さまざまな依存症のメカニズムについて...audit(alcohol use disorders identification...
TRANSCRIPT
2017/7/19
1
依存症の基礎知識と
基本的な対応
平成29年7月12日
都立精神保健福祉センター
源田 圭子
1
依存症とは
2
依存症とは
コントロール障害である
コントロールして、適度に使用することができなくなり、何があろうと使い続けてしまう。
結果、身体的・精神的・社会的に問題が起こってきて人生が台無しになってしまう
3
4
用語解説
• 乱用:物質使用上のルール違反(薬物を社会的許容から逸脱した目的や方法で自己使用すること)
• 依存:物質使用のコントロール障害
• 中毒:物質使用によるダメージ
急性中毒:酩酊、意識障害(乱用の結果)
慢性中毒:依存に基づく乱用の繰り返しの結果、精神病、
身体症状、人格変化、認知機能の低下が出現持続する状態
5
6
2017/7/19
2
物質依存と行動嗜癖
7
嗜癖
(addiction)
物質依存
(substance dependence)
行動嗜癖
(behavioral addiction)
8
物質依存
• アルコール
• 違法薬物(シンナー、覚せい剤、コカイン、大麻、危険ドラッグなど)
• 処方薬(向精神薬、鎮痛剤など)
• ガス
9
(a) 物質を摂取したいという強い欲求や衝動的な感覚
(b) 物質摂取行動を管理することの困難さ、(使用の開始、停止あるいは量の条件におけるもの) (c) 物質の使用を中止あるいは減量した場合に、その物質に
特徴的な離脱症候群の出現。あるいは、同じ(または密接に関連する)物質の使用が、離脱症状を軽減あるいは避ける目的を伴っている
(d) 耐性の存在
(e) 代替の楽しみあるいは興味の軽視が、物質の使用が原因となっている。
(f) 明白に有害な結果が明らかとなっているのに物質の使用が持続する
The ICD-10 Classification of Mental and Behavioural
Disorders: 10
行動嗜癖
• ギャンブル ・運動
• 食べ物
• 買い物 ・収集
• インターネット ・ゲーム
• 仕事
11
行動嗜癖とは
正常な楽しいはずの活動が、コントロールし難い欲求や衝動によって非適応的に繰り返され、その結果としてその個人や他者によって有害となっている状態
12
2017/7/19
3
アルコール依存
13
問題飲酒とは?
・一度飲み始めると歯止めが利かないこと
・飲酒のせいで、身体になんらかの病変や異常がでていること
・酔うと必ず何らかの不始末や迷惑行為、事故やトラブルなどの「問題」を起こしていること
14
多量飲酒とは?
1日平均60グラム(純アルコール換算)を超える飲酒 アルコールにまつわる問題のほとんどは、多量飲酒者による。
60グラムとは
ビール中ビン(またはロング缶)3本
酎ハイ(350ml缶)3本
日本酒 3合
焼酎(25度)300ml(1.7合)
15
厚生労働省が提唱する
節度ある適度な飲酒量とは?
成人男性:一日当たりビール250ml~500ml もしくは日本酒0,5合~1合
成人女性:ビール250mlもしくは日本酒0,5
合
女性や高齢者、酒を分解する力が弱い(飲酒で顔が赤くなる)タイプの人は、より少ない飲酒量が推奨されている。酒量の計算は「SNAPPY-CAT」「SNAPPY-PANDA」参照
16
適量を頭でわかっていても、つい飲みすぎてしまいます。どうしたらよいですか?
• 可能であれば、「一人で飲まない」
• 全く飲まない人かあまり飲めない人に一緒にいてもらう
• セーブの効かない時間を把握、その時間帯からはソフトドリンクに変える。
• アルコールによって脳の機能の低下がある場合もあり、その場合はアルコール依存症が疑われるので受診が望ましい。
17
身体に占める水分の割合
• 高齢者では、身体に占める水分の割合が低下
• 同じ飲酒量でも血中濃度が高くなる
18
2017/7/19
4
性別によるお酒の分解の違い
• 女性は筋肉・脂肪量の違いで、体内の水分量が男性と比較して少ない。
• 胃の中でお酒を分解する能力も男性より低い。同じ量のお酒を飲んでも血液中の
アルコール濃度は高くなる。
• 男性より短い期間でアルコール
依存症になる危険性がある。
19
お酒が脳に及ぼす影響
• お酒の脳・神経への作用
脳の働きを抑える(抑制がとれる、感情のコントロールが利かなくなる、記憶の障害、判断力の低下など)
・お酒と認知症
飲酒を続けると、ほとんどの場合脳が萎縮する。
1日あたり2合以上の飲酒で明らかな萎縮が
ある。飲酒が原因で萎縮した脳は、お酒を
やめることでもとに戻る部分がある。 20
お酒とうつ病
• 飲酒を続けるとうつ病になる危険性が増える。その反面、飲酒をやめることで、症状が軽減することが多い。
• しかし同時に「酒を飲まずにはやってられない!」という当事者の心情も忘れずに・・
心理的にも肉体的にも疲弊し、「お酒を飲み続けてでも生き延びてこなければならなかった過程」も大切に考える必要がある。
21
お酒と睡眠
• 睡眠のために飲酒すると、飲まない場合に比べて、睡眠の質・量ともに低下する。
• お酒の睡眠への作用
お酒は脳の機能を麻痺させる「麻酔」のような効果がある。横になってから寝入るまでの時間が短くなるので、「睡眠薬のようなもの」と誤解する人が多い。
・ しかし寝酒を続けると・・
お酒が睡眠中に分解されると、「麻酔」の効果が薄れ、睡眠の途中で目が覚めることが多くなる。さらに、飲酒のために尿が出やすくなるため睡眠の質が低下する。同じ酒量では効果が弱くなり飲む量が増える。急に飲むのをやめると反動でねむれなくなるため寝酒が習慣化⇒依存症に陥る危険。
22
お酒を買いに行く⇒飲んで酔う⇒なくなると買いに行くという行動を1日に何度も繰り返す人がいるが、
どうして?
• お酒に関するコントロールが失われている可能性と、アルコールの離脱症状の可能性。
アルコール依存症が疑われる
23
意志や倫理の問題ではなく、
依存症はこころの病気
24
依存症は、ある事柄が自分ではどうにも止められなくなってしまい、そのことで社会生活に支障をきたしてしまうこころの病気です。けれども、これまで病気としての社会的認知が低かったために、多くの場合、本人の意志や倫理の問題とされてきました。
2017/7/19
5
アルコール依存症になったら、自分で気づく?
• 自分では気づきにくく、家族や職場の人が気づく場合が多い。
• 依存症の本質的特徴⇒飲酒によって発生した何らかの重大な問題を抱えているにも関わらず、飲酒し続けるという状態(WHO)
• 健康の問題だけにとどまらず、人間関係上の問題(夫婦間の暴力やコミュニケーションの問題)として現れることもある。
25
アルコール依存とは
・アルコールは、依存性をもつ薬物
・習慣的に使用していれば、誰でもアルコール依存症になるリスクがある。
・飲み続けると、脳に変化が起き、コントロールができなくなる。この変化は人によって異なり、同じ量を飲んでも変化が起きる人、起きない人がいる。
・些細な刺激で脳がお酒を飲みたくなる。治療においては支援を工夫する(居酒屋の前は避けて通るなど)必要あり。
・本人が自分の飲酒問題にうすうす気づいていても、否認し、助けを求めないという特徴がある。
26
アルコール依存と酒好きとの違いは何?
• お酒を飲む量や時間をコントロールできるか、お酒を控えるべき状況で控えることができるかどうか。
• どこからが依存症というはっきりした線引きは難しい。
• 正常か異常かを正確に区別するよりも、早期に治療を開始することが重要。依存症が疑われる時点での受診が望ましい。
27
酒癖が悪いのと、アルコール依存症の違いは?
• 酒癖の悪さは、依存症の診断基準には含まれない。
• しかし、酒癖が悪い=酔い方に問題アリと解釈するなら、飲む量や頻度を再検討する必要がある。
28
AUDIT(Alcohol Use Disorders Identification Test)
1.あなたはアルコール含有飲料をどのくらいの頻度で飲みますか。
0. 飲まない 1.1カ月に1回以下 2.1カ月に2~4回
3.1週間に2~3回 4.1週間に4回以上
2.飲酒するときには通常どのくらいの量を飲みますか。
0.2ドリンク以下 1.3~4ドリンク 2.5~6ドリンク 3.7~9ドリンク 4.10ドリンク以上(1ドリンクは純アルコール10gに相当)
3.一度に6ドリンク以上(純エタノール60g)飲酒することがどのくらいの頻度でありますか。
0.ない 1.1カ月に1回未満 2.1カ月に1回 3.1週間に1回
4.毎日あるいはほとんど毎日
29
AUDIT-2 4.過去1年間に飲み始めると止められなかったことが、どのくらいの頻度でありましたか。
0.ない 1.1カ月に1回未満 2.1カ月に1回 3.1週間に1回
4.毎日あるいはほとんど毎日
5.過去1年間に、普通だと行えることを飲酒していたためにできなかったことが、どのぐらいの頻度でありましたか。
0.ない 1.1カ月に1回未満 2.1カ月に1回 3.1週間に1回
4.毎日あるいはほとんど毎日
6.過去1年間に深酒の後、体調を整えるために、朝、迎え酒をしなければならなかったことが、どのくらいの頻度でありましたか。
0.ない 1.1カ月に1回未満 2.1カ月に1回 3.1週間に1回
4.毎日あるいはほとんど毎日
30
2017/7/19
6
AUDIT-3 7.過去1年間に飲酒後罪悪感や自責の念にかられたことが、どのくらいの頻度でありますか。
0.ない 1.1カ月に1回未満 2.1カ月に1回 3.1週間に1回
4.毎日あるいはほとんど毎日
8.過去1年間に飲酒のため前夜の出来事を思い出せなかったことが、どのくらいの頻度でありましたか。
0.ない 1.1カ月に1回未満 2.1カ月に1回 3.1週間に1回
4.毎日あるいはほとんど毎日
9. 過去1年間に飲酒のために、あなた自身か他の誰かが怪我をしたことがありますか。
0. ない 1.あるが、過去1年間にはない 2.過去1年間にあり
10.肉親や親戚、友人、医師、あるいは他の健康管理に携わる人が、あなたの飲酒について心配したり、飲酒量を減らすように勧めたりしたことがありますか。
0. ない 1.あるが、過去1年間にはない 2.過去1年間にあり
31
AUDITの判定法
該当する選択肢の数字(得点)を合計する。
その点数が10点以上を多量飲酒と判定する。
32
私の友人は「節度ある適度な飲酒」より多く飲んでいるけど、どうしたらいいですか?
• 自分の飲酒についてどのように考えているかを知る。
• 関心を示さない、抵抗が強い、ようであれば、無理に介入せず話ができる関係を保ち、「いつでも支援できます」と伝えるだけにする。
• 話してもらえる内容が真実と信じて関わる。
• 飲酒を減らす希望があれば、比較的楽に達成できそうな飲酒目標を一緒に決める。うまくいかなくてもあきらめず、取り組んだこと自体を評価する。
33
アルコール依存症が疑われる家族や知り合いがいるとき、どこに相談すればよいでしょう?一緒に相談に行くには?
• 自らの飲酒量をまず調べてみる。SNAPPYーCAT(アルコールに関する問題の重症度を一人で調べられる。アドバイスが得られる。具体的に実行可能な取り組みの紹介)
• 本人もしくは家族のみの相談。
• パソコン、スマートフォンが使えない場合は、保健所や精神保健福祉センターに相談を。もしくはかかりつけの医師に相談。
• 「お酒の問題、依存症の相談」と表現せず、「あなたの健康面が心配」ということを前面にして相談を。 34
アルコール依存症になったら
どこに受診すればいいの?
• 内科を併設した精神科、精神科を併設した内科、アルコール依存症の専門医療機関
• 内臓の障害を改善することだけでなく、「飲酒せずにはいられない」という状態を改善することが大切。
• 「飲酒せずにはいられない」のは、脳の障害だけでなく、その人の背景にある孤独感やストレスなどの生きづらさがある。
35
アルコール依存は入院すればすぐに治りますか?
• 入院すればすぐにすべてが解決するというわけではない。
• 入院治療ではお酒を身体から抜く、精神病症状があればその治療をする。
• 依存症自体は入院だけでは治療は終わらない。依存症の治療プログラムや、自助グループ(断酒会、AA)への導入はできる。
• 退院後も引き続き、本人の抱える生きづらさに焦点をあて、飲酒の引き金となるものや、ストレスへの対処について話し合い、再飲酒を繰り返したとしても温かい支援を継続することが大切。
36
2017/7/19
7
自助グループ(断酒会・AAなど)とはどんなところ?
• アルコール依存症を抱える人たちが定期的に集まり、お酒にまつわる体験談や、つらかったことの共有、希望の分かち合い、情報交換が行われる。お酒をやめたいと思っている人ならだれでも参加できる。
• 断酒への意欲を保ちやすくなり、断酒継続の大きな支えになる。
37
依存症の治療はいつまで続けるの?
• 海外の研究によれば、治療期間が長く続けば続くほど、それだけ長期にわたり断酒できる確率が高くなる。
• 辛い気持ちを抱えた時、一人で我慢してお酒で心に蓋をするのではなく、「助けて」とSOSを出せる人にたくさん出会うことが断酒継続の秘訣。
• いつでも気軽に本音を言えて、相談できる人を増やすことが依存症治療の最終目標
38
依存症になったら治療は断酒しかないの?
• 基本的には断酒。しかし・・・・
• 日本のアルコール依存症疑いの人数は107万人。しかし、受診しているのは4万人。
• 受診していない理由は「受診するといきなりお酒をやめさせられるのではないか」という不安
39
依存症になったら治療は断酒しかないの?
• いきなりやめることはできなくても、相談(お酒に関係あろうとなかろうと)を続け、少しでもお酒を飲むことによる害を減らすための工夫を考える。そして最終的にお酒をやめることができるようにする。
この考え方をハームリダクションという。
いちばん大切なことは、お酒をやめるか
やめないかということでなく、相談を継続する
こと。お酒、その他に関する悩みを話せる人、
時間、場所。 40
アルコール依存症になりやすいお酒の飲み方や
お酒の種類はあるのでしょうか?
• 寝酒の習慣
• 日々のストレスや不安をお酒でまぎらわす習慣⇒お酒を飲むこと以外のストレス発散方法やリラックスの手段を準備しておくことが大切
• 迎え酒の習慣
• 現在の所、お酒の種類については明らかになっていない。しかし、アルコール度数の高い飲料の方が引き起こされる問題は大きくなりがち。
41
アルコール依存症にならないように、
長くお酒を楽しむ秘訣とは?
• 「量」:節度ある適切な飲酒量を守る。女性、高齢者やお酒に弱い人はこの量より少なくする
• 「飲み方」:やけ酒(辛さを紛らせるための飲酒)をしない。食事しながらゆっくりと時間をかけて飲む
• 「飲むタイミング」:飲み始めや飲み終わりの時間を決める。休肝日を設ける。週に2回の休肝日が勧められている。
42
2017/7/19
8
43
◆ こころの健康相談 ◆ アルコール、薬物、ギャンブル等に ついての相談 ◆ 思春期・青年期相談 ◆ 高齢者精神医療相談 ◆ 施設利用相談
こころの電話相談
月曜~金曜日(祝祭日を除く)
9時から17時
電話: 03(3842)0946
こころの健康づくりを目指して
精神保健福祉相談
「アルコール、薬物等相談」、「思春期・青年期相談」
では本人面接、グループ活動、家族教室なども行っています。
心の問題や病気で困っているご本人や家族及関係者の方からの相談を受け付けています
インターネット依存
44
中高生のネット依存性は51万8000人
• 厚生労働省研究班はインターネット依存に関する調査結果を2013年8月に発表した。
• それによればパソコンやスマートフォンなどでゲームやメールなどに夢中になりすぎてやめられないネット依存の中高生は全国に約51万8000人いる。
• 依存症の割合は中学生が6%、高校生が9%で中高生全体では8%だった。男女別では女子が10%、男子が6%。女子が高いのはチャットやメールを多く使うため。依存症の59%が「睡眠の質が悪い」と答えていて、依存がない人の2倍近くになった。「午前中に調子が悪い」のは24%で依存がない人に比べ、3倍近い。
45
日本のネット依存対策の現状
• 自治体、教育機関では啓発が進み、対策がとられるようになってきている。(ex.愛知県刈谷市で
は21時以降小中生の携帯を親が預かる、兵庫県姫路市のノーメディアウィーク、日本小児科医会の啓発活動、徳島県阿南保健所の取り組み⇒普及啓発活動、専門相談窓口設立、乳児、1歳児検診時の啓発活動)
• しかし国全体としてはまだ調査研究の段階専門医療機関は少ない。
46
インターネット依存(嗜癖)の診断基準
• 現時点では、ネット依存の正式な診断ガイドラインは存在しない。
• ICD-10:F63.8その他の習慣及び衝動の障害
• DSM-5:ほかの特定される秩序破壊的、衝動制御、素行症
~インターネットゲーム障害(Section3)
47
インターネットゲーム障害(DSM-5)
以下のうち5項目以上
①ネットへのとらわれ(ネットのことばかり考えている)
②ネットができない時の禁断症状(イライラなど)
③以前に比べて、ネットをする時間を増やす必要がある(耐性)
④ネット使用を減らそうとするが、失敗に終わる
⑤心理的、社会的問題が起きていると知りながら、ネットしようを続ける
⑥ネット使用の結果として興味、趣味、娯楽をなくす。または、ネット以外に興味、趣味、娯楽がない
⑦嫌な気分から逃れるため、または解消するためにネットを使う
⑧ネット使用について、家族、治療者、またはほかの人をだましてきた。
⑨大切な人間関係、仕事、教育や出世の機会を、ネット使用のために危うくしてきた、または失った
48
2017/7/19
9
治療の対象
• インターネットの過剰使用
• それによる明らかな健康・社会・家族問題
49
事例:13歳女性
スマホの使いすぎで学校へ行けない
生活歴:元々元気で友人も多く、運動もよくできた。一方で学校の宿題はほとんど出さない。一つのことにこだわる傾向が見られた。小学校の頃は、DSやプレステで遊んでいたが、親との約束を守れず、使用時間が長くなった。
中学では陸上部に入り、当初は部活を楽しんでいた。中二になった時に、親にせがんでスマホを買ってもらった。以後、スマホを使ってLINEやTwitterをしたり、動画を見たりで、使用時間が急速に増えていった。ついには夜中までスマホをするようになり、翌朝起きられなくなり、学校を休むようになった。成績は急落し、学年で最低レベルだという。
50
事例:13歳女性
スマホの使いすぎで学校へ行けない
• 両親がスマホを取り上げようとすると、暴言を吐き、暴力をふるうようになった。
• 最近、父が取り上げようとすると包丁を持ち出した。
• 自分でも依存ではないかと思っているが、なかなかスマホの時間を減らせない。
• 医療期間受診時に、多動の傾向が明らかになった。
• 多動に関する治療を行ったところ、以前より両親への態度はよくなったが、スマホ問題はそのまま。が、学校にはなんとか行っている。
51
医療機関受診患者の特徴
• 患者の半数は中高生、大学生まで入れると全体の7-8割。
• 最近は小学生も登場し、全体的に低年齢化。
• 中年女性も増加。育児放棄が目立つ。
• 男女比は5:1。男性はゲーム、女性はSNSにはまっている場合が多い。
• ゲームは専用ゲーム機、またはPC。SNSはスマホなどモバイル機器
• オンラインゲーム依存が依然として多いが、最近はスマホなどへの依存が増えている。
52
家族が訴える症状
• ネットにはまっていると思うが、部屋に鍵をかけて、開けると起こるので何をしているのかよくわからない。
• ネットの使用中にやめるよう声をかけたら、「人が違ったような目つき」をして怒鳴り返してきた。取り上げたら部屋のものを壊した。
• しばらくネットを取り上げていたら、そのうち無気力になり、部屋に閉じこもり、何もしない状態が続いた。
• ネットの時間について嘘をつくようになった。また、風呂場やトイレ、布団の中に隠れてネットをしていた。
• 部屋から大量のウェブマネーの領収証を見つけた。または、タンス預金や貯金箱のお金がなくなった。
53
発生してくる問題
身体的健康 体力低下、運動不足、骨密度低下、栄養の偏り、低栄養状態、肥満、視力低下、腰痛、エコノミークラス症候群など
精神的健康 睡眠障害、昼夜逆転、ひきこもり、意欲低下、うつ状態、希死念慮、自殺企図など
学業、仕事 遅刻、欠席、授業・勤務中の居眠り、成績低下、留年、退学、勤務中の過剰なネット使用、解雇など
経済 浪費、多額の借金など
家族、対人関係 家庭内の暴言・暴力、親子の関係悪化、浮気、離婚、育児放棄、子供への悪影響、友人関係の悪化、友人の喪失など
54
2017/7/19
10
合併精神障害
• ネット依存には、高率に様々な心理・精神的問題が合併している。
• このような問題が、ネット依存のリスク要因となっているし、治療の妨げとなる。
例)・注意欠陥多動性障害(最多)
・アスペルガー障害
・社会不安障害
・強迫性障害
・うつ病(ネット依存の2次的うつの方が多い)
55
ネット依存外来での治療の流れ
• 初診~本人が登場するのは約半分。
• まずは外来につなげることを最優先。ネット問題の取り上げ方は様子を見て。
• ネットとうまく付き合う方法を一緒に考える
• 身体の検査、心理検査、1日の行動記録
• 検査のフィードバック、
・外来通院
・外来通院+認知行動療法
・外来+カウンセリング
・外来+ネット依存グループ
・入院
56
ネット依存の家族対応 本人同様に健康を害している家族
• 家族は、自身の人生経験から本人以上に、進級、進学卒業に関する時期が近づくにつれ、不安や焦りが高まることがある。
• 懸命に解決を図ろうとさまざまな手段を講じ、一時的には良くなっても根本的な解決には至らず、喜んだり、落ち込み、怒ったり、悲しんだりを繰り返して疲弊しきっていることが多い。
• 取っ組み合いになったり、暴力を受けたりしていることも多い。
• 自分の躾や対応が悪かったなどの過度な自責感、無力感、孤立感を募らせ「このままでは一生自分たちが面倒をみていかないといけないのではないか。」等将来の不安を抱えている。
• 依存問題の重要性について、家族内で問題意識の差がある場合は問題を重視している家族がますます孤立しストレスを抱える。
• 昼夜逆転の本人が気になり、夜間熟睡することができず、慢性的な短眠、不眠傾向から、抑うつや情緒不安定となり冷静な建設的な話し合いが持てない 57 58
ギャンブル依存
59
ギャンブル依存症を抑える薬はありますか?
ありません
「ギャンブル依存」は、クスリで対処するものではなく、多くは生活環境や社会環境など
の調整によって、解決できるもの
60
2017/7/19
11
ギャンブルで何度も借金を繰り返すのは、依存症?
• 依存症と決めつけてしまう前に、問題が発生する前の本人の状況を踏まえて、総合的な「見立て」をしてもらえる相談窓口へ。
本人がもともと社会への適応に問題があった場合は、ギャンブルのみを問題にして、依存症の治療に結びつけるのは危険。
借金のしかたや間隔は千差万別
61
ギャンブル依存のさまざまなタイプ
• 依存症タイプ~はまる前は自立した社会生活を送っていて、発達障害の特性がないか、あっても薄い人。GAが有
効。否認は強い。多種目のギャンブルに手を出している人が多い。
• 発達障害タイプ~もともと自立や社会生活に問題を抱えている。個別支援が必要。知的障害の有無でも支援の組み立ては変わる。単種目にはまる人が多い。GA参加でも自立にはつながりにくい。
• キャパシティが小さいタイプ~仕事や家庭の役割を処理能力以上に背負い、身動きがとれず、ギャンブルに逃避するタイプ。仕事の軽減など調整が必要。発達障害の特性を併せ持つこともある。
62
ギャンブル依存のさまざまなタイプ
• 若年タイプ~10代から20代前半で始め、破たん
が早いタイプ。就労支援やボランティア体験、資格の取得など自立の前段階の支援が必要
63
家族と支援者が行うこと
• 対応の教育やプログラムの案内(ワンデーポートなど)をする前に、家族とともに本人の全体像を理解する努力をする。
• 一人一人のもともとの能力に着目し、それぞれに合った方向性を家族とともに見つける
• 生活の視点を重視し、医療の枠組みだけで組み立てない
64
ギャンブル依存の家族相談の進み方
• 情報収集が必要となる:もともと生活能力の問題がありそうなら母子手帳や通知表などをできるだけ持ってきてもらう。
• 本人を連れてくることはひとまず横に置く
• ①困りごとの状況と経過、それに対する家族の対処 ②家族の状況・関係・エピソード ③問題を持っている本人の生い立ち(生活歴)を柱として聴く。
• 家族のありかた:理解力⇔誤解・誤った学習 共感力⇔自分の思う「普通」は誰にでもあてはまるという思い込みの強さ 決定力・決断力⇔優柔不断、自分で考える力は? 適切な行動力⇔衝動性、やりすぎ 適切な情報収集力・適切な取捨選択力⇔情報収集の困難、情報過多による混乱 集団への適応性
65
家族とともに
第一段階
• ギャンブル以前から不適応がある場合には:一度依存症の考え方から外す。自助グループ参加で新たな困難が上積みされることもある
• 本人が家族の大黒柱である場合:家族の共倒れを防止する対策が必要。(家計の分離、配偶者の経済的自立、財産の分離など)司法書士などと連携する
66
2017/7/19
12
家族とともに
第二段階
• ギャンブルなどの問題行動を無理に止めない:無理に外圧でやめさせることでバランスが崩れる。外圧を減らすことで刺激が減り、問題行動が小さくなることが多い。
• お金の問題には関与しない:ギャンブルの問題が安定してから手をつける。
①家族が返すのを繰り返さない。家族の生活を守る
②本人は今はお金の問題の責任をとれる状態にはない
③家族が立て替えると事態は複雑になる
④家族の基本的スタンスはお金の問題に首を突っ込まないこと
⑤郵便物は、開けない、見ない
• 仕事や手伝いなど、「何か」をやらせようとしない
67
本人と家族の悪循環
家族のぬか喜び
家族の不安の高まり
家族の干渉、さぐり
家族の尻拭い、債務整理
68
違う方向性
お楽しみモード
「やっぱりギャンブルは最高だ!」
負けモード「こんなはずでは」
発覚モード「二度とやらない」
・借金・お金の持ち出し・失職・失踪・家賃滞納など
スリップモード「ちょっとだけ」
介入のタイミング
• 本人に介入できるのは、発覚モードの時だけ。発覚モードより前に、家族相談を受けて介入の戦略を練る過程で、次の発覚モードで本人に介入する時に何をするかを検討して決めておく。
• 家族もこれ以上問題を先送りしない「覚悟」を時間をかけて固める。
• 家族も学習する:個別相談、非行の親の会、高機能自閉症の学習会、発達障害の家族会、ギャマノンなど
69
まとめ
70
さまざまな依存症に向き合うとき、共通して考えること
• 表面に出ている現象(問題となる行動)に目を奪われがちであるが、その水面下に何があるのかを考える~これまでの生活歴、親との関係など丁寧に聞く
• 説教や上から目線の指導で問題となる行動を止めることはできない・・・本人が行動を変えるきっかけを共に考える。説教をくらうために繰り返し話をしに来る人はいない・・・
• 対象行為に耽溺することで生き延びてこれた人もいる。彼らにとってのメリットは何だったのか?ということにも目を向ける
• 家族が学ぶことの大切さ 71
鑑別すべきこと
〈依存症のプログラム優先〉
• 幼少期に明らかなひきこもりなどの社会不適応エピソードがない
• 同じタイプのコントロール障害が血縁にも確認される
• 依存対象中心の生活様式
• 向精神薬が不要なことが多い
• 家族と離れることが多い
• 自己愛が強く防衛的
• 向上心が保たれている
〈発達障害などの個別プログラム〉
• 暴力等、明らかな社会不適応があり、回避傾向が強い
• 血縁に社会発達上の問題が散見される
• 感覚のアンバランス、注意や理解、記憶などが困難
• 家族や治療者に指示や承認を求めたがる
• 身体依存を認めにくい
• 自己肯定感に乏しい
72
2017/7/19
13
73
東京都の精神保健福祉センター 《精神保健福祉センター》 台東区下谷1-1-3
特別区東部13区および島しょ担当
《中部総合精神保健福祉センター》 世田谷区上北沢2-1-7
特別区西部10区担当
《多摩総合精神保健福祉センター》 多摩市中沢2-1-3
市部および郡部担当
74
◆ こころの健康相談 ◆ アルコール、薬物、ギャンブル等に ついての相談 ◆ 思春期・青年期相談 ◆ 高齢者精神医療相談 ◆ 施設利用相談
こころの電話相談
月曜~金曜日(祝祭日を除く)
9時から17時
電話: 03(3834)4102
こころの健康づくりを目指して
精神保健福祉相談
「アルコール、薬物等相談」、「思春期・青年期相談」
では本人面接、グループ活動、家族教室なども行っています。
心の問題や病気で困っているご本人や家族及関係者の方からの相談を受け付けています
参考文献
• 西原理恵子×月乃光司のおサケについてのまじめな話~アルコール依存症という病気:小学館
• ギャンブル依存と生きる 稲村厚:彩流社
• やさしいみんなのアディクション 松本俊彦編:金剛出版
75
ご清聴ありがとうございました
76