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Medical Herb, Vol.27, 20146

F e a t u r i n g A r t i c l e

アロマ・フランス㈱ 代表

前原 ドミニック

スギナ :植物の話と伝統的な使用例特集Ⅰ「スギナ」

 私にとってスギナはネトルとともに大切なメディカルハーブのひとつで、風に吹かれ緑の波を描くスギナの群生を見ると癒されます。また粉末にして朝飲むと、昔、野原を歩き回ったことが思い出されやさしい気持ちで一日を始めることができます。 子どもの頃、百姓のおじさんたちが畑にはびこるスギナを厄介者扱いしていたのに対し、女の人たちは摘んだスギナを丹念に乾かしお茶にしてお年寄りに飲ませたり、お産で痛めた腰を癒すため産婦に腰湯をさせ「スギナで腰湯すれば目が綺麗になる」と言っていたことを思い出します。当時は馬鹿げていると思っていましたが、目と腎臓の関係を知る今では納得できます。オーストリアのマリア・トレベンは次のように述べています。「スギナの座浴で体を温め、腎臓の血行を良くし、目にかかる圧を取り除くと目のトラブルが改善される」。

スギナの紹介

 スギナはトクサ科シダ植物門の植物で、学名はEquisetum arvense。ラテン語でequisは馬、setaは剛毛、arvenseは畑を意味し、次のような名前でも呼ばれています。「砥ぐ草」:成分のシリカの働きにより研磨剤として用い

たことに由来。たわし状に丸めて鍋類、錫や貴金属を磨いたり、家具職人はつや出しに利用しました。

「ホーステール」:馬や牛の尻尾に結わえて蝿よけに用いたことに由来。

 スギナの起源は古生代石炭紀にさかのぼります。石炭紀に生い茂っていた大木並みの巨大植物がスギナの先祖で現在の石炭になっています。スギナの仲間には Equisetum telmateia、E. palustre E. hyemaleなどがありますが、E. palustre はアルカロイド類や催

奇性のセレンを含む毒性植物でスギナとは別種のものです。 多年草のスギナは砂質で湿気の多い土壌を好み、種子はなく実や花もつけません。1本の地下茎から2本の茎が1本ずつ伸び成長しますが、最初の茎は10 ㎝から20 ㎝の長さで春先に現れ有性生殖します。これがツクシです。この茎の後に光合成を行い栄養繁殖する2本目の茎が現れます。採取はフランスでは6〜7月、道路脇や除草剤を散布した田畑の近く、犬の散歩道を避けて行います。 ナイフで切り取った茎は5㎝くらいに切り揃え薄く広げて陰干します。十分乾燥したスギナはきれいな薄緑色をしています。5〜10 kgのスギナは乾くと1〜2kgになり、乾燥した場所で保存すると必要なとき、いつでも使うことができます。

薬草としてのスギナ

 スギナの薬用の歴史は古く、古代ギリシアではディオスコリデスがその薬効を述べ、止血剤として使われ、古代ローマ時代にはガレノスが推奨し、人々は強壮剤としてまた黄色の染料としても利用しました。中世には腎臓膀胱疾患、関節炎、出血性潰瘍や結核の民間療法として、また利尿剤としても広く使われました。その後しばらく忘れられていたのですが、クナイプが「かけがえのない、評価できないほどの効果を出血、吐血、腎臓膀胱の病気、結石に対し持っている」と再評価します。 1942年まで実施されていたフランスのエルボリスト(ハーバリスト)の国家試験向け教本には、スギナは含有するミネラル成分により、軟骨、腱、骨を強化し皮膚や結合組織の修復を行いニキビなどの改善にも効果があると記されています。フィトテラピ

ーでは骨関節系の薬草として重宝され、カリエスの予防、爪の強化、抜け毛防止、皮膚の代謝促進に使われていますし、ナチュロパシーでは骨粗鬆症の予防に前更年期の女性にスギナの摂取を勧めています。スギナの含有成分・ステロール、アスコルビン酸、 フェノール酸Equisetum arvense Equisetum palustre

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F e a t u r i n g A r t i c l e

ASTRUC-MAEHARA Dominickアロマ・フランス㈱代表、自然療法機構理事。クレイテラピスト、アロマテラピスト、経絡療法士、ナチュロパト。Pacific Institute of Aromatherapy認定国際アロマテラピスト、JAMHA認定ハーバルセラピスト。訳書に『美容と健康のための 植物オイル・ハンドブック』『美容と健康のための ハーブウォーター・ハンドブック』(東京堂出版)。現在、自然療法であるクレイテラピーの普及活動を行っている。

・フラボノイド(ケンペロール、ケルセトール等)・サポノシド・アルカロイド(ニコチン等)・カルシウム、カリウム、マグネシウム、鉄分、ナ

トリウムなど*特にミネラル分が豊富で(20%)、中でもシリカ

がたっぷり含まれています。

伝統的な使用例

 シリカは簡単に水に溶けないので、粉状または煮出し液として摂取するのは一番効果を得られます。①内服:ミネラル補給、骨折部の癒合、骨粗鬆症、前更年期、更年期には粉末にして服用すると効果があるといわれています。家庭で粉末にする場合、乾燥したスギナを粉砕し、ふるいにかけて細かい粉状にします。摂取方法はネトル(粉)1/3に対しスギナ(粉)2/3の割合で80㎖の水に混ぜて飲むか、1日小匙1杯の粉末を食べ物にふりかけて、3ヵ月ごとに3週間摂るようにしますが、3週間を超えないようにします。私は朝食の前に飲んでいます。 慢性リューマチ、関節症、筋痙攣には1日大匙1杯のスギナのハーブウオーターを1ℓの水で薄めて3ヵ月ごとに3週間飲みます。 腎仙痛、腎臓結石、膀胱炎、外傷性浮腫には煮出液にして飲みます。70 gの乾燥スギナを1ℓの水に入れて一晩置き、翌朝とろ火で10分間コトコト沸かした後(ぐらぐら煮立たせないこと)、15分間浸します。3回に分けて1日湯飲み1杯を3週間飲みます。注意)ごく少量のチアミナーゼを含んでいるといわ

れ、カナダ厚生省はスギナを原料とするサプリにチアミナーゼ除去済み証明の添付を義務づけています(「マルチビタミン、ミネラルのサプリについて」2007/10/23 カナダ)。しかし、人体で抗チアミン作用を起こすかどうかは明らかにされていませんし、この酵素の作用は100℃の熱を加えると消えます。ただし、利尿作用があるので3週間以上の服用は避けます。また次のような場合は服用してはいけません。

 ・心臓、腎臓の機能障害による浮腫のある人 ・肝臓、腎臓の病気を患っている人 ・12歳以下の子ども、妊婦、授乳中の女性 ・ジキタリス製剤投与中の人②外用:けが、骨折、腱炎、結合組織の劣化による肌トラブル(肌の老化、妊娠線等)に効果があります(ESCOP, AFSSAPSによる)。 500㎖の水に20gのスギナを入れ5時間以上漬け

置き、とろ火で30分煮出し冷ました後、湿布にして使います。煮出液はシワ予防のクリームやジェルの基材にもなります。

ガーデニングにもスギナ

 寄生菌による病気やアブラムシなどの害虫駆除にはスギナの発酵液が効果的で、必要に応じてネトルやコンフリーの発酵液と混ぜて使います。発酵液は以下のように作ります。 野菜やお花にスプレーして使いますが、定期的に行うとより効果的です。1kgの生スギナあるいは150 gの乾燥スギナを10ℓの水の中に入れて約2週間放置し発酵。発酵が終わったら(表面に泡がなくなったら)濾して容器に移し10倍に薄めて噴霧。発酵液はプラスチック、木製の密封容器に入れ(金属は不可)冷暗所で数週間保存可能です。 さあ、では家を出て野原を散策しましょう、ナイフと布袋を手に…。大切なのは自然を敬い自然の中で植物を愛でること、成分の知識よりも、どこにそしてなぜそこで生育しているのかを知ることです。植物を知るということは観て触れて感じて味わうことから始まるのですから。

(文献)1)Michel Dubray : Guide des contre-indications

des principales plantes médicinales, Editions Lucien Souny 2010

2)Jean Bruneton : Pharmacognosie (phytochimie plantes médicinales) , Editions Lavoisier (2009)

3)Cours des plantes du système ostéo-articulaire du programme de phytothérapie de ELPM (Ecole Lyonnaise des Plantes Médicinales) 2011

4)Maria Treben : Gesundeit Aus Apotheke Gottes: Ratschlaege Und Erfahrungen Mit Heilkraeutern (2008)

5)Pierre Lieutaghi , 2006, Les bonnes herbes, Edition Actes Sud

6)Laurence Chaber, Alain Creton, 2013 , Plantes de santé, Baumes et Tisanes, Editons Séquoia Editions


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