旬レポ中国地域 2013年 7月号 1
『新・郷土料理』の取り組み
このところ、各地の郷土料理の見直しと新たな郷土料理のプロデュースで関わること
が多くなっている。巷でいわれている『B級グルメ』とは違い、昔から地元に根付いて
いる食材や調理方法、味などを後世に伝えたいという思いが郷土料理の取り組みには見
えてくる。この中には懐かしさだけでなく、近年注目されているオーガニック、無添加、
食育など、健康維持やアンチエイジングなどにも結び付く要素も大きい。
今回は郷土料理に取り組むエリアの食のこだわりをご紹介する。
私はどちらかというと、B級グルメは苦手だ。鉄板でつくるものが多いが、広島のお
好み焼きなど郷土料理として昔から親しまれているものは別として、なんとなくジャン
キーで味が濃く、べったりとしたイメージがあるのが気になる。丼物が苦手ということ
もあるが、何でもドサッと盛り込むと、味の奥行がなくなってしまうように感じる。
一方、昔から食されてきた郷土料理には
ストーリーがあり、その地方の原風景を垣間
見られるような懐かしさを感じられるのがいい。
食するとホッとして安らかな気持ちにな
れるし、そのストーリーを思い浮かべながら、
よそ者でも一緒に語り合える楽しさがある。
エッセイ 素敵・発見!マーケティング 47
株式会社クリエイティブ・ワイズ 代表取締役 三宅曜子
■B級グルメではなく、「郷土料理」のこだわり
地元自慢の野菜をたっぷり使った
若い人に好まれる新郷土料理
旬レポ中国地域 2013年 7月号 2
各地で取り組む郷土料理の再現や、昔からあったメニューをリニューアルして新たな
郷土料理をつくろうとする事業にプロデューサーとして関わることで、本来の日本の良
さを食に託して紹介できる醍醐味を感じている。
広島県福山市で取り組む郷土料理に『うずみ』がある。もともと「うずみ」は、倹約
を強いられてきた江戸時代にぜいたく品とされた具材をご飯で隠して食べたのが始ま
りと言われており、ご飯の下に瀬戸内の山海の素材を活かした具材が隠れていて、崩し
ながら食べる宝探しのような料理だ。
近年ではこの料理を知らない若者が
増えているため、伝統食を再現しようと イベントで紹介したところ、1,000 人
の市民の試食投票でグランプリになった
ことからこの取り組みがスタートした。
「うずみ」は①そのまま、②だし汁かけ、③薬味入れと 3種の味が楽しめる料理であ
る。400 年つづく郷土料理を新しい形で蘇らせた福山うずみはこれからも大きく育って
いく温故知新のメニューとして期待できる。
また、4 年前からサポートしている山口県の防府には、『防府天神鱧』という
新たな郷土料理が誕生した。
全国でも有数のハモの水揚げを誇る防府市であるが、ハモはそのまま京都へ
出荷され、京都のハモとして珍重されてきた。しかし、「やはり本場で食するの
が一番!」と、地元の料飲組合が立ち上がり、高級料理としてのイメージが強
いハモを手軽に食べていただけるよう『防府天神鱧』というネーミングを打ち
■新たな取り組みの『新・郷土料理』 ~福山市の取り組み~
■『地域にあるものを地域で食べる』 ~防府市の取り組み~
福山市全体で取り組む郷土料理『うずみ』
旬レポ中国地域 2013年 7月号 3
出し、まずはお弁当を提案した。
カリカリ梅をまぶしたご飯に
タレ焼き、白焼きのハモを並べ、
白焼きには本わさびを添える。
シンプルであるがとてもおい
しい弁当に仕上がった。
このメニューを市民に数回に
分けて試食いただいたところ、これま
でハモをあまり口にすることがなかった
地元の方々がその美味しさに感動し、
どんどん口コミで広がっていった。
メニュー開発からブランディングまでトータルにプロデュースをした中で印
象に残ったのが、この組合で『鱧塾』を開き、後継者育成やハモで最も重要と
されている骨切りを若い料理人たちに徹底して先輩が指導することをテーマと
していること。伝統料理だからこそ、これからの食の担い手である調理師を育
てながら本物のこだわりを追求する心意気だ。
防府市では、昨年は『防府三白』をテーマに、防府天神鱧に続く取り組み第 2
弾としてホワイトアスパラを取り上げ、新たな伝統料理として提案できるよう、
本来洋食のイメージが強いホワイトアスパラを和食、中華など、様々なスタイ
ルでメニュー開発を行った。
これを行うことで新たな農業参入者が増え、生産拡大により農業や漁業の人
材育成にもなり、大きく地域活性化に結びつく要素となる。今年度は次のステ
ップとして、方言である『幸せます』プロジェクトを立ち上げ、観光事業を総
防府天神鱧を市民に試食していただく
『ホワイトアスパラ』は茹で方がポイント ホワイトアスパラ料理がずらりと並んだ試食会
旬レポ中国地域 2013年 7月号 4
合的に行なっている。
関東の観光地として名高い伊豆でも、新たな伝統料理の開発が進んでいる。
昨年度に毎月サポートしていたのが、本州で最も早く開花する『河津桜』で有名な伊
豆河津だ。
ここは鮎とわさびが有名であるが、これまで伊豆の踊子や天城超えといった映像など
のイメージが強く、あまり食の要素では訴求できていなかった。
ここではブランド力のある鮎とわさびをクローズアップさせ、現代の食スタイルに合
う新たな伝統食をつくろうと、電鉄会社と地元商工会、観光協会などが立ち上がり、桜
の時期以外のオールシーズンに楽しんでいただけるメニュー開発を行った。
皆が集まれば様々なものが生まれる。伝統的な黄飯(うこんを使った黄色のごはん)
や鮎の燻製などを活かした楽しい食事が並ぶこととなった。
今年もさらにレベルアップさせ、本格的なメニュー開発を行う予定である。
伝統料理は、今では忘れ去られてしまったメニューや高齢者しか知らないというさび
しい状態になっている地域も多いが、「昔あったよね」、「そういえば食べた記憶がある
ね」。「我が家ではこうして食べていた」など、思い出しながらの楽しい話題の中心にも
なりうる。近年では、全国の小学校など、率先して伝統食を給食に取り入れているとこ
ろも見られるようになった。B級グルメだけではなく、郷土の文化と食を結びつけた取
■観光地ならではの『地元御馳走メニュー開発』 ~伊豆河津町の取り組み~
伊豆河津の鮎とわさびを使った
新郷土料理
伊豆河津の新たな郷土料理プロジェクト試作品
旬レポ中国地域 2013年 7月号 5
り組みをクローズアップさせてみるのもいいと思う。
マーケティングコンサルタントとして、中小企業支援及び指導、商業活
性化事業、まちづくり事業等、顧客のニーズを的確に捉えた市場開発とア
プローチ手法等、幅広い分野におけるマーケティング全般のアドバイスを
全国各地で手掛ける。また、平成 19年度より地域資源活用事業の政策審議
委員、国会での参考人をはじめ、全国で地域資源を活用した事業推進、農
商工連携事業、JAPANブランドプロデューサーなど幅広く活躍中。
● 経済産業省地域中小企業サポーター
● 同、伝統的産業工芸品産地プロデューサー
● 中小企業基盤整備機構経営支援アドバイザー
● 同、地域ブランドアドバイザー
● 内閣官房 地域活性化伝道師
● 広島県総合計画審議会委員 他
経済産業省 中国経済産業局 広報誌
Copyright 2013 Chugoku Bureau of Economy , Trade and Industry.