美術科ポートフォリオ評価における認知的基礎理論 · ろ、英国で...

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美 術 科ポ ー トフ ォ リオ 評 価 に お け る認 知 的 基 礎 理 論 一ハ ー バ ー ド ・プ ロジ ェク ト ・ゼ ロに よ るポ ー トフ ォ リオ の開発 一 Basic Cognitive Theories in Art Portfolio Assessment —Development of Portfolio by Harvard Project Zero— 福井大学教 育地域科 学部 1.序 筆者は、芸術教育の基礎的研究に認知的アプローチを 行 っ て きた ハ ワ ー ド・ガ ー ドナ ー(HowardGardnerll)の 多 元 的 知 能 理 論(以 下MI理 論 と称 す る)を 中 核 と した 、 創 造{生理 論 、諸 理 論 を は じめ 、ガ ー ドナ ー率 い る、ハ ーバ ー ド・プ ロジェク ト・ゼ ロ(以 下 プ ロジ ェク ト・ゼ ロと称 す) の教育実践活動の研究をすすめている。近年、プロジェク ト ・ゼ ロで は 、 新 しい学 力 観 を反 映 で き る学 習 ・評価 の形 態 を模索 お り、それ らの努力が結 実 し、1997年か ら展開 さ れ 始 め た もの が 、「思 考 と理 解 へ の新 し い ア プ ロ ーチ(New ApproachestoThinkingandUnderstanding)2}」 であ り、 そ の 中 の 枠 組 み(framework)の1つが ポ ー トフ ォ リオ (Portfolios)で ある。ポー トフ ォ リオ は 、伝 統 的 な形 式 の テス トや これ まで の評 価 に か わ る もの と して 、 わ が 国 に お い て も既 に社 会 秤)な ど の教 科 で 実 践 が 行 わ れ は じめ て い る。 教科 のみ ならず 、「総合 的 な学習」 にお ける学 習・評価 の ッ ール と して そ の有 効 性 が 期 待 され て い る。 そ もそ も先 陣をきってポー トフ ォ リオ の 研 究 開 発 を し て き た の が 、 ハ ーバ ー ド・プ ロジ ェク ト・・ぜロであ る。 米国で、1990年 代に入って急速にポピュラーとなってきたポートフォリオ で あ るが 、 ポ ー トフ ォ リオ が 普 及 して き た要 囚 と して、 標 準 化 さ れ た テ ス ト(standardi記dtest)の 無 意 味 さへ の反 省とともに、長年、認知心理学から蓄積された学習理論と 実践研究、および米国内での 「学 習 と評価」 に対 しての新 しい考え方の台頭が考えられる。本論考では、構成主義の 教育の流れ、真正評価、パフォーマソス評価などの概念の 登場 とポートフォリオの関連性について考察 し、 ポ ー ト フ ォ リオ の有 効 性 に 関 して 認 知 心 理 学 研 究 か ら導 き出 され た 学 習 理 論 な ど を基 に 検 証 し、 プ ロ ジ ェ ク ト ・ゼ ロの芸 術 系(美 術 、 音 楽 、 創 作 文)ポ トフ ォ リオ の 理 論 的 基 底 を 明 らか に して お き た い 。 また 、 プ ロ ジ ェ ク ト ・ゼ ロが芸 術 系 の ポ ー トフ ォ リオ を 、 ど の よ うに 開 発 して きた の か 、 そ の経緯を明らかにしていきたい。 表題では、「美術科のポートフォリオ」としているが、中 等教育の美術科と限定せず、広い意味での造形美術という 教 科 を さ して い る。 また 、 プ ロ ジ ェ ク ト ・ゼ ロで の、 芸 術 系ポートフォリオについて中心に論を進めるので、音楽、 創作文のポートフォリオにも及ぶことを始めに断っておき た い。 ILポ ー トフ ォ リオ の概念 1.ポ ー トフ ォ リオ とは ポ ー トフ ォ リオ は 、 も と も と写 真 家 や デ ザ イ ナ ー が 、 第 三老 に資料提示 をす る際、「作品一 覧」、 「作 品帳 」にす る方 法 を ポ ー トフ ォ リオ と呼 ん で い る。 こ こで の ポ ー トフ ォ リ オ は 、 「制 作 の 進 歩 」(worksinprogress)を 見るもので、 写真家のポートフォリオの様に・一番出来の良い作品ではな 「進行中」の作品が入れられ、スケッチ、下絵、生徒自 身や他人が書いた自分への批評なども入れられる。ポート フォリオの種類を大きく分けると、生徒用のポートフォリ オ と教 師 用 ポ ー トフ ォ リオ の2種 類にわかれる。前者の生 徒 用 の ポ ー トフ ォ リオ は、 さ らに 提 出物 型 ポ ー トフ ォ リナ と、卒業ポートフォリオなどに分かれ、後者の教師用は、 教 師 自身 の も の で あ り、 カ リキ ュ ラ ム評 価 と し て、 教 師 の 力量形成で用いる。応用すれば教育学部の教員養成課程の 学生にも活用できるものである。ここでは、生徒用の提出 物 型 ポ ー トフ ォ リオ を 中 心 に 考 察 して い く。 ポ ー トフ ォ リ オ の場 合 、 ア セ ス メ γ ト(assessment)で あって、エヴァ リ ュ エ ー シ ョ ソ(evaluatiOll)で はない。両者は、同意味の 「評 価」とい う部分 もあ るが、 エ ヴァ リュエーシ ョソの「値 踏み」に対して、環境アセスメγトなど用いられるアセス メソ トは、「査 定」、「判 断」、「意見」、「その状況や様 子に迫 る」、 「探 りを入れ る」 とい った意味 があ る。 2.ポ ー トフ ォ リ オ の 中 心 概 念 ポートフォリオには、これ といった決 ま った 形 式 や フォーマヅトのようなものはないことから、定義というも のでは、厳格となりすぎるきらいがあるので、ここではポー トフォリオの中心概念を整理しておく意味でも、筆者なり の造形美術教育における初等教育レベルでの実践をふま え、動かしがたい 「枠 組 み」 を 、 以'ド1)か ら5)ま でを 挙 げてみ よ う。 1)制 作 の過 程(学 習 の過 程)… … これ ま で の 相 対 評 価 、 一31一

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Page 1: 美術科ポートフォリオ評価における認知的基礎理論 · ろ、英国で 「達成の記録(recordofachievement)」 が用 いられ、教師が検討会をしたり、就職希望先にも、それを

美術科ポ ー トフォ リオ評価 における認知的基礎理論一ハ ー バ ー ド ・プ ロジ ェク ト ・ゼ ロに よ るポ ー トフ ォ リオ の開発 一

Basic Cognitive Theories in Art Portfolio Assessment —Development of Portfolio by Harvard Project Zero—

福井大学教育地域科学部 池 内 慈 朗

1.序

筆 者 は 、 芸 術 教 育 の 基 礎 的 研 究 に 認 知 的 ア プ ロー チ を

行 っ て きた ハ ワ ー ド・ガ ー ドナ ー(HowardGardnerll)の

多 元 的 知 能 理 論(以 下MI理 論 と称 す る)を 中 核 と した 、

創 造{生理 論 、諸 理 論 を は じめ 、ガ ー ドナ ー率 い る、ハ ーバ ー

ド ・プ ロ ジ ェ ク ト ・ゼ ロ(以 下 プ ロジ ェク ト ・ゼ ロ と称 す)

の教 育 実 践 活 動 の 研 究 を す す め て い る。 近 年 、 プ ロジ ェ ク

ト ・ゼ ロで は 、 新 しい学 力 観 を反 映 で き る学 習 ・評 価 の形

態 を 模 索 お り、 そ れ らの 努 力 が 結 実 し、1997年 か ら展 開 さ

れ 始 め た もの が 、「思 考 と理 解 へ の新 し い ア プ ロ ーチ(New

ApproachestoThinkingandUnderstanding)2}」 で あ り、

そ の 中 の 枠 組 み(framework)の1つ が ポ ー トフ ォ リオ

(Portfolios)で あ る。 ポ ー トフ ォ リオ は 、伝 統 的 な形 式 の

テ ス トや これ まで の評 価 に か わ る もの と して 、 わ が 国 に お

い て も既 に社 会 秤)な ど の教 科 で 実 践 が 行 わ れ は じめ て い

る。 教 科 のみ な らず 、 「総 合 的 な学 習 」 に お け る学 習 ・評 価

の ッ ール と して そ の有 効 性 が 期 待 され て い る。 そ もそ も先

陣 を き っ て ポ ー トフ ォ リオ の 研 究 開 発 を し て き た の が 、

ハ ーバ ー ド ・プ ロジ ェ ク ト ・・ぜ ロで あ る。 米 国 で 、1990年

代 に 入 っ て急 速 に ポ ピ ュ ラ ー とな って きた ポ ー トフ ォ リオ

で あ るが 、 ポ ー トフ ォ リオ が 普 及 して き た要 囚 と して、 標

準 化 され た テ ス ト(standardi記dtest)の 無 意 味 さへ の反

省 と と もに 、長 年 、 認 知 心 理 学 か ら蓄 積 さ れ た 学 習 理 論 と

実 践 研 究 、 お よ び米 国 内 で の 「学 習 と評 価 」 に 対 して の新

しい 考 え方 の 台 頭 が考 え られ る。 本 論 考 で は 、 構 成 主 義 の

教 育 の 流 れ 、 真 正 評 価 、 パ フ ォー マ ソ ス評 価 な どの 概 念 の

登 場 と ポ ー トフ ォ リオ の 関 連 性 に つ い て 考 察 し、 ポ ー ト

フ ォ リオ の有 効 性 に 関 して 認 知 心 理 学 研 究 か ら導 き出 され

た 学 習 理 論 な ど を基 に 検 証 し、 プ ロ ジ ェ ク ト ・ゼ ロの芸 術

系(美 術 、 音 楽 、 創 作 文)ポ ー トフ ォ リオ の 理 論 的 基 底 を

明 らか に して お き た い 。 また 、 プ ロ ジ ェ ク ト ・ゼ ロが芸 術

系 の ポ ー トフ ォ リオ を 、 ど の よ うに 開 発 して きた の か 、 そ

の 経 緯 を 明 ら か に して い きた い。

表 題 で は 、 「美 術 科 の ポ ー トフ ォ リオ 」と して い るが 、 中

等 教 育 の美 術 科 と限 定 せ ず 、 広 い 意 味 で の 造 形 美 術 とい う

教 科 を さ して い る。 また 、 プ ロ ジ ェ ク ト ・ゼ ロで の、 芸 術

系 ポ ー トフ ォ リオ に つ い て 中心 に 論 を進 め るの で 、 音 楽 、

創 作 文 の ポ ー トフ ォ リオ に も及 ぶ こ と を始 め に 断 っ て お き

た い。

ILポ ー トフォリオの概念

1.ポ ー トフ ォ リオ とは

ポ ー トフ ォ リオ は 、 も と も と写 真 家 や デ ザ イ ナ ー が 、 第

三 老 に 資 料 提 示 を す る際 、 「作 品 一 覧 」、 「作 品帳 」にす る方

法 を ポ ー トフ ォ リオ と呼 ん で い る。 こ こで の ポ ー トフ ォ リ

オ は 、 「制 作 の 進 歩 」(worksinprogress)を 見 る もの で 、

写 真 家 の ポ ー トフ ォ リオ の様 に ・一番 出来 の 良 い 作 品 で は な

く 「進 行 中 」 の作 品 が 入 れ られ 、 ス ケ ッチ 、 下 絵 、 生 徒 自

身 や 他 人 が 書 い た 自分 へ の批 評 な ど も入 れ られ る。 ポ ー ト

フ ォ リオの 種 類 を 大 き く分 け る と、 生 徒 用 の ポ ー トフ ォ リ

オ と教 師 用 ポ ー トフ ォ リオ の2種 類 にわ か れ る。 前 者 の 生

徒 用 の ポ ー トフ ォ リオ は、 さ らに 提 出物 型 ポ ー トフ ォ リナ

と、 卒 業 ポ ー トフ ォ リオ な どに 分 か れ 、後 者 の 教 師 用 は 、

教 師 自身 の も の で あ り、 カ リキ ュ ラ ム評 価 と し て、 教 師 の

力 量 形 成 で 用 い る。 応 用 す れ ば 教 育 学 部 の 教 員 養 成 課 程 の

学 生 に も活 用 で き る もの で あ る。 こ こ で は 、 生 徒 用 の提 出

物 型 ポ ー トフ ォ リオ を 中 心 に 考 察 して い く。 ポ ー トフ ォ リ

オ の場 合 、 ア セ ス メ γ ト(assessment)で あ っ て、 エ ヴ ァ

リュエ ー シ ョ ソ(evaluatiOll)で は な い。 両 者 は、 同意 味 の

「評 価 」とい う部 分 もあ るが 、 エ ヴ ァ リ ュエ ー シ ョソ の「値

踏 み 」 に対 して 、 環 境 ア セ ス メ γ トな ど用 い られ る ア セ ス

メ ソ トは、「査 定 」、「判 断」、「意 見 」、「そ の 状 況 や 様 子 に 迫

る」、 「探 りを 入 れ る」 と い った 意 味 が あ る。

2.ポ ー トフ ォ リオ の 中 心 概 念

ポ ー ト フ ォ リ オ に は 、 こ れ と い っ た 決 ま った 形 式 や

フ ォ ー マ ヅ トの よ うな も の は な い こ とか ら、 定 義 とい うも

の で は 、厳 格 と な りす ぎ る き ら い が あ る の で 、こ こで は ポ ー

トフ ォ リオ の 中 心 概 念 を整 理 して お く意 味 で も、 筆 者 な り

の 造 形 美 術 教 育 に お け る初 等 教 育 レベ ル で の 実 践 を ふ ま

え、 動 か しが た い 「枠 組 み」 を 、 以'ド1)か ら5)ま で を

挙 げ て み よ う。

1)制 作の過程(学 習の過程)… …これまでの相対評価、

一31一

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ポー トフォリオ棚

三三一:=:-i}・・ 一 一一 冒   ' ,-1壬

一 一 一.一 一1:ノま の    ヨ ヒ

聖 ・

1繧 箋罐≡笏;僕のを入れておこう

資料1ポ ートフォリオの手順

番 号 順 に並 べ よう

:蔚}rL「'罵龍 七訂 一再,、 黒 二盛 一凸1-一

 コモ ヨガコぼゴ ロコ  ゆ  

:霧欝{娼 岬3..

コ 

識一いつでも見られるよ

男子は青、女子は赤だよ      

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圭 ・畷

一 一一一咽一一

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一m1」'L・・一'辱`μ三軽二'唱'`"

茜凸 二_L蝿 一一一一 一一一

ま た 、しま って お 尺ね

ボ トフォ)オ だよ、 れ

絶 対 評 価 は、 プ ロダ ク ト評 価 で あ り、 結 果 に対 して 点 数 に

よ る評 価 が 行 わ れ て き た が 、 ポ ー トフ ォ リオ は 内 容 吟 味

(AsseSSment)で あ っ て 、過 程 を重 視 す るた め 、 し ば しば

プ ロセ ス ・フ ォ リオ(process-folio)と も呼 ば れ て い る。

変 化 や 成 長 の記 録 、意 思 決 定 の 証 拠 や 、失 敗 の 記 録 で あ る。

芸 術 で の 学 び は 、 制 作 過 程 で お こ る。 芸 術 系 ポ ー トフ ォ リ

オ で は 、 作 品 の制 作 過 程 そ れ 自体 が 学 習 で もあ る。 ア イ ズ

ナ ー(EliotEisner)の い う質 的 学 習 、 質 的 評 価 を 実 現 で き

る もの と い え 、制 作 過 程 に お い て質 的 進 歩 を見 出 せ る。

2)振 り返 り(reflection)… … ポ ー トフ ォ リオ は評 価 と

して 捉 え られ る が 、 評 価 に重 き を お くの で は な く、 評 価 と

学 び を 分 け な い で 関 連 づ け る 「学 習 の た め の 評 価 」で あ る。

ポ ー トフ ォ リオ は 、 生 徒 の 作 品 を 集 め る こ とか ら は じめ る

が 、 多 くの 美 術 教 育 者 た ち が 、 今 まで に も 生徒 の 作 品 を収

集 して きた も の や 、 あ るい は、 フ ァ イ ルや 、 切 り抜 きや 写

真 を 集 め た ス ク ラ ヅチ ・ボ ー ドな ど と ポ ー トフ ォ リオ とは

ど こが 異 な る の か とい えば 、 こ れ ま で は教 師 の 手 で 集 め ら

れ 、 教 師 の 手 で評 価 が な され て い た の と は異 な り、 ポ ー ト

フ ォ リナ の 場 合 、生 徒 が 自発 的 に作 品 を 集 め 、自発 的 に 「振

り返 り」 を 行 い 、 自発 的 に 「反 省 」 が 行 わ れ る こ と に よ っ

て、次の制作にそれを活かすことが出来 るという点である。

3)反 省的な自問自答・…・・「振 り返 り」の際、反省的な

自問 自答を伴 う。学期の終わ りに、生徒は自分のポー トフォ

リオを取 り出し、自分自身を振 り返 り、資料のページをめ

くり、何が成長だったのか、 どのように成長 したか、問題

はどこにあるか.自 問自答す る。将来の方向性等について

の構想を描 くこともでき、自分達が制作 してきたことを反

省す る一環 として、生徒達は自分達の印刷物、演奏又は詩

の特徴に気付 くようになる。この種の自己認識は、「メタ認

知」につながるもので一歩下がって自らのしたことを反省

する能力の重要な要素となる。また、反省的な自問自答は、

自分のスタイルに対 して、客観的に見 る目をもっているか、

自分の弱点がわかっているか、長所を知 っているか、生徒

がいかに自己認識をしているのかな どを教師が生徒を理解

す る機会を提供 して くれる。

4)目 標設定、あるいは自己の評価基準・…・・ポ・一トフォ

リオは、長期にわたる資料 ・情報の収集ではあるが、 目的

もな く単 に収集がなされるのではな く、個人個人が 目標設

定をし、そのための作品の選択などが、教師や他人任せで

一32一

Page 3: 美術科ポートフォリオ評価における認知的基礎理論 · ろ、英国で 「達成の記録(recordofachievement)」 が用 いられ、教師が検討会をしたり、就職希望先にも、それを

はな く、自分からなされ る必要がある。 ポー トフォリオに

ょる学習は、与 えられた ものをす るといった受動的な学習

ではな く、能動的で、実社会に則 した現実味のある学習で

ある。最終的には、自分で自分を評価 し、自分の学びを改

善す ることのできる規準を見出す ことである。

5)学 習の質……ポー トフ才リオは、より深い理解を得

るため、どの程度調べ、 どの程度様 々な視点から考えたか

が重要である。 より複雑な思考がで きるように、自分で得

た知識を組み立て、それらの知識を応用 し、統合 して、作

品を制作 していく。

III.プ ロジ ェク ト ・ゼ ロ とポ ー トフ ォ リオの

理論 的 基盤

1.ポ ー トフ ォ リオ の 誕 生

ガ ー ド ナ ー のr学 校 に よ ら な い 心(TheUn8chooled

Mind)jに よれ ば 、 ポ ー トフ ォ リオそ の もの で は な い に し

ろ、 英 国 で 「達 成 の 記 録(recordofachievement)」 が 用

い られ 、 教 師 が検 討 会 を した り、 就 職 希 望 先 に も、 そ れ を

み せ る と い っ た 実 践 例 を ガ ー ドナ ー 自身 が 長 くみ て き た と

述 べ て い る4)。英 国 で の 「達 成 の 記 録 」 が プ ロジ ェ ク ト・ゼ

ロで の ポ ー トフ ォ リオ の起 源 で あ ろ うと思 わ れ るが 、 あ と

一 つ 可 能 性 が 皆 無 と は い え な い も の を 以 下、述 べ て お こ う。

プ ロ ジ ェ ク ト ・ゼ ロ の 初 期 よ り研 究 員 を 長 く勤 め た デ

ニ イ ・パ ー マ ー ・ウ ル フ(DenniePalmerWolf)は 、 ポ ー

トフ ォ リオの 開 発 の 中 心 的 役 割 を 果 た した 人 物 で あ る。 プ

ロジ ェ ク ト ・ゼ ロに お い て 、 ウル フ は 、 ガ ー ドナ ー か ら英

国 の ポ ー トフ ォ リオ の 話 を き い て いた と思 わ れ る が 、 ウル

フ 自身 が 語 った ポ ー トフ ォ リオ を ひ ら め く過 程 で の3つ の

ス トー リーに つ い て耳 を 傾 け て み よ う5}。

一 つ 目の ス トー リー は、 ドジ ャ ー ズ の ピ ッチ ャー、 オ レ

ル ・ハ ー シ ッシ ャー(OrelHershiser)が 、 あ る理 巾 か ら、

メ ジ ャー ・ リ・一グ で の試 合 の 記 録 を 付 け続 け た 。 そ れ は 、

あ る 日突 然 彼 を 一 流 に した り、 次 の 日 に は 平均 的 人 間 に し

た りす る もの は 何 な の か に つ い て 、知 りた い と考 え た の で 、

丹 念 に 記 録 を付 け は じめ た が 、 記 録 を 付 け る こ とで 、 打 者

との相 性 、 肩 の 調 子 の 良 し悪 し、 波 の 上 下 の意 味 合 い をつ

か め る よ うに な り、 記 録 を 付 け る こ とを 止 め な くな り付 け

続 け て い る。

2つ 目 は 、 ウル フが 小 さ な ギ ャ ラ リー に 出 か け た 際 、

リー ・モ ー トγ(ReeMorton)と い う30代 で ア ー トを 勉 強

し始 め た 彫 刻 家 の著 書 や 作 業 図 画 の展 示 を み た 。 壁 と陳 列

ケ ー ス に は 、 モ ー トソ の一 連 の ス ケ ッチ が た くさ ん 展 示 し

て あ っ た。 さ らに 、 そ れ に 関 連 した 描 きか け の絵 や 、 メ モ

も置 い て あ った 。 モ ・一 トγは 、 繰 り返 し、 繰 り返 しの 作 業

の 最 初 か ら最 後 ま で を 見 せ て い る。 出 来 上 が っ た作 品 を 観

るだ け で な く、 こ の ギ ャ ラ リー の壁 に は 、 彼 の本 当 の 作 品

と い うべ き もの が あ り、 も う一 つ の 彼 の 作 品 を評 価 す る方

法 、 ポ ー トフ 才 リオ の根 本 が 、 そ こに は あ った 。

3つ 目は 、 ウル フ は ソ ニ ー ・ロー リソ ズ(SonnyRollins)

の ジ ャ ズ ・シ ョーで 彼 の懐 古 的 な話 を 聞 い た 。 彼 は 、 演 奏

旅 行 に忙 殺 され なが ら、「一 歩 踏 み 出 し て、新 しい音 を 発 見

し よ う」 と考 えた 末 、 ク ラ ブや コソ サ ー ト ・ホ ー ル と言 っ

た 世 界 を離 れ た。 脚 光 を浴 び て いた 頃 とは 異 な っ た 日 々の

中 、 音 の 響 き が 彼 を 音 楽 に誘 う時 は、 何 時 間 も、 何 時 間 も

ニ ュ ー ヨー クの橋 の 上 で ソ ロの 練 習 を した 。 自分 の音 を探

す た め 繰 り返 し、 繰 り返 し橋 の 上 へ い っ た 。 そ ん な 口 々の

中 で 、 新 し い音 を 発 見 して い った 。 ウ ル フは 、 優 れ た ピ ッ

チ ャ ー とた だ ボ ー ル を 投 げ る だ け の 人 、優 れ た 芸 術 家 と唯

の絵 描 ぎ、 あ る い は 、 優 れ た 音 楽 家 と楽 器 を た だ 演 奏 す る

こ との 区 別 と 自 己観 察 に つ い て 、創 作 文 、美 術 、音 楽 の ボ ー

トフ ォ リオ的 学 習方 法 の 原 形 を 、 これ ら の ス トー り一 か ら

見 出 して い る の で あ る。

2.構 成 主 義 の 教 育 の流 れ

ポ ー トフ ォ リオ開 発 の 背 景 に は 、 学 ぶ 主 体 に お け る知 識

や 意 味 の 構 成 を 重 視 す る とい うデ ュ・一イ(JohnDewey)

や 、 ピア ジ ェ(JeallPiaget)に よる構 成 主 義(constructi・

vism)の 流 れ が あ る。 構 成 主 義 で は 、 知 識 とい うもの は.

何 ら か の形 で 既 に持 っ て い た 知 識 を再 構 成 して 、 よ り高 い

レベ ルへ と進 む と い う もの で あ る。 さ らに 、 知 識 の 再 構 成

の 過 程 に環 境 、 す なわ ち教 師 に よ る支 援 の 重 要 性 を示 した

ヴ ィ ゴ ツキ ー(Vygotky,L.S.)も 、 これ ら の構 成 主 義 の

流 れ に 位 置 して い る。 プ ロ ジ ェ ク ト ・ゼ ロ の パ ー キ ソ ス

(DavidPerldlls)は 、理 解 が 表 象 で は な く、 パ フ ォー マ ソ

ス に 依 存 す る と した 、これ まで の理 解 の 表 象 説 を 否 定 した 、

「理 解 とパ フ ォー マ ソ ス」 とい う観 点 か ら理 解 を考 察 して

い るた め 、 パ フ ォ ー マ ソ ス構 成 主 義 と も呼 ぼ れ て い る。 ま

た 、 ガ ー ドナ ー の知 能 理 論 を は じめ 、 デ ニ ィ ・ウ ル フ らを

Ilr心と して 取 り組 ん で きた 認 知 的理 論 研 究 は 、 ネ ル ソソ ・

グ ッ ドマ ソ(NelsonGoodnlan)の 構 成 主 義 の 流 れ を くん

で い る。 ネ ル ソン 。グ ッ ドマ ソの考 えで は 、 微 妙 な差 異 を

識 別 す る こ と、 一 見 繋 が りの な い もの につ な が りを 見 出す

こ とを 「知 覚(perception)」 と考 えて い る。 ガ ー ドナ ー ら

は、 グ ッ ドマ γ の い う美 的 な もの の5つ の 「徴 候 」61、を学

習 す る手 段 の ひ とつ と し て ボ ー・トフ ォ リオ を 見 出 し て い

る。 芸 術 的 能 力 で あ る 、 ス タ イ ル、 表 現 性 、 バ ラ ン ス、 コ

ソ ポ ジ シ ョソへ の 感 受 性 を の ぽ し、 「知 覚 」を養 う。 自分 の

作 品 に対 して 、 「反 省 ・検 討(reflection)」 に よ っ て 客 観 的

一33一

Page 4: 美術科ポートフォリオ評価における認知的基礎理論 · ろ、英国で 「達成の記録(recordofachievement)」 が用 いられ、教師が検討会をしたり、就職希望先にも、それを

な批 判 能 力 も養 うよ うに して い る。 プ ロ ジ ェ ク ト・ゼ ロで 、

ポ ー トフ ォ リオ も用 い て 、 そ れ ら を具 体 的 に実 践 した もの

が ア ー ツ ・プ ロペ ェル(後 で述 べ る)で あ る。

3.デ ニィ ・ウルフの貢献

ウルフは、伝統的な形式のテス トや これまでの評価にか

わるものとして、ポー トフォリオを提唱してきている。 プ

ロジェク ト・ゼ ロでは、知能を広 くとらえようとす るガー

ドナーのMI理 論 によれば、それぞれ個人が8つ の知能の

異なった組み合わせによってバラエティーをみせ るが、

個々人の個性をふまえる事が出来、さらに新 しい学力観を

反映できる学習 ・評価の形態を模索 してきた。彼女は学習

の評価に関しても 「多 くの試験項 日の`'不 意打ち"的 な性

格、客観的知識中心主義.大 半の試験の一過性または、一

時的性格のすべては、自らの作業を思慮深 く判断する生徒

たちの能力を破壊す るようなレッスソを強要 しているη」

といった批判的な立場を現 している。彼女は、もともと認

知心理学者 として出発 し 「子 どものシソボルの発達」の授

業をハーバード大学教育学大学院で教えてお り、プロジェ

ク ト・ゼロでは、音楽的才能の発達、表象の発達、文学的

イマジネーシ ョソといった研究をしてきた。ウルフは、ピッ

ツバーグの中高等学校 レベルで行われた、美術、作文、音

楽の3つ の領域におけるアーツ・プロペェルに中心的立場

で参加 し、 これらの研究がポー トフォリオの開発に大きく

貢献している。

IV.米 国における 「学習 と評価」の新 しい考 え方

1.真 正 評 価(AuthenticAssessment)

米 国 に お い て も標 準 化 され た テ ス ト(stalldardizedtest)

が盛 ん に行 わ れ 、 ウ ル フ と同 様 、 多 くの 学 老 に よ っ て批 判

が行 わ れ て き た。 点 数 化 は 、 客 観 的 と思 わ れ るが 、 点 数 化

が意 味 の あ る こ とで あ る の か 、 本 当 の意 味 で の 「理 解 」 を

測 定 で き て い た の で あ ろ うか。 「真 正 ニオ ー セ ソ テ ィ ッ ク

(Authentic)」 とは 、 通 常 、 美 術 品 や 文 書 で の 真 贋 を問 う

時 な どの 「本 物 」の意 味 で あ り、 「ま が い も の 」、 「不 完 全 な

もの 」の対 極 と して 用 い られ 、 「真 正 」に は、 個 々の 生 徒 の

実 情 を 反 映 す る とい う意 味 が 含 まれ て い る。 一 連 の 標 準 化

さ れ た テ ス ト、数 量 化 評 価 に 批 判 を加 え て い る、 そ の 中心

は 、 コ ロ ソ ピ ア 大 学 の ダ ー リ ソ グ ・ハ モ ソ ド(Linda

Darlil19-Hamlnond)で あ る。彼 女 が 著 書 、「オ ー セ ソ テ ィ ツ

ク ・ア セ ス メ ソ ト ・イ ソ ・ア ク シ ョソ(AuthellticAsscss-

melltillAction)』 で い う 「真 正 の学 習(AuthellticLearn-

il19)」の 考 え方 は 、試 験 の た め の 学 習 に か わ っ て、実 社 会 に

則 した 現 実 味 の あ る学 習 を す る とい う意 味 が 含 ま れ て い

る呂}。標 準 化 され た テ ス トで 問 わ れ るの は 、一 過 性 の 断 片 的

な知 識 で あ り、 「真 正 の学 習 」に求 め られ るの は.様 々 な思

考 や 技 術 を用 い て 、 あ らゆ る問 題 を 解 決 す る能 力 を高 め る

こ とで あ る。 自 らの 作 業 を 思 慮 深 く判 断す る生 徒 た ち の 能

力 を 破 壊 す る よ うな学 習 は 、「真 正 の学 習 」とは 程 遠 い。「真

正 の 学 褐 」 の問 題 点 は 、教 育 が 閉 塞 状 態 で あ るわ が 国 に お

い て も、 早 急 に議 論 しな くて は な ら な い事 柄 とい え よ う。

米 国 で は 、以 上 の よ うな理 由 か ら、子 ど もた ち の経 験 す る 、

子 ど もた ち 自身 が 「真 正 の学 習 」 を 記 録 で き る もの と し て

ポ ー トフ ォ リオ が 脚 光 を 浴 び て き た の で あ る。 ダ ー リ ソ

グ ・ハ モ γ ド流 に い う と ポ ー ト フ ォ リオ は 、 「真 正 学 習

(AuthellticLeamh19)」 が 成 立 し、 「真 正 評 価(Authentic

Assessmellt)」 の 考 えが 活 か せ るの で あ る。

2.パ フ ォー マ ンス評 価

パ フ ォ ーマ γ ス評 価(performanceAssessment)は 、

ポ ー トフ ォ リオ の 中核 とな る概 念 で あ る。 パ フ ォー マ ソ ス

(performallce)は 非 常 に意 味 の 広 い 用 語 で 、一 般 に美 術 で

扱 わ れ る身 体 的 な芸 術 表 現 を さす もの と は異 な り、 心 理 学

で 「遂 行 行 動 」 と も訳 され て い る もの で あ る。 パ フ ォ ー マ

ソ ス は 、 生 徒 が 自分 で 得 た 知 識 を 、 自分 で応 用 した り、 統

合 した り した 知 識 を 、 作 品 の制 作 、 口頭 発 表 と し て表 す る

と い う意 味 で あ る。 例 え ば.数 学 の 代 数 を 現 実 の 生 活 に活

かせ る か 、 柔 道 の技 ば か りを た く さ ん知 っ て い るだ け で な

く、 実 際 の 柔 道 の試 合 で そ れ らの技 が 活 かせ るか とい うこ

と で あ る。 そ して 、パ フ ォー マ ソ ス評 価 とは 、「実 際 に課 題

の 遂 行 が で きた か」とい うこ と に対 して の 評 価 で あ る。ダ ー

リソ グ ・ハ モ ソ ドは 、標 準 化 され た テ ス トで は 、 素 早 く、

表 面 的 に 考 え る こ とが 要 求 さ れ 、 課 題 の 遂 行 の た め 、 パ

フ ォー マ ソ ス(何 か を 遂 行 す る能 力)を 測 定 す るの に は 向

い て お らず 、点 数 で は とて も計 れ な い と考 え て い る ゜)。ポ ー

トフ ォ リオ は 、 そ うい った 自 分 で得 た 知 識 を応 用 し、 統 合

し、 作 品 を制 作 す る過 程 が 明 らか に な る と い う意 味 か ら、

パ フ ォ ー マ ソ ス評 価 を 実 現 す る もの で あ る と み られ て い

る。 特 に 、 美 術 で の学 習 は、 点 数 化 と は切 り離 し易 く、 自

分 で 得 た知 識 を 応 用 し、統 合 して 作 品 を制 作 して い くの で 、

パ フ ォー マ ソ ス評 価 を 実 現 す る もの で あ る。

V.プ ロジ ェク ト ・ゼ ロのポ ー トフ ォ リオ

にお け る理 論 的背 景

1.ガ ー ドナ ー のMl理 論 との 関 連 性

ガ ー ドナ ー の 唱 え るMI理 論(TheTheoryofMultiple

Intelligence§ 且゚ ))は、 人 間 の 知 能 は博 物 的 知 能 を含 め 、少 な

くと も8つ に 分 類 で き る と して い る。岨歳 の こ ど もで さ え、

Page 5: 美術科ポートフォリオ評価における認知的基礎理論 · ろ、英国で 「達成の記録(recordofachievement)」 が用 いられ、教師が検討会をしたり、就職希望先にも、それを

8つ の 知 能 の 発 達 や 使 い方 に個 人 差 が あ る こ と も見 出 され

て お り、 プ ロ ジ ェ ク ト ・ゼ ロ の 研 究 員 ウ イ ナ ー(Ellell

Wlnner)に よれ ば 、 子 ど もは 、 数 学 の 問 題 を解 くの に も、

数 学 ・論 理 的 知 能 の ド メイ ソを 単 ・一・に 用 い る の で は な く、

空 間認 識 的 な推 論 を 用 い る子 ど も、 言 語 的 戦 略 を用 い る子

ど も、 そ の 両 方 を用 い る子 ど も の い る こ とが 報 告 され て い

るm。 知 能 の用 い方 や 組 み 合 わ せ が 異 なれ ば、認 知 の仕 方 、

記 憶 、理 解 の 方 法 もそ れ ぞ れ 異 な っ て い るの で あ る。 わ れ

わ れ の個 々の 思 考 方 法 の 違 い は 、8つ の 知 能 の組 み 合 わ せ

に よ り個 人 差 が 表 れ るが 、ポ ー トフ ォ リオ で は.「 学 習 の 過

程 」 に重 点 が お かれ るた め 、 思考 の パ タ ー γ、 長 所 、 弱 点

が 見 出せ る。 ガ ー ドナ ー は、MI理 論 を さ ら に進 め 、 学 習

に よ り活 か せ る方 法 に 向 か っ て研 究 を進 め て い る121。

となる。初心者は、熟達者 よりも自分 自身の理解を評価す

ることが困難であるといわれるので、「反省・検討」の繰 り

返しの円環の中での メタ認知 の重要性は明白である。 ポー

トフォリオでは、「振 り返 り」によって、教師の支援を子ど

もが自分のものに してい く過程を具現化できよう。 また、

自発的に 「振 り返 り」をす ることで、 自分自身の学習のあ

りかたをモニターで きる、これ らがポー トフォリオによっ

てメタ認知の能力を高め られる要因である。美術作品の制

作でカソパスから下がって作品を見るのはメタ認知ではな

く、ただの視覚的認知である。 カンパスの絵に先程の手 を

加 える前と、今を比べ、 この先「どのように描 くか」「どの

ようにすれば、良 くなるのか」 の課題を自ら発見す ること

が、美術でのメタ認知である。

2.知 的な初心者か ら熟達者へ

認知科学は、1950年 後半 より始 まったが、最大の功績の

ひとつは、熟達 した知的活動を生み出す要因を解明や、知

的な初心者から熟達者への学習方法についての研究であ

る。初心者から熟達者への構図は、プロジェク ト・ゼロで

は、一貫 して、美術の専門領域での 「芸術家」を熟達者 と

考え、取 り組んできた。以下ガードナーの考 える、初心者

から熟達者へ至る 「訓練による知識」の学習方法を以下、

要約してみる。……生徒達は、初心者 からベテラソ(熟 達

者)に 至る道の りで、個 々の標識に出会 う必要がある。・・

つの標識から次の標識に到達す るための道路地図にも出会

う必要がある。正 しく教えれば、生徒達は幾つかの方法で、

訓練の法則を知 るよ うになる。第一は、法則を白ら実践す

る先生や専門家を観察す ることであ り、第二は、訓練を通

して.蓄 積された知性を具現する展示物 を鑑賞 し、創造す

ることである。第三に、生徒達は、訓練を経た熟達者達が、

長年にわた り開発してきた考え、理論、方式に出会い、実

際にそれらを使 ってみるための多 くの機会に遭遇する13,。

初心者から熟達岩へ至る 「訓練の法則」 の第 凸より第三ま

でを具現化するものとしてポー トフォリオが美術の学習の

ツールとして有効であることを示唆 しているのである。

3.メ タ認 知(meta・cognition)

メ タ認 知 は 、 「認 知 の た め の認 知 」、 「思 考 に よ る思 考 」と

もい わ れ る。 メ タは 、 「高 次 」と い う意 味 で あ る。 自己 の学

習過 程 を コ ソ トロ ール し、 結 果 を 自己反 省 す る能 力 が メ タ

認 知 で あ る。 メ タ認 知 能 力 を もつ もの は 、 解 決 し よ うと し

て い る 問 題 に 関 連 す る情 報 を 呼 び 出 し利 用 す る 能 力 を 備

え、 自己 の 学 脅上 の 課 題 を 自 ら発 見 し、 問題 点 を解 決 し て

い く。 メ タ認 知 に よ る、 類 似 の 課 題 へ の 「転 移(ト ラ ソ ス

フ ァー)」の 効 果 もみ られ 、 よ り深 い理 解 に至 る こ とが 可 能

4.学 習 の 「転 移 」

ガ ー ドナ ー を は じめ パ ー キ γ ス ら は 、認 知 心 理 学 者 と同

様 に 、 学 習 の 「転 移(trallsfer)」 に興 味 を 抱 い て い た。 プ

ロジ ェ ク ト ・ゼ ロで は 、 パ ー キ ソ ス を 中心 と して学 習 に お

け る 「転移 」に つ い て も研 究 が 進 め られ て きた 。 「転 移 」 と

は 、 わ れ わ れ が す で に 学 習 して い る も の が 、 異 な る学 習 に

対 して 、 いか に影 響 を あ た え るか と い うこ とで あ る。 例 え

ば 、 ス ペ イ ソ語 を 習 うの に、 イ タ リア語 が 役 立 つ とか 、 ス

カ ッ シ ュを す る の に 、テ ニ スが 役 立 つ な ど と い う考 えを 「転

移 」 と よぶ 。 教 科 領 域 や 技 能 を学 習 す る こ とは 、 そ れ と関

連 した 領 域 を 学 習 す る際 、 簡 単 に学 習 が で き る。 い か に し

て 「転 移 」 を 生 じさ せ るか に よ って 、 よ り効 果 的 な学 習 を

成 立 さ せ る こ とが 出来 る。例 え ぽ、音 楽 の ア ー ツ・プ ロペ ェ

ル で は 、 あ る曲 の一 節 を 自分 な りに 何 度 も演 奏 させ 、 編 曲

を させ る。 同 じ旋 律 を複 数 の 様 式 で 演 奏 す る能 力 を 「転移 」

と ガ ー ドナ ーた ち は考 えて い る。

美 術 の ア ー ッ ・プ ・ペ ェル14}の コ ソポ ジ シ ョソ(構 成)の

セ ッシ ョ ソ1で は、 奇 妙 な 黒 い幾 何 学 的 な 図形 を 生 徒 に与

え、 次 に 白 い 紙 の 上 に単 純 に それ らを ラ ソ ダ ムに 落 とす 。

次 に、dellberate(計 画 的 ・作 為 的 な作 品)を 学 ぶ た め 、 生

徒 た ち は満 足 す る ま で 図形 を 組 み 合 わ せ る よ うに 求 め る。

この 作 業 の相 違 点 、 作 為 的 な 配 列 の理 由 を ノー トに 書 き留

め て お か せ る。 セ ッシ ョン2で は 、 生 徒 た ち に 多 数 の 著 名

な ア ー テ ィ ス トの 作 品 に つ い て紹 介す る。 ハ ー モ ニ ー、 結

合 、 繰 り返 し、 意 味 、 放 射 状 の パ ター ソ、 驚 き 、 緊 張 感 、

コ ソ トラス トの 組 み 合 わ せ に つ い て 、 最 終 的 に 、 対 照 的 な

ス ラ イ ドを 見 せ 、 類 似 点 と相 違 点 を書 き留 め させ る。 次 の

週 に は、 日常 の 環 境 の 中 か ら、 異 な っ た コ ソ ポ ジ シ ョソの

実 例 を探 し出 す 課 題 が与 え られ る。 この 様 に コ ソポ ジ シ ョ

ソの ドメ イ γ ・プ ロジ ェ ク トで は、 コ ソ ポ ジ シ ョγを 決 定

す る際 、 そ の 決 定 の 効 果 に つ い て 自分 の 作 品 と、 多 数 の 著

一35一

Page 6: 美術科ポートフォリオ評価における認知的基礎理論 · ろ、英国で 「達成の記録(recordofachievement)」 が用 いられ、教師が検討会をしたり、就職希望先にも、それを

名 な ア ー テ ィ ス トの作 品 に つ い て 紹 介 し、 反 省 あ る い は検

討 す る機 会 が 与 え られ る。 転 移 は 、 これ らの 「きわ だ った

差 異 」 に 気 付 か せ る過 程 で 生 じる もの で 、 これ らの ドメ イ

ソ ・プ ロジ ェ ク トも ポ ー トフ ォ リオ に よ っ て さ ら にパ ワ ー

が発 揮 さ れ る。

るので、想像以.トに真剣み と熱意をともない、授業に興味

を持たない子 どもの授業中の態度や点数を聞かされる心情

的評価 とちがって前向きに捉えることが出来る。美術教師

以外の人の参加 もそのような意味からも有効であろう。生

徒たちによる協同評価会も行われているところもあるとい

う。

VI.ポ ー トフ ォリオを取 り入れた授業実践の反省

Vll.結 語

1.ポ ー トフ ォ リオ の 手 順 と実 践 お よ び 課 題

筆 者 の初 等 教 育 レベ ル で の ポ ー トフ ォ リオ の 実 践 で は 、

一 人 ひ とつ の 厚 め の フ ォル ダ ー(50cm×80cn1)に、 出来 た

作 品 を入 れ て い く。 この フ ォル ダ ーに は、 一 番 出 来 の 良 い

作 品 だ け で な く、 ス ケ ッチ 、 下 絵 、 生 徒 自身 や 他 人 が 書 い

た 自 分 へ の 批 評 な ど も 入 れ られ る。 ポ ー トフ ォ リオ棚 に

ポ ー トフ ォ リナ の フ ォル ダ ーを入 れ て お け ば 、 い つ で も取

り出 し て見 た り、 手 を加 え る こ と も出 来 る(資 料1参 照)。

初 等 教 育 レベ ル の 図 画 工 作 で は 、 絵 画 、 造 形 遊 び、 版 画

な ど と課 題 が2~3週 で 終 わ り、長 期 あ る い は 継 続 的 で な

く、 ポ ー トフ ォ リオ にす るの に は難 し い の で 、 筆 者 の 現 場

で の 実 践 で は ポ ー トフ ォ リオ を作 成 し、 一 部 デ ジ タル 化 し

た に過 ぎず 、 ポ ー トフ ォ リオ を用 い て の 評 価 ま で は行 った

が 、 ポ ー トフ ォ リオ を取 り入 れ た授 業 を 展 開 して い く まで

に は 至 らず 今 後 の 課 題 と し て残 っ た 。 ポ ー トフ ォ リオ を用

い て の 学 期 末 ご とで の評 価 の 際 、放 課 後 、個 々 の 生 徒 の ポ ー

トフ ォ リオ を 開 い て い く と、 こ れ ま で の 絶 対 的 評 価 、 相 対

的 評 価 な ど、出来 、不 出 来 で1頂列 の 出来 る評 価 とは異 な り、

生 徒 個 人 個 人 の 個 性 や 進 歩 や 、 長 くみ て い る と成 長 もみ え

て きた 。あ る と きは 、個 別 に ポ ー トフ ォ リオ を 開 きな が ら、

個 人 面 談 を し、 作 品 に つ い て訊 ね て み た り、 授 業 の 感 想 を

き くな ど、一 方 的 な評 価 と も違 い 、 生 徒 の学 習 と進 歩 を評

価 す る こ との み な らず 、 プ ロ グ ラ ム 自体 が 所 定 の 効 果 を あ

げ て い る か ど うか 判 定 す る方 法 と して も ポ ー トフ ォ リオ は

有 効 で あ る。 ま た 、変 わ って も、作 り手 側 の 生 徒 の流 れ は、

ポ ー トフ ォ リナ の 中 に見 出 され 、 作 品 一 つ ひ とつ が ぶ つ 切

りで な い こ とを も痛 感 した 。

2.協 同評価システム

ポー トフォリオを協同で評価するシステムは、「ポー ト

フォリオ検討会」とも呼ぼれている。協同評価会は、担任

の教師、数名の教師、司会者で構成する。まず、ある生徒

のポー トフォリオについて、全員で考察 し、担任の教師が、

作品の背景などを解説す る。そ こで、参加者が、意見を述

べあ う。時間の都合で生徒全員の検討が、不可能であれば、

特に、問題のある生徒のポー トフォ リオのみを取 り上げる。

筆者の経験では、協同評価は、あらゆる視点から意見が出

米 国 に お け る教 育全 般 の 「学 習 と評 価 」 の 考 え方 は 、 最

近 の10年 間 で 大 き な 転 換 期 を迎 えて い る。1980年 代 、 標 準

化 され た テ ス トとそ れ にむ け た学 習 の 無 意 味 さへ の反 省 か

ら、そ れ に代 わ る評 価 と して オ ル タ ー ナ テ ィ ヴが模 索 され 、

表 れ て きた の が 「真 正 の 」 学 習 ・評 価 とい う概 念 で あ り、

これ まで の プ ロダ ク ト評 価 か ら、 プ ロセ ス 評 価 へ と い っ た

意 識 の 変 化 、 実 際 に 課 題 の 遂 行 が で き た か と い っ た パ

フ ォー マ ソ ス評 価 の概 念 な どが そ れ で あ る 。 この 様 な理 由

か ら ポ ー トフ ォ リオ が 脚 光 を 浴 び る よ うに な った の で あ

る。 プ ロ ジ ェク ト ・ゼ ロに お け る ポ ー トフ ォ リオ の考 え 方

の特 徴 は 、長 年 の プ ロジ ェク ト・ゼ ロの 認 知 的 ア プ ロー チ1話1

か ら導 き 出 され た 学 習 理 論 を 基 に 、 ガ ー ドナ ー のMI理

論 、知 的 な初 心 者 か ら熟 達 者 へ の 理 論 、 メ タ認 知 、 パ ー キ

ソ ス を 中 心 と した学 習 に お け る 「転 移 」 に つ い て の研 究 な

どが 集 約 され て い る点 で あ る。も う一 点 は、プ ロジ ェ ク ト・

ゼ ロが 、 ア ー ツ・プ ロペ ェル で 実 験 した の が 、 これ ら美 術 、

音 楽 、創 作 文 の領 域 で の 「転 移 」の生 じ させ 方 で もあ った 。

私 見 で は 、 多 くの 認 知 心 理 学 者 が 「転 移 」 に つ い て研 究 し

た の は 、 主 に言 語 教 育 、 社 会 科 、 数 学 の分 野 で あ っ た が 、

プ ロ ジ ェ ク ト・ゼ ロ の場 合 は 、 「転 移 」 の 生 じ させ 方 を、 美

術 、 音 楽 、 創 作 文 で の 芸 術 の領 域 に お い て研 究 した とい う

と こ とで 、 他 に類 を み な い も の で あ る。

ウル フ らの 研 究 は 、 これ らの芸 術 系 ポ ー トフ ォ リオ の 実

践 か ら、 他 の ポ ー トフ ォ リオ研 究 者 た ち の ポ ー トフ ォ リオ

とは一 味 違 った ポ ー トフ ォ リオ を 農 開 し よ うと し て い る の

は 、 プ ロ ジ ェ ク ト・ゼ ロの根 底 に流 れ る 「個 を活 か す 」(M

I理 論 が そ の 究 極 で あ る)と い う信 念 に貫 か れ て い る か ら

に他 な ら な い。

ポ ー トフ ォ リオ の 有 効 性 につ い て も 良 い こ と尽 くめ に 思

うが 、筆 老 自身 の ポ ー トフ ォ リオ の 実 践 同か らす る と、ポ ー

トフ ォ リオ は、 け っ して 楽 で は な く、 時 間 と多 くの 労 力 の

か か る もの で あ る。 現 在 の 時 点 で は 、 ポ ー トフ ォ リナ の概

念 自体 が 浸 透 して い な い た め 、 理 解 が 得 られ 難 い こ と も 多

い で あ ろ う。 福 井 大 学 の 安 藤 輝 次 氏(社 会 科 教 育)も 指 摘

し て い る よ うに、 ポ ー トフ ォ リオ は 、 外 国 の直 輸 入 で は根

づ か な い の で 、 今 後 、 日本 に お け る美 術 科 の ポ ー トフ ォ リ

一36一

Page 7: 美術科ポートフォリオ評価における認知的基礎理論 · ろ、英国で 「達成の記録(recordofachievement)」 が用 いられ、教師が検討会をしたり、就職希望先にも、それを

オにっいてさらに考察 していきたい。米国の教育者の多 く

が、 このポー トフォリナの学習と評価システムには、教育

を変えてい くことが出来ると真剣に信 じているように思え

る。

これから先、他教科同様に美術科においても、ポー トフォ

リォの実践がなされる様になって くると思われる。「総合的

な学習」に適 したポー トフォ リオであるので、図画工作科、

美術科を中心 とした 「総合的な学習」が、必然的になされ

ていくであろう。筆者 とともに福井市内の中学校 では、ボー

トフォリオの導入をすすめてお り、今後、実践の報告、お

よびポー トフォリオの有効性、問題点について検証してい

きたい。

[註]

1)ハ ワ ー ド ・ガ ー ドナ ー は 、 現 在 、 ハ ー バ ー ド大 学 教 育

学 大学 院(HarvardGraduateSchoolofEducatio11の

教 授 で あ り、 芸 術 教 育 の 基 礎 的 研 究 を 行 って き た ハ ー

バ ー ド ・プ ロジ ェ ク ト ・ゼ ロの 協 同 指 導 者 の ひ と りで あ

る^

2) Edited by S.Veenema, L. fletland, and K. Chalfen

(1997). The Project Zero Classroom : New Appro-

aches to Thinking and Understanding. Cambridge:

Project Zero, Harvard Graduate School of Education.

お よ び、拙 稿 、芸 術 教 育 に お け る認 知 的 研 究 の成 果 と1理

解 の た め の教 授 法 」 の 関連 性 ハ ー バ ー ド'プ ロジ ェ

ク ト ・ゼ ロに よ る 「思 考 と理 解 へ の 新 しい ア プ ロー チ」

に お け る教 育 実 践 の 諸 相 『福 井 大 学 教 育 実 践 研 究 』

第25号,2000年,pp.83-97.参 照 。

3)安 藤 輝 次 「ポ ー トフ ォ リオ評 価 法 に よ る カ リキ ュ ラ ム

改 革 と教 師 の 力 量 形 成(1)」 『福 井 大 学 教 育 実 践 研 究 』

第22号,1998年 。

4) Gardner, H. (1991). The Unschooled Mind : How

Children Think and How School Should Teach. New

York: Basic Books. p. 254.

5) Wolf, D. (1987/88, December/January). Opening Up

Assessment. Educational Leadership. 45(4), pp. 24-29.

6) Goodman N. (1978). Way of Worldmaking. Indian-

apolis:Hackett.(邦 訳 菅 野 ・中 野 共 訳 『世 界 制 作 の 方

法 』 み す ず 書 房,1987年 。

7) Wolf, D. (1989, April). Portfolio Assessment: Sam-

pling Student Work. Educational Leadership. 48(5),

pp. 35-39_ (pp. 35-36)

8) Darling-Hammond, L., Ancess, J. & Falk, B. (1995).

Authentic Assessment in Action. NewYork: Teachers

College Press.

9) Ibid., pp. 6-10.

10) Gardner, H. (1983). Frames of Mind : The Theory

of Multiple Intelligences. New York: Basic Books.

ll)Winner,E.(1996).G伽4Cん ゴ'4糀'1吻 醜s研4

疋8配'漉器NewYork:BasicBooks.(片 山 陽 子:訳 、 『才

能 を 開 花 させ る子 ど もた ち 』 日本 放 送 出版 協 会 、1998年)

参 照 。

1∫,、4、 。L"_レ 匹卜1、 牛、^「Th【 、ρhハ,、1凸 月 孔πinrlrlnn1、 圭.,をL 

、 孕

に進 め た 、 様 々 な領 域 と理 解 に つ い て の理 論 を 以 下 の文

献 に お い て 展 開 して い る。Gardller,H.(1999).伽 ε

ρ's`ψ」初 認 〃'泌NewYork:Simon&Schuster参 照 。

13) Gardner, H. and Boix-Mansilla, V. (1994, Febru-

ary.). Teaching for Understanding Within and Across

the Disciplines. Educational Leadership. 51(5), pp. 14-

18.

14)拙 稿 、 「ARTSPROPEL(ア ー ツ ・プ ロペ ェル):ハ

ワー ド ・ガ ー ドナ ーの 芸 術 教 育 に お け る 認 知 発 達 研 究 か

らの カ リキ ュラ ム実 践 」、 『美 術 教 育 学 』(第17号)11-24

頁 、1996年.参 照 。

15)認 知 的 ア プ ロー チ に 関 して は、 拙 稿 、 「ハ ワ ー ド・ガ ー

ドナ ーの 芸 術 教 育 に お け る認 知 的 視 点 か ら」、 「大 学 美 術

教 育 』大 学 美 術 教 育 学 会 誌(第28号)平 成7年 度 、1996年,

参 照 。

16)筆 者 は、 平 成10年 よ り2年 間 、 青 山学 院 初 等 部 に お い

て 、ポ ー トフ ォ リオ 評 価 の実 践 を 行 っ た。実 践 の報 告 は 、

拙 稿 、 「デ ジ タル ・ポ ー トフ ォ リオ評 価 方 式:ハ ワー ド・

ガ ー ドナ ー に よ る認 知 的 評 価 方 法 と初 等 教 育 に お け る実

践 例 」 「美 術 教 育 学 』(第20号)1999年.13頁 ~22頁 美

術 科 教 育 学 会.を 参 照 。

Page 8: 美術科ポートフォリオ評価における認知的基礎理論 · ろ、英国で 「達成の記録(recordofachievement)」 が用 いられ、教師が検討会をしたり、就職希望先にも、それを

Basic Cognitive Theories in Art Portfolio —Development of Portfolio by Harvard Project

Assessment

Zero—

Itsuro

Fukui

IKEUCHI

University

Portfolios already start to be implemented, in Japan too, in the education by the faculty of social studies, etc.

Portfolio is highly regarded effective also as a learning/assessment tool not only in each faculty but general learning.

Harvard Project Zero has worked hard for the first time to do the development & researches of portfolios, and

has developed actually some portfolios to be used instead of conventional types of test and evaluation. Portfolio is

one of the attempts to change the forms of learning and assessment as the first step of education renovation toward

a new idea of learning capacity with its core in Multiple Intelligences by Howard Gardner.

In this paper, the idea of art portfolio and its theoretical basis will be studied, I will study how the Gardner's

theory of intelligence succeeding the heritages of Nelson Goodman's educational philosophy of constructivism to

begin with, and the theoretical cognitive researches by Perkins and Wolf as the members of Project Zero are liked

with the activities of application and implementation in the background of portfolios. I will also try to clarify the

theoretical basis for how Art PROPEL providing the base upon which the portfolios were completed in Project Zero.

Portfolios have mainly been developed in the U. S. I wonder if such portfolios can also be any effective tool of

learning and evaluation in Japan.