Download - クリーンランゲージについて その2
前回のあらすじ
最初の一歩として
「クリーンな一人書き出し法」を学んだ
(他人や口頭対話の扱いは習得に時間が掛かる)
「問題ではなく理想」の原則と、
もっとも重要な2つの質問と、
開始と終了のための2つの質問を学んだ。
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個人的なメタファーの例
「この一人書き出し法のプロセスのことを、
以前は卓球のラリーのように思っていたけど、
それは間違いで音楽のようにやるべきだった。」
説明なしでは通じにくいが
本人にとってはしっくりくる表現
これを許容し、むしろ積極的に求める
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もう一つの原則
前回、キーワードの選択の指針として
「問題ではなく願望」の原則を説明した。
今回、もう一つ原則が加わる。
身体感覚や個人的なメタファーは
「まだ言語化されていないもの」の近くにある
そこで…
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「抽象概念より個人的感覚」の原則
抽象概念は公共言語の可能性が高い。それよりも
• 個人的感覚(見える、聞こえる、感じる…)
• 個人的行動(する、進む、登る…)
• 個人的メタファー(ラリー、音楽、階段…)
を優先的に選び、注意を向けていく。
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例題
「スムーズな話の流れを見出して
読者がわかりやすい説明を作りたい」
という言葉が出たとします。
どこかをキーワードとして切り出して、
「Xはどのような種類のXですか?」
と質問してください。
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次のページには○が4つ、×が4つ書かれています。
階段の先では、ジェスチャーや口調、そこまでの会話の流れなどを含めて判断します。
そのため、絶対的な正解も不正解もありませんが
最初の一歩として、ここではあえて○×にしています。
キーワード選択の例 • ◎その「見出す」はどのような種類の?(感覚)
• ○その「作る」はどのような種類の?(行動)
• ○その「スムーズ」はどのような種類の? (この文章だけでは感覚か抽象かがわからない。話すときにジェスチャーが出るとか、
声が強くなるなどの「感覚を伴ってそうな兆候」があれば◎に昇格する)
• ○その「話の流れ」はどのような種類の? (メタファーではあるけど一般的な使われ方なので抽象か個人的メタファーか区別がつかない。ジェスチャーや視線などで物理的な川の流れのようなものを「見て」いそうなら◎に昇格する)
• ×その「読者」はどのような種類の? (有形物ではあるが少し抽象的。これが具体的になることは有益ではあるが、優先度は低い)
• ××その「説明」はどのような種類の? (これは抽象概念だし、どのような説明かがわからないから相手は悩んでいるのでしょう。)
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ここまでのまとめ
抽象概念や公共言語ではなく、
個人的な感覚・行動・メタファーへの注目が
「言語化されていないものを言語化する」
ために重要な役割を果たす
これを踏まえて、クリーンの基本5質問の
残りの3つのうちの2つを見てみよう。
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場所の質問
「そのXはどこにありますか?」
「そのXはどのあたりにありますか?」
基本5質問のうち2つが場所に関する質問
(詳細な場所を特定するために2回場所を聞く)
感覚やメタファーの場所を聞くことで
相手は自分の体との空間的関係を考え
より鮮明に思い浮かべるようになる
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場所がない?
「場所のないものもあるじゃないか。
先に『場所はありますか?』と聞くべきでは」
私も以前そう思っていた。その時の私は
抽象概念と個人的感覚を区別していなかった。
抽象概念は「場所はない」と答えられがちだが、
感覚やメタファーは「強いて言えば…」と
答えが出てくることも多い。
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場所の質問と回答の例 • その「見出す」はどこにありますか?
→あえて言うなら目だな。でも外を見ているんじゃなくて脳の内側を見ているような。
• その「作る」はどこにありますか?
→手かなとも思ったけど、どちらかと言うと
腹の奥で醸成されてそれが手から出てくる
• その「スムーズ」はどこにありますか?
→腕の表面でするするとした感触。
なめらかな筒の中を自分が進んでいくような感じ。
• (悪い例)その「説明」はどこにありますか?
→あえて言うなら頭の中。
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スムーズに回答が出ない?
場所の質問に対してスムーズに回答が出ない?
それは問題ではない。
• 「場所はない」と感じている
→「場所はない」と答えても良い。
「今はまだ場所はないんだな」と解釈する
• 「場所なんて考えたことなかったな」
「どこにあるかな…すぐに出てこないぞ」
→場所がありそうな気がしているなら
どこなのか特定されるのをゆっくり待つ*
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*ゆっくり待った結果「どこにあるのかわからない」という結論になることもあるが
「そうか、今はまだ場所がわからないんだな」と解釈する。
いいよどみは良い兆候
ユージン・ジェンドリンらはカウンセリングの
録音テープを元に、成功と失敗を分けるものが
何かを調査した。
結果:成功したものでは共通してクライアントがいいよどんでいる。
解釈:言語化できて
いないものにアクセス
しているとき、それが
「いいよどみ」として
現れている
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僕の個人的メタファー
以前は卓球のラリーのように、スピーディに
やりとりを繰り返すのが正しいと思っていた。
いいよどんで言葉が止まるのは、
卓球で球を打ち返しそこねるのと同じような
「失敗」だと思っていた。
それは間違いだった。音楽のようにやるべきだ。
鍵盤をひたすら叩き続けてもうるさいだけ。
鍵盤を叩いていない間合い、
音と音の間の空白の時間が大事なんだ。
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まとめ
• 二歩目として以下のことを解説した:
• 公共言語へのとらわれが言語化を妨げる
• 抽象概念より個人的な感覚・行動・メタファー
にフォーカスするという原則
• 基本5質問の2つが「場所の質問」
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まとめ
• 階段の先の以下のことは解説されてない:
• 基本5質問の最後の一つ「何のようですか?」
• 「シンボルの特定は名前と場所と特徴」
個人的感覚をどこまで掘り下るかの目安について
• シンボル間の関係、時間的変化
• 行き止まりの対処:バックトラック、リキャップ
• 対人・口頭での対話の際に重要になる要素:
ジェスチャーへの注目、対話の場のセットアップ、
リピートバック
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おまけ
前回のスライドで使われたキーワード
「最初の一歩」「階段」「階段の先」は
場所が特定されたメタファーの例になっている。
この書き出し法で実際に出てきた、このメタファーに関連する発言:
手法についてだけ説明すると読むのはスムーズだが、使うところで壁に当たる。
理論から説明すると最初から壁に当たる。階段を細かくして少しずつ上がるべき。
階段を上がりきることを目指すのではなく、
最初の一歩を上がることに注力すべき。
で、その最初の一歩はどこにありますか?
最初の一歩は目の前、足元にある。
足元だけ見ていると視線が下向きになってしまう。
見ないとつまずく。だから、まず目線を上げて先の方を見て、
それから足元を見て一歩上がって、
それからまた先の方を見て、近づいたことを確認するのがよい
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次回予告
第3話をいつ、どういう内容で出すかは未定です
反響やフィードバックを見て考える予定。
ここまでのやり方だと「手当たり次第に掘り下げていたら話がどんどんそれていく」という症状が出ると思うので「どこまで掘り下げるのか」と
「戻る方法」を説明するのが第3話、関係を扱うのが第4話かな。
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参考文献 • Clean LanguageはDavid Groveによって
心的外傷のケアのために開発された。
Resolving Traumatic Memories: Metaphors and Symbols in
Psychotherapy
• ここで解説しているのはそれをベースにした
Penny Tompkins と James Lawleyによる “Symbolic Modelling”
Metaphors in Mind: Transformation Through Symbolic
Modelling
• 「公的言語」という表現は、Ludwig J. J. Wittgensteinだが
P.16で紹介したEugene T. Gendlinの著作を介して知った。
体験過程と意味の創造
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