環境問題をめぐる社会の変化...中小企業 50.0 34.4 17.0 41.2...

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2000年代 2010年代 1960年代 1970年代 1980年代 1990年代 環境への警鐘 環境保護のはじまり 環境と成長の両立へ 冷戦の終結、環境への議論が活発に 環境の世紀をめざして 世界の二酸化炭素(CO₂) 排出量の推移 OECD 非OECD バンカー (注) 1964 国連貿易開発会議 (UNCTAD)の設置 1974 国連「新国際経済秩序(NIEO)」樹立 に関する宣言採択 1965 ベトナム戦争勃発 1973 第4次中東戦争勃発 1980 イラン・イラク戦争勃発 1989 マルタ会談 1990 ドイツ統一 フィンランド「環境税」実施 2011 東日本大震災 福島第一原子力発電所事故 1991 ソ連解体 湾岸戦争勃発 2001 アメリカ同時多発テロ 2003 イラク戦争勃発 2008 リーマン・ショック 1973 第1次石油危機 1979 第2次石油危機 1993 EU発足 1986 チェルノブイリ原子力発電所事故 OECD 65% 非OECD 31% バンカー 4% OECD 59% 非OECD 38% バンカー 3% OECD 52% 非OECD 45% バンカー 3% OECD 53% 非OECD 44% バンカー 3% OECD 43% 非OECD 54% バンカー 3% 1971年 14,526百万t 1980年 18,455百万t 1990年 21,224百万t 2000年 23,399百万t 2008年 29,471百万t 西公害対策基本法(1967年、93年環境基本法制定により廃止) 環境庁発足(1971年) 環境基本法(1993年) 環境省に変更(2001年) 循環型社会形成推進基本法(2000年) 再生可能エネルギー法(2011年) チャレンジ25 地球環境の悪化によって 人類が滅亡に至るまで、 あなたは何分あると思いますか? 1988年 アメリカ上院の公聴会で指摘。気候変動枠組み条約採択(1992年) 1974年 フロンによるオゾン層破壊の可能性が指摘される。 ラムサール条約採択(1971年) ワシントン条約採択(1973年) 生物多様性条約採択(1992年) カルタヘナ議定書採択(2000年) 長距離越境大気汚染条約(ジュネーヴ条約)締結(1979年) 国連砂漠化防止会議(1977年) 国連水会議(1977年) 砂漠化防止条約採択(1994年) オゾン層の保護のためのウィーン条約採択(1985年) モントリオール議定書採択(1987年) 1988年 OECDレポート バーゼル条約採択(1989年) バーゼル損害賠償責任議定書採択(1999年) ストックホルム条約採択(2001年) 京都議定書発効(2005年) コペンハーゲン合意(2009年) 地球温暖化 オゾン層破壊 砂漠化 大気汚染(酸性雨) 有害廃棄物の拡大 海洋汚染(水質汚濁) 野生生物の保護 高度経済成長期 公害の多発 循環型社会を めざして 世界終末時計 アメリカの科学誌が1947年 から、核による人類の滅亡を午 前0時にたとえ、残り時間をあ と何分という形で表している。 本来、核の脅威を表していたが、 1989年からは、気候変動による環境破壊なども考慮 して、針の動きが決定されている。 現在(2010年から)は、6分前になっている。 南北対立 共通だが差異のある問題 先進国:全地球的な環境対策への展開 発展途上国:自国の経済発展優先 公害の多発 制度面の整備(直接規制中心) 規制+経済政策 モノカルチャー経済などに よる不安定な経済基盤 資源ナショナリズムの高まり~産油国の台頭 新興工業国の出現 経済格差の拡大~経済優先の政策 新興経済国の成長 環境保全をめぐる先進国との対立と合意 国連人間環境会議1972年 開催地:ストックホルム かけがえのない地球 「人間環境宣言」 「行動計画」 国連環境計画(UNEP)創設 環境破壊への警鐘 『沈黙の春』1962年 レイチェルカーソン 『共有地の悲劇』1968年 ガレットハーデ『成長の限界』1972年 ローマ・クラブ 国連環境会議1982年 開催地:ナイロビ UNEP特別会議 国連環境開発会議1992年 開催地:リオデジャネイロ 地球サミット 持続可能な開発 「環境と開発に関するリオ宣言」 「アジェンダ21」(行動計画) 「森林原則声明」 環境・開発サミット2002年 開催地:ヨハネスバーグ 持続可能な開発に関する 世界首脳会議:リオ+10 「ヨハネスバーグ宣言」 持続可能な開発の重要性を確認 締約国会議(COP3)1997年 地球温暖化防止京都会議:京都議定書採択 排出権取引 環境と開発に関する 世界委員会 「我ら共有の未来」 1987年 持続可能な開発 提言 国連持続可能な開発のための 世界会議 2012年6月 開催予定 開催地:リオデジャネイロ リオ+20サミット 締約国会議(COP16)2010年 カンクン合意 途上国支援に「グリーン気候基金」 の設立 京都議定書以後の枠組み (内容については先送り) 気候変動枠組み条約 (1992年採択) 社会のながれをつかむ! 環境問題をめぐる社会の変化 『高校生の新現代社会 初訂版』p.6~13、92~93 『アクセス現代社会 2011』p.19~27、146~150 学習のねらい 環境問題をめぐる社会の変化をとおして、先進国と発展途上国の主張の違いを確認し ながら、環境問題を解決するために国際社会において形成しなければならない考え方と取りかかるべき 政策について考察してみよう。 全ての居室 の窓全部の 改修 全ての居室 の窓全部の 改修 太陽光発電設備の設置 太陽光発電設備の設置 壁の断熱 壁の断熱 天井の断熱 天井の断熱 床の断熱 床の断熱 出典:①経済産業省HPをもとに作成。②「環境問題とCSRに取り組む日本企業ーニッセイ景況アンケートー2009年1月調査結果」より。③経済産業省HPより。 環境政策のこれからをつかむトピックス ①低炭素型まちづくりにおける住宅 ●環境ビジネスへの取り組み すでに積極的 に行っている ある程度は 行っている 現在、検討 中である その他 全企業 12.2% 22.2 17.3 48.3 大企業 22.9 30.5 14.7 32.0 中小企業   8.7 18.2 16.9 56.3 ●取り組んでいる環境ビジネスの内容 省エネ・省資 源型の製品・ 装置 リサイクル・ 再資源化事業 公害防止型の 製品・装置 その他 全企業 52.6% 35.5 15.5 43.1 大企業 53.3 35.1 13.0 54.0 中小企業 50.0 34.4 17.0 41.2 複数回答のため合計は100とならない(二つまでの複数回答) ②環境問題に取り組む日本企業 ③日本型低炭素社会の構築〜2020年の絵姿 ①環境問題をめぐる費用の負担は? 地球環境問題、中でも地球温暖化への対策を考えた 場合、二酸化炭素を排出する化石燃料の使用や将来に 放射性廃棄物を残してしまう原子力発電によるエネル ギーを使用することよりも、再生可能エネルギーによ るネット・ゼロ・エネルギー化を実現することが理想 である。経済産業省は、グリーン・イノベーションに よる環境・エネルギー大国戦略の中で日本型低炭素社 会の構築について工程表を提示している。工程表では、 くらしから低炭素型まちづくりの世界展開への取り組 みを2020年の絵姿として示している。上記の住宅俯瞰 図は工程表の中で表されたものである。環境問題の解 決をはかり、低炭素型社会を実現するにあたり、個人 の経済力で対応が可能な取り組みにはどのようなもの があるのだろうか。 再生可能エネルギーとして注目されている太陽光発 電システムの導入費用、導入にあたって支援される補 助金や余剰電力を電力会社が購入するしくみなどにつ いて調べてみよう。 個人の取り組みで対応できる事柄にかかわる費用に ついても調べてみよう。太陽光発電でつくり出した電 力を蓄電する設備の費用、住宅の天井や壁・床の断熱 の費用、窓の断熱にかかる費用など、住宅の新築や改 修のそれぞれについて個人の支出が可能であるのか検 討してみよう。住宅以外にも電気自動車やハイブリッ ド自動車などの購入が国民的規模で経済的に可能であ るのか考えてみよう。 ②環境問題の解決と経済の発展は両立する? 環境問題への取り組みは、企業の活動や企業間取引 においてすでに積極的に行われている。この取り組み は破壊された環境の回復であるとともに、現在の環境 を保全する働きかけでもある。新たな問題に対する取 り組みは従前と異なった体制をつくり出す。このこと は、企業の活動においても、従前とは異なった取り組 みを形成することになる。 企業の活動状況を捉える資料として「環境ビジネス への取り組み」の表をみてみると、「すでに積極的に 行っている」「ある程度は行っている」と回答してい る企業の合計は34.4%にとどまっている。十分な取り 組みが行われているとは言い難い数値である。その理 由について考えてみよう。 「取り組んでいる環境ビジネスの内容」の表をみて みると、「省エネ・省資源型の製品・装置」が約5割 を占め、「リサイクル・再資源化事業」が続いている。 それぞれの企業にとって操業活動の内容から得手不得 手の分野の存在を推察することができるが、地球温暖 化への対策となる二酸化炭素への対策事業が上位に 入っていない。このことを含め、企業が取り組んでい る環境ビジネスの実情について考えてみよう。 環境問題がクローズアップされてから今日に至るま で、多くの企業が「企業の社会的責任(CSR)」の中 で環境問題に向き合っている。環境問題に対する企業 の具体的な取り組みについて、ホームページなどで調 べてみよう。 ③環境問題の解決に必要とされるものは? 経済産業省は、グリーン・イノベーションによる環 境・エネルギー大国戦略における日本型低炭素社会の 構築の中で、2020年の絵姿を示している。くらし、動 力・産業、まちづくりの3分野にわたって日本の技術 による地球環境問題の改善にむけた取り組みを世界に 拡大していく構想である。いずれも技術面においては 対応が可能である。この絵姿を世界に拡大していくた めに必要とされる取り組みについて考えてみよう。 構想の内容が効果的なものであっても、実現化して いく中で考えなくてはならないことは費用対効果であ る。環境問題に限ったことではないが、新たな技術の 導入を図るためには経済力が必要となる。国内外にお いて、広く継続的な働きかけを行いながら日本が描く 絵姿の普及をはかることを考えた場合、発展途上国に 対しては外交上の友好関係に加え、供給の点で経済的 な支援が欠かせないことになる。このことを踏まえて、 世界各国において日本の取り組みが効果を上げ、継続 的な取り組みの中で地球環境問題の改善を行うことが 可能となるために、国内で取り組む必要性がある事柄 について考えてみよう。 低炭素型社会に向けた構想は、日本だけでなく多く の先進国において工夫を凝らした取り組みが実施され ている。その経済的な基盤となっているものに環境税 や炭素税のような課税体制が整備されている。世界各 国と日本の取り組みの違いについてさまざまな面から 比較してみよう。 くらし ○住宅・建築物のネット・ゼロ・エネルギー化 ○LEDや有機ELなど次世代照明100%化の実現 ○再生可能エネルギーの大幅導入拡大 動力・産業 ○次世代自動車の本格的普及の実現 ○日本がグリーン・イノベーションや低炭素型産業の世界拠点化 (環境関連の新市場創造50兆円超140万人の雇用創出) まちづくり ○日本発の低炭素型まちづくりを世界に展開 ○日本の技術を活用して日本一国分(13億t)以上の世界のCO₂を削減 バンカーは国際海運と国際 空運のエネルギー消費。どの 国と地域にも含まれず、世界 計のみに計上。

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Page 1: 環境問題をめぐる社会の変化...中小企業 50.0 34.4 17.0 41.2 複数回答のため合計は100とならない(二つまでの複数回答) ②環境問題に取り組む日本企業

2000年代 2010年代年代 1960年代 1970年代 1980年代 1990年代

地球環境問題への取り組み

国際社会の動向

世界の

できごと

 料

日本

先進国

発展途上国

環境への警鐘 環境保護のはじまり 環境と成長の両立へ 冷戦の終結、環境への議論が活発に 環境の世紀をめざして

■世界の二酸化炭素(CO₂) 排出量の推移

OECD

非OECD

バンカー(注)

1964 国連貿易開発会議 (UNCTAD)の設置

1974 国連「新国際経済秩序(NIEO)」樹立 に関する宣言採択

1965 ベトナム戦争勃発

1973 第4次中東戦争勃発1980 イラン・イラク戦争勃発

1989 マルタ会談 1990 ドイツ統一 フィンランド「環境税」実施

2011 東日本大震災 福島第一原子力発電所事故

1991 ソ連解体 湾岸戦争勃発

2001 アメリカ同時多発テロ2003 イラク戦争勃発

2008 リーマン・ショック1973 第1次石油危機

1979 第2次石油危機 1993 EU発足

1986 チェルノブイリ原子力発電所事故

OECD65%

非OECD31%

バンカー4%

OECD59%

非OECD38%

バンカー3%

OECD52%

非OECD45%

バンカー3%

OECD53%

非OECD44%

バンカー3%

OECD43%非OECD

54%

バンカー3%

1971年 14,526百万t 1980年 18,455百万t 1990年 21,224百万t 2000年 23,399百万t 2008年 29,471百万t

東西冷戦の終結

公害対策基本法(1967年、93年環境基本法制定により廃止)環境庁発足(1971年)

環境基本法(1993年)環境省に変更(2001年)循環型社会形成推進基本法(2000年)

再生可能エネルギー法(2011年)チャレンジ25

地球環境の悪化によって 人類が滅亡に至るまで、  あなたは何分あると思いますか?

1988年 アメリカ上院の公聴会で指摘。気候変動枠組み条約採択(1992年)

1974年 フロンによるオゾン層破壊の可能性が指摘される。

ラムサール条約採択(1971年)    ワシントン条約採択(1973年) 生物多様性条約採択(1992年) カルタヘナ議定書採択(2000年)

長距離越境大気汚染条約(ジュネーヴ条約)締結(1979年)

国連砂漠化防止会議(1977年)

国連水会議(1977年)

砂漠化防止条約採択(1994年)

オゾン層の保護のためのウィーン条約採択(1985年)      モントリオール議定書採択(1987年)

1988年 OECDレポート バーゼル条約採択(1989年) バーゼル損害賠償責任議定書採択(1999年)    ストックホルム条約採択(2001年)

京都議定書発効(2005年)           コペンハーゲン合意(2009年)地球温暖化

オゾン層破壊

砂漠化

大気汚染(酸性雨)

有害廃棄物の拡大

海洋汚染(水質汚濁)

野生生物の保護

高度経済成長期公害の多発

循環型社会をめざして

世界終末時計 アメリカの科学誌が1947年から、核による人類の滅亡を午前0時にたとえ、残り時間をあと何分という形で表している。本来、核の脅威を表していたが、

1989年からは、気候変動による環境破壊なども考慮して、針の動きが決定されている。 現在(2010年から)は、6分前になっている。

南北対立 共通だが差異のある問題先進国:全地球的な環境対策への展開

発展途上国:自国の経済発展優先

公害の多発 制度面の整備(直接規制中心) 規制+経済政策

モノカルチャー経済などによる不安定な経済基盤 資源ナショナリズムの高まり~産油国の台頭 新興工業国の出現 経済格差の拡大~経済優先の政策 新興経済国の成長 環境保全をめぐる先進国との対立と合意

国連人間環境会議1972年 開催地:ストックホルム

 かけがえのない地球 「人間環境宣言」 「行動計画」

国連環境計画(UNEP)創設

環境破壊への警鐘『沈黙の春』1962年 レイチェル=カーソン『共有地の悲劇』1968年 ガレット=ハーディン

『成長の限界』1972年 ローマ・クラブ

国連環境会議1982年 開催地:ナイロビ UNEP特別会議

国連環境開発会議1992年 開催地:リオデジャネイロ 地球サミット

 持続可能な開発 「環境と開発に関するリオ宣言」 「アジェンダ21」(行動計画) 「森林原則声明」

環境・開発サミット2002年 開催地:ヨハネスバーグ

 持続可能な開発に関する 世界首脳会議:リオ+10

 「ヨハネスバーグ宣言」 持続可能な開発の重要性を確認

締約国会議(COP3)1997年地球温暖化防止京都会議:京都議定書採択 排出権取引

環境と開発に関する世界委員会

 「我ら共有の未来」 1987年

持続可能な開発 提言

国連持続可能な開発のための世界会議 2012年6月 開催予定 開催地:リオデジャネイロ

 リオ+20サミット

締約国会議(COP16)2010年 カンクン合意 途上国支援に「グリーン気候基金」 の設立 京都議定書以後の枠組み (内容については先送り)

③越境汚染の深刻化

②資源枯渇の懸念

①公害の多発

先進国の急速な経済発展

②越境汚染への国際対応が進む

①環境保全と経済発展の必要性認識

環境と成長の両立をめざす

②地球環境政策の幕開け

①国際環境条約の基本原理の整備

気候変動枠組み条約(1992年採択)

社会のながれをつかむ!環境問題をめぐる社会の変化 『高校生の新現代社会 初訂版』p.6~13、92~93

『アクセス現代社会 2011』p.19~27、146~150

■学習のねらい 環境問題をめぐる社会の変化をとおして、先進国と発展途上国の主張の違いを確認しながら、環境問題を解決するために国際社会において形成しなければならない考え方と取りかかるべき政策について考察してみよう。

全ての居室の窓全部の改修

全ての居室の窓全部の改修

太陽光発電設備の設置太陽光発電設備の設置

壁の断熱壁の断熱

天井の断熱天井の断熱

床の断熱床の断熱

出典:①経済産業省HPをもとに作成。②「環境問題とCSRに取り組む日本企業ーニッセイ景況アンケートー2009年1月調査結果」より。③経済産業省HPより。

環境政策のこれからをつかむトピックス

①低炭素型まちづくりにおける住宅 ●環境ビジネスへの取り組み

すでに積極的に行っている

ある程度は行っている

現在、検討中である その他

全企業 12.2% 22.2 17.3 48.3大企業 22.9 30.5 14.7 32.0中小企業   8.7 18.2 16.9 56.3

●取り組んでいる環境ビジネスの内容

省エネ・省資源型の製品・装置

リサイクル・再資源化事業

公害防止型の製品・装置 その他

全企業 52.6% 35.5 15.5 43.1大企業 53.3 35.1 13.0 54.0中小企業 50.0 34.4 17.0 41.2複数回答のため合計は100とならない(二つまでの複数回答)

②環境問題に取り組む日本企業 ③日本型低炭素社会の構築〜2020年の絵姿

①環境問題をめぐる費用の負担は? 地球環境問題、中でも地球温暖化への対策を考えた場合、二酸化炭素を排出する化石燃料の使用や将来に放射性廃棄物を残してしまう原子力発電によるエネルギーを使用することよりも、再生可能エネルギーによるネット・ゼロ・エネルギー化を実現することが理想である。経済産業省は、グリーン・イノベーションによる環境・エネルギー大国戦略の中で日本型低炭素社会の構築について工程表を提示している。工程表では、くらしから低炭素型まちづくりの世界展開への取り組みを2020年の絵姿として示している。上記の住宅俯瞰図は工程表の中で表されたものである。環境問題の解決をはかり、低炭素型社会を実現するにあたり、個人の経済力で対応が可能な取り組みにはどのようなものがあるのだろうか。 再生可能エネルギーとして注目されている太陽光発電システムの導入費用、導入にあたって支援される補助金や余剰電力を電力会社が購入するしくみなどについて調べてみよう。 個人の取り組みで対応できる事柄にかかわる費用についても調べてみよう。太陽光発電でつくり出した電力を蓄電する設備の費用、住宅の天井や壁・床の断熱の費用、窓の断熱にかかる費用など、住宅の新築や改修のそれぞれについて個人の支出が可能であるのか検討してみよう。住宅以外にも電気自動車やハイブリッド自動車などの購入が国民的規模で経済的に可能であるのか考えてみよう。

②環境問題の解決と経済の発展は両立する? 環境問題への取り組みは、企業の活動や企業間取引においてすでに積極的に行われている。この取り組みは破壊された環境の回復であるとともに、現在の環境を保全する働きかけでもある。新たな問題に対する取り組みは従前と異なった体制をつくり出す。このことは、企業の活動においても、従前とは異なった取り組みを形成することになる。 企業の活動状況を捉える資料として「環境ビジネスへの取り組み」の表をみてみると、「すでに積極的に行っている」「ある程度は行っている」と回答している企業の合計は34.4%にとどまっている。十分な取り組みが行われているとは言い難い数値である。その理由について考えてみよう。 「取り組んでいる環境ビジネスの内容」の表をみてみると、「省エネ・省資源型の製品・装置」が約5割を占め、「リサイクル・再資源化事業」が続いている。それぞれの企業にとって操業活動の内容から得手不得手の分野の存在を推察することができるが、地球温暖化への対策となる二酸化炭素への対策事業が上位に入っていない。このことを含め、企業が取り組んでいる環境ビジネスの実情について考えてみよう。 環境問題がクローズアップされてから今日に至るまで、多くの企業が「企業の社会的責任(CSR)」の中で環境問題に向き合っている。環境問題に対する企業の具体的な取り組みについて、ホームページなどで調べてみよう。

③環境問題の解決に必要とされるものは? 経済産業省は、グリーン・イノベーションによる環境・エネルギー大国戦略における日本型低炭素社会の構築の中で、2020年の絵姿を示している。くらし、動力・産業、まちづくりの3分野にわたって日本の技術による地球環境問題の改善にむけた取り組みを世界に拡大していく構想である。いずれも技術面においては対応が可能である。この絵姿を世界に拡大していくために必要とされる取り組みについて考えてみよう。 構想の内容が効果的なものであっても、実現化していく中で考えなくてはならないことは費用対効果である。環境問題に限ったことではないが、新たな技術の導入を図るためには経済力が必要となる。国内外において、広く継続的な働きかけを行いながら日本が描く絵姿の普及をはかることを考えた場合、発展途上国に対しては外交上の友好関係に加え、供給の点で経済的な支援が欠かせないことになる。このことを踏まえて、世界各国において日本の取り組みが効果を上げ、継続的な取り組みの中で地球環境問題の改善を行うことが可能となるために、国内で取り組む必要性がある事柄について考えてみよう。 低炭素型社会に向けた構想は、日本だけでなく多くの先進国において工夫を凝らした取り組みが実施されている。その経済的な基盤となっているものに環境税や炭素税のような課税体制が整備されている。世界各国と日本の取り組みの違いについてさまざまな面から比較してみよう。

くらし○住宅・建築物のネット・ゼロ・エネルギー化○LEDや有機ELなど次世代照明100%化の実現○再生可能エネルギーの大幅導入拡大

動力・産業○次世代自動車の本格的普及の実現○日本がグリーン・イノベーションや低炭素型産業の世界拠点化 (環境関連の新市場創造50兆円超140万人の雇用創出)

まちづくり○日本発の低炭素型まちづくりを世界に展開○日本の技術を活用して日本一国分(13億t)以上の世界のCO₂を削減

注 バンカーは国際海運と国際空運のエネルギー消費。どの国と地域にも含まれず、世界計のみに計上。

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1 はじめに

 高校生は、環境に関する知識や環境問題への対応については、小学校や中学校における学習活動の中で取り組んできている。ICT機器を活用した視覚的な教材や学校生活をとおして環境問題に取り組んだ経験も少なくない。高校生として学習すべき事柄や考察すべき内容を見いだすことができないと、既存の知識で対応しようとする意欲の乏しい学習活動になりかねない。生命を授かったときから環境問題に対峙している高校生に対し、高校における環境についての学習に取り組むにあたり、自らの立場が、環境問題の当事者であり、被害者であるとともに、加害的行為を行ってしまう存在であることも認識させる必要があると考える。 環境についての学習は、現行の学習指導要領では、現代社会の 「(1)現代に生きる私たちの課題」 の現代社会の諸問題で、新しい学習指導要領においても 「(1)私たちの生きる社会」 の現代社会における諸課題における取扱い、加えて 「(3)共に生きる社会を目指して」 の中で、学習した成果を活用させる取扱いができる。新しい学習指導要領には、「地域や学校、生徒の実態等に応じて課題を設定し、個人と社会の関係、社会と社会の関係、現役世代と将来世代の関係のいずれかに着目させること。」とある。環境に関してはこれらすべてを意識させるとともに、先進諸国と発展途上国の関係をグローバル的な視点に立って着目させるとともに、課題解決に向けた取り組みについて考察させたい。2 学習をとおして生徒に考察させたい事柄について

 地球環境問題として認識されている諸問題を、本資料では「地球環境問題への取り組み」としてまとめた。これらの諸問題が環境問題として意識されてから改善に向けた取り組みに至るまでの期間や経緯は異なっているが、共通していることは地球環境を保全するために国家を超えた取り組みについて話し合いが行われたことである。話し合いの内容は条約として整備され、各国が批准するという国際的な対応に至っている。ここまでの学習は知識を習得するものである。この学習をとおして

生徒には次の点を考察させたい。(1)�地球環境問題への取り組みについて考えをめぐらせるときに、どのような状

態を幸福として捉えるべきなのであるのか。(2)話し合いによってつくられたルールは公正であるのか。(3)公正という視点で問題を判断するときの基準は正しい基準(正義)であるのか。 上記3点は、新しい学習指導要領に示されている、社会の在り方を考えるための価値概念である「幸福、正義、公正」に基づいたものであるが、現行の学習指導要領においても、「現代に生きる私たちの課題」 として取り組ませることができる。3 授業の組み立て

(1)課題を捉える視点を異にして取り組ませる授業 環境問題は1国の取り組みで解決に至る問題ではない。このことを、生徒が国際社会の動向の中で環境問題をめぐる社会の変化に連動させて理解することができる授業展開が求められる。国際社会の動向を経年変化で確認する学習は必要であるが、それだけでは知識の確認のみに終始してしまう。学習に取り組ませる際、個々の生徒に問題を捉える視点を意識させることで、生徒個々人の意見形成を促すことが容易となる。本資料においては、国際連合による会議の変遷を軸に国際社会の動向を示している。国際連合の立場からの視点、先進諸国の立場からの視点、発展途上国の立場からの視点に生徒の視点を分けること(以下の記述でこれらの立場を「立場の異なる3者」と表現する)が容易である。それぞれの立場から国際社会の動向の中で見いだすことができる課題の解決に向けた取り組みについて意見を交換させることで、環境問題をめぐる問題の対立軸を意識させることができる。(2)社会の変化に則して考察させる授業 環境問題を学習する生徒の立場を分けることを前提とするが、前述(1)の立場から国際社会の動向を学習させることで、より多面的な視点から環境問題を捉えさせることができる。以下の展開において、それぞれの立場に分かれた生徒の考えを主

張させあう授業を展開することができる。 環境問題への警鐘が始まった頃(『沈黙の春』や『共有地の悲劇』)は、環境保護の主張が中心であった。この段階で立場の異なる3者の意見を発表させ、その内容に相違があるか確認する。 環境を保護・保全しなければならないという考え方について理解を得ることは難しいことではなく(『成長の限界』に対する評価)、問題を共有することで課題解決の方向性を一元化すること(かけがえのない地球〜「人間環境宣言」)についても国際社会においては共通理解を得ることができた。生徒に対し、この段階における提起された問題に対する評価について立場の異なる3者の意見を発表させ、その内容に相違があるか確認する。��環境を保全する取り組みについて対策が考えられ、制度が具体化する段階になると、各国の国益を保護する政策や経済発展への取り組み、環境保全にかかわる技術力や資金力の格差など、国家間において調整をはからなければならない事柄が生じ始める。生徒には、世界各国が直面した課題は地球環境保全と国益の拡大を支える自国の経済成長を両立させること(「持続可能な開発」 に賛同しつつも、取り組みの方法については自国の立場を擁護する主張の展開が明確になる)であったことを理解させる。国際社会における見解の相違が明確になったように、生徒も立場の違いによる意見の相違が生じることが容易に予想できる。そのため、立場の異なる3者の意見を発表させ、その意見を構成した理由(考えをまとめたプロセス)を説明させる。立場と意見が同じであっても、考えをまとめる過程において、視点や理由が異なることが生じる。生徒には自己の意見を展開しながら自他の意見やその考え方の経緯についても考察の対象とすることに気づかせたい。その上で、自己の意見を実現するための政策について思考する段階へと学習活動を展開させたい。��深刻化しながら進行する環境問題に対し、国際社会は、解決に向けた取り組みを行うことについては意見の一致を見いだしている。しかし、問題の解決に至る方法についてはそれぞれの立場や国益により、考え方の隔たりを埋めることができない状況下にある。先進国は、「環境問題は人類共通の問題として解決する」という立場であり、発展途上国は「共通の問題として捉えつつも問題を引き起こした当事者によって環境問題を解決する」ことを主張する立場をとっている。この隔たりを解決する方法について考察させることができる。考察させる学習活動の展開にあたり、

主張に数値的な根拠を理由とすることができるよう活用できる資料を提示することは必要なことである。考察させた後に、立場の異なる3者の意見を発表させる。(3)資料を活用した授業として 資料として提示できるものは多々あるが、生徒にとって考察しやすい資料として、地球温暖化の原因の一つとなっている二酸化炭素排出量の推移がある。本資料においては世界の二酸化炭素排出量の推移をOECDと非OECDに分けたグラフを提示した。このグラフについては次の点について生徒に気づかせた上で意見を形成させたい。①二酸化炭素排出量の経年変化 グラフは1970年代以降、約10年単位の推移を表している。この推移の中で二酸化炭素排出量の総排出量が増加している。このことから、地球温暖化への対策として、二酸化炭素の排出量を削減することを早急に実現しなければならないことを理解させることができる。②OECDと非OECDの割合の推移 OECDと非OECDの割合の推移については、非OECD諸国の排出割合のほうが増加傾向を示している。中でも、2000年代以降の変化は数値的に大きいものとなっている。排出量全体が増加している中で排出割合の増加についてもグラフから読み取れるデータとして確認させたい点である。③バンカーの存在 統計上、OECDにも非OECDにも含まれないデータである。割合としてはほとんど変化していないが、総排出量に占める排出量は増加している。移動に伴うエネルギー消費については双方の立場が関連するものである。削減に向けた取り組みについて考察の対象とさせたい部分である。4 おわりに

 環境問題をめぐる学習については、地球規模の問題であることを理解させるだけでなく、異なる立場からの主張を調整する政策の内容について意見を形成させたい。自らの考えを形成した上で、自他の考えと熟議させることが課題解決に向けた取り組みとして効果的であると考える。異なる立場からの意見形成や政策の内容にかかわる学習の後に、生徒には、国際社会における公平・公正・正義について問いかけたい。これらの考え方が適正に成立するかどうかについての判断の後に、全ての人に幸福の実現するために取り組まなければならないことについて考察させたい。

解説・授業での活用例

●現代社会へのとびら 2011年度2学期号 付録②(社会のながれをつかむ!)

*この面は指導者用、裏面は生徒用、B2判は、掲示用にお使いください。

前橋市立前橋高等学校 上原 功  

帝国書院

環境問題をめぐる社会の変化