細胞膜タンパク質の自己...

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石川顕一(東京大学内部向け講義資料) 細胞膜タンパク質の自己 組織化と構造ゆらぎ http://ishiken.free.fr 石川顕一 物質・生命一般 「シミュレーションで分かる脳と生体」 工学部システム創成学科Bコース (シミュレーション・数理社会デザインコース)

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石川顕一(東京大学内部向け講義資料)

細胞膜タンパク質の自己組織化と構造ゆらぎ

http://ishiken.free.fr石川顕一

物質・生命一般「シミュレーションで分かる脳と生体」

工学部システム創成学科Bコース(シミュレーション・数理社会デザインコース)

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石川顕一(東京大学内部向け講義資料)

細胞膜タンパク質の自己組織化

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細胞内情報伝達経路

レセプター細胞外から情報を受け取る

トランスデューサーレセプターが受け取った情報をエフェクターに渡す

エフェクター二次メッセンジャーを生産さらに下流に情報を伝える

細胞膜

エフェクター

二次メッセンジャー

レセプター

細胞外からの情報

トランスデューサー

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細胞内情報伝達

誘引物質cAMP細胞外

細胞内受容体

細胞内伝達物質(セカンドメッセンジャー、PIP3)

Gタンパク質

細胞性粘菌の場合

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2量体化

細胞膜タンパク質(受容体、レセプター)はひんぱんに2量体化する。

同種のタンパク質

異なる種類のタンパク質

情報伝達における役割は不明。

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シミュレーションモデル2次元表面での個々のタンパク質

拡散

反応(2量体化と単体化)

2次元表面での個々のタンパク質

細胞膜タンパク質を正六角形で近似周期的境界条件をもつ斜交座標系(一辺=0.25 nm)色の違いで構造の違いを表す

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拡散

Pmoveの確率で6方向にランダムに移動

他のタンパク質と衝突しそうになったら移動しない

タイムステップ の間に!t

××

ランダムウォーク

http://www.geocities.co.jp/Hollywood/5174/bd2f.html

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2量体化と単体化単体の場合一定距離ldimer内に他の単体がいれば、Pdimerの確率で反応して二量体を形成

二量体の場合Pmonoの確率で単体に戻る結合の相手との距離が一定以上に開こうとしたら追従して移動

タンパク質間には引力も斥力も働かない。

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• タンパク質間に引力がなくても、2量体化だけで集合する。

• 集合の程度は、反応速度定数に依存する。

2量体化による集合現象

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2種類のタンパク質同じ種類のタンパク質が2量体化

違う種類のタンパク質が2量体化

同じ種類どうしが集まる。

2種類が均等に混ざり合う。

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2量体化はクロストークの調節に使われているのでは?

異なる刺激のシグナル入力によって伝達するシグナルの質や量を修正特定の組み合わせの刺激によって特異的な細胞応答

創薬のヒント:細胞の鍵穴にくっついて、2量体化に影響を及ぼすような薬を作ればいい。

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タンパク質の集まり具合の評価法 ①

① 最も近い同種の構造のタンパク質との距離すべてのタンパク質について、最も近くに存在する同種のタンパク質との距離を測定し、その平均をとる

値が小さいほど同種の構造のタンパク質が集合している

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タンパク質の集まり具合の評価法 ②

② クラスターサイズ一定距離lcluster内に存在するすべてのタンパク質が1つのクラスターを形成するものとして、すべてのクラスターの大きさ(含まれるタンパク質の数)を測定し、その平均をとる値が大きいほどタンパク質が集合している(構造は関係ない→同種のタンパク質かどうかは分からない)

右図で、六角形の周りの円周が重なっているタンパク質は、同一のクラスターに含まれる

5 5

1 2

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2量体化の効果(最も近い同種の構造のRasとの距離)

7

8

9

10

11

12

13

30個(7.35%) 50個(12.2%) 70個(17.1%)

二量体化なし 同種のRasが二量体化 異種のRasが二量体化

最も近い同種の構造のRasとの

距離の平均値(nm)

Rasの個数(濃度)

2量体化によってタンパク質が集まる

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二量体化の効果(クラスターサイズ)

1.0

1.5

2.0

2.5

3.0

3.5

4.0

30個(7.35%) 50個(12.2%) 70個(17.1%)

二量体化なし 同種のRasが二量体化 異種のRasが二量体化

クラスターサイズの平均値

Rasの個数(濃度)

2量体化によってタンパク質が集まる

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① 最も近い同種の構造のタンパク質との距離の平均値

同種が二量体化<二量体化なし<異種が二量体化の順に値が小さい=同種のタンパク質が集合している

② クラスターサイズの平均値

二量体化する場合は二量体化しない場合に比べて値が大きい=タンパク質が集合している

タンパク質間には引力は働かない→2量体化によって同種のタンパク質が集合できる(自己組織化)

二量体化の効果

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低分子量Gタンパク質 Ras

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細胞膜タンパク質Ras

の構造ゆらぎ

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Rasは遺伝子発現・細胞骨格の再編成・細胞周期の調節など複数の情報伝達経路に関与

Rasには複数のエフェクターが存在するにもかかわらず、各エフェクターとの相互作用領域はほぼ同じ

Rasの特性

細胞膜レセプター

Rasエフェクター

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動的構造多形性仮説

•Rasの構造(3種類程度)は刻々と変化(構造ゆらぎ)

•異なる構造→異なるエフェクターと結合→異なる情報伝達反応

2量体化

構造ゆらぎはこれを妨げるのでは?

同じ構造のタンパク質が集合

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構造ゆらぎのシミュレーション

周期的に構造が変化一定の周期Tfluctuationごとに構造が変化する構造A→B→C→A・・・

ランダムに構造ゆらぎが発生一定の確率Pfluctuationで構造ゆらぎが起きる(乱数で決める)モンテカルロシミュレーション構造A→A or B or C(乱数で決める)(構造ゆらぎの結果構造が変化しないこともある)構造ゆらぎを起こすのは単体のRasのみ

構造→色

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二量体化の効果

1.5

1.7

1.9

2.1

2.3

7

8

9

10

11

12

二量体化なし 同種のRasが二量体化 異種のRasが二量体化

最も近い同種の構造のRasとの

距離の平均値(nm)

クラスターサイズの平均値

2量体化によってタンパク質が集まる

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8.5

8.8

9.1

9.4

9.7

10.0

1 2 5 10 20 50 100

200

500

1000

周期的構造ゆらぎ(最も近い同種の構造のRasとの距離)最も近い同種の構造のRasとの

距離の平均値(nm)

点線は構造ゆらぎがない場合(T=∞)の値

構造が変化する周期Tfluctuation

構造ゆらぎによってさらに集合

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ランダム構造ゆらぎ(最も近い同種の構造のRasとの距離)

8.5

8.8

9.1

9.4

9.7

10.0

0.001

0.002

0.005

0.010

0.020

0.050

0.100

0.200

0.500

1.000

最も近い同種の構造のRasとの

距離の平均値(nm)

構造ゆらぎが起きる確率Pfluctuation

点線は構造ゆらぎがない場合(P=

0)の値構造ゆらぎによってさらに集合

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構造ゆらぎの効果

同種の構造のRasが集まる(自己組織化)のを促進する周期的に構造変化、ランダムな構造ゆらぎ、いずれの場合でも

ノイズともいえるRasの構造ゆらぎを、細胞は上手に利用している可能性がある

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