着雪・着氷を防止する 超滑水cnt複合樹脂シート着雪・着氷を防止する...
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着雪・着氷を防止する 超滑水CNT複合樹脂シート
長野工業高等専門学校 機械工学科 講師 柳澤 憲史
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新技術説明会 2013年8月2日
• 仮設住宅の屋根などに雪がつかないようにできる可能性のある滑水性シートを開発
• シート表面の滑水性を企業でも定量的に評価できる手法(引き離し力)を提案
シート表面の滑水性を定量的に評価
動力計
雪が滑りやすいシート
雪氷
信濃毎日新聞2013年1月4日
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新技術のもととなる研究成果・技術
なんらかの方法で表面に凹凸をつくることで 超はっ水表面の実現も可能 3
θ>150°
超はっ水
θ>90° はっ水
θ<90° 親水 ハスの葉の表面=ロータス効果=超はっ水
新技術のもととなる研究成果・技術
http://www.research.ibm.com/nanoscience/
Si 0.3nm
50-300nm
their diameter is about 10,000 times smaller than a human hair
提供:信州大学 遠藤守信
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グラフェンシートを筒状にしたもの 一層:SWCNT 二層:DWCNT 多層:MWCNT
新技術のもととなる研究成果・技術
超はっ水性ははっ水性高分子を塗布して化学的に付与されてきたが,剥離などの問題があり,長期的な効果は期待できない 表面の微細周期構造を制御することで物理的に付与することが注目されている
はっ水性の制御方法 因子 パラメータ 方法
材質 表面エネルギーとその分布
化学的制御:シラン系カップリング剤,フッ素系樹脂など
微細構造 非周期構造
粒子寸法 粒子形状 分子構造
化学的制御:粒子のスプレー,自己組織化膜など
周期構造 アスペクト比 ピッチ 溝寸法 溝形状
物理的制御:レーザー加工,機械的研磨,自己組織化膜など
新技術のもととなる研究成果・技術
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ロータス効果の原理
2211 coscoscos θθθ ffR +=
Rθ21, ff21,θθ
粗い表面上での接触角
固体表面上での物質1と2の表面を占める割合
物質1,2の表面と液体との接触角
Rθ
1 2 1 2 1 2 1 2 1 2 1 2 1 2/1=f°= 90θ°=120Rθ
たとえば
を小さく すればいい
(空気の層を大)
f3/1=f°= 90θ°=131Rθ
つまり
物質2が空気と仮定すると・・・
θθ cos1cos ffR +−=
理論的にはどのような表面にも超はっ水性表面を作製することは可能 しかし滑水性表面ははっ水性とは異なる性質を示す さらに滑水性を評価する基準はあいまい
新技術のもととなる研究成果・技術
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はっ水性の評価法には,静的はっ水性と動的はっ水性がある 静的はっ水性と動的はっ水性には相関はない
静的はっ水性の評価法
液滴
< 90° 0° θ θ ≦ 150° ≦ θ 90° 180° ≦ 親水性 はっ水性 超はっ水性
動的はっ水性の評価法
滑りやすい =よい滑水性
滑りにくい =悪い滑水性
新技術のもととなる研究成果・技術
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飯山市内の住宅の屋根 自然落下式であり雪を割るために頂上をとがらせている
着氷 着氷
• 住宅の雪下ろし – 無落雪住宅
• 屋根を住宅の内側に傾斜させ住宅内部の熱で雪を融かす,住宅の高強度必要
– 自然落下式 • 屋根を傾斜させて雪を落下させる,豪雪地帯では三寸勾配では住宅の回りに雪がたまり,屋根の頂上で雪が固着する
着雪・着氷問題の解決方法
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落ちた雪
三寸勾配=16.4° 四寸勾配=21.5°
従来技術とその問題点
• パラボラアンテナの着雪による障害 – はっ水塗料
• 表面に凹凸ができる塗料を塗布,はっ水性に限界,耐久性にも不安
2010年3月11日読売新聞 着雪により約3時間「ひまわり6号」からの観測画像データが受信できない状態になった 画像は気象衛星センターHPより http://mscweb.kishou.go.jp/panfu/general/activity/cdas/
着氷 着雪・着氷問題の解決方法
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従来技術とその問題点
• 東京スカイツリーの氷塊落下 – ヒーター
• 2600台のヒーター,高耐久性,高コスト
– 警備員の配置 • 警備員60人の目視,高コスト
東京スカイツリーの外壁に付着した氷塊の落下が問題になっているためヒーターを使用している 2012年1月24日読売新聞
氷塊
着雪・着氷問題の解決方法
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着氷
着氷
2012年3月3日信濃毎日新聞
スカイツリーの展望台
従来技術とその問題点
• 橋梁・看板からの落雪 – 人力
• 通行止め,高コスト
着雪・着氷問題の解決方法
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高速道路などの橋梁や看板の 雪下ろしは通行止めにしてから 人力で行われている
従来技術とその問題点
CNT複合プラスチックシートは強度,熱伝導性など良好である
θv = 0°, 130℃, 1500(N)
-10
-8
-6
-4
-2
0
2
121.9 %
-10
-8
-6
-4
-2
0
2
88.7 %
-10
-8
-6
-4
-2
0
2
85.0 %
-10
-8
-6
-4
-2
0
2
86.7 %
pure PP PP/VGCF10wt%
PP/VGCF20wt% PP/VGCF30wt%
µm
VGCFの添加量 0 wt% 10 wt% 20 wt% 30 wt% VGCF
VGCFの配向 f ― 0.51 0.62 0.71 ―
引張強度, MPa 28.3 29.8 33.0 35.1 2700~
ヤング率, GPa 1.18 1.98 3.40 4.15 273~
熱伝導度, Ω・cm >1.0×1014 5.9×102 2.0×101 2.5×100 1.0×10-4
CNT複合プラスチックシート 金型で押し付け加工した場合,CNT複合プラスチックシートは良好な転写性を示す
CNT複合プラスチック材料
新技術の特徴・従来技術との比較
気相成長炭素繊維 ( VGCF :昭和電工)
マトリクス樹脂
フィラー
アスペクト比 10~500 平均繊維直径 150 (nm) 繊維長 10~20 (µm)
熱硬化性樹脂 シリコーン樹脂 (信越シリコーンKE-111)
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60µm
50µm
10µm
Rectangle mold
ピッチ 幅
深さ
Cooling and demold
A thermosetting silicone sheet (Silicone sheet) +VGCF 0~3wt% composite
Micro pattern
Mold
Vacuum chamber
2N+70℃
Silicone sheet 平滑面
ライン溝 転写表面
0wt% 1wt% 2wt% 3wt%
50m
m
25mm
25m
m
表面粗さ Ra=2μm
VGCFを3wt%以上複合すると 成形不良が起こるため
3wt%以下のシートで試験
新技術の特徴・従来技術との比較
• CNT複合プラスチック成型品の接触角測定結果
プラスチック表面
CNT複合プラスチック表面 Observed by OLYMPUS OLS4000
約150°
水滴
試験シート
新技術の特徴・従来技術との比較
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Needle (Inside diameter: φ0.5mm)
Imprinted sample
Stage High speed camera
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FTA1000 (First Ten Angstroms)
動的はっ水性=滑水性 水滴の移動量測定実験
10°
10°
ステージを10°傾斜させた状態で シートから2mm離れたニードル先端から 水滴を毎秒2.5μLで滴下 滑り始めの水滴の量と前端点の移動量を測定
毎秒2.5μLで水滴を滴下
前端点
シートの表面形状 と水滴の滑落方向
シリコーンVGCF
複合シート 平滑な表面 ラインを
またぐ方向 ラインに 沿う方向
slip
slip
slip
水滴
静的はっ水性 接触角測定実験
新技術の特徴・従来技術との比較
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• すべてのシートでライン溝を転写したシート表面の接触角は向上した
• VGCFを1wt%以上複合しても接触角の向上は見られなかった
• VGCFを3wt%以上複合すると成形不良が起こった
6
5
4
3
2
Mov
ing
dist
ance
of d
ropl
et, m
m
1
0 Time, s 5 10 15 20
slip
0wt% VGCF 0.5wt%
VGCF 1wt% VGCF 2wt%
VGCF 3wt%
800wt%
100
120
140
160
1wt% 2wt% 3wt%
Cont
act a
ngle
, deg
ree
VGCF contents, wt%
平滑なシートでは VGCFを3wt%添加したシートの滑落速度が
もっとも大きくなった
VGCF添加量と平滑面の滑水性 VGCF添加量とシート表面の接触角
:Flat surface :Line surface
新技術の特徴・従来技術との比較
シリコーン樹脂のみ
+VGCF1%
+VGCF 2%
ラインを またぐ方向 7.1μL 6.4μL 5.5μL
ラインに 沿う方向 5.2μL 7.0μL 5.0μL slip
slip
表面に滴下された水滴量
シリコーン樹脂のみ
+VGCF 1%
+VGCF 2%
ラインを またぐ方向 0N 45nN 61nN
ラインに 沿う方向 73nN 210nN 300nN slip
slip
水滴に働く力ma
17
6
5
4
3
2
Mov
ing
dist
ance
of d
ropl
et, m
m
1
0 0.5 0.2 0.3 0.7 0.4 0.1 0.6
slip
VGCF 0wt%
VGCF 1wt%
VGCF 2wt% y = 7x2
y = 11x2
y = -0.8x2
6
5
4
3
2
Mov
ing
dist
ance
of d
ropl
et, m
m
1
0 Time, s 0.5 0.2 0.3 0.7 0.4 0.1 0.6
VGCF 0wt%
VGCF 1wt%
slip
VGCF 2wt%
y = 30x2 y = 60x2
y = 14x2
Time, s
新技術の特徴・従来技術との比較
18
40
30
20
Pull
off f
orce
of w
ater
dro
plet
, μN
10
0 Time, s
60 40 80 20
Z軸ステージ
X軸ステージ
シート
変位計
板バネ 水滴10μL
ステージ移動量20μm/s
シリコーン樹脂のみのシート
VGCF2wt%複合シート
12μN
平行に配置されたシリコンウエハと シリコーンVGCF複合シート間に
はさまれた水滴の引離し力を測定
安藤 マイクロトライボロジー入門、米田出版(2009) 田中 トライボロジー会議予稿集2012春東京(2012)P.65
滑水性測定時と水滴量が 異なるがVGCFを2wt%複合 したシートの引離し力は
約10μN小さいことがわかった
シリコーンVGCF複合シートの平滑面の水滴の吸着力は60~80μN
だと考えられる
VGCF複合によるシリコーンシート
の滑水性の向上は水滴の引離し力の低下が一因と考えられる
新技術の特徴・従来技術との比較
滑水性
防災 自浄作用
流動制御, 抗菌,防汚 ナノテクノロ
ジー
省エネルギー
パイプラインなどの輸送動力削減
衣類,防護服,壁面の防錆
快適で安全・安心な暮らしの提案
屋根,アンテナ,電線,氷雪滑落事故の防止
ナノマシンなどの駆動力確保
医療用検査機器,試薬付着防止,衛生用容器
将来展望 -想定される用途①-
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• 今回栄村に建設された55戸の仮設住宅の費用は約3億円,震災後2カ月以上後に入居が始まったが,雪が積もらないほど屋根に勾配をつけるなどといった対策を講じることはできなかった.
• そのため雪下ろし中の事故などが頻発した. • 滑水性の表面をもつCNT複合樹脂シートを仮設住宅の屋根に貼り付け
ることでわずかな傾斜で雪が滑り落ちることが実現できる.
仮設 住宅
屋根に45°の傾斜をつければ雪は落ちるか?
45°
余分な壁大 =コスト増
仮設 住宅
5°の傾斜では雪は落ちない
5°
余分な壁10分の1 =コスト少
将来展望 -想定される用途②-
2012年1月20日信濃毎日新聞
2012年1月7日信濃毎日新聞
• 現在、CNT複合プラスチックを用いた超滑水表面の作製が可能なところまで開発済み。
• 着雪、着氷についてのデータ収集、住宅屋根などへの貼付方法、耐久性などの点が未解決である。
• 実用化に向けて、シートを実用上の大きさま大型化できるよう技術を確立する必要もあり。
将来展望 -実用化に向けた課題-
住宅屋根に 貼り付けられる大きさの
シート開発が必要 • 着雪・着氷のデータ収集 • 耐久性の試験 • 貼り付け方法の検討
• 課題解決:シートの大面積化 – 型の大型化、もしくはロール状の型の作製 – 精密加工の技術を持つ企業との共同研究を希望 – シートの貼り付け方法についてノウハウをお持ちの企業
• 本技術の導入:シートの開発と応用 – 精密プレス加工金型のノウハウを持つ企業 – 建築分野への展開を考えている企業 – プラスチック材料やカーボンor強化繊維の複合にご興味をお持ちの企業
• 評価試験のご協力:はっ水面の定量的な評価 – 固体表面の水の付着にお困りの企業
将来展望 -企業への期待-
型の大型化
ロール状の型
複合樹脂
滑りやすさ =100! 滑りやすさ
=5
• 発明の名称 :摩擦力伝達・検出機構 • 出願番号 :特願2012-53217 • 出願人 :国立高等専門学校機構 • 発明者 :柳澤憲史、杉町耕祐
• 発明の名称 :樹脂成形体及びその製造方法 • 出願番号 :特願2013-52613 • 出願人 :国立高等専門学校機構 • 発明者 :柳澤憲史
本技術に関する知的財産権
信州大学 産学官連携推進本部
統括コーディネータ 中澤 達夫
TEL 0263-37-2075
FAX 0263-37-3049
E-mail [email protected]
お問い合わせ先
長野工業高等専門学校
総務課 研究協力・産学連携係
TEL 026-295-7134
FAX 026-295-4356
E-mail: [email protected]