development of dvd-r disc 村上重則,近藤淳,草間樹,滝下俊彦 · 2020. 9. 28. · -...

9
- 51 - 特集 記録技術 PIONEER R&D Vol.10 No.3 DVD-R ディスクの開発 Development of DVD-R Disc ,滝 Shigenori Murakami, Atsushi Kondo, Miki Kusama, Toshihiko Takishita ,LPP により,650nm に対 した4.7GBDVD-R ディスク った。 ディ スクを DVD-RforGeneral ベーシックライトストラテジにて した 65.8%,Jitter6.26%, 53.3%,PIER(AVE)5カ ント あり, ディス DVD プレーヤに あるこ を確 した。また DVD-R に対し,シアニ した。 Summary 4.7GB DVD-R disc corresponding to 650nm recording wavelength was devel- oped by optimizing dye layer thickness, improving substrate characteristics uniformity in a disc and adopting LPP structure. 65.8% modulation, 6.26% Jitter, 53.3% reflectivity and 5 counts PIER(AVE) were observed with the disc recorded by "basic write strategy " of the "DVD-R for General" specification, and the recorded discs worked on a general DVD players. A possibility of DVD-R high-speed recording was also found with cyanine type dye. キーワード: 体, ,DVD-R 1. まえがき DVD-R じて,DVD-Rfor Authoring(以 オーサリング ) DVD-Rfor General(以 ) 2つ 格が される った。 した ディスク 表1 す。 するレーザ に変 ある。オーサリング されていた 635nm が され, 650nm されるこ った。こ 15nm いた 体を つ DVD-R に って,大きく 右される ある。 らが650nm ために から プロ 表1 DVD-R の主な仕様

Upload: others

Post on 03-Feb-2021

5 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

  • - 51 -

    特集 記録技術

    PIONEER R&D Vol.10 No.3

    DVD-Rディスクの開発Development of DVD-R Disc

    村上 重則,近藤 淳,草間 樹,滝下 俊彦Shigenori Murakami, Atsushi Kondo, Miki Kusama, Toshihiko Takishita

    要 旨 色素媒体の最適化,成形基板特性の面内均一化,LPP形状の最適化などを行う

    ことにより,650nm記録波長に対応した4.7GBDVD-Rディスクの開発を行った。本開発ディ

    スクをDVD-R for General規格準拠のベーシックライトストラテジにて記録した結果は、

    変調度65.8%,Jitter6.26%,反射率53.3%,PIER(AVE)5カウントであり,記録後のディス

    クは DVDプレーヤに互換性のあることを確認した。また DVD-Rの高速記録に対し,シアニ

    ン系色素での可能性を見出した。

    Summary 4.7GB DVD-R disc corresponding to 650nm recording wavelength was devel-

    oped by optimizing dye layer thickness, improving substrate characteristics uniformity in a disc

    and adopting LPP structure.

    65.8% modulation, 6.26% Jitter, 53.3% reflectivity and 5 counts PIER(AVE) were observed

    with the disc recorded by "basic write strategy " of the "DVD-R for General" specification, and

    the recorded discs worked on a general DVD players.

    A possibility of DVD-R high-speed recording was also found with cyanine type dye.

    キーワード:色素媒体,成形基板特性,DVD-R

    1. まえがき

    DVD-R の規格はその用途に応じて,DVD-R for

    Authoring(以後オーサリング用) と DVD-R for

    General(以後民生用)の2つの規格が作成される

    ことになった。今回開発した民生用ディスク規格

    を表 1に示す。

    民生用規格は記録するレーザの波長に変更が

    ある。オーサリング用の記録波長には,従来検討

    されていた635nmが使用され,民生用には650nm

    が使用されることになった。この 15nm の波長差

    は,有機色素を用いた記録媒体を持つ DVD-R に

    とって,大きく特性を左右される要因である。

    本稿では,筆者らが650nm記録波長での記録再

    生特性確保のために色素媒体の材料から作製プロ

    表 1 DVD-Rの主な仕様

  • PIONEER R&D Vol.10 No.3 - 52 -

    セスに至るまでを再検討し,得られた開発結果を

    報告する。またもう一つの違いであるコピープロ

    テクションへの対応と,今後要求される高速記録

    に対しシアニン系色素での可能性を見出したので

    併せて報告する。

    2. 記録膜材料

    2.1 記録膜媒体の開発

    今回の開発においては,記録膜材料として有機

    系色素を用いた。今回採用した色素は,耐光性に

    強く光劣化防止剤などの混合を不要とするため,

    記録時の熱分解の挙動が純粋に色素単体の特性を

    示すため,色素の熱分解特性を最適になるよう分

    子構造を設計することで良好な記録特性を示す記

    録媒体が得られる。

    2.2 記録媒体膜厚の最適化

    DVD-Rのディスク構造を図1に示す。ディスク

    構造は,基板板厚の違いおよび貼り合わせ構造で

    あることを除いては,CD-Rと同様の構造である。

    記録媒体の成膜法は,スピンコート法を使用し

    た。この成膜法は,溶剤に溶かした色素を基板上

    に塗布し,基板を回転させながら溶剤を揮発させ

    基板上に記録媒体膜を成膜する手法である。記録

    媒体膜厚は,成膜中の回転数および回転数を上げ

    る加速勾配を調整することで調整が可能である。

    DVD-Rディスクの主だった記録再生特性は,記

    録膜の膜厚に応じて変化する。この膜厚を最適化

    することにより,各種特性のバランスを取り,特

    性のマージンを確保することができる。

    色素膜厚の測定は,スピンコートにより成膜さ

    れた記録膜の極大吸収波長(λ max)での吸光度

    (Absorbance)にて行った。

    図2に示すとおり,媒体膜厚が厚くなると共に

    変調度は大きくなるが,Jitter特性が悪化する。

    また,媒体膜厚が厚いと LPP の AR が開かなくな

    り,追記特性に支障を来すことがわかった。逆に

    媒体膜厚が薄くなると変調度にマージンが無くな

    る。今回の評価結果より,記録媒体の吸光度を

    0.77Absとすることで,変調度,Jitter特性のバ

    ランスを取った記録媒体を得た。

    図 1 DVD-R ディスクの構造

    図 2 記録媒体膜厚に対する記録再生特性

  • - 53 - PIONEER R&D Vol.10 No.3

    3. 基板成形

    3.1 グルーブ形状最適化

    グルーブ形状の検討は,記録波長に変更があっ

    た場合,最初に検討を必要とする項目である。今

    回は,民生用DVD-Rに対応すべく650nmの記録波

    長で適切な信号特性が得られるようにグルーブ形

    状を再検討した。図3にグルーブ幅に対する特性

    を示す。記録ピットはグルーブの壁で半径方向の

    幅を押さえ込んでいるが,グルーブ幅が広いと記

    録ピットが拡がり大きくなるため Jitter 特性を

    悪化していると予想される。また,グルーブ幅が

    狭いとLPP信号が RFに漏れ込みJitter特性を悪

    化させていると考えられる。成形転写性のマージ

    ンを考慮するとグルーブ幅は0.30~ 0.32μm程

    度が最適であると判断される。図4にグルーブ深

    さに対する特性を示す。グルーブ深さに対する記

    録再生特性の検討を行った結果,ベーシックライ

    トストラテジにて1650ÅでJitter特性が最適に

    なることが判明した。変調度は一般的にグルーブ

    深さを深くすると大きくなると予想されるが,今

    回の検討では大きな差が出なかった。今回検討し

    たグルーブ深さの範囲は,変調度がピークを示す

    深さ近傍で検討したため大きな差が出なかったと

    考えられる。

    3.2 成形システム検討

    DVD-Rの基板の成形性は,CD-Rより記録密度が

    高くなり,トラックピッチが狭くなり,基板板厚

    も0.6mmとなることから射出成形による成形性は

    悪くなる方向である。加えて,記録ピットが小さ

    くなることおよび記録波長が短波長になることに

    より,ディスク面内で均一な記録特性を得るため

    には,特に基板特性として複屈折および基板板厚

    の均一性が求められる。

    今回使用した成形装置は,コア圧縮機構という

    図 3 グルーブ幅に対する記録再生特性

    図 4 グルーブ深さに対する記録再生特性

  • PIONEER R&D Vol.10 No.3 - 54 -

    特殊な機構を搭載した成形装置である。図5に従

    来システムとコア圧縮機構の略図を示す。一般的

    に射出成形では,金型を締め込むことにより,射

    出された樹脂材に適度な圧力を加え,信号の形成

    (スタンピング),光学特性・機械特性の調整(樹

    脂内残留応力の調整)を行う。 このコア圧縮機

    構は,金型内のディスク面に相当する部分のみを,

    金型全体とは別に,独立して動作させることで,

    ディスクに必要な圧力を,必要な部分(ディスク

    面)に高い応答性で加えることが可能である。

    図6に従来成形システムと今回検討した成形シ

    ステムの複屈折特性を示す。従来成形システムで

    は外周部の複屈折が持ち上がってしまうのに対し

    てコア圧縮機構の付いた今回検討した成形システ

    ムでは外周部の複屈折を押さえ込むことが可能に

    なった。

    また,成形基板の板厚分布について図 7 に示

    す。今回検討した成形システムでは,成形装置・

    金型それぞれの装置としての寸法精度,および射

    出された樹脂材の内圧に負けない高い剛性の他

    に,プラテン(金型取り付け盤)に通水すること

    により,成形中の金型の温度によりそれを取り付

    ける部分の寸法精度・位置精度を維持する機能を

    持っており,この結果従来システムで15μmあっ

    た面内板厚差を9μ mまで改善することが実現で

    きた。

    図 5 従来システムとコア圧縮機構

    図 6 基板の複屈折特性

  • - 55 - PIONEER R&D Vol.10 No.3

    4. NBCA

    DVD-R for General の規格では,ディスク一枚

    一枚を識別するためのNBCAの記録が要求されてい

    る。このNBCAはコピープロテクションに使用する

    ことを目的とされており,ディスクの内周部に

    バーコードのように記録される。このNBCAの検討

    には相変化型光ディスクの初期化工程で使用する

    図 7 基板の板厚分布

    イニシャライザーを利用して行った。使用したイ

    ニシャライザーのレーザ波長は675nmであり,ディ

    スク1枚の処理に要する時間は10秒程度であった。

    図8に記録されたNBCAの波形写真を示す。このよ

    うに短時間の処理時間で良好な特性を得ることが

    可能であることを確認した。

    図 8 NBCA 再生波形

  • PIONEER R&D Vol.10 No.3 - 56 -

    5. 記録再生特性

    今回の開発を盛り込んだディスクの記録再生特

    性を表2にRF再生波形を図9示す。記録再生信号

    特性は,DVD-R規格を十分に満足する値が得られ

    ている。また,RF再生波形についてもアイパター

    ンが十分に開口しており,変調信号が問題なく記

    録されていることを確認した。

    表 2 記録再生特性

    6. 今後の開発

    今後のDVD-Rに求められる開発として第一に挙

    げられるのは高速記録である。高速記録で重要に

    なるのが記録感度であり,現在3倍速記録時の記

    録感度を13mW以下にすることを目標に,等倍速

    記録換算において8mW以下で記録可能になるよう

    色素媒体の構造設計を検討している。

    今回の構造設計に関しては,シアニン系色素に

    て行った。シアニン系色素は,図10に示すアルキ

    ル基Rと置換基YおよびカウンターイオンXの組

    み合わせで,吸収波長,熱分解特性を設計するこ

    とが可能であることがわかった。

    今回の検討においてアルキル基Rと置換基Yお

    よびカウンターイオンXの組み合わせを変えた同

    系列の数種の色素を試作しその特性を評価した。

    その結果同系列の色素には,分解温度とJitter特

    性および記録波長での吸光度と記録感度に相関を

    図 9 RF 再生信号波形(EQ 等化後

    見出した。図11に分解温度とJitter特性の相関

    を示す。分解温度が高温になるに連れ Jitter 特

    性が良好になる傾向がある。これは,ビームス

    ポット中心の高温部で記録されることにより超解

    像現象に似た効果が得られていると考えられる。

    また図 12に記録波長での吸光度と記録感度の相

    関を示す。吸光度が大きくなると記録感度が向上

    することは容易に想像できるが,この相関より今

    回検討した系列の色素では,目標感度の8mW以下

    を得るためには0.04Abs以上の吸光度が必要であ

    ることがわかる

    また図 13,図 14に今回開発したシアニン色素

    の示差熱特性の一例を示す。色素構造を設計する

    ことにより,図13に示すように質量変化が分解温

    度で急激に起きており,図14に示すように熱量変

    化が狭い温度幅で急峻に起きていることがわか

    る。この時発生する発熱量は,小さいと十分な信

  • - 57 - PIONEER R&D Vol.10 No.3

    図 10 シアニン系色素構造式

    図 11 色素分解と Jitter 特性の相関

    図 12 記録波長での吸光度と記録感度の相関

    6

    7

    8

    9

    10

    11

    12

    13

    14

    15

    0.010 0.020 0.030 0.040 0.050吸光度[Abs]

    記録

    感度[mW]

    6

    7

    8

    9

    10

    11

    12

    13

    14

    15

    16

    260 280 300 320

    色素分解温度[℃]

    Jitte

    r[%

    ]

    N

    CHC

    HC

    HC

    C

    N+

    R R

    Y

    X-

    H HHH

  • PIONEER R&D Vol.10 No.3 - 58 -

    号レベルを得ることが出来ず,また大きすぎると

    記録時の熱干渉の要因となることがわかってお

    り,本色素の発熱量は適度に小さいことにより,

    形成されたピットが滲むことなく,入力信号に対

    して適切な記録ピットが得られる。また今回開発

    したシアニン色素を用いたディスク特性では,表

    3に示すように,記録感度には不満があるものの

    等倍速でDVD-R規格に準拠する特性が得られてお

    り,このことからも熱分解特性を最適化すること

    が記録特性に大きく影響することがわかる。

    今後,今回の検討結果をもとに,感度を更に改

    善した色素構造設計を行っていく予定である。

    表 3 シアニン系色素のディスク特性

    図 13 示差熱特性(TG-DTA)

    図 14 示差熱特性(DSC)

    80.00

    60.00

    40.00

    20.00

    0.00

    -20.00

    100.0

    312.0C2.75%

    316.0C10.40uV309.6C

    6.87uV

    313.5C4.41uV

    316.4C-50.79%

    20.00

    15.00

    10.00

    5.00

    0.00

    -5.00

    -10.00100.0 200.0 300.0 400.0 500.0

    -70.00

    -60.00

    -50.00

    -40.00

    -30.00

    -20.00

    -10.00

    0.00

    DATA uV

    TG %

    Temp C

    150.0 200.0 250.0 300.0 350.0

    290.6C62.47mW

    288.7C-0.90mW

    -560.376mJ/mg

    294.8C-0.16mW

    Temp C

    DSC mW

  • - 59 - PIONEER R&D Vol.10 No.3

    7. まとめ

    DVD-R for General への対応を検討した結果,

    グルーブ形状の検討および検討されたグルーブ形

    状を成形できる成形システムの検討,色素媒体の

    開発,プリピットの形状検討を行うことにより,

    Jitter 6.4%,14T Mod. 0.62,Reflectivity 52%

    とDVD-R for General規格に準拠するディスク特

    性が得られること確認した。また,高速記録に対

    してシアニン色素での可能性を見出すことができ

    た。 

    今後は,各種特性マージンの改善を行うとともに,

    高速記録に対応したディスクの開発を進めていく。

    8. 謝辞

    本ディスクの開発にあたり,ディスク特性評価

    に協力いただいたAV開発センター光ディスクシ

    ステム開発部第二開発室の関係各位に感謝します。

    筆 者

    村 上 重 則 (むらかみ しげのり)

    a.研究開発本部 光技術センター

    b.1989 年 4 月

    c.OMD,CDR,LDR,DVD-R の開発

    近 藤 淳 (こんどう あつし)

    a.研究開発本部 光技術センター

    b.1990 年 4 月

    c.OMD,CDR,DVD-Rの開発

    草 間 樹 (くさま みき)

    a.研究開発本部 光技術センター

    b.1990 年 4 月

    c.LD,LDR,DLD,CD-R,DVD-R の成形技術

    滝 下 俊 彦(たきした としひこ)

    a.研究開発本部 光技術センター

    b.1982 年 4 月

    c.OMD,CDR,LDR,DVD-R/RW の開発