資 料 編nhch 3 カテコール-o- メチル転移酵素 s-アデノシルメチオニン...
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資 料 編
資料 1.4-1 後発医薬品(ジェネリック医薬品)
創薬研究から,非臨床試験と臨床試験を経て創製される先発医薬品(新薬)に対して,新薬の独占的販売期間(特許期間及び有効性・安全性を検証する再審査期間)が終了した後に発売される後発医薬品(ジェネリック医薬品)がある.欧米では,有効成分の一般名 generic name で処方されることが多く,このため後発医薬品を称して「ジェネリック医薬品」と呼ばれている.先発医薬品と後発医薬品とは,品質,有効性及び安全性において同等であること,さらに治療学的に同等でなければならず,「規格及び試験方法」,「安全性試験」,「生物学的同等性試験」の項目で審査される.後発医薬品には先発医薬品と異なる添加剤を用いることもできる.後発医薬品は先発医薬品と比較して薬価が低いため,国民皆保険の制度下で,医療費を削減しつつ良質な医療を提供するために,その使用が促進されている.
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2 資料編
資料 4.2.4-1 その他の抱合反応
カルボキシ基をもつ化合物は S-アシル CoA の形で活性化を受け,アシル基転移酵素 acyl- transferase によりアミノ酸とアミド結合を形成し,アミノ酸抱合体として排泄される.例として,安息香酸はグリシンと抱合して馬尿酸に,フェニル酢酸はグルタミンと抱合して抱合体を生成する.この反応では,薬物自身がチオエステル化の活性化を受けて代謝される点で他の抱合反応と異なる. 医薬品中のアミノ基やヒドラジノ基,スルホンアミドなどは,N-アセチル転移酵素 N-acetyl-transferase により , アセチル基供与体であるアセチル CoA からアセチル基が転移したアセチル化体として排泄される(アセチル抱合).また,カテコールアミン類に見られるメチルトランスフェラーゼによるメチル化では,S-アデノシルメチオニン(図 4.2.4-1-1)がメチル供与体として用いられる(メチル抱合).なお,アセチル抱合及びメチル抱合は,例外的に水溶性が低下する抱合反応である.
COOH C
O
SCoA アシル基転移酵素
NH2CH2COOH
C
O
NH
COOH
馬尿酸
COOH CS
CoAO
アシル基転移酵素
NH2CH2COOH
CHN
O
COOH
CHHOOCNH2
CH2CH2CONH2
アシル基転移酵素 CHN
O
CH2CH2CONH2
COOH
グリシン抱合
グルタミン抱合
N
CO NHNH2
N-アセチル転移酵素
アセチルCoA
N
CO NHNH C
OCH3
アセチル抱合
グリシン抱合
HO
HO
CHCH2NHCH3
OH
HO
CH3O
CHCH2NHCH3
OH
カテコール-O-メチル転移酵素
S-アデノシルメチオニン メチル抱合
図 4.2.4-1-1 その他の抱合反応の例
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3資料編
資料 5.4.2-1 アドレナリン b受容体遮断薬(b遮断薬)
代表的なアドレナリン b受容体遮断薬の構造を,下表に示した.
プラクトロールpractolol
ピンドロール(局)pindolol
プロプラノロール塩酸塩(局)propranolol hydrochloride
アセブトロール塩酸塩(局)acebutolol hydrochloride
HN
CH3OCNH
アルプレノロール塩酸塩(局)alprenolol hydrochloride
ペンブトロール硫酸塩(局)penbutolol sulfate
ブプラノロール塩酸塩(局)bupranolol hydrochloride
ブフェトロール塩酸塩(局)bufetolol hydrochloride
ブクモロール塩酸塩(局)bucumolol hydrochloride
カルテオロール塩酸塩(局)carteolol hydrochloride
オクスプレノロール塩酸塩(局)oxprenolol hydrochloride
インデノロール塩酸塩(局)indenolol hydrochloride
CH3CH2CH2CONH
COCH3
CH2CH CH2
H3C
Cl
OCH2 O
OCH2CH CH2
HN O
O
CH3
O
化合物名
OCH2CHCH2NHR′
OH
R
-CH(CH3)2
-C(CH3)3
-CH(CH3)2
-CH(CH3)2
-CH(CH3)2
-CH(CH3)2
-CH(CH3)2
-CH(CH3)2
-C(CH3)3
-C(CH3)3
-C(CH3)3
-C(CH3)3
R R′
表 5.4.2-1-1 アドレナリン b受容体遮断薬
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4 資料編
資料 7.1.2-1 静脈麻酔薬
代表的な静脈麻酔薬の構造を,下図に示した.
図 7.1.2-1-1 静脈麻酔薬
R = CH3:チオペンタールナトリウム(局)thiopental sodium
ミダゾラムmidazolam
R = CH=CH2:チアミラールナトリウム(局)thiamylal sodium
スコポラミン臭化水素酸塩水和物(局)scopolamine hydrobromide hydrate
HO
ON
H
H ・HBr・3H2O
O
H
H
H OH
HN
N
SNa
O
O
R
H3C
H3C
H
及び鏡像異性体 Cl N
N
F
NH3C
CH3
CH3
CH3H CH3
・HCl
デクスメデトミジン塩酸塩dexmedetomidine hydrochloride
N
HN
ドロペリドール(局)droperidol
N
N
NH
O
F
O
CH3
CH3
CH3
H3C
OH
プロポフォールpropofol
資料 7.2.2-1 ベンゾジアゼピン系催眠鎮静薬
ベンゾジアゼピン系睡眠薬は,身体依存(耐性),認知機能障害,筋弛緩作用(ふらつき・転倒)などの副作用がある.特に認知機能低下,健忘,転倒や骨折などは重大な有害事象となる懸念もある.そのため高齢不眠症患者は注意を要する. ベンゾジアゼピン系催眠鎮静薬は,いずれも投与後の最高血中濃度到達時間は消失半減期により超短時間型(2~4 時間),短時間型(6~10 時間),中時間型(12~24 時間),長時間型(24時間以上)の 4 群に大別され,その特徴を利用して薬剤を選択する(図 7.2.2-1-1).トリアゾラムは超短時間型睡眠薬に分類されており,短時間型のエチゾラム,リルマザホン,ブロチゾラム,ロルメタゼパムとともに入眠障害に適している.リルマザホンは代謝されてベンゾジアゼピン環となり活性を発揮するプロドラッグである.ブロチゾラムはベンゾジアゼピンの A 環を生物学的に等価なチオフェン環に変換したチエノジアゼピン系睡眠薬である(図 7.2.2-1-1).入眠はさ
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5資料編
図 7.2.2-1-1 ベンゾジアゼピン系催眠鎮静薬
ブロチゾラム(局)brotizolam
N
N
Cl
NNH3C
SBr
・HCl・2H2Oリルマザホン塩酸塩水和物
rilmazafone hydrochloride hydrate
Cl O
N
Cl
NN
NH
NCH3
CH3O
NH2
O
ロルメタゼパムlormetazepam
Cl N
N
Cl
OH3C
OH
中間型
フルニトラゼパム(局)flunitrazepam
O2N N
N
F
OH3C
ニトラゼパム(局)nitrazepam
O2N N
HN
O
エスタゾラム(局)estazolam
Cl N
NN
N
トリアゾラムtriazolam
Cl N
N
Cl
NNH3C
超短時間型 短時間型
エチゾラム(局)etizolam
N
N
Cl
NNH3C
S
H3C
長時間型
フルラゼパム塩酸塩(局)flurazepam hydrochloride
Cl N
N
F
O
・HCl
N CH3H3C
Cl N
NO
HO
F
1-(2-ヒドロキシエチル)フルラゼパム1-(2-hydroxyethyl) flurazepam
デスアルキルフルラゼパムdesalkylflurazepam
Cl N
HN
F
O
代謝体
Cl
クアゼパムquazepam
N
NS
F
F
F F
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6 資料編
ほど悪くなく,中途覚醒や早朝覚醒の方が主であれば中間型睡眠薬が適している.クアゼパムはベンゾジアゼピン x1 受容体に対する親和性が高い.フルラゼパムは肝臓の酵素によって酸化され,デスアルキルフルラゼパムやヒドロキシエチルフルラゼパムなどの活性代謝物になる.
資料 7.3.1-1 メプロバメート
Wallace 社(米)では中枢性弛緩薬メフェネシンの改良型として選んだメプロバメート(1955年発売)は筋弛緩作用,抗けいれん作用のほか,不安,不眠に対しても有効であった(図 7.3.1-1-1).ここに最初の抗不安薬が誕生した.しかしながら,メプロバメートは作用が弱く,投与量が多い上に,薬物依存性,禁断症状を呈することが明らかとなり,次第に用いられなくなった.
図 7.3.1-1-1 メフェネシンとメプロバメートの構造
メフェネシンmephenesin
CH3
O OH
OHH
O
H2N O O
H3CCH3
O
NH2
メプロバメートmeprobamate
資料 7.3.3-1 ベンゾジアゼピン系抗不安薬
ベンゾジアゼピン系抗不安薬のうち,長時間作用型のクロラゼプ酸二カリウムの構造を,下図に示した.
図 7.3.3-1-1 クロラゼプ酸カリウム
クロラゼプ酸二カリウム(局)clorazepate dipotassium
Cl N
HN
O
CO2K
・KOH
資料 7.4.3-1 第二世代(新世代)の抗てんかん薬
新世代薬のガバペンチン(2006 年承認)は抑制性神経伝達物質の GABA と類似の構造をもつ合成アミノ酸で,Ca2+チャネルの活動を調節と,脳内 GABA 量増加及び GABA トランスポーターの活性化により抗てんかん作用を発現する.他剤で効果不十分な部分発作の併用療法に用い
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7資料編
る.ラモトリギンは電位依存性 Na+チャネル抑制作用を示す.2008 年にてんかん治療剤として,2011 年に双極性障害治療薬として承認された.既存の薬物とは異なる化学構造を有し,幅広い抗てんかんスペクトラムを示す.トピラマート(2007 年)は d-フルクトース誘導体であり,興奮性アミノ酸の遊離を促進する抗てんかん薬で難治性部分発作に有用とされている.レベチラセタム(2010 年)は既存の抗てんかん薬とは類似しない構造,特異な作用機序(シナプス小胞タンパク 2A:SV2A に結合)を有し部分発作に使用されている(本文中の図 7.11).一方,Dravet症候群(ドラベ症候群,乳幼児期に発症する難治てんかん)治療薬としてスチリペントール
(2012 年),Lennox-Gastaut 症候群(1~8 歳,就学前の小児のてんかん性脳症)治療薬としてトリアゾール誘導体のルフィナミド(2014 年)が希少疾患用医薬品として承認された.続いてラコサミド(2015 年)が成人及び青年(16~18 歳)の部分発作の併用療法薬として,ペランパネル水和物(2016 年,新しい機序:グルタミン酸によるシナプス後 AMPA 受容体の阻害)が他の抗てんかん薬で無効のてんかん患者の併用療法薬として認可された.なお,新世代薬の中で単剤療法が認められているのはレベチラセタムとラモトリギンのみである.
資料 7.5.3-1 非定型抗精神病薬
現在統合失調症治療の第一選択薬は非定型抗精神病薬である.これは 5-HT2A と D2 が拮抗することを利用し,中脳-辺縁系路を遮断して抗精神効果を得ながら 5-HT2A を遮断することにより EPS をもたらす黒質-辺縁系路をさほど遮断しないため EPS が少ないという理論である. 非定型抗精神病薬は作用機序の違いから 3 種類に分類される.ドパミン遮断作用のほか5-HT2A 遮断作用を有する 5-HT2A・D2 拮抗薬(SDA)には,リスペリドン,ペロスピロン,ブロナンセリン,パリペリドンが含まれる.リスペリドンは抗幻覚妄想作用が強いが EPS,高プロラクチン値上昇をきたしやすい.パリペリドンはリスペリドンの代謝産物で半減期が長い.ペロスピロンは 5-HT1A にもはたらくため抗不安作用もあり,EPS は少ない.ブロナンセリンは D2, D3, 5-HT2A アンタゴニストで比較的副作用は少ない.代謝物 N-脱エチル体も同様の活性を示す. 多元受容体標的化抗精神病薬(MARTA)には,オランザピン,クエチアピン,クロザピン,アセナピンがある.チエノベンゾジアゼピン誘導体のオランザピンは鎮静効果が強く EPS も少なく,気分安定効果もある.クエチアピンの抗幻覚妄想作用は弱いが鎮静は強い.非定型抗精神病薬の原型とされるクロザピンはジベンゾジアゼピン誘導体で,D2 遮断作用が弱く,5-HT2A をはじめ多くの受容体拮抗作用を有し多様な薬理作用を有する.また,どの抗精神病薬よりも強力だが,顆粒球減少症の危険があり指定施設での入院治療を義務づけられる.アセナピン(2016年承認)は MARTA に分類される薬物であるが D2 遮断作用が強く SDA に近い.特に陽性急性期症状に有用とされる.このカテゴリーの薬物は多重増加や血糖上昇が問題となることが多い. ドパミンパーシャルアゴニスト(DPA)であるアリピプラゾールはドパミン・システムスタビライザー(DSS:Dopamine System Stabilizer)と呼ばれる.D2 受容体を部分的に刺激する部分作動薬で EPS やプロラクチン値上昇がほとんど認められない.ドパミン過剰状態では遮断薬,枯渇状態では作動薬としてはたらきドパミン神経系の伝達を正常状態へ近づけるといわれる.アリピプラゾールは双極性障害における躁症状の改善効果も有するといわれる.
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8 資料編
現在我が国で使用可能な非定型抗精神病薬として,上述のリスペリドン,オランザピン,クエチアピン,ペロスピロン,アリピプラゾール,ブロナンセリン,パリペリドン,クロザピン,アセナピンなどの薬物が市販されている.
資料 7.6.3-1 抗うつ薬
【 1 】三環性抗うつ薬
三環性抗うつ薬は,セロトニンとノルアドレナリンの再取込みを行うトランスポーターを阻害するが,多くの受容体にも作用し,抗コリン性作用の口渇,便秘,排尿困難,発汗など,抗ヒスタミン H1 性作用の眠気,だるさなど,抗 a1 性作用の起立性低血圧などの,主として副作用に関連している.三環系抗うつ薬はモノアミン取り込み阻害作用だけでなく,多くの受容体にも作用し,抗コリン性作用の口渇,便秘,排尿困難,発汗など,抗ヒスタミン H1 性作用の眠気,だるさなど,抗 a1 性作用の起立性低血圧などの,主として副作用に関連している.
【 2 】四環系抗うつ薬
四環性抗うつ薬は,1980 年前後に開発された薬物で,塩酸ミアンセリン,マレイン酸セチプチリンは a2 自己受容体遮断によるノルアドレナリン遊離増大が抗うつ作用に関与する.また,マプロチリンは選択的にノルアドレナリン再取込みを阻害する.ミアンセリンは不眠,せん妄にも使用される.三環系に比して副作用の抗コリン作用が弱くなっている.
【 3 】トリアゾロピリジン系抗うつ薬
トラゾドンは三環系・四環系抗うつ薬とは構造の異なる薬で,5-HT2 受容体拮抗・再取込み阻害薬といわれ三環性抗うつ薬に見られる抗コリン作用はない.不安,焦燥,睡眠障害に有効である.
【 4 】選択的セロトニン再取込み阻害薬
選択的セロトニン再取込み阻害薬(SSRI)は,1969 年に抗うつ薬がセロトニンの取込み阻害作用を示すことが知られ,セロトニンに選択性の高い抗うつ薬というコンセプトから生まれた一群の薬物である.SSRI はセロトニンの再取込み阻害作用のみを有し,副作用と関連する受容体への親和性をもたない.フルボキサミンが 1999 年,パロキセチンが 2000 年,セルトラリンが2006 年,エスシタロプラムが 2011 年に上市された.フルオキセチンは海外で繁用されている医薬品である.SSRI はうつ病のほか,強迫性障害,パニック障害,社交不安障害,摂食障害(主に過食症)などといった現代病の適応を幅広く取得していることから,精神科の専門医を受診しない多くの軽症患者に有効である.また,さらに適応拡大の可能性もある.おもな副作用は消化管のセロトニン受容体を刺激することによる消化性症状(悪心,食欲不振,下痢)が主体であるが,三環性抗うつ薬に比べ頻度は少なく安全性も高い.セロトニン再取込み阻害能はパロキセチン>セルトラリン>フルボキサミン>フルオキセチンの順である.セルトラリンはうつ病やパニ
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9資料編
ック障害に比較的安全で使いやすいが,下痢の副作用がある.エスシタロプラムはシタロプラムの S-enantiomer であり,2 倍の力価である.アロステリック効果により持続性で,効果発現は早く副作用も少ない.しかし心電図上の QT 延長があり,心疾患患者の投与は控える.SSRI は薬物相互作用が問題になることが多いが.例えば,フルボキサミンやパロキセチンはチトクロムP450 を阻害するため相互作用を起こしやすい.
【 5 】セロトニン・ノルアドレネリン再取込み阻害薬
セロトニン・ノルアドレネリン再取込み阻害薬(SNRI)はセロトニンに加えてノルアドレナリンの再取込みも阻害し,両モノアミンをバランスよく増加させる.この点において SSRI と薬理学的特徴は大きく異なっている.また,三環性抗うつ薬ではセロトニンとノルアドレナリンの再取込み阻害作用が同等なものは少なく,偏っているものが多いのに対し,SNRI の場合はほぼ両者の力価が等しく,真の意味の“セロトニン・ノルアドレネリン再取込み阻害薬”といえる.SNRI は SSRI の効果に意欲向上が加わり,より広い治療スペクトルとなり得る.また各種受容体を遮断しないことから副作用が少ない.SSRI と異なり CYP 阻害作用がない.ミルナシプラン(2000 年),デュロキセチン(2010 年),ベンラファキシン(2015 年)が臨床使用されている.ベンラファキシンは海外ではすでにジェネリックも発売されている.ベンラファキシン(図7.6.3-1-1)は少量ではセロトニン,高用量ではノルアドレナリンが作用し,代謝物も同様の活性を示す.ミルナシプラン,デュロキセチンは 5-HT と NA 再取込み阻害作用が同程度であり,デュロキセチンはその再取り込み阻害活性も比較的強力である.また,デュロキセチンは線維筋痛症に伴う疼痛に使用される.SNRI の特徴は安全性が高く,うつ病の重症度に関係なく使用でき,1 日 1 回投与で有効であるという点が特徴となっている.
【 6 】ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬などの新しい抗うつ薬
ミアンセリンの類似化合物であるミルタザピンは新しい作用機序をもち,ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬(NaSSA:Noradrenergic and Specific Serotonergic Antidepressant)に分類される.シナプス前 a2 自己受容体を遮断することにより,ノルアドレナリンとセロトニンの遊離を促進して,両神経伝達を増強する.また,5-HT2 と 5-HT3 受容体を遮断する作用があるため,5-HT2 と 5-HT3 に関連する副作用(不安,不眠,消化器症状など)を抑えることができるのが特徴である.ブプロピオン(図 7.6.3-1-1)はノルアドレナリン・ドパミン再取込み阻害薬(NDRI)として海外ではよく使われている.その他,セロトニン・ノルアドレナリン・ドパミン再取込み阻害薬(TRI),D3 受容体部分刺激薬などが注目されている.
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10 資料編
図 7.6.3-1-1 抗うつ薬
CH3N
CH3
・HCl
ベンラファキン塩酸塩venlafaxine hydrochloride
OH3C
HO
セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)
H
及び鏡像異性体
HN CH3
CH3H3C
CH3
O
Cl
・HCl
ブプロピオン塩酸塩bupropion hydrochloride
ノルアドレナリン・ドパミン再取込み阻害薬(NDRI)
資料 7.7.3-1 ダイノルフィン Aと b-エンドルフィンの一次配列
ダイノルフィン A と b-エンドルフィンのアミノ酸配列を,下図に示した.
ダイノルフィン A(17 A.A.): Tyr-Gly-Gly-Phe-Leu-Arg-Arg-Ile-Arg-Pro-Lys-Leu-Lys-Trp-Asp-Asn-Gln
b-エンドルフィン(31 A.A.): Tyr-Gly-Gly-Phe-Met-Thr-Ser-Glu-Lys-Ser-Gln-Thr-Pro-Leu-Val-Thr-Leu-Phe-Lys-Asn-Ala-Ile-Ile-Lys-Asn-Ala-Tyr-Lys-Lys-Glu-Gln図 7.7.3-1-1 ペプチド系内因性鎮痛物質
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11資料編
資料 8.3.3-1 5-HT3受容体拮抗薬
5-HT3 受容体拮抗薬の構造を,下図に示した.
N
O
NH
N
CH3
N
N
O
O
NH
N CH3
H
H
トロピセトロンtropisetron
ラモセトロンramosetron
O
H
H
パロノセトロンpalonosetron
NH
N
NO H
NN CH3
H
インジセトロンindisetron
H
H
H
CH3
図 8.3.3-1-1 5-HT3拮抗薬
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12 資料編
資料 8.4.6-1 エイコサノイド関連医薬品
エイコサノイド関連医薬品のうち,PG 関連医薬品の構造を,下図に示した.
O
HOOH
COOCH3
H3C CH3
O
HOOH
COOCH3O
CH3
O
HO
COOCH3O
O
HOO
COOCH3
OH
C
HO
O
COOH
OH
CH3CH3
ゲメプロストgemeprost (妊娠中絶薬)
オルノプロスチルornoprostil (抗潰瘍薬)
ミソプロストールmisoprostol (抗潰瘍薬)
H3C OH
エンプロスチルenprostil (抗潰瘍薬)
ベラプロストberaprost (末梢循環改善薬)
O
H3COH
トリモプロスチルtrimoprostil (抗潰瘍薬)
COOHH3C CH3
HO
HO
COOH
OHジノプロスト(局)dinoprost (PGF 製剤)
2a
図 8.4.6-1-1 PG関連医薬品
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13資料編
資料 10.2.4-1 ジヒドロピリジン系 Ca2+チャネル阻害薬(Ca2+拮抗薬)
ジヒドロピリジン系 Ca2+拮抗薬の構造を,図 10.2.4-1-1 及び図 10.2.4-1-2 に示した.
図 10.2.4-1-1 ジヒドロピリジン系 Ca2+拮抗薬
ニフェジピン(局)nifedipine
HN
OCH3
OH3C
OO
H3C CH3
NO2
HN
H
OOH3C
OO
H3C CH3
N
CH3
及び鏡像異性体NO2
ニカルジピン塩酸塩(局)nicardipine hydrochloride
HCl
HN
O OCH3
O O
CNH3C
H3C
H3C
及び鏡像異性体
NO2
ニルバジピン(局)nilvadipine
HN
HH
OOH3C
NO2
OO
H3C CH3
CH3
CH3
ニソルジピンnisoldipine
HN
H
OOH3C
OO
H3C CH3
N
及び鏡像異性体
2HCl
NO2
N
マニジピン塩酸塩(局)manidipine hydrochloride
HN
H
OOH3C
OO
H3C CH3
N
及び鏡像異性体
HCl
NO2
H
ベニジピン塩酸塩(局)benijipine hydrochloride
HN
H
OP
O
H3C CH3
NO2
O
O O
H3C
H3CN
HClC2H5OH
エホニジピン塩酸塩エタノール付加物efonidipine hydrochloride ethanolate
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14 資料編
図 10.2.4-1-2 ジヒドロピリジン系 Ca2+拮抗薬
HN
H
O
O
CH3H3C
OO
O
CH3
及び鏡像異性体
NO2シルニジピン(局)
cilnidipine
HN
H
OOH3C
OO
H3C CH3
CH3
及び鏡像異性体
NO2ニトレンジピン(局)
nitrendipine
HN
H
OOH3C
ClOO
H3C CH3
CH3
Cl
フェロジピンfelodipine
HN
H
OOH3C
OO
H3C ONH2
SO3H
CH3
及び鏡像異性体
Cl
アムロジピンベシル酸塩(局)amlodipine besilate
HN
OO
H3C
H3C
OO
H3C NH2
N
及び鏡像異性体
H
NO2
アゼルニジピン(局)azelnidipine
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15資料編
資料 11.1.2-1 ホルモンの分泌機構と医薬品
各ホルモンとその分泌器官を,下図に示した.
視床下部
下垂体前葉下垂体後葉
成長ホルモン放出ホルモン(GH-RH)
成長ホルモン放出抑制 ホルモン (GH-RIH)
甲状腺刺激 ホルモン 放出ホルモン(TRH)
副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン(CRH)
性腺刺激 ホルモン 放出ホルモン(Gn-RH)
バソプレシン(ADH)
オキシトシン(OXT)成長
ホルモン(GH)
甲状腺刺激ホルモン (TSH)
プロ ラクチン(PRL)
副腎皮質刺激ホルモン (ACTH)
性腺刺激ホルモン(GTH)
黄体形成ホルモン(LH)
卵胞刺激ホルモン(FSH)
甲状腺ホルモン(T3, T4)
甲状腺ろ胞細胞
副甲状腺
副甲状腺ホルモン (上皮小体ホルモン,パラトルモン)
(PTH)
甲状腺傍ろ胞細胞
カルシトニン(CT)
膵臓
インスリン
グルカゴン
副腎皮質
鉱質コルチコイド
糖質コルチコイド
a細胞b細胞
束状層球状層性腺
男性ホルモン
卵胞ホルモン
卵巣精巣
黄体ホルモン
消化管
ガストリン
セクレチン
十二指腸胃 小腸
胃抑制 ペプチド(GIP)
コレシストキニン・パンクレオザイミン(CCK-PZ)
図 11.1.2-1-1 ホルモンとその分泌器官
資料 11.2.1-1 成長ホルモン関連医薬品
成長ホルモン関連医薬品には,天然型ヒト成長ホルモンと同一のアミノ酸配列を有するソマトロピン(遺伝子組み換え)が骨端線閉鎖を伴わない成長ホルモン分泌不全性低身長症(下垂体性小人症)治療薬として用いられるほか,ヒト成長ホルモン誘導体の N-末端とリシン側鎖のアミノ基 9 箇所に直鎖ポリエチレングリコール(PEG)を結合させ,成長ホルモン受容体拮抗薬としたペグビソマントが抵抗性先端巨大症に用いられる(図 11.2.1-1-1).
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16 資料編
(A)
ソマトロピン(遺伝子組換え)(GH:somatropin(genetical recombination))
Phe-Pro-Thr-Ile-Pro-Leu-Ser-Arg-Leu-Phe-Asp-Asn-Ala-Met-Leu-Arg-Ala-His-Arg-Leu-His-Gln-Leu-Ala -Phe-Asp-Thr-Tyr-Gln-Glu-Phe-Glu-Glu-Ala-Tyr-Ile-Pro-Lys-Glu-Gln-Lys-Tyr-Ser-Phe-Leu-Gln-Asn-Pro-Gln-Thr-Ser-Leu-Cys-Phe-Ser-Glu-Ser-Ile-Pro-Thr-
Pro-Ser-Asn-Arg-Glu-Glu-Thr-Gln-Gln-Lys-Ser-Asn-Leu-Glu-Leu-Leu-Arg-Ile-Ser-Leu-Leu-Leu-Ile-Gln-Ser-Trp-Leu-Glu-Pro-Val-Gln-Phe-Leu-Arg-Ser-Val-Phe-Ala -Asn-Ser-Leu-Va l-Tyr-Gly-Ala-Ser-Asp-Ser-Asn-Va l-Tyr-Asp-Leu-Leu-Lys-Asp-Leu-Glu-Glu-Gly-
Ile-Gln-Thr-Leu-Met-Gly-Arg-Leu-Glu-Asp-Gly-Ser-Pro-Arg-Thr-Gly-Gln-Ile-Phe-Lys-Gln-Thr-Tyr-Ser-Lys-Phe-Asp-Thr-Asn-Ser-His-Asn-Asp-Asp-Ala -Leu-Leu-Lys-Asn-Tyr-Gly-Leu-Leu-Tyr-Cys-Phe-Arg-Lys-Asp-Met-Asp-Lys-Val-Glu-Thr-Phe-Leu-Arg-Ile-Va l-
Gln-Cys-Arg-Ser-Va l-Glu-Gly-Ser-Cys-Gly-Phe-OH
12141
6181
101
121141161
181
S
S
S S
(B)
H-Phe-Pro-Thr-Ile-Pro-Leu-Ser-Arg-Leu-Phe-Asp-Asn-Ala-Met-Leu-Arg-Ala-Asp-Arg-Leu-Asn-Gln-Leu-Ala-Phe-Asp-Thr-Tyr-Gln-Glu-Phe-Glu-Glu-Ala-Tyr-Ile-Pro-Lys-Glu-Gln-Lys-Tyr-Ser-Phe-Leu-Gln-Asn-Pro-Gln-Thr-Ser-Leu-Cys-Phe-Ser-Glu-Ser-Ile-Pro-Thr-
Pro-Ser-Asn-Arg-Glu-Glu-Thr-Gln-Gln-Lys-Ser-Asn-Leu-Glu-Leu-Leu-Arg-Ile-Ser-Leu-Leu-Leu-Ile-Gln-Ser-Trp-Leu-Glu-Pro-Val-Gln-Phe-Leu-Arg-Ser-Val-Phe-Ala-Asn-Ser-Leu-Val-Tyr-Gly-Ala-Ser-Asp-Ser-Asn-Val-Tyr-Asp-Leu-Leu-Lys-Asp-Leu-Glu-Glu-Lys-
Ile-Gln-Thr-Leu-Met-Gly-Arg-Leu-Glu-Asp-Gly-Ser-Pro-Arg-Thr-Gly-Gln-Ile-Phe-Lys-Gln-Thr-Tyr-Ser-Lys-Phe-Asp-Thr-Asn-Ser-His-Asn-Asp-Asp-Ala-Leu-Leu-Lys-Asn-Tyr-Gly-Leu-Leu-Tyr-Cys-Phe-Asn-Ala-Asp-Met-Ser-Arg-Val-Ser-Thr-Phe-Leu-Arg-Thr-Val-
Gln-Cys-Arg-Ser-Val-Glu-Gly-Ser-Cys-Gly-Phe-OH
12141
6181
101
121141161
181
S
S
S S
PEG= CH3OCH 2(CH 2OCH 2)nCH 2CO-(n=101~122)
ペグビソマントpegvisomant
PEG化される可能性の高いアミノ酸残基を影付き文字で示す.
図 11.2.1-1-1 (A)成長ホルモン(ソマトロピン)(GH)と(B)ペグビソマントの構造
成長ホルモン放出ホルモン(GH-RH)であるソマトレリンと,成長ホルモン放出抑制ホルモン(GH-RIH)であるソマトスタチンのうち活性型の 1 つであるソマトスタチン-28 の構造を,図 11.2.1-1-2 に示した.
-
17資料編
(A)
H-Tyr-Ala-Asp-Ala-Ile-Phe-Thr-Asn-Ser-Tyr-Arg-Lys-Val-Leu-Gly-Gln-Leu-Ser-Ala-Arg-Lys-Leu- Leu-Gln-Asp-Ile-Met-Ser-Arg-Gln-Gln-Gly-Glu-Ser-Asn-Gln-Glu-Arg-Gly-Ala-Arg-Ala-Arg-Leu-NH2
ソマトレリン(GH-RH:somatorelin)
ソマトレリン酢酸塩は,ソマトレリン・6CH3COOH の構造をもつ.(B)
ソマトスタチン-28somatostatin-28
Cys-Lys-Asn-Phe-Phe-Trp
H-Cys-Ser-Thr-Phe-Thr-Lys
Lys-Arg-Glu-Arg-Pro-Ala-Met-Ala-Pro-Asn-Ser-Asn-Ala-Ser-NH2
Ala
ソマトスタチン-14somatostatin-14
Gly
SS
図 11.2.1-1-2 (A)成長ホルモン放出ホルモン(ソマトレリン)と(B)ソマトスタチン-28の構造
-
18 資料編
資料 11.2.2-1 プロラクチン関連医薬品
ドパミン受容体拮抗薬の構造を,下図に示した.
N
H
H
H
カベルゴリンcabergoline
O
NNHC2H5
N(CH3)2
O
NCH3
H
H
Br
O
NH
N
O N
OH
H3C CH3
O
HO
H
ブロモクリプチンメシル酸塩(局)bromocriptine mesilate
CH3SO3H
CH3H3C
NCH3
H
HN
H
H
テルグリドterguride
HN
N(C2H5)2
O
HN
HN
図 11.2.2-1-1 プロラクチン関連医薬品
-
19資料編
資料 11.2.3-1 甲状腺ホルモンの分泌に関連する医薬品
甲状腺ホルモン刺激ホルモン(TSH)は 92 個のアミノ酸残基からなる aユニットと 118 個のアミノ酸残基からなる bユニットからなる糖タンパク質であり,遺伝子組換えにより合成されたヒトチロトロピン アルファが利用されている(図 11.2.3-1-1).
H-Ala-Pro-Asp-Val-Gln-Asp-Cys-Pro-Glu-Cys-Thr-Leu-Gln-Glu-Asn-Pro-Phe-Phe-Ser-Gln-
Pro-Gly-Ala-Pro-Ile-Leu-Gln-Cys-Met-Gly-Cys-Cys-Phe-Ser-Arg-Ala-Tyr-Pro-Thr-Pro-
Leu-Arg-Ser-Lys-Lys-Thr-Met-Leu-Val-Gln-Lys-Asn-Val-Thr-Ser-Glu-Ser-Thr-Cys-Cys-
Val-Ala-Lys-Ser-Tyr-Asn-Arg-Val-Thr-Val-Met-Gly-Gly-Phe-Lys-Val-Glu-Asn-His-Thr-
Ala-Cys-His-Cys-Ser-Thr-Cys-Tyr-Tyr-His-Lys-Ser-OH
S SS S
S S
S
SS S
N-末端から 52,78番目のアスパラギン(Asn)残基(赤字)には N結合型糖鎖が付加している.推定されるジスルフィド結合の位置を導線で示した.
aサブユニット
H-Phe-Cys-Ile-Pro-Thr-Glu-Tyr-Thr-Met-His-Ile-Glu-Arg-Arg-Glu-Cys-Ala-Tyr-Cys-Leu-
Thr-Ile-Asn-Thr-Thr-Ile-Cys-Ala-Gly-Tyr-Cys-Met-Thr-Arg-Asp-Ile-Asn-Gly-Lys-Leu-
Phe-Leu-Pro-Lys-Tyr-Ala-Leu-Ser-Gln-Asp-Val-Cys-Thr-Tyr-Arg-Asp-Phe-Ile-Tyr-Arg-
Thr-Val-Glu-Ile-Pro-Gly-Cys-Pro-Leu-His-Val-Ala-Pro-Tyr-Phe-Ser-Tyr-Pro-Val-Ala-
Leu-Ser-Cys-Lys-Cys-Gly-Lys-Cys-Asn-Thr-Asp-Tyr-Ser-Asp-Cys-Ile-His-Glu-Ala-Ile-
Lys-Thr-Asn-Tyr-Cys-Thr-Lys-Pro-Gln-Lys-Ser-Tyr-Leu-Val-Gly-Phe-Ser-Val-OH
bサブユニット
S
S
S
S
S S
S
S
S
S
S
S
N-末端から 23番目のアスパラギン(Asn)残基(赤字)には N結合型糖鎖が付加している.推定されるジスルフィド結合の位置を導線で示した.
ヒトチロトロピン アルファ(遺伝子組換え)thyrotropin human alfa (genetical recombination)
図 11.2.3-1-1 甲状腺ホルモン刺激ホルモン(チロトロピン)の構造
-
20 資料編
資料 11.2.4-1 副腎皮質ホルモンの分泌に関連する医薬品
副腎皮質ホルモンの分泌に関連する医薬品の構造を,下図に示した.
(A) H-Ser-Glu-Glu-Pro-Pro-Ile-Ser-Leu-Asp-Leu-Thr-Phe-His-Leu-Leu-Arg-Glu-Val-Leu-Glu- Met-Ala-Arg-Ala-Glu-Gln-Leu-Ala-Gln-Gln-Ala-His-Ser-Asn-Arg-Lys-Leu-Met-Glu-Ile-Ile-NH2
コルチコレリン(CRH : crticorelin)
(B) H-Ser-Tyr-Ser-Met-Glu-His-Phe-Arg-Trp-Gly-Lys-Pro-Val-Gly-Lys-Lys-Arg-Arg-Pro-Val- Lys-Val-Tyr-Pro-Asn-Gly-Ala-Glu-Asp-Glu-Ser-Ala-Glu-Ala-Phe-Pro-Leu-Glu-Phe-OH 上図の網掛け部分がテトラコサクシド(ACTH(1-24))に相当する.
コルチコトロピン(ACTH(1-39):corticotropin)
図 11.2.4-1-1 (A)副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン(コルチコレリン)と(B)副腎皮質刺激ホルモン(コルチコトロピン)の構造
資料 11.2.5-1 性ホルモン分泌に関連する医薬品
Gn-RH 拮抗薬の構造を,図 11.2.5-1-1 に示した. 性腺刺激ホルモン関連医薬品としては,ヒト下垂体性性腺刺激ホルモン(hMG:human
セトロレリクス酢酸塩 cetrorelix acetate (R= (CH 2)3 NHC(=O)NH2, R′= (CH2)3 NHC(=NH)NH2, x = 1~2)ガニレリクス酢酸塩 ganirelix acetate(R = R′= (CH 2)4NHC(=Nn-Pr)NHn-Pr, x = 2)
ゴナドレリン酢酸塩 gonadorelin acetate (R′ = (CH2)3NHC(=NH)NH2 )
NH
HN
NH
HN
NH
HN
H
H
H
H
HHO
O
O
O
OOH
OH
HNH
CH3H3CO
O RH
N
OO
NH O
NH2HH
H
NHN
HN
O H
HN
2CH3COOH
HN
NH
HN
NH
HN
NH
HNO
H3CH
H
H
H
H
R′HO
O
Cl
N
O
O
OOH
OH
HNH
CH3H3CO
O RH
N
OO
NH O
NH2CH3H
H
x CH3COOH
(A)
(B)
図 11.2.5-1-1 (A)ゴナドレリン(Gn-RH)と(B)Gn-RH拮抗薬の構造
-
21資料編
menopausal gonadotropin)が視床下部及び下垂体性無月経の排卵誘発に,胎盤絨毛膜で産生されるヒト絨毛性性腺刺激ホルモン(hCG:human chorionic gonadotropin)が,無排卵症,機能性子宮出血,下垂体性男子性腺機能不全症などに用いられる.
資料 11.2.7-1 Ca代謝ホルモン関連医薬品
カルシトニンとその関連医薬品の構造を,下図に示した.
図 11.2.7-1-1 ヒト(A)及びサケ(B)カルシトニンとエルカトニン(C)の構造
カルシトニン(ヒト)calcitonin(human)
H-Cys-Gly-Asn-Leu-Ser-Thr-Cys-Met-Leu-Gly-Thr-Tyr-Thr-Gln-Asp-Phe-Asn-Lys-Phe-
His-Thr-Phe-Pro-Gln-Thr-Ala -Ile-Gly-Va l-Gly-Ala-Pro-NH2
S S
カルシトニン(サケ)(局)calcitonin (salmon)
H-Cys-Ser-Asn-Leu-Ser-Thr-Cys-Va l-Leu-Gly-Lys-Leu-Ser-Gln-Glu-Leu-His-Lys-Leu-
Gln-Thr-Tyr-Pro-Arg-Thr-Asn-Thr-Gly-Ser-Gly-Thr-Pro-NH2
S S
CO
CH2 CH2H
O
Val-Leu-Gly-Lys-Leu-Ser-Gln-Glu-Leu- His-Lys-Leu-Ser-Asn-Leu-Ser-Thr
Gln-Thr-Tyr-Pro-Arg-Thr-Asp-Val-Gly-Ala-Gly-Thr-Pro-NH2
NH
エルカトニンelcatonin
(A)
(B)
(C)
副甲状腺ホルモン(上皮小体ホルモン,パラトルモン)(parathyroid hormone, PTH)の構造を,下図に示した. 図中の網掛け部分は,テリパラチドの構造に相当する.
H-Ser-Val-Ser-Glu-Ile-Gln-Leu-Met-His-Asn-Leu-Gly-Lys-His-Leu-Asn-Ser-Met-Glu-Arg-Val-Glu-Trp-Leu-Arg-Lys-Lys-Leu-Gln-Asp-Val-His-Asn-Phe-Val-Ala-Leu-Gly-Ala-Pro-Leu-Ala-Pro-Arg-Asp-Ala-Gly-Ser-Gln-Arg-Pro-Arg-Lys-Lys-Glu-Asp-Asn-Val-Leu-Val-Glu-Ser-His-Glu-Lys-Ser-Leu-Gly-Glu-Ala-Asp-Lys-Ala-Asp-Val-Asn-Val-Leu-Thr-Lys-Ala-Lys-Ser-Gln-OH
Human PTH (1-84)
図 11.2.7-1-2 ヒト PTHの構造
-
22 資料編
資料 11.4.1-1 卵胞ホルモン薬と抗卵胞ホルモン薬
卵胞ホルモン関連医薬品の構造を,下図に示した.
図 11.4.1-1-1 卵胞ホルモン関連医薬品
H H
H
OH
HH3C
S
H
H H
エストラジオールプロピオン酸エステルestradiol dipropionate
エピチオスタノールメピチオスタンの活性本体
R1O
H H
H
OH3C
H
R2
O
R1 = CO CH2CH3 R, 2 = CH2CH3
エストラジオール吉草酸エステルestradiol valerate
R1 = H, R2 = CH2CH2CH2CH3
H3C
H3C
O
HN
CH3
OH
エンドキシフェンタモキシフェンの活性本体タモキシフェンの 100倍以上の活性をもつ
H H
C
OHH3C
HCH
H3C
NO
ダナゾール(局)danazol
抗ゴナドトロピン作用及び卵巣におけるステロイドホルモン産生酵素活性抑制作用
子宮内膜症・乳腺症治療薬
C
H3COCO
H3COCO
シクロフェニルcyclofenil
抗エストロゲン作用により排卵を誘発する排卵誘発剤
<卵胞ホルモン薬>
<抗卵胞ホルモン薬>
-
23資料編
資料 11.4.4-1 黄体ホルモン薬(プロゲステロン薬)
黄体ホルモン薬の構造を,下図に示した.
図 11.4.4-1-1 黄体ホルモン薬(プロゲステロン薬)
H H
H3C
H
O
H3C
CH3O
H H
H3C
H
O
H3CO
CH3O
CH3ヒドロキシプロゲステロンカプロン酸エステル
hydroxyprogesterone caproateメドロキシプロゲステロン酸エステル(局)
medroxyprogesterone acetate
H H
OHH3C
HH CH2
アリルエストレノールallylestrenol
O CH3
O O
CH3
H H
H3C
H
O
H3C
O
H
プラステロン硫酸エステルナトリウム水和物(局)sodium prasterone sulfate hydrate
子宮頸管熟化治療薬
NaO3S
2H2O
クロルマジノン酢酸エステル(局)と同程度の抗アンドロゲン作用をもち,前立腺肥大症治療薬として用いられている.
プロゲステロンの 20~30倍の強い黄体ホルモン作用と優れた妊娠維持作用を示す.また,抗エストロゲン作用,抗ゴナドトロピン作用を併せもつことから,高容量において乳がん,子宮体がん治療薬として用いる.
H H
H3C
H
O
H3CO
CH3O
Cl
クロルマジノン酢酸エステル(局)chlormadinone acetate
O
H H
C
OH
HCH
H
ノルゲストレル(局)norgestrel
CH3
O
強力な黄体ホルモン作用を有し,無月経,月経困難症治療薬として発売されるが,抗アンドロゲン作用に基づくアンドロゲン依存性腫瘍の増殖抑制作用を示すことから,高容量製剤において前立腺がんや前立腺肥大症治療薬として使用されている.
H
H3C
-
24 資料編
資料 11.4.10-1 鉱質コルチコイド拮抗薬
鉱質コルチコイド拮抗薬の構造を,下図に示した.
O
H
H3C
HH3C
O
O
SH
O CH3
H
O
H
H3C
HH3C
COOK
H
OH
スピロノラクトン(局)spironolactone
カンレノ酸カリウム(局)potassium canrenoate
O
H
H3C
HH3C
O
O
H
カンレノンcanrenone
代謝生合成(閉環)
図 11.4.10-1-1 鉱質コルチコイド拮抗薬
資料 11.4.11-1 糖質コルチコイド薬
糖質コルチコイドの構造活性相関と生物活性の半減期を下表に,また各医薬品の構造を図11.4.11-1-1~図 11.4.11-1-3 に示した.
表 11.4.11-1-1 糖質コルチコイドの構造活性相関と生物活性の半減期
作用時間分類 一般名
変換の方法 a)
効力比 生物活性の半減期(hr)抗炎症作用 電解質作用
短時間型ヒドロコルチゾン 基本構造 1 1 8 - 12コルチゾン酢酸エステル ③ 0.8 0.8 8 - 12
中間型プレドニゾロン ① 4 0.8 18 - 36メチルプレドニゾロン ① ② 5 0.5 18 - 36トリアムシノロン ① ② ④ 5 0 24 - 48
長時間型デキサメタゾン ① ② ④ 25 - 30 0 36 - 54ベタメタゾン ① ② ④ 25 - 30 0 36 - 54
a) ヒドロコルチゾンを基本構造としての構造変換①A環のΔ4-3-ケトンは必須であり,Δ1-二重結合の導入は抗炎症作用を増強する.② B 環の 6a位にメチル基やフッ素基の導入は抗炎症作用を増強し,Na+ の貯留作用を弱める. また,9a位にフッ素原子や塩素原子の導入は両作用を増強する.③ C 環の 11 位の酸素官能基は抗炎症作用発現に必須である.④ D 環の 16a位又は,16b位へのメチル基の導入は,Na+ の貯留を弱め,抗炎症作用を増強
する.16a位及び 17a位水酸基は,鉱質作用のみ顕著に弱める.また,17a位水酸基は消炎作用発現に重要である.
-
25資料編
図 11.4.11-1-1 抗炎症ステロイド(プレドニゾロンエステル誘導体)
O
H H
OHH3C
H
OO
O
CO2Na
プレドニゾロンコハク酸エステルナトリウム(局)prednisolone sodium succinate
水溶性プレドニゾロン(注射剤)
プレドニゾロンリン酸エステルナトリウム(局)prednisolone sodium phosphate
潰瘍性大腸炎(注腸剤)
HO
O
H H
OHH3C
H
OO
O
CH3
CH3 CH3 CH3
プレドニゾロンファルネシル酸エステルprednisolone farnesylat
HO
プレドニゾロン吉草酸エステル酢酸エステルprednisolone valerate acetate
O
H H
OHH3C
H3C H
OO
R
O
HO
R = CH3 プレドニゾロン酢酸エステル(局)prednisolone acetate
R = CH2CH3 プレドニゾロンプロピオン酸エステルprednisolone propionate
R = CH2CH2CH3
R = CH2CH2CH2CH3
プレドニゾロン酪酸エステルprednisolone butyrate
プレドニゾロン吉草酸エステルprednisolone valerate
O
H H
OH3C
H
OO
CH3
O
O
CH3HO
H3C
H3C
H3C
O
H H
OHH3C
H
OO PO3Na2
HO
H3C
-
26 資料編
図 11.4.11-1-2 抗炎症ステロイド(外用薬)
O
H
H3C
HH3C
F
HO
O
OH
HCH3
Cl
O
CH3
クロベタゾールプロピオン酸エステル(局)clobetasol propionate
最強
O
H
H3C
HH3C
F
HO
O
OH
CH3H
O
O
CH3
H F
CH3
O
ジフロラゾン酢酸エステル(局)diflorasone diacetate
最強
O
H
H3C
HH3C
F
HO
O
HH
HCH3
H F
O
O
CH3
ジフルコルトロン吉草酸エステル(局)diflucortolone valerate
かなり強い
O
H
H3C
HH3C
F
HO
O
OH
O
O
H F
CH3
O
CH3
ジフルプレドナートdifluprednate
かなり強い
O
H
H3C
HH3C
F
HO
OH
H
O
O
O
O
CH3
アムシノニドamcinonide
かなり強い
O
H
H3C
HH3C
F
HO
OH
H
O
O
OCH3
CH3
H F
O
フルオシノニド(局)fluocinonide
かなり強い
CH3
O
H
H3C
HH3C
F
O
O
OH
CH3
Cl
O
CH3
クロベタゾン酪酸エステルclobetasone butyrate
中程度
O
H
H3C
HH3C
F
HO
OH
H
OH
O
OCH3
CH3
H F
フルオシノロンアセトニド(局)fluocinolone acetonide
強い
O
H
H3C
HH3C
H
HO
CH3O
OH
O
CH3
デプロドンプロピオン酸エステルdeprodone propionate
強い
O
H
H3C
HH3C
H
HO
O
OH
HCH3
O
O
CH3
O
CH3
Cl
アルクロメタゾンプロピオン酸エステルalclometasone dipropionate
中程度
O
H
H3C
HH3C
F
HO
OH
H
Cl
O
OCH3
CH3
ハルシノニドhalcinonide
強い
O
H
H3C
HH3C
H
HO
OH
H
OH
O
OCH3
CH3
H F
フルドロキシコルチドfludroxycortide
強い
* 弱いランクには,プレドニゾロンやコルチゾン酢酸エステルが入る.
-
27資料編
図 11.4.11-1-3 抗炎症ステロイド(吸入薬)
O
H
H3C
HH3C
Cl
HO
O
OH
CH3H
O
O
CH3
O
CH3
ベクロメタゾンプロピオン酸エステル(局)beclometasone dipropionate
O
H
H3C
HH3C
H
HO
OH
H
OH
O
OH
CH3
ブデソニドbudesonide
O
H
H3C
HH3C
Cl
HO
O
OH
HCH3
Cl
O
O
モメタゾンフランカルボン酸エステルmometasone furoate
O
H
H3C
HH3C
F
HO
SO
OH
CH3H
F
O
R
H Fフルチカゾンフランカルボン酸エステル
fluticasone furoate
フルチカゾンプロピオン酸エステルfluticasone propionate
R = CH2CH3
R =O
O
H
H3C
HH3C
H
HO
OH
H
O O
CH3H3C
O
OH
シクレソニドciclesonide
肺で加水分解100倍活性上昇
-
28 資料編
資料 12.1-1 糖尿病の分類
自己免疫機序疾患などにより b細胞が破壊され,インスリン生産能を失ったものは 1 型糖尿病,インスリンに対する抵抗性の増加,あるいはインスリン分泌能の低下によるインスリンの不足により生じるものは 2 型糖尿病と呼ばれる.これ以外に妊娠に伴う妊娠糖尿病,ほかの特定の機序疾患によるものに分類される.
資料 12.1.1-1 インスリンの構造
ヒトインスリンの構造を,下図に示した.A 鎖は 21 個のアミノ酸で構成され,A 鎖内部にもう 1 つのジスルフィド結合が存在する.また,B 鎖は 30 個のアミノ酸で構成されている.還元剤によりジスルフィド結合をそれぞれ 2 組のスルファニル基(-SH;メルカプト基)に還元すると,A 鎖と B 鎖が切断される.インスリンのアミノ酸配列には動物による種差があり,例えばヒトとブタとでは B 鎖の 30 番目が,ヒトとウシとではこれに加えて A 鎖の 8,10 番目が異なる.
図 12.1.1-1-1 ヒトインスリン
A鎖(短鎖)1
Gly
B鎖(短鎖)
2
lle
3
Val
4
Glu
5
Gln
6
Cys
s
7
Cys
ss
s s
8
Thr
9
Ser
10
lle Cys
12
Ser
13
Leu
14
Tyr
15
Gln
16
Leu
17
Glu
18
Asn
19
Tyr
20
Cys
21
1 2 3 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19
Asn
Phe Val Asn Gln His Leu Cys
s
Gly Ser His Leu Val Glu Ala Leu Tyr Leu Val Cys Gly
30 29 28 27 26 25 24
20
23
22
21
Thr Lys Pro Thr Tyr Phe Phe
Glu
Arg
Gly
4
11
資料 12.1.1-2 インスリン製剤
インスリン製剤を下記に示した.・インスリンアスパルト insulin aspart:ヒトインスリンの B 鎖の 28 位のプロリンをアスパラギ
ン酸に置換したインスリン製剤で,単量体へとより速く変換され,吸収が速くなった.・インスリンデグルデク insulin degludec:ヒトインスリンの B 鎖の 30 位のトレオニンを取り除
き,29 位のリシンにグルタミン酸を介してヘキサデカン二酸を結合することでマルチヘキサマー(連鎖した 6 量体)を安定化し,そこから徐々に単量体が解離することにより作用を長時
-
29資料編
間持続させた.・インスリングラルギン insulin glargine:ヒトインスリンの A 鎖の 21 位のアスパラギンをグリ
シンに,B 鎖の C 末端にアルギニンを 2 残基挿入することで,pH4 付近で溶解した注射液が,皮下に投与後,生理的 pH(pH7.4 付近)への変化により沈殿物が生じ,この沈殿物からの徐放を利用することで作用を長時間持続させた.
・インスリンデテミル insulin detemir:ヒトインスリンの B 鎖の 30 位のトレオニンを取り除き,29 位のリシンの e-アミノ基をミリストイル化することで,血中アルブミンとの親和性及びマルチヘキサマーの生成促進を利用することで作用を長時間持続させた.
資料 12.1.3-1 ビグアナイド系薬剤
ビグアニジン系薬剤の構造を,下図に示した.1926 年に,グアニジン 2 分子をメチレン炭素で結合したジグアニジン類のジンタリンの血糖降下作用が報告されたが,本化合物は肝毒性が強かった.その後,1929 年に Slotta らは,グアニジン 2 分子を直接結合したメトホルミンに動物実験で強い血糖降下作用を見出した.1950 年代後半に Shapiro らは,利尿作用物質の探索研究において,ビグアナイド誘導体フェンホルミンに強い血糖降下作用が見出し,これをもとに様々な誘導体について探索が行われた.フェンホルミンは重篤な乳酸アシドーシスなどの副作用が現れたため使用が中止された.現在メトホルミン,ブホルミンが使用されている.
図 12.1.3-1-1 ジグアニジン類とビグアニジン類
ビグアニジン
H2N
NH
NH
NH2
NH
nH2N NH
NH
NH
NH2
NH
ジグアニジン
10H2N NH
NH
NH
NH2
NH
ジンタリンsynthalin
メトホルミン塩酸塩(局)metformin hydrochloride
H2N
NH
NH
N
NH
CH3
CH3 HCl
ブホルミン塩酸塩(局)buformin hydrochloride
HClH2N
HN
HN CH3
NH NH
フェンホルミンphenformine
H2NHN
HN
NH NH
資料 12.1.3-2 チアゾリジン系薬剤
トログリタゾンは 1995 年にインスリン抵抗性改善薬として承認されたが,強い肝毒性のため2000 年に販売が中止された.一方,SU 薬がまったく無効なマウスの血糖値を下げる効果を指標として,クロフィブラートをもとにした構造展開より,AL-294 が開発された.この化合物の活性本体であるカルボキシ基に注目して,生物学的に等価なチアゾリジンジオン環に変えた一連の
-
30 資料編
化合物からシグリタゾンが見出され,さらに改良を加えることによりピオグリタゾンが開発された(図 12.1.3-2-1).チアゾリジン系薬剤は,PPAR-c(ペルオキシゾーム増殖剤応答性受容体-c)のアゴニストとしてアディポサイトカインを調節して,細胞でのグルコースの取り込みを亢進し血糖を下げる.
図 12.1.3-2-1 チアゾリジン系血圧降下薬開発の歴史
ピオグリタゾン塩酸塩(局)pioglitazone hydrochloride
HCl
NH3C
O NH
S
O
O
H
及び鏡像異性体
O
CH3H3C
HO
CH3
CH3O
O
NH
S
O
O
トログリタゾンtroglitazone
O
AL-294
O
Cl
H3C CH3
O
シグリタゾンciglitazone
CH3CH3
NH
S
O
O
資料 12.1.5-1 GLP-1の構造と DPP-Ⅳによる分解
GLP-1 の構造と,DPP-IV による GLP-1 の切断部位を示した(図 12.1.5-1-1).
図 12.1.5-1-1 GLP-1の構造と DPP-Ⅳによる切断部位
DPP-IVによる切断部位
7
His Ala Glu Gly Thr Phe Thr Ser Asp Val Ser Ser Tyr Leu Glu Gly Gln Ala Ala
26
Lys
Glu
PhelleAlaTrpLeuValLys
34
GlyArg(amide)
-
31資料編
資料 12.1.5-2 GLP-1受容体作動薬
リラグルチド liraglutide:2010 年に発売された.GLP-1 の 26 位のリシンにグルタミン酸を介してパルミチン酸を結合し,34 位のリシンをアルギニンに変換した GLP-1 アナログである.皮下への注射剤として用いられる.
資料 12.1.7-1 糖尿病性合併症治療薬
高血糖状態が持続することにより生じる細小血管障害には,網膜症,腎症,神経障害がある.これらの発症の原因の 1 つとして,グルコースが細胞内で解糖系以外にポリオール代謝経路で利用されることにより,ソルビトールの蓄積を伴う代謝異常や酸化ストレスの亢進が起こることが考えられている.そこでポリオール代謝経路の律速酵素であるアルドース還元酵素阻害薬の探索が行われ,エパルレスタット epalrestat が開発された(図 12.1.7-1-1).1992 年に糖尿病性末梢神経障害に対する治療薬として承認され,広く使用されている.そのほか,心室性不整脈の治療に用いられるメキシレチン,抗うつ薬のデュロキセチン,鎮痛薬のプレガバリンがそれぞれ異なる機構で糖尿病性末梢神経障害に伴う症状の改善に用いられている.
図 12.1.7-1-1 糖尿病合併症治療薬
エパルレスタットepalrestat
CH3N
S
S
CO2H
CH3O
CH3
NH2
CH3H
及び鏡像異性体
HCl
メキシレチン塩酸塩mexiletine hydrochloride
O
NH
CH3S
ClH
デュロキセチン塩酸塩duloxetine hydrochloride
H3C
CH3
CO2H
NH2
プレガバリンpregabalin
資料 12.2-1 高脂血症の病型の分類
高脂血症の病型は次の 6 種類に分類されている.括弧内は血液中に増加したリポタンパク質を示す. Ⅰ型(カイロミクロン) IIa 型(LDL:low density lipoprotein) IIb 型(LDL 及び VLDL:very low density lipoprotein) III 型(レムナント及び IDL:intermediate density lipoprotein) IV 型(VLDL) Ⅴ型(カイロミクロン及び VLDL)
-
32 資料編
これら高脂血症の診断は,総コレステロール,LDL-コレステロール(LDL-C),HDL:high density lipoprotein-コレステロール(HDL-C),トリグリセライド(TG)の各量により行われる.また,脂質異常症として,上記以外に HDL-C が低い状態がある.
資料 12.2.3-1 抗高脂血症薬
ニコチン酸誘導体は脂肪細胞のニコチン酸受容体に結合し,ホルモン感受性リパーゼ活性を抑制する.その結果,肝臓への遊離脂肪酸の供給を減少させ,肝臓での VLDL 産生を抑制し,血LDL が減少する.また,LPL 活性化作用も有するため,VLDL 及び LDL の異化反応も促進される.この薬物として,トコフェロールニコチン酸エステルやニセリトロール,ニコモールがある
(図 12.2.3-1-1).プロタンパク質転換酵素サブチリシン/ケキシン 9(PCSK9)は,LDL 受容体と結合することで分解を促進するタンパク質である.ヒト型モノクローナル抗体であるエボロクマブ evolocumab 及びアリロクマブ alirocumab は,この PCSK9 と LDL 受容体の結合を阻害することにより LDL 受容体の分解が抑制されることで,血中 LDL-C の肝細胞への取り込みを促進する.
図 12.2.3-1-1 ニコチン酸系薬
トコフェロールニコチン酸エステル(局)tocopherol nicotinate
ニセリトロールniceritrol
O
CH3H3C
O
CH3
CH3CH3
CH3 CH3 CH3
N O
O
O
N
O
O
N
O
O
N
O
O
N N
O OOH
OO
O
OO
O
N
N
N
ニコモールnicomol
-
33資料編
資料 13.2.6-1 キノロン系抗菌薬
キノロン系抗菌薬の構造を,下図に示した.
図 13.2.6-1-1 ニューキノロン系抗菌薬
トスフロキサシントシル酸塩水和物 (局)tosufloxacin tosilate hydrate:ラセミ体
スパルフロキサシンsparfloxacin
ガチフロキサシンgatifloxacin
N N
O
F
N
H2N
F
F
N
O
N
F
HN
NH2
F
CH3
H3CN
O
N
F
HN
CH3
OCH3
N
O
O
FFHNH
H3C
ガレノキサシンgarenoxacin
及び鏡像異性体
シタフロキサシン水和物sitafloxacin hydrate
・1 H2ON
O
N
F
ClF
H
H2N
H
モキシフロキサシンmoxifloxacin
N
O
N
F
OCH3HN
H
H
フレロキサシンfleroxacin
N
O
N
F
N FH3C
F
及び鏡像異性体
H3C SO3H H
H
2O
ロメフロキサシンlomefloxacin
N
O
F
FCH3
N
HN
H3C
パズフロキサシンメシル酸塩pazufloxacin mesilate
N
O
F
O
H2N
CH3H
プルリフロキサシンprulifloxacin
N
O
F
N
NO
OO
CH3
S
CH3
CH3SO3H
CO2H CO2H CO2H
CO2H CO2H
CO2H CO2H
CO2H CO2H CO2H
12
-
34 資料編
資料 13.3.2-1 ペニシリン系抗生物質
ペニシリン系抗生物質の構造を,下図に示した.
図 13.3.2-1-1 半合成ペニシリン系抗生物質
N
S
OCH3CH3
H H
HN
O
H COOH
H2N
シクラシリン(局)ciclacillin
N
S
OCH3CH3
H H
HN
O
H
H2N H
N
S
OCH3CH3
H H
HN
O
H
H2N H
O
O
O
O
タランピシリン(局)talampicillin
N
S
OCH3CH3
H H
HN
O
H COOH
HN H
HO
O
O
NH
H3CH NH2
アスポキシシリン(局)aspoxicillin
O O O CH3
O CH3 O
バカンピシリン塩酸塩 (局)bacampicillin hydrochloride
N
S
OCH3CH3
H H
N N
HO O
O O
CH3
CH3CH3
ピブメシリナム(局)pivmecillinam
N
S
O
H H
COONa
OH
H
H3CHO
ファロペナムナトリウム水和物faropenem sodium hydrate
HCl21
N
S
OCH3CH3
H H
HN
O
H COONaO
N CH3
Cl
クロキサシリンナトリウム水和物 (局)cloxacillin sodium hydrate
N
S
OCH3CH3
H H
HN
O
H COOH
NaO3S H
スルベニシリンナトリウム(局)sulbenicillin sodium
ベンジルペニシリンカリウム (局)benzylpenicillin potassium
N
S
OCH3CH3
H H
HN
O
H COOK
2 H2O
H2O
-
35資料編
資料 13.3.3-1 第一世代セフェム系抗生物質
第一世代のセフェム系抗生物質の構造を,下図に示した.
図 13.3.3-1-1 第一世代セフェム系抗生物質
NO
H
HN
O
S
COONa
O
S
CH3
O
H
NO
H
HN
O
S
COOH
Cl
H
H2N H
NO
H
HN
O
S
COOH
O
H
H2N H CH3
セファクロル(局) cefaclor
セファロチンナトリウム(局)cefalotin sodium
セフロキサジン水和物(局)cefroxadine hydrate
2H2O
-
36 資料編
資料 13.3.3-2 第二世代セフェム系抗生物質
第二世代のセフェム系抗生物質の構造を,下図に示した.
図 13.3.3-2-1 第二世代セフェム系抗生物質
NO
H H
HN
O
S
COOH
N
SH2N
S
N
NN
N
NCH3
CH3
セフォチアム塩酸塩(局) cefotiam hydrochloride
注射用セフェム
NO
O HS
HN
O
S
COONa
S
N
NN
NH3C
HOOC
H NH2 CH3
セフミノクスナトリウム水和物(局) cefminox sodium hydrate
NO
O H
HN
O
S
COONa
S
N
NN
NH3C
CH3
H3C
H OH
HN H
N O
NH3C
O
O
セフブペラゾンナトリウム(局)cefbuperazone sodium
2HCl
7H2O
-
37資料編
資料 13.3.3-3 第三世代セフェム系抗生物質
第三世代のセフェム系抗生物質の構造を,下図に示した.
NO
H H
HN
O
S
COOH
SNO
CH3
N
SH2N
N
NN
NH3C
セフメノキシム塩酸塩 (局)cefmenoxime hydrochloride
NO
H H
HN
O
S
COONa
S
N
NN
NH3C
HN H
O
NH3C
OH
HOセフピラミドナトリウム (局)
cefpiramide sodium
NO
H H
HN
O
S
COONa
NO
CH3
N
SH2N
セフチゾキシムナトリウム (局)ceftizoxime sodium
セフトリアキソンナトリウム水和物 (局)ceftriaxone sidium hydrate
NO
H H
HN
O
S
COONa
SNO
CH3
N
SH2N
NN
N
O
CH3
ONa
NO
H
HN
O
S
COO
H
NNaO3S HNH2
O
セフスロジンナトリウム (局)cefsulodin sodium
HCl21
H2O213
図 13.3.3-3-1 第三世代セフェム
NO
H H
HN
O
S
NNO
CH3
N
SH2N
O O
NN
N
CH3
セフテラム ピボキシル (局)cefteram pivoxil
O
OCH3
H3C CH3
NO
H H
HN
O
S
COOHCOOH
N
SH2N
NO
H H
HN
O
S
COOH
NO
N
SH2N
セフィキシム水和物 (局)cefixime hydrate
セフチブテン水和物 (局)ceftibuten hydrate
COOH
3H2O
2H2O
注射用
経口用
-
38 資料編
資料 13.3.5-1 カルバセフェム系抗生物質
カルバセフェム系抗生物質の構造を,下図に示した.
図 13.3.5-1-1 カルバセフェム系抗生物質
NO
H
HN
O
COOH
Cl
ロラカルベフ水和物loracarbef hydrate
H
H2N H
H2O
資料 13.3.6-1 カルバペネム系抗生物質
パニペネムはベタミプロンの合剤で用いられている.その後,同阻害剤を必要としない,メロペネム,ドリペネムやベタイン構造を含むビアペネムが開発された(図 13.3.6-1-1).
図 13.3.6-1-1 カルバペネム系抗生物質
メロペネム水和物 (局)meropenem hydrate
ビアペネムbiapenem
NO
H H
COOH
H3C
HHO
S
NCH3
NHH
NO
H H
COOH
H3C
HHO
S
NH
H
HCH3
HO
N CH3CH3
NO
H H
COO
H3C
HHO
S
HCH3
N
NN
ドリペネムdoriipenem
NO
H H
COOH
H3C
HHO
S
NH
H
H NHS NH2
OO
NH
OH
O O
ベタミプロンbetamipron
パニペネムpanipenem
3H2O+
-
39資料編
資料 13.3.7-1 モノバクタム系抗生物質
モノバクタム系抗生物質の構造を,下図に示した.
図 13.3.7-1-1 モノバクタム系抗生物質
NSO3HO
OCH3NH
HN
O
CH3O
HN
O
N
スルファゼシンsulfazecin
ノカルジシンAnocardicin A
N
OH
COOH
HO
OHOOC
NH2
O
HOOC
NH2
資料 13.6-1 マクロライド系抗生物質
マクロライド系抗生物質の構造を,下図に示した.
図 13.6-1 14員環系マクロライド系
アジスロマイシン水和物 (局)azithromycin hydrate
O
OCH3
H
CH3OH
H
OH
CH3O
H3C
HH
H3C H
HCH3
H3C
NCH3
H3C
HH
O
OCH3
H
CH3OH
H
OH
CH3H
N
H3CH
HOH3C
HH
H3C H
HCH3
O OOCH3
ロキシスロマイシン (局)roxithromycin
O
O
OOCH3
H3CHOH3C
O
OH(H3C)2N
H3C O
O
OOCH3
H3CHOH3C
O
OH(H3C)2N
H3C
2H2O
-
40 資料編
資料 13.7-1 その他の抗菌薬
ポリペプチド系抗菌薬の構造を,下図に示した.
図 13.7-1-1 ポリペプチド系抗菌薬
NH
HN
HN
OH3C CH3
O
O CH3
CH3
ONO
N
NH
HN
NH
HN
O
H3C
CH3
O
O
NH3H3N
CH3H3C
++
O
O
グラミシジン(局)gramicidin
HNNH
O
HN
O
H2N
HN
O ONH
CH3H3C
CH3H3C
O
NH
OHH3C
O
HN
NH2
O
HN NH2O
HN
H2N
OHN
CH3
HOO
NH
H2N
O
H3C
H3C
コリスチンcolistin
xH2SO4R Dbu ThrDbu Dbu Dbu D-Phe Leu Dbu Dbu Thr
ポリミキシンB1 : R=6-メチルオクタン酸
2ポリミキシンB :R=6-メチルヘプタン酸Dbu=L-a,c-ジアミノ酪酸
Dbu=L-a,c-ジアミノ酪酸
-
41資料編
資料 13.8-1 抗結核薬
抗結核薬の構造を,下図に示した.
図 13.8-1-1 抗結核薬
CO2O
NH2
N
NNH2
O
N
NH2S
CH3
パラアミノサリチル酸カルシウム水和物(局)calcium para-aminosalicylate hydrate
ピラジナミド (局)pyrazinamide (PZA)
エチオナミド (局)ethionamide
xH2SO4カナマイシン硫酸塩 (局)
kanamycin sulfate
OOHO
OHOH
NH2NH2
OHO
H2N
HOH2N
HO
OH
O
Ca2+
321 H2O
-
42 資料編
資料 13.10-1 グリコペプチド系抗菌薬
グリコペプチド系抗菌薬の構造を,下図に示した.
NH
HN
NH
HN
NH
HN
O
OH
OH
OH
OH
OHNH2
H
CO2HH
OHHO
HO
OHO
O O
Cl
Cl
HO O
NHHO
HOHO
H3CO
O
O
OHOH
OH
OH
O O
HNHO
HOHO
R
テイコプラニン(局)teicoplanin (TEIC)
図 13.10-1-1 グリコペプチド系抗菌薬
O
CH3teicoplanin A2-1:R=
O
CH3
CH3
CH3CH3
teicoplanin A2-2:R=
O
CH3teicoplanin A2-3:R=
O
CH3teicoplanin A2-4:R=
O
CH3teicoplanin A2-5:R=
teicoplanin A2-6:R=H
-
43資料編
資料 13.12.2-1 抗ウイルス薬
抗インフルエンザウイルス薬の構造を,下図に示した.
図 13.12.2-1-1 抗インフルエンザウイルス薬
H OH
HCO2HHN
NH2HN
H
HNH
OH3C
CH3
CH3
H 3H2O
ペラミビル水和物peramivir hydrate
O CO2H
H HNH
H
HO
OR2OR1
H
NH2
NH
ラニナミビルオクタン酸エステル水和物laninamivir octanoate hydrate
HN
OH3C
H3CR1=CO(CH2)6CH3, R2=HR1=H, R2=CO(CH2)6CH3
H2O
-
44 資料編
資料 14.5.2-1 モノクローナル抗体分子標的薬
トラスツズマブ,ペルツズマブは HER2 に結合した後,抗体依存性細胞介在性細胞障害作用により抗腫瘍効果を示す.HER2 過剰発現が確認された転移性乳がんに適応される.リツキシマブ(アミノ酸 1328 個からなるタンパク)は B リンパ球表面に存在する CD20 抗原結合するヒト-マウスキメラモノクローナル抗体で,CD20 に結合後,補体依存性細胞障害作用及び抗体依存性細胞介在性細胞障害作用により抗腫瘍効果を示す.CD20 陽性の B 細胞性非ホジキンリンパ腫に適用される. セツキシマブはヒト-マウスキメラ抗体でパニツムマブはヒト型抗体である.EGFR と結合することにより,EGF と EGFR との結合を阻害し,抗腫瘍効果を示す.EGFR 陽性の治癒切除不能な進行・再発の結腸・直腸がんに適用される. ベバシズマブは VEGF と特異的に結合することにより,VEGF と VEGF 受容体との結合を阻害し,腫瘍細胞における血管新生を阻害する.治癒切除不能な進行・再発の結腸・直腸がん,扁平上皮がんを除く切除不能な進行・再発の非小細胞肺がん,手術不能又は再発乳がんに適用される.