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ホワイトペーパー デジタルマーケティング

「顧客を理解する」ためのデータ分析がマーケティングの勝敗を左右する

人口減少などを背景に将来の国内市場の縮小が予想される中、多くの日本企業が新しい市場開拓や顧客獲得による事業成長の道を模索している。日本企業が激しいグローバル競争を生き抜くには、デジタル技術を活用してビジネスプロセスやビジネスモデルを変革することが不可欠だ。とりわけデジタル活用の重要性が高いのがマーケティングである。企業は BtoC(企業対個人)にとどまらずBtoB(企業対企業)の事業においてもデジタルマーケティングに取り組む必要に迫られている。その成否を握るのは、顧客を理解するためのデータ分析と顧客の購入意欲を高めるためのコンテンツ提供にある。

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 マーケティングでデジタルが重視される背景にあるのは、

デジタル技術の進化による消費者の行動の変化である。例え

ば商品購入の場合、そのチャネルがオンラインであるか実

店舗であるかを問わず、あらかじめ商品に関わる情報を収集

し、安く、期待した通りの商品を手にしたいと考える消費者

が増えている。

 普段から Webサイトで情報収集をしている人は、ビジネス

の現場でも同様に情報を収集したいと考える。その結果、デ

ジタルで武装したスマートな顧客が増えてきたというトレ

ンドが、BtoC企業だけでなく、対面訪問を重視して顧客との

関係を築いてきた BtoB企業にも波及している。企業への問

い合わせが電話ではなくメールで届くことが増えてきただけ

でなく、さらに詳しい商品情報を Webサイトに載せてほしい

という顧客からの声が大きくなってきた。

購買行動の変化が企業マーケティングのデジタル化を迫る

 消費者や法人顧客の購買行動が変化している以上、企業は

この変化を見極め、適切なマーケティングを実施する必要があ

る。デジタルマーケティングは、Webサイト/ECサイト、モバイ

ルアプリ、店舗、カスタマーセンターなど、リアルとデジタル

のチャネル(顧客との接点)を使い分け、見込み顧客情報(リー

ド)の獲得や見込み顧客の育成、顧客のファン化までのプロセ

スをテクノロジーで包括的に支援していく取り組みである。

 このプロセス全体を通して顧客に蓄積される体験が、最終

的にはブランド価値の向上に結びつく。ビジネスの現場で顧

客体験の重要性に気付いた企業は、消費者・顧客を購買行動

に導くため、一人ひとりの顧客を理解し、それぞれが必要と

する情報をパーソナライズして適切なタイミングで提供す

る方法を模索し始めた。

BtoBで立ち遅れた日本企業のデジタルマーケティング

 富士通総研が 2016 年 9 月に国内のマーケティング担当者

向けに実施した調査結果によると、デジタルマーケティング

の取り組みで、主に BtoC事業を手掛ける企業(以下、BtoC企

業)が先行していることが明らかになった。主に BtoB事業を

手掛ける企業(以下、BtoB企業)のデジタルマーケティング

への取り組みは遅れ気味で、「特に商社や卸売業のように取

引関係が固定的な業種での取り組み意欲が低い」と BtoBマー

ケティングに詳しい富士通総研 デジタルサービス開発室の

田中秀樹は指摘する。

 デジタルマーケティングに取り組む BtoB企業が相対的に

少ない背景には、 “営業活動は対面訪問を主体で進めるべき”

という意識が根強いことがあるようだ。国内の BtoB企業に

はマーケティング部門が設置されていないところも少なくな

く、これから BtoBマーケティングに取り組もうという企業

が大半である。

 現場がこれからはデジタルの時代になると考えていても、

デジタルマーケティングに対する経営層の理解が進んでいな

い企業や、営業中心の体制に問題意識を持ちながらも、どこか

ら何に着手すればよいか分からない企業も少なくない(図1)。

日本企業がデジタルマーケティングで成果を得るために必要なこと

 BtoC、BtoBを問わず、デジタルマーケティングに取り組

み始めたものの、残念ながら成果を上げられていない例も存

在している。

 その背景について、BtoCマーケティングに詳しい富士通

総研 流通・生活サービス事業部の安藤美紀は、「多種類の製

品やサービスを複数のチャネルで提供する企業ほど、ター

ゲット顧客や行動特性に関する分析が複雑になる」と語る。

こうした分析をするためのツールへの出費は必然的に大きく

なり、高額な出費に見合った投資対効果を得ることが難しく

なっている。

 しかも分析ができる人材を確保したり、体制を整備したり

する必要にも迫られる。こうした事情から、デジタルマーケ

ティングに取り組もうする企業は、はじめから専門チームを

立ち上げるのではなく、特定の事業部門を選んで「お試し」か

ら始める企業が少なくない。

株式会社富士通総研デジタルサービス開発室田中 秀樹

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くない」と指摘する。

 MAツールはあくまでも手段でしかない。成果を出すには、

関心を喚起するコミュニケーションや興味に応えるコンテン

ツの準備、それらを展開するタイミングなど、見込み客育成

のシナリオが重要になる。この見込み顧客育成のシナリオを

描く際に欠かせないのがビジネスプロセスの知識である。

さらに、「デジタルマーケティングの意義を理解し、デジタ

ルマーケティングでビジネスや企業をどう変えるのか目的

を明確にした、取り組みの全体像を企業全体で共有すること

が成果を出すための前提条件になる」と田中は語る。

 BtoBでも小さく始めて大きく育てるアプローチは有効だ

が、まず「どの分野がデジタルに向いているかを見極めた上

で取り組むことが大切だ」と田中。たまたまマーケティング

ツールに詳しい人がいる分野からデジタル化に取り組むとい

う“俗人的なデジタル化”に警鐘を鳴らす。

 企業の多くは、ビジネスプロセスが異なる複数の事業を運

営している。この中からデジタル化でビジネス変革を見込め

るところから始めるのが、その後の事業展開の成否を左右す

るポイントになる。

ターゲット顧客を理解するために不可欠なのはデータ

 顧客獲得の施策を進めるに当たって、まずターゲットにす

る顧客を明確にし、その要求を理解しなくてはならない。顧

客理解のために不可欠なのがデータである。

 取り組み始めるにあたっては、成果を上げるための要点を

きちんと押さえておかなければならない。「どんな組織体制、

スキルを持った人材、マーケティングのビジネスプロセスに

するべきかを最初に明確にすること」と安藤は指摘する。分

析の場合、データの処理や解析は外部に委託できても、「特

定の製品が特定の地域でよく売れているのはなぜか」といっ

たデータの解釈は、ビジネスを理解している社内のマーケ

ティング担当者でないと難しいからだ。

 小さく始めること自体は悪いことではない。マーケティ

ング担当者自身がデータを活用して効率的に施策を展開し、

“何もやっていなかったときと比べてどれだけ変化したかを

経営に説明できること”を目指す。これこそが「お試し」から

次のステップに進むための秘訣となる。

 これからマーケティング分野を強化する BtoB企業が特に

期待しているのが MA(Marketing Automation)に代表さ

れるツールやソリューションである。MAは Web閲覧、セミ

ナー参加、商品購買など見込み顧客企業の担当者がとった

行動履歴の情報を蓄積し、有力な見込み顧客を可視化する。

さらに、メールマガジンを最適なタイミングで配信したり、

Web表示コンテンツを閲覧者ごとに変えたりするなどして、

購買への関心を高めていく。これが MAの基本的な仕組みだ。

人力ではとうていこなしきれない、見込み顧客へのきめ細か

なアプローチを可能にするデジタルツールも注目を浴びてい

る。しかし MAツールを導入したものの成果が出ていない企

業もある。田中は「とりあえず MAを導入するという姿勢がよ

図1 : BtoB企業のデジタルマーケティングへの取り組みはこれから

7.1 27.1

■ BtoB企業のデジタルマーケティングへの取り組みはこれから

FPC_17-1_0117

BtoC製造業 BtoCでは少ない

取り組み先行17.2 40.4BtoC小売・外食業

28.1 24.8BtoCサービス業

6.9 23.7BtoB製造業

6.3 9.9BtoB商社・卸業

19.0 19.0BtoBサービス業

0 10 20 30 40 50 60(%)

8割が成果なし

取り組み少ない

BtoBでは多い

■ 既に取り組んで、成果を上げている  ■ 既に取り組んでいるが、成果についてはまだ見えていない

帝国データバンク年商上位1万社のマーケティング担当を対象にした調査(2016年9月富士通総研実施)

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帝国データバンク年商上位1万社のマーケティング担当を対象にした調査(2016年9月富士通総研実施)

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※このコンテンツは2017年2月にTechTargetジャパンに掲載したものです。

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 ところが、これまでマーケティングに取り組んできた BtoC

企業であっても、「意外なほど、顧客がどのようなクラスター

(集団)で構成されているか、ということを理解できていない」

と安藤は話す。BtoB企業でも、「売上実績だけでなく、将来性

や自社ブランド価値への貢献など客観的な基準でターゲット

を設定している企業は少ない」と田中は指摘する。

 顧客である企業を十分に理解していると自負する営業担当

者でも、購買に関わる全ての関係者と接点を持つことは難し

いし、関係者がデジタル上で Webサイトの閲覧・情報収集な

どの振る舞いをしていたとしても、具体的に何をしているか

までは把握していない。多くの企業では、見込み顧客の属性

や行動を詳しく知るという点に解決すべき課題がある。

これからの BtoB マーケティング を効果的に展開する手法

として期待される ABM(Account Based Marketing)でも、

ターゲットになる優良顧客を理解するために顧客分析を重要

視している。ABMとは、顧客になりそうな企業の属性や行動

パターンについて営業部門と共有し、それに合致した企業を

選別していくマーケティング手法だ。BtoC、BtoBを問わず、

顧客理解のために徹底したデータ分析によって、ターゲット

を明確にすることの重要性が高まっている。

 顧客をより深く理解するため、企業自身が顧客との直接の

やり取りを通じて獲得した顧客情報である「ファーストパー

ティーデータ」に、第三者が収集した顧客情報である「サード

パーティーデータ」を加えて、より詳細な分析する取り組み

も始まっている。このように自社と外部のデータを一元管理

し、分析するための基盤である「DMP(Data Management

Platform)」を構築し、顧客それぞれに最適化した情報発信

を進める動きはBtoC企業で先行している。

 ただし様々なデータを有効活用できる環境になったからこ

そ、データを顧客の嗜好や購買意欲の理解にうまく活用する

ことが問われている。顧客に「価値のある体験を提供してく

れる」と思ってもらえれば高い信頼を得られるようになり、

その体験は「おもてなし」に昇華する。

 一方、距離感を間違えて不快な思いをさせてしまうと、企業

は「ストーカー」として受け止められてしまい、顧客のブランド

価値をおとしめてしまうだろう。顧客の価値観を深く理解し、

顧客のニーズを先回りしてかなえてくれるようなオファーを

提供することこそが、優れた顧客体験の成否を分ける。

コンテンツ作りにもデータ分析を応用

 顧客の関心を引き付け、購買意欲を育てるために不可欠な

のが Webサイトやメールマガジンなどのコンテンツだ。コ

ンテンツは一律に同じものを全ての顧客に提供すればいいと

いうものではない。関心分野、購入意欲のレベルなどに応じ

て多種類のコンテンツを作り、顧客ごとにパーソナライズし

て提供することが望ましい。

 パーソナライズに必要な多様なコンテンツを作るときに

企業が取り組むべきことは、「『顧客がどうやってその商品を

知ったか』『なぜその商品が必要になったのか』『顧客はその

商品にどんな価値を見出したか』といった購入に至った経緯

やブランドの価値を地道に分析すること」であると田中は指

摘する。購買に至るまでの過程で必要としていた情報が分か

れば、用意すべきコンテンツも見えてくる。「どんな内容が

顧客を動かしたか、しっかり分析した上で必要なコンテンツ

を制作することが、顧客をファンに育てていく過程で欠かせ

ない」(田中)。

 こうした現状分析は BtoC企業で先行しているが、BtoB企

業でも必要になる。事例やユースケースといったスタイルを

踏襲するだけでなく、収集したデータの解析や応用による顧

客の理解があって初めて、効果の上がるコンテンツを生み出

せるようになるのだ。

株式会社富士通総研流通・生活サービス事業部安藤 美紀


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