移植後の皮膚障害、下痢症状に 対する看護1...

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1 移植後の皮膚障害、下痢症状に 対する看護 ~他職種との連携を通して~ 明和病院 東館5階病棟 看護師 矢田恵美子 はじめに 当病棟はH25 3月より血液内科疾患患者を 受け入れ、化学療法と末梢血幹細胞移植を経 験した。今回、GVHD-stage4で瞬く間に悪化 する皮膚障害と下痢症状を目の当たりにして 何とか改善したいと思い、ケアに取組んだ。 他職種と連携しながらチームで統一したケア を継続して行い、症状緩和ができたで報告 する。

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Page 1: 移植後の皮膚障害、下痢症状に 対する看護1 移植後の皮膚障害、下痢症状に 対する看護 ~他職種との連携を通して~ 明和病院 東館5階病棟

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移植後の皮膚障害、下痢症状に対する看護

~他職種との連携を通して~

明和病院 東館5階病棟

看護師 矢田恵美子

はじめに

当病棟はH25 3月より血液内科疾患患者を

受け入れ、化学療法と末梢血幹細胞移植を経験した。今回、GVHD-stage4で瞬く間に悪化

する皮膚障害と下痢症状を目の当たりにして何とか改善したいと思い、ケアに取組んだ。他職種と連携しながらチームで統一したケアを継続して行い、症状緩和ができたので報告する。

Page 2: 移植後の皮膚障害、下痢症状に 対する看護1 移植後の皮膚障害、下痢症状に 対する看護 ~他職種との連携を通して~ 明和病院 東館5階病棟

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医療法人 明和病院

病床数 357床(一般 311床、療養 46床)

一般病棟入院基本料 7:1看護

職員数 約560名

診療科 内科、総合診療科、救急科、循環器内科、血液内科、 外科、消化器外科、乳腺・内分泌外科、整形外科、

リハビリテーション科、産婦人科、小児科、眼科、皮膚科、

耳鼻咽喉科、形成外科、泌尿器科、 放射線科、

歯科口腔外科、麻酔科、腎・透析科、放射線診断科、放射線治療科

血液内科入院患者 【腫瘍性血液疾患】 【対象年齢】 10代~90代 急性骨髄性白血病 【平均年齢】 71歳

急性リンパ性白血病 慢性骨髄性白血病 骨髄異型成症候群 【治療実績】

悪性リンパ種 他 抗癌剤治療

成人T細胞白血病リンパ腫 造血幹細胞移植

患者7名(9回) 【非腫瘍性血液疾患】 再生不良性貧血 血管炎 血芽球ろう 他

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当院の血液内科疾患の割合 H25 1月~H27 5月

18%

13%

36%

12%

3%

18%

AL

MDS

ML

MM

CML

その他

AL

MDS

ML

MM

CML

急性白血病

骨髄異形成症候群

悪性リンパ腫

慢性骨髄性白血病

多発性骨髄腫

その他

患者紹介

A氏 男性 40代

20XX年3月 長崎原爆病院受診

同年5月 非定型慢性骨髄性白血病と診断

同年9月 脳内出血で右半身麻痺となる

翌年6月20日移植目的にて当院入院

長崎市で勤務

宇宙開発の仕事をしながら一人暮らし

父、母、弟の4人家族 婚約者あり

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入院から退院までの経過

6/20 7/1 7/15 7/30 8/15 8/31 9/15 9/30 10/15 10/31 11/15 11/30 12/14

入院 末梢血幹細胞移植

追加移植

生着

GVHD-stage4 MDRP検出 死亡退院

・便量:1,000g/日超える

・皮膚全体に色素沈着

・皮膚の表皮剥離出現

月/日

1日便量の変化

便量:g

月/日

便量1,000g超える GVHD-stage4

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皮膚、下痢の状態とケア 日付 状態 看護師ケア 多職種の関わり

9/3

(day36)

・水様便1,000g

・全身発赤発疹

・左耳たぶ、右頬部の表皮剥離

【表皮剥離部】

・アズノール軟膏塗布

・モイスキンパット貼用

・全身にアンテベーション塗布

緩和チーム・ペイン

全身の知覚過敏出現 オピオイドの持続注射開始

9/8

(day41)

・陰部・陰嚢部のただれ

・頚部・肩・上腕に水泡

【陰部・陰嚢部】

・バリケアパウダー散布後亜鉛化軟膏塗布

【水泡部】

・洗浄ボトルで洗浄

・ニューガーゼで押拭き

・アズノール軟膏塗布

・モイスキンパット貼用

・包帯で固定

皮膚排泄ケア認定看護師

表皮剥離部ソフラチュール貼用したが固着する可能性あるため使用しないように指示あり

日付 状態 看護師ケア 多職種の関わり

9/10

(day43)

・テープ貼ると表皮剥離する

【下肢】

・リモイスクレンズ、ウレパールローション塗布したが疼痛あり

・ヒルロイドローション塗布に変更

・皮膚脆弱

採血後やCV刺入部のテープ固定禁止

形成外科

【四肢・体幹の表皮剥離創】

外用剤 創傷被覆剤によるwet dressinng

の指示

9/13

(day46)

・表皮剥離部から浸出液多量

・パジャマ着用から和式寝衣に変更し、袖のみ通して体の上から羽織るのみにした

・背中はバスタオルを敷く その上にメディパットシーツ(吸水シーツ)を使用

・皮膚のケア前に疼痛緩和として、オピオイド持続注射のレスキュー施行

・短時間で終了できるように看護師数人で皮膚のケアを行った

皮膚科

【びらん(熱傷用】

・ステロイド外用で加療

リンデロンVG軟膏

アズノール軟膏

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日付 状態 看護師ケア 多職種の関わり

9/13

(day46)

・水様便2120g/日 尿とりパットを軟便パットに変更

使い捨ての防水シーツを導入(摩擦が少ないため)

週一回勤務の非常勤医師に相談 勤務先(H大学病院)看護師に電話し、アドバイス受ける

9/19

(day52)

・皮膚の上皮化

・陰嚢部びらん改善傾向

9/28

(day61)

・血便

・皮膚の落屑

・掻痒感

レスタミン軟膏処方されるが効果なし

皮膚障害のケアで難渋した点

全身の疼痛を伴う

表皮剥離部から多量の浸出液を認める

多量の水様便を伴う

ケア前にオピオイドのレスキュー使用

洗浄処置・軟膏塗布

…2時間程度時間を費やす→本人の苦痛強い

病棟全体で協力体制…看護師数人で施行

本人の苦痛を考慮し、数回に分けてケアを行う

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下痢症状で難渋した点

10/28

咽頭、便、尿から多剤耐性緑膿菌(MDRP)検出

12/ 5

血液からMDRP検出

病棟全体への感染拡大防止に努める

ICNによるMDRPについての勉強会施行

A氏についての感染予防対策一覧表を作成し、共有できるようにした

→マスク・ガウン・エプロン・手袋などの標準予防策の徹底に伴い、ケア時間の延長が必要となる

2015/1/24

中村様 感染予防対策

*MDRP(多剤耐性緑膿菌)

“徹底的に標準予防策を遵守す

ること!!” ・ 陰洗ボトル… 本人専用とし、汚物室の乾燥機で完全に乾燥させた物

を使用

*陰洗ボトル 2 個を交互に使用

*陰洗ボトルを洗う際、共用のスポンジは使用せず綿花を使用して、その都度綿花

は破棄する。

・ 清拭タオル… MRSAと取り扱い同じ

・ パルスオキシメータ… 本人専用

・ 体温計・血圧計… 本人専用

・ 部屋掃除用具 … 本人専用(トイレに置く)

・ 食事の下膳… 通常通り

・ 環境整備… サラサイド除菌クロス(オレンジの BOX)

環境整備は午前・午後にドアノブ等の患者が接触する部分は念入りに行う事!!

*排便時のおむつ交換の際は、サラヤプラスチックガウンを着用する

*感染性廃棄ボックスは 8 割程度で交換すること

*感染性廃棄ボックスの回収は、前室の入口で業者へ渡してください

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通常ケアの際の標準予防策

+MDRPの感染対策

他職種との連携によるチーム医療

疼痛に対して早期に緩和ケアチーム・ペインクリニックの介入があった

皮膚障害に対して皮膚排泄ケア認定看護師・形成外科・皮膚科・耳鼻科が定期的に介入した

口腔ケアは定期的に歯科・口腔外科の介入があった

病棟全体で皮膚ケアの時間調整と看護師確保を連携して行った

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チームで統一・継続して行なったケア

毎日、ケアカンファレンスを行った

日々変化する症状に、チームが統一したケアが継続して提供できるように、誰もが共有できる個人表を作成して活用した

家族の協力:母親の面会(毎日)

→皮膚障害や下痢症状など、日々の変化を一番近くで毎日見ていた

→母親もチームの一員として、日々のケアに参加した

個人表

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継続ファイル

患者を支えた事

母親の毎日面会

→母親に対して強い口調で話すことがあったが、母親の存在自体が精神的支えになっていた

→本人は無口な方で、スタッフとのコミュニケーションが活発なわけではなかった

→過酷な状況にも関わらず、精神的に不安定になることなく過ごせた

婚約者の存在

→遠方にいる婚約者の面会(1回/月)を楽しみにしていた

あきらめない気持ち

→退院後、結婚して長崎に戻ることを目標としていた

→下痢が頻回であっても、最期まで口から食事することを希望していた

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まとめ

GVHD-stage4の皮膚障害や下痢症状のケアに対応していくためには、日々の十分な観察とすみやかな判断が必要である。看護師は早期に多職種との連携を調整し、ケアを行うことが重要である。

誰もが共有できるツールを作成して活用することは、統一したケアを継続して行なうことに繫がる。

患者や家族と信頼関係を構築していくことが大切である。

ご清聴ありがとうございました