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新規触媒を用いた環境に優しい新規触媒を用いた環境に優しいバイオディーゼル油の製造法バイオディーゼル油の製造法
山口大学大学院理工学研究科工学教育研究センター
特命教授(教育) 福永 公寿
元 山口大学 VBL研究員 岑 友里恵
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主として植物由来油脂トリグリセリドをメタノリシスして得られる脂肪酸メチル
エステル(FAMEs:fatty acid methyl ester)はバイオディーゼル燃料(BDF:biodiesel fuel),すなわち「バイオマス原料から作られたディーゼル燃料用の燃料」として規格化されている.
BDFは引火点が160-180℃で,軽油等の化石燃料と異なり,揮発性芳香族成分が含まれず,生分解性で極めて安全である.
その使用を前提とした車両で使用するBDFはNOx(窒素化合物)とアルデヒド類の排出量が軽油より少し増えるが,HC(炭化水素),SOx(イオウ酸化物),CO(一酸化炭素),そしてPM(粒子状物質)の排出量は激減し,排ガスがクリーンである.
バイオディーゼル燃料(バイオディーゼル燃料(BDFBDF)とは)とは
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植物は大気中の酸素,二酸化炭素,水と太陽光エネルギーを用いて持続
的に油脂を光合成できる(動物性油脂も家畜が植物性油脂等の飼料を摂食
した結果,作り出したものとみなせる).
BDFの燃焼によって排出されるCO2は地球温暖化効果ガスの増加にカウン
トされないので(カーボンニュートラル),化石燃料に代替することで地球温
暖化対策に有効な再生エネルギーである.
BDFの軽油代替率は100%使用(B100:ニュート),20%BDF混合(B20),そして5%BDF混合(B5)など,世界でも国によって様々である.
持続性再生可能エネルギー持続性再生可能エネルギー
油糧植物 植物油 BDF
太陽光
CO2
大気
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BDFの原料となる植物油には欧州では主に新油の菜種油が,米国では新油の大豆油が余剰農産物の利用策として用いられている.
我国では植物油のほとんどが輸入品で(約260万t/年),この内50万t/年程度が廃食油になっている.我国内で生産できる植物油は少なく,欧米のよう
に新油から直接BDFを生産できないため,BDFの原料には食用油の廃食油が使用されている.
植物油は食用品としての使途を終えて廃食油となってもその後,BDFに使用できる高い能力を有している.従って,廃食油はBDFとして再生利用して資源循環型社会システムに組み込むことが望ましい.
研究の背景研究の背景
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新技術の基となる研究成果・技術新技術の基となる研究成果・技術
廃食油トリグリセリド中には必然的に遊離脂肪酸(FFA)が含まれ,塩基性触媒メタノリシスでBDFを製造する場合,FFAは触媒と反応して触媒を消費するので,原料油中のFFA量は酸価として1.0 mg-KOH/g(0.5wt% FFA)以下のものを用いる必要がある.
そこで,安価で安全な固体触媒のNaHSO4・H2Oを用いて廃食油中のFFAをメタノールでメチルエステル化して,次のトリグリセリドのメタノリシスで合
成されるFAMEsと合わせて完全BDF化を行う研究を行った.
1.廃食油中の遊離脂肪酸(1.廃食油中の遊離脂肪酸(FFAFFA)の)の硫酸水素ナトリウム触媒メチルエステル化法硫酸水素ナトリウム触媒メチルエステル化法
FFAのエステル化反応
MeOHRCOOH H2ORCOOMe+ +触媒触媒
遊離脂肪酸(FFA)
メタノール FAMEs( = BDF)
触媒:触媒:NaHSONaHSO44・・HH22OO
水
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実験方法実験方法
(1) 酸価10.02 mg-KOH/gのモデル廃食油(米油(築野食品工業(株))19 gとオレイン酸(日油(株),純度99.5%)1 gを混合したもの)20 g及びメタノール 10 mLに所定量のNaHSO4・H2Oを加え,所定温度で所定時間撹拌して反応させた.
(2) ロータリーエバポレーターで過剰のメタノールを減圧留去後,反応液を一晩放冷した.
(3) 上層の油層をとり出した.
(4) 中和滴定で酸価を測定し,シンクロマトグラフィー(TLC-FID)で定性・定量分析を行った.(5) 下層の触媒層は濾過してアセトン洗浄を行い,減圧乾燥して分析に供した.
イヤトロスキャン(TLC-FID)酸価測定装置 Reflux反応装置
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酸価酸価10.02 mg10.02 mg--KOH/gKOH/gのモデル廃食油ののモデル廃食油のFFAFFAのメチルエステル化反応(のメチルエステル化反応(6464℃℃))
モデル廃食油(酸価10.02 mg-KOH/g) 20 g(米油:20.98 mmol;オレイン酸:3.55 mmol)メタノール 10 mL(247 mmol)硫酸水素ナトリウム一水和物 2 g(14.5 mmol)
0.26 mg-KOH/g
反応温度:64℃(還流)
30分間(0.5 h)の反応で塩基触媒メタノリシスに対する許容FFA値(最大酸価)の1.0 mg-KOH/gをクリヤーし,3 hで酸価は最小値0.26 mg-KOH/gとなった.3 hを越える頃からトリグリセリドのトランスエステル化が起こり始め,FAMEsは増加するが,酸価も漸増するので反応時間は1-2 hでよい.
目標値1.0 mg-KOH/g
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モデル廃食油のモデル廃食油のFFAFFAのメチルエステル化への触媒量の影響のメチルエステル化への触媒量の影響
目標値1.0 mg-KOH/g
0.16 mg-KOH/g
モデル廃食油(酸価10.02 mg-KOH/g) 20 g(米油:20.98 mmol;オレイン酸:3.55 mmol)メタノール 10 mL(247 mmol)硫酸水素ナトリウム一水和物 2 g(14.5 mmol)
対油脂触媒量1.0wt%(0.2 g)でも酸価は1.0 mg-KOH/g以下になり,5.0wt%(1.0 g)で最小酸価0.16 mg-KOH/gとなった.生成FAMEs量も考慮すると5-10wt%(1-2 g)の触媒量が最適である.
反応温度:64℃(還流)反応時間:3 h
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酸価0.03 mg-KOH/g
目標値1.0 mg-KOH/g
モデル廃食油のモデル廃食油のFFAFFAのメチルエステル化への反応温度の影響のメチルエステル化への反応温度の影響
モデル廃食油(酸価10.02 mg-KOH/g) 40 g(米油:42 mmol;オレイン酸:7.1 mmol)メタノール 20 mL(494 mmol)硫酸水素ナトリウム一水和物 4 g(29 mmol) 反応時間:1 h
反応温度30℃でも容易に目標値の酸価1.0 mg-KOH/g以下にできるが,60℃での反応で最低の酸価0.03 mg-KOH/g(測定限界値なので実質酸価は0)にまでFFAを除去できる.
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水分含量の測定~カールフィッシャー水分計~
(株)メトローム・シバタKFクーロメーター831型
水分含量18.2 ppm
脱脱FFAFFA後のモデル廃食油の酸価と水分含量への反応温度の影響後のモデル廃食油の酸価と水分含量への反応温度の影響
モデル廃食油(酸価10.02 mg-KOH/g) 40 g(米油:42 mmol;オレイン酸:7.1 mmol)メタノール 20 mL(494 mmol)硫酸水素ナトリウム一水和物 4 g(29 mmol) 反応時間:1 h
FFAのメチルエステル化後の酸価と水分含量の関係はマージン的で,60℃での反応後のモデル廃食油の反応後のモデル廃食油の酸価0.03 mg-KOH/gと水分含量18.2 ppmは最小である.
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モデル廃食油反応後のモデル廃食油反応後のNaHSONaHSO44・・HH22OOののFTFT--IRIRスペクトルスペクトル
1000200030004000
Wavenumber / cm-1
① NaHSO4・H2O
② NaHSO4 + Na3H(SO4)2モデル廃食油の
30℃, 1 h反応後
③ Na3H(SO4)2モデル廃食油の
70℃, 1 h反応後
XRDスペクトルの測定結果と合わせて
のようにNaHSO4・H2Oは30℃位から徐々にプロトンを放出し;60℃以上でその1モルから最大量の2/3モルのプロトンを放出して酸触媒として作用することが分かった.
エステル化反応で生成する水と結晶水はNa3H(SO4)2に固溶体状態で取り
込まれる.
3 NaHSO4・H2O
Na3H(SO4)2 + 2 H3O+ + SO42- + H2O
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原料油酸価[mg-KOH/g]
FAMEs[%]NaHSO4処理前 NaHSO4処理後
廃食油 A a) 2.05 0.37 3.3廃食油 B b) 1.55 0.43 0.9糠脂肪酸 c) 200.1 2.9 98.0ヤトロファ油 d) 8.74 0.57 9,2
a) 山口大学生協b) 宇部市内うどん店c) 築野食品工業(株)(純度99.5%)d) (株)ホーライ(インドネシア産)
原料油 20 gメタノール 10 mL(247 mmol)硫酸水素ナトリウム一水和物 2 g(14.5 mmol)
反応温度:64℃(還流)反応時間:1 h
実廃食油及びヤトロファ新油への本法の適用実廃食油及びヤトロファ新油への本法の適用
FFA 100%の酸価200 mg-KOH/gの糠脂肪酸は1回の反応では酸価1.0 mg-KOH/g以下にはできないが,得られた油脂原料に対して2段目の反応を行うことで達成できる.
BDF原料として近年注目されている非食用油のヤトロファ油は多量のFFAを含有するが,本法で容易にメチルエステルに変換できる.
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従来の従来のFFAFFA除去技術とその問題点除去技術とその問題点
特開2008-024841
トランスエステル化本反応で副生する苛性アルカリ含有グリセリンと廃食油を混合してFFAと反応させ,石けんとしてFFAを除去する技術
KOH触媒の場合,40℃, 0.5 hの処理で酸価3.5 mg-KOH/gを2.0 mg-KOH/gまで低下させるが,1.0 mg-KOH/g以下にするには操作を何回も繰り返す必要がある.
廃食油の一部を苛性アルカリ/MeOH溶液で中和滴定を行って酸価を測定し,その値に応じて触媒の苛性アルカリ使用量を上乗せして反応させることも一般に行われている.
いずにしてもFFAはケン化して石けんとして廃棄するので環境負荷は軽減できないし,酸価の大きな廃食油(ダーク油 etc)には適用できない.
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新新FFAFFA除去技術の特徴除去技術の特徴
穏和な反応で廃食油中のFFAを廃棄することなく,BDFの一部に変換でき,油中の水分量も減少できる水洗工程不要の廃食油前処理法である.
FFAの多いダーク油やFFA 100%の脂肪酸も本技術によってBDF製造用油脂原料とすることができる.
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新技術の基となる研究成果・技術新技術の基となる研究成果・技術
現在のBDF製造法は苛性アルカリを用いた均一触媒が主流であるが,反応後の触媒及びBDF中のアルカリ金属除去時のアルカリ洗浄廃水の大きな環境負荷のため,今なお代替触媒が検討されている.
そこで,アルカリ金属触媒を用いずに高収率で油脂トリグリセリドのメタノリ
シスを触媒してFAMEs,すなわちBDFを製造する触媒として有機塩基炭酸塩を用いる研究を行った.
2.有機アミン炭酸塩触媒による油脂のメタノリシス法2.有機アミン炭酸塩触媒による油脂のメタノリシス法
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触媒として働く有機アミン炭酸塩触媒として働く有機アミン炭酸塩
ビス炭酸塩ビス炭酸塩
モノメチル炭酸塩モノメチル炭酸塩
使用したアミン類使用したアミン類
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有機アミン炭酸塩触媒の合成法有機アミン炭酸塩触媒の合成法
構造確認は1H-NMR及び13C-NMR分析で行った.
1-メチル-4-ジメチルアミノピリジンのビス炭酸塩とモノメチル炭酸塩は新規化合物である.
アミン試薬 + DMC(モル比 1:3.67)
ビスアミン炭酸塩
オートクレーブ反応
110-150℃ /2-5 h
(1)ビス有機塩基炭酸塩(1)ビス有機塩基炭酸塩 (2)有機塩基モノメチル炭酸塩(2)有機塩基モノメチル炭酸塩
アミン試薬 + DMC + MeOH(モル比 1:1:2)
アミンモノメチル炭酸塩
オートクレーブ反応
110-150℃ /2-5 h
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実験方法実験方法
(1) 50 mL反応容器に植物油10.0 g(米油:築野食品,酸価 0.36 mg-KOH/g;パーム油:不二製油,酸価 0.18 mg-KOH/g;大豆油:SAJ,酸価 0.12 mg-KOH/g;菜種油:理研農産化工,酸価 0.04 mg-KOH/g;廃食油:大学生協,酸価 0.65 mg-KOH/g),メタノール5.0 g(137.0 mmol)及び触媒0.32 gを加え,窒素気流下で磁気撹拌して混合した.
(2) 反応温度64℃(還流),大気圧下で2-3 h撹拌して反応させ,室温まで放冷後,メタノールを減圧留去した.
(3) 下層のグリセリン層を分離除去後,上層を蒸留水
5 mLで洗浄して,下層の水層を除去後,水分を70℃で減圧留去してFAMEsを得た.
(4) 分析はキャピラリーカラムにSUPELCOMAX TM-10を用いたガスクロマトグラフ(島津 GC-14B)で内部標準物質としてテトラデカン,50℃(5℃/min で昇温)→100℃(10℃/min で昇温)→260℃(4℃で保持),の昇温プログラムを用いて定量分析した.
Reflux反応装置
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各種触媒による各種触媒によるBDFBDF化反応実施例化反応実施例
触媒 油脂反応時間
[h]FAMEs収率[wt%]
酸価(原油)
[mg-KOH/g]
A1 大豆油 3 99.5 0.09(0.12)
A2 米油 2 97.6 0.02(0.36)
A2 パーム油 3 99.3 0.02(0.18)
A2 菜種油 1 99.4 0.02(0.04)
A2 廃食油 3 99.1 0.17(0.65)
B1 大豆油 3 99.3 0.04(0.12)
B2 米油 2 96.9 ―
記号 A及びB:アミン類1:アミンモノメチル炭酸塩2:ビスアミン炭酸塩
BA
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各種触媒による各種触媒によるBDFBDF化反応実施例化反応実施例
触媒 油脂反応時間
[h]FAMEs収率[wt%]
酸価(原油)
[mg-KOH/g]C1 大豆油 3 99.4 ―
C2 米油 3 98.2 ―
D1 大豆油 3 99.7 ―
D2 米油 2 97.7 ―
E1 ― ― ― ―
F1 大豆油 3 99.1 ―
G1 大豆油 2 99.3 0.04(0.12)H1 菜種油 1 99.3 ―
I1 菜種油 1 99.1 ―
記号 C~I:アミン類,1:アミンモノメチル炭酸塩,2:ビスアミン炭酸塩
C D EF G H I
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触媒の繰り返し使用実験触媒の繰り返し使用実験
アミン炭酸塩触媒はグリセリン層に溶解しているので,
グリセリン層ごと次の反応に使用すべく,2回目以降,菜種油にメタノールと1回目の30%量のA1触媒と回収グリセリン層を加えて反応させた(64℃(還流)).
A1:
回数菜種油
[g]MeOH[g]
A1[mg] 注
BDF転化率 酸価(原油)
[mg-KOH/g]3 h 4 h
1 15 6 300 初回 100% 0.02(0.04)
2 15 6 9 1回目のグリセリン層使用
97% > 98% ―
3 15 6 9 2回目のグリセリン層使用
95% > 98% ―
4 15 6 9 3回目のグリセリン層使用
97% > 98% ―
5 15 6 9 4回目のグリセリン層使用
96% > 98% 0.02(0.04)
反応時間を延長すれば30%の触媒量を補充してグリセリン層をそのまま用いる再利用が可能である.添加触媒量を20%量(6 mg)とした場合,2回目の反応は3 h(88%),4 h(93%),6 h(95%)と反応速度が小さくなった.
実験結果
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アルカリ金属を全く含まないのでBDFに金属が入らず,アルカリ金属を除去するための数回の水洗工程を別途必要とせず,後処理工程として1回の水洗工程,または活性白土処理などを用いた濾過工程だけで,酸価がほぼゼ
ロのBDFが得られる.
短鎖アルキル基を含む触媒の廃水処理は容易で,触媒が溶解した回収グ
リセリンを用いることで触媒の繰り返し利用も可能である.
触媒活性が適度でMe4NOH等の強塩基触媒で得られるBDFよりも着色の弱いBDFが得られる.
新規有機アミン炭酸塩触媒の特徴新規有機アミン炭酸塩触媒の特徴
Me4NOH触媒によるBDF
アミンモノメチル炭酸塩触媒によるBDF
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1.廃食油中の遊離脂肪酸(1.廃食油中の遊離脂肪酸(FFAFFA)の)の硫酸水素ナトリウム触媒メチルエステル化法硫酸水素ナトリウム触媒メチルエステル化法
発明の名称:高級脂肪酸アルキルエステルの製造方法
出願番号 :特願2009-163535出願人 :山口大学
発明者 :福永公寿,籔内友里恵
(平成22年6月2日 JST外国出願支援決定)
2.有機アミン炭酸塩触媒による油脂のメタノリシス法2.有機アミン炭酸塩触媒による油脂のメタノリシス法発明の名称:脂肪酸アルキルエステルの製造方法
及び脂肪酸アルキルエステルの製造用触媒出願番号 :PCT/JP2009/058268出願人 :山口大学,宇部興産株式会社発明者 :福永公寿,西田晶子,岑友里恵,福田昌平,柏木公一
本技術に関する知的財産権本技術に関する知的財産権
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お問い合わせ先
山口大学
産学連携コーディネーター 松崎 徳雄
TEL 0836-85 - 9955
FAX 0836-85 - 9952
e-mail matsuzk@yamaguchi-u.ac.jp