宇宙環境を教室に 〜重力制御による教室での宇宙環境の開発・研 … ·...
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宇宙環境を教室に
〜重力制御による教室での宇宙環境の開発・研究と連携〜
実施担当者 大阪府立大手前高等学校
定時制の課程 教諭 久好 圭治
1 はじめに
「科学」と聞くと腰の引ける生徒も多いなかで,「宇宙」という言葉に興味・関心やロマンをか
きたてられる者は少なくない.科学に対する生徒の興味・関心・学力の低下という理科離れが問題
視される中,「宇宙」を前面に打ち出すことで,物理・化学・生物・地学という枠組みにとらわれ
ない科学的思考力や態度を育てることができると考えた.宇宙環境を宇宙飛行士や専門の研究者だ
けの占有空間とするのではなく,生徒が身近に手軽に宇宙を想像できるような実験装置を製作する.
本校では既に 2017 年度の貴財団助成により極めて良質な微小重力発生装置と重力可変装置を研究開発している.重力可変装置については,改良を行いながら実験・研究をつづけている.そこで,
中学校から高専まで様々な校種の生徒たちがその装置を使って微小重力環境,火星や月の重力環境
をつくり,実験を考案し,計画をたて,実際に実験を行いデータを解析することを通して,「科学」
の作り方を学び,さらに手に入れた「科学」の面白さを伝え広めていくことを目的として共同研究を計画した.
2 今年度の活動
2-1 日本地球惑星科学連合大会 2018高校生ポスター発表
5 月 21 日,千葉県幕張メッセで行われた日本地球惑星科学連合 2018 年大会高校生ポスター発表に参加した.この連合大会は地球惑星科学分野の 50を超える学協会が一手に集まる,年に 1度の大きな研究発表の場で,それに合わせて全国の地球惑星科学を研究する高校生も研究発表に集まる.
大阪府立大手前高等学校・定時制の課程・科学部は,大阪府立春日丘高等学校・定時制の課程の科
学部と合同で「3力のつりあいと永久磁石を用いて常磁性磁化率の測定 第 2報」というタイトルで研究発表を行った.全国の高校生による 78 件の研究発表の中で,最優秀賞(第1位)を受賞し
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た.また,大手前高校定時制
科学部単独で,重力を変更し
て研究を行った「毛細管現象
の重力項を検討する」が奨励
賞(6~12 位)を受賞した.両校とも活動時間が限られ
るにもかかわらず,発表前日
も夜遅くまで,自分たちの最
高の発表をしようとがんば
って練習をした成果が現れ
た.
2-2 第 1回 連絡協議会
7 月 15 日(日)から 16日(月)にかけて,津山工業高等専門学校で微小重力実験合同研究連絡会
を開催した.この研究会は,「宇宙環境を教室に」をテーマに,微小重力装置の開発・改良,微小
重力環境での実験について研究協議を行っていくために発足した.また,大阪府立春日丘高等学校
定時制の科学部もこの研究連絡会に参加をしている.第 1回研究連絡会では,実践やアイディアを
共有し,今後の研究連携や発展の方法について意見交換を行った.津山高専は落下塔の枠を完成さ
せ,今後の打ち上げ方式の設備計画についての発表を行った.大手前高校は重力可変装置の現在の
状況を,春日丘高校は微小重力装置の改良について発表した.千代田中学は現在の生徒状況につい
ての発表を行った.お互いの実践を紹介して交流・議論することで,今後につながっていくような
きっかけ作りができた.
2-3 大阪サイエンスフェスタ(青少年のための科学の祭典)
恒例のサイエンスフェスタに今年も参加した.今回は,大阪府立大手前高校定時制科学部と春日
丘高校定時制科学部の合同参加である.昨年同様の「磁石で遊ぼう!」というタイトルで子どもた
ちに磁石の面白さ不思議さを伝えようと奮闘した.子どもたちに解ってもらえるように,必死で自
分の言葉で伝える2日間であった.部員たちはこのイベントをある意味修行と考えており,めげそ
うになる自分を奮い立たせて子どもたちへの解説を行っていた.
2-4 土曜講座が生んだ吹田市米沢富美子賞受賞
大手前高校定時制で開催されている土曜講座「宇
宙・地球・生命を考える」に参加を続けてきた吹田
市立第一中学校 2 年生の筒井さんが,米沢富美子こ
ども科学賞・第 33 回吹田市子ども科学作品展におい
て,米沢冨美子賞を受賞した.土曜講座で火星の講
義を学んだ事がきっかけで火星の火山に思いを巡ら
せ,プリン実験を通しての地球の火山との比較研究
を思いついた.「オリンポス山はなぜ高い? 〜火
星と地球の重力の違いによる考察〜」というタイト
ルで,研究を行った.筒井さんは大手前高校定時制
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の科学部員たちの指導・協力のもと落下カプセルを組み立て実験装置を配置し,科学部の微小重力
発生装置を利用して微小重力下でのプリンの実験を行った.実験を通して部員たちと議論を重ねた.
宇宙環境での実験を広げていく1つの実践例となった.
2-5 第 15回高校化学グランドコンテスト 金賞
10 月 27日 28日に名古屋市立大学で開催された第 15回高校化学グランドコンテスト最終選考会にオーラル部門に参加した.今回も,大手前
高校定時制科学部と立春日丘高等学校定時制科
学部と合同の発表である.「微小重力を用いて
液体を容器に入れずに磁化率を測定する」とい
うタイトルで,微小重力中のとてもきれいな球
状の水滴が加速度運動する様子を高速度カメラ
で記録し,その磁化率を求めた.さらに,今年
は英語でのオーラル発表に挑戦した.英語でも
丁寧にわかりやすく説明することを心がけた.
昨年に引き続き,金賞をいただいた.化学の領
域に微小重力を持ち込んでの発表であった.生徒たちは,来年も挑戦したいと意気込んでいる.
2-6 第 15回南極北極科学コンテス 2件発表 ともに奨励賞
中学生および高校生から広く研究アイデアを募集する科学コンテスト:「第 15 回中高生南極北極科学コンテスト」に大手前高校定時制科学部が 2つのテーマで応募し,2つとも奨励賞をいただいた.「地球磁場と宇宙塵~地磁気逆転が見えるか?~」では,南極氷床コアに含まれている金属
質宇宙塵の割合から,地磁気逆転の期間を見積
もるという提案を行った.もう一つの「月のク
レーター内に残る氷を実験的に確かめる」提案
は,南極にクレーターの模型を作り,月の極域
にあるクレーター内の永久影の氷の存在を確認
するというものである.南極北極ジュニアフォ
ーラムで,受賞校の表彰が行われた.その後,
受賞提案の発表が行われ,ポスター発表を行っ
た.南極研究の専門家の方々と活発な議論を行
うことができた.生徒たちの発想を評価してい
ただき,実際に実験を行うに当たってたくさん
のアドバイスをいただいた.南極の「昭和基地」
の観測隊長とリアルタイムのライブ中継もあり
交流できた.終了後,南極・北極科学館の見学を行い,南極北極についてたくさんの刺激をもらっ
た.
2-7 サイエンスキャッスル 2018関東大会
終業式が終わり,ホットするまもなくサイエンスキャッスル 2018 関東大会に参加した.「重力可変装置の振動を抑える」のタイトルでポスター発表を行った.重力可変装置を LMガイドというスライダーを利用して,おもりの上昇時の振動を抑えた結果を報告した.微小重力発生装置と同様,
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振動と戦い,装置の性能を上げている様子を伝えられたと思う.サイエンスキャッスル研究費 THK賞をいただいた.同時に「微小重力を用いた水の反磁性磁化率測定」のポスター発表も行った.こ
ちらは,優秀ポスター賞をいただいた.ともに,ポスターの前で,活発な議論を行い,今後の装置
改良に貴重な意見といただいた.
2-8 豊中サイエンスフェスティバル
今年も豊中サイエンスフェスティバルに参加した.「子どもたちに科学を楽しんでもらう.」
「子どもたちに科学を伝える」をモットーに,「電気と磁気は仲良し!」というタイトルで,目に
見えない電気と磁気を感じてもらった.電気を流すと磁石ができる.磁石が動くと電気が流れる.
磁石が動いて電流が流れて磁石ができて...実際に磁石を動かしたりコイルに電流を流したり,
視覚化した磁場や電流を見ながら一所懸命子どもたちに説明を行った.身振り手振りを交えて,な
んとか電気と磁気を伝えようと悪戦苦闘した半日だった.今年も去年と同じように大阪でも雪が舞
う日だったが,大盛況だった.
2-9 第 15回日本物理学会 Jr.セッション
3 月 17 日,九州大学で行われた第 15 回日本物理学会 Jr.セッションに今年も参加した.131 件の応募から,80件がポスター発表として採択された.大阪府立春日丘高等学校定時制科学部と共同研究を続け
てきた「微小重力を用いて液体を容器に入れずに磁
化率を測定する 第 3 報」と大手前高校科学部単独の研究,「毛細管現象の重力項を検討する」の 2 本とも採択され発表することができた.毛細管の実験
は,水だけでなくエタノールでの結果を付け加えて
議論を深めた.発表は多くの方に興味を持っていた
だき,活発な議論を行った.毛細管の研究については審査員特別賞,共同研究の水の磁化率は奨励
賞をいただきました.また会場で,共同研究校である津山高専,千代田中学校と第 2回微小重力実験合同研究連絡会を持った.来年の実験に向けて,貴重な情報交換と技術交流を行った. 2-10 その他
小学校への出前授業,市教委への活動の紹介,公開講座:土曜講座を利用して市民へ科学を提供.
3 まとめ
広域・異校種間の共同研究により,相互作用で新しい発想が生まれることを期待して立ち上げた
企画であるが,予想を上回る結果となった.高校や中学校は,高専の専門性に驚き,その高みを目
指し始めた.また,高専は,高校で行った微小重力実験の結果に刺激され,装置の完成を急ぎ,自
ら得意とする回転を微小重力に持ちこんで研究を開始した.各校を繋ぐ同一テーマ:微小重力実験
において共同で装置の開発と各校独自の研究テーマによる実験を行っていくことができた.未解決
の課題に取り組み,未知の領域に踏み込むことができた.また,各校がそれぞれの地域で核となっ
てこの活動を広げていく芽をそれぞれ作り始めることができた.
謝 辞
本研究は,公益財団法人 中谷医工計測技術振興財団の助成により実施された.