健康維持の鍵を握るのは 脂質 のバランス! - yakult2 248(2018)...

6
2 248 2018脂質というと、なぜか「皮下脂肪が多い」「中性脂肪 が減った」というように、減らすべき「悪者」と認識さ れているようです。現代には肥満と、それに伴うメタ ボリックシンドロームの問題に注目が集まり、脂肪= 悪者の図式ができているのかもしれません。 では、脂質に関してなぜあいまいな情報が多いので しょう。 一つには、脂質が疎水性であって、ゲノムに直接コー ドされないため解析が難しいという物性を持っている からでしょう。脂質とは、生体内で水に溶けず有機溶 媒に溶ける有機化合物を総称しており、その数は 10 万種類を超えるとも言われています。構造多様性のあ る化合物でそれぞれを区別して解析するのが難しいた めに、どの脂質がどのように機能しているかわからな いことが非常に多いのです。そのためエネルギー源と しての側面から量だけがフォーカスされがちでした。 生体にとって脂質は重要な物質 ヒトの体内にある脂質は、脂肪酸、中性脂肪やコレ ステロール、リン脂質といった形で存在します。トリ グリセリドが構成する皮下脂質は、効率の良いエネル ギー貯蔵の手段です。現代のような飽食の時代は生物 の歴史からすると特異ですが、本来、生物の生存を脅 かす飢餓状態に備える機構としての物質が脂質です。 また、コレステロールなどは脂質の中でも「悪玉」と される筆頭かもしれませんが、コレステロールは生体 膜の最も重要な材料であって、コレステロールが欠乏 すると膜が安定せず疾病につながります。 このように脂質は、エネルギー源、生体膜の構成成 分、生理活性物質やその前駆体として多彩な役割を担 う、生体にとって非常に重要な分子です。脂質の多く は脂肪酸が主な構成成分となっています。では脂肪酸 の種類と特徴について見ていきたいと思います(図 1)。 脂肪酸は、炭素、水素、酸素の 3 種の原子で構成され、 炭素が鎖状に結合した一方の端にカルボキシル基がつ いた構造をしています。炭素の数、炭素同士の結合の 違いなどで脂肪酸の種類が決定されます。 構成◉ 飯塚りえ composition by Rie Iizuka イラストレーション小湊好治 illustration by Koji Kominato Special Features 1 健康維持の鍵を握るのは 脂質 のバランス! とかく 悪者扱いされることの多い脂質だが、本来は生存に欠かせない物質だ。しかしこれまでは、解析 の手法が十分でなかったために、主に脂質の だけがフォーカスされ、多様な構造を持つ脂質の 置き去りにされていた。昨今、 に焦点を当てた解析が注目され、健康維持における脂質バランスの重要 性について科学的なエビデンスが得られている。 慶應義塾大学薬学部 代謝生理化学講座教授/ 理化学研究所統合生命医科学研究センターチームリーダー 有田 誠 巻頭インタビュー 脂肪は敵か味方か 有田 誠(ありた・まこと) 1970 年大阪府生まれ。東京 大学薬学部卒業。同大学大学 院薬学系研究科博士課程修了。 米国ハーバード大学医学大学 院インストラクター、東京大 学大学院薬学系研究科准教授、 理化学研究所統合生命医科学 研究センターメタボローム研 究チームリーダー(2016 から非常勤)を経て、16 年か ら慶應義塾大学薬学部薬学研 究科代謝生理化学講座教授。 横浜市立大学大学院生命医科 学研究科代謝エピゲノム科学 客員教授を併任。

Upload: others

Post on 10-Aug-2020

1 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

Page 1: 健康維持の鍵を握るのは 脂質 のバランス! - Yakult2 248(2018) 脂質というと、なぜか「皮下脂肪が多い」「中性脂肪 が減った」というように、減らすべき「悪者」と認識さ

2 248(2018)

脂質というと、なぜか「皮下脂肪が多い」「中性脂肪が減った」というように、減らすべき「悪者」と認識されているようです。現代には肥満と、それに伴うメタボリックシンドロームの問題に注目が集まり、脂肪=悪者の図式ができているのかもしれません。では、脂質に関してなぜあいまいな情報が多いのでしょう。一つには、脂質が疎水性であって、ゲノムに直接コードされないため解析が難しいという物性を持っているからでしょう。脂質とは、生体内で水に溶けず有機溶媒に溶ける有機化合物を総称しており、その数は 10

万種類を超えるとも言われています。構造多様性のある化合物でそれぞれを区別して解析するのが難しいた

めに、どの脂質がどのように機能しているかわからないことが非常に多いのです。そのためエネルギー源としての側面から量だけがフォーカスされがちでした。

生体にとって脂質は重要な物質

ヒトの体内にある脂質は、脂肪酸、中性脂肪やコレステロール、リン脂質といった形で存在します。トリグリセリドが構成する皮下脂質は、効率の良いエネルギー貯蔵の手段です。現代のような飽食の時代は生物の歴史からすると特異ですが、本来、生物の生存を脅かす飢餓状態に備える機構としての物質が脂質です。また、コレステロールなどは脂質の中でも「悪玉」とされる筆頭かもしれませんが、コレステロールは生体膜の最も重要な材料であって、コレステロールが欠乏すると膜が安定せず疾病につながります。このように脂質は、エネルギー源、生体膜の構成成分、生理活性物質やその前駆体として多彩な役割を担う、生体にとって非常に重要な分子です。脂質の多くは脂肪酸が主な構成成分となっています。では脂肪酸の種類と特徴について見ていきたいと思います(図 1)。脂肪酸は、炭素、水素、酸素の3種の原子で構成され、炭素が鎖状に結合した一方の端にカルボキシル基がついた構造をしています。炭素の数、炭素同士の結合の違いなどで脂肪酸の種類が決定されます。

構成◉飯塚りえ composition by Rie Iizuka

イラストレーション◉小湊好治 illustration by Koji Kominato

Special Features 1

健康維持の鍵を握るのは「脂質」のバランス!

とかく「悪者」扱いされることの多い脂質だが、本来は生存に欠かせない物質だ。しかしこれまでは、解析の手法が十分でなかったために、主に脂質の「量」だけがフォーカスされ、多様な構造を持つ脂質の「質」は置き去りにされていた。昨今、「質」に焦点を当てた解析が注目され、健康維持における脂質バランスの重要性について科学的なエビデンスが得られている。

慶應義塾大学薬学部 代謝生理化学講座教授/理化学研究所統合生命医科学研究センターチームリーダー

有田 誠

巻頭インタビュー脂肪は敵か味方か

有田 誠(ありた・まこと)1970年大阪府生まれ。東京大学薬学部卒業。同大学大学院薬学系研究科博士課程修了。米国ハーバード大学医学大学院インストラクター、東京大学大学院薬学系研究科准教授、理化学研究所統合生命医科学研究センターメタボローム研究チームリーダー(2016年から非常勤)を経て、16年から慶應義塾大学薬学部薬学研究科代謝生理化学講座教授。横浜市立大学大学院生命医科学研究科代謝エピゲノム科学客員教授を併任。

Page 2: 健康維持の鍵を握るのは 脂質 のバランス! - Yakult2 248(2018) 脂質というと、なぜか「皮下脂肪が多い」「中性脂肪 が減った」というように、減らすべき「悪者」と認識さ

3 248(2018)

側にありますが、トランス型は水素原子が二重結合の炭素をまたいでおり、その結果として、長さも同じ、二重結合の場所も同じにもかかわらず、異性化してしまうのです。トランス脂肪酸を過剰に摂取することで、心血管疾患リスクが上がると言われています。

脂質の3つの大きな機能

脂質には大きく分けて3つの機能があると言われています(図2)。まず、エネルギー源としての脂質です。肥満の原因として敵視されがちですが、最近、トリグリセリドが高いほうが長寿だという論文も出ています。そもそも生物は、常に飢餓との闘いの中で生存競争を生き抜いてきました。そのとき最も効率の良いエネルギー貯蔵庫が、脂質という栄養素なのです。次に生体膜の構成成分としての機能です。脂肪酸は、生体膜を構成するリン脂質の主要成分ですから、脂肪酸の質やバランスの変化が膜の物性や機能に影響を及ぼすことは想像に難くありません。例えば図 2の生体膜成分の画では、緑の帯状の部分が脂肪酸にあたりますが、この部分の組成が変化すれば、膜の固さなどの物性にも影響があるだろうことは容易に想像できます。二重結合の多い、つまり不飽和度の高いオメガ3脂肪酸を摂取すると血液がサラサラになると言われますが、その理由の一つは、二重結合が多ければ、構造的に膜の弾力性が上がり、血液の循環も良くなるからだとされています。そもそも細胞膜は、受容体やイオンチャンネルなどによって、細胞の内と外の情報をやりとりする場です。そのような場の脂肪酸に変化があれば、細胞膜の性質が変化し、生体の反応も変化すると考えられます。

3つめに、シグナル分子としての脂肪酸の役割があります。例えばアラキドン酸という脂肪酸は、体内でシクロオキシゲナーゼやリポキシゲナーゼという酵素によって代謝され、プロスタグランジンやロイコトリエンといった活性物質に変換され、炎症の制御に関わります。これらの活性物質はオータコイド(局所ホルモン)と呼ばれ、刺激に応じて産生細胞から排出されて、周辺の細胞の受容体を介してシグナルを送ります。前駆体である脂肪酸のバランスに変化があれば、そこか

炭素は、1本の手で結合しているものと2本の手で結合しているものがあり、後者を二重結合と呼びます。飽和脂肪酸には二重結合がなく、不飽和脂肪酸には二重結合があります。飽和脂肪酸にはパルミチン酸、ステアリン酸など、不飽和脂肪酸にはオレイン酸やリノール酸などがあります。二重結合の有無は脂肪酸の質に思いのほか影響を与えています。飽和脂肪酸は過剰に摂取すると代謝疾患のリスクが上がると言われており、オレイン酸などの不飽和脂肪酸が良いとされる説の由来にもなっています。オメガ 6やオメガ3は二重結合の位置がオメガ末端から数えてそれぞれ6番目、3番目ということです。また、脂肪酸の長さによって短鎖、中鎖、長鎖という分類もありますが、物性がどのように異なり、また生体への作用やその機序に違いがあるのかなども解明しなくてはならない点です。脂肪酸ということでは昨今、トランス脂肪酸が話題となっています。これも脂肪酸の様式上の特徴ですが、天然の脂質は二重結合の炭素に対して水素原子が同じ

図1 脂肪酸の構造

飽和と不飽和

トランスとシス

鎖長

ω6とω3

不飽和脂肪酸

中鎖脂肪酸

トランス脂肪酸

シス脂肪酸

長鎖脂肪酸

ω6脂肪酸

ω3脂肪酸

飽和脂肪酸HO C

O

HO C

O

HO C

O

HO C

O

HO C

O

HO C

O12

3

HO C

O

1

246

35 ω末端ω末端

ω末端ω末端

HO C

O

オメガ

オメガ

オメガ

オメガ

オメガ オメガ

飽和、不飽和は炭素の二重結合の有無によって決まる。またωオメガ末端

からの距離、脂肪酸の長さ、二重結合の様式などで分類される。トランスとシス型は水素の付く向きの違いで異性化する。

Page 3: 健康維持の鍵を握るのは 脂質 のバランス! - Yakult2 248(2018) 脂質というと、なぜか「皮下脂肪が多い」「中性脂肪 が減った」というように、減らすべき「悪者」と認識さ

4 248(2018)

3脂肪酸が心臓を保護するメカニズムを解明したことです。これ以前の、グリーンランドのイヌイットや九州大学の久山町での疫学研究で、血中のオメガ3脂肪酸がオメガ6脂肪酸に比べて高い傾向にある人は、5年後の心臓病など心血管疾患の発症リスクが低いと言われています。オメガ3とオメガ6はともに不飽和脂肪酸です。この両者は二重結合の位置が違うだけですが、脂肪酸バランスが崩れることで、生体に影響が出ることが疫学調査からわかっていました。

DHAやEPAといったオメガ3脂肪酸は、魚などに多く含まれる脂肪酸で、肉食に寄るとオメガ6脂肪酸が増えるとされています。またオメガ3脂肪酸は脂質異常改善薬としても用いられており、心血管疾患を発症後にオメガ3脂肪酸の薬を投与すると、投与してない人に比べて再発の予防が認められることが、国内外の研究から明らかになっています。オメガ3脂肪酸を体内で合成するには、Fat-1という遺伝子が必要ですが、実は、ヒトも含めて哺乳類はこの遺伝子を持っていません。動物では線虫、植物は亜麻やエゴマなどにFat-1に相当する遺伝子を持っているものがあります。海洋性の微生物にも同様の遺伝子がありますが、魚にはありません。魚にオメガ3脂肪酸が多いのは、食料である微生物由来というわけです。ヒトも同様にオメガ3脂肪酸を取り入れるためには食べ物によるほかはありません。私たちは、オメガ3脂肪酸が本当に心臓保護など病態に影響するのかを調べるため、Fat-1遺伝子を組み込んだトランスジェニックマウスを用い、マウスの心臓に圧力負荷をかける実験を行いました(図3)。すると野生型の心筋組織では炎症と間質の線維化が見られ、約4週間で心不全に至りますが、Fat-1マウスはこの変化に抵抗性を示しました。すなわち、オメガ3、オメガ6それぞれの脂肪酸バランスの変化が心不全の病態進行に大きな影響を及ぼすことが明らかになったのです。さらにこの作用メカニズムの解析から、炎症を抑制するEPA由来の機能性代謝物「18-HEPE」が同定されました。私たちが最初に掲げた「脂肪酸バランスが変わると

ら生成するシグナル分子のバランスにも影響を及ぼします。脂肪酸代謝の変化によって生体に変化があることを実感する卑近な例が、アスピリン(アセチルオリチル酸)です。アラキドン酸からプロスタグランジンが生成する際には、シクロオキシゲナーゼという酵素が必要ですが、アスピリンという薬は、この酵素を阻害することで、解熱、鎮痛薬として作用しています。脂肪酸の代謝を止めることが、すなわち、熱や痛みを抑えるということは、体の恒常的な機能を維持するのに、脂肪酸の代謝が深く関わっていることを示しているのです。

脂質の「質」に着目

脂肪酸は、さまざまな組織で恒常性維持を担う働きがあることはわかってきましたが、その論拠となるのは疫学的あるいは栄養学的な観察の結果によるものが多く、メカニズムはほとんど解明されていませんでした。そこで私たちは、脂質の「質」に着目するという意味の「リポクオリティ」という語をキーワードに、脂質の中でも主に脂肪酸に関して、生化学的なエビデンスを加え、その分子機序を解明しようと試みています。その具体的な成果の一つが、DHA(ドコサヘキサエン酸)やEPA(エイコサペンタエン酸)といったオメガ

図2 脂質の三大機能

脂肪の三大機能脂肪の三大機能

生体膜成分

エネルギー源 シグナル分子

脂肪滴

グリセロール/遊離脂肪酸

エネルギー

エネルギー源としての機能はよく知られているが、それ以外に生体膜の成分として、またシグナル分子として、脂質は生命活動のあらゆる場面で必須の栄養素。

Page 4: 健康維持の鍵を握るのは 脂質 のバランス! - Yakult2 248(2018) 脂質というと、なぜか「皮下脂肪が多い」「中性脂肪 が減った」というように、減らすべき「悪者」と認識さ

5 248(2018)

生体に影響があるのか」という問いには、少なくともオメガ3脂肪酸については、科学的なエビデンスをベースに「Yes」という答えが出せました。

質量分析で具体的に見えてきた代謝物

オメガ3脂肪酸の有用性を示すもう一つの例として、特定の油が食物アレルギーを抑制することが見いだされました(図4)。マウスに抗原として卵白アルブミンを感作させた後、経口投与すると、ほとんどのマウスが腸管アレルギーを伴う下痢の症状を呈します。この腸管アレルギーモデルマウスの一方に大豆油、一方にアマニ油が含まれる餌を与えると、アマニ油を摂取したマウスは、アレルギーを発症しても悪化しませんでした。この場合、それぞれの油に最も多く含まれている脂肪酸は、大豆油はオメガ6系のリノール酸、アマニ油はオメガ3系のαリノレン酸です。つまり、植物由来のオメガ6とオメガ3とのバランスの違いでも生体への影響が変わってくるということなのです。図5は、マウスの腸でどのようなバランスで脂肪酸代謝物が存在しているかを、質量分析システムを用いて解析した結果です。これを見ると、アマニ油を摂取したマウスは、他の油を摂取したマウスに比較してEPAの量が格段に多いことがわかります。アマニ油に含まれているのはαリ

ノレン酸であってEPAではありませんから、この結果から、アマニ油を摂取することで体内、特に腸管で効率的にEPAに変換され、それがさらにさまざまな代謝物になることが推察できます。そこで、EPAの代謝物の中にアレルギーをコントロ

ールするような活性物質があるのではないかと考え、さらに薬理的な実験を重ねて、EPA由来の17,18-EpETE

という代謝物に抗アレルギー作用があることを見いだしました。これら脂肪酸代謝物の新しい機能の発見は、今後の創薬の可能性を強く示唆しています。また、脂肪酸バランスと疾病の具体的な関連が見えてくれば、それに基づいた具体的な健康維持のための指標作り、栄養指導にも貢献できると考えています。脂肪酸バランスと心血管疾患の関係では、久山町の疫学研究から興味深い報告が出ています。それによるとEPAとオメガ6脂肪酸の一種であるアラキドン酸の摂取比が0.5以上かどうかで5年後の心血管疾患のリスクが2倍程度異なるというのです。これは特定の脂肪酸の機能だけでなく、脂肪酸バランスが重要だということを示す結果です。これを踏まえた上で、実は現在、若年層のEPA/アラキドン酸の血中比が0.1以下という調査報告が出ています。若年層の脂肪酸バランスが崩れて始めているということですが、これも血中脂肪酸バランスの重要性および具体的なメカニズムが

Special Features 1脂肪は敵か味方か

図3 心臓への負荷を軽減する18-HEPE

コラーゲンなどの細胞外マトリクスの増加

マクロファージ

活性化した線維芽細胞 線維芽細胞の抑制

マクロファージ(ω3脂肪酸が豊富)

18-HEPE

野生型マウス Fat-1 Tg マウス

オメガ

心臓への圧負荷によって心筋の線維化など組織の変成が起こり、心不全に至る。体内にωオメガ

3脂肪酸が多い状態では、骨髄から動員されたマクロファージが局所でEPAから18-HEPEを生成し、近傍の線維芽細胞の過剰な活性化を抑制する。

Endo J et al. J. Exp. Med.211,1673-1687(2014)

Page 5: 健康維持の鍵を握るのは 脂質 のバランス! - Yakult2 248(2018) 脂質というと、なぜか「皮下脂肪が多い」「中性脂肪 が減った」というように、減らすべき「悪者」と認識さ

6 248(2018)(図版提供:有田 誠)

図4 アマニ油摂取群で食物アレルギー症状が緩和

図5 大腸の脂肪酸代謝物のメタボローム解析

100

80

60

40

20

00

0 10 20 30 40 50 60 70 80 90100(%)

1 2 3 4 5 6 7 8

卵白アルブミン感作、経口投与

大豆油

アマニ油

経口投与期間(週)

リノール酸が豊富(18:2 ω6)

大豆油

アマニ油αリノレン酸が豊富(18:3 ω3)

下痢発症率(%)

オメガ

オメガ

35302520151050

140120100806040200

140120100806040200

140120100806040200

25

20

15

10

5

0

25

20

15

10

5

0

250

200

150

100

50

0

3

2

2

1

1

0

3322110

120100806040200

1100000

3

2

2

1

1

0

250

200

150

100

50

0

160140120100806040200

160140120100806040200

1009080706050403020100

450400350300250200150100500

2211111000

18000160001400012000100008000600040002000

0

TxB3

PGD3 PGH3

5-HEPE 12-HEPE

8-HEPE6-keto-PGF1α-⊿17 9-HEPE 11-HEPE 19-HEPE 20-HEPE

15-HEPE

18-HEPE

14,15-EpETE 17,18-EpETE

17,18-diHETELTA5

LXA5

PGE3

PGI3

PGF3α

TxA3

EPA

12/15-LO

P450

5-LO

COX

大豆油にはωオメガ

6系のリノール酸が豊富、アマニ油にはωオメガ

3系のαリノレン酸が豊富に含まれ、その脂肪酸の違いがアレルギー症状にも影響を与えている。

同じ環境下で、餌に含まれる食事を変えて脂肪酸のメタボロームを測定したところ、アマニ油を摂取したマウスのみEPAの代謝が顕著に高い。

大豆油 (n6系リッチ Control)アマニ油 (n3系リッチ)菜種油 (n9系リッチ)パーム油 (飽和リッチ)

Sample: マウス大腸

縦軸単位:ng/g sample(N=4、mean±S.E.)

Page 6: 健康維持の鍵を握るのは 脂質 のバランス! - Yakult2 248(2018) 脂質というと、なぜか「皮下脂肪が多い」「中性脂肪 が減った」というように、減らすべき「悪者」と認識さ

7 248(2018)

明らかになることで、今後さらにエビデンスに基づいた栄養指導に取り組み、必要に応じて補充するなどの措置を取ることができるでしょう。

脂質の構造多様性は10万種類以上?

こうして、脂肪酸をはじめとする脂質バランスの変化が生命現象や病態のメカニズムとどのように関連があるのか、生体へのさまざまな作用について理解を深めるために、広範囲で代謝変動を捉えることが必要になってきています。そこで、私たちは「リポクオリティ」という研究領域を立ち上げ、脂肪酸代謝物だけではなくリン脂質や中性脂肪など多様な形態の脂質代謝の全体像を可視化するための基盤技術開発を行っています。

この中では、例えば、脳内の特定の部位に存在する脂肪酸が可視化され、海馬に多く存在する脂質など、脳内で脂肪酸が偏在することが観察されています(図6)。ここから脳の高次機能と脂肪酸との関わりを明らかにしようという研究の進展が期待されます。脂質の構造多様性は、私たちの想像をはるかに超えていて10万種類以上あるかもしれないと言われています。そうした各分子が私たちの体の中でどのような機能をもっているのか、どのような酵素によってどのように代謝されるか、どのようなバランスで維持され、それが崩れるとどのような疾患のリスクが生じるのか、それらを解明して脂肪酸が本来持っている機能性を最大化することが私たちの目指すところです。   

Special Features 1脂肪は敵か味方か

(図版提供:有田 誠)

図6 脳内のホスファチジルコリン脂肪酸組成

脳内のホスファチジルコリンの脂肪酸組成は部位毎に全く異なっていることを可視化することに成功(瀬藤光利浜松医科大学医学部教授)。脂肪酸と脳の高次機能との関連を研究する上で大きな一助となる。 (写真提供:瀬藤光利浜松医科大学医学部教授)