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物質・化学部門

【発表題目一覧】

<ポスター発表>

セッション名:CP <p.4-p.17>

4 月 25 日(金)14:45~15:15 (7F:701~704)

CP-01 イオン液体を用いたマイクロエマルションの形成に関する研究

佐々木 誠晃 ( 宇部 : 物質工学専攻 )

CP-02 無農薬植物工場系の開発

中村 啓人 ( 新居浜 : 生物応用科学専攻 )

CP-03 Bi2O3-ZrO2系複合酸化物触媒を用いたアルコールの酸化的脱水素反応

谷岡 和宏 ( 高知 : 物質工学専攻 )

CP-04 2級アミドを持つ高分子水溶液のLCST型相分離現象における同位体効果

秦 紀明 ( 新居浜 : 生物応用科学専攻 )

CP-05 コンテナ貨物における結露障害防止シートの実用化に関する研究

吉田 康二 ( 弓削 : 海上輸送システム工学専攻 )

CP-06 AFLP法による柿の系統判別

平井 祐貴 ( 新居浜 : 生物応用科学専攻 )

CP-07

山本 裕子 ( 新居浜 : 生物応用科学専攻 )

果皮厚さ変化及びCa,Pが ‘シャインマスカット’果皮褐変障害発生に及ぼす影響

-1-

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<口頭発表>

セッション名:C1 <p.18-p.29>

4 月 25 日(金)13:00~14:30 (6F:604)

セッション名:C2 <p.30-p.41>

4 月 25 日(金)15:30~17:00 (6F:604)

CK-01 アクリロニトリルを用いたシクロデキストリンポリマーの合成と評価

菅田 真子 ( 米子 : 物質工学専攻 )

CK-02 農産物の省エネルギーに関する研究

三井 祥平 ( 弓削 : 生産システム工学専攻 )

CK-03 POD酵素比色法の新しい高感度検出系の開発

佐賀 純也 ( 宇部 : 物質工学専攻 )

CK-04 多価アルコール存在下でのグリシジルフェニルエーテルのメタルフリー開環重合

谷口 誠也 ( 高知 : 物質工学専攻 )

CK-05 メスポーラスシリカとフォトクロミック分子による光スイッチングデバイスの創製

萩野 大輔 ( 米子 : 物質工学専攻 )

CK-06 スピネル型MgFe2O4へのB3+置換と交流磁場中での発熱特性

白石 勇人 ( 新居浜 : 生産工学専攻 )

CK-07 逆共沈法によるY3-xDyxFe5O12の作製と交流磁場中での発熱特性

中野 正揮 ( 新居浜 : 生産工学専攻 )

CK-08 減圧気相系における固定化酵素によるキラル化合物の合成

溝渕 美沙希 ( 高知 : 物質工学専攻 )

CK-09 Er3+添加LaOCl蛍光体の作製と粒径制御

森本 響 ( 阿南 : 電気・制御システム工学専攻 )

CK-10 高濃度汚濁排水が流入河川微生物群集構造に及ぼす影響評価

宮川 龍馬 ( 米子 : 物質工学専攻 )

CK-11 マイクロ波による窒化セラミックス合成に関する研究

戸田 修允 ( 新居浜 : 生産工学専攻 )

CK-12 ヒルギ科植物のカルス誘導と繁殖法の検討

辻中 友樹 ( 米子 : 物質工学専攻 )

-2-

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セッション名:C3 <p.42-p.49>

4 月 26 日(土)9:15~10:15 (6F:604)

CK-13 アルカン内におきたエレクトロウェッティングに関する研究

大塚 丈 ( 宇部 : 物質工学専攻 )

CK-14 Anatase型TiO2含有ホウ酸系結晶化ガラスの光触媒特性評価

坂本 祐規 ( 新居浜 : 生産工学専攻 )

CK-15 3価金属としてランタノイド元素を導入した層状複水酸化物の合成

小原 大輝 ( 米子 : 物質工学専攻 )

CK-16 竹由来のセルロースをベースとした水処理剤の開発

櫻庭 碧月 ( 高知 : 物質工学専攻 )

-3-

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イオン液体を用いたマイクロエマルションの形成に関する研究

佐々木 誠晃

宇部高専 物質工学専攻

1.緒 言 エマルションとは,二つの交じり合わない液体の

一方が他方の中に細かい粒になって分散する,乳化

という現象によって出来上がった系を指す.多くの

場合,界面活性剤と呼ばれる第三物質が存在してお

り,この働きによって二つの液体が分離しないよう

になる.エマルションの油または水の粒子径が非常

に小さくなると,系は透明または半透明となる.この

状態のエマルションをマイクロエマルションとい

う.

マイクロエマルションを形成する一般的な系は,

水/油/非イオン性界面活性剤からなる.イオン性界面

活性剤を系に用いた場合,温度変化のみではマイク

ロエマルションを形成することができないため,無

機塩や短鎖アルコールを加えることにより,マイク

ロエマルションの形成を可能にする.

今回の研究では,イオン液体を用いた系でマイク

ロエマルション相を形成し,さらにその系へ塩を添

加した際の挙動変化を観察することを目的とした.

イオン液体は常温常圧下において液体で存在する塩

であり,高い導電性と耐熱性をもち,一般的に不揮発

性である.そこで,マイクロエマルションを形成する

系において,界面活性剤または油相の有機溶媒に替

えてイオン液体を用いることで,新たな機能を有す

るマイクロエマルションの形成が期待できる.

マイクロエマルションは通常のエマルションより

も安定性が高く,成分割合の違いによって二種類の

型に分けられるといった特徴を持つ.また,高い溶解

能力を持っており,その特性を活かして化粧品や農

薬など,幅広い分野で活用されている.

本研究では,まず,イオン性界面活性剤,および非イ

オン性界面活性剤を用いてマイクロエマルションを

形成し,その挙動を観察した.その後,油相の代用とし

てイオン液体を用いた系でマイクロエマルションの

形成を行い,その挙動について観察することで,マイ

クロエマルションが形成される条件について検討し

た.

2.実 験 方 法

マイクロエマルションは水,油,界面活性剤の三成

分からなる.本研究では系①水/オクタン/テトラエチ

レングリコールモノオクチルエーテル(C8E4),系②

NaClaq./デカン/エアロゾル OT(AOT),系③水/ヘキサ

フルオロリン酸 1-ブチル-3-メチルイミダゾリウム

([bmim][PF6])/塩化 1-オクチル-3-メチルルイミダゾ

リウム([omim][Cl]),系④NaClaq./[bmim][PF6]/[omi

m][Cl],系⑤水/[bmim][PF6]/C8E4,系⑥NaClaq./デカン

-[bmim][PF6]/AOT について実験を行った.

それぞれに水,油,界面活性剤またはイオン液体を

用いた濃度の異なる複数の系を用意し,それを撹拌

した後,任意の温度に設定した恒温槽を用いて各系

が安定したとみなせるまで放置し,マイクロエマル

ションの形成の有無を観察した.

3.実 験 結 果

図 1 は系①水/オクタン/C8E4 の相挙動を表した図

である.○は二相領域,□は三相領域を示しており,図

内の線で囲まれた領域においてマイクロエマルショ

ンの形成を確認することができた.

以上の観察結果より,①水/オクタン/C8E4 系では,

界面活性剤濃度が 2.5wt%から 15wt%,温度が 40℃か

ら 50℃という条件下においてマイクロエマルショ

ンが形成されるということがわかった.この様な状

態図を②,③,④,⑤の各系でも同様に作成し,相挙動の

観察,考察を行った上でさらに細かい条件について

研究した.

図 2は系②NaClaq./デカン/AOTの相挙動を,図 1と

同様の記号を用いて表した図である.

-4-

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次に,系②の比較実験として,系②における油相で

あるデカンに,イオン液体である[bmim][PF6]を加え

た際に,どの程度の比率でマイクロエマルションが

形成されるかを観察した.

図 3 は系⑥NaClaq./デカン-[bmim][PF6]/AOT の相

挙動を表した図である.△は二相領域,○は三相領域,

□は四相領域を示している.

以上の観察結果より,油相として有機溶媒とイオ

ン液体を混合したものを用いた系でも,三相,四相の

状態となることがわかった.

4.結 言

本論文のメインテーマである「イオン液体を用い

たマイクロエマルションの形成」について,イオン液

体を用いた系でマイクロエマルションを形成するこ

とは可能であるということが確認された.ただし,系

③のように油相および界面活性剤の両方の代わりに

イオン液体を用いた系ではマイクロエマルションは

形成されなかった.これは,イオン液体ではマイクロ

エマルションを形成することができる界面活性剤よ

りも界面活性能が低いためと考えられ,系⑤のよう

に,界面活性能の高い非イオン性界面活性剤を用い

ることで,この問題は解決された.また,非イオン性界

面活性剤を用いた系においても,界面活性剤濃度が

ある程度高くなければマイクロエマルションは形成

されないことがわかった.一方で,マイクロエマルシ

ョンが形成される温度領域については,マイクロエ

マルションが形成される界面活性剤濃度以上の系で

は,比較的広い温度領域でマイクロエマルションが

形成され続けることがわかった.

系③のような,イオン液体を用いた系への添加塩

の効果について,今回の研究では,添加塩によって界

面活性能は上昇するもののその効果は小さく,マイ

クロエマルションの形成という点で実用性はあまり

ないものであるということがわかった.

系⑥では,イオン液体を油相として用いず,界面活

性剤も非イオン性のものを用いた系に対して,油相

にイオン液体を加え,少しずつイオン液体の割合を

上昇させていった際に系がどのような挙動を示すか

を観察した.結果的に,広い温度領域と濃度領域にお

いて系⑥でも三相,四相の状態を確認することがで

きた.四相状態の系は水相,有機溶媒相,イオン液体相,

マイクロエマルション相の四相に分離していたと考

えられる.一方で,三相状態の系は,水相,マイクロエマ

ルション相,有機溶媒とイオン液体のどちらかの相

となっているマイクロエマルションが形成されてい

る場合の相と,水相,有機溶媒相,イオン液体相となっ

ているマイクロエマルションを形成していない場合

の相の,二つの状態が考えられる.

今後の課題として,マイクロエマルションを形成

することができるイオン液体を用いた系の,マイク

ロエマルションが形成される温度領域や界面活性剤

濃度などの条件についてさらに詳しく観察をするこ

とが挙げられる.また,油相だけでなく界面活性剤に

もイオン液体を用いた系でマイクロエマルションを

形成するため,塩添加よりも有効な界面活性能の上

昇法を確立することや,系⑥における三相状態の,各

相の成分がどれにあたるかを確認する方法の確立も

今後の課題として挙げられる.

文 献 1)近藤 保:“界面科学”、三共出版(2003)

2)鈴木四郎、近藤 保:“入門 コロイドと界面の科学”、

三共出版(1994)

3)Afsaneh Safavi, Norooz Maleki, Fatemeh Farjami : Colloids

Surf. A, 61, 355, 2010.

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無農薬植物工場系の開発

中 村 啓 人

新居浜高専 生物応用化学専攻

1.緒 言 植物工場とは施設の温度,光,炭酸ガスなどの環

境条件を,自動制御装置を用いて最適な状態に保ち、

作物の播種から出荷調整までを周年計画的に一貫し

て行うシステムのことを言う.植物工場には閉鎖環

境で太陽光を一切利用せず,蛍光灯や LED などを光

源として栽培を行う「完全人工光型植物工場」と,

主に太陽光を利用し,悪天候時には人工光を補光と

して使用する「太陽光利用型植物工場」の 2 種類が

ある.利点としては作物を周期的に安定して供給す

ることができるということである.問題点は,栽培

品目も限られたものだけで、成長スピードも早くな

いといったことから植物工場で生産された作物の価

格が高くつき,普及に至っていないということであ

る.

本研究では N,P 等の養液成分量を調製した培養

液で成長が劇的に早くなる培養液の開発を目的と

し,市販の培養液と成長速度の比較をした.

2.実 験 方 法

2.1 ホウレンソウの水耕栽培

ホウレンソウ種子の前処理として,種子を常温で

水道水に 2 日間浸したものをガーゼで包み,ビニー

ル袋に入れた後,約 5 日間冷蔵庫で冷暗処理を行っ

た.前処理で発根した種子を1つずつスポンジに植

えて,水耕栽培装置にセットし栽培を開始した.装

置に入れる培養液成分は表 1 に示す.ハイポニカは

市販されている液肥である.培養液①をコントロー

ルとして成長速度の比較を行った.

表1 培養液の成分

培養液① ハイポニカ+NH4NO3

培養液② ハイポニカ+NH4NO3+A液

培養液③ ハイポニカ+NH4NO3+B液

培養液④ ハイポニカ+NH4NO3+C液

2.2 SOD測定

水耕栽培したホウレンソウを粉砕機で粉砕し,0.2g

量り取り,抽出 buffer(0.2M K2HPO4,0.2M KH2PO4,

2mM EDTA,polyvinylpyrrolidone)を 1ml加えた.

1 分間混合し,2 分間氷中静置を 5 回繰り返した後,

14000rpm,4℃,20分間遠心分離を行い,上清を 0.45

μl メンブランフィルターでろ過したものをサンプル

溶液とした.サンプル溶液を9%生理食塩水で段階希

釈し,SOD Assay Kit-WST(同仁化学研究所)に従い,

450nmの波長で吸光度測定を行うことにより SOD活

性を測定した.

2.3 H2O2測定

水耕栽培したホウレンソウを粉砕機で粉砕し,0.1g

量り取り,5% Trichloro acetic acid(TCA)を加え

た.1分間混合し,1分間氷中静置を5回繰り返した後,

14000rpm,4℃,10分間遠心分離を行った.上清をビ

ーカーに移し,0.2M TRA(トリエタノールアミン)

で pH7に調整した後,0.45μlメンブランフィルター

でろ過したものをサンプル溶液とした.2ml エッペン

ドルフチューブにサンプル溶液を 750μl,50μMスコ

ポレチンを 500μl,HRPを 50μl入れ,2分間混合を

行った後,0.15M Borate buffer(pH10)で 5mlま

で定容し,蛍光分光光度計を用いて 360nmの励起波長

で測定を行った.

3.実 験 結 果

3.1ホウレンソウ水耕栽培の結果

培養液①,②,③でホウレンソウを水耕栽培した結

果,各培養液間で成長速度に差が見られた(図 1).播

種から 14 日目には1~2㎝葉の長さに差が表れ,37

日目には 4㎝,57日目には 8㎝差が表れ,約 2倍成長

が早くなるという結果が得られた.根の長さは培養液

②,③のホウレンソウが培養液①に比べ 2 倍ほど成長

が早くなった.

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図1 葉の長さの比較

培養液①は市販の培養液

培養液②,③は本研究で調整した培養液.

培養液①,③,④でホウレンソウを水耕栽培した結

果,各培養液間で成長速度に差が見られた(図 2).播種

から 14 日目には葉の長さに差が出ており,21 日目に

は1.5㎝差がついた.最終70日目には約3㎝差が出た.

根の長さも最終的に 15㎝差が出ており,市販の培養液

よりも早く成長するということが確認できた.

図2 葉の長さの比較

培養液④は本研究で調整した培養液

3.2 SOD測定の結果

SOD活性値を比較したところ,本研究で調整した培

養液で水耕栽培したホウレンソウの SOD 量は市販さ

れている培養液で水耕栽培したホウレンソウの SOD

量より約 2倍高くなるという結果が得られた(表 2).

表2 SOD量

SOD [unit]/([g]・[min])

培養液③ 141.36

培養液④ 144.6

培養液① 62.48

3.3 H2O2測定の結果

蛍光強度から H2O2 量を求めた結果,培養液③,④

の H2O2 量が培養液①よりも高くなるという結果が得

られた(図3). SODの結果とH2O2の結果が一致す

るということが確認できた.

図3 H2O2量

4.結 言

N,P 等の養液成分量を調製した培養液で成長が劇

的に早くなる培養液の開発を目的とし,市販の培養液

とホウレンソウの成長速度を比較した結果,養液成分

量を調整した培養液で水耕栽培した方が市販の培養液

で水耕栽培するよりもSOD量が多くなり,O2-をH2O2

に多く分解することによって,成長が劇的に早くなる

ということを見出した.

文 献 1) 財団法人 電力中央研究所,野菜工場の実用化(1)流液式

(NFT)栽培装置と夜間電力利用空調装置の開発,電力中央

研究所報告,(平成 3年 5月)

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Bi2O3-ZrO2系複合酸化物触媒を用いたアルコールの酸化的脱水素反応

谷岡 和宏

高知高専 物質工学専攻

1.緒 言

触媒は反応物と中間体を形成することで,反応に

必要とする活性化エネルギーの低い反応経路を生み

出し,反応速度を高めるものである.また,複数の

反応が同時に起こる場合では,特定の反応のみを選

択的に進める機能も持ち,化学工業ではとても重要

な役割を担っている物質である 1).触媒には,反応

物や生成物と均一に混じり合う均一系触媒と,均一

には混じり合わない固体を用いた不均一系触媒があ

る.

有機合成などの反応では,そのほとんどが液体溶

媒に溶解した金属錯体などを触媒とする均一系触媒

反応である 2).なかでもアルコール類の部分酸化反

応は,ケトンやアルデヒドを合成するための有機反

応としてとても重要であるが,その多くは金属錯体

と酸化剤を同時に用いた均一系触媒反応である 2).

均一系触媒を用いた場合は,生成物からの触媒や

溶媒の分離操作が必要であり,蒸留などの余分な工

程を含むために,装置の建設コストがかかり,また

熱源による多大なエネルギー消費もあり,結果的に

は環境にも大きな負荷を与えている.そのため,そ

のような問題の少ない不均一系触媒反応への転換が

望まれている.金属酸化物などの固体触媒を用いる

不均一系触媒反応では,生成物と触媒の分離は容易

であり,さらに触媒の再利用も可能となる.

そこで本研究では,酸化物触媒として用いられて

いる Bi2O3の機能改善を期待して,第 2 成分の金属

酸化物を添加した複合酸化物触媒を調製し,その結

晶構造とアルコール類の部分酸化反応への触媒作用

を調べたところ,特に酸化剤を使わずに固体触媒の

みで脱水素反応に対してとても高い選択性を有する

ことを見出した.

2.実験方法

Bi と Zr イオンを共存する溶液から,それらのイ

オン成分を同時に沈殿させる共沈法により,Bi2O3

と ZrO2 を複合した触媒を調製した.出発原料とし

て Bi(NO3)3・5H2O と ZrO(NO3)2・2H2O を用い,

所定の混合比になるように,それぞれを純水に溶解

し,さらに少量の濃硝酸を加えて完全に溶解させた.

その後,得られた混合溶液に,室温で攪拌しながら

アンモニア水をゆっくり滴下し,白色の沈殿物を得

た.さらに一時間の攪拌を続けた後,生成した沈殿

物をろ過し,110℃の乾燥器で 12時間乾燥させて白

色粉末を得た.これを電気炉を用いて 250~750℃の

温度で空気雰囲気下で 3時間焼成して,Bi2O3-ZrO2

触媒を調製した.

調製した触媒の構造は X線回折で評価し,さらに

BET法を用いて比表面積を測定した.

触媒反応は,閉鎖型循環系触媒反応装置を用い,

反応物のアルコールとして今回は2-プロパノールを

用いた.反応を開始する前に,触媒の前処理として,

触媒の焼成温度が 400℃以下のものは焼成温度と同

じ温度,それ以上のものは 400℃で,30分間空気中

で加熱処理を行った.その後,触媒反応装置内に気

体状態の 2-プロパノールを約 20mmHg の圧力で充

填し,温度 250℃で反応を行った.反応により生成

した各成分はガスクロマトグラフで分析し,2-プロ

パノールの転化率と生成物のアセトンへの選択率を

求めて,調製した触媒の機能を評価した.

3.実験結果と考察

調製した Bi2O3-ZrO2触媒(Bi/Zr のモル比=5/5)の

焼成温度によるX線回折パターンの変化を図 1に示

した.焼成温度が 450℃以上で回折ピークが現れ,

温度の上昇とともにピーク強度は強くなったが,そ

のピーク位置にも変化が観察された.450℃で見ら

れるピークは,Bi2O3 の立方晶に起因するが,さら

に温度の上昇に伴いそれが正方晶に変化した.また,

400℃以下の焼成温度では回折ピークは観察されず

アモルファスであった.

ZrO2やBi2O3の単独酸化物では 400℃焼成でも回

折ピークが現れることから,共沈法で 2成分を複合

化したことで,それぞれの金属酸化物がより均質に

混合でき,結晶の成長も抑制されたものと考えられ

る.

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比表面積については,触媒の焼成温度が低いほど

大きく 250℃焼成で最大値の 46.3m2/g を示したが,

温度の上昇に従って減少した.750℃の焼成では,

わずか 1m2/g 程度であった.

固体触媒上での 2-プロパノールの反応では,酸機

能を有する触媒であれば,主に脱水反応が起こりプ

ロピレンが生成する.一方,酸化機能を有する場合

では,脱水素反応が起こりアセトンが生成する.そ

のため,生成物の選択性を調べることにより,反応

に使用した触媒の機能が評価できる.

図2に250℃で焼成して得られたBi2O3-ZrO2触媒

(Bi/Zr のモル比=5/5)による 2-プロパノールの反応

における各成分の経時変化を示した.反応の進行に

伴い,反応物の 2-プロパノールは減少し,アセトン

と微量のプロピレンが生成した.反応時間 30 分に

おけるアセトンとプロピレンの比率を計算すると,

アセトンが約 98%であり,アセトン選択率がとても

高かった.これは,この触媒が優れた酸化機能を有

することを示している.Bi2O3や ZrO2のそれぞれ単

独酸化物を触媒とした場合は,ほとんど反応を促進

させないことから,複合化によって機能が強化され

たことがわかった.

さらに触媒の焼成温度による反応への影響を調べ

た.図 3に示すように,生成物のアセトンとプロピ

レンの選択率は,焼成温度を上昇させても大きな変

化はなく,90%を超える高いアセトン選択率を示し,

酸化機能触媒であることがわかる.しかしながら,

2-プロパノールの転化率では,焼成温度の上昇に伴

い減少傾向が見られ,250℃焼成では 54%であった

が,750℃では約 3%にまで減少した.この触媒の反

応転化率の減少は,粒子の結晶成長や構造変化の影

響を受けているのかもしれない.

4.結 言

以上のことから,共沈法で調製した Bi2O3-ZrO2

触媒は優れた酸化機能を有し,アルコールの脱水素

反応に対して高い選択性を有することがわかった.

また,それは焼成温度が低くアモルファス構造の場

合に,より高い酸化活性を示すことがわかった.

参考文献

1) 菊池英一,新しい触媒化学,三共出版株式会

社,2013,pp.1-3

2) 檜山爲次郎,野崎京子:有機化学のための触媒反応

103,p.20,東京化学同人

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100

250 350 450 550 650 750

conversion

Calcinaton temperature / ℃

selectivity Sele

ctivity

/ % C

on

vers

ion

/ %

20 30 40 50 60

Inte

nsi

ty

/ a

.u.

2θ / degree

750 ℃ 650 ℃ 600 ℃ 550 ℃ 450 ℃ 400 ℃ 250 ℃

▲ ▲

Fig.2 Dehydrogenation of 2-propanol on Bi2O3-ZrO2 (Bi/Zr =5/5) catalysts calcined at 250 ℃.

0

20

40

60

80

100

0 20 40 60

Com

posi

tion

/ m

ol%

Reaction time / min

●:2-propanol □:acetone

▲:propylene

Fig.1 XRD patterns of Bi2O3-ZrO2 (Bi/Zr =5/5) catalysts calcined at various temperatures.

●:Bi2O3 (tetragonal), ○:ZrO2 (tetragonal), ▲:Bi2O3 (cubic)

Fig.3 Effects of the calcinaion temperature of Bi2O3-ZrO2 (Bi/Zr =5/5 )catalyst on the conversion and selectivity.

-9-

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2級アミドを持つ高分子水溶液の LCST型相分離現象における同位体効果

秦 紀 明

新居浜高専 生物応用化学専攻

1.緒 言 近年,外部環境変化(溶媒組織,温度,pH,特定

分子,光,電場など)に応答して形態や物性を変え

る機能性高分子に関する研究が盛んに行われてい

る.その中で,温度変化に応答して形態や物性を変

える高分子は温度応答性高分子と呼ばれ,いくつか

の高分子溶液は下限臨界溶液温度 (Lower Critical

Solution Temperature,LCST)を持ち,転移温度以上で

相分離して一相状態から二相状態となる.特にポリ

N- イ ソ プ ロ ピ ル ア ク リ ル ア ミ ド

(Poly(N-isopropylacrylamide),PNiPA)は,転移に敏感,

転移温度が体温に近い等の理由から LCST をもつ高

分子として多くの研究が進められている.PNiPA 水

溶液は低温では水に溶解し無色透明の水溶液である

が,昇温するとある温度で不溶化し白濁する.これ

を冷却すると再び溶解し,無色透明となる可逆的な

変化を示す.このとき,転移温度以下では,アミド

基と水との強い相互作用により高分子鎖は引き伸ば

され,コイル状態にある.転移温度以上になると,

高分子鎖は脱水和を起こし,疎水性相互作用により

高分子鎖が凝集したグロビュール状態となる(図

1).この現象をコイル-グロビュール転移と呼ぶ.

このような現象の要因は,LCST 型の転移機構では

溶質と水の相互作用や溶質の水和構造が本質的な役

割をもつと考えられているが,その具体的な役割は

いまだ明らかではない.

本研究は 2 級アミドを持つ高分子とその低分子化

合物モデルがともに LCST 型の相図をもつアルキル

アミド水溶液である PNiPA と NiPA に注目し,水の

種類による影響から LCST 型の転移現象の機構の特

徴を明らかにすることを目的とした.

図1 PNiPAの相転移前と相転移後

2.実 験 方 法 など

2.1 NiPAの相図の作成

再結晶した NiPA を軽水もしくは重水に溶解し試

料とした.昇温速度 1℃/2min で恒温槽の温度を上昇

させ,目視で試料が白濁し始めた温度を相転移温度

として測定した.測定結果から試料濃度を横軸、相

転移温度を縦軸として相図を作成した.

2.2 PNiPAの分子量分別

再結晶した NiPA のラジカル重合により PNiPA の

合成を 2 回行い,2 回目は分子量が大きくなるよう

に脱気操作を十分に行って合成した.2 回目に合成

した PNiPAを 2つに分子量分別し,GPCで分子量を

確認した.

2.3 PNiPAの光散乱測定(温度変化)

分子量分別で得られた高分子量の試料を軽水に溶

解させ静的光散乱測定および動的光散乱測定を行っ

た.光散乱測定は濃度 PNiPA/H2O 0.2475[mg/ml],昇

温速度 1℃/30min,降温速度-1℃/30min,装置 ALV・

cgs-3,波長 632.8nmの He-Ne レーザーで行い,慣性

半径および流体力学半径の温度変化を算出した.

3.実 験 結 果 など

3.1 相図の作成の結果

作成した相図を以下の図2に示す.NiPAの濃度の

増加とともに相転移温度は減少し,軽水より重水の

方が相転移温度が低くなっていることが見られる.

図2 NiPAの相図

過去の研究室での測定結果よりポリ N-イソプロ

ピルアクリルアミド(PNiPA)の相図を図3に示す.

PNiPA は軽水より重水の方が相転移温度が高くなる

-10-

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ことから,モノマーとポリマーでは相転移温度の同

位体効果が逆に表れることがわかった.これはこれ

までの研究結果と照らしあわせると PNiPA と NiPA

が 2級アミドをもつことに起因すると思われる.

図3 PNiPAの相図

3.2 PNiPAの分子量分別の結果

表1は GPC によって測定した PNiPA の分子量を

まとめたものである.合成2回目は1回目に比べ,

脱気操作を十分に行ったため分子量が大きくなった

ことがわかる.また分子量分別後の分子量に大きな

差があり,分子量分別がうまくできていることが確

認できた.

表1 PNiPAの分子量

Mn Mw Mz

合成 1回目 3.58×103 1.27×10

5 1.71×10

5

合成 2回目 2.73×104 7.81×10

5 3.54×10

6

分子量

分別後下層

3.53×104 5.86×10

7 1.84×10

9

分子量

分別後上層

1.92×104 4.61×10

6 1.28×10

9

3.3 PNiPAの光散乱測定(温度変化)の結果

図4は静的光散乱測定および動的光散乱測定によ

って得られた昇温過程における流体力学半径 Rh,慣

性半径 Rg を温度に対してプロットした図である.

31℃以下では Rg/Rhの値が約 1.8 を示しており,高分

子鎖がランダムコイル状態であることがわかった.

一方,Rhは温度によらずほぼ一定の値が観測され,

これは試料濃度が薄いために相転移温度が 34℃以

上になったことが考えられる.ただし 31℃以上で

Rgは減少しており,これは高分子鎖の中心に高濃度

の状態が形成されるといった高分子鎖の状態変化が

検出された可能性があるといえる.

図4 PNiPA/H2O の温度変化による Rg,Rhの変化

4.結 言

相図から,NiPAでは,軽水より重水の方が相転移

温度が低くなっているが,PNiPA では軽水より重水

の方が相転移温度が高くなることがわかった.モノ

マーとポリマーで相転移温度の同位体効果が逆に表

れることは,これまでの研究結果と照らしあわせる

と PNiPA と NiPA が 2 級アミドをもつことに起因す

ると考えられる.

光散乱測定の結果,31℃以下では Rg/Rh の値が約

1.8を示しており,高分子鎖がランダムコイル状態で

あることがわかった.一方,Rhは温度によらずほぼ

一定の値が観測され,これは試料濃度が薄いために

相転移温度が 34℃以上になったことが考えられる.

ただし 31℃以上で Rg は減少しており,これは高分

子鎖の中心に高濃度の状態が形成されるといった高

分子鎖の状態変化が検出された可能性があるといえ

る.

文 献 1)吉田亮, 高分子ゲル,共立出版社 (2005),15-19

2)野瀬卓平, 堀江一之, 金谷利治, 若手研究者のための有

機・高分子測定ラボガイド,講談社 (2007),18,196-215

3)Chi Wu, Shuiqin Zhou, Macromolecules, (1995), 28, 8383

4)Kejin Zhou, Yijie Lu, Junfang Li, Lei Shen, Guangzhao

5)Zhang, Zuowei Xie, Chi Wu, Macromolecules, (2008),

41,8927-8931

6)He Cheng, Lei Shen, Chi Wu, Macromolecules, (2006),

39,2325-2329

7)Xiaohui Wang, Chi Wu, Macromolecules, (1999),

32,4299-4301

-11-

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コンテナ貨物における結露障害防止シートの実用化に関する研究

吉 田 康 二

弓削商船高専 海上輸送システム工学専攻

1. 緒 言

海上輸送を含めたコンテナによる貨物の複合一貫輸

送は主要な輸送形態の一つとして、急速に発展してい

る。このコンテナ輸送の発展に伴い、コンテナ貨物の

品質管理は非常に重要となるが、問題も多数発生して

いる。その問題の一つに、貨物への結露障害がある。結

露障害とは外気の温度変化により、コンテナ内部の湿

り空気の飽和温度が変化して結露が発生する。それに

よって生じた水滴が貨物に落下することで損害を発生

させてしまう現象である(1)。この問題の防止策として、

Fig.1 のようにコンテナ上部に吸水シートを設置し、

貨物に落下する水滴を吸収させる方法がある。現在、

吸水材に高吸水性ポリマー(SAP) 使用した吸水シート

が流通しているが、この吸水シートは使い捨てであり、

また、コスト面やシート着脱の手間、ゴミ問題等の改

善すべき課題があると考えている。本研究室では以前、

吸水剤に感温性高分子材料であるポリ N-イソプロピル

アミド(PNIPA)ゲルを使用した再利用可能な吸水ゲル

シートを開発(2)し、課題の克服を試みた。しかし、吸

水剤を包むシート材の再利用などの問題から実用化に

は至らなかった。

本研究では、同ゲルシートの実用化を目指して、シ

ートの改良を行った。現在、既存の市販シートは結露

による水分を吸収すると、吸水シート中の吸水剤が膨

潤してシートが膨らむ。その後、シートが貨物と接触

した場合、その水分が再び貨物に移り、貨物の損傷を

起こすことが問題となっている。一方、本研究室が作

製したシートの吸水剤である PNIPA ゲルは保水効果が

SAPより大きいと考えられるため、SAPと PNIPAゲルに

おける吸水材の水が貨物へ及ぼす影響を調べた。また、

これまでの研究により、ゲルの膨潤度や相転移温度に

影響を及ぼすことが明らかとなっているゲルのイオン

濃度が浸潤に対してどのような影響を及ぼすのか調査

を行った。

Fig.1 吸水シートイメージ

2.PNIPAゲル

既存の吸水シートに使用される SAP は優れた吸水性

を持つが、乾燥させると形状変化を起こし、再利用に

向かないという欠点がある。しかし、PNIPAゲルは吸水

性では SAP に比べて劣るものの、乾燥後も形状変化を

起こしにくい(3)ことと体積相転移現象という 2 つの

特徴を有している。Fig.2 に PNIPA ゲルと SAP の構造

図を示す。Fig.2 から(A)の PNIPA ゲルは(B)の SAP に

比べ、架橋点を多く有した構造であることが分かる。

この構造こそゲルが乾燥時に形状変化を起こしにくい

要因である。また、ある特定の温度に達すると体積相

転移現象によってゲル内の水分の排出が促進され、素

早く水分を排出させることが可能となる。以上の 2 つ

の特徴により、PNIPA ゲルを使用することによる吸水

シートの再利用化が可能であると判断した。

(A) PNIPAゲル (B) SAP(4)

Fig.2 PNIPAゲルと SAPの構造

3.実 験

実験方法は水を十分に含ませた膨潤状態の SAP 及び

-12-

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イオン濃度の異なる 4 種類の PNIPA ゲルをダンボール

片の上に乗せ、時間の経過に伴う浸潤の変化を試料及

び紙片の重量の変化から調べた。Fig.3 に実験のイメ

ージ図を示す。実験試料として SAP には市販のものを

使用した。PNIPA ゲルのイオン濃度はイオン化剤の SA

が主鎖の NIPA に対して(NIPA:SA)50:1,30:1,15:1,

10:1となるように設定した。試料の形状は SAPが直径

1.4cm、高さ 7mmの半球状、PNIPAゲルはそれぞれ直径

8mm、高さ 1cmの円柱状のものを使用した。ダンボール

片の上に乗せる際に SAP は半球の平らな面を下にして、

ゲルは円柱を立てて設置した。しかし、これにより SAP

の接地面積はゲルの約 3 倍の大きさとなってしまった。

実験は SAP 及び各種ゲルを 3 時間紙片の上に放置し、

実験開始時と終了時の試料及び紙片の重量を計測した。

また、試料から大気中への水分の気化を抑えるために

試料の上にシャーレを設置した。

Fig.3 実験イメージ図

4.実験結果及び考察

Table.1に実験結果の表を示す。表の縦軸は上から

実験開始時の試料の重量とダンボール片(紙片)の重量

(g)、実験終了時の試料の重量と紙片の重量(g)、試料

重量の変化量(g)、紙片重量の変化量(g)、試料から紙

片への浸潤率(%)を示す。浸潤率は試料重量の変化量

を A、紙片重量の変化量を Bとして B/Aで表す。これ

により、試料から排出された水分が紙片にどのくらい

浸み込んだかを比べることが出来る。横軸は左から

SAP、イオン濃度(NIPA:SA)50:1,30:1,15:1,10:1

のゲルを示している。

この表から SAPがゲルと比べて多くの水を排出して

いることが分かる。だが、この結果は試料と紙片の接

地面積の差による可能性が考えられる。そこで、イオ

ン濃度 50:1の時の試料及び紙片の変化量を 1とした

場合の各試料の変化量を調べた。すると、SAPの紙片

の変化量は 50:1のゲルと比べて約 4.3倍の変化量を

示した。このことから、接地面積に約 3倍の違いがあ

ることを鑑みても、SAPの変化量は PNIPAゲルと比べ

て大きいといえるのではないかと考える。つまり、

PNIPAゲルと SAPでダンボールへの浸潤率に明らかな

差が見られた。これは PNIPAゲルの方が架橋点の多い

構造であることによるものではないかと考える。SAP

においては吸収した水の 98%以上が自由水とみなされ

ている(5)。これは SAPが架橋点の少ない構造であるた

めに多くの水を吸収できるが、水を束縛することがで

きないのではないかと考えられる。一方、PNIPAゲル

は架橋点の多い構造であるがゆえに SAPと比べると水

の吸収量では劣るが、束縛できる水の量が多くなるの

ではないかと考えられる。

一方、イオン濃度の変化により、試料及び紙片の変

化量と浸潤率に差が見られた。これは、ゲルのイオン

濃度が高くなるにつれて、ゲルの側鎖と水分子との結

合力が弱まり、ダンボールへの吸着力が上回ったた

め、浸潤が進行したのではないかと考えられる。この

ことから、イオン濃度による浸潤率の変化はゲルの側

鎖と水分子との結合力に起因すると考える。

また、試料と紙片の変化量が一致しないのは少なか

らず試料から水分が気化しているからであると考えら

れる。

Table.1 試料及び紙片の重量変化

SAP 50:1 30:1 15:1 10:1

試料重量(g) 0.836 0.495 0.532 0.696 0.934

紙片重量(g) 2.778 2.684 2.745 2.684 2.644

試料重量

3時間後(g) 0.644 0.426 0.466 0.620 0.855

紙片重量

3時間後(g) 2.921 2.717 2.780 2.727 2.702

試料変化量

(g) 0.192 0.069 0.066 0.077 0.079

紙片変化量

(g) 0.143 0.033 0.035 0.043 0.058

浸潤率(%) 74% 48% 53% 57% 74%

5.結 言

今回の実験では、PNIPA ゲルは SAP と比較してダン

ボールへの浸潤を抑えられることがわかった。また、

ゲルのイオン濃度が浸潤に大きく影響を及ぼすことも

明らかとなった。

参 考 (1)久保,木村,斉藤,安部:日本航海学会誌,Vol.92,1995年

(2)岩本,村上:弓削商船高等専門学校紀要,第 29号,2007年

(3)赤瀬,村上:弓削商船高等専門学校紀要,第 30号,2008年

(4)増田,高分子学会:高吸水性ポリマー,共立出版,1987年

(5)増田,日本化学会:季刊 化学総説,No.8,1990年

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AFLP法による柿の系統判別

平 井 祐 貴

新居浜高専 生物応用化学専攻

1.緒 言

柿にはビタミン C やビタミン K,タンニンな

どの栄養が豊富に含まれる果物である.正月の

歳取り行事には干し柿が食べられるなど,昔か

ら日本の文化に深く根付いている果物でもあ

り,様々な地域で栽培されている.

‘大西条’は岡山県で多く栽培されている豊

産性の渋柿で,1 果重 250g 以上の大きな長円筒

型の果実,なめらかな肉質などの特徴がある.

同様の特徴を持った樹木が島根県の‘西条’園

で見つかった.当初は大西条の苗木が混入した

と考えられたが,‘大西条’には接ぎ木の痕跡が

見られるのに対して,新しく見出された系統に

は接ぎ木を行った痕跡が見られなかった.我々

は新しく見出された系統は‘大西条’とは別の

交雑実生ではないかと考えた.

種や品種の特異的な差異を分析する方法に

RAPD(Randomly Amplified Polymorphic DNA)

法がある. RAPD 法は 10 塩基程度の短いラン

ダムな塩基からなるプライマーを使用して PCR

増幅を行い,増幅断片の長さの違いを比較する

方法だが,DNA の性質やアニーリング温度の影

響を受けやすいことが問題となっている.近年,

RAPD 法に代わって AFLP(Amplified Fragment

Length Polymorphism)法がよく用いられるよう

になった.AFLP 法は制限酵素で完全に切断し

た DNA 断片を,選択的に PCR 増幅する方法で

あり,厳密な反応条件でプライマーのアニーリ

ングを行うため,信頼性が高い.

‘大西条’と新しく見出された系統が同一か否

かを検証するため,それぞれの葉から抽出した

DNA を AFLP 法で解析した.

2.実 験 方 法

2.1 DNA抽出

‘大西条’と新しい系統の柿の葉をドライア

イスで冷凍し,粉砕した.抽出バッファーを加

えて,65℃で 30 分間インキュベートした.10

回インバーションしてから,再度 65℃で 30 分

間インキュベートした.室温、14000rpm で 10

分間遠心分離し,上清をとってプロテナーゼ K

を加えた.室温で遠心フラッシュし,55℃で 1

時間インキュベートした.室温まで冷却してか

ら RNase を加え,37℃で 30 分間,4℃で 15 分

間インキュベートした. Protein Precipication

Solution を加え, -20℃で 15 分間インキュベー

トし,室温,13000rpm で 10 分間遠心分離した.

上清をとって -20℃で 15 分間インキュベート

し,室温,13000rpm で 10 分間遠心分離した.

上清をとり,等量のイソプロパノールを加えて,

-20℃で 10 分間インキュベートした. 4℃,

11500rpm で 10 分間遠心分離し,上清を捨てた.

70%エタノールを加えて 10 回インバーション

し,室温,11500rpm で 5 分間遠心分離した.上

清を捨て,15 分間ドライアップし,抽出した

DNA を TE バッファーに溶かした.

2.2 AFLP 法 抽出した DNA を EcoRI,MspI,HpaII で制限

酵素処理した.

ファーストスクリーニング PCR を行った後,

セカンドスクリーニングには EcoRI 選択プライ

マー4 種,HpaII/MspI 選択プライマー5 種を組み

合わせて PCR を行った.セカンドスクリーニン

グに用いた各プライマーの配列を表 1 に示す.

表 1. セカンドスクリーニングプライマーの塩基配列

プライマー 塩基配列

E-ACG 5’-GACTGCGTACCAATTCACC-3’

E-ACA 5’-GACTGCGTACCAATTCACA-3

E-AAG 5’-GACTGCGTACCAATTCAAG-3

E-AAC 5’-GACTGCGTACCAATTCAAC-3

HMICC 5’-ATCATGAGTCCTGCTCGGTCC-3’

HMACA 5’-ATCATGAGTCCTGCTCGGACA-3’

HMATT 5’-ATCATGAGTCCTGCTCGGATT-3’

HMAAT 5’-ATCATGAGTCCTGCTCGGAAT-3’

HMICAA 5’-ATCATGAGTCCTGCTCGGTCAA-3’

-14-

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2.3 ポリアクリルアミドゲル電気泳動

DNA シーケンサー DSQ-2000L(島津製作所 )

を使用して,2000V の条件で電気泳動を行った.

ゲルは 42%ポリアクリルアミドゲル,泳動バッ

ファーは 1.2×TBE バッファーを使用した.

3.実 験 結 果

‘大西条’と新しく見出された系統間の DNA

バンディングパターンに差異が見出された.

E-AAC プライマーと HMATT プライマーの組み

合わせでポリアクリルアミドゲル電気泳動を行

った結果を示した.(図 1)‘大西条’と新しく見

出された系統の DNA バンドに差異がある部分

を白枠で囲った.

図 1. アガロース電気泳動の結果(E-AAC/HMATT)

①:大西条 HpaII処理 ②:新系統 HpaII処理

③:大西条 MspI処理 ④:新系統 MspI処理

各々のプライマーの組み合わせについて,ポ

リアクリルアミドゲル電気泳動で得られた全バ

ンド数,‘大西条’と新しく見出された系統間で

差異のあるバンド数を計測し,‘大西条’と新し

く見出された系統間の差異を計算した.(表 2)

E-AAC プライマーと HMATT プライマーの組

み合わせで,‘大西条’と新しく見出された系統

の DNA バンディングパターンの差異が最も多

く、DNA バンド全体の 5.78%のバンドで差異が

見られた.

表 2. ‘大西条’,新系統間の差異の割合

プライマー 割合 [%]

E-AAC / HMATT 5.78

E-ACG / HMICAA 3.97

E-ACA / HMACA 3.89

E-AAG / HMATT 0.40

4.結 言

AFLP 分析により、‘大西条’と新しく見出さ

れた系統の DNA バンディングパターンに多く

の差異が存在することを見出した.‘大西条’と

新しく見出された系統の差異は 2.62%であっ

た.新しく見出された系統は‘大西条’とは別

の系統である可能性が示唆された.

文 献 1) 持田 圭介,カキ‘西条’早生系統における生理的なら

びに栽培的観点からの系統間比較と生理障害防止対策に

関する研究,島根県農業技術センター研究報告,第 40 号

(201.10),9.

2)Vos,Rene Hogers,Marjo Bleeker,Martin Reijans,Theo van de

Lee,Miranda Hornes, Adrie Frijters, Jerina Pot,Johan

Peleman,Martin Kuiper and MarcZabean , AFLP : a new

technique for DNA fingerprinting , Nucleic Acids Research ,

vol.43 , No.21(1995) , 4407

-15-

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果皮厚さ変化及び Ca,Pが

‘シャインマスカット’果皮褐変障害発生に及ぼす影響

山 本 裕 子

新居浜高専 生物応用化学専攻

1.緒 言 黄緑色系ブドウ‘シャインマスカット’は スチュ

ーベン×マスカットオブアレキサンドリアから生じ

た選抜系統である安芸津 21 号(あきつ 21 ごう)と白

南(はくなん)を交雑して作られた品種であり 1),20%

程度の高糖度を有し酸味が少ない.食味が極めて良

く皮ごと食べられるブドウである.しかし,成熟時

に果皮が褐変化することがある(以下,「果皮褐変障

害」という)(図 1). ‘シャインマスカット’生産県

のほぼすべてで確認されており,出荷等級を下げる

要因として問題となっている.果皮褐変障害は果実

の成熟に伴って発生する植物生理障害であるが 1),

発生原因及びメカニズムは未だ解明されていない.

本研究では,成長過程における果皮厚さの経時変

化ならびに果皮に含まれるミネラル成分の経時変化

を原子吸光分析ならびにイオンクロマトグラフィー

分析により明らかにし,果皮褐変障害の発生メカニ

ズム解明を目的とする.

図 1 果皮褐変障害発生様相(×16)

2.実 験 方 法

2.1 サンプル試料

島根県農業技術センター,島根県内圃場および農研

機構果樹研究所から供試された‘シャインマスカット’

を用いた.サンプリングは満開後 0日(初回)~120日ま

で 15日間隔で経時的に行われた.

2.2 実験方法

2.2.1 原子吸光分析及びイオンクロマトグラフィー

分析

サンプル果皮中に含まれる微量元素(カルシウム,マ

グネシウム,ナトリウム)を原子吸光分析((株)島津製作

所 AA-7000F)により測定した.イオンクロマトグフィ

ー((株)日立ハイテクノロジーズ L-2130)によりリンの

測定を行った.

2.2.2 果皮厚さ測定

果皮・果肉ともに卓上ハンドミクロトームで約 50μ

mの厚さに切断し,果皮断面を作製した.果皮断面を

光学顕微鏡により倍率 200 倍及び 400 倍で観察した.

最も外側のクチクラ層から,細胞が急激に肥大するま

での層を果皮として,顕微鏡写真より任意の 3 ヶ所を

測定した(図 2).満開後 0日~120日まで 15日間隔で

経時的に測定を行ない,1サンプル 3粒、合計 9ヶ所

の平均値をそのサンプルの果皮厚さとした.

図 2 果皮厚さ測定方法

3.実 験 結 果

3.1 原子吸光分析及びイオンクロマトグラフィー

分析結果

毎年褐変障害発生を大量に引き起こす樹木サンプ

ルと毎年褐変障害を発生させない正常サンプルにつ

-16-

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いて,成長過程における果皮中ミネラル含有量変化

を比較したところ,カルシウム及びリンにおいて顕

著な差異が見られた.健全サンプルでは、60 日目か

ら 90 日目にかけてカルシウム含有量の増加が見ら

れたが,褐変障害発生サンプルでは 75 日以降のカル

シウム含有量が低かった (図 3).リンについても,

正常サンプルと比較して、褐変障害発生サンプルで

は取り込みが極めて低いことが明らかになった(図

4).

図 3 果皮中 Ca 含有量変化

図 4 果皮中 P 含有量変化

3.2 果皮厚さ変化

毎年褐変障害発生が多発する樹木サンプルと毎年

ほぼ褐変障害を発生させない正常サンプルについ

て,成長過程における果皮厚さ変化を 3 年間比較し

たところ,正常サンプルでは果皮の厚みは変化しな

いが,褐変障害発生サンプルにおいては果実の成熟

に伴って果皮厚さが減少傾向を示した. (図 5,6).

図 5 褐変障害発生サンプルの果皮厚さ変化

図 6 正常サンプルの果皮厚さ変化

4.結 言

元素分析より,‘シャインマスカット’の成長過程に

おけるカルシウムとリンの含有量が低いとき,褐変障

害が多発すると示唆された.

3 年間の果皮厚さ調査より,成長過程において果皮

厚さを維持する栽培方法が確立できれば,果皮褐変障

害発生率を低減できることが示唆された。

文 献

1) 持田圭介・牧慎也・大西彩貴・中原望・三谷宣仁・内

田吉紀・倉橋孝夫,ブドウ‘シャインマスカット’におけ

るカスリ症と果皮中無機成分含有量との関係,島根県農業

技術センター研究報告,第 41号(2013),41-50

-17-

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アクリロニトリルを用いたシクロデキストリンポリマーの

合成と評価

菅 田 真 子

米子高専 物質工学専攻

1.緒 言

シクロデキストリン(CD)は複数の D-グルコースが

α-1.4結合した環状オリゴ糖であり,環の内部の空孔に

様々な基質を取り込むことが可能である.基質となる

物質には環境ホルモンなどがあり,CDはこれらを包接

することから水質浄化剤としての応用が検討されてい

る.しかし,CDは環の外側に親水基を有しているため,

包接錯体が水に溶けて回収が困難である.これらのこ

とから CD の不溶化が検討されており,大きく分けて

水に不溶性もしくは難溶性のポリマーに CD を導入す

る方法とCDを高分子化する二つの方法がある.

本研究室では CD を高分子化する方法として開始剤

にCe4+イオンを用い,CDを種々のビニル系モノマーで

架橋した CD ポリマーの合成を試みたところ,アクリ

ロニトリル(AN)を用いたものが高い吸着率を示すこと

を見出した.しかし,重合温度や仕込み比等の重合条

件を変化させて検討した結果,重合率が向上すると吸

着率が低下し,吸着率が向上すると重合率が低下する

という問題が生じた 1).

上記の問題は AN の耐水性が原因であると考えられ

ることから,水との親和性を改善することで吸着率が

向上すると考えた。そこで本研究では,CDとANにア

クリルアミド(AAm)あるいはアクリル酸(AA)を加えた

三成分共重合体を合成し,吸着特性を評価した。

2.実 験 方 法

2.1 CDポリマーの合成

2.1.1 二成分での重合

β-CDとANを 1:40 (mol/mol)の仕込み比で全量が 5 g

となるようにナス型フラスコに量りとり,純水 50 mL

を加え,十分に分散させた.30℃の湯浴中でN2をバブ

ルした後,開始剤として 0.1~0.5 mol/Lの硝酸二アンモ

ニウムセリウム(Ⅳ)を 1 mL添加し,4時間撹拌した.

反応後の生成物はろ過にて回収して減圧乾燥させた.

Scheme 1 二成分での重合反応

2.1.2 三成分での重合

β-CD,ANおよびAAm(AA)を 1:35:5あるいは 1:38:2

(mol/mol)の仕込み比で全量が 5 g となるようにナス型

フラスコに量りとり,純水 5~50 mLを加え,十分に分

散させた.30~60℃の湯浴中でN2をバブルした後,開

始剤として 0.1~1 mol/L の硝酸二アンモニウムセリウ

ム(Ⅳ)を 1 mL添加し,4時間撹拌した.反応後の生成

物はろ過にて回収して減圧乾燥させた.

Scheme 2 三成分での重合反応

2.2 CDポリマーの吸着実験

得られた CD ポリマーは,ふるい(150 μm×φ75 mm)

を用いて大きな粒径のものを取り除き,吸着実験の試

料とした.試料 0.3 gに 4.6×10-5

mol/Lのメチルオレン

ジ(MO)または1.0×10-4 mol/LのビスフェノールA (BPA)

の水溶液 30 mLを加え,25 ℃で 24時間撹拌した.撹

拌後,遠心分離によって上澄み液を回収し,BPA 水溶

液はさらにメンブレンフィルター(0.45 μm)を用いてろ

過した.MOの上澄み液または BPAのろ液は,それぞ

れ 464 nm,276 nmの波長で三回ずつ吸光度を測定し,

その平均値より吸着率を算出した.

なお,平衡吸着時間の検討では撹拌時間を 1,2,4,

6,18 時間として吸着実験を行い,経時変化を比較し

た.

3.結果および考察

3.1 二成分重合

3.1.1 平衡吸着時間の検討

ANで架橋した CDポリマーの吸着時間に対する吸

着率の変化を図 1 に示す.なお,開始剤の濃度は 0.4

mol/Lで重合した試料を用いた.

-18-

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図 1 平衡吸着時間の検討

MO に対する吸着率は 4~6 時間で平衡達している

ことが分かった.また,重合条件の異なる試料を用い

た場合でも 4~6 時間で平衡に達した.

3.1.2 開始剤濃度の検討

ANで架橋した CDポリマーの開始剤濃度に対する

重合率および吸着率の変化を図 2 に示す.なお,吸着

率はMOを用いて測定した.

図 2 開始剤濃度に対する吸着率の変化

開始剤濃度を高くすると,重合率は低下し吸着率は

向上した.一般に開始剤濃度を高くすることで PAN部

分の重合度は低くなる.すなわち,重合度が高い試料

では,疎水性である PAN部分の重合度が高いために水

との親和性に欠け,吸着率減少の要因となったと考え

ることができる.これは,親水性のモノマーを共重合

することにより水への親和性を増加させることで改善

の可能性がある.

3.2 三成分共重合

CD-AN-AAあるいはCD-AN-AAmの三成分共重合

は,CD と AN を共重合したときの最適条件を用いて

行ったが,不溶性共重合体を得ることが出来なかっ

た.そこで,溶媒量の再検討を行ったところ 30 mL

が最適であることが分かった.また,重合温度は,

AAm を用いた場合は 30℃,AA の場合は 60℃が最

適であった.そこで,溶媒量と重合温度が最適であ

った条件を用い,開始剤濃度を 0.3 mol/L として仕込

み比の検討を行った.AN-AA,AN-AAmで架橋した

CD ポリマーの仕込み比に対する重合率および吸着

率の変化を図 3 に示す.なお,吸着率は BPAを用い

て測定した.

図 3 仕込み比に対する重合率および吸着率の変化

吸着率は CD,AN,AAを 1:35:5 (mol/mol)の仕込

み比で架橋した CD ポリマーが最大であった.そこ

で,この仕込み比で重合した CD ポリマーの開始剤

濃度の検討を行った.開始剤濃度に対する重合率及

び吸着率の変化を図 4 に示す.

図 4 開始剤濃度に対する重合率及び吸着率の変化

重合率および吸着率は,開始剤濃度の増加ととも

に増加し,開始剤濃度を高くすることは有効である

ことが分かった.しかし,重合率,吸着率ともに二

成分重合で得られた最大値より低い結果となった.

そこで,三成分共重合の仕込み比の再検討を行って

いる.その結果および詳細については当日報告する.

文 献 1) 田中博之,“米子高専物質工学科 平成 24 年度卒業論

文”,(2012).

0

20

40

60

80

100

0 3 6 9 12 15 18

吸着率(%)

時間(h)

0

20

40

60

80

100

0

20

40

60

80

100

0 0.2 0.4 0.6

吸着率(%) 重

合率(%)

Ce4+(mol/L)

重合率

吸着率

0

20

40

60

80

100

1:35:05 1:38:02

重合率

(%)

0

20

40

60

80

100

1:35:05 1:38:02

吸着率(%)

AA

AAm

0

20

40

60

80

100

0

20

40

60

80

100

0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 1.2

吸着率(%) 重

合率(%)

Ce4+(mol/L)

重合率

吸着率

CD:AN:AAm(AA)の仕込み比(mol/mol)

-19-

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農産物の省エネルギーに関する研究

三 井 祥 平

弓削商船 生産システム工学専攻

1. 緒 言 農産物の生産方法の1つに,生産性を維持しつつ,

暖房経費を削減する方法として,温室内の温度を低

めに設定し,温水により局所的に地温を高める技術

が知られている.局所的に培地を温めることにより,

熱の損失を少なくすることができる.温水により局

所的に培地を温めるためには,培地や土壌での水の

流れを調べる必要がある.

本研究の最終目的は,省エネルギー・低コストで

高品質の農産物を生産することであり,そのために

土壌や培地内の水の動き,流量を実験的に求めるこ

とにした.土壌や培地の構成は石の大きさや砂の量,

場所によって異なるがすべての土壌や培地には砂

が含まれている.この点からまず,天然乾燥硅砂 4

号,6 号,8 号を用いて砂内の水の動き,流量を実

験的に求める研究を行っている.

2.予備実験

2.1実験方法 砂内の水の動きは目視で確認することはできな

いので,水中での水の動きを観察することにした.

直径 20mm,高さ 200mm のアクリル円筒の底にア

クリル板を張り付けたものを実験用の水槽として

製作した.水槽内に水を入れ,上からポンプで着色

水を落とした.水は高さ 100mm,150mm として,

流速は 20ml/min,25ml/min,30ml/min で実験を行っ

た.

2.2予備実験結果 水の高さが 150mm の実験では着色水は噴出後,

横に広がり水槽の底に達し,底の方から色が濃くな

っていった.また,流速を変えても着色水の広がり

Fig. 1 Snapshots of colored water diffusion

方はあまり変わらなかった.しかし,水の高さが

100mm の実験では底での跳ね返りが強く水面まで

跳ね返り水面から色が濃くなってしまった.

実験の様子を水の高さ 150mm,流速 25ml/min 場合

の実験を例として Fig.1に示す.

3. 砂を通って流れる水の流量の測定実験

3.1実験装置 厚さ 2mm,直径 20mm,40mm,60mm,80mm,

100mmの 5種類の円筒状のアクリル材を高さ 80mm

で切って用意した.それらを厚さ 10mm,120mm×

120mm の正方形のアクリル板に固定した.アクリ

ル板には直径 6mmの穴を開け,中心から穴1,穴

2,穴 3,穴 4,穴 5とした.各穴には測定用のチュ

ーブをつないだ.実験装置を Fig.2 に示す.

3.2実験方法 実験装置の上に砂が落ちないように布を置き,そ

の上に厚さ 2mm,高さ 80mm,直径 100mmのアク

リル材を置く.砂は東北硅砂 4号,6号,8号を用

いて乾燥砂と含水した砂を使用した.砂の平均粒径

は,4号が約 0.75mm,6 号が約 0.34mm,8 号が約

0.11mmとなっている(1).実験装置の上に砂を入れ

た後,砂の上からポンプで水を流し穴から流れ出て

くるまでの時間を砂内に水が浸透する時間として

記録し,120秒後にポンプを止め,水の流量を測定

する.実験は,各砂それぞれ流速 20ml/min,25ml/min,

30ml/min で砂の高さを 20mm,30mm,40mmで各 5

回ずつ行い平均値を求めた.

Fig. 2 Experient apparatus

-20-

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3.3実験結果 砂の上から水を流した場合,水は容器の底に達し

た後,穴からは流れず,底面から上に徐々に浸透し

ていき飽和状態になった後,穴からが流れ出た.砂

を通って流れ出てくるまでの水の流れの様子(砂 6

号,流速 30ml/min,砂の高さ 40mm の場合)を例

として Fig. 3 に示す.

粒径の大きい砂 4号,砂 6号の場合では中心に近

い位置から多く水が出た.粒径の小さい砂 8号の場

合では中心から最も遠い穴 5 から水が流れ出た.

砂の高さによる流量の変化は見られず,乾いた砂

より含水した砂の方が水の流れてくるまでの時間

が速い.流速が速くなるほど水が落ちてくるまでの

時間は短くなっている.砂の粒径が大きいほど水が

ながれてくるまでの時間が速くなるが,流量の合計

には,ほとんど変化がなかった.

砂の種類ごとの比較(流速 25ml/min の場合)を

Fig. 4 (乾燥砂),Fig. 5 (含水した砂)に例として示す.

Fig. 3 Snap shots of water diffusion in the sand

Fig. 4 Water discharge volume at different sections

(dry sand)

Fig. 5 Water discharge volume at different sections

(wet sand)

4.考 察 容器の底に達した水が上に徐々に浸透した理由

として,砂の表面張力,毛細管現象によって上向き

の力が働いたためだと思われる(2).

砂の高さが低いと水の勢いで砂の中心に穴が開

くため,流速が速い場合に穴 1の流量が他の条件と

比べ多くなると考えられる.

砂 8号は砂の粒径が小さく,砂粒子間の表面張力

が大きく,砂全体が液状化し圧力の影響を受けやす

く,外側に力が集中したため,最も外側にある穴 5

に多くの水が流れたと考えられる(3).砂の粒径が大

きくなるほど水の流れるまでの時間が速くなる理

由として粒径が大きいと含水比は小さくなり飽和

状態になりやすいからだと考えられる.

砂の高さによる流量の合計は,砂を通って流れ出

てくる時から測定する時間が全ての実験で同じだ

ったため,変化は見られなかった.含水した砂は飽

和状態のため,乾いた砂に比べ,水が流れ出てくる

時間が速くなったと考えられる.

流速が速くなると時間ごとの流量が増えるため,

流量の合計が大きくなり,浸透するまでの時間が速

くなったと考えられる.

文 献 (1) 北日本産業株式会社

http://www.catvy.ne.jp/~ktsangyo/data1.htm

(2) 菊本統,土の力学 第六回:土の締固めhttp://www.cvg.ynu.ac.jp/G3/MamoruKikumoto/

MechanicsOfSoils06.pdf

(3) 森田泰司,“わかりやすい機械教室 流体の基

礎と応用”,東京電機大学出版局,1997

-21-

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POD酵素比色法の新しい高感度検出系の開発

佐 賀 純 也

宇部高専 物質工学専攻

1. 緒 言

ペルオキシダーゼ(以下PODと略)は,過酸化水素

や過酸化物を還元することによって基質の酸化反応を

触媒する酵素である.特に西洋ワサビ由来のペルオキ

シダーゼ(以下HRPと略)は,組織学における染色(酵

素抗体法)や,ELISAなどの分析化学において,標識物

質として用いられている.本酵素は,基質特異性が広い

ことからテトラメチルベンジンなどの色素前駆体を分

解し,その分解物の着色を検出する系に使用されてい

る.またH2O2を含む排水の処理にも利用することがで

きる.その例として,重要な汚染物質であるフェノール

を含む工業排水は,HRPによって多量体化して除去す

ることができる.フェノールがフェノキシラジカルへ

酸化され,これが多量体化するのである.(多量体化した

フェノールは単量体よりも毒性が低い)

HRP を用いた反応系で,フェノールアンチピリン

法はフェノール分析によく使用されている手段であ

る.しかし水溶液中のフェノールは人体に熱傷を,環

境には汚染を引き起こすリスクが伴う. 本研究室で

は,上記のようなフェノールを用いない検出系の開

発を行っており,p-位の化合物が代替試薬として有

効であるという成果が出ている.そこで本研究では

p-位の化合物の中でも特に POD 酵素活性に有意と

されている p-メトキシフェノールに加え、これらと

構造の類似した 3種類の p-位のフェノール化合物お

よび,他の研究機関で成果が報告されている,アニリ

ン系化合物のALPSが酵素活性に与える影響を検討

した.

2. 実 験 方 法

2.1.1 使用試薬とその調整方法

本研究ではフェノールの代替として有意であると考

えられるp-メトキシフェノール(p-MP), p-エノール

の 3 種のフェノール化合物と,アニリン系化合物の N-

エチル-N-スルホプロピルアニリン(ALPS)を使用した。

上記の 5 種の化合物を蒸留水で溶解し,すべて 30mM

とした.また, 本研究ではオリエンタル酵母社製の

HRP(470IU/mg powder)4.787gを,希釈緩衝液

[0.5% BSA, 100 mM K-PO4(pH7.5)] 4.5 ml で希釈

し,500IU/ml POD を作製した.

2.1.2 酵素活性の測定および解析方法

POD 活性は,0.05 IU の活性測定試料を含む活性測

定液 [100 mMリン酸緩衝液 (pH7.0), 0.85 mM H2O2,

1.17 mM 4-アミノアンチピリン(4-AA),フェノール化

合物濃度 1.5 mMまたはALPS濃度 1.5mM] 3 mlに

ついて,25℃で 10 分間加温した後,1 分間における赤色

キノン色素の産生量の変化を吸光マイクロプレートリ

ーダー(Thermo 社製 Multiskan GO)で測定した.な

お,510 nmにおける赤色キノン色素のモル吸光度係数

は,6.58 l mmol-1 cm-1 とした.

2.1.3 活性化反応の酵素学的解析

各化合物の酵素活性に与える影響について酵素学

的解析を行うため、実験操作としては、2.1.1 と同様

の方法に基づき基質(H2O2)濃度を 0.10, 0.20, 0.30,

0.40, 0.50 および 0.85mM の 6 段階に変化させ吸光

度の測定を行った。測定結果は、Enzyme kinetics

module を用いて Michaelis-Menten プロットを行

い ,ミカエリス定数 (Km)や酵素の最大反応速度

(Vmax)の解析を行った.また,得られた吸光度の変化

からユニット数(酵素活性の度合)の計算を行った.計

算はオリエンタル酵母社製 HRP の添付書に記載さ

れた以下の式を用いた.

(ΔA/min×V×D)/(ε×v×d)=IU/ml

このとき ΔA/min=測定結果 , V=セルの体積(3ml),

D=enzyme dilution factor(1), ε=モル吸光度係数

(6.581mmol-1 cm-1), v=酵素量 (0.05ml), d=光路長

(1cm)である.

2.2 NMR による赤色色素の構造解析

p-MP による生成物 30ml をクロロホルムで抽出

し,エバポレートすることで赤色色素を取り出した.こ

れをカラムクロマトグラフィーすることで目的の赤色

の化合物だけを分取する.このとき展開溶媒は 70%

メタノール水溶液を,充填剤にはコスモシールを用

いた.これを再びエバポレートしてメタノール水溶液

を蒸発させたものを重クロロホルム 650μlで溶かし

サンプル管に入れ,NMR スペクトルを測定した.

-22-

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3. 実 験 結 果

3.1 各化合物が POD 酵素活性に与える影響の比較

各フェノール化合物,及び ALPS が POD 酵素活性

に与える影響を,コントロール(79.3mM フェノール)

と,それぞれの化合物(1.5mM)を用いた場合の測定結

果を比較し,解析した(Fig.1).

Fig.1.各化合物が POD 酵素活性に与える影響の比較

その結果,p-MP, p-EP, ALPS を用いた場合に Control

よりも高い酵素活性を示した. p-EPを用いた場合で

は Control と比較して約 3.5 倍,ALPSの場合は約 1.7

倍, そして p-MP の場合では約 6.1 倍もの相対感度

を示した.

また,それぞれの試薬を用いた場合の最大反応速

度(Vmax)とミカエリス定数(Km)を Michaelis-Menten

プロットより算出した(Fig.2).

Fig.2 各試薬を用いた時の Vmax, Km

および生成色素の λmax

その結果,Vmax については p-MP, p-EP, ALPS を用い

た場合に Control よりも高い値を示し,相対感度は

ALPSでは約1.7倍, p-EPでは約4.2倍であった. p-MP

を用いた場合に最大の相対感度を示し,5.8 倍であっ

た.しかし, p-MP や p-EP と同じフェノール化合物で

ある p-C を用いた場合は Control よりも低く,この化

合物が POD 酵素活性に与える影響は低いことが分

かった.

3.2 NMR による赤色色素の構造解析

フェノール化合物の化学構造的特徴が,POD酵素活

性に与える影響を調べるため,最も高い活性を示す

p-MPによる生成物の構造を解析した.1H-NMRスペク

トル解析の結果,ベンゼン環,メトキシ基の他に, p-MP

のm-位の1Hが二つ観測された。このことからこの赤色

色素はp-MPのo-位のCと4-アミノアンチピリンのアミ

ノ基が結合した構造であると予想された(Fig.3).

Fig.4 予想される赤色色素の構造

4. 結 言

POD 酵素比色法において, p-MP は低濃度でありな

がら,Control に対し酵素活性は 6.1 倍もの相対感度を

示し,Vmaxも約5.8倍であることが分かり,フェノール

に代わる化合物として最も有効であるという結果が得

られた.また, フェノールの代替として有効な化合物と

して,ALPS などの新トリンダー試薬(アニリン系化合

物)が他研究機関で報告されている.しかし,新トリンダ

ー試薬は単価が高く,今回の実験結果から酵素活性効

果もp-MPの3分の1程度であることが分かった.した

がって,より安価で H2O2 の高感度検出を実現できる

p-MPの方が期待度は高いといえる.

p-MP による高感度検出系により,微量なサンプルの

測定も可能になる.今後はこれを用いて酵母内の POD

の定量分析など,酵母等への応用も考えていきたい.

文 献

1) Junichi Odo,Kozue Matsumoto,Eri Shinmoto,Yoko

Hatae,and Atsushi Shiozaki, Spectrofluorometric

Determination of Hydrogen Peroxidase Based on

Oxidative Catalytic Reaction of p-Hydroxyphenyl

Derivatives with Metal Complexes of

Thiacalix[4]arenetetrasulfonate on a Modified

Anion-Exchanger, No20(2004), 707-710, ANALYTICAL

SCIENCES

2) 堀 光広、高妻 七郎、影山 信雄、園田 信五、高橋 一郎、

毛利 秀彦、中根 清司、森下 芳孝、浅井 正樹、青木 哲雄、

下之 薗一郎、松本 和啓、白井 徹、太田 光明, H2O2-POD

系における各種色原体の基礎的検討(1), (1984), 4-26

3) 並木 博, 詳解工場排水試験法改訂3版, (1999), 129-137,

日本規格協会

N

N

N

O

O

0

1

2

3

4

5

6

7

Co

ntr

ol

Ph

en

ol

p-M

P

p-E

P

p-C

AL

PS

Re

lati

ve a

cti

vit

y(-

)

Phenolic derivatives

Activating derivatives

Reducing derivatives

Control

試薬 Vmax(µmol/min) Km(mol/l) 吸収波長(nm)

Contorol 0.03576 0.3762 510Phenol 0.01082 0.5348 510p-MP 0.2086 0.453 510p-EP 0.1498 0.7996 510p-C 0.02654 1.8 460ALPS 0.06007 0.672 560

-23-

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多価アルコール存在下でのグリシジルフェニルエーテル

のメタルフリー開環重合

谷口 誠也

高知高専 物質工学専攻

1.緒 言

生体適合性材料や電子材料への展開を目的とし

て,反応系に金属を用いないメタルフリー精密重合

が注目されている.本研究室では,プロトン性化合

物であるエタノール存在下で,テトラ-n-ブチルアン

モニウムフロリド(n-Bu4NF)によるグリシジルフェ

ニルエーテル(GPE)のメタルフリー精密開環重合に

成功している.1)これは,エタノールが連鎖移動剤

として働くことで,オリゴマーの分子量制御に成功

したと考えられる.そこで本研究では,多価アルコ

ール存在下で同重合を展開し,多分岐ポリマーの合

成を目的とした.

2.実 験

2.1 低分子多価アルコール存在下での n-Bu4NF を

重合開始剤とした GPE の開環重合

GPE(10 mmol,1.5 g)に対して,n-Bu4NF および

低分子多価アルコールを 5.0 mol%になるようにそ

れぞれを加え,アルゴンガス雰囲気下 50 ℃,24 h

攪拌重合を行った(Scheme 1).低分子多価アルコ

ールは, 1,3-プロパンジオール(PD),トリメチロ

ールプロパン(TP),ペンタエリトリトール(PE)

である.GPEの反応率は,1H NMR スペクトルから

解析した.反応溶液中の重合物は,メタノール(PD

の系)または,ヘキサンおよび水(TP および PEの

系)による再沈殿法で精製した.1H NMR スペクト

ル解析により重合物の構造決定を行った.また,ゲ

ル浸透クロマトグラフィー(GPC)解析により数平均

分子量(Mn),分子量分布(Mw/Mn)を見積もった.

Scheme 1 Metal-free ring-opening oligomerization of GPE in

the presence of polyalcohol having low molecular weight

2.1 高分子多価アルコール存在下での n-Bu4NF を

重合開始剤とした GPE の開環重合

GPE(10 mmol,1.5 g)に対して,n-Bu4NF および

高分子多価アルコール化合物を 5.0 mol%になるよ

うにそれぞれ加え,アルゴンガス雰囲気下 50 ℃,

24 h 攪拌重合を行った(Scheme 2).高分子多価ア

ルコールは,ポリエチレングリコール(PEG; Mn=600;

重合度=13.2),ポリプロピレングリコール(ジオー

ル型: PPG2 ; Mn=700; 重合度=11.8)(トリオール

型: PPG3 ; Mn=700; 重合度=11/3),ペンタエリス

リトールエトキシラート(PEE ; Mn=797; 重合度

=15/4)である.GPEの反応率は,1H NMR スペクト

ルから解析した.反応溶液中の重合物は,ヘキサン

(PEG,PPG2 および PPG3 の系)またはメタノール

(PEE の系)による再沈殿法で精製した.1H NMR

スペクトル解析により重合物の構造決定および数平

均分子量(Mn)を算出した.また,GPC解析により

数平均分子量(Mn),分子量分布(Mw/Mn)を見積もった.

Scheme 2 Metal-free ring-opening oligomerization of GPE in

the presence of polyalcohol having high molecular weight

3.結 果

3.1 低分子多価アルコール存在下での n-Bu4NF を

重合開始剤とした GPE の開環重合

24 h 後の GPE の反応率は,いずれの系においても

-24-

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ほぼ 100 %だった.したがって,すべての系で停止

反応はなかったといえる.代表例として,TP 存在下

で得られた重合物の 1H NMR スペクトルを,Fig. 1

に示す.4.2 ppm付近にあった TP の末端水酸基プロ

トンに由来するピークが,完全に消失していること

を確認した.また,TP に由来するメチル基およびメ

チレン基プロトンに由来するピークを,それぞれ確

認することができた.したがって,いずれの末端水

酸基からも,連鎖移動反応が生じていると考えられ

る.スペクトル結果より,FCH2-開始末端と TP 開

始末端との比は,20:80 と算出され,TP の水酸基 1

つから生長した GPEの重合度は,4.4 と計算された.

よって,NMRから求めた数平均分子量は 2100 と算

出され,予想される値に近かった.PD と PEについ

ても同様に算出し,結果を Table 1 にまとめた.

Fig. 1 1H NMR spectrum of the resulting product

obtained from the ring-opening oligomerization of GPE

in the presence of TP. *: tetra-n-butylammonium cation.

3.2 高分子多価アルコール存在下での n-Bu4NF を

重合開始剤とした GPE の開環重合

24 h 後の GPE の反応率は,いずれの系においても

100 %だった.したがって,停止反応はなかったと

いえる.代表例として,PPG3 存在下で得た重合物

の 1H NMR スペクトルを,Fig.2 に示す.GPE の重

合物プロトンに由来するピークに加え,導入された

PPG3 のメチル基プロトンに由来するピークを確認

した.低分子 PAを用いた系の結果より,PPG3 の 3

つの水酸基末端から連鎖移動反応が生じたと考えら

れる.スペクトル結果より,FCH2-開始末端と PPG3

開始末端との比は,31:69と算出され,PPG3 の水酸

基 1 つから生長した GPE の重合度は,4.8 と計算さ

れた.よって,NMR から求めた数平均分子量は 2900

と算出され,予想される値に近かった.PEG,PPG2,

PEE についても同様に算出し,結果を Table 1 にま

とめた.

Fig. 2

1H NMR spectrum of the resulting product

obtained from the ring-opening oligomerization of GPE

in the presence of PPG3. *: tetra-n-butylammonium

cation.

Table 1 Results of oligomerization of GPE initiated with

n-Bu4NF in the presence of polyalcohol (PA) a

No PA Conv. [%]b

Yield

[%]

Mn(NMR)b Mn(Theor.)

1 PD >99 33 c 2300 2080

2 TP >99 64 d 2100 2380

3 PE 98 62 d 2100 2490

4 PEG >99 76 d 2600 2600

5 PPG2 >99 64 d 2900 2700

6 PPG3 >99 70 d 2900 2950

7 PEE >99 17 c N.D. 3200

a GPE; 5.0 mmol, n-Bu4NF; 5.0 mol% , in THF b 1H NMR

c Methanol-insoluble part d Sequential reprecipitation (first hexane,

then water)

4.結 言

本研究では,多価アルコール存在下における

n-Bu4NFを用いたGPEのメタルフリー開環重合を

行った.その結果,いずれの系においても重合は停

止しなかった.また,得られた重合物は,分子量制

御された多分岐ポリマーであると示唆された.

文 献 1) Morinaga, H.; Ujihara, Y.; Yuto, N.; Nagai, D.; Endo, T.

J. Polym. Sci., Part A: Polym. Chem. 2011, 49, 5210.

-25-

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メソポーラスシリカとフォトクロミック分子による

光スイッチングデバイスの創製

萩 野 大 輔

米子高専 物質工学専攻

1.緒 言 高分子や無機化合物のように強い結合を分子間に持

たない分子性有機化合物を機能性材料として扱うとき,

その用途の大半は医薬品中の薬効成分に限定される.

近年になって,有機 EL FETの様な分子性固体の柔ら

かさや昇華特性を活かした省電力電子デバイスの実用

化が進められ,その他の新しい機能を探索する基礎化

学研究も盛んに行われてきたと言えるが,未だに分子

性有機材料は電子物性以外の新しい用途について実用

例が見出されていない状況にある.そこで本研究では,

光照射で分子構造が変わるフォトクロミック分子に注

目し,その分子 1 つの変化を材料の機能として発現さ

せることに取り組むことにした.

ジアリールエテンは熱に安定であり,適切な光照

射で生じる両異性体繰の返し耐久性と応答速度が高

い分子である.この物性をスイッチングユニットと

した応用研究は盛んに行われており,蛍光・導電性

・ 磁性等様々な光スイッチングに成功している1).

しかしながら,分子 1つのモルフォロジー変化その

ものを材料に利用した検討例はないことから規則的

な細孔を持つ合成多孔質であるメソポーラスシリカ

(SBA-15)と有機分子によるハイブリッド合成を創製

することで新しい光スイッチング材料を合成するこ

とにした(図-1).

2.実 験 3-1.メソポーラス薄膜(SBA-15) 本研究では Kirstein らの手法 2)を参考にして,導

入分子を溶解させるための溶媒最適化を行うことにより多孔質薄膜を合成した. TEOS:0.2 M

HCl:H2O:EtOH=416:600:360:1580 の混合溶液を加熱撹拌することで,ゾルゲル溶液を調製した.この溶液を別途調製した 1a/P123/THF(1a :P123: THF

=15:1275:82.5)溶液と混合した溶液(ゾルゲル溶液:1a/P123/ THF=5:9)をガラス基板へディップコートさせた後,乾燥処理させることで薄膜試料を作成した.

3-2.メソポーラス粉末(SBA-15)の低温合成

1.7 M HCl 144 ml に,P123 4 gを加えて 40 °Cで

4 h撹拌して調整した鋳型溶液に TEOS 8 g を滴下

によって加え,さらに 2h 撹拌した.この白濁した

溶液を24 hにおよび 100 °Cで水熱合成した混合物

をろ過,洗浄によって as madeのSBS-15を回収し

た.次にSBA-15の鋳型となる界面活性剤を取り除

くために, 12M HCl 20 mlを加え,2 h撹拌した後,

ろ過,洗浄を 4回くり返す酸処理操作を 4回行い,

低温による合成でSBA-15を得た.この過程を XRD

解析と,比表面積測定によって追跡し評価した.

3.結 果 と 結 言

2-1.で作製したジアリールエテンを導入した多孔

質薄膜のXRD測定を行うと,六方晶構造の規則性

を示すピークが観測され格子定数 a=9.75 Åのとな

り,文献値 a=9.80 Å3)とほぼ同様の値になることを

確認した.次にこの薄膜にカットフィルター

(UV-29+UV-D33)を通した紫外光を照射して得られ

る吸収スペクトル変化を観測したところ,薄膜内で

もフォトクロミズムが起きることが確認され,この

異性化反応で生じる可視部の吸収体の極大吸収波長

は溶媒効果では見られない長波長シフトする現象が

起こった.これは,ジアリールエテンがメソポーラ

ス細孔内で分子の会合が起こったか,細孔内におけ

る閉環体の分子構造に影響を与えることによって溶

液中とは異なる電子状態が生じたためであると考え

られる.

今後の応用として,細孔内へ有機分子のグラフフテ

1b

1b

1b 1b

1a

= =

Surfactant:

X=H, NO2

1a 1a

1a 1a

1b

図 1.細孔内におけるジアリールエテンの

フォトクロミズム

-26-

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ィングや,物質の出し入れ試験を行うにはメソポー

ラスシリカの合成を有機物の分解が起きない 300

ºC コ以下で全ての操作を行う必要がある.2-2.で合

成したSBA-15の鋳型である界面活性剤を分解除去

するには,本来 540 °Cの熱で焼成する必要であっ

たが,本研究では細孔内の界面活性剤を酸処理だけ

で取り除くことにした.その結果,酸処理 4回目に

は焼成処理後とほぼ同様のd値と比表面積が確認さ

れ,酸処理だけで界面活性剤を完全に除去できるこ

とが分かった.この理由として,酸性水溶液中では

シラノール基がほとんど酸解離することが無いため

に静電的相互作用で界面活性剤を保持することが出

来なくなったことが考えられる.また,酸処理回数

による細孔の変化をXRDパターンで追跡すると,

酸による洗浄回数が増加するたびにシロキサン結合

の進行による細孔径の縮小が確認され焼成で作製し

たシリカと同じ傾向が見られた.

今後は,シランカップリング剤を用いて細孔内へ有

機分子を固定させる方法を検討していくことで,一

分子の光スイッチングを材料化できる有機-無機ハ

イブリット材料の創生に繋げていく予定である.

文 献 1) 松田建児, 山口英裕, 谷藤尚貴: 機能材料,

28,30-37(2008). 2) J. Kirstein, B. Platschek, C. Jung, R. Brown, T. Bein, C.

Bräuchle: Nature Mater., 6, 303-310(2007).

3)芝崎祐二 , 野村順子 : 有機合成化学協会誌 , 66,

31-42(2008).

-27-

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スピネル型 MgFe2O4への B3+置換と交流磁場中での発熱特性

白 石 勇 人

新居浜工業高等専門学校 生産工学専攻

1.緒 言

がんは日本人の死因の第 1 位に挙げられる病気で

あり,国内で年間に 36万人の人ががんにより死亡し

ている(厚生労働省人口動態統計より).さらに,が

ん患者数や死亡数は年々増加傾向にあるが,そのよ

うな病に対し,完治に至らしめる治療法は現在も確

立されていない.実際の医療では,外科手術によるが

ん腫瘍の摘出,抗がん剤による化学治療などの処置

が一般的に行われているが,外科手術では見えない

微小がん,転移先のがん全てを摘出することは困難

であり,正常な細胞を傷つけてしまう可能性が極め

て高い.そこで,近年新しいがんの治療法として交流

磁場焼灼法が提案されている.交流磁場焼灼法は磁

性材料をがん腫瘍部に留置させ,外部から交流磁場

を印加することで磁性材料自身を発熱させる方法で

あり,本治療法の確立には交流磁場中で優れた発熱

能力を持つ磁性微粒子材料の開発が求められている.

そこで本研究では交流磁場中で優れた発熱能力を有

するフェライト材料を開発することを目的とし,市

販品のフェライトの中で最も高い発熱を有する

MgFe2O41) の Fe3+ の 一 部 を B3+ で 置 換 し た

MgBXFe2-XO4 を作製し,交流磁場中での発熱特性に

ついて検討を行った.

2.実 験

出発材料には MgO,Fe2O3,B2O3を用い,化学量論比

に従い混合,焼成することで目的の酸化物を得る固

相反応法により作製を行った.混合粉末は 900℃で

仮焼成した後,再び乳鉢にて粉砕と混合を行

い,1200 ℃で焼成することにより,目的とする B3+

置換型フェライト酸化物を作製した.

得られた試料についてCu-Kα線をX線源とする粉

末 X 線回折測定(Rigaku RINT 2000),交流磁場中での

加温実験,ヒステリシス損失の測定等のキャラ

クタリゼーションを行った.

3.結 果

3-1 XRD 結果

Fig.1に1200℃で焼成したMgBXFe2-XO(X=0~1.0)

のXRD測定結果を示す.X=0.4まではBの置換量が

増加するのに伴い,MgFe2O4 のピークが高角度側に

シフトしているようにみられた .このことか

ら,X=0.4 までは Fe3+の位置にイオン半径の小さい

B3+が置換し,格子定数が低下したと推察できる.ま

た X=1.0 の XRD 測定結果では,MgFe2O4相のピー

ク強度が大幅に減少しており ,34 °付近の

MgFeBO4 を示すピーク強度が最大となっているこ

とがわかった.

3-2 加温実験

Fig.2 に 1200℃で焼成した MgBXFe2-XO4の交流

磁場中における加温実験結果を示す.全ての試料に

10 20 30 40 50 60 70 80 90

θ

Inte

nsi

ty/a

rb.u

nit

X=0

X=0.2

X=0.4

X=0.6

X=0.8

X=1.0

● ●● ●

●● ● ●●

▼■

▼▼

▼ ▼▼

▼▼ ■ ■

●:MgFe2O

4▼:MgFeBO

4■:unknown

Fig.1 The XRD result for B substituted MgBXFe2-XO4.

All the samples were calcined at 1200℃.

-28-

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ついて交流磁場を 20 分間印加させることで温度

上昇がほぼ飽和することから,加温実験は全て 20

分間行うこととした.グラフより,X=0.4までは置

換量 X の増加に伴い,発熱特性が向上した

が,X=0.6 以上では X の増大に伴い発熱特性が減

少する傾向がみられた.特に,X=0.9以上の試料に

ついては試料の発熱はほぼ見られなかった.XRD

の結果から,MgFe2O4のピークが高角度側にシフ

トしていた X=0.4 の試料については,今回作製し

た中で最大の発熱(ΔT=38℃)を示しており

MgFe2O4中へのB3+の微量置換が発熱能力の向上

に影響を与えると考えられる.

3-3 ヒステリシス損失

一般的に交流磁場中での発熱にはヒステリシス損

失が強く影響すると考えられている。そこで,Fig.3

に 1200℃で焼成した MgBXFe2-XO4のヒステリシス

損失測定結果を示す.Fig.3 より,ヒステリシス損失

の値は B の置換量 X=0.1 のとき最大の値を示した.

しかし,X=0.1 の試料の発熱能力はわずかに向上し

たのみであり,最大の値を示さなかった.また,最大

の発熱能力を示した X=0.4 についても,ヒステリシ

ス損失は低い値を示しており,発熱特性とヒステリ

シス損失に明確な依存性は見られなかった.さらに,

ヒステリシス損失の値はXの増加に伴い低下する傾

向が見られ,発熱特性も低下していた.

4.結 言

固 相 反 応 法 に よ り 1200 ℃ で 焼 成 し た

MgBXFe2-XO4は,X=0.4 までの試料では MgFe2O4の

立方晶中にBが微量に置換したMgBXFe2-XO4系フェ

ライトを作製することができたと考えられる .ま

た ,B の置換量 X=0.4 以上では相分離が起こ

り,MgFe2O4とMgFeBO4の混合相を形成することが

わかった.交流磁場中での加温実験結果から,B3+の

置換により発熱能力が向上し,X=0.4 の試料で最大

の発熱能力を示した.これは,MgFe2O4 中への B3+

の微量置換が結晶を歪ませ,発熱能力の向上に影響

を与えたためではないかと考えられる.しかし,今

回の研究では,交流磁場中での発熱とヒステリシス

損失の間に明確な依存性は認められなかった.

文 献

1) T. Maehara, Selection of Ferrite Powder for Thermal

Coagulation Therapy with Alternating Magnetic Field,

J. Mater. Sci., 40-1 (2005) 135-138

0

5

10

15

20

25

30

35

40

0 0.2 0.4 0.6 0.8 1

Tem

pera

ture

enh

ance

men

t(⊿T)/℃

X value/mol%

Fig.2 Heat generation ability for B3+substituted MgBxFe2-xO4.

0

50

100

150

200

0 0.2 0.4 0.6 0.8 1

Hys

tres

is lo

ss m

W・

g-1

X value/ mol %

■■■

■■

Fig.3 Hysteresis loss for B3+substituted MgBXFe2-XO4

calcined at 1200℃.

-29-

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逆共沈法による Y3-xDyxFe5O12の作製と交流磁場中での発熱特性

中 野 正 揮

新居浜工業高等専門学校 生産工学専攻

1.緒 言

現在,新しい癌の治療法として「交流磁場焼灼療法」

が注目されている.本治療を確立させるため,使用する

材料には生体適合性を持つ 50nm以下の微粒子であり,

交流磁場中で高い発熱能力を有する磁性材料が求めら

れている.一般的に,フェライト系材料の交流磁場中で

の発熱特性は材料のヒステリシス損失に強く依存する

と考えられており,ヒステリシス損失を増大させるこ

とで発熱能力は向上すると考えられる.そこで本研究

では,最近,優れた発熱能力があるとわかってきたガー

ネット系フェライトY3Fe5O12に,イオン半径の小さい

Dy3+イオンを置換させたY3-XDyXFe5O12を作製するこ

とでヒステリシス損失を増大させ,交流磁場中での発

熱能力を向上させることを目的として研究を行った.

2.実 験

2.1 Dy置換型Y3Fe5O12の作製

目的とするY3-xDyxFe5O12は,金属硝酸塩水溶液を水

酸化ナトリウム中に滴下することで水酸化物沈殿を生

成する,逆共沈法により前駆体粉末を作製し,焼成する

ことでフェライトの作製を行った.出発材料には

Y(NO3)3・6H2O, Dy(NO3)3・6H2O ,Fe(NO3)3・9H2O を

使用し,それらを 200mlの純水中に溶解させ,80℃以上

に加熱した 6mol/lの水酸化ナトリウム水溶液中に滴下

を行った.滴下後,1時間熟成を行い,pH を 7まで下げ

るため,純水による洗浄濾過を行った.その後乾燥させ,

乳鉢を用いて粉砕を行い,前駆体粉末を得た.前駆体粉

末は昇温速度を 2℃/minとし,焼成温度を, 1100℃,

1200℃の各温度で 1時間保持を行い,目的とするフェ

ライトを作製した.得られた試料は,Cu-Kαを X線源と

した粉末 X線回折.交流磁場中での発熱実験,ヒステリ

シス損失の測定を行った.

2.2 加温実験

今回作製した全ての試料について,交流磁場中での

発熱実験を行った,実験装置をFig.1 に示す.試料粉末

1g をパイレックスガラス製の容器に入れ,銅製のコイ

ルの中心位置にくるようセットした.高周波電源から

電流を流し交流磁場を発生させ,放射温度計により試

料温度の測定を行った.測定条件は,周波数を 370kHz,

磁場強度を1.77kA/mとなるように調整し,交流磁場を

印加した.加温時間は試料の温度上昇がほぼ飽和に至

る 20 分間行った.

Fig.1 Apparatus for measurement of sample

temperature in AC magnetic field.

3.結 果

3.1 粉末X線回折結果

粉末X線回折結果(図は示さず)より,今回作製した全

ての試料について, Fe2O3 のピークが僅かに見られた

が,ほぼガーネット型フェライトのピークであり,目的

とする酸化物を作製することができたと考えられる.

3.2 加温実験結果

Fig. 2 には,X=0, 0.5,1.0,1.5,3.0 の試料を, 1200℃

で焼成した試料の加温実験測定データを示す.横軸は

測定経過時間,縦軸は試料粉末を交流磁場中に置いた

時の,室温からの上昇温度ΔTを示す.

グラフより,全く置換させていない X=0,3.0 の試料

についてはあまり高い発熱を示さなかったが, X=0.5

置換させた 1200℃焼成試料については著しい発熱能

力の向上が見られた. また,いずれの置換型試料につ

いても,X=0 の試料よりも発熱特性が向上していたこ

とから,Y3Fe5O12 への Dy 置換は発熱特性の向上に効

果的であると考えられる. X の置換量と発熱特性の関

係において明確な相関関係は見られず,1200℃で焼成

-30-

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X=0.5 の試料においてのみ特異的に発熱能力の著しい

向上が見られた.

Fig. 2 Heat generation ability forY3-xDyxFe5O12 prepared

by reverse coprecipitation method.and calcined at

1200℃

3.3 ヒステリシス損失測定結果

X=0.5 の 1200℃で焼成した試料について,B-Hア

ナライザー(SY-8528,Iwatsu,co,ltd)により測定した

ヒステリシス損失の測定結果を Fig.3 に示す.

Fig.3 Hysteresis loss for Dy subttituted Y3-xDyxFe5O12

prepared by reverse coprecipitation method.

All the samples were calcined at 1200℃

グラフより,加温実験結果では低い発熱特性を示し

たX=0の試料について,ヒステリシス損失の値は高

い数値を示した.また,Dyを置換させた試料は,発熱

能力が増大したにも関わらず逆にヒステリシス損失

の値が低下していることが分かった.一般的に,交流

磁場中のフェライトの発熱にはヒステリシス損失が

強く影響すると考えられているが,今回の結果から

Y3Fe5O12系置換型フェライトの発熱はヒステリシ

ス損失に依存しておらず,異なる因子で発熱能力が向

上したと考えられる.

3.4 周波数依存測定結果

ヒステリシス損失以外の発熱因子として,ネール緩

和・ブラウン緩和が報告されている.ブラウン緩和は交

流磁場中での粒子の回転に起因する発熱であるが,今

回のように高温で焼成している粗大粒子においてはこ

れによる発熱は考えにくい.そこで, ネール緩和の影

響について検討を行った.ネール緩和とは,粒子径が一

定の磁性材料に一定の交流磁場を与えることで磁壁

移動の遅れから磁気モーメントの回転が起こり特異

的に高い発熱能力を示すものである.そこで,ネール

緩和による発熱の影響を確認するため,最も高い発熱

を示したX=0.5mol,1200℃焼成の試料について周波

数を200kHz~370kHzまで変化させ加温実験を行った

結果を Fig.4 に示す.グラフより,周波数を変化させた

試料の発熱能力は,350kHz まではほぼ直線的に向上

していることが分かった.しかし,370kHzで急激な温

度上昇が見られた.このことから,今回の発熱はネール

緩和に依存しているのではないかと考えられる.

Fig.4 Relationship between frequency and temperature

enhancement for Y2.5Dy0.5Fe5O12 prepared by reverse

coprecipitation method. Calcined at 1200℃.

4.結 言

逆共沈法により,ガーネット型フェライトを作製す

ることができ,XRD 結果からDy 3+イオンがY3Fe5O12

中に置換していると考えられる.また, Y3Fe5O12への

Dy 3+置換は発熱特性の向上に効果的であり,特にDy 3+

を 0.5mol 置換した試料は最も高い発熱を示した.しか

し,今回作製した置換型フェライトの発熱特性には,一

般には強く影響するとされているヒステリシス損失に

依存しておらず,異なる別の因子により発熱すること

が分かった.ネール緩和,ブラウン緩和に着目し周波数

依存について検討を行ったところ,370kHz の時に発熱

能力が向上することが分かり,このことから,ネール緩

和について考慮する必要があると考えられる.

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減圧気相系における固定化酵素によるキラル化合物の合成

溝渕 美沙希

高知高専 物質工学専攻

1.緒 言

近年,医薬品分野において関心が持たれているア

ルコール脱水素酵素を触媒としたキラルアルコール

合成反応を気相系で行うことが検討されている 1-4).

減圧気相環境下における酵素反応は,基質の気化を

容易にし,基質濃度を高めることができ,高効率な

物質生産の可能性を有している.本法の工学的な基

礎の確立のためには,酵素起源の選定や酵素活性に

影響を及ぼす因子を検討することが重要である.

本研究の目的は,減圧気相環境下における固定化

アルコール脱水素酵素によるキラルアルコール合成

反応プロセスを確立する基礎として,効果的な触媒

活性を示すアルコール脱水素酵素起源の選定ならび

に反応活性と立体選択性に対する反応系内の減圧度

と水分量の影響を実験的に検討することである.

2.実 験

2.1 試薬

アルコール脱水素酵素として,Parvibaculum lava-

mentivorans 起源 (ADH-PL),Deinococcus rediodu-

rans 起源 (ADH-DR),equine 起源 (ADH-e )を用い

た.補酵素は NADH である.固定化担体は非多孔性

ガラス粒子 (直径 0.25-0.35 mm) とした.反応基質

は,4-メチル-2-ペンタノンであり,NADH 再生

反応を行うために 2-プロパノールを用いた.緩衝

液は,KH2PO4-Na2HPO4 水溶液 (I = 0.05,pH 7.0)

とした.

2.2 固定化アルコール脱水素酵素の調製

それぞれの起源のアルコール脱水素酵素原液を

個別に 165 μl取り,それらにNADH 110 μl (1.8 mg/50

ml) 並びにリン酸緩衝液 825 μl加え,混合液を調整

した.それぞれの混合液1000 μlをガラス粒子 500 mg

に滴下した.この混合物を 4℃で 3 時間冷却し、つ

いで 300 hPa で 2 時間、100 hPa で 2 日間減圧乾燥し

水分を除去することにより固定化酵素を調製した.

調製した固定化酵素は使用するまで 4℃で保存した。

2.3 反応操作

常圧ならびに減圧気相環境下での固定化酵素は,

閉鎖系循環型反応器を用いて行った (図 1) .本研究

では,生成物と未反応基質の定量をオンラインガス

クロマトグラフ (キラル体用キャピラリーカラム,

検出器 FID) を用いて行った.一方,液相系におけ

る酵素活性は紫外可視分光光度計を用いて NADH

の 340 nmでの吸光度の減少量より求めた.反応温

度は,313 K である.

本研究では固定化アルコール脱水素酵素の反応活性

を初期反応速度を実測することにより評価した.一

方,固定化酵素の立体選択性をエナンチオ過剰率を

用いて評価した.

図 1 閉鎖系循環型反応器

2.4 モデル反応

本研究では,固定化アルコール脱水素酵素を触媒

とした補酵素 (NADH) 再生を伴う 4-メチル-2-

ペンタノールの連続的な合成反応をモデル反応とし

た.なお,補酵素の再生の為の基質として 2-プロ

パノールを用いた.

図 2 本研究におけるモデル反応

-32-

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3.結 果

3.1 3 起源のアルコール脱水素酵素の反応活性

表 1 に液相系と気相系における 3 起源のアルコー

ル脱水素酵素の反応活性を示す.

本研究で用いた 3 起源のアルコール脱水素酵素に

おいて,ADH-PLが 4-メチル-2-ペンタノンと 2

-プロパノールの両者の基質に効果的に反応活性を

示し,気相系への応用が可能であることが認められ

た.これより,減圧気相系における反応は ADH-PL

で行うこととした.

表 1 液相系と気相系における 3 起源のアルコール脱水素

酵素の反応活性の比較

3.2 反応系内の減圧度の影響

図3に初期反応速度ならびにエナンチオ過剰率に

対する反応系内の絶対圧の影響を示す.本研究では

絶対圧218 hPaから921 hPaの範囲において効果的な

反応の進行が認められた.また,この圧力範囲にお

いて初期反応速度が一定の値を示すことにより,減

圧環境下においても酵素反応が効果的に進行するこ

とが示された.また,エナンチオ過剰率も一定の高

い値を示すことより,減圧環境下においても酵素の

立体選択性が維持できることが合わせて示された.

この結果から,減圧気相環境下においてアルコール

脱水素酵素反応によるキラルアルコール合成反応を

行うことは,有益であるものと考えられる.

図3 初期反応速度 (●) ならびにエナンチオ過剰率 (▲)

に対する反応系内の絶対圧の影響

3.3 反応系内の水分量の影響

図 4 に反応系内の絶対圧を 347 hPa に固定した際

の初期反応ならびにエナンチオ過剰率に対する反応

系内の水分量の影響を示す.また,比較のために標

準大気圧 1013 hPa の結果を合わせて示した.絶対圧

347 hPa において初期反応速度は,水分量とともに

指数的に増加する傾向を示した.一方,エナンチオ

過剰率は水分量 1500 μmol/l以上で一定の高い値を

示した.また,標準大気圧 1013 hPa の結果と比較す

ると,347 hPa の条件での初期反応速度とエナンチ

オ過剰率の変化は等しかった.これより,酵素の反

応活性と立体選択性の水分量依存性は減圧環境下に

おいても変化しないことが考えられる.

図4 初期反応速度 (●1013 hPa, ○347 hPa) とエナンチオ

過剰率 (▲1013 hPa, △347 hPa) に対する反応系内の

水分量の影響

4.結 言

減圧環境下において NADH 再生反応を伴う 4-

メチル-2-ペンタノールの連続的な合成反応を行

えるアルコール脱水素酵素として Parvibaculum

lavamentivorans 起源を選定した.また, 減圧反応に

おける固定化酵素活性ならびに立体選択性が常圧反

応と同等であり,反応系内の水分量が重要な操作因

子であることを明らかにした.

文 献

1) K. Nagayama, A. C. Spieß, J. Büchs, Chem. Eng. J.,

207-208, 342-348 (2012)

2) M. Mizobuchi, K. Nagayama, Abstracts of the 15th

Asian Chemical Congress, Green Synthesis &

Catalysis (2013)

3) 溝渕美沙希,長山和史,化学工学会第 45 回秋季

大会,要旨集 ZE2P08 (2013)

4) 溝渕美沙希,長山和史,第 16 回化学工学会学生

発表会 (堺大会) 要旨集 M118 (2014)

0.0 200.0400.0600.0800.01000.0

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Water concentration [ μmol/l ]

-33-

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Er3+添加 LaOCl ナノ蛍光体の作製と粒径制御

森 本 響 阿南高専 電気・制御システム工学専攻

1.緒 言

Er3+添加 LaOClナノ蛍光体は,近赤外光励起によるアップコンバージョン発光を示すため,高セキュリテ

ィ認証印刷やバイオイメージングへの応用が期待され

ている.高セキュリティ認証への応用には 100-200 nm,バイオイメージングには細胞の大きさに合わせた

20-200 nmの大きさのナノ蛍光体が必要である. Er3+添加 LaOClナノ蛍光体は,出発原料水溶液の乾燥,コアシェル前駆体,コア回収処理を経て簡便に作

製することができる. Er3+添加 LaCl3・nH2Oを,1時間 N2中加熱することにより,自己加水分解反応が起

きる.自己加水分解反応 1)とは,内包する結晶水によ

る加水分解反応であり,次式で表される. LaCl3・H2O → LaOCl + 2HCl LaCl3・H2O を加熱すると結晶水が揮発することにより大部分が無水 LaCl3になるが,一部残留した結晶水と LaCl3が反応し,HClが揮発するとともに,水溶性の LaCl3シェルに難水溶性の LaOClが析出し,図 1に示すようなコアシェル構造を形成する.反応後シェ

ルを水溶除去することにより,LaOClコアを回収することが可能である(コアシェル法). 前述のように用途に応じて適切な粒径を選択する必

要があるが,コアシェル法において,粒径を制御する

方法は報告されていない.コアシェル法において粒径

に影響すると考えられる要因は以下の2つあると考え

られる.1つは出発溶液を乾燥させて得られた水和物

の粒径のバラつきである.従来のように出発溶液を恒

温乾燥によって乾燥させた場合,粒径のバラつきが大

きい.本研究では噴霧乾燥に着目し粒径の均一化を試

みた.2つめは,自己加水分解時のN2中焼成温度であ

る.本研究では,N2中加熱の温度を 500-800℃で変化させ,コアシェル法における粒径の制御を試みた.

図 1 コアシェル法によるLaOClナノ粒子の作製プロセス模式図.

2.実 験 方 法

塩化ランタン七水和物 LaCl3・7H2O(純度 97.0%,和光純薬株式会社)をプラスチック製のバランストレイを用いて電子天秤で 92.8425 gを秤量した.メスフラスコを用いて蒸留水に溶解し,0.5 mol/lの LaCl3

水溶液を 500 ml作製し,この溶液を出発溶液とした. 出発溶液を噴霧乾燥装置(MDL-050B:藤崎電機株式会社)により高速噴射し即座に高温熱風で乾燥させることにより,LaCl3・nH2O 粉末を作製した.このときの運転条件として,入口温度を 200℃,給気風量を 1.00 m3/min,エアー圧力を 0.2 MPa,流体流量を 5 ml/minとした.噴霧後,バグフィルターに付着した LaCl3・nH2O粉末を,ブラシで回収した. 噴霧乾燥によって作製した LaCl3・nH2O粉末を 4 g秤量して,アルミナボートに移した.これを,あら

かじめ 250℃まで昇温させた電気炉(MSFT-1520:山田電機株式会社)の中で 40分加熱することによって,LaCl3・nH2Oの残留水和水を離脱させた. 電気炉から取り出した LaCl3・nH2O をアルミナボートに乗せたまま 800℃まで昇温させた管状炉(TMF-500N:アズワン株式会社)で焼成させた.これにより自己加水分解反応を促し,LaOCl コアと LaCl3

シェルからなるコアシェル粒子を作製した.同様に

焼成温度 500℃,550℃,600℃,700℃についても作製を試みた. 自己加水分解させた粉末を 5 mg秤量した.200 mlのビーカーに 100 mlの蒸留水を入れ,攪拌しながら秤量した粉末を少しずつ投入した.このとき,pHが2-3 を保持するように,1 mol/l の希塩酸を少しずつ添加しながら,1 時間攪拌を続けた.これにより,コアシェル粒子のシェルのみを溶解し,コアが分散

-34-

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した溶液を得た.コアの分散溶液を,遠心分離機

(KUBOTA 6200:久保田商事株式会社)によって遠心分離を行い,コアと上澄み液に分離した.上澄み液

を捨て,沈殿物を遠沈管に入れたまま,真空乾燥機

(ADP-300:ヤマト科学)で 100℃の温度で 30分乾燥させた. 得られた粉末は,メノウ乳鉢で粉砕し,Si 無反射板に充填し,X 線回折装置(X’Pert PRO MPD: PANalytical)により結晶構造を測定した.このときX 線は Cu 管球の Kα線,X 線出力設定は 40 mA,45kV,発散スリット幅は 0.871 °,受光スリット幅は 0.1 mmとした.また,真空乾燥を終えた遠沈管に蒸留水を入れ,超音波振動により沈殿した粉末試料

を再分散させた溶液を測定用の試料溶液とし,動的

光散乱法(DLS)測定装置(UPA-EX150 型日機装株式会社)を用いて粒度分布を測定した.測定はいずれも室温で行った.

3.実 験 結 果

原料溶液を噴霧乾燥して得られた粉末を N2 中で

500℃から 800℃の温度で焼成し,得られたコアシェル粒子からシェルを除去して得られた試料の粉末 X線回折の測定結果を図 2に示す.550℃以上の温度で焼成した試料は LaOCl以外の余分なピークは確認できず LaOCl が単相で作製されたが,500℃焼成した試料は LaOClと水酸化物である La(OH)3の多結晶構

造となった.また,焼成温度が低くなるほど LaOClの結晶性が低下した.次に,DLSにより測定した粒度分布および平均粒径を図 3に示す.500℃,550℃,600℃,700℃,800℃で作製した試料の平均粒径はそれぞれ 42 nm,91 nm,100 nm,139 nm,385 nmで焼成温度が高いほど粒子径が大きくなった.これは,

粉末を融点以下の温度で加熱した場合,加熱する温

度が高くなるほど粒子同士の焼結が進行したためで

あると考えられる.また,応用する際の上限となる

200 nm 以下の粒子の割合も,800℃焼成した試料以外は 90%を超えた.

500℃で焼成した粉体は LaOCl のほか水酸化物など他の結晶相が多くみられることがわかった.これ

らの水酸化物はフォノンエネルギーが高く発光効率

を低下させる要因となることが知られている 2)ため

蛍光体としての実用性は期待できない.そのため粉

末の焼成温度は粒径を重視するなら 550℃,粒径が大きく変化せずより高い結晶性を重視するなら

600℃が適していると考えられる.500℃焼成で水酸化物相が残留した要因として,自己加水分解が完了

するには温度が低すぎたことが考えられる.

20 30 40 50 60

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nsity

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●●

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◎ ◎●●●

図 2 焼成温度変更により作製したLaOCl粒子の粉末X線回折

パターン.

10 50 100 500

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図 3 焼成温度変更により作製した LaOCl粒子の粒度分布.

4.結 言

本研究では,噴霧乾燥とコアシェル法の組み合わ

せにより LaOClの作製を試みた.コアシェル法における N2中加熱温度を 550-700℃とすることにより,LaOClコアの平均粒径を 91-139 nmの範囲で制御することができた.

文 献 1) Tomoya Konishi,Masahiro Shimizu,Yuji Kameyama,

Kohei Soga, “Fabrication of upconversion emissive LaOCl phosphors dopedwith rare-earth ions for bioimaging probes,” J. Mater. Sci.: Mater. Electr. 18 S183-186(2007).

2) Kohei Soga, Wenzhong Wang, Richard E. Riman,J. Bryan Brown and Kurt R. Mikeska, “Luminescent properties of nanostructured Dy3+- and Tm3+-doped lanthanum chloride prepared by reactive atmosphere processing of sol-gel derived lanthanum hydroxide,” J. Appl. Phys. 93 (5), 2947-2951(2003).

20-200 nm

-35-

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高濃度汚濁排水が流入河川微生物群集構造に及ぼす影響評価高濃度汚濁排水が流入河川微生物群集構造に及ぼす影響評価高濃度汚濁排水が流入河川微生物群集構造に及ぼす影響評価高濃度汚濁排水が流入河川微生物群集構造に及ぼす影響評価

宮 川 龍 馬 米子高専 物質工学専攻 1.緒1.緒1.緒1.緒 言言言言 鳥取県西部を主な流域とする加茂川は上流部に農業集落排水施設(成実第一処理場)が存在し,農村部における排水処理を行っている.処理は好気性微生物を主成分とした活性汚泥を用いて,有機物を除去する方法がとられている.しかし,この方法では N(窒素),P(リン)は除去されにくいために,処理水は放流先の河川の水質と比較し,N,Pの濃度が高くなっている 1).こうした問題を抱えた処理水が河川に放流されると河川は常に高濃度汚濁物質にさらされるため,生態系に影響を与える可能性が考えられる.そこで本研究では加茂川および処理場周辺の水質の調査,ならびにキノンプロファイル法による土壌中の微生物群集構造の解析を行うことで処理水による水質環境の変化が河川底質の生態系にどのような影響を与えているか調査を行った. 2.実2.実2.実2.実 験験験験 方方方方 法法法法

2.1 サンプリング位 サンプリング地点を図 1 に示す.

図 1 サンプリング地点 サンプリングは加茂川(A~F)および成実第一処理場周辺(1~7)の合計 13地点にて 2013年 3月 5日から 12月 19日の間で,月に 2回合計 18回行った.採泥は河川底質の表層10cm部分を採取した.地点2のサンプルは,採水試料については処理場から放流された水を,土壌は処理水放流地点直下の河川の土壌を採取した. 2.2 水分析項目 水分析は溶存酸素濃度(DO),クロロフィル a,全窒素(T-N),全リン(T-P),浮遊物質量(SS),化学的酸素要求量(COD)を測定した。DO はDO計(HORIBA),クロロフィル a と全窒素(T-N)と全リン(T-P)は分光光度計 (日本分光 V-550)を用いて測定した.各項目の測定法はクロロフィル aのアセトン抽出法を除き JIS K 0102に準拠し行い,DO は採水時,その他の項目は採水時から48時間以内に分析を行った. 2.3 土壌分析項目 土壌分析は強熱減量,粒度分布測定,キノンプロファイル分析(微生物量及び群集構造解析)の 3 項目を行っ

た .分析は成実第一処理場周辺 8 地点 (地点1,2,3,4,5,6,7,B)にて 2013年 3月 15日に採取したもの,粒度分布と強熱減量は9月16日に採取したものを用いた. 強熱減量は JIS. A 1226に準拠し,目開き 2mmの篩に通して脱水乾燥させた試料 10g をるつぼに入れて600℃電気炉内で 45 分間加熱した後,放冷したものを測定した. 粒度分布測定は JIS A 1204に準拠して試料 50gを篩に 30分間かけた. キノン抽出は,乾燥試料に対してクロロホルム・メタノール抽出とヘキサン抽出を行い,固相吸着カートリッジを用いた夾雑物の除去およびユビキノン(UQ)・メナキノン(MK)分画を行った.キノンの定量は、HPLCによる各キノンの持つ吸収極大波長の検出面積を用いて行った.また,処理水中に混入している浮遊物質に関してもキノンプロファイル法を用いた分析を行った. 3.実3.実3.実3.実 験験験験 結結結結 果果果果 3.1 水分析結果 各地点の T-N,T-P の結果を図 2 と図 3 に示す.

図 2 T-N の分析結果

図 3 T-P の分析結果

T-P,T-N は地点 2 (処理水)が最も高い値を示し,放流後の河川において下流に位置する地点 3 でもその影響が表れている.加茂川流入後は希釈されているものの,処理水の影響を受けない上流側に位置する地点 4 の値と比較すると地点 5,地点 7 の値はわずかに高くなっていた.

中海加茂川橋本川加茂川

成実第一処理場周辺DF CA BE 1 3 4 657成実第一処理場 橋本川加茂川Google mapC

流入地点 20

2

4

6

8

10

12

14

16全窒素(mg/L) 76541FEDCBA 320.0

0.5

1.0

1.5

2.0

2.5

3.0

0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14

全リン(mg/L) 76541FEDCBA 320

-36-

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3.2 土壌分析結果 成実第一処理場周辺 8 地点(地点 1,2,3,4,5,6,7,B)のキノン量を図 3 に示す.

図 3 各地点におけるキノン量 図 3 より地点ごとで微生物量の差が明確に生じており,特に地点 1(処理水流入前)と比較して地点 2(処理水流入直下)の土壌中で急激に微生物量が増加していることが分かる.これは処理場で用いられている汚泥が処理水に混入し河川へ流出していることが原因と考えられる .そのため処理水を 10L 採取して,0.2µm のろ紙で浮遊物質を採集し,キノン分析を行った.処理水中のキノン分析と処理場前 3地点の土壌中のキノン分析結果を図 4 に示す.分析結果は PQを組成から除き UQ・MK をまとめて示した.また,1%を下回る成分については UQ-Others, MK-Others としてまとめた.

図 4 処理水中の汚泥と地点 1,2,3のキノン組成

地点 1 の組成と比較し,好気性微生物を多く含んだ処理水の流入直下に当たる地点 2では,わずかに好気性微生物の組成が増えていることが分かる. ここで,異なるキノンプロファイルの相違の可視化をするために式(1)で示される非類似度を用いる.(1に近いほど組成が異なる.)

∑ −= kjki ffjiD2

1),( (1)

i,j: 微生物群 fki: iのキノン分子種 kの存在比 (-) fkj: jのキノン分子種 kの存在比 (-) その結果,処理水中汚泥のキノン組成との各地点の非類似度をみると,地点 1 は 0.51,地点 3 は 0.70 だったが地点 2 は 0.43となり,非類似度の値から 3地点中最も近い組成となった.したがって,これらの結果から処理水流入直下の土壌中では処理に用いられて

いる汚泥由来の微生物が土壌に定着して,微生物量の増加に影響していると考えられる. 次に処理場周辺における処理水が流入している 4地点 (3, 5, 7, B)と処理水が流入していない 2 地点(4, 6)のキノン組成について図 5 に示す.

図 5 地点 3,4,5,6,7,B におけるキノン組成 処理水が流入していない地点(4, 6)では UQ の組成が高い.これに対して処理水が流入している地点(3,

5, 7, B)では MK 組成が増大しており,下流部に行くにつれて減少傾向にある.このことから処理水の影響により河川底質の微生物叢が嫌気性微生物側に偏っていることが分かった.これは,脱窒菌など栄養塩を代謝する嫌気性微生物が増加しているためであると考えられる. 4.結4.結4.結4.結 言言言言 処理水は処理で用いられている汚泥と多量の N,Pなどの栄養塩を含んでいることが分かった.また処理水が河川に放流されることで流入直下の土壌中では排水処理に用いられている汚泥由来の微生物が定着することで微生物量が増加しており,下流部では嫌気性微生物叢が増大することが明らかになった. 文文文文 献献献献 1) 平成 24年度農業集落排水処理施設管理年報, 米子市下水道部.

0

0.1

0.2

0.3

0.4

0.5

キノン量(μmol/kg

)76541 B32 76541 B32

0% 20% 40% 60% 80% 100%

436758

0% 20% 40% 60% 80% 100%

0% 20% 40% 60% 80% 100%

132処理水中汚泥

-37-

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マイクロ波による窒化セラミックス合成に関する研究

戸 田 修 允

新居浜高専 生産工学専攻

1.緒 言

工業的に用いられるセラミックスは窒化物,酸化

物,炭化物と多岐にわたっている.そのなかで,窒

化チタン(TiN)は耐摩耗性,耐食性に優れ,さら

に硬度,強度も高いために切削工具,機械部品,プ

ラスチック成型用の金型などに利用されている.ま

た,炭化物である炭化ケイ素(SiC)は硬度,耐熱性,

化学的安定性に優れることから研磨材や耐火物と

して活用されている.これらに化合物は,従来の合

成方法(CVD,雰囲気炉など)では原料を高温雰

囲気下で窒化反応させるため設備およびランニン

グコストが高価となる.

ところで近年,各種金属酸化物に対する窒化還元

反応など各種工業プロセスに対してマイクロ波を

活用しようとする試みが各方面で行われている.こ

れは,選択加熱,急速加熱が出来るというマイクロ

波の特性を利用することで従来よりも高効率な窒

化還元反応プロセスを確立することを目的として

いる.

本研究では,安価な汎用型マイクロ波発生器を活

用し,セラミックス材料製造に関する低コスト化の

可能性について検討する.

2.実 験 方 法

本研究に用いた試料は,アナターゼ型の TiO2 粉

末(純度約 98.5%,粒径約 5μm)および Si 粉末(純

度約 98.0%,粒径約 5μm)である.また発熱体と還

元剤として黒鉛(粒径約 16μm ~44μm)と木炭を

粉砕して得たカーボンを用いた.

試料作成については,粉体の種類によらずモル比

を,粉体:C=1:2 とし,総量 1g を乳鉢で内径 12

㎜の治具にいれ荷重 5t,加圧時間 5min の条件で圧

縮し圧粉体を成形した.これをるつぼの中に入れカ

ーボンもしくは黒鉛で覆った後,出力 1000W,加

熱時間を積算で 540s の条件でマイクロ波加熱を行

った.

※Ⅰ-TiO2 : TiO2/C specimens

Ⅰ-Si : Si/C specimens とする.

TableⅠは試料作成条件を示す.加熱後の試料は乳

鉢で粉砕後,走査型電子顕微鏡(SEM)による表

面観察,X線回折による定性分析を行いマイクロ波

の効果について検討した.

3.結 果

3 .1 TiO2の SEM による組織観察及び定性分析

Fig.1 は SampleⅡ- TiO2 (540s 加熱)としてマイク

ロ波加熱を行った圧粉体の SEM 像を示す.これを

みると圧粉体試料は粒径が微細で均一な組織とな

ることがわかる.

また,Fig.2 は SampleⅡ- TiO2 (540s 加熱)の X線

回折法による定性分析の結果である.X 線回折では

加熱無しの試料と比べると TiN の明確なピークが

多くみられ窒化チタンが形成されていると思われ

る.しかし,一部に TiO₂のピークも見られるため,

還元できなかった酸化チタンが存在していること

Sample Reductant

Exothermic

auxiliary

agent

TiO2 , Si / C

(mol rate)

Ⅰ Carbon Carbon

1:2 Ⅱ Graphite

Ⅲ Carbon Graphite

Ⅳ Graphite

Table 1 The microwave exposure condition

to TiO2 , Si for crystallization

-38-

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がわかる.これは還元雰囲気が充分でないことが考

えられる.

3 .2 Si の SEM による組織観察および定性分析

Fig.3 は SampleⅡ- Si (540s 加熱)としてマイクロ

波加熱を行った圧粉体の SEM 像を示す.これをみ

ると圧粉体試料は加熱前と比べて針状組織だった

のが球状組織へと変化し,粒径も微細化しているこ

とがわかる.

また, Fig.2 は SampleⅡ- Si (540s 加熱)の X 線

回折法による定性分析の結果である.X 線回折では

加熱無しの試料と比べると新たに SiC のピークが

確認できた.これは炭素による還元雰囲気により Si

が生成された後,同族元素である周囲の炭素と Si

が反応したため SiC が得られたと考えられる.しか

し,炭素の回折ピークも強いことから炭素が過剰に

供給されていると考えられる.

4.結 言

本研究ではマイクロ波加熱により粉体形状が微

細化し,粒径も均一化できることがわかった.また,

Ti では窒化物のピークは確認出来たが,一部に TiO

₂のピークも見られるため,還元できなかった酸化

チタンが存在していることがわかる.これは還元雰

囲気が充分でないことが考えられ,今後は,この残

留する酸化チタンの量を低減することが課題であ

る.Si では SiC のピークは確認できたが,まだ十分

なピーク強度ではなくこの原因としてはマイクロ

波照射に利用した発生器の出力不足,もしくはるつ

ぼなどの保温不足などが考えられる.よって今後は

高出力のマイクロ波を用いるなどの検討を行う予

定である.

Fig.3 Morphological of SampleⅡ- surfaces

Fig.2 X-ray diffraction pattern from

SampleⅡ- TiO2

Fig.4 X-ray diffraction pattern from

SampleⅡ- Si

0

10000

20000

30000

40000

50000

60000

20 40 60 80 100

Inte

nsi

ty , c

ps

TiN

TiO₂アナターゼ

TiO₂ルチル

Fig.1 Morphological of SampleⅡ- TiO2 surfaces

Inte

nsi

ty , c

ps

2,deg

0

100000

200000

300000

400000

500000

600000

20 40 60 80 100

C

SiC

Table 1 The microwave exposure condition

2,deg

-39-

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ヒルギ科植物のカルス誘導と繁殖法の検討ヒルギ科植物のカルス誘導と繁殖法の検討ヒルギ科植物のカルス誘導と繁殖法の検討ヒルギ科植物のカルス誘導と繁殖法の検討

辻 中 友 樹

米子高専 物質工学専攻

1.緒1.緒1.緒1.緒 言言言言 ヒルギ科植物とは, 熱帯・亜熱帯地域の汽水域に

生育するマングロ-ブ林主要構成樹種である. ヒル

ギ科植物は, 二酸化炭素の吸収量が多く, 水質浄化

作用があることから, 環境保全に役立つことが望ま

れる. しかし, 近年マングローブ林が過剰伐採され

減少傾向にあるため, 植林が必要とされている. ま

た, ヒルギ科植物の種子は親植物の母体上で根を伸

ばすまで育つ胎生種子であるので種子の保存が困難

であり, 組織培養法は有効な繁殖法だと考えられて

いる. 本研究ではヒルギ苗を安定的に供給すること

を目的として, 組織培養法による繁殖法の検討を行

った.

2.実2.実2.実2.実 験験験験 方方方方 法法法法

2222....1111....供試材料供試材料供試材料供試材料

メヒルギ (Kandelia obovata) , ヤエヤマヒルギ

(Rhizophora mucronata)の展開後まもない子葉を供試

材料とした.

2222.2..2..2..2.実験方法実験方法実験方法実験方法

数滴の界面活性剤を含む 1%次亜塩素酸ナトリウム

水溶液で子葉を殺菌後, 滅菌水を用いて洗浄した.洗浄

後, コルクボーラーで直径 6 ㎜のディスク状に子葉を

切断し培地に置床した.基本培地はアミノ酸量を 1/2 と

した 0.9%寒天を含む amino acid(AA)培地を用い, 各種

植物ホルモンを添加した. 添加した植物ホルモンはオ

ーキシン類である 4-クロロフェノキシ酢酸(4-CPA),2,4-

ジクロロフェノキシ酢酸(2,4-D), ナフタレン酢酸

(NAA), サイトカイニン類である 6-ベンジルアミノプ

リン(6-BAP), イソペンテルアデニン(2iP), カイネチン

(K), ゼアチン(Z)の7種類である. 培養条件は 25℃暗

条件とした.

3.実3.実3.実3.実 験験験験 結結結結 果果果果

3.1.3.1.3.1.3.1.メヒルギ子葉のカメヒルギ子葉のカメヒルギ子葉のカメヒルギ子葉のカルス誘導培地の検討ルス誘導培地の検討ルス誘導培地の検討ルス誘導培地の検討

メヒルギ子葉片は培養約 1 ヶ月で 4-CPA や NAA と

6−BAP を組み合わせた培地において, 全体が褐変し

た子葉片と褐変せず拡大した子葉片とが観察された.

その後, 培養約3ヶ月で低濃度の4-CPAと6-BAPを添加した

培地において培養した子葉片の切り口から 1mm程度の

白色のカルスが確認された(Fig.1). また, 培養約6ヶ月

で, 高濃度の 4-CPA と 6-BAP を添加した培地と低濃度の

NAA と 6-BAP を添加した培地において培養した子葉片

の切り口からも 1mm 程度の白色のカルスが確認され

た(Fig.2). 2,4-D を添加した培地もしくは, 6-BAP 以外

のサイトカイニン類(P,K,Z)を含む培地で培養した子

葉片は培養約 4〜5 ヶ月で全て褐変し, 葉片の拡大やカ

ルス形成などの変化は確認されなかった. カルス形成

前の葉片の拡大はカルス形成に必須であり, 葉片の褐

変はカルスの形成を抑制する傾向があった.

Fig.1 メヒルギ葉片からのカルスの形成

(20µM 4-CPA,1 µM 6-BAP 添加培地)

※スケールバー:2mm

Fig.2 メヒルギ葉片からのカルスの形成

(10µM NAA、1 µM 6-BAP 添加培地)

※スケールバー:2mm

各植物ホルモンを添加した培地ごとのカルス形成率

を Table 1.に示す.

-40-

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Table 1. 子葉片の各培地におけるカルス形成率

培地 カルス形成率

C10B0.1 8/12※

C10B1 9/12

C10B0.10 6/9

C20B0.1 5/12

C20B1 4/6

C20B10 6/9

C30B0.1 2/9

C30B1 3/15

C30B10 4/15

N10B1 5/15

N10B10 4/18

N20B0.1 3/18

N20B1 3/15

N20B10 2/18

カルス形成率は,カルス形成した葉片数/置床した葉片数を示す.

(その他の培地においては全て褐変)

メヒルギのカルス形成においては, オーキシン類で

は4-CPAとNAAが有効であり, サイトカイニン類では

6-BAP が有効であると考えられた. また, 4-CPA, NAA

の濃度は 10µM,20µM が有効であった . 6-BAP は ,

0.1~10µM の範囲ではカルス形成に顕著な影響を及ぼ

さなかった.

3.2.3.2.3.2.3.2.ヤエヤマヒルギ子葉のカルス誘導培地の検討ヤエヤマヒルギ子葉のカルス誘導培地の検討ヤエヤマヒルギ子葉のカルス誘導培地の検討ヤエヤマヒルギ子葉のカルス誘導培地の検討

以前の研究成果より, オーキシン類であるNAAとサ

イトカイニン類である 6‐ BAP を組み合わせた培地に

おいて, ヤエヤマヒルギのカルス形成率が高いことが

分かっている. 本研究では, さらに細かな濃度変化に

よって, カルス形成率に生じる影響を検討した. 検討

培地として濃度 0µM ~30µM の NAA と濃度

0µM~10µM の 6-BAP を組み合わせたもので行った.

Table 2.検討した培地とカルス形成率

Fig.3 ヤエヤマヒルギ葉片からのカルスの形成

(30µM NAA, 0.1µM 6-BAP 添加培地)

※ スケールバー:3mm

Fig.4 メヒルギ葉片からのカルスの形成

(30µM NAA, 0.1µM 6-BAP 添加培地)

※ スケールバー:2mm

培養の結果(Table 2), オーキシン類である NAA は高

濃度においてカルスを形成し, サイトカイニン類であ

る6-BAPは, 0.1µMが特に有効であり, 黄白色のカルス

が観察された(Fig.3). また, 一部分化して根が出たもの

も存在した(Fig.4). 今後の課題として, さらに高濃度の

NAA は, カルス形成にどのような影響があるか検討す

る必要がある.

文文文文 献献献献

1) 堀田満 他編集,世界有用植物事典

pp.1322,899(1991).

2) 岩田修二,山田勇,福井捷朗,明日香壽川,福田正

己,村井吉敬,竹本和彦,加藤三郎,「地球環境とアジ

ア」,岩波書店,pp.70,223(1999).

3)西村功,松本武,「植物の組織培養入門」,関山製本

社,pp.62-68(1987)

4) K.Toriyama,K.Hinata,Theor.Apple.Genet,73,pp.16-19(1986).

-41-

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アルカン内におけるエレクトロウェッティングに関する研究

大塚 丈

宇部高専 物質工学専攻

1.緒 言

濡れは「固体表面の一部が液体・固体界面で置き

換えられる現象」と定義される.濡れの度合いは接

触角により定量的に測ることができる.接触角とは

固体表面と液体の表面の成す角度であり,表面張力

が小さい固体は濡れにくく,液体が付着したときの

接触角は大きくなる.反対に,表面張力が大きい固

体は濡れやすく,液体が付着したときの接触角は小

さくなる.

濡れを制御し,接触角を変化させ液滴を動かす方

法としてエレクトロウェッティング(EW)が挙げら

れる.EW とは,電極上にある誘電膜の上に液滴を

乗せ、電極と液滴に電圧をかけると液滴の接触角が

変化するという現象である.誘電膜には絶縁性や薄

さ,撥水性が求められる.近年,この EW を利用し

た製品の開発が盛んに行われている.代表例として

ディスプレイやマイクロポンプなどが挙げられ,こ

れらの製品では EW による微細な物質の移動が応用

されている.前年度の研究ではシリコンウェハを用

いた EWの研究を行った.しかし,本来 EW では電

圧の印加を止めると接触角は電圧を印加していない

状態に戻るはずが,ウェハ表面の濡れ性が変化し元

に戻らなかった.よって前年度の研究を受け,今年

度の研究ではこれらの課題を解決するべく,アルカ

ン内における EW の効果を測定した.

2.実 験 方 法

2.1実験装置及び器具

接触角の測定には CCDカメラ,ライト,固定台か

らなる装置とパソコン,SwiftCam ImagingⅡ(Swift

Optical Instruments, Inc.)、マイクロピペットを用い

た.CCD カメラで撮影した画像をパソコンに取り込

み,SwiftCam ImagingⅡで画像解析を行うことで接

触角を測定した.EW には電圧を印加する装置とセ

ル,銅線,スタンド,片面に絶縁膜を形成したアル

ミ板(基盤)を用いた.絶縁膜にはポリテトラフル

オロエチレン(PTFE),フロロサーフ,パリレン HT

を用いた.液滴には水と 0.1, 0.01wt%および

0.001wt%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)水溶液を

用いた.油相にはデカンを用いた.

SDS:両親媒性特性を持つ界面活性剤

デカン:炭素数 10の鎖状炭化水素

フロロサーフ:撥水性をもつフッ化炭素樹脂

パリレン HT:ベンゼン環が CF2を介してつながった

構造を持つ

2.2実験の操作手順

①電圧を印加する装置の正極と負極に銅線をつなぐ

②固定台に設置されたステージを撮影に適した高さ

に調整する

③負極につないだ銅線の端を,基盤の絶縁膜の形成

されていない側に両面テープでつなぎ,セルの中

に設置する

④セル内をデカンで満たす

⑤正極につないだ銅線をスタンドにとりつけ,スタ

ンドの高さを調節する

⑥マイクロピペットを用いて,5μL の液滴を基盤に

乗せる

⑦スタンドの位置を調整し,液滴に銅線の端を接触

させる

⑧電圧を印加する装置のスイッチをオンにし,任意

の電圧を印加する

⑨電圧を印加した液滴を撮影する

⑩SwiftCam ImagingⅡにより液滴の高さ h 及び固液

接触部分の直径 dの長さを測定する

⑪tan(θ/2)=2h/dに代入し,接触角 θを測定する

3.実 験 結 果

これまでの研究では,アルミ板に PTFE薄膜を形成

した基盤及びアルミ板にパリレンHT薄膜(中間層:

1~2 m)とPTFE薄膜(表層:5 m)を形成した基

盤を用いてEWの効果を測定してきた.以下にそれぞ

れの測定結果を示す.

-42-

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図 1 では,電圧を印加した際に接触角が減少し,

印加を止めると接触角がほぼ元に戻っていることが

分かる.しかし,測定結果の再現性が得られなかっ

たため,PTFEとアルミ板の間にパリレン HT薄膜を

形成した際の EW の影響を調べた.

図 2 の条件では電圧の印加によって接触角の減少

は見られたが,接触角の戻り具合は非常に小さいも

のとなった.図 1 での測定結果とは異なり測定結果

の再現性は良かった.

これらの測定結果から,固体表面の撥水性が重要

であると考え,本研究では絶縁膜にパリレン HT(中

間層:1~2 m)と撥水性の高いフロロサーフ(表層:

0.1~1 m)を用いて測定を行った.また,液滴には

0.01wt%,0.001wt%の SDS水溶液を用いた.以下に

測定結果を示す.

図 3および図 4から,SDSの濃度に関わらず電圧

印加により接触角が減少し,その後電圧印加を止め

ると接触角が増加していることが分かる.また,SDS

の濃度が高いほど電圧印加による接触角の減少が大

きいことが分かる.

4.結 言

パリレンHTとPTFEを絶縁膜として用いた系では電

圧印加後の接触角の戻り幅が小さかったが,PTFEの代

わりにフロロサーフを用いたことによって接触角の戻

り幅が向上した.これはフロロサーフの撥水性が PTFE

よりも大きかったことが要因として考えられる.また

フロロサーフは PTFE よりも薄く形成することができ

るため,印加電圧が低い場合でも接触角の減少を観察

することができた.

文 献 1)小野 周、表面張力(1980)、p.83、共立出版 2)ドゥジェンヌ、ブロシャール-ヴィアール、ケレ、表面張力の物理学-しずく、あわ、みずたま、さざなみの世界-(2003)、p15、吉岡書店

-43-

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Anatase 型 TiO2含有ホウ酸系結晶化ガラスの光触媒特性評価

坂 本 祐 規

新居浜工業高等専門学校 専攻科 生産工学専攻

1. 緒 言

TiO2 は , 化学的・熱的に安定な材料である .

TiO2 の結晶構造は , 白色顔料など工業的に利

用されている Rutile 型 , 光触媒材料として利

用されている Anatase 型 , 学術的興味がある

程 度 で , 工 業 的 に は 用 い ら れ て い な い

Brookite 型の 3 種類がある . 光触媒には強い

酸化力と還元力が必要である . Rutile 型およ

び Anatase 型のバンドギャップはそれぞれ

3.0eV および 3.2eV であり , Anatase 型は Rutile

型より還元力が強いことから光触媒材料と

して利用されている . 光触媒には , バンドギ

ャップ以上の光エネルギーを与えることで

有機物を CO2 や H2O に分解する光触媒分解

と水との接触角がほぼ 0° (超親水化状態 )と

なる光親水化の特性がある . 光触媒特性を利

用すれば , 大気や水の浄化 , 消臭・脱臭 , 殺

菌・抗菌 , 防曇 , 防汚が可能であり , 車のド

アミラーや外壁材 , セルフクリーニングガラ

スなどで実用化されている 1 ).

現在これらの製品は , Anatase 型 TiO2 を粉

末状や薄膜で利用している . 粉末状の場合は ,

回収・再利用するのが困難であり , 薄膜の場

合は , 経過時間とともにコーティング膜が剥

がれるという問題がある . もし , バルク状の

光触媒材料があれば , 前述のような問題が解

決でき , さらに応用範囲が広がると考えられ

る .

Masai ら 2 ) は , CaO-B2O3-Bi2O3-Al2O3-TiO2

系ガラスにおいて , 熱処理により Anatase 型

TiO2 を含む結晶化ガラスの作製に成功した

と 報 告 し て い る . し か し , こ の ガ ラ ス は

Bi2O3 を含んでいる系であることから着色の

問題が考えられる .

我 々 は , こ れ ま で に Bi2O3 を 含 ま な い

B2O3-TiO2-CaO, B2O3-TiO2-SrO 三成分系ガラ

スにおいて , Anatase 型 TiO2 を含む結晶化ガ

ラスの作製に成功したことを報告した 3 - 5).

本研究では , B2O3-TiO2-BaO 三成分系ガラ

スにおいて Anatase 型 TiO2 を含む結晶化ガラ

スの作製に成功し , 光触媒特性を評価したの

で報告する .

2. 実 験 方 法

本 研 究 に 用 い た ガ ラ ス 組 成 は ,

70B2O3-10TiO2-20BaO(mol%)三成分系であっ

た . 原料はすべて特級試薬を用いた . 所定の

ガラス組成になるように秤量した原料を白

金坩堝に入れ , 1250℃の電気炉で 30 分間 , 大

気中で溶融し , 融液を鉄板の上に流し出し ,

プレス急冷法によりガラスを作製した . 得ら

れたガラスを所定の温度で 1 時間 , 大気中で

熱処理をして結晶化ガラスを作製した . 作製

した結晶化ガラスを粉砕し , 粉末 X 線回折法

(XRD)により析出結晶の同定をした . 光触

媒特性の評価は , メチレンブルーを用いた色

素分解法で行った . 紫外線の光源は , 波長

365nm, 強度 0.982mW/cm2 のブラックライト

を用い , 紫外線照射時間は 15~ 60 分であっ

た . 色素分解評価は分光光度計を用いて , 波

長 664.5nm における吸光度測定を行った . 光

触媒特性評価に用いた結晶化ガラスの重量

は 0.5g で , 形状は粉末状であった .

3. 結 果

70B2O3-10TiO2-20BaO ガラスを所定の温度で 1

時間熱処理し, 結晶化させたガラスの XRD 測定

結果を Fig.1 に示した . Fig.1 より, 600℃で熱処理

をした結晶化ガラスから単体の Anatase 型 TiO2

が析出することが分かった . 熱処理温度の上昇

-44-

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とともに , Anatase 型 TiO2 の析出量が増加し ,

670℃で Anatase 型 TiO2 の析出量が最大となった .

680℃で熱処理をした結晶化ガラスからは , ガラ

ス相が結晶化したと考えられる BaB8O13 の結晶

が析出した.

この結果より, 70B2O3-10TiO2-20BaO ガラスに

おいて, 熱処理温度が 670℃で単体の Anatase 型

TiO2 が最も析出することが分かった .

析出結晶の光触媒特性を評価するために 670℃

で 1 時間熱処理をした 70B2O3-10TiO2-20BaO 結晶

化ガラスを粉砕し , エッチング処理を行った . エ

ッチング処理後の粉末試料を色素分解法で光触

媒特性を評価した . 紫外線照射時間と吸光度と

の関係を Fig.2 に示した. Fig.2 より, 紫外線照射

時間が 30 分でメチレンブルー色素の約 71%が分

解され, 紫外線照射時間が 60 分で約 89%が分解

されることが分かった .

この結果より, 70B2O3-10TiO2-20BaO ガラスよ

り析出した Anatase型 TiO2は十分な光触媒特性を

持っていることが分かった . メチレンブルー色

素が粉末試料へ吸着することによる吸光度への

影響を調べるために , 紫外線の照射なしで同様

な評価を行った結果 , 吸光度の変化はほとんど

見られなかったことから , 色素が粉末試料に吸

着することによる吸光度への影響はないと考え

られる.

以上のことから , 結晶化ガラス法を用いるこ

とにより, 70B2O3-10TiO2-20BaO 結晶化ガラスに

おいて光触媒特性を持つバルク Anatase 型 TiO2

結晶化ガラスの作製が可能であることが分かっ

た.

4. 結 言

70B2O3-10TiO2-20BaO ガラスにおいて, 熱処理

温度が 600℃で単体の Anatase 型 TiO2 が析出し ,

670℃で Anatase 型 TiO2 が最も多く析出すること

が分かった. また , 結晶化ガラス法より作製した

70B2O3-10TiO2-20BaO 結晶化ガラスは十分な光触

媒特性を持っていることが分かった . このこと

から , バルク光触媒材料の作製が可能であるこ

とがわかった.

文 献

1) 藤島昭、橋本和仁、渡部俊也 ,「光クリーン革命」

株式会社シーエムシー, P.116-118 (2001).

2) H. Masai, et al. , Appl. Phys. Lett. , 90 ,081907

(2007).

3) 新田、他 , 日本セラミックス協会 2010 年年会講

演予稿集, P.35 (2010).

4) 新田、他 , 日本セラミックス協会 2011 年年会講

演予稿集, P.95 (2011).

5) 新田、他 , 日本セラミックス協会 2013 年年会講

演予稿集, G22 (2013).

Fig.1 70B 2 O3 -10TiO2 -20BaO 結晶化ガラスの

XRD 測定結果

10 20 30 40 50 60 70 80 90

Inte

nsi

ty (

a.u

.)

2θ (°)

70B2O3-10TiO2-20BaO

630℃

650℃

670℃

680℃

glass

600℃

Anatase BaB8O13

Fig.2 670 ℃ で 1 時 間 熱 処 理 を し た

70B 2 O3 -10TiO 2-20BaO 結晶化ガラスにお

ける吸光度と紫外線照射時間の関係

0.0

0.1

0.2

0.3

0.4

0.5

0.6

0.7

0.8

0.9

1.0

0 10 20 30 40 50 60 70

吸光度

紫外線照射時間 (min)

70B 2 O3 -10TiO 2-20BaO

-45-

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3価金属としてランタノイド元素を導入した層状複水酸化物の合成

小 原 大 輝

米子高専 物質工学専攻

1.緒 言 一般式[M2+

1-xM3+x(OH)2][(An-)x/n・mH2O]で表される

層状複水酸化物(LDH)は,陰イオン交換能を示す粘

土鉱物の一種である.LDH を構成する水酸化物基本

層には 2 価と 3 価の金属が存在し,層全体が正に荷

電しているために,この層間には様々な陰イオンを

取り込むことができる.この特性を利用することで,

有害物の吸着材やドラッグデリバリーのホスト材,

センサー材料 1)などとして応用が可能である.

一方で,LDH 自身の電子物性,磁性や光物性に関

しては,ほとんど検討が行われていない.これは,

現在までに合成されている LDH には,これらの諸特

性が認められないためである.しかし,水酸化物基

本層を構成する金属の種類や組成が LDH 自身の特

性に大きく影響していることは明らかであり,元素

の組み合わせによっては,電子・磁性などの物性に

優れる LDH を合成できる可能性がある.

そこで,本研究では,3 価金属としてランタン,

セリウム,テルビウムなどの希土類元素を用いて電

子的,磁気的,もしくは光学的に優位な物性を示す

新規な LDH を創製することを目的とした.ランタノ

イド元素を導入した LDH の合成は,2 種類以上の金

属イオンを含む溶液から複数種類の難溶性塩を同時

に沈殿させることで,均一性の高い粉体が調製でき

る共沈法と,尿素の加水分解を利用することで結晶

性に優れる LDH を合成できる尿素均一沈殿法の 2

つの方法で検討を行った.

2.実 験 方 法

2.1 共沈法を利用した LDH の作製

Mg-Al系LDH中の3価金属であるアルミニウムの一

部をランタンに置き換えたMg-(Al・La)系 LDH の作製

を試みた.硝酸マグネシウム(Mg(NO3)2・6H2O) と硝酸

アルミニウム(Al(NO3)3・6H2O)および硝酸ランタン

(La(NO3)3・6H2O)をモル比で Mg : Al : La = 100 : 49 : 1

となるように混合し水溶液を 500 mL 調製した.調製し

た水溶液に 0.5 mol/dm3 NaOH を滴下し,pH 11~12 に

調整した後,60℃で 24 時間加熱することで結晶の熟成

を行った.加熱後,得られた沈殿物をろ過し洗浄した

後,乾燥させた.

2.2 尿素均一沈殿法を利用した LDHの作製

硝酸マグネシウム Mg(NO3)2・6H2O,ランタノイド塩

(Ln)および尿素(CO(NH2)2)をMg : Ln : UREA = 100 : 50 :

500 となるように混合し水溶液を調製した.ランタノ

イド塩は硝酸ランタン六水和物(La(NO3)3・6H2O),硝

酸セリウム六水和物(Ce(NO3)3・6H2O),硝酸テルビウ

ム六水和物(Tb(NO3)3・6H2O)の 3 種類とした.作製

した混合水溶液をテフロン製の内筒容器に入れ,ステ

ンレス製耐圧外筒容器にセットし,140℃で 24 時間水

熱処理を行った.冷却後,得られた沈殿物をろ過,洗

浄し乾燥させた.

2.3 評価

得られた LDH について,XRD,FT-IR,SEM-EDX,

ICP 発光分光分析により評価を行った.

3.実 験 結 果

共沈法を用いて合成した沈殿物の XRD 測定結果

を Fig.1 に示す.pH 11 または 12 のいずれの場合に

Fig.1 共沈法を用いて作製したMg-(Al・La)系の LDHの XRD結果

おいても,不純物として塩基性炭酸ランタンの生成

が確認できるが,10°付近および 20°付近に LDH 結

晶の生成に由来するピークが認められた.一般的に,

共沈法により合成した LDH は結晶性が低くなるこ

とが知られているが,Fig.1 の結果においても LDH

の生成に由来するピークの半値幅は大きく,結晶性

の低い LDH が生成していると考えられる.また,

(003)回折線の d 値は 0.97 nm 程度あったが,これは

典型的な炭酸型 Mg-Al 系 LDH の d 値と一致する.

本研究においては La の混合比が少量であるため,

La の固溶状態に関しては,より詳細な検討が必要で

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ある.

尿素均一沈殿法を用いて合成した LDH の XRD 測

定結果を Fig.2 に示す.Fig.2より,いずれの場合も

Fig.2 尿素均一沈殿法を用いて作成した LDH の XRD 結果

爽雑物に由来するピークが多く認められた.

しかしながら,どのランタノイド塩を用いた場合

においても,10°付近に LDH の(003)回折線に由来す

ると考えられるピークが認められた.また,尿素均

一沈殿法を用いて作成した場合,共沈法で合成した

ものに比べ,結晶性に優れる LDH が合成された.こ

の LDH の d(003)値は約 0.93 nm であったことから,生

成した LDH は硝酸イオン型であると考えられる.

Fig.3 に尿素均一沈殿法を利用して作成した LDH

の FT-IR スペクトルを示す.ランタノイドを変えて

Fig.3 尿素均一沈殿法により作成した LDH の FT-IR スペクトル

作製した LDH は,いずれも 3450 cm-1付近に水酸化

物基本層に由来する O-H 振動のピーク,1380 cm-1

付近に硝酸イオン内のN-O振動に由来するピークが

認められた.これは層間には硝酸イオンが存在して

いることを示唆しており,硝酸イオン型の LDH が生

成していることを意味している.この結果は XRD

測定の結果と一致する.

Fig.4 に,尿素均一沈殿法により得られた硝酸型

Mg-Ln 系 LDH の SEM 写真を示す.通常,LDH は

Fig.4 尿素均一沈殿法を用いて作成したLDHの SEM写真

六角板状の結晶として得られるが,作成した Mg-Ln 系

LDH の粒子形状は板状であるものの,完全な六角板状

ではなかった.これは 3 価金属であるアルミニウムの

イオン半径が 0.53 pm であるのに対して,導入したラ

ンタンは 1.17 pm,セリウムは 1.15 pm,テルビウムは

1.06 pmとイオン半径が大きいため,完全な六角板状を

形成できなかったのではないかと考えられる.

4.結 言

3 価金属であるアルミニウムの代わりにランタノイ

ド塩を用いて LDHの合成を試みた.

共沈法を用いた場合,LDHは生成し難く,生成した

LDH についても結晶性が低く,またランタノイド元素

の固溶状況についても,詳細に検討を行う必要がある.

尿素均一沈殿法を用いた場合,結晶性に優れる硝酸

型 LDH が生成したが,副生成物も多く,合成条件に

ついてはさらなる検討が必要である.

文 献 1) Sasai, R. 3rd International Congresson Ceramics (ICC3):

Hybrid and Nano-Structured Materials, 2011, 18.

10μm

10μm

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竹由来のセルロースをベースとした水処理剤の開発

櫻 庭 碧 月

高知高専 物質工学専攻

1.緒 言

バイオマス資源とは,生命と太陽エネルギーがある

限り持続的に再生可能な枯渇しない資源 1)と定義され

ている.中でも,竹は地球上に豊富に存在するバイオ

マス資源であり,竹から取り出した竹繊維(セルロー

ス)には広範囲な用途があることが分かっている.た

とえば,強化繊維プラスチックなどがある.2)しかしな

がら,従来の物理・化学的手法によって取り出した竹

繊維は,ヘミセルロースを含み,セルロースに富む竹

繊維が得られない.また,アルカリ性・酸性物質を使

った化学的な処理を伴う場合,使用後の化学物質の処

理が必要という問題点があった.しかし,過熱水蒸気

処理を用いた場合では,高いセルロース含有量を有す

る竹繊維が得られ,また化学物質等を用いないため,

後処理が必要ないという利点がある.

本研究では,竹の過熱水蒸気処理によって得たセル

ロースを用いて,水処理剤(陰イオン交換樹脂)の開

発を目的とした.

2.実 験 方 法

2.1 竹由来セルロース

竹の過熱水蒸気処理によって得られたセルロース粉

末は,九州工業大学より頂いたものを使用した.3)セル

ロースの化学構造式を Fig. 1に示す.

Fig. 1 Chemical structure of cellulose

2.2 竹由来セルロースへのエポキシ基の導入

セルロースのエポキシ化の反応スキームを,Scheme

1に示す.本法は,EDM法を参考に行った.4), 5)セルロ

ース 2.5 gにエピクロロヒドリン 25 g(0.27 mol)を

加え,DMF(N,N-ジメチルホルムアミド)100 mL中で

100 ℃,1 h加熱還流した.その後,ピリジン 10 mL(9.8

g, 124 mmol)滴下し,さらに 1 h反応させた.反応溶

液を吸引ろ過し,残渣を 50 %(vol/vol)エタノール水

溶液 300 mLで 3回洗浄した後,60 ℃で 24 h乾燥させ

てエポキシ化セルロースを得た.(収量=3.80 g、収率

=152 %)

Scheme 1 Introduction of epoxy groups into cellulose

2.3 エポキシ化セルロースへのアミンの導入

イオン交換樹脂への変換の反応スキームを,Scheme

2に示す.本法は,EDM法を参考に行った.4), 5)エポキ

シ化セルロース 0.60 gに 50 %ジメチルアミンを 20 mL

(147 mmol)を加え,100 ℃で 3 h加熱還流した.反応

液を吸引ろ過し,50 %(vol/vol)エタノール水溶液 100

mLで洗浄した後,残渣を 0.1 M-NaOH水溶液 100 mL,

0.1 M-HCl水溶液100 mLで洗浄を行った.その後,60 ℃

で 24 h 乾燥させ,目的とするイオン交換樹脂を得た.

(収量=0.65 g、収率=108 %)

Scheme 2 Conversion of the epoxidized cellulose to anion

exchange resin

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2.4 イオン交換測定の予備試験

初期濃度 6.13 mg/Lまたは 12.3 mg/Lの硝酸イオン水

溶液 20 mLに,イオン交換樹脂を 0.1 g添加し,30 ℃

で 78 h静置した.水溶液中の硝酸イオン濃度を,イオ

ン交換クロマトグラフィーで測定した.

3. 実 験 結 果

3.1 セルロースへのエポキシ基の導入

竹の加熱水蒸気処理によって得られたセルロース

粉末は,焦げ茶色をした粉末である.Fig. 1に示すよ

うに,セルロースの繰り返しユニットに,反応性の

高い 1つの第一級水酸基と反応性の低い 2 つの第二

級水酸基を有している.セルロース上の水酸基をエ

ポキシ化するために,Scheme 1 に従って反応を行っ

た.得られた生成物は黒色であり,その収率は 152 %

であった.本反応において,重量が増加した 1.3 g

分は、反応したエピクロロヒドリン 23.2 mmol に相

当すると考えられる.すなわち,エポキシ化セルロ

ース 1.0 g当たり,エポキシ基が 6.10 mmol が存在す

ることになる.

構造解析をするために,エポキシ化セルロースの

FT-IR(フーリエ変換赤外吸収分光法)スペクトルを,

Fig. 2 に示す.しかしながら,原料であるセルロース

のバックグラウンドスペクトルのため,エポキシ基

の吸収ピークを明確に確認できなかった.

Fig. 2 FT-IR spectrum of the epoxidized cellulose

3.2 エポキシ化セルロースへのアミンの導入

次に,エポキシ化セルロースにイオン交換基を導入

するために,Scheme 2に従ってジメチルアミンによる

エポキシ基の開環反応を行った.その結果,得た生成

物は黒色であり,その収率は 108 %だった.増加した

0.05 g分は,反応したアミンによるものと考えられ,

0.613 mmolに相当する.よって,セルロース 0.60 gに

導入された全体のエポキシ基 3.66 mmolのうち,17 %

がイオン交換基へ変換したと考えられる.イオン交換

基の導入量をさらに増加させるために,今後反応条件

の検討が必要である.

3.3 イオン交換測定の予備試験

今回作成したイオン交換樹脂のイオン交換能を明

確にするために,予備試験として硝酸イオンを対象

として行った.結果を Table 1 に示す.イオン交換樹

脂を添加して 78 h経過後の硝酸イオンは,両系とも

減少した.イオン交換樹脂 1.0 g 当たりの吸着量は,

1.00 mg/g,1.76 mg/gとなり,良好なイオン交換能を

示すことがわかった.

Table 1 Results of anion-exchange 1)

Run NO3

- [mg/L]

2) Adsorbed

amount [mg/g] Initial conc. Final conc.

1 6.12 1.08 1.00

2 10.8 1.96 1.76

1) Anion-exchange resin: 0.1 g, 30 oC, 78 h

2) Determined by ion-exchange Chromatography

4.結 言

本研究では,竹の加熱水蒸気処理により得られたセ

ルロースを用いて,水処理剤の一つである陰イオン交

換樹脂への変換を行った.その結果,セルロースに導

入されたエポキシ基の 17 %が,イオン交換基へ変換さ

れたことがわかった.また,硝酸イオンのイオン交換

能を予備試験として行った結果,良好なイオン交換能

を示すことがわかった.イオン交換基の導入量を増や

すために,今後反応条件の検討を行う.

文 献

1) 藤本潔,「バイオマス・ニッポン」の実現に向けて,

p58,(2004)

2) 村井操、中西篤,製紙工学,工業図書,p184-501,

(1959)

3) 西田ら、特開 2012-40701、2012

4) U. S. Orlando, et al., Chemosphere 48 (2002)

1041–1046.

5) T. E. Köse, Desalination 222 (2008) 323–330.

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