新型dcsの中規模プラントへの適用scada scada 計 装 ル ー プ instrument loop...

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神鋼環境ソリューション技報 16 Vol. 9 No. 12012 8下梨 孝 Takashi Shimonashi 技術士(電気電子部門) 藤本康博 Yasuhiro Fujimoto 技術士(電気電子部門) 林田敏卓 ** Toshitaka Hayashida 技術士(電気電子部門) 真野文宏 Fumihiro Mano 新型 DCS の中規模プラントへの適用 Application of New Style DCS for Medium Scale Plant プラントの計装制御システムにおいては計装メーカの提供する従来型 DCS に代わって計装制御 CPU をシーケンス制御用システムに組込んだ新型 DCS が数多く採用されるようになってきた。 新型 DCS は主に計装ループ数が100以下の小規模プラントに採用されてきたが,これを計装ルー プ数が300~600の中規模プラントに適用するにはいくつかの課題があった。 これらの課題を解決するために,最適なシステムの構築を行うとともに,不足する標準画面やデ ータベース機能を開発した。その結果,従来型 DCS と同等の機能を持つコストパフォーマンスの 高いシステムとなった。 In the eld of process control system for plant, a new style DCS, with which a CPU dedicated for instru- ment control is built into sequence control system, has often replaced conventional style DCS provided by instrument company. A new style DCS has been adopted for small scale plant with less than 100 instru- ment loops. There were several problems in order for us to adopt it for medium scale plant with 300- 600 instrument loops. To solve these problems, we have found the most optimum system conguration and developed standard graphic screens and database functions which had been insufcient. As the result, our new style DCS has got the same capability as a conventional style DCS does. DCS DCS SCADA SCADA 計 装 ル ー プ Instrument loop 中規模プラント Medium scale plant 【セールスポイント】 新型 DCS を機能強化してコストパフォーマンスの高い計装制御システムを中規模プラントに 適用できるようになった。 Key Words当社の納入するごみ焼却プラントや汚泥焼却プラ ント等のうち,計装ループ数が600以下の中規模プ ラントにおいては,その信頼性,制御性,操作性の 良さから計装メーカの計装制御システムを採用して きた。 近年,技術の進歩とともにプラントの計装制御シ ステムの形態も多種多様になってきている。とくに シーケンス制御が得意なシステムに計装制御用 CPU を組込んで,シーケンス制御と計装制御を同 一の入出力装置を介して実行する形態が急速に普及 してきた。

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神鋼環境ソリューション技報16 Vol. 9 No. 1(2012/ 8)

下梨 孝*

Takashi Shimonashi技術士(電気電子部門)

藤本康博*

Yasuhiro Fujimoto技術士(電気電子部門)

 林田敏卓**

Toshitaka Hayashida技術士(電気電子部門)

真野文宏*

Fumihiro Mano

新型 DCS の中規模プラントへの適用Application of New Style DCS for Medium Scale Plant

 プラントの計装制御システムにおいては計装メーカの提供する従来型 DCSに代わって計装制御用 CPUをシーケンス制御用システムに組込んだ新型 DCSが数多く採用されるようになってきた。 新型 DCSは主に計装ループ数が100以下の小規模プラントに採用されてきたが,これを計装ループ数が300~600の中規模プラントに適用するにはいくつかの課題があった。 これらの課題を解決するために,最適なシステムの構築を行うとともに,不足する標準画面やデータベース機能を開発した。その結果,従来型 DCSと同等の機能を持つコストパフォーマンスの高いシステムとなった。

In the field of process control system for plant, a new style DCS, with which a CPU dedicated for instru-ment control is built into sequence control system, has often replaced conventional style DCS provided by instrument company. A new style DCS has been adopted for small scale plant with less than 100 instru-ment loops. There were several problems in order for us to adopt it for medium scale plant with 300-600 instrument loops. To solve these problems, we have found the most optimum system configuration and developed standard graphic screens and database functions which had been insufficient. As the result, our new style DCS has got the same capability as a conventional style DCS does.

DCS DCS SCADA SCADA 計 装 ル ー プ Instrument loop 中 規 模 プ ラ ン ト Medium scale plant

【セールスポイント】 新型 DCSを機能強化してコストパフォーマンスの高い計装制御システムを中規模プラントに適用できるようになった。

Key Words:

ま え が き 当社の納入するごみ焼却プラントや汚泥焼却プラント等のうち,計装ループ数が600以下の中規模プラントにおいては,その信頼性,制御性,操作性の良さから計装メーカの計装制御システムを採用してきた。

 近年,技術の進歩とともにプラントの計装制御システムの形態も多種多様になってきている。とくにシーケンス制御が得意なシステムに計装制御用CPUを組込んで,シーケンス制御と計装制御を同一の入出力装置を介して実行する形態が急速に普及してきた。

神鋼環境ソリューション技報 17Vol. 9 No. 1(2012/ 8)

 また,監視に用いるモニタ用システムは計装メーカ専用のシステムだけでなく,計装メーカ以外のソフト開発会社が開発したパッケージソフトを採用する形態も増加している。 当社においてもこの潮流に注目し,計装制御システムのコストパフォーマンスを高めるために,これらの形態を中規模プラントに適用する可能性を検討した。 その結果,制御性能は十分であることを確認することができた。しかしながら,同時に採用に向けていくつかの課題が浮かび上がった。そしてそれらの課題を一つずつ解決し,従来のシステムと同等の機能を持った新システムとして採用する目途をつけた。本稿ではその具体的な検討過程について報告する。1. 計装制御システムの現状1. 1 DCS の誕生 プラントの計装制御(温度・圧力・流量制御)には1970年頃からパネル計装制御(監視盤に単ループ調節計を並べたもの)に代わり,計装メーカが開発した DCS(Distributed Control System)が採用されるようになった。DCSとはモニタによる監視と機能ごとに CPU(演算部)を分割した制御装置とから構成される分散型制御システムのことである。1)

1. 2 シーケンス制御システム 一方,時を同じくして工作機械やユニット機器のシーケンス制御用に電気メーカによって開発されたシーケンス制御システムがプラントの機械制御に採用されるようになった。このシステムは,その市場性から販売台数が DCSに比べて圧倒的に多く,デジタル入出力モジュール等の I/Oモジュールのコストが DCSのそれより安い。1. 3 新型 DCS このシーケンス制御システムは主にデジタル信号(ON-OFF信号)を取扱うために開発されたが,小規模システムにおいてアナログ信号(4-20 mA直流信号)を取扱えるようになり,さらに PID演算機能も具備されるように発展してきた。 2000年代に入ると電気メーカは計装制御を専用で処理できる計装 CPUを開発し,シーケンス制御システムと同じプラット

フォームに組込み, I/Oモジュールをシーケンス制御と共用できるようにした。 その後この計装 CPUは制御機能の充実や2重化CPUの開発等冗長性,信頼性の確保を行い,小規模プラントの計装制御システムとして積極的に拡販されるようになった。本稿ではこの計装制御システムを新型 DCSと呼び,計装メーカの DCSを従来型DCSと呼ぶ。2. 当社のプラントメニューと新型 DCS2. 1 当社のプラントメニューの規模 当社では計装ループ数の少ないリサイクル施設や水処理設備から,計装ループ数が600以上の大規模プラントまで幅広いメニューがある。 中でも計装ループ数の多いものは燃焼制御,ボイラ・タービン制御等が含まれるごみ焼却プラント,汚泥焼却プラントである。2. 2 新型 DCS の検討 当社ではこれらのうち,計装ループ数が300~600までの中規模プラントでは,計装制御システムに計装メーカの従来型 DCSを採用してきた。しかしながら,計装制御システムのコストパフォーマンスを高めるために新型 DCSの採用を積極的に検討することにした。3. 新型 DCS の特長 新型 DCSは先に述べたように計装 CPUをシーケンス制御システムのプラットフォームに組込んだものであるが,監視操作用のモニタを含めたシステムは図1に示すように構成される。

図1 新型 DCSシステム構成図

汎用SCADA

モニタ モニタ

サーバ サーバ

モニタ モニタ

制御LAN

R-IO R-IO R-IO R-IO R-IO R-IO

ETHERNET

ETHERNET

2系電気CPU 2系計装CPU1系電気CPU 1系計装CPU共通系計装CPU共通系電気CPU

神鋼環境ソリューション技報18 Vol. 9 No. 1(2012/ 8)

 図2に示すように従来型 DCSはモニタと CPU間が専用の制御 LANで接続されているが,新型 DCSは汎用のイーサネットケーブルで接続され,通信プロトコルは汎用の TCP/IPまたは UDP/IPを採用している。監視操作用の画面パッケージソフトウェアは,従来型 DCSでは計装メーカ専用の SCADA (Supervisory Control And Data Acquisition)ソフトウェア(画面作成用ツール,以下 SCADAと呼ぶ)であるのに対し,新型 DCSでは汎用 SCADAを使用する。汎用 SCADAとは計装 CPUのメーカとは異なるソフト開発会社により開発されたものでCPUの機種は問わないものである。 表1に従来型 DCSと新型 DCSの主な比較を纏めた。1)

4. 新型 DCS 採用への課題 新型 DCSを当社の中規模プラント案件に適用する上で,検討しなければならない課題について以下に述べる。4. 1 計装制御機能 当社の主力メニューである発電付ごみ焼却プラントに適用する上で,以下の計装制御機能を具備しているか確認する必要がある。・炉の燃焼制御にとって重要な空気比演算が実現可能か?・重要な制御ループであるボイラドラムレベル制御等が問題なく実現できるかどうか?たとえば1要素制御⇔3要素制御がバンプレスに切替えられるか?・制御ループの特徴に応じて制御モードを I-PD(比例微分先行型 PID制御),PI-D(微分先行型 PID制御),PID(基本型 PID制御),いずれかを選択できるか?4. 2 通信性能 監視モニタのトレンド画面において計装ループのデータすべてを1秒おきに更新させるためには,SCADAが計装 CPUから,PV(現在値),SV(設定値)を含めたすべてのパラメータを1秒以内に取得する必要がある。1ループ当たりのパラメータは全部で100ワード以上あるため,CPU当たりのループ数が多いと1秒以内でデータ収集できない可能性がある。4. 3 操作性 当社のプラントではプロセス1系列当たり2台のモニタで運転される。この場合,計装ループのパラメータ調整は,メインのグラフィック画面の上に小

図2 従来型 DCSシステム構成図

専用SCADA

モニタ モニタ モニタ モニタ

制御LAN

R-IO

R-IOR-IOR-IO

ETHERNET

制御LAN

ETHERNETETHERNETR-IOR-IO

共通系計装CPU 1系計装CPU 2系計装CPU

共通系電気CPU 1系電気CPU 2系電気CPU

表1 従来型 DCSと新型 DCSの比較

項   目 従来型 DCS 新型 DCS

誕 生 1970年~ 2000年~

システム構成

モ ニ タ ~16台程度 ~8台程度

C P U ~32台程度 ~16台程度

ループ数 ループ数大(~500/ CPU) ループ数小(~200/ CPU)

演 算 速 度 0.2~1秒 0.1~1秒

ネットワーク 10Mbps ~1Gbps

監 視 操 作 パッケージ 計装メーカ専用 SCADA 汎用 SCADA

コ ス ト導 入 高 価 安 価

保 守 高 価 安 価

神鋼環境ソリューション技報 19Vol. 9 No. 1(2012/ 8)

ウィンドウでチューニング画面,トレンド画面を表示させる必要がある。ところが市販の SCADAを使用すると,計装 CPUの持つ制御モジュールとリンクしたパラメータ調整用のチューニング画面がほとんど無い。またトレンド画面もフルスクリーンであることが一般的である。4. 4 履歴管理機能 プラントシャットダウン等のトラブルが発生した際,原因究明のため,イベント履歴(機器の運転,停止履歴),アラーム履歴,操作履歴(設定値の変更,機器の運転停止操作等の履歴)等を検索,抽出する機能が必要である。汎用 SCADAにはイベント履歴とアラーム履歴は標準であるが,操作履歴は無いのが一般的である。 また,汎用 SCADAにはトレンド画面の表示機能はあるが,過去の任意の時間を指定して表示する機能がない場合が多い。これもプロセス上のトラブル究明の際に有効な機能である。4. 5 その他の機能 コントローラの故障等で CPUを入替えたときは,以前と同じパラメータで運転再開したい。そのため,ソフトウェアのバックアップを取るとともに,最新のチューニングパラメータを保存しておく必要がある。 またプロセス改善の検討を行うために,過去の1分間隔,1秒間隔のデータを一定の期間ごとにCSVファイルの形式で保存する機能が必要である。 汎用 SCADAにはこれらの機能がない。5. 課題の解決策5. 1 計装制御機能 炉の燃焼制御にとって重要な空気比演算機能(図3)や温圧密度補正をするための折線関数等の計装制御機能について,新型 DCSの制御機能開発言語を使ってプログラムを開発することで実現できた。その他4.1で述べた計装制御機能のさまざまな要求事項についても同様にプログラムを開発することで満足させることができた。(図4)5. 2 通信性能 従来型 DCSでは画面更新周期および制御周期は1秒であり,すべての計装ループのデータが1秒毎に更新される。これはトレンドデータを1秒ごとに更新するとともに運転操作の応答性を確保する上でも不可欠な要求事項である。 新型 DCSの場合,SCADAソフトと計装 CPU間の通信プロトコルは TCP/IPまたは UDP/IPであり,SCADAソフト側から計装 CPUに読出し要求を送

信することでデータを収集する。計装 CPU側の制約から SCADAソフトから1回の読出し命令で受信可能なデータ量に限界があり,1回の読出し速度(80 msec程度)を考慮すると,仮に200ループのデータを読出す場合,1秒以内に全データを読出すにはサーバと計装 CPU間に複数のポートを設ける必要があることがわかった。 無計画に CPU1台当たりのソフトウェアを増やしていくと1秒以内に通信できなくなる可能性があ

図3 溶融炉空気比制御

図4 ボイラドラムレベル制御

神鋼環境ソリューション技報20 Vol. 9 No. 1(2012/ 8)

る。そこで当社では計装 CPU1台当たりの計装ループ数,ラダープログラムのステップ数,アナログ/デジタルデータレジスタの数を幾つかのパターンに分けて通信テストを行い,確実に1秒以内で全データを収集できるように最適なシステム構築を行った。3)

5. 3 操作性の改善 汎用 SCADAソフトウェアを使うと4.2に述べたようにユーザの望むような操作性を確保することができない。この問題を解決するために,特別にプログラムを作成し,以下の新たな標準画面を開発した。・PID,PV(現在値)表示,プログラム設定器,折線関数,手動操作器等のチューニング画面を小ウィンドウで複数表示(図5参照)・トレンド画面を小ウィンドウで表示 この結果,グラフィック画面を監視しながら,特

定の複数ループを調整することが可能となった。5. 4 データベース管理機能の強化 4.4で述べた汎用 SCADAには無い操作履歴機能とトレンド画面の任意期間表示機能および4.5で述べた機能等,いわゆるデータベース管理機能を新たに開発した。 これにより,トラブル発生時の原因究明やプロセス改善のための情報が簡単に得られるようになった。む す び シーケンス制御と計装制御が同一のプラットフォームに載った新型 DCSは近年,急速に普及しており製鉄プラントや化学プラントの DCSリプレース機種としてすでに多く採用されている。当社においてもその性能を見極め,従来型 DCSと同等の性能を確保できるようにカスタマイズして当社の中規模プラント案件に適用する目途をつけた。

図5 チューニング画面

神鋼環境ソリューション技報 21Vol. 9 No. 1(2012/ 8)

 注意すべきことは,これまで制御装置,モニタ,ネットワーク全体を計装メーカが保証する形態からそれぞれがオープン化され,複数のメーカの製品を使って一つのシステムに纏め上げる必要が生じていることである。安易に安いからという理由で飛びつくと構成品相互の能力がアンバランスとなり十分性能を発揮できないシステムとなったり,トラブル発生時にどこに原因があるのかを究明するのに時間がかかったりすることになる。2)

 これを防ぐためには相当レベルの高いシステムイ

ンテグレーション(SI)能力が必要であることが分かった。今後は当社の SI能力の強化を図りながら,ますます普及していくと想定される新型 DCSの適用範囲を拡げていきたい。

[参考文献]1)米村ら:計装「PLC計装へのリプレース~その選択と進め方」,Vol.53,No.2,P.1-52)米村ら:計装「進化する PLC計装~現状に見る課題と今後への期待」,Vol.54,No.7,P.14-19

3)米村ら:計装「新たな適用領域に展開していく最新の PLC計装システム」,Vol.55,No.5,P.15-19

                                                                                *土建・計電装技術センター 計電装技術部 **品質安全環境部