特別支援教育における...
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特別支援教育における保護者との連携とかかわり
新潟大学教育学部
長澤正樹
我が子に障害があると言われたら・・・
障害者への意識の変容
障害受容について
1. 驚き、衝撃、ショック
2. 拒否
3. 混乱
4. 不憫さ
5. 努力
6. 受け入れ
7. 楽しみ
親の不安定な心理を理解すること
保護者とのかかわり
こんなことを言われたら?
• 「教育と名の付くものはすべて悪である。国家が特定の価値観を押しつけ、為政者に都合のよい国民を養成するためでしかない。従って、私は子どもを教育するつもりはないし、学校の勉強を家でさせる気もない。義務教育だから学校には行かせているけれど、宿題は出さないで欲しい。家ではいっさい学校の勉強はさせません。先生はよけいな介入をしないでもらいたい。」
保護者との連携:担任(文部科学省)
1. 保護者との情報交換
• 信頼関係、ニーズの把握、関連情報の把握、できることから始める
2. 保護者を含むチームでの話合い
• チームとしての対応、チームでの会議の実施
3. 保護者への説明
• 個別の指導計画、就学前情報の必要性および引継の説明、個人情報の適切な取り扱い
情報交換、話合い、説明
ガイドライン(2004)
保護者との連携:コーディネーター(文部科学省)
1. 関係者との連絡調整(保護者との関係作り)
• 学校便り、PTA活動
2. 保護者に対する相談窓口
• 保護者の気持ちの受け止め
• 保護者とともに考える対応策
• 保護者への支援体制
コーディネーターが中心に体制作りガイドラインをよく読んで実行すること
ガイドライン(2004)
保護者と連携=協働作業
• 相手の立場を尊重する
• 一緒に考え、一緒に指導する
• 自分の問題として考える
• 問題の原因追及より解決を目指す
• それぞれの立場でできることを考える
保護者とのかかわり(1)
保護者に特別な教育的支援の必要性を説明する
事例(1)
• 「うちの子は障害児ではありません。ただ、早生まれで、ほかの子より少し発達が遅いだけです。落ち着きがないのは父親譲りです。お父さんも小さい頃落ち着きがなく勉強が苦手だったそうですが、今はちゃんと仕事をしています。ですから、特別扱いはしないでください。みんなと同じように勉強させてください。家では、まったく問題ないのですから。」
保護者への説明(基本)
• 行動、対人関係について、どういうことが問題かを具体的に説明する
– データを示す(検査結果、行動観察)
• 一斉指導(通常の指導)では困難であることを話す
• 子どもにあった指導のために、専門機関の判断が必要であることを話す
障害の可能性を必ずしも言う必要はない問題へのより専門的な介入の必要性を訴える
事例(1)の場合
• 発達段階や園での様子をデータに基づいて説明する
• 今までの園の対応と結果を説明する
• 残っている問題と必要な対応を告げる
発達検査、行動記録、映像
「個別に注意すると一度は座りますが、すぐに立って飛び出します」
来年は小学校ですから、一度相談機関に行かれては?
保護者への対応:いくつかのパターン
• 障害を認めない
– 対応を説明し理解を求める
– 事実を見てもらう(考えてもらう)
• 教育的対応の成果を伝える
• 親の悩みに答える姿勢
「いつでも相談にいらしてください」「主任でも、園長でも、誰でも対応できます」
「注意が聞けないときには、別室で個別指導します」
「園にいらして、私(保育士)の対応を見てください」
「絵カードを使って次の活動を示すと,指示がわかるようになりました。家でも絵カードを使っ
てみてはいかがですか」
現状を知らせ、具体的な対応を示し、時間をかけて対応
保護者への対応:緊急の課題
• 大事な話は両親を呼んで話す
• 父親に向かって話す(もちろん両親そろっている場合)
• 事実を告げる役割と支援する役割の分担
「問題が長く続くことは、お子さんにとってよくな
いことですよ」
管理職
「私どもがついていますから、安心してください」
担任によるフォロー
ときには危機感を持たせる対応も必要
父親への対応(役割)
• 父親の存在の意義を伝える
• 学校のルールを守ることをことばで教える
• 守ることを父と約束
しつけ・教育・将来にとって、父親の役割は一番重要
暴力は絶対に使わない(体罰の禁止)
1.父親と約束を堅く交わすこと2.約束が守れたら、十分誉めてあげること
3.守れないとき厳しく戒める
父親が変われば母親は変わり、子どもも変わる
保護者とのかかわり(2)
無理な要求
事例(2)
• 「確かに、うちの子は自閉症で人とのやりとりがうまくできません。でも、わからなくてもいずれわかるようになるわけですから、みんなと同じにしてください。みんなと違うことをさせるのは、差別です」
対応の基本
• 訴えをじっくり聴く
• 要求していることを具体的に理解する
• 事実と主観を区別する
うなずく、話を復唱する、最後まで聴く
積極的に質問し、何を望んでいるかを知る
ひどいことを言われた(主観)、「帰れ」と言われた(事実)
聴く、理解する、訴えを具体的に分析する
対応の基本(続き)
• 願いを知る
• 「できない」ではなく「どうすればできるか」を一緒に考える
• できることとできないことを明確に説明する
子どもにどうなって欲しいのか、願いを丁寧に聞く
少しでも可能性のある対応を具体的にひとつひとつ検討する
願いを知り、考え、説明する
できることは自分から提案し、できないことは理由を言って断ること。曖昧にしない
事例(2)の場合
• 園で対応して欲しいことを聴く
• 子どもにどうなって欲しいか、長期短期両方の展望を聴く
• 達成のために必要な対応を一緒に考える
できないことでもすべて聴き、否定しないこと
「みんなで協力して、作品を作れることは大切ですね。では、そのようにできるために、今必要なことを考えましょう」
目標を指導するかかわり方・指導場面家庭で対応することが望ましいこと
保護者とのかかわり(3)
家庭での対応を促す
事例(3)
• 「家では何も手がかかりません。一人でゲームをして過ごしています」
• 「休みの日ですか? みんなで近くの大型スーパーに行きます」
• 「父親のかかわりですか? はい、よく遊んでく
れます。一緒にゲームをしています。うちには子どもが二人いる状態ですね(笑)」
対応の基本
• 現在の対応を受け入れる
• 子どもの願いを伝える
• 遊びを提案する
子どもが安心して生活できる家庭を評価する
両親と、遊んだり、触れあったりすること(事前に聴く)
昔ながらの遊び、スキンシップ、カードゲーム園でしている遊び(宿題)
親の努力を認める、できることを提案し、選んでもらう
事例(3)の場合
• 現在の対応を受け入れる
• 子どもの願いを伝える
• 遊びを提案する
おうちが一番安心できて、落ち着いて遊べるんですね
お父さん、お母さんと、散歩したり、カルタとりしたいって、言ってました
今、園ではカルタとりが人気があり、○○さんも好きなんですよ
遊び方を具体的に教える(情報提供)
保護者とのかかわり(4)
話し合いを継続する
話し合いを継続する• 親の悩みに応える姿勢
• 良いことをまず報告
• 親のがんばりを評価する
• 次回までの対応をきめる
「いつでも相談にいらしてください」
あせらず、できることを評価し、時間をかけて対応
できていることから話題にし、残された問題を話し合う
親の努力を積極的に誉めること
できることを約束し、次回の日にちをきめること
事例:SCのかかわり(中学生)• アスペルガーの疑い、授業態度・対人関係のトラブル
• 対応– 保護者との定期的な話し合い
– 本人との話し合い、目標
– 指導計画の作成、学年対応
• 結果– 授業態度の改善
– トラブルに対して、相手生徒への謝罪
できていることをまずほめる
次までにできそうなことをきめる
保護者の対応、態度の変化アスペルガーの可能性低いという判断
保護者との話し合いによる支援の決定
個別の教育支援計画の作成支援
個別の教育支援計画(文部科学省)
• 障害のある子どもにかかわる様々な関係者(教育、医療、福祉等の関係機関の関係者、保護者など)が子どもの障害の状態等にかかわる情報を共有化し、教育的支援の目標や内容、関係者の役割分担などについて計画を策定するもの
個別の教育支援計画とは、みんなと同じ学習が保障されるための支援をまとめた書類
指導内容だけではない介護保険の「ケアプラン」のようなもの
支援計画の作成:「どこで」「誰が」
• 保護者の参加(将来は本人の参加も)
• 保護者が要望を述べる
– 願い、全体的支援など
• 実態と願いに基づき原案を作成
• 保護者による確認 → 実行
インフォームド・コンセント(十分な説明と同意)
できることを実行へ
特別支援学校や教育センターなどと連携し、校内委員会で作成保護者の参加、保護者が管理、伝達
対応(第三者の介入)
1. 保護者の要望、園(学校)の事情を聴く
• じっくり耳を傾ける
2. 一緒に対応できることを話し合う
• 実現できる具体的な支援を明確にする
3. 保護者に園の事情や提供できる支援を説明する
4. 合意できた条件を支援計画にまとめる
5. 双方に示し、同意を得る
「できない」→「どうしたらできるか」の視点が大切
事例:就学前の相談
• 対象:自閉症の子どもの保護者
• 訴え:通常学級で教育してほしい
• 対応
– 相談員が保護者の要望をすべて聞く
– 学校ができること、できないことをきめる
– 支援計画にまとめ、保護者に提示
• 結果
– 学校ができる支援のみで通常学級在籍
– 子どもは安定した生活、苦情なし
小学校
中学校
高等学校
進学社会生活
幼・保、小、中、高の連携
幼稚園・保育園
うまくつながる工夫を・連絡会・観察
・保護者面談・サポートノート
早期に支援計画を作成し、次の段階へバトンタッチ
個別の教育支援計画
支援を保証し継続するサポートノート(新潟県)
良好なコミュニケーションのために
カウンセリングに学ぶ
聴き方の姿勢、コツ
話を聴く3つの原則
• 積極的に話に耳を傾ける
• 相手の感情や気持ちを受け止める
• 相手の感情や気持ちを理解する
相手の感情に近づき、ともに感じること「悲しかったのですね」など、受け止めること
相手の話に関心を持ち、ひたすら相手の話を聴く「もう少しくわしく」「どういうこと」など、質問する
相手の考えを尊重し、理解すること「あなたは○○と考えているのですね」
聴く、受け止める、理解する
良好なコミュニケーション(1)• 名前を呼び捨てにする
• お互いに押さえ込もうとする
• 相手の発言を遮る
• 批判し続ける
• 相手の攻撃を防衛する
• 悪意のないことばで怒りを表現する
• 怒っている理由を説明する
• 順番に言い合う
• 良いところと悪いところを指摘する
• 自分の考えと一致するかどうか注意深く聴き、同意できないときは静かにその旨を伝える
好ましい対応好ましくない対応
ことばで表現、具体的な説明、順番に、善し悪しを区別、意志をはっきり
良好なコミュニケーション(2)
• 大げさに言う/説得する
• 視線を逸らす
• 皮肉っぽく言う
• 話題から離れる
• 端的に短く発言する
• 相手の目を見て発言する
• ふつうの調子で言う
• 一つの話題を話し終えてから次の話題に進む
好ましくない対応 好ましい対応
話題はひとつに限定し、端的に、目を見て話す
良好なコミュニケーション(3)
1. 最悪のことを考える
2. 終わったことを蒸し返す
3. 他人の心を読もうとする
4. 命令する
5. 黙っている
• 心を開き結論を急がない
• 現在の問題について話し合う
• 相手に意見を聞く
• お願いする
• 自分の気持ちを口に出して言う
好ましくない対応 好ましい対応
急がず、今の問題を、相手に聴きながら、丁寧に
良好なコミュニケーション(4)
1. かっとなる
2. わざわざ大事のように取り上げる
3. 相手のすべてを否定する
4. 小さなことについて小言を言う
• 10数える、歩く、リラックスする、部屋を出る
• まじめに取り上げる
• 相手の意見や存在を認める
• 完璧でないことを認める、大目に見る
好ましくない対応 好ましい対応
冷静に、熱くなったらクールダウンし、長期的展望で
さらに上をめざす(1)• 相談の場の設定
• 相談者のニーズの分析
• 相談者の問題意識
• 主訴を明確に
場所、配置、設定
解決したい?聴いてもらいたい?
解決にどれだけコストをかけられるのか?
困っている問題を具体化、優先順位
さらに上をめざす(2)• できそうな目標をきめる
• できそうな対応を提案し、相手に選んでもらう
• 誉めることを意識させる
• 望ましい行動の記録を認識してもらう
望ましい行動より、悪くない行動
情報を提供し、押しつけない
悪くないときにも誉めるように
望ましい、悪くない行動の記録を提案する
困難事例:専門機関との連携
• 虐待、親の資質の問題
• 非行、学校外での問題行動
• 診断、告知、医療的ケア、親支援
• 親支援、心の支え、情報交換
児童相談所、民生委員
警察(生活安全課)、保護観察所、家庭裁判所
医療機関、発達障害者支援センター、児童相談所
親の会、NPO
ひとりで(学校だけで)抱え込まず、支援機関の活用を
長澤研究室
http://www.ed.niigata-u.ac.jp/~nagasawa/メールマガジン、特別支援教育・発達障害の情報、資料