新潟県clt利用のすすめ...ット工場があり平成28年は4520tのペレットが生産...

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新潟県CLT利用のすすめ

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Page 1: 新潟県CLT利用のすすめ...ット工場があり平成28年は4520tのペレットが生産 されました。またFIT制度認定の木質バイオマス発電所 が新潟市と三条市で稼働を開始するなど、木質バイオマス

新潟県CLT利用のすすめ

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はじめに

本県では、充実しつつある県内森林資源の利用を促進し林業・木材産業の活性化に取

り組んでいます。CLT(直交集成板)は、これまで木材があまり使われていなかった

中層・大規模建築物に使用できる木質材料として注目されており、本県では、県産材の

利用拡大に向けてCLTの普及に取り組んでいます。

平成28年にCLT等に関する国土交通大臣告示が制定され、CLTパネル工法の建

物については、国土交通大臣認定を受けず比較的容易な計算により建設が可能となりま

した。本県においても、平成29年度には県営施設をCLTパネル工法により整備しま

した。また、市営施設や民間施設でも本格的にCLTを導入した施設が整備されていま

す。今後はこれらの施設から得た知見などを提供することで、設計・施工のノウハウが

広まっていくことにより、県内にCLTが定着していくよう期待しています。

本書は、県内でCLTを活用し建物を建てようと考えている建築主や設計・施工者の

方々にむけて、県内や県外の活用事例等を紹介し、CLTのメリットや特徴、CLT建

築へのイメージづくりや設計を始める際の参考になるように編集しています。

本書が活用され、中層・大規模建築物の整備にCLTが活用されることで、県産材の

利用が一層拡大することを期待します。

新潟県農林水産部林政課

01

表紙写真:農業総合研究所中山間地農業技術センター

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はじめに・・・・・・・・・・・・・・・01

目次・・・・・・・・・・・・・・・・・02

1 . 新潟県の森林・林業・木材産業の動向・・03

2 . CLTとは・・・・・・・・・・・・・・05

3 . CLTの材料・製造・加工・・・・・・・09

4 . CLT関連告示・・・・・・・・・・・・12

5 . CLTパネル工法の構造・・・・・・・・13

6 . CLT建築物の防耐火設計・・・・・・・19

7 .CLT最新技術・・・・・・・・・・・・23

8 . 新潟県内のCLT活用事例・・・・・・・27

9 . 日本のCLT建築・・・・・・・・・・・35

10.海外のCLT建築・・・・・・・・・ 49

11 . 他構造とのコスト比較・・・・・・・ 55

関連資料・・・・・・・・・・・・・ 57

目 次

02

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木造公共施設

新潟県では、県産材の良さを広く県民に理解

してもらうため、公共的施設の整備に対して

支援を行っており、県産材を使用したこども

園や老人福祉施設が整備されています。また、

県営の施設(駐在所等)においても県産材に

よる木造化をすすめています。

非住宅

県内の低・中層の非住宅では、鉄骨造の割

合が高くなっています。近年、CLT等の新

技術や建築基準法の改正等の条件整備により、

このような施設でも木材利用の可能性が広

がっており、県産材を活用した木造施設の整

備の進展が期待されています。

新潟県の木造建築

木造住宅

新潟県では年間約13千戸の住宅が建築さ

れ、そのうち木造住宅は約10.3千戸で木造率

は79.0%となっており、全国的に見ても、木

造率が非常に高い県です。

しかし、住宅での県産材利用は多いもので

はありませんでした。このため、県では平成

17年度から越後杉ブランド認証材を使用した

住宅への支援を行い、平成27年度までの11年

間で6.5千戸の実績があり、県産材利用拡大

に大きな効果を上げています。

1.新潟県の森林・林業・木材産業の動向

本県は広大な森林面積を有し、また、民有林は人工林を中心に充実してきています。そのた

め、森林資源を循環利用しながら、県産材の流通を拡大することにより、林業者の収益を確保

し、林業・木材産業の振興を図ることが本県の重要な課題となっています。

県産材を使用した中条すこやかこども園

03

9.372 9.73511.319

9.432 9.511 10.283

1.6012.218

2.2032.026 2.137 2.729

85.481.4

83.782.3

81.779.0

0102030405060708090100

0

5

10

15

H23 H24 H25 H26 H27 H28

(%)(千戸)新潟県の住宅新設戸数と木造率

非木造

木造

木造率

資料:国土交通省「住宅着工統計」

0

50

100

150

200

木造

鉄筋

CO

鉄骨造

木造

鉄筋

CO

鉄骨造

木造

鉄筋

CO

鉄骨造

木造

鉄筋

CO

鉄骨造

木造

鉄筋

CO

鉄骨造

1F 2F 3F 4F~5F 6F~9F

(千m²) 延床面積(H27)資料:国土交通省「建築着工統計」

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新潟県の林業

木材価格の長期的な低迷や森林所有の零細性により、林業者の収益を十分に確保していくことが難しい状況にあ

り、林業生産も長期的に低下傾向にあります。一方で県内の森林資源は充実してきており、住宅や公共施設での利

用、合板や木質バイオマス利用への対応など需要の拡大対策や、人材育成、施業の集約化、路網整備等による安定

供給体制の確保により林業・木材産業の振興を図っていく必要があります。

新潟県の木材産業

県内の製材工場は193工場あり、1工場当たり出力数76 .0kW(全国平均126kW)と零細な工場が多数

存在する状況となっています。利用する丸太についても北洋材や米材を主体としていましたが、新潟県では平成1

3年度に「越後杉ブランド認証規定」を定め、住宅分野で

の県産材利用を推進しており、平成28年度は63工場で

28千m³が生産されました。最近では県産材のシェアは上

昇しています。

また、新潟市には国内でも数少ない国産南洋材合板工場

が2社あり、ラワン合板に加えて県産スギ材とラワンとの

複合合板を開発し県産材の利用拡大をすすめています。

木質バイオマス利用については、県内には12社のペレ

ット工場があり平成28年は4520tのペレットが生産

されました。またFIT制度認定の木質バイオマス発電所

が新潟市と三条市で稼働を開始するなど、木質バイオマス

の新たな需要が生まれています。

11.6 16.1 25.3 33.950.3 59.5

23.3 24.2

31.936.4

43.145.9

0

20

40

60

80

100

120

S40 S50 S60 H7 H17 H27

百万m³ 民有林森林蓄積の推移

天然林

人工林

資料:新潟県治山課調べ

コラム

新潟県の森林

新潟県は県土の総面積のうち68%にあたる85 .7

万㏊の広大な森林を有しています。針葉樹はスギを中

心にアカマツ、カラマツ等、広葉樹はブナ、ナラを主

体とした多様な樹種で構成されており、木材の生産は

もとより、県土の保全や水資源のかん養、保健・休養

等に大きな役割を果たしています。

森林のうち人工林は9齢級(45年生)以上の森林

が7割を占め伐採可能な時期を迎えており、蓄積量も

毎年116万m³ずつ増加するなど県内の森林資源は充

実してきています。

04

43400

25600

24200

17200

13000 14200 13100

1380014800 1440011800 12500 11600 11550

0

10000

20000

30000

40000

50000

S55 S60 H7 H17 H22 H23 H24 H25 H26 H27 H28

円/m³木材価格の推移(スギ丸太)

径14~22cm

径24~28cm

資料:農林水産省統計部「木材価格」

279 235 206 153 123 112 112 103 121 13884 99

216

153

61

34 8 13 11 11 3 23 8

0

100

200

300

400

500

600

S50 S60 H7 H12 H17 H22 H23 H24 H25 H26 H27 H28

千m³素材生産量の推移

広葉樹

針葉樹

資料:農林水産省「木材需給報告書」

1006713

441 229 226 209 175 181

55

31

25

21 24 33 29 34

243

180

125

123 121 13582 10118.6

19.521.2

33 32.635.8

28.732

15

20

25

30

35

40

45

50

0

200

400

600

800

1000

1200

1400

H7 H12 H17 H22 H25 H26 H27 H28

県産材供給

割合(%)供給量

(千m³)

木材入荷量と県産材供給割合の推移

自県材 他県材 外材 県産材供給率

資料:農林水産省大臣官房統計部「木材統計」

0

5,000

10,000

15,000

20,000

5 10 15 20 25 30 35 40 45 50 55 60 65 70 75 80 85 90 95 100

105以上

ha(人工林面積)

年(林齢)

人工林の齢級構成 資料:新潟県治山課調べ

県土利用種別 県内森林所有別 民有林成立別 人工林樹種別

スギ129

アカマツ6クロマツ2その他4

県土面積1,258千ha

森林面積857千ha

民有林面積

565千ha人工林面積141千ha

その他229

耕地172

森林

857

国有林292

民有林565

その他64

天然林113

人工林141

68%

18%

14%

66%

34%

25%

64%

11%

91%

4%

1%

4%

新潟県の森林の概要資料:新潟県農林水産部調べ

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2.CLTとは

Q.CLT材料とは

CLT(直交集成板)とはCross Laminated Timber(クロス .ラミネイティッド .ティンバー)の略

称で、ひき板(ラミナ)を横に並べた層を、板の方向が層ごとに直交するように重ねて接着した木

質系の材料です。製品としては厚みのある大きな板で、

建築や土木、家具などに使用されています。CLTは1990年

代の中頃よりオーストリアを中心として発展し、現在では

イギリスやスイス、イタリアなどヨーロッパ各地で多様な

用途の建築物に利用されています。

我が国での国産スギを主としたCLTの技術開発は、2010

年頃から本格的にスタートしました。CLTを使用した最初

の建築物は、高知県長岡郡にて2014年3月に建設された共

同住宅で、以降2018年2月までに69件の建築物が建設され

ています(日本CLT 協会HPより)。

Q.CLTを使うメリット

森林資源の有効活用

CLTパネルの最も大きなメリットは、パネル自体が「木の塊」であり、建物の構造体に使用す

ることで日本の森林資源を有効活用できる点です。一般的な在来軸組工法の躯体の木材使用量は

「0.15~0.20m3/m2」ですが、CLTパネル工法は「0.40~0.45m3/m2」と一般の在来軸組工法

と比べ2~3倍の木材使用量です。戦後大量植林された木材の多くが伐採し利用する適齢期を迎

えており、森林は、伐採後また新たに植林や健全な整備を行なうことで持続可能な循環スタイ

ルを維持し、土砂流出の抑制など多面的機能を有することができます。

CLTの需要拡大は、森林資源の有効利用とともに持続可能な森林整備につながります。さらに、

関連する中山間地域の雇用創出に結びつき地域経済の活性化も期待できます。

出典:平成2 8年度 森林・林業白書(林野庁)

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現場工期の短縮が可能

CLTパネルは接合部金物の孔(穴)及び切込の加工やパネルどうしの継手仕口等の加工工程は

工場で行なうため、現場での組み立てを容易にしています。そのため建設現場での工期が短く

なりコストの削減ができます。また、鉄筋コンクリート構造のように養生期間も必要ないため

建物全体の工期短縮ができます。

海外では部屋ブロックそのものを工場で組立て、ユニットにすることにより更なる工期短縮

を実現しています。

高い剛性を持った面材料

CLTは比較的高い剛性を保持した面材であり、床版として使用する場合、大きく片持ちするこ

とや、今までは複雑な構造計画が求められた二方向持ち出しが可能となります。

躯体軽量化のメリット

CLTパネル工法はRC造と比較すると建物総重

量が1/6になるとの試算があり、基礎の軽量化

や材料輸送コストの低減につながります。

現在、佐賀県で建設中の鉄骨造7階建ての事

務所建築では、床材料にCLTパネルを使用し建

物重量が20%軽減し躯体のコストカットができ

ているようです。今後はRC造や鉄骨造などに

部分的利用の可能性も見込まれています。

CLTを現しにした内装が可能

CLTは、構造でありながら仕上げ材として用

い、木目を生かした温かみのある空間を作る

ことができます。また、木の良さである香り

やヒヤッとしない触感、調湿効果を生かすこ

とも可能です。

提供:㈱三東工業社、撮影:杉野圭

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Q. 材料の特徴は

CLTは、構造躯体として建築物を支えると共に、断熱性や遮炎性、遮熱性、遮音性などの複合

的な能力を有する多機能性もった材料です。

断熱性・気密性

耐力壁で一般的に使用される150mmのCLTパネルの場合、CLTパネルの熱伝導率λを0.12W/

(㎡・K)と仮定すると、グラスウール16kg(ア)55と同性能程度の断熱効果が期待でき、パネルの厚

みが厚いほど断熱効果はさらに向上します。構造躯体であると同時に断熱材としても考慮でき

るため、断熱施工には有利に働きます。また、CLTは接合部等のすき間に気をつければ、ラミナ

を密に接着しているために隙間がほとんどありません。

遮熱性(耐火性)

木造の建築物は求められる性能により大きく耐火建築物と準耐火建築物に分類されます。 CLT

パネルは木のため熱により着火します。しかし、木は着火すると表面に炭化層を形成し、一度

に燃えつきることなく時間をかけてゆっくり燃

え進みます。耐火建築物は構造体を不燃材料で

包むメンブレン構造が一般的であり、日本CLT

協会で大臣認定を取得しています。準耐火建築

物は耐火建築物と同じメンブレン構造とCLTパネ

ル表面を現しにして、ある一定の時間表面が燃え

ても構造耐力上必要な部材断面を確保する「燃

えしろ設計」によるものの2種類あります。遮

熱性はCLTパネル厚さを確保することにより反

対側への熱の伝達は無いと考えられます。

遮音性

CLTパネルで構成される床、壁は重量があるため、一般的な木造建築物と比較して遮音性能上

は有利と考えられます。しかし、RC造建築物の床、壁と比較した場合の重量は小さく、特に床

重量衝撃に対しては仕様に工夫・対策が求められます。床衝撃音を抑える対策として、遮音マッ

ト等の敷き込み、床組を二重床組にする、音漏れを発生する設備貫通孔などの隙間を極力少な

くする等、室の用途によって設計上の配慮が必要です。

Q.剛性や耐力は

CLTパネルには剛性や耐力は十分あります。そのため接合部の耐力・靭性を確保し建物全体の

変形能力を安全側に確保することが大切になります。

また、在来軸組工法にパネル耐力が大きいからと単純に柱-梁間にはめ込み水平力に抵抗さ

せようとすると、パネル自体は余裕があるのですが軸組の柱-梁接合部を破壊したり構造体に

影響を与える可能性があるため、取り扱いには十分な注意が必要です。

写真提供:桜設計集団

07

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Q.耐久性は

CLTパネル工法の耐久性確保については、従来、木造建築物に対して取られてきた対策を講

じることによって一定の耐久性を確保することができると考えられますが、わが国では全く新

しい工法であり、建築実績が限られ、工法の耐久性を確保する設計・施工上の留意すべき事項

を明示した図書も未整備であるほか、パネル自体も樹種による耐久性区分やパネルの保存処理

の基準が示されていません。

CLTパネルは大きな形状が多く、仮にパネルの一部が腐朽した場合、パネル丸ごとの交換は容

易ではないため、主要構造部を構成するCLTパネル等を確実に保護するため、従来からある工法

以上に耐久性に配慮する必要があります。

Q.CLTのコスト

CLTパネル工法は、現在日本で普及を進めている段階であり、2016年度の生産実績も1万㎥に留まっており、価格は1㎥あたり150,000円となっています。今後、材料となるひき板(ラミ

ナ)の生産・流通体制の整備とともにコストの低減化が進むと考えられています。使い方も含

めた創意工夫により今後とも発展する可能性のある素材と言えます。

08

耐久性確保のための配慮

木造建築物の構造材の生物劣化を誘発する要因は水分(湿分)です。このため、構造材の生物劣化を防ぐためには

以下の対策を講じておく必要があります。

① 構造躯体に水分(湿分)を侵入させない対策

② 仮に構造躯体に水分(湿分)が侵入しても、侵入した水分(湿分)を排出させる対策

上記の対策は、

① 基礎・床組を高くする。

② 外壁通気工法を採用する。

③ 十分な軒の出を確保する。

④ 十分な床下・小屋裏換気を確保する。

⑤ コンクリートと木部の接触部において木部に水分を浸透させない。

⑥ 金物等において結露を生じさせない。

などの構法上の工夫を行うことによって講じることができます。このような構法上の対策は木造建築物の耐久性を

確保するための第一の防衛線であり、必須です。第一の防衛線が破られたとき、すなわち構造躯体に水分が浸入し

排出されなかったときに、構造材が生物劣化しないように耐腐朽性の高い樹種や防腐処理木材を使用し、第二の防

衛線としています。

現在、CLTパネル工法については、第二の防衛線が整備できていません。したがって、CLTパネル工法の耐久性を

確保するためには、第一の防衛線を確実に整備しておく必要があります。すなわち、駆体内に水分を侵入させたり、

滞留させたりしないための最大限の対策を講じておく必要があります。また、仮に第一の防衛線が破られた場合、

すぐに同様の防衛線を再構築することができるように、点検と維持管理を怠らないことが肝要です。

コラム

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3.CLTの材料・製造・加工

材料規格

CLT(直交集成板)の材料規格は、「直交集成板の日本農林規格」(平成25農水告示3079号)

に基づくものです。平成29年12月現在は国内に7ヶ所の工場がJAS認定を取得しています。

CLTの規格を理解する上でのキーワードは、「ラミナ」「プライ数」「層数」です。

「ラミナ」・・・・直交集成板を構成するひき板のこと

「プライ数」・・・厚さ方向に重ねているラミナの数 = 全体の段数

「層数」・・・・・繊維方向が異なる厚さ方向の層の数 = 直行する回数

断面構成とサイズ

CLTの断面構成は3層3プライ、3層4プライ、5層5プライ、5層7プライ、7層7プライ、9層9プ

ライの6種類です。1プライ(ラミナ)の厚さは12~50mm、CLTパネルのサイズは厚さ36mm~

450mm、 幅300mm以上、長さ900mm以上と規定されています。ラミナの巾は124mmが主流と

なっています。

また、「層」には「外層」と「内層」があり、外層と内層に同じ強度等級のラミナを用いる

「同一等級構成」のもの(表記は、Sameの頭文字を取って“S”表記)と、外層と内層に強度等

級が異なるラミナを用いる「異等級構成」のもの(表記は、Mix の文字をとって“Mx”表記)が

あり、それぞれに強度等級があります。

図 直交集成板の各部の名称

区分 数値

厚さ 36~450㎜

幅 300㎜~

長さ 900㎜~

9

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10

製造

製造工程の概要は、ひき板の受入→人工乾燥→ラミナの等級選別(グレーディング)→ラミ

ナの縦継ぎ→ラミナの仕上げ切削→ラミナ及びプライの仕組み→積層接着→加圧プレス→仕上

げ切削・寸法決めとなっています。

①ひき板の乾燥・選別 ②フィンガージョイントにて長さ方向を接合

③パネル成形 ③幅はぎ(オプション※)

④接着剤塗布

⑤圧締(プレス)

⑥切削・仕上げ

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加工

CLTパネルは製造工場で成形した後、パネル寸法の切断や接合部加工のため加工工場で加工

工程を行ないます。加工は大型専用機による全自動加工や手加工などです。ほとんどの加工工

程は工場で行なうため現場での組み立てを容易にしています。

専用加工機による加工状況1(㈱志田材木店)

手加工状況(㈱志田材木店)

専用加工機による加工状況2(㈱志田材木店)

11

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4.CLT関連告示

2016年3月31日及び4月1日に建築基準法に基づき、CLTパネル工法を用いた建築物の一般的な

設計手法等に関する一連の告示(CLT関連告示)が公布・施行されました。これにより、告示に

基づく構造計算等を行うことにより、CLTを構造部材として用いるCLTパネル工法を用いた建築

物について、大臣認定を個別に受けることなく、建築確認を受けて建築することが可能となり

ました。

また、告示に基づく仕様とすることにより、準耐火構造にて建築が可能な3階建て以下の建

築物については、CLTパネルを用いた耐力壁、屋根、床にも燃えしろ設計が可能になり、「現

し」でCLT等を用いることができるようになりました。

○CLT材料の品質及び強度 (【改正】2016年3月31日公布・施行)

○CLT部材等の燃えしろ設計(【改正】2016年3月31日公布・施行)

○CLTを用いた建築物の一般設計法(【新設】2016年4月1日公布・施行)

CLT関連告示による設計法の解説書は公益財団法人日本住宅・木材技術センターから以下の2

書籍が発行されています。

CLT関連告示等解説書 CLTを用いた建築物の設計施工マニュアル

12

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5.CLTパネル工法の構造

CLTパネル工法とはCLTパネルを水平力及び鉛直力を負担する壁として設ける工法です。床、

屋根にCLTパネルを採用せず、製材、集成材等の軸材と構造用合板の面材により水平構面を構成

するものもCLTパネル工法に含まれます。

架構の構成方法

鉛直構面は、無開口のCLTパネルを組み合わせて構成する「小幅パネル架構」と、開口を有す

るCLTパネルを用いて構成する「大版パネル架構」に大別されます。

また、柱・間柱と面材によって構成される在来壁を併用すること、柱梁フレームを併用する

こと、及び構造計算ルートによってはそれらに水平力を分担させることも可能です。

架構の構成方法としては、水平構面勝ちのいわゆるプラットフォーム工法として、基礎→鉛

直構面→水平構面 の順に構築し、以降は鉛直構面→水平構面 を順次積み上げる方法が一般

的で、既存のCLT建築物のほとんどがその方法によっています。そのほか、構造計算ルートに

よっては下図に示すような鉛直構面勝ちの架構を構成することも可能です。

在来軸組構法建築物・枠組壁工法建築物へのCLT利用

CLT以外の軸組材等に鉛直力を負担させ、水平力のみをCLTに負担させるような工法などは、

従来の在来軸組構法建築物の構造計算ルートと同様です。また枠組壁工法の床版、屋根にCLTパ

ネルを採用するもの、または非耐力壁のみにCLTパネルを採用するものも従来の構造安全性に関

する基準に準拠します。

13

在来壁、柱梁フレームの併用 鉛直構面勝ち架構

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構造計算フロー

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設計法の概要(平28年国土交通省告示第611号関係の概要)

本告示で規定しているCLTパネル工法は、CLTパネルを水平力及び鉛直力を負担する壁として設ける工法であり、

床や屋根はCLTパネルを使用しなくてもよい。これ以外の工法は対象外となる。

第一 適用の範囲

建築物の高さ階数に応じた計算ルートを規定

(1)時刻歴応答解析計算ルート

高さが60m超える建物

(2)保有水平耐力計算(ルート3)、限界耐力計算

高さが31mを超え、階数4以上

(3)許容応力度等計算(ルート2)

高さが31m以下、階数3以下

(4)許容応力度計算(ルート1)

高さが13m以下、軒高9m以下、階数3以下

第二 材料

(1)CLTパネルの品質

JAS規格品、ラミナ厚さ24mm~36mm

法第37条の材料認定を受けたもの

巾・長さは36cm以上

(2)構造上主要な部分の柱・横架材の品質

JAS製材、JAS構造用集成材、JASEW等

(3)接合金物の品質

構造耐力上必要な品質を有すること

第三 土台

(1)土台を設ける場合は基礎に緊結しなければならない

(2)土台の巾は上部CLTパネルの厚さ以上とする

第四 床版

(1)床面はCLTパネル若しくは在来軸組工法床組とする

(2)床パネルの外層ラミナ方向は、当該床パネルの長辺・短辺方向と平行でなければならない

(3)床パネルは平行する2つの壁又は梁によって支持しなければならない

(4)床パネル相互は構造耐力上有効に緊結する

(5)吹抜けなど床パネルを配置しない部分は耐風梁等を配置し風圧力等に対し有効に補強しなければならない

第五 壁等

(1)水平力及び鉛直力に対して安全であるように釣合良く配置する

最下階以外の壁は床版の上に配置すること

鉛直力を負担する柱等を配置できる

(2)壁パネルとして使用する場合、外層ラミナ方向は長辺又は短辺と平行でなければならない

(3)壁パネルの分類は小幅パネル架構、大版パネル架構(1)、大版パネル架構(2)の3種類とする

(4)地階の壁は、鉄筋コンクリート造でなければならない

第六 小屋組等

(1)水平面はCLTパネルで構成するほか他の木質構造を使用する事も可能

第七 防腐措置等

(1)土台及び耐力壁が基礎と接する面には防水紙等の措置を講じること

(2)地盤面から1m以内の部分は有効な防腐防蟻処理をおこなうこと

(3)地盤面から30cm以内の部分は鉄筋コンクリート造等で作る

(4)常時湿潤状態となる部分に使用する金物は有効なサビ止め措置を講じること

コラム

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小幅パネル架構 大版パネル架構(1) 大版パネル架構(2)

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第八 保有水平耐力計算と同等の計算方法(計算ルート3)

第九 許容応力度計算と同等の計算方法(計算ルート2)

第十 令82条各号及び令82条の4に定めるところと同等の計算方法(計算ルート1)(1)①仕様規定への適合確認

②令第82条各号の構造計算

③偏心率の計算

④屋根葺き材等の計算

(2)①耐力壁の構造は小幅パネル架構及び大版パネル(1)のいずれかとする

②壁耐力パネルの袖壁、垂れ壁、腰壁部分に設ける小開口は24cm以下とする

③耐力壁は上下階同じ位置に、同じ長さ、同じ厚さ以上で設けること

④耐力壁の許容せん断耐力(Qa)計算はQa=(3/H)×(Qo+1.5n)とする。但しQoは15kN/m

(3階建ての場合は10kN/m)とする

⑤垂れ壁脱落防止措置を設ける

⑥耐力壁はS60-3-3若しくはMx60-5-5に該当しラミナ厚さは24mm以上36mm以下とする

⑦引張り接合部仕様規定

⑧袖壁-垂れ壁せん断金物仕様規定及び床パネル相互の引張り金物仕様規定

⑨耐力壁に設けるせん断金物仕様規定

第十一 耐久性等関係規定の指定

第十二 令第36条第2項第一号の規定に基づく技術的基準の指定

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CLT構造計算ルートの特徴

①ルート1(許容応力度計算)

難易度:低

規 模:高さ13m以下・軒高9m以下

階数3以下

特 徴:※仕様規定への適合確認

・耐力壁パネルに鉛直荷重と水平荷重を負担させることができる

・耐力壁パネルの長さは90cm以上2m以下

・耐力壁パネルに使用できるCLTパネル規格は、S60-3-3及びMx60-5-5の2種類

・床、屋根がCLTパネルもしくは在来工法で水平構面を確保する

・耐力壁パネルの配置は上下階で同じとしなければならない

・平面形状斜めはNG

など、仕様規定を守る必要があり、設計に制限がある。

※耐力壁の量の確認を行い、架構の応力の算定はしない

※クロスマーク金物((公財)日本住宅・木材技術センター制定)が用意されており、これを利用する

※構造計算用のプログラムを用いないで計算ができる

②ルート2(許容応力度等計算)

難易度:中

規 模:高さ31m以下

階数3以下

特 徴:※クロスマーク金物を利用するか、中層用の金物は規格品がないので金物を設計し、第三者機関で実験

を行い品質や剛性、耐力の確認をする必要がある

※適合性判定の審査が必要となるため、適判機関へ事前に相談することが望ましい

※任意形状解析プログラムや有限要素法のプログラムを用いて架構応力を算定

③ルート3(保有水平耐力計算、限界耐力計算)

難易度:高

規 模:高さ31m超える

階数4以上

特 徴:※ルートのなかで最も自由度の高い設計が行える

※中層用の金物は、規格品がないので金物を設計し、第三者機関で実験を行い品質や剛性、耐力の確認

をする必要がある

※任意形状解析プログラムや有限要素法のプログラムを用いて架構応力を算定

※適合性判定の審査が必要となるため、適判機関へ事前に相談することが望ましい

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CLT床・屋根版スパン表(株式会社木構研 作成)

1)このスパン表は決められた荷重(固定荷重及び積載荷重)に対してCLTパネルの規格別に支点間距離が何mま

で支持できるかを表したグラフです。

2)荷重は屋根と床に分けて決めています。屋根は瓦葺き屋根と金属板葺きの2種類、床はフローリング仕上げの

みとなっています。

3)積載荷重はその床に室用途によって建築基準法で定められた荷重を設定しています。室用途は住宅(共同住宅

住戸部分含む)、事務所、教室です。屋根は積載荷重を含んでいません。

4)スパン検定比はCLTパネルのたわみ量基準をスパンの1/250として求めています。そのためたわみ量が1/250

を超えると1.00を超えてその厚さのCLTパネルは使用しないことをお勧めします。

5)たわみ検定は変形増大係数を掛けて検定しています。屋根は1.0、床は2.0としています。

6)スパン表はあくまでも目安です。屋根・室の仕上げの違いや振動を考慮して慎重に断面を決めて下さい。

※スパン表について

・検定比はたわみ基準1/250に対する検定比を示す。

・CLTパネルの厚さはS60-3-3=90mm、S60-5-5=150mm、S60-5-7=210mm

S60-7-7=210mm、Mx60-3-3=90mm、Mx60-5-5=150mm、Mx60-5-7=210mm

Mx60-7-7=210mmとして計算。

(1)屋根版 仕上げ:瓦葺き(4寸勾配)

固定荷重:1,100N/㎡積載荷重: 0N/㎡変形増大係数:1

(2)屋根版 仕上げ:金属板葺き(3寸勾配)

固定荷重:600N/㎡積載荷重: 0N/㎡変形増大係数:1

コラム

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(3)床版 仕上げ:フローリング張り

固定荷重:650N/㎡積載荷重:1,800N/㎡(住宅用)変形増大係数:2

(4)床版 仕上げ:フローリング張り

固定荷重:650N/㎡積載荷重:2,900N/㎡(事務所用)変形増大係数:2

(5)床版 仕上げ:フローリング張り

固定荷重:650N/㎡積載荷重:2,300N/㎡(教室用)変形増大係数:2

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6.CLT建築物の防耐火設計

CLTを用いた建築物に適用される建築基準法の防火・避難規定は、通常の木造の建築物と同様

であり、CLTを用いた建築物の用途、規模(延べ面積・階数・高さ)及び、建築する防火地域等

の地域(以下、地域区分)に応じて基準が異なります。基準に応じ、耐火建築物、準耐火建築物、

その他建築物となります。CLT建築物はどの仕様の建物にも対応可能です。ただし、CLTパネル

素材を現しにしたい場合は、準耐火建築物とその他建築物となり耐火建築物は現在仕様が決めら

れていません。

木材が太くて厚い場合はゆっくり燃える特徴を利用した燃えしろ設計が、平成28年3月31日の

告示改正によりCLTパネルを用いた耐力壁、屋根、床にも可能になりました。

CLTパネルは、寸法安定性や遮音等、防火以外の要求から、非耐力壁や屋根には90mm、耐力

壁では150mm、床には210mmといった厚さのものが一般的に使用されます。そのため、防火上

も、非損傷性や遮熱性・遮炎性が十分期待できます。従来の告示の仕様と合わせて、防耐火性能

が要求される建築物の全ての部位がCLTパネルにより構成できるようになりました。

また、CLTパネルは管理されたラミナを用いてパネルとして工場で製造されるため、製材等に

比べて寸法安定性が期待でき、防火性能を含む高い品質が期待できます。

写真提供:桜設計集団

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燃えしろ設計

(1)燃えしろ設計の概念

一般的に、建築物の規模が大きくなるほど建築基準法において要求される防耐火性能も高く

なります。建築物の主要構造部(柱、梁、壁、床、屋根等)とその仕口や接合部には、主要構

造部の部位等に応じて、30〜60分の準耐火性能(非損傷性、遮熱性、遮炎性)を確保するため

の防火対策が必要です。

CLTパネルからなる主要構造部材や接合部の準耐火性能を確保するには、木材部分に防火被覆

を設置するなどして、木材の炭化を抑制する方法(メンブレン防火被覆)と、部材の必要断面の

周囲に火災時に荷重負担を期待しない木材を確保する方法(燃えしろ設計)が用いられます。

燃えしろ設計では、内装が制限される部分を除き、構造体の木材を現しとすることが可能となり

ますが、火災時に木材が炭化する厚さ(燃えしろ)だけ大きな部材断面が必要です。

CLTパネルは、火災時に火炎や高温ガス、強い放射熱などの火熱を受けると着火し、加熱を受

けた表面から熱分解が進み、炭化層を形成します。木材は加熱初期には激しく燃えることがあり

ますが、木材の表面に炭化層が形成され続けると、炭自体が断熱材の役割を果たして燃焼の進行

速度が燃焼初期に比べて緩やかになります。木質パネルの厚さが大きい部材では、火災が一定の

時間継続しても残存断面の荷重支持能力に期待できます。燃えしろ設計ではこのような木材の

燃焼特性と残存断面の性能を生かして、部材や接合部の防耐火設計を行います。

(2)燃えしろ寸法

①準耐火性能(非損傷性)に応じた外壁・間仕切壁(耐力壁)、床及び屋根の燃えしろ寸法と条件

壁、床、屋根 準耐火性能 条件

CLT パネル等 30 分

(屋根に限る) 45 分 1 時間 日本農林規格適合品

使用環境:A又は B

接着剤の

種類

フェノール樹脂等 2.5cm 3.5cm 4.5cm ラミナ厚さ:12mm 以上

上記以外の接着剤 3cm 4.5cm 6cm ラミナ厚さ:21mm 以上

外壁、間仕切壁(非耐力壁) 準耐火性能 条件

CLT パネル等 30 分 45 分 1 時間 日本農林規格適合品

使用環境:A又は B

接着剤の

種類

フェノール樹脂等 6.5cm 7.5cm ラミナ厚さ:12mm 以上

残存断面(3cm)に互いに接着され

た平行層と直交層が存在するこ

上記以外の接着剤 7.5cm 9cm ラミナ厚さ:21mm 以上

残存断面(3cm)に互いに接着され

た平行層と直交層が存在するこ

②準耐火性能(遮熱性、遮炎性)に応じた外壁・間仕切壁(非耐力壁)の燃えしろ寸法と条件

燃えしろ設計における必要断面 メンブレン防火被覆における必要断面

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防火上の留意点

(1)接着剤の種類によるCLTの炭化速度の違い

接着剤の種類によって耐熱性が異なるため、使用される接着剤により、告示において必

要となる燃えしろの厚さが異なります。(前述)

(2)部材を構成するCLTパネルの接合部の非損傷性の確保

CLTパネルの接合部が加熱により構造耐力上支障のある変形、破壊等の損傷を生じないよ

うに接合する必要があります。

(3)CLTパネルで構成する部材により防火区画を構成する際の遮熱性・遮炎性の確保

CLTパネル特有の問題ではありませんが、CLTパネルを用いた部材を組み合わせて防火区

画を構成する上で、壁や床の部材の接合方法やその目地処理、管の貫通部分や開口部に

設ける防火設備との取り合い部分等の遮熱性、遮炎性の確保に留意が必要です。

(4)CLTパネルに防火被覆(燃えしろを含む)を用いた構造

CLTパネルに防火被覆(燃えしろを含む)を用いた構造が利用可能ですが、防火構造の外

壁には、燃えしろ設計の適用はできないため、準耐火構造の構造方法とするか、防火構造

に適合する防火被覆を設置する必要があります。

(5)CLTパネルの現しと内装制限

CLTパネルを用いた建築物でも内装に準不燃材料や難燃材料が要求される場合は、要求に

従い防火材料で仕上げる必要があります。

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(1)防耐火設計の概要

大規模な建築物や不特定または多数の人が利用する建築物では、火災が発生した場合、人命への危険性や周辺へ

被害が広がる可能性が高くなります。建築基準法では、このような建築物に対して火災により建築物が倒壊するこ

とがないように、火災に対する防火措置を施さないまま木造等で建設することを制限し、地域・規模または用途に

応じて耐火建築物または準耐火建築物としなければならないと規定しています。

(2)建築物に要求される防火性能

建築基準法により、建築物に求められる主な防火性能は、

①出火を容易にさせない性能

②火災の初期に早く火災が拡大し延焼することを抑制する性能

③安全に避難ができる性能

④火災の範囲を局限化し、倒壊を防止する性能

⑤市街地火災を抑制する性能

⑥消防活動を支援する性能

等であり、用途・規模・地域区分に応じて耐火建築物等建築物全体に関する要求、部位に関する防•耐火性能の要

求、 あるいは防火区画、内装制限、避難施設等に関する要求を確認し、これらを満たすよう設計を進める必要が

あります。

(3)建物用途

用途に関しては、法第27条に規定されており、例えば、

・物販店舗のような不特定多数の利用者、あるいは、ホテルのような就寝を伴う用途の建築物

・学校のような特定多数の利用者、あるいは、共同住宅のような特定の利用者の就寝を伴う用途の建築物

・可燃物が多量に持ち込まれる倉庫等の用途の建築物

などでは、避難安全や防火対策を考えるうえで、考慮すべき要因が異なります。そのため、法ではこのような建築

物を特殊建築物として、法別表第1の各項に示す用途により、規模(階数と面積等)に応じて、 避難安全確保の観点や

火災が発生した際の影響の大きさの観点から、耐火建築物や準耐火建築物、特殊建築物内の避難者の全てが避難を

終了するまでに要する時間、倒壊や延焼等を防止する建築物(特定避難時間倒壊等防止建築物)などの建築物とし

て、主要構造部や外壁の開口部に防•耐火性能が要求されます。

(4)規模

CLTを用いた建築物の規模に関しては、高さと面積により、耐火建築物や政令で定める技術的基準に適合する建

築物、主要構造部の耐火性能が要求されます。

高さに関して、法第21条第1項により、高さ13m又は軒高9mを超える建築物は主要構造部を耐火構造としなけれ

ばなりません。ただし、主要構造部を1時間準耐火基準に適合する準耐火構造(非耐カ壁 の外壁の延焼のおそれの

ある部分以外の部分及び屋根は30分準耐火構造)とした建築物及び、30分加熱に耐える構造とすれば主要構造部

を耐火構造としなくてもよいですが、大規模な木造建築物が激しく燃えると、避難上及び消防活動上の支障となる

ため、建築物周囲に幅3m以上の通路が要求されます。その場合でも、200㎡以内ごとの区画と開口部を通じた上階への延焼防止策を講ずれば燃焼範囲が制限されるため通路の設置は緩和されます。

面積に関して、法第21条第2項により延べ面積が3,000㎡を超える建築物は、主要構造部を耐火構造とするか、「防火壁等」により区画し、各区画の床面積の合計をそれぞれ3,000㎡以内としたものとしなければなりません。また、令第114条第3項により、小屋組が木造で建築面積が300㎡を超える建築物は主要構造部を耐火構造とするか、令第115条の2 (防火壁の設置を要しない建築物)に適合するものや農地に建つ畜舍等を除いて、火災時に小屋

組が燃焼して早期に火災拡大することを防止するため、けた行間隔12m以内ごとに小屋裏に準耐火構造の隔壁を

設けるか、小屋裏の直下の天井全体を強化天井(令第112条第2項第1号)としなければなりません。

(5)地域区分

市街地火災を抑制するために、都市部では火災が発生し

ても、市街地火災への拡大を防止することを目的に定めた

防火地域、火災が発生しても市街地での火災の延焼を遅く

することを目的に定めた準防火地域、防火地域•準防火地

域以外に屋根の不燃化等により延焼を抑制するために特定

行政庁が指定した法第22条地域、その他の地域に、都市

計画によって分けて、地域区分と延べ床面積・階数によっ

て建築物に防・耐火性能が要求されています。

なお、法22条地域内及びその他の地域では、地域区分と

延べ面積による制限はないものの、木造建築物を計画する

うえでは、延べ面積や建築物高さには建物規模を再確認す

る必要があります。

コラム

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