昭和59年11月20日 1161

界 面 活 性剤(Tween)のLegionella属 の生 存 ・発 育 お よび

Esterase産 生能 にお よぼす影 響

長崎大学医学部第2内科

猿渡克比孔 伊藤 直美 長沢 正夫 中里 博子

古賀 宏延 渡辺 講一 田中 光 藤 田 紀代

重野 芳輝 山 口 恵三 泉川 欣一 斉藤 厚

原 耕平

(昭和59年5月7日受付)

(昭和59年7月10日受理)

Key words: Surfactant, Tween, Legionella

要 旨

界面 活 性剤 であ るTweenは 細 菌 学的 に用 い られ る場 合 は菌 の均一 化,材 料 の分 散剤 また はesterase

活 性 の測定 の際 の基 質 として用 い られ,そ の 中でTween60は 土 壌 か らLegionellaを 分離 す る際 の土壌

の処理 剤 として用 い られ て い る.ま たTween80は あ る種 の菌 の発 育 を阻害 す る作 用 があ る こ とは知 ら

れ て いた が,私 達 は各種TweenのLegionellaの 生 存 や発 育 に及 ぼす 影響 を検 討 した.

Legionellaの 生存 にお よぼ す影 響で は,L.pneumophila,serogroup1(Philadelphial)は 各 種Tween

に よって ほ とん ど影 響 を受 けなか った が,他 の菌種 で は6時 間作用 後 よ り,生 菌 数 は減少 し,そ の程 度

はTween濃 度 と相 関 々係 に あ った.特 にTween20はL.bozemanii,L.gormanii,お よびL.tongbea-

chaeに 対 して0.1%以 上 の濃 度 で殺菌 的 に作用 した.

Tween60は 他 のTweenに 比 較 して発 育 阻害 作 用 は少 な か った が,本 剤 の0。5%濃 度 以 上 で は,L.

pneumophilaの 一部 の菌 株 を除 いて はほ とん どすべ て の菌株 の発 育を 阻害 した.

以上 の こ とよ り,土 壌 か らのLegionella属 の検 出に際 して用 い る場合 に は,そ の濃 度を0.1～0.2%に

し,且 つ6時 間 以内 に処理 を行 な うこ とが重 要 であ る と結 論 した.

1.は じめ に

界 面 活 性 剤 は,乳 化 分 散 剤,浸 透 剤 な ど と して

化 学 分 野 で は 広 く 使 用 さ れ て い る.そ の 中 で

Tweenは 細 菌 学 の 分 野 で も菌 の 均 一 化,材 料 の 前

処 理 ま た は 菌 のesterase活 性 の 測 定 に お け る 基

質(substrate)と して 広 く利 用 され て い る.特 に

Tweenを 基 質 と し たesterase活 性 の 測 定 は,

Mycobacterium,Pseudomonas aeruginosaな どの

菌 種 を 同 定 す る た め に は 欠 か す こ との 出来 な い試

験 で あ る92).

Legionellaの 細 菌 学 的 検 査 で もTweenは 応 用

され,Morrisら3)は 自然界,特 に土壌からの本菌

の検 出に際 して,土 壌 の処 理剤 として0.5%の

Tween60水 溶液を用いている.本 菌は元来,土 壌

あるいは水中のアメーバをnatural hostと して

棲息する菌であるが4),私達がMorrisら の方法に

準じて行なった本菌の分布調査では,冷 却水から

の本菌の検出に比較 して,土 壌か らの検出が低率

であった5).こ のことか ら土壌の前処理剤 として

用いたTween60の 影響を無視できないものと考

え,本 菌に対する各種Tweenの 影響を検討 した.

その成績を報告す る.

II. 材料および方法

1. 供試菌株および界面活性剤

別刷請求先(〒852)長 崎市坂本町7の1

長崎大学医学部第2内 科 猿渡克比孔

1162 感染症学雑誌 第58巻 第11号

供 試 菌 株 は,当 教 室 保 存 の 標 準 菌 株L.Pneu-

mophila, serogroup 1～6(ATCC 33152, ATCC

33154, ATCC 33155, ATCC 33156, ATCC 33216,

ATCC 33215),L. micdadei (ATCC 33218), L.

bozemanii (ATCC 33217),L. dumoffli (ATCC

33279),L. longbeachae (ATCC 33469),L .

gormanii (ATCC 33297),L. jonlanis (ATCC 33623)

お よ びL.wadsworthii (ATCC 33877)の8菌 種,13

株 お よ び環 境 分 離 株15株 の 計28株 で あ った.

界 面 活 性 剤 は,Tween20 (polyoxyethylen sor-

bitan laurate), Tween 40 (polyoxyethylen mono-

palmitate ), Tween 60 (polyoxyethylen monoste-

arate), Tween 80 (polyoxyethylen sorbitan mono-

oleat)(和 光 純 薬 工 業 株 式 会 社)の4種 類 を使 用 し

た.

2. 各 種TweenのLegionella属 の 生 菌 数 に 及

ぼ す 影 響.

供 試 菌 株 の24時 間B-CYE寒 天 平 板 培 養 菌 を,

滅 菌PBS(pH7.2)を 用 い てMcFarland # 4～5

(108～109CFU/mI)濃 度 の 菌 浮 遊 液 を 作 製 した.

そ の0.1mlを 高 圧 滅 菌 し た0.01%,0.1%お よ び

1.0%の 濃 度 に調 整 した 各 種Tween加B-CYE溶

液9.9mlお よ び 対 照 と し てPBSの み9.9mlに 接

種 し,室 温 で1時 間,3時 間,6時 間,24時 間 お

よび48時 間 作 用 させ た 後,そ の0.3mlを 採 取 し,10

倍 希 釈 を 行 な い,そ れ ぞ れ の 希 釈 液0.1mlを

buffered charcol-yeast extract (B-CYE)寒 天 培

地 に接 種 し,35℃,4日 間 培 養 後 発 育 した コ ロ ニ ー

数 か ら生 菌 数 を測 定 した.

3. 発 育 に及 ぼ す 影 響

供 試 菌 株 の24時 間B-CYE寒 天 平 板 培 養 菌 を 滅

菌PBS(pH7.2)を 用 い てMcFarland # 5(2.0

～8 .5×109CFU/ml)の 濁 度 に浮 遊 させ,さ らに こ

れ をPBSに て10-1か ら10-6ま で10倍 希 釈 を行 な っ

た.そ れ ぞ れ の 菌 液 を 各 種Tweenを0.01%,0.1

%お よ び1.0%に 加 え たB-CYE寒 天 培 地(pH6.9

-0 .05)に ミク ロ プ ラ ン タ ー(佐 久 間 製 作 所)を

用 い て5.0μl接 種 し,35℃,4日 間 好 気 培 養 を 行 な

い,集 落 形 成 の 有 無 を観 察 した .対 照 と してTween

を含 ま な いB-CYE寒 天 培 地(pH6.9-0.05)を 使

用 した.

4. Esterase活 性 の検 討

esterase活 性 の 検 討 に供 した 菌 液 は 上 記3に

よ って 希 釈 調 整 し た 菌 浮 遊 液 を用 い た .esterase

活 性 用 培 地 はTween40お よ び60を そ れ ぞ れ

0.01%,0.1%お よび1.0%に 加 え たB-CYE寒 天

培 地(pH6.9-0.05)を 用 い た.

esterase試 験 は 供 試 菌 浮 遊 液 を ミク ロ プ ラ ン

タ ー を用 い て 測 定 用 培 地 に接 種 し,35℃,4日 間

培 養 を行 な い,集 落 の 周 囲 に生 じ る脂 肪 酸 カル シ

ウ ム の 晶析 に よ り,接 種 菌 量 お よび 基 質 濃 度 との

関 係 を 比 較 検 討 した.

III. 成 績

1. 生 菌 数 に及 ぼ す 影 響

Legionella pneumopma, L. bozemanii . L. long-

beachaeお よ びL. gormaniiに 対 して の各 種Tween

の影 響 を 経 時 的 に み た 生 菌 数 と し て表 した も の が

Fig.1,2,3,4で あ る.図 表 を簡 明 にす る た め に各

Tweenの 濃 度 を0.01%を 実 線 で,1.0%を 破 線 で

示 し,こ れ ら と同 様 の傾 向 を 示 した0.1%濃 度 に お

け る成 績 は 図 示 しな か った.

L. pneumophila, Philadelphia1株 に 対 す る各

種Tweenの 影 響 をFig.1に 呈 示 した.本 菌 は,

Tween20,40,60お よび80に 対 して 抵 抗 性 を示 し,

Tweenの 濃 度 を0.1～1.0%に 変 化 さ せ て も24時

間 ま で の 観 察 で は,そ の 生 菌 数 に何 ら影 響 を 受 け

な か った.

L. bozemaniiに 対 す る 各Tweenの 影 響 をFig.

2に 呈 示 し た.Tween20お よ びTween40の

0.01%の 低 濃 度 でL.bozemaniiは 影 響 を 受 け,生

菌 数 は経 時 的 に減 少 した.ま たTween60で は 濃

度 を あ げ る こ と に よ り,6時 間 作 用 後 よ り菌 数 の

減 少 化 傾 向 が み られ,特 にTween20の1.0%濃 度

は,本 菌 に 対 して殺 菌 的 に 作 用 し,当 初106CFU/

mlオ ー ダ ー あ った 菌 数 が24時 間 後 に は103CFU/

mlオ ー ダ ー に まで 減 少 して い た.Tween80に 対

して,本 菌 は抵 抗 性 を 示 し,0.01%か ら1.0%の 濃

度 内 で は,24時 間 作 用 で もそ の 生 菌 数 に 何 ら変 化

は認 め られ な か った.

Fig.3に 呈 示 し た よ うに,L.longbeachaeは 各

Tweenに 感 受 性 を示 し,Tween80の0.01%濃 度

を 除 い て は,他 のTweenの0.01%濃 度 で も生 菌

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Fig. 1 Inhibitory Activity of Various Tween Against Legionella pneumophila

Fig. 2 Inhibitory Activity of Various Tween Against Legionella bozemanii

1164感染症学雑誌 第58巻 第11号

Fig. 3 Inhibitory Activity of Various Tween Against Legionella longbeachae

Fig. 4 Inhibitory Activity of Various Tween Against Legionella gormanii

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数 は 経 時 的 に 減 少 が み られ た.1.0%各Tween濃

度 で は す べ て のTweenで 殺 菌 作 用 が み られ,そ

の 作 用 はTween20が 最 も強 く,次 い でTween

40,Tween80,Tween60,の 順 で殺 菌 作 用 が 強 い

傾 向 で あ った.

L.gormaniiに 対 す る 各 種Tweenの 影 響 を

Fig.4に 呈 示 した.本 菌 はTween60に 対 して は

抵 抗 性 を 示 し,0.01%お よび1.0%濃 度 で もほ と ん

ど菌 数 は48時 間 作 用 で も 変 化 は 認 め られ な か っ

た.し か し,他 のTweenに は 感 受 性 を 示 し,

Tween20お よ びTween80の0.01%濃 度 で は24

時 間 以 後 よ り菌 数 が減 少 し,Tween40の0.01%お

よ び1.0%濃 度,Tween20お よ びTween80の

1.0%濃 度 で は6時 間 作 用 よ り生 菌 数 が減 少 し,特

に1.0%Tween20で は48時 間 作 用 で 生 菌 数 は認 め

られ な か った.

2. 各 種TweenのLegionellaに 対 す る 発 育 抑

制 作 用

各 種Tweenを0.01%,0.1%お よ び1.0%に 加

え たB-CYE寒 天 培 地 を 用 い,各 種Tweenの

Legionellaの 各 菌 種 に対 す る発 育 阻 止 作 用 を 検 討

した 成 績 をTable1,2に 示 した.表 中 に は10綱6希

釈 で 発 育 した もの を4+,10-5希 釈 で 発 育 した も

の を3+,10-4か ら10轍3希 釈 で 発 育 し た も の を'

2+,10-2か ら10-1希 釈 で発 育 した もの を 十,原 液

接 種 で 発 育 した もの を ± で表 示 した.

Table1に は標 準 菌 株 の 発 育 状 態 を 呈 示 した.

L.pneumophi勉 お よ びL.gormaniiは 同 様 な 発

育 傾 向 を 示 し,Tween20を 除 い て は,他 のTween

の 各 濃 度 で もほ とん どの菌 株 が そ の発 育 を 阻 止 さ

Table 1 Growth of Legionella strains on various concentration of Tween 20, Tween 40, Tween 60 and Tween 80

in the B-CYE Medium

++++: Growth on 10-6 dilution, +++: Growth on 10-5 dilution, ++: Growth on 10-3-10-4 dilution, +: Growth on 10-1-10-2

dilution, ±: Growth on conc solution (McFarland #5),-: No growth, *: results are after incubate at 35℃ for 4 days

Table 2 Growth of environmental isolates on various concentration of Tween 20, Tween 40, Tween 60 and

Tween 80 in the B-CYE medium

++++; Growth on 10-6 dilution, +++: Growth on 10-5 dilution, ++: Growth on 10-3-10-4 dilution +: Growthon 10-1-10-2

dilution, ±: Growth on conc solution (McFarland #5),-: No growth *: results are after incubate at 35℃ for 4 days

1166 感染症学雑誌 第58巻 第11号

Table 3 Relationship between Concentration of Tween 40 and lnoculum Size of Bacterium to test Esterase

Activity of Legionella Species

+ : Positive reaction,— : Negative reacfion, W : Week positive reaction, NG No growth

*after incubate at 35•Ž, for 4 days

Table 4 Relationship between Concentration of Tween 60 and Inoculum Size of Bacterium to test Esterase

Activities of Legionella Species

+ : Positive reaction,— : Negative reaction, w: Week positive reaction NG : No growth

*After incubate at 35•Ž, for 4 days

れ なか っ た.し か し,0.1%濃 度 以 上 のTween20

で は 両 菌 種 と も発 育 が 抑 制 さ れ た.

L. micdadei, L. bozemanii, L.dumoffii および

L. jordanis はす べ て のTweenで0.01%の 低 濃 度

でも発育が阻止 される傾向であった.

環境分離株 に対す る成績をTable2に 呈示 し

た. L. pneumophila 3 株 の 各 種Tween加B-

CYE寒 天培地上での発育状態は標準菌株 とは異

なり,ほ とんどの菌株が各Tweenの0.1%濃 度で

も発 育 が 抑 制 さ れ,特 に80-019株 は0.01%

Tween 40加B-CYE寒 天培地 に原液接種で発育

したのみで,す べてのTweenの 各濃度で発育が

阻止 された.そ れ とは逆 に L. bozemanii82-192

株 は,Tween80の0.1%お よ び1.0%濃 度 を 除 く他

のTweenに 対 し て は1.0%濃 度 で も 抵 抗 性 を 示

し,発 育 が 抑 制 さ れ な か った. Legionella-like

organism (LLO) と同様な傾向がみられ,各 種

Tweenに よる発育阻止 作用 は菌株 に よって異

なった成績であった.

3。Esterase活 性 に お け る接 種 菌 量 と各 種

Tweenの 濃度 との関係

Legionella の 各 菌 種 はesterase活 性 を 有 す る

ため,本 菌のesterase活 性を測定する際の基質の

濃度 と接種菌量 との関係を検討 し,そ の成績 を

Table 3,4に 示 した.Table3に はTween40を

基質 とした場合の結果を示 したが,0。01%濃 度で

は,少 ない接種菌量で もesterase活 性が観察され

たが,そ の反応は弱 く,判 定が非常に困難であっ

た.0.1%濃 度では,菌 量が少ない場合には菌の発

育が抑制 され,106CFU以 上の接種ではすべての

昭和59年11月20日1167

菌株が発育し,そ のesterase活 性も明瞭に観察で

きた.1.0%に 濃度を上げると106CFU接 種でも

発育が抑制 され る菌株が存在 した.

Tween60(Table4)に おいてもTween40と

同様な傾向が得 られた.

IV.考 案

Tweenは 乳化剤 または分散剤として,化 学およ

び医薬 などの分野で広 く用いられるソルビタンポ

リオキシアルカラン誘導体であり,ソ ル ビトール

を強鉱酸で処理 し,生-じ た ソル ビタソと脂肪酸 と

を水酸化ナ トリウムを触媒 として不活性ガス中で

加熱を行な うことにより脂肪酸エステル(span)

が生成 され,こ のspanを 酸化エチ レンで処理す

ることによ り作 られる.さ らにTweenは このエ

ステル結合に用いられる脂肪酸の種類によって細

分される.

Tweenの 細菌学的応用は,乳 化,分 散あるいは

浸透などの性質を利用 し,材 料あるいは菌の懸濁

化,均 一化な どに用い られ,特 にTween80は

Dubosの 結核菌培養基 では脂肪 の乳化剤 として

利用されている6).さ らに細菌の生化学的性状を

検討する上で,Tweenは 脂肪酸エステル結合が加

水分解されると脂肪酸を遊離す るが,こ れを利用

して菌が産生す るesterase活 性を測定する際の

基質 として多 くの細菌で利用 されている.

Legionella の生理学的特性 も近年明 らかになっ

て きたが,未 だ多 くの未解決な部分 もある.栄 養

要求性の面では,本 菌は多 くの脂肪酸,特 にオレ

イン酸によって発育を阻害されることが明 らかと

な り7),Tween 80の本菌に対する発育抑制作用は

Pineら によって一部確認 されてはいる7)が,詳 細

な検討は未だ行なわれていない.私 達は本菌に対

する各種Tweenの 影響を検討したが,本 菌 の生

菌数 に及ぼす影響 は,菌 種 によって異 な り,L.

pnemophilc は各種Tweenに よって殆 ん ど影響

されなかった.し かし,他 の菌種はほとんどすべ

てのTweenに よって6時 間作用 より経時的に菌

数は減少し,-菌 数の減少傾向 とTween濃 度 とは

相 関 々 係 に あ っ た.特 にTween20は L. boze-

manii, L. gormanii お よび L. longbeachae に対

して殺菌的に作用 し,1.0%濃 度では24時 間作用

では3オ ーダー以上の菌数減少がみられた.発 育

阻害作用で も菌株 によって異なるが,各Tween

とも0:01%濃 度でも阻害作用を有する結果が得 ら

れた.そ の中でもTween 60は-Legionellaに 対す

る阻害作用は少ないが,Morrisら が報告 した土壌

の前処理剤 として使用する本剤の0.5%濃 度では

L. pneumophila の1部 の菌株を除いてほとんど

すべての菌が発育を阻害された.

本菌が各種脂肪酸によって発育が阻害 されるこ

とを考えると,各 種Tweenが 脂肪酸のエステル

結合物である以上,本 菌に対 して有害に働 くこと

は否定できないもの と思われる.し かし,上 述 し

たように各種Tweenの 中で,Tween60が 低濃度

では本菌に対 して阻害作用が少なく,ま た6時 間

作用では殆んどすべての菌種に対 して生菌数に与

える影響が少ない ことから,少 なくとも土壌の前

処理剤 として使用する場合には6時 間以内に処理

を行な うと,菌 の検出にはそれほど影響を及ぼさ

ない ものと考え られた.さ らに濃度の面では,

Morrisら が指定 した0.5%濃 度では菌に与える影

響が大であり,ま た界面活性作用(0.1%濃 度で水

の表面張力を低下させ,0.2%以 上では濃度に関係

な く表面張力を一定にさせ る作用)の 面か ら考え

るならば,0.1%な いし0.2%濃 度が適切であろ う

と考える.

さらにLegiondlaはesterase活 性を有 し,各種

Tweenの 中でTween40お よびTween60を 加水

分解す ることが判明したので,こ れらのTween

を基質 としてesterase活 性を測定す る場合の基

質の濃度および接種菌量の検討を行なった.こ の

結果,基 質の濃度を0.01%に すると,少 ない接種

菌量で もesterase活 性が観察できるが,そ の反応

は弱 く,判 定が非常に困難であった.ま た濃度を

1.0%に あげるとほとんどの菌株 が発育を阻害 さ

れ,0.1%濃 度では菌量が少ない場合には発育 しな

いことがあるが,106CFU以 上の菌量を接種す る

とほとんどすべての菌株が発育 し,そ のesterase

活 性 も明瞭 に観 察で きた こ とか ら,こ れ らの

Tweenを 基質 としてesterase活 性を測定す る際

には基質の濃度を0.1%に し,接種菌量を多 くして

試験することが望ましいと考えられた.

1168 感染症学雑誌 第58巻 第11号

V.結 語

Legionella species に対 す るTween20,40,60

および80に よる影響を検討し,次 のような結果を

得た.

1.生 菌数に及ぼす影響は,菌 種によって異な

り, L. pneumophila は各 種Tweenに よ っ て ほ と

んど影響されなかった.し かし,他 の菌種 はほと

んどすべてのTweenに よって経時的に生菌数は

減少し,そ の程度 とTween濃 度 とは相関々係に

あった.

2. L. pneumophila の約半数の菌株 およびL.

gormaniiはTween40,60お よ び80含B-CYE寒

天 培 地 上 で は発 育 を 阻 害 され な か った が,他 の 菌

種 で は,0.01%濃 度 で もそ の発 育 が 阻 止 され た.

3.土 壌 か らの 本 菌 の 検 出 にTween 60を 用 い

る場 合 に は,濃 度 を0.1～0.2%と し,処 理 時 間 は

6時 間 以 内 に 止 どめ るべ き と考 え られ た .

4. Legionella は菌 量 が 多 い とesterase活 性 を

示 し,Tween 40お よ びTween 60を 加 水 分 解 す る

が,本 剤 を 基 質 と してesterase活 性 を試 験 す る場

合 に は,濃 度 を0.1%に し,接 種 菌 量 を多 く した 方

が よ い と思 わ れ た.

文 献

1) Wayne, L. G., Donbek, J. R. & Russel , R .L.:

Classification and identification of Mycobacter-ia. I,. Tests employing Tween 80 as substrate.Amer. Rev. resp. Dis., 90: 588-597, 1965.

2) Sierra, G.: A simple method for the detection

of lipolytic activity of microorganisms andsome observation on the influence of the cotact

between cells and fatty substractes. Antonicvan Leeuwenhock, 23: 15, 1957.

3) Morris, G. K., Skaliy, P., patton, G. M. & Feerey ,J. C.: Method for isolating Legionnaires' dis-ease bacterium from soil and water samples."legionnaires" the disease

, the bacterium andmethodology (Ed. Jones. G. L. & Hebert , G. A.)U. S. Department of health Education andWelfare Public Health Service, C. D. C. Alth-

anta, Georgia, 1979, p. 86-90.4) Rowbotham, T. J.: Pleliminary report on the

pathogencity of Legionella pneumophila forfresh water and soil amoebae. J. Clin . Pathol.,33: 1179-1183, 1980.

5) 伊 藤 直 美: わ が 国 全 土 に お け るLegionellaの 分

布 お よび検 出菌 の病 原 性 に 関 す る研 究. 感染 症 誌,

57: 682-693, 1983.

6) 坂 崎 利一: 培 地 学 講座. 近代 出版, 東京, 1978 ,

p.335-347.

7) Pine, L., George, J. R., Reeves, M. W . & Harrell,W. K.: Development of a chemically definedliquid mediuim for growth of Legionella

pneumophila. J. Clin. microbiol., 9: 615-626,1979.

昭和59年11月20日 1169

The Influence of Surfactant (Tween) to the Growth and Producing Activityof Esterase of Legionella Species and Legionella-Like Organisms

Katsuhiko SAWATARI, Naomi ITOH, Masao NAGASAWA, Hiroko NAKASATO,Hironobu KOGA, Koichi WATANABE, Hikaru TANAKA, Kiyo FUJITA,

Yoshiteru SHIGENO, Keizo YAMAGUCHI, Kinichi IZUMIKAWA,Atsushi SAITO & Kohei HARA

2nd Department of Internal Medicine, Nagasaki University School of Medicine

Tween 60, one of the surfactants, is commonly used for isolation of Legionella species from en-vironmental samples as pretreating agent of soil. We have studied on the influence of each Tween

(Tween 20, Tween 40, Tween 60 and Tween 80) to the growth and esterase activity of Legionella speciesand Legionella-like organisms.

The tested strains suspended in 0.01 mol phosphate buffer saline (PBS, pH 7.2) were exposed tovarious cocentrations of the Tweens. As the result, Legionella pneumophila (Philadelphia 1) was notinfluenced at all of the Tweens, but other strains of Legionella species were decreased, in viable cellsafter 6 hours exposure to almost all kinds of the Tweens. There was closely correlation between thedecrease of viable cells and the concentration of the Tweens. Tween 20 showed bactericidal actionagainst L.bozemanii, L. gormanii and L. longbeachae in the concentration of 0.1%.

The, inhibitory activity of Tween 60 against the growth of Legionella species on B-CYE agar was lessthan those of other Tweens tested, but over than 0.5% concentration of this agent inhibited the growthof almost of all strains except L. pneumophila (ATCC33155, ATCC33215 and ATCC33153).

From the result, the procedure of the isolation of Legionella species and Legionella-like organismsfrom soil must be finished within 6 hours exposure of 0.1 to 0.2% of Tween 60.