動特性を考慮したターボポンプの バランスピストン設計について … ·...

11
1 〔論文〕 動特性を考慮したターボポンプの バランスピストン設計についての考察 平木博道 1 内海政春 2 川崎聡 2 井上剛志 3 A Study on the Balance Piston Design of Turbopump Considering Dynamic Characteristics Hiromichi HIRAKI, Masaharu UCHIUMI, Satoshi KAWASAKI and Tsuyoshi INOUE Rocket engine tubopumps adopt balance piston (BP) in order to balance large axial thrust generated from high discharged pressure of the pump. BP is a self-thrust balancing system and quasi-statically stable, but might become unstable due to compressibility of liquid hydrogen, one of the major propellants of rocket. Conventional BP design methods mainly focused on the static characteristics such as thrust balancing ability and volumetric loss. However, a dynamic characteristic, that is stability of axial direction, is not well considered. In this paper the relationship between static and dynamic characteristics are investigated by numerical and theoretical study, and it is concluded that static and dynamic characteristics should be considered simultaneously in BP design. KeywordsPump, Vibration, Turbopump 1.緒言 ロケットエンジンに用いられるターボ ポンプは、液体酸素や水素などの液体推進 薬を昇圧し燃焼室へと送り込む最重要コ ンポーネントのひとつである。このターボ ポンプは吐出圧力が高く軸方向に発生す る荷重を軸受のみで支持することができ ない。そのため、軸方向荷重の調整にはポ ンプ内部を循環する流れを利用したバラ ンスピストン(以下、BP と記す)と呼ば れる機構が用いられる。BP は軸方向荷重 の自律調整機構を備えており静的には安 定な特性を持つが、作動流体である液体水 素の圧縮性により動的に不安定となり自 励振動を起こす場合がある (1) 。研究レベル では自励振動発生メカニズムの解明が進 みつつあるが、ターボポンプの設計におい ては軸方向の安定性という動特性の考慮 は十分におこなわれていない。しかし、軸 方向の安定性低下による自励振動の発生 はターボポンプの破損につながる問題で あり、静特性だけでなく動特性についても 設計段階で十分に評価する必要がある。本 *1 宇宙航空研究開発機構 第四研究ユニット Email[email protected] *2 宇宙航空研究開発機構 第四研究ユニット *3 名古屋大学大学院工学研究科 機械理工学専攻 原稿受付日 平成 27

Upload: others

Post on 16-Oct-2019

2 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

Page 1: 動特性を考慮したターボポンプの バランスピストン設計について … · が小さいほど損失は少なく、 は大き いほうがターボポンプの効率に対しては

1

〔論文〕

動特性を考慮したターボポンプの

バランスピストン設計についての考察

平木博道*1 内海政春*2 川崎聡*2 井上剛志*3

A Study on the Balance Piston Design of Turbopump

Considering Dynamic Characteristics

Hiromichi HIRAKI, Masaharu UCHIUMI, Satoshi KAWASAKI and Tsuyoshi INOUE

Rocket engine tubopumps adopt balance piston (BP) in order to balance large axial thrust

generated from high discharged pressure of the pump. BP is a self-thrust balancing system and

quasi-statically stable, but might become unstable due to compressibility of liquid hydrogen,

one of the major propellants of rocket. Conventional BP design methods mainly focused on the

static characteristics such as thrust balancing ability and volumetric loss. However, a dynamic

characteristic, that is stability of axial direction, is not well considered. In this paper the

relationship between static and dynamic characteristics are investigated by numerical and

theoretical study, and it is concluded that static and dynamic characteristics should be

considered simultaneously in BP design.

Keywords:Pump, Vibration, Turbopump

1.緒言

ロケットエンジンに用いられるターボ

ポンプは、液体酸素や水素などの液体推進

薬を昇圧し燃焼室へと送り込む最重要コ

ンポーネントのひとつである。このターボ

ポンプは吐出圧力が高く軸方向に発生す

る荷重を軸受のみで支持することができ

ない。そのため、軸方向荷重の調整にはポ

ンプ内部を循環する流れを利用したバラ

ンスピストン(以下、BP と記す)と呼ば

れる機構が用いられる。BP は軸方向荷重

の自律調整機構を備えており静的には安

定な特性を持つが、作動流体である液体水

素の圧縮性により動的に不安定となり自

励振動を起こす場合がある (1)。研究レベル

では自励振動発生メカニズムの解明が進

みつつあるが、ターボポンプの設計におい

ては軸方向の安定性という動特性の考慮

は十分におこなわれていない。しかし、軸

方向の安定性低下による自励振動の発生

はターボポンプの破損につながる問題で

あり、静特性だけでなく動特性についても

設計段階で十分に評価する必要がある。本

*1 宇宙航空研究開発機構 第四研究ユニット

Email:[email protected]

*2 宇宙航空研究開発機構 第四研究ユニット

*3 名古屋大学大学院工学研究科 機械理工学専攻

原稿受付日 平成 27年 月 日

Page 2: 動特性を考慮したターボポンプの バランスピストン設計について … · が小さいほど損失は少なく、 は大き いほうがターボポンプの効率に対しては

2

研究では、設計パラメータを網羅的に変化

させた解析により BP静特性と動特性を同

時に計算し両者の関係を検討した。また

BP 設計において留意すべき事項を検討し

たのでその結果を報告する。

2.記号一覧

使用する記号の一覧を下に示す。

𝐴𝐵𝑃 BP 室荷重面積[m2]

𝐵𝑥 圧力応答の変位係数[m2/s]

𝐵𝑝 圧力応答の圧力係数[m4s/kg]

𝑐0 BP に作用する外部減衰[Ns/m]

𝐷1 No1オリフィス径[m]

𝐷2 No2オリフィス径[m]

𝐷𝑅 軸方向減衰比[-]

𝐹𝐵𝑀 軸方向荷重調整能力[N]

𝐹𝑂𝑈𝑇 軸方向外部荷重[N]

𝑓𝑆𝐶 安定判別式

𝐹/𝑥 変位に対する BP 荷重応答[N/m]

𝐺𝑃𝑈𝑀𝑃 ポンプ主流の流量[kg/s]

𝐺𝐵𝑃 BP 通過流量[kg/s]

𝐾𝑆𝑇 軸方向剛性[N/m]

𝐾𝑓 流体の体積弾性率[Pa]

𝑚0 ロータ質量[kg]

𝑃, 𝑝 BP 室圧力[Pa]

𝑃0 つりあい点の BP 室圧力[Pa]

𝑃1 No1オリフィス上流圧力[Pa]

𝑃2 No2オリフィス下流圧力[Pa]

𝑃𝑆𝑊 BP 室内旋回損失[Pa]

𝑄1 No1オリフィス通過流量[m3/s]

𝑄2 No2オリフィス通過流量[m3/s]

𝑉0 つりあい点の BP 室体積[m3]

𝑉𝐾 V0 𝐾𝑓⁄ [m3/Pa]

𝑋, 𝑥 ロータ変位[m]

𝑋0 つりあい点のロータ変位[m]

𝑋𝑎𝑙𝑙 オリフィス総隙間[m]

𝜌 流体密度[kg/m3]

𝜁 No1、No2オリフィス圧損係数[-]

𝜔 軸方向の振動周波数[rad/s]

𝜂𝑉 BP 体積効率[-]

3.バランスピストン機構の概要

BP機構の概要を Fig.1に示す。BPはNo1

および No2 オリフィスと呼ばれる2つの

絞り部と、BP 室と呼ばれるインペラおよ

びケーシング間の空間から構成される。イ

ンペラ出口から No1 オリフィス、BP 室、

No2 オリフィスの順に流体が通過し No1

および No2 オリフィスで圧力損失が発生

する。ロータ全体は軸方向に可動し、No1

および No2 オリフィスそれぞれの隙間が

変化する。ロータには BP室圧力による軸

方向の荷重(以下、BP 荷重と記す)と、イ

ンデューサ、インペラ前面やタービン等で

発生する BP 室以外の一定の荷重(以下、

外部荷重𝐹𝑂𝑈𝑇と記す)が作用する。外部荷

重𝐹𝑂𝑈𝑇よりも BP荷重が大きい場合は No1

オリフィスが狭まりかつ No2 オリフィス

が広がる方向にロータが移動する。No1オ

リフィスでの圧力損失が大きくなると同

時に No2 オリフィスでの圧力損失が小さ

くなるため、BP 室圧力が下がり BP 荷重

と外部荷重𝐹𝑂𝑈𝑇が均衡する。逆の場合、

No1 オリフィスが広がり No2 オリフィス

が狭まるため、BP 室圧力が上がり荷重が

均衡する。このように BPは荷重の自動調

整機能を有しており静的には安定である。

BP の設計を考える上で重要な特性とし

て、荷重調整能力𝐹𝐵𝑀、体積効率𝜂𝑉、減衰

比𝐷𝑅の3つが挙げられる。Fig.2 に No1 オ

リフィス隙間と BP荷重の関係である荷重

特性曲線を示す。BP 荷重が𝐹𝑂𝑈𝑇と等しく

なる点が静的なつり合い点であり、この荷

重と BP荷重の上下限値の差を荷重調整能

力と定義する。Fig.2 に示すように荷重調

整能力は上限と下限で 2通りあるが、本論

文では値の小さいほうを荷重調整能力𝐹𝐵𝑀

とする。𝐹𝐵𝑀は外部荷重𝐹𝑂𝑈𝑇の変化や予測

Page 3: 動特性を考慮したターボポンプの バランスピストン設計について … · が小さいほど損失は少なく、 は大き いほうがターボポンプの効率に対しては

3

Outer force

Balance point

Upper limit of BP force

Force balancing margine (upper side)

Outer force(except BP ) BP force

BP

fo

rce

No1 orifice

No1 orifice clearance

BP load characteristic curve

impeller

case

minimumclearance

maximumclearance

smal

lla

rge

Force balancing margine (lower side)

Lower limit of BP force

ずれに対する余裕の大きさを示す指標で

あり、𝐹𝐵𝑀が大きいほど軸方向にバランス

しやすいといえる。

体積効率𝜂𝑉は BPを通過する流れによる

損失を評価する指標である。𝜂𝑉はポンプ主

流の流量𝐺𝑃𝑈𝑀𝑃に対する BP 通過流量𝐺𝐵𝑃

の割合により定義する。定義を式(1)に示す。

𝜂𝑉 = 1 −𝐺𝐵𝑃𝐺𝑃𝑈𝑀𝑃

・・・(1)

𝐺𝐵𝑃が小さいほど損失は少なく、𝜂𝑉は大き

いほうがターボポンプの効率に対しては

望ましい。

𝐹𝐵𝑀および𝜂𝑉は静的な特性であるが、減

衰比𝐷𝑅は動特性であり軸方向の安定性を

評価する指標である。自励振動の発生を防

ぐために𝐷𝑅が正の値となるよう設計する

必要がある。

BP 設計においてはこれら複数の項目を

評価しつつ複数の設計パラメータを調整

する必要がある。

Fig.2 Relation between No1 orifice clearance and balance piston force

Fig.1 Balance piston mechanism

Page 4: 動特性を考慮したターボポンプの バランスピストン設計について … · が小さいほど損失は少なく、 は大き いほうがターボポンプの効率に対しては

4

4.BP設計の方法および条件

4.1 BP解析の手法

本論文では推力 30tonf 級液体水素ター

ボポンプを対象とし、BP の設計パラメー

タを変化させて BP特性の計算を実施する。

計算の手法を以下に示す。

BP 特性の計算には一次元化した線形解

析モデルを用いる(2)。基礎となる関係式を

以下に示す。

◆体積弾性率と圧力変化の関係

𝑑𝑃

𝑑𝑡=𝐾𝑓

𝑉0(𝑄1 − 𝑄2 − 𝐴𝐵𝑃

𝑑𝑋

𝑑𝑡)

・・・(2)

◆オリフィス圧損と流速の式

𝑃1 − 0.5𝑃𝑆𝑊 − 𝑃 = 0.5𝜁𝜌𝑈12

𝑃 − 0.5𝑃𝑆𝑊 − 𝑃2 = 0.5𝜁𝜌𝑈22

・・・(3)

◆オリフィスの通過流速と面積の関係

𝑄1 = 𝑈1𝜋𝐷1(𝑋𝑎𝑙𝑙 − 𝑋)

𝑄2 = 𝑈2𝜋𝐷2𝑋

・・・(4)

式(4)におけるロータ変位𝑋は No2 隙間が

ゼロとなる点(No1 隙間が最大となる点)

を基準としている。本モデルは BP を簡易

的に 1 次元化しており、BP 室内部の圧力

は一様と仮定し平均圧力𝑃で代表する。ま

た旋回損失𝑃𝑆𝑊は流量等に対する依存性を

考慮せず一定値とする。

次に静的つりあい点(平衡状態)の BP

室圧力𝑃0およびロータ変位𝑋0の計算方法

を示す。𝑃0は外部荷重𝐹𝑂𝑈𝑇とのつりあいか

ら式(5)で計算できる。

𝑃0 =𝐹𝑂𝑈𝑇𝐴𝐵𝑃

・・・(5)

式(2)において時間微分項をゼロとすると

𝑄1 = 𝑄2が成り立つので、式(3)、(4)より

(2

𝜁𝜌)0.5

(𝑃1 − 0.5𝑃𝑆𝑊 − 𝑃0)0.5𝜋𝐷1(𝑋𝑎𝑙𝑙 − 𝑋0)

= (2

𝜁𝜌)0.5

(𝑃0 − 0.5𝑃𝑆𝑊 − 𝑃2)0.5𝜋𝐷2𝑋0

・・・(6)

が成り立ち、𝑋0が次式のように求まる。

𝑋0 =𝑋𝑎𝑙𝑙𝐷1(𝑃1 − 0.5𝑃𝑆𝑊 − 𝑃0)

0.5

(𝑃1 − 0.5𝑃𝑆𝑊 − 𝑃0)0.5𝐷1 + (𝑃0 − 0.5𝑃𝑆𝑊 − 𝑃2)

0.5𝐷2

・・・(7)

体積効率𝜂𝑉は𝑃0、𝑋0を式(3)、(4)に代入し

𝑄1(= 𝑄2)を求め、𝐺𝐵𝑃 = 𝜌𝑄1として式(1)に

代入することで求まる。

荷重調整能力𝐹𝐵𝑀を求めるには BP 荷重

の最大値および最小値を求める必要があ

る。Fig.2に示したように、BP 荷重の最大

値は No1 オリフィス隙間が最も大きい状

態、BP 荷重の最小値は No1 隙間が最も小

さい状態での荷重である。ここで準静的に

ロータ変位𝑋を変化させた場合の BP 室圧

力𝑃について考える。式(2)において時間微

分項をゼロとし、式(3)、(4)を𝑃について整

理すると式(8)となる。

𝑃 =𝐷12(𝑋𝑎𝑙𝑙 − 𝑋)2(𝑃1 − 0.5𝑃𝑆𝑊) + 𝐷2

2𝑋2(0.5𝑃𝑆𝑊 + 𝑃2)

𝐷12(𝑋𝑎𝑙𝑙 − 𝑋)2 + 𝐷2

2𝑋2

・・・(8)

BP 荷重が最大となる時、すなわち No2 オ

リフィス隙間がゼロの時は𝑋 = 0であり、

𝑃 = 𝑃1 − 0.5𝑃𝑆𝑊である。BP 荷重が最小と

なる時、すなわち No1 オリフィス隙間が

ゼロの時は𝑋 = 𝑋𝑎𝑙𝑙であり𝑃 = 0.5PSW + 𝑃2

となる。よって荷重調整能力𝐹𝐵𝑀は式(9)で

表される。

𝐹𝐵𝑀 = min{ (𝑃1 − 0.5𝑃𝑆𝑊)𝐴𝐵𝑃 − 𝐹𝑂𝑈𝑇,

𝐹𝑂𝑈𝑇 − (0.5𝑃𝑆𝑊 + 𝑃2)𝐴𝐵𝑃 }

= min{ (𝑃1 − 0.5𝑃𝑆𝑊 − 𝑃0)𝐴𝐵𝑃,

(𝑃0 − 0.5𝑃𝑆𝑊

− 𝑃2)𝐴𝐵𝑃 }

・・・(9)

最後に動特性の解析手法を示す。式(2)~

(4)を整理すると式(10)が得られる。

Page 5: 動特性を考慮したターボポンプの バランスピストン設計について … · が小さいほど損失は少なく、 は大き いほうがターボポンプの効率に対しては

5

𝑑𝑃

𝑑𝑡= {(

2

𝜁𝜌)0.5

(𝑃1 − 0.5𝑃𝑆𝑊 − 𝑃)0.5𝜋𝐷1(𝑋𝑎𝑙𝑙 − 𝑋)

−(2

𝜁𝜌)0.5

(𝑃 − 0.5𝑃𝑆𝑊 − 𝑃2)0.5𝜋𝐷2𝑋−𝐴𝐵𝑃

𝑑𝑋

𝑑𝑡 }𝐾𝑓

𝑉0

・・・(10)

式(10)右辺の第一項、第二項を𝑃 = 𝑃0, 𝑋 =

𝑋0のまわりで線形化し、更に𝑃 = 𝑃0 +

𝑝,𝑋 = 𝑋0 + 𝑥と置き換えて整理すると定

常成分が取り除かれ、式(11)が得られる。

𝑉𝐾𝑑𝑝

𝑑𝑡= −𝐵𝑥𝑥 − 𝐵𝑝𝑝 − 𝐴𝐵𝑃

𝑑𝑥

𝑑𝑡

・・・(11)

式(11)中の係数は式(12)で定義する。

𝐵𝑥 = (2

𝜁𝜌)0.5

(𝑃1 − 0.5𝑃𝑆𝑊 − 𝑃0)0.5𝜋𝐷1

+ (2

𝜁𝜌)0.5

(𝑃0 − 0.5𝑃𝑆𝑊 − 𝑃2)0.5𝜋𝐷2

𝐵𝑝 = (2

ζ𝜌)0.5 𝜋𝐷1(𝑋𝑎𝑙𝑙 − 𝑋0)

2(𝑃1 − 0.5𝑃𝑆𝑊 − 𝑃0)0.5

+ (2

𝜁𝜌)0.5 𝜋𝐷2𝑋0

2(𝑃0 − 0.5𝑃𝑆𝑊 − 𝑃2)0.5

・・・(12)

圧力および変位を

𝑥 = 𝑒𝜆𝑡, 𝑝 = 𝑒𝜆𝑡+𝛼

・・・(13)

のように仮定し、式(11)に代入して整理す

ると以下の式が得られる。

𝑝 = −𝐵𝑥 + 𝜆𝐴𝐵𝑃𝐵𝑝 + 𝜆𝑉𝐾

𝑥

・・・(14)

これを運動方程式

𝑚0

𝑑2𝑥

𝑑𝑡+ 𝑐0

𝑑𝑥

𝑑𝑡= 𝐴𝐵𝑃𝑝

・・・(15)

に代入すると、式(16)の𝜆に関する 3次の

特性方程式が得られる。これを解くこと

で減衰比を求めることができる。

(𝑚0𝑉𝐾)𝜆3 + (𝑐0𝑉𝐾 +𝑚0𝐵𝑝)𝜆

2

+ (𝑐0𝐵𝑝 + 𝐴𝐵𝑃2 )𝜆 + 𝐴𝐵𝑃𝐵𝑥 = 0

・・・(16)

4.2 BP設計条件

本論文で検討対象としたターボポンプ

仕様の概略を Table 1 に示す。ターボポン

プ仕様からインペラやタービンで発生す

る一定の外部荷重𝐹𝑂𝑈𝑇を計算し、BP 設計

計算に用いた。設計パラメータの値を

Table 2および Table 3に示す。Table 2は設

計変数として変化させたパラメータであ

り、上限値および下限値を表中に示してい

る。Table 3は固定したパラメータである。

設計パラメータと評価項目、また評価項

目同士の相関関係を観察するため、設計パ

ラメータを網羅的に変化させて計算する

モンテカルロ法(Monte Carlo Method、以

下 MCMと記す)を用いた。Table 2で示し

た範囲で乱数によりパラメータ値を決定

し 10000点の計算を実施した。評価項目は

Table 4 に示す 3 項目とし、各項目に制約

条件を設定した。制約条件を満たす解を満

足解と呼ぶことにする。条件により軸方向

推力の調整能力が不足し静的にバランス

しない解があるが、これらは評価対象外と

した。

Table 1 Specifications of the turbopump

Item Value Unit

Number of inducer stage 1 -

Number of impeller stage 1 -

Rotational speed 65,000 rpm

Pump inlet press. 0.2 MPa

Pump discharged press. 15.2 MPa

Impeller diameter 173 mm

Pump flow rate (GPUMP) 9.3 kg/s

Turbine inlet press. 1.7 MPa

Turbine outlet press. 1 MPa

Turbine diameter 140 mm

Page 6: 動特性を考慮したターボポンプの バランスピストン設計について … · が小さいほど損失は少なく、 は大き いほうがターボポンプの効率に対しては

6

Table 2 Parameter values (variables)

Table 3 Parameter values (fixed)

Table 4 Evaluation criteria

5.計算結果

MCM を実施し得られた評価項目の値

を Fig.3~5に示す。ここでは制約を満足し

ない解も含めて全て示している。

オリフィス総隙間𝑋𝑎𝑙𝑙は荷重調整能力

𝐹𝐵𝑀には感度がない。体積効率𝜂𝑉はグラフ

として右肩下がり(負の相関)であり、減

衰比𝐷𝑅は右肩上がり(正の相関)である。

旋回損失𝑃𝑆𝑊とNo2下流圧𝑃2は類似した傾

向を示しており、いずれも𝐹𝐵𝑀には負の相

関、𝜂𝑉と𝐷𝑅には正の相関を持つ。志村(3)ら

の計算では𝑃𝑆𝑊を小さくした場合に安定性

が悪化し、𝑋𝑎𝑙𝑙を大きくすると安定性が改

善する結果となっており、本検討の

Fig.3(c)、Fig.4(c)の結果と一致する。変化さ

せた 3 つの設計パラメータはいずれも全

ての評価項目を改善できる感度はもって

おらず、一部の評価項目を改善すると他が

悪化するという性質を持つ。

次に評価項目同士の関係を Fig.6 に示す。

色の濃いプロットは制約条件を満たす満

足解であり、薄いプロットは制約を満足し

ない解である。Fig.6(a)をみると𝐹𝐵𝑀が大き

くなるほど𝜂𝑉は低下しておりトレードオ

フの関係にあることが分かる。Fig.6(b)で

は𝐹𝐵𝑀が大きいほど𝐷𝑅が低下しており、こ

ちらもトレードオフの関係にある。Fig.6(c)

に示した𝜂𝑉と𝐷𝑅の関係をみると、全体的

には𝜂𝑉と𝐷𝑅は正の相関がある。

最後に、制約条件を満たす満足解が設計

パラメータに対しどのように分布してい

るかを Fig.7 に示す。横軸および縦軸には

𝑃2、𝑃𝑆𝑊をとり、𝑋𝑎𝑙𝑙の範囲を 3段階に分け

て上から順に示している。満足解は𝑃2と

𝑃𝑆𝑊が負の 1 次関数の勾配となるように分

布し、また𝑋𝑎𝑙𝑙が大きい場合に満足解の存

在する範囲が広くなっている。

6.考察

6.1 設計手法に関する考察

5節で示したように、BP 設計において

はトレードオフ関係にある複数の評価項

目が制約を満足するように設計パラメー

タを調整する必要がある。しかし Fig.7 の

ように満足解の分布は単一の設計パラメ

ータの値だけでは決まらず、他の設計パラ

メータの影響を受けている。従来の設計手

法では静特性と動特性を切り分けて順番

に計算していくが、場合によっては満足解

の探索が困難となる可能性がある。本検討

で用いた MCM は満足解の存在する設計

Parameter SymbolUpper

limit

Lower

limitUnit

Total BP

orifice clearanceXall 600 300 μm

Outlet pressure

of No2 orificeP2 4.5 2 MPa

Pressure drop

in BP chamberPSW 4 0.1 MPa

Parameter Symbol Value Unit

Pressure loss coefficient ζ 1.5625 -

Fluid density ρ 70 kg/m3

Bulk modulus K f 50 MPa

BP chamber volume V 0 4.0.E-05 m3

Diameter of No1 orifice D 1 0.173 m

Diameter of No2 orifice D 2 0.06 m

Inlet press. of No1 orifice P 1 9 MPa

Mass of rotor m 0 6 kg

Outer damping c 0 0 Ns/m

Outer force F OUT 1.1.E+05 N

Item

Force balance margin F BM > F OUT * 10%

Volumetric efficiency ηV ≧ 0.9

Damping ratio DR > 0

Criteria

Page 7: 動特性を考慮したターボポンプの バランスピストン設計について … · が小さいほど損失は少なく、 は大き いほうがターボポンプの効率に対しては

7

パラメータの範囲を把握することができ

るため、設計手法として有用である。

Page 8: 動特性を考慮したターボポンプの バランスピストン設計について … · が小さいほど損失は少なく、 は大き いほうがターボポンプの効率に対しては

8

(a)𝐹𝐵𝑀 𝑎𝑛𝑑 𝑃2 (b) 𝜂𝑉 𝑎𝑛𝑑 𝑃2 (c) 𝐷𝑅 𝑎𝑛𝑑 𝑃2

Fig.5 Evaluation items and 𝑃2

(a)𝜂𝑉 𝑎𝑛𝑑 𝐹𝐵𝑀 (b) 𝐷𝑅 𝑎𝑛𝑑 𝐹𝐵𝑀 (c) 𝐷𝑅 𝑎𝑛𝑑 𝜂𝑉

Fig.6 Relations between evaluation items

(a)𝐹𝐵𝑀 𝑎𝑛𝑑 𝑋𝑎𝑙𝑙 (b) 𝜂𝑉 𝑎𝑛𝑑 𝑋𝑎𝑙𝑙 (c) 𝐷𝑅 𝑎𝑛𝑑 𝑋𝑎𝑙𝑙

Fig.3 Evaluation items and 𝑋𝑎𝑙𝑙

(a)𝐹𝐵𝑀 𝑎𝑛𝑑 𝑃𝑆𝑊 (b) 𝜂𝑉 𝑎𝑛𝑑 𝑃𝑆𝑊 (c) 𝐷𝑅 𝑎𝑛𝑑 𝑃𝑆𝑊

Fig.4 Evaluation items and 𝑃𝑆𝑊

Page 9: 動特性を考慮したターボポンプの バランスピストン設計について … · が小さいほど損失は少なく、 は大き いほうがターボポンプの効率に対しては

9

(a) 𝑋𝑎𝑙𝑙 = 300~400 [∗ 10−6𝑚]

(b) 𝑋𝑎𝑙𝑙 = 400~500 [∗ 10−6𝑚]

(c) 𝑋𝑎𝑙𝑙 = 500~600 [∗ 10−6𝑚]

Fig. 7 Distributions of parameters

(solutions only)

6.2 静特性と動特性の関係の考察

静特性である荷重調整能力𝐹𝐵𝑀と動特性

である減衰比𝐷𝑅がトレードオフ関係にな

る理由について、理論解析の式から考察す

る。𝐹𝐵𝑀は式(9)で示した通り設計パラメー

タ𝑃2、𝑃𝑆𝑊との関係が式の上で明確となっ

ている。一方、𝐷𝑅を求めるには式(16)の特

性方程式を解く必要があり、解析的に設計

パラメータとの関係を明示することが難

しい。そのため𝐷𝑅に代えて BP 荷重応答の

式に着目する。

BP 荷重応答はロータ変位が𝑥変化した

場合の BP 荷重の変化分𝐹の関係であり、

𝐹/𝑥で表す。式(13)、(14)において𝑥を振動

周波数𝜔の単振動と仮定し𝜆 = 𝑗𝜔とすると

式(17)が得られる。

−𝐹

𝑥= −

𝐴𝐵𝑃𝑝

𝑥= 𝐴𝐵𝑃

𝐵𝑥 + 𝑗𝜔𝐴𝐵𝑃𝐵𝑝 + 𝑗𝜔𝑉𝐾

・・・(17)

既報(4)では BP 荷重応答の減衰の正負は式

(17)右辺の複素数の虚部の符号により決ま

り、虚部の符号が正であれば正の減衰とな

ること、虚部の符号は式(17)右辺の複素数

の位相により決まることを示した。ここで

は複素数の分数部分の位相を𝜃、分子、分

母の位相を𝜃𝑥、𝜃𝑝とし、以下で定義する。

𝜃 = tan−1 (𝐵𝑥 + 𝑗𝜔𝐴𝐵𝑃𝐵𝑝 + 𝑗𝜔𝑉𝐾

) = 𝜃𝑥 − 𝜃𝑝

𝜃𝑥 = tan−1 (𝜔𝐴𝐵𝑃𝐵𝑥

) , 𝜃𝑝 = tan−1 (𝜔𝑉𝐾𝐵𝑝

)

・・・(18)

式(18)で示した各位相は𝐵𝑥、𝐵𝑝、𝐴𝐵𝑃、𝑉𝐾、

𝜔により決まるが、これらのパラメータは

全て正の値を取るため0 < 𝜃𝑥, 𝜃𝑝 < 𝜋/2で

ある。よって−𝜋/2 < 𝜃 < 𝜋/2となり、式

(17)右辺の虚部の大きさ、すなわち安定性

は𝜃に依存する。

𝜃と設計パラメータの関係を考察するに

あたり、𝜃の大きさを示す指標として安定

判別式𝑓𝑆𝐶を以下のように定義する。

𝑓𝑆𝐶 =tan𝜃𝑥tan 𝜃𝑝

− 1 =𝐴𝐵𝑃𝐵𝑝

𝐵𝑥𝑉𝐾− 1

・・・(19)

減衰の正負、すなわち𝜃の正負は𝜃𝑥と𝜃𝑝の

大小関係により定まるため、𝑓𝑆𝐶の符号に

より安定・不安定の判定が可能であり、ま

た𝑓𝑆𝐶は𝜃の大小を表している。

ここで設計パラメータと𝑓𝑆𝐶の関係につ

Page 10: 動特性を考慮したターボポンプの バランスピストン設計について … · が小さいほど損失は少なく、 は大き いほうがターボポンプの効率に対しては

10

いて考える。𝑃2、𝑃𝑆𝑊の値を小さくとった

場合、式(9)より𝐹𝐵𝑀は大きくなることがわ

かるが、一方、式(12)より𝐵𝑝は小さく、𝐵𝑥

は大きくなる。そのため𝑓𝑆𝐶の値は小さく

なり負になりやすく、安定性が低下する。

よって理論解析の式上から、静特性である

𝐹𝐵𝑀と動特性(安定性)の指標である𝑓𝑆𝐶が

トレードオフ関係にあるといえる。

実際に𝑓𝑆𝐶が減衰比𝐷𝑅の指標として有効

であるかどうか確認するため、5節と同一

の条件で計算した𝑓𝑆𝐶と𝐷𝑅の関係を Fig.8

に示す。いずれも、安定不安定が切り替わ

る点の周辺では強い相関がみられ、𝑓𝑆𝐶が

減衰比𝐷𝑅の指標として有効であるといえ

る。

Fig.8 Relation between 𝑓𝑆𝐶 and 𝐷𝑅

Fig.9 Relation between 𝐾𝑆𝑇 and 𝐷𝑅

6.3 軸方向剛性と減衰比の関係

これまで BP設計においては網羅的計算

が有効であること、安定判別式により減衰

比の正負が判定可能なこと、間接的ではあ

るが静特性である荷重調整余裕と動特性

である減衰比が理論解析の式上からトレ

ードオフ関係にあることを述べた。さらに、

設計における指針について検討するため、

BP の軸方向の剛性𝐾𝑆𝑇に着目する。𝐾𝑆𝑇は

Fig.2 に示した荷重特性曲線の傾きをあら

わす静的な特性であり、解析的には式(17)

において𝜔 = 0とすることで求めることが

できる。

𝐾𝑆𝑇 = 𝐴𝐵𝑃𝐵𝑥𝐵𝑝

・・・(20)

式(19)の安定判別式を整理し𝐾𝑆𝑇を含む形

にすると

𝑓𝑆𝐶 =𝐴𝐵𝑃2

𝑉𝐾𝐾𝑆𝑇− 1

・・・(21)

となる。𝑓𝑆𝐶の正負は𝐾𝑆𝑇の大小により決ま

り、𝐾𝑆𝑇が大きいと𝑓𝑆𝐶が負の値になりやす

いことが分かる。5節と同一の条件で計算

した𝐾𝑆𝑇と𝐷𝑅の関係を Fig.9 に示すが、強

い相関があり𝐾𝑆𝑇が大きいほど𝐷𝑅が小さ

くなっている。BP は流体の差圧と可変オ

リフィスにより流体的なばねとしての機

能を持たせた機構であるが、ばねとしての

本質的な特性である剛性𝐾𝑆𝑇を強化すると

動的な安定性が低下するという性質をも

っていることが示された。

7.結論

バランスピストンを 1 次元的に線形化

した理論解析を用いてモンテカルロシミ

ュレーションを実施し、静特性と動特性の

関係について考察した。

・静特性である荷重調整能力と動特性で

Page 11: 動特性を考慮したターボポンプの バランスピストン設計について … · が小さいほど損失は少なく、 は大き いほうがターボポンプの効率に対しては

11

ある減衰比はトレードオフ関係にあり、荷

重調整能力を重視して設計すると必然的

に減衰比が悪化する。

・制約条件を満足する設計パラメータの

組合せを探索するには静特性と動特性を

同時に考慮した網羅的な計算をおこない、

解の分布を把握することが有効と考えら

れる。

・理論解析の式から導かれる安定判別式

により減衰比の正負を判別可能であるこ

とを示した。また軸方向の剛性は減衰比と

強い相関があり、動的な安定性を確保する

には剛性を過度に高くする設計を避ける

べきである。

参考文献

(1)林・他 4名,バランスピストン機構によ

る軸方向振動の安定性に関する研究,ター

ボ機械,41巻,10号,625,2013.10

(2)平木・内海,バランスピストン機構の軸

方向振動の固有値に関する理論的検討,タ

ーボ機械,43巻,6号,358,2015.6

(3)Shimura T.・他 5名,Stability of an Axial

Thrust Self-Balancing System, ASME J. of

Fluids Engineering, Vol.135(2013), 011105-1

(4) 平木・他 3名,バランスピストン機構

の軸方向減衰特性に関する理論的検討,タ

ーボ機械,43巻,2号,76,2015.2