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第 2 章 世界主要自動車メーカーの電動パワートレイン戦略 72 Copyright 2019 FOURIN Inc. All Rights Reserved. VW は BEV 専用アーキテクチャの活用と BEV 生産工場の損益分岐点を引き下げるためのコスト強化策 により、BEV へのシフトを急速に進めても利益を確保できる体制の構築を進めている。VW の MEB、Audi と Porsche が共同開発する PPE をグループで共有しつつ、VW は MEB の他社への供給も視野に入れ、ス ケールメリットの実現を目指している。 MEB ではモーターと減速機を内製し、外注のパワーエレクトロニクスを組み合わせた機電一体型システ ムを内製し、FR のドライブトレイン及び AWD のリアメインユニットとして採用。中国向けでは Bosch のシステ ムも使う。AWD のフロントサブユニットは Magna の欧州と中国の拠点から調達する。PPE でも内製とサプラ イヤーの技術を併用する。 バッテリーセルは LG、Samsung、CATL に SK を加えた 4 社から調達。バッテリーパック、BMS を自ら手が けつつ、将来的な全固体セルの内製も視野に技術開発を強化。VW は 2025 年にグループで最大 300 万 台の BEV 生産を計画しているが、サプライヤーのセル供給不足が懸念され、セル内製の可能性を検討せ ざるを得ない。 BEV 以外では内燃機関車でプラグインや MHEV のオプション設定も増やしつつ、2030 年までにグルー プ全モデルを電動パワートレイン化する計画である。 VW グループ (VW 広報資料、各種報道より FOURIN 作成) 項目 戦略/計画概要 パワートレイン 全般 ・BEV へのシフトを急速に進めつつも、ディーゼルを含む内燃機関技術を引き続き重視。精製時に CO₂を発生しない合成燃料の 利用可能性を追求。Audi が e-gas とともに e-gasolin、e-diesel を精製。 ・エンジンのラインアップを絞り込み。 電動車全般 ・2025 年グループ BEV 50 モデル、PHEV 30 モデル計画。2030 年までにグループ全モデルを電動パワートレイン化 (BEV、 PHEV や MHEV バージョンを必ず設定)。 ・BEV は専用アーキテクチャを活用し、内燃機関車アーキテクチャでプラグインや 12/48V MHEV を併用。プラグインは従来 1 モータータイプであったが、2 モーターバージョンも準備。 ・2018~2022 年、独 Brunswick、Kassel、Salzgitter の部品内製工場に計 30 億ユーロを投資。電動車部品開発/生産を強化。 ・VW 独 Zwickau 工場に加え、Emden、Hannover 工場も MEB 工場へと転換。 BEV ・2025 年グループ BEV 販売最大 300 万台。 ・BEV 専用アーキテクチャによるグループシナジー追及と BEV 工場人員削減、生産効率化による利益確保。VW 乗用車工場の損 益分岐点を下げ、2023 年までにベース価格 1.8 万ユーロの MEB エントリーモデルの製品化を目指す。 ・VW BEV 専用アーキテクチャ MEB ベース車 2022 年グループ 27 モデル販売、2025 年生産 150 万台 (うち VW ブランド車 100 万台)計画。MEB 技術開発投資や MEB 車量産化に向け、VW 乗用車は 2018~2022 年に計 60 億ユーロ以上を投資。 ・Audi/Porsche 共同開発 BEV 専用アーキテクチャ PPE ベース車 2026 年販売総数の半数想定。2026 年までに約 9 モデル投入。 ・Audi は当面は MLB evo ベースの BEV を投入。Porshce による J1 BEV (Mission E ベース)開発に Audi も協力し両ブランドのハイ パフォーマンス BEV を製品化しつつ、BEV 専用 PPE の共同開発を推進。 PHEV ・MQB ベースのハイエンドや SUV、MLB evo ベース車でプラグインラインアップを拡充。従来の 1 モータータイプに続き、2 モー ターバージョンの量産化にも取り組む。 ・WLTP 対応でバッテリー容量を増やすことなどにより EV 航続距離 50km 確保を目指す。 FCEV ・グループ内で開発担当を Audi に集中。Audi は現代自と提携、量産部品の共有などでコストダウン図る。 48V ・VW 開発 EA 211 エンジン(直 4 1.5TSI)や Audi 開発 V6 エンジン (3.0 TDI、3.0 TFSI)で 48V MHEV 併用化。48 BSG 搭載。 ・Audi 開発 EA 888 直 4 エンジン (直 4 2.0 TFSI)や EA 288 ディーゼル (2.0 TDI)で 12V MHEV 技術併用化。 中国 ・2025 年 NEV 販売 150 万台目標。 ・当面は既存の MQB や MLB アーキテクチャをベースとする NEV を投入し、2020 年以降 MEB ベースの BEV を量産化。 ・JAC との合弁で新 BEV ブランド SOL を立ち上げ。当面は JAC の既存の電動パワートレインをベースに低価格の BEV を製品化。 SEAT も開発に参加し、将来的な SEAT ブランドの BEV 生産化も視野。 機電一体型 ・MEB、MLB evo、PPE ベース車で機電一体ユニットを搭載。内製中心だが、コストと性能、品質優先で外注も併用。 ・モーター、減速機を内製。外注のパワーエレクトロニクスを組み合わせる。モーターは永久磁石と非同期を使い分け。 ・MQB プラグインでは内製の 7 速 DCT にモーターを統合。MLB ベースでは ZF 製 8 速 AT+モーターに加え、DCT+モーターの 組み合わせもラインアップ。 ・MEB 向けモーターコアを Salzgitter エンジン工場で生産、Kassel 工場で減速機を内製し、外注のパワーエレクトロニクスを加え機 電一体化。 バッテリー ・Brunswick 工場でバッテリーパックの内製を継続。セルは LG、Samsung、CATL に SK を加え、調達先を拡大。 ・Salzgitter 工場にセル調達/次世代セル開発機能を集約。将来的な全固体セルの量産化を視野に R&D 強化。 ・VW グループ向けで 2023 年にかけて 150GWh 分のバッテリーが必要となる見込みだが、2018 年現在、欧州でのバッテリーセル 生産能力は 20GWh にとどまっている。このためバッテリー生産への直接関与についての経営判断を見直している。 その他 ・VW が 2019 年から BEV シェアリング事業を本格展開。オンデマンドライドシャトルサービスの MOIA も BEV バンによるサービスを 拡大。 【VW、電動車計画や技術戦略】

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  • 第 2 章 世界主要自動車メーカーの電動パワートレイン戦略

    72 Copyright 2019 FOURIN Inc. All Rights Reserved.

    VW は BEV 専用アーキテクチャの活用と BEV 生産工場の損益分岐点を引き下げるためのコスト強化策

    により、BEV へのシフトを急速に進めても利益を確保できる体制の構築を進めている。VW の MEB、Audi と

    Porsche が共同開発する PPE をグループで共有しつつ、VW は MEB の他社への供給も視野に入れ、ス

    ケールメリットの実現を目指している。

    MEB ではモーターと減速機を内製し、外注のパワーエレクトロニクスを組み合わせた機電一体型システ

    ムを内製し、FR のドライブトレイン及び AWD のリアメインユニットとして採用。中国向けでは Bosch のシステ

    ムも使う。AWD のフロントサブユニットは Magna の欧州と中国の拠点から調達する。PPE でも内製とサプラ

    イヤーの技術を併用する。

    バッテリーセルは LG、Samsung、CATL に SK を加えた 4 社から調達。バッテリーパック、BMS を自ら手が

    けつつ、将来的な全固体セルの内製も視野に技術開発を強化。VW は 2025 年にグループで最大 300 万

    台の BEV 生産を計画しているが、サプライヤーのセル供給不足が懸念され、セル内製の可能性を検討せ

    ざるを得ない。

    BEV 以外では内燃機関車でプラグインや MHEV のオプション設定も増やしつつ、2030 年までにグルー

    プ全モデルを電動パワートレイン化する計画である。

    VW グループ

    (VW 広報資料、各種報道より FOURIN 作成)

    項目 戦略/計画概要

    パワートレイン

    全般

    ・BEV へのシフトを急速に進めつつも、ディーゼルを含む内燃機関技術を引き続き重視。精製時に CO₂を発生しない合成燃料の利用可能性を追求。Audi が e-gas とともに e-gasolin、e-diesel を精製。

    ・エンジンのラインアップを絞り込み。

    電動車全般

    ・2025 年グループ BEV 50 モデル、PHEV 30 モデル計画。2030 年までにグループ全モデルを電動パワートレイン化 (BEV、PHEV や MHEV バージョンを必ず設定)。

    ・BEV は専用アーキテクチャを活用し、内燃機関車アーキテクチャでプラグインや 12/48V MHEV を併用。プラグインは従来 1モータータイプであったが、2 モーターバージョンも準備。

    ・2018~2022 年、独 Brunswick、Kassel、Salzgitter の部品内製工場に計 30 億ユーロを投資。電動車部品開発/生産を強化。 ・VW 独 Zwickau 工場に加え、Emden、Hannover 工場も MEB 工場へと転換。

    BEV

    ・2025 年グループ BEV 販売最大 300 万台。 ・BEV 専用アーキテクチャによるグループシナジー追及と BEV 工場人員削減、生産効率化による利益確保。VW 乗用車工場の損益分岐点を下げ、2023 年までにベース価格 1.8 万ユーロの MEB エントリーモデルの製品化を目指す。

    ・VW BEV 専用アーキテクチャ MEB ベース車 2022 年グループ 27 モデル販売、2025 年生産 150 万台 (うち VW ブランド車 100万台)計画。MEB 技術開発投資や MEB 車量産化に向け、VW 乗用車は 2018~2022 年に計 60 億ユーロ以上を投資。

    ・Audi/Porsche 共同開発 BEV 専用アーキテクチャ PPE ベース車 2026 年販売総数の半数想定。2026 年までに約 9 モデル投入。 ・Audi は当面は MLB evo ベースの BEV を投入。Porshce による J1 BEV (Mission E ベース)開発に Audi も協力し両ブランドのハイパフォーマンス BEV を製品化しつつ、BEV 専用 PPE の共同開発を推進。

    PHEV

    ・MQB ベースのハイエンドや SUV、MLB evo ベース車でプラグインラインアップを拡充。従来の 1 モータータイプに続き、2 モーターバージョンの量産化にも取り組む。

    ・WLTP 対応でバッテリー容量を増やすことなどにより EV 航続距離 50km 確保を目指す。 FCEV ・グループ内で開発担当を Audi に集中。Audi は現代自と提携、量産部品の共有などでコストダウン図る。

    48V ・VW 開発 EA 211 エンジン(直 4 1.5TSI)や Audi 開発 V6 エンジン (3.0 TDI、3.0 TFSI)で 48V MHEV 併用化。48 BSG 搭載。 ・Audi 開発 EA 888 直 4 エンジン (直 4 2.0 TFSI)や EA 288 ディーゼル (2.0 TDI)で 12V MHEV 技術併用化。

    中国

    ・2025 年 NEV 販売 150 万台目標。 ・当面は既存の MQB や MLB アーキテクチャをベースとする NEV を投入し、2020 年以降 MEB ベースの BEV を量産化。 ・JAC との合弁で新 BEV ブランド SOL を立ち上げ。当面は JAC の既存の電動パワートレインをベースに低価格の BEV を製品化。SEAT も開発に参加し、将来的な SEAT ブランドの BEV 生産化も視野。

    機電一体型

    ・MEB、MLB evo、PPE ベース車で機電一体ユニットを搭載。内製中心だが、コストと性能、品質優先で外注も併用。 ・モーター、減速機を内製。外注のパワーエレクトロニクスを組み合わせる。モーターは永久磁石と非同期を使い分け。 ・MQB プラグインでは内製の 7 速 DCT にモーターを統合。MLB ベースでは ZF 製 8 速 AT+モーターに加え、DCT+モーターの組み合わせもラインアップ。

    ・MEB 向けモーターコアを Salzgitter エンジン工場で生産、Kassel 工場で減速機を内製し、外注のパワーエレクトロニクスを加え機電一体化。

    バッテリー

    ・Brunswick 工場でバッテリーパックの内製を継続。セルは LG、Samsung、CATL に SK を加え、調達先を拡大。 ・Salzgitter 工場にセル調達/次世代セル開発機能を集約。将来的な全固体セルの量産化を視野に R&D 強化。 ・VW グループ向けで 2023 年にかけて 150GWh 分のバッテリーが必要となる見込みだが、2018 年現在、欧州でのバッテリーセル生産能力は 20GWh にとどまっている。このためバッテリー生産への直接関与についての経営判断を見直している。

    その他 ・VW が 2019 年から BEV シェアリング事業を本格展開。オンデマンドライドシャトルサービスの MOIA も BEV バンによるサービスを拡大。

    【VW、電動車計画や技術戦略】

  • 第 2 章 欧州自動車メーカーの電動パワートレイン戦略

    Copyright 2019 FOURIN Inc. All Rights Reserved. 73

    ▽バッテリー

    ・スケーラブルなバッテリーシステムを床下に搭載。

    ・LG、Samsung、SK、CATL からセルを調達。システム内製。

    -欧州では LG のポーランド工場や Samsung のハンガリー工場など

    から調達。中国では主に CATL から調達。

    ・主なスペック:

    -I.D. Crozz: 83kWh、10 セルモジュール、EV 航続距離最大

    500km (NEDC)

    -I.D. Vizzion (D サルーン): 111kWh、12 セルモジュール、EV 航続

    距離最大 665km (NEDC)

    ・コンセプトでは 1 モジュール分のスペースにジャンクションボックス

    を設置。配線は全て中央部を通る。

    ▽生産計画、製品投入計画

    ・2019 年 11 月に独 Zwickau 工場で MEB ベースの VW I.D.第 1 段

    モデルの生産を開始。中国、ドイツの他工場、米国などで順次生

    産を立ち上げる。

    ・2022 年 MEB モデルグループ計 27 モデル販売予定。

    ・2025 年 MEB BEV 計 150 万台計画。うち VW ブランド 100 万台。

    150 万台の過半数が中国での生産。

    ▽車両アーキテクチャ

    ・VW の言う A~B セグメント (一般的に C~D セグメント)をカバーす

    る BEV 専用アーキテクチャ。VW 開発主導で Audi が開発サポー

    ト。2018 年 9 月に MEB システムを公開。

    ・内燃機関を搭載しないためホイールベースを従来よりも長め、オー

    バーハングを短めにすることができ、車内スペースが広くなり、快

    適性が向上。

    ・ベースは FR タイプでリアアクスルにモーター、ギアボックス、パワー

    エレクトロニクスを統合した機電一体型ドライブユニットを搭載。AWD

    タイプではフロントにサブユニット、リアにメインユニットを搭載。

    ・サスペンションはフロントがストラット式でリアはマルチリンク。MQB と

    同様。

    ▽ドライブトレインユニット

    ・機電一体型の FR ユニット、及び AWD のリアメインユニットを内製。

    -欧米、中国以外のグローバル市場向けは内製。中国で上海

    VW/上海汽車向け供給分は Bosch の上海合弁拠点 UAES

    (United Automotive Electronic Systems)から供給。

    -内製分でモーター、ギアボックスは自社生産で、パワーエレクトロ

    ニクスは Valeo Siemens から調達する計画。

    -Bosch からの供給分ではモーター、パワーエレクトロニクスが

    Bosch 内 製 で 、 減 速 機 は 外 部 に 製 造 を 委 託 ( 中 国 で は

    Linamar)。

    ・AWD のフロントアクスル搭載のサブユニットは Magna から調達。

    -欧州向けは Magna Styer 製。中国向けは現地生産。

    ・主なスペック (コンセプト発表時):

    -I.D. Neo (コンパクトHB): FR、リアモーター125kW(170PS)/300Nm

    -I.D. Crozz (コンパクト SUV): フロントモーター75kW/140Nm、リア

    150kW/310Nm、システムパワー225kW/306PS

    ・FR ユニット及び AWD のメインユニットでは磁石式モーターを搭

    載。AWD のフロントサブユニットでは同軸型の小型の誘導モー

    ターを使用。

    -低中負荷ではリアユニットのみの駆動で高効率の磁石型モー

    ターを使用し、非駆動のフロントは最小限の引き摺り損失にとど

    める。回生電力は磁石式モーターよりは多少効率は劣るが、減

    速負荷の高いフロントで補うことが可能となり、仕様によっては FR

    駆動よりも航続距離が延びると考えられる。

    【VW、MEB BEV 概要】

    (VW 広報資料、ヒアリング情報、各種報道より FOURIN 作成)

    <VW I.D. Neo>

    <VW I.D.Crozz>

    FR リアモーター125kW

    バッテリー90~100kWh(推定)

    航続距離 400~600km(NEDC)

    2019 年量産開始

    4101×1801×1529 WB 2751

    AWD フロントモーター75kW

    +リアモーター150kW

    バッテリー83kWh

    航続距離~500km(NEDC)

    2020 年量産開始

    4625×1891×1609 WB 2773

    <I.D. Vizzion>

    <I.D. Buzz>

    AWD フロントモーター75kW

    +リアモーター150kW

    バッテリー111kWh

    航続距離~665km(NEDC)

    2020 年量産開始

    5163×1947×1506 WB 3100

    AWD フロントモーター150kW

    +リアモーター150kW

    バッテリー111kWh

    航続距離~600km(NEDC)

    2022 年量産開始

    5163×1947×1506 WB 3100