図1.1 空気圧縮機の電力使用割合
50%
20%
50%
20%
一般製造業の電力消費 一般工場の空気圧縮機の電力消費量
7
大昔から空気圧利用は、吹き矢で獣を獲ったり、吹子(ふいご)で火をおこ
すことに使用されている。産業分野では 19 世紀に機関車の空気ブレーキや採
鉱用空気ドリルの使用が始まった。欧米では鉱山機械会社から圧縮機メーカー
が現れた。
現在の産業分野では、生産設備の中でもっとも安価でポピュラーな動力源と
して、エアシリンダ、アクチュエータに使用され、またワーク(加工部品)に
直接当てて、水切りや切粉払いに使用するエアブローの用途や、冷却用空気、
空気シール、エア搬送等で自動化を担う重要な役割を果たしている。その便利
さゆえに、このように広く使用されているため、一般製造工場では電力消費の
約 20%が空気圧縮機の消費電力となっている。日本の電力使用の 50%は一般
製造工場のゆえ、空気圧縮機は日本の電力消費の約 10%を占めることになる
製造現場におけるエアコンプレッサの電力消費
1
1.1 圧縮空気利用の歴史と現在の状況
8
(図 1.1)このことから、地球温暖化防止を考える上で、圧縮空気の省エネル
ギーがいかに重要か理解できる。
エアコンプレッサ(以下、本文中では圧縮機とする)は、このように消費電
力の占める割合の大きさから、省エネテーマとして、特に中部地区の自動車関
連企業において、20 年以上前から積極的に取り上げられ、圧縮機ユーザーの
省エネの成果は数多く発表されている。しかし、筆者はこの分野の省エネ診断
を依頼されて、最近多くの工場を訪問したが、まだまだその技術は十分普及し
ていないという現実がある。筆者は圧縮機の設計や開発(1)(2)(3)に従事しており、
省エネルギーセンタや圧縮機のユーザーからの要求に応じて、空気圧縮機の省
エネについて数多くの講演・指導・執筆(4)を実施してきた。また、圧縮機メ
ーカーを退社後この3年間、新しくエンジニヤリング会社の職場において、圧
縮空気を使う立場で圧縮空気の省エネを検討する機会を得て、新しく数多くの
知見を得たので本書で紹介していきたい。
参考文献
(1)長谷川和三:「超小型汎用ターボ圧縮機「Tx150」の開発」ターボ機械、第 24 巻第 4 号、
pp.51 ~ 53
(2)長谷川、尾崎、小河、佐々木:「汎用ターボ型圧縮機 Tx シリーズの開発」、石川島播磨技報、
第 40 巻第 5 号(2000 年 9 月)pp.231 ~ 236
(3)武富、小谷、青木、小河、長谷川:「高性能 TRE 型ターボコンプレッサの開発」石川島播磨
技報 第 43 巻第 3 号(2003 年 5 月)pp.6 ~ 101
(4)長谷川和三:「圧縮エアの省エネルギー 第一編 空気圧縮機の選び方・使い方」財団法人省
エネルギーセンタ、pp.6 ~ 15
電動機出力〔kW〕
ターボ型
無給油式スクリュー
無給油スクロール無給油ツース
水噴射式スクリュー
給油式スクリュー
給油式レシプロ
形式割合〔%〕
5.5 7.5 15 2737 55 75 150 250 400 1,000 1,5000
50
100
〈無給油式〉〈給油式〉
無給油式レシプロ
図2.1 圧縮機の市場占有率
9
2.1 給油式圧縮機と無給油式圧縮機
図 2.1 が汎用圧縮機の出力対市場占有率である。無給油式と給油式を斜線で
区別した。中小型に給油式が多く、中大型に無給油式が多いことがわかる。
2.1.1 給油式圧縮機 給油式は圧縮行程で圧縮空気が隙間から吸入側へ漏れることを油でシールす
ることができるので、効率を向上することができる。また漏れた高温空気の再
エアコンプレッサの種類と特徴
2
10
圧縮を減らすことで吐出温度が無給油式より低くできて、スクリュー式では容
易に 1 段圧縮が可能となる。給油の油が空気通過部の防錆に役立ち、防錆対策
が不要な分だけ安価に製造できる。実は商品として初期投資金額が安価である
ことが最大の長所で、給油式が中小型で圧倒的な市場占有率を持つ理由である。
一方、給油式の短所は下記の通りである。
■給油式圧縮機の短所
①オイルフィルタが必要
圧縮空気中に油が含まれ、油回収フィルタが必要。定期的に交換が必要で費
用が発生する。
②ドレン処理が必要
空気中の水蒸気が凝縮した液体の水をドレンと呼ぶが、このドレンに油分が
含まれ、そのまま捨てることができず、処理が必要。
③火災の危険がある
配管の内部に堆積した油が炭化し、ある条件で自然発火する。レシプロ式圧
縮機の場合はシリンダに給油した油が空気流速の遅い配管やレシーバ内部に堆
積し、酸化熱が炭素の中に蓄積され、高温、高圧の空気により炭化し、ある一
定温度以上になると自然発火する。ときには爆発する。特にアフタクーラのな
い場合は配管の温度が高いので、より危険である。ときにはその配管が爆発し、
爆風で壁や屋根が吹っ飛び、配管そのものも飛散し、人身事故を発生させてい
る。実際その現場に立ち会った人の話では、一瞬配管が真っ赤に変色するとの
こと。数多くの論文が高圧ガス保安協会と潤滑油製造会社から発行されている(1)(2)(3)(4)(5)。火災防止対策としては配管の内部の定期的な清掃が必要となる。
なお、スクリュー式はある吐出温度なると発火の危険があるため、通常、温
度上昇で運転を停止する安全装置がついている。
④スクリューの場合、メンテナンス費用が掛かる
圧縮機の内部にある油回収器の清掃や交換の費用が定期的に発生する。圧縮
機メーカーはこの売り上げが事業の最大の経営資源となっている。
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⑤フィルタは圧力損失を発生
油回収器や①のオイルフィルタの圧力損失が発生してエネルギーロスを発生
させる。メンテナンスが悪いとさらに圧力損失が増加しロスを増加させる。
⑥油の消費が多い
レシプロは噴射油を消費し、スクリューは循環油の補給と定期的油交換の費
用が発生する。メーカーによっては、この販売も重要な経営資源ゆえ、メーカ
ーブランドとして使用を指定し、ユーザーが潤滑油メーカーから直接買うこと
を防いでいる場合がある。
2.1.2 無給油式圧縮機 一方、無給油式は圧縮に油を使用しない方式で、圧縮空気は吸入した空気と
同じの清浄度が得られる。実際には通常吸入空気には微量の油分が含まれるし、
圧縮部分や配管には製造中の油が付着しているので(通常、製造メーカーは脱
脂洗浄しない)、完全にオイルフリーか否かは測定確認しないとわからない。
また圧縮機は必ずブリーザーを装備しており、ここから油煙を出している。こ
れを屋外に排気しないと、吸入フィルタから吸い込んでしまう。空気分離装置
用や半導体製造設備用で完全オイルフリーを希望する場合は空気通路部の脱脂
洗浄を実施し、油煙を出すブリーザーの設置場所を配慮している。長所として
は 2.1.1 に記述した給油式に見られる短所がないことであるが、一方、無給油
式には下記のような短所がある。
■無給油式圧縮機の短所
①給油式より同じ圧縮段数で比較すると効率が悪い
(水式は給油式とほぼ同じ)
②空気通過部が錆びる
③鉄部の表面はメッキ加工や、耐久性のある塗装が必要
例えば空気配管は白ガス管を使用する。アルミは酸化被膜で防錆を図る。
④ レシプロ式のピストンリング(材質:カーボンやテフロン)や弁は油式よ
り寿命が短い
2. エアコンプレッサの種類と特徴
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毎年寿命部品の交換が必要。給油式より製造コストが高いため、当然、販
売価額も高くなる。
容積型とは空間の容積を縮小することで、空気を圧縮する原理で、その中で
も往復動(レシプロ)式とスクリュー式がある。
一方、ターボ型は空気に羽根で運動エネルギーを与える方法で、汎用の範囲
では半径方向に速度を与える遠心式(turbo または centrifugal)がある。
2.2.1 往復動(レシプロ)式圧縮機 レシプロ式圧縮機は、さらに細かく分類すると単動式と複動式がある。(図
2.2、図 2.3)
小型は単動式で中大型は複動式が多い。給油式スクリューが市場を席巻する
までは、汎用の中大型はすべて往復動式が市場を独占していた(1975 年頃ま
で)。レシプロ式の長所を下記に示す。
■レシプロ式圧縮機の長所
①効率が良い
2段圧縮の 400 〜 500kW クラスのレシプロ機は2段圧縮のスクリューや3
段圧縮のターボより効率がよい。これが最大の長所である。
②経年効率劣化がない
ターボはデイフューザや羽根の汚れで約 10%流量低下し、無給油のスクリ
ューも圧縮部分のテフロンコーティングの摩耗で、容積効率が低下し、結果と
して効率が悪くなる。しかし、無給油のレシプロ機のピストンリングの摩耗分
は内側から押し出される構造の場合、摩耗による漏れ増加はなく、効率低下が
ない(図 2.4)。
2.2 圧縮方式の違いによる圧縮機の分類