歴代理事長紹介 蓑茂 壽太郎(みのも...

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公立大学法人熊本県立大学初代理事長 蓑茂壽太郎氏紹介、在任時のメッセージ - 1 - 公立大学法人 熊本県立大学 歴代理事長紹介 公立大学法人 熊本県立大学 初代理事長 蓑茂 壽太郎(みのも としたろう) 【在任期間】平成 18 4 1 日~平成 24 3 31 【プロフィール】 農学博士。専門は、造園学、都市農村計画・環境計画・公園 計画。1950 年生まれ。 東京農業大学副学長を経て、本法人理事長に就任。 在任時の「理事長メッセージ」(ホームページ)より 2006 (平成 18 )4 1 日公表メッセージ 熊本県立大学は、4月1日から公立大学法人に衣替えをしました。本学の歴史として最も 長い期間をもつ熊本女子大学の創設から 60 年を数える伝統の大学の新たな船出です。自立 し、社会と真っ向に対峙して取り組む大学として自律できる独り立ちを意味します。大学に 限らず、昨今さまざまな場面で「改革」の言葉が聞かれますが、その意味するところは「たく さんの改善」に他なりません。大学の場合、その改善は、本分である研究教育面と、これを支 える大学アドミニストレーション*にありますが、この二つの連携がきわめて重要なのです。 そもそも、公立の大学は、地元が欲する人物を養成する目的で、地元が「生みの親」となっ たものです。本学においては、これから「育ての親」としての役割を法人が担当します。熊本 は、これまでに日本を代表する個性ある地域ブランドを形成してきたのではないでしょうか。 その地域にふさわしい、そしてなくてはならない大学として、いつの時代も、常に進化し続 ける大学であることを忘れません。そのために、公立大学法人熊本県立大学は、「学生にとっ ては、入って良かった」、「保護者等にとっては、入れて良かった」、「卒業生には母校で良か った」、そして、大学のシーズである教職員には、「この大学のスタッフで良かった」が実感 できる大学運営に努めたく存じます。 今、この熊本県立大学に集う若者が、『地域に生き、世界に伸びる』のスローガン片手に、 『カルデラ規模の知識とスキルを実学する』、これが新しい熊本県立大学の姿なのです。この ことを共感し、みんなで共振することを広く呼びかけ、ご挨拶といたします。 *Administration は、総合管理と訳され、これからの社会システムに欠くことのできない概念です。本学には、

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公立大学法人熊本県立大学初代理事長 蓑茂壽太郎氏紹介、在任時のメッセージ

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公立大学法人 熊本県立大学 歴代理事長紹介

公立大学法人 熊本県立大学

初代理事長 蓑茂 壽太郎(みのも としたろう)

【在任期間】平成 18年 4月 1日~平成 24年 3月 31日

【プロフィール】

農学博士。専門は、造園学、都市農村計画・環境計画・公園

計画。1950年生まれ。

東京農業大学副学長を経て、本法人理事長に就任。

在任時の「理事長メッセージ」(ホームページ)より

■2006年(平成 18 年)4 月 1 日公表メッセージ

熊本県立大学は、4月1日から公立大学法人に衣替えをしました。本学の歴史として最も

長い期間をもつ熊本女子大学の創設から 60 年を数える伝統の大学の新たな船出です。自立

し、社会と真っ向に対峙して取り組む大学として自律できる独り立ちを意味します。大学に

限らず、昨今さまざまな場面で「改革」の言葉が聞かれますが、その意味するところは「たく

さんの改善」に他なりません。大学の場合、その改善は、本分である研究教育面と、これを支

える大学アドミニストレーション*にありますが、この二つの連携がきわめて重要なのです。

そもそも、公立の大学は、地元が欲する人物を養成する目的で、地元が「生みの親」となっ

たものです。本学においては、これから「育ての親」としての役割を法人が担当します。熊本

は、これまでに日本を代表する個性ある地域ブランドを形成してきたのではないでしょうか。

その地域にふさわしい、そしてなくてはならない大学として、いつの時代も、常に進化し続

ける大学であることを忘れません。そのために、公立大学法人熊本県立大学は、「学生にとっ

ては、入って良かった」、「保護者等にとっては、入れて良かった」、「卒業生には母校で良か

った」、そして、大学のシーズである教職員には、「この大学のスタッフで良かった」が実感

できる大学運営に努めたく存じます。

今、この熊本県立大学に集う若者が、『地域に生き、世界に伸びる』のスローガン片手に、

『カルデラ規模の知識とスキルを実学する』、これが新しい熊本県立大学の姿なのです。この

ことを共感し、みんなで共振することを広く呼びかけ、ご挨拶といたします。

*Administration は、総合管理と訳され、これからの社会システムに欠くことのできない概念です。本学には、

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公立大学法人熊本県立大学初代理事長 蓑茂壽太郎氏紹介、在任時のメッセージ

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総合管理学部の上に大学院アドミニストレーション研究科があります。

■2006 年 8 月 1日公表メッセージ

公立大学法人 熊本県立大学ビジョン 並びに 「もっこすプラン 2006」 について

熊本県立大学が法人化して4ヶ月が経ちました。この間、予期せぬこともありましたが、

全教職員の協力の下、新しい船出ができているように思います。4月の理事長メッセージで、

この度の法人化を『自立と自律の大学運営』だと述べ、取り組みの姿勢を披露する機会をい

ただきました。今回はもう少し具体的に、わたしたちの意欲も含めてお伝えできたらと思い

ます。私立大学と違って国公立大学にとっての「改革のいま」は、二つの「ジリツ」にあるわ

けです。本学の場合、設立団体である熊本県から独り立ちして、熊本県民、国民、いや地球人

類の期待に叶う「価値ある大学」に向けての改革を行う。その前に多くの改善があることを、

これまでのさまざまな機会で口にしてきました。

改善を積み重ね、確かな改革の足音を聞かなければなりません。そのためには熊本県立

大学のビジョンが不可欠で、この度、これを作り上げました。ご紹介するビジョンは、本学

創立 65 周年に当たる平成 24 年の 3 月を目標としたこれからの六年間を展望した公立大学法

人 熊本県立大学の中期目標と中期計画からなるものです。中期目標は、私たちの意見を反映

させて設立団体の長〈熊本県知事〉が定めたものです。そして中期計画は、その中期目標を

達成するための「取り組み」として、私たちが一つ一つ考えたものです。私たちは、この中期

計画をあらゆる人に公表していくことで、ビジョンの形骸化を予防し、実効性を高めていき

ます。

その中期計画には、大きく6つの内容が含まれています。まず1つ目が、「大学の質の向

上」に関することです。ここには、大学の三大使命である教育・研究・地域貢献に加え、国際

交流、学生生活支援に関することが記されています。最新の研究に基づく最高の教育と有為

な地域貢献を果たさなければなりません。そして、第2に、「業務運営の改善及び効率化」に

関することです。従来の公的運営で指摘されてきた限界に甘んじることなく民活を有効に導

入することで、運営体制の改善、教育組織の見直し、人事の適正化、事務等の効率化と合理

化を達成することになります。そして、3つ目は、「財務内容の改善」に関する事項で、企業

会計の下、自己収入の増加、経費の抑制、資産の運用管理が課題となります。付け加えます

と公立大学法人は国立大学法人同様、運営費交付金という形で公的支援を前提に経営される

大学ですので、その趣旨を十分ふまえた舵取りに心がけることになります。そこでは公立大

学としての存在理由を積極的に主張していきます。このほか、第4、第5の項目に「自己点

検・評価」と「情報提供」が掲げられ、最後の6つ目には、「美しく快適なキャンパスの整備、

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安全と安心の管理運営、そして人権に関する事項」をも盛込む形でまとめました。

このように中期目標と中期計画は、「目標と計画を対にした熊本県立大学創立 65周年ビジ

ョン」として謳うものです。この価値あるビジョンを着実に推進していくため、全教職員共

有の「もっこすプラン 2006」を備えることにしました。「もっこすプラン 2006」は、中期計

画と平成 18(2006)年度計画が一体となったもので、方言「もっこす」にある どうしても

頑固に達成しなければと言う こだわり をコンセプトとしたものです。皆様のご理解とご支

援をお願いいたします。

■2006 年 12 月 1 日公表メッセージ

大学改革〈数々の改善〉における 真摯な取り組みと速やかなスピード

大学をはじめとする学校において先生がもっとも忙しくなる 師走 の到来となった。昔の

先生はこの時期だけが忙しかったのだろが、今は「一年中師走だ」との悲鳴がいくつも聞こ

えてくる。公立大学法人となって初めての年末を迎え、年度末をこれから迎えることになる。

ここ熊本の街では熊本城築城 400 年記念の前夜で、賑やかな年の瀬となりそうで活気があっ

ていいことだと思っている。成果主義が求められる社会であるから、当然のこと本法人にも

その目が強く注がれる。前回のメッセージでお伝えしたように、公立大学法人熊本県立大学

は「もっこすプラン 2006」にそって粛々とアクションを起こし続けている。

本学のスローガンである『地域に生き 世界に伸びる』を一つ一つ具体化して、「学生のも

の」にしていかなければならない。前段にある『地域に生きる』を前進させるため全学的な

取り組みとして『もやいすと育成プログラム』を世界最大級のカルデラを有する阿蘇を舞台

に推進してきた。これからはこれを県内全域で展開しなくてはならない。このために相互協

力をお願いできる自治体や企業を選定し、研究・教育・地域貢献のパートナーシップを強固

に築くことが重要と考え、法人化初年度はこれに邁進してきた。その仕掛けが「包括協定制

度」で、1企業、5自治体との締結が年内に達成できそうである。協定締結後、すでにいくつ

か個別の活動をスタートさせてきているが、遅くならないうちに締結自治体等との共創的研

究活動、相乗的地域支援活動の方策を固める意見交換会を行う予定である。こうした準備を

いま行うことにより、本学の研究と教育は公立大学ならではの新しい方向に向かうはずであ

る。そして地域に「大学の価値」を示すことができるようになると思う。

もう一つ、後者の『世界に伸びる』については、今、教学サイドで検討していただいてい

るところであるが、『熊本で、世界と向き合う』をコンセプトにしてはいかがかと提案してい

る。国際化社会の真っ只中にある今、いつも積極的に『世界と向き合う』姿勢と志を本学で

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学ぶ若人は育み、大学はその支援を惜しみなく行うというものである。こじんまりとした大

学、自然と文化の薫り高い熊本の街にある大学ならではの「普段着の国際化戦略」を構築す

るねらいがそこにはある。残された 2006年度の 4ヶ月で『世界に伸びる大学』を具現化する

基本方向を全教職員の英知を結集しつつ考えたい。

いずれにしろ、自立・自律の大学づくりは緒についたばかりであるが、大学内で現場力が

日に日に発揮されるようになってきていることを実感している。今年国内で起こったいくつ

かの事件や暗い出来事を振り返るに、急速な社会の変化に組織や仕組みの改変が追いつかな

かった結果という見方ともなる。改善や改変スピードの絶対的不足である。本当のプロに求

められる「真摯な取り組みと速やかなスピード」を常に意識し続けたい。

■2007 年 4 月 2日公表メッセージ

法人化二年目の挑戦

公立大学法人になって二年目を迎えました。ひと回りした春夏秋冬を振り返ったとき、熊

本女子大学時代からの伝統を持つ熊本県立大学の法人化は、大小の波を乗り越えながらの船

出でした。幸い教職員をはじめとする関係者の協力で中期目標に向かって無事巡航を始めま

した。私たちは年度毎の「もっこすプラン」を携えて、学生から、保護者から、卒業生から、

そして何よりも教職員自らの「満足度が高い大学」にすべく努力しています。そこでまず重

要なのが不断の改善、改善の継続です。改善を積み重ねる挑戦なくして改革はないと思いま

す。そうした信念の下、目標に一日でも早く近づけるために必要な挑戦を二年目の年度計画・

もっこすプラン2007には、いくつも盛り込みました。

さて法人化二年目に当り、再度、法人化について述べておきたいと思います。大変だった

作業を形骸化させないため、そして何よりもこの機会を捉えて、熊本県立大学の価値向上の

動きを加速するために。

国公立大学の法人化に見られる大学改革は、日本の大学史上2度目の大改革だと私はみて

います。最初の改革は、戦後の全国各地への新制大学の設置で、このとき本学の前身・熊本

女子大学も県立大学として誕生しました。そして今回、公(国や県)の一機関としての位置

づけから独立しましたが、このことを法人化と通称し、これが半世紀ぶりの第二の大改革で

す。法人化後は、自立と自律を本質とした運営が基本となりますが、ここで民間の経験を積

極的に取り入れています。私は、この伝統ある、そして瑞々しい熊本県立大学を公のみなら

ず、共が必要とする大学として運営すべきとの考えを持ち、法人化一年目の舵取りをしまし

た。具体的には一年目に、公立大学の特性を机上ではなく現場で十分調査してきました。二

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年目も引き続き公と共の使命を受けて、価値ある大学づくりを進めたいと考えています。初

年度の現場調査に対し、二年目は軸足を分析に移します。

日本には76の公立大学があり、ここに 12万人余が学んでいますが、一層の価値向上を

望む声は全国の公立大学に共通しています。そこで、公立大学協会等からの情報も得ながら、

大学の価値向上に果敢に挑戦する熊本県立大学を目指して行きます。2006年度には一企

業、七自治体と包括協定を締結することができました。協力講座の開講も叶いました。いず

れも地域実学主義の大学づくりの便とし、また本物の地域貢献をするためです。このように

初年度が調査だけで終わったのではありません。調査・分析・総合・評価と、計画学の基本を

踏まえ、前に進めるものは適宜進行させます。しかし現場力を活かすためには PDCAサイクル

の進行管理が必要です。平成19年度も もっこすプラン を公表しますが、これには、年度

を区切ることで、選択と集中の大学改革を推進する「一途な取組メニュー」としての性格が

あります。大学にとって必須である 丁寧な教育、魅力ある研究、現代社会の目線を捉えた地

域貢献、確実な大学経営に向かう取組が記されています。どうぞご高覧を賜り、お気づきの

点などご指摘、ご教示いただけたら幸いであります。

なお5年後の平成24年は、本学創立65周年に当たりますので「卒業生との協働開始」

を本年度の重要課題とする考えです。全卒業生から「熊本県立大学が母校でよかった」との

評価を得る大学運営が、これからの「持続ある大学づくりの鍵」だと認識しているからです。

法人化二年目も変わらぬご鞭撻とご協力を賜りますようお願い申し上げます。

■2007 年 8 月 1日公表メッセージ

知りたいことが「いたいほど」わかる大学広報

熊本県立大学は今年、創立60周年を迎えました。60年前、大学に進む人は、同世代の

一割にも達していませんでした。当時は、限られた層の高等教育をこの大学は受け持ってい

たわけです。その後、大学の使命が専門職業人・プロを育てることに移り、同世代の2割、3

割と大学に進むようになりました。そして現在は、2人に1人が大学で学ぶユニバーサル時

代です。多くの人が大学に興味と関心を持つようになった一方で、大学進学の動機と目的は

多岐多様になり、そして曖昧になったことを否めません。だから、大学とは何か、学問とは

何かが一層問われるようになりました。就職するために、国際的に活躍するために、自己実

現のために、社会に貢献するために、プロとして生きていくためにはどのように職能形成を

図るのか。そうしたたくさんの扉を大学は用意しなければならなくなりました。熊本県立大

学は、こうした新しい大学の使命に正面から取り組んでいます。

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この度、本学では『大学案内2008』を発行しました。総ページ数84、フルカラーの

瀟洒な冊子です。担当している本学のスタッフが学内外を駆けめぐり、手作り感豊かに編纂

したもので、なかなか好評です。

わたしは常日頃、大学広報の大切さを唱えています。それは情報化社会では、豊富な情報

と情報混乱が裏腹であるからです。どんな情報でも簡単に入手できそうですが、強く関心を

持つステークホルダーが本当の情報をとらえ難くなってきているようにも思えます。真の情

報が伝わり難くなっています。本学の特徴や本当の姿が伝わっていないのは大問題ですので、

常に易しく確かな情報を迅速に発信するよう心がけています。特に大学で学びたいと考えて

いる高校生には、「この大学」の中身をしっかりと理解していただきたいわけです。そのため

本学は、受験生への直接広報に力点を置いています。大学案内とホームページがその両雄で

す。またこうした扉の前に立つことができた人だけでなく、この扉の存在に気づいていない

人もたくさんいるわけですから、間接広報も大事にしていますが、本学は多額の広告費を使

う大学ではありませんので、これまでその多くをマスメディアによる報道に依存してきまし

た。これからもこの方向に大きな変化は無いと思いますが、創立60周年の今年は、春夏秋

冬・年4回のシンポジウムを企画実行することで、大学の真の姿を一人でも多くの人に理解

していただくよう努力しています。どうぞ、『大学案内2008』を手に取り、ホームページ

http://www.pu-kumamoto.ac.jp/を開き、私たちの熊本県立大学への親しみを増してくださる

ようお願いいたします。

■2007 年 12 月 17 日公表メッセージ

キャンパスからはじまる環境行動

ネットワーク社会の成熟とともに、その影響は大学にも多岐多様に及んできています。コ

ンピューターセンターがキャンパスマップで主要施設として位置づけられていた頃が懐かし

く思われます。教育プログラムでは、情報リテラシー教育に力点が注がれています。また個

人情報流失等、遭遇したくない問題への危機管理もいまどきの大学の重要な課題です。そし

て、ついにキャンパスを必要としないサイバー大学という新しいタイプの大学が登場しまし

た。ここではインターネットをフルに活用して教育・研究が展開されるようで、学生が集ま

る「キャンパスの景」が常に見られるとは限らないようです。大学の数が増え、設置の形態

が多様化したことで、様変わりしつつあるのが「大学キャンパスの今」なのではないでしょ

うか。

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公立大学法人熊本県立大学初代理事長 蓑茂壽太郎氏紹介、在任時のメッセージ

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私は、大学キャンパスは、大学の質に強く影響する重要な位

置づけにあるという立場をとっています。何も豪華主義の建築

がそびえるキャンパスが良いと言っているのではありません。

学生数に見合った空間的広がりがまずは要件です。私の経験知

では、おおよそ学生一人当り 30 ㎡程度となりますが、これが

確保できていて、教員や職員と学生がキャンパスで語り合うシ

ーンがみられる温かみのあるキャンパスです。そして使いやすく、きちんと手入れがされた

品格のあるキャンパスがもう一つの要件です。私たちの大学は、ユニバーサルデザイン・UD

に力を入れています。バリアフリーに止まらず、だれでもいつでも気持ちよく使える都市空

間の一つに大学のキャンパスを仲間入りさせたいと思うからです。本学の場合、文学を学ぶ

学生には感性を呼び起こす環境を届けたいものです。環境共生を学ぶ学生には環境負荷や環

境貢献を実感できるようにしたいものです。経済や社会を学ぶ学生にはエコロジーとエコノ

ミーの関係を気づかせるキャンパスでありたいと思います。そうしたさまざまな願いが重ね

合わさって、アメニティ豊かな美しい景観の風格あるキャンパスにしていきたいのです。

熊本県立大学の月出キャンパスは、北と西の二面に大きな道

路があります。この面にはクスノキの大木が列植されていて壮

観です。しかし、常緑樹が盛んに古葉を落とす春以降しばらく

の間は落ち葉で大変です。大学のスタッフは、日常業務とは別

に歩道の清掃に追われ季節の行事となります。また、秋開催の

学園祭は、白亜祭と呼ばれていますが、これはキャンパスの建

築景観からつけられた名称です。レンガ色のキャンパスプラザとコントラスト良く映える白

い外壁の建物が織り成す佇まいが白亜なのです。秋にはイチョウの黄葉が、これまた壮観で

す。これからは、建物と四季折々のランドスケープを一体に、キャンパスの環境方針を明確

にしていく考えです。環境負荷の状況を年度で把握し、その低減に効果がみられるような大

学運営に心がけていきます。建学の精神である「地域に生き、世界に伸びる」は、“Think

Globally, Act Locally”と表現できますが、地球環境のことを考え、私たちは、自らのキャ

ンパスから多様多彩な環境行動を開始します。

■2008 年 4 月 16 日公表メッセージ

あらゆる面で形にしていくステージ

熊本県立大学は、昨年度に創立60周年を迎えました。私は60周年の記念事業を進める

中で、「伝統と改革はコインの表裏と一緒だ」と思うようになりました。片方だけでは本物に

なれないと感じたことと、良い伝統を守るためには常に改革が必要だからです。

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日本では、76の公立大学、87の国立大学、そして私立大学を含めた746の大学が、

大学間競争を熾烈に繰り広げていますが、昨年は競争から連携への異変が見えた一年でした。

単に競争だけではすまされない、シナジー効果をにらんで相補・相乗する取組も必要だとい

うことで、大学改革の輻輳化が顕著となりました。大学経済と言う面では、運営費交付金等

公費投入が多い国公立大学に対しては、一層の価値向上を望む国民の強い声があがりました。

高度な研究能力だけでなく、これからの知識・知業社会の裾野をきちんと整える教育が大学

の重要な使命として、あらためて問われてきています。

熊本県立大学は、大学の価値向上に果敢に挑戦しています。

地域に大きく根を張り、世界という大空に枝葉を伸ばす大樹を

イメージしながら一丸となって努力しています。本学の一途な

取組である『もっこすプラン2008』を公表しましたが、そ

の特徴は、第一には、新カリキュラムスタートに伴う教育改革

にあり、第二には、60周年を終えての、将来展望を盛り込ん

だ取組にあります。また、教室設備の改善や美しいキャンパス整備など学生の教育研究環境

の改善は、一応完成年度に向かう段階にまできました。そして運営面では、自己点検評価を

軸とした自律的な大学改革のレールを完全に敷設する予定でいます。私は、昨年4月期のメ

ッセージで、調査・分析・総合・評価という計画学の基本を示し、2年目の昨年は、分析に重

点を置くとお約束しました。その分析の結果を活かすのが今年です。

今年は、総合化という段階に重点を置きます。あらゆる面で形にしていくというステージ

です。教員個々人による研究業績や社会活動は自らが点検評価できるシステムにしましたし、

職員へも大学の特質の理解を促す中で、優れて専門職への歩みが加速していることを実感し

ます。

そしてもちろん『もっこすプラン2008』には、大学にとって必須である「丁寧な教育」、

「魅力ある研究」、「国民の目線を捉えた地域貢献」に向かう取組が記されています。これら

の項目についても、一つ一つ成果が見えてくる一年と確信します。新しい年度も熊本県立大

学にご厚情とご助力を賜りますようお願い申し上げます。

■2008 年 8 月 8日公表メッセージ

存在感のある個性ある大学を創造するために

新入生を迎えて早4ヶ月が過ぎました。この間、私自身も、文学部、環境共生学部、総合管

理学部の全学部でキャリア形成論の授業の一コマを担当し、好奇心旺盛な学生に直に接する

ことができました。この機会に、あらためて「質の高い大学教育」という目指すべき方向を

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公立大学法人熊本県立大学初代理事長 蓑茂壽太郎氏紹介、在任時のメッセージ

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確認した次第です。

また、地域連携センターの組織化に続いて、包括協定制度を

整え、多くの自治体等との締結が進み「リージョナルセンター

としての公立大学の使命達成」に努めてきました。地域と連携

する熊本県立大学の姿を徐々に感じていただけているものと

思います。今後は、大学の知が拠点に止まらず、県下全域に及

ぶ「地域展開の時期」を想定しなければなりません。と同時に、

地域との連携を経験する中で、幾つもの研究テーマを発見して

いくものと思います。地域から学び、そこで得た好奇心から地域研究が芽生えます。このホ

ームページには研究者情報と研究者ガイドがリンクされていますが、そこをお開きいただき

ますと、本学の研究者の実像を垣間見ることができます。人文科学から社会科学、自然科学

まで広範な分野を網羅していることをご理解いただけ、また「地域総合研究への期待」が高

まるものと思います。

私には、魅力ある大学教育や質の高い大学教育の背後には、好奇心を十分満たしたであろ

う優れた研究実績が横たわっているように見えます。存在感のある個性ある大学を創造する

ために、教育と研究の両翼を常に自己点検評価する態度を堅持し、大学の活性化を目指した

マネジメント改革の任に“暑い夏に負けないで”当たりたいと思います。

■2008 年 12 月 19 日公表メッセージ

地域に知の拠点を如何につくるか

熊本県立大学の理念には「地域の知的創造の拠点」という行(くだ

り)がある。また、本学は法人化を機に大学のスローガンに「地域に

生き 世界に伸びる」を掲げた。さて大学において知の拠点となると、

真っ先に連想されるのが図書館である。本学のキャンパスにも立派な

図書館がある。蔵書数は33万冊、年間の貸出数はその約1割の3万

4千冊、閲覧席444席で学生の数の比からみてこの数には満足であ

る。英語で libraryという図書館に ideas storeと言う表現があるこ

とを最近知った。蔵書の数で誇る従来の伝統的な図書館に、最新のデ

ジタル情報が豊富に組み合わさったセンターのようである。正にアイ

デアの宝庫であり、地域の知的創造拠点にふさわしい言い回しだと思う。アイデアを単なる

思いつきに止めず、創造的な成果の糧とする。そのような意気込みさえも感じられる表現だ

と受け止めた。そうすると図書館が楽しい場となって、これからの知識基盤型社会でも望ま

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公立大学法人熊本県立大学初代理事長 蓑茂壽太郎氏紹介、在任時のメッセージ

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しき拠点となり続けよう。

ところで、公立大学のミッションを再考して、地域貢献度の高い大学づくりに本学が舵を

切り直して3年が経った。幸い日本経済新聞社の評価でも上位にランキングされるようにな

ったが、そうした活動を進める中でわたしが関心を注いでいるのが「地域の知」である。そ

の魅力ゆえに、危機感を抱くこともしばしばである。失われそうな「地域の知」を憂慮し、纏

まっていたものが断片的になりつつあることが不安になり、共有化すべきなのにそうなって

いないことを心配している。地域貢献への最初の一歩として、自治体との包括協定を締結し

たが、次は「地域の知」を活かす取組みの実行である。そのとき必要なのがなんらかの拠点。

けして一極集中の拠点ではない。ポリセントリック(たくさんのセンターをもつ)な姿が「地

域の知」に注目したときの拠点像ではないかと思う。熊本県立大学のスタートと同時に永井

一正氏によりデザインされた本学のシンボルマークには、時代と地域の要請に応え、世界に

向かって力強く伸びる先進性が込められている。シンボルマークを胸に、地域の知の拠点づ

くりに邁進したい。

■2009 年 4 月 17 日公表メッセージ

大学進学率 50%時代の人材育成

1949(昭和 24)年に 4年制大学に移行した当時の本学は、一学年わずか 80人の入学定員で

した。これが、今年の新入生は大学院を含めるとほぼ 600人を受け入れるまでになりました。

この 60 年間で、わが国の大学進学率は約5%から 50%と 10倍になっていますので、同じ倍

数の 800 人と比較すると、すこし少な気味ですが、人口の大都市集中などを勘案すると、ほ

ぼ順当な学生受け入れの状況にあると思われます。韓国や台湾の大学進学率が 90%以上と高

いことはよく知られていることですが、中国も既に 60%を越えているようで、その人口政策

から直ぐに韓国並みになるのではと予想されます。日本とて少子化の進行と経済不安から急

速に大学進学需要が高まるかもしれません。今回のメッセージは、その真偽を述べることで

はありません。大学で学ぶ人の割合が高まるに応じて、大学に期待される人材像は異なり、

したがって、人材養成の手法も多彩になり幅広く準備する必要があるのではないかという問

い掛けです。その一つとして、本学が今取り組んでいる「なごみの里づくり」プロジェクト

について、新入生や新しい教職員も迎えたことなので紹介しておきます。

コラボレーション(協働)をしよう

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公立大学法人熊本県立大学初代理事長 蓑茂壽太郎氏紹介、在任時のメッセージ

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そもそもこのプロジェクトは、平成 18 年にスタートしたも

ので、既に 4年目の取り組みとなります。東京に本社があり、

熊本県北部の南関町に新しい工場を操業した富士電機システ

ムズ(株)との出会いから始まります。環境の時代を迎えて、企

業の社会貢献(CSR)における環境活動は大きな広がりを見せ

ています。富士電機システムズ(株)においても、この考えから

本学と包括協定を締結し協働することで地域の環境貢献活動を推進することになりました。

そこで、本学は、そのフィールドとなる和水町とも包括協定を結び、3 者による協働が始ま

り、現在に至っています。

フィールドワークは楽しい

本学のスローガンは「地域に生き 世界に伸びる」で、教育

研究の基本には、地域実学主義を掲げています。これらの観点

から県土全体をキャンパスとして捉え、様々な実践活動が展開

されることを願っています。全学プログラムである「もやいす

と」育成プログラム等も併せて多くの皆さんが、このようなプ

ロジェクトに奮って参加されることを希望します。図書館や教

室で学ぶことに加え、豊かな自然環境を舞台に、そこから学ぶことがたくさんあるからです。

阿蘇のカルデラや天草の海原は熊本でしか学べないアイデンティティをあなたのキャリアフ

ォリオに書き加えることでしょう。

体験を通して学ぶことは多い

国の内外を問わず、いま生物多様性への関心は急速に高まりつつあります。里山は生物多

様性を実感できる最適の場です。そして日本の各地に高齢化した人口減少社会が到来し地域

社会の将来が危惧されています。そうした中で「地域を元気にする里山再生、里山づくり」

が全国で広がりを見せていることに注目して欲しいと思います。私は、こうした自然から学

び、地域社会から学ぶという体験型教育が、大学の新しい歴史を築くのではないかと密かに

思っています。

■2009 年 8 月 4日公表メッセージ

教員免許状更新講習と CPD 社会

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公立大学法人熊本県立大学初代理事長 蓑茂壽太郎氏紹介、在任時のメッセージ

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本学には文学部、環境共生学部、総合管理学部がありますの

で人文科学、自然科学、社会科学が完備した集約型大学と表現

しています。加えて、教員免許状が必要な中学や高校の先生を

養成する教職課程認定大学でもあります。この教員免許状も平

成 19 年 6月の改正教育職員免許法の成立により、平成 21年 4

月 1日からは教員免許そのものが更新制になりました。ねらい

は、その時々で教員として必要な資質能力が保持されるよう、定期的に最新の知識や技能を

身につける機会をつくろうというところにあります。そこでこの更新講習が、本学でも 15科

目について 8 月 17 日から 25 日までの期間で実施されます。500 人近くが、暑い夏、と言っ

ても快適な教室に集まって講習に取り組みます。受講される皆さんには、十分な成果を得ら

れることをご期待申し上げ、また、講師を担当いただく本学の教授陣には多大のご苦労をお

かけします。

さて、今回は教員免許状が対象ですが、日本のさまざまな国家資格も次第に更新制に移行

するものと予想されます。なぜなら、それがグローバルスタンダードだからです。

私 は 、 自 分 の 専 門 分 野 に つ い て CPD ( Continuing

Professional Development)協議会の立ち上げを提案し、これ

に取り組んだ経験があります。平成 13 年に「造園の継続教育

を設計する」という話題提供を学会でしています。そのとき

CE、FD、CES、PDP、VC等の略称で示される関連の概念を欧米や

オーストラリアに学び、学会の教育・職能委員会で検討審議し

ました。そして、17の関連団体の協働により造園 CPD 制度をスタートさせました。暫定実施

から数えて6年が経ち、今や 1 万人が参加する仕組みに成長しています。このような動きは

隣接の建築や土木でも行われています。すなわち資格を有するプロは継続的に専門の知識と

スキルを補充して最前線で能力を発揮しなければならない時代を迎えたということです。大

学を卒業してプロの仲間入りをしますが、キャリアアップをするためには「学びの継続が必

要だ」ということです。一般的に大学は高校卒業の 18 歳を迎え入れて 22 歳で社会に送り出

すことを使命としてきましたが、これからはそれだけでなく、一度社会に出た人をもう一度、

二度と受け入れて、学び足しや学び直しを行い、社会人である専門家を再教育したり、支援

する使命を担うことになります。

私たち熊本県立大学は、管理栄養士等の専門家を養成してい

ますので、専門家の継続教育の役割を果たす CPDセンターを整

備し、要望が多いプログラム開発を進め、地域実学主義の精神

で社会の要求に応えていく所存です。これからは知識基盤型社

会です。また、グローカルという表現が登場する時代です。地

域にしっかりと軸足を置きながら世界に目を向ける。あるいは

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公立大学法人熊本県立大学初代理事長 蓑茂壽太郎氏紹介、在任時のメッセージ

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グローバリゼーションの進展に応じてますます高まるアイデンティティ再確認の欲求。等々

から考えると、これからの企業等は、その地域にいながらにして世界水準の知識の積み足し

がどうしても必要になります。そうした社会の期待に正面から取り組むことが、公立大学法

人熊本県立大学の新たな使命になると私は読んでいます。

■2009 年 12 月 18 日公表メッセージ

未来基金の造成を進める中で

平成 21年 9月 8日から熊本県立大学未来基金の募集を開始しました。このメッセージを書

いている時点で、すでに 230 件のお申し出をいただいているようです。この基金の創設にあ

たっては、2010 年に 60 周年を迎える本学の同窓会・紫苑会の絶大なご協力をいただきまし

た。と同時に、熊本県下の各界でご活躍の皆様にご助力を賜わることができました。改めて

厚く御礼申し上げます。この取り組みは、法人化後の初代理事長を拝命した私にとりまして

は、最も創造性のあるチャレンジ事業であると心してとりかかっています。

日本には約 780 の大学がありますが、これらは国立大学法

人の大学と私立大学、そして私どものような公立大学の三つに

分かれます。旧国立大学はすべて国立大学法人が運営する大学

に移行しました。私立大学は一部株式会社もありますがほぼ全

てが学校法人の経営です。そして、公立大学は全国に 77 大学

ありますが、現時点でこのうちの約 58%が法人化している状

況です。熊本県立大学は全国でも比較的早く、4年前の平成 18年に法人化し、熊本県の一機

関から独立しました。これにより、優れて自立し自律する大学の道を歩むことになりました。

大学における自立と自律には幾つもの意味がありますが、その一つが財源です。本学の財源

は授業料等の学生納付金と熊本県からの運営費交付金により、その多くが占められています。

この他に教授陣が獲得してきている研究費等の外部資金がありますが、前二者に比べると多

くありません。そこで外部資金の獲得と併走した第三の財源としてご芳志による未来基金を

位置付けたわけです。今の財源だけでも現在本学が掲げているミッションの達成に大きな支

障はありません。しかし、知識基盤型社会の到来と言われる次世代において、60有余年の良

い伝統をきちんと引き継ぎ、未来志向の活力ある大学とするためには、常に新たな大学の使

命構築の挑戦、すなわち大学の価値向上への弛まぬ精進が必要と考えます。

そのためには、現状対応の枠組みの下におかれた財源だけで

は幾つもの困難が感じられます。たとえば、優れた人材を育て

るための経済的支援に要する多額の奨学金がそうですし、前回

のこの欄で紹介した社会人の学び足しや学び直しに関わる

CPD(継続的な専門職能開発)教育センターへの先行的投資、

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公立大学法人熊本県立大学初代理事長 蓑茂壽太郎氏紹介、在任時のメッセージ

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そして若手や女性研究者に特化した研究助成、地方公立大学における国際化への本格的な取

り組みなどがこれにあたると私達は判断しました。本学は、地域に生きる大学としての方針

を表明しています。地域の産業界を見回したとき、過去の四半世紀で産業の分化が急速に進

みました。これからは、新たに産業クラスターをつくることから地域の再生に向かうと確信

します。本学に強い関心を持たれているステークホルダーの皆さんと共に、地域貢献度の他

にも日本一と評される大学に熊本県立大学が成長するよう今後も微力を尽くしていきたいと

思います。

■2010 年 4 月 16 日公表メッセージ

法人化 5周年、認証評価の受審の年に

平成 18(2006)年4月の法人化から4年が過ぎました。法人化により大きく変わったこと

の一つが計画期間 6 年の中期計画と、これに対応した年度計画〈もっこすプラン〉に基づい

て大学運営をしていることです。したがってあと一年を残す 5 年目の今年は、その成果が問

われ、完全実施が試される年でもあります。

今年の3月に私たちは、法人化した大学ですべてを過ごし

た学生500余名を社会に送り出しました。完成年度となっ

た今年は、100 年に一度の経済不況のため就職環境は最悪で

したが、皆さんそれぞれに健闘してくれました。

大学界では「完成年度」という言葉を大変重要な意味を込

めて用います。他でもなく大学の大きな使命が学士の育成にあり、所期の目的が達成できた

かどうかをアドミッション(入学者受け入れ)、カリキュラム(教育課程)、ディプロマ(学位

授与)の各ポリシーに照らして点検する節目が4年経過後にあるからです。

完成年度が過ぎたことで、私たちは大学改革の道筋を一通り辿りました。放置されていた

ことは適宜解決し、更に改善するスタイルが本学に定着してきたと思います。そこで、中期

計画5年目の平成 22年度は、計画に定めた事項のすべてを対象に最終の仕上げをすることに

なります。と同時に次期中期計画(2012.4~)の検討に着手します。そうした要の年に、本学

はタイミング良く学校教育法で定める認証評価を受審することになりました。

ところで、大学はしばしば「知の拠点」と表現されます。日本の社会が知識基盤型に進め

ば進むほど、この知の拠点は大都市に唯一あるだけでなく、全国津々浦々に根を下ろして存

在しなければなりません。そうでないと国土も国家も疲弊します。熊本県立大学は、そうし

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公立大学法人熊本県立大学初代理事長 蓑茂壽太郎氏紹介、在任時のメッセージ

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たポリ(たくさん)セントリック(センター的にある)な知の拠点の具体的な姿を求め続け

ています。知の拠点形成には複数の要件が挙げられます。

幸い本学のキャンパスはトータルにデザインされています。継ぎ足し増築の無秩序なキャ

ンパスではありません。建物の配置が何故こうなっているのかを読み解くなど、上手に使い

こなすことで、知の拠点の要件の一つがクリアできるというのが私の認識です。知の拠点に

は「緊張感」も重要ですが、それと共に「和みの雰囲気」も必要だと思います。人文科学、自

然科学、社会科学の 3つの学問分野が太いより糸のようになった知の拠点が 21世紀前半では

最も重要なのではないでしょうか。

皆様のご支援により「熊本県立大学未来基金」も順調に

推移しています。西部電気工業奨学金(5000 万円規模)、

同窓会紫苑会奨学金(2000万円規模)により、本学の奨学

金、育英金制度は格段に充実してきています。今年は、い

よいよ熊本県立大学 CPD(学び足し学び直し)センターの

ビジョンづくりにも着手します。また、生物多様性条約に

かかる世界会議(COP10 )が日本で開催される今年、環境

負荷が小さい大学運営を経費削減と同時に進め「環境と経済の調和」にも挑戦します。新し

い年度も「地域に生き、世界に伸びる」のスローガンと「地域実学主義」のモットーで価値あ

る大学づくりに全学一丸となって取り組みますので、よろしくご支援をお願い申し上げます。

地域実学主義と特定地域学研究

本学は「地域に生き 世界に伸びる」のスローガンに並べて、教育研究のモットーに「地域

実学主義」を掲げています。

これを簡単に説明すると、身近な地域に研究の課題を探し、人文科学、自然科学、社会科

学の各方面から課題解決に向けて果敢にチャレンジしようということになります。教育にお

いても身近な例題を多く提示することにより、学問への探求が現実味を浴びたものになるこ

とを期待してのことです。目標は多彩な知識と科学する作法を身につけることで、実社会と

いう現場においておどおどしない逞しい人材を育てることが出来ると考えています。

そこで私も時間を工面して、この地域実学主義に必要な特定地域学研究に取り組んでいま

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す。熊本での生活が始まって 5 年になりますが、この間に県内各地、九州を我がキャンパス

と思い歩き回ってきました。その結果いくつかの研究課題を探し出すことが出来ました。明

治以降の近代熊本都市形成史研究に関心を寄せる中で、熊本洋学校の外国人教師・L.L.

ジェーンズの来熊と滞在の意義について種々考えるようになりました。熊本県立大学に約1

0年間在職され名誉教授であった宮島昭二郎先生のご遺族から、先生の蔵書寄贈の申し出が

あり拝見させていただく機会がありました。その中にジェーンズ関係ファイルがあり私がお

預かりし種々学ばせていただいています。

天草におけるキリスト教文化に関係した文化的景観を探求する中では、雲仙天草国立公園

誕生の経緯や天然自然の夕陽の景観について地域実学的研究をするようになりました。また、

20 年来続けている人吉球磨の特定地域学研究から小京都・人吉の原型と要素を見出せるとこ

ろまで来ました。これらの他にも県北や県南でいくつかのプロジェクトに関係していますが、

いずれもじっくり地域を歩き、地域の歴史を綿密に辿ってみることが基本だと思います。常

に地域認識と時代認識を両輪に、この時この場所でしか学べないことに微力ですがチャレン

ジして行きたいと思います。熊本でのキャリア形成の一部となり、新たな観点が形成される

ことを私自身も期待しながら。