人トラクタで表土破砕作業、シールドキャビントラクタ A 機で集土・排土作業を実施。 2)シンチレーションサーベイメータ(日立アロカメディカル、TCS-172B)を使用。 3)()は表土除去前を 100 とした場合の空間線量率の比 単位:% 4)表面コリメート法により測定。

表4 空間線量率低減効果 1)

作業名 表土破砕 表土破砕 集土・排土

供試機 B機 無人トラクタ A機

作業時間(min) 20 51 170

ほ場作業量(a/h) 26.9 10.1 3.0

作業速度(m/s) 1.24 0.32 -*

燃料消費量(kg/10a) 3.4 2.7 6.0

表5 除染作業能率

*集土・排土作業は加減速による速度変動が大きいため、省略。

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く下回ることを確認した。前述3の防じん性能調査と比較して粉じん濃度の低減割合が低かった原

因としては、作業対象の土壌の含水比が高く、ほ場内の粉じん発生量が小さかったことが考えられ

た。

以上より、開発したシールドキャビントラクタが除染作業へ適応可能で、実作業においても放射

線遮蔽性能と防じん性能の開発目標を達成したことを確認した。

おわりに

本研究では、通常の農用トラクタの作業性を確保しつつ、作業者の放射線外部被ばく量を機体周辺

のそれと比較して概ね 50%以下に、粉じんの侵入を大幅に、低減するシールドキャビントラクタを開

発した。開発したシールドキャビントラクタが除染作業に従事する作業者の安全確保に役立ち、除染

作業の加速の一助となれば幸いである。

謝辞

現地試験に際しては、福島県飯舘村復興対策課除染担当 万福裕造氏(国際農林水産業研究センタ

ー企画調整部より出向)、現地生産者 高野靖夫氏他の皆様に多大なるご協力を賜りましたことに深く

感謝いたします。

参考文献

1)農林水産省、農林水産技術会議事務局:農地土壌の放射性物質濃度分布マップ関連調査研究報告

書(第3編)、2012

2)生研センター:平成 23年度事業報告(別冊)、2012

3)日本産業衛生学会:許容濃度等の勧告(2011 年度)、産業衛生学雑誌 53巻、2011

4)生研センター:平成 24年度事業報告、2013

A機 B機 無人トラクタ

機体周辺外部 2.52 2.77 2.74

キャビン内ハンドル付近

1.48(59)

0.48(17)

2.16(79)

キャビン内

床面

0.56

(22)

0.24

(9)

1.38

(50)

ほ場内 4.1 14.1 -

キャビン内0.8(20)

1.1(8)

供試機

空間線量率2)

(μSv/h)

相対粉じん濃度3)

(cpm)

表6 放射線遮蔽・防じん性能 1)

1)空間線量率の()は機体周辺外部を 100 とした場合の比、相対粉じん濃度の()はほ場を 100 とした場合の比。 単位:%

2)シンチレーションサーベイメータ(日立アロカメディカル、TCS-172B)を使用。 3)デジタル粉じん計(柴田科学、LD-5)を使用。

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農用車両の電動化に関する基礎研究

基礎技術研究部 藤井幸人、長澤教夫、臼井善彦、Phan Dang To

園芸工学研究部 大西正洋

はじめに ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 32

1.外部給電式電動ロータリの試作 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 32

1)電動ロータリ ER1号機・ER2号機の仕様 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 32

2)ロータリ耕うん試験の概要 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 33

2.エンジン車改造によるバッテリ車載式電気トラクタの試作 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 36

1)コンバージョン ET1号機の仕様 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 36

2)走行性能等の概要 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 37

おわりに ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 38

参考文献 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 38

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はじめに

石油資源の枯渇、温室効果ガスの排出抑制による地球温暖化防止、省エネルギ化の推進、さらに

は運転時の騒音・振動の低減を図る等の観点から、自動車や建設機械分野においては、動力源の一

部または全てを電気エネルギで代替する技術開発が進行している。具体的には、化石燃料による従

来の内燃機関に加えて電動モータを併用したハイブリッド車両の他に、車載リチウム二次電池やキ

ャパシタ等を電源として電動モータ単体で動く電気車両の実用化があげられる。

農業機械分野についてみると、家庭菜園向けの小型耕うん機や刈払機など軽負荷作業用途を対象

にした歩行型・可搬型の電動機械や荷役用の電動運搬機等が実用化されており、今日ではその機種

も増えつつある。しかし、乗用トラクタなど負荷変動の大きな中・重負荷作業を前提にして連続作

業に耐え得る電動乗用機械の開発については、実験的解析研究の事例1)2)3)4)5)がみられるもの

の他分野に比べて実用化研究は立ち後れている現状にある。

そこで、筆者らは、2010年度から農用車両への電動化技術の適用を目的とした基礎研究に着手し、

今年度までに電動耕うん試験、およびエンジン駆動の乗用トラクタを電動モータ駆動に改造したコ

ンバージョン車両の試作に取り組んできた。ここでは、これらの概要について紹介する。

1.外部給電式電動ロータリの試作

1)電動ロータリ ER1号機・ER2号機の仕様

電気動力による耕うん性能等の機能確認に供するために、市販のロータリ作業機(以下、ロ

ータリ)をベース機にしてトラクタ PTO駆動方式から電動モータ駆動方式に改造した電動ロー

タリを設計・試作した(表1)。

表1 電動ロータリの主要諸元

ER1号機(逆転・アップカット) ER2号機(正転・ダウンカット)

改造前 改造後(電動) 改造前 改造後(電動)

全 長[cm] 121 ← 141 ←

全 幅[cm] 187 ← 178 ←

全 高[cm] 98 119 105 126

作業幅[cm] 170 ← 160 ←

質 量[kg] 385 520 380 515

爪本数[本] 32 ← 34 ←

駆動方式 トラクタ PTO 減速機付きモータ

11kW・380V・19.6A

減速比 1/3.48

トラクタ PTO 減速機付きモータ

11kW・380V・19.6A

減速比 1/3.48

電動ロータリは、逆転・アップカット(以下、ER1号機)と正転・ダウンカット(以下、ER

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トラクタ車載インバータ装置

電動モータ

支持台

動力伝達部

2号機)の2機種であり、い

ずれもロータリ本体上部に配

置した支持台と支持台に載荷

する電動モータ、および電動

モータの出力軸と作業機の動

力取入れ軸(以下、PIC)とを

連結する動力伝達部から構成

される(図1)。

電動モータは、減速機付き

永久磁石同期モータ(PMSM、

定格出力 11kW)を用いた。以

上の改造により、各ロータリ

の質量は市販ベース機よりも約 135㎏増加した。また、電動モータの回転速度をベクトル制御

するインバータ(定格電圧 380V)は、トラクタに配置した。

電動ロータリへの電源(三相交流 380V)は、ほ場外部に接地した昇圧装置付き自立型動力分

電盤から供給し、移動可能なキャブタイヤケーブル(100m)をほ場内に敷設して、インバータ・

電動モータへと連結する外部給電方式とした。なお、ほ場試験では、上記の同一電動モータを

ER1号機および ER2号機に載せ替えて用いた。

2)ロータリ耕うん試験の概要

試作 ER1号機、ER2号機を用いた電動耕うん作業の可否、および耕深や走行速度等の作業条

件を変えた場合の動力、エネルギ、燃費等を知ることを目的にトラクタエンジンによる作業を

対照区にしてロータリ耕うん試験を行った。試験は、生研センター(埼玉県さいたま市)内の

約1ヶ月前に雑草刈取り後に1回ロータリ耕うんした普通畑(壌土、前作無し、長辺 40m・短

辺 12m)において機能確認試験を行い、また生研センター附属農場(埼玉県鴻巣市)内の水稲

収穫後の未耕起水田(埴壌土、水稲連作、長辺 100m・短辺 50m)において作業精度試験を行っ

た。試験区は、Ⅰ(逆転耕)区、およびⅡ(正転耕)区の2区を設定した。

なお、供試トラクタ(呼称出力:24.3kW/2800rpm)は、全て同一機とした。

(1) 機能確認試験

供試トラクタの設定走行速度は、Ⅰ(逆転耕)区を 0.05m/s(速度段 L-1速)、Ⅱ(正転耕)

区を 0.24m/s (速度段 L-8速)とし、また、PICの回転速度はロータリ無負荷状態で標準 PTO

回転速度の 540rpm(速度段1速)に設定してそれぞれ1反復行った。1区当たり約 15mロー

タリ耕を行い、その間の PTO 動力、燃料消費量、消費電力等を測定した。PTO 動力は、スリ

ップリングにより PTO回転速度と PTOトルクをデータロガーに記録して測定した。また、燃

図1 試作装置の主な構成

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料消費量は、容積式の流量検出器と流量指示計をトラクタに車載して検出し、その出力を上

記データロガーに記録して測定した。さらに、消費電力の測定は、電力計を用いて分電盤の

昇圧装置一次側で記録して測定した。測定結果を表2に示す。

表2 機能確認試験の結果

試験区 円錐貫入

抵抗

[MPa]

土壌

含水比

[%]

作業

速度

[m/s]

耕深

[cm]

PIC

回転速度

[rpm]

PTO動力

[kW]

消費

電力

[kW]

燃料

消費量

[L/h]

(逆転耕)

ER1号機 1.4 52 0.04 15 540 ─ 3.14 2.90

対照区 1.2 63 0.04 16 538 4.22 ─ 3.63

(正転耕)

ER2号機 0.8 45 0.23 17 540 ─ 3.71 2.92

対照区 0.5 56 0.22 17 524 7.34 ─ 4.31

ER1号機、ER2号機による電動耕うんは、概ね可能であった(図2)。

Ⅰ(逆転耕)区の耕うん作業に要

する平均消費電力 3.14kW(変動係数

0.13)およびトラクタ PTOの平均所

要動力 4.22kW(変動係数 0.65)をも

とに、ほ場作業効率を考慮しない場

合の 10a当たりの消費エネルギを推

算すると、電動モータ作業が

42.0MJ/10a、トラクタ PTO 作業が

56.4MJ/10aであった。また、Ⅰ(逆

転耕)区の電動作業を行った試験区

の走行に要した燃料消費量 2.90L/h

の値は同対照区において同等と仮定した場合、耕うん整地作業に要する燃料消費量 2.71

L/10aをもとにほ場作業効率を考慮しないで試算(軽油発熱量 38.2MJ、熱効率 40%)すると

41.8MJ/10aであった。同様にⅡ(正転耕)区では 10a当たりの消費エネルギが、電動モータ

作業が 49.6MJ/10a、トラクタ PTO 作業が 98.1MJ/10a、耕うん整地作業に要する燃料消費量

5.17 L/10aをもとにした場合 79.8MJ/10aと試算された。

(2) 作業精度試験

Ⅰ(逆転耕)区においては定規輪による設定耕深を6㎝とし、トラクタの作業速度を0.24m/s

(速度段 L-8速)、PIC回転速度を機関無負荷最高回転速度時の 634rpmに設定して、ER1号

機および対照区のトラクタ PTO駆動に対してそれぞれ3反復行った。また、Ⅱ(正転耕)区

においては、①ER2号機および対照区のトラクタ PTO駆動に対してそれぞれ、設定耕深 4㎝、

図2 外部給電による電動ロータリ耕うん作業

(ER1号機による逆転耕)

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PIC回転速度を機関無負荷最高回転速度時の 634rpmの作業条件としたとき、トラクタの作業

速度を低速 0.24m/s(速度段 L-8速)と高速 0.53m/s(速度段 M-4速)の2段階に変えた試験、

および②トラクタの作業速度を ER2号機は低速 0.24m/s(速度段 L-8 速)、対照区は中速

0.26m/s(速度段 M-1速)で走行し、いずれも設定耕深 8㎝、PICの回転速度をロータリ負荷

状態で標準 PTO回転速度の 540rpmの作業条件とした試験、の以上2通りの試験を全て2反復

行った。隣接する行程間の未耕起部分の幅を 1.5m程度残し,1区当たり約 40m作業して、

前記(1) の機能確認試験と同様の方法で PTO動力、燃料消費量、消費電力を測定したほか、

耕起全層の平均土塊径を調査した。また、耕うん断面積当たりの動力(以下、比動力)およ

び耕うん体積当たりのエネルギ(以下、比エネルギ)を換算して求めた。測定結果を表3に

示す。

表3 作業精度試験結果

試験区

Ⅰ逆転耕 Ⅱ正転耕

ER1号機 対照区

① ②

低速 高速 ER2号機 対照区

ER2号機 対照区 ER2号機 対照区

円錐貫入抵抗[MPa] 0.72 0.70 0.59 0.61 0.50 0.57 0.93 0.82

土 壌 含 水 比[%] 35 35 43 43 40 40 33 30

耕 う ん ピ ッ チ[cm] 6.6 6.6 7.0 6.9 15.8 15.3 7.4 7.3

作 業 速 度[m/s] 0.24 0.24 0.25 0.24 0.56 0.54 0.22 0.22

耕 深[cm] 6.5 5.6 4.4 3.5 3.8 4.3 8.2 8.0

進 行 低 下 率[%] 2.1 1.5 0.5 -0.8 -0.9 -0.6 1.7 -0.6

平 均 土 塊 径[cm] 3.7 3.6 4.4 4.4 5.3 5.4 4.9 4.6

P IC 回転速度[rpm] 634 ─ 634 ─ 634 ─ 540 ─

PTO 回転速度[rpm] ─ 620 ─ 633 ─ 625 ─ 543

P T O 動 力[kW] ─ 11.0 ─ 5.91 ─ 8.95 ─ 9.85

消 費 電 力[kW] 10.6 ─ 6.42 ─ 7.96 ─ 7.61 ─

比 動 力[kW/m2] 97.7 116.7 89.2 109.0 126.5 130.1 54.8 77.0

比 エネルギ[kJ/m3] 402 494 364 447 225 243 269 348

燃 料 消 費 量[l/h] 4.48 7.03 4.56 5.64 4.31 6.17 3.10 5.20

消費エネルギ[MJ/10a] 27.6 28.5 16.1 14.1 8.9 10.0 21.6 25.6

いずれの試験区も、作業条件がほぼ設定通り得られた状態で実施できた。しかし、本試験

ほ場では、耕深が 10cm程度を超えると過負荷によりインバータの保護機能が作動して電動モ

ータが駆動と停止を繰り返した。水田耕起作業として耕深を十分得るためには、電動モータ

の定格出力を増大する必要があった。

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耕深、砕土率は電動区と対照区でほぼ同等の値であり、爪軸の回転速度は対照区が負荷時

に2%程度低下したが砕土率に大きな差異はみられなかった。比動力、比エネルギはトラク

タ PTO駆動よりも電動作業の方が概して小さい値であり、また耕うん作業全体に占めるトラ

クタ走行燃費の割合は高い傾向を示した。耕うん作業に要する平均消費電力およびトラクタ

PTO の平均所要動力をもとに、ほ場作業効率を考慮しない場合の 10a 当たりの消費エネルギ

の試算結果から、トラクタの走行に要する動力をほぼ同程度と仮定した場合には、耕うん方

法や負荷域によって電動作業の方が低い消費エネルギを示した。この点については、機関回

転速度と負荷率の変動、およびそれに伴うエンジンの熱効率も変わることから、試験時の条

件を同定する方法を検討し、電動化の優位性を精査する必要がある。

2.エンジン車改造によるバッテリ車載式電気トラクタの試作

1)コンバージョン ET1号機の仕様

電気駆動特性等の機能確認に供するため、市販の乗用トラクタ(定格出力 21kW)をベース車

両にして、ディーゼルエンジン、燃料タンクおよびラジエータ、オルタネータ、排気管を始め

とした補機類等の付属部品を取り外し、代わりに電動モータ(定格出力 9.4kW)を原動機とし

てコントローラ、バッテリ等を搭載した電気トラクタ(以下、コンバージョン ET1号機)を設

計・試作した(表4、図3)。

エンジンを取り外したコンバージョ

ン ET1号機は、車体剛性を確保するた

めにクラッチハウジング部を補強して

フレーム構造に改造した。電動モータ

の主軸(第1駆動軸)はクラッチを介

してトランスミッション側入力軸と接

続し、副軸は減速機を介して油圧ギア

ポンプ入力軸と連結した。前後進・PTO

を含む動力伝達系および油圧系システ

ムは、ベース機の機構をそのまま残し

た。

電動モータ駆動用バッテリのリチウ

ムイオン電池(LiFePO4、180Ah)は、

定格出力 9.4kW作業を定常負荷状態で

連続3時間行うことを想定して 46 個

搭載し、車両前部に 36個、後部に 10個分配した。このため、トラクタ後部にロータリ等の作

業機を装着しない状態では、前輪への分担質量が全体の約6割となった。既存エンジン車両の

コンバージョン ET1号機

改造前

(エンジン駆動)

改造後

(電動モータ駆動)

全 長[cm] 284 290

全 幅[cm] 117 ←

全 高[cm] 191 ←

軸 距[cm] 150 ←

質 量[kg] 1020 1520

原 動 機 3気筒ディーゼル

15.4kW/2600rpm

直流モータ

9.4kW/130A

バ ッ テ リ ・始動・補機用

鉛酸電池 1個

52Ah、17.5㎏

26×17×20cm

(8.8L)

・始動・補機用

リチウムイオン電池 1個

40Ah、 7㎏

18×7×28cm(3.5L)

・モータ駆動用

リチウムイオン電池 46個

180Ah、 262㎏

18×7×28cm(3.5L)

表4 試作電気トラクタの主要諸元

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0

5

10

15

20

25

0.0 1.0 2.0

消費電力[kW]

走行速度[m/s]

●無負荷走行時□中耕作業時*ロータリ作業時

図5 ロータリ作業時の電流値の変動と消費電力

0

50

100

150

200

250

0 10 20 30 40 50 60 70 80

電流[A]

経過時間[s]

測定区間

0

5

10

15

20

25

30

35

0 10 20 30 40 50 60 70 80

消費電力[kW]

経過時間[s]

測定区間

コントローラ

バッテリ(前部)

電動モータ油圧ポンプ

バッテリ(後部)改造により電動化を行っていく

上ではバッテリの積載量と重心

位置を考慮した機体バランスを

保持するためのレイアウトが課

題としてあげられた。

2)走行性能等の概要

コンバージョン ET1号機を

用いて、走行時および作業時の

消費電力を測定した結果を図4

に示す。コンクリート走路で変

速段を変えて走行速度を

0.14m/s(低-1速)から 2.2m/s

(高-3 速)まで速くすると消

費電力も増加し、2.2m/sで走行

したとき消費電流は最大 175A、

消費電力は最大 23kWとなった。

また、普通畑において中耕除草

機(3連、作業幅 2m)を用いて

走行速度 1.2m/s を狙いとした

中-3 速で中耕作業したとき消

費電流は最大 141A、消費電力は

平均 20kW、さらに、同ほ場に

図3 試作装置の主な構成

図4 走行速度と消費電力

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おいて走行速度 0.44m/s(中-2速、PTO3速)でロータリ耕うん作業(作業幅 1.6m、耕深 15cm)

を行ったときの消費電流は最大 159A、消費電力は平均 18kWであった(図5)。上記の走行では

いずれも搭載した電動モータ定格出力値の2倍以上の電力を消費したが、過電流状態が長く続

くとコントローラの保護機能が作動してシステムが停止して連続作業が不能となったため、伝

動系の許容トルクの範囲内で電動モータ出力を増大する必要があった。

おわりに

本研究では、市販のロータリおよびトラクタをベース機にして簡易な方法による電動化を試行し、

電動モータ出力等の動作上の問題のほか電動化に適した車両のレイアウト等いくつかの課題が見出

された。次年度からは、これら残された問題の解決とともに、新たに乗用型電動ロータリ耕うん機

の開発に取り組むこととし、実作業への展開を早期に目指したいと考えている。

参考文献

1)Weerachai ARJHARN, Masayuki KOIKE, Tomohiro TAKIGAWA, Akira YODA, Hideo HASEGAWA, Banshaw

BAHALAYODHIN, 2001. Preliminary Study on the Applicability of an Electric Tractor (Part

1). Journal of JSAM, 63(3), 130-137

2)Weerachai ARJHARN, Masayuki KOIKE, Tomohiro TAKIGAWA, Akira YODA, Hideo HASEGAWA, Banshaw

BAHALAYODHIN, 2001. Preliminary Study on the Applicability of an Electric Tractor (Part

2). Journal of JSAM, 63(5), 92-99.

3)Yuko UEKA, Jun YAMASHITA, Daisaku FUKUI, Takeshi KINOSHITA, Kazunobu SATO, Yoshinori DOI,

Mamoru ISHIMOTO, 2012. A Basic Research for Development of an Electric Tractor (Part1).

Joint Conference on Environmental Engineering in Agriculture 2012, CD-ROM

4)Yuko UEKA, Jun YAMASHITA, Daisaku FUKUI, Kazunobu SATO, Yoshinori DOI, Mamoru ISHIMOTO,

Takeshi KINOSHITA, 2012. A Basic Research for Development of an Electric Tractor (Part2).

Joint Conference on Environmental Engineering in Agriculture 2012, CD-ROM

5)Yuko UEKA, Daisaku FUKUI, Jun YAMASHITA, Kazunobu SATO, Yoshinori DOI, 2013. Specification

and Driving Performance of the First Prototype Electric Tractor. Kansai Branch Report

of JSAM, 113, 38-41.

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タイヤ等の付着土壌による路面汚染軽減技術の開発

基礎技術研究部 臼井善彦、藤井幸人、長澤教夫、Phan Dang To

園芸工学研究部 大西正洋

はじめに ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 40

1.アンケート調査 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 40

1)調査方法 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 40

2)調査結果 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 40

2.土壌付着量試験 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 41

1)試験方法 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 42

2)試験結果 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 42

3.試作機の概要‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 42

4.除泥率試験 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 44

1)試験方法 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 44

2)試験結果 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 44

5.土壌落下量試験 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 44

1)試験方法 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 44

2)試験結果 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 45

おわりに ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 46

参考文献 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 47

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はじめに

ロータリ耕うん作業をはじめとするトラクタを用いた農作業では、走行部や作業機に多量の土壌が

付着することが多い。この様な状態で路面を走行することにより、タイヤに付着した土壌が路面に散

乱し、地域の環境汚染や交通安全上の問題を引き起こす恐れがある。また、野菜作においては、土壌

に混在する病原菌の拡散防止が課題となっている地域もある。

近年では地方自治体の環境美化条例によって、農業機械のタイヤ等に付着した土、汚泥、家畜排泄

物等が走行中に道路およびその周辺に落下した際には農業者等および事業者に対して、清掃を行い現

状回復に努める義務を課しているところも出てきている。都市近郊農地のみならず中山間地の道路環

境を美化・保全する点において、付着土壌の落下・飛散時における農業機械オペレータの運転規範等

ソフト面の啓発活動が最優先と考えられる一方で、実効性の高いハード面の対策も講じていく必要が

ある。

そこで平成 22 年度から、トラクタの後輪に付着した土壌をほ場内作業終了後のほ場退出時などに

強制的に除去することによって、ほ場内からの土壌の持ち出しを最小限に抑えて路面の汚染を軽減で

きる除泥装置の開発に着手した。今年度までに、ロータリ耕うん作業を前提としたトラクタオートヒ

ッチ装着型除泥装置を試作し、市販の各種タイヤを用いて付着土壌量の半分以上を掻き落とせる効果

を確認できたのでここに紹介する。

1. アンケート調査

トラクタの落下土による路面汚染の現状を把握するため、アンケート調査を行った。

1)調査方法

全国 47都道府県の地方公共団体(市区町村、以下自治体という)および 45道府県の農業者を対

象に、郵送によるアンケート調査を実施し、とりまとめを行った。主な調査内容は、自治体に対し

てはタイヤ付着土壌に起因した道路汚染に対して清掃の義務付けを定めた条例の有無や汚染被害

の状況等について、また農業者に対しては付着土壌を路上に落下させた経験の有無等を中心に行っ

た。

2)調査結果

回答数は、自治体が 1153件(回答率 67%)、農業者が 700件(同 44%)で、あった(表1)。

自治体のうち、条例の定めが「有る」とした回答は5件であった。また、今後の規制への取り

組み方については、土壌汚染問題が季節性であることや概ね住民ニーズが満たされているとい

った判断から「現状維持」とした回答が全体の 97%を占めた(図1)。なお、道路法(昭和 27

年法律第 180号)第 40条(原状回復)および第 43条(道路に関する禁止行為)の準用を理由に

条例「無し」と回答した自治体もあったことから、道路法対象外の農道においても同様の管理

下にあるものと推察された。市民等から道路汚染被害の苦情・相談を受けたことが「有る」と

回答した自治体は 18%であり(図2)、その頻度は年1回~3回が最も多く過半数(58%)を占

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全体

北海道

東北

北陸

関東

甲信越

東海

近畿

中国

四国

九州

不明

地方公共団体

回答数[件] 1153 125 153 37 199 92 117 120 74 57 179 -

農業就業人口の割合が20%以上占める団体数割合[%] 16.1 41.6 20.3 0.0 4.0 21.7 0.0 5.8 17.6 19.3 24.6 -

農 業 者

回答数[件] 700 26 118 64 145 48 40 72 35 53 86 13

トラクタ機関出力別の回答数割合[%]

0 13.6 3.8 5.9 3.1 9.7 20.8 17.5 13.9 31.4 30.2 18.6 7.7

Ⅰ 25.9 7.7 25.4 42.2 19.3 20.8 20.0 29.2 31.4 34.0 29.1 7.7

Ⅱ 25.3 11.5 33.9 29.7 26.9 20.8 27.5 25.0 25.7 11.3 18.6 46.2

Ⅲ 19.1 38.5 16.9 14.1 27.6 16.7 25.0 22.2 0.0 7.5 17.4 15.4

Ⅳ 4.9 34.6 3.4 3.1 4.1 8.3 5.0 2.8 0.0 1.9 4.7 0.0

不明 11.3 3.8 14.4 7.8 12.4 12.5 5.0 6.9 11.4 15.1 11.6 23.1

め(図3)、そのうちここ 10年間で増減傾向に変化がないとした回答は約8割であった。道路

汚染経験の有無については、93%の農業者が「有る」と回答し(図4)、その場合「他人や自治

体から原状回復するよう指摘を受けた」とした回答は 14%であった(図5)。しかし、汚染し

た認識があっても「毎回清掃する」とした割合はそのうちの約 1/3であり、9%が「清掃したこ

とがない」と回答した(図6)。「清掃したことがない」とした理由の上位は、「清掃する暇が

ない(35%)」「面倒臭い(25%)」であった。

2.土壌付着量試験

実際のほ場で、トラクタ後輪1本あたりに付着する土壌量(以下、土壌付着量)を把握するため、

表1 地域別回答数

ある94%

ない5%

無回答1%

図4 泥を落下させた経験について

ある14%

ない85%

無回答1%

図5 清掃するように指摘を受けた経験について(泥を落下させた経験のある農業者における割合)

毎回清掃

する30%

時々清掃

する46%

清掃したこ

とがない9%

無回答15%

図6 道路清掃の経験について(泥を落下させた経験のある農業者における割合)

強化してい

く方向2%

現状維持97%

緩和してい

く方向0%

無回答1%

図1 道路を対象とした規制・対策について

受けたこと

がある18%

受けたこと

がない82%

無回答0%

図2 タイヤ付着土による道路汚染被害の通報・苦情相談について

1回未満15%

1回以上3

回未満58%

3回以上5

回未満11%

5回以上10

回未満7%

10回以上2%

無回答7%

図3 道路汚染被害の通報・苦情相談の年間平均回数(通報・苦情相談を受けたことがあると回答した自治体における割合)

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土壌付着量試験を行った。

1)試験方法

土性の異なる2ヶ所のほ場(ほ場Ⅰ:長辺 50m、土性 SiC(シルト質植土)、耕盤深さ 18cm、

耕盤貫入抵抗 1.4MPa、水深 0~2cm、含水比 50~70%程度、ほ場Ⅱ:長辺 50m、土性 L(壌土)、

耕盤深さ 20cm、耕盤貫入抵抗 1.8MPa、水深 0~2cm、含水比 90~100%程度)においてトレッド

パターンの異なる5種類の市販タイヤ A~E(表2、図7)を同一トラクタ(機関出力 24.3kW)

の右後車軸に装着し、長辺方向に1往復(約 100m、右旋回1回)走行したときの右後輪の付着

土壌を全量回収し土壌付着量を比較した。なお、試験はほ場を3ブロックに分けた乱塊法で行

った。

2)試験結果

ほ場Ⅰで行った試験では、タイヤ Bの土壌付着量

が最も多く 20.0kgで、タイヤ Dが最も少なく 9.5kg

であった。一方、ほ場Ⅱで行った試験では、タイヤ

Dの土壌付着量が最も多く 86.8kgで、タイヤ Aが最

も少なく 28.9kgであった(図8)。ほ場Ⅰの試験で

は、1往復あたりの平均値でみると土壌付着量は約

10~20kgであった。一方、ほ場Ⅱの試験では、1往

復あたりの土壌付着量は約 30~90kgであった。この

ことは、ほ場Ⅰ、Ⅱにおける含水比が影響している

と推察された。また、供試タイヤの種類の違いによ

る土壌付着量の多少は、ほ場Ⅰ、Ⅱで違う傾向を示し、

明確な差違は認められなかった。

3.試作機の概要

試作機は主にメインフレーム、コイルバネ式スクレーパ、着脱操作レバーから構成され、トラクタ

0

10

20

30

40

50

60

70

80

90

100

A B C D E

土壌付着量(kg-w.b.)

タイヤ種類

ほ場Ⅰ

ほ場Ⅱ

供試タイヤタイヤ幅[㎜]

ラグの数[個]

ラグ高さ[㎜]

質量[㎏]

A 330

1536

81

B 320 87

C 340 87

D 340 42 94

E 330 17 30 81

注)A~Eはいずれもバイアスタイヤ。 タイヤの呼び:13.6-24 4PR。 空気圧:150kPaに調整。 質量は、同種のディスクホイールを含んだ値。

A B C D E

注)A、C:ラグとラグの間の基底部が凹凸形状(図中白丸)。 B:他よりタイヤ幅(左右ラグの最外端距離)が短い。 D:他よりラグ高さが高く、ラグの中央部間隔が狭い。 E:他よりラグ高さが低く、ラグの数が多い。

表2 供試タイヤの諸元

図7 供試タイヤ

注) 土壌付着量は3反復の平均値

図8 土壌付着量の試験結果

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のオートヒッチのフレームに装着するスクレーパ方式である(図9、表3)。スクレーパはねじりコイ

ルバネの張力によりタイヤ表面に圧着し、ラグの山、谷にスクレーパ先端部を追従させることで付着

土壌を排土する。スクレーパの先端は、低摩擦かつ耐摩耗性のある高機能樹脂でできている。また、

タイヤ側面の付着土壌を排土するためのサイドスクレーパを備えている。運転席から着脱操作レバー

を操作することにより、本試作機の使用/解除を容易に切り替えることが可能である。ロータリ耕うん

作業を行いながら除泥することが可能であり、その他の農作業では作業後のほ場退出時に本試作機を

作用させながら低速で前進することで除泥可能である。

図9 試作機概要

大きさ[mm] (幅×奥行×高さ)

1650×560×760

質量[kg] 48

掻き取り部材質 PEEK(高機能樹脂)

スクレーパ回転半径[mm] 260

タイヤラグ面の加圧力[N] 86

表3 試作機の仕様

ねじりコイルバネ式スクレーパ

着脱操作レバー

オートヒッチ

サイドスクレーパ

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4.除泥率試験

試作機の基本性能を把握するため、除泥率試験を行った。

1)試験方法

土性の異なるほ場Ⅰ、Ⅱで、供試トラクタで走行し、後輪タイヤ A、B、Dに十分な土壌が付着

した状態で試作機を作用させ、排土した土壌付着量と排土できなかった土壌付着量を測定し、除泥

率(排土した土壌量/土壌付着量×100)を算出した。試験は、各タイヤにつき3反復行った。

2)試験結果

試作機の除泥率は、ほ場Ⅰでは 48~58%であった。ほ場Ⅱでは 65~70%であった(表4)。ほ場

Ⅱにおけるタイヤ Dの除泥率が 48%と最も低く、ほ場Ⅱにおけるタイヤ Aの除泥率が 70%と最も

高い結果となったが、タイヤ種類の違いによる除泥率に明確な差違は認められなかった。観察上、

排土できなかった付着土壌の多くはラグの付け根付近に多かった。これは、ラグの凹凸形状にスク

レーパが十分に追従できていなかったためと推察された。一方、タイヤ側面に付着した土壌はサイ

ドスクレーパの作用により、その大部分を掻き落とすことができた。

5.土壌落下量試験

試作機の効果を検証するため、除泥量試験を行った。

1)試験方法

(1)砂利道走行時の土壌落下量

土性の異なるほ場Ⅰ、Ⅱでトラクタを走行させ、タイヤ A、B、Dに十分な泥が付着した状態

で試作機を作用させた後砂利道を走行した場合と、作用させないまま走行した場合の後輪タイ

ヤ1本について、土壌落下量を比較した。

供試タイヤ ほ場

除泥前

土壌付着量

(kg-w.b.)

排土した

土壌付着量

(kg-w.b.)

除泥率(%)

A Ⅰ 39.7 20.6 52

Ⅱ 13.6 9.6 70

B Ⅰ 57.4 33.0 58

Ⅱ 65.6 43.0 65

D Ⅰ 22.3 10.6 48

Ⅱ 12.8 8.6 67

表4 試作機の除泥率

注)土壌含水比:ほ場Ⅰ66.6%、ほ場Ⅱ94.9%

表中の数値は3回試験したときの平均値

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(2)コンクリート舗装路走行時の土壌落下量

新潟県妙高市の農家ほ場(土性 CL(埴壌土)、耕盤深さ 15cm、耕盤貫入抵抗 1.8MPa、水深 0

~2cm、含水比 75%程度)でトラクタを走行させ、タイヤ A、B、Dに十分な泥が付着した状態

で試作機を作用させた後コンクリート舗装路を走行した場合と、作用させないまま走行した場

合の後輪タイヤ1本について、土壌落下量を比較した。

2)試験結果

(1)砂利道走行時の土壌落下量

ほ場Ⅰで試作機を作用させた場合の土壌落下量はタイヤ A、B、Dそれぞれ順に、14.0kg、45.0kg、

42.9kgで、作用させない場合は 94.5kg、62.7kg、91.5kgであった。一方、ほ場Ⅱでは試作機

を作用させた場合が 11.8kg、23.4kg、2.2kgで、作用させない場合は 14.0kg、45.0kg、42.9kg

であった(図 10、図 11)。3種類全てのタイヤで試作機を作用させた場合が、作用させない場

合と比較して土壌落下量が低減した。このことから本試作機は、トラクタの後輪タイヤに作用

させることで、砂利道への土壌落下量を軽減できることが明らかとなった。

(2)コンクリート舗装路走行時の土壌落下量

農家ほ場で試作機を作用させた場合の土壌落下量はタイヤ A、B、D それぞれ順に、0.4kg、

12.6kg、1.8kgで、作用させない場合は 1.1kg、21.3kg、4.1kgであった(図 12)。3種類全て

のタイヤで試作機を作用させた場合が、作用させない場合と比較して落下土壌が低減した。

0

10

20

30

40

50

60

70

80

90

100

A B D A B D

ほ場Ⅰ ほ場Ⅱ

土壌落下量(kg-w

.b.)

ほ場・タイヤ種類

除泥装置なし

除泥装置あり

図 10 土壌落下量の比較(砂利道)

注) 土壌含水比:ほ場Ⅰ61.9%、ほ場Ⅱ93.4%

土壌落下量はタイヤ1本あたりの質量

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おわりに

本研究では、路面の落下土汚染軽減を目的として、トラクタ後輪用除泥装置の試作を行った。試作

した除泥装置は、砂利道、コンクリート舗装路において土壌落下量を低減できることが示された。今

後は、課題として残っているトラクタ前輪や履帯トラクタへの対応を進める必要がある。また、作業

機(ロータリ)の機種によっては試作機と干渉する可能性があることから、作業機メーカーと協力し

ながら問題を解決していく必要がある。

トラクタの落下土壌による路面汚染の問題は、生産者にとっても関心が高く、除泥装置実用化の要

望が多数寄せられている。これらの期待に応えるべく一日も早い実用化を目指したい。

本研究課題を実施するにあたり、アンケート調査では、全国の自治体や生産者、土壌落下量試験で

は、ほ場を提供して頂いた生産者等の関係各位に多大なるご協力を賜った。ここに記して改めて感謝

の意を表する。

0

5

10

15

20

25

A B D

土壌落下量(kg‐w

.b.)

タイヤ種類

除泥装置なし

除泥装置あり

装置なし 装置あり

土壌落下量-w.b. 95kg 14kg

走行速度 3.5m/s 3.6m/s

土壌最長到達距離 189m 130m

注)供試タイヤ:A

土性:SiC

土壌含水比:62.5%

試作機なし 試作機あり

図 12 土壌落下量の比較(コンクリート舗装路)

図 11 土壌落下量の比較(一例)

注)写真はほ場脇の同じ場所で撮影

注) 土壌含水比:75.8%

土壌落下量はタイヤ1本あたりの質量

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参考文献

1) 臼井善彦ら:タイヤ等の付着土壌による路面汚染軽減技術の開発(第1報)-農用タイヤ等の付

着土壌による路面汚染に関する実態調査、第 70回農業機械学会講演要旨集、6-7、2011

2) 臼井善彦ら:タイヤ等の付着土壌による路面汚染軽減技術の開発(第2報)-農用タイヤの土壌

付着量について、第 70回農業機械学会講演要旨集、8-9、2011

3) 生研センター:平成 22年度事業報告、2011

4) 生研センター:平成 23年度事業報告、2012

5) 生研センター:平成 24年度事業報告、2013

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ヤガ類超音波防除装置の開発と適応性拡大

生産システム研究部 水上智道、田中庸之、吉田隆延

徳島県立農林水産総合技術支援センター 兼田武典、中西友章、辻 雅人、

小池 明

滋賀県農業技術振興センター 今村 昇、重久眞至、江波義成

東京農工大学 金丸雄太郎、有江 力

山口大学 渡辺雅夫

ニューデルタ工業株式会社 佐藤 修

はじめに‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥50

1.ヤガ類超音波防除装置の開発‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥51

2.モモおよびナシ圃場におけるヤガ類超音波防除装置のヤガ類等防除効果‥‥‥‥‥‥51

3.エダマメ・ダイズ圃場におけるハスモンヨトウとオオタバコガの防除効果‥‥‥‥‥53

4.超音波を利用したトマト萎凋病とイネいもち病の発病抑制‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥54

1)超音波処理によるトマト萎凋病抑制効果‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥54

2)超音波処理によるイネいもち病抑制効果‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥55

おわりに‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥56

参考文献‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥57

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はじめに

モモ、ナシ、リンゴなどの果樹生産地における果樹園の中には、雑木林等に隣接している果樹園も

多い。そのような立地条件の果樹園では、夜間にヤガ類が飛来し、果実を吸汁して傷(吸汁痕)をつけ

果樹生産に甚大な被害を与えるため、大きな問題となっている。特に中山間地域における中小規模の

果樹園では、小規模だが高品質の果実を生産する園地が数多くあり、経営規模が小さい分、経済的な

損失の比率が大きくなるため、ヤガ類は重要な防除対象害虫である。また、ヤガ類は近隣の雑木林で

生育し、成虫になると夜間に果樹園へ飛来して加害するため、農薬散布による防除が困難であり、難

防除害虫の一つでもある1)。

現在の果樹生産現場では、ヤガ類の防除のため、黄色防ガ灯(黄色蛍光灯やナトリウムランプ等)や

防虫ネットが広く利用されているが、黄色防ガ灯の場合、光の影響を受けやすい作物(特に日長反応

を起こす植物)の花芽分化促進や開花遅延などの生育障害を引き起すことがあり、導入の際には近隣

の栽培作物に注意する必要がある。また、防虫ネットは台風等の影響を受けやすく、設置労力やコス

トの面からも設置が難しい状況であり、生産現場では防ガ灯や防虫ネットに変わるような、安価で設

置等が容易な新しい防除装置などの開発が望まれている。

コウモリは、飛行中に特殊な超音波を空気中に発振し、飛来しているガ類や昆虫を見つけ出し、捕

食している。近年の研究で、コウモリを天敵とするガ類を含めた様々な昆虫が、超音波に対する忌避

行動を取ることが明らかとなってきており、忌避行動をとる超音波の周波数等も解析されている2)、3)、

4)。果樹園で問題になっているアケビコノハ等のヤガ類も、同様に超音波に対して忌避行動を取るこ

とが知られている。そこで、生研センターでは徳島県立農林水産総合技術支援センター(以下、徳島

農技センター)、山口大学、ニューデルタ工業株式会社と共同で、人工的にコウモリに似た超音波を

発振する装置を開発するとともに、本装置を用いて、天敵であるコウモリの超音波を感知した際にヤ

ガ類がとる忌避行動を利用した中山間地果樹園のモモ等果実に対するヤガ類防除技術の開発を推進し

てきた5)、6)。

本研究では、これらのヤガ類超音波防除装置の開発と、本装置を用いたモモ圃場におけるヤガ類防

除効果について試験研究を行ったので報告する。また、本装置の適応性を拡大するため、滋賀県農業

技術振興センター(以下、滋賀農技センター)と共同で、ナシ圃場におけるヤガ類防除効果試験とエ

ダマメ・ダイズ圃場におけるオオタバコガおよびハスモンヨトウの防除効果試験を行ったので、本試

験結果についても言及する。さらに、本装置の病害防除への適応の可能性を検討するため、東京農工

大学と共同で、本装置のトマト萎凋病とイネいもち病の発病抑制効果について調査したので合わせて

報告する。

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1.ヤガ類超音波防除装置の開発

本装置は、周波数40kHz、音圧約120dBの超音波を発振し、コウモリが飛来中に自分の位置や周囲の

状況を確認するために発振するパルス間間隔の比較的長い超音波(エコロケーション)と、ガ類等や

昆虫類を見つけて捕食するために発振するパルス間間隔の比較的短い超音波を、交互に発振してヤガ

類の超音波への慣れを防止した仕様となっており、アンプ本体と超音波を発振する発振素子からなる

(図1)。現在、1台のアンプに発振素子を最大9個まで接続することができる。圃場内またはその

近隣に100Vの一般電源が1つあればアンプを接続可能であり、電源が確保できれば圃場間の移動およ

び設置は容易で、消費電力は防ガ灯と同程度かそれ以下である。

2.モモおよびナシ圃場におけるヤガ類超音波防除装置のヤガ類等防除効果

徳島農技センター果樹研究所県北分場のモモ園圃場(約 200 ㎡)周囲に、超音波発振素子を 16 基設

置し(約 3.5m 間隔)、モモを 130~150 果吊るして、果樹園内の果実に飛来しているヤガの個体数をカ

ウントした。また、岡山県モモ農家のモモ園圃場(約 50m2)にアンプ1台、発振素子6個を設置(高

さ2m)して、耐久性および防除効果試験を行った(図2)。アンプの耐久性試験は、6ヶ月間稼働し

続け、発熱等による故障の有無を調査した。さらに、滋賀農技センター内のナシ試験圃場(約 40m2)

を囲むように、超音波発振素子を高さ2m の位置に8個設置し、ナシ3品種(新水、幸水、豊水)を

1試験区 100 果吊り下げて、ヤガ類の被害果率を調査した(図2)。

図1 超音波発振装置の発振素子およびアンプ(岡山県)

図2 超音波発振装置の設置状況(徳島農技センター、岡山モモ農家、滋賀農技センター)

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徳島農技センターで行ったモモ園圃場における防除効果試験の結果、モモ園圃場へのヤガ類飛来数

は、対照区(無処理区)と比較した場合、超音波区で大幅に飛来数が減少した(図3)。この結果よ

り、本装置が発振する超音波の音圧は、ヤガ類が超音波に対する忌避行動を取るのに十分な出力(約

120dB)であり、モモ園圃場における本装置の有効性が確認された。

また、岡山県モモ農家圃場における防除効果試験の結果、超音波区のヤガ類による被害果率は、無

処理区と比較して大きく減少しており、本装置の防徐効果が明らかとなった(図4)。なお、この試

験における被害果率は、一つでもヤガ類の被害痕(吸汁痕)がある場合でも被害果としてカウントし

ており、超音波区における被害果1果当たりの被害痕数は、無処理区の被害果1果当たりの被害痕数

と比較して大幅に減少していた(データ未発表)。これは、超音波区におけるヤガ類の飛来数が、無

処理区と比較して大幅に少なくなっていることが示唆される。

本装置の耐久性試験は岡山県モモ農家の圃場で行い、6月にモモ圃場に本装置を設置し、12月ま

で1日24時間稼働し続けて本装置の耐久性を調査した。その結果、夏場の猛暑の時期も停止するこ

と無く、超音波を発振しており、12月まで故障することなかった。また、本装置を用いて、次年度

も継続して同様の耐久性試験を行ったが、故障すること無く6ヶ月間稼働した。この結果より、本装

置の圃場使用における耐久性は十分であると考えられた。

モモ以外の果樹であるナシについて、本装置を滋賀農技センター内のナシ圃場に設置してヤガ類の

防除効果試験を行った結果、モモ圃場と同様にヤガ類による被害果率は、無処理区と比較して超音波

区で大きく減少した(表1)。特に、無処理区が被害果率 74%と高く、ヤガ類の発生数が多いと考え

られる調査日であっても、超音波区では被害果率5%となっており、本装置の十分な防徐効果が明ら

かとなった(表1)。また、被害痕数も超音波区で大幅に減少しており、超音波区ではヤガ類の飛来数

が減少していることも推測された(表1)。

図3 モモ圃場におけるヤガ類飛来数調査

(徳島農技センターモモ圃場)

図4 モモ圃場におけるヤガ類被害果率の調査

(岡山県農家モモ圃場)

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果実吊下 吊下開始日 調査果数 被害痕数 被害果率 調査果数 被害痕数 被害果率 品種

果 % 果 %8月16日 4日後 100 6 6 100 141 40 新水8月23日 4日後 100 8 5 100 38 23 新水

7日後 100 - 5 100 - 548月30日 4日後 100 3 3 100 53 35 幸水

6日後 100 - 5 100 - 749月6日 4日後 100 2 2 100 84 47 幸水

6日後 100 8 100 - 709月15日 4日後 100 0 0 100 40 29 豊水

6日後 100 - 2 100 - 49

各区100果をタマネギ用ネット袋で棚面に吊り下げ、被害程度を調査

超音波区 無処理区調査日

3.エダマメ・ダイズ圃場におけるハスモンヨトウとオオタバコガの防除効果

滋賀農技センター内のエダマメ・ダイズ試験圃場(約 200m2)に、超音波発振素子を高さ2m の位置

に5m 間隔で設置し、オオタバコガとハスモンヨトウの防除効果試験を行った(図5)。オオタバコガ

については、フェロモン剤を半分にカットしたフェロモントラップを用い、捕獲数を調べて雄成虫の

侵入抑制を調査した。ハスモンヨトウについては、8/24~9/28 まで1週間間隔で 10 株あたりのハス

モンヨトウ幼虫数と、15m あたりのハスモンヨトウによって発生する白変葉数を調べた。

オオタバコガの防除効果試験の結果、超音波区で無処理区よりも捕獲数が少なく、両区で有意差が

認められた。これにより、本装置はオオタバコの防除にも効果があり、ハウス等の施設栽培でオオタ

バコガ防除に利用できる可能性があると考えられた(表2)。

また、ハスモンヨトウの防除効果試験の結果、無処理区ではハスモンヨトウの幼虫が確認されたが、

超音波区ではハスモンヨトウの幼虫は1匹も確認できなかった(図6)。また、ハスモンヨトウにより

発生する白変葉も、無処理区では白変葉数が確認されたが、超音波区では確認されず、本装置がハス

モンヨトウの防除にも有効であることが明らかとなった(図7)。

表1 ナシ圃場におけるヤガ類被害果率と被害痕数の調査(滋賀農技センターナシ圃場)

試験回数 超音波区 無処理区

捕獲数(頭) 14 18.4±3.9a 28.4±3.9b

異なるアルファベット間はt検定5%水準で有意差有り

表2 エダマメ・ダイズ圃場におけるオオタバ

コガ捕獲数

図5 エダマメ・ダイズ圃場における超音波

防除試験(滋賀農技センター)

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4.超音波を利用したトマト萎凋病とイネいもち病の発病抑制

近年、光を利用した物理的刺激によって植物に抵抗性を誘導し、植物の病害を抑制するという研究

が進められており、現在までに実用化されたいくつかの研究例も報告されている7)、8)、9)。物理的刺

激による抵抗性誘導により病害を防除する利点として、農薬を使用しないため環境負荷低減型の栽培

が可能となり、同時にコスト低減になること、農薬を使用しないため薬剤耐性菌が出現しない等が挙

げられる。しかし、未解明な部分も多く存在することから、現在も様々な研究が推進されているとこ

ろである。

イネ育苗時に、苗踏み、ローラーがけ、箒ブラッシングなどを行なうことにより、イネ苗に物理的

刺激を与え、根はりが良好で病気に強く丈夫な苗を育苗するという伝承技術がある。これらの物理的

刺激の主な要因が振動であり、その物理的ストレスによって植物に病害抵抗性を賦与するのではない

かと推察されている。そこで、振動の1つである超音波の病害抵抗性賦与への利用を検討するため、

超音波を植物の苗に照射し、トマト萎凋病およびイネいもち病に対する病害抑制効果について調査を

行ったので以下に報告する。

1)超音波処理によるトマト萎凋病抑制効果

セラミック型の超音波発振素子を利用し(図7)、ヤガ類超音波防除装置と同じ周波数とパルス

パターンの超音波をトマト苗に照射した。トマト(桃太郎)を 30℃光照射条件下で 16 時間、25℃

暗黒条件下で 8 時間、播種後約 1 週間栽培して超音波を処理した。ポットに移植後、温度 20~30℃

の温室で 2 週間超音波を処理し続けた後、トマト萎凋病菌胞子懸濁液(1~2×107個胞子/ml)を

接種した。病原菌接種後 4 週間栽培した後、発病度(5段階)を評価した。発病度評価は、トマ

ト茎を地際部で切断し、維管束部の褐変程度から 0~4 の発病度を調査しておこなった。発病度は

0;健全、 1; 茎の 25%に褐変が認められる、 2;茎の 26~50%で褐変が認められる、 3;茎の 51

~75%で褐変が認められる、 4;茎の 76~100%で褐変が認められる、の 5 段階で評価した。平均

発病度は、下記の式を用いて算出した。

図6 エダマメ・ダイズ圃場におけるハスモ

ンヨトウ防除効果

(滋賀農技センター圃場)

図7 エダマメ・ダイズ圃場における白変葉数

防除効果(滋賀農技センター圃場)

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平均発病度=(1×A+2×B+3×C+4×D)/(4×N)

(式中、A,発病度1を示した植物数;B,発病度2を示した植物数;C,発病度3を示した植物数;

D,発病度4を示した植物数;N,供試全植物数を表す。)

試験の結果、栽培期間を通してトマトを超音波に曝露することによって、萎凋病の発病を抑制

することが確認された(図8)。また、トマト育苗期に超音波を処理することにより、超音波処理

後のトマト植物体に萎凋病発病抑制効果が持続され、後から接種した病原菌の感染が阻害されて

トマト萎凋病の発病が有意に抑制されることが明らかとなった(図8)。

2)超音波処理によるイネいもち病抑制効果

1)と同様にセラミック型の超音波発振素子を利用し(図7)、ヤガ類超音波防除装置と同じ周

波数とパルスパターンの超音波をイネ苗に照射した。イネ(品種:愛知旭)を、滅菌土壌を充填

した 9 ㎝のポットに播種し、30℃光照射条件下で 16 時間、25℃暗黒条件下で 8 時間、2 週間栽培

した。温度 20~30℃の温室で 2 週間超音波を処理し続けた後、イネの草丈を測定し、2×10⁵個胞

子/ml に調整したイネいもち病菌を噴霧接種した。接種後、イネをあらかじめ 27℃、相対湿度 100%

に保持した接種恒湿器内に移し、24 時間保湿後、ガラス温室に移した。28℃光照射条件下で 16

時間、25℃暗黒条件下で 8 時間、1 週間栽培したのちに最上位展開葉から 3 枚目までの葉に形成

された伸展型病斑の数を数え発病度とした。 試験の結果、育苗期 2 週間の超音波処理で、後か

ら接種したイネいもち病の発病抑制効果がみられ(図9)、超音波処理によるイネいもち病発病抑

制効果は、超音波処理後も持続性があることが示唆された。また、超音波処理によって苗草丈が

やや小さくなる傾向が認められた(図 10)。イネ育苗期にローラーをかけることにより、同様に

草丈が小さくなる傾向が確認されている。このことから、イネへの超音波処理により、同様の現

象が起こっていると推測された。

図7 セラミック型超音波発振素子とトマトへ

苗への超音波処理

図8 超音波処理によるトマト萎凋病発病抑制

効果

異なるアルファベット間は t検定 5%水準で有意差有り

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おわりに

これまでの研究開発により、開発したヤガ類超音波防除装置は、耐久性およびヤガ類防除効果等に

ついて十分な性能を確保しており、現在、普及を目指して徳島農技センターと共同で研究を推進して

いるところである。本装置はモモ園のヤガ類のみだけでなく、ナシ園のヤガ類防除にも防除効果があ

り、また果樹、花卉、野菜等を広範囲に食害するハスモンヨトウやオオタバコにも防除効果が認めら

れている。さらに、超音波装置を用いてトマトおよびイネの苗に超音波を処理することにより、トマ

ト萎凋病とイネいもち病の病害抑制効果があることや、超音波処理後も病害抑制効果が持続すること

が明らかになっており、今後も本装置の適応性は拡大すると予測される。

本装置は、農薬の使用量を大幅に減らすことが可能になるため、環境負荷低減、コスト削減、さら

には労力削減に貢献できると考える。ヤガ類防除や病害防除に苦慮されている生産現場に早く導入で

きるよう、今後も実用化に向けて研究を推進する予定である。

最後に、本研究の実施にあたり、徳島農技センター、滋賀農技センター、山口大学、東京農工大学、

ニューデルタ工業、岡山県モモ農家山根農園など、関係者各位には多大なるご協力を賜りました。こ

こに記して厚く感謝申し上げます。

図9 超音波処理によるイネいもち病発病抑制効果

異なるアルファベット間は t検定 5%水準で有意差有り

図 10 超音波処理によるイネ草丈への影響

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参考文献

1)小池明:超音波を利用した果樹のヤガ類被害防止技術の開発.日本植物防疫 62(10),549-552. 2008

2)Waters, D. A. et al.:Bats and moths: What is there left to learn? Physiological Entomology 28(4), 237-250.

2003

3)Greenfield, M. D. et al.:Bat avoidance in non-aerial insects : The silence response of signaling males in an

acoustic moth. Ethology 109(5), 427-442. 2003

4)Forrrest, T. G. et al.:Ultrasound acoustic startle response in scarab beetles. Journal of Experimental

Biology 198(12), 2593-2598. 1995

5)小池明:超音波で果樹園から果実吸蛾を撃退する.農林水産技術研究ジャーナル 31(6), 33-36. 2008

6)吉田隆延ら:超音波発振装置を利用したモモ等果実のヤガ類防除技術.平成21年度農研機構研

究成果情報,2009

7)荒瀬栄ら:赤色光照射による病害抵抗性誘導と病害防除への応用.日本植物防疫 64(8),511-514.

2010

8)工藤りか:緑色光照射による植物の病害抵抗性誘導.日本植物防疫 66(11),604-607. 2012

9)山田真ら:減農薬栽培に向けた植物病害防除システム.松下電工技術 56(2), 26-30. 2008

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新型キャベツ収穫機の開発

園芸工学研究部 深山大介、青木 循、李 昇圭、宮崎昌宏、

ヤンマー(株)、オサダ農機(株)

はじめに ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・60

1.開発の経緯と方向性 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・60

2.開発機の概要 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・61

1)刈取部 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・62

2)調製作業部 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・63

3)その他 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・63

3.開発機の性能 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・64

1)作業精度 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・64

2)作業能率 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・64

4.大規模産地への対応 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・65

5.おわりに ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・66

6.参考文献 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・66

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はじめに

近年、主要野菜の加工・業務用の出荷割合が増加傾向にあり、キャベツでは 2010年の全生産量 136

万tのうち、49%が加工・業務用途である 1)。それに応じるように、キャベツ作の新規導入や規模拡大

を進める産地も増加傾向にある。一般に加工・業務用野菜は生食用よりも 20~30%程度、取引価格が

安いとされ 2)、生産者にとっては規模拡大と生産コストの低減が必要である。キャベツ生産の労働時

間は、全国平均で 10a 当たり 87 時間程度を要しており、特に収穫作業はその 30%近くを占めている

ため、機械化による収穫作業の省力化は、規模拡大や低コスト化には欠かせない。一方、加工・業務

用仕向けのキャベツ作が広まるに従い、産地から加工業者への輸送の効率化などを考慮して、大型ス

チールコンテナによる出荷形態が広まりつつある。この出荷形態では、従来の収穫作業のように圃場

で段ボールに収容する必要がないが、圃場内運搬や集出荷施設への運搬など、キャベツのハンドリン

グ形態も大きく変えなくてはならない。

以上の背景を踏まえ、生研センターでは、主に加工・業務用途のキャベツを大規模に作付する畑作

地帯に導入できる機械収穫技術の開発に取り組み、このほど機上での選別・調製と大型コンテナ収容

を特徴とする高能率なキャベツ収穫機の実用化に目処が立ったことから、その概要について報告する。

1.開発の経緯と方向性

キャベツの収穫機械化の方向性としては、慣行の手作業と同様にほ場内で選別・調製・容器への収

容までの作業が完結する「同時作業方式」と、ほ場内では収穫機によるキャベツの刈取りと搬出を行

い、選別・調製・容器への収容は出荷施設等で別途行う「分離作業方式」の 2 通りが考えられる。「同

時作業方式」は、圃場内でキャベツを出荷可能状態に仕上げられる特徴があり、「分離作業方式」は、

ほ場での作業能率を格段に高められる特徴がある。2001 年に緊プロ機として実用化されたキャベツ収

穫機 HC10(図1)は、1 人または 2 人作業による「同時作業方式」を主眼においた収穫機であり、

その刈取り機構は、軽度の倒伏状態のキャベツでも精度よく刈取り、また茎部の切断位置も微調整で

きるなど、高い精度を持つことが特徴であった。また、3 人組作業体系により、伴走する運搬車に搭

載するスチールコンテナにキャベツを収容する「分離作業方式」も可能で、その作業能率は 1 日あた

りおよそ 10a であった。2008 年から新たに開発を開始した加工・業務用キャベツ収穫機は、「分離作

業方式」を採用し、2 条のキャベツを同時に収穫できる刈取り機構と、伴走するホイールローダがス

チールコンテナをハンドリングする作業方法により、1 日あたり 40a を収穫可能な従来にない高い収

穫作業能率を実現した。一方で、分離作業方式であるため、収穫後の調製作業に多大な労働力が必要

となることや、施設で生じる選別・調製の残渣処理の手間などの問題から実用化には至らなかった 3)。

しかし、大規模にキャベツを作付する産地からは、収穫したキャベツを大型スチールコンテナに収容

する作業体系とその機械化については引続き強く求められた。

そこで平成 23 年度より、以下を開発指標として、新たにキャベツ収穫機の開発に着手した。①1

条収穫型であること、②選別・調製作業を機上の作業者が行うこと、③キャベツを大型のスチールコ

ンテナに収容すること。目標とする作業能率は、1日あたりの収穫可能面積を 20a と設定した。また、

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開発機の刈取り機構には、従来のキャベツ収穫機 HC10 のものをベースとして採用することとした。

図1 従来のキャベツ収穫機 HC10 図2 加工・業務用キャベツ収穫機

(緊プロ事業により 2001 年実用化) (2010 年度試験機)

2.開発機の概要

開発した新型キャベツ収穫機を図3に、機構概略を図4,主要諸元を表1に示す。開発機は、18.4kW

のディーゼルエンジンを動力とする乗用型の収穫機で、収穫に関わる機構としては大きく分けて刈取

部と調製作業部で構成される。作業は、機械のオペレター1 名、機上調製作業に 2~4 名、コンテナを

扱うローダ等のオペレータ 1 名の合計 4~6 名で行う。刈取条数は 1 条で、1 畝 1 条栽培の畝幅 60cm

以上、畝高さ 20cm 以下の栽培条件に対応する。収穫時の作業速度は概ね 0.15~0.20m/s である。

図3 新型キャベツ収穫機

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図4 機構概略図(枠内は姿勢制御ローラの装着状態)

全長 4,850mm

全幅 1,870mm

全高 1,790mm

機体質量 1,950kg

原動機 18.4kW

作業速度 0~0.54m/s (作業時)

0~2.00m/s (移動時)

刈取条数 1条

適応畝幅 60cm以上

適応畝高 0~20cm

最大積載量 400kg

表1 諸元表

1)刈取部

刈取部は、掻き込みディスク、茎部挟持ベルト、結球部挟持ベルト、切断刃、姿勢制御ローラで構

成される。先端部の一対の掻き込みディスク(図5)は、キャベツの茎部をしっかりと掴みながらキ

ャベツを引抜き、茎部挟持ベルト、結球部挟持ベルトの順に受け渡すように搬送する。姿勢制御ロー

ラ(図6)は、掻き込みディスクの上方に位置し、結球部の姿勢を常に一定にする作用を有する。こ

れら掻き込みディスクおよび姿勢制御ローラにより、本開発機は、中程度の倒伏状態のキャベツであ

れば引き起こしながら正しく刈り取りできる特徴を持つ。結球部挟持ベルトで搬送されたキャベツは、

切断刃で茎部を切断され調製作業用コンベアへ送られる。切断刃の切断高さは作業中でも機上の調製

作業者が微調整することができる。開発した刈取部は、ベースとしたキャベツ収穫機 HC10 の機構と

比較すると、キャベツを機上まで搬送する必要から全体に大型化したことや、姿勢制御ローラの追加、

ベルト素材などが変更されている。一方、挟持ベルトの速度調整や切断位置の微調整、切断部の残渣

の排出性など、刈取部の取り扱い性はさらに向上している。

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図5 キャベツを掻き込むディスク 図6 キャベツの姿勢を制御するローラー

2)調製作業部

調製作業部には、調製作業用ベルトコンベアと2~3名が作業できるスペースがあり、キャベツを

収容する大型のコンテナを1基積載できる。調製作業には、作業者がコンベアを流れるキャベツを選

別し、不要な外葉を除去してからコンテナに収める。切り直しが必要なキャベツや、処理が追いつか

ず保留するキャベツはコンベア奥側の処理保留棚に一時的にためておくことができる。剥がした外葉

や損傷のあるキャベツはコンベア後端から圃場に廃棄される。

3)その他

開発機は、キャベツを収容する大型コンテナとして、産地で比較的利用されている折りたたみ式の

メッシュボックスパレット(幅 1.2m×奥行 1.0m×高さ 0.75m)を採用した。収穫作業中のコンテナ

交換は、トラクタのリヤリフトやローダーなどが機体の側面から積み降ろしする。また、本機の走行

部は、機体を水平に維持する制御機能を有するため、常に安定した姿勢で確実な収穫作業を行うこと

ができる。

図7 大型コンテナ 図8 圃場内でのコンテナ交換

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3.開発機の性能

1)作業精度

収穫の際にキャベツ結球部の傷付きや、結球部が切断されたものは収穫損失となるため、キャベツ

収穫機の刈取り部には高い切断精度が求められる。茎部を低い位置で切断すると、結球部を傷つける

割合は減るが、切断後の結球部に外葉が多く残ってしまい、機上調製作業の能率低下に繋がる。開発

機において、切断高を変えながら、それぞれの位置での切断精度と結球部に残った外葉枚数の関係を

見たところ、結球部に残る外葉枚数が平均 2.7 枚の時に 94%、平均 4.5 枚の時は 99%のキャベツを適

切に切断でき、切断精度は極めて高かった(表2)。

表2 切断精度

切断高 切断精度(%) 外葉枚数

適切り 斜切り 深切り (枚)

20mm 98.6 1.4 0.0 4.5

23mm 93.9 5.6 0.5 2.7

26mm 86.5 11.5 2.1 1.9

2012.3. 大隅支場、作業速度0.15m/s、品種「夢ごろも」。

2)作業能率

開発機の機上調製作業の能率は、機上作業者の人数や作業速度、キャベツの調製仕上げの状態に影

響を受け、調製作業が追いつかなくなった時には、処理を保留するキャベツの割合が増加する。表3

は、機上調製作業者を2名、作業速度を 0.25m/s または 0.15m/s で収穫した場合の処理保留割合を示

す。作業速度 0.25m/s の時は、調製処理が追いつかず保留した(処理保留棚に一時的に置いた)キャ

ベツの割合が 28%に達した。一方、作業速度を 0.15m/s とした時には保留割合が 12%に、さらに外

葉を 2 枚残す調製仕上げにした場合には、保留割合が 3%になり、機上調製作業が円滑に処理できて

いることが分かった 4)。

表3 機上調製作業の能率

作業速度 調製仕上状態 処理を保留した割合1)

(m/s) (外葉枚数) (%)

0.25 1枚 28

0.15 1枚 12

0.15 2枚 3

2011.10北農研圃場、品種「楽園」

1) 損傷の確認や外葉の除去が追いつかず、処理保留棚に置いた割合

品種別に調査した収穫作業の能率、作業時間内訳を表4に示す。作業条件は、機上調製作業者を 2

名とし、コンテナ交換はフロントローダを利用した。供試圃場は、畝長が 82m、両端に 5m 以上の枕

地があった。作業速度は 0.15~0.20m/s を目標とし、結球部に残す外葉枚数は概ね2~4枚になるよ

うに切断高さを調整した。その結果、作業能率は 10a あたり 3.3~4.2 時間、作業時間内訳は、収穫が

全体の 56~69%、コンテナ交換には全体の 17~33%をそれぞれ要した。切断精度を維持しながらの

収穫作業では、品種によって異なる茎部の形状や作物の姿勢などが作業速度、能率に影響することが

懸念されるが、本開発機では特に問題とならず、一様な能率性能を得た。また、作物条件や圃場条件

にも左右されるが、1日あたり 20a の作業能率達成の見通しを得た。

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表4 作業能率品種 結球質量 作業速度

(kg) (m/s) 収穫 調整コンテナ交換

移動・旋回

時/10a a/時

楽園 1.5 0.20 67 0 29 4 3.3 3.0

輝吉 2.2 0.17 63 6 27 4 4.2 2.4

晩抽理想 1.6 0.19 69 9 17 6 3.3 3.0

おきな 1.8 0.20 56 3 33 8 3.8 2.6

2012.9 北農研圃場

供試圃場:畝長82m、圃場両端に5m以上の枕地あり。畝幅66cm、株間40cm。

作業時間内訳(%) 作業能率

開発機による作業能率を、同じ圃場・作物条件下で慣行作業と比較した結果を表5に示す。慣行手

作業は、刈取と収容に 6 名、フロントローダによる圃場内運搬 1 名、トラックによる施設への運搬に

1 名の合計 8 人組作業であった。一方、開発機による作業は、オペレータ 1 名、機上調製作業者 2 名、

圃場内運搬 1 名、トラックによる運搬 1 名の計 5 人組作業とした。それぞれの作業方法の能率は、慣

行手作業の 2.5a/時に対し、開発機は 2.9a/時となった。これを投下労働時間で比較すると慣行が 31.7

人時/10a に対して、開発機が 17.4 人時/10a と、ほぼ半減できることが明らかとなった。

表5 作業能率の比較

慣行手作業1)

開発機2)

 作業人員(人) 8 5

収穫 6 3

圃場内運搬 1 1

集荷施設への運搬 1 1

 作業能率(a/時) 2.5 2.9

 投下労働時間(人時/10a) 31.7 17.4

2012.9北海道斜里町

1) 手収穫、刈取・収容6名、ローダによるほ場内運搬1名、トラックによる運搬1名

2) オペレータ1名、調製2名、トラクタリアリフトによるほ場内運搬1名、トラックによる運搬1名

4.大規模産地への対応

前述のとおり、コンテナの交換作業は、収穫作業全体の約 30%を占め、作業能率向上のためには、

このコンテナ交換に掛かる作業時間を低減することが重要となる。特に、畝の長い大規模圃場では、

畝の途中でコンテナを交換する回数が増えるため、圃場内運搬に掛かる手間を考えると、機上に積載

できるコンテナ数を増やすことが有効と考えられる。そこで、主に北海道での利用を想定し、大型タ

イプのキャベツ収穫機を開発した。大型タイプは、刈取り部等の基本構造は変わりないが、機上の調

製作業部が広く、大型コンテナが 2 基積載でき、3~4名が機上で調製作業できる。また、原動機を

はじめ、走行部も大型化されており、それに伴って、コンテナにキャベツを満載した状態でも安定し

た収穫作業が可能となった。

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表6 諸元表(大型タイプ)

全長 5,450mm

全幅 2,320mm

全高 2,510mm

機体質量 2,530kg

原動機 30.2kW

作業速度 0~0.78m/s (作業時)

0~2.70m/s (移動時)

刈取条数 1条

適応畝幅 60cm以上

適応畝高 0~20cm

最大積載量 800kg

図 13 コンテナを 2基積載できる大型タイプ

5.おわりに

以上述べてきたように、機上での選別・調製作業と大型コンテナへの収容を特徴とするキャベツ収

穫機を開発し、複数の産地における現地試験の結果、収穫精度、収穫作業能率ともに十分な性能を有

することを明らかにした。また、これらの成果を踏まえ、平成 25 年度には市販が開始され、複数の

産地に導入される見通しである。加工・業務用をターゲットにしたキャベツの大規模な作付や大型コ

ンテナによる集出荷体系など、産地を取り巻く環境が変化する中、本開発機が現地でどのように利用

されていくか経過を見守り、キャベツ収穫作業の機械化が広く普及することを期待したい。

なお、本開発に当たっては、ヤンマー株式会社、オサダ農機株式会社に多大なご協力を頂いた。ま

た、現地試験の実施にあたっては、多数のキャベツ生産者や農業協同組合、鹿児島県農業開発総合セ

ンターおよび北海道農業研究センターから多大なご協力とご助言を賜った。ここに記して感謝の意を

表する。

6.参考文献

1)小林茂典:野菜の用途別需要の動向と対応課題.農林水産政策研究所研究報告会資料,

www.maff.go.jp/primaff/meeting/kaisai/pdf/120306.pdf、2012

2)農水省生産局園芸作物課:今後の野菜の生産と流通をめぐる課題、指定野菜需給見通し検討委員

会資料、2012

3)深山大介ら:加工・業務用キャベツ収穫機、生研センター研究報告会資料、9-18、2011

4)深山大介ら:機上調製作業を特徴とするキャベツ収穫機の開発、農業環境工学関連学会 2012合同

大会講演要旨、E24、2012

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農用運搬車の転倒時運転者防護について

評価試験部 塚本茂善、皆川啓子、原田一郎、高橋弘行

はじめに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・68

1.農用運搬車への転倒時運転者防護対策の検討・・・・・・・・・・・・・・・・・・・68

1)転倒時運転者防護対策・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・68

2)ASAE S547の概要 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・69

2.ASAE S547の農用運搬車への適用性確認・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・71

1)不連続転倒試験・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・71

2)静的強度試験・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・71

3.安全鑑定基準への適用・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・74

おわりに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・75

参考文献・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・75

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はじめに

農林水産省の農作業死亡事故調査(H22)によると、機械の転倒・転落事故のうち、乗用型トラクタ

によるものが約 65%、その他の車両によるものが約 35%(うち約 1/3が農用運搬車)となっており、

その他の車両の転倒・転落死亡事故も無視できない状況にある。そこで、転倒時の運転者防護対策が

確立されていない農用運搬車に対して、海外で採用されている「乗用型ロータリモア」用の安全フレ

ーム(以下、TOPS)を装着できる構造にすることを前提に、その規格(ASAE S547)を適用できるかど

うかの試験を行い、その結果を安全鑑定基準に導入することとなったので報告する。なお、ここでい

う農用運搬車とは「農用運搬機(乗用型)」及び「座席を有する圃場内運搬機」をさす。

1.農用運搬車への転倒時運転者防護対策の検討

1)転倒時運転者防護対策

機械の転倒時に運転者を防護することに関しては、ISO、ASAE、OECD等における転倒時運転者

保護構造物(ROPS:Roll-Over Protective Structure)の規格がある(表1)。ほとんどのもの

が座席より前方にボンネット等何らかの構造物を有する乗用型車両を想定した安全フレームの規

格であり、車体前方に座席を有する(車体前方にボンネット等がない)車両に対しては必ずしも

適当な規格ではない。しかしながら表1の ASAE S547や ISO 12117は TOPS(Tip-Over Protective

Structure)と呼ばれる横転時運転者保護構造物の規格であり、この規格であれば車体前方にボン

ネット等を有しない形態の車両にも適用することができると考えられた。TOPSの規格は ROPSの

規格と比べ 180度転倒を考慮していない(ただし、ASAE S547では 180度転倒しないことも必須

条件となっている)という点で違いはあるものの、幅広い乗用型農業機械に適用できる可能性が

あるため、転倒時運転者防護対策がなされていない乗用型農業機械の安全性を少しでも向上させ

るためには有効な評価方法であると考えられた。

表1 諸外国の安全フレームに関する規格(例)

コード名 適 用 範 囲

主な対象機種 機体質量 輪距・機関出力等

ISO 5700 800~15000㎏ 後輪輪距1150㎜超 広輪距トラクタ

SAE J2194 800㎏以上 後輪輪距1150㎜超 広輪距トラクタ

SAE J1194

ASAE S383

機関15kW 以上 小さいトラクタ

ASAE S478 1800㎏以下 PTO30kW 以下 小さいトラクタ

OECD 4 600㎏~ 後輪輪距1150㎜超 広輪距トラクタ

ASAE S547 アタッチメント重量が前輪に 50%以上かかる ロータリモア

ISO 12117 1000kg以上6000kg以下 ミニショベル(建設機械)

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2)ASAE S547の概要

乗用型ロータリーモア用 TOPSの規格である ASAE S547では、横転時に連続転倒しないことを確

認するシミュレーション試験(以下、不連続転倒試験)と機体の横転に耐えうる強度を TOPSが持

つことを確認する静的強度試験から構成される。不連続転倒試験は農用運搬車の重心位置、全高、

タイヤ外径等の値を基に、1/1.5勾配(約 34度)の斜面上へ初速を与えないよう横転させた時に

連続転倒しないことをコンピュータ上で確認するもの(図1、2)であり、静的強度試験は前方

から TOPSに対して負荷を加える前部負荷試験、側方から TOPSに対して負荷を加える側部負荷試

験、後方から TOPSに対して負荷を加える後部負荷試験からなり、それぞれに与えるエネルギと

TOPSの変形に対する判定基準が設けられている(表2)。ただし、後部負荷試験については、納

屋への収納等のために前方へ折りたたむことができる TOPSの折り曲げ部分の強度を確認するた

めに行うものであり、前方へ折りたたむことができる TOPSにのみ実施する。

図1 不連続転倒シミュレーション試験に必要なパラメータ

図2 不連続転倒シミュレーション試験のイメージ

(農用トラクタの公式試験のための OECD標準コードより)

横倒しで止まる

TOPS

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表2 静的強度試験の概要

試験順序 試験項目 与えるエネルギ(J) 試験方法概略

1 前部負荷試験 1.4×M 左記エネルギに達するまで油圧シリンダ(負

荷速度5mm/s以下)でTOPSに負荷をかけ、変形

させる。

後部負荷試験は前方可倒式の場合のみ実施

2 側部負荷試験 1.75×M

3 後部負荷試験 0.35×M

判定基準

(TOPS強度に関するもののみ記載)

・TOPSに重大な破損及びき裂のないこと。

・試験終了時の力が、試験中に記録された最大力の80%未満でないこと。

・TOPSの部材等が安全域(右図太線内)に侵入せず、かつ座席に接触しないこと。

・安全域が側部保護面(側方転倒時の仮想地面)の外に出ないこと。

M:基準質量(機体質量以上)

(kg)

前部負荷 側部負荷

後部負荷

座席基準点

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2.ASAE S547の農用運搬車への適用性確認

1)不連続転倒試験

(1)方法

農用運搬車(図3)において、ASAE S547で要求されている 1/1.5勾配(約 34度)における不

連続転倒シミュレーション試験で必要となるパラメータを測定し(図4)、当該運搬車が連続転

倒しないために必要となるフレーム装着時の全高(以下フレーム高さという。)を求めた。

図3 検討に使用した農用運搬車 図4 重心高さ及び慣性モーメントの測定

(2) 結果

供試した農用運搬車の場合、空車状態と荷台に最大積載量 600kg相当のおもりを載せた状態

とでは、表3からもわかるように不連続転倒シミュレーション試験を満足するのに必要となる

フレーム高さで 0.3m程度の差があったが、実際に装着することが十分に可能な高さであった。

表3 不連続転倒シミュレーション試験を満足するために必要なフレーム高さ

農用運搬車

測定した状態 本機 本機+運転席に60kg 本機+運転席に60kg+

荷台に611kg

最低必要となる

フレーム高さ(m) 1.46 1.47 1.75

2)静的強度試験

ASAE S547は横転時運転者保護構造物の規格であり、機械が横転した際に運転者を保護するこ

とを目的としている。農用運搬車を実際に横転倒させた時に TOPSに加わるエネルギを計測し、そ

のエネルギが ASAE S547で規定されている所要吸収エネルギ(TOPSが吸収しなければならないエ

ネルギ)の範囲内であることを確認する。

(1) 方法

農用運搬車の実側方転倒によりフレームが吸収するエネルギを推定するため、まず農用運搬

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車に装着するフレーム(フレームA:ガス管 20A、フレームB:ガス管 25A)を試作し、静的強

度試験装置を用いて荷重-変位曲線を求めた(図5、6)。次に農用運搬車を供試し、6つの

試験区(表4)で側方転倒時にフレームA、Bが吸収したエネルギを推定した。転倒方法は、

車体右側を静的転倒角付近まで持ち上げ、初速を与えないように車体左側を水平面(鉄板)に

衝突させた(図7)。また、吸収エネルギの推定に必要となる地面に衝突する側のフレームの

最大変形量も地面に衝突しない側のフレーム上に麻ひもを結び、本機に固定したパイプからの

繰出し量を計測(図8)することにより推定した。

図5 試作フレームの静的強度試験 図6 試作フレームの変位-負荷曲線

図8 試作フレームを装着した農用運搬車と

図7 側方転倒試験 変形量測定ジグ

(2) 結果

農用運搬車の転倒試験結果を表3に示す。農用運搬車の試験区①~⑤はフレームA、試験区

⑥はフレームBを供試して得られた結果である。TOPS規格で想定している斜面上(斜度約 34

度)への転倒は、今回効率的かつ安定した試験が行えるように行った水平面への転倒に比べて、

位置エネルギの変化の大きさが約 2.9倍となるが、これを考慮し推定した吸収エネルギは車体

試作フレーム

変形量測定治具

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質量が大きくなるほど大きく、いずれの場合もほぼ ASAE S547で規定されている側部負荷試験

時の所要吸収エネルギの範囲内であった。従って、ASAE S547で規定されている側部負荷試験

時の所要吸収エネルギは、本供試機においては横転時にフレームが吸収すべきエネルギ量とし

て適当であると考えられる(図9)。

表4 転倒試験の試験区及び結果

図9 推定した吸収エネルギと ASAE S547の所要吸収エネルギ(側部負荷)との比較

側部負荷試験の所要吸収エネルギ

1.75×基準質量(機体重量以上)(J)

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3.安全鑑定基準への適用

上述の研究結果を踏まえ、一般社団法人日本農業機械工業会の協力のもと、平成 22年から「農用運

搬車の転倒時運転者防護対策に関するワーキンググループ」を立ち上げ、平成 22年9月、平成 23年

3月、平成 23年7月の計3回会議を開催し、農用運搬車への TOPS適用について議論を行った。ワー

キンググループにより了承を得られた安全鑑定基準改正案(下記参照)について、平成 24年3月開催

の安全鑑定推進委員会において平成 25年度から適用することで了承された。

平成 25年度安全鑑定改正基準の内容

(下線部分 は現行のものに追加)

安全装備の

確認項目 安全鑑定基準 解 説

7.機体転倒

時の運転者

保護装置

農用トラクター(乗用型)には、型式検

査に合格した安全キャブ又は安全フレ

ームが装着されていること。また、「農

用運搬機(乗用型)」及び「座席※1を有

する圃場内運搬機」にあっては、別に定

める基準※2を満たす安全フレームが用

意されており、その安全フレームが装着

可能な構造であること。

「農用運搬機(乗用型)」及び「座席を

有する圃場内運搬機」のうち、走行装置

の配列が特殊である、あるいは安全フレ

ームに代わる運転者保護のための装備

がなされていると認められるものは除

く。

※1 座席とは下記安全鑑定基準を満たすものをいい、強度の保証されたシートベルトを装着すること。

※2 別に定める基準:今回基準化する ASAE S547に準拠した TOPS規格

(安全鑑定基準)

5.運転席及び作業場所

(2) 作業者が座って作業する機械には、座席及び適当なフートプレートが設けられていること。座席は、

作業者の身体を適切に保持し、身体が座席から滑り落ちないようなものであること。

また、運転者用座席は、運転者の体格に応じて調節できるものであること。

(解説)

5.運転席及び作業場所

5) 座席

①座席の調節範囲は、前後方向については 50mm以上とする。

②乗用・歩行兼用型機械の座席は乗用型機械と同等のものであること。

③必要に応じて、座席の前方、側方に握り等を設け、転落を防止すること。

④運転席が左右に回転することが可能な場合は、回転をロックすることができる構造であること。

⑤乗車運転が可能な単軌条運搬機の座席は、軌条の傾斜に応じた調整ができるものであること。

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おわりに

本研究結果を踏まえ、平成 25年度より農用運搬車における安全鑑定基準の中に「TOPSが装着可能

な構造であること。」を新たに追加することになった。これにより、農用運搬車の安全性が向上し、

転倒・転落による死亡事故減少につながるものと考えている。今後もユーザー、メーカーをはじめ、

各方面の方々のご協力をいただきながら、農業機械の安全性向上を目指していきたい。

安全鑑定基準への導入の検討にあたっては、一般社団法人日本農業機械工業会に多大なご協力をい

ただいた。ここに記して感謝の意を表する。

参考文献

1)塚本茂善・水上智道・高橋正光:乗用型農業機械の転倒時運転者防護に関する研究(第1報),

第 67回農業機械学会年次大会講演要旨,443-444,2008

2)原田一郎・塚本茂善・高橋正光:乗用型農業機械の転倒時運転者防護に関する研究(第2報),

農業環境工学関連学会 2009年合同大会講演要旨,CD-ROM,2009

3)塚本茂善:乗用型農業機械の転倒時運転者防護に関する研究,The 3rd KOREA-JAPAN Joint Seminar

on 「Safety for Agricultural Machinery」講演要旨,99-103,2008

4)ASAE S547:Tip-Over Protective Structure (TOPS) for Front Wheel Drive Turf and Landscape

Equipment,2003

5)CODE6:OECD STANDARD CODE FOR THE OFFICIAL TESTING OF FRONT MOUNTED ROLL-OVER PROTECTIVE

STRUCTURES ON NARROW-TRACK WHEELED AGRICULTURAL AND FORESTRY TRACTORS,2012

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平成 24年度 生研センター研究報告会

頒価 903円(本体価格 860円+消費税 5%)

独立行政法人 農業・食品産業技術総合研究機構

生物系特定産業技術研究支援センター

農 業 機 械 化 研 究 所

〒331-8537 埼玉県さいたま市北区日進町 1-40-2

Tel. 048-654-7000(代)

印刷・発刊 平成 25年 3月 14日

本報告の取扱いについて

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