熱帯地域での集約的牛飼養を支える生垣樹 · (出所) an introduction to animal...

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熱帯地域での集約的牛飼養を支える生垣樹 誌名 誌名 畜産の研究 = Animal-husbandry ISSN ISSN 00093874 巻/号 巻/号 676 掲載ページ 掲載ページ p. 667-672 発行年月 発行年月 2013年6月 農林水産省 農林水産技術会議事務局筑波産学連携支援センター Tsukuba Business-Academia Cooperation Support Center, Agriculture, Forestry and Fisheries Research Council Secretariat

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Page 1: 熱帯地域での集約的牛飼養を支える生垣樹 · (出所) An Introduction to Animal Husbandry in the Tropics (b y William J. A. Payne et. al) 1.径の太いグリリシディアの幹を牧柵支柱に使用すること。

熱帯地域での集約的牛飼養を支える生垣樹

誌名誌名 畜産の研究 = Animal-husbandry

ISSNISSN 00093874

巻/号巻/号 676

掲載ページ掲載ページ p. 667-672

発行年月発行年月 2013年6月

農林水産省 農林水産技術会議事務局筑波産学連携支援センターTsukuba Business-Academia Cooperation Support Center, Agriculture, Forestry and Fisheries Research CouncilSecretariat

Page 2: 熱帯地域での集約的牛飼養を支える生垣樹 · (出所) An Introduction to Animal Husbandry in the Tropics (b y William J. A. Payne et. al) 1.径の太いグリリシディアの幹を牧柵支柱に使用すること。

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熱帯地域での集約的牛飼養を支える生垣樹

西村

1 .はじめに

乾燥熱帯地域での集約的牛飼養に生垣樹を使用

している国は大洋州の豪州(北部),アジアのインド,

インドネシア,フィリピン,アフリカのウガンダ,

カメノレーン,ジンパブエ,セネガノレ等の熱帯地域で、

見られており,生垣は単なる人,家畜の侵入を阻止

する垣根機能のみならず,飼料木樹が生垣に使用さ

れると,飼料の不足する乾季の粗蛋白質に富む飼料

の供給源に,背丈を高く生育させれば庇蔭樹にもな

る他,燃料薪,緑肥,マルチング材,土壌の安定化

(エロージョン防止),土壌改良,牧柵材料の供給等

の多目的機能をもたらす。

このため,生垣樹を家畜飼養に巧みに活用するこ

とで,家畜の生産性の向上,生産コスト軽減,農家

収入の増大に大きく貢献する極めて重要な自然資

源である。本紙面では,熱帯地域で使用可能な生垣

樹種の他,牛飼養における飼料木の生垣利用の有効

性と現地での使用状況にスポットライトを当てて

述べることとする。

2. 使用されている生垣主要樹種

アジア,アフリカ等の熱帯地域で使用されている

生垣樹種は表 lのとおりであるが,表 2の生き牧柵

支柱用途樹の大半も生垣樹として使用することが

できる。これら樹種の使用に当たっては,若木の時

の生育速度,地域の気候,土壌タイプへの適応性等

から適切な樹種を選ぶことが求められる。なお,生

き牧柵支柱は英語では livefence postと表記され,

有刺鉄線等を張る放牧地の牧柵支柱に使用される

が,支柱自体生育するので飼料木(牛が葉・小枝を

採食できる樹),庇蔭樹にも活用でき,支柱自体が

博キ

上述のように,若木の時の生育速度も樹種選定に

おいて重要な点であり,豪州クインズランド州での

試験研究では5種の樹種聞の樹高の成長速度が比較

され,Sesbania sesban > Leucaena leucocephala > Calliandra cαlothyrsus > s;砂losanthes scabra > Gliriricidia sepiumの順位に成長速度に差があるこ

とが報告されており,セスパニア・セスパンが優れ

た成長速度を持っていることが分かる。

表1 熱帯で有益な生垣樹種

番号学術名

1.乾燥地域での使用向け

1 Acacia modest.α

2 Agaveame円cana

3 Agave sおαlanα

4 Casalpina sepiaria

5 Carissa grandiflora

6 Dodonea viscosa

7 Euphorbia tirucalli

8 Jat打。'pha

9 Opuntia dillenii

10 Pithecellobium dulce

11 Zizyphys spina-christi

II.湿潤地域で0-;使用向け

一般名

American aloe

Sisal

Natal plum

Pichou

Milk hedge

Physic nut

Prickly pear

Madras thorn

Crown ofthorns

l生き牧柵支柱に適する樹種である表2の樹種の大半は生垣用にも使用できる。

2 Casuarina equisetifolia She-oak

3 Duranta plumieri Duranta

III.山岳地域での使用向け

1 Aberia caffra Kei apple

(標高2500mまで生育する。)

2 Berberis arista Berberry

3 Dodonea vおcosa

(標高2000mまで生育する。)生きているためカビ,腐敗がないので錆止め,腐食 (出所)An Introduction to Animal Husbandry

防止をする必要がなく持続的な畜産業に寄与する。 inthe Tropics (by William J. A. Payne et. al)

*元 JICA派遣専門家 (Hiroshi Nishimura) 0369-5247/13/¥500/1論文/JCOPY

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表 2 有益な通常の生き牧柵支柱樹種

番号 学術名 一般名

1 Acacia melltたm Namanara

Candle-nut tree

備考

ケニアのボリンゴ、地区で使用されてしも

山岳地域2 Aleurites moluccanα

3 Aleurites t円sperma Balucanat (Philippines) 標高1,000mまでの所で生育する

4 Cieba pentandra Kapok 有益な現金作物を生産する

5 Dracaena menni

6 Erythrina fuscaναれ

fastigiata

7 EIアthrinaindica

8 EIアthrinalithosperma

9 Erythrina senegalensis

Asparagus tree

Thorny dadap

Dadap

10 EIアthrinaumbrosa Ananca

11 Euca抑制 spp. Gums

12 Eugeniajambos Roseapple

13 Furcraea cabuya

14 Gliricidia sepium Gliricidia

15 Hibiscus tiliaceous Gatapa

16 Jatropha curcas Physic nut

17 Lannea nigritana Candle-nut tree

太平洋諸島のポフ。ラのように真っ直ぐに生長する

特に山岳性熱帯地域で生育する

可食果実も生産する

エクアドノレの標高3 ,000~5 ,000mの所で、使用されている

標高1,000mまでの所で生育する

ケニアのパリンゴ地区で使用されてしも

山岳地域

18 Leucaena leucocephala

19 Moringa pterygosp日明G

20 Pithece llobium dulce

21 Pterocarpus indicus

Wild tamarind; Ipiトipil 牧草用にも栽培

Horse-radish tree

Blue water tree

22 Sesbania grandずora

23 Spathodea campanulata A合icantulip tree

24 Spondias mombin

25 Sterculiafoetida

Spanish plum

26 Sterculia tragacantha African trag高canth

有益な現金作物を生産

太平洋諸島のバヌアツ

極めて有益な飼料木

種子は非乾燥油を生産

(出所)An Introduction to Animal Husbandry in the Tropics (by William 1. A. Payne et. al)

なお,背丈の低い生垣にしないで木を大きく成長

させ,畑,土壌保全のための防風林とか,熱帯牛が

寒冷風から逃れることのできる寒冷回避場所とし

てのシェルターベルト (Shelterbelt)用に使用される

樹種を参考まで示すと表 3のとおりである。南米ボ

リビアでは毎年 6~7 月頃に吹く“スーノレ"と言う

アルゼンチン経由で南極からの寒冷の南風 (50C位

の)が到来し,畑作物の幼苗を痛めたり,熱帯牛に

悪影響を与えるので,防衛策としてノレキーナ (4~5m

の高さで)を用いた防風林が 3~4m位の幅で栽植され

ている。

余談であるが,ボリビアでのスール時は気温が

寒冷になり,風がある時は体感温度はさらに下落

することから,この時期に草地で生まれる子牛,

晴乳牛は寒冷から衰弱し最悪なケースでは死亡す

ることもある。このため,放牧地で、衰弱子牛を見つ

けたら,外部を完全に遮断した牛舎,乾草収納庫等

に収容し,ジェットヒータ一等の暖房器で冷えた体

を急いで温めて看護することが必要となる。筆者も

ボリビア滞在中にこのような場面を経験しており,

熱帯品種であるネローレ種の繁殖雌牛が降雨で

溜まった浅い水溜りに一晩おかれ,一度に 40頭位

死亡した事例も聞いたことがあったし,寒冷のため

飛べなくなった小鳥の死亡も目撃している。

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西村:熱帯地域での集約的牛飼養を支える生垣樹

表 3 熱帯のシェルターベルトに適する樹種

番号植物学名 英語一般名

1 Acacia dealbata Silver wattle

2 Acacia deacurrens 白色enwattle

3 Acacia mearasii (synonym: Black wattle

4 A. decumens; vaγ. mollis)

好まれる環境

山岳地帯(赤道近くの標高1800m以上の所)

A. dealbataや'A.mearasiiより不良な土壌で生育

A. dealbataと同様の環境

5 Andira inermis

6 Bixa orellana

Bastard mahogany低地、湿潤地域

Annatto 低地・湿潤地域(大型の樹種と使用される時に有益)

7 Cedrela se丹羽lata 山岳地帯(中程度の標高の所)

8 Cinnamomum camphora 山岳地帯(中程度の標高地),湿潤地域

9 Eucalyptus spp. Eucalyptus 多くの種(低地,山岳地帯,湿潤地,または乾燥地に適する

のが 1種または 2種以上あり,山岳地帯で広範に生育低地

(湿潤地域)

10 Eugeniajambos Rose apple

11 Grevillea robusta Silky oak 山岳地帯(中程度の標高、乾燥)

低地12 Pinus caribaea

13 Pinus patula

14 Pinus radiata

山岳地帯

山岳地帯

15 Tamarindus indica 低地(乾燥~湿潤)

16 Tecoma leucoxylon 低地

(出所)An Introduction to Animal Husbandry in the Tropics (by William J. A. Payne et. al)

1.径の太いグリリシディアの幹を牧柵支柱に使用すること。2.根の成長を促進するため、幹の下端を斜めに切ること。3.牧柵に必要とされている間隔を十分に取って幹を垂直に

立てること。

杭木または通常の飼料生産用のグリリシディアの切枝

~T T物 d帯型rk計 1 小さい校四生産用の飼料木を設置するのに使町るo

1,: 50cm 1 11 噌~II 川 T炉 n 2.枝は垂直に植えること。M jrh|;-i11h 3 密な柵用に間隔を詰め,また通常の飼料生産用にはずっと山 一-J IJ--JL 離して (50cm)植えること。

図 1 飼料木の杭差し植え付け(出所) “Sheep and Goat Production Handbook for Southeast Asia"

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マメ科樹は生垣として単独か下草利用に導入牧草が組み込まれて栽培される。

図 2 7 メ科飼料木を用いた生垣(出所) “Sheep and Goat Production Handbook for Southeast Asia"

3. 生垣の使用価値

生垣は播種,苗木(首床で育てた)または杭木差しで

植え付けられて設置される。播種または百木で作ら

れる生垣では求められる地上高(通常, 1 ~l. 5m)で

切り取られ,地上高が整えられる。

海外の文献によると,東京のない木ではメートノレ

当たり 10本(10cm間隔)の木(または杭木)が,練の

ある木では3~4本の苗木が植えられるようである。

生垣はそれ自身地中に根が生えており,地上部に

葉,小枝が成長してくるため,風,家畜等から簡単

に倒さることはなく,木材支柱に比べて長年月使用

できる。さらに,生垣は,白アリ,腐敗菌類から攻

撃を受けることはないし,生育している限り腐るこ

ともなく,板塀,金属塀のように腐食,錆を防ぐた

め塗料を塗る必要もなく,低コストで設置,維持す

ることができる。そして,この生垣は外部と宅地,

畑地を仕切ったり,人,家畜の侵入を防いだり,土壌

エロージョン防止,風からの作物・家畜を保護する

また,生垣樹を丈高く生育させることで,家畜を

暑熱から保護する庇蔭樹に活用でき,暑熱から家畜

を守るための庇蔭施設を新たに設置する必要もな

くなる。なお,余談であるが,温帯牛に比べて熱帯

適応性に優れる純粋のゼブー牛でも暑熱の影響を

受けるので庇蔭樹を含む庇蔭施設を設置すること

が求められる。

このように,熱帯地域で牛飼養に生垣を導入する

ことは牛の生産性を向上させる他,経営の収益性を

高める上から極めて有益である。

4. 熱帯諸国での生垣の使用例

1)インドネシア

インドネシア国西ヌサテンガラ州のロンボク島

では表 4のような樹種がおおよそ 10cm間隔で植え

付けられ生垣で栽培され,敷地とそれに接している

外部との境界を明確に仕切る垣根としての機能の他,

葉付き小枝が日々刈り取られ,青刈野草,牧草ととも

に満載にされた大きな竹籍(重量が 30kg位になり,

ための垣根等に使用されている。

この他,生垣の樹種が飼料木樹であ

れば,乾季に生垣の葉,細し、枝の給与

(青刈り給与か放牧で)で反甥獣の乾

季飼料の粗蛋白質不足を補い,牛の生

産性,収益性を改善することに貢献す

る。組蛋白質の供給,土壌改良の観点

では,広葉樹よりマメ科木を使用する

のが有利である。

表4 ロンボク島の西部で使用している生垣樹種と栄養価

番号 一般名 学術名 DM% CP %

l ヒ守レ/リリール(BilejLilir*)Aegle marmelos 25.86 14.07

2 バンタン (Bantan*) 36.43 12.29

3 グ、リリシディア Gliricidia sepium 31.13 20.02

4 ワル(Warぜ) Hibiscus tiliaceus 30.35 16.41

(分析所)西ヌサテンガラ州農業技術分析センター

(備考) 1. CP %はDMベース 2. *:インドネシア語表記

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西村:熱帯地域での集約的牛飼養を支える生垣樹 671

頭に載せて運搬)で牛舎まで運ばれ給与されている。

生垣の葉付き小枝は生育ステージに変化はあるも

のの粗蛋白質含有率の高い極めて優れた蛋白質

飼料であることが分かる。また,栽培状況を示すと

写真 lのとおりである。

2)オーストラ リア

ノレキーナは牛の採食高さ以上に生育させるが

牛の口が届く下部の方を食べさせる方法と,樹高を

牛の採食高さに維持した生垣(チェンソー鋸で幹の

中段をカットし伸び過ぎた部分を切り取り)にした

低木列のヘッジロ ー (hedgerow)の状態で採食させ

る方法が採られている。

ルキーナの樹高を制限しない前者(樹高を制限し

ない利用方法)では早魅時の補助飼料(可食部分の

葉 ・小枝)をより多く保存できる利点はあるものの,

日齢進行とかカビの蔓延から飼料としての品質を

低下させたり,落下した多量の種子の発芽によりノレ

キーナ樹が繁茂することにもなり得るようである。

一方,低木列で採食させる場合では,天蓋状の形

状になる最上部全体を放牧の高さに維持できる。

骨格部分を構成する不可食の幹部分は高さが大体

l. O~ 1. 5m に保持され,そこから成長してくる可食

部分(葉付き小枝)が牛に放牧される。低木列の生垣

は樹高を制限しない大木での利用より一層効率的

に葉を利用できる。単位面積当たり高い放牧密度で

ルキーナを最大利用するためにはルキーナの生育

シーズン中に 4~ 12週の休息期間を設定することが

必要であると報告されている。

クインズランド州での大規模経営での肉牛生産

ではルキーナ樹は生垣で放牧の高さに維持されて

おり,輪換式か継続的に放牧利用されている。輪換

放牧で、はルキーナに休牧期間を与えるため,可食部分

収量を増加させることが可能となる。ルキーナは幹

の太さをおよそ 2cm位に維持される必要があるが,

継続放牧では天蓋状の形状になる最上部の葉,小枝

を牛が採食する際に幹部分も少しずつ採食破壊さ

れるため,垣根の樹高が放牧の高さに維持される。

もし放牧の高さを超えて可食部分を持つ太い幹が

多くなる場合には伸び過ぎた幹部分は機械的にま

たは人力で一定の高さに刈り戻されると,技術資料

は示している。なお,生育中のルキーナの幹はしな

りがあるので,牛の頭上より高く生育していても育

成牛以上であれば牛は体で幹(直径 2cm位)を押し

下げて葉,小さい枝を採食できる。そして,牛は食

べ終わった後に抑えて幹を放すので,幹は元にもど

る。但し,切り取ったルキーナの場合では乾燥した

幹は堅くなるが,しなりがなくなり強い衝撃にもろ

くなり折れるようになる点は特異な性質と言える。

3)フィ リピン

フィリピンでも表5の樹種を用いて,インドネシア,

オーストラリアのように飼料生産を兼ねた生垣に

使用される他,純粋の垣根と しての利用も見られる。

しかし,セブー島,ミンダナオ島の高地ではエロー

ジョンを防止しつつ地力を維持しながら傾斜地で

表5 フィリピンで使用されている生垣樹種

学術名 その他の用途

Gliricidia sep山 m(Jacq.) Kunth ex Welp 飼料木,庇蔭樹,牧柵支柱

o

a

名一対

般一伝

-一れ

-一旬

号一

番一1

2

Leucaena leucocephala (Lmk) de Wit 飼料木,牧柵支柱

3 カツライ(Katぽ ayネ) Sesbania grandiflora

4 ダプダプODapdap*) EIアthrinaspp.

(出所)F. A. Moogの原表を筆者が抜粋表記

(備考)* フィリピンのタガログ語表記

飼料木

牧柵支柱

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672 畜産の研究第 67巻第6号 (201 3年)

食用作物栽培を行う列間植栽(アレークロツピング

=Alley cropping)が等高線に沿ってへツジローの形状

で生垣を植栽し,陸稲, トウモロコシのような食用作

物を栽培しながら,舎飼の山羊,牛に葉付き小枝が生

垣から青刈給与されている。生垣には表5の樹種の他,

Fleminingia mαcrophylla, Desmodium rensonii,カリ

アンドラ種(Calliandraspp)も使用されている。

5. おわりに

筆者は JICA専門家としてフィリピンに赴任して

いた際にマカティ市内の公園でハイビスカス樹の

密生した生垣(植え幅が 20cm位)を見掛け通り抜け

を試みたが,ハイビスカス樹は径が 2cm位(地上高

1.5mの所で)のものになれば極めて頑丈な組織に

なり,しなりが全くなくなるので通り抜けることは

できず,生垣の垣根としての有効性(遮断効果)が

高くなることを身を持って体験した次第である。

家畜の小規模飼養であれば,飼料木による生垣の

植栽は乾燥熱帯地域では乾季の飼料不足を解消

することにもなる有効策であるとともに,牛等の

家畜を遮断する柵にもなる。その意味で,本稿が熱

帯地域での畜産技術協力専門家を志す畜産技術者

の方々の参考情報になれば幸いで、ある。

6. 引用文献

1)インドネシアで見掛けた飼料木を高度に利用する巧みな肉牛飼養(西村博:畜産技術 682号)

2) Adoption and Maintenance of Contour Bunds and Hedgerows in a D戸lamicEnvironment (Jose Nestor M. G町ciaet al. )

3) An Introduction to Animal Husbandry in the Tropics (by William J. A. Payne and R. Trevor Wilson)

4) Forage Tree Legumes in Tropical Agriculture (Edited by R. C Gutterridge叩 dH. M. Shelton; CAB International)

5) Live Fencing Pocket Manual-Sustainable Protection for the Tropics (Prace Corps Senegal 2010)

6) Role ofFodder Trees in Philippine Smallholder Farms (F. A. Moog) 7) Sheep and Goat Production Handbook伽 SoutheastAsia (Proceedings

ηlird Meeting of Regional Working Group on Grazing and Feed Resources of Southeast Asia)

8) Soil Fertility in Contour Hedgerow Systems on Sloping oxisols in Mindanao. Philippines (F. Agus, D. P. Garrity and D. K. Cassel)

9) Technical lnformation and Suggestions on Pasture Utilization and Cattle Feeding in the Tropics (by Hiroshi Nishimura, JICA Expert)

10) The Overstory井38Live Fences (By D. Cherry叩 dErick C. M Fernandes)

【農業畜産情報】

観察・集畜・給餌・捕獲放牧牛を遠隔管理パソコンで機器操作 岡山県農総センター

岡山県農林水産総合センター畜産研究所は,インターネットなどの情報通信技術 (ICT)を活用して,放牧牛を遠隔管理するシステムを開発した。離れた場所から牛の観察や捕獲ができ,牧場管理者の労力削減につながる。畜産農家が,遠方の牧場に預けた牛の状態を確認するのにも利用できる。システムは監視カメラ,集畜用に音楽を流すスビーカー,牛の首を固定する連動スタンチョンとスタンチョンロック,自動給餌器,機器をコントロールする制御盤と専用ソフトからなる。インターネット回線を通じて離れた場所からパソコンで機器を操作する。カメラとスピーカー,スタンチョンは市販の機器を使った。

カメラは上下左右に動き,牛や放牧場の様子を音声付きで監視できる。パソコン画面で牛の体形の変化や発情の様子,健康状態を把握する。

放牧する牛は,あらかじめ給餌する時に音楽を聞かせて給餌場に集まるように順致しておく。放牧後はスピーカーから音楽を流して牛を集め,自動給餌器で餌を与える。予防注射や疾病の治療などが必要な場合は,餌やり時に連動スタンチョンで捕獲しておけば素早い対応ができる。

牧場管理者がシステムを利用すれば,管理労力を削減できる。農家が遠方の牧場に牛を預託する場合は,自宅のパソコンで健康状態を確認し,管理者に助言するなどの使い方がある。冬場に放牧ができない地域から,放牧可能な地域に牛を移動するような広域連携による周年放牧への活用も検討する。

課題はコストの削減だ。試験機では成牛 4頭を管理できる規模で,一丸約 150万円かかった。同研究所は「牧場によって必要な機能を絞り込んで費用を下げることはできる。効果とコストの兼ね合いを考えて導入する必要があるJ(飼料技術研究室生産性向上研究グループ)と話している。