看護職のメンタルヘルス向上に向けた取り組みに関する研究€¦ · 2012...

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看護職のメンタルヘルス向上に向けた取り組みに関する研究 -「関係性のなかでの自立」に着目して- 2014年度 大阪市立大学大学院 生活科学研究科生活科学専攻 野原 留美

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看護職のメンタルヘルス向上に向けた取り組みに関する研究 -「関係性のなかでの自立」に着目して-

2014年度

大阪市立大学大学院 生活科学研究科生活科学専攻

野原 留美

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目 次

序章 研究の概要

第一節 問題意識と目的 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1

第二節 研究目的 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 4

第三節 研究手順 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 4

第四節 調査対象者 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 6

第一項 看護職のストレスとメンタルヘルスの現状、その規定要因に関する調査・ 6

第二項 関係性のなかでの自立を促す支援に関する調査 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 6

第五節 本研究の倫理的配慮 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 7

第一章 看護職のストレスとメンタルヘルス

第一節 労働者のストレスとメンタルヘルスへの取り組み ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 8

第二節 看護職のストレス ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 10

第三節 看護職のメンタルヘルス ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 13

第一項 看護職のメンタルヘルスに関する先行研究 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 13

第二項 看護職のストレスと感情労働 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 14

第三項 現代社会における対人関係の傾向と看護職 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 15

第四節 「関係性のなかでの自立」と看護職へのメンタルヘルス支援 ・・・・・・・・・・ 16

第五節 看護職のメンタルヘルスを支援することの意義 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 18

第二章 看護職の職業性ストレスとメンタルヘルスの現状

第一節 問題意識と目的 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 22

第二節 研究方法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 22

第一項 データ収集の手続きと調査対象 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 22

第二項 調査内容 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 23

第三項 分析方法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 26

第三節 結果 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 27

第一項 対象者の属性と勤務状況 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 27

第二項 看護職の職業性ストレスの現状と特徴 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 27

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第三項 GHQ28 による看護職のメンタルヘルスの評価 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 29

第四節 考察 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 30

第五節 小括 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 32

第三章 看護職のメンタルヘルスと関係性のなかでの自立との関連

第一節 問題意識と目的 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 35

第二節 研究方法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 39

第一項 調査内容 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 36

第二項 分析方法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 37

第三節 結果 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 37

第一項 回収率と対象者の属性 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 37

第二項 GHQ28 によるメンタルヘルスの評価 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 38

第三項 各尺度の信頼性と妥当性の検討 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 38

第四項 属性、職業性ストレス、

関係性のなかでの自立とメンタルヘルスとの関連 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 42

第四節 考察 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 44

第一項 看護職のメンタルヘルスの現状 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 44

第二項 看護職のメンタルヘルスを規定する要因 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 45

第五節 小括 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 48

第四章 看護職のメンタルヘルスと感情労働・関係性のなかでの自立との関連

第一節 研究の背景と目的 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 52

第三節 研究方法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 53

第一項 調査内容 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 53

第二項 分析方法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 54

第四節 結果 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 55

第一項 各尺度の信頼性の検討 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 55

第二項 ELINとGHQ28 の関連 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 55

第三項 ELIN・関係性のなかでの自立の4群での属性とGHQ28 の違い ・・ 56

第五節 考察 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 57

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第一項 感情労働と看護職のメンタルヘルスとの関連 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 57

第二項 感情労働を行ってもメンタルヘルスを悪化させない緩衝要因としての

関係性のなかでの自立 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 60

第六節 小括 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 62

第五章 関係性のなかでの自立を促す支援

第一節 研究の背景と目的 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 65

第二節 研究方法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 66

第一項 IPRトレーニングとは ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 66

第二項 データ収集の手続きと調査対象 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 68

第三項 調査内容と分析方法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 68

第三節 結果 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 70

第一項 回収率と対象者の属性 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 70

第二項 関係性のなかでの自立によるIPRトレーニングの効果測定 ・・・・・・・・ 70

第三項 IPRトレーニングでの体験 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 71

第四節 考察 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 72

第一項 人と人の関わりが少なくなった現代の社会において「関係性のなかでの自立」

を高めるということ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 73

第二項 葛藤をおそれず人と関わること ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 73

第三項 人から関心を向けられていることに気づく ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 75

第四項 「見ること」からはじまる ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 77

第六節 小括 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 77

第六章 結論と課題 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 81

第一節 研究の概要 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 81

第二節 看護職のメンタルヘルスと職業性ストレスの現状 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 81

第三節 看護職のメンタルヘルスに影響を及ぼす要因 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 82

第四節 看護職のメンタルヘルスと感情労働・「関係性のなかでの自立」との関連 ・ 83

第五節 看護職のメンタルヘルスへの取り組みとして、

「関係性のなかでの自立」を促すための支援 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 84

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第六節 研究の限界と課題 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 85

謝辞 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 88

付録 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 89

第二章 調査票 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 90

第二章 調査協力依頼文(施設用) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 97

第二章 調査協力依頼文添付資料(施設用) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 98

第二章 協力施設用返信用はがき ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 99

第二章 調査協力依頼文(看護職用) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 100

第五章 調査票 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 101

第五章 調査協力依頼文 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 104

第五章 研究協力承諾書 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 105

初出一覧 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 106

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序章 研究の概要

第一節 問題意識と目的

2012 年の病院における看護職員需給状況調査(日本看護協会,2013)によると,2011

年度の常勤看護職員の離職率は 10.9%で,前年度の 11.0%より 0.1 ポイントの微減であっ

た(図1)。しかし第七次看護職員需給見通しに関する検討会報告書(厚生労働省,2010)

によると,2015 年の看護職員需要見通しは約 150 万 1 千人であるのに対し,供給見通し

は約 148 万 6 千人と試算しており,看護職員の需要と供給の差は約 1 万 5 千人にのぼる(表

1)。今後も看護職員の不足は続くことが予測され,看護職員の離職率低下への取り組みは

引き続きわが国の大きな課題といえる。

また,離職には至らなくても,看護職がメンタルヘルスの問題を抱え休職するケースが

増えている(日本看護協会,2013)。近年,医療の高度化や複雑化,絶えず変わる医療制

度や情報化といった変化への適応に追われ,もともと多忙な看護業務がさらにストレスフ

ルな状況におかれている。対象者に質の高いケアを提供するためにも,看護職のメンタル

ヘルスを良い状態に保っておくことは,重要な問題であると考える。

また一方で,看護職のケアの対象は人であり,そのケアは看護チームによって提供され

ている。看護職は,人との関わりなしには成り立たない職業である。そして、人と関わる

ことで生じる自らの感情をコントロールしつつ、対象に対して適切な対応を行わなければ

ならない。感情労働の多い職業である。平木は「現代人は,一見多様な生活に恵まれてい

るようでありながら,自己表現の場を避けることもできるために,その機会は減り,表現

は下手になっています。表現力や対人関係の能力は,多様な人間関係や複雑なやりとりの

中で訓練されるので,決まりきった生活パターンや少ない人間関係の中では,コミュニケ

ーション能力は発達しにくいのです」(平木,2009,p.105)と指摘している。看護職は患

者と関わるとき,表面上のスキルやノウハウではなく,人対人としての関わりが必要にな

る。しかし,現代の社会においては,平木の言うように対人関係を発達させる能力を養う

機会は少ない。そのため、人と関わることにおいて問題を抱える人が増えたのではないか

と考える。そこで,本研究は,これまでの研究で明らかにされている看護職のメンタルヘ

ルスを規定する諸要因とともに,対人関係を発達させる能力が看護職のメンタルヘルスに

与える影響を明らかにし,支援の方向性を検討することを目的とした。

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図1 過去5年間の離職率の推移(2007~2011 年度)

「2012 年病院における看護職員需給状況調査 速報」2013 年 3 月 7 日 4頁 図1

日本看護協会広報部の公開資料より引用

http://www.nurse.or.jp/up_pdf/20130307163239_f.pdf.

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表1 第七次看護職員需給見通し

「第七次看護職員需給見通しに関する検討報告書」平成 22 年 12 月 21 日 13 頁 別表1

厚生労働省の公開資料より引用

http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000000z68f-img/2r9852000000z6df.pdf

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第二節 研究目的

メンタルヘルスの問題は,看護職の離職や休職の原因のひとつとしてあげられている。

また看護職が対象に質の高いケアを提供するためには,看護職自らのメンタルヘルスが良

い状態に保たれていることが必要である。そこで,本研究では,看護職のストレスとメン

タルヘルスの現状を明らかにする。そして、看護職が人と関わり、感情労働を行う職業で

あることに注目して,対人関係を発達させる能力が看護職のメンタルヘルスに及ぼす影響

を明らかにする。その上で,看護職のメンタルヘルスへの支援の方向性を検討する。

この研究の目的を達成するために,以下の下位目的を設定した。

1.看護職に特有のストレスとメンタルヘルスの現状を明らかにする。

2.看護職のメンタルヘルスを規定する諸要因について,対人関係を発達させる能力とメ

ンタルヘルスの関連について仮説を立て,実証する。

3.看護職のメンタルヘルスを支援する方法を検討する。

第三節 研究手順

まず,広く多職種に用いられている尺度を使用して,看護職のストレスの特性とメンタ

ルヘルスの現状を明らかにした。次に,看護職のメンタルヘルスを規定する要因のなかで,

対人関係を発達させるための能力がメンタルヘルスに与える影響について,実証的な調査

を行った(図2)。続いて、感情労働とメンタルヘルスの関連を検討した(図3)。その後、

対人関係を発達させる能力が、感情労働の緩衝要因となりえるのかを検討した(図4)。最

後に,対人関係を発達させるための能力を促すトレーニングの効果を検証し,看護職のメ

ンタルヘルス支援の方向性を検討した。

すなわち,前述の目的に相応した研究を,以下のように構成した。また研究全体のイメ

ージを図2~5に示す。

1.看護職の職業性ストレスとメンタルヘルスの現状に関する研究

2.看護職のメンタルヘルスと関係性のなかでの自立との関連性に関する研究

3.看護職のメンタルヘルスと感情労働・関係性のなかでの自立との関連に関する研究

4.関係性のなかでの自立を促す支援に関する研究

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看護職の

メンタルヘルス

看護職の

メンタルヘルス

関係性の

なかでの自立

看護職の

メンタルヘルス

なお,本研究では,対人関係を発達させる能力として「関係性のなかでの自立」という

概念を採用した。その詳細については第一章第四節で述べる。

【独立変数】 【従属変数】

図2 第1の分析枠組み

図3 第2の分析枠組み

【独立変数】 【従属変数】

【媒介変数】

図4 第3の分析枠組み

図5 第4の分析枠組み

・属性要因 ・これまでの先行研究で明らか

にされてきたストレスと緩

衝要因 ・関係性のなかでの自立

感情労働

IPRトレーニングでの体験

関係性のなかでの自立

感情労働

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第四節 調査対象者

第一項 看護職のストレスとメンタルヘルスの現状,その規定要因に関する調査

全国の病院に勤務する看護職を調査の対象とした。

人口の密集する都市部と過疎化の進む郡部では,各年代の人口分布が異なり住民の抱え

る健康問題も異なってくる。そのため病院に掛かる患者の疾病や生活背景には,地域的特

性が大きく影響しているものと考える。それに伴って,病院に勤務する看護職のストレス

やメンタルヘルスにも,地域差による影響が含まれてくることが予想される。そのため本

研究では,調査結果に地域差ができるだけ影響を受けず,看護職のメンタルヘルスの現状

を広く捉えられるよう,地域を限定せず全国の病院を調査の対象とした。

調査先の病院を選定するにあたっては,医療施設政策研究会編「病院要覧 2003-2004 年

版」を用いて,47 都道府県を①北海道・東北,②関東・甲信越,③東海・北陸,④近畿,

⑤中国・四国,⑥九州・沖縄に分け,各地区の 100 床以上の総合病院の数と同じ比率にな

るよう,①から 8 病院,②から 15 病院,③から 7 病院,④から 9 病院,⑤から 9 病院,

⑥から 11 病院,合計 59 病院を無作為に抽出した。そのうち,調査協力への返答が得られ

た 26 病院に勤務する 2,376 名の看護職を調査の対象とした。

第二項 関係性のなかでの自立を促す支援に関する調査

現在,看護職のメンタルヘルス向上のために様々な心理療法や対人関係トレーニングが

行われているが,本研究では日本IPR研究会の主催する対人関係トレーニングを取り上

げ,その効果と参加者のトレーニングでの体験を明らかにした。本研究では,人と関わる

ことが少なくなった社会が,看護職の対人関係を発達させるための基盤をつくる能力を低

下させ,そのことがメンタルヘルスに影響を及ぼしているという立場を取っている。その

ため,数ある対人関係トレーニングのなかでも,人と関わることのノウハウを教えるもの

ではなく,ただその場にあって目の前の人と関わるということをトレーニングの主眼に置

いている,IPRトレーニングを選択することとした。トレーニングは,ベイシックトレ

ーニングとメイントレーニングの2回を1セットで行われるため,その両方を受講し本研

究に同意の得られた看護職を調査の対象とした。

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第五節 本研究の倫理的配慮

看護職のメンタルヘルスの現状と規定要因に関する研究については,大阪市立大学生活

科学部・生活科学研究科研究倫理委員会の承認を得て調査実施した(申請番号08-11)。

調査票に調査依頼書を同封し,研究目的,調査への協力は自由意志であること,個人の

プライバシーに十分配慮すること,調査票は無記名であり個人を特定することはできない

こと,回答内容が仕事上の評価等,対象者の不利益となるようなことはないこと,結果は

学術的な目的以外に使用しないことを明記した。調査への同意は,調査票の回収をもって

得られたものとした。

看護職のメンタルヘルスを促す支援に関する研究については,日本IPR研究会理事会

にて,本研究の倫理的配慮に関する承認を受けて行った。また,研究への協力は自由意志

であること,トレーニングそのものは,研究協力することに左右されることなく,従来か

らのトレーニングと変わらないこと,協力者と一般参加者とは一切の区別をしないこと,

調査票と感想文への回答内容は,匿名性を確保するために名前を記号化して用いること,

研究目的以外で使用しないこと,データは研究者が厳重に保管し,研究終了後は破棄する

ことを文書にて説明し,同意書に自署をもらった。

文献

平木典子(2009)『改訂版アサーション・トレーニング さわやかな〈自己表現〉のために』

金子書房.

厚生労働省(2010)『第七次看護職員需給見直しに関する検討会報告書』

http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000000z68f-img/2r9852000000z6df.pdf

日本看護協会(2013)『2012 年病院における看護職員需給状況調査 速報』

http://www.nurse.or.jp/up_pdf/20130307163239_f.pdf.

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第一章 看護職のストレスとメンタルヘルス

第一節 労働者のストレスとメンタルヘルスへの取り組み

年功序列制や終身雇用の崩壊,成果主義,急速な技術革新,国際化や情報化,長引く不

況など,労働者を取り巻く環境は厳しいものになっており,うつ病などストレス性の健康

障害に罹患する者が増加して社会的にも問題となっている。平成 25 年度の精神障害の労

災請求件数は 1,409 件で,前年度比 152 件の増となり,過去最多となった(厚生労働省,

2014)。精神障害には至らなくても,現在の仕事や職業生活に関することで強い不安,悩

み,ストレスとなっていると感じる事柄がある労働者の割合は,60.9%にのぼる(厚生労

働省,2012)[2007 年の調査では 58.0%]という報告がある。その内容(3つ以内の複数

回答)として,最も多かったのは「職場の人間関係の問題」で 41.3%[同 38.4%],次いで

「仕事の質の問題」33.1%[同 34.8%],「仕事の量の問題」30.3%[同 30.6%]であった。小

林ら(小林ら,2000)の報告によると「健康に影響を及ぼす職場のストレス要因としては,

仕事の負荷,責任などの仕事の要求度,仕事を行う上での裁量度や自己能力の発揮などの

仕事のコントロール,および職場の人間関係としての上司,同僚の社会的支援が,健康へ

の影響として重要である」として,特に「仕事の要求度が高く,仕事のコントロールが低

い職場で精神的緊張度が高く,健康問題が生じやすいこと,これに加えて,職場での上司・

同僚の支援が低いことがもっとも問題を生じやすい状況であった」としている。

そのようななか,職場のメンタルヘルス対策への関心は高まり,労働安全衛生法の一部

を改正する法律が,2014 年 6 月に公布され 2015 年 12 月 1 日に施行予定となっている。

メンタルヘルスに関する改正事項として,労働者の精神的健康状況を把握し異常があれば

早期に発見し支援につなげられるように,また労働者自身がメンタルヘルスの状態を自覚

しセルフケアにつなげることができるよう,医師または保健師による検査(ストレスチェ

ック)を行うことが義務づけられた。さらに,医師の意見を聴き必要に応じて就業場所の

変更,作業の転換,労働時間の短縮などの就業上の措置を講じることが,労働者数 50 人

以上の事業場のすべての事業者に義務づけられた。

メンタルヘルス対策の具体的な内容については,労働省(現厚生労働省)より 2000 年

に「事業場における労働者の心の健康づくりのための指針」として示された。この指針で

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は,事業場におけるメンタルヘルス対策として以下の 4 つのケアが推奨されている。

①セルフケア(労働者自身がストレスや心の健康について理解して,自らのストレスを

予防あるいは対処すること)

②ラインによるケア(労働者と日常的に接する管理監督者が,心の健康に関して職場環

境等の改善や労働者に対して相談などの対応を行うこと)

③事業場内産業保健スタッフ等によるケア(事業場内の健康管理担当者が,事業場の心

の健康づくり対策の提言およびその推進を担い,また労働者および管理監督者を支援する

こと)

④事業場外資源によるケア(事業場外の機関や専門家を活用し,支援を受けること)

この指針は,2006 年に新たに「労働者の心の健康の保持増進のための指針」として示され

た。内容は 2000 年の指針をほぼ踏襲しているが,事業場に対してより積極的なメンタル

ヘルスへの取り組みを求めるものになっている。「ストレスの原因となる要因(以下「スト

レス要因」という)は,仕事,職業生活,家庭,地域等に存在している。心の健康づくり

は,労働者自身が,ストレスに気づき,これに対処すること(セルフケア)の必要性を認

識することが重要である。しかし,職場に存在するストレス要因は,労働者自身の力だけ

では取り除くことができないものもある。労働者の心の健康づくりを推進していくために

は,事業者によるメンタルヘルスケアの積極的推進が重要であり,労働の場における組織

的かつ計画的な対策の実施は,大きな役割を果たすものである」とある(厚生労働省,2006)。

職場におけるストレス対策に事業場として取り組むことの重要性が強調されている。指針

では,まず事業主が,メンタルヘルスケアを積極的に推進することを表明し,十分な調査

と審議を行ってメンタルヘルスに関する事業場の現状と問題点を明確にすること。そして,

その問題点を解決するための具体的な実施事項についての計画を策定し,実施する必要が

あるとしている。上記 4 つのケアを効果的に推進し,メンタルヘルスケアが継続的かつ計

画的に行われるよう,教育研修・情報提供を行うとともに,職場環境等の改善,メンタル

ヘルス不調への対応,職場復帰のための支援等を円滑に行えるようにする必要があるとし

ている(厚生労働省,2006)。

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第二節 看護職のストレス

看護職もまた他の労働者と同様に,厳しい状況に置かれている。平成 25 年度の精神障

害の労災請求件数を職種別でみると,保健師・助産師・看護師は 15 職種中 8 番目に多い

51 件で,前年の 47 件より 4 件の増加であった(厚生労働省,2014)。日本看護協会が 4

年に 1 度,会員を対象に調査している「2009 年看護職員実態調査」によると,夜勤をし

ている看護職員は 80.4%,未就学児のいる層でも 59.5%にのぼっていた。月平均の夜勤回

数は「三交代・変則三交代制」で 8.4 日(準夜・深夜),「二交代・変則二交代制」で 4.6

日だった。前回 2005 年の調査では,それぞれ 8.4 回,4.8 回であり,横ばいであった。月

平均の超過勤務時間数は,13 時間 23 分だったが,勤務時間外の看護研究や院内研修も含

めると 23 時間 24 分にのぼる。また,看護職員が抱える悩みや不満として最も多かったの

が「医療事故を起こさないか不安」で 61.6%であった。その他には「業務量が多い」が

57.9%(前回 64.4%),「看護業務以外の雑務が多い」57.8%(同 57.8%),「新人指導や委

員会参加等求められる役割が多い」55.6%(同 48.2%),「給料が低い」52.5%(同 61.2%),

「休みが取りづらい」49.1%(同 56.8%),「労働時間が長い」40.0%(同 70.1%)などが

あげられた(日本看護協会,2010)。看護職の多くは女性であり,これら職務内容の多忙

さに加え,育児家事などの家庭生活との両立による負荷が加わることになる。吉本らは看

護現場における看護職のストレスの要因と具体例を以下のようにまとめている(表Ⅰ-1)。

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表Ⅰ-1 看護現場にみるストレスの要因と具体例

ストレスの要因 具体例

1.患者の生命にかかわる厳しさ(死や危機) ・病状の急変にかかわる ・患者の死に至る苦痛に立ち会う ・家族の悲哀にかかわる など

2.ケアということの難しさ ・患者の不安や恐れにかかわる ・温かさと厳しさの兼ね合いの難しさ ・患者に苦痛を感じさせる処置をしなければならなかった

3.仕事の過重さと変側性 ・業務が多すぎる ・準夜勤,夜勤による生活リズムの乱れ ・やり方の難しい検査や処置を行う必要がある など

4.医療技術,看護技術の革新に追われる ・主業務以外の研修や新しい知識の習得 ・新しい機器や器具の操作がわからない ・教育,研修の環境が不十分 など

5.ミスや失敗が許されない ・ヒヤリ-ハットミスをしそうになった ・ミスや失敗を過度に恐れて何度も確認する ・患者への治療において,ミスや失敗をしないかと不

安や恐れを強く感じる など 6.患者やその家族との関係 ・気持ちの不安定な患者へのかかわり

・クレームや怒りの多い患者または家族へのかかわり ・患者や家族にケアの内容が受け入れてもらえない など

7.暴力や事故などの PTSD ・患者やその家族に暴力を受けた ・災害現場に立ち会った ・悲惨な患者の状態に衝撃を受けた など

8.医師とのかかわり ・医師との考え方や対応のしかたの食い違い ・患者の病状に関して,医師から十分な情報や指示が

得られなかった ・患者と医師の立場の板ばさみになる など

9.上司や同僚にかかわること ・一緒に働くのが嫌なスタッフがいる ・スタッフの間で患者の処置について意見の食い違い

がある ・カンファレンスなどで自由に意見が述べにくい

10.組織人として求められるもの ・成果主義にもとづくコスト削減や結果を強く求めら

れる ・院内の業務システムに納得できないことがある ・予想していない仕事の割り当てや配置変換を受けた

11.家庭生活との折り合い ・夜勤,準夜勤などの勤務体制からくる家庭生活への

影響 ・夫や家人の非協力や無理解 ・仕事と家事育児の二重の負担 など

「看護現場にみるストレス要因のチェックリスト」吉本武史・縣美恵子・小野寺ひで子他(2007)『看護

現場のストレスケア ナースだって癒されたい』199-201,医学書院.より抜粋作成

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このような状況から,看護職にかかるストレスを考えてみると,まず,看護職の業務量

は非常に多く,夜勤による生活リズムの乱れなどもあって,身体にかかる負荷は非常に大

きいと言える。さらに,やり方の難しい検査や処置を行わなければならなかったり,病気

による患者の不安や恐れにかかわらなければならなかったり,時には患者やその家族から

暴力を受けたりすることもあり,精神的な負荷も大きい。また,患者の生命にかかわる仕

事であることから,ミスや失敗は許されない。常に進歩する医療技術に対応していかなけ

ればならず,責任と要求度の大きい仕事でもある。しかし,患者の治療は医師の指示のも

とで行われるものであり,看護師の裁量でケアできる範囲には限りがある。医師との考え

方や対応に食い違いが生じている場合は特に,看護職の仕事のコントロール感は低いもの

となる。また業務量が多すぎて患者に満足のいくケアができないことにジレンマを感じ,

自己の能力を発揮できないと思う場面も多い。以上のことから,正に看護職は,上述の小

林ら(小林ら,2000)の報告にあった「健康問題が生じやすい状況」にあると言える。し

かし,看護職の需要はますます増すであろう状況のなか,看護職の慢性的な人手不足を解

決するためには,ストレスフルな状況への打開策を,考えていかなければならない。

小林らは「仕事の要求度が高く,仕事のコントロールが低い職場で精神的緊張度が高く,

健康問題が生じやすいこと」に加えて,「職場での上司・同僚の支援が低いことがもっとも

問題を生じやすい状況であった」と報告している(小林ら,2000)。「事業場における労働

者の心の健康づくりのための指針」にもあったように,セルフケアのみでなく,ラインに

よるケアや事業場内外からの支援が重要である。厚労省の調査でも,職場での強い不安や

悩み,ストレスの内容として最も多かったのは「職場の人間関係の問題」であった(厚生

労働省,2012)。看護職のおかれたストレスフルな状況は,医療を取り巻く諸制度,ひい

ては社会的な問題から解決しなければ改善しない要因が多く,看護職個人の努力だけでは

限界がある。しかし,職場の上司や同僚など「人」からの支援や人間関係など,職場にお

ける「人との関わり」というソフト面が,看護職のメンタルヘルス支援に寄与するところ

は,意外に大きいのではないだろうか。

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第三節 看護職のメンタルヘルス

第一項 看護職のメンタルヘルスに関する先行研究

看護職のメンタルヘルスに関する研究は,バーンアウト(燃え尽き症候群)をキーワー

ドに行われてきた。バーンアウトは米国の精神科医 Freudenberger がはじめて提唱した概

念で,対人関係から生じる対人援助職特有のストレス反応としてとらえられた

(Freudenberger,1974)。バーンアウトが注目された背景には,医師,看護師,教師等,

社会的責任が要求される対人援助職が,精神的にも身体的にも消耗し,仕事への意欲を失

って燃え尽きてしまうことが,社会問題となったことがある。その後 1980 年代以降,バ

ーンアウトの測定尺度が開発され,実証研究が盛んに行われた。なかでも Maslach &

Jackson(Maslach & Jackson,1981)の開発した尺度 Maslach Burnout Inventory(M

BI)は,最も包括的にバーンアウトの側面を測定している尺度として,広く使用されて

いる。Maslach & Jackson はバーンアウトを「長期間にわたり人に援助する過程で心的エ

ネルギーが絶えず過度に要求された結果,極度の心身の疲労と感情の枯渇を主とする症候

群であり,自己卑下,仕事嫌悪,関心や思いやりの喪失などを伴う症状」と定義し,「情緒

的消耗感」「脱人格化」「個人的達成感(の減退)」の 3 つの側面からバーンアウトの概念

を整理している。「情緒的消耗感」は仕事を通じて情緒的に力を出し尽くし消耗した状態,

「脱人格化」はクライアントに対する無情で非人間的な対応を示すことで,提供される仕

事の質の低下につながる。そして「個人的達成感」は対人援助職の職務に関する有能感や

達成感の減退,としている(田尾他,1996)。

日本でも,稲岡らが看護職を対象に燃え尽きに関する探索的研究を行って,かなりの高

率で看護職に燃え尽きが見られることを報告した(稲岡他,1984)。それ以降多くの実証

研究が行われている。看護職のバーンアウトの要因としては,年齢や経験年数(稲岡他,

1984),職業に対する職務満足(Suzuki et al.,2008),その他,セルフモニタリング(黒

瀬ら,1999),自尊感情(荻野,2000),アサーティブネス(鈴木ら,2003),コーピング

スタイル(北岡,2005)などの個人的な要因。また、仕事の量的負担(Kitaoka et al.,

2003),ソーシャルサポート(山崎,2000),職場の人的環境,患者との人間関係(Kitaoka

et al.,2003)など環境的な要因の,両者が関係していることが明らかにされている。

また,バーンアウトとうつ病との関連も指摘されており,両者は症状として現れるもの

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が類似しているため,明確に区別することが難しい(Glass,1993)。佐藤ら(2007)は

330 名の病院に勤務する看護職を対象に調査した結果,24%に中等度以上のうつ状態が認

められたことを報告している。また影山ら(1991),森ら(1995)の調査でも,一般集団

や一般企業従事者より,看護職の精神健康度は低いことが明らかにされている。バーンア

ウトは「長期間にわたり人に援助する過程で心的エネルギーが絶えず過度に要求された結

果…」と定義にあるが,ストレスフルな看護職の状況においては,ストレス状況が長期間

にわたらなくてもメンタルヘルスに関する症状を呈することも考えられる。今後,予防的

な取り組みを検討するには,早い段階での看護職のストレス反応を把握する必要があると

考える。

第二項 看護職のメンタルヘルスと感情労働

上述した通り,看護職は身体労働の非常に苛酷な職種であるが,加えて感情労働も多い

職種として知られている。看護職のメンタルヘルスを考える上では,重要な要素となって

いる。Hochschild は,旅客機客室乗務員を対象とした研究から「公的に観察可能な表現と

身体的表現を作るために行う感情の管理」(Hochschild,1983,p.7)を感情労働と定義し

た。すなわち,対象者の感情状態を変化させたり維持させたりすることを目的に,対象者

に対して適切な感情を持っているように見える表情や声,しぐさをしたり,そう感じるよ

うに自らの感情を誘発すること。また,職業上適切な感情状態を保つために感情を管理す

ることである。Hochschild が,感情労働を行う労働者のリスクとして,あまりにも一心不

乱に仕事に献身し,そのため燃え尽きてしまう危険性に言及したことから,その後,様々

な対人サービス業にこの概念は適用され,研究されてきた。看護職の感情労働についても,

感情労働がバーンアウトの誘因となることや,ストレスを増強させることが明らかにされ

ている(Zapf,2001;荻野ら,2004)。患者の価値観が多様化する現代の社会において,

患者の要望は多岐にわたる。しかし看護は,患者を中心にすべきものと考えられているた

め,患者の要望,時にはクレームにも速やかに対応し,患者の満足度を高めるサービスを

提供するよう努めている。患者に安心して治療に向き合ってもらえるよう,また,患者と

その家族との信頼関係がスムーズに構築できるよう,以前にも増して,患者との関わりの

なかで,自らの感情をコントロールしなければならない状況にあるのではないだろうか。

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しかし一方で,感情労働は看護する上で自然に行われることで,ケアや支援に含まれる

重要な要素であるという考え方も出てきている(三井,2012)。最近の研究では,感情労

働が肯定的な経験になるための方法について検討するものもあり,感情労働が常にネガテ

ィブな影響を与えるわけではないことも明らかとなってきた(須賀ら,2008;谷口,2009)。

対人援助職である看護職にとって,人と関わることで生じる感情労働は避けることのでき

ない要素である。今後は,感情労働を多く行っても,看護職のメンタルヘルスを悪化させ

ないための緩衝要因を探ることが必要なのではないかと考える。

第三項 現代社会における対人関係の傾向と看護職

現代社会における対人関係の特徴に,人と人とが直接的に関わることが減ってしまった

ことがあげられる。

畠中は「戦後日本は豊かな社会を実現することができた一方,主体的な人間関係は抑制

され,対人的なコミュニケーションを回避する傾向が促され,対人関係を発達させるため

の基本的な条件が奪われた」(畠中,2006,p.6)と指摘している。高度経済成長期以降,

多くの人が都市に集中し,忙しい生活のなかで近所づきあいなどの地域のつながりがなく

なっていった。また少子化核家族化など家族規模の縮小もあって,ひとりの子どもが育っ

ていく過程で,関わる人の数自体が少なくなっている。吉川は,対人関係の発達において,

年長者との関係で信頼を,年少者との関係で自制心を,同一世代との関係で自己と他者の

認識をそれぞれ獲得するとして,年長者,年少者,同一世代との対人関係の順序性も強調

している(吉川,2001)。しかし残念ながら現代の社会では,子どもが成長する過程で,

吉川のいう対人関係における発達の順序性は保障されにくい状況になっている。

一方で,インターネットや携帯電話の普及により,いつでもどこでも話したい相手と電

話やメールですぐにやり取りができるようになった。限られた対象者であっても頻繁なや

り取りは可能であり,インターネットを通じて普段の生活では出会うことのできない対象

とのやり取りや,情報交換も可能になったという側面もある。しかしこの便利さは,ビジ

ネスなどの機能的なコミュニケーションには非常に適しているが,人と人との情緒的なや

り取りとしてのコミュニケーション手段としては,使い方を間違うとトラブルの原因にな

る。小川は,このようなIT時代の人間関係について「自己中心的な対人関係が助長」さ

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れていることや,「いつも誰かと電話やメールでつながってなければいられない人々が多く

なり,人間関係における時-空間的“あいだ”が取れない傾向が著明となった」ことを指

摘している(小川,2002)。

このように,便利になった現代の社会では,人と人とが実際に言葉を交わし合い,そこ

から生まれる感情をお互いに表現し合って,感じ合い,折り合いをつけながら人と関わっ

ていくということを経験する機会が,非常に減ってしまったということが言える。畠中は

現代の社会では「よい人間関係」が指向されているとして,「『よい人間関係』では,他者

を傷つけないために程よい距離をとろうとするが,それは裏を返せば,葛藤が起こること

によって自己が傷つくことを恐れているという自己防衛的な態度が背景にある」(畠中,

2009,p.79)と指摘している。看護職は,看護の対象となる患者とその家族だけでなく,

看護を行うチームのメンバーや,医師をはじめ病院内の様々な職種と関わって看護を行っ

ている。自己防衛的な関わりだけでは,患者にとって必要なケアを提供できないこともあ

る。また,葛藤を恐れていては,医療チームのメンバーとして患者により良い看護を提供

できないこともある。平木は「人々はよりよい人間関係を望みながら,人と関わることを

避け,関わることを避けるために,表現する力も関係能力も向上しないという悪循環を招

いている」と指摘している(平木,2009,p.105)。また吉川は「『自分らしさ』を発達さ

せるためには,葛藤を経験しそれと対峙して乗り越えていく経験が必要である」(吉川,

2001,p.101)と言っている。人との葛藤を恐れるあまり,人と関わることにおいて問題

を抱える者が増えているのではないかと考える。

看護職にとって人と関わることは必須である。対人関係能力は,患者に質の高いケアを

提供するために必要な能力ということだけでなく,看護職のメンタルヘルス支援において

も,鍵となるのではないかと考える。

第四節 「関係性のなかでの自立」と看護職へのメンタルヘルス支援

木村らは,対人関係を発達させるためには,対人関係を発達させるための基盤をもって

いなければならないとしている。その基盤とは「対人関係において,他者に飲み込まれる

ことなく,また自己に固執し閉じこもることもなく,人と人との相互作用のなかに関係性

を存在させることのできる能力」と捉え,これを「関係性のなかでの自立」と定義してい

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表Ⅰ-2 「関係性のなかでの自立」尺度項目前向きに生きる張り合いがあり、やる気が出ている社会の中での自分の生きがいがわかってきたいろいろな良い素質をもっている私は、自分なりの生き方を主体的に選んでいる前向きの姿勢で物事に取り組んでいる自分に対して肯定的である自信をもって生きる人から見捨てられるのではないかと心配になることがある(*)

なにか良くないことがあると、すぐに自分のせいだと考えてしまう(*)

人の目ばかり気にして、自分を失いそうになることがある(*)

失敗すると二度と立ち直れないような気がする(*)

ほどよい関係性を生きるあまり人と親密な関係になりたいとは思わない(*)

人は他人と親しくなりすぎないほうが幸せであろう(*)

他人との間に壁を作っている(*)

私の社会的なつながりは、うわべだけのものである(*)

人間関係を煩わしく思う(*)

誰も私をわかってくれないと、私は感じている(*)

自分らしさを生きる周りの意見や環境によってすぐに影響され、変化してしまう(*)

私は感情的に周りの人から影響を受けやすい(*)

(*)逆転項目

る(木村ら,2008)。木村らは,この「関係性のなかでの自立」を尺度化する過程におい

て,対人関係を発達させるための基盤の構造を検討した。その結果「関係性のなかでの自

立」は,「前向きに生きる」,「自信をもって生きる」,「ほどよい関係性を生きる」,「自分ら

しさを生きる」の 4 つの構成概念をもつことが明らかとなった(表Ⅰ-2)(木村ら,2008)。

「前向きに生きる」は積極的な意味での自己肯定感を持っていることを示す。「自信を

もって生きる」は他者や外界の価値観やあり方に過剰適応しようとするのではなく,他者

や外界のなかで基本的な安全保障感を保ちながら,他者や外界と交流していけることを示

す。「ほどよい関係性を生きる」は個々人のこれまでの経験をふまえた上で,社会のなかで

生きていくために,他者や外界と交流することの必要性を積極的に認めていることを示す。

「自分らしさを生きる」は他者や外界と交流するなかで,他者や外界からの影響によって

自己のあり方を変化させてしまわないことであり,他者や外界の意見や環境に揺さぶられ

ない自分らしさを保つことができることを示している(木村ら,2008)。木村らは,これ

ら 4 つの構成概念が抽出されたことから「対人関係を発達させる上では,自分は社会のな

かで他者や外界と常に交流し生きている存在であることを認め,他者や外界の環境によっ

て左右されない自己を確立することで,他者を尊重しつつ自分らしさを保ちながら,自己

を積極的に肯定し,前向きに生きていることが必要である」と述べている(木村ら,2008)。

第三節,第二項(p.14)で述べたように,看護職は感情労働の多い職種である。そして

感情労働は,看護職のメンタルヘルスを悪化させる要因となっていた。しかし常にネガテ

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ィブな影響を与えるわけではないことも明らかにされている。この「関係性のなかでの自

立」が促されれば、看護のなかで生じる自身の感情を否定することなく,また対象の感情

に巻き込まれることもなく,看護職という役割意識によって,自身の感情をおさめること

ができるのではないかと考える。よって,「関係性のなかでの自立」を促すための支援は看

護職のメンタルヘルス支援につながるのではないかと考える。

第五節 看護職のメンタルヘルスを支援することの意義

ここで,看護職のメンタルヘルスを支援することの意義をまとめると「病院組織として

の意義」と「看護職自身の利益」の大きく 2 つにまとめることができる。

1.病院の組織としての意義

看護職が精神的に不安定な状態になり,注意力の低下をきたせば,業務上のミスや医療

事故につながる危険性がある。またメンタルヘルスに変調をきたせば,治療や回復のため

に長期休暇や離職を余儀なくされることもある。多くの時間や費用をついやして育成した

看護職が数年で退職してしまうことは,費用効率が悪いことでもある。

また,看護職がメンタルヘルスに問題を抱えながら交代勤務や繁雑な業務を遂行すれば,

認知にゆがみが生じたり,思考や判断力が低下したりする。患者の些細な変化を見逃すこ

ともあり,適切なケアを行うことは難しくなる。看護職のメンタルヘルスを保つことは患

者や家族に提供するケアの質を保証することでもある。(福田,2004)

2.看護職個人の利益としての意義

看護職はストレスの多い職種であり,そのストレスが心身症やうつなど,メンタルヘル

スに関する疾患の誘因になる可能性もある。

看護職の職場環境は厳しいものではあるが,数々の困難や新たな課題を乗り越えること

によって,看護職として,ひとりの人間として成長していけるという側面もある。看護職

は,年齢や家庭環境など個人のライフサイクルによって直面する悩みや課題も乗り越えな

がら,仕事を続けている。そのプロセスを支援することは,看護チーム全体の士気を高め

ることにもなる。(福田,2004)

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以上のように,看護職へのメンタルヘルス支援は,看護職自身にのみでなく,看護の対

象となる患者・家族,さらに病院組織の利益にもつながるものである。

文献

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第二章 看護職の職業性ストレスとメンタルヘルスの現状

第一節 問題意識と目的

第一章第一節でも述べた通り,労働者のストレス対策は看護職に限らず,労働衛生上の

課題としてあげられている。ストレス対策としては,まず労働者のストレス反応や,その

要因(原因)を把握しなければならないとされ,多職種の労働者のストレスやストレス反

応を同じ指標を用いて評価できるようになっている(下光ら,2010)。

看護職のメンタルヘルスへの取り組みを考えるにあたっては,職場環境からのストレス

の影響も考慮する必要がある。看護職の抱えるストレスとメンタルヘルスの現状を他職種

との比較から把握することで,看護職に必要なメンタルヘルスへの支援の方向性が明らか

にできるのではないかと考える。

よって本研究の目的は、看護職に特徴的な職業性ストレスと,メンタルヘルスの実態を

明らかにすることとする。

第二節 研究方法

第一項 データ収集の手続きと調査対象

序章第四節第一項(p.6)に述べた通り、全国の各地区と同じ比率の病院数になるよう,

合計 59 病院を無作為に抽出した。その後,各病院の看護部長宛てに,研究協力依頼書お

よび返信用葉書を送付し,調査協力への可否と,協力が可能な場合は勤務する全看護職数

について返答を依頼した。

調査対象者は,上記調査協力への返答が得られた 26 病院に勤務する 2,376 名の看護職

全員とした。各病院の看護部長または調査の窓口となる担当者宛てに,各施設に勤務する

看護職数分の無記名自記式質問紙調査票と返信用封筒を郵送し,看護職全員への配布を依

頼した。配布の方法については,各施設の担当者に一任した。調査期間は 2008 年 11 月か

ら 2009 年 1 月で,調査票の配布は各病院の担当者に依頼した。回収は,調査票記入後,

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各自で郵便ポストに投函してもらった。

第二項 調査内容

1.属性

調査対象者の属性として,年齢,性別,婚姻状況,同居家族の有無,就学前の子どもの

有無,経験年数,勤務形態,所属部署,所属部署への在職年数,職位,1 日の勤務時間,

最近 1 か月間の休日数・夜勤回数・残業時間,最近 1 年間の有給休暇消化状況などを尋ね

た。

2.職業におけるストレスを測定する尺度

職業上におけるストレスを把握する代表的なモデルとして,米国職業安全保健研究所

(NIOSH)が提唱したものがある(図Ⅱ-1)。このモデルでは職業性のストレスを,仕

事上のストレス要因,ストレス反応,それらに影響を与える緩衝要因に分けて捉えている。

このモデルに基づいて NIOSH 職業性ストレス調査票が開発され,研究目的で使用されて

いる(原谷,1998)。

図Ⅱ-1 NIOSH 職業性ストレス・モデル(Hurrell ら,1988 を下光らが改変)

(下光ら,2010,p.9 図 1 を引用)

その他には,Karasek らによって開発された Job Content Questionnaire(JCQ)があ

る。これは,仕事上のストレッサーを仕事の要求度,裁量の自由度の 2 要因と,緩衝要因

であるソーシャルサポートの 3 次元のみから捉えたモデルから作成された質問紙があり,

そのシンプルさから疫学研究などに使用されている(川上,2000)。しかしこれらの調査

票は主に研究用に開発されたものであり,個々人のストレス対策に直接使用しにくい面が

あった。そこで,下光らによって,わが国における総合的なストレス対策の実施を視野に

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入れた,「職業性ストレス簡易調査票」(下光他,2000)が開発された。この調査票は,先

の NIOSH 職業性ストレス調査票や JCQ を基にして作成されており,現場で簡便にスト

レス測定が行えるよう工夫されている。職業性ストレス簡易調査票の尺度の構成と項目数

を表Ⅱ-1に示す。

表Ⅱ-1 職業性ストレス簡易調査票の構成

(下光ら,2010,p.97 表 5-1 を引用)

職業性ストレス簡易調査票は,現在,労働者のストレス対策に広く使用されており,様々

な職種におけるストレス状況のデータが蓄積されている。本研究においても,看護職にお

ける職業性ストレスの特徴を明らかにするために,他職種とのストレス状況の比較が可能

なこの尺度を使用することとする。

本研究では,3 つの下位尺度のうち,『仕事のストレス要因(ストレスの原因と考えられ

る因子)』17 項目と,『修飾要因(ストレス反応に影響を与える他の因子)』11 項目を用い

た。『仕事のストレス要因』には,「心理的な仕事の量的負担」,「心理的な仕事の質的負担」,

「身体的負担」,「コントロール」,「技能の活用」,「対人関係」,「職場環境」,「仕事の適性

度」,「働きがい」に関する項目が含まれる。『修飾要因』には,「上司からのサポート」,「同

僚からのサポート」,「家族や友人からのサポート」,「仕事や生活の満足度」に関する項目

が含まる。得点法は,『仕事のストレス要因』では,質問項目の程度に応じて,「そうだ:

1 点」から「ちがう:4 点」までの 4 件法で回答をもとめ,「コントロール」,「仕事適性度」,

「働きがい」は,点数が高くなるほどストレスも高く,その他「心理的な仕事の量的負担」,

「心理的な仕事の質的負担」,「身体的負担」,「技能の活用」,「対人関係」,「職場環境」の

項目では点数が高くなるほどストレスが低くなるよう設定されている。『修飾要因』のサポ

ートに関する項目では,「非常に:1 点」から「全くない:4 点」までの 4 件法で回答をも

とめ,点数が高くなるほどサポートが少なくなるよう設定されている。「仕事や生活の満足

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度」は,「満足:1 点」から「不満足:4 点」までの 4 件法で回答をもとめ,点数が高くな

るほど満足度が低くなるよう設定されている。質問項目と各因子の素点計算方法を表Ⅱ-

2に示した。

表Ⅱ-2 「職業性ストレス簡易調査票」尺度項目と素点計算法

 仕事のストレス要因(ストレスの原因と考えられる因子)  17項目 心理的な仕事の量的負担(No.1+No.2+No.3)  1.非常にたくさんの仕事をしなければならない  2.時間内に仕事を処理しきれない  3.一生懸命働かなければならない 心理的な仕事の質的負担(No.4+No.5+No.6)  4.かなり注意を集中する必要がある  5.高度の知識や技術が必要なむずかしい仕事だ  6.勤務時間中はいつも仕事のことを考えていなければならない 自覚的な身体的負担度(No.7)  7.からだを大変よく使う仕事だ 仕事のコントロール度(No.8+No.9+No.10)  8.自分のペースで仕事ができる  9.自分で仕事の順番・やり方を決めることができる  10.職場の仕事の方針に自分の意見を反映できる あなたの技能の活用度(No.11)  11.自分の技能や知識を仕事で使うことが少ない 職場の対人関係でのストレス(No.12+No.13+(5-No.14)  12.私の部署内で意見のくい違いがある  13.私の部署と他の部署とはうまが合わない  14.私の職場の雰囲気は友好的である 職場環境によるストレス(No.15)  15.私の職場の作業環境(騒音、証明、温度、換気など)はよくない あなたが感じる仕事の適性度(No.16)  16.仕事の内容は自分にあっている 働きがい(No.17)  17.働きがいのある仕事だ 修飾要因(ストレス反応に影響を与える他の因子)  11項目 サポート(上司:No.1+No.4+No.7、同僚:No.2+No.5+No.8、家族や友人:No.3+No.6+No.9) 次の人たちはどのくらい気軽に話ができますか?  1.上司  2.職場の同僚  3.配偶者、家族、友人等 あなたが困った時、次の人たちはどのくらい頼りになりますか?  4.上司  5.職場の同僚  6.配偶者、家族、友人等 あなたの個人的な問題を相談したら、次の人たちはどのくらいきいてくれますか?  7.上司  8.職場の同僚  9.配偶者、家族、友人等 満足度(No.10+No.11)  10.仕事に満足だ  11.家庭生活に満足だ

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3.メンタルヘルスを測定する尺度

これまで看護職のメンタルヘルスに関する研究は,バーンアウト(燃え尽き症候群)を

キーワードに 1980 年代から盛んに行われてきた。多く使用されてきた尺度は「Maslach

Burnout Inventory(MBI)」(Maslach,1981)で,バーンアウトは「長期間にわたり人

に援助する過程で心的エネルギーが絶えず過度に要求された結果,極度の心身の疲労と感

情の枯渇を主とする症候群であり,自己卑下,仕事嫌悪,関心や思いやりの喪失などを伴

う症状」と定義されている。バーンアウトは,長い経過を得て至る状態であるとされてい

るが,ストレスフルな現代社会においては,長期的なストレスが継続していない場合でも,

症状を呈する可能性も考えられる。また予防的な取り組みを検討するには,早い段階での

ストレス反応を把握する必要があると考える。そこで本研究では,メンタルヘルスを測定

する尺度として,Goldberg ら(Goldberg, D. P. ,1979)が開発し,中川ら(中川他,1985)

によって邦訳された日本版精神健康調査票の 28 項目短縮版(General Health

Questionnaire,以下GHQ28 と略す)を用いた。この尺度は,『身体的症状(7 項目)』,

『不安と不眠(7 項目)』,『社会的活動障害(7 項目)』,『うつ傾向(7 項目)』の 4 下位尺

度から成り,主に神経症者の症状評価および発見に有効とされている。また,長期間持続

する性格傾向や将来の不安などは反映されず,現在の精神健康状況を把握できるよう工夫

されている(中川,1985)。得点法は,「いつもより忙しく活動的な生活を送ることが」な

どの項目に対して,「たびたびあった」,「いつもと変わらなかった」,「なかった」,「まった

くなかった」の 4 件法で回答を求め,選択肢の左から順に,0,0,1,1 と採点するGH

Q法と,0,1,2,3 と採点する Likert 法とがある。いずれも得点が高いものほどメンタ

ルヘルスが悪いことを示す。

第三項 分析方法

職業性ストレス簡易調査票の素点計算法にもとづき,各因子の質問項目合計得点の平均

値を算出した。その後,素点換算表を用いて各因子のストレスの段階を評価した。

GHQ28 については,GHQ法にもとづき平均値を算出し,臨界点とされる 6 点以上だ

った者の割合を算出した。GHQ28 の区分(臨界)点は 5/6 点と設定されており,これは

全神経症者の 90%が 6 点以上,健常者の 86%は 5 点以下だったことがその根拠となって

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表Ⅱ-3 調査対象者の属性 n=1,245

年齢

経験年数

所属部署への在職年数

勤務時間

最近1か月間の夜勤回数

最近1か月間の残業時間

最近1か月間の休日数

度 数 (%)

性別 男性 35 (2.8)

女性 1,210 (97.2)

婚姻 既婚 569 (45.7)

未婚・離死別 672 (54.0)

不明 4 (0.3)

同居家族 あり 867 (69.6)

なし 377 (30.3)

不明 1 (0.1)

就学前の子ども いる 206 (16.5)

いない 1037 (83.3)

不明 2 (0.2)

勤務形態 二交代 188 (15.1)

三交代 574 (46.1)

不明 484 (38.8)

所属部署 外来 131 (10.5)

手術室 78 (6.3)

ICU 36 (2.9)

救命救急 7 (0.6)

外科系 285 (22.9)

内科系 308 (24.7)産婦人科系 84 (6.7)小児科系 25 (2.0)精神科系 23 (1.8)緩和ケア 7 (.6)混合病棟 159 (12.8)訪問 6 (0.5)

その他 80 (6.4)

不明 16 (1.3) 職位 師長・副師長・

主任・副主任287 (23.1)

スタッフ 939 (75.4)

不明 15 (1.5)

全部消化した 38 (3.1)

だいたい消化 145 (11.6)

半分くらい消化 233 (18.7)

少し消化 636 (51.1)

まったく消化せず 178 (14.3)

不明 15 (1.2)

9.4日

最近1年間の有給休暇消化状況

平均値

36.5 歳

14.0年

3.6年

8.5時間/日

6.1回

12.3時間

いる(中川,1985)。更に各質問項目について,0 点だった者の割合と 1 点だった者の割

合を算出した。また,Likert 法にもとづき各年代ごとのメンタルヘルス得点の平均値を算

出し,一元配置分散分析を行って比較した。

以上の解析には,SPSS for Windows 19.0J を使用した。

第三節 結果

第一項 対象者の属性と勤務状況

回収数は 1,377 票(回収率 58.0%)であった。そ

のうち回答不備のあった 8 票と就労形態がパートタ

イム・その他の 80 票を除き,有効回答 1,245 票を

分析の対象とした(有効回答率 52.4%)。対象者の

属性と勤務状況を表Ⅱ-3に示した。

第二項 看護職の職業性ストレスの現状と特徴

職業性ストレス簡易調査票の各尺度の合計得点の

平均値を算出し,表Ⅱ-4の素点換算表に明朝体で

示した。表の上段にゴシック体で示した数値は標準

値であり,約 2.5 万人(男性 15,933 人,女性 8,447

人)の種々の業種,職種の労働者のデータベースを

基準として,合計得点を5段階に換算して評価する

(下光他,2000)。

表の網掛けの部分に得点が入るものはストレス

が高いことを示す。本調査で標準値から逸脱してス

トレスが高かったのは「心理的な仕事の質的負担」

と「自覚的な身体的負担度」であった。ストレスがやや高いものは「心理的な仕事の量的

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負担」と「職場環境によるストレス」であった。また「上司からのサポート」と「家族や

友人からのサポート」はやや高く,「働きがい」については標準値より高いという状況であ

った(表Ⅱ-4)。

低い/少ないやや低い

/ 少ない普通

やや高い

/ 多い高い/多い

12・11 10・9 8・7・6 5・4 3

5.212・11 10・9 8・7 6・5 4・3

4.84 3 2 1

1.712 11・10 9・8 7・6 5・4・3

8.54 3 2 1

2.712 11・10 9・8・7 6・5 4・3

7.81 2 3 4

3.04 3 2 1

2.24 3 2 1

1.9低い/少ない

やや低い

/ 少ない普通

やや高い

/ 多い高い/多い

12 11・10 9・8 7・6・5 4・3

7.412・11・10 9・8 7・6 5・4 3

6.612・11・10・9 8・7 6 5・4 3

5.08・7 6 5・4 3 2

4.5出典:「職業性ストレス簡易調査票を用いたストレスの現状把握のためのマニュアル」p.12 一部改編

質問項目合計得点修飾要因

表Ⅱ-4 職業性ストレス簡易調査票 素点換算表

質問項目合計得点

心理的な仕事の量的負担

心理的な仕事の質的負担

自覚的な身体的負担度

職場の対人関係でのストレス

仕事のストレス要因

上司からのサポート

同僚からのサポート

家族や友人からのサポート

仕事や生活の満足度

職場環境によるストレス

仕事のコントロール度

あなたの技能の活用度

あなたが感じている仕事の適性度

働きがい

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92.888.1

85.778.6

84.947.1

81.7

59.144.4

82.734.4

72.647.4

24.7

77.168.8

58.361.8

83.350.2

64.2

64.138.237.0

60.313.6

46.365.5

6.611.2

13.720.7

14.352.1

17.8

40.254.9

16.665.0

26.652.0

74.7

22.030.4

40.737.3

16.149.2

35.1

35.361.462.2

38.685.3

53.233.1

0.6

0.6

0.6

0.6

0.8

0.7

0.6

0.6

0.7

0.7

0.6

0.8

0.6

0.6

0.9

0.8

1.0

0.9

0.6

0.6

0.7

0.6

0.5

0.8

1.0

1.1

0.5

1.4

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%

自殺しようと考えたことが

死んだ方がましだと考えたことは

ノイローゼ気味で何もすることができないと考えたことは

この世から消えてしまいたいと考えたことは

生きていることに意味がないと感じたことは

不安を感じ緊張したことは

人生に全く望みを失ったと感じたことは

自分は役に立たない人間だと考えたことは

いつもよりいろいろなことを重荷と感じたことは

たいした理由がないのに、何かがこわくなったりとりみだす

いらいらして、おこりっぽくなることは

いつもより日常生活を楽しく送ることが

問題を解決できなくて困ったことが

いつもよりストレスを感じたことが

いつもより容易に物ごとを決めることが

いつもより自分のしていることに生きがいを感じることが

いつもよりすべてがうまくいっていると感じることが

いつもより何かするのに余計に時間がかかることが

いつもより忙しく活動的な生活を送ることが

夜中に目を覚ますことは

心配ごとがあって、よく眠れないようなことは

からだがほてったり寒気がしたことは

頭が重いように感じたことは

頭痛がしたことは

病気だと感じたことは

元気なく疲れを感じたことは

疲労回復剤(ドリンク・ビタミン剤)を飲みたいと思ったことは

気分や健康状態は

良い状態だったことを示す(よかった・いつもと変わらなかった/まったくなかった・あまりなかった/できた・いつもと変わらなかった)

悪い状態だったことを示す(悪かった・非常に悪かった/あった・たびたびあった/できなかった・まったくできなかった)

不明

身体的症状

不眠と不安

社会的活動障害

うつ傾向

第三項 GHQ28 による看護職のメンタルヘルスの評価

GHQ法により,GHQ28 の平均得点を算出したところ,10.6 点(SD6.49)であった。

また,GHQ28 の臨界点は 5/6 点と設定されているが(中川他,1985),対象者のうち 6

点以上を示した者の割合は 72.6%(904 名)であった。また,GHQ28 の各尺度項目に対

して,メンタルヘルスが良い状態であった者(0 点)と悪い状態であった者(1 点)の割

合を図Ⅱ-2に示した。

図Ⅱ-2 GHQ28 によるメンタルヘルスの評価

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30.5%32.1%

23.4%

14.0%

0.0

5.0

10.0

15.0

20.0

25.0

30.0

35.0

29歳以下 30~39歳 40~49歳 50歳以上

表Ⅱ-5 メンタルヘルス得点の年代別比較

度数 平均値 (SD)

 40~49歳

*p<0.05

 30~39歳

 29歳以下

 50歳以上 165 24.9 (9.21)

(9.90)28.3*

282

389 26.7 (9.62)

(9.68)27.0368

50%以上の者が1点を示した項目は,『身体的症状』で 4 項目(「疲労回復剤を飲みたい

と思ったことは」,「元気なく疲れを感じたことは」,「頭痛がしたことは」,「頭が重いよう

に感じたことは」),『社会的活動障害』で 4 項目(「いつもよりストレスを感じたことが」,

「問題を解決できなくて困ったことが」,「いらいらして,おこりっぽくなることは」,「い

つもよりいろいろなことを重荷と感じたことは」),『うつ傾向』で 1 項目(「不安を感じ緊

張したことは」),『不眠と不安』ではなしであった。

次に,Likert 法によりメンタルヘルス得点の平均値を算出し,一元配置分散分析を行っ

て年代ごとで比較した(表Ⅱ-5)。平均点に有意な差があったのは 40~49 歳の 28.3 点

(SD9.90)と 50 歳以上の 24.9 点(SD9.21)で,40~49 歳の方がメンタルヘルスは悪い

という結果であった(F(3,1200)=4.233,p<.01)。なお,調査対象者の年代分布は図Ⅱ

-3に示した通りである。

図Ⅱ-3 対象者の年代分布

第四節 考察

本研究の対象となった看護職は「心理的な仕事の質的負担」と「自覚的な身体的負担度」

において高いストレスを感じており,先行研究と同様の結果であった(荻原,2011;日本

医療労働組合連合会,2010)。またメンタルヘルスでは「身体的症状」と「社会的活動障

害」で 7 項目のうち 4 項目で半数以上の者が悪い得点を示した。看護職の仕事は人の生死

に関わる仕事であり,責任や重圧から精神的な負担が大きいことがうかがえる。さらに身

体的にも負担を感じ身体症状が出てきていることから,心身ともにストレスの大きい職業

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であることが改めて明らかとなった。

上述した通り,GHQ28 の区分(臨界)点は 5/6 点と設定されており,これは全神経症

者の 90%が 6 点以上,健常者の 86%は 5 点以下だったことがその根拠となっている(中

川,1985)。今回の調査では,対象となった看護職の 72.6%が臨界点を超えており,メン

タルヘルスが悪化していることが明らかとなった。近年の先行研究では,影山ら(2001)

の調査で,臨界点を超えた看護職の割合は 69.1%,もう一方の影山ら(2003)の調査で

54.1%と報告され,同様に高値を示していた。一方,20 年前の宗像ら(1988)の調査で

は,臨界点を超える看護職の割合は 36.6%であった。縦断的調査を行ったわけではなく,

統計的な有意差を示すことはできないが,以前より,看護職のメンタルヘルスが悪化した

ことが見て取れる。

また,メンタルヘルスを年代別にみると,40 歳代が一番悪いという結果であった。平均

点に有意な差があったのは 40 歳代と 50 歳代のみであったが,メンタルヘルスは悪い順に

40 歳代,20 歳代,30 歳代,50 歳以上という結果であった。近年,新卒者の離職率の高さ

が注目され,2010 年 4 月には医療安全と早期離職予防を目的とする「看護師など人材確

保の促進に関する法律」が制定された。そこで新人看護師の研修が努力義務とされている。

看護技術に関する研修のみでなく,多くの病院では新人看護師を対象としたメンタルヘル

スへの取り組みが行われるようになった(真船,2011;若佐,2011;森ら,2011)。40 歳

代はその新卒者の新人教育にあたったり,新たに主任・師長業務についたりと,病棟を支

えていく年代になる。本調査対象者の年齢の分布をみても 30 歳代から 40 歳代で人数が減

少しており(図Ⅱ-3),この結果だけではその原因を特定することはできない。しかし,

40 歳代のメンタルヘルスに関しては,注意を向けて検討する必要があるものと考える。厚

生労働省の「労働者の心の健康の保持増進のための指針」に示される 4 つのメンタルヘル

スケアには「セルフケア」,「ラインによるケア」,「事業場内産業保健スタッフ等によるケ

ア」,「事業場外資源によるケア」があげられている(厚生労働省,2006)。そのうち「ラ

インによるケア」とは管理監督者による職場環境等の改善や,個別の指導・相談などであ

るが,管理監督者にあたる年代にも,何等かの支援策が必要であると考える。

また,今回の調査対象者の 97.2%は女性であったが,女性の労働力人口比率の変化を年

代別でみると,結婚や出産,子育てを機に女性が一端退職する 20~30 歳代が最も低くな

り,子どもが小学生になる 40 歳代頃から上昇するという M 字を描くのが一般的である。

2013 年の調査でも,35~39 歳で 69.6%と最も低下し,40~44 歳で 73.1%,45~49 歳で

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は 76.1%と上昇傾向がみられる(総務省,2013)。しかし本研究の対象となった看護職の

40 歳代の割合は減少している。職業性ストレスにおいて「自覚的な身体的負担度」が高か

ったことや,GHQ28 において「身体的症状」を自覚する者の割合が高かったことからも,

看護職の身体的負担は他職種に比べ大きいことが分かる。年齢とともに疲労回復に要する

時間は長くなり,健康への影響だけでなく,生活上の負担も大きくなって,家事育児との

両立が難しくなることも考えられる。残念ながら,看護職の労働状況をみると「体力勝負」

という側面が大きいのが現状である。しかし看護職は,高い技術力も要求される職種であ

ることから,経験を重ね熟練した看護職の存在は,質の高い看護ケアを提供するためには

必要である。今回多くの看護職が感じていた「心理的な仕事の質的負担」も,経験からそ

れらを解決,克服し,乗り越えたときには,「心理的負担感」というストレスが「責任感」

へと,変化することはないだろうか。また看護職は対人援助職でもある。看護の対象は新

生児期から老年期までと,幅広い年代層の人々である。看護職も自身の結婚,妊娠,出産,

育児,介護と,年齢を重ねることで経験する様々なできごとから,学ぶことは多い。その

「人としての経験」が対象者へのより良いケアにつながることも多分にある。

2010 年から「看護職のワーク・ライフ・バランス推進ワークショップ事業」が展開され,

現在 379 施設が勤務環境改善に取り組んでいる(日本看護協会,2013)。今回の調査で,

看護職は他職種と比べて「働きがい」を感じている者が多かったことも明らかとなった。

「体力勝負」だけでは続けられなくなった年齢になっても,育児や介護などで家庭生活に

重点を置かなければならない状況になっても,無理なく働き続けることのできる環境の整

備が必要であると考える。

第五節 小括

看護職の職業性ストレスとして,他職種と比較して逸脱してストレスが高かったのは「心

理的な仕事の質的負担」と「自覚的な身体的負担度」であった。ストレスのやや高いもの

は「心理的な仕事の量的負担」と「職場環境によるストレス」であった。また「上司から

のサポート」と「家族や友人からのサポート」はやや高く,「働きがい」については他職種

より高く感じているという状況であった。

看護職のメンタルヘルスは,臨界点とされる 6 点以上を示すものが全体の 72.6%にのぼ

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った。20 年前の調査結果が 36.6%だったことからも,看護職のメンタルヘルスは悪化し

ていることが明らかとなった。年代別でみると 40 歳代のメンタルヘルスが悪く,この年

代への支援も考える必要があることが示された。

文献

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第三章 看護職のメンタルヘルスと関係性のなかでの自立との関連

第一節 問題意識と目的

近年,うつ病や自殺といった問題が増加するなか,メンタルヘルスへの関心が高まって

いる。看護職のメンタルヘルスに関する研究も,バーンアウト(燃え尽き症候群)をキー

ワードに行われてきた。バーンアウトは Freudenberger がはじめて提唱した概念であり,

対人関係から生じる対人援助職特有のストレス反応として捉えられ,日本でも 1980 年代

以降,主に看護職を対象に多くの実証研究が行われてきた(稲岡ら,1984;土居ら,1988;

田尾ら,1997;荻野,2004)。しかし,看護職自身のメンタルヘルスを良好な状態に保っ

ておくことが重要であるとしながらも,決定的な対策は未だ打ち出されていないのが現状

である。

一方,現代の社会の特徴として,家族規模の縮小や地域とのつながりの希薄化など,人

との関わりが減っていることがあげられる。対人関係を発達させるための能力は,実際に

人と関わることでしか養うことはできない。そのため,対人関係において問題を抱える人

が増えているのではないか。

木村ら(2008)は,対人関係を発達させるためには,自己に,対人関係を発達させるた

めの基盤を持っていなければならないと言っている。すなわち,対人関係を発達させる基

盤とは「対人関係において,他者に飲み込まれることなく,また自己に固執し閉じこもる

こともなく,人と人との相互作用のなかに関係性を存在させることのできる能力」と捉え,

これを「関係性のなかでの自立」と定義している(木村ら,2008)。バーンアウトが対人

関係から生じる,対人援助職に特有のストレス反応であるということからも,木村らのい

う,「関係性のなかでの自立」という概念は,今後の看護職のメンタルヘルスへの取り組み

について,示唆を得ることのできる概念になり得るのではないかと考える。

対人関係における情緒的側面とメンタルヘルスとの関連を検討した研究には,セルフモ

ニタリングとの関連(黒瀬ら,1999;和田ら,2006),自尊感情との関連(荻野,2000),

他者意識,情動的共感性,内的ワーキングモデルとの関連(和田ら,2006)などがある。

しかし第二章でも示されたように,看護職は,身体的にも苛酷な労働環境におかれている。

よって,これら個人の性格特性に関する要因のみでなく,環境要因も含めた上で,対人関

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係に関する事柄が看護職のメンタルヘルスにどの程度影響を及ぼしているかも,明らかに

する必要があると考える。

そこで,本研究では,これまでの研究で,看護職のメンタルヘルスに影響を及ぼすこと

が明らかにされているストレス要因と共に,対人関係を発達させる基盤である「関係性の

なかでの自立」も独立変数として設定し,メンタルヘルスとの関連を検討する。そして,

看護職の,対人関係を発達させるための基盤がメンタルヘルスに及ぼす影響は大きいとい

う仮説を立て,それを検証することを目的とする。

第二節 研究方法

データ収集の手続きと調査対象は第二章第二節第一項(p.22)と同様である。

第一項 調査内容

属性,メンタルヘルスを測定する尺度(GHQ28:p.29,図Ⅱ-2),職業におけるス

トレスを測定する尺度(職業性ストレス簡易調査票:p.25,表Ⅱ-2)は,第二章第二節

の調査内容と同様である(p.23~26)。

対人関係を発達させる能力を測定する尺度については,木村らが作成した「関係性のな

かでの自立」尺度を使用した。木村らは「関係性のなかでの自立」を「対人関係において,

他者に飲み込まれることなく,また自己に固執し閉じこもることもなく,人と人との相互

作用のなかに関係性を存在させることのできる能力」と定義している(木村ら,2008)。

この尺度は,「前向きに生きる(6 項目)」,「自信をもって生きる(4 項目)」,「ほどよい関

係性を生きる(6 項目)」,「自分らしさを生きる(2 項目)」の 4 つの下位尺度から構成さ

れている。得点法は質問項目に対して「非常によくあてはまる:6 点」から「全くあては

まらない:1 点」までの 6 件法で回答をもとめ,点数が高くなるほど,「関係性のなかでの

自立」が高くなるよう設定されている。

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第二項 分析方法

まず,GHQ法にしたがってGHQ28 の得点を算出し,標準化得点を参考にして,看護

職のメンタルヘルスの評価を行った。

次に,メンタルヘルスとの関連要因を検討するために,第 1 段階として,解析に使用す

る各尺度の信頼性と妥当性を検討した。GHQ28 および職業性ストレス尺度は,その信頼

性と妥当性が検証され,標準化されて広く用いられている尺度であるが,規定要因を分析

するためには,本調査対象者での因子構造にしておく必要があると考えた。信頼性の検討

は,Cronbach のα係数を算出した。

第 2 段階として,従属変数にGHQ28 より導き出されたメンタルヘルス尺度を,独立変

数には,職業性ストレス,サポート,満足感,属性要因と,関係性のなかでの自立を投入

し,重回帰分析(強制投入法)を行った。

以上の解析には,SPSS for Windows 17.0J および Amos17.0J を使用した。

第三節 結果

第一項 回収率と対象者の属性

回収数は 1,377 票(回収率 58.0%)であった。そのうち回答不備のあった 8 票を除外し,

有効回答 1,369 票を分析の対象とした(有効回答率 57.6%)。

第二章では,この 1,369 票から,更に勤務形態がパートタイム・その他の 80 票を除き,

フルタイム 1,245 票のみを分析の対象としていた。しかし本章では,労働時間に関連する

因子も検討するため,80 票を含めて分析の対象とした。

属性は,平均年齢 36.7 歳(21~62 歳)。男性 37 名(2.7%),女性 1,331 名(97.2%),

不明 1 名(0.1%)。既婚 652 名(47.6%),未婚・死別 712 名(52.0%),不明 5 名(0.4%)。

同居家族あり 968 名(70.7%),同居家族なし 399 名(29.1%),不明 2 名(0.1%)。平均

経験年数 14.2 年(1 年未満~41 年)。勤務形態は,フルタイム 1245 名(90.9%),パート

タイム 64 名(4.7%),その他 16 名(1.2%),不明 44 名(3.2%)。職位は,師長または

副師長 113 名(8.3%),主任または副主任 182 名(13.3%),スタッフ 1,053 名(76.9%),

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不明 21 名(1.5%)。1 日の平均勤務時間 8.4 時間(1~14.5 時間)。1 か月間の平均休日数

9.5 日(1~24 日)。1 か月間の平均残業時間 11.9 時間(0~141.0 時間)。1 か月の平均夜

勤回数 6.1 回(0~16 回)。最近 1 年間の有給休暇消化状況は,全部消化した 44 名(3.2%),

だいたい消化した 165 名(12.1%),半分くらい消化した 251 名(18.3%),少ししか消化

しなかった 679 名(49.6%),全く消化しなかった 197 名(14.4%),不明 33 名(2.4%)

であった。

第二項 GHQ28 による看護職のメンタルヘルスの評価

GHQ法により,GHQ28 の平均得点を算出したところ,10.6 点(SD6.49)であった。

また,GHQ28 の臨界点は 5/6 点と設定されているが(中川ら,1985),対象者のうち 6

点以上を示した者の割合は 69.8%(909 名)であった。

第三項 各尺度の信頼性と妥当性の検討

1.GHQ28

メンタルヘルスの規定要因を検討するにあたり,本調査対象者におけるGHQ28 の因子

構造を分析した。分析の方法は,GHQ28 の尺度開発を行った際の先行研究(Iwata,1972)

と同様の方法をとった。まず,Likert 法によるGHQ28 得点を算出し,28 項目を用いて

主成分分析(バリマックス回転)を行った。因子数は,固有値 1 以上の基準を設け,因子

負荷が 0.4 に満たない項目や複数因子にまたがって高い負荷を示した項目を削除した。「い

つもより日常生活を楽しく送ることが」の因子負荷が 2 因子にまたがって 0.4 以上を示し

たが,この項目を含む 22 項目で 5 因子を抽出した場合に,最も解釈の可能性があると判

断し,削除せずそのまま採用することとした(累積寄与率 62.7%,表Ⅲ-1)。

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抽出された 5 つの因子のうち 3 つの因子が,GHQ28 の下位尺度と同様の項目群であっ

た。第 1 因子はGHQ28 の下位尺度「うつ傾向」と対応しており,第 3 因子は「身体的症

状」,第 4 因子は「社会的活動障害」と対応していた。他の 2 因子については,第 2 因子

が「不安」に関する項目群で,第 5 因子が「不眠」に関する項目群となり,下位尺度の「不

安と不眠」が 2 因子に分解されていた。

各因子に高い負荷を示した項目群の信頼性係数(Cronbach のα係数)は,第一因子か

ら順に.923/.799/.763/.715/.730,22 項目全体では.893 であり,信頼性が確認された。

各因子の項目群の合計得点を Likert 法により算出し,それを項目数で除したものを下位

尺度得点とした。その平均値および標準偏差は,第 1 因子から順に 0.54 点(SD .667),

1.68 点(SD .564),1.44 点(SD .666),1.20 点(SD .438),1.31 点(SD .795)であっ

た。

この 5 因子構造の妥当性を確認するために,構造方程式モデリングを用いて確認的因子

分析を行った。その結果,適合度指標は GFI=.906,AGFI=.882,CFI=.916,RMSEA=.066

であり,許容範囲内であると判断した。なお,パス係数の検定統計量 C.R.は全て 1.96 以

上で有意であった。

表Ⅲ-1 「GHQ28」因子分析結果

F1 F2 F3 F4 F5

うつ傾向 不安 身体症状社会的

活動障害不眠

27.死んだ方がましだと考えたことは .902 .102 .056 .119 .044

25.この世から消えてしまいたいと考えたことは .881 .148 .081 .118 .076

28.自殺しようと考えたことが .857 .047 .075 .100 .085

24.生きていることに意味がないと感じたことは .822 .170 .068 .152 .118

26.ノイローゼ気味で何もすることができないと

考えたことは

20.いつもよりいろいろなことを重荷と感じたこと .233 .698 .113 .245 .120

15.いつもストレスを感じたことが .073 .686 .261 .242 .119

16.問題を解決できなくて困ったことが .153 .659 .126 .208 .137

18.いらいらして、おこりっぽくなることは .074 .619 .225 .154 .069

23.不安を感じ緊張したことは .373 .535 .087 .047 .202

5.頭痛がしたことは .017 .090 .895 .092 -.012

6.頭が重いように感じたことは .062 .134 .892 .131 .037

7.からだがほてったり寒気がしたことは .134 .136 .568 .001 .296

4.病気だと感じたことは .238 .249 .448 .074 .258

2.疲労回復剤(ドリンク・ビタミン剤)を

飲みたいと思ったことは

13.いつもより自分のしていることに生きがいを

感じることが

12.いつもよりすべてがうまくいっていると

感じることが

14.いつもより容易に物ごとを決めることが .135 .346 .040 .618 .118

10.いつもより忙しく活動的な生活を送ることが .095 -.398 .092 .581 .149

17.いつもより日常生活を楽しく送ることが .245 .406 .067 .543 .174

9.夜中に目を覚ますことは .108 .138 .165 .105 .824

8.心配ごとがあって、よく眠れないようなことは .223 .253 .178 .142 .760

因子寄与 4.06 3.11 2.59 2.40 1.65

累積寄与率(%) 18.45 32.57 44.34 55.25 62.72

22項目全体尺度 α=.893 α=.923 α=.799 α=.763 α=.716 α=.730

.124 .236 .093 .766 -.013

.038.682.074.333.131

.155.144.149.225.752

.136.031.430.361.072

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2.職業性ストレス

職業性ストレス簡易調査票の下位尺度「仕事のストレス要因」17 項目を用いて,本調査

対象者における,職業性ストレスの因子構造を分析した。標準化得点を用いた算出方法と

は異なり,尺度全体の得点が高くなるほどストレスが低くなるよう逆転項目を設定し(表

Ⅲ-2,項目の*印が逆転項目),因子分析(主因子法プロマックス回転)を行った。因子

数の決定および項目削除の基準は,1.と同様の方法をとった。

その結果,第 1 因子は,職業性ストレス尺度の「心理的な仕事の量的負担」「心理的な

仕事の質的負担」「身体的負担」に関する項目が一つの因子として抽出され,「仕事の負担」

因子とした。第 3 因子は,「働きがい」「仕事の適性度」に関する項目が 1 つの因子として

抽出され,「働きがい・適性」因子とした。その他は,第 2 因子「コントロール」と第 4

因子「対人関係」が抽出された。「技能の活用」,「職場環境」に関する項目は削除された。

各因子の信頼性係数(Cronbach のα係数)は,第一因子から順に.816/.669/.752/.584,

全 15 項目では.759 で,第四因子「対人関係」以外の信頼性は確認された。

1.と同様の方法で下位尺度得点の平均値と標準偏差を算出したところ,第 1 因子から

順に,1.67 点(SD .474),2.41 点(SD .587),2.93 点(SD .648),2.83 点(SD .552)であっ

た。

表Ⅲ-2 「職業性ストレス」因子分析結果

F1 F2 F3 F4

仕事の

負担

コント

ロール

働きがい・

適性

対人

関係

3.一生懸命働かなければならない .708 -.002 .012 -.054

4.かなり注意を集中する必要がある .701 .073 -.108 -.033

1.非常にたくさんの仕事をしなければならない .692 -.099 .154 .044

6.勤務時間中はいつも仕事のことを考えて

いなければならない

5.高度の知識や技術が必要なむずかしい仕事だ .625 .027 -.110 -.020

2.時間内に仕事を処理しきれない .565 -.051 .168 .022

7.からだを大変よく使う仕事だ .506 .044 -.123 .064

9.自分で仕事の順番・やり方を決めることができる -.071 .907 -.073 -.057

8.自分のペースで仕事ができる(*) .175 .523 .128 -.062

10.職場の仕事の方針に自分の意見を反映できる(*) -.005 .412 .088 .233

17.働きがいのある仕事だ(*) -.103 .009 .779 -.017

16.仕事の内容は自分にあっている(*) .049 .022 .760 .000

12.私の部署内で意見のくい違いがある .019 -.031 -.111 .749

13.私の部署と他の部署とはうまが合わない .018 -.078 .034 .514

14.私の職場の雰囲気は友好的である(*) -.026 .139 .110 .448

                      因子寄与 3.04 1.82 1.67 1.48

                      因子間相関   F1 1.000

                        F2 .273 1.000

                      F3 .037 .334 1.000

                      F4 .116 .317 .386 1.000

15項目全体尺度 α=.759 α=.816 α=.669 α=.752 α=.584

(*)は逆転項目

.014-.041.022.652

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表Ⅲ-3 「関係性のなかでの自立」因子分析結果

F1 F2 F3

自信をも って

自分らしさを

生きる

ほどよい関係性

を生きる

前向きに

生きる

11.私は感情的に周りの人からの影響を受けやすい(*) .867 -.208 -.127

15.周りの意見や環境によってすぐに影響され、変化してしまう(*) .821 -.127 -.054

10.人から見捨てられるのではないかと心配になることがある(*) .668 .085 .066

3.人の目ばかり気にして、自分を失いそうになることがある(*) .586 .181 .055

16.失敗すると二度と立ち直れないような気がする(*) .584 .131 .064

6.なにか良くないことがあると、すぐに自分のせいだと考えてしまう

( ).563 .169 .010

5.あまり人と親密な関係になりたいとは思わない(*) -.229 .976 -.089

4.人は他人と親しくなりすぎないほうが幸せであろう(*) -.068 .842 -.113

13.他人との間に壁を作っている(*) .179 .559 .030

2.人間関係を煩わしく思う(*) .028 .539 .093

9.私の社会的なつながりは、うわべだけのものである(*) .199 .539 .033

14.誰も私をわかってくれないと、私は感じている(*) .343 .478 .043

8.いろいろな良い素質をもっている -.012 -.042 .764

18.張り合いがあり、やる気が出ている -.108 .111 .725

7.社会の中での自分の生きがいがわかってきた -.064 -.034 .690

17.自分に対して肯定的である -.014 -.035 .583

1.前向きの姿勢で物事に取り組んでいる .002 .066 .581

12.私は、自分なりの生き方を主体的に選んでいる .107 -.182 .566

                               因子寄与 4.60 4.39 3.43

                               因子間相関   F1 1.000

                                          F2 .570 1.000

                                          F3 .395 .343 1.000

18項目全体尺度 α=.881 α=.854 α=.851 α=.806

(*)逆転項目

確認的因子分析を行った結果,適合度指標は GFI=.918,AGFI=.886,CFI=.858,

RMSEA=.081 であり,データへの適合度は許容範囲内であった。

職業性ストレス簡易調査票の下位尺度「修飾要因」については,各サポートの合計得点

を算出し,項目数で除したものをサポート得点とした。それぞれの平均値と標準偏差を算

出したところ,上司からのサポートは 2.46 点(SD .701),同僚からのサポートは 2.19 点

(SD .631),配偶者・家族・友人等からのサポートは 1.65 点(SD .626)であった。満足

度の平均値および標準偏差は,仕事の満足度は 2.56 点(SD .745),家庭生活の満足度は

3.00 点(SD .725)であった。

3.関係性のなかでの自立

18 項目について,主因子法による因子分析(プロマックス回転)を行った。因子数の決

定および項目削除の基準は,1.と同様の方法をとった。その結果,削除された項目はな

く,第 2 因子,第 3 因子は,木村ら(2008)と同様に「ほどよい関係性を生きる」因子と

「前向きに生きる」因子が抽出された。第 1 因子は,木村らの「自信をもって生きる」因

子と「自分らしさを生きる」因子が 1 つの因子として抽出された(表Ⅲ-3)。

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各因子の信頼性係数(Cronbach のα係数)は,第 1 因子から順に.854/.851/.805,全 18

項目では.881 で,尺度の信頼性が確認された。

1.と同様の方法で下位尺度得点の平均値と標準偏差を算出したところ,第 1 因子から

順に,3.63 点(SD .868),3.83 点(SD .818),3.77 点(SD .683)であった。

確認的因子分析を行った結果,適合度指標は GFI=.885,AGFI=.851,CFI=.861,

RMSEA=.089 であり,データへの適合度は許容範囲内であった。

第四項 属性,職業性ストレス,関係性のなかでの自立とメンタルヘルスとの関連

メンタルヘルスを規定する要因を検討するため,GHQ28 より抽出した 5 つの下位尺度

各々と,全 22 項目(得点が高いほどメンタルヘルスが悪いことを示す)を従属変数とし

て,重回帰分析(強制投入法)を行った。独立変数には,属性要因として,同居家族の有

無(0:同居家族がいない,1:同居家族がいる),経験年数,職位の有無(0:スタッフ,

1:師長・副師長・主任・副主任),最近 1 か月の残業時間,最近 1 か月の夜勤回数を投入

した。職業性ストレスの下位尺度からは,仕事の負担(得点が低くなるほど負担が大きい

ことを示す),コントロール(得点が低いほどコントロールできないことを示す),働きが

い・適性(得点が低いほど,働きがいや適性がないと考えていることを示す)を投入し,

職場の対人関係については,下位尺度としての信頼性が確認されなかったため,質問項目

の「私の職場の雰囲気は友好的である」(得点が高いほど友好的であることを示す)を投入

した。その他,上司からのサポート,同僚からのサポート,配偶者・家族・友人からのサ

ポート(得点が高いほどサポートがないことを示す),仕事の満足度,家庭生活の満足度(得

点が高いほど不満足であることを示す),関係性のなかでの自立(得点が高いほど自立でき

ていることを示す)を投入し,分析を行った(表Ⅲ-4)。なお,独立変数の VIF は,1.037

~1.980 で,独立変数間の共変性は認められなかった。

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表-1 メンタルヘルスを従属変数とした重回帰分析結果

尺度全体 うつ傾向 身体症状 社会的活動障害 不安 不眠標準偏回帰係数(β) 標準偏回帰係数(β) 標準偏回帰係数(β) 標準偏回帰係数(β) 標準偏回帰係数(β) 標準偏回帰係数(β)

同居家族の有無(0:いない、1:いる) .037 -.024 .077* .021 .076

* -.050

経験年数 .013 .005 .019 .063 -.100**

.088*

職位(0:なし、1:あり) .075* .050 .042 .055 .074

* .040

最近1か月の残業時間 .025 -.005 .022 -.008 .057 .008

最近1か月の夜勤回数 .041 -.007 .082* .015 .040 .009

仕事の負担 -0.149*** -.039 -.111

**-.145

***-.181

*** -.074

コントロール .001 .012 .025 .000 -.058 .006

働きがい・適性 -.117** -.073 -.116** -.129** -.012 -.111*

職場の対人関係 .016 .004 -.005 .047 .040 .003

上司からのサポート .025 .003 -.012 .008 .070 .021

同僚からのサポート .019 .014 .019 .032 -.003 .036

配偶者・家族・友人からのサポート .021 .026 -.012 .068 -.043 .073

仕事の満足度 .115** -.034 .145

**.113

*.165

** * -.007

家庭生活の満足度 .125***

.171*** .070 .047 .077

*.088

*

関係性のなかでの自立 -.426***

-.463***

-.157***

-.307***

-.347***

-.183** *

調整済みR2乗 .396 .295 .135 .278 .333 .108

F値 32.598***

21.544***

8.585***

19.728***

25.533***

6.948***

p<.05*  p<.01

**  p.<001

***

その結果,「関係性のなかでの自立」が低いほど,仕事の負担が大きいほど,家庭生活の

満足度が低いほど,働きがい・適性がないと感じているほど,仕事の満足度が低いほど,

職位があるほど,メンタルヘルスは悪くなっていた。

各下位尺度を検討した結果,「うつ傾向」では,順に,関係性のなかでの自立が低いほ

ど,家庭生活の満足度が低いほど,メンタルヘルスが悪くなるよう影響を及ぼしていた。

「身体的症状」では,順に,「関係性のなかでの自立」が低いほど,仕事の満足度が低

いほど,働きがい・適性がないと感じているほど,仕事の負担が大きいほど,夜勤回数が

多いほど,同居家族がいるほど,メンタルヘルスが悪くなるよう影響を及ぼしていた。

「社会的活動障害」では,順に,「関係性のなかでの自立」が低いほど,仕事の負担が

大きいほど,働きがい・適性がないと感じているほど,仕事の満足度が低いほど,メンタ

ルヘルスが悪くなるよう影響を及ぼしていた。

「不安」では,順に,「関係性のなかでの自立」が低いほど,仕事の負担が大きいほど,

仕事の満足度が低いほど,経験年数が短いほど,家庭生活の満足度が低いほど,同居家族

がいるほど,職位があるほど,メンタルヘルスが悪くなるよう影響を及ぼしていた。

「不眠」では,順に,「関係性のなかでの自立」が低いほど,働きがい・適性がないと

感じているほど,家庭生活の満足度が低いほど,経験年数が長いほど,メンタルヘルスが

悪くなるよう影響を及ぼしていた。

表Ⅲ-4 メンタルヘルスを従属変数とした重回帰分析結果

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第四節 考察

本研究では,看護職のメンタルヘルスに,対人関係を発達させるための基盤である「関

係性のなかでの自立」が影響を及ぼしているという仮説を立て,検証した。その結果,看

護職のメンタルヘルスは悪く,「関係性のなかでの自立」は,看護職のメンタルヘルスを規

定する要因となっていることが明らかとなった。以下にその考察をまとめた。

第一項 看護職のメンタルヘルスの現状

GHQ28 の区分(臨界)点は 5/6 点と設定されており,これは全神経症者の 90%が 6

点以上,健常者の 86%は 5 点以下だったことがその根拠となっている(中川ら,1985)。

本研究の対象となった看護職の 69.8%が臨界点を超えており,メンタルヘルスは悪い状況

であることが判った。

本章では,回収票のうち回答に不備のあった 8 票のみを除く 1,369 名を分析の対象とし

ている。その理由としては,労働時間に関連する因子のメンタルヘルスへの影響も検討し

たかったためである。一方第二章では,本章の分析対象者のうち,勤務形態がパートタイ

ム・その他の 80 票を除き,フルタイム 1,245 名のみを分析の対象とした。勤務形態がパ

ートタイム・その他の短時間労働の場合,一般的に夜勤をしていないことが多い。第二章

では,看護職の職務上特徴的な夜勤労働をしている者のメンタルヘルスと職業性ストレス

を明らかにしたかったことから,パートタイム・その他の 80 票は除いて分析した。結果,

6 点を超える者の割合は,パートタイム・その他を含めた対象では 69.8%だったのに対し,

フルタイムのみが対象の場合は 72.6%と高率であった。本研究のデータでは,勤務形態が

フルタイムとパートタイムで人数の差が大きいため,統計的に勤務形態がメンタルヘルス

に及ぼす影響を検討することはできない。しかしこの結果から,看護職としてフルタイム

で働くことの大変さが垣間見える。日本看護協会では,2010 年から「看護職のワーク・ラ

イフ・バランス推進ワークショップ事業」を展開している(日本看護協会,2013)。短時

間正職員制度を導入し,少ない夜勤回数や短時間労働でも正職員として働けるようになっ

たことから,離職率が減少した病院の報告も見られ始めている(大塚,2014)。看護職の

多くは女性である。看護職という職業的役割の他にも,家庭生活では育児・家事・介護な

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ど,母親・妻としての役割も担っており,フルタイムで看護職を続けることは心身ともに

負担が大きいことが考えられる。看護職のワーク・ライフ・バランスへの取り組みがます

ます推進されることが期待される。

第二項 看護職のメンタルヘルスを規定する要因

1.看護職のメンタルヘルスと属性要因との関連

属性要因のなかで,メンタルヘルスとの関連がみられたものは,経験年数,職位の有無,

最近 1 か月間の夜勤回数,同居家族の有無であった。

まず,経験年数は,短いほど不安が強くなるよう関連していた。また一方で,長くなる

ほど,不眠が強くなるよう関連していた。宗像ら(1988),稲岡(1988)のバーンアウト

研究でも,燃え尽き状態にある看護職は,20 歳代(勤務年数 10 年未満,特に 3~4 年)

および 50 歳代(看護部長や副看護部長)に多い傾向があった。また職位においても,職

位があるほうがメンタルヘルスは悪いと報告しており,本研究でも同様の結果であった。

また,夜勤回数においても,その回数が増えるほど,身体症状においてメンタルヘルス

が悪くなるよう関連しており,先行研究(宗像,1988)と同様の結果であった。夜勤は看

護職の職業的特性でもあり,近年 2 交代制の導入など夜勤による負担の軽減が試みられて

いるが,まだ十分な効果を発揮しているとは言いがたい結果であった。看護職が常勤とし

て働き続けるためには,夜勤ができることを条件としている病院がほとんどである。夜勤

による睡眠パターンの変調は,循環器系や糖代謝機能の異常,うつ病など,心身に影響を

与えることが明らかになってきている(日本看護協会,2013)。看護職の夜勤の負担は言

われて久しいが,日本看護協会では 2013 年に「看護職の夜勤・交代制勤務に関するガイ

ドライン」を出し,その中で夜勤の負担を軽減するための個人レベルと組織レベルでの取

り組みを提案している。なかでも,夜勤・交代制勤務の「勤務編成の基準」11 項目では,

勤務と勤務の間隔を 11 時間あけることや,夜勤後の休息については 2 回連続夜勤後には

おおむね 48 時間以上確保することなど,具体的な数字として示されている。これは職能

団体のガイドラインにすぎず違反による罰則があるわけではない。しかし職業におけるス

トレスへの対処は個人の努力では限界があるため,このようなガイドラインが出ることで,

今後各病院での取り組みが進むことは期待できる。

同居家族の有無については,身体症状と不安において,同居家族がいるほどメンタルヘ

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ルスが悪くなるよう関連していた。一般に同居家族がいる方がサポートを受けやすく,メ

ンタルヘルスに良い影響を与えるのではないかと考えられているが(増田,2003),本研

究ではその逆の結果となった。しかし,後述するように,家庭生活の満足度はメンタルヘ

ルスに良い影響を与えるよう関連しており,同居家族の有無よりも影響の程度が大きかっ

た。今回は,同居家族の家族構成や,育児・介護の有無等は聞いていないため,一概に,

同居家族がいることがメンタルヘルスを悪くさせるよう影響しているとは言い切れず,今

後も詳細な検討が必要であると考える。

2.看護職のメンタルヘルスと職業ストレス,満足度との関連

職業性ストレスのなかでは,仕事の負担と,働きがい・適性との間に,メンタルヘルス

との関連がみられた。働きがい・適性を感じているほど,メンタルヘルスは良くなるよう

に関連し,仕事の負担が大きいほど,メンタルヘルスは悪くなるよう関連していた。これ

は,多くの先行研究でも明らかにされていることであった(影山ら,1991;森ら,1995;

影山ら,2001)。「看護職の精神的健康の要因として,看護業務の質的特殊性だけでなく,

交代制勤務,勤務時間の長さなど一般的な職場環境の問題が大きいのではないか」(影山ら,

2001)という指摘と一致する。第二章の結果からも,看護職は他職種に比べ,「心理的な

仕事の質的負担」が高く,「自覚的な身体的負担度」を多く感じていることが明らかとなっ

ている。上述した通り,働き方や職場環境の整備は看護職のメンタルヘルス支援の重要な

要素と言える。

また,仕事の満足度や家庭生活の満足度が高いことと,良好なメンタルヘルスとは関連

していることが明らかとなり,多くの先行研究(石松ら,2001;増田ら,2002;増田,2003)

と同様の結果であった。

4.看護職のメンタルヘルスと「関係性のなかでの自立」との関連

対人関係を発達させるための基盤である「関係性のなかでの自立」が,独立変数群のな

かで最も強い影響力を示していた。この結果から,「関係性のなかでの自立」が看護職のメ

ンタルヘルスに与える影響は大きいという本研究の仮説は証明された。さらに,GHQ28

の下位尺度のなかでも,「うつ傾向」と「不安」に,特に強い影響を及ぼしていることが明

らかとなった。これらの尺度項目は,「死んだ方がましだと考えたことは」「ノイローゼ気

味で何もすることができないと考えたことは」「いつもよりいろいろと重荷だと感じたこと」

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「不安を感じ緊張したことは」など,メンタルヘルスの不調をダイレクトに表す項目群で

ある。「関係性のなかでの自立」を促すことは,看護職のメンタルヘルス支援につながるも

のと言える。

一方「関係性のなかでの自立」は,「前向きに生きる」「ほどよい関係性を生きる」「自

信をもって自分らしさを生きる」の 3 因子があった。「前向きに生きる」は,「自分に対し

て肯定的である」「私は,自分なりの生き方を主体的に選んでいる」「社会のなかでの自分

の生きがいがわかってきた」などである。本研究でも,働きがい・適性がメンタルヘルス

によい影響を与えていた。厳しい職場環境であっても,仕事に意味を見出し,役割意識を

もって前向きに仕事に取り組めれば,メンタルヘルスをいい状態に保つことができる。

「ほどよい関係性を生きる」は,「他人との間に壁を作っている」「誰も私をわかってく

れないと,私は感じている」「私の社会的なつながりは,うわべだけのものである」など,

他者との距離の取り方や感じ方に関するものである。看護職は患者と関わることでストレ

スを抱えることもあるが,患者と築いた信頼関係によって癒されることも多々ある。看護

職が,傷つくことを恐れて患者と関わることをやめてしまっては,信頼関係を築くことは

できない。他者と関わることを恐れず、他者に巻き込まれることなく、ほどよい関係性を

取ることができることが重要である。

また「自信をもって自分らしさを生きる」は,「なにか良くないことがあると,すぐに

自分のせいだと考えてしまう」「周りの意見や環境によってすぐに影響され,変化してしま

う」「人の目ばかり気にして,自分を失いそうになることがある」など,考えや気持ちが人

との関わりによって左右されず,自分に自信をもっていられるか,に関するものである。

看護職は,患者やその家族との関わりのみでなく,医師をはじめ多くの職種と関わり,協

働しながら看護を行っている。患者との関わりでは,病気に伴う不安や怒りなど,ネガテ

ィブな感情をぶつけられることもある。また医師との関係においては,対等とは言えない

場合が多く,特に患者への対応方針が異なる場合などは葛藤を感じることになる。また,

同じ看護職であっても,チーム内には様々な立場や考え,価値観があり,意見の衝突や葛

藤が起こることもある。看護職が日常的に経験する人間関係には,ストレスになり得る要

素が多分に含まれている。周りからの評価や反応ばかりが気になり,都度相手の反応に合

わせて自分を変化させていては,ますます本来の自分を見失うことになり,メンタルヘル

スは悪くなる。

第一章,第二章では,看護職の置かれた労働環境や勤務体制からくるストレスを明らか

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にしてきた。第三章ではそれらに加え,対人関係を発達させる基盤である「関係性のなか

での自立」という情緒面が,看護職のメンタルヘルスに影響を及ぼしていることを明らか

にした。看護職は,不安や怒りなどをもつ患者をケアするとき,自分自身の感情も大きく

揺さぶられる。しかし状況に合わせ,適切に感情をコントロールして,患者の感情を安定

させるように接しなければならない。看護職は肉体労働,頭脳労働とともに,感情労働の

多い職種でもある。本来とは違う感情を表したり持とうとしたりすることで,メンタルヘ

ルスに悪い影響を及ぼすとされている。しかし,「自信をもって自分らしさを生き」ていれ

ば,本来とは違う感情を表したり持とうとしたりしていても,本来の自分を見失うことな

くいられるのではないか。また「ほどよい関係性を生き」られていれば,対象のネガティ

ブな感情に遭遇したときでも,関わることをやめてしまわず,対象に向き合い続けること

ができるのではないか。そして看護職としての役割意識をもって「前向きに生き」られて

いれば,感情労働も,看護職の担うべき役割のひとつとして捉えることができるのではな

いだろうか。第四章では,その関連性について検討する。

第五節 小括

看護職のメンタルヘルスは,臨界点とされる 6 点以上を示すものが全体の 69.8%で,こ

れは勤務形態がパートタイム・その他も含めての結果である。フルタイムのみを対象にす

ると,6 点以上を示す者の割合は 72.6%であった。

メンタルヘルスに影響を与えていた要因は,職位の有無(職位ありの方がメンタルヘル

スが悪くなる),仕事の負担(負担が大きい方がメンタルヘルスは悪くなる),働きがい・

適性(働きがいや適性がないと思っている方がメンタルヘルスは悪くなる),仕事の満足度

(仕事に対する満足度が低いほどメンタルヘルスは悪くなる),家庭生活の満足度(家庭生

活への満足度が低いほどメンタルヘルスは悪くなる)であり,これらの因子は,これまで

の先行研究とほぼ同様の結果であった。今回の研究では,さらに,対人関係を発達させる

ための基盤となる「関係性のなかでの自立」も,看護職のメンタルヘルスに影響を及ぼし

ていたことが明らかとなった。そしてその説明力の強さは最も大きかった。このことから

対人関係を発達させるための基盤である「関係性のなかでの自立」という概念は,今後の

看護職のメンタルヘルス支援の鍵となりえる概念ではないかと考える。

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第四章 看護職のメンタルヘルスと感情労働・関係性のなかでの自立との関連

第一節 研究の背景と目的

近年,医療の高度化や複雑化,絶えず変わる医療制度や情報化といった変化への適応に

追われ,もともと多忙な看護師業務がさらにストレスフルな状況になっている。そこで,

第三章において,看護職のメンタルヘルスに影響を与える要因を明らかにした。これまで

の先行研究で明らかにされていた労働時間,夜勤回数,経験年数,職位の有無,同居家族

の有無,職業性ストレス(仕事の負担,コントロール,働きがい・適性,職場の人間関係

の雰囲気,上司からのサポート,同僚からのサポート,配偶者・家族・友人からのサポー

ト),仕事の満足度,家庭生活の満足度とともに,「関係性のなかでの自立」という概念を

独立変数に加え,メンタルヘルスへの影響を検討した。その結果,メンタルヘルスに影響

を及ぼしていたのは,仕事の負担,職位の有無,働きがい・適性,仕事への満足度,家庭

生活への満足度と「関係性のなかでの自立」であった。なかでも「関係性のなかでの自立」

はその説明力が最も高いことが明らかとなった(野原ら,2009)。

一方で,患者の価値観やニーズが多様化するなか,患者の要望は多岐にわたっている。

看護では,患者を中心にすべきものと考えられているため,時にはクレームにも,速やか

に対応しなければならない。以前にも増して看護職の感情労働は増えているのではないだ

ろうか。

感情労働は,人と,対面または声によって関わることで生じる。そして自分の関わりに

よって,相手に感情の変化を起こさせなければならない。自分の感情をありのまま表出す

れば,相手に適切な感情の変化を起こさせることができないと予測される場合,自分の感

情は表出しないか違うものにすり替える必要がある。よって,自分の感情を適切にコント

ロールできることが前提となる。しかし,人と関わることによって起こる感情は,そう都

合よく相手の期待するかたちのものばかりではない。そこで自分の本来の感情を抑制した

りすり替えたりすることが繰り返されることによって,メンタルヘルスに変調をきたすと

されていたのが,従来の考え方であった(Zapf,2001;荻野,2004)。しかし,「他者に

飲み込まれることなく,また自己に固執し閉じこもることもなく,人と人との相互作用の

なかに関係性を存在させることのできる能力」が備わっていれば,自然に生じる自身の感

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情を否定することなく,また対象の感情に巻き込まれることもなく,看護職という役割意

識によって,自身の感情をおさめることに納得できるのではないかと考えた。そこで本研

究では,「関係性のなかでの自立」が,看護職にとって避けることのできない感情労働の緩

衝要因になり得るという仮説を立て,それを検証することを目的とした。

第二節 研究方法

データ収集の手続きと調査対象は第二章第二節第一項(p.22)と同様である。

第一項 調査内容

属性,メンタルヘルスを測定する尺度(GHQ28:p.29,図Ⅱ-2),職業におけるス

トレスを測定する尺度(職業性ストレス簡易調査票:p.25,表Ⅱ-2)は,第二章第二節

の調査内容と同様である。また対人関係を発達させる能力の測定は,第三章第二節の調査

内容と同様である(「関係性のなかでの自立」尺度:p.17,表Ⅰ-2)。

感情労働の測定には,片山ら(2005)が開発した看護師の感情労働測定尺度(Emotional

Labor Inventory for Nurses,以下ELINと略す)を使用した。片山らは看護師の感情

労働を「患者にとって適切であるとみなす看護師の感情を表現する行為」と定義している。

この尺度は,適切な感情の表現方法を探しながら患者への理解を示す「探索的理解(10 項

目)」,適切な感情を装う「表層適応(5 項目)」,看護師が自分の感情を抑えたり,感情を

隠したりする「表出抑制(5 項目)」,ケアの動作によって患者に伝わる感情を表現する「ケ

アの表現(3 項目)」,実際に感じている感情と表している感情の違いを自覚したり,適切

と判断する感情を創り出したりする「深層適応(3 項目)」の 5 因子 26 項目から構成され,

信頼性妥当性が確認されている 14)。得点法は,各質問項目に対してどの程度の感情労働

を行っているのかの頻度を「いつも行う:5 点」から「行わない:1」の 5 件法で評価し,

得点が高いほど感情労働を多く行っていることを示す。尺度項目を表Ⅳ-1に示す。

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第二項 分析方法

まず,本研究で使用する 3 つの尺度の Cronbach のα係数を算出し,尺度の信頼性の検

討を行った。次に,ELINとGHQ28 の関連性を検討するため,Pearson の相関係数を

算出した。続いて,ELINと「関係性のなかでの自立」を平均値で 2 分し,ELINの

高群・低群と「関係性のなかでの自立」の高群・低群を組み合わせて 4 群を作り,χ2 検

定と一元配置分散分析を行って 4 群間での属性の違いと,GHQ28 平均得点を比較した。

最後に,この 4 群を独立変数,GHQ28 を従属変数,年齢,性別,婚姻の有無,同居家族

の有無,経験年数の有無,職位の有無,最近 1 か月の休日数,最近 1 か月の残業時間,最

近 1 か月の夜勤回数を共変量として,共分散分析を行った。

以上の解析には,SPSS for Windows 19.0J を使用した。

表Ⅳ-1 看護師の感情労働測定尺度(ELIN) 尺度項目探索的理解相手の立場に立って考えるその場に応じて感情の表し方を探るどんな患者にも共感しようとしている患者のための雰囲気づくりをする患者の感情に敏感になるようにする患者の感情を理解することを大切にしている緊張感を持って自分の役割を持続させる期待されるケアリングを提供する自分が相手に表している感情に注意を払う患者の期待を裏切らない感情を示す表層適応何も感じていないようにふるまう驚いたり緊張したりするふりをする喜びや親しさなどの肯定的感情を装う悲しさやつらさなどの否定的感情を装う強い感情ではなく心穏やかであるふりをする表出抑制自分の気持ちを容易に出さないように気を引き締める不安や怒りなどの否定的感情を隠す驚いたり緊張したりしてもその気持ちを隠すおかしさや嬉しさなどの肯定的感情を隠す状況によっては自分の感情を抑えようとするケアの表現自分の口調や表情やふるまいを意識する自分の口調や表情やふるまいによってケアを表す患者との関係によってケアの表し方を調整する深層適応心に感じていることとの違いを自覚しながら感情を表す無関心なことでも関心をもとうとする期待される感情を心の中でイメージする

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平均値 SDGHQ28 総得点(28項目) 34.5 12.32α=.921  身体的症状 10.6 4.05(Likert法)  不安と不眠 10.3 3.81

 社会的活動障害 8.9 2.92 うつ傾向 4.8 4.49

ELIN 総得点(26項目) 70.2 9.81α=.879  探索的理解 38.5 5.67

 表層適応 15.3 3.30 表出抑制 16.6 3.10 ケアの表現 10.8 1.96 深層適応 9.9 2.11

α=.881

表Ⅳ-2 各尺度の平均値・標準偏差・α係数

尺度

関係性の

なかでの自立総得点(18項目) 10.9667.1

第三節 結果

回収率と対象者の属性は,第二章第三節第一項の「対象者の属性と勤務状況」と同様で

ある。

第一項 各尺度の信頼性の検討

GHQ28,ELIN,「関係性のなかでの自立」の関連を検討するにあたり,各尺度の

信頼性係数を算出した。GHQ28 では.921,ELIN26 項目では.879,関係性のなかで

の自立 18 項目では.881 であり,各尺度の信頼性が確認された。各尺度の平均値と標準偏

差,Cronbach のα係数を表Ⅳ-2に示した。

第二項 ELINとGHQ28 の関連

ELINとGHQ28 の相関関係を検討した。その結果を表Ⅳ-3に示した。どれも非常

に低い相関係数ではあったが,ELIN全 26 項目(表3では「総ELIN」と表示)と

GHQ全 28 項目(表3では「総GHQ28」と表示),ELINの下位尺度である「表層適

応」「表出抑制」とGHQ28 のすべての下位尺度で,有意な相関関係がみられた。

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表Ⅳ-3 ELINとGHQ28との関連

総GHQ28 身体的症状 不安と不眠 社会的活動障害 うつ傾向

総ELIN .093* .083* .099* .036 .077*

 探索的理解 -.023 .019 .016 -.055 -.066

 表層適応 .152* .100* .116* .075* .196*

 表出抑制 .165* .122* .137* .115* .156*

 ケアの表現 .006 .004 .030 -.017 -.008

 深層適応 .077* .056 .076* .030 .096*

Pearson の相関係数   *p<0.01

第三項 ELIN・「関係性のなかでの自立」の4群間での属性とGHQ28 の違い

ELINと「関係性のなかでの自立」の各尺度を平均値で低群と高群に分け,①関係性

のなかでの自立低群とELIN高群,②関係性のなかでの自立低群とELIN低群,③関

係性のなかでの自立高群とELIN高群,④関係性のなかでの自立高群とELIN低群の

4 群に分けた。第三章でメンタルヘルスに影響を及ぼすことが明らかとなった属性につ

いて,その 4 群間でのGHQ全 28 項目の平均値の比較を行った(表Ⅳ-4)。

さらに,この 4 群を独立変数,GHQ28 を従属変数,年齢,性別,婚姻の有無,同居家

族の有無,経験年数,職位の有無,最近 1 か月の休日数,最近 1 か月の残業時間,最近 1

表Ⅳ-4 ELIN・「関係性のなかでの自立」の4群間での属性とGHQ28の違い

①関係性のなかでの

自立低群・ELIN高群

②関係性のなかでの

自立低群・ELIN低群

③関係性のなかでの

自立高群・ELIN高群

④関係性のなかでの

自立高群・ELIN低群

n=302 n=303 n=251 n=280

性別 男性 8(2.6) 11(3.6) 7(2.8) 8(2.9)

女性 294(97.4) 292(96.4) 244(97.2) 272(97.1)

婚姻 未婚 175(57.9) 179(59.1) 129(51.4) 138(49.3)

既婚 126(41.7) 124(40.9) 121(48.2) 141(50.4)

不明 1(0.3) 1(0.4) 1(0.4)

同居家族 無 101(33.4) 89(29.4) 76(30.3) 80(28.6)

有 201(66.6) 214(70.6) 175(69.7) 199(71.1)

1(0.4)

職位 スタッフ 239(79.1) 247(81.5) 176(70.1) 200(71.4)

管理職 58(19.2) 53(17.5) 70(27.9) 78(27.9)

不明 5(1.7) 3(1.0) 5(2.0) 2(0.7)

年齢 35.5±9.8 34.5±9.4 37.6±10.1 37.9±9.8 F=7.95 ** ④>②、③>②、①>④

13.2±9.8 12.3±9.0 15.2±10.0 15.0±9.6 F=6.12 ** ④>②、③>②

9.3±1.6 9.2±1.8 9.7±1.6 9.7±2.1 F=6.20 ** ④>②、③>②、③>①

13.2±14.7 13.3±15.3 11.5±13.5 11.1±11.7 F=1.78

6.1±2.9 6.4±2.6 5.9±2.9 5.7±2.6 F=2.28

31.8±10.1 30.4±8.9 22.9±8.1 22.1±7.5 F=93.35 ** ①>③、①>④、②>③、②>④

検定:χ2検定、一元配置分散分析*p<0.05、**p<0.01

最近1か月の休日数

最近1か月の夜勤回数

最近1か月の残業時間

経験年数

GHQ28得点

n=1,136

検定

人数(%)

平均値±SD

χ2=14.93

χ2=1.86

χ2=7.83

χ2=0.60

*

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か月の夜勤回数を共変量として共分散分析を行った。

その結果,GHQ28 得点が高い(メンタルヘルスが悪い)順に,①「関係性のなかでの

自立」低群(人との関わりのなかに関係性を存在させることのできる能力が低い)・ELI

N高群(感情労働を多く行っている),②「関係性のなかでの自立」低群・ELIN低群(感

情労働を行っている程度が少ない),③「関係性のなかでの自立」高群(人との関わりのな

かに関係性を存在させることのできる能力が高い)・ELIN高群,④「関係性のなかでの

自立」高群・ELIN低群であり,その中で有意差があったのは,①>③,①>④,②>

③,②>④で,①と②,③と④には,有意差は認められなかった(表Ⅳ-5)。

第四節 考察

第一項 感情労働と看護職のメンタルヘルスとの関連

本研究では「関係性のなかでの自立」は,感情労働を多く行ってもメンタルヘルスが下

がらないための緩衝要因になり得るという仮説を立て,その検証を行った。

まず,感情労働はメンタルヘルスと関連していた。下位尺度でみると表層適応と表出抑

制は,GHQ28 のすべての下位尺度において相関関係が認められた。表層適応とは,適切

な感情を装うことで,尺度項目には「何も感じないようにふるまう」「強い感情ではなく心

穏やかであるふりをする」などがある。また,表出抑制とは感情を隠したりすることであ

り,尺度項目には「自分の気持ちを容易に出さないように気を引き締める」「不安や怒りな

どの否定的感情を隠す」などがある(片山ら,2005)。この結果は,人と関わることで生

じる本来の自分の感情を抑制したりすることによって,メンタルヘルスに悪い影響を及ぼ

すとされる,これまでの研究結果と同様である(Zapf,2001;荻野,2004)。

「白衣の天使」という言葉があるように,看護師は一般的に「優しい」「何でも受け入

表Ⅳ-5 ELIN・「関係性のなかでの自立」とGHQ28との関連

①関係性のなかでの

自立低群・ELIN高群

②関係性のなかでの

自立低群・ELIN低群

③関係性のなかでの

自立高群・ELIN高群

④関係性のなかでの

自立高群・ELIN低群

n=185 n=186 n=155 n=166

31.6±10.3 30.8±8.7 22.6±8.1 22.9±7.3 54.34 ** ①>③、①>④、②>③、②>④

共変量:年齢、性別、婚姻の有無、同居家族の有無、経験年数、職位の有無、最近1か月の休日数、最近1か月の残業時間、最近1か月の夜勤回数**p<0.01

GHQ28得点

平均値±SD

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れてくれる」「人のために労を惜しまない」というイメージがある。武井は「『白衣の天使』

のイメージを支えているのは看護師ではなく,むしろそれ以外の人々です」と言っている。

「人が他人に親切にするのは,好意や愛情があってのことだから,看護も好意や愛情が基

本にあるに違いないという信念がこのイメージを支えています。しかも,心細い思いをし

ているときに優しい声をかけてもらい,身体を拭いてもらったり,抱きかかえられたりす

ることは,幼いころの母親の世話を彷彿とさせます」(武井,2001,p.72)。また「愛情ゆ

えといわれれば,あたかも努力せず自然にやさしくしているようではありませんか」(武井,

2001,p.74)と言っている。看護職は,看護教育を受け始めて間もない頃から,患者の話

に「傾聴する」,患者の気持ちに「共感する」ということを幾度となく教えられる。看護で

は「ケア」という言葉がよく使われるが,看護でいう「ケア」は単に患者に何か看護技術

を提供することではない。ひとつの技術を行うにしても,患者に関心を持ち,気をつかい,

あらゆる配慮をする。心のつながりを持とうと努力しながら行わなければ,それは看護技

術ではないと教えられる。しかし,一方で「患者に個人的な感情をもってはいけない」「同

情してはいけない」「巻き込まれてはいけない」とも教えられる。学生は,患者の気持ちに

近づき,患者のつらい気持ちが分かるようになればなるほど,「これは同情なのでは」「巻

き込まれているのでは」という否定的な思いにさらされる。そして「共感」との違いが分

からず混乱する。武井は「看護師としてよしとされる感情,すなわち患者に対して肯定的

な感情が生じたときだけを,共感として捉えるという誤解」があると言っている(武井,

2001,p.91)。「看護師といえども,嫌なものはいやですし,不快なものは不快なのです。

だからこそ,職業としておこなうのです。ただし,職業である以上,決して嫌そうにはや

ってはならないのが看護師の務めです。不快なものを不快そうにやったとすれば,職業人

として失格とみなされます。患者に悪いことをしたと感じさせたり,看護師に対して負い

目を感じさせてしまったりしてはならないからです」と言っている(武井,2001,p.74)。

多忙な業務に追われるなか,ちょっとしたことであっても,思いやりのしぐさを示した

り,言葉かけをしたりということは,思いのほかエネルギーのいることである。忙しいと

きに限って,繰り返しナースコールが鳴るということはよくあることである。何とか思い

に応えたいと思っているのに,他の急ぎの処置に追われてできないときに患者から怒りを

ぶつけられたりすると,心の底から「疲れた」と思う。苛立ちや怒りを感じることもある。

しかし何とかそれを表情や態度に出さないよう我慢する。そして「もうひとりの自分」を

演じることによって,患者との関係を崩さないよう努める。そうすることで,表向きには

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うまくいっているように見える。しかし「本当の自分」と,もうひとりの演じている自分

の違いを意識すればするほど,「本当は,自分はこんなにいい看護師ではないのに」と,患

者に対して嘘をついているような気持になり,罪悪感にかられる。武井は「演じることが

うまくいけばいくほど,『良い看護師』という評判が高まります。すると,自分もますます

その気になってしまい,ついには『良い看護師』を演じているという意識すら失われてし

まうことがあります。本当に感じていることを感じ取れなくなり,『感じるべき』あるいは

『感じるはず』の感情しか感じなくなるのです。こうなると『本当の自分』はどこかに姿

を消してしまいます。表向きは人間関係がいかにもうなくいっているように見えても,こ

ころの奥底は孤独感や疎外感でいっぱいになっているのです」(武井,2001,p.51),「看

護師としての自分という『偽りの自己』を演じているうちに,『本当の感情』が感じられな

くなることがあります。ある種の感情マヒの状態です。たとえ,腹が立ったり,無力感を

感じたりすることがあっても,その感情を感じる自己は『偽りの自己』なのですから,今

度は感じたはずの感情そのものも疑わしいことになります。『本当の感情』として扱われな

い限り,感情は解消されることもないのです」(武井,2001,p.60)とあり,感情労働を

続けることは,うつ,バーンアウト,アイデンティティの危機などの危険と隣り合わせで

あることを指摘している。

一方,本研究で用いた「看護師の感情労働測定尺度(ELIN)」を開発した片山らの

研究に,看護実践力に関連する感情労働を明らかにしたものがある。武井も,感情労働は

看護を成り立たせるための不可欠な要素でもあると述べている。そして,感情労働がバー

ンアウトの要因にならないようにするためには,看護師がケアを行う際の「思考と感情と

行為」が,どのように結びついているのかを明らかにする必要があると言っている(武井,

2001,p.34)。片山らは「感情労働が,看護師が看護をしている場面において必要な行為

であるというだけでなく,専門性を持った看護師の行為として理解しておくことが必要で

ある。そのためには,感情労働に関連する看護実践力が何であるのかを明らかにしておく

ことが重要であろう」と言っている(片山ら,2014)。そして,看護実践力と関連する感

情労働は,適切な感情を探しながら患者への理解を示す「探索的理解」であることを明ら

かにしている。具体的には「期待されるケアリングを提供する」「患者のために雰囲気づく

りをする」「自分が相手に表している感情に注意を払う」の 3 つの尺度項目が,看護実践

力と関連しており,これらは看護師が患者に直接関わるときの感情表現であった。本研究

においても,「探索的理解」と「ケアの表出」は,メンタルヘルスのどの下位尺度とも相関

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関係が示されなかった。看護実践として行われる感情労働は,看護職のメンタルヘルスを

悪化させなかったということになる。

感情労働は看護職にとって,避けることのできない要素である。しかし,看護職のメン

タルヘルスを悪化させる要因であることも事実である。感情労働がメンタルヘルスの悪化

にどのように作用しているかについては,これまで質的な分析を中心に多く行われてきた。

今後は,片山らの言うように,感情労働の何が看護職の専門性となる部分なのか,そして,

その感情労働がどのように看護の成果につながっていくのかを明らかにする必要がある

(片山ら,2014)。そして,感情労働を行っても,看護職のメンタルヘルスが悪くならな

いための,具体的な取り組みを考えていく必要がある。

第二項 感情労働を行ってもメンタルヘルスを悪化させない緩衝要因としての「関係性

のなかでの自立」

次に,感情労働の高低と「関係性のなかでの自立」の高低を組み合わせて 4 群を作り,

その 4 群間のメンタルヘルスを,一元配置分散分析を行って比較した。その結果,「関係

性のなかでの自立」が低い群同士(①と②),高い群同士(③と④)では,感情労働を多く

行ってもあまり行っていなくても,有意差は認められなかった。一方,感情労働を多く行

っている群(①,③)では「関係性のなかでの自立」が高い群の方が低い群よりメンタル

ヘルスが良いという結果であり(①>③,点数が高い方がメンタルヘルスは悪いことを示

す),感情労働をあまり行っていない群(②,④)では,「関係性のなかでの自立」が低い

群より高い群の方がメンタルヘルスは良い(②>④)という結果であった。これは,「関係

性のなかでの自立」が高ければ,感情労働を多く行ってもメンタルヘルスは下がらないこ

とを示していると考えられる。

さらに,これまでの先行研究でメンタルヘルスに影響を及ぼすとされている属性要因を

共変量として共分散分析を行ったが,同様の結果が得られた。

以上のことから,「関係性のなかでの自立」は,感情労働を多く行ってもメンタルヘル

スを下げないための緩衝因子になり得るという仮説が検証されたものと考える。

谷口は,感情労働は看護のなかでは自然に行われるものであり,ケアの重要な要素でも

あるとしている。しかし,感情労働が肯定的な経験となるためには,個人の力では限界が

あり,他者からのサポートが必要であると報告している(谷口,2009)。必要なサポート

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を受けられる環境の整備は看護職のメンタルヘルス対策としては重要なことである。しか

し,いくら環境が整っても,サポートを受ける側に,サポートを受け入れられる土壌がな

ければ意味をなさない。サポートは,人が人を支えるということであり,そこにもサポー

トする側とサポートされる側で,お互いに関係性を築かなければならない。看護職の離職

に関する研究でも,その関連要因として,夜勤回数や超過勤務などの労働条件に関するこ

とや,結婚・育児といった女性特有のライフイベントに関することがあげられるなか,同

僚や上司からのサポートや職場の人間関係に関することは,離職の大きな要因として報告

されている(荒川,2011;飯尾ら,2012;緒方ら,2012;池田ら,2011;小田,2012)。

看護職は,日常的に患者に対し「本当の感情」を抑制して「良い看護師」を振る舞うこと

が多いので,そのうちに,本当の自分として患者と関わることに意味を見出せなくなり,

「ほどよい関係性を生きる」ことをやめてしまうかもしれない。「ほどよい関係性を生きる」

の尺度項目には「あまり人と親密な関係になりたいとは思わない」「人は他人と親しくなり

すぎないほうが幸せであろう」などがあり,このような思いでいては,周りがいくらサポ

ートしても,それを素直に受け取ることはできない。感情労働を行っても,人と関わるこ

とを否定的に捉えることのないよう,支えていく必要がある。

また,「前向きに生きる」には「社会の中での自分の生きがいがわかってきた」「私は,

自分なりの生き方を主体的に選んでいる」などの尺度項目がある。第二章では看護職は他

職種に比べて「働きがい」を感じていることが明らかになっている(p.28)。十分なサポー

トを受けながらであれば,看護の実践力であると理解して行う感情労働は,メンタルヘル

スを容易に悪化させることはないのではないかと考える。

「自信をもって自分らしさを生きる」は「人の目ばかり気にして,自分を見失いそうに

なることがある」「失敗すると二度と立ち直れないような気がする」「何か良くないことが

あると,すぐに自分のせいだと考えてしまう」「周りの意見や環境によってすぐに影響され,

変化してしまう」などの尺度項目がある。感情労働によって「本当の感情」を抑制し,「良

い看護師」を演じ続けても,自分に自信を持ち,根本的に自分らしさを失わない人は,メ

ンタルヘルスを保つことができるのだろうと考えられる。しかし看護職は,医師をはじめ

病院内のさまざまな職種の調整役という役割もある。患者との関係性のみならず,ケアチ

ームの関係性もスムーズに運ぶよう,常に配慮している。様々な場面で「人」から自分が

どう思われているのかを考え,できるだけ誰にとっても「よい看護師」であるよう自分の

行動を決めていく。また看護職の失敗は,直接患者の生命に関わることもあり,失敗に対

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する不安は大きい。看護職は「自信をもって自分らしさを生き」ていると思いにくい環境

にある。そのような環境のなかでも,看護職自身が,自分に自信をもち自分らしさを生き

ていると実感できるようにするためには,どのような支援が必要なのか,具体的な方法を

考える必要がある。

第五節 小括

感情労働の下位概念である表層適応と表出抑制は,メンタルヘルスと関連していた。表

層適応とは適切な感情を装うことで,表出抑制とは感情を隠したりすることである(片山

ら,2005)。この結果は,人と関わることで生じる本来の自分の感情を抑制したりするこ

とによって,メンタルヘルスに悪い影響をもたらすという先行研究の結果と同様であった

(Zapf,2001;荻野,2004)。

また,感情労働の高低と「関係性のなかでの自立」の高低を組み合わせて 4 群を作り,

その 4 群間のメンタルヘルスを比較した。その結果,「関係性のなかでの自立」が低い群

同士,高い群同士では,感情労働を多く行ってもあまり行わなくても,メンタルヘルスに

差は認められなかったが,感情労働を多く行っている群では,「関係性のなかでの自立」が

高い群の方が,低い群よりメンタルヘルスが良いという結果であった。さらに,これまで

の先行研究で,メンタルヘルスに影響を及ぼすとされている属性要因を共変量して分析を

行っても,その結果は変わらなかった。すなわち,「関係性のなかでの自立」は,感情労働

を多く行ってもメンタルヘルスを下げないための緩衝要因になり得るという仮説が検証さ

れた。

今後,「関係性のなかでの自立」を促すための取り組みは,看護職のメンタルヘルス支援

につながるものになるのではないかと考える。

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調査票の完成-職業性ストレス簡易調査票の信頼性の検討と基準値の設定-」労働省

『平成 11 年度作業関連疾患予防に関する研究-労働の場におけるストレス及びその健

康影響に関する研究報告書』126-138.

須賀知美・庄司正実(2008)「感情労働が職務満足感・バーンアウトに及ぼす影響につい

ての研究動向」『目白大学心理学研究』4,137-147.

武井麻子(2001)『感情と看護 人とのかかわりを職業とすることの意味』医学書院.

谷口清弥(2009)「看護師の感情管理要因の現状に関する検討」『甲南女子大学研究紀要看

護・リハビリテーション学編』2,77-88.

Zapf,D.et al.(2001)Emotional work and job stressors and their effects on burnout,

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第五章 関係性のなかでの自立を促す支援

第一節 研究の背景と目的

看護職のメンタルヘルスを良い状態で保っておくことは,看護の対象となる患者とその

家族に質の高いケアを提供するために,重要なことである。しかし第三章では,20 年前と

比べて看護職のメンタルヘルスが悪化していることが明らかとなった。また,看護職のメ

ンタルヘルスに影響を与える要因として,これまでの先行研究でも明らかにされてきた「仕

事の負担」,「働きがい・適性」,「仕事の満足度」,「家庭生活の満足度」に加え,「関係性の

なかでの自立」が最も大きい影響力を持っていることが判った(野原ら,2009)。また第

四章では「関係性のなかでの自立」は,看護職が対人援助職である以上避けることのでき

ない感情労働の緩衝要因となっていることを明らかにした(野原ら,2014)。以上のこと

から,看護職のメンタルヘルス支援に,「関係性のなかでの自立」を高めるための取り組み

が,ひとつ鍵となるのではないかと考えた。

しかし,第五章第四節第二項で考察した通り,感情労働の多い看護職の日常で「関係性

のなかでの自立」を高めることは難しい。「ほどよい関係性を生きる」ためには,人と関わ

ることを恐れず,積極的に関わりを持とうという姿勢が必要である。そのためには,他者

に対して絶対的な信頼を寄せることができる,ということが条件となる。また「前向きに

生きる」や「自信をもって自分らしさを生きる」ためには,自分への肯定的感情を持って

いることが必要である。それは「何があってもこの人にだけは認めてもらえている」「この

人にだけは裏切られない」という絶対的な信頼をおける人がいるということが,条件とな

る。その人の存在が意識のなかにあれば,多少誰かから悪い評価を受けたとしても,過度

の影響を受けて自分を変えてしまうようなことはない。「自分は自分のままでいいのだ」と,

自分自身を保つことができる。このように「関係性のなかでの自立」は,他者に対する絶

対的な信頼を寄せることができたり,絶対的な信頼をおける人がいたり,ということで培

われるものである。しかし,「絶対的な信頼」なんていうものは,うわべだけの取り繕った

人間関係から生まれることはない。時にはつらい体験をしながらでも,人と関わるという

経験を積み重ねていくことでしか獲得することはできない。地域のつながりは希薄化し,

家族規模も縮小され,人と関わることが減ってしまった現代の社会において,「関係性のな

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かでの自立」を高めるということは難しい現状がある。人と関わることを職業とする看護

職であっても,感情労働によってほんとうの人間関係を経験することが難しい。現代の社

会にあっては,「関係性のなかでの自立」を促すためには,何かしらの仕掛けが必要なので

はないかと考える。

そこで,日本IPR研究会の主催する対人関係トレーニング(以下,トレーニングとす

る)に参加した看護職を対象に,トレーニング前後での「関係性のなかでの自立」の変化

から,その効果を実証する。さらに,参加者のトレーニングでの体験を明らかにすること

で,「関係性のなかでの自立」を促す支援の方法について,検討することを目的とする。

第二節 研究方法

第一項 IPRトレーニングとは

IPRは Inter-Personal Relationship(対人関係)の頭文字で,1970 年に心理学者早

坂泰次郎が中心となって開発された。トレーニングのねらいは,「(1)今まで気づかなかっ

た自分に気づく。(2)新しい他人を発見し,信頼関係を築く。(3)お互いが主体的になる。(4)

組織の中で自由に動ける喜びを発見する。(5)ひとりひとりを生かす真のリーダーシップを

体験的に学ぶ。(6)新しい建設的な動きや創造性が発揮できる」(早坂,1978,p.221)とあ

る。また,日本IPR研究会の発行するリーフレットには,「IPRトレイニングは日本I

PR研究会が主催する,対人関係の本質を学ぶ体験学習です。人事,教育,営業,看護,

福祉,カウンセリングなど,人とかかわる専門職の基礎訓練や企業の管理者研修として,

また人とのかかわりを通して自分自身の生き方を見直したいなど,対人関係について深く

学びたいという方に広くお奨めします」(高橋,2008)と紹介されている。このトレーニ

ングが開発された当初から多くの看護職に知られ,受講されている。

トレーニングは 3 泊 4 日からなる「ベイシックトレーニング」と,その 1~2 か月後に 1

泊 2 日で行われる「メイントレーニング」の両方に参加することで修了となる。年齢・性

別・職業に参加資格の制限はないが,ベイシックトレーニングとメイントレーニングの全

期間を,トレーニング会場となる宿泊施設で過ごし,参加できることが条件となっている。

トレーニングでは,全く知らない参加者同士でグループが編成され,1 つのグループの人

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数は最低 8 名,最高 12 名程度となっている。トレーニングには,「キャタリスト」,「オブ

ザーバー」,「事務局」とよばれる 3 つの役割のスタッフが各々参加する。キャタリストは

1 グループに対して 1~2 名,グループ内の参加者(以下,メンバーとする)のひとりとし

て参加し,そのグループの参加メンバーの学習や気づきに援助的に関わる。オブザーバー

はメンバーとしてグループ内には参加せず,外側からグループを観察し,キャタリストを

アシストする役割となる。事務局はトレーニングには入らず,宿泊や食事などトレーニン

グ全体のサポートを行う役割を担っている(大森,2008)。

トレーニングのプログラム内容は,すべてグループによる自由な話し合いである(この

グループを「トレーニンググループ」,略称で「Tグループ」と呼ばれ,自由な話し合いの

時間を「Tの時間」または単に「T」と呼ばれる)。トレーニングの最初の全体会において,

メンバーはキャタリストからTグループでは自由にふるまうことができると説明を受ける。

1 回のTの時間は 1~2 時間で,合間に 15~30 分の自由時間,もしくは 1 時間程度の食事

時間が入る。このTを,ベイシックトレーニングでは 3 泊 4 日のうちに十数回,メイント

レーニングでは 1 泊 2 日のうちに 5~6 回実施するのが標準的なスケジュールとなってい

る。なお,トレーニングの期間中,対人関係に関する講義のようなものは一切なく,Tグ

ループでは,ただ自由な話し合いが展開されるだけである。キャタリストは講師や助言者

のような役割をとってはならないことになっている。キャタリストは,グループ内のやり

取りのなかで,今起こっている重要なことに,メンバーが気づいていないと感じられた場

合に,そのことを問いかけたり,暗示したり,指摘したりするだけである(高橋,2008)。

このように,IPRトレーニングでは,ある一定の期間,日常生活とは全く異なる空間

に身を置いて,そのグループメンバーとのやり取りだけに意識を集中できる環境が整えら

れる。参加者は,全く知らない者同士でグループが組まれるため,トレーニングでのやり

取りのなかで,利害やしがらみにとらわれることなく,ただひとりの人と人どうしとして,

関わることができる。また食事や入浴等身の回りのことで不自由やストレスが生じないよ

う,事務局スタッフが細やかに気を配っている。本研究では,現代の社会において,人と

人との関わりが希薄になったことから,対人関係を発達させるための基盤である「関係性

のなかでの自立」が妨げられているという立場を取っている。そして「関係性のなかでの

自立」は,人と関わり関係性を築くためのノウハウを理屈として学ぶ(頭で分かるという

こと)ではなく,実際に人と関わり,そのやり取りから生じる自分の感情と向き合い,「体

で分かる」といえる体験があって初めて促されるものであると考える。そこで本研究では,

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数ある対人関係に関するトレーニングの中から,「実際に人と関わる」ということに重きを

置き,焦点を絞って行われているIPRトレーニングを取り上げることとした。

第二項 データ収集の手続きと調査対象

調査対象者は,日本IPR研究会の主催する公開トレーニング受講者のうち,研究協力

への同意が得られた看護職とした。効果測定用の調査票は,ベイシックトレーニング開始

前,終了時,メイントレーニング終了時の合計 3 回配布し,その場で記入後回収した。

トレーニングの体験を記述した感想文は,ベイシックトレーニングおよびメイントレー

ニングの期間中,その日のトレーニングがすべて終了した時点で用紙を配布して記入して

もらい,その場で回収した。

調査票の配布および回収は,日本IPR研究会事務局に依頼した。調査期間は 2008 年 4

月~2009 年 1 月である。

第三項 調査内容と分析方法

1.「関係性のなかでの自立」を測定する尺度

トレーニングの効果測定には,「関係性のなかでの自立」尺度を用いた。この尺度は,「前

向きに生きる(6 項目)」,「自信をもって生きる(4 項目)」,「ほどよい関係性を生きる(6

項目)」,「自分らしさを生きる(2 項目)」の 4 つの下位尺度から構成されており。得点法

は質問項目に対して「非常によくあてはまる:6 点」から「全くあてはまらない:1 点」

までの 6 件法で回答をもとめ,点数が高くなるほど,「関係性のなかでの自立」が高くな

るよう設定されている(表Ⅴ-1)。

分析は,SPSS for Windows 15.0 を用いて,ベイシックトレーニング前,ベイシッ

クトレーニング後,メイントレーニング後の 3 時点での「関係性のなかでの自立」尺度得

点を算出し,ベイシックトレーニング前とベイシックトレーニング後(以下,ベイシック

トレーニング前後とする),ベイシックトレーニング後とメイントレーニング後(以下,メ

イントレーニング前後とする),ベイシックトレーニング前とメイントレーニング後(以下,

トレーニング全体での前後とする)で,それぞれに対応のあるt検定を行った。

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2.IPRトレーニングの体験に関する記述

IPRトレーニングでは,スタッフがその日の各メンバーの達成度を確認し,翌日の予

定を決めるための材料として,1 日のトレーニングが終了した時点で自由記述による感想

文を提出してもらう。本研究では,この感想文より,メンバーがトレーニングでどのよう

な体験をして,「関係性のなかでの自立」を促されたのか,質的に分析した。

感想文だけでは,トレーニングでどのような出来事があってその記述内容に至ったかを

知ることができないという限界がある。しかし本研究は,トレーニングでの対象者の主観

的な体験を明らかにすることを目的とするため,感想文の記述内容を分析に用いることは

可能であると考えた。その分析手順は以下の通りである。

1)まず,対象者 14 名の感想文を,対象者ごとに,トレーニングでどのようなことを

体験しているのか,意味が理解出来る最小の単位で取り出した。そして,これらを経時的

に並べ,類似しているものをカテゴリーとしてまとめた。

2)次に,全対象者の体験をまとめて,各体験の関連を検討し,データの中に頻繁に現

れ,どの体験にも結びついているものはどれかという視点で,中核となる体験を抽出した。

なお,分析過程においては,常に感想文との突合せを繰り返し行った。またIPRトレ

ーニングのスタッフ経験と,質的研究の経験がある研究者 2 名のスーパーバイズを受ける

ことで,分析の信頼性を確保した。

表Ⅴ-1 「関係性のなかでの自立」尺度項目前向きに生きる張り合いがあり、やる気が出ている社会の中での自分の生きがいがわかってきたいろいろな良い素質をもっている私は、自分なりの生き方を主体的に選んでいる前向きの姿勢で物事に取り組んでいる自分に対して肯定的である自信をもって生きる人から見捨てられるのではないかと心配になることがある(*)

なにか良くないことがあると、すぐに自分のせいだと考えてしまう(*)

人の目ばかり気にして、自分を失いそうになることがある(*)

失敗すると二度と立ち直れないような気がする(*)

ほどよい関係性を生きるあまり人と親密な関係になりたいとは思わない(*)

人は他人と親しくなりすぎないほうが幸せであろう(*)

他人との間に壁を作っている(*)

私の社会的なつながりは、うわべだけのものである(*)

人間関係を煩わしく思う(*)

誰も私をわかってくれないと、私は感じている(*)

自分らしさを生きる周りの意見や環境によってすぐに影響され、変化してしまう(*)

私は感情的に周りの人から影響を受けやすい(*)

(*)逆転項目

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第三節 結果

第一項 回収率と対象者の属性

対象者は 14 名,回収率は 100%であった。年齢は 28~56 歳(平均 40.14 歳),性別は

男性 1 名,女性 13 名,配偶者あり 8 名,なし 6 名であった。対象者の概要を表Ⅴ-2に

示す。

第二項 関係性のなかでの自立によるIPRトレーニングの効果測定

「関係性のなかでの自立」の平均得点と標準偏差を算出したところ,ベイシックトレー

ニング前 70.0 点(SD 11.19),ベイシックトレーニング後 78.4 点(SD 13.11),メイント

レーニング後 80.1 点(SD 12.23)であった。その後,ベイシックトレーニング前後,メ

イントレーニング前後,トレーニング全体での前後で,それぞれ対応のあるt検定を行っ

た。その結果,ベイシックトレーニング前より後,メイントレーニング前より後の方がそ

れぞれ高い得点を示したが,有意差があったのはトレーニング全体での前後のみで,ベイ

シックトレーニング前よりメイントレーニング後の方が,得点が 高かった(t(13)=

-2.576,p<0.05)(表Ⅴ-3)。

表Ⅴ-2 対象者の概要対象 年齢 性別 配偶者 職位A 30 男性 なし スタッフB 53 女性 あり スタッフC 45 女性 あり スタッフD 29 女性 なし スタッフE 34 女性 なし スタッフF 56 女性 あり 管理職G 37 女性 あり スタッフH 47 女性 あり 管理職I 47 女性 なし 管理職J 34 女性 なし スタッフK 42 女性 あり スタッフL 43 女性 あり 管理職M 28 女性 なし スタッフN 37 女性 あり 管理職

表Ⅴ-3 トレーニングの効果測定時期 平均点 標準偏差

*p<0.05

ベイシックトレーニング前

ベイシックトレーニング後

メイントレーニング後 12.23

13.11

11.19

80.1

78.4

70.0

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第三項 IPRトレーニングでの体験

本研究では,効果測定によって明らかになった結果について,対象者の感想文から質的

にも分析することを試みた。対象者のトレーニングでの体験について「関係性のなかでの

自立」が促されることに関連すると思われる記述について,対象者ごとに類似する内容を

まとめた。その結果,1 名あたり 2~11 のサブカテゴリーで,計 11 のサブカテゴリーが導

き出された。そのサブカテゴリーは,「どうしていいのか分からない」,「自分でも気づかな

かった自分自身ことをメンバーが気づいていた」,「メンバーの温かいまなざしを感じた」,

「そのとき感じたことをその場で相手に伝えることができた」,「楽になった」,「自分のこ

とを好きだと思える」,「失敗したらやり直せばいい」,「メンバーがいるから大丈夫と思え

る」,「メンバーが自身のことを私たちに話してくれて嬉しい」,「メンバーが楽になってい

くのを見て嬉しい」,「自分は自分のままでいい」であった。

これらの各サブカテゴリーを体験する時期については,一定しておらず,「どうしてい

いのか分からない」はベイシック 1 日目 7 人,2 日目 1 人,3 日目 1 人,4 日目 1 人,メ

イン 1 日目 1 人,2 日目 1 人。「自分でも気づかなかった自分自身のことをメンバーが気づ

いていた」はベイシック 1 日目 1 人,3 日目 3 人,メイン 2 日目 1 人。「メンバーの温か

いまなざしを感じた」はベイシック 1 日目 1 人,2 日目 1 人,3 日目 1 人,メイン 1 日目

3 人,2 日目 3 人。「そのとき感じたことをその場で相手に伝えることができた」はベイシ

ック 1 日目 1 人,2 日目 5 人,3 日目 1 人,メイン 2 日目 1 人。「楽になった」はベイシッ

ク 2 日目 1 人,メイン 2 日目 1 人。「自分のことを好きだと思える」はベイシック 4 日目

1 人,メイン 1 日目 1 人。「失敗したらやり直せばいい」はベイシック 2 日目 1 人,4 日目

3 人,メイン 1 日目 2 人。「メンバーがいるから大丈夫と思える」はベイシック 3 日目 1

人,4 日目 2 人,メイン 2 日目 1 人。「メンバーが自身のことを私たちに話してくれて嬉し

い」はベイシック 3 日目 2 人。「メンバーが楽になっていくのを見て嬉しい」はベイシッ

ク 2 日目 2 人,4 日目 1 人,メイン 1 日目 1 人,2 日目 3 人。「自分は自分のままでいい」

はベイシック 2 日目 1 人,3 日目 1 人,4 日目 1 人,メイン 2 日目 1 人と,まちまちであ

った。

次に,これらのサブカテゴリーを経時的変化にしたがってまとめてみる(サブカテゴリ

ーを「 」,カテゴリーを< >で示す)。まず「どうしていいのか分からない」という<

戸惑いと混乱>を示すカテゴリーがあった。そしてその<戸惑いと混乱>を感じながらT

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を重ねるうちに,「自分でも気づかなかった自分自身のことをメンバーが気づいていた」こ

とや「メンバーの温かいまなざしを感じる」といった<他者から関心を寄せられていたこ

とへの気づき>に関する記述がみられた。そしてそれらの気づきをきっかけに,「そのとき

感じたことをその場で相手に伝えることができる」ようになっていった。この「そのとき

感じたことをその場で相手に伝えることができた」という体験によって(気持ちが)「楽に」

なるという<気づきによる感情と行動の変化>があった。そして「楽に」なったことによ

って,「自分のことを好きだと思える」ようになったり,「失敗したらやり直せばいい」,(失

敗しても)「メンバーがいるから大丈夫と思える」ようになったり,「自分は自分のままで

いい」など<自身への肯定的な感情が生まれ自信が持てる>ようになっていった。そして

「メンバーが自身のことを私たちに話してくれて嬉しい」や「メンバーが楽になっていく

のを見て嬉しい」など<他者への関心>も現れている。<自身への肯定的な感情が生まれ

自信が持てる>や<他者への関心>を体験すると,その後Tグループでの<戸惑いや混乱

>はなくなり,「そのとき感じたことをその場で相手に伝えること」をより容易に行えるよ

うになっていた。そしてさらに「楽に」なって,<自身への肯定的な感情が生まれ自信が

持てる>と<他者への関心>は一層強いものになっていた(図Ⅴ-1)。

第四節 考察

本研究では「関係性のなかでの自立」を促すことは看護職のメンタルヘルスを向上させ

ると考えた。そしてIPRトレーニングを取り上げ,トレーニングでの体験を明らかにす

ることで,看護職のメンタルヘルス支援の方向性を検討した。以下にその考察をまとめる。

<自身への肯定的な感情が生まれ自信が持てる>

<他者から関心を寄せられていたことへの気づき>

<戸惑い・混乱> <他者への関心>

図Ⅴ-1 IPRトレーニングの体験

<気づきによる感情と行動の変化>

メンバーが楽になっていくのを見て嬉しい

メンバーが自身のことを私たちに話してくれて嬉しい

そのとき感じたことをその場で

相手に伝えることができた

楽にな

った

自分のことを好きだと思える

メンバーの温かいまなざしを感じた

どうしていいのか分からない

自分でも気づかなかった自分自身のことをメンバーが気づいていた

自分は自分のままでいい

メンバーがいるから大丈夫と思える

失敗したらやり直せばいい

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第一項 人と人の関わりが少なくなった現代の社会において「関係性のなかでの自立」

を高めるということ

IPRトレーニングは,3 泊 4 日のベイシックトレーニングと 1 泊 2 日のメイントレー

ニングのすべてに参加できることが参加条件となっている。本研究の結果でも,ベイシッ

クトレーニング前後とメイントレーニング前後では,「関係性のなかでの自立」に有意差は

なく,ベイシックトレーニングとメイントレーニングの両方に参加することで効果が認め

られた。IPRトレーニングにおける体験を分析した結果からも,トレーニングでの気づ

きや,気づきによる感情や行動に変化が現れる時期には大きな偏りがなく,対象者によっ

てさまざまであることが明らかとなった。IPRトレーニングのグループは,お互い初対

面の者同士で構成される。またトレーニングに関わるスタッフも,メンバーに対して操作

的にコントロールすることはしていないため,トレーニングの内容は一定の進度をたどる

ことはない。そのとき,その場に集まったメンバーと,その場で話し合われる内容によっ

て違うものとなる。よって,IPRトレーニングによって「関係性のなかでの自立」を促

すためには,日本IPR研究会が定める通り,ベイシックトレーニングとメイントレーニ

ングの両方に参加することが必要であると考えられる。3 泊 4 日のベイシックトレーニン

グと,その後 1~2 か月後の 1 泊 2 日のメイントレーニングをすべて参加するとなると,

時間的には大きな制約を受けることになる。しかし一方で,対人的なコミュニケーション

の少なくなった現代の社会において,「関係性のなかでの自立」を促すためには,それほど

時間を要する作業なのだということでもある。

第二項 葛藤をおそれず人と関わること

IPRトレーニングは,看護職の「関係性のなかでの自立」を促すために有効であるこ

とが明らかとなった。よって,このトレーニングで参加者が体験した事柄は,看護職のメ

ンタルヘルス支援の,重要な手がかりとなりえるものと考える。

参加者がトレーニングによって体験したこととして,まず,他者から関心を寄せられて

いたことに気づくことができたことで,感情と行動に変化が起こっていた。その変化とは,

「そのとき感じたことをその場で相手に伝えることができる」という体験であった。この

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体験をきっかけに,人と関わることが楽になったり,自身への肯定的な感情が生まれたり,

自信がもてるようになっていた。そして自身に自信が持てると,他者へも関心を向けられ

るようになっていった。参加者にこの変化が起こると,「そのとき感じたことをその場で相

手につたえること」への抵抗感が薄れていき,それ以降は自由に他者と関わることができ

るようになっていた。「関係性のなかでの自立」の構成概念と,トレーニングで参加者が体

験したこれらの変化を比較すると,<自身への肯定的な感情が生まれ自信が持てる>とい

う変化は,「自分のことを好きだと思える」,「失敗したらやり直せばいい」,「メンバーがい

るから(失敗しても)大丈夫と思える」,「自分は自分のままでいい」などのサブカテゴリ

ーから構成されており,「関係性のなかでの自立」の構成概念である「前向きに生きる」,

「自信をもって生きる」,「自分らしさを生きる」に関連していることが読み取れる(表Ⅴ

-1)。また<他者への関心>という変化は,「関係性のなかでの自立」の「ほどよい関係

性を生きる」に関連していると言えよう(表Ⅴ-1)。「関係性のなかでの自立」が促され

るポイントとなった「そのとき感じたことをその場で相手につたえることができた」とい

う体験は,看護職のメンタルヘルス支援として,重要な体験である。

この「そのとき感じたことをその場で相手に伝えること」を説明する概念として,「ア

サーション」がある。アサーションとは「自分も相手も大切にする自己表現」のことで,

すなわち「自分の考え,欲求,気持ちなどを率直に,正直に,その場の状況にあった適切

な方法で述べること」を意味する。看護職を対象としたアサーション・トレーニングも広

く開催されている(平木ら,2002;平木,2009)。平木は(2002),アサーティブになれ

ば自分の欲求が通るというものではなく,お互いの意見や気持ちの相違によって葛藤が起

こることもあると言っている。また,お互いの意見や気持ちに相違があって葛藤が起こっ

ても,そこで安易に妥協したりしないで,お互いの意見を出し合って,譲ったり譲られた

りしながら歩み寄っていき,それぞれに納得のいく結論をだそうとする,この過程を大事

にすることの重要性も言っている。そして,葛藤が起こることを覚悟し,葛藤が起きても

それを引き受けていこうとする気持ちがアサーションの特徴であると述べている(平木,

2002)。また食い違いや葛藤は,互いがもっと理解し合う必要を知らせるサインと受け取

り,そのサインは,両者が懸念を出し合い,思いを確かめ合うチャンスであり,より深く

相手を理解し解決の知恵をみつける出発点になるとも言っている(2012)。また畠中も,「ほ

んとうの対人関係」では葛藤を回避することができない,と言っている。他者に対して誠

実に向き合えば,相互に喜怒哀楽の感情が自然に生まれてくる。例えば自分が投げかけた

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ことばによって,他者が怒り始めたり哀しみ始めたりすることを経験する(畠中,2009)。

看護職が「関係性のなかでの自立」を促し,メンタルヘルスを良い状態にしていくために

は,まず,葛藤をおそれず,人と向き合うことが必要である。IPRトレーニングの参加

者も,トレーニングの初期の段階では「戸惑いと混乱」を体験していた。その葛藤の体験

をしてはじめて,相手も自分も大切にしながら「そのとき感じたことをその場で相手につ

たえることができる」ようになるのではないかと考える。

第三項 人から関心を向けられていることに気づくこと

アサーション・トレーニングの他に,看護職のメンタルヘルスへの取り組みとして一般

的によく紹介されているものに,認知行動療法がある(矢内,2012)。認知行動療法は,「嫌

な出来事」と「嫌な気持ち」とのあいだに「認知(思考,とらえ方)」が存在し,その認知

によって気持ちは大きく影響を受け,同様に身体的反応や行動も,認知の影響を受けると

いう考え方である(下山ら,2014)。例えば「嫌な出来事」は起きてしまった事実なので,

変えることはできないが,「認知」は人の頭のなかの捉え方や考えなので,少し練習すると

変えることができる。「認知」が変われば「嫌な気持ち」にならなくてすむというものであ

る(下山ら,2014)。「認知」にはさまざまなものがあるが,なかでも出来事が起きたとき,

ほぼ自動的に頭のなかを流れる考えのことを「自動思考」とよぶ。嫌な気分につながりや

すい,非機能的な(役に立たない)自動思考は「認知の歪み」として分類されている(下

山ら,2014)。また自動思考の根底には「スキーマ」があると考えられており,その人特

有の考え方や,身に染み付いた思い込み,価値観,信念といったものである。何か自分に

関係のある出来事が起きたときに,このスキーマが活性化され,自動思考が生みだされる

とされている(下山ら,2014)。認知療法では,この認知の歪みやスキーマを適切なもの

に変えていく介入を行うことになるが,その技法にもさまざまなものがある。最近,看護

職向けに紹介されているものとして「認知再構成法」がある(伊藤,2011;中島充代,2011)。

これは,生活のなかで嫌な気持ちになった出来事をひとつ取り上げ,カウンセラーとクラ

イアントがいっしょに,その出来事を「出来事・状況」,「自動思考」,「気分・感情」,「新

たな思考」,「結果」という 5 つを表に整理していく。そしてその作業の過程で,出来事を

嫌な気持ちにさせる自動思考に気づき,新たな思考を考え出していくものである(下山ら,

2014)。

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IPRトレーニングの参加者が<戸惑いと混乱>の次に体験したことは,<他者から関

心を寄せられていたことへの気づき>であった。この気づきを経て「そのとき感じたこと

をその場で相手に伝えることができた」,「楽になった」という感情と行動の変化につなが

っていた。この変化は,認知行動療法でいう「認知の歪み」から解放されていく過程に類

似しているのではないだろうか。「認知の歪み」によってそれまでキャッチできなかったメ

ンバーの言動や表情を,そこにいるメンバーと関わるしかない環境のなかで繰り返し関わ

っているうちに,メンバーの温かいまなざしを感じたり,自分でも気づかなかった自分自

身のことをメンバーが気づいてくれていたりしたのではないだろうか。そして,メンバー

からの自分への肯定的な思いをキャッチできるようになって,<他者から関心を寄せられ

ていたことへの気づき>につながったのではないだろうか。さらに,関心を向けてくれて

いる相手だと分かったからこそ,安心して「そのとき感じたことをその場で相手に伝える

ことができ」,「楽になった」という感情と行動の変化が起こったのではないかと考える。

労働者の職業性ストレスとして「仕事の要求度が高く,仕事のコントロールが低い職場

で,精神的緊張度が高く健康問題を生じやすいことと,これに加えて,職場での上司・同

僚の支援が低いことがもっとも問題を生じやすい状況であった」という報告があった(小

林ら,2000)。またソーシャル・サポートがバーンアウトに関連しているという先行研究

もあり,苛酷な労働環境とストレスの多い看護職には,周囲からのサポートは不可欠であ

る。しかし,いくら周囲がサポートの手を差し伸べても,サポートを受ける側が「支援し

てくれている」と認知していなければ,周囲のサポートは意味を持たない。もし看護者に

「私は他者から助けてもらうに値しない人間である」といった非機能的な自動思考がある

とするなら,より機能的な思考に切りかえて,ストレスの多い看護の仕事でも,サポート

を受けながらそのストレスをも成長の糧としてやっていってほしい。

認知行動療法では,ある嫌な出来事について,出来事・状況,自動思考,気分・感情,

新たな思考,結果という 5 つの要素を明確化していく作業のなかで自己を知り,自動思考

やその根底にあるスキーマに働きかけていく。IPRトレーニングでは,その作業はどの

ように行われているのか。「人と関わることの繰り返し」が認知を肯定的なものに変化させ

ているとすれば,具体的に何が変化を起こさせているのかを次の項で考察する。

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第四項 「見ること」からはじまる

宮崎は,IPRトレーニングは,他のさまざまなグループアプローチに比べて,「見る」

ことの体験が重要視されているのが特徴であるといっている。そして「『見て⇒感じて⇒フ

ィードバックし⇒見て⇒聴いて⇒フィードバックする』という繰り返しのなかで,相互理

解と『出会い』の体験が広がっていく」と言っている(宮崎,2008)。本研究の対象者も,

トレーニングの初めの段階では「どうしていいのか分からない」と<戸惑い混乱>してい

た。しかし,特に対人関係についてレクチャーがあるわけでもなく,初対面の 8~12 名の

メンバーは,机もない手荷物も何もない,ただ輪になって椅子に座っているという状況の

なかで,会話が途切れれば,メンバーをお互いに「見る」ことしかできなかったのではな

いだろうか。もちろんその場にキャタリストはいて,必要時メンバーに問いかけをしたで

あろうが,そこに指示などは一切ない。メンバーはお互いに見て感じたことを伝え合うと

いうコミュニケーションのみを行っていたはずである。お互いに「見る」しかない状況の

なかで,「自分でも気づかなかった自分自身のことをメンバーが気づいてくれていた」り,

「メンバーの温かいまなざしを感じた」りして<他者から関心を寄せられていることに気

づいて>いったのではないだろうか。さらに,見て感じたことを相手にフィードバックし,

自分が想像していた反応とは全く違う反応が,相手から返ってくることがある。そして,

相手に対して,自分の勝手な思い込みから相手を見ていたことにも気づかされる。

本研究では,「そのとき感じたことをその場で相手に伝えることができた」という体験

をきっかけに,感情と行動の変化が起こっていた。そして,自身への肯定的な感情が生ま

れ自信が持てるようになったり,他者に関心が向けられるようになったりと,変化してい

った。「そのとき感じたことをその場で相手に伝えることができる」ためには,上述したよ

うに,「見て」「感じる」作業を丁寧に行う必要があり,IPRトレーニングでは,これら

のことを丁寧にせざるを得ない環境が整えられていた。

第五節 小括

「関係性のなかでの自立」を促す方法を明らかにすることが,看護職のメンタルヘルス

支援につながるものと考え,その方法について検討した。

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「関係性のなかでの自立」は,対人関係を発達させるための基盤となる能力であり,人

と人との関わりが少なくなった現代の社会においては,日常生活のなかで身につけること

は難しくなった。そこで,人と関わることに重点を置いて行われている,日本IPR研究

会の主催する対人関係トレーニングを取り上げた。そして,そのトレーニングに参加した

看護職を対象に,トレーニングの前後での「関係性のなかでの自立」を測定し,その効果

を検討した。さらに,参加者の体験が「関係性のなかでの自立」をどのように高めること

につながったのかを,質的に分析した。

検討の結果,IPRトレーニングは「関係性のなかでの自立」を高めるのに有効であっ

た。しかし,効果が出たのは,3 泊 4 日のベイシックトレーニングと,その 1~2 か月後に

ある 1 泊 2 日のメイントレーニングをすべて終了した時点だった。「関係性のなかでの自

立」を促すためには,一定程度の時間を要する大変な作業であることが明らかとなった。

また,トレーニングで参加者が体験したこととして,「そのとき感じたことをその場で相

手に伝えることができた」という体験をきっかけに,自身への肯定的な感情が生まれ自信

が持てたり,他者に関心が向いたりするようになっていた。しかし「そのとき感じたこと

をその場で相手に伝えることができた」という経験の前には,人と関わることによって,

どうしたらいいかわからないといった戸惑いや混乱などの葛藤もあった。しかしその戸惑

いや混乱を感じながらも関わることを続けるうちに,メンバーの温かいまなざしを感じた

り,自分でも気づかなかった自身のことをメンバーが気づいてくれていたりと,他者から

関心を寄せられていたことへの気づきがうまれた。その気づきにより,安心して「そのと

き感じたことをその場で相手に伝えることができ」るようになった。そしてそのことで人

と関わることが楽になり,自身への肯定的な感情や自信,他者への関心はより強いものと

なり,人と関わることでの戸惑いや混乱はなくなっていった。これらの変化は,参加者が

葛藤をおそれずに人と関わることを続けたことと,丁寧にメンバーを「見て」,感じたこと

をフィードバックするということを,繰り返し続けたことによって得られた体験であった。

しかし,これらのことを日常生活のなかでも意識的に取り入れ,「関係性のなかでの自

立」を高めようと努力しても,高めあえる相手がいなければ相互作用はうまれることはな

い。人と人との関わりが希薄になった現代の社会では,IPRトレーニングのような,人

と関わることや相手をよく「見ること」だけに意識を集中できるような,非日常の環境に

身を置き,一定程度の時間をかけてトレーニングできる場が必要なのではないかと考える。

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第六章 結論と課題

第一節 研究の概要

本論文は,人と人が関わることの少なくなった現代の社会において,対人援助職である

看護職のメンタルヘルスの規定要因と,看護職のメンタルヘルス支援の方向性を検討する

ことを目的としていた。第一章では,一般的な労働者のストレスとメンタルヘルスへの取

り組み,看護職に特有のストレス,メンタルヘルス,感情労働に関する先行研究の検討を

行った。また現代社会における対人関係の傾向を概観し,看護職のメンタルヘルスを支援

することの意義について説明した。第二章では,他職種にも広く使用されている職業性ス

トレス簡易調査票と,日本語版精神健康調査票(GHQ28)を用いて,看護職に特有のス

トレスとメンタルヘルスの現状を明らかにした。第三章では,これまでの先行研究で看護

職のメンタルヘルスを規定するとされてきた諸要因に,「関係性のなかでの自立」という概

念を加えて検討した。人と人との関係性が希薄になった現代の社会において,対人関係を

発達させるための基盤である「関係性のなかでの自立」が,看護職のメンタルヘルスに与

える影響は大きいのではないかという仮説を立て,検証した。第四章では,この「関係性

のなかでの自立」が,看護職にとって避けることのできない感情労働の緩衝要因になり得

るという仮説を立て,検証した。第五章では,「関係性のなかでの自立」を高める支援のひ

とつとして,古くから看護職を対象に行われている,日本IPR研究会の主催する対人関

係トレーニングを取り上げ,その効果測定を行った。そして,参加者のトレーニングでの

体験がどのように「関係性のなかでの自立」を高めるに至ったのか検証することで,看護

職のメンタルヘルスへの取り組みを検討した。

第二節 看護職のメンタルヘルスと職業性ストレスの現状

多くの職種で使用されている職業性ストレス簡易調査票(下村ら,2000)を用いて,看

護職の職業性ストレスの現状を明らかにした。他職種と比較して逸脱して高かったのは「心

理的な仕事の質的負担」と「自覚的な身体的負担度」であった。看護職の仕事は人の生死

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に関わる仕事であり,責任や重圧から精神的な負担が大きいことがうかがえる。さらに身

体的にも負担を感じ身体症状が出てきていることから,心身ともにストレスの大きい職業

であることが改めて明らかとなった。また「上司からのサポート」と「家族や友人からの

サポート」は他職種よりやや高く,サポートが得られていることがわかった。「働きがい」

についても,他職種より高く働きがいを感じているという結果であった。

また,看護職のメンタルヘルスは,日本語版精神健康調査票(GHQ28)(中川ら,1985)

を用いた。臨界点とされる 6 点以上を示すものが全体の 72.6%にのぼった。20 年前の調

査結果が 36.6%だったことからも(宗像ら,1988),看護職のメンタルヘルスは悪化して

いることが明らかとなった。年代別でみると 40 歳代のメンタルヘルスが悪く,この年代

への支援を考える必要があることが示された。

第三節 看護職のメンタルヘルスに影響を及ぼす要因

看護職のメンタルヘルスは,臨界点とされる 6 点以上を示すものが全体の 69.8%で(野

原ら,2009),これは勤務形態がパートタイム・その他も含めての結果である。フルタイ

ムのみを対象にすると,6 点以上を示す者の割合は 72.6%(野原,2014)であった。

メンタルヘルスに影響を与えていた要因は,職位の有無(職位のある方がメンタルヘル

スが悪くなる),仕事の負担(負担が大きい方がメンタルヘルスは悪くなる),働きがい・

適性(働きがいや適性がないと思っている方がメンタルヘルスは悪くなる),仕事の満足度

(仕事に対する満足度が低いほどメンタルヘルスは悪くなる),家庭生活の満足度(家庭生

活への満足度が低いほどメンタルヘルスは悪くなる)であり,これらの因子は,これまで

の先行研究とほぼ同様の結果であった。今回の研究では,さらに,「関係性のなかでの自立」

(木村ら,2008)(関係性のなかでの自立が低い方がメンタルヘルスは悪くなる)も看護

職のメンタルヘルスに影響を及ぼしていたことが明らかとなった。そして,人と人との関

わりが希薄になった現代の社会においては,対人関係を発達させるための基盤である,こ

の「関係性のなかでの自立」が看護職のメンタルヘルスに,一番強く影響を及ぼしている

ことが明らかとなった。

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第四節 看護職のメンタルヘルスと感情労働・「関係性のなかでの自立」との関連

看護職のメンタルヘルスを規定する要因として知られるものに,感情労働がある。本研

究では,感情労働の下位概念である表層適応と表出抑制は,看護職のメンタルヘルスと関

連していた(表層適応と表出抑制が高い方がメンタルヘルスは悪くなる)。表層適応とは適

切な感情を装うことで,表出抑制とは感情を隠したりすることである(片山ら,2005)。

この結果は,人と関わることで生じる本来の自分の感情を抑制したりすることによって,

メンタルヘルスに悪い影響をもたらすという先行研究の結果と同様であった(Zapf,

2001;荻野,2004)。

また,感情労働の高低と「関係性のなかでの自立」の高低を組み合わせて 4 群を作り,

その 4 群間のメンタルヘルスを比較した。その結果,「関係性のなかでの自立」が低い群

同士,高い群同士では,感情労働を多く行ってもあまり行わなくても,メンタルヘルスに

差は認められなかったが,感情労働を多く行っている群では,関係性のなかでの自立が高

い群の方が,低い群よりメンタルヘルスが良いという結果であった。さらに,これまでの

先行研究で,メンタルヘルスに影響を及ぼすとされている属性要因を共変量として分析を

行っても,その結果は変わらなかった。すなわち,「関係性のなかでの自立」が高ければ,

感情労働を多く行ってもメンタルヘルスは下がらないということが明らかとなった。

看護する上で避けることのできない感情労働を,肯定的なものに変える要因として,「関

係性のなかでの自立」という概念が,ひとつ明らかとなった(図Ⅵ-1)。

40歳代のメンタルヘルスが悪い

(家事育児介護をしながらでも続けられる職場条件)

夜勤体制の整備

身体的負担が大きい

法律・医療制度の整備

診療報酬の改定が看護職の勤務状況に影響

必要な研修等の充実

医療の進歩等に対応し仕事の質的負担軽減

対人関係能力を養う機会の減少

仕事の

負担・

職位の

有無

看護職の

メンタルヘルス

図Ⅵ-1 看護職のメンタルヘルスに影響を及ぼす要因

関係性のなかでの自立

ミクロ的要因

看護職のワーク・ライフバランス

対人関係の変化

ミクロ的要因

家庭生活の満足度

仕事の満足度

働きがい・適性

マクロ的要因

感情労働

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第五節 看護職のメンタルヘルスへの取り組みとして

「関係性のなかでの自立」を促すための支援

「関係性のなかでの自立」を促す方法を明らかにすることが,看護職のメンタルヘルス

支援につながるものと考え,その方法について検討した。

「関係性のなかでの自立」は,対人関係を発達させるための基盤となる能力であり,人

と人との関わりが少なくなった現代の社会において,その能力を自然に身につけることは

難しくなった。そこで,対人関係のノウハウではなく,人と関わることを体験し,実践す

ることに重点を置いて行われている,日本IPR研究会の主催する対人関係トレーニング

を取り上げた。トレーニングに参加した看護職を対象に,トレーニングの前後での「関係

性のなかでの自立」を測定し,その効果を検討した。さらに,参加者がトレーニングによ

ってどのような体験をしたのか,またその体験が「関係性のなかでの自立」をどのように

高めることにつながったのかを,トレーニング期間中毎日書かれる感想文を質的に分析す

ることで明らかにした。

検討の結果,IPRトレーニングは「関係性のなかでの自立」を高めるのに有効であっ

た。しかし,効果が出たのは,3 泊 4 日のベイシックトレーニングと,その 1~2 か月後に

ある 1 泊 2 日のメイントレーニングをすべて終了した時点でのことだった。人と関わるこ

とが少なくなった現代の社会において,「関係性のなかでの自立」を促すためには,一定程

度の時間を要する大変な作業であることが明らかとなった。

また,トレーニングで参加者が体験したこととして,「そのとき感じたことをその場で相

手に伝えることができた」という体験をきっかけに,自身への肯定的な感情が生まれ自信

が持てたり,他者に関心が向いたりするようになっていた。しかし「そのとき感じたこと

をその場で相手に伝えることができた」という経験の前には,人と関わることによって,

どうしたらいいかわからないといった戸惑いや混乱などの葛藤もあった。しかしその戸惑

いや混乱を感じながらも関わることを続けるうちに,メンバーの温かいまなざしを感じた

り,自分でも気づかなかった自身のことをメンバーが気づいてくれていたりと,他者から

関心を寄せられていたことへの気づきがうまれた。その気づきにより,安心して「そのと

き感じたことをその場で相手に伝えることができ」るようになった。そしてそのことで人

と関わることが楽になり,自身への肯定的な感情や自信,他者への関心はより強いものと

なり,人と関わることでの戸惑いや混乱はなくなっていった。これらの変化は,参加者が

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葛藤をおそれずに人と関わることを続けたことと,丁寧にメンバーを「見て」,感じたこと

をフィードバックするということを,繰り返し続けたことによって得られたものであると

考える。しかしこれらのことは,個人が日常生活のなかに意識的に取り入れようと努力し

ても,高め合える相手がいなければそこに相互作用がうまれることはなく,限界がある。

人と人との関わりが希薄になった現代の社会では,IPRトレーニングのような,人と関

わることや相手をよく「見ること」だけに意識を集中できるような,非日常の環境に身を

置き,一定程度の時間をかけてトレーニングできる場が必要なのではないかと考える。

第六節 研究の限界と課題

まず,調査方法における本研究の限界と課題として,本研究は二つの調査から成り立っ

ている。1 つは第二章から第四章の,看護職のストレスとメンタルヘルスに関する調査で

ある。この調査では全国 26 施設から協力を得ることができた。しかし病院を抽出する時

点で,病床数 100 床以上の総合病院のみを対象とした。その理由として,看護職へのメン

タルヘルス対策が一定程度行われていることが予測される病院を対象としたかったからで

あった。しかし,100 床に満たない病院に勤務する看護職の数も多く,メンタルヘルス対

策として必要な研修などは病床数の少ない病院では難しい。今後は対象者を広げて検討す

る必要がある。2 つ目の調査は第五章の,「関係性のなかでの自立」を促す支援に関する調

査である。この調査は,IPRトレーニングの期間中のみ行ったものである。看護の現場

での人間関係の在り方は複雑な要因が絡み合っており,トレーニングの場で行われるよう

な素直な自己表現をすることは,困難な状況にある。現に,本研究の結果にもあるように,

トレーニングの場であっても,対象者はまず,素直な自己表現に至るまでには相当の戸惑

いと混乱を経験している。またトレーニングを受ける際に,同じグループ内に知人同士が

入らないよう配慮されている点においても,今回の結果はあくまで,非日常の空間で,初

めて出会う看護職同士でのトレーニングの効果ということになる。今後は,対象者がトレ

ーニングを終了し一定期間経ってからの「関係性のなかでの自立」がどう変化したか等,

トレーニング後の状況も含めて検討していく必要がある。

次に,研究結果から見えてきた今後の課題である。本研究の結果から,人と関わること

が少なくなった現代の社会において,対人関係を発達させるための基盤となる「関係性の

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なかでの自立」を促すことが,看護職のメンタルヘルス支援の鍵となっていることが明ら

かとなった。そして,対人関係トレーニングで「関係性のなかでの自立」を促すことが可

能であると判った。トレーニングでは,①葛藤をおそれず人と関わることを続けること,

②よく「見る」こと,③見て感じたことを相手にフィードバックすることを繰り返し丁寧

に続けることが「関係性のなかでの自立」を促す方法として明らかとなった。しかしこの

三つの事柄を日常生活で行おうとしても,できない社会となっている。特に「見る」こと

は今後の看護職を担う若者世代の日常には機会が少ない。彼らのコミュニケーション手段

は SNS が主流となり,頻繁ではあるが表現する内容は超短文である。コミュニケーショ

ンする相手の表情を「見る」ことはもちろん,あまりに表現する文字数が少なく,文脈か

ら意図を汲み取ることも難しい。いかようにも受け取れるただの文字や絵のやり取りから,

誤解を生じる恐れもある。彼らにはそれが普通のコミュニケーションであり,実は私たち

世代が過剰に心配しているだけで,間もなく彼らのコミュニケーション手段が世の中の主

流になるのかもしれない。ただ当面は,やはり病床にある患者とその家族を看護するにあ

たって,「関係性のなかでの自立」は看護職として備えていてほしい能力である。「見るこ

と」と,見て感じたことを「伝えること」,葛藤をおそれずに人と関わることを,看護職と

なっていく学生にどう伝えていくのか,具体的に考えなければならない。

また,第三章で,看護職のメンタルヘルスに影響を与える要因として「仕事の負担」が

あった。第二章でも,看護職は他職種と比較しても,身体的負担度も高いことが明らかと

なっている。「関係性のなかでの自立」が高められたとしても,交代制勤務からくる身体的

負担までもが軽減されるわけではない。本研究で扱った対人関係トレーニングは,看護職

のメンタルヘルス支援のひとつの方法にすぎない。看護職のメンタルヘルス支援にあたっ

ては,マクロレベルでの取り組みが必須である。しかし残念ながら,交代制勤務や長時間

労働の問題が早急に解決されることは難しく,個人の努力ではどうすることもできない現

状もある。本研究の結果が,少しでも,看護職のメンタルヘルス支援につながることを願

っている。

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謝辞

本研究を遂行するにあたっては,多くの方にご指導,ご支援をいただきました。

博士論文をまとめるにあたり,終始温かくご指導をいただいた畠中宗一先生には心から

感謝申し上げます。前期博士課程から 9 年間という長きにわたり,時には遠くから見守り,

時には近くで伴奏し,励まし続けてくださいました。先生には,論文をまとめるというこ

とのみでなく,研究者としての誠実な姿勢を学ばせていただきました。

博士論文審査にあたり,副査の中井孝章先生には,視野を広げ,自身の研究を見直す機

会をいただきました。岡田進一先生にはメンタルヘルスに関する細やかなご指導を賜り,

今後の研究への示唆もいただきました。おふたりの先生方よりいただいた貴重なご指導と

ご助言があって,博士論文をまとめ上げることができました。深く感謝申し上げます。

本調査研究の実施にあたり,多忙な毎日のなかご協力くださった多くの看護職のみなさ

ま,看護部長様をはじめ各病院の調査窓口となってくださったみなさまに,深く感謝申し

上げます。また,IPRトレーニングの効果測定に関する研究にあたっては,職業訓練法

人日本技能教育開発センター和才恵理子さんをはじめ,事務局スタッフの方にご尽力いた

だきました。深く感謝申し上げます。

データの分析にあたっては,石川県立看護大学牧野智恵先生,徳島文理大学田代照子先

生,西武文理大学唐田順子先生,名古屋市立大学牧野亜妃子先生のご指導と多大なご協力

をいただきました。感謝いたします。

畠中研究室の皆様には,日頃より有益なご討議とご助言をいただきました。厚くお礼申

し上げます。

また,研究を進めるにあたり,ご支援,ご協力を頂きながら,ここにお名前を記す

ことが出来なかった多くの方々に,心より感謝申し上げます。

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付 録

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仕事とメンタルヘルスに関するアンケート

質問内容はあなた自身に関するものです。

このアンケートはあなたを評価するものではありませんので、回答内容が仕事上不利

益となることは全くありません。また、アンケートにご協力くださるかは、あなたの

自由です。

質問は1から 23 まであり、なかには答えにくいものがあるかもしれませんが、あまり

深く考えずに気楽に、できるだけ正直に自分の考えに近いものを選んでください。 なおこのアンケート結果は研究以外の目的には利用いたしません。また個人のデータ

が特定されることはありませんので、安心してお答えください。

大阪市立大学大学院生活科学研究科

野原 留美

畠中 宗一

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以下の質問について、お答えください。 質問1 あなたの年齢をお答えください。 歳 質問2 あなたの性別を選び、数字に○をつけてください。 1,男性 2,女性 質問3 あなたの婚姻状況を選び、数字に○をつけてください。 1,既婚 2,未婚・離死別 質問4 現在、同居されているご家族はいらっしゃいますか。 1,いる 2,いない 質問5 就学前のお子さまはいらっしゃいますか。 1,いる 2,いない 質問 6 あなたの職業を選び、数字に○をつけてください。 1,看護師 2,保健師 3,助産師 4,その他 質問 7 あなたの現在の職業の経験年数をお答えください。 年 質問 8 就労形態を選び、数字に○をつけてください。 1,フルタイム 2,パートタイム 3,その他 質問 9 一日の勤務時間をお答えください。 時間 質問 10 あなたの所属部署を選び、数字に○をつけてください。 1,外来 2,手術室 3,ICU 4,救命救急 5,外科系 6,内科系 7,産婦人科 8,小児科系 9,精神科系 10,緩和ケア 11,訪問 12,その他 質問 11 あなたの現在の所属部署への在職年数をお答えください。 年 質問 12 あなたの職位を選び、数字に○をつけてください。 1,師長または副師長 2,主任または副主任 3,スタッフ 質問 13 病棟に勤務されている方にうかがいます。あなたの所属部署の病床数をお答えください。 床 質問 14 最近1か月の休日数をお答えください。 日 質問 15 最近1か月の残業時間をお答えください。 時間 質問 16 夜勤をされている方にうかがいます。あなたの所属部署の勤務形態を選び、数字に○をつけ

てください。また、最近1か月の夜勤回数(三交代の方は深夜勤の回数、二交代の方は夜勤の回数)

をお答えください。 1,三交代 2,二交代 夜勤回数 回 質問 17 最近 1 年間の有給休暇の消化状況を選び、数字に○をつけてください。 1,全部消化した 2,だいたい消化した 3,半分くらい消化した 4,少ししか消化しなかった 5,全く消化しなかった

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質問 18 あなたの仕事についてうかがいます。次の質問項目について、最もあてはまるものに、「そうだ」の場合は1

を、「まあそうだ」の場合は2を、「ややちがう」の場合は3を、「ちがう」の場合は4を選び、数字を○で囲んでお答えく

ださい。

そうだ

まあそうだ

ややちがう

ちがう

1.非常にたくさんの仕事をしなければならない 1・・・・・・・・・2・・・・・・・・・3・・・・・・・・・4

2.時間内に仕事を処理しきれない 1・・・・・・・・・2・・・・・・・・・3・・・・・・・・・4

3.一生懸命働かなければならない 1・・・・・・・・・2・・・・・・・・・3・・・・・・・・・4

4.かなり注意を集中する必要がある 1・・・・・・・・・2・・・・・・・・・3・・・・・・・・・4

5.高度の知識や技術が必要なむずかしい仕事だ 1・・・・・・・・・2・・・・・・・・・3・・・・・・・・・4

6.勤務時間中はいつも仕事のことを考えていなければならない 1・・・・・・・・・2・・・・・・・・・3・・・・・・・・・4

7.からだを大変よく使う仕事だ 1・・・・・・・・・2・・・・・・・・・3・・・・・・・・・4

8.自分のペースで仕事ができる 1・・・・・・・・・2・・・・・・・・・3・・・・・・・・・4

9.自分で仕事の順番・やり方を決めることができる 1・・・・・・・・・2・・・・・・・・・3・・・・・・・・・4

10.職場の仕事の方針に自分の意見を反映できる 1・・・・・・・・・2・・・・・・・・・3・・・・・・・・・4

11.自分の技能や知識を仕事で使うことが少ない 1・・・・・・・・・2・・・・・・・・・3・・・・・・・・・4

12.私の部署内で意見のくい違いがある 1・・・・・・・・・2・・・・・・・・・3・・・・・・・・・4

13.私の部署と他の部署とはうまが合わない 1・・・・・・・・・2・・・・・・・・・3・・・・・・・・・4

14.私の職場の雰囲気は友好的である 1・・・・・・・・・2・・・・・・・・・3・・・・・・・・・4

15.私の職場の作業環境(騒音、照明、温度、換気など)はよくない 1・・・・・・・・・2・・・・・・・・・3・・・・・・・・・4

16.仕事の内容は自分にあっている 1・・・・・・・・・2・・・・・・・・・3・・・・・・・・・4

17.働きがいのある仕事だ 1・・・・・・・・・2・・・・・・・・・3・・・・・・・・・4

質問 19 あなたの周りの方々についてうかがいます。次の質問項目について、最もあてはまるものに、「非

常に」の場合は1を、「かなり」の場合は2を、「多分」の場合は3を、「全くない」の場合は4を選び、 数字を○で囲んでお答えください。

非常に

かなり

多分

全くない

次の人たちはどのくらい気軽に話ができますか?

1.上司 1・・・・・・・・・2・・・・・・・・・3・・・・・・・・・4

2.職場の同僚 1・・・・・・・・・2・・・・・・・・・3・・・・・・・・・4

3.配偶者、家族、友人等 1・・・・・・・・・2・・・・・・・・・3・・・・・・・・・4

あなたが困った時、次の人たちはどのくらい頼りになりますか?

4.上司 1・・・・・・・・・2・・・・・・・・・3・・・・・・・・・4

5.職場の同僚 1・・・・・・・・・2・・・・・・・・・3・・・・・・・・・4

6.配偶者、家族、友人等 1・・・・・・・・・2・・・・・・・・・3・・・・・・・・・4

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あなたの個人的な問題を相談したら、次の人たちはどのくらい

きいてくれますか?

非常に

かなり

多分

全くない

7.上司 1・・・・・・・・・2・・・・・・・・・3・・・・・・・・・4

8.職場の同僚 1・・・・・・・・・2・・・・・・・・・3・・・・・・・・・4

9.配偶者、家族、友人等 1・・・・・・・・・2・・・・・・・・・3・・・・・・・・・4

満足度について 満足

まあ

満足

やや

不満足

不満足

1.仕事に満足だ 1・・・・・・・・・2・・・・・・・・・3・・・・・・・・・4

2.家庭生活に満足だ 1・・・・・・・・・2・・・・・・・・・3・・・・・・・・・4

質問 20 最近のあなたの状態についてうかがいます。次の質問項目を読んで、その右にある4種類の選択肢の

いずれか自分の状態に合っているものを○で囲んでお答えください。

1.気分や健康状態は よかったに いつもと 悪かった 非常に

変わらなかった 悪かった

2.疲労回復剤(ドリンク・ビタミン剤)を飲みたいと思ったことは まったく あまり あった たびたび

なかった なかった あった

3.元気なく疲れを感じたことは まったく あまり あった たびたび

なかった なかった あった

4.病気だと感じたことは まったく あまり あった たびたび

なかった なかった あった

5.頭痛がしたことは まったく あまり あった たびたび

なかった なかった あった

6.頭が重いように感じたことは まったく あまり あった たびたび

なかった なかった あった

7.からだがほてったり寒気がしたことは まったく あまり あった たびたび

なかった なかった あった

8.心配ごとがあって、よく眠れないようなことは まったく あまり あった たびたび

なかった なかった あった

9.夜中に目を覚ますことは まったく あまり あった たびたび

なかった なかった あった

10.いつもより忙しく活動的な生活を送ることが たびたび いつもと なかった まったく

あった 変わらなかった なかった

11.いつもより何かするのに余計に時間がかかることが まったく いつもと あった たびたび

なかった 変わらなかった あった

12.いつもよりすべてがうまくいっていると感じることが たびたび いつもと なかった まったく

あった 変わらなかった なかった

13.いつもより自分のしていることに生きがいを感じることが あった いつもと なかった まったく

変わらなかった なかった

14.いつもより容易に物ごとを決めることが できた いつもと できなかった まったく

変わらなかった できなかった

15.いつもストレスを感じたことが まったく あまり あった たびたび

なかった なかった あった

16.問題を解決できなくて困ったことが まったく あまり あった たびたび

なかった なかった あった

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17.いつもより日常生活を楽しく送ることが できた いつもと できなかった まったく

変わらなかった できなかった

18.いらいらして、おこりっぽくなることは まったく あまり あった たびたび

なかった なかった あった

19.たいした理由がないのに、何かがこわくなったりとりみだす

ことは

まったく あまり あった たびたび

なかった なかった あった

20.いつもよりいろいろなことを重荷と感じたことは まったく いつもと あった たびたび

なかった 変わらなかった あった

21.自分は役に立たない人間だと考えたことは まったく あまり あった たびたび

なかった なかった あった

22.人生に全く望みを失ったと感じたことは まったく あまり あった たびたび

なかった なかった あった

23.不安を感じ緊張したことは まったく あまり あった たびたび

なかった なかった あった

24.生きていることに意味がないと感じたことは まったく あまり あった たびたび

なかった なかった あった

25.この世から消えてしまいたいと考えたことは まったく なかった 一瞬 たびたび

なかった あった あった

26.ノイローゼ気味で何もすることができないと考えたことは まったく あまり あった たびたび

なかった なかった あった

27.死んだ方がましだと考えたことは まったく あまり あった たびたび

なかった なかった あった

28.自殺しようと考えたことが まったく なかった 一瞬 たびたび

なかった あった あった

質問 21 以下にある文章は一般的な対人関係に対してどのように感じているのかを表したものです。それぞれの文

章について、あなた自身がどの程度あてはまるかを、「非常にあてはまる」場合は5を、「あてはまる」場合は4を、「ど

ちらでもない」場合は3を、「あてはまらない」場合は2を、「全くあてはまらない」場合は1を選び、数字を○で囲んで

お答えください。

非常にあてはまる

あてはまる

どちらでもない

あてはまらない

全くあてはまらない

1.私は人と付き合うだけの価値があると思う 5・・・・・・4・・・・・・3・・・・・・2・・・・・・1

2.私は人を信頼できる 5・・・・・・4・・・・・・3・・・・・・2・・・・・・1

3.私は人に心を許して話ができる 5・・・・・・4・・・・・・3・・・・・・2・・・・・・1

4.私は人と付き合うのが下手だと思う 5・・・・・・4・・・・・・3・・・・・・2・・・・・・1

5.私は人に悩みごとをうち明けられる 5・・・・・・4・・・・・・3・・・・・・2・・・・・・1

6.私は人に受け入れてもらえると思う 5・・・・・・4・・・・・・3・・・・・・2・・・・・・1

7.私は嫌なことがあったとき、人と一緒に騒いで気晴らししたいと思う 5・・・・・・4・・・・・・3・・・・・・2・・・・・・1

8.私は、人の役に立っているとは思えない 5・・・・・・4・・・・・・3・・・・・・2・・・・・・1

9.私は人が元気のない時、支えになってあげられる 5・・・・・・4・・・・・・3・・・・・・2・・・・・・1

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質問 22 仕事場面であなたが患者さんに接するときのことについてうかがいます。次の質問項目について最もあて

はまるものに、「いつも行う」場合は5を、「しばしば行う」場合は4を、「時々行う」場合は3を、「まれに行う」場合は2を、

「行わない」場合は1を選び、数字を○で囲んでお答えください。

いつも行う

しばしば行う

時々行う

まれに行う

行わない

1.相手の立場に立って考える 5・・・・・・4・・・・・・3・・・・・・2・・・・・・1

2.何も感じていないようにふるまう 5・・・・・・4・・・・・・3・・・・・・2・・・・・・1

3.自分の気持ちを容易に出さないように気を引き締める 5・・・・・・4・・・・・・3・・・・・・2・・・・・・1

4.自分の口調や表情やふるまいを意識する 5・・・・・・4・・・・・・3・・・・・・2・・・・・・1

5.心に感じていることとの違いを自覚しながら感情を表す 5・・・・・・4・・・・・・3・・・・・・2・・・・・・1

6.強い感情ではなく心が穏やかであるふりをする 5・・・・・・4・・・・・・3・・・・・・2・・・・・・1

7.患者の期待を裏切らない感情を示す 5・・・・・・4・・・・・・3・・・・・・2・・・・・・1

8.状況によっては自分の感情を抑えようとする 5・・・・・・4・・・・・・3・・・・・・2・・・・・・1

9.その場に応じた感情の表し方を探す 5・・・・・・4・・・・・・3・・・・・・2・・・・・・1

10.患者の感情を理解することを大切にしている 5・・・・・・4・・・・・・3・・・・・・2・・・・・・1

11.どんな患者にも共感しようとしている 5・・・・・・4・・・・・・3・・・・・・2・・・・・・1

12.驚いたり緊張したりしてもその気持ちを隠す 5・・・・・・4・・・・・・3・・・・・・2・・・・・・1

13.悲しさやつらさなどの否定的感情を装う 5・・・・・・4・・・・・・3・・・・・・2・・・・・・1

14.緊張感をもって自分の役割を持続させる 5・・・・・・4・・・・・・3・・・・・・2・・・・・・1

15.不安や怒りなどの否定的感情を隠す 5・・・・・・4・・・・・・3・・・・・・2・・・・・・1

16.期待される感情を心の中でイメージする 5・・・・・・4・・・・・・3・・・・・・2・・・・・・1

17.患者のための雰囲気づくりをする 5・・・・・・4・・・・・・3・・・・・・2・・・・・・1

18.自分が相手に表している感情に注意を払う 5・・・・・・4・・・・・・3・・・・・・2・・・・・・1

19.喜びや親しさなどの肯定的感情を装う 5・・・・・・4・・・・・・3・・・・・・2・・・・・・1

20.患者の感情に敏感になるようにする 5・・・・・・4・・・・・・3・・・・・・2・・・・・・1

21.患者との関係によってケアの表し方を調節する 5・・・・・・4・・・・・・3・・・・・・2・・・・・・1

22.期待されるケアリングを提供する 5・・・・・・4・・・・・・3・・・・・・2・・・・・・1

23.無関心なことでも関心をもとうとする 5・・・・・・4・・・・・・3・・・・・・2・・・・・・1

24.驚いたり緊張したりするふりをする 5・・・・・・4・・・・・・3・・・・・・2・・・・・・1

25.おかしさや嬉しさなどの肯定的感情を隠す 5・・・・・・4・・・・・・3・・・・・・2・・・・・・1

26.口調や表情やふるまいによってケアを表す 5・・・・・・4・・・・・・3・・・・・・2・・・・・・1

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質問 23 以下の質問について、あなたの考えや状況として「非常によくあてはまる」場合は6を、「あてはまる」場合

は5を、「ややあてはまる」場合は4を、「あまりあてはまらない」場合は3を、「あてはまらない」場合は2を、「全くあて

はまらない」場合は1を選び、数字を○で囲んでお答えください。

非常によくあてはまる

あてはまる

ややあてはまる

あまりあてはまらない

あてはまらない

全くあてはまらない

1.前向きの姿勢で物事に取り組んでいる 6・・・・・・・5・・・・・・・4・・・・・・・3・・・・・・・2・・・・・・・1

2.人間関係を煩わしく思う 6・・・・・・・5・・・・・・・4・・・・・・・3・・・・・・・2・・・・・・・1

3.人の目ばかり気にして、自分を失いそうになることがある 6・・・・・・・5・・・・・・・4・・・・・・・3・・・・・・・2・・・・・・・1

4.人は他人と親しくなりすぎないほうが幸せであろう 6・・・・・・・5・・・・・・・4・・・・・・・3・・・・・・・2・・・・・・・1

5.あまり人と親密な関係になりたいとは思わない 6・・・・・・・5・・・・・・・4・・・・・・・3・・・・・・・2・・・・・・・1

6.なにか良くないことがあると、すぐに自分のせいだと考えてしまう 6・・・・・・・5・・・・・・・4・・・・・・・3・・・・・・・2・・・・・・・1

7.社会の中での自分の生きがいがわかってきた 6・・・・・・・5・・・・・・・4・・・・・・・3・・・・・・・2・・・・・・・1

8.いろいろな良い素質をもっている 6・・・・・・・5・・・・・・・4・・・・・・・3・・・・・・・2・・・・・・・1

9.私の社会的なつながりは、うわべだけのものである 6・・・・・・・5・・・・・・・4・・・・・・・3・・・・・・・2・・・・・・・1

10.人から見捨てられるのではないかと心配になることがある 6・・・・・・・5・・・・・・・4・・・・・・・3・・・・・・・2・・・・・・・1

11.私は感情的に周りの人からの影響を受けやすい 6・・・・・・・5・・・・・・・4・・・・・・・3・・・・・・・2・・・・・・・1

12.私は、自分なりの生き方を主体的に選んでいる 6・・・・・・・5・・・・・・・4・・・・・・・3・・・・・・・2・・・・・・・1

13.他人との間に壁を作っている 6・・・・・・・5・・・・・・・4・・・・・・・3・・・・・・・2・・・・・・・1

14.誰も私をわかってくれないと、私は感じている 6・・・・・・・5・・・・・・・4・・・・・・・3・・・・・・・2・・・・・・・1

15.周りの意見や環境によってすぐに影響され、変化してしまう 6・・・・・・・5・・・・・・・4・・・・・・・3・・・・・・・2・・・・・・・1

16.失敗すると二度と立ち直れないような気がする 6・・・・・・・5・・・・・・・4・・・・・・・3・・・・・・・2・・・・・・・1

17.自分に対して肯定的である 6・・・・・・・5・・・・・・・4・・・・・・・3・・・・・・・2・・・・・・・1

18.張り合いがあり、やる気が出ている 6・・・・・・・5・・・・・・・4・・・・・・・3・・・・・・・2・・・・・・・1

アンケートにご協力いただき、本当にありがとうございました。

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平成 年 月 日 病院看護部看護部長様

大阪市立大学大学院生活科学研究科 家族・地域健康福祉学分野

調査実施にあたってのご協力のお願い

謹啓 寒冷の候、貴職におかれましては益々ご健勝のこととお慶び申し上げます。 私は、大阪市立大学大学院生活科学研究科の野原と申します。私の所属いたします 家族・地域健康

福祉学分野の講座では、「情緒的自立に関する総合的研究(平成 19-22 年度 文部科学省科学研究費

補助金・基盤研究(B))」をテーマに調査研究を実施しております。そして私は、その一端として、「対

人援助職のメンタルヘルス」をテーマに、調査研究を行うことになりました。近年、うつ病や自殺と

いったメンタルヘルスに関する問題が増加するなか、対人援助職者が情緒的に自立し、メンタルヘル

スを良好に保って、対象者に質の高いケア(援助)を提供するために、また離職を予防するためには、

どういったことに注目する必要があるのかを明らかにすることを目的としています。具体的な調査方

法は、対人援助職の方を対象としたアンケート調査を計画しております。そこで、貴施設の看護職員

の方々にも、本調査へのご協力をいただければと思い、ご連絡させていただきました。 アンケート調査におきましては、対象者の方のプライバシーに十分配慮し、個人が特定されること

や、何らかの不利益を被ることは決してないことをお約束いたします。ご回答の内容が本研究以外の

目的に使用されることも決してありません。また、調査後のアンケートデータの扱いには私が責任を

もってあたることをお約束いたします。ご回答いただいた内容は、非常に貴重なものであり、対人援

助職者のメンタルヘルスへの、具体的な働きかけを提言できるデータになると考えております。 つきましては、アンケート用紙と、対象者様への依頼文、返信用封筒の見本を同封させていただき

ます。貴施設の業務に支障のない範囲で調査実施にご協力いただけますよう、ご検討のほど、よろし

くお願い申し上げます。なお、大変勝手なお願いではございますが、同封の葉書に調査協力へのご意

向をご記入いただき、 月末日までにご投函いただければ幸いです(調査にご協力いただける場合、

窓口となってくださる方のお名前と職位もご記入いただけると幸いです。葉書が届きましたら、お電

話にてご連絡させていただきます)。 この調査・研究について、ご意見・ご質問等ございましたら、下記連絡先までお願いいたします。

日々大変お忙しいことと思われますが、ご協力のほどよろしくお願いいたします。

謹白

大阪市立大学大学院生活科学研究科 畠中宗一研究室

研究実施担当者:野原留美 TEL:×-××-××

e-mail:×××@×.co.jp

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「対人援助職(看護職)のメンタルヘルスに関する研究」研究の概要

大阪市立大学大学院生活科学研究科後期博士課程 野原留美

1.研究の背景と問題意識

「富裕化社会は、主体的な対人関係を抑制し、対人的なコミュニケーションを回避する傾向を促し、対

人関係を発達させていくための基本的な条件を奪うように機能している(畠中宗一、2006)」とあるよう

に、豊かさは私事化を促進させ、近年多発する家族問題や対人関係の問題の背景ともなっています。この

ような社会にあって、人と関わることを仕事とする対人援助職もまた、その生育過程のなかで対人関係を

発達させる能力を養うことが困難な状況におかれています。また、近年、うつ病や自殺の増加といったメ

ンタルヘルスの低下に伴う問題が増加しています。対人援助職が対象者に質の高いケア(援助)を提供す

るために、メンタルヘルスを良好な状態に保つことは必須です。 これまで、看護職のメンタルヘルスに関連する要因として、ストレス、サポートの有無、対人関係(周

囲の人と良い人間関係かどうか)、仕事への達成感や満足感などは検討されていますが、看護者自身の自己

表出行動や対人態度の傾向といった、対人関係の基盤となる要因との関連はあまり検討されていません。

対人関係を発達させる能力を養うことが困難になった現代の社会において、看護者の対人関係能力に焦点

を当てたメンタルヘルスへの取り組みが必要なのではないかと考えました。 2.研究目的

そこで、本研究では、「関係性のなかでの自立」という概念に注目しました。「関係性のなかでの自立」

とは、「対人関係において、他者に飲み込まれることなく、また自己に固執し閉じこもることもなく、人と

人との相互作用のなかに関係性を存在させることのできる能力」、すなわち「自分と他者の境界(自他境界)

が明確でありながら人と関わることのできる能力」と定義され、対人関係を発達させる基盤である(木村ら,

2008)とされています。この「関係性のなかでの自立」と、感情労働や職業ストレス、サポート、仕事への

満足度・達成感等がメンタルヘルスに及ぼす影響を総合的に検討し、対人援助職のメンタルヘルスへの取

り組みの方向性を明らかにすることを目的とします。 3.研究方法

【メンタルヘルスを測定する尺度+メンタルヘルスを規定すると思われる尺度+基本的な属性】からなる

調査票を用いて、看護職の方を対象として調査を実施し、その結果から統計的に変数間の関連を分析しま

す。さらに、分析結果から、対人援助職のメンタルヘルスへの取り組みのあり方について考察を行います。 4.倫理的配慮

本研究は、大阪市立大学大学院生活科学研究科倫理委員会の審査・承諾を得ております(平成 20 年 12月 10 日、申請番号 08-11)。具体的な内容については、調査票に同封する「アンケート調査へのご協力の

お願い」をご参照ください。 なお、研究結果は、対人援助職のメンタルヘルスへの取り組みの方向性を明らかにするものと考え、協

力施設へのフィードバックとともに、関連学会誌への投稿を考えております。 引用文献

畠中宗一.2006.対人関係の再発見.現代のエスプリ.468.至文堂 木村直子・田辺昌吾・野原留美・川村千恵子・北川歳昭・川崎末美・畠中宗一.2008.「関係性のなかでの自立」尺度作成

に関する研究.日本精神保健社会学会編.メンタルヘルスの社会学.14.19-31

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返信用はがき

「対人援助職のメンタルヘルスに関する研究」への

調査協力へのご意向について 1.アンケート調査に(協力する・協力しない)。

いずれかに○印をお付けください。 2.ご協力いただける場合、窓口となっていただける

方のお名前と職位をご記入ください。 3.アンケート用紙を配布させていただける看護職

の方の人数をご記入ください。 4.下記の病院名と所在地、お電話番号に間違いが

あれば訂正をお願いいたします。 ×××病院 〒×××-××

××県××市×××× TEL××-××-××

ご協力ありがとうございました。

お名前 職位

名分

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アンケート調査へのご協力のお願い

平成 年 月 日 調査協力者 各位

研究代表者(実施責任者) 大阪市立大学大学院 畠中宗一

寒冷の候、ますます御健勝のこととお喜び申し上げます。 この度、「情緒的自立に関する総合的研究」(平成 19-22 年度 文部科学省科学研究費補助金・基盤研

究(B) 研究代表者:畠中宗一)の一端として、「対人援助職のメンタルヘルス」をテーマに掲げ、調査

研究を行うことになりました。近年、うつ病や自殺といったメンタルヘルスに関する問題が増加するな

か、対人援助職者がメンタルヘルスを良好に保ち、対象者に質の高いケア(援助)を提供するためには、

どういったことに注目する必要があるのかを明らかにすることを目的としています。対人援助職である

皆様には、アンケートというかたちでお考えを伺わせていただき、この問題を検討したいと考えており

ます。ご回答いただいた内容は、非常に貴重なものであり、対人援助職者のメンタルヘルスへの具体的

な働きかけを提言できるデータになると考えております。ぜひこの調査へのご協力をお願いいたします。 なお、ご回答の内容が本研究以外の目的に使用されることは決してありません。また、この調査にご

協力いただくことで、皆様の不利益になることがないよう、以下の点についてお約束いたします。 1 アンケート調査に協力する・しないは、皆様の自由意志によります。 2 調査協力をする・しないのいずれであっても、仕事への評価等の不利益は一切生じません。 3 調査用紙への回答およびその提出をもって、調査協力への同意とします。 4 回答所要時間は 10 分程度です。 5 調査は、調査協力者が特定されないように、以下の要領で実施します。 ① 調査用紙は無記名とします。 ② 回答後は協力者自身で厳封の上、郵便ポストに投入していただきます。 ③ 筆跡で個人が特定できないように、回収された調査用紙からの情報収集は調査実施施設に無関係

の第三者が行い、データ化された情報のみを使用します。 6 回収された調査用紙・データ化された情報は、研究終了までの間、実施担当者が(施錠された場所

に保管する。パソコンのハードディスクでの保存の禁止等)責任を持って保管します。 7 研究終了後、回答用紙は実施担当者によって速やかに破砕し、データの消去を行います。 8 研究成果を関係学会等で公表することがありますが、その場合も調査協力者について個人が特定さ

れないように、細心の注意を払います。 9 調査協力中やその後気分がすぐれない状況等が生じましたら下記連絡先までご連絡をお願いします。

(本調査は、大阪市立大学生活科学部・生活科学研究科倫理委員会における審査・承認を受けています) [回収方法・ご質問について]

ご回答後は、調査票が入っておりました封筒に入れ封をして、直接郵便ポストにご投函ください。大

変勝手なお願いではございますが、 月末までにご投函していただければ幸いです。なお、この調査・

研究についてのご意見・ご質問等は、下記連絡先までお願いいたします。日々大変お忙しいことと思わ

れますが、ご協力のほどよろしくお願いいたします。

問合せ連絡先 大阪市立大学大学院生活科学研究科

研究代表者 畠中宗一 TEL&FAX 06-××-×× E-mail ×××@××.ac.jp

研究実施担当者(調査用紙配布・回収担当) 野原留美 Tel ×-××-×× E-mail ××@××.co.jp

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対人関係に関するアンケート

-アンケートのお願い- アンケートはあなた自身に関する内容です。

質問は1から7まであり、なかには答えにくいものがあるかもしれませんが、あまり深く

考えずに気楽に、できるだけ正直に自分の考えに近いものを選んでください。 なおこのアンケート結果は研究以外の目的には利用いたしませんので、安心してお答えく

ださい。

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質問1,あなたの年齢をお答えください。 歳 質問2,あなたの性別を選び、数字に○をつけてください。

( 1,男 2,女 ) 質問3,あなたの現在の職種を選び、数字に○をつけてください。該当するものがない場合、

[10,その他 ]の( )にお答えください。 1,看護学生 2,PSW 3,MSW 4,セラピスト各種 5,福祉専門

6,保育士 7,幼小中高の教員 8,カウンセラー 9,臨床心理士 10,その他( )

質問4, あなたは兄弟姉妹がいますか?いる場合はあなたとの続柄を、いない場合は「いない」

とお答えください。【例:兄1人、妹2人いる場合=兄、妹、妹】 質問5, あなたは現在、配偶者がいますか?数字に○をつけてお答えください。 ( 1,いる 2,いない ) 質問6,以下の質問について、あなたの考えや状況として [非常によくあてはまる ]場合は6を、[あてはまる ]場合は5を、[ややあてはまる ]場合は4を、[あまりあてはまらない ]場合は3を、[あては

まらない ]場合は2を、 [全くあてはまらない ]場合は1を選び、数字を○で囲んでお答えください。

非常によくあてはまる

あてはまる

ややあてはまる

あまりあてはまらない

あてはまらない

全くあてはまらない

1.前向きの姿勢で物事に取り組んでいる 6・・・・・・・・5・・・・・・・・4・・・・・・・・3・・・・・・・・2・・・・・・・・1

2.他人に対してなぜこんな簡単なことが分からないのだろうと感

じる 6・・・・・・・・5・・・・・・・・4・・・・・・・・3・・・・・・・・2・・・・・・・・1

3.人間関係を煩わしく思う 6・・・・・・・・5・・・・・・・・4・・・・・・・・3・・・・・・・・2・・・・・・・・1

4.人の目ばかり気にして、自分を失いそうになることがある 6・・・・・・・・5・・・・・・・・4・・・・・・・・3・・・・・・・・2・・・・・・・・1

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非常によくあてはまる

あてはまる

ややあてはまる

あまりあてはまらない

あてはまらない

全くあてはまらない

5.人は他人と親しくなりすぎないほうが幸せであろう 6・・・・・・・・5・・・・・・・・4・・・・・・・・3・・・・・・・・2・・・・・・・・1

6.今の自分は本当の自分でないような気がする 6・・・・・・・・5・・・・・・・・4・・・・・・・・3・・・・・・・・2・・・・・・・・1

7.私の意見が通らなかった時、相手の理解が足りないと感じる 6・・・・・・・・5・・・・・・・・4・・・・・・・・3・・・・・・・・2・・・・・・・・1

8.あまり人と親密な関係になりたいとは思わない 6・・・・・・・・5・・・・・・・・4・・・・・・・・3・・・・・・・・2・・・・・・・・1

9.なにか良くないことがあると、すぐに自分のせいだと考えてしま

う 6・・・・・・・・5・・・・・・・・4・・・・・・・・3・・・・・・・・2・・・・・・・・1

10.社会の中での自分の生きがいがわかってきた 6・・・・・・・・5・・・・・・・・4・・・・・・・・3・・・・・・・・2・・・・・・・・1

11.いろいろな良い素質をもっている 6・・・・・・・・5・・・・・・・・4・・・・・・・・3・・・・・・・・2・・・・・・・・1

12.私の社会的なつながりは、うわべだけのものである 6・・・・・・・・5・・・・・・・・4・・・・・・・・3・・・・・・・・2・・・・・・・・1

13.人から見捨てられるのではないかと心配になることがある 6・・・・・・・・5・・・・・・・・4・・・・・・・・3・・・・・・・・2・・・・・・・・1

14.「自分がない」と感じることがある 6・・・・・・・・5・・・・・・・・4・・・・・・・・3・・・・・・・・2・・・・・・・・1

15.私は感情的に周りの人からの影響を受けやすい 6・・・・・・・・5・・・・・・・・4・・・・・・・・3・・・・・・・・2・・・・・・・・1

16.私は、自分なりの生き方を主体的に選んでいる 6・・・・・・・・5・・・・・・・・4・・・・・・・・3・・・・・・・・2・・・・・・・・1

17.他人との間に壁を作っている 6・・・・・・・・5・・・・・・・・4・・・・・・・・3・・・・・・・・2・・・・・・・・1

18.私は人に頼らなくても、自分一人で充分にうまくやっていける 6・・・・・・・・5・・・・・・・・4・・・・・・・・3・・・・・・・・2・・・・・・・・1

19.誰も私をわかってくれないと、私は感じている 6・・・・・・・・5・・・・・・・・4・・・・・・・・3・・・・・・・・2・・・・・・・・1

20.失敗するとすぐ状況のせいにしたくなる 6・・・・・・・・5・・・・・・・・4・・・・・・・・3・・・・・・・・2・・・・・・・・1

21.周りの意見や環境によってすぐに影響され、変化してしまう 6・・・・・・・・5・・・・・・・・4・・・・・・・・3・・・・・・・・2・・・・・・・・1

22.失敗すると二度と立ち直れないような気がする 6・・・・・・・・5・・・・・・・・4・・・・・・・・3・・・・・・・・2・・・・・・・・1

23.周りのことを考えず、自分の思ったままに行動することがある 6・・・・・・・・5・・・・・・・・4・・・・・・・・3・・・・・・・・2・・・・・・・・1

24.自分で自分をしっかり守っていないと、壊れてしまいそうな気が

する 6・・・・・・・・5・・・・・・・・4・・・・・・・・3・・・・・・・・2・・・・・・・・1

25.私は自分自身の行動をある程度はコントロールすることができ

るという確信をもっている 6・・・・・・・・5・・・・・・・・4・・・・・・・・3・・・・・・・・2・・・・・・・・1

26.自分に対して肯定的である 6・・・・・・・・5・・・・・・・・4・・・・・・・・3・・・・・・・・2・・・・・・・・1

27.張り合いがあり、やる気が出ている 6・・・・・・・・5・・・・・・・・4・・・・・・・・3・・・・・・・・2・・・・・・・・1

アンケートにご協力いただき、本当にありがとうございました。

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科研公募参加者のみなさまへ

日本IPR研究会代表 高橋照子

このたびは、本研究会スタッフが関わる文部科学省科学研究費補助金(科研):基盤研

究(B)「情緒的自立に関する総合的研究」(代表研究者:大阪市立大学大学院教授・畠中

宗一)の一環にご協力いただきましてありがとうございます。 皆様にご協力いただく手順は、以下の通りです。 1.ベーシックトレイニング(3 泊 4 日)およびメイントレイニング(1 泊 2 日)の

両トレイニングに参加する(トレイニング全過程への参加)。 2.ベーシックトレイニング開始前および終了時、およびメイントレイニングの終了時

の合計3回、質問紙調査に協力する(自己評価票記載への協力)。 3.上記1・2が完了後に、日本IPR研究会より研修費6万円を返金する。

なお、トレイニングそのものは、科研内容に左右されることなく、まったく従来からの

トレイニングと変わるものではありません。また、科研協力者である皆様と一般参加者の

皆様とは一切の区別をするものではありません。上記1~3のみの違いがあるだけです。 自己評価票記載に関しましては、匿名性を確保するために、皆様のお名前は記号化して

用い、研究代表者のみが実名と記号を照合できる者とし、研究代表者所属の大学研究室で

照合表を保管いたします。自己評価票および感想文等は、科研の研究目的以外で使用する

ことはありません。 以上につきまして、ご承諾いただける方は、別紙承諾書にご署名ください。 なお、詳細についてのお問い合わせは、下記にお願いいたします。 <問合せ先> トレイニング全般に関して:日本 IPR 研究会事務局 Tel & Fax ×-××-××(月・水・金:10:00~15:00) 〒×-×× ××××× 研究に関して:大阪市立大学大学院教授・畠中宗一 Tel & Fax 06-××-×× 〒×-×× ×××××

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研究協力承諾書

私は、別紙により説明を受け、文部科学省科学研究費補助金(科研):基盤研究(B)「情

緒的自立に関する総合的研究」(代表研究者:大阪市立大学大学院教授・畠中宗一)の一環

に協力することを承諾します。 なお、別紙1・2の条件を満たさないときには、研修費6万円は私が負担します。

平成 年 月 日 氏名 住所

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初出一覧 第二章 野原留美(2014)「看護職の職業性ストレスとメンタルヘルスの現状」『現代の社会病理』

29,59-69. 第三章 野原留美・畠中宗一(2009)「対人援助職(看護職)のメンタルヘルスと関係性のなかでの

自立との関連性に関する研究」『メンタルヘルスの社会学』15,28-39. 第四章 野原留美・畠中宗一(2014)「看護職のメンタルヘルスと感情労働・関係性のなかでの

自立との関連性に関する研究」『メンタルヘルスの社会学』20,11-18. 第五章 野原留美・畠中宗一(2010)「関係性のなかでの自立を促す支援に関する研究-対人援

助職(看護職)を対象とした IPR トレーニングの有効性-」『メンタルヘルスの社会学』

16,35-41.