環境リスク研究センター鑪迫典久7...
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環境リスク研究センター 鑪迫典久
今日の話題
化学物質の安全性とメダカ、ミジンコの役割
化学物質でメダカのオス・メス比が変わる?
化学物質によってミジンコの生まれてくる子供がオスばかりになる?
日本では毎年数百もの新しい化学物質が開発、登録、製造されて、世の中に出ています。
河川・公共水域
化学物質
残留性有機汚染物質
水生生物への蓄積性水生生物への蓄積性
水中での分解性水中での分解性
環境への化学物質
の排出
高次捕食動物への食物連鎖
水生生物への毒性水生生物への毒性
人への有害性人への有害性
化学物質の環境中での挙動
試験に使われている代表的な水生生物
化学物質が生物に与える影響の例有用な化学物質の中にも水生生物に悪い影響を与えるものがある。どの程度の量で影響があるのかを調べて適切に使うことが大切。
弱る。泳げなくなる。生まれる子どもの数が少なくなる。 増える速度が落
ちる。増えない。
死ぬ。異常遊泳。産卵数が少ない。子どもの生長が遅い。
ミジンコ淡水性大型動物プランクトン
緑藻植物プランクトン
メダカ小型淡水魚
7
生態毒性に関する最新欧州テストガイドライン番号. プロジェクト名 リード国 番号 プロジェクト名 リード国
2.1 EDs:カイアシ類繁殖・発生試験 瑞典 2.19 EDs:両生類試験の開発とバリデーション
米/独/日本
2.3 鳥類回避試験 英国 2.20 ハエ類毒性試験の開発とバリデーション 欧州
2.4 鳥類2世代毒性試験 米国 2.22 ダニ類繁殖試験 阿蘭陀
2.7 魚類胚毒性試験 独逸 2.23 魚類限度試験のためのステップ-ダウン試験のガイダンス文書
欧州
2.8 EDs:オオミジンコ改良繁殖試験 日本 2.24 TG209:活性汚泥呼吸阻害試験の改定
英国
2.9 トビムシ類繁殖試験 丁抹 2.25 EDs:イカ類ライフサイクル試験 英/独
2.12 EDs:魚類ライフサイクル試験開発とバリデーション
英/独/日本 2.26 EDs:魚類(雌スティックルバック)
21日EDクリーニング試験 英国
2.13 EDs:アミ類毒性試験 米国 2.27 EDs:魚類短期繁殖試験 米国
2.14 EDs:魚類性成熟試験 丁抹 2.28 EDs:ユスリカライフサイクル試験 独逸
2.16 EDs:魚類(長期試験)ガイダンス文書 米国 2.29 甲虫類試験のガイダンス文書 欧州
2.17 鳥類急性毒性試験 英国 2.30 魚類試験のフレームワーク 米国
2.18 EDs:魚類21日スクリーニング試験の開発とバリデーション
欧州/日本
EDs:内分泌かく乱作用に関わる“The OECD Conceptual Framework for Testing andAssessment of Endocrine Disrupters as agreed at EDTA6”に基づく試験法開発
21 43 65 87 109 1211 1413 1615 1817 2019 2221 2523 24期間(週) 26
21 43 65 87 109 1211 1413 15
1世代目 発生・成長 繁殖F0
21 43 65 87 109
2世代目 発生・成長F1
FLCT
ちょっと進んだメダカを使った試験
~多世代試験~日本が世界的にリード
♂♀
※9物質の試験をアメリカ環境省と共同で実施し、プロトコルをOECDに提案中。
初期段階;
・ふ化率、ふ化日数
ふ化後60日;・死亡率、体長、体重、生殖腺組織異常
・性比(DMY)15週目、24週目;・肝臓中ビテロジェニン(VTG )・性比 (DMY)・生殖腺組織観察、生殖腺指数
観察項目 環境研オリジナル流水式曝露装置
持続可能な生態系維持のために(Preservation of sustainable ecosystem)
野生生物の場合には、世代交代が出来るかが鍵
個体レベルの生死、成長(従来の指標)↓
個体群レベルでの存続=持続可能な生態系(子孫を残し繁殖できるレベルへ)
多世代の暴露試験が必要・・・今日は性について
必要とされている試験法
メダカの性の基礎知識
外見的に性を区別できる
通常の雄雌比は1:1
発生初期段階で性決定(一回)する人間と同じXY型染色体をもつ性決定遺伝子がわかっている魚はメダカだけ
遺伝上の性外見上の性 の重要性について考えてみる機能上の性}
オス メス外見上の雌雄判定
メスオス
DMRT1DMY
19.3 kbp
7.74 kbp
6.22 kbp
3.47 kbp
2.69 kbp
1.88 kbp
1.49 kbp
0.93 kbp
遺伝子:DMY(性判定遺伝子)による雄雌判定方法
【Ref.】 Matsuda et al. (2002)
遺伝子抽出
電気泳動の結果2本ならオス1本ならメス
遺伝子増幅(1晩)・・・
電気泳動尾びれを5mmほどカットする
濃度 DMY♂/外見♂ DMY♂/外見♀飼育水だけ 22/22 0/201ppt 18/18 1/203ppt 20/20 6/2010ppt 2/2 11/2933ppt 0 13/29100ppt 0 15/30
3ヶ月齢
エチニルエストラジオール(合成女性ホルモン)曝露メダカの外見と遺伝子による雌雄判別
濃度 ♂ 未成熟♂+♀飼育水だけ 23 27
1ppt 18 30
3ppt 20 49
10ppt 2 53
33ppt 0 34
100ppt 0 83
外見上の性比(ヒレの形状と乳頭状上小突起)
遺伝的な性比(DMY)
1pptとは、50mプール約400個分の水に1gの物質を溶かした濃度
(XX)
(XY)
♀(XX)
♂(XY) (XY)
(XX)
エチニルエストラジオール(合成女性ホルモン)
1世代目はメスが増える!!
メダカの卵に3週間女性ホルモン様化学物質を作用させたらどうなるか
♂ :♀=1:1(表現形)
♂ :♀=0:1(表現形)
外見上全部メスになる
♀
♀
♀
♀
♂(YY)♂(XY)♂(XY)
元オスのメスめだかと本当の元オスのメスめだかと本当のオスメダカが出会ってしまったら・・・オスメダカが出会ってしまったら・・・
♀(XY)
♂(XY)
本来はオスになるはずだったメス
上流から流れてきたノーマルなオス
♀(XX)
スーパーオス♂ :♀=3:1
あれ?2世代目はオスが増える!!
スーパーオスから生まれたスーパーオスから生まれた子供たちは...子供たちは...
♂(YY) ♀(XX)
♂(XY) ♂(XY) ♂(XY) ♂(XY)
♂ :♀=4:0
スーパーオスの子供(3世代目)はオスばかり!!
?女性ホルモンの影響でオスが増えてしまう?!
スーパーオス ノーマルメス
XYN=28
YYN=10
XXN=16
XYN=26
XXN=26
性転換個体の産出卵から生まれた2世代目の性比の結果
対照区 EE2曝露区
表現型→オス : メス = 38 : 16
遺伝子型→ XX : XY : YY = 16 : 28 : 10
18
オクチルフェノール100 ppb
オクチルフェノールF2暴露50 ppb
オクチルフェノール F1暴露50 ppb
正常表現形メス(卵巣)遺伝子形メス(XX)
表現形オス(精巣)遺伝子形オス(XY)
表現形メス(卵巣)遺伝子形オス (XY)
表現形メス(卵巣)遺伝子形オス (XY)
コントロール
1ppbは25mプールに1g程度溶けてる濃度
単為生殖
有性生殖
日本がOECDへ向けて提案した新規試験法
既存の試験法;ミジンコ繁殖毒性試験:TG211仔虫の数の減少により毒性を調べる試験。
単為生殖期のみを観察。
餌生物としてポピュレーション維持の意義。
•提案中試験法;拡張版ミジンコ繁殖毒性試験仔虫の数および性比への影響を調べる。
有性生殖期への移行も含めた全影響を観察。エビ、カニ、昆虫など節足動物全般にも共通のメカニズムが関与している可能性が大きい。
環境省と環境研が連携して、無脊椎動物の内分泌かく乱作用の検出による生態系保全および生物多様性維持に資する試験法を提案
♂
♀
♀
♀
♀
<既存の試験法と新規試験法の違い>
簡単に言うと、ミジンコは通常メスしかいませんが生まれた子供の数だけではなく性比にも注目しましょう!!という提案
ミジンコの雄雌の見分け方ミジンコの雄雌の見分け方
22
め(複眼)
心臓
第一触角
第二触角
卵巣
たまご精巣
腸
めす おす
♀ ♂
1mm
ミジンコの雄雌の見分け方ミジンコの雄雌の見分け方
22
め(複眼)
心臓
第一触角
第二触角
卵巣
たまご精巣
腸
めす おす
無脊椎動物と脊椎動物のホルモンと内分泌かく乱化学物質の違い
節足動物(昆虫・エビ、カニ)
脊椎動物(含むヒト)
脱皮ホルモン幼若ホルモン
昆虫ホルモン農薬(IGRs)
???
男性ホルモン女性ホルモン
合成ホルモン剤避妊薬など
ノニルフェノールビスフェノールAなど
24
ジュベニルホルモンIII
メチルファルネソエート
ジュベニルホルモンI
O
O
O
O
O
O
O
O
O
O
OジュベニルホルモンII
O
OO メトプレン
O
O O N ピリプロキシフェン
O
O NH
O
O フェノキシカルブ
O
OO
Oハイドロプレン
O
Oキノプレン
O OOOエポフェノナン
昆虫ホルモン農薬幼若ホルモン
幼若ホルモンとその類似物質幼若ホルモンとその類似物質
幼若ホルモン様物質によるミジンコ仔虫幼若ホルモン様物質によるミジンコ仔虫の性比の変化の性比の変化
25
化学物質濃度(ng/L)
0
1010 610 510 410 310 210 1
1.0
0.5
ジュベニルホルモン III
メチルファルネソエート
フェノキシカルブ
性比
(オス
/全体
) ♂
♀
メトプレン
ピリプロキシフェン
ゆず
うちのペットも喜んで使っている!!
ほかのミジンコ仲間 I
27
M. micruraM. macrocopa
オス メスオス メス
ほかのミジンコ仲間 II
28
C. reticulataC. dubia
オス メスオス メス
フェノキシカルブによるミジンコ仲間の性フェノキシカルブによるミジンコ仲間の性比の変化比の変化
29
D. magna
M. macrocopaM. micrura
C. dubia
C. reticulata
105104103102101
1.0
0.5
0
♂
♀
化学物質濃度(ng/L)
性比
(オス
/全体
)
グループAグループD
グループCグループB
脱皮
産仔
仔虫が育房内で成長
産卵
仔虫は成長して10日で大人に
卵巣肥大
短期曝露の試験デザイン
31
100mLjar
2腹目6時間曝露洗浄 48時間
1腹目 3腹目
48時間 48時間
短時間曝露による性転換
32
グループA
グループD
グループC
グループB
1腹目 2腹目 3腹目
曝露6時間
0‐6 12 24 36 48 時間
産仔
産仔
産仔
産仔産仔
産仔
産仔
産仔
産仔
産仔
産仔 産仔
短期暴露試験の結果
33
Brood 性
グループ
グループA グループB グループC グループD
1腹目
オス 0
(11)
0
(11)
0
(12)
0
(4)メス 329 342 414 159
2腹目
オス 357
(11)
63
(11)
0
(12)
0
(4)メス 0 218 275 101
3腹目
オス 0
(11)
0
(11)
0
(12)
0
(4)メス 396 418 513 169
Numbers in parentheses indicate numbers of mothers investigated.
回復性
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コントロール フェノキシカルブ 2μg/lフェノキシカルブ
2μg/l→コントロール
腹目 オス メス N オス メス N オス メス N
1st
2nd
3rd
4th
5th
0
0
0
0
0
63
231
408
679
489
11
11
11
11
11
0
87
120
98
55
56
0
0
0
0
10
10
10
10
7
0
134
61
0
12
12
132
0
0
0
113
286
12
11
11
フェノキシカルブの投与を止めたら、次の次の腹子の時には元に戻った。
まとめ(ミジンコ)昆虫のホルモンによって、ミジンコの性はオスに偏る(発見)。その影響は、大ミジンコ以外のミジンコ族でも同じ働きをする。その影響には高感受性期が存在し、母体内で影響を受ける(産卵直前)。その時期は短く、3時間で十分。すでに生まれた仔虫の性はホルモンでは変化しない。曝露を止めると、性比は元に戻る(メスだけになる)。
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まとめ(全体)メダカの多世代試験での影響、また遺伝子のかく乱などについては、通常の毒性試験や野外観察だけで異常を検出することは難しい。しかし、このように化学物質による分かりにくい影響が存在する可能性が示唆された。
ミジンコの性比と昆虫ホルモンとの関連を明らかにした。オスは直接繁殖に関与しないため、1世代目は存在しても2世代目以降の生物量に影響を与える可能性がある。
化学物質の影響を明らかにするためには、まだまだ生物のことを知らなくてはならない。