中・高生のぶっとびデザインシンキング~鳥取・青翔開智(ce fil)
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2015.4.27
中・高生のぶっとびデザイン思考~鳥取 青翔開智中学・高校
CeFil 牧野
4月 25日、鳥取市の青翔開智中学・高校のデザイン・シンキング発表会に、CeFIL(高度情報通信人材育成支援セン
ター)の島谷代表幹事、篠田シニアリサーチャーと共に「スペシャルゲスト」として参加してきました。
青翔開智中学・高校は 2014年4月に開校した、鳥取県東部初の私立中高一貫校です。鳥取駅からバスで 20分。正
直言って辺鄙なところですが、そこに下の写真のような斬新なデザインの学校が出現しました。
この学校を創設したのは、鳥取市出身の横井司朗氏。横井さんは「困っている子供たちを
支えたい」と自宅を教室にして生徒3人の学習塾をはじめ、今は駅前に大きなビルを構え
た予備校と、通信制全日高校「クラーク記念国際高等学校」の鳥取キャンパスを経営して
います。
横井さんは海外に比べ遅れている ICT教育、知識はあるが応用力・活用力のない子供達
の増加、海外留学者数の減少、実用性に乏しい受験英語教育など、今の日本の教育に
強い危機意識をもち、青翔開智中学・高校を開校しました。冒頭にはこの学校が忽然と現れたような書き方をしました
が、開校に至るまではそれはそれは大変な、10数年にわたる苦労の連続があったようです。
同校の教育プログラムの核は「探求型学習」。生徒が自分の興味・関心のあるテーマについて自ら調べ、分析し、まと
めるというものです。青翔開智では、中学1年から高校2年の前期までの4年半、毎週2時限をこの探求型学習に当て
ています。探求型学習は京都の堀川高校が発祥で、それを取り入れている学校も増えてきていますが、青翔開智は
ICTを徹底的に使っているところが特徴です。
空港
鳥取駅
砂丘
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そしてこの学校のデザインを手がけたのは、(株)Gene-Insightの代表取締役、佐藤千里氏。佐藤さ
んはオフィス家具の世界的メーカーである Steelcase社でこの学校のデザインプロジェクトを担当
し、建物や什器だけでなく、教育コンセプトにまで踏み込んで青翔開智の設立を支援しました。その
後独立してデザインとイノベーションのコンサルティング、ワークプレイス設計、キャンパス設計、3世
代マーケティング分析など、幅広く活躍していますが、青翔開智の支援はいまでも続いています。
佐藤さんはデザイン・シンキング手法にも通じており、CeFILのシニアリサーチャーに就任しました。
その佐藤さんが青翔開智で中学、高校生を対象にデザイン・シンキング手法を用いた IDEA CAMPを行うというので、
CeFILのメンバーで見学に行ったというわけです。
IDEA CAMPには中学1年生と高校1年生の 12チームが参加し、「20年後の学校」というテーマでアイディアを練っ
て、プレゼンをします。24日(金)は佐藤さんの指導で丸一日グループワーク&プレゼンの作成と練習。翌日 25日(土)
は一般公開の発表会。各チーム5分という短い持ち時間でプレゼンをし、6人の講評員がコメントします。私はグループ
ワークには参加できなかったのですが、発表会で講評員に加わりました。
下は前日の準備の模様(青翔開智 Facebook より)と、当日の会場風景です。前日は夜の 10時ぐらいまでプレゼンの準
備をしていたグループもあったそうです。
で、プレゼンを見てぶっ飛びました。
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これ、ほんの1ヶ月前は小学生だった生徒が作ったスライドですよ!「みらいのがっこう」みたいなお絵かきじゃなく、20
年後の学校を考えていく過程で、どうすれば未来をリードできるか、どのような人を育てたいのか、すなわち自分はどの
ような人になりたいのかというところから発想しています。
「給食はバイキング形式で」とか「リゾートのようなプールがある」など、現実に対する不満(給食がまずい?プールがな
いなど)を基にした提案ももちろんありましたが、それとて、なぜそれが必要か、それに伴うデメリットにどう対処するかな
ど、きちんと考えています。
「寮が欲しい」という意見も複数のチームから出ていましたが、建設費をインターネットで調べた平均コストから割り出し
たり(妥当性ははともかくとして)、「留学生のため」とかいう言葉が普通に入っていて驚きです。
高校生の発表になると、まず「学校とはなにか」というところから始まります。
学校とは、
「自分達が社会に出てから必要になる知識、経験、思考力を養う場所。(決して遊ぶ場所ではない)」
そ...そうだったんですね...すみません(汗)
そして、どのような高校にしたいかというと、
「(大学のように)学びたいことを、学びたいだけ学べる場所」にしたい、と。(おい、そこの大学生、聞いてるか!?)
また、あるチームは、「空飛ぶ学校」というコンセプトを打ち出しました。グローバル人材になるためにはやはり世界各国
の文化、習慣、生活に触れる必要がある。だったら学校ごと飛んで行ってしまえばいいと。
そして代替案としては「どこでもドア」のような画期的な移動手段や、現実路線として VR(バーチャル・リアリティ)を挙げ
ています。
このチームのすごいのは、まずは「空飛ぶ学校」という興味を引くようなビジョンを打ち出しておいて、なぜ空飛ぶ学校
が欲しいのか、その理由をしっかり述べ、次に非現実的なものから現実的なものまでの代替案を示していることです。
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紹介すればきりがないのですが、もう驚きの連続でした。もちろんプレゼンのテクニック的にはまだまだ改善の余地はあ
りますが、なにしろ発想が本質的で、考え方の流れがしっかりしている。
もっとも最初からこうだったわけではないようで、前日のワークショップからオブザーブしていた島谷さんと篠田さんによ
れば、最初は発想はいろいろ出てくるものの、それを体系立ててまとめることができず、Ver.1のプレゼンは結構心配な
レベルだったそうです。それを佐藤さんがデザイン・シンキングの手法を使って考え方を指導し、佐藤さんと青翔開智
の企画室長・織田澤さんがチームをぐるぐる回ってアドバイスをした結果、前述のようなプレゼンになったということで
す。だから前日の状況を知っていた人たちは、たった1日で生徒がここまで成長するのかと、私よりももっと驚いていま
した。
デザイン・シンキング恐るべし。
発表会終了後は校長室で横井校長と懇談し、その後横井さん自らが学校をくまなく案内して下さいました。
いや、とにかくすごい学校です。単なるカッコいいハコモノではなく、あるもの全てに横井さんの想いと佐藤さんのアイ
ディアが詰まってる。
まず、本棚が至る所にある、というよりは、図書館の中に学校があるような作りになっています。
生徒にはiPadが一人一台配布され、校舎内には無線LANが張り巡らされていて、いつでもどこでも情報は取れます。
でも、やはり本を読むことは重要。常に目につくところに本があって、面白そうだと思ったらひょいと手に取れる、そういう
環境を作りたかったそうです。
学内で最も大きなスペースを占める吹き抜けのアリーナは「ブックベース」と呼ばれ、大きな本棚に囲まれた、生徒の
「たまり場」になっています。
ブックベースの両端には「メディアスケープ」と呼ばれる情報ステーションが2基配置されています。
中央にあるディスプレイはインターネットにつながっており、調べ物をしたり、Skypeでビデオ会議をしたり、生徒がiPad
を繋いで、自分の画面を表示しながら議論ができます。そして、使っていない時には TEDを流しているんだとか(!)
メディアスケープの周りには一段高いテーブルと椅子の「外野席」があり、中でなにか面白そうなことをやっていると「な
んだなんだ?」と人が集まってきてのぞき込み、議論に加わったりする。ここで先生が打ち合わせをしていると生徒が集
まってきて、いろいろ意見を言ったりもするそうです。
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全ての教室には短焦点型のプロジェクターが設置されており、必要な教材を投影したり、生徒の iPad画面をワイヤレス
で投影することもできます。
生徒はこれらの ICT機器をごく自然に使いこなしていて、発表会の時には女子からも「使うときに空気中に画面を投影
することのできる、iPad兼プロジェクター」が欲しい(これがほんとのiPad Air!)、などというアイディアも出てきて、やっ
ぱりデジタル・ネイティブなんだなあと感じました。逆に、他のデジタル・ネイティブたちは「普通の学校」でどんな風に勉
強しているのか、ちょっと気になるところです。
さらに、壁の4面が全面ホワイトボードになっている部屋とか、上面がホワイトボードになっていて、書いたらくるっと回し
て相手に見せることができる丸テーブルとか、これまでの学校の概念をひっくり返すようなさまざまな仕掛けが満載でし
た。学校全体がフューチャーセンターというか IDEOのオフィスというか忍者屋敷というか、そんな感じです。
実は一番感心したのは、職員室の先生の席の後ろに作られている背の低いキ
ャビネット。
上に薄いクッションが貼られていて、生徒は先生に質問や相談に来るとそこに
腰掛ける。そうすると生徒の目線が先生よりすこし上になるので、生徒は話し
やすいんだそうです。
そこまで考えるかふつう!?
想定外の使い方としては、生徒がロッカーの扉のところに自分が解けない問題、疑問に思っていることなどを紙に貼っ
ておくと、他の生徒がそこに答えを書き込んでいくというのが自然発生的に起きたんだそうです。学校はそのような想定
外の使い方がもっともっと広がることを期待しているとか。
IDEA CAMPでの生徒の発表を聞いていると、「校庭に宇宙エレベーターを設置して、宇宙のことが知りたくなったらそ
れに乗って調べに行く」とか、「教員の 60%を人工知能に置き換えて、コストを削減する」、「スケートリンクを作る」など、
とにかく発想に制約がないというのを感じました。
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また、「Apple製品を導入して Apple を宣伝し、その見返りとして補助金をもらう」、「学校を超高層ビルにして研究所を
誘致し、また建物自体を観光地化して地域を活性化させる」、「学園都市にする」など、学校経営や地域創生にまで踏
み込んだような発表もいくつか見られました。
生徒と先生、生徒同士のコミュニケーションが密で、信頼関係ができているので、「こんなこと言ったらバカにされるんじ
ゃないか」とか「こんなこと言ったら怒られるんじゃないか」という心配が全くないから発想が広がるのでしょう。そして生
徒たちも先生と一緒になって、学校の未来を真剣に考えている。
とにかく、生徒たちは学ぶこと、調べること、教わること、教えること、考えること、議論することを心の底から面白いと思っ
ている。
日本中の学校がこんな風になったら、日本は絶対に変わりますよね。
人口が日本一少なく、「スナバはあるけどスタバはない」1とかいろいろ言われている鳥取県ですが、この教育改革の動
きが全国に広がり、全国からこの学校を目当てに鳥取に人が集まり、そして生徒たちが世界に羽ばたいていく、そんな
夢が広がる学校でした。
(著者)
牧野 司
特定非営利活動法人 CeFil(高度情報通信人材育成支援センター)理事
東京海上日動火災保険株式会社 経営企画部 調査企画グループ 次長 兼 IT企画部 参事
東京海上研究所 主席研究員
東京大学大学院 情報理工学系研究科 非常勤講師
九州大学大学院 システム情報科学府 非常勤講師
筑波大学大学院 システム情報工学研究科 客員教授
働き方の変革、教育改革、先端技術(IoT、サイバーセキュリティ、シンギュラリティ)等の調査・研究を行っている
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