development of dvd-r disc 村上重則,近藤淳,草間樹,滝下俊彦 · 2020. 9. 28. · -...
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特集 記録技術
PIONEER R&D Vol.10 No.3
DVD-Rディスクの開発Development of DVD-R Disc
村上 重則,近藤 淳,草間 樹,滝下 俊彦Shigenori Murakami, Atsushi Kondo, Miki Kusama, Toshihiko Takishita
要 旨 色素媒体の最適化,成形基板特性の面内均一化,LPP形状の最適化などを行う
ことにより,650nm記録波長に対応した4.7GBDVD-Rディスクの開発を行った。本開発ディ
スクをDVD-R for General規格準拠のベーシックライトストラテジにて記録した結果は、
変調度65.8%,Jitter6.26%,反射率53.3%,PIER(AVE)5カウントであり,記録後のディス
クは DVDプレーヤに互換性のあることを確認した。また DVD-Rの高速記録に対し,シアニ
ン系色素での可能性を見出した。
Summary 4.7GB DVD-R disc corresponding to 650nm recording wavelength was devel-
oped by optimizing dye layer thickness, improving substrate characteristics uniformity in a disc
and adopting LPP structure.
65.8% modulation, 6.26% Jitter, 53.3% reflectivity and 5 counts PIER(AVE) were observed
with the disc recorded by "basic write strategy " of the "DVD-R for General" specification, and
the recorded discs worked on a general DVD players.
A possibility of DVD-R high-speed recording was also found with cyanine type dye.
キーワード:色素媒体,成形基板特性,DVD-R
1. まえがき
DVD-R の規格はその用途に応じて,DVD-R for
Authoring(以後オーサリング用) と DVD-R for
General(以後民生用)の2つの規格が作成される
ことになった。今回開発した民生用ディスク規格
を表 1に示す。
民生用規格は記録するレーザの波長に変更が
ある。オーサリング用の記録波長には,従来検討
されていた635nmが使用され,民生用には650nm
が使用されることになった。この 15nm の波長差
は,有機色素を用いた記録媒体を持つ DVD-R に
とって,大きく特性を左右される要因である。
本稿では,筆者らが650nm記録波長での記録再
生特性確保のために色素媒体の材料から作製プロ
表 1 DVD-Rの主な仕様
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セスに至るまでを再検討し,得られた開発結果を
報告する。またもう一つの違いであるコピープロ
テクションへの対応と,今後要求される高速記録
に対しシアニン系色素での可能性を見出したので
併せて報告する。
2. 記録膜材料
2.1 記録膜媒体の開発
今回の開発においては,記録膜材料として有機
系色素を用いた。今回採用した色素は,耐光性に
強く光劣化防止剤などの混合を不要とするため,
記録時の熱分解の挙動が純粋に色素単体の特性を
示すため,色素の熱分解特性を最適になるよう分
子構造を設計することで良好な記録特性を示す記
録媒体が得られる。
2.2 記録媒体膜厚の最適化
DVD-Rのディスク構造を図1に示す。ディスク
構造は,基板板厚の違いおよび貼り合わせ構造で
あることを除いては,CD-Rと同様の構造である。
記録媒体の成膜法は,スピンコート法を使用し
た。この成膜法は,溶剤に溶かした色素を基板上
に塗布し,基板を回転させながら溶剤を揮発させ
基板上に記録媒体膜を成膜する手法である。記録
媒体膜厚は,成膜中の回転数および回転数を上げ
る加速勾配を調整することで調整が可能である。
DVD-Rディスクの主だった記録再生特性は,記
録膜の膜厚に応じて変化する。この膜厚を最適化
することにより,各種特性のバランスを取り,特
性のマージンを確保することができる。
色素膜厚の測定は,スピンコートにより成膜さ
れた記録膜の極大吸収波長(λ max)での吸光度
(Absorbance)にて行った。
図2に示すとおり,媒体膜厚が厚くなると共に
変調度は大きくなるが,Jitter特性が悪化する。
また,媒体膜厚が厚いと LPP の AR が開かなくな
り,追記特性に支障を来すことがわかった。逆に
媒体膜厚が薄くなると変調度にマージンが無くな
る。今回の評価結果より,記録媒体の吸光度を
0.77Absとすることで,変調度,Jitter特性のバ
ランスを取った記録媒体を得た。
図 1 DVD-R ディスクの構造
図 2 記録媒体膜厚に対する記録再生特性
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3. 基板成形
3.1 グルーブ形状最適化
グルーブ形状の検討は,記録波長に変更があっ
た場合,最初に検討を必要とする項目である。今
回は,民生用DVD-Rに対応すべく650nmの記録波
長で適切な信号特性が得られるようにグルーブ形
状を再検討した。図3にグルーブ幅に対する特性
を示す。記録ピットはグルーブの壁で半径方向の
幅を押さえ込んでいるが,グルーブ幅が広いと記
録ピットが拡がり大きくなるため Jitter 特性を
悪化していると予想される。また,グルーブ幅が
狭いとLPP信号が RFに漏れ込みJitter特性を悪
化させていると考えられる。成形転写性のマージ
ンを考慮するとグルーブ幅は0.30~ 0.32μm程
度が最適であると判断される。図4にグルーブ深
さに対する特性を示す。グルーブ深さに対する記
録再生特性の検討を行った結果,ベーシックライ
トストラテジにて1650ÅでJitter特性が最適に
なることが判明した。変調度は一般的にグルーブ
深さを深くすると大きくなると予想されるが,今
回の検討では大きな差が出なかった。今回検討し
たグルーブ深さの範囲は,変調度がピークを示す
深さ近傍で検討したため大きな差が出なかったと
考えられる。
3.2 成形システム検討
DVD-Rの基板の成形性は,CD-Rより記録密度が
高くなり,トラックピッチが狭くなり,基板板厚
も0.6mmとなることから射出成形による成形性は
悪くなる方向である。加えて,記録ピットが小さ
くなることおよび記録波長が短波長になることに
より,ディスク面内で均一な記録特性を得るため
には,特に基板特性として複屈折および基板板厚
の均一性が求められる。
今回使用した成形装置は,コア圧縮機構という
図 3 グルーブ幅に対する記録再生特性
図 4 グルーブ深さに対する記録再生特性
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特殊な機構を搭載した成形装置である。図5に従
来システムとコア圧縮機構の略図を示す。一般的
に射出成形では,金型を締め込むことにより,射
出された樹脂材に適度な圧力を加え,信号の形成
(スタンピング),光学特性・機械特性の調整(樹
脂内残留応力の調整)を行う。 このコア圧縮機
構は,金型内のディスク面に相当する部分のみを,
金型全体とは別に,独立して動作させることで,
ディスクに必要な圧力を,必要な部分(ディスク
面)に高い応答性で加えることが可能である。
図6に従来成形システムと今回検討した成形シ
ステムの複屈折特性を示す。従来成形システムで
は外周部の複屈折が持ち上がってしまうのに対し
てコア圧縮機構の付いた今回検討した成形システ
ムでは外周部の複屈折を押さえ込むことが可能に
なった。
また,成形基板の板厚分布について図 7 に示
す。今回検討した成形システムでは,成形装置・
金型それぞれの装置としての寸法精度,および射
出された樹脂材の内圧に負けない高い剛性の他
に,プラテン(金型取り付け盤)に通水すること
により,成形中の金型の温度によりそれを取り付
ける部分の寸法精度・位置精度を維持する機能を
持っており,この結果従来システムで15μmあっ
た面内板厚差を9μ mまで改善することが実現で
きた。
図 5 従来システムとコア圧縮機構
図 6 基板の複屈折特性
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4. NBCA
DVD-R for General の規格では,ディスク一枚
一枚を識別するためのNBCAの記録が要求されてい
る。このNBCAはコピープロテクションに使用する
ことを目的とされており,ディスクの内周部に
バーコードのように記録される。このNBCAの検討
には相変化型光ディスクの初期化工程で使用する
図 7 基板の板厚分布
イニシャライザーを利用して行った。使用したイ
ニシャライザーのレーザ波長は675nmであり,ディ
スク1枚の処理に要する時間は10秒程度であった。
図8に記録されたNBCAの波形写真を示す。このよ
うに短時間の処理時間で良好な特性を得ることが
可能であることを確認した。
図 8 NBCA 再生波形
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5. 記録再生特性
今回の開発を盛り込んだディスクの記録再生特
性を表2にRF再生波形を図9示す。記録再生信号
特性は,DVD-R規格を十分に満足する値が得られ
ている。また,RF再生波形についてもアイパター
ンが十分に開口しており,変調信号が問題なく記
録されていることを確認した。
表 2 記録再生特性
6. 今後の開発
今後のDVD-Rに求められる開発として第一に挙
げられるのは高速記録である。高速記録で重要に
なるのが記録感度であり,現在3倍速記録時の記
録感度を13mW以下にすることを目標に,等倍速
記録換算において8mW以下で記録可能になるよう
色素媒体の構造設計を検討している。
今回の構造設計に関しては,シアニン系色素に
て行った。シアニン系色素は,図10に示すアルキ
ル基Rと置換基YおよびカウンターイオンXの組
み合わせで,吸収波長,熱分解特性を設計するこ
とが可能であることがわかった。
今回の検討においてアルキル基Rと置換基Yお
よびカウンターイオンXの組み合わせを変えた同
系列の数種の色素を試作しその特性を評価した。
その結果同系列の色素には,分解温度とJitter特
性および記録波長での吸光度と記録感度に相関を
図 9 RF 再生信号波形(EQ 等化後
見出した。図11に分解温度とJitter特性の相関
を示す。分解温度が高温になるに連れ Jitter 特
性が良好になる傾向がある。これは,ビームス
ポット中心の高温部で記録されることにより超解
像現象に似た効果が得られていると考えられる。
また図 12に記録波長での吸光度と記録感度の相
関を示す。吸光度が大きくなると記録感度が向上
することは容易に想像できるが,この相関より今
回検討した系列の色素では,目標感度の8mW以下
を得るためには0.04Abs以上の吸光度が必要であ
ることがわかる
また図 13,図 14に今回開発したシアニン色素
の示差熱特性の一例を示す。色素構造を設計する
ことにより,図13に示すように質量変化が分解温
度で急激に起きており,図14に示すように熱量変
化が狭い温度幅で急峻に起きていることがわか
る。この時発生する発熱量は,小さいと十分な信
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図 10 シアニン系色素構造式
図 11 色素分解と Jitter 特性の相関
図 12 記録波長での吸光度と記録感度の相関
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
0.010 0.020 0.030 0.040 0.050吸光度[Abs]
記録
感度[mW]
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
260 280 300 320
色素分解温度[℃]
Jitte
r[%
]
N
CHC
HC
HC
C
N+
R R
Y
X-
H HHH
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号レベルを得ることが出来ず,また大きすぎると
記録時の熱干渉の要因となることがわかってお
り,本色素の発熱量は適度に小さいことにより,
形成されたピットが滲むことなく,入力信号に対
して適切な記録ピットが得られる。また今回開発
したシアニン色素を用いたディスク特性では,表
3に示すように,記録感度には不満があるものの
等倍速でDVD-R規格に準拠する特性が得られてお
り,このことからも熱分解特性を最適化すること
が記録特性に大きく影響することがわかる。
今後,今回の検討結果をもとに,感度を更に改
善した色素構造設計を行っていく予定である。
表 3 シアニン系色素のディスク特性
図 13 示差熱特性(TG-DTA)
図 14 示差熱特性(DSC)
80.00
60.00
40.00
20.00
0.00
-20.00
100.0
312.0C2.75%
316.0C10.40uV309.6C
6.87uV
313.5C4.41uV
316.4C-50.79%
20.00
15.00
10.00
5.00
0.00
-5.00
-10.00100.0 200.0 300.0 400.0 500.0
-70.00
-60.00
-50.00
-40.00
-30.00
-20.00
-10.00
0.00
DATA uV
TG %
Temp C
150.0 200.0 250.0 300.0 350.0
290.6C62.47mW
288.7C-0.90mW
-560.376mJ/mg
294.8C-0.16mW
Temp C
DSC mW
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7. まとめ
DVD-R for General への対応を検討した結果,
グルーブ形状の検討および検討されたグルーブ形
状を成形できる成形システムの検討,色素媒体の
開発,プリピットの形状検討を行うことにより,
Jitter 6.4%,14T Mod. 0.62,Reflectivity 52%
とDVD-R for General規格に準拠するディスク特
性が得られること確認した。また,高速記録に対
してシアニン色素での可能性を見出すことができ
た。
今後は,各種特性マージンの改善を行うとともに,
高速記録に対応したディスクの開発を進めていく。
8. 謝辞
本ディスクの開発にあたり,ディスク特性評価
に協力いただいたAV開発センター光ディスクシ
ステム開発部第二開発室の関係各位に感謝します。
筆 者
村 上 重 則 (むらかみ しげのり)
a.研究開発本部 光技術センター
b.1989 年 4 月
c.OMD,CDR,LDR,DVD-R の開発
近 藤 淳 (こんどう あつし)
a.研究開発本部 光技術センター
b.1990 年 4 月
c.OMD,CDR,DVD-Rの開発
草 間 樹 (くさま みき)
a.研究開発本部 光技術センター
b.1990 年 4 月
c.LD,LDR,DLD,CD-R,DVD-R の成形技術
滝 下 俊 彦(たきした としひこ)
a.研究開発本部 光技術センター
b.1982 年 4 月
c.OMD,CDR,LDR,DVD-R/RW の開発