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糖代謝調節と糖尿病の成因
松田 昌文、山内 敏正
Control of plasma glucose concentration, and its derangements in diabetes mellitus
目標
1 健常者における血中ブドウ糖濃度調節を理解する。
2 糖尿病における血中ブドウ糖濃度調節の異常を説明できる。
3 糖尿病におけるインスリン分泌障害の意義を理解できる。
4 急性・慢性の血糖上昇の結果惹起される状態(合併症)を説明できる。
5 血糖上昇の原因となりうる状態を列挙できる。
6 糖尿病が成因により分類されることを理解する。
http://telemed.jp/s/ より 10 問の問題に正解する。(スライド閲覧可)
ブドウ糖代謝とその調節
ブドウ糖代謝・調節の基本的事項
ブドウ糖(glucose) は通常ヒトの脳の唯一のエネルギー源であり生体
内では反応性が高い物質である。脳は1日に 120g もブドウ糖を消費 す
る。主に糖質はでんぷんから摂取する。糖質は1日に 100g は少なくと
も必要ともいえる。(ブドウ糖 180g はでんぷんの 162g に相当)
ヒトの血中のブドウ糖濃度は血漿 1dl について何 mg のブドウ糖が存
在するかをブドウ糖に特異的な反応を利用し測定するので測定値は
plasma glucose (PG) と表記する。早朝空腹時にはほぼ 90mg/dl に調節され保たれる。血糖は一定となるように調節されるため,正常範囲
から若干でもかけ離れると「調節が不可能」となったという事実を反映
している為に体内で非常に大きな重篤な変化が起こっていることにな
る。
膵 β 細胞より分泌されるインスリンは血糖を低下させる作用がある 。
もしインスリンが十分に分泌され,標的組織で作用すれば血糖は上昇す
ることはない。膵 β 細胞の個々のインスリン分泌能力,膵 β 細胞の数,
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標的組織でのインスリン感受性が十分でなければ血糖は上昇する。
インスリンを含め血中ブドウ糖濃度に関与する基質,ホルモン,神経
活動や薬物は数多く存在する。たとえば我々が主食としている米や小麦
粉の主成分はでんぷんであり,食後に腸管から吸収される時はブドウ
糖として血液内に入る。したがって食後には血糖値は一過性に上昇する。
ごはん 200 gは 320kcal 程度でほぼブドウ糖 80g に相当する。75 g
ブドウ糖を摂取し体重の 1/4 の容積に単純に希釈されるとすると ,
60kg の 体 重 で は 約 150dl に 75000mg が 分 布 す る た め
75000÷150=500mg/dl つまり血糖は 500mg/dl も上昇することにな
る。単純に浸透圧が 500÷18=28mOsm/L も上昇する計算となる。そ
のようなことが惹起されないように生体はブドウ糖を速やかに処理す
る。その中心的な役割はインスリンである。
ブドウ糖は植物が水と二酸化炭素から光エネルギーを用いて生成する
が,人体では酸素を用いて水と二酸化炭素に燃やすことでエネルギーを
得る。筋肉のミトコンドリアでこのプロセスが起こるが酸素が充分で
ないと乳酸となる。筋肉には glucose-6-phosphatase が存在せず乳酸
として血中に戻る。
図 血糖値は制御された値であり制御機構が正常ならば血糖は正常範囲
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に維持されるはず!
一時的な血糖変化は日常の出来事であるが,慢性的に血糖が上昇し問
題が起こる状況が糖尿病である。生体は安全装置として浸透圧利尿によ
り尿からブドウ糖を排泄できる。空腹時血糖値の正常値である 90mg/dl の倍程度,170mg/dl くらいから尿糖が出はじめるとされる。簡単
にブドウ糖が漏出すると脳や赤血球の重要なエネルギー源に問題があ
るが倍くらいになると積極的に体外に排泄する。水分が十分で腎機能が
保持されていれば 200mg/dl より若干高めの値に維持できるが,その
ような 200mg/dl を若干越えるような血糖値ではインスリン作用が十 分でないことが予測される。一方で低血糖を起こさぬ種々のメカニズ
ムが存在する。
早朝空腹時の血中ブドウ津濃度は 90mg/dl 程度に維持される。この
濃度は肝臓から 1 分間に 2.2mg/kg body weight 程度のブドウ糖が産
生され脳をはじめとした組織が同じ速度で利用することでほぼ一定に
保たれる。肝臓からのブドウ糖産生調節には膵臓からのインスリンと
グルカゴンの濃度の比が重要とされる。
安静時には脳以外の組織はブドウ糖よりも主に脂肪酸をエネルギー源
として用いる。「油」の方がエネルギー効率はよく合目的である。た
だし脂肪酸は脳脊髄関門を通れない。脂肪酸とブドウ糖利用の比率は呼
吸商(respiratory quotient; RQ)に反映され,尿中窒素量を測定すると
酸化されたブドウ糖の利用率は推定できる。
基質 1g あたりの発生・消費量表
栄養素 発生熱量 酸素 二酸化炭素基質1gあたりの発生・消費量表
(アトウォーター係数) 消費量(L) 生成量(L)C6H12O6 + 6O2 → 6CO2 + 6H2O + エネルギー
(糖質はブドウ糖換算で計算する)
ブドウ糖が充分に供給できない非常時には脳はケトン体を利用するこ
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とになる。インスリン/グルカゴン比は低下すると肝臓はケトン体(β-ヒドロキシ酪酸,アセト酢酸,アセトン)を産生する。
ブドウ糖からのエネルギー (ATP) 産生
ブドウ糖1分子から肝臓,心
臓,腎臓では NADH2+がリンゴ
酸-アスパラギン酸シャトルを通
過するため 38 ATP (または 32 ATP),それ以外の臓器ではグリ
セロリン酸シャトルを通過する
ため 36 ATP (または 30 ATP)が作られる。( )内の数値は P/O比(酸素1原子当りの作られる ATPの数)を NADH は 2.5, FADH2 は
1.5 で計算したもの。 このうち
嫌気的に解糖系で 2 つの ATP が
産生される。
肝臓、筋肉、腎臓の役割
食後、インスリン作用下で肝
臓と筋肉にグリコーゲンが蓄積
される。一方、空腹時には肝臓
はグルカゴン、エピネフリン、
コルチゾールなどによりグリ
コーゲンを分解し糖新生を活性
化させブドウ糖産生を促す。筋
肉ではブドウ糖産生はできないがグリコーゲンが分解され乳酸として肝
臓に戻り糖新生の原料となりブドウ糖が供給される(乳酸(Cori)回路)。
腎臓では尿細管内のブドウ糖が血液内に回収される。なお腎臓はブド
ウ糖新生、産生も行う酵素を有するが低血糖時以外は肝臓でのブドウ糖
産生が主体である。
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糖毒性とインスリン分泌異常
高血糖は相対的インスリ分泌不足で惹起されるが,インスリンとは関
連なく血糖が高いこと自体が問題ともされてきた。
血糖値が高いこと自体がインスリンの分泌を低下させ,インスリン抵
抗性を悪化させる現象を糖毒性と呼ぶ。1980年に Kosaka らが糖尿病患
者を食事療法,SU 薬,インスリンを用いて治療し血糖が低下すればど
の治療法でも同様に耐糖能 が改善することを示した。 1987 年に
Rossetti らがラットを用いフロリジンにより尿糖を増加させ血糖を低下
させた。血糖を低下させることでインスリン分泌とインスリン感受性が
改善することを報告した。同年 Yki-Jarvinen らが血糖を上昇させた状態
でインスリン感受性が悪化することを報告した。
インスリン分泌メカニズム
糖尿病では膵臓からのインスリン分泌が障害されている。インスリン
分泌の低下は糖尿病において病態の主体をなす。これを抑制するにはイ
ンスリン感受性を改善し膵 β 細胞の負担を軽減することが有用である。
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糖尿病におけるインスリン分泌機能低下の病態について,糖毒性とい
う概念は非常に重要である。
2型糖尿病における膵 β 細胞の経年的な機能低下
(U.K. Prospective Diabetes Study Group.: U.K. prospective diabetes study 16.
Overview of 6 years’ therapy of type 2 diabetes: a progressive disease. Diabetes.
44:1249-58, 1995.)
英国Oxford 大学の研究者は 2型糖尿病でも経時的に膵 β 細胞の数や機
能が減少することを提唱してきた。
糖尿病の合併症
糖尿病の病態で血糖高値による病的障害は「合併症」という言葉で包
括される。
急性合併症(急性代謝失調)
血糖が 100mg/dl 上昇すると血中 Na 濃度は約 2 (1.6~2.4) mEq/L 低
下する。水分摂取が十分でないと Na 濃度が低下せずに血漿浸透圧は高
値となり意識消失に至る。(非ケトン性高浸透圧状態)
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前述のように脳はブドウ糖を通常唯一のエネルギー源とするが,ブド
ウ糖が不足した場合にケトン体を用いる。この制御は実際にブドウ糖が
存在しているかどうかよりも血中のインスリンとグルカゴン作用のバラ
ンスにより行われる。そこでグルカゴン作用に比較しインスリン作用が
著しく低下した場合にケトン体(β-ヒドロキシ酪酸,アセト酢酸,アセ
トン)が肝臓から産生され血液が酸性となり意識消失に至る。(ケトア
シドーシス)
慢性的な高血糖による臓器障害
ブドウ糖は反応性が高い物質である。ブドウ糖と反応した物質は糖化
を起す。赤血球のヘモグロビンと非酵素的に反応することはその代表的
な例である。蛋白質のアミノ基がブドウ糖などの還元糖をアルデヒド基
と非酵素的に反応し Schiff 塩基(アルジミン)を経てケトアミン
(Amadori 化合物)を形成する。さらに脱水や重合を繰り返し AGE (advanced glycation end product) となる。最小血管の内皮細胞や腎
糸球体メサンギウム細胞に存在する AGE 受容体(RAGE)が刺激されサ
イトカイン産生が起こることや,このような反応過程での酸化ストレス
も組織に悪影響をもたらす。
神経鞘細胞や眼のレンズにおいて,ブドウ糖はアルドース還元酵素に
よりソルビトールとなる。この際の NADPH/NADH 低下やソルビトール
蓄積自体が細胞に障害を惹起させるとも言われる。
PKC (protein kinase C)が活性化され VEGF (vascular endothelial growth factor)の産生が亢進する経路も影響するとされている。
以上のようなメカニズムで糖尿病網膜症,糖尿病腎症,糖尿病神経障
害が進展されると言われる。
動脈硬化性疾患
高血糖による組織障害は大血管障害ももたらす。脳卒中や虚血性心疾
患の発生頻度について糖尿病患者は非糖尿病患者に比較し多くの疫学調
査では2~4倍とされている。更に,血糖を管理することで虚血性心疾
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患は 15%程度低下させることができるというメタ解析も存在する。ただ
し,大血管障害は糖尿病に特異的に起こるものではなく,2型糖尿病を
惹起させている生活習慣の問題が背景にある可能性もあり血糖のみでは
議論できない。そしてインスリン抵抗性という概念が大血管障害の病態
については避けて通れない。
病態・成因に関連する糖尿病患者の臨床的特徴
糖尿病患者の症状
糖尿病では高血糖により,多飲,多尿,口渇,意識障害,体重減少が
臨床的症状としてあらわれる。細小血管合併症が進行すると,失明,腎
不全に至る。神経障害のために末梢の両側のしびれ,疼痛,無感覚に至
る。大血管障害はで脳卒中,虚血性心疾患や閉塞性動脈硬化症 (ASO)といった動脈硬化性疾患を伴いそれによる症状も見られることもある。
しかし,ほとんど症状がなく健康診断で発見される場合も多い。その
ような場合には糖尿病は無症状で知らない間に臓器障害が進行すること
をよく患者に説明する必要がある。
家族歴
2型糖尿病患者は家族歴が濃厚とされる。またミトコンドリア異常に
よる糖尿病では母親を経て遺伝する。SUR遺伝子異常の場合には生下時
より糖尿病を発症する例があり両親のどちらかがもともと遺伝子を有し
ていたと判明する例もある。1型糖尿病患者は双子の研究で一致率は2
型糖尿病よりも低いとされている。
生下時体重
妊娠糖尿病の場合には胎児の体重は増加しやすい。一方,栄養状態が
悪いと体重は低くなりやすい。妊娠糖尿病は血糖が上昇しやすい体質で
ありその子どもは糖尿病になりやすいことになる。また栄養状態が悪い
と胎内で環境に適応するように臓器形成がされると言われるため,膵 β細胞量が少なくプログラムされるか機能が低くプログラムされる可能性
がある。どちらにせよ,生下時体重が正常より少なくても多くても糖尿
病になる頻度が上昇するというデータがある。遺伝子が同じでもその発
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現が変化してくるエピジェノミクス(epigenomics)の問題も重要であ
る。
インスリン抵抗性
1960年にインスリン測定が可能となった時に,糖尿病患者でインス
リン値を測定したところ,2型糖尿病ではインスリン値は低くなかった 。
すなわちインスリンが効いていない状態が存在していることが示唆され
た。
その後インスリンを直接体内に入れその効果を見る直接法とインスリ
ン値を測定し数値モデルでインスリンの効果を推定する間接法が開発さ
れた。直接法ではインスリンクランプ法,間接法では HOMA法がよく用
いられてきた。HOMA法では空腹時(FPG)のインスリン値(FIRI)と血糖
値から抵抗性指数を計算する。下の A, B, C の3名について比較しよう。
血糖,インスリンは空腹時の値である。
A,B では同じ血糖値でもインスリン値が高い B はインスリンが効いてい
ないので抵抗性が A より強い。B,C では同じインスリン値でも血糖が低
下していない C が B より抵抗性が強い。A, B, C の順に抵抗性が上昇す
るが血糖値とインスリン値の積がその順番である。少なくとも比ではう
まくゆかない。HOMA-IR は本来複雑な糖代謝を数式で計算するのであ
るが,簡易式 FPG[mg/dl]×FIRI[µU/ml]÷405 で計算してもよく,1.6以下が正常,2.5以上でインスリン抵抗性があるとされている。
インスリン分泌能
ブドウ糖濃度を変化させインスリン値や C-peptide 値の変化を観察す
る方法が一般的である。75g 経口ブドウ糖負荷試験の基礎値と 30 分値
を用いた insulinogenic index はよく用いられる。しかし,見た目のイ
ンスリン分泌が同じでも膵 β 細胞の数を単純に反映しているかは不明で
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あり,インスリン抵抗性による補正も必要と考えられる。
血中か尿中の C-peptide を測定することで,インスリン依存状態かの
判別はある程度つくとされる。
インスリン依存状態と非依存状態
病態は膵 β 細胞の残存の程度により,インスリン依存状態と非インス
リン依存状態に分かれる。すなわち生命維持にインスリンが不可欠な状
態をインスリン依存状態という。
糖尿病の成因とそれによる分類
糖尿病は成因により4つに分類される。1)1型糖尿病,2)2型糖
尿病,3)その他の特定の機序,疾患によるもの,4)妊娠糖尿病 で
ある。
1) 1型糖尿病:
膵 β 細胞破壊により通常絶対的なインスリン欠乏に至る。
A.自己免疫性,B.特発性がある。基本的に自己免疫機序を背景として
惹起されるため抗 GAD抗体,抗 IA-2抗体,抗インスリン抗体などの膵
β 細胞の抗原に対する自己抗体が陽性である。発症のしやすさには遺伝
的な背景が関与し特定の HLAハプロタイプが関与するとされる。
劇症1型糖尿病では膵 β 細胞の破壊が急激に起こる。診断基準は初診
時 尿ケト ン 体 陽 性 か 血 中 ケト ン 体 上 昇 , 随 時 血 糖 288mg/dl(16.0mmol/L)以上かつ HbA1c(NGSP) 8.7%未満,尿中 Cペプチド
10μ g/日未満,または空腹時血清 C-peptide 0.3ng/ml未満かつグル
カゴン負荷(か食後2時間)血清 C-peptide 0.5ng/ml未満。(抗
GAD 抗体や抗 IA-2 抗体は陰性の場合がほとんどである。また HLA DRB1*04:05-DQB1*04:01 との関連が明らかにされている。)
1型糖尿病発症に関連する遺伝子
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感受性 HLAハプロタイプ
2) 2型糖尿病 :インスリン分泌低下を主体とするものと,インス
リン抵抗性が主体でそれにインスリンの相対的不足を伴うものなど
がある。
(次に述べる特定される明確の原因がなく,1型と分類されないものを
2型糖尿病としている。)
2型糖尿病の発症に関与する候補遺伝子
(複数保有すると発症確率が増大)
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3)その他の特定の機序,疾患によるもの
A.遺伝因子として遺伝子異常が同定されたもの
① 膵 β 細胞機能にかかわる遺伝子異常
② インスリン作用の伝達機構にかかわる遺伝子異常
B.他の疾患,条件に伴うもの
① 膵外分泌疾患
② 内分泌疾患
③肝疾患④ 薬剤や化学物質によるもの
⑤ 感染症
⑥免疫機序によるまれな病態
⑦ その他の遺伝的症候群で糖尿病を伴うことの多いもの
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TypeMODY 1MODY 2MODY 3MODY 4MODY 5MODY 6MODY 7MODY 8MODY 9MODY 10Permanent neonatal diabetes mellitus
遺伝子異常では MODY(maturity-onset diabetes of the young)
の遺伝子検索では膵 β 細胞機能に直接かかわるものや肝臓の転写因子に
関与するものが存在するが,インスリン分泌は低下する。
遺伝的な背景がはっきりした場合には家族に対して遺伝子コンサル
テーションが必要となる。
疾患
内分泌疾患では,グルカゴンを異常分泌するグルカゴン産生腫瘍, 糖
質コルチコイド作用が異常増加するクッシング症候群,原発性アルドス
テロン症,アドレナリンを異常分泌する褐色細胞腫,成長ホルモンを異
常分泌する成長ホルモン産生腫瘍(先端巨大症)がある。消化管肝臓疾
患では,肝硬変,慢性膵炎,ヘモクロマトーシス,膵癌がある。筋緊張
性ジストロフィーや Werner 症候群でも糖尿病をよく併発する。
薬剤
薬剤性(サイアザイド系利尿薬,フェニトイン,糖質コルチコイド
(ステロイド)など)は病院で診療する場合には多く見かける。
ケトアシドーシスで発症しても2型糖尿病の場合もあれば,緩徐進行
の1型糖尿病もある。経過を追うことで分類がはっきりしてくることも
多い。
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4)妊娠糖尿病
糖尿病が妊娠前から存在している場合を「糖尿病合併妊娠」と言う。
一般の後述の糖尿病診断基準で,妊娠してはじめて糖尿病と判明した場
合には「妊娠時に診断された糖尿病」とする。それ以外で「妊娠糖尿
病」という用語を用いるのは次の基準を満たす場合である。
75g ブドウ糖負荷試験
空腹時血糖値≧ 92mg/dl 負荷後1時間値≧ 180mg/dl 負荷後2時間値≧153mg/dlどれか上記のうち1つを満たしたもの。
この基準を満たすものは 25,000人以上の妊婦を対象とした HAPO研究ですべての症例と比較し母体,胎児,新生児のリスクが 1.75倍とな
るとされる。放置すると問題が起こるので「妊娠糖尿病」として治療す
る。
HAPO研究における主要転帰の発生頻度
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(The HAPO Study Cooperative Research Group. N.Engl.J.Med.358:1991-2002, 2008)
診断基準
糖尿病は血糖値と HbA1c を用いて診断される。糖尿病に特有な症状や
所見も参考となる。75 g経口ブドウ糖負荷試験を行う場合もある。
糖尿病に比較的特異的とされる網膜症の発症頻度を HbA1c(NGSP)で
プロットした図である。HbA1c の上昇に応じて網膜症の発生頻度が増加
しているのが分かる。 (Diabetes Care 32: 1327-1334, 2009 より引用)
まとめ
血糖が慢性的に上昇し問題(合併症)が起こる病気を「糖尿病」と診
断し治療の対象とする。その成因や血糖上昇に至る状況は多くの場合が
あるが基本的にインスリン抵抗性とインスリン分泌能低下が病態として
重要である。糖尿病診療には糖代謝の基本的知識と病態把握は欠かせな
い。
キーワード
ブドウ糖(glucose),HbA1c,インスリン,1型糖尿病,2型糖尿病,
その他の特定の機序、疾患によるもの,妊娠糖尿病
重要な数値
空腹時血糖値 fasting plasma glucose concentration
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90mg/dl (70~ 110mg/dl) ただし 米国で は 100mg/dl 以上
125mg/dl までを impaired fasting glucose (IFG)とする(WHO 基
準は 110mg/dl以上が IFG)。なお、妊婦では平均 70~75mg/dl と
いうデータがある。
脳の1日ブドウ糖消費
120g/日
肝臓の早朝空腹時ブドウ糖産生
2.2mg/kg 体重 per minute
尿からのブドウ糖排泄閾値
血中ブドウ糖濃度が約 170mg/dl以上となると浸透圧利尿で排泄
参考文献
1 ) American Diabetes Association: Clinical practice recommendations, Diabetes Care 35(suppl 1), 2012.
2)松田昌文:病棟血糖管理マニュアル―理論と実践― 金原出版,東京,2010.3)Ruderman NB ほか(松田昌文訳): ジョスリン糖尿病学 第2版 第 8章ホルモ
ンとエネルギーの相互関係:摂食状態,飢餓状態と糖尿病 メディカル・サイエ
ンス・インターナショナル(東京) 2007.