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博士論文 スズリン酸塩系ガラスの物性と構造解析 平成 28 3 福井 聡史 岡山大学大学院 環境生命科学研究科

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博士論文

スズリン酸塩系ガラスの物性と構造解析

平成 28年 3月

福井 聡史

岡山大学大学院

環境生命科学研究科

i

【目次】

第 1章 序論

11 本研究の背景

111 鉛含有ガラス

112 リン酸塩ガラス

113 P2O5ガラスの溶出メカニズム

114 化学的耐久性耐候性

115 スズリン酸塩(SP)系ガラス

12 本研究の目的と意義

13 本論文の構成

参考文献

第 2 章 スズリン酸塩系ガラスの物性評価

21 緒言

22 実験方法

221 ガラスの組成選択

222 ガラス作製

223 物性評価

23 結果考察

231組成分析 Sn および Feの価数評価

232 ρおよび Tg

233 耐水性試験前後の外観写真

234 耐水性試験前後の構造変化

235 溶出速度(DR)および重量減

24 結言

参考文献

第 3 章 分光法を用いたスズリン酸塩系ガラスの構造解析

31 緒言

32 実験方法

321 サンプル準備

322 ラマン分光測定

323 31

P MAS NMR測定

33 結果考察

1

1

1

2

3

3

3

4

4

13

13

13

15

15

16

16

17

17

18

18

19

19

40

41

41

41

41

41

ii

331 各ガラス系のラマンスペクトル

332 平均 BO数 n (Qn分布)

333 平均 BO数 nと耐水性の関係性

34 結言

参考文献

第 4章 放射光を用いたスズリン酸塩系ガラスの構造解析

41 緒言

42 実験方法

421 HEXRD AXS法

422 RMCのモデリング

43 結果考察

431実測の HEXRD および AXSの結果

432 RMCの計算結果および考察

44 結言

参考文献

第 5章 総括

発表論文リスト

謝辞

41

43

43

44

44

57

58

58

59

59

59

59

61

62

77

79

80

1

第 1章 序論

11 本研究の背景

111 鉛含有ガラス

鉛含有ガラスはおおよそ西洋では古代メソポタミア文明東洋では紀元前 4 ~ 5世紀

の中国戦国時代と古くから使用されているガラスの一つで人間の歴史の中でも非常

に重要な役割を果たしてきたガラスである[1 2]中国の珠玉類の装飾品の製作に始まり

低融点や高電気抵抗高屈折率といった工業的に重要な特徴を有することから現代まで

に封着ガラスや蛍光灯ブラウン管テレビ光学ガラスクリスタルガラス(Fig 11)な

ど様々な用途に使用されてきた[2 3]また放射線を吸収する性質を有すること技術の

発達と共に X 線を用いた医療や研究などが主流になってきたことから放射線遮蔽用鉛ガ

ラス(Fig 12)として用いられている[2 -4 ]

現在鉛の使用が鉛中毒によって人体へ悪影響(神経系や免疫系への障害)をもたらす

ことが一般的に認知されている[2 - 4]元々ローマ時代から鉛と病気の関連性は認識され

ていたようではあるが実際に規制が始まったのは 20世紀半ば頃であり日本では1935

年に「おしろい」原料の鉛白 (2PbCO3Pb(OH)2)の使用禁止1975年のレギュラーガソリン

の無鉛化などの規制が始まった[2 4 5]さらに人体だけでなく環境や野生生物への害も

問題視されている例えば日本では土壌地下汚染や鉛散弾による動物の鉛中毒[4]

海外では土壌汚染や水質汚染による鳥類への影響(イギリス)[6]鉛を含む重金属の流

出による海藻への影響(リビアのMediterranean海)[7]土壌水質作物汚染(ナイジェ

リア)[8]の報告があるこれらの報告には食物連鎖も関係しており最終的に人類にも悪

影響を及ぼすと予測されるまた欧州連合(EU)では電子電気機器における有害物

質の使用制限を指令した RoHs指令(Restriction of Hazardous Substances Directive)が施行さ

れ[9]この指令の該当有害物質の一つに鉛も含まれているこれらの懸念から現在出来

る限り鉛を使わないようにする風潮があり様々な分野において鉛フリー材料への開発が

活発となっている

112 リン酸塩ガラス

リン酸(P2O5)はケイ酸(SiO2)およびホウ酸(B2O3)と共に代表的なガラス形成酸

化物の一つであるP2O5ガラスはSiO2やB2O3ガラスと比較すると低ガラス転移温度(Tg)

や高熱膨張率を有し[10 11]また反応性に富むことから様々な金属酸化物やハロゲン化

物と組み合わせてガラス化できることが知られている[12]そのため応用例としてレー

ザーホストガラス[13]やモールドガラス[14]光学ガラス[15]封着ガラス[16]生体ガラス

[17]放射性廃棄物固化ガラス[18]など多くの分野で実用もしくは使用検討されている

P2O5ガラスは四種類の Qn構造(nは架橋酸素 BO の数)[11 19]をとることが知られて

2

いる(Fig 13)ここでガラス修飾酸化物であるアルカリ土類金属酸化物MgO を添加し

た場合を例として簡潔に説明するQ3の P2O5ガラスはP2O5 = 100 molでありP

5+イ

オン一つに対し四つの O 原子が配位されるそのうち一つは二重結合の P=O であり

BO の数がrdquo3rdquoとなるQ2の P2O5ガラスはP2O5 = 50 molでありP2O5 MgO = 1 1 の

metaphosphate 組成となりBO の数はrdquo2rdquoで残り二つの O は Mg2+と結合するQ

1の P2O5

ガラスはP2O5 = 333 molでありP2O5 MgO = 1 2pyrophosphate組成となりBOの数はrdquo1rdquo

で残り三つはMg2+と結合されるQ

0の P2O5ガラスはP2O5 = 25 molでありP2O5 MgO

= 1 3 の orthophosphate組成となりBO の数はrdquo0rdquoで非架橋酸素 NBOのみとの結合とな

るFig 13 で併記されている OP はその P2O5ガラスの理想的な O と P の原子数の比で

あるこの数値は構造の目安に頻繁に使用される

P2O5 ガラスの大きなでめりっと弱点に耐水性耐候性(各々後述する)が非常に低い

ことが真っ先に挙げられる[20]この二つの性質は化学的耐久性の種類でどのような分

野においても実用化のためには解決が必須の問題である耐水性に関してはpyrophosphate

組成では良好になると考えられておりOP で示す数値は耐水性の指標にもなり得る

113 P2O5ガラスの溶出メカニズム

P2O5ガラスの溶出プロセスは①加水分解反応と②水和反応によるものが主となる[20]

①加水分解反応

Fig 14に加水分解反応の模式図を示す赤字で記した Oは架橋酸素であるP-O-P 結合

部に水分子(図中 H+ OH

-)が攻撃しポリリン酸鎖が切れる反応であり二つのリン酸鎖

が精製する

②水和反応

Fig 15 に水和反応の模式図を示す[21]P2O5ガラスに修飾金属イオン(M2+)が入ると

いくつかの長い重合リン酸アニオンが金属イオンに配位することで構造が安定化する

水和反応は水分子がこの金属イオンとの結合を切断することでリン酸鎖状構造が直

鎖状リン酸塩やオルトリン酸塩のようなリン酸塩グループの溶出が生じる反応である(緑

色枠)

二つの反応を抑制し耐水性を改善するためにはP-O-P 結合を他の結合に置き換えた

P-O-A 結合を増やすことが重要となるすなわち多成分系(三成分系以上が望ましい)ガ

ラスにすることである一般的に改善するために効果的だと知られている成分はAl2O3 と

Fe2O3 B2O3である[22 - 25]Fig 16 にアルミナ含有 P2O5ガラスの構造模式図を示すP2O5

ガラスにアルミナを入れるとガラス中において Al3+は[AlO4]四面体の構造をとる[26]赤

破線枠で囲んだ部分を見ると[PO42]+四面体における正電荷と[AlO42]

-四面体の負電荷とで

二つの四面体が結合しldquo組rdquoを作り電荷が相殺されるそしてPO4四面体における NBO

3

(図中の青い O)が Al と結合することによって BO に変化し構造を強化すなわち耐水性

が改善されると考えられるB2O3でも同様の現象が生じると考えられる鉄リン酸塩(FP)

系ガラスの場合ではFig 17 に示すようなFe3+

-On Fe2+

-On PO4の各多面体が連鎖した構

造をとると考えられる[27]Feイオンが価数に関わらず六配位を取っていることからP-O-P

結合よりも Fe-O-P 結合が多く存在するため加水分解が起こりにくく耐水性の高いガラ

スとなる

114 化学的耐久性耐候性

耐候性とは水分子によりリン酸塩が溶出する耐水性とは別の性質でガラス表面の劣

化に対する性質でこの劣化を表す方法には大きく二種類に分別される[1]Fig18 に耐

候性に関するガラスの侵食機構の模式図を示す[1]一つ目は「青ヤケ」と呼ばれるもので

主に SiO2ガラスの表面の修飾イオンと H3O+イオンとのイオン交換の結果ガラス表面に干

渉色のような反射光(低屈折率のガラス層が生成されたことを意味する)が確認される性

質である二つ目は「白ヤケ」と呼ばれるものでガラス表面に水が付着することでイ

オン交換反応が生じて白く曇って見える性質である

115 スズリン酸塩(SP)系ガラス

酸化スズ(SnO)は酸化鉛(PbO)と同じような性質(結晶構造や両性酸化物であるこ

となど)を有しており[28 29]人体や環境への毒性についてほぼ注意せずとも問題のな

い物質である[30]上述した P2O5と組み合わせたスズリン酸塩(SP)系ガラスは低融点

高屈折率無色透明といった特徴を持ち鉛フリー材料の候補の一つとして期待されてい

る具体的な研究例として光学ガラス[31]や封着ガラス[28 32]リチウムイオン二次電池

のアノード[33]などがあるまたSn2+が ns

2型の発光中心として知られ[33]紫外線照射下に

おいて白色蛍光を示すことから希土類フリーの白色蛍光体として注目されている[13 35]

SnO-ZnO-P2O5系ガラスについては実用化されている結晶蛍光体(MgWO4)と比較しても

遜色のない量子効率を有することが分かっている[35]

その一方でSP ガラスについても P2O5系ガラス特有の耐水性の低さが問題であり第三

成分の添加が必須となるすでに述べたが耐水性の問題は鉛フリー材料や希土類フリ

ーの蛍光体といった新規材料として工業的に使用するためには必ずクリアしなければなら

ない問題であるまた使用目的に合わせた成分探索もよく考慮しなければならないため

添加する成分の選択も非常に重要である

12 本研究の目的と意義

本研究の目的はSPガラスやの物性および構造解析を行うことで主に化学的耐久性に

関する要因を解明し新規高機能性ガラスの開発における新たな材料設計指針の確立を目

指した多成分系ガラスの中ではシンプルな組成である三成分系ガラスから解明すること

4

で基礎的な情報を得ることをまず目指したその後の求められる知見は以下に示すと

おりである

① SP ガラスの問題点である耐水性について第三成分を添加することでどの程度改善さ

れるかを把握する第三成分の選択についても検討する

② 第三成分の添加による SPガラスの構造的変化について把握する

③ 構造と耐水性改善の関係について把握する

13 本論文の構成

本論文は以下の 5章から構成されている

第 1章序論では本研究の背景問題提起および目的意義を述べている

第 2章ではSP ガラスおよび二種類の第三成分(Nb2O5 ZnO)をそれぞれ添加した三成分

系 SP ガラスを作製し耐水性を中心とした物性評価を行ったそして各ガラス系の耐水

性と組成の関係性について検討した

第 3章ではラマン分光法を用いて各種 SP ガラスFP ガラスの構造解析を行ったラマ

ンスペクトルから Qn分布を導き出し耐水性とガラス構造の関係性について検討した

第 4章では放射光を用いてSP ガラスおよびニオブ含有 SP ガラスの構造解析を行った

ラマンスペクトルからでは詳細に出来ない SP ガラスの Sn Nb 周辺構造の解明に加え耐

水性と構造との関連性について検討したまた今回構造解析のために用いた X 線異常散

乱法の有効性についても検討した

第 5章は総括である

参考文献

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6

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382-384 (2013)

7

Fig 11 鉛含有ガラスの一例クリスタルガラス

転載ペアワイングラスltボナールgtカガミクリスタル株式会社

Fig 12 鉛含有ガラスの一例放射線遮蔽用ガラス

転載放射線遮蔽用ガラス LX-57B電気硝子建材株式会社

8

Fig 13 リン酸塩ガラスの Qn構造とその組成 [11]より転載

9

Fig 14 リン酸塩ガラスの溶出メカニズム模式図加水分解反応

10

Fig 15 リン酸塩ガラスの溶出メカニズム模式図水和反応 [21]より転載

11

Fig 16 アルミナ含有リン酸塩ガラスの構造

Fig 17 鉄リン酸塩ガラスの構造 [27]より転載

P

O

O

OO Al

O

O

O P

O

O

O Al

O

O

O P

O

O

O

12

Fig 18 ガラスの侵食機構(耐候性)[1]より転載

13

第 2章 スズリン酸塩系ガラスの物性評価

21 緒言

前章で述べたようにスズリン酸塩(SP)系ガラスは無色透明高透過率低ガラス

転移温度など工業的に興味深い特徴を有することが知られている[1]またSn2+が ns

2型の

発光中心となり紫外線照射による白色蛍光を示すことから希土類フリー白色蛍光体とし

ての研究も数多くなされている[2 3]

しかし実用化に向けてはこの系のガラスについてもリン酸塩系ガラスに特有のldquo耐

水性rdquoldquo耐候性rdquoの低さが問題となる[4]この問題点を解決するために第三成分として他

の化合物を加えることが有効でありSP ガラスにおいてはB2O3や ZnO SiO2 MgO MnO

など様々な物質を第三成分として添加した研究報告[5 - 9]があったりNH3雰囲気下で数日

間溶融作製することでガラスを一部窒化することで耐水性を改善させたりという報

告もある[10]SP ガラスに限定しないリン酸塩系ガラスではZnO-P2O5 系ガラスに Sb2O3

や MoO3を添加した報告[11 12]や Na2O-P2O5系ガラスに CuO を加えた報告[13]P2O5-CaO-

Na2O に Ag2Oを添加した報告[14]Na2O-K2O-CaO-P2O5ガラスの一部を窒化することによる

方法[15]等があり数多くのリン酸塩系ガラスの耐水性改善に関する研究がなされている

本研究では高価数金属酸化物および低価数金属酸化物の二種類をそれぞれ第三成分と

して添加した高価数金属酸化物には Nb2O5を低価数金属酸化物には ZnO の二種類の酸

化物を選択した

Nb2O5は古くから光学ガラスの成分として頻繁に使われる物質であり様々な企業から数

多くの特許が出されている[16 17]また耐水性の改善に有効であるとの報告や比較的低

温でもガラス作製ができることが知られており(当然のことながら組成に影響される)

鉛フリーの封着ガラスとしての研究もなされているZnO についてはこれ自体は無着色

成分であるため無色透明なガラスが得られることから光学ガラスの成分に用いられる

ほとんどの組成で低融点ガラスとなり[18 19]これらの特性からSnO-ZnO-P2O5(SZP)

系ガラスは Sn2+を発光中心とした蛍光体の研究対象となっていることが多くSP 系ガラス

では一般的なガラス系である

本章では第三成分を含まない SP ガラスおよび Nb2O5または ZnOを SP ガラスに添加し

た三成分系ガラスをそれぞれ作製し耐水性試験を中心とした各種物性評価を行った比

較対象に耐水性の優れることで知られる鉄リン酸塩系ガラスも同時に作製することでSP

系ガラスへ添加したそれぞれの第三成分の耐水性に対する有効性を検討した

22 実験方法

221 ガラスの組成選択

本研究において作製した SP ガラスは以下の五種類の系列を選択した

14

① スズリン酸塩ガラス(xSnO∙(100-x)P2O5 x = 50 60 67 70 mol)

(略称 SP ガラス組成は 50S50P と表記)

② ニオブ含有 SP ガラス(65SnO∙xNbO25∙(35-x)P2O5 x = 0 1 2 3 4 5 mol)

(略称 Sn-Nb-P ガラス組成は 65S-0Nb-35P と表記)

③ ニオブ含有 SP ガラス(xSnO∙5Nb2O5∙(95-x)P2O5 x = 50 60 67 mol)

(略称 SNP ガラス組成は 50S5N45P と表記)

④ 亜鉛含有 SP ガラス (S5ZP ガラス)(xSnO∙5ZnO∙(95-x)P2O5 x = 55 62 65 mol)

(略称 S5ZP ガラス組成は 55S5Z40P と表記)

⑤ 亜鉛含有 SP ガラス (5SZP ガラス)(5SnO∙xZnO∙(95-x)P2O5 x = 55 62 65 mol)

(略称 5SZP ガラス組成は 5S55Z40P と表記)

(④と⑤は総じて SZP ガラスと表記する場合がある)

それぞれの選択理由はガラス化範囲(各ガラス系のガラス化範囲を Fig 21および Fig

23 に示す)作製の容易さ(気泡の入りにくさ流し出しやすさ)等を考慮し決定した

組成ごとに詳細な選択理由を述べると

②についてNb を P と置換した組成であるFig 22 に示した溶融温度 1100で作製した

Sn-Nb-P ガラスの外観写真より目視でも明らかに透明性の高く着色量の少ない組成は(d)

の 65Sn-5Nb-30P でありこの外観写真を参考に組成を決定したSnO 量を 65 molに固定

しNbO25量を 5 molから 0 mol(Nb無添加組成)まで減少させた組成(Fig 21 の緑線

の組成)を選択しこのガラス系の物性の変化を確認した

③はNb2O5量を 5 molに固定しSn を P と置換した組成であるNb と P は酸化数が

同じ 5価であるためこの組成では同じ SnO量の二成分系 SP ガラスと比較した際酸素

の総量に変化が生じない(例えば67S33P と 67S5N28P)またNb5+イオンはガラス中

では4配位および6配位を取るという報告が多い(結晶の場合他の配位数を取る)た

め配位数が4の P5+の置換に適していると考えた

④⑤に関しては気泡のrdquo入りづらいrdquoもしくはrdquo入らないrdquoSnOおよび ZnOが各 5 molにな

る組成を選択したSZP ガラスはFig 23 に示すガラス化範囲のようにガラス化範囲は

非常に広範囲であるしかし気泡が入りやすく脈理のようなものも見られる組成が多く

目視ですら不均質なガラス組成がほとんどであった(これらの組成も粉末にして XRD を測

定するとガラスであった)そのためバルク体でガラスを得られることが困難な組成も多

い(Fig 24 にその一例の SZP ガラスを示す)そこで第三成分の添加量を可能な限り少

ない組成を選択することでバルク体で目視上ldquo均質rdquoなガラスを得た(Fig 23 の青線と

紫線の組成)

また上述したように耐水性の比較対象である鉄リン酸塩ガラスを二成分系で作製し

15

た(FP ガラス)組成はxFe2O3∙(100-x)P2O5 x = 20 25 30 35 40 mol を作製した

222 ガラス作製

Figs 25 - 27に各ガラス系の作製フローチャートを示す出発試薬にSnO NH4H2PO4

Nb2O5 ZnO を使用し各々秤量した秤量混合後アルミナ坩堝に入れか焼(仮焼き)

を行ったか焼条件はSP Sn-Nb-P SNP SZP ガラスは350または 400 6-30 minFP ガ

ラスは600 30 min で行った溶融温度および溶融時間はSP ガラス1100 30 min

Sn-Nb-P ガラス1100 30 minSNP ガラス1000または 1250 20 min SZP ガラス

1100-1200 30 min 各々N2雰囲気下で作製したN2雰囲気下で行った理由はSn2+が Sn

4+

にほとんど酸化されてしまうとガラスが得られなくなるためSn2+の酸化を防ぐ目的がある

[19]FP ガラスは1200 - 1550 30 min大気雰囲気下の条件で作製した溶融後350

に温めておいたスチールモールドに流してプレスした後FP ガラス以外はガラス転移温度

Tg付近でアニールを 1 h行い目的のガラスを得た耐水性試験用のガラス形状はダイヤモ

ンドカッターで大まかに整えた後鏡面研磨まで施して型取ったここでFP ガラスのみ

アニール工程を省いた理由はSP ガラス等はアニールをして歪みを取らなければ正確に

切断できない場合が生じた一方でFP ガラスはアニールをせずとも十分正確にカットで

きたためアニール工程を省いたまた50S50P のみ厚みが必要になると必ず気泡が入

ってしまうため耐水性試験では気泡の入ったものを使用した

223 物性評価

得られたガラスの物性の比較を行うために以下に示す分析を行った

(1)ガラス状態の確認

作製したガラスが結晶の混在していないものかを確認するためにまた耐水性試験

後のガラスが結晶化しているかの確認のためにX 線回折装置(XRD Rigaku RINT-2100)

を用いて分析した全てバルク体で測定したが耐水性試験後ではバルク状態が保てな

いものもあったためその試料については粉末で測定した

(2)組成分析Sn Fe 価数分析

得られたガラスについてアルミナ坩堝の使用によるアルミナのガラスへの混入および

それに伴う組成ズレの確認のために走査型蛍光 X 線分析装置(XRF Rigaku ZSX Primus

Ⅱ)を使用し組成分析を行った分析はバルク体で定性分析法にて測定した

またSn が二価のままどのくらい存在しているかを調べるために Sn-Nb-P ガラスを用い

てSnの価数分析をメスバウアー分光法にて行ったSnの測定は reference [20]に示す旭硝

子の公開特許に記載されている方法で行ったFP ガラスについても価数変化を調べるた

めにメスバウアー分光法にて Feの価数分析を行ったFeの測定は(株)トポロジック

システムズ MDF-200)を用いて評価を行った

16

(3) 密度(ρ)およびガラス転移温度(Tg)評価

各ガラスの密度(ρ)測定はケロシンを用いたアルキメデス法で測定したガラス転

移温度(Tg)を評価するために示差熱―熱重量測定装置(SDT TA instrument Japan Q600)

を用いたアルミナパンを使用し測定条件はN2雰囲気下 10 Kmin 700までの温度範

囲にて行った

(4)耐水性試験

各ガラスの耐水性について評価するために耐水性試験をMCC-1法[21]にて測定した(Fig

28)条件は75 72h ガラスサイズ 12times10times02 cm (plusmn01 cm) 蒸留水の pH は 72-77

で行い浸漬後サンプルを乾かして重量を量った溶出速度(Dissolution Rate DR)は重

量減(ΔW) サンプル表面積(S) 浸漬時間(t)から以下の式によって算出した[22]

DR = ΔW (kg) S (m2) t (s)

また浸漬前と 72 h 後の重量減()も合わせて算出した

23 結果考察

231 組成分析 Snおよび Feの価数評価

Table 21に各試料の組成分析結果を示すまずアルミナ Al2O3の量を見るとガラスに

混入した量がほとんどの組成で 25 mol以下で多くても 35 molを下回る量であった

そのため各種特性についてアルミナの影響はほとんどないと考えられる[23 24]組成

によってその量に差があるのは溶融温度の違いによることに起因している組成分析の

結果今回作製したガラスは仕込み組成と大きな差がないと判断した

Fig 29に Sn-Nb-P ガラスの Snのメスバウアースペクトルをそこから得られたメスバウ

アーパラメーターを Table 22に示す得られた結果よりSn-Nb-P ガラスでは95以上の

割合で Sn2+のまま存在していることが分かった不活性雰囲気で作製したことP2O5 の出

発原料に NH4H2PO4を使用したことにより(か焼は行なっているが)還元雰囲気になったた

めSn4+にほとんど酸化されることがなかったといえるこの結果SP 系ガラスではほぼ

Sn2+のまま存在していると仮定した

Fig 210に FP ガラスの FeのメスバウアースペクトルをTable 23 にそこから得られたメ

スバウアーパラメーターを示すFP ガラスについては組成に関わらず酸化還元平衡に

より 20 ~ 30が Fe2+になりまたFe2O3 ge 30 molの際化学的にも安定であることが知

られている[27]実際にFe2O3 ge 30 molの際Fe2+は概ね 20 ~ 30存在している結果が得

られた一方でFe2O3 lt 30 molの際はFe2+が 40以上と高い割合で存在していることが

判明したこれは出発原料の NH4H2PO4の多量使用によること溶融温度が 1550と高

いことが要因で還元がより進行したためと予想される

17

232 ρおよび Tg

Table 24にρおよび Tgの結果を示す二つの特性結果はそれぞれのガラス系において

SnO や Nb2O5ZnO といった金属酸化物が増えるにつれて大きくなっているSP Sn-Nb-P

SNP S5ZP 系ガラスの Tgはほとんどが 300前後であり最も高い温度でも67S5N28P

の 346であった一方5SZP 系ガラスは400~440となり他のガラス系と比較する

と若干高い温度となったそれでも今回作製した第三成分を添加したガラスは低 Tgを有

するガラスであると判断できSP ガラスの特性を維持できたと判断できる

60S5N28P と 62S5Z30P のようなほぼ同じ OP を示すもので比較した際にNb2O5添加が

ZnO 添加よりも Tgが高くなったのは①配位数が同配位数になり得るイオンの場合(例え

ば Nb5+と Zn

2+なら4配位など)ポーリングの第 2 法則[25]より高価数イオンの方が結合

強度が強くなる②diatomic cationの解離エネルギーがNb-O (688plusmn11 kJmol)[26]に対しZn-O

(1611plusmn48 kJmol)[26]と大きな差があるため Nb-Oの結合が強い故に熱的に安定化され

Tgが高くなったと考えられる

233 耐水性試験前後の外観写真

Figs 211 - 216に各ガラスの耐水性試験前後の外観写真を示すFig 211 の SP ガラスを

観察するとSnO 量の少ない 50S50P 60S40P は浸漬時間が経過するにつれて元々の形状

が崩壊したりガラス自体が膨張したような状態になったりしたSnO 量の多い 67S33P

70S30P について形状は崩れることはないが透明性が失われる(白ヤケ)耐候性が低いこ

とが確認できるFig 212 に示す Sn-Nb-P ガラスではNb2O5無添加の 65S-0Nb-35P は浸漬

時間 24 h で透明性が失われているがNbO25量の増加させていくと徐々に透明性が回復

しており4 mol添加した 65Sn-4Nb-31P では72 h後においてもほとんど変化が確認でき

ないNbの添加量を変えた Fig 213に示す SNP ガラスではSP ガラスと同様に SnO 量の

少ない 50S5N45P は時間経過と共にガラス全体にldquoひびrdquoのようなものが見え72 hの実

験終了後最終的にテフロン糸を外す段階で簡単に割れたしかし50S50P や 60S40P と比

較すると耐水性が大幅に良くなったまた60S5N35P 67S5N28P は耐水性が良好なこと

だけでなく耐候性についても向上していることが目視で判断できる一方で二種類の

SZP ガラス(Figs 214 215)を観るとP2O5量の少ない 5S55Z40P および 55S5Z40P では

形状が崩れるか析出物が現れる結果となったこの組成よりP2O5 量を減少させるとSP

ガラスと同じように形状は崩れないが透明性が若干失われる結果となった

Fig 216 に比較対象の FP ガラスの耐水性試験前後の写真を示すこの組成ではFe2O3

量の少ない20F80Pにおいても形状が全く崩れない結果が得られたしかしFe2O3 lt 30 mol

の組成において表面に干渉色のような反射光が若干確認できたこれはおそらく青ヤ

ケが発生したためであると考えられる

18

234 耐水性試験前後の構造変化

Figs 217 - 222に各ガラスの耐水性試験前後の XRDパターンを示す耐水性試験前では

ガラス化を全組成で確認した(Figs 217(a) - 222(a))しかし耐水性試験後における外観

写真で形状の崩れたもしくは析出物の得られたガラス組成では結晶が生成したことが

確認された形状の崩れた三組成のうち50S50P 60S40P ガラス(Fig 2214(b))では三

種類の結晶ピーク(SnP2O7 Sn2P2O7 Sn3(PO4)2)が確認でき5S55Z40P については(Fig

2214(b))結晶同定の判断はできなかったが ZnOの多い組成であるためおそらくリン酸

亜鉛の何れかの結晶だと推測された析出物が得られた 55S5Z40P はガラス matrix部と析

出物に分けて測定したところガラス matrix 部はガラスのままであり析出物は SnP2O7

Sn2P2O7の二種類の結晶ピークが確認できたガラス形状に変化がなかったその他の組成は

ガラス状態が保たれていたSn4+の結晶のピークが確認されたのは50S50P のガラスには

気泡が残っておりその気泡から酸化されたかもともと溶融工程で電気炉内に残って

いた酸素によってSn4+に酸化されたか等が考えられる

235 溶出速度(DR)および重量減

Table 24に DR重量減の結果および仕込み組成から計算した OP を示すSP SNP S5ZP

ガラスではSnO 量の増加に伴いSnO量の固定された Sn-Nb-P 5SZP ガラス系ではそれ

ぞれの金属酸化物の増加に伴いDR重量減は減少傾向にあったFP ガラスでは全組成

において DR 重量減共に変化が全く確認されなかったそのため青ヤケのようなものが

確認された FP ガラス(Fe2O3 lt 30 mol)については電子天秤では変化が見られない程度

の重量減であったと推測される二種類の SZP ガラスで比較するとSnOと ZnO量が入れ

替わってもほぼ誤差範囲内と思われる結果が得られたガラス全体の比較では外観写真

で変化が見られなかった FP ガラスと 65S5N28P 65Sn-5Nb-30P のガラスが DR重量減がと

もにゼロという結果が得られた

組成と DR 重量減の関係性を見るために作成した図をFigs 223(DRと OP の関係性)

224(Fig 224に重量減と OP の関係性)に示すそれぞれの図にリン酸塩の三つの構造

の OP も表記した双方の図よりDR 重量減共に OP が増加することで単調に下がって

いることが分かるこの結果はリン酸塩の構造ではorthophosphate 組成で耐水性良好が

あるため[22]一般的な結果と同じ挙動であるまた耐水性の良かったNb2O5添加の SNP

ガラスは異なる挙動(傾き)が得られた

以上の結果より第三成分添加による耐水性の改善を確認し特に Nb2O5 の添加による

影響は大きいことが判明したまたOP の増加による耐水性が改善する結果が得られた

次章の第 3 章にて各ガラス系の構造解析を行い第三成分特に Nb2O5の耐水性への有

効性について調査した

19

24 結言

本章ではSP ガラスおよび第三成分の Nb2O5 ZnOを添加した SP ガラスの物性評価を行

うことで耐水性改善への第三成分添加の有効性を確認した各々の物性について以下に

まとめる

低ガラス転移温度を有する SP ガラスは最も SnO 量が高い 70S30P でも Tg le 280であ

ったNb2O5を添加した Sn-Nb-P SNP ガラスではTgの上昇は見られたが Tg le 350

ZnOを添加した 5SZP S5ZP ガラスではTg ≦ 450であり両金属酸化物の添加でも低

ガラス転移温度を維持しているガラスが得られたNb2O5 添加が Tg を上昇させたのはポ

ーリングの第 2法則より高価数イオンの方が結合強度が高くなるためと結論付けた

耐水性試験結果の外観写真を観るとSP ガラスの SnO 量 le 60 mol 5SZP ガラスおよび

S5ZP ガラスの P2O5量 = 40 molの組成についてガラスサンプルの形状が大きく変化して

おりDR 重量減も高く耐水性の低さが明らかであった得られた析出物はSnP2O7

Sn2P2O7 Sn3(PO4)2 および亜鉛リン酸結晶の一種であると予想されたその他の組成では

透明性の失われた組成がいくつかあったが外観写真では変化が見られなかった FP ガラス

と 65S5N28P 65Sn-5Nb-30P のガラスが DR重量減がともにゼロという結果が得られた

組成と耐水性に関してはDRおよび重量減がOP増加で単調に低下した結果が得られた

つまり耐水性を改善させる有効な手段はSP 系ガラスのガラス化範囲を拡大かつ OP を

増大させる第三成分の添加によることであることが示唆された

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21

Fig 21 三成分系 SnO-NbO25-P2O5 系のガラス化範囲

Fig 22 作製した Sn-Nb-P ガラス

(a)50Sn-5Nb-45P (b)55Sn-5Nb-40P (c)60Sn-5Nb-35P

(d)65Sn-5Nb-30P (e)70Sn-5Nb-25P (f)60Sn-10Nb-30P

(g)55Sn-20Nb-25P (h)60Sn-15Nb-25P (i)65Sn-10Nb-25P

22

Fig 23 三成分系 SnO-ZnO-P2O5系のガラス化範囲

Fig 24 作製した SZP ガラスの一例

(気泡や脈理のようなものが確認できた組成)

23

Fig 25 SP SZP ガラスの作製フローチャート

Fig 26 Sn-Nb-P SNP ガラスの作製フローチャート

(気泡や脈理のようなものが確認できた組成)

24

Fig 27 FP ガラスの作製フローチャート

Fig 28 耐水性試験(MCC-1法)

25

Table 21 各ガラスの組成分析結果

26

Fig 29 Sn-Nb-P ガラスのメスバウアースペクトル

Table 22 Sn-Nb-P ガラスのメスバウアーパラメーター

27

Fig 210 FP ガラスのメスバウアースペクトル

Table 23 FP ガラスのメスバウアーパラメーター

28

Table 24 各ガラスの物性(密度(ρ)ガラス転移温度(Tg)溶出速度(DR)重量減())

29

Fig 211 SP ガラスの耐水性試験前後の外観写真

Fig 212 Sn-Nb-P ガラスの耐水性試験前後の外観写真

30

Fig 213 SNP ガラスの耐水性試験前後の外観写真

Fig 214 S5ZP ガラスの耐水性試験前後の外観写真

Fig 215 5SZP ガラスの耐水性試験前後の外観写真

31

Fig 216 FP ガラスの耐水性試験前後の外観写真

32

Fig 217 SP ガラスの XRD パターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

33

Fig 218 Sn-Nb-P ガラスの XRD パターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

34

Fig 219 SNP ガラスの XRD パターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

35

Fig 220 5SZP ガラスの XRDパターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

36

Fig 221 S5ZP ガラスの XRDパターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

37

Fig 222 FP ガラスの XRD パターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

38

Fig 223 各ガラス系の DR と OP の関係性

39

Fig 224 各ガラス系の重量減と OP の関係性

40

第 3章 分光法を用いたスズリン酸塩系ガラスの構造解析

31 緒言

前章ではSP ガラスおよび第三成分に Nb2O5 ZnOを添加した Sn-Nb-P ガラスSNP ガラ

スSZP ガラスの物性特に耐水性に関する第三成分添加の有効性を明らかにしたその添

加した第三成分の二種類についてもNb2O5 の方が ZnO よりも溶出速度重量減ともに抑

制することができSP ガラスの低ガラス転移温度という特性も維持されていることが判明

したしかし現段階では本研究の主要な物性である耐水性改善の要因が明確になって

いない組成の観点からはOP の値が高い組成が良好な耐水性であることが分かったが

組成だけでは耐水性改善のメカニズムについて完全には理解できないここでリン酸塩

ガラスの溶出のメカニズムは第 1 章で述べたように加水分解反応と水和反応が要因とな

る[1 2]この機構はそれぞれリン酸の構造つまり架橋酸素 BO の数が大きく関わって

おりリン酸アニオンの[PO4]ユニットの架橋酸素数を知ることが重要であるこの BO の

情報を得るためにはガラス構造を示す指標の一つである Qn(n は[PO4]ユニット中の架橋

酸素数を表す)を調べることが必須であるまたQn の分布を調べるためにはガラスの

構造解析を行う必要性がある

ガラスの構造解析には種々の方法があり特にラマン分光法や赤外(IR)分光法核

磁気共鳴法(NMR)などの分光学的手法を用いた構造解析の報告が多い[3-5]ラマン分光

法および IR分光法は原理は異なるがどちらも結合の振動モードを測定する手法であり[6]

リン酸塩ガラスだけでなくケイ酸塩ガラスホウ酸塩ガラスなど様々なガラス系にて測

定がなされている[7 8]また得られた結合状態の情報からリン酸塩アニオンの Qn分布

を調べることも可能であるNMR は共鳴吸収ピークの化学シフト(共鳴周波数のズレ)

から構造を決定する手法であるガラスの場合SiO2や B2O3 P2O5といった網目形成酸化物

の Qn分布を得るために一般的に使用されている手法である[9]

今回これらの測定の中でラマン分光法を選択し構造解析を行ったラマン分光法は

測定する際にサンプル形状を気にすることなく基本的にそのまま測定できるためIR 分

光法のようにサンプル形状で測定方法を変える必要はないまたIR 分光法では例えば

KBr 錠剤法やヌジュール法のように測定を行うためのサンプル調整に手間がかかる場合が

ある[6]さらに比較対象の FP ガラスではNMR を測定できないため作製ガラスを全

て比較検討できるようにラマン分光法を選択した

本章ではラマン分光法を用いて各ガラスの構造解析を行い[PO4]ユニットの Qn分布を

調査し平均 BO数 nを算出することで耐水性と構造の関係性を検討したまたラマン

分光法によって得られた Qn分布の妥当性を確認するためにSP ガラスおよび 67S5N28P ガ

ラスの NMRを測定も行い比較した

32 実験方法

41

321 サンプル準備

ラマン分光およびメスバウアー分光の測定では第 2 章で作製した各ガラスのバルク体

を用いたWD試験に使用したサンプルとは別にラマン測定用のサンプルを用意した適

度な大きさ大体 15 cm角程度のサイズになるようにガラスカッターで切断しその後

十分な平滑性を得るために鏡面研磨を施した

322 ラマン分光測定

使用したラマン分光装置は顕微レーザーラマン分光装置(Jasco NRS-5100)を用いた

用いたレーザー波長は 53208 nmであり400 - 2000 cm-1の範囲で測定した

Qn 分布を導くためにピークフィッティングを行いリン酸塩アニオンのラマンバンド

が現れる950 - 1250 cm-1付近および 700 - 750cm-付近の範囲で定量した

323 31P MAS NMR測定

31P MAS NMRの測定は Varian NMR System 500 を用いて32 mmの MASプローブ

202309MHzにて行った測定パラメーターを以下に示すπ4 パルス長さ 14 μs 待ち時間

(pulse delay)10 s 積算回数 3600 scan シリンダー円筒形状の Zrローターの回転スピード

160 kHz referenceとして二番目の基準物質として使われる NH4H2PO4を使用化学シフト

は85 H3PO4溶液から δ = 10 ppmである

33 結果考察

331 各ガラス系のラマンスペクトル

Figs 31 - 35にラマンスペクトルを示す各ピークは以下の通りに帰属し各スペクト

ル中に該当する構造をピーク位置に示した

1230 - 1260 cm-1 P=O NBO Q

2 [10]

1110 - 1150 cm-1metaphosphate (PO3)

- Q

2 [10]

1030 - 1100 cm-1pyrophosphate (PO35)

2- Q

1 [10]

970 - 1000 cm-1orthophosphate (PO4)

3- Q

0 [10]

920 - 930 cm-1asymmetric (P-O-P) Q

1 [10]

730 - 750 cm-1symmetric (P-O-P) Q

1 [10]

710 - 720 cm-1asymmetric (P-O-P) Q

2 [10]

810 - 820 cm-1Nb-O [NbO4] tetrahedron [11]

900 - 920 cm-1Nb-O isolated [NbO6] octahedron [11]

42

SP ガラスのラマンスペクトル(Fig 31)を見ると50S50P 60S40P ではmetaphosphate

の Q2 構造が支配的であるがSnO 量が増えるにつれてその構造が変化し70S30P では

pyrophosphateの Q1構造と orthophosphateの Q

0構造が共存した構造となっているまたSnO

量の少ない 50S50P および 60S40P において確認されたQ2構造の P=O のピークが見えなく

なっているつまり耐水性と関連して考えるとSnO量が増えるにつれてP-O-P 結合か

ら Sn-O-P 結合に代わり水分子との反応である加水分解反応を妨げる構造に変化している

ことがわかる

Figs 32 33にNb2O5を添加した Sn-Nb-P ガラスおよび SNP ガラスのラマンスペクトル

を示すまずSn-Nb-P ガラスについてNb 無添加の 65Sn-0Nb-35P は主に Q1構造であ

りNbO25が添加されることによってQ0構造に変化しQ

1 Q

0構造が共存しているような

ピークが得られた添加量が少ないガラス系であるため徐々に変化しているのを確認し

た800 cm-1を少し越えた 810 - 820 cm

-1付近にNb2O5を添加することでピークが現れそ

して添加量を増量することで強度が強まるピークがありこのピークは四面体の[NbO4]

のものと判断した

SNP ガラスのラマンスペクトルについてはNb2O5添加量を固定した組成であるためSP

ガラスのような挙動が観察された50S50N45P では50S50P ガラスと同じようにQ2構造

が主な構造でありSnO量の増加に伴って60S5N35P Q1構造67S5N28P Q

0構造に支配

的な構造が変化しているこれはSP ガラスと同じ傾向を示しているためP-O-P rarr Sn-O-P

に置き替わっていることが示唆されるNb-O に関するピークでは50S5N45P のみ[NbO4]

四面体のピークを確認できず900 - 920 cm-1付近に[NbO6]八面体のピークが確認された

SnO量が増量した 60S5N35P では810 cm-1付近の [NbO4] 四面体のピークが現れているが

[NbO6]八面体のピークと 900 - 920 cm-1付近の Q

1構造のピークが非常に近い(ほぼ重なって

いる)ことから60S5N35P については[NbO4] 四面体および[NbO6]八面体の共存の可能性

も考えられるまた67S5NP28 では[NbO4] 四面体のみのピークが観察されたためこ

の Nb-O の配位数変化は[PO4] unitの状態によって変化している可能性も示唆された

ZnO を添加した S5ZP ガラスおよび 5SZP ガラスのラマンスペクトルを Fig 34 に示す

図の下部三つが S5ZP ガラス上部三つが 5SZP ガラスのスペクトルであるSZP ガラスの

二系統を比べるとあきらかなスペクトルの違いが確認された各ガラス系で確認すると

SnO 量が最小の 55S5Z40P はQ2構造と Q

1構造の範囲に跨っているようなスペクトルが得

られた62S5Z33P および 65S5Z30P のスペクトルからはどちらもほぼ Q1構造であると判

断した5SZP のスペクトルは1000 - 1250 cm-1付近の範囲で裾を引くような(なだらかな)

スペクトルが得られたZnO 量が最小の 5S55Z40P にはQ2構造が主な構造に見えるが

shoulderピークのような Q1構造(1030 - 1100 cm

-1)が確認できる5S62Z40P においては

1000 - 1250 cm-1付近の範囲まで幅広いスペクトルが得られた730 - 750 cm

-1付近にピーク

が現れているためおそらく Q1構造が最も多く存在していると考えられる65S5Z30P では

Q1構造Q

0構造が共存しているようなピークが得られた

43

FP ガラスのラマンスペクトルを Fig 35 に示すFe量の少ない 20F80P 25F75P と他の三

つで構造が異なっていることである20F80P 25F75P はQ2構造と Q

1構造が基本構造にな

っていると判断できる 30F70P は1110 - 1150 cm-1付近に shoulderピークのようなものがあ

りQ2 Q

1 Q

0構造が共存しているようなスペクトルであった35F65P 40F60P はQ1構造

が主な構造でQ0構造があると判断した

332 平均 BO数 n (Qn分布)

まずピーク分離について散乱断面積が見積もれなかったためラマンの散乱強度比

を Qn分布として簡易的にピーク分離を行い(Fig 36)そこから平均架橋酸素数 BO 数 n

を算出したここでFig 37 に 31P MAS NMRスペクトルを示しTable 31に NMRおよび

ラマン分光より得られた平均 BO 数 n を示す(NMR の帰属 reference [12])表よりNMR

とラマンから得られた Qn分布はほぼ一致していることが分かった60S40Pについては支

配構造が NMR(Q1) ラマン(Q

2)で逆になったこれは60S40P の組成がQ

2と Q1のほぼ中

間の組成になるためこのようなズレが生じたと考えられるしかし今回のラマンによ

る Qn分布の算出についてはほぼ問題ないと判断した

Table 32にラマンスペクトルより求めた Qn分布平均 BO 数 nをを示しTable 24に示

した DR 重量減の結果を併記する

SP ガラスのうち耐水性が低いガラスは Q2構造によって形成されているSnO量の増加

によって NBOの増加とともに耐水性の向上が確認できSnOが入ることでSn-O-P 結合を

形成し水分子からの攻撃を受けにくくなっていることが考えられる

Sn-Nb-P ガラスでは基本的に Q1構造が主構造でNb2O5の添加が増えるにつれQ

0構

造が支配的になり耐水性は次第に向上していく最も耐水性のよかった 65S-5Nb-30P は

Q0構造での割合が非常に高く平均 BO数 n値が 03であった

SNP ガラスではP2O5量が多い組成の 50S5N45Pにおいても平均 BO数 nが 60S40P と

同じながらも耐水性が良くなっている67S5N28P はほぼ完全に Q0構造であり平均 Q

n

値は 0となった

SZP ガラスについてはS5ZP 5ZSP のどちらの系列についても耐水性の結果に大きな差

というものは確認されなかったが構造的にも平均 BO数 nが 09 10 17という結果であ

った

FP ガラスについてはFe2O3 lt 30 molのときは平均 BO 数 nが20 19と高い数値を

示したが耐水性は非常に良好であったこの結果より組成だけでなく構造的にも耐

水性高くなる要因が不明である一つの原因の可能性としてメスバウアーより得られた

Fe2+の存在比が 40以上と高かったことがFe2O3含有量が少ない組成時には効果的になっ

ているのかもしれない

333 平均 BO数 nと耐水性の関係性

44

Fig 38に DRと平均 BO数 nの関係性についてFig 39に重量減と平均 BO数 nの関係

性をそれぞれ示すまたOP の時と同様に各図にリン酸塩の三つの構造の平均 BO数

n も表記した双方の図よりDR 重量減共に平均 BO 数 nが低下することで単調に下がっ

ていることが分かるまた耐水性の良かったNb2O5添加の Sn-Nb-P SNPガラスはの DR

の挙動(傾き)はOP 時とも異なった挙動が得られた

Fig 310に OP と平均 BO数 nの関係を示す図中に示す茶色metaphosphate 黄色

pyrophosphate 灰色orthophosphate であるこの図から耐水性改善には平均 BO 数

n を下げOP を上げることが重要であるのが分かるまたNb5+の添加はOP を上げる

だけでなく平均 BO 数も減少させることから非常に効果的な成分であることが明らかで

あるこれはP5+から同酸価数 Nb

5+に少量でも置き換えることで平均 BO 数 n を下げ

OP を上げることを可能としている(実際に orthophosphate の OP4 よりも高い OP でガ

ラスが作製できている)つまりNb5+の添加によって P-O-P 結合が減少し水和反応加

水分解反応が抑制されているからである

以上の結果SP 系ガラスの耐水性改善には低い平均 BO 数と高い OP の組成にするこ

とが重要でNb2O5の添加は非常に効果的であることが分かったその一方でガラス中の

詳細な構造的要因についてははっきりしていないため次章の第 4 章にてさらに詳し

い構造解析を行い耐水性改善の要因について調査を行った

34 結言

本章ではラマン分光を使用して各ガラス系のリン酸塩アニオンの構造を簡易定量で

評価し組成と構造の関係について考察した

平均 BO 数 n と耐水性に関してはDR および重量減が平均 BO 数 n の減少で単調に低下

した結果が得られた

平均 BO数 nと OP の図より耐水性改善には平均 BO数 nを下げることそして OP

を上げることが重要であることが明白であった

Nb5+の添加は平均 BO数を減少させるだけでなくOP も上げることからガラス構造内

の P-O-P 結合を減少させる故に水和反応加水分解反応が抑制され耐水性が大幅に

改善された故にNb2O5 のような高価数金属酸化物を添加することが効果的であること

が示唆された

参考文献

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46

Fig 31 SP ガラスのラマンスペクトル

47

Fig 32 Sn-Nb-P ガラスのラマンスペクトル

48

Fig 33 SNP ガラスのラマンスペクトル

49

Fig 34 SZP ガラスのラマンスペクトル

50

Fig 35 FP ガラスのラマンスペクトル

51

Fig 36 ラマンスペクトルのピーク分離例(67S5N28P)

Raman Shift (cm-1)

52

Fig 37 NMRスペクトル

Table 31 NMR およびラマン分光より得られた SP 67S5N28P ガラスの

Qn分布および平均 BO数 n

53

Table 32 各ガラスのラマンスペクトルより求めた Qn分布結果

(表の赤線より右側の結果は Table 22 より)

1 仕込み組成による数値

2 Fig 2212 に示した析出物を取り除いた後の数値

54

Fig 38 DR と平均 BO数 nの関係性

55

Fig 39 重量減と平均 BO数 nの関係性

56

Fig 310 OP と平均 BO数 nの関係性

Meta

Pyro

Ortho

57

第 4章 放射光を用いたスズリン酸塩系ガラスの構造解析

41 緒言

前章の第 3 章にてラマン分光法を用いて SP 系ガラスの構造解析により Qn分布を導き

出したことで耐水性と構造の関係についてある程度関連性を導くことができたリン

酸アニオンについてはQ0(orthophosphate)構造 gt Q

1(pyrophosphate)構造 gt Q2

(metaphosphate)構造の順で良耐水性となるしかしSn Nbおよび Znの局所構造につ

いては知見が得られていないラマン分光や IR分光などの分光学的手法を用いてSnや

Nb Zn の周辺の局所構造を知るには限界があるまたガラスの構造解析を行う上で非常

に重要な因子である中距離構造の評価には分光学的手法は不向きである[1]

そこで局所構造や中距離構造を知るために有効な手法として放射光線を用いた構造

解析がある放射光(SR 光)とはシンクロトロンなどの加速器で高速に加速された電子

が進行方向を磁場によって変えられた際に放射する電磁波である[2]エネルギーが高く

(短波長)輝度が高い特性を有している日本国内では兵庫県佐用町の SPring-8や茨城

県つくば市の高エネルギー加速器研究機構佐賀県鳥栖市の佐賀県立九州シンクロトロン

光研究センターなど複数個所に放射光施設が設置されている

放射光を用いたガラスの構造解析には一般的に高エネルギーX 線回折(High Energy

X-ray diffraction HEXRD)が用いられるこの回折実験から高い散乱ベクトル Q(= 4π sinθλ)

まで回折データが得られる多種類の原子から構成される物質の場合はFaber-Ziman 型[3]

の構造因子 S(Q)を用いる以下の式に示すようにFaber-Ziman 型構造因子 S(Q)は同種また

は異種の原子による相関の重み関数付の和として示される例として SiO2ガラスで説明す

ると構造因子 S(Q)は三種類の原子付の S(Q)の重み付の和として表されていることが分か

I(Q) 散乱断面積 ltgt 原子一個当たりの平均値 f(Q) 原子散乱因子 W 重み関数

通常の研究室で使用される X 線回折(XRD)装置で用いられる特性 X 線はCuKα線(λ

= 0154 nm 81 keV)が最も良く用いられより高いエネルギーの X 線が必要な場合は

MoKα線(λ = 0071 nm 175 keV)が使用される一方でSPring-8のビームライン BL04B2

で行われる高エネルギーX 線回折(HEXRD)測定で使用される SR のエネルギーは378 keV

58

~ が使用可能である[2]従ってガラス以外の液体のような非晶質物質にも非常に精度

よく構造解析が行われている[4]

また局所構造解析の一つに X線異常散乱法という測定方法がある[5 6]これは通常

の X 線回折実験では分離不可能な特定元素に関連する部分構造因子(散乱強度曲線)を得

ることができる手法である今回 HEXRD の測定時に使用したエネルギー614 keV では各元

素の異常散乱項のエネルギー依存性は確認されない(Fig 41)その一方でFig 42に示す

Sn の吸収端付近の 292 keV付近ではSnの異常分散項のエネルギー依存性が確認できる

つまりSnの吸収端近傍より低エネルギー(E)側の異なるエネルギーの X線(E1 E2)を

使って散乱強度を測定し各 E における異常分散項(f`)の変化(つまり高い E1 から低い

E2 の散乱強度の差分)を利用して Snに関する部分構造因子を求める構造解析が AXS 法で

あるこの測定法は古くから知られている方法ではあるが装置の測定条件や設備の問

題からなどから使用があまり普及していなかった[5 6]近年になり金属ガラスの構造解

析について徐々に報告が出てきており今後注目される測定法である

HEXRD および AXS 法などから得られたデータ実測の構造因子 S(Q)は一次元の限られ

た構造情報であるためガラスなどの非晶質物質の中距離構造を解明するためにはこれ

らのデータを基に三次元構造を求める必要がある三次元構造モデルの作成には逆モンテ

カルロ(RMC)シミュレーションを使用することが有効である[7]このシミュレーション

は任意で決めたシミュレーションボックス内の粒子をランダムに動かすことで実測の

構造因子 S(Q)を再現する三次元構造モデルを構築する方法である

SP ガラスについては分光学的手法について数多く報告があるが放射光を用いた回折

法はほとんど適用されていないそこで本研究では HEXRD および AXS 法を用いた構造

解析を行うことでSn Nb周りの構造を解明すると共にSNP ガラスの耐水性改善のメカ

ニズムについて考察したまたAXS 法の有効性についても検討した測定を行ったガラ

スはSP ガラスおよび最も耐水性の高かった 67S5N28P を選択した

42 実験方法

421 HEXRD AXS法

HEXRDはSPring-8のビームライン BL04B2 で測定を行ったエネルギー614 keV の X

線を用いた測定サンプルの厚みは09 mm (plusmn0005 mm)になるまで研磨を行った

AXS 測定はSPring-8のビームライン BL13XUを使用した(Fig 43)それぞれの測定し

た X 線のエネルギーについて以下に示す

①Sn K吸収端hellip292 keV near edgehellip291452 keV (-60 eV) far edgehellip289751 keV (-230 eV)

②Nb K吸収端hellip1899 keV near edgehellip189562 keV (-30 eV) far edgehellip187863 keV (-230 eV)

測定に使用したサンプルの厚さが015 - 030 mmとなるまで研磨を施した

SP ガラスについて50S50P 60S40P 67S33P の三組成のガラスを測定した70S30P に関

59

しては測定を試みたが放射光照射によって結晶化してしまいガラス部分の正確な構

造因子を得るための強度補正ができず解析を断念した

422 RMCのモデリング

Table 41 に RMC の各種パラメーターを示す粒子数は約 5000 個でそれに伴う boxの一

辺の長さは約 42 ~ 46 Ǻになった拘束条件にP の配位数が 4になるような条件を付け

加えたFig 44にSn2P2O7結晶および Sn3P2O8結晶の動径分布関数(RDF)をTable 32

にRDFから得られた第一近接距離[8 9] を示すこれらの数値を使用しcutoffを決定し

たNb-O についてはいくつかの文献値を参考にした[10 11]

各ガラスの RMCのモデリングは①HEXRDから得られた S(Q)のみ②S(Q)および AXS

から得られた部分構造因子を加えた場合でそれぞれ計算した

43 結果考察

最初にNbの AXSから得られたデータについて解析を試みたが妥当な構造モデルが得

られなかったためSnの AXSのみで解析を進めたNb2O5の量が 5 molと少量であったた

めあまり精度の高いデータが得られなかったと推測される

431 実測の HEXRDおよび AXSの結果

4311 実測 HEXRDの S(Q)

Fig 45 に実測HEXRDの S(Q)を示す四つの組成ともに実測HEXRDの S(Q)が得られ

Nb2O5添加の 67S5N28P ガラスでは Low Q 側に変化が確認された

4312 実測散乱強度曲線

Fig 46 に Snの散乱強度曲線を示す(a) の 67S33P のこの曲線からはfar edgeおよび

near edge のエネルギー間で差分が見られエネルギーの依存性が確認された50S50P

67S5N28P のガラスについても同じように差分が確認されたが(b)の 60S40P についてのみ

他とは若干異なる結果(緑丸)であったためRMC の構造解析には差分の構造因子ではな

くfar edge near edge 二つの構造因子を用いた

4313 全相関関数 T(r)

Fig 47 に全相関関数 T(r) を示すHEXRD から得られたものを実線でSnの AXS から

得られたものは点線で示し組成ごとに重ねて表示した図中に各ピークについて帰属し

ているがSnの T(r)からはSn-O Sn-P Sn-Snのみのピークを確認した

432 RMCの計算結果および考察

60

構造モデルの一例として67S5N28P ガラスの得られた構造モデルをFig 48に示す水

色の多面体 unitSnON 黄色の多面体 unitPO4 ピンクの多面体 unitNbONである以下

詳細な構造解析の結果および考察を記す

4321 RMCのフィッティング結果

RMCのフィッティング結果の一例として67S33P の HEXRD と Snの AXS の構造因子か

ら得た結果を示す(Fig 49)二つの構造因子を加えて計算した結果においてもHEXRD

の S(Q) AXS の S(Q)に各々に対する良好なフィッティング結果が得られた他の組成も

同様なフィッティング結果が得られた

4322得られた各 pairの平均配位数平均角度平均結合距離

RMCの結果によって得られた各 pairの平均配位数平均角度平均結合距離を Tables 43

に示す上段が HEXRD の S(Q)のみ下段が HEXRD に Sn の AXS の部分構造因子を加え

て結果である最下部は比較のためにSn2P2O7の情報を記載した[8]

P-O pairについてRMCモデル中の PON多面体に関して平均配位数 Nが 4および P-O

の平均結合距離が約 160Å平均結合角度angO-P-O が約 109degという結果が得られた組成

による大きな違いは確認されなかったのはP の配位数が 4になるように拘束条件をかけた

結果であると考えられるSnON多面体についてはSnO量の増加 = OP の増加であり平

均配位数 Nが 3 ~ 35へ増加した平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約

22Åで組成による大きな変化はほとんど見られなかったNb2O5を 5 mol添加したガラ

スではNbON多面体の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平均配位数 N約 4Nb-O 平均結

合距離約 20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O(約 105deg)と値が近いこと

また6配位ではなく 4配位として主に存在していることからSnO と同じような働きをし

ていると推測される

以上の結果からNb2O5添加の耐水性改善の要因として結合距離が Sn-O が約 22Åに対

し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強固にして

いることも一つの要因として考えられる

また67S5N28P ガラスの各多面体モデルを確認すると(Fig 410)P は PO4Snは SnO4

と SnO3Nbは NbO4をそれぞれ再現している

4323得られた各 pairの結合様式

RMC の結果により得られた各 pair の結合様式を Tables 44 に示す上段が HEXRD の

S(Q)のみ下段が HEXRDに Snの AXS の部分構造因子を加えた結果である最下部は比

較のためにSn2P2O7の情報を記載した[8]

結合様式に関してはPO4四面体は他の多面体も含めてほぼ頂点共有で存在している

SnON多面体についてはSnO 量が少ない配位数が 3 に近い場合頂点共有以外の共有の

61

割合も多くSnO 量が増えるにつれて頂点共有が主になり網目形成体として振舞ってい

ると考えられる組成によって平均結合距離や平均角度の大きな変化が見られなかったこ

とから平均配位数が結合様式を決める重要なファクターであるということも考えられる

またHEXRD と AXS 法の結果がほぼ同じであったこれは主成分が SnO のガラスであ

るためHEXRDでも十分に詳細な構造が得られたため大きな変化が現れなかったと考え

られるNbON 多面体はPO4 四面体と SnON 多面体とはほぼ頂点共有で繋がっている以

上の結果よりSnO量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体的に各多面体同士の

頂点共有が増えていることから耐水性の改善には頂点共有を多く含む構造であること

が重要である或いは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的となって

いるということが推測されるFig 411に 67S5N28P ガラスの構造モデルを示す各多面

体はほぼ頂点共有で繋がっていることが確認できる

4324 平均 BO数の比較

Tables 45にNMR Raman RMC(HEXRD) RMC(HEXRD + AXS)の平均BO数を示すRMC

から得られた平均 BO 数 nはNMR Raman と同様に Nb2O5の添加による大幅な減少が確認

されたしかしNMR Raman と比較すると全組成において数値が大きすぎで適当でない

50S50P の構造モデルを観るとPO4四面体間で3配位 O の存在が確認された(Fig 412)た

め実測で得られた n値を再現できるようなPO4四面体モデル間の繋がり方に関する拘束条

件を加えて RMCを計算する必要性があるまた仮に3配位 Oの存在があるとすると電

子状態の変化が生じていることがと示唆されるため分子軌道計算を用いて電子状態解析

を行い確認する必要がある

4325 耐水性の改善について

Nb2O5を添加のガラス構造への影響について①6配位ではなく 4配位として主に存在し

ていることからSnO と同じような働きをしていると推測される②結合距離が Sn-O が約

22Åに対し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強

固にしている③ガラス構造中で全体的に各多面体同士の頂点共有が増えている以上の

ことが判明した以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性

耐候性を改善した要因として考えられる

44 結言

本章では分光学的手法では評価できないガラスの中距離構造局所構造について理解

するために放射光を用いた構造解析を実施しSP ガラスの構造と耐水性改善について考

察したHEXRDおよび AXS法を用いて測定を行い得られたデータを RMCシミュレーシ

ョンにて解析を行った

解析の結果 Sn-O pair については平均配位数 Nが 3 ~ 35でSnO量の増加 = OP の増

62

加に伴い高くなった平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約 22Åであ

ったP-O Sn-Oについては組成による大きな変化はほとんど見られなかった67S5N28P

ガラスの Nb-O pair の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平均配位数約 4Nb-O 平均結合距

離約 20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O(約 105deg)と値が近いことま

た6配位ではなく 4配位として主に存在していることからSnOと同じような働き(網目

形成体)をしていると推測されるまた結合距離が Sn-O が約 22Åに対し Nb-O は約 20

Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強固にしていると言える

SnO 量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体的に各多面体同士の頂点共有が増え

ていることから耐水性の改善には頂点共有を多く含む構造であることが重要である

もしくは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的であることが推測さ

れる以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性耐候性を

改善した要因として考えられる

またAXS 法の有効性についても確認し効果的であることが判明したただし今回

は主成分が Sn の組成のガラスでありHEXRD でも十分に詳細な構造が得られたため

大きな差は現れなかった

参考文献

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63

Fig 41 各原子の異常分散項のエネルギー依存性

Fig 42 Sn の異常分散項のエネルギー依存性

64

Fig 43 SPring-8の BL13XU

65

Tab

le 4

1

RM

Cの各パラメーター

66

Fig 44 Sn2P2O7 Sn3P2O8結晶の RDF

Table 42 Sn2P2O7 Sn3P2O8結晶の各 pairの第一近接距離

67

Fig 45 得られた実測 HEXRDの S(Q)

68

Fig 46 Sn の異常散乱測定により得られた散乱強度のエネルギー依存性

(a)67S33P (b)60S40P

69

Fig 47 全相関関数 T(r)

太線 HEXRD より

細線 Sn の AXSより

70

Fig 48 67S5N28P ガラス構造のモデル

71

Fig 49 RMC フィッティングの結果

72

Tab

le 4

3 各

pairの平均配位数角度結合距離

73

Fig

4

10

67

S5

N2

8Pガラスの各多面体モデル

74

Tab

le 4

4 各

pairの結合様式

75

Fig 411 67S5N28P ガラスの構造モデル

76

Table 45 平均 BO 各数 nの比較

Fig 412 50S50P ガラスの構造モデル

77

第 5章 総括

本研究ではSP ガラスを対象とした本研究では鉛フリー代替ガラスまたは希土類フ

リー蛍光体として SP ガラスの新規高機能化を将来的に目指し問題点であるldquo化学的耐久

性rdquoの改善につながる知見を得ることを目的としたそこでまずSP ガラスを母体ガラ

スとし第三成分に Nb2O5を添加した Sn-Nb-P SNP ガラスZnO を添加した SZP ガラスを

作製し耐水性を中心とした物性評価を行った次に分光学的手法で構造解析を行い

Qn 分布を導き出した最後に放射光を用いた構造解析を行い耐水性改善に関する構造的

な考察を行った以下に本研究で行った検討内容を示す

(1)SPガラスおよび第三成分Nb2O5 ZnOを添加した三成分系SPガラスの物性評価(第 2章)

(2)SP 系ガラスの分光学的手法による Qn分布導出(第 3章)

(3)放射光を用いた SP 系ガラスの構造解析構造と耐水性改善の関連について(第 4章)

各章についてまとめた結果を以下に示す

第 2章

第 2章では二成分系および三成分系のリン酸塩系ガラスの各種物性(密度や熱的特性

耐水性)の評価を行った二成分系ではSP ガラスに加え良好な耐水性を有する鉄リン

酸塩(Fe2O3-P2O5)系ガラス(以下 FP ガラス)を比較のために三成分系では二成分系

の SP ガラスに Nb2O5を添加したニオブ含有 SP ガラス(SNP ガラス)および ZnO を添加し

た亜鉛含有 SP ガラス(SZP ガラス)を作製した

今回作製した SP 系ガラスは低ガラス転移温度を有していた各組成の温度域はSP

ガラスTg le 280 Sn-Nb-P SNPガラスTg le 3505SZP S5ZPガラスTg ≦ 450であった

各種 SP ガラスの耐水性試験の結果二成分系の SP ガラスよりも三成分系ガラスの方が

良好な耐水性を有していた65Sn-5Nb-30P 67S5N28P ガラスが最も耐水性が良好であり化

学的耐久性の改善には Nb2O5が ZnOよりも効果的であった

組成と耐水性に関してはDRおよび重量減がOP増加で単調に低下した結果が得られた

つまり耐水性を改善させるにはSP 系ガラスのガラス化範囲を拡大かつ OP を増大させ

る第三成分の添加が有効であることが示唆された

第 3章

第 3章ではSP 系ガラスの分光学的手法による Qn分布の導出を行ったラマン分光法を

用いて各ガラス系のリン酸塩アニオンの構造を簡易定量で評価し組成と構造の関係に

ついて考察した平均 BO 数 n と耐水性に関してはDR および重量減が平均 BO 数 nの減

少で単調に低下することが明らかとなった

平均 BO 数 n と OP の関係より耐水性改善には平均 BO 数 n を下げることそして

OP を上げることが重要であることが明らかになった

78

Nb5+の添加は平均 BO数を減少させるだけでなくOP も上げることからガラス構造

内の P-O-P 結合を減少させ水和反応加水分解反応が抑制され耐水性が大幅に改善さ

れることが示唆された故にNb2O5 のような高価数金属酸化物を添加することが効果的

であることが再度確認された

第 4章

耐水性向上についてより深く評価するためSP SNP ガラスの局所構造に関する知見を得

ることを目的に放射光を用いた構造解析を行った高エネルギーX 線回折(HEXRD)お

よび X 線異常散乱(AXS)法で測定したデータを再現する構造モデルを逆モンテカルロ

(RMC)シミュレーションで構築し構造解析を行った

RMC モデル中の PON多面体に関して平均配位数 Nが 4および P-O の平均結合距離が約

160Å平均結合角度angO-P-Oが約 109degという結果が得られた組成による大きな違いは確

認されなかったSnON多面体については平均配位数 N が 3~4 でSnO 量の増加に伴い 4

に近い値となった平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約 22Åで組成

による大きな変化は見られなかった

Nb2O5を 5 mol添加したガラスではNbON多面体の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平

均配位数N約4Nb-O平均結合距離約20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O

(約 105deg)と値が近いことまた6配位ではなく 4配位として主に存在していることから

SnO と同じような網目形成体として働いていると推測されたまた結合距離が Sn-O が約

22Åに対し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強

固にしていると考えられるまたSnO 量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体

的に各多面体同士の頂点共有が増えていることから耐水性の改善には頂点共有を多く

含む構造もしくは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的であること

が示唆された以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性

耐候性を改善した要因として考えられる

またAXS 法の有効性についても確認し効果的であることが判明したただし今回

は主成分が Snの組成のガラスでありHEXRD でも十分に詳細な Snの周辺構造が得られ

たためAXSを利用した場合との大きな構造の差は認められなかった

本研究では様々な優れた特徴を有する SP ガラスにおける耐水性改善のメカニズムにつ

いて検討を行ったこの系のガラスについてはこれまでほとんど利用されていなかった

放射光を用いた構造解析を駆使し第三成分の添加によってどのような構造的変化が生じ

耐水性を改善させるか新たな知見を得ることができた最終目標である機能性ガラスの

開発における新たなる材料設計指針の確立に対してldquo耐水性rdquoに関しては概ね明らかにな

ったと考えられる一方で今回検討していな電子状態化学結合性についても評価する

ことで溶出メカニズムの解明が可能になり材料設計指針の確立が期待される

79

発表論文リスト

口頭発表

第 2章および第 3章

(1) SnO-P2O5 系ガラスへの酸化物添加効果

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎

日本セラミックス協会第 25 回秋季シンポジウム No3C06 (名古屋市 2012年 9月)

(2) Effect of Nb2O5 addition to SnO-P2O5 glass (Poster)

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

International Union of Materials Research Societies International Conference on Electronic

Materials IUMRS-ICEM 2012 A-9-P26-003 (Yokohama 2012 年 9月)

(3) スズリン酸塩系ガラスの蛍光特性耐水性に及ばす酸化物の添加効果(ポスター)

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎

日本セラミックス協会 2013 年年会 1P070 (東京 2013年 3月)

第 4章

(1) 放射光を用いたスズリン酸塩ガラスの構造解析

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎小原真二臼杵毅

日本セラミックス協会第 27 回秋季シンポジウム 2B22 (鹿児島市 2014年 9 月)

(2) Structural analysis of tin phosphate glasses by synchrotron radiation (Poster)

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba Shinji Kohara Takeshi Usuki

International Congress on Glass ICG Annual Meeting Bangkok 2015 P14-138 p186 (2015)

発表論文

(1) Effect of Nb2O5 addition to SnO- P2O5 glass

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

Journal of the Ceramic Society of Japan Vol 120 No 11 pp530-533 (2012)

(2) Structural analysis of SnO- P2O5 glass

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

Journal of the Ceramic Society of Japan(準備中)

80

謝辞

本研究を遂行するにあたり終始暖かいご指導ご助言並びにご鞭撻を賜わりました岡

山大学大学院環境生命科学研究科 難波徳郎教授に心より感謝の意を表します

また本研究を遂行するにあたり懇切丁寧なご指導とご意見をしていただいた岡山大

学大学院環境生命科学研究科 紅野安彦准教授環境環理センター 崎田真一助教に心より

感謝いたします

本研究を遂行するにあたりラマン分光測定の使用についてご助言ご教授して頂い

た岡山大学自然科学研究科 藤井達生教授中西真助教に心より感謝の意を表します

Sn のメスバウアー測定の際に協力して頂いた岡山大学自然科学研究科先端自然科学教

育研究推進本部高田研究室 松本修治特任助教(当時旭硝子株式会社中央研究所)また

Feのメスバウアーを測定の際に協力して頂いた岡山大学自然科学研究科 藤井達生教授に

心より感謝の意を表します

固体 NMR の岡山大学自然科学研究科 早川聡教授に心より感謝の意を表します

本研究を遂行するにあたりSPring-8 にてHEXRD および AXS 法の測定法および原理

についてご教示頂きました物質材料研究機構 小原真司博士ならびに山形大学 臼杵毅

教授に心より感謝の意を表します

本研究は多くの後輩諸君の協力によって遂行されました特に実際に共同研究共同

実験を遂行して頂いたOG 藤原沙弥香さん博士前期課程 2 年 東利彦君OB 徳岡太誠

君学士課程 4年 塩田将大君に心より感謝の意を表しますまた難波研究室で共に研

究生活を過ごした卒業生在学生の方々に感謝の意を表します

また同時期に博士後期課程に在籍された香川高等専門学校の桟敷剛さんにはNbに

関する有益な情報だけでなく辛い状況でも励ましを頂きました心より感謝の意を表し

ます

最後に長きに渡る学生生活を認め経済面だけでなく精神面でも支援してくださった

家族に心より深く感謝の意を表します

平成 28年 3月

福井 聡史

Page 2: 博士論文 スズリン酸塩系ガラスの物性と構造解析ousar.lib.okayama-u.ac.jp/files/public/5/54353/...博士論文 スズリン酸塩系ガラスの物性と構造解析

i

【目次】

第 1章 序論

11 本研究の背景

111 鉛含有ガラス

112 リン酸塩ガラス

113 P2O5ガラスの溶出メカニズム

114 化学的耐久性耐候性

115 スズリン酸塩(SP)系ガラス

12 本研究の目的と意義

13 本論文の構成

参考文献

第 2 章 スズリン酸塩系ガラスの物性評価

21 緒言

22 実験方法

221 ガラスの組成選択

222 ガラス作製

223 物性評価

23 結果考察

231組成分析 Sn および Feの価数評価

232 ρおよび Tg

233 耐水性試験前後の外観写真

234 耐水性試験前後の構造変化

235 溶出速度(DR)および重量減

24 結言

参考文献

第 3 章 分光法を用いたスズリン酸塩系ガラスの構造解析

31 緒言

32 実験方法

321 サンプル準備

322 ラマン分光測定

323 31

P MAS NMR測定

33 結果考察

1

1

1

2

3

3

3

4

4

13

13

13

15

15

16

16

17

17

18

18

19

19

40

41

41

41

41

41

ii

331 各ガラス系のラマンスペクトル

332 平均 BO数 n (Qn分布)

333 平均 BO数 nと耐水性の関係性

34 結言

参考文献

第 4章 放射光を用いたスズリン酸塩系ガラスの構造解析

41 緒言

42 実験方法

421 HEXRD AXS法

422 RMCのモデリング

43 結果考察

431実測の HEXRD および AXSの結果

432 RMCの計算結果および考察

44 結言

参考文献

第 5章 総括

発表論文リスト

謝辞

41

43

43

44

44

57

58

58

59

59

59

59

61

62

77

79

80

1

第 1章 序論

11 本研究の背景

111 鉛含有ガラス

鉛含有ガラスはおおよそ西洋では古代メソポタミア文明東洋では紀元前 4 ~ 5世紀

の中国戦国時代と古くから使用されているガラスの一つで人間の歴史の中でも非常

に重要な役割を果たしてきたガラスである[1 2]中国の珠玉類の装飾品の製作に始まり

低融点や高電気抵抗高屈折率といった工業的に重要な特徴を有することから現代まで

に封着ガラスや蛍光灯ブラウン管テレビ光学ガラスクリスタルガラス(Fig 11)な

ど様々な用途に使用されてきた[2 3]また放射線を吸収する性質を有すること技術の

発達と共に X 線を用いた医療や研究などが主流になってきたことから放射線遮蔽用鉛ガ

ラス(Fig 12)として用いられている[2 -4 ]

現在鉛の使用が鉛中毒によって人体へ悪影響(神経系や免疫系への障害)をもたらす

ことが一般的に認知されている[2 - 4]元々ローマ時代から鉛と病気の関連性は認識され

ていたようではあるが実際に規制が始まったのは 20世紀半ば頃であり日本では1935

年に「おしろい」原料の鉛白 (2PbCO3Pb(OH)2)の使用禁止1975年のレギュラーガソリン

の無鉛化などの規制が始まった[2 4 5]さらに人体だけでなく環境や野生生物への害も

問題視されている例えば日本では土壌地下汚染や鉛散弾による動物の鉛中毒[4]

海外では土壌汚染や水質汚染による鳥類への影響(イギリス)[6]鉛を含む重金属の流

出による海藻への影響(リビアのMediterranean海)[7]土壌水質作物汚染(ナイジェ

リア)[8]の報告があるこれらの報告には食物連鎖も関係しており最終的に人類にも悪

影響を及ぼすと予測されるまた欧州連合(EU)では電子電気機器における有害物

質の使用制限を指令した RoHs指令(Restriction of Hazardous Substances Directive)が施行さ

れ[9]この指令の該当有害物質の一つに鉛も含まれているこれらの懸念から現在出来

る限り鉛を使わないようにする風潮があり様々な分野において鉛フリー材料への開発が

活発となっている

112 リン酸塩ガラス

リン酸(P2O5)はケイ酸(SiO2)およびホウ酸(B2O3)と共に代表的なガラス形成酸

化物の一つであるP2O5ガラスはSiO2やB2O3ガラスと比較すると低ガラス転移温度(Tg)

や高熱膨張率を有し[10 11]また反応性に富むことから様々な金属酸化物やハロゲン化

物と組み合わせてガラス化できることが知られている[12]そのため応用例としてレー

ザーホストガラス[13]やモールドガラス[14]光学ガラス[15]封着ガラス[16]生体ガラス

[17]放射性廃棄物固化ガラス[18]など多くの分野で実用もしくは使用検討されている

P2O5ガラスは四種類の Qn構造(nは架橋酸素 BO の数)[11 19]をとることが知られて

2

いる(Fig 13)ここでガラス修飾酸化物であるアルカリ土類金属酸化物MgO を添加し

た場合を例として簡潔に説明するQ3の P2O5ガラスはP2O5 = 100 molでありP

5+イ

オン一つに対し四つの O 原子が配位されるそのうち一つは二重結合の P=O であり

BO の数がrdquo3rdquoとなるQ2の P2O5ガラスはP2O5 = 50 molでありP2O5 MgO = 1 1 の

metaphosphate 組成となりBO の数はrdquo2rdquoで残り二つの O は Mg2+と結合するQ

1の P2O5

ガラスはP2O5 = 333 molでありP2O5 MgO = 1 2pyrophosphate組成となりBOの数はrdquo1rdquo

で残り三つはMg2+と結合されるQ

0の P2O5ガラスはP2O5 = 25 molでありP2O5 MgO

= 1 3 の orthophosphate組成となりBO の数はrdquo0rdquoで非架橋酸素 NBOのみとの結合とな

るFig 13 で併記されている OP はその P2O5ガラスの理想的な O と P の原子数の比で

あるこの数値は構造の目安に頻繁に使用される

P2O5 ガラスの大きなでめりっと弱点に耐水性耐候性(各々後述する)が非常に低い

ことが真っ先に挙げられる[20]この二つの性質は化学的耐久性の種類でどのような分

野においても実用化のためには解決が必須の問題である耐水性に関してはpyrophosphate

組成では良好になると考えられておりOP で示す数値は耐水性の指標にもなり得る

113 P2O5ガラスの溶出メカニズム

P2O5ガラスの溶出プロセスは①加水分解反応と②水和反応によるものが主となる[20]

①加水分解反応

Fig 14に加水分解反応の模式図を示す赤字で記した Oは架橋酸素であるP-O-P 結合

部に水分子(図中 H+ OH

-)が攻撃しポリリン酸鎖が切れる反応であり二つのリン酸鎖

が精製する

②水和反応

Fig 15 に水和反応の模式図を示す[21]P2O5ガラスに修飾金属イオン(M2+)が入ると

いくつかの長い重合リン酸アニオンが金属イオンに配位することで構造が安定化する

水和反応は水分子がこの金属イオンとの結合を切断することでリン酸鎖状構造が直

鎖状リン酸塩やオルトリン酸塩のようなリン酸塩グループの溶出が生じる反応である(緑

色枠)

二つの反応を抑制し耐水性を改善するためにはP-O-P 結合を他の結合に置き換えた

P-O-A 結合を増やすことが重要となるすなわち多成分系(三成分系以上が望ましい)ガ

ラスにすることである一般的に改善するために効果的だと知られている成分はAl2O3 と

Fe2O3 B2O3である[22 - 25]Fig 16 にアルミナ含有 P2O5ガラスの構造模式図を示すP2O5

ガラスにアルミナを入れるとガラス中において Al3+は[AlO4]四面体の構造をとる[26]赤

破線枠で囲んだ部分を見ると[PO42]+四面体における正電荷と[AlO42]

-四面体の負電荷とで

二つの四面体が結合しldquo組rdquoを作り電荷が相殺されるそしてPO4四面体における NBO

3

(図中の青い O)が Al と結合することによって BO に変化し構造を強化すなわち耐水性

が改善されると考えられるB2O3でも同様の現象が生じると考えられる鉄リン酸塩(FP)

系ガラスの場合ではFig 17 に示すようなFe3+

-On Fe2+

-On PO4の各多面体が連鎖した構

造をとると考えられる[27]Feイオンが価数に関わらず六配位を取っていることからP-O-P

結合よりも Fe-O-P 結合が多く存在するため加水分解が起こりにくく耐水性の高いガラ

スとなる

114 化学的耐久性耐候性

耐候性とは水分子によりリン酸塩が溶出する耐水性とは別の性質でガラス表面の劣

化に対する性質でこの劣化を表す方法には大きく二種類に分別される[1]Fig18 に耐

候性に関するガラスの侵食機構の模式図を示す[1]一つ目は「青ヤケ」と呼ばれるもので

主に SiO2ガラスの表面の修飾イオンと H3O+イオンとのイオン交換の結果ガラス表面に干

渉色のような反射光(低屈折率のガラス層が生成されたことを意味する)が確認される性

質である二つ目は「白ヤケ」と呼ばれるものでガラス表面に水が付着することでイ

オン交換反応が生じて白く曇って見える性質である

115 スズリン酸塩(SP)系ガラス

酸化スズ(SnO)は酸化鉛(PbO)と同じような性質(結晶構造や両性酸化物であるこ

となど)を有しており[28 29]人体や環境への毒性についてほぼ注意せずとも問題のな

い物質である[30]上述した P2O5と組み合わせたスズリン酸塩(SP)系ガラスは低融点

高屈折率無色透明といった特徴を持ち鉛フリー材料の候補の一つとして期待されてい

る具体的な研究例として光学ガラス[31]や封着ガラス[28 32]リチウムイオン二次電池

のアノード[33]などがあるまたSn2+が ns

2型の発光中心として知られ[33]紫外線照射下に

おいて白色蛍光を示すことから希土類フリーの白色蛍光体として注目されている[13 35]

SnO-ZnO-P2O5系ガラスについては実用化されている結晶蛍光体(MgWO4)と比較しても

遜色のない量子効率を有することが分かっている[35]

その一方でSP ガラスについても P2O5系ガラス特有の耐水性の低さが問題であり第三

成分の添加が必須となるすでに述べたが耐水性の問題は鉛フリー材料や希土類フリ

ーの蛍光体といった新規材料として工業的に使用するためには必ずクリアしなければなら

ない問題であるまた使用目的に合わせた成分探索もよく考慮しなければならないため

添加する成分の選択も非常に重要である

12 本研究の目的と意義

本研究の目的はSPガラスやの物性および構造解析を行うことで主に化学的耐久性に

関する要因を解明し新規高機能性ガラスの開発における新たな材料設計指針の確立を目

指した多成分系ガラスの中ではシンプルな組成である三成分系ガラスから解明すること

4

で基礎的な情報を得ることをまず目指したその後の求められる知見は以下に示すと

おりである

① SP ガラスの問題点である耐水性について第三成分を添加することでどの程度改善さ

れるかを把握する第三成分の選択についても検討する

② 第三成分の添加による SPガラスの構造的変化について把握する

③ 構造と耐水性改善の関係について把握する

13 本論文の構成

本論文は以下の 5章から構成されている

第 1章序論では本研究の背景問題提起および目的意義を述べている

第 2章ではSP ガラスおよび二種類の第三成分(Nb2O5 ZnO)をそれぞれ添加した三成分

系 SP ガラスを作製し耐水性を中心とした物性評価を行ったそして各ガラス系の耐水

性と組成の関係性について検討した

第 3章ではラマン分光法を用いて各種 SP ガラスFP ガラスの構造解析を行ったラマ

ンスペクトルから Qn分布を導き出し耐水性とガラス構造の関係性について検討した

第 4章では放射光を用いてSP ガラスおよびニオブ含有 SP ガラスの構造解析を行った

ラマンスペクトルからでは詳細に出来ない SP ガラスの Sn Nb 周辺構造の解明に加え耐

水性と構造との関連性について検討したまた今回構造解析のために用いた X 線異常散

乱法の有効性についても検討した

第 5章は総括である

参考文献

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6

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7

Fig 11 鉛含有ガラスの一例クリスタルガラス

転載ペアワイングラスltボナールgtカガミクリスタル株式会社

Fig 12 鉛含有ガラスの一例放射線遮蔽用ガラス

転載放射線遮蔽用ガラス LX-57B電気硝子建材株式会社

8

Fig 13 リン酸塩ガラスの Qn構造とその組成 [11]より転載

9

Fig 14 リン酸塩ガラスの溶出メカニズム模式図加水分解反応

10

Fig 15 リン酸塩ガラスの溶出メカニズム模式図水和反応 [21]より転載

11

Fig 16 アルミナ含有リン酸塩ガラスの構造

Fig 17 鉄リン酸塩ガラスの構造 [27]より転載

P

O

O

OO Al

O

O

O P

O

O

O Al

O

O

O P

O

O

O

12

Fig 18 ガラスの侵食機構(耐候性)[1]より転載

13

第 2章 スズリン酸塩系ガラスの物性評価

21 緒言

前章で述べたようにスズリン酸塩(SP)系ガラスは無色透明高透過率低ガラス

転移温度など工業的に興味深い特徴を有することが知られている[1]またSn2+が ns

2型の

発光中心となり紫外線照射による白色蛍光を示すことから希土類フリー白色蛍光体とし

ての研究も数多くなされている[2 3]

しかし実用化に向けてはこの系のガラスについてもリン酸塩系ガラスに特有のldquo耐

水性rdquoldquo耐候性rdquoの低さが問題となる[4]この問題点を解決するために第三成分として他

の化合物を加えることが有効でありSP ガラスにおいてはB2O3や ZnO SiO2 MgO MnO

など様々な物質を第三成分として添加した研究報告[5 - 9]があったりNH3雰囲気下で数日

間溶融作製することでガラスを一部窒化することで耐水性を改善させたりという報

告もある[10]SP ガラスに限定しないリン酸塩系ガラスではZnO-P2O5 系ガラスに Sb2O3

や MoO3を添加した報告[11 12]や Na2O-P2O5系ガラスに CuO を加えた報告[13]P2O5-CaO-

Na2O に Ag2Oを添加した報告[14]Na2O-K2O-CaO-P2O5ガラスの一部を窒化することによる

方法[15]等があり数多くのリン酸塩系ガラスの耐水性改善に関する研究がなされている

本研究では高価数金属酸化物および低価数金属酸化物の二種類をそれぞれ第三成分と

して添加した高価数金属酸化物には Nb2O5を低価数金属酸化物には ZnO の二種類の酸

化物を選択した

Nb2O5は古くから光学ガラスの成分として頻繁に使われる物質であり様々な企業から数

多くの特許が出されている[16 17]また耐水性の改善に有効であるとの報告や比較的低

温でもガラス作製ができることが知られており(当然のことながら組成に影響される)

鉛フリーの封着ガラスとしての研究もなされているZnO についてはこれ自体は無着色

成分であるため無色透明なガラスが得られることから光学ガラスの成分に用いられる

ほとんどの組成で低融点ガラスとなり[18 19]これらの特性からSnO-ZnO-P2O5(SZP)

系ガラスは Sn2+を発光中心とした蛍光体の研究対象となっていることが多くSP 系ガラス

では一般的なガラス系である

本章では第三成分を含まない SP ガラスおよび Nb2O5または ZnOを SP ガラスに添加し

た三成分系ガラスをそれぞれ作製し耐水性試験を中心とした各種物性評価を行った比

較対象に耐水性の優れることで知られる鉄リン酸塩系ガラスも同時に作製することでSP

系ガラスへ添加したそれぞれの第三成分の耐水性に対する有効性を検討した

22 実験方法

221 ガラスの組成選択

本研究において作製した SP ガラスは以下の五種類の系列を選択した

14

① スズリン酸塩ガラス(xSnO∙(100-x)P2O5 x = 50 60 67 70 mol)

(略称 SP ガラス組成は 50S50P と表記)

② ニオブ含有 SP ガラス(65SnO∙xNbO25∙(35-x)P2O5 x = 0 1 2 3 4 5 mol)

(略称 Sn-Nb-P ガラス組成は 65S-0Nb-35P と表記)

③ ニオブ含有 SP ガラス(xSnO∙5Nb2O5∙(95-x)P2O5 x = 50 60 67 mol)

(略称 SNP ガラス組成は 50S5N45P と表記)

④ 亜鉛含有 SP ガラス (S5ZP ガラス)(xSnO∙5ZnO∙(95-x)P2O5 x = 55 62 65 mol)

(略称 S5ZP ガラス組成は 55S5Z40P と表記)

⑤ 亜鉛含有 SP ガラス (5SZP ガラス)(5SnO∙xZnO∙(95-x)P2O5 x = 55 62 65 mol)

(略称 5SZP ガラス組成は 5S55Z40P と表記)

(④と⑤は総じて SZP ガラスと表記する場合がある)

それぞれの選択理由はガラス化範囲(各ガラス系のガラス化範囲を Fig 21および Fig

23 に示す)作製の容易さ(気泡の入りにくさ流し出しやすさ)等を考慮し決定した

組成ごとに詳細な選択理由を述べると

②についてNb を P と置換した組成であるFig 22 に示した溶融温度 1100で作製した

Sn-Nb-P ガラスの外観写真より目視でも明らかに透明性の高く着色量の少ない組成は(d)

の 65Sn-5Nb-30P でありこの外観写真を参考に組成を決定したSnO 量を 65 molに固定

しNbO25量を 5 molから 0 mol(Nb無添加組成)まで減少させた組成(Fig 21 の緑線

の組成)を選択しこのガラス系の物性の変化を確認した

③はNb2O5量を 5 molに固定しSn を P と置換した組成であるNb と P は酸化数が

同じ 5価であるためこの組成では同じ SnO量の二成分系 SP ガラスと比較した際酸素

の総量に変化が生じない(例えば67S33P と 67S5N28P)またNb5+イオンはガラス中

では4配位および6配位を取るという報告が多い(結晶の場合他の配位数を取る)た

め配位数が4の P5+の置換に適していると考えた

④⑤に関しては気泡のrdquo入りづらいrdquoもしくはrdquo入らないrdquoSnOおよび ZnOが各 5 molにな

る組成を選択したSZP ガラスはFig 23 に示すガラス化範囲のようにガラス化範囲は

非常に広範囲であるしかし気泡が入りやすく脈理のようなものも見られる組成が多く

目視ですら不均質なガラス組成がほとんどであった(これらの組成も粉末にして XRD を測

定するとガラスであった)そのためバルク体でガラスを得られることが困難な組成も多

い(Fig 24 にその一例の SZP ガラスを示す)そこで第三成分の添加量を可能な限り少

ない組成を選択することでバルク体で目視上ldquo均質rdquoなガラスを得た(Fig 23 の青線と

紫線の組成)

また上述したように耐水性の比較対象である鉄リン酸塩ガラスを二成分系で作製し

15

た(FP ガラス)組成はxFe2O3∙(100-x)P2O5 x = 20 25 30 35 40 mol を作製した

222 ガラス作製

Figs 25 - 27に各ガラス系の作製フローチャートを示す出発試薬にSnO NH4H2PO4

Nb2O5 ZnO を使用し各々秤量した秤量混合後アルミナ坩堝に入れか焼(仮焼き)

を行ったか焼条件はSP Sn-Nb-P SNP SZP ガラスは350または 400 6-30 minFP ガ

ラスは600 30 min で行った溶融温度および溶融時間はSP ガラス1100 30 min

Sn-Nb-P ガラス1100 30 minSNP ガラス1000または 1250 20 min SZP ガラス

1100-1200 30 min 各々N2雰囲気下で作製したN2雰囲気下で行った理由はSn2+が Sn

4+

にほとんど酸化されてしまうとガラスが得られなくなるためSn2+の酸化を防ぐ目的がある

[19]FP ガラスは1200 - 1550 30 min大気雰囲気下の条件で作製した溶融後350

に温めておいたスチールモールドに流してプレスした後FP ガラス以外はガラス転移温度

Tg付近でアニールを 1 h行い目的のガラスを得た耐水性試験用のガラス形状はダイヤモ

ンドカッターで大まかに整えた後鏡面研磨まで施して型取ったここでFP ガラスのみ

アニール工程を省いた理由はSP ガラス等はアニールをして歪みを取らなければ正確に

切断できない場合が生じた一方でFP ガラスはアニールをせずとも十分正確にカットで

きたためアニール工程を省いたまた50S50P のみ厚みが必要になると必ず気泡が入

ってしまうため耐水性試験では気泡の入ったものを使用した

223 物性評価

得られたガラスの物性の比較を行うために以下に示す分析を行った

(1)ガラス状態の確認

作製したガラスが結晶の混在していないものかを確認するためにまた耐水性試験

後のガラスが結晶化しているかの確認のためにX 線回折装置(XRD Rigaku RINT-2100)

を用いて分析した全てバルク体で測定したが耐水性試験後ではバルク状態が保てな

いものもあったためその試料については粉末で測定した

(2)組成分析Sn Fe 価数分析

得られたガラスについてアルミナ坩堝の使用によるアルミナのガラスへの混入および

それに伴う組成ズレの確認のために走査型蛍光 X 線分析装置(XRF Rigaku ZSX Primus

Ⅱ)を使用し組成分析を行った分析はバルク体で定性分析法にて測定した

またSn が二価のままどのくらい存在しているかを調べるために Sn-Nb-P ガラスを用い

てSnの価数分析をメスバウアー分光法にて行ったSnの測定は reference [20]に示す旭硝

子の公開特許に記載されている方法で行ったFP ガラスについても価数変化を調べるた

めにメスバウアー分光法にて Feの価数分析を行ったFeの測定は(株)トポロジック

システムズ MDF-200)を用いて評価を行った

16

(3) 密度(ρ)およびガラス転移温度(Tg)評価

各ガラスの密度(ρ)測定はケロシンを用いたアルキメデス法で測定したガラス転

移温度(Tg)を評価するために示差熱―熱重量測定装置(SDT TA instrument Japan Q600)

を用いたアルミナパンを使用し測定条件はN2雰囲気下 10 Kmin 700までの温度範

囲にて行った

(4)耐水性試験

各ガラスの耐水性について評価するために耐水性試験をMCC-1法[21]にて測定した(Fig

28)条件は75 72h ガラスサイズ 12times10times02 cm (plusmn01 cm) 蒸留水の pH は 72-77

で行い浸漬後サンプルを乾かして重量を量った溶出速度(Dissolution Rate DR)は重

量減(ΔW) サンプル表面積(S) 浸漬時間(t)から以下の式によって算出した[22]

DR = ΔW (kg) S (m2) t (s)

また浸漬前と 72 h 後の重量減()も合わせて算出した

23 結果考察

231 組成分析 Snおよび Feの価数評価

Table 21に各試料の組成分析結果を示すまずアルミナ Al2O3の量を見るとガラスに

混入した量がほとんどの組成で 25 mol以下で多くても 35 molを下回る量であった

そのため各種特性についてアルミナの影響はほとんどないと考えられる[23 24]組成

によってその量に差があるのは溶融温度の違いによることに起因している組成分析の

結果今回作製したガラスは仕込み組成と大きな差がないと判断した

Fig 29に Sn-Nb-P ガラスの Snのメスバウアースペクトルをそこから得られたメスバウ

アーパラメーターを Table 22に示す得られた結果よりSn-Nb-P ガラスでは95以上の

割合で Sn2+のまま存在していることが分かった不活性雰囲気で作製したことP2O5 の出

発原料に NH4H2PO4を使用したことにより(か焼は行なっているが)還元雰囲気になったた

めSn4+にほとんど酸化されることがなかったといえるこの結果SP 系ガラスではほぼ

Sn2+のまま存在していると仮定した

Fig 210に FP ガラスの FeのメスバウアースペクトルをTable 23 にそこから得られたメ

スバウアーパラメーターを示すFP ガラスについては組成に関わらず酸化還元平衡に

より 20 ~ 30が Fe2+になりまたFe2O3 ge 30 molの際化学的にも安定であることが知

られている[27]実際にFe2O3 ge 30 molの際Fe2+は概ね 20 ~ 30存在している結果が得

られた一方でFe2O3 lt 30 molの際はFe2+が 40以上と高い割合で存在していることが

判明したこれは出発原料の NH4H2PO4の多量使用によること溶融温度が 1550と高

いことが要因で還元がより進行したためと予想される

17

232 ρおよび Tg

Table 24にρおよび Tgの結果を示す二つの特性結果はそれぞれのガラス系において

SnO や Nb2O5ZnO といった金属酸化物が増えるにつれて大きくなっているSP Sn-Nb-P

SNP S5ZP 系ガラスの Tgはほとんどが 300前後であり最も高い温度でも67S5N28P

の 346であった一方5SZP 系ガラスは400~440となり他のガラス系と比較する

と若干高い温度となったそれでも今回作製した第三成分を添加したガラスは低 Tgを有

するガラスであると判断できSP ガラスの特性を維持できたと判断できる

60S5N28P と 62S5Z30P のようなほぼ同じ OP を示すもので比較した際にNb2O5添加が

ZnO 添加よりも Tgが高くなったのは①配位数が同配位数になり得るイオンの場合(例え

ば Nb5+と Zn

2+なら4配位など)ポーリングの第 2 法則[25]より高価数イオンの方が結合

強度が強くなる②diatomic cationの解離エネルギーがNb-O (688plusmn11 kJmol)[26]に対しZn-O

(1611plusmn48 kJmol)[26]と大きな差があるため Nb-Oの結合が強い故に熱的に安定化され

Tgが高くなったと考えられる

233 耐水性試験前後の外観写真

Figs 211 - 216に各ガラスの耐水性試験前後の外観写真を示すFig 211 の SP ガラスを

観察するとSnO 量の少ない 50S50P 60S40P は浸漬時間が経過するにつれて元々の形状

が崩壊したりガラス自体が膨張したような状態になったりしたSnO 量の多い 67S33P

70S30P について形状は崩れることはないが透明性が失われる(白ヤケ)耐候性が低いこ

とが確認できるFig 212 に示す Sn-Nb-P ガラスではNb2O5無添加の 65S-0Nb-35P は浸漬

時間 24 h で透明性が失われているがNbO25量の増加させていくと徐々に透明性が回復

しており4 mol添加した 65Sn-4Nb-31P では72 h後においてもほとんど変化が確認でき

ないNbの添加量を変えた Fig 213に示す SNP ガラスではSP ガラスと同様に SnO 量の

少ない 50S5N45P は時間経過と共にガラス全体にldquoひびrdquoのようなものが見え72 hの実

験終了後最終的にテフロン糸を外す段階で簡単に割れたしかし50S50P や 60S40P と比

較すると耐水性が大幅に良くなったまた60S5N35P 67S5N28P は耐水性が良好なこと

だけでなく耐候性についても向上していることが目視で判断できる一方で二種類の

SZP ガラス(Figs 214 215)を観るとP2O5量の少ない 5S55Z40P および 55S5Z40P では

形状が崩れるか析出物が現れる結果となったこの組成よりP2O5 量を減少させるとSP

ガラスと同じように形状は崩れないが透明性が若干失われる結果となった

Fig 216 に比較対象の FP ガラスの耐水性試験前後の写真を示すこの組成ではFe2O3

量の少ない20F80Pにおいても形状が全く崩れない結果が得られたしかしFe2O3 lt 30 mol

の組成において表面に干渉色のような反射光が若干確認できたこれはおそらく青ヤ

ケが発生したためであると考えられる

18

234 耐水性試験前後の構造変化

Figs 217 - 222に各ガラスの耐水性試験前後の XRDパターンを示す耐水性試験前では

ガラス化を全組成で確認した(Figs 217(a) - 222(a))しかし耐水性試験後における外観

写真で形状の崩れたもしくは析出物の得られたガラス組成では結晶が生成したことが

確認された形状の崩れた三組成のうち50S50P 60S40P ガラス(Fig 2214(b))では三

種類の結晶ピーク(SnP2O7 Sn2P2O7 Sn3(PO4)2)が確認でき5S55Z40P については(Fig

2214(b))結晶同定の判断はできなかったが ZnOの多い組成であるためおそらくリン酸

亜鉛の何れかの結晶だと推測された析出物が得られた 55S5Z40P はガラス matrix部と析

出物に分けて測定したところガラス matrix 部はガラスのままであり析出物は SnP2O7

Sn2P2O7の二種類の結晶ピークが確認できたガラス形状に変化がなかったその他の組成は

ガラス状態が保たれていたSn4+の結晶のピークが確認されたのは50S50P のガラスには

気泡が残っておりその気泡から酸化されたかもともと溶融工程で電気炉内に残って

いた酸素によってSn4+に酸化されたか等が考えられる

235 溶出速度(DR)および重量減

Table 24に DR重量減の結果および仕込み組成から計算した OP を示すSP SNP S5ZP

ガラスではSnO 量の増加に伴いSnO量の固定された Sn-Nb-P 5SZP ガラス系ではそれ

ぞれの金属酸化物の増加に伴いDR重量減は減少傾向にあったFP ガラスでは全組成

において DR 重量減共に変化が全く確認されなかったそのため青ヤケのようなものが

確認された FP ガラス(Fe2O3 lt 30 mol)については電子天秤では変化が見られない程度

の重量減であったと推測される二種類の SZP ガラスで比較するとSnOと ZnO量が入れ

替わってもほぼ誤差範囲内と思われる結果が得られたガラス全体の比較では外観写真

で変化が見られなかった FP ガラスと 65S5N28P 65Sn-5Nb-30P のガラスが DR重量減がと

もにゼロという結果が得られた

組成と DR 重量減の関係性を見るために作成した図をFigs 223(DRと OP の関係性)

224(Fig 224に重量減と OP の関係性)に示すそれぞれの図にリン酸塩の三つの構造

の OP も表記した双方の図よりDR 重量減共に OP が増加することで単調に下がって

いることが分かるこの結果はリン酸塩の構造ではorthophosphate 組成で耐水性良好が

あるため[22]一般的な結果と同じ挙動であるまた耐水性の良かったNb2O5添加の SNP

ガラスは異なる挙動(傾き)が得られた

以上の結果より第三成分添加による耐水性の改善を確認し特に Nb2O5 の添加による

影響は大きいことが判明したまたOP の増加による耐水性が改善する結果が得られた

次章の第 3 章にて各ガラス系の構造解析を行い第三成分特に Nb2O5の耐水性への有

効性について調査した

19

24 結言

本章ではSP ガラスおよび第三成分の Nb2O5 ZnOを添加した SP ガラスの物性評価を行

うことで耐水性改善への第三成分添加の有効性を確認した各々の物性について以下に

まとめる

低ガラス転移温度を有する SP ガラスは最も SnO 量が高い 70S30P でも Tg le 280であ

ったNb2O5を添加した Sn-Nb-P SNP ガラスではTgの上昇は見られたが Tg le 350

ZnOを添加した 5SZP S5ZP ガラスではTg ≦ 450であり両金属酸化物の添加でも低

ガラス転移温度を維持しているガラスが得られたNb2O5 添加が Tg を上昇させたのはポ

ーリングの第 2法則より高価数イオンの方が結合強度が高くなるためと結論付けた

耐水性試験結果の外観写真を観るとSP ガラスの SnO 量 le 60 mol 5SZP ガラスおよび

S5ZP ガラスの P2O5量 = 40 molの組成についてガラスサンプルの形状が大きく変化して

おりDR 重量減も高く耐水性の低さが明らかであった得られた析出物はSnP2O7

Sn2P2O7 Sn3(PO4)2 および亜鉛リン酸結晶の一種であると予想されたその他の組成では

透明性の失われた組成がいくつかあったが外観写真では変化が見られなかった FP ガラス

と 65S5N28P 65Sn-5Nb-30P のガラスが DR重量減がともにゼロという結果が得られた

組成と耐水性に関してはDRおよび重量減がOP増加で単調に低下した結果が得られた

つまり耐水性を改善させる有効な手段はSP 系ガラスのガラス化範囲を拡大かつ OP を

増大させる第三成分の添加によることであることが示唆された

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21

Fig 21 三成分系 SnO-NbO25-P2O5 系のガラス化範囲

Fig 22 作製した Sn-Nb-P ガラス

(a)50Sn-5Nb-45P (b)55Sn-5Nb-40P (c)60Sn-5Nb-35P

(d)65Sn-5Nb-30P (e)70Sn-5Nb-25P (f)60Sn-10Nb-30P

(g)55Sn-20Nb-25P (h)60Sn-15Nb-25P (i)65Sn-10Nb-25P

22

Fig 23 三成分系 SnO-ZnO-P2O5系のガラス化範囲

Fig 24 作製した SZP ガラスの一例

(気泡や脈理のようなものが確認できた組成)

23

Fig 25 SP SZP ガラスの作製フローチャート

Fig 26 Sn-Nb-P SNP ガラスの作製フローチャート

(気泡や脈理のようなものが確認できた組成)

24

Fig 27 FP ガラスの作製フローチャート

Fig 28 耐水性試験(MCC-1法)

25

Table 21 各ガラスの組成分析結果

26

Fig 29 Sn-Nb-P ガラスのメスバウアースペクトル

Table 22 Sn-Nb-P ガラスのメスバウアーパラメーター

27

Fig 210 FP ガラスのメスバウアースペクトル

Table 23 FP ガラスのメスバウアーパラメーター

28

Table 24 各ガラスの物性(密度(ρ)ガラス転移温度(Tg)溶出速度(DR)重量減())

29

Fig 211 SP ガラスの耐水性試験前後の外観写真

Fig 212 Sn-Nb-P ガラスの耐水性試験前後の外観写真

30

Fig 213 SNP ガラスの耐水性試験前後の外観写真

Fig 214 S5ZP ガラスの耐水性試験前後の外観写真

Fig 215 5SZP ガラスの耐水性試験前後の外観写真

31

Fig 216 FP ガラスの耐水性試験前後の外観写真

32

Fig 217 SP ガラスの XRD パターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

33

Fig 218 Sn-Nb-P ガラスの XRD パターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

34

Fig 219 SNP ガラスの XRD パターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

35

Fig 220 5SZP ガラスの XRDパターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

36

Fig 221 S5ZP ガラスの XRDパターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

37

Fig 222 FP ガラスの XRD パターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

38

Fig 223 各ガラス系の DR と OP の関係性

39

Fig 224 各ガラス系の重量減と OP の関係性

40

第 3章 分光法を用いたスズリン酸塩系ガラスの構造解析

31 緒言

前章ではSP ガラスおよび第三成分に Nb2O5 ZnOを添加した Sn-Nb-P ガラスSNP ガラ

スSZP ガラスの物性特に耐水性に関する第三成分添加の有効性を明らかにしたその添

加した第三成分の二種類についてもNb2O5 の方が ZnO よりも溶出速度重量減ともに抑

制することができSP ガラスの低ガラス転移温度という特性も維持されていることが判明

したしかし現段階では本研究の主要な物性である耐水性改善の要因が明確になって

いない組成の観点からはOP の値が高い組成が良好な耐水性であることが分かったが

組成だけでは耐水性改善のメカニズムについて完全には理解できないここでリン酸塩

ガラスの溶出のメカニズムは第 1 章で述べたように加水分解反応と水和反応が要因とな

る[1 2]この機構はそれぞれリン酸の構造つまり架橋酸素 BO の数が大きく関わって

おりリン酸アニオンの[PO4]ユニットの架橋酸素数を知ることが重要であるこの BO の

情報を得るためにはガラス構造を示す指標の一つである Qn(n は[PO4]ユニット中の架橋

酸素数を表す)を調べることが必須であるまたQn の分布を調べるためにはガラスの

構造解析を行う必要性がある

ガラスの構造解析には種々の方法があり特にラマン分光法や赤外(IR)分光法核

磁気共鳴法(NMR)などの分光学的手法を用いた構造解析の報告が多い[3-5]ラマン分光

法および IR分光法は原理は異なるがどちらも結合の振動モードを測定する手法であり[6]

リン酸塩ガラスだけでなくケイ酸塩ガラスホウ酸塩ガラスなど様々なガラス系にて測

定がなされている[7 8]また得られた結合状態の情報からリン酸塩アニオンの Qn分布

を調べることも可能であるNMR は共鳴吸収ピークの化学シフト(共鳴周波数のズレ)

から構造を決定する手法であるガラスの場合SiO2や B2O3 P2O5といった網目形成酸化物

の Qn分布を得るために一般的に使用されている手法である[9]

今回これらの測定の中でラマン分光法を選択し構造解析を行ったラマン分光法は

測定する際にサンプル形状を気にすることなく基本的にそのまま測定できるためIR 分

光法のようにサンプル形状で測定方法を変える必要はないまたIR 分光法では例えば

KBr 錠剤法やヌジュール法のように測定を行うためのサンプル調整に手間がかかる場合が

ある[6]さらに比較対象の FP ガラスではNMR を測定できないため作製ガラスを全

て比較検討できるようにラマン分光法を選択した

本章ではラマン分光法を用いて各ガラスの構造解析を行い[PO4]ユニットの Qn分布を

調査し平均 BO数 nを算出することで耐水性と構造の関係性を検討したまたラマン

分光法によって得られた Qn分布の妥当性を確認するためにSP ガラスおよび 67S5N28P ガ

ラスの NMRを測定も行い比較した

32 実験方法

41

321 サンプル準備

ラマン分光およびメスバウアー分光の測定では第 2 章で作製した各ガラスのバルク体

を用いたWD試験に使用したサンプルとは別にラマン測定用のサンプルを用意した適

度な大きさ大体 15 cm角程度のサイズになるようにガラスカッターで切断しその後

十分な平滑性を得るために鏡面研磨を施した

322 ラマン分光測定

使用したラマン分光装置は顕微レーザーラマン分光装置(Jasco NRS-5100)を用いた

用いたレーザー波長は 53208 nmであり400 - 2000 cm-1の範囲で測定した

Qn 分布を導くためにピークフィッティングを行いリン酸塩アニオンのラマンバンド

が現れる950 - 1250 cm-1付近および 700 - 750cm-付近の範囲で定量した

323 31P MAS NMR測定

31P MAS NMRの測定は Varian NMR System 500 を用いて32 mmの MASプローブ

202309MHzにて行った測定パラメーターを以下に示すπ4 パルス長さ 14 μs 待ち時間

(pulse delay)10 s 積算回数 3600 scan シリンダー円筒形状の Zrローターの回転スピード

160 kHz referenceとして二番目の基準物質として使われる NH4H2PO4を使用化学シフト

は85 H3PO4溶液から δ = 10 ppmである

33 結果考察

331 各ガラス系のラマンスペクトル

Figs 31 - 35にラマンスペクトルを示す各ピークは以下の通りに帰属し各スペクト

ル中に該当する構造をピーク位置に示した

1230 - 1260 cm-1 P=O NBO Q

2 [10]

1110 - 1150 cm-1metaphosphate (PO3)

- Q

2 [10]

1030 - 1100 cm-1pyrophosphate (PO35)

2- Q

1 [10]

970 - 1000 cm-1orthophosphate (PO4)

3- Q

0 [10]

920 - 930 cm-1asymmetric (P-O-P) Q

1 [10]

730 - 750 cm-1symmetric (P-O-P) Q

1 [10]

710 - 720 cm-1asymmetric (P-O-P) Q

2 [10]

810 - 820 cm-1Nb-O [NbO4] tetrahedron [11]

900 - 920 cm-1Nb-O isolated [NbO6] octahedron [11]

42

SP ガラスのラマンスペクトル(Fig 31)を見ると50S50P 60S40P ではmetaphosphate

の Q2 構造が支配的であるがSnO 量が増えるにつれてその構造が変化し70S30P では

pyrophosphateの Q1構造と orthophosphateの Q

0構造が共存した構造となっているまたSnO

量の少ない 50S50P および 60S40P において確認されたQ2構造の P=O のピークが見えなく

なっているつまり耐水性と関連して考えるとSnO量が増えるにつれてP-O-P 結合か

ら Sn-O-P 結合に代わり水分子との反応である加水分解反応を妨げる構造に変化している

ことがわかる

Figs 32 33にNb2O5を添加した Sn-Nb-P ガラスおよび SNP ガラスのラマンスペクトル

を示すまずSn-Nb-P ガラスについてNb 無添加の 65Sn-0Nb-35P は主に Q1構造であ

りNbO25が添加されることによってQ0構造に変化しQ

1 Q

0構造が共存しているような

ピークが得られた添加量が少ないガラス系であるため徐々に変化しているのを確認し

た800 cm-1を少し越えた 810 - 820 cm

-1付近にNb2O5を添加することでピークが現れそ

して添加量を増量することで強度が強まるピークがありこのピークは四面体の[NbO4]

のものと判断した

SNP ガラスのラマンスペクトルについてはNb2O5添加量を固定した組成であるためSP

ガラスのような挙動が観察された50S50N45P では50S50P ガラスと同じようにQ2構造

が主な構造でありSnO量の増加に伴って60S5N35P Q1構造67S5N28P Q

0構造に支配

的な構造が変化しているこれはSP ガラスと同じ傾向を示しているためP-O-P rarr Sn-O-P

に置き替わっていることが示唆されるNb-O に関するピークでは50S5N45P のみ[NbO4]

四面体のピークを確認できず900 - 920 cm-1付近に[NbO6]八面体のピークが確認された

SnO量が増量した 60S5N35P では810 cm-1付近の [NbO4] 四面体のピークが現れているが

[NbO6]八面体のピークと 900 - 920 cm-1付近の Q

1構造のピークが非常に近い(ほぼ重なって

いる)ことから60S5N35P については[NbO4] 四面体および[NbO6]八面体の共存の可能性

も考えられるまた67S5NP28 では[NbO4] 四面体のみのピークが観察されたためこ

の Nb-O の配位数変化は[PO4] unitの状態によって変化している可能性も示唆された

ZnO を添加した S5ZP ガラスおよび 5SZP ガラスのラマンスペクトルを Fig 34 に示す

図の下部三つが S5ZP ガラス上部三つが 5SZP ガラスのスペクトルであるSZP ガラスの

二系統を比べるとあきらかなスペクトルの違いが確認された各ガラス系で確認すると

SnO 量が最小の 55S5Z40P はQ2構造と Q

1構造の範囲に跨っているようなスペクトルが得

られた62S5Z33P および 65S5Z30P のスペクトルからはどちらもほぼ Q1構造であると判

断した5SZP のスペクトルは1000 - 1250 cm-1付近の範囲で裾を引くような(なだらかな)

スペクトルが得られたZnO 量が最小の 5S55Z40P にはQ2構造が主な構造に見えるが

shoulderピークのような Q1構造(1030 - 1100 cm

-1)が確認できる5S62Z40P においては

1000 - 1250 cm-1付近の範囲まで幅広いスペクトルが得られた730 - 750 cm

-1付近にピーク

が現れているためおそらく Q1構造が最も多く存在していると考えられる65S5Z30P では

Q1構造Q

0構造が共存しているようなピークが得られた

43

FP ガラスのラマンスペクトルを Fig 35 に示すFe量の少ない 20F80P 25F75P と他の三

つで構造が異なっていることである20F80P 25F75P はQ2構造と Q

1構造が基本構造にな

っていると判断できる 30F70P は1110 - 1150 cm-1付近に shoulderピークのようなものがあ

りQ2 Q

1 Q

0構造が共存しているようなスペクトルであった35F65P 40F60P はQ1構造

が主な構造でQ0構造があると判断した

332 平均 BO数 n (Qn分布)

まずピーク分離について散乱断面積が見積もれなかったためラマンの散乱強度比

を Qn分布として簡易的にピーク分離を行い(Fig 36)そこから平均架橋酸素数 BO 数 n

を算出したここでFig 37 に 31P MAS NMRスペクトルを示しTable 31に NMRおよび

ラマン分光より得られた平均 BO 数 n を示す(NMR の帰属 reference [12])表よりNMR

とラマンから得られた Qn分布はほぼ一致していることが分かった60S40Pについては支

配構造が NMR(Q1) ラマン(Q

2)で逆になったこれは60S40P の組成がQ

2と Q1のほぼ中

間の組成になるためこのようなズレが生じたと考えられるしかし今回のラマンによ

る Qn分布の算出についてはほぼ問題ないと判断した

Table 32にラマンスペクトルより求めた Qn分布平均 BO 数 nをを示しTable 24に示

した DR 重量減の結果を併記する

SP ガラスのうち耐水性が低いガラスは Q2構造によって形成されているSnO量の増加

によって NBOの増加とともに耐水性の向上が確認できSnOが入ることでSn-O-P 結合を

形成し水分子からの攻撃を受けにくくなっていることが考えられる

Sn-Nb-P ガラスでは基本的に Q1構造が主構造でNb2O5の添加が増えるにつれQ

0構

造が支配的になり耐水性は次第に向上していく最も耐水性のよかった 65S-5Nb-30P は

Q0構造での割合が非常に高く平均 BO数 n値が 03であった

SNP ガラスではP2O5量が多い組成の 50S5N45Pにおいても平均 BO数 nが 60S40P と

同じながらも耐水性が良くなっている67S5N28P はほぼ完全に Q0構造であり平均 Q

n

値は 0となった

SZP ガラスについてはS5ZP 5ZSP のどちらの系列についても耐水性の結果に大きな差

というものは確認されなかったが構造的にも平均 BO数 nが 09 10 17という結果であ

った

FP ガラスについてはFe2O3 lt 30 molのときは平均 BO 数 nが20 19と高い数値を

示したが耐水性は非常に良好であったこの結果より組成だけでなく構造的にも耐

水性高くなる要因が不明である一つの原因の可能性としてメスバウアーより得られた

Fe2+の存在比が 40以上と高かったことがFe2O3含有量が少ない組成時には効果的になっ

ているのかもしれない

333 平均 BO数 nと耐水性の関係性

44

Fig 38に DRと平均 BO数 nの関係性についてFig 39に重量減と平均 BO数 nの関係

性をそれぞれ示すまたOP の時と同様に各図にリン酸塩の三つの構造の平均 BO数

n も表記した双方の図よりDR 重量減共に平均 BO 数 nが低下することで単調に下がっ

ていることが分かるまた耐水性の良かったNb2O5添加の Sn-Nb-P SNPガラスはの DR

の挙動(傾き)はOP 時とも異なった挙動が得られた

Fig 310に OP と平均 BO数 nの関係を示す図中に示す茶色metaphosphate 黄色

pyrophosphate 灰色orthophosphate であるこの図から耐水性改善には平均 BO 数

n を下げOP を上げることが重要であるのが分かるまたNb5+の添加はOP を上げる

だけでなく平均 BO 数も減少させることから非常に効果的な成分であることが明らかで

あるこれはP5+から同酸価数 Nb

5+に少量でも置き換えることで平均 BO 数 n を下げ

OP を上げることを可能としている(実際に orthophosphate の OP4 よりも高い OP でガ

ラスが作製できている)つまりNb5+の添加によって P-O-P 結合が減少し水和反応加

水分解反応が抑制されているからである

以上の結果SP 系ガラスの耐水性改善には低い平均 BO 数と高い OP の組成にするこ

とが重要でNb2O5の添加は非常に効果的であることが分かったその一方でガラス中の

詳細な構造的要因についてははっきりしていないため次章の第 4 章にてさらに詳し

い構造解析を行い耐水性改善の要因について調査を行った

34 結言

本章ではラマン分光を使用して各ガラス系のリン酸塩アニオンの構造を簡易定量で

評価し組成と構造の関係について考察した

平均 BO 数 n と耐水性に関してはDR および重量減が平均 BO 数 n の減少で単調に低下

した結果が得られた

平均 BO数 nと OP の図より耐水性改善には平均 BO数 nを下げることそして OP

を上げることが重要であることが明白であった

Nb5+の添加は平均 BO数を減少させるだけでなくOP も上げることからガラス構造内

の P-O-P 結合を減少させる故に水和反応加水分解反応が抑制され耐水性が大幅に

改善された故にNb2O5 のような高価数金属酸化物を添加することが効果的であること

が示唆された

参考文献

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46

Fig 31 SP ガラスのラマンスペクトル

47

Fig 32 Sn-Nb-P ガラスのラマンスペクトル

48

Fig 33 SNP ガラスのラマンスペクトル

49

Fig 34 SZP ガラスのラマンスペクトル

50

Fig 35 FP ガラスのラマンスペクトル

51

Fig 36 ラマンスペクトルのピーク分離例(67S5N28P)

Raman Shift (cm-1)

52

Fig 37 NMRスペクトル

Table 31 NMR およびラマン分光より得られた SP 67S5N28P ガラスの

Qn分布および平均 BO数 n

53

Table 32 各ガラスのラマンスペクトルより求めた Qn分布結果

(表の赤線より右側の結果は Table 22 より)

1 仕込み組成による数値

2 Fig 2212 に示した析出物を取り除いた後の数値

54

Fig 38 DR と平均 BO数 nの関係性

55

Fig 39 重量減と平均 BO数 nの関係性

56

Fig 310 OP と平均 BO数 nの関係性

Meta

Pyro

Ortho

57

第 4章 放射光を用いたスズリン酸塩系ガラスの構造解析

41 緒言

前章の第 3 章にてラマン分光法を用いて SP 系ガラスの構造解析により Qn分布を導き

出したことで耐水性と構造の関係についてある程度関連性を導くことができたリン

酸アニオンについてはQ0(orthophosphate)構造 gt Q

1(pyrophosphate)構造 gt Q2

(metaphosphate)構造の順で良耐水性となるしかしSn Nbおよび Znの局所構造につ

いては知見が得られていないラマン分光や IR分光などの分光学的手法を用いてSnや

Nb Zn の周辺の局所構造を知るには限界があるまたガラスの構造解析を行う上で非常

に重要な因子である中距離構造の評価には分光学的手法は不向きである[1]

そこで局所構造や中距離構造を知るために有効な手法として放射光線を用いた構造

解析がある放射光(SR 光)とはシンクロトロンなどの加速器で高速に加速された電子

が進行方向を磁場によって変えられた際に放射する電磁波である[2]エネルギーが高く

(短波長)輝度が高い特性を有している日本国内では兵庫県佐用町の SPring-8や茨城

県つくば市の高エネルギー加速器研究機構佐賀県鳥栖市の佐賀県立九州シンクロトロン

光研究センターなど複数個所に放射光施設が設置されている

放射光を用いたガラスの構造解析には一般的に高エネルギーX 線回折(High Energy

X-ray diffraction HEXRD)が用いられるこの回折実験から高い散乱ベクトル Q(= 4π sinθλ)

まで回折データが得られる多種類の原子から構成される物質の場合はFaber-Ziman 型[3]

の構造因子 S(Q)を用いる以下の式に示すようにFaber-Ziman 型構造因子 S(Q)は同種また

は異種の原子による相関の重み関数付の和として示される例として SiO2ガラスで説明す

ると構造因子 S(Q)は三種類の原子付の S(Q)の重み付の和として表されていることが分か

I(Q) 散乱断面積 ltgt 原子一個当たりの平均値 f(Q) 原子散乱因子 W 重み関数

通常の研究室で使用される X 線回折(XRD)装置で用いられる特性 X 線はCuKα線(λ

= 0154 nm 81 keV)が最も良く用いられより高いエネルギーの X 線が必要な場合は

MoKα線(λ = 0071 nm 175 keV)が使用される一方でSPring-8のビームライン BL04B2

で行われる高エネルギーX 線回折(HEXRD)測定で使用される SR のエネルギーは378 keV

58

~ が使用可能である[2]従ってガラス以外の液体のような非晶質物質にも非常に精度

よく構造解析が行われている[4]

また局所構造解析の一つに X線異常散乱法という測定方法がある[5 6]これは通常

の X 線回折実験では分離不可能な特定元素に関連する部分構造因子(散乱強度曲線)を得

ることができる手法である今回 HEXRD の測定時に使用したエネルギー614 keV では各元

素の異常散乱項のエネルギー依存性は確認されない(Fig 41)その一方でFig 42に示す

Sn の吸収端付近の 292 keV付近ではSnの異常分散項のエネルギー依存性が確認できる

つまりSnの吸収端近傍より低エネルギー(E)側の異なるエネルギーの X線(E1 E2)を

使って散乱強度を測定し各 E における異常分散項(f`)の変化(つまり高い E1 から低い

E2 の散乱強度の差分)を利用して Snに関する部分構造因子を求める構造解析が AXS 法で

あるこの測定法は古くから知られている方法ではあるが装置の測定条件や設備の問

題からなどから使用があまり普及していなかった[5 6]近年になり金属ガラスの構造解

析について徐々に報告が出てきており今後注目される測定法である

HEXRD および AXS 法などから得られたデータ実測の構造因子 S(Q)は一次元の限られ

た構造情報であるためガラスなどの非晶質物質の中距離構造を解明するためにはこれ

らのデータを基に三次元構造を求める必要がある三次元構造モデルの作成には逆モンテ

カルロ(RMC)シミュレーションを使用することが有効である[7]このシミュレーション

は任意で決めたシミュレーションボックス内の粒子をランダムに動かすことで実測の

構造因子 S(Q)を再現する三次元構造モデルを構築する方法である

SP ガラスについては分光学的手法について数多く報告があるが放射光を用いた回折

法はほとんど適用されていないそこで本研究では HEXRD および AXS 法を用いた構造

解析を行うことでSn Nb周りの構造を解明すると共にSNP ガラスの耐水性改善のメカ

ニズムについて考察したまたAXS 法の有効性についても検討した測定を行ったガラ

スはSP ガラスおよび最も耐水性の高かった 67S5N28P を選択した

42 実験方法

421 HEXRD AXS法

HEXRDはSPring-8のビームライン BL04B2 で測定を行ったエネルギー614 keV の X

線を用いた測定サンプルの厚みは09 mm (plusmn0005 mm)になるまで研磨を行った

AXS 測定はSPring-8のビームライン BL13XUを使用した(Fig 43)それぞれの測定し

た X 線のエネルギーについて以下に示す

①Sn K吸収端hellip292 keV near edgehellip291452 keV (-60 eV) far edgehellip289751 keV (-230 eV)

②Nb K吸収端hellip1899 keV near edgehellip189562 keV (-30 eV) far edgehellip187863 keV (-230 eV)

測定に使用したサンプルの厚さが015 - 030 mmとなるまで研磨を施した

SP ガラスについて50S50P 60S40P 67S33P の三組成のガラスを測定した70S30P に関

59

しては測定を試みたが放射光照射によって結晶化してしまいガラス部分の正確な構

造因子を得るための強度補正ができず解析を断念した

422 RMCのモデリング

Table 41 に RMC の各種パラメーターを示す粒子数は約 5000 個でそれに伴う boxの一

辺の長さは約 42 ~ 46 Ǻになった拘束条件にP の配位数が 4になるような条件を付け

加えたFig 44にSn2P2O7結晶および Sn3P2O8結晶の動径分布関数(RDF)をTable 32

にRDFから得られた第一近接距離[8 9] を示すこれらの数値を使用しcutoffを決定し

たNb-O についてはいくつかの文献値を参考にした[10 11]

各ガラスの RMCのモデリングは①HEXRDから得られた S(Q)のみ②S(Q)および AXS

から得られた部分構造因子を加えた場合でそれぞれ計算した

43 結果考察

最初にNbの AXSから得られたデータについて解析を試みたが妥当な構造モデルが得

られなかったためSnの AXSのみで解析を進めたNb2O5の量が 5 molと少量であったた

めあまり精度の高いデータが得られなかったと推測される

431 実測の HEXRDおよび AXSの結果

4311 実測 HEXRDの S(Q)

Fig 45 に実測HEXRDの S(Q)を示す四つの組成ともに実測HEXRDの S(Q)が得られ

Nb2O5添加の 67S5N28P ガラスでは Low Q 側に変化が確認された

4312 実測散乱強度曲線

Fig 46 に Snの散乱強度曲線を示す(a) の 67S33P のこの曲線からはfar edgeおよび

near edge のエネルギー間で差分が見られエネルギーの依存性が確認された50S50P

67S5N28P のガラスについても同じように差分が確認されたが(b)の 60S40P についてのみ

他とは若干異なる結果(緑丸)であったためRMC の構造解析には差分の構造因子ではな

くfar edge near edge 二つの構造因子を用いた

4313 全相関関数 T(r)

Fig 47 に全相関関数 T(r) を示すHEXRD から得られたものを実線でSnの AXS から

得られたものは点線で示し組成ごとに重ねて表示した図中に各ピークについて帰属し

ているがSnの T(r)からはSn-O Sn-P Sn-Snのみのピークを確認した

432 RMCの計算結果および考察

60

構造モデルの一例として67S5N28P ガラスの得られた構造モデルをFig 48に示す水

色の多面体 unitSnON 黄色の多面体 unitPO4 ピンクの多面体 unitNbONである以下

詳細な構造解析の結果および考察を記す

4321 RMCのフィッティング結果

RMCのフィッティング結果の一例として67S33P の HEXRD と Snの AXS の構造因子か

ら得た結果を示す(Fig 49)二つの構造因子を加えて計算した結果においてもHEXRD

の S(Q) AXS の S(Q)に各々に対する良好なフィッティング結果が得られた他の組成も

同様なフィッティング結果が得られた

4322得られた各 pairの平均配位数平均角度平均結合距離

RMCの結果によって得られた各 pairの平均配位数平均角度平均結合距離を Tables 43

に示す上段が HEXRD の S(Q)のみ下段が HEXRD に Sn の AXS の部分構造因子を加え

て結果である最下部は比較のためにSn2P2O7の情報を記載した[8]

P-O pairについてRMCモデル中の PON多面体に関して平均配位数 Nが 4および P-O

の平均結合距離が約 160Å平均結合角度angO-P-O が約 109degという結果が得られた組成

による大きな違いは確認されなかったのはP の配位数が 4になるように拘束条件をかけた

結果であると考えられるSnON多面体についてはSnO量の増加 = OP の増加であり平

均配位数 Nが 3 ~ 35へ増加した平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約

22Åで組成による大きな変化はほとんど見られなかったNb2O5を 5 mol添加したガラ

スではNbON多面体の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平均配位数 N約 4Nb-O 平均結

合距離約 20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O(約 105deg)と値が近いこと

また6配位ではなく 4配位として主に存在していることからSnO と同じような働きをし

ていると推測される

以上の結果からNb2O5添加の耐水性改善の要因として結合距離が Sn-O が約 22Åに対

し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強固にして

いることも一つの要因として考えられる

また67S5N28P ガラスの各多面体モデルを確認すると(Fig 410)P は PO4Snは SnO4

と SnO3Nbは NbO4をそれぞれ再現している

4323得られた各 pairの結合様式

RMC の結果により得られた各 pair の結合様式を Tables 44 に示す上段が HEXRD の

S(Q)のみ下段が HEXRDに Snの AXS の部分構造因子を加えた結果である最下部は比

較のためにSn2P2O7の情報を記載した[8]

結合様式に関してはPO4四面体は他の多面体も含めてほぼ頂点共有で存在している

SnON多面体についてはSnO 量が少ない配位数が 3 に近い場合頂点共有以外の共有の

61

割合も多くSnO 量が増えるにつれて頂点共有が主になり網目形成体として振舞ってい

ると考えられる組成によって平均結合距離や平均角度の大きな変化が見られなかったこ

とから平均配位数が結合様式を決める重要なファクターであるということも考えられる

またHEXRD と AXS 法の結果がほぼ同じであったこれは主成分が SnO のガラスであ

るためHEXRDでも十分に詳細な構造が得られたため大きな変化が現れなかったと考え

られるNbON 多面体はPO4 四面体と SnON 多面体とはほぼ頂点共有で繋がっている以

上の結果よりSnO量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体的に各多面体同士の

頂点共有が増えていることから耐水性の改善には頂点共有を多く含む構造であること

が重要である或いは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的となって

いるということが推測されるFig 411に 67S5N28P ガラスの構造モデルを示す各多面

体はほぼ頂点共有で繋がっていることが確認できる

4324 平均 BO数の比較

Tables 45にNMR Raman RMC(HEXRD) RMC(HEXRD + AXS)の平均BO数を示すRMC

から得られた平均 BO 数 nはNMR Raman と同様に Nb2O5の添加による大幅な減少が確認

されたしかしNMR Raman と比較すると全組成において数値が大きすぎで適当でない

50S50P の構造モデルを観るとPO4四面体間で3配位 O の存在が確認された(Fig 412)た

め実測で得られた n値を再現できるようなPO4四面体モデル間の繋がり方に関する拘束条

件を加えて RMCを計算する必要性があるまた仮に3配位 Oの存在があるとすると電

子状態の変化が生じていることがと示唆されるため分子軌道計算を用いて電子状態解析

を行い確認する必要がある

4325 耐水性の改善について

Nb2O5を添加のガラス構造への影響について①6配位ではなく 4配位として主に存在し

ていることからSnO と同じような働きをしていると推測される②結合距離が Sn-O が約

22Åに対し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強

固にしている③ガラス構造中で全体的に各多面体同士の頂点共有が増えている以上の

ことが判明した以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性

耐候性を改善した要因として考えられる

44 結言

本章では分光学的手法では評価できないガラスの中距離構造局所構造について理解

するために放射光を用いた構造解析を実施しSP ガラスの構造と耐水性改善について考

察したHEXRDおよび AXS法を用いて測定を行い得られたデータを RMCシミュレーシ

ョンにて解析を行った

解析の結果 Sn-O pair については平均配位数 Nが 3 ~ 35でSnO量の増加 = OP の増

62

加に伴い高くなった平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約 22Åであ

ったP-O Sn-Oについては組成による大きな変化はほとんど見られなかった67S5N28P

ガラスの Nb-O pair の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平均配位数約 4Nb-O 平均結合距

離約 20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O(約 105deg)と値が近いことま

た6配位ではなく 4配位として主に存在していることからSnOと同じような働き(網目

形成体)をしていると推測されるまた結合距離が Sn-O が約 22Åに対し Nb-O は約 20

Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強固にしていると言える

SnO 量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体的に各多面体同士の頂点共有が増え

ていることから耐水性の改善には頂点共有を多く含む構造であることが重要である

もしくは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的であることが推測さ

れる以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性耐候性を

改善した要因として考えられる

またAXS 法の有効性についても確認し効果的であることが判明したただし今回

は主成分が Sn の組成のガラスでありHEXRD でも十分に詳細な構造が得られたため

大きな差は現れなかった

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63

Fig 41 各原子の異常分散項のエネルギー依存性

Fig 42 Sn の異常分散項のエネルギー依存性

64

Fig 43 SPring-8の BL13XU

65

Tab

le 4

1

RM

Cの各パラメーター

66

Fig 44 Sn2P2O7 Sn3P2O8結晶の RDF

Table 42 Sn2P2O7 Sn3P2O8結晶の各 pairの第一近接距離

67

Fig 45 得られた実測 HEXRDの S(Q)

68

Fig 46 Sn の異常散乱測定により得られた散乱強度のエネルギー依存性

(a)67S33P (b)60S40P

69

Fig 47 全相関関数 T(r)

太線 HEXRD より

細線 Sn の AXSより

70

Fig 48 67S5N28P ガラス構造のモデル

71

Fig 49 RMC フィッティングの結果

72

Tab

le 4

3 各

pairの平均配位数角度結合距離

73

Fig

4

10

67

S5

N2

8Pガラスの各多面体モデル

74

Tab

le 4

4 各

pairの結合様式

75

Fig 411 67S5N28P ガラスの構造モデル

76

Table 45 平均 BO 各数 nの比較

Fig 412 50S50P ガラスの構造モデル

77

第 5章 総括

本研究ではSP ガラスを対象とした本研究では鉛フリー代替ガラスまたは希土類フ

リー蛍光体として SP ガラスの新規高機能化を将来的に目指し問題点であるldquo化学的耐久

性rdquoの改善につながる知見を得ることを目的としたそこでまずSP ガラスを母体ガラ

スとし第三成分に Nb2O5を添加した Sn-Nb-P SNP ガラスZnO を添加した SZP ガラスを

作製し耐水性を中心とした物性評価を行った次に分光学的手法で構造解析を行い

Qn 分布を導き出した最後に放射光を用いた構造解析を行い耐水性改善に関する構造的

な考察を行った以下に本研究で行った検討内容を示す

(1)SPガラスおよび第三成分Nb2O5 ZnOを添加した三成分系SPガラスの物性評価(第 2章)

(2)SP 系ガラスの分光学的手法による Qn分布導出(第 3章)

(3)放射光を用いた SP 系ガラスの構造解析構造と耐水性改善の関連について(第 4章)

各章についてまとめた結果を以下に示す

第 2章

第 2章では二成分系および三成分系のリン酸塩系ガラスの各種物性(密度や熱的特性

耐水性)の評価を行った二成分系ではSP ガラスに加え良好な耐水性を有する鉄リン

酸塩(Fe2O3-P2O5)系ガラス(以下 FP ガラス)を比較のために三成分系では二成分系

の SP ガラスに Nb2O5を添加したニオブ含有 SP ガラス(SNP ガラス)および ZnO を添加し

た亜鉛含有 SP ガラス(SZP ガラス)を作製した

今回作製した SP 系ガラスは低ガラス転移温度を有していた各組成の温度域はSP

ガラスTg le 280 Sn-Nb-P SNPガラスTg le 3505SZP S5ZPガラスTg ≦ 450であった

各種 SP ガラスの耐水性試験の結果二成分系の SP ガラスよりも三成分系ガラスの方が

良好な耐水性を有していた65Sn-5Nb-30P 67S5N28P ガラスが最も耐水性が良好であり化

学的耐久性の改善には Nb2O5が ZnOよりも効果的であった

組成と耐水性に関してはDRおよび重量減がOP増加で単調に低下した結果が得られた

つまり耐水性を改善させるにはSP 系ガラスのガラス化範囲を拡大かつ OP を増大させ

る第三成分の添加が有効であることが示唆された

第 3章

第 3章ではSP 系ガラスの分光学的手法による Qn分布の導出を行ったラマン分光法を

用いて各ガラス系のリン酸塩アニオンの構造を簡易定量で評価し組成と構造の関係に

ついて考察した平均 BO 数 n と耐水性に関してはDR および重量減が平均 BO 数 nの減

少で単調に低下することが明らかとなった

平均 BO 数 n と OP の関係より耐水性改善には平均 BO 数 n を下げることそして

OP を上げることが重要であることが明らかになった

78

Nb5+の添加は平均 BO数を減少させるだけでなくOP も上げることからガラス構造

内の P-O-P 結合を減少させ水和反応加水分解反応が抑制され耐水性が大幅に改善さ

れることが示唆された故にNb2O5 のような高価数金属酸化物を添加することが効果的

であることが再度確認された

第 4章

耐水性向上についてより深く評価するためSP SNP ガラスの局所構造に関する知見を得

ることを目的に放射光を用いた構造解析を行った高エネルギーX 線回折(HEXRD)お

よび X 線異常散乱(AXS)法で測定したデータを再現する構造モデルを逆モンテカルロ

(RMC)シミュレーションで構築し構造解析を行った

RMC モデル中の PON多面体に関して平均配位数 Nが 4および P-O の平均結合距離が約

160Å平均結合角度angO-P-Oが約 109degという結果が得られた組成による大きな違いは確

認されなかったSnON多面体については平均配位数 N が 3~4 でSnO 量の増加に伴い 4

に近い値となった平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約 22Åで組成

による大きな変化は見られなかった

Nb2O5を 5 mol添加したガラスではNbON多面体の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平

均配位数N約4Nb-O平均結合距離約20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O

(約 105deg)と値が近いことまた6配位ではなく 4配位として主に存在していることから

SnO と同じような網目形成体として働いていると推測されたまた結合距離が Sn-O が約

22Åに対し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強

固にしていると考えられるまたSnO 量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体

的に各多面体同士の頂点共有が増えていることから耐水性の改善には頂点共有を多く

含む構造もしくは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的であること

が示唆された以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性

耐候性を改善した要因として考えられる

またAXS 法の有効性についても確認し効果的であることが判明したただし今回

は主成分が Snの組成のガラスでありHEXRD でも十分に詳細な Snの周辺構造が得られ

たためAXSを利用した場合との大きな構造の差は認められなかった

本研究では様々な優れた特徴を有する SP ガラスにおける耐水性改善のメカニズムにつ

いて検討を行ったこの系のガラスについてはこれまでほとんど利用されていなかった

放射光を用いた構造解析を駆使し第三成分の添加によってどのような構造的変化が生じ

耐水性を改善させるか新たな知見を得ることができた最終目標である機能性ガラスの

開発における新たなる材料設計指針の確立に対してldquo耐水性rdquoに関しては概ね明らかにな

ったと考えられる一方で今回検討していな電子状態化学結合性についても評価する

ことで溶出メカニズムの解明が可能になり材料設計指針の確立が期待される

79

発表論文リスト

口頭発表

第 2章および第 3章

(1) SnO-P2O5 系ガラスへの酸化物添加効果

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎

日本セラミックス協会第 25 回秋季シンポジウム No3C06 (名古屋市 2012年 9月)

(2) Effect of Nb2O5 addition to SnO-P2O5 glass (Poster)

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

International Union of Materials Research Societies International Conference on Electronic

Materials IUMRS-ICEM 2012 A-9-P26-003 (Yokohama 2012 年 9月)

(3) スズリン酸塩系ガラスの蛍光特性耐水性に及ばす酸化物の添加効果(ポスター)

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎

日本セラミックス協会 2013 年年会 1P070 (東京 2013年 3月)

第 4章

(1) 放射光を用いたスズリン酸塩ガラスの構造解析

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎小原真二臼杵毅

日本セラミックス協会第 27 回秋季シンポジウム 2B22 (鹿児島市 2014年 9 月)

(2) Structural analysis of tin phosphate glasses by synchrotron radiation (Poster)

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba Shinji Kohara Takeshi Usuki

International Congress on Glass ICG Annual Meeting Bangkok 2015 P14-138 p186 (2015)

発表論文

(1) Effect of Nb2O5 addition to SnO- P2O5 glass

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

Journal of the Ceramic Society of Japan Vol 120 No 11 pp530-533 (2012)

(2) Structural analysis of SnO- P2O5 glass

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

Journal of the Ceramic Society of Japan(準備中)

80

謝辞

本研究を遂行するにあたり終始暖かいご指導ご助言並びにご鞭撻を賜わりました岡

山大学大学院環境生命科学研究科 難波徳郎教授に心より感謝の意を表します

また本研究を遂行するにあたり懇切丁寧なご指導とご意見をしていただいた岡山大

学大学院環境生命科学研究科 紅野安彦准教授環境環理センター 崎田真一助教に心より

感謝いたします

本研究を遂行するにあたりラマン分光測定の使用についてご助言ご教授して頂い

た岡山大学自然科学研究科 藤井達生教授中西真助教に心より感謝の意を表します

Sn のメスバウアー測定の際に協力して頂いた岡山大学自然科学研究科先端自然科学教

育研究推進本部高田研究室 松本修治特任助教(当時旭硝子株式会社中央研究所)また

Feのメスバウアーを測定の際に協力して頂いた岡山大学自然科学研究科 藤井達生教授に

心より感謝の意を表します

固体 NMR の岡山大学自然科学研究科 早川聡教授に心より感謝の意を表します

本研究を遂行するにあたりSPring-8 にてHEXRD および AXS 法の測定法および原理

についてご教示頂きました物質材料研究機構 小原真司博士ならびに山形大学 臼杵毅

教授に心より感謝の意を表します

本研究は多くの後輩諸君の協力によって遂行されました特に実際に共同研究共同

実験を遂行して頂いたOG 藤原沙弥香さん博士前期課程 2 年 東利彦君OB 徳岡太誠

君学士課程 4年 塩田将大君に心より感謝の意を表しますまた難波研究室で共に研

究生活を過ごした卒業生在学生の方々に感謝の意を表します

また同時期に博士後期課程に在籍された香川高等専門学校の桟敷剛さんにはNbに

関する有益な情報だけでなく辛い状況でも励ましを頂きました心より感謝の意を表し

ます

最後に長きに渡る学生生活を認め経済面だけでなく精神面でも支援してくださった

家族に心より深く感謝の意を表します

平成 28年 3月

福井 聡史

Page 3: 博士論文 スズリン酸塩系ガラスの物性と構造解析ousar.lib.okayama-u.ac.jp/files/public/5/54353/...博士論文 スズリン酸塩系ガラスの物性と構造解析

ii

331 各ガラス系のラマンスペクトル

332 平均 BO数 n (Qn分布)

333 平均 BO数 nと耐水性の関係性

34 結言

参考文献

第 4章 放射光を用いたスズリン酸塩系ガラスの構造解析

41 緒言

42 実験方法

421 HEXRD AXS法

422 RMCのモデリング

43 結果考察

431実測の HEXRD および AXSの結果

432 RMCの計算結果および考察

44 結言

参考文献

第 5章 総括

発表論文リスト

謝辞

41

43

43

44

44

57

58

58

59

59

59

59

61

62

77

79

80

1

第 1章 序論

11 本研究の背景

111 鉛含有ガラス

鉛含有ガラスはおおよそ西洋では古代メソポタミア文明東洋では紀元前 4 ~ 5世紀

の中国戦国時代と古くから使用されているガラスの一つで人間の歴史の中でも非常

に重要な役割を果たしてきたガラスである[1 2]中国の珠玉類の装飾品の製作に始まり

低融点や高電気抵抗高屈折率といった工業的に重要な特徴を有することから現代まで

に封着ガラスや蛍光灯ブラウン管テレビ光学ガラスクリスタルガラス(Fig 11)な

ど様々な用途に使用されてきた[2 3]また放射線を吸収する性質を有すること技術の

発達と共に X 線を用いた医療や研究などが主流になってきたことから放射線遮蔽用鉛ガ

ラス(Fig 12)として用いられている[2 -4 ]

現在鉛の使用が鉛中毒によって人体へ悪影響(神経系や免疫系への障害)をもたらす

ことが一般的に認知されている[2 - 4]元々ローマ時代から鉛と病気の関連性は認識され

ていたようではあるが実際に規制が始まったのは 20世紀半ば頃であり日本では1935

年に「おしろい」原料の鉛白 (2PbCO3Pb(OH)2)の使用禁止1975年のレギュラーガソリン

の無鉛化などの規制が始まった[2 4 5]さらに人体だけでなく環境や野生生物への害も

問題視されている例えば日本では土壌地下汚染や鉛散弾による動物の鉛中毒[4]

海外では土壌汚染や水質汚染による鳥類への影響(イギリス)[6]鉛を含む重金属の流

出による海藻への影響(リビアのMediterranean海)[7]土壌水質作物汚染(ナイジェ

リア)[8]の報告があるこれらの報告には食物連鎖も関係しており最終的に人類にも悪

影響を及ぼすと予測されるまた欧州連合(EU)では電子電気機器における有害物

質の使用制限を指令した RoHs指令(Restriction of Hazardous Substances Directive)が施行さ

れ[9]この指令の該当有害物質の一つに鉛も含まれているこれらの懸念から現在出来

る限り鉛を使わないようにする風潮があり様々な分野において鉛フリー材料への開発が

活発となっている

112 リン酸塩ガラス

リン酸(P2O5)はケイ酸(SiO2)およびホウ酸(B2O3)と共に代表的なガラス形成酸

化物の一つであるP2O5ガラスはSiO2やB2O3ガラスと比較すると低ガラス転移温度(Tg)

や高熱膨張率を有し[10 11]また反応性に富むことから様々な金属酸化物やハロゲン化

物と組み合わせてガラス化できることが知られている[12]そのため応用例としてレー

ザーホストガラス[13]やモールドガラス[14]光学ガラス[15]封着ガラス[16]生体ガラス

[17]放射性廃棄物固化ガラス[18]など多くの分野で実用もしくは使用検討されている

P2O5ガラスは四種類の Qn構造(nは架橋酸素 BO の数)[11 19]をとることが知られて

2

いる(Fig 13)ここでガラス修飾酸化物であるアルカリ土類金属酸化物MgO を添加し

た場合を例として簡潔に説明するQ3の P2O5ガラスはP2O5 = 100 molでありP

5+イ

オン一つに対し四つの O 原子が配位されるそのうち一つは二重結合の P=O であり

BO の数がrdquo3rdquoとなるQ2の P2O5ガラスはP2O5 = 50 molでありP2O5 MgO = 1 1 の

metaphosphate 組成となりBO の数はrdquo2rdquoで残り二つの O は Mg2+と結合するQ

1の P2O5

ガラスはP2O5 = 333 molでありP2O5 MgO = 1 2pyrophosphate組成となりBOの数はrdquo1rdquo

で残り三つはMg2+と結合されるQ

0の P2O5ガラスはP2O5 = 25 molでありP2O5 MgO

= 1 3 の orthophosphate組成となりBO の数はrdquo0rdquoで非架橋酸素 NBOのみとの結合とな

るFig 13 で併記されている OP はその P2O5ガラスの理想的な O と P の原子数の比で

あるこの数値は構造の目安に頻繁に使用される

P2O5 ガラスの大きなでめりっと弱点に耐水性耐候性(各々後述する)が非常に低い

ことが真っ先に挙げられる[20]この二つの性質は化学的耐久性の種類でどのような分

野においても実用化のためには解決が必須の問題である耐水性に関してはpyrophosphate

組成では良好になると考えられておりOP で示す数値は耐水性の指標にもなり得る

113 P2O5ガラスの溶出メカニズム

P2O5ガラスの溶出プロセスは①加水分解反応と②水和反応によるものが主となる[20]

①加水分解反応

Fig 14に加水分解反応の模式図を示す赤字で記した Oは架橋酸素であるP-O-P 結合

部に水分子(図中 H+ OH

-)が攻撃しポリリン酸鎖が切れる反応であり二つのリン酸鎖

が精製する

②水和反応

Fig 15 に水和反応の模式図を示す[21]P2O5ガラスに修飾金属イオン(M2+)が入ると

いくつかの長い重合リン酸アニオンが金属イオンに配位することで構造が安定化する

水和反応は水分子がこの金属イオンとの結合を切断することでリン酸鎖状構造が直

鎖状リン酸塩やオルトリン酸塩のようなリン酸塩グループの溶出が生じる反応である(緑

色枠)

二つの反応を抑制し耐水性を改善するためにはP-O-P 結合を他の結合に置き換えた

P-O-A 結合を増やすことが重要となるすなわち多成分系(三成分系以上が望ましい)ガ

ラスにすることである一般的に改善するために効果的だと知られている成分はAl2O3 と

Fe2O3 B2O3である[22 - 25]Fig 16 にアルミナ含有 P2O5ガラスの構造模式図を示すP2O5

ガラスにアルミナを入れるとガラス中において Al3+は[AlO4]四面体の構造をとる[26]赤

破線枠で囲んだ部分を見ると[PO42]+四面体における正電荷と[AlO42]

-四面体の負電荷とで

二つの四面体が結合しldquo組rdquoを作り電荷が相殺されるそしてPO4四面体における NBO

3

(図中の青い O)が Al と結合することによって BO に変化し構造を強化すなわち耐水性

が改善されると考えられるB2O3でも同様の現象が生じると考えられる鉄リン酸塩(FP)

系ガラスの場合ではFig 17 に示すようなFe3+

-On Fe2+

-On PO4の各多面体が連鎖した構

造をとると考えられる[27]Feイオンが価数に関わらず六配位を取っていることからP-O-P

結合よりも Fe-O-P 結合が多く存在するため加水分解が起こりにくく耐水性の高いガラ

スとなる

114 化学的耐久性耐候性

耐候性とは水分子によりリン酸塩が溶出する耐水性とは別の性質でガラス表面の劣

化に対する性質でこの劣化を表す方法には大きく二種類に分別される[1]Fig18 に耐

候性に関するガラスの侵食機構の模式図を示す[1]一つ目は「青ヤケ」と呼ばれるもので

主に SiO2ガラスの表面の修飾イオンと H3O+イオンとのイオン交換の結果ガラス表面に干

渉色のような反射光(低屈折率のガラス層が生成されたことを意味する)が確認される性

質である二つ目は「白ヤケ」と呼ばれるものでガラス表面に水が付着することでイ

オン交換反応が生じて白く曇って見える性質である

115 スズリン酸塩(SP)系ガラス

酸化スズ(SnO)は酸化鉛(PbO)と同じような性質(結晶構造や両性酸化物であるこ

となど)を有しており[28 29]人体や環境への毒性についてほぼ注意せずとも問題のな

い物質である[30]上述した P2O5と組み合わせたスズリン酸塩(SP)系ガラスは低融点

高屈折率無色透明といった特徴を持ち鉛フリー材料の候補の一つとして期待されてい

る具体的な研究例として光学ガラス[31]や封着ガラス[28 32]リチウムイオン二次電池

のアノード[33]などがあるまたSn2+が ns

2型の発光中心として知られ[33]紫外線照射下に

おいて白色蛍光を示すことから希土類フリーの白色蛍光体として注目されている[13 35]

SnO-ZnO-P2O5系ガラスについては実用化されている結晶蛍光体(MgWO4)と比較しても

遜色のない量子効率を有することが分かっている[35]

その一方でSP ガラスについても P2O5系ガラス特有の耐水性の低さが問題であり第三

成分の添加が必須となるすでに述べたが耐水性の問題は鉛フリー材料や希土類フリ

ーの蛍光体といった新規材料として工業的に使用するためには必ずクリアしなければなら

ない問題であるまた使用目的に合わせた成分探索もよく考慮しなければならないため

添加する成分の選択も非常に重要である

12 本研究の目的と意義

本研究の目的はSPガラスやの物性および構造解析を行うことで主に化学的耐久性に

関する要因を解明し新規高機能性ガラスの開発における新たな材料設計指針の確立を目

指した多成分系ガラスの中ではシンプルな組成である三成分系ガラスから解明すること

4

で基礎的な情報を得ることをまず目指したその後の求められる知見は以下に示すと

おりである

① SP ガラスの問題点である耐水性について第三成分を添加することでどの程度改善さ

れるかを把握する第三成分の選択についても検討する

② 第三成分の添加による SPガラスの構造的変化について把握する

③ 構造と耐水性改善の関係について把握する

13 本論文の構成

本論文は以下の 5章から構成されている

第 1章序論では本研究の背景問題提起および目的意義を述べている

第 2章ではSP ガラスおよび二種類の第三成分(Nb2O5 ZnO)をそれぞれ添加した三成分

系 SP ガラスを作製し耐水性を中心とした物性評価を行ったそして各ガラス系の耐水

性と組成の関係性について検討した

第 3章ではラマン分光法を用いて各種 SP ガラスFP ガラスの構造解析を行ったラマ

ンスペクトルから Qn分布を導き出し耐水性とガラス構造の関係性について検討した

第 4章では放射光を用いてSP ガラスおよびニオブ含有 SP ガラスの構造解析を行った

ラマンスペクトルからでは詳細に出来ない SP ガラスの Sn Nb 周辺構造の解明に加え耐

水性と構造との関連性について検討したまた今回構造解析のために用いた X 線異常散

乱法の有効性についても検討した

第 5章は総括である

参考文献

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6

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382-384 (2013)

7

Fig 11 鉛含有ガラスの一例クリスタルガラス

転載ペアワイングラスltボナールgtカガミクリスタル株式会社

Fig 12 鉛含有ガラスの一例放射線遮蔽用ガラス

転載放射線遮蔽用ガラス LX-57B電気硝子建材株式会社

8

Fig 13 リン酸塩ガラスの Qn構造とその組成 [11]より転載

9

Fig 14 リン酸塩ガラスの溶出メカニズム模式図加水分解反応

10

Fig 15 リン酸塩ガラスの溶出メカニズム模式図水和反応 [21]より転載

11

Fig 16 アルミナ含有リン酸塩ガラスの構造

Fig 17 鉄リン酸塩ガラスの構造 [27]より転載

P

O

O

OO Al

O

O

O P

O

O

O Al

O

O

O P

O

O

O

12

Fig 18 ガラスの侵食機構(耐候性)[1]より転載

13

第 2章 スズリン酸塩系ガラスの物性評価

21 緒言

前章で述べたようにスズリン酸塩(SP)系ガラスは無色透明高透過率低ガラス

転移温度など工業的に興味深い特徴を有することが知られている[1]またSn2+が ns

2型の

発光中心となり紫外線照射による白色蛍光を示すことから希土類フリー白色蛍光体とし

ての研究も数多くなされている[2 3]

しかし実用化に向けてはこの系のガラスについてもリン酸塩系ガラスに特有のldquo耐

水性rdquoldquo耐候性rdquoの低さが問題となる[4]この問題点を解決するために第三成分として他

の化合物を加えることが有効でありSP ガラスにおいてはB2O3や ZnO SiO2 MgO MnO

など様々な物質を第三成分として添加した研究報告[5 - 9]があったりNH3雰囲気下で数日

間溶融作製することでガラスを一部窒化することで耐水性を改善させたりという報

告もある[10]SP ガラスに限定しないリン酸塩系ガラスではZnO-P2O5 系ガラスに Sb2O3

や MoO3を添加した報告[11 12]や Na2O-P2O5系ガラスに CuO を加えた報告[13]P2O5-CaO-

Na2O に Ag2Oを添加した報告[14]Na2O-K2O-CaO-P2O5ガラスの一部を窒化することによる

方法[15]等があり数多くのリン酸塩系ガラスの耐水性改善に関する研究がなされている

本研究では高価数金属酸化物および低価数金属酸化物の二種類をそれぞれ第三成分と

して添加した高価数金属酸化物には Nb2O5を低価数金属酸化物には ZnO の二種類の酸

化物を選択した

Nb2O5は古くから光学ガラスの成分として頻繁に使われる物質であり様々な企業から数

多くの特許が出されている[16 17]また耐水性の改善に有効であるとの報告や比較的低

温でもガラス作製ができることが知られており(当然のことながら組成に影響される)

鉛フリーの封着ガラスとしての研究もなされているZnO についてはこれ自体は無着色

成分であるため無色透明なガラスが得られることから光学ガラスの成分に用いられる

ほとんどの組成で低融点ガラスとなり[18 19]これらの特性からSnO-ZnO-P2O5(SZP)

系ガラスは Sn2+を発光中心とした蛍光体の研究対象となっていることが多くSP 系ガラス

では一般的なガラス系である

本章では第三成分を含まない SP ガラスおよび Nb2O5または ZnOを SP ガラスに添加し

た三成分系ガラスをそれぞれ作製し耐水性試験を中心とした各種物性評価を行った比

較対象に耐水性の優れることで知られる鉄リン酸塩系ガラスも同時に作製することでSP

系ガラスへ添加したそれぞれの第三成分の耐水性に対する有効性を検討した

22 実験方法

221 ガラスの組成選択

本研究において作製した SP ガラスは以下の五種類の系列を選択した

14

① スズリン酸塩ガラス(xSnO∙(100-x)P2O5 x = 50 60 67 70 mol)

(略称 SP ガラス組成は 50S50P と表記)

② ニオブ含有 SP ガラス(65SnO∙xNbO25∙(35-x)P2O5 x = 0 1 2 3 4 5 mol)

(略称 Sn-Nb-P ガラス組成は 65S-0Nb-35P と表記)

③ ニオブ含有 SP ガラス(xSnO∙5Nb2O5∙(95-x)P2O5 x = 50 60 67 mol)

(略称 SNP ガラス組成は 50S5N45P と表記)

④ 亜鉛含有 SP ガラス (S5ZP ガラス)(xSnO∙5ZnO∙(95-x)P2O5 x = 55 62 65 mol)

(略称 S5ZP ガラス組成は 55S5Z40P と表記)

⑤ 亜鉛含有 SP ガラス (5SZP ガラス)(5SnO∙xZnO∙(95-x)P2O5 x = 55 62 65 mol)

(略称 5SZP ガラス組成は 5S55Z40P と表記)

(④と⑤は総じて SZP ガラスと表記する場合がある)

それぞれの選択理由はガラス化範囲(各ガラス系のガラス化範囲を Fig 21および Fig

23 に示す)作製の容易さ(気泡の入りにくさ流し出しやすさ)等を考慮し決定した

組成ごとに詳細な選択理由を述べると

②についてNb を P と置換した組成であるFig 22 に示した溶融温度 1100で作製した

Sn-Nb-P ガラスの外観写真より目視でも明らかに透明性の高く着色量の少ない組成は(d)

の 65Sn-5Nb-30P でありこの外観写真を参考に組成を決定したSnO 量を 65 molに固定

しNbO25量を 5 molから 0 mol(Nb無添加組成)まで減少させた組成(Fig 21 の緑線

の組成)を選択しこのガラス系の物性の変化を確認した

③はNb2O5量を 5 molに固定しSn を P と置換した組成であるNb と P は酸化数が

同じ 5価であるためこの組成では同じ SnO量の二成分系 SP ガラスと比較した際酸素

の総量に変化が生じない(例えば67S33P と 67S5N28P)またNb5+イオンはガラス中

では4配位および6配位を取るという報告が多い(結晶の場合他の配位数を取る)た

め配位数が4の P5+の置換に適していると考えた

④⑤に関しては気泡のrdquo入りづらいrdquoもしくはrdquo入らないrdquoSnOおよび ZnOが各 5 molにな

る組成を選択したSZP ガラスはFig 23 に示すガラス化範囲のようにガラス化範囲は

非常に広範囲であるしかし気泡が入りやすく脈理のようなものも見られる組成が多く

目視ですら不均質なガラス組成がほとんどであった(これらの組成も粉末にして XRD を測

定するとガラスであった)そのためバルク体でガラスを得られることが困難な組成も多

い(Fig 24 にその一例の SZP ガラスを示す)そこで第三成分の添加量を可能な限り少

ない組成を選択することでバルク体で目視上ldquo均質rdquoなガラスを得た(Fig 23 の青線と

紫線の組成)

また上述したように耐水性の比較対象である鉄リン酸塩ガラスを二成分系で作製し

15

た(FP ガラス)組成はxFe2O3∙(100-x)P2O5 x = 20 25 30 35 40 mol を作製した

222 ガラス作製

Figs 25 - 27に各ガラス系の作製フローチャートを示す出発試薬にSnO NH4H2PO4

Nb2O5 ZnO を使用し各々秤量した秤量混合後アルミナ坩堝に入れか焼(仮焼き)

を行ったか焼条件はSP Sn-Nb-P SNP SZP ガラスは350または 400 6-30 minFP ガ

ラスは600 30 min で行った溶融温度および溶融時間はSP ガラス1100 30 min

Sn-Nb-P ガラス1100 30 minSNP ガラス1000または 1250 20 min SZP ガラス

1100-1200 30 min 各々N2雰囲気下で作製したN2雰囲気下で行った理由はSn2+が Sn

4+

にほとんど酸化されてしまうとガラスが得られなくなるためSn2+の酸化を防ぐ目的がある

[19]FP ガラスは1200 - 1550 30 min大気雰囲気下の条件で作製した溶融後350

に温めておいたスチールモールドに流してプレスした後FP ガラス以外はガラス転移温度

Tg付近でアニールを 1 h行い目的のガラスを得た耐水性試験用のガラス形状はダイヤモ

ンドカッターで大まかに整えた後鏡面研磨まで施して型取ったここでFP ガラスのみ

アニール工程を省いた理由はSP ガラス等はアニールをして歪みを取らなければ正確に

切断できない場合が生じた一方でFP ガラスはアニールをせずとも十分正確にカットで

きたためアニール工程を省いたまた50S50P のみ厚みが必要になると必ず気泡が入

ってしまうため耐水性試験では気泡の入ったものを使用した

223 物性評価

得られたガラスの物性の比較を行うために以下に示す分析を行った

(1)ガラス状態の確認

作製したガラスが結晶の混在していないものかを確認するためにまた耐水性試験

後のガラスが結晶化しているかの確認のためにX 線回折装置(XRD Rigaku RINT-2100)

を用いて分析した全てバルク体で測定したが耐水性試験後ではバルク状態が保てな

いものもあったためその試料については粉末で測定した

(2)組成分析Sn Fe 価数分析

得られたガラスについてアルミナ坩堝の使用によるアルミナのガラスへの混入および

それに伴う組成ズレの確認のために走査型蛍光 X 線分析装置(XRF Rigaku ZSX Primus

Ⅱ)を使用し組成分析を行った分析はバルク体で定性分析法にて測定した

またSn が二価のままどのくらい存在しているかを調べるために Sn-Nb-P ガラスを用い

てSnの価数分析をメスバウアー分光法にて行ったSnの測定は reference [20]に示す旭硝

子の公開特許に記載されている方法で行ったFP ガラスについても価数変化を調べるた

めにメスバウアー分光法にて Feの価数分析を行ったFeの測定は(株)トポロジック

システムズ MDF-200)を用いて評価を行った

16

(3) 密度(ρ)およびガラス転移温度(Tg)評価

各ガラスの密度(ρ)測定はケロシンを用いたアルキメデス法で測定したガラス転

移温度(Tg)を評価するために示差熱―熱重量測定装置(SDT TA instrument Japan Q600)

を用いたアルミナパンを使用し測定条件はN2雰囲気下 10 Kmin 700までの温度範

囲にて行った

(4)耐水性試験

各ガラスの耐水性について評価するために耐水性試験をMCC-1法[21]にて測定した(Fig

28)条件は75 72h ガラスサイズ 12times10times02 cm (plusmn01 cm) 蒸留水の pH は 72-77

で行い浸漬後サンプルを乾かして重量を量った溶出速度(Dissolution Rate DR)は重

量減(ΔW) サンプル表面積(S) 浸漬時間(t)から以下の式によって算出した[22]

DR = ΔW (kg) S (m2) t (s)

また浸漬前と 72 h 後の重量減()も合わせて算出した

23 結果考察

231 組成分析 Snおよび Feの価数評価

Table 21に各試料の組成分析結果を示すまずアルミナ Al2O3の量を見るとガラスに

混入した量がほとんどの組成で 25 mol以下で多くても 35 molを下回る量であった

そのため各種特性についてアルミナの影響はほとんどないと考えられる[23 24]組成

によってその量に差があるのは溶融温度の違いによることに起因している組成分析の

結果今回作製したガラスは仕込み組成と大きな差がないと判断した

Fig 29に Sn-Nb-P ガラスの Snのメスバウアースペクトルをそこから得られたメスバウ

アーパラメーターを Table 22に示す得られた結果よりSn-Nb-P ガラスでは95以上の

割合で Sn2+のまま存在していることが分かった不活性雰囲気で作製したことP2O5 の出

発原料に NH4H2PO4を使用したことにより(か焼は行なっているが)還元雰囲気になったた

めSn4+にほとんど酸化されることがなかったといえるこの結果SP 系ガラスではほぼ

Sn2+のまま存在していると仮定した

Fig 210に FP ガラスの FeのメスバウアースペクトルをTable 23 にそこから得られたメ

スバウアーパラメーターを示すFP ガラスについては組成に関わらず酸化還元平衡に

より 20 ~ 30が Fe2+になりまたFe2O3 ge 30 molの際化学的にも安定であることが知

られている[27]実際にFe2O3 ge 30 molの際Fe2+は概ね 20 ~ 30存在している結果が得

られた一方でFe2O3 lt 30 molの際はFe2+が 40以上と高い割合で存在していることが

判明したこれは出発原料の NH4H2PO4の多量使用によること溶融温度が 1550と高

いことが要因で還元がより進行したためと予想される

17

232 ρおよび Tg

Table 24にρおよび Tgの結果を示す二つの特性結果はそれぞれのガラス系において

SnO や Nb2O5ZnO といった金属酸化物が増えるにつれて大きくなっているSP Sn-Nb-P

SNP S5ZP 系ガラスの Tgはほとんどが 300前後であり最も高い温度でも67S5N28P

の 346であった一方5SZP 系ガラスは400~440となり他のガラス系と比較する

と若干高い温度となったそれでも今回作製した第三成分を添加したガラスは低 Tgを有

するガラスであると判断できSP ガラスの特性を維持できたと判断できる

60S5N28P と 62S5Z30P のようなほぼ同じ OP を示すもので比較した際にNb2O5添加が

ZnO 添加よりも Tgが高くなったのは①配位数が同配位数になり得るイオンの場合(例え

ば Nb5+と Zn

2+なら4配位など)ポーリングの第 2 法則[25]より高価数イオンの方が結合

強度が強くなる②diatomic cationの解離エネルギーがNb-O (688plusmn11 kJmol)[26]に対しZn-O

(1611plusmn48 kJmol)[26]と大きな差があるため Nb-Oの結合が強い故に熱的に安定化され

Tgが高くなったと考えられる

233 耐水性試験前後の外観写真

Figs 211 - 216に各ガラスの耐水性試験前後の外観写真を示すFig 211 の SP ガラスを

観察するとSnO 量の少ない 50S50P 60S40P は浸漬時間が経過するにつれて元々の形状

が崩壊したりガラス自体が膨張したような状態になったりしたSnO 量の多い 67S33P

70S30P について形状は崩れることはないが透明性が失われる(白ヤケ)耐候性が低いこ

とが確認できるFig 212 に示す Sn-Nb-P ガラスではNb2O5無添加の 65S-0Nb-35P は浸漬

時間 24 h で透明性が失われているがNbO25量の増加させていくと徐々に透明性が回復

しており4 mol添加した 65Sn-4Nb-31P では72 h後においてもほとんど変化が確認でき

ないNbの添加量を変えた Fig 213に示す SNP ガラスではSP ガラスと同様に SnO 量の

少ない 50S5N45P は時間経過と共にガラス全体にldquoひびrdquoのようなものが見え72 hの実

験終了後最終的にテフロン糸を外す段階で簡単に割れたしかし50S50P や 60S40P と比

較すると耐水性が大幅に良くなったまた60S5N35P 67S5N28P は耐水性が良好なこと

だけでなく耐候性についても向上していることが目視で判断できる一方で二種類の

SZP ガラス(Figs 214 215)を観るとP2O5量の少ない 5S55Z40P および 55S5Z40P では

形状が崩れるか析出物が現れる結果となったこの組成よりP2O5 量を減少させるとSP

ガラスと同じように形状は崩れないが透明性が若干失われる結果となった

Fig 216 に比較対象の FP ガラスの耐水性試験前後の写真を示すこの組成ではFe2O3

量の少ない20F80Pにおいても形状が全く崩れない結果が得られたしかしFe2O3 lt 30 mol

の組成において表面に干渉色のような反射光が若干確認できたこれはおそらく青ヤ

ケが発生したためであると考えられる

18

234 耐水性試験前後の構造変化

Figs 217 - 222に各ガラスの耐水性試験前後の XRDパターンを示す耐水性試験前では

ガラス化を全組成で確認した(Figs 217(a) - 222(a))しかし耐水性試験後における外観

写真で形状の崩れたもしくは析出物の得られたガラス組成では結晶が生成したことが

確認された形状の崩れた三組成のうち50S50P 60S40P ガラス(Fig 2214(b))では三

種類の結晶ピーク(SnP2O7 Sn2P2O7 Sn3(PO4)2)が確認でき5S55Z40P については(Fig

2214(b))結晶同定の判断はできなかったが ZnOの多い組成であるためおそらくリン酸

亜鉛の何れかの結晶だと推測された析出物が得られた 55S5Z40P はガラス matrix部と析

出物に分けて測定したところガラス matrix 部はガラスのままであり析出物は SnP2O7

Sn2P2O7の二種類の結晶ピークが確認できたガラス形状に変化がなかったその他の組成は

ガラス状態が保たれていたSn4+の結晶のピークが確認されたのは50S50P のガラスには

気泡が残っておりその気泡から酸化されたかもともと溶融工程で電気炉内に残って

いた酸素によってSn4+に酸化されたか等が考えられる

235 溶出速度(DR)および重量減

Table 24に DR重量減の結果および仕込み組成から計算した OP を示すSP SNP S5ZP

ガラスではSnO 量の増加に伴いSnO量の固定された Sn-Nb-P 5SZP ガラス系ではそれ

ぞれの金属酸化物の増加に伴いDR重量減は減少傾向にあったFP ガラスでは全組成

において DR 重量減共に変化が全く確認されなかったそのため青ヤケのようなものが

確認された FP ガラス(Fe2O3 lt 30 mol)については電子天秤では変化が見られない程度

の重量減であったと推測される二種類の SZP ガラスで比較するとSnOと ZnO量が入れ

替わってもほぼ誤差範囲内と思われる結果が得られたガラス全体の比較では外観写真

で変化が見られなかった FP ガラスと 65S5N28P 65Sn-5Nb-30P のガラスが DR重量減がと

もにゼロという結果が得られた

組成と DR 重量減の関係性を見るために作成した図をFigs 223(DRと OP の関係性)

224(Fig 224に重量減と OP の関係性)に示すそれぞれの図にリン酸塩の三つの構造

の OP も表記した双方の図よりDR 重量減共に OP が増加することで単調に下がって

いることが分かるこの結果はリン酸塩の構造ではorthophosphate 組成で耐水性良好が

あるため[22]一般的な結果と同じ挙動であるまた耐水性の良かったNb2O5添加の SNP

ガラスは異なる挙動(傾き)が得られた

以上の結果より第三成分添加による耐水性の改善を確認し特に Nb2O5 の添加による

影響は大きいことが判明したまたOP の増加による耐水性が改善する結果が得られた

次章の第 3 章にて各ガラス系の構造解析を行い第三成分特に Nb2O5の耐水性への有

効性について調査した

19

24 結言

本章ではSP ガラスおよび第三成分の Nb2O5 ZnOを添加した SP ガラスの物性評価を行

うことで耐水性改善への第三成分添加の有効性を確認した各々の物性について以下に

まとめる

低ガラス転移温度を有する SP ガラスは最も SnO 量が高い 70S30P でも Tg le 280であ

ったNb2O5を添加した Sn-Nb-P SNP ガラスではTgの上昇は見られたが Tg le 350

ZnOを添加した 5SZP S5ZP ガラスではTg ≦ 450であり両金属酸化物の添加でも低

ガラス転移温度を維持しているガラスが得られたNb2O5 添加が Tg を上昇させたのはポ

ーリングの第 2法則より高価数イオンの方が結合強度が高くなるためと結論付けた

耐水性試験結果の外観写真を観るとSP ガラスの SnO 量 le 60 mol 5SZP ガラスおよび

S5ZP ガラスの P2O5量 = 40 molの組成についてガラスサンプルの形状が大きく変化して

おりDR 重量減も高く耐水性の低さが明らかであった得られた析出物はSnP2O7

Sn2P2O7 Sn3(PO4)2 および亜鉛リン酸結晶の一種であると予想されたその他の組成では

透明性の失われた組成がいくつかあったが外観写真では変化が見られなかった FP ガラス

と 65S5N28P 65Sn-5Nb-30P のガラスが DR重量減がともにゼロという結果が得られた

組成と耐水性に関してはDRおよび重量減がOP増加で単調に低下した結果が得られた

つまり耐水性を改善させる有効な手段はSP 系ガラスのガラス化範囲を拡大かつ OP を

増大させる第三成分の添加によることであることが示唆された

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21

Fig 21 三成分系 SnO-NbO25-P2O5 系のガラス化範囲

Fig 22 作製した Sn-Nb-P ガラス

(a)50Sn-5Nb-45P (b)55Sn-5Nb-40P (c)60Sn-5Nb-35P

(d)65Sn-5Nb-30P (e)70Sn-5Nb-25P (f)60Sn-10Nb-30P

(g)55Sn-20Nb-25P (h)60Sn-15Nb-25P (i)65Sn-10Nb-25P

22

Fig 23 三成分系 SnO-ZnO-P2O5系のガラス化範囲

Fig 24 作製した SZP ガラスの一例

(気泡や脈理のようなものが確認できた組成)

23

Fig 25 SP SZP ガラスの作製フローチャート

Fig 26 Sn-Nb-P SNP ガラスの作製フローチャート

(気泡や脈理のようなものが確認できた組成)

24

Fig 27 FP ガラスの作製フローチャート

Fig 28 耐水性試験(MCC-1法)

25

Table 21 各ガラスの組成分析結果

26

Fig 29 Sn-Nb-P ガラスのメスバウアースペクトル

Table 22 Sn-Nb-P ガラスのメスバウアーパラメーター

27

Fig 210 FP ガラスのメスバウアースペクトル

Table 23 FP ガラスのメスバウアーパラメーター

28

Table 24 各ガラスの物性(密度(ρ)ガラス転移温度(Tg)溶出速度(DR)重量減())

29

Fig 211 SP ガラスの耐水性試験前後の外観写真

Fig 212 Sn-Nb-P ガラスの耐水性試験前後の外観写真

30

Fig 213 SNP ガラスの耐水性試験前後の外観写真

Fig 214 S5ZP ガラスの耐水性試験前後の外観写真

Fig 215 5SZP ガラスの耐水性試験前後の外観写真

31

Fig 216 FP ガラスの耐水性試験前後の外観写真

32

Fig 217 SP ガラスの XRD パターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

33

Fig 218 Sn-Nb-P ガラスの XRD パターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

34

Fig 219 SNP ガラスの XRD パターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

35

Fig 220 5SZP ガラスの XRDパターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

36

Fig 221 S5ZP ガラスの XRDパターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

37

Fig 222 FP ガラスの XRD パターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

38

Fig 223 各ガラス系の DR と OP の関係性

39

Fig 224 各ガラス系の重量減と OP の関係性

40

第 3章 分光法を用いたスズリン酸塩系ガラスの構造解析

31 緒言

前章ではSP ガラスおよび第三成分に Nb2O5 ZnOを添加した Sn-Nb-P ガラスSNP ガラ

スSZP ガラスの物性特に耐水性に関する第三成分添加の有効性を明らかにしたその添

加した第三成分の二種類についてもNb2O5 の方が ZnO よりも溶出速度重量減ともに抑

制することができSP ガラスの低ガラス転移温度という特性も維持されていることが判明

したしかし現段階では本研究の主要な物性である耐水性改善の要因が明確になって

いない組成の観点からはOP の値が高い組成が良好な耐水性であることが分かったが

組成だけでは耐水性改善のメカニズムについて完全には理解できないここでリン酸塩

ガラスの溶出のメカニズムは第 1 章で述べたように加水分解反応と水和反応が要因とな

る[1 2]この機構はそれぞれリン酸の構造つまり架橋酸素 BO の数が大きく関わって

おりリン酸アニオンの[PO4]ユニットの架橋酸素数を知ることが重要であるこの BO の

情報を得るためにはガラス構造を示す指標の一つである Qn(n は[PO4]ユニット中の架橋

酸素数を表す)を調べることが必須であるまたQn の分布を調べるためにはガラスの

構造解析を行う必要性がある

ガラスの構造解析には種々の方法があり特にラマン分光法や赤外(IR)分光法核

磁気共鳴法(NMR)などの分光学的手法を用いた構造解析の報告が多い[3-5]ラマン分光

法および IR分光法は原理は異なるがどちらも結合の振動モードを測定する手法であり[6]

リン酸塩ガラスだけでなくケイ酸塩ガラスホウ酸塩ガラスなど様々なガラス系にて測

定がなされている[7 8]また得られた結合状態の情報からリン酸塩アニオンの Qn分布

を調べることも可能であるNMR は共鳴吸収ピークの化学シフト(共鳴周波数のズレ)

から構造を決定する手法であるガラスの場合SiO2や B2O3 P2O5といった網目形成酸化物

の Qn分布を得るために一般的に使用されている手法である[9]

今回これらの測定の中でラマン分光法を選択し構造解析を行ったラマン分光法は

測定する際にサンプル形状を気にすることなく基本的にそのまま測定できるためIR 分

光法のようにサンプル形状で測定方法を変える必要はないまたIR 分光法では例えば

KBr 錠剤法やヌジュール法のように測定を行うためのサンプル調整に手間がかかる場合が

ある[6]さらに比較対象の FP ガラスではNMR を測定できないため作製ガラスを全

て比較検討できるようにラマン分光法を選択した

本章ではラマン分光法を用いて各ガラスの構造解析を行い[PO4]ユニットの Qn分布を

調査し平均 BO数 nを算出することで耐水性と構造の関係性を検討したまたラマン

分光法によって得られた Qn分布の妥当性を確認するためにSP ガラスおよび 67S5N28P ガ

ラスの NMRを測定も行い比較した

32 実験方法

41

321 サンプル準備

ラマン分光およびメスバウアー分光の測定では第 2 章で作製した各ガラスのバルク体

を用いたWD試験に使用したサンプルとは別にラマン測定用のサンプルを用意した適

度な大きさ大体 15 cm角程度のサイズになるようにガラスカッターで切断しその後

十分な平滑性を得るために鏡面研磨を施した

322 ラマン分光測定

使用したラマン分光装置は顕微レーザーラマン分光装置(Jasco NRS-5100)を用いた

用いたレーザー波長は 53208 nmであり400 - 2000 cm-1の範囲で測定した

Qn 分布を導くためにピークフィッティングを行いリン酸塩アニオンのラマンバンド

が現れる950 - 1250 cm-1付近および 700 - 750cm-付近の範囲で定量した

323 31P MAS NMR測定

31P MAS NMRの測定は Varian NMR System 500 を用いて32 mmの MASプローブ

202309MHzにて行った測定パラメーターを以下に示すπ4 パルス長さ 14 μs 待ち時間

(pulse delay)10 s 積算回数 3600 scan シリンダー円筒形状の Zrローターの回転スピード

160 kHz referenceとして二番目の基準物質として使われる NH4H2PO4を使用化学シフト

は85 H3PO4溶液から δ = 10 ppmである

33 結果考察

331 各ガラス系のラマンスペクトル

Figs 31 - 35にラマンスペクトルを示す各ピークは以下の通りに帰属し各スペクト

ル中に該当する構造をピーク位置に示した

1230 - 1260 cm-1 P=O NBO Q

2 [10]

1110 - 1150 cm-1metaphosphate (PO3)

- Q

2 [10]

1030 - 1100 cm-1pyrophosphate (PO35)

2- Q

1 [10]

970 - 1000 cm-1orthophosphate (PO4)

3- Q

0 [10]

920 - 930 cm-1asymmetric (P-O-P) Q

1 [10]

730 - 750 cm-1symmetric (P-O-P) Q

1 [10]

710 - 720 cm-1asymmetric (P-O-P) Q

2 [10]

810 - 820 cm-1Nb-O [NbO4] tetrahedron [11]

900 - 920 cm-1Nb-O isolated [NbO6] octahedron [11]

42

SP ガラスのラマンスペクトル(Fig 31)を見ると50S50P 60S40P ではmetaphosphate

の Q2 構造が支配的であるがSnO 量が増えるにつれてその構造が変化し70S30P では

pyrophosphateの Q1構造と orthophosphateの Q

0構造が共存した構造となっているまたSnO

量の少ない 50S50P および 60S40P において確認されたQ2構造の P=O のピークが見えなく

なっているつまり耐水性と関連して考えるとSnO量が増えるにつれてP-O-P 結合か

ら Sn-O-P 結合に代わり水分子との反応である加水分解反応を妨げる構造に変化している

ことがわかる

Figs 32 33にNb2O5を添加した Sn-Nb-P ガラスおよび SNP ガラスのラマンスペクトル

を示すまずSn-Nb-P ガラスについてNb 無添加の 65Sn-0Nb-35P は主に Q1構造であ

りNbO25が添加されることによってQ0構造に変化しQ

1 Q

0構造が共存しているような

ピークが得られた添加量が少ないガラス系であるため徐々に変化しているのを確認し

た800 cm-1を少し越えた 810 - 820 cm

-1付近にNb2O5を添加することでピークが現れそ

して添加量を増量することで強度が強まるピークがありこのピークは四面体の[NbO4]

のものと判断した

SNP ガラスのラマンスペクトルについてはNb2O5添加量を固定した組成であるためSP

ガラスのような挙動が観察された50S50N45P では50S50P ガラスと同じようにQ2構造

が主な構造でありSnO量の増加に伴って60S5N35P Q1構造67S5N28P Q

0構造に支配

的な構造が変化しているこれはSP ガラスと同じ傾向を示しているためP-O-P rarr Sn-O-P

に置き替わっていることが示唆されるNb-O に関するピークでは50S5N45P のみ[NbO4]

四面体のピークを確認できず900 - 920 cm-1付近に[NbO6]八面体のピークが確認された

SnO量が増量した 60S5N35P では810 cm-1付近の [NbO4] 四面体のピークが現れているが

[NbO6]八面体のピークと 900 - 920 cm-1付近の Q

1構造のピークが非常に近い(ほぼ重なって

いる)ことから60S5N35P については[NbO4] 四面体および[NbO6]八面体の共存の可能性

も考えられるまた67S5NP28 では[NbO4] 四面体のみのピークが観察されたためこ

の Nb-O の配位数変化は[PO4] unitの状態によって変化している可能性も示唆された

ZnO を添加した S5ZP ガラスおよび 5SZP ガラスのラマンスペクトルを Fig 34 に示す

図の下部三つが S5ZP ガラス上部三つが 5SZP ガラスのスペクトルであるSZP ガラスの

二系統を比べるとあきらかなスペクトルの違いが確認された各ガラス系で確認すると

SnO 量が最小の 55S5Z40P はQ2構造と Q

1構造の範囲に跨っているようなスペクトルが得

られた62S5Z33P および 65S5Z30P のスペクトルからはどちらもほぼ Q1構造であると判

断した5SZP のスペクトルは1000 - 1250 cm-1付近の範囲で裾を引くような(なだらかな)

スペクトルが得られたZnO 量が最小の 5S55Z40P にはQ2構造が主な構造に見えるが

shoulderピークのような Q1構造(1030 - 1100 cm

-1)が確認できる5S62Z40P においては

1000 - 1250 cm-1付近の範囲まで幅広いスペクトルが得られた730 - 750 cm

-1付近にピーク

が現れているためおそらく Q1構造が最も多く存在していると考えられる65S5Z30P では

Q1構造Q

0構造が共存しているようなピークが得られた

43

FP ガラスのラマンスペクトルを Fig 35 に示すFe量の少ない 20F80P 25F75P と他の三

つで構造が異なっていることである20F80P 25F75P はQ2構造と Q

1構造が基本構造にな

っていると判断できる 30F70P は1110 - 1150 cm-1付近に shoulderピークのようなものがあ

りQ2 Q

1 Q

0構造が共存しているようなスペクトルであった35F65P 40F60P はQ1構造

が主な構造でQ0構造があると判断した

332 平均 BO数 n (Qn分布)

まずピーク分離について散乱断面積が見積もれなかったためラマンの散乱強度比

を Qn分布として簡易的にピーク分離を行い(Fig 36)そこから平均架橋酸素数 BO 数 n

を算出したここでFig 37 に 31P MAS NMRスペクトルを示しTable 31に NMRおよび

ラマン分光より得られた平均 BO 数 n を示す(NMR の帰属 reference [12])表よりNMR

とラマンから得られた Qn分布はほぼ一致していることが分かった60S40Pについては支

配構造が NMR(Q1) ラマン(Q

2)で逆になったこれは60S40P の組成がQ

2と Q1のほぼ中

間の組成になるためこのようなズレが生じたと考えられるしかし今回のラマンによ

る Qn分布の算出についてはほぼ問題ないと判断した

Table 32にラマンスペクトルより求めた Qn分布平均 BO 数 nをを示しTable 24に示

した DR 重量減の結果を併記する

SP ガラスのうち耐水性が低いガラスは Q2構造によって形成されているSnO量の増加

によって NBOの増加とともに耐水性の向上が確認できSnOが入ることでSn-O-P 結合を

形成し水分子からの攻撃を受けにくくなっていることが考えられる

Sn-Nb-P ガラスでは基本的に Q1構造が主構造でNb2O5の添加が増えるにつれQ

0構

造が支配的になり耐水性は次第に向上していく最も耐水性のよかった 65S-5Nb-30P は

Q0構造での割合が非常に高く平均 BO数 n値が 03であった

SNP ガラスではP2O5量が多い組成の 50S5N45Pにおいても平均 BO数 nが 60S40P と

同じながらも耐水性が良くなっている67S5N28P はほぼ完全に Q0構造であり平均 Q

n

値は 0となった

SZP ガラスについてはS5ZP 5ZSP のどちらの系列についても耐水性の結果に大きな差

というものは確認されなかったが構造的にも平均 BO数 nが 09 10 17という結果であ

った

FP ガラスについてはFe2O3 lt 30 molのときは平均 BO 数 nが20 19と高い数値を

示したが耐水性は非常に良好であったこの結果より組成だけでなく構造的にも耐

水性高くなる要因が不明である一つの原因の可能性としてメスバウアーより得られた

Fe2+の存在比が 40以上と高かったことがFe2O3含有量が少ない組成時には効果的になっ

ているのかもしれない

333 平均 BO数 nと耐水性の関係性

44

Fig 38に DRと平均 BO数 nの関係性についてFig 39に重量減と平均 BO数 nの関係

性をそれぞれ示すまたOP の時と同様に各図にリン酸塩の三つの構造の平均 BO数

n も表記した双方の図よりDR 重量減共に平均 BO 数 nが低下することで単調に下がっ

ていることが分かるまた耐水性の良かったNb2O5添加の Sn-Nb-P SNPガラスはの DR

の挙動(傾き)はOP 時とも異なった挙動が得られた

Fig 310に OP と平均 BO数 nの関係を示す図中に示す茶色metaphosphate 黄色

pyrophosphate 灰色orthophosphate であるこの図から耐水性改善には平均 BO 数

n を下げOP を上げることが重要であるのが分かるまたNb5+の添加はOP を上げる

だけでなく平均 BO 数も減少させることから非常に効果的な成分であることが明らかで

あるこれはP5+から同酸価数 Nb

5+に少量でも置き換えることで平均 BO 数 n を下げ

OP を上げることを可能としている(実際に orthophosphate の OP4 よりも高い OP でガ

ラスが作製できている)つまりNb5+の添加によって P-O-P 結合が減少し水和反応加

水分解反応が抑制されているからである

以上の結果SP 系ガラスの耐水性改善には低い平均 BO 数と高い OP の組成にするこ

とが重要でNb2O5の添加は非常に効果的であることが分かったその一方でガラス中の

詳細な構造的要因についてははっきりしていないため次章の第 4 章にてさらに詳し

い構造解析を行い耐水性改善の要因について調査を行った

34 結言

本章ではラマン分光を使用して各ガラス系のリン酸塩アニオンの構造を簡易定量で

評価し組成と構造の関係について考察した

平均 BO 数 n と耐水性に関してはDR および重量減が平均 BO 数 n の減少で単調に低下

した結果が得られた

平均 BO数 nと OP の図より耐水性改善には平均 BO数 nを下げることそして OP

を上げることが重要であることが明白であった

Nb5+の添加は平均 BO数を減少させるだけでなくOP も上げることからガラス構造内

の P-O-P 結合を減少させる故に水和反応加水分解反応が抑制され耐水性が大幅に

改善された故にNb2O5 のような高価数金属酸化物を添加することが効果的であること

が示唆された

参考文献

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46

Fig 31 SP ガラスのラマンスペクトル

47

Fig 32 Sn-Nb-P ガラスのラマンスペクトル

48

Fig 33 SNP ガラスのラマンスペクトル

49

Fig 34 SZP ガラスのラマンスペクトル

50

Fig 35 FP ガラスのラマンスペクトル

51

Fig 36 ラマンスペクトルのピーク分離例(67S5N28P)

Raman Shift (cm-1)

52

Fig 37 NMRスペクトル

Table 31 NMR およびラマン分光より得られた SP 67S5N28P ガラスの

Qn分布および平均 BO数 n

53

Table 32 各ガラスのラマンスペクトルより求めた Qn分布結果

(表の赤線より右側の結果は Table 22 より)

1 仕込み組成による数値

2 Fig 2212 に示した析出物を取り除いた後の数値

54

Fig 38 DR と平均 BO数 nの関係性

55

Fig 39 重量減と平均 BO数 nの関係性

56

Fig 310 OP と平均 BO数 nの関係性

Meta

Pyro

Ortho

57

第 4章 放射光を用いたスズリン酸塩系ガラスの構造解析

41 緒言

前章の第 3 章にてラマン分光法を用いて SP 系ガラスの構造解析により Qn分布を導き

出したことで耐水性と構造の関係についてある程度関連性を導くことができたリン

酸アニオンについてはQ0(orthophosphate)構造 gt Q

1(pyrophosphate)構造 gt Q2

(metaphosphate)構造の順で良耐水性となるしかしSn Nbおよび Znの局所構造につ

いては知見が得られていないラマン分光や IR分光などの分光学的手法を用いてSnや

Nb Zn の周辺の局所構造を知るには限界があるまたガラスの構造解析を行う上で非常

に重要な因子である中距離構造の評価には分光学的手法は不向きである[1]

そこで局所構造や中距離構造を知るために有効な手法として放射光線を用いた構造

解析がある放射光(SR 光)とはシンクロトロンなどの加速器で高速に加速された電子

が進行方向を磁場によって変えられた際に放射する電磁波である[2]エネルギーが高く

(短波長)輝度が高い特性を有している日本国内では兵庫県佐用町の SPring-8や茨城

県つくば市の高エネルギー加速器研究機構佐賀県鳥栖市の佐賀県立九州シンクロトロン

光研究センターなど複数個所に放射光施設が設置されている

放射光を用いたガラスの構造解析には一般的に高エネルギーX 線回折(High Energy

X-ray diffraction HEXRD)が用いられるこの回折実験から高い散乱ベクトル Q(= 4π sinθλ)

まで回折データが得られる多種類の原子から構成される物質の場合はFaber-Ziman 型[3]

の構造因子 S(Q)を用いる以下の式に示すようにFaber-Ziman 型構造因子 S(Q)は同種また

は異種の原子による相関の重み関数付の和として示される例として SiO2ガラスで説明す

ると構造因子 S(Q)は三種類の原子付の S(Q)の重み付の和として表されていることが分か

I(Q) 散乱断面積 ltgt 原子一個当たりの平均値 f(Q) 原子散乱因子 W 重み関数

通常の研究室で使用される X 線回折(XRD)装置で用いられる特性 X 線はCuKα線(λ

= 0154 nm 81 keV)が最も良く用いられより高いエネルギーの X 線が必要な場合は

MoKα線(λ = 0071 nm 175 keV)が使用される一方でSPring-8のビームライン BL04B2

で行われる高エネルギーX 線回折(HEXRD)測定で使用される SR のエネルギーは378 keV

58

~ が使用可能である[2]従ってガラス以外の液体のような非晶質物質にも非常に精度

よく構造解析が行われている[4]

また局所構造解析の一つに X線異常散乱法という測定方法がある[5 6]これは通常

の X 線回折実験では分離不可能な特定元素に関連する部分構造因子(散乱強度曲線)を得

ることができる手法である今回 HEXRD の測定時に使用したエネルギー614 keV では各元

素の異常散乱項のエネルギー依存性は確認されない(Fig 41)その一方でFig 42に示す

Sn の吸収端付近の 292 keV付近ではSnの異常分散項のエネルギー依存性が確認できる

つまりSnの吸収端近傍より低エネルギー(E)側の異なるエネルギーの X線(E1 E2)を

使って散乱強度を測定し各 E における異常分散項(f`)の変化(つまり高い E1 から低い

E2 の散乱強度の差分)を利用して Snに関する部分構造因子を求める構造解析が AXS 法で

あるこの測定法は古くから知られている方法ではあるが装置の測定条件や設備の問

題からなどから使用があまり普及していなかった[5 6]近年になり金属ガラスの構造解

析について徐々に報告が出てきており今後注目される測定法である

HEXRD および AXS 法などから得られたデータ実測の構造因子 S(Q)は一次元の限られ

た構造情報であるためガラスなどの非晶質物質の中距離構造を解明するためにはこれ

らのデータを基に三次元構造を求める必要がある三次元構造モデルの作成には逆モンテ

カルロ(RMC)シミュレーションを使用することが有効である[7]このシミュレーション

は任意で決めたシミュレーションボックス内の粒子をランダムに動かすことで実測の

構造因子 S(Q)を再現する三次元構造モデルを構築する方法である

SP ガラスについては分光学的手法について数多く報告があるが放射光を用いた回折

法はほとんど適用されていないそこで本研究では HEXRD および AXS 法を用いた構造

解析を行うことでSn Nb周りの構造を解明すると共にSNP ガラスの耐水性改善のメカ

ニズムについて考察したまたAXS 法の有効性についても検討した測定を行ったガラ

スはSP ガラスおよび最も耐水性の高かった 67S5N28P を選択した

42 実験方法

421 HEXRD AXS法

HEXRDはSPring-8のビームライン BL04B2 で測定を行ったエネルギー614 keV の X

線を用いた測定サンプルの厚みは09 mm (plusmn0005 mm)になるまで研磨を行った

AXS 測定はSPring-8のビームライン BL13XUを使用した(Fig 43)それぞれの測定し

た X 線のエネルギーについて以下に示す

①Sn K吸収端hellip292 keV near edgehellip291452 keV (-60 eV) far edgehellip289751 keV (-230 eV)

②Nb K吸収端hellip1899 keV near edgehellip189562 keV (-30 eV) far edgehellip187863 keV (-230 eV)

測定に使用したサンプルの厚さが015 - 030 mmとなるまで研磨を施した

SP ガラスについて50S50P 60S40P 67S33P の三組成のガラスを測定した70S30P に関

59

しては測定を試みたが放射光照射によって結晶化してしまいガラス部分の正確な構

造因子を得るための強度補正ができず解析を断念した

422 RMCのモデリング

Table 41 に RMC の各種パラメーターを示す粒子数は約 5000 個でそれに伴う boxの一

辺の長さは約 42 ~ 46 Ǻになった拘束条件にP の配位数が 4になるような条件を付け

加えたFig 44にSn2P2O7結晶および Sn3P2O8結晶の動径分布関数(RDF)をTable 32

にRDFから得られた第一近接距離[8 9] を示すこれらの数値を使用しcutoffを決定し

たNb-O についてはいくつかの文献値を参考にした[10 11]

各ガラスの RMCのモデリングは①HEXRDから得られた S(Q)のみ②S(Q)および AXS

から得られた部分構造因子を加えた場合でそれぞれ計算した

43 結果考察

最初にNbの AXSから得られたデータについて解析を試みたが妥当な構造モデルが得

られなかったためSnの AXSのみで解析を進めたNb2O5の量が 5 molと少量であったた

めあまり精度の高いデータが得られなかったと推測される

431 実測の HEXRDおよび AXSの結果

4311 実測 HEXRDの S(Q)

Fig 45 に実測HEXRDの S(Q)を示す四つの組成ともに実測HEXRDの S(Q)が得られ

Nb2O5添加の 67S5N28P ガラスでは Low Q 側に変化が確認された

4312 実測散乱強度曲線

Fig 46 に Snの散乱強度曲線を示す(a) の 67S33P のこの曲線からはfar edgeおよび

near edge のエネルギー間で差分が見られエネルギーの依存性が確認された50S50P

67S5N28P のガラスについても同じように差分が確認されたが(b)の 60S40P についてのみ

他とは若干異なる結果(緑丸)であったためRMC の構造解析には差分の構造因子ではな

くfar edge near edge 二つの構造因子を用いた

4313 全相関関数 T(r)

Fig 47 に全相関関数 T(r) を示すHEXRD から得られたものを実線でSnの AXS から

得られたものは点線で示し組成ごとに重ねて表示した図中に各ピークについて帰属し

ているがSnの T(r)からはSn-O Sn-P Sn-Snのみのピークを確認した

432 RMCの計算結果および考察

60

構造モデルの一例として67S5N28P ガラスの得られた構造モデルをFig 48に示す水

色の多面体 unitSnON 黄色の多面体 unitPO4 ピンクの多面体 unitNbONである以下

詳細な構造解析の結果および考察を記す

4321 RMCのフィッティング結果

RMCのフィッティング結果の一例として67S33P の HEXRD と Snの AXS の構造因子か

ら得た結果を示す(Fig 49)二つの構造因子を加えて計算した結果においてもHEXRD

の S(Q) AXS の S(Q)に各々に対する良好なフィッティング結果が得られた他の組成も

同様なフィッティング結果が得られた

4322得られた各 pairの平均配位数平均角度平均結合距離

RMCの結果によって得られた各 pairの平均配位数平均角度平均結合距離を Tables 43

に示す上段が HEXRD の S(Q)のみ下段が HEXRD に Sn の AXS の部分構造因子を加え

て結果である最下部は比較のためにSn2P2O7の情報を記載した[8]

P-O pairについてRMCモデル中の PON多面体に関して平均配位数 Nが 4および P-O

の平均結合距離が約 160Å平均結合角度angO-P-O が約 109degという結果が得られた組成

による大きな違いは確認されなかったのはP の配位数が 4になるように拘束条件をかけた

結果であると考えられるSnON多面体についてはSnO量の増加 = OP の増加であり平

均配位数 Nが 3 ~ 35へ増加した平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約

22Åで組成による大きな変化はほとんど見られなかったNb2O5を 5 mol添加したガラ

スではNbON多面体の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平均配位数 N約 4Nb-O 平均結

合距離約 20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O(約 105deg)と値が近いこと

また6配位ではなく 4配位として主に存在していることからSnO と同じような働きをし

ていると推測される

以上の結果からNb2O5添加の耐水性改善の要因として結合距離が Sn-O が約 22Åに対

し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強固にして

いることも一つの要因として考えられる

また67S5N28P ガラスの各多面体モデルを確認すると(Fig 410)P は PO4Snは SnO4

と SnO3Nbは NbO4をそれぞれ再現している

4323得られた各 pairの結合様式

RMC の結果により得られた各 pair の結合様式を Tables 44 に示す上段が HEXRD の

S(Q)のみ下段が HEXRDに Snの AXS の部分構造因子を加えた結果である最下部は比

較のためにSn2P2O7の情報を記載した[8]

結合様式に関してはPO4四面体は他の多面体も含めてほぼ頂点共有で存在している

SnON多面体についてはSnO 量が少ない配位数が 3 に近い場合頂点共有以外の共有の

61

割合も多くSnO 量が増えるにつれて頂点共有が主になり網目形成体として振舞ってい

ると考えられる組成によって平均結合距離や平均角度の大きな変化が見られなかったこ

とから平均配位数が結合様式を決める重要なファクターであるということも考えられる

またHEXRD と AXS 法の結果がほぼ同じであったこれは主成分が SnO のガラスであ

るためHEXRDでも十分に詳細な構造が得られたため大きな変化が現れなかったと考え

られるNbON 多面体はPO4 四面体と SnON 多面体とはほぼ頂点共有で繋がっている以

上の結果よりSnO量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体的に各多面体同士の

頂点共有が増えていることから耐水性の改善には頂点共有を多く含む構造であること

が重要である或いは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的となって

いるということが推測されるFig 411に 67S5N28P ガラスの構造モデルを示す各多面

体はほぼ頂点共有で繋がっていることが確認できる

4324 平均 BO数の比較

Tables 45にNMR Raman RMC(HEXRD) RMC(HEXRD + AXS)の平均BO数を示すRMC

から得られた平均 BO 数 nはNMR Raman と同様に Nb2O5の添加による大幅な減少が確認

されたしかしNMR Raman と比較すると全組成において数値が大きすぎで適当でない

50S50P の構造モデルを観るとPO4四面体間で3配位 O の存在が確認された(Fig 412)た

め実測で得られた n値を再現できるようなPO4四面体モデル間の繋がり方に関する拘束条

件を加えて RMCを計算する必要性があるまた仮に3配位 Oの存在があるとすると電

子状態の変化が生じていることがと示唆されるため分子軌道計算を用いて電子状態解析

を行い確認する必要がある

4325 耐水性の改善について

Nb2O5を添加のガラス構造への影響について①6配位ではなく 4配位として主に存在し

ていることからSnO と同じような働きをしていると推測される②結合距離が Sn-O が約

22Åに対し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強

固にしている③ガラス構造中で全体的に各多面体同士の頂点共有が増えている以上の

ことが判明した以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性

耐候性を改善した要因として考えられる

44 結言

本章では分光学的手法では評価できないガラスの中距離構造局所構造について理解

するために放射光を用いた構造解析を実施しSP ガラスの構造と耐水性改善について考

察したHEXRDおよび AXS法を用いて測定を行い得られたデータを RMCシミュレーシ

ョンにて解析を行った

解析の結果 Sn-O pair については平均配位数 Nが 3 ~ 35でSnO量の増加 = OP の増

62

加に伴い高くなった平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約 22Åであ

ったP-O Sn-Oについては組成による大きな変化はほとんど見られなかった67S5N28P

ガラスの Nb-O pair の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平均配位数約 4Nb-O 平均結合距

離約 20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O(約 105deg)と値が近いことま

た6配位ではなく 4配位として主に存在していることからSnOと同じような働き(網目

形成体)をしていると推測されるまた結合距離が Sn-O が約 22Åに対し Nb-O は約 20

Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強固にしていると言える

SnO 量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体的に各多面体同士の頂点共有が増え

ていることから耐水性の改善には頂点共有を多く含む構造であることが重要である

もしくは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的であることが推測さ

れる以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性耐候性を

改善した要因として考えられる

またAXS 法の有効性についても確認し効果的であることが判明したただし今回

は主成分が Sn の組成のガラスでありHEXRD でも十分に詳細な構造が得られたため

大きな差は現れなかった

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63

Fig 41 各原子の異常分散項のエネルギー依存性

Fig 42 Sn の異常分散項のエネルギー依存性

64

Fig 43 SPring-8の BL13XU

65

Tab

le 4

1

RM

Cの各パラメーター

66

Fig 44 Sn2P2O7 Sn3P2O8結晶の RDF

Table 42 Sn2P2O7 Sn3P2O8結晶の各 pairの第一近接距離

67

Fig 45 得られた実測 HEXRDの S(Q)

68

Fig 46 Sn の異常散乱測定により得られた散乱強度のエネルギー依存性

(a)67S33P (b)60S40P

69

Fig 47 全相関関数 T(r)

太線 HEXRD より

細線 Sn の AXSより

70

Fig 48 67S5N28P ガラス構造のモデル

71

Fig 49 RMC フィッティングの結果

72

Tab

le 4

3 各

pairの平均配位数角度結合距離

73

Fig

4

10

67

S5

N2

8Pガラスの各多面体モデル

74

Tab

le 4

4 各

pairの結合様式

75

Fig 411 67S5N28P ガラスの構造モデル

76

Table 45 平均 BO 各数 nの比較

Fig 412 50S50P ガラスの構造モデル

77

第 5章 総括

本研究ではSP ガラスを対象とした本研究では鉛フリー代替ガラスまたは希土類フ

リー蛍光体として SP ガラスの新規高機能化を将来的に目指し問題点であるldquo化学的耐久

性rdquoの改善につながる知見を得ることを目的としたそこでまずSP ガラスを母体ガラ

スとし第三成分に Nb2O5を添加した Sn-Nb-P SNP ガラスZnO を添加した SZP ガラスを

作製し耐水性を中心とした物性評価を行った次に分光学的手法で構造解析を行い

Qn 分布を導き出した最後に放射光を用いた構造解析を行い耐水性改善に関する構造的

な考察を行った以下に本研究で行った検討内容を示す

(1)SPガラスおよび第三成分Nb2O5 ZnOを添加した三成分系SPガラスの物性評価(第 2章)

(2)SP 系ガラスの分光学的手法による Qn分布導出(第 3章)

(3)放射光を用いた SP 系ガラスの構造解析構造と耐水性改善の関連について(第 4章)

各章についてまとめた結果を以下に示す

第 2章

第 2章では二成分系および三成分系のリン酸塩系ガラスの各種物性(密度や熱的特性

耐水性)の評価を行った二成分系ではSP ガラスに加え良好な耐水性を有する鉄リン

酸塩(Fe2O3-P2O5)系ガラス(以下 FP ガラス)を比較のために三成分系では二成分系

の SP ガラスに Nb2O5を添加したニオブ含有 SP ガラス(SNP ガラス)および ZnO を添加し

た亜鉛含有 SP ガラス(SZP ガラス)を作製した

今回作製した SP 系ガラスは低ガラス転移温度を有していた各組成の温度域はSP

ガラスTg le 280 Sn-Nb-P SNPガラスTg le 3505SZP S5ZPガラスTg ≦ 450であった

各種 SP ガラスの耐水性試験の結果二成分系の SP ガラスよりも三成分系ガラスの方が

良好な耐水性を有していた65Sn-5Nb-30P 67S5N28P ガラスが最も耐水性が良好であり化

学的耐久性の改善には Nb2O5が ZnOよりも効果的であった

組成と耐水性に関してはDRおよび重量減がOP増加で単調に低下した結果が得られた

つまり耐水性を改善させるにはSP 系ガラスのガラス化範囲を拡大かつ OP を増大させ

る第三成分の添加が有効であることが示唆された

第 3章

第 3章ではSP 系ガラスの分光学的手法による Qn分布の導出を行ったラマン分光法を

用いて各ガラス系のリン酸塩アニオンの構造を簡易定量で評価し組成と構造の関係に

ついて考察した平均 BO 数 n と耐水性に関してはDR および重量減が平均 BO 数 nの減

少で単調に低下することが明らかとなった

平均 BO 数 n と OP の関係より耐水性改善には平均 BO 数 n を下げることそして

OP を上げることが重要であることが明らかになった

78

Nb5+の添加は平均 BO数を減少させるだけでなくOP も上げることからガラス構造

内の P-O-P 結合を減少させ水和反応加水分解反応が抑制され耐水性が大幅に改善さ

れることが示唆された故にNb2O5 のような高価数金属酸化物を添加することが効果的

であることが再度確認された

第 4章

耐水性向上についてより深く評価するためSP SNP ガラスの局所構造に関する知見を得

ることを目的に放射光を用いた構造解析を行った高エネルギーX 線回折(HEXRD)お

よび X 線異常散乱(AXS)法で測定したデータを再現する構造モデルを逆モンテカルロ

(RMC)シミュレーションで構築し構造解析を行った

RMC モデル中の PON多面体に関して平均配位数 Nが 4および P-O の平均結合距離が約

160Å平均結合角度angO-P-Oが約 109degという結果が得られた組成による大きな違いは確

認されなかったSnON多面体については平均配位数 N が 3~4 でSnO 量の増加に伴い 4

に近い値となった平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約 22Åで組成

による大きな変化は見られなかった

Nb2O5を 5 mol添加したガラスではNbON多面体の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平

均配位数N約4Nb-O平均結合距離約20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O

(約 105deg)と値が近いことまた6配位ではなく 4配位として主に存在していることから

SnO と同じような網目形成体として働いていると推測されたまた結合距離が Sn-O が約

22Åに対し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強

固にしていると考えられるまたSnO 量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体

的に各多面体同士の頂点共有が増えていることから耐水性の改善には頂点共有を多く

含む構造もしくは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的であること

が示唆された以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性

耐候性を改善した要因として考えられる

またAXS 法の有効性についても確認し効果的であることが判明したただし今回

は主成分が Snの組成のガラスでありHEXRD でも十分に詳細な Snの周辺構造が得られ

たためAXSを利用した場合との大きな構造の差は認められなかった

本研究では様々な優れた特徴を有する SP ガラスにおける耐水性改善のメカニズムにつ

いて検討を行ったこの系のガラスについてはこれまでほとんど利用されていなかった

放射光を用いた構造解析を駆使し第三成分の添加によってどのような構造的変化が生じ

耐水性を改善させるか新たな知見を得ることができた最終目標である機能性ガラスの

開発における新たなる材料設計指針の確立に対してldquo耐水性rdquoに関しては概ね明らかにな

ったと考えられる一方で今回検討していな電子状態化学結合性についても評価する

ことで溶出メカニズムの解明が可能になり材料設計指針の確立が期待される

79

発表論文リスト

口頭発表

第 2章および第 3章

(1) SnO-P2O5 系ガラスへの酸化物添加効果

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎

日本セラミックス協会第 25 回秋季シンポジウム No3C06 (名古屋市 2012年 9月)

(2) Effect of Nb2O5 addition to SnO-P2O5 glass (Poster)

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

International Union of Materials Research Societies International Conference on Electronic

Materials IUMRS-ICEM 2012 A-9-P26-003 (Yokohama 2012 年 9月)

(3) スズリン酸塩系ガラスの蛍光特性耐水性に及ばす酸化物の添加効果(ポスター)

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎

日本セラミックス協会 2013 年年会 1P070 (東京 2013年 3月)

第 4章

(1) 放射光を用いたスズリン酸塩ガラスの構造解析

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎小原真二臼杵毅

日本セラミックス協会第 27 回秋季シンポジウム 2B22 (鹿児島市 2014年 9 月)

(2) Structural analysis of tin phosphate glasses by synchrotron radiation (Poster)

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba Shinji Kohara Takeshi Usuki

International Congress on Glass ICG Annual Meeting Bangkok 2015 P14-138 p186 (2015)

発表論文

(1) Effect of Nb2O5 addition to SnO- P2O5 glass

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

Journal of the Ceramic Society of Japan Vol 120 No 11 pp530-533 (2012)

(2) Structural analysis of SnO- P2O5 glass

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

Journal of the Ceramic Society of Japan(準備中)

80

謝辞

本研究を遂行するにあたり終始暖かいご指導ご助言並びにご鞭撻を賜わりました岡

山大学大学院環境生命科学研究科 難波徳郎教授に心より感謝の意を表します

また本研究を遂行するにあたり懇切丁寧なご指導とご意見をしていただいた岡山大

学大学院環境生命科学研究科 紅野安彦准教授環境環理センター 崎田真一助教に心より

感謝いたします

本研究を遂行するにあたりラマン分光測定の使用についてご助言ご教授して頂い

た岡山大学自然科学研究科 藤井達生教授中西真助教に心より感謝の意を表します

Sn のメスバウアー測定の際に協力して頂いた岡山大学自然科学研究科先端自然科学教

育研究推進本部高田研究室 松本修治特任助教(当時旭硝子株式会社中央研究所)また

Feのメスバウアーを測定の際に協力して頂いた岡山大学自然科学研究科 藤井達生教授に

心より感謝の意を表します

固体 NMR の岡山大学自然科学研究科 早川聡教授に心より感謝の意を表します

本研究を遂行するにあたりSPring-8 にてHEXRD および AXS 法の測定法および原理

についてご教示頂きました物質材料研究機構 小原真司博士ならびに山形大学 臼杵毅

教授に心より感謝の意を表します

本研究は多くの後輩諸君の協力によって遂行されました特に実際に共同研究共同

実験を遂行して頂いたOG 藤原沙弥香さん博士前期課程 2 年 東利彦君OB 徳岡太誠

君学士課程 4年 塩田将大君に心より感謝の意を表しますまた難波研究室で共に研

究生活を過ごした卒業生在学生の方々に感謝の意を表します

また同時期に博士後期課程に在籍された香川高等専門学校の桟敷剛さんにはNbに

関する有益な情報だけでなく辛い状況でも励ましを頂きました心より感謝の意を表し

ます

最後に長きに渡る学生生活を認め経済面だけでなく精神面でも支援してくださった

家族に心より深く感謝の意を表します

平成 28年 3月

福井 聡史

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1

第 1章 序論

11 本研究の背景

111 鉛含有ガラス

鉛含有ガラスはおおよそ西洋では古代メソポタミア文明東洋では紀元前 4 ~ 5世紀

の中国戦国時代と古くから使用されているガラスの一つで人間の歴史の中でも非常

に重要な役割を果たしてきたガラスである[1 2]中国の珠玉類の装飾品の製作に始まり

低融点や高電気抵抗高屈折率といった工業的に重要な特徴を有することから現代まで

に封着ガラスや蛍光灯ブラウン管テレビ光学ガラスクリスタルガラス(Fig 11)な

ど様々な用途に使用されてきた[2 3]また放射線を吸収する性質を有すること技術の

発達と共に X 線を用いた医療や研究などが主流になってきたことから放射線遮蔽用鉛ガ

ラス(Fig 12)として用いられている[2 -4 ]

現在鉛の使用が鉛中毒によって人体へ悪影響(神経系や免疫系への障害)をもたらす

ことが一般的に認知されている[2 - 4]元々ローマ時代から鉛と病気の関連性は認識され

ていたようではあるが実際に規制が始まったのは 20世紀半ば頃であり日本では1935

年に「おしろい」原料の鉛白 (2PbCO3Pb(OH)2)の使用禁止1975年のレギュラーガソリン

の無鉛化などの規制が始まった[2 4 5]さらに人体だけでなく環境や野生生物への害も

問題視されている例えば日本では土壌地下汚染や鉛散弾による動物の鉛中毒[4]

海外では土壌汚染や水質汚染による鳥類への影響(イギリス)[6]鉛を含む重金属の流

出による海藻への影響(リビアのMediterranean海)[7]土壌水質作物汚染(ナイジェ

リア)[8]の報告があるこれらの報告には食物連鎖も関係しており最終的に人類にも悪

影響を及ぼすと予測されるまた欧州連合(EU)では電子電気機器における有害物

質の使用制限を指令した RoHs指令(Restriction of Hazardous Substances Directive)が施行さ

れ[9]この指令の該当有害物質の一つに鉛も含まれているこれらの懸念から現在出来

る限り鉛を使わないようにする風潮があり様々な分野において鉛フリー材料への開発が

活発となっている

112 リン酸塩ガラス

リン酸(P2O5)はケイ酸(SiO2)およびホウ酸(B2O3)と共に代表的なガラス形成酸

化物の一つであるP2O5ガラスはSiO2やB2O3ガラスと比較すると低ガラス転移温度(Tg)

や高熱膨張率を有し[10 11]また反応性に富むことから様々な金属酸化物やハロゲン化

物と組み合わせてガラス化できることが知られている[12]そのため応用例としてレー

ザーホストガラス[13]やモールドガラス[14]光学ガラス[15]封着ガラス[16]生体ガラス

[17]放射性廃棄物固化ガラス[18]など多くの分野で実用もしくは使用検討されている

P2O5ガラスは四種類の Qn構造(nは架橋酸素 BO の数)[11 19]をとることが知られて

2

いる(Fig 13)ここでガラス修飾酸化物であるアルカリ土類金属酸化物MgO を添加し

た場合を例として簡潔に説明するQ3の P2O5ガラスはP2O5 = 100 molでありP

5+イ

オン一つに対し四つの O 原子が配位されるそのうち一つは二重結合の P=O であり

BO の数がrdquo3rdquoとなるQ2の P2O5ガラスはP2O5 = 50 molでありP2O5 MgO = 1 1 の

metaphosphate 組成となりBO の数はrdquo2rdquoで残り二つの O は Mg2+と結合するQ

1の P2O5

ガラスはP2O5 = 333 molでありP2O5 MgO = 1 2pyrophosphate組成となりBOの数はrdquo1rdquo

で残り三つはMg2+と結合されるQ

0の P2O5ガラスはP2O5 = 25 molでありP2O5 MgO

= 1 3 の orthophosphate組成となりBO の数はrdquo0rdquoで非架橋酸素 NBOのみとの結合とな

るFig 13 で併記されている OP はその P2O5ガラスの理想的な O と P の原子数の比で

あるこの数値は構造の目安に頻繁に使用される

P2O5 ガラスの大きなでめりっと弱点に耐水性耐候性(各々後述する)が非常に低い

ことが真っ先に挙げられる[20]この二つの性質は化学的耐久性の種類でどのような分

野においても実用化のためには解決が必須の問題である耐水性に関してはpyrophosphate

組成では良好になると考えられておりOP で示す数値は耐水性の指標にもなり得る

113 P2O5ガラスの溶出メカニズム

P2O5ガラスの溶出プロセスは①加水分解反応と②水和反応によるものが主となる[20]

①加水分解反応

Fig 14に加水分解反応の模式図を示す赤字で記した Oは架橋酸素であるP-O-P 結合

部に水分子(図中 H+ OH

-)が攻撃しポリリン酸鎖が切れる反応であり二つのリン酸鎖

が精製する

②水和反応

Fig 15 に水和反応の模式図を示す[21]P2O5ガラスに修飾金属イオン(M2+)が入ると

いくつかの長い重合リン酸アニオンが金属イオンに配位することで構造が安定化する

水和反応は水分子がこの金属イオンとの結合を切断することでリン酸鎖状構造が直

鎖状リン酸塩やオルトリン酸塩のようなリン酸塩グループの溶出が生じる反応である(緑

色枠)

二つの反応を抑制し耐水性を改善するためにはP-O-P 結合を他の結合に置き換えた

P-O-A 結合を増やすことが重要となるすなわち多成分系(三成分系以上が望ましい)ガ

ラスにすることである一般的に改善するために効果的だと知られている成分はAl2O3 と

Fe2O3 B2O3である[22 - 25]Fig 16 にアルミナ含有 P2O5ガラスの構造模式図を示すP2O5

ガラスにアルミナを入れるとガラス中において Al3+は[AlO4]四面体の構造をとる[26]赤

破線枠で囲んだ部分を見ると[PO42]+四面体における正電荷と[AlO42]

-四面体の負電荷とで

二つの四面体が結合しldquo組rdquoを作り電荷が相殺されるそしてPO4四面体における NBO

3

(図中の青い O)が Al と結合することによって BO に変化し構造を強化すなわち耐水性

が改善されると考えられるB2O3でも同様の現象が生じると考えられる鉄リン酸塩(FP)

系ガラスの場合ではFig 17 に示すようなFe3+

-On Fe2+

-On PO4の各多面体が連鎖した構

造をとると考えられる[27]Feイオンが価数に関わらず六配位を取っていることからP-O-P

結合よりも Fe-O-P 結合が多く存在するため加水分解が起こりにくく耐水性の高いガラ

スとなる

114 化学的耐久性耐候性

耐候性とは水分子によりリン酸塩が溶出する耐水性とは別の性質でガラス表面の劣

化に対する性質でこの劣化を表す方法には大きく二種類に分別される[1]Fig18 に耐

候性に関するガラスの侵食機構の模式図を示す[1]一つ目は「青ヤケ」と呼ばれるもので

主に SiO2ガラスの表面の修飾イオンと H3O+イオンとのイオン交換の結果ガラス表面に干

渉色のような反射光(低屈折率のガラス層が生成されたことを意味する)が確認される性

質である二つ目は「白ヤケ」と呼ばれるものでガラス表面に水が付着することでイ

オン交換反応が生じて白く曇って見える性質である

115 スズリン酸塩(SP)系ガラス

酸化スズ(SnO)は酸化鉛(PbO)と同じような性質(結晶構造や両性酸化物であるこ

となど)を有しており[28 29]人体や環境への毒性についてほぼ注意せずとも問題のな

い物質である[30]上述した P2O5と組み合わせたスズリン酸塩(SP)系ガラスは低融点

高屈折率無色透明といった特徴を持ち鉛フリー材料の候補の一つとして期待されてい

る具体的な研究例として光学ガラス[31]や封着ガラス[28 32]リチウムイオン二次電池

のアノード[33]などがあるまたSn2+が ns

2型の発光中心として知られ[33]紫外線照射下に

おいて白色蛍光を示すことから希土類フリーの白色蛍光体として注目されている[13 35]

SnO-ZnO-P2O5系ガラスについては実用化されている結晶蛍光体(MgWO4)と比較しても

遜色のない量子効率を有することが分かっている[35]

その一方でSP ガラスについても P2O5系ガラス特有の耐水性の低さが問題であり第三

成分の添加が必須となるすでに述べたが耐水性の問題は鉛フリー材料や希土類フリ

ーの蛍光体といった新規材料として工業的に使用するためには必ずクリアしなければなら

ない問題であるまた使用目的に合わせた成分探索もよく考慮しなければならないため

添加する成分の選択も非常に重要である

12 本研究の目的と意義

本研究の目的はSPガラスやの物性および構造解析を行うことで主に化学的耐久性に

関する要因を解明し新規高機能性ガラスの開発における新たな材料設計指針の確立を目

指した多成分系ガラスの中ではシンプルな組成である三成分系ガラスから解明すること

4

で基礎的な情報を得ることをまず目指したその後の求められる知見は以下に示すと

おりである

① SP ガラスの問題点である耐水性について第三成分を添加することでどの程度改善さ

れるかを把握する第三成分の選択についても検討する

② 第三成分の添加による SPガラスの構造的変化について把握する

③ 構造と耐水性改善の関係について把握する

13 本論文の構成

本論文は以下の 5章から構成されている

第 1章序論では本研究の背景問題提起および目的意義を述べている

第 2章ではSP ガラスおよび二種類の第三成分(Nb2O5 ZnO)をそれぞれ添加した三成分

系 SP ガラスを作製し耐水性を中心とした物性評価を行ったそして各ガラス系の耐水

性と組成の関係性について検討した

第 3章ではラマン分光法を用いて各種 SP ガラスFP ガラスの構造解析を行ったラマ

ンスペクトルから Qn分布を導き出し耐水性とガラス構造の関係性について検討した

第 4章では放射光を用いてSP ガラスおよびニオブ含有 SP ガラスの構造解析を行った

ラマンスペクトルからでは詳細に出来ない SP ガラスの Sn Nb 周辺構造の解明に加え耐

水性と構造との関連性について検討したまた今回構造解析のために用いた X 線異常散

乱法の有効性についても検討した

第 5章は総括である

参考文献

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6

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7

Fig 11 鉛含有ガラスの一例クリスタルガラス

転載ペアワイングラスltボナールgtカガミクリスタル株式会社

Fig 12 鉛含有ガラスの一例放射線遮蔽用ガラス

転載放射線遮蔽用ガラス LX-57B電気硝子建材株式会社

8

Fig 13 リン酸塩ガラスの Qn構造とその組成 [11]より転載

9

Fig 14 リン酸塩ガラスの溶出メカニズム模式図加水分解反応

10

Fig 15 リン酸塩ガラスの溶出メカニズム模式図水和反応 [21]より転載

11

Fig 16 アルミナ含有リン酸塩ガラスの構造

Fig 17 鉄リン酸塩ガラスの構造 [27]より転載

P

O

O

OO Al

O

O

O P

O

O

O Al

O

O

O P

O

O

O

12

Fig 18 ガラスの侵食機構(耐候性)[1]より転載

13

第 2章 スズリン酸塩系ガラスの物性評価

21 緒言

前章で述べたようにスズリン酸塩(SP)系ガラスは無色透明高透過率低ガラス

転移温度など工業的に興味深い特徴を有することが知られている[1]またSn2+が ns

2型の

発光中心となり紫外線照射による白色蛍光を示すことから希土類フリー白色蛍光体とし

ての研究も数多くなされている[2 3]

しかし実用化に向けてはこの系のガラスについてもリン酸塩系ガラスに特有のldquo耐

水性rdquoldquo耐候性rdquoの低さが問題となる[4]この問題点を解決するために第三成分として他

の化合物を加えることが有効でありSP ガラスにおいてはB2O3や ZnO SiO2 MgO MnO

など様々な物質を第三成分として添加した研究報告[5 - 9]があったりNH3雰囲気下で数日

間溶融作製することでガラスを一部窒化することで耐水性を改善させたりという報

告もある[10]SP ガラスに限定しないリン酸塩系ガラスではZnO-P2O5 系ガラスに Sb2O3

や MoO3を添加した報告[11 12]や Na2O-P2O5系ガラスに CuO を加えた報告[13]P2O5-CaO-

Na2O に Ag2Oを添加した報告[14]Na2O-K2O-CaO-P2O5ガラスの一部を窒化することによる

方法[15]等があり数多くのリン酸塩系ガラスの耐水性改善に関する研究がなされている

本研究では高価数金属酸化物および低価数金属酸化物の二種類をそれぞれ第三成分と

して添加した高価数金属酸化物には Nb2O5を低価数金属酸化物には ZnO の二種類の酸

化物を選択した

Nb2O5は古くから光学ガラスの成分として頻繁に使われる物質であり様々な企業から数

多くの特許が出されている[16 17]また耐水性の改善に有効であるとの報告や比較的低

温でもガラス作製ができることが知られており(当然のことながら組成に影響される)

鉛フリーの封着ガラスとしての研究もなされているZnO についてはこれ自体は無着色

成分であるため無色透明なガラスが得られることから光学ガラスの成分に用いられる

ほとんどの組成で低融点ガラスとなり[18 19]これらの特性からSnO-ZnO-P2O5(SZP)

系ガラスは Sn2+を発光中心とした蛍光体の研究対象となっていることが多くSP 系ガラス

では一般的なガラス系である

本章では第三成分を含まない SP ガラスおよび Nb2O5または ZnOを SP ガラスに添加し

た三成分系ガラスをそれぞれ作製し耐水性試験を中心とした各種物性評価を行った比

較対象に耐水性の優れることで知られる鉄リン酸塩系ガラスも同時に作製することでSP

系ガラスへ添加したそれぞれの第三成分の耐水性に対する有効性を検討した

22 実験方法

221 ガラスの組成選択

本研究において作製した SP ガラスは以下の五種類の系列を選択した

14

① スズリン酸塩ガラス(xSnO∙(100-x)P2O5 x = 50 60 67 70 mol)

(略称 SP ガラス組成は 50S50P と表記)

② ニオブ含有 SP ガラス(65SnO∙xNbO25∙(35-x)P2O5 x = 0 1 2 3 4 5 mol)

(略称 Sn-Nb-P ガラス組成は 65S-0Nb-35P と表記)

③ ニオブ含有 SP ガラス(xSnO∙5Nb2O5∙(95-x)P2O5 x = 50 60 67 mol)

(略称 SNP ガラス組成は 50S5N45P と表記)

④ 亜鉛含有 SP ガラス (S5ZP ガラス)(xSnO∙5ZnO∙(95-x)P2O5 x = 55 62 65 mol)

(略称 S5ZP ガラス組成は 55S5Z40P と表記)

⑤ 亜鉛含有 SP ガラス (5SZP ガラス)(5SnO∙xZnO∙(95-x)P2O5 x = 55 62 65 mol)

(略称 5SZP ガラス組成は 5S55Z40P と表記)

(④と⑤は総じて SZP ガラスと表記する場合がある)

それぞれの選択理由はガラス化範囲(各ガラス系のガラス化範囲を Fig 21および Fig

23 に示す)作製の容易さ(気泡の入りにくさ流し出しやすさ)等を考慮し決定した

組成ごとに詳細な選択理由を述べると

②についてNb を P と置換した組成であるFig 22 に示した溶融温度 1100で作製した

Sn-Nb-P ガラスの外観写真より目視でも明らかに透明性の高く着色量の少ない組成は(d)

の 65Sn-5Nb-30P でありこの外観写真を参考に組成を決定したSnO 量を 65 molに固定

しNbO25量を 5 molから 0 mol(Nb無添加組成)まで減少させた組成(Fig 21 の緑線

の組成)を選択しこのガラス系の物性の変化を確認した

③はNb2O5量を 5 molに固定しSn を P と置換した組成であるNb と P は酸化数が

同じ 5価であるためこの組成では同じ SnO量の二成分系 SP ガラスと比較した際酸素

の総量に変化が生じない(例えば67S33P と 67S5N28P)またNb5+イオンはガラス中

では4配位および6配位を取るという報告が多い(結晶の場合他の配位数を取る)た

め配位数が4の P5+の置換に適していると考えた

④⑤に関しては気泡のrdquo入りづらいrdquoもしくはrdquo入らないrdquoSnOおよび ZnOが各 5 molにな

る組成を選択したSZP ガラスはFig 23 に示すガラス化範囲のようにガラス化範囲は

非常に広範囲であるしかし気泡が入りやすく脈理のようなものも見られる組成が多く

目視ですら不均質なガラス組成がほとんどであった(これらの組成も粉末にして XRD を測

定するとガラスであった)そのためバルク体でガラスを得られることが困難な組成も多

い(Fig 24 にその一例の SZP ガラスを示す)そこで第三成分の添加量を可能な限り少

ない組成を選択することでバルク体で目視上ldquo均質rdquoなガラスを得た(Fig 23 の青線と

紫線の組成)

また上述したように耐水性の比較対象である鉄リン酸塩ガラスを二成分系で作製し

15

た(FP ガラス)組成はxFe2O3∙(100-x)P2O5 x = 20 25 30 35 40 mol を作製した

222 ガラス作製

Figs 25 - 27に各ガラス系の作製フローチャートを示す出発試薬にSnO NH4H2PO4

Nb2O5 ZnO を使用し各々秤量した秤量混合後アルミナ坩堝に入れか焼(仮焼き)

を行ったか焼条件はSP Sn-Nb-P SNP SZP ガラスは350または 400 6-30 minFP ガ

ラスは600 30 min で行った溶融温度および溶融時間はSP ガラス1100 30 min

Sn-Nb-P ガラス1100 30 minSNP ガラス1000または 1250 20 min SZP ガラス

1100-1200 30 min 各々N2雰囲気下で作製したN2雰囲気下で行った理由はSn2+が Sn

4+

にほとんど酸化されてしまうとガラスが得られなくなるためSn2+の酸化を防ぐ目的がある

[19]FP ガラスは1200 - 1550 30 min大気雰囲気下の条件で作製した溶融後350

に温めておいたスチールモールドに流してプレスした後FP ガラス以外はガラス転移温度

Tg付近でアニールを 1 h行い目的のガラスを得た耐水性試験用のガラス形状はダイヤモ

ンドカッターで大まかに整えた後鏡面研磨まで施して型取ったここでFP ガラスのみ

アニール工程を省いた理由はSP ガラス等はアニールをして歪みを取らなければ正確に

切断できない場合が生じた一方でFP ガラスはアニールをせずとも十分正確にカットで

きたためアニール工程を省いたまた50S50P のみ厚みが必要になると必ず気泡が入

ってしまうため耐水性試験では気泡の入ったものを使用した

223 物性評価

得られたガラスの物性の比較を行うために以下に示す分析を行った

(1)ガラス状態の確認

作製したガラスが結晶の混在していないものかを確認するためにまた耐水性試験

後のガラスが結晶化しているかの確認のためにX 線回折装置(XRD Rigaku RINT-2100)

を用いて分析した全てバルク体で測定したが耐水性試験後ではバルク状態が保てな

いものもあったためその試料については粉末で測定した

(2)組成分析Sn Fe 価数分析

得られたガラスについてアルミナ坩堝の使用によるアルミナのガラスへの混入および

それに伴う組成ズレの確認のために走査型蛍光 X 線分析装置(XRF Rigaku ZSX Primus

Ⅱ)を使用し組成分析を行った分析はバルク体で定性分析法にて測定した

またSn が二価のままどのくらい存在しているかを調べるために Sn-Nb-P ガラスを用い

てSnの価数分析をメスバウアー分光法にて行ったSnの測定は reference [20]に示す旭硝

子の公開特許に記載されている方法で行ったFP ガラスについても価数変化を調べるた

めにメスバウアー分光法にて Feの価数分析を行ったFeの測定は(株)トポロジック

システムズ MDF-200)を用いて評価を行った

16

(3) 密度(ρ)およびガラス転移温度(Tg)評価

各ガラスの密度(ρ)測定はケロシンを用いたアルキメデス法で測定したガラス転

移温度(Tg)を評価するために示差熱―熱重量測定装置(SDT TA instrument Japan Q600)

を用いたアルミナパンを使用し測定条件はN2雰囲気下 10 Kmin 700までの温度範

囲にて行った

(4)耐水性試験

各ガラスの耐水性について評価するために耐水性試験をMCC-1法[21]にて測定した(Fig

28)条件は75 72h ガラスサイズ 12times10times02 cm (plusmn01 cm) 蒸留水の pH は 72-77

で行い浸漬後サンプルを乾かして重量を量った溶出速度(Dissolution Rate DR)は重

量減(ΔW) サンプル表面積(S) 浸漬時間(t)から以下の式によって算出した[22]

DR = ΔW (kg) S (m2) t (s)

また浸漬前と 72 h 後の重量減()も合わせて算出した

23 結果考察

231 組成分析 Snおよび Feの価数評価

Table 21に各試料の組成分析結果を示すまずアルミナ Al2O3の量を見るとガラスに

混入した量がほとんどの組成で 25 mol以下で多くても 35 molを下回る量であった

そのため各種特性についてアルミナの影響はほとんどないと考えられる[23 24]組成

によってその量に差があるのは溶融温度の違いによることに起因している組成分析の

結果今回作製したガラスは仕込み組成と大きな差がないと判断した

Fig 29に Sn-Nb-P ガラスの Snのメスバウアースペクトルをそこから得られたメスバウ

アーパラメーターを Table 22に示す得られた結果よりSn-Nb-P ガラスでは95以上の

割合で Sn2+のまま存在していることが分かった不活性雰囲気で作製したことP2O5 の出

発原料に NH4H2PO4を使用したことにより(か焼は行なっているが)還元雰囲気になったた

めSn4+にほとんど酸化されることがなかったといえるこの結果SP 系ガラスではほぼ

Sn2+のまま存在していると仮定した

Fig 210に FP ガラスの FeのメスバウアースペクトルをTable 23 にそこから得られたメ

スバウアーパラメーターを示すFP ガラスについては組成に関わらず酸化還元平衡に

より 20 ~ 30が Fe2+になりまたFe2O3 ge 30 molの際化学的にも安定であることが知

られている[27]実際にFe2O3 ge 30 molの際Fe2+は概ね 20 ~ 30存在している結果が得

られた一方でFe2O3 lt 30 molの際はFe2+が 40以上と高い割合で存在していることが

判明したこれは出発原料の NH4H2PO4の多量使用によること溶融温度が 1550と高

いことが要因で還元がより進行したためと予想される

17

232 ρおよび Tg

Table 24にρおよび Tgの結果を示す二つの特性結果はそれぞれのガラス系において

SnO や Nb2O5ZnO といった金属酸化物が増えるにつれて大きくなっているSP Sn-Nb-P

SNP S5ZP 系ガラスの Tgはほとんどが 300前後であり最も高い温度でも67S5N28P

の 346であった一方5SZP 系ガラスは400~440となり他のガラス系と比較する

と若干高い温度となったそれでも今回作製した第三成分を添加したガラスは低 Tgを有

するガラスであると判断できSP ガラスの特性を維持できたと判断できる

60S5N28P と 62S5Z30P のようなほぼ同じ OP を示すもので比較した際にNb2O5添加が

ZnO 添加よりも Tgが高くなったのは①配位数が同配位数になり得るイオンの場合(例え

ば Nb5+と Zn

2+なら4配位など)ポーリングの第 2 法則[25]より高価数イオンの方が結合

強度が強くなる②diatomic cationの解離エネルギーがNb-O (688plusmn11 kJmol)[26]に対しZn-O

(1611plusmn48 kJmol)[26]と大きな差があるため Nb-Oの結合が強い故に熱的に安定化され

Tgが高くなったと考えられる

233 耐水性試験前後の外観写真

Figs 211 - 216に各ガラスの耐水性試験前後の外観写真を示すFig 211 の SP ガラスを

観察するとSnO 量の少ない 50S50P 60S40P は浸漬時間が経過するにつれて元々の形状

が崩壊したりガラス自体が膨張したような状態になったりしたSnO 量の多い 67S33P

70S30P について形状は崩れることはないが透明性が失われる(白ヤケ)耐候性が低いこ

とが確認できるFig 212 に示す Sn-Nb-P ガラスではNb2O5無添加の 65S-0Nb-35P は浸漬

時間 24 h で透明性が失われているがNbO25量の増加させていくと徐々に透明性が回復

しており4 mol添加した 65Sn-4Nb-31P では72 h後においてもほとんど変化が確認でき

ないNbの添加量を変えた Fig 213に示す SNP ガラスではSP ガラスと同様に SnO 量の

少ない 50S5N45P は時間経過と共にガラス全体にldquoひびrdquoのようなものが見え72 hの実

験終了後最終的にテフロン糸を外す段階で簡単に割れたしかし50S50P や 60S40P と比

較すると耐水性が大幅に良くなったまた60S5N35P 67S5N28P は耐水性が良好なこと

だけでなく耐候性についても向上していることが目視で判断できる一方で二種類の

SZP ガラス(Figs 214 215)を観るとP2O5量の少ない 5S55Z40P および 55S5Z40P では

形状が崩れるか析出物が現れる結果となったこの組成よりP2O5 量を減少させるとSP

ガラスと同じように形状は崩れないが透明性が若干失われる結果となった

Fig 216 に比較対象の FP ガラスの耐水性試験前後の写真を示すこの組成ではFe2O3

量の少ない20F80Pにおいても形状が全く崩れない結果が得られたしかしFe2O3 lt 30 mol

の組成において表面に干渉色のような反射光が若干確認できたこれはおそらく青ヤ

ケが発生したためであると考えられる

18

234 耐水性試験前後の構造変化

Figs 217 - 222に各ガラスの耐水性試験前後の XRDパターンを示す耐水性試験前では

ガラス化を全組成で確認した(Figs 217(a) - 222(a))しかし耐水性試験後における外観

写真で形状の崩れたもしくは析出物の得られたガラス組成では結晶が生成したことが

確認された形状の崩れた三組成のうち50S50P 60S40P ガラス(Fig 2214(b))では三

種類の結晶ピーク(SnP2O7 Sn2P2O7 Sn3(PO4)2)が確認でき5S55Z40P については(Fig

2214(b))結晶同定の判断はできなかったが ZnOの多い組成であるためおそらくリン酸

亜鉛の何れかの結晶だと推測された析出物が得られた 55S5Z40P はガラス matrix部と析

出物に分けて測定したところガラス matrix 部はガラスのままであり析出物は SnP2O7

Sn2P2O7の二種類の結晶ピークが確認できたガラス形状に変化がなかったその他の組成は

ガラス状態が保たれていたSn4+の結晶のピークが確認されたのは50S50P のガラスには

気泡が残っておりその気泡から酸化されたかもともと溶融工程で電気炉内に残って

いた酸素によってSn4+に酸化されたか等が考えられる

235 溶出速度(DR)および重量減

Table 24に DR重量減の結果および仕込み組成から計算した OP を示すSP SNP S5ZP

ガラスではSnO 量の増加に伴いSnO量の固定された Sn-Nb-P 5SZP ガラス系ではそれ

ぞれの金属酸化物の増加に伴いDR重量減は減少傾向にあったFP ガラスでは全組成

において DR 重量減共に変化が全く確認されなかったそのため青ヤケのようなものが

確認された FP ガラス(Fe2O3 lt 30 mol)については電子天秤では変化が見られない程度

の重量減であったと推測される二種類の SZP ガラスで比較するとSnOと ZnO量が入れ

替わってもほぼ誤差範囲内と思われる結果が得られたガラス全体の比較では外観写真

で変化が見られなかった FP ガラスと 65S5N28P 65Sn-5Nb-30P のガラスが DR重量減がと

もにゼロという結果が得られた

組成と DR 重量減の関係性を見るために作成した図をFigs 223(DRと OP の関係性)

224(Fig 224に重量減と OP の関係性)に示すそれぞれの図にリン酸塩の三つの構造

の OP も表記した双方の図よりDR 重量減共に OP が増加することで単調に下がって

いることが分かるこの結果はリン酸塩の構造ではorthophosphate 組成で耐水性良好が

あるため[22]一般的な結果と同じ挙動であるまた耐水性の良かったNb2O5添加の SNP

ガラスは異なる挙動(傾き)が得られた

以上の結果より第三成分添加による耐水性の改善を確認し特に Nb2O5 の添加による

影響は大きいことが判明したまたOP の増加による耐水性が改善する結果が得られた

次章の第 3 章にて各ガラス系の構造解析を行い第三成分特に Nb2O5の耐水性への有

効性について調査した

19

24 結言

本章ではSP ガラスおよび第三成分の Nb2O5 ZnOを添加した SP ガラスの物性評価を行

うことで耐水性改善への第三成分添加の有効性を確認した各々の物性について以下に

まとめる

低ガラス転移温度を有する SP ガラスは最も SnO 量が高い 70S30P でも Tg le 280であ

ったNb2O5を添加した Sn-Nb-P SNP ガラスではTgの上昇は見られたが Tg le 350

ZnOを添加した 5SZP S5ZP ガラスではTg ≦ 450であり両金属酸化物の添加でも低

ガラス転移温度を維持しているガラスが得られたNb2O5 添加が Tg を上昇させたのはポ

ーリングの第 2法則より高価数イオンの方が結合強度が高くなるためと結論付けた

耐水性試験結果の外観写真を観るとSP ガラスの SnO 量 le 60 mol 5SZP ガラスおよび

S5ZP ガラスの P2O5量 = 40 molの組成についてガラスサンプルの形状が大きく変化して

おりDR 重量減も高く耐水性の低さが明らかであった得られた析出物はSnP2O7

Sn2P2O7 Sn3(PO4)2 および亜鉛リン酸結晶の一種であると予想されたその他の組成では

透明性の失われた組成がいくつかあったが外観写真では変化が見られなかった FP ガラス

と 65S5N28P 65Sn-5Nb-30P のガラスが DR重量減がともにゼロという結果が得られた

組成と耐水性に関してはDRおよび重量減がOP増加で単調に低下した結果が得られた

つまり耐水性を改善させる有効な手段はSP 系ガラスのガラス化範囲を拡大かつ OP を

増大させる第三成分の添加によることであることが示唆された

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21

Fig 21 三成分系 SnO-NbO25-P2O5 系のガラス化範囲

Fig 22 作製した Sn-Nb-P ガラス

(a)50Sn-5Nb-45P (b)55Sn-5Nb-40P (c)60Sn-5Nb-35P

(d)65Sn-5Nb-30P (e)70Sn-5Nb-25P (f)60Sn-10Nb-30P

(g)55Sn-20Nb-25P (h)60Sn-15Nb-25P (i)65Sn-10Nb-25P

22

Fig 23 三成分系 SnO-ZnO-P2O5系のガラス化範囲

Fig 24 作製した SZP ガラスの一例

(気泡や脈理のようなものが確認できた組成)

23

Fig 25 SP SZP ガラスの作製フローチャート

Fig 26 Sn-Nb-P SNP ガラスの作製フローチャート

(気泡や脈理のようなものが確認できた組成)

24

Fig 27 FP ガラスの作製フローチャート

Fig 28 耐水性試験(MCC-1法)

25

Table 21 各ガラスの組成分析結果

26

Fig 29 Sn-Nb-P ガラスのメスバウアースペクトル

Table 22 Sn-Nb-P ガラスのメスバウアーパラメーター

27

Fig 210 FP ガラスのメスバウアースペクトル

Table 23 FP ガラスのメスバウアーパラメーター

28

Table 24 各ガラスの物性(密度(ρ)ガラス転移温度(Tg)溶出速度(DR)重量減())

29

Fig 211 SP ガラスの耐水性試験前後の外観写真

Fig 212 Sn-Nb-P ガラスの耐水性試験前後の外観写真

30

Fig 213 SNP ガラスの耐水性試験前後の外観写真

Fig 214 S5ZP ガラスの耐水性試験前後の外観写真

Fig 215 5SZP ガラスの耐水性試験前後の外観写真

31

Fig 216 FP ガラスの耐水性試験前後の外観写真

32

Fig 217 SP ガラスの XRD パターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

33

Fig 218 Sn-Nb-P ガラスの XRD パターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

34

Fig 219 SNP ガラスの XRD パターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

35

Fig 220 5SZP ガラスの XRDパターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

36

Fig 221 S5ZP ガラスの XRDパターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

37

Fig 222 FP ガラスの XRD パターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

38

Fig 223 各ガラス系の DR と OP の関係性

39

Fig 224 各ガラス系の重量減と OP の関係性

40

第 3章 分光法を用いたスズリン酸塩系ガラスの構造解析

31 緒言

前章ではSP ガラスおよび第三成分に Nb2O5 ZnOを添加した Sn-Nb-P ガラスSNP ガラ

スSZP ガラスの物性特に耐水性に関する第三成分添加の有効性を明らかにしたその添

加した第三成分の二種類についてもNb2O5 の方が ZnO よりも溶出速度重量減ともに抑

制することができSP ガラスの低ガラス転移温度という特性も維持されていることが判明

したしかし現段階では本研究の主要な物性である耐水性改善の要因が明確になって

いない組成の観点からはOP の値が高い組成が良好な耐水性であることが分かったが

組成だけでは耐水性改善のメカニズムについて完全には理解できないここでリン酸塩

ガラスの溶出のメカニズムは第 1 章で述べたように加水分解反応と水和反応が要因とな

る[1 2]この機構はそれぞれリン酸の構造つまり架橋酸素 BO の数が大きく関わって

おりリン酸アニオンの[PO4]ユニットの架橋酸素数を知ることが重要であるこの BO の

情報を得るためにはガラス構造を示す指標の一つである Qn(n は[PO4]ユニット中の架橋

酸素数を表す)を調べることが必須であるまたQn の分布を調べるためにはガラスの

構造解析を行う必要性がある

ガラスの構造解析には種々の方法があり特にラマン分光法や赤外(IR)分光法核

磁気共鳴法(NMR)などの分光学的手法を用いた構造解析の報告が多い[3-5]ラマン分光

法および IR分光法は原理は異なるがどちらも結合の振動モードを測定する手法であり[6]

リン酸塩ガラスだけでなくケイ酸塩ガラスホウ酸塩ガラスなど様々なガラス系にて測

定がなされている[7 8]また得られた結合状態の情報からリン酸塩アニオンの Qn分布

を調べることも可能であるNMR は共鳴吸収ピークの化学シフト(共鳴周波数のズレ)

から構造を決定する手法であるガラスの場合SiO2や B2O3 P2O5といった網目形成酸化物

の Qn分布を得るために一般的に使用されている手法である[9]

今回これらの測定の中でラマン分光法を選択し構造解析を行ったラマン分光法は

測定する際にサンプル形状を気にすることなく基本的にそのまま測定できるためIR 分

光法のようにサンプル形状で測定方法を変える必要はないまたIR 分光法では例えば

KBr 錠剤法やヌジュール法のように測定を行うためのサンプル調整に手間がかかる場合が

ある[6]さらに比較対象の FP ガラスではNMR を測定できないため作製ガラスを全

て比較検討できるようにラマン分光法を選択した

本章ではラマン分光法を用いて各ガラスの構造解析を行い[PO4]ユニットの Qn分布を

調査し平均 BO数 nを算出することで耐水性と構造の関係性を検討したまたラマン

分光法によって得られた Qn分布の妥当性を確認するためにSP ガラスおよび 67S5N28P ガ

ラスの NMRを測定も行い比較した

32 実験方法

41

321 サンプル準備

ラマン分光およびメスバウアー分光の測定では第 2 章で作製した各ガラスのバルク体

を用いたWD試験に使用したサンプルとは別にラマン測定用のサンプルを用意した適

度な大きさ大体 15 cm角程度のサイズになるようにガラスカッターで切断しその後

十分な平滑性を得るために鏡面研磨を施した

322 ラマン分光測定

使用したラマン分光装置は顕微レーザーラマン分光装置(Jasco NRS-5100)を用いた

用いたレーザー波長は 53208 nmであり400 - 2000 cm-1の範囲で測定した

Qn 分布を導くためにピークフィッティングを行いリン酸塩アニオンのラマンバンド

が現れる950 - 1250 cm-1付近および 700 - 750cm-付近の範囲で定量した

323 31P MAS NMR測定

31P MAS NMRの測定は Varian NMR System 500 を用いて32 mmの MASプローブ

202309MHzにて行った測定パラメーターを以下に示すπ4 パルス長さ 14 μs 待ち時間

(pulse delay)10 s 積算回数 3600 scan シリンダー円筒形状の Zrローターの回転スピード

160 kHz referenceとして二番目の基準物質として使われる NH4H2PO4を使用化学シフト

は85 H3PO4溶液から δ = 10 ppmである

33 結果考察

331 各ガラス系のラマンスペクトル

Figs 31 - 35にラマンスペクトルを示す各ピークは以下の通りに帰属し各スペクト

ル中に該当する構造をピーク位置に示した

1230 - 1260 cm-1 P=O NBO Q

2 [10]

1110 - 1150 cm-1metaphosphate (PO3)

- Q

2 [10]

1030 - 1100 cm-1pyrophosphate (PO35)

2- Q

1 [10]

970 - 1000 cm-1orthophosphate (PO4)

3- Q

0 [10]

920 - 930 cm-1asymmetric (P-O-P) Q

1 [10]

730 - 750 cm-1symmetric (P-O-P) Q

1 [10]

710 - 720 cm-1asymmetric (P-O-P) Q

2 [10]

810 - 820 cm-1Nb-O [NbO4] tetrahedron [11]

900 - 920 cm-1Nb-O isolated [NbO6] octahedron [11]

42

SP ガラスのラマンスペクトル(Fig 31)を見ると50S50P 60S40P ではmetaphosphate

の Q2 構造が支配的であるがSnO 量が増えるにつれてその構造が変化し70S30P では

pyrophosphateの Q1構造と orthophosphateの Q

0構造が共存した構造となっているまたSnO

量の少ない 50S50P および 60S40P において確認されたQ2構造の P=O のピークが見えなく

なっているつまり耐水性と関連して考えるとSnO量が増えるにつれてP-O-P 結合か

ら Sn-O-P 結合に代わり水分子との反応である加水分解反応を妨げる構造に変化している

ことがわかる

Figs 32 33にNb2O5を添加した Sn-Nb-P ガラスおよび SNP ガラスのラマンスペクトル

を示すまずSn-Nb-P ガラスについてNb 無添加の 65Sn-0Nb-35P は主に Q1構造であ

りNbO25が添加されることによってQ0構造に変化しQ

1 Q

0構造が共存しているような

ピークが得られた添加量が少ないガラス系であるため徐々に変化しているのを確認し

た800 cm-1を少し越えた 810 - 820 cm

-1付近にNb2O5を添加することでピークが現れそ

して添加量を増量することで強度が強まるピークがありこのピークは四面体の[NbO4]

のものと判断した

SNP ガラスのラマンスペクトルについてはNb2O5添加量を固定した組成であるためSP

ガラスのような挙動が観察された50S50N45P では50S50P ガラスと同じようにQ2構造

が主な構造でありSnO量の増加に伴って60S5N35P Q1構造67S5N28P Q

0構造に支配

的な構造が変化しているこれはSP ガラスと同じ傾向を示しているためP-O-P rarr Sn-O-P

に置き替わっていることが示唆されるNb-O に関するピークでは50S5N45P のみ[NbO4]

四面体のピークを確認できず900 - 920 cm-1付近に[NbO6]八面体のピークが確認された

SnO量が増量した 60S5N35P では810 cm-1付近の [NbO4] 四面体のピークが現れているが

[NbO6]八面体のピークと 900 - 920 cm-1付近の Q

1構造のピークが非常に近い(ほぼ重なって

いる)ことから60S5N35P については[NbO4] 四面体および[NbO6]八面体の共存の可能性

も考えられるまた67S5NP28 では[NbO4] 四面体のみのピークが観察されたためこ

の Nb-O の配位数変化は[PO4] unitの状態によって変化している可能性も示唆された

ZnO を添加した S5ZP ガラスおよび 5SZP ガラスのラマンスペクトルを Fig 34 に示す

図の下部三つが S5ZP ガラス上部三つが 5SZP ガラスのスペクトルであるSZP ガラスの

二系統を比べるとあきらかなスペクトルの違いが確認された各ガラス系で確認すると

SnO 量が最小の 55S5Z40P はQ2構造と Q

1構造の範囲に跨っているようなスペクトルが得

られた62S5Z33P および 65S5Z30P のスペクトルからはどちらもほぼ Q1構造であると判

断した5SZP のスペクトルは1000 - 1250 cm-1付近の範囲で裾を引くような(なだらかな)

スペクトルが得られたZnO 量が最小の 5S55Z40P にはQ2構造が主な構造に見えるが

shoulderピークのような Q1構造(1030 - 1100 cm

-1)が確認できる5S62Z40P においては

1000 - 1250 cm-1付近の範囲まで幅広いスペクトルが得られた730 - 750 cm

-1付近にピーク

が現れているためおそらく Q1構造が最も多く存在していると考えられる65S5Z30P では

Q1構造Q

0構造が共存しているようなピークが得られた

43

FP ガラスのラマンスペクトルを Fig 35 に示すFe量の少ない 20F80P 25F75P と他の三

つで構造が異なっていることである20F80P 25F75P はQ2構造と Q

1構造が基本構造にな

っていると判断できる 30F70P は1110 - 1150 cm-1付近に shoulderピークのようなものがあ

りQ2 Q

1 Q

0構造が共存しているようなスペクトルであった35F65P 40F60P はQ1構造

が主な構造でQ0構造があると判断した

332 平均 BO数 n (Qn分布)

まずピーク分離について散乱断面積が見積もれなかったためラマンの散乱強度比

を Qn分布として簡易的にピーク分離を行い(Fig 36)そこから平均架橋酸素数 BO 数 n

を算出したここでFig 37 に 31P MAS NMRスペクトルを示しTable 31に NMRおよび

ラマン分光より得られた平均 BO 数 n を示す(NMR の帰属 reference [12])表よりNMR

とラマンから得られた Qn分布はほぼ一致していることが分かった60S40Pについては支

配構造が NMR(Q1) ラマン(Q

2)で逆になったこれは60S40P の組成がQ

2と Q1のほぼ中

間の組成になるためこのようなズレが生じたと考えられるしかし今回のラマンによ

る Qn分布の算出についてはほぼ問題ないと判断した

Table 32にラマンスペクトルより求めた Qn分布平均 BO 数 nをを示しTable 24に示

した DR 重量減の結果を併記する

SP ガラスのうち耐水性が低いガラスは Q2構造によって形成されているSnO量の増加

によって NBOの増加とともに耐水性の向上が確認できSnOが入ることでSn-O-P 結合を

形成し水分子からの攻撃を受けにくくなっていることが考えられる

Sn-Nb-P ガラスでは基本的に Q1構造が主構造でNb2O5の添加が増えるにつれQ

0構

造が支配的になり耐水性は次第に向上していく最も耐水性のよかった 65S-5Nb-30P は

Q0構造での割合が非常に高く平均 BO数 n値が 03であった

SNP ガラスではP2O5量が多い組成の 50S5N45Pにおいても平均 BO数 nが 60S40P と

同じながらも耐水性が良くなっている67S5N28P はほぼ完全に Q0構造であり平均 Q

n

値は 0となった

SZP ガラスについてはS5ZP 5ZSP のどちらの系列についても耐水性の結果に大きな差

というものは確認されなかったが構造的にも平均 BO数 nが 09 10 17という結果であ

った

FP ガラスについてはFe2O3 lt 30 molのときは平均 BO 数 nが20 19と高い数値を

示したが耐水性は非常に良好であったこの結果より組成だけでなく構造的にも耐

水性高くなる要因が不明である一つの原因の可能性としてメスバウアーより得られた

Fe2+の存在比が 40以上と高かったことがFe2O3含有量が少ない組成時には効果的になっ

ているのかもしれない

333 平均 BO数 nと耐水性の関係性

44

Fig 38に DRと平均 BO数 nの関係性についてFig 39に重量減と平均 BO数 nの関係

性をそれぞれ示すまたOP の時と同様に各図にリン酸塩の三つの構造の平均 BO数

n も表記した双方の図よりDR 重量減共に平均 BO 数 nが低下することで単調に下がっ

ていることが分かるまた耐水性の良かったNb2O5添加の Sn-Nb-P SNPガラスはの DR

の挙動(傾き)はOP 時とも異なった挙動が得られた

Fig 310に OP と平均 BO数 nの関係を示す図中に示す茶色metaphosphate 黄色

pyrophosphate 灰色orthophosphate であるこの図から耐水性改善には平均 BO 数

n を下げOP を上げることが重要であるのが分かるまたNb5+の添加はOP を上げる

だけでなく平均 BO 数も減少させることから非常に効果的な成分であることが明らかで

あるこれはP5+から同酸価数 Nb

5+に少量でも置き換えることで平均 BO 数 n を下げ

OP を上げることを可能としている(実際に orthophosphate の OP4 よりも高い OP でガ

ラスが作製できている)つまりNb5+の添加によって P-O-P 結合が減少し水和反応加

水分解反応が抑制されているからである

以上の結果SP 系ガラスの耐水性改善には低い平均 BO 数と高い OP の組成にするこ

とが重要でNb2O5の添加は非常に効果的であることが分かったその一方でガラス中の

詳細な構造的要因についてははっきりしていないため次章の第 4 章にてさらに詳し

い構造解析を行い耐水性改善の要因について調査を行った

34 結言

本章ではラマン分光を使用して各ガラス系のリン酸塩アニオンの構造を簡易定量で

評価し組成と構造の関係について考察した

平均 BO 数 n と耐水性に関してはDR および重量減が平均 BO 数 n の減少で単調に低下

した結果が得られた

平均 BO数 nと OP の図より耐水性改善には平均 BO数 nを下げることそして OP

を上げることが重要であることが明白であった

Nb5+の添加は平均 BO数を減少させるだけでなくOP も上げることからガラス構造内

の P-O-P 結合を減少させる故に水和反応加水分解反応が抑制され耐水性が大幅に

改善された故にNb2O5 のような高価数金属酸化物を添加することが効果的であること

が示唆された

参考文献

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46

Fig 31 SP ガラスのラマンスペクトル

47

Fig 32 Sn-Nb-P ガラスのラマンスペクトル

48

Fig 33 SNP ガラスのラマンスペクトル

49

Fig 34 SZP ガラスのラマンスペクトル

50

Fig 35 FP ガラスのラマンスペクトル

51

Fig 36 ラマンスペクトルのピーク分離例(67S5N28P)

Raman Shift (cm-1)

52

Fig 37 NMRスペクトル

Table 31 NMR およびラマン分光より得られた SP 67S5N28P ガラスの

Qn分布および平均 BO数 n

53

Table 32 各ガラスのラマンスペクトルより求めた Qn分布結果

(表の赤線より右側の結果は Table 22 より)

1 仕込み組成による数値

2 Fig 2212 に示した析出物を取り除いた後の数値

54

Fig 38 DR と平均 BO数 nの関係性

55

Fig 39 重量減と平均 BO数 nの関係性

56

Fig 310 OP と平均 BO数 nの関係性

Meta

Pyro

Ortho

57

第 4章 放射光を用いたスズリン酸塩系ガラスの構造解析

41 緒言

前章の第 3 章にてラマン分光法を用いて SP 系ガラスの構造解析により Qn分布を導き

出したことで耐水性と構造の関係についてある程度関連性を導くことができたリン

酸アニオンについてはQ0(orthophosphate)構造 gt Q

1(pyrophosphate)構造 gt Q2

(metaphosphate)構造の順で良耐水性となるしかしSn Nbおよび Znの局所構造につ

いては知見が得られていないラマン分光や IR分光などの分光学的手法を用いてSnや

Nb Zn の周辺の局所構造を知るには限界があるまたガラスの構造解析を行う上で非常

に重要な因子である中距離構造の評価には分光学的手法は不向きである[1]

そこで局所構造や中距離構造を知るために有効な手法として放射光線を用いた構造

解析がある放射光(SR 光)とはシンクロトロンなどの加速器で高速に加速された電子

が進行方向を磁場によって変えられた際に放射する電磁波である[2]エネルギーが高く

(短波長)輝度が高い特性を有している日本国内では兵庫県佐用町の SPring-8や茨城

県つくば市の高エネルギー加速器研究機構佐賀県鳥栖市の佐賀県立九州シンクロトロン

光研究センターなど複数個所に放射光施設が設置されている

放射光を用いたガラスの構造解析には一般的に高エネルギーX 線回折(High Energy

X-ray diffraction HEXRD)が用いられるこの回折実験から高い散乱ベクトル Q(= 4π sinθλ)

まで回折データが得られる多種類の原子から構成される物質の場合はFaber-Ziman 型[3]

の構造因子 S(Q)を用いる以下の式に示すようにFaber-Ziman 型構造因子 S(Q)は同種また

は異種の原子による相関の重み関数付の和として示される例として SiO2ガラスで説明す

ると構造因子 S(Q)は三種類の原子付の S(Q)の重み付の和として表されていることが分か

I(Q) 散乱断面積 ltgt 原子一個当たりの平均値 f(Q) 原子散乱因子 W 重み関数

通常の研究室で使用される X 線回折(XRD)装置で用いられる特性 X 線はCuKα線(λ

= 0154 nm 81 keV)が最も良く用いられより高いエネルギーの X 線が必要な場合は

MoKα線(λ = 0071 nm 175 keV)が使用される一方でSPring-8のビームライン BL04B2

で行われる高エネルギーX 線回折(HEXRD)測定で使用される SR のエネルギーは378 keV

58

~ が使用可能である[2]従ってガラス以外の液体のような非晶質物質にも非常に精度

よく構造解析が行われている[4]

また局所構造解析の一つに X線異常散乱法という測定方法がある[5 6]これは通常

の X 線回折実験では分離不可能な特定元素に関連する部分構造因子(散乱強度曲線)を得

ることができる手法である今回 HEXRD の測定時に使用したエネルギー614 keV では各元

素の異常散乱項のエネルギー依存性は確認されない(Fig 41)その一方でFig 42に示す

Sn の吸収端付近の 292 keV付近ではSnの異常分散項のエネルギー依存性が確認できる

つまりSnの吸収端近傍より低エネルギー(E)側の異なるエネルギーの X線(E1 E2)を

使って散乱強度を測定し各 E における異常分散項(f`)の変化(つまり高い E1 から低い

E2 の散乱強度の差分)を利用して Snに関する部分構造因子を求める構造解析が AXS 法で

あるこの測定法は古くから知られている方法ではあるが装置の測定条件や設備の問

題からなどから使用があまり普及していなかった[5 6]近年になり金属ガラスの構造解

析について徐々に報告が出てきており今後注目される測定法である

HEXRD および AXS 法などから得られたデータ実測の構造因子 S(Q)は一次元の限られ

た構造情報であるためガラスなどの非晶質物質の中距離構造を解明するためにはこれ

らのデータを基に三次元構造を求める必要がある三次元構造モデルの作成には逆モンテ

カルロ(RMC)シミュレーションを使用することが有効である[7]このシミュレーション

は任意で決めたシミュレーションボックス内の粒子をランダムに動かすことで実測の

構造因子 S(Q)を再現する三次元構造モデルを構築する方法である

SP ガラスについては分光学的手法について数多く報告があるが放射光を用いた回折

法はほとんど適用されていないそこで本研究では HEXRD および AXS 法を用いた構造

解析を行うことでSn Nb周りの構造を解明すると共にSNP ガラスの耐水性改善のメカ

ニズムについて考察したまたAXS 法の有効性についても検討した測定を行ったガラ

スはSP ガラスおよび最も耐水性の高かった 67S5N28P を選択した

42 実験方法

421 HEXRD AXS法

HEXRDはSPring-8のビームライン BL04B2 で測定を行ったエネルギー614 keV の X

線を用いた測定サンプルの厚みは09 mm (plusmn0005 mm)になるまで研磨を行った

AXS 測定はSPring-8のビームライン BL13XUを使用した(Fig 43)それぞれの測定し

た X 線のエネルギーについて以下に示す

①Sn K吸収端hellip292 keV near edgehellip291452 keV (-60 eV) far edgehellip289751 keV (-230 eV)

②Nb K吸収端hellip1899 keV near edgehellip189562 keV (-30 eV) far edgehellip187863 keV (-230 eV)

測定に使用したサンプルの厚さが015 - 030 mmとなるまで研磨を施した

SP ガラスについて50S50P 60S40P 67S33P の三組成のガラスを測定した70S30P に関

59

しては測定を試みたが放射光照射によって結晶化してしまいガラス部分の正確な構

造因子を得るための強度補正ができず解析を断念した

422 RMCのモデリング

Table 41 に RMC の各種パラメーターを示す粒子数は約 5000 個でそれに伴う boxの一

辺の長さは約 42 ~ 46 Ǻになった拘束条件にP の配位数が 4になるような条件を付け

加えたFig 44にSn2P2O7結晶および Sn3P2O8結晶の動径分布関数(RDF)をTable 32

にRDFから得られた第一近接距離[8 9] を示すこれらの数値を使用しcutoffを決定し

たNb-O についてはいくつかの文献値を参考にした[10 11]

各ガラスの RMCのモデリングは①HEXRDから得られた S(Q)のみ②S(Q)および AXS

から得られた部分構造因子を加えた場合でそれぞれ計算した

43 結果考察

最初にNbの AXSから得られたデータについて解析を試みたが妥当な構造モデルが得

られなかったためSnの AXSのみで解析を進めたNb2O5の量が 5 molと少量であったた

めあまり精度の高いデータが得られなかったと推測される

431 実測の HEXRDおよび AXSの結果

4311 実測 HEXRDの S(Q)

Fig 45 に実測HEXRDの S(Q)を示す四つの組成ともに実測HEXRDの S(Q)が得られ

Nb2O5添加の 67S5N28P ガラスでは Low Q 側に変化が確認された

4312 実測散乱強度曲線

Fig 46 に Snの散乱強度曲線を示す(a) の 67S33P のこの曲線からはfar edgeおよび

near edge のエネルギー間で差分が見られエネルギーの依存性が確認された50S50P

67S5N28P のガラスについても同じように差分が確認されたが(b)の 60S40P についてのみ

他とは若干異なる結果(緑丸)であったためRMC の構造解析には差分の構造因子ではな

くfar edge near edge 二つの構造因子を用いた

4313 全相関関数 T(r)

Fig 47 に全相関関数 T(r) を示すHEXRD から得られたものを実線でSnの AXS から

得られたものは点線で示し組成ごとに重ねて表示した図中に各ピークについて帰属し

ているがSnの T(r)からはSn-O Sn-P Sn-Snのみのピークを確認した

432 RMCの計算結果および考察

60

構造モデルの一例として67S5N28P ガラスの得られた構造モデルをFig 48に示す水

色の多面体 unitSnON 黄色の多面体 unitPO4 ピンクの多面体 unitNbONである以下

詳細な構造解析の結果および考察を記す

4321 RMCのフィッティング結果

RMCのフィッティング結果の一例として67S33P の HEXRD と Snの AXS の構造因子か

ら得た結果を示す(Fig 49)二つの構造因子を加えて計算した結果においてもHEXRD

の S(Q) AXS の S(Q)に各々に対する良好なフィッティング結果が得られた他の組成も

同様なフィッティング結果が得られた

4322得られた各 pairの平均配位数平均角度平均結合距離

RMCの結果によって得られた各 pairの平均配位数平均角度平均結合距離を Tables 43

に示す上段が HEXRD の S(Q)のみ下段が HEXRD に Sn の AXS の部分構造因子を加え

て結果である最下部は比較のためにSn2P2O7の情報を記載した[8]

P-O pairについてRMCモデル中の PON多面体に関して平均配位数 Nが 4および P-O

の平均結合距離が約 160Å平均結合角度angO-P-O が約 109degという結果が得られた組成

による大きな違いは確認されなかったのはP の配位数が 4になるように拘束条件をかけた

結果であると考えられるSnON多面体についてはSnO量の増加 = OP の増加であり平

均配位数 Nが 3 ~ 35へ増加した平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約

22Åで組成による大きな変化はほとんど見られなかったNb2O5を 5 mol添加したガラ

スではNbON多面体の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平均配位数 N約 4Nb-O 平均結

合距離約 20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O(約 105deg)と値が近いこと

また6配位ではなく 4配位として主に存在していることからSnO と同じような働きをし

ていると推測される

以上の結果からNb2O5添加の耐水性改善の要因として結合距離が Sn-O が約 22Åに対

し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強固にして

いることも一つの要因として考えられる

また67S5N28P ガラスの各多面体モデルを確認すると(Fig 410)P は PO4Snは SnO4

と SnO3Nbは NbO4をそれぞれ再現している

4323得られた各 pairの結合様式

RMC の結果により得られた各 pair の結合様式を Tables 44 に示す上段が HEXRD の

S(Q)のみ下段が HEXRDに Snの AXS の部分構造因子を加えた結果である最下部は比

較のためにSn2P2O7の情報を記載した[8]

結合様式に関してはPO4四面体は他の多面体も含めてほぼ頂点共有で存在している

SnON多面体についてはSnO 量が少ない配位数が 3 に近い場合頂点共有以外の共有の

61

割合も多くSnO 量が増えるにつれて頂点共有が主になり網目形成体として振舞ってい

ると考えられる組成によって平均結合距離や平均角度の大きな変化が見られなかったこ

とから平均配位数が結合様式を決める重要なファクターであるということも考えられる

またHEXRD と AXS 法の結果がほぼ同じであったこれは主成分が SnO のガラスであ

るためHEXRDでも十分に詳細な構造が得られたため大きな変化が現れなかったと考え

られるNbON 多面体はPO4 四面体と SnON 多面体とはほぼ頂点共有で繋がっている以

上の結果よりSnO量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体的に各多面体同士の

頂点共有が増えていることから耐水性の改善には頂点共有を多く含む構造であること

が重要である或いは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的となって

いるということが推測されるFig 411に 67S5N28P ガラスの構造モデルを示す各多面

体はほぼ頂点共有で繋がっていることが確認できる

4324 平均 BO数の比較

Tables 45にNMR Raman RMC(HEXRD) RMC(HEXRD + AXS)の平均BO数を示すRMC

から得られた平均 BO 数 nはNMR Raman と同様に Nb2O5の添加による大幅な減少が確認

されたしかしNMR Raman と比較すると全組成において数値が大きすぎで適当でない

50S50P の構造モデルを観るとPO4四面体間で3配位 O の存在が確認された(Fig 412)た

め実測で得られた n値を再現できるようなPO4四面体モデル間の繋がり方に関する拘束条

件を加えて RMCを計算する必要性があるまた仮に3配位 Oの存在があるとすると電

子状態の変化が生じていることがと示唆されるため分子軌道計算を用いて電子状態解析

を行い確認する必要がある

4325 耐水性の改善について

Nb2O5を添加のガラス構造への影響について①6配位ではなく 4配位として主に存在し

ていることからSnO と同じような働きをしていると推測される②結合距離が Sn-O が約

22Åに対し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強

固にしている③ガラス構造中で全体的に各多面体同士の頂点共有が増えている以上の

ことが判明した以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性

耐候性を改善した要因として考えられる

44 結言

本章では分光学的手法では評価できないガラスの中距離構造局所構造について理解

するために放射光を用いた構造解析を実施しSP ガラスの構造と耐水性改善について考

察したHEXRDおよび AXS法を用いて測定を行い得られたデータを RMCシミュレーシ

ョンにて解析を行った

解析の結果 Sn-O pair については平均配位数 Nが 3 ~ 35でSnO量の増加 = OP の増

62

加に伴い高くなった平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約 22Åであ

ったP-O Sn-Oについては組成による大きな変化はほとんど見られなかった67S5N28P

ガラスの Nb-O pair の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平均配位数約 4Nb-O 平均結合距

離約 20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O(約 105deg)と値が近いことま

た6配位ではなく 4配位として主に存在していることからSnOと同じような働き(網目

形成体)をしていると推測されるまた結合距離が Sn-O が約 22Åに対し Nb-O は約 20

Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強固にしていると言える

SnO 量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体的に各多面体同士の頂点共有が増え

ていることから耐水性の改善には頂点共有を多く含む構造であることが重要である

もしくは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的であることが推測さ

れる以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性耐候性を

改善した要因として考えられる

またAXS 法の有効性についても確認し効果的であることが判明したただし今回

は主成分が Sn の組成のガラスでありHEXRD でも十分に詳細な構造が得られたため

大きな差は現れなかった

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Gonzalo J appl Phys 110 023522 (2011)

63

Fig 41 各原子の異常分散項のエネルギー依存性

Fig 42 Sn の異常分散項のエネルギー依存性

64

Fig 43 SPring-8の BL13XU

65

Tab

le 4

1

RM

Cの各パラメーター

66

Fig 44 Sn2P2O7 Sn3P2O8結晶の RDF

Table 42 Sn2P2O7 Sn3P2O8結晶の各 pairの第一近接距離

67

Fig 45 得られた実測 HEXRDの S(Q)

68

Fig 46 Sn の異常散乱測定により得られた散乱強度のエネルギー依存性

(a)67S33P (b)60S40P

69

Fig 47 全相関関数 T(r)

太線 HEXRD より

細線 Sn の AXSより

70

Fig 48 67S5N28P ガラス構造のモデル

71

Fig 49 RMC フィッティングの結果

72

Tab

le 4

3 各

pairの平均配位数角度結合距離

73

Fig

4

10

67

S5

N2

8Pガラスの各多面体モデル

74

Tab

le 4

4 各

pairの結合様式

75

Fig 411 67S5N28P ガラスの構造モデル

76

Table 45 平均 BO 各数 nの比較

Fig 412 50S50P ガラスの構造モデル

77

第 5章 総括

本研究ではSP ガラスを対象とした本研究では鉛フリー代替ガラスまたは希土類フ

リー蛍光体として SP ガラスの新規高機能化を将来的に目指し問題点であるldquo化学的耐久

性rdquoの改善につながる知見を得ることを目的としたそこでまずSP ガラスを母体ガラ

スとし第三成分に Nb2O5を添加した Sn-Nb-P SNP ガラスZnO を添加した SZP ガラスを

作製し耐水性を中心とした物性評価を行った次に分光学的手法で構造解析を行い

Qn 分布を導き出した最後に放射光を用いた構造解析を行い耐水性改善に関する構造的

な考察を行った以下に本研究で行った検討内容を示す

(1)SPガラスおよび第三成分Nb2O5 ZnOを添加した三成分系SPガラスの物性評価(第 2章)

(2)SP 系ガラスの分光学的手法による Qn分布導出(第 3章)

(3)放射光を用いた SP 系ガラスの構造解析構造と耐水性改善の関連について(第 4章)

各章についてまとめた結果を以下に示す

第 2章

第 2章では二成分系および三成分系のリン酸塩系ガラスの各種物性(密度や熱的特性

耐水性)の評価を行った二成分系ではSP ガラスに加え良好な耐水性を有する鉄リン

酸塩(Fe2O3-P2O5)系ガラス(以下 FP ガラス)を比較のために三成分系では二成分系

の SP ガラスに Nb2O5を添加したニオブ含有 SP ガラス(SNP ガラス)および ZnO を添加し

た亜鉛含有 SP ガラス(SZP ガラス)を作製した

今回作製した SP 系ガラスは低ガラス転移温度を有していた各組成の温度域はSP

ガラスTg le 280 Sn-Nb-P SNPガラスTg le 3505SZP S5ZPガラスTg ≦ 450であった

各種 SP ガラスの耐水性試験の結果二成分系の SP ガラスよりも三成分系ガラスの方が

良好な耐水性を有していた65Sn-5Nb-30P 67S5N28P ガラスが最も耐水性が良好であり化

学的耐久性の改善には Nb2O5が ZnOよりも効果的であった

組成と耐水性に関してはDRおよび重量減がOP増加で単調に低下した結果が得られた

つまり耐水性を改善させるにはSP 系ガラスのガラス化範囲を拡大かつ OP を増大させ

る第三成分の添加が有効であることが示唆された

第 3章

第 3章ではSP 系ガラスの分光学的手法による Qn分布の導出を行ったラマン分光法を

用いて各ガラス系のリン酸塩アニオンの構造を簡易定量で評価し組成と構造の関係に

ついて考察した平均 BO 数 n と耐水性に関してはDR および重量減が平均 BO 数 nの減

少で単調に低下することが明らかとなった

平均 BO 数 n と OP の関係より耐水性改善には平均 BO 数 n を下げることそして

OP を上げることが重要であることが明らかになった

78

Nb5+の添加は平均 BO数を減少させるだけでなくOP も上げることからガラス構造

内の P-O-P 結合を減少させ水和反応加水分解反応が抑制され耐水性が大幅に改善さ

れることが示唆された故にNb2O5 のような高価数金属酸化物を添加することが効果的

であることが再度確認された

第 4章

耐水性向上についてより深く評価するためSP SNP ガラスの局所構造に関する知見を得

ることを目的に放射光を用いた構造解析を行った高エネルギーX 線回折(HEXRD)お

よび X 線異常散乱(AXS)法で測定したデータを再現する構造モデルを逆モンテカルロ

(RMC)シミュレーションで構築し構造解析を行った

RMC モデル中の PON多面体に関して平均配位数 Nが 4および P-O の平均結合距離が約

160Å平均結合角度angO-P-Oが約 109degという結果が得られた組成による大きな違いは確

認されなかったSnON多面体については平均配位数 N が 3~4 でSnO 量の増加に伴い 4

に近い値となった平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約 22Åで組成

による大きな変化は見られなかった

Nb2O5を 5 mol添加したガラスではNbON多面体の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平

均配位数N約4Nb-O平均結合距離約20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O

(約 105deg)と値が近いことまた6配位ではなく 4配位として主に存在していることから

SnO と同じような網目形成体として働いていると推測されたまた結合距離が Sn-O が約

22Åに対し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強

固にしていると考えられるまたSnO 量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体

的に各多面体同士の頂点共有が増えていることから耐水性の改善には頂点共有を多く

含む構造もしくは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的であること

が示唆された以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性

耐候性を改善した要因として考えられる

またAXS 法の有効性についても確認し効果的であることが判明したただし今回

は主成分が Snの組成のガラスでありHEXRD でも十分に詳細な Snの周辺構造が得られ

たためAXSを利用した場合との大きな構造の差は認められなかった

本研究では様々な優れた特徴を有する SP ガラスにおける耐水性改善のメカニズムにつ

いて検討を行ったこの系のガラスについてはこれまでほとんど利用されていなかった

放射光を用いた構造解析を駆使し第三成分の添加によってどのような構造的変化が生じ

耐水性を改善させるか新たな知見を得ることができた最終目標である機能性ガラスの

開発における新たなる材料設計指針の確立に対してldquo耐水性rdquoに関しては概ね明らかにな

ったと考えられる一方で今回検討していな電子状態化学結合性についても評価する

ことで溶出メカニズムの解明が可能になり材料設計指針の確立が期待される

79

発表論文リスト

口頭発表

第 2章および第 3章

(1) SnO-P2O5 系ガラスへの酸化物添加効果

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎

日本セラミックス協会第 25 回秋季シンポジウム No3C06 (名古屋市 2012年 9月)

(2) Effect of Nb2O5 addition to SnO-P2O5 glass (Poster)

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

International Union of Materials Research Societies International Conference on Electronic

Materials IUMRS-ICEM 2012 A-9-P26-003 (Yokohama 2012 年 9月)

(3) スズリン酸塩系ガラスの蛍光特性耐水性に及ばす酸化物の添加効果(ポスター)

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎

日本セラミックス協会 2013 年年会 1P070 (東京 2013年 3月)

第 4章

(1) 放射光を用いたスズリン酸塩ガラスの構造解析

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎小原真二臼杵毅

日本セラミックス協会第 27 回秋季シンポジウム 2B22 (鹿児島市 2014年 9 月)

(2) Structural analysis of tin phosphate glasses by synchrotron radiation (Poster)

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba Shinji Kohara Takeshi Usuki

International Congress on Glass ICG Annual Meeting Bangkok 2015 P14-138 p186 (2015)

発表論文

(1) Effect of Nb2O5 addition to SnO- P2O5 glass

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

Journal of the Ceramic Society of Japan Vol 120 No 11 pp530-533 (2012)

(2) Structural analysis of SnO- P2O5 glass

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

Journal of the Ceramic Society of Japan(準備中)

80

謝辞

本研究を遂行するにあたり終始暖かいご指導ご助言並びにご鞭撻を賜わりました岡

山大学大学院環境生命科学研究科 難波徳郎教授に心より感謝の意を表します

また本研究を遂行するにあたり懇切丁寧なご指導とご意見をしていただいた岡山大

学大学院環境生命科学研究科 紅野安彦准教授環境環理センター 崎田真一助教に心より

感謝いたします

本研究を遂行するにあたりラマン分光測定の使用についてご助言ご教授して頂い

た岡山大学自然科学研究科 藤井達生教授中西真助教に心より感謝の意を表します

Sn のメスバウアー測定の際に協力して頂いた岡山大学自然科学研究科先端自然科学教

育研究推進本部高田研究室 松本修治特任助教(当時旭硝子株式会社中央研究所)また

Feのメスバウアーを測定の際に協力して頂いた岡山大学自然科学研究科 藤井達生教授に

心より感謝の意を表します

固体 NMR の岡山大学自然科学研究科 早川聡教授に心より感謝の意を表します

本研究を遂行するにあたりSPring-8 にてHEXRD および AXS 法の測定法および原理

についてご教示頂きました物質材料研究機構 小原真司博士ならびに山形大学 臼杵毅

教授に心より感謝の意を表します

本研究は多くの後輩諸君の協力によって遂行されました特に実際に共同研究共同

実験を遂行して頂いたOG 藤原沙弥香さん博士前期課程 2 年 東利彦君OB 徳岡太誠

君学士課程 4年 塩田将大君に心より感謝の意を表しますまた難波研究室で共に研

究生活を過ごした卒業生在学生の方々に感謝の意を表します

また同時期に博士後期課程に在籍された香川高等専門学校の桟敷剛さんにはNbに

関する有益な情報だけでなく辛い状況でも励ましを頂きました心より感謝の意を表し

ます

最後に長きに渡る学生生活を認め経済面だけでなく精神面でも支援してくださった

家族に心より深く感謝の意を表します

平成 28年 3月

福井 聡史

Page 5: 博士論文 スズリン酸塩系ガラスの物性と構造解析ousar.lib.okayama-u.ac.jp/files/public/5/54353/...博士論文 スズリン酸塩系ガラスの物性と構造解析

2

いる(Fig 13)ここでガラス修飾酸化物であるアルカリ土類金属酸化物MgO を添加し

た場合を例として簡潔に説明するQ3の P2O5ガラスはP2O5 = 100 molでありP

5+イ

オン一つに対し四つの O 原子が配位されるそのうち一つは二重結合の P=O であり

BO の数がrdquo3rdquoとなるQ2の P2O5ガラスはP2O5 = 50 molでありP2O5 MgO = 1 1 の

metaphosphate 組成となりBO の数はrdquo2rdquoで残り二つの O は Mg2+と結合するQ

1の P2O5

ガラスはP2O5 = 333 molでありP2O5 MgO = 1 2pyrophosphate組成となりBOの数はrdquo1rdquo

で残り三つはMg2+と結合されるQ

0の P2O5ガラスはP2O5 = 25 molでありP2O5 MgO

= 1 3 の orthophosphate組成となりBO の数はrdquo0rdquoで非架橋酸素 NBOのみとの結合とな

るFig 13 で併記されている OP はその P2O5ガラスの理想的な O と P の原子数の比で

あるこの数値は構造の目安に頻繁に使用される

P2O5 ガラスの大きなでめりっと弱点に耐水性耐候性(各々後述する)が非常に低い

ことが真っ先に挙げられる[20]この二つの性質は化学的耐久性の種類でどのような分

野においても実用化のためには解決が必須の問題である耐水性に関してはpyrophosphate

組成では良好になると考えられておりOP で示す数値は耐水性の指標にもなり得る

113 P2O5ガラスの溶出メカニズム

P2O5ガラスの溶出プロセスは①加水分解反応と②水和反応によるものが主となる[20]

①加水分解反応

Fig 14に加水分解反応の模式図を示す赤字で記した Oは架橋酸素であるP-O-P 結合

部に水分子(図中 H+ OH

-)が攻撃しポリリン酸鎖が切れる反応であり二つのリン酸鎖

が精製する

②水和反応

Fig 15 に水和反応の模式図を示す[21]P2O5ガラスに修飾金属イオン(M2+)が入ると

いくつかの長い重合リン酸アニオンが金属イオンに配位することで構造が安定化する

水和反応は水分子がこの金属イオンとの結合を切断することでリン酸鎖状構造が直

鎖状リン酸塩やオルトリン酸塩のようなリン酸塩グループの溶出が生じる反応である(緑

色枠)

二つの反応を抑制し耐水性を改善するためにはP-O-P 結合を他の結合に置き換えた

P-O-A 結合を増やすことが重要となるすなわち多成分系(三成分系以上が望ましい)ガ

ラスにすることである一般的に改善するために効果的だと知られている成分はAl2O3 と

Fe2O3 B2O3である[22 - 25]Fig 16 にアルミナ含有 P2O5ガラスの構造模式図を示すP2O5

ガラスにアルミナを入れるとガラス中において Al3+は[AlO4]四面体の構造をとる[26]赤

破線枠で囲んだ部分を見ると[PO42]+四面体における正電荷と[AlO42]

-四面体の負電荷とで

二つの四面体が結合しldquo組rdquoを作り電荷が相殺されるそしてPO4四面体における NBO

3

(図中の青い O)が Al と結合することによって BO に変化し構造を強化すなわち耐水性

が改善されると考えられるB2O3でも同様の現象が生じると考えられる鉄リン酸塩(FP)

系ガラスの場合ではFig 17 に示すようなFe3+

-On Fe2+

-On PO4の各多面体が連鎖した構

造をとると考えられる[27]Feイオンが価数に関わらず六配位を取っていることからP-O-P

結合よりも Fe-O-P 結合が多く存在するため加水分解が起こりにくく耐水性の高いガラ

スとなる

114 化学的耐久性耐候性

耐候性とは水分子によりリン酸塩が溶出する耐水性とは別の性質でガラス表面の劣

化に対する性質でこの劣化を表す方法には大きく二種類に分別される[1]Fig18 に耐

候性に関するガラスの侵食機構の模式図を示す[1]一つ目は「青ヤケ」と呼ばれるもので

主に SiO2ガラスの表面の修飾イオンと H3O+イオンとのイオン交換の結果ガラス表面に干

渉色のような反射光(低屈折率のガラス層が生成されたことを意味する)が確認される性

質である二つ目は「白ヤケ」と呼ばれるものでガラス表面に水が付着することでイ

オン交換反応が生じて白く曇って見える性質である

115 スズリン酸塩(SP)系ガラス

酸化スズ(SnO)は酸化鉛(PbO)と同じような性質(結晶構造や両性酸化物であるこ

となど)を有しており[28 29]人体や環境への毒性についてほぼ注意せずとも問題のな

い物質である[30]上述した P2O5と組み合わせたスズリン酸塩(SP)系ガラスは低融点

高屈折率無色透明といった特徴を持ち鉛フリー材料の候補の一つとして期待されてい

る具体的な研究例として光学ガラス[31]や封着ガラス[28 32]リチウムイオン二次電池

のアノード[33]などがあるまたSn2+が ns

2型の発光中心として知られ[33]紫外線照射下に

おいて白色蛍光を示すことから希土類フリーの白色蛍光体として注目されている[13 35]

SnO-ZnO-P2O5系ガラスについては実用化されている結晶蛍光体(MgWO4)と比較しても

遜色のない量子効率を有することが分かっている[35]

その一方でSP ガラスについても P2O5系ガラス特有の耐水性の低さが問題であり第三

成分の添加が必須となるすでに述べたが耐水性の問題は鉛フリー材料や希土類フリ

ーの蛍光体といった新規材料として工業的に使用するためには必ずクリアしなければなら

ない問題であるまた使用目的に合わせた成分探索もよく考慮しなければならないため

添加する成分の選択も非常に重要である

12 本研究の目的と意義

本研究の目的はSPガラスやの物性および構造解析を行うことで主に化学的耐久性に

関する要因を解明し新規高機能性ガラスの開発における新たな材料設計指針の確立を目

指した多成分系ガラスの中ではシンプルな組成である三成分系ガラスから解明すること

4

で基礎的な情報を得ることをまず目指したその後の求められる知見は以下に示すと

おりである

① SP ガラスの問題点である耐水性について第三成分を添加することでどの程度改善さ

れるかを把握する第三成分の選択についても検討する

② 第三成分の添加による SPガラスの構造的変化について把握する

③ 構造と耐水性改善の関係について把握する

13 本論文の構成

本論文は以下の 5章から構成されている

第 1章序論では本研究の背景問題提起および目的意義を述べている

第 2章ではSP ガラスおよび二種類の第三成分(Nb2O5 ZnO)をそれぞれ添加した三成分

系 SP ガラスを作製し耐水性を中心とした物性評価を行ったそして各ガラス系の耐水

性と組成の関係性について検討した

第 3章ではラマン分光法を用いて各種 SP ガラスFP ガラスの構造解析を行ったラマ

ンスペクトルから Qn分布を導き出し耐水性とガラス構造の関係性について検討した

第 4章では放射光を用いてSP ガラスおよびニオブ含有 SP ガラスの構造解析を行った

ラマンスペクトルからでは詳細に出来ない SP ガラスの Sn Nb 周辺構造の解明に加え耐

水性と構造との関連性について検討したまた今回構造解析のために用いた X 線異常散

乱法の有効性についても検討した

第 5章は総括である

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6

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7

Fig 11 鉛含有ガラスの一例クリスタルガラス

転載ペアワイングラスltボナールgtカガミクリスタル株式会社

Fig 12 鉛含有ガラスの一例放射線遮蔽用ガラス

転載放射線遮蔽用ガラス LX-57B電気硝子建材株式会社

8

Fig 13 リン酸塩ガラスの Qn構造とその組成 [11]より転載

9

Fig 14 リン酸塩ガラスの溶出メカニズム模式図加水分解反応

10

Fig 15 リン酸塩ガラスの溶出メカニズム模式図水和反応 [21]より転載

11

Fig 16 アルミナ含有リン酸塩ガラスの構造

Fig 17 鉄リン酸塩ガラスの構造 [27]より転載

P

O

O

OO Al

O

O

O P

O

O

O Al

O

O

O P

O

O

O

12

Fig 18 ガラスの侵食機構(耐候性)[1]より転載

13

第 2章 スズリン酸塩系ガラスの物性評価

21 緒言

前章で述べたようにスズリン酸塩(SP)系ガラスは無色透明高透過率低ガラス

転移温度など工業的に興味深い特徴を有することが知られている[1]またSn2+が ns

2型の

発光中心となり紫外線照射による白色蛍光を示すことから希土類フリー白色蛍光体とし

ての研究も数多くなされている[2 3]

しかし実用化に向けてはこの系のガラスについてもリン酸塩系ガラスに特有のldquo耐

水性rdquoldquo耐候性rdquoの低さが問題となる[4]この問題点を解決するために第三成分として他

の化合物を加えることが有効でありSP ガラスにおいてはB2O3や ZnO SiO2 MgO MnO

など様々な物質を第三成分として添加した研究報告[5 - 9]があったりNH3雰囲気下で数日

間溶融作製することでガラスを一部窒化することで耐水性を改善させたりという報

告もある[10]SP ガラスに限定しないリン酸塩系ガラスではZnO-P2O5 系ガラスに Sb2O3

や MoO3を添加した報告[11 12]や Na2O-P2O5系ガラスに CuO を加えた報告[13]P2O5-CaO-

Na2O に Ag2Oを添加した報告[14]Na2O-K2O-CaO-P2O5ガラスの一部を窒化することによる

方法[15]等があり数多くのリン酸塩系ガラスの耐水性改善に関する研究がなされている

本研究では高価数金属酸化物および低価数金属酸化物の二種類をそれぞれ第三成分と

して添加した高価数金属酸化物には Nb2O5を低価数金属酸化物には ZnO の二種類の酸

化物を選択した

Nb2O5は古くから光学ガラスの成分として頻繁に使われる物質であり様々な企業から数

多くの特許が出されている[16 17]また耐水性の改善に有効であるとの報告や比較的低

温でもガラス作製ができることが知られており(当然のことながら組成に影響される)

鉛フリーの封着ガラスとしての研究もなされているZnO についてはこれ自体は無着色

成分であるため無色透明なガラスが得られることから光学ガラスの成分に用いられる

ほとんどの組成で低融点ガラスとなり[18 19]これらの特性からSnO-ZnO-P2O5(SZP)

系ガラスは Sn2+を発光中心とした蛍光体の研究対象となっていることが多くSP 系ガラス

では一般的なガラス系である

本章では第三成分を含まない SP ガラスおよび Nb2O5または ZnOを SP ガラスに添加し

た三成分系ガラスをそれぞれ作製し耐水性試験を中心とした各種物性評価を行った比

較対象に耐水性の優れることで知られる鉄リン酸塩系ガラスも同時に作製することでSP

系ガラスへ添加したそれぞれの第三成分の耐水性に対する有効性を検討した

22 実験方法

221 ガラスの組成選択

本研究において作製した SP ガラスは以下の五種類の系列を選択した

14

① スズリン酸塩ガラス(xSnO∙(100-x)P2O5 x = 50 60 67 70 mol)

(略称 SP ガラス組成は 50S50P と表記)

② ニオブ含有 SP ガラス(65SnO∙xNbO25∙(35-x)P2O5 x = 0 1 2 3 4 5 mol)

(略称 Sn-Nb-P ガラス組成は 65S-0Nb-35P と表記)

③ ニオブ含有 SP ガラス(xSnO∙5Nb2O5∙(95-x)P2O5 x = 50 60 67 mol)

(略称 SNP ガラス組成は 50S5N45P と表記)

④ 亜鉛含有 SP ガラス (S5ZP ガラス)(xSnO∙5ZnO∙(95-x)P2O5 x = 55 62 65 mol)

(略称 S5ZP ガラス組成は 55S5Z40P と表記)

⑤ 亜鉛含有 SP ガラス (5SZP ガラス)(5SnO∙xZnO∙(95-x)P2O5 x = 55 62 65 mol)

(略称 5SZP ガラス組成は 5S55Z40P と表記)

(④と⑤は総じて SZP ガラスと表記する場合がある)

それぞれの選択理由はガラス化範囲(各ガラス系のガラス化範囲を Fig 21および Fig

23 に示す)作製の容易さ(気泡の入りにくさ流し出しやすさ)等を考慮し決定した

組成ごとに詳細な選択理由を述べると

②についてNb を P と置換した組成であるFig 22 に示した溶融温度 1100で作製した

Sn-Nb-P ガラスの外観写真より目視でも明らかに透明性の高く着色量の少ない組成は(d)

の 65Sn-5Nb-30P でありこの外観写真を参考に組成を決定したSnO 量を 65 molに固定

しNbO25量を 5 molから 0 mol(Nb無添加組成)まで減少させた組成(Fig 21 の緑線

の組成)を選択しこのガラス系の物性の変化を確認した

③はNb2O5量を 5 molに固定しSn を P と置換した組成であるNb と P は酸化数が

同じ 5価であるためこの組成では同じ SnO量の二成分系 SP ガラスと比較した際酸素

の総量に変化が生じない(例えば67S33P と 67S5N28P)またNb5+イオンはガラス中

では4配位および6配位を取るという報告が多い(結晶の場合他の配位数を取る)た

め配位数が4の P5+の置換に適していると考えた

④⑤に関しては気泡のrdquo入りづらいrdquoもしくはrdquo入らないrdquoSnOおよび ZnOが各 5 molにな

る組成を選択したSZP ガラスはFig 23 に示すガラス化範囲のようにガラス化範囲は

非常に広範囲であるしかし気泡が入りやすく脈理のようなものも見られる組成が多く

目視ですら不均質なガラス組成がほとんどであった(これらの組成も粉末にして XRD を測

定するとガラスであった)そのためバルク体でガラスを得られることが困難な組成も多

い(Fig 24 にその一例の SZP ガラスを示す)そこで第三成分の添加量を可能な限り少

ない組成を選択することでバルク体で目視上ldquo均質rdquoなガラスを得た(Fig 23 の青線と

紫線の組成)

また上述したように耐水性の比較対象である鉄リン酸塩ガラスを二成分系で作製し

15

た(FP ガラス)組成はxFe2O3∙(100-x)P2O5 x = 20 25 30 35 40 mol を作製した

222 ガラス作製

Figs 25 - 27に各ガラス系の作製フローチャートを示す出発試薬にSnO NH4H2PO4

Nb2O5 ZnO を使用し各々秤量した秤量混合後アルミナ坩堝に入れか焼(仮焼き)

を行ったか焼条件はSP Sn-Nb-P SNP SZP ガラスは350または 400 6-30 minFP ガ

ラスは600 30 min で行った溶融温度および溶融時間はSP ガラス1100 30 min

Sn-Nb-P ガラス1100 30 minSNP ガラス1000または 1250 20 min SZP ガラス

1100-1200 30 min 各々N2雰囲気下で作製したN2雰囲気下で行った理由はSn2+が Sn

4+

にほとんど酸化されてしまうとガラスが得られなくなるためSn2+の酸化を防ぐ目的がある

[19]FP ガラスは1200 - 1550 30 min大気雰囲気下の条件で作製した溶融後350

に温めておいたスチールモールドに流してプレスした後FP ガラス以外はガラス転移温度

Tg付近でアニールを 1 h行い目的のガラスを得た耐水性試験用のガラス形状はダイヤモ

ンドカッターで大まかに整えた後鏡面研磨まで施して型取ったここでFP ガラスのみ

アニール工程を省いた理由はSP ガラス等はアニールをして歪みを取らなければ正確に

切断できない場合が生じた一方でFP ガラスはアニールをせずとも十分正確にカットで

きたためアニール工程を省いたまた50S50P のみ厚みが必要になると必ず気泡が入

ってしまうため耐水性試験では気泡の入ったものを使用した

223 物性評価

得られたガラスの物性の比較を行うために以下に示す分析を行った

(1)ガラス状態の確認

作製したガラスが結晶の混在していないものかを確認するためにまた耐水性試験

後のガラスが結晶化しているかの確認のためにX 線回折装置(XRD Rigaku RINT-2100)

を用いて分析した全てバルク体で測定したが耐水性試験後ではバルク状態が保てな

いものもあったためその試料については粉末で測定した

(2)組成分析Sn Fe 価数分析

得られたガラスについてアルミナ坩堝の使用によるアルミナのガラスへの混入および

それに伴う組成ズレの確認のために走査型蛍光 X 線分析装置(XRF Rigaku ZSX Primus

Ⅱ)を使用し組成分析を行った分析はバルク体で定性分析法にて測定した

またSn が二価のままどのくらい存在しているかを調べるために Sn-Nb-P ガラスを用い

てSnの価数分析をメスバウアー分光法にて行ったSnの測定は reference [20]に示す旭硝

子の公開特許に記載されている方法で行ったFP ガラスについても価数変化を調べるた

めにメスバウアー分光法にて Feの価数分析を行ったFeの測定は(株)トポロジック

システムズ MDF-200)を用いて評価を行った

16

(3) 密度(ρ)およびガラス転移温度(Tg)評価

各ガラスの密度(ρ)測定はケロシンを用いたアルキメデス法で測定したガラス転

移温度(Tg)を評価するために示差熱―熱重量測定装置(SDT TA instrument Japan Q600)

を用いたアルミナパンを使用し測定条件はN2雰囲気下 10 Kmin 700までの温度範

囲にて行った

(4)耐水性試験

各ガラスの耐水性について評価するために耐水性試験をMCC-1法[21]にて測定した(Fig

28)条件は75 72h ガラスサイズ 12times10times02 cm (plusmn01 cm) 蒸留水の pH は 72-77

で行い浸漬後サンプルを乾かして重量を量った溶出速度(Dissolution Rate DR)は重

量減(ΔW) サンプル表面積(S) 浸漬時間(t)から以下の式によって算出した[22]

DR = ΔW (kg) S (m2) t (s)

また浸漬前と 72 h 後の重量減()も合わせて算出した

23 結果考察

231 組成分析 Snおよび Feの価数評価

Table 21に各試料の組成分析結果を示すまずアルミナ Al2O3の量を見るとガラスに

混入した量がほとんどの組成で 25 mol以下で多くても 35 molを下回る量であった

そのため各種特性についてアルミナの影響はほとんどないと考えられる[23 24]組成

によってその量に差があるのは溶融温度の違いによることに起因している組成分析の

結果今回作製したガラスは仕込み組成と大きな差がないと判断した

Fig 29に Sn-Nb-P ガラスの Snのメスバウアースペクトルをそこから得られたメスバウ

アーパラメーターを Table 22に示す得られた結果よりSn-Nb-P ガラスでは95以上の

割合で Sn2+のまま存在していることが分かった不活性雰囲気で作製したことP2O5 の出

発原料に NH4H2PO4を使用したことにより(か焼は行なっているが)還元雰囲気になったた

めSn4+にほとんど酸化されることがなかったといえるこの結果SP 系ガラスではほぼ

Sn2+のまま存在していると仮定した

Fig 210に FP ガラスの FeのメスバウアースペクトルをTable 23 にそこから得られたメ

スバウアーパラメーターを示すFP ガラスについては組成に関わらず酸化還元平衡に

より 20 ~ 30が Fe2+になりまたFe2O3 ge 30 molの際化学的にも安定であることが知

られている[27]実際にFe2O3 ge 30 molの際Fe2+は概ね 20 ~ 30存在している結果が得

られた一方でFe2O3 lt 30 molの際はFe2+が 40以上と高い割合で存在していることが

判明したこれは出発原料の NH4H2PO4の多量使用によること溶融温度が 1550と高

いことが要因で還元がより進行したためと予想される

17

232 ρおよび Tg

Table 24にρおよび Tgの結果を示す二つの特性結果はそれぞれのガラス系において

SnO や Nb2O5ZnO といった金属酸化物が増えるにつれて大きくなっているSP Sn-Nb-P

SNP S5ZP 系ガラスの Tgはほとんどが 300前後であり最も高い温度でも67S5N28P

の 346であった一方5SZP 系ガラスは400~440となり他のガラス系と比較する

と若干高い温度となったそれでも今回作製した第三成分を添加したガラスは低 Tgを有

するガラスであると判断できSP ガラスの特性を維持できたと判断できる

60S5N28P と 62S5Z30P のようなほぼ同じ OP を示すもので比較した際にNb2O5添加が

ZnO 添加よりも Tgが高くなったのは①配位数が同配位数になり得るイオンの場合(例え

ば Nb5+と Zn

2+なら4配位など)ポーリングの第 2 法則[25]より高価数イオンの方が結合

強度が強くなる②diatomic cationの解離エネルギーがNb-O (688plusmn11 kJmol)[26]に対しZn-O

(1611plusmn48 kJmol)[26]と大きな差があるため Nb-Oの結合が強い故に熱的に安定化され

Tgが高くなったと考えられる

233 耐水性試験前後の外観写真

Figs 211 - 216に各ガラスの耐水性試験前後の外観写真を示すFig 211 の SP ガラスを

観察するとSnO 量の少ない 50S50P 60S40P は浸漬時間が経過するにつれて元々の形状

が崩壊したりガラス自体が膨張したような状態になったりしたSnO 量の多い 67S33P

70S30P について形状は崩れることはないが透明性が失われる(白ヤケ)耐候性が低いこ

とが確認できるFig 212 に示す Sn-Nb-P ガラスではNb2O5無添加の 65S-0Nb-35P は浸漬

時間 24 h で透明性が失われているがNbO25量の増加させていくと徐々に透明性が回復

しており4 mol添加した 65Sn-4Nb-31P では72 h後においてもほとんど変化が確認でき

ないNbの添加量を変えた Fig 213に示す SNP ガラスではSP ガラスと同様に SnO 量の

少ない 50S5N45P は時間経過と共にガラス全体にldquoひびrdquoのようなものが見え72 hの実

験終了後最終的にテフロン糸を外す段階で簡単に割れたしかし50S50P や 60S40P と比

較すると耐水性が大幅に良くなったまた60S5N35P 67S5N28P は耐水性が良好なこと

だけでなく耐候性についても向上していることが目視で判断できる一方で二種類の

SZP ガラス(Figs 214 215)を観るとP2O5量の少ない 5S55Z40P および 55S5Z40P では

形状が崩れるか析出物が現れる結果となったこの組成よりP2O5 量を減少させるとSP

ガラスと同じように形状は崩れないが透明性が若干失われる結果となった

Fig 216 に比較対象の FP ガラスの耐水性試験前後の写真を示すこの組成ではFe2O3

量の少ない20F80Pにおいても形状が全く崩れない結果が得られたしかしFe2O3 lt 30 mol

の組成において表面に干渉色のような反射光が若干確認できたこれはおそらく青ヤ

ケが発生したためであると考えられる

18

234 耐水性試験前後の構造変化

Figs 217 - 222に各ガラスの耐水性試験前後の XRDパターンを示す耐水性試験前では

ガラス化を全組成で確認した(Figs 217(a) - 222(a))しかし耐水性試験後における外観

写真で形状の崩れたもしくは析出物の得られたガラス組成では結晶が生成したことが

確認された形状の崩れた三組成のうち50S50P 60S40P ガラス(Fig 2214(b))では三

種類の結晶ピーク(SnP2O7 Sn2P2O7 Sn3(PO4)2)が確認でき5S55Z40P については(Fig

2214(b))結晶同定の判断はできなかったが ZnOの多い組成であるためおそらくリン酸

亜鉛の何れかの結晶だと推測された析出物が得られた 55S5Z40P はガラス matrix部と析

出物に分けて測定したところガラス matrix 部はガラスのままであり析出物は SnP2O7

Sn2P2O7の二種類の結晶ピークが確認できたガラス形状に変化がなかったその他の組成は

ガラス状態が保たれていたSn4+の結晶のピークが確認されたのは50S50P のガラスには

気泡が残っておりその気泡から酸化されたかもともと溶融工程で電気炉内に残って

いた酸素によってSn4+に酸化されたか等が考えられる

235 溶出速度(DR)および重量減

Table 24に DR重量減の結果および仕込み組成から計算した OP を示すSP SNP S5ZP

ガラスではSnO 量の増加に伴いSnO量の固定された Sn-Nb-P 5SZP ガラス系ではそれ

ぞれの金属酸化物の増加に伴いDR重量減は減少傾向にあったFP ガラスでは全組成

において DR 重量減共に変化が全く確認されなかったそのため青ヤケのようなものが

確認された FP ガラス(Fe2O3 lt 30 mol)については電子天秤では変化が見られない程度

の重量減であったと推測される二種類の SZP ガラスで比較するとSnOと ZnO量が入れ

替わってもほぼ誤差範囲内と思われる結果が得られたガラス全体の比較では外観写真

で変化が見られなかった FP ガラスと 65S5N28P 65Sn-5Nb-30P のガラスが DR重量減がと

もにゼロという結果が得られた

組成と DR 重量減の関係性を見るために作成した図をFigs 223(DRと OP の関係性)

224(Fig 224に重量減と OP の関係性)に示すそれぞれの図にリン酸塩の三つの構造

の OP も表記した双方の図よりDR 重量減共に OP が増加することで単調に下がって

いることが分かるこの結果はリン酸塩の構造ではorthophosphate 組成で耐水性良好が

あるため[22]一般的な結果と同じ挙動であるまた耐水性の良かったNb2O5添加の SNP

ガラスは異なる挙動(傾き)が得られた

以上の結果より第三成分添加による耐水性の改善を確認し特に Nb2O5 の添加による

影響は大きいことが判明したまたOP の増加による耐水性が改善する結果が得られた

次章の第 3 章にて各ガラス系の構造解析を行い第三成分特に Nb2O5の耐水性への有

効性について調査した

19

24 結言

本章ではSP ガラスおよび第三成分の Nb2O5 ZnOを添加した SP ガラスの物性評価を行

うことで耐水性改善への第三成分添加の有効性を確認した各々の物性について以下に

まとめる

低ガラス転移温度を有する SP ガラスは最も SnO 量が高い 70S30P でも Tg le 280であ

ったNb2O5を添加した Sn-Nb-P SNP ガラスではTgの上昇は見られたが Tg le 350

ZnOを添加した 5SZP S5ZP ガラスではTg ≦ 450であり両金属酸化物の添加でも低

ガラス転移温度を維持しているガラスが得られたNb2O5 添加が Tg を上昇させたのはポ

ーリングの第 2法則より高価数イオンの方が結合強度が高くなるためと結論付けた

耐水性試験結果の外観写真を観るとSP ガラスの SnO 量 le 60 mol 5SZP ガラスおよび

S5ZP ガラスの P2O5量 = 40 molの組成についてガラスサンプルの形状が大きく変化して

おりDR 重量減も高く耐水性の低さが明らかであった得られた析出物はSnP2O7

Sn2P2O7 Sn3(PO4)2 および亜鉛リン酸結晶の一種であると予想されたその他の組成では

透明性の失われた組成がいくつかあったが外観写真では変化が見られなかった FP ガラス

と 65S5N28P 65Sn-5Nb-30P のガラスが DR重量減がともにゼロという結果が得られた

組成と耐水性に関してはDRおよび重量減がOP増加で単調に低下した結果が得られた

つまり耐水性を改善させる有効な手段はSP 系ガラスのガラス化範囲を拡大かつ OP を

増大させる第三成分の添加によることであることが示唆された

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21

Fig 21 三成分系 SnO-NbO25-P2O5 系のガラス化範囲

Fig 22 作製した Sn-Nb-P ガラス

(a)50Sn-5Nb-45P (b)55Sn-5Nb-40P (c)60Sn-5Nb-35P

(d)65Sn-5Nb-30P (e)70Sn-5Nb-25P (f)60Sn-10Nb-30P

(g)55Sn-20Nb-25P (h)60Sn-15Nb-25P (i)65Sn-10Nb-25P

22

Fig 23 三成分系 SnO-ZnO-P2O5系のガラス化範囲

Fig 24 作製した SZP ガラスの一例

(気泡や脈理のようなものが確認できた組成)

23

Fig 25 SP SZP ガラスの作製フローチャート

Fig 26 Sn-Nb-P SNP ガラスの作製フローチャート

(気泡や脈理のようなものが確認できた組成)

24

Fig 27 FP ガラスの作製フローチャート

Fig 28 耐水性試験(MCC-1法)

25

Table 21 各ガラスの組成分析結果

26

Fig 29 Sn-Nb-P ガラスのメスバウアースペクトル

Table 22 Sn-Nb-P ガラスのメスバウアーパラメーター

27

Fig 210 FP ガラスのメスバウアースペクトル

Table 23 FP ガラスのメスバウアーパラメーター

28

Table 24 各ガラスの物性(密度(ρ)ガラス転移温度(Tg)溶出速度(DR)重量減())

29

Fig 211 SP ガラスの耐水性試験前後の外観写真

Fig 212 Sn-Nb-P ガラスの耐水性試験前後の外観写真

30

Fig 213 SNP ガラスの耐水性試験前後の外観写真

Fig 214 S5ZP ガラスの耐水性試験前後の外観写真

Fig 215 5SZP ガラスの耐水性試験前後の外観写真

31

Fig 216 FP ガラスの耐水性試験前後の外観写真

32

Fig 217 SP ガラスの XRD パターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

33

Fig 218 Sn-Nb-P ガラスの XRD パターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

34

Fig 219 SNP ガラスの XRD パターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

35

Fig 220 5SZP ガラスの XRDパターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

36

Fig 221 S5ZP ガラスの XRDパターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

37

Fig 222 FP ガラスの XRD パターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

38

Fig 223 各ガラス系の DR と OP の関係性

39

Fig 224 各ガラス系の重量減と OP の関係性

40

第 3章 分光法を用いたスズリン酸塩系ガラスの構造解析

31 緒言

前章ではSP ガラスおよび第三成分に Nb2O5 ZnOを添加した Sn-Nb-P ガラスSNP ガラ

スSZP ガラスの物性特に耐水性に関する第三成分添加の有効性を明らかにしたその添

加した第三成分の二種類についてもNb2O5 の方が ZnO よりも溶出速度重量減ともに抑

制することができSP ガラスの低ガラス転移温度という特性も維持されていることが判明

したしかし現段階では本研究の主要な物性である耐水性改善の要因が明確になって

いない組成の観点からはOP の値が高い組成が良好な耐水性であることが分かったが

組成だけでは耐水性改善のメカニズムについて完全には理解できないここでリン酸塩

ガラスの溶出のメカニズムは第 1 章で述べたように加水分解反応と水和反応が要因とな

る[1 2]この機構はそれぞれリン酸の構造つまり架橋酸素 BO の数が大きく関わって

おりリン酸アニオンの[PO4]ユニットの架橋酸素数を知ることが重要であるこの BO の

情報を得るためにはガラス構造を示す指標の一つである Qn(n は[PO4]ユニット中の架橋

酸素数を表す)を調べることが必須であるまたQn の分布を調べるためにはガラスの

構造解析を行う必要性がある

ガラスの構造解析には種々の方法があり特にラマン分光法や赤外(IR)分光法核

磁気共鳴法(NMR)などの分光学的手法を用いた構造解析の報告が多い[3-5]ラマン分光

法および IR分光法は原理は異なるがどちらも結合の振動モードを測定する手法であり[6]

リン酸塩ガラスだけでなくケイ酸塩ガラスホウ酸塩ガラスなど様々なガラス系にて測

定がなされている[7 8]また得られた結合状態の情報からリン酸塩アニオンの Qn分布

を調べることも可能であるNMR は共鳴吸収ピークの化学シフト(共鳴周波数のズレ)

から構造を決定する手法であるガラスの場合SiO2や B2O3 P2O5といった網目形成酸化物

の Qn分布を得るために一般的に使用されている手法である[9]

今回これらの測定の中でラマン分光法を選択し構造解析を行ったラマン分光法は

測定する際にサンプル形状を気にすることなく基本的にそのまま測定できるためIR 分

光法のようにサンプル形状で測定方法を変える必要はないまたIR 分光法では例えば

KBr 錠剤法やヌジュール法のように測定を行うためのサンプル調整に手間がかかる場合が

ある[6]さらに比較対象の FP ガラスではNMR を測定できないため作製ガラスを全

て比較検討できるようにラマン分光法を選択した

本章ではラマン分光法を用いて各ガラスの構造解析を行い[PO4]ユニットの Qn分布を

調査し平均 BO数 nを算出することで耐水性と構造の関係性を検討したまたラマン

分光法によって得られた Qn分布の妥当性を確認するためにSP ガラスおよび 67S5N28P ガ

ラスの NMRを測定も行い比較した

32 実験方法

41

321 サンプル準備

ラマン分光およびメスバウアー分光の測定では第 2 章で作製した各ガラスのバルク体

を用いたWD試験に使用したサンプルとは別にラマン測定用のサンプルを用意した適

度な大きさ大体 15 cm角程度のサイズになるようにガラスカッターで切断しその後

十分な平滑性を得るために鏡面研磨を施した

322 ラマン分光測定

使用したラマン分光装置は顕微レーザーラマン分光装置(Jasco NRS-5100)を用いた

用いたレーザー波長は 53208 nmであり400 - 2000 cm-1の範囲で測定した

Qn 分布を導くためにピークフィッティングを行いリン酸塩アニオンのラマンバンド

が現れる950 - 1250 cm-1付近および 700 - 750cm-付近の範囲で定量した

323 31P MAS NMR測定

31P MAS NMRの測定は Varian NMR System 500 を用いて32 mmの MASプローブ

202309MHzにて行った測定パラメーターを以下に示すπ4 パルス長さ 14 μs 待ち時間

(pulse delay)10 s 積算回数 3600 scan シリンダー円筒形状の Zrローターの回転スピード

160 kHz referenceとして二番目の基準物質として使われる NH4H2PO4を使用化学シフト

は85 H3PO4溶液から δ = 10 ppmである

33 結果考察

331 各ガラス系のラマンスペクトル

Figs 31 - 35にラマンスペクトルを示す各ピークは以下の通りに帰属し各スペクト

ル中に該当する構造をピーク位置に示した

1230 - 1260 cm-1 P=O NBO Q

2 [10]

1110 - 1150 cm-1metaphosphate (PO3)

- Q

2 [10]

1030 - 1100 cm-1pyrophosphate (PO35)

2- Q

1 [10]

970 - 1000 cm-1orthophosphate (PO4)

3- Q

0 [10]

920 - 930 cm-1asymmetric (P-O-P) Q

1 [10]

730 - 750 cm-1symmetric (P-O-P) Q

1 [10]

710 - 720 cm-1asymmetric (P-O-P) Q

2 [10]

810 - 820 cm-1Nb-O [NbO4] tetrahedron [11]

900 - 920 cm-1Nb-O isolated [NbO6] octahedron [11]

42

SP ガラスのラマンスペクトル(Fig 31)を見ると50S50P 60S40P ではmetaphosphate

の Q2 構造が支配的であるがSnO 量が増えるにつれてその構造が変化し70S30P では

pyrophosphateの Q1構造と orthophosphateの Q

0構造が共存した構造となっているまたSnO

量の少ない 50S50P および 60S40P において確認されたQ2構造の P=O のピークが見えなく

なっているつまり耐水性と関連して考えるとSnO量が増えるにつれてP-O-P 結合か

ら Sn-O-P 結合に代わり水分子との反応である加水分解反応を妨げる構造に変化している

ことがわかる

Figs 32 33にNb2O5を添加した Sn-Nb-P ガラスおよび SNP ガラスのラマンスペクトル

を示すまずSn-Nb-P ガラスについてNb 無添加の 65Sn-0Nb-35P は主に Q1構造であ

りNbO25が添加されることによってQ0構造に変化しQ

1 Q

0構造が共存しているような

ピークが得られた添加量が少ないガラス系であるため徐々に変化しているのを確認し

た800 cm-1を少し越えた 810 - 820 cm

-1付近にNb2O5を添加することでピークが現れそ

して添加量を増量することで強度が強まるピークがありこのピークは四面体の[NbO4]

のものと判断した

SNP ガラスのラマンスペクトルについてはNb2O5添加量を固定した組成であるためSP

ガラスのような挙動が観察された50S50N45P では50S50P ガラスと同じようにQ2構造

が主な構造でありSnO量の増加に伴って60S5N35P Q1構造67S5N28P Q

0構造に支配

的な構造が変化しているこれはSP ガラスと同じ傾向を示しているためP-O-P rarr Sn-O-P

に置き替わっていることが示唆されるNb-O に関するピークでは50S5N45P のみ[NbO4]

四面体のピークを確認できず900 - 920 cm-1付近に[NbO6]八面体のピークが確認された

SnO量が増量した 60S5N35P では810 cm-1付近の [NbO4] 四面体のピークが現れているが

[NbO6]八面体のピークと 900 - 920 cm-1付近の Q

1構造のピークが非常に近い(ほぼ重なって

いる)ことから60S5N35P については[NbO4] 四面体および[NbO6]八面体の共存の可能性

も考えられるまた67S5NP28 では[NbO4] 四面体のみのピークが観察されたためこ

の Nb-O の配位数変化は[PO4] unitの状態によって変化している可能性も示唆された

ZnO を添加した S5ZP ガラスおよび 5SZP ガラスのラマンスペクトルを Fig 34 に示す

図の下部三つが S5ZP ガラス上部三つが 5SZP ガラスのスペクトルであるSZP ガラスの

二系統を比べるとあきらかなスペクトルの違いが確認された各ガラス系で確認すると

SnO 量が最小の 55S5Z40P はQ2構造と Q

1構造の範囲に跨っているようなスペクトルが得

られた62S5Z33P および 65S5Z30P のスペクトルからはどちらもほぼ Q1構造であると判

断した5SZP のスペクトルは1000 - 1250 cm-1付近の範囲で裾を引くような(なだらかな)

スペクトルが得られたZnO 量が最小の 5S55Z40P にはQ2構造が主な構造に見えるが

shoulderピークのような Q1構造(1030 - 1100 cm

-1)が確認できる5S62Z40P においては

1000 - 1250 cm-1付近の範囲まで幅広いスペクトルが得られた730 - 750 cm

-1付近にピーク

が現れているためおそらく Q1構造が最も多く存在していると考えられる65S5Z30P では

Q1構造Q

0構造が共存しているようなピークが得られた

43

FP ガラスのラマンスペクトルを Fig 35 に示すFe量の少ない 20F80P 25F75P と他の三

つで構造が異なっていることである20F80P 25F75P はQ2構造と Q

1構造が基本構造にな

っていると判断できる 30F70P は1110 - 1150 cm-1付近に shoulderピークのようなものがあ

りQ2 Q

1 Q

0構造が共存しているようなスペクトルであった35F65P 40F60P はQ1構造

が主な構造でQ0構造があると判断した

332 平均 BO数 n (Qn分布)

まずピーク分離について散乱断面積が見積もれなかったためラマンの散乱強度比

を Qn分布として簡易的にピーク分離を行い(Fig 36)そこから平均架橋酸素数 BO 数 n

を算出したここでFig 37 に 31P MAS NMRスペクトルを示しTable 31に NMRおよび

ラマン分光より得られた平均 BO 数 n を示す(NMR の帰属 reference [12])表よりNMR

とラマンから得られた Qn分布はほぼ一致していることが分かった60S40Pについては支

配構造が NMR(Q1) ラマン(Q

2)で逆になったこれは60S40P の組成がQ

2と Q1のほぼ中

間の組成になるためこのようなズレが生じたと考えられるしかし今回のラマンによ

る Qn分布の算出についてはほぼ問題ないと判断した

Table 32にラマンスペクトルより求めた Qn分布平均 BO 数 nをを示しTable 24に示

した DR 重量減の結果を併記する

SP ガラスのうち耐水性が低いガラスは Q2構造によって形成されているSnO量の増加

によって NBOの増加とともに耐水性の向上が確認できSnOが入ることでSn-O-P 結合を

形成し水分子からの攻撃を受けにくくなっていることが考えられる

Sn-Nb-P ガラスでは基本的に Q1構造が主構造でNb2O5の添加が増えるにつれQ

0構

造が支配的になり耐水性は次第に向上していく最も耐水性のよかった 65S-5Nb-30P は

Q0構造での割合が非常に高く平均 BO数 n値が 03であった

SNP ガラスではP2O5量が多い組成の 50S5N45Pにおいても平均 BO数 nが 60S40P と

同じながらも耐水性が良くなっている67S5N28P はほぼ完全に Q0構造であり平均 Q

n

値は 0となった

SZP ガラスについてはS5ZP 5ZSP のどちらの系列についても耐水性の結果に大きな差

というものは確認されなかったが構造的にも平均 BO数 nが 09 10 17という結果であ

った

FP ガラスについてはFe2O3 lt 30 molのときは平均 BO 数 nが20 19と高い数値を

示したが耐水性は非常に良好であったこの結果より組成だけでなく構造的にも耐

水性高くなる要因が不明である一つの原因の可能性としてメスバウアーより得られた

Fe2+の存在比が 40以上と高かったことがFe2O3含有量が少ない組成時には効果的になっ

ているのかもしれない

333 平均 BO数 nと耐水性の関係性

44

Fig 38に DRと平均 BO数 nの関係性についてFig 39に重量減と平均 BO数 nの関係

性をそれぞれ示すまたOP の時と同様に各図にリン酸塩の三つの構造の平均 BO数

n も表記した双方の図よりDR 重量減共に平均 BO 数 nが低下することで単調に下がっ

ていることが分かるまた耐水性の良かったNb2O5添加の Sn-Nb-P SNPガラスはの DR

の挙動(傾き)はOP 時とも異なった挙動が得られた

Fig 310に OP と平均 BO数 nの関係を示す図中に示す茶色metaphosphate 黄色

pyrophosphate 灰色orthophosphate であるこの図から耐水性改善には平均 BO 数

n を下げOP を上げることが重要であるのが分かるまたNb5+の添加はOP を上げる

だけでなく平均 BO 数も減少させることから非常に効果的な成分であることが明らかで

あるこれはP5+から同酸価数 Nb

5+に少量でも置き換えることで平均 BO 数 n を下げ

OP を上げることを可能としている(実際に orthophosphate の OP4 よりも高い OP でガ

ラスが作製できている)つまりNb5+の添加によって P-O-P 結合が減少し水和反応加

水分解反応が抑制されているからである

以上の結果SP 系ガラスの耐水性改善には低い平均 BO 数と高い OP の組成にするこ

とが重要でNb2O5の添加は非常に効果的であることが分かったその一方でガラス中の

詳細な構造的要因についてははっきりしていないため次章の第 4 章にてさらに詳し

い構造解析を行い耐水性改善の要因について調査を行った

34 結言

本章ではラマン分光を使用して各ガラス系のリン酸塩アニオンの構造を簡易定量で

評価し組成と構造の関係について考察した

平均 BO 数 n と耐水性に関してはDR および重量減が平均 BO 数 n の減少で単調に低下

した結果が得られた

平均 BO数 nと OP の図より耐水性改善には平均 BO数 nを下げることそして OP

を上げることが重要であることが明白であった

Nb5+の添加は平均 BO数を減少させるだけでなくOP も上げることからガラス構造内

の P-O-P 結合を減少させる故に水和反応加水分解反応が抑制され耐水性が大幅に

改善された故にNb2O5 のような高価数金属酸化物を添加することが効果的であること

が示唆された

参考文献

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46

Fig 31 SP ガラスのラマンスペクトル

47

Fig 32 Sn-Nb-P ガラスのラマンスペクトル

48

Fig 33 SNP ガラスのラマンスペクトル

49

Fig 34 SZP ガラスのラマンスペクトル

50

Fig 35 FP ガラスのラマンスペクトル

51

Fig 36 ラマンスペクトルのピーク分離例(67S5N28P)

Raman Shift (cm-1)

52

Fig 37 NMRスペクトル

Table 31 NMR およびラマン分光より得られた SP 67S5N28P ガラスの

Qn分布および平均 BO数 n

53

Table 32 各ガラスのラマンスペクトルより求めた Qn分布結果

(表の赤線より右側の結果は Table 22 より)

1 仕込み組成による数値

2 Fig 2212 に示した析出物を取り除いた後の数値

54

Fig 38 DR と平均 BO数 nの関係性

55

Fig 39 重量減と平均 BO数 nの関係性

56

Fig 310 OP と平均 BO数 nの関係性

Meta

Pyro

Ortho

57

第 4章 放射光を用いたスズリン酸塩系ガラスの構造解析

41 緒言

前章の第 3 章にてラマン分光法を用いて SP 系ガラスの構造解析により Qn分布を導き

出したことで耐水性と構造の関係についてある程度関連性を導くことができたリン

酸アニオンについてはQ0(orthophosphate)構造 gt Q

1(pyrophosphate)構造 gt Q2

(metaphosphate)構造の順で良耐水性となるしかしSn Nbおよび Znの局所構造につ

いては知見が得られていないラマン分光や IR分光などの分光学的手法を用いてSnや

Nb Zn の周辺の局所構造を知るには限界があるまたガラスの構造解析を行う上で非常

に重要な因子である中距離構造の評価には分光学的手法は不向きである[1]

そこで局所構造や中距離構造を知るために有効な手法として放射光線を用いた構造

解析がある放射光(SR 光)とはシンクロトロンなどの加速器で高速に加速された電子

が進行方向を磁場によって変えられた際に放射する電磁波である[2]エネルギーが高く

(短波長)輝度が高い特性を有している日本国内では兵庫県佐用町の SPring-8や茨城

県つくば市の高エネルギー加速器研究機構佐賀県鳥栖市の佐賀県立九州シンクロトロン

光研究センターなど複数個所に放射光施設が設置されている

放射光を用いたガラスの構造解析には一般的に高エネルギーX 線回折(High Energy

X-ray diffraction HEXRD)が用いられるこの回折実験から高い散乱ベクトル Q(= 4π sinθλ)

まで回折データが得られる多種類の原子から構成される物質の場合はFaber-Ziman 型[3]

の構造因子 S(Q)を用いる以下の式に示すようにFaber-Ziman 型構造因子 S(Q)は同種また

は異種の原子による相関の重み関数付の和として示される例として SiO2ガラスで説明す

ると構造因子 S(Q)は三種類の原子付の S(Q)の重み付の和として表されていることが分か

I(Q) 散乱断面積 ltgt 原子一個当たりの平均値 f(Q) 原子散乱因子 W 重み関数

通常の研究室で使用される X 線回折(XRD)装置で用いられる特性 X 線はCuKα線(λ

= 0154 nm 81 keV)が最も良く用いられより高いエネルギーの X 線が必要な場合は

MoKα線(λ = 0071 nm 175 keV)が使用される一方でSPring-8のビームライン BL04B2

で行われる高エネルギーX 線回折(HEXRD)測定で使用される SR のエネルギーは378 keV

58

~ が使用可能である[2]従ってガラス以外の液体のような非晶質物質にも非常に精度

よく構造解析が行われている[4]

また局所構造解析の一つに X線異常散乱法という測定方法がある[5 6]これは通常

の X 線回折実験では分離不可能な特定元素に関連する部分構造因子(散乱強度曲線)を得

ることができる手法である今回 HEXRD の測定時に使用したエネルギー614 keV では各元

素の異常散乱項のエネルギー依存性は確認されない(Fig 41)その一方でFig 42に示す

Sn の吸収端付近の 292 keV付近ではSnの異常分散項のエネルギー依存性が確認できる

つまりSnの吸収端近傍より低エネルギー(E)側の異なるエネルギーの X線(E1 E2)を

使って散乱強度を測定し各 E における異常分散項(f`)の変化(つまり高い E1 から低い

E2 の散乱強度の差分)を利用して Snに関する部分構造因子を求める構造解析が AXS 法で

あるこの測定法は古くから知られている方法ではあるが装置の測定条件や設備の問

題からなどから使用があまり普及していなかった[5 6]近年になり金属ガラスの構造解

析について徐々に報告が出てきており今後注目される測定法である

HEXRD および AXS 法などから得られたデータ実測の構造因子 S(Q)は一次元の限られ

た構造情報であるためガラスなどの非晶質物質の中距離構造を解明するためにはこれ

らのデータを基に三次元構造を求める必要がある三次元構造モデルの作成には逆モンテ

カルロ(RMC)シミュレーションを使用することが有効である[7]このシミュレーション

は任意で決めたシミュレーションボックス内の粒子をランダムに動かすことで実測の

構造因子 S(Q)を再現する三次元構造モデルを構築する方法である

SP ガラスについては分光学的手法について数多く報告があるが放射光を用いた回折

法はほとんど適用されていないそこで本研究では HEXRD および AXS 法を用いた構造

解析を行うことでSn Nb周りの構造を解明すると共にSNP ガラスの耐水性改善のメカ

ニズムについて考察したまたAXS 法の有効性についても検討した測定を行ったガラ

スはSP ガラスおよび最も耐水性の高かった 67S5N28P を選択した

42 実験方法

421 HEXRD AXS法

HEXRDはSPring-8のビームライン BL04B2 で測定を行ったエネルギー614 keV の X

線を用いた測定サンプルの厚みは09 mm (plusmn0005 mm)になるまで研磨を行った

AXS 測定はSPring-8のビームライン BL13XUを使用した(Fig 43)それぞれの測定し

た X 線のエネルギーについて以下に示す

①Sn K吸収端hellip292 keV near edgehellip291452 keV (-60 eV) far edgehellip289751 keV (-230 eV)

②Nb K吸収端hellip1899 keV near edgehellip189562 keV (-30 eV) far edgehellip187863 keV (-230 eV)

測定に使用したサンプルの厚さが015 - 030 mmとなるまで研磨を施した

SP ガラスについて50S50P 60S40P 67S33P の三組成のガラスを測定した70S30P に関

59

しては測定を試みたが放射光照射によって結晶化してしまいガラス部分の正確な構

造因子を得るための強度補正ができず解析を断念した

422 RMCのモデリング

Table 41 に RMC の各種パラメーターを示す粒子数は約 5000 個でそれに伴う boxの一

辺の長さは約 42 ~ 46 Ǻになった拘束条件にP の配位数が 4になるような条件を付け

加えたFig 44にSn2P2O7結晶および Sn3P2O8結晶の動径分布関数(RDF)をTable 32

にRDFから得られた第一近接距離[8 9] を示すこれらの数値を使用しcutoffを決定し

たNb-O についてはいくつかの文献値を参考にした[10 11]

各ガラスの RMCのモデリングは①HEXRDから得られた S(Q)のみ②S(Q)および AXS

から得られた部分構造因子を加えた場合でそれぞれ計算した

43 結果考察

最初にNbの AXSから得られたデータについて解析を試みたが妥当な構造モデルが得

られなかったためSnの AXSのみで解析を進めたNb2O5の量が 5 molと少量であったた

めあまり精度の高いデータが得られなかったと推測される

431 実測の HEXRDおよび AXSの結果

4311 実測 HEXRDの S(Q)

Fig 45 に実測HEXRDの S(Q)を示す四つの組成ともに実測HEXRDの S(Q)が得られ

Nb2O5添加の 67S5N28P ガラスでは Low Q 側に変化が確認された

4312 実測散乱強度曲線

Fig 46 に Snの散乱強度曲線を示す(a) の 67S33P のこの曲線からはfar edgeおよび

near edge のエネルギー間で差分が見られエネルギーの依存性が確認された50S50P

67S5N28P のガラスについても同じように差分が確認されたが(b)の 60S40P についてのみ

他とは若干異なる結果(緑丸)であったためRMC の構造解析には差分の構造因子ではな

くfar edge near edge 二つの構造因子を用いた

4313 全相関関数 T(r)

Fig 47 に全相関関数 T(r) を示すHEXRD から得られたものを実線でSnの AXS から

得られたものは点線で示し組成ごとに重ねて表示した図中に各ピークについて帰属し

ているがSnの T(r)からはSn-O Sn-P Sn-Snのみのピークを確認した

432 RMCの計算結果および考察

60

構造モデルの一例として67S5N28P ガラスの得られた構造モデルをFig 48に示す水

色の多面体 unitSnON 黄色の多面体 unitPO4 ピンクの多面体 unitNbONである以下

詳細な構造解析の結果および考察を記す

4321 RMCのフィッティング結果

RMCのフィッティング結果の一例として67S33P の HEXRD と Snの AXS の構造因子か

ら得た結果を示す(Fig 49)二つの構造因子を加えて計算した結果においてもHEXRD

の S(Q) AXS の S(Q)に各々に対する良好なフィッティング結果が得られた他の組成も

同様なフィッティング結果が得られた

4322得られた各 pairの平均配位数平均角度平均結合距離

RMCの結果によって得られた各 pairの平均配位数平均角度平均結合距離を Tables 43

に示す上段が HEXRD の S(Q)のみ下段が HEXRD に Sn の AXS の部分構造因子を加え

て結果である最下部は比較のためにSn2P2O7の情報を記載した[8]

P-O pairについてRMCモデル中の PON多面体に関して平均配位数 Nが 4および P-O

の平均結合距離が約 160Å平均結合角度angO-P-O が約 109degという結果が得られた組成

による大きな違いは確認されなかったのはP の配位数が 4になるように拘束条件をかけた

結果であると考えられるSnON多面体についてはSnO量の増加 = OP の増加であり平

均配位数 Nが 3 ~ 35へ増加した平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約

22Åで組成による大きな変化はほとんど見られなかったNb2O5を 5 mol添加したガラ

スではNbON多面体の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平均配位数 N約 4Nb-O 平均結

合距離約 20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O(約 105deg)と値が近いこと

また6配位ではなく 4配位として主に存在していることからSnO と同じような働きをし

ていると推測される

以上の結果からNb2O5添加の耐水性改善の要因として結合距離が Sn-O が約 22Åに対

し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強固にして

いることも一つの要因として考えられる

また67S5N28P ガラスの各多面体モデルを確認すると(Fig 410)P は PO4Snは SnO4

と SnO3Nbは NbO4をそれぞれ再現している

4323得られた各 pairの結合様式

RMC の結果により得られた各 pair の結合様式を Tables 44 に示す上段が HEXRD の

S(Q)のみ下段が HEXRDに Snの AXS の部分構造因子を加えた結果である最下部は比

較のためにSn2P2O7の情報を記載した[8]

結合様式に関してはPO4四面体は他の多面体も含めてほぼ頂点共有で存在している

SnON多面体についてはSnO 量が少ない配位数が 3 に近い場合頂点共有以外の共有の

61

割合も多くSnO 量が増えるにつれて頂点共有が主になり網目形成体として振舞ってい

ると考えられる組成によって平均結合距離や平均角度の大きな変化が見られなかったこ

とから平均配位数が結合様式を決める重要なファクターであるということも考えられる

またHEXRD と AXS 法の結果がほぼ同じであったこれは主成分が SnO のガラスであ

るためHEXRDでも十分に詳細な構造が得られたため大きな変化が現れなかったと考え

られるNbON 多面体はPO4 四面体と SnON 多面体とはほぼ頂点共有で繋がっている以

上の結果よりSnO量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体的に各多面体同士の

頂点共有が増えていることから耐水性の改善には頂点共有を多く含む構造であること

が重要である或いは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的となって

いるということが推測されるFig 411に 67S5N28P ガラスの構造モデルを示す各多面

体はほぼ頂点共有で繋がっていることが確認できる

4324 平均 BO数の比較

Tables 45にNMR Raman RMC(HEXRD) RMC(HEXRD + AXS)の平均BO数を示すRMC

から得られた平均 BO 数 nはNMR Raman と同様に Nb2O5の添加による大幅な減少が確認

されたしかしNMR Raman と比較すると全組成において数値が大きすぎで適当でない

50S50P の構造モデルを観るとPO4四面体間で3配位 O の存在が確認された(Fig 412)た

め実測で得られた n値を再現できるようなPO4四面体モデル間の繋がり方に関する拘束条

件を加えて RMCを計算する必要性があるまた仮に3配位 Oの存在があるとすると電

子状態の変化が生じていることがと示唆されるため分子軌道計算を用いて電子状態解析

を行い確認する必要がある

4325 耐水性の改善について

Nb2O5を添加のガラス構造への影響について①6配位ではなく 4配位として主に存在し

ていることからSnO と同じような働きをしていると推測される②結合距離が Sn-O が約

22Åに対し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強

固にしている③ガラス構造中で全体的に各多面体同士の頂点共有が増えている以上の

ことが判明した以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性

耐候性を改善した要因として考えられる

44 結言

本章では分光学的手法では評価できないガラスの中距離構造局所構造について理解

するために放射光を用いた構造解析を実施しSP ガラスの構造と耐水性改善について考

察したHEXRDおよび AXS法を用いて測定を行い得られたデータを RMCシミュレーシ

ョンにて解析を行った

解析の結果 Sn-O pair については平均配位数 Nが 3 ~ 35でSnO量の増加 = OP の増

62

加に伴い高くなった平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約 22Åであ

ったP-O Sn-Oについては組成による大きな変化はほとんど見られなかった67S5N28P

ガラスの Nb-O pair の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平均配位数約 4Nb-O 平均結合距

離約 20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O(約 105deg)と値が近いことま

た6配位ではなく 4配位として主に存在していることからSnOと同じような働き(網目

形成体)をしていると推測されるまた結合距離が Sn-O が約 22Åに対し Nb-O は約 20

Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強固にしていると言える

SnO 量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体的に各多面体同士の頂点共有が増え

ていることから耐水性の改善には頂点共有を多く含む構造であることが重要である

もしくは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的であることが推測さ

れる以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性耐候性を

改善した要因として考えられる

またAXS 法の有効性についても確認し効果的であることが判明したただし今回

は主成分が Sn の組成のガラスでありHEXRD でも十分に詳細な構造が得られたため

大きな差は現れなかった

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63

Fig 41 各原子の異常分散項のエネルギー依存性

Fig 42 Sn の異常分散項のエネルギー依存性

64

Fig 43 SPring-8の BL13XU

65

Tab

le 4

1

RM

Cの各パラメーター

66

Fig 44 Sn2P2O7 Sn3P2O8結晶の RDF

Table 42 Sn2P2O7 Sn3P2O8結晶の各 pairの第一近接距離

67

Fig 45 得られた実測 HEXRDの S(Q)

68

Fig 46 Sn の異常散乱測定により得られた散乱強度のエネルギー依存性

(a)67S33P (b)60S40P

69

Fig 47 全相関関数 T(r)

太線 HEXRD より

細線 Sn の AXSより

70

Fig 48 67S5N28P ガラス構造のモデル

71

Fig 49 RMC フィッティングの結果

72

Tab

le 4

3 各

pairの平均配位数角度結合距離

73

Fig

4

10

67

S5

N2

8Pガラスの各多面体モデル

74

Tab

le 4

4 各

pairの結合様式

75

Fig 411 67S5N28P ガラスの構造モデル

76

Table 45 平均 BO 各数 nの比較

Fig 412 50S50P ガラスの構造モデル

77

第 5章 総括

本研究ではSP ガラスを対象とした本研究では鉛フリー代替ガラスまたは希土類フ

リー蛍光体として SP ガラスの新規高機能化を将来的に目指し問題点であるldquo化学的耐久

性rdquoの改善につながる知見を得ることを目的としたそこでまずSP ガラスを母体ガラ

スとし第三成分に Nb2O5を添加した Sn-Nb-P SNP ガラスZnO を添加した SZP ガラスを

作製し耐水性を中心とした物性評価を行った次に分光学的手法で構造解析を行い

Qn 分布を導き出した最後に放射光を用いた構造解析を行い耐水性改善に関する構造的

な考察を行った以下に本研究で行った検討内容を示す

(1)SPガラスおよび第三成分Nb2O5 ZnOを添加した三成分系SPガラスの物性評価(第 2章)

(2)SP 系ガラスの分光学的手法による Qn分布導出(第 3章)

(3)放射光を用いた SP 系ガラスの構造解析構造と耐水性改善の関連について(第 4章)

各章についてまとめた結果を以下に示す

第 2章

第 2章では二成分系および三成分系のリン酸塩系ガラスの各種物性(密度や熱的特性

耐水性)の評価を行った二成分系ではSP ガラスに加え良好な耐水性を有する鉄リン

酸塩(Fe2O3-P2O5)系ガラス(以下 FP ガラス)を比較のために三成分系では二成分系

の SP ガラスに Nb2O5を添加したニオブ含有 SP ガラス(SNP ガラス)および ZnO を添加し

た亜鉛含有 SP ガラス(SZP ガラス)を作製した

今回作製した SP 系ガラスは低ガラス転移温度を有していた各組成の温度域はSP

ガラスTg le 280 Sn-Nb-P SNPガラスTg le 3505SZP S5ZPガラスTg ≦ 450であった

各種 SP ガラスの耐水性試験の結果二成分系の SP ガラスよりも三成分系ガラスの方が

良好な耐水性を有していた65Sn-5Nb-30P 67S5N28P ガラスが最も耐水性が良好であり化

学的耐久性の改善には Nb2O5が ZnOよりも効果的であった

組成と耐水性に関してはDRおよび重量減がOP増加で単調に低下した結果が得られた

つまり耐水性を改善させるにはSP 系ガラスのガラス化範囲を拡大かつ OP を増大させ

る第三成分の添加が有効であることが示唆された

第 3章

第 3章ではSP 系ガラスの分光学的手法による Qn分布の導出を行ったラマン分光法を

用いて各ガラス系のリン酸塩アニオンの構造を簡易定量で評価し組成と構造の関係に

ついて考察した平均 BO 数 n と耐水性に関してはDR および重量減が平均 BO 数 nの減

少で単調に低下することが明らかとなった

平均 BO 数 n と OP の関係より耐水性改善には平均 BO 数 n を下げることそして

OP を上げることが重要であることが明らかになった

78

Nb5+の添加は平均 BO数を減少させるだけでなくOP も上げることからガラス構造

内の P-O-P 結合を減少させ水和反応加水分解反応が抑制され耐水性が大幅に改善さ

れることが示唆された故にNb2O5 のような高価数金属酸化物を添加することが効果的

であることが再度確認された

第 4章

耐水性向上についてより深く評価するためSP SNP ガラスの局所構造に関する知見を得

ることを目的に放射光を用いた構造解析を行った高エネルギーX 線回折(HEXRD)お

よび X 線異常散乱(AXS)法で測定したデータを再現する構造モデルを逆モンテカルロ

(RMC)シミュレーションで構築し構造解析を行った

RMC モデル中の PON多面体に関して平均配位数 Nが 4および P-O の平均結合距離が約

160Å平均結合角度angO-P-Oが約 109degという結果が得られた組成による大きな違いは確

認されなかったSnON多面体については平均配位数 N が 3~4 でSnO 量の増加に伴い 4

に近い値となった平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約 22Åで組成

による大きな変化は見られなかった

Nb2O5を 5 mol添加したガラスではNbON多面体の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平

均配位数N約4Nb-O平均結合距離約20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O

(約 105deg)と値が近いことまた6配位ではなく 4配位として主に存在していることから

SnO と同じような網目形成体として働いていると推測されたまた結合距離が Sn-O が約

22Åに対し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強

固にしていると考えられるまたSnO 量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体

的に各多面体同士の頂点共有が増えていることから耐水性の改善には頂点共有を多く

含む構造もしくは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的であること

が示唆された以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性

耐候性を改善した要因として考えられる

またAXS 法の有効性についても確認し効果的であることが判明したただし今回

は主成分が Snの組成のガラスでありHEXRD でも十分に詳細な Snの周辺構造が得られ

たためAXSを利用した場合との大きな構造の差は認められなかった

本研究では様々な優れた特徴を有する SP ガラスにおける耐水性改善のメカニズムにつ

いて検討を行ったこの系のガラスについてはこれまでほとんど利用されていなかった

放射光を用いた構造解析を駆使し第三成分の添加によってどのような構造的変化が生じ

耐水性を改善させるか新たな知見を得ることができた最終目標である機能性ガラスの

開発における新たなる材料設計指針の確立に対してldquo耐水性rdquoに関しては概ね明らかにな

ったと考えられる一方で今回検討していな電子状態化学結合性についても評価する

ことで溶出メカニズムの解明が可能になり材料設計指針の確立が期待される

79

発表論文リスト

口頭発表

第 2章および第 3章

(1) SnO-P2O5 系ガラスへの酸化物添加効果

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎

日本セラミックス協会第 25 回秋季シンポジウム No3C06 (名古屋市 2012年 9月)

(2) Effect of Nb2O5 addition to SnO-P2O5 glass (Poster)

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

International Union of Materials Research Societies International Conference on Electronic

Materials IUMRS-ICEM 2012 A-9-P26-003 (Yokohama 2012 年 9月)

(3) スズリン酸塩系ガラスの蛍光特性耐水性に及ばす酸化物の添加効果(ポスター)

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎

日本セラミックス協会 2013 年年会 1P070 (東京 2013年 3月)

第 4章

(1) 放射光を用いたスズリン酸塩ガラスの構造解析

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎小原真二臼杵毅

日本セラミックス協会第 27 回秋季シンポジウム 2B22 (鹿児島市 2014年 9 月)

(2) Structural analysis of tin phosphate glasses by synchrotron radiation (Poster)

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba Shinji Kohara Takeshi Usuki

International Congress on Glass ICG Annual Meeting Bangkok 2015 P14-138 p186 (2015)

発表論文

(1) Effect of Nb2O5 addition to SnO- P2O5 glass

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

Journal of the Ceramic Society of Japan Vol 120 No 11 pp530-533 (2012)

(2) Structural analysis of SnO- P2O5 glass

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

Journal of the Ceramic Society of Japan(準備中)

80

謝辞

本研究を遂行するにあたり終始暖かいご指導ご助言並びにご鞭撻を賜わりました岡

山大学大学院環境生命科学研究科 難波徳郎教授に心より感謝の意を表します

また本研究を遂行するにあたり懇切丁寧なご指導とご意見をしていただいた岡山大

学大学院環境生命科学研究科 紅野安彦准教授環境環理センター 崎田真一助教に心より

感謝いたします

本研究を遂行するにあたりラマン分光測定の使用についてご助言ご教授して頂い

た岡山大学自然科学研究科 藤井達生教授中西真助教に心より感謝の意を表します

Sn のメスバウアー測定の際に協力して頂いた岡山大学自然科学研究科先端自然科学教

育研究推進本部高田研究室 松本修治特任助教(当時旭硝子株式会社中央研究所)また

Feのメスバウアーを測定の際に協力して頂いた岡山大学自然科学研究科 藤井達生教授に

心より感謝の意を表します

固体 NMR の岡山大学自然科学研究科 早川聡教授に心より感謝の意を表します

本研究を遂行するにあたりSPring-8 にてHEXRD および AXS 法の測定法および原理

についてご教示頂きました物質材料研究機構 小原真司博士ならびに山形大学 臼杵毅

教授に心より感謝の意を表します

本研究は多くの後輩諸君の協力によって遂行されました特に実際に共同研究共同

実験を遂行して頂いたOG 藤原沙弥香さん博士前期課程 2 年 東利彦君OB 徳岡太誠

君学士課程 4年 塩田将大君に心より感謝の意を表しますまた難波研究室で共に研

究生活を過ごした卒業生在学生の方々に感謝の意を表します

また同時期に博士後期課程に在籍された香川高等専門学校の桟敷剛さんにはNbに

関する有益な情報だけでなく辛い状況でも励ましを頂きました心より感謝の意を表し

ます

最後に長きに渡る学生生活を認め経済面だけでなく精神面でも支援してくださった

家族に心より深く感謝の意を表します

平成 28年 3月

福井 聡史

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3

(図中の青い O)が Al と結合することによって BO に変化し構造を強化すなわち耐水性

が改善されると考えられるB2O3でも同様の現象が生じると考えられる鉄リン酸塩(FP)

系ガラスの場合ではFig 17 に示すようなFe3+

-On Fe2+

-On PO4の各多面体が連鎖した構

造をとると考えられる[27]Feイオンが価数に関わらず六配位を取っていることからP-O-P

結合よりも Fe-O-P 結合が多く存在するため加水分解が起こりにくく耐水性の高いガラ

スとなる

114 化学的耐久性耐候性

耐候性とは水分子によりリン酸塩が溶出する耐水性とは別の性質でガラス表面の劣

化に対する性質でこの劣化を表す方法には大きく二種類に分別される[1]Fig18 に耐

候性に関するガラスの侵食機構の模式図を示す[1]一つ目は「青ヤケ」と呼ばれるもので

主に SiO2ガラスの表面の修飾イオンと H3O+イオンとのイオン交換の結果ガラス表面に干

渉色のような反射光(低屈折率のガラス層が生成されたことを意味する)が確認される性

質である二つ目は「白ヤケ」と呼ばれるものでガラス表面に水が付着することでイ

オン交換反応が生じて白く曇って見える性質である

115 スズリン酸塩(SP)系ガラス

酸化スズ(SnO)は酸化鉛(PbO)と同じような性質(結晶構造や両性酸化物であるこ

となど)を有しており[28 29]人体や環境への毒性についてほぼ注意せずとも問題のな

い物質である[30]上述した P2O5と組み合わせたスズリン酸塩(SP)系ガラスは低融点

高屈折率無色透明といった特徴を持ち鉛フリー材料の候補の一つとして期待されてい

る具体的な研究例として光学ガラス[31]や封着ガラス[28 32]リチウムイオン二次電池

のアノード[33]などがあるまたSn2+が ns

2型の発光中心として知られ[33]紫外線照射下に

おいて白色蛍光を示すことから希土類フリーの白色蛍光体として注目されている[13 35]

SnO-ZnO-P2O5系ガラスについては実用化されている結晶蛍光体(MgWO4)と比較しても

遜色のない量子効率を有することが分かっている[35]

その一方でSP ガラスについても P2O5系ガラス特有の耐水性の低さが問題であり第三

成分の添加が必須となるすでに述べたが耐水性の問題は鉛フリー材料や希土類フリ

ーの蛍光体といった新規材料として工業的に使用するためには必ずクリアしなければなら

ない問題であるまた使用目的に合わせた成分探索もよく考慮しなければならないため

添加する成分の選択も非常に重要である

12 本研究の目的と意義

本研究の目的はSPガラスやの物性および構造解析を行うことで主に化学的耐久性に

関する要因を解明し新規高機能性ガラスの開発における新たな材料設計指針の確立を目

指した多成分系ガラスの中ではシンプルな組成である三成分系ガラスから解明すること

4

で基礎的な情報を得ることをまず目指したその後の求められる知見は以下に示すと

おりである

① SP ガラスの問題点である耐水性について第三成分を添加することでどの程度改善さ

れるかを把握する第三成分の選択についても検討する

② 第三成分の添加による SPガラスの構造的変化について把握する

③ 構造と耐水性改善の関係について把握する

13 本論文の構成

本論文は以下の 5章から構成されている

第 1章序論では本研究の背景問題提起および目的意義を述べている

第 2章ではSP ガラスおよび二種類の第三成分(Nb2O5 ZnO)をそれぞれ添加した三成分

系 SP ガラスを作製し耐水性を中心とした物性評価を行ったそして各ガラス系の耐水

性と組成の関係性について検討した

第 3章ではラマン分光法を用いて各種 SP ガラスFP ガラスの構造解析を行ったラマ

ンスペクトルから Qn分布を導き出し耐水性とガラス構造の関係性について検討した

第 4章では放射光を用いてSP ガラスおよびニオブ含有 SP ガラスの構造解析を行った

ラマンスペクトルからでは詳細に出来ない SP ガラスの Sn Nb 周辺構造の解明に加え耐

水性と構造との関連性について検討したまた今回構造解析のために用いた X 線異常散

乱法の有効性についても検討した

第 5章は総括である

参考文献

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6

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7

Fig 11 鉛含有ガラスの一例クリスタルガラス

転載ペアワイングラスltボナールgtカガミクリスタル株式会社

Fig 12 鉛含有ガラスの一例放射線遮蔽用ガラス

転載放射線遮蔽用ガラス LX-57B電気硝子建材株式会社

8

Fig 13 リン酸塩ガラスの Qn構造とその組成 [11]より転載

9

Fig 14 リン酸塩ガラスの溶出メカニズム模式図加水分解反応

10

Fig 15 リン酸塩ガラスの溶出メカニズム模式図水和反応 [21]より転載

11

Fig 16 アルミナ含有リン酸塩ガラスの構造

Fig 17 鉄リン酸塩ガラスの構造 [27]より転載

P

O

O

OO Al

O

O

O P

O

O

O Al

O

O

O P

O

O

O

12

Fig 18 ガラスの侵食機構(耐候性)[1]より転載

13

第 2章 スズリン酸塩系ガラスの物性評価

21 緒言

前章で述べたようにスズリン酸塩(SP)系ガラスは無色透明高透過率低ガラス

転移温度など工業的に興味深い特徴を有することが知られている[1]またSn2+が ns

2型の

発光中心となり紫外線照射による白色蛍光を示すことから希土類フリー白色蛍光体とし

ての研究も数多くなされている[2 3]

しかし実用化に向けてはこの系のガラスについてもリン酸塩系ガラスに特有のldquo耐

水性rdquoldquo耐候性rdquoの低さが問題となる[4]この問題点を解決するために第三成分として他

の化合物を加えることが有効でありSP ガラスにおいてはB2O3や ZnO SiO2 MgO MnO

など様々な物質を第三成分として添加した研究報告[5 - 9]があったりNH3雰囲気下で数日

間溶融作製することでガラスを一部窒化することで耐水性を改善させたりという報

告もある[10]SP ガラスに限定しないリン酸塩系ガラスではZnO-P2O5 系ガラスに Sb2O3

や MoO3を添加した報告[11 12]や Na2O-P2O5系ガラスに CuO を加えた報告[13]P2O5-CaO-

Na2O に Ag2Oを添加した報告[14]Na2O-K2O-CaO-P2O5ガラスの一部を窒化することによる

方法[15]等があり数多くのリン酸塩系ガラスの耐水性改善に関する研究がなされている

本研究では高価数金属酸化物および低価数金属酸化物の二種類をそれぞれ第三成分と

して添加した高価数金属酸化物には Nb2O5を低価数金属酸化物には ZnO の二種類の酸

化物を選択した

Nb2O5は古くから光学ガラスの成分として頻繁に使われる物質であり様々な企業から数

多くの特許が出されている[16 17]また耐水性の改善に有効であるとの報告や比較的低

温でもガラス作製ができることが知られており(当然のことながら組成に影響される)

鉛フリーの封着ガラスとしての研究もなされているZnO についてはこれ自体は無着色

成分であるため無色透明なガラスが得られることから光学ガラスの成分に用いられる

ほとんどの組成で低融点ガラスとなり[18 19]これらの特性からSnO-ZnO-P2O5(SZP)

系ガラスは Sn2+を発光中心とした蛍光体の研究対象となっていることが多くSP 系ガラス

では一般的なガラス系である

本章では第三成分を含まない SP ガラスおよび Nb2O5または ZnOを SP ガラスに添加し

た三成分系ガラスをそれぞれ作製し耐水性試験を中心とした各種物性評価を行った比

較対象に耐水性の優れることで知られる鉄リン酸塩系ガラスも同時に作製することでSP

系ガラスへ添加したそれぞれの第三成分の耐水性に対する有効性を検討した

22 実験方法

221 ガラスの組成選択

本研究において作製した SP ガラスは以下の五種類の系列を選択した

14

① スズリン酸塩ガラス(xSnO∙(100-x)P2O5 x = 50 60 67 70 mol)

(略称 SP ガラス組成は 50S50P と表記)

② ニオブ含有 SP ガラス(65SnO∙xNbO25∙(35-x)P2O5 x = 0 1 2 3 4 5 mol)

(略称 Sn-Nb-P ガラス組成は 65S-0Nb-35P と表記)

③ ニオブ含有 SP ガラス(xSnO∙5Nb2O5∙(95-x)P2O5 x = 50 60 67 mol)

(略称 SNP ガラス組成は 50S5N45P と表記)

④ 亜鉛含有 SP ガラス (S5ZP ガラス)(xSnO∙5ZnO∙(95-x)P2O5 x = 55 62 65 mol)

(略称 S5ZP ガラス組成は 55S5Z40P と表記)

⑤ 亜鉛含有 SP ガラス (5SZP ガラス)(5SnO∙xZnO∙(95-x)P2O5 x = 55 62 65 mol)

(略称 5SZP ガラス組成は 5S55Z40P と表記)

(④と⑤は総じて SZP ガラスと表記する場合がある)

それぞれの選択理由はガラス化範囲(各ガラス系のガラス化範囲を Fig 21および Fig

23 に示す)作製の容易さ(気泡の入りにくさ流し出しやすさ)等を考慮し決定した

組成ごとに詳細な選択理由を述べると

②についてNb を P と置換した組成であるFig 22 に示した溶融温度 1100で作製した

Sn-Nb-P ガラスの外観写真より目視でも明らかに透明性の高く着色量の少ない組成は(d)

の 65Sn-5Nb-30P でありこの外観写真を参考に組成を決定したSnO 量を 65 molに固定

しNbO25量を 5 molから 0 mol(Nb無添加組成)まで減少させた組成(Fig 21 の緑線

の組成)を選択しこのガラス系の物性の変化を確認した

③はNb2O5量を 5 molに固定しSn を P と置換した組成であるNb と P は酸化数が

同じ 5価であるためこの組成では同じ SnO量の二成分系 SP ガラスと比較した際酸素

の総量に変化が生じない(例えば67S33P と 67S5N28P)またNb5+イオンはガラス中

では4配位および6配位を取るという報告が多い(結晶の場合他の配位数を取る)た

め配位数が4の P5+の置換に適していると考えた

④⑤に関しては気泡のrdquo入りづらいrdquoもしくはrdquo入らないrdquoSnOおよび ZnOが各 5 molにな

る組成を選択したSZP ガラスはFig 23 に示すガラス化範囲のようにガラス化範囲は

非常に広範囲であるしかし気泡が入りやすく脈理のようなものも見られる組成が多く

目視ですら不均質なガラス組成がほとんどであった(これらの組成も粉末にして XRD を測

定するとガラスであった)そのためバルク体でガラスを得られることが困難な組成も多

い(Fig 24 にその一例の SZP ガラスを示す)そこで第三成分の添加量を可能な限り少

ない組成を選択することでバルク体で目視上ldquo均質rdquoなガラスを得た(Fig 23 の青線と

紫線の組成)

また上述したように耐水性の比較対象である鉄リン酸塩ガラスを二成分系で作製し

15

た(FP ガラス)組成はxFe2O3∙(100-x)P2O5 x = 20 25 30 35 40 mol を作製した

222 ガラス作製

Figs 25 - 27に各ガラス系の作製フローチャートを示す出発試薬にSnO NH4H2PO4

Nb2O5 ZnO を使用し各々秤量した秤量混合後アルミナ坩堝に入れか焼(仮焼き)

を行ったか焼条件はSP Sn-Nb-P SNP SZP ガラスは350または 400 6-30 minFP ガ

ラスは600 30 min で行った溶融温度および溶融時間はSP ガラス1100 30 min

Sn-Nb-P ガラス1100 30 minSNP ガラス1000または 1250 20 min SZP ガラス

1100-1200 30 min 各々N2雰囲気下で作製したN2雰囲気下で行った理由はSn2+が Sn

4+

にほとんど酸化されてしまうとガラスが得られなくなるためSn2+の酸化を防ぐ目的がある

[19]FP ガラスは1200 - 1550 30 min大気雰囲気下の条件で作製した溶融後350

に温めておいたスチールモールドに流してプレスした後FP ガラス以外はガラス転移温度

Tg付近でアニールを 1 h行い目的のガラスを得た耐水性試験用のガラス形状はダイヤモ

ンドカッターで大まかに整えた後鏡面研磨まで施して型取ったここでFP ガラスのみ

アニール工程を省いた理由はSP ガラス等はアニールをして歪みを取らなければ正確に

切断できない場合が生じた一方でFP ガラスはアニールをせずとも十分正確にカットで

きたためアニール工程を省いたまた50S50P のみ厚みが必要になると必ず気泡が入

ってしまうため耐水性試験では気泡の入ったものを使用した

223 物性評価

得られたガラスの物性の比較を行うために以下に示す分析を行った

(1)ガラス状態の確認

作製したガラスが結晶の混在していないものかを確認するためにまた耐水性試験

後のガラスが結晶化しているかの確認のためにX 線回折装置(XRD Rigaku RINT-2100)

を用いて分析した全てバルク体で測定したが耐水性試験後ではバルク状態が保てな

いものもあったためその試料については粉末で測定した

(2)組成分析Sn Fe 価数分析

得られたガラスについてアルミナ坩堝の使用によるアルミナのガラスへの混入および

それに伴う組成ズレの確認のために走査型蛍光 X 線分析装置(XRF Rigaku ZSX Primus

Ⅱ)を使用し組成分析を行った分析はバルク体で定性分析法にて測定した

またSn が二価のままどのくらい存在しているかを調べるために Sn-Nb-P ガラスを用い

てSnの価数分析をメスバウアー分光法にて行ったSnの測定は reference [20]に示す旭硝

子の公開特許に記載されている方法で行ったFP ガラスについても価数変化を調べるた

めにメスバウアー分光法にて Feの価数分析を行ったFeの測定は(株)トポロジック

システムズ MDF-200)を用いて評価を行った

16

(3) 密度(ρ)およびガラス転移温度(Tg)評価

各ガラスの密度(ρ)測定はケロシンを用いたアルキメデス法で測定したガラス転

移温度(Tg)を評価するために示差熱―熱重量測定装置(SDT TA instrument Japan Q600)

を用いたアルミナパンを使用し測定条件はN2雰囲気下 10 Kmin 700までの温度範

囲にて行った

(4)耐水性試験

各ガラスの耐水性について評価するために耐水性試験をMCC-1法[21]にて測定した(Fig

28)条件は75 72h ガラスサイズ 12times10times02 cm (plusmn01 cm) 蒸留水の pH は 72-77

で行い浸漬後サンプルを乾かして重量を量った溶出速度(Dissolution Rate DR)は重

量減(ΔW) サンプル表面積(S) 浸漬時間(t)から以下の式によって算出した[22]

DR = ΔW (kg) S (m2) t (s)

また浸漬前と 72 h 後の重量減()も合わせて算出した

23 結果考察

231 組成分析 Snおよび Feの価数評価

Table 21に各試料の組成分析結果を示すまずアルミナ Al2O3の量を見るとガラスに

混入した量がほとんどの組成で 25 mol以下で多くても 35 molを下回る量であった

そのため各種特性についてアルミナの影響はほとんどないと考えられる[23 24]組成

によってその量に差があるのは溶融温度の違いによることに起因している組成分析の

結果今回作製したガラスは仕込み組成と大きな差がないと判断した

Fig 29に Sn-Nb-P ガラスの Snのメスバウアースペクトルをそこから得られたメスバウ

アーパラメーターを Table 22に示す得られた結果よりSn-Nb-P ガラスでは95以上の

割合で Sn2+のまま存在していることが分かった不活性雰囲気で作製したことP2O5 の出

発原料に NH4H2PO4を使用したことにより(か焼は行なっているが)還元雰囲気になったた

めSn4+にほとんど酸化されることがなかったといえるこの結果SP 系ガラスではほぼ

Sn2+のまま存在していると仮定した

Fig 210に FP ガラスの FeのメスバウアースペクトルをTable 23 にそこから得られたメ

スバウアーパラメーターを示すFP ガラスについては組成に関わらず酸化還元平衡に

より 20 ~ 30が Fe2+になりまたFe2O3 ge 30 molの際化学的にも安定であることが知

られている[27]実際にFe2O3 ge 30 molの際Fe2+は概ね 20 ~ 30存在している結果が得

られた一方でFe2O3 lt 30 molの際はFe2+が 40以上と高い割合で存在していることが

判明したこれは出発原料の NH4H2PO4の多量使用によること溶融温度が 1550と高

いことが要因で還元がより進行したためと予想される

17

232 ρおよび Tg

Table 24にρおよび Tgの結果を示す二つの特性結果はそれぞれのガラス系において

SnO や Nb2O5ZnO といった金属酸化物が増えるにつれて大きくなっているSP Sn-Nb-P

SNP S5ZP 系ガラスの Tgはほとんどが 300前後であり最も高い温度でも67S5N28P

の 346であった一方5SZP 系ガラスは400~440となり他のガラス系と比較する

と若干高い温度となったそれでも今回作製した第三成分を添加したガラスは低 Tgを有

するガラスであると判断できSP ガラスの特性を維持できたと判断できる

60S5N28P と 62S5Z30P のようなほぼ同じ OP を示すもので比較した際にNb2O5添加が

ZnO 添加よりも Tgが高くなったのは①配位数が同配位数になり得るイオンの場合(例え

ば Nb5+と Zn

2+なら4配位など)ポーリングの第 2 法則[25]より高価数イオンの方が結合

強度が強くなる②diatomic cationの解離エネルギーがNb-O (688plusmn11 kJmol)[26]に対しZn-O

(1611plusmn48 kJmol)[26]と大きな差があるため Nb-Oの結合が強い故に熱的に安定化され

Tgが高くなったと考えられる

233 耐水性試験前後の外観写真

Figs 211 - 216に各ガラスの耐水性試験前後の外観写真を示すFig 211 の SP ガラスを

観察するとSnO 量の少ない 50S50P 60S40P は浸漬時間が経過するにつれて元々の形状

が崩壊したりガラス自体が膨張したような状態になったりしたSnO 量の多い 67S33P

70S30P について形状は崩れることはないが透明性が失われる(白ヤケ)耐候性が低いこ

とが確認できるFig 212 に示す Sn-Nb-P ガラスではNb2O5無添加の 65S-0Nb-35P は浸漬

時間 24 h で透明性が失われているがNbO25量の増加させていくと徐々に透明性が回復

しており4 mol添加した 65Sn-4Nb-31P では72 h後においてもほとんど変化が確認でき

ないNbの添加量を変えた Fig 213に示す SNP ガラスではSP ガラスと同様に SnO 量の

少ない 50S5N45P は時間経過と共にガラス全体にldquoひびrdquoのようなものが見え72 hの実

験終了後最終的にテフロン糸を外す段階で簡単に割れたしかし50S50P や 60S40P と比

較すると耐水性が大幅に良くなったまた60S5N35P 67S5N28P は耐水性が良好なこと

だけでなく耐候性についても向上していることが目視で判断できる一方で二種類の

SZP ガラス(Figs 214 215)を観るとP2O5量の少ない 5S55Z40P および 55S5Z40P では

形状が崩れるか析出物が現れる結果となったこの組成よりP2O5 量を減少させるとSP

ガラスと同じように形状は崩れないが透明性が若干失われる結果となった

Fig 216 に比較対象の FP ガラスの耐水性試験前後の写真を示すこの組成ではFe2O3

量の少ない20F80Pにおいても形状が全く崩れない結果が得られたしかしFe2O3 lt 30 mol

の組成において表面に干渉色のような反射光が若干確認できたこれはおそらく青ヤ

ケが発生したためであると考えられる

18

234 耐水性試験前後の構造変化

Figs 217 - 222に各ガラスの耐水性試験前後の XRDパターンを示す耐水性試験前では

ガラス化を全組成で確認した(Figs 217(a) - 222(a))しかし耐水性試験後における外観

写真で形状の崩れたもしくは析出物の得られたガラス組成では結晶が生成したことが

確認された形状の崩れた三組成のうち50S50P 60S40P ガラス(Fig 2214(b))では三

種類の結晶ピーク(SnP2O7 Sn2P2O7 Sn3(PO4)2)が確認でき5S55Z40P については(Fig

2214(b))結晶同定の判断はできなかったが ZnOの多い組成であるためおそらくリン酸

亜鉛の何れかの結晶だと推測された析出物が得られた 55S5Z40P はガラス matrix部と析

出物に分けて測定したところガラス matrix 部はガラスのままであり析出物は SnP2O7

Sn2P2O7の二種類の結晶ピークが確認できたガラス形状に変化がなかったその他の組成は

ガラス状態が保たれていたSn4+の結晶のピークが確認されたのは50S50P のガラスには

気泡が残っておりその気泡から酸化されたかもともと溶融工程で電気炉内に残って

いた酸素によってSn4+に酸化されたか等が考えられる

235 溶出速度(DR)および重量減

Table 24に DR重量減の結果および仕込み組成から計算した OP を示すSP SNP S5ZP

ガラスではSnO 量の増加に伴いSnO量の固定された Sn-Nb-P 5SZP ガラス系ではそれ

ぞれの金属酸化物の増加に伴いDR重量減は減少傾向にあったFP ガラスでは全組成

において DR 重量減共に変化が全く確認されなかったそのため青ヤケのようなものが

確認された FP ガラス(Fe2O3 lt 30 mol)については電子天秤では変化が見られない程度

の重量減であったと推測される二種類の SZP ガラスで比較するとSnOと ZnO量が入れ

替わってもほぼ誤差範囲内と思われる結果が得られたガラス全体の比較では外観写真

で変化が見られなかった FP ガラスと 65S5N28P 65Sn-5Nb-30P のガラスが DR重量減がと

もにゼロという結果が得られた

組成と DR 重量減の関係性を見るために作成した図をFigs 223(DRと OP の関係性)

224(Fig 224に重量減と OP の関係性)に示すそれぞれの図にリン酸塩の三つの構造

の OP も表記した双方の図よりDR 重量減共に OP が増加することで単調に下がって

いることが分かるこの結果はリン酸塩の構造ではorthophosphate 組成で耐水性良好が

あるため[22]一般的な結果と同じ挙動であるまた耐水性の良かったNb2O5添加の SNP

ガラスは異なる挙動(傾き)が得られた

以上の結果より第三成分添加による耐水性の改善を確認し特に Nb2O5 の添加による

影響は大きいことが判明したまたOP の増加による耐水性が改善する結果が得られた

次章の第 3 章にて各ガラス系の構造解析を行い第三成分特に Nb2O5の耐水性への有

効性について調査した

19

24 結言

本章ではSP ガラスおよび第三成分の Nb2O5 ZnOを添加した SP ガラスの物性評価を行

うことで耐水性改善への第三成分添加の有効性を確認した各々の物性について以下に

まとめる

低ガラス転移温度を有する SP ガラスは最も SnO 量が高い 70S30P でも Tg le 280であ

ったNb2O5を添加した Sn-Nb-P SNP ガラスではTgの上昇は見られたが Tg le 350

ZnOを添加した 5SZP S5ZP ガラスではTg ≦ 450であり両金属酸化物の添加でも低

ガラス転移温度を維持しているガラスが得られたNb2O5 添加が Tg を上昇させたのはポ

ーリングの第 2法則より高価数イオンの方が結合強度が高くなるためと結論付けた

耐水性試験結果の外観写真を観るとSP ガラスの SnO 量 le 60 mol 5SZP ガラスおよび

S5ZP ガラスの P2O5量 = 40 molの組成についてガラスサンプルの形状が大きく変化して

おりDR 重量減も高く耐水性の低さが明らかであった得られた析出物はSnP2O7

Sn2P2O7 Sn3(PO4)2 および亜鉛リン酸結晶の一種であると予想されたその他の組成では

透明性の失われた組成がいくつかあったが外観写真では変化が見られなかった FP ガラス

と 65S5N28P 65Sn-5Nb-30P のガラスが DR重量減がともにゼロという結果が得られた

組成と耐水性に関してはDRおよび重量減がOP増加で単調に低下した結果が得られた

つまり耐水性を改善させる有効な手段はSP 系ガラスのガラス化範囲を拡大かつ OP を

増大させる第三成分の添加によることであることが示唆された

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21

Fig 21 三成分系 SnO-NbO25-P2O5 系のガラス化範囲

Fig 22 作製した Sn-Nb-P ガラス

(a)50Sn-5Nb-45P (b)55Sn-5Nb-40P (c)60Sn-5Nb-35P

(d)65Sn-5Nb-30P (e)70Sn-5Nb-25P (f)60Sn-10Nb-30P

(g)55Sn-20Nb-25P (h)60Sn-15Nb-25P (i)65Sn-10Nb-25P

22

Fig 23 三成分系 SnO-ZnO-P2O5系のガラス化範囲

Fig 24 作製した SZP ガラスの一例

(気泡や脈理のようなものが確認できた組成)

23

Fig 25 SP SZP ガラスの作製フローチャート

Fig 26 Sn-Nb-P SNP ガラスの作製フローチャート

(気泡や脈理のようなものが確認できた組成)

24

Fig 27 FP ガラスの作製フローチャート

Fig 28 耐水性試験(MCC-1法)

25

Table 21 各ガラスの組成分析結果

26

Fig 29 Sn-Nb-P ガラスのメスバウアースペクトル

Table 22 Sn-Nb-P ガラスのメスバウアーパラメーター

27

Fig 210 FP ガラスのメスバウアースペクトル

Table 23 FP ガラスのメスバウアーパラメーター

28

Table 24 各ガラスの物性(密度(ρ)ガラス転移温度(Tg)溶出速度(DR)重量減())

29

Fig 211 SP ガラスの耐水性試験前後の外観写真

Fig 212 Sn-Nb-P ガラスの耐水性試験前後の外観写真

30

Fig 213 SNP ガラスの耐水性試験前後の外観写真

Fig 214 S5ZP ガラスの耐水性試験前後の外観写真

Fig 215 5SZP ガラスの耐水性試験前後の外観写真

31

Fig 216 FP ガラスの耐水性試験前後の外観写真

32

Fig 217 SP ガラスの XRD パターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

33

Fig 218 Sn-Nb-P ガラスの XRD パターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

34

Fig 219 SNP ガラスの XRD パターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

35

Fig 220 5SZP ガラスの XRDパターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

36

Fig 221 S5ZP ガラスの XRDパターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

37

Fig 222 FP ガラスの XRD パターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

38

Fig 223 各ガラス系の DR と OP の関係性

39

Fig 224 各ガラス系の重量減と OP の関係性

40

第 3章 分光法を用いたスズリン酸塩系ガラスの構造解析

31 緒言

前章ではSP ガラスおよび第三成分に Nb2O5 ZnOを添加した Sn-Nb-P ガラスSNP ガラ

スSZP ガラスの物性特に耐水性に関する第三成分添加の有効性を明らかにしたその添

加した第三成分の二種類についてもNb2O5 の方が ZnO よりも溶出速度重量減ともに抑

制することができSP ガラスの低ガラス転移温度という特性も維持されていることが判明

したしかし現段階では本研究の主要な物性である耐水性改善の要因が明確になって

いない組成の観点からはOP の値が高い組成が良好な耐水性であることが分かったが

組成だけでは耐水性改善のメカニズムについて完全には理解できないここでリン酸塩

ガラスの溶出のメカニズムは第 1 章で述べたように加水分解反応と水和反応が要因とな

る[1 2]この機構はそれぞれリン酸の構造つまり架橋酸素 BO の数が大きく関わって

おりリン酸アニオンの[PO4]ユニットの架橋酸素数を知ることが重要であるこの BO の

情報を得るためにはガラス構造を示す指標の一つである Qn(n は[PO4]ユニット中の架橋

酸素数を表す)を調べることが必須であるまたQn の分布を調べるためにはガラスの

構造解析を行う必要性がある

ガラスの構造解析には種々の方法があり特にラマン分光法や赤外(IR)分光法核

磁気共鳴法(NMR)などの分光学的手法を用いた構造解析の報告が多い[3-5]ラマン分光

法および IR分光法は原理は異なるがどちらも結合の振動モードを測定する手法であり[6]

リン酸塩ガラスだけでなくケイ酸塩ガラスホウ酸塩ガラスなど様々なガラス系にて測

定がなされている[7 8]また得られた結合状態の情報からリン酸塩アニオンの Qn分布

を調べることも可能であるNMR は共鳴吸収ピークの化学シフト(共鳴周波数のズレ)

から構造を決定する手法であるガラスの場合SiO2や B2O3 P2O5といった網目形成酸化物

の Qn分布を得るために一般的に使用されている手法である[9]

今回これらの測定の中でラマン分光法を選択し構造解析を行ったラマン分光法は

測定する際にサンプル形状を気にすることなく基本的にそのまま測定できるためIR 分

光法のようにサンプル形状で測定方法を変える必要はないまたIR 分光法では例えば

KBr 錠剤法やヌジュール法のように測定を行うためのサンプル調整に手間がかかる場合が

ある[6]さらに比較対象の FP ガラスではNMR を測定できないため作製ガラスを全

て比較検討できるようにラマン分光法を選択した

本章ではラマン分光法を用いて各ガラスの構造解析を行い[PO4]ユニットの Qn分布を

調査し平均 BO数 nを算出することで耐水性と構造の関係性を検討したまたラマン

分光法によって得られた Qn分布の妥当性を確認するためにSP ガラスおよび 67S5N28P ガ

ラスの NMRを測定も行い比較した

32 実験方法

41

321 サンプル準備

ラマン分光およびメスバウアー分光の測定では第 2 章で作製した各ガラスのバルク体

を用いたWD試験に使用したサンプルとは別にラマン測定用のサンプルを用意した適

度な大きさ大体 15 cm角程度のサイズになるようにガラスカッターで切断しその後

十分な平滑性を得るために鏡面研磨を施した

322 ラマン分光測定

使用したラマン分光装置は顕微レーザーラマン分光装置(Jasco NRS-5100)を用いた

用いたレーザー波長は 53208 nmであり400 - 2000 cm-1の範囲で測定した

Qn 分布を導くためにピークフィッティングを行いリン酸塩アニオンのラマンバンド

が現れる950 - 1250 cm-1付近および 700 - 750cm-付近の範囲で定量した

323 31P MAS NMR測定

31P MAS NMRの測定は Varian NMR System 500 を用いて32 mmの MASプローブ

202309MHzにて行った測定パラメーターを以下に示すπ4 パルス長さ 14 μs 待ち時間

(pulse delay)10 s 積算回数 3600 scan シリンダー円筒形状の Zrローターの回転スピード

160 kHz referenceとして二番目の基準物質として使われる NH4H2PO4を使用化学シフト

は85 H3PO4溶液から δ = 10 ppmである

33 結果考察

331 各ガラス系のラマンスペクトル

Figs 31 - 35にラマンスペクトルを示す各ピークは以下の通りに帰属し各スペクト

ル中に該当する構造をピーク位置に示した

1230 - 1260 cm-1 P=O NBO Q

2 [10]

1110 - 1150 cm-1metaphosphate (PO3)

- Q

2 [10]

1030 - 1100 cm-1pyrophosphate (PO35)

2- Q

1 [10]

970 - 1000 cm-1orthophosphate (PO4)

3- Q

0 [10]

920 - 930 cm-1asymmetric (P-O-P) Q

1 [10]

730 - 750 cm-1symmetric (P-O-P) Q

1 [10]

710 - 720 cm-1asymmetric (P-O-P) Q

2 [10]

810 - 820 cm-1Nb-O [NbO4] tetrahedron [11]

900 - 920 cm-1Nb-O isolated [NbO6] octahedron [11]

42

SP ガラスのラマンスペクトル(Fig 31)を見ると50S50P 60S40P ではmetaphosphate

の Q2 構造が支配的であるがSnO 量が増えるにつれてその構造が変化し70S30P では

pyrophosphateの Q1構造と orthophosphateの Q

0構造が共存した構造となっているまたSnO

量の少ない 50S50P および 60S40P において確認されたQ2構造の P=O のピークが見えなく

なっているつまり耐水性と関連して考えるとSnO量が増えるにつれてP-O-P 結合か

ら Sn-O-P 結合に代わり水分子との反応である加水分解反応を妨げる構造に変化している

ことがわかる

Figs 32 33にNb2O5を添加した Sn-Nb-P ガラスおよび SNP ガラスのラマンスペクトル

を示すまずSn-Nb-P ガラスについてNb 無添加の 65Sn-0Nb-35P は主に Q1構造であ

りNbO25が添加されることによってQ0構造に変化しQ

1 Q

0構造が共存しているような

ピークが得られた添加量が少ないガラス系であるため徐々に変化しているのを確認し

た800 cm-1を少し越えた 810 - 820 cm

-1付近にNb2O5を添加することでピークが現れそ

して添加量を増量することで強度が強まるピークがありこのピークは四面体の[NbO4]

のものと判断した

SNP ガラスのラマンスペクトルについてはNb2O5添加量を固定した組成であるためSP

ガラスのような挙動が観察された50S50N45P では50S50P ガラスと同じようにQ2構造

が主な構造でありSnO量の増加に伴って60S5N35P Q1構造67S5N28P Q

0構造に支配

的な構造が変化しているこれはSP ガラスと同じ傾向を示しているためP-O-P rarr Sn-O-P

に置き替わっていることが示唆されるNb-O に関するピークでは50S5N45P のみ[NbO4]

四面体のピークを確認できず900 - 920 cm-1付近に[NbO6]八面体のピークが確認された

SnO量が増量した 60S5N35P では810 cm-1付近の [NbO4] 四面体のピークが現れているが

[NbO6]八面体のピークと 900 - 920 cm-1付近の Q

1構造のピークが非常に近い(ほぼ重なって

いる)ことから60S5N35P については[NbO4] 四面体および[NbO6]八面体の共存の可能性

も考えられるまた67S5NP28 では[NbO4] 四面体のみのピークが観察されたためこ

の Nb-O の配位数変化は[PO4] unitの状態によって変化している可能性も示唆された

ZnO を添加した S5ZP ガラスおよび 5SZP ガラスのラマンスペクトルを Fig 34 に示す

図の下部三つが S5ZP ガラス上部三つが 5SZP ガラスのスペクトルであるSZP ガラスの

二系統を比べるとあきらかなスペクトルの違いが確認された各ガラス系で確認すると

SnO 量が最小の 55S5Z40P はQ2構造と Q

1構造の範囲に跨っているようなスペクトルが得

られた62S5Z33P および 65S5Z30P のスペクトルからはどちらもほぼ Q1構造であると判

断した5SZP のスペクトルは1000 - 1250 cm-1付近の範囲で裾を引くような(なだらかな)

スペクトルが得られたZnO 量が最小の 5S55Z40P にはQ2構造が主な構造に見えるが

shoulderピークのような Q1構造(1030 - 1100 cm

-1)が確認できる5S62Z40P においては

1000 - 1250 cm-1付近の範囲まで幅広いスペクトルが得られた730 - 750 cm

-1付近にピーク

が現れているためおそらく Q1構造が最も多く存在していると考えられる65S5Z30P では

Q1構造Q

0構造が共存しているようなピークが得られた

43

FP ガラスのラマンスペクトルを Fig 35 に示すFe量の少ない 20F80P 25F75P と他の三

つで構造が異なっていることである20F80P 25F75P はQ2構造と Q

1構造が基本構造にな

っていると判断できる 30F70P は1110 - 1150 cm-1付近に shoulderピークのようなものがあ

りQ2 Q

1 Q

0構造が共存しているようなスペクトルであった35F65P 40F60P はQ1構造

が主な構造でQ0構造があると判断した

332 平均 BO数 n (Qn分布)

まずピーク分離について散乱断面積が見積もれなかったためラマンの散乱強度比

を Qn分布として簡易的にピーク分離を行い(Fig 36)そこから平均架橋酸素数 BO 数 n

を算出したここでFig 37 に 31P MAS NMRスペクトルを示しTable 31に NMRおよび

ラマン分光より得られた平均 BO 数 n を示す(NMR の帰属 reference [12])表よりNMR

とラマンから得られた Qn分布はほぼ一致していることが分かった60S40Pについては支

配構造が NMR(Q1) ラマン(Q

2)で逆になったこれは60S40P の組成がQ

2と Q1のほぼ中

間の組成になるためこのようなズレが生じたと考えられるしかし今回のラマンによ

る Qn分布の算出についてはほぼ問題ないと判断した

Table 32にラマンスペクトルより求めた Qn分布平均 BO 数 nをを示しTable 24に示

した DR 重量減の結果を併記する

SP ガラスのうち耐水性が低いガラスは Q2構造によって形成されているSnO量の増加

によって NBOの増加とともに耐水性の向上が確認できSnOが入ることでSn-O-P 結合を

形成し水分子からの攻撃を受けにくくなっていることが考えられる

Sn-Nb-P ガラスでは基本的に Q1構造が主構造でNb2O5の添加が増えるにつれQ

0構

造が支配的になり耐水性は次第に向上していく最も耐水性のよかった 65S-5Nb-30P は

Q0構造での割合が非常に高く平均 BO数 n値が 03であった

SNP ガラスではP2O5量が多い組成の 50S5N45Pにおいても平均 BO数 nが 60S40P と

同じながらも耐水性が良くなっている67S5N28P はほぼ完全に Q0構造であり平均 Q

n

値は 0となった

SZP ガラスについてはS5ZP 5ZSP のどちらの系列についても耐水性の結果に大きな差

というものは確認されなかったが構造的にも平均 BO数 nが 09 10 17という結果であ

った

FP ガラスについてはFe2O3 lt 30 molのときは平均 BO 数 nが20 19と高い数値を

示したが耐水性は非常に良好であったこの結果より組成だけでなく構造的にも耐

水性高くなる要因が不明である一つの原因の可能性としてメスバウアーより得られた

Fe2+の存在比が 40以上と高かったことがFe2O3含有量が少ない組成時には効果的になっ

ているのかもしれない

333 平均 BO数 nと耐水性の関係性

44

Fig 38に DRと平均 BO数 nの関係性についてFig 39に重量減と平均 BO数 nの関係

性をそれぞれ示すまたOP の時と同様に各図にリン酸塩の三つの構造の平均 BO数

n も表記した双方の図よりDR 重量減共に平均 BO 数 nが低下することで単調に下がっ

ていることが分かるまた耐水性の良かったNb2O5添加の Sn-Nb-P SNPガラスはの DR

の挙動(傾き)はOP 時とも異なった挙動が得られた

Fig 310に OP と平均 BO数 nの関係を示す図中に示す茶色metaphosphate 黄色

pyrophosphate 灰色orthophosphate であるこの図から耐水性改善には平均 BO 数

n を下げOP を上げることが重要であるのが分かるまたNb5+の添加はOP を上げる

だけでなく平均 BO 数も減少させることから非常に効果的な成分であることが明らかで

あるこれはP5+から同酸価数 Nb

5+に少量でも置き換えることで平均 BO 数 n を下げ

OP を上げることを可能としている(実際に orthophosphate の OP4 よりも高い OP でガ

ラスが作製できている)つまりNb5+の添加によって P-O-P 結合が減少し水和反応加

水分解反応が抑制されているからである

以上の結果SP 系ガラスの耐水性改善には低い平均 BO 数と高い OP の組成にするこ

とが重要でNb2O5の添加は非常に効果的であることが分かったその一方でガラス中の

詳細な構造的要因についてははっきりしていないため次章の第 4 章にてさらに詳し

い構造解析を行い耐水性改善の要因について調査を行った

34 結言

本章ではラマン分光を使用して各ガラス系のリン酸塩アニオンの構造を簡易定量で

評価し組成と構造の関係について考察した

平均 BO 数 n と耐水性に関してはDR および重量減が平均 BO 数 n の減少で単調に低下

した結果が得られた

平均 BO数 nと OP の図より耐水性改善には平均 BO数 nを下げることそして OP

を上げることが重要であることが明白であった

Nb5+の添加は平均 BO数を減少させるだけでなくOP も上げることからガラス構造内

の P-O-P 結合を減少させる故に水和反応加水分解反応が抑制され耐水性が大幅に

改善された故にNb2O5 のような高価数金属酸化物を添加することが効果的であること

が示唆された

参考文献

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46

Fig 31 SP ガラスのラマンスペクトル

47

Fig 32 Sn-Nb-P ガラスのラマンスペクトル

48

Fig 33 SNP ガラスのラマンスペクトル

49

Fig 34 SZP ガラスのラマンスペクトル

50

Fig 35 FP ガラスのラマンスペクトル

51

Fig 36 ラマンスペクトルのピーク分離例(67S5N28P)

Raman Shift (cm-1)

52

Fig 37 NMRスペクトル

Table 31 NMR およびラマン分光より得られた SP 67S5N28P ガラスの

Qn分布および平均 BO数 n

53

Table 32 各ガラスのラマンスペクトルより求めた Qn分布結果

(表の赤線より右側の結果は Table 22 より)

1 仕込み組成による数値

2 Fig 2212 に示した析出物を取り除いた後の数値

54

Fig 38 DR と平均 BO数 nの関係性

55

Fig 39 重量減と平均 BO数 nの関係性

56

Fig 310 OP と平均 BO数 nの関係性

Meta

Pyro

Ortho

57

第 4章 放射光を用いたスズリン酸塩系ガラスの構造解析

41 緒言

前章の第 3 章にてラマン分光法を用いて SP 系ガラスの構造解析により Qn分布を導き

出したことで耐水性と構造の関係についてある程度関連性を導くことができたリン

酸アニオンについてはQ0(orthophosphate)構造 gt Q

1(pyrophosphate)構造 gt Q2

(metaphosphate)構造の順で良耐水性となるしかしSn Nbおよび Znの局所構造につ

いては知見が得られていないラマン分光や IR分光などの分光学的手法を用いてSnや

Nb Zn の周辺の局所構造を知るには限界があるまたガラスの構造解析を行う上で非常

に重要な因子である中距離構造の評価には分光学的手法は不向きである[1]

そこで局所構造や中距離構造を知るために有効な手法として放射光線を用いた構造

解析がある放射光(SR 光)とはシンクロトロンなどの加速器で高速に加速された電子

が進行方向を磁場によって変えられた際に放射する電磁波である[2]エネルギーが高く

(短波長)輝度が高い特性を有している日本国内では兵庫県佐用町の SPring-8や茨城

県つくば市の高エネルギー加速器研究機構佐賀県鳥栖市の佐賀県立九州シンクロトロン

光研究センターなど複数個所に放射光施設が設置されている

放射光を用いたガラスの構造解析には一般的に高エネルギーX 線回折(High Energy

X-ray diffraction HEXRD)が用いられるこの回折実験から高い散乱ベクトル Q(= 4π sinθλ)

まで回折データが得られる多種類の原子から構成される物質の場合はFaber-Ziman 型[3]

の構造因子 S(Q)を用いる以下の式に示すようにFaber-Ziman 型構造因子 S(Q)は同種また

は異種の原子による相関の重み関数付の和として示される例として SiO2ガラスで説明す

ると構造因子 S(Q)は三種類の原子付の S(Q)の重み付の和として表されていることが分か

I(Q) 散乱断面積 ltgt 原子一個当たりの平均値 f(Q) 原子散乱因子 W 重み関数

通常の研究室で使用される X 線回折(XRD)装置で用いられる特性 X 線はCuKα線(λ

= 0154 nm 81 keV)が最も良く用いられより高いエネルギーの X 線が必要な場合は

MoKα線(λ = 0071 nm 175 keV)が使用される一方でSPring-8のビームライン BL04B2

で行われる高エネルギーX 線回折(HEXRD)測定で使用される SR のエネルギーは378 keV

58

~ が使用可能である[2]従ってガラス以外の液体のような非晶質物質にも非常に精度

よく構造解析が行われている[4]

また局所構造解析の一つに X線異常散乱法という測定方法がある[5 6]これは通常

の X 線回折実験では分離不可能な特定元素に関連する部分構造因子(散乱強度曲線)を得

ることができる手法である今回 HEXRD の測定時に使用したエネルギー614 keV では各元

素の異常散乱項のエネルギー依存性は確認されない(Fig 41)その一方でFig 42に示す

Sn の吸収端付近の 292 keV付近ではSnの異常分散項のエネルギー依存性が確認できる

つまりSnの吸収端近傍より低エネルギー(E)側の異なるエネルギーの X線(E1 E2)を

使って散乱強度を測定し各 E における異常分散項(f`)の変化(つまり高い E1 から低い

E2 の散乱強度の差分)を利用して Snに関する部分構造因子を求める構造解析が AXS 法で

あるこの測定法は古くから知られている方法ではあるが装置の測定条件や設備の問

題からなどから使用があまり普及していなかった[5 6]近年になり金属ガラスの構造解

析について徐々に報告が出てきており今後注目される測定法である

HEXRD および AXS 法などから得られたデータ実測の構造因子 S(Q)は一次元の限られ

た構造情報であるためガラスなどの非晶質物質の中距離構造を解明するためにはこれ

らのデータを基に三次元構造を求める必要がある三次元構造モデルの作成には逆モンテ

カルロ(RMC)シミュレーションを使用することが有効である[7]このシミュレーション

は任意で決めたシミュレーションボックス内の粒子をランダムに動かすことで実測の

構造因子 S(Q)を再現する三次元構造モデルを構築する方法である

SP ガラスについては分光学的手法について数多く報告があるが放射光を用いた回折

法はほとんど適用されていないそこで本研究では HEXRD および AXS 法を用いた構造

解析を行うことでSn Nb周りの構造を解明すると共にSNP ガラスの耐水性改善のメカ

ニズムについて考察したまたAXS 法の有効性についても検討した測定を行ったガラ

スはSP ガラスおよび最も耐水性の高かった 67S5N28P を選択した

42 実験方法

421 HEXRD AXS法

HEXRDはSPring-8のビームライン BL04B2 で測定を行ったエネルギー614 keV の X

線を用いた測定サンプルの厚みは09 mm (plusmn0005 mm)になるまで研磨を行った

AXS 測定はSPring-8のビームライン BL13XUを使用した(Fig 43)それぞれの測定し

た X 線のエネルギーについて以下に示す

①Sn K吸収端hellip292 keV near edgehellip291452 keV (-60 eV) far edgehellip289751 keV (-230 eV)

②Nb K吸収端hellip1899 keV near edgehellip189562 keV (-30 eV) far edgehellip187863 keV (-230 eV)

測定に使用したサンプルの厚さが015 - 030 mmとなるまで研磨を施した

SP ガラスについて50S50P 60S40P 67S33P の三組成のガラスを測定した70S30P に関

59

しては測定を試みたが放射光照射によって結晶化してしまいガラス部分の正確な構

造因子を得るための強度補正ができず解析を断念した

422 RMCのモデリング

Table 41 に RMC の各種パラメーターを示す粒子数は約 5000 個でそれに伴う boxの一

辺の長さは約 42 ~ 46 Ǻになった拘束条件にP の配位数が 4になるような条件を付け

加えたFig 44にSn2P2O7結晶および Sn3P2O8結晶の動径分布関数(RDF)をTable 32

にRDFから得られた第一近接距離[8 9] を示すこれらの数値を使用しcutoffを決定し

たNb-O についてはいくつかの文献値を参考にした[10 11]

各ガラスの RMCのモデリングは①HEXRDから得られた S(Q)のみ②S(Q)および AXS

から得られた部分構造因子を加えた場合でそれぞれ計算した

43 結果考察

最初にNbの AXSから得られたデータについて解析を試みたが妥当な構造モデルが得

られなかったためSnの AXSのみで解析を進めたNb2O5の量が 5 molと少量であったた

めあまり精度の高いデータが得られなかったと推測される

431 実測の HEXRDおよび AXSの結果

4311 実測 HEXRDの S(Q)

Fig 45 に実測HEXRDの S(Q)を示す四つの組成ともに実測HEXRDの S(Q)が得られ

Nb2O5添加の 67S5N28P ガラスでは Low Q 側に変化が確認された

4312 実測散乱強度曲線

Fig 46 に Snの散乱強度曲線を示す(a) の 67S33P のこの曲線からはfar edgeおよび

near edge のエネルギー間で差分が見られエネルギーの依存性が確認された50S50P

67S5N28P のガラスについても同じように差分が確認されたが(b)の 60S40P についてのみ

他とは若干異なる結果(緑丸)であったためRMC の構造解析には差分の構造因子ではな

くfar edge near edge 二つの構造因子を用いた

4313 全相関関数 T(r)

Fig 47 に全相関関数 T(r) を示すHEXRD から得られたものを実線でSnの AXS から

得られたものは点線で示し組成ごとに重ねて表示した図中に各ピークについて帰属し

ているがSnの T(r)からはSn-O Sn-P Sn-Snのみのピークを確認した

432 RMCの計算結果および考察

60

構造モデルの一例として67S5N28P ガラスの得られた構造モデルをFig 48に示す水

色の多面体 unitSnON 黄色の多面体 unitPO4 ピンクの多面体 unitNbONである以下

詳細な構造解析の結果および考察を記す

4321 RMCのフィッティング結果

RMCのフィッティング結果の一例として67S33P の HEXRD と Snの AXS の構造因子か

ら得た結果を示す(Fig 49)二つの構造因子を加えて計算した結果においてもHEXRD

の S(Q) AXS の S(Q)に各々に対する良好なフィッティング結果が得られた他の組成も

同様なフィッティング結果が得られた

4322得られた各 pairの平均配位数平均角度平均結合距離

RMCの結果によって得られた各 pairの平均配位数平均角度平均結合距離を Tables 43

に示す上段が HEXRD の S(Q)のみ下段が HEXRD に Sn の AXS の部分構造因子を加え

て結果である最下部は比較のためにSn2P2O7の情報を記載した[8]

P-O pairについてRMCモデル中の PON多面体に関して平均配位数 Nが 4および P-O

の平均結合距離が約 160Å平均結合角度angO-P-O が約 109degという結果が得られた組成

による大きな違いは確認されなかったのはP の配位数が 4になるように拘束条件をかけた

結果であると考えられるSnON多面体についてはSnO量の増加 = OP の増加であり平

均配位数 Nが 3 ~ 35へ増加した平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約

22Åで組成による大きな変化はほとんど見られなかったNb2O5を 5 mol添加したガラ

スではNbON多面体の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平均配位数 N約 4Nb-O 平均結

合距離約 20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O(約 105deg)と値が近いこと

また6配位ではなく 4配位として主に存在していることからSnO と同じような働きをし

ていると推測される

以上の結果からNb2O5添加の耐水性改善の要因として結合距離が Sn-O が約 22Åに対

し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強固にして

いることも一つの要因として考えられる

また67S5N28P ガラスの各多面体モデルを確認すると(Fig 410)P は PO4Snは SnO4

と SnO3Nbは NbO4をそれぞれ再現している

4323得られた各 pairの結合様式

RMC の結果により得られた各 pair の結合様式を Tables 44 に示す上段が HEXRD の

S(Q)のみ下段が HEXRDに Snの AXS の部分構造因子を加えた結果である最下部は比

較のためにSn2P2O7の情報を記載した[8]

結合様式に関してはPO4四面体は他の多面体も含めてほぼ頂点共有で存在している

SnON多面体についてはSnO 量が少ない配位数が 3 に近い場合頂点共有以外の共有の

61

割合も多くSnO 量が増えるにつれて頂点共有が主になり網目形成体として振舞ってい

ると考えられる組成によって平均結合距離や平均角度の大きな変化が見られなかったこ

とから平均配位数が結合様式を決める重要なファクターであるということも考えられる

またHEXRD と AXS 法の結果がほぼ同じであったこれは主成分が SnO のガラスであ

るためHEXRDでも十分に詳細な構造が得られたため大きな変化が現れなかったと考え

られるNbON 多面体はPO4 四面体と SnON 多面体とはほぼ頂点共有で繋がっている以

上の結果よりSnO量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体的に各多面体同士の

頂点共有が増えていることから耐水性の改善には頂点共有を多く含む構造であること

が重要である或いは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的となって

いるということが推測されるFig 411に 67S5N28P ガラスの構造モデルを示す各多面

体はほぼ頂点共有で繋がっていることが確認できる

4324 平均 BO数の比較

Tables 45にNMR Raman RMC(HEXRD) RMC(HEXRD + AXS)の平均BO数を示すRMC

から得られた平均 BO 数 nはNMR Raman と同様に Nb2O5の添加による大幅な減少が確認

されたしかしNMR Raman と比較すると全組成において数値が大きすぎで適当でない

50S50P の構造モデルを観るとPO4四面体間で3配位 O の存在が確認された(Fig 412)た

め実測で得られた n値を再現できるようなPO4四面体モデル間の繋がり方に関する拘束条

件を加えて RMCを計算する必要性があるまた仮に3配位 Oの存在があるとすると電

子状態の変化が生じていることがと示唆されるため分子軌道計算を用いて電子状態解析

を行い確認する必要がある

4325 耐水性の改善について

Nb2O5を添加のガラス構造への影響について①6配位ではなく 4配位として主に存在し

ていることからSnO と同じような働きをしていると推測される②結合距離が Sn-O が約

22Åに対し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強

固にしている③ガラス構造中で全体的に各多面体同士の頂点共有が増えている以上の

ことが判明した以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性

耐候性を改善した要因として考えられる

44 結言

本章では分光学的手法では評価できないガラスの中距離構造局所構造について理解

するために放射光を用いた構造解析を実施しSP ガラスの構造と耐水性改善について考

察したHEXRDおよび AXS法を用いて測定を行い得られたデータを RMCシミュレーシ

ョンにて解析を行った

解析の結果 Sn-O pair については平均配位数 Nが 3 ~ 35でSnO量の増加 = OP の増

62

加に伴い高くなった平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約 22Åであ

ったP-O Sn-Oについては組成による大きな変化はほとんど見られなかった67S5N28P

ガラスの Nb-O pair の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平均配位数約 4Nb-O 平均結合距

離約 20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O(約 105deg)と値が近いことま

た6配位ではなく 4配位として主に存在していることからSnOと同じような働き(網目

形成体)をしていると推測されるまた結合距離が Sn-O が約 22Åに対し Nb-O は約 20

Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強固にしていると言える

SnO 量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体的に各多面体同士の頂点共有が増え

ていることから耐水性の改善には頂点共有を多く含む構造であることが重要である

もしくは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的であることが推測さ

れる以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性耐候性を

改善した要因として考えられる

またAXS 法の有効性についても確認し効果的であることが判明したただし今回

は主成分が Sn の組成のガラスでありHEXRD でも十分に詳細な構造が得られたため

大きな差は現れなかった

参考文献

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63

Fig 41 各原子の異常分散項のエネルギー依存性

Fig 42 Sn の異常分散項のエネルギー依存性

64

Fig 43 SPring-8の BL13XU

65

Tab

le 4

1

RM

Cの各パラメーター

66

Fig 44 Sn2P2O7 Sn3P2O8結晶の RDF

Table 42 Sn2P2O7 Sn3P2O8結晶の各 pairの第一近接距離

67

Fig 45 得られた実測 HEXRDの S(Q)

68

Fig 46 Sn の異常散乱測定により得られた散乱強度のエネルギー依存性

(a)67S33P (b)60S40P

69

Fig 47 全相関関数 T(r)

太線 HEXRD より

細線 Sn の AXSより

70

Fig 48 67S5N28P ガラス構造のモデル

71

Fig 49 RMC フィッティングの結果

72

Tab

le 4

3 各

pairの平均配位数角度結合距離

73

Fig

4

10

67

S5

N2

8Pガラスの各多面体モデル

74

Tab

le 4

4 各

pairの結合様式

75

Fig 411 67S5N28P ガラスの構造モデル

76

Table 45 平均 BO 各数 nの比較

Fig 412 50S50P ガラスの構造モデル

77

第 5章 総括

本研究ではSP ガラスを対象とした本研究では鉛フリー代替ガラスまたは希土類フ

リー蛍光体として SP ガラスの新規高機能化を将来的に目指し問題点であるldquo化学的耐久

性rdquoの改善につながる知見を得ることを目的としたそこでまずSP ガラスを母体ガラ

スとし第三成分に Nb2O5を添加した Sn-Nb-P SNP ガラスZnO を添加した SZP ガラスを

作製し耐水性を中心とした物性評価を行った次に分光学的手法で構造解析を行い

Qn 分布を導き出した最後に放射光を用いた構造解析を行い耐水性改善に関する構造的

な考察を行った以下に本研究で行った検討内容を示す

(1)SPガラスおよび第三成分Nb2O5 ZnOを添加した三成分系SPガラスの物性評価(第 2章)

(2)SP 系ガラスの分光学的手法による Qn分布導出(第 3章)

(3)放射光を用いた SP 系ガラスの構造解析構造と耐水性改善の関連について(第 4章)

各章についてまとめた結果を以下に示す

第 2章

第 2章では二成分系および三成分系のリン酸塩系ガラスの各種物性(密度や熱的特性

耐水性)の評価を行った二成分系ではSP ガラスに加え良好な耐水性を有する鉄リン

酸塩(Fe2O3-P2O5)系ガラス(以下 FP ガラス)を比較のために三成分系では二成分系

の SP ガラスに Nb2O5を添加したニオブ含有 SP ガラス(SNP ガラス)および ZnO を添加し

た亜鉛含有 SP ガラス(SZP ガラス)を作製した

今回作製した SP 系ガラスは低ガラス転移温度を有していた各組成の温度域はSP

ガラスTg le 280 Sn-Nb-P SNPガラスTg le 3505SZP S5ZPガラスTg ≦ 450であった

各種 SP ガラスの耐水性試験の結果二成分系の SP ガラスよりも三成分系ガラスの方が

良好な耐水性を有していた65Sn-5Nb-30P 67S5N28P ガラスが最も耐水性が良好であり化

学的耐久性の改善には Nb2O5が ZnOよりも効果的であった

組成と耐水性に関してはDRおよび重量減がOP増加で単調に低下した結果が得られた

つまり耐水性を改善させるにはSP 系ガラスのガラス化範囲を拡大かつ OP を増大させ

る第三成分の添加が有効であることが示唆された

第 3章

第 3章ではSP 系ガラスの分光学的手法による Qn分布の導出を行ったラマン分光法を

用いて各ガラス系のリン酸塩アニオンの構造を簡易定量で評価し組成と構造の関係に

ついて考察した平均 BO 数 n と耐水性に関してはDR および重量減が平均 BO 数 nの減

少で単調に低下することが明らかとなった

平均 BO 数 n と OP の関係より耐水性改善には平均 BO 数 n を下げることそして

OP を上げることが重要であることが明らかになった

78

Nb5+の添加は平均 BO数を減少させるだけでなくOP も上げることからガラス構造

内の P-O-P 結合を減少させ水和反応加水分解反応が抑制され耐水性が大幅に改善さ

れることが示唆された故にNb2O5 のような高価数金属酸化物を添加することが効果的

であることが再度確認された

第 4章

耐水性向上についてより深く評価するためSP SNP ガラスの局所構造に関する知見を得

ることを目的に放射光を用いた構造解析を行った高エネルギーX 線回折(HEXRD)お

よび X 線異常散乱(AXS)法で測定したデータを再現する構造モデルを逆モンテカルロ

(RMC)シミュレーションで構築し構造解析を行った

RMC モデル中の PON多面体に関して平均配位数 Nが 4および P-O の平均結合距離が約

160Å平均結合角度angO-P-Oが約 109degという結果が得られた組成による大きな違いは確

認されなかったSnON多面体については平均配位数 N が 3~4 でSnO 量の増加に伴い 4

に近い値となった平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約 22Åで組成

による大きな変化は見られなかった

Nb2O5を 5 mol添加したガラスではNbON多面体の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平

均配位数N約4Nb-O平均結合距離約20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O

(約 105deg)と値が近いことまた6配位ではなく 4配位として主に存在していることから

SnO と同じような網目形成体として働いていると推測されたまた結合距離が Sn-O が約

22Åに対し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強

固にしていると考えられるまたSnO 量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体

的に各多面体同士の頂点共有が増えていることから耐水性の改善には頂点共有を多く

含む構造もしくは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的であること

が示唆された以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性

耐候性を改善した要因として考えられる

またAXS 法の有効性についても確認し効果的であることが判明したただし今回

は主成分が Snの組成のガラスでありHEXRD でも十分に詳細な Snの周辺構造が得られ

たためAXSを利用した場合との大きな構造の差は認められなかった

本研究では様々な優れた特徴を有する SP ガラスにおける耐水性改善のメカニズムにつ

いて検討を行ったこの系のガラスについてはこれまでほとんど利用されていなかった

放射光を用いた構造解析を駆使し第三成分の添加によってどのような構造的変化が生じ

耐水性を改善させるか新たな知見を得ることができた最終目標である機能性ガラスの

開発における新たなる材料設計指針の確立に対してldquo耐水性rdquoに関しては概ね明らかにな

ったと考えられる一方で今回検討していな電子状態化学結合性についても評価する

ことで溶出メカニズムの解明が可能になり材料設計指針の確立が期待される

79

発表論文リスト

口頭発表

第 2章および第 3章

(1) SnO-P2O5 系ガラスへの酸化物添加効果

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎

日本セラミックス協会第 25 回秋季シンポジウム No3C06 (名古屋市 2012年 9月)

(2) Effect of Nb2O5 addition to SnO-P2O5 glass (Poster)

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

International Union of Materials Research Societies International Conference on Electronic

Materials IUMRS-ICEM 2012 A-9-P26-003 (Yokohama 2012 年 9月)

(3) スズリン酸塩系ガラスの蛍光特性耐水性に及ばす酸化物の添加効果(ポスター)

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎

日本セラミックス協会 2013 年年会 1P070 (東京 2013年 3月)

第 4章

(1) 放射光を用いたスズリン酸塩ガラスの構造解析

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎小原真二臼杵毅

日本セラミックス協会第 27 回秋季シンポジウム 2B22 (鹿児島市 2014年 9 月)

(2) Structural analysis of tin phosphate glasses by synchrotron radiation (Poster)

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba Shinji Kohara Takeshi Usuki

International Congress on Glass ICG Annual Meeting Bangkok 2015 P14-138 p186 (2015)

発表論文

(1) Effect of Nb2O5 addition to SnO- P2O5 glass

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

Journal of the Ceramic Society of Japan Vol 120 No 11 pp530-533 (2012)

(2) Structural analysis of SnO- P2O5 glass

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

Journal of the Ceramic Society of Japan(準備中)

80

謝辞

本研究を遂行するにあたり終始暖かいご指導ご助言並びにご鞭撻を賜わりました岡

山大学大学院環境生命科学研究科 難波徳郎教授に心より感謝の意を表します

また本研究を遂行するにあたり懇切丁寧なご指導とご意見をしていただいた岡山大

学大学院環境生命科学研究科 紅野安彦准教授環境環理センター 崎田真一助教に心より

感謝いたします

本研究を遂行するにあたりラマン分光測定の使用についてご助言ご教授して頂い

た岡山大学自然科学研究科 藤井達生教授中西真助教に心より感謝の意を表します

Sn のメスバウアー測定の際に協力して頂いた岡山大学自然科学研究科先端自然科学教

育研究推進本部高田研究室 松本修治特任助教(当時旭硝子株式会社中央研究所)また

Feのメスバウアーを測定の際に協力して頂いた岡山大学自然科学研究科 藤井達生教授に

心より感謝の意を表します

固体 NMR の岡山大学自然科学研究科 早川聡教授に心より感謝の意を表します

本研究を遂行するにあたりSPring-8 にてHEXRD および AXS 法の測定法および原理

についてご教示頂きました物質材料研究機構 小原真司博士ならびに山形大学 臼杵毅

教授に心より感謝の意を表します

本研究は多くの後輩諸君の協力によって遂行されました特に実際に共同研究共同

実験を遂行して頂いたOG 藤原沙弥香さん博士前期課程 2 年 東利彦君OB 徳岡太誠

君学士課程 4年 塩田将大君に心より感謝の意を表しますまた難波研究室で共に研

究生活を過ごした卒業生在学生の方々に感謝の意を表します

また同時期に博士後期課程に在籍された香川高等専門学校の桟敷剛さんにはNbに

関する有益な情報だけでなく辛い状況でも励ましを頂きました心より感謝の意を表し

ます

最後に長きに渡る学生生活を認め経済面だけでなく精神面でも支援してくださった

家族に心より深く感謝の意を表します

平成 28年 3月

福井 聡史

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4

で基礎的な情報を得ることをまず目指したその後の求められる知見は以下に示すと

おりである

① SP ガラスの問題点である耐水性について第三成分を添加することでどの程度改善さ

れるかを把握する第三成分の選択についても検討する

② 第三成分の添加による SPガラスの構造的変化について把握する

③ 構造と耐水性改善の関係について把握する

13 本論文の構成

本論文は以下の 5章から構成されている

第 1章序論では本研究の背景問題提起および目的意義を述べている

第 2章ではSP ガラスおよび二種類の第三成分(Nb2O5 ZnO)をそれぞれ添加した三成分

系 SP ガラスを作製し耐水性を中心とした物性評価を行ったそして各ガラス系の耐水

性と組成の関係性について検討した

第 3章ではラマン分光法を用いて各種 SP ガラスFP ガラスの構造解析を行ったラマ

ンスペクトルから Qn分布を導き出し耐水性とガラス構造の関係性について検討した

第 4章では放射光を用いてSP ガラスおよびニオブ含有 SP ガラスの構造解析を行った

ラマンスペクトルからでは詳細に出来ない SP ガラスの Sn Nb 周辺構造の解明に加え耐

水性と構造との関連性について検討したまた今回構造解析のために用いた X 線異常散

乱法の有効性についても検討した

第 5章は総括である

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7

Fig 11 鉛含有ガラスの一例クリスタルガラス

転載ペアワイングラスltボナールgtカガミクリスタル株式会社

Fig 12 鉛含有ガラスの一例放射線遮蔽用ガラス

転載放射線遮蔽用ガラス LX-57B電気硝子建材株式会社

8

Fig 13 リン酸塩ガラスの Qn構造とその組成 [11]より転載

9

Fig 14 リン酸塩ガラスの溶出メカニズム模式図加水分解反応

10

Fig 15 リン酸塩ガラスの溶出メカニズム模式図水和反応 [21]より転載

11

Fig 16 アルミナ含有リン酸塩ガラスの構造

Fig 17 鉄リン酸塩ガラスの構造 [27]より転載

P

O

O

OO Al

O

O

O P

O

O

O Al

O

O

O P

O

O

O

12

Fig 18 ガラスの侵食機構(耐候性)[1]より転載

13

第 2章 スズリン酸塩系ガラスの物性評価

21 緒言

前章で述べたようにスズリン酸塩(SP)系ガラスは無色透明高透過率低ガラス

転移温度など工業的に興味深い特徴を有することが知られている[1]またSn2+が ns

2型の

発光中心となり紫外線照射による白色蛍光を示すことから希土類フリー白色蛍光体とし

ての研究も数多くなされている[2 3]

しかし実用化に向けてはこの系のガラスについてもリン酸塩系ガラスに特有のldquo耐

水性rdquoldquo耐候性rdquoの低さが問題となる[4]この問題点を解決するために第三成分として他

の化合物を加えることが有効でありSP ガラスにおいてはB2O3や ZnO SiO2 MgO MnO

など様々な物質を第三成分として添加した研究報告[5 - 9]があったりNH3雰囲気下で数日

間溶融作製することでガラスを一部窒化することで耐水性を改善させたりという報

告もある[10]SP ガラスに限定しないリン酸塩系ガラスではZnO-P2O5 系ガラスに Sb2O3

や MoO3を添加した報告[11 12]や Na2O-P2O5系ガラスに CuO を加えた報告[13]P2O5-CaO-

Na2O に Ag2Oを添加した報告[14]Na2O-K2O-CaO-P2O5ガラスの一部を窒化することによる

方法[15]等があり数多くのリン酸塩系ガラスの耐水性改善に関する研究がなされている

本研究では高価数金属酸化物および低価数金属酸化物の二種類をそれぞれ第三成分と

して添加した高価数金属酸化物には Nb2O5を低価数金属酸化物には ZnO の二種類の酸

化物を選択した

Nb2O5は古くから光学ガラスの成分として頻繁に使われる物質であり様々な企業から数

多くの特許が出されている[16 17]また耐水性の改善に有効であるとの報告や比較的低

温でもガラス作製ができることが知られており(当然のことながら組成に影響される)

鉛フリーの封着ガラスとしての研究もなされているZnO についてはこれ自体は無着色

成分であるため無色透明なガラスが得られることから光学ガラスの成分に用いられる

ほとんどの組成で低融点ガラスとなり[18 19]これらの特性からSnO-ZnO-P2O5(SZP)

系ガラスは Sn2+を発光中心とした蛍光体の研究対象となっていることが多くSP 系ガラス

では一般的なガラス系である

本章では第三成分を含まない SP ガラスおよび Nb2O5または ZnOを SP ガラスに添加し

た三成分系ガラスをそれぞれ作製し耐水性試験を中心とした各種物性評価を行った比

較対象に耐水性の優れることで知られる鉄リン酸塩系ガラスも同時に作製することでSP

系ガラスへ添加したそれぞれの第三成分の耐水性に対する有効性を検討した

22 実験方法

221 ガラスの組成選択

本研究において作製した SP ガラスは以下の五種類の系列を選択した

14

① スズリン酸塩ガラス(xSnO∙(100-x)P2O5 x = 50 60 67 70 mol)

(略称 SP ガラス組成は 50S50P と表記)

② ニオブ含有 SP ガラス(65SnO∙xNbO25∙(35-x)P2O5 x = 0 1 2 3 4 5 mol)

(略称 Sn-Nb-P ガラス組成は 65S-0Nb-35P と表記)

③ ニオブ含有 SP ガラス(xSnO∙5Nb2O5∙(95-x)P2O5 x = 50 60 67 mol)

(略称 SNP ガラス組成は 50S5N45P と表記)

④ 亜鉛含有 SP ガラス (S5ZP ガラス)(xSnO∙5ZnO∙(95-x)P2O5 x = 55 62 65 mol)

(略称 S5ZP ガラス組成は 55S5Z40P と表記)

⑤ 亜鉛含有 SP ガラス (5SZP ガラス)(5SnO∙xZnO∙(95-x)P2O5 x = 55 62 65 mol)

(略称 5SZP ガラス組成は 5S55Z40P と表記)

(④と⑤は総じて SZP ガラスと表記する場合がある)

それぞれの選択理由はガラス化範囲(各ガラス系のガラス化範囲を Fig 21および Fig

23 に示す)作製の容易さ(気泡の入りにくさ流し出しやすさ)等を考慮し決定した

組成ごとに詳細な選択理由を述べると

②についてNb を P と置換した組成であるFig 22 に示した溶融温度 1100で作製した

Sn-Nb-P ガラスの外観写真より目視でも明らかに透明性の高く着色量の少ない組成は(d)

の 65Sn-5Nb-30P でありこの外観写真を参考に組成を決定したSnO 量を 65 molに固定

しNbO25量を 5 molから 0 mol(Nb無添加組成)まで減少させた組成(Fig 21 の緑線

の組成)を選択しこのガラス系の物性の変化を確認した

③はNb2O5量を 5 molに固定しSn を P と置換した組成であるNb と P は酸化数が

同じ 5価であるためこの組成では同じ SnO量の二成分系 SP ガラスと比較した際酸素

の総量に変化が生じない(例えば67S33P と 67S5N28P)またNb5+イオンはガラス中

では4配位および6配位を取るという報告が多い(結晶の場合他の配位数を取る)た

め配位数が4の P5+の置換に適していると考えた

④⑤に関しては気泡のrdquo入りづらいrdquoもしくはrdquo入らないrdquoSnOおよび ZnOが各 5 molにな

る組成を選択したSZP ガラスはFig 23 に示すガラス化範囲のようにガラス化範囲は

非常に広範囲であるしかし気泡が入りやすく脈理のようなものも見られる組成が多く

目視ですら不均質なガラス組成がほとんどであった(これらの組成も粉末にして XRD を測

定するとガラスであった)そのためバルク体でガラスを得られることが困難な組成も多

い(Fig 24 にその一例の SZP ガラスを示す)そこで第三成分の添加量を可能な限り少

ない組成を選択することでバルク体で目視上ldquo均質rdquoなガラスを得た(Fig 23 の青線と

紫線の組成)

また上述したように耐水性の比較対象である鉄リン酸塩ガラスを二成分系で作製し

15

た(FP ガラス)組成はxFe2O3∙(100-x)P2O5 x = 20 25 30 35 40 mol を作製した

222 ガラス作製

Figs 25 - 27に各ガラス系の作製フローチャートを示す出発試薬にSnO NH4H2PO4

Nb2O5 ZnO を使用し各々秤量した秤量混合後アルミナ坩堝に入れか焼(仮焼き)

を行ったか焼条件はSP Sn-Nb-P SNP SZP ガラスは350または 400 6-30 minFP ガ

ラスは600 30 min で行った溶融温度および溶融時間はSP ガラス1100 30 min

Sn-Nb-P ガラス1100 30 minSNP ガラス1000または 1250 20 min SZP ガラス

1100-1200 30 min 各々N2雰囲気下で作製したN2雰囲気下で行った理由はSn2+が Sn

4+

にほとんど酸化されてしまうとガラスが得られなくなるためSn2+の酸化を防ぐ目的がある

[19]FP ガラスは1200 - 1550 30 min大気雰囲気下の条件で作製した溶融後350

に温めておいたスチールモールドに流してプレスした後FP ガラス以外はガラス転移温度

Tg付近でアニールを 1 h行い目的のガラスを得た耐水性試験用のガラス形状はダイヤモ

ンドカッターで大まかに整えた後鏡面研磨まで施して型取ったここでFP ガラスのみ

アニール工程を省いた理由はSP ガラス等はアニールをして歪みを取らなければ正確に

切断できない場合が生じた一方でFP ガラスはアニールをせずとも十分正確にカットで

きたためアニール工程を省いたまた50S50P のみ厚みが必要になると必ず気泡が入

ってしまうため耐水性試験では気泡の入ったものを使用した

223 物性評価

得られたガラスの物性の比較を行うために以下に示す分析を行った

(1)ガラス状態の確認

作製したガラスが結晶の混在していないものかを確認するためにまた耐水性試験

後のガラスが結晶化しているかの確認のためにX 線回折装置(XRD Rigaku RINT-2100)

を用いて分析した全てバルク体で測定したが耐水性試験後ではバルク状態が保てな

いものもあったためその試料については粉末で測定した

(2)組成分析Sn Fe 価数分析

得られたガラスについてアルミナ坩堝の使用によるアルミナのガラスへの混入および

それに伴う組成ズレの確認のために走査型蛍光 X 線分析装置(XRF Rigaku ZSX Primus

Ⅱ)を使用し組成分析を行った分析はバルク体で定性分析法にて測定した

またSn が二価のままどのくらい存在しているかを調べるために Sn-Nb-P ガラスを用い

てSnの価数分析をメスバウアー分光法にて行ったSnの測定は reference [20]に示す旭硝

子の公開特許に記載されている方法で行ったFP ガラスについても価数変化を調べるた

めにメスバウアー分光法にて Feの価数分析を行ったFeの測定は(株)トポロジック

システムズ MDF-200)を用いて評価を行った

16

(3) 密度(ρ)およびガラス転移温度(Tg)評価

各ガラスの密度(ρ)測定はケロシンを用いたアルキメデス法で測定したガラス転

移温度(Tg)を評価するために示差熱―熱重量測定装置(SDT TA instrument Japan Q600)

を用いたアルミナパンを使用し測定条件はN2雰囲気下 10 Kmin 700までの温度範

囲にて行った

(4)耐水性試験

各ガラスの耐水性について評価するために耐水性試験をMCC-1法[21]にて測定した(Fig

28)条件は75 72h ガラスサイズ 12times10times02 cm (plusmn01 cm) 蒸留水の pH は 72-77

で行い浸漬後サンプルを乾かして重量を量った溶出速度(Dissolution Rate DR)は重

量減(ΔW) サンプル表面積(S) 浸漬時間(t)から以下の式によって算出した[22]

DR = ΔW (kg) S (m2) t (s)

また浸漬前と 72 h 後の重量減()も合わせて算出した

23 結果考察

231 組成分析 Snおよび Feの価数評価

Table 21に各試料の組成分析結果を示すまずアルミナ Al2O3の量を見るとガラスに

混入した量がほとんどの組成で 25 mol以下で多くても 35 molを下回る量であった

そのため各種特性についてアルミナの影響はほとんどないと考えられる[23 24]組成

によってその量に差があるのは溶融温度の違いによることに起因している組成分析の

結果今回作製したガラスは仕込み組成と大きな差がないと判断した

Fig 29に Sn-Nb-P ガラスの Snのメスバウアースペクトルをそこから得られたメスバウ

アーパラメーターを Table 22に示す得られた結果よりSn-Nb-P ガラスでは95以上の

割合で Sn2+のまま存在していることが分かった不活性雰囲気で作製したことP2O5 の出

発原料に NH4H2PO4を使用したことにより(か焼は行なっているが)還元雰囲気になったた

めSn4+にほとんど酸化されることがなかったといえるこの結果SP 系ガラスではほぼ

Sn2+のまま存在していると仮定した

Fig 210に FP ガラスの FeのメスバウアースペクトルをTable 23 にそこから得られたメ

スバウアーパラメーターを示すFP ガラスについては組成に関わらず酸化還元平衡に

より 20 ~ 30が Fe2+になりまたFe2O3 ge 30 molの際化学的にも安定であることが知

られている[27]実際にFe2O3 ge 30 molの際Fe2+は概ね 20 ~ 30存在している結果が得

られた一方でFe2O3 lt 30 molの際はFe2+が 40以上と高い割合で存在していることが

判明したこれは出発原料の NH4H2PO4の多量使用によること溶融温度が 1550と高

いことが要因で還元がより進行したためと予想される

17

232 ρおよび Tg

Table 24にρおよび Tgの結果を示す二つの特性結果はそれぞれのガラス系において

SnO や Nb2O5ZnO といった金属酸化物が増えるにつれて大きくなっているSP Sn-Nb-P

SNP S5ZP 系ガラスの Tgはほとんどが 300前後であり最も高い温度でも67S5N28P

の 346であった一方5SZP 系ガラスは400~440となり他のガラス系と比較する

と若干高い温度となったそれでも今回作製した第三成分を添加したガラスは低 Tgを有

するガラスであると判断できSP ガラスの特性を維持できたと判断できる

60S5N28P と 62S5Z30P のようなほぼ同じ OP を示すもので比較した際にNb2O5添加が

ZnO 添加よりも Tgが高くなったのは①配位数が同配位数になり得るイオンの場合(例え

ば Nb5+と Zn

2+なら4配位など)ポーリングの第 2 法則[25]より高価数イオンの方が結合

強度が強くなる②diatomic cationの解離エネルギーがNb-O (688plusmn11 kJmol)[26]に対しZn-O

(1611plusmn48 kJmol)[26]と大きな差があるため Nb-Oの結合が強い故に熱的に安定化され

Tgが高くなったと考えられる

233 耐水性試験前後の外観写真

Figs 211 - 216に各ガラスの耐水性試験前後の外観写真を示すFig 211 の SP ガラスを

観察するとSnO 量の少ない 50S50P 60S40P は浸漬時間が経過するにつれて元々の形状

が崩壊したりガラス自体が膨張したような状態になったりしたSnO 量の多い 67S33P

70S30P について形状は崩れることはないが透明性が失われる(白ヤケ)耐候性が低いこ

とが確認できるFig 212 に示す Sn-Nb-P ガラスではNb2O5無添加の 65S-0Nb-35P は浸漬

時間 24 h で透明性が失われているがNbO25量の増加させていくと徐々に透明性が回復

しており4 mol添加した 65Sn-4Nb-31P では72 h後においてもほとんど変化が確認でき

ないNbの添加量を変えた Fig 213に示す SNP ガラスではSP ガラスと同様に SnO 量の

少ない 50S5N45P は時間経過と共にガラス全体にldquoひびrdquoのようなものが見え72 hの実

験終了後最終的にテフロン糸を外す段階で簡単に割れたしかし50S50P や 60S40P と比

較すると耐水性が大幅に良くなったまた60S5N35P 67S5N28P は耐水性が良好なこと

だけでなく耐候性についても向上していることが目視で判断できる一方で二種類の

SZP ガラス(Figs 214 215)を観るとP2O5量の少ない 5S55Z40P および 55S5Z40P では

形状が崩れるか析出物が現れる結果となったこの組成よりP2O5 量を減少させるとSP

ガラスと同じように形状は崩れないが透明性が若干失われる結果となった

Fig 216 に比較対象の FP ガラスの耐水性試験前後の写真を示すこの組成ではFe2O3

量の少ない20F80Pにおいても形状が全く崩れない結果が得られたしかしFe2O3 lt 30 mol

の組成において表面に干渉色のような反射光が若干確認できたこれはおそらく青ヤ

ケが発生したためであると考えられる

18

234 耐水性試験前後の構造変化

Figs 217 - 222に各ガラスの耐水性試験前後の XRDパターンを示す耐水性試験前では

ガラス化を全組成で確認した(Figs 217(a) - 222(a))しかし耐水性試験後における外観

写真で形状の崩れたもしくは析出物の得られたガラス組成では結晶が生成したことが

確認された形状の崩れた三組成のうち50S50P 60S40P ガラス(Fig 2214(b))では三

種類の結晶ピーク(SnP2O7 Sn2P2O7 Sn3(PO4)2)が確認でき5S55Z40P については(Fig

2214(b))結晶同定の判断はできなかったが ZnOの多い組成であるためおそらくリン酸

亜鉛の何れかの結晶だと推測された析出物が得られた 55S5Z40P はガラス matrix部と析

出物に分けて測定したところガラス matrix 部はガラスのままであり析出物は SnP2O7

Sn2P2O7の二種類の結晶ピークが確認できたガラス形状に変化がなかったその他の組成は

ガラス状態が保たれていたSn4+の結晶のピークが確認されたのは50S50P のガラスには

気泡が残っておりその気泡から酸化されたかもともと溶融工程で電気炉内に残って

いた酸素によってSn4+に酸化されたか等が考えられる

235 溶出速度(DR)および重量減

Table 24に DR重量減の結果および仕込み組成から計算した OP を示すSP SNP S5ZP

ガラスではSnO 量の増加に伴いSnO量の固定された Sn-Nb-P 5SZP ガラス系ではそれ

ぞれの金属酸化物の増加に伴いDR重量減は減少傾向にあったFP ガラスでは全組成

において DR 重量減共に変化が全く確認されなかったそのため青ヤケのようなものが

確認された FP ガラス(Fe2O3 lt 30 mol)については電子天秤では変化が見られない程度

の重量減であったと推測される二種類の SZP ガラスで比較するとSnOと ZnO量が入れ

替わってもほぼ誤差範囲内と思われる結果が得られたガラス全体の比較では外観写真

で変化が見られなかった FP ガラスと 65S5N28P 65Sn-5Nb-30P のガラスが DR重量減がと

もにゼロという結果が得られた

組成と DR 重量減の関係性を見るために作成した図をFigs 223(DRと OP の関係性)

224(Fig 224に重量減と OP の関係性)に示すそれぞれの図にリン酸塩の三つの構造

の OP も表記した双方の図よりDR 重量減共に OP が増加することで単調に下がって

いることが分かるこの結果はリン酸塩の構造ではorthophosphate 組成で耐水性良好が

あるため[22]一般的な結果と同じ挙動であるまた耐水性の良かったNb2O5添加の SNP

ガラスは異なる挙動(傾き)が得られた

以上の結果より第三成分添加による耐水性の改善を確認し特に Nb2O5 の添加による

影響は大きいことが判明したまたOP の増加による耐水性が改善する結果が得られた

次章の第 3 章にて各ガラス系の構造解析を行い第三成分特に Nb2O5の耐水性への有

効性について調査した

19

24 結言

本章ではSP ガラスおよび第三成分の Nb2O5 ZnOを添加した SP ガラスの物性評価を行

うことで耐水性改善への第三成分添加の有効性を確認した各々の物性について以下に

まとめる

低ガラス転移温度を有する SP ガラスは最も SnO 量が高い 70S30P でも Tg le 280であ

ったNb2O5を添加した Sn-Nb-P SNP ガラスではTgの上昇は見られたが Tg le 350

ZnOを添加した 5SZP S5ZP ガラスではTg ≦ 450であり両金属酸化物の添加でも低

ガラス転移温度を維持しているガラスが得られたNb2O5 添加が Tg を上昇させたのはポ

ーリングの第 2法則より高価数イオンの方が結合強度が高くなるためと結論付けた

耐水性試験結果の外観写真を観るとSP ガラスの SnO 量 le 60 mol 5SZP ガラスおよび

S5ZP ガラスの P2O5量 = 40 molの組成についてガラスサンプルの形状が大きく変化して

おりDR 重量減も高く耐水性の低さが明らかであった得られた析出物はSnP2O7

Sn2P2O7 Sn3(PO4)2 および亜鉛リン酸結晶の一種であると予想されたその他の組成では

透明性の失われた組成がいくつかあったが外観写真では変化が見られなかった FP ガラス

と 65S5N28P 65Sn-5Nb-30P のガラスが DR重量減がともにゼロという結果が得られた

組成と耐水性に関してはDRおよび重量減がOP増加で単調に低下した結果が得られた

つまり耐水性を改善させる有効な手段はSP 系ガラスのガラス化範囲を拡大かつ OP を

増大させる第三成分の添加によることであることが示唆された

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21

Fig 21 三成分系 SnO-NbO25-P2O5 系のガラス化範囲

Fig 22 作製した Sn-Nb-P ガラス

(a)50Sn-5Nb-45P (b)55Sn-5Nb-40P (c)60Sn-5Nb-35P

(d)65Sn-5Nb-30P (e)70Sn-5Nb-25P (f)60Sn-10Nb-30P

(g)55Sn-20Nb-25P (h)60Sn-15Nb-25P (i)65Sn-10Nb-25P

22

Fig 23 三成分系 SnO-ZnO-P2O5系のガラス化範囲

Fig 24 作製した SZP ガラスの一例

(気泡や脈理のようなものが確認できた組成)

23

Fig 25 SP SZP ガラスの作製フローチャート

Fig 26 Sn-Nb-P SNP ガラスの作製フローチャート

(気泡や脈理のようなものが確認できた組成)

24

Fig 27 FP ガラスの作製フローチャート

Fig 28 耐水性試験(MCC-1法)

25

Table 21 各ガラスの組成分析結果

26

Fig 29 Sn-Nb-P ガラスのメスバウアースペクトル

Table 22 Sn-Nb-P ガラスのメスバウアーパラメーター

27

Fig 210 FP ガラスのメスバウアースペクトル

Table 23 FP ガラスのメスバウアーパラメーター

28

Table 24 各ガラスの物性(密度(ρ)ガラス転移温度(Tg)溶出速度(DR)重量減())

29

Fig 211 SP ガラスの耐水性試験前後の外観写真

Fig 212 Sn-Nb-P ガラスの耐水性試験前後の外観写真

30

Fig 213 SNP ガラスの耐水性試験前後の外観写真

Fig 214 S5ZP ガラスの耐水性試験前後の外観写真

Fig 215 5SZP ガラスの耐水性試験前後の外観写真

31

Fig 216 FP ガラスの耐水性試験前後の外観写真

32

Fig 217 SP ガラスの XRD パターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

33

Fig 218 Sn-Nb-P ガラスの XRD パターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

34

Fig 219 SNP ガラスの XRD パターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

35

Fig 220 5SZP ガラスの XRDパターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

36

Fig 221 S5ZP ガラスの XRDパターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

37

Fig 222 FP ガラスの XRD パターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

38

Fig 223 各ガラス系の DR と OP の関係性

39

Fig 224 各ガラス系の重量減と OP の関係性

40

第 3章 分光法を用いたスズリン酸塩系ガラスの構造解析

31 緒言

前章ではSP ガラスおよび第三成分に Nb2O5 ZnOを添加した Sn-Nb-P ガラスSNP ガラ

スSZP ガラスの物性特に耐水性に関する第三成分添加の有効性を明らかにしたその添

加した第三成分の二種類についてもNb2O5 の方が ZnO よりも溶出速度重量減ともに抑

制することができSP ガラスの低ガラス転移温度という特性も維持されていることが判明

したしかし現段階では本研究の主要な物性である耐水性改善の要因が明確になって

いない組成の観点からはOP の値が高い組成が良好な耐水性であることが分かったが

組成だけでは耐水性改善のメカニズムについて完全には理解できないここでリン酸塩

ガラスの溶出のメカニズムは第 1 章で述べたように加水分解反応と水和反応が要因とな

る[1 2]この機構はそれぞれリン酸の構造つまり架橋酸素 BO の数が大きく関わって

おりリン酸アニオンの[PO4]ユニットの架橋酸素数を知ることが重要であるこの BO の

情報を得るためにはガラス構造を示す指標の一つである Qn(n は[PO4]ユニット中の架橋

酸素数を表す)を調べることが必須であるまたQn の分布を調べるためにはガラスの

構造解析を行う必要性がある

ガラスの構造解析には種々の方法があり特にラマン分光法や赤外(IR)分光法核

磁気共鳴法(NMR)などの分光学的手法を用いた構造解析の報告が多い[3-5]ラマン分光

法および IR分光法は原理は異なるがどちらも結合の振動モードを測定する手法であり[6]

リン酸塩ガラスだけでなくケイ酸塩ガラスホウ酸塩ガラスなど様々なガラス系にて測

定がなされている[7 8]また得られた結合状態の情報からリン酸塩アニオンの Qn分布

を調べることも可能であるNMR は共鳴吸収ピークの化学シフト(共鳴周波数のズレ)

から構造を決定する手法であるガラスの場合SiO2や B2O3 P2O5といった網目形成酸化物

の Qn分布を得るために一般的に使用されている手法である[9]

今回これらの測定の中でラマン分光法を選択し構造解析を行ったラマン分光法は

測定する際にサンプル形状を気にすることなく基本的にそのまま測定できるためIR 分

光法のようにサンプル形状で測定方法を変える必要はないまたIR 分光法では例えば

KBr 錠剤法やヌジュール法のように測定を行うためのサンプル調整に手間がかかる場合が

ある[6]さらに比較対象の FP ガラスではNMR を測定できないため作製ガラスを全

て比較検討できるようにラマン分光法を選択した

本章ではラマン分光法を用いて各ガラスの構造解析を行い[PO4]ユニットの Qn分布を

調査し平均 BO数 nを算出することで耐水性と構造の関係性を検討したまたラマン

分光法によって得られた Qn分布の妥当性を確認するためにSP ガラスおよび 67S5N28P ガ

ラスの NMRを測定も行い比較した

32 実験方法

41

321 サンプル準備

ラマン分光およびメスバウアー分光の測定では第 2 章で作製した各ガラスのバルク体

を用いたWD試験に使用したサンプルとは別にラマン測定用のサンプルを用意した適

度な大きさ大体 15 cm角程度のサイズになるようにガラスカッターで切断しその後

十分な平滑性を得るために鏡面研磨を施した

322 ラマン分光測定

使用したラマン分光装置は顕微レーザーラマン分光装置(Jasco NRS-5100)を用いた

用いたレーザー波長は 53208 nmであり400 - 2000 cm-1の範囲で測定した

Qn 分布を導くためにピークフィッティングを行いリン酸塩アニオンのラマンバンド

が現れる950 - 1250 cm-1付近および 700 - 750cm-付近の範囲で定量した

323 31P MAS NMR測定

31P MAS NMRの測定は Varian NMR System 500 を用いて32 mmの MASプローブ

202309MHzにて行った測定パラメーターを以下に示すπ4 パルス長さ 14 μs 待ち時間

(pulse delay)10 s 積算回数 3600 scan シリンダー円筒形状の Zrローターの回転スピード

160 kHz referenceとして二番目の基準物質として使われる NH4H2PO4を使用化学シフト

は85 H3PO4溶液から δ = 10 ppmである

33 結果考察

331 各ガラス系のラマンスペクトル

Figs 31 - 35にラマンスペクトルを示す各ピークは以下の通りに帰属し各スペクト

ル中に該当する構造をピーク位置に示した

1230 - 1260 cm-1 P=O NBO Q

2 [10]

1110 - 1150 cm-1metaphosphate (PO3)

- Q

2 [10]

1030 - 1100 cm-1pyrophosphate (PO35)

2- Q

1 [10]

970 - 1000 cm-1orthophosphate (PO4)

3- Q

0 [10]

920 - 930 cm-1asymmetric (P-O-P) Q

1 [10]

730 - 750 cm-1symmetric (P-O-P) Q

1 [10]

710 - 720 cm-1asymmetric (P-O-P) Q

2 [10]

810 - 820 cm-1Nb-O [NbO4] tetrahedron [11]

900 - 920 cm-1Nb-O isolated [NbO6] octahedron [11]

42

SP ガラスのラマンスペクトル(Fig 31)を見ると50S50P 60S40P ではmetaphosphate

の Q2 構造が支配的であるがSnO 量が増えるにつれてその構造が変化し70S30P では

pyrophosphateの Q1構造と orthophosphateの Q

0構造が共存した構造となっているまたSnO

量の少ない 50S50P および 60S40P において確認されたQ2構造の P=O のピークが見えなく

なっているつまり耐水性と関連して考えるとSnO量が増えるにつれてP-O-P 結合か

ら Sn-O-P 結合に代わり水分子との反応である加水分解反応を妨げる構造に変化している

ことがわかる

Figs 32 33にNb2O5を添加した Sn-Nb-P ガラスおよび SNP ガラスのラマンスペクトル

を示すまずSn-Nb-P ガラスについてNb 無添加の 65Sn-0Nb-35P は主に Q1構造であ

りNbO25が添加されることによってQ0構造に変化しQ

1 Q

0構造が共存しているような

ピークが得られた添加量が少ないガラス系であるため徐々に変化しているのを確認し

た800 cm-1を少し越えた 810 - 820 cm

-1付近にNb2O5を添加することでピークが現れそ

して添加量を増量することで強度が強まるピークがありこのピークは四面体の[NbO4]

のものと判断した

SNP ガラスのラマンスペクトルについてはNb2O5添加量を固定した組成であるためSP

ガラスのような挙動が観察された50S50N45P では50S50P ガラスと同じようにQ2構造

が主な構造でありSnO量の増加に伴って60S5N35P Q1構造67S5N28P Q

0構造に支配

的な構造が変化しているこれはSP ガラスと同じ傾向を示しているためP-O-P rarr Sn-O-P

に置き替わっていることが示唆されるNb-O に関するピークでは50S5N45P のみ[NbO4]

四面体のピークを確認できず900 - 920 cm-1付近に[NbO6]八面体のピークが確認された

SnO量が増量した 60S5N35P では810 cm-1付近の [NbO4] 四面体のピークが現れているが

[NbO6]八面体のピークと 900 - 920 cm-1付近の Q

1構造のピークが非常に近い(ほぼ重なって

いる)ことから60S5N35P については[NbO4] 四面体および[NbO6]八面体の共存の可能性

も考えられるまた67S5NP28 では[NbO4] 四面体のみのピークが観察されたためこ

の Nb-O の配位数変化は[PO4] unitの状態によって変化している可能性も示唆された

ZnO を添加した S5ZP ガラスおよび 5SZP ガラスのラマンスペクトルを Fig 34 に示す

図の下部三つが S5ZP ガラス上部三つが 5SZP ガラスのスペクトルであるSZP ガラスの

二系統を比べるとあきらかなスペクトルの違いが確認された各ガラス系で確認すると

SnO 量が最小の 55S5Z40P はQ2構造と Q

1構造の範囲に跨っているようなスペクトルが得

られた62S5Z33P および 65S5Z30P のスペクトルからはどちらもほぼ Q1構造であると判

断した5SZP のスペクトルは1000 - 1250 cm-1付近の範囲で裾を引くような(なだらかな)

スペクトルが得られたZnO 量が最小の 5S55Z40P にはQ2構造が主な構造に見えるが

shoulderピークのような Q1構造(1030 - 1100 cm

-1)が確認できる5S62Z40P においては

1000 - 1250 cm-1付近の範囲まで幅広いスペクトルが得られた730 - 750 cm

-1付近にピーク

が現れているためおそらく Q1構造が最も多く存在していると考えられる65S5Z30P では

Q1構造Q

0構造が共存しているようなピークが得られた

43

FP ガラスのラマンスペクトルを Fig 35 に示すFe量の少ない 20F80P 25F75P と他の三

つで構造が異なっていることである20F80P 25F75P はQ2構造と Q

1構造が基本構造にな

っていると判断できる 30F70P は1110 - 1150 cm-1付近に shoulderピークのようなものがあ

りQ2 Q

1 Q

0構造が共存しているようなスペクトルであった35F65P 40F60P はQ1構造

が主な構造でQ0構造があると判断した

332 平均 BO数 n (Qn分布)

まずピーク分離について散乱断面積が見積もれなかったためラマンの散乱強度比

を Qn分布として簡易的にピーク分離を行い(Fig 36)そこから平均架橋酸素数 BO 数 n

を算出したここでFig 37 に 31P MAS NMRスペクトルを示しTable 31に NMRおよび

ラマン分光より得られた平均 BO 数 n を示す(NMR の帰属 reference [12])表よりNMR

とラマンから得られた Qn分布はほぼ一致していることが分かった60S40Pについては支

配構造が NMR(Q1) ラマン(Q

2)で逆になったこれは60S40P の組成がQ

2と Q1のほぼ中

間の組成になるためこのようなズレが生じたと考えられるしかし今回のラマンによ

る Qn分布の算出についてはほぼ問題ないと判断した

Table 32にラマンスペクトルより求めた Qn分布平均 BO 数 nをを示しTable 24に示

した DR 重量減の結果を併記する

SP ガラスのうち耐水性が低いガラスは Q2構造によって形成されているSnO量の増加

によって NBOの増加とともに耐水性の向上が確認できSnOが入ることでSn-O-P 結合を

形成し水分子からの攻撃を受けにくくなっていることが考えられる

Sn-Nb-P ガラスでは基本的に Q1構造が主構造でNb2O5の添加が増えるにつれQ

0構

造が支配的になり耐水性は次第に向上していく最も耐水性のよかった 65S-5Nb-30P は

Q0構造での割合が非常に高く平均 BO数 n値が 03であった

SNP ガラスではP2O5量が多い組成の 50S5N45Pにおいても平均 BO数 nが 60S40P と

同じながらも耐水性が良くなっている67S5N28P はほぼ完全に Q0構造であり平均 Q

n

値は 0となった

SZP ガラスについてはS5ZP 5ZSP のどちらの系列についても耐水性の結果に大きな差

というものは確認されなかったが構造的にも平均 BO数 nが 09 10 17という結果であ

った

FP ガラスについてはFe2O3 lt 30 molのときは平均 BO 数 nが20 19と高い数値を

示したが耐水性は非常に良好であったこの結果より組成だけでなく構造的にも耐

水性高くなる要因が不明である一つの原因の可能性としてメスバウアーより得られた

Fe2+の存在比が 40以上と高かったことがFe2O3含有量が少ない組成時には効果的になっ

ているのかもしれない

333 平均 BO数 nと耐水性の関係性

44

Fig 38に DRと平均 BO数 nの関係性についてFig 39に重量減と平均 BO数 nの関係

性をそれぞれ示すまたOP の時と同様に各図にリン酸塩の三つの構造の平均 BO数

n も表記した双方の図よりDR 重量減共に平均 BO 数 nが低下することで単調に下がっ

ていることが分かるまた耐水性の良かったNb2O5添加の Sn-Nb-P SNPガラスはの DR

の挙動(傾き)はOP 時とも異なった挙動が得られた

Fig 310に OP と平均 BO数 nの関係を示す図中に示す茶色metaphosphate 黄色

pyrophosphate 灰色orthophosphate であるこの図から耐水性改善には平均 BO 数

n を下げOP を上げることが重要であるのが分かるまたNb5+の添加はOP を上げる

だけでなく平均 BO 数も減少させることから非常に効果的な成分であることが明らかで

あるこれはP5+から同酸価数 Nb

5+に少量でも置き換えることで平均 BO 数 n を下げ

OP を上げることを可能としている(実際に orthophosphate の OP4 よりも高い OP でガ

ラスが作製できている)つまりNb5+の添加によって P-O-P 結合が減少し水和反応加

水分解反応が抑制されているからである

以上の結果SP 系ガラスの耐水性改善には低い平均 BO 数と高い OP の組成にするこ

とが重要でNb2O5の添加は非常に効果的であることが分かったその一方でガラス中の

詳細な構造的要因についてははっきりしていないため次章の第 4 章にてさらに詳し

い構造解析を行い耐水性改善の要因について調査を行った

34 結言

本章ではラマン分光を使用して各ガラス系のリン酸塩アニオンの構造を簡易定量で

評価し組成と構造の関係について考察した

平均 BO 数 n と耐水性に関してはDR および重量減が平均 BO 数 n の減少で単調に低下

した結果が得られた

平均 BO数 nと OP の図より耐水性改善には平均 BO数 nを下げることそして OP

を上げることが重要であることが明白であった

Nb5+の添加は平均 BO数を減少させるだけでなくOP も上げることからガラス構造内

の P-O-P 結合を減少させる故に水和反応加水分解反応が抑制され耐水性が大幅に

改善された故にNb2O5 のような高価数金属酸化物を添加することが効果的であること

が示唆された

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46

Fig 31 SP ガラスのラマンスペクトル

47

Fig 32 Sn-Nb-P ガラスのラマンスペクトル

48

Fig 33 SNP ガラスのラマンスペクトル

49

Fig 34 SZP ガラスのラマンスペクトル

50

Fig 35 FP ガラスのラマンスペクトル

51

Fig 36 ラマンスペクトルのピーク分離例(67S5N28P)

Raman Shift (cm-1)

52

Fig 37 NMRスペクトル

Table 31 NMR およびラマン分光より得られた SP 67S5N28P ガラスの

Qn分布および平均 BO数 n

53

Table 32 各ガラスのラマンスペクトルより求めた Qn分布結果

(表の赤線より右側の結果は Table 22 より)

1 仕込み組成による数値

2 Fig 2212 に示した析出物を取り除いた後の数値

54

Fig 38 DR と平均 BO数 nの関係性

55

Fig 39 重量減と平均 BO数 nの関係性

56

Fig 310 OP と平均 BO数 nの関係性

Meta

Pyro

Ortho

57

第 4章 放射光を用いたスズリン酸塩系ガラスの構造解析

41 緒言

前章の第 3 章にてラマン分光法を用いて SP 系ガラスの構造解析により Qn分布を導き

出したことで耐水性と構造の関係についてある程度関連性を導くことができたリン

酸アニオンについてはQ0(orthophosphate)構造 gt Q

1(pyrophosphate)構造 gt Q2

(metaphosphate)構造の順で良耐水性となるしかしSn Nbおよび Znの局所構造につ

いては知見が得られていないラマン分光や IR分光などの分光学的手法を用いてSnや

Nb Zn の周辺の局所構造を知るには限界があるまたガラスの構造解析を行う上で非常

に重要な因子である中距離構造の評価には分光学的手法は不向きである[1]

そこで局所構造や中距離構造を知るために有効な手法として放射光線を用いた構造

解析がある放射光(SR 光)とはシンクロトロンなどの加速器で高速に加速された電子

が進行方向を磁場によって変えられた際に放射する電磁波である[2]エネルギーが高く

(短波長)輝度が高い特性を有している日本国内では兵庫県佐用町の SPring-8や茨城

県つくば市の高エネルギー加速器研究機構佐賀県鳥栖市の佐賀県立九州シンクロトロン

光研究センターなど複数個所に放射光施設が設置されている

放射光を用いたガラスの構造解析には一般的に高エネルギーX 線回折(High Energy

X-ray diffraction HEXRD)が用いられるこの回折実験から高い散乱ベクトル Q(= 4π sinθλ)

まで回折データが得られる多種類の原子から構成される物質の場合はFaber-Ziman 型[3]

の構造因子 S(Q)を用いる以下の式に示すようにFaber-Ziman 型構造因子 S(Q)は同種また

は異種の原子による相関の重み関数付の和として示される例として SiO2ガラスで説明す

ると構造因子 S(Q)は三種類の原子付の S(Q)の重み付の和として表されていることが分か

I(Q) 散乱断面積 ltgt 原子一個当たりの平均値 f(Q) 原子散乱因子 W 重み関数

通常の研究室で使用される X 線回折(XRD)装置で用いられる特性 X 線はCuKα線(λ

= 0154 nm 81 keV)が最も良く用いられより高いエネルギーの X 線が必要な場合は

MoKα線(λ = 0071 nm 175 keV)が使用される一方でSPring-8のビームライン BL04B2

で行われる高エネルギーX 線回折(HEXRD)測定で使用される SR のエネルギーは378 keV

58

~ が使用可能である[2]従ってガラス以外の液体のような非晶質物質にも非常に精度

よく構造解析が行われている[4]

また局所構造解析の一つに X線異常散乱法という測定方法がある[5 6]これは通常

の X 線回折実験では分離不可能な特定元素に関連する部分構造因子(散乱強度曲線)を得

ることができる手法である今回 HEXRD の測定時に使用したエネルギー614 keV では各元

素の異常散乱項のエネルギー依存性は確認されない(Fig 41)その一方でFig 42に示す

Sn の吸収端付近の 292 keV付近ではSnの異常分散項のエネルギー依存性が確認できる

つまりSnの吸収端近傍より低エネルギー(E)側の異なるエネルギーの X線(E1 E2)を

使って散乱強度を測定し各 E における異常分散項(f`)の変化(つまり高い E1 から低い

E2 の散乱強度の差分)を利用して Snに関する部分構造因子を求める構造解析が AXS 法で

あるこの測定法は古くから知られている方法ではあるが装置の測定条件や設備の問

題からなどから使用があまり普及していなかった[5 6]近年になり金属ガラスの構造解

析について徐々に報告が出てきており今後注目される測定法である

HEXRD および AXS 法などから得られたデータ実測の構造因子 S(Q)は一次元の限られ

た構造情報であるためガラスなどの非晶質物質の中距離構造を解明するためにはこれ

らのデータを基に三次元構造を求める必要がある三次元構造モデルの作成には逆モンテ

カルロ(RMC)シミュレーションを使用することが有効である[7]このシミュレーション

は任意で決めたシミュレーションボックス内の粒子をランダムに動かすことで実測の

構造因子 S(Q)を再現する三次元構造モデルを構築する方法である

SP ガラスについては分光学的手法について数多く報告があるが放射光を用いた回折

法はほとんど適用されていないそこで本研究では HEXRD および AXS 法を用いた構造

解析を行うことでSn Nb周りの構造を解明すると共にSNP ガラスの耐水性改善のメカ

ニズムについて考察したまたAXS 法の有効性についても検討した測定を行ったガラ

スはSP ガラスおよび最も耐水性の高かった 67S5N28P を選択した

42 実験方法

421 HEXRD AXS法

HEXRDはSPring-8のビームライン BL04B2 で測定を行ったエネルギー614 keV の X

線を用いた測定サンプルの厚みは09 mm (plusmn0005 mm)になるまで研磨を行った

AXS 測定はSPring-8のビームライン BL13XUを使用した(Fig 43)それぞれの測定し

た X 線のエネルギーについて以下に示す

①Sn K吸収端hellip292 keV near edgehellip291452 keV (-60 eV) far edgehellip289751 keV (-230 eV)

②Nb K吸収端hellip1899 keV near edgehellip189562 keV (-30 eV) far edgehellip187863 keV (-230 eV)

測定に使用したサンプルの厚さが015 - 030 mmとなるまで研磨を施した

SP ガラスについて50S50P 60S40P 67S33P の三組成のガラスを測定した70S30P に関

59

しては測定を試みたが放射光照射によって結晶化してしまいガラス部分の正確な構

造因子を得るための強度補正ができず解析を断念した

422 RMCのモデリング

Table 41 に RMC の各種パラメーターを示す粒子数は約 5000 個でそれに伴う boxの一

辺の長さは約 42 ~ 46 Ǻになった拘束条件にP の配位数が 4になるような条件を付け

加えたFig 44にSn2P2O7結晶および Sn3P2O8結晶の動径分布関数(RDF)をTable 32

にRDFから得られた第一近接距離[8 9] を示すこれらの数値を使用しcutoffを決定し

たNb-O についてはいくつかの文献値を参考にした[10 11]

各ガラスの RMCのモデリングは①HEXRDから得られた S(Q)のみ②S(Q)および AXS

から得られた部分構造因子を加えた場合でそれぞれ計算した

43 結果考察

最初にNbの AXSから得られたデータについて解析を試みたが妥当な構造モデルが得

られなかったためSnの AXSのみで解析を進めたNb2O5の量が 5 molと少量であったた

めあまり精度の高いデータが得られなかったと推測される

431 実測の HEXRDおよび AXSの結果

4311 実測 HEXRDの S(Q)

Fig 45 に実測HEXRDの S(Q)を示す四つの組成ともに実測HEXRDの S(Q)が得られ

Nb2O5添加の 67S5N28P ガラスでは Low Q 側に変化が確認された

4312 実測散乱強度曲線

Fig 46 に Snの散乱強度曲線を示す(a) の 67S33P のこの曲線からはfar edgeおよび

near edge のエネルギー間で差分が見られエネルギーの依存性が確認された50S50P

67S5N28P のガラスについても同じように差分が確認されたが(b)の 60S40P についてのみ

他とは若干異なる結果(緑丸)であったためRMC の構造解析には差分の構造因子ではな

くfar edge near edge 二つの構造因子を用いた

4313 全相関関数 T(r)

Fig 47 に全相関関数 T(r) を示すHEXRD から得られたものを実線でSnの AXS から

得られたものは点線で示し組成ごとに重ねて表示した図中に各ピークについて帰属し

ているがSnの T(r)からはSn-O Sn-P Sn-Snのみのピークを確認した

432 RMCの計算結果および考察

60

構造モデルの一例として67S5N28P ガラスの得られた構造モデルをFig 48に示す水

色の多面体 unitSnON 黄色の多面体 unitPO4 ピンクの多面体 unitNbONである以下

詳細な構造解析の結果および考察を記す

4321 RMCのフィッティング結果

RMCのフィッティング結果の一例として67S33P の HEXRD と Snの AXS の構造因子か

ら得た結果を示す(Fig 49)二つの構造因子を加えて計算した結果においてもHEXRD

の S(Q) AXS の S(Q)に各々に対する良好なフィッティング結果が得られた他の組成も

同様なフィッティング結果が得られた

4322得られた各 pairの平均配位数平均角度平均結合距離

RMCの結果によって得られた各 pairの平均配位数平均角度平均結合距離を Tables 43

に示す上段が HEXRD の S(Q)のみ下段が HEXRD に Sn の AXS の部分構造因子を加え

て結果である最下部は比較のためにSn2P2O7の情報を記載した[8]

P-O pairについてRMCモデル中の PON多面体に関して平均配位数 Nが 4および P-O

の平均結合距離が約 160Å平均結合角度angO-P-O が約 109degという結果が得られた組成

による大きな違いは確認されなかったのはP の配位数が 4になるように拘束条件をかけた

結果であると考えられるSnON多面体についてはSnO量の増加 = OP の増加であり平

均配位数 Nが 3 ~ 35へ増加した平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約

22Åで組成による大きな変化はほとんど見られなかったNb2O5を 5 mol添加したガラ

スではNbON多面体の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平均配位数 N約 4Nb-O 平均結

合距離約 20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O(約 105deg)と値が近いこと

また6配位ではなく 4配位として主に存在していることからSnO と同じような働きをし

ていると推測される

以上の結果からNb2O5添加の耐水性改善の要因として結合距離が Sn-O が約 22Åに対

し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強固にして

いることも一つの要因として考えられる

また67S5N28P ガラスの各多面体モデルを確認すると(Fig 410)P は PO4Snは SnO4

と SnO3Nbは NbO4をそれぞれ再現している

4323得られた各 pairの結合様式

RMC の結果により得られた各 pair の結合様式を Tables 44 に示す上段が HEXRD の

S(Q)のみ下段が HEXRDに Snの AXS の部分構造因子を加えた結果である最下部は比

較のためにSn2P2O7の情報を記載した[8]

結合様式に関してはPO4四面体は他の多面体も含めてほぼ頂点共有で存在している

SnON多面体についてはSnO 量が少ない配位数が 3 に近い場合頂点共有以外の共有の

61

割合も多くSnO 量が増えるにつれて頂点共有が主になり網目形成体として振舞ってい

ると考えられる組成によって平均結合距離や平均角度の大きな変化が見られなかったこ

とから平均配位数が結合様式を決める重要なファクターであるということも考えられる

またHEXRD と AXS 法の結果がほぼ同じであったこれは主成分が SnO のガラスであ

るためHEXRDでも十分に詳細な構造が得られたため大きな変化が現れなかったと考え

られるNbON 多面体はPO4 四面体と SnON 多面体とはほぼ頂点共有で繋がっている以

上の結果よりSnO量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体的に各多面体同士の

頂点共有が増えていることから耐水性の改善には頂点共有を多く含む構造であること

が重要である或いは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的となって

いるということが推測されるFig 411に 67S5N28P ガラスの構造モデルを示す各多面

体はほぼ頂点共有で繋がっていることが確認できる

4324 平均 BO数の比較

Tables 45にNMR Raman RMC(HEXRD) RMC(HEXRD + AXS)の平均BO数を示すRMC

から得られた平均 BO 数 nはNMR Raman と同様に Nb2O5の添加による大幅な減少が確認

されたしかしNMR Raman と比較すると全組成において数値が大きすぎで適当でない

50S50P の構造モデルを観るとPO4四面体間で3配位 O の存在が確認された(Fig 412)た

め実測で得られた n値を再現できるようなPO4四面体モデル間の繋がり方に関する拘束条

件を加えて RMCを計算する必要性があるまた仮に3配位 Oの存在があるとすると電

子状態の変化が生じていることがと示唆されるため分子軌道計算を用いて電子状態解析

を行い確認する必要がある

4325 耐水性の改善について

Nb2O5を添加のガラス構造への影響について①6配位ではなく 4配位として主に存在し

ていることからSnO と同じような働きをしていると推測される②結合距離が Sn-O が約

22Åに対し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強

固にしている③ガラス構造中で全体的に各多面体同士の頂点共有が増えている以上の

ことが判明した以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性

耐候性を改善した要因として考えられる

44 結言

本章では分光学的手法では評価できないガラスの中距離構造局所構造について理解

するために放射光を用いた構造解析を実施しSP ガラスの構造と耐水性改善について考

察したHEXRDおよび AXS法を用いて測定を行い得られたデータを RMCシミュレーシ

ョンにて解析を行った

解析の結果 Sn-O pair については平均配位数 Nが 3 ~ 35でSnO量の増加 = OP の増

62

加に伴い高くなった平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約 22Åであ

ったP-O Sn-Oについては組成による大きな変化はほとんど見られなかった67S5N28P

ガラスの Nb-O pair の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平均配位数約 4Nb-O 平均結合距

離約 20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O(約 105deg)と値が近いことま

た6配位ではなく 4配位として主に存在していることからSnOと同じような働き(網目

形成体)をしていると推測されるまた結合距離が Sn-O が約 22Åに対し Nb-O は約 20

Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強固にしていると言える

SnO 量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体的に各多面体同士の頂点共有が増え

ていることから耐水性の改善には頂点共有を多く含む構造であることが重要である

もしくは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的であることが推測さ

れる以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性耐候性を

改善した要因として考えられる

またAXS 法の有効性についても確認し効果的であることが判明したただし今回

は主成分が Sn の組成のガラスでありHEXRD でも十分に詳細な構造が得られたため

大きな差は現れなかった

参考文献

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63

Fig 41 各原子の異常分散項のエネルギー依存性

Fig 42 Sn の異常分散項のエネルギー依存性

64

Fig 43 SPring-8の BL13XU

65

Tab

le 4

1

RM

Cの各パラメーター

66

Fig 44 Sn2P2O7 Sn3P2O8結晶の RDF

Table 42 Sn2P2O7 Sn3P2O8結晶の各 pairの第一近接距離

67

Fig 45 得られた実測 HEXRDの S(Q)

68

Fig 46 Sn の異常散乱測定により得られた散乱強度のエネルギー依存性

(a)67S33P (b)60S40P

69

Fig 47 全相関関数 T(r)

太線 HEXRD より

細線 Sn の AXSより

70

Fig 48 67S5N28P ガラス構造のモデル

71

Fig 49 RMC フィッティングの結果

72

Tab

le 4

3 各

pairの平均配位数角度結合距離

73

Fig

4

10

67

S5

N2

8Pガラスの各多面体モデル

74

Tab

le 4

4 各

pairの結合様式

75

Fig 411 67S5N28P ガラスの構造モデル

76

Table 45 平均 BO 各数 nの比較

Fig 412 50S50P ガラスの構造モデル

77

第 5章 総括

本研究ではSP ガラスを対象とした本研究では鉛フリー代替ガラスまたは希土類フ

リー蛍光体として SP ガラスの新規高機能化を将来的に目指し問題点であるldquo化学的耐久

性rdquoの改善につながる知見を得ることを目的としたそこでまずSP ガラスを母体ガラ

スとし第三成分に Nb2O5を添加した Sn-Nb-P SNP ガラスZnO を添加した SZP ガラスを

作製し耐水性を中心とした物性評価を行った次に分光学的手法で構造解析を行い

Qn 分布を導き出した最後に放射光を用いた構造解析を行い耐水性改善に関する構造的

な考察を行った以下に本研究で行った検討内容を示す

(1)SPガラスおよび第三成分Nb2O5 ZnOを添加した三成分系SPガラスの物性評価(第 2章)

(2)SP 系ガラスの分光学的手法による Qn分布導出(第 3章)

(3)放射光を用いた SP 系ガラスの構造解析構造と耐水性改善の関連について(第 4章)

各章についてまとめた結果を以下に示す

第 2章

第 2章では二成分系および三成分系のリン酸塩系ガラスの各種物性(密度や熱的特性

耐水性)の評価を行った二成分系ではSP ガラスに加え良好な耐水性を有する鉄リン

酸塩(Fe2O3-P2O5)系ガラス(以下 FP ガラス)を比較のために三成分系では二成分系

の SP ガラスに Nb2O5を添加したニオブ含有 SP ガラス(SNP ガラス)および ZnO を添加し

た亜鉛含有 SP ガラス(SZP ガラス)を作製した

今回作製した SP 系ガラスは低ガラス転移温度を有していた各組成の温度域はSP

ガラスTg le 280 Sn-Nb-P SNPガラスTg le 3505SZP S5ZPガラスTg ≦ 450であった

各種 SP ガラスの耐水性試験の結果二成分系の SP ガラスよりも三成分系ガラスの方が

良好な耐水性を有していた65Sn-5Nb-30P 67S5N28P ガラスが最も耐水性が良好であり化

学的耐久性の改善には Nb2O5が ZnOよりも効果的であった

組成と耐水性に関してはDRおよび重量減がOP増加で単調に低下した結果が得られた

つまり耐水性を改善させるにはSP 系ガラスのガラス化範囲を拡大かつ OP を増大させ

る第三成分の添加が有効であることが示唆された

第 3章

第 3章ではSP 系ガラスの分光学的手法による Qn分布の導出を行ったラマン分光法を

用いて各ガラス系のリン酸塩アニオンの構造を簡易定量で評価し組成と構造の関係に

ついて考察した平均 BO 数 n と耐水性に関してはDR および重量減が平均 BO 数 nの減

少で単調に低下することが明らかとなった

平均 BO 数 n と OP の関係より耐水性改善には平均 BO 数 n を下げることそして

OP を上げることが重要であることが明らかになった

78

Nb5+の添加は平均 BO数を減少させるだけでなくOP も上げることからガラス構造

内の P-O-P 結合を減少させ水和反応加水分解反応が抑制され耐水性が大幅に改善さ

れることが示唆された故にNb2O5 のような高価数金属酸化物を添加することが効果的

であることが再度確認された

第 4章

耐水性向上についてより深く評価するためSP SNP ガラスの局所構造に関する知見を得

ることを目的に放射光を用いた構造解析を行った高エネルギーX 線回折(HEXRD)お

よび X 線異常散乱(AXS)法で測定したデータを再現する構造モデルを逆モンテカルロ

(RMC)シミュレーションで構築し構造解析を行った

RMC モデル中の PON多面体に関して平均配位数 Nが 4および P-O の平均結合距離が約

160Å平均結合角度angO-P-Oが約 109degという結果が得られた組成による大きな違いは確

認されなかったSnON多面体については平均配位数 N が 3~4 でSnO 量の増加に伴い 4

に近い値となった平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約 22Åで組成

による大きな変化は見られなかった

Nb2O5を 5 mol添加したガラスではNbON多面体の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平

均配位数N約4Nb-O平均結合距離約20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O

(約 105deg)と値が近いことまた6配位ではなく 4配位として主に存在していることから

SnO と同じような網目形成体として働いていると推測されたまた結合距離が Sn-O が約

22Åに対し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強

固にしていると考えられるまたSnO 量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体

的に各多面体同士の頂点共有が増えていることから耐水性の改善には頂点共有を多く

含む構造もしくは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的であること

が示唆された以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性

耐候性を改善した要因として考えられる

またAXS 法の有効性についても確認し効果的であることが判明したただし今回

は主成分が Snの組成のガラスでありHEXRD でも十分に詳細な Snの周辺構造が得られ

たためAXSを利用した場合との大きな構造の差は認められなかった

本研究では様々な優れた特徴を有する SP ガラスにおける耐水性改善のメカニズムにつ

いて検討を行ったこの系のガラスについてはこれまでほとんど利用されていなかった

放射光を用いた構造解析を駆使し第三成分の添加によってどのような構造的変化が生じ

耐水性を改善させるか新たな知見を得ることができた最終目標である機能性ガラスの

開発における新たなる材料設計指針の確立に対してldquo耐水性rdquoに関しては概ね明らかにな

ったと考えられる一方で今回検討していな電子状態化学結合性についても評価する

ことで溶出メカニズムの解明が可能になり材料設計指針の確立が期待される

79

発表論文リスト

口頭発表

第 2章および第 3章

(1) SnO-P2O5 系ガラスへの酸化物添加効果

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎

日本セラミックス協会第 25 回秋季シンポジウム No3C06 (名古屋市 2012年 9月)

(2) Effect of Nb2O5 addition to SnO-P2O5 glass (Poster)

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

International Union of Materials Research Societies International Conference on Electronic

Materials IUMRS-ICEM 2012 A-9-P26-003 (Yokohama 2012 年 9月)

(3) スズリン酸塩系ガラスの蛍光特性耐水性に及ばす酸化物の添加効果(ポスター)

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎

日本セラミックス協会 2013 年年会 1P070 (東京 2013年 3月)

第 4章

(1) 放射光を用いたスズリン酸塩ガラスの構造解析

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎小原真二臼杵毅

日本セラミックス協会第 27 回秋季シンポジウム 2B22 (鹿児島市 2014年 9 月)

(2) Structural analysis of tin phosphate glasses by synchrotron radiation (Poster)

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba Shinji Kohara Takeshi Usuki

International Congress on Glass ICG Annual Meeting Bangkok 2015 P14-138 p186 (2015)

発表論文

(1) Effect of Nb2O5 addition to SnO- P2O5 glass

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

Journal of the Ceramic Society of Japan Vol 120 No 11 pp530-533 (2012)

(2) Structural analysis of SnO- P2O5 glass

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

Journal of the Ceramic Society of Japan(準備中)

80

謝辞

本研究を遂行するにあたり終始暖かいご指導ご助言並びにご鞭撻を賜わりました岡

山大学大学院環境生命科学研究科 難波徳郎教授に心より感謝の意を表します

また本研究を遂行するにあたり懇切丁寧なご指導とご意見をしていただいた岡山大

学大学院環境生命科学研究科 紅野安彦准教授環境環理センター 崎田真一助教に心より

感謝いたします

本研究を遂行するにあたりラマン分光測定の使用についてご助言ご教授して頂い

た岡山大学自然科学研究科 藤井達生教授中西真助教に心より感謝の意を表します

Sn のメスバウアー測定の際に協力して頂いた岡山大学自然科学研究科先端自然科学教

育研究推進本部高田研究室 松本修治特任助教(当時旭硝子株式会社中央研究所)また

Feのメスバウアーを測定の際に協力して頂いた岡山大学自然科学研究科 藤井達生教授に

心より感謝の意を表します

固体 NMR の岡山大学自然科学研究科 早川聡教授に心より感謝の意を表します

本研究を遂行するにあたりSPring-8 にてHEXRD および AXS 法の測定法および原理

についてご教示頂きました物質材料研究機構 小原真司博士ならびに山形大学 臼杵毅

教授に心より感謝の意を表します

本研究は多くの後輩諸君の協力によって遂行されました特に実際に共同研究共同

実験を遂行して頂いたOG 藤原沙弥香さん博士前期課程 2 年 東利彦君OB 徳岡太誠

君学士課程 4年 塩田将大君に心より感謝の意を表しますまた難波研究室で共に研

究生活を過ごした卒業生在学生の方々に感謝の意を表します

また同時期に博士後期課程に在籍された香川高等専門学校の桟敷剛さんにはNbに

関する有益な情報だけでなく辛い状況でも励ましを頂きました心より感謝の意を表し

ます

最後に長きに渡る学生生活を認め経済面だけでなく精神面でも支援してくださった

家族に心より深く感謝の意を表します

平成 28年 3月

福井 聡史

Page 8: 博士論文 スズリン酸塩系ガラスの物性と構造解析ousar.lib.okayama-u.ac.jp/files/public/5/54353/...博士論文 スズリン酸塩系ガラスの物性と構造解析

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7

Fig 11 鉛含有ガラスの一例クリスタルガラス

転載ペアワイングラスltボナールgtカガミクリスタル株式会社

Fig 12 鉛含有ガラスの一例放射線遮蔽用ガラス

転載放射線遮蔽用ガラス LX-57B電気硝子建材株式会社

8

Fig 13 リン酸塩ガラスの Qn構造とその組成 [11]より転載

9

Fig 14 リン酸塩ガラスの溶出メカニズム模式図加水分解反応

10

Fig 15 リン酸塩ガラスの溶出メカニズム模式図水和反応 [21]より転載

11

Fig 16 アルミナ含有リン酸塩ガラスの構造

Fig 17 鉄リン酸塩ガラスの構造 [27]より転載

P

O

O

OO Al

O

O

O P

O

O

O Al

O

O

O P

O

O

O

12

Fig 18 ガラスの侵食機構(耐候性)[1]より転載

13

第 2章 スズリン酸塩系ガラスの物性評価

21 緒言

前章で述べたようにスズリン酸塩(SP)系ガラスは無色透明高透過率低ガラス

転移温度など工業的に興味深い特徴を有することが知られている[1]またSn2+が ns

2型の

発光中心となり紫外線照射による白色蛍光を示すことから希土類フリー白色蛍光体とし

ての研究も数多くなされている[2 3]

しかし実用化に向けてはこの系のガラスについてもリン酸塩系ガラスに特有のldquo耐

水性rdquoldquo耐候性rdquoの低さが問題となる[4]この問題点を解決するために第三成分として他

の化合物を加えることが有効でありSP ガラスにおいてはB2O3や ZnO SiO2 MgO MnO

など様々な物質を第三成分として添加した研究報告[5 - 9]があったりNH3雰囲気下で数日

間溶融作製することでガラスを一部窒化することで耐水性を改善させたりという報

告もある[10]SP ガラスに限定しないリン酸塩系ガラスではZnO-P2O5 系ガラスに Sb2O3

や MoO3を添加した報告[11 12]や Na2O-P2O5系ガラスに CuO を加えた報告[13]P2O5-CaO-

Na2O に Ag2Oを添加した報告[14]Na2O-K2O-CaO-P2O5ガラスの一部を窒化することによる

方法[15]等があり数多くのリン酸塩系ガラスの耐水性改善に関する研究がなされている

本研究では高価数金属酸化物および低価数金属酸化物の二種類をそれぞれ第三成分と

して添加した高価数金属酸化物には Nb2O5を低価数金属酸化物には ZnO の二種類の酸

化物を選択した

Nb2O5は古くから光学ガラスの成分として頻繁に使われる物質であり様々な企業から数

多くの特許が出されている[16 17]また耐水性の改善に有効であるとの報告や比較的低

温でもガラス作製ができることが知られており(当然のことながら組成に影響される)

鉛フリーの封着ガラスとしての研究もなされているZnO についてはこれ自体は無着色

成分であるため無色透明なガラスが得られることから光学ガラスの成分に用いられる

ほとんどの組成で低融点ガラスとなり[18 19]これらの特性からSnO-ZnO-P2O5(SZP)

系ガラスは Sn2+を発光中心とした蛍光体の研究対象となっていることが多くSP 系ガラス

では一般的なガラス系である

本章では第三成分を含まない SP ガラスおよび Nb2O5または ZnOを SP ガラスに添加し

た三成分系ガラスをそれぞれ作製し耐水性試験を中心とした各種物性評価を行った比

較対象に耐水性の優れることで知られる鉄リン酸塩系ガラスも同時に作製することでSP

系ガラスへ添加したそれぞれの第三成分の耐水性に対する有効性を検討した

22 実験方法

221 ガラスの組成選択

本研究において作製した SP ガラスは以下の五種類の系列を選択した

14

① スズリン酸塩ガラス(xSnO∙(100-x)P2O5 x = 50 60 67 70 mol)

(略称 SP ガラス組成は 50S50P と表記)

② ニオブ含有 SP ガラス(65SnO∙xNbO25∙(35-x)P2O5 x = 0 1 2 3 4 5 mol)

(略称 Sn-Nb-P ガラス組成は 65S-0Nb-35P と表記)

③ ニオブ含有 SP ガラス(xSnO∙5Nb2O5∙(95-x)P2O5 x = 50 60 67 mol)

(略称 SNP ガラス組成は 50S5N45P と表記)

④ 亜鉛含有 SP ガラス (S5ZP ガラス)(xSnO∙5ZnO∙(95-x)P2O5 x = 55 62 65 mol)

(略称 S5ZP ガラス組成は 55S5Z40P と表記)

⑤ 亜鉛含有 SP ガラス (5SZP ガラス)(5SnO∙xZnO∙(95-x)P2O5 x = 55 62 65 mol)

(略称 5SZP ガラス組成は 5S55Z40P と表記)

(④と⑤は総じて SZP ガラスと表記する場合がある)

それぞれの選択理由はガラス化範囲(各ガラス系のガラス化範囲を Fig 21および Fig

23 に示す)作製の容易さ(気泡の入りにくさ流し出しやすさ)等を考慮し決定した

組成ごとに詳細な選択理由を述べると

②についてNb を P と置換した組成であるFig 22 に示した溶融温度 1100で作製した

Sn-Nb-P ガラスの外観写真より目視でも明らかに透明性の高く着色量の少ない組成は(d)

の 65Sn-5Nb-30P でありこの外観写真を参考に組成を決定したSnO 量を 65 molに固定

しNbO25量を 5 molから 0 mol(Nb無添加組成)まで減少させた組成(Fig 21 の緑線

の組成)を選択しこのガラス系の物性の変化を確認した

③はNb2O5量を 5 molに固定しSn を P と置換した組成であるNb と P は酸化数が

同じ 5価であるためこの組成では同じ SnO量の二成分系 SP ガラスと比較した際酸素

の総量に変化が生じない(例えば67S33P と 67S5N28P)またNb5+イオンはガラス中

では4配位および6配位を取るという報告が多い(結晶の場合他の配位数を取る)た

め配位数が4の P5+の置換に適していると考えた

④⑤に関しては気泡のrdquo入りづらいrdquoもしくはrdquo入らないrdquoSnOおよび ZnOが各 5 molにな

る組成を選択したSZP ガラスはFig 23 に示すガラス化範囲のようにガラス化範囲は

非常に広範囲であるしかし気泡が入りやすく脈理のようなものも見られる組成が多く

目視ですら不均質なガラス組成がほとんどであった(これらの組成も粉末にして XRD を測

定するとガラスであった)そのためバルク体でガラスを得られることが困難な組成も多

い(Fig 24 にその一例の SZP ガラスを示す)そこで第三成分の添加量を可能な限り少

ない組成を選択することでバルク体で目視上ldquo均質rdquoなガラスを得た(Fig 23 の青線と

紫線の組成)

また上述したように耐水性の比較対象である鉄リン酸塩ガラスを二成分系で作製し

15

た(FP ガラス)組成はxFe2O3∙(100-x)P2O5 x = 20 25 30 35 40 mol を作製した

222 ガラス作製

Figs 25 - 27に各ガラス系の作製フローチャートを示す出発試薬にSnO NH4H2PO4

Nb2O5 ZnO を使用し各々秤量した秤量混合後アルミナ坩堝に入れか焼(仮焼き)

を行ったか焼条件はSP Sn-Nb-P SNP SZP ガラスは350または 400 6-30 minFP ガ

ラスは600 30 min で行った溶融温度および溶融時間はSP ガラス1100 30 min

Sn-Nb-P ガラス1100 30 minSNP ガラス1000または 1250 20 min SZP ガラス

1100-1200 30 min 各々N2雰囲気下で作製したN2雰囲気下で行った理由はSn2+が Sn

4+

にほとんど酸化されてしまうとガラスが得られなくなるためSn2+の酸化を防ぐ目的がある

[19]FP ガラスは1200 - 1550 30 min大気雰囲気下の条件で作製した溶融後350

に温めておいたスチールモールドに流してプレスした後FP ガラス以外はガラス転移温度

Tg付近でアニールを 1 h行い目的のガラスを得た耐水性試験用のガラス形状はダイヤモ

ンドカッターで大まかに整えた後鏡面研磨まで施して型取ったここでFP ガラスのみ

アニール工程を省いた理由はSP ガラス等はアニールをして歪みを取らなければ正確に

切断できない場合が生じた一方でFP ガラスはアニールをせずとも十分正確にカットで

きたためアニール工程を省いたまた50S50P のみ厚みが必要になると必ず気泡が入

ってしまうため耐水性試験では気泡の入ったものを使用した

223 物性評価

得られたガラスの物性の比較を行うために以下に示す分析を行った

(1)ガラス状態の確認

作製したガラスが結晶の混在していないものかを確認するためにまた耐水性試験

後のガラスが結晶化しているかの確認のためにX 線回折装置(XRD Rigaku RINT-2100)

を用いて分析した全てバルク体で測定したが耐水性試験後ではバルク状態が保てな

いものもあったためその試料については粉末で測定した

(2)組成分析Sn Fe 価数分析

得られたガラスについてアルミナ坩堝の使用によるアルミナのガラスへの混入および

それに伴う組成ズレの確認のために走査型蛍光 X 線分析装置(XRF Rigaku ZSX Primus

Ⅱ)を使用し組成分析を行った分析はバルク体で定性分析法にて測定した

またSn が二価のままどのくらい存在しているかを調べるために Sn-Nb-P ガラスを用い

てSnの価数分析をメスバウアー分光法にて行ったSnの測定は reference [20]に示す旭硝

子の公開特許に記載されている方法で行ったFP ガラスについても価数変化を調べるた

めにメスバウアー分光法にて Feの価数分析を行ったFeの測定は(株)トポロジック

システムズ MDF-200)を用いて評価を行った

16

(3) 密度(ρ)およびガラス転移温度(Tg)評価

各ガラスの密度(ρ)測定はケロシンを用いたアルキメデス法で測定したガラス転

移温度(Tg)を評価するために示差熱―熱重量測定装置(SDT TA instrument Japan Q600)

を用いたアルミナパンを使用し測定条件はN2雰囲気下 10 Kmin 700までの温度範

囲にて行った

(4)耐水性試験

各ガラスの耐水性について評価するために耐水性試験をMCC-1法[21]にて測定した(Fig

28)条件は75 72h ガラスサイズ 12times10times02 cm (plusmn01 cm) 蒸留水の pH は 72-77

で行い浸漬後サンプルを乾かして重量を量った溶出速度(Dissolution Rate DR)は重

量減(ΔW) サンプル表面積(S) 浸漬時間(t)から以下の式によって算出した[22]

DR = ΔW (kg) S (m2) t (s)

また浸漬前と 72 h 後の重量減()も合わせて算出した

23 結果考察

231 組成分析 Snおよび Feの価数評価

Table 21に各試料の組成分析結果を示すまずアルミナ Al2O3の量を見るとガラスに

混入した量がほとんどの組成で 25 mol以下で多くても 35 molを下回る量であった

そのため各種特性についてアルミナの影響はほとんどないと考えられる[23 24]組成

によってその量に差があるのは溶融温度の違いによることに起因している組成分析の

結果今回作製したガラスは仕込み組成と大きな差がないと判断した

Fig 29に Sn-Nb-P ガラスの Snのメスバウアースペクトルをそこから得られたメスバウ

アーパラメーターを Table 22に示す得られた結果よりSn-Nb-P ガラスでは95以上の

割合で Sn2+のまま存在していることが分かった不活性雰囲気で作製したことP2O5 の出

発原料に NH4H2PO4を使用したことにより(か焼は行なっているが)還元雰囲気になったた

めSn4+にほとんど酸化されることがなかったといえるこの結果SP 系ガラスではほぼ

Sn2+のまま存在していると仮定した

Fig 210に FP ガラスの FeのメスバウアースペクトルをTable 23 にそこから得られたメ

スバウアーパラメーターを示すFP ガラスについては組成に関わらず酸化還元平衡に

より 20 ~ 30が Fe2+になりまたFe2O3 ge 30 molの際化学的にも安定であることが知

られている[27]実際にFe2O3 ge 30 molの際Fe2+は概ね 20 ~ 30存在している結果が得

られた一方でFe2O3 lt 30 molの際はFe2+が 40以上と高い割合で存在していることが

判明したこれは出発原料の NH4H2PO4の多量使用によること溶融温度が 1550と高

いことが要因で還元がより進行したためと予想される

17

232 ρおよび Tg

Table 24にρおよび Tgの結果を示す二つの特性結果はそれぞれのガラス系において

SnO や Nb2O5ZnO といった金属酸化物が増えるにつれて大きくなっているSP Sn-Nb-P

SNP S5ZP 系ガラスの Tgはほとんどが 300前後であり最も高い温度でも67S5N28P

の 346であった一方5SZP 系ガラスは400~440となり他のガラス系と比較する

と若干高い温度となったそれでも今回作製した第三成分を添加したガラスは低 Tgを有

するガラスであると判断できSP ガラスの特性を維持できたと判断できる

60S5N28P と 62S5Z30P のようなほぼ同じ OP を示すもので比較した際にNb2O5添加が

ZnO 添加よりも Tgが高くなったのは①配位数が同配位数になり得るイオンの場合(例え

ば Nb5+と Zn

2+なら4配位など)ポーリングの第 2 法則[25]より高価数イオンの方が結合

強度が強くなる②diatomic cationの解離エネルギーがNb-O (688plusmn11 kJmol)[26]に対しZn-O

(1611plusmn48 kJmol)[26]と大きな差があるため Nb-Oの結合が強い故に熱的に安定化され

Tgが高くなったと考えられる

233 耐水性試験前後の外観写真

Figs 211 - 216に各ガラスの耐水性試験前後の外観写真を示すFig 211 の SP ガラスを

観察するとSnO 量の少ない 50S50P 60S40P は浸漬時間が経過するにつれて元々の形状

が崩壊したりガラス自体が膨張したような状態になったりしたSnO 量の多い 67S33P

70S30P について形状は崩れることはないが透明性が失われる(白ヤケ)耐候性が低いこ

とが確認できるFig 212 に示す Sn-Nb-P ガラスではNb2O5無添加の 65S-0Nb-35P は浸漬

時間 24 h で透明性が失われているがNbO25量の増加させていくと徐々に透明性が回復

しており4 mol添加した 65Sn-4Nb-31P では72 h後においてもほとんど変化が確認でき

ないNbの添加量を変えた Fig 213に示す SNP ガラスではSP ガラスと同様に SnO 量の

少ない 50S5N45P は時間経過と共にガラス全体にldquoひびrdquoのようなものが見え72 hの実

験終了後最終的にテフロン糸を外す段階で簡単に割れたしかし50S50P や 60S40P と比

較すると耐水性が大幅に良くなったまた60S5N35P 67S5N28P は耐水性が良好なこと

だけでなく耐候性についても向上していることが目視で判断できる一方で二種類の

SZP ガラス(Figs 214 215)を観るとP2O5量の少ない 5S55Z40P および 55S5Z40P では

形状が崩れるか析出物が現れる結果となったこの組成よりP2O5 量を減少させるとSP

ガラスと同じように形状は崩れないが透明性が若干失われる結果となった

Fig 216 に比較対象の FP ガラスの耐水性試験前後の写真を示すこの組成ではFe2O3

量の少ない20F80Pにおいても形状が全く崩れない結果が得られたしかしFe2O3 lt 30 mol

の組成において表面に干渉色のような反射光が若干確認できたこれはおそらく青ヤ

ケが発生したためであると考えられる

18

234 耐水性試験前後の構造変化

Figs 217 - 222に各ガラスの耐水性試験前後の XRDパターンを示す耐水性試験前では

ガラス化を全組成で確認した(Figs 217(a) - 222(a))しかし耐水性試験後における外観

写真で形状の崩れたもしくは析出物の得られたガラス組成では結晶が生成したことが

確認された形状の崩れた三組成のうち50S50P 60S40P ガラス(Fig 2214(b))では三

種類の結晶ピーク(SnP2O7 Sn2P2O7 Sn3(PO4)2)が確認でき5S55Z40P については(Fig

2214(b))結晶同定の判断はできなかったが ZnOの多い組成であるためおそらくリン酸

亜鉛の何れかの結晶だと推測された析出物が得られた 55S5Z40P はガラス matrix部と析

出物に分けて測定したところガラス matrix 部はガラスのままであり析出物は SnP2O7

Sn2P2O7の二種類の結晶ピークが確認できたガラス形状に変化がなかったその他の組成は

ガラス状態が保たれていたSn4+の結晶のピークが確認されたのは50S50P のガラスには

気泡が残っておりその気泡から酸化されたかもともと溶融工程で電気炉内に残って

いた酸素によってSn4+に酸化されたか等が考えられる

235 溶出速度(DR)および重量減

Table 24に DR重量減の結果および仕込み組成から計算した OP を示すSP SNP S5ZP

ガラスではSnO 量の増加に伴いSnO量の固定された Sn-Nb-P 5SZP ガラス系ではそれ

ぞれの金属酸化物の増加に伴いDR重量減は減少傾向にあったFP ガラスでは全組成

において DR 重量減共に変化が全く確認されなかったそのため青ヤケのようなものが

確認された FP ガラス(Fe2O3 lt 30 mol)については電子天秤では変化が見られない程度

の重量減であったと推測される二種類の SZP ガラスで比較するとSnOと ZnO量が入れ

替わってもほぼ誤差範囲内と思われる結果が得られたガラス全体の比較では外観写真

で変化が見られなかった FP ガラスと 65S5N28P 65Sn-5Nb-30P のガラスが DR重量減がと

もにゼロという結果が得られた

組成と DR 重量減の関係性を見るために作成した図をFigs 223(DRと OP の関係性)

224(Fig 224に重量減と OP の関係性)に示すそれぞれの図にリン酸塩の三つの構造

の OP も表記した双方の図よりDR 重量減共に OP が増加することで単調に下がって

いることが分かるこの結果はリン酸塩の構造ではorthophosphate 組成で耐水性良好が

あるため[22]一般的な結果と同じ挙動であるまた耐水性の良かったNb2O5添加の SNP

ガラスは異なる挙動(傾き)が得られた

以上の結果より第三成分添加による耐水性の改善を確認し特に Nb2O5 の添加による

影響は大きいことが判明したまたOP の増加による耐水性が改善する結果が得られた

次章の第 3 章にて各ガラス系の構造解析を行い第三成分特に Nb2O5の耐水性への有

効性について調査した

19

24 結言

本章ではSP ガラスおよび第三成分の Nb2O5 ZnOを添加した SP ガラスの物性評価を行

うことで耐水性改善への第三成分添加の有効性を確認した各々の物性について以下に

まとめる

低ガラス転移温度を有する SP ガラスは最も SnO 量が高い 70S30P でも Tg le 280であ

ったNb2O5を添加した Sn-Nb-P SNP ガラスではTgの上昇は見られたが Tg le 350

ZnOを添加した 5SZP S5ZP ガラスではTg ≦ 450であり両金属酸化物の添加でも低

ガラス転移温度を維持しているガラスが得られたNb2O5 添加が Tg を上昇させたのはポ

ーリングの第 2法則より高価数イオンの方が結合強度が高くなるためと結論付けた

耐水性試験結果の外観写真を観るとSP ガラスの SnO 量 le 60 mol 5SZP ガラスおよび

S5ZP ガラスの P2O5量 = 40 molの組成についてガラスサンプルの形状が大きく変化して

おりDR 重量減も高く耐水性の低さが明らかであった得られた析出物はSnP2O7

Sn2P2O7 Sn3(PO4)2 および亜鉛リン酸結晶の一種であると予想されたその他の組成では

透明性の失われた組成がいくつかあったが外観写真では変化が見られなかった FP ガラス

と 65S5N28P 65Sn-5Nb-30P のガラスが DR重量減がともにゼロという結果が得られた

組成と耐水性に関してはDRおよび重量減がOP増加で単調に低下した結果が得られた

つまり耐水性を改善させる有効な手段はSP 系ガラスのガラス化範囲を拡大かつ OP を

増大させる第三成分の添加によることであることが示唆された

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21

Fig 21 三成分系 SnO-NbO25-P2O5 系のガラス化範囲

Fig 22 作製した Sn-Nb-P ガラス

(a)50Sn-5Nb-45P (b)55Sn-5Nb-40P (c)60Sn-5Nb-35P

(d)65Sn-5Nb-30P (e)70Sn-5Nb-25P (f)60Sn-10Nb-30P

(g)55Sn-20Nb-25P (h)60Sn-15Nb-25P (i)65Sn-10Nb-25P

22

Fig 23 三成分系 SnO-ZnO-P2O5系のガラス化範囲

Fig 24 作製した SZP ガラスの一例

(気泡や脈理のようなものが確認できた組成)

23

Fig 25 SP SZP ガラスの作製フローチャート

Fig 26 Sn-Nb-P SNP ガラスの作製フローチャート

(気泡や脈理のようなものが確認できた組成)

24

Fig 27 FP ガラスの作製フローチャート

Fig 28 耐水性試験(MCC-1法)

25

Table 21 各ガラスの組成分析結果

26

Fig 29 Sn-Nb-P ガラスのメスバウアースペクトル

Table 22 Sn-Nb-P ガラスのメスバウアーパラメーター

27

Fig 210 FP ガラスのメスバウアースペクトル

Table 23 FP ガラスのメスバウアーパラメーター

28

Table 24 各ガラスの物性(密度(ρ)ガラス転移温度(Tg)溶出速度(DR)重量減())

29

Fig 211 SP ガラスの耐水性試験前後の外観写真

Fig 212 Sn-Nb-P ガラスの耐水性試験前後の外観写真

30

Fig 213 SNP ガラスの耐水性試験前後の外観写真

Fig 214 S5ZP ガラスの耐水性試験前後の外観写真

Fig 215 5SZP ガラスの耐水性試験前後の外観写真

31

Fig 216 FP ガラスの耐水性試験前後の外観写真

32

Fig 217 SP ガラスの XRD パターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

33

Fig 218 Sn-Nb-P ガラスの XRD パターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

34

Fig 219 SNP ガラスの XRD パターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

35

Fig 220 5SZP ガラスの XRDパターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

36

Fig 221 S5ZP ガラスの XRDパターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

37

Fig 222 FP ガラスの XRD パターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

38

Fig 223 各ガラス系の DR と OP の関係性

39

Fig 224 各ガラス系の重量減と OP の関係性

40

第 3章 分光法を用いたスズリン酸塩系ガラスの構造解析

31 緒言

前章ではSP ガラスおよび第三成分に Nb2O5 ZnOを添加した Sn-Nb-P ガラスSNP ガラ

スSZP ガラスの物性特に耐水性に関する第三成分添加の有効性を明らかにしたその添

加した第三成分の二種類についてもNb2O5 の方が ZnO よりも溶出速度重量減ともに抑

制することができSP ガラスの低ガラス転移温度という特性も維持されていることが判明

したしかし現段階では本研究の主要な物性である耐水性改善の要因が明確になって

いない組成の観点からはOP の値が高い組成が良好な耐水性であることが分かったが

組成だけでは耐水性改善のメカニズムについて完全には理解できないここでリン酸塩

ガラスの溶出のメカニズムは第 1 章で述べたように加水分解反応と水和反応が要因とな

る[1 2]この機構はそれぞれリン酸の構造つまり架橋酸素 BO の数が大きく関わって

おりリン酸アニオンの[PO4]ユニットの架橋酸素数を知ることが重要であるこの BO の

情報を得るためにはガラス構造を示す指標の一つである Qn(n は[PO4]ユニット中の架橋

酸素数を表す)を調べることが必須であるまたQn の分布を調べるためにはガラスの

構造解析を行う必要性がある

ガラスの構造解析には種々の方法があり特にラマン分光法や赤外(IR)分光法核

磁気共鳴法(NMR)などの分光学的手法を用いた構造解析の報告が多い[3-5]ラマン分光

法および IR分光法は原理は異なるがどちらも結合の振動モードを測定する手法であり[6]

リン酸塩ガラスだけでなくケイ酸塩ガラスホウ酸塩ガラスなど様々なガラス系にて測

定がなされている[7 8]また得られた結合状態の情報からリン酸塩アニオンの Qn分布

を調べることも可能であるNMR は共鳴吸収ピークの化学シフト(共鳴周波数のズレ)

から構造を決定する手法であるガラスの場合SiO2や B2O3 P2O5といった網目形成酸化物

の Qn分布を得るために一般的に使用されている手法である[9]

今回これらの測定の中でラマン分光法を選択し構造解析を行ったラマン分光法は

測定する際にサンプル形状を気にすることなく基本的にそのまま測定できるためIR 分

光法のようにサンプル形状で測定方法を変える必要はないまたIR 分光法では例えば

KBr 錠剤法やヌジュール法のように測定を行うためのサンプル調整に手間がかかる場合が

ある[6]さらに比較対象の FP ガラスではNMR を測定できないため作製ガラスを全

て比較検討できるようにラマン分光法を選択した

本章ではラマン分光法を用いて各ガラスの構造解析を行い[PO4]ユニットの Qn分布を

調査し平均 BO数 nを算出することで耐水性と構造の関係性を検討したまたラマン

分光法によって得られた Qn分布の妥当性を確認するためにSP ガラスおよび 67S5N28P ガ

ラスの NMRを測定も行い比較した

32 実験方法

41

321 サンプル準備

ラマン分光およびメスバウアー分光の測定では第 2 章で作製した各ガラスのバルク体

を用いたWD試験に使用したサンプルとは別にラマン測定用のサンプルを用意した適

度な大きさ大体 15 cm角程度のサイズになるようにガラスカッターで切断しその後

十分な平滑性を得るために鏡面研磨を施した

322 ラマン分光測定

使用したラマン分光装置は顕微レーザーラマン分光装置(Jasco NRS-5100)を用いた

用いたレーザー波長は 53208 nmであり400 - 2000 cm-1の範囲で測定した

Qn 分布を導くためにピークフィッティングを行いリン酸塩アニオンのラマンバンド

が現れる950 - 1250 cm-1付近および 700 - 750cm-付近の範囲で定量した

323 31P MAS NMR測定

31P MAS NMRの測定は Varian NMR System 500 を用いて32 mmの MASプローブ

202309MHzにて行った測定パラメーターを以下に示すπ4 パルス長さ 14 μs 待ち時間

(pulse delay)10 s 積算回数 3600 scan シリンダー円筒形状の Zrローターの回転スピード

160 kHz referenceとして二番目の基準物質として使われる NH4H2PO4を使用化学シフト

は85 H3PO4溶液から δ = 10 ppmである

33 結果考察

331 各ガラス系のラマンスペクトル

Figs 31 - 35にラマンスペクトルを示す各ピークは以下の通りに帰属し各スペクト

ル中に該当する構造をピーク位置に示した

1230 - 1260 cm-1 P=O NBO Q

2 [10]

1110 - 1150 cm-1metaphosphate (PO3)

- Q

2 [10]

1030 - 1100 cm-1pyrophosphate (PO35)

2- Q

1 [10]

970 - 1000 cm-1orthophosphate (PO4)

3- Q

0 [10]

920 - 930 cm-1asymmetric (P-O-P) Q

1 [10]

730 - 750 cm-1symmetric (P-O-P) Q

1 [10]

710 - 720 cm-1asymmetric (P-O-P) Q

2 [10]

810 - 820 cm-1Nb-O [NbO4] tetrahedron [11]

900 - 920 cm-1Nb-O isolated [NbO6] octahedron [11]

42

SP ガラスのラマンスペクトル(Fig 31)を見ると50S50P 60S40P ではmetaphosphate

の Q2 構造が支配的であるがSnO 量が増えるにつれてその構造が変化し70S30P では

pyrophosphateの Q1構造と orthophosphateの Q

0構造が共存した構造となっているまたSnO

量の少ない 50S50P および 60S40P において確認されたQ2構造の P=O のピークが見えなく

なっているつまり耐水性と関連して考えるとSnO量が増えるにつれてP-O-P 結合か

ら Sn-O-P 結合に代わり水分子との反応である加水分解反応を妨げる構造に変化している

ことがわかる

Figs 32 33にNb2O5を添加した Sn-Nb-P ガラスおよび SNP ガラスのラマンスペクトル

を示すまずSn-Nb-P ガラスについてNb 無添加の 65Sn-0Nb-35P は主に Q1構造であ

りNbO25が添加されることによってQ0構造に変化しQ

1 Q

0構造が共存しているような

ピークが得られた添加量が少ないガラス系であるため徐々に変化しているのを確認し

た800 cm-1を少し越えた 810 - 820 cm

-1付近にNb2O5を添加することでピークが現れそ

して添加量を増量することで強度が強まるピークがありこのピークは四面体の[NbO4]

のものと判断した

SNP ガラスのラマンスペクトルについてはNb2O5添加量を固定した組成であるためSP

ガラスのような挙動が観察された50S50N45P では50S50P ガラスと同じようにQ2構造

が主な構造でありSnO量の増加に伴って60S5N35P Q1構造67S5N28P Q

0構造に支配

的な構造が変化しているこれはSP ガラスと同じ傾向を示しているためP-O-P rarr Sn-O-P

に置き替わっていることが示唆されるNb-O に関するピークでは50S5N45P のみ[NbO4]

四面体のピークを確認できず900 - 920 cm-1付近に[NbO6]八面体のピークが確認された

SnO量が増量した 60S5N35P では810 cm-1付近の [NbO4] 四面体のピークが現れているが

[NbO6]八面体のピークと 900 - 920 cm-1付近の Q

1構造のピークが非常に近い(ほぼ重なって

いる)ことから60S5N35P については[NbO4] 四面体および[NbO6]八面体の共存の可能性

も考えられるまた67S5NP28 では[NbO4] 四面体のみのピークが観察されたためこ

の Nb-O の配位数変化は[PO4] unitの状態によって変化している可能性も示唆された

ZnO を添加した S5ZP ガラスおよび 5SZP ガラスのラマンスペクトルを Fig 34 に示す

図の下部三つが S5ZP ガラス上部三つが 5SZP ガラスのスペクトルであるSZP ガラスの

二系統を比べるとあきらかなスペクトルの違いが確認された各ガラス系で確認すると

SnO 量が最小の 55S5Z40P はQ2構造と Q

1構造の範囲に跨っているようなスペクトルが得

られた62S5Z33P および 65S5Z30P のスペクトルからはどちらもほぼ Q1構造であると判

断した5SZP のスペクトルは1000 - 1250 cm-1付近の範囲で裾を引くような(なだらかな)

スペクトルが得られたZnO 量が最小の 5S55Z40P にはQ2構造が主な構造に見えるが

shoulderピークのような Q1構造(1030 - 1100 cm

-1)が確認できる5S62Z40P においては

1000 - 1250 cm-1付近の範囲まで幅広いスペクトルが得られた730 - 750 cm

-1付近にピーク

が現れているためおそらく Q1構造が最も多く存在していると考えられる65S5Z30P では

Q1構造Q

0構造が共存しているようなピークが得られた

43

FP ガラスのラマンスペクトルを Fig 35 に示すFe量の少ない 20F80P 25F75P と他の三

つで構造が異なっていることである20F80P 25F75P はQ2構造と Q

1構造が基本構造にな

っていると判断できる 30F70P は1110 - 1150 cm-1付近に shoulderピークのようなものがあ

りQ2 Q

1 Q

0構造が共存しているようなスペクトルであった35F65P 40F60P はQ1構造

が主な構造でQ0構造があると判断した

332 平均 BO数 n (Qn分布)

まずピーク分離について散乱断面積が見積もれなかったためラマンの散乱強度比

を Qn分布として簡易的にピーク分離を行い(Fig 36)そこから平均架橋酸素数 BO 数 n

を算出したここでFig 37 に 31P MAS NMRスペクトルを示しTable 31に NMRおよび

ラマン分光より得られた平均 BO 数 n を示す(NMR の帰属 reference [12])表よりNMR

とラマンから得られた Qn分布はほぼ一致していることが分かった60S40Pについては支

配構造が NMR(Q1) ラマン(Q

2)で逆になったこれは60S40P の組成がQ

2と Q1のほぼ中

間の組成になるためこのようなズレが生じたと考えられるしかし今回のラマンによ

る Qn分布の算出についてはほぼ問題ないと判断した

Table 32にラマンスペクトルより求めた Qn分布平均 BO 数 nをを示しTable 24に示

した DR 重量減の結果を併記する

SP ガラスのうち耐水性が低いガラスは Q2構造によって形成されているSnO量の増加

によって NBOの増加とともに耐水性の向上が確認できSnOが入ることでSn-O-P 結合を

形成し水分子からの攻撃を受けにくくなっていることが考えられる

Sn-Nb-P ガラスでは基本的に Q1構造が主構造でNb2O5の添加が増えるにつれQ

0構

造が支配的になり耐水性は次第に向上していく最も耐水性のよかった 65S-5Nb-30P は

Q0構造での割合が非常に高く平均 BO数 n値が 03であった

SNP ガラスではP2O5量が多い組成の 50S5N45Pにおいても平均 BO数 nが 60S40P と

同じながらも耐水性が良くなっている67S5N28P はほぼ完全に Q0構造であり平均 Q

n

値は 0となった

SZP ガラスについてはS5ZP 5ZSP のどちらの系列についても耐水性の結果に大きな差

というものは確認されなかったが構造的にも平均 BO数 nが 09 10 17という結果であ

った

FP ガラスについてはFe2O3 lt 30 molのときは平均 BO 数 nが20 19と高い数値を

示したが耐水性は非常に良好であったこの結果より組成だけでなく構造的にも耐

水性高くなる要因が不明である一つの原因の可能性としてメスバウアーより得られた

Fe2+の存在比が 40以上と高かったことがFe2O3含有量が少ない組成時には効果的になっ

ているのかもしれない

333 平均 BO数 nと耐水性の関係性

44

Fig 38に DRと平均 BO数 nの関係性についてFig 39に重量減と平均 BO数 nの関係

性をそれぞれ示すまたOP の時と同様に各図にリン酸塩の三つの構造の平均 BO数

n も表記した双方の図よりDR 重量減共に平均 BO 数 nが低下することで単調に下がっ

ていることが分かるまた耐水性の良かったNb2O5添加の Sn-Nb-P SNPガラスはの DR

の挙動(傾き)はOP 時とも異なった挙動が得られた

Fig 310に OP と平均 BO数 nの関係を示す図中に示す茶色metaphosphate 黄色

pyrophosphate 灰色orthophosphate であるこの図から耐水性改善には平均 BO 数

n を下げOP を上げることが重要であるのが分かるまたNb5+の添加はOP を上げる

だけでなく平均 BO 数も減少させることから非常に効果的な成分であることが明らかで

あるこれはP5+から同酸価数 Nb

5+に少量でも置き換えることで平均 BO 数 n を下げ

OP を上げることを可能としている(実際に orthophosphate の OP4 よりも高い OP でガ

ラスが作製できている)つまりNb5+の添加によって P-O-P 結合が減少し水和反応加

水分解反応が抑制されているからである

以上の結果SP 系ガラスの耐水性改善には低い平均 BO 数と高い OP の組成にするこ

とが重要でNb2O5の添加は非常に効果的であることが分かったその一方でガラス中の

詳細な構造的要因についてははっきりしていないため次章の第 4 章にてさらに詳し

い構造解析を行い耐水性改善の要因について調査を行った

34 結言

本章ではラマン分光を使用して各ガラス系のリン酸塩アニオンの構造を簡易定量で

評価し組成と構造の関係について考察した

平均 BO 数 n と耐水性に関してはDR および重量減が平均 BO 数 n の減少で単調に低下

した結果が得られた

平均 BO数 nと OP の図より耐水性改善には平均 BO数 nを下げることそして OP

を上げることが重要であることが明白であった

Nb5+の添加は平均 BO数を減少させるだけでなくOP も上げることからガラス構造内

の P-O-P 結合を減少させる故に水和反応加水分解反応が抑制され耐水性が大幅に

改善された故にNb2O5 のような高価数金属酸化物を添加することが効果的であること

が示唆された

参考文献

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46

Fig 31 SP ガラスのラマンスペクトル

47

Fig 32 Sn-Nb-P ガラスのラマンスペクトル

48

Fig 33 SNP ガラスのラマンスペクトル

49

Fig 34 SZP ガラスのラマンスペクトル

50

Fig 35 FP ガラスのラマンスペクトル

51

Fig 36 ラマンスペクトルのピーク分離例(67S5N28P)

Raman Shift (cm-1)

52

Fig 37 NMRスペクトル

Table 31 NMR およびラマン分光より得られた SP 67S5N28P ガラスの

Qn分布および平均 BO数 n

53

Table 32 各ガラスのラマンスペクトルより求めた Qn分布結果

(表の赤線より右側の結果は Table 22 より)

1 仕込み組成による数値

2 Fig 2212 に示した析出物を取り除いた後の数値

54

Fig 38 DR と平均 BO数 nの関係性

55

Fig 39 重量減と平均 BO数 nの関係性

56

Fig 310 OP と平均 BO数 nの関係性

Meta

Pyro

Ortho

57

第 4章 放射光を用いたスズリン酸塩系ガラスの構造解析

41 緒言

前章の第 3 章にてラマン分光法を用いて SP 系ガラスの構造解析により Qn分布を導き

出したことで耐水性と構造の関係についてある程度関連性を導くことができたリン

酸アニオンについてはQ0(orthophosphate)構造 gt Q

1(pyrophosphate)構造 gt Q2

(metaphosphate)構造の順で良耐水性となるしかしSn Nbおよび Znの局所構造につ

いては知見が得られていないラマン分光や IR分光などの分光学的手法を用いてSnや

Nb Zn の周辺の局所構造を知るには限界があるまたガラスの構造解析を行う上で非常

に重要な因子である中距離構造の評価には分光学的手法は不向きである[1]

そこで局所構造や中距離構造を知るために有効な手法として放射光線を用いた構造

解析がある放射光(SR 光)とはシンクロトロンなどの加速器で高速に加速された電子

が進行方向を磁場によって変えられた際に放射する電磁波である[2]エネルギーが高く

(短波長)輝度が高い特性を有している日本国内では兵庫県佐用町の SPring-8や茨城

県つくば市の高エネルギー加速器研究機構佐賀県鳥栖市の佐賀県立九州シンクロトロン

光研究センターなど複数個所に放射光施設が設置されている

放射光を用いたガラスの構造解析には一般的に高エネルギーX 線回折(High Energy

X-ray diffraction HEXRD)が用いられるこの回折実験から高い散乱ベクトル Q(= 4π sinθλ)

まで回折データが得られる多種類の原子から構成される物質の場合はFaber-Ziman 型[3]

の構造因子 S(Q)を用いる以下の式に示すようにFaber-Ziman 型構造因子 S(Q)は同種また

は異種の原子による相関の重み関数付の和として示される例として SiO2ガラスで説明す

ると構造因子 S(Q)は三種類の原子付の S(Q)の重み付の和として表されていることが分か

I(Q) 散乱断面積 ltgt 原子一個当たりの平均値 f(Q) 原子散乱因子 W 重み関数

通常の研究室で使用される X 線回折(XRD)装置で用いられる特性 X 線はCuKα線(λ

= 0154 nm 81 keV)が最も良く用いられより高いエネルギーの X 線が必要な場合は

MoKα線(λ = 0071 nm 175 keV)が使用される一方でSPring-8のビームライン BL04B2

で行われる高エネルギーX 線回折(HEXRD)測定で使用される SR のエネルギーは378 keV

58

~ が使用可能である[2]従ってガラス以外の液体のような非晶質物質にも非常に精度

よく構造解析が行われている[4]

また局所構造解析の一つに X線異常散乱法という測定方法がある[5 6]これは通常

の X 線回折実験では分離不可能な特定元素に関連する部分構造因子(散乱強度曲線)を得

ることができる手法である今回 HEXRD の測定時に使用したエネルギー614 keV では各元

素の異常散乱項のエネルギー依存性は確認されない(Fig 41)その一方でFig 42に示す

Sn の吸収端付近の 292 keV付近ではSnの異常分散項のエネルギー依存性が確認できる

つまりSnの吸収端近傍より低エネルギー(E)側の異なるエネルギーの X線(E1 E2)を

使って散乱強度を測定し各 E における異常分散項(f`)の変化(つまり高い E1 から低い

E2 の散乱強度の差分)を利用して Snに関する部分構造因子を求める構造解析が AXS 法で

あるこの測定法は古くから知られている方法ではあるが装置の測定条件や設備の問

題からなどから使用があまり普及していなかった[5 6]近年になり金属ガラスの構造解

析について徐々に報告が出てきており今後注目される測定法である

HEXRD および AXS 法などから得られたデータ実測の構造因子 S(Q)は一次元の限られ

た構造情報であるためガラスなどの非晶質物質の中距離構造を解明するためにはこれ

らのデータを基に三次元構造を求める必要がある三次元構造モデルの作成には逆モンテ

カルロ(RMC)シミュレーションを使用することが有効である[7]このシミュレーション

は任意で決めたシミュレーションボックス内の粒子をランダムに動かすことで実測の

構造因子 S(Q)を再現する三次元構造モデルを構築する方法である

SP ガラスについては分光学的手法について数多く報告があるが放射光を用いた回折

法はほとんど適用されていないそこで本研究では HEXRD および AXS 法を用いた構造

解析を行うことでSn Nb周りの構造を解明すると共にSNP ガラスの耐水性改善のメカ

ニズムについて考察したまたAXS 法の有効性についても検討した測定を行ったガラ

スはSP ガラスおよび最も耐水性の高かった 67S5N28P を選択した

42 実験方法

421 HEXRD AXS法

HEXRDはSPring-8のビームライン BL04B2 で測定を行ったエネルギー614 keV の X

線を用いた測定サンプルの厚みは09 mm (plusmn0005 mm)になるまで研磨を行った

AXS 測定はSPring-8のビームライン BL13XUを使用した(Fig 43)それぞれの測定し

た X 線のエネルギーについて以下に示す

①Sn K吸収端hellip292 keV near edgehellip291452 keV (-60 eV) far edgehellip289751 keV (-230 eV)

②Nb K吸収端hellip1899 keV near edgehellip189562 keV (-30 eV) far edgehellip187863 keV (-230 eV)

測定に使用したサンプルの厚さが015 - 030 mmとなるまで研磨を施した

SP ガラスについて50S50P 60S40P 67S33P の三組成のガラスを測定した70S30P に関

59

しては測定を試みたが放射光照射によって結晶化してしまいガラス部分の正確な構

造因子を得るための強度補正ができず解析を断念した

422 RMCのモデリング

Table 41 に RMC の各種パラメーターを示す粒子数は約 5000 個でそれに伴う boxの一

辺の長さは約 42 ~ 46 Ǻになった拘束条件にP の配位数が 4になるような条件を付け

加えたFig 44にSn2P2O7結晶および Sn3P2O8結晶の動径分布関数(RDF)をTable 32

にRDFから得られた第一近接距離[8 9] を示すこれらの数値を使用しcutoffを決定し

たNb-O についてはいくつかの文献値を参考にした[10 11]

各ガラスの RMCのモデリングは①HEXRDから得られた S(Q)のみ②S(Q)および AXS

から得られた部分構造因子を加えた場合でそれぞれ計算した

43 結果考察

最初にNbの AXSから得られたデータについて解析を試みたが妥当な構造モデルが得

られなかったためSnの AXSのみで解析を進めたNb2O5の量が 5 molと少量であったた

めあまり精度の高いデータが得られなかったと推測される

431 実測の HEXRDおよび AXSの結果

4311 実測 HEXRDの S(Q)

Fig 45 に実測HEXRDの S(Q)を示す四つの組成ともに実測HEXRDの S(Q)が得られ

Nb2O5添加の 67S5N28P ガラスでは Low Q 側に変化が確認された

4312 実測散乱強度曲線

Fig 46 に Snの散乱強度曲線を示す(a) の 67S33P のこの曲線からはfar edgeおよび

near edge のエネルギー間で差分が見られエネルギーの依存性が確認された50S50P

67S5N28P のガラスについても同じように差分が確認されたが(b)の 60S40P についてのみ

他とは若干異なる結果(緑丸)であったためRMC の構造解析には差分の構造因子ではな

くfar edge near edge 二つの構造因子を用いた

4313 全相関関数 T(r)

Fig 47 に全相関関数 T(r) を示すHEXRD から得られたものを実線でSnの AXS から

得られたものは点線で示し組成ごとに重ねて表示した図中に各ピークについて帰属し

ているがSnの T(r)からはSn-O Sn-P Sn-Snのみのピークを確認した

432 RMCの計算結果および考察

60

構造モデルの一例として67S5N28P ガラスの得られた構造モデルをFig 48に示す水

色の多面体 unitSnON 黄色の多面体 unitPO4 ピンクの多面体 unitNbONである以下

詳細な構造解析の結果および考察を記す

4321 RMCのフィッティング結果

RMCのフィッティング結果の一例として67S33P の HEXRD と Snの AXS の構造因子か

ら得た結果を示す(Fig 49)二つの構造因子を加えて計算した結果においてもHEXRD

の S(Q) AXS の S(Q)に各々に対する良好なフィッティング結果が得られた他の組成も

同様なフィッティング結果が得られた

4322得られた各 pairの平均配位数平均角度平均結合距離

RMCの結果によって得られた各 pairの平均配位数平均角度平均結合距離を Tables 43

に示す上段が HEXRD の S(Q)のみ下段が HEXRD に Sn の AXS の部分構造因子を加え

て結果である最下部は比較のためにSn2P2O7の情報を記載した[8]

P-O pairについてRMCモデル中の PON多面体に関して平均配位数 Nが 4および P-O

の平均結合距離が約 160Å平均結合角度angO-P-O が約 109degという結果が得られた組成

による大きな違いは確認されなかったのはP の配位数が 4になるように拘束条件をかけた

結果であると考えられるSnON多面体についてはSnO量の増加 = OP の増加であり平

均配位数 Nが 3 ~ 35へ増加した平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約

22Åで組成による大きな変化はほとんど見られなかったNb2O5を 5 mol添加したガラ

スではNbON多面体の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平均配位数 N約 4Nb-O 平均結

合距離約 20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O(約 105deg)と値が近いこと

また6配位ではなく 4配位として主に存在していることからSnO と同じような働きをし

ていると推測される

以上の結果からNb2O5添加の耐水性改善の要因として結合距離が Sn-O が約 22Åに対

し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強固にして

いることも一つの要因として考えられる

また67S5N28P ガラスの各多面体モデルを確認すると(Fig 410)P は PO4Snは SnO4

と SnO3Nbは NbO4をそれぞれ再現している

4323得られた各 pairの結合様式

RMC の結果により得られた各 pair の結合様式を Tables 44 に示す上段が HEXRD の

S(Q)のみ下段が HEXRDに Snの AXS の部分構造因子を加えた結果である最下部は比

較のためにSn2P2O7の情報を記載した[8]

結合様式に関してはPO4四面体は他の多面体も含めてほぼ頂点共有で存在している

SnON多面体についてはSnO 量が少ない配位数が 3 に近い場合頂点共有以外の共有の

61

割合も多くSnO 量が増えるにつれて頂点共有が主になり網目形成体として振舞ってい

ると考えられる組成によって平均結合距離や平均角度の大きな変化が見られなかったこ

とから平均配位数が結合様式を決める重要なファクターであるということも考えられる

またHEXRD と AXS 法の結果がほぼ同じであったこれは主成分が SnO のガラスであ

るためHEXRDでも十分に詳細な構造が得られたため大きな変化が現れなかったと考え

られるNbON 多面体はPO4 四面体と SnON 多面体とはほぼ頂点共有で繋がっている以

上の結果よりSnO量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体的に各多面体同士の

頂点共有が増えていることから耐水性の改善には頂点共有を多く含む構造であること

が重要である或いは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的となって

いるということが推測されるFig 411に 67S5N28P ガラスの構造モデルを示す各多面

体はほぼ頂点共有で繋がっていることが確認できる

4324 平均 BO数の比較

Tables 45にNMR Raman RMC(HEXRD) RMC(HEXRD + AXS)の平均BO数を示すRMC

から得られた平均 BO 数 nはNMR Raman と同様に Nb2O5の添加による大幅な減少が確認

されたしかしNMR Raman と比較すると全組成において数値が大きすぎで適当でない

50S50P の構造モデルを観るとPO4四面体間で3配位 O の存在が確認された(Fig 412)た

め実測で得られた n値を再現できるようなPO4四面体モデル間の繋がり方に関する拘束条

件を加えて RMCを計算する必要性があるまた仮に3配位 Oの存在があるとすると電

子状態の変化が生じていることがと示唆されるため分子軌道計算を用いて電子状態解析

を行い確認する必要がある

4325 耐水性の改善について

Nb2O5を添加のガラス構造への影響について①6配位ではなく 4配位として主に存在し

ていることからSnO と同じような働きをしていると推測される②結合距離が Sn-O が約

22Åに対し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強

固にしている③ガラス構造中で全体的に各多面体同士の頂点共有が増えている以上の

ことが判明した以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性

耐候性を改善した要因として考えられる

44 結言

本章では分光学的手法では評価できないガラスの中距離構造局所構造について理解

するために放射光を用いた構造解析を実施しSP ガラスの構造と耐水性改善について考

察したHEXRDおよび AXS法を用いて測定を行い得られたデータを RMCシミュレーシ

ョンにて解析を行った

解析の結果 Sn-O pair については平均配位数 Nが 3 ~ 35でSnO量の増加 = OP の増

62

加に伴い高くなった平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約 22Åであ

ったP-O Sn-Oについては組成による大きな変化はほとんど見られなかった67S5N28P

ガラスの Nb-O pair の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平均配位数約 4Nb-O 平均結合距

離約 20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O(約 105deg)と値が近いことま

た6配位ではなく 4配位として主に存在していることからSnOと同じような働き(網目

形成体)をしていると推測されるまた結合距離が Sn-O が約 22Åに対し Nb-O は約 20

Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強固にしていると言える

SnO 量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体的に各多面体同士の頂点共有が増え

ていることから耐水性の改善には頂点共有を多く含む構造であることが重要である

もしくは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的であることが推測さ

れる以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性耐候性を

改善した要因として考えられる

またAXS 法の有効性についても確認し効果的であることが判明したただし今回

は主成分が Sn の組成のガラスでありHEXRD でも十分に詳細な構造が得られたため

大きな差は現れなかった

参考文献

[1] 山根正之 安井至 和田正道 国分可紀 寺井良平 近藤敬 小川晋永編ガラス光学ハ

ンドブック 朝倉書店(1999)

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[5] 早稲田嘉夫 齋藤正敏 放射光 10 [3] 299-315 (1997)

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[11] D Munoz-Martin A Ruiz de La Cruz J M Fernandez-Navarro C Domingo J Solis and J

Gonzalo J appl Phys 110 023522 (2011)

63

Fig 41 各原子の異常分散項のエネルギー依存性

Fig 42 Sn の異常分散項のエネルギー依存性

64

Fig 43 SPring-8の BL13XU

65

Tab

le 4

1

RM

Cの各パラメーター

66

Fig 44 Sn2P2O7 Sn3P2O8結晶の RDF

Table 42 Sn2P2O7 Sn3P2O8結晶の各 pairの第一近接距離

67

Fig 45 得られた実測 HEXRDの S(Q)

68

Fig 46 Sn の異常散乱測定により得られた散乱強度のエネルギー依存性

(a)67S33P (b)60S40P

69

Fig 47 全相関関数 T(r)

太線 HEXRD より

細線 Sn の AXSより

70

Fig 48 67S5N28P ガラス構造のモデル

71

Fig 49 RMC フィッティングの結果

72

Tab

le 4

3 各

pairの平均配位数角度結合距離

73

Fig

4

10

67

S5

N2

8Pガラスの各多面体モデル

74

Tab

le 4

4 各

pairの結合様式

75

Fig 411 67S5N28P ガラスの構造モデル

76

Table 45 平均 BO 各数 nの比較

Fig 412 50S50P ガラスの構造モデル

77

第 5章 総括

本研究ではSP ガラスを対象とした本研究では鉛フリー代替ガラスまたは希土類フ

リー蛍光体として SP ガラスの新規高機能化を将来的に目指し問題点であるldquo化学的耐久

性rdquoの改善につながる知見を得ることを目的としたそこでまずSP ガラスを母体ガラ

スとし第三成分に Nb2O5を添加した Sn-Nb-P SNP ガラスZnO を添加した SZP ガラスを

作製し耐水性を中心とした物性評価を行った次に分光学的手法で構造解析を行い

Qn 分布を導き出した最後に放射光を用いた構造解析を行い耐水性改善に関する構造的

な考察を行った以下に本研究で行った検討内容を示す

(1)SPガラスおよび第三成分Nb2O5 ZnOを添加した三成分系SPガラスの物性評価(第 2章)

(2)SP 系ガラスの分光学的手法による Qn分布導出(第 3章)

(3)放射光を用いた SP 系ガラスの構造解析構造と耐水性改善の関連について(第 4章)

各章についてまとめた結果を以下に示す

第 2章

第 2章では二成分系および三成分系のリン酸塩系ガラスの各種物性(密度や熱的特性

耐水性)の評価を行った二成分系ではSP ガラスに加え良好な耐水性を有する鉄リン

酸塩(Fe2O3-P2O5)系ガラス(以下 FP ガラス)を比較のために三成分系では二成分系

の SP ガラスに Nb2O5を添加したニオブ含有 SP ガラス(SNP ガラス)および ZnO を添加し

た亜鉛含有 SP ガラス(SZP ガラス)を作製した

今回作製した SP 系ガラスは低ガラス転移温度を有していた各組成の温度域はSP

ガラスTg le 280 Sn-Nb-P SNPガラスTg le 3505SZP S5ZPガラスTg ≦ 450であった

各種 SP ガラスの耐水性試験の結果二成分系の SP ガラスよりも三成分系ガラスの方が

良好な耐水性を有していた65Sn-5Nb-30P 67S5N28P ガラスが最も耐水性が良好であり化

学的耐久性の改善には Nb2O5が ZnOよりも効果的であった

組成と耐水性に関してはDRおよび重量減がOP増加で単調に低下した結果が得られた

つまり耐水性を改善させるにはSP 系ガラスのガラス化範囲を拡大かつ OP を増大させ

る第三成分の添加が有効であることが示唆された

第 3章

第 3章ではSP 系ガラスの分光学的手法による Qn分布の導出を行ったラマン分光法を

用いて各ガラス系のリン酸塩アニオンの構造を簡易定量で評価し組成と構造の関係に

ついて考察した平均 BO 数 n と耐水性に関してはDR および重量減が平均 BO 数 nの減

少で単調に低下することが明らかとなった

平均 BO 数 n と OP の関係より耐水性改善には平均 BO 数 n を下げることそして

OP を上げることが重要であることが明らかになった

78

Nb5+の添加は平均 BO数を減少させるだけでなくOP も上げることからガラス構造

内の P-O-P 結合を減少させ水和反応加水分解反応が抑制され耐水性が大幅に改善さ

れることが示唆された故にNb2O5 のような高価数金属酸化物を添加することが効果的

であることが再度確認された

第 4章

耐水性向上についてより深く評価するためSP SNP ガラスの局所構造に関する知見を得

ることを目的に放射光を用いた構造解析を行った高エネルギーX 線回折(HEXRD)お

よび X 線異常散乱(AXS)法で測定したデータを再現する構造モデルを逆モンテカルロ

(RMC)シミュレーションで構築し構造解析を行った

RMC モデル中の PON多面体に関して平均配位数 Nが 4および P-O の平均結合距離が約

160Å平均結合角度angO-P-Oが約 109degという結果が得られた組成による大きな違いは確

認されなかったSnON多面体については平均配位数 N が 3~4 でSnO 量の増加に伴い 4

に近い値となった平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約 22Åで組成

による大きな変化は見られなかった

Nb2O5を 5 mol添加したガラスではNbON多面体の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平

均配位数N約4Nb-O平均結合距離約20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O

(約 105deg)と値が近いことまた6配位ではなく 4配位として主に存在していることから

SnO と同じような網目形成体として働いていると推測されたまた結合距離が Sn-O が約

22Åに対し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強

固にしていると考えられるまたSnO 量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体

的に各多面体同士の頂点共有が増えていることから耐水性の改善には頂点共有を多く

含む構造もしくは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的であること

が示唆された以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性

耐候性を改善した要因として考えられる

またAXS 法の有効性についても確認し効果的であることが判明したただし今回

は主成分が Snの組成のガラスでありHEXRD でも十分に詳細な Snの周辺構造が得られ

たためAXSを利用した場合との大きな構造の差は認められなかった

本研究では様々な優れた特徴を有する SP ガラスにおける耐水性改善のメカニズムにつ

いて検討を行ったこの系のガラスについてはこれまでほとんど利用されていなかった

放射光を用いた構造解析を駆使し第三成分の添加によってどのような構造的変化が生じ

耐水性を改善させるか新たな知見を得ることができた最終目標である機能性ガラスの

開発における新たなる材料設計指針の確立に対してldquo耐水性rdquoに関しては概ね明らかにな

ったと考えられる一方で今回検討していな電子状態化学結合性についても評価する

ことで溶出メカニズムの解明が可能になり材料設計指針の確立が期待される

79

発表論文リスト

口頭発表

第 2章および第 3章

(1) SnO-P2O5 系ガラスへの酸化物添加効果

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎

日本セラミックス協会第 25 回秋季シンポジウム No3C06 (名古屋市 2012年 9月)

(2) Effect of Nb2O5 addition to SnO-P2O5 glass (Poster)

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

International Union of Materials Research Societies International Conference on Electronic

Materials IUMRS-ICEM 2012 A-9-P26-003 (Yokohama 2012 年 9月)

(3) スズリン酸塩系ガラスの蛍光特性耐水性に及ばす酸化物の添加効果(ポスター)

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎

日本セラミックス協会 2013 年年会 1P070 (東京 2013年 3月)

第 4章

(1) 放射光を用いたスズリン酸塩ガラスの構造解析

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎小原真二臼杵毅

日本セラミックス協会第 27 回秋季シンポジウム 2B22 (鹿児島市 2014年 9 月)

(2) Structural analysis of tin phosphate glasses by synchrotron radiation (Poster)

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba Shinji Kohara Takeshi Usuki

International Congress on Glass ICG Annual Meeting Bangkok 2015 P14-138 p186 (2015)

発表論文

(1) Effect of Nb2O5 addition to SnO- P2O5 glass

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

Journal of the Ceramic Society of Japan Vol 120 No 11 pp530-533 (2012)

(2) Structural analysis of SnO- P2O5 glass

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

Journal of the Ceramic Society of Japan(準備中)

80

謝辞

本研究を遂行するにあたり終始暖かいご指導ご助言並びにご鞭撻を賜わりました岡

山大学大学院環境生命科学研究科 難波徳郎教授に心より感謝の意を表します

また本研究を遂行するにあたり懇切丁寧なご指導とご意見をしていただいた岡山大

学大学院環境生命科学研究科 紅野安彦准教授環境環理センター 崎田真一助教に心より

感謝いたします

本研究を遂行するにあたりラマン分光測定の使用についてご助言ご教授して頂い

た岡山大学自然科学研究科 藤井達生教授中西真助教に心より感謝の意を表します

Sn のメスバウアー測定の際に協力して頂いた岡山大学自然科学研究科先端自然科学教

育研究推進本部高田研究室 松本修治特任助教(当時旭硝子株式会社中央研究所)また

Feのメスバウアーを測定の際に協力して頂いた岡山大学自然科学研究科 藤井達生教授に

心より感謝の意を表します

固体 NMR の岡山大学自然科学研究科 早川聡教授に心より感謝の意を表します

本研究を遂行するにあたりSPring-8 にてHEXRD および AXS 法の測定法および原理

についてご教示頂きました物質材料研究機構 小原真司博士ならびに山形大学 臼杵毅

教授に心より感謝の意を表します

本研究は多くの後輩諸君の協力によって遂行されました特に実際に共同研究共同

実験を遂行して頂いたOG 藤原沙弥香さん博士前期課程 2 年 東利彦君OB 徳岡太誠

君学士課程 4年 塩田将大君に心より感謝の意を表しますまた難波研究室で共に研

究生活を過ごした卒業生在学生の方々に感謝の意を表します

また同時期に博士後期課程に在籍された香川高等専門学校の桟敷剛さんにはNbに

関する有益な情報だけでなく辛い状況でも励ましを頂きました心より感謝の意を表し

ます

最後に長きに渡る学生生活を認め経済面だけでなく精神面でも支援してくださった

家族に心より深く感謝の意を表します

平成 28年 3月

福井 聡史

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6

[35] H Masai H Miyata T Tanimoto Y Tokuda and T Yoko J Am Ceram Solids 96 [2]

382-384 (2013)

7

Fig 11 鉛含有ガラスの一例クリスタルガラス

転載ペアワイングラスltボナールgtカガミクリスタル株式会社

Fig 12 鉛含有ガラスの一例放射線遮蔽用ガラス

転載放射線遮蔽用ガラス LX-57B電気硝子建材株式会社

8

Fig 13 リン酸塩ガラスの Qn構造とその組成 [11]より転載

9

Fig 14 リン酸塩ガラスの溶出メカニズム模式図加水分解反応

10

Fig 15 リン酸塩ガラスの溶出メカニズム模式図水和反応 [21]より転載

11

Fig 16 アルミナ含有リン酸塩ガラスの構造

Fig 17 鉄リン酸塩ガラスの構造 [27]より転載

P

O

O

OO Al

O

O

O P

O

O

O Al

O

O

O P

O

O

O

12

Fig 18 ガラスの侵食機構(耐候性)[1]より転載

13

第 2章 スズリン酸塩系ガラスの物性評価

21 緒言

前章で述べたようにスズリン酸塩(SP)系ガラスは無色透明高透過率低ガラス

転移温度など工業的に興味深い特徴を有することが知られている[1]またSn2+が ns

2型の

発光中心となり紫外線照射による白色蛍光を示すことから希土類フリー白色蛍光体とし

ての研究も数多くなされている[2 3]

しかし実用化に向けてはこの系のガラスについてもリン酸塩系ガラスに特有のldquo耐

水性rdquoldquo耐候性rdquoの低さが問題となる[4]この問題点を解決するために第三成分として他

の化合物を加えることが有効でありSP ガラスにおいてはB2O3や ZnO SiO2 MgO MnO

など様々な物質を第三成分として添加した研究報告[5 - 9]があったりNH3雰囲気下で数日

間溶融作製することでガラスを一部窒化することで耐水性を改善させたりという報

告もある[10]SP ガラスに限定しないリン酸塩系ガラスではZnO-P2O5 系ガラスに Sb2O3

や MoO3を添加した報告[11 12]や Na2O-P2O5系ガラスに CuO を加えた報告[13]P2O5-CaO-

Na2O に Ag2Oを添加した報告[14]Na2O-K2O-CaO-P2O5ガラスの一部を窒化することによる

方法[15]等があり数多くのリン酸塩系ガラスの耐水性改善に関する研究がなされている

本研究では高価数金属酸化物および低価数金属酸化物の二種類をそれぞれ第三成分と

して添加した高価数金属酸化物には Nb2O5を低価数金属酸化物には ZnO の二種類の酸

化物を選択した

Nb2O5は古くから光学ガラスの成分として頻繁に使われる物質であり様々な企業から数

多くの特許が出されている[16 17]また耐水性の改善に有効であるとの報告や比較的低

温でもガラス作製ができることが知られており(当然のことながら組成に影響される)

鉛フリーの封着ガラスとしての研究もなされているZnO についてはこれ自体は無着色

成分であるため無色透明なガラスが得られることから光学ガラスの成分に用いられる

ほとんどの組成で低融点ガラスとなり[18 19]これらの特性からSnO-ZnO-P2O5(SZP)

系ガラスは Sn2+を発光中心とした蛍光体の研究対象となっていることが多くSP 系ガラス

では一般的なガラス系である

本章では第三成分を含まない SP ガラスおよび Nb2O5または ZnOを SP ガラスに添加し

た三成分系ガラスをそれぞれ作製し耐水性試験を中心とした各種物性評価を行った比

較対象に耐水性の優れることで知られる鉄リン酸塩系ガラスも同時に作製することでSP

系ガラスへ添加したそれぞれの第三成分の耐水性に対する有効性を検討した

22 実験方法

221 ガラスの組成選択

本研究において作製した SP ガラスは以下の五種類の系列を選択した

14

① スズリン酸塩ガラス(xSnO∙(100-x)P2O5 x = 50 60 67 70 mol)

(略称 SP ガラス組成は 50S50P と表記)

② ニオブ含有 SP ガラス(65SnO∙xNbO25∙(35-x)P2O5 x = 0 1 2 3 4 5 mol)

(略称 Sn-Nb-P ガラス組成は 65S-0Nb-35P と表記)

③ ニオブ含有 SP ガラス(xSnO∙5Nb2O5∙(95-x)P2O5 x = 50 60 67 mol)

(略称 SNP ガラス組成は 50S5N45P と表記)

④ 亜鉛含有 SP ガラス (S5ZP ガラス)(xSnO∙5ZnO∙(95-x)P2O5 x = 55 62 65 mol)

(略称 S5ZP ガラス組成は 55S5Z40P と表記)

⑤ 亜鉛含有 SP ガラス (5SZP ガラス)(5SnO∙xZnO∙(95-x)P2O5 x = 55 62 65 mol)

(略称 5SZP ガラス組成は 5S55Z40P と表記)

(④と⑤は総じて SZP ガラスと表記する場合がある)

それぞれの選択理由はガラス化範囲(各ガラス系のガラス化範囲を Fig 21および Fig

23 に示す)作製の容易さ(気泡の入りにくさ流し出しやすさ)等を考慮し決定した

組成ごとに詳細な選択理由を述べると

②についてNb を P と置換した組成であるFig 22 に示した溶融温度 1100で作製した

Sn-Nb-P ガラスの外観写真より目視でも明らかに透明性の高く着色量の少ない組成は(d)

の 65Sn-5Nb-30P でありこの外観写真を参考に組成を決定したSnO 量を 65 molに固定

しNbO25量を 5 molから 0 mol(Nb無添加組成)まで減少させた組成(Fig 21 の緑線

の組成)を選択しこのガラス系の物性の変化を確認した

③はNb2O5量を 5 molに固定しSn を P と置換した組成であるNb と P は酸化数が

同じ 5価であるためこの組成では同じ SnO量の二成分系 SP ガラスと比較した際酸素

の総量に変化が生じない(例えば67S33P と 67S5N28P)またNb5+イオンはガラス中

では4配位および6配位を取るという報告が多い(結晶の場合他の配位数を取る)た

め配位数が4の P5+の置換に適していると考えた

④⑤に関しては気泡のrdquo入りづらいrdquoもしくはrdquo入らないrdquoSnOおよび ZnOが各 5 molにな

る組成を選択したSZP ガラスはFig 23 に示すガラス化範囲のようにガラス化範囲は

非常に広範囲であるしかし気泡が入りやすく脈理のようなものも見られる組成が多く

目視ですら不均質なガラス組成がほとんどであった(これらの組成も粉末にして XRD を測

定するとガラスであった)そのためバルク体でガラスを得られることが困難な組成も多

い(Fig 24 にその一例の SZP ガラスを示す)そこで第三成分の添加量を可能な限り少

ない組成を選択することでバルク体で目視上ldquo均質rdquoなガラスを得た(Fig 23 の青線と

紫線の組成)

また上述したように耐水性の比較対象である鉄リン酸塩ガラスを二成分系で作製し

15

た(FP ガラス)組成はxFe2O3∙(100-x)P2O5 x = 20 25 30 35 40 mol を作製した

222 ガラス作製

Figs 25 - 27に各ガラス系の作製フローチャートを示す出発試薬にSnO NH4H2PO4

Nb2O5 ZnO を使用し各々秤量した秤量混合後アルミナ坩堝に入れか焼(仮焼き)

を行ったか焼条件はSP Sn-Nb-P SNP SZP ガラスは350または 400 6-30 minFP ガ

ラスは600 30 min で行った溶融温度および溶融時間はSP ガラス1100 30 min

Sn-Nb-P ガラス1100 30 minSNP ガラス1000または 1250 20 min SZP ガラス

1100-1200 30 min 各々N2雰囲気下で作製したN2雰囲気下で行った理由はSn2+が Sn

4+

にほとんど酸化されてしまうとガラスが得られなくなるためSn2+の酸化を防ぐ目的がある

[19]FP ガラスは1200 - 1550 30 min大気雰囲気下の条件で作製した溶融後350

に温めておいたスチールモールドに流してプレスした後FP ガラス以外はガラス転移温度

Tg付近でアニールを 1 h行い目的のガラスを得た耐水性試験用のガラス形状はダイヤモ

ンドカッターで大まかに整えた後鏡面研磨まで施して型取ったここでFP ガラスのみ

アニール工程を省いた理由はSP ガラス等はアニールをして歪みを取らなければ正確に

切断できない場合が生じた一方でFP ガラスはアニールをせずとも十分正確にカットで

きたためアニール工程を省いたまた50S50P のみ厚みが必要になると必ず気泡が入

ってしまうため耐水性試験では気泡の入ったものを使用した

223 物性評価

得られたガラスの物性の比較を行うために以下に示す分析を行った

(1)ガラス状態の確認

作製したガラスが結晶の混在していないものかを確認するためにまた耐水性試験

後のガラスが結晶化しているかの確認のためにX 線回折装置(XRD Rigaku RINT-2100)

を用いて分析した全てバルク体で測定したが耐水性試験後ではバルク状態が保てな

いものもあったためその試料については粉末で測定した

(2)組成分析Sn Fe 価数分析

得られたガラスについてアルミナ坩堝の使用によるアルミナのガラスへの混入および

それに伴う組成ズレの確認のために走査型蛍光 X 線分析装置(XRF Rigaku ZSX Primus

Ⅱ)を使用し組成分析を行った分析はバルク体で定性分析法にて測定した

またSn が二価のままどのくらい存在しているかを調べるために Sn-Nb-P ガラスを用い

てSnの価数分析をメスバウアー分光法にて行ったSnの測定は reference [20]に示す旭硝

子の公開特許に記載されている方法で行ったFP ガラスについても価数変化を調べるた

めにメスバウアー分光法にて Feの価数分析を行ったFeの測定は(株)トポロジック

システムズ MDF-200)を用いて評価を行った

16

(3) 密度(ρ)およびガラス転移温度(Tg)評価

各ガラスの密度(ρ)測定はケロシンを用いたアルキメデス法で測定したガラス転

移温度(Tg)を評価するために示差熱―熱重量測定装置(SDT TA instrument Japan Q600)

を用いたアルミナパンを使用し測定条件はN2雰囲気下 10 Kmin 700までの温度範

囲にて行った

(4)耐水性試験

各ガラスの耐水性について評価するために耐水性試験をMCC-1法[21]にて測定した(Fig

28)条件は75 72h ガラスサイズ 12times10times02 cm (plusmn01 cm) 蒸留水の pH は 72-77

で行い浸漬後サンプルを乾かして重量を量った溶出速度(Dissolution Rate DR)は重

量減(ΔW) サンプル表面積(S) 浸漬時間(t)から以下の式によって算出した[22]

DR = ΔW (kg) S (m2) t (s)

また浸漬前と 72 h 後の重量減()も合わせて算出した

23 結果考察

231 組成分析 Snおよび Feの価数評価

Table 21に各試料の組成分析結果を示すまずアルミナ Al2O3の量を見るとガラスに

混入した量がほとんどの組成で 25 mol以下で多くても 35 molを下回る量であった

そのため各種特性についてアルミナの影響はほとんどないと考えられる[23 24]組成

によってその量に差があるのは溶融温度の違いによることに起因している組成分析の

結果今回作製したガラスは仕込み組成と大きな差がないと判断した

Fig 29に Sn-Nb-P ガラスの Snのメスバウアースペクトルをそこから得られたメスバウ

アーパラメーターを Table 22に示す得られた結果よりSn-Nb-P ガラスでは95以上の

割合で Sn2+のまま存在していることが分かった不活性雰囲気で作製したことP2O5 の出

発原料に NH4H2PO4を使用したことにより(か焼は行なっているが)還元雰囲気になったた

めSn4+にほとんど酸化されることがなかったといえるこの結果SP 系ガラスではほぼ

Sn2+のまま存在していると仮定した

Fig 210に FP ガラスの FeのメスバウアースペクトルをTable 23 にそこから得られたメ

スバウアーパラメーターを示すFP ガラスについては組成に関わらず酸化還元平衡に

より 20 ~ 30が Fe2+になりまたFe2O3 ge 30 molの際化学的にも安定であることが知

られている[27]実際にFe2O3 ge 30 molの際Fe2+は概ね 20 ~ 30存在している結果が得

られた一方でFe2O3 lt 30 molの際はFe2+が 40以上と高い割合で存在していることが

判明したこれは出発原料の NH4H2PO4の多量使用によること溶融温度が 1550と高

いことが要因で還元がより進行したためと予想される

17

232 ρおよび Tg

Table 24にρおよび Tgの結果を示す二つの特性結果はそれぞれのガラス系において

SnO や Nb2O5ZnO といった金属酸化物が増えるにつれて大きくなっているSP Sn-Nb-P

SNP S5ZP 系ガラスの Tgはほとんどが 300前後であり最も高い温度でも67S5N28P

の 346であった一方5SZP 系ガラスは400~440となり他のガラス系と比較する

と若干高い温度となったそれでも今回作製した第三成分を添加したガラスは低 Tgを有

するガラスであると判断できSP ガラスの特性を維持できたと判断できる

60S5N28P と 62S5Z30P のようなほぼ同じ OP を示すもので比較した際にNb2O5添加が

ZnO 添加よりも Tgが高くなったのは①配位数が同配位数になり得るイオンの場合(例え

ば Nb5+と Zn

2+なら4配位など)ポーリングの第 2 法則[25]より高価数イオンの方が結合

強度が強くなる②diatomic cationの解離エネルギーがNb-O (688plusmn11 kJmol)[26]に対しZn-O

(1611plusmn48 kJmol)[26]と大きな差があるため Nb-Oの結合が強い故に熱的に安定化され

Tgが高くなったと考えられる

233 耐水性試験前後の外観写真

Figs 211 - 216に各ガラスの耐水性試験前後の外観写真を示すFig 211 の SP ガラスを

観察するとSnO 量の少ない 50S50P 60S40P は浸漬時間が経過するにつれて元々の形状

が崩壊したりガラス自体が膨張したような状態になったりしたSnO 量の多い 67S33P

70S30P について形状は崩れることはないが透明性が失われる(白ヤケ)耐候性が低いこ

とが確認できるFig 212 に示す Sn-Nb-P ガラスではNb2O5無添加の 65S-0Nb-35P は浸漬

時間 24 h で透明性が失われているがNbO25量の増加させていくと徐々に透明性が回復

しており4 mol添加した 65Sn-4Nb-31P では72 h後においてもほとんど変化が確認でき

ないNbの添加量を変えた Fig 213に示す SNP ガラスではSP ガラスと同様に SnO 量の

少ない 50S5N45P は時間経過と共にガラス全体にldquoひびrdquoのようなものが見え72 hの実

験終了後最終的にテフロン糸を外す段階で簡単に割れたしかし50S50P や 60S40P と比

較すると耐水性が大幅に良くなったまた60S5N35P 67S5N28P は耐水性が良好なこと

だけでなく耐候性についても向上していることが目視で判断できる一方で二種類の

SZP ガラス(Figs 214 215)を観るとP2O5量の少ない 5S55Z40P および 55S5Z40P では

形状が崩れるか析出物が現れる結果となったこの組成よりP2O5 量を減少させるとSP

ガラスと同じように形状は崩れないが透明性が若干失われる結果となった

Fig 216 に比較対象の FP ガラスの耐水性試験前後の写真を示すこの組成ではFe2O3

量の少ない20F80Pにおいても形状が全く崩れない結果が得られたしかしFe2O3 lt 30 mol

の組成において表面に干渉色のような反射光が若干確認できたこれはおそらく青ヤ

ケが発生したためであると考えられる

18

234 耐水性試験前後の構造変化

Figs 217 - 222に各ガラスの耐水性試験前後の XRDパターンを示す耐水性試験前では

ガラス化を全組成で確認した(Figs 217(a) - 222(a))しかし耐水性試験後における外観

写真で形状の崩れたもしくは析出物の得られたガラス組成では結晶が生成したことが

確認された形状の崩れた三組成のうち50S50P 60S40P ガラス(Fig 2214(b))では三

種類の結晶ピーク(SnP2O7 Sn2P2O7 Sn3(PO4)2)が確認でき5S55Z40P については(Fig

2214(b))結晶同定の判断はできなかったが ZnOの多い組成であるためおそらくリン酸

亜鉛の何れかの結晶だと推測された析出物が得られた 55S5Z40P はガラス matrix部と析

出物に分けて測定したところガラス matrix 部はガラスのままであり析出物は SnP2O7

Sn2P2O7の二種類の結晶ピークが確認できたガラス形状に変化がなかったその他の組成は

ガラス状態が保たれていたSn4+の結晶のピークが確認されたのは50S50P のガラスには

気泡が残っておりその気泡から酸化されたかもともと溶融工程で電気炉内に残って

いた酸素によってSn4+に酸化されたか等が考えられる

235 溶出速度(DR)および重量減

Table 24に DR重量減の結果および仕込み組成から計算した OP を示すSP SNP S5ZP

ガラスではSnO 量の増加に伴いSnO量の固定された Sn-Nb-P 5SZP ガラス系ではそれ

ぞれの金属酸化物の増加に伴いDR重量減は減少傾向にあったFP ガラスでは全組成

において DR 重量減共に変化が全く確認されなかったそのため青ヤケのようなものが

確認された FP ガラス(Fe2O3 lt 30 mol)については電子天秤では変化が見られない程度

の重量減であったと推測される二種類の SZP ガラスで比較するとSnOと ZnO量が入れ

替わってもほぼ誤差範囲内と思われる結果が得られたガラス全体の比較では外観写真

で変化が見られなかった FP ガラスと 65S5N28P 65Sn-5Nb-30P のガラスが DR重量減がと

もにゼロという結果が得られた

組成と DR 重量減の関係性を見るために作成した図をFigs 223(DRと OP の関係性)

224(Fig 224に重量減と OP の関係性)に示すそれぞれの図にリン酸塩の三つの構造

の OP も表記した双方の図よりDR 重量減共に OP が増加することで単調に下がって

いることが分かるこの結果はリン酸塩の構造ではorthophosphate 組成で耐水性良好が

あるため[22]一般的な結果と同じ挙動であるまた耐水性の良かったNb2O5添加の SNP

ガラスは異なる挙動(傾き)が得られた

以上の結果より第三成分添加による耐水性の改善を確認し特に Nb2O5 の添加による

影響は大きいことが判明したまたOP の増加による耐水性が改善する結果が得られた

次章の第 3 章にて各ガラス系の構造解析を行い第三成分特に Nb2O5の耐水性への有

効性について調査した

19

24 結言

本章ではSP ガラスおよび第三成分の Nb2O5 ZnOを添加した SP ガラスの物性評価を行

うことで耐水性改善への第三成分添加の有効性を確認した各々の物性について以下に

まとめる

低ガラス転移温度を有する SP ガラスは最も SnO 量が高い 70S30P でも Tg le 280であ

ったNb2O5を添加した Sn-Nb-P SNP ガラスではTgの上昇は見られたが Tg le 350

ZnOを添加した 5SZP S5ZP ガラスではTg ≦ 450であり両金属酸化物の添加でも低

ガラス転移温度を維持しているガラスが得られたNb2O5 添加が Tg を上昇させたのはポ

ーリングの第 2法則より高価数イオンの方が結合強度が高くなるためと結論付けた

耐水性試験結果の外観写真を観るとSP ガラスの SnO 量 le 60 mol 5SZP ガラスおよび

S5ZP ガラスの P2O5量 = 40 molの組成についてガラスサンプルの形状が大きく変化して

おりDR 重量減も高く耐水性の低さが明らかであった得られた析出物はSnP2O7

Sn2P2O7 Sn3(PO4)2 および亜鉛リン酸結晶の一種であると予想されたその他の組成では

透明性の失われた組成がいくつかあったが外観写真では変化が見られなかった FP ガラス

と 65S5N28P 65Sn-5Nb-30P のガラスが DR重量減がともにゼロという結果が得られた

組成と耐水性に関してはDRおよび重量減がOP増加で単調に低下した結果が得られた

つまり耐水性を改善させる有効な手段はSP 系ガラスのガラス化範囲を拡大かつ OP を

増大させる第三成分の添加によることであることが示唆された

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21

Fig 21 三成分系 SnO-NbO25-P2O5 系のガラス化範囲

Fig 22 作製した Sn-Nb-P ガラス

(a)50Sn-5Nb-45P (b)55Sn-5Nb-40P (c)60Sn-5Nb-35P

(d)65Sn-5Nb-30P (e)70Sn-5Nb-25P (f)60Sn-10Nb-30P

(g)55Sn-20Nb-25P (h)60Sn-15Nb-25P (i)65Sn-10Nb-25P

22

Fig 23 三成分系 SnO-ZnO-P2O5系のガラス化範囲

Fig 24 作製した SZP ガラスの一例

(気泡や脈理のようなものが確認できた組成)

23

Fig 25 SP SZP ガラスの作製フローチャート

Fig 26 Sn-Nb-P SNP ガラスの作製フローチャート

(気泡や脈理のようなものが確認できた組成)

24

Fig 27 FP ガラスの作製フローチャート

Fig 28 耐水性試験(MCC-1法)

25

Table 21 各ガラスの組成分析結果

26

Fig 29 Sn-Nb-P ガラスのメスバウアースペクトル

Table 22 Sn-Nb-P ガラスのメスバウアーパラメーター

27

Fig 210 FP ガラスのメスバウアースペクトル

Table 23 FP ガラスのメスバウアーパラメーター

28

Table 24 各ガラスの物性(密度(ρ)ガラス転移温度(Tg)溶出速度(DR)重量減())

29

Fig 211 SP ガラスの耐水性試験前後の外観写真

Fig 212 Sn-Nb-P ガラスの耐水性試験前後の外観写真

30

Fig 213 SNP ガラスの耐水性試験前後の外観写真

Fig 214 S5ZP ガラスの耐水性試験前後の外観写真

Fig 215 5SZP ガラスの耐水性試験前後の外観写真

31

Fig 216 FP ガラスの耐水性試験前後の外観写真

32

Fig 217 SP ガラスの XRD パターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

33

Fig 218 Sn-Nb-P ガラスの XRD パターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

34

Fig 219 SNP ガラスの XRD パターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

35

Fig 220 5SZP ガラスの XRDパターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

36

Fig 221 S5ZP ガラスの XRDパターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

37

Fig 222 FP ガラスの XRD パターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

38

Fig 223 各ガラス系の DR と OP の関係性

39

Fig 224 各ガラス系の重量減と OP の関係性

40

第 3章 分光法を用いたスズリン酸塩系ガラスの構造解析

31 緒言

前章ではSP ガラスおよび第三成分に Nb2O5 ZnOを添加した Sn-Nb-P ガラスSNP ガラ

スSZP ガラスの物性特に耐水性に関する第三成分添加の有効性を明らかにしたその添

加した第三成分の二種類についてもNb2O5 の方が ZnO よりも溶出速度重量減ともに抑

制することができSP ガラスの低ガラス転移温度という特性も維持されていることが判明

したしかし現段階では本研究の主要な物性である耐水性改善の要因が明確になって

いない組成の観点からはOP の値が高い組成が良好な耐水性であることが分かったが

組成だけでは耐水性改善のメカニズムについて完全には理解できないここでリン酸塩

ガラスの溶出のメカニズムは第 1 章で述べたように加水分解反応と水和反応が要因とな

る[1 2]この機構はそれぞれリン酸の構造つまり架橋酸素 BO の数が大きく関わって

おりリン酸アニオンの[PO4]ユニットの架橋酸素数を知ることが重要であるこの BO の

情報を得るためにはガラス構造を示す指標の一つである Qn(n は[PO4]ユニット中の架橋

酸素数を表す)を調べることが必須であるまたQn の分布を調べるためにはガラスの

構造解析を行う必要性がある

ガラスの構造解析には種々の方法があり特にラマン分光法や赤外(IR)分光法核

磁気共鳴法(NMR)などの分光学的手法を用いた構造解析の報告が多い[3-5]ラマン分光

法および IR分光法は原理は異なるがどちらも結合の振動モードを測定する手法であり[6]

リン酸塩ガラスだけでなくケイ酸塩ガラスホウ酸塩ガラスなど様々なガラス系にて測

定がなされている[7 8]また得られた結合状態の情報からリン酸塩アニオンの Qn分布

を調べることも可能であるNMR は共鳴吸収ピークの化学シフト(共鳴周波数のズレ)

から構造を決定する手法であるガラスの場合SiO2や B2O3 P2O5といった網目形成酸化物

の Qn分布を得るために一般的に使用されている手法である[9]

今回これらの測定の中でラマン分光法を選択し構造解析を行ったラマン分光法は

測定する際にサンプル形状を気にすることなく基本的にそのまま測定できるためIR 分

光法のようにサンプル形状で測定方法を変える必要はないまたIR 分光法では例えば

KBr 錠剤法やヌジュール法のように測定を行うためのサンプル調整に手間がかかる場合が

ある[6]さらに比較対象の FP ガラスではNMR を測定できないため作製ガラスを全

て比較検討できるようにラマン分光法を選択した

本章ではラマン分光法を用いて各ガラスの構造解析を行い[PO4]ユニットの Qn分布を

調査し平均 BO数 nを算出することで耐水性と構造の関係性を検討したまたラマン

分光法によって得られた Qn分布の妥当性を確認するためにSP ガラスおよび 67S5N28P ガ

ラスの NMRを測定も行い比較した

32 実験方法

41

321 サンプル準備

ラマン分光およびメスバウアー分光の測定では第 2 章で作製した各ガラスのバルク体

を用いたWD試験に使用したサンプルとは別にラマン測定用のサンプルを用意した適

度な大きさ大体 15 cm角程度のサイズになるようにガラスカッターで切断しその後

十分な平滑性を得るために鏡面研磨を施した

322 ラマン分光測定

使用したラマン分光装置は顕微レーザーラマン分光装置(Jasco NRS-5100)を用いた

用いたレーザー波長は 53208 nmであり400 - 2000 cm-1の範囲で測定した

Qn 分布を導くためにピークフィッティングを行いリン酸塩アニオンのラマンバンド

が現れる950 - 1250 cm-1付近および 700 - 750cm-付近の範囲で定量した

323 31P MAS NMR測定

31P MAS NMRの測定は Varian NMR System 500 を用いて32 mmの MASプローブ

202309MHzにて行った測定パラメーターを以下に示すπ4 パルス長さ 14 μs 待ち時間

(pulse delay)10 s 積算回数 3600 scan シリンダー円筒形状の Zrローターの回転スピード

160 kHz referenceとして二番目の基準物質として使われる NH4H2PO4を使用化学シフト

は85 H3PO4溶液から δ = 10 ppmである

33 結果考察

331 各ガラス系のラマンスペクトル

Figs 31 - 35にラマンスペクトルを示す各ピークは以下の通りに帰属し各スペクト

ル中に該当する構造をピーク位置に示した

1230 - 1260 cm-1 P=O NBO Q

2 [10]

1110 - 1150 cm-1metaphosphate (PO3)

- Q

2 [10]

1030 - 1100 cm-1pyrophosphate (PO35)

2- Q

1 [10]

970 - 1000 cm-1orthophosphate (PO4)

3- Q

0 [10]

920 - 930 cm-1asymmetric (P-O-P) Q

1 [10]

730 - 750 cm-1symmetric (P-O-P) Q

1 [10]

710 - 720 cm-1asymmetric (P-O-P) Q

2 [10]

810 - 820 cm-1Nb-O [NbO4] tetrahedron [11]

900 - 920 cm-1Nb-O isolated [NbO6] octahedron [11]

42

SP ガラスのラマンスペクトル(Fig 31)を見ると50S50P 60S40P ではmetaphosphate

の Q2 構造が支配的であるがSnO 量が増えるにつれてその構造が変化し70S30P では

pyrophosphateの Q1構造と orthophosphateの Q

0構造が共存した構造となっているまたSnO

量の少ない 50S50P および 60S40P において確認されたQ2構造の P=O のピークが見えなく

なっているつまり耐水性と関連して考えるとSnO量が増えるにつれてP-O-P 結合か

ら Sn-O-P 結合に代わり水分子との反応である加水分解反応を妨げる構造に変化している

ことがわかる

Figs 32 33にNb2O5を添加した Sn-Nb-P ガラスおよび SNP ガラスのラマンスペクトル

を示すまずSn-Nb-P ガラスについてNb 無添加の 65Sn-0Nb-35P は主に Q1構造であ

りNbO25が添加されることによってQ0構造に変化しQ

1 Q

0構造が共存しているような

ピークが得られた添加量が少ないガラス系であるため徐々に変化しているのを確認し

た800 cm-1を少し越えた 810 - 820 cm

-1付近にNb2O5を添加することでピークが現れそ

して添加量を増量することで強度が強まるピークがありこのピークは四面体の[NbO4]

のものと判断した

SNP ガラスのラマンスペクトルについてはNb2O5添加量を固定した組成であるためSP

ガラスのような挙動が観察された50S50N45P では50S50P ガラスと同じようにQ2構造

が主な構造でありSnO量の増加に伴って60S5N35P Q1構造67S5N28P Q

0構造に支配

的な構造が変化しているこれはSP ガラスと同じ傾向を示しているためP-O-P rarr Sn-O-P

に置き替わっていることが示唆されるNb-O に関するピークでは50S5N45P のみ[NbO4]

四面体のピークを確認できず900 - 920 cm-1付近に[NbO6]八面体のピークが確認された

SnO量が増量した 60S5N35P では810 cm-1付近の [NbO4] 四面体のピークが現れているが

[NbO6]八面体のピークと 900 - 920 cm-1付近の Q

1構造のピークが非常に近い(ほぼ重なって

いる)ことから60S5N35P については[NbO4] 四面体および[NbO6]八面体の共存の可能性

も考えられるまた67S5NP28 では[NbO4] 四面体のみのピークが観察されたためこ

の Nb-O の配位数変化は[PO4] unitの状態によって変化している可能性も示唆された

ZnO を添加した S5ZP ガラスおよび 5SZP ガラスのラマンスペクトルを Fig 34 に示す

図の下部三つが S5ZP ガラス上部三つが 5SZP ガラスのスペクトルであるSZP ガラスの

二系統を比べるとあきらかなスペクトルの違いが確認された各ガラス系で確認すると

SnO 量が最小の 55S5Z40P はQ2構造と Q

1構造の範囲に跨っているようなスペクトルが得

られた62S5Z33P および 65S5Z30P のスペクトルからはどちらもほぼ Q1構造であると判

断した5SZP のスペクトルは1000 - 1250 cm-1付近の範囲で裾を引くような(なだらかな)

スペクトルが得られたZnO 量が最小の 5S55Z40P にはQ2構造が主な構造に見えるが

shoulderピークのような Q1構造(1030 - 1100 cm

-1)が確認できる5S62Z40P においては

1000 - 1250 cm-1付近の範囲まで幅広いスペクトルが得られた730 - 750 cm

-1付近にピーク

が現れているためおそらく Q1構造が最も多く存在していると考えられる65S5Z30P では

Q1構造Q

0構造が共存しているようなピークが得られた

43

FP ガラスのラマンスペクトルを Fig 35 に示すFe量の少ない 20F80P 25F75P と他の三

つで構造が異なっていることである20F80P 25F75P はQ2構造と Q

1構造が基本構造にな

っていると判断できる 30F70P は1110 - 1150 cm-1付近に shoulderピークのようなものがあ

りQ2 Q

1 Q

0構造が共存しているようなスペクトルであった35F65P 40F60P はQ1構造

が主な構造でQ0構造があると判断した

332 平均 BO数 n (Qn分布)

まずピーク分離について散乱断面積が見積もれなかったためラマンの散乱強度比

を Qn分布として簡易的にピーク分離を行い(Fig 36)そこから平均架橋酸素数 BO 数 n

を算出したここでFig 37 に 31P MAS NMRスペクトルを示しTable 31に NMRおよび

ラマン分光より得られた平均 BO 数 n を示す(NMR の帰属 reference [12])表よりNMR

とラマンから得られた Qn分布はほぼ一致していることが分かった60S40Pについては支

配構造が NMR(Q1) ラマン(Q

2)で逆になったこれは60S40P の組成がQ

2と Q1のほぼ中

間の組成になるためこのようなズレが生じたと考えられるしかし今回のラマンによ

る Qn分布の算出についてはほぼ問題ないと判断した

Table 32にラマンスペクトルより求めた Qn分布平均 BO 数 nをを示しTable 24に示

した DR 重量減の結果を併記する

SP ガラスのうち耐水性が低いガラスは Q2構造によって形成されているSnO量の増加

によって NBOの増加とともに耐水性の向上が確認できSnOが入ることでSn-O-P 結合を

形成し水分子からの攻撃を受けにくくなっていることが考えられる

Sn-Nb-P ガラスでは基本的に Q1構造が主構造でNb2O5の添加が増えるにつれQ

0構

造が支配的になり耐水性は次第に向上していく最も耐水性のよかった 65S-5Nb-30P は

Q0構造での割合が非常に高く平均 BO数 n値が 03であった

SNP ガラスではP2O5量が多い組成の 50S5N45Pにおいても平均 BO数 nが 60S40P と

同じながらも耐水性が良くなっている67S5N28P はほぼ完全に Q0構造であり平均 Q

n

値は 0となった

SZP ガラスについてはS5ZP 5ZSP のどちらの系列についても耐水性の結果に大きな差

というものは確認されなかったが構造的にも平均 BO数 nが 09 10 17という結果であ

った

FP ガラスについてはFe2O3 lt 30 molのときは平均 BO 数 nが20 19と高い数値を

示したが耐水性は非常に良好であったこの結果より組成だけでなく構造的にも耐

水性高くなる要因が不明である一つの原因の可能性としてメスバウアーより得られた

Fe2+の存在比が 40以上と高かったことがFe2O3含有量が少ない組成時には効果的になっ

ているのかもしれない

333 平均 BO数 nと耐水性の関係性

44

Fig 38に DRと平均 BO数 nの関係性についてFig 39に重量減と平均 BO数 nの関係

性をそれぞれ示すまたOP の時と同様に各図にリン酸塩の三つの構造の平均 BO数

n も表記した双方の図よりDR 重量減共に平均 BO 数 nが低下することで単調に下がっ

ていることが分かるまた耐水性の良かったNb2O5添加の Sn-Nb-P SNPガラスはの DR

の挙動(傾き)はOP 時とも異なった挙動が得られた

Fig 310に OP と平均 BO数 nの関係を示す図中に示す茶色metaphosphate 黄色

pyrophosphate 灰色orthophosphate であるこの図から耐水性改善には平均 BO 数

n を下げOP を上げることが重要であるのが分かるまたNb5+の添加はOP を上げる

だけでなく平均 BO 数も減少させることから非常に効果的な成分であることが明らかで

あるこれはP5+から同酸価数 Nb

5+に少量でも置き換えることで平均 BO 数 n を下げ

OP を上げることを可能としている(実際に orthophosphate の OP4 よりも高い OP でガ

ラスが作製できている)つまりNb5+の添加によって P-O-P 結合が減少し水和反応加

水分解反応が抑制されているからである

以上の結果SP 系ガラスの耐水性改善には低い平均 BO 数と高い OP の組成にするこ

とが重要でNb2O5の添加は非常に効果的であることが分かったその一方でガラス中の

詳細な構造的要因についてははっきりしていないため次章の第 4 章にてさらに詳し

い構造解析を行い耐水性改善の要因について調査を行った

34 結言

本章ではラマン分光を使用して各ガラス系のリン酸塩アニオンの構造を簡易定量で

評価し組成と構造の関係について考察した

平均 BO 数 n と耐水性に関してはDR および重量減が平均 BO 数 n の減少で単調に低下

した結果が得られた

平均 BO数 nと OP の図より耐水性改善には平均 BO数 nを下げることそして OP

を上げることが重要であることが明白であった

Nb5+の添加は平均 BO数を減少させるだけでなくOP も上げることからガラス構造内

の P-O-P 結合を減少させる故に水和反応加水分解反応が抑制され耐水性が大幅に

改善された故にNb2O5 のような高価数金属酸化物を添加することが効果的であること

が示唆された

参考文献

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46

Fig 31 SP ガラスのラマンスペクトル

47

Fig 32 Sn-Nb-P ガラスのラマンスペクトル

48

Fig 33 SNP ガラスのラマンスペクトル

49

Fig 34 SZP ガラスのラマンスペクトル

50

Fig 35 FP ガラスのラマンスペクトル

51

Fig 36 ラマンスペクトルのピーク分離例(67S5N28P)

Raman Shift (cm-1)

52

Fig 37 NMRスペクトル

Table 31 NMR およびラマン分光より得られた SP 67S5N28P ガラスの

Qn分布および平均 BO数 n

53

Table 32 各ガラスのラマンスペクトルより求めた Qn分布結果

(表の赤線より右側の結果は Table 22 より)

1 仕込み組成による数値

2 Fig 2212 に示した析出物を取り除いた後の数値

54

Fig 38 DR と平均 BO数 nの関係性

55

Fig 39 重量減と平均 BO数 nの関係性

56

Fig 310 OP と平均 BO数 nの関係性

Meta

Pyro

Ortho

57

第 4章 放射光を用いたスズリン酸塩系ガラスの構造解析

41 緒言

前章の第 3 章にてラマン分光法を用いて SP 系ガラスの構造解析により Qn分布を導き

出したことで耐水性と構造の関係についてある程度関連性を導くことができたリン

酸アニオンについてはQ0(orthophosphate)構造 gt Q

1(pyrophosphate)構造 gt Q2

(metaphosphate)構造の順で良耐水性となるしかしSn Nbおよび Znの局所構造につ

いては知見が得られていないラマン分光や IR分光などの分光学的手法を用いてSnや

Nb Zn の周辺の局所構造を知るには限界があるまたガラスの構造解析を行う上で非常

に重要な因子である中距離構造の評価には分光学的手法は不向きである[1]

そこで局所構造や中距離構造を知るために有効な手法として放射光線を用いた構造

解析がある放射光(SR 光)とはシンクロトロンなどの加速器で高速に加速された電子

が進行方向を磁場によって変えられた際に放射する電磁波である[2]エネルギーが高く

(短波長)輝度が高い特性を有している日本国内では兵庫県佐用町の SPring-8や茨城

県つくば市の高エネルギー加速器研究機構佐賀県鳥栖市の佐賀県立九州シンクロトロン

光研究センターなど複数個所に放射光施設が設置されている

放射光を用いたガラスの構造解析には一般的に高エネルギーX 線回折(High Energy

X-ray diffraction HEXRD)が用いられるこの回折実験から高い散乱ベクトル Q(= 4π sinθλ)

まで回折データが得られる多種類の原子から構成される物質の場合はFaber-Ziman 型[3]

の構造因子 S(Q)を用いる以下の式に示すようにFaber-Ziman 型構造因子 S(Q)は同種また

は異種の原子による相関の重み関数付の和として示される例として SiO2ガラスで説明す

ると構造因子 S(Q)は三種類の原子付の S(Q)の重み付の和として表されていることが分か

I(Q) 散乱断面積 ltgt 原子一個当たりの平均値 f(Q) 原子散乱因子 W 重み関数

通常の研究室で使用される X 線回折(XRD)装置で用いられる特性 X 線はCuKα線(λ

= 0154 nm 81 keV)が最も良く用いられより高いエネルギーの X 線が必要な場合は

MoKα線(λ = 0071 nm 175 keV)が使用される一方でSPring-8のビームライン BL04B2

で行われる高エネルギーX 線回折(HEXRD)測定で使用される SR のエネルギーは378 keV

58

~ が使用可能である[2]従ってガラス以外の液体のような非晶質物質にも非常に精度

よく構造解析が行われている[4]

また局所構造解析の一つに X線異常散乱法という測定方法がある[5 6]これは通常

の X 線回折実験では分離不可能な特定元素に関連する部分構造因子(散乱強度曲線)を得

ることができる手法である今回 HEXRD の測定時に使用したエネルギー614 keV では各元

素の異常散乱項のエネルギー依存性は確認されない(Fig 41)その一方でFig 42に示す

Sn の吸収端付近の 292 keV付近ではSnの異常分散項のエネルギー依存性が確認できる

つまりSnの吸収端近傍より低エネルギー(E)側の異なるエネルギーの X線(E1 E2)を

使って散乱強度を測定し各 E における異常分散項(f`)の変化(つまり高い E1 から低い

E2 の散乱強度の差分)を利用して Snに関する部分構造因子を求める構造解析が AXS 法で

あるこの測定法は古くから知られている方法ではあるが装置の測定条件や設備の問

題からなどから使用があまり普及していなかった[5 6]近年になり金属ガラスの構造解

析について徐々に報告が出てきており今後注目される測定法である

HEXRD および AXS 法などから得られたデータ実測の構造因子 S(Q)は一次元の限られ

た構造情報であるためガラスなどの非晶質物質の中距離構造を解明するためにはこれ

らのデータを基に三次元構造を求める必要がある三次元構造モデルの作成には逆モンテ

カルロ(RMC)シミュレーションを使用することが有効である[7]このシミュレーション

は任意で決めたシミュレーションボックス内の粒子をランダムに動かすことで実測の

構造因子 S(Q)を再現する三次元構造モデルを構築する方法である

SP ガラスについては分光学的手法について数多く報告があるが放射光を用いた回折

法はほとんど適用されていないそこで本研究では HEXRD および AXS 法を用いた構造

解析を行うことでSn Nb周りの構造を解明すると共にSNP ガラスの耐水性改善のメカ

ニズムについて考察したまたAXS 法の有効性についても検討した測定を行ったガラ

スはSP ガラスおよび最も耐水性の高かった 67S5N28P を選択した

42 実験方法

421 HEXRD AXS法

HEXRDはSPring-8のビームライン BL04B2 で測定を行ったエネルギー614 keV の X

線を用いた測定サンプルの厚みは09 mm (plusmn0005 mm)になるまで研磨を行った

AXS 測定はSPring-8のビームライン BL13XUを使用した(Fig 43)それぞれの測定し

た X 線のエネルギーについて以下に示す

①Sn K吸収端hellip292 keV near edgehellip291452 keV (-60 eV) far edgehellip289751 keV (-230 eV)

②Nb K吸収端hellip1899 keV near edgehellip189562 keV (-30 eV) far edgehellip187863 keV (-230 eV)

測定に使用したサンプルの厚さが015 - 030 mmとなるまで研磨を施した

SP ガラスについて50S50P 60S40P 67S33P の三組成のガラスを測定した70S30P に関

59

しては測定を試みたが放射光照射によって結晶化してしまいガラス部分の正確な構

造因子を得るための強度補正ができず解析を断念した

422 RMCのモデリング

Table 41 に RMC の各種パラメーターを示す粒子数は約 5000 個でそれに伴う boxの一

辺の長さは約 42 ~ 46 Ǻになった拘束条件にP の配位数が 4になるような条件を付け

加えたFig 44にSn2P2O7結晶および Sn3P2O8結晶の動径分布関数(RDF)をTable 32

にRDFから得られた第一近接距離[8 9] を示すこれらの数値を使用しcutoffを決定し

たNb-O についてはいくつかの文献値を参考にした[10 11]

各ガラスの RMCのモデリングは①HEXRDから得られた S(Q)のみ②S(Q)および AXS

から得られた部分構造因子を加えた場合でそれぞれ計算した

43 結果考察

最初にNbの AXSから得られたデータについて解析を試みたが妥当な構造モデルが得

られなかったためSnの AXSのみで解析を進めたNb2O5の量が 5 molと少量であったた

めあまり精度の高いデータが得られなかったと推測される

431 実測の HEXRDおよび AXSの結果

4311 実測 HEXRDの S(Q)

Fig 45 に実測HEXRDの S(Q)を示す四つの組成ともに実測HEXRDの S(Q)が得られ

Nb2O5添加の 67S5N28P ガラスでは Low Q 側に変化が確認された

4312 実測散乱強度曲線

Fig 46 に Snの散乱強度曲線を示す(a) の 67S33P のこの曲線からはfar edgeおよび

near edge のエネルギー間で差分が見られエネルギーの依存性が確認された50S50P

67S5N28P のガラスについても同じように差分が確認されたが(b)の 60S40P についてのみ

他とは若干異なる結果(緑丸)であったためRMC の構造解析には差分の構造因子ではな

くfar edge near edge 二つの構造因子を用いた

4313 全相関関数 T(r)

Fig 47 に全相関関数 T(r) を示すHEXRD から得られたものを実線でSnの AXS から

得られたものは点線で示し組成ごとに重ねて表示した図中に各ピークについて帰属し

ているがSnの T(r)からはSn-O Sn-P Sn-Snのみのピークを確認した

432 RMCの計算結果および考察

60

構造モデルの一例として67S5N28P ガラスの得られた構造モデルをFig 48に示す水

色の多面体 unitSnON 黄色の多面体 unitPO4 ピンクの多面体 unitNbONである以下

詳細な構造解析の結果および考察を記す

4321 RMCのフィッティング結果

RMCのフィッティング結果の一例として67S33P の HEXRD と Snの AXS の構造因子か

ら得た結果を示す(Fig 49)二つの構造因子を加えて計算した結果においてもHEXRD

の S(Q) AXS の S(Q)に各々に対する良好なフィッティング結果が得られた他の組成も

同様なフィッティング結果が得られた

4322得られた各 pairの平均配位数平均角度平均結合距離

RMCの結果によって得られた各 pairの平均配位数平均角度平均結合距離を Tables 43

に示す上段が HEXRD の S(Q)のみ下段が HEXRD に Sn の AXS の部分構造因子を加え

て結果である最下部は比較のためにSn2P2O7の情報を記載した[8]

P-O pairについてRMCモデル中の PON多面体に関して平均配位数 Nが 4および P-O

の平均結合距離が約 160Å平均結合角度angO-P-O が約 109degという結果が得られた組成

による大きな違いは確認されなかったのはP の配位数が 4になるように拘束条件をかけた

結果であると考えられるSnON多面体についてはSnO量の増加 = OP の増加であり平

均配位数 Nが 3 ~ 35へ増加した平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約

22Åで組成による大きな変化はほとんど見られなかったNb2O5を 5 mol添加したガラ

スではNbON多面体の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平均配位数 N約 4Nb-O 平均結

合距離約 20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O(約 105deg)と値が近いこと

また6配位ではなく 4配位として主に存在していることからSnO と同じような働きをし

ていると推測される

以上の結果からNb2O5添加の耐水性改善の要因として結合距離が Sn-O が約 22Åに対

し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強固にして

いることも一つの要因として考えられる

また67S5N28P ガラスの各多面体モデルを確認すると(Fig 410)P は PO4Snは SnO4

と SnO3Nbは NbO4をそれぞれ再現している

4323得られた各 pairの結合様式

RMC の結果により得られた各 pair の結合様式を Tables 44 に示す上段が HEXRD の

S(Q)のみ下段が HEXRDに Snの AXS の部分構造因子を加えた結果である最下部は比

較のためにSn2P2O7の情報を記載した[8]

結合様式に関してはPO4四面体は他の多面体も含めてほぼ頂点共有で存在している

SnON多面体についてはSnO 量が少ない配位数が 3 に近い場合頂点共有以外の共有の

61

割合も多くSnO 量が増えるにつれて頂点共有が主になり網目形成体として振舞ってい

ると考えられる組成によって平均結合距離や平均角度の大きな変化が見られなかったこ

とから平均配位数が結合様式を決める重要なファクターであるということも考えられる

またHEXRD と AXS 法の結果がほぼ同じであったこれは主成分が SnO のガラスであ

るためHEXRDでも十分に詳細な構造が得られたため大きな変化が現れなかったと考え

られるNbON 多面体はPO4 四面体と SnON 多面体とはほぼ頂点共有で繋がっている以

上の結果よりSnO量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体的に各多面体同士の

頂点共有が増えていることから耐水性の改善には頂点共有を多く含む構造であること

が重要である或いは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的となって

いるということが推測されるFig 411に 67S5N28P ガラスの構造モデルを示す各多面

体はほぼ頂点共有で繋がっていることが確認できる

4324 平均 BO数の比較

Tables 45にNMR Raman RMC(HEXRD) RMC(HEXRD + AXS)の平均BO数を示すRMC

から得られた平均 BO 数 nはNMR Raman と同様に Nb2O5の添加による大幅な減少が確認

されたしかしNMR Raman と比較すると全組成において数値が大きすぎで適当でない

50S50P の構造モデルを観るとPO4四面体間で3配位 O の存在が確認された(Fig 412)た

め実測で得られた n値を再現できるようなPO4四面体モデル間の繋がり方に関する拘束条

件を加えて RMCを計算する必要性があるまた仮に3配位 Oの存在があるとすると電

子状態の変化が生じていることがと示唆されるため分子軌道計算を用いて電子状態解析

を行い確認する必要がある

4325 耐水性の改善について

Nb2O5を添加のガラス構造への影響について①6配位ではなく 4配位として主に存在し

ていることからSnO と同じような働きをしていると推測される②結合距離が Sn-O が約

22Åに対し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強

固にしている③ガラス構造中で全体的に各多面体同士の頂点共有が増えている以上の

ことが判明した以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性

耐候性を改善した要因として考えられる

44 結言

本章では分光学的手法では評価できないガラスの中距離構造局所構造について理解

するために放射光を用いた構造解析を実施しSP ガラスの構造と耐水性改善について考

察したHEXRDおよび AXS法を用いて測定を行い得られたデータを RMCシミュレーシ

ョンにて解析を行った

解析の結果 Sn-O pair については平均配位数 Nが 3 ~ 35でSnO量の増加 = OP の増

62

加に伴い高くなった平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約 22Åであ

ったP-O Sn-Oについては組成による大きな変化はほとんど見られなかった67S5N28P

ガラスの Nb-O pair の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平均配位数約 4Nb-O 平均結合距

離約 20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O(約 105deg)と値が近いことま

た6配位ではなく 4配位として主に存在していることからSnOと同じような働き(網目

形成体)をしていると推測されるまた結合距離が Sn-O が約 22Åに対し Nb-O は約 20

Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強固にしていると言える

SnO 量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体的に各多面体同士の頂点共有が増え

ていることから耐水性の改善には頂点共有を多く含む構造であることが重要である

もしくは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的であることが推測さ

れる以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性耐候性を

改善した要因として考えられる

またAXS 法の有効性についても確認し効果的であることが判明したただし今回

は主成分が Sn の組成のガラスでありHEXRD でも十分に詳細な構造が得られたため

大きな差は現れなかった

参考文献

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63

Fig 41 各原子の異常分散項のエネルギー依存性

Fig 42 Sn の異常分散項のエネルギー依存性

64

Fig 43 SPring-8の BL13XU

65

Tab

le 4

1

RM

Cの各パラメーター

66

Fig 44 Sn2P2O7 Sn3P2O8結晶の RDF

Table 42 Sn2P2O7 Sn3P2O8結晶の各 pairの第一近接距離

67

Fig 45 得られた実測 HEXRDの S(Q)

68

Fig 46 Sn の異常散乱測定により得られた散乱強度のエネルギー依存性

(a)67S33P (b)60S40P

69

Fig 47 全相関関数 T(r)

太線 HEXRD より

細線 Sn の AXSより

70

Fig 48 67S5N28P ガラス構造のモデル

71

Fig 49 RMC フィッティングの結果

72

Tab

le 4

3 各

pairの平均配位数角度結合距離

73

Fig

4

10

67

S5

N2

8Pガラスの各多面体モデル

74

Tab

le 4

4 各

pairの結合様式

75

Fig 411 67S5N28P ガラスの構造モデル

76

Table 45 平均 BO 各数 nの比較

Fig 412 50S50P ガラスの構造モデル

77

第 5章 総括

本研究ではSP ガラスを対象とした本研究では鉛フリー代替ガラスまたは希土類フ

リー蛍光体として SP ガラスの新規高機能化を将来的に目指し問題点であるldquo化学的耐久

性rdquoの改善につながる知見を得ることを目的としたそこでまずSP ガラスを母体ガラ

スとし第三成分に Nb2O5を添加した Sn-Nb-P SNP ガラスZnO を添加した SZP ガラスを

作製し耐水性を中心とした物性評価を行った次に分光学的手法で構造解析を行い

Qn 分布を導き出した最後に放射光を用いた構造解析を行い耐水性改善に関する構造的

な考察を行った以下に本研究で行った検討内容を示す

(1)SPガラスおよび第三成分Nb2O5 ZnOを添加した三成分系SPガラスの物性評価(第 2章)

(2)SP 系ガラスの分光学的手法による Qn分布導出(第 3章)

(3)放射光を用いた SP 系ガラスの構造解析構造と耐水性改善の関連について(第 4章)

各章についてまとめた結果を以下に示す

第 2章

第 2章では二成分系および三成分系のリン酸塩系ガラスの各種物性(密度や熱的特性

耐水性)の評価を行った二成分系ではSP ガラスに加え良好な耐水性を有する鉄リン

酸塩(Fe2O3-P2O5)系ガラス(以下 FP ガラス)を比較のために三成分系では二成分系

の SP ガラスに Nb2O5を添加したニオブ含有 SP ガラス(SNP ガラス)および ZnO を添加し

た亜鉛含有 SP ガラス(SZP ガラス)を作製した

今回作製した SP 系ガラスは低ガラス転移温度を有していた各組成の温度域はSP

ガラスTg le 280 Sn-Nb-P SNPガラスTg le 3505SZP S5ZPガラスTg ≦ 450であった

各種 SP ガラスの耐水性試験の結果二成分系の SP ガラスよりも三成分系ガラスの方が

良好な耐水性を有していた65Sn-5Nb-30P 67S5N28P ガラスが最も耐水性が良好であり化

学的耐久性の改善には Nb2O5が ZnOよりも効果的であった

組成と耐水性に関してはDRおよび重量減がOP増加で単調に低下した結果が得られた

つまり耐水性を改善させるにはSP 系ガラスのガラス化範囲を拡大かつ OP を増大させ

る第三成分の添加が有効であることが示唆された

第 3章

第 3章ではSP 系ガラスの分光学的手法による Qn分布の導出を行ったラマン分光法を

用いて各ガラス系のリン酸塩アニオンの構造を簡易定量で評価し組成と構造の関係に

ついて考察した平均 BO 数 n と耐水性に関してはDR および重量減が平均 BO 数 nの減

少で単調に低下することが明らかとなった

平均 BO 数 n と OP の関係より耐水性改善には平均 BO 数 n を下げることそして

OP を上げることが重要であることが明らかになった

78

Nb5+の添加は平均 BO数を減少させるだけでなくOP も上げることからガラス構造

内の P-O-P 結合を減少させ水和反応加水分解反応が抑制され耐水性が大幅に改善さ

れることが示唆された故にNb2O5 のような高価数金属酸化物を添加することが効果的

であることが再度確認された

第 4章

耐水性向上についてより深く評価するためSP SNP ガラスの局所構造に関する知見を得

ることを目的に放射光を用いた構造解析を行った高エネルギーX 線回折(HEXRD)お

よび X 線異常散乱(AXS)法で測定したデータを再現する構造モデルを逆モンテカルロ

(RMC)シミュレーションで構築し構造解析を行った

RMC モデル中の PON多面体に関して平均配位数 Nが 4および P-O の平均結合距離が約

160Å平均結合角度angO-P-Oが約 109degという結果が得られた組成による大きな違いは確

認されなかったSnON多面体については平均配位数 N が 3~4 でSnO 量の増加に伴い 4

に近い値となった平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約 22Åで組成

による大きな変化は見られなかった

Nb2O5を 5 mol添加したガラスではNbON多面体の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平

均配位数N約4Nb-O平均結合距離約20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O

(約 105deg)と値が近いことまた6配位ではなく 4配位として主に存在していることから

SnO と同じような網目形成体として働いていると推測されたまた結合距離が Sn-O が約

22Åに対し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強

固にしていると考えられるまたSnO 量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体

的に各多面体同士の頂点共有が増えていることから耐水性の改善には頂点共有を多く

含む構造もしくは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的であること

が示唆された以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性

耐候性を改善した要因として考えられる

またAXS 法の有効性についても確認し効果的であることが判明したただし今回

は主成分が Snの組成のガラスでありHEXRD でも十分に詳細な Snの周辺構造が得られ

たためAXSを利用した場合との大きな構造の差は認められなかった

本研究では様々な優れた特徴を有する SP ガラスにおける耐水性改善のメカニズムにつ

いて検討を行ったこの系のガラスについてはこれまでほとんど利用されていなかった

放射光を用いた構造解析を駆使し第三成分の添加によってどのような構造的変化が生じ

耐水性を改善させるか新たな知見を得ることができた最終目標である機能性ガラスの

開発における新たなる材料設計指針の確立に対してldquo耐水性rdquoに関しては概ね明らかにな

ったと考えられる一方で今回検討していな電子状態化学結合性についても評価する

ことで溶出メカニズムの解明が可能になり材料設計指針の確立が期待される

79

発表論文リスト

口頭発表

第 2章および第 3章

(1) SnO-P2O5 系ガラスへの酸化物添加効果

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎

日本セラミックス協会第 25 回秋季シンポジウム No3C06 (名古屋市 2012年 9月)

(2) Effect of Nb2O5 addition to SnO-P2O5 glass (Poster)

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

International Union of Materials Research Societies International Conference on Electronic

Materials IUMRS-ICEM 2012 A-9-P26-003 (Yokohama 2012 年 9月)

(3) スズリン酸塩系ガラスの蛍光特性耐水性に及ばす酸化物の添加効果(ポスター)

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎

日本セラミックス協会 2013 年年会 1P070 (東京 2013年 3月)

第 4章

(1) 放射光を用いたスズリン酸塩ガラスの構造解析

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎小原真二臼杵毅

日本セラミックス協会第 27 回秋季シンポジウム 2B22 (鹿児島市 2014年 9 月)

(2) Structural analysis of tin phosphate glasses by synchrotron radiation (Poster)

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba Shinji Kohara Takeshi Usuki

International Congress on Glass ICG Annual Meeting Bangkok 2015 P14-138 p186 (2015)

発表論文

(1) Effect of Nb2O5 addition to SnO- P2O5 glass

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

Journal of the Ceramic Society of Japan Vol 120 No 11 pp530-533 (2012)

(2) Structural analysis of SnO- P2O5 glass

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

Journal of the Ceramic Society of Japan(準備中)

80

謝辞

本研究を遂行するにあたり終始暖かいご指導ご助言並びにご鞭撻を賜わりました岡

山大学大学院環境生命科学研究科 難波徳郎教授に心より感謝の意を表します

また本研究を遂行するにあたり懇切丁寧なご指導とご意見をしていただいた岡山大

学大学院環境生命科学研究科 紅野安彦准教授環境環理センター 崎田真一助教に心より

感謝いたします

本研究を遂行するにあたりラマン分光測定の使用についてご助言ご教授して頂い

た岡山大学自然科学研究科 藤井達生教授中西真助教に心より感謝の意を表します

Sn のメスバウアー測定の際に協力して頂いた岡山大学自然科学研究科先端自然科学教

育研究推進本部高田研究室 松本修治特任助教(当時旭硝子株式会社中央研究所)また

Feのメスバウアーを測定の際に協力して頂いた岡山大学自然科学研究科 藤井達生教授に

心より感謝の意を表します

固体 NMR の岡山大学自然科学研究科 早川聡教授に心より感謝の意を表します

本研究を遂行するにあたりSPring-8 にてHEXRD および AXS 法の測定法および原理

についてご教示頂きました物質材料研究機構 小原真司博士ならびに山形大学 臼杵毅

教授に心より感謝の意を表します

本研究は多くの後輩諸君の協力によって遂行されました特に実際に共同研究共同

実験を遂行して頂いたOG 藤原沙弥香さん博士前期課程 2 年 東利彦君OB 徳岡太誠

君学士課程 4年 塩田将大君に心より感謝の意を表しますまた難波研究室で共に研

究生活を過ごした卒業生在学生の方々に感謝の意を表します

また同時期に博士後期課程に在籍された香川高等専門学校の桟敷剛さんにはNbに

関する有益な情報だけでなく辛い状況でも励ましを頂きました心より感謝の意を表し

ます

最後に長きに渡る学生生活を認め経済面だけでなく精神面でも支援してくださった

家族に心より深く感謝の意を表します

平成 28年 3月

福井 聡史

Page 10: 博士論文 スズリン酸塩系ガラスの物性と構造解析ousar.lib.okayama-u.ac.jp/files/public/5/54353/...博士論文 スズリン酸塩系ガラスの物性と構造解析

7

Fig 11 鉛含有ガラスの一例クリスタルガラス

転載ペアワイングラスltボナールgtカガミクリスタル株式会社

Fig 12 鉛含有ガラスの一例放射線遮蔽用ガラス

転載放射線遮蔽用ガラス LX-57B電気硝子建材株式会社

8

Fig 13 リン酸塩ガラスの Qn構造とその組成 [11]より転載

9

Fig 14 リン酸塩ガラスの溶出メカニズム模式図加水分解反応

10

Fig 15 リン酸塩ガラスの溶出メカニズム模式図水和反応 [21]より転載

11

Fig 16 アルミナ含有リン酸塩ガラスの構造

Fig 17 鉄リン酸塩ガラスの構造 [27]より転載

P

O

O

OO Al

O

O

O P

O

O

O Al

O

O

O P

O

O

O

12

Fig 18 ガラスの侵食機構(耐候性)[1]より転載

13

第 2章 スズリン酸塩系ガラスの物性評価

21 緒言

前章で述べたようにスズリン酸塩(SP)系ガラスは無色透明高透過率低ガラス

転移温度など工業的に興味深い特徴を有することが知られている[1]またSn2+が ns

2型の

発光中心となり紫外線照射による白色蛍光を示すことから希土類フリー白色蛍光体とし

ての研究も数多くなされている[2 3]

しかし実用化に向けてはこの系のガラスについてもリン酸塩系ガラスに特有のldquo耐

水性rdquoldquo耐候性rdquoの低さが問題となる[4]この問題点を解決するために第三成分として他

の化合物を加えることが有効でありSP ガラスにおいてはB2O3や ZnO SiO2 MgO MnO

など様々な物質を第三成分として添加した研究報告[5 - 9]があったりNH3雰囲気下で数日

間溶融作製することでガラスを一部窒化することで耐水性を改善させたりという報

告もある[10]SP ガラスに限定しないリン酸塩系ガラスではZnO-P2O5 系ガラスに Sb2O3

や MoO3を添加した報告[11 12]や Na2O-P2O5系ガラスに CuO を加えた報告[13]P2O5-CaO-

Na2O に Ag2Oを添加した報告[14]Na2O-K2O-CaO-P2O5ガラスの一部を窒化することによる

方法[15]等があり数多くのリン酸塩系ガラスの耐水性改善に関する研究がなされている

本研究では高価数金属酸化物および低価数金属酸化物の二種類をそれぞれ第三成分と

して添加した高価数金属酸化物には Nb2O5を低価数金属酸化物には ZnO の二種類の酸

化物を選択した

Nb2O5は古くから光学ガラスの成分として頻繁に使われる物質であり様々な企業から数

多くの特許が出されている[16 17]また耐水性の改善に有効であるとの報告や比較的低

温でもガラス作製ができることが知られており(当然のことながら組成に影響される)

鉛フリーの封着ガラスとしての研究もなされているZnO についてはこれ自体は無着色

成分であるため無色透明なガラスが得られることから光学ガラスの成分に用いられる

ほとんどの組成で低融点ガラスとなり[18 19]これらの特性からSnO-ZnO-P2O5(SZP)

系ガラスは Sn2+を発光中心とした蛍光体の研究対象となっていることが多くSP 系ガラス

では一般的なガラス系である

本章では第三成分を含まない SP ガラスおよび Nb2O5または ZnOを SP ガラスに添加し

た三成分系ガラスをそれぞれ作製し耐水性試験を中心とした各種物性評価を行った比

較対象に耐水性の優れることで知られる鉄リン酸塩系ガラスも同時に作製することでSP

系ガラスへ添加したそれぞれの第三成分の耐水性に対する有効性を検討した

22 実験方法

221 ガラスの組成選択

本研究において作製した SP ガラスは以下の五種類の系列を選択した

14

① スズリン酸塩ガラス(xSnO∙(100-x)P2O5 x = 50 60 67 70 mol)

(略称 SP ガラス組成は 50S50P と表記)

② ニオブ含有 SP ガラス(65SnO∙xNbO25∙(35-x)P2O5 x = 0 1 2 3 4 5 mol)

(略称 Sn-Nb-P ガラス組成は 65S-0Nb-35P と表記)

③ ニオブ含有 SP ガラス(xSnO∙5Nb2O5∙(95-x)P2O5 x = 50 60 67 mol)

(略称 SNP ガラス組成は 50S5N45P と表記)

④ 亜鉛含有 SP ガラス (S5ZP ガラス)(xSnO∙5ZnO∙(95-x)P2O5 x = 55 62 65 mol)

(略称 S5ZP ガラス組成は 55S5Z40P と表記)

⑤ 亜鉛含有 SP ガラス (5SZP ガラス)(5SnO∙xZnO∙(95-x)P2O5 x = 55 62 65 mol)

(略称 5SZP ガラス組成は 5S55Z40P と表記)

(④と⑤は総じて SZP ガラスと表記する場合がある)

それぞれの選択理由はガラス化範囲(各ガラス系のガラス化範囲を Fig 21および Fig

23 に示す)作製の容易さ(気泡の入りにくさ流し出しやすさ)等を考慮し決定した

組成ごとに詳細な選択理由を述べると

②についてNb を P と置換した組成であるFig 22 に示した溶融温度 1100で作製した

Sn-Nb-P ガラスの外観写真より目視でも明らかに透明性の高く着色量の少ない組成は(d)

の 65Sn-5Nb-30P でありこの外観写真を参考に組成を決定したSnO 量を 65 molに固定

しNbO25量を 5 molから 0 mol(Nb無添加組成)まで減少させた組成(Fig 21 の緑線

の組成)を選択しこのガラス系の物性の変化を確認した

③はNb2O5量を 5 molに固定しSn を P と置換した組成であるNb と P は酸化数が

同じ 5価であるためこの組成では同じ SnO量の二成分系 SP ガラスと比較した際酸素

の総量に変化が生じない(例えば67S33P と 67S5N28P)またNb5+イオンはガラス中

では4配位および6配位を取るという報告が多い(結晶の場合他の配位数を取る)た

め配位数が4の P5+の置換に適していると考えた

④⑤に関しては気泡のrdquo入りづらいrdquoもしくはrdquo入らないrdquoSnOおよび ZnOが各 5 molにな

る組成を選択したSZP ガラスはFig 23 に示すガラス化範囲のようにガラス化範囲は

非常に広範囲であるしかし気泡が入りやすく脈理のようなものも見られる組成が多く

目視ですら不均質なガラス組成がほとんどであった(これらの組成も粉末にして XRD を測

定するとガラスであった)そのためバルク体でガラスを得られることが困難な組成も多

い(Fig 24 にその一例の SZP ガラスを示す)そこで第三成分の添加量を可能な限り少

ない組成を選択することでバルク体で目視上ldquo均質rdquoなガラスを得た(Fig 23 の青線と

紫線の組成)

また上述したように耐水性の比較対象である鉄リン酸塩ガラスを二成分系で作製し

15

た(FP ガラス)組成はxFe2O3∙(100-x)P2O5 x = 20 25 30 35 40 mol を作製した

222 ガラス作製

Figs 25 - 27に各ガラス系の作製フローチャートを示す出発試薬にSnO NH4H2PO4

Nb2O5 ZnO を使用し各々秤量した秤量混合後アルミナ坩堝に入れか焼(仮焼き)

を行ったか焼条件はSP Sn-Nb-P SNP SZP ガラスは350または 400 6-30 minFP ガ

ラスは600 30 min で行った溶融温度および溶融時間はSP ガラス1100 30 min

Sn-Nb-P ガラス1100 30 minSNP ガラス1000または 1250 20 min SZP ガラス

1100-1200 30 min 各々N2雰囲気下で作製したN2雰囲気下で行った理由はSn2+が Sn

4+

にほとんど酸化されてしまうとガラスが得られなくなるためSn2+の酸化を防ぐ目的がある

[19]FP ガラスは1200 - 1550 30 min大気雰囲気下の条件で作製した溶融後350

に温めておいたスチールモールドに流してプレスした後FP ガラス以外はガラス転移温度

Tg付近でアニールを 1 h行い目的のガラスを得た耐水性試験用のガラス形状はダイヤモ

ンドカッターで大まかに整えた後鏡面研磨まで施して型取ったここでFP ガラスのみ

アニール工程を省いた理由はSP ガラス等はアニールをして歪みを取らなければ正確に

切断できない場合が生じた一方でFP ガラスはアニールをせずとも十分正確にカットで

きたためアニール工程を省いたまた50S50P のみ厚みが必要になると必ず気泡が入

ってしまうため耐水性試験では気泡の入ったものを使用した

223 物性評価

得られたガラスの物性の比較を行うために以下に示す分析を行った

(1)ガラス状態の確認

作製したガラスが結晶の混在していないものかを確認するためにまた耐水性試験

後のガラスが結晶化しているかの確認のためにX 線回折装置(XRD Rigaku RINT-2100)

を用いて分析した全てバルク体で測定したが耐水性試験後ではバルク状態が保てな

いものもあったためその試料については粉末で測定した

(2)組成分析Sn Fe 価数分析

得られたガラスについてアルミナ坩堝の使用によるアルミナのガラスへの混入および

それに伴う組成ズレの確認のために走査型蛍光 X 線分析装置(XRF Rigaku ZSX Primus

Ⅱ)を使用し組成分析を行った分析はバルク体で定性分析法にて測定した

またSn が二価のままどのくらい存在しているかを調べるために Sn-Nb-P ガラスを用い

てSnの価数分析をメスバウアー分光法にて行ったSnの測定は reference [20]に示す旭硝

子の公開特許に記載されている方法で行ったFP ガラスについても価数変化を調べるた

めにメスバウアー分光法にて Feの価数分析を行ったFeの測定は(株)トポロジック

システムズ MDF-200)を用いて評価を行った

16

(3) 密度(ρ)およびガラス転移温度(Tg)評価

各ガラスの密度(ρ)測定はケロシンを用いたアルキメデス法で測定したガラス転

移温度(Tg)を評価するために示差熱―熱重量測定装置(SDT TA instrument Japan Q600)

を用いたアルミナパンを使用し測定条件はN2雰囲気下 10 Kmin 700までの温度範

囲にて行った

(4)耐水性試験

各ガラスの耐水性について評価するために耐水性試験をMCC-1法[21]にて測定した(Fig

28)条件は75 72h ガラスサイズ 12times10times02 cm (plusmn01 cm) 蒸留水の pH は 72-77

で行い浸漬後サンプルを乾かして重量を量った溶出速度(Dissolution Rate DR)は重

量減(ΔW) サンプル表面積(S) 浸漬時間(t)から以下の式によって算出した[22]

DR = ΔW (kg) S (m2) t (s)

また浸漬前と 72 h 後の重量減()も合わせて算出した

23 結果考察

231 組成分析 Snおよび Feの価数評価

Table 21に各試料の組成分析結果を示すまずアルミナ Al2O3の量を見るとガラスに

混入した量がほとんどの組成で 25 mol以下で多くても 35 molを下回る量であった

そのため各種特性についてアルミナの影響はほとんどないと考えられる[23 24]組成

によってその量に差があるのは溶融温度の違いによることに起因している組成分析の

結果今回作製したガラスは仕込み組成と大きな差がないと判断した

Fig 29に Sn-Nb-P ガラスの Snのメスバウアースペクトルをそこから得られたメスバウ

アーパラメーターを Table 22に示す得られた結果よりSn-Nb-P ガラスでは95以上の

割合で Sn2+のまま存在していることが分かった不活性雰囲気で作製したことP2O5 の出

発原料に NH4H2PO4を使用したことにより(か焼は行なっているが)還元雰囲気になったた

めSn4+にほとんど酸化されることがなかったといえるこの結果SP 系ガラスではほぼ

Sn2+のまま存在していると仮定した

Fig 210に FP ガラスの FeのメスバウアースペクトルをTable 23 にそこから得られたメ

スバウアーパラメーターを示すFP ガラスについては組成に関わらず酸化還元平衡に

より 20 ~ 30が Fe2+になりまたFe2O3 ge 30 molの際化学的にも安定であることが知

られている[27]実際にFe2O3 ge 30 molの際Fe2+は概ね 20 ~ 30存在している結果が得

られた一方でFe2O3 lt 30 molの際はFe2+が 40以上と高い割合で存在していることが

判明したこれは出発原料の NH4H2PO4の多量使用によること溶融温度が 1550と高

いことが要因で還元がより進行したためと予想される

17

232 ρおよび Tg

Table 24にρおよび Tgの結果を示す二つの特性結果はそれぞれのガラス系において

SnO や Nb2O5ZnO といった金属酸化物が増えるにつれて大きくなっているSP Sn-Nb-P

SNP S5ZP 系ガラスの Tgはほとんどが 300前後であり最も高い温度でも67S5N28P

の 346であった一方5SZP 系ガラスは400~440となり他のガラス系と比較する

と若干高い温度となったそれでも今回作製した第三成分を添加したガラスは低 Tgを有

するガラスであると判断できSP ガラスの特性を維持できたと判断できる

60S5N28P と 62S5Z30P のようなほぼ同じ OP を示すもので比較した際にNb2O5添加が

ZnO 添加よりも Tgが高くなったのは①配位数が同配位数になり得るイオンの場合(例え

ば Nb5+と Zn

2+なら4配位など)ポーリングの第 2 法則[25]より高価数イオンの方が結合

強度が強くなる②diatomic cationの解離エネルギーがNb-O (688plusmn11 kJmol)[26]に対しZn-O

(1611plusmn48 kJmol)[26]と大きな差があるため Nb-Oの結合が強い故に熱的に安定化され

Tgが高くなったと考えられる

233 耐水性試験前後の外観写真

Figs 211 - 216に各ガラスの耐水性試験前後の外観写真を示すFig 211 の SP ガラスを

観察するとSnO 量の少ない 50S50P 60S40P は浸漬時間が経過するにつれて元々の形状

が崩壊したりガラス自体が膨張したような状態になったりしたSnO 量の多い 67S33P

70S30P について形状は崩れることはないが透明性が失われる(白ヤケ)耐候性が低いこ

とが確認できるFig 212 に示す Sn-Nb-P ガラスではNb2O5無添加の 65S-0Nb-35P は浸漬

時間 24 h で透明性が失われているがNbO25量の増加させていくと徐々に透明性が回復

しており4 mol添加した 65Sn-4Nb-31P では72 h後においてもほとんど変化が確認でき

ないNbの添加量を変えた Fig 213に示す SNP ガラスではSP ガラスと同様に SnO 量の

少ない 50S5N45P は時間経過と共にガラス全体にldquoひびrdquoのようなものが見え72 hの実

験終了後最終的にテフロン糸を外す段階で簡単に割れたしかし50S50P や 60S40P と比

較すると耐水性が大幅に良くなったまた60S5N35P 67S5N28P は耐水性が良好なこと

だけでなく耐候性についても向上していることが目視で判断できる一方で二種類の

SZP ガラス(Figs 214 215)を観るとP2O5量の少ない 5S55Z40P および 55S5Z40P では

形状が崩れるか析出物が現れる結果となったこの組成よりP2O5 量を減少させるとSP

ガラスと同じように形状は崩れないが透明性が若干失われる結果となった

Fig 216 に比較対象の FP ガラスの耐水性試験前後の写真を示すこの組成ではFe2O3

量の少ない20F80Pにおいても形状が全く崩れない結果が得られたしかしFe2O3 lt 30 mol

の組成において表面に干渉色のような反射光が若干確認できたこれはおそらく青ヤ

ケが発生したためであると考えられる

18

234 耐水性試験前後の構造変化

Figs 217 - 222に各ガラスの耐水性試験前後の XRDパターンを示す耐水性試験前では

ガラス化を全組成で確認した(Figs 217(a) - 222(a))しかし耐水性試験後における外観

写真で形状の崩れたもしくは析出物の得られたガラス組成では結晶が生成したことが

確認された形状の崩れた三組成のうち50S50P 60S40P ガラス(Fig 2214(b))では三

種類の結晶ピーク(SnP2O7 Sn2P2O7 Sn3(PO4)2)が確認でき5S55Z40P については(Fig

2214(b))結晶同定の判断はできなかったが ZnOの多い組成であるためおそらくリン酸

亜鉛の何れかの結晶だと推測された析出物が得られた 55S5Z40P はガラス matrix部と析

出物に分けて測定したところガラス matrix 部はガラスのままであり析出物は SnP2O7

Sn2P2O7の二種類の結晶ピークが確認できたガラス形状に変化がなかったその他の組成は

ガラス状態が保たれていたSn4+の結晶のピークが確認されたのは50S50P のガラスには

気泡が残っておりその気泡から酸化されたかもともと溶融工程で電気炉内に残って

いた酸素によってSn4+に酸化されたか等が考えられる

235 溶出速度(DR)および重量減

Table 24に DR重量減の結果および仕込み組成から計算した OP を示すSP SNP S5ZP

ガラスではSnO 量の増加に伴いSnO量の固定された Sn-Nb-P 5SZP ガラス系ではそれ

ぞれの金属酸化物の増加に伴いDR重量減は減少傾向にあったFP ガラスでは全組成

において DR 重量減共に変化が全く確認されなかったそのため青ヤケのようなものが

確認された FP ガラス(Fe2O3 lt 30 mol)については電子天秤では変化が見られない程度

の重量減であったと推測される二種類の SZP ガラスで比較するとSnOと ZnO量が入れ

替わってもほぼ誤差範囲内と思われる結果が得られたガラス全体の比較では外観写真

で変化が見られなかった FP ガラスと 65S5N28P 65Sn-5Nb-30P のガラスが DR重量減がと

もにゼロという結果が得られた

組成と DR 重量減の関係性を見るために作成した図をFigs 223(DRと OP の関係性)

224(Fig 224に重量減と OP の関係性)に示すそれぞれの図にリン酸塩の三つの構造

の OP も表記した双方の図よりDR 重量減共に OP が増加することで単調に下がって

いることが分かるこの結果はリン酸塩の構造ではorthophosphate 組成で耐水性良好が

あるため[22]一般的な結果と同じ挙動であるまた耐水性の良かったNb2O5添加の SNP

ガラスは異なる挙動(傾き)が得られた

以上の結果より第三成分添加による耐水性の改善を確認し特に Nb2O5 の添加による

影響は大きいことが判明したまたOP の増加による耐水性が改善する結果が得られた

次章の第 3 章にて各ガラス系の構造解析を行い第三成分特に Nb2O5の耐水性への有

効性について調査した

19

24 結言

本章ではSP ガラスおよび第三成分の Nb2O5 ZnOを添加した SP ガラスの物性評価を行

うことで耐水性改善への第三成分添加の有効性を確認した各々の物性について以下に

まとめる

低ガラス転移温度を有する SP ガラスは最も SnO 量が高い 70S30P でも Tg le 280であ

ったNb2O5を添加した Sn-Nb-P SNP ガラスではTgの上昇は見られたが Tg le 350

ZnOを添加した 5SZP S5ZP ガラスではTg ≦ 450であり両金属酸化物の添加でも低

ガラス転移温度を維持しているガラスが得られたNb2O5 添加が Tg を上昇させたのはポ

ーリングの第 2法則より高価数イオンの方が結合強度が高くなるためと結論付けた

耐水性試験結果の外観写真を観るとSP ガラスの SnO 量 le 60 mol 5SZP ガラスおよび

S5ZP ガラスの P2O5量 = 40 molの組成についてガラスサンプルの形状が大きく変化して

おりDR 重量減も高く耐水性の低さが明らかであった得られた析出物はSnP2O7

Sn2P2O7 Sn3(PO4)2 および亜鉛リン酸結晶の一種であると予想されたその他の組成では

透明性の失われた組成がいくつかあったが外観写真では変化が見られなかった FP ガラス

と 65S5N28P 65Sn-5Nb-30P のガラスが DR重量減がともにゼロという結果が得られた

組成と耐水性に関してはDRおよび重量減がOP増加で単調に低下した結果が得られた

つまり耐水性を改善させる有効な手段はSP 系ガラスのガラス化範囲を拡大かつ OP を

増大させる第三成分の添加によることであることが示唆された

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[27] 天本一平 明珍宗孝 福井寿樹 NEW GLASS 22 [2] 21-26 (2002)

21

Fig 21 三成分系 SnO-NbO25-P2O5 系のガラス化範囲

Fig 22 作製した Sn-Nb-P ガラス

(a)50Sn-5Nb-45P (b)55Sn-5Nb-40P (c)60Sn-5Nb-35P

(d)65Sn-5Nb-30P (e)70Sn-5Nb-25P (f)60Sn-10Nb-30P

(g)55Sn-20Nb-25P (h)60Sn-15Nb-25P (i)65Sn-10Nb-25P

22

Fig 23 三成分系 SnO-ZnO-P2O5系のガラス化範囲

Fig 24 作製した SZP ガラスの一例

(気泡や脈理のようなものが確認できた組成)

23

Fig 25 SP SZP ガラスの作製フローチャート

Fig 26 Sn-Nb-P SNP ガラスの作製フローチャート

(気泡や脈理のようなものが確認できた組成)

24

Fig 27 FP ガラスの作製フローチャート

Fig 28 耐水性試験(MCC-1法)

25

Table 21 各ガラスの組成分析結果

26

Fig 29 Sn-Nb-P ガラスのメスバウアースペクトル

Table 22 Sn-Nb-P ガラスのメスバウアーパラメーター

27

Fig 210 FP ガラスのメスバウアースペクトル

Table 23 FP ガラスのメスバウアーパラメーター

28

Table 24 各ガラスの物性(密度(ρ)ガラス転移温度(Tg)溶出速度(DR)重量減())

29

Fig 211 SP ガラスの耐水性試験前後の外観写真

Fig 212 Sn-Nb-P ガラスの耐水性試験前後の外観写真

30

Fig 213 SNP ガラスの耐水性試験前後の外観写真

Fig 214 S5ZP ガラスの耐水性試験前後の外観写真

Fig 215 5SZP ガラスの耐水性試験前後の外観写真

31

Fig 216 FP ガラスの耐水性試験前後の外観写真

32

Fig 217 SP ガラスの XRD パターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

33

Fig 218 Sn-Nb-P ガラスの XRD パターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

34

Fig 219 SNP ガラスの XRD パターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

35

Fig 220 5SZP ガラスの XRDパターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

36

Fig 221 S5ZP ガラスの XRDパターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

37

Fig 222 FP ガラスの XRD パターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

38

Fig 223 各ガラス系の DR と OP の関係性

39

Fig 224 各ガラス系の重量減と OP の関係性

40

第 3章 分光法を用いたスズリン酸塩系ガラスの構造解析

31 緒言

前章ではSP ガラスおよび第三成分に Nb2O5 ZnOを添加した Sn-Nb-P ガラスSNP ガラ

スSZP ガラスの物性特に耐水性に関する第三成分添加の有効性を明らかにしたその添

加した第三成分の二種類についてもNb2O5 の方が ZnO よりも溶出速度重量減ともに抑

制することができSP ガラスの低ガラス転移温度という特性も維持されていることが判明

したしかし現段階では本研究の主要な物性である耐水性改善の要因が明確になって

いない組成の観点からはOP の値が高い組成が良好な耐水性であることが分かったが

組成だけでは耐水性改善のメカニズムについて完全には理解できないここでリン酸塩

ガラスの溶出のメカニズムは第 1 章で述べたように加水分解反応と水和反応が要因とな

る[1 2]この機構はそれぞれリン酸の構造つまり架橋酸素 BO の数が大きく関わって

おりリン酸アニオンの[PO4]ユニットの架橋酸素数を知ることが重要であるこの BO の

情報を得るためにはガラス構造を示す指標の一つである Qn(n は[PO4]ユニット中の架橋

酸素数を表す)を調べることが必須であるまたQn の分布を調べるためにはガラスの

構造解析を行う必要性がある

ガラスの構造解析には種々の方法があり特にラマン分光法や赤外(IR)分光法核

磁気共鳴法(NMR)などの分光学的手法を用いた構造解析の報告が多い[3-5]ラマン分光

法および IR分光法は原理は異なるがどちらも結合の振動モードを測定する手法であり[6]

リン酸塩ガラスだけでなくケイ酸塩ガラスホウ酸塩ガラスなど様々なガラス系にて測

定がなされている[7 8]また得られた結合状態の情報からリン酸塩アニオンの Qn分布

を調べることも可能であるNMR は共鳴吸収ピークの化学シフト(共鳴周波数のズレ)

から構造を決定する手法であるガラスの場合SiO2や B2O3 P2O5といった網目形成酸化物

の Qn分布を得るために一般的に使用されている手法である[9]

今回これらの測定の中でラマン分光法を選択し構造解析を行ったラマン分光法は

測定する際にサンプル形状を気にすることなく基本的にそのまま測定できるためIR 分

光法のようにサンプル形状で測定方法を変える必要はないまたIR 分光法では例えば

KBr 錠剤法やヌジュール法のように測定を行うためのサンプル調整に手間がかかる場合が

ある[6]さらに比較対象の FP ガラスではNMR を測定できないため作製ガラスを全

て比較検討できるようにラマン分光法を選択した

本章ではラマン分光法を用いて各ガラスの構造解析を行い[PO4]ユニットの Qn分布を

調査し平均 BO数 nを算出することで耐水性と構造の関係性を検討したまたラマン

分光法によって得られた Qn分布の妥当性を確認するためにSP ガラスおよび 67S5N28P ガ

ラスの NMRを測定も行い比較した

32 実験方法

41

321 サンプル準備

ラマン分光およびメスバウアー分光の測定では第 2 章で作製した各ガラスのバルク体

を用いたWD試験に使用したサンプルとは別にラマン測定用のサンプルを用意した適

度な大きさ大体 15 cm角程度のサイズになるようにガラスカッターで切断しその後

十分な平滑性を得るために鏡面研磨を施した

322 ラマン分光測定

使用したラマン分光装置は顕微レーザーラマン分光装置(Jasco NRS-5100)を用いた

用いたレーザー波長は 53208 nmであり400 - 2000 cm-1の範囲で測定した

Qn 分布を導くためにピークフィッティングを行いリン酸塩アニオンのラマンバンド

が現れる950 - 1250 cm-1付近および 700 - 750cm-付近の範囲で定量した

323 31P MAS NMR測定

31P MAS NMRの測定は Varian NMR System 500 を用いて32 mmの MASプローブ

202309MHzにて行った測定パラメーターを以下に示すπ4 パルス長さ 14 μs 待ち時間

(pulse delay)10 s 積算回数 3600 scan シリンダー円筒形状の Zrローターの回転スピード

160 kHz referenceとして二番目の基準物質として使われる NH4H2PO4を使用化学シフト

は85 H3PO4溶液から δ = 10 ppmである

33 結果考察

331 各ガラス系のラマンスペクトル

Figs 31 - 35にラマンスペクトルを示す各ピークは以下の通りに帰属し各スペクト

ル中に該当する構造をピーク位置に示した

1230 - 1260 cm-1 P=O NBO Q

2 [10]

1110 - 1150 cm-1metaphosphate (PO3)

- Q

2 [10]

1030 - 1100 cm-1pyrophosphate (PO35)

2- Q

1 [10]

970 - 1000 cm-1orthophosphate (PO4)

3- Q

0 [10]

920 - 930 cm-1asymmetric (P-O-P) Q

1 [10]

730 - 750 cm-1symmetric (P-O-P) Q

1 [10]

710 - 720 cm-1asymmetric (P-O-P) Q

2 [10]

810 - 820 cm-1Nb-O [NbO4] tetrahedron [11]

900 - 920 cm-1Nb-O isolated [NbO6] octahedron [11]

42

SP ガラスのラマンスペクトル(Fig 31)を見ると50S50P 60S40P ではmetaphosphate

の Q2 構造が支配的であるがSnO 量が増えるにつれてその構造が変化し70S30P では

pyrophosphateの Q1構造と orthophosphateの Q

0構造が共存した構造となっているまたSnO

量の少ない 50S50P および 60S40P において確認されたQ2構造の P=O のピークが見えなく

なっているつまり耐水性と関連して考えるとSnO量が増えるにつれてP-O-P 結合か

ら Sn-O-P 結合に代わり水分子との反応である加水分解反応を妨げる構造に変化している

ことがわかる

Figs 32 33にNb2O5を添加した Sn-Nb-P ガラスおよび SNP ガラスのラマンスペクトル

を示すまずSn-Nb-P ガラスについてNb 無添加の 65Sn-0Nb-35P は主に Q1構造であ

りNbO25が添加されることによってQ0構造に変化しQ

1 Q

0構造が共存しているような

ピークが得られた添加量が少ないガラス系であるため徐々に変化しているのを確認し

た800 cm-1を少し越えた 810 - 820 cm

-1付近にNb2O5を添加することでピークが現れそ

して添加量を増量することで強度が強まるピークがありこのピークは四面体の[NbO4]

のものと判断した

SNP ガラスのラマンスペクトルについてはNb2O5添加量を固定した組成であるためSP

ガラスのような挙動が観察された50S50N45P では50S50P ガラスと同じようにQ2構造

が主な構造でありSnO量の増加に伴って60S5N35P Q1構造67S5N28P Q

0構造に支配

的な構造が変化しているこれはSP ガラスと同じ傾向を示しているためP-O-P rarr Sn-O-P

に置き替わっていることが示唆されるNb-O に関するピークでは50S5N45P のみ[NbO4]

四面体のピークを確認できず900 - 920 cm-1付近に[NbO6]八面体のピークが確認された

SnO量が増量した 60S5N35P では810 cm-1付近の [NbO4] 四面体のピークが現れているが

[NbO6]八面体のピークと 900 - 920 cm-1付近の Q

1構造のピークが非常に近い(ほぼ重なって

いる)ことから60S5N35P については[NbO4] 四面体および[NbO6]八面体の共存の可能性

も考えられるまた67S5NP28 では[NbO4] 四面体のみのピークが観察されたためこ

の Nb-O の配位数変化は[PO4] unitの状態によって変化している可能性も示唆された

ZnO を添加した S5ZP ガラスおよび 5SZP ガラスのラマンスペクトルを Fig 34 に示す

図の下部三つが S5ZP ガラス上部三つが 5SZP ガラスのスペクトルであるSZP ガラスの

二系統を比べるとあきらかなスペクトルの違いが確認された各ガラス系で確認すると

SnO 量が最小の 55S5Z40P はQ2構造と Q

1構造の範囲に跨っているようなスペクトルが得

られた62S5Z33P および 65S5Z30P のスペクトルからはどちらもほぼ Q1構造であると判

断した5SZP のスペクトルは1000 - 1250 cm-1付近の範囲で裾を引くような(なだらかな)

スペクトルが得られたZnO 量が最小の 5S55Z40P にはQ2構造が主な構造に見えるが

shoulderピークのような Q1構造(1030 - 1100 cm

-1)が確認できる5S62Z40P においては

1000 - 1250 cm-1付近の範囲まで幅広いスペクトルが得られた730 - 750 cm

-1付近にピーク

が現れているためおそらく Q1構造が最も多く存在していると考えられる65S5Z30P では

Q1構造Q

0構造が共存しているようなピークが得られた

43

FP ガラスのラマンスペクトルを Fig 35 に示すFe量の少ない 20F80P 25F75P と他の三

つで構造が異なっていることである20F80P 25F75P はQ2構造と Q

1構造が基本構造にな

っていると判断できる 30F70P は1110 - 1150 cm-1付近に shoulderピークのようなものがあ

りQ2 Q

1 Q

0構造が共存しているようなスペクトルであった35F65P 40F60P はQ1構造

が主な構造でQ0構造があると判断した

332 平均 BO数 n (Qn分布)

まずピーク分離について散乱断面積が見積もれなかったためラマンの散乱強度比

を Qn分布として簡易的にピーク分離を行い(Fig 36)そこから平均架橋酸素数 BO 数 n

を算出したここでFig 37 に 31P MAS NMRスペクトルを示しTable 31に NMRおよび

ラマン分光より得られた平均 BO 数 n を示す(NMR の帰属 reference [12])表よりNMR

とラマンから得られた Qn分布はほぼ一致していることが分かった60S40Pについては支

配構造が NMR(Q1) ラマン(Q

2)で逆になったこれは60S40P の組成がQ

2と Q1のほぼ中

間の組成になるためこのようなズレが生じたと考えられるしかし今回のラマンによ

る Qn分布の算出についてはほぼ問題ないと判断した

Table 32にラマンスペクトルより求めた Qn分布平均 BO 数 nをを示しTable 24に示

した DR 重量減の結果を併記する

SP ガラスのうち耐水性が低いガラスは Q2構造によって形成されているSnO量の増加

によって NBOの増加とともに耐水性の向上が確認できSnOが入ることでSn-O-P 結合を

形成し水分子からの攻撃を受けにくくなっていることが考えられる

Sn-Nb-P ガラスでは基本的に Q1構造が主構造でNb2O5の添加が増えるにつれQ

0構

造が支配的になり耐水性は次第に向上していく最も耐水性のよかった 65S-5Nb-30P は

Q0構造での割合が非常に高く平均 BO数 n値が 03であった

SNP ガラスではP2O5量が多い組成の 50S5N45Pにおいても平均 BO数 nが 60S40P と

同じながらも耐水性が良くなっている67S5N28P はほぼ完全に Q0構造であり平均 Q

n

値は 0となった

SZP ガラスについてはS5ZP 5ZSP のどちらの系列についても耐水性の結果に大きな差

というものは確認されなかったが構造的にも平均 BO数 nが 09 10 17という結果であ

った

FP ガラスについてはFe2O3 lt 30 molのときは平均 BO 数 nが20 19と高い数値を

示したが耐水性は非常に良好であったこの結果より組成だけでなく構造的にも耐

水性高くなる要因が不明である一つの原因の可能性としてメスバウアーより得られた

Fe2+の存在比が 40以上と高かったことがFe2O3含有量が少ない組成時には効果的になっ

ているのかもしれない

333 平均 BO数 nと耐水性の関係性

44

Fig 38に DRと平均 BO数 nの関係性についてFig 39に重量減と平均 BO数 nの関係

性をそれぞれ示すまたOP の時と同様に各図にリン酸塩の三つの構造の平均 BO数

n も表記した双方の図よりDR 重量減共に平均 BO 数 nが低下することで単調に下がっ

ていることが分かるまた耐水性の良かったNb2O5添加の Sn-Nb-P SNPガラスはの DR

の挙動(傾き)はOP 時とも異なった挙動が得られた

Fig 310に OP と平均 BO数 nの関係を示す図中に示す茶色metaphosphate 黄色

pyrophosphate 灰色orthophosphate であるこの図から耐水性改善には平均 BO 数

n を下げOP を上げることが重要であるのが分かるまたNb5+の添加はOP を上げる

だけでなく平均 BO 数も減少させることから非常に効果的な成分であることが明らかで

あるこれはP5+から同酸価数 Nb

5+に少量でも置き換えることで平均 BO 数 n を下げ

OP を上げることを可能としている(実際に orthophosphate の OP4 よりも高い OP でガ

ラスが作製できている)つまりNb5+の添加によって P-O-P 結合が減少し水和反応加

水分解反応が抑制されているからである

以上の結果SP 系ガラスの耐水性改善には低い平均 BO 数と高い OP の組成にするこ

とが重要でNb2O5の添加は非常に効果的であることが分かったその一方でガラス中の

詳細な構造的要因についてははっきりしていないため次章の第 4 章にてさらに詳し

い構造解析を行い耐水性改善の要因について調査を行った

34 結言

本章ではラマン分光を使用して各ガラス系のリン酸塩アニオンの構造を簡易定量で

評価し組成と構造の関係について考察した

平均 BO 数 n と耐水性に関してはDR および重量減が平均 BO 数 n の減少で単調に低下

した結果が得られた

平均 BO数 nと OP の図より耐水性改善には平均 BO数 nを下げることそして OP

を上げることが重要であることが明白であった

Nb5+の添加は平均 BO数を減少させるだけでなくOP も上げることからガラス構造内

の P-O-P 結合を減少させる故に水和反応加水分解反応が抑制され耐水性が大幅に

改善された故にNb2O5 のような高価数金属酸化物を添加することが効果的であること

が示唆された

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46

Fig 31 SP ガラスのラマンスペクトル

47

Fig 32 Sn-Nb-P ガラスのラマンスペクトル

48

Fig 33 SNP ガラスのラマンスペクトル

49

Fig 34 SZP ガラスのラマンスペクトル

50

Fig 35 FP ガラスのラマンスペクトル

51

Fig 36 ラマンスペクトルのピーク分離例(67S5N28P)

Raman Shift (cm-1)

52

Fig 37 NMRスペクトル

Table 31 NMR およびラマン分光より得られた SP 67S5N28P ガラスの

Qn分布および平均 BO数 n

53

Table 32 各ガラスのラマンスペクトルより求めた Qn分布結果

(表の赤線より右側の結果は Table 22 より)

1 仕込み組成による数値

2 Fig 2212 に示した析出物を取り除いた後の数値

54

Fig 38 DR と平均 BO数 nの関係性

55

Fig 39 重量減と平均 BO数 nの関係性

56

Fig 310 OP と平均 BO数 nの関係性

Meta

Pyro

Ortho

57

第 4章 放射光を用いたスズリン酸塩系ガラスの構造解析

41 緒言

前章の第 3 章にてラマン分光法を用いて SP 系ガラスの構造解析により Qn分布を導き

出したことで耐水性と構造の関係についてある程度関連性を導くことができたリン

酸アニオンについてはQ0(orthophosphate)構造 gt Q

1(pyrophosphate)構造 gt Q2

(metaphosphate)構造の順で良耐水性となるしかしSn Nbおよび Znの局所構造につ

いては知見が得られていないラマン分光や IR分光などの分光学的手法を用いてSnや

Nb Zn の周辺の局所構造を知るには限界があるまたガラスの構造解析を行う上で非常

に重要な因子である中距離構造の評価には分光学的手法は不向きである[1]

そこで局所構造や中距離構造を知るために有効な手法として放射光線を用いた構造

解析がある放射光(SR 光)とはシンクロトロンなどの加速器で高速に加速された電子

が進行方向を磁場によって変えられた際に放射する電磁波である[2]エネルギーが高く

(短波長)輝度が高い特性を有している日本国内では兵庫県佐用町の SPring-8や茨城

県つくば市の高エネルギー加速器研究機構佐賀県鳥栖市の佐賀県立九州シンクロトロン

光研究センターなど複数個所に放射光施設が設置されている

放射光を用いたガラスの構造解析には一般的に高エネルギーX 線回折(High Energy

X-ray diffraction HEXRD)が用いられるこの回折実験から高い散乱ベクトル Q(= 4π sinθλ)

まで回折データが得られる多種類の原子から構成される物質の場合はFaber-Ziman 型[3]

の構造因子 S(Q)を用いる以下の式に示すようにFaber-Ziman 型構造因子 S(Q)は同種また

は異種の原子による相関の重み関数付の和として示される例として SiO2ガラスで説明す

ると構造因子 S(Q)は三種類の原子付の S(Q)の重み付の和として表されていることが分か

I(Q) 散乱断面積 ltgt 原子一個当たりの平均値 f(Q) 原子散乱因子 W 重み関数

通常の研究室で使用される X 線回折(XRD)装置で用いられる特性 X 線はCuKα線(λ

= 0154 nm 81 keV)が最も良く用いられより高いエネルギーの X 線が必要な場合は

MoKα線(λ = 0071 nm 175 keV)が使用される一方でSPring-8のビームライン BL04B2

で行われる高エネルギーX 線回折(HEXRD)測定で使用される SR のエネルギーは378 keV

58

~ が使用可能である[2]従ってガラス以外の液体のような非晶質物質にも非常に精度

よく構造解析が行われている[4]

また局所構造解析の一つに X線異常散乱法という測定方法がある[5 6]これは通常

の X 線回折実験では分離不可能な特定元素に関連する部分構造因子(散乱強度曲線)を得

ることができる手法である今回 HEXRD の測定時に使用したエネルギー614 keV では各元

素の異常散乱項のエネルギー依存性は確認されない(Fig 41)その一方でFig 42に示す

Sn の吸収端付近の 292 keV付近ではSnの異常分散項のエネルギー依存性が確認できる

つまりSnの吸収端近傍より低エネルギー(E)側の異なるエネルギーの X線(E1 E2)を

使って散乱強度を測定し各 E における異常分散項(f`)の変化(つまり高い E1 から低い

E2 の散乱強度の差分)を利用して Snに関する部分構造因子を求める構造解析が AXS 法で

あるこの測定法は古くから知られている方法ではあるが装置の測定条件や設備の問

題からなどから使用があまり普及していなかった[5 6]近年になり金属ガラスの構造解

析について徐々に報告が出てきており今後注目される測定法である

HEXRD および AXS 法などから得られたデータ実測の構造因子 S(Q)は一次元の限られ

た構造情報であるためガラスなどの非晶質物質の中距離構造を解明するためにはこれ

らのデータを基に三次元構造を求める必要がある三次元構造モデルの作成には逆モンテ

カルロ(RMC)シミュレーションを使用することが有効である[7]このシミュレーション

は任意で決めたシミュレーションボックス内の粒子をランダムに動かすことで実測の

構造因子 S(Q)を再現する三次元構造モデルを構築する方法である

SP ガラスについては分光学的手法について数多く報告があるが放射光を用いた回折

法はほとんど適用されていないそこで本研究では HEXRD および AXS 法を用いた構造

解析を行うことでSn Nb周りの構造を解明すると共にSNP ガラスの耐水性改善のメカ

ニズムについて考察したまたAXS 法の有効性についても検討した測定を行ったガラ

スはSP ガラスおよび最も耐水性の高かった 67S5N28P を選択した

42 実験方法

421 HEXRD AXS法

HEXRDはSPring-8のビームライン BL04B2 で測定を行ったエネルギー614 keV の X

線を用いた測定サンプルの厚みは09 mm (plusmn0005 mm)になるまで研磨を行った

AXS 測定はSPring-8のビームライン BL13XUを使用した(Fig 43)それぞれの測定し

た X 線のエネルギーについて以下に示す

①Sn K吸収端hellip292 keV near edgehellip291452 keV (-60 eV) far edgehellip289751 keV (-230 eV)

②Nb K吸収端hellip1899 keV near edgehellip189562 keV (-30 eV) far edgehellip187863 keV (-230 eV)

測定に使用したサンプルの厚さが015 - 030 mmとなるまで研磨を施した

SP ガラスについて50S50P 60S40P 67S33P の三組成のガラスを測定した70S30P に関

59

しては測定を試みたが放射光照射によって結晶化してしまいガラス部分の正確な構

造因子を得るための強度補正ができず解析を断念した

422 RMCのモデリング

Table 41 に RMC の各種パラメーターを示す粒子数は約 5000 個でそれに伴う boxの一

辺の長さは約 42 ~ 46 Ǻになった拘束条件にP の配位数が 4になるような条件を付け

加えたFig 44にSn2P2O7結晶および Sn3P2O8結晶の動径分布関数(RDF)をTable 32

にRDFから得られた第一近接距離[8 9] を示すこれらの数値を使用しcutoffを決定し

たNb-O についてはいくつかの文献値を参考にした[10 11]

各ガラスの RMCのモデリングは①HEXRDから得られた S(Q)のみ②S(Q)および AXS

から得られた部分構造因子を加えた場合でそれぞれ計算した

43 結果考察

最初にNbの AXSから得られたデータについて解析を試みたが妥当な構造モデルが得

られなかったためSnの AXSのみで解析を進めたNb2O5の量が 5 molと少量であったた

めあまり精度の高いデータが得られなかったと推測される

431 実測の HEXRDおよび AXSの結果

4311 実測 HEXRDの S(Q)

Fig 45 に実測HEXRDの S(Q)を示す四つの組成ともに実測HEXRDの S(Q)が得られ

Nb2O5添加の 67S5N28P ガラスでは Low Q 側に変化が確認された

4312 実測散乱強度曲線

Fig 46 に Snの散乱強度曲線を示す(a) の 67S33P のこの曲線からはfar edgeおよび

near edge のエネルギー間で差分が見られエネルギーの依存性が確認された50S50P

67S5N28P のガラスについても同じように差分が確認されたが(b)の 60S40P についてのみ

他とは若干異なる結果(緑丸)であったためRMC の構造解析には差分の構造因子ではな

くfar edge near edge 二つの構造因子を用いた

4313 全相関関数 T(r)

Fig 47 に全相関関数 T(r) を示すHEXRD から得られたものを実線でSnの AXS から

得られたものは点線で示し組成ごとに重ねて表示した図中に各ピークについて帰属し

ているがSnの T(r)からはSn-O Sn-P Sn-Snのみのピークを確認した

432 RMCの計算結果および考察

60

構造モデルの一例として67S5N28P ガラスの得られた構造モデルをFig 48に示す水

色の多面体 unitSnON 黄色の多面体 unitPO4 ピンクの多面体 unitNbONである以下

詳細な構造解析の結果および考察を記す

4321 RMCのフィッティング結果

RMCのフィッティング結果の一例として67S33P の HEXRD と Snの AXS の構造因子か

ら得た結果を示す(Fig 49)二つの構造因子を加えて計算した結果においてもHEXRD

の S(Q) AXS の S(Q)に各々に対する良好なフィッティング結果が得られた他の組成も

同様なフィッティング結果が得られた

4322得られた各 pairの平均配位数平均角度平均結合距離

RMCの結果によって得られた各 pairの平均配位数平均角度平均結合距離を Tables 43

に示す上段が HEXRD の S(Q)のみ下段が HEXRD に Sn の AXS の部分構造因子を加え

て結果である最下部は比較のためにSn2P2O7の情報を記載した[8]

P-O pairについてRMCモデル中の PON多面体に関して平均配位数 Nが 4および P-O

の平均結合距離が約 160Å平均結合角度angO-P-O が約 109degという結果が得られた組成

による大きな違いは確認されなかったのはP の配位数が 4になるように拘束条件をかけた

結果であると考えられるSnON多面体についてはSnO量の増加 = OP の増加であり平

均配位数 Nが 3 ~ 35へ増加した平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約

22Åで組成による大きな変化はほとんど見られなかったNb2O5を 5 mol添加したガラ

スではNbON多面体の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平均配位数 N約 4Nb-O 平均結

合距離約 20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O(約 105deg)と値が近いこと

また6配位ではなく 4配位として主に存在していることからSnO と同じような働きをし

ていると推測される

以上の結果からNb2O5添加の耐水性改善の要因として結合距離が Sn-O が約 22Åに対

し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強固にして

いることも一つの要因として考えられる

また67S5N28P ガラスの各多面体モデルを確認すると(Fig 410)P は PO4Snは SnO4

と SnO3Nbは NbO4をそれぞれ再現している

4323得られた各 pairの結合様式

RMC の結果により得られた各 pair の結合様式を Tables 44 に示す上段が HEXRD の

S(Q)のみ下段が HEXRDに Snの AXS の部分構造因子を加えた結果である最下部は比

較のためにSn2P2O7の情報を記載した[8]

結合様式に関してはPO4四面体は他の多面体も含めてほぼ頂点共有で存在している

SnON多面体についてはSnO 量が少ない配位数が 3 に近い場合頂点共有以外の共有の

61

割合も多くSnO 量が増えるにつれて頂点共有が主になり網目形成体として振舞ってい

ると考えられる組成によって平均結合距離や平均角度の大きな変化が見られなかったこ

とから平均配位数が結合様式を決める重要なファクターであるということも考えられる

またHEXRD と AXS 法の結果がほぼ同じであったこれは主成分が SnO のガラスであ

るためHEXRDでも十分に詳細な構造が得られたため大きな変化が現れなかったと考え

られるNbON 多面体はPO4 四面体と SnON 多面体とはほぼ頂点共有で繋がっている以

上の結果よりSnO量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体的に各多面体同士の

頂点共有が増えていることから耐水性の改善には頂点共有を多く含む構造であること

が重要である或いは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的となって

いるということが推測されるFig 411に 67S5N28P ガラスの構造モデルを示す各多面

体はほぼ頂点共有で繋がっていることが確認できる

4324 平均 BO数の比較

Tables 45にNMR Raman RMC(HEXRD) RMC(HEXRD + AXS)の平均BO数を示すRMC

から得られた平均 BO 数 nはNMR Raman と同様に Nb2O5の添加による大幅な減少が確認

されたしかしNMR Raman と比較すると全組成において数値が大きすぎで適当でない

50S50P の構造モデルを観るとPO4四面体間で3配位 O の存在が確認された(Fig 412)た

め実測で得られた n値を再現できるようなPO4四面体モデル間の繋がり方に関する拘束条

件を加えて RMCを計算する必要性があるまた仮に3配位 Oの存在があるとすると電

子状態の変化が生じていることがと示唆されるため分子軌道計算を用いて電子状態解析

を行い確認する必要がある

4325 耐水性の改善について

Nb2O5を添加のガラス構造への影響について①6配位ではなく 4配位として主に存在し

ていることからSnO と同じような働きをしていると推測される②結合距離が Sn-O が約

22Åに対し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強

固にしている③ガラス構造中で全体的に各多面体同士の頂点共有が増えている以上の

ことが判明した以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性

耐候性を改善した要因として考えられる

44 結言

本章では分光学的手法では評価できないガラスの中距離構造局所構造について理解

するために放射光を用いた構造解析を実施しSP ガラスの構造と耐水性改善について考

察したHEXRDおよび AXS法を用いて測定を行い得られたデータを RMCシミュレーシ

ョンにて解析を行った

解析の結果 Sn-O pair については平均配位数 Nが 3 ~ 35でSnO量の増加 = OP の増

62

加に伴い高くなった平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約 22Åであ

ったP-O Sn-Oについては組成による大きな変化はほとんど見られなかった67S5N28P

ガラスの Nb-O pair の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平均配位数約 4Nb-O 平均結合距

離約 20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O(約 105deg)と値が近いことま

た6配位ではなく 4配位として主に存在していることからSnOと同じような働き(網目

形成体)をしていると推測されるまた結合距離が Sn-O が約 22Åに対し Nb-O は約 20

Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強固にしていると言える

SnO 量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体的に各多面体同士の頂点共有が増え

ていることから耐水性の改善には頂点共有を多く含む構造であることが重要である

もしくは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的であることが推測さ

れる以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性耐候性を

改善した要因として考えられる

またAXS 法の有効性についても確認し効果的であることが判明したただし今回

は主成分が Sn の組成のガラスでありHEXRD でも十分に詳細な構造が得られたため

大きな差は現れなかった

参考文献

[1] 山根正之 安井至 和田正道 国分可紀 寺井良平 近藤敬 小川晋永編ガラス光学ハ

ンドブック 朝倉書店(1999)

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[4] 小原真司 鈴谷健太郎 放射光 14 [5] 365-375 (2001)

[5] 早稲田嘉夫 齋藤正敏 放射光 10 [3] 299-315 (1997)

[6] 細川伸也 広島工業大学紀要研究編 46 197-204 (2012)

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[8] V V Chernaya A S Mitiaev P S Chizhov E V Dikarev R V Shpanchenko E V Antipov

MV Korolenko and PB Fabritchinyi J Chem Mater 17 284-290 (2005)

[9] M Mathew L W Schroeder and T H Jordan Acta Cryst B33 1812-1816 (1977)

[10] J S Taylar and M P Cohs J Am Ceram Solids 109 [9] 2834-2835 (1987)

[11] D Munoz-Martin A Ruiz de La Cruz J M Fernandez-Navarro C Domingo J Solis and J

Gonzalo J appl Phys 110 023522 (2011)

63

Fig 41 各原子の異常分散項のエネルギー依存性

Fig 42 Sn の異常分散項のエネルギー依存性

64

Fig 43 SPring-8の BL13XU

65

Tab

le 4

1

RM

Cの各パラメーター

66

Fig 44 Sn2P2O7 Sn3P2O8結晶の RDF

Table 42 Sn2P2O7 Sn3P2O8結晶の各 pairの第一近接距離

67

Fig 45 得られた実測 HEXRDの S(Q)

68

Fig 46 Sn の異常散乱測定により得られた散乱強度のエネルギー依存性

(a)67S33P (b)60S40P

69

Fig 47 全相関関数 T(r)

太線 HEXRD より

細線 Sn の AXSより

70

Fig 48 67S5N28P ガラス構造のモデル

71

Fig 49 RMC フィッティングの結果

72

Tab

le 4

3 各

pairの平均配位数角度結合距離

73

Fig

4

10

67

S5

N2

8Pガラスの各多面体モデル

74

Tab

le 4

4 各

pairの結合様式

75

Fig 411 67S5N28P ガラスの構造モデル

76

Table 45 平均 BO 各数 nの比較

Fig 412 50S50P ガラスの構造モデル

77

第 5章 総括

本研究ではSP ガラスを対象とした本研究では鉛フリー代替ガラスまたは希土類フ

リー蛍光体として SP ガラスの新規高機能化を将来的に目指し問題点であるldquo化学的耐久

性rdquoの改善につながる知見を得ることを目的としたそこでまずSP ガラスを母体ガラ

スとし第三成分に Nb2O5を添加した Sn-Nb-P SNP ガラスZnO を添加した SZP ガラスを

作製し耐水性を中心とした物性評価を行った次に分光学的手法で構造解析を行い

Qn 分布を導き出した最後に放射光を用いた構造解析を行い耐水性改善に関する構造的

な考察を行った以下に本研究で行った検討内容を示す

(1)SPガラスおよび第三成分Nb2O5 ZnOを添加した三成分系SPガラスの物性評価(第 2章)

(2)SP 系ガラスの分光学的手法による Qn分布導出(第 3章)

(3)放射光を用いた SP 系ガラスの構造解析構造と耐水性改善の関連について(第 4章)

各章についてまとめた結果を以下に示す

第 2章

第 2章では二成分系および三成分系のリン酸塩系ガラスの各種物性(密度や熱的特性

耐水性)の評価を行った二成分系ではSP ガラスに加え良好な耐水性を有する鉄リン

酸塩(Fe2O3-P2O5)系ガラス(以下 FP ガラス)を比較のために三成分系では二成分系

の SP ガラスに Nb2O5を添加したニオブ含有 SP ガラス(SNP ガラス)および ZnO を添加し

た亜鉛含有 SP ガラス(SZP ガラス)を作製した

今回作製した SP 系ガラスは低ガラス転移温度を有していた各組成の温度域はSP

ガラスTg le 280 Sn-Nb-P SNPガラスTg le 3505SZP S5ZPガラスTg ≦ 450であった

各種 SP ガラスの耐水性試験の結果二成分系の SP ガラスよりも三成分系ガラスの方が

良好な耐水性を有していた65Sn-5Nb-30P 67S5N28P ガラスが最も耐水性が良好であり化

学的耐久性の改善には Nb2O5が ZnOよりも効果的であった

組成と耐水性に関してはDRおよび重量減がOP増加で単調に低下した結果が得られた

つまり耐水性を改善させるにはSP 系ガラスのガラス化範囲を拡大かつ OP を増大させ

る第三成分の添加が有効であることが示唆された

第 3章

第 3章ではSP 系ガラスの分光学的手法による Qn分布の導出を行ったラマン分光法を

用いて各ガラス系のリン酸塩アニオンの構造を簡易定量で評価し組成と構造の関係に

ついて考察した平均 BO 数 n と耐水性に関してはDR および重量減が平均 BO 数 nの減

少で単調に低下することが明らかとなった

平均 BO 数 n と OP の関係より耐水性改善には平均 BO 数 n を下げることそして

OP を上げることが重要であることが明らかになった

78

Nb5+の添加は平均 BO数を減少させるだけでなくOP も上げることからガラス構造

内の P-O-P 結合を減少させ水和反応加水分解反応が抑制され耐水性が大幅に改善さ

れることが示唆された故にNb2O5 のような高価数金属酸化物を添加することが効果的

であることが再度確認された

第 4章

耐水性向上についてより深く評価するためSP SNP ガラスの局所構造に関する知見を得

ることを目的に放射光を用いた構造解析を行った高エネルギーX 線回折(HEXRD)お

よび X 線異常散乱(AXS)法で測定したデータを再現する構造モデルを逆モンテカルロ

(RMC)シミュレーションで構築し構造解析を行った

RMC モデル中の PON多面体に関して平均配位数 Nが 4および P-O の平均結合距離が約

160Å平均結合角度angO-P-Oが約 109degという結果が得られた組成による大きな違いは確

認されなかったSnON多面体については平均配位数 N が 3~4 でSnO 量の増加に伴い 4

に近い値となった平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約 22Åで組成

による大きな変化は見られなかった

Nb2O5を 5 mol添加したガラスではNbON多面体の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平

均配位数N約4Nb-O平均結合距離約20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O

(約 105deg)と値が近いことまた6配位ではなく 4配位として主に存在していることから

SnO と同じような網目形成体として働いていると推測されたまた結合距離が Sn-O が約

22Åに対し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強

固にしていると考えられるまたSnO 量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体

的に各多面体同士の頂点共有が増えていることから耐水性の改善には頂点共有を多く

含む構造もしくは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的であること

が示唆された以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性

耐候性を改善した要因として考えられる

またAXS 法の有効性についても確認し効果的であることが判明したただし今回

は主成分が Snの組成のガラスでありHEXRD でも十分に詳細な Snの周辺構造が得られ

たためAXSを利用した場合との大きな構造の差は認められなかった

本研究では様々な優れた特徴を有する SP ガラスにおける耐水性改善のメカニズムにつ

いて検討を行ったこの系のガラスについてはこれまでほとんど利用されていなかった

放射光を用いた構造解析を駆使し第三成分の添加によってどのような構造的変化が生じ

耐水性を改善させるか新たな知見を得ることができた最終目標である機能性ガラスの

開発における新たなる材料設計指針の確立に対してldquo耐水性rdquoに関しては概ね明らかにな

ったと考えられる一方で今回検討していな電子状態化学結合性についても評価する

ことで溶出メカニズムの解明が可能になり材料設計指針の確立が期待される

79

発表論文リスト

口頭発表

第 2章および第 3章

(1) SnO-P2O5 系ガラスへの酸化物添加効果

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎

日本セラミックス協会第 25 回秋季シンポジウム No3C06 (名古屋市 2012年 9月)

(2) Effect of Nb2O5 addition to SnO-P2O5 glass (Poster)

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

International Union of Materials Research Societies International Conference on Electronic

Materials IUMRS-ICEM 2012 A-9-P26-003 (Yokohama 2012 年 9月)

(3) スズリン酸塩系ガラスの蛍光特性耐水性に及ばす酸化物の添加効果(ポスター)

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎

日本セラミックス協会 2013 年年会 1P070 (東京 2013年 3月)

第 4章

(1) 放射光を用いたスズリン酸塩ガラスの構造解析

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎小原真二臼杵毅

日本セラミックス協会第 27 回秋季シンポジウム 2B22 (鹿児島市 2014年 9 月)

(2) Structural analysis of tin phosphate glasses by synchrotron radiation (Poster)

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba Shinji Kohara Takeshi Usuki

International Congress on Glass ICG Annual Meeting Bangkok 2015 P14-138 p186 (2015)

発表論文

(1) Effect of Nb2O5 addition to SnO- P2O5 glass

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

Journal of the Ceramic Society of Japan Vol 120 No 11 pp530-533 (2012)

(2) Structural analysis of SnO- P2O5 glass

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

Journal of the Ceramic Society of Japan(準備中)

80

謝辞

本研究を遂行するにあたり終始暖かいご指導ご助言並びにご鞭撻を賜わりました岡

山大学大学院環境生命科学研究科 難波徳郎教授に心より感謝の意を表します

また本研究を遂行するにあたり懇切丁寧なご指導とご意見をしていただいた岡山大

学大学院環境生命科学研究科 紅野安彦准教授環境環理センター 崎田真一助教に心より

感謝いたします

本研究を遂行するにあたりラマン分光測定の使用についてご助言ご教授して頂い

た岡山大学自然科学研究科 藤井達生教授中西真助教に心より感謝の意を表します

Sn のメスバウアー測定の際に協力して頂いた岡山大学自然科学研究科先端自然科学教

育研究推進本部高田研究室 松本修治特任助教(当時旭硝子株式会社中央研究所)また

Feのメスバウアーを測定の際に協力して頂いた岡山大学自然科学研究科 藤井達生教授に

心より感謝の意を表します

固体 NMR の岡山大学自然科学研究科 早川聡教授に心より感謝の意を表します

本研究を遂行するにあたりSPring-8 にてHEXRD および AXS 法の測定法および原理

についてご教示頂きました物質材料研究機構 小原真司博士ならびに山形大学 臼杵毅

教授に心より感謝の意を表します

本研究は多くの後輩諸君の協力によって遂行されました特に実際に共同研究共同

実験を遂行して頂いたOG 藤原沙弥香さん博士前期課程 2 年 東利彦君OB 徳岡太誠

君学士課程 4年 塩田将大君に心より感謝の意を表しますまた難波研究室で共に研

究生活を過ごした卒業生在学生の方々に感謝の意を表します

また同時期に博士後期課程に在籍された香川高等専門学校の桟敷剛さんにはNbに

関する有益な情報だけでなく辛い状況でも励ましを頂きました心より感謝の意を表し

ます

最後に長きに渡る学生生活を認め経済面だけでなく精神面でも支援してくださった

家族に心より深く感謝の意を表します

平成 28年 3月

福井 聡史

Page 11: 博士論文 スズリン酸塩系ガラスの物性と構造解析ousar.lib.okayama-u.ac.jp/files/public/5/54353/...博士論文 スズリン酸塩系ガラスの物性と構造解析

8

Fig 13 リン酸塩ガラスの Qn構造とその組成 [11]より転載

9

Fig 14 リン酸塩ガラスの溶出メカニズム模式図加水分解反応

10

Fig 15 リン酸塩ガラスの溶出メカニズム模式図水和反応 [21]より転載

11

Fig 16 アルミナ含有リン酸塩ガラスの構造

Fig 17 鉄リン酸塩ガラスの構造 [27]より転載

P

O

O

OO Al

O

O

O P

O

O

O Al

O

O

O P

O

O

O

12

Fig 18 ガラスの侵食機構(耐候性)[1]より転載

13

第 2章 スズリン酸塩系ガラスの物性評価

21 緒言

前章で述べたようにスズリン酸塩(SP)系ガラスは無色透明高透過率低ガラス

転移温度など工業的に興味深い特徴を有することが知られている[1]またSn2+が ns

2型の

発光中心となり紫外線照射による白色蛍光を示すことから希土類フリー白色蛍光体とし

ての研究も数多くなされている[2 3]

しかし実用化に向けてはこの系のガラスについてもリン酸塩系ガラスに特有のldquo耐

水性rdquoldquo耐候性rdquoの低さが問題となる[4]この問題点を解決するために第三成分として他

の化合物を加えることが有効でありSP ガラスにおいてはB2O3や ZnO SiO2 MgO MnO

など様々な物質を第三成分として添加した研究報告[5 - 9]があったりNH3雰囲気下で数日

間溶融作製することでガラスを一部窒化することで耐水性を改善させたりという報

告もある[10]SP ガラスに限定しないリン酸塩系ガラスではZnO-P2O5 系ガラスに Sb2O3

や MoO3を添加した報告[11 12]や Na2O-P2O5系ガラスに CuO を加えた報告[13]P2O5-CaO-

Na2O に Ag2Oを添加した報告[14]Na2O-K2O-CaO-P2O5ガラスの一部を窒化することによる

方法[15]等があり数多くのリン酸塩系ガラスの耐水性改善に関する研究がなされている

本研究では高価数金属酸化物および低価数金属酸化物の二種類をそれぞれ第三成分と

して添加した高価数金属酸化物には Nb2O5を低価数金属酸化物には ZnO の二種類の酸

化物を選択した

Nb2O5は古くから光学ガラスの成分として頻繁に使われる物質であり様々な企業から数

多くの特許が出されている[16 17]また耐水性の改善に有効であるとの報告や比較的低

温でもガラス作製ができることが知られており(当然のことながら組成に影響される)

鉛フリーの封着ガラスとしての研究もなされているZnO についてはこれ自体は無着色

成分であるため無色透明なガラスが得られることから光学ガラスの成分に用いられる

ほとんどの組成で低融点ガラスとなり[18 19]これらの特性からSnO-ZnO-P2O5(SZP)

系ガラスは Sn2+を発光中心とした蛍光体の研究対象となっていることが多くSP 系ガラス

では一般的なガラス系である

本章では第三成分を含まない SP ガラスおよび Nb2O5または ZnOを SP ガラスに添加し

た三成分系ガラスをそれぞれ作製し耐水性試験を中心とした各種物性評価を行った比

較対象に耐水性の優れることで知られる鉄リン酸塩系ガラスも同時に作製することでSP

系ガラスへ添加したそれぞれの第三成分の耐水性に対する有効性を検討した

22 実験方法

221 ガラスの組成選択

本研究において作製した SP ガラスは以下の五種類の系列を選択した

14

① スズリン酸塩ガラス(xSnO∙(100-x)P2O5 x = 50 60 67 70 mol)

(略称 SP ガラス組成は 50S50P と表記)

② ニオブ含有 SP ガラス(65SnO∙xNbO25∙(35-x)P2O5 x = 0 1 2 3 4 5 mol)

(略称 Sn-Nb-P ガラス組成は 65S-0Nb-35P と表記)

③ ニオブ含有 SP ガラス(xSnO∙5Nb2O5∙(95-x)P2O5 x = 50 60 67 mol)

(略称 SNP ガラス組成は 50S5N45P と表記)

④ 亜鉛含有 SP ガラス (S5ZP ガラス)(xSnO∙5ZnO∙(95-x)P2O5 x = 55 62 65 mol)

(略称 S5ZP ガラス組成は 55S5Z40P と表記)

⑤ 亜鉛含有 SP ガラス (5SZP ガラス)(5SnO∙xZnO∙(95-x)P2O5 x = 55 62 65 mol)

(略称 5SZP ガラス組成は 5S55Z40P と表記)

(④と⑤は総じて SZP ガラスと表記する場合がある)

それぞれの選択理由はガラス化範囲(各ガラス系のガラス化範囲を Fig 21および Fig

23 に示す)作製の容易さ(気泡の入りにくさ流し出しやすさ)等を考慮し決定した

組成ごとに詳細な選択理由を述べると

②についてNb を P と置換した組成であるFig 22 に示した溶融温度 1100で作製した

Sn-Nb-P ガラスの外観写真より目視でも明らかに透明性の高く着色量の少ない組成は(d)

の 65Sn-5Nb-30P でありこの外観写真を参考に組成を決定したSnO 量を 65 molに固定

しNbO25量を 5 molから 0 mol(Nb無添加組成)まで減少させた組成(Fig 21 の緑線

の組成)を選択しこのガラス系の物性の変化を確認した

③はNb2O5量を 5 molに固定しSn を P と置換した組成であるNb と P は酸化数が

同じ 5価であるためこの組成では同じ SnO量の二成分系 SP ガラスと比較した際酸素

の総量に変化が生じない(例えば67S33P と 67S5N28P)またNb5+イオンはガラス中

では4配位および6配位を取るという報告が多い(結晶の場合他の配位数を取る)た

め配位数が4の P5+の置換に適していると考えた

④⑤に関しては気泡のrdquo入りづらいrdquoもしくはrdquo入らないrdquoSnOおよび ZnOが各 5 molにな

る組成を選択したSZP ガラスはFig 23 に示すガラス化範囲のようにガラス化範囲は

非常に広範囲であるしかし気泡が入りやすく脈理のようなものも見られる組成が多く

目視ですら不均質なガラス組成がほとんどであった(これらの組成も粉末にして XRD を測

定するとガラスであった)そのためバルク体でガラスを得られることが困難な組成も多

い(Fig 24 にその一例の SZP ガラスを示す)そこで第三成分の添加量を可能な限り少

ない組成を選択することでバルク体で目視上ldquo均質rdquoなガラスを得た(Fig 23 の青線と

紫線の組成)

また上述したように耐水性の比較対象である鉄リン酸塩ガラスを二成分系で作製し

15

た(FP ガラス)組成はxFe2O3∙(100-x)P2O5 x = 20 25 30 35 40 mol を作製した

222 ガラス作製

Figs 25 - 27に各ガラス系の作製フローチャートを示す出発試薬にSnO NH4H2PO4

Nb2O5 ZnO を使用し各々秤量した秤量混合後アルミナ坩堝に入れか焼(仮焼き)

を行ったか焼条件はSP Sn-Nb-P SNP SZP ガラスは350または 400 6-30 minFP ガ

ラスは600 30 min で行った溶融温度および溶融時間はSP ガラス1100 30 min

Sn-Nb-P ガラス1100 30 minSNP ガラス1000または 1250 20 min SZP ガラス

1100-1200 30 min 各々N2雰囲気下で作製したN2雰囲気下で行った理由はSn2+が Sn

4+

にほとんど酸化されてしまうとガラスが得られなくなるためSn2+の酸化を防ぐ目的がある

[19]FP ガラスは1200 - 1550 30 min大気雰囲気下の条件で作製した溶融後350

に温めておいたスチールモールドに流してプレスした後FP ガラス以外はガラス転移温度

Tg付近でアニールを 1 h行い目的のガラスを得た耐水性試験用のガラス形状はダイヤモ

ンドカッターで大まかに整えた後鏡面研磨まで施して型取ったここでFP ガラスのみ

アニール工程を省いた理由はSP ガラス等はアニールをして歪みを取らなければ正確に

切断できない場合が生じた一方でFP ガラスはアニールをせずとも十分正確にカットで

きたためアニール工程を省いたまた50S50P のみ厚みが必要になると必ず気泡が入

ってしまうため耐水性試験では気泡の入ったものを使用した

223 物性評価

得られたガラスの物性の比較を行うために以下に示す分析を行った

(1)ガラス状態の確認

作製したガラスが結晶の混在していないものかを確認するためにまた耐水性試験

後のガラスが結晶化しているかの確認のためにX 線回折装置(XRD Rigaku RINT-2100)

を用いて分析した全てバルク体で測定したが耐水性試験後ではバルク状態が保てな

いものもあったためその試料については粉末で測定した

(2)組成分析Sn Fe 価数分析

得られたガラスについてアルミナ坩堝の使用によるアルミナのガラスへの混入および

それに伴う組成ズレの確認のために走査型蛍光 X 線分析装置(XRF Rigaku ZSX Primus

Ⅱ)を使用し組成分析を行った分析はバルク体で定性分析法にて測定した

またSn が二価のままどのくらい存在しているかを調べるために Sn-Nb-P ガラスを用い

てSnの価数分析をメスバウアー分光法にて行ったSnの測定は reference [20]に示す旭硝

子の公開特許に記載されている方法で行ったFP ガラスについても価数変化を調べるた

めにメスバウアー分光法にて Feの価数分析を行ったFeの測定は(株)トポロジック

システムズ MDF-200)を用いて評価を行った

16

(3) 密度(ρ)およびガラス転移温度(Tg)評価

各ガラスの密度(ρ)測定はケロシンを用いたアルキメデス法で測定したガラス転

移温度(Tg)を評価するために示差熱―熱重量測定装置(SDT TA instrument Japan Q600)

を用いたアルミナパンを使用し測定条件はN2雰囲気下 10 Kmin 700までの温度範

囲にて行った

(4)耐水性試験

各ガラスの耐水性について評価するために耐水性試験をMCC-1法[21]にて測定した(Fig

28)条件は75 72h ガラスサイズ 12times10times02 cm (plusmn01 cm) 蒸留水の pH は 72-77

で行い浸漬後サンプルを乾かして重量を量った溶出速度(Dissolution Rate DR)は重

量減(ΔW) サンプル表面積(S) 浸漬時間(t)から以下の式によって算出した[22]

DR = ΔW (kg) S (m2) t (s)

また浸漬前と 72 h 後の重量減()も合わせて算出した

23 結果考察

231 組成分析 Snおよび Feの価数評価

Table 21に各試料の組成分析結果を示すまずアルミナ Al2O3の量を見るとガラスに

混入した量がほとんどの組成で 25 mol以下で多くても 35 molを下回る量であった

そのため各種特性についてアルミナの影響はほとんどないと考えられる[23 24]組成

によってその量に差があるのは溶融温度の違いによることに起因している組成分析の

結果今回作製したガラスは仕込み組成と大きな差がないと判断した

Fig 29に Sn-Nb-P ガラスの Snのメスバウアースペクトルをそこから得られたメスバウ

アーパラメーターを Table 22に示す得られた結果よりSn-Nb-P ガラスでは95以上の

割合で Sn2+のまま存在していることが分かった不活性雰囲気で作製したことP2O5 の出

発原料に NH4H2PO4を使用したことにより(か焼は行なっているが)還元雰囲気になったた

めSn4+にほとんど酸化されることがなかったといえるこの結果SP 系ガラスではほぼ

Sn2+のまま存在していると仮定した

Fig 210に FP ガラスの FeのメスバウアースペクトルをTable 23 にそこから得られたメ

スバウアーパラメーターを示すFP ガラスについては組成に関わらず酸化還元平衡に

より 20 ~ 30が Fe2+になりまたFe2O3 ge 30 molの際化学的にも安定であることが知

られている[27]実際にFe2O3 ge 30 molの際Fe2+は概ね 20 ~ 30存在している結果が得

られた一方でFe2O3 lt 30 molの際はFe2+が 40以上と高い割合で存在していることが

判明したこれは出発原料の NH4H2PO4の多量使用によること溶融温度が 1550と高

いことが要因で還元がより進行したためと予想される

17

232 ρおよび Tg

Table 24にρおよび Tgの結果を示す二つの特性結果はそれぞれのガラス系において

SnO や Nb2O5ZnO といった金属酸化物が増えるにつれて大きくなっているSP Sn-Nb-P

SNP S5ZP 系ガラスの Tgはほとんどが 300前後であり最も高い温度でも67S5N28P

の 346であった一方5SZP 系ガラスは400~440となり他のガラス系と比較する

と若干高い温度となったそれでも今回作製した第三成分を添加したガラスは低 Tgを有

するガラスであると判断できSP ガラスの特性を維持できたと判断できる

60S5N28P と 62S5Z30P のようなほぼ同じ OP を示すもので比較した際にNb2O5添加が

ZnO 添加よりも Tgが高くなったのは①配位数が同配位数になり得るイオンの場合(例え

ば Nb5+と Zn

2+なら4配位など)ポーリングの第 2 法則[25]より高価数イオンの方が結合

強度が強くなる②diatomic cationの解離エネルギーがNb-O (688plusmn11 kJmol)[26]に対しZn-O

(1611plusmn48 kJmol)[26]と大きな差があるため Nb-Oの結合が強い故に熱的に安定化され

Tgが高くなったと考えられる

233 耐水性試験前後の外観写真

Figs 211 - 216に各ガラスの耐水性試験前後の外観写真を示すFig 211 の SP ガラスを

観察するとSnO 量の少ない 50S50P 60S40P は浸漬時間が経過するにつれて元々の形状

が崩壊したりガラス自体が膨張したような状態になったりしたSnO 量の多い 67S33P

70S30P について形状は崩れることはないが透明性が失われる(白ヤケ)耐候性が低いこ

とが確認できるFig 212 に示す Sn-Nb-P ガラスではNb2O5無添加の 65S-0Nb-35P は浸漬

時間 24 h で透明性が失われているがNbO25量の増加させていくと徐々に透明性が回復

しており4 mol添加した 65Sn-4Nb-31P では72 h後においてもほとんど変化が確認でき

ないNbの添加量を変えた Fig 213に示す SNP ガラスではSP ガラスと同様に SnO 量の

少ない 50S5N45P は時間経過と共にガラス全体にldquoひびrdquoのようなものが見え72 hの実

験終了後最終的にテフロン糸を外す段階で簡単に割れたしかし50S50P や 60S40P と比

較すると耐水性が大幅に良くなったまた60S5N35P 67S5N28P は耐水性が良好なこと

だけでなく耐候性についても向上していることが目視で判断できる一方で二種類の

SZP ガラス(Figs 214 215)を観るとP2O5量の少ない 5S55Z40P および 55S5Z40P では

形状が崩れるか析出物が現れる結果となったこの組成よりP2O5 量を減少させるとSP

ガラスと同じように形状は崩れないが透明性が若干失われる結果となった

Fig 216 に比較対象の FP ガラスの耐水性試験前後の写真を示すこの組成ではFe2O3

量の少ない20F80Pにおいても形状が全く崩れない結果が得られたしかしFe2O3 lt 30 mol

の組成において表面に干渉色のような反射光が若干確認できたこれはおそらく青ヤ

ケが発生したためであると考えられる

18

234 耐水性試験前後の構造変化

Figs 217 - 222に各ガラスの耐水性試験前後の XRDパターンを示す耐水性試験前では

ガラス化を全組成で確認した(Figs 217(a) - 222(a))しかし耐水性試験後における外観

写真で形状の崩れたもしくは析出物の得られたガラス組成では結晶が生成したことが

確認された形状の崩れた三組成のうち50S50P 60S40P ガラス(Fig 2214(b))では三

種類の結晶ピーク(SnP2O7 Sn2P2O7 Sn3(PO4)2)が確認でき5S55Z40P については(Fig

2214(b))結晶同定の判断はできなかったが ZnOの多い組成であるためおそらくリン酸

亜鉛の何れかの結晶だと推測された析出物が得られた 55S5Z40P はガラス matrix部と析

出物に分けて測定したところガラス matrix 部はガラスのままであり析出物は SnP2O7

Sn2P2O7の二種類の結晶ピークが確認できたガラス形状に変化がなかったその他の組成は

ガラス状態が保たれていたSn4+の結晶のピークが確認されたのは50S50P のガラスには

気泡が残っておりその気泡から酸化されたかもともと溶融工程で電気炉内に残って

いた酸素によってSn4+に酸化されたか等が考えられる

235 溶出速度(DR)および重量減

Table 24に DR重量減の結果および仕込み組成から計算した OP を示すSP SNP S5ZP

ガラスではSnO 量の増加に伴いSnO量の固定された Sn-Nb-P 5SZP ガラス系ではそれ

ぞれの金属酸化物の増加に伴いDR重量減は減少傾向にあったFP ガラスでは全組成

において DR 重量減共に変化が全く確認されなかったそのため青ヤケのようなものが

確認された FP ガラス(Fe2O3 lt 30 mol)については電子天秤では変化が見られない程度

の重量減であったと推測される二種類の SZP ガラスで比較するとSnOと ZnO量が入れ

替わってもほぼ誤差範囲内と思われる結果が得られたガラス全体の比較では外観写真

で変化が見られなかった FP ガラスと 65S5N28P 65Sn-5Nb-30P のガラスが DR重量減がと

もにゼロという結果が得られた

組成と DR 重量減の関係性を見るために作成した図をFigs 223(DRと OP の関係性)

224(Fig 224に重量減と OP の関係性)に示すそれぞれの図にリン酸塩の三つの構造

の OP も表記した双方の図よりDR 重量減共に OP が増加することで単調に下がって

いることが分かるこの結果はリン酸塩の構造ではorthophosphate 組成で耐水性良好が

あるため[22]一般的な結果と同じ挙動であるまた耐水性の良かったNb2O5添加の SNP

ガラスは異なる挙動(傾き)が得られた

以上の結果より第三成分添加による耐水性の改善を確認し特に Nb2O5 の添加による

影響は大きいことが判明したまたOP の増加による耐水性が改善する結果が得られた

次章の第 3 章にて各ガラス系の構造解析を行い第三成分特に Nb2O5の耐水性への有

効性について調査した

19

24 結言

本章ではSP ガラスおよび第三成分の Nb2O5 ZnOを添加した SP ガラスの物性評価を行

うことで耐水性改善への第三成分添加の有効性を確認した各々の物性について以下に

まとめる

低ガラス転移温度を有する SP ガラスは最も SnO 量が高い 70S30P でも Tg le 280であ

ったNb2O5を添加した Sn-Nb-P SNP ガラスではTgの上昇は見られたが Tg le 350

ZnOを添加した 5SZP S5ZP ガラスではTg ≦ 450であり両金属酸化物の添加でも低

ガラス転移温度を維持しているガラスが得られたNb2O5 添加が Tg を上昇させたのはポ

ーリングの第 2法則より高価数イオンの方が結合強度が高くなるためと結論付けた

耐水性試験結果の外観写真を観るとSP ガラスの SnO 量 le 60 mol 5SZP ガラスおよび

S5ZP ガラスの P2O5量 = 40 molの組成についてガラスサンプルの形状が大きく変化して

おりDR 重量減も高く耐水性の低さが明らかであった得られた析出物はSnP2O7

Sn2P2O7 Sn3(PO4)2 および亜鉛リン酸結晶の一種であると予想されたその他の組成では

透明性の失われた組成がいくつかあったが外観写真では変化が見られなかった FP ガラス

と 65S5N28P 65Sn-5Nb-30P のガラスが DR重量減がともにゼロという結果が得られた

組成と耐水性に関してはDRおよび重量減がOP増加で単調に低下した結果が得られた

つまり耐水性を改善させる有効な手段はSP 系ガラスのガラス化範囲を拡大かつ OP を

増大させる第三成分の添加によることであることが示唆された

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21

Fig 21 三成分系 SnO-NbO25-P2O5 系のガラス化範囲

Fig 22 作製した Sn-Nb-P ガラス

(a)50Sn-5Nb-45P (b)55Sn-5Nb-40P (c)60Sn-5Nb-35P

(d)65Sn-5Nb-30P (e)70Sn-5Nb-25P (f)60Sn-10Nb-30P

(g)55Sn-20Nb-25P (h)60Sn-15Nb-25P (i)65Sn-10Nb-25P

22

Fig 23 三成分系 SnO-ZnO-P2O5系のガラス化範囲

Fig 24 作製した SZP ガラスの一例

(気泡や脈理のようなものが確認できた組成)

23

Fig 25 SP SZP ガラスの作製フローチャート

Fig 26 Sn-Nb-P SNP ガラスの作製フローチャート

(気泡や脈理のようなものが確認できた組成)

24

Fig 27 FP ガラスの作製フローチャート

Fig 28 耐水性試験(MCC-1法)

25

Table 21 各ガラスの組成分析結果

26

Fig 29 Sn-Nb-P ガラスのメスバウアースペクトル

Table 22 Sn-Nb-P ガラスのメスバウアーパラメーター

27

Fig 210 FP ガラスのメスバウアースペクトル

Table 23 FP ガラスのメスバウアーパラメーター

28

Table 24 各ガラスの物性(密度(ρ)ガラス転移温度(Tg)溶出速度(DR)重量減())

29

Fig 211 SP ガラスの耐水性試験前後の外観写真

Fig 212 Sn-Nb-P ガラスの耐水性試験前後の外観写真

30

Fig 213 SNP ガラスの耐水性試験前後の外観写真

Fig 214 S5ZP ガラスの耐水性試験前後の外観写真

Fig 215 5SZP ガラスの耐水性試験前後の外観写真

31

Fig 216 FP ガラスの耐水性試験前後の外観写真

32

Fig 217 SP ガラスの XRD パターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

33

Fig 218 Sn-Nb-P ガラスの XRD パターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

34

Fig 219 SNP ガラスの XRD パターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

35

Fig 220 5SZP ガラスの XRDパターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

36

Fig 221 S5ZP ガラスの XRDパターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

37

Fig 222 FP ガラスの XRD パターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

38

Fig 223 各ガラス系の DR と OP の関係性

39

Fig 224 各ガラス系の重量減と OP の関係性

40

第 3章 分光法を用いたスズリン酸塩系ガラスの構造解析

31 緒言

前章ではSP ガラスおよび第三成分に Nb2O5 ZnOを添加した Sn-Nb-P ガラスSNP ガラ

スSZP ガラスの物性特に耐水性に関する第三成分添加の有効性を明らかにしたその添

加した第三成分の二種類についてもNb2O5 の方が ZnO よりも溶出速度重量減ともに抑

制することができSP ガラスの低ガラス転移温度という特性も維持されていることが判明

したしかし現段階では本研究の主要な物性である耐水性改善の要因が明確になって

いない組成の観点からはOP の値が高い組成が良好な耐水性であることが分かったが

組成だけでは耐水性改善のメカニズムについて完全には理解できないここでリン酸塩

ガラスの溶出のメカニズムは第 1 章で述べたように加水分解反応と水和反応が要因とな

る[1 2]この機構はそれぞれリン酸の構造つまり架橋酸素 BO の数が大きく関わって

おりリン酸アニオンの[PO4]ユニットの架橋酸素数を知ることが重要であるこの BO の

情報を得るためにはガラス構造を示す指標の一つである Qn(n は[PO4]ユニット中の架橋

酸素数を表す)を調べることが必須であるまたQn の分布を調べるためにはガラスの

構造解析を行う必要性がある

ガラスの構造解析には種々の方法があり特にラマン分光法や赤外(IR)分光法核

磁気共鳴法(NMR)などの分光学的手法を用いた構造解析の報告が多い[3-5]ラマン分光

法および IR分光法は原理は異なるがどちらも結合の振動モードを測定する手法であり[6]

リン酸塩ガラスだけでなくケイ酸塩ガラスホウ酸塩ガラスなど様々なガラス系にて測

定がなされている[7 8]また得られた結合状態の情報からリン酸塩アニオンの Qn分布

を調べることも可能であるNMR は共鳴吸収ピークの化学シフト(共鳴周波数のズレ)

から構造を決定する手法であるガラスの場合SiO2や B2O3 P2O5といった網目形成酸化物

の Qn分布を得るために一般的に使用されている手法である[9]

今回これらの測定の中でラマン分光法を選択し構造解析を行ったラマン分光法は

測定する際にサンプル形状を気にすることなく基本的にそのまま測定できるためIR 分

光法のようにサンプル形状で測定方法を変える必要はないまたIR 分光法では例えば

KBr 錠剤法やヌジュール法のように測定を行うためのサンプル調整に手間がかかる場合が

ある[6]さらに比較対象の FP ガラスではNMR を測定できないため作製ガラスを全

て比較検討できるようにラマン分光法を選択した

本章ではラマン分光法を用いて各ガラスの構造解析を行い[PO4]ユニットの Qn分布を

調査し平均 BO数 nを算出することで耐水性と構造の関係性を検討したまたラマン

分光法によって得られた Qn分布の妥当性を確認するためにSP ガラスおよび 67S5N28P ガ

ラスの NMRを測定も行い比較した

32 実験方法

41

321 サンプル準備

ラマン分光およびメスバウアー分光の測定では第 2 章で作製した各ガラスのバルク体

を用いたWD試験に使用したサンプルとは別にラマン測定用のサンプルを用意した適

度な大きさ大体 15 cm角程度のサイズになるようにガラスカッターで切断しその後

十分な平滑性を得るために鏡面研磨を施した

322 ラマン分光測定

使用したラマン分光装置は顕微レーザーラマン分光装置(Jasco NRS-5100)を用いた

用いたレーザー波長は 53208 nmであり400 - 2000 cm-1の範囲で測定した

Qn 分布を導くためにピークフィッティングを行いリン酸塩アニオンのラマンバンド

が現れる950 - 1250 cm-1付近および 700 - 750cm-付近の範囲で定量した

323 31P MAS NMR測定

31P MAS NMRの測定は Varian NMR System 500 を用いて32 mmの MASプローブ

202309MHzにて行った測定パラメーターを以下に示すπ4 パルス長さ 14 μs 待ち時間

(pulse delay)10 s 積算回数 3600 scan シリンダー円筒形状の Zrローターの回転スピード

160 kHz referenceとして二番目の基準物質として使われる NH4H2PO4を使用化学シフト

は85 H3PO4溶液から δ = 10 ppmである

33 結果考察

331 各ガラス系のラマンスペクトル

Figs 31 - 35にラマンスペクトルを示す各ピークは以下の通りに帰属し各スペクト

ル中に該当する構造をピーク位置に示した

1230 - 1260 cm-1 P=O NBO Q

2 [10]

1110 - 1150 cm-1metaphosphate (PO3)

- Q

2 [10]

1030 - 1100 cm-1pyrophosphate (PO35)

2- Q

1 [10]

970 - 1000 cm-1orthophosphate (PO4)

3- Q

0 [10]

920 - 930 cm-1asymmetric (P-O-P) Q

1 [10]

730 - 750 cm-1symmetric (P-O-P) Q

1 [10]

710 - 720 cm-1asymmetric (P-O-P) Q

2 [10]

810 - 820 cm-1Nb-O [NbO4] tetrahedron [11]

900 - 920 cm-1Nb-O isolated [NbO6] octahedron [11]

42

SP ガラスのラマンスペクトル(Fig 31)を見ると50S50P 60S40P ではmetaphosphate

の Q2 構造が支配的であるがSnO 量が増えるにつれてその構造が変化し70S30P では

pyrophosphateの Q1構造と orthophosphateの Q

0構造が共存した構造となっているまたSnO

量の少ない 50S50P および 60S40P において確認されたQ2構造の P=O のピークが見えなく

なっているつまり耐水性と関連して考えるとSnO量が増えるにつれてP-O-P 結合か

ら Sn-O-P 結合に代わり水分子との反応である加水分解反応を妨げる構造に変化している

ことがわかる

Figs 32 33にNb2O5を添加した Sn-Nb-P ガラスおよび SNP ガラスのラマンスペクトル

を示すまずSn-Nb-P ガラスについてNb 無添加の 65Sn-0Nb-35P は主に Q1構造であ

りNbO25が添加されることによってQ0構造に変化しQ

1 Q

0構造が共存しているような

ピークが得られた添加量が少ないガラス系であるため徐々に変化しているのを確認し

た800 cm-1を少し越えた 810 - 820 cm

-1付近にNb2O5を添加することでピークが現れそ

して添加量を増量することで強度が強まるピークがありこのピークは四面体の[NbO4]

のものと判断した

SNP ガラスのラマンスペクトルについてはNb2O5添加量を固定した組成であるためSP

ガラスのような挙動が観察された50S50N45P では50S50P ガラスと同じようにQ2構造

が主な構造でありSnO量の増加に伴って60S5N35P Q1構造67S5N28P Q

0構造に支配

的な構造が変化しているこれはSP ガラスと同じ傾向を示しているためP-O-P rarr Sn-O-P

に置き替わっていることが示唆されるNb-O に関するピークでは50S5N45P のみ[NbO4]

四面体のピークを確認できず900 - 920 cm-1付近に[NbO6]八面体のピークが確認された

SnO量が増量した 60S5N35P では810 cm-1付近の [NbO4] 四面体のピークが現れているが

[NbO6]八面体のピークと 900 - 920 cm-1付近の Q

1構造のピークが非常に近い(ほぼ重なって

いる)ことから60S5N35P については[NbO4] 四面体および[NbO6]八面体の共存の可能性

も考えられるまた67S5NP28 では[NbO4] 四面体のみのピークが観察されたためこ

の Nb-O の配位数変化は[PO4] unitの状態によって変化している可能性も示唆された

ZnO を添加した S5ZP ガラスおよび 5SZP ガラスのラマンスペクトルを Fig 34 に示す

図の下部三つが S5ZP ガラス上部三つが 5SZP ガラスのスペクトルであるSZP ガラスの

二系統を比べるとあきらかなスペクトルの違いが確認された各ガラス系で確認すると

SnO 量が最小の 55S5Z40P はQ2構造と Q

1構造の範囲に跨っているようなスペクトルが得

られた62S5Z33P および 65S5Z30P のスペクトルからはどちらもほぼ Q1構造であると判

断した5SZP のスペクトルは1000 - 1250 cm-1付近の範囲で裾を引くような(なだらかな)

スペクトルが得られたZnO 量が最小の 5S55Z40P にはQ2構造が主な構造に見えるが

shoulderピークのような Q1構造(1030 - 1100 cm

-1)が確認できる5S62Z40P においては

1000 - 1250 cm-1付近の範囲まで幅広いスペクトルが得られた730 - 750 cm

-1付近にピーク

が現れているためおそらく Q1構造が最も多く存在していると考えられる65S5Z30P では

Q1構造Q

0構造が共存しているようなピークが得られた

43

FP ガラスのラマンスペクトルを Fig 35 に示すFe量の少ない 20F80P 25F75P と他の三

つで構造が異なっていることである20F80P 25F75P はQ2構造と Q

1構造が基本構造にな

っていると判断できる 30F70P は1110 - 1150 cm-1付近に shoulderピークのようなものがあ

りQ2 Q

1 Q

0構造が共存しているようなスペクトルであった35F65P 40F60P はQ1構造

が主な構造でQ0構造があると判断した

332 平均 BO数 n (Qn分布)

まずピーク分離について散乱断面積が見積もれなかったためラマンの散乱強度比

を Qn分布として簡易的にピーク分離を行い(Fig 36)そこから平均架橋酸素数 BO 数 n

を算出したここでFig 37 に 31P MAS NMRスペクトルを示しTable 31に NMRおよび

ラマン分光より得られた平均 BO 数 n を示す(NMR の帰属 reference [12])表よりNMR

とラマンから得られた Qn分布はほぼ一致していることが分かった60S40Pについては支

配構造が NMR(Q1) ラマン(Q

2)で逆になったこれは60S40P の組成がQ

2と Q1のほぼ中

間の組成になるためこのようなズレが生じたと考えられるしかし今回のラマンによ

る Qn分布の算出についてはほぼ問題ないと判断した

Table 32にラマンスペクトルより求めた Qn分布平均 BO 数 nをを示しTable 24に示

した DR 重量減の結果を併記する

SP ガラスのうち耐水性が低いガラスは Q2構造によって形成されているSnO量の増加

によって NBOの増加とともに耐水性の向上が確認できSnOが入ることでSn-O-P 結合を

形成し水分子からの攻撃を受けにくくなっていることが考えられる

Sn-Nb-P ガラスでは基本的に Q1構造が主構造でNb2O5の添加が増えるにつれQ

0構

造が支配的になり耐水性は次第に向上していく最も耐水性のよかった 65S-5Nb-30P は

Q0構造での割合が非常に高く平均 BO数 n値が 03であった

SNP ガラスではP2O5量が多い組成の 50S5N45Pにおいても平均 BO数 nが 60S40P と

同じながらも耐水性が良くなっている67S5N28P はほぼ完全に Q0構造であり平均 Q

n

値は 0となった

SZP ガラスについてはS5ZP 5ZSP のどちらの系列についても耐水性の結果に大きな差

というものは確認されなかったが構造的にも平均 BO数 nが 09 10 17という結果であ

った

FP ガラスについてはFe2O3 lt 30 molのときは平均 BO 数 nが20 19と高い数値を

示したが耐水性は非常に良好であったこの結果より組成だけでなく構造的にも耐

水性高くなる要因が不明である一つの原因の可能性としてメスバウアーより得られた

Fe2+の存在比が 40以上と高かったことがFe2O3含有量が少ない組成時には効果的になっ

ているのかもしれない

333 平均 BO数 nと耐水性の関係性

44

Fig 38に DRと平均 BO数 nの関係性についてFig 39に重量減と平均 BO数 nの関係

性をそれぞれ示すまたOP の時と同様に各図にリン酸塩の三つの構造の平均 BO数

n も表記した双方の図よりDR 重量減共に平均 BO 数 nが低下することで単調に下がっ

ていることが分かるまた耐水性の良かったNb2O5添加の Sn-Nb-P SNPガラスはの DR

の挙動(傾き)はOP 時とも異なった挙動が得られた

Fig 310に OP と平均 BO数 nの関係を示す図中に示す茶色metaphosphate 黄色

pyrophosphate 灰色orthophosphate であるこの図から耐水性改善には平均 BO 数

n を下げOP を上げることが重要であるのが分かるまたNb5+の添加はOP を上げる

だけでなく平均 BO 数も減少させることから非常に効果的な成分であることが明らかで

あるこれはP5+から同酸価数 Nb

5+に少量でも置き換えることで平均 BO 数 n を下げ

OP を上げることを可能としている(実際に orthophosphate の OP4 よりも高い OP でガ

ラスが作製できている)つまりNb5+の添加によって P-O-P 結合が減少し水和反応加

水分解反応が抑制されているからである

以上の結果SP 系ガラスの耐水性改善には低い平均 BO 数と高い OP の組成にするこ

とが重要でNb2O5の添加は非常に効果的であることが分かったその一方でガラス中の

詳細な構造的要因についてははっきりしていないため次章の第 4 章にてさらに詳し

い構造解析を行い耐水性改善の要因について調査を行った

34 結言

本章ではラマン分光を使用して各ガラス系のリン酸塩アニオンの構造を簡易定量で

評価し組成と構造の関係について考察した

平均 BO 数 n と耐水性に関してはDR および重量減が平均 BO 数 n の減少で単調に低下

した結果が得られた

平均 BO数 nと OP の図より耐水性改善には平均 BO数 nを下げることそして OP

を上げることが重要であることが明白であった

Nb5+の添加は平均 BO数を減少させるだけでなくOP も上げることからガラス構造内

の P-O-P 結合を減少させる故に水和反応加水分解反応が抑制され耐水性が大幅に

改善された故にNb2O5 のような高価数金属酸化物を添加することが効果的であること

が示唆された

参考文献

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46

Fig 31 SP ガラスのラマンスペクトル

47

Fig 32 Sn-Nb-P ガラスのラマンスペクトル

48

Fig 33 SNP ガラスのラマンスペクトル

49

Fig 34 SZP ガラスのラマンスペクトル

50

Fig 35 FP ガラスのラマンスペクトル

51

Fig 36 ラマンスペクトルのピーク分離例(67S5N28P)

Raman Shift (cm-1)

52

Fig 37 NMRスペクトル

Table 31 NMR およびラマン分光より得られた SP 67S5N28P ガラスの

Qn分布および平均 BO数 n

53

Table 32 各ガラスのラマンスペクトルより求めた Qn分布結果

(表の赤線より右側の結果は Table 22 より)

1 仕込み組成による数値

2 Fig 2212 に示した析出物を取り除いた後の数値

54

Fig 38 DR と平均 BO数 nの関係性

55

Fig 39 重量減と平均 BO数 nの関係性

56

Fig 310 OP と平均 BO数 nの関係性

Meta

Pyro

Ortho

57

第 4章 放射光を用いたスズリン酸塩系ガラスの構造解析

41 緒言

前章の第 3 章にてラマン分光法を用いて SP 系ガラスの構造解析により Qn分布を導き

出したことで耐水性と構造の関係についてある程度関連性を導くことができたリン

酸アニオンについてはQ0(orthophosphate)構造 gt Q

1(pyrophosphate)構造 gt Q2

(metaphosphate)構造の順で良耐水性となるしかしSn Nbおよび Znの局所構造につ

いては知見が得られていないラマン分光や IR分光などの分光学的手法を用いてSnや

Nb Zn の周辺の局所構造を知るには限界があるまたガラスの構造解析を行う上で非常

に重要な因子である中距離構造の評価には分光学的手法は不向きである[1]

そこで局所構造や中距離構造を知るために有効な手法として放射光線を用いた構造

解析がある放射光(SR 光)とはシンクロトロンなどの加速器で高速に加速された電子

が進行方向を磁場によって変えられた際に放射する電磁波である[2]エネルギーが高く

(短波長)輝度が高い特性を有している日本国内では兵庫県佐用町の SPring-8や茨城

県つくば市の高エネルギー加速器研究機構佐賀県鳥栖市の佐賀県立九州シンクロトロン

光研究センターなど複数個所に放射光施設が設置されている

放射光を用いたガラスの構造解析には一般的に高エネルギーX 線回折(High Energy

X-ray diffraction HEXRD)が用いられるこの回折実験から高い散乱ベクトル Q(= 4π sinθλ)

まで回折データが得られる多種類の原子から構成される物質の場合はFaber-Ziman 型[3]

の構造因子 S(Q)を用いる以下の式に示すようにFaber-Ziman 型構造因子 S(Q)は同種また

は異種の原子による相関の重み関数付の和として示される例として SiO2ガラスで説明す

ると構造因子 S(Q)は三種類の原子付の S(Q)の重み付の和として表されていることが分か

I(Q) 散乱断面積 ltgt 原子一個当たりの平均値 f(Q) 原子散乱因子 W 重み関数

通常の研究室で使用される X 線回折(XRD)装置で用いられる特性 X 線はCuKα線(λ

= 0154 nm 81 keV)が最も良く用いられより高いエネルギーの X 線が必要な場合は

MoKα線(λ = 0071 nm 175 keV)が使用される一方でSPring-8のビームライン BL04B2

で行われる高エネルギーX 線回折(HEXRD)測定で使用される SR のエネルギーは378 keV

58

~ が使用可能である[2]従ってガラス以外の液体のような非晶質物質にも非常に精度

よく構造解析が行われている[4]

また局所構造解析の一つに X線異常散乱法という測定方法がある[5 6]これは通常

の X 線回折実験では分離不可能な特定元素に関連する部分構造因子(散乱強度曲線)を得

ることができる手法である今回 HEXRD の測定時に使用したエネルギー614 keV では各元

素の異常散乱項のエネルギー依存性は確認されない(Fig 41)その一方でFig 42に示す

Sn の吸収端付近の 292 keV付近ではSnの異常分散項のエネルギー依存性が確認できる

つまりSnの吸収端近傍より低エネルギー(E)側の異なるエネルギーの X線(E1 E2)を

使って散乱強度を測定し各 E における異常分散項(f`)の変化(つまり高い E1 から低い

E2 の散乱強度の差分)を利用して Snに関する部分構造因子を求める構造解析が AXS 法で

あるこの測定法は古くから知られている方法ではあるが装置の測定条件や設備の問

題からなどから使用があまり普及していなかった[5 6]近年になり金属ガラスの構造解

析について徐々に報告が出てきており今後注目される測定法である

HEXRD および AXS 法などから得られたデータ実測の構造因子 S(Q)は一次元の限られ

た構造情報であるためガラスなどの非晶質物質の中距離構造を解明するためにはこれ

らのデータを基に三次元構造を求める必要がある三次元構造モデルの作成には逆モンテ

カルロ(RMC)シミュレーションを使用することが有効である[7]このシミュレーション

は任意で決めたシミュレーションボックス内の粒子をランダムに動かすことで実測の

構造因子 S(Q)を再現する三次元構造モデルを構築する方法である

SP ガラスについては分光学的手法について数多く報告があるが放射光を用いた回折

法はほとんど適用されていないそこで本研究では HEXRD および AXS 法を用いた構造

解析を行うことでSn Nb周りの構造を解明すると共にSNP ガラスの耐水性改善のメカ

ニズムについて考察したまたAXS 法の有効性についても検討した測定を行ったガラ

スはSP ガラスおよび最も耐水性の高かった 67S5N28P を選択した

42 実験方法

421 HEXRD AXS法

HEXRDはSPring-8のビームライン BL04B2 で測定を行ったエネルギー614 keV の X

線を用いた測定サンプルの厚みは09 mm (plusmn0005 mm)になるまで研磨を行った

AXS 測定はSPring-8のビームライン BL13XUを使用した(Fig 43)それぞれの測定し

た X 線のエネルギーについて以下に示す

①Sn K吸収端hellip292 keV near edgehellip291452 keV (-60 eV) far edgehellip289751 keV (-230 eV)

②Nb K吸収端hellip1899 keV near edgehellip189562 keV (-30 eV) far edgehellip187863 keV (-230 eV)

測定に使用したサンプルの厚さが015 - 030 mmとなるまで研磨を施した

SP ガラスについて50S50P 60S40P 67S33P の三組成のガラスを測定した70S30P に関

59

しては測定を試みたが放射光照射によって結晶化してしまいガラス部分の正確な構

造因子を得るための強度補正ができず解析を断念した

422 RMCのモデリング

Table 41 に RMC の各種パラメーターを示す粒子数は約 5000 個でそれに伴う boxの一

辺の長さは約 42 ~ 46 Ǻになった拘束条件にP の配位数が 4になるような条件を付け

加えたFig 44にSn2P2O7結晶および Sn3P2O8結晶の動径分布関数(RDF)をTable 32

にRDFから得られた第一近接距離[8 9] を示すこれらの数値を使用しcutoffを決定し

たNb-O についてはいくつかの文献値を参考にした[10 11]

各ガラスの RMCのモデリングは①HEXRDから得られた S(Q)のみ②S(Q)および AXS

から得られた部分構造因子を加えた場合でそれぞれ計算した

43 結果考察

最初にNbの AXSから得られたデータについて解析を試みたが妥当な構造モデルが得

られなかったためSnの AXSのみで解析を進めたNb2O5の量が 5 molと少量であったた

めあまり精度の高いデータが得られなかったと推測される

431 実測の HEXRDおよび AXSの結果

4311 実測 HEXRDの S(Q)

Fig 45 に実測HEXRDの S(Q)を示す四つの組成ともに実測HEXRDの S(Q)が得られ

Nb2O5添加の 67S5N28P ガラスでは Low Q 側に変化が確認された

4312 実測散乱強度曲線

Fig 46 に Snの散乱強度曲線を示す(a) の 67S33P のこの曲線からはfar edgeおよび

near edge のエネルギー間で差分が見られエネルギーの依存性が確認された50S50P

67S5N28P のガラスについても同じように差分が確認されたが(b)の 60S40P についてのみ

他とは若干異なる結果(緑丸)であったためRMC の構造解析には差分の構造因子ではな

くfar edge near edge 二つの構造因子を用いた

4313 全相関関数 T(r)

Fig 47 に全相関関数 T(r) を示すHEXRD から得られたものを実線でSnの AXS から

得られたものは点線で示し組成ごとに重ねて表示した図中に各ピークについて帰属し

ているがSnの T(r)からはSn-O Sn-P Sn-Snのみのピークを確認した

432 RMCの計算結果および考察

60

構造モデルの一例として67S5N28P ガラスの得られた構造モデルをFig 48に示す水

色の多面体 unitSnON 黄色の多面体 unitPO4 ピンクの多面体 unitNbONである以下

詳細な構造解析の結果および考察を記す

4321 RMCのフィッティング結果

RMCのフィッティング結果の一例として67S33P の HEXRD と Snの AXS の構造因子か

ら得た結果を示す(Fig 49)二つの構造因子を加えて計算した結果においてもHEXRD

の S(Q) AXS の S(Q)に各々に対する良好なフィッティング結果が得られた他の組成も

同様なフィッティング結果が得られた

4322得られた各 pairの平均配位数平均角度平均結合距離

RMCの結果によって得られた各 pairの平均配位数平均角度平均結合距離を Tables 43

に示す上段が HEXRD の S(Q)のみ下段が HEXRD に Sn の AXS の部分構造因子を加え

て結果である最下部は比較のためにSn2P2O7の情報を記載した[8]

P-O pairについてRMCモデル中の PON多面体に関して平均配位数 Nが 4および P-O

の平均結合距離が約 160Å平均結合角度angO-P-O が約 109degという結果が得られた組成

による大きな違いは確認されなかったのはP の配位数が 4になるように拘束条件をかけた

結果であると考えられるSnON多面体についてはSnO量の増加 = OP の増加であり平

均配位数 Nが 3 ~ 35へ増加した平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約

22Åで組成による大きな変化はほとんど見られなかったNb2O5を 5 mol添加したガラ

スではNbON多面体の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平均配位数 N約 4Nb-O 平均結

合距離約 20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O(約 105deg)と値が近いこと

また6配位ではなく 4配位として主に存在していることからSnO と同じような働きをし

ていると推測される

以上の結果からNb2O5添加の耐水性改善の要因として結合距離が Sn-O が約 22Åに対

し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強固にして

いることも一つの要因として考えられる

また67S5N28P ガラスの各多面体モデルを確認すると(Fig 410)P は PO4Snは SnO4

と SnO3Nbは NbO4をそれぞれ再現している

4323得られた各 pairの結合様式

RMC の結果により得られた各 pair の結合様式を Tables 44 に示す上段が HEXRD の

S(Q)のみ下段が HEXRDに Snの AXS の部分構造因子を加えた結果である最下部は比

較のためにSn2P2O7の情報を記載した[8]

結合様式に関してはPO4四面体は他の多面体も含めてほぼ頂点共有で存在している

SnON多面体についてはSnO 量が少ない配位数が 3 に近い場合頂点共有以外の共有の

61

割合も多くSnO 量が増えるにつれて頂点共有が主になり網目形成体として振舞ってい

ると考えられる組成によって平均結合距離や平均角度の大きな変化が見られなかったこ

とから平均配位数が結合様式を決める重要なファクターであるということも考えられる

またHEXRD と AXS 法の結果がほぼ同じであったこれは主成分が SnO のガラスであ

るためHEXRDでも十分に詳細な構造が得られたため大きな変化が現れなかったと考え

られるNbON 多面体はPO4 四面体と SnON 多面体とはほぼ頂点共有で繋がっている以

上の結果よりSnO量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体的に各多面体同士の

頂点共有が増えていることから耐水性の改善には頂点共有を多く含む構造であること

が重要である或いは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的となって

いるということが推測されるFig 411に 67S5N28P ガラスの構造モデルを示す各多面

体はほぼ頂点共有で繋がっていることが確認できる

4324 平均 BO数の比較

Tables 45にNMR Raman RMC(HEXRD) RMC(HEXRD + AXS)の平均BO数を示すRMC

から得られた平均 BO 数 nはNMR Raman と同様に Nb2O5の添加による大幅な減少が確認

されたしかしNMR Raman と比較すると全組成において数値が大きすぎで適当でない

50S50P の構造モデルを観るとPO4四面体間で3配位 O の存在が確認された(Fig 412)た

め実測で得られた n値を再現できるようなPO4四面体モデル間の繋がり方に関する拘束条

件を加えて RMCを計算する必要性があるまた仮に3配位 Oの存在があるとすると電

子状態の変化が生じていることがと示唆されるため分子軌道計算を用いて電子状態解析

を行い確認する必要がある

4325 耐水性の改善について

Nb2O5を添加のガラス構造への影響について①6配位ではなく 4配位として主に存在し

ていることからSnO と同じような働きをしていると推測される②結合距離が Sn-O が約

22Åに対し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強

固にしている③ガラス構造中で全体的に各多面体同士の頂点共有が増えている以上の

ことが判明した以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性

耐候性を改善した要因として考えられる

44 結言

本章では分光学的手法では評価できないガラスの中距離構造局所構造について理解

するために放射光を用いた構造解析を実施しSP ガラスの構造と耐水性改善について考

察したHEXRDおよび AXS法を用いて測定を行い得られたデータを RMCシミュレーシ

ョンにて解析を行った

解析の結果 Sn-O pair については平均配位数 Nが 3 ~ 35でSnO量の増加 = OP の増

62

加に伴い高くなった平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約 22Åであ

ったP-O Sn-Oについては組成による大きな変化はほとんど見られなかった67S5N28P

ガラスの Nb-O pair の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平均配位数約 4Nb-O 平均結合距

離約 20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O(約 105deg)と値が近いことま

た6配位ではなく 4配位として主に存在していることからSnOと同じような働き(網目

形成体)をしていると推測されるまた結合距離が Sn-O が約 22Åに対し Nb-O は約 20

Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強固にしていると言える

SnO 量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体的に各多面体同士の頂点共有が増え

ていることから耐水性の改善には頂点共有を多く含む構造であることが重要である

もしくは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的であることが推測さ

れる以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性耐候性を

改善した要因として考えられる

またAXS 法の有効性についても確認し効果的であることが判明したただし今回

は主成分が Sn の組成のガラスでありHEXRD でも十分に詳細な構造が得られたため

大きな差は現れなかった

参考文献

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63

Fig 41 各原子の異常分散項のエネルギー依存性

Fig 42 Sn の異常分散項のエネルギー依存性

64

Fig 43 SPring-8の BL13XU

65

Tab

le 4

1

RM

Cの各パラメーター

66

Fig 44 Sn2P2O7 Sn3P2O8結晶の RDF

Table 42 Sn2P2O7 Sn3P2O8結晶の各 pairの第一近接距離

67

Fig 45 得られた実測 HEXRDの S(Q)

68

Fig 46 Sn の異常散乱測定により得られた散乱強度のエネルギー依存性

(a)67S33P (b)60S40P

69

Fig 47 全相関関数 T(r)

太線 HEXRD より

細線 Sn の AXSより

70

Fig 48 67S5N28P ガラス構造のモデル

71

Fig 49 RMC フィッティングの結果

72

Tab

le 4

3 各

pairの平均配位数角度結合距離

73

Fig

4

10

67

S5

N2

8Pガラスの各多面体モデル

74

Tab

le 4

4 各

pairの結合様式

75

Fig 411 67S5N28P ガラスの構造モデル

76

Table 45 平均 BO 各数 nの比較

Fig 412 50S50P ガラスの構造モデル

77

第 5章 総括

本研究ではSP ガラスを対象とした本研究では鉛フリー代替ガラスまたは希土類フ

リー蛍光体として SP ガラスの新規高機能化を将来的に目指し問題点であるldquo化学的耐久

性rdquoの改善につながる知見を得ることを目的としたそこでまずSP ガラスを母体ガラ

スとし第三成分に Nb2O5を添加した Sn-Nb-P SNP ガラスZnO を添加した SZP ガラスを

作製し耐水性を中心とした物性評価を行った次に分光学的手法で構造解析を行い

Qn 分布を導き出した最後に放射光を用いた構造解析を行い耐水性改善に関する構造的

な考察を行った以下に本研究で行った検討内容を示す

(1)SPガラスおよび第三成分Nb2O5 ZnOを添加した三成分系SPガラスの物性評価(第 2章)

(2)SP 系ガラスの分光学的手法による Qn分布導出(第 3章)

(3)放射光を用いた SP 系ガラスの構造解析構造と耐水性改善の関連について(第 4章)

各章についてまとめた結果を以下に示す

第 2章

第 2章では二成分系および三成分系のリン酸塩系ガラスの各種物性(密度や熱的特性

耐水性)の評価を行った二成分系ではSP ガラスに加え良好な耐水性を有する鉄リン

酸塩(Fe2O3-P2O5)系ガラス(以下 FP ガラス)を比較のために三成分系では二成分系

の SP ガラスに Nb2O5を添加したニオブ含有 SP ガラス(SNP ガラス)および ZnO を添加し

た亜鉛含有 SP ガラス(SZP ガラス)を作製した

今回作製した SP 系ガラスは低ガラス転移温度を有していた各組成の温度域はSP

ガラスTg le 280 Sn-Nb-P SNPガラスTg le 3505SZP S5ZPガラスTg ≦ 450であった

各種 SP ガラスの耐水性試験の結果二成分系の SP ガラスよりも三成分系ガラスの方が

良好な耐水性を有していた65Sn-5Nb-30P 67S5N28P ガラスが最も耐水性が良好であり化

学的耐久性の改善には Nb2O5が ZnOよりも効果的であった

組成と耐水性に関してはDRおよび重量減がOP増加で単調に低下した結果が得られた

つまり耐水性を改善させるにはSP 系ガラスのガラス化範囲を拡大かつ OP を増大させ

る第三成分の添加が有効であることが示唆された

第 3章

第 3章ではSP 系ガラスの分光学的手法による Qn分布の導出を行ったラマン分光法を

用いて各ガラス系のリン酸塩アニオンの構造を簡易定量で評価し組成と構造の関係に

ついて考察した平均 BO 数 n と耐水性に関してはDR および重量減が平均 BO 数 nの減

少で単調に低下することが明らかとなった

平均 BO 数 n と OP の関係より耐水性改善には平均 BO 数 n を下げることそして

OP を上げることが重要であることが明らかになった

78

Nb5+の添加は平均 BO数を減少させるだけでなくOP も上げることからガラス構造

内の P-O-P 結合を減少させ水和反応加水分解反応が抑制され耐水性が大幅に改善さ

れることが示唆された故にNb2O5 のような高価数金属酸化物を添加することが効果的

であることが再度確認された

第 4章

耐水性向上についてより深く評価するためSP SNP ガラスの局所構造に関する知見を得

ることを目的に放射光を用いた構造解析を行った高エネルギーX 線回折(HEXRD)お

よび X 線異常散乱(AXS)法で測定したデータを再現する構造モデルを逆モンテカルロ

(RMC)シミュレーションで構築し構造解析を行った

RMC モデル中の PON多面体に関して平均配位数 Nが 4および P-O の平均結合距離が約

160Å平均結合角度angO-P-Oが約 109degという結果が得られた組成による大きな違いは確

認されなかったSnON多面体については平均配位数 N が 3~4 でSnO 量の増加に伴い 4

に近い値となった平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約 22Åで組成

による大きな変化は見られなかった

Nb2O5を 5 mol添加したガラスではNbON多面体の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平

均配位数N約4Nb-O平均結合距離約20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O

(約 105deg)と値が近いことまた6配位ではなく 4配位として主に存在していることから

SnO と同じような網目形成体として働いていると推測されたまた結合距離が Sn-O が約

22Åに対し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強

固にしていると考えられるまたSnO 量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体

的に各多面体同士の頂点共有が増えていることから耐水性の改善には頂点共有を多く

含む構造もしくは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的であること

が示唆された以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性

耐候性を改善した要因として考えられる

またAXS 法の有効性についても確認し効果的であることが判明したただし今回

は主成分が Snの組成のガラスでありHEXRD でも十分に詳細な Snの周辺構造が得られ

たためAXSを利用した場合との大きな構造の差は認められなかった

本研究では様々な優れた特徴を有する SP ガラスにおける耐水性改善のメカニズムにつ

いて検討を行ったこの系のガラスについてはこれまでほとんど利用されていなかった

放射光を用いた構造解析を駆使し第三成分の添加によってどのような構造的変化が生じ

耐水性を改善させるか新たな知見を得ることができた最終目標である機能性ガラスの

開発における新たなる材料設計指針の確立に対してldquo耐水性rdquoに関しては概ね明らかにな

ったと考えられる一方で今回検討していな電子状態化学結合性についても評価する

ことで溶出メカニズムの解明が可能になり材料設計指針の確立が期待される

79

発表論文リスト

口頭発表

第 2章および第 3章

(1) SnO-P2O5 系ガラスへの酸化物添加効果

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎

日本セラミックス協会第 25 回秋季シンポジウム No3C06 (名古屋市 2012年 9月)

(2) Effect of Nb2O5 addition to SnO-P2O5 glass (Poster)

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

International Union of Materials Research Societies International Conference on Electronic

Materials IUMRS-ICEM 2012 A-9-P26-003 (Yokohama 2012 年 9月)

(3) スズリン酸塩系ガラスの蛍光特性耐水性に及ばす酸化物の添加効果(ポスター)

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎

日本セラミックス協会 2013 年年会 1P070 (東京 2013年 3月)

第 4章

(1) 放射光を用いたスズリン酸塩ガラスの構造解析

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎小原真二臼杵毅

日本セラミックス協会第 27 回秋季シンポジウム 2B22 (鹿児島市 2014年 9 月)

(2) Structural analysis of tin phosphate glasses by synchrotron radiation (Poster)

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba Shinji Kohara Takeshi Usuki

International Congress on Glass ICG Annual Meeting Bangkok 2015 P14-138 p186 (2015)

発表論文

(1) Effect of Nb2O5 addition to SnO- P2O5 glass

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

Journal of the Ceramic Society of Japan Vol 120 No 11 pp530-533 (2012)

(2) Structural analysis of SnO- P2O5 glass

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

Journal of the Ceramic Society of Japan(準備中)

80

謝辞

本研究を遂行するにあたり終始暖かいご指導ご助言並びにご鞭撻を賜わりました岡

山大学大学院環境生命科学研究科 難波徳郎教授に心より感謝の意を表します

また本研究を遂行するにあたり懇切丁寧なご指導とご意見をしていただいた岡山大

学大学院環境生命科学研究科 紅野安彦准教授環境環理センター 崎田真一助教に心より

感謝いたします

本研究を遂行するにあたりラマン分光測定の使用についてご助言ご教授して頂い

た岡山大学自然科学研究科 藤井達生教授中西真助教に心より感謝の意を表します

Sn のメスバウアー測定の際に協力して頂いた岡山大学自然科学研究科先端自然科学教

育研究推進本部高田研究室 松本修治特任助教(当時旭硝子株式会社中央研究所)また

Feのメスバウアーを測定の際に協力して頂いた岡山大学自然科学研究科 藤井達生教授に

心より感謝の意を表します

固体 NMR の岡山大学自然科学研究科 早川聡教授に心より感謝の意を表します

本研究を遂行するにあたりSPring-8 にてHEXRD および AXS 法の測定法および原理

についてご教示頂きました物質材料研究機構 小原真司博士ならびに山形大学 臼杵毅

教授に心より感謝の意を表します

本研究は多くの後輩諸君の協力によって遂行されました特に実際に共同研究共同

実験を遂行して頂いたOG 藤原沙弥香さん博士前期課程 2 年 東利彦君OB 徳岡太誠

君学士課程 4年 塩田将大君に心より感謝の意を表しますまた難波研究室で共に研

究生活を過ごした卒業生在学生の方々に感謝の意を表します

また同時期に博士後期課程に在籍された香川高等専門学校の桟敷剛さんにはNbに

関する有益な情報だけでなく辛い状況でも励ましを頂きました心より感謝の意を表し

ます

最後に長きに渡る学生生活を認め経済面だけでなく精神面でも支援してくださった

家族に心より深く感謝の意を表します

平成 28年 3月

福井 聡史

Page 12: 博士論文 スズリン酸塩系ガラスの物性と構造解析ousar.lib.okayama-u.ac.jp/files/public/5/54353/...博士論文 スズリン酸塩系ガラスの物性と構造解析

9

Fig 14 リン酸塩ガラスの溶出メカニズム模式図加水分解反応

10

Fig 15 リン酸塩ガラスの溶出メカニズム模式図水和反応 [21]より転載

11

Fig 16 アルミナ含有リン酸塩ガラスの構造

Fig 17 鉄リン酸塩ガラスの構造 [27]より転載

P

O

O

OO Al

O

O

O P

O

O

O Al

O

O

O P

O

O

O

12

Fig 18 ガラスの侵食機構(耐候性)[1]より転載

13

第 2章 スズリン酸塩系ガラスの物性評価

21 緒言

前章で述べたようにスズリン酸塩(SP)系ガラスは無色透明高透過率低ガラス

転移温度など工業的に興味深い特徴を有することが知られている[1]またSn2+が ns

2型の

発光中心となり紫外線照射による白色蛍光を示すことから希土類フリー白色蛍光体とし

ての研究も数多くなされている[2 3]

しかし実用化に向けてはこの系のガラスについてもリン酸塩系ガラスに特有のldquo耐

水性rdquoldquo耐候性rdquoの低さが問題となる[4]この問題点を解決するために第三成分として他

の化合物を加えることが有効でありSP ガラスにおいてはB2O3や ZnO SiO2 MgO MnO

など様々な物質を第三成分として添加した研究報告[5 - 9]があったりNH3雰囲気下で数日

間溶融作製することでガラスを一部窒化することで耐水性を改善させたりという報

告もある[10]SP ガラスに限定しないリン酸塩系ガラスではZnO-P2O5 系ガラスに Sb2O3

や MoO3を添加した報告[11 12]や Na2O-P2O5系ガラスに CuO を加えた報告[13]P2O5-CaO-

Na2O に Ag2Oを添加した報告[14]Na2O-K2O-CaO-P2O5ガラスの一部を窒化することによる

方法[15]等があり数多くのリン酸塩系ガラスの耐水性改善に関する研究がなされている

本研究では高価数金属酸化物および低価数金属酸化物の二種類をそれぞれ第三成分と

して添加した高価数金属酸化物には Nb2O5を低価数金属酸化物には ZnO の二種類の酸

化物を選択した

Nb2O5は古くから光学ガラスの成分として頻繁に使われる物質であり様々な企業から数

多くの特許が出されている[16 17]また耐水性の改善に有効であるとの報告や比較的低

温でもガラス作製ができることが知られており(当然のことながら組成に影響される)

鉛フリーの封着ガラスとしての研究もなされているZnO についてはこれ自体は無着色

成分であるため無色透明なガラスが得られることから光学ガラスの成分に用いられる

ほとんどの組成で低融点ガラスとなり[18 19]これらの特性からSnO-ZnO-P2O5(SZP)

系ガラスは Sn2+を発光中心とした蛍光体の研究対象となっていることが多くSP 系ガラス

では一般的なガラス系である

本章では第三成分を含まない SP ガラスおよび Nb2O5または ZnOを SP ガラスに添加し

た三成分系ガラスをそれぞれ作製し耐水性試験を中心とした各種物性評価を行った比

較対象に耐水性の優れることで知られる鉄リン酸塩系ガラスも同時に作製することでSP

系ガラスへ添加したそれぞれの第三成分の耐水性に対する有効性を検討した

22 実験方法

221 ガラスの組成選択

本研究において作製した SP ガラスは以下の五種類の系列を選択した

14

① スズリン酸塩ガラス(xSnO∙(100-x)P2O5 x = 50 60 67 70 mol)

(略称 SP ガラス組成は 50S50P と表記)

② ニオブ含有 SP ガラス(65SnO∙xNbO25∙(35-x)P2O5 x = 0 1 2 3 4 5 mol)

(略称 Sn-Nb-P ガラス組成は 65S-0Nb-35P と表記)

③ ニオブ含有 SP ガラス(xSnO∙5Nb2O5∙(95-x)P2O5 x = 50 60 67 mol)

(略称 SNP ガラス組成は 50S5N45P と表記)

④ 亜鉛含有 SP ガラス (S5ZP ガラス)(xSnO∙5ZnO∙(95-x)P2O5 x = 55 62 65 mol)

(略称 S5ZP ガラス組成は 55S5Z40P と表記)

⑤ 亜鉛含有 SP ガラス (5SZP ガラス)(5SnO∙xZnO∙(95-x)P2O5 x = 55 62 65 mol)

(略称 5SZP ガラス組成は 5S55Z40P と表記)

(④と⑤は総じて SZP ガラスと表記する場合がある)

それぞれの選択理由はガラス化範囲(各ガラス系のガラス化範囲を Fig 21および Fig

23 に示す)作製の容易さ(気泡の入りにくさ流し出しやすさ)等を考慮し決定した

組成ごとに詳細な選択理由を述べると

②についてNb を P と置換した組成であるFig 22 に示した溶融温度 1100で作製した

Sn-Nb-P ガラスの外観写真より目視でも明らかに透明性の高く着色量の少ない組成は(d)

の 65Sn-5Nb-30P でありこの外観写真を参考に組成を決定したSnO 量を 65 molに固定

しNbO25量を 5 molから 0 mol(Nb無添加組成)まで減少させた組成(Fig 21 の緑線

の組成)を選択しこのガラス系の物性の変化を確認した

③はNb2O5量を 5 molに固定しSn を P と置換した組成であるNb と P は酸化数が

同じ 5価であるためこの組成では同じ SnO量の二成分系 SP ガラスと比較した際酸素

の総量に変化が生じない(例えば67S33P と 67S5N28P)またNb5+イオンはガラス中

では4配位および6配位を取るという報告が多い(結晶の場合他の配位数を取る)た

め配位数が4の P5+の置換に適していると考えた

④⑤に関しては気泡のrdquo入りづらいrdquoもしくはrdquo入らないrdquoSnOおよび ZnOが各 5 molにな

る組成を選択したSZP ガラスはFig 23 に示すガラス化範囲のようにガラス化範囲は

非常に広範囲であるしかし気泡が入りやすく脈理のようなものも見られる組成が多く

目視ですら不均質なガラス組成がほとんどであった(これらの組成も粉末にして XRD を測

定するとガラスであった)そのためバルク体でガラスを得られることが困難な組成も多

い(Fig 24 にその一例の SZP ガラスを示す)そこで第三成分の添加量を可能な限り少

ない組成を選択することでバルク体で目視上ldquo均質rdquoなガラスを得た(Fig 23 の青線と

紫線の組成)

また上述したように耐水性の比較対象である鉄リン酸塩ガラスを二成分系で作製し

15

た(FP ガラス)組成はxFe2O3∙(100-x)P2O5 x = 20 25 30 35 40 mol を作製した

222 ガラス作製

Figs 25 - 27に各ガラス系の作製フローチャートを示す出発試薬にSnO NH4H2PO4

Nb2O5 ZnO を使用し各々秤量した秤量混合後アルミナ坩堝に入れか焼(仮焼き)

を行ったか焼条件はSP Sn-Nb-P SNP SZP ガラスは350または 400 6-30 minFP ガ

ラスは600 30 min で行った溶融温度および溶融時間はSP ガラス1100 30 min

Sn-Nb-P ガラス1100 30 minSNP ガラス1000または 1250 20 min SZP ガラス

1100-1200 30 min 各々N2雰囲気下で作製したN2雰囲気下で行った理由はSn2+が Sn

4+

にほとんど酸化されてしまうとガラスが得られなくなるためSn2+の酸化を防ぐ目的がある

[19]FP ガラスは1200 - 1550 30 min大気雰囲気下の条件で作製した溶融後350

に温めておいたスチールモールドに流してプレスした後FP ガラス以外はガラス転移温度

Tg付近でアニールを 1 h行い目的のガラスを得た耐水性試験用のガラス形状はダイヤモ

ンドカッターで大まかに整えた後鏡面研磨まで施して型取ったここでFP ガラスのみ

アニール工程を省いた理由はSP ガラス等はアニールをして歪みを取らなければ正確に

切断できない場合が生じた一方でFP ガラスはアニールをせずとも十分正確にカットで

きたためアニール工程を省いたまた50S50P のみ厚みが必要になると必ず気泡が入

ってしまうため耐水性試験では気泡の入ったものを使用した

223 物性評価

得られたガラスの物性の比較を行うために以下に示す分析を行った

(1)ガラス状態の確認

作製したガラスが結晶の混在していないものかを確認するためにまた耐水性試験

後のガラスが結晶化しているかの確認のためにX 線回折装置(XRD Rigaku RINT-2100)

を用いて分析した全てバルク体で測定したが耐水性試験後ではバルク状態が保てな

いものもあったためその試料については粉末で測定した

(2)組成分析Sn Fe 価数分析

得られたガラスについてアルミナ坩堝の使用によるアルミナのガラスへの混入および

それに伴う組成ズレの確認のために走査型蛍光 X 線分析装置(XRF Rigaku ZSX Primus

Ⅱ)を使用し組成分析を行った分析はバルク体で定性分析法にて測定した

またSn が二価のままどのくらい存在しているかを調べるために Sn-Nb-P ガラスを用い

てSnの価数分析をメスバウアー分光法にて行ったSnの測定は reference [20]に示す旭硝

子の公開特許に記載されている方法で行ったFP ガラスについても価数変化を調べるた

めにメスバウアー分光法にて Feの価数分析を行ったFeの測定は(株)トポロジック

システムズ MDF-200)を用いて評価を行った

16

(3) 密度(ρ)およびガラス転移温度(Tg)評価

各ガラスの密度(ρ)測定はケロシンを用いたアルキメデス法で測定したガラス転

移温度(Tg)を評価するために示差熱―熱重量測定装置(SDT TA instrument Japan Q600)

を用いたアルミナパンを使用し測定条件はN2雰囲気下 10 Kmin 700までの温度範

囲にて行った

(4)耐水性試験

各ガラスの耐水性について評価するために耐水性試験をMCC-1法[21]にて測定した(Fig

28)条件は75 72h ガラスサイズ 12times10times02 cm (plusmn01 cm) 蒸留水の pH は 72-77

で行い浸漬後サンプルを乾かして重量を量った溶出速度(Dissolution Rate DR)は重

量減(ΔW) サンプル表面積(S) 浸漬時間(t)から以下の式によって算出した[22]

DR = ΔW (kg) S (m2) t (s)

また浸漬前と 72 h 後の重量減()も合わせて算出した

23 結果考察

231 組成分析 Snおよび Feの価数評価

Table 21に各試料の組成分析結果を示すまずアルミナ Al2O3の量を見るとガラスに

混入した量がほとんどの組成で 25 mol以下で多くても 35 molを下回る量であった

そのため各種特性についてアルミナの影響はほとんどないと考えられる[23 24]組成

によってその量に差があるのは溶融温度の違いによることに起因している組成分析の

結果今回作製したガラスは仕込み組成と大きな差がないと判断した

Fig 29に Sn-Nb-P ガラスの Snのメスバウアースペクトルをそこから得られたメスバウ

アーパラメーターを Table 22に示す得られた結果よりSn-Nb-P ガラスでは95以上の

割合で Sn2+のまま存在していることが分かった不活性雰囲気で作製したことP2O5 の出

発原料に NH4H2PO4を使用したことにより(か焼は行なっているが)還元雰囲気になったた

めSn4+にほとんど酸化されることがなかったといえるこの結果SP 系ガラスではほぼ

Sn2+のまま存在していると仮定した

Fig 210に FP ガラスの FeのメスバウアースペクトルをTable 23 にそこから得られたメ

スバウアーパラメーターを示すFP ガラスについては組成に関わらず酸化還元平衡に

より 20 ~ 30が Fe2+になりまたFe2O3 ge 30 molの際化学的にも安定であることが知

られている[27]実際にFe2O3 ge 30 molの際Fe2+は概ね 20 ~ 30存在している結果が得

られた一方でFe2O3 lt 30 molの際はFe2+が 40以上と高い割合で存在していることが

判明したこれは出発原料の NH4H2PO4の多量使用によること溶融温度が 1550と高

いことが要因で還元がより進行したためと予想される

17

232 ρおよび Tg

Table 24にρおよび Tgの結果を示す二つの特性結果はそれぞれのガラス系において

SnO や Nb2O5ZnO といった金属酸化物が増えるにつれて大きくなっているSP Sn-Nb-P

SNP S5ZP 系ガラスの Tgはほとんどが 300前後であり最も高い温度でも67S5N28P

の 346であった一方5SZP 系ガラスは400~440となり他のガラス系と比較する

と若干高い温度となったそれでも今回作製した第三成分を添加したガラスは低 Tgを有

するガラスであると判断できSP ガラスの特性を維持できたと判断できる

60S5N28P と 62S5Z30P のようなほぼ同じ OP を示すもので比較した際にNb2O5添加が

ZnO 添加よりも Tgが高くなったのは①配位数が同配位数になり得るイオンの場合(例え

ば Nb5+と Zn

2+なら4配位など)ポーリングの第 2 法則[25]より高価数イオンの方が結合

強度が強くなる②diatomic cationの解離エネルギーがNb-O (688plusmn11 kJmol)[26]に対しZn-O

(1611plusmn48 kJmol)[26]と大きな差があるため Nb-Oの結合が強い故に熱的に安定化され

Tgが高くなったと考えられる

233 耐水性試験前後の外観写真

Figs 211 - 216に各ガラスの耐水性試験前後の外観写真を示すFig 211 の SP ガラスを

観察するとSnO 量の少ない 50S50P 60S40P は浸漬時間が経過するにつれて元々の形状

が崩壊したりガラス自体が膨張したような状態になったりしたSnO 量の多い 67S33P

70S30P について形状は崩れることはないが透明性が失われる(白ヤケ)耐候性が低いこ

とが確認できるFig 212 に示す Sn-Nb-P ガラスではNb2O5無添加の 65S-0Nb-35P は浸漬

時間 24 h で透明性が失われているがNbO25量の増加させていくと徐々に透明性が回復

しており4 mol添加した 65Sn-4Nb-31P では72 h後においてもほとんど変化が確認でき

ないNbの添加量を変えた Fig 213に示す SNP ガラスではSP ガラスと同様に SnO 量の

少ない 50S5N45P は時間経過と共にガラス全体にldquoひびrdquoのようなものが見え72 hの実

験終了後最終的にテフロン糸を外す段階で簡単に割れたしかし50S50P や 60S40P と比

較すると耐水性が大幅に良くなったまた60S5N35P 67S5N28P は耐水性が良好なこと

だけでなく耐候性についても向上していることが目視で判断できる一方で二種類の

SZP ガラス(Figs 214 215)を観るとP2O5量の少ない 5S55Z40P および 55S5Z40P では

形状が崩れるか析出物が現れる結果となったこの組成よりP2O5 量を減少させるとSP

ガラスと同じように形状は崩れないが透明性が若干失われる結果となった

Fig 216 に比較対象の FP ガラスの耐水性試験前後の写真を示すこの組成ではFe2O3

量の少ない20F80Pにおいても形状が全く崩れない結果が得られたしかしFe2O3 lt 30 mol

の組成において表面に干渉色のような反射光が若干確認できたこれはおそらく青ヤ

ケが発生したためであると考えられる

18

234 耐水性試験前後の構造変化

Figs 217 - 222に各ガラスの耐水性試験前後の XRDパターンを示す耐水性試験前では

ガラス化を全組成で確認した(Figs 217(a) - 222(a))しかし耐水性試験後における外観

写真で形状の崩れたもしくは析出物の得られたガラス組成では結晶が生成したことが

確認された形状の崩れた三組成のうち50S50P 60S40P ガラス(Fig 2214(b))では三

種類の結晶ピーク(SnP2O7 Sn2P2O7 Sn3(PO4)2)が確認でき5S55Z40P については(Fig

2214(b))結晶同定の判断はできなかったが ZnOの多い組成であるためおそらくリン酸

亜鉛の何れかの結晶だと推測された析出物が得られた 55S5Z40P はガラス matrix部と析

出物に分けて測定したところガラス matrix 部はガラスのままであり析出物は SnP2O7

Sn2P2O7の二種類の結晶ピークが確認できたガラス形状に変化がなかったその他の組成は

ガラス状態が保たれていたSn4+の結晶のピークが確認されたのは50S50P のガラスには

気泡が残っておりその気泡から酸化されたかもともと溶融工程で電気炉内に残って

いた酸素によってSn4+に酸化されたか等が考えられる

235 溶出速度(DR)および重量減

Table 24に DR重量減の結果および仕込み組成から計算した OP を示すSP SNP S5ZP

ガラスではSnO 量の増加に伴いSnO量の固定された Sn-Nb-P 5SZP ガラス系ではそれ

ぞれの金属酸化物の増加に伴いDR重量減は減少傾向にあったFP ガラスでは全組成

において DR 重量減共に変化が全く確認されなかったそのため青ヤケのようなものが

確認された FP ガラス(Fe2O3 lt 30 mol)については電子天秤では変化が見られない程度

の重量減であったと推測される二種類の SZP ガラスで比較するとSnOと ZnO量が入れ

替わってもほぼ誤差範囲内と思われる結果が得られたガラス全体の比較では外観写真

で変化が見られなかった FP ガラスと 65S5N28P 65Sn-5Nb-30P のガラスが DR重量減がと

もにゼロという結果が得られた

組成と DR 重量減の関係性を見るために作成した図をFigs 223(DRと OP の関係性)

224(Fig 224に重量減と OP の関係性)に示すそれぞれの図にリン酸塩の三つの構造

の OP も表記した双方の図よりDR 重量減共に OP が増加することで単調に下がって

いることが分かるこの結果はリン酸塩の構造ではorthophosphate 組成で耐水性良好が

あるため[22]一般的な結果と同じ挙動であるまた耐水性の良かったNb2O5添加の SNP

ガラスは異なる挙動(傾き)が得られた

以上の結果より第三成分添加による耐水性の改善を確認し特に Nb2O5 の添加による

影響は大きいことが判明したまたOP の増加による耐水性が改善する結果が得られた

次章の第 3 章にて各ガラス系の構造解析を行い第三成分特に Nb2O5の耐水性への有

効性について調査した

19

24 結言

本章ではSP ガラスおよび第三成分の Nb2O5 ZnOを添加した SP ガラスの物性評価を行

うことで耐水性改善への第三成分添加の有効性を確認した各々の物性について以下に

まとめる

低ガラス転移温度を有する SP ガラスは最も SnO 量が高い 70S30P でも Tg le 280であ

ったNb2O5を添加した Sn-Nb-P SNP ガラスではTgの上昇は見られたが Tg le 350

ZnOを添加した 5SZP S5ZP ガラスではTg ≦ 450であり両金属酸化物の添加でも低

ガラス転移温度を維持しているガラスが得られたNb2O5 添加が Tg を上昇させたのはポ

ーリングの第 2法則より高価数イオンの方が結合強度が高くなるためと結論付けた

耐水性試験結果の外観写真を観るとSP ガラスの SnO 量 le 60 mol 5SZP ガラスおよび

S5ZP ガラスの P2O5量 = 40 molの組成についてガラスサンプルの形状が大きく変化して

おりDR 重量減も高く耐水性の低さが明らかであった得られた析出物はSnP2O7

Sn2P2O7 Sn3(PO4)2 および亜鉛リン酸結晶の一種であると予想されたその他の組成では

透明性の失われた組成がいくつかあったが外観写真では変化が見られなかった FP ガラス

と 65S5N28P 65Sn-5Nb-30P のガラスが DR重量減がともにゼロという結果が得られた

組成と耐水性に関してはDRおよび重量減がOP増加で単調に低下した結果が得られた

つまり耐水性を改善させる有効な手段はSP 系ガラスのガラス化範囲を拡大かつ OP を

増大させる第三成分の添加によることであることが示唆された

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21

Fig 21 三成分系 SnO-NbO25-P2O5 系のガラス化範囲

Fig 22 作製した Sn-Nb-P ガラス

(a)50Sn-5Nb-45P (b)55Sn-5Nb-40P (c)60Sn-5Nb-35P

(d)65Sn-5Nb-30P (e)70Sn-5Nb-25P (f)60Sn-10Nb-30P

(g)55Sn-20Nb-25P (h)60Sn-15Nb-25P (i)65Sn-10Nb-25P

22

Fig 23 三成分系 SnO-ZnO-P2O5系のガラス化範囲

Fig 24 作製した SZP ガラスの一例

(気泡や脈理のようなものが確認できた組成)

23

Fig 25 SP SZP ガラスの作製フローチャート

Fig 26 Sn-Nb-P SNP ガラスの作製フローチャート

(気泡や脈理のようなものが確認できた組成)

24

Fig 27 FP ガラスの作製フローチャート

Fig 28 耐水性試験(MCC-1法)

25

Table 21 各ガラスの組成分析結果

26

Fig 29 Sn-Nb-P ガラスのメスバウアースペクトル

Table 22 Sn-Nb-P ガラスのメスバウアーパラメーター

27

Fig 210 FP ガラスのメスバウアースペクトル

Table 23 FP ガラスのメスバウアーパラメーター

28

Table 24 各ガラスの物性(密度(ρ)ガラス転移温度(Tg)溶出速度(DR)重量減())

29

Fig 211 SP ガラスの耐水性試験前後の外観写真

Fig 212 Sn-Nb-P ガラスの耐水性試験前後の外観写真

30

Fig 213 SNP ガラスの耐水性試験前後の外観写真

Fig 214 S5ZP ガラスの耐水性試験前後の外観写真

Fig 215 5SZP ガラスの耐水性試験前後の外観写真

31

Fig 216 FP ガラスの耐水性試験前後の外観写真

32

Fig 217 SP ガラスの XRD パターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

33

Fig 218 Sn-Nb-P ガラスの XRD パターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

34

Fig 219 SNP ガラスの XRD パターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

35

Fig 220 5SZP ガラスの XRDパターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

36

Fig 221 S5ZP ガラスの XRDパターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

37

Fig 222 FP ガラスの XRD パターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

38

Fig 223 各ガラス系の DR と OP の関係性

39

Fig 224 各ガラス系の重量減と OP の関係性

40

第 3章 分光法を用いたスズリン酸塩系ガラスの構造解析

31 緒言

前章ではSP ガラスおよび第三成分に Nb2O5 ZnOを添加した Sn-Nb-P ガラスSNP ガラ

スSZP ガラスの物性特に耐水性に関する第三成分添加の有効性を明らかにしたその添

加した第三成分の二種類についてもNb2O5 の方が ZnO よりも溶出速度重量減ともに抑

制することができSP ガラスの低ガラス転移温度という特性も維持されていることが判明

したしかし現段階では本研究の主要な物性である耐水性改善の要因が明確になって

いない組成の観点からはOP の値が高い組成が良好な耐水性であることが分かったが

組成だけでは耐水性改善のメカニズムについて完全には理解できないここでリン酸塩

ガラスの溶出のメカニズムは第 1 章で述べたように加水分解反応と水和反応が要因とな

る[1 2]この機構はそれぞれリン酸の構造つまり架橋酸素 BO の数が大きく関わって

おりリン酸アニオンの[PO4]ユニットの架橋酸素数を知ることが重要であるこの BO の

情報を得るためにはガラス構造を示す指標の一つである Qn(n は[PO4]ユニット中の架橋

酸素数を表す)を調べることが必須であるまたQn の分布を調べるためにはガラスの

構造解析を行う必要性がある

ガラスの構造解析には種々の方法があり特にラマン分光法や赤外(IR)分光法核

磁気共鳴法(NMR)などの分光学的手法を用いた構造解析の報告が多い[3-5]ラマン分光

法および IR分光法は原理は異なるがどちらも結合の振動モードを測定する手法であり[6]

リン酸塩ガラスだけでなくケイ酸塩ガラスホウ酸塩ガラスなど様々なガラス系にて測

定がなされている[7 8]また得られた結合状態の情報からリン酸塩アニオンの Qn分布

を調べることも可能であるNMR は共鳴吸収ピークの化学シフト(共鳴周波数のズレ)

から構造を決定する手法であるガラスの場合SiO2や B2O3 P2O5といった網目形成酸化物

の Qn分布を得るために一般的に使用されている手法である[9]

今回これらの測定の中でラマン分光法を選択し構造解析を行ったラマン分光法は

測定する際にサンプル形状を気にすることなく基本的にそのまま測定できるためIR 分

光法のようにサンプル形状で測定方法を変える必要はないまたIR 分光法では例えば

KBr 錠剤法やヌジュール法のように測定を行うためのサンプル調整に手間がかかる場合が

ある[6]さらに比較対象の FP ガラスではNMR を測定できないため作製ガラスを全

て比較検討できるようにラマン分光法を選択した

本章ではラマン分光法を用いて各ガラスの構造解析を行い[PO4]ユニットの Qn分布を

調査し平均 BO数 nを算出することで耐水性と構造の関係性を検討したまたラマン

分光法によって得られた Qn分布の妥当性を確認するためにSP ガラスおよび 67S5N28P ガ

ラスの NMRを測定も行い比較した

32 実験方法

41

321 サンプル準備

ラマン分光およびメスバウアー分光の測定では第 2 章で作製した各ガラスのバルク体

を用いたWD試験に使用したサンプルとは別にラマン測定用のサンプルを用意した適

度な大きさ大体 15 cm角程度のサイズになるようにガラスカッターで切断しその後

十分な平滑性を得るために鏡面研磨を施した

322 ラマン分光測定

使用したラマン分光装置は顕微レーザーラマン分光装置(Jasco NRS-5100)を用いた

用いたレーザー波長は 53208 nmであり400 - 2000 cm-1の範囲で測定した

Qn 分布を導くためにピークフィッティングを行いリン酸塩アニオンのラマンバンド

が現れる950 - 1250 cm-1付近および 700 - 750cm-付近の範囲で定量した

323 31P MAS NMR測定

31P MAS NMRの測定は Varian NMR System 500 を用いて32 mmの MASプローブ

202309MHzにて行った測定パラメーターを以下に示すπ4 パルス長さ 14 μs 待ち時間

(pulse delay)10 s 積算回数 3600 scan シリンダー円筒形状の Zrローターの回転スピード

160 kHz referenceとして二番目の基準物質として使われる NH4H2PO4を使用化学シフト

は85 H3PO4溶液から δ = 10 ppmである

33 結果考察

331 各ガラス系のラマンスペクトル

Figs 31 - 35にラマンスペクトルを示す各ピークは以下の通りに帰属し各スペクト

ル中に該当する構造をピーク位置に示した

1230 - 1260 cm-1 P=O NBO Q

2 [10]

1110 - 1150 cm-1metaphosphate (PO3)

- Q

2 [10]

1030 - 1100 cm-1pyrophosphate (PO35)

2- Q

1 [10]

970 - 1000 cm-1orthophosphate (PO4)

3- Q

0 [10]

920 - 930 cm-1asymmetric (P-O-P) Q

1 [10]

730 - 750 cm-1symmetric (P-O-P) Q

1 [10]

710 - 720 cm-1asymmetric (P-O-P) Q

2 [10]

810 - 820 cm-1Nb-O [NbO4] tetrahedron [11]

900 - 920 cm-1Nb-O isolated [NbO6] octahedron [11]

42

SP ガラスのラマンスペクトル(Fig 31)を見ると50S50P 60S40P ではmetaphosphate

の Q2 構造が支配的であるがSnO 量が増えるにつれてその構造が変化し70S30P では

pyrophosphateの Q1構造と orthophosphateの Q

0構造が共存した構造となっているまたSnO

量の少ない 50S50P および 60S40P において確認されたQ2構造の P=O のピークが見えなく

なっているつまり耐水性と関連して考えるとSnO量が増えるにつれてP-O-P 結合か

ら Sn-O-P 結合に代わり水分子との反応である加水分解反応を妨げる構造に変化している

ことがわかる

Figs 32 33にNb2O5を添加した Sn-Nb-P ガラスおよび SNP ガラスのラマンスペクトル

を示すまずSn-Nb-P ガラスについてNb 無添加の 65Sn-0Nb-35P は主に Q1構造であ

りNbO25が添加されることによってQ0構造に変化しQ

1 Q

0構造が共存しているような

ピークが得られた添加量が少ないガラス系であるため徐々に変化しているのを確認し

た800 cm-1を少し越えた 810 - 820 cm

-1付近にNb2O5を添加することでピークが現れそ

して添加量を増量することで強度が強まるピークがありこのピークは四面体の[NbO4]

のものと判断した

SNP ガラスのラマンスペクトルについてはNb2O5添加量を固定した組成であるためSP

ガラスのような挙動が観察された50S50N45P では50S50P ガラスと同じようにQ2構造

が主な構造でありSnO量の増加に伴って60S5N35P Q1構造67S5N28P Q

0構造に支配

的な構造が変化しているこれはSP ガラスと同じ傾向を示しているためP-O-P rarr Sn-O-P

に置き替わっていることが示唆されるNb-O に関するピークでは50S5N45P のみ[NbO4]

四面体のピークを確認できず900 - 920 cm-1付近に[NbO6]八面体のピークが確認された

SnO量が増量した 60S5N35P では810 cm-1付近の [NbO4] 四面体のピークが現れているが

[NbO6]八面体のピークと 900 - 920 cm-1付近の Q

1構造のピークが非常に近い(ほぼ重なって

いる)ことから60S5N35P については[NbO4] 四面体および[NbO6]八面体の共存の可能性

も考えられるまた67S5NP28 では[NbO4] 四面体のみのピークが観察されたためこ

の Nb-O の配位数変化は[PO4] unitの状態によって変化している可能性も示唆された

ZnO を添加した S5ZP ガラスおよび 5SZP ガラスのラマンスペクトルを Fig 34 に示す

図の下部三つが S5ZP ガラス上部三つが 5SZP ガラスのスペクトルであるSZP ガラスの

二系統を比べるとあきらかなスペクトルの違いが確認された各ガラス系で確認すると

SnO 量が最小の 55S5Z40P はQ2構造と Q

1構造の範囲に跨っているようなスペクトルが得

られた62S5Z33P および 65S5Z30P のスペクトルからはどちらもほぼ Q1構造であると判

断した5SZP のスペクトルは1000 - 1250 cm-1付近の範囲で裾を引くような(なだらかな)

スペクトルが得られたZnO 量が最小の 5S55Z40P にはQ2構造が主な構造に見えるが

shoulderピークのような Q1構造(1030 - 1100 cm

-1)が確認できる5S62Z40P においては

1000 - 1250 cm-1付近の範囲まで幅広いスペクトルが得られた730 - 750 cm

-1付近にピーク

が現れているためおそらく Q1構造が最も多く存在していると考えられる65S5Z30P では

Q1構造Q

0構造が共存しているようなピークが得られた

43

FP ガラスのラマンスペクトルを Fig 35 に示すFe量の少ない 20F80P 25F75P と他の三

つで構造が異なっていることである20F80P 25F75P はQ2構造と Q

1構造が基本構造にな

っていると判断できる 30F70P は1110 - 1150 cm-1付近に shoulderピークのようなものがあ

りQ2 Q

1 Q

0構造が共存しているようなスペクトルであった35F65P 40F60P はQ1構造

が主な構造でQ0構造があると判断した

332 平均 BO数 n (Qn分布)

まずピーク分離について散乱断面積が見積もれなかったためラマンの散乱強度比

を Qn分布として簡易的にピーク分離を行い(Fig 36)そこから平均架橋酸素数 BO 数 n

を算出したここでFig 37 に 31P MAS NMRスペクトルを示しTable 31に NMRおよび

ラマン分光より得られた平均 BO 数 n を示す(NMR の帰属 reference [12])表よりNMR

とラマンから得られた Qn分布はほぼ一致していることが分かった60S40Pについては支

配構造が NMR(Q1) ラマン(Q

2)で逆になったこれは60S40P の組成がQ

2と Q1のほぼ中

間の組成になるためこのようなズレが生じたと考えられるしかし今回のラマンによ

る Qn分布の算出についてはほぼ問題ないと判断した

Table 32にラマンスペクトルより求めた Qn分布平均 BO 数 nをを示しTable 24に示

した DR 重量減の結果を併記する

SP ガラスのうち耐水性が低いガラスは Q2構造によって形成されているSnO量の増加

によって NBOの増加とともに耐水性の向上が確認できSnOが入ることでSn-O-P 結合を

形成し水分子からの攻撃を受けにくくなっていることが考えられる

Sn-Nb-P ガラスでは基本的に Q1構造が主構造でNb2O5の添加が増えるにつれQ

0構

造が支配的になり耐水性は次第に向上していく最も耐水性のよかった 65S-5Nb-30P は

Q0構造での割合が非常に高く平均 BO数 n値が 03であった

SNP ガラスではP2O5量が多い組成の 50S5N45Pにおいても平均 BO数 nが 60S40P と

同じながらも耐水性が良くなっている67S5N28P はほぼ完全に Q0構造であり平均 Q

n

値は 0となった

SZP ガラスについてはS5ZP 5ZSP のどちらの系列についても耐水性の結果に大きな差

というものは確認されなかったが構造的にも平均 BO数 nが 09 10 17という結果であ

った

FP ガラスについてはFe2O3 lt 30 molのときは平均 BO 数 nが20 19と高い数値を

示したが耐水性は非常に良好であったこの結果より組成だけでなく構造的にも耐

水性高くなる要因が不明である一つの原因の可能性としてメスバウアーより得られた

Fe2+の存在比が 40以上と高かったことがFe2O3含有量が少ない組成時には効果的になっ

ているのかもしれない

333 平均 BO数 nと耐水性の関係性

44

Fig 38に DRと平均 BO数 nの関係性についてFig 39に重量減と平均 BO数 nの関係

性をそれぞれ示すまたOP の時と同様に各図にリン酸塩の三つの構造の平均 BO数

n も表記した双方の図よりDR 重量減共に平均 BO 数 nが低下することで単調に下がっ

ていることが分かるまた耐水性の良かったNb2O5添加の Sn-Nb-P SNPガラスはの DR

の挙動(傾き)はOP 時とも異なった挙動が得られた

Fig 310に OP と平均 BO数 nの関係を示す図中に示す茶色metaphosphate 黄色

pyrophosphate 灰色orthophosphate であるこの図から耐水性改善には平均 BO 数

n を下げOP を上げることが重要であるのが分かるまたNb5+の添加はOP を上げる

だけでなく平均 BO 数も減少させることから非常に効果的な成分であることが明らかで

あるこれはP5+から同酸価数 Nb

5+に少量でも置き換えることで平均 BO 数 n を下げ

OP を上げることを可能としている(実際に orthophosphate の OP4 よりも高い OP でガ

ラスが作製できている)つまりNb5+の添加によって P-O-P 結合が減少し水和反応加

水分解反応が抑制されているからである

以上の結果SP 系ガラスの耐水性改善には低い平均 BO 数と高い OP の組成にするこ

とが重要でNb2O5の添加は非常に効果的であることが分かったその一方でガラス中の

詳細な構造的要因についてははっきりしていないため次章の第 4 章にてさらに詳し

い構造解析を行い耐水性改善の要因について調査を行った

34 結言

本章ではラマン分光を使用して各ガラス系のリン酸塩アニオンの構造を簡易定量で

評価し組成と構造の関係について考察した

平均 BO 数 n と耐水性に関してはDR および重量減が平均 BO 数 n の減少で単調に低下

した結果が得られた

平均 BO数 nと OP の図より耐水性改善には平均 BO数 nを下げることそして OP

を上げることが重要であることが明白であった

Nb5+の添加は平均 BO数を減少させるだけでなくOP も上げることからガラス構造内

の P-O-P 結合を減少させる故に水和反応加水分解反応が抑制され耐水性が大幅に

改善された故にNb2O5 のような高価数金属酸化物を添加することが効果的であること

が示唆された

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46

Fig 31 SP ガラスのラマンスペクトル

47

Fig 32 Sn-Nb-P ガラスのラマンスペクトル

48

Fig 33 SNP ガラスのラマンスペクトル

49

Fig 34 SZP ガラスのラマンスペクトル

50

Fig 35 FP ガラスのラマンスペクトル

51

Fig 36 ラマンスペクトルのピーク分離例(67S5N28P)

Raman Shift (cm-1)

52

Fig 37 NMRスペクトル

Table 31 NMR およびラマン分光より得られた SP 67S5N28P ガラスの

Qn分布および平均 BO数 n

53

Table 32 各ガラスのラマンスペクトルより求めた Qn分布結果

(表の赤線より右側の結果は Table 22 より)

1 仕込み組成による数値

2 Fig 2212 に示した析出物を取り除いた後の数値

54

Fig 38 DR と平均 BO数 nの関係性

55

Fig 39 重量減と平均 BO数 nの関係性

56

Fig 310 OP と平均 BO数 nの関係性

Meta

Pyro

Ortho

57

第 4章 放射光を用いたスズリン酸塩系ガラスの構造解析

41 緒言

前章の第 3 章にてラマン分光法を用いて SP 系ガラスの構造解析により Qn分布を導き

出したことで耐水性と構造の関係についてある程度関連性を導くことができたリン

酸アニオンについてはQ0(orthophosphate)構造 gt Q

1(pyrophosphate)構造 gt Q2

(metaphosphate)構造の順で良耐水性となるしかしSn Nbおよび Znの局所構造につ

いては知見が得られていないラマン分光や IR分光などの分光学的手法を用いてSnや

Nb Zn の周辺の局所構造を知るには限界があるまたガラスの構造解析を行う上で非常

に重要な因子である中距離構造の評価には分光学的手法は不向きである[1]

そこで局所構造や中距離構造を知るために有効な手法として放射光線を用いた構造

解析がある放射光(SR 光)とはシンクロトロンなどの加速器で高速に加速された電子

が進行方向を磁場によって変えられた際に放射する電磁波である[2]エネルギーが高く

(短波長)輝度が高い特性を有している日本国内では兵庫県佐用町の SPring-8や茨城

県つくば市の高エネルギー加速器研究機構佐賀県鳥栖市の佐賀県立九州シンクロトロン

光研究センターなど複数個所に放射光施設が設置されている

放射光を用いたガラスの構造解析には一般的に高エネルギーX 線回折(High Energy

X-ray diffraction HEXRD)が用いられるこの回折実験から高い散乱ベクトル Q(= 4π sinθλ)

まで回折データが得られる多種類の原子から構成される物質の場合はFaber-Ziman 型[3]

の構造因子 S(Q)を用いる以下の式に示すようにFaber-Ziman 型構造因子 S(Q)は同種また

は異種の原子による相関の重み関数付の和として示される例として SiO2ガラスで説明す

ると構造因子 S(Q)は三種類の原子付の S(Q)の重み付の和として表されていることが分か

I(Q) 散乱断面積 ltgt 原子一個当たりの平均値 f(Q) 原子散乱因子 W 重み関数

通常の研究室で使用される X 線回折(XRD)装置で用いられる特性 X 線はCuKα線(λ

= 0154 nm 81 keV)が最も良く用いられより高いエネルギーの X 線が必要な場合は

MoKα線(λ = 0071 nm 175 keV)が使用される一方でSPring-8のビームライン BL04B2

で行われる高エネルギーX 線回折(HEXRD)測定で使用される SR のエネルギーは378 keV

58

~ が使用可能である[2]従ってガラス以外の液体のような非晶質物質にも非常に精度

よく構造解析が行われている[4]

また局所構造解析の一つに X線異常散乱法という測定方法がある[5 6]これは通常

の X 線回折実験では分離不可能な特定元素に関連する部分構造因子(散乱強度曲線)を得

ることができる手法である今回 HEXRD の測定時に使用したエネルギー614 keV では各元

素の異常散乱項のエネルギー依存性は確認されない(Fig 41)その一方でFig 42に示す

Sn の吸収端付近の 292 keV付近ではSnの異常分散項のエネルギー依存性が確認できる

つまりSnの吸収端近傍より低エネルギー(E)側の異なるエネルギーの X線(E1 E2)を

使って散乱強度を測定し各 E における異常分散項(f`)の変化(つまり高い E1 から低い

E2 の散乱強度の差分)を利用して Snに関する部分構造因子を求める構造解析が AXS 法で

あるこの測定法は古くから知られている方法ではあるが装置の測定条件や設備の問

題からなどから使用があまり普及していなかった[5 6]近年になり金属ガラスの構造解

析について徐々に報告が出てきており今後注目される測定法である

HEXRD および AXS 法などから得られたデータ実測の構造因子 S(Q)は一次元の限られ

た構造情報であるためガラスなどの非晶質物質の中距離構造を解明するためにはこれ

らのデータを基に三次元構造を求める必要がある三次元構造モデルの作成には逆モンテ

カルロ(RMC)シミュレーションを使用することが有効である[7]このシミュレーション

は任意で決めたシミュレーションボックス内の粒子をランダムに動かすことで実測の

構造因子 S(Q)を再現する三次元構造モデルを構築する方法である

SP ガラスについては分光学的手法について数多く報告があるが放射光を用いた回折

法はほとんど適用されていないそこで本研究では HEXRD および AXS 法を用いた構造

解析を行うことでSn Nb周りの構造を解明すると共にSNP ガラスの耐水性改善のメカ

ニズムについて考察したまたAXS 法の有効性についても検討した測定を行ったガラ

スはSP ガラスおよび最も耐水性の高かった 67S5N28P を選択した

42 実験方法

421 HEXRD AXS法

HEXRDはSPring-8のビームライン BL04B2 で測定を行ったエネルギー614 keV の X

線を用いた測定サンプルの厚みは09 mm (plusmn0005 mm)になるまで研磨を行った

AXS 測定はSPring-8のビームライン BL13XUを使用した(Fig 43)それぞれの測定し

た X 線のエネルギーについて以下に示す

①Sn K吸収端hellip292 keV near edgehellip291452 keV (-60 eV) far edgehellip289751 keV (-230 eV)

②Nb K吸収端hellip1899 keV near edgehellip189562 keV (-30 eV) far edgehellip187863 keV (-230 eV)

測定に使用したサンプルの厚さが015 - 030 mmとなるまで研磨を施した

SP ガラスについて50S50P 60S40P 67S33P の三組成のガラスを測定した70S30P に関

59

しては測定を試みたが放射光照射によって結晶化してしまいガラス部分の正確な構

造因子を得るための強度補正ができず解析を断念した

422 RMCのモデリング

Table 41 に RMC の各種パラメーターを示す粒子数は約 5000 個でそれに伴う boxの一

辺の長さは約 42 ~ 46 Ǻになった拘束条件にP の配位数が 4になるような条件を付け

加えたFig 44にSn2P2O7結晶および Sn3P2O8結晶の動径分布関数(RDF)をTable 32

にRDFから得られた第一近接距離[8 9] を示すこれらの数値を使用しcutoffを決定し

たNb-O についてはいくつかの文献値を参考にした[10 11]

各ガラスの RMCのモデリングは①HEXRDから得られた S(Q)のみ②S(Q)および AXS

から得られた部分構造因子を加えた場合でそれぞれ計算した

43 結果考察

最初にNbの AXSから得られたデータについて解析を試みたが妥当な構造モデルが得

られなかったためSnの AXSのみで解析を進めたNb2O5の量が 5 molと少量であったた

めあまり精度の高いデータが得られなかったと推測される

431 実測の HEXRDおよび AXSの結果

4311 実測 HEXRDの S(Q)

Fig 45 に実測HEXRDの S(Q)を示す四つの組成ともに実測HEXRDの S(Q)が得られ

Nb2O5添加の 67S5N28P ガラスでは Low Q 側に変化が確認された

4312 実測散乱強度曲線

Fig 46 に Snの散乱強度曲線を示す(a) の 67S33P のこの曲線からはfar edgeおよび

near edge のエネルギー間で差分が見られエネルギーの依存性が確認された50S50P

67S5N28P のガラスについても同じように差分が確認されたが(b)の 60S40P についてのみ

他とは若干異なる結果(緑丸)であったためRMC の構造解析には差分の構造因子ではな

くfar edge near edge 二つの構造因子を用いた

4313 全相関関数 T(r)

Fig 47 に全相関関数 T(r) を示すHEXRD から得られたものを実線でSnの AXS から

得られたものは点線で示し組成ごとに重ねて表示した図中に各ピークについて帰属し

ているがSnの T(r)からはSn-O Sn-P Sn-Snのみのピークを確認した

432 RMCの計算結果および考察

60

構造モデルの一例として67S5N28P ガラスの得られた構造モデルをFig 48に示す水

色の多面体 unitSnON 黄色の多面体 unitPO4 ピンクの多面体 unitNbONである以下

詳細な構造解析の結果および考察を記す

4321 RMCのフィッティング結果

RMCのフィッティング結果の一例として67S33P の HEXRD と Snの AXS の構造因子か

ら得た結果を示す(Fig 49)二つの構造因子を加えて計算した結果においてもHEXRD

の S(Q) AXS の S(Q)に各々に対する良好なフィッティング結果が得られた他の組成も

同様なフィッティング結果が得られた

4322得られた各 pairの平均配位数平均角度平均結合距離

RMCの結果によって得られた各 pairの平均配位数平均角度平均結合距離を Tables 43

に示す上段が HEXRD の S(Q)のみ下段が HEXRD に Sn の AXS の部分構造因子を加え

て結果である最下部は比較のためにSn2P2O7の情報を記載した[8]

P-O pairについてRMCモデル中の PON多面体に関して平均配位数 Nが 4および P-O

の平均結合距離が約 160Å平均結合角度angO-P-O が約 109degという結果が得られた組成

による大きな違いは確認されなかったのはP の配位数が 4になるように拘束条件をかけた

結果であると考えられるSnON多面体についてはSnO量の増加 = OP の増加であり平

均配位数 Nが 3 ~ 35へ増加した平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約

22Åで組成による大きな変化はほとんど見られなかったNb2O5を 5 mol添加したガラ

スではNbON多面体の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平均配位数 N約 4Nb-O 平均結

合距離約 20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O(約 105deg)と値が近いこと

また6配位ではなく 4配位として主に存在していることからSnO と同じような働きをし

ていると推測される

以上の結果からNb2O5添加の耐水性改善の要因として結合距離が Sn-O が約 22Åに対

し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強固にして

いることも一つの要因として考えられる

また67S5N28P ガラスの各多面体モデルを確認すると(Fig 410)P は PO4Snは SnO4

と SnO3Nbは NbO4をそれぞれ再現している

4323得られた各 pairの結合様式

RMC の結果により得られた各 pair の結合様式を Tables 44 に示す上段が HEXRD の

S(Q)のみ下段が HEXRDに Snの AXS の部分構造因子を加えた結果である最下部は比

較のためにSn2P2O7の情報を記載した[8]

結合様式に関してはPO4四面体は他の多面体も含めてほぼ頂点共有で存在している

SnON多面体についてはSnO 量が少ない配位数が 3 に近い場合頂点共有以外の共有の

61

割合も多くSnO 量が増えるにつれて頂点共有が主になり網目形成体として振舞ってい

ると考えられる組成によって平均結合距離や平均角度の大きな変化が見られなかったこ

とから平均配位数が結合様式を決める重要なファクターであるということも考えられる

またHEXRD と AXS 法の結果がほぼ同じであったこれは主成分が SnO のガラスであ

るためHEXRDでも十分に詳細な構造が得られたため大きな変化が現れなかったと考え

られるNbON 多面体はPO4 四面体と SnON 多面体とはほぼ頂点共有で繋がっている以

上の結果よりSnO量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体的に各多面体同士の

頂点共有が増えていることから耐水性の改善には頂点共有を多く含む構造であること

が重要である或いは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的となって

いるということが推測されるFig 411に 67S5N28P ガラスの構造モデルを示す各多面

体はほぼ頂点共有で繋がっていることが確認できる

4324 平均 BO数の比較

Tables 45にNMR Raman RMC(HEXRD) RMC(HEXRD + AXS)の平均BO数を示すRMC

から得られた平均 BO 数 nはNMR Raman と同様に Nb2O5の添加による大幅な減少が確認

されたしかしNMR Raman と比較すると全組成において数値が大きすぎで適当でない

50S50P の構造モデルを観るとPO4四面体間で3配位 O の存在が確認された(Fig 412)た

め実測で得られた n値を再現できるようなPO4四面体モデル間の繋がり方に関する拘束条

件を加えて RMCを計算する必要性があるまた仮に3配位 Oの存在があるとすると電

子状態の変化が生じていることがと示唆されるため分子軌道計算を用いて電子状態解析

を行い確認する必要がある

4325 耐水性の改善について

Nb2O5を添加のガラス構造への影響について①6配位ではなく 4配位として主に存在し

ていることからSnO と同じような働きをしていると推測される②結合距離が Sn-O が約

22Åに対し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強

固にしている③ガラス構造中で全体的に各多面体同士の頂点共有が増えている以上の

ことが判明した以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性

耐候性を改善した要因として考えられる

44 結言

本章では分光学的手法では評価できないガラスの中距離構造局所構造について理解

するために放射光を用いた構造解析を実施しSP ガラスの構造と耐水性改善について考

察したHEXRDおよび AXS法を用いて測定を行い得られたデータを RMCシミュレーシ

ョンにて解析を行った

解析の結果 Sn-O pair については平均配位数 Nが 3 ~ 35でSnO量の増加 = OP の増

62

加に伴い高くなった平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約 22Åであ

ったP-O Sn-Oについては組成による大きな変化はほとんど見られなかった67S5N28P

ガラスの Nb-O pair の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平均配位数約 4Nb-O 平均結合距

離約 20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O(約 105deg)と値が近いことま

た6配位ではなく 4配位として主に存在していることからSnOと同じような働き(網目

形成体)をしていると推測されるまた結合距離が Sn-O が約 22Åに対し Nb-O は約 20

Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強固にしていると言える

SnO 量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体的に各多面体同士の頂点共有が増え

ていることから耐水性の改善には頂点共有を多く含む構造であることが重要である

もしくは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的であることが推測さ

れる以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性耐候性を

改善した要因として考えられる

またAXS 法の有効性についても確認し効果的であることが判明したただし今回

は主成分が Sn の組成のガラスでありHEXRD でも十分に詳細な構造が得られたため

大きな差は現れなかった

参考文献

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ンドブック 朝倉書店(1999)

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[4] 小原真司 鈴谷健太郎 放射光 14 [5] 365-375 (2001)

[5] 早稲田嘉夫 齋藤正敏 放射光 10 [3] 299-315 (1997)

[6] 細川伸也 広島工業大学紀要研究編 46 197-204 (2012)

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[8] V V Chernaya A S Mitiaev P S Chizhov E V Dikarev R V Shpanchenko E V Antipov

MV Korolenko and PB Fabritchinyi J Chem Mater 17 284-290 (2005)

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[11] D Munoz-Martin A Ruiz de La Cruz J M Fernandez-Navarro C Domingo J Solis and J

Gonzalo J appl Phys 110 023522 (2011)

63

Fig 41 各原子の異常分散項のエネルギー依存性

Fig 42 Sn の異常分散項のエネルギー依存性

64

Fig 43 SPring-8の BL13XU

65

Tab

le 4

1

RM

Cの各パラメーター

66

Fig 44 Sn2P2O7 Sn3P2O8結晶の RDF

Table 42 Sn2P2O7 Sn3P2O8結晶の各 pairの第一近接距離

67

Fig 45 得られた実測 HEXRDの S(Q)

68

Fig 46 Sn の異常散乱測定により得られた散乱強度のエネルギー依存性

(a)67S33P (b)60S40P

69

Fig 47 全相関関数 T(r)

太線 HEXRD より

細線 Sn の AXSより

70

Fig 48 67S5N28P ガラス構造のモデル

71

Fig 49 RMC フィッティングの結果

72

Tab

le 4

3 各

pairの平均配位数角度結合距離

73

Fig

4

10

67

S5

N2

8Pガラスの各多面体モデル

74

Tab

le 4

4 各

pairの結合様式

75

Fig 411 67S5N28P ガラスの構造モデル

76

Table 45 平均 BO 各数 nの比較

Fig 412 50S50P ガラスの構造モデル

77

第 5章 総括

本研究ではSP ガラスを対象とした本研究では鉛フリー代替ガラスまたは希土類フ

リー蛍光体として SP ガラスの新規高機能化を将来的に目指し問題点であるldquo化学的耐久

性rdquoの改善につながる知見を得ることを目的としたそこでまずSP ガラスを母体ガラ

スとし第三成分に Nb2O5を添加した Sn-Nb-P SNP ガラスZnO を添加した SZP ガラスを

作製し耐水性を中心とした物性評価を行った次に分光学的手法で構造解析を行い

Qn 分布を導き出した最後に放射光を用いた構造解析を行い耐水性改善に関する構造的

な考察を行った以下に本研究で行った検討内容を示す

(1)SPガラスおよび第三成分Nb2O5 ZnOを添加した三成分系SPガラスの物性評価(第 2章)

(2)SP 系ガラスの分光学的手法による Qn分布導出(第 3章)

(3)放射光を用いた SP 系ガラスの構造解析構造と耐水性改善の関連について(第 4章)

各章についてまとめた結果を以下に示す

第 2章

第 2章では二成分系および三成分系のリン酸塩系ガラスの各種物性(密度や熱的特性

耐水性)の評価を行った二成分系ではSP ガラスに加え良好な耐水性を有する鉄リン

酸塩(Fe2O3-P2O5)系ガラス(以下 FP ガラス)を比較のために三成分系では二成分系

の SP ガラスに Nb2O5を添加したニオブ含有 SP ガラス(SNP ガラス)および ZnO を添加し

た亜鉛含有 SP ガラス(SZP ガラス)を作製した

今回作製した SP 系ガラスは低ガラス転移温度を有していた各組成の温度域はSP

ガラスTg le 280 Sn-Nb-P SNPガラスTg le 3505SZP S5ZPガラスTg ≦ 450であった

各種 SP ガラスの耐水性試験の結果二成分系の SP ガラスよりも三成分系ガラスの方が

良好な耐水性を有していた65Sn-5Nb-30P 67S5N28P ガラスが最も耐水性が良好であり化

学的耐久性の改善には Nb2O5が ZnOよりも効果的であった

組成と耐水性に関してはDRおよび重量減がOP増加で単調に低下した結果が得られた

つまり耐水性を改善させるにはSP 系ガラスのガラス化範囲を拡大かつ OP を増大させ

る第三成分の添加が有効であることが示唆された

第 3章

第 3章ではSP 系ガラスの分光学的手法による Qn分布の導出を行ったラマン分光法を

用いて各ガラス系のリン酸塩アニオンの構造を簡易定量で評価し組成と構造の関係に

ついて考察した平均 BO 数 n と耐水性に関してはDR および重量減が平均 BO 数 nの減

少で単調に低下することが明らかとなった

平均 BO 数 n と OP の関係より耐水性改善には平均 BO 数 n を下げることそして

OP を上げることが重要であることが明らかになった

78

Nb5+の添加は平均 BO数を減少させるだけでなくOP も上げることからガラス構造

内の P-O-P 結合を減少させ水和反応加水分解反応が抑制され耐水性が大幅に改善さ

れることが示唆された故にNb2O5 のような高価数金属酸化物を添加することが効果的

であることが再度確認された

第 4章

耐水性向上についてより深く評価するためSP SNP ガラスの局所構造に関する知見を得

ることを目的に放射光を用いた構造解析を行った高エネルギーX 線回折(HEXRD)お

よび X 線異常散乱(AXS)法で測定したデータを再現する構造モデルを逆モンテカルロ

(RMC)シミュレーションで構築し構造解析を行った

RMC モデル中の PON多面体に関して平均配位数 Nが 4および P-O の平均結合距離が約

160Å平均結合角度angO-P-Oが約 109degという結果が得られた組成による大きな違いは確

認されなかったSnON多面体については平均配位数 N が 3~4 でSnO 量の増加に伴い 4

に近い値となった平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約 22Åで組成

による大きな変化は見られなかった

Nb2O5を 5 mol添加したガラスではNbON多面体の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平

均配位数N約4Nb-O平均結合距離約20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O

(約 105deg)と値が近いことまた6配位ではなく 4配位として主に存在していることから

SnO と同じような網目形成体として働いていると推測されたまた結合距離が Sn-O が約

22Åに対し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強

固にしていると考えられるまたSnO 量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体

的に各多面体同士の頂点共有が増えていることから耐水性の改善には頂点共有を多く

含む構造もしくは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的であること

が示唆された以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性

耐候性を改善した要因として考えられる

またAXS 法の有効性についても確認し効果的であることが判明したただし今回

は主成分が Snの組成のガラスでありHEXRD でも十分に詳細な Snの周辺構造が得られ

たためAXSを利用した場合との大きな構造の差は認められなかった

本研究では様々な優れた特徴を有する SP ガラスにおける耐水性改善のメカニズムにつ

いて検討を行ったこの系のガラスについてはこれまでほとんど利用されていなかった

放射光を用いた構造解析を駆使し第三成分の添加によってどのような構造的変化が生じ

耐水性を改善させるか新たな知見を得ることができた最終目標である機能性ガラスの

開発における新たなる材料設計指針の確立に対してldquo耐水性rdquoに関しては概ね明らかにな

ったと考えられる一方で今回検討していな電子状態化学結合性についても評価する

ことで溶出メカニズムの解明が可能になり材料設計指針の確立が期待される

79

発表論文リスト

口頭発表

第 2章および第 3章

(1) SnO-P2O5 系ガラスへの酸化物添加効果

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎

日本セラミックス協会第 25 回秋季シンポジウム No3C06 (名古屋市 2012年 9月)

(2) Effect of Nb2O5 addition to SnO-P2O5 glass (Poster)

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

International Union of Materials Research Societies International Conference on Electronic

Materials IUMRS-ICEM 2012 A-9-P26-003 (Yokohama 2012 年 9月)

(3) スズリン酸塩系ガラスの蛍光特性耐水性に及ばす酸化物の添加効果(ポスター)

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎

日本セラミックス協会 2013 年年会 1P070 (東京 2013年 3月)

第 4章

(1) 放射光を用いたスズリン酸塩ガラスの構造解析

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎小原真二臼杵毅

日本セラミックス協会第 27 回秋季シンポジウム 2B22 (鹿児島市 2014年 9 月)

(2) Structural analysis of tin phosphate glasses by synchrotron radiation (Poster)

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba Shinji Kohara Takeshi Usuki

International Congress on Glass ICG Annual Meeting Bangkok 2015 P14-138 p186 (2015)

発表論文

(1) Effect of Nb2O5 addition to SnO- P2O5 glass

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

Journal of the Ceramic Society of Japan Vol 120 No 11 pp530-533 (2012)

(2) Structural analysis of SnO- P2O5 glass

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

Journal of the Ceramic Society of Japan(準備中)

80

謝辞

本研究を遂行するにあたり終始暖かいご指導ご助言並びにご鞭撻を賜わりました岡

山大学大学院環境生命科学研究科 難波徳郎教授に心より感謝の意を表します

また本研究を遂行するにあたり懇切丁寧なご指導とご意見をしていただいた岡山大

学大学院環境生命科学研究科 紅野安彦准教授環境環理センター 崎田真一助教に心より

感謝いたします

本研究を遂行するにあたりラマン分光測定の使用についてご助言ご教授して頂い

た岡山大学自然科学研究科 藤井達生教授中西真助教に心より感謝の意を表します

Sn のメスバウアー測定の際に協力して頂いた岡山大学自然科学研究科先端自然科学教

育研究推進本部高田研究室 松本修治特任助教(当時旭硝子株式会社中央研究所)また

Feのメスバウアーを測定の際に協力して頂いた岡山大学自然科学研究科 藤井達生教授に

心より感謝の意を表します

固体 NMR の岡山大学自然科学研究科 早川聡教授に心より感謝の意を表します

本研究を遂行するにあたりSPring-8 にてHEXRD および AXS 法の測定法および原理

についてご教示頂きました物質材料研究機構 小原真司博士ならびに山形大学 臼杵毅

教授に心より感謝の意を表します

本研究は多くの後輩諸君の協力によって遂行されました特に実際に共同研究共同

実験を遂行して頂いたOG 藤原沙弥香さん博士前期課程 2 年 東利彦君OB 徳岡太誠

君学士課程 4年 塩田将大君に心より感謝の意を表しますまた難波研究室で共に研

究生活を過ごした卒業生在学生の方々に感謝の意を表します

また同時期に博士後期課程に在籍された香川高等専門学校の桟敷剛さんにはNbに

関する有益な情報だけでなく辛い状況でも励ましを頂きました心より感謝の意を表し

ます

最後に長きに渡る学生生活を認め経済面だけでなく精神面でも支援してくださった

家族に心より深く感謝の意を表します

平成 28年 3月

福井 聡史

Page 13: 博士論文 スズリン酸塩系ガラスの物性と構造解析ousar.lib.okayama-u.ac.jp/files/public/5/54353/...博士論文 スズリン酸塩系ガラスの物性と構造解析

10

Fig 15 リン酸塩ガラスの溶出メカニズム模式図水和反応 [21]より転載

11

Fig 16 アルミナ含有リン酸塩ガラスの構造

Fig 17 鉄リン酸塩ガラスの構造 [27]より転載

P

O

O

OO Al

O

O

O P

O

O

O Al

O

O

O P

O

O

O

12

Fig 18 ガラスの侵食機構(耐候性)[1]より転載

13

第 2章 スズリン酸塩系ガラスの物性評価

21 緒言

前章で述べたようにスズリン酸塩(SP)系ガラスは無色透明高透過率低ガラス

転移温度など工業的に興味深い特徴を有することが知られている[1]またSn2+が ns

2型の

発光中心となり紫外線照射による白色蛍光を示すことから希土類フリー白色蛍光体とし

ての研究も数多くなされている[2 3]

しかし実用化に向けてはこの系のガラスについてもリン酸塩系ガラスに特有のldquo耐

水性rdquoldquo耐候性rdquoの低さが問題となる[4]この問題点を解決するために第三成分として他

の化合物を加えることが有効でありSP ガラスにおいてはB2O3や ZnO SiO2 MgO MnO

など様々な物質を第三成分として添加した研究報告[5 - 9]があったりNH3雰囲気下で数日

間溶融作製することでガラスを一部窒化することで耐水性を改善させたりという報

告もある[10]SP ガラスに限定しないリン酸塩系ガラスではZnO-P2O5 系ガラスに Sb2O3

や MoO3を添加した報告[11 12]や Na2O-P2O5系ガラスに CuO を加えた報告[13]P2O5-CaO-

Na2O に Ag2Oを添加した報告[14]Na2O-K2O-CaO-P2O5ガラスの一部を窒化することによる

方法[15]等があり数多くのリン酸塩系ガラスの耐水性改善に関する研究がなされている

本研究では高価数金属酸化物および低価数金属酸化物の二種類をそれぞれ第三成分と

して添加した高価数金属酸化物には Nb2O5を低価数金属酸化物には ZnO の二種類の酸

化物を選択した

Nb2O5は古くから光学ガラスの成分として頻繁に使われる物質であり様々な企業から数

多くの特許が出されている[16 17]また耐水性の改善に有効であるとの報告や比較的低

温でもガラス作製ができることが知られており(当然のことながら組成に影響される)

鉛フリーの封着ガラスとしての研究もなされているZnO についてはこれ自体は無着色

成分であるため無色透明なガラスが得られることから光学ガラスの成分に用いられる

ほとんどの組成で低融点ガラスとなり[18 19]これらの特性からSnO-ZnO-P2O5(SZP)

系ガラスは Sn2+を発光中心とした蛍光体の研究対象となっていることが多くSP 系ガラス

では一般的なガラス系である

本章では第三成分を含まない SP ガラスおよび Nb2O5または ZnOを SP ガラスに添加し

た三成分系ガラスをそれぞれ作製し耐水性試験を中心とした各種物性評価を行った比

較対象に耐水性の優れることで知られる鉄リン酸塩系ガラスも同時に作製することでSP

系ガラスへ添加したそれぞれの第三成分の耐水性に対する有効性を検討した

22 実験方法

221 ガラスの組成選択

本研究において作製した SP ガラスは以下の五種類の系列を選択した

14

① スズリン酸塩ガラス(xSnO∙(100-x)P2O5 x = 50 60 67 70 mol)

(略称 SP ガラス組成は 50S50P と表記)

② ニオブ含有 SP ガラス(65SnO∙xNbO25∙(35-x)P2O5 x = 0 1 2 3 4 5 mol)

(略称 Sn-Nb-P ガラス組成は 65S-0Nb-35P と表記)

③ ニオブ含有 SP ガラス(xSnO∙5Nb2O5∙(95-x)P2O5 x = 50 60 67 mol)

(略称 SNP ガラス組成は 50S5N45P と表記)

④ 亜鉛含有 SP ガラス (S5ZP ガラス)(xSnO∙5ZnO∙(95-x)P2O5 x = 55 62 65 mol)

(略称 S5ZP ガラス組成は 55S5Z40P と表記)

⑤ 亜鉛含有 SP ガラス (5SZP ガラス)(5SnO∙xZnO∙(95-x)P2O5 x = 55 62 65 mol)

(略称 5SZP ガラス組成は 5S55Z40P と表記)

(④と⑤は総じて SZP ガラスと表記する場合がある)

それぞれの選択理由はガラス化範囲(各ガラス系のガラス化範囲を Fig 21および Fig

23 に示す)作製の容易さ(気泡の入りにくさ流し出しやすさ)等を考慮し決定した

組成ごとに詳細な選択理由を述べると

②についてNb を P と置換した組成であるFig 22 に示した溶融温度 1100で作製した

Sn-Nb-P ガラスの外観写真より目視でも明らかに透明性の高く着色量の少ない組成は(d)

の 65Sn-5Nb-30P でありこの外観写真を参考に組成を決定したSnO 量を 65 molに固定

しNbO25量を 5 molから 0 mol(Nb無添加組成)まで減少させた組成(Fig 21 の緑線

の組成)を選択しこのガラス系の物性の変化を確認した

③はNb2O5量を 5 molに固定しSn を P と置換した組成であるNb と P は酸化数が

同じ 5価であるためこの組成では同じ SnO量の二成分系 SP ガラスと比較した際酸素

の総量に変化が生じない(例えば67S33P と 67S5N28P)またNb5+イオンはガラス中

では4配位および6配位を取るという報告が多い(結晶の場合他の配位数を取る)た

め配位数が4の P5+の置換に適していると考えた

④⑤に関しては気泡のrdquo入りづらいrdquoもしくはrdquo入らないrdquoSnOおよび ZnOが各 5 molにな

る組成を選択したSZP ガラスはFig 23 に示すガラス化範囲のようにガラス化範囲は

非常に広範囲であるしかし気泡が入りやすく脈理のようなものも見られる組成が多く

目視ですら不均質なガラス組成がほとんどであった(これらの組成も粉末にして XRD を測

定するとガラスであった)そのためバルク体でガラスを得られることが困難な組成も多

い(Fig 24 にその一例の SZP ガラスを示す)そこで第三成分の添加量を可能な限り少

ない組成を選択することでバルク体で目視上ldquo均質rdquoなガラスを得た(Fig 23 の青線と

紫線の組成)

また上述したように耐水性の比較対象である鉄リン酸塩ガラスを二成分系で作製し

15

た(FP ガラス)組成はxFe2O3∙(100-x)P2O5 x = 20 25 30 35 40 mol を作製した

222 ガラス作製

Figs 25 - 27に各ガラス系の作製フローチャートを示す出発試薬にSnO NH4H2PO4

Nb2O5 ZnO を使用し各々秤量した秤量混合後アルミナ坩堝に入れか焼(仮焼き)

を行ったか焼条件はSP Sn-Nb-P SNP SZP ガラスは350または 400 6-30 minFP ガ

ラスは600 30 min で行った溶融温度および溶融時間はSP ガラス1100 30 min

Sn-Nb-P ガラス1100 30 minSNP ガラス1000または 1250 20 min SZP ガラス

1100-1200 30 min 各々N2雰囲気下で作製したN2雰囲気下で行った理由はSn2+が Sn

4+

にほとんど酸化されてしまうとガラスが得られなくなるためSn2+の酸化を防ぐ目的がある

[19]FP ガラスは1200 - 1550 30 min大気雰囲気下の条件で作製した溶融後350

に温めておいたスチールモールドに流してプレスした後FP ガラス以外はガラス転移温度

Tg付近でアニールを 1 h行い目的のガラスを得た耐水性試験用のガラス形状はダイヤモ

ンドカッターで大まかに整えた後鏡面研磨まで施して型取ったここでFP ガラスのみ

アニール工程を省いた理由はSP ガラス等はアニールをして歪みを取らなければ正確に

切断できない場合が生じた一方でFP ガラスはアニールをせずとも十分正確にカットで

きたためアニール工程を省いたまた50S50P のみ厚みが必要になると必ず気泡が入

ってしまうため耐水性試験では気泡の入ったものを使用した

223 物性評価

得られたガラスの物性の比較を行うために以下に示す分析を行った

(1)ガラス状態の確認

作製したガラスが結晶の混在していないものかを確認するためにまた耐水性試験

後のガラスが結晶化しているかの確認のためにX 線回折装置(XRD Rigaku RINT-2100)

を用いて分析した全てバルク体で測定したが耐水性試験後ではバルク状態が保てな

いものもあったためその試料については粉末で測定した

(2)組成分析Sn Fe 価数分析

得られたガラスについてアルミナ坩堝の使用によるアルミナのガラスへの混入および

それに伴う組成ズレの確認のために走査型蛍光 X 線分析装置(XRF Rigaku ZSX Primus

Ⅱ)を使用し組成分析を行った分析はバルク体で定性分析法にて測定した

またSn が二価のままどのくらい存在しているかを調べるために Sn-Nb-P ガラスを用い

てSnの価数分析をメスバウアー分光法にて行ったSnの測定は reference [20]に示す旭硝

子の公開特許に記載されている方法で行ったFP ガラスについても価数変化を調べるた

めにメスバウアー分光法にて Feの価数分析を行ったFeの測定は(株)トポロジック

システムズ MDF-200)を用いて評価を行った

16

(3) 密度(ρ)およびガラス転移温度(Tg)評価

各ガラスの密度(ρ)測定はケロシンを用いたアルキメデス法で測定したガラス転

移温度(Tg)を評価するために示差熱―熱重量測定装置(SDT TA instrument Japan Q600)

を用いたアルミナパンを使用し測定条件はN2雰囲気下 10 Kmin 700までの温度範

囲にて行った

(4)耐水性試験

各ガラスの耐水性について評価するために耐水性試験をMCC-1法[21]にて測定した(Fig

28)条件は75 72h ガラスサイズ 12times10times02 cm (plusmn01 cm) 蒸留水の pH は 72-77

で行い浸漬後サンプルを乾かして重量を量った溶出速度(Dissolution Rate DR)は重

量減(ΔW) サンプル表面積(S) 浸漬時間(t)から以下の式によって算出した[22]

DR = ΔW (kg) S (m2) t (s)

また浸漬前と 72 h 後の重量減()も合わせて算出した

23 結果考察

231 組成分析 Snおよび Feの価数評価

Table 21に各試料の組成分析結果を示すまずアルミナ Al2O3の量を見るとガラスに

混入した量がほとんどの組成で 25 mol以下で多くても 35 molを下回る量であった

そのため各種特性についてアルミナの影響はほとんどないと考えられる[23 24]組成

によってその量に差があるのは溶融温度の違いによることに起因している組成分析の

結果今回作製したガラスは仕込み組成と大きな差がないと判断した

Fig 29に Sn-Nb-P ガラスの Snのメスバウアースペクトルをそこから得られたメスバウ

アーパラメーターを Table 22に示す得られた結果よりSn-Nb-P ガラスでは95以上の

割合で Sn2+のまま存在していることが分かった不活性雰囲気で作製したことP2O5 の出

発原料に NH4H2PO4を使用したことにより(か焼は行なっているが)還元雰囲気になったた

めSn4+にほとんど酸化されることがなかったといえるこの結果SP 系ガラスではほぼ

Sn2+のまま存在していると仮定した

Fig 210に FP ガラスの FeのメスバウアースペクトルをTable 23 にそこから得られたメ

スバウアーパラメーターを示すFP ガラスについては組成に関わらず酸化還元平衡に

より 20 ~ 30が Fe2+になりまたFe2O3 ge 30 molの際化学的にも安定であることが知

られている[27]実際にFe2O3 ge 30 molの際Fe2+は概ね 20 ~ 30存在している結果が得

られた一方でFe2O3 lt 30 molの際はFe2+が 40以上と高い割合で存在していることが

判明したこれは出発原料の NH4H2PO4の多量使用によること溶融温度が 1550と高

いことが要因で還元がより進行したためと予想される

17

232 ρおよび Tg

Table 24にρおよび Tgの結果を示す二つの特性結果はそれぞれのガラス系において

SnO や Nb2O5ZnO といった金属酸化物が増えるにつれて大きくなっているSP Sn-Nb-P

SNP S5ZP 系ガラスの Tgはほとんどが 300前後であり最も高い温度でも67S5N28P

の 346であった一方5SZP 系ガラスは400~440となり他のガラス系と比較する

と若干高い温度となったそれでも今回作製した第三成分を添加したガラスは低 Tgを有

するガラスであると判断できSP ガラスの特性を維持できたと判断できる

60S5N28P と 62S5Z30P のようなほぼ同じ OP を示すもので比較した際にNb2O5添加が

ZnO 添加よりも Tgが高くなったのは①配位数が同配位数になり得るイオンの場合(例え

ば Nb5+と Zn

2+なら4配位など)ポーリングの第 2 法則[25]より高価数イオンの方が結合

強度が強くなる②diatomic cationの解離エネルギーがNb-O (688plusmn11 kJmol)[26]に対しZn-O

(1611plusmn48 kJmol)[26]と大きな差があるため Nb-Oの結合が強い故に熱的に安定化され

Tgが高くなったと考えられる

233 耐水性試験前後の外観写真

Figs 211 - 216に各ガラスの耐水性試験前後の外観写真を示すFig 211 の SP ガラスを

観察するとSnO 量の少ない 50S50P 60S40P は浸漬時間が経過するにつれて元々の形状

が崩壊したりガラス自体が膨張したような状態になったりしたSnO 量の多い 67S33P

70S30P について形状は崩れることはないが透明性が失われる(白ヤケ)耐候性が低いこ

とが確認できるFig 212 に示す Sn-Nb-P ガラスではNb2O5無添加の 65S-0Nb-35P は浸漬

時間 24 h で透明性が失われているがNbO25量の増加させていくと徐々に透明性が回復

しており4 mol添加した 65Sn-4Nb-31P では72 h後においてもほとんど変化が確認でき

ないNbの添加量を変えた Fig 213に示す SNP ガラスではSP ガラスと同様に SnO 量の

少ない 50S5N45P は時間経過と共にガラス全体にldquoひびrdquoのようなものが見え72 hの実

験終了後最終的にテフロン糸を外す段階で簡単に割れたしかし50S50P や 60S40P と比

較すると耐水性が大幅に良くなったまた60S5N35P 67S5N28P は耐水性が良好なこと

だけでなく耐候性についても向上していることが目視で判断できる一方で二種類の

SZP ガラス(Figs 214 215)を観るとP2O5量の少ない 5S55Z40P および 55S5Z40P では

形状が崩れるか析出物が現れる結果となったこの組成よりP2O5 量を減少させるとSP

ガラスと同じように形状は崩れないが透明性が若干失われる結果となった

Fig 216 に比較対象の FP ガラスの耐水性試験前後の写真を示すこの組成ではFe2O3

量の少ない20F80Pにおいても形状が全く崩れない結果が得られたしかしFe2O3 lt 30 mol

の組成において表面に干渉色のような反射光が若干確認できたこれはおそらく青ヤ

ケが発生したためであると考えられる

18

234 耐水性試験前後の構造変化

Figs 217 - 222に各ガラスの耐水性試験前後の XRDパターンを示す耐水性試験前では

ガラス化を全組成で確認した(Figs 217(a) - 222(a))しかし耐水性試験後における外観

写真で形状の崩れたもしくは析出物の得られたガラス組成では結晶が生成したことが

確認された形状の崩れた三組成のうち50S50P 60S40P ガラス(Fig 2214(b))では三

種類の結晶ピーク(SnP2O7 Sn2P2O7 Sn3(PO4)2)が確認でき5S55Z40P については(Fig

2214(b))結晶同定の判断はできなかったが ZnOの多い組成であるためおそらくリン酸

亜鉛の何れかの結晶だと推測された析出物が得られた 55S5Z40P はガラス matrix部と析

出物に分けて測定したところガラス matrix 部はガラスのままであり析出物は SnP2O7

Sn2P2O7の二種類の結晶ピークが確認できたガラス形状に変化がなかったその他の組成は

ガラス状態が保たれていたSn4+の結晶のピークが確認されたのは50S50P のガラスには

気泡が残っておりその気泡から酸化されたかもともと溶融工程で電気炉内に残って

いた酸素によってSn4+に酸化されたか等が考えられる

235 溶出速度(DR)および重量減

Table 24に DR重量減の結果および仕込み組成から計算した OP を示すSP SNP S5ZP

ガラスではSnO 量の増加に伴いSnO量の固定された Sn-Nb-P 5SZP ガラス系ではそれ

ぞれの金属酸化物の増加に伴いDR重量減は減少傾向にあったFP ガラスでは全組成

において DR 重量減共に変化が全く確認されなかったそのため青ヤケのようなものが

確認された FP ガラス(Fe2O3 lt 30 mol)については電子天秤では変化が見られない程度

の重量減であったと推測される二種類の SZP ガラスで比較するとSnOと ZnO量が入れ

替わってもほぼ誤差範囲内と思われる結果が得られたガラス全体の比較では外観写真

で変化が見られなかった FP ガラスと 65S5N28P 65Sn-5Nb-30P のガラスが DR重量減がと

もにゼロという結果が得られた

組成と DR 重量減の関係性を見るために作成した図をFigs 223(DRと OP の関係性)

224(Fig 224に重量減と OP の関係性)に示すそれぞれの図にリン酸塩の三つの構造

の OP も表記した双方の図よりDR 重量減共に OP が増加することで単調に下がって

いることが分かるこの結果はリン酸塩の構造ではorthophosphate 組成で耐水性良好が

あるため[22]一般的な結果と同じ挙動であるまた耐水性の良かったNb2O5添加の SNP

ガラスは異なる挙動(傾き)が得られた

以上の結果より第三成分添加による耐水性の改善を確認し特に Nb2O5 の添加による

影響は大きいことが判明したまたOP の増加による耐水性が改善する結果が得られた

次章の第 3 章にて各ガラス系の構造解析を行い第三成分特に Nb2O5の耐水性への有

効性について調査した

19

24 結言

本章ではSP ガラスおよび第三成分の Nb2O5 ZnOを添加した SP ガラスの物性評価を行

うことで耐水性改善への第三成分添加の有効性を確認した各々の物性について以下に

まとめる

低ガラス転移温度を有する SP ガラスは最も SnO 量が高い 70S30P でも Tg le 280であ

ったNb2O5を添加した Sn-Nb-P SNP ガラスではTgの上昇は見られたが Tg le 350

ZnOを添加した 5SZP S5ZP ガラスではTg ≦ 450であり両金属酸化物の添加でも低

ガラス転移温度を維持しているガラスが得られたNb2O5 添加が Tg を上昇させたのはポ

ーリングの第 2法則より高価数イオンの方が結合強度が高くなるためと結論付けた

耐水性試験結果の外観写真を観るとSP ガラスの SnO 量 le 60 mol 5SZP ガラスおよび

S5ZP ガラスの P2O5量 = 40 molの組成についてガラスサンプルの形状が大きく変化して

おりDR 重量減も高く耐水性の低さが明らかであった得られた析出物はSnP2O7

Sn2P2O7 Sn3(PO4)2 および亜鉛リン酸結晶の一種であると予想されたその他の組成では

透明性の失われた組成がいくつかあったが外観写真では変化が見られなかった FP ガラス

と 65S5N28P 65Sn-5Nb-30P のガラスが DR重量減がともにゼロという結果が得られた

組成と耐水性に関してはDRおよび重量減がOP増加で単調に低下した結果が得られた

つまり耐水性を改善させる有効な手段はSP 系ガラスのガラス化範囲を拡大かつ OP を

増大させる第三成分の添加によることであることが示唆された

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21

Fig 21 三成分系 SnO-NbO25-P2O5 系のガラス化範囲

Fig 22 作製した Sn-Nb-P ガラス

(a)50Sn-5Nb-45P (b)55Sn-5Nb-40P (c)60Sn-5Nb-35P

(d)65Sn-5Nb-30P (e)70Sn-5Nb-25P (f)60Sn-10Nb-30P

(g)55Sn-20Nb-25P (h)60Sn-15Nb-25P (i)65Sn-10Nb-25P

22

Fig 23 三成分系 SnO-ZnO-P2O5系のガラス化範囲

Fig 24 作製した SZP ガラスの一例

(気泡や脈理のようなものが確認できた組成)

23

Fig 25 SP SZP ガラスの作製フローチャート

Fig 26 Sn-Nb-P SNP ガラスの作製フローチャート

(気泡や脈理のようなものが確認できた組成)

24

Fig 27 FP ガラスの作製フローチャート

Fig 28 耐水性試験(MCC-1法)

25

Table 21 各ガラスの組成分析結果

26

Fig 29 Sn-Nb-P ガラスのメスバウアースペクトル

Table 22 Sn-Nb-P ガラスのメスバウアーパラメーター

27

Fig 210 FP ガラスのメスバウアースペクトル

Table 23 FP ガラスのメスバウアーパラメーター

28

Table 24 各ガラスの物性(密度(ρ)ガラス転移温度(Tg)溶出速度(DR)重量減())

29

Fig 211 SP ガラスの耐水性試験前後の外観写真

Fig 212 Sn-Nb-P ガラスの耐水性試験前後の外観写真

30

Fig 213 SNP ガラスの耐水性試験前後の外観写真

Fig 214 S5ZP ガラスの耐水性試験前後の外観写真

Fig 215 5SZP ガラスの耐水性試験前後の外観写真

31

Fig 216 FP ガラスの耐水性試験前後の外観写真

32

Fig 217 SP ガラスの XRD パターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

33

Fig 218 Sn-Nb-P ガラスの XRD パターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

34

Fig 219 SNP ガラスの XRD パターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

35

Fig 220 5SZP ガラスの XRDパターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

36

Fig 221 S5ZP ガラスの XRDパターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

37

Fig 222 FP ガラスの XRD パターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

38

Fig 223 各ガラス系の DR と OP の関係性

39

Fig 224 各ガラス系の重量減と OP の関係性

40

第 3章 分光法を用いたスズリン酸塩系ガラスの構造解析

31 緒言

前章ではSP ガラスおよび第三成分に Nb2O5 ZnOを添加した Sn-Nb-P ガラスSNP ガラ

スSZP ガラスの物性特に耐水性に関する第三成分添加の有効性を明らかにしたその添

加した第三成分の二種類についてもNb2O5 の方が ZnO よりも溶出速度重量減ともに抑

制することができSP ガラスの低ガラス転移温度という特性も維持されていることが判明

したしかし現段階では本研究の主要な物性である耐水性改善の要因が明確になって

いない組成の観点からはOP の値が高い組成が良好な耐水性であることが分かったが

組成だけでは耐水性改善のメカニズムについて完全には理解できないここでリン酸塩

ガラスの溶出のメカニズムは第 1 章で述べたように加水分解反応と水和反応が要因とな

る[1 2]この機構はそれぞれリン酸の構造つまり架橋酸素 BO の数が大きく関わって

おりリン酸アニオンの[PO4]ユニットの架橋酸素数を知ることが重要であるこの BO の

情報を得るためにはガラス構造を示す指標の一つである Qn(n は[PO4]ユニット中の架橋

酸素数を表す)を調べることが必須であるまたQn の分布を調べるためにはガラスの

構造解析を行う必要性がある

ガラスの構造解析には種々の方法があり特にラマン分光法や赤外(IR)分光法核

磁気共鳴法(NMR)などの分光学的手法を用いた構造解析の報告が多い[3-5]ラマン分光

法および IR分光法は原理は異なるがどちらも結合の振動モードを測定する手法であり[6]

リン酸塩ガラスだけでなくケイ酸塩ガラスホウ酸塩ガラスなど様々なガラス系にて測

定がなされている[7 8]また得られた結合状態の情報からリン酸塩アニオンの Qn分布

を調べることも可能であるNMR は共鳴吸収ピークの化学シフト(共鳴周波数のズレ)

から構造を決定する手法であるガラスの場合SiO2や B2O3 P2O5といった網目形成酸化物

の Qn分布を得るために一般的に使用されている手法である[9]

今回これらの測定の中でラマン分光法を選択し構造解析を行ったラマン分光法は

測定する際にサンプル形状を気にすることなく基本的にそのまま測定できるためIR 分

光法のようにサンプル形状で測定方法を変える必要はないまたIR 分光法では例えば

KBr 錠剤法やヌジュール法のように測定を行うためのサンプル調整に手間がかかる場合が

ある[6]さらに比較対象の FP ガラスではNMR を測定できないため作製ガラスを全

て比較検討できるようにラマン分光法を選択した

本章ではラマン分光法を用いて各ガラスの構造解析を行い[PO4]ユニットの Qn分布を

調査し平均 BO数 nを算出することで耐水性と構造の関係性を検討したまたラマン

分光法によって得られた Qn分布の妥当性を確認するためにSP ガラスおよび 67S5N28P ガ

ラスの NMRを測定も行い比較した

32 実験方法

41

321 サンプル準備

ラマン分光およびメスバウアー分光の測定では第 2 章で作製した各ガラスのバルク体

を用いたWD試験に使用したサンプルとは別にラマン測定用のサンプルを用意した適

度な大きさ大体 15 cm角程度のサイズになるようにガラスカッターで切断しその後

十分な平滑性を得るために鏡面研磨を施した

322 ラマン分光測定

使用したラマン分光装置は顕微レーザーラマン分光装置(Jasco NRS-5100)を用いた

用いたレーザー波長は 53208 nmであり400 - 2000 cm-1の範囲で測定した

Qn 分布を導くためにピークフィッティングを行いリン酸塩アニオンのラマンバンド

が現れる950 - 1250 cm-1付近および 700 - 750cm-付近の範囲で定量した

323 31P MAS NMR測定

31P MAS NMRの測定は Varian NMR System 500 を用いて32 mmの MASプローブ

202309MHzにて行った測定パラメーターを以下に示すπ4 パルス長さ 14 μs 待ち時間

(pulse delay)10 s 積算回数 3600 scan シリンダー円筒形状の Zrローターの回転スピード

160 kHz referenceとして二番目の基準物質として使われる NH4H2PO4を使用化学シフト

は85 H3PO4溶液から δ = 10 ppmである

33 結果考察

331 各ガラス系のラマンスペクトル

Figs 31 - 35にラマンスペクトルを示す各ピークは以下の通りに帰属し各スペクト

ル中に該当する構造をピーク位置に示した

1230 - 1260 cm-1 P=O NBO Q

2 [10]

1110 - 1150 cm-1metaphosphate (PO3)

- Q

2 [10]

1030 - 1100 cm-1pyrophosphate (PO35)

2- Q

1 [10]

970 - 1000 cm-1orthophosphate (PO4)

3- Q

0 [10]

920 - 930 cm-1asymmetric (P-O-P) Q

1 [10]

730 - 750 cm-1symmetric (P-O-P) Q

1 [10]

710 - 720 cm-1asymmetric (P-O-P) Q

2 [10]

810 - 820 cm-1Nb-O [NbO4] tetrahedron [11]

900 - 920 cm-1Nb-O isolated [NbO6] octahedron [11]

42

SP ガラスのラマンスペクトル(Fig 31)を見ると50S50P 60S40P ではmetaphosphate

の Q2 構造が支配的であるがSnO 量が増えるにつれてその構造が変化し70S30P では

pyrophosphateの Q1構造と orthophosphateの Q

0構造が共存した構造となっているまたSnO

量の少ない 50S50P および 60S40P において確認されたQ2構造の P=O のピークが見えなく

なっているつまり耐水性と関連して考えるとSnO量が増えるにつれてP-O-P 結合か

ら Sn-O-P 結合に代わり水分子との反応である加水分解反応を妨げる構造に変化している

ことがわかる

Figs 32 33にNb2O5を添加した Sn-Nb-P ガラスおよび SNP ガラスのラマンスペクトル

を示すまずSn-Nb-P ガラスについてNb 無添加の 65Sn-0Nb-35P は主に Q1構造であ

りNbO25が添加されることによってQ0構造に変化しQ

1 Q

0構造が共存しているような

ピークが得られた添加量が少ないガラス系であるため徐々に変化しているのを確認し

た800 cm-1を少し越えた 810 - 820 cm

-1付近にNb2O5を添加することでピークが現れそ

して添加量を増量することで強度が強まるピークがありこのピークは四面体の[NbO4]

のものと判断した

SNP ガラスのラマンスペクトルについてはNb2O5添加量を固定した組成であるためSP

ガラスのような挙動が観察された50S50N45P では50S50P ガラスと同じようにQ2構造

が主な構造でありSnO量の増加に伴って60S5N35P Q1構造67S5N28P Q

0構造に支配

的な構造が変化しているこれはSP ガラスと同じ傾向を示しているためP-O-P rarr Sn-O-P

に置き替わっていることが示唆されるNb-O に関するピークでは50S5N45P のみ[NbO4]

四面体のピークを確認できず900 - 920 cm-1付近に[NbO6]八面体のピークが確認された

SnO量が増量した 60S5N35P では810 cm-1付近の [NbO4] 四面体のピークが現れているが

[NbO6]八面体のピークと 900 - 920 cm-1付近の Q

1構造のピークが非常に近い(ほぼ重なって

いる)ことから60S5N35P については[NbO4] 四面体および[NbO6]八面体の共存の可能性

も考えられるまた67S5NP28 では[NbO4] 四面体のみのピークが観察されたためこ

の Nb-O の配位数変化は[PO4] unitの状態によって変化している可能性も示唆された

ZnO を添加した S5ZP ガラスおよび 5SZP ガラスのラマンスペクトルを Fig 34 に示す

図の下部三つが S5ZP ガラス上部三つが 5SZP ガラスのスペクトルであるSZP ガラスの

二系統を比べるとあきらかなスペクトルの違いが確認された各ガラス系で確認すると

SnO 量が最小の 55S5Z40P はQ2構造と Q

1構造の範囲に跨っているようなスペクトルが得

られた62S5Z33P および 65S5Z30P のスペクトルからはどちらもほぼ Q1構造であると判

断した5SZP のスペクトルは1000 - 1250 cm-1付近の範囲で裾を引くような(なだらかな)

スペクトルが得られたZnO 量が最小の 5S55Z40P にはQ2構造が主な構造に見えるが

shoulderピークのような Q1構造(1030 - 1100 cm

-1)が確認できる5S62Z40P においては

1000 - 1250 cm-1付近の範囲まで幅広いスペクトルが得られた730 - 750 cm

-1付近にピーク

が現れているためおそらく Q1構造が最も多く存在していると考えられる65S5Z30P では

Q1構造Q

0構造が共存しているようなピークが得られた

43

FP ガラスのラマンスペクトルを Fig 35 に示すFe量の少ない 20F80P 25F75P と他の三

つで構造が異なっていることである20F80P 25F75P はQ2構造と Q

1構造が基本構造にな

っていると判断できる 30F70P は1110 - 1150 cm-1付近に shoulderピークのようなものがあ

りQ2 Q

1 Q

0構造が共存しているようなスペクトルであった35F65P 40F60P はQ1構造

が主な構造でQ0構造があると判断した

332 平均 BO数 n (Qn分布)

まずピーク分離について散乱断面積が見積もれなかったためラマンの散乱強度比

を Qn分布として簡易的にピーク分離を行い(Fig 36)そこから平均架橋酸素数 BO 数 n

を算出したここでFig 37 に 31P MAS NMRスペクトルを示しTable 31に NMRおよび

ラマン分光より得られた平均 BO 数 n を示す(NMR の帰属 reference [12])表よりNMR

とラマンから得られた Qn分布はほぼ一致していることが分かった60S40Pについては支

配構造が NMR(Q1) ラマン(Q

2)で逆になったこれは60S40P の組成がQ

2と Q1のほぼ中

間の組成になるためこのようなズレが生じたと考えられるしかし今回のラマンによ

る Qn分布の算出についてはほぼ問題ないと判断した

Table 32にラマンスペクトルより求めた Qn分布平均 BO 数 nをを示しTable 24に示

した DR 重量減の結果を併記する

SP ガラスのうち耐水性が低いガラスは Q2構造によって形成されているSnO量の増加

によって NBOの増加とともに耐水性の向上が確認できSnOが入ることでSn-O-P 結合を

形成し水分子からの攻撃を受けにくくなっていることが考えられる

Sn-Nb-P ガラスでは基本的に Q1構造が主構造でNb2O5の添加が増えるにつれQ

0構

造が支配的になり耐水性は次第に向上していく最も耐水性のよかった 65S-5Nb-30P は

Q0構造での割合が非常に高く平均 BO数 n値が 03であった

SNP ガラスではP2O5量が多い組成の 50S5N45Pにおいても平均 BO数 nが 60S40P と

同じながらも耐水性が良くなっている67S5N28P はほぼ完全に Q0構造であり平均 Q

n

値は 0となった

SZP ガラスについてはS5ZP 5ZSP のどちらの系列についても耐水性の結果に大きな差

というものは確認されなかったが構造的にも平均 BO数 nが 09 10 17という結果であ

った

FP ガラスについてはFe2O3 lt 30 molのときは平均 BO 数 nが20 19と高い数値を

示したが耐水性は非常に良好であったこの結果より組成だけでなく構造的にも耐

水性高くなる要因が不明である一つの原因の可能性としてメスバウアーより得られた

Fe2+の存在比が 40以上と高かったことがFe2O3含有量が少ない組成時には効果的になっ

ているのかもしれない

333 平均 BO数 nと耐水性の関係性

44

Fig 38に DRと平均 BO数 nの関係性についてFig 39に重量減と平均 BO数 nの関係

性をそれぞれ示すまたOP の時と同様に各図にリン酸塩の三つの構造の平均 BO数

n も表記した双方の図よりDR 重量減共に平均 BO 数 nが低下することで単調に下がっ

ていることが分かるまた耐水性の良かったNb2O5添加の Sn-Nb-P SNPガラスはの DR

の挙動(傾き)はOP 時とも異なった挙動が得られた

Fig 310に OP と平均 BO数 nの関係を示す図中に示す茶色metaphosphate 黄色

pyrophosphate 灰色orthophosphate であるこの図から耐水性改善には平均 BO 数

n を下げOP を上げることが重要であるのが分かるまたNb5+の添加はOP を上げる

だけでなく平均 BO 数も減少させることから非常に効果的な成分であることが明らかで

あるこれはP5+から同酸価数 Nb

5+に少量でも置き換えることで平均 BO 数 n を下げ

OP を上げることを可能としている(実際に orthophosphate の OP4 よりも高い OP でガ

ラスが作製できている)つまりNb5+の添加によって P-O-P 結合が減少し水和反応加

水分解反応が抑制されているからである

以上の結果SP 系ガラスの耐水性改善には低い平均 BO 数と高い OP の組成にするこ

とが重要でNb2O5の添加は非常に効果的であることが分かったその一方でガラス中の

詳細な構造的要因についてははっきりしていないため次章の第 4 章にてさらに詳し

い構造解析を行い耐水性改善の要因について調査を行った

34 結言

本章ではラマン分光を使用して各ガラス系のリン酸塩アニオンの構造を簡易定量で

評価し組成と構造の関係について考察した

平均 BO 数 n と耐水性に関してはDR および重量減が平均 BO 数 n の減少で単調に低下

した結果が得られた

平均 BO数 nと OP の図より耐水性改善には平均 BO数 nを下げることそして OP

を上げることが重要であることが明白であった

Nb5+の添加は平均 BO数を減少させるだけでなくOP も上げることからガラス構造内

の P-O-P 結合を減少させる故に水和反応加水分解反応が抑制され耐水性が大幅に

改善された故にNb2O5 のような高価数金属酸化物を添加することが効果的であること

が示唆された

参考文献

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46

Fig 31 SP ガラスのラマンスペクトル

47

Fig 32 Sn-Nb-P ガラスのラマンスペクトル

48

Fig 33 SNP ガラスのラマンスペクトル

49

Fig 34 SZP ガラスのラマンスペクトル

50

Fig 35 FP ガラスのラマンスペクトル

51

Fig 36 ラマンスペクトルのピーク分離例(67S5N28P)

Raman Shift (cm-1)

52

Fig 37 NMRスペクトル

Table 31 NMR およびラマン分光より得られた SP 67S5N28P ガラスの

Qn分布および平均 BO数 n

53

Table 32 各ガラスのラマンスペクトルより求めた Qn分布結果

(表の赤線より右側の結果は Table 22 より)

1 仕込み組成による数値

2 Fig 2212 に示した析出物を取り除いた後の数値

54

Fig 38 DR と平均 BO数 nの関係性

55

Fig 39 重量減と平均 BO数 nの関係性

56

Fig 310 OP と平均 BO数 nの関係性

Meta

Pyro

Ortho

57

第 4章 放射光を用いたスズリン酸塩系ガラスの構造解析

41 緒言

前章の第 3 章にてラマン分光法を用いて SP 系ガラスの構造解析により Qn分布を導き

出したことで耐水性と構造の関係についてある程度関連性を導くことができたリン

酸アニオンについてはQ0(orthophosphate)構造 gt Q

1(pyrophosphate)構造 gt Q2

(metaphosphate)構造の順で良耐水性となるしかしSn Nbおよび Znの局所構造につ

いては知見が得られていないラマン分光や IR分光などの分光学的手法を用いてSnや

Nb Zn の周辺の局所構造を知るには限界があるまたガラスの構造解析を行う上で非常

に重要な因子である中距離構造の評価には分光学的手法は不向きである[1]

そこで局所構造や中距離構造を知るために有効な手法として放射光線を用いた構造

解析がある放射光(SR 光)とはシンクロトロンなどの加速器で高速に加速された電子

が進行方向を磁場によって変えられた際に放射する電磁波である[2]エネルギーが高く

(短波長)輝度が高い特性を有している日本国内では兵庫県佐用町の SPring-8や茨城

県つくば市の高エネルギー加速器研究機構佐賀県鳥栖市の佐賀県立九州シンクロトロン

光研究センターなど複数個所に放射光施設が設置されている

放射光を用いたガラスの構造解析には一般的に高エネルギーX 線回折(High Energy

X-ray diffraction HEXRD)が用いられるこの回折実験から高い散乱ベクトル Q(= 4π sinθλ)

まで回折データが得られる多種類の原子から構成される物質の場合はFaber-Ziman 型[3]

の構造因子 S(Q)を用いる以下の式に示すようにFaber-Ziman 型構造因子 S(Q)は同種また

は異種の原子による相関の重み関数付の和として示される例として SiO2ガラスで説明す

ると構造因子 S(Q)は三種類の原子付の S(Q)の重み付の和として表されていることが分か

I(Q) 散乱断面積 ltgt 原子一個当たりの平均値 f(Q) 原子散乱因子 W 重み関数

通常の研究室で使用される X 線回折(XRD)装置で用いられる特性 X 線はCuKα線(λ

= 0154 nm 81 keV)が最も良く用いられより高いエネルギーの X 線が必要な場合は

MoKα線(λ = 0071 nm 175 keV)が使用される一方でSPring-8のビームライン BL04B2

で行われる高エネルギーX 線回折(HEXRD)測定で使用される SR のエネルギーは378 keV

58

~ が使用可能である[2]従ってガラス以外の液体のような非晶質物質にも非常に精度

よく構造解析が行われている[4]

また局所構造解析の一つに X線異常散乱法という測定方法がある[5 6]これは通常

の X 線回折実験では分離不可能な特定元素に関連する部分構造因子(散乱強度曲線)を得

ることができる手法である今回 HEXRD の測定時に使用したエネルギー614 keV では各元

素の異常散乱項のエネルギー依存性は確認されない(Fig 41)その一方でFig 42に示す

Sn の吸収端付近の 292 keV付近ではSnの異常分散項のエネルギー依存性が確認できる

つまりSnの吸収端近傍より低エネルギー(E)側の異なるエネルギーの X線(E1 E2)を

使って散乱強度を測定し各 E における異常分散項(f`)の変化(つまり高い E1 から低い

E2 の散乱強度の差分)を利用して Snに関する部分構造因子を求める構造解析が AXS 法で

あるこの測定法は古くから知られている方法ではあるが装置の測定条件や設備の問

題からなどから使用があまり普及していなかった[5 6]近年になり金属ガラスの構造解

析について徐々に報告が出てきており今後注目される測定法である

HEXRD および AXS 法などから得られたデータ実測の構造因子 S(Q)は一次元の限られ

た構造情報であるためガラスなどの非晶質物質の中距離構造を解明するためにはこれ

らのデータを基に三次元構造を求める必要がある三次元構造モデルの作成には逆モンテ

カルロ(RMC)シミュレーションを使用することが有効である[7]このシミュレーション

は任意で決めたシミュレーションボックス内の粒子をランダムに動かすことで実測の

構造因子 S(Q)を再現する三次元構造モデルを構築する方法である

SP ガラスについては分光学的手法について数多く報告があるが放射光を用いた回折

法はほとんど適用されていないそこで本研究では HEXRD および AXS 法を用いた構造

解析を行うことでSn Nb周りの構造を解明すると共にSNP ガラスの耐水性改善のメカ

ニズムについて考察したまたAXS 法の有効性についても検討した測定を行ったガラ

スはSP ガラスおよび最も耐水性の高かった 67S5N28P を選択した

42 実験方法

421 HEXRD AXS法

HEXRDはSPring-8のビームライン BL04B2 で測定を行ったエネルギー614 keV の X

線を用いた測定サンプルの厚みは09 mm (plusmn0005 mm)になるまで研磨を行った

AXS 測定はSPring-8のビームライン BL13XUを使用した(Fig 43)それぞれの測定し

た X 線のエネルギーについて以下に示す

①Sn K吸収端hellip292 keV near edgehellip291452 keV (-60 eV) far edgehellip289751 keV (-230 eV)

②Nb K吸収端hellip1899 keV near edgehellip189562 keV (-30 eV) far edgehellip187863 keV (-230 eV)

測定に使用したサンプルの厚さが015 - 030 mmとなるまで研磨を施した

SP ガラスについて50S50P 60S40P 67S33P の三組成のガラスを測定した70S30P に関

59

しては測定を試みたが放射光照射によって結晶化してしまいガラス部分の正確な構

造因子を得るための強度補正ができず解析を断念した

422 RMCのモデリング

Table 41 に RMC の各種パラメーターを示す粒子数は約 5000 個でそれに伴う boxの一

辺の長さは約 42 ~ 46 Ǻになった拘束条件にP の配位数が 4になるような条件を付け

加えたFig 44にSn2P2O7結晶および Sn3P2O8結晶の動径分布関数(RDF)をTable 32

にRDFから得られた第一近接距離[8 9] を示すこれらの数値を使用しcutoffを決定し

たNb-O についてはいくつかの文献値を参考にした[10 11]

各ガラスの RMCのモデリングは①HEXRDから得られた S(Q)のみ②S(Q)および AXS

から得られた部分構造因子を加えた場合でそれぞれ計算した

43 結果考察

最初にNbの AXSから得られたデータについて解析を試みたが妥当な構造モデルが得

られなかったためSnの AXSのみで解析を進めたNb2O5の量が 5 molと少量であったた

めあまり精度の高いデータが得られなかったと推測される

431 実測の HEXRDおよび AXSの結果

4311 実測 HEXRDの S(Q)

Fig 45 に実測HEXRDの S(Q)を示す四つの組成ともに実測HEXRDの S(Q)が得られ

Nb2O5添加の 67S5N28P ガラスでは Low Q 側に変化が確認された

4312 実測散乱強度曲線

Fig 46 に Snの散乱強度曲線を示す(a) の 67S33P のこの曲線からはfar edgeおよび

near edge のエネルギー間で差分が見られエネルギーの依存性が確認された50S50P

67S5N28P のガラスについても同じように差分が確認されたが(b)の 60S40P についてのみ

他とは若干異なる結果(緑丸)であったためRMC の構造解析には差分の構造因子ではな

くfar edge near edge 二つの構造因子を用いた

4313 全相関関数 T(r)

Fig 47 に全相関関数 T(r) を示すHEXRD から得られたものを実線でSnの AXS から

得られたものは点線で示し組成ごとに重ねて表示した図中に各ピークについて帰属し

ているがSnの T(r)からはSn-O Sn-P Sn-Snのみのピークを確認した

432 RMCの計算結果および考察

60

構造モデルの一例として67S5N28P ガラスの得られた構造モデルをFig 48に示す水

色の多面体 unitSnON 黄色の多面体 unitPO4 ピンクの多面体 unitNbONである以下

詳細な構造解析の結果および考察を記す

4321 RMCのフィッティング結果

RMCのフィッティング結果の一例として67S33P の HEXRD と Snの AXS の構造因子か

ら得た結果を示す(Fig 49)二つの構造因子を加えて計算した結果においてもHEXRD

の S(Q) AXS の S(Q)に各々に対する良好なフィッティング結果が得られた他の組成も

同様なフィッティング結果が得られた

4322得られた各 pairの平均配位数平均角度平均結合距離

RMCの結果によって得られた各 pairの平均配位数平均角度平均結合距離を Tables 43

に示す上段が HEXRD の S(Q)のみ下段が HEXRD に Sn の AXS の部分構造因子を加え

て結果である最下部は比較のためにSn2P2O7の情報を記載した[8]

P-O pairについてRMCモデル中の PON多面体に関して平均配位数 Nが 4および P-O

の平均結合距離が約 160Å平均結合角度angO-P-O が約 109degという結果が得られた組成

による大きな違いは確認されなかったのはP の配位数が 4になるように拘束条件をかけた

結果であると考えられるSnON多面体についてはSnO量の増加 = OP の増加であり平

均配位数 Nが 3 ~ 35へ増加した平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約

22Åで組成による大きな変化はほとんど見られなかったNb2O5を 5 mol添加したガラ

スではNbON多面体の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平均配位数 N約 4Nb-O 平均結

合距離約 20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O(約 105deg)と値が近いこと

また6配位ではなく 4配位として主に存在していることからSnO と同じような働きをし

ていると推測される

以上の結果からNb2O5添加の耐水性改善の要因として結合距離が Sn-O が約 22Åに対

し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強固にして

いることも一つの要因として考えられる

また67S5N28P ガラスの各多面体モデルを確認すると(Fig 410)P は PO4Snは SnO4

と SnO3Nbは NbO4をそれぞれ再現している

4323得られた各 pairの結合様式

RMC の結果により得られた各 pair の結合様式を Tables 44 に示す上段が HEXRD の

S(Q)のみ下段が HEXRDに Snの AXS の部分構造因子を加えた結果である最下部は比

較のためにSn2P2O7の情報を記載した[8]

結合様式に関してはPO4四面体は他の多面体も含めてほぼ頂点共有で存在している

SnON多面体についてはSnO 量が少ない配位数が 3 に近い場合頂点共有以外の共有の

61

割合も多くSnO 量が増えるにつれて頂点共有が主になり網目形成体として振舞ってい

ると考えられる組成によって平均結合距離や平均角度の大きな変化が見られなかったこ

とから平均配位数が結合様式を決める重要なファクターであるということも考えられる

またHEXRD と AXS 法の結果がほぼ同じであったこれは主成分が SnO のガラスであ

るためHEXRDでも十分に詳細な構造が得られたため大きな変化が現れなかったと考え

られるNbON 多面体はPO4 四面体と SnON 多面体とはほぼ頂点共有で繋がっている以

上の結果よりSnO量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体的に各多面体同士の

頂点共有が増えていることから耐水性の改善には頂点共有を多く含む構造であること

が重要である或いは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的となって

いるということが推測されるFig 411に 67S5N28P ガラスの構造モデルを示す各多面

体はほぼ頂点共有で繋がっていることが確認できる

4324 平均 BO数の比較

Tables 45にNMR Raman RMC(HEXRD) RMC(HEXRD + AXS)の平均BO数を示すRMC

から得られた平均 BO 数 nはNMR Raman と同様に Nb2O5の添加による大幅な減少が確認

されたしかしNMR Raman と比較すると全組成において数値が大きすぎで適当でない

50S50P の構造モデルを観るとPO4四面体間で3配位 O の存在が確認された(Fig 412)た

め実測で得られた n値を再現できるようなPO4四面体モデル間の繋がり方に関する拘束条

件を加えて RMCを計算する必要性があるまた仮に3配位 Oの存在があるとすると電

子状態の変化が生じていることがと示唆されるため分子軌道計算を用いて電子状態解析

を行い確認する必要がある

4325 耐水性の改善について

Nb2O5を添加のガラス構造への影響について①6配位ではなく 4配位として主に存在し

ていることからSnO と同じような働きをしていると推測される②結合距離が Sn-O が約

22Åに対し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強

固にしている③ガラス構造中で全体的に各多面体同士の頂点共有が増えている以上の

ことが判明した以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性

耐候性を改善した要因として考えられる

44 結言

本章では分光学的手法では評価できないガラスの中距離構造局所構造について理解

するために放射光を用いた構造解析を実施しSP ガラスの構造と耐水性改善について考

察したHEXRDおよび AXS法を用いて測定を行い得られたデータを RMCシミュレーシ

ョンにて解析を行った

解析の結果 Sn-O pair については平均配位数 Nが 3 ~ 35でSnO量の増加 = OP の増

62

加に伴い高くなった平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約 22Åであ

ったP-O Sn-Oについては組成による大きな変化はほとんど見られなかった67S5N28P

ガラスの Nb-O pair の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平均配位数約 4Nb-O 平均結合距

離約 20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O(約 105deg)と値が近いことま

た6配位ではなく 4配位として主に存在していることからSnOと同じような働き(網目

形成体)をしていると推測されるまた結合距離が Sn-O が約 22Åに対し Nb-O は約 20

Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強固にしていると言える

SnO 量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体的に各多面体同士の頂点共有が増え

ていることから耐水性の改善には頂点共有を多く含む構造であることが重要である

もしくは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的であることが推測さ

れる以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性耐候性を

改善した要因として考えられる

またAXS 法の有効性についても確認し効果的であることが判明したただし今回

は主成分が Sn の組成のガラスでありHEXRD でも十分に詳細な構造が得られたため

大きな差は現れなかった

参考文献

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63

Fig 41 各原子の異常分散項のエネルギー依存性

Fig 42 Sn の異常分散項のエネルギー依存性

64

Fig 43 SPring-8の BL13XU

65

Tab

le 4

1

RM

Cの各パラメーター

66

Fig 44 Sn2P2O7 Sn3P2O8結晶の RDF

Table 42 Sn2P2O7 Sn3P2O8結晶の各 pairの第一近接距離

67

Fig 45 得られた実測 HEXRDの S(Q)

68

Fig 46 Sn の異常散乱測定により得られた散乱強度のエネルギー依存性

(a)67S33P (b)60S40P

69

Fig 47 全相関関数 T(r)

太線 HEXRD より

細線 Sn の AXSより

70

Fig 48 67S5N28P ガラス構造のモデル

71

Fig 49 RMC フィッティングの結果

72

Tab

le 4

3 各

pairの平均配位数角度結合距離

73

Fig

4

10

67

S5

N2

8Pガラスの各多面体モデル

74

Tab

le 4

4 各

pairの結合様式

75

Fig 411 67S5N28P ガラスの構造モデル

76

Table 45 平均 BO 各数 nの比較

Fig 412 50S50P ガラスの構造モデル

77

第 5章 総括

本研究ではSP ガラスを対象とした本研究では鉛フリー代替ガラスまたは希土類フ

リー蛍光体として SP ガラスの新規高機能化を将来的に目指し問題点であるldquo化学的耐久

性rdquoの改善につながる知見を得ることを目的としたそこでまずSP ガラスを母体ガラ

スとし第三成分に Nb2O5を添加した Sn-Nb-P SNP ガラスZnO を添加した SZP ガラスを

作製し耐水性を中心とした物性評価を行った次に分光学的手法で構造解析を行い

Qn 分布を導き出した最後に放射光を用いた構造解析を行い耐水性改善に関する構造的

な考察を行った以下に本研究で行った検討内容を示す

(1)SPガラスおよび第三成分Nb2O5 ZnOを添加した三成分系SPガラスの物性評価(第 2章)

(2)SP 系ガラスの分光学的手法による Qn分布導出(第 3章)

(3)放射光を用いた SP 系ガラスの構造解析構造と耐水性改善の関連について(第 4章)

各章についてまとめた結果を以下に示す

第 2章

第 2章では二成分系および三成分系のリン酸塩系ガラスの各種物性(密度や熱的特性

耐水性)の評価を行った二成分系ではSP ガラスに加え良好な耐水性を有する鉄リン

酸塩(Fe2O3-P2O5)系ガラス(以下 FP ガラス)を比較のために三成分系では二成分系

の SP ガラスに Nb2O5を添加したニオブ含有 SP ガラス(SNP ガラス)および ZnO を添加し

た亜鉛含有 SP ガラス(SZP ガラス)を作製した

今回作製した SP 系ガラスは低ガラス転移温度を有していた各組成の温度域はSP

ガラスTg le 280 Sn-Nb-P SNPガラスTg le 3505SZP S5ZPガラスTg ≦ 450であった

各種 SP ガラスの耐水性試験の結果二成分系の SP ガラスよりも三成分系ガラスの方が

良好な耐水性を有していた65Sn-5Nb-30P 67S5N28P ガラスが最も耐水性が良好であり化

学的耐久性の改善には Nb2O5が ZnOよりも効果的であった

組成と耐水性に関してはDRおよび重量減がOP増加で単調に低下した結果が得られた

つまり耐水性を改善させるにはSP 系ガラスのガラス化範囲を拡大かつ OP を増大させ

る第三成分の添加が有効であることが示唆された

第 3章

第 3章ではSP 系ガラスの分光学的手法による Qn分布の導出を行ったラマン分光法を

用いて各ガラス系のリン酸塩アニオンの構造を簡易定量で評価し組成と構造の関係に

ついて考察した平均 BO 数 n と耐水性に関してはDR および重量減が平均 BO 数 nの減

少で単調に低下することが明らかとなった

平均 BO 数 n と OP の関係より耐水性改善には平均 BO 数 n を下げることそして

OP を上げることが重要であることが明らかになった

78

Nb5+の添加は平均 BO数を減少させるだけでなくOP も上げることからガラス構造

内の P-O-P 結合を減少させ水和反応加水分解反応が抑制され耐水性が大幅に改善さ

れることが示唆された故にNb2O5 のような高価数金属酸化物を添加することが効果的

であることが再度確認された

第 4章

耐水性向上についてより深く評価するためSP SNP ガラスの局所構造に関する知見を得

ることを目的に放射光を用いた構造解析を行った高エネルギーX 線回折(HEXRD)お

よび X 線異常散乱(AXS)法で測定したデータを再現する構造モデルを逆モンテカルロ

(RMC)シミュレーションで構築し構造解析を行った

RMC モデル中の PON多面体に関して平均配位数 Nが 4および P-O の平均結合距離が約

160Å平均結合角度angO-P-Oが約 109degという結果が得られた組成による大きな違いは確

認されなかったSnON多面体については平均配位数 N が 3~4 でSnO 量の増加に伴い 4

に近い値となった平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約 22Åで組成

による大きな変化は見られなかった

Nb2O5を 5 mol添加したガラスではNbON多面体の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平

均配位数N約4Nb-O平均結合距離約20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O

(約 105deg)と値が近いことまた6配位ではなく 4配位として主に存在していることから

SnO と同じような網目形成体として働いていると推測されたまた結合距離が Sn-O が約

22Åに対し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強

固にしていると考えられるまたSnO 量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体

的に各多面体同士の頂点共有が増えていることから耐水性の改善には頂点共有を多く

含む構造もしくは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的であること

が示唆された以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性

耐候性を改善した要因として考えられる

またAXS 法の有効性についても確認し効果的であることが判明したただし今回

は主成分が Snの組成のガラスでありHEXRD でも十分に詳細な Snの周辺構造が得られ

たためAXSを利用した場合との大きな構造の差は認められなかった

本研究では様々な優れた特徴を有する SP ガラスにおける耐水性改善のメカニズムにつ

いて検討を行ったこの系のガラスについてはこれまでほとんど利用されていなかった

放射光を用いた構造解析を駆使し第三成分の添加によってどのような構造的変化が生じ

耐水性を改善させるか新たな知見を得ることができた最終目標である機能性ガラスの

開発における新たなる材料設計指針の確立に対してldquo耐水性rdquoに関しては概ね明らかにな

ったと考えられる一方で今回検討していな電子状態化学結合性についても評価する

ことで溶出メカニズムの解明が可能になり材料設計指針の確立が期待される

79

発表論文リスト

口頭発表

第 2章および第 3章

(1) SnO-P2O5 系ガラスへの酸化物添加効果

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎

日本セラミックス協会第 25 回秋季シンポジウム No3C06 (名古屋市 2012年 9月)

(2) Effect of Nb2O5 addition to SnO-P2O5 glass (Poster)

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

International Union of Materials Research Societies International Conference on Electronic

Materials IUMRS-ICEM 2012 A-9-P26-003 (Yokohama 2012 年 9月)

(3) スズリン酸塩系ガラスの蛍光特性耐水性に及ばす酸化物の添加効果(ポスター)

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎

日本セラミックス協会 2013 年年会 1P070 (東京 2013年 3月)

第 4章

(1) 放射光を用いたスズリン酸塩ガラスの構造解析

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎小原真二臼杵毅

日本セラミックス協会第 27 回秋季シンポジウム 2B22 (鹿児島市 2014年 9 月)

(2) Structural analysis of tin phosphate glasses by synchrotron radiation (Poster)

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba Shinji Kohara Takeshi Usuki

International Congress on Glass ICG Annual Meeting Bangkok 2015 P14-138 p186 (2015)

発表論文

(1) Effect of Nb2O5 addition to SnO- P2O5 glass

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

Journal of the Ceramic Society of Japan Vol 120 No 11 pp530-533 (2012)

(2) Structural analysis of SnO- P2O5 glass

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

Journal of the Ceramic Society of Japan(準備中)

80

謝辞

本研究を遂行するにあたり終始暖かいご指導ご助言並びにご鞭撻を賜わりました岡

山大学大学院環境生命科学研究科 難波徳郎教授に心より感謝の意を表します

また本研究を遂行するにあたり懇切丁寧なご指導とご意見をしていただいた岡山大

学大学院環境生命科学研究科 紅野安彦准教授環境環理センター 崎田真一助教に心より

感謝いたします

本研究を遂行するにあたりラマン分光測定の使用についてご助言ご教授して頂い

た岡山大学自然科学研究科 藤井達生教授中西真助教に心より感謝の意を表します

Sn のメスバウアー測定の際に協力して頂いた岡山大学自然科学研究科先端自然科学教

育研究推進本部高田研究室 松本修治特任助教(当時旭硝子株式会社中央研究所)また

Feのメスバウアーを測定の際に協力して頂いた岡山大学自然科学研究科 藤井達生教授に

心より感謝の意を表します

固体 NMR の岡山大学自然科学研究科 早川聡教授に心より感謝の意を表します

本研究を遂行するにあたりSPring-8 にてHEXRD および AXS 法の測定法および原理

についてご教示頂きました物質材料研究機構 小原真司博士ならびに山形大学 臼杵毅

教授に心より感謝の意を表します

本研究は多くの後輩諸君の協力によって遂行されました特に実際に共同研究共同

実験を遂行して頂いたOG 藤原沙弥香さん博士前期課程 2 年 東利彦君OB 徳岡太誠

君学士課程 4年 塩田将大君に心より感謝の意を表しますまた難波研究室で共に研

究生活を過ごした卒業生在学生の方々に感謝の意を表します

また同時期に博士後期課程に在籍された香川高等専門学校の桟敷剛さんにはNbに

関する有益な情報だけでなく辛い状況でも励ましを頂きました心より感謝の意を表し

ます

最後に長きに渡る学生生活を認め経済面だけでなく精神面でも支援してくださった

家族に心より深く感謝の意を表します

平成 28年 3月

福井 聡史

Page 14: 博士論文 スズリン酸塩系ガラスの物性と構造解析ousar.lib.okayama-u.ac.jp/files/public/5/54353/...博士論文 スズリン酸塩系ガラスの物性と構造解析

11

Fig 16 アルミナ含有リン酸塩ガラスの構造

Fig 17 鉄リン酸塩ガラスの構造 [27]より転載

P

O

O

OO Al

O

O

O P

O

O

O Al

O

O

O P

O

O

O

12

Fig 18 ガラスの侵食機構(耐候性)[1]より転載

13

第 2章 スズリン酸塩系ガラスの物性評価

21 緒言

前章で述べたようにスズリン酸塩(SP)系ガラスは無色透明高透過率低ガラス

転移温度など工業的に興味深い特徴を有することが知られている[1]またSn2+が ns

2型の

発光中心となり紫外線照射による白色蛍光を示すことから希土類フリー白色蛍光体とし

ての研究も数多くなされている[2 3]

しかし実用化に向けてはこの系のガラスについてもリン酸塩系ガラスに特有のldquo耐

水性rdquoldquo耐候性rdquoの低さが問題となる[4]この問題点を解決するために第三成分として他

の化合物を加えることが有効でありSP ガラスにおいてはB2O3や ZnO SiO2 MgO MnO

など様々な物質を第三成分として添加した研究報告[5 - 9]があったりNH3雰囲気下で数日

間溶融作製することでガラスを一部窒化することで耐水性を改善させたりという報

告もある[10]SP ガラスに限定しないリン酸塩系ガラスではZnO-P2O5 系ガラスに Sb2O3

や MoO3を添加した報告[11 12]や Na2O-P2O5系ガラスに CuO を加えた報告[13]P2O5-CaO-

Na2O に Ag2Oを添加した報告[14]Na2O-K2O-CaO-P2O5ガラスの一部を窒化することによる

方法[15]等があり数多くのリン酸塩系ガラスの耐水性改善に関する研究がなされている

本研究では高価数金属酸化物および低価数金属酸化物の二種類をそれぞれ第三成分と

して添加した高価数金属酸化物には Nb2O5を低価数金属酸化物には ZnO の二種類の酸

化物を選択した

Nb2O5は古くから光学ガラスの成分として頻繁に使われる物質であり様々な企業から数

多くの特許が出されている[16 17]また耐水性の改善に有効であるとの報告や比較的低

温でもガラス作製ができることが知られており(当然のことながら組成に影響される)

鉛フリーの封着ガラスとしての研究もなされているZnO についてはこれ自体は無着色

成分であるため無色透明なガラスが得られることから光学ガラスの成分に用いられる

ほとんどの組成で低融点ガラスとなり[18 19]これらの特性からSnO-ZnO-P2O5(SZP)

系ガラスは Sn2+を発光中心とした蛍光体の研究対象となっていることが多くSP 系ガラス

では一般的なガラス系である

本章では第三成分を含まない SP ガラスおよび Nb2O5または ZnOを SP ガラスに添加し

た三成分系ガラスをそれぞれ作製し耐水性試験を中心とした各種物性評価を行った比

較対象に耐水性の優れることで知られる鉄リン酸塩系ガラスも同時に作製することでSP

系ガラスへ添加したそれぞれの第三成分の耐水性に対する有効性を検討した

22 実験方法

221 ガラスの組成選択

本研究において作製した SP ガラスは以下の五種類の系列を選択した

14

① スズリン酸塩ガラス(xSnO∙(100-x)P2O5 x = 50 60 67 70 mol)

(略称 SP ガラス組成は 50S50P と表記)

② ニオブ含有 SP ガラス(65SnO∙xNbO25∙(35-x)P2O5 x = 0 1 2 3 4 5 mol)

(略称 Sn-Nb-P ガラス組成は 65S-0Nb-35P と表記)

③ ニオブ含有 SP ガラス(xSnO∙5Nb2O5∙(95-x)P2O5 x = 50 60 67 mol)

(略称 SNP ガラス組成は 50S5N45P と表記)

④ 亜鉛含有 SP ガラス (S5ZP ガラス)(xSnO∙5ZnO∙(95-x)P2O5 x = 55 62 65 mol)

(略称 S5ZP ガラス組成は 55S5Z40P と表記)

⑤ 亜鉛含有 SP ガラス (5SZP ガラス)(5SnO∙xZnO∙(95-x)P2O5 x = 55 62 65 mol)

(略称 5SZP ガラス組成は 5S55Z40P と表記)

(④と⑤は総じて SZP ガラスと表記する場合がある)

それぞれの選択理由はガラス化範囲(各ガラス系のガラス化範囲を Fig 21および Fig

23 に示す)作製の容易さ(気泡の入りにくさ流し出しやすさ)等を考慮し決定した

組成ごとに詳細な選択理由を述べると

②についてNb を P と置換した組成であるFig 22 に示した溶融温度 1100で作製した

Sn-Nb-P ガラスの外観写真より目視でも明らかに透明性の高く着色量の少ない組成は(d)

の 65Sn-5Nb-30P でありこの外観写真を参考に組成を決定したSnO 量を 65 molに固定

しNbO25量を 5 molから 0 mol(Nb無添加組成)まで減少させた組成(Fig 21 の緑線

の組成)を選択しこのガラス系の物性の変化を確認した

③はNb2O5量を 5 molに固定しSn を P と置換した組成であるNb と P は酸化数が

同じ 5価であるためこの組成では同じ SnO量の二成分系 SP ガラスと比較した際酸素

の総量に変化が生じない(例えば67S33P と 67S5N28P)またNb5+イオンはガラス中

では4配位および6配位を取るという報告が多い(結晶の場合他の配位数を取る)た

め配位数が4の P5+の置換に適していると考えた

④⑤に関しては気泡のrdquo入りづらいrdquoもしくはrdquo入らないrdquoSnOおよび ZnOが各 5 molにな

る組成を選択したSZP ガラスはFig 23 に示すガラス化範囲のようにガラス化範囲は

非常に広範囲であるしかし気泡が入りやすく脈理のようなものも見られる組成が多く

目視ですら不均質なガラス組成がほとんどであった(これらの組成も粉末にして XRD を測

定するとガラスであった)そのためバルク体でガラスを得られることが困難な組成も多

い(Fig 24 にその一例の SZP ガラスを示す)そこで第三成分の添加量を可能な限り少

ない組成を選択することでバルク体で目視上ldquo均質rdquoなガラスを得た(Fig 23 の青線と

紫線の組成)

また上述したように耐水性の比較対象である鉄リン酸塩ガラスを二成分系で作製し

15

た(FP ガラス)組成はxFe2O3∙(100-x)P2O5 x = 20 25 30 35 40 mol を作製した

222 ガラス作製

Figs 25 - 27に各ガラス系の作製フローチャートを示す出発試薬にSnO NH4H2PO4

Nb2O5 ZnO を使用し各々秤量した秤量混合後アルミナ坩堝に入れか焼(仮焼き)

を行ったか焼条件はSP Sn-Nb-P SNP SZP ガラスは350または 400 6-30 minFP ガ

ラスは600 30 min で行った溶融温度および溶融時間はSP ガラス1100 30 min

Sn-Nb-P ガラス1100 30 minSNP ガラス1000または 1250 20 min SZP ガラス

1100-1200 30 min 各々N2雰囲気下で作製したN2雰囲気下で行った理由はSn2+が Sn

4+

にほとんど酸化されてしまうとガラスが得られなくなるためSn2+の酸化を防ぐ目的がある

[19]FP ガラスは1200 - 1550 30 min大気雰囲気下の条件で作製した溶融後350

に温めておいたスチールモールドに流してプレスした後FP ガラス以外はガラス転移温度

Tg付近でアニールを 1 h行い目的のガラスを得た耐水性試験用のガラス形状はダイヤモ

ンドカッターで大まかに整えた後鏡面研磨まで施して型取ったここでFP ガラスのみ

アニール工程を省いた理由はSP ガラス等はアニールをして歪みを取らなければ正確に

切断できない場合が生じた一方でFP ガラスはアニールをせずとも十分正確にカットで

きたためアニール工程を省いたまた50S50P のみ厚みが必要になると必ず気泡が入

ってしまうため耐水性試験では気泡の入ったものを使用した

223 物性評価

得られたガラスの物性の比較を行うために以下に示す分析を行った

(1)ガラス状態の確認

作製したガラスが結晶の混在していないものかを確認するためにまた耐水性試験

後のガラスが結晶化しているかの確認のためにX 線回折装置(XRD Rigaku RINT-2100)

を用いて分析した全てバルク体で測定したが耐水性試験後ではバルク状態が保てな

いものもあったためその試料については粉末で測定した

(2)組成分析Sn Fe 価数分析

得られたガラスについてアルミナ坩堝の使用によるアルミナのガラスへの混入および

それに伴う組成ズレの確認のために走査型蛍光 X 線分析装置(XRF Rigaku ZSX Primus

Ⅱ)を使用し組成分析を行った分析はバルク体で定性分析法にて測定した

またSn が二価のままどのくらい存在しているかを調べるために Sn-Nb-P ガラスを用い

てSnの価数分析をメスバウアー分光法にて行ったSnの測定は reference [20]に示す旭硝

子の公開特許に記載されている方法で行ったFP ガラスについても価数変化を調べるた

めにメスバウアー分光法にて Feの価数分析を行ったFeの測定は(株)トポロジック

システムズ MDF-200)を用いて評価を行った

16

(3) 密度(ρ)およびガラス転移温度(Tg)評価

各ガラスの密度(ρ)測定はケロシンを用いたアルキメデス法で測定したガラス転

移温度(Tg)を評価するために示差熱―熱重量測定装置(SDT TA instrument Japan Q600)

を用いたアルミナパンを使用し測定条件はN2雰囲気下 10 Kmin 700までの温度範

囲にて行った

(4)耐水性試験

各ガラスの耐水性について評価するために耐水性試験をMCC-1法[21]にて測定した(Fig

28)条件は75 72h ガラスサイズ 12times10times02 cm (plusmn01 cm) 蒸留水の pH は 72-77

で行い浸漬後サンプルを乾かして重量を量った溶出速度(Dissolution Rate DR)は重

量減(ΔW) サンプル表面積(S) 浸漬時間(t)から以下の式によって算出した[22]

DR = ΔW (kg) S (m2) t (s)

また浸漬前と 72 h 後の重量減()も合わせて算出した

23 結果考察

231 組成分析 Snおよび Feの価数評価

Table 21に各試料の組成分析結果を示すまずアルミナ Al2O3の量を見るとガラスに

混入した量がほとんどの組成で 25 mol以下で多くても 35 molを下回る量であった

そのため各種特性についてアルミナの影響はほとんどないと考えられる[23 24]組成

によってその量に差があるのは溶融温度の違いによることに起因している組成分析の

結果今回作製したガラスは仕込み組成と大きな差がないと判断した

Fig 29に Sn-Nb-P ガラスの Snのメスバウアースペクトルをそこから得られたメスバウ

アーパラメーターを Table 22に示す得られた結果よりSn-Nb-P ガラスでは95以上の

割合で Sn2+のまま存在していることが分かった不活性雰囲気で作製したことP2O5 の出

発原料に NH4H2PO4を使用したことにより(か焼は行なっているが)還元雰囲気になったた

めSn4+にほとんど酸化されることがなかったといえるこの結果SP 系ガラスではほぼ

Sn2+のまま存在していると仮定した

Fig 210に FP ガラスの FeのメスバウアースペクトルをTable 23 にそこから得られたメ

スバウアーパラメーターを示すFP ガラスについては組成に関わらず酸化還元平衡に

より 20 ~ 30が Fe2+になりまたFe2O3 ge 30 molの際化学的にも安定であることが知

られている[27]実際にFe2O3 ge 30 molの際Fe2+は概ね 20 ~ 30存在している結果が得

られた一方でFe2O3 lt 30 molの際はFe2+が 40以上と高い割合で存在していることが

判明したこれは出発原料の NH4H2PO4の多量使用によること溶融温度が 1550と高

いことが要因で還元がより進行したためと予想される

17

232 ρおよび Tg

Table 24にρおよび Tgの結果を示す二つの特性結果はそれぞれのガラス系において

SnO や Nb2O5ZnO といった金属酸化物が増えるにつれて大きくなっているSP Sn-Nb-P

SNP S5ZP 系ガラスの Tgはほとんどが 300前後であり最も高い温度でも67S5N28P

の 346であった一方5SZP 系ガラスは400~440となり他のガラス系と比較する

と若干高い温度となったそれでも今回作製した第三成分を添加したガラスは低 Tgを有

するガラスであると判断できSP ガラスの特性を維持できたと判断できる

60S5N28P と 62S5Z30P のようなほぼ同じ OP を示すもので比較した際にNb2O5添加が

ZnO 添加よりも Tgが高くなったのは①配位数が同配位数になり得るイオンの場合(例え

ば Nb5+と Zn

2+なら4配位など)ポーリングの第 2 法則[25]より高価数イオンの方が結合

強度が強くなる②diatomic cationの解離エネルギーがNb-O (688plusmn11 kJmol)[26]に対しZn-O

(1611plusmn48 kJmol)[26]と大きな差があるため Nb-Oの結合が強い故に熱的に安定化され

Tgが高くなったと考えられる

233 耐水性試験前後の外観写真

Figs 211 - 216に各ガラスの耐水性試験前後の外観写真を示すFig 211 の SP ガラスを

観察するとSnO 量の少ない 50S50P 60S40P は浸漬時間が経過するにつれて元々の形状

が崩壊したりガラス自体が膨張したような状態になったりしたSnO 量の多い 67S33P

70S30P について形状は崩れることはないが透明性が失われる(白ヤケ)耐候性が低いこ

とが確認できるFig 212 に示す Sn-Nb-P ガラスではNb2O5無添加の 65S-0Nb-35P は浸漬

時間 24 h で透明性が失われているがNbO25量の増加させていくと徐々に透明性が回復

しており4 mol添加した 65Sn-4Nb-31P では72 h後においてもほとんど変化が確認でき

ないNbの添加量を変えた Fig 213に示す SNP ガラスではSP ガラスと同様に SnO 量の

少ない 50S5N45P は時間経過と共にガラス全体にldquoひびrdquoのようなものが見え72 hの実

験終了後最終的にテフロン糸を外す段階で簡単に割れたしかし50S50P や 60S40P と比

較すると耐水性が大幅に良くなったまた60S5N35P 67S5N28P は耐水性が良好なこと

だけでなく耐候性についても向上していることが目視で判断できる一方で二種類の

SZP ガラス(Figs 214 215)を観るとP2O5量の少ない 5S55Z40P および 55S5Z40P では

形状が崩れるか析出物が現れる結果となったこの組成よりP2O5 量を減少させるとSP

ガラスと同じように形状は崩れないが透明性が若干失われる結果となった

Fig 216 に比較対象の FP ガラスの耐水性試験前後の写真を示すこの組成ではFe2O3

量の少ない20F80Pにおいても形状が全く崩れない結果が得られたしかしFe2O3 lt 30 mol

の組成において表面に干渉色のような反射光が若干確認できたこれはおそらく青ヤ

ケが発生したためであると考えられる

18

234 耐水性試験前後の構造変化

Figs 217 - 222に各ガラスの耐水性試験前後の XRDパターンを示す耐水性試験前では

ガラス化を全組成で確認した(Figs 217(a) - 222(a))しかし耐水性試験後における外観

写真で形状の崩れたもしくは析出物の得られたガラス組成では結晶が生成したことが

確認された形状の崩れた三組成のうち50S50P 60S40P ガラス(Fig 2214(b))では三

種類の結晶ピーク(SnP2O7 Sn2P2O7 Sn3(PO4)2)が確認でき5S55Z40P については(Fig

2214(b))結晶同定の判断はできなかったが ZnOの多い組成であるためおそらくリン酸

亜鉛の何れかの結晶だと推測された析出物が得られた 55S5Z40P はガラス matrix部と析

出物に分けて測定したところガラス matrix 部はガラスのままであり析出物は SnP2O7

Sn2P2O7の二種類の結晶ピークが確認できたガラス形状に変化がなかったその他の組成は

ガラス状態が保たれていたSn4+の結晶のピークが確認されたのは50S50P のガラスには

気泡が残っておりその気泡から酸化されたかもともと溶融工程で電気炉内に残って

いた酸素によってSn4+に酸化されたか等が考えられる

235 溶出速度(DR)および重量減

Table 24に DR重量減の結果および仕込み組成から計算した OP を示すSP SNP S5ZP

ガラスではSnO 量の増加に伴いSnO量の固定された Sn-Nb-P 5SZP ガラス系ではそれ

ぞれの金属酸化物の増加に伴いDR重量減は減少傾向にあったFP ガラスでは全組成

において DR 重量減共に変化が全く確認されなかったそのため青ヤケのようなものが

確認された FP ガラス(Fe2O3 lt 30 mol)については電子天秤では変化が見られない程度

の重量減であったと推測される二種類の SZP ガラスで比較するとSnOと ZnO量が入れ

替わってもほぼ誤差範囲内と思われる結果が得られたガラス全体の比較では外観写真

で変化が見られなかった FP ガラスと 65S5N28P 65Sn-5Nb-30P のガラスが DR重量減がと

もにゼロという結果が得られた

組成と DR 重量減の関係性を見るために作成した図をFigs 223(DRと OP の関係性)

224(Fig 224に重量減と OP の関係性)に示すそれぞれの図にリン酸塩の三つの構造

の OP も表記した双方の図よりDR 重量減共に OP が増加することで単調に下がって

いることが分かるこの結果はリン酸塩の構造ではorthophosphate 組成で耐水性良好が

あるため[22]一般的な結果と同じ挙動であるまた耐水性の良かったNb2O5添加の SNP

ガラスは異なる挙動(傾き)が得られた

以上の結果より第三成分添加による耐水性の改善を確認し特に Nb2O5 の添加による

影響は大きいことが判明したまたOP の増加による耐水性が改善する結果が得られた

次章の第 3 章にて各ガラス系の構造解析を行い第三成分特に Nb2O5の耐水性への有

効性について調査した

19

24 結言

本章ではSP ガラスおよび第三成分の Nb2O5 ZnOを添加した SP ガラスの物性評価を行

うことで耐水性改善への第三成分添加の有効性を確認した各々の物性について以下に

まとめる

低ガラス転移温度を有する SP ガラスは最も SnO 量が高い 70S30P でも Tg le 280であ

ったNb2O5を添加した Sn-Nb-P SNP ガラスではTgの上昇は見られたが Tg le 350

ZnOを添加した 5SZP S5ZP ガラスではTg ≦ 450であり両金属酸化物の添加でも低

ガラス転移温度を維持しているガラスが得られたNb2O5 添加が Tg を上昇させたのはポ

ーリングの第 2法則より高価数イオンの方が結合強度が高くなるためと結論付けた

耐水性試験結果の外観写真を観るとSP ガラスの SnO 量 le 60 mol 5SZP ガラスおよび

S5ZP ガラスの P2O5量 = 40 molの組成についてガラスサンプルの形状が大きく変化して

おりDR 重量減も高く耐水性の低さが明らかであった得られた析出物はSnP2O7

Sn2P2O7 Sn3(PO4)2 および亜鉛リン酸結晶の一種であると予想されたその他の組成では

透明性の失われた組成がいくつかあったが外観写真では変化が見られなかった FP ガラス

と 65S5N28P 65Sn-5Nb-30P のガラスが DR重量減がともにゼロという結果が得られた

組成と耐水性に関してはDRおよび重量減がOP増加で単調に低下した結果が得られた

つまり耐水性を改善させる有効な手段はSP 系ガラスのガラス化範囲を拡大かつ OP を

増大させる第三成分の添加によることであることが示唆された

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21

Fig 21 三成分系 SnO-NbO25-P2O5 系のガラス化範囲

Fig 22 作製した Sn-Nb-P ガラス

(a)50Sn-5Nb-45P (b)55Sn-5Nb-40P (c)60Sn-5Nb-35P

(d)65Sn-5Nb-30P (e)70Sn-5Nb-25P (f)60Sn-10Nb-30P

(g)55Sn-20Nb-25P (h)60Sn-15Nb-25P (i)65Sn-10Nb-25P

22

Fig 23 三成分系 SnO-ZnO-P2O5系のガラス化範囲

Fig 24 作製した SZP ガラスの一例

(気泡や脈理のようなものが確認できた組成)

23

Fig 25 SP SZP ガラスの作製フローチャート

Fig 26 Sn-Nb-P SNP ガラスの作製フローチャート

(気泡や脈理のようなものが確認できた組成)

24

Fig 27 FP ガラスの作製フローチャート

Fig 28 耐水性試験(MCC-1法)

25

Table 21 各ガラスの組成分析結果

26

Fig 29 Sn-Nb-P ガラスのメスバウアースペクトル

Table 22 Sn-Nb-P ガラスのメスバウアーパラメーター

27

Fig 210 FP ガラスのメスバウアースペクトル

Table 23 FP ガラスのメスバウアーパラメーター

28

Table 24 各ガラスの物性(密度(ρ)ガラス転移温度(Tg)溶出速度(DR)重量減())

29

Fig 211 SP ガラスの耐水性試験前後の外観写真

Fig 212 Sn-Nb-P ガラスの耐水性試験前後の外観写真

30

Fig 213 SNP ガラスの耐水性試験前後の外観写真

Fig 214 S5ZP ガラスの耐水性試験前後の外観写真

Fig 215 5SZP ガラスの耐水性試験前後の外観写真

31

Fig 216 FP ガラスの耐水性試験前後の外観写真

32

Fig 217 SP ガラスの XRD パターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

33

Fig 218 Sn-Nb-P ガラスの XRD パターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

34

Fig 219 SNP ガラスの XRD パターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

35

Fig 220 5SZP ガラスの XRDパターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

36

Fig 221 S5ZP ガラスの XRDパターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

37

Fig 222 FP ガラスの XRD パターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

38

Fig 223 各ガラス系の DR と OP の関係性

39

Fig 224 各ガラス系の重量減と OP の関係性

40

第 3章 分光法を用いたスズリン酸塩系ガラスの構造解析

31 緒言

前章ではSP ガラスおよび第三成分に Nb2O5 ZnOを添加した Sn-Nb-P ガラスSNP ガラ

スSZP ガラスの物性特に耐水性に関する第三成分添加の有効性を明らかにしたその添

加した第三成分の二種類についてもNb2O5 の方が ZnO よりも溶出速度重量減ともに抑

制することができSP ガラスの低ガラス転移温度という特性も維持されていることが判明

したしかし現段階では本研究の主要な物性である耐水性改善の要因が明確になって

いない組成の観点からはOP の値が高い組成が良好な耐水性であることが分かったが

組成だけでは耐水性改善のメカニズムについて完全には理解できないここでリン酸塩

ガラスの溶出のメカニズムは第 1 章で述べたように加水分解反応と水和反応が要因とな

る[1 2]この機構はそれぞれリン酸の構造つまり架橋酸素 BO の数が大きく関わって

おりリン酸アニオンの[PO4]ユニットの架橋酸素数を知ることが重要であるこの BO の

情報を得るためにはガラス構造を示す指標の一つである Qn(n は[PO4]ユニット中の架橋

酸素数を表す)を調べることが必須であるまたQn の分布を調べるためにはガラスの

構造解析を行う必要性がある

ガラスの構造解析には種々の方法があり特にラマン分光法や赤外(IR)分光法核

磁気共鳴法(NMR)などの分光学的手法を用いた構造解析の報告が多い[3-5]ラマン分光

法および IR分光法は原理は異なるがどちらも結合の振動モードを測定する手法であり[6]

リン酸塩ガラスだけでなくケイ酸塩ガラスホウ酸塩ガラスなど様々なガラス系にて測

定がなされている[7 8]また得られた結合状態の情報からリン酸塩アニオンの Qn分布

を調べることも可能であるNMR は共鳴吸収ピークの化学シフト(共鳴周波数のズレ)

から構造を決定する手法であるガラスの場合SiO2や B2O3 P2O5といった網目形成酸化物

の Qn分布を得るために一般的に使用されている手法である[9]

今回これらの測定の中でラマン分光法を選択し構造解析を行ったラマン分光法は

測定する際にサンプル形状を気にすることなく基本的にそのまま測定できるためIR 分

光法のようにサンプル形状で測定方法を変える必要はないまたIR 分光法では例えば

KBr 錠剤法やヌジュール法のように測定を行うためのサンプル調整に手間がかかる場合が

ある[6]さらに比較対象の FP ガラスではNMR を測定できないため作製ガラスを全

て比較検討できるようにラマン分光法を選択した

本章ではラマン分光法を用いて各ガラスの構造解析を行い[PO4]ユニットの Qn分布を

調査し平均 BO数 nを算出することで耐水性と構造の関係性を検討したまたラマン

分光法によって得られた Qn分布の妥当性を確認するためにSP ガラスおよび 67S5N28P ガ

ラスの NMRを測定も行い比較した

32 実験方法

41

321 サンプル準備

ラマン分光およびメスバウアー分光の測定では第 2 章で作製した各ガラスのバルク体

を用いたWD試験に使用したサンプルとは別にラマン測定用のサンプルを用意した適

度な大きさ大体 15 cm角程度のサイズになるようにガラスカッターで切断しその後

十分な平滑性を得るために鏡面研磨を施した

322 ラマン分光測定

使用したラマン分光装置は顕微レーザーラマン分光装置(Jasco NRS-5100)を用いた

用いたレーザー波長は 53208 nmであり400 - 2000 cm-1の範囲で測定した

Qn 分布を導くためにピークフィッティングを行いリン酸塩アニオンのラマンバンド

が現れる950 - 1250 cm-1付近および 700 - 750cm-付近の範囲で定量した

323 31P MAS NMR測定

31P MAS NMRの測定は Varian NMR System 500 を用いて32 mmの MASプローブ

202309MHzにて行った測定パラメーターを以下に示すπ4 パルス長さ 14 μs 待ち時間

(pulse delay)10 s 積算回数 3600 scan シリンダー円筒形状の Zrローターの回転スピード

160 kHz referenceとして二番目の基準物質として使われる NH4H2PO4を使用化学シフト

は85 H3PO4溶液から δ = 10 ppmである

33 結果考察

331 各ガラス系のラマンスペクトル

Figs 31 - 35にラマンスペクトルを示す各ピークは以下の通りに帰属し各スペクト

ル中に該当する構造をピーク位置に示した

1230 - 1260 cm-1 P=O NBO Q

2 [10]

1110 - 1150 cm-1metaphosphate (PO3)

- Q

2 [10]

1030 - 1100 cm-1pyrophosphate (PO35)

2- Q

1 [10]

970 - 1000 cm-1orthophosphate (PO4)

3- Q

0 [10]

920 - 930 cm-1asymmetric (P-O-P) Q

1 [10]

730 - 750 cm-1symmetric (P-O-P) Q

1 [10]

710 - 720 cm-1asymmetric (P-O-P) Q

2 [10]

810 - 820 cm-1Nb-O [NbO4] tetrahedron [11]

900 - 920 cm-1Nb-O isolated [NbO6] octahedron [11]

42

SP ガラスのラマンスペクトル(Fig 31)を見ると50S50P 60S40P ではmetaphosphate

の Q2 構造が支配的であるがSnO 量が増えるにつれてその構造が変化し70S30P では

pyrophosphateの Q1構造と orthophosphateの Q

0構造が共存した構造となっているまたSnO

量の少ない 50S50P および 60S40P において確認されたQ2構造の P=O のピークが見えなく

なっているつまり耐水性と関連して考えるとSnO量が増えるにつれてP-O-P 結合か

ら Sn-O-P 結合に代わり水分子との反応である加水分解反応を妨げる構造に変化している

ことがわかる

Figs 32 33にNb2O5を添加した Sn-Nb-P ガラスおよび SNP ガラスのラマンスペクトル

を示すまずSn-Nb-P ガラスについてNb 無添加の 65Sn-0Nb-35P は主に Q1構造であ

りNbO25が添加されることによってQ0構造に変化しQ

1 Q

0構造が共存しているような

ピークが得られた添加量が少ないガラス系であるため徐々に変化しているのを確認し

た800 cm-1を少し越えた 810 - 820 cm

-1付近にNb2O5を添加することでピークが現れそ

して添加量を増量することで強度が強まるピークがありこのピークは四面体の[NbO4]

のものと判断した

SNP ガラスのラマンスペクトルについてはNb2O5添加量を固定した組成であるためSP

ガラスのような挙動が観察された50S50N45P では50S50P ガラスと同じようにQ2構造

が主な構造でありSnO量の増加に伴って60S5N35P Q1構造67S5N28P Q

0構造に支配

的な構造が変化しているこれはSP ガラスと同じ傾向を示しているためP-O-P rarr Sn-O-P

に置き替わっていることが示唆されるNb-O に関するピークでは50S5N45P のみ[NbO4]

四面体のピークを確認できず900 - 920 cm-1付近に[NbO6]八面体のピークが確認された

SnO量が増量した 60S5N35P では810 cm-1付近の [NbO4] 四面体のピークが現れているが

[NbO6]八面体のピークと 900 - 920 cm-1付近の Q

1構造のピークが非常に近い(ほぼ重なって

いる)ことから60S5N35P については[NbO4] 四面体および[NbO6]八面体の共存の可能性

も考えられるまた67S5NP28 では[NbO4] 四面体のみのピークが観察されたためこ

の Nb-O の配位数変化は[PO4] unitの状態によって変化している可能性も示唆された

ZnO を添加した S5ZP ガラスおよび 5SZP ガラスのラマンスペクトルを Fig 34 に示す

図の下部三つが S5ZP ガラス上部三つが 5SZP ガラスのスペクトルであるSZP ガラスの

二系統を比べるとあきらかなスペクトルの違いが確認された各ガラス系で確認すると

SnO 量が最小の 55S5Z40P はQ2構造と Q

1構造の範囲に跨っているようなスペクトルが得

られた62S5Z33P および 65S5Z30P のスペクトルからはどちらもほぼ Q1構造であると判

断した5SZP のスペクトルは1000 - 1250 cm-1付近の範囲で裾を引くような(なだらかな)

スペクトルが得られたZnO 量が最小の 5S55Z40P にはQ2構造が主な構造に見えるが

shoulderピークのような Q1構造(1030 - 1100 cm

-1)が確認できる5S62Z40P においては

1000 - 1250 cm-1付近の範囲まで幅広いスペクトルが得られた730 - 750 cm

-1付近にピーク

が現れているためおそらく Q1構造が最も多く存在していると考えられる65S5Z30P では

Q1構造Q

0構造が共存しているようなピークが得られた

43

FP ガラスのラマンスペクトルを Fig 35 に示すFe量の少ない 20F80P 25F75P と他の三

つで構造が異なっていることである20F80P 25F75P はQ2構造と Q

1構造が基本構造にな

っていると判断できる 30F70P は1110 - 1150 cm-1付近に shoulderピークのようなものがあ

りQ2 Q

1 Q

0構造が共存しているようなスペクトルであった35F65P 40F60P はQ1構造

が主な構造でQ0構造があると判断した

332 平均 BO数 n (Qn分布)

まずピーク分離について散乱断面積が見積もれなかったためラマンの散乱強度比

を Qn分布として簡易的にピーク分離を行い(Fig 36)そこから平均架橋酸素数 BO 数 n

を算出したここでFig 37 に 31P MAS NMRスペクトルを示しTable 31に NMRおよび

ラマン分光より得られた平均 BO 数 n を示す(NMR の帰属 reference [12])表よりNMR

とラマンから得られた Qn分布はほぼ一致していることが分かった60S40Pについては支

配構造が NMR(Q1) ラマン(Q

2)で逆になったこれは60S40P の組成がQ

2と Q1のほぼ中

間の組成になるためこのようなズレが生じたと考えられるしかし今回のラマンによ

る Qn分布の算出についてはほぼ問題ないと判断した

Table 32にラマンスペクトルより求めた Qn分布平均 BO 数 nをを示しTable 24に示

した DR 重量減の結果を併記する

SP ガラスのうち耐水性が低いガラスは Q2構造によって形成されているSnO量の増加

によって NBOの増加とともに耐水性の向上が確認できSnOが入ることでSn-O-P 結合を

形成し水分子からの攻撃を受けにくくなっていることが考えられる

Sn-Nb-P ガラスでは基本的に Q1構造が主構造でNb2O5の添加が増えるにつれQ

0構

造が支配的になり耐水性は次第に向上していく最も耐水性のよかった 65S-5Nb-30P は

Q0構造での割合が非常に高く平均 BO数 n値が 03であった

SNP ガラスではP2O5量が多い組成の 50S5N45Pにおいても平均 BO数 nが 60S40P と

同じながらも耐水性が良くなっている67S5N28P はほぼ完全に Q0構造であり平均 Q

n

値は 0となった

SZP ガラスについてはS5ZP 5ZSP のどちらの系列についても耐水性の結果に大きな差

というものは確認されなかったが構造的にも平均 BO数 nが 09 10 17という結果であ

った

FP ガラスについてはFe2O3 lt 30 molのときは平均 BO 数 nが20 19と高い数値を

示したが耐水性は非常に良好であったこの結果より組成だけでなく構造的にも耐

水性高くなる要因が不明である一つの原因の可能性としてメスバウアーより得られた

Fe2+の存在比が 40以上と高かったことがFe2O3含有量が少ない組成時には効果的になっ

ているのかもしれない

333 平均 BO数 nと耐水性の関係性

44

Fig 38に DRと平均 BO数 nの関係性についてFig 39に重量減と平均 BO数 nの関係

性をそれぞれ示すまたOP の時と同様に各図にリン酸塩の三つの構造の平均 BO数

n も表記した双方の図よりDR 重量減共に平均 BO 数 nが低下することで単調に下がっ

ていることが分かるまた耐水性の良かったNb2O5添加の Sn-Nb-P SNPガラスはの DR

の挙動(傾き)はOP 時とも異なった挙動が得られた

Fig 310に OP と平均 BO数 nの関係を示す図中に示す茶色metaphosphate 黄色

pyrophosphate 灰色orthophosphate であるこの図から耐水性改善には平均 BO 数

n を下げOP を上げることが重要であるのが分かるまたNb5+の添加はOP を上げる

だけでなく平均 BO 数も減少させることから非常に効果的な成分であることが明らかで

あるこれはP5+から同酸価数 Nb

5+に少量でも置き換えることで平均 BO 数 n を下げ

OP を上げることを可能としている(実際に orthophosphate の OP4 よりも高い OP でガ

ラスが作製できている)つまりNb5+の添加によって P-O-P 結合が減少し水和反応加

水分解反応が抑制されているからである

以上の結果SP 系ガラスの耐水性改善には低い平均 BO 数と高い OP の組成にするこ

とが重要でNb2O5の添加は非常に効果的であることが分かったその一方でガラス中の

詳細な構造的要因についてははっきりしていないため次章の第 4 章にてさらに詳し

い構造解析を行い耐水性改善の要因について調査を行った

34 結言

本章ではラマン分光を使用して各ガラス系のリン酸塩アニオンの構造を簡易定量で

評価し組成と構造の関係について考察した

平均 BO 数 n と耐水性に関してはDR および重量減が平均 BO 数 n の減少で単調に低下

した結果が得られた

平均 BO数 nと OP の図より耐水性改善には平均 BO数 nを下げることそして OP

を上げることが重要であることが明白であった

Nb5+の添加は平均 BO数を減少させるだけでなくOP も上げることからガラス構造内

の P-O-P 結合を減少させる故に水和反応加水分解反応が抑制され耐水性が大幅に

改善された故にNb2O5 のような高価数金属酸化物を添加することが効果的であること

が示唆された

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46

Fig 31 SP ガラスのラマンスペクトル

47

Fig 32 Sn-Nb-P ガラスのラマンスペクトル

48

Fig 33 SNP ガラスのラマンスペクトル

49

Fig 34 SZP ガラスのラマンスペクトル

50

Fig 35 FP ガラスのラマンスペクトル

51

Fig 36 ラマンスペクトルのピーク分離例(67S5N28P)

Raman Shift (cm-1)

52

Fig 37 NMRスペクトル

Table 31 NMR およびラマン分光より得られた SP 67S5N28P ガラスの

Qn分布および平均 BO数 n

53

Table 32 各ガラスのラマンスペクトルより求めた Qn分布結果

(表の赤線より右側の結果は Table 22 より)

1 仕込み組成による数値

2 Fig 2212 に示した析出物を取り除いた後の数値

54

Fig 38 DR と平均 BO数 nの関係性

55

Fig 39 重量減と平均 BO数 nの関係性

56

Fig 310 OP と平均 BO数 nの関係性

Meta

Pyro

Ortho

57

第 4章 放射光を用いたスズリン酸塩系ガラスの構造解析

41 緒言

前章の第 3 章にてラマン分光法を用いて SP 系ガラスの構造解析により Qn分布を導き

出したことで耐水性と構造の関係についてある程度関連性を導くことができたリン

酸アニオンについてはQ0(orthophosphate)構造 gt Q

1(pyrophosphate)構造 gt Q2

(metaphosphate)構造の順で良耐水性となるしかしSn Nbおよび Znの局所構造につ

いては知見が得られていないラマン分光や IR分光などの分光学的手法を用いてSnや

Nb Zn の周辺の局所構造を知るには限界があるまたガラスの構造解析を行う上で非常

に重要な因子である中距離構造の評価には分光学的手法は不向きである[1]

そこで局所構造や中距離構造を知るために有効な手法として放射光線を用いた構造

解析がある放射光(SR 光)とはシンクロトロンなどの加速器で高速に加速された電子

が進行方向を磁場によって変えられた際に放射する電磁波である[2]エネルギーが高く

(短波長)輝度が高い特性を有している日本国内では兵庫県佐用町の SPring-8や茨城

県つくば市の高エネルギー加速器研究機構佐賀県鳥栖市の佐賀県立九州シンクロトロン

光研究センターなど複数個所に放射光施設が設置されている

放射光を用いたガラスの構造解析には一般的に高エネルギーX 線回折(High Energy

X-ray diffraction HEXRD)が用いられるこの回折実験から高い散乱ベクトル Q(= 4π sinθλ)

まで回折データが得られる多種類の原子から構成される物質の場合はFaber-Ziman 型[3]

の構造因子 S(Q)を用いる以下の式に示すようにFaber-Ziman 型構造因子 S(Q)は同種また

は異種の原子による相関の重み関数付の和として示される例として SiO2ガラスで説明す

ると構造因子 S(Q)は三種類の原子付の S(Q)の重み付の和として表されていることが分か

I(Q) 散乱断面積 ltgt 原子一個当たりの平均値 f(Q) 原子散乱因子 W 重み関数

通常の研究室で使用される X 線回折(XRD)装置で用いられる特性 X 線はCuKα線(λ

= 0154 nm 81 keV)が最も良く用いられより高いエネルギーの X 線が必要な場合は

MoKα線(λ = 0071 nm 175 keV)が使用される一方でSPring-8のビームライン BL04B2

で行われる高エネルギーX 線回折(HEXRD)測定で使用される SR のエネルギーは378 keV

58

~ が使用可能である[2]従ってガラス以外の液体のような非晶質物質にも非常に精度

よく構造解析が行われている[4]

また局所構造解析の一つに X線異常散乱法という測定方法がある[5 6]これは通常

の X 線回折実験では分離不可能な特定元素に関連する部分構造因子(散乱強度曲線)を得

ることができる手法である今回 HEXRD の測定時に使用したエネルギー614 keV では各元

素の異常散乱項のエネルギー依存性は確認されない(Fig 41)その一方でFig 42に示す

Sn の吸収端付近の 292 keV付近ではSnの異常分散項のエネルギー依存性が確認できる

つまりSnの吸収端近傍より低エネルギー(E)側の異なるエネルギーの X線(E1 E2)を

使って散乱強度を測定し各 E における異常分散項(f`)の変化(つまり高い E1 から低い

E2 の散乱強度の差分)を利用して Snに関する部分構造因子を求める構造解析が AXS 法で

あるこの測定法は古くから知られている方法ではあるが装置の測定条件や設備の問

題からなどから使用があまり普及していなかった[5 6]近年になり金属ガラスの構造解

析について徐々に報告が出てきており今後注目される測定法である

HEXRD および AXS 法などから得られたデータ実測の構造因子 S(Q)は一次元の限られ

た構造情報であるためガラスなどの非晶質物質の中距離構造を解明するためにはこれ

らのデータを基に三次元構造を求める必要がある三次元構造モデルの作成には逆モンテ

カルロ(RMC)シミュレーションを使用することが有効である[7]このシミュレーション

は任意で決めたシミュレーションボックス内の粒子をランダムに動かすことで実測の

構造因子 S(Q)を再現する三次元構造モデルを構築する方法である

SP ガラスについては分光学的手法について数多く報告があるが放射光を用いた回折

法はほとんど適用されていないそこで本研究では HEXRD および AXS 法を用いた構造

解析を行うことでSn Nb周りの構造を解明すると共にSNP ガラスの耐水性改善のメカ

ニズムについて考察したまたAXS 法の有効性についても検討した測定を行ったガラ

スはSP ガラスおよび最も耐水性の高かった 67S5N28P を選択した

42 実験方法

421 HEXRD AXS法

HEXRDはSPring-8のビームライン BL04B2 で測定を行ったエネルギー614 keV の X

線を用いた測定サンプルの厚みは09 mm (plusmn0005 mm)になるまで研磨を行った

AXS 測定はSPring-8のビームライン BL13XUを使用した(Fig 43)それぞれの測定し

た X 線のエネルギーについて以下に示す

①Sn K吸収端hellip292 keV near edgehellip291452 keV (-60 eV) far edgehellip289751 keV (-230 eV)

②Nb K吸収端hellip1899 keV near edgehellip189562 keV (-30 eV) far edgehellip187863 keV (-230 eV)

測定に使用したサンプルの厚さが015 - 030 mmとなるまで研磨を施した

SP ガラスについて50S50P 60S40P 67S33P の三組成のガラスを測定した70S30P に関

59

しては測定を試みたが放射光照射によって結晶化してしまいガラス部分の正確な構

造因子を得るための強度補正ができず解析を断念した

422 RMCのモデリング

Table 41 に RMC の各種パラメーターを示す粒子数は約 5000 個でそれに伴う boxの一

辺の長さは約 42 ~ 46 Ǻになった拘束条件にP の配位数が 4になるような条件を付け

加えたFig 44にSn2P2O7結晶および Sn3P2O8結晶の動径分布関数(RDF)をTable 32

にRDFから得られた第一近接距離[8 9] を示すこれらの数値を使用しcutoffを決定し

たNb-O についてはいくつかの文献値を参考にした[10 11]

各ガラスの RMCのモデリングは①HEXRDから得られた S(Q)のみ②S(Q)および AXS

から得られた部分構造因子を加えた場合でそれぞれ計算した

43 結果考察

最初にNbの AXSから得られたデータについて解析を試みたが妥当な構造モデルが得

られなかったためSnの AXSのみで解析を進めたNb2O5の量が 5 molと少量であったた

めあまり精度の高いデータが得られなかったと推測される

431 実測の HEXRDおよび AXSの結果

4311 実測 HEXRDの S(Q)

Fig 45 に実測HEXRDの S(Q)を示す四つの組成ともに実測HEXRDの S(Q)が得られ

Nb2O5添加の 67S5N28P ガラスでは Low Q 側に変化が確認された

4312 実測散乱強度曲線

Fig 46 に Snの散乱強度曲線を示す(a) の 67S33P のこの曲線からはfar edgeおよび

near edge のエネルギー間で差分が見られエネルギーの依存性が確認された50S50P

67S5N28P のガラスについても同じように差分が確認されたが(b)の 60S40P についてのみ

他とは若干異なる結果(緑丸)であったためRMC の構造解析には差分の構造因子ではな

くfar edge near edge 二つの構造因子を用いた

4313 全相関関数 T(r)

Fig 47 に全相関関数 T(r) を示すHEXRD から得られたものを実線でSnの AXS から

得られたものは点線で示し組成ごとに重ねて表示した図中に各ピークについて帰属し

ているがSnの T(r)からはSn-O Sn-P Sn-Snのみのピークを確認した

432 RMCの計算結果および考察

60

構造モデルの一例として67S5N28P ガラスの得られた構造モデルをFig 48に示す水

色の多面体 unitSnON 黄色の多面体 unitPO4 ピンクの多面体 unitNbONである以下

詳細な構造解析の結果および考察を記す

4321 RMCのフィッティング結果

RMCのフィッティング結果の一例として67S33P の HEXRD と Snの AXS の構造因子か

ら得た結果を示す(Fig 49)二つの構造因子を加えて計算した結果においてもHEXRD

の S(Q) AXS の S(Q)に各々に対する良好なフィッティング結果が得られた他の組成も

同様なフィッティング結果が得られた

4322得られた各 pairの平均配位数平均角度平均結合距離

RMCの結果によって得られた各 pairの平均配位数平均角度平均結合距離を Tables 43

に示す上段が HEXRD の S(Q)のみ下段が HEXRD に Sn の AXS の部分構造因子を加え

て結果である最下部は比較のためにSn2P2O7の情報を記載した[8]

P-O pairについてRMCモデル中の PON多面体に関して平均配位数 Nが 4および P-O

の平均結合距離が約 160Å平均結合角度angO-P-O が約 109degという結果が得られた組成

による大きな違いは確認されなかったのはP の配位数が 4になるように拘束条件をかけた

結果であると考えられるSnON多面体についてはSnO量の増加 = OP の増加であり平

均配位数 Nが 3 ~ 35へ増加した平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約

22Åで組成による大きな変化はほとんど見られなかったNb2O5を 5 mol添加したガラ

スではNbON多面体の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平均配位数 N約 4Nb-O 平均結

合距離約 20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O(約 105deg)と値が近いこと

また6配位ではなく 4配位として主に存在していることからSnO と同じような働きをし

ていると推測される

以上の結果からNb2O5添加の耐水性改善の要因として結合距離が Sn-O が約 22Åに対

し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強固にして

いることも一つの要因として考えられる

また67S5N28P ガラスの各多面体モデルを確認すると(Fig 410)P は PO4Snは SnO4

と SnO3Nbは NbO4をそれぞれ再現している

4323得られた各 pairの結合様式

RMC の結果により得られた各 pair の結合様式を Tables 44 に示す上段が HEXRD の

S(Q)のみ下段が HEXRDに Snの AXS の部分構造因子を加えた結果である最下部は比

較のためにSn2P2O7の情報を記載した[8]

結合様式に関してはPO4四面体は他の多面体も含めてほぼ頂点共有で存在している

SnON多面体についてはSnO 量が少ない配位数が 3 に近い場合頂点共有以外の共有の

61

割合も多くSnO 量が増えるにつれて頂点共有が主になり網目形成体として振舞ってい

ると考えられる組成によって平均結合距離や平均角度の大きな変化が見られなかったこ

とから平均配位数が結合様式を決める重要なファクターであるということも考えられる

またHEXRD と AXS 法の結果がほぼ同じであったこれは主成分が SnO のガラスであ

るためHEXRDでも十分に詳細な構造が得られたため大きな変化が現れなかったと考え

られるNbON 多面体はPO4 四面体と SnON 多面体とはほぼ頂点共有で繋がっている以

上の結果よりSnO量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体的に各多面体同士の

頂点共有が増えていることから耐水性の改善には頂点共有を多く含む構造であること

が重要である或いは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的となって

いるということが推測されるFig 411に 67S5N28P ガラスの構造モデルを示す各多面

体はほぼ頂点共有で繋がっていることが確認できる

4324 平均 BO数の比較

Tables 45にNMR Raman RMC(HEXRD) RMC(HEXRD + AXS)の平均BO数を示すRMC

から得られた平均 BO 数 nはNMR Raman と同様に Nb2O5の添加による大幅な減少が確認

されたしかしNMR Raman と比較すると全組成において数値が大きすぎで適当でない

50S50P の構造モデルを観るとPO4四面体間で3配位 O の存在が確認された(Fig 412)た

め実測で得られた n値を再現できるようなPO4四面体モデル間の繋がり方に関する拘束条

件を加えて RMCを計算する必要性があるまた仮に3配位 Oの存在があるとすると電

子状態の変化が生じていることがと示唆されるため分子軌道計算を用いて電子状態解析

を行い確認する必要がある

4325 耐水性の改善について

Nb2O5を添加のガラス構造への影響について①6配位ではなく 4配位として主に存在し

ていることからSnO と同じような働きをしていると推測される②結合距離が Sn-O が約

22Åに対し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強

固にしている③ガラス構造中で全体的に各多面体同士の頂点共有が増えている以上の

ことが判明した以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性

耐候性を改善した要因として考えられる

44 結言

本章では分光学的手法では評価できないガラスの中距離構造局所構造について理解

するために放射光を用いた構造解析を実施しSP ガラスの構造と耐水性改善について考

察したHEXRDおよび AXS法を用いて測定を行い得られたデータを RMCシミュレーシ

ョンにて解析を行った

解析の結果 Sn-O pair については平均配位数 Nが 3 ~ 35でSnO量の増加 = OP の増

62

加に伴い高くなった平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約 22Åであ

ったP-O Sn-Oについては組成による大きな変化はほとんど見られなかった67S5N28P

ガラスの Nb-O pair の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平均配位数約 4Nb-O 平均結合距

離約 20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O(約 105deg)と値が近いことま

た6配位ではなく 4配位として主に存在していることからSnOと同じような働き(網目

形成体)をしていると推測されるまた結合距離が Sn-O が約 22Åに対し Nb-O は約 20

Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強固にしていると言える

SnO 量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体的に各多面体同士の頂点共有が増え

ていることから耐水性の改善には頂点共有を多く含む構造であることが重要である

もしくは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的であることが推測さ

れる以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性耐候性を

改善した要因として考えられる

またAXS 法の有効性についても確認し効果的であることが判明したただし今回

は主成分が Sn の組成のガラスでありHEXRD でも十分に詳細な構造が得られたため

大きな差は現れなかった

参考文献

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ンドブック 朝倉書店(1999)

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MV Korolenko and PB Fabritchinyi J Chem Mater 17 284-290 (2005)

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[11] D Munoz-Martin A Ruiz de La Cruz J M Fernandez-Navarro C Domingo J Solis and J

Gonzalo J appl Phys 110 023522 (2011)

63

Fig 41 各原子の異常分散項のエネルギー依存性

Fig 42 Sn の異常分散項のエネルギー依存性

64

Fig 43 SPring-8の BL13XU

65

Tab

le 4

1

RM

Cの各パラメーター

66

Fig 44 Sn2P2O7 Sn3P2O8結晶の RDF

Table 42 Sn2P2O7 Sn3P2O8結晶の各 pairの第一近接距離

67

Fig 45 得られた実測 HEXRDの S(Q)

68

Fig 46 Sn の異常散乱測定により得られた散乱強度のエネルギー依存性

(a)67S33P (b)60S40P

69

Fig 47 全相関関数 T(r)

太線 HEXRD より

細線 Sn の AXSより

70

Fig 48 67S5N28P ガラス構造のモデル

71

Fig 49 RMC フィッティングの結果

72

Tab

le 4

3 各

pairの平均配位数角度結合距離

73

Fig

4

10

67

S5

N2

8Pガラスの各多面体モデル

74

Tab

le 4

4 各

pairの結合様式

75

Fig 411 67S5N28P ガラスの構造モデル

76

Table 45 平均 BO 各数 nの比較

Fig 412 50S50P ガラスの構造モデル

77

第 5章 総括

本研究ではSP ガラスを対象とした本研究では鉛フリー代替ガラスまたは希土類フ

リー蛍光体として SP ガラスの新規高機能化を将来的に目指し問題点であるldquo化学的耐久

性rdquoの改善につながる知見を得ることを目的としたそこでまずSP ガラスを母体ガラ

スとし第三成分に Nb2O5を添加した Sn-Nb-P SNP ガラスZnO を添加した SZP ガラスを

作製し耐水性を中心とした物性評価を行った次に分光学的手法で構造解析を行い

Qn 分布を導き出した最後に放射光を用いた構造解析を行い耐水性改善に関する構造的

な考察を行った以下に本研究で行った検討内容を示す

(1)SPガラスおよび第三成分Nb2O5 ZnOを添加した三成分系SPガラスの物性評価(第 2章)

(2)SP 系ガラスの分光学的手法による Qn分布導出(第 3章)

(3)放射光を用いた SP 系ガラスの構造解析構造と耐水性改善の関連について(第 4章)

各章についてまとめた結果を以下に示す

第 2章

第 2章では二成分系および三成分系のリン酸塩系ガラスの各種物性(密度や熱的特性

耐水性)の評価を行った二成分系ではSP ガラスに加え良好な耐水性を有する鉄リン

酸塩(Fe2O3-P2O5)系ガラス(以下 FP ガラス)を比較のために三成分系では二成分系

の SP ガラスに Nb2O5を添加したニオブ含有 SP ガラス(SNP ガラス)および ZnO を添加し

た亜鉛含有 SP ガラス(SZP ガラス)を作製した

今回作製した SP 系ガラスは低ガラス転移温度を有していた各組成の温度域はSP

ガラスTg le 280 Sn-Nb-P SNPガラスTg le 3505SZP S5ZPガラスTg ≦ 450であった

各種 SP ガラスの耐水性試験の結果二成分系の SP ガラスよりも三成分系ガラスの方が

良好な耐水性を有していた65Sn-5Nb-30P 67S5N28P ガラスが最も耐水性が良好であり化

学的耐久性の改善には Nb2O5が ZnOよりも効果的であった

組成と耐水性に関してはDRおよび重量減がOP増加で単調に低下した結果が得られた

つまり耐水性を改善させるにはSP 系ガラスのガラス化範囲を拡大かつ OP を増大させ

る第三成分の添加が有効であることが示唆された

第 3章

第 3章ではSP 系ガラスの分光学的手法による Qn分布の導出を行ったラマン分光法を

用いて各ガラス系のリン酸塩アニオンの構造を簡易定量で評価し組成と構造の関係に

ついて考察した平均 BO 数 n と耐水性に関してはDR および重量減が平均 BO 数 nの減

少で単調に低下することが明らかとなった

平均 BO 数 n と OP の関係より耐水性改善には平均 BO 数 n を下げることそして

OP を上げることが重要であることが明らかになった

78

Nb5+の添加は平均 BO数を減少させるだけでなくOP も上げることからガラス構造

内の P-O-P 結合を減少させ水和反応加水分解反応が抑制され耐水性が大幅に改善さ

れることが示唆された故にNb2O5 のような高価数金属酸化物を添加することが効果的

であることが再度確認された

第 4章

耐水性向上についてより深く評価するためSP SNP ガラスの局所構造に関する知見を得

ることを目的に放射光を用いた構造解析を行った高エネルギーX 線回折(HEXRD)お

よび X 線異常散乱(AXS)法で測定したデータを再現する構造モデルを逆モンテカルロ

(RMC)シミュレーションで構築し構造解析を行った

RMC モデル中の PON多面体に関して平均配位数 Nが 4および P-O の平均結合距離が約

160Å平均結合角度angO-P-Oが約 109degという結果が得られた組成による大きな違いは確

認されなかったSnON多面体については平均配位数 N が 3~4 でSnO 量の増加に伴い 4

に近い値となった平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約 22Åで組成

による大きな変化は見られなかった

Nb2O5を 5 mol添加したガラスではNbON多面体の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平

均配位数N約4Nb-O平均結合距離約20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O

(約 105deg)と値が近いことまた6配位ではなく 4配位として主に存在していることから

SnO と同じような網目形成体として働いていると推測されたまた結合距離が Sn-O が約

22Åに対し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強

固にしていると考えられるまたSnO 量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体

的に各多面体同士の頂点共有が増えていることから耐水性の改善には頂点共有を多く

含む構造もしくは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的であること

が示唆された以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性

耐候性を改善した要因として考えられる

またAXS 法の有効性についても確認し効果的であることが判明したただし今回

は主成分が Snの組成のガラスでありHEXRD でも十分に詳細な Snの周辺構造が得られ

たためAXSを利用した場合との大きな構造の差は認められなかった

本研究では様々な優れた特徴を有する SP ガラスにおける耐水性改善のメカニズムにつ

いて検討を行ったこの系のガラスについてはこれまでほとんど利用されていなかった

放射光を用いた構造解析を駆使し第三成分の添加によってどのような構造的変化が生じ

耐水性を改善させるか新たな知見を得ることができた最終目標である機能性ガラスの

開発における新たなる材料設計指針の確立に対してldquo耐水性rdquoに関しては概ね明らかにな

ったと考えられる一方で今回検討していな電子状態化学結合性についても評価する

ことで溶出メカニズムの解明が可能になり材料設計指針の確立が期待される

79

発表論文リスト

口頭発表

第 2章および第 3章

(1) SnO-P2O5 系ガラスへの酸化物添加効果

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎

日本セラミックス協会第 25 回秋季シンポジウム No3C06 (名古屋市 2012年 9月)

(2) Effect of Nb2O5 addition to SnO-P2O5 glass (Poster)

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

International Union of Materials Research Societies International Conference on Electronic

Materials IUMRS-ICEM 2012 A-9-P26-003 (Yokohama 2012 年 9月)

(3) スズリン酸塩系ガラスの蛍光特性耐水性に及ばす酸化物の添加効果(ポスター)

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎

日本セラミックス協会 2013 年年会 1P070 (東京 2013年 3月)

第 4章

(1) 放射光を用いたスズリン酸塩ガラスの構造解析

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎小原真二臼杵毅

日本セラミックス協会第 27 回秋季シンポジウム 2B22 (鹿児島市 2014年 9 月)

(2) Structural analysis of tin phosphate glasses by synchrotron radiation (Poster)

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba Shinji Kohara Takeshi Usuki

International Congress on Glass ICG Annual Meeting Bangkok 2015 P14-138 p186 (2015)

発表論文

(1) Effect of Nb2O5 addition to SnO- P2O5 glass

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

Journal of the Ceramic Society of Japan Vol 120 No 11 pp530-533 (2012)

(2) Structural analysis of SnO- P2O5 glass

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

Journal of the Ceramic Society of Japan(準備中)

80

謝辞

本研究を遂行するにあたり終始暖かいご指導ご助言並びにご鞭撻を賜わりました岡

山大学大学院環境生命科学研究科 難波徳郎教授に心より感謝の意を表します

また本研究を遂行するにあたり懇切丁寧なご指導とご意見をしていただいた岡山大

学大学院環境生命科学研究科 紅野安彦准教授環境環理センター 崎田真一助教に心より

感謝いたします

本研究を遂行するにあたりラマン分光測定の使用についてご助言ご教授して頂い

た岡山大学自然科学研究科 藤井達生教授中西真助教に心より感謝の意を表します

Sn のメスバウアー測定の際に協力して頂いた岡山大学自然科学研究科先端自然科学教

育研究推進本部高田研究室 松本修治特任助教(当時旭硝子株式会社中央研究所)また

Feのメスバウアーを測定の際に協力して頂いた岡山大学自然科学研究科 藤井達生教授に

心より感謝の意を表します

固体 NMR の岡山大学自然科学研究科 早川聡教授に心より感謝の意を表します

本研究を遂行するにあたりSPring-8 にてHEXRD および AXS 法の測定法および原理

についてご教示頂きました物質材料研究機構 小原真司博士ならびに山形大学 臼杵毅

教授に心より感謝の意を表します

本研究は多くの後輩諸君の協力によって遂行されました特に実際に共同研究共同

実験を遂行して頂いたOG 藤原沙弥香さん博士前期課程 2 年 東利彦君OB 徳岡太誠

君学士課程 4年 塩田将大君に心より感謝の意を表しますまた難波研究室で共に研

究生活を過ごした卒業生在学生の方々に感謝の意を表します

また同時期に博士後期課程に在籍された香川高等専門学校の桟敷剛さんにはNbに

関する有益な情報だけでなく辛い状況でも励ましを頂きました心より感謝の意を表し

ます

最後に長きに渡る学生生活を認め経済面だけでなく精神面でも支援してくださった

家族に心より深く感謝の意を表します

平成 28年 3月

福井 聡史

Page 15: 博士論文 スズリン酸塩系ガラスの物性と構造解析ousar.lib.okayama-u.ac.jp/files/public/5/54353/...博士論文 スズリン酸塩系ガラスの物性と構造解析

12

Fig 18 ガラスの侵食機構(耐候性)[1]より転載

13

第 2章 スズリン酸塩系ガラスの物性評価

21 緒言

前章で述べたようにスズリン酸塩(SP)系ガラスは無色透明高透過率低ガラス

転移温度など工業的に興味深い特徴を有することが知られている[1]またSn2+が ns

2型の

発光中心となり紫外線照射による白色蛍光を示すことから希土類フリー白色蛍光体とし

ての研究も数多くなされている[2 3]

しかし実用化に向けてはこの系のガラスについてもリン酸塩系ガラスに特有のldquo耐

水性rdquoldquo耐候性rdquoの低さが問題となる[4]この問題点を解決するために第三成分として他

の化合物を加えることが有効でありSP ガラスにおいてはB2O3や ZnO SiO2 MgO MnO

など様々な物質を第三成分として添加した研究報告[5 - 9]があったりNH3雰囲気下で数日

間溶融作製することでガラスを一部窒化することで耐水性を改善させたりという報

告もある[10]SP ガラスに限定しないリン酸塩系ガラスではZnO-P2O5 系ガラスに Sb2O3

や MoO3を添加した報告[11 12]や Na2O-P2O5系ガラスに CuO を加えた報告[13]P2O5-CaO-

Na2O に Ag2Oを添加した報告[14]Na2O-K2O-CaO-P2O5ガラスの一部を窒化することによる

方法[15]等があり数多くのリン酸塩系ガラスの耐水性改善に関する研究がなされている

本研究では高価数金属酸化物および低価数金属酸化物の二種類をそれぞれ第三成分と

して添加した高価数金属酸化物には Nb2O5を低価数金属酸化物には ZnO の二種類の酸

化物を選択した

Nb2O5は古くから光学ガラスの成分として頻繁に使われる物質であり様々な企業から数

多くの特許が出されている[16 17]また耐水性の改善に有効であるとの報告や比較的低

温でもガラス作製ができることが知られており(当然のことながら組成に影響される)

鉛フリーの封着ガラスとしての研究もなされているZnO についてはこれ自体は無着色

成分であるため無色透明なガラスが得られることから光学ガラスの成分に用いられる

ほとんどの組成で低融点ガラスとなり[18 19]これらの特性からSnO-ZnO-P2O5(SZP)

系ガラスは Sn2+を発光中心とした蛍光体の研究対象となっていることが多くSP 系ガラス

では一般的なガラス系である

本章では第三成分を含まない SP ガラスおよび Nb2O5または ZnOを SP ガラスに添加し

た三成分系ガラスをそれぞれ作製し耐水性試験を中心とした各種物性評価を行った比

較対象に耐水性の優れることで知られる鉄リン酸塩系ガラスも同時に作製することでSP

系ガラスへ添加したそれぞれの第三成分の耐水性に対する有効性を検討した

22 実験方法

221 ガラスの組成選択

本研究において作製した SP ガラスは以下の五種類の系列を選択した

14

① スズリン酸塩ガラス(xSnO∙(100-x)P2O5 x = 50 60 67 70 mol)

(略称 SP ガラス組成は 50S50P と表記)

② ニオブ含有 SP ガラス(65SnO∙xNbO25∙(35-x)P2O5 x = 0 1 2 3 4 5 mol)

(略称 Sn-Nb-P ガラス組成は 65S-0Nb-35P と表記)

③ ニオブ含有 SP ガラス(xSnO∙5Nb2O5∙(95-x)P2O5 x = 50 60 67 mol)

(略称 SNP ガラス組成は 50S5N45P と表記)

④ 亜鉛含有 SP ガラス (S5ZP ガラス)(xSnO∙5ZnO∙(95-x)P2O5 x = 55 62 65 mol)

(略称 S5ZP ガラス組成は 55S5Z40P と表記)

⑤ 亜鉛含有 SP ガラス (5SZP ガラス)(5SnO∙xZnO∙(95-x)P2O5 x = 55 62 65 mol)

(略称 5SZP ガラス組成は 5S55Z40P と表記)

(④と⑤は総じて SZP ガラスと表記する場合がある)

それぞれの選択理由はガラス化範囲(各ガラス系のガラス化範囲を Fig 21および Fig

23 に示す)作製の容易さ(気泡の入りにくさ流し出しやすさ)等を考慮し決定した

組成ごとに詳細な選択理由を述べると

②についてNb を P と置換した組成であるFig 22 に示した溶融温度 1100で作製した

Sn-Nb-P ガラスの外観写真より目視でも明らかに透明性の高く着色量の少ない組成は(d)

の 65Sn-5Nb-30P でありこの外観写真を参考に組成を決定したSnO 量を 65 molに固定

しNbO25量を 5 molから 0 mol(Nb無添加組成)まで減少させた組成(Fig 21 の緑線

の組成)を選択しこのガラス系の物性の変化を確認した

③はNb2O5量を 5 molに固定しSn を P と置換した組成であるNb と P は酸化数が

同じ 5価であるためこの組成では同じ SnO量の二成分系 SP ガラスと比較した際酸素

の総量に変化が生じない(例えば67S33P と 67S5N28P)またNb5+イオンはガラス中

では4配位および6配位を取るという報告が多い(結晶の場合他の配位数を取る)た

め配位数が4の P5+の置換に適していると考えた

④⑤に関しては気泡のrdquo入りづらいrdquoもしくはrdquo入らないrdquoSnOおよび ZnOが各 5 molにな

る組成を選択したSZP ガラスはFig 23 に示すガラス化範囲のようにガラス化範囲は

非常に広範囲であるしかし気泡が入りやすく脈理のようなものも見られる組成が多く

目視ですら不均質なガラス組成がほとんどであった(これらの組成も粉末にして XRD を測

定するとガラスであった)そのためバルク体でガラスを得られることが困難な組成も多

い(Fig 24 にその一例の SZP ガラスを示す)そこで第三成分の添加量を可能な限り少

ない組成を選択することでバルク体で目視上ldquo均質rdquoなガラスを得た(Fig 23 の青線と

紫線の組成)

また上述したように耐水性の比較対象である鉄リン酸塩ガラスを二成分系で作製し

15

た(FP ガラス)組成はxFe2O3∙(100-x)P2O5 x = 20 25 30 35 40 mol を作製した

222 ガラス作製

Figs 25 - 27に各ガラス系の作製フローチャートを示す出発試薬にSnO NH4H2PO4

Nb2O5 ZnO を使用し各々秤量した秤量混合後アルミナ坩堝に入れか焼(仮焼き)

を行ったか焼条件はSP Sn-Nb-P SNP SZP ガラスは350または 400 6-30 minFP ガ

ラスは600 30 min で行った溶融温度および溶融時間はSP ガラス1100 30 min

Sn-Nb-P ガラス1100 30 minSNP ガラス1000または 1250 20 min SZP ガラス

1100-1200 30 min 各々N2雰囲気下で作製したN2雰囲気下で行った理由はSn2+が Sn

4+

にほとんど酸化されてしまうとガラスが得られなくなるためSn2+の酸化を防ぐ目的がある

[19]FP ガラスは1200 - 1550 30 min大気雰囲気下の条件で作製した溶融後350

に温めておいたスチールモールドに流してプレスした後FP ガラス以外はガラス転移温度

Tg付近でアニールを 1 h行い目的のガラスを得た耐水性試験用のガラス形状はダイヤモ

ンドカッターで大まかに整えた後鏡面研磨まで施して型取ったここでFP ガラスのみ

アニール工程を省いた理由はSP ガラス等はアニールをして歪みを取らなければ正確に

切断できない場合が生じた一方でFP ガラスはアニールをせずとも十分正確にカットで

きたためアニール工程を省いたまた50S50P のみ厚みが必要になると必ず気泡が入

ってしまうため耐水性試験では気泡の入ったものを使用した

223 物性評価

得られたガラスの物性の比較を行うために以下に示す分析を行った

(1)ガラス状態の確認

作製したガラスが結晶の混在していないものかを確認するためにまた耐水性試験

後のガラスが結晶化しているかの確認のためにX 線回折装置(XRD Rigaku RINT-2100)

を用いて分析した全てバルク体で測定したが耐水性試験後ではバルク状態が保てな

いものもあったためその試料については粉末で測定した

(2)組成分析Sn Fe 価数分析

得られたガラスについてアルミナ坩堝の使用によるアルミナのガラスへの混入および

それに伴う組成ズレの確認のために走査型蛍光 X 線分析装置(XRF Rigaku ZSX Primus

Ⅱ)を使用し組成分析を行った分析はバルク体で定性分析法にて測定した

またSn が二価のままどのくらい存在しているかを調べるために Sn-Nb-P ガラスを用い

てSnの価数分析をメスバウアー分光法にて行ったSnの測定は reference [20]に示す旭硝

子の公開特許に記載されている方法で行ったFP ガラスについても価数変化を調べるた

めにメスバウアー分光法にて Feの価数分析を行ったFeの測定は(株)トポロジック

システムズ MDF-200)を用いて評価を行った

16

(3) 密度(ρ)およびガラス転移温度(Tg)評価

各ガラスの密度(ρ)測定はケロシンを用いたアルキメデス法で測定したガラス転

移温度(Tg)を評価するために示差熱―熱重量測定装置(SDT TA instrument Japan Q600)

を用いたアルミナパンを使用し測定条件はN2雰囲気下 10 Kmin 700までの温度範

囲にて行った

(4)耐水性試験

各ガラスの耐水性について評価するために耐水性試験をMCC-1法[21]にて測定した(Fig

28)条件は75 72h ガラスサイズ 12times10times02 cm (plusmn01 cm) 蒸留水の pH は 72-77

で行い浸漬後サンプルを乾かして重量を量った溶出速度(Dissolution Rate DR)は重

量減(ΔW) サンプル表面積(S) 浸漬時間(t)から以下の式によって算出した[22]

DR = ΔW (kg) S (m2) t (s)

また浸漬前と 72 h 後の重量減()も合わせて算出した

23 結果考察

231 組成分析 Snおよび Feの価数評価

Table 21に各試料の組成分析結果を示すまずアルミナ Al2O3の量を見るとガラスに

混入した量がほとんどの組成で 25 mol以下で多くても 35 molを下回る量であった

そのため各種特性についてアルミナの影響はほとんどないと考えられる[23 24]組成

によってその量に差があるのは溶融温度の違いによることに起因している組成分析の

結果今回作製したガラスは仕込み組成と大きな差がないと判断した

Fig 29に Sn-Nb-P ガラスの Snのメスバウアースペクトルをそこから得られたメスバウ

アーパラメーターを Table 22に示す得られた結果よりSn-Nb-P ガラスでは95以上の

割合で Sn2+のまま存在していることが分かった不活性雰囲気で作製したことP2O5 の出

発原料に NH4H2PO4を使用したことにより(か焼は行なっているが)還元雰囲気になったた

めSn4+にほとんど酸化されることがなかったといえるこの結果SP 系ガラスではほぼ

Sn2+のまま存在していると仮定した

Fig 210に FP ガラスの FeのメスバウアースペクトルをTable 23 にそこから得られたメ

スバウアーパラメーターを示すFP ガラスについては組成に関わらず酸化還元平衡に

より 20 ~ 30が Fe2+になりまたFe2O3 ge 30 molの際化学的にも安定であることが知

られている[27]実際にFe2O3 ge 30 molの際Fe2+は概ね 20 ~ 30存在している結果が得

られた一方でFe2O3 lt 30 molの際はFe2+が 40以上と高い割合で存在していることが

判明したこれは出発原料の NH4H2PO4の多量使用によること溶融温度が 1550と高

いことが要因で還元がより進行したためと予想される

17

232 ρおよび Tg

Table 24にρおよび Tgの結果を示す二つの特性結果はそれぞれのガラス系において

SnO や Nb2O5ZnO といった金属酸化物が増えるにつれて大きくなっているSP Sn-Nb-P

SNP S5ZP 系ガラスの Tgはほとんどが 300前後であり最も高い温度でも67S5N28P

の 346であった一方5SZP 系ガラスは400~440となり他のガラス系と比較する

と若干高い温度となったそれでも今回作製した第三成分を添加したガラスは低 Tgを有

するガラスであると判断できSP ガラスの特性を維持できたと判断できる

60S5N28P と 62S5Z30P のようなほぼ同じ OP を示すもので比較した際にNb2O5添加が

ZnO 添加よりも Tgが高くなったのは①配位数が同配位数になり得るイオンの場合(例え

ば Nb5+と Zn

2+なら4配位など)ポーリングの第 2 法則[25]より高価数イオンの方が結合

強度が強くなる②diatomic cationの解離エネルギーがNb-O (688plusmn11 kJmol)[26]に対しZn-O

(1611plusmn48 kJmol)[26]と大きな差があるため Nb-Oの結合が強い故に熱的に安定化され

Tgが高くなったと考えられる

233 耐水性試験前後の外観写真

Figs 211 - 216に各ガラスの耐水性試験前後の外観写真を示すFig 211 の SP ガラスを

観察するとSnO 量の少ない 50S50P 60S40P は浸漬時間が経過するにつれて元々の形状

が崩壊したりガラス自体が膨張したような状態になったりしたSnO 量の多い 67S33P

70S30P について形状は崩れることはないが透明性が失われる(白ヤケ)耐候性が低いこ

とが確認できるFig 212 に示す Sn-Nb-P ガラスではNb2O5無添加の 65S-0Nb-35P は浸漬

時間 24 h で透明性が失われているがNbO25量の増加させていくと徐々に透明性が回復

しており4 mol添加した 65Sn-4Nb-31P では72 h後においてもほとんど変化が確認でき

ないNbの添加量を変えた Fig 213に示す SNP ガラスではSP ガラスと同様に SnO 量の

少ない 50S5N45P は時間経過と共にガラス全体にldquoひびrdquoのようなものが見え72 hの実

験終了後最終的にテフロン糸を外す段階で簡単に割れたしかし50S50P や 60S40P と比

較すると耐水性が大幅に良くなったまた60S5N35P 67S5N28P は耐水性が良好なこと

だけでなく耐候性についても向上していることが目視で判断できる一方で二種類の

SZP ガラス(Figs 214 215)を観るとP2O5量の少ない 5S55Z40P および 55S5Z40P では

形状が崩れるか析出物が現れる結果となったこの組成よりP2O5 量を減少させるとSP

ガラスと同じように形状は崩れないが透明性が若干失われる結果となった

Fig 216 に比較対象の FP ガラスの耐水性試験前後の写真を示すこの組成ではFe2O3

量の少ない20F80Pにおいても形状が全く崩れない結果が得られたしかしFe2O3 lt 30 mol

の組成において表面に干渉色のような反射光が若干確認できたこれはおそらく青ヤ

ケが発生したためであると考えられる

18

234 耐水性試験前後の構造変化

Figs 217 - 222に各ガラスの耐水性試験前後の XRDパターンを示す耐水性試験前では

ガラス化を全組成で確認した(Figs 217(a) - 222(a))しかし耐水性試験後における外観

写真で形状の崩れたもしくは析出物の得られたガラス組成では結晶が生成したことが

確認された形状の崩れた三組成のうち50S50P 60S40P ガラス(Fig 2214(b))では三

種類の結晶ピーク(SnP2O7 Sn2P2O7 Sn3(PO4)2)が確認でき5S55Z40P については(Fig

2214(b))結晶同定の判断はできなかったが ZnOの多い組成であるためおそらくリン酸

亜鉛の何れかの結晶だと推測された析出物が得られた 55S5Z40P はガラス matrix部と析

出物に分けて測定したところガラス matrix 部はガラスのままであり析出物は SnP2O7

Sn2P2O7の二種類の結晶ピークが確認できたガラス形状に変化がなかったその他の組成は

ガラス状態が保たれていたSn4+の結晶のピークが確認されたのは50S50P のガラスには

気泡が残っておりその気泡から酸化されたかもともと溶融工程で電気炉内に残って

いた酸素によってSn4+に酸化されたか等が考えられる

235 溶出速度(DR)および重量減

Table 24に DR重量減の結果および仕込み組成から計算した OP を示すSP SNP S5ZP

ガラスではSnO 量の増加に伴いSnO量の固定された Sn-Nb-P 5SZP ガラス系ではそれ

ぞれの金属酸化物の増加に伴いDR重量減は減少傾向にあったFP ガラスでは全組成

において DR 重量減共に変化が全く確認されなかったそのため青ヤケのようなものが

確認された FP ガラス(Fe2O3 lt 30 mol)については電子天秤では変化が見られない程度

の重量減であったと推測される二種類の SZP ガラスで比較するとSnOと ZnO量が入れ

替わってもほぼ誤差範囲内と思われる結果が得られたガラス全体の比較では外観写真

で変化が見られなかった FP ガラスと 65S5N28P 65Sn-5Nb-30P のガラスが DR重量減がと

もにゼロという結果が得られた

組成と DR 重量減の関係性を見るために作成した図をFigs 223(DRと OP の関係性)

224(Fig 224に重量減と OP の関係性)に示すそれぞれの図にリン酸塩の三つの構造

の OP も表記した双方の図よりDR 重量減共に OP が増加することで単調に下がって

いることが分かるこの結果はリン酸塩の構造ではorthophosphate 組成で耐水性良好が

あるため[22]一般的な結果と同じ挙動であるまた耐水性の良かったNb2O5添加の SNP

ガラスは異なる挙動(傾き)が得られた

以上の結果より第三成分添加による耐水性の改善を確認し特に Nb2O5 の添加による

影響は大きいことが判明したまたOP の増加による耐水性が改善する結果が得られた

次章の第 3 章にて各ガラス系の構造解析を行い第三成分特に Nb2O5の耐水性への有

効性について調査した

19

24 結言

本章ではSP ガラスおよび第三成分の Nb2O5 ZnOを添加した SP ガラスの物性評価を行

うことで耐水性改善への第三成分添加の有効性を確認した各々の物性について以下に

まとめる

低ガラス転移温度を有する SP ガラスは最も SnO 量が高い 70S30P でも Tg le 280であ

ったNb2O5を添加した Sn-Nb-P SNP ガラスではTgの上昇は見られたが Tg le 350

ZnOを添加した 5SZP S5ZP ガラスではTg ≦ 450であり両金属酸化物の添加でも低

ガラス転移温度を維持しているガラスが得られたNb2O5 添加が Tg を上昇させたのはポ

ーリングの第 2法則より高価数イオンの方が結合強度が高くなるためと結論付けた

耐水性試験結果の外観写真を観るとSP ガラスの SnO 量 le 60 mol 5SZP ガラスおよび

S5ZP ガラスの P2O5量 = 40 molの組成についてガラスサンプルの形状が大きく変化して

おりDR 重量減も高く耐水性の低さが明らかであった得られた析出物はSnP2O7

Sn2P2O7 Sn3(PO4)2 および亜鉛リン酸結晶の一種であると予想されたその他の組成では

透明性の失われた組成がいくつかあったが外観写真では変化が見られなかった FP ガラス

と 65S5N28P 65Sn-5Nb-30P のガラスが DR重量減がともにゼロという結果が得られた

組成と耐水性に関してはDRおよび重量減がOP増加で単調に低下した結果が得られた

つまり耐水性を改善させる有効な手段はSP 系ガラスのガラス化範囲を拡大かつ OP を

増大させる第三成分の添加によることであることが示唆された

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21

Fig 21 三成分系 SnO-NbO25-P2O5 系のガラス化範囲

Fig 22 作製した Sn-Nb-P ガラス

(a)50Sn-5Nb-45P (b)55Sn-5Nb-40P (c)60Sn-5Nb-35P

(d)65Sn-5Nb-30P (e)70Sn-5Nb-25P (f)60Sn-10Nb-30P

(g)55Sn-20Nb-25P (h)60Sn-15Nb-25P (i)65Sn-10Nb-25P

22

Fig 23 三成分系 SnO-ZnO-P2O5系のガラス化範囲

Fig 24 作製した SZP ガラスの一例

(気泡や脈理のようなものが確認できた組成)

23

Fig 25 SP SZP ガラスの作製フローチャート

Fig 26 Sn-Nb-P SNP ガラスの作製フローチャート

(気泡や脈理のようなものが確認できた組成)

24

Fig 27 FP ガラスの作製フローチャート

Fig 28 耐水性試験(MCC-1法)

25

Table 21 各ガラスの組成分析結果

26

Fig 29 Sn-Nb-P ガラスのメスバウアースペクトル

Table 22 Sn-Nb-P ガラスのメスバウアーパラメーター

27

Fig 210 FP ガラスのメスバウアースペクトル

Table 23 FP ガラスのメスバウアーパラメーター

28

Table 24 各ガラスの物性(密度(ρ)ガラス転移温度(Tg)溶出速度(DR)重量減())

29

Fig 211 SP ガラスの耐水性試験前後の外観写真

Fig 212 Sn-Nb-P ガラスの耐水性試験前後の外観写真

30

Fig 213 SNP ガラスの耐水性試験前後の外観写真

Fig 214 S5ZP ガラスの耐水性試験前後の外観写真

Fig 215 5SZP ガラスの耐水性試験前後の外観写真

31

Fig 216 FP ガラスの耐水性試験前後の外観写真

32

Fig 217 SP ガラスの XRD パターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

33

Fig 218 Sn-Nb-P ガラスの XRD パターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

34

Fig 219 SNP ガラスの XRD パターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

35

Fig 220 5SZP ガラスの XRDパターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

36

Fig 221 S5ZP ガラスの XRDパターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

37

Fig 222 FP ガラスの XRD パターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

38

Fig 223 各ガラス系の DR と OP の関係性

39

Fig 224 各ガラス系の重量減と OP の関係性

40

第 3章 分光法を用いたスズリン酸塩系ガラスの構造解析

31 緒言

前章ではSP ガラスおよび第三成分に Nb2O5 ZnOを添加した Sn-Nb-P ガラスSNP ガラ

スSZP ガラスの物性特に耐水性に関する第三成分添加の有効性を明らかにしたその添

加した第三成分の二種類についてもNb2O5 の方が ZnO よりも溶出速度重量減ともに抑

制することができSP ガラスの低ガラス転移温度という特性も維持されていることが判明

したしかし現段階では本研究の主要な物性である耐水性改善の要因が明確になって

いない組成の観点からはOP の値が高い組成が良好な耐水性であることが分かったが

組成だけでは耐水性改善のメカニズムについて完全には理解できないここでリン酸塩

ガラスの溶出のメカニズムは第 1 章で述べたように加水分解反応と水和反応が要因とな

る[1 2]この機構はそれぞれリン酸の構造つまり架橋酸素 BO の数が大きく関わって

おりリン酸アニオンの[PO4]ユニットの架橋酸素数を知ることが重要であるこの BO の

情報を得るためにはガラス構造を示す指標の一つである Qn(n は[PO4]ユニット中の架橋

酸素数を表す)を調べることが必須であるまたQn の分布を調べるためにはガラスの

構造解析を行う必要性がある

ガラスの構造解析には種々の方法があり特にラマン分光法や赤外(IR)分光法核

磁気共鳴法(NMR)などの分光学的手法を用いた構造解析の報告が多い[3-5]ラマン分光

法および IR分光法は原理は異なるがどちらも結合の振動モードを測定する手法であり[6]

リン酸塩ガラスだけでなくケイ酸塩ガラスホウ酸塩ガラスなど様々なガラス系にて測

定がなされている[7 8]また得られた結合状態の情報からリン酸塩アニオンの Qn分布

を調べることも可能であるNMR は共鳴吸収ピークの化学シフト(共鳴周波数のズレ)

から構造を決定する手法であるガラスの場合SiO2や B2O3 P2O5といった網目形成酸化物

の Qn分布を得るために一般的に使用されている手法である[9]

今回これらの測定の中でラマン分光法を選択し構造解析を行ったラマン分光法は

測定する際にサンプル形状を気にすることなく基本的にそのまま測定できるためIR 分

光法のようにサンプル形状で測定方法を変える必要はないまたIR 分光法では例えば

KBr 錠剤法やヌジュール法のように測定を行うためのサンプル調整に手間がかかる場合が

ある[6]さらに比較対象の FP ガラスではNMR を測定できないため作製ガラスを全

て比較検討できるようにラマン分光法を選択した

本章ではラマン分光法を用いて各ガラスの構造解析を行い[PO4]ユニットの Qn分布を

調査し平均 BO数 nを算出することで耐水性と構造の関係性を検討したまたラマン

分光法によって得られた Qn分布の妥当性を確認するためにSP ガラスおよび 67S5N28P ガ

ラスの NMRを測定も行い比較した

32 実験方法

41

321 サンプル準備

ラマン分光およびメスバウアー分光の測定では第 2 章で作製した各ガラスのバルク体

を用いたWD試験に使用したサンプルとは別にラマン測定用のサンプルを用意した適

度な大きさ大体 15 cm角程度のサイズになるようにガラスカッターで切断しその後

十分な平滑性を得るために鏡面研磨を施した

322 ラマン分光測定

使用したラマン分光装置は顕微レーザーラマン分光装置(Jasco NRS-5100)を用いた

用いたレーザー波長は 53208 nmであり400 - 2000 cm-1の範囲で測定した

Qn 分布を導くためにピークフィッティングを行いリン酸塩アニオンのラマンバンド

が現れる950 - 1250 cm-1付近および 700 - 750cm-付近の範囲で定量した

323 31P MAS NMR測定

31P MAS NMRの測定は Varian NMR System 500 を用いて32 mmの MASプローブ

202309MHzにて行った測定パラメーターを以下に示すπ4 パルス長さ 14 μs 待ち時間

(pulse delay)10 s 積算回数 3600 scan シリンダー円筒形状の Zrローターの回転スピード

160 kHz referenceとして二番目の基準物質として使われる NH4H2PO4を使用化学シフト

は85 H3PO4溶液から δ = 10 ppmである

33 結果考察

331 各ガラス系のラマンスペクトル

Figs 31 - 35にラマンスペクトルを示す各ピークは以下の通りに帰属し各スペクト

ル中に該当する構造をピーク位置に示した

1230 - 1260 cm-1 P=O NBO Q

2 [10]

1110 - 1150 cm-1metaphosphate (PO3)

- Q

2 [10]

1030 - 1100 cm-1pyrophosphate (PO35)

2- Q

1 [10]

970 - 1000 cm-1orthophosphate (PO4)

3- Q

0 [10]

920 - 930 cm-1asymmetric (P-O-P) Q

1 [10]

730 - 750 cm-1symmetric (P-O-P) Q

1 [10]

710 - 720 cm-1asymmetric (P-O-P) Q

2 [10]

810 - 820 cm-1Nb-O [NbO4] tetrahedron [11]

900 - 920 cm-1Nb-O isolated [NbO6] octahedron [11]

42

SP ガラスのラマンスペクトル(Fig 31)を見ると50S50P 60S40P ではmetaphosphate

の Q2 構造が支配的であるがSnO 量が増えるにつれてその構造が変化し70S30P では

pyrophosphateの Q1構造と orthophosphateの Q

0構造が共存した構造となっているまたSnO

量の少ない 50S50P および 60S40P において確認されたQ2構造の P=O のピークが見えなく

なっているつまり耐水性と関連して考えるとSnO量が増えるにつれてP-O-P 結合か

ら Sn-O-P 結合に代わり水分子との反応である加水分解反応を妨げる構造に変化している

ことがわかる

Figs 32 33にNb2O5を添加した Sn-Nb-P ガラスおよび SNP ガラスのラマンスペクトル

を示すまずSn-Nb-P ガラスについてNb 無添加の 65Sn-0Nb-35P は主に Q1構造であ

りNbO25が添加されることによってQ0構造に変化しQ

1 Q

0構造が共存しているような

ピークが得られた添加量が少ないガラス系であるため徐々に変化しているのを確認し

た800 cm-1を少し越えた 810 - 820 cm

-1付近にNb2O5を添加することでピークが現れそ

して添加量を増量することで強度が強まるピークがありこのピークは四面体の[NbO4]

のものと判断した

SNP ガラスのラマンスペクトルについてはNb2O5添加量を固定した組成であるためSP

ガラスのような挙動が観察された50S50N45P では50S50P ガラスと同じようにQ2構造

が主な構造でありSnO量の増加に伴って60S5N35P Q1構造67S5N28P Q

0構造に支配

的な構造が変化しているこれはSP ガラスと同じ傾向を示しているためP-O-P rarr Sn-O-P

に置き替わっていることが示唆されるNb-O に関するピークでは50S5N45P のみ[NbO4]

四面体のピークを確認できず900 - 920 cm-1付近に[NbO6]八面体のピークが確認された

SnO量が増量した 60S5N35P では810 cm-1付近の [NbO4] 四面体のピークが現れているが

[NbO6]八面体のピークと 900 - 920 cm-1付近の Q

1構造のピークが非常に近い(ほぼ重なって

いる)ことから60S5N35P については[NbO4] 四面体および[NbO6]八面体の共存の可能性

も考えられるまた67S5NP28 では[NbO4] 四面体のみのピークが観察されたためこ

の Nb-O の配位数変化は[PO4] unitの状態によって変化している可能性も示唆された

ZnO を添加した S5ZP ガラスおよび 5SZP ガラスのラマンスペクトルを Fig 34 に示す

図の下部三つが S5ZP ガラス上部三つが 5SZP ガラスのスペクトルであるSZP ガラスの

二系統を比べるとあきらかなスペクトルの違いが確認された各ガラス系で確認すると

SnO 量が最小の 55S5Z40P はQ2構造と Q

1構造の範囲に跨っているようなスペクトルが得

られた62S5Z33P および 65S5Z30P のスペクトルからはどちらもほぼ Q1構造であると判

断した5SZP のスペクトルは1000 - 1250 cm-1付近の範囲で裾を引くような(なだらかな)

スペクトルが得られたZnO 量が最小の 5S55Z40P にはQ2構造が主な構造に見えるが

shoulderピークのような Q1構造(1030 - 1100 cm

-1)が確認できる5S62Z40P においては

1000 - 1250 cm-1付近の範囲まで幅広いスペクトルが得られた730 - 750 cm

-1付近にピーク

が現れているためおそらく Q1構造が最も多く存在していると考えられる65S5Z30P では

Q1構造Q

0構造が共存しているようなピークが得られた

43

FP ガラスのラマンスペクトルを Fig 35 に示すFe量の少ない 20F80P 25F75P と他の三

つで構造が異なっていることである20F80P 25F75P はQ2構造と Q

1構造が基本構造にな

っていると判断できる 30F70P は1110 - 1150 cm-1付近に shoulderピークのようなものがあ

りQ2 Q

1 Q

0構造が共存しているようなスペクトルであった35F65P 40F60P はQ1構造

が主な構造でQ0構造があると判断した

332 平均 BO数 n (Qn分布)

まずピーク分離について散乱断面積が見積もれなかったためラマンの散乱強度比

を Qn分布として簡易的にピーク分離を行い(Fig 36)そこから平均架橋酸素数 BO 数 n

を算出したここでFig 37 に 31P MAS NMRスペクトルを示しTable 31に NMRおよび

ラマン分光より得られた平均 BO 数 n を示す(NMR の帰属 reference [12])表よりNMR

とラマンから得られた Qn分布はほぼ一致していることが分かった60S40Pについては支

配構造が NMR(Q1) ラマン(Q

2)で逆になったこれは60S40P の組成がQ

2と Q1のほぼ中

間の組成になるためこのようなズレが生じたと考えられるしかし今回のラマンによ

る Qn分布の算出についてはほぼ問題ないと判断した

Table 32にラマンスペクトルより求めた Qn分布平均 BO 数 nをを示しTable 24に示

した DR 重量減の結果を併記する

SP ガラスのうち耐水性が低いガラスは Q2構造によって形成されているSnO量の増加

によって NBOの増加とともに耐水性の向上が確認できSnOが入ることでSn-O-P 結合を

形成し水分子からの攻撃を受けにくくなっていることが考えられる

Sn-Nb-P ガラスでは基本的に Q1構造が主構造でNb2O5の添加が増えるにつれQ

0構

造が支配的になり耐水性は次第に向上していく最も耐水性のよかった 65S-5Nb-30P は

Q0構造での割合が非常に高く平均 BO数 n値が 03であった

SNP ガラスではP2O5量が多い組成の 50S5N45Pにおいても平均 BO数 nが 60S40P と

同じながらも耐水性が良くなっている67S5N28P はほぼ完全に Q0構造であり平均 Q

n

値は 0となった

SZP ガラスについてはS5ZP 5ZSP のどちらの系列についても耐水性の結果に大きな差

というものは確認されなかったが構造的にも平均 BO数 nが 09 10 17という結果であ

った

FP ガラスについてはFe2O3 lt 30 molのときは平均 BO 数 nが20 19と高い数値を

示したが耐水性は非常に良好であったこの結果より組成だけでなく構造的にも耐

水性高くなる要因が不明である一つの原因の可能性としてメスバウアーより得られた

Fe2+の存在比が 40以上と高かったことがFe2O3含有量が少ない組成時には効果的になっ

ているのかもしれない

333 平均 BO数 nと耐水性の関係性

44

Fig 38に DRと平均 BO数 nの関係性についてFig 39に重量減と平均 BO数 nの関係

性をそれぞれ示すまたOP の時と同様に各図にリン酸塩の三つの構造の平均 BO数

n も表記した双方の図よりDR 重量減共に平均 BO 数 nが低下することで単調に下がっ

ていることが分かるまた耐水性の良かったNb2O5添加の Sn-Nb-P SNPガラスはの DR

の挙動(傾き)はOP 時とも異なった挙動が得られた

Fig 310に OP と平均 BO数 nの関係を示す図中に示す茶色metaphosphate 黄色

pyrophosphate 灰色orthophosphate であるこの図から耐水性改善には平均 BO 数

n を下げOP を上げることが重要であるのが分かるまたNb5+の添加はOP を上げる

だけでなく平均 BO 数も減少させることから非常に効果的な成分であることが明らかで

あるこれはP5+から同酸価数 Nb

5+に少量でも置き換えることで平均 BO 数 n を下げ

OP を上げることを可能としている(実際に orthophosphate の OP4 よりも高い OP でガ

ラスが作製できている)つまりNb5+の添加によって P-O-P 結合が減少し水和反応加

水分解反応が抑制されているからである

以上の結果SP 系ガラスの耐水性改善には低い平均 BO 数と高い OP の組成にするこ

とが重要でNb2O5の添加は非常に効果的であることが分かったその一方でガラス中の

詳細な構造的要因についてははっきりしていないため次章の第 4 章にてさらに詳し

い構造解析を行い耐水性改善の要因について調査を行った

34 結言

本章ではラマン分光を使用して各ガラス系のリン酸塩アニオンの構造を簡易定量で

評価し組成と構造の関係について考察した

平均 BO 数 n と耐水性に関してはDR および重量減が平均 BO 数 n の減少で単調に低下

した結果が得られた

平均 BO数 nと OP の図より耐水性改善には平均 BO数 nを下げることそして OP

を上げることが重要であることが明白であった

Nb5+の添加は平均 BO数を減少させるだけでなくOP も上げることからガラス構造内

の P-O-P 結合を減少させる故に水和反応加水分解反応が抑制され耐水性が大幅に

改善された故にNb2O5 のような高価数金属酸化物を添加することが効果的であること

が示唆された

参考文献

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46

Fig 31 SP ガラスのラマンスペクトル

47

Fig 32 Sn-Nb-P ガラスのラマンスペクトル

48

Fig 33 SNP ガラスのラマンスペクトル

49

Fig 34 SZP ガラスのラマンスペクトル

50

Fig 35 FP ガラスのラマンスペクトル

51

Fig 36 ラマンスペクトルのピーク分離例(67S5N28P)

Raman Shift (cm-1)

52

Fig 37 NMRスペクトル

Table 31 NMR およびラマン分光より得られた SP 67S5N28P ガラスの

Qn分布および平均 BO数 n

53

Table 32 各ガラスのラマンスペクトルより求めた Qn分布結果

(表の赤線より右側の結果は Table 22 より)

1 仕込み組成による数値

2 Fig 2212 に示した析出物を取り除いた後の数値

54

Fig 38 DR と平均 BO数 nの関係性

55

Fig 39 重量減と平均 BO数 nの関係性

56

Fig 310 OP と平均 BO数 nの関係性

Meta

Pyro

Ortho

57

第 4章 放射光を用いたスズリン酸塩系ガラスの構造解析

41 緒言

前章の第 3 章にてラマン分光法を用いて SP 系ガラスの構造解析により Qn分布を導き

出したことで耐水性と構造の関係についてある程度関連性を導くことができたリン

酸アニオンについてはQ0(orthophosphate)構造 gt Q

1(pyrophosphate)構造 gt Q2

(metaphosphate)構造の順で良耐水性となるしかしSn Nbおよび Znの局所構造につ

いては知見が得られていないラマン分光や IR分光などの分光学的手法を用いてSnや

Nb Zn の周辺の局所構造を知るには限界があるまたガラスの構造解析を行う上で非常

に重要な因子である中距離構造の評価には分光学的手法は不向きである[1]

そこで局所構造や中距離構造を知るために有効な手法として放射光線を用いた構造

解析がある放射光(SR 光)とはシンクロトロンなどの加速器で高速に加速された電子

が進行方向を磁場によって変えられた際に放射する電磁波である[2]エネルギーが高く

(短波長)輝度が高い特性を有している日本国内では兵庫県佐用町の SPring-8や茨城

県つくば市の高エネルギー加速器研究機構佐賀県鳥栖市の佐賀県立九州シンクロトロン

光研究センターなど複数個所に放射光施設が設置されている

放射光を用いたガラスの構造解析には一般的に高エネルギーX 線回折(High Energy

X-ray diffraction HEXRD)が用いられるこの回折実験から高い散乱ベクトル Q(= 4π sinθλ)

まで回折データが得られる多種類の原子から構成される物質の場合はFaber-Ziman 型[3]

の構造因子 S(Q)を用いる以下の式に示すようにFaber-Ziman 型構造因子 S(Q)は同種また

は異種の原子による相関の重み関数付の和として示される例として SiO2ガラスで説明す

ると構造因子 S(Q)は三種類の原子付の S(Q)の重み付の和として表されていることが分か

I(Q) 散乱断面積 ltgt 原子一個当たりの平均値 f(Q) 原子散乱因子 W 重み関数

通常の研究室で使用される X 線回折(XRD)装置で用いられる特性 X 線はCuKα線(λ

= 0154 nm 81 keV)が最も良く用いられより高いエネルギーの X 線が必要な場合は

MoKα線(λ = 0071 nm 175 keV)が使用される一方でSPring-8のビームライン BL04B2

で行われる高エネルギーX 線回折(HEXRD)測定で使用される SR のエネルギーは378 keV

58

~ が使用可能である[2]従ってガラス以外の液体のような非晶質物質にも非常に精度

よく構造解析が行われている[4]

また局所構造解析の一つに X線異常散乱法という測定方法がある[5 6]これは通常

の X 線回折実験では分離不可能な特定元素に関連する部分構造因子(散乱強度曲線)を得

ることができる手法である今回 HEXRD の測定時に使用したエネルギー614 keV では各元

素の異常散乱項のエネルギー依存性は確認されない(Fig 41)その一方でFig 42に示す

Sn の吸収端付近の 292 keV付近ではSnの異常分散項のエネルギー依存性が確認できる

つまりSnの吸収端近傍より低エネルギー(E)側の異なるエネルギーの X線(E1 E2)を

使って散乱強度を測定し各 E における異常分散項(f`)の変化(つまり高い E1 から低い

E2 の散乱強度の差分)を利用して Snに関する部分構造因子を求める構造解析が AXS 法で

あるこの測定法は古くから知られている方法ではあるが装置の測定条件や設備の問

題からなどから使用があまり普及していなかった[5 6]近年になり金属ガラスの構造解

析について徐々に報告が出てきており今後注目される測定法である

HEXRD および AXS 法などから得られたデータ実測の構造因子 S(Q)は一次元の限られ

た構造情報であるためガラスなどの非晶質物質の中距離構造を解明するためにはこれ

らのデータを基に三次元構造を求める必要がある三次元構造モデルの作成には逆モンテ

カルロ(RMC)シミュレーションを使用することが有効である[7]このシミュレーション

は任意で決めたシミュレーションボックス内の粒子をランダムに動かすことで実測の

構造因子 S(Q)を再現する三次元構造モデルを構築する方法である

SP ガラスについては分光学的手法について数多く報告があるが放射光を用いた回折

法はほとんど適用されていないそこで本研究では HEXRD および AXS 法を用いた構造

解析を行うことでSn Nb周りの構造を解明すると共にSNP ガラスの耐水性改善のメカ

ニズムについて考察したまたAXS 法の有効性についても検討した測定を行ったガラ

スはSP ガラスおよび最も耐水性の高かった 67S5N28P を選択した

42 実験方法

421 HEXRD AXS法

HEXRDはSPring-8のビームライン BL04B2 で測定を行ったエネルギー614 keV の X

線を用いた測定サンプルの厚みは09 mm (plusmn0005 mm)になるまで研磨を行った

AXS 測定はSPring-8のビームライン BL13XUを使用した(Fig 43)それぞれの測定し

た X 線のエネルギーについて以下に示す

①Sn K吸収端hellip292 keV near edgehellip291452 keV (-60 eV) far edgehellip289751 keV (-230 eV)

②Nb K吸収端hellip1899 keV near edgehellip189562 keV (-30 eV) far edgehellip187863 keV (-230 eV)

測定に使用したサンプルの厚さが015 - 030 mmとなるまで研磨を施した

SP ガラスについて50S50P 60S40P 67S33P の三組成のガラスを測定した70S30P に関

59

しては測定を試みたが放射光照射によって結晶化してしまいガラス部分の正確な構

造因子を得るための強度補正ができず解析を断念した

422 RMCのモデリング

Table 41 に RMC の各種パラメーターを示す粒子数は約 5000 個でそれに伴う boxの一

辺の長さは約 42 ~ 46 Ǻになった拘束条件にP の配位数が 4になるような条件を付け

加えたFig 44にSn2P2O7結晶および Sn3P2O8結晶の動径分布関数(RDF)をTable 32

にRDFから得られた第一近接距離[8 9] を示すこれらの数値を使用しcutoffを決定し

たNb-O についてはいくつかの文献値を参考にした[10 11]

各ガラスの RMCのモデリングは①HEXRDから得られた S(Q)のみ②S(Q)および AXS

から得られた部分構造因子を加えた場合でそれぞれ計算した

43 結果考察

最初にNbの AXSから得られたデータについて解析を試みたが妥当な構造モデルが得

られなかったためSnの AXSのみで解析を進めたNb2O5の量が 5 molと少量であったた

めあまり精度の高いデータが得られなかったと推測される

431 実測の HEXRDおよび AXSの結果

4311 実測 HEXRDの S(Q)

Fig 45 に実測HEXRDの S(Q)を示す四つの組成ともに実測HEXRDの S(Q)が得られ

Nb2O5添加の 67S5N28P ガラスでは Low Q 側に変化が確認された

4312 実測散乱強度曲線

Fig 46 に Snの散乱強度曲線を示す(a) の 67S33P のこの曲線からはfar edgeおよび

near edge のエネルギー間で差分が見られエネルギーの依存性が確認された50S50P

67S5N28P のガラスについても同じように差分が確認されたが(b)の 60S40P についてのみ

他とは若干異なる結果(緑丸)であったためRMC の構造解析には差分の構造因子ではな

くfar edge near edge 二つの構造因子を用いた

4313 全相関関数 T(r)

Fig 47 に全相関関数 T(r) を示すHEXRD から得られたものを実線でSnの AXS から

得られたものは点線で示し組成ごとに重ねて表示した図中に各ピークについて帰属し

ているがSnの T(r)からはSn-O Sn-P Sn-Snのみのピークを確認した

432 RMCの計算結果および考察

60

構造モデルの一例として67S5N28P ガラスの得られた構造モデルをFig 48に示す水

色の多面体 unitSnON 黄色の多面体 unitPO4 ピンクの多面体 unitNbONである以下

詳細な構造解析の結果および考察を記す

4321 RMCのフィッティング結果

RMCのフィッティング結果の一例として67S33P の HEXRD と Snの AXS の構造因子か

ら得た結果を示す(Fig 49)二つの構造因子を加えて計算した結果においてもHEXRD

の S(Q) AXS の S(Q)に各々に対する良好なフィッティング結果が得られた他の組成も

同様なフィッティング結果が得られた

4322得られた各 pairの平均配位数平均角度平均結合距離

RMCの結果によって得られた各 pairの平均配位数平均角度平均結合距離を Tables 43

に示す上段が HEXRD の S(Q)のみ下段が HEXRD に Sn の AXS の部分構造因子を加え

て結果である最下部は比較のためにSn2P2O7の情報を記載した[8]

P-O pairについてRMCモデル中の PON多面体に関して平均配位数 Nが 4および P-O

の平均結合距離が約 160Å平均結合角度angO-P-O が約 109degという結果が得られた組成

による大きな違いは確認されなかったのはP の配位数が 4になるように拘束条件をかけた

結果であると考えられるSnON多面体についてはSnO量の増加 = OP の増加であり平

均配位数 Nが 3 ~ 35へ増加した平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約

22Åで組成による大きな変化はほとんど見られなかったNb2O5を 5 mol添加したガラ

スではNbON多面体の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平均配位数 N約 4Nb-O 平均結

合距離約 20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O(約 105deg)と値が近いこと

また6配位ではなく 4配位として主に存在していることからSnO と同じような働きをし

ていると推測される

以上の結果からNb2O5添加の耐水性改善の要因として結合距離が Sn-O が約 22Åに対

し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強固にして

いることも一つの要因として考えられる

また67S5N28P ガラスの各多面体モデルを確認すると(Fig 410)P は PO4Snは SnO4

と SnO3Nbは NbO4をそれぞれ再現している

4323得られた各 pairの結合様式

RMC の結果により得られた各 pair の結合様式を Tables 44 に示す上段が HEXRD の

S(Q)のみ下段が HEXRDに Snの AXS の部分構造因子を加えた結果である最下部は比

較のためにSn2P2O7の情報を記載した[8]

結合様式に関してはPO4四面体は他の多面体も含めてほぼ頂点共有で存在している

SnON多面体についてはSnO 量が少ない配位数が 3 に近い場合頂点共有以外の共有の

61

割合も多くSnO 量が増えるにつれて頂点共有が主になり網目形成体として振舞ってい

ると考えられる組成によって平均結合距離や平均角度の大きな変化が見られなかったこ

とから平均配位数が結合様式を決める重要なファクターであるということも考えられる

またHEXRD と AXS 法の結果がほぼ同じであったこれは主成分が SnO のガラスであ

るためHEXRDでも十分に詳細な構造が得られたため大きな変化が現れなかったと考え

られるNbON 多面体はPO4 四面体と SnON 多面体とはほぼ頂点共有で繋がっている以

上の結果よりSnO量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体的に各多面体同士の

頂点共有が増えていることから耐水性の改善には頂点共有を多く含む構造であること

が重要である或いは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的となって

いるということが推測されるFig 411に 67S5N28P ガラスの構造モデルを示す各多面

体はほぼ頂点共有で繋がっていることが確認できる

4324 平均 BO数の比較

Tables 45にNMR Raman RMC(HEXRD) RMC(HEXRD + AXS)の平均BO数を示すRMC

から得られた平均 BO 数 nはNMR Raman と同様に Nb2O5の添加による大幅な減少が確認

されたしかしNMR Raman と比較すると全組成において数値が大きすぎで適当でない

50S50P の構造モデルを観るとPO4四面体間で3配位 O の存在が確認された(Fig 412)た

め実測で得られた n値を再現できるようなPO4四面体モデル間の繋がり方に関する拘束条

件を加えて RMCを計算する必要性があるまた仮に3配位 Oの存在があるとすると電

子状態の変化が生じていることがと示唆されるため分子軌道計算を用いて電子状態解析

を行い確認する必要がある

4325 耐水性の改善について

Nb2O5を添加のガラス構造への影響について①6配位ではなく 4配位として主に存在し

ていることからSnO と同じような働きをしていると推測される②結合距離が Sn-O が約

22Åに対し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強

固にしている③ガラス構造中で全体的に各多面体同士の頂点共有が増えている以上の

ことが判明した以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性

耐候性を改善した要因として考えられる

44 結言

本章では分光学的手法では評価できないガラスの中距離構造局所構造について理解

するために放射光を用いた構造解析を実施しSP ガラスの構造と耐水性改善について考

察したHEXRDおよび AXS法を用いて測定を行い得られたデータを RMCシミュレーシ

ョンにて解析を行った

解析の結果 Sn-O pair については平均配位数 Nが 3 ~ 35でSnO量の増加 = OP の増

62

加に伴い高くなった平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約 22Åであ

ったP-O Sn-Oについては組成による大きな変化はほとんど見られなかった67S5N28P

ガラスの Nb-O pair の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平均配位数約 4Nb-O 平均結合距

離約 20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O(約 105deg)と値が近いことま

た6配位ではなく 4配位として主に存在していることからSnOと同じような働き(網目

形成体)をしていると推測されるまた結合距離が Sn-O が約 22Åに対し Nb-O は約 20

Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強固にしていると言える

SnO 量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体的に各多面体同士の頂点共有が増え

ていることから耐水性の改善には頂点共有を多く含む構造であることが重要である

もしくは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的であることが推測さ

れる以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性耐候性を

改善した要因として考えられる

またAXS 法の有効性についても確認し効果的であることが判明したただし今回

は主成分が Sn の組成のガラスでありHEXRD でも十分に詳細な構造が得られたため

大きな差は現れなかった

参考文献

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63

Fig 41 各原子の異常分散項のエネルギー依存性

Fig 42 Sn の異常分散項のエネルギー依存性

64

Fig 43 SPring-8の BL13XU

65

Tab

le 4

1

RM

Cの各パラメーター

66

Fig 44 Sn2P2O7 Sn3P2O8結晶の RDF

Table 42 Sn2P2O7 Sn3P2O8結晶の各 pairの第一近接距離

67

Fig 45 得られた実測 HEXRDの S(Q)

68

Fig 46 Sn の異常散乱測定により得られた散乱強度のエネルギー依存性

(a)67S33P (b)60S40P

69

Fig 47 全相関関数 T(r)

太線 HEXRD より

細線 Sn の AXSより

70

Fig 48 67S5N28P ガラス構造のモデル

71

Fig 49 RMC フィッティングの結果

72

Tab

le 4

3 各

pairの平均配位数角度結合距離

73

Fig

4

10

67

S5

N2

8Pガラスの各多面体モデル

74

Tab

le 4

4 各

pairの結合様式

75

Fig 411 67S5N28P ガラスの構造モデル

76

Table 45 平均 BO 各数 nの比較

Fig 412 50S50P ガラスの構造モデル

77

第 5章 総括

本研究ではSP ガラスを対象とした本研究では鉛フリー代替ガラスまたは希土類フ

リー蛍光体として SP ガラスの新規高機能化を将来的に目指し問題点であるldquo化学的耐久

性rdquoの改善につながる知見を得ることを目的としたそこでまずSP ガラスを母体ガラ

スとし第三成分に Nb2O5を添加した Sn-Nb-P SNP ガラスZnO を添加した SZP ガラスを

作製し耐水性を中心とした物性評価を行った次に分光学的手法で構造解析を行い

Qn 分布を導き出した最後に放射光を用いた構造解析を行い耐水性改善に関する構造的

な考察を行った以下に本研究で行った検討内容を示す

(1)SPガラスおよび第三成分Nb2O5 ZnOを添加した三成分系SPガラスの物性評価(第 2章)

(2)SP 系ガラスの分光学的手法による Qn分布導出(第 3章)

(3)放射光を用いた SP 系ガラスの構造解析構造と耐水性改善の関連について(第 4章)

各章についてまとめた結果を以下に示す

第 2章

第 2章では二成分系および三成分系のリン酸塩系ガラスの各種物性(密度や熱的特性

耐水性)の評価を行った二成分系ではSP ガラスに加え良好な耐水性を有する鉄リン

酸塩(Fe2O3-P2O5)系ガラス(以下 FP ガラス)を比較のために三成分系では二成分系

の SP ガラスに Nb2O5を添加したニオブ含有 SP ガラス(SNP ガラス)および ZnO を添加し

た亜鉛含有 SP ガラス(SZP ガラス)を作製した

今回作製した SP 系ガラスは低ガラス転移温度を有していた各組成の温度域はSP

ガラスTg le 280 Sn-Nb-P SNPガラスTg le 3505SZP S5ZPガラスTg ≦ 450であった

各種 SP ガラスの耐水性試験の結果二成分系の SP ガラスよりも三成分系ガラスの方が

良好な耐水性を有していた65Sn-5Nb-30P 67S5N28P ガラスが最も耐水性が良好であり化

学的耐久性の改善には Nb2O5が ZnOよりも効果的であった

組成と耐水性に関してはDRおよび重量減がOP増加で単調に低下した結果が得られた

つまり耐水性を改善させるにはSP 系ガラスのガラス化範囲を拡大かつ OP を増大させ

る第三成分の添加が有効であることが示唆された

第 3章

第 3章ではSP 系ガラスの分光学的手法による Qn分布の導出を行ったラマン分光法を

用いて各ガラス系のリン酸塩アニオンの構造を簡易定量で評価し組成と構造の関係に

ついて考察した平均 BO 数 n と耐水性に関してはDR および重量減が平均 BO 数 nの減

少で単調に低下することが明らかとなった

平均 BO 数 n と OP の関係より耐水性改善には平均 BO 数 n を下げることそして

OP を上げることが重要であることが明らかになった

78

Nb5+の添加は平均 BO数を減少させるだけでなくOP も上げることからガラス構造

内の P-O-P 結合を減少させ水和反応加水分解反応が抑制され耐水性が大幅に改善さ

れることが示唆された故にNb2O5 のような高価数金属酸化物を添加することが効果的

であることが再度確認された

第 4章

耐水性向上についてより深く評価するためSP SNP ガラスの局所構造に関する知見を得

ることを目的に放射光を用いた構造解析を行った高エネルギーX 線回折(HEXRD)お

よび X 線異常散乱(AXS)法で測定したデータを再現する構造モデルを逆モンテカルロ

(RMC)シミュレーションで構築し構造解析を行った

RMC モデル中の PON多面体に関して平均配位数 Nが 4および P-O の平均結合距離が約

160Å平均結合角度angO-P-Oが約 109degという結果が得られた組成による大きな違いは確

認されなかったSnON多面体については平均配位数 N が 3~4 でSnO 量の増加に伴い 4

に近い値となった平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約 22Åで組成

による大きな変化は見られなかった

Nb2O5を 5 mol添加したガラスではNbON多面体の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平

均配位数N約4Nb-O平均結合距離約20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O

(約 105deg)と値が近いことまた6配位ではなく 4配位として主に存在していることから

SnO と同じような網目形成体として働いていると推測されたまた結合距離が Sn-O が約

22Åに対し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強

固にしていると考えられるまたSnO 量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体

的に各多面体同士の頂点共有が増えていることから耐水性の改善には頂点共有を多く

含む構造もしくは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的であること

が示唆された以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性

耐候性を改善した要因として考えられる

またAXS 法の有効性についても確認し効果的であることが判明したただし今回

は主成分が Snの組成のガラスでありHEXRD でも十分に詳細な Snの周辺構造が得られ

たためAXSを利用した場合との大きな構造の差は認められなかった

本研究では様々な優れた特徴を有する SP ガラスにおける耐水性改善のメカニズムにつ

いて検討を行ったこの系のガラスについてはこれまでほとんど利用されていなかった

放射光を用いた構造解析を駆使し第三成分の添加によってどのような構造的変化が生じ

耐水性を改善させるか新たな知見を得ることができた最終目標である機能性ガラスの

開発における新たなる材料設計指針の確立に対してldquo耐水性rdquoに関しては概ね明らかにな

ったと考えられる一方で今回検討していな電子状態化学結合性についても評価する

ことで溶出メカニズムの解明が可能になり材料設計指針の確立が期待される

79

発表論文リスト

口頭発表

第 2章および第 3章

(1) SnO-P2O5 系ガラスへの酸化物添加効果

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎

日本セラミックス協会第 25 回秋季シンポジウム No3C06 (名古屋市 2012年 9月)

(2) Effect of Nb2O5 addition to SnO-P2O5 glass (Poster)

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

International Union of Materials Research Societies International Conference on Electronic

Materials IUMRS-ICEM 2012 A-9-P26-003 (Yokohama 2012 年 9月)

(3) スズリン酸塩系ガラスの蛍光特性耐水性に及ばす酸化物の添加効果(ポスター)

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎

日本セラミックス協会 2013 年年会 1P070 (東京 2013年 3月)

第 4章

(1) 放射光を用いたスズリン酸塩ガラスの構造解析

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎小原真二臼杵毅

日本セラミックス協会第 27 回秋季シンポジウム 2B22 (鹿児島市 2014年 9 月)

(2) Structural analysis of tin phosphate glasses by synchrotron radiation (Poster)

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba Shinji Kohara Takeshi Usuki

International Congress on Glass ICG Annual Meeting Bangkok 2015 P14-138 p186 (2015)

発表論文

(1) Effect of Nb2O5 addition to SnO- P2O5 glass

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

Journal of the Ceramic Society of Japan Vol 120 No 11 pp530-533 (2012)

(2) Structural analysis of SnO- P2O5 glass

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

Journal of the Ceramic Society of Japan(準備中)

80

謝辞

本研究を遂行するにあたり終始暖かいご指導ご助言並びにご鞭撻を賜わりました岡

山大学大学院環境生命科学研究科 難波徳郎教授に心より感謝の意を表します

また本研究を遂行するにあたり懇切丁寧なご指導とご意見をしていただいた岡山大

学大学院環境生命科学研究科 紅野安彦准教授環境環理センター 崎田真一助教に心より

感謝いたします

本研究を遂行するにあたりラマン分光測定の使用についてご助言ご教授して頂い

た岡山大学自然科学研究科 藤井達生教授中西真助教に心より感謝の意を表します

Sn のメスバウアー測定の際に協力して頂いた岡山大学自然科学研究科先端自然科学教

育研究推進本部高田研究室 松本修治特任助教(当時旭硝子株式会社中央研究所)また

Feのメスバウアーを測定の際に協力して頂いた岡山大学自然科学研究科 藤井達生教授に

心より感謝の意を表します

固体 NMR の岡山大学自然科学研究科 早川聡教授に心より感謝の意を表します

本研究を遂行するにあたりSPring-8 にてHEXRD および AXS 法の測定法および原理

についてご教示頂きました物質材料研究機構 小原真司博士ならびに山形大学 臼杵毅

教授に心より感謝の意を表します

本研究は多くの後輩諸君の協力によって遂行されました特に実際に共同研究共同

実験を遂行して頂いたOG 藤原沙弥香さん博士前期課程 2 年 東利彦君OB 徳岡太誠

君学士課程 4年 塩田将大君に心より感謝の意を表しますまた難波研究室で共に研

究生活を過ごした卒業生在学生の方々に感謝の意を表します

また同時期に博士後期課程に在籍された香川高等専門学校の桟敷剛さんにはNbに

関する有益な情報だけでなく辛い状況でも励ましを頂きました心より感謝の意を表し

ます

最後に長きに渡る学生生活を認め経済面だけでなく精神面でも支援してくださった

家族に心より深く感謝の意を表します

平成 28年 3月

福井 聡史

Page 16: 博士論文 スズリン酸塩系ガラスの物性と構造解析ousar.lib.okayama-u.ac.jp/files/public/5/54353/...博士論文 スズリン酸塩系ガラスの物性と構造解析

13

第 2章 スズリン酸塩系ガラスの物性評価

21 緒言

前章で述べたようにスズリン酸塩(SP)系ガラスは無色透明高透過率低ガラス

転移温度など工業的に興味深い特徴を有することが知られている[1]またSn2+が ns

2型の

発光中心となり紫外線照射による白色蛍光を示すことから希土類フリー白色蛍光体とし

ての研究も数多くなされている[2 3]

しかし実用化に向けてはこの系のガラスについてもリン酸塩系ガラスに特有のldquo耐

水性rdquoldquo耐候性rdquoの低さが問題となる[4]この問題点を解決するために第三成分として他

の化合物を加えることが有効でありSP ガラスにおいてはB2O3や ZnO SiO2 MgO MnO

など様々な物質を第三成分として添加した研究報告[5 - 9]があったりNH3雰囲気下で数日

間溶融作製することでガラスを一部窒化することで耐水性を改善させたりという報

告もある[10]SP ガラスに限定しないリン酸塩系ガラスではZnO-P2O5 系ガラスに Sb2O3

や MoO3を添加した報告[11 12]や Na2O-P2O5系ガラスに CuO を加えた報告[13]P2O5-CaO-

Na2O に Ag2Oを添加した報告[14]Na2O-K2O-CaO-P2O5ガラスの一部を窒化することによる

方法[15]等があり数多くのリン酸塩系ガラスの耐水性改善に関する研究がなされている

本研究では高価数金属酸化物および低価数金属酸化物の二種類をそれぞれ第三成分と

して添加した高価数金属酸化物には Nb2O5を低価数金属酸化物には ZnO の二種類の酸

化物を選択した

Nb2O5は古くから光学ガラスの成分として頻繁に使われる物質であり様々な企業から数

多くの特許が出されている[16 17]また耐水性の改善に有効であるとの報告や比較的低

温でもガラス作製ができることが知られており(当然のことながら組成に影響される)

鉛フリーの封着ガラスとしての研究もなされているZnO についてはこれ自体は無着色

成分であるため無色透明なガラスが得られることから光学ガラスの成分に用いられる

ほとんどの組成で低融点ガラスとなり[18 19]これらの特性からSnO-ZnO-P2O5(SZP)

系ガラスは Sn2+を発光中心とした蛍光体の研究対象となっていることが多くSP 系ガラス

では一般的なガラス系である

本章では第三成分を含まない SP ガラスおよび Nb2O5または ZnOを SP ガラスに添加し

た三成分系ガラスをそれぞれ作製し耐水性試験を中心とした各種物性評価を行った比

較対象に耐水性の優れることで知られる鉄リン酸塩系ガラスも同時に作製することでSP

系ガラスへ添加したそれぞれの第三成分の耐水性に対する有効性を検討した

22 実験方法

221 ガラスの組成選択

本研究において作製した SP ガラスは以下の五種類の系列を選択した

14

① スズリン酸塩ガラス(xSnO∙(100-x)P2O5 x = 50 60 67 70 mol)

(略称 SP ガラス組成は 50S50P と表記)

② ニオブ含有 SP ガラス(65SnO∙xNbO25∙(35-x)P2O5 x = 0 1 2 3 4 5 mol)

(略称 Sn-Nb-P ガラス組成は 65S-0Nb-35P と表記)

③ ニオブ含有 SP ガラス(xSnO∙5Nb2O5∙(95-x)P2O5 x = 50 60 67 mol)

(略称 SNP ガラス組成は 50S5N45P と表記)

④ 亜鉛含有 SP ガラス (S5ZP ガラス)(xSnO∙5ZnO∙(95-x)P2O5 x = 55 62 65 mol)

(略称 S5ZP ガラス組成は 55S5Z40P と表記)

⑤ 亜鉛含有 SP ガラス (5SZP ガラス)(5SnO∙xZnO∙(95-x)P2O5 x = 55 62 65 mol)

(略称 5SZP ガラス組成は 5S55Z40P と表記)

(④と⑤は総じて SZP ガラスと表記する場合がある)

それぞれの選択理由はガラス化範囲(各ガラス系のガラス化範囲を Fig 21および Fig

23 に示す)作製の容易さ(気泡の入りにくさ流し出しやすさ)等を考慮し決定した

組成ごとに詳細な選択理由を述べると

②についてNb を P と置換した組成であるFig 22 に示した溶融温度 1100で作製した

Sn-Nb-P ガラスの外観写真より目視でも明らかに透明性の高く着色量の少ない組成は(d)

の 65Sn-5Nb-30P でありこの外観写真を参考に組成を決定したSnO 量を 65 molに固定

しNbO25量を 5 molから 0 mol(Nb無添加組成)まで減少させた組成(Fig 21 の緑線

の組成)を選択しこのガラス系の物性の変化を確認した

③はNb2O5量を 5 molに固定しSn を P と置換した組成であるNb と P は酸化数が

同じ 5価であるためこの組成では同じ SnO量の二成分系 SP ガラスと比較した際酸素

の総量に変化が生じない(例えば67S33P と 67S5N28P)またNb5+イオンはガラス中

では4配位および6配位を取るという報告が多い(結晶の場合他の配位数を取る)た

め配位数が4の P5+の置換に適していると考えた

④⑤に関しては気泡のrdquo入りづらいrdquoもしくはrdquo入らないrdquoSnOおよび ZnOが各 5 molにな

る組成を選択したSZP ガラスはFig 23 に示すガラス化範囲のようにガラス化範囲は

非常に広範囲であるしかし気泡が入りやすく脈理のようなものも見られる組成が多く

目視ですら不均質なガラス組成がほとんどであった(これらの組成も粉末にして XRD を測

定するとガラスであった)そのためバルク体でガラスを得られることが困難な組成も多

い(Fig 24 にその一例の SZP ガラスを示す)そこで第三成分の添加量を可能な限り少

ない組成を選択することでバルク体で目視上ldquo均質rdquoなガラスを得た(Fig 23 の青線と

紫線の組成)

また上述したように耐水性の比較対象である鉄リン酸塩ガラスを二成分系で作製し

15

た(FP ガラス)組成はxFe2O3∙(100-x)P2O5 x = 20 25 30 35 40 mol を作製した

222 ガラス作製

Figs 25 - 27に各ガラス系の作製フローチャートを示す出発試薬にSnO NH4H2PO4

Nb2O5 ZnO を使用し各々秤量した秤量混合後アルミナ坩堝に入れか焼(仮焼き)

を行ったか焼条件はSP Sn-Nb-P SNP SZP ガラスは350または 400 6-30 minFP ガ

ラスは600 30 min で行った溶融温度および溶融時間はSP ガラス1100 30 min

Sn-Nb-P ガラス1100 30 minSNP ガラス1000または 1250 20 min SZP ガラス

1100-1200 30 min 各々N2雰囲気下で作製したN2雰囲気下で行った理由はSn2+が Sn

4+

にほとんど酸化されてしまうとガラスが得られなくなるためSn2+の酸化を防ぐ目的がある

[19]FP ガラスは1200 - 1550 30 min大気雰囲気下の条件で作製した溶融後350

に温めておいたスチールモールドに流してプレスした後FP ガラス以外はガラス転移温度

Tg付近でアニールを 1 h行い目的のガラスを得た耐水性試験用のガラス形状はダイヤモ

ンドカッターで大まかに整えた後鏡面研磨まで施して型取ったここでFP ガラスのみ

アニール工程を省いた理由はSP ガラス等はアニールをして歪みを取らなければ正確に

切断できない場合が生じた一方でFP ガラスはアニールをせずとも十分正確にカットで

きたためアニール工程を省いたまた50S50P のみ厚みが必要になると必ず気泡が入

ってしまうため耐水性試験では気泡の入ったものを使用した

223 物性評価

得られたガラスの物性の比較を行うために以下に示す分析を行った

(1)ガラス状態の確認

作製したガラスが結晶の混在していないものかを確認するためにまた耐水性試験

後のガラスが結晶化しているかの確認のためにX 線回折装置(XRD Rigaku RINT-2100)

を用いて分析した全てバルク体で測定したが耐水性試験後ではバルク状態が保てな

いものもあったためその試料については粉末で測定した

(2)組成分析Sn Fe 価数分析

得られたガラスについてアルミナ坩堝の使用によるアルミナのガラスへの混入および

それに伴う組成ズレの確認のために走査型蛍光 X 線分析装置(XRF Rigaku ZSX Primus

Ⅱ)を使用し組成分析を行った分析はバルク体で定性分析法にて測定した

またSn が二価のままどのくらい存在しているかを調べるために Sn-Nb-P ガラスを用い

てSnの価数分析をメスバウアー分光法にて行ったSnの測定は reference [20]に示す旭硝

子の公開特許に記載されている方法で行ったFP ガラスについても価数変化を調べるた

めにメスバウアー分光法にて Feの価数分析を行ったFeの測定は(株)トポロジック

システムズ MDF-200)を用いて評価を行った

16

(3) 密度(ρ)およびガラス転移温度(Tg)評価

各ガラスの密度(ρ)測定はケロシンを用いたアルキメデス法で測定したガラス転

移温度(Tg)を評価するために示差熱―熱重量測定装置(SDT TA instrument Japan Q600)

を用いたアルミナパンを使用し測定条件はN2雰囲気下 10 Kmin 700までの温度範

囲にて行った

(4)耐水性試験

各ガラスの耐水性について評価するために耐水性試験をMCC-1法[21]にて測定した(Fig

28)条件は75 72h ガラスサイズ 12times10times02 cm (plusmn01 cm) 蒸留水の pH は 72-77

で行い浸漬後サンプルを乾かして重量を量った溶出速度(Dissolution Rate DR)は重

量減(ΔW) サンプル表面積(S) 浸漬時間(t)から以下の式によって算出した[22]

DR = ΔW (kg) S (m2) t (s)

また浸漬前と 72 h 後の重量減()も合わせて算出した

23 結果考察

231 組成分析 Snおよび Feの価数評価

Table 21に各試料の組成分析結果を示すまずアルミナ Al2O3の量を見るとガラスに

混入した量がほとんどの組成で 25 mol以下で多くても 35 molを下回る量であった

そのため各種特性についてアルミナの影響はほとんどないと考えられる[23 24]組成

によってその量に差があるのは溶融温度の違いによることに起因している組成分析の

結果今回作製したガラスは仕込み組成と大きな差がないと判断した

Fig 29に Sn-Nb-P ガラスの Snのメスバウアースペクトルをそこから得られたメスバウ

アーパラメーターを Table 22に示す得られた結果よりSn-Nb-P ガラスでは95以上の

割合で Sn2+のまま存在していることが分かった不活性雰囲気で作製したことP2O5 の出

発原料に NH4H2PO4を使用したことにより(か焼は行なっているが)還元雰囲気になったた

めSn4+にほとんど酸化されることがなかったといえるこの結果SP 系ガラスではほぼ

Sn2+のまま存在していると仮定した

Fig 210に FP ガラスの FeのメスバウアースペクトルをTable 23 にそこから得られたメ

スバウアーパラメーターを示すFP ガラスについては組成に関わらず酸化還元平衡に

より 20 ~ 30が Fe2+になりまたFe2O3 ge 30 molの際化学的にも安定であることが知

られている[27]実際にFe2O3 ge 30 molの際Fe2+は概ね 20 ~ 30存在している結果が得

られた一方でFe2O3 lt 30 molの際はFe2+が 40以上と高い割合で存在していることが

判明したこれは出発原料の NH4H2PO4の多量使用によること溶融温度が 1550と高

いことが要因で還元がより進行したためと予想される

17

232 ρおよび Tg

Table 24にρおよび Tgの結果を示す二つの特性結果はそれぞれのガラス系において

SnO や Nb2O5ZnO といった金属酸化物が増えるにつれて大きくなっているSP Sn-Nb-P

SNP S5ZP 系ガラスの Tgはほとんどが 300前後であり最も高い温度でも67S5N28P

の 346であった一方5SZP 系ガラスは400~440となり他のガラス系と比較する

と若干高い温度となったそれでも今回作製した第三成分を添加したガラスは低 Tgを有

するガラスであると判断できSP ガラスの特性を維持できたと判断できる

60S5N28P と 62S5Z30P のようなほぼ同じ OP を示すもので比較した際にNb2O5添加が

ZnO 添加よりも Tgが高くなったのは①配位数が同配位数になり得るイオンの場合(例え

ば Nb5+と Zn

2+なら4配位など)ポーリングの第 2 法則[25]より高価数イオンの方が結合

強度が強くなる②diatomic cationの解離エネルギーがNb-O (688plusmn11 kJmol)[26]に対しZn-O

(1611plusmn48 kJmol)[26]と大きな差があるため Nb-Oの結合が強い故に熱的に安定化され

Tgが高くなったと考えられる

233 耐水性試験前後の外観写真

Figs 211 - 216に各ガラスの耐水性試験前後の外観写真を示すFig 211 の SP ガラスを

観察するとSnO 量の少ない 50S50P 60S40P は浸漬時間が経過するにつれて元々の形状

が崩壊したりガラス自体が膨張したような状態になったりしたSnO 量の多い 67S33P

70S30P について形状は崩れることはないが透明性が失われる(白ヤケ)耐候性が低いこ

とが確認できるFig 212 に示す Sn-Nb-P ガラスではNb2O5無添加の 65S-0Nb-35P は浸漬

時間 24 h で透明性が失われているがNbO25量の増加させていくと徐々に透明性が回復

しており4 mol添加した 65Sn-4Nb-31P では72 h後においてもほとんど変化が確認でき

ないNbの添加量を変えた Fig 213に示す SNP ガラスではSP ガラスと同様に SnO 量の

少ない 50S5N45P は時間経過と共にガラス全体にldquoひびrdquoのようなものが見え72 hの実

験終了後最終的にテフロン糸を外す段階で簡単に割れたしかし50S50P や 60S40P と比

較すると耐水性が大幅に良くなったまた60S5N35P 67S5N28P は耐水性が良好なこと

だけでなく耐候性についても向上していることが目視で判断できる一方で二種類の

SZP ガラス(Figs 214 215)を観るとP2O5量の少ない 5S55Z40P および 55S5Z40P では

形状が崩れるか析出物が現れる結果となったこの組成よりP2O5 量を減少させるとSP

ガラスと同じように形状は崩れないが透明性が若干失われる結果となった

Fig 216 に比較対象の FP ガラスの耐水性試験前後の写真を示すこの組成ではFe2O3

量の少ない20F80Pにおいても形状が全く崩れない結果が得られたしかしFe2O3 lt 30 mol

の組成において表面に干渉色のような反射光が若干確認できたこれはおそらく青ヤ

ケが発生したためであると考えられる

18

234 耐水性試験前後の構造変化

Figs 217 - 222に各ガラスの耐水性試験前後の XRDパターンを示す耐水性試験前では

ガラス化を全組成で確認した(Figs 217(a) - 222(a))しかし耐水性試験後における外観

写真で形状の崩れたもしくは析出物の得られたガラス組成では結晶が生成したことが

確認された形状の崩れた三組成のうち50S50P 60S40P ガラス(Fig 2214(b))では三

種類の結晶ピーク(SnP2O7 Sn2P2O7 Sn3(PO4)2)が確認でき5S55Z40P については(Fig

2214(b))結晶同定の判断はできなかったが ZnOの多い組成であるためおそらくリン酸

亜鉛の何れかの結晶だと推測された析出物が得られた 55S5Z40P はガラス matrix部と析

出物に分けて測定したところガラス matrix 部はガラスのままであり析出物は SnP2O7

Sn2P2O7の二種類の結晶ピークが確認できたガラス形状に変化がなかったその他の組成は

ガラス状態が保たれていたSn4+の結晶のピークが確認されたのは50S50P のガラスには

気泡が残っておりその気泡から酸化されたかもともと溶融工程で電気炉内に残って

いた酸素によってSn4+に酸化されたか等が考えられる

235 溶出速度(DR)および重量減

Table 24に DR重量減の結果および仕込み組成から計算した OP を示すSP SNP S5ZP

ガラスではSnO 量の増加に伴いSnO量の固定された Sn-Nb-P 5SZP ガラス系ではそれ

ぞれの金属酸化物の増加に伴いDR重量減は減少傾向にあったFP ガラスでは全組成

において DR 重量減共に変化が全く確認されなかったそのため青ヤケのようなものが

確認された FP ガラス(Fe2O3 lt 30 mol)については電子天秤では変化が見られない程度

の重量減であったと推測される二種類の SZP ガラスで比較するとSnOと ZnO量が入れ

替わってもほぼ誤差範囲内と思われる結果が得られたガラス全体の比較では外観写真

で変化が見られなかった FP ガラスと 65S5N28P 65Sn-5Nb-30P のガラスが DR重量減がと

もにゼロという結果が得られた

組成と DR 重量減の関係性を見るために作成した図をFigs 223(DRと OP の関係性)

224(Fig 224に重量減と OP の関係性)に示すそれぞれの図にリン酸塩の三つの構造

の OP も表記した双方の図よりDR 重量減共に OP が増加することで単調に下がって

いることが分かるこの結果はリン酸塩の構造ではorthophosphate 組成で耐水性良好が

あるため[22]一般的な結果と同じ挙動であるまた耐水性の良かったNb2O5添加の SNP

ガラスは異なる挙動(傾き)が得られた

以上の結果より第三成分添加による耐水性の改善を確認し特に Nb2O5 の添加による

影響は大きいことが判明したまたOP の増加による耐水性が改善する結果が得られた

次章の第 3 章にて各ガラス系の構造解析を行い第三成分特に Nb2O5の耐水性への有

効性について調査した

19

24 結言

本章ではSP ガラスおよび第三成分の Nb2O5 ZnOを添加した SP ガラスの物性評価を行

うことで耐水性改善への第三成分添加の有効性を確認した各々の物性について以下に

まとめる

低ガラス転移温度を有する SP ガラスは最も SnO 量が高い 70S30P でも Tg le 280であ

ったNb2O5を添加した Sn-Nb-P SNP ガラスではTgの上昇は見られたが Tg le 350

ZnOを添加した 5SZP S5ZP ガラスではTg ≦ 450であり両金属酸化物の添加でも低

ガラス転移温度を維持しているガラスが得られたNb2O5 添加が Tg を上昇させたのはポ

ーリングの第 2法則より高価数イオンの方が結合強度が高くなるためと結論付けた

耐水性試験結果の外観写真を観るとSP ガラスの SnO 量 le 60 mol 5SZP ガラスおよび

S5ZP ガラスの P2O5量 = 40 molの組成についてガラスサンプルの形状が大きく変化して

おりDR 重量減も高く耐水性の低さが明らかであった得られた析出物はSnP2O7

Sn2P2O7 Sn3(PO4)2 および亜鉛リン酸結晶の一種であると予想されたその他の組成では

透明性の失われた組成がいくつかあったが外観写真では変化が見られなかった FP ガラス

と 65S5N28P 65Sn-5Nb-30P のガラスが DR重量減がともにゼロという結果が得られた

組成と耐水性に関してはDRおよび重量減がOP増加で単調に低下した結果が得られた

つまり耐水性を改善させる有効な手段はSP 系ガラスのガラス化範囲を拡大かつ OP を

増大させる第三成分の添加によることであることが示唆された

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21

Fig 21 三成分系 SnO-NbO25-P2O5 系のガラス化範囲

Fig 22 作製した Sn-Nb-P ガラス

(a)50Sn-5Nb-45P (b)55Sn-5Nb-40P (c)60Sn-5Nb-35P

(d)65Sn-5Nb-30P (e)70Sn-5Nb-25P (f)60Sn-10Nb-30P

(g)55Sn-20Nb-25P (h)60Sn-15Nb-25P (i)65Sn-10Nb-25P

22

Fig 23 三成分系 SnO-ZnO-P2O5系のガラス化範囲

Fig 24 作製した SZP ガラスの一例

(気泡や脈理のようなものが確認できた組成)

23

Fig 25 SP SZP ガラスの作製フローチャート

Fig 26 Sn-Nb-P SNP ガラスの作製フローチャート

(気泡や脈理のようなものが確認できた組成)

24

Fig 27 FP ガラスの作製フローチャート

Fig 28 耐水性試験(MCC-1法)

25

Table 21 各ガラスの組成分析結果

26

Fig 29 Sn-Nb-P ガラスのメスバウアースペクトル

Table 22 Sn-Nb-P ガラスのメスバウアーパラメーター

27

Fig 210 FP ガラスのメスバウアースペクトル

Table 23 FP ガラスのメスバウアーパラメーター

28

Table 24 各ガラスの物性(密度(ρ)ガラス転移温度(Tg)溶出速度(DR)重量減())

29

Fig 211 SP ガラスの耐水性試験前後の外観写真

Fig 212 Sn-Nb-P ガラスの耐水性試験前後の外観写真

30

Fig 213 SNP ガラスの耐水性試験前後の外観写真

Fig 214 S5ZP ガラスの耐水性試験前後の外観写真

Fig 215 5SZP ガラスの耐水性試験前後の外観写真

31

Fig 216 FP ガラスの耐水性試験前後の外観写真

32

Fig 217 SP ガラスの XRD パターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

33

Fig 218 Sn-Nb-P ガラスの XRD パターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

34

Fig 219 SNP ガラスの XRD パターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

35

Fig 220 5SZP ガラスの XRDパターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

36

Fig 221 S5ZP ガラスの XRDパターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

37

Fig 222 FP ガラスの XRD パターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

38

Fig 223 各ガラス系の DR と OP の関係性

39

Fig 224 各ガラス系の重量減と OP の関係性

40

第 3章 分光法を用いたスズリン酸塩系ガラスの構造解析

31 緒言

前章ではSP ガラスおよび第三成分に Nb2O5 ZnOを添加した Sn-Nb-P ガラスSNP ガラ

スSZP ガラスの物性特に耐水性に関する第三成分添加の有効性を明らかにしたその添

加した第三成分の二種類についてもNb2O5 の方が ZnO よりも溶出速度重量減ともに抑

制することができSP ガラスの低ガラス転移温度という特性も維持されていることが判明

したしかし現段階では本研究の主要な物性である耐水性改善の要因が明確になって

いない組成の観点からはOP の値が高い組成が良好な耐水性であることが分かったが

組成だけでは耐水性改善のメカニズムについて完全には理解できないここでリン酸塩

ガラスの溶出のメカニズムは第 1 章で述べたように加水分解反応と水和反応が要因とな

る[1 2]この機構はそれぞれリン酸の構造つまり架橋酸素 BO の数が大きく関わって

おりリン酸アニオンの[PO4]ユニットの架橋酸素数を知ることが重要であるこの BO の

情報を得るためにはガラス構造を示す指標の一つである Qn(n は[PO4]ユニット中の架橋

酸素数を表す)を調べることが必須であるまたQn の分布を調べるためにはガラスの

構造解析を行う必要性がある

ガラスの構造解析には種々の方法があり特にラマン分光法や赤外(IR)分光法核

磁気共鳴法(NMR)などの分光学的手法を用いた構造解析の報告が多い[3-5]ラマン分光

法および IR分光法は原理は異なるがどちらも結合の振動モードを測定する手法であり[6]

リン酸塩ガラスだけでなくケイ酸塩ガラスホウ酸塩ガラスなど様々なガラス系にて測

定がなされている[7 8]また得られた結合状態の情報からリン酸塩アニオンの Qn分布

を調べることも可能であるNMR は共鳴吸収ピークの化学シフト(共鳴周波数のズレ)

から構造を決定する手法であるガラスの場合SiO2や B2O3 P2O5といった網目形成酸化物

の Qn分布を得るために一般的に使用されている手法である[9]

今回これらの測定の中でラマン分光法を選択し構造解析を行ったラマン分光法は

測定する際にサンプル形状を気にすることなく基本的にそのまま測定できるためIR 分

光法のようにサンプル形状で測定方法を変える必要はないまたIR 分光法では例えば

KBr 錠剤法やヌジュール法のように測定を行うためのサンプル調整に手間がかかる場合が

ある[6]さらに比較対象の FP ガラスではNMR を測定できないため作製ガラスを全

て比較検討できるようにラマン分光法を選択した

本章ではラマン分光法を用いて各ガラスの構造解析を行い[PO4]ユニットの Qn分布を

調査し平均 BO数 nを算出することで耐水性と構造の関係性を検討したまたラマン

分光法によって得られた Qn分布の妥当性を確認するためにSP ガラスおよび 67S5N28P ガ

ラスの NMRを測定も行い比較した

32 実験方法

41

321 サンプル準備

ラマン分光およびメスバウアー分光の測定では第 2 章で作製した各ガラスのバルク体

を用いたWD試験に使用したサンプルとは別にラマン測定用のサンプルを用意した適

度な大きさ大体 15 cm角程度のサイズになるようにガラスカッターで切断しその後

十分な平滑性を得るために鏡面研磨を施した

322 ラマン分光測定

使用したラマン分光装置は顕微レーザーラマン分光装置(Jasco NRS-5100)を用いた

用いたレーザー波長は 53208 nmであり400 - 2000 cm-1の範囲で測定した

Qn 分布を導くためにピークフィッティングを行いリン酸塩アニオンのラマンバンド

が現れる950 - 1250 cm-1付近および 700 - 750cm-付近の範囲で定量した

323 31P MAS NMR測定

31P MAS NMRの測定は Varian NMR System 500 を用いて32 mmの MASプローブ

202309MHzにて行った測定パラメーターを以下に示すπ4 パルス長さ 14 μs 待ち時間

(pulse delay)10 s 積算回数 3600 scan シリンダー円筒形状の Zrローターの回転スピード

160 kHz referenceとして二番目の基準物質として使われる NH4H2PO4を使用化学シフト

は85 H3PO4溶液から δ = 10 ppmである

33 結果考察

331 各ガラス系のラマンスペクトル

Figs 31 - 35にラマンスペクトルを示す各ピークは以下の通りに帰属し各スペクト

ル中に該当する構造をピーク位置に示した

1230 - 1260 cm-1 P=O NBO Q

2 [10]

1110 - 1150 cm-1metaphosphate (PO3)

- Q

2 [10]

1030 - 1100 cm-1pyrophosphate (PO35)

2- Q

1 [10]

970 - 1000 cm-1orthophosphate (PO4)

3- Q

0 [10]

920 - 930 cm-1asymmetric (P-O-P) Q

1 [10]

730 - 750 cm-1symmetric (P-O-P) Q

1 [10]

710 - 720 cm-1asymmetric (P-O-P) Q

2 [10]

810 - 820 cm-1Nb-O [NbO4] tetrahedron [11]

900 - 920 cm-1Nb-O isolated [NbO6] octahedron [11]

42

SP ガラスのラマンスペクトル(Fig 31)を見ると50S50P 60S40P ではmetaphosphate

の Q2 構造が支配的であるがSnO 量が増えるにつれてその構造が変化し70S30P では

pyrophosphateの Q1構造と orthophosphateの Q

0構造が共存した構造となっているまたSnO

量の少ない 50S50P および 60S40P において確認されたQ2構造の P=O のピークが見えなく

なっているつまり耐水性と関連して考えるとSnO量が増えるにつれてP-O-P 結合か

ら Sn-O-P 結合に代わり水分子との反応である加水分解反応を妨げる構造に変化している

ことがわかる

Figs 32 33にNb2O5を添加した Sn-Nb-P ガラスおよび SNP ガラスのラマンスペクトル

を示すまずSn-Nb-P ガラスについてNb 無添加の 65Sn-0Nb-35P は主に Q1構造であ

りNbO25が添加されることによってQ0構造に変化しQ

1 Q

0構造が共存しているような

ピークが得られた添加量が少ないガラス系であるため徐々に変化しているのを確認し

た800 cm-1を少し越えた 810 - 820 cm

-1付近にNb2O5を添加することでピークが現れそ

して添加量を増量することで強度が強まるピークがありこのピークは四面体の[NbO4]

のものと判断した

SNP ガラスのラマンスペクトルについてはNb2O5添加量を固定した組成であるためSP

ガラスのような挙動が観察された50S50N45P では50S50P ガラスと同じようにQ2構造

が主な構造でありSnO量の増加に伴って60S5N35P Q1構造67S5N28P Q

0構造に支配

的な構造が変化しているこれはSP ガラスと同じ傾向を示しているためP-O-P rarr Sn-O-P

に置き替わっていることが示唆されるNb-O に関するピークでは50S5N45P のみ[NbO4]

四面体のピークを確認できず900 - 920 cm-1付近に[NbO6]八面体のピークが確認された

SnO量が増量した 60S5N35P では810 cm-1付近の [NbO4] 四面体のピークが現れているが

[NbO6]八面体のピークと 900 - 920 cm-1付近の Q

1構造のピークが非常に近い(ほぼ重なって

いる)ことから60S5N35P については[NbO4] 四面体および[NbO6]八面体の共存の可能性

も考えられるまた67S5NP28 では[NbO4] 四面体のみのピークが観察されたためこ

の Nb-O の配位数変化は[PO4] unitの状態によって変化している可能性も示唆された

ZnO を添加した S5ZP ガラスおよび 5SZP ガラスのラマンスペクトルを Fig 34 に示す

図の下部三つが S5ZP ガラス上部三つが 5SZP ガラスのスペクトルであるSZP ガラスの

二系統を比べるとあきらかなスペクトルの違いが確認された各ガラス系で確認すると

SnO 量が最小の 55S5Z40P はQ2構造と Q

1構造の範囲に跨っているようなスペクトルが得

られた62S5Z33P および 65S5Z30P のスペクトルからはどちらもほぼ Q1構造であると判

断した5SZP のスペクトルは1000 - 1250 cm-1付近の範囲で裾を引くような(なだらかな)

スペクトルが得られたZnO 量が最小の 5S55Z40P にはQ2構造が主な構造に見えるが

shoulderピークのような Q1構造(1030 - 1100 cm

-1)が確認できる5S62Z40P においては

1000 - 1250 cm-1付近の範囲まで幅広いスペクトルが得られた730 - 750 cm

-1付近にピーク

が現れているためおそらく Q1構造が最も多く存在していると考えられる65S5Z30P では

Q1構造Q

0構造が共存しているようなピークが得られた

43

FP ガラスのラマンスペクトルを Fig 35 に示すFe量の少ない 20F80P 25F75P と他の三

つで構造が異なっていることである20F80P 25F75P はQ2構造と Q

1構造が基本構造にな

っていると判断できる 30F70P は1110 - 1150 cm-1付近に shoulderピークのようなものがあ

りQ2 Q

1 Q

0構造が共存しているようなスペクトルであった35F65P 40F60P はQ1構造

が主な構造でQ0構造があると判断した

332 平均 BO数 n (Qn分布)

まずピーク分離について散乱断面積が見積もれなかったためラマンの散乱強度比

を Qn分布として簡易的にピーク分離を行い(Fig 36)そこから平均架橋酸素数 BO 数 n

を算出したここでFig 37 に 31P MAS NMRスペクトルを示しTable 31に NMRおよび

ラマン分光より得られた平均 BO 数 n を示す(NMR の帰属 reference [12])表よりNMR

とラマンから得られた Qn分布はほぼ一致していることが分かった60S40Pについては支

配構造が NMR(Q1) ラマン(Q

2)で逆になったこれは60S40P の組成がQ

2と Q1のほぼ中

間の組成になるためこのようなズレが生じたと考えられるしかし今回のラマンによ

る Qn分布の算出についてはほぼ問題ないと判断した

Table 32にラマンスペクトルより求めた Qn分布平均 BO 数 nをを示しTable 24に示

した DR 重量減の結果を併記する

SP ガラスのうち耐水性が低いガラスは Q2構造によって形成されているSnO量の増加

によって NBOの増加とともに耐水性の向上が確認できSnOが入ることでSn-O-P 結合を

形成し水分子からの攻撃を受けにくくなっていることが考えられる

Sn-Nb-P ガラスでは基本的に Q1構造が主構造でNb2O5の添加が増えるにつれQ

0構

造が支配的になり耐水性は次第に向上していく最も耐水性のよかった 65S-5Nb-30P は

Q0構造での割合が非常に高く平均 BO数 n値が 03であった

SNP ガラスではP2O5量が多い組成の 50S5N45Pにおいても平均 BO数 nが 60S40P と

同じながらも耐水性が良くなっている67S5N28P はほぼ完全に Q0構造であり平均 Q

n

値は 0となった

SZP ガラスについてはS5ZP 5ZSP のどちらの系列についても耐水性の結果に大きな差

というものは確認されなかったが構造的にも平均 BO数 nが 09 10 17という結果であ

った

FP ガラスについてはFe2O3 lt 30 molのときは平均 BO 数 nが20 19と高い数値を

示したが耐水性は非常に良好であったこの結果より組成だけでなく構造的にも耐

水性高くなる要因が不明である一つの原因の可能性としてメスバウアーより得られた

Fe2+の存在比が 40以上と高かったことがFe2O3含有量が少ない組成時には効果的になっ

ているのかもしれない

333 平均 BO数 nと耐水性の関係性

44

Fig 38に DRと平均 BO数 nの関係性についてFig 39に重量減と平均 BO数 nの関係

性をそれぞれ示すまたOP の時と同様に各図にリン酸塩の三つの構造の平均 BO数

n も表記した双方の図よりDR 重量減共に平均 BO 数 nが低下することで単調に下がっ

ていることが分かるまた耐水性の良かったNb2O5添加の Sn-Nb-P SNPガラスはの DR

の挙動(傾き)はOP 時とも異なった挙動が得られた

Fig 310に OP と平均 BO数 nの関係を示す図中に示す茶色metaphosphate 黄色

pyrophosphate 灰色orthophosphate であるこの図から耐水性改善には平均 BO 数

n を下げOP を上げることが重要であるのが分かるまたNb5+の添加はOP を上げる

だけでなく平均 BO 数も減少させることから非常に効果的な成分であることが明らかで

あるこれはP5+から同酸価数 Nb

5+に少量でも置き換えることで平均 BO 数 n を下げ

OP を上げることを可能としている(実際に orthophosphate の OP4 よりも高い OP でガ

ラスが作製できている)つまりNb5+の添加によって P-O-P 結合が減少し水和反応加

水分解反応が抑制されているからである

以上の結果SP 系ガラスの耐水性改善には低い平均 BO 数と高い OP の組成にするこ

とが重要でNb2O5の添加は非常に効果的であることが分かったその一方でガラス中の

詳細な構造的要因についてははっきりしていないため次章の第 4 章にてさらに詳し

い構造解析を行い耐水性改善の要因について調査を行った

34 結言

本章ではラマン分光を使用して各ガラス系のリン酸塩アニオンの構造を簡易定量で

評価し組成と構造の関係について考察した

平均 BO 数 n と耐水性に関してはDR および重量減が平均 BO 数 n の減少で単調に低下

した結果が得られた

平均 BO数 nと OP の図より耐水性改善には平均 BO数 nを下げることそして OP

を上げることが重要であることが明白であった

Nb5+の添加は平均 BO数を減少させるだけでなくOP も上げることからガラス構造内

の P-O-P 結合を減少させる故に水和反応加水分解反応が抑制され耐水性が大幅に

改善された故にNb2O5 のような高価数金属酸化物を添加することが効果的であること

が示唆された

参考文献

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46

Fig 31 SP ガラスのラマンスペクトル

47

Fig 32 Sn-Nb-P ガラスのラマンスペクトル

48

Fig 33 SNP ガラスのラマンスペクトル

49

Fig 34 SZP ガラスのラマンスペクトル

50

Fig 35 FP ガラスのラマンスペクトル

51

Fig 36 ラマンスペクトルのピーク分離例(67S5N28P)

Raman Shift (cm-1)

52

Fig 37 NMRスペクトル

Table 31 NMR およびラマン分光より得られた SP 67S5N28P ガラスの

Qn分布および平均 BO数 n

53

Table 32 各ガラスのラマンスペクトルより求めた Qn分布結果

(表の赤線より右側の結果は Table 22 より)

1 仕込み組成による数値

2 Fig 2212 に示した析出物を取り除いた後の数値

54

Fig 38 DR と平均 BO数 nの関係性

55

Fig 39 重量減と平均 BO数 nの関係性

56

Fig 310 OP と平均 BO数 nの関係性

Meta

Pyro

Ortho

57

第 4章 放射光を用いたスズリン酸塩系ガラスの構造解析

41 緒言

前章の第 3 章にてラマン分光法を用いて SP 系ガラスの構造解析により Qn分布を導き

出したことで耐水性と構造の関係についてある程度関連性を導くことができたリン

酸アニオンについてはQ0(orthophosphate)構造 gt Q

1(pyrophosphate)構造 gt Q2

(metaphosphate)構造の順で良耐水性となるしかしSn Nbおよび Znの局所構造につ

いては知見が得られていないラマン分光や IR分光などの分光学的手法を用いてSnや

Nb Zn の周辺の局所構造を知るには限界があるまたガラスの構造解析を行う上で非常

に重要な因子である中距離構造の評価には分光学的手法は不向きである[1]

そこで局所構造や中距離構造を知るために有効な手法として放射光線を用いた構造

解析がある放射光(SR 光)とはシンクロトロンなどの加速器で高速に加速された電子

が進行方向を磁場によって変えられた際に放射する電磁波である[2]エネルギーが高く

(短波長)輝度が高い特性を有している日本国内では兵庫県佐用町の SPring-8や茨城

県つくば市の高エネルギー加速器研究機構佐賀県鳥栖市の佐賀県立九州シンクロトロン

光研究センターなど複数個所に放射光施設が設置されている

放射光を用いたガラスの構造解析には一般的に高エネルギーX 線回折(High Energy

X-ray diffraction HEXRD)が用いられるこの回折実験から高い散乱ベクトル Q(= 4π sinθλ)

まで回折データが得られる多種類の原子から構成される物質の場合はFaber-Ziman 型[3]

の構造因子 S(Q)を用いる以下の式に示すようにFaber-Ziman 型構造因子 S(Q)は同種また

は異種の原子による相関の重み関数付の和として示される例として SiO2ガラスで説明す

ると構造因子 S(Q)は三種類の原子付の S(Q)の重み付の和として表されていることが分か

I(Q) 散乱断面積 ltgt 原子一個当たりの平均値 f(Q) 原子散乱因子 W 重み関数

通常の研究室で使用される X 線回折(XRD)装置で用いられる特性 X 線はCuKα線(λ

= 0154 nm 81 keV)が最も良く用いられより高いエネルギーの X 線が必要な場合は

MoKα線(λ = 0071 nm 175 keV)が使用される一方でSPring-8のビームライン BL04B2

で行われる高エネルギーX 線回折(HEXRD)測定で使用される SR のエネルギーは378 keV

58

~ が使用可能である[2]従ってガラス以外の液体のような非晶質物質にも非常に精度

よく構造解析が行われている[4]

また局所構造解析の一つに X線異常散乱法という測定方法がある[5 6]これは通常

の X 線回折実験では分離不可能な特定元素に関連する部分構造因子(散乱強度曲線)を得

ることができる手法である今回 HEXRD の測定時に使用したエネルギー614 keV では各元

素の異常散乱項のエネルギー依存性は確認されない(Fig 41)その一方でFig 42に示す

Sn の吸収端付近の 292 keV付近ではSnの異常分散項のエネルギー依存性が確認できる

つまりSnの吸収端近傍より低エネルギー(E)側の異なるエネルギーの X線(E1 E2)を

使って散乱強度を測定し各 E における異常分散項(f`)の変化(つまり高い E1 から低い

E2 の散乱強度の差分)を利用して Snに関する部分構造因子を求める構造解析が AXS 法で

あるこの測定法は古くから知られている方法ではあるが装置の測定条件や設備の問

題からなどから使用があまり普及していなかった[5 6]近年になり金属ガラスの構造解

析について徐々に報告が出てきており今後注目される測定法である

HEXRD および AXS 法などから得られたデータ実測の構造因子 S(Q)は一次元の限られ

た構造情報であるためガラスなどの非晶質物質の中距離構造を解明するためにはこれ

らのデータを基に三次元構造を求める必要がある三次元構造モデルの作成には逆モンテ

カルロ(RMC)シミュレーションを使用することが有効である[7]このシミュレーション

は任意で決めたシミュレーションボックス内の粒子をランダムに動かすことで実測の

構造因子 S(Q)を再現する三次元構造モデルを構築する方法である

SP ガラスについては分光学的手法について数多く報告があるが放射光を用いた回折

法はほとんど適用されていないそこで本研究では HEXRD および AXS 法を用いた構造

解析を行うことでSn Nb周りの構造を解明すると共にSNP ガラスの耐水性改善のメカ

ニズムについて考察したまたAXS 法の有効性についても検討した測定を行ったガラ

スはSP ガラスおよび最も耐水性の高かった 67S5N28P を選択した

42 実験方法

421 HEXRD AXS法

HEXRDはSPring-8のビームライン BL04B2 で測定を行ったエネルギー614 keV の X

線を用いた測定サンプルの厚みは09 mm (plusmn0005 mm)になるまで研磨を行った

AXS 測定はSPring-8のビームライン BL13XUを使用した(Fig 43)それぞれの測定し

た X 線のエネルギーについて以下に示す

①Sn K吸収端hellip292 keV near edgehellip291452 keV (-60 eV) far edgehellip289751 keV (-230 eV)

②Nb K吸収端hellip1899 keV near edgehellip189562 keV (-30 eV) far edgehellip187863 keV (-230 eV)

測定に使用したサンプルの厚さが015 - 030 mmとなるまで研磨を施した

SP ガラスについて50S50P 60S40P 67S33P の三組成のガラスを測定した70S30P に関

59

しては測定を試みたが放射光照射によって結晶化してしまいガラス部分の正確な構

造因子を得るための強度補正ができず解析を断念した

422 RMCのモデリング

Table 41 に RMC の各種パラメーターを示す粒子数は約 5000 個でそれに伴う boxの一

辺の長さは約 42 ~ 46 Ǻになった拘束条件にP の配位数が 4になるような条件を付け

加えたFig 44にSn2P2O7結晶および Sn3P2O8結晶の動径分布関数(RDF)をTable 32

にRDFから得られた第一近接距離[8 9] を示すこれらの数値を使用しcutoffを決定し

たNb-O についてはいくつかの文献値を参考にした[10 11]

各ガラスの RMCのモデリングは①HEXRDから得られた S(Q)のみ②S(Q)および AXS

から得られた部分構造因子を加えた場合でそれぞれ計算した

43 結果考察

最初にNbの AXSから得られたデータについて解析を試みたが妥当な構造モデルが得

られなかったためSnの AXSのみで解析を進めたNb2O5の量が 5 molと少量であったた

めあまり精度の高いデータが得られなかったと推測される

431 実測の HEXRDおよび AXSの結果

4311 実測 HEXRDの S(Q)

Fig 45 に実測HEXRDの S(Q)を示す四つの組成ともに実測HEXRDの S(Q)が得られ

Nb2O5添加の 67S5N28P ガラスでは Low Q 側に変化が確認された

4312 実測散乱強度曲線

Fig 46 に Snの散乱強度曲線を示す(a) の 67S33P のこの曲線からはfar edgeおよび

near edge のエネルギー間で差分が見られエネルギーの依存性が確認された50S50P

67S5N28P のガラスについても同じように差分が確認されたが(b)の 60S40P についてのみ

他とは若干異なる結果(緑丸)であったためRMC の構造解析には差分の構造因子ではな

くfar edge near edge 二つの構造因子を用いた

4313 全相関関数 T(r)

Fig 47 に全相関関数 T(r) を示すHEXRD から得られたものを実線でSnの AXS から

得られたものは点線で示し組成ごとに重ねて表示した図中に各ピークについて帰属し

ているがSnの T(r)からはSn-O Sn-P Sn-Snのみのピークを確認した

432 RMCの計算結果および考察

60

構造モデルの一例として67S5N28P ガラスの得られた構造モデルをFig 48に示す水

色の多面体 unitSnON 黄色の多面体 unitPO4 ピンクの多面体 unitNbONである以下

詳細な構造解析の結果および考察を記す

4321 RMCのフィッティング結果

RMCのフィッティング結果の一例として67S33P の HEXRD と Snの AXS の構造因子か

ら得た結果を示す(Fig 49)二つの構造因子を加えて計算した結果においてもHEXRD

の S(Q) AXS の S(Q)に各々に対する良好なフィッティング結果が得られた他の組成も

同様なフィッティング結果が得られた

4322得られた各 pairの平均配位数平均角度平均結合距離

RMCの結果によって得られた各 pairの平均配位数平均角度平均結合距離を Tables 43

に示す上段が HEXRD の S(Q)のみ下段が HEXRD に Sn の AXS の部分構造因子を加え

て結果である最下部は比較のためにSn2P2O7の情報を記載した[8]

P-O pairについてRMCモデル中の PON多面体に関して平均配位数 Nが 4および P-O

の平均結合距離が約 160Å平均結合角度angO-P-O が約 109degという結果が得られた組成

による大きな違いは確認されなかったのはP の配位数が 4になるように拘束条件をかけた

結果であると考えられるSnON多面体についてはSnO量の増加 = OP の増加であり平

均配位数 Nが 3 ~ 35へ増加した平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約

22Åで組成による大きな変化はほとんど見られなかったNb2O5を 5 mol添加したガラ

スではNbON多面体の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平均配位数 N約 4Nb-O 平均結

合距離約 20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O(約 105deg)と値が近いこと

また6配位ではなく 4配位として主に存在していることからSnO と同じような働きをし

ていると推測される

以上の結果からNb2O5添加の耐水性改善の要因として結合距離が Sn-O が約 22Åに対

し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強固にして

いることも一つの要因として考えられる

また67S5N28P ガラスの各多面体モデルを確認すると(Fig 410)P は PO4Snは SnO4

と SnO3Nbは NbO4をそれぞれ再現している

4323得られた各 pairの結合様式

RMC の結果により得られた各 pair の結合様式を Tables 44 に示す上段が HEXRD の

S(Q)のみ下段が HEXRDに Snの AXS の部分構造因子を加えた結果である最下部は比

較のためにSn2P2O7の情報を記載した[8]

結合様式に関してはPO4四面体は他の多面体も含めてほぼ頂点共有で存在している

SnON多面体についてはSnO 量が少ない配位数が 3 に近い場合頂点共有以外の共有の

61

割合も多くSnO 量が増えるにつれて頂点共有が主になり網目形成体として振舞ってい

ると考えられる組成によって平均結合距離や平均角度の大きな変化が見られなかったこ

とから平均配位数が結合様式を決める重要なファクターであるということも考えられる

またHEXRD と AXS 法の結果がほぼ同じであったこれは主成分が SnO のガラスであ

るためHEXRDでも十分に詳細な構造が得られたため大きな変化が現れなかったと考え

られるNbON 多面体はPO4 四面体と SnON 多面体とはほぼ頂点共有で繋がっている以

上の結果よりSnO量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体的に各多面体同士の

頂点共有が増えていることから耐水性の改善には頂点共有を多く含む構造であること

が重要である或いは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的となって

いるということが推測されるFig 411に 67S5N28P ガラスの構造モデルを示す各多面

体はほぼ頂点共有で繋がっていることが確認できる

4324 平均 BO数の比較

Tables 45にNMR Raman RMC(HEXRD) RMC(HEXRD + AXS)の平均BO数を示すRMC

から得られた平均 BO 数 nはNMR Raman と同様に Nb2O5の添加による大幅な減少が確認

されたしかしNMR Raman と比較すると全組成において数値が大きすぎで適当でない

50S50P の構造モデルを観るとPO4四面体間で3配位 O の存在が確認された(Fig 412)た

め実測で得られた n値を再現できるようなPO4四面体モデル間の繋がり方に関する拘束条

件を加えて RMCを計算する必要性があるまた仮に3配位 Oの存在があるとすると電

子状態の変化が生じていることがと示唆されるため分子軌道計算を用いて電子状態解析

を行い確認する必要がある

4325 耐水性の改善について

Nb2O5を添加のガラス構造への影響について①6配位ではなく 4配位として主に存在し

ていることからSnO と同じような働きをしていると推測される②結合距離が Sn-O が約

22Åに対し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強

固にしている③ガラス構造中で全体的に各多面体同士の頂点共有が増えている以上の

ことが判明した以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性

耐候性を改善した要因として考えられる

44 結言

本章では分光学的手法では評価できないガラスの中距離構造局所構造について理解

するために放射光を用いた構造解析を実施しSP ガラスの構造と耐水性改善について考

察したHEXRDおよび AXS法を用いて測定を行い得られたデータを RMCシミュレーシ

ョンにて解析を行った

解析の結果 Sn-O pair については平均配位数 Nが 3 ~ 35でSnO量の増加 = OP の増

62

加に伴い高くなった平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約 22Åであ

ったP-O Sn-Oについては組成による大きな変化はほとんど見られなかった67S5N28P

ガラスの Nb-O pair の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平均配位数約 4Nb-O 平均結合距

離約 20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O(約 105deg)と値が近いことま

た6配位ではなく 4配位として主に存在していることからSnOと同じような働き(網目

形成体)をしていると推測されるまた結合距離が Sn-O が約 22Åに対し Nb-O は約 20

Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強固にしていると言える

SnO 量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体的に各多面体同士の頂点共有が増え

ていることから耐水性の改善には頂点共有を多く含む構造であることが重要である

もしくは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的であることが推測さ

れる以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性耐候性を

改善した要因として考えられる

またAXS 法の有効性についても確認し効果的であることが判明したただし今回

は主成分が Sn の組成のガラスでありHEXRD でも十分に詳細な構造が得られたため

大きな差は現れなかった

参考文献

[1] 山根正之 安井至 和田正道 国分可紀 寺井良平 近藤敬 小川晋永編ガラス光学ハ

ンドブック 朝倉書店(1999)

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[4] 小原真司 鈴谷健太郎 放射光 14 [5] 365-375 (2001)

[5] 早稲田嘉夫 齋藤正敏 放射光 10 [3] 299-315 (1997)

[6] 細川伸也 広島工業大学紀要研究編 46 197-204 (2012)

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[11] D Munoz-Martin A Ruiz de La Cruz J M Fernandez-Navarro C Domingo J Solis and J

Gonzalo J appl Phys 110 023522 (2011)

63

Fig 41 各原子の異常分散項のエネルギー依存性

Fig 42 Sn の異常分散項のエネルギー依存性

64

Fig 43 SPring-8の BL13XU

65

Tab

le 4

1

RM

Cの各パラメーター

66

Fig 44 Sn2P2O7 Sn3P2O8結晶の RDF

Table 42 Sn2P2O7 Sn3P2O8結晶の各 pairの第一近接距離

67

Fig 45 得られた実測 HEXRDの S(Q)

68

Fig 46 Sn の異常散乱測定により得られた散乱強度のエネルギー依存性

(a)67S33P (b)60S40P

69

Fig 47 全相関関数 T(r)

太線 HEXRD より

細線 Sn の AXSより

70

Fig 48 67S5N28P ガラス構造のモデル

71

Fig 49 RMC フィッティングの結果

72

Tab

le 4

3 各

pairの平均配位数角度結合距離

73

Fig

4

10

67

S5

N2

8Pガラスの各多面体モデル

74

Tab

le 4

4 各

pairの結合様式

75

Fig 411 67S5N28P ガラスの構造モデル

76

Table 45 平均 BO 各数 nの比較

Fig 412 50S50P ガラスの構造モデル

77

第 5章 総括

本研究ではSP ガラスを対象とした本研究では鉛フリー代替ガラスまたは希土類フ

リー蛍光体として SP ガラスの新規高機能化を将来的に目指し問題点であるldquo化学的耐久

性rdquoの改善につながる知見を得ることを目的としたそこでまずSP ガラスを母体ガラ

スとし第三成分に Nb2O5を添加した Sn-Nb-P SNP ガラスZnO を添加した SZP ガラスを

作製し耐水性を中心とした物性評価を行った次に分光学的手法で構造解析を行い

Qn 分布を導き出した最後に放射光を用いた構造解析を行い耐水性改善に関する構造的

な考察を行った以下に本研究で行った検討内容を示す

(1)SPガラスおよび第三成分Nb2O5 ZnOを添加した三成分系SPガラスの物性評価(第 2章)

(2)SP 系ガラスの分光学的手法による Qn分布導出(第 3章)

(3)放射光を用いた SP 系ガラスの構造解析構造と耐水性改善の関連について(第 4章)

各章についてまとめた結果を以下に示す

第 2章

第 2章では二成分系および三成分系のリン酸塩系ガラスの各種物性(密度や熱的特性

耐水性)の評価を行った二成分系ではSP ガラスに加え良好な耐水性を有する鉄リン

酸塩(Fe2O3-P2O5)系ガラス(以下 FP ガラス)を比較のために三成分系では二成分系

の SP ガラスに Nb2O5を添加したニオブ含有 SP ガラス(SNP ガラス)および ZnO を添加し

た亜鉛含有 SP ガラス(SZP ガラス)を作製した

今回作製した SP 系ガラスは低ガラス転移温度を有していた各組成の温度域はSP

ガラスTg le 280 Sn-Nb-P SNPガラスTg le 3505SZP S5ZPガラスTg ≦ 450であった

各種 SP ガラスの耐水性試験の結果二成分系の SP ガラスよりも三成分系ガラスの方が

良好な耐水性を有していた65Sn-5Nb-30P 67S5N28P ガラスが最も耐水性が良好であり化

学的耐久性の改善には Nb2O5が ZnOよりも効果的であった

組成と耐水性に関してはDRおよび重量減がOP増加で単調に低下した結果が得られた

つまり耐水性を改善させるにはSP 系ガラスのガラス化範囲を拡大かつ OP を増大させ

る第三成分の添加が有効であることが示唆された

第 3章

第 3章ではSP 系ガラスの分光学的手法による Qn分布の導出を行ったラマン分光法を

用いて各ガラス系のリン酸塩アニオンの構造を簡易定量で評価し組成と構造の関係に

ついて考察した平均 BO 数 n と耐水性に関してはDR および重量減が平均 BO 数 nの減

少で単調に低下することが明らかとなった

平均 BO 数 n と OP の関係より耐水性改善には平均 BO 数 n を下げることそして

OP を上げることが重要であることが明らかになった

78

Nb5+の添加は平均 BO数を減少させるだけでなくOP も上げることからガラス構造

内の P-O-P 結合を減少させ水和反応加水分解反応が抑制され耐水性が大幅に改善さ

れることが示唆された故にNb2O5 のような高価数金属酸化物を添加することが効果的

であることが再度確認された

第 4章

耐水性向上についてより深く評価するためSP SNP ガラスの局所構造に関する知見を得

ることを目的に放射光を用いた構造解析を行った高エネルギーX 線回折(HEXRD)お

よび X 線異常散乱(AXS)法で測定したデータを再現する構造モデルを逆モンテカルロ

(RMC)シミュレーションで構築し構造解析を行った

RMC モデル中の PON多面体に関して平均配位数 Nが 4および P-O の平均結合距離が約

160Å平均結合角度angO-P-Oが約 109degという結果が得られた組成による大きな違いは確

認されなかったSnON多面体については平均配位数 N が 3~4 でSnO 量の増加に伴い 4

に近い値となった平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約 22Åで組成

による大きな変化は見られなかった

Nb2O5を 5 mol添加したガラスではNbON多面体の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平

均配位数N約4Nb-O平均結合距離約20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O

(約 105deg)と値が近いことまた6配位ではなく 4配位として主に存在していることから

SnO と同じような網目形成体として働いていると推測されたまた結合距離が Sn-O が約

22Åに対し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強

固にしていると考えられるまたSnO 量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体

的に各多面体同士の頂点共有が増えていることから耐水性の改善には頂点共有を多く

含む構造もしくは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的であること

が示唆された以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性

耐候性を改善した要因として考えられる

またAXS 法の有効性についても確認し効果的であることが判明したただし今回

は主成分が Snの組成のガラスでありHEXRD でも十分に詳細な Snの周辺構造が得られ

たためAXSを利用した場合との大きな構造の差は認められなかった

本研究では様々な優れた特徴を有する SP ガラスにおける耐水性改善のメカニズムにつ

いて検討を行ったこの系のガラスについてはこれまでほとんど利用されていなかった

放射光を用いた構造解析を駆使し第三成分の添加によってどのような構造的変化が生じ

耐水性を改善させるか新たな知見を得ることができた最終目標である機能性ガラスの

開発における新たなる材料設計指針の確立に対してldquo耐水性rdquoに関しては概ね明らかにな

ったと考えられる一方で今回検討していな電子状態化学結合性についても評価する

ことで溶出メカニズムの解明が可能になり材料設計指針の確立が期待される

79

発表論文リスト

口頭発表

第 2章および第 3章

(1) SnO-P2O5 系ガラスへの酸化物添加効果

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎

日本セラミックス協会第 25 回秋季シンポジウム No3C06 (名古屋市 2012年 9月)

(2) Effect of Nb2O5 addition to SnO-P2O5 glass (Poster)

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

International Union of Materials Research Societies International Conference on Electronic

Materials IUMRS-ICEM 2012 A-9-P26-003 (Yokohama 2012 年 9月)

(3) スズリン酸塩系ガラスの蛍光特性耐水性に及ばす酸化物の添加効果(ポスター)

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎

日本セラミックス協会 2013 年年会 1P070 (東京 2013年 3月)

第 4章

(1) 放射光を用いたスズリン酸塩ガラスの構造解析

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎小原真二臼杵毅

日本セラミックス協会第 27 回秋季シンポジウム 2B22 (鹿児島市 2014年 9 月)

(2) Structural analysis of tin phosphate glasses by synchrotron radiation (Poster)

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba Shinji Kohara Takeshi Usuki

International Congress on Glass ICG Annual Meeting Bangkok 2015 P14-138 p186 (2015)

発表論文

(1) Effect of Nb2O5 addition to SnO- P2O5 glass

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

Journal of the Ceramic Society of Japan Vol 120 No 11 pp530-533 (2012)

(2) Structural analysis of SnO- P2O5 glass

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

Journal of the Ceramic Society of Japan(準備中)

80

謝辞

本研究を遂行するにあたり終始暖かいご指導ご助言並びにご鞭撻を賜わりました岡

山大学大学院環境生命科学研究科 難波徳郎教授に心より感謝の意を表します

また本研究を遂行するにあたり懇切丁寧なご指導とご意見をしていただいた岡山大

学大学院環境生命科学研究科 紅野安彦准教授環境環理センター 崎田真一助教に心より

感謝いたします

本研究を遂行するにあたりラマン分光測定の使用についてご助言ご教授して頂い

た岡山大学自然科学研究科 藤井達生教授中西真助教に心より感謝の意を表します

Sn のメスバウアー測定の際に協力して頂いた岡山大学自然科学研究科先端自然科学教

育研究推進本部高田研究室 松本修治特任助教(当時旭硝子株式会社中央研究所)また

Feのメスバウアーを測定の際に協力して頂いた岡山大学自然科学研究科 藤井達生教授に

心より感謝の意を表します

固体 NMR の岡山大学自然科学研究科 早川聡教授に心より感謝の意を表します

本研究を遂行するにあたりSPring-8 にてHEXRD および AXS 法の測定法および原理

についてご教示頂きました物質材料研究機構 小原真司博士ならびに山形大学 臼杵毅

教授に心より感謝の意を表します

本研究は多くの後輩諸君の協力によって遂行されました特に実際に共同研究共同

実験を遂行して頂いたOG 藤原沙弥香さん博士前期課程 2 年 東利彦君OB 徳岡太誠

君学士課程 4年 塩田将大君に心より感謝の意を表しますまた難波研究室で共に研

究生活を過ごした卒業生在学生の方々に感謝の意を表します

また同時期に博士後期課程に在籍された香川高等専門学校の桟敷剛さんにはNbに

関する有益な情報だけでなく辛い状況でも励ましを頂きました心より感謝の意を表し

ます

最後に長きに渡る学生生活を認め経済面だけでなく精神面でも支援してくださった

家族に心より深く感謝の意を表します

平成 28年 3月

福井 聡史

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14

① スズリン酸塩ガラス(xSnO∙(100-x)P2O5 x = 50 60 67 70 mol)

(略称 SP ガラス組成は 50S50P と表記)

② ニオブ含有 SP ガラス(65SnO∙xNbO25∙(35-x)P2O5 x = 0 1 2 3 4 5 mol)

(略称 Sn-Nb-P ガラス組成は 65S-0Nb-35P と表記)

③ ニオブ含有 SP ガラス(xSnO∙5Nb2O5∙(95-x)P2O5 x = 50 60 67 mol)

(略称 SNP ガラス組成は 50S5N45P と表記)

④ 亜鉛含有 SP ガラス (S5ZP ガラス)(xSnO∙5ZnO∙(95-x)P2O5 x = 55 62 65 mol)

(略称 S5ZP ガラス組成は 55S5Z40P と表記)

⑤ 亜鉛含有 SP ガラス (5SZP ガラス)(5SnO∙xZnO∙(95-x)P2O5 x = 55 62 65 mol)

(略称 5SZP ガラス組成は 5S55Z40P と表記)

(④と⑤は総じて SZP ガラスと表記する場合がある)

それぞれの選択理由はガラス化範囲(各ガラス系のガラス化範囲を Fig 21および Fig

23 に示す)作製の容易さ(気泡の入りにくさ流し出しやすさ)等を考慮し決定した

組成ごとに詳細な選択理由を述べると

②についてNb を P と置換した組成であるFig 22 に示した溶融温度 1100で作製した

Sn-Nb-P ガラスの外観写真より目視でも明らかに透明性の高く着色量の少ない組成は(d)

の 65Sn-5Nb-30P でありこの外観写真を参考に組成を決定したSnO 量を 65 molに固定

しNbO25量を 5 molから 0 mol(Nb無添加組成)まで減少させた組成(Fig 21 の緑線

の組成)を選択しこのガラス系の物性の変化を確認した

③はNb2O5量を 5 molに固定しSn を P と置換した組成であるNb と P は酸化数が

同じ 5価であるためこの組成では同じ SnO量の二成分系 SP ガラスと比較した際酸素

の総量に変化が生じない(例えば67S33P と 67S5N28P)またNb5+イオンはガラス中

では4配位および6配位を取るという報告が多い(結晶の場合他の配位数を取る)た

め配位数が4の P5+の置換に適していると考えた

④⑤に関しては気泡のrdquo入りづらいrdquoもしくはrdquo入らないrdquoSnOおよび ZnOが各 5 molにな

る組成を選択したSZP ガラスはFig 23 に示すガラス化範囲のようにガラス化範囲は

非常に広範囲であるしかし気泡が入りやすく脈理のようなものも見られる組成が多く

目視ですら不均質なガラス組成がほとんどであった(これらの組成も粉末にして XRD を測

定するとガラスであった)そのためバルク体でガラスを得られることが困難な組成も多

い(Fig 24 にその一例の SZP ガラスを示す)そこで第三成分の添加量を可能な限り少

ない組成を選択することでバルク体で目視上ldquo均質rdquoなガラスを得た(Fig 23 の青線と

紫線の組成)

また上述したように耐水性の比較対象である鉄リン酸塩ガラスを二成分系で作製し

15

た(FP ガラス)組成はxFe2O3∙(100-x)P2O5 x = 20 25 30 35 40 mol を作製した

222 ガラス作製

Figs 25 - 27に各ガラス系の作製フローチャートを示す出発試薬にSnO NH4H2PO4

Nb2O5 ZnO を使用し各々秤量した秤量混合後アルミナ坩堝に入れか焼(仮焼き)

を行ったか焼条件はSP Sn-Nb-P SNP SZP ガラスは350または 400 6-30 minFP ガ

ラスは600 30 min で行った溶融温度および溶融時間はSP ガラス1100 30 min

Sn-Nb-P ガラス1100 30 minSNP ガラス1000または 1250 20 min SZP ガラス

1100-1200 30 min 各々N2雰囲気下で作製したN2雰囲気下で行った理由はSn2+が Sn

4+

にほとんど酸化されてしまうとガラスが得られなくなるためSn2+の酸化を防ぐ目的がある

[19]FP ガラスは1200 - 1550 30 min大気雰囲気下の条件で作製した溶融後350

に温めておいたスチールモールドに流してプレスした後FP ガラス以外はガラス転移温度

Tg付近でアニールを 1 h行い目的のガラスを得た耐水性試験用のガラス形状はダイヤモ

ンドカッターで大まかに整えた後鏡面研磨まで施して型取ったここでFP ガラスのみ

アニール工程を省いた理由はSP ガラス等はアニールをして歪みを取らなければ正確に

切断できない場合が生じた一方でFP ガラスはアニールをせずとも十分正確にカットで

きたためアニール工程を省いたまた50S50P のみ厚みが必要になると必ず気泡が入

ってしまうため耐水性試験では気泡の入ったものを使用した

223 物性評価

得られたガラスの物性の比較を行うために以下に示す分析を行った

(1)ガラス状態の確認

作製したガラスが結晶の混在していないものかを確認するためにまた耐水性試験

後のガラスが結晶化しているかの確認のためにX 線回折装置(XRD Rigaku RINT-2100)

を用いて分析した全てバルク体で測定したが耐水性試験後ではバルク状態が保てな

いものもあったためその試料については粉末で測定した

(2)組成分析Sn Fe 価数分析

得られたガラスについてアルミナ坩堝の使用によるアルミナのガラスへの混入および

それに伴う組成ズレの確認のために走査型蛍光 X 線分析装置(XRF Rigaku ZSX Primus

Ⅱ)を使用し組成分析を行った分析はバルク体で定性分析法にて測定した

またSn が二価のままどのくらい存在しているかを調べるために Sn-Nb-P ガラスを用い

てSnの価数分析をメスバウアー分光法にて行ったSnの測定は reference [20]に示す旭硝

子の公開特許に記載されている方法で行ったFP ガラスについても価数変化を調べるた

めにメスバウアー分光法にて Feの価数分析を行ったFeの測定は(株)トポロジック

システムズ MDF-200)を用いて評価を行った

16

(3) 密度(ρ)およびガラス転移温度(Tg)評価

各ガラスの密度(ρ)測定はケロシンを用いたアルキメデス法で測定したガラス転

移温度(Tg)を評価するために示差熱―熱重量測定装置(SDT TA instrument Japan Q600)

を用いたアルミナパンを使用し測定条件はN2雰囲気下 10 Kmin 700までの温度範

囲にて行った

(4)耐水性試験

各ガラスの耐水性について評価するために耐水性試験をMCC-1法[21]にて測定した(Fig

28)条件は75 72h ガラスサイズ 12times10times02 cm (plusmn01 cm) 蒸留水の pH は 72-77

で行い浸漬後サンプルを乾かして重量を量った溶出速度(Dissolution Rate DR)は重

量減(ΔW) サンプル表面積(S) 浸漬時間(t)から以下の式によって算出した[22]

DR = ΔW (kg) S (m2) t (s)

また浸漬前と 72 h 後の重量減()も合わせて算出した

23 結果考察

231 組成分析 Snおよび Feの価数評価

Table 21に各試料の組成分析結果を示すまずアルミナ Al2O3の量を見るとガラスに

混入した量がほとんどの組成で 25 mol以下で多くても 35 molを下回る量であった

そのため各種特性についてアルミナの影響はほとんどないと考えられる[23 24]組成

によってその量に差があるのは溶融温度の違いによることに起因している組成分析の

結果今回作製したガラスは仕込み組成と大きな差がないと判断した

Fig 29に Sn-Nb-P ガラスの Snのメスバウアースペクトルをそこから得られたメスバウ

アーパラメーターを Table 22に示す得られた結果よりSn-Nb-P ガラスでは95以上の

割合で Sn2+のまま存在していることが分かった不活性雰囲気で作製したことP2O5 の出

発原料に NH4H2PO4を使用したことにより(か焼は行なっているが)還元雰囲気になったた

めSn4+にほとんど酸化されることがなかったといえるこの結果SP 系ガラスではほぼ

Sn2+のまま存在していると仮定した

Fig 210に FP ガラスの FeのメスバウアースペクトルをTable 23 にそこから得られたメ

スバウアーパラメーターを示すFP ガラスについては組成に関わらず酸化還元平衡に

より 20 ~ 30が Fe2+になりまたFe2O3 ge 30 molの際化学的にも安定であることが知

られている[27]実際にFe2O3 ge 30 molの際Fe2+は概ね 20 ~ 30存在している結果が得

られた一方でFe2O3 lt 30 molの際はFe2+が 40以上と高い割合で存在していることが

判明したこれは出発原料の NH4H2PO4の多量使用によること溶融温度が 1550と高

いことが要因で還元がより進行したためと予想される

17

232 ρおよび Tg

Table 24にρおよび Tgの結果を示す二つの特性結果はそれぞれのガラス系において

SnO や Nb2O5ZnO といった金属酸化物が増えるにつれて大きくなっているSP Sn-Nb-P

SNP S5ZP 系ガラスの Tgはほとんどが 300前後であり最も高い温度でも67S5N28P

の 346であった一方5SZP 系ガラスは400~440となり他のガラス系と比較する

と若干高い温度となったそれでも今回作製した第三成分を添加したガラスは低 Tgを有

するガラスであると判断できSP ガラスの特性を維持できたと判断できる

60S5N28P と 62S5Z30P のようなほぼ同じ OP を示すもので比較した際にNb2O5添加が

ZnO 添加よりも Tgが高くなったのは①配位数が同配位数になり得るイオンの場合(例え

ば Nb5+と Zn

2+なら4配位など)ポーリングの第 2 法則[25]より高価数イオンの方が結合

強度が強くなる②diatomic cationの解離エネルギーがNb-O (688plusmn11 kJmol)[26]に対しZn-O

(1611plusmn48 kJmol)[26]と大きな差があるため Nb-Oの結合が強い故に熱的に安定化され

Tgが高くなったと考えられる

233 耐水性試験前後の外観写真

Figs 211 - 216に各ガラスの耐水性試験前後の外観写真を示すFig 211 の SP ガラスを

観察するとSnO 量の少ない 50S50P 60S40P は浸漬時間が経過するにつれて元々の形状

が崩壊したりガラス自体が膨張したような状態になったりしたSnO 量の多い 67S33P

70S30P について形状は崩れることはないが透明性が失われる(白ヤケ)耐候性が低いこ

とが確認できるFig 212 に示す Sn-Nb-P ガラスではNb2O5無添加の 65S-0Nb-35P は浸漬

時間 24 h で透明性が失われているがNbO25量の増加させていくと徐々に透明性が回復

しており4 mol添加した 65Sn-4Nb-31P では72 h後においてもほとんど変化が確認でき

ないNbの添加量を変えた Fig 213に示す SNP ガラスではSP ガラスと同様に SnO 量の

少ない 50S5N45P は時間経過と共にガラス全体にldquoひびrdquoのようなものが見え72 hの実

験終了後最終的にテフロン糸を外す段階で簡単に割れたしかし50S50P や 60S40P と比

較すると耐水性が大幅に良くなったまた60S5N35P 67S5N28P は耐水性が良好なこと

だけでなく耐候性についても向上していることが目視で判断できる一方で二種類の

SZP ガラス(Figs 214 215)を観るとP2O5量の少ない 5S55Z40P および 55S5Z40P では

形状が崩れるか析出物が現れる結果となったこの組成よりP2O5 量を減少させるとSP

ガラスと同じように形状は崩れないが透明性が若干失われる結果となった

Fig 216 に比較対象の FP ガラスの耐水性試験前後の写真を示すこの組成ではFe2O3

量の少ない20F80Pにおいても形状が全く崩れない結果が得られたしかしFe2O3 lt 30 mol

の組成において表面に干渉色のような反射光が若干確認できたこれはおそらく青ヤ

ケが発生したためであると考えられる

18

234 耐水性試験前後の構造変化

Figs 217 - 222に各ガラスの耐水性試験前後の XRDパターンを示す耐水性試験前では

ガラス化を全組成で確認した(Figs 217(a) - 222(a))しかし耐水性試験後における外観

写真で形状の崩れたもしくは析出物の得られたガラス組成では結晶が生成したことが

確認された形状の崩れた三組成のうち50S50P 60S40P ガラス(Fig 2214(b))では三

種類の結晶ピーク(SnP2O7 Sn2P2O7 Sn3(PO4)2)が確認でき5S55Z40P については(Fig

2214(b))結晶同定の判断はできなかったが ZnOの多い組成であるためおそらくリン酸

亜鉛の何れかの結晶だと推測された析出物が得られた 55S5Z40P はガラス matrix部と析

出物に分けて測定したところガラス matrix 部はガラスのままであり析出物は SnP2O7

Sn2P2O7の二種類の結晶ピークが確認できたガラス形状に変化がなかったその他の組成は

ガラス状態が保たれていたSn4+の結晶のピークが確認されたのは50S50P のガラスには

気泡が残っておりその気泡から酸化されたかもともと溶融工程で電気炉内に残って

いた酸素によってSn4+に酸化されたか等が考えられる

235 溶出速度(DR)および重量減

Table 24に DR重量減の結果および仕込み組成から計算した OP を示すSP SNP S5ZP

ガラスではSnO 量の増加に伴いSnO量の固定された Sn-Nb-P 5SZP ガラス系ではそれ

ぞれの金属酸化物の増加に伴いDR重量減は減少傾向にあったFP ガラスでは全組成

において DR 重量減共に変化が全く確認されなかったそのため青ヤケのようなものが

確認された FP ガラス(Fe2O3 lt 30 mol)については電子天秤では変化が見られない程度

の重量減であったと推測される二種類の SZP ガラスで比較するとSnOと ZnO量が入れ

替わってもほぼ誤差範囲内と思われる結果が得られたガラス全体の比較では外観写真

で変化が見られなかった FP ガラスと 65S5N28P 65Sn-5Nb-30P のガラスが DR重量減がと

もにゼロという結果が得られた

組成と DR 重量減の関係性を見るために作成した図をFigs 223(DRと OP の関係性)

224(Fig 224に重量減と OP の関係性)に示すそれぞれの図にリン酸塩の三つの構造

の OP も表記した双方の図よりDR 重量減共に OP が増加することで単調に下がって

いることが分かるこの結果はリン酸塩の構造ではorthophosphate 組成で耐水性良好が

あるため[22]一般的な結果と同じ挙動であるまた耐水性の良かったNb2O5添加の SNP

ガラスは異なる挙動(傾き)が得られた

以上の結果より第三成分添加による耐水性の改善を確認し特に Nb2O5 の添加による

影響は大きいことが判明したまたOP の増加による耐水性が改善する結果が得られた

次章の第 3 章にて各ガラス系の構造解析を行い第三成分特に Nb2O5の耐水性への有

効性について調査した

19

24 結言

本章ではSP ガラスおよび第三成分の Nb2O5 ZnOを添加した SP ガラスの物性評価を行

うことで耐水性改善への第三成分添加の有効性を確認した各々の物性について以下に

まとめる

低ガラス転移温度を有する SP ガラスは最も SnO 量が高い 70S30P でも Tg le 280であ

ったNb2O5を添加した Sn-Nb-P SNP ガラスではTgの上昇は見られたが Tg le 350

ZnOを添加した 5SZP S5ZP ガラスではTg ≦ 450であり両金属酸化物の添加でも低

ガラス転移温度を維持しているガラスが得られたNb2O5 添加が Tg を上昇させたのはポ

ーリングの第 2法則より高価数イオンの方が結合強度が高くなるためと結論付けた

耐水性試験結果の外観写真を観るとSP ガラスの SnO 量 le 60 mol 5SZP ガラスおよび

S5ZP ガラスの P2O5量 = 40 molの組成についてガラスサンプルの形状が大きく変化して

おりDR 重量減も高く耐水性の低さが明らかであった得られた析出物はSnP2O7

Sn2P2O7 Sn3(PO4)2 および亜鉛リン酸結晶の一種であると予想されたその他の組成では

透明性の失われた組成がいくつかあったが外観写真では変化が見られなかった FP ガラス

と 65S5N28P 65Sn-5Nb-30P のガラスが DR重量減がともにゼロという結果が得られた

組成と耐水性に関してはDRおよび重量減がOP増加で単調に低下した結果が得られた

つまり耐水性を改善させる有効な手段はSP 系ガラスのガラス化範囲を拡大かつ OP を

増大させる第三成分の添加によることであることが示唆された

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21

Fig 21 三成分系 SnO-NbO25-P2O5 系のガラス化範囲

Fig 22 作製した Sn-Nb-P ガラス

(a)50Sn-5Nb-45P (b)55Sn-5Nb-40P (c)60Sn-5Nb-35P

(d)65Sn-5Nb-30P (e)70Sn-5Nb-25P (f)60Sn-10Nb-30P

(g)55Sn-20Nb-25P (h)60Sn-15Nb-25P (i)65Sn-10Nb-25P

22

Fig 23 三成分系 SnO-ZnO-P2O5系のガラス化範囲

Fig 24 作製した SZP ガラスの一例

(気泡や脈理のようなものが確認できた組成)

23

Fig 25 SP SZP ガラスの作製フローチャート

Fig 26 Sn-Nb-P SNP ガラスの作製フローチャート

(気泡や脈理のようなものが確認できた組成)

24

Fig 27 FP ガラスの作製フローチャート

Fig 28 耐水性試験(MCC-1法)

25

Table 21 各ガラスの組成分析結果

26

Fig 29 Sn-Nb-P ガラスのメスバウアースペクトル

Table 22 Sn-Nb-P ガラスのメスバウアーパラメーター

27

Fig 210 FP ガラスのメスバウアースペクトル

Table 23 FP ガラスのメスバウアーパラメーター

28

Table 24 各ガラスの物性(密度(ρ)ガラス転移温度(Tg)溶出速度(DR)重量減())

29

Fig 211 SP ガラスの耐水性試験前後の外観写真

Fig 212 Sn-Nb-P ガラスの耐水性試験前後の外観写真

30

Fig 213 SNP ガラスの耐水性試験前後の外観写真

Fig 214 S5ZP ガラスの耐水性試験前後の外観写真

Fig 215 5SZP ガラスの耐水性試験前後の外観写真

31

Fig 216 FP ガラスの耐水性試験前後の外観写真

32

Fig 217 SP ガラスの XRD パターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

33

Fig 218 Sn-Nb-P ガラスの XRD パターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

34

Fig 219 SNP ガラスの XRD パターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

35

Fig 220 5SZP ガラスの XRDパターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

36

Fig 221 S5ZP ガラスの XRDパターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

37

Fig 222 FP ガラスの XRD パターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

38

Fig 223 各ガラス系の DR と OP の関係性

39

Fig 224 各ガラス系の重量減と OP の関係性

40

第 3章 分光法を用いたスズリン酸塩系ガラスの構造解析

31 緒言

前章ではSP ガラスおよび第三成分に Nb2O5 ZnOを添加した Sn-Nb-P ガラスSNP ガラ

スSZP ガラスの物性特に耐水性に関する第三成分添加の有効性を明らかにしたその添

加した第三成分の二種類についてもNb2O5 の方が ZnO よりも溶出速度重量減ともに抑

制することができSP ガラスの低ガラス転移温度という特性も維持されていることが判明

したしかし現段階では本研究の主要な物性である耐水性改善の要因が明確になって

いない組成の観点からはOP の値が高い組成が良好な耐水性であることが分かったが

組成だけでは耐水性改善のメカニズムについて完全には理解できないここでリン酸塩

ガラスの溶出のメカニズムは第 1 章で述べたように加水分解反応と水和反応が要因とな

る[1 2]この機構はそれぞれリン酸の構造つまり架橋酸素 BO の数が大きく関わって

おりリン酸アニオンの[PO4]ユニットの架橋酸素数を知ることが重要であるこの BO の

情報を得るためにはガラス構造を示す指標の一つである Qn(n は[PO4]ユニット中の架橋

酸素数を表す)を調べることが必須であるまたQn の分布を調べるためにはガラスの

構造解析を行う必要性がある

ガラスの構造解析には種々の方法があり特にラマン分光法や赤外(IR)分光法核

磁気共鳴法(NMR)などの分光学的手法を用いた構造解析の報告が多い[3-5]ラマン分光

法および IR分光法は原理は異なるがどちらも結合の振動モードを測定する手法であり[6]

リン酸塩ガラスだけでなくケイ酸塩ガラスホウ酸塩ガラスなど様々なガラス系にて測

定がなされている[7 8]また得られた結合状態の情報からリン酸塩アニオンの Qn分布

を調べることも可能であるNMR は共鳴吸収ピークの化学シフト(共鳴周波数のズレ)

から構造を決定する手法であるガラスの場合SiO2や B2O3 P2O5といった網目形成酸化物

の Qn分布を得るために一般的に使用されている手法である[9]

今回これらの測定の中でラマン分光法を選択し構造解析を行ったラマン分光法は

測定する際にサンプル形状を気にすることなく基本的にそのまま測定できるためIR 分

光法のようにサンプル形状で測定方法を変える必要はないまたIR 分光法では例えば

KBr 錠剤法やヌジュール法のように測定を行うためのサンプル調整に手間がかかる場合が

ある[6]さらに比較対象の FP ガラスではNMR を測定できないため作製ガラスを全

て比較検討できるようにラマン分光法を選択した

本章ではラマン分光法を用いて各ガラスの構造解析を行い[PO4]ユニットの Qn分布を

調査し平均 BO数 nを算出することで耐水性と構造の関係性を検討したまたラマン

分光法によって得られた Qn分布の妥当性を確認するためにSP ガラスおよび 67S5N28P ガ

ラスの NMRを測定も行い比較した

32 実験方法

41

321 サンプル準備

ラマン分光およびメスバウアー分光の測定では第 2 章で作製した各ガラスのバルク体

を用いたWD試験に使用したサンプルとは別にラマン測定用のサンプルを用意した適

度な大きさ大体 15 cm角程度のサイズになるようにガラスカッターで切断しその後

十分な平滑性を得るために鏡面研磨を施した

322 ラマン分光測定

使用したラマン分光装置は顕微レーザーラマン分光装置(Jasco NRS-5100)を用いた

用いたレーザー波長は 53208 nmであり400 - 2000 cm-1の範囲で測定した

Qn 分布を導くためにピークフィッティングを行いリン酸塩アニオンのラマンバンド

が現れる950 - 1250 cm-1付近および 700 - 750cm-付近の範囲で定量した

323 31P MAS NMR測定

31P MAS NMRの測定は Varian NMR System 500 を用いて32 mmの MASプローブ

202309MHzにて行った測定パラメーターを以下に示すπ4 パルス長さ 14 μs 待ち時間

(pulse delay)10 s 積算回数 3600 scan シリンダー円筒形状の Zrローターの回転スピード

160 kHz referenceとして二番目の基準物質として使われる NH4H2PO4を使用化学シフト

は85 H3PO4溶液から δ = 10 ppmである

33 結果考察

331 各ガラス系のラマンスペクトル

Figs 31 - 35にラマンスペクトルを示す各ピークは以下の通りに帰属し各スペクト

ル中に該当する構造をピーク位置に示した

1230 - 1260 cm-1 P=O NBO Q

2 [10]

1110 - 1150 cm-1metaphosphate (PO3)

- Q

2 [10]

1030 - 1100 cm-1pyrophosphate (PO35)

2- Q

1 [10]

970 - 1000 cm-1orthophosphate (PO4)

3- Q

0 [10]

920 - 930 cm-1asymmetric (P-O-P) Q

1 [10]

730 - 750 cm-1symmetric (P-O-P) Q

1 [10]

710 - 720 cm-1asymmetric (P-O-P) Q

2 [10]

810 - 820 cm-1Nb-O [NbO4] tetrahedron [11]

900 - 920 cm-1Nb-O isolated [NbO6] octahedron [11]

42

SP ガラスのラマンスペクトル(Fig 31)を見ると50S50P 60S40P ではmetaphosphate

の Q2 構造が支配的であるがSnO 量が増えるにつれてその構造が変化し70S30P では

pyrophosphateの Q1構造と orthophosphateの Q

0構造が共存した構造となっているまたSnO

量の少ない 50S50P および 60S40P において確認されたQ2構造の P=O のピークが見えなく

なっているつまり耐水性と関連して考えるとSnO量が増えるにつれてP-O-P 結合か

ら Sn-O-P 結合に代わり水分子との反応である加水分解反応を妨げる構造に変化している

ことがわかる

Figs 32 33にNb2O5を添加した Sn-Nb-P ガラスおよび SNP ガラスのラマンスペクトル

を示すまずSn-Nb-P ガラスについてNb 無添加の 65Sn-0Nb-35P は主に Q1構造であ

りNbO25が添加されることによってQ0構造に変化しQ

1 Q

0構造が共存しているような

ピークが得られた添加量が少ないガラス系であるため徐々に変化しているのを確認し

た800 cm-1を少し越えた 810 - 820 cm

-1付近にNb2O5を添加することでピークが現れそ

して添加量を増量することで強度が強まるピークがありこのピークは四面体の[NbO4]

のものと判断した

SNP ガラスのラマンスペクトルについてはNb2O5添加量を固定した組成であるためSP

ガラスのような挙動が観察された50S50N45P では50S50P ガラスと同じようにQ2構造

が主な構造でありSnO量の増加に伴って60S5N35P Q1構造67S5N28P Q

0構造に支配

的な構造が変化しているこれはSP ガラスと同じ傾向を示しているためP-O-P rarr Sn-O-P

に置き替わっていることが示唆されるNb-O に関するピークでは50S5N45P のみ[NbO4]

四面体のピークを確認できず900 - 920 cm-1付近に[NbO6]八面体のピークが確認された

SnO量が増量した 60S5N35P では810 cm-1付近の [NbO4] 四面体のピークが現れているが

[NbO6]八面体のピークと 900 - 920 cm-1付近の Q

1構造のピークが非常に近い(ほぼ重なって

いる)ことから60S5N35P については[NbO4] 四面体および[NbO6]八面体の共存の可能性

も考えられるまた67S5NP28 では[NbO4] 四面体のみのピークが観察されたためこ

の Nb-O の配位数変化は[PO4] unitの状態によって変化している可能性も示唆された

ZnO を添加した S5ZP ガラスおよび 5SZP ガラスのラマンスペクトルを Fig 34 に示す

図の下部三つが S5ZP ガラス上部三つが 5SZP ガラスのスペクトルであるSZP ガラスの

二系統を比べるとあきらかなスペクトルの違いが確認された各ガラス系で確認すると

SnO 量が最小の 55S5Z40P はQ2構造と Q

1構造の範囲に跨っているようなスペクトルが得

られた62S5Z33P および 65S5Z30P のスペクトルからはどちらもほぼ Q1構造であると判

断した5SZP のスペクトルは1000 - 1250 cm-1付近の範囲で裾を引くような(なだらかな)

スペクトルが得られたZnO 量が最小の 5S55Z40P にはQ2構造が主な構造に見えるが

shoulderピークのような Q1構造(1030 - 1100 cm

-1)が確認できる5S62Z40P においては

1000 - 1250 cm-1付近の範囲まで幅広いスペクトルが得られた730 - 750 cm

-1付近にピーク

が現れているためおそらく Q1構造が最も多く存在していると考えられる65S5Z30P では

Q1構造Q

0構造が共存しているようなピークが得られた

43

FP ガラスのラマンスペクトルを Fig 35 に示すFe量の少ない 20F80P 25F75P と他の三

つで構造が異なっていることである20F80P 25F75P はQ2構造と Q

1構造が基本構造にな

っていると判断できる 30F70P は1110 - 1150 cm-1付近に shoulderピークのようなものがあ

りQ2 Q

1 Q

0構造が共存しているようなスペクトルであった35F65P 40F60P はQ1構造

が主な構造でQ0構造があると判断した

332 平均 BO数 n (Qn分布)

まずピーク分離について散乱断面積が見積もれなかったためラマンの散乱強度比

を Qn分布として簡易的にピーク分離を行い(Fig 36)そこから平均架橋酸素数 BO 数 n

を算出したここでFig 37 に 31P MAS NMRスペクトルを示しTable 31に NMRおよび

ラマン分光より得られた平均 BO 数 n を示す(NMR の帰属 reference [12])表よりNMR

とラマンから得られた Qn分布はほぼ一致していることが分かった60S40Pについては支

配構造が NMR(Q1) ラマン(Q

2)で逆になったこれは60S40P の組成がQ

2と Q1のほぼ中

間の組成になるためこのようなズレが生じたと考えられるしかし今回のラマンによ

る Qn分布の算出についてはほぼ問題ないと判断した

Table 32にラマンスペクトルより求めた Qn分布平均 BO 数 nをを示しTable 24に示

した DR 重量減の結果を併記する

SP ガラスのうち耐水性が低いガラスは Q2構造によって形成されているSnO量の増加

によって NBOの増加とともに耐水性の向上が確認できSnOが入ることでSn-O-P 結合を

形成し水分子からの攻撃を受けにくくなっていることが考えられる

Sn-Nb-P ガラスでは基本的に Q1構造が主構造でNb2O5の添加が増えるにつれQ

0構

造が支配的になり耐水性は次第に向上していく最も耐水性のよかった 65S-5Nb-30P は

Q0構造での割合が非常に高く平均 BO数 n値が 03であった

SNP ガラスではP2O5量が多い組成の 50S5N45Pにおいても平均 BO数 nが 60S40P と

同じながらも耐水性が良くなっている67S5N28P はほぼ完全に Q0構造であり平均 Q

n

値は 0となった

SZP ガラスについてはS5ZP 5ZSP のどちらの系列についても耐水性の結果に大きな差

というものは確認されなかったが構造的にも平均 BO数 nが 09 10 17という結果であ

った

FP ガラスについてはFe2O3 lt 30 molのときは平均 BO 数 nが20 19と高い数値を

示したが耐水性は非常に良好であったこの結果より組成だけでなく構造的にも耐

水性高くなる要因が不明である一つの原因の可能性としてメスバウアーより得られた

Fe2+の存在比が 40以上と高かったことがFe2O3含有量が少ない組成時には効果的になっ

ているのかもしれない

333 平均 BO数 nと耐水性の関係性

44

Fig 38に DRと平均 BO数 nの関係性についてFig 39に重量減と平均 BO数 nの関係

性をそれぞれ示すまたOP の時と同様に各図にリン酸塩の三つの構造の平均 BO数

n も表記した双方の図よりDR 重量減共に平均 BO 数 nが低下することで単調に下がっ

ていることが分かるまた耐水性の良かったNb2O5添加の Sn-Nb-P SNPガラスはの DR

の挙動(傾き)はOP 時とも異なった挙動が得られた

Fig 310に OP と平均 BO数 nの関係を示す図中に示す茶色metaphosphate 黄色

pyrophosphate 灰色orthophosphate であるこの図から耐水性改善には平均 BO 数

n を下げOP を上げることが重要であるのが分かるまたNb5+の添加はOP を上げる

だけでなく平均 BO 数も減少させることから非常に効果的な成分であることが明らかで

あるこれはP5+から同酸価数 Nb

5+に少量でも置き換えることで平均 BO 数 n を下げ

OP を上げることを可能としている(実際に orthophosphate の OP4 よりも高い OP でガ

ラスが作製できている)つまりNb5+の添加によって P-O-P 結合が減少し水和反応加

水分解反応が抑制されているからである

以上の結果SP 系ガラスの耐水性改善には低い平均 BO 数と高い OP の組成にするこ

とが重要でNb2O5の添加は非常に効果的であることが分かったその一方でガラス中の

詳細な構造的要因についてははっきりしていないため次章の第 4 章にてさらに詳し

い構造解析を行い耐水性改善の要因について調査を行った

34 結言

本章ではラマン分光を使用して各ガラス系のリン酸塩アニオンの構造を簡易定量で

評価し組成と構造の関係について考察した

平均 BO 数 n と耐水性に関してはDR および重量減が平均 BO 数 n の減少で単調に低下

した結果が得られた

平均 BO数 nと OP の図より耐水性改善には平均 BO数 nを下げることそして OP

を上げることが重要であることが明白であった

Nb5+の添加は平均 BO数を減少させるだけでなくOP も上げることからガラス構造内

の P-O-P 結合を減少させる故に水和反応加水分解反応が抑制され耐水性が大幅に

改善された故にNb2O5 のような高価数金属酸化物を添加することが効果的であること

が示唆された

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[4] T M Alam B C Tischendorf and R K Brow Solid State Nucl Magn Reson 27 99-111

45

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[5] H Takebe Y Baba and M Kuwabara J Non-Cryst Solids 352 3088-3094 (2004)

[6] 服部敏明 綾瀬守 川口建 吉野明広編機器分析ナビ 化学同人(2006)

[7] K H Min and T Suzuki 旭硝子研究報告 59 29-33 (2009)

[8] I Waclawska and M Szumera J Therm Anal Calorim 101 423-427 (2010)

[9] 中井利仁 NEW GLASS 28 [109] 17 -2 8 (2013)

[10] I O Mazali L C Barbosa and O L Alves J Mater Sci 39 1987-1995 (2004)

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[12] D Holland A P Howes M E Smith and A C Hannon J Phys Condens Matter 14

13609-13621 (2002)

46

Fig 31 SP ガラスのラマンスペクトル

47

Fig 32 Sn-Nb-P ガラスのラマンスペクトル

48

Fig 33 SNP ガラスのラマンスペクトル

49

Fig 34 SZP ガラスのラマンスペクトル

50

Fig 35 FP ガラスのラマンスペクトル

51

Fig 36 ラマンスペクトルのピーク分離例(67S5N28P)

Raman Shift (cm-1)

52

Fig 37 NMRスペクトル

Table 31 NMR およびラマン分光より得られた SP 67S5N28P ガラスの

Qn分布および平均 BO数 n

53

Table 32 各ガラスのラマンスペクトルより求めた Qn分布結果

(表の赤線より右側の結果は Table 22 より)

1 仕込み組成による数値

2 Fig 2212 に示した析出物を取り除いた後の数値

54

Fig 38 DR と平均 BO数 nの関係性

55

Fig 39 重量減と平均 BO数 nの関係性

56

Fig 310 OP と平均 BO数 nの関係性

Meta

Pyro

Ortho

57

第 4章 放射光を用いたスズリン酸塩系ガラスの構造解析

41 緒言

前章の第 3 章にてラマン分光法を用いて SP 系ガラスの構造解析により Qn分布を導き

出したことで耐水性と構造の関係についてある程度関連性を導くことができたリン

酸アニオンについてはQ0(orthophosphate)構造 gt Q

1(pyrophosphate)構造 gt Q2

(metaphosphate)構造の順で良耐水性となるしかしSn Nbおよび Znの局所構造につ

いては知見が得られていないラマン分光や IR分光などの分光学的手法を用いてSnや

Nb Zn の周辺の局所構造を知るには限界があるまたガラスの構造解析を行う上で非常

に重要な因子である中距離構造の評価には分光学的手法は不向きである[1]

そこで局所構造や中距離構造を知るために有効な手法として放射光線を用いた構造

解析がある放射光(SR 光)とはシンクロトロンなどの加速器で高速に加速された電子

が進行方向を磁場によって変えられた際に放射する電磁波である[2]エネルギーが高く

(短波長)輝度が高い特性を有している日本国内では兵庫県佐用町の SPring-8や茨城

県つくば市の高エネルギー加速器研究機構佐賀県鳥栖市の佐賀県立九州シンクロトロン

光研究センターなど複数個所に放射光施設が設置されている

放射光を用いたガラスの構造解析には一般的に高エネルギーX 線回折(High Energy

X-ray diffraction HEXRD)が用いられるこの回折実験から高い散乱ベクトル Q(= 4π sinθλ)

まで回折データが得られる多種類の原子から構成される物質の場合はFaber-Ziman 型[3]

の構造因子 S(Q)を用いる以下の式に示すようにFaber-Ziman 型構造因子 S(Q)は同種また

は異種の原子による相関の重み関数付の和として示される例として SiO2ガラスで説明す

ると構造因子 S(Q)は三種類の原子付の S(Q)の重み付の和として表されていることが分か

I(Q) 散乱断面積 ltgt 原子一個当たりの平均値 f(Q) 原子散乱因子 W 重み関数

通常の研究室で使用される X 線回折(XRD)装置で用いられる特性 X 線はCuKα線(λ

= 0154 nm 81 keV)が最も良く用いられより高いエネルギーの X 線が必要な場合は

MoKα線(λ = 0071 nm 175 keV)が使用される一方でSPring-8のビームライン BL04B2

で行われる高エネルギーX 線回折(HEXRD)測定で使用される SR のエネルギーは378 keV

58

~ が使用可能である[2]従ってガラス以外の液体のような非晶質物質にも非常に精度

よく構造解析が行われている[4]

また局所構造解析の一つに X線異常散乱法という測定方法がある[5 6]これは通常

の X 線回折実験では分離不可能な特定元素に関連する部分構造因子(散乱強度曲線)を得

ることができる手法である今回 HEXRD の測定時に使用したエネルギー614 keV では各元

素の異常散乱項のエネルギー依存性は確認されない(Fig 41)その一方でFig 42に示す

Sn の吸収端付近の 292 keV付近ではSnの異常分散項のエネルギー依存性が確認できる

つまりSnの吸収端近傍より低エネルギー(E)側の異なるエネルギーの X線(E1 E2)を

使って散乱強度を測定し各 E における異常分散項(f`)の変化(つまり高い E1 から低い

E2 の散乱強度の差分)を利用して Snに関する部分構造因子を求める構造解析が AXS 法で

あるこの測定法は古くから知られている方法ではあるが装置の測定条件や設備の問

題からなどから使用があまり普及していなかった[5 6]近年になり金属ガラスの構造解

析について徐々に報告が出てきており今後注目される測定法である

HEXRD および AXS 法などから得られたデータ実測の構造因子 S(Q)は一次元の限られ

た構造情報であるためガラスなどの非晶質物質の中距離構造を解明するためにはこれ

らのデータを基に三次元構造を求める必要がある三次元構造モデルの作成には逆モンテ

カルロ(RMC)シミュレーションを使用することが有効である[7]このシミュレーション

は任意で決めたシミュレーションボックス内の粒子をランダムに動かすことで実測の

構造因子 S(Q)を再現する三次元構造モデルを構築する方法である

SP ガラスについては分光学的手法について数多く報告があるが放射光を用いた回折

法はほとんど適用されていないそこで本研究では HEXRD および AXS 法を用いた構造

解析を行うことでSn Nb周りの構造を解明すると共にSNP ガラスの耐水性改善のメカ

ニズムについて考察したまたAXS 法の有効性についても検討した測定を行ったガラ

スはSP ガラスおよび最も耐水性の高かった 67S5N28P を選択した

42 実験方法

421 HEXRD AXS法

HEXRDはSPring-8のビームライン BL04B2 で測定を行ったエネルギー614 keV の X

線を用いた測定サンプルの厚みは09 mm (plusmn0005 mm)になるまで研磨を行った

AXS 測定はSPring-8のビームライン BL13XUを使用した(Fig 43)それぞれの測定し

た X 線のエネルギーについて以下に示す

①Sn K吸収端hellip292 keV near edgehellip291452 keV (-60 eV) far edgehellip289751 keV (-230 eV)

②Nb K吸収端hellip1899 keV near edgehellip189562 keV (-30 eV) far edgehellip187863 keV (-230 eV)

測定に使用したサンプルの厚さが015 - 030 mmとなるまで研磨を施した

SP ガラスについて50S50P 60S40P 67S33P の三組成のガラスを測定した70S30P に関

59

しては測定を試みたが放射光照射によって結晶化してしまいガラス部分の正確な構

造因子を得るための強度補正ができず解析を断念した

422 RMCのモデリング

Table 41 に RMC の各種パラメーターを示す粒子数は約 5000 個でそれに伴う boxの一

辺の長さは約 42 ~ 46 Ǻになった拘束条件にP の配位数が 4になるような条件を付け

加えたFig 44にSn2P2O7結晶および Sn3P2O8結晶の動径分布関数(RDF)をTable 32

にRDFから得られた第一近接距離[8 9] を示すこれらの数値を使用しcutoffを決定し

たNb-O についてはいくつかの文献値を参考にした[10 11]

各ガラスの RMCのモデリングは①HEXRDから得られた S(Q)のみ②S(Q)および AXS

から得られた部分構造因子を加えた場合でそれぞれ計算した

43 結果考察

最初にNbの AXSから得られたデータについて解析を試みたが妥当な構造モデルが得

られなかったためSnの AXSのみで解析を進めたNb2O5の量が 5 molと少量であったた

めあまり精度の高いデータが得られなかったと推測される

431 実測の HEXRDおよび AXSの結果

4311 実測 HEXRDの S(Q)

Fig 45 に実測HEXRDの S(Q)を示す四つの組成ともに実測HEXRDの S(Q)が得られ

Nb2O5添加の 67S5N28P ガラスでは Low Q 側に変化が確認された

4312 実測散乱強度曲線

Fig 46 に Snの散乱強度曲線を示す(a) の 67S33P のこの曲線からはfar edgeおよび

near edge のエネルギー間で差分が見られエネルギーの依存性が確認された50S50P

67S5N28P のガラスについても同じように差分が確認されたが(b)の 60S40P についてのみ

他とは若干異なる結果(緑丸)であったためRMC の構造解析には差分の構造因子ではな

くfar edge near edge 二つの構造因子を用いた

4313 全相関関数 T(r)

Fig 47 に全相関関数 T(r) を示すHEXRD から得られたものを実線でSnの AXS から

得られたものは点線で示し組成ごとに重ねて表示した図中に各ピークについて帰属し

ているがSnの T(r)からはSn-O Sn-P Sn-Snのみのピークを確認した

432 RMCの計算結果および考察

60

構造モデルの一例として67S5N28P ガラスの得られた構造モデルをFig 48に示す水

色の多面体 unitSnON 黄色の多面体 unitPO4 ピンクの多面体 unitNbONである以下

詳細な構造解析の結果および考察を記す

4321 RMCのフィッティング結果

RMCのフィッティング結果の一例として67S33P の HEXRD と Snの AXS の構造因子か

ら得た結果を示す(Fig 49)二つの構造因子を加えて計算した結果においてもHEXRD

の S(Q) AXS の S(Q)に各々に対する良好なフィッティング結果が得られた他の組成も

同様なフィッティング結果が得られた

4322得られた各 pairの平均配位数平均角度平均結合距離

RMCの結果によって得られた各 pairの平均配位数平均角度平均結合距離を Tables 43

に示す上段が HEXRD の S(Q)のみ下段が HEXRD に Sn の AXS の部分構造因子を加え

て結果である最下部は比較のためにSn2P2O7の情報を記載した[8]

P-O pairについてRMCモデル中の PON多面体に関して平均配位数 Nが 4および P-O

の平均結合距離が約 160Å平均結合角度angO-P-O が約 109degという結果が得られた組成

による大きな違いは確認されなかったのはP の配位数が 4になるように拘束条件をかけた

結果であると考えられるSnON多面体についてはSnO量の増加 = OP の増加であり平

均配位数 Nが 3 ~ 35へ増加した平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約

22Åで組成による大きな変化はほとんど見られなかったNb2O5を 5 mol添加したガラ

スではNbON多面体の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平均配位数 N約 4Nb-O 平均結

合距離約 20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O(約 105deg)と値が近いこと

また6配位ではなく 4配位として主に存在していることからSnO と同じような働きをし

ていると推測される

以上の結果からNb2O5添加の耐水性改善の要因として結合距離が Sn-O が約 22Åに対

し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強固にして

いることも一つの要因として考えられる

また67S5N28P ガラスの各多面体モデルを確認すると(Fig 410)P は PO4Snは SnO4

と SnO3Nbは NbO4をそれぞれ再現している

4323得られた各 pairの結合様式

RMC の結果により得られた各 pair の結合様式を Tables 44 に示す上段が HEXRD の

S(Q)のみ下段が HEXRDに Snの AXS の部分構造因子を加えた結果である最下部は比

較のためにSn2P2O7の情報を記載した[8]

結合様式に関してはPO4四面体は他の多面体も含めてほぼ頂点共有で存在している

SnON多面体についてはSnO 量が少ない配位数が 3 に近い場合頂点共有以外の共有の

61

割合も多くSnO 量が増えるにつれて頂点共有が主になり網目形成体として振舞ってい

ると考えられる組成によって平均結合距離や平均角度の大きな変化が見られなかったこ

とから平均配位数が結合様式を決める重要なファクターであるということも考えられる

またHEXRD と AXS 法の結果がほぼ同じであったこれは主成分が SnO のガラスであ

るためHEXRDでも十分に詳細な構造が得られたため大きな変化が現れなかったと考え

られるNbON 多面体はPO4 四面体と SnON 多面体とはほぼ頂点共有で繋がっている以

上の結果よりSnO量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体的に各多面体同士の

頂点共有が増えていることから耐水性の改善には頂点共有を多く含む構造であること

が重要である或いは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的となって

いるということが推測されるFig 411に 67S5N28P ガラスの構造モデルを示す各多面

体はほぼ頂点共有で繋がっていることが確認できる

4324 平均 BO数の比較

Tables 45にNMR Raman RMC(HEXRD) RMC(HEXRD + AXS)の平均BO数を示すRMC

から得られた平均 BO 数 nはNMR Raman と同様に Nb2O5の添加による大幅な減少が確認

されたしかしNMR Raman と比較すると全組成において数値が大きすぎで適当でない

50S50P の構造モデルを観るとPO4四面体間で3配位 O の存在が確認された(Fig 412)た

め実測で得られた n値を再現できるようなPO4四面体モデル間の繋がり方に関する拘束条

件を加えて RMCを計算する必要性があるまた仮に3配位 Oの存在があるとすると電

子状態の変化が生じていることがと示唆されるため分子軌道計算を用いて電子状態解析

を行い確認する必要がある

4325 耐水性の改善について

Nb2O5を添加のガラス構造への影響について①6配位ではなく 4配位として主に存在し

ていることからSnO と同じような働きをしていると推測される②結合距離が Sn-O が約

22Åに対し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強

固にしている③ガラス構造中で全体的に各多面体同士の頂点共有が増えている以上の

ことが判明した以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性

耐候性を改善した要因として考えられる

44 結言

本章では分光学的手法では評価できないガラスの中距離構造局所構造について理解

するために放射光を用いた構造解析を実施しSP ガラスの構造と耐水性改善について考

察したHEXRDおよび AXS法を用いて測定を行い得られたデータを RMCシミュレーシ

ョンにて解析を行った

解析の結果 Sn-O pair については平均配位数 Nが 3 ~ 35でSnO量の増加 = OP の増

62

加に伴い高くなった平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約 22Åであ

ったP-O Sn-Oについては組成による大きな変化はほとんど見られなかった67S5N28P

ガラスの Nb-O pair の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平均配位数約 4Nb-O 平均結合距

離約 20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O(約 105deg)と値が近いことま

た6配位ではなく 4配位として主に存在していることからSnOと同じような働き(網目

形成体)をしていると推測されるまた結合距離が Sn-O が約 22Åに対し Nb-O は約 20

Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強固にしていると言える

SnO 量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体的に各多面体同士の頂点共有が増え

ていることから耐水性の改善には頂点共有を多く含む構造であることが重要である

もしくは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的であることが推測さ

れる以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性耐候性を

改善した要因として考えられる

またAXS 法の有効性についても確認し効果的であることが判明したただし今回

は主成分が Sn の組成のガラスでありHEXRD でも十分に詳細な構造が得られたため

大きな差は現れなかった

参考文献

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63

Fig 41 各原子の異常分散項のエネルギー依存性

Fig 42 Sn の異常分散項のエネルギー依存性

64

Fig 43 SPring-8の BL13XU

65

Tab

le 4

1

RM

Cの各パラメーター

66

Fig 44 Sn2P2O7 Sn3P2O8結晶の RDF

Table 42 Sn2P2O7 Sn3P2O8結晶の各 pairの第一近接距離

67

Fig 45 得られた実測 HEXRDの S(Q)

68

Fig 46 Sn の異常散乱測定により得られた散乱強度のエネルギー依存性

(a)67S33P (b)60S40P

69

Fig 47 全相関関数 T(r)

太線 HEXRD より

細線 Sn の AXSより

70

Fig 48 67S5N28P ガラス構造のモデル

71

Fig 49 RMC フィッティングの結果

72

Tab

le 4

3 各

pairの平均配位数角度結合距離

73

Fig

4

10

67

S5

N2

8Pガラスの各多面体モデル

74

Tab

le 4

4 各

pairの結合様式

75

Fig 411 67S5N28P ガラスの構造モデル

76

Table 45 平均 BO 各数 nの比較

Fig 412 50S50P ガラスの構造モデル

77

第 5章 総括

本研究ではSP ガラスを対象とした本研究では鉛フリー代替ガラスまたは希土類フ

リー蛍光体として SP ガラスの新規高機能化を将来的に目指し問題点であるldquo化学的耐久

性rdquoの改善につながる知見を得ることを目的としたそこでまずSP ガラスを母体ガラ

スとし第三成分に Nb2O5を添加した Sn-Nb-P SNP ガラスZnO を添加した SZP ガラスを

作製し耐水性を中心とした物性評価を行った次に分光学的手法で構造解析を行い

Qn 分布を導き出した最後に放射光を用いた構造解析を行い耐水性改善に関する構造的

な考察を行った以下に本研究で行った検討内容を示す

(1)SPガラスおよび第三成分Nb2O5 ZnOを添加した三成分系SPガラスの物性評価(第 2章)

(2)SP 系ガラスの分光学的手法による Qn分布導出(第 3章)

(3)放射光を用いた SP 系ガラスの構造解析構造と耐水性改善の関連について(第 4章)

各章についてまとめた結果を以下に示す

第 2章

第 2章では二成分系および三成分系のリン酸塩系ガラスの各種物性(密度や熱的特性

耐水性)の評価を行った二成分系ではSP ガラスに加え良好な耐水性を有する鉄リン

酸塩(Fe2O3-P2O5)系ガラス(以下 FP ガラス)を比較のために三成分系では二成分系

の SP ガラスに Nb2O5を添加したニオブ含有 SP ガラス(SNP ガラス)および ZnO を添加し

た亜鉛含有 SP ガラス(SZP ガラス)を作製した

今回作製した SP 系ガラスは低ガラス転移温度を有していた各組成の温度域はSP

ガラスTg le 280 Sn-Nb-P SNPガラスTg le 3505SZP S5ZPガラスTg ≦ 450であった

各種 SP ガラスの耐水性試験の結果二成分系の SP ガラスよりも三成分系ガラスの方が

良好な耐水性を有していた65Sn-5Nb-30P 67S5N28P ガラスが最も耐水性が良好であり化

学的耐久性の改善には Nb2O5が ZnOよりも効果的であった

組成と耐水性に関してはDRおよび重量減がOP増加で単調に低下した結果が得られた

つまり耐水性を改善させるにはSP 系ガラスのガラス化範囲を拡大かつ OP を増大させ

る第三成分の添加が有効であることが示唆された

第 3章

第 3章ではSP 系ガラスの分光学的手法による Qn分布の導出を行ったラマン分光法を

用いて各ガラス系のリン酸塩アニオンの構造を簡易定量で評価し組成と構造の関係に

ついて考察した平均 BO 数 n と耐水性に関してはDR および重量減が平均 BO 数 nの減

少で単調に低下することが明らかとなった

平均 BO 数 n と OP の関係より耐水性改善には平均 BO 数 n を下げることそして

OP を上げることが重要であることが明らかになった

78

Nb5+の添加は平均 BO数を減少させるだけでなくOP も上げることからガラス構造

内の P-O-P 結合を減少させ水和反応加水分解反応が抑制され耐水性が大幅に改善さ

れることが示唆された故にNb2O5 のような高価数金属酸化物を添加することが効果的

であることが再度確認された

第 4章

耐水性向上についてより深く評価するためSP SNP ガラスの局所構造に関する知見を得

ることを目的に放射光を用いた構造解析を行った高エネルギーX 線回折(HEXRD)お

よび X 線異常散乱(AXS)法で測定したデータを再現する構造モデルを逆モンテカルロ

(RMC)シミュレーションで構築し構造解析を行った

RMC モデル中の PON多面体に関して平均配位数 Nが 4および P-O の平均結合距離が約

160Å平均結合角度angO-P-Oが約 109degという結果が得られた組成による大きな違いは確

認されなかったSnON多面体については平均配位数 N が 3~4 でSnO 量の増加に伴い 4

に近い値となった平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約 22Åで組成

による大きな変化は見られなかった

Nb2O5を 5 mol添加したガラスではNbON多面体の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平

均配位数N約4Nb-O平均結合距離約20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O

(約 105deg)と値が近いことまた6配位ではなく 4配位として主に存在していることから

SnO と同じような網目形成体として働いていると推測されたまた結合距離が Sn-O が約

22Åに対し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強

固にしていると考えられるまたSnO 量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体

的に各多面体同士の頂点共有が増えていることから耐水性の改善には頂点共有を多く

含む構造もしくは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的であること

が示唆された以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性

耐候性を改善した要因として考えられる

またAXS 法の有効性についても確認し効果的であることが判明したただし今回

は主成分が Snの組成のガラスでありHEXRD でも十分に詳細な Snの周辺構造が得られ

たためAXSを利用した場合との大きな構造の差は認められなかった

本研究では様々な優れた特徴を有する SP ガラスにおける耐水性改善のメカニズムにつ

いて検討を行ったこの系のガラスについてはこれまでほとんど利用されていなかった

放射光を用いた構造解析を駆使し第三成分の添加によってどのような構造的変化が生じ

耐水性を改善させるか新たな知見を得ることができた最終目標である機能性ガラスの

開発における新たなる材料設計指針の確立に対してldquo耐水性rdquoに関しては概ね明らかにな

ったと考えられる一方で今回検討していな電子状態化学結合性についても評価する

ことで溶出メカニズムの解明が可能になり材料設計指針の確立が期待される

79

発表論文リスト

口頭発表

第 2章および第 3章

(1) SnO-P2O5 系ガラスへの酸化物添加効果

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎

日本セラミックス協会第 25 回秋季シンポジウム No3C06 (名古屋市 2012年 9月)

(2) Effect of Nb2O5 addition to SnO-P2O5 glass (Poster)

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

International Union of Materials Research Societies International Conference on Electronic

Materials IUMRS-ICEM 2012 A-9-P26-003 (Yokohama 2012 年 9月)

(3) スズリン酸塩系ガラスの蛍光特性耐水性に及ばす酸化物の添加効果(ポスター)

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎

日本セラミックス協会 2013 年年会 1P070 (東京 2013年 3月)

第 4章

(1) 放射光を用いたスズリン酸塩ガラスの構造解析

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎小原真二臼杵毅

日本セラミックス協会第 27 回秋季シンポジウム 2B22 (鹿児島市 2014年 9 月)

(2) Structural analysis of tin phosphate glasses by synchrotron radiation (Poster)

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba Shinji Kohara Takeshi Usuki

International Congress on Glass ICG Annual Meeting Bangkok 2015 P14-138 p186 (2015)

発表論文

(1) Effect of Nb2O5 addition to SnO- P2O5 glass

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

Journal of the Ceramic Society of Japan Vol 120 No 11 pp530-533 (2012)

(2) Structural analysis of SnO- P2O5 glass

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

Journal of the Ceramic Society of Japan(準備中)

80

謝辞

本研究を遂行するにあたり終始暖かいご指導ご助言並びにご鞭撻を賜わりました岡

山大学大学院環境生命科学研究科 難波徳郎教授に心より感謝の意を表します

また本研究を遂行するにあたり懇切丁寧なご指導とご意見をしていただいた岡山大

学大学院環境生命科学研究科 紅野安彦准教授環境環理センター 崎田真一助教に心より

感謝いたします

本研究を遂行するにあたりラマン分光測定の使用についてご助言ご教授して頂い

た岡山大学自然科学研究科 藤井達生教授中西真助教に心より感謝の意を表します

Sn のメスバウアー測定の際に協力して頂いた岡山大学自然科学研究科先端自然科学教

育研究推進本部高田研究室 松本修治特任助教(当時旭硝子株式会社中央研究所)また

Feのメスバウアーを測定の際に協力して頂いた岡山大学自然科学研究科 藤井達生教授に

心より感謝の意を表します

固体 NMR の岡山大学自然科学研究科 早川聡教授に心より感謝の意を表します

本研究を遂行するにあたりSPring-8 にてHEXRD および AXS 法の測定法および原理

についてご教示頂きました物質材料研究機構 小原真司博士ならびに山形大学 臼杵毅

教授に心より感謝の意を表します

本研究は多くの後輩諸君の協力によって遂行されました特に実際に共同研究共同

実験を遂行して頂いたOG 藤原沙弥香さん博士前期課程 2 年 東利彦君OB 徳岡太誠

君学士課程 4年 塩田将大君に心より感謝の意を表しますまた難波研究室で共に研

究生活を過ごした卒業生在学生の方々に感謝の意を表します

また同時期に博士後期課程に在籍された香川高等専門学校の桟敷剛さんにはNbに

関する有益な情報だけでなく辛い状況でも励ましを頂きました心より感謝の意を表し

ます

最後に長きに渡る学生生活を認め経済面だけでなく精神面でも支援してくださった

家族に心より深く感謝の意を表します

平成 28年 3月

福井 聡史

Page 18: 博士論文 スズリン酸塩系ガラスの物性と構造解析ousar.lib.okayama-u.ac.jp/files/public/5/54353/...博士論文 スズリン酸塩系ガラスの物性と構造解析

15

た(FP ガラス)組成はxFe2O3∙(100-x)P2O5 x = 20 25 30 35 40 mol を作製した

222 ガラス作製

Figs 25 - 27に各ガラス系の作製フローチャートを示す出発試薬にSnO NH4H2PO4

Nb2O5 ZnO を使用し各々秤量した秤量混合後アルミナ坩堝に入れか焼(仮焼き)

を行ったか焼条件はSP Sn-Nb-P SNP SZP ガラスは350または 400 6-30 minFP ガ

ラスは600 30 min で行った溶融温度および溶融時間はSP ガラス1100 30 min

Sn-Nb-P ガラス1100 30 minSNP ガラス1000または 1250 20 min SZP ガラス

1100-1200 30 min 各々N2雰囲気下で作製したN2雰囲気下で行った理由はSn2+が Sn

4+

にほとんど酸化されてしまうとガラスが得られなくなるためSn2+の酸化を防ぐ目的がある

[19]FP ガラスは1200 - 1550 30 min大気雰囲気下の条件で作製した溶融後350

に温めておいたスチールモールドに流してプレスした後FP ガラス以外はガラス転移温度

Tg付近でアニールを 1 h行い目的のガラスを得た耐水性試験用のガラス形状はダイヤモ

ンドカッターで大まかに整えた後鏡面研磨まで施して型取ったここでFP ガラスのみ

アニール工程を省いた理由はSP ガラス等はアニールをして歪みを取らなければ正確に

切断できない場合が生じた一方でFP ガラスはアニールをせずとも十分正確にカットで

きたためアニール工程を省いたまた50S50P のみ厚みが必要になると必ず気泡が入

ってしまうため耐水性試験では気泡の入ったものを使用した

223 物性評価

得られたガラスの物性の比較を行うために以下に示す分析を行った

(1)ガラス状態の確認

作製したガラスが結晶の混在していないものかを確認するためにまた耐水性試験

後のガラスが結晶化しているかの確認のためにX 線回折装置(XRD Rigaku RINT-2100)

を用いて分析した全てバルク体で測定したが耐水性試験後ではバルク状態が保てな

いものもあったためその試料については粉末で測定した

(2)組成分析Sn Fe 価数分析

得られたガラスについてアルミナ坩堝の使用によるアルミナのガラスへの混入および

それに伴う組成ズレの確認のために走査型蛍光 X 線分析装置(XRF Rigaku ZSX Primus

Ⅱ)を使用し組成分析を行った分析はバルク体で定性分析法にて測定した

またSn が二価のままどのくらい存在しているかを調べるために Sn-Nb-P ガラスを用い

てSnの価数分析をメスバウアー分光法にて行ったSnの測定は reference [20]に示す旭硝

子の公開特許に記載されている方法で行ったFP ガラスについても価数変化を調べるた

めにメスバウアー分光法にて Feの価数分析を行ったFeの測定は(株)トポロジック

システムズ MDF-200)を用いて評価を行った

16

(3) 密度(ρ)およびガラス転移温度(Tg)評価

各ガラスの密度(ρ)測定はケロシンを用いたアルキメデス法で測定したガラス転

移温度(Tg)を評価するために示差熱―熱重量測定装置(SDT TA instrument Japan Q600)

を用いたアルミナパンを使用し測定条件はN2雰囲気下 10 Kmin 700までの温度範

囲にて行った

(4)耐水性試験

各ガラスの耐水性について評価するために耐水性試験をMCC-1法[21]にて測定した(Fig

28)条件は75 72h ガラスサイズ 12times10times02 cm (plusmn01 cm) 蒸留水の pH は 72-77

で行い浸漬後サンプルを乾かして重量を量った溶出速度(Dissolution Rate DR)は重

量減(ΔW) サンプル表面積(S) 浸漬時間(t)から以下の式によって算出した[22]

DR = ΔW (kg) S (m2) t (s)

また浸漬前と 72 h 後の重量減()も合わせて算出した

23 結果考察

231 組成分析 Snおよび Feの価数評価

Table 21に各試料の組成分析結果を示すまずアルミナ Al2O3の量を見るとガラスに

混入した量がほとんどの組成で 25 mol以下で多くても 35 molを下回る量であった

そのため各種特性についてアルミナの影響はほとんどないと考えられる[23 24]組成

によってその量に差があるのは溶融温度の違いによることに起因している組成分析の

結果今回作製したガラスは仕込み組成と大きな差がないと判断した

Fig 29に Sn-Nb-P ガラスの Snのメスバウアースペクトルをそこから得られたメスバウ

アーパラメーターを Table 22に示す得られた結果よりSn-Nb-P ガラスでは95以上の

割合で Sn2+のまま存在していることが分かった不活性雰囲気で作製したことP2O5 の出

発原料に NH4H2PO4を使用したことにより(か焼は行なっているが)還元雰囲気になったた

めSn4+にほとんど酸化されることがなかったといえるこの結果SP 系ガラスではほぼ

Sn2+のまま存在していると仮定した

Fig 210に FP ガラスの FeのメスバウアースペクトルをTable 23 にそこから得られたメ

スバウアーパラメーターを示すFP ガラスについては組成に関わらず酸化還元平衡に

より 20 ~ 30が Fe2+になりまたFe2O3 ge 30 molの際化学的にも安定であることが知

られている[27]実際にFe2O3 ge 30 molの際Fe2+は概ね 20 ~ 30存在している結果が得

られた一方でFe2O3 lt 30 molの際はFe2+が 40以上と高い割合で存在していることが

判明したこれは出発原料の NH4H2PO4の多量使用によること溶融温度が 1550と高

いことが要因で還元がより進行したためと予想される

17

232 ρおよび Tg

Table 24にρおよび Tgの結果を示す二つの特性結果はそれぞれのガラス系において

SnO や Nb2O5ZnO といった金属酸化物が増えるにつれて大きくなっているSP Sn-Nb-P

SNP S5ZP 系ガラスの Tgはほとんどが 300前後であり最も高い温度でも67S5N28P

の 346であった一方5SZP 系ガラスは400~440となり他のガラス系と比較する

と若干高い温度となったそれでも今回作製した第三成分を添加したガラスは低 Tgを有

するガラスであると判断できSP ガラスの特性を維持できたと判断できる

60S5N28P と 62S5Z30P のようなほぼ同じ OP を示すもので比較した際にNb2O5添加が

ZnO 添加よりも Tgが高くなったのは①配位数が同配位数になり得るイオンの場合(例え

ば Nb5+と Zn

2+なら4配位など)ポーリングの第 2 法則[25]より高価数イオンの方が結合

強度が強くなる②diatomic cationの解離エネルギーがNb-O (688plusmn11 kJmol)[26]に対しZn-O

(1611plusmn48 kJmol)[26]と大きな差があるため Nb-Oの結合が強い故に熱的に安定化され

Tgが高くなったと考えられる

233 耐水性試験前後の外観写真

Figs 211 - 216に各ガラスの耐水性試験前後の外観写真を示すFig 211 の SP ガラスを

観察するとSnO 量の少ない 50S50P 60S40P は浸漬時間が経過するにつれて元々の形状

が崩壊したりガラス自体が膨張したような状態になったりしたSnO 量の多い 67S33P

70S30P について形状は崩れることはないが透明性が失われる(白ヤケ)耐候性が低いこ

とが確認できるFig 212 に示す Sn-Nb-P ガラスではNb2O5無添加の 65S-0Nb-35P は浸漬

時間 24 h で透明性が失われているがNbO25量の増加させていくと徐々に透明性が回復

しており4 mol添加した 65Sn-4Nb-31P では72 h後においてもほとんど変化が確認でき

ないNbの添加量を変えた Fig 213に示す SNP ガラスではSP ガラスと同様に SnO 量の

少ない 50S5N45P は時間経過と共にガラス全体にldquoひびrdquoのようなものが見え72 hの実

験終了後最終的にテフロン糸を外す段階で簡単に割れたしかし50S50P や 60S40P と比

較すると耐水性が大幅に良くなったまた60S5N35P 67S5N28P は耐水性が良好なこと

だけでなく耐候性についても向上していることが目視で判断できる一方で二種類の

SZP ガラス(Figs 214 215)を観るとP2O5量の少ない 5S55Z40P および 55S5Z40P では

形状が崩れるか析出物が現れる結果となったこの組成よりP2O5 量を減少させるとSP

ガラスと同じように形状は崩れないが透明性が若干失われる結果となった

Fig 216 に比較対象の FP ガラスの耐水性試験前後の写真を示すこの組成ではFe2O3

量の少ない20F80Pにおいても形状が全く崩れない結果が得られたしかしFe2O3 lt 30 mol

の組成において表面に干渉色のような反射光が若干確認できたこれはおそらく青ヤ

ケが発生したためであると考えられる

18

234 耐水性試験前後の構造変化

Figs 217 - 222に各ガラスの耐水性試験前後の XRDパターンを示す耐水性試験前では

ガラス化を全組成で確認した(Figs 217(a) - 222(a))しかし耐水性試験後における外観

写真で形状の崩れたもしくは析出物の得られたガラス組成では結晶が生成したことが

確認された形状の崩れた三組成のうち50S50P 60S40P ガラス(Fig 2214(b))では三

種類の結晶ピーク(SnP2O7 Sn2P2O7 Sn3(PO4)2)が確認でき5S55Z40P については(Fig

2214(b))結晶同定の判断はできなかったが ZnOの多い組成であるためおそらくリン酸

亜鉛の何れかの結晶だと推測された析出物が得られた 55S5Z40P はガラス matrix部と析

出物に分けて測定したところガラス matrix 部はガラスのままであり析出物は SnP2O7

Sn2P2O7の二種類の結晶ピークが確認できたガラス形状に変化がなかったその他の組成は

ガラス状態が保たれていたSn4+の結晶のピークが確認されたのは50S50P のガラスには

気泡が残っておりその気泡から酸化されたかもともと溶融工程で電気炉内に残って

いた酸素によってSn4+に酸化されたか等が考えられる

235 溶出速度(DR)および重量減

Table 24に DR重量減の結果および仕込み組成から計算した OP を示すSP SNP S5ZP

ガラスではSnO 量の増加に伴いSnO量の固定された Sn-Nb-P 5SZP ガラス系ではそれ

ぞれの金属酸化物の増加に伴いDR重量減は減少傾向にあったFP ガラスでは全組成

において DR 重量減共に変化が全く確認されなかったそのため青ヤケのようなものが

確認された FP ガラス(Fe2O3 lt 30 mol)については電子天秤では変化が見られない程度

の重量減であったと推測される二種類の SZP ガラスで比較するとSnOと ZnO量が入れ

替わってもほぼ誤差範囲内と思われる結果が得られたガラス全体の比較では外観写真

で変化が見られなかった FP ガラスと 65S5N28P 65Sn-5Nb-30P のガラスが DR重量減がと

もにゼロという結果が得られた

組成と DR 重量減の関係性を見るために作成した図をFigs 223(DRと OP の関係性)

224(Fig 224に重量減と OP の関係性)に示すそれぞれの図にリン酸塩の三つの構造

の OP も表記した双方の図よりDR 重量減共に OP が増加することで単調に下がって

いることが分かるこの結果はリン酸塩の構造ではorthophosphate 組成で耐水性良好が

あるため[22]一般的な結果と同じ挙動であるまた耐水性の良かったNb2O5添加の SNP

ガラスは異なる挙動(傾き)が得られた

以上の結果より第三成分添加による耐水性の改善を確認し特に Nb2O5 の添加による

影響は大きいことが判明したまたOP の増加による耐水性が改善する結果が得られた

次章の第 3 章にて各ガラス系の構造解析を行い第三成分特に Nb2O5の耐水性への有

効性について調査した

19

24 結言

本章ではSP ガラスおよび第三成分の Nb2O5 ZnOを添加した SP ガラスの物性評価を行

うことで耐水性改善への第三成分添加の有効性を確認した各々の物性について以下に

まとめる

低ガラス転移温度を有する SP ガラスは最も SnO 量が高い 70S30P でも Tg le 280であ

ったNb2O5を添加した Sn-Nb-P SNP ガラスではTgの上昇は見られたが Tg le 350

ZnOを添加した 5SZP S5ZP ガラスではTg ≦ 450であり両金属酸化物の添加でも低

ガラス転移温度を維持しているガラスが得られたNb2O5 添加が Tg を上昇させたのはポ

ーリングの第 2法則より高価数イオンの方が結合強度が高くなるためと結論付けた

耐水性試験結果の外観写真を観るとSP ガラスの SnO 量 le 60 mol 5SZP ガラスおよび

S5ZP ガラスの P2O5量 = 40 molの組成についてガラスサンプルの形状が大きく変化して

おりDR 重量減も高く耐水性の低さが明らかであった得られた析出物はSnP2O7

Sn2P2O7 Sn3(PO4)2 および亜鉛リン酸結晶の一種であると予想されたその他の組成では

透明性の失われた組成がいくつかあったが外観写真では変化が見られなかった FP ガラス

と 65S5N28P 65Sn-5Nb-30P のガラスが DR重量減がともにゼロという結果が得られた

組成と耐水性に関してはDRおよび重量減がOP増加で単調に低下した結果が得られた

つまり耐水性を改善させる有効な手段はSP 系ガラスのガラス化範囲を拡大かつ OP を

増大させる第三成分の添加によることであることが示唆された

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21

Fig 21 三成分系 SnO-NbO25-P2O5 系のガラス化範囲

Fig 22 作製した Sn-Nb-P ガラス

(a)50Sn-5Nb-45P (b)55Sn-5Nb-40P (c)60Sn-5Nb-35P

(d)65Sn-5Nb-30P (e)70Sn-5Nb-25P (f)60Sn-10Nb-30P

(g)55Sn-20Nb-25P (h)60Sn-15Nb-25P (i)65Sn-10Nb-25P

22

Fig 23 三成分系 SnO-ZnO-P2O5系のガラス化範囲

Fig 24 作製した SZP ガラスの一例

(気泡や脈理のようなものが確認できた組成)

23

Fig 25 SP SZP ガラスの作製フローチャート

Fig 26 Sn-Nb-P SNP ガラスの作製フローチャート

(気泡や脈理のようなものが確認できた組成)

24

Fig 27 FP ガラスの作製フローチャート

Fig 28 耐水性試験(MCC-1法)

25

Table 21 各ガラスの組成分析結果

26

Fig 29 Sn-Nb-P ガラスのメスバウアースペクトル

Table 22 Sn-Nb-P ガラスのメスバウアーパラメーター

27

Fig 210 FP ガラスのメスバウアースペクトル

Table 23 FP ガラスのメスバウアーパラメーター

28

Table 24 各ガラスの物性(密度(ρ)ガラス転移温度(Tg)溶出速度(DR)重量減())

29

Fig 211 SP ガラスの耐水性試験前後の外観写真

Fig 212 Sn-Nb-P ガラスの耐水性試験前後の外観写真

30

Fig 213 SNP ガラスの耐水性試験前後の外観写真

Fig 214 S5ZP ガラスの耐水性試験前後の外観写真

Fig 215 5SZP ガラスの耐水性試験前後の外観写真

31

Fig 216 FP ガラスの耐水性試験前後の外観写真

32

Fig 217 SP ガラスの XRD パターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

33

Fig 218 Sn-Nb-P ガラスの XRD パターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

34

Fig 219 SNP ガラスの XRD パターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

35

Fig 220 5SZP ガラスの XRDパターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

36

Fig 221 S5ZP ガラスの XRDパターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

37

Fig 222 FP ガラスの XRD パターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

38

Fig 223 各ガラス系の DR と OP の関係性

39

Fig 224 各ガラス系の重量減と OP の関係性

40

第 3章 分光法を用いたスズリン酸塩系ガラスの構造解析

31 緒言

前章ではSP ガラスおよび第三成分に Nb2O5 ZnOを添加した Sn-Nb-P ガラスSNP ガラ

スSZP ガラスの物性特に耐水性に関する第三成分添加の有効性を明らかにしたその添

加した第三成分の二種類についてもNb2O5 の方が ZnO よりも溶出速度重量減ともに抑

制することができSP ガラスの低ガラス転移温度という特性も維持されていることが判明

したしかし現段階では本研究の主要な物性である耐水性改善の要因が明確になって

いない組成の観点からはOP の値が高い組成が良好な耐水性であることが分かったが

組成だけでは耐水性改善のメカニズムについて完全には理解できないここでリン酸塩

ガラスの溶出のメカニズムは第 1 章で述べたように加水分解反応と水和反応が要因とな

る[1 2]この機構はそれぞれリン酸の構造つまり架橋酸素 BO の数が大きく関わって

おりリン酸アニオンの[PO4]ユニットの架橋酸素数を知ることが重要であるこの BO の

情報を得るためにはガラス構造を示す指標の一つである Qn(n は[PO4]ユニット中の架橋

酸素数を表す)を調べることが必須であるまたQn の分布を調べるためにはガラスの

構造解析を行う必要性がある

ガラスの構造解析には種々の方法があり特にラマン分光法や赤外(IR)分光法核

磁気共鳴法(NMR)などの分光学的手法を用いた構造解析の報告が多い[3-5]ラマン分光

法および IR分光法は原理は異なるがどちらも結合の振動モードを測定する手法であり[6]

リン酸塩ガラスだけでなくケイ酸塩ガラスホウ酸塩ガラスなど様々なガラス系にて測

定がなされている[7 8]また得られた結合状態の情報からリン酸塩アニオンの Qn分布

を調べることも可能であるNMR は共鳴吸収ピークの化学シフト(共鳴周波数のズレ)

から構造を決定する手法であるガラスの場合SiO2や B2O3 P2O5といった網目形成酸化物

の Qn分布を得るために一般的に使用されている手法である[9]

今回これらの測定の中でラマン分光法を選択し構造解析を行ったラマン分光法は

測定する際にサンプル形状を気にすることなく基本的にそのまま測定できるためIR 分

光法のようにサンプル形状で測定方法を変える必要はないまたIR 分光法では例えば

KBr 錠剤法やヌジュール法のように測定を行うためのサンプル調整に手間がかかる場合が

ある[6]さらに比較対象の FP ガラスではNMR を測定できないため作製ガラスを全

て比較検討できるようにラマン分光法を選択した

本章ではラマン分光法を用いて各ガラスの構造解析を行い[PO4]ユニットの Qn分布を

調査し平均 BO数 nを算出することで耐水性と構造の関係性を検討したまたラマン

分光法によって得られた Qn分布の妥当性を確認するためにSP ガラスおよび 67S5N28P ガ

ラスの NMRを測定も行い比較した

32 実験方法

41

321 サンプル準備

ラマン分光およびメスバウアー分光の測定では第 2 章で作製した各ガラスのバルク体

を用いたWD試験に使用したサンプルとは別にラマン測定用のサンプルを用意した適

度な大きさ大体 15 cm角程度のサイズになるようにガラスカッターで切断しその後

十分な平滑性を得るために鏡面研磨を施した

322 ラマン分光測定

使用したラマン分光装置は顕微レーザーラマン分光装置(Jasco NRS-5100)を用いた

用いたレーザー波長は 53208 nmであり400 - 2000 cm-1の範囲で測定した

Qn 分布を導くためにピークフィッティングを行いリン酸塩アニオンのラマンバンド

が現れる950 - 1250 cm-1付近および 700 - 750cm-付近の範囲で定量した

323 31P MAS NMR測定

31P MAS NMRの測定は Varian NMR System 500 を用いて32 mmの MASプローブ

202309MHzにて行った測定パラメーターを以下に示すπ4 パルス長さ 14 μs 待ち時間

(pulse delay)10 s 積算回数 3600 scan シリンダー円筒形状の Zrローターの回転スピード

160 kHz referenceとして二番目の基準物質として使われる NH4H2PO4を使用化学シフト

は85 H3PO4溶液から δ = 10 ppmである

33 結果考察

331 各ガラス系のラマンスペクトル

Figs 31 - 35にラマンスペクトルを示す各ピークは以下の通りに帰属し各スペクト

ル中に該当する構造をピーク位置に示した

1230 - 1260 cm-1 P=O NBO Q

2 [10]

1110 - 1150 cm-1metaphosphate (PO3)

- Q

2 [10]

1030 - 1100 cm-1pyrophosphate (PO35)

2- Q

1 [10]

970 - 1000 cm-1orthophosphate (PO4)

3- Q

0 [10]

920 - 930 cm-1asymmetric (P-O-P) Q

1 [10]

730 - 750 cm-1symmetric (P-O-P) Q

1 [10]

710 - 720 cm-1asymmetric (P-O-P) Q

2 [10]

810 - 820 cm-1Nb-O [NbO4] tetrahedron [11]

900 - 920 cm-1Nb-O isolated [NbO6] octahedron [11]

42

SP ガラスのラマンスペクトル(Fig 31)を見ると50S50P 60S40P ではmetaphosphate

の Q2 構造が支配的であるがSnO 量が増えるにつれてその構造が変化し70S30P では

pyrophosphateの Q1構造と orthophosphateの Q

0構造が共存した構造となっているまたSnO

量の少ない 50S50P および 60S40P において確認されたQ2構造の P=O のピークが見えなく

なっているつまり耐水性と関連して考えるとSnO量が増えるにつれてP-O-P 結合か

ら Sn-O-P 結合に代わり水分子との反応である加水分解反応を妨げる構造に変化している

ことがわかる

Figs 32 33にNb2O5を添加した Sn-Nb-P ガラスおよび SNP ガラスのラマンスペクトル

を示すまずSn-Nb-P ガラスについてNb 無添加の 65Sn-0Nb-35P は主に Q1構造であ

りNbO25が添加されることによってQ0構造に変化しQ

1 Q

0構造が共存しているような

ピークが得られた添加量が少ないガラス系であるため徐々に変化しているのを確認し

た800 cm-1を少し越えた 810 - 820 cm

-1付近にNb2O5を添加することでピークが現れそ

して添加量を増量することで強度が強まるピークがありこのピークは四面体の[NbO4]

のものと判断した

SNP ガラスのラマンスペクトルについてはNb2O5添加量を固定した組成であるためSP

ガラスのような挙動が観察された50S50N45P では50S50P ガラスと同じようにQ2構造

が主な構造でありSnO量の増加に伴って60S5N35P Q1構造67S5N28P Q

0構造に支配

的な構造が変化しているこれはSP ガラスと同じ傾向を示しているためP-O-P rarr Sn-O-P

に置き替わっていることが示唆されるNb-O に関するピークでは50S5N45P のみ[NbO4]

四面体のピークを確認できず900 - 920 cm-1付近に[NbO6]八面体のピークが確認された

SnO量が増量した 60S5N35P では810 cm-1付近の [NbO4] 四面体のピークが現れているが

[NbO6]八面体のピークと 900 - 920 cm-1付近の Q

1構造のピークが非常に近い(ほぼ重なって

いる)ことから60S5N35P については[NbO4] 四面体および[NbO6]八面体の共存の可能性

も考えられるまた67S5NP28 では[NbO4] 四面体のみのピークが観察されたためこ

の Nb-O の配位数変化は[PO4] unitの状態によって変化している可能性も示唆された

ZnO を添加した S5ZP ガラスおよび 5SZP ガラスのラマンスペクトルを Fig 34 に示す

図の下部三つが S5ZP ガラス上部三つが 5SZP ガラスのスペクトルであるSZP ガラスの

二系統を比べるとあきらかなスペクトルの違いが確認された各ガラス系で確認すると

SnO 量が最小の 55S5Z40P はQ2構造と Q

1構造の範囲に跨っているようなスペクトルが得

られた62S5Z33P および 65S5Z30P のスペクトルからはどちらもほぼ Q1構造であると判

断した5SZP のスペクトルは1000 - 1250 cm-1付近の範囲で裾を引くような(なだらかな)

スペクトルが得られたZnO 量が最小の 5S55Z40P にはQ2構造が主な構造に見えるが

shoulderピークのような Q1構造(1030 - 1100 cm

-1)が確認できる5S62Z40P においては

1000 - 1250 cm-1付近の範囲まで幅広いスペクトルが得られた730 - 750 cm

-1付近にピーク

が現れているためおそらく Q1構造が最も多く存在していると考えられる65S5Z30P では

Q1構造Q

0構造が共存しているようなピークが得られた

43

FP ガラスのラマンスペクトルを Fig 35 に示すFe量の少ない 20F80P 25F75P と他の三

つで構造が異なっていることである20F80P 25F75P はQ2構造と Q

1構造が基本構造にな

っていると判断できる 30F70P は1110 - 1150 cm-1付近に shoulderピークのようなものがあ

りQ2 Q

1 Q

0構造が共存しているようなスペクトルであった35F65P 40F60P はQ1構造

が主な構造でQ0構造があると判断した

332 平均 BO数 n (Qn分布)

まずピーク分離について散乱断面積が見積もれなかったためラマンの散乱強度比

を Qn分布として簡易的にピーク分離を行い(Fig 36)そこから平均架橋酸素数 BO 数 n

を算出したここでFig 37 に 31P MAS NMRスペクトルを示しTable 31に NMRおよび

ラマン分光より得られた平均 BO 数 n を示す(NMR の帰属 reference [12])表よりNMR

とラマンから得られた Qn分布はほぼ一致していることが分かった60S40Pについては支

配構造が NMR(Q1) ラマン(Q

2)で逆になったこれは60S40P の組成がQ

2と Q1のほぼ中

間の組成になるためこのようなズレが生じたと考えられるしかし今回のラマンによ

る Qn分布の算出についてはほぼ問題ないと判断した

Table 32にラマンスペクトルより求めた Qn分布平均 BO 数 nをを示しTable 24に示

した DR 重量減の結果を併記する

SP ガラスのうち耐水性が低いガラスは Q2構造によって形成されているSnO量の増加

によって NBOの増加とともに耐水性の向上が確認できSnOが入ることでSn-O-P 結合を

形成し水分子からの攻撃を受けにくくなっていることが考えられる

Sn-Nb-P ガラスでは基本的に Q1構造が主構造でNb2O5の添加が増えるにつれQ

0構

造が支配的になり耐水性は次第に向上していく最も耐水性のよかった 65S-5Nb-30P は

Q0構造での割合が非常に高く平均 BO数 n値が 03であった

SNP ガラスではP2O5量が多い組成の 50S5N45Pにおいても平均 BO数 nが 60S40P と

同じながらも耐水性が良くなっている67S5N28P はほぼ完全に Q0構造であり平均 Q

n

値は 0となった

SZP ガラスについてはS5ZP 5ZSP のどちらの系列についても耐水性の結果に大きな差

というものは確認されなかったが構造的にも平均 BO数 nが 09 10 17という結果であ

った

FP ガラスについてはFe2O3 lt 30 molのときは平均 BO 数 nが20 19と高い数値を

示したが耐水性は非常に良好であったこの結果より組成だけでなく構造的にも耐

水性高くなる要因が不明である一つの原因の可能性としてメスバウアーより得られた

Fe2+の存在比が 40以上と高かったことがFe2O3含有量が少ない組成時には効果的になっ

ているのかもしれない

333 平均 BO数 nと耐水性の関係性

44

Fig 38に DRと平均 BO数 nの関係性についてFig 39に重量減と平均 BO数 nの関係

性をそれぞれ示すまたOP の時と同様に各図にリン酸塩の三つの構造の平均 BO数

n も表記した双方の図よりDR 重量減共に平均 BO 数 nが低下することで単調に下がっ

ていることが分かるまた耐水性の良かったNb2O5添加の Sn-Nb-P SNPガラスはの DR

の挙動(傾き)はOP 時とも異なった挙動が得られた

Fig 310に OP と平均 BO数 nの関係を示す図中に示す茶色metaphosphate 黄色

pyrophosphate 灰色orthophosphate であるこの図から耐水性改善には平均 BO 数

n を下げOP を上げることが重要であるのが分かるまたNb5+の添加はOP を上げる

だけでなく平均 BO 数も減少させることから非常に効果的な成分であることが明らかで

あるこれはP5+から同酸価数 Nb

5+に少量でも置き換えることで平均 BO 数 n を下げ

OP を上げることを可能としている(実際に orthophosphate の OP4 よりも高い OP でガ

ラスが作製できている)つまりNb5+の添加によって P-O-P 結合が減少し水和反応加

水分解反応が抑制されているからである

以上の結果SP 系ガラスの耐水性改善には低い平均 BO 数と高い OP の組成にするこ

とが重要でNb2O5の添加は非常に効果的であることが分かったその一方でガラス中の

詳細な構造的要因についてははっきりしていないため次章の第 4 章にてさらに詳し

い構造解析を行い耐水性改善の要因について調査を行った

34 結言

本章ではラマン分光を使用して各ガラス系のリン酸塩アニオンの構造を簡易定量で

評価し組成と構造の関係について考察した

平均 BO 数 n と耐水性に関してはDR および重量減が平均 BO 数 n の減少で単調に低下

した結果が得られた

平均 BO数 nと OP の図より耐水性改善には平均 BO数 nを下げることそして OP

を上げることが重要であることが明白であった

Nb5+の添加は平均 BO数を減少させるだけでなくOP も上げることからガラス構造内

の P-O-P 結合を減少させる故に水和反応加水分解反応が抑制され耐水性が大幅に

改善された故にNb2O5 のような高価数金属酸化物を添加することが効果的であること

が示唆された

参考文献

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46

Fig 31 SP ガラスのラマンスペクトル

47

Fig 32 Sn-Nb-P ガラスのラマンスペクトル

48

Fig 33 SNP ガラスのラマンスペクトル

49

Fig 34 SZP ガラスのラマンスペクトル

50

Fig 35 FP ガラスのラマンスペクトル

51

Fig 36 ラマンスペクトルのピーク分離例(67S5N28P)

Raman Shift (cm-1)

52

Fig 37 NMRスペクトル

Table 31 NMR およびラマン分光より得られた SP 67S5N28P ガラスの

Qn分布および平均 BO数 n

53

Table 32 各ガラスのラマンスペクトルより求めた Qn分布結果

(表の赤線より右側の結果は Table 22 より)

1 仕込み組成による数値

2 Fig 2212 に示した析出物を取り除いた後の数値

54

Fig 38 DR と平均 BO数 nの関係性

55

Fig 39 重量減と平均 BO数 nの関係性

56

Fig 310 OP と平均 BO数 nの関係性

Meta

Pyro

Ortho

57

第 4章 放射光を用いたスズリン酸塩系ガラスの構造解析

41 緒言

前章の第 3 章にてラマン分光法を用いて SP 系ガラスの構造解析により Qn分布を導き

出したことで耐水性と構造の関係についてある程度関連性を導くことができたリン

酸アニオンについてはQ0(orthophosphate)構造 gt Q

1(pyrophosphate)構造 gt Q2

(metaphosphate)構造の順で良耐水性となるしかしSn Nbおよび Znの局所構造につ

いては知見が得られていないラマン分光や IR分光などの分光学的手法を用いてSnや

Nb Zn の周辺の局所構造を知るには限界があるまたガラスの構造解析を行う上で非常

に重要な因子である中距離構造の評価には分光学的手法は不向きである[1]

そこで局所構造や中距離構造を知るために有効な手法として放射光線を用いた構造

解析がある放射光(SR 光)とはシンクロトロンなどの加速器で高速に加速された電子

が進行方向を磁場によって変えられた際に放射する電磁波である[2]エネルギーが高く

(短波長)輝度が高い特性を有している日本国内では兵庫県佐用町の SPring-8や茨城

県つくば市の高エネルギー加速器研究機構佐賀県鳥栖市の佐賀県立九州シンクロトロン

光研究センターなど複数個所に放射光施設が設置されている

放射光を用いたガラスの構造解析には一般的に高エネルギーX 線回折(High Energy

X-ray diffraction HEXRD)が用いられるこの回折実験から高い散乱ベクトル Q(= 4π sinθλ)

まで回折データが得られる多種類の原子から構成される物質の場合はFaber-Ziman 型[3]

の構造因子 S(Q)を用いる以下の式に示すようにFaber-Ziman 型構造因子 S(Q)は同種また

は異種の原子による相関の重み関数付の和として示される例として SiO2ガラスで説明す

ると構造因子 S(Q)は三種類の原子付の S(Q)の重み付の和として表されていることが分か

I(Q) 散乱断面積 ltgt 原子一個当たりの平均値 f(Q) 原子散乱因子 W 重み関数

通常の研究室で使用される X 線回折(XRD)装置で用いられる特性 X 線はCuKα線(λ

= 0154 nm 81 keV)が最も良く用いられより高いエネルギーの X 線が必要な場合は

MoKα線(λ = 0071 nm 175 keV)が使用される一方でSPring-8のビームライン BL04B2

で行われる高エネルギーX 線回折(HEXRD)測定で使用される SR のエネルギーは378 keV

58

~ が使用可能である[2]従ってガラス以外の液体のような非晶質物質にも非常に精度

よく構造解析が行われている[4]

また局所構造解析の一つに X線異常散乱法という測定方法がある[5 6]これは通常

の X 線回折実験では分離不可能な特定元素に関連する部分構造因子(散乱強度曲線)を得

ることができる手法である今回 HEXRD の測定時に使用したエネルギー614 keV では各元

素の異常散乱項のエネルギー依存性は確認されない(Fig 41)その一方でFig 42に示す

Sn の吸収端付近の 292 keV付近ではSnの異常分散項のエネルギー依存性が確認できる

つまりSnの吸収端近傍より低エネルギー(E)側の異なるエネルギーの X線(E1 E2)を

使って散乱強度を測定し各 E における異常分散項(f`)の変化(つまり高い E1 から低い

E2 の散乱強度の差分)を利用して Snに関する部分構造因子を求める構造解析が AXS 法で

あるこの測定法は古くから知られている方法ではあるが装置の測定条件や設備の問

題からなどから使用があまり普及していなかった[5 6]近年になり金属ガラスの構造解

析について徐々に報告が出てきており今後注目される測定法である

HEXRD および AXS 法などから得られたデータ実測の構造因子 S(Q)は一次元の限られ

た構造情報であるためガラスなどの非晶質物質の中距離構造を解明するためにはこれ

らのデータを基に三次元構造を求める必要がある三次元構造モデルの作成には逆モンテ

カルロ(RMC)シミュレーションを使用することが有効である[7]このシミュレーション

は任意で決めたシミュレーションボックス内の粒子をランダムに動かすことで実測の

構造因子 S(Q)を再現する三次元構造モデルを構築する方法である

SP ガラスについては分光学的手法について数多く報告があるが放射光を用いた回折

法はほとんど適用されていないそこで本研究では HEXRD および AXS 法を用いた構造

解析を行うことでSn Nb周りの構造を解明すると共にSNP ガラスの耐水性改善のメカ

ニズムについて考察したまたAXS 法の有効性についても検討した測定を行ったガラ

スはSP ガラスおよび最も耐水性の高かった 67S5N28P を選択した

42 実験方法

421 HEXRD AXS法

HEXRDはSPring-8のビームライン BL04B2 で測定を行ったエネルギー614 keV の X

線を用いた測定サンプルの厚みは09 mm (plusmn0005 mm)になるまで研磨を行った

AXS 測定はSPring-8のビームライン BL13XUを使用した(Fig 43)それぞれの測定し

た X 線のエネルギーについて以下に示す

①Sn K吸収端hellip292 keV near edgehellip291452 keV (-60 eV) far edgehellip289751 keV (-230 eV)

②Nb K吸収端hellip1899 keV near edgehellip189562 keV (-30 eV) far edgehellip187863 keV (-230 eV)

測定に使用したサンプルの厚さが015 - 030 mmとなるまで研磨を施した

SP ガラスについて50S50P 60S40P 67S33P の三組成のガラスを測定した70S30P に関

59

しては測定を試みたが放射光照射によって結晶化してしまいガラス部分の正確な構

造因子を得るための強度補正ができず解析を断念した

422 RMCのモデリング

Table 41 に RMC の各種パラメーターを示す粒子数は約 5000 個でそれに伴う boxの一

辺の長さは約 42 ~ 46 Ǻになった拘束条件にP の配位数が 4になるような条件を付け

加えたFig 44にSn2P2O7結晶および Sn3P2O8結晶の動径分布関数(RDF)をTable 32

にRDFから得られた第一近接距離[8 9] を示すこれらの数値を使用しcutoffを決定し

たNb-O についてはいくつかの文献値を参考にした[10 11]

各ガラスの RMCのモデリングは①HEXRDから得られた S(Q)のみ②S(Q)および AXS

から得られた部分構造因子を加えた場合でそれぞれ計算した

43 結果考察

最初にNbの AXSから得られたデータについて解析を試みたが妥当な構造モデルが得

られなかったためSnの AXSのみで解析を進めたNb2O5の量が 5 molと少量であったた

めあまり精度の高いデータが得られなかったと推測される

431 実測の HEXRDおよび AXSの結果

4311 実測 HEXRDの S(Q)

Fig 45 に実測HEXRDの S(Q)を示す四つの組成ともに実測HEXRDの S(Q)が得られ

Nb2O5添加の 67S5N28P ガラスでは Low Q 側に変化が確認された

4312 実測散乱強度曲線

Fig 46 に Snの散乱強度曲線を示す(a) の 67S33P のこの曲線からはfar edgeおよび

near edge のエネルギー間で差分が見られエネルギーの依存性が確認された50S50P

67S5N28P のガラスについても同じように差分が確認されたが(b)の 60S40P についてのみ

他とは若干異なる結果(緑丸)であったためRMC の構造解析には差分の構造因子ではな

くfar edge near edge 二つの構造因子を用いた

4313 全相関関数 T(r)

Fig 47 に全相関関数 T(r) を示すHEXRD から得られたものを実線でSnの AXS から

得られたものは点線で示し組成ごとに重ねて表示した図中に各ピークについて帰属し

ているがSnの T(r)からはSn-O Sn-P Sn-Snのみのピークを確認した

432 RMCの計算結果および考察

60

構造モデルの一例として67S5N28P ガラスの得られた構造モデルをFig 48に示す水

色の多面体 unitSnON 黄色の多面体 unitPO4 ピンクの多面体 unitNbONである以下

詳細な構造解析の結果および考察を記す

4321 RMCのフィッティング結果

RMCのフィッティング結果の一例として67S33P の HEXRD と Snの AXS の構造因子か

ら得た結果を示す(Fig 49)二つの構造因子を加えて計算した結果においてもHEXRD

の S(Q) AXS の S(Q)に各々に対する良好なフィッティング結果が得られた他の組成も

同様なフィッティング結果が得られた

4322得られた各 pairの平均配位数平均角度平均結合距離

RMCの結果によって得られた各 pairの平均配位数平均角度平均結合距離を Tables 43

に示す上段が HEXRD の S(Q)のみ下段が HEXRD に Sn の AXS の部分構造因子を加え

て結果である最下部は比較のためにSn2P2O7の情報を記載した[8]

P-O pairについてRMCモデル中の PON多面体に関して平均配位数 Nが 4および P-O

の平均結合距離が約 160Å平均結合角度angO-P-O が約 109degという結果が得られた組成

による大きな違いは確認されなかったのはP の配位数が 4になるように拘束条件をかけた

結果であると考えられるSnON多面体についてはSnO量の増加 = OP の増加であり平

均配位数 Nが 3 ~ 35へ増加した平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約

22Åで組成による大きな変化はほとんど見られなかったNb2O5を 5 mol添加したガラ

スではNbON多面体の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平均配位数 N約 4Nb-O 平均結

合距離約 20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O(約 105deg)と値が近いこと

また6配位ではなく 4配位として主に存在していることからSnO と同じような働きをし

ていると推測される

以上の結果からNb2O5添加の耐水性改善の要因として結合距離が Sn-O が約 22Åに対

し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強固にして

いることも一つの要因として考えられる

また67S5N28P ガラスの各多面体モデルを確認すると(Fig 410)P は PO4Snは SnO4

と SnO3Nbは NbO4をそれぞれ再現している

4323得られた各 pairの結合様式

RMC の結果により得られた各 pair の結合様式を Tables 44 に示す上段が HEXRD の

S(Q)のみ下段が HEXRDに Snの AXS の部分構造因子を加えた結果である最下部は比

較のためにSn2P2O7の情報を記載した[8]

結合様式に関してはPO4四面体は他の多面体も含めてほぼ頂点共有で存在している

SnON多面体についてはSnO 量が少ない配位数が 3 に近い場合頂点共有以外の共有の

61

割合も多くSnO 量が増えるにつれて頂点共有が主になり網目形成体として振舞ってい

ると考えられる組成によって平均結合距離や平均角度の大きな変化が見られなかったこ

とから平均配位数が結合様式を決める重要なファクターであるということも考えられる

またHEXRD と AXS 法の結果がほぼ同じであったこれは主成分が SnO のガラスであ

るためHEXRDでも十分に詳細な構造が得られたため大きな変化が現れなかったと考え

られるNbON 多面体はPO4 四面体と SnON 多面体とはほぼ頂点共有で繋がっている以

上の結果よりSnO量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体的に各多面体同士の

頂点共有が増えていることから耐水性の改善には頂点共有を多く含む構造であること

が重要である或いは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的となって

いるということが推測されるFig 411に 67S5N28P ガラスの構造モデルを示す各多面

体はほぼ頂点共有で繋がっていることが確認できる

4324 平均 BO数の比較

Tables 45にNMR Raman RMC(HEXRD) RMC(HEXRD + AXS)の平均BO数を示すRMC

から得られた平均 BO 数 nはNMR Raman と同様に Nb2O5の添加による大幅な減少が確認

されたしかしNMR Raman と比較すると全組成において数値が大きすぎで適当でない

50S50P の構造モデルを観るとPO4四面体間で3配位 O の存在が確認された(Fig 412)た

め実測で得られた n値を再現できるようなPO4四面体モデル間の繋がり方に関する拘束条

件を加えて RMCを計算する必要性があるまた仮に3配位 Oの存在があるとすると電

子状態の変化が生じていることがと示唆されるため分子軌道計算を用いて電子状態解析

を行い確認する必要がある

4325 耐水性の改善について

Nb2O5を添加のガラス構造への影響について①6配位ではなく 4配位として主に存在し

ていることからSnO と同じような働きをしていると推測される②結合距離が Sn-O が約

22Åに対し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強

固にしている③ガラス構造中で全体的に各多面体同士の頂点共有が増えている以上の

ことが判明した以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性

耐候性を改善した要因として考えられる

44 結言

本章では分光学的手法では評価できないガラスの中距離構造局所構造について理解

するために放射光を用いた構造解析を実施しSP ガラスの構造と耐水性改善について考

察したHEXRDおよび AXS法を用いて測定を行い得られたデータを RMCシミュレーシ

ョンにて解析を行った

解析の結果 Sn-O pair については平均配位数 Nが 3 ~ 35でSnO量の増加 = OP の増

62

加に伴い高くなった平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約 22Åであ

ったP-O Sn-Oについては組成による大きな変化はほとんど見られなかった67S5N28P

ガラスの Nb-O pair の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平均配位数約 4Nb-O 平均結合距

離約 20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O(約 105deg)と値が近いことま

た6配位ではなく 4配位として主に存在していることからSnOと同じような働き(網目

形成体)をしていると推測されるまた結合距離が Sn-O が約 22Åに対し Nb-O は約 20

Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強固にしていると言える

SnO 量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体的に各多面体同士の頂点共有が増え

ていることから耐水性の改善には頂点共有を多く含む構造であることが重要である

もしくは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的であることが推測さ

れる以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性耐候性を

改善した要因として考えられる

またAXS 法の有効性についても確認し効果的であることが判明したただし今回

は主成分が Sn の組成のガラスでありHEXRD でも十分に詳細な構造が得られたため

大きな差は現れなかった

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63

Fig 41 各原子の異常分散項のエネルギー依存性

Fig 42 Sn の異常分散項のエネルギー依存性

64

Fig 43 SPring-8の BL13XU

65

Tab

le 4

1

RM

Cの各パラメーター

66

Fig 44 Sn2P2O7 Sn3P2O8結晶の RDF

Table 42 Sn2P2O7 Sn3P2O8結晶の各 pairの第一近接距離

67

Fig 45 得られた実測 HEXRDの S(Q)

68

Fig 46 Sn の異常散乱測定により得られた散乱強度のエネルギー依存性

(a)67S33P (b)60S40P

69

Fig 47 全相関関数 T(r)

太線 HEXRD より

細線 Sn の AXSより

70

Fig 48 67S5N28P ガラス構造のモデル

71

Fig 49 RMC フィッティングの結果

72

Tab

le 4

3 各

pairの平均配位数角度結合距離

73

Fig

4

10

67

S5

N2

8Pガラスの各多面体モデル

74

Tab

le 4

4 各

pairの結合様式

75

Fig 411 67S5N28P ガラスの構造モデル

76

Table 45 平均 BO 各数 nの比較

Fig 412 50S50P ガラスの構造モデル

77

第 5章 総括

本研究ではSP ガラスを対象とした本研究では鉛フリー代替ガラスまたは希土類フ

リー蛍光体として SP ガラスの新規高機能化を将来的に目指し問題点であるldquo化学的耐久

性rdquoの改善につながる知見を得ることを目的としたそこでまずSP ガラスを母体ガラ

スとし第三成分に Nb2O5を添加した Sn-Nb-P SNP ガラスZnO を添加した SZP ガラスを

作製し耐水性を中心とした物性評価を行った次に分光学的手法で構造解析を行い

Qn 分布を導き出した最後に放射光を用いた構造解析を行い耐水性改善に関する構造的

な考察を行った以下に本研究で行った検討内容を示す

(1)SPガラスおよび第三成分Nb2O5 ZnOを添加した三成分系SPガラスの物性評価(第 2章)

(2)SP 系ガラスの分光学的手法による Qn分布導出(第 3章)

(3)放射光を用いた SP 系ガラスの構造解析構造と耐水性改善の関連について(第 4章)

各章についてまとめた結果を以下に示す

第 2章

第 2章では二成分系および三成分系のリン酸塩系ガラスの各種物性(密度や熱的特性

耐水性)の評価を行った二成分系ではSP ガラスに加え良好な耐水性を有する鉄リン

酸塩(Fe2O3-P2O5)系ガラス(以下 FP ガラス)を比較のために三成分系では二成分系

の SP ガラスに Nb2O5を添加したニオブ含有 SP ガラス(SNP ガラス)および ZnO を添加し

た亜鉛含有 SP ガラス(SZP ガラス)を作製した

今回作製した SP 系ガラスは低ガラス転移温度を有していた各組成の温度域はSP

ガラスTg le 280 Sn-Nb-P SNPガラスTg le 3505SZP S5ZPガラスTg ≦ 450であった

各種 SP ガラスの耐水性試験の結果二成分系の SP ガラスよりも三成分系ガラスの方が

良好な耐水性を有していた65Sn-5Nb-30P 67S5N28P ガラスが最も耐水性が良好であり化

学的耐久性の改善には Nb2O5が ZnOよりも効果的であった

組成と耐水性に関してはDRおよび重量減がOP増加で単調に低下した結果が得られた

つまり耐水性を改善させるにはSP 系ガラスのガラス化範囲を拡大かつ OP を増大させ

る第三成分の添加が有効であることが示唆された

第 3章

第 3章ではSP 系ガラスの分光学的手法による Qn分布の導出を行ったラマン分光法を

用いて各ガラス系のリン酸塩アニオンの構造を簡易定量で評価し組成と構造の関係に

ついて考察した平均 BO 数 n と耐水性に関してはDR および重量減が平均 BO 数 nの減

少で単調に低下することが明らかとなった

平均 BO 数 n と OP の関係より耐水性改善には平均 BO 数 n を下げることそして

OP を上げることが重要であることが明らかになった

78

Nb5+の添加は平均 BO数を減少させるだけでなくOP も上げることからガラス構造

内の P-O-P 結合を減少させ水和反応加水分解反応が抑制され耐水性が大幅に改善さ

れることが示唆された故にNb2O5 のような高価数金属酸化物を添加することが効果的

であることが再度確認された

第 4章

耐水性向上についてより深く評価するためSP SNP ガラスの局所構造に関する知見を得

ることを目的に放射光を用いた構造解析を行った高エネルギーX 線回折(HEXRD)お

よび X 線異常散乱(AXS)法で測定したデータを再現する構造モデルを逆モンテカルロ

(RMC)シミュレーションで構築し構造解析を行った

RMC モデル中の PON多面体に関して平均配位数 Nが 4および P-O の平均結合距離が約

160Å平均結合角度angO-P-Oが約 109degという結果が得られた組成による大きな違いは確

認されなかったSnON多面体については平均配位数 N が 3~4 でSnO 量の増加に伴い 4

に近い値となった平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約 22Åで組成

による大きな変化は見られなかった

Nb2O5を 5 mol添加したガラスではNbON多面体の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平

均配位数N約4Nb-O平均結合距離約20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O

(約 105deg)と値が近いことまた6配位ではなく 4配位として主に存在していることから

SnO と同じような網目形成体として働いていると推測されたまた結合距離が Sn-O が約

22Åに対し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強

固にしていると考えられるまたSnO 量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体

的に各多面体同士の頂点共有が増えていることから耐水性の改善には頂点共有を多く

含む構造もしくは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的であること

が示唆された以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性

耐候性を改善した要因として考えられる

またAXS 法の有効性についても確認し効果的であることが判明したただし今回

は主成分が Snの組成のガラスでありHEXRD でも十分に詳細な Snの周辺構造が得られ

たためAXSを利用した場合との大きな構造の差は認められなかった

本研究では様々な優れた特徴を有する SP ガラスにおける耐水性改善のメカニズムにつ

いて検討を行ったこの系のガラスについてはこれまでほとんど利用されていなかった

放射光を用いた構造解析を駆使し第三成分の添加によってどのような構造的変化が生じ

耐水性を改善させるか新たな知見を得ることができた最終目標である機能性ガラスの

開発における新たなる材料設計指針の確立に対してldquo耐水性rdquoに関しては概ね明らかにな

ったと考えられる一方で今回検討していな電子状態化学結合性についても評価する

ことで溶出メカニズムの解明が可能になり材料設計指針の確立が期待される

79

発表論文リスト

口頭発表

第 2章および第 3章

(1) SnO-P2O5 系ガラスへの酸化物添加効果

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎

日本セラミックス協会第 25 回秋季シンポジウム No3C06 (名古屋市 2012年 9月)

(2) Effect of Nb2O5 addition to SnO-P2O5 glass (Poster)

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

International Union of Materials Research Societies International Conference on Electronic

Materials IUMRS-ICEM 2012 A-9-P26-003 (Yokohama 2012 年 9月)

(3) スズリン酸塩系ガラスの蛍光特性耐水性に及ばす酸化物の添加効果(ポスター)

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎

日本セラミックス協会 2013 年年会 1P070 (東京 2013年 3月)

第 4章

(1) 放射光を用いたスズリン酸塩ガラスの構造解析

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎小原真二臼杵毅

日本セラミックス協会第 27 回秋季シンポジウム 2B22 (鹿児島市 2014年 9 月)

(2) Structural analysis of tin phosphate glasses by synchrotron radiation (Poster)

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba Shinji Kohara Takeshi Usuki

International Congress on Glass ICG Annual Meeting Bangkok 2015 P14-138 p186 (2015)

発表論文

(1) Effect of Nb2O5 addition to SnO- P2O5 glass

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

Journal of the Ceramic Society of Japan Vol 120 No 11 pp530-533 (2012)

(2) Structural analysis of SnO- P2O5 glass

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

Journal of the Ceramic Society of Japan(準備中)

80

謝辞

本研究を遂行するにあたり終始暖かいご指導ご助言並びにご鞭撻を賜わりました岡

山大学大学院環境生命科学研究科 難波徳郎教授に心より感謝の意を表します

また本研究を遂行するにあたり懇切丁寧なご指導とご意見をしていただいた岡山大

学大学院環境生命科学研究科 紅野安彦准教授環境環理センター 崎田真一助教に心より

感謝いたします

本研究を遂行するにあたりラマン分光測定の使用についてご助言ご教授して頂い

た岡山大学自然科学研究科 藤井達生教授中西真助教に心より感謝の意を表します

Sn のメスバウアー測定の際に協力して頂いた岡山大学自然科学研究科先端自然科学教

育研究推進本部高田研究室 松本修治特任助教(当時旭硝子株式会社中央研究所)また

Feのメスバウアーを測定の際に協力して頂いた岡山大学自然科学研究科 藤井達生教授に

心より感謝の意を表します

固体 NMR の岡山大学自然科学研究科 早川聡教授に心より感謝の意を表します

本研究を遂行するにあたりSPring-8 にてHEXRD および AXS 法の測定法および原理

についてご教示頂きました物質材料研究機構 小原真司博士ならびに山形大学 臼杵毅

教授に心より感謝の意を表します

本研究は多くの後輩諸君の協力によって遂行されました特に実際に共同研究共同

実験を遂行して頂いたOG 藤原沙弥香さん博士前期課程 2 年 東利彦君OB 徳岡太誠

君学士課程 4年 塩田将大君に心より感謝の意を表しますまた難波研究室で共に研

究生活を過ごした卒業生在学生の方々に感謝の意を表します

また同時期に博士後期課程に在籍された香川高等専門学校の桟敷剛さんにはNbに

関する有益な情報だけでなく辛い状況でも励ましを頂きました心より感謝の意を表し

ます

最後に長きに渡る学生生活を認め経済面だけでなく精神面でも支援してくださった

家族に心より深く感謝の意を表します

平成 28年 3月

福井 聡史

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16

(3) 密度(ρ)およびガラス転移温度(Tg)評価

各ガラスの密度(ρ)測定はケロシンを用いたアルキメデス法で測定したガラス転

移温度(Tg)を評価するために示差熱―熱重量測定装置(SDT TA instrument Japan Q600)

を用いたアルミナパンを使用し測定条件はN2雰囲気下 10 Kmin 700までの温度範

囲にて行った

(4)耐水性試験

各ガラスの耐水性について評価するために耐水性試験をMCC-1法[21]にて測定した(Fig

28)条件は75 72h ガラスサイズ 12times10times02 cm (plusmn01 cm) 蒸留水の pH は 72-77

で行い浸漬後サンプルを乾かして重量を量った溶出速度(Dissolution Rate DR)は重

量減(ΔW) サンプル表面積(S) 浸漬時間(t)から以下の式によって算出した[22]

DR = ΔW (kg) S (m2) t (s)

また浸漬前と 72 h 後の重量減()も合わせて算出した

23 結果考察

231 組成分析 Snおよび Feの価数評価

Table 21に各試料の組成分析結果を示すまずアルミナ Al2O3の量を見るとガラスに

混入した量がほとんどの組成で 25 mol以下で多くても 35 molを下回る量であった

そのため各種特性についてアルミナの影響はほとんどないと考えられる[23 24]組成

によってその量に差があるのは溶融温度の違いによることに起因している組成分析の

結果今回作製したガラスは仕込み組成と大きな差がないと判断した

Fig 29に Sn-Nb-P ガラスの Snのメスバウアースペクトルをそこから得られたメスバウ

アーパラメーターを Table 22に示す得られた結果よりSn-Nb-P ガラスでは95以上の

割合で Sn2+のまま存在していることが分かった不活性雰囲気で作製したことP2O5 の出

発原料に NH4H2PO4を使用したことにより(か焼は行なっているが)還元雰囲気になったた

めSn4+にほとんど酸化されることがなかったといえるこの結果SP 系ガラスではほぼ

Sn2+のまま存在していると仮定した

Fig 210に FP ガラスの FeのメスバウアースペクトルをTable 23 にそこから得られたメ

スバウアーパラメーターを示すFP ガラスについては組成に関わらず酸化還元平衡に

より 20 ~ 30が Fe2+になりまたFe2O3 ge 30 molの際化学的にも安定であることが知

られている[27]実際にFe2O3 ge 30 molの際Fe2+は概ね 20 ~ 30存在している結果が得

られた一方でFe2O3 lt 30 molの際はFe2+が 40以上と高い割合で存在していることが

判明したこれは出発原料の NH4H2PO4の多量使用によること溶融温度が 1550と高

いことが要因で還元がより進行したためと予想される

17

232 ρおよび Tg

Table 24にρおよび Tgの結果を示す二つの特性結果はそれぞれのガラス系において

SnO や Nb2O5ZnO といった金属酸化物が増えるにつれて大きくなっているSP Sn-Nb-P

SNP S5ZP 系ガラスの Tgはほとんどが 300前後であり最も高い温度でも67S5N28P

の 346であった一方5SZP 系ガラスは400~440となり他のガラス系と比較する

と若干高い温度となったそれでも今回作製した第三成分を添加したガラスは低 Tgを有

するガラスであると判断できSP ガラスの特性を維持できたと判断できる

60S5N28P と 62S5Z30P のようなほぼ同じ OP を示すもので比較した際にNb2O5添加が

ZnO 添加よりも Tgが高くなったのは①配位数が同配位数になり得るイオンの場合(例え

ば Nb5+と Zn

2+なら4配位など)ポーリングの第 2 法則[25]より高価数イオンの方が結合

強度が強くなる②diatomic cationの解離エネルギーがNb-O (688plusmn11 kJmol)[26]に対しZn-O

(1611plusmn48 kJmol)[26]と大きな差があるため Nb-Oの結合が強い故に熱的に安定化され

Tgが高くなったと考えられる

233 耐水性試験前後の外観写真

Figs 211 - 216に各ガラスの耐水性試験前後の外観写真を示すFig 211 の SP ガラスを

観察するとSnO 量の少ない 50S50P 60S40P は浸漬時間が経過するにつれて元々の形状

が崩壊したりガラス自体が膨張したような状態になったりしたSnO 量の多い 67S33P

70S30P について形状は崩れることはないが透明性が失われる(白ヤケ)耐候性が低いこ

とが確認できるFig 212 に示す Sn-Nb-P ガラスではNb2O5無添加の 65S-0Nb-35P は浸漬

時間 24 h で透明性が失われているがNbO25量の増加させていくと徐々に透明性が回復

しており4 mol添加した 65Sn-4Nb-31P では72 h後においてもほとんど変化が確認でき

ないNbの添加量を変えた Fig 213に示す SNP ガラスではSP ガラスと同様に SnO 量の

少ない 50S5N45P は時間経過と共にガラス全体にldquoひびrdquoのようなものが見え72 hの実

験終了後最終的にテフロン糸を外す段階で簡単に割れたしかし50S50P や 60S40P と比

較すると耐水性が大幅に良くなったまた60S5N35P 67S5N28P は耐水性が良好なこと

だけでなく耐候性についても向上していることが目視で判断できる一方で二種類の

SZP ガラス(Figs 214 215)を観るとP2O5量の少ない 5S55Z40P および 55S5Z40P では

形状が崩れるか析出物が現れる結果となったこの組成よりP2O5 量を減少させるとSP

ガラスと同じように形状は崩れないが透明性が若干失われる結果となった

Fig 216 に比較対象の FP ガラスの耐水性試験前後の写真を示すこの組成ではFe2O3

量の少ない20F80Pにおいても形状が全く崩れない結果が得られたしかしFe2O3 lt 30 mol

の組成において表面に干渉色のような反射光が若干確認できたこれはおそらく青ヤ

ケが発生したためであると考えられる

18

234 耐水性試験前後の構造変化

Figs 217 - 222に各ガラスの耐水性試験前後の XRDパターンを示す耐水性試験前では

ガラス化を全組成で確認した(Figs 217(a) - 222(a))しかし耐水性試験後における外観

写真で形状の崩れたもしくは析出物の得られたガラス組成では結晶が生成したことが

確認された形状の崩れた三組成のうち50S50P 60S40P ガラス(Fig 2214(b))では三

種類の結晶ピーク(SnP2O7 Sn2P2O7 Sn3(PO4)2)が確認でき5S55Z40P については(Fig

2214(b))結晶同定の判断はできなかったが ZnOの多い組成であるためおそらくリン酸

亜鉛の何れかの結晶だと推測された析出物が得られた 55S5Z40P はガラス matrix部と析

出物に分けて測定したところガラス matrix 部はガラスのままであり析出物は SnP2O7

Sn2P2O7の二種類の結晶ピークが確認できたガラス形状に変化がなかったその他の組成は

ガラス状態が保たれていたSn4+の結晶のピークが確認されたのは50S50P のガラスには

気泡が残っておりその気泡から酸化されたかもともと溶融工程で電気炉内に残って

いた酸素によってSn4+に酸化されたか等が考えられる

235 溶出速度(DR)および重量減

Table 24に DR重量減の結果および仕込み組成から計算した OP を示すSP SNP S5ZP

ガラスではSnO 量の増加に伴いSnO量の固定された Sn-Nb-P 5SZP ガラス系ではそれ

ぞれの金属酸化物の増加に伴いDR重量減は減少傾向にあったFP ガラスでは全組成

において DR 重量減共に変化が全く確認されなかったそのため青ヤケのようなものが

確認された FP ガラス(Fe2O3 lt 30 mol)については電子天秤では変化が見られない程度

の重量減であったと推測される二種類の SZP ガラスで比較するとSnOと ZnO量が入れ

替わってもほぼ誤差範囲内と思われる結果が得られたガラス全体の比較では外観写真

で変化が見られなかった FP ガラスと 65S5N28P 65Sn-5Nb-30P のガラスが DR重量減がと

もにゼロという結果が得られた

組成と DR 重量減の関係性を見るために作成した図をFigs 223(DRと OP の関係性)

224(Fig 224に重量減と OP の関係性)に示すそれぞれの図にリン酸塩の三つの構造

の OP も表記した双方の図よりDR 重量減共に OP が増加することで単調に下がって

いることが分かるこの結果はリン酸塩の構造ではorthophosphate 組成で耐水性良好が

あるため[22]一般的な結果と同じ挙動であるまた耐水性の良かったNb2O5添加の SNP

ガラスは異なる挙動(傾き)が得られた

以上の結果より第三成分添加による耐水性の改善を確認し特に Nb2O5 の添加による

影響は大きいことが判明したまたOP の増加による耐水性が改善する結果が得られた

次章の第 3 章にて各ガラス系の構造解析を行い第三成分特に Nb2O5の耐水性への有

効性について調査した

19

24 結言

本章ではSP ガラスおよび第三成分の Nb2O5 ZnOを添加した SP ガラスの物性評価を行

うことで耐水性改善への第三成分添加の有効性を確認した各々の物性について以下に

まとめる

低ガラス転移温度を有する SP ガラスは最も SnO 量が高い 70S30P でも Tg le 280であ

ったNb2O5を添加した Sn-Nb-P SNP ガラスではTgの上昇は見られたが Tg le 350

ZnOを添加した 5SZP S5ZP ガラスではTg ≦ 450であり両金属酸化物の添加でも低

ガラス転移温度を維持しているガラスが得られたNb2O5 添加が Tg を上昇させたのはポ

ーリングの第 2法則より高価数イオンの方が結合強度が高くなるためと結論付けた

耐水性試験結果の外観写真を観るとSP ガラスの SnO 量 le 60 mol 5SZP ガラスおよび

S5ZP ガラスの P2O5量 = 40 molの組成についてガラスサンプルの形状が大きく変化して

おりDR 重量減も高く耐水性の低さが明らかであった得られた析出物はSnP2O7

Sn2P2O7 Sn3(PO4)2 および亜鉛リン酸結晶の一種であると予想されたその他の組成では

透明性の失われた組成がいくつかあったが外観写真では変化が見られなかった FP ガラス

と 65S5N28P 65Sn-5Nb-30P のガラスが DR重量減がともにゼロという結果が得られた

組成と耐水性に関してはDRおよび重量減がOP増加で単調に低下した結果が得られた

つまり耐水性を改善させる有効な手段はSP 系ガラスのガラス化範囲を拡大かつ OP を

増大させる第三成分の添加によることであることが示唆された

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[27] 天本一平 明珍宗孝 福井寿樹 NEW GLASS 22 [2] 21-26 (2002)

21

Fig 21 三成分系 SnO-NbO25-P2O5 系のガラス化範囲

Fig 22 作製した Sn-Nb-P ガラス

(a)50Sn-5Nb-45P (b)55Sn-5Nb-40P (c)60Sn-5Nb-35P

(d)65Sn-5Nb-30P (e)70Sn-5Nb-25P (f)60Sn-10Nb-30P

(g)55Sn-20Nb-25P (h)60Sn-15Nb-25P (i)65Sn-10Nb-25P

22

Fig 23 三成分系 SnO-ZnO-P2O5系のガラス化範囲

Fig 24 作製した SZP ガラスの一例

(気泡や脈理のようなものが確認できた組成)

23

Fig 25 SP SZP ガラスの作製フローチャート

Fig 26 Sn-Nb-P SNP ガラスの作製フローチャート

(気泡や脈理のようなものが確認できた組成)

24

Fig 27 FP ガラスの作製フローチャート

Fig 28 耐水性試験(MCC-1法)

25

Table 21 各ガラスの組成分析結果

26

Fig 29 Sn-Nb-P ガラスのメスバウアースペクトル

Table 22 Sn-Nb-P ガラスのメスバウアーパラメーター

27

Fig 210 FP ガラスのメスバウアースペクトル

Table 23 FP ガラスのメスバウアーパラメーター

28

Table 24 各ガラスの物性(密度(ρ)ガラス転移温度(Tg)溶出速度(DR)重量減())

29

Fig 211 SP ガラスの耐水性試験前後の外観写真

Fig 212 Sn-Nb-P ガラスの耐水性試験前後の外観写真

30

Fig 213 SNP ガラスの耐水性試験前後の外観写真

Fig 214 S5ZP ガラスの耐水性試験前後の外観写真

Fig 215 5SZP ガラスの耐水性試験前後の外観写真

31

Fig 216 FP ガラスの耐水性試験前後の外観写真

32

Fig 217 SP ガラスの XRD パターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

33

Fig 218 Sn-Nb-P ガラスの XRD パターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

34

Fig 219 SNP ガラスの XRD パターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

35

Fig 220 5SZP ガラスの XRDパターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

36

Fig 221 S5ZP ガラスの XRDパターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

37

Fig 222 FP ガラスの XRD パターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

38

Fig 223 各ガラス系の DR と OP の関係性

39

Fig 224 各ガラス系の重量減と OP の関係性

40

第 3章 分光法を用いたスズリン酸塩系ガラスの構造解析

31 緒言

前章ではSP ガラスおよび第三成分に Nb2O5 ZnOを添加した Sn-Nb-P ガラスSNP ガラ

スSZP ガラスの物性特に耐水性に関する第三成分添加の有効性を明らかにしたその添

加した第三成分の二種類についてもNb2O5 の方が ZnO よりも溶出速度重量減ともに抑

制することができSP ガラスの低ガラス転移温度という特性も維持されていることが判明

したしかし現段階では本研究の主要な物性である耐水性改善の要因が明確になって

いない組成の観点からはOP の値が高い組成が良好な耐水性であることが分かったが

組成だけでは耐水性改善のメカニズムについて完全には理解できないここでリン酸塩

ガラスの溶出のメカニズムは第 1 章で述べたように加水分解反応と水和反応が要因とな

る[1 2]この機構はそれぞれリン酸の構造つまり架橋酸素 BO の数が大きく関わって

おりリン酸アニオンの[PO4]ユニットの架橋酸素数を知ることが重要であるこの BO の

情報を得るためにはガラス構造を示す指標の一つである Qn(n は[PO4]ユニット中の架橋

酸素数を表す)を調べることが必須であるまたQn の分布を調べるためにはガラスの

構造解析を行う必要性がある

ガラスの構造解析には種々の方法があり特にラマン分光法や赤外(IR)分光法核

磁気共鳴法(NMR)などの分光学的手法を用いた構造解析の報告が多い[3-5]ラマン分光

法および IR分光法は原理は異なるがどちらも結合の振動モードを測定する手法であり[6]

リン酸塩ガラスだけでなくケイ酸塩ガラスホウ酸塩ガラスなど様々なガラス系にて測

定がなされている[7 8]また得られた結合状態の情報からリン酸塩アニオンの Qn分布

を調べることも可能であるNMR は共鳴吸収ピークの化学シフト(共鳴周波数のズレ)

から構造を決定する手法であるガラスの場合SiO2や B2O3 P2O5といった網目形成酸化物

の Qn分布を得るために一般的に使用されている手法である[9]

今回これらの測定の中でラマン分光法を選択し構造解析を行ったラマン分光法は

測定する際にサンプル形状を気にすることなく基本的にそのまま測定できるためIR 分

光法のようにサンプル形状で測定方法を変える必要はないまたIR 分光法では例えば

KBr 錠剤法やヌジュール法のように測定を行うためのサンプル調整に手間がかかる場合が

ある[6]さらに比較対象の FP ガラスではNMR を測定できないため作製ガラスを全

て比較検討できるようにラマン分光法を選択した

本章ではラマン分光法を用いて各ガラスの構造解析を行い[PO4]ユニットの Qn分布を

調査し平均 BO数 nを算出することで耐水性と構造の関係性を検討したまたラマン

分光法によって得られた Qn分布の妥当性を確認するためにSP ガラスおよび 67S5N28P ガ

ラスの NMRを測定も行い比較した

32 実験方法

41

321 サンプル準備

ラマン分光およびメスバウアー分光の測定では第 2 章で作製した各ガラスのバルク体

を用いたWD試験に使用したサンプルとは別にラマン測定用のサンプルを用意した適

度な大きさ大体 15 cm角程度のサイズになるようにガラスカッターで切断しその後

十分な平滑性を得るために鏡面研磨を施した

322 ラマン分光測定

使用したラマン分光装置は顕微レーザーラマン分光装置(Jasco NRS-5100)を用いた

用いたレーザー波長は 53208 nmであり400 - 2000 cm-1の範囲で測定した

Qn 分布を導くためにピークフィッティングを行いリン酸塩アニオンのラマンバンド

が現れる950 - 1250 cm-1付近および 700 - 750cm-付近の範囲で定量した

323 31P MAS NMR測定

31P MAS NMRの測定は Varian NMR System 500 を用いて32 mmの MASプローブ

202309MHzにて行った測定パラメーターを以下に示すπ4 パルス長さ 14 μs 待ち時間

(pulse delay)10 s 積算回数 3600 scan シリンダー円筒形状の Zrローターの回転スピード

160 kHz referenceとして二番目の基準物質として使われる NH4H2PO4を使用化学シフト

は85 H3PO4溶液から δ = 10 ppmである

33 結果考察

331 各ガラス系のラマンスペクトル

Figs 31 - 35にラマンスペクトルを示す各ピークは以下の通りに帰属し各スペクト

ル中に該当する構造をピーク位置に示した

1230 - 1260 cm-1 P=O NBO Q

2 [10]

1110 - 1150 cm-1metaphosphate (PO3)

- Q

2 [10]

1030 - 1100 cm-1pyrophosphate (PO35)

2- Q

1 [10]

970 - 1000 cm-1orthophosphate (PO4)

3- Q

0 [10]

920 - 930 cm-1asymmetric (P-O-P) Q

1 [10]

730 - 750 cm-1symmetric (P-O-P) Q

1 [10]

710 - 720 cm-1asymmetric (P-O-P) Q

2 [10]

810 - 820 cm-1Nb-O [NbO4] tetrahedron [11]

900 - 920 cm-1Nb-O isolated [NbO6] octahedron [11]

42

SP ガラスのラマンスペクトル(Fig 31)を見ると50S50P 60S40P ではmetaphosphate

の Q2 構造が支配的であるがSnO 量が増えるにつれてその構造が変化し70S30P では

pyrophosphateの Q1構造と orthophosphateの Q

0構造が共存した構造となっているまたSnO

量の少ない 50S50P および 60S40P において確認されたQ2構造の P=O のピークが見えなく

なっているつまり耐水性と関連して考えるとSnO量が増えるにつれてP-O-P 結合か

ら Sn-O-P 結合に代わり水分子との反応である加水分解反応を妨げる構造に変化している

ことがわかる

Figs 32 33にNb2O5を添加した Sn-Nb-P ガラスおよび SNP ガラスのラマンスペクトル

を示すまずSn-Nb-P ガラスについてNb 無添加の 65Sn-0Nb-35P は主に Q1構造であ

りNbO25が添加されることによってQ0構造に変化しQ

1 Q

0構造が共存しているような

ピークが得られた添加量が少ないガラス系であるため徐々に変化しているのを確認し

た800 cm-1を少し越えた 810 - 820 cm

-1付近にNb2O5を添加することでピークが現れそ

して添加量を増量することで強度が強まるピークがありこのピークは四面体の[NbO4]

のものと判断した

SNP ガラスのラマンスペクトルについてはNb2O5添加量を固定した組成であるためSP

ガラスのような挙動が観察された50S50N45P では50S50P ガラスと同じようにQ2構造

が主な構造でありSnO量の増加に伴って60S5N35P Q1構造67S5N28P Q

0構造に支配

的な構造が変化しているこれはSP ガラスと同じ傾向を示しているためP-O-P rarr Sn-O-P

に置き替わっていることが示唆されるNb-O に関するピークでは50S5N45P のみ[NbO4]

四面体のピークを確認できず900 - 920 cm-1付近に[NbO6]八面体のピークが確認された

SnO量が増量した 60S5N35P では810 cm-1付近の [NbO4] 四面体のピークが現れているが

[NbO6]八面体のピークと 900 - 920 cm-1付近の Q

1構造のピークが非常に近い(ほぼ重なって

いる)ことから60S5N35P については[NbO4] 四面体および[NbO6]八面体の共存の可能性

も考えられるまた67S5NP28 では[NbO4] 四面体のみのピークが観察されたためこ

の Nb-O の配位数変化は[PO4] unitの状態によって変化している可能性も示唆された

ZnO を添加した S5ZP ガラスおよび 5SZP ガラスのラマンスペクトルを Fig 34 に示す

図の下部三つが S5ZP ガラス上部三つが 5SZP ガラスのスペクトルであるSZP ガラスの

二系統を比べるとあきらかなスペクトルの違いが確認された各ガラス系で確認すると

SnO 量が最小の 55S5Z40P はQ2構造と Q

1構造の範囲に跨っているようなスペクトルが得

られた62S5Z33P および 65S5Z30P のスペクトルからはどちらもほぼ Q1構造であると判

断した5SZP のスペクトルは1000 - 1250 cm-1付近の範囲で裾を引くような(なだらかな)

スペクトルが得られたZnO 量が最小の 5S55Z40P にはQ2構造が主な構造に見えるが

shoulderピークのような Q1構造(1030 - 1100 cm

-1)が確認できる5S62Z40P においては

1000 - 1250 cm-1付近の範囲まで幅広いスペクトルが得られた730 - 750 cm

-1付近にピーク

が現れているためおそらく Q1構造が最も多く存在していると考えられる65S5Z30P では

Q1構造Q

0構造が共存しているようなピークが得られた

43

FP ガラスのラマンスペクトルを Fig 35 に示すFe量の少ない 20F80P 25F75P と他の三

つで構造が異なっていることである20F80P 25F75P はQ2構造と Q

1構造が基本構造にな

っていると判断できる 30F70P は1110 - 1150 cm-1付近に shoulderピークのようなものがあ

りQ2 Q

1 Q

0構造が共存しているようなスペクトルであった35F65P 40F60P はQ1構造

が主な構造でQ0構造があると判断した

332 平均 BO数 n (Qn分布)

まずピーク分離について散乱断面積が見積もれなかったためラマンの散乱強度比

を Qn分布として簡易的にピーク分離を行い(Fig 36)そこから平均架橋酸素数 BO 数 n

を算出したここでFig 37 に 31P MAS NMRスペクトルを示しTable 31に NMRおよび

ラマン分光より得られた平均 BO 数 n を示す(NMR の帰属 reference [12])表よりNMR

とラマンから得られた Qn分布はほぼ一致していることが分かった60S40Pについては支

配構造が NMR(Q1) ラマン(Q

2)で逆になったこれは60S40P の組成がQ

2と Q1のほぼ中

間の組成になるためこのようなズレが生じたと考えられるしかし今回のラマンによ

る Qn分布の算出についてはほぼ問題ないと判断した

Table 32にラマンスペクトルより求めた Qn分布平均 BO 数 nをを示しTable 24に示

した DR 重量減の結果を併記する

SP ガラスのうち耐水性が低いガラスは Q2構造によって形成されているSnO量の増加

によって NBOの増加とともに耐水性の向上が確認できSnOが入ることでSn-O-P 結合を

形成し水分子からの攻撃を受けにくくなっていることが考えられる

Sn-Nb-P ガラスでは基本的に Q1構造が主構造でNb2O5の添加が増えるにつれQ

0構

造が支配的になり耐水性は次第に向上していく最も耐水性のよかった 65S-5Nb-30P は

Q0構造での割合が非常に高く平均 BO数 n値が 03であった

SNP ガラスではP2O5量が多い組成の 50S5N45Pにおいても平均 BO数 nが 60S40P と

同じながらも耐水性が良くなっている67S5N28P はほぼ完全に Q0構造であり平均 Q

n

値は 0となった

SZP ガラスについてはS5ZP 5ZSP のどちらの系列についても耐水性の結果に大きな差

というものは確認されなかったが構造的にも平均 BO数 nが 09 10 17という結果であ

った

FP ガラスについてはFe2O3 lt 30 molのときは平均 BO 数 nが20 19と高い数値を

示したが耐水性は非常に良好であったこの結果より組成だけでなく構造的にも耐

水性高くなる要因が不明である一つの原因の可能性としてメスバウアーより得られた

Fe2+の存在比が 40以上と高かったことがFe2O3含有量が少ない組成時には効果的になっ

ているのかもしれない

333 平均 BO数 nと耐水性の関係性

44

Fig 38に DRと平均 BO数 nの関係性についてFig 39に重量減と平均 BO数 nの関係

性をそれぞれ示すまたOP の時と同様に各図にリン酸塩の三つの構造の平均 BO数

n も表記した双方の図よりDR 重量減共に平均 BO 数 nが低下することで単調に下がっ

ていることが分かるまた耐水性の良かったNb2O5添加の Sn-Nb-P SNPガラスはの DR

の挙動(傾き)はOP 時とも異なった挙動が得られた

Fig 310に OP と平均 BO数 nの関係を示す図中に示す茶色metaphosphate 黄色

pyrophosphate 灰色orthophosphate であるこの図から耐水性改善には平均 BO 数

n を下げOP を上げることが重要であるのが分かるまたNb5+の添加はOP を上げる

だけでなく平均 BO 数も減少させることから非常に効果的な成分であることが明らかで

あるこれはP5+から同酸価数 Nb

5+に少量でも置き換えることで平均 BO 数 n を下げ

OP を上げることを可能としている(実際に orthophosphate の OP4 よりも高い OP でガ

ラスが作製できている)つまりNb5+の添加によって P-O-P 結合が減少し水和反応加

水分解反応が抑制されているからである

以上の結果SP 系ガラスの耐水性改善には低い平均 BO 数と高い OP の組成にするこ

とが重要でNb2O5の添加は非常に効果的であることが分かったその一方でガラス中の

詳細な構造的要因についてははっきりしていないため次章の第 4 章にてさらに詳し

い構造解析を行い耐水性改善の要因について調査を行った

34 結言

本章ではラマン分光を使用して各ガラス系のリン酸塩アニオンの構造を簡易定量で

評価し組成と構造の関係について考察した

平均 BO 数 n と耐水性に関してはDR および重量減が平均 BO 数 n の減少で単調に低下

した結果が得られた

平均 BO数 nと OP の図より耐水性改善には平均 BO数 nを下げることそして OP

を上げることが重要であることが明白であった

Nb5+の添加は平均 BO数を減少させるだけでなくOP も上げることからガラス構造内

の P-O-P 結合を減少させる故に水和反応加水分解反応が抑制され耐水性が大幅に

改善された故にNb2O5 のような高価数金属酸化物を添加することが効果的であること

が示唆された

参考文献

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[2] 春日敏弘 NEW GLASS 22 [2] 3 - 8 (2007)

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[12] D Holland A P Howes M E Smith and A C Hannon J Phys Condens Matter 14

13609-13621 (2002)

46

Fig 31 SP ガラスのラマンスペクトル

47

Fig 32 Sn-Nb-P ガラスのラマンスペクトル

48

Fig 33 SNP ガラスのラマンスペクトル

49

Fig 34 SZP ガラスのラマンスペクトル

50

Fig 35 FP ガラスのラマンスペクトル

51

Fig 36 ラマンスペクトルのピーク分離例(67S5N28P)

Raman Shift (cm-1)

52

Fig 37 NMRスペクトル

Table 31 NMR およびラマン分光より得られた SP 67S5N28P ガラスの

Qn分布および平均 BO数 n

53

Table 32 各ガラスのラマンスペクトルより求めた Qn分布結果

(表の赤線より右側の結果は Table 22 より)

1 仕込み組成による数値

2 Fig 2212 に示した析出物を取り除いた後の数値

54

Fig 38 DR と平均 BO数 nの関係性

55

Fig 39 重量減と平均 BO数 nの関係性

56

Fig 310 OP と平均 BO数 nの関係性

Meta

Pyro

Ortho

57

第 4章 放射光を用いたスズリン酸塩系ガラスの構造解析

41 緒言

前章の第 3 章にてラマン分光法を用いて SP 系ガラスの構造解析により Qn分布を導き

出したことで耐水性と構造の関係についてある程度関連性を導くことができたリン

酸アニオンについてはQ0(orthophosphate)構造 gt Q

1(pyrophosphate)構造 gt Q2

(metaphosphate)構造の順で良耐水性となるしかしSn Nbおよび Znの局所構造につ

いては知見が得られていないラマン分光や IR分光などの分光学的手法を用いてSnや

Nb Zn の周辺の局所構造を知るには限界があるまたガラスの構造解析を行う上で非常

に重要な因子である中距離構造の評価には分光学的手法は不向きである[1]

そこで局所構造や中距離構造を知るために有効な手法として放射光線を用いた構造

解析がある放射光(SR 光)とはシンクロトロンなどの加速器で高速に加速された電子

が進行方向を磁場によって変えられた際に放射する電磁波である[2]エネルギーが高く

(短波長)輝度が高い特性を有している日本国内では兵庫県佐用町の SPring-8や茨城

県つくば市の高エネルギー加速器研究機構佐賀県鳥栖市の佐賀県立九州シンクロトロン

光研究センターなど複数個所に放射光施設が設置されている

放射光を用いたガラスの構造解析には一般的に高エネルギーX 線回折(High Energy

X-ray diffraction HEXRD)が用いられるこの回折実験から高い散乱ベクトル Q(= 4π sinθλ)

まで回折データが得られる多種類の原子から構成される物質の場合はFaber-Ziman 型[3]

の構造因子 S(Q)を用いる以下の式に示すようにFaber-Ziman 型構造因子 S(Q)は同種また

は異種の原子による相関の重み関数付の和として示される例として SiO2ガラスで説明す

ると構造因子 S(Q)は三種類の原子付の S(Q)の重み付の和として表されていることが分か

I(Q) 散乱断面積 ltgt 原子一個当たりの平均値 f(Q) 原子散乱因子 W 重み関数

通常の研究室で使用される X 線回折(XRD)装置で用いられる特性 X 線はCuKα線(λ

= 0154 nm 81 keV)が最も良く用いられより高いエネルギーの X 線が必要な場合は

MoKα線(λ = 0071 nm 175 keV)が使用される一方でSPring-8のビームライン BL04B2

で行われる高エネルギーX 線回折(HEXRD)測定で使用される SR のエネルギーは378 keV

58

~ が使用可能である[2]従ってガラス以外の液体のような非晶質物質にも非常に精度

よく構造解析が行われている[4]

また局所構造解析の一つに X線異常散乱法という測定方法がある[5 6]これは通常

の X 線回折実験では分離不可能な特定元素に関連する部分構造因子(散乱強度曲線)を得

ることができる手法である今回 HEXRD の測定時に使用したエネルギー614 keV では各元

素の異常散乱項のエネルギー依存性は確認されない(Fig 41)その一方でFig 42に示す

Sn の吸収端付近の 292 keV付近ではSnの異常分散項のエネルギー依存性が確認できる

つまりSnの吸収端近傍より低エネルギー(E)側の異なるエネルギーの X線(E1 E2)を

使って散乱強度を測定し各 E における異常分散項(f`)の変化(つまり高い E1 から低い

E2 の散乱強度の差分)を利用して Snに関する部分構造因子を求める構造解析が AXS 法で

あるこの測定法は古くから知られている方法ではあるが装置の測定条件や設備の問

題からなどから使用があまり普及していなかった[5 6]近年になり金属ガラスの構造解

析について徐々に報告が出てきており今後注目される測定法である

HEXRD および AXS 法などから得られたデータ実測の構造因子 S(Q)は一次元の限られ

た構造情報であるためガラスなどの非晶質物質の中距離構造を解明するためにはこれ

らのデータを基に三次元構造を求める必要がある三次元構造モデルの作成には逆モンテ

カルロ(RMC)シミュレーションを使用することが有効である[7]このシミュレーション

は任意で決めたシミュレーションボックス内の粒子をランダムに動かすことで実測の

構造因子 S(Q)を再現する三次元構造モデルを構築する方法である

SP ガラスについては分光学的手法について数多く報告があるが放射光を用いた回折

法はほとんど適用されていないそこで本研究では HEXRD および AXS 法を用いた構造

解析を行うことでSn Nb周りの構造を解明すると共にSNP ガラスの耐水性改善のメカ

ニズムについて考察したまたAXS 法の有効性についても検討した測定を行ったガラ

スはSP ガラスおよび最も耐水性の高かった 67S5N28P を選択した

42 実験方法

421 HEXRD AXS法

HEXRDはSPring-8のビームライン BL04B2 で測定を行ったエネルギー614 keV の X

線を用いた測定サンプルの厚みは09 mm (plusmn0005 mm)になるまで研磨を行った

AXS 測定はSPring-8のビームライン BL13XUを使用した(Fig 43)それぞれの測定し

た X 線のエネルギーについて以下に示す

①Sn K吸収端hellip292 keV near edgehellip291452 keV (-60 eV) far edgehellip289751 keV (-230 eV)

②Nb K吸収端hellip1899 keV near edgehellip189562 keV (-30 eV) far edgehellip187863 keV (-230 eV)

測定に使用したサンプルの厚さが015 - 030 mmとなるまで研磨を施した

SP ガラスについて50S50P 60S40P 67S33P の三組成のガラスを測定した70S30P に関

59

しては測定を試みたが放射光照射によって結晶化してしまいガラス部分の正確な構

造因子を得るための強度補正ができず解析を断念した

422 RMCのモデリング

Table 41 に RMC の各種パラメーターを示す粒子数は約 5000 個でそれに伴う boxの一

辺の長さは約 42 ~ 46 Ǻになった拘束条件にP の配位数が 4になるような条件を付け

加えたFig 44にSn2P2O7結晶および Sn3P2O8結晶の動径分布関数(RDF)をTable 32

にRDFから得られた第一近接距離[8 9] を示すこれらの数値を使用しcutoffを決定し

たNb-O についてはいくつかの文献値を参考にした[10 11]

各ガラスの RMCのモデリングは①HEXRDから得られた S(Q)のみ②S(Q)および AXS

から得られた部分構造因子を加えた場合でそれぞれ計算した

43 結果考察

最初にNbの AXSから得られたデータについて解析を試みたが妥当な構造モデルが得

られなかったためSnの AXSのみで解析を進めたNb2O5の量が 5 molと少量であったた

めあまり精度の高いデータが得られなかったと推測される

431 実測の HEXRDおよび AXSの結果

4311 実測 HEXRDの S(Q)

Fig 45 に実測HEXRDの S(Q)を示す四つの組成ともに実測HEXRDの S(Q)が得られ

Nb2O5添加の 67S5N28P ガラスでは Low Q 側に変化が確認された

4312 実測散乱強度曲線

Fig 46 に Snの散乱強度曲線を示す(a) の 67S33P のこの曲線からはfar edgeおよび

near edge のエネルギー間で差分が見られエネルギーの依存性が確認された50S50P

67S5N28P のガラスについても同じように差分が確認されたが(b)の 60S40P についてのみ

他とは若干異なる結果(緑丸)であったためRMC の構造解析には差分の構造因子ではな

くfar edge near edge 二つの構造因子を用いた

4313 全相関関数 T(r)

Fig 47 に全相関関数 T(r) を示すHEXRD から得られたものを実線でSnの AXS から

得られたものは点線で示し組成ごとに重ねて表示した図中に各ピークについて帰属し

ているがSnの T(r)からはSn-O Sn-P Sn-Snのみのピークを確認した

432 RMCの計算結果および考察

60

構造モデルの一例として67S5N28P ガラスの得られた構造モデルをFig 48に示す水

色の多面体 unitSnON 黄色の多面体 unitPO4 ピンクの多面体 unitNbONである以下

詳細な構造解析の結果および考察を記す

4321 RMCのフィッティング結果

RMCのフィッティング結果の一例として67S33P の HEXRD と Snの AXS の構造因子か

ら得た結果を示す(Fig 49)二つの構造因子を加えて計算した結果においてもHEXRD

の S(Q) AXS の S(Q)に各々に対する良好なフィッティング結果が得られた他の組成も

同様なフィッティング結果が得られた

4322得られた各 pairの平均配位数平均角度平均結合距離

RMCの結果によって得られた各 pairの平均配位数平均角度平均結合距離を Tables 43

に示す上段が HEXRD の S(Q)のみ下段が HEXRD に Sn の AXS の部分構造因子を加え

て結果である最下部は比較のためにSn2P2O7の情報を記載した[8]

P-O pairについてRMCモデル中の PON多面体に関して平均配位数 Nが 4および P-O

の平均結合距離が約 160Å平均結合角度angO-P-O が約 109degという結果が得られた組成

による大きな違いは確認されなかったのはP の配位数が 4になるように拘束条件をかけた

結果であると考えられるSnON多面体についてはSnO量の増加 = OP の増加であり平

均配位数 Nが 3 ~ 35へ増加した平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約

22Åで組成による大きな変化はほとんど見られなかったNb2O5を 5 mol添加したガラ

スではNbON多面体の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平均配位数 N約 4Nb-O 平均結

合距離約 20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O(約 105deg)と値が近いこと

また6配位ではなく 4配位として主に存在していることからSnO と同じような働きをし

ていると推測される

以上の結果からNb2O5添加の耐水性改善の要因として結合距離が Sn-O が約 22Åに対

し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強固にして

いることも一つの要因として考えられる

また67S5N28P ガラスの各多面体モデルを確認すると(Fig 410)P は PO4Snは SnO4

と SnO3Nbは NbO4をそれぞれ再現している

4323得られた各 pairの結合様式

RMC の結果により得られた各 pair の結合様式を Tables 44 に示す上段が HEXRD の

S(Q)のみ下段が HEXRDに Snの AXS の部分構造因子を加えた結果である最下部は比

較のためにSn2P2O7の情報を記載した[8]

結合様式に関してはPO4四面体は他の多面体も含めてほぼ頂点共有で存在している

SnON多面体についてはSnO 量が少ない配位数が 3 に近い場合頂点共有以外の共有の

61

割合も多くSnO 量が増えるにつれて頂点共有が主になり網目形成体として振舞ってい

ると考えられる組成によって平均結合距離や平均角度の大きな変化が見られなかったこ

とから平均配位数が結合様式を決める重要なファクターであるということも考えられる

またHEXRD と AXS 法の結果がほぼ同じであったこれは主成分が SnO のガラスであ

るためHEXRDでも十分に詳細な構造が得られたため大きな変化が現れなかったと考え

られるNbON 多面体はPO4 四面体と SnON 多面体とはほぼ頂点共有で繋がっている以

上の結果よりSnO量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体的に各多面体同士の

頂点共有が増えていることから耐水性の改善には頂点共有を多く含む構造であること

が重要である或いは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的となって

いるということが推測されるFig 411に 67S5N28P ガラスの構造モデルを示す各多面

体はほぼ頂点共有で繋がっていることが確認できる

4324 平均 BO数の比較

Tables 45にNMR Raman RMC(HEXRD) RMC(HEXRD + AXS)の平均BO数を示すRMC

から得られた平均 BO 数 nはNMR Raman と同様に Nb2O5の添加による大幅な減少が確認

されたしかしNMR Raman と比較すると全組成において数値が大きすぎで適当でない

50S50P の構造モデルを観るとPO4四面体間で3配位 O の存在が確認された(Fig 412)た

め実測で得られた n値を再現できるようなPO4四面体モデル間の繋がり方に関する拘束条

件を加えて RMCを計算する必要性があるまた仮に3配位 Oの存在があるとすると電

子状態の変化が生じていることがと示唆されるため分子軌道計算を用いて電子状態解析

を行い確認する必要がある

4325 耐水性の改善について

Nb2O5を添加のガラス構造への影響について①6配位ではなく 4配位として主に存在し

ていることからSnO と同じような働きをしていると推測される②結合距離が Sn-O が約

22Åに対し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強

固にしている③ガラス構造中で全体的に各多面体同士の頂点共有が増えている以上の

ことが判明した以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性

耐候性を改善した要因として考えられる

44 結言

本章では分光学的手法では評価できないガラスの中距離構造局所構造について理解

するために放射光を用いた構造解析を実施しSP ガラスの構造と耐水性改善について考

察したHEXRDおよび AXS法を用いて測定を行い得られたデータを RMCシミュレーシ

ョンにて解析を行った

解析の結果 Sn-O pair については平均配位数 Nが 3 ~ 35でSnO量の増加 = OP の増

62

加に伴い高くなった平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約 22Åであ

ったP-O Sn-Oについては組成による大きな変化はほとんど見られなかった67S5N28P

ガラスの Nb-O pair の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平均配位数約 4Nb-O 平均結合距

離約 20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O(約 105deg)と値が近いことま

た6配位ではなく 4配位として主に存在していることからSnOと同じような働き(網目

形成体)をしていると推測されるまた結合距離が Sn-O が約 22Åに対し Nb-O は約 20

Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強固にしていると言える

SnO 量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体的に各多面体同士の頂点共有が増え

ていることから耐水性の改善には頂点共有を多く含む構造であることが重要である

もしくは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的であることが推測さ

れる以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性耐候性を

改善した要因として考えられる

またAXS 法の有効性についても確認し効果的であることが判明したただし今回

は主成分が Sn の組成のガラスでありHEXRD でも十分に詳細な構造が得られたため

大きな差は現れなかった

参考文献

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63

Fig 41 各原子の異常分散項のエネルギー依存性

Fig 42 Sn の異常分散項のエネルギー依存性

64

Fig 43 SPring-8の BL13XU

65

Tab

le 4

1

RM

Cの各パラメーター

66

Fig 44 Sn2P2O7 Sn3P2O8結晶の RDF

Table 42 Sn2P2O7 Sn3P2O8結晶の各 pairの第一近接距離

67

Fig 45 得られた実測 HEXRDの S(Q)

68

Fig 46 Sn の異常散乱測定により得られた散乱強度のエネルギー依存性

(a)67S33P (b)60S40P

69

Fig 47 全相関関数 T(r)

太線 HEXRD より

細線 Sn の AXSより

70

Fig 48 67S5N28P ガラス構造のモデル

71

Fig 49 RMC フィッティングの結果

72

Tab

le 4

3 各

pairの平均配位数角度結合距離

73

Fig

4

10

67

S5

N2

8Pガラスの各多面体モデル

74

Tab

le 4

4 各

pairの結合様式

75

Fig 411 67S5N28P ガラスの構造モデル

76

Table 45 平均 BO 各数 nの比較

Fig 412 50S50P ガラスの構造モデル

77

第 5章 総括

本研究ではSP ガラスを対象とした本研究では鉛フリー代替ガラスまたは希土類フ

リー蛍光体として SP ガラスの新規高機能化を将来的に目指し問題点であるldquo化学的耐久

性rdquoの改善につながる知見を得ることを目的としたそこでまずSP ガラスを母体ガラ

スとし第三成分に Nb2O5を添加した Sn-Nb-P SNP ガラスZnO を添加した SZP ガラスを

作製し耐水性を中心とした物性評価を行った次に分光学的手法で構造解析を行い

Qn 分布を導き出した最後に放射光を用いた構造解析を行い耐水性改善に関する構造的

な考察を行った以下に本研究で行った検討内容を示す

(1)SPガラスおよび第三成分Nb2O5 ZnOを添加した三成分系SPガラスの物性評価(第 2章)

(2)SP 系ガラスの分光学的手法による Qn分布導出(第 3章)

(3)放射光を用いた SP 系ガラスの構造解析構造と耐水性改善の関連について(第 4章)

各章についてまとめた結果を以下に示す

第 2章

第 2章では二成分系および三成分系のリン酸塩系ガラスの各種物性(密度や熱的特性

耐水性)の評価を行った二成分系ではSP ガラスに加え良好な耐水性を有する鉄リン

酸塩(Fe2O3-P2O5)系ガラス(以下 FP ガラス)を比較のために三成分系では二成分系

の SP ガラスに Nb2O5を添加したニオブ含有 SP ガラス(SNP ガラス)および ZnO を添加し

た亜鉛含有 SP ガラス(SZP ガラス)を作製した

今回作製した SP 系ガラスは低ガラス転移温度を有していた各組成の温度域はSP

ガラスTg le 280 Sn-Nb-P SNPガラスTg le 3505SZP S5ZPガラスTg ≦ 450であった

各種 SP ガラスの耐水性試験の結果二成分系の SP ガラスよりも三成分系ガラスの方が

良好な耐水性を有していた65Sn-5Nb-30P 67S5N28P ガラスが最も耐水性が良好であり化

学的耐久性の改善には Nb2O5が ZnOよりも効果的であった

組成と耐水性に関してはDRおよび重量減がOP増加で単調に低下した結果が得られた

つまり耐水性を改善させるにはSP 系ガラスのガラス化範囲を拡大かつ OP を増大させ

る第三成分の添加が有効であることが示唆された

第 3章

第 3章ではSP 系ガラスの分光学的手法による Qn分布の導出を行ったラマン分光法を

用いて各ガラス系のリン酸塩アニオンの構造を簡易定量で評価し組成と構造の関係に

ついて考察した平均 BO 数 n と耐水性に関してはDR および重量減が平均 BO 数 nの減

少で単調に低下することが明らかとなった

平均 BO 数 n と OP の関係より耐水性改善には平均 BO 数 n を下げることそして

OP を上げることが重要であることが明らかになった

78

Nb5+の添加は平均 BO数を減少させるだけでなくOP も上げることからガラス構造

内の P-O-P 結合を減少させ水和反応加水分解反応が抑制され耐水性が大幅に改善さ

れることが示唆された故にNb2O5 のような高価数金属酸化物を添加することが効果的

であることが再度確認された

第 4章

耐水性向上についてより深く評価するためSP SNP ガラスの局所構造に関する知見を得

ることを目的に放射光を用いた構造解析を行った高エネルギーX 線回折(HEXRD)お

よび X 線異常散乱(AXS)法で測定したデータを再現する構造モデルを逆モンテカルロ

(RMC)シミュレーションで構築し構造解析を行った

RMC モデル中の PON多面体に関して平均配位数 Nが 4および P-O の平均結合距離が約

160Å平均結合角度angO-P-Oが約 109degという結果が得られた組成による大きな違いは確

認されなかったSnON多面体については平均配位数 N が 3~4 でSnO 量の増加に伴い 4

に近い値となった平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約 22Åで組成

による大きな変化は見られなかった

Nb2O5を 5 mol添加したガラスではNbON多面体の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平

均配位数N約4Nb-O平均結合距離約20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O

(約 105deg)と値が近いことまた6配位ではなく 4配位として主に存在していることから

SnO と同じような網目形成体として働いていると推測されたまた結合距離が Sn-O が約

22Åに対し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強

固にしていると考えられるまたSnO 量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体

的に各多面体同士の頂点共有が増えていることから耐水性の改善には頂点共有を多く

含む構造もしくは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的であること

が示唆された以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性

耐候性を改善した要因として考えられる

またAXS 法の有効性についても確認し効果的であることが判明したただし今回

は主成分が Snの組成のガラスでありHEXRD でも十分に詳細な Snの周辺構造が得られ

たためAXSを利用した場合との大きな構造の差は認められなかった

本研究では様々な優れた特徴を有する SP ガラスにおける耐水性改善のメカニズムにつ

いて検討を行ったこの系のガラスについてはこれまでほとんど利用されていなかった

放射光を用いた構造解析を駆使し第三成分の添加によってどのような構造的変化が生じ

耐水性を改善させるか新たな知見を得ることができた最終目標である機能性ガラスの

開発における新たなる材料設計指針の確立に対してldquo耐水性rdquoに関しては概ね明らかにな

ったと考えられる一方で今回検討していな電子状態化学結合性についても評価する

ことで溶出メカニズムの解明が可能になり材料設計指針の確立が期待される

79

発表論文リスト

口頭発表

第 2章および第 3章

(1) SnO-P2O5 系ガラスへの酸化物添加効果

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎

日本セラミックス協会第 25 回秋季シンポジウム No3C06 (名古屋市 2012年 9月)

(2) Effect of Nb2O5 addition to SnO-P2O5 glass (Poster)

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

International Union of Materials Research Societies International Conference on Electronic

Materials IUMRS-ICEM 2012 A-9-P26-003 (Yokohama 2012 年 9月)

(3) スズリン酸塩系ガラスの蛍光特性耐水性に及ばす酸化物の添加効果(ポスター)

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎

日本セラミックス協会 2013 年年会 1P070 (東京 2013年 3月)

第 4章

(1) 放射光を用いたスズリン酸塩ガラスの構造解析

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎小原真二臼杵毅

日本セラミックス協会第 27 回秋季シンポジウム 2B22 (鹿児島市 2014年 9 月)

(2) Structural analysis of tin phosphate glasses by synchrotron radiation (Poster)

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba Shinji Kohara Takeshi Usuki

International Congress on Glass ICG Annual Meeting Bangkok 2015 P14-138 p186 (2015)

発表論文

(1) Effect of Nb2O5 addition to SnO- P2O5 glass

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

Journal of the Ceramic Society of Japan Vol 120 No 11 pp530-533 (2012)

(2) Structural analysis of SnO- P2O5 glass

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

Journal of the Ceramic Society of Japan(準備中)

80

謝辞

本研究を遂行するにあたり終始暖かいご指導ご助言並びにご鞭撻を賜わりました岡

山大学大学院環境生命科学研究科 難波徳郎教授に心より感謝の意を表します

また本研究を遂行するにあたり懇切丁寧なご指導とご意見をしていただいた岡山大

学大学院環境生命科学研究科 紅野安彦准教授環境環理センター 崎田真一助教に心より

感謝いたします

本研究を遂行するにあたりラマン分光測定の使用についてご助言ご教授して頂い

た岡山大学自然科学研究科 藤井達生教授中西真助教に心より感謝の意を表します

Sn のメスバウアー測定の際に協力して頂いた岡山大学自然科学研究科先端自然科学教

育研究推進本部高田研究室 松本修治特任助教(当時旭硝子株式会社中央研究所)また

Feのメスバウアーを測定の際に協力して頂いた岡山大学自然科学研究科 藤井達生教授に

心より感謝の意を表します

固体 NMR の岡山大学自然科学研究科 早川聡教授に心より感謝の意を表します

本研究を遂行するにあたりSPring-8 にてHEXRD および AXS 法の測定法および原理

についてご教示頂きました物質材料研究機構 小原真司博士ならびに山形大学 臼杵毅

教授に心より感謝の意を表します

本研究は多くの後輩諸君の協力によって遂行されました特に実際に共同研究共同

実験を遂行して頂いたOG 藤原沙弥香さん博士前期課程 2 年 東利彦君OB 徳岡太誠

君学士課程 4年 塩田将大君に心より感謝の意を表しますまた難波研究室で共に研

究生活を過ごした卒業生在学生の方々に感謝の意を表します

また同時期に博士後期課程に在籍された香川高等専門学校の桟敷剛さんにはNbに

関する有益な情報だけでなく辛い状況でも励ましを頂きました心より感謝の意を表し

ます

最後に長きに渡る学生生活を認め経済面だけでなく精神面でも支援してくださった

家族に心より深く感謝の意を表します

平成 28年 3月

福井 聡史

Page 20: 博士論文 スズリン酸塩系ガラスの物性と構造解析ousar.lib.okayama-u.ac.jp/files/public/5/54353/...博士論文 スズリン酸塩系ガラスの物性と構造解析

17

232 ρおよび Tg

Table 24にρおよび Tgの結果を示す二つの特性結果はそれぞれのガラス系において

SnO や Nb2O5ZnO といった金属酸化物が増えるにつれて大きくなっているSP Sn-Nb-P

SNP S5ZP 系ガラスの Tgはほとんどが 300前後であり最も高い温度でも67S5N28P

の 346であった一方5SZP 系ガラスは400~440となり他のガラス系と比較する

と若干高い温度となったそれでも今回作製した第三成分を添加したガラスは低 Tgを有

するガラスであると判断できSP ガラスの特性を維持できたと判断できる

60S5N28P と 62S5Z30P のようなほぼ同じ OP を示すもので比較した際にNb2O5添加が

ZnO 添加よりも Tgが高くなったのは①配位数が同配位数になり得るイオンの場合(例え

ば Nb5+と Zn

2+なら4配位など)ポーリングの第 2 法則[25]より高価数イオンの方が結合

強度が強くなる②diatomic cationの解離エネルギーがNb-O (688plusmn11 kJmol)[26]に対しZn-O

(1611plusmn48 kJmol)[26]と大きな差があるため Nb-Oの結合が強い故に熱的に安定化され

Tgが高くなったと考えられる

233 耐水性試験前後の外観写真

Figs 211 - 216に各ガラスの耐水性試験前後の外観写真を示すFig 211 の SP ガラスを

観察するとSnO 量の少ない 50S50P 60S40P は浸漬時間が経過するにつれて元々の形状

が崩壊したりガラス自体が膨張したような状態になったりしたSnO 量の多い 67S33P

70S30P について形状は崩れることはないが透明性が失われる(白ヤケ)耐候性が低いこ

とが確認できるFig 212 に示す Sn-Nb-P ガラスではNb2O5無添加の 65S-0Nb-35P は浸漬

時間 24 h で透明性が失われているがNbO25量の増加させていくと徐々に透明性が回復

しており4 mol添加した 65Sn-4Nb-31P では72 h後においてもほとんど変化が確認でき

ないNbの添加量を変えた Fig 213に示す SNP ガラスではSP ガラスと同様に SnO 量の

少ない 50S5N45P は時間経過と共にガラス全体にldquoひびrdquoのようなものが見え72 hの実

験終了後最終的にテフロン糸を外す段階で簡単に割れたしかし50S50P や 60S40P と比

較すると耐水性が大幅に良くなったまた60S5N35P 67S5N28P は耐水性が良好なこと

だけでなく耐候性についても向上していることが目視で判断できる一方で二種類の

SZP ガラス(Figs 214 215)を観るとP2O5量の少ない 5S55Z40P および 55S5Z40P では

形状が崩れるか析出物が現れる結果となったこの組成よりP2O5 量を減少させるとSP

ガラスと同じように形状は崩れないが透明性が若干失われる結果となった

Fig 216 に比較対象の FP ガラスの耐水性試験前後の写真を示すこの組成ではFe2O3

量の少ない20F80Pにおいても形状が全く崩れない結果が得られたしかしFe2O3 lt 30 mol

の組成において表面に干渉色のような反射光が若干確認できたこれはおそらく青ヤ

ケが発生したためであると考えられる

18

234 耐水性試験前後の構造変化

Figs 217 - 222に各ガラスの耐水性試験前後の XRDパターンを示す耐水性試験前では

ガラス化を全組成で確認した(Figs 217(a) - 222(a))しかし耐水性試験後における外観

写真で形状の崩れたもしくは析出物の得られたガラス組成では結晶が生成したことが

確認された形状の崩れた三組成のうち50S50P 60S40P ガラス(Fig 2214(b))では三

種類の結晶ピーク(SnP2O7 Sn2P2O7 Sn3(PO4)2)が確認でき5S55Z40P については(Fig

2214(b))結晶同定の判断はできなかったが ZnOの多い組成であるためおそらくリン酸

亜鉛の何れかの結晶だと推測された析出物が得られた 55S5Z40P はガラス matrix部と析

出物に分けて測定したところガラス matrix 部はガラスのままであり析出物は SnP2O7

Sn2P2O7の二種類の結晶ピークが確認できたガラス形状に変化がなかったその他の組成は

ガラス状態が保たれていたSn4+の結晶のピークが確認されたのは50S50P のガラスには

気泡が残っておりその気泡から酸化されたかもともと溶融工程で電気炉内に残って

いた酸素によってSn4+に酸化されたか等が考えられる

235 溶出速度(DR)および重量減

Table 24に DR重量減の結果および仕込み組成から計算した OP を示すSP SNP S5ZP

ガラスではSnO 量の増加に伴いSnO量の固定された Sn-Nb-P 5SZP ガラス系ではそれ

ぞれの金属酸化物の増加に伴いDR重量減は減少傾向にあったFP ガラスでは全組成

において DR 重量減共に変化が全く確認されなかったそのため青ヤケのようなものが

確認された FP ガラス(Fe2O3 lt 30 mol)については電子天秤では変化が見られない程度

の重量減であったと推測される二種類の SZP ガラスで比較するとSnOと ZnO量が入れ

替わってもほぼ誤差範囲内と思われる結果が得られたガラス全体の比較では外観写真

で変化が見られなかった FP ガラスと 65S5N28P 65Sn-5Nb-30P のガラスが DR重量減がと

もにゼロという結果が得られた

組成と DR 重量減の関係性を見るために作成した図をFigs 223(DRと OP の関係性)

224(Fig 224に重量減と OP の関係性)に示すそれぞれの図にリン酸塩の三つの構造

の OP も表記した双方の図よりDR 重量減共に OP が増加することで単調に下がって

いることが分かるこの結果はリン酸塩の構造ではorthophosphate 組成で耐水性良好が

あるため[22]一般的な結果と同じ挙動であるまた耐水性の良かったNb2O5添加の SNP

ガラスは異なる挙動(傾き)が得られた

以上の結果より第三成分添加による耐水性の改善を確認し特に Nb2O5 の添加による

影響は大きいことが判明したまたOP の増加による耐水性が改善する結果が得られた

次章の第 3 章にて各ガラス系の構造解析を行い第三成分特に Nb2O5の耐水性への有

効性について調査した

19

24 結言

本章ではSP ガラスおよび第三成分の Nb2O5 ZnOを添加した SP ガラスの物性評価を行

うことで耐水性改善への第三成分添加の有効性を確認した各々の物性について以下に

まとめる

低ガラス転移温度を有する SP ガラスは最も SnO 量が高い 70S30P でも Tg le 280であ

ったNb2O5を添加した Sn-Nb-P SNP ガラスではTgの上昇は見られたが Tg le 350

ZnOを添加した 5SZP S5ZP ガラスではTg ≦ 450であり両金属酸化物の添加でも低

ガラス転移温度を維持しているガラスが得られたNb2O5 添加が Tg を上昇させたのはポ

ーリングの第 2法則より高価数イオンの方が結合強度が高くなるためと結論付けた

耐水性試験結果の外観写真を観るとSP ガラスの SnO 量 le 60 mol 5SZP ガラスおよび

S5ZP ガラスの P2O5量 = 40 molの組成についてガラスサンプルの形状が大きく変化して

おりDR 重量減も高く耐水性の低さが明らかであった得られた析出物はSnP2O7

Sn2P2O7 Sn3(PO4)2 および亜鉛リン酸結晶の一種であると予想されたその他の組成では

透明性の失われた組成がいくつかあったが外観写真では変化が見られなかった FP ガラス

と 65S5N28P 65Sn-5Nb-30P のガラスが DR重量減がともにゼロという結果が得られた

組成と耐水性に関してはDRおよび重量減がOP増加で単調に低下した結果が得られた

つまり耐水性を改善させる有効な手段はSP 系ガラスのガラス化範囲を拡大かつ OP を

増大させる第三成分の添加によることであることが示唆された

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21

Fig 21 三成分系 SnO-NbO25-P2O5 系のガラス化範囲

Fig 22 作製した Sn-Nb-P ガラス

(a)50Sn-5Nb-45P (b)55Sn-5Nb-40P (c)60Sn-5Nb-35P

(d)65Sn-5Nb-30P (e)70Sn-5Nb-25P (f)60Sn-10Nb-30P

(g)55Sn-20Nb-25P (h)60Sn-15Nb-25P (i)65Sn-10Nb-25P

22

Fig 23 三成分系 SnO-ZnO-P2O5系のガラス化範囲

Fig 24 作製した SZP ガラスの一例

(気泡や脈理のようなものが確認できた組成)

23

Fig 25 SP SZP ガラスの作製フローチャート

Fig 26 Sn-Nb-P SNP ガラスの作製フローチャート

(気泡や脈理のようなものが確認できた組成)

24

Fig 27 FP ガラスの作製フローチャート

Fig 28 耐水性試験(MCC-1法)

25

Table 21 各ガラスの組成分析結果

26

Fig 29 Sn-Nb-P ガラスのメスバウアースペクトル

Table 22 Sn-Nb-P ガラスのメスバウアーパラメーター

27

Fig 210 FP ガラスのメスバウアースペクトル

Table 23 FP ガラスのメスバウアーパラメーター

28

Table 24 各ガラスの物性(密度(ρ)ガラス転移温度(Tg)溶出速度(DR)重量減())

29

Fig 211 SP ガラスの耐水性試験前後の外観写真

Fig 212 Sn-Nb-P ガラスの耐水性試験前後の外観写真

30

Fig 213 SNP ガラスの耐水性試験前後の外観写真

Fig 214 S5ZP ガラスの耐水性試験前後の外観写真

Fig 215 5SZP ガラスの耐水性試験前後の外観写真

31

Fig 216 FP ガラスの耐水性試験前後の外観写真

32

Fig 217 SP ガラスの XRD パターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

33

Fig 218 Sn-Nb-P ガラスの XRD パターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

34

Fig 219 SNP ガラスの XRD パターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

35

Fig 220 5SZP ガラスの XRDパターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

36

Fig 221 S5ZP ガラスの XRDパターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

37

Fig 222 FP ガラスの XRD パターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

38

Fig 223 各ガラス系の DR と OP の関係性

39

Fig 224 各ガラス系の重量減と OP の関係性

40

第 3章 分光法を用いたスズリン酸塩系ガラスの構造解析

31 緒言

前章ではSP ガラスおよび第三成分に Nb2O5 ZnOを添加した Sn-Nb-P ガラスSNP ガラ

スSZP ガラスの物性特に耐水性に関する第三成分添加の有効性を明らかにしたその添

加した第三成分の二種類についてもNb2O5 の方が ZnO よりも溶出速度重量減ともに抑

制することができSP ガラスの低ガラス転移温度という特性も維持されていることが判明

したしかし現段階では本研究の主要な物性である耐水性改善の要因が明確になって

いない組成の観点からはOP の値が高い組成が良好な耐水性であることが分かったが

組成だけでは耐水性改善のメカニズムについて完全には理解できないここでリン酸塩

ガラスの溶出のメカニズムは第 1 章で述べたように加水分解反応と水和反応が要因とな

る[1 2]この機構はそれぞれリン酸の構造つまり架橋酸素 BO の数が大きく関わって

おりリン酸アニオンの[PO4]ユニットの架橋酸素数を知ることが重要であるこの BO の

情報を得るためにはガラス構造を示す指標の一つである Qn(n は[PO4]ユニット中の架橋

酸素数を表す)を調べることが必須であるまたQn の分布を調べるためにはガラスの

構造解析を行う必要性がある

ガラスの構造解析には種々の方法があり特にラマン分光法や赤外(IR)分光法核

磁気共鳴法(NMR)などの分光学的手法を用いた構造解析の報告が多い[3-5]ラマン分光

法および IR分光法は原理は異なるがどちらも結合の振動モードを測定する手法であり[6]

リン酸塩ガラスだけでなくケイ酸塩ガラスホウ酸塩ガラスなど様々なガラス系にて測

定がなされている[7 8]また得られた結合状態の情報からリン酸塩アニオンの Qn分布

を調べることも可能であるNMR は共鳴吸収ピークの化学シフト(共鳴周波数のズレ)

から構造を決定する手法であるガラスの場合SiO2や B2O3 P2O5といった網目形成酸化物

の Qn分布を得るために一般的に使用されている手法である[9]

今回これらの測定の中でラマン分光法を選択し構造解析を行ったラマン分光法は

測定する際にサンプル形状を気にすることなく基本的にそのまま測定できるためIR 分

光法のようにサンプル形状で測定方法を変える必要はないまたIR 分光法では例えば

KBr 錠剤法やヌジュール法のように測定を行うためのサンプル調整に手間がかかる場合が

ある[6]さらに比較対象の FP ガラスではNMR を測定できないため作製ガラスを全

て比較検討できるようにラマン分光法を選択した

本章ではラマン分光法を用いて各ガラスの構造解析を行い[PO4]ユニットの Qn分布を

調査し平均 BO数 nを算出することで耐水性と構造の関係性を検討したまたラマン

分光法によって得られた Qn分布の妥当性を確認するためにSP ガラスおよび 67S5N28P ガ

ラスの NMRを測定も行い比較した

32 実験方法

41

321 サンプル準備

ラマン分光およびメスバウアー分光の測定では第 2 章で作製した各ガラスのバルク体

を用いたWD試験に使用したサンプルとは別にラマン測定用のサンプルを用意した適

度な大きさ大体 15 cm角程度のサイズになるようにガラスカッターで切断しその後

十分な平滑性を得るために鏡面研磨を施した

322 ラマン分光測定

使用したラマン分光装置は顕微レーザーラマン分光装置(Jasco NRS-5100)を用いた

用いたレーザー波長は 53208 nmであり400 - 2000 cm-1の範囲で測定した

Qn 分布を導くためにピークフィッティングを行いリン酸塩アニオンのラマンバンド

が現れる950 - 1250 cm-1付近および 700 - 750cm-付近の範囲で定量した

323 31P MAS NMR測定

31P MAS NMRの測定は Varian NMR System 500 を用いて32 mmの MASプローブ

202309MHzにて行った測定パラメーターを以下に示すπ4 パルス長さ 14 μs 待ち時間

(pulse delay)10 s 積算回数 3600 scan シリンダー円筒形状の Zrローターの回転スピード

160 kHz referenceとして二番目の基準物質として使われる NH4H2PO4を使用化学シフト

は85 H3PO4溶液から δ = 10 ppmである

33 結果考察

331 各ガラス系のラマンスペクトル

Figs 31 - 35にラマンスペクトルを示す各ピークは以下の通りに帰属し各スペクト

ル中に該当する構造をピーク位置に示した

1230 - 1260 cm-1 P=O NBO Q

2 [10]

1110 - 1150 cm-1metaphosphate (PO3)

- Q

2 [10]

1030 - 1100 cm-1pyrophosphate (PO35)

2- Q

1 [10]

970 - 1000 cm-1orthophosphate (PO4)

3- Q

0 [10]

920 - 930 cm-1asymmetric (P-O-P) Q

1 [10]

730 - 750 cm-1symmetric (P-O-P) Q

1 [10]

710 - 720 cm-1asymmetric (P-O-P) Q

2 [10]

810 - 820 cm-1Nb-O [NbO4] tetrahedron [11]

900 - 920 cm-1Nb-O isolated [NbO6] octahedron [11]

42

SP ガラスのラマンスペクトル(Fig 31)を見ると50S50P 60S40P ではmetaphosphate

の Q2 構造が支配的であるがSnO 量が増えるにつれてその構造が変化し70S30P では

pyrophosphateの Q1構造と orthophosphateの Q

0構造が共存した構造となっているまたSnO

量の少ない 50S50P および 60S40P において確認されたQ2構造の P=O のピークが見えなく

なっているつまり耐水性と関連して考えるとSnO量が増えるにつれてP-O-P 結合か

ら Sn-O-P 結合に代わり水分子との反応である加水分解反応を妨げる構造に変化している

ことがわかる

Figs 32 33にNb2O5を添加した Sn-Nb-P ガラスおよび SNP ガラスのラマンスペクトル

を示すまずSn-Nb-P ガラスについてNb 無添加の 65Sn-0Nb-35P は主に Q1構造であ

りNbO25が添加されることによってQ0構造に変化しQ

1 Q

0構造が共存しているような

ピークが得られた添加量が少ないガラス系であるため徐々に変化しているのを確認し

た800 cm-1を少し越えた 810 - 820 cm

-1付近にNb2O5を添加することでピークが現れそ

して添加量を増量することで強度が強まるピークがありこのピークは四面体の[NbO4]

のものと判断した

SNP ガラスのラマンスペクトルについてはNb2O5添加量を固定した組成であるためSP

ガラスのような挙動が観察された50S50N45P では50S50P ガラスと同じようにQ2構造

が主な構造でありSnO量の増加に伴って60S5N35P Q1構造67S5N28P Q

0構造に支配

的な構造が変化しているこれはSP ガラスと同じ傾向を示しているためP-O-P rarr Sn-O-P

に置き替わっていることが示唆されるNb-O に関するピークでは50S5N45P のみ[NbO4]

四面体のピークを確認できず900 - 920 cm-1付近に[NbO6]八面体のピークが確認された

SnO量が増量した 60S5N35P では810 cm-1付近の [NbO4] 四面体のピークが現れているが

[NbO6]八面体のピークと 900 - 920 cm-1付近の Q

1構造のピークが非常に近い(ほぼ重なって

いる)ことから60S5N35P については[NbO4] 四面体および[NbO6]八面体の共存の可能性

も考えられるまた67S5NP28 では[NbO4] 四面体のみのピークが観察されたためこ

の Nb-O の配位数変化は[PO4] unitの状態によって変化している可能性も示唆された

ZnO を添加した S5ZP ガラスおよび 5SZP ガラスのラマンスペクトルを Fig 34 に示す

図の下部三つが S5ZP ガラス上部三つが 5SZP ガラスのスペクトルであるSZP ガラスの

二系統を比べるとあきらかなスペクトルの違いが確認された各ガラス系で確認すると

SnO 量が最小の 55S5Z40P はQ2構造と Q

1構造の範囲に跨っているようなスペクトルが得

られた62S5Z33P および 65S5Z30P のスペクトルからはどちらもほぼ Q1構造であると判

断した5SZP のスペクトルは1000 - 1250 cm-1付近の範囲で裾を引くような(なだらかな)

スペクトルが得られたZnO 量が最小の 5S55Z40P にはQ2構造が主な構造に見えるが

shoulderピークのような Q1構造(1030 - 1100 cm

-1)が確認できる5S62Z40P においては

1000 - 1250 cm-1付近の範囲まで幅広いスペクトルが得られた730 - 750 cm

-1付近にピーク

が現れているためおそらく Q1構造が最も多く存在していると考えられる65S5Z30P では

Q1構造Q

0構造が共存しているようなピークが得られた

43

FP ガラスのラマンスペクトルを Fig 35 に示すFe量の少ない 20F80P 25F75P と他の三

つで構造が異なっていることである20F80P 25F75P はQ2構造と Q

1構造が基本構造にな

っていると判断できる 30F70P は1110 - 1150 cm-1付近に shoulderピークのようなものがあ

りQ2 Q

1 Q

0構造が共存しているようなスペクトルであった35F65P 40F60P はQ1構造

が主な構造でQ0構造があると判断した

332 平均 BO数 n (Qn分布)

まずピーク分離について散乱断面積が見積もれなかったためラマンの散乱強度比

を Qn分布として簡易的にピーク分離を行い(Fig 36)そこから平均架橋酸素数 BO 数 n

を算出したここでFig 37 に 31P MAS NMRスペクトルを示しTable 31に NMRおよび

ラマン分光より得られた平均 BO 数 n を示す(NMR の帰属 reference [12])表よりNMR

とラマンから得られた Qn分布はほぼ一致していることが分かった60S40Pについては支

配構造が NMR(Q1) ラマン(Q

2)で逆になったこれは60S40P の組成がQ

2と Q1のほぼ中

間の組成になるためこのようなズレが生じたと考えられるしかし今回のラマンによ

る Qn分布の算出についてはほぼ問題ないと判断した

Table 32にラマンスペクトルより求めた Qn分布平均 BO 数 nをを示しTable 24に示

した DR 重量減の結果を併記する

SP ガラスのうち耐水性が低いガラスは Q2構造によって形成されているSnO量の増加

によって NBOの増加とともに耐水性の向上が確認できSnOが入ることでSn-O-P 結合を

形成し水分子からの攻撃を受けにくくなっていることが考えられる

Sn-Nb-P ガラスでは基本的に Q1構造が主構造でNb2O5の添加が増えるにつれQ

0構

造が支配的になり耐水性は次第に向上していく最も耐水性のよかった 65S-5Nb-30P は

Q0構造での割合が非常に高く平均 BO数 n値が 03であった

SNP ガラスではP2O5量が多い組成の 50S5N45Pにおいても平均 BO数 nが 60S40P と

同じながらも耐水性が良くなっている67S5N28P はほぼ完全に Q0構造であり平均 Q

n

値は 0となった

SZP ガラスについてはS5ZP 5ZSP のどちらの系列についても耐水性の結果に大きな差

というものは確認されなかったが構造的にも平均 BO数 nが 09 10 17という結果であ

った

FP ガラスについてはFe2O3 lt 30 molのときは平均 BO 数 nが20 19と高い数値を

示したが耐水性は非常に良好であったこの結果より組成だけでなく構造的にも耐

水性高くなる要因が不明である一つの原因の可能性としてメスバウアーより得られた

Fe2+の存在比が 40以上と高かったことがFe2O3含有量が少ない組成時には効果的になっ

ているのかもしれない

333 平均 BO数 nと耐水性の関係性

44

Fig 38に DRと平均 BO数 nの関係性についてFig 39に重量減と平均 BO数 nの関係

性をそれぞれ示すまたOP の時と同様に各図にリン酸塩の三つの構造の平均 BO数

n も表記した双方の図よりDR 重量減共に平均 BO 数 nが低下することで単調に下がっ

ていることが分かるまた耐水性の良かったNb2O5添加の Sn-Nb-P SNPガラスはの DR

の挙動(傾き)はOP 時とも異なった挙動が得られた

Fig 310に OP と平均 BO数 nの関係を示す図中に示す茶色metaphosphate 黄色

pyrophosphate 灰色orthophosphate であるこの図から耐水性改善には平均 BO 数

n を下げOP を上げることが重要であるのが分かるまたNb5+の添加はOP を上げる

だけでなく平均 BO 数も減少させることから非常に効果的な成分であることが明らかで

あるこれはP5+から同酸価数 Nb

5+に少量でも置き換えることで平均 BO 数 n を下げ

OP を上げることを可能としている(実際に orthophosphate の OP4 よりも高い OP でガ

ラスが作製できている)つまりNb5+の添加によって P-O-P 結合が減少し水和反応加

水分解反応が抑制されているからである

以上の結果SP 系ガラスの耐水性改善には低い平均 BO 数と高い OP の組成にするこ

とが重要でNb2O5の添加は非常に効果的であることが分かったその一方でガラス中の

詳細な構造的要因についてははっきりしていないため次章の第 4 章にてさらに詳し

い構造解析を行い耐水性改善の要因について調査を行った

34 結言

本章ではラマン分光を使用して各ガラス系のリン酸塩アニオンの構造を簡易定量で

評価し組成と構造の関係について考察した

平均 BO 数 n と耐水性に関してはDR および重量減が平均 BO 数 n の減少で単調に低下

した結果が得られた

平均 BO数 nと OP の図より耐水性改善には平均 BO数 nを下げることそして OP

を上げることが重要であることが明白であった

Nb5+の添加は平均 BO数を減少させるだけでなくOP も上げることからガラス構造内

の P-O-P 結合を減少させる故に水和反応加水分解反応が抑制され耐水性が大幅に

改善された故にNb2O5 のような高価数金属酸化物を添加することが効果的であること

が示唆された

参考文献

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46

Fig 31 SP ガラスのラマンスペクトル

47

Fig 32 Sn-Nb-P ガラスのラマンスペクトル

48

Fig 33 SNP ガラスのラマンスペクトル

49

Fig 34 SZP ガラスのラマンスペクトル

50

Fig 35 FP ガラスのラマンスペクトル

51

Fig 36 ラマンスペクトルのピーク分離例(67S5N28P)

Raman Shift (cm-1)

52

Fig 37 NMRスペクトル

Table 31 NMR およびラマン分光より得られた SP 67S5N28P ガラスの

Qn分布および平均 BO数 n

53

Table 32 各ガラスのラマンスペクトルより求めた Qn分布結果

(表の赤線より右側の結果は Table 22 より)

1 仕込み組成による数値

2 Fig 2212 に示した析出物を取り除いた後の数値

54

Fig 38 DR と平均 BO数 nの関係性

55

Fig 39 重量減と平均 BO数 nの関係性

56

Fig 310 OP と平均 BO数 nの関係性

Meta

Pyro

Ortho

57

第 4章 放射光を用いたスズリン酸塩系ガラスの構造解析

41 緒言

前章の第 3 章にてラマン分光法を用いて SP 系ガラスの構造解析により Qn分布を導き

出したことで耐水性と構造の関係についてある程度関連性を導くことができたリン

酸アニオンについてはQ0(orthophosphate)構造 gt Q

1(pyrophosphate)構造 gt Q2

(metaphosphate)構造の順で良耐水性となるしかしSn Nbおよび Znの局所構造につ

いては知見が得られていないラマン分光や IR分光などの分光学的手法を用いてSnや

Nb Zn の周辺の局所構造を知るには限界があるまたガラスの構造解析を行う上で非常

に重要な因子である中距離構造の評価には分光学的手法は不向きである[1]

そこで局所構造や中距離構造を知るために有効な手法として放射光線を用いた構造

解析がある放射光(SR 光)とはシンクロトロンなどの加速器で高速に加速された電子

が進行方向を磁場によって変えられた際に放射する電磁波である[2]エネルギーが高く

(短波長)輝度が高い特性を有している日本国内では兵庫県佐用町の SPring-8や茨城

県つくば市の高エネルギー加速器研究機構佐賀県鳥栖市の佐賀県立九州シンクロトロン

光研究センターなど複数個所に放射光施設が設置されている

放射光を用いたガラスの構造解析には一般的に高エネルギーX 線回折(High Energy

X-ray diffraction HEXRD)が用いられるこの回折実験から高い散乱ベクトル Q(= 4π sinθλ)

まで回折データが得られる多種類の原子から構成される物質の場合はFaber-Ziman 型[3]

の構造因子 S(Q)を用いる以下の式に示すようにFaber-Ziman 型構造因子 S(Q)は同種また

は異種の原子による相関の重み関数付の和として示される例として SiO2ガラスで説明す

ると構造因子 S(Q)は三種類の原子付の S(Q)の重み付の和として表されていることが分か

I(Q) 散乱断面積 ltgt 原子一個当たりの平均値 f(Q) 原子散乱因子 W 重み関数

通常の研究室で使用される X 線回折(XRD)装置で用いられる特性 X 線はCuKα線(λ

= 0154 nm 81 keV)が最も良く用いられより高いエネルギーの X 線が必要な場合は

MoKα線(λ = 0071 nm 175 keV)が使用される一方でSPring-8のビームライン BL04B2

で行われる高エネルギーX 線回折(HEXRD)測定で使用される SR のエネルギーは378 keV

58

~ が使用可能である[2]従ってガラス以外の液体のような非晶質物質にも非常に精度

よく構造解析が行われている[4]

また局所構造解析の一つに X線異常散乱法という測定方法がある[5 6]これは通常

の X 線回折実験では分離不可能な特定元素に関連する部分構造因子(散乱強度曲線)を得

ることができる手法である今回 HEXRD の測定時に使用したエネルギー614 keV では各元

素の異常散乱項のエネルギー依存性は確認されない(Fig 41)その一方でFig 42に示す

Sn の吸収端付近の 292 keV付近ではSnの異常分散項のエネルギー依存性が確認できる

つまりSnの吸収端近傍より低エネルギー(E)側の異なるエネルギーの X線(E1 E2)を

使って散乱強度を測定し各 E における異常分散項(f`)の変化(つまり高い E1 から低い

E2 の散乱強度の差分)を利用して Snに関する部分構造因子を求める構造解析が AXS 法で

あるこの測定法は古くから知られている方法ではあるが装置の測定条件や設備の問

題からなどから使用があまり普及していなかった[5 6]近年になり金属ガラスの構造解

析について徐々に報告が出てきており今後注目される測定法である

HEXRD および AXS 法などから得られたデータ実測の構造因子 S(Q)は一次元の限られ

た構造情報であるためガラスなどの非晶質物質の中距離構造を解明するためにはこれ

らのデータを基に三次元構造を求める必要がある三次元構造モデルの作成には逆モンテ

カルロ(RMC)シミュレーションを使用することが有効である[7]このシミュレーション

は任意で決めたシミュレーションボックス内の粒子をランダムに動かすことで実測の

構造因子 S(Q)を再現する三次元構造モデルを構築する方法である

SP ガラスについては分光学的手法について数多く報告があるが放射光を用いた回折

法はほとんど適用されていないそこで本研究では HEXRD および AXS 法を用いた構造

解析を行うことでSn Nb周りの構造を解明すると共にSNP ガラスの耐水性改善のメカ

ニズムについて考察したまたAXS 法の有効性についても検討した測定を行ったガラ

スはSP ガラスおよび最も耐水性の高かった 67S5N28P を選択した

42 実験方法

421 HEXRD AXS法

HEXRDはSPring-8のビームライン BL04B2 で測定を行ったエネルギー614 keV の X

線を用いた測定サンプルの厚みは09 mm (plusmn0005 mm)になるまで研磨を行った

AXS 測定はSPring-8のビームライン BL13XUを使用した(Fig 43)それぞれの測定し

た X 線のエネルギーについて以下に示す

①Sn K吸収端hellip292 keV near edgehellip291452 keV (-60 eV) far edgehellip289751 keV (-230 eV)

②Nb K吸収端hellip1899 keV near edgehellip189562 keV (-30 eV) far edgehellip187863 keV (-230 eV)

測定に使用したサンプルの厚さが015 - 030 mmとなるまで研磨を施した

SP ガラスについて50S50P 60S40P 67S33P の三組成のガラスを測定した70S30P に関

59

しては測定を試みたが放射光照射によって結晶化してしまいガラス部分の正確な構

造因子を得るための強度補正ができず解析を断念した

422 RMCのモデリング

Table 41 に RMC の各種パラメーターを示す粒子数は約 5000 個でそれに伴う boxの一

辺の長さは約 42 ~ 46 Ǻになった拘束条件にP の配位数が 4になるような条件を付け

加えたFig 44にSn2P2O7結晶および Sn3P2O8結晶の動径分布関数(RDF)をTable 32

にRDFから得られた第一近接距離[8 9] を示すこれらの数値を使用しcutoffを決定し

たNb-O についてはいくつかの文献値を参考にした[10 11]

各ガラスの RMCのモデリングは①HEXRDから得られた S(Q)のみ②S(Q)および AXS

から得られた部分構造因子を加えた場合でそれぞれ計算した

43 結果考察

最初にNbの AXSから得られたデータについて解析を試みたが妥当な構造モデルが得

られなかったためSnの AXSのみで解析を進めたNb2O5の量が 5 molと少量であったた

めあまり精度の高いデータが得られなかったと推測される

431 実測の HEXRDおよび AXSの結果

4311 実測 HEXRDの S(Q)

Fig 45 に実測HEXRDの S(Q)を示す四つの組成ともに実測HEXRDの S(Q)が得られ

Nb2O5添加の 67S5N28P ガラスでは Low Q 側に変化が確認された

4312 実測散乱強度曲線

Fig 46 に Snの散乱強度曲線を示す(a) の 67S33P のこの曲線からはfar edgeおよび

near edge のエネルギー間で差分が見られエネルギーの依存性が確認された50S50P

67S5N28P のガラスについても同じように差分が確認されたが(b)の 60S40P についてのみ

他とは若干異なる結果(緑丸)であったためRMC の構造解析には差分の構造因子ではな

くfar edge near edge 二つの構造因子を用いた

4313 全相関関数 T(r)

Fig 47 に全相関関数 T(r) を示すHEXRD から得られたものを実線でSnの AXS から

得られたものは点線で示し組成ごとに重ねて表示した図中に各ピークについて帰属し

ているがSnの T(r)からはSn-O Sn-P Sn-Snのみのピークを確認した

432 RMCの計算結果および考察

60

構造モデルの一例として67S5N28P ガラスの得られた構造モデルをFig 48に示す水

色の多面体 unitSnON 黄色の多面体 unitPO4 ピンクの多面体 unitNbONである以下

詳細な構造解析の結果および考察を記す

4321 RMCのフィッティング結果

RMCのフィッティング結果の一例として67S33P の HEXRD と Snの AXS の構造因子か

ら得た結果を示す(Fig 49)二つの構造因子を加えて計算した結果においてもHEXRD

の S(Q) AXS の S(Q)に各々に対する良好なフィッティング結果が得られた他の組成も

同様なフィッティング結果が得られた

4322得られた各 pairの平均配位数平均角度平均結合距離

RMCの結果によって得られた各 pairの平均配位数平均角度平均結合距離を Tables 43

に示す上段が HEXRD の S(Q)のみ下段が HEXRD に Sn の AXS の部分構造因子を加え

て結果である最下部は比較のためにSn2P2O7の情報を記載した[8]

P-O pairについてRMCモデル中の PON多面体に関して平均配位数 Nが 4および P-O

の平均結合距離が約 160Å平均結合角度angO-P-O が約 109degという結果が得られた組成

による大きな違いは確認されなかったのはP の配位数が 4になるように拘束条件をかけた

結果であると考えられるSnON多面体についてはSnO量の増加 = OP の増加であり平

均配位数 Nが 3 ~ 35へ増加した平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約

22Åで組成による大きな変化はほとんど見られなかったNb2O5を 5 mol添加したガラ

スではNbON多面体の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平均配位数 N約 4Nb-O 平均結

合距離約 20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O(約 105deg)と値が近いこと

また6配位ではなく 4配位として主に存在していることからSnO と同じような働きをし

ていると推測される

以上の結果からNb2O5添加の耐水性改善の要因として結合距離が Sn-O が約 22Åに対

し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強固にして

いることも一つの要因として考えられる

また67S5N28P ガラスの各多面体モデルを確認すると(Fig 410)P は PO4Snは SnO4

と SnO3Nbは NbO4をそれぞれ再現している

4323得られた各 pairの結合様式

RMC の結果により得られた各 pair の結合様式を Tables 44 に示す上段が HEXRD の

S(Q)のみ下段が HEXRDに Snの AXS の部分構造因子を加えた結果である最下部は比

較のためにSn2P2O7の情報を記載した[8]

結合様式に関してはPO4四面体は他の多面体も含めてほぼ頂点共有で存在している

SnON多面体についてはSnO 量が少ない配位数が 3 に近い場合頂点共有以外の共有の

61

割合も多くSnO 量が増えるにつれて頂点共有が主になり網目形成体として振舞ってい

ると考えられる組成によって平均結合距離や平均角度の大きな変化が見られなかったこ

とから平均配位数が結合様式を決める重要なファクターであるということも考えられる

またHEXRD と AXS 法の結果がほぼ同じであったこれは主成分が SnO のガラスであ

るためHEXRDでも十分に詳細な構造が得られたため大きな変化が現れなかったと考え

られるNbON 多面体はPO4 四面体と SnON 多面体とはほぼ頂点共有で繋がっている以

上の結果よりSnO量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体的に各多面体同士の

頂点共有が増えていることから耐水性の改善には頂点共有を多く含む構造であること

が重要である或いは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的となって

いるということが推測されるFig 411に 67S5N28P ガラスの構造モデルを示す各多面

体はほぼ頂点共有で繋がっていることが確認できる

4324 平均 BO数の比較

Tables 45にNMR Raman RMC(HEXRD) RMC(HEXRD + AXS)の平均BO数を示すRMC

から得られた平均 BO 数 nはNMR Raman と同様に Nb2O5の添加による大幅な減少が確認

されたしかしNMR Raman と比較すると全組成において数値が大きすぎで適当でない

50S50P の構造モデルを観るとPO4四面体間で3配位 O の存在が確認された(Fig 412)た

め実測で得られた n値を再現できるようなPO4四面体モデル間の繋がり方に関する拘束条

件を加えて RMCを計算する必要性があるまた仮に3配位 Oの存在があるとすると電

子状態の変化が生じていることがと示唆されるため分子軌道計算を用いて電子状態解析

を行い確認する必要がある

4325 耐水性の改善について

Nb2O5を添加のガラス構造への影響について①6配位ではなく 4配位として主に存在し

ていることからSnO と同じような働きをしていると推測される②結合距離が Sn-O が約

22Åに対し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強

固にしている③ガラス構造中で全体的に各多面体同士の頂点共有が増えている以上の

ことが判明した以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性

耐候性を改善した要因として考えられる

44 結言

本章では分光学的手法では評価できないガラスの中距離構造局所構造について理解

するために放射光を用いた構造解析を実施しSP ガラスの構造と耐水性改善について考

察したHEXRDおよび AXS法を用いて測定を行い得られたデータを RMCシミュレーシ

ョンにて解析を行った

解析の結果 Sn-O pair については平均配位数 Nが 3 ~ 35でSnO量の増加 = OP の増

62

加に伴い高くなった平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約 22Åであ

ったP-O Sn-Oについては組成による大きな変化はほとんど見られなかった67S5N28P

ガラスの Nb-O pair の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平均配位数約 4Nb-O 平均結合距

離約 20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O(約 105deg)と値が近いことま

た6配位ではなく 4配位として主に存在していることからSnOと同じような働き(網目

形成体)をしていると推測されるまた結合距離が Sn-O が約 22Åに対し Nb-O は約 20

Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強固にしていると言える

SnO 量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体的に各多面体同士の頂点共有が増え

ていることから耐水性の改善には頂点共有を多く含む構造であることが重要である

もしくは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的であることが推測さ

れる以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性耐候性を

改善した要因として考えられる

またAXS 法の有効性についても確認し効果的であることが判明したただし今回

は主成分が Sn の組成のガラスでありHEXRD でも十分に詳細な構造が得られたため

大きな差は現れなかった

参考文献

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63

Fig 41 各原子の異常分散項のエネルギー依存性

Fig 42 Sn の異常分散項のエネルギー依存性

64

Fig 43 SPring-8の BL13XU

65

Tab

le 4

1

RM

Cの各パラメーター

66

Fig 44 Sn2P2O7 Sn3P2O8結晶の RDF

Table 42 Sn2P2O7 Sn3P2O8結晶の各 pairの第一近接距離

67

Fig 45 得られた実測 HEXRDの S(Q)

68

Fig 46 Sn の異常散乱測定により得られた散乱強度のエネルギー依存性

(a)67S33P (b)60S40P

69

Fig 47 全相関関数 T(r)

太線 HEXRD より

細線 Sn の AXSより

70

Fig 48 67S5N28P ガラス構造のモデル

71

Fig 49 RMC フィッティングの結果

72

Tab

le 4

3 各

pairの平均配位数角度結合距離

73

Fig

4

10

67

S5

N2

8Pガラスの各多面体モデル

74

Tab

le 4

4 各

pairの結合様式

75

Fig 411 67S5N28P ガラスの構造モデル

76

Table 45 平均 BO 各数 nの比較

Fig 412 50S50P ガラスの構造モデル

77

第 5章 総括

本研究ではSP ガラスを対象とした本研究では鉛フリー代替ガラスまたは希土類フ

リー蛍光体として SP ガラスの新規高機能化を将来的に目指し問題点であるldquo化学的耐久

性rdquoの改善につながる知見を得ることを目的としたそこでまずSP ガラスを母体ガラ

スとし第三成分に Nb2O5を添加した Sn-Nb-P SNP ガラスZnO を添加した SZP ガラスを

作製し耐水性を中心とした物性評価を行った次に分光学的手法で構造解析を行い

Qn 分布を導き出した最後に放射光を用いた構造解析を行い耐水性改善に関する構造的

な考察を行った以下に本研究で行った検討内容を示す

(1)SPガラスおよび第三成分Nb2O5 ZnOを添加した三成分系SPガラスの物性評価(第 2章)

(2)SP 系ガラスの分光学的手法による Qn分布導出(第 3章)

(3)放射光を用いた SP 系ガラスの構造解析構造と耐水性改善の関連について(第 4章)

各章についてまとめた結果を以下に示す

第 2章

第 2章では二成分系および三成分系のリン酸塩系ガラスの各種物性(密度や熱的特性

耐水性)の評価を行った二成分系ではSP ガラスに加え良好な耐水性を有する鉄リン

酸塩(Fe2O3-P2O5)系ガラス(以下 FP ガラス)を比較のために三成分系では二成分系

の SP ガラスに Nb2O5を添加したニオブ含有 SP ガラス(SNP ガラス)および ZnO を添加し

た亜鉛含有 SP ガラス(SZP ガラス)を作製した

今回作製した SP 系ガラスは低ガラス転移温度を有していた各組成の温度域はSP

ガラスTg le 280 Sn-Nb-P SNPガラスTg le 3505SZP S5ZPガラスTg ≦ 450であった

各種 SP ガラスの耐水性試験の結果二成分系の SP ガラスよりも三成分系ガラスの方が

良好な耐水性を有していた65Sn-5Nb-30P 67S5N28P ガラスが最も耐水性が良好であり化

学的耐久性の改善には Nb2O5が ZnOよりも効果的であった

組成と耐水性に関してはDRおよび重量減がOP増加で単調に低下した結果が得られた

つまり耐水性を改善させるにはSP 系ガラスのガラス化範囲を拡大かつ OP を増大させ

る第三成分の添加が有効であることが示唆された

第 3章

第 3章ではSP 系ガラスの分光学的手法による Qn分布の導出を行ったラマン分光法を

用いて各ガラス系のリン酸塩アニオンの構造を簡易定量で評価し組成と構造の関係に

ついて考察した平均 BO 数 n と耐水性に関してはDR および重量減が平均 BO 数 nの減

少で単調に低下することが明らかとなった

平均 BO 数 n と OP の関係より耐水性改善には平均 BO 数 n を下げることそして

OP を上げることが重要であることが明らかになった

78

Nb5+の添加は平均 BO数を減少させるだけでなくOP も上げることからガラス構造

内の P-O-P 結合を減少させ水和反応加水分解反応が抑制され耐水性が大幅に改善さ

れることが示唆された故にNb2O5 のような高価数金属酸化物を添加することが効果的

であることが再度確認された

第 4章

耐水性向上についてより深く評価するためSP SNP ガラスの局所構造に関する知見を得

ることを目的に放射光を用いた構造解析を行った高エネルギーX 線回折(HEXRD)お

よび X 線異常散乱(AXS)法で測定したデータを再現する構造モデルを逆モンテカルロ

(RMC)シミュレーションで構築し構造解析を行った

RMC モデル中の PON多面体に関して平均配位数 Nが 4および P-O の平均結合距離が約

160Å平均結合角度angO-P-Oが約 109degという結果が得られた組成による大きな違いは確

認されなかったSnON多面体については平均配位数 N が 3~4 でSnO 量の増加に伴い 4

に近い値となった平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約 22Åで組成

による大きな変化は見られなかった

Nb2O5を 5 mol添加したガラスではNbON多面体の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平

均配位数N約4Nb-O平均結合距離約20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O

(約 105deg)と値が近いことまた6配位ではなく 4配位として主に存在していることから

SnO と同じような網目形成体として働いていると推測されたまた結合距離が Sn-O が約

22Åに対し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強

固にしていると考えられるまたSnO 量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体

的に各多面体同士の頂点共有が増えていることから耐水性の改善には頂点共有を多く

含む構造もしくは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的であること

が示唆された以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性

耐候性を改善した要因として考えられる

またAXS 法の有効性についても確認し効果的であることが判明したただし今回

は主成分が Snの組成のガラスでありHEXRD でも十分に詳細な Snの周辺構造が得られ

たためAXSを利用した場合との大きな構造の差は認められなかった

本研究では様々な優れた特徴を有する SP ガラスにおける耐水性改善のメカニズムにつ

いて検討を行ったこの系のガラスについてはこれまでほとんど利用されていなかった

放射光を用いた構造解析を駆使し第三成分の添加によってどのような構造的変化が生じ

耐水性を改善させるか新たな知見を得ることができた最終目標である機能性ガラスの

開発における新たなる材料設計指針の確立に対してldquo耐水性rdquoに関しては概ね明らかにな

ったと考えられる一方で今回検討していな電子状態化学結合性についても評価する

ことで溶出メカニズムの解明が可能になり材料設計指針の確立が期待される

79

発表論文リスト

口頭発表

第 2章および第 3章

(1) SnO-P2O5 系ガラスへの酸化物添加効果

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎

日本セラミックス協会第 25 回秋季シンポジウム No3C06 (名古屋市 2012年 9月)

(2) Effect of Nb2O5 addition to SnO-P2O5 glass (Poster)

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

International Union of Materials Research Societies International Conference on Electronic

Materials IUMRS-ICEM 2012 A-9-P26-003 (Yokohama 2012 年 9月)

(3) スズリン酸塩系ガラスの蛍光特性耐水性に及ばす酸化物の添加効果(ポスター)

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎

日本セラミックス協会 2013 年年会 1P070 (東京 2013年 3月)

第 4章

(1) 放射光を用いたスズリン酸塩ガラスの構造解析

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎小原真二臼杵毅

日本セラミックス協会第 27 回秋季シンポジウム 2B22 (鹿児島市 2014年 9 月)

(2) Structural analysis of tin phosphate glasses by synchrotron radiation (Poster)

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba Shinji Kohara Takeshi Usuki

International Congress on Glass ICG Annual Meeting Bangkok 2015 P14-138 p186 (2015)

発表論文

(1) Effect of Nb2O5 addition to SnO- P2O5 glass

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

Journal of the Ceramic Society of Japan Vol 120 No 11 pp530-533 (2012)

(2) Structural analysis of SnO- P2O5 glass

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

Journal of the Ceramic Society of Japan(準備中)

80

謝辞

本研究を遂行するにあたり終始暖かいご指導ご助言並びにご鞭撻を賜わりました岡

山大学大学院環境生命科学研究科 難波徳郎教授に心より感謝の意を表します

また本研究を遂行するにあたり懇切丁寧なご指導とご意見をしていただいた岡山大

学大学院環境生命科学研究科 紅野安彦准教授環境環理センター 崎田真一助教に心より

感謝いたします

本研究を遂行するにあたりラマン分光測定の使用についてご助言ご教授して頂い

た岡山大学自然科学研究科 藤井達生教授中西真助教に心より感謝の意を表します

Sn のメスバウアー測定の際に協力して頂いた岡山大学自然科学研究科先端自然科学教

育研究推進本部高田研究室 松本修治特任助教(当時旭硝子株式会社中央研究所)また

Feのメスバウアーを測定の際に協力して頂いた岡山大学自然科学研究科 藤井達生教授に

心より感謝の意を表します

固体 NMR の岡山大学自然科学研究科 早川聡教授に心より感謝の意を表します

本研究を遂行するにあたりSPring-8 にてHEXRD および AXS 法の測定法および原理

についてご教示頂きました物質材料研究機構 小原真司博士ならびに山形大学 臼杵毅

教授に心より感謝の意を表します

本研究は多くの後輩諸君の協力によって遂行されました特に実際に共同研究共同

実験を遂行して頂いたOG 藤原沙弥香さん博士前期課程 2 年 東利彦君OB 徳岡太誠

君学士課程 4年 塩田将大君に心より感謝の意を表しますまた難波研究室で共に研

究生活を過ごした卒業生在学生の方々に感謝の意を表します

また同時期に博士後期課程に在籍された香川高等専門学校の桟敷剛さんにはNbに

関する有益な情報だけでなく辛い状況でも励ましを頂きました心より感謝の意を表し

ます

最後に長きに渡る学生生活を認め経済面だけでなく精神面でも支援してくださった

家族に心より深く感謝の意を表します

平成 28年 3月

福井 聡史

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18

234 耐水性試験前後の構造変化

Figs 217 - 222に各ガラスの耐水性試験前後の XRDパターンを示す耐水性試験前では

ガラス化を全組成で確認した(Figs 217(a) - 222(a))しかし耐水性試験後における外観

写真で形状の崩れたもしくは析出物の得られたガラス組成では結晶が生成したことが

確認された形状の崩れた三組成のうち50S50P 60S40P ガラス(Fig 2214(b))では三

種類の結晶ピーク(SnP2O7 Sn2P2O7 Sn3(PO4)2)が確認でき5S55Z40P については(Fig

2214(b))結晶同定の判断はできなかったが ZnOの多い組成であるためおそらくリン酸

亜鉛の何れかの結晶だと推測された析出物が得られた 55S5Z40P はガラス matrix部と析

出物に分けて測定したところガラス matrix 部はガラスのままであり析出物は SnP2O7

Sn2P2O7の二種類の結晶ピークが確認できたガラス形状に変化がなかったその他の組成は

ガラス状態が保たれていたSn4+の結晶のピークが確認されたのは50S50P のガラスには

気泡が残っておりその気泡から酸化されたかもともと溶融工程で電気炉内に残って

いた酸素によってSn4+に酸化されたか等が考えられる

235 溶出速度(DR)および重量減

Table 24に DR重量減の結果および仕込み組成から計算した OP を示すSP SNP S5ZP

ガラスではSnO 量の増加に伴いSnO量の固定された Sn-Nb-P 5SZP ガラス系ではそれ

ぞれの金属酸化物の増加に伴いDR重量減は減少傾向にあったFP ガラスでは全組成

において DR 重量減共に変化が全く確認されなかったそのため青ヤケのようなものが

確認された FP ガラス(Fe2O3 lt 30 mol)については電子天秤では変化が見られない程度

の重量減であったと推測される二種類の SZP ガラスで比較するとSnOと ZnO量が入れ

替わってもほぼ誤差範囲内と思われる結果が得られたガラス全体の比較では外観写真

で変化が見られなかった FP ガラスと 65S5N28P 65Sn-5Nb-30P のガラスが DR重量減がと

もにゼロという結果が得られた

組成と DR 重量減の関係性を見るために作成した図をFigs 223(DRと OP の関係性)

224(Fig 224に重量減と OP の関係性)に示すそれぞれの図にリン酸塩の三つの構造

の OP も表記した双方の図よりDR 重量減共に OP が増加することで単調に下がって

いることが分かるこの結果はリン酸塩の構造ではorthophosphate 組成で耐水性良好が

あるため[22]一般的な結果と同じ挙動であるまた耐水性の良かったNb2O5添加の SNP

ガラスは異なる挙動(傾き)が得られた

以上の結果より第三成分添加による耐水性の改善を確認し特に Nb2O5 の添加による

影響は大きいことが判明したまたOP の増加による耐水性が改善する結果が得られた

次章の第 3 章にて各ガラス系の構造解析を行い第三成分特に Nb2O5の耐水性への有

効性について調査した

19

24 結言

本章ではSP ガラスおよび第三成分の Nb2O5 ZnOを添加した SP ガラスの物性評価を行

うことで耐水性改善への第三成分添加の有効性を確認した各々の物性について以下に

まとめる

低ガラス転移温度を有する SP ガラスは最も SnO 量が高い 70S30P でも Tg le 280であ

ったNb2O5を添加した Sn-Nb-P SNP ガラスではTgの上昇は見られたが Tg le 350

ZnOを添加した 5SZP S5ZP ガラスではTg ≦ 450であり両金属酸化物の添加でも低

ガラス転移温度を維持しているガラスが得られたNb2O5 添加が Tg を上昇させたのはポ

ーリングの第 2法則より高価数イオンの方が結合強度が高くなるためと結論付けた

耐水性試験結果の外観写真を観るとSP ガラスの SnO 量 le 60 mol 5SZP ガラスおよび

S5ZP ガラスの P2O5量 = 40 molの組成についてガラスサンプルの形状が大きく変化して

おりDR 重量減も高く耐水性の低さが明らかであった得られた析出物はSnP2O7

Sn2P2O7 Sn3(PO4)2 および亜鉛リン酸結晶の一種であると予想されたその他の組成では

透明性の失われた組成がいくつかあったが外観写真では変化が見られなかった FP ガラス

と 65S5N28P 65Sn-5Nb-30P のガラスが DR重量減がともにゼロという結果が得られた

組成と耐水性に関してはDRおよび重量減がOP増加で単調に低下した結果が得られた

つまり耐水性を改善させる有効な手段はSP 系ガラスのガラス化範囲を拡大かつ OP を

増大させる第三成分の添加によることであることが示唆された

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21

Fig 21 三成分系 SnO-NbO25-P2O5 系のガラス化範囲

Fig 22 作製した Sn-Nb-P ガラス

(a)50Sn-5Nb-45P (b)55Sn-5Nb-40P (c)60Sn-5Nb-35P

(d)65Sn-5Nb-30P (e)70Sn-5Nb-25P (f)60Sn-10Nb-30P

(g)55Sn-20Nb-25P (h)60Sn-15Nb-25P (i)65Sn-10Nb-25P

22

Fig 23 三成分系 SnO-ZnO-P2O5系のガラス化範囲

Fig 24 作製した SZP ガラスの一例

(気泡や脈理のようなものが確認できた組成)

23

Fig 25 SP SZP ガラスの作製フローチャート

Fig 26 Sn-Nb-P SNP ガラスの作製フローチャート

(気泡や脈理のようなものが確認できた組成)

24

Fig 27 FP ガラスの作製フローチャート

Fig 28 耐水性試験(MCC-1法)

25

Table 21 各ガラスの組成分析結果

26

Fig 29 Sn-Nb-P ガラスのメスバウアースペクトル

Table 22 Sn-Nb-P ガラスのメスバウアーパラメーター

27

Fig 210 FP ガラスのメスバウアースペクトル

Table 23 FP ガラスのメスバウアーパラメーター

28

Table 24 各ガラスの物性(密度(ρ)ガラス転移温度(Tg)溶出速度(DR)重量減())

29

Fig 211 SP ガラスの耐水性試験前後の外観写真

Fig 212 Sn-Nb-P ガラスの耐水性試験前後の外観写真

30

Fig 213 SNP ガラスの耐水性試験前後の外観写真

Fig 214 S5ZP ガラスの耐水性試験前後の外観写真

Fig 215 5SZP ガラスの耐水性試験前後の外観写真

31

Fig 216 FP ガラスの耐水性試験前後の外観写真

32

Fig 217 SP ガラスの XRD パターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

33

Fig 218 Sn-Nb-P ガラスの XRD パターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

34

Fig 219 SNP ガラスの XRD パターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

35

Fig 220 5SZP ガラスの XRDパターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

36

Fig 221 S5ZP ガラスの XRDパターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

37

Fig 222 FP ガラスの XRD パターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

38

Fig 223 各ガラス系の DR と OP の関係性

39

Fig 224 各ガラス系の重量減と OP の関係性

40

第 3章 分光法を用いたスズリン酸塩系ガラスの構造解析

31 緒言

前章ではSP ガラスおよび第三成分に Nb2O5 ZnOを添加した Sn-Nb-P ガラスSNP ガラ

スSZP ガラスの物性特に耐水性に関する第三成分添加の有効性を明らかにしたその添

加した第三成分の二種類についてもNb2O5 の方が ZnO よりも溶出速度重量減ともに抑

制することができSP ガラスの低ガラス転移温度という特性も維持されていることが判明

したしかし現段階では本研究の主要な物性である耐水性改善の要因が明確になって

いない組成の観点からはOP の値が高い組成が良好な耐水性であることが分かったが

組成だけでは耐水性改善のメカニズムについて完全には理解できないここでリン酸塩

ガラスの溶出のメカニズムは第 1 章で述べたように加水分解反応と水和反応が要因とな

る[1 2]この機構はそれぞれリン酸の構造つまり架橋酸素 BO の数が大きく関わって

おりリン酸アニオンの[PO4]ユニットの架橋酸素数を知ることが重要であるこの BO の

情報を得るためにはガラス構造を示す指標の一つである Qn(n は[PO4]ユニット中の架橋

酸素数を表す)を調べることが必須であるまたQn の分布を調べるためにはガラスの

構造解析を行う必要性がある

ガラスの構造解析には種々の方法があり特にラマン分光法や赤外(IR)分光法核

磁気共鳴法(NMR)などの分光学的手法を用いた構造解析の報告が多い[3-5]ラマン分光

法および IR分光法は原理は異なるがどちらも結合の振動モードを測定する手法であり[6]

リン酸塩ガラスだけでなくケイ酸塩ガラスホウ酸塩ガラスなど様々なガラス系にて測

定がなされている[7 8]また得られた結合状態の情報からリン酸塩アニオンの Qn分布

を調べることも可能であるNMR は共鳴吸収ピークの化学シフト(共鳴周波数のズレ)

から構造を決定する手法であるガラスの場合SiO2や B2O3 P2O5といった網目形成酸化物

の Qn分布を得るために一般的に使用されている手法である[9]

今回これらの測定の中でラマン分光法を選択し構造解析を行ったラマン分光法は

測定する際にサンプル形状を気にすることなく基本的にそのまま測定できるためIR 分

光法のようにサンプル形状で測定方法を変える必要はないまたIR 分光法では例えば

KBr 錠剤法やヌジュール法のように測定を行うためのサンプル調整に手間がかかる場合が

ある[6]さらに比較対象の FP ガラスではNMR を測定できないため作製ガラスを全

て比較検討できるようにラマン分光法を選択した

本章ではラマン分光法を用いて各ガラスの構造解析を行い[PO4]ユニットの Qn分布を

調査し平均 BO数 nを算出することで耐水性と構造の関係性を検討したまたラマン

分光法によって得られた Qn分布の妥当性を確認するためにSP ガラスおよび 67S5N28P ガ

ラスの NMRを測定も行い比較した

32 実験方法

41

321 サンプル準備

ラマン分光およびメスバウアー分光の測定では第 2 章で作製した各ガラスのバルク体

を用いたWD試験に使用したサンプルとは別にラマン測定用のサンプルを用意した適

度な大きさ大体 15 cm角程度のサイズになるようにガラスカッターで切断しその後

十分な平滑性を得るために鏡面研磨を施した

322 ラマン分光測定

使用したラマン分光装置は顕微レーザーラマン分光装置(Jasco NRS-5100)を用いた

用いたレーザー波長は 53208 nmであり400 - 2000 cm-1の範囲で測定した

Qn 分布を導くためにピークフィッティングを行いリン酸塩アニオンのラマンバンド

が現れる950 - 1250 cm-1付近および 700 - 750cm-付近の範囲で定量した

323 31P MAS NMR測定

31P MAS NMRの測定は Varian NMR System 500 を用いて32 mmの MASプローブ

202309MHzにて行った測定パラメーターを以下に示すπ4 パルス長さ 14 μs 待ち時間

(pulse delay)10 s 積算回数 3600 scan シリンダー円筒形状の Zrローターの回転スピード

160 kHz referenceとして二番目の基準物質として使われる NH4H2PO4を使用化学シフト

は85 H3PO4溶液から δ = 10 ppmである

33 結果考察

331 各ガラス系のラマンスペクトル

Figs 31 - 35にラマンスペクトルを示す各ピークは以下の通りに帰属し各スペクト

ル中に該当する構造をピーク位置に示した

1230 - 1260 cm-1 P=O NBO Q

2 [10]

1110 - 1150 cm-1metaphosphate (PO3)

- Q

2 [10]

1030 - 1100 cm-1pyrophosphate (PO35)

2- Q

1 [10]

970 - 1000 cm-1orthophosphate (PO4)

3- Q

0 [10]

920 - 930 cm-1asymmetric (P-O-P) Q

1 [10]

730 - 750 cm-1symmetric (P-O-P) Q

1 [10]

710 - 720 cm-1asymmetric (P-O-P) Q

2 [10]

810 - 820 cm-1Nb-O [NbO4] tetrahedron [11]

900 - 920 cm-1Nb-O isolated [NbO6] octahedron [11]

42

SP ガラスのラマンスペクトル(Fig 31)を見ると50S50P 60S40P ではmetaphosphate

の Q2 構造が支配的であるがSnO 量が増えるにつれてその構造が変化し70S30P では

pyrophosphateの Q1構造と orthophosphateの Q

0構造が共存した構造となっているまたSnO

量の少ない 50S50P および 60S40P において確認されたQ2構造の P=O のピークが見えなく

なっているつまり耐水性と関連して考えるとSnO量が増えるにつれてP-O-P 結合か

ら Sn-O-P 結合に代わり水分子との反応である加水分解反応を妨げる構造に変化している

ことがわかる

Figs 32 33にNb2O5を添加した Sn-Nb-P ガラスおよび SNP ガラスのラマンスペクトル

を示すまずSn-Nb-P ガラスについてNb 無添加の 65Sn-0Nb-35P は主に Q1構造であ

りNbO25が添加されることによってQ0構造に変化しQ

1 Q

0構造が共存しているような

ピークが得られた添加量が少ないガラス系であるため徐々に変化しているのを確認し

た800 cm-1を少し越えた 810 - 820 cm

-1付近にNb2O5を添加することでピークが現れそ

して添加量を増量することで強度が強まるピークがありこのピークは四面体の[NbO4]

のものと判断した

SNP ガラスのラマンスペクトルについてはNb2O5添加量を固定した組成であるためSP

ガラスのような挙動が観察された50S50N45P では50S50P ガラスと同じようにQ2構造

が主な構造でありSnO量の増加に伴って60S5N35P Q1構造67S5N28P Q

0構造に支配

的な構造が変化しているこれはSP ガラスと同じ傾向を示しているためP-O-P rarr Sn-O-P

に置き替わっていることが示唆されるNb-O に関するピークでは50S5N45P のみ[NbO4]

四面体のピークを確認できず900 - 920 cm-1付近に[NbO6]八面体のピークが確認された

SnO量が増量した 60S5N35P では810 cm-1付近の [NbO4] 四面体のピークが現れているが

[NbO6]八面体のピークと 900 - 920 cm-1付近の Q

1構造のピークが非常に近い(ほぼ重なって

いる)ことから60S5N35P については[NbO4] 四面体および[NbO6]八面体の共存の可能性

も考えられるまた67S5NP28 では[NbO4] 四面体のみのピークが観察されたためこ

の Nb-O の配位数変化は[PO4] unitの状態によって変化している可能性も示唆された

ZnO を添加した S5ZP ガラスおよび 5SZP ガラスのラマンスペクトルを Fig 34 に示す

図の下部三つが S5ZP ガラス上部三つが 5SZP ガラスのスペクトルであるSZP ガラスの

二系統を比べるとあきらかなスペクトルの違いが確認された各ガラス系で確認すると

SnO 量が最小の 55S5Z40P はQ2構造と Q

1構造の範囲に跨っているようなスペクトルが得

られた62S5Z33P および 65S5Z30P のスペクトルからはどちらもほぼ Q1構造であると判

断した5SZP のスペクトルは1000 - 1250 cm-1付近の範囲で裾を引くような(なだらかな)

スペクトルが得られたZnO 量が最小の 5S55Z40P にはQ2構造が主な構造に見えるが

shoulderピークのような Q1構造(1030 - 1100 cm

-1)が確認できる5S62Z40P においては

1000 - 1250 cm-1付近の範囲まで幅広いスペクトルが得られた730 - 750 cm

-1付近にピーク

が現れているためおそらく Q1構造が最も多く存在していると考えられる65S5Z30P では

Q1構造Q

0構造が共存しているようなピークが得られた

43

FP ガラスのラマンスペクトルを Fig 35 に示すFe量の少ない 20F80P 25F75P と他の三

つで構造が異なっていることである20F80P 25F75P はQ2構造と Q

1構造が基本構造にな

っていると判断できる 30F70P は1110 - 1150 cm-1付近に shoulderピークのようなものがあ

りQ2 Q

1 Q

0構造が共存しているようなスペクトルであった35F65P 40F60P はQ1構造

が主な構造でQ0構造があると判断した

332 平均 BO数 n (Qn分布)

まずピーク分離について散乱断面積が見積もれなかったためラマンの散乱強度比

を Qn分布として簡易的にピーク分離を行い(Fig 36)そこから平均架橋酸素数 BO 数 n

を算出したここでFig 37 に 31P MAS NMRスペクトルを示しTable 31に NMRおよび

ラマン分光より得られた平均 BO 数 n を示す(NMR の帰属 reference [12])表よりNMR

とラマンから得られた Qn分布はほぼ一致していることが分かった60S40Pについては支

配構造が NMR(Q1) ラマン(Q

2)で逆になったこれは60S40P の組成がQ

2と Q1のほぼ中

間の組成になるためこのようなズレが生じたと考えられるしかし今回のラマンによ

る Qn分布の算出についてはほぼ問題ないと判断した

Table 32にラマンスペクトルより求めた Qn分布平均 BO 数 nをを示しTable 24に示

した DR 重量減の結果を併記する

SP ガラスのうち耐水性が低いガラスは Q2構造によって形成されているSnO量の増加

によって NBOの増加とともに耐水性の向上が確認できSnOが入ることでSn-O-P 結合を

形成し水分子からの攻撃を受けにくくなっていることが考えられる

Sn-Nb-P ガラスでは基本的に Q1構造が主構造でNb2O5の添加が増えるにつれQ

0構

造が支配的になり耐水性は次第に向上していく最も耐水性のよかった 65S-5Nb-30P は

Q0構造での割合が非常に高く平均 BO数 n値が 03であった

SNP ガラスではP2O5量が多い組成の 50S5N45Pにおいても平均 BO数 nが 60S40P と

同じながらも耐水性が良くなっている67S5N28P はほぼ完全に Q0構造であり平均 Q

n

値は 0となった

SZP ガラスについてはS5ZP 5ZSP のどちらの系列についても耐水性の結果に大きな差

というものは確認されなかったが構造的にも平均 BO数 nが 09 10 17という結果であ

った

FP ガラスについてはFe2O3 lt 30 molのときは平均 BO 数 nが20 19と高い数値を

示したが耐水性は非常に良好であったこの結果より組成だけでなく構造的にも耐

水性高くなる要因が不明である一つの原因の可能性としてメスバウアーより得られた

Fe2+の存在比が 40以上と高かったことがFe2O3含有量が少ない組成時には効果的になっ

ているのかもしれない

333 平均 BO数 nと耐水性の関係性

44

Fig 38に DRと平均 BO数 nの関係性についてFig 39に重量減と平均 BO数 nの関係

性をそれぞれ示すまたOP の時と同様に各図にリン酸塩の三つの構造の平均 BO数

n も表記した双方の図よりDR 重量減共に平均 BO 数 nが低下することで単調に下がっ

ていることが分かるまた耐水性の良かったNb2O5添加の Sn-Nb-P SNPガラスはの DR

の挙動(傾き)はOP 時とも異なった挙動が得られた

Fig 310に OP と平均 BO数 nの関係を示す図中に示す茶色metaphosphate 黄色

pyrophosphate 灰色orthophosphate であるこの図から耐水性改善には平均 BO 数

n を下げOP を上げることが重要であるのが分かるまたNb5+の添加はOP を上げる

だけでなく平均 BO 数も減少させることから非常に効果的な成分であることが明らかで

あるこれはP5+から同酸価数 Nb

5+に少量でも置き換えることで平均 BO 数 n を下げ

OP を上げることを可能としている(実際に orthophosphate の OP4 よりも高い OP でガ

ラスが作製できている)つまりNb5+の添加によって P-O-P 結合が減少し水和反応加

水分解反応が抑制されているからである

以上の結果SP 系ガラスの耐水性改善には低い平均 BO 数と高い OP の組成にするこ

とが重要でNb2O5の添加は非常に効果的であることが分かったその一方でガラス中の

詳細な構造的要因についてははっきりしていないため次章の第 4 章にてさらに詳し

い構造解析を行い耐水性改善の要因について調査を行った

34 結言

本章ではラマン分光を使用して各ガラス系のリン酸塩アニオンの構造を簡易定量で

評価し組成と構造の関係について考察した

平均 BO 数 n と耐水性に関してはDR および重量減が平均 BO 数 n の減少で単調に低下

した結果が得られた

平均 BO数 nと OP の図より耐水性改善には平均 BO数 nを下げることそして OP

を上げることが重要であることが明白であった

Nb5+の添加は平均 BO数を減少させるだけでなくOP も上げることからガラス構造内

の P-O-P 結合を減少させる故に水和反応加水分解反応が抑制され耐水性が大幅に

改善された故にNb2O5 のような高価数金属酸化物を添加することが効果的であること

が示唆された

参考文献

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46

Fig 31 SP ガラスのラマンスペクトル

47

Fig 32 Sn-Nb-P ガラスのラマンスペクトル

48

Fig 33 SNP ガラスのラマンスペクトル

49

Fig 34 SZP ガラスのラマンスペクトル

50

Fig 35 FP ガラスのラマンスペクトル

51

Fig 36 ラマンスペクトルのピーク分離例(67S5N28P)

Raman Shift (cm-1)

52

Fig 37 NMRスペクトル

Table 31 NMR およびラマン分光より得られた SP 67S5N28P ガラスの

Qn分布および平均 BO数 n

53

Table 32 各ガラスのラマンスペクトルより求めた Qn分布結果

(表の赤線より右側の結果は Table 22 より)

1 仕込み組成による数値

2 Fig 2212 に示した析出物を取り除いた後の数値

54

Fig 38 DR と平均 BO数 nの関係性

55

Fig 39 重量減と平均 BO数 nの関係性

56

Fig 310 OP と平均 BO数 nの関係性

Meta

Pyro

Ortho

57

第 4章 放射光を用いたスズリン酸塩系ガラスの構造解析

41 緒言

前章の第 3 章にてラマン分光法を用いて SP 系ガラスの構造解析により Qn分布を導き

出したことで耐水性と構造の関係についてある程度関連性を導くことができたリン

酸アニオンについてはQ0(orthophosphate)構造 gt Q

1(pyrophosphate)構造 gt Q2

(metaphosphate)構造の順で良耐水性となるしかしSn Nbおよび Znの局所構造につ

いては知見が得られていないラマン分光や IR分光などの分光学的手法を用いてSnや

Nb Zn の周辺の局所構造を知るには限界があるまたガラスの構造解析を行う上で非常

に重要な因子である中距離構造の評価には分光学的手法は不向きである[1]

そこで局所構造や中距離構造を知るために有効な手法として放射光線を用いた構造

解析がある放射光(SR 光)とはシンクロトロンなどの加速器で高速に加速された電子

が進行方向を磁場によって変えられた際に放射する電磁波である[2]エネルギーが高く

(短波長)輝度が高い特性を有している日本国内では兵庫県佐用町の SPring-8や茨城

県つくば市の高エネルギー加速器研究機構佐賀県鳥栖市の佐賀県立九州シンクロトロン

光研究センターなど複数個所に放射光施設が設置されている

放射光を用いたガラスの構造解析には一般的に高エネルギーX 線回折(High Energy

X-ray diffraction HEXRD)が用いられるこの回折実験から高い散乱ベクトル Q(= 4π sinθλ)

まで回折データが得られる多種類の原子から構成される物質の場合はFaber-Ziman 型[3]

の構造因子 S(Q)を用いる以下の式に示すようにFaber-Ziman 型構造因子 S(Q)は同種また

は異種の原子による相関の重み関数付の和として示される例として SiO2ガラスで説明す

ると構造因子 S(Q)は三種類の原子付の S(Q)の重み付の和として表されていることが分か

I(Q) 散乱断面積 ltgt 原子一個当たりの平均値 f(Q) 原子散乱因子 W 重み関数

通常の研究室で使用される X 線回折(XRD)装置で用いられる特性 X 線はCuKα線(λ

= 0154 nm 81 keV)が最も良く用いられより高いエネルギーの X 線が必要な場合は

MoKα線(λ = 0071 nm 175 keV)が使用される一方でSPring-8のビームライン BL04B2

で行われる高エネルギーX 線回折(HEXRD)測定で使用される SR のエネルギーは378 keV

58

~ が使用可能である[2]従ってガラス以外の液体のような非晶質物質にも非常に精度

よく構造解析が行われている[4]

また局所構造解析の一つに X線異常散乱法という測定方法がある[5 6]これは通常

の X 線回折実験では分離不可能な特定元素に関連する部分構造因子(散乱強度曲線)を得

ることができる手法である今回 HEXRD の測定時に使用したエネルギー614 keV では各元

素の異常散乱項のエネルギー依存性は確認されない(Fig 41)その一方でFig 42に示す

Sn の吸収端付近の 292 keV付近ではSnの異常分散項のエネルギー依存性が確認できる

つまりSnの吸収端近傍より低エネルギー(E)側の異なるエネルギーの X線(E1 E2)を

使って散乱強度を測定し各 E における異常分散項(f`)の変化(つまり高い E1 から低い

E2 の散乱強度の差分)を利用して Snに関する部分構造因子を求める構造解析が AXS 法で

あるこの測定法は古くから知られている方法ではあるが装置の測定条件や設備の問

題からなどから使用があまり普及していなかった[5 6]近年になり金属ガラスの構造解

析について徐々に報告が出てきており今後注目される測定法である

HEXRD および AXS 法などから得られたデータ実測の構造因子 S(Q)は一次元の限られ

た構造情報であるためガラスなどの非晶質物質の中距離構造を解明するためにはこれ

らのデータを基に三次元構造を求める必要がある三次元構造モデルの作成には逆モンテ

カルロ(RMC)シミュレーションを使用することが有効である[7]このシミュレーション

は任意で決めたシミュレーションボックス内の粒子をランダムに動かすことで実測の

構造因子 S(Q)を再現する三次元構造モデルを構築する方法である

SP ガラスについては分光学的手法について数多く報告があるが放射光を用いた回折

法はほとんど適用されていないそこで本研究では HEXRD および AXS 法を用いた構造

解析を行うことでSn Nb周りの構造を解明すると共にSNP ガラスの耐水性改善のメカ

ニズムについて考察したまたAXS 法の有効性についても検討した測定を行ったガラ

スはSP ガラスおよび最も耐水性の高かった 67S5N28P を選択した

42 実験方法

421 HEXRD AXS法

HEXRDはSPring-8のビームライン BL04B2 で測定を行ったエネルギー614 keV の X

線を用いた測定サンプルの厚みは09 mm (plusmn0005 mm)になるまで研磨を行った

AXS 測定はSPring-8のビームライン BL13XUを使用した(Fig 43)それぞれの測定し

た X 線のエネルギーについて以下に示す

①Sn K吸収端hellip292 keV near edgehellip291452 keV (-60 eV) far edgehellip289751 keV (-230 eV)

②Nb K吸収端hellip1899 keV near edgehellip189562 keV (-30 eV) far edgehellip187863 keV (-230 eV)

測定に使用したサンプルの厚さが015 - 030 mmとなるまで研磨を施した

SP ガラスについて50S50P 60S40P 67S33P の三組成のガラスを測定した70S30P に関

59

しては測定を試みたが放射光照射によって結晶化してしまいガラス部分の正確な構

造因子を得るための強度補正ができず解析を断念した

422 RMCのモデリング

Table 41 に RMC の各種パラメーターを示す粒子数は約 5000 個でそれに伴う boxの一

辺の長さは約 42 ~ 46 Ǻになった拘束条件にP の配位数が 4になるような条件を付け

加えたFig 44にSn2P2O7結晶および Sn3P2O8結晶の動径分布関数(RDF)をTable 32

にRDFから得られた第一近接距離[8 9] を示すこれらの数値を使用しcutoffを決定し

たNb-O についてはいくつかの文献値を参考にした[10 11]

各ガラスの RMCのモデリングは①HEXRDから得られた S(Q)のみ②S(Q)および AXS

から得られた部分構造因子を加えた場合でそれぞれ計算した

43 結果考察

最初にNbの AXSから得られたデータについて解析を試みたが妥当な構造モデルが得

られなかったためSnの AXSのみで解析を進めたNb2O5の量が 5 molと少量であったた

めあまり精度の高いデータが得られなかったと推測される

431 実測の HEXRDおよび AXSの結果

4311 実測 HEXRDの S(Q)

Fig 45 に実測HEXRDの S(Q)を示す四つの組成ともに実測HEXRDの S(Q)が得られ

Nb2O5添加の 67S5N28P ガラスでは Low Q 側に変化が確認された

4312 実測散乱強度曲線

Fig 46 に Snの散乱強度曲線を示す(a) の 67S33P のこの曲線からはfar edgeおよび

near edge のエネルギー間で差分が見られエネルギーの依存性が確認された50S50P

67S5N28P のガラスについても同じように差分が確認されたが(b)の 60S40P についてのみ

他とは若干異なる結果(緑丸)であったためRMC の構造解析には差分の構造因子ではな

くfar edge near edge 二つの構造因子を用いた

4313 全相関関数 T(r)

Fig 47 に全相関関数 T(r) を示すHEXRD から得られたものを実線でSnの AXS から

得られたものは点線で示し組成ごとに重ねて表示した図中に各ピークについて帰属し

ているがSnの T(r)からはSn-O Sn-P Sn-Snのみのピークを確認した

432 RMCの計算結果および考察

60

構造モデルの一例として67S5N28P ガラスの得られた構造モデルをFig 48に示す水

色の多面体 unitSnON 黄色の多面体 unitPO4 ピンクの多面体 unitNbONである以下

詳細な構造解析の結果および考察を記す

4321 RMCのフィッティング結果

RMCのフィッティング結果の一例として67S33P の HEXRD と Snの AXS の構造因子か

ら得た結果を示す(Fig 49)二つの構造因子を加えて計算した結果においてもHEXRD

の S(Q) AXS の S(Q)に各々に対する良好なフィッティング結果が得られた他の組成も

同様なフィッティング結果が得られた

4322得られた各 pairの平均配位数平均角度平均結合距離

RMCの結果によって得られた各 pairの平均配位数平均角度平均結合距離を Tables 43

に示す上段が HEXRD の S(Q)のみ下段が HEXRD に Sn の AXS の部分構造因子を加え

て結果である最下部は比較のためにSn2P2O7の情報を記載した[8]

P-O pairについてRMCモデル中の PON多面体に関して平均配位数 Nが 4および P-O

の平均結合距離が約 160Å平均結合角度angO-P-O が約 109degという結果が得られた組成

による大きな違いは確認されなかったのはP の配位数が 4になるように拘束条件をかけた

結果であると考えられるSnON多面体についてはSnO量の増加 = OP の増加であり平

均配位数 Nが 3 ~ 35へ増加した平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約

22Åで組成による大きな変化はほとんど見られなかったNb2O5を 5 mol添加したガラ

スではNbON多面体の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平均配位数 N約 4Nb-O 平均結

合距離約 20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O(約 105deg)と値が近いこと

また6配位ではなく 4配位として主に存在していることからSnO と同じような働きをし

ていると推測される

以上の結果からNb2O5添加の耐水性改善の要因として結合距離が Sn-O が約 22Åに対

し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強固にして

いることも一つの要因として考えられる

また67S5N28P ガラスの各多面体モデルを確認すると(Fig 410)P は PO4Snは SnO4

と SnO3Nbは NbO4をそれぞれ再現している

4323得られた各 pairの結合様式

RMC の結果により得られた各 pair の結合様式を Tables 44 に示す上段が HEXRD の

S(Q)のみ下段が HEXRDに Snの AXS の部分構造因子を加えた結果である最下部は比

較のためにSn2P2O7の情報を記載した[8]

結合様式に関してはPO4四面体は他の多面体も含めてほぼ頂点共有で存在している

SnON多面体についてはSnO 量が少ない配位数が 3 に近い場合頂点共有以外の共有の

61

割合も多くSnO 量が増えるにつれて頂点共有が主になり網目形成体として振舞ってい

ると考えられる組成によって平均結合距離や平均角度の大きな変化が見られなかったこ

とから平均配位数が結合様式を決める重要なファクターであるということも考えられる

またHEXRD と AXS 法の結果がほぼ同じであったこれは主成分が SnO のガラスであ

るためHEXRDでも十分に詳細な構造が得られたため大きな変化が現れなかったと考え

られるNbON 多面体はPO4 四面体と SnON 多面体とはほぼ頂点共有で繋がっている以

上の結果よりSnO量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体的に各多面体同士の

頂点共有が増えていることから耐水性の改善には頂点共有を多く含む構造であること

が重要である或いは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的となって

いるということが推測されるFig 411に 67S5N28P ガラスの構造モデルを示す各多面

体はほぼ頂点共有で繋がっていることが確認できる

4324 平均 BO数の比較

Tables 45にNMR Raman RMC(HEXRD) RMC(HEXRD + AXS)の平均BO数を示すRMC

から得られた平均 BO 数 nはNMR Raman と同様に Nb2O5の添加による大幅な減少が確認

されたしかしNMR Raman と比較すると全組成において数値が大きすぎで適当でない

50S50P の構造モデルを観るとPO4四面体間で3配位 O の存在が確認された(Fig 412)た

め実測で得られた n値を再現できるようなPO4四面体モデル間の繋がり方に関する拘束条

件を加えて RMCを計算する必要性があるまた仮に3配位 Oの存在があるとすると電

子状態の変化が生じていることがと示唆されるため分子軌道計算を用いて電子状態解析

を行い確認する必要がある

4325 耐水性の改善について

Nb2O5を添加のガラス構造への影響について①6配位ではなく 4配位として主に存在し

ていることからSnO と同じような働きをしていると推測される②結合距離が Sn-O が約

22Åに対し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強

固にしている③ガラス構造中で全体的に各多面体同士の頂点共有が増えている以上の

ことが判明した以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性

耐候性を改善した要因として考えられる

44 結言

本章では分光学的手法では評価できないガラスの中距離構造局所構造について理解

するために放射光を用いた構造解析を実施しSP ガラスの構造と耐水性改善について考

察したHEXRDおよび AXS法を用いて測定を行い得られたデータを RMCシミュレーシ

ョンにて解析を行った

解析の結果 Sn-O pair については平均配位数 Nが 3 ~ 35でSnO量の増加 = OP の増

62

加に伴い高くなった平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約 22Åであ

ったP-O Sn-Oについては組成による大きな変化はほとんど見られなかった67S5N28P

ガラスの Nb-O pair の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平均配位数約 4Nb-O 平均結合距

離約 20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O(約 105deg)と値が近いことま

た6配位ではなく 4配位として主に存在していることからSnOと同じような働き(網目

形成体)をしていると推測されるまた結合距離が Sn-O が約 22Åに対し Nb-O は約 20

Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強固にしていると言える

SnO 量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体的に各多面体同士の頂点共有が増え

ていることから耐水性の改善には頂点共有を多く含む構造であることが重要である

もしくは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的であることが推測さ

れる以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性耐候性を

改善した要因として考えられる

またAXS 法の有効性についても確認し効果的であることが判明したただし今回

は主成分が Sn の組成のガラスでありHEXRD でも十分に詳細な構造が得られたため

大きな差は現れなかった

参考文献

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63

Fig 41 各原子の異常分散項のエネルギー依存性

Fig 42 Sn の異常分散項のエネルギー依存性

64

Fig 43 SPring-8の BL13XU

65

Tab

le 4

1

RM

Cの各パラメーター

66

Fig 44 Sn2P2O7 Sn3P2O8結晶の RDF

Table 42 Sn2P2O7 Sn3P2O8結晶の各 pairの第一近接距離

67

Fig 45 得られた実測 HEXRDの S(Q)

68

Fig 46 Sn の異常散乱測定により得られた散乱強度のエネルギー依存性

(a)67S33P (b)60S40P

69

Fig 47 全相関関数 T(r)

太線 HEXRD より

細線 Sn の AXSより

70

Fig 48 67S5N28P ガラス構造のモデル

71

Fig 49 RMC フィッティングの結果

72

Tab

le 4

3 各

pairの平均配位数角度結合距離

73

Fig

4

10

67

S5

N2

8Pガラスの各多面体モデル

74

Tab

le 4

4 各

pairの結合様式

75

Fig 411 67S5N28P ガラスの構造モデル

76

Table 45 平均 BO 各数 nの比較

Fig 412 50S50P ガラスの構造モデル

77

第 5章 総括

本研究ではSP ガラスを対象とした本研究では鉛フリー代替ガラスまたは希土類フ

リー蛍光体として SP ガラスの新規高機能化を将来的に目指し問題点であるldquo化学的耐久

性rdquoの改善につながる知見を得ることを目的としたそこでまずSP ガラスを母体ガラ

スとし第三成分に Nb2O5を添加した Sn-Nb-P SNP ガラスZnO を添加した SZP ガラスを

作製し耐水性を中心とした物性評価を行った次に分光学的手法で構造解析を行い

Qn 分布を導き出した最後に放射光を用いた構造解析を行い耐水性改善に関する構造的

な考察を行った以下に本研究で行った検討内容を示す

(1)SPガラスおよび第三成分Nb2O5 ZnOを添加した三成分系SPガラスの物性評価(第 2章)

(2)SP 系ガラスの分光学的手法による Qn分布導出(第 3章)

(3)放射光を用いた SP 系ガラスの構造解析構造と耐水性改善の関連について(第 4章)

各章についてまとめた結果を以下に示す

第 2章

第 2章では二成分系および三成分系のリン酸塩系ガラスの各種物性(密度や熱的特性

耐水性)の評価を行った二成分系ではSP ガラスに加え良好な耐水性を有する鉄リン

酸塩(Fe2O3-P2O5)系ガラス(以下 FP ガラス)を比較のために三成分系では二成分系

の SP ガラスに Nb2O5を添加したニオブ含有 SP ガラス(SNP ガラス)および ZnO を添加し

た亜鉛含有 SP ガラス(SZP ガラス)を作製した

今回作製した SP 系ガラスは低ガラス転移温度を有していた各組成の温度域はSP

ガラスTg le 280 Sn-Nb-P SNPガラスTg le 3505SZP S5ZPガラスTg ≦ 450であった

各種 SP ガラスの耐水性試験の結果二成分系の SP ガラスよりも三成分系ガラスの方が

良好な耐水性を有していた65Sn-5Nb-30P 67S5N28P ガラスが最も耐水性が良好であり化

学的耐久性の改善には Nb2O5が ZnOよりも効果的であった

組成と耐水性に関してはDRおよび重量減がOP増加で単調に低下した結果が得られた

つまり耐水性を改善させるにはSP 系ガラスのガラス化範囲を拡大かつ OP を増大させ

る第三成分の添加が有効であることが示唆された

第 3章

第 3章ではSP 系ガラスの分光学的手法による Qn分布の導出を行ったラマン分光法を

用いて各ガラス系のリン酸塩アニオンの構造を簡易定量で評価し組成と構造の関係に

ついて考察した平均 BO 数 n と耐水性に関してはDR および重量減が平均 BO 数 nの減

少で単調に低下することが明らかとなった

平均 BO 数 n と OP の関係より耐水性改善には平均 BO 数 n を下げることそして

OP を上げることが重要であることが明らかになった

78

Nb5+の添加は平均 BO数を減少させるだけでなくOP も上げることからガラス構造

内の P-O-P 結合を減少させ水和反応加水分解反応が抑制され耐水性が大幅に改善さ

れることが示唆された故にNb2O5 のような高価数金属酸化物を添加することが効果的

であることが再度確認された

第 4章

耐水性向上についてより深く評価するためSP SNP ガラスの局所構造に関する知見を得

ることを目的に放射光を用いた構造解析を行った高エネルギーX 線回折(HEXRD)お

よび X 線異常散乱(AXS)法で測定したデータを再現する構造モデルを逆モンテカルロ

(RMC)シミュレーションで構築し構造解析を行った

RMC モデル中の PON多面体に関して平均配位数 Nが 4および P-O の平均結合距離が約

160Å平均結合角度angO-P-Oが約 109degという結果が得られた組成による大きな違いは確

認されなかったSnON多面体については平均配位数 N が 3~4 でSnO 量の増加に伴い 4

に近い値となった平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約 22Åで組成

による大きな変化は見られなかった

Nb2O5を 5 mol添加したガラスではNbON多面体の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平

均配位数N約4Nb-O平均結合距離約20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O

(約 105deg)と値が近いことまた6配位ではなく 4配位として主に存在していることから

SnO と同じような網目形成体として働いていると推測されたまた結合距離が Sn-O が約

22Åに対し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強

固にしていると考えられるまたSnO 量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体

的に各多面体同士の頂点共有が増えていることから耐水性の改善には頂点共有を多く

含む構造もしくは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的であること

が示唆された以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性

耐候性を改善した要因として考えられる

またAXS 法の有効性についても確認し効果的であることが判明したただし今回

は主成分が Snの組成のガラスでありHEXRD でも十分に詳細な Snの周辺構造が得られ

たためAXSを利用した場合との大きな構造の差は認められなかった

本研究では様々な優れた特徴を有する SP ガラスにおける耐水性改善のメカニズムにつ

いて検討を行ったこの系のガラスについてはこれまでほとんど利用されていなかった

放射光を用いた構造解析を駆使し第三成分の添加によってどのような構造的変化が生じ

耐水性を改善させるか新たな知見を得ることができた最終目標である機能性ガラスの

開発における新たなる材料設計指針の確立に対してldquo耐水性rdquoに関しては概ね明らかにな

ったと考えられる一方で今回検討していな電子状態化学結合性についても評価する

ことで溶出メカニズムの解明が可能になり材料設計指針の確立が期待される

79

発表論文リスト

口頭発表

第 2章および第 3章

(1) SnO-P2O5 系ガラスへの酸化物添加効果

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎

日本セラミックス協会第 25 回秋季シンポジウム No3C06 (名古屋市 2012年 9月)

(2) Effect of Nb2O5 addition to SnO-P2O5 glass (Poster)

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

International Union of Materials Research Societies International Conference on Electronic

Materials IUMRS-ICEM 2012 A-9-P26-003 (Yokohama 2012 年 9月)

(3) スズリン酸塩系ガラスの蛍光特性耐水性に及ばす酸化物の添加効果(ポスター)

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎

日本セラミックス協会 2013 年年会 1P070 (東京 2013年 3月)

第 4章

(1) 放射光を用いたスズリン酸塩ガラスの構造解析

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎小原真二臼杵毅

日本セラミックス協会第 27 回秋季シンポジウム 2B22 (鹿児島市 2014年 9 月)

(2) Structural analysis of tin phosphate glasses by synchrotron radiation (Poster)

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba Shinji Kohara Takeshi Usuki

International Congress on Glass ICG Annual Meeting Bangkok 2015 P14-138 p186 (2015)

発表論文

(1) Effect of Nb2O5 addition to SnO- P2O5 glass

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

Journal of the Ceramic Society of Japan Vol 120 No 11 pp530-533 (2012)

(2) Structural analysis of SnO- P2O5 glass

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

Journal of the Ceramic Society of Japan(準備中)

80

謝辞

本研究を遂行するにあたり終始暖かいご指導ご助言並びにご鞭撻を賜わりました岡

山大学大学院環境生命科学研究科 難波徳郎教授に心より感謝の意を表します

また本研究を遂行するにあたり懇切丁寧なご指導とご意見をしていただいた岡山大

学大学院環境生命科学研究科 紅野安彦准教授環境環理センター 崎田真一助教に心より

感謝いたします

本研究を遂行するにあたりラマン分光測定の使用についてご助言ご教授して頂い

た岡山大学自然科学研究科 藤井達生教授中西真助教に心より感謝の意を表します

Sn のメスバウアー測定の際に協力して頂いた岡山大学自然科学研究科先端自然科学教

育研究推進本部高田研究室 松本修治特任助教(当時旭硝子株式会社中央研究所)また

Feのメスバウアーを測定の際に協力して頂いた岡山大学自然科学研究科 藤井達生教授に

心より感謝の意を表します

固体 NMR の岡山大学自然科学研究科 早川聡教授に心より感謝の意を表します

本研究を遂行するにあたりSPring-8 にてHEXRD および AXS 法の測定法および原理

についてご教示頂きました物質材料研究機構 小原真司博士ならびに山形大学 臼杵毅

教授に心より感謝の意を表します

本研究は多くの後輩諸君の協力によって遂行されました特に実際に共同研究共同

実験を遂行して頂いたOG 藤原沙弥香さん博士前期課程 2 年 東利彦君OB 徳岡太誠

君学士課程 4年 塩田将大君に心より感謝の意を表しますまた難波研究室で共に研

究生活を過ごした卒業生在学生の方々に感謝の意を表します

また同時期に博士後期課程に在籍された香川高等専門学校の桟敷剛さんにはNbに

関する有益な情報だけでなく辛い状況でも励ましを頂きました心より感謝の意を表し

ます

最後に長きに渡る学生生活を認め経済面だけでなく精神面でも支援してくださった

家族に心より深く感謝の意を表します

平成 28年 3月

福井 聡史

Page 22: 博士論文 スズリン酸塩系ガラスの物性と構造解析ousar.lib.okayama-u.ac.jp/files/public/5/54353/...博士論文 スズリン酸塩系ガラスの物性と構造解析

19

24 結言

本章ではSP ガラスおよび第三成分の Nb2O5 ZnOを添加した SP ガラスの物性評価を行

うことで耐水性改善への第三成分添加の有効性を確認した各々の物性について以下に

まとめる

低ガラス転移温度を有する SP ガラスは最も SnO 量が高い 70S30P でも Tg le 280であ

ったNb2O5を添加した Sn-Nb-P SNP ガラスではTgの上昇は見られたが Tg le 350

ZnOを添加した 5SZP S5ZP ガラスではTg ≦ 450であり両金属酸化物の添加でも低

ガラス転移温度を維持しているガラスが得られたNb2O5 添加が Tg を上昇させたのはポ

ーリングの第 2法則より高価数イオンの方が結合強度が高くなるためと結論付けた

耐水性試験結果の外観写真を観るとSP ガラスの SnO 量 le 60 mol 5SZP ガラスおよび

S5ZP ガラスの P2O5量 = 40 molの組成についてガラスサンプルの形状が大きく変化して

おりDR 重量減も高く耐水性の低さが明らかであった得られた析出物はSnP2O7

Sn2P2O7 Sn3(PO4)2 および亜鉛リン酸結晶の一種であると予想されたその他の組成では

透明性の失われた組成がいくつかあったが外観写真では変化が見られなかった FP ガラス

と 65S5N28P 65Sn-5Nb-30P のガラスが DR重量減がともにゼロという結果が得られた

組成と耐水性に関してはDRおよび重量減がOP増加で単調に低下した結果が得られた

つまり耐水性を改善させる有効な手段はSP 系ガラスのガラス化範囲を拡大かつ OP を

増大させる第三成分の添加によることであることが示唆された

参考文献

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21

Fig 21 三成分系 SnO-NbO25-P2O5 系のガラス化範囲

Fig 22 作製した Sn-Nb-P ガラス

(a)50Sn-5Nb-45P (b)55Sn-5Nb-40P (c)60Sn-5Nb-35P

(d)65Sn-5Nb-30P (e)70Sn-5Nb-25P (f)60Sn-10Nb-30P

(g)55Sn-20Nb-25P (h)60Sn-15Nb-25P (i)65Sn-10Nb-25P

22

Fig 23 三成分系 SnO-ZnO-P2O5系のガラス化範囲

Fig 24 作製した SZP ガラスの一例

(気泡や脈理のようなものが確認できた組成)

23

Fig 25 SP SZP ガラスの作製フローチャート

Fig 26 Sn-Nb-P SNP ガラスの作製フローチャート

(気泡や脈理のようなものが確認できた組成)

24

Fig 27 FP ガラスの作製フローチャート

Fig 28 耐水性試験(MCC-1法)

25

Table 21 各ガラスの組成分析結果

26

Fig 29 Sn-Nb-P ガラスのメスバウアースペクトル

Table 22 Sn-Nb-P ガラスのメスバウアーパラメーター

27

Fig 210 FP ガラスのメスバウアースペクトル

Table 23 FP ガラスのメスバウアーパラメーター

28

Table 24 各ガラスの物性(密度(ρ)ガラス転移温度(Tg)溶出速度(DR)重量減())

29

Fig 211 SP ガラスの耐水性試験前後の外観写真

Fig 212 Sn-Nb-P ガラスの耐水性試験前後の外観写真

30

Fig 213 SNP ガラスの耐水性試験前後の外観写真

Fig 214 S5ZP ガラスの耐水性試験前後の外観写真

Fig 215 5SZP ガラスの耐水性試験前後の外観写真

31

Fig 216 FP ガラスの耐水性試験前後の外観写真

32

Fig 217 SP ガラスの XRD パターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

33

Fig 218 Sn-Nb-P ガラスの XRD パターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

34

Fig 219 SNP ガラスの XRD パターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

35

Fig 220 5SZP ガラスの XRDパターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

36

Fig 221 S5ZP ガラスの XRDパターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

37

Fig 222 FP ガラスの XRD パターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

38

Fig 223 各ガラス系の DR と OP の関係性

39

Fig 224 各ガラス系の重量減と OP の関係性

40

第 3章 分光法を用いたスズリン酸塩系ガラスの構造解析

31 緒言

前章ではSP ガラスおよび第三成分に Nb2O5 ZnOを添加した Sn-Nb-P ガラスSNP ガラ

スSZP ガラスの物性特に耐水性に関する第三成分添加の有効性を明らかにしたその添

加した第三成分の二種類についてもNb2O5 の方が ZnO よりも溶出速度重量減ともに抑

制することができSP ガラスの低ガラス転移温度という特性も維持されていることが判明

したしかし現段階では本研究の主要な物性である耐水性改善の要因が明確になって

いない組成の観点からはOP の値が高い組成が良好な耐水性であることが分かったが

組成だけでは耐水性改善のメカニズムについて完全には理解できないここでリン酸塩

ガラスの溶出のメカニズムは第 1 章で述べたように加水分解反応と水和反応が要因とな

る[1 2]この機構はそれぞれリン酸の構造つまり架橋酸素 BO の数が大きく関わって

おりリン酸アニオンの[PO4]ユニットの架橋酸素数を知ることが重要であるこの BO の

情報を得るためにはガラス構造を示す指標の一つである Qn(n は[PO4]ユニット中の架橋

酸素数を表す)を調べることが必須であるまたQn の分布を調べるためにはガラスの

構造解析を行う必要性がある

ガラスの構造解析には種々の方法があり特にラマン分光法や赤外(IR)分光法核

磁気共鳴法(NMR)などの分光学的手法を用いた構造解析の報告が多い[3-5]ラマン分光

法および IR分光法は原理は異なるがどちらも結合の振動モードを測定する手法であり[6]

リン酸塩ガラスだけでなくケイ酸塩ガラスホウ酸塩ガラスなど様々なガラス系にて測

定がなされている[7 8]また得られた結合状態の情報からリン酸塩アニオンの Qn分布

を調べることも可能であるNMR は共鳴吸収ピークの化学シフト(共鳴周波数のズレ)

から構造を決定する手法であるガラスの場合SiO2や B2O3 P2O5といった網目形成酸化物

の Qn分布を得るために一般的に使用されている手法である[9]

今回これらの測定の中でラマン分光法を選択し構造解析を行ったラマン分光法は

測定する際にサンプル形状を気にすることなく基本的にそのまま測定できるためIR 分

光法のようにサンプル形状で測定方法を変える必要はないまたIR 分光法では例えば

KBr 錠剤法やヌジュール法のように測定を行うためのサンプル調整に手間がかかる場合が

ある[6]さらに比較対象の FP ガラスではNMR を測定できないため作製ガラスを全

て比較検討できるようにラマン分光法を選択した

本章ではラマン分光法を用いて各ガラスの構造解析を行い[PO4]ユニットの Qn分布を

調査し平均 BO数 nを算出することで耐水性と構造の関係性を検討したまたラマン

分光法によって得られた Qn分布の妥当性を確認するためにSP ガラスおよび 67S5N28P ガ

ラスの NMRを測定も行い比較した

32 実験方法

41

321 サンプル準備

ラマン分光およびメスバウアー分光の測定では第 2 章で作製した各ガラスのバルク体

を用いたWD試験に使用したサンプルとは別にラマン測定用のサンプルを用意した適

度な大きさ大体 15 cm角程度のサイズになるようにガラスカッターで切断しその後

十分な平滑性を得るために鏡面研磨を施した

322 ラマン分光測定

使用したラマン分光装置は顕微レーザーラマン分光装置(Jasco NRS-5100)を用いた

用いたレーザー波長は 53208 nmであり400 - 2000 cm-1の範囲で測定した

Qn 分布を導くためにピークフィッティングを行いリン酸塩アニオンのラマンバンド

が現れる950 - 1250 cm-1付近および 700 - 750cm-付近の範囲で定量した

323 31P MAS NMR測定

31P MAS NMRの測定は Varian NMR System 500 を用いて32 mmの MASプローブ

202309MHzにて行った測定パラメーターを以下に示すπ4 パルス長さ 14 μs 待ち時間

(pulse delay)10 s 積算回数 3600 scan シリンダー円筒形状の Zrローターの回転スピード

160 kHz referenceとして二番目の基準物質として使われる NH4H2PO4を使用化学シフト

は85 H3PO4溶液から δ = 10 ppmである

33 結果考察

331 各ガラス系のラマンスペクトル

Figs 31 - 35にラマンスペクトルを示す各ピークは以下の通りに帰属し各スペクト

ル中に該当する構造をピーク位置に示した

1230 - 1260 cm-1 P=O NBO Q

2 [10]

1110 - 1150 cm-1metaphosphate (PO3)

- Q

2 [10]

1030 - 1100 cm-1pyrophosphate (PO35)

2- Q

1 [10]

970 - 1000 cm-1orthophosphate (PO4)

3- Q

0 [10]

920 - 930 cm-1asymmetric (P-O-P) Q

1 [10]

730 - 750 cm-1symmetric (P-O-P) Q

1 [10]

710 - 720 cm-1asymmetric (P-O-P) Q

2 [10]

810 - 820 cm-1Nb-O [NbO4] tetrahedron [11]

900 - 920 cm-1Nb-O isolated [NbO6] octahedron [11]

42

SP ガラスのラマンスペクトル(Fig 31)を見ると50S50P 60S40P ではmetaphosphate

の Q2 構造が支配的であるがSnO 量が増えるにつれてその構造が変化し70S30P では

pyrophosphateの Q1構造と orthophosphateの Q

0構造が共存した構造となっているまたSnO

量の少ない 50S50P および 60S40P において確認されたQ2構造の P=O のピークが見えなく

なっているつまり耐水性と関連して考えるとSnO量が増えるにつれてP-O-P 結合か

ら Sn-O-P 結合に代わり水分子との反応である加水分解反応を妨げる構造に変化している

ことがわかる

Figs 32 33にNb2O5を添加した Sn-Nb-P ガラスおよび SNP ガラスのラマンスペクトル

を示すまずSn-Nb-P ガラスについてNb 無添加の 65Sn-0Nb-35P は主に Q1構造であ

りNbO25が添加されることによってQ0構造に変化しQ

1 Q

0構造が共存しているような

ピークが得られた添加量が少ないガラス系であるため徐々に変化しているのを確認し

た800 cm-1を少し越えた 810 - 820 cm

-1付近にNb2O5を添加することでピークが現れそ

して添加量を増量することで強度が強まるピークがありこのピークは四面体の[NbO4]

のものと判断した

SNP ガラスのラマンスペクトルについてはNb2O5添加量を固定した組成であるためSP

ガラスのような挙動が観察された50S50N45P では50S50P ガラスと同じようにQ2構造

が主な構造でありSnO量の増加に伴って60S5N35P Q1構造67S5N28P Q

0構造に支配

的な構造が変化しているこれはSP ガラスと同じ傾向を示しているためP-O-P rarr Sn-O-P

に置き替わっていることが示唆されるNb-O に関するピークでは50S5N45P のみ[NbO4]

四面体のピークを確認できず900 - 920 cm-1付近に[NbO6]八面体のピークが確認された

SnO量が増量した 60S5N35P では810 cm-1付近の [NbO4] 四面体のピークが現れているが

[NbO6]八面体のピークと 900 - 920 cm-1付近の Q

1構造のピークが非常に近い(ほぼ重なって

いる)ことから60S5N35P については[NbO4] 四面体および[NbO6]八面体の共存の可能性

も考えられるまた67S5NP28 では[NbO4] 四面体のみのピークが観察されたためこ

の Nb-O の配位数変化は[PO4] unitの状態によって変化している可能性も示唆された

ZnO を添加した S5ZP ガラスおよび 5SZP ガラスのラマンスペクトルを Fig 34 に示す

図の下部三つが S5ZP ガラス上部三つが 5SZP ガラスのスペクトルであるSZP ガラスの

二系統を比べるとあきらかなスペクトルの違いが確認された各ガラス系で確認すると

SnO 量が最小の 55S5Z40P はQ2構造と Q

1構造の範囲に跨っているようなスペクトルが得

られた62S5Z33P および 65S5Z30P のスペクトルからはどちらもほぼ Q1構造であると判

断した5SZP のスペクトルは1000 - 1250 cm-1付近の範囲で裾を引くような(なだらかな)

スペクトルが得られたZnO 量が最小の 5S55Z40P にはQ2構造が主な構造に見えるが

shoulderピークのような Q1構造(1030 - 1100 cm

-1)が確認できる5S62Z40P においては

1000 - 1250 cm-1付近の範囲まで幅広いスペクトルが得られた730 - 750 cm

-1付近にピーク

が現れているためおそらく Q1構造が最も多く存在していると考えられる65S5Z30P では

Q1構造Q

0構造が共存しているようなピークが得られた

43

FP ガラスのラマンスペクトルを Fig 35 に示すFe量の少ない 20F80P 25F75P と他の三

つで構造が異なっていることである20F80P 25F75P はQ2構造と Q

1構造が基本構造にな

っていると判断できる 30F70P は1110 - 1150 cm-1付近に shoulderピークのようなものがあ

りQ2 Q

1 Q

0構造が共存しているようなスペクトルであった35F65P 40F60P はQ1構造

が主な構造でQ0構造があると判断した

332 平均 BO数 n (Qn分布)

まずピーク分離について散乱断面積が見積もれなかったためラマンの散乱強度比

を Qn分布として簡易的にピーク分離を行い(Fig 36)そこから平均架橋酸素数 BO 数 n

を算出したここでFig 37 に 31P MAS NMRスペクトルを示しTable 31に NMRおよび

ラマン分光より得られた平均 BO 数 n を示す(NMR の帰属 reference [12])表よりNMR

とラマンから得られた Qn分布はほぼ一致していることが分かった60S40Pについては支

配構造が NMR(Q1) ラマン(Q

2)で逆になったこれは60S40P の組成がQ

2と Q1のほぼ中

間の組成になるためこのようなズレが生じたと考えられるしかし今回のラマンによ

る Qn分布の算出についてはほぼ問題ないと判断した

Table 32にラマンスペクトルより求めた Qn分布平均 BO 数 nをを示しTable 24に示

した DR 重量減の結果を併記する

SP ガラスのうち耐水性が低いガラスは Q2構造によって形成されているSnO量の増加

によって NBOの増加とともに耐水性の向上が確認できSnOが入ることでSn-O-P 結合を

形成し水分子からの攻撃を受けにくくなっていることが考えられる

Sn-Nb-P ガラスでは基本的に Q1構造が主構造でNb2O5の添加が増えるにつれQ

0構

造が支配的になり耐水性は次第に向上していく最も耐水性のよかった 65S-5Nb-30P は

Q0構造での割合が非常に高く平均 BO数 n値が 03であった

SNP ガラスではP2O5量が多い組成の 50S5N45Pにおいても平均 BO数 nが 60S40P と

同じながらも耐水性が良くなっている67S5N28P はほぼ完全に Q0構造であり平均 Q

n

値は 0となった

SZP ガラスについてはS5ZP 5ZSP のどちらの系列についても耐水性の結果に大きな差

というものは確認されなかったが構造的にも平均 BO数 nが 09 10 17という結果であ

った

FP ガラスについてはFe2O3 lt 30 molのときは平均 BO 数 nが20 19と高い数値を

示したが耐水性は非常に良好であったこの結果より組成だけでなく構造的にも耐

水性高くなる要因が不明である一つの原因の可能性としてメスバウアーより得られた

Fe2+の存在比が 40以上と高かったことがFe2O3含有量が少ない組成時には効果的になっ

ているのかもしれない

333 平均 BO数 nと耐水性の関係性

44

Fig 38に DRと平均 BO数 nの関係性についてFig 39に重量減と平均 BO数 nの関係

性をそれぞれ示すまたOP の時と同様に各図にリン酸塩の三つの構造の平均 BO数

n も表記した双方の図よりDR 重量減共に平均 BO 数 nが低下することで単調に下がっ

ていることが分かるまた耐水性の良かったNb2O5添加の Sn-Nb-P SNPガラスはの DR

の挙動(傾き)はOP 時とも異なった挙動が得られた

Fig 310に OP と平均 BO数 nの関係を示す図中に示す茶色metaphosphate 黄色

pyrophosphate 灰色orthophosphate であるこの図から耐水性改善には平均 BO 数

n を下げOP を上げることが重要であるのが分かるまたNb5+の添加はOP を上げる

だけでなく平均 BO 数も減少させることから非常に効果的な成分であることが明らかで

あるこれはP5+から同酸価数 Nb

5+に少量でも置き換えることで平均 BO 数 n を下げ

OP を上げることを可能としている(実際に orthophosphate の OP4 よりも高い OP でガ

ラスが作製できている)つまりNb5+の添加によって P-O-P 結合が減少し水和反応加

水分解反応が抑制されているからである

以上の結果SP 系ガラスの耐水性改善には低い平均 BO 数と高い OP の組成にするこ

とが重要でNb2O5の添加は非常に効果的であることが分かったその一方でガラス中の

詳細な構造的要因についてははっきりしていないため次章の第 4 章にてさらに詳し

い構造解析を行い耐水性改善の要因について調査を行った

34 結言

本章ではラマン分光を使用して各ガラス系のリン酸塩アニオンの構造を簡易定量で

評価し組成と構造の関係について考察した

平均 BO 数 n と耐水性に関してはDR および重量減が平均 BO 数 n の減少で単調に低下

した結果が得られた

平均 BO数 nと OP の図より耐水性改善には平均 BO数 nを下げることそして OP

を上げることが重要であることが明白であった

Nb5+の添加は平均 BO数を減少させるだけでなくOP も上げることからガラス構造内

の P-O-P 結合を減少させる故に水和反応加水分解反応が抑制され耐水性が大幅に

改善された故にNb2O5 のような高価数金属酸化物を添加することが効果的であること

が示唆された

参考文献

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46

Fig 31 SP ガラスのラマンスペクトル

47

Fig 32 Sn-Nb-P ガラスのラマンスペクトル

48

Fig 33 SNP ガラスのラマンスペクトル

49

Fig 34 SZP ガラスのラマンスペクトル

50

Fig 35 FP ガラスのラマンスペクトル

51

Fig 36 ラマンスペクトルのピーク分離例(67S5N28P)

Raman Shift (cm-1)

52

Fig 37 NMRスペクトル

Table 31 NMR およびラマン分光より得られた SP 67S5N28P ガラスの

Qn分布および平均 BO数 n

53

Table 32 各ガラスのラマンスペクトルより求めた Qn分布結果

(表の赤線より右側の結果は Table 22 より)

1 仕込み組成による数値

2 Fig 2212 に示した析出物を取り除いた後の数値

54

Fig 38 DR と平均 BO数 nの関係性

55

Fig 39 重量減と平均 BO数 nの関係性

56

Fig 310 OP と平均 BO数 nの関係性

Meta

Pyro

Ortho

57

第 4章 放射光を用いたスズリン酸塩系ガラスの構造解析

41 緒言

前章の第 3 章にてラマン分光法を用いて SP 系ガラスの構造解析により Qn分布を導き

出したことで耐水性と構造の関係についてある程度関連性を導くことができたリン

酸アニオンについてはQ0(orthophosphate)構造 gt Q

1(pyrophosphate)構造 gt Q2

(metaphosphate)構造の順で良耐水性となるしかしSn Nbおよび Znの局所構造につ

いては知見が得られていないラマン分光や IR分光などの分光学的手法を用いてSnや

Nb Zn の周辺の局所構造を知るには限界があるまたガラスの構造解析を行う上で非常

に重要な因子である中距離構造の評価には分光学的手法は不向きである[1]

そこで局所構造や中距離構造を知るために有効な手法として放射光線を用いた構造

解析がある放射光(SR 光)とはシンクロトロンなどの加速器で高速に加速された電子

が進行方向を磁場によって変えられた際に放射する電磁波である[2]エネルギーが高く

(短波長)輝度が高い特性を有している日本国内では兵庫県佐用町の SPring-8や茨城

県つくば市の高エネルギー加速器研究機構佐賀県鳥栖市の佐賀県立九州シンクロトロン

光研究センターなど複数個所に放射光施設が設置されている

放射光を用いたガラスの構造解析には一般的に高エネルギーX 線回折(High Energy

X-ray diffraction HEXRD)が用いられるこの回折実験から高い散乱ベクトル Q(= 4π sinθλ)

まで回折データが得られる多種類の原子から構成される物質の場合はFaber-Ziman 型[3]

の構造因子 S(Q)を用いる以下の式に示すようにFaber-Ziman 型構造因子 S(Q)は同種また

は異種の原子による相関の重み関数付の和として示される例として SiO2ガラスで説明す

ると構造因子 S(Q)は三種類の原子付の S(Q)の重み付の和として表されていることが分か

I(Q) 散乱断面積 ltgt 原子一個当たりの平均値 f(Q) 原子散乱因子 W 重み関数

通常の研究室で使用される X 線回折(XRD)装置で用いられる特性 X 線はCuKα線(λ

= 0154 nm 81 keV)が最も良く用いられより高いエネルギーの X 線が必要な場合は

MoKα線(λ = 0071 nm 175 keV)が使用される一方でSPring-8のビームライン BL04B2

で行われる高エネルギーX 線回折(HEXRD)測定で使用される SR のエネルギーは378 keV

58

~ が使用可能である[2]従ってガラス以外の液体のような非晶質物質にも非常に精度

よく構造解析が行われている[4]

また局所構造解析の一つに X線異常散乱法という測定方法がある[5 6]これは通常

の X 線回折実験では分離不可能な特定元素に関連する部分構造因子(散乱強度曲線)を得

ることができる手法である今回 HEXRD の測定時に使用したエネルギー614 keV では各元

素の異常散乱項のエネルギー依存性は確認されない(Fig 41)その一方でFig 42に示す

Sn の吸収端付近の 292 keV付近ではSnの異常分散項のエネルギー依存性が確認できる

つまりSnの吸収端近傍より低エネルギー(E)側の異なるエネルギーの X線(E1 E2)を

使って散乱強度を測定し各 E における異常分散項(f`)の変化(つまり高い E1 から低い

E2 の散乱強度の差分)を利用して Snに関する部分構造因子を求める構造解析が AXS 法で

あるこの測定法は古くから知られている方法ではあるが装置の測定条件や設備の問

題からなどから使用があまり普及していなかった[5 6]近年になり金属ガラスの構造解

析について徐々に報告が出てきており今後注目される測定法である

HEXRD および AXS 法などから得られたデータ実測の構造因子 S(Q)は一次元の限られ

た構造情報であるためガラスなどの非晶質物質の中距離構造を解明するためにはこれ

らのデータを基に三次元構造を求める必要がある三次元構造モデルの作成には逆モンテ

カルロ(RMC)シミュレーションを使用することが有効である[7]このシミュレーション

は任意で決めたシミュレーションボックス内の粒子をランダムに動かすことで実測の

構造因子 S(Q)を再現する三次元構造モデルを構築する方法である

SP ガラスについては分光学的手法について数多く報告があるが放射光を用いた回折

法はほとんど適用されていないそこで本研究では HEXRD および AXS 法を用いた構造

解析を行うことでSn Nb周りの構造を解明すると共にSNP ガラスの耐水性改善のメカ

ニズムについて考察したまたAXS 法の有効性についても検討した測定を行ったガラ

スはSP ガラスおよび最も耐水性の高かった 67S5N28P を選択した

42 実験方法

421 HEXRD AXS法

HEXRDはSPring-8のビームライン BL04B2 で測定を行ったエネルギー614 keV の X

線を用いた測定サンプルの厚みは09 mm (plusmn0005 mm)になるまで研磨を行った

AXS 測定はSPring-8のビームライン BL13XUを使用した(Fig 43)それぞれの測定し

た X 線のエネルギーについて以下に示す

①Sn K吸収端hellip292 keV near edgehellip291452 keV (-60 eV) far edgehellip289751 keV (-230 eV)

②Nb K吸収端hellip1899 keV near edgehellip189562 keV (-30 eV) far edgehellip187863 keV (-230 eV)

測定に使用したサンプルの厚さが015 - 030 mmとなるまで研磨を施した

SP ガラスについて50S50P 60S40P 67S33P の三組成のガラスを測定した70S30P に関

59

しては測定を試みたが放射光照射によって結晶化してしまいガラス部分の正確な構

造因子を得るための強度補正ができず解析を断念した

422 RMCのモデリング

Table 41 に RMC の各種パラメーターを示す粒子数は約 5000 個でそれに伴う boxの一

辺の長さは約 42 ~ 46 Ǻになった拘束条件にP の配位数が 4になるような条件を付け

加えたFig 44にSn2P2O7結晶および Sn3P2O8結晶の動径分布関数(RDF)をTable 32

にRDFから得られた第一近接距離[8 9] を示すこれらの数値を使用しcutoffを決定し

たNb-O についてはいくつかの文献値を参考にした[10 11]

各ガラスの RMCのモデリングは①HEXRDから得られた S(Q)のみ②S(Q)および AXS

から得られた部分構造因子を加えた場合でそれぞれ計算した

43 結果考察

最初にNbの AXSから得られたデータについて解析を試みたが妥当な構造モデルが得

られなかったためSnの AXSのみで解析を進めたNb2O5の量が 5 molと少量であったた

めあまり精度の高いデータが得られなかったと推測される

431 実測の HEXRDおよび AXSの結果

4311 実測 HEXRDの S(Q)

Fig 45 に実測HEXRDの S(Q)を示す四つの組成ともに実測HEXRDの S(Q)が得られ

Nb2O5添加の 67S5N28P ガラスでは Low Q 側に変化が確認された

4312 実測散乱強度曲線

Fig 46 に Snの散乱強度曲線を示す(a) の 67S33P のこの曲線からはfar edgeおよび

near edge のエネルギー間で差分が見られエネルギーの依存性が確認された50S50P

67S5N28P のガラスについても同じように差分が確認されたが(b)の 60S40P についてのみ

他とは若干異なる結果(緑丸)であったためRMC の構造解析には差分の構造因子ではな

くfar edge near edge 二つの構造因子を用いた

4313 全相関関数 T(r)

Fig 47 に全相関関数 T(r) を示すHEXRD から得られたものを実線でSnの AXS から

得られたものは点線で示し組成ごとに重ねて表示した図中に各ピークについて帰属し

ているがSnの T(r)からはSn-O Sn-P Sn-Snのみのピークを確認した

432 RMCの計算結果および考察

60

構造モデルの一例として67S5N28P ガラスの得られた構造モデルをFig 48に示す水

色の多面体 unitSnON 黄色の多面体 unitPO4 ピンクの多面体 unitNbONである以下

詳細な構造解析の結果および考察を記す

4321 RMCのフィッティング結果

RMCのフィッティング結果の一例として67S33P の HEXRD と Snの AXS の構造因子か

ら得た結果を示す(Fig 49)二つの構造因子を加えて計算した結果においてもHEXRD

の S(Q) AXS の S(Q)に各々に対する良好なフィッティング結果が得られた他の組成も

同様なフィッティング結果が得られた

4322得られた各 pairの平均配位数平均角度平均結合距離

RMCの結果によって得られた各 pairの平均配位数平均角度平均結合距離を Tables 43

に示す上段が HEXRD の S(Q)のみ下段が HEXRD に Sn の AXS の部分構造因子を加え

て結果である最下部は比較のためにSn2P2O7の情報を記載した[8]

P-O pairについてRMCモデル中の PON多面体に関して平均配位数 Nが 4および P-O

の平均結合距離が約 160Å平均結合角度angO-P-O が約 109degという結果が得られた組成

による大きな違いは確認されなかったのはP の配位数が 4になるように拘束条件をかけた

結果であると考えられるSnON多面体についてはSnO量の増加 = OP の増加であり平

均配位数 Nが 3 ~ 35へ増加した平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約

22Åで組成による大きな変化はほとんど見られなかったNb2O5を 5 mol添加したガラ

スではNbON多面体の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平均配位数 N約 4Nb-O 平均結

合距離約 20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O(約 105deg)と値が近いこと

また6配位ではなく 4配位として主に存在していることからSnO と同じような働きをし

ていると推測される

以上の結果からNb2O5添加の耐水性改善の要因として結合距離が Sn-O が約 22Åに対

し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強固にして

いることも一つの要因として考えられる

また67S5N28P ガラスの各多面体モデルを確認すると(Fig 410)P は PO4Snは SnO4

と SnO3Nbは NbO4をそれぞれ再現している

4323得られた各 pairの結合様式

RMC の結果により得られた各 pair の結合様式を Tables 44 に示す上段が HEXRD の

S(Q)のみ下段が HEXRDに Snの AXS の部分構造因子を加えた結果である最下部は比

較のためにSn2P2O7の情報を記載した[8]

結合様式に関してはPO4四面体は他の多面体も含めてほぼ頂点共有で存在している

SnON多面体についてはSnO 量が少ない配位数が 3 に近い場合頂点共有以外の共有の

61

割合も多くSnO 量が増えるにつれて頂点共有が主になり網目形成体として振舞ってい

ると考えられる組成によって平均結合距離や平均角度の大きな変化が見られなかったこ

とから平均配位数が結合様式を決める重要なファクターであるということも考えられる

またHEXRD と AXS 法の結果がほぼ同じであったこれは主成分が SnO のガラスであ

るためHEXRDでも十分に詳細な構造が得られたため大きな変化が現れなかったと考え

られるNbON 多面体はPO4 四面体と SnON 多面体とはほぼ頂点共有で繋がっている以

上の結果よりSnO量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体的に各多面体同士の

頂点共有が増えていることから耐水性の改善には頂点共有を多く含む構造であること

が重要である或いは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的となって

いるということが推測されるFig 411に 67S5N28P ガラスの構造モデルを示す各多面

体はほぼ頂点共有で繋がっていることが確認できる

4324 平均 BO数の比較

Tables 45にNMR Raman RMC(HEXRD) RMC(HEXRD + AXS)の平均BO数を示すRMC

から得られた平均 BO 数 nはNMR Raman と同様に Nb2O5の添加による大幅な減少が確認

されたしかしNMR Raman と比較すると全組成において数値が大きすぎで適当でない

50S50P の構造モデルを観るとPO4四面体間で3配位 O の存在が確認された(Fig 412)た

め実測で得られた n値を再現できるようなPO4四面体モデル間の繋がり方に関する拘束条

件を加えて RMCを計算する必要性があるまた仮に3配位 Oの存在があるとすると電

子状態の変化が生じていることがと示唆されるため分子軌道計算を用いて電子状態解析

を行い確認する必要がある

4325 耐水性の改善について

Nb2O5を添加のガラス構造への影響について①6配位ではなく 4配位として主に存在し

ていることからSnO と同じような働きをしていると推測される②結合距離が Sn-O が約

22Åに対し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強

固にしている③ガラス構造中で全体的に各多面体同士の頂点共有が増えている以上の

ことが判明した以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性

耐候性を改善した要因として考えられる

44 結言

本章では分光学的手法では評価できないガラスの中距離構造局所構造について理解

するために放射光を用いた構造解析を実施しSP ガラスの構造と耐水性改善について考

察したHEXRDおよび AXS法を用いて測定を行い得られたデータを RMCシミュレーシ

ョンにて解析を行った

解析の結果 Sn-O pair については平均配位数 Nが 3 ~ 35でSnO量の増加 = OP の増

62

加に伴い高くなった平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約 22Åであ

ったP-O Sn-Oについては組成による大きな変化はほとんど見られなかった67S5N28P

ガラスの Nb-O pair の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平均配位数約 4Nb-O 平均結合距

離約 20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O(約 105deg)と値が近いことま

た6配位ではなく 4配位として主に存在していることからSnOと同じような働き(網目

形成体)をしていると推測されるまた結合距離が Sn-O が約 22Åに対し Nb-O は約 20

Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強固にしていると言える

SnO 量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体的に各多面体同士の頂点共有が増え

ていることから耐水性の改善には頂点共有を多く含む構造であることが重要である

もしくは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的であることが推測さ

れる以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性耐候性を

改善した要因として考えられる

またAXS 法の有効性についても確認し効果的であることが判明したただし今回

は主成分が Sn の組成のガラスでありHEXRD でも十分に詳細な構造が得られたため

大きな差は現れなかった

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63

Fig 41 各原子の異常分散項のエネルギー依存性

Fig 42 Sn の異常分散項のエネルギー依存性

64

Fig 43 SPring-8の BL13XU

65

Tab

le 4

1

RM

Cの各パラメーター

66

Fig 44 Sn2P2O7 Sn3P2O8結晶の RDF

Table 42 Sn2P2O7 Sn3P2O8結晶の各 pairの第一近接距離

67

Fig 45 得られた実測 HEXRDの S(Q)

68

Fig 46 Sn の異常散乱測定により得られた散乱強度のエネルギー依存性

(a)67S33P (b)60S40P

69

Fig 47 全相関関数 T(r)

太線 HEXRD より

細線 Sn の AXSより

70

Fig 48 67S5N28P ガラス構造のモデル

71

Fig 49 RMC フィッティングの結果

72

Tab

le 4

3 各

pairの平均配位数角度結合距離

73

Fig

4

10

67

S5

N2

8Pガラスの各多面体モデル

74

Tab

le 4

4 各

pairの結合様式

75

Fig 411 67S5N28P ガラスの構造モデル

76

Table 45 平均 BO 各数 nの比較

Fig 412 50S50P ガラスの構造モデル

77

第 5章 総括

本研究ではSP ガラスを対象とした本研究では鉛フリー代替ガラスまたは希土類フ

リー蛍光体として SP ガラスの新規高機能化を将来的に目指し問題点であるldquo化学的耐久

性rdquoの改善につながる知見を得ることを目的としたそこでまずSP ガラスを母体ガラ

スとし第三成分に Nb2O5を添加した Sn-Nb-P SNP ガラスZnO を添加した SZP ガラスを

作製し耐水性を中心とした物性評価を行った次に分光学的手法で構造解析を行い

Qn 分布を導き出した最後に放射光を用いた構造解析を行い耐水性改善に関する構造的

な考察を行った以下に本研究で行った検討内容を示す

(1)SPガラスおよび第三成分Nb2O5 ZnOを添加した三成分系SPガラスの物性評価(第 2章)

(2)SP 系ガラスの分光学的手法による Qn分布導出(第 3章)

(3)放射光を用いた SP 系ガラスの構造解析構造と耐水性改善の関連について(第 4章)

各章についてまとめた結果を以下に示す

第 2章

第 2章では二成分系および三成分系のリン酸塩系ガラスの各種物性(密度や熱的特性

耐水性)の評価を行った二成分系ではSP ガラスに加え良好な耐水性を有する鉄リン

酸塩(Fe2O3-P2O5)系ガラス(以下 FP ガラス)を比較のために三成分系では二成分系

の SP ガラスに Nb2O5を添加したニオブ含有 SP ガラス(SNP ガラス)および ZnO を添加し

た亜鉛含有 SP ガラス(SZP ガラス)を作製した

今回作製した SP 系ガラスは低ガラス転移温度を有していた各組成の温度域はSP

ガラスTg le 280 Sn-Nb-P SNPガラスTg le 3505SZP S5ZPガラスTg ≦ 450であった

各種 SP ガラスの耐水性試験の結果二成分系の SP ガラスよりも三成分系ガラスの方が

良好な耐水性を有していた65Sn-5Nb-30P 67S5N28P ガラスが最も耐水性が良好であり化

学的耐久性の改善には Nb2O5が ZnOよりも効果的であった

組成と耐水性に関してはDRおよび重量減がOP増加で単調に低下した結果が得られた

つまり耐水性を改善させるにはSP 系ガラスのガラス化範囲を拡大かつ OP を増大させ

る第三成分の添加が有効であることが示唆された

第 3章

第 3章ではSP 系ガラスの分光学的手法による Qn分布の導出を行ったラマン分光法を

用いて各ガラス系のリン酸塩アニオンの構造を簡易定量で評価し組成と構造の関係に

ついて考察した平均 BO 数 n と耐水性に関してはDR および重量減が平均 BO 数 nの減

少で単調に低下することが明らかとなった

平均 BO 数 n と OP の関係より耐水性改善には平均 BO 数 n を下げることそして

OP を上げることが重要であることが明らかになった

78

Nb5+の添加は平均 BO数を減少させるだけでなくOP も上げることからガラス構造

内の P-O-P 結合を減少させ水和反応加水分解反応が抑制され耐水性が大幅に改善さ

れることが示唆された故にNb2O5 のような高価数金属酸化物を添加することが効果的

であることが再度確認された

第 4章

耐水性向上についてより深く評価するためSP SNP ガラスの局所構造に関する知見を得

ることを目的に放射光を用いた構造解析を行った高エネルギーX 線回折(HEXRD)お

よび X 線異常散乱(AXS)法で測定したデータを再現する構造モデルを逆モンテカルロ

(RMC)シミュレーションで構築し構造解析を行った

RMC モデル中の PON多面体に関して平均配位数 Nが 4および P-O の平均結合距離が約

160Å平均結合角度angO-P-Oが約 109degという結果が得られた組成による大きな違いは確

認されなかったSnON多面体については平均配位数 N が 3~4 でSnO 量の増加に伴い 4

に近い値となった平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約 22Åで組成

による大きな変化は見られなかった

Nb2O5を 5 mol添加したガラスではNbON多面体の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平

均配位数N約4Nb-O平均結合距離約20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O

(約 105deg)と値が近いことまた6配位ではなく 4配位として主に存在していることから

SnO と同じような網目形成体として働いていると推測されたまた結合距離が Sn-O が約

22Åに対し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強

固にしていると考えられるまたSnO 量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体

的に各多面体同士の頂点共有が増えていることから耐水性の改善には頂点共有を多く

含む構造もしくは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的であること

が示唆された以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性

耐候性を改善した要因として考えられる

またAXS 法の有効性についても確認し効果的であることが判明したただし今回

は主成分が Snの組成のガラスでありHEXRD でも十分に詳細な Snの周辺構造が得られ

たためAXSを利用した場合との大きな構造の差は認められなかった

本研究では様々な優れた特徴を有する SP ガラスにおける耐水性改善のメカニズムにつ

いて検討を行ったこの系のガラスについてはこれまでほとんど利用されていなかった

放射光を用いた構造解析を駆使し第三成分の添加によってどのような構造的変化が生じ

耐水性を改善させるか新たな知見を得ることができた最終目標である機能性ガラスの

開発における新たなる材料設計指針の確立に対してldquo耐水性rdquoに関しては概ね明らかにな

ったと考えられる一方で今回検討していな電子状態化学結合性についても評価する

ことで溶出メカニズムの解明が可能になり材料設計指針の確立が期待される

79

発表論文リスト

口頭発表

第 2章および第 3章

(1) SnO-P2O5 系ガラスへの酸化物添加効果

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎

日本セラミックス協会第 25 回秋季シンポジウム No3C06 (名古屋市 2012年 9月)

(2) Effect of Nb2O5 addition to SnO-P2O5 glass (Poster)

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

International Union of Materials Research Societies International Conference on Electronic

Materials IUMRS-ICEM 2012 A-9-P26-003 (Yokohama 2012 年 9月)

(3) スズリン酸塩系ガラスの蛍光特性耐水性に及ばす酸化物の添加効果(ポスター)

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎

日本セラミックス協会 2013 年年会 1P070 (東京 2013年 3月)

第 4章

(1) 放射光を用いたスズリン酸塩ガラスの構造解析

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎小原真二臼杵毅

日本セラミックス協会第 27 回秋季シンポジウム 2B22 (鹿児島市 2014年 9 月)

(2) Structural analysis of tin phosphate glasses by synchrotron radiation (Poster)

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba Shinji Kohara Takeshi Usuki

International Congress on Glass ICG Annual Meeting Bangkok 2015 P14-138 p186 (2015)

発表論文

(1) Effect of Nb2O5 addition to SnO- P2O5 glass

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

Journal of the Ceramic Society of Japan Vol 120 No 11 pp530-533 (2012)

(2) Structural analysis of SnO- P2O5 glass

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

Journal of the Ceramic Society of Japan(準備中)

80

謝辞

本研究を遂行するにあたり終始暖かいご指導ご助言並びにご鞭撻を賜わりました岡

山大学大学院環境生命科学研究科 難波徳郎教授に心より感謝の意を表します

また本研究を遂行するにあたり懇切丁寧なご指導とご意見をしていただいた岡山大

学大学院環境生命科学研究科 紅野安彦准教授環境環理センター 崎田真一助教に心より

感謝いたします

本研究を遂行するにあたりラマン分光測定の使用についてご助言ご教授して頂い

た岡山大学自然科学研究科 藤井達生教授中西真助教に心より感謝の意を表します

Sn のメスバウアー測定の際に協力して頂いた岡山大学自然科学研究科先端自然科学教

育研究推進本部高田研究室 松本修治特任助教(当時旭硝子株式会社中央研究所)また

Feのメスバウアーを測定の際に協力して頂いた岡山大学自然科学研究科 藤井達生教授に

心より感謝の意を表します

固体 NMR の岡山大学自然科学研究科 早川聡教授に心より感謝の意を表します

本研究を遂行するにあたりSPring-8 にてHEXRD および AXS 法の測定法および原理

についてご教示頂きました物質材料研究機構 小原真司博士ならびに山形大学 臼杵毅

教授に心より感謝の意を表します

本研究は多くの後輩諸君の協力によって遂行されました特に実際に共同研究共同

実験を遂行して頂いたOG 藤原沙弥香さん博士前期課程 2 年 東利彦君OB 徳岡太誠

君学士課程 4年 塩田将大君に心より感謝の意を表しますまた難波研究室で共に研

究生活を過ごした卒業生在学生の方々に感謝の意を表します

また同時期に博士後期課程に在籍された香川高等専門学校の桟敷剛さんにはNbに

関する有益な情報だけでなく辛い状況でも励ましを頂きました心より感謝の意を表し

ます

最後に長きに渡る学生生活を認め経済面だけでなく精神面でも支援してくださった

家族に心より深く感謝の意を表します

平成 28年 3月

福井 聡史

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20

2466 ndash 2471 (2009)

[13] P Y Shih S W Yung and T S Chin J Non-cryst Solids 224 [2] 143 ndash 152(1998)

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[17] Ohara Inc Optical glass U S Patent US20090197755 A1 20090806

[18] B Zhang Q Chen L Song H Li F Hou and J Zhang J Non-cryst Solids 354 [18]

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(2007)

[27] 天本一平 明珍宗孝 福井寿樹 NEW GLASS 22 [2] 21-26 (2002)

21

Fig 21 三成分系 SnO-NbO25-P2O5 系のガラス化範囲

Fig 22 作製した Sn-Nb-P ガラス

(a)50Sn-5Nb-45P (b)55Sn-5Nb-40P (c)60Sn-5Nb-35P

(d)65Sn-5Nb-30P (e)70Sn-5Nb-25P (f)60Sn-10Nb-30P

(g)55Sn-20Nb-25P (h)60Sn-15Nb-25P (i)65Sn-10Nb-25P

22

Fig 23 三成分系 SnO-ZnO-P2O5系のガラス化範囲

Fig 24 作製した SZP ガラスの一例

(気泡や脈理のようなものが確認できた組成)

23

Fig 25 SP SZP ガラスの作製フローチャート

Fig 26 Sn-Nb-P SNP ガラスの作製フローチャート

(気泡や脈理のようなものが確認できた組成)

24

Fig 27 FP ガラスの作製フローチャート

Fig 28 耐水性試験(MCC-1法)

25

Table 21 各ガラスの組成分析結果

26

Fig 29 Sn-Nb-P ガラスのメスバウアースペクトル

Table 22 Sn-Nb-P ガラスのメスバウアーパラメーター

27

Fig 210 FP ガラスのメスバウアースペクトル

Table 23 FP ガラスのメスバウアーパラメーター

28

Table 24 各ガラスの物性(密度(ρ)ガラス転移温度(Tg)溶出速度(DR)重量減())

29

Fig 211 SP ガラスの耐水性試験前後の外観写真

Fig 212 Sn-Nb-P ガラスの耐水性試験前後の外観写真

30

Fig 213 SNP ガラスの耐水性試験前後の外観写真

Fig 214 S5ZP ガラスの耐水性試験前後の外観写真

Fig 215 5SZP ガラスの耐水性試験前後の外観写真

31

Fig 216 FP ガラスの耐水性試験前後の外観写真

32

Fig 217 SP ガラスの XRD パターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

33

Fig 218 Sn-Nb-P ガラスの XRD パターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

34

Fig 219 SNP ガラスの XRD パターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

35

Fig 220 5SZP ガラスの XRDパターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

36

Fig 221 S5ZP ガラスの XRDパターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

37

Fig 222 FP ガラスの XRD パターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

38

Fig 223 各ガラス系の DR と OP の関係性

39

Fig 224 各ガラス系の重量減と OP の関係性

40

第 3章 分光法を用いたスズリン酸塩系ガラスの構造解析

31 緒言

前章ではSP ガラスおよび第三成分に Nb2O5 ZnOを添加した Sn-Nb-P ガラスSNP ガラ

スSZP ガラスの物性特に耐水性に関する第三成分添加の有効性を明らかにしたその添

加した第三成分の二種類についてもNb2O5 の方が ZnO よりも溶出速度重量減ともに抑

制することができSP ガラスの低ガラス転移温度という特性も維持されていることが判明

したしかし現段階では本研究の主要な物性である耐水性改善の要因が明確になって

いない組成の観点からはOP の値が高い組成が良好な耐水性であることが分かったが

組成だけでは耐水性改善のメカニズムについて完全には理解できないここでリン酸塩

ガラスの溶出のメカニズムは第 1 章で述べたように加水分解反応と水和反応が要因とな

る[1 2]この機構はそれぞれリン酸の構造つまり架橋酸素 BO の数が大きく関わって

おりリン酸アニオンの[PO4]ユニットの架橋酸素数を知ることが重要であるこの BO の

情報を得るためにはガラス構造を示す指標の一つである Qn(n は[PO4]ユニット中の架橋

酸素数を表す)を調べることが必須であるまたQn の分布を調べるためにはガラスの

構造解析を行う必要性がある

ガラスの構造解析には種々の方法があり特にラマン分光法や赤外(IR)分光法核

磁気共鳴法(NMR)などの分光学的手法を用いた構造解析の報告が多い[3-5]ラマン分光

法および IR分光法は原理は異なるがどちらも結合の振動モードを測定する手法であり[6]

リン酸塩ガラスだけでなくケイ酸塩ガラスホウ酸塩ガラスなど様々なガラス系にて測

定がなされている[7 8]また得られた結合状態の情報からリン酸塩アニオンの Qn分布

を調べることも可能であるNMR は共鳴吸収ピークの化学シフト(共鳴周波数のズレ)

から構造を決定する手法であるガラスの場合SiO2や B2O3 P2O5といった網目形成酸化物

の Qn分布を得るために一般的に使用されている手法である[9]

今回これらの測定の中でラマン分光法を選択し構造解析を行ったラマン分光法は

測定する際にサンプル形状を気にすることなく基本的にそのまま測定できるためIR 分

光法のようにサンプル形状で測定方法を変える必要はないまたIR 分光法では例えば

KBr 錠剤法やヌジュール法のように測定を行うためのサンプル調整に手間がかかる場合が

ある[6]さらに比較対象の FP ガラスではNMR を測定できないため作製ガラスを全

て比較検討できるようにラマン分光法を選択した

本章ではラマン分光法を用いて各ガラスの構造解析を行い[PO4]ユニットの Qn分布を

調査し平均 BO数 nを算出することで耐水性と構造の関係性を検討したまたラマン

分光法によって得られた Qn分布の妥当性を確認するためにSP ガラスおよび 67S5N28P ガ

ラスの NMRを測定も行い比較した

32 実験方法

41

321 サンプル準備

ラマン分光およびメスバウアー分光の測定では第 2 章で作製した各ガラスのバルク体

を用いたWD試験に使用したサンプルとは別にラマン測定用のサンプルを用意した適

度な大きさ大体 15 cm角程度のサイズになるようにガラスカッターで切断しその後

十分な平滑性を得るために鏡面研磨を施した

322 ラマン分光測定

使用したラマン分光装置は顕微レーザーラマン分光装置(Jasco NRS-5100)を用いた

用いたレーザー波長は 53208 nmであり400 - 2000 cm-1の範囲で測定した

Qn 分布を導くためにピークフィッティングを行いリン酸塩アニオンのラマンバンド

が現れる950 - 1250 cm-1付近および 700 - 750cm-付近の範囲で定量した

323 31P MAS NMR測定

31P MAS NMRの測定は Varian NMR System 500 を用いて32 mmの MASプローブ

202309MHzにて行った測定パラメーターを以下に示すπ4 パルス長さ 14 μs 待ち時間

(pulse delay)10 s 積算回数 3600 scan シリンダー円筒形状の Zrローターの回転スピード

160 kHz referenceとして二番目の基準物質として使われる NH4H2PO4を使用化学シフト

は85 H3PO4溶液から δ = 10 ppmである

33 結果考察

331 各ガラス系のラマンスペクトル

Figs 31 - 35にラマンスペクトルを示す各ピークは以下の通りに帰属し各スペクト

ル中に該当する構造をピーク位置に示した

1230 - 1260 cm-1 P=O NBO Q

2 [10]

1110 - 1150 cm-1metaphosphate (PO3)

- Q

2 [10]

1030 - 1100 cm-1pyrophosphate (PO35)

2- Q

1 [10]

970 - 1000 cm-1orthophosphate (PO4)

3- Q

0 [10]

920 - 930 cm-1asymmetric (P-O-P) Q

1 [10]

730 - 750 cm-1symmetric (P-O-P) Q

1 [10]

710 - 720 cm-1asymmetric (P-O-P) Q

2 [10]

810 - 820 cm-1Nb-O [NbO4] tetrahedron [11]

900 - 920 cm-1Nb-O isolated [NbO6] octahedron [11]

42

SP ガラスのラマンスペクトル(Fig 31)を見ると50S50P 60S40P ではmetaphosphate

の Q2 構造が支配的であるがSnO 量が増えるにつれてその構造が変化し70S30P では

pyrophosphateの Q1構造と orthophosphateの Q

0構造が共存した構造となっているまたSnO

量の少ない 50S50P および 60S40P において確認されたQ2構造の P=O のピークが見えなく

なっているつまり耐水性と関連して考えるとSnO量が増えるにつれてP-O-P 結合か

ら Sn-O-P 結合に代わり水分子との反応である加水分解反応を妨げる構造に変化している

ことがわかる

Figs 32 33にNb2O5を添加した Sn-Nb-P ガラスおよび SNP ガラスのラマンスペクトル

を示すまずSn-Nb-P ガラスについてNb 無添加の 65Sn-0Nb-35P は主に Q1構造であ

りNbO25が添加されることによってQ0構造に変化しQ

1 Q

0構造が共存しているような

ピークが得られた添加量が少ないガラス系であるため徐々に変化しているのを確認し

た800 cm-1を少し越えた 810 - 820 cm

-1付近にNb2O5を添加することでピークが現れそ

して添加量を増量することで強度が強まるピークがありこのピークは四面体の[NbO4]

のものと判断した

SNP ガラスのラマンスペクトルについてはNb2O5添加量を固定した組成であるためSP

ガラスのような挙動が観察された50S50N45P では50S50P ガラスと同じようにQ2構造

が主な構造でありSnO量の増加に伴って60S5N35P Q1構造67S5N28P Q

0構造に支配

的な構造が変化しているこれはSP ガラスと同じ傾向を示しているためP-O-P rarr Sn-O-P

に置き替わっていることが示唆されるNb-O に関するピークでは50S5N45P のみ[NbO4]

四面体のピークを確認できず900 - 920 cm-1付近に[NbO6]八面体のピークが確認された

SnO量が増量した 60S5N35P では810 cm-1付近の [NbO4] 四面体のピークが現れているが

[NbO6]八面体のピークと 900 - 920 cm-1付近の Q

1構造のピークが非常に近い(ほぼ重なって

いる)ことから60S5N35P については[NbO4] 四面体および[NbO6]八面体の共存の可能性

も考えられるまた67S5NP28 では[NbO4] 四面体のみのピークが観察されたためこ

の Nb-O の配位数変化は[PO4] unitの状態によって変化している可能性も示唆された

ZnO を添加した S5ZP ガラスおよび 5SZP ガラスのラマンスペクトルを Fig 34 に示す

図の下部三つが S5ZP ガラス上部三つが 5SZP ガラスのスペクトルであるSZP ガラスの

二系統を比べるとあきらかなスペクトルの違いが確認された各ガラス系で確認すると

SnO 量が最小の 55S5Z40P はQ2構造と Q

1構造の範囲に跨っているようなスペクトルが得

られた62S5Z33P および 65S5Z30P のスペクトルからはどちらもほぼ Q1構造であると判

断した5SZP のスペクトルは1000 - 1250 cm-1付近の範囲で裾を引くような(なだらかな)

スペクトルが得られたZnO 量が最小の 5S55Z40P にはQ2構造が主な構造に見えるが

shoulderピークのような Q1構造(1030 - 1100 cm

-1)が確認できる5S62Z40P においては

1000 - 1250 cm-1付近の範囲まで幅広いスペクトルが得られた730 - 750 cm

-1付近にピーク

が現れているためおそらく Q1構造が最も多く存在していると考えられる65S5Z30P では

Q1構造Q

0構造が共存しているようなピークが得られた

43

FP ガラスのラマンスペクトルを Fig 35 に示すFe量の少ない 20F80P 25F75P と他の三

つで構造が異なっていることである20F80P 25F75P はQ2構造と Q

1構造が基本構造にな

っていると判断できる 30F70P は1110 - 1150 cm-1付近に shoulderピークのようなものがあ

りQ2 Q

1 Q

0構造が共存しているようなスペクトルであった35F65P 40F60P はQ1構造

が主な構造でQ0構造があると判断した

332 平均 BO数 n (Qn分布)

まずピーク分離について散乱断面積が見積もれなかったためラマンの散乱強度比

を Qn分布として簡易的にピーク分離を行い(Fig 36)そこから平均架橋酸素数 BO 数 n

を算出したここでFig 37 に 31P MAS NMRスペクトルを示しTable 31に NMRおよび

ラマン分光より得られた平均 BO 数 n を示す(NMR の帰属 reference [12])表よりNMR

とラマンから得られた Qn分布はほぼ一致していることが分かった60S40Pについては支

配構造が NMR(Q1) ラマン(Q

2)で逆になったこれは60S40P の組成がQ

2と Q1のほぼ中

間の組成になるためこのようなズレが生じたと考えられるしかし今回のラマンによ

る Qn分布の算出についてはほぼ問題ないと判断した

Table 32にラマンスペクトルより求めた Qn分布平均 BO 数 nをを示しTable 24に示

した DR 重量減の結果を併記する

SP ガラスのうち耐水性が低いガラスは Q2構造によって形成されているSnO量の増加

によって NBOの増加とともに耐水性の向上が確認できSnOが入ることでSn-O-P 結合を

形成し水分子からの攻撃を受けにくくなっていることが考えられる

Sn-Nb-P ガラスでは基本的に Q1構造が主構造でNb2O5の添加が増えるにつれQ

0構

造が支配的になり耐水性は次第に向上していく最も耐水性のよかった 65S-5Nb-30P は

Q0構造での割合が非常に高く平均 BO数 n値が 03であった

SNP ガラスではP2O5量が多い組成の 50S5N45Pにおいても平均 BO数 nが 60S40P と

同じながらも耐水性が良くなっている67S5N28P はほぼ完全に Q0構造であり平均 Q

n

値は 0となった

SZP ガラスについてはS5ZP 5ZSP のどちらの系列についても耐水性の結果に大きな差

というものは確認されなかったが構造的にも平均 BO数 nが 09 10 17という結果であ

った

FP ガラスについてはFe2O3 lt 30 molのときは平均 BO 数 nが20 19と高い数値を

示したが耐水性は非常に良好であったこの結果より組成だけでなく構造的にも耐

水性高くなる要因が不明である一つの原因の可能性としてメスバウアーより得られた

Fe2+の存在比が 40以上と高かったことがFe2O3含有量が少ない組成時には効果的になっ

ているのかもしれない

333 平均 BO数 nと耐水性の関係性

44

Fig 38に DRと平均 BO数 nの関係性についてFig 39に重量減と平均 BO数 nの関係

性をそれぞれ示すまたOP の時と同様に各図にリン酸塩の三つの構造の平均 BO数

n も表記した双方の図よりDR 重量減共に平均 BO 数 nが低下することで単調に下がっ

ていることが分かるまた耐水性の良かったNb2O5添加の Sn-Nb-P SNPガラスはの DR

の挙動(傾き)はOP 時とも異なった挙動が得られた

Fig 310に OP と平均 BO数 nの関係を示す図中に示す茶色metaphosphate 黄色

pyrophosphate 灰色orthophosphate であるこの図から耐水性改善には平均 BO 数

n を下げOP を上げることが重要であるのが分かるまたNb5+の添加はOP を上げる

だけでなく平均 BO 数も減少させることから非常に効果的な成分であることが明らかで

あるこれはP5+から同酸価数 Nb

5+に少量でも置き換えることで平均 BO 数 n を下げ

OP を上げることを可能としている(実際に orthophosphate の OP4 よりも高い OP でガ

ラスが作製できている)つまりNb5+の添加によって P-O-P 結合が減少し水和反応加

水分解反応が抑制されているからである

以上の結果SP 系ガラスの耐水性改善には低い平均 BO 数と高い OP の組成にするこ

とが重要でNb2O5の添加は非常に効果的であることが分かったその一方でガラス中の

詳細な構造的要因についてははっきりしていないため次章の第 4 章にてさらに詳し

い構造解析を行い耐水性改善の要因について調査を行った

34 結言

本章ではラマン分光を使用して各ガラス系のリン酸塩アニオンの構造を簡易定量で

評価し組成と構造の関係について考察した

平均 BO 数 n と耐水性に関してはDR および重量減が平均 BO 数 n の減少で単調に低下

した結果が得られた

平均 BO数 nと OP の図より耐水性改善には平均 BO数 nを下げることそして OP

を上げることが重要であることが明白であった

Nb5+の添加は平均 BO数を減少させるだけでなくOP も上げることからガラス構造内

の P-O-P 結合を減少させる故に水和反応加水分解反応が抑制され耐水性が大幅に

改善された故にNb2O5 のような高価数金属酸化物を添加することが効果的であること

が示唆された

参考文献

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46

Fig 31 SP ガラスのラマンスペクトル

47

Fig 32 Sn-Nb-P ガラスのラマンスペクトル

48

Fig 33 SNP ガラスのラマンスペクトル

49

Fig 34 SZP ガラスのラマンスペクトル

50

Fig 35 FP ガラスのラマンスペクトル

51

Fig 36 ラマンスペクトルのピーク分離例(67S5N28P)

Raman Shift (cm-1)

52

Fig 37 NMRスペクトル

Table 31 NMR およびラマン分光より得られた SP 67S5N28P ガラスの

Qn分布および平均 BO数 n

53

Table 32 各ガラスのラマンスペクトルより求めた Qn分布結果

(表の赤線より右側の結果は Table 22 より)

1 仕込み組成による数値

2 Fig 2212 に示した析出物を取り除いた後の数値

54

Fig 38 DR と平均 BO数 nの関係性

55

Fig 39 重量減と平均 BO数 nの関係性

56

Fig 310 OP と平均 BO数 nの関係性

Meta

Pyro

Ortho

57

第 4章 放射光を用いたスズリン酸塩系ガラスの構造解析

41 緒言

前章の第 3 章にてラマン分光法を用いて SP 系ガラスの構造解析により Qn分布を導き

出したことで耐水性と構造の関係についてある程度関連性を導くことができたリン

酸アニオンについてはQ0(orthophosphate)構造 gt Q

1(pyrophosphate)構造 gt Q2

(metaphosphate)構造の順で良耐水性となるしかしSn Nbおよび Znの局所構造につ

いては知見が得られていないラマン分光や IR分光などの分光学的手法を用いてSnや

Nb Zn の周辺の局所構造を知るには限界があるまたガラスの構造解析を行う上で非常

に重要な因子である中距離構造の評価には分光学的手法は不向きである[1]

そこで局所構造や中距離構造を知るために有効な手法として放射光線を用いた構造

解析がある放射光(SR 光)とはシンクロトロンなどの加速器で高速に加速された電子

が進行方向を磁場によって変えられた際に放射する電磁波である[2]エネルギーが高く

(短波長)輝度が高い特性を有している日本国内では兵庫県佐用町の SPring-8や茨城

県つくば市の高エネルギー加速器研究機構佐賀県鳥栖市の佐賀県立九州シンクロトロン

光研究センターなど複数個所に放射光施設が設置されている

放射光を用いたガラスの構造解析には一般的に高エネルギーX 線回折(High Energy

X-ray diffraction HEXRD)が用いられるこの回折実験から高い散乱ベクトル Q(= 4π sinθλ)

まで回折データが得られる多種類の原子から構成される物質の場合はFaber-Ziman 型[3]

の構造因子 S(Q)を用いる以下の式に示すようにFaber-Ziman 型構造因子 S(Q)は同種また

は異種の原子による相関の重み関数付の和として示される例として SiO2ガラスで説明す

ると構造因子 S(Q)は三種類の原子付の S(Q)の重み付の和として表されていることが分か

I(Q) 散乱断面積 ltgt 原子一個当たりの平均値 f(Q) 原子散乱因子 W 重み関数

通常の研究室で使用される X 線回折(XRD)装置で用いられる特性 X 線はCuKα線(λ

= 0154 nm 81 keV)が最も良く用いられより高いエネルギーの X 線が必要な場合は

MoKα線(λ = 0071 nm 175 keV)が使用される一方でSPring-8のビームライン BL04B2

で行われる高エネルギーX 線回折(HEXRD)測定で使用される SR のエネルギーは378 keV

58

~ が使用可能である[2]従ってガラス以外の液体のような非晶質物質にも非常に精度

よく構造解析が行われている[4]

また局所構造解析の一つに X線異常散乱法という測定方法がある[5 6]これは通常

の X 線回折実験では分離不可能な特定元素に関連する部分構造因子(散乱強度曲線)を得

ることができる手法である今回 HEXRD の測定時に使用したエネルギー614 keV では各元

素の異常散乱項のエネルギー依存性は確認されない(Fig 41)その一方でFig 42に示す

Sn の吸収端付近の 292 keV付近ではSnの異常分散項のエネルギー依存性が確認できる

つまりSnの吸収端近傍より低エネルギー(E)側の異なるエネルギーの X線(E1 E2)を

使って散乱強度を測定し各 E における異常分散項(f`)の変化(つまり高い E1 から低い

E2 の散乱強度の差分)を利用して Snに関する部分構造因子を求める構造解析が AXS 法で

あるこの測定法は古くから知られている方法ではあるが装置の測定条件や設備の問

題からなどから使用があまり普及していなかった[5 6]近年になり金属ガラスの構造解

析について徐々に報告が出てきており今後注目される測定法である

HEXRD および AXS 法などから得られたデータ実測の構造因子 S(Q)は一次元の限られ

た構造情報であるためガラスなどの非晶質物質の中距離構造を解明するためにはこれ

らのデータを基に三次元構造を求める必要がある三次元構造モデルの作成には逆モンテ

カルロ(RMC)シミュレーションを使用することが有効である[7]このシミュレーション

は任意で決めたシミュレーションボックス内の粒子をランダムに動かすことで実測の

構造因子 S(Q)を再現する三次元構造モデルを構築する方法である

SP ガラスについては分光学的手法について数多く報告があるが放射光を用いた回折

法はほとんど適用されていないそこで本研究では HEXRD および AXS 法を用いた構造

解析を行うことでSn Nb周りの構造を解明すると共にSNP ガラスの耐水性改善のメカ

ニズムについて考察したまたAXS 法の有効性についても検討した測定を行ったガラ

スはSP ガラスおよび最も耐水性の高かった 67S5N28P を選択した

42 実験方法

421 HEXRD AXS法

HEXRDはSPring-8のビームライン BL04B2 で測定を行ったエネルギー614 keV の X

線を用いた測定サンプルの厚みは09 mm (plusmn0005 mm)になるまで研磨を行った

AXS 測定はSPring-8のビームライン BL13XUを使用した(Fig 43)それぞれの測定し

た X 線のエネルギーについて以下に示す

①Sn K吸収端hellip292 keV near edgehellip291452 keV (-60 eV) far edgehellip289751 keV (-230 eV)

②Nb K吸収端hellip1899 keV near edgehellip189562 keV (-30 eV) far edgehellip187863 keV (-230 eV)

測定に使用したサンプルの厚さが015 - 030 mmとなるまで研磨を施した

SP ガラスについて50S50P 60S40P 67S33P の三組成のガラスを測定した70S30P に関

59

しては測定を試みたが放射光照射によって結晶化してしまいガラス部分の正確な構

造因子を得るための強度補正ができず解析を断念した

422 RMCのモデリング

Table 41 に RMC の各種パラメーターを示す粒子数は約 5000 個でそれに伴う boxの一

辺の長さは約 42 ~ 46 Ǻになった拘束条件にP の配位数が 4になるような条件を付け

加えたFig 44にSn2P2O7結晶および Sn3P2O8結晶の動径分布関数(RDF)をTable 32

にRDFから得られた第一近接距離[8 9] を示すこれらの数値を使用しcutoffを決定し

たNb-O についてはいくつかの文献値を参考にした[10 11]

各ガラスの RMCのモデリングは①HEXRDから得られた S(Q)のみ②S(Q)および AXS

から得られた部分構造因子を加えた場合でそれぞれ計算した

43 結果考察

最初にNbの AXSから得られたデータについて解析を試みたが妥当な構造モデルが得

られなかったためSnの AXSのみで解析を進めたNb2O5の量が 5 molと少量であったた

めあまり精度の高いデータが得られなかったと推測される

431 実測の HEXRDおよび AXSの結果

4311 実測 HEXRDの S(Q)

Fig 45 に実測HEXRDの S(Q)を示す四つの組成ともに実測HEXRDの S(Q)が得られ

Nb2O5添加の 67S5N28P ガラスでは Low Q 側に変化が確認された

4312 実測散乱強度曲線

Fig 46 に Snの散乱強度曲線を示す(a) の 67S33P のこの曲線からはfar edgeおよび

near edge のエネルギー間で差分が見られエネルギーの依存性が確認された50S50P

67S5N28P のガラスについても同じように差分が確認されたが(b)の 60S40P についてのみ

他とは若干異なる結果(緑丸)であったためRMC の構造解析には差分の構造因子ではな

くfar edge near edge 二つの構造因子を用いた

4313 全相関関数 T(r)

Fig 47 に全相関関数 T(r) を示すHEXRD から得られたものを実線でSnの AXS から

得られたものは点線で示し組成ごとに重ねて表示した図中に各ピークについて帰属し

ているがSnの T(r)からはSn-O Sn-P Sn-Snのみのピークを確認した

432 RMCの計算結果および考察

60

構造モデルの一例として67S5N28P ガラスの得られた構造モデルをFig 48に示す水

色の多面体 unitSnON 黄色の多面体 unitPO4 ピンクの多面体 unitNbONである以下

詳細な構造解析の結果および考察を記す

4321 RMCのフィッティング結果

RMCのフィッティング結果の一例として67S33P の HEXRD と Snの AXS の構造因子か

ら得た結果を示す(Fig 49)二つの構造因子を加えて計算した結果においてもHEXRD

の S(Q) AXS の S(Q)に各々に対する良好なフィッティング結果が得られた他の組成も

同様なフィッティング結果が得られた

4322得られた各 pairの平均配位数平均角度平均結合距離

RMCの結果によって得られた各 pairの平均配位数平均角度平均結合距離を Tables 43

に示す上段が HEXRD の S(Q)のみ下段が HEXRD に Sn の AXS の部分構造因子を加え

て結果である最下部は比較のためにSn2P2O7の情報を記載した[8]

P-O pairについてRMCモデル中の PON多面体に関して平均配位数 Nが 4および P-O

の平均結合距離が約 160Å平均結合角度angO-P-O が約 109degという結果が得られた組成

による大きな違いは確認されなかったのはP の配位数が 4になるように拘束条件をかけた

結果であると考えられるSnON多面体についてはSnO量の増加 = OP の増加であり平

均配位数 Nが 3 ~ 35へ増加した平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約

22Åで組成による大きな変化はほとんど見られなかったNb2O5を 5 mol添加したガラ

スではNbON多面体の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平均配位数 N約 4Nb-O 平均結

合距離約 20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O(約 105deg)と値が近いこと

また6配位ではなく 4配位として主に存在していることからSnO と同じような働きをし

ていると推測される

以上の結果からNb2O5添加の耐水性改善の要因として結合距離が Sn-O が約 22Åに対

し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強固にして

いることも一つの要因として考えられる

また67S5N28P ガラスの各多面体モデルを確認すると(Fig 410)P は PO4Snは SnO4

と SnO3Nbは NbO4をそれぞれ再現している

4323得られた各 pairの結合様式

RMC の結果により得られた各 pair の結合様式を Tables 44 に示す上段が HEXRD の

S(Q)のみ下段が HEXRDに Snの AXS の部分構造因子を加えた結果である最下部は比

較のためにSn2P2O7の情報を記載した[8]

結合様式に関してはPO4四面体は他の多面体も含めてほぼ頂点共有で存在している

SnON多面体についてはSnO 量が少ない配位数が 3 に近い場合頂点共有以外の共有の

61

割合も多くSnO 量が増えるにつれて頂点共有が主になり網目形成体として振舞ってい

ると考えられる組成によって平均結合距離や平均角度の大きな変化が見られなかったこ

とから平均配位数が結合様式を決める重要なファクターであるということも考えられる

またHEXRD と AXS 法の結果がほぼ同じであったこれは主成分が SnO のガラスであ

るためHEXRDでも十分に詳細な構造が得られたため大きな変化が現れなかったと考え

られるNbON 多面体はPO4 四面体と SnON 多面体とはほぼ頂点共有で繋がっている以

上の結果よりSnO量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体的に各多面体同士の

頂点共有が増えていることから耐水性の改善には頂点共有を多く含む構造であること

が重要である或いは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的となって

いるということが推測されるFig 411に 67S5N28P ガラスの構造モデルを示す各多面

体はほぼ頂点共有で繋がっていることが確認できる

4324 平均 BO数の比較

Tables 45にNMR Raman RMC(HEXRD) RMC(HEXRD + AXS)の平均BO数を示すRMC

から得られた平均 BO 数 nはNMR Raman と同様に Nb2O5の添加による大幅な減少が確認

されたしかしNMR Raman と比較すると全組成において数値が大きすぎで適当でない

50S50P の構造モデルを観るとPO4四面体間で3配位 O の存在が確認された(Fig 412)た

め実測で得られた n値を再現できるようなPO4四面体モデル間の繋がり方に関する拘束条

件を加えて RMCを計算する必要性があるまた仮に3配位 Oの存在があるとすると電

子状態の変化が生じていることがと示唆されるため分子軌道計算を用いて電子状態解析

を行い確認する必要がある

4325 耐水性の改善について

Nb2O5を添加のガラス構造への影響について①6配位ではなく 4配位として主に存在し

ていることからSnO と同じような働きをしていると推測される②結合距離が Sn-O が約

22Åに対し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強

固にしている③ガラス構造中で全体的に各多面体同士の頂点共有が増えている以上の

ことが判明した以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性

耐候性を改善した要因として考えられる

44 結言

本章では分光学的手法では評価できないガラスの中距離構造局所構造について理解

するために放射光を用いた構造解析を実施しSP ガラスの構造と耐水性改善について考

察したHEXRDおよび AXS法を用いて測定を行い得られたデータを RMCシミュレーシ

ョンにて解析を行った

解析の結果 Sn-O pair については平均配位数 Nが 3 ~ 35でSnO量の増加 = OP の増

62

加に伴い高くなった平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約 22Åであ

ったP-O Sn-Oについては組成による大きな変化はほとんど見られなかった67S5N28P

ガラスの Nb-O pair の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平均配位数約 4Nb-O 平均結合距

離約 20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O(約 105deg)と値が近いことま

た6配位ではなく 4配位として主に存在していることからSnOと同じような働き(網目

形成体)をしていると推測されるまた結合距離が Sn-O が約 22Åに対し Nb-O は約 20

Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強固にしていると言える

SnO 量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体的に各多面体同士の頂点共有が増え

ていることから耐水性の改善には頂点共有を多く含む構造であることが重要である

もしくは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的であることが推測さ

れる以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性耐候性を

改善した要因として考えられる

またAXS 法の有効性についても確認し効果的であることが判明したただし今回

は主成分が Sn の組成のガラスでありHEXRD でも十分に詳細な構造が得られたため

大きな差は現れなかった

参考文献

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63

Fig 41 各原子の異常分散項のエネルギー依存性

Fig 42 Sn の異常分散項のエネルギー依存性

64

Fig 43 SPring-8の BL13XU

65

Tab

le 4

1

RM

Cの各パラメーター

66

Fig 44 Sn2P2O7 Sn3P2O8結晶の RDF

Table 42 Sn2P2O7 Sn3P2O8結晶の各 pairの第一近接距離

67

Fig 45 得られた実測 HEXRDの S(Q)

68

Fig 46 Sn の異常散乱測定により得られた散乱強度のエネルギー依存性

(a)67S33P (b)60S40P

69

Fig 47 全相関関数 T(r)

太線 HEXRD より

細線 Sn の AXSより

70

Fig 48 67S5N28P ガラス構造のモデル

71

Fig 49 RMC フィッティングの結果

72

Tab

le 4

3 各

pairの平均配位数角度結合距離

73

Fig

4

10

67

S5

N2

8Pガラスの各多面体モデル

74

Tab

le 4

4 各

pairの結合様式

75

Fig 411 67S5N28P ガラスの構造モデル

76

Table 45 平均 BO 各数 nの比較

Fig 412 50S50P ガラスの構造モデル

77

第 5章 総括

本研究ではSP ガラスを対象とした本研究では鉛フリー代替ガラスまたは希土類フ

リー蛍光体として SP ガラスの新規高機能化を将来的に目指し問題点であるldquo化学的耐久

性rdquoの改善につながる知見を得ることを目的としたそこでまずSP ガラスを母体ガラ

スとし第三成分に Nb2O5を添加した Sn-Nb-P SNP ガラスZnO を添加した SZP ガラスを

作製し耐水性を中心とした物性評価を行った次に分光学的手法で構造解析を行い

Qn 分布を導き出した最後に放射光を用いた構造解析を行い耐水性改善に関する構造的

な考察を行った以下に本研究で行った検討内容を示す

(1)SPガラスおよび第三成分Nb2O5 ZnOを添加した三成分系SPガラスの物性評価(第 2章)

(2)SP 系ガラスの分光学的手法による Qn分布導出(第 3章)

(3)放射光を用いた SP 系ガラスの構造解析構造と耐水性改善の関連について(第 4章)

各章についてまとめた結果を以下に示す

第 2章

第 2章では二成分系および三成分系のリン酸塩系ガラスの各種物性(密度や熱的特性

耐水性)の評価を行った二成分系ではSP ガラスに加え良好な耐水性を有する鉄リン

酸塩(Fe2O3-P2O5)系ガラス(以下 FP ガラス)を比較のために三成分系では二成分系

の SP ガラスに Nb2O5を添加したニオブ含有 SP ガラス(SNP ガラス)および ZnO を添加し

た亜鉛含有 SP ガラス(SZP ガラス)を作製した

今回作製した SP 系ガラスは低ガラス転移温度を有していた各組成の温度域はSP

ガラスTg le 280 Sn-Nb-P SNPガラスTg le 3505SZP S5ZPガラスTg ≦ 450であった

各種 SP ガラスの耐水性試験の結果二成分系の SP ガラスよりも三成分系ガラスの方が

良好な耐水性を有していた65Sn-5Nb-30P 67S5N28P ガラスが最も耐水性が良好であり化

学的耐久性の改善には Nb2O5が ZnOよりも効果的であった

組成と耐水性に関してはDRおよび重量減がOP増加で単調に低下した結果が得られた

つまり耐水性を改善させるにはSP 系ガラスのガラス化範囲を拡大かつ OP を増大させ

る第三成分の添加が有効であることが示唆された

第 3章

第 3章ではSP 系ガラスの分光学的手法による Qn分布の導出を行ったラマン分光法を

用いて各ガラス系のリン酸塩アニオンの構造を簡易定量で評価し組成と構造の関係に

ついて考察した平均 BO 数 n と耐水性に関してはDR および重量減が平均 BO 数 nの減

少で単調に低下することが明らかとなった

平均 BO 数 n と OP の関係より耐水性改善には平均 BO 数 n を下げることそして

OP を上げることが重要であることが明らかになった

78

Nb5+の添加は平均 BO数を減少させるだけでなくOP も上げることからガラス構造

内の P-O-P 結合を減少させ水和反応加水分解反応が抑制され耐水性が大幅に改善さ

れることが示唆された故にNb2O5 のような高価数金属酸化物を添加することが効果的

であることが再度確認された

第 4章

耐水性向上についてより深く評価するためSP SNP ガラスの局所構造に関する知見を得

ることを目的に放射光を用いた構造解析を行った高エネルギーX 線回折(HEXRD)お

よび X 線異常散乱(AXS)法で測定したデータを再現する構造モデルを逆モンテカルロ

(RMC)シミュレーションで構築し構造解析を行った

RMC モデル中の PON多面体に関して平均配位数 Nが 4および P-O の平均結合距離が約

160Å平均結合角度angO-P-Oが約 109degという結果が得られた組成による大きな違いは確

認されなかったSnON多面体については平均配位数 N が 3~4 でSnO 量の増加に伴い 4

に近い値となった平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約 22Åで組成

による大きな変化は見られなかった

Nb2O5を 5 mol添加したガラスではNbON多面体の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平

均配位数N約4Nb-O平均結合距離約20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O

(約 105deg)と値が近いことまた6配位ではなく 4配位として主に存在していることから

SnO と同じような網目形成体として働いていると推測されたまた結合距離が Sn-O が約

22Åに対し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強

固にしていると考えられるまたSnO 量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体

的に各多面体同士の頂点共有が増えていることから耐水性の改善には頂点共有を多く

含む構造もしくは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的であること

が示唆された以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性

耐候性を改善した要因として考えられる

またAXS 法の有効性についても確認し効果的であることが判明したただし今回

は主成分が Snの組成のガラスでありHEXRD でも十分に詳細な Snの周辺構造が得られ

たためAXSを利用した場合との大きな構造の差は認められなかった

本研究では様々な優れた特徴を有する SP ガラスにおける耐水性改善のメカニズムにつ

いて検討を行ったこの系のガラスについてはこれまでほとんど利用されていなかった

放射光を用いた構造解析を駆使し第三成分の添加によってどのような構造的変化が生じ

耐水性を改善させるか新たな知見を得ることができた最終目標である機能性ガラスの

開発における新たなる材料設計指針の確立に対してldquo耐水性rdquoに関しては概ね明らかにな

ったと考えられる一方で今回検討していな電子状態化学結合性についても評価する

ことで溶出メカニズムの解明が可能になり材料設計指針の確立が期待される

79

発表論文リスト

口頭発表

第 2章および第 3章

(1) SnO-P2O5 系ガラスへの酸化物添加効果

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎

日本セラミックス協会第 25 回秋季シンポジウム No3C06 (名古屋市 2012年 9月)

(2) Effect of Nb2O5 addition to SnO-P2O5 glass (Poster)

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

International Union of Materials Research Societies International Conference on Electronic

Materials IUMRS-ICEM 2012 A-9-P26-003 (Yokohama 2012 年 9月)

(3) スズリン酸塩系ガラスの蛍光特性耐水性に及ばす酸化物の添加効果(ポスター)

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎

日本セラミックス協会 2013 年年会 1P070 (東京 2013年 3月)

第 4章

(1) 放射光を用いたスズリン酸塩ガラスの構造解析

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎小原真二臼杵毅

日本セラミックス協会第 27 回秋季シンポジウム 2B22 (鹿児島市 2014年 9 月)

(2) Structural analysis of tin phosphate glasses by synchrotron radiation (Poster)

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba Shinji Kohara Takeshi Usuki

International Congress on Glass ICG Annual Meeting Bangkok 2015 P14-138 p186 (2015)

発表論文

(1) Effect of Nb2O5 addition to SnO- P2O5 glass

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

Journal of the Ceramic Society of Japan Vol 120 No 11 pp530-533 (2012)

(2) Structural analysis of SnO- P2O5 glass

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

Journal of the Ceramic Society of Japan(準備中)

80

謝辞

本研究を遂行するにあたり終始暖かいご指導ご助言並びにご鞭撻を賜わりました岡

山大学大学院環境生命科学研究科 難波徳郎教授に心より感謝の意を表します

また本研究を遂行するにあたり懇切丁寧なご指導とご意見をしていただいた岡山大

学大学院環境生命科学研究科 紅野安彦准教授環境環理センター 崎田真一助教に心より

感謝いたします

本研究を遂行するにあたりラマン分光測定の使用についてご助言ご教授して頂い

た岡山大学自然科学研究科 藤井達生教授中西真助教に心より感謝の意を表します

Sn のメスバウアー測定の際に協力して頂いた岡山大学自然科学研究科先端自然科学教

育研究推進本部高田研究室 松本修治特任助教(当時旭硝子株式会社中央研究所)また

Feのメスバウアーを測定の際に協力して頂いた岡山大学自然科学研究科 藤井達生教授に

心より感謝の意を表します

固体 NMR の岡山大学自然科学研究科 早川聡教授に心より感謝の意を表します

本研究を遂行するにあたりSPring-8 にてHEXRD および AXS 法の測定法および原理

についてご教示頂きました物質材料研究機構 小原真司博士ならびに山形大学 臼杵毅

教授に心より感謝の意を表します

本研究は多くの後輩諸君の協力によって遂行されました特に実際に共同研究共同

実験を遂行して頂いたOG 藤原沙弥香さん博士前期課程 2 年 東利彦君OB 徳岡太誠

君学士課程 4年 塩田将大君に心より感謝の意を表しますまた難波研究室で共に研

究生活を過ごした卒業生在学生の方々に感謝の意を表します

また同時期に博士後期課程に在籍された香川高等専門学校の桟敷剛さんにはNbに

関する有益な情報だけでなく辛い状況でも励ましを頂きました心より感謝の意を表し

ます

最後に長きに渡る学生生活を認め経済面だけでなく精神面でも支援してくださった

家族に心より深く感謝の意を表します

平成 28年 3月

福井 聡史

Page 24: 博士論文 スズリン酸塩系ガラスの物性と構造解析ousar.lib.okayama-u.ac.jp/files/public/5/54353/...博士論文 スズリン酸塩系ガラスの物性と構造解析

21

Fig 21 三成分系 SnO-NbO25-P2O5 系のガラス化範囲

Fig 22 作製した Sn-Nb-P ガラス

(a)50Sn-5Nb-45P (b)55Sn-5Nb-40P (c)60Sn-5Nb-35P

(d)65Sn-5Nb-30P (e)70Sn-5Nb-25P (f)60Sn-10Nb-30P

(g)55Sn-20Nb-25P (h)60Sn-15Nb-25P (i)65Sn-10Nb-25P

22

Fig 23 三成分系 SnO-ZnO-P2O5系のガラス化範囲

Fig 24 作製した SZP ガラスの一例

(気泡や脈理のようなものが確認できた組成)

23

Fig 25 SP SZP ガラスの作製フローチャート

Fig 26 Sn-Nb-P SNP ガラスの作製フローチャート

(気泡や脈理のようなものが確認できた組成)

24

Fig 27 FP ガラスの作製フローチャート

Fig 28 耐水性試験(MCC-1法)

25

Table 21 各ガラスの組成分析結果

26

Fig 29 Sn-Nb-P ガラスのメスバウアースペクトル

Table 22 Sn-Nb-P ガラスのメスバウアーパラメーター

27

Fig 210 FP ガラスのメスバウアースペクトル

Table 23 FP ガラスのメスバウアーパラメーター

28

Table 24 各ガラスの物性(密度(ρ)ガラス転移温度(Tg)溶出速度(DR)重量減())

29

Fig 211 SP ガラスの耐水性試験前後の外観写真

Fig 212 Sn-Nb-P ガラスの耐水性試験前後の外観写真

30

Fig 213 SNP ガラスの耐水性試験前後の外観写真

Fig 214 S5ZP ガラスの耐水性試験前後の外観写真

Fig 215 5SZP ガラスの耐水性試験前後の外観写真

31

Fig 216 FP ガラスの耐水性試験前後の外観写真

32

Fig 217 SP ガラスの XRD パターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

33

Fig 218 Sn-Nb-P ガラスの XRD パターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

34

Fig 219 SNP ガラスの XRD パターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

35

Fig 220 5SZP ガラスの XRDパターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

36

Fig 221 S5ZP ガラスの XRDパターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

37

Fig 222 FP ガラスの XRD パターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

38

Fig 223 各ガラス系の DR と OP の関係性

39

Fig 224 各ガラス系の重量減と OP の関係性

40

第 3章 分光法を用いたスズリン酸塩系ガラスの構造解析

31 緒言

前章ではSP ガラスおよび第三成分に Nb2O5 ZnOを添加した Sn-Nb-P ガラスSNP ガラ

スSZP ガラスの物性特に耐水性に関する第三成分添加の有効性を明らかにしたその添

加した第三成分の二種類についてもNb2O5 の方が ZnO よりも溶出速度重量減ともに抑

制することができSP ガラスの低ガラス転移温度という特性も維持されていることが判明

したしかし現段階では本研究の主要な物性である耐水性改善の要因が明確になって

いない組成の観点からはOP の値が高い組成が良好な耐水性であることが分かったが

組成だけでは耐水性改善のメカニズムについて完全には理解できないここでリン酸塩

ガラスの溶出のメカニズムは第 1 章で述べたように加水分解反応と水和反応が要因とな

る[1 2]この機構はそれぞれリン酸の構造つまり架橋酸素 BO の数が大きく関わって

おりリン酸アニオンの[PO4]ユニットの架橋酸素数を知ることが重要であるこの BO の

情報を得るためにはガラス構造を示す指標の一つである Qn(n は[PO4]ユニット中の架橋

酸素数を表す)を調べることが必須であるまたQn の分布を調べるためにはガラスの

構造解析を行う必要性がある

ガラスの構造解析には種々の方法があり特にラマン分光法や赤外(IR)分光法核

磁気共鳴法(NMR)などの分光学的手法を用いた構造解析の報告が多い[3-5]ラマン分光

法および IR分光法は原理は異なるがどちらも結合の振動モードを測定する手法であり[6]

リン酸塩ガラスだけでなくケイ酸塩ガラスホウ酸塩ガラスなど様々なガラス系にて測

定がなされている[7 8]また得られた結合状態の情報からリン酸塩アニオンの Qn分布

を調べることも可能であるNMR は共鳴吸収ピークの化学シフト(共鳴周波数のズレ)

から構造を決定する手法であるガラスの場合SiO2や B2O3 P2O5といった網目形成酸化物

の Qn分布を得るために一般的に使用されている手法である[9]

今回これらの測定の中でラマン分光法を選択し構造解析を行ったラマン分光法は

測定する際にサンプル形状を気にすることなく基本的にそのまま測定できるためIR 分

光法のようにサンプル形状で測定方法を変える必要はないまたIR 分光法では例えば

KBr 錠剤法やヌジュール法のように測定を行うためのサンプル調整に手間がかかる場合が

ある[6]さらに比較対象の FP ガラスではNMR を測定できないため作製ガラスを全

て比較検討できるようにラマン分光法を選択した

本章ではラマン分光法を用いて各ガラスの構造解析を行い[PO4]ユニットの Qn分布を

調査し平均 BO数 nを算出することで耐水性と構造の関係性を検討したまたラマン

分光法によって得られた Qn分布の妥当性を確認するためにSP ガラスおよび 67S5N28P ガ

ラスの NMRを測定も行い比較した

32 実験方法

41

321 サンプル準備

ラマン分光およびメスバウアー分光の測定では第 2 章で作製した各ガラスのバルク体

を用いたWD試験に使用したサンプルとは別にラマン測定用のサンプルを用意した適

度な大きさ大体 15 cm角程度のサイズになるようにガラスカッターで切断しその後

十分な平滑性を得るために鏡面研磨を施した

322 ラマン分光測定

使用したラマン分光装置は顕微レーザーラマン分光装置(Jasco NRS-5100)を用いた

用いたレーザー波長は 53208 nmであり400 - 2000 cm-1の範囲で測定した

Qn 分布を導くためにピークフィッティングを行いリン酸塩アニオンのラマンバンド

が現れる950 - 1250 cm-1付近および 700 - 750cm-付近の範囲で定量した

323 31P MAS NMR測定

31P MAS NMRの測定は Varian NMR System 500 を用いて32 mmの MASプローブ

202309MHzにて行った測定パラメーターを以下に示すπ4 パルス長さ 14 μs 待ち時間

(pulse delay)10 s 積算回数 3600 scan シリンダー円筒形状の Zrローターの回転スピード

160 kHz referenceとして二番目の基準物質として使われる NH4H2PO4を使用化学シフト

は85 H3PO4溶液から δ = 10 ppmである

33 結果考察

331 各ガラス系のラマンスペクトル

Figs 31 - 35にラマンスペクトルを示す各ピークは以下の通りに帰属し各スペクト

ル中に該当する構造をピーク位置に示した

1230 - 1260 cm-1 P=O NBO Q

2 [10]

1110 - 1150 cm-1metaphosphate (PO3)

- Q

2 [10]

1030 - 1100 cm-1pyrophosphate (PO35)

2- Q

1 [10]

970 - 1000 cm-1orthophosphate (PO4)

3- Q

0 [10]

920 - 930 cm-1asymmetric (P-O-P) Q

1 [10]

730 - 750 cm-1symmetric (P-O-P) Q

1 [10]

710 - 720 cm-1asymmetric (P-O-P) Q

2 [10]

810 - 820 cm-1Nb-O [NbO4] tetrahedron [11]

900 - 920 cm-1Nb-O isolated [NbO6] octahedron [11]

42

SP ガラスのラマンスペクトル(Fig 31)を見ると50S50P 60S40P ではmetaphosphate

の Q2 構造が支配的であるがSnO 量が増えるにつれてその構造が変化し70S30P では

pyrophosphateの Q1構造と orthophosphateの Q

0構造が共存した構造となっているまたSnO

量の少ない 50S50P および 60S40P において確認されたQ2構造の P=O のピークが見えなく

なっているつまり耐水性と関連して考えるとSnO量が増えるにつれてP-O-P 結合か

ら Sn-O-P 結合に代わり水分子との反応である加水分解反応を妨げる構造に変化している

ことがわかる

Figs 32 33にNb2O5を添加した Sn-Nb-P ガラスおよび SNP ガラスのラマンスペクトル

を示すまずSn-Nb-P ガラスについてNb 無添加の 65Sn-0Nb-35P は主に Q1構造であ

りNbO25が添加されることによってQ0構造に変化しQ

1 Q

0構造が共存しているような

ピークが得られた添加量が少ないガラス系であるため徐々に変化しているのを確認し

た800 cm-1を少し越えた 810 - 820 cm

-1付近にNb2O5を添加することでピークが現れそ

して添加量を増量することで強度が強まるピークがありこのピークは四面体の[NbO4]

のものと判断した

SNP ガラスのラマンスペクトルについてはNb2O5添加量を固定した組成であるためSP

ガラスのような挙動が観察された50S50N45P では50S50P ガラスと同じようにQ2構造

が主な構造でありSnO量の増加に伴って60S5N35P Q1構造67S5N28P Q

0構造に支配

的な構造が変化しているこれはSP ガラスと同じ傾向を示しているためP-O-P rarr Sn-O-P

に置き替わっていることが示唆されるNb-O に関するピークでは50S5N45P のみ[NbO4]

四面体のピークを確認できず900 - 920 cm-1付近に[NbO6]八面体のピークが確認された

SnO量が増量した 60S5N35P では810 cm-1付近の [NbO4] 四面体のピークが現れているが

[NbO6]八面体のピークと 900 - 920 cm-1付近の Q

1構造のピークが非常に近い(ほぼ重なって

いる)ことから60S5N35P については[NbO4] 四面体および[NbO6]八面体の共存の可能性

も考えられるまた67S5NP28 では[NbO4] 四面体のみのピークが観察されたためこ

の Nb-O の配位数変化は[PO4] unitの状態によって変化している可能性も示唆された

ZnO を添加した S5ZP ガラスおよび 5SZP ガラスのラマンスペクトルを Fig 34 に示す

図の下部三つが S5ZP ガラス上部三つが 5SZP ガラスのスペクトルであるSZP ガラスの

二系統を比べるとあきらかなスペクトルの違いが確認された各ガラス系で確認すると

SnO 量が最小の 55S5Z40P はQ2構造と Q

1構造の範囲に跨っているようなスペクトルが得

られた62S5Z33P および 65S5Z30P のスペクトルからはどちらもほぼ Q1構造であると判

断した5SZP のスペクトルは1000 - 1250 cm-1付近の範囲で裾を引くような(なだらかな)

スペクトルが得られたZnO 量が最小の 5S55Z40P にはQ2構造が主な構造に見えるが

shoulderピークのような Q1構造(1030 - 1100 cm

-1)が確認できる5S62Z40P においては

1000 - 1250 cm-1付近の範囲まで幅広いスペクトルが得られた730 - 750 cm

-1付近にピーク

が現れているためおそらく Q1構造が最も多く存在していると考えられる65S5Z30P では

Q1構造Q

0構造が共存しているようなピークが得られた

43

FP ガラスのラマンスペクトルを Fig 35 に示すFe量の少ない 20F80P 25F75P と他の三

つで構造が異なっていることである20F80P 25F75P はQ2構造と Q

1構造が基本構造にな

っていると判断できる 30F70P は1110 - 1150 cm-1付近に shoulderピークのようなものがあ

りQ2 Q

1 Q

0構造が共存しているようなスペクトルであった35F65P 40F60P はQ1構造

が主な構造でQ0構造があると判断した

332 平均 BO数 n (Qn分布)

まずピーク分離について散乱断面積が見積もれなかったためラマンの散乱強度比

を Qn分布として簡易的にピーク分離を行い(Fig 36)そこから平均架橋酸素数 BO 数 n

を算出したここでFig 37 に 31P MAS NMRスペクトルを示しTable 31に NMRおよび

ラマン分光より得られた平均 BO 数 n を示す(NMR の帰属 reference [12])表よりNMR

とラマンから得られた Qn分布はほぼ一致していることが分かった60S40Pについては支

配構造が NMR(Q1) ラマン(Q

2)で逆になったこれは60S40P の組成がQ

2と Q1のほぼ中

間の組成になるためこのようなズレが生じたと考えられるしかし今回のラマンによ

る Qn分布の算出についてはほぼ問題ないと判断した

Table 32にラマンスペクトルより求めた Qn分布平均 BO 数 nをを示しTable 24に示

した DR 重量減の結果を併記する

SP ガラスのうち耐水性が低いガラスは Q2構造によって形成されているSnO量の増加

によって NBOの増加とともに耐水性の向上が確認できSnOが入ることでSn-O-P 結合を

形成し水分子からの攻撃を受けにくくなっていることが考えられる

Sn-Nb-P ガラスでは基本的に Q1構造が主構造でNb2O5の添加が増えるにつれQ

0構

造が支配的になり耐水性は次第に向上していく最も耐水性のよかった 65S-5Nb-30P は

Q0構造での割合が非常に高く平均 BO数 n値が 03であった

SNP ガラスではP2O5量が多い組成の 50S5N45Pにおいても平均 BO数 nが 60S40P と

同じながらも耐水性が良くなっている67S5N28P はほぼ完全に Q0構造であり平均 Q

n

値は 0となった

SZP ガラスについてはS5ZP 5ZSP のどちらの系列についても耐水性の結果に大きな差

というものは確認されなかったが構造的にも平均 BO数 nが 09 10 17という結果であ

った

FP ガラスについてはFe2O3 lt 30 molのときは平均 BO 数 nが20 19と高い数値を

示したが耐水性は非常に良好であったこの結果より組成だけでなく構造的にも耐

水性高くなる要因が不明である一つの原因の可能性としてメスバウアーより得られた

Fe2+の存在比が 40以上と高かったことがFe2O3含有量が少ない組成時には効果的になっ

ているのかもしれない

333 平均 BO数 nと耐水性の関係性

44

Fig 38に DRと平均 BO数 nの関係性についてFig 39に重量減と平均 BO数 nの関係

性をそれぞれ示すまたOP の時と同様に各図にリン酸塩の三つの構造の平均 BO数

n も表記した双方の図よりDR 重量減共に平均 BO 数 nが低下することで単調に下がっ

ていることが分かるまた耐水性の良かったNb2O5添加の Sn-Nb-P SNPガラスはの DR

の挙動(傾き)はOP 時とも異なった挙動が得られた

Fig 310に OP と平均 BO数 nの関係を示す図中に示す茶色metaphosphate 黄色

pyrophosphate 灰色orthophosphate であるこの図から耐水性改善には平均 BO 数

n を下げOP を上げることが重要であるのが分かるまたNb5+の添加はOP を上げる

だけでなく平均 BO 数も減少させることから非常に効果的な成分であることが明らかで

あるこれはP5+から同酸価数 Nb

5+に少量でも置き換えることで平均 BO 数 n を下げ

OP を上げることを可能としている(実際に orthophosphate の OP4 よりも高い OP でガ

ラスが作製できている)つまりNb5+の添加によって P-O-P 結合が減少し水和反応加

水分解反応が抑制されているからである

以上の結果SP 系ガラスの耐水性改善には低い平均 BO 数と高い OP の組成にするこ

とが重要でNb2O5の添加は非常に効果的であることが分かったその一方でガラス中の

詳細な構造的要因についてははっきりしていないため次章の第 4 章にてさらに詳し

い構造解析を行い耐水性改善の要因について調査を行った

34 結言

本章ではラマン分光を使用して各ガラス系のリン酸塩アニオンの構造を簡易定量で

評価し組成と構造の関係について考察した

平均 BO 数 n と耐水性に関してはDR および重量減が平均 BO 数 n の減少で単調に低下

した結果が得られた

平均 BO数 nと OP の図より耐水性改善には平均 BO数 nを下げることそして OP

を上げることが重要であることが明白であった

Nb5+の添加は平均 BO数を減少させるだけでなくOP も上げることからガラス構造内

の P-O-P 結合を減少させる故に水和反応加水分解反応が抑制され耐水性が大幅に

改善された故にNb2O5 のような高価数金属酸化物を添加することが効果的であること

が示唆された

参考文献

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[9] 中井利仁 NEW GLASS 28 [109] 17 -2 8 (2013)

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[12] D Holland A P Howes M E Smith and A C Hannon J Phys Condens Matter 14

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46

Fig 31 SP ガラスのラマンスペクトル

47

Fig 32 Sn-Nb-P ガラスのラマンスペクトル

48

Fig 33 SNP ガラスのラマンスペクトル

49

Fig 34 SZP ガラスのラマンスペクトル

50

Fig 35 FP ガラスのラマンスペクトル

51

Fig 36 ラマンスペクトルのピーク分離例(67S5N28P)

Raman Shift (cm-1)

52

Fig 37 NMRスペクトル

Table 31 NMR およびラマン分光より得られた SP 67S5N28P ガラスの

Qn分布および平均 BO数 n

53

Table 32 各ガラスのラマンスペクトルより求めた Qn分布結果

(表の赤線より右側の結果は Table 22 より)

1 仕込み組成による数値

2 Fig 2212 に示した析出物を取り除いた後の数値

54

Fig 38 DR と平均 BO数 nの関係性

55

Fig 39 重量減と平均 BO数 nの関係性

56

Fig 310 OP と平均 BO数 nの関係性

Meta

Pyro

Ortho

57

第 4章 放射光を用いたスズリン酸塩系ガラスの構造解析

41 緒言

前章の第 3 章にてラマン分光法を用いて SP 系ガラスの構造解析により Qn分布を導き

出したことで耐水性と構造の関係についてある程度関連性を導くことができたリン

酸アニオンについてはQ0(orthophosphate)構造 gt Q

1(pyrophosphate)構造 gt Q2

(metaphosphate)構造の順で良耐水性となるしかしSn Nbおよび Znの局所構造につ

いては知見が得られていないラマン分光や IR分光などの分光学的手法を用いてSnや

Nb Zn の周辺の局所構造を知るには限界があるまたガラスの構造解析を行う上で非常

に重要な因子である中距離構造の評価には分光学的手法は不向きである[1]

そこで局所構造や中距離構造を知るために有効な手法として放射光線を用いた構造

解析がある放射光(SR 光)とはシンクロトロンなどの加速器で高速に加速された電子

が進行方向を磁場によって変えられた際に放射する電磁波である[2]エネルギーが高く

(短波長)輝度が高い特性を有している日本国内では兵庫県佐用町の SPring-8や茨城

県つくば市の高エネルギー加速器研究機構佐賀県鳥栖市の佐賀県立九州シンクロトロン

光研究センターなど複数個所に放射光施設が設置されている

放射光を用いたガラスの構造解析には一般的に高エネルギーX 線回折(High Energy

X-ray diffraction HEXRD)が用いられるこの回折実験から高い散乱ベクトル Q(= 4π sinθλ)

まで回折データが得られる多種類の原子から構成される物質の場合はFaber-Ziman 型[3]

の構造因子 S(Q)を用いる以下の式に示すようにFaber-Ziman 型構造因子 S(Q)は同種また

は異種の原子による相関の重み関数付の和として示される例として SiO2ガラスで説明す

ると構造因子 S(Q)は三種類の原子付の S(Q)の重み付の和として表されていることが分か

I(Q) 散乱断面積 ltgt 原子一個当たりの平均値 f(Q) 原子散乱因子 W 重み関数

通常の研究室で使用される X 線回折(XRD)装置で用いられる特性 X 線はCuKα線(λ

= 0154 nm 81 keV)が最も良く用いられより高いエネルギーの X 線が必要な場合は

MoKα線(λ = 0071 nm 175 keV)が使用される一方でSPring-8のビームライン BL04B2

で行われる高エネルギーX 線回折(HEXRD)測定で使用される SR のエネルギーは378 keV

58

~ が使用可能である[2]従ってガラス以外の液体のような非晶質物質にも非常に精度

よく構造解析が行われている[4]

また局所構造解析の一つに X線異常散乱法という測定方法がある[5 6]これは通常

の X 線回折実験では分離不可能な特定元素に関連する部分構造因子(散乱強度曲線)を得

ることができる手法である今回 HEXRD の測定時に使用したエネルギー614 keV では各元

素の異常散乱項のエネルギー依存性は確認されない(Fig 41)その一方でFig 42に示す

Sn の吸収端付近の 292 keV付近ではSnの異常分散項のエネルギー依存性が確認できる

つまりSnの吸収端近傍より低エネルギー(E)側の異なるエネルギーの X線(E1 E2)を

使って散乱強度を測定し各 E における異常分散項(f`)の変化(つまり高い E1 から低い

E2 の散乱強度の差分)を利用して Snに関する部分構造因子を求める構造解析が AXS 法で

あるこの測定法は古くから知られている方法ではあるが装置の測定条件や設備の問

題からなどから使用があまり普及していなかった[5 6]近年になり金属ガラスの構造解

析について徐々に報告が出てきており今後注目される測定法である

HEXRD および AXS 法などから得られたデータ実測の構造因子 S(Q)は一次元の限られ

た構造情報であるためガラスなどの非晶質物質の中距離構造を解明するためにはこれ

らのデータを基に三次元構造を求める必要がある三次元構造モデルの作成には逆モンテ

カルロ(RMC)シミュレーションを使用することが有効である[7]このシミュレーション

は任意で決めたシミュレーションボックス内の粒子をランダムに動かすことで実測の

構造因子 S(Q)を再現する三次元構造モデルを構築する方法である

SP ガラスについては分光学的手法について数多く報告があるが放射光を用いた回折

法はほとんど適用されていないそこで本研究では HEXRD および AXS 法を用いた構造

解析を行うことでSn Nb周りの構造を解明すると共にSNP ガラスの耐水性改善のメカ

ニズムについて考察したまたAXS 法の有効性についても検討した測定を行ったガラ

スはSP ガラスおよび最も耐水性の高かった 67S5N28P を選択した

42 実験方法

421 HEXRD AXS法

HEXRDはSPring-8のビームライン BL04B2 で測定を行ったエネルギー614 keV の X

線を用いた測定サンプルの厚みは09 mm (plusmn0005 mm)になるまで研磨を行った

AXS 測定はSPring-8のビームライン BL13XUを使用した(Fig 43)それぞれの測定し

た X 線のエネルギーについて以下に示す

①Sn K吸収端hellip292 keV near edgehellip291452 keV (-60 eV) far edgehellip289751 keV (-230 eV)

②Nb K吸収端hellip1899 keV near edgehellip189562 keV (-30 eV) far edgehellip187863 keV (-230 eV)

測定に使用したサンプルの厚さが015 - 030 mmとなるまで研磨を施した

SP ガラスについて50S50P 60S40P 67S33P の三組成のガラスを測定した70S30P に関

59

しては測定を試みたが放射光照射によって結晶化してしまいガラス部分の正確な構

造因子を得るための強度補正ができず解析を断念した

422 RMCのモデリング

Table 41 に RMC の各種パラメーターを示す粒子数は約 5000 個でそれに伴う boxの一

辺の長さは約 42 ~ 46 Ǻになった拘束条件にP の配位数が 4になるような条件を付け

加えたFig 44にSn2P2O7結晶および Sn3P2O8結晶の動径分布関数(RDF)をTable 32

にRDFから得られた第一近接距離[8 9] を示すこれらの数値を使用しcutoffを決定し

たNb-O についてはいくつかの文献値を参考にした[10 11]

各ガラスの RMCのモデリングは①HEXRDから得られた S(Q)のみ②S(Q)および AXS

から得られた部分構造因子を加えた場合でそれぞれ計算した

43 結果考察

最初にNbの AXSから得られたデータについて解析を試みたが妥当な構造モデルが得

られなかったためSnの AXSのみで解析を進めたNb2O5の量が 5 molと少量であったた

めあまり精度の高いデータが得られなかったと推測される

431 実測の HEXRDおよび AXSの結果

4311 実測 HEXRDの S(Q)

Fig 45 に実測HEXRDの S(Q)を示す四つの組成ともに実測HEXRDの S(Q)が得られ

Nb2O5添加の 67S5N28P ガラスでは Low Q 側に変化が確認された

4312 実測散乱強度曲線

Fig 46 に Snの散乱強度曲線を示す(a) の 67S33P のこの曲線からはfar edgeおよび

near edge のエネルギー間で差分が見られエネルギーの依存性が確認された50S50P

67S5N28P のガラスについても同じように差分が確認されたが(b)の 60S40P についてのみ

他とは若干異なる結果(緑丸)であったためRMC の構造解析には差分の構造因子ではな

くfar edge near edge 二つの構造因子を用いた

4313 全相関関数 T(r)

Fig 47 に全相関関数 T(r) を示すHEXRD から得られたものを実線でSnの AXS から

得られたものは点線で示し組成ごとに重ねて表示した図中に各ピークについて帰属し

ているがSnの T(r)からはSn-O Sn-P Sn-Snのみのピークを確認した

432 RMCの計算結果および考察

60

構造モデルの一例として67S5N28P ガラスの得られた構造モデルをFig 48に示す水

色の多面体 unitSnON 黄色の多面体 unitPO4 ピンクの多面体 unitNbONである以下

詳細な構造解析の結果および考察を記す

4321 RMCのフィッティング結果

RMCのフィッティング結果の一例として67S33P の HEXRD と Snの AXS の構造因子か

ら得た結果を示す(Fig 49)二つの構造因子を加えて計算した結果においてもHEXRD

の S(Q) AXS の S(Q)に各々に対する良好なフィッティング結果が得られた他の組成も

同様なフィッティング結果が得られた

4322得られた各 pairの平均配位数平均角度平均結合距離

RMCの結果によって得られた各 pairの平均配位数平均角度平均結合距離を Tables 43

に示す上段が HEXRD の S(Q)のみ下段が HEXRD に Sn の AXS の部分構造因子を加え

て結果である最下部は比較のためにSn2P2O7の情報を記載した[8]

P-O pairについてRMCモデル中の PON多面体に関して平均配位数 Nが 4および P-O

の平均結合距離が約 160Å平均結合角度angO-P-O が約 109degという結果が得られた組成

による大きな違いは確認されなかったのはP の配位数が 4になるように拘束条件をかけた

結果であると考えられるSnON多面体についてはSnO量の増加 = OP の増加であり平

均配位数 Nが 3 ~ 35へ増加した平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約

22Åで組成による大きな変化はほとんど見られなかったNb2O5を 5 mol添加したガラ

スではNbON多面体の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平均配位数 N約 4Nb-O 平均結

合距離約 20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O(約 105deg)と値が近いこと

また6配位ではなく 4配位として主に存在していることからSnO と同じような働きをし

ていると推測される

以上の結果からNb2O5添加の耐水性改善の要因として結合距離が Sn-O が約 22Åに対

し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強固にして

いることも一つの要因として考えられる

また67S5N28P ガラスの各多面体モデルを確認すると(Fig 410)P は PO4Snは SnO4

と SnO3Nbは NbO4をそれぞれ再現している

4323得られた各 pairの結合様式

RMC の結果により得られた各 pair の結合様式を Tables 44 に示す上段が HEXRD の

S(Q)のみ下段が HEXRDに Snの AXS の部分構造因子を加えた結果である最下部は比

較のためにSn2P2O7の情報を記載した[8]

結合様式に関してはPO4四面体は他の多面体も含めてほぼ頂点共有で存在している

SnON多面体についてはSnO 量が少ない配位数が 3 に近い場合頂点共有以外の共有の

61

割合も多くSnO 量が増えるにつれて頂点共有が主になり網目形成体として振舞ってい

ると考えられる組成によって平均結合距離や平均角度の大きな変化が見られなかったこ

とから平均配位数が結合様式を決める重要なファクターであるということも考えられる

またHEXRD と AXS 法の結果がほぼ同じであったこれは主成分が SnO のガラスであ

るためHEXRDでも十分に詳細な構造が得られたため大きな変化が現れなかったと考え

られるNbON 多面体はPO4 四面体と SnON 多面体とはほぼ頂点共有で繋がっている以

上の結果よりSnO量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体的に各多面体同士の

頂点共有が増えていることから耐水性の改善には頂点共有を多く含む構造であること

が重要である或いは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的となって

いるということが推測されるFig 411に 67S5N28P ガラスの構造モデルを示す各多面

体はほぼ頂点共有で繋がっていることが確認できる

4324 平均 BO数の比較

Tables 45にNMR Raman RMC(HEXRD) RMC(HEXRD + AXS)の平均BO数を示すRMC

から得られた平均 BO 数 nはNMR Raman と同様に Nb2O5の添加による大幅な減少が確認

されたしかしNMR Raman と比較すると全組成において数値が大きすぎで適当でない

50S50P の構造モデルを観るとPO4四面体間で3配位 O の存在が確認された(Fig 412)た

め実測で得られた n値を再現できるようなPO4四面体モデル間の繋がり方に関する拘束条

件を加えて RMCを計算する必要性があるまた仮に3配位 Oの存在があるとすると電

子状態の変化が生じていることがと示唆されるため分子軌道計算を用いて電子状態解析

を行い確認する必要がある

4325 耐水性の改善について

Nb2O5を添加のガラス構造への影響について①6配位ではなく 4配位として主に存在し

ていることからSnO と同じような働きをしていると推測される②結合距離が Sn-O が約

22Åに対し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強

固にしている③ガラス構造中で全体的に各多面体同士の頂点共有が増えている以上の

ことが判明した以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性

耐候性を改善した要因として考えられる

44 結言

本章では分光学的手法では評価できないガラスの中距離構造局所構造について理解

するために放射光を用いた構造解析を実施しSP ガラスの構造と耐水性改善について考

察したHEXRDおよび AXS法を用いて測定を行い得られたデータを RMCシミュレーシ

ョンにて解析を行った

解析の結果 Sn-O pair については平均配位数 Nが 3 ~ 35でSnO量の増加 = OP の増

62

加に伴い高くなった平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約 22Åであ

ったP-O Sn-Oについては組成による大きな変化はほとんど見られなかった67S5N28P

ガラスの Nb-O pair の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平均配位数約 4Nb-O 平均結合距

離約 20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O(約 105deg)と値が近いことま

た6配位ではなく 4配位として主に存在していることからSnOと同じような働き(網目

形成体)をしていると推測されるまた結合距離が Sn-O が約 22Åに対し Nb-O は約 20

Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強固にしていると言える

SnO 量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体的に各多面体同士の頂点共有が増え

ていることから耐水性の改善には頂点共有を多く含む構造であることが重要である

もしくは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的であることが推測さ

れる以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性耐候性を

改善した要因として考えられる

またAXS 法の有効性についても確認し効果的であることが判明したただし今回

は主成分が Sn の組成のガラスでありHEXRD でも十分に詳細な構造が得られたため

大きな差は現れなかった

参考文献

[1] 山根正之 安井至 和田正道 国分可紀 寺井良平 近藤敬 小川晋永編ガラス光学ハ

ンドブック 朝倉書店(1999)

[2]飯野潔 梅咲則正 NEW GLASS 19 [2] 31-40 (2004)

[3] T E Faber and J M Ziman Philos Mag 11 [109] 153-173 (1965)

[4] 小原真司 鈴谷健太郎 放射光 14 [5] 365-375 (2001)

[5] 早稲田嘉夫 齋藤正敏 放射光 10 [3] 299-315 (1997)

[6] 細川伸也 広島工業大学紀要研究編 46 197-204 (2012)

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[8] V V Chernaya A S Mitiaev P S Chizhov E V Dikarev R V Shpanchenko E V Antipov

MV Korolenko and PB Fabritchinyi J Chem Mater 17 284-290 (2005)

[9] M Mathew L W Schroeder and T H Jordan Acta Cryst B33 1812-1816 (1977)

[10] J S Taylar and M P Cohs J Am Ceram Solids 109 [9] 2834-2835 (1987)

[11] D Munoz-Martin A Ruiz de La Cruz J M Fernandez-Navarro C Domingo J Solis and J

Gonzalo J appl Phys 110 023522 (2011)

63

Fig 41 各原子の異常分散項のエネルギー依存性

Fig 42 Sn の異常分散項のエネルギー依存性

64

Fig 43 SPring-8の BL13XU

65

Tab

le 4

1

RM

Cの各パラメーター

66

Fig 44 Sn2P2O7 Sn3P2O8結晶の RDF

Table 42 Sn2P2O7 Sn3P2O8結晶の各 pairの第一近接距離

67

Fig 45 得られた実測 HEXRDの S(Q)

68

Fig 46 Sn の異常散乱測定により得られた散乱強度のエネルギー依存性

(a)67S33P (b)60S40P

69

Fig 47 全相関関数 T(r)

太線 HEXRD より

細線 Sn の AXSより

70

Fig 48 67S5N28P ガラス構造のモデル

71

Fig 49 RMC フィッティングの結果

72

Tab

le 4

3 各

pairの平均配位数角度結合距離

73

Fig

4

10

67

S5

N2

8Pガラスの各多面体モデル

74

Tab

le 4

4 各

pairの結合様式

75

Fig 411 67S5N28P ガラスの構造モデル

76

Table 45 平均 BO 各数 nの比較

Fig 412 50S50P ガラスの構造モデル

77

第 5章 総括

本研究ではSP ガラスを対象とした本研究では鉛フリー代替ガラスまたは希土類フ

リー蛍光体として SP ガラスの新規高機能化を将来的に目指し問題点であるldquo化学的耐久

性rdquoの改善につながる知見を得ることを目的としたそこでまずSP ガラスを母体ガラ

スとし第三成分に Nb2O5を添加した Sn-Nb-P SNP ガラスZnO を添加した SZP ガラスを

作製し耐水性を中心とした物性評価を行った次に分光学的手法で構造解析を行い

Qn 分布を導き出した最後に放射光を用いた構造解析を行い耐水性改善に関する構造的

な考察を行った以下に本研究で行った検討内容を示す

(1)SPガラスおよび第三成分Nb2O5 ZnOを添加した三成分系SPガラスの物性評価(第 2章)

(2)SP 系ガラスの分光学的手法による Qn分布導出(第 3章)

(3)放射光を用いた SP 系ガラスの構造解析構造と耐水性改善の関連について(第 4章)

各章についてまとめた結果を以下に示す

第 2章

第 2章では二成分系および三成分系のリン酸塩系ガラスの各種物性(密度や熱的特性

耐水性)の評価を行った二成分系ではSP ガラスに加え良好な耐水性を有する鉄リン

酸塩(Fe2O3-P2O5)系ガラス(以下 FP ガラス)を比較のために三成分系では二成分系

の SP ガラスに Nb2O5を添加したニオブ含有 SP ガラス(SNP ガラス)および ZnO を添加し

た亜鉛含有 SP ガラス(SZP ガラス)を作製した

今回作製した SP 系ガラスは低ガラス転移温度を有していた各組成の温度域はSP

ガラスTg le 280 Sn-Nb-P SNPガラスTg le 3505SZP S5ZPガラスTg ≦ 450であった

各種 SP ガラスの耐水性試験の結果二成分系の SP ガラスよりも三成分系ガラスの方が

良好な耐水性を有していた65Sn-5Nb-30P 67S5N28P ガラスが最も耐水性が良好であり化

学的耐久性の改善には Nb2O5が ZnOよりも効果的であった

組成と耐水性に関してはDRおよび重量減がOP増加で単調に低下した結果が得られた

つまり耐水性を改善させるにはSP 系ガラスのガラス化範囲を拡大かつ OP を増大させ

る第三成分の添加が有効であることが示唆された

第 3章

第 3章ではSP 系ガラスの分光学的手法による Qn分布の導出を行ったラマン分光法を

用いて各ガラス系のリン酸塩アニオンの構造を簡易定量で評価し組成と構造の関係に

ついて考察した平均 BO 数 n と耐水性に関してはDR および重量減が平均 BO 数 nの減

少で単調に低下することが明らかとなった

平均 BO 数 n と OP の関係より耐水性改善には平均 BO 数 n を下げることそして

OP を上げることが重要であることが明らかになった

78

Nb5+の添加は平均 BO数を減少させるだけでなくOP も上げることからガラス構造

内の P-O-P 結合を減少させ水和反応加水分解反応が抑制され耐水性が大幅に改善さ

れることが示唆された故にNb2O5 のような高価数金属酸化物を添加することが効果的

であることが再度確認された

第 4章

耐水性向上についてより深く評価するためSP SNP ガラスの局所構造に関する知見を得

ることを目的に放射光を用いた構造解析を行った高エネルギーX 線回折(HEXRD)お

よび X 線異常散乱(AXS)法で測定したデータを再現する構造モデルを逆モンテカルロ

(RMC)シミュレーションで構築し構造解析を行った

RMC モデル中の PON多面体に関して平均配位数 Nが 4および P-O の平均結合距離が約

160Å平均結合角度angO-P-Oが約 109degという結果が得られた組成による大きな違いは確

認されなかったSnON多面体については平均配位数 N が 3~4 でSnO 量の増加に伴い 4

に近い値となった平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約 22Åで組成

による大きな変化は見られなかった

Nb2O5を 5 mol添加したガラスではNbON多面体の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平

均配位数N約4Nb-O平均結合距離約20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O

(約 105deg)と値が近いことまた6配位ではなく 4配位として主に存在していることから

SnO と同じような網目形成体として働いていると推測されたまた結合距離が Sn-O が約

22Åに対し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強

固にしていると考えられるまたSnO 量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体

的に各多面体同士の頂点共有が増えていることから耐水性の改善には頂点共有を多く

含む構造もしくは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的であること

が示唆された以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性

耐候性を改善した要因として考えられる

またAXS 法の有効性についても確認し効果的であることが判明したただし今回

は主成分が Snの組成のガラスでありHEXRD でも十分に詳細な Snの周辺構造が得られ

たためAXSを利用した場合との大きな構造の差は認められなかった

本研究では様々な優れた特徴を有する SP ガラスにおける耐水性改善のメカニズムにつ

いて検討を行ったこの系のガラスについてはこれまでほとんど利用されていなかった

放射光を用いた構造解析を駆使し第三成分の添加によってどのような構造的変化が生じ

耐水性を改善させるか新たな知見を得ることができた最終目標である機能性ガラスの

開発における新たなる材料設計指針の確立に対してldquo耐水性rdquoに関しては概ね明らかにな

ったと考えられる一方で今回検討していな電子状態化学結合性についても評価する

ことで溶出メカニズムの解明が可能になり材料設計指針の確立が期待される

79

発表論文リスト

口頭発表

第 2章および第 3章

(1) SnO-P2O5 系ガラスへの酸化物添加効果

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎

日本セラミックス協会第 25 回秋季シンポジウム No3C06 (名古屋市 2012年 9月)

(2) Effect of Nb2O5 addition to SnO-P2O5 glass (Poster)

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

International Union of Materials Research Societies International Conference on Electronic

Materials IUMRS-ICEM 2012 A-9-P26-003 (Yokohama 2012 年 9月)

(3) スズリン酸塩系ガラスの蛍光特性耐水性に及ばす酸化物の添加効果(ポスター)

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎

日本セラミックス協会 2013 年年会 1P070 (東京 2013年 3月)

第 4章

(1) 放射光を用いたスズリン酸塩ガラスの構造解析

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎小原真二臼杵毅

日本セラミックス協会第 27 回秋季シンポジウム 2B22 (鹿児島市 2014年 9 月)

(2) Structural analysis of tin phosphate glasses by synchrotron radiation (Poster)

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba Shinji Kohara Takeshi Usuki

International Congress on Glass ICG Annual Meeting Bangkok 2015 P14-138 p186 (2015)

発表論文

(1) Effect of Nb2O5 addition to SnO- P2O5 glass

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

Journal of the Ceramic Society of Japan Vol 120 No 11 pp530-533 (2012)

(2) Structural analysis of SnO- P2O5 glass

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

Journal of the Ceramic Society of Japan(準備中)

80

謝辞

本研究を遂行するにあたり終始暖かいご指導ご助言並びにご鞭撻を賜わりました岡

山大学大学院環境生命科学研究科 難波徳郎教授に心より感謝の意を表します

また本研究を遂行するにあたり懇切丁寧なご指導とご意見をしていただいた岡山大

学大学院環境生命科学研究科 紅野安彦准教授環境環理センター 崎田真一助教に心より

感謝いたします

本研究を遂行するにあたりラマン分光測定の使用についてご助言ご教授して頂い

た岡山大学自然科学研究科 藤井達生教授中西真助教に心より感謝の意を表します

Sn のメスバウアー測定の際に協力して頂いた岡山大学自然科学研究科先端自然科学教

育研究推進本部高田研究室 松本修治特任助教(当時旭硝子株式会社中央研究所)また

Feのメスバウアーを測定の際に協力して頂いた岡山大学自然科学研究科 藤井達生教授に

心より感謝の意を表します

固体 NMR の岡山大学自然科学研究科 早川聡教授に心より感謝の意を表します

本研究を遂行するにあたりSPring-8 にてHEXRD および AXS 法の測定法および原理

についてご教示頂きました物質材料研究機構 小原真司博士ならびに山形大学 臼杵毅

教授に心より感謝の意を表します

本研究は多くの後輩諸君の協力によって遂行されました特に実際に共同研究共同

実験を遂行して頂いたOG 藤原沙弥香さん博士前期課程 2 年 東利彦君OB 徳岡太誠

君学士課程 4年 塩田将大君に心より感謝の意を表しますまた難波研究室で共に研

究生活を過ごした卒業生在学生の方々に感謝の意を表します

また同時期に博士後期課程に在籍された香川高等専門学校の桟敷剛さんにはNbに

関する有益な情報だけでなく辛い状況でも励ましを頂きました心より感謝の意を表し

ます

最後に長きに渡る学生生活を認め経済面だけでなく精神面でも支援してくださった

家族に心より深く感謝の意を表します

平成 28年 3月

福井 聡史

Page 25: 博士論文 スズリン酸塩系ガラスの物性と構造解析ousar.lib.okayama-u.ac.jp/files/public/5/54353/...博士論文 スズリン酸塩系ガラスの物性と構造解析

22

Fig 23 三成分系 SnO-ZnO-P2O5系のガラス化範囲

Fig 24 作製した SZP ガラスの一例

(気泡や脈理のようなものが確認できた組成)

23

Fig 25 SP SZP ガラスの作製フローチャート

Fig 26 Sn-Nb-P SNP ガラスの作製フローチャート

(気泡や脈理のようなものが確認できた組成)

24

Fig 27 FP ガラスの作製フローチャート

Fig 28 耐水性試験(MCC-1法)

25

Table 21 各ガラスの組成分析結果

26

Fig 29 Sn-Nb-P ガラスのメスバウアースペクトル

Table 22 Sn-Nb-P ガラスのメスバウアーパラメーター

27

Fig 210 FP ガラスのメスバウアースペクトル

Table 23 FP ガラスのメスバウアーパラメーター

28

Table 24 各ガラスの物性(密度(ρ)ガラス転移温度(Tg)溶出速度(DR)重量減())

29

Fig 211 SP ガラスの耐水性試験前後の外観写真

Fig 212 Sn-Nb-P ガラスの耐水性試験前後の外観写真

30

Fig 213 SNP ガラスの耐水性試験前後の外観写真

Fig 214 S5ZP ガラスの耐水性試験前後の外観写真

Fig 215 5SZP ガラスの耐水性試験前後の外観写真

31

Fig 216 FP ガラスの耐水性試験前後の外観写真

32

Fig 217 SP ガラスの XRD パターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

33

Fig 218 Sn-Nb-P ガラスの XRD パターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

34

Fig 219 SNP ガラスの XRD パターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

35

Fig 220 5SZP ガラスの XRDパターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

36

Fig 221 S5ZP ガラスの XRDパターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

37

Fig 222 FP ガラスの XRD パターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

38

Fig 223 各ガラス系の DR と OP の関係性

39

Fig 224 各ガラス系の重量減と OP の関係性

40

第 3章 分光法を用いたスズリン酸塩系ガラスの構造解析

31 緒言

前章ではSP ガラスおよび第三成分に Nb2O5 ZnOを添加した Sn-Nb-P ガラスSNP ガラ

スSZP ガラスの物性特に耐水性に関する第三成分添加の有効性を明らかにしたその添

加した第三成分の二種類についてもNb2O5 の方が ZnO よりも溶出速度重量減ともに抑

制することができSP ガラスの低ガラス転移温度という特性も維持されていることが判明

したしかし現段階では本研究の主要な物性である耐水性改善の要因が明確になって

いない組成の観点からはOP の値が高い組成が良好な耐水性であることが分かったが

組成だけでは耐水性改善のメカニズムについて完全には理解できないここでリン酸塩

ガラスの溶出のメカニズムは第 1 章で述べたように加水分解反応と水和反応が要因とな

る[1 2]この機構はそれぞれリン酸の構造つまり架橋酸素 BO の数が大きく関わって

おりリン酸アニオンの[PO4]ユニットの架橋酸素数を知ることが重要であるこの BO の

情報を得るためにはガラス構造を示す指標の一つである Qn(n は[PO4]ユニット中の架橋

酸素数を表す)を調べることが必須であるまたQn の分布を調べるためにはガラスの

構造解析を行う必要性がある

ガラスの構造解析には種々の方法があり特にラマン分光法や赤外(IR)分光法核

磁気共鳴法(NMR)などの分光学的手法を用いた構造解析の報告が多い[3-5]ラマン分光

法および IR分光法は原理は異なるがどちらも結合の振動モードを測定する手法であり[6]

リン酸塩ガラスだけでなくケイ酸塩ガラスホウ酸塩ガラスなど様々なガラス系にて測

定がなされている[7 8]また得られた結合状態の情報からリン酸塩アニオンの Qn分布

を調べることも可能であるNMR は共鳴吸収ピークの化学シフト(共鳴周波数のズレ)

から構造を決定する手法であるガラスの場合SiO2や B2O3 P2O5といった網目形成酸化物

の Qn分布を得るために一般的に使用されている手法である[9]

今回これらの測定の中でラマン分光法を選択し構造解析を行ったラマン分光法は

測定する際にサンプル形状を気にすることなく基本的にそのまま測定できるためIR 分

光法のようにサンプル形状で測定方法を変える必要はないまたIR 分光法では例えば

KBr 錠剤法やヌジュール法のように測定を行うためのサンプル調整に手間がかかる場合が

ある[6]さらに比較対象の FP ガラスではNMR を測定できないため作製ガラスを全

て比較検討できるようにラマン分光法を選択した

本章ではラマン分光法を用いて各ガラスの構造解析を行い[PO4]ユニットの Qn分布を

調査し平均 BO数 nを算出することで耐水性と構造の関係性を検討したまたラマン

分光法によって得られた Qn分布の妥当性を確認するためにSP ガラスおよび 67S5N28P ガ

ラスの NMRを測定も行い比較した

32 実験方法

41

321 サンプル準備

ラマン分光およびメスバウアー分光の測定では第 2 章で作製した各ガラスのバルク体

を用いたWD試験に使用したサンプルとは別にラマン測定用のサンプルを用意した適

度な大きさ大体 15 cm角程度のサイズになるようにガラスカッターで切断しその後

十分な平滑性を得るために鏡面研磨を施した

322 ラマン分光測定

使用したラマン分光装置は顕微レーザーラマン分光装置(Jasco NRS-5100)を用いた

用いたレーザー波長は 53208 nmであり400 - 2000 cm-1の範囲で測定した

Qn 分布を導くためにピークフィッティングを行いリン酸塩アニオンのラマンバンド

が現れる950 - 1250 cm-1付近および 700 - 750cm-付近の範囲で定量した

323 31P MAS NMR測定

31P MAS NMRの測定は Varian NMR System 500 を用いて32 mmの MASプローブ

202309MHzにて行った測定パラメーターを以下に示すπ4 パルス長さ 14 μs 待ち時間

(pulse delay)10 s 積算回数 3600 scan シリンダー円筒形状の Zrローターの回転スピード

160 kHz referenceとして二番目の基準物質として使われる NH4H2PO4を使用化学シフト

は85 H3PO4溶液から δ = 10 ppmである

33 結果考察

331 各ガラス系のラマンスペクトル

Figs 31 - 35にラマンスペクトルを示す各ピークは以下の通りに帰属し各スペクト

ル中に該当する構造をピーク位置に示した

1230 - 1260 cm-1 P=O NBO Q

2 [10]

1110 - 1150 cm-1metaphosphate (PO3)

- Q

2 [10]

1030 - 1100 cm-1pyrophosphate (PO35)

2- Q

1 [10]

970 - 1000 cm-1orthophosphate (PO4)

3- Q

0 [10]

920 - 930 cm-1asymmetric (P-O-P) Q

1 [10]

730 - 750 cm-1symmetric (P-O-P) Q

1 [10]

710 - 720 cm-1asymmetric (P-O-P) Q

2 [10]

810 - 820 cm-1Nb-O [NbO4] tetrahedron [11]

900 - 920 cm-1Nb-O isolated [NbO6] octahedron [11]

42

SP ガラスのラマンスペクトル(Fig 31)を見ると50S50P 60S40P ではmetaphosphate

の Q2 構造が支配的であるがSnO 量が増えるにつれてその構造が変化し70S30P では

pyrophosphateの Q1構造と orthophosphateの Q

0構造が共存した構造となっているまたSnO

量の少ない 50S50P および 60S40P において確認されたQ2構造の P=O のピークが見えなく

なっているつまり耐水性と関連して考えるとSnO量が増えるにつれてP-O-P 結合か

ら Sn-O-P 結合に代わり水分子との反応である加水分解反応を妨げる構造に変化している

ことがわかる

Figs 32 33にNb2O5を添加した Sn-Nb-P ガラスおよび SNP ガラスのラマンスペクトル

を示すまずSn-Nb-P ガラスについてNb 無添加の 65Sn-0Nb-35P は主に Q1構造であ

りNbO25が添加されることによってQ0構造に変化しQ

1 Q

0構造が共存しているような

ピークが得られた添加量が少ないガラス系であるため徐々に変化しているのを確認し

た800 cm-1を少し越えた 810 - 820 cm

-1付近にNb2O5を添加することでピークが現れそ

して添加量を増量することで強度が強まるピークがありこのピークは四面体の[NbO4]

のものと判断した

SNP ガラスのラマンスペクトルについてはNb2O5添加量を固定した組成であるためSP

ガラスのような挙動が観察された50S50N45P では50S50P ガラスと同じようにQ2構造

が主な構造でありSnO量の増加に伴って60S5N35P Q1構造67S5N28P Q

0構造に支配

的な構造が変化しているこれはSP ガラスと同じ傾向を示しているためP-O-P rarr Sn-O-P

に置き替わっていることが示唆されるNb-O に関するピークでは50S5N45P のみ[NbO4]

四面体のピークを確認できず900 - 920 cm-1付近に[NbO6]八面体のピークが確認された

SnO量が増量した 60S5N35P では810 cm-1付近の [NbO4] 四面体のピークが現れているが

[NbO6]八面体のピークと 900 - 920 cm-1付近の Q

1構造のピークが非常に近い(ほぼ重なって

いる)ことから60S5N35P については[NbO4] 四面体および[NbO6]八面体の共存の可能性

も考えられるまた67S5NP28 では[NbO4] 四面体のみのピークが観察されたためこ

の Nb-O の配位数変化は[PO4] unitの状態によって変化している可能性も示唆された

ZnO を添加した S5ZP ガラスおよび 5SZP ガラスのラマンスペクトルを Fig 34 に示す

図の下部三つが S5ZP ガラス上部三つが 5SZP ガラスのスペクトルであるSZP ガラスの

二系統を比べるとあきらかなスペクトルの違いが確認された各ガラス系で確認すると

SnO 量が最小の 55S5Z40P はQ2構造と Q

1構造の範囲に跨っているようなスペクトルが得

られた62S5Z33P および 65S5Z30P のスペクトルからはどちらもほぼ Q1構造であると判

断した5SZP のスペクトルは1000 - 1250 cm-1付近の範囲で裾を引くような(なだらかな)

スペクトルが得られたZnO 量が最小の 5S55Z40P にはQ2構造が主な構造に見えるが

shoulderピークのような Q1構造(1030 - 1100 cm

-1)が確認できる5S62Z40P においては

1000 - 1250 cm-1付近の範囲まで幅広いスペクトルが得られた730 - 750 cm

-1付近にピーク

が現れているためおそらく Q1構造が最も多く存在していると考えられる65S5Z30P では

Q1構造Q

0構造が共存しているようなピークが得られた

43

FP ガラスのラマンスペクトルを Fig 35 に示すFe量の少ない 20F80P 25F75P と他の三

つで構造が異なっていることである20F80P 25F75P はQ2構造と Q

1構造が基本構造にな

っていると判断できる 30F70P は1110 - 1150 cm-1付近に shoulderピークのようなものがあ

りQ2 Q

1 Q

0構造が共存しているようなスペクトルであった35F65P 40F60P はQ1構造

が主な構造でQ0構造があると判断した

332 平均 BO数 n (Qn分布)

まずピーク分離について散乱断面積が見積もれなかったためラマンの散乱強度比

を Qn分布として簡易的にピーク分離を行い(Fig 36)そこから平均架橋酸素数 BO 数 n

を算出したここでFig 37 に 31P MAS NMRスペクトルを示しTable 31に NMRおよび

ラマン分光より得られた平均 BO 数 n を示す(NMR の帰属 reference [12])表よりNMR

とラマンから得られた Qn分布はほぼ一致していることが分かった60S40Pについては支

配構造が NMR(Q1) ラマン(Q

2)で逆になったこれは60S40P の組成がQ

2と Q1のほぼ中

間の組成になるためこのようなズレが生じたと考えられるしかし今回のラマンによ

る Qn分布の算出についてはほぼ問題ないと判断した

Table 32にラマンスペクトルより求めた Qn分布平均 BO 数 nをを示しTable 24に示

した DR 重量減の結果を併記する

SP ガラスのうち耐水性が低いガラスは Q2構造によって形成されているSnO量の増加

によって NBOの増加とともに耐水性の向上が確認できSnOが入ることでSn-O-P 結合を

形成し水分子からの攻撃を受けにくくなっていることが考えられる

Sn-Nb-P ガラスでは基本的に Q1構造が主構造でNb2O5の添加が増えるにつれQ

0構

造が支配的になり耐水性は次第に向上していく最も耐水性のよかった 65S-5Nb-30P は

Q0構造での割合が非常に高く平均 BO数 n値が 03であった

SNP ガラスではP2O5量が多い組成の 50S5N45Pにおいても平均 BO数 nが 60S40P と

同じながらも耐水性が良くなっている67S5N28P はほぼ完全に Q0構造であり平均 Q

n

値は 0となった

SZP ガラスについてはS5ZP 5ZSP のどちらの系列についても耐水性の結果に大きな差

というものは確認されなかったが構造的にも平均 BO数 nが 09 10 17という結果であ

った

FP ガラスについてはFe2O3 lt 30 molのときは平均 BO 数 nが20 19と高い数値を

示したが耐水性は非常に良好であったこの結果より組成だけでなく構造的にも耐

水性高くなる要因が不明である一つの原因の可能性としてメスバウアーより得られた

Fe2+の存在比が 40以上と高かったことがFe2O3含有量が少ない組成時には効果的になっ

ているのかもしれない

333 平均 BO数 nと耐水性の関係性

44

Fig 38に DRと平均 BO数 nの関係性についてFig 39に重量減と平均 BO数 nの関係

性をそれぞれ示すまたOP の時と同様に各図にリン酸塩の三つの構造の平均 BO数

n も表記した双方の図よりDR 重量減共に平均 BO 数 nが低下することで単調に下がっ

ていることが分かるまた耐水性の良かったNb2O5添加の Sn-Nb-P SNPガラスはの DR

の挙動(傾き)はOP 時とも異なった挙動が得られた

Fig 310に OP と平均 BO数 nの関係を示す図中に示す茶色metaphosphate 黄色

pyrophosphate 灰色orthophosphate であるこの図から耐水性改善には平均 BO 数

n を下げOP を上げることが重要であるのが分かるまたNb5+の添加はOP を上げる

だけでなく平均 BO 数も減少させることから非常に効果的な成分であることが明らかで

あるこれはP5+から同酸価数 Nb

5+に少量でも置き換えることで平均 BO 数 n を下げ

OP を上げることを可能としている(実際に orthophosphate の OP4 よりも高い OP でガ

ラスが作製できている)つまりNb5+の添加によって P-O-P 結合が減少し水和反応加

水分解反応が抑制されているからである

以上の結果SP 系ガラスの耐水性改善には低い平均 BO 数と高い OP の組成にするこ

とが重要でNb2O5の添加は非常に効果的であることが分かったその一方でガラス中の

詳細な構造的要因についてははっきりしていないため次章の第 4 章にてさらに詳し

い構造解析を行い耐水性改善の要因について調査を行った

34 結言

本章ではラマン分光を使用して各ガラス系のリン酸塩アニオンの構造を簡易定量で

評価し組成と構造の関係について考察した

平均 BO 数 n と耐水性に関してはDR および重量減が平均 BO 数 n の減少で単調に低下

した結果が得られた

平均 BO数 nと OP の図より耐水性改善には平均 BO数 nを下げることそして OP

を上げることが重要であることが明白であった

Nb5+の添加は平均 BO数を減少させるだけでなくOP も上げることからガラス構造内

の P-O-P 結合を減少させる故に水和反応加水分解反応が抑制され耐水性が大幅に

改善された故にNb2O5 のような高価数金属酸化物を添加することが効果的であること

が示唆された

参考文献

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46

Fig 31 SP ガラスのラマンスペクトル

47

Fig 32 Sn-Nb-P ガラスのラマンスペクトル

48

Fig 33 SNP ガラスのラマンスペクトル

49

Fig 34 SZP ガラスのラマンスペクトル

50

Fig 35 FP ガラスのラマンスペクトル

51

Fig 36 ラマンスペクトルのピーク分離例(67S5N28P)

Raman Shift (cm-1)

52

Fig 37 NMRスペクトル

Table 31 NMR およびラマン分光より得られた SP 67S5N28P ガラスの

Qn分布および平均 BO数 n

53

Table 32 各ガラスのラマンスペクトルより求めた Qn分布結果

(表の赤線より右側の結果は Table 22 より)

1 仕込み組成による数値

2 Fig 2212 に示した析出物を取り除いた後の数値

54

Fig 38 DR と平均 BO数 nの関係性

55

Fig 39 重量減と平均 BO数 nの関係性

56

Fig 310 OP と平均 BO数 nの関係性

Meta

Pyro

Ortho

57

第 4章 放射光を用いたスズリン酸塩系ガラスの構造解析

41 緒言

前章の第 3 章にてラマン分光法を用いて SP 系ガラスの構造解析により Qn分布を導き

出したことで耐水性と構造の関係についてある程度関連性を導くことができたリン

酸アニオンについてはQ0(orthophosphate)構造 gt Q

1(pyrophosphate)構造 gt Q2

(metaphosphate)構造の順で良耐水性となるしかしSn Nbおよび Znの局所構造につ

いては知見が得られていないラマン分光や IR分光などの分光学的手法を用いてSnや

Nb Zn の周辺の局所構造を知るには限界があるまたガラスの構造解析を行う上で非常

に重要な因子である中距離構造の評価には分光学的手法は不向きである[1]

そこで局所構造や中距離構造を知るために有効な手法として放射光線を用いた構造

解析がある放射光(SR 光)とはシンクロトロンなどの加速器で高速に加速された電子

が進行方向を磁場によって変えられた際に放射する電磁波である[2]エネルギーが高く

(短波長)輝度が高い特性を有している日本国内では兵庫県佐用町の SPring-8や茨城

県つくば市の高エネルギー加速器研究機構佐賀県鳥栖市の佐賀県立九州シンクロトロン

光研究センターなど複数個所に放射光施設が設置されている

放射光を用いたガラスの構造解析には一般的に高エネルギーX 線回折(High Energy

X-ray diffraction HEXRD)が用いられるこの回折実験から高い散乱ベクトル Q(= 4π sinθλ)

まで回折データが得られる多種類の原子から構成される物質の場合はFaber-Ziman 型[3]

の構造因子 S(Q)を用いる以下の式に示すようにFaber-Ziman 型構造因子 S(Q)は同種また

は異種の原子による相関の重み関数付の和として示される例として SiO2ガラスで説明す

ると構造因子 S(Q)は三種類の原子付の S(Q)の重み付の和として表されていることが分か

I(Q) 散乱断面積 ltgt 原子一個当たりの平均値 f(Q) 原子散乱因子 W 重み関数

通常の研究室で使用される X 線回折(XRD)装置で用いられる特性 X 線はCuKα線(λ

= 0154 nm 81 keV)が最も良く用いられより高いエネルギーの X 線が必要な場合は

MoKα線(λ = 0071 nm 175 keV)が使用される一方でSPring-8のビームライン BL04B2

で行われる高エネルギーX 線回折(HEXRD)測定で使用される SR のエネルギーは378 keV

58

~ が使用可能である[2]従ってガラス以外の液体のような非晶質物質にも非常に精度

よく構造解析が行われている[4]

また局所構造解析の一つに X線異常散乱法という測定方法がある[5 6]これは通常

の X 線回折実験では分離不可能な特定元素に関連する部分構造因子(散乱強度曲線)を得

ることができる手法である今回 HEXRD の測定時に使用したエネルギー614 keV では各元

素の異常散乱項のエネルギー依存性は確認されない(Fig 41)その一方でFig 42に示す

Sn の吸収端付近の 292 keV付近ではSnの異常分散項のエネルギー依存性が確認できる

つまりSnの吸収端近傍より低エネルギー(E)側の異なるエネルギーの X線(E1 E2)を

使って散乱強度を測定し各 E における異常分散項(f`)の変化(つまり高い E1 から低い

E2 の散乱強度の差分)を利用して Snに関する部分構造因子を求める構造解析が AXS 法で

あるこの測定法は古くから知られている方法ではあるが装置の測定条件や設備の問

題からなどから使用があまり普及していなかった[5 6]近年になり金属ガラスの構造解

析について徐々に報告が出てきており今後注目される測定法である

HEXRD および AXS 法などから得られたデータ実測の構造因子 S(Q)は一次元の限られ

た構造情報であるためガラスなどの非晶質物質の中距離構造を解明するためにはこれ

らのデータを基に三次元構造を求める必要がある三次元構造モデルの作成には逆モンテ

カルロ(RMC)シミュレーションを使用することが有効である[7]このシミュレーション

は任意で決めたシミュレーションボックス内の粒子をランダムに動かすことで実測の

構造因子 S(Q)を再現する三次元構造モデルを構築する方法である

SP ガラスについては分光学的手法について数多く報告があるが放射光を用いた回折

法はほとんど適用されていないそこで本研究では HEXRD および AXS 法を用いた構造

解析を行うことでSn Nb周りの構造を解明すると共にSNP ガラスの耐水性改善のメカ

ニズムについて考察したまたAXS 法の有効性についても検討した測定を行ったガラ

スはSP ガラスおよび最も耐水性の高かった 67S5N28P を選択した

42 実験方法

421 HEXRD AXS法

HEXRDはSPring-8のビームライン BL04B2 で測定を行ったエネルギー614 keV の X

線を用いた測定サンプルの厚みは09 mm (plusmn0005 mm)になるまで研磨を行った

AXS 測定はSPring-8のビームライン BL13XUを使用した(Fig 43)それぞれの測定し

た X 線のエネルギーについて以下に示す

①Sn K吸収端hellip292 keV near edgehellip291452 keV (-60 eV) far edgehellip289751 keV (-230 eV)

②Nb K吸収端hellip1899 keV near edgehellip189562 keV (-30 eV) far edgehellip187863 keV (-230 eV)

測定に使用したサンプルの厚さが015 - 030 mmとなるまで研磨を施した

SP ガラスについて50S50P 60S40P 67S33P の三組成のガラスを測定した70S30P に関

59

しては測定を試みたが放射光照射によって結晶化してしまいガラス部分の正確な構

造因子を得るための強度補正ができず解析を断念した

422 RMCのモデリング

Table 41 に RMC の各種パラメーターを示す粒子数は約 5000 個でそれに伴う boxの一

辺の長さは約 42 ~ 46 Ǻになった拘束条件にP の配位数が 4になるような条件を付け

加えたFig 44にSn2P2O7結晶および Sn3P2O8結晶の動径分布関数(RDF)をTable 32

にRDFから得られた第一近接距離[8 9] を示すこれらの数値を使用しcutoffを決定し

たNb-O についてはいくつかの文献値を参考にした[10 11]

各ガラスの RMCのモデリングは①HEXRDから得られた S(Q)のみ②S(Q)および AXS

から得られた部分構造因子を加えた場合でそれぞれ計算した

43 結果考察

最初にNbの AXSから得られたデータについて解析を試みたが妥当な構造モデルが得

られなかったためSnの AXSのみで解析を進めたNb2O5の量が 5 molと少量であったた

めあまり精度の高いデータが得られなかったと推測される

431 実測の HEXRDおよび AXSの結果

4311 実測 HEXRDの S(Q)

Fig 45 に実測HEXRDの S(Q)を示す四つの組成ともに実測HEXRDの S(Q)が得られ

Nb2O5添加の 67S5N28P ガラスでは Low Q 側に変化が確認された

4312 実測散乱強度曲線

Fig 46 に Snの散乱強度曲線を示す(a) の 67S33P のこの曲線からはfar edgeおよび

near edge のエネルギー間で差分が見られエネルギーの依存性が確認された50S50P

67S5N28P のガラスについても同じように差分が確認されたが(b)の 60S40P についてのみ

他とは若干異なる結果(緑丸)であったためRMC の構造解析には差分の構造因子ではな

くfar edge near edge 二つの構造因子を用いた

4313 全相関関数 T(r)

Fig 47 に全相関関数 T(r) を示すHEXRD から得られたものを実線でSnの AXS から

得られたものは点線で示し組成ごとに重ねて表示した図中に各ピークについて帰属し

ているがSnの T(r)からはSn-O Sn-P Sn-Snのみのピークを確認した

432 RMCの計算結果および考察

60

構造モデルの一例として67S5N28P ガラスの得られた構造モデルをFig 48に示す水

色の多面体 unitSnON 黄色の多面体 unitPO4 ピンクの多面体 unitNbONである以下

詳細な構造解析の結果および考察を記す

4321 RMCのフィッティング結果

RMCのフィッティング結果の一例として67S33P の HEXRD と Snの AXS の構造因子か

ら得た結果を示す(Fig 49)二つの構造因子を加えて計算した結果においてもHEXRD

の S(Q) AXS の S(Q)に各々に対する良好なフィッティング結果が得られた他の組成も

同様なフィッティング結果が得られた

4322得られた各 pairの平均配位数平均角度平均結合距離

RMCの結果によって得られた各 pairの平均配位数平均角度平均結合距離を Tables 43

に示す上段が HEXRD の S(Q)のみ下段が HEXRD に Sn の AXS の部分構造因子を加え

て結果である最下部は比較のためにSn2P2O7の情報を記載した[8]

P-O pairについてRMCモデル中の PON多面体に関して平均配位数 Nが 4および P-O

の平均結合距離が約 160Å平均結合角度angO-P-O が約 109degという結果が得られた組成

による大きな違いは確認されなかったのはP の配位数が 4になるように拘束条件をかけた

結果であると考えられるSnON多面体についてはSnO量の増加 = OP の増加であり平

均配位数 Nが 3 ~ 35へ増加した平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約

22Åで組成による大きな変化はほとんど見られなかったNb2O5を 5 mol添加したガラ

スではNbON多面体の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平均配位数 N約 4Nb-O 平均結

合距離約 20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O(約 105deg)と値が近いこと

また6配位ではなく 4配位として主に存在していることからSnO と同じような働きをし

ていると推測される

以上の結果からNb2O5添加の耐水性改善の要因として結合距離が Sn-O が約 22Åに対

し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強固にして

いることも一つの要因として考えられる

また67S5N28P ガラスの各多面体モデルを確認すると(Fig 410)P は PO4Snは SnO4

と SnO3Nbは NbO4をそれぞれ再現している

4323得られた各 pairの結合様式

RMC の結果により得られた各 pair の結合様式を Tables 44 に示す上段が HEXRD の

S(Q)のみ下段が HEXRDに Snの AXS の部分構造因子を加えた結果である最下部は比

較のためにSn2P2O7の情報を記載した[8]

結合様式に関してはPO4四面体は他の多面体も含めてほぼ頂点共有で存在している

SnON多面体についてはSnO 量が少ない配位数が 3 に近い場合頂点共有以外の共有の

61

割合も多くSnO 量が増えるにつれて頂点共有が主になり網目形成体として振舞ってい

ると考えられる組成によって平均結合距離や平均角度の大きな変化が見られなかったこ

とから平均配位数が結合様式を決める重要なファクターであるということも考えられる

またHEXRD と AXS 法の結果がほぼ同じであったこれは主成分が SnO のガラスであ

るためHEXRDでも十分に詳細な構造が得られたため大きな変化が現れなかったと考え

られるNbON 多面体はPO4 四面体と SnON 多面体とはほぼ頂点共有で繋がっている以

上の結果よりSnO量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体的に各多面体同士の

頂点共有が増えていることから耐水性の改善には頂点共有を多く含む構造であること

が重要である或いは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的となって

いるということが推測されるFig 411に 67S5N28P ガラスの構造モデルを示す各多面

体はほぼ頂点共有で繋がっていることが確認できる

4324 平均 BO数の比較

Tables 45にNMR Raman RMC(HEXRD) RMC(HEXRD + AXS)の平均BO数を示すRMC

から得られた平均 BO 数 nはNMR Raman と同様に Nb2O5の添加による大幅な減少が確認

されたしかしNMR Raman と比較すると全組成において数値が大きすぎで適当でない

50S50P の構造モデルを観るとPO4四面体間で3配位 O の存在が確認された(Fig 412)た

め実測で得られた n値を再現できるようなPO4四面体モデル間の繋がり方に関する拘束条

件を加えて RMCを計算する必要性があるまた仮に3配位 Oの存在があるとすると電

子状態の変化が生じていることがと示唆されるため分子軌道計算を用いて電子状態解析

を行い確認する必要がある

4325 耐水性の改善について

Nb2O5を添加のガラス構造への影響について①6配位ではなく 4配位として主に存在し

ていることからSnO と同じような働きをしていると推測される②結合距離が Sn-O が約

22Åに対し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強

固にしている③ガラス構造中で全体的に各多面体同士の頂点共有が増えている以上の

ことが判明した以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性

耐候性を改善した要因として考えられる

44 結言

本章では分光学的手法では評価できないガラスの中距離構造局所構造について理解

するために放射光を用いた構造解析を実施しSP ガラスの構造と耐水性改善について考

察したHEXRDおよび AXS法を用いて測定を行い得られたデータを RMCシミュレーシ

ョンにて解析を行った

解析の結果 Sn-O pair については平均配位数 Nが 3 ~ 35でSnO量の増加 = OP の増

62

加に伴い高くなった平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約 22Åであ

ったP-O Sn-Oについては組成による大きな変化はほとんど見られなかった67S5N28P

ガラスの Nb-O pair の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平均配位数約 4Nb-O 平均結合距

離約 20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O(約 105deg)と値が近いことま

た6配位ではなく 4配位として主に存在していることからSnOと同じような働き(網目

形成体)をしていると推測されるまた結合距離が Sn-O が約 22Åに対し Nb-O は約 20

Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強固にしていると言える

SnO 量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体的に各多面体同士の頂点共有が増え

ていることから耐水性の改善には頂点共有を多く含む構造であることが重要である

もしくは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的であることが推測さ

れる以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性耐候性を

改善した要因として考えられる

またAXS 法の有効性についても確認し効果的であることが判明したただし今回

は主成分が Sn の組成のガラスでありHEXRD でも十分に詳細な構造が得られたため

大きな差は現れなかった

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[7] RLMcGreevy and LPuszai Mol Simulation 1 359(1988)

[8] V V Chernaya A S Mitiaev P S Chizhov E V Dikarev R V Shpanchenko E V Antipov

MV Korolenko and PB Fabritchinyi J Chem Mater 17 284-290 (2005)

[9] M Mathew L W Schroeder and T H Jordan Acta Cryst B33 1812-1816 (1977)

[10] J S Taylar and M P Cohs J Am Ceram Solids 109 [9] 2834-2835 (1987)

[11] D Munoz-Martin A Ruiz de La Cruz J M Fernandez-Navarro C Domingo J Solis and J

Gonzalo J appl Phys 110 023522 (2011)

63

Fig 41 各原子の異常分散項のエネルギー依存性

Fig 42 Sn の異常分散項のエネルギー依存性

64

Fig 43 SPring-8の BL13XU

65

Tab

le 4

1

RM

Cの各パラメーター

66

Fig 44 Sn2P2O7 Sn3P2O8結晶の RDF

Table 42 Sn2P2O7 Sn3P2O8結晶の各 pairの第一近接距離

67

Fig 45 得られた実測 HEXRDの S(Q)

68

Fig 46 Sn の異常散乱測定により得られた散乱強度のエネルギー依存性

(a)67S33P (b)60S40P

69

Fig 47 全相関関数 T(r)

太線 HEXRD より

細線 Sn の AXSより

70

Fig 48 67S5N28P ガラス構造のモデル

71

Fig 49 RMC フィッティングの結果

72

Tab

le 4

3 各

pairの平均配位数角度結合距離

73

Fig

4

10

67

S5

N2

8Pガラスの各多面体モデル

74

Tab

le 4

4 各

pairの結合様式

75

Fig 411 67S5N28P ガラスの構造モデル

76

Table 45 平均 BO 各数 nの比較

Fig 412 50S50P ガラスの構造モデル

77

第 5章 総括

本研究ではSP ガラスを対象とした本研究では鉛フリー代替ガラスまたは希土類フ

リー蛍光体として SP ガラスの新規高機能化を将来的に目指し問題点であるldquo化学的耐久

性rdquoの改善につながる知見を得ることを目的としたそこでまずSP ガラスを母体ガラ

スとし第三成分に Nb2O5を添加した Sn-Nb-P SNP ガラスZnO を添加した SZP ガラスを

作製し耐水性を中心とした物性評価を行った次に分光学的手法で構造解析を行い

Qn 分布を導き出した最後に放射光を用いた構造解析を行い耐水性改善に関する構造的

な考察を行った以下に本研究で行った検討内容を示す

(1)SPガラスおよび第三成分Nb2O5 ZnOを添加した三成分系SPガラスの物性評価(第 2章)

(2)SP 系ガラスの分光学的手法による Qn分布導出(第 3章)

(3)放射光を用いた SP 系ガラスの構造解析構造と耐水性改善の関連について(第 4章)

各章についてまとめた結果を以下に示す

第 2章

第 2章では二成分系および三成分系のリン酸塩系ガラスの各種物性(密度や熱的特性

耐水性)の評価を行った二成分系ではSP ガラスに加え良好な耐水性を有する鉄リン

酸塩(Fe2O3-P2O5)系ガラス(以下 FP ガラス)を比較のために三成分系では二成分系

の SP ガラスに Nb2O5を添加したニオブ含有 SP ガラス(SNP ガラス)および ZnO を添加し

た亜鉛含有 SP ガラス(SZP ガラス)を作製した

今回作製した SP 系ガラスは低ガラス転移温度を有していた各組成の温度域はSP

ガラスTg le 280 Sn-Nb-P SNPガラスTg le 3505SZP S5ZPガラスTg ≦ 450であった

各種 SP ガラスの耐水性試験の結果二成分系の SP ガラスよりも三成分系ガラスの方が

良好な耐水性を有していた65Sn-5Nb-30P 67S5N28P ガラスが最も耐水性が良好であり化

学的耐久性の改善には Nb2O5が ZnOよりも効果的であった

組成と耐水性に関してはDRおよび重量減がOP増加で単調に低下した結果が得られた

つまり耐水性を改善させるにはSP 系ガラスのガラス化範囲を拡大かつ OP を増大させ

る第三成分の添加が有効であることが示唆された

第 3章

第 3章ではSP 系ガラスの分光学的手法による Qn分布の導出を行ったラマン分光法を

用いて各ガラス系のリン酸塩アニオンの構造を簡易定量で評価し組成と構造の関係に

ついて考察した平均 BO 数 n と耐水性に関してはDR および重量減が平均 BO 数 nの減

少で単調に低下することが明らかとなった

平均 BO 数 n と OP の関係より耐水性改善には平均 BO 数 n を下げることそして

OP を上げることが重要であることが明らかになった

78

Nb5+の添加は平均 BO数を減少させるだけでなくOP も上げることからガラス構造

内の P-O-P 結合を減少させ水和反応加水分解反応が抑制され耐水性が大幅に改善さ

れることが示唆された故にNb2O5 のような高価数金属酸化物を添加することが効果的

であることが再度確認された

第 4章

耐水性向上についてより深く評価するためSP SNP ガラスの局所構造に関する知見を得

ることを目的に放射光を用いた構造解析を行った高エネルギーX 線回折(HEXRD)お

よび X 線異常散乱(AXS)法で測定したデータを再現する構造モデルを逆モンテカルロ

(RMC)シミュレーションで構築し構造解析を行った

RMC モデル中の PON多面体に関して平均配位数 Nが 4および P-O の平均結合距離が約

160Å平均結合角度angO-P-Oが約 109degという結果が得られた組成による大きな違いは確

認されなかったSnON多面体については平均配位数 N が 3~4 でSnO 量の増加に伴い 4

に近い値となった平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約 22Åで組成

による大きな変化は見られなかった

Nb2O5を 5 mol添加したガラスではNbON多面体の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平

均配位数N約4Nb-O平均結合距離約20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O

(約 105deg)と値が近いことまた6配位ではなく 4配位として主に存在していることから

SnO と同じような網目形成体として働いていると推測されたまた結合距離が Sn-O が約

22Åに対し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強

固にしていると考えられるまたSnO 量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体

的に各多面体同士の頂点共有が増えていることから耐水性の改善には頂点共有を多く

含む構造もしくは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的であること

が示唆された以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性

耐候性を改善した要因として考えられる

またAXS 法の有効性についても確認し効果的であることが判明したただし今回

は主成分が Snの組成のガラスでありHEXRD でも十分に詳細な Snの周辺構造が得られ

たためAXSを利用した場合との大きな構造の差は認められなかった

本研究では様々な優れた特徴を有する SP ガラスにおける耐水性改善のメカニズムにつ

いて検討を行ったこの系のガラスについてはこれまでほとんど利用されていなかった

放射光を用いた構造解析を駆使し第三成分の添加によってどのような構造的変化が生じ

耐水性を改善させるか新たな知見を得ることができた最終目標である機能性ガラスの

開発における新たなる材料設計指針の確立に対してldquo耐水性rdquoに関しては概ね明らかにな

ったと考えられる一方で今回検討していな電子状態化学結合性についても評価する

ことで溶出メカニズムの解明が可能になり材料設計指針の確立が期待される

79

発表論文リスト

口頭発表

第 2章および第 3章

(1) SnO-P2O5 系ガラスへの酸化物添加効果

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎

日本セラミックス協会第 25 回秋季シンポジウム No3C06 (名古屋市 2012年 9月)

(2) Effect of Nb2O5 addition to SnO-P2O5 glass (Poster)

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

International Union of Materials Research Societies International Conference on Electronic

Materials IUMRS-ICEM 2012 A-9-P26-003 (Yokohama 2012 年 9月)

(3) スズリン酸塩系ガラスの蛍光特性耐水性に及ばす酸化物の添加効果(ポスター)

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎

日本セラミックス協会 2013 年年会 1P070 (東京 2013年 3月)

第 4章

(1) 放射光を用いたスズリン酸塩ガラスの構造解析

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎小原真二臼杵毅

日本セラミックス協会第 27 回秋季シンポジウム 2B22 (鹿児島市 2014年 9 月)

(2) Structural analysis of tin phosphate glasses by synchrotron radiation (Poster)

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba Shinji Kohara Takeshi Usuki

International Congress on Glass ICG Annual Meeting Bangkok 2015 P14-138 p186 (2015)

発表論文

(1) Effect of Nb2O5 addition to SnO- P2O5 glass

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

Journal of the Ceramic Society of Japan Vol 120 No 11 pp530-533 (2012)

(2) Structural analysis of SnO- P2O5 glass

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

Journal of the Ceramic Society of Japan(準備中)

80

謝辞

本研究を遂行するにあたり終始暖かいご指導ご助言並びにご鞭撻を賜わりました岡

山大学大学院環境生命科学研究科 難波徳郎教授に心より感謝の意を表します

また本研究を遂行するにあたり懇切丁寧なご指導とご意見をしていただいた岡山大

学大学院環境生命科学研究科 紅野安彦准教授環境環理センター 崎田真一助教に心より

感謝いたします

本研究を遂行するにあたりラマン分光測定の使用についてご助言ご教授して頂い

た岡山大学自然科学研究科 藤井達生教授中西真助教に心より感謝の意を表します

Sn のメスバウアー測定の際に協力して頂いた岡山大学自然科学研究科先端自然科学教

育研究推進本部高田研究室 松本修治特任助教(当時旭硝子株式会社中央研究所)また

Feのメスバウアーを測定の際に協力して頂いた岡山大学自然科学研究科 藤井達生教授に

心より感謝の意を表します

固体 NMR の岡山大学自然科学研究科 早川聡教授に心より感謝の意を表します

本研究を遂行するにあたりSPring-8 にてHEXRD および AXS 法の測定法および原理

についてご教示頂きました物質材料研究機構 小原真司博士ならびに山形大学 臼杵毅

教授に心より感謝の意を表します

本研究は多くの後輩諸君の協力によって遂行されました特に実際に共同研究共同

実験を遂行して頂いたOG 藤原沙弥香さん博士前期課程 2 年 東利彦君OB 徳岡太誠

君学士課程 4年 塩田将大君に心より感謝の意を表しますまた難波研究室で共に研

究生活を過ごした卒業生在学生の方々に感謝の意を表します

また同時期に博士後期課程に在籍された香川高等専門学校の桟敷剛さんにはNbに

関する有益な情報だけでなく辛い状況でも励ましを頂きました心より感謝の意を表し

ます

最後に長きに渡る学生生活を認め経済面だけでなく精神面でも支援してくださった

家族に心より深く感謝の意を表します

平成 28年 3月

福井 聡史

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23

Fig 25 SP SZP ガラスの作製フローチャート

Fig 26 Sn-Nb-P SNP ガラスの作製フローチャート

(気泡や脈理のようなものが確認できた組成)

24

Fig 27 FP ガラスの作製フローチャート

Fig 28 耐水性試験(MCC-1法)

25

Table 21 各ガラスの組成分析結果

26

Fig 29 Sn-Nb-P ガラスのメスバウアースペクトル

Table 22 Sn-Nb-P ガラスのメスバウアーパラメーター

27

Fig 210 FP ガラスのメスバウアースペクトル

Table 23 FP ガラスのメスバウアーパラメーター

28

Table 24 各ガラスの物性(密度(ρ)ガラス転移温度(Tg)溶出速度(DR)重量減())

29

Fig 211 SP ガラスの耐水性試験前後の外観写真

Fig 212 Sn-Nb-P ガラスの耐水性試験前後の外観写真

30

Fig 213 SNP ガラスの耐水性試験前後の外観写真

Fig 214 S5ZP ガラスの耐水性試験前後の外観写真

Fig 215 5SZP ガラスの耐水性試験前後の外観写真

31

Fig 216 FP ガラスの耐水性試験前後の外観写真

32

Fig 217 SP ガラスの XRD パターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

33

Fig 218 Sn-Nb-P ガラスの XRD パターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

34

Fig 219 SNP ガラスの XRD パターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

35

Fig 220 5SZP ガラスの XRDパターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

36

Fig 221 S5ZP ガラスの XRDパターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

37

Fig 222 FP ガラスの XRD パターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

38

Fig 223 各ガラス系の DR と OP の関係性

39

Fig 224 各ガラス系の重量減と OP の関係性

40

第 3章 分光法を用いたスズリン酸塩系ガラスの構造解析

31 緒言

前章ではSP ガラスおよび第三成分に Nb2O5 ZnOを添加した Sn-Nb-P ガラスSNP ガラ

スSZP ガラスの物性特に耐水性に関する第三成分添加の有効性を明らかにしたその添

加した第三成分の二種類についてもNb2O5 の方が ZnO よりも溶出速度重量減ともに抑

制することができSP ガラスの低ガラス転移温度という特性も維持されていることが判明

したしかし現段階では本研究の主要な物性である耐水性改善の要因が明確になって

いない組成の観点からはOP の値が高い組成が良好な耐水性であることが分かったが

組成だけでは耐水性改善のメカニズムについて完全には理解できないここでリン酸塩

ガラスの溶出のメカニズムは第 1 章で述べたように加水分解反応と水和反応が要因とな

る[1 2]この機構はそれぞれリン酸の構造つまり架橋酸素 BO の数が大きく関わって

おりリン酸アニオンの[PO4]ユニットの架橋酸素数を知ることが重要であるこの BO の

情報を得るためにはガラス構造を示す指標の一つである Qn(n は[PO4]ユニット中の架橋

酸素数を表す)を調べることが必須であるまたQn の分布を調べるためにはガラスの

構造解析を行う必要性がある

ガラスの構造解析には種々の方法があり特にラマン分光法や赤外(IR)分光法核

磁気共鳴法(NMR)などの分光学的手法を用いた構造解析の報告が多い[3-5]ラマン分光

法および IR分光法は原理は異なるがどちらも結合の振動モードを測定する手法であり[6]

リン酸塩ガラスだけでなくケイ酸塩ガラスホウ酸塩ガラスなど様々なガラス系にて測

定がなされている[7 8]また得られた結合状態の情報からリン酸塩アニオンの Qn分布

を調べることも可能であるNMR は共鳴吸収ピークの化学シフト(共鳴周波数のズレ)

から構造を決定する手法であるガラスの場合SiO2や B2O3 P2O5といった網目形成酸化物

の Qn分布を得るために一般的に使用されている手法である[9]

今回これらの測定の中でラマン分光法を選択し構造解析を行ったラマン分光法は

測定する際にサンプル形状を気にすることなく基本的にそのまま測定できるためIR 分

光法のようにサンプル形状で測定方法を変える必要はないまたIR 分光法では例えば

KBr 錠剤法やヌジュール法のように測定を行うためのサンプル調整に手間がかかる場合が

ある[6]さらに比較対象の FP ガラスではNMR を測定できないため作製ガラスを全

て比較検討できるようにラマン分光法を選択した

本章ではラマン分光法を用いて各ガラスの構造解析を行い[PO4]ユニットの Qn分布を

調査し平均 BO数 nを算出することで耐水性と構造の関係性を検討したまたラマン

分光法によって得られた Qn分布の妥当性を確認するためにSP ガラスおよび 67S5N28P ガ

ラスの NMRを測定も行い比較した

32 実験方法

41

321 サンプル準備

ラマン分光およびメスバウアー分光の測定では第 2 章で作製した各ガラスのバルク体

を用いたWD試験に使用したサンプルとは別にラマン測定用のサンプルを用意した適

度な大きさ大体 15 cm角程度のサイズになるようにガラスカッターで切断しその後

十分な平滑性を得るために鏡面研磨を施した

322 ラマン分光測定

使用したラマン分光装置は顕微レーザーラマン分光装置(Jasco NRS-5100)を用いた

用いたレーザー波長は 53208 nmであり400 - 2000 cm-1の範囲で測定した

Qn 分布を導くためにピークフィッティングを行いリン酸塩アニオンのラマンバンド

が現れる950 - 1250 cm-1付近および 700 - 750cm-付近の範囲で定量した

323 31P MAS NMR測定

31P MAS NMRの測定は Varian NMR System 500 を用いて32 mmの MASプローブ

202309MHzにて行った測定パラメーターを以下に示すπ4 パルス長さ 14 μs 待ち時間

(pulse delay)10 s 積算回数 3600 scan シリンダー円筒形状の Zrローターの回転スピード

160 kHz referenceとして二番目の基準物質として使われる NH4H2PO4を使用化学シフト

は85 H3PO4溶液から δ = 10 ppmである

33 結果考察

331 各ガラス系のラマンスペクトル

Figs 31 - 35にラマンスペクトルを示す各ピークは以下の通りに帰属し各スペクト

ル中に該当する構造をピーク位置に示した

1230 - 1260 cm-1 P=O NBO Q

2 [10]

1110 - 1150 cm-1metaphosphate (PO3)

- Q

2 [10]

1030 - 1100 cm-1pyrophosphate (PO35)

2- Q

1 [10]

970 - 1000 cm-1orthophosphate (PO4)

3- Q

0 [10]

920 - 930 cm-1asymmetric (P-O-P) Q

1 [10]

730 - 750 cm-1symmetric (P-O-P) Q

1 [10]

710 - 720 cm-1asymmetric (P-O-P) Q

2 [10]

810 - 820 cm-1Nb-O [NbO4] tetrahedron [11]

900 - 920 cm-1Nb-O isolated [NbO6] octahedron [11]

42

SP ガラスのラマンスペクトル(Fig 31)を見ると50S50P 60S40P ではmetaphosphate

の Q2 構造が支配的であるがSnO 量が増えるにつれてその構造が変化し70S30P では

pyrophosphateの Q1構造と orthophosphateの Q

0構造が共存した構造となっているまたSnO

量の少ない 50S50P および 60S40P において確認されたQ2構造の P=O のピークが見えなく

なっているつまり耐水性と関連して考えるとSnO量が増えるにつれてP-O-P 結合か

ら Sn-O-P 結合に代わり水分子との反応である加水分解反応を妨げる構造に変化している

ことがわかる

Figs 32 33にNb2O5を添加した Sn-Nb-P ガラスおよび SNP ガラスのラマンスペクトル

を示すまずSn-Nb-P ガラスについてNb 無添加の 65Sn-0Nb-35P は主に Q1構造であ

りNbO25が添加されることによってQ0構造に変化しQ

1 Q

0構造が共存しているような

ピークが得られた添加量が少ないガラス系であるため徐々に変化しているのを確認し

た800 cm-1を少し越えた 810 - 820 cm

-1付近にNb2O5を添加することでピークが現れそ

して添加量を増量することで強度が強まるピークがありこのピークは四面体の[NbO4]

のものと判断した

SNP ガラスのラマンスペクトルについてはNb2O5添加量を固定した組成であるためSP

ガラスのような挙動が観察された50S50N45P では50S50P ガラスと同じようにQ2構造

が主な構造でありSnO量の増加に伴って60S5N35P Q1構造67S5N28P Q

0構造に支配

的な構造が変化しているこれはSP ガラスと同じ傾向を示しているためP-O-P rarr Sn-O-P

に置き替わっていることが示唆されるNb-O に関するピークでは50S5N45P のみ[NbO4]

四面体のピークを確認できず900 - 920 cm-1付近に[NbO6]八面体のピークが確認された

SnO量が増量した 60S5N35P では810 cm-1付近の [NbO4] 四面体のピークが現れているが

[NbO6]八面体のピークと 900 - 920 cm-1付近の Q

1構造のピークが非常に近い(ほぼ重なって

いる)ことから60S5N35P については[NbO4] 四面体および[NbO6]八面体の共存の可能性

も考えられるまた67S5NP28 では[NbO4] 四面体のみのピークが観察されたためこ

の Nb-O の配位数変化は[PO4] unitの状態によって変化している可能性も示唆された

ZnO を添加した S5ZP ガラスおよび 5SZP ガラスのラマンスペクトルを Fig 34 に示す

図の下部三つが S5ZP ガラス上部三つが 5SZP ガラスのスペクトルであるSZP ガラスの

二系統を比べるとあきらかなスペクトルの違いが確認された各ガラス系で確認すると

SnO 量が最小の 55S5Z40P はQ2構造と Q

1構造の範囲に跨っているようなスペクトルが得

られた62S5Z33P および 65S5Z30P のスペクトルからはどちらもほぼ Q1構造であると判

断した5SZP のスペクトルは1000 - 1250 cm-1付近の範囲で裾を引くような(なだらかな)

スペクトルが得られたZnO 量が最小の 5S55Z40P にはQ2構造が主な構造に見えるが

shoulderピークのような Q1構造(1030 - 1100 cm

-1)が確認できる5S62Z40P においては

1000 - 1250 cm-1付近の範囲まで幅広いスペクトルが得られた730 - 750 cm

-1付近にピーク

が現れているためおそらく Q1構造が最も多く存在していると考えられる65S5Z30P では

Q1構造Q

0構造が共存しているようなピークが得られた

43

FP ガラスのラマンスペクトルを Fig 35 に示すFe量の少ない 20F80P 25F75P と他の三

つで構造が異なっていることである20F80P 25F75P はQ2構造と Q

1構造が基本構造にな

っていると判断できる 30F70P は1110 - 1150 cm-1付近に shoulderピークのようなものがあ

りQ2 Q

1 Q

0構造が共存しているようなスペクトルであった35F65P 40F60P はQ1構造

が主な構造でQ0構造があると判断した

332 平均 BO数 n (Qn分布)

まずピーク分離について散乱断面積が見積もれなかったためラマンの散乱強度比

を Qn分布として簡易的にピーク分離を行い(Fig 36)そこから平均架橋酸素数 BO 数 n

を算出したここでFig 37 に 31P MAS NMRスペクトルを示しTable 31に NMRおよび

ラマン分光より得られた平均 BO 数 n を示す(NMR の帰属 reference [12])表よりNMR

とラマンから得られた Qn分布はほぼ一致していることが分かった60S40Pについては支

配構造が NMR(Q1) ラマン(Q

2)で逆になったこれは60S40P の組成がQ

2と Q1のほぼ中

間の組成になるためこのようなズレが生じたと考えられるしかし今回のラマンによ

る Qn分布の算出についてはほぼ問題ないと判断した

Table 32にラマンスペクトルより求めた Qn分布平均 BO 数 nをを示しTable 24に示

した DR 重量減の結果を併記する

SP ガラスのうち耐水性が低いガラスは Q2構造によって形成されているSnO量の増加

によって NBOの増加とともに耐水性の向上が確認できSnOが入ることでSn-O-P 結合を

形成し水分子からの攻撃を受けにくくなっていることが考えられる

Sn-Nb-P ガラスでは基本的に Q1構造が主構造でNb2O5の添加が増えるにつれQ

0構

造が支配的になり耐水性は次第に向上していく最も耐水性のよかった 65S-5Nb-30P は

Q0構造での割合が非常に高く平均 BO数 n値が 03であった

SNP ガラスではP2O5量が多い組成の 50S5N45Pにおいても平均 BO数 nが 60S40P と

同じながらも耐水性が良くなっている67S5N28P はほぼ完全に Q0構造であり平均 Q

n

値は 0となった

SZP ガラスについてはS5ZP 5ZSP のどちらの系列についても耐水性の結果に大きな差

というものは確認されなかったが構造的にも平均 BO数 nが 09 10 17という結果であ

った

FP ガラスについてはFe2O3 lt 30 molのときは平均 BO 数 nが20 19と高い数値を

示したが耐水性は非常に良好であったこの結果より組成だけでなく構造的にも耐

水性高くなる要因が不明である一つの原因の可能性としてメスバウアーより得られた

Fe2+の存在比が 40以上と高かったことがFe2O3含有量が少ない組成時には効果的になっ

ているのかもしれない

333 平均 BO数 nと耐水性の関係性

44

Fig 38に DRと平均 BO数 nの関係性についてFig 39に重量減と平均 BO数 nの関係

性をそれぞれ示すまたOP の時と同様に各図にリン酸塩の三つの構造の平均 BO数

n も表記した双方の図よりDR 重量減共に平均 BO 数 nが低下することで単調に下がっ

ていることが分かるまた耐水性の良かったNb2O5添加の Sn-Nb-P SNPガラスはの DR

の挙動(傾き)はOP 時とも異なった挙動が得られた

Fig 310に OP と平均 BO数 nの関係を示す図中に示す茶色metaphosphate 黄色

pyrophosphate 灰色orthophosphate であるこの図から耐水性改善には平均 BO 数

n を下げOP を上げることが重要であるのが分かるまたNb5+の添加はOP を上げる

だけでなく平均 BO 数も減少させることから非常に効果的な成分であることが明らかで

あるこれはP5+から同酸価数 Nb

5+に少量でも置き換えることで平均 BO 数 n を下げ

OP を上げることを可能としている(実際に orthophosphate の OP4 よりも高い OP でガ

ラスが作製できている)つまりNb5+の添加によって P-O-P 結合が減少し水和反応加

水分解反応が抑制されているからである

以上の結果SP 系ガラスの耐水性改善には低い平均 BO 数と高い OP の組成にするこ

とが重要でNb2O5の添加は非常に効果的であることが分かったその一方でガラス中の

詳細な構造的要因についてははっきりしていないため次章の第 4 章にてさらに詳し

い構造解析を行い耐水性改善の要因について調査を行った

34 結言

本章ではラマン分光を使用して各ガラス系のリン酸塩アニオンの構造を簡易定量で

評価し組成と構造の関係について考察した

平均 BO 数 n と耐水性に関してはDR および重量減が平均 BO 数 n の減少で単調に低下

した結果が得られた

平均 BO数 nと OP の図より耐水性改善には平均 BO数 nを下げることそして OP

を上げることが重要であることが明白であった

Nb5+の添加は平均 BO数を減少させるだけでなくOP も上げることからガラス構造内

の P-O-P 結合を減少させる故に水和反応加水分解反応が抑制され耐水性が大幅に

改善された故にNb2O5 のような高価数金属酸化物を添加することが効果的であること

が示唆された

参考文献

[1] B C Bunker G W Arnold and J A Wilder J Non-Cryst Solids 64 291-316 (1984)

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46

Fig 31 SP ガラスのラマンスペクトル

47

Fig 32 Sn-Nb-P ガラスのラマンスペクトル

48

Fig 33 SNP ガラスのラマンスペクトル

49

Fig 34 SZP ガラスのラマンスペクトル

50

Fig 35 FP ガラスのラマンスペクトル

51

Fig 36 ラマンスペクトルのピーク分離例(67S5N28P)

Raman Shift (cm-1)

52

Fig 37 NMRスペクトル

Table 31 NMR およびラマン分光より得られた SP 67S5N28P ガラスの

Qn分布および平均 BO数 n

53

Table 32 各ガラスのラマンスペクトルより求めた Qn分布結果

(表の赤線より右側の結果は Table 22 より)

1 仕込み組成による数値

2 Fig 2212 に示した析出物を取り除いた後の数値

54

Fig 38 DR と平均 BO数 nの関係性

55

Fig 39 重量減と平均 BO数 nの関係性

56

Fig 310 OP と平均 BO数 nの関係性

Meta

Pyro

Ortho

57

第 4章 放射光を用いたスズリン酸塩系ガラスの構造解析

41 緒言

前章の第 3 章にてラマン分光法を用いて SP 系ガラスの構造解析により Qn分布を導き

出したことで耐水性と構造の関係についてある程度関連性を導くことができたリン

酸アニオンについてはQ0(orthophosphate)構造 gt Q

1(pyrophosphate)構造 gt Q2

(metaphosphate)構造の順で良耐水性となるしかしSn Nbおよび Znの局所構造につ

いては知見が得られていないラマン分光や IR分光などの分光学的手法を用いてSnや

Nb Zn の周辺の局所構造を知るには限界があるまたガラスの構造解析を行う上で非常

に重要な因子である中距離構造の評価には分光学的手法は不向きである[1]

そこで局所構造や中距離構造を知るために有効な手法として放射光線を用いた構造

解析がある放射光(SR 光)とはシンクロトロンなどの加速器で高速に加速された電子

が進行方向を磁場によって変えられた際に放射する電磁波である[2]エネルギーが高く

(短波長)輝度が高い特性を有している日本国内では兵庫県佐用町の SPring-8や茨城

県つくば市の高エネルギー加速器研究機構佐賀県鳥栖市の佐賀県立九州シンクロトロン

光研究センターなど複数個所に放射光施設が設置されている

放射光を用いたガラスの構造解析には一般的に高エネルギーX 線回折(High Energy

X-ray diffraction HEXRD)が用いられるこの回折実験から高い散乱ベクトル Q(= 4π sinθλ)

まで回折データが得られる多種類の原子から構成される物質の場合はFaber-Ziman 型[3]

の構造因子 S(Q)を用いる以下の式に示すようにFaber-Ziman 型構造因子 S(Q)は同種また

は異種の原子による相関の重み関数付の和として示される例として SiO2ガラスで説明す

ると構造因子 S(Q)は三種類の原子付の S(Q)の重み付の和として表されていることが分か

I(Q) 散乱断面積 ltgt 原子一個当たりの平均値 f(Q) 原子散乱因子 W 重み関数

通常の研究室で使用される X 線回折(XRD)装置で用いられる特性 X 線はCuKα線(λ

= 0154 nm 81 keV)が最も良く用いられより高いエネルギーの X 線が必要な場合は

MoKα線(λ = 0071 nm 175 keV)が使用される一方でSPring-8のビームライン BL04B2

で行われる高エネルギーX 線回折(HEXRD)測定で使用される SR のエネルギーは378 keV

58

~ が使用可能である[2]従ってガラス以外の液体のような非晶質物質にも非常に精度

よく構造解析が行われている[4]

また局所構造解析の一つに X線異常散乱法という測定方法がある[5 6]これは通常

の X 線回折実験では分離不可能な特定元素に関連する部分構造因子(散乱強度曲線)を得

ることができる手法である今回 HEXRD の測定時に使用したエネルギー614 keV では各元

素の異常散乱項のエネルギー依存性は確認されない(Fig 41)その一方でFig 42に示す

Sn の吸収端付近の 292 keV付近ではSnの異常分散項のエネルギー依存性が確認できる

つまりSnの吸収端近傍より低エネルギー(E)側の異なるエネルギーの X線(E1 E2)を

使って散乱強度を測定し各 E における異常分散項(f`)の変化(つまり高い E1 から低い

E2 の散乱強度の差分)を利用して Snに関する部分構造因子を求める構造解析が AXS 法で

あるこの測定法は古くから知られている方法ではあるが装置の測定条件や設備の問

題からなどから使用があまり普及していなかった[5 6]近年になり金属ガラスの構造解

析について徐々に報告が出てきており今後注目される測定法である

HEXRD および AXS 法などから得られたデータ実測の構造因子 S(Q)は一次元の限られ

た構造情報であるためガラスなどの非晶質物質の中距離構造を解明するためにはこれ

らのデータを基に三次元構造を求める必要がある三次元構造モデルの作成には逆モンテ

カルロ(RMC)シミュレーションを使用することが有効である[7]このシミュレーション

は任意で決めたシミュレーションボックス内の粒子をランダムに動かすことで実測の

構造因子 S(Q)を再現する三次元構造モデルを構築する方法である

SP ガラスについては分光学的手法について数多く報告があるが放射光を用いた回折

法はほとんど適用されていないそこで本研究では HEXRD および AXS 法を用いた構造

解析を行うことでSn Nb周りの構造を解明すると共にSNP ガラスの耐水性改善のメカ

ニズムについて考察したまたAXS 法の有効性についても検討した測定を行ったガラ

スはSP ガラスおよび最も耐水性の高かった 67S5N28P を選択した

42 実験方法

421 HEXRD AXS法

HEXRDはSPring-8のビームライン BL04B2 で測定を行ったエネルギー614 keV の X

線を用いた測定サンプルの厚みは09 mm (plusmn0005 mm)になるまで研磨を行った

AXS 測定はSPring-8のビームライン BL13XUを使用した(Fig 43)それぞれの測定し

た X 線のエネルギーについて以下に示す

①Sn K吸収端hellip292 keV near edgehellip291452 keV (-60 eV) far edgehellip289751 keV (-230 eV)

②Nb K吸収端hellip1899 keV near edgehellip189562 keV (-30 eV) far edgehellip187863 keV (-230 eV)

測定に使用したサンプルの厚さが015 - 030 mmとなるまで研磨を施した

SP ガラスについて50S50P 60S40P 67S33P の三組成のガラスを測定した70S30P に関

59

しては測定を試みたが放射光照射によって結晶化してしまいガラス部分の正確な構

造因子を得るための強度補正ができず解析を断念した

422 RMCのモデリング

Table 41 に RMC の各種パラメーターを示す粒子数は約 5000 個でそれに伴う boxの一

辺の長さは約 42 ~ 46 Ǻになった拘束条件にP の配位数が 4になるような条件を付け

加えたFig 44にSn2P2O7結晶および Sn3P2O8結晶の動径分布関数(RDF)をTable 32

にRDFから得られた第一近接距離[8 9] を示すこれらの数値を使用しcutoffを決定し

たNb-O についてはいくつかの文献値を参考にした[10 11]

各ガラスの RMCのモデリングは①HEXRDから得られた S(Q)のみ②S(Q)および AXS

から得られた部分構造因子を加えた場合でそれぞれ計算した

43 結果考察

最初にNbの AXSから得られたデータについて解析を試みたが妥当な構造モデルが得

られなかったためSnの AXSのみで解析を進めたNb2O5の量が 5 molと少量であったた

めあまり精度の高いデータが得られなかったと推測される

431 実測の HEXRDおよび AXSの結果

4311 実測 HEXRDの S(Q)

Fig 45 に実測HEXRDの S(Q)を示す四つの組成ともに実測HEXRDの S(Q)が得られ

Nb2O5添加の 67S5N28P ガラスでは Low Q 側に変化が確認された

4312 実測散乱強度曲線

Fig 46 に Snの散乱強度曲線を示す(a) の 67S33P のこの曲線からはfar edgeおよび

near edge のエネルギー間で差分が見られエネルギーの依存性が確認された50S50P

67S5N28P のガラスについても同じように差分が確認されたが(b)の 60S40P についてのみ

他とは若干異なる結果(緑丸)であったためRMC の構造解析には差分の構造因子ではな

くfar edge near edge 二つの構造因子を用いた

4313 全相関関数 T(r)

Fig 47 に全相関関数 T(r) を示すHEXRD から得られたものを実線でSnの AXS から

得られたものは点線で示し組成ごとに重ねて表示した図中に各ピークについて帰属し

ているがSnの T(r)からはSn-O Sn-P Sn-Snのみのピークを確認した

432 RMCの計算結果および考察

60

構造モデルの一例として67S5N28P ガラスの得られた構造モデルをFig 48に示す水

色の多面体 unitSnON 黄色の多面体 unitPO4 ピンクの多面体 unitNbONである以下

詳細な構造解析の結果および考察を記す

4321 RMCのフィッティング結果

RMCのフィッティング結果の一例として67S33P の HEXRD と Snの AXS の構造因子か

ら得た結果を示す(Fig 49)二つの構造因子を加えて計算した結果においてもHEXRD

の S(Q) AXS の S(Q)に各々に対する良好なフィッティング結果が得られた他の組成も

同様なフィッティング結果が得られた

4322得られた各 pairの平均配位数平均角度平均結合距離

RMCの結果によって得られた各 pairの平均配位数平均角度平均結合距離を Tables 43

に示す上段が HEXRD の S(Q)のみ下段が HEXRD に Sn の AXS の部分構造因子を加え

て結果である最下部は比較のためにSn2P2O7の情報を記載した[8]

P-O pairについてRMCモデル中の PON多面体に関して平均配位数 Nが 4および P-O

の平均結合距離が約 160Å平均結合角度angO-P-O が約 109degという結果が得られた組成

による大きな違いは確認されなかったのはP の配位数が 4になるように拘束条件をかけた

結果であると考えられるSnON多面体についてはSnO量の増加 = OP の増加であり平

均配位数 Nが 3 ~ 35へ増加した平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約

22Åで組成による大きな変化はほとんど見られなかったNb2O5を 5 mol添加したガラ

スではNbON多面体の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平均配位数 N約 4Nb-O 平均結

合距離約 20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O(約 105deg)と値が近いこと

また6配位ではなく 4配位として主に存在していることからSnO と同じような働きをし

ていると推測される

以上の結果からNb2O5添加の耐水性改善の要因として結合距離が Sn-O が約 22Åに対

し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強固にして

いることも一つの要因として考えられる

また67S5N28P ガラスの各多面体モデルを確認すると(Fig 410)P は PO4Snは SnO4

と SnO3Nbは NbO4をそれぞれ再現している

4323得られた各 pairの結合様式

RMC の結果により得られた各 pair の結合様式を Tables 44 に示す上段が HEXRD の

S(Q)のみ下段が HEXRDに Snの AXS の部分構造因子を加えた結果である最下部は比

較のためにSn2P2O7の情報を記載した[8]

結合様式に関してはPO4四面体は他の多面体も含めてほぼ頂点共有で存在している

SnON多面体についてはSnO 量が少ない配位数が 3 に近い場合頂点共有以外の共有の

61

割合も多くSnO 量が増えるにつれて頂点共有が主になり網目形成体として振舞ってい

ると考えられる組成によって平均結合距離や平均角度の大きな変化が見られなかったこ

とから平均配位数が結合様式を決める重要なファクターであるということも考えられる

またHEXRD と AXS 法の結果がほぼ同じであったこれは主成分が SnO のガラスであ

るためHEXRDでも十分に詳細な構造が得られたため大きな変化が現れなかったと考え

られるNbON 多面体はPO4 四面体と SnON 多面体とはほぼ頂点共有で繋がっている以

上の結果よりSnO量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体的に各多面体同士の

頂点共有が増えていることから耐水性の改善には頂点共有を多く含む構造であること

が重要である或いは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的となって

いるということが推測されるFig 411に 67S5N28P ガラスの構造モデルを示す各多面

体はほぼ頂点共有で繋がっていることが確認できる

4324 平均 BO数の比較

Tables 45にNMR Raman RMC(HEXRD) RMC(HEXRD + AXS)の平均BO数を示すRMC

から得られた平均 BO 数 nはNMR Raman と同様に Nb2O5の添加による大幅な減少が確認

されたしかしNMR Raman と比較すると全組成において数値が大きすぎで適当でない

50S50P の構造モデルを観るとPO4四面体間で3配位 O の存在が確認された(Fig 412)た

め実測で得られた n値を再現できるようなPO4四面体モデル間の繋がり方に関する拘束条

件を加えて RMCを計算する必要性があるまた仮に3配位 Oの存在があるとすると電

子状態の変化が生じていることがと示唆されるため分子軌道計算を用いて電子状態解析

を行い確認する必要がある

4325 耐水性の改善について

Nb2O5を添加のガラス構造への影響について①6配位ではなく 4配位として主に存在し

ていることからSnO と同じような働きをしていると推測される②結合距離が Sn-O が約

22Åに対し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強

固にしている③ガラス構造中で全体的に各多面体同士の頂点共有が増えている以上の

ことが判明した以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性

耐候性を改善した要因として考えられる

44 結言

本章では分光学的手法では評価できないガラスの中距離構造局所構造について理解

するために放射光を用いた構造解析を実施しSP ガラスの構造と耐水性改善について考

察したHEXRDおよび AXS法を用いて測定を行い得られたデータを RMCシミュレーシ

ョンにて解析を行った

解析の結果 Sn-O pair については平均配位数 Nが 3 ~ 35でSnO量の増加 = OP の増

62

加に伴い高くなった平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約 22Åであ

ったP-O Sn-Oについては組成による大きな変化はほとんど見られなかった67S5N28P

ガラスの Nb-O pair の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平均配位数約 4Nb-O 平均結合距

離約 20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O(約 105deg)と値が近いことま

た6配位ではなく 4配位として主に存在していることからSnOと同じような働き(網目

形成体)をしていると推測されるまた結合距離が Sn-O が約 22Åに対し Nb-O は約 20

Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強固にしていると言える

SnO 量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体的に各多面体同士の頂点共有が増え

ていることから耐水性の改善には頂点共有を多く含む構造であることが重要である

もしくは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的であることが推測さ

れる以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性耐候性を

改善した要因として考えられる

またAXS 法の有効性についても確認し効果的であることが判明したただし今回

は主成分が Sn の組成のガラスでありHEXRD でも十分に詳細な構造が得られたため

大きな差は現れなかった

参考文献

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63

Fig 41 各原子の異常分散項のエネルギー依存性

Fig 42 Sn の異常分散項のエネルギー依存性

64

Fig 43 SPring-8の BL13XU

65

Tab

le 4

1

RM

Cの各パラメーター

66

Fig 44 Sn2P2O7 Sn3P2O8結晶の RDF

Table 42 Sn2P2O7 Sn3P2O8結晶の各 pairの第一近接距離

67

Fig 45 得られた実測 HEXRDの S(Q)

68

Fig 46 Sn の異常散乱測定により得られた散乱強度のエネルギー依存性

(a)67S33P (b)60S40P

69

Fig 47 全相関関数 T(r)

太線 HEXRD より

細線 Sn の AXSより

70

Fig 48 67S5N28P ガラス構造のモデル

71

Fig 49 RMC フィッティングの結果

72

Tab

le 4

3 各

pairの平均配位数角度結合距離

73

Fig

4

10

67

S5

N2

8Pガラスの各多面体モデル

74

Tab

le 4

4 各

pairの結合様式

75

Fig 411 67S5N28P ガラスの構造モデル

76

Table 45 平均 BO 各数 nの比較

Fig 412 50S50P ガラスの構造モデル

77

第 5章 総括

本研究ではSP ガラスを対象とした本研究では鉛フリー代替ガラスまたは希土類フ

リー蛍光体として SP ガラスの新規高機能化を将来的に目指し問題点であるldquo化学的耐久

性rdquoの改善につながる知見を得ることを目的としたそこでまずSP ガラスを母体ガラ

スとし第三成分に Nb2O5を添加した Sn-Nb-P SNP ガラスZnO を添加した SZP ガラスを

作製し耐水性を中心とした物性評価を行った次に分光学的手法で構造解析を行い

Qn 分布を導き出した最後に放射光を用いた構造解析を行い耐水性改善に関する構造的

な考察を行った以下に本研究で行った検討内容を示す

(1)SPガラスおよび第三成分Nb2O5 ZnOを添加した三成分系SPガラスの物性評価(第 2章)

(2)SP 系ガラスの分光学的手法による Qn分布導出(第 3章)

(3)放射光を用いた SP 系ガラスの構造解析構造と耐水性改善の関連について(第 4章)

各章についてまとめた結果を以下に示す

第 2章

第 2章では二成分系および三成分系のリン酸塩系ガラスの各種物性(密度や熱的特性

耐水性)の評価を行った二成分系ではSP ガラスに加え良好な耐水性を有する鉄リン

酸塩(Fe2O3-P2O5)系ガラス(以下 FP ガラス)を比較のために三成分系では二成分系

の SP ガラスに Nb2O5を添加したニオブ含有 SP ガラス(SNP ガラス)および ZnO を添加し

た亜鉛含有 SP ガラス(SZP ガラス)を作製した

今回作製した SP 系ガラスは低ガラス転移温度を有していた各組成の温度域はSP

ガラスTg le 280 Sn-Nb-P SNPガラスTg le 3505SZP S5ZPガラスTg ≦ 450であった

各種 SP ガラスの耐水性試験の結果二成分系の SP ガラスよりも三成分系ガラスの方が

良好な耐水性を有していた65Sn-5Nb-30P 67S5N28P ガラスが最も耐水性が良好であり化

学的耐久性の改善には Nb2O5が ZnOよりも効果的であった

組成と耐水性に関してはDRおよび重量減がOP増加で単調に低下した結果が得られた

つまり耐水性を改善させるにはSP 系ガラスのガラス化範囲を拡大かつ OP を増大させ

る第三成分の添加が有効であることが示唆された

第 3章

第 3章ではSP 系ガラスの分光学的手法による Qn分布の導出を行ったラマン分光法を

用いて各ガラス系のリン酸塩アニオンの構造を簡易定量で評価し組成と構造の関係に

ついて考察した平均 BO 数 n と耐水性に関してはDR および重量減が平均 BO 数 nの減

少で単調に低下することが明らかとなった

平均 BO 数 n と OP の関係より耐水性改善には平均 BO 数 n を下げることそして

OP を上げることが重要であることが明らかになった

78

Nb5+の添加は平均 BO数を減少させるだけでなくOP も上げることからガラス構造

内の P-O-P 結合を減少させ水和反応加水分解反応が抑制され耐水性が大幅に改善さ

れることが示唆された故にNb2O5 のような高価数金属酸化物を添加することが効果的

であることが再度確認された

第 4章

耐水性向上についてより深く評価するためSP SNP ガラスの局所構造に関する知見を得

ることを目的に放射光を用いた構造解析を行った高エネルギーX 線回折(HEXRD)お

よび X 線異常散乱(AXS)法で測定したデータを再現する構造モデルを逆モンテカルロ

(RMC)シミュレーションで構築し構造解析を行った

RMC モデル中の PON多面体に関して平均配位数 Nが 4および P-O の平均結合距離が約

160Å平均結合角度angO-P-Oが約 109degという結果が得られた組成による大きな違いは確

認されなかったSnON多面体については平均配位数 N が 3~4 でSnO 量の増加に伴い 4

に近い値となった平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約 22Åで組成

による大きな変化は見られなかった

Nb2O5を 5 mol添加したガラスではNbON多面体の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平

均配位数N約4Nb-O平均結合距離約20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O

(約 105deg)と値が近いことまた6配位ではなく 4配位として主に存在していることから

SnO と同じような網目形成体として働いていると推測されたまた結合距離が Sn-O が約

22Åに対し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強

固にしていると考えられるまたSnO 量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体

的に各多面体同士の頂点共有が増えていることから耐水性の改善には頂点共有を多く

含む構造もしくは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的であること

が示唆された以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性

耐候性を改善した要因として考えられる

またAXS 法の有効性についても確認し効果的であることが判明したただし今回

は主成分が Snの組成のガラスでありHEXRD でも十分に詳細な Snの周辺構造が得られ

たためAXSを利用した場合との大きな構造の差は認められなかった

本研究では様々な優れた特徴を有する SP ガラスにおける耐水性改善のメカニズムにつ

いて検討を行ったこの系のガラスについてはこれまでほとんど利用されていなかった

放射光を用いた構造解析を駆使し第三成分の添加によってどのような構造的変化が生じ

耐水性を改善させるか新たな知見を得ることができた最終目標である機能性ガラスの

開発における新たなる材料設計指針の確立に対してldquo耐水性rdquoに関しては概ね明らかにな

ったと考えられる一方で今回検討していな電子状態化学結合性についても評価する

ことで溶出メカニズムの解明が可能になり材料設計指針の確立が期待される

79

発表論文リスト

口頭発表

第 2章および第 3章

(1) SnO-P2O5 系ガラスへの酸化物添加効果

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎

日本セラミックス協会第 25 回秋季シンポジウム No3C06 (名古屋市 2012年 9月)

(2) Effect of Nb2O5 addition to SnO-P2O5 glass (Poster)

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

International Union of Materials Research Societies International Conference on Electronic

Materials IUMRS-ICEM 2012 A-9-P26-003 (Yokohama 2012 年 9月)

(3) スズリン酸塩系ガラスの蛍光特性耐水性に及ばす酸化物の添加効果(ポスター)

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎

日本セラミックス協会 2013 年年会 1P070 (東京 2013年 3月)

第 4章

(1) 放射光を用いたスズリン酸塩ガラスの構造解析

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎小原真二臼杵毅

日本セラミックス協会第 27 回秋季シンポジウム 2B22 (鹿児島市 2014年 9 月)

(2) Structural analysis of tin phosphate glasses by synchrotron radiation (Poster)

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba Shinji Kohara Takeshi Usuki

International Congress on Glass ICG Annual Meeting Bangkok 2015 P14-138 p186 (2015)

発表論文

(1) Effect of Nb2O5 addition to SnO- P2O5 glass

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

Journal of the Ceramic Society of Japan Vol 120 No 11 pp530-533 (2012)

(2) Structural analysis of SnO- P2O5 glass

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

Journal of the Ceramic Society of Japan(準備中)

80

謝辞

本研究を遂行するにあたり終始暖かいご指導ご助言並びにご鞭撻を賜わりました岡

山大学大学院環境生命科学研究科 難波徳郎教授に心より感謝の意を表します

また本研究を遂行するにあたり懇切丁寧なご指導とご意見をしていただいた岡山大

学大学院環境生命科学研究科 紅野安彦准教授環境環理センター 崎田真一助教に心より

感謝いたします

本研究を遂行するにあたりラマン分光測定の使用についてご助言ご教授して頂い

た岡山大学自然科学研究科 藤井達生教授中西真助教に心より感謝の意を表します

Sn のメスバウアー測定の際に協力して頂いた岡山大学自然科学研究科先端自然科学教

育研究推進本部高田研究室 松本修治特任助教(当時旭硝子株式会社中央研究所)また

Feのメスバウアーを測定の際に協力して頂いた岡山大学自然科学研究科 藤井達生教授に

心より感謝の意を表します

固体 NMR の岡山大学自然科学研究科 早川聡教授に心より感謝の意を表します

本研究を遂行するにあたりSPring-8 にてHEXRD および AXS 法の測定法および原理

についてご教示頂きました物質材料研究機構 小原真司博士ならびに山形大学 臼杵毅

教授に心より感謝の意を表します

本研究は多くの後輩諸君の協力によって遂行されました特に実際に共同研究共同

実験を遂行して頂いたOG 藤原沙弥香さん博士前期課程 2 年 東利彦君OB 徳岡太誠

君学士課程 4年 塩田将大君に心より感謝の意を表しますまた難波研究室で共に研

究生活を過ごした卒業生在学生の方々に感謝の意を表します

また同時期に博士後期課程に在籍された香川高等専門学校の桟敷剛さんにはNbに

関する有益な情報だけでなく辛い状況でも励ましを頂きました心より感謝の意を表し

ます

最後に長きに渡る学生生活を認め経済面だけでなく精神面でも支援してくださった

家族に心より深く感謝の意を表します

平成 28年 3月

福井 聡史

Page 27: 博士論文 スズリン酸塩系ガラスの物性と構造解析ousar.lib.okayama-u.ac.jp/files/public/5/54353/...博士論文 スズリン酸塩系ガラスの物性と構造解析

24

Fig 27 FP ガラスの作製フローチャート

Fig 28 耐水性試験(MCC-1法)

25

Table 21 各ガラスの組成分析結果

26

Fig 29 Sn-Nb-P ガラスのメスバウアースペクトル

Table 22 Sn-Nb-P ガラスのメスバウアーパラメーター

27

Fig 210 FP ガラスのメスバウアースペクトル

Table 23 FP ガラスのメスバウアーパラメーター

28

Table 24 各ガラスの物性(密度(ρ)ガラス転移温度(Tg)溶出速度(DR)重量減())

29

Fig 211 SP ガラスの耐水性試験前後の外観写真

Fig 212 Sn-Nb-P ガラスの耐水性試験前後の外観写真

30

Fig 213 SNP ガラスの耐水性試験前後の外観写真

Fig 214 S5ZP ガラスの耐水性試験前後の外観写真

Fig 215 5SZP ガラスの耐水性試験前後の外観写真

31

Fig 216 FP ガラスの耐水性試験前後の外観写真

32

Fig 217 SP ガラスの XRD パターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

33

Fig 218 Sn-Nb-P ガラスの XRD パターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

34

Fig 219 SNP ガラスの XRD パターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

35

Fig 220 5SZP ガラスの XRDパターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

36

Fig 221 S5ZP ガラスの XRDパターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

37

Fig 222 FP ガラスの XRD パターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

38

Fig 223 各ガラス系の DR と OP の関係性

39

Fig 224 各ガラス系の重量減と OP の関係性

40

第 3章 分光法を用いたスズリン酸塩系ガラスの構造解析

31 緒言

前章ではSP ガラスおよび第三成分に Nb2O5 ZnOを添加した Sn-Nb-P ガラスSNP ガラ

スSZP ガラスの物性特に耐水性に関する第三成分添加の有効性を明らかにしたその添

加した第三成分の二種類についてもNb2O5 の方が ZnO よりも溶出速度重量減ともに抑

制することができSP ガラスの低ガラス転移温度という特性も維持されていることが判明

したしかし現段階では本研究の主要な物性である耐水性改善の要因が明確になって

いない組成の観点からはOP の値が高い組成が良好な耐水性であることが分かったが

組成だけでは耐水性改善のメカニズムについて完全には理解できないここでリン酸塩

ガラスの溶出のメカニズムは第 1 章で述べたように加水分解反応と水和反応が要因とな

る[1 2]この機構はそれぞれリン酸の構造つまり架橋酸素 BO の数が大きく関わって

おりリン酸アニオンの[PO4]ユニットの架橋酸素数を知ることが重要であるこの BO の

情報を得るためにはガラス構造を示す指標の一つである Qn(n は[PO4]ユニット中の架橋

酸素数を表す)を調べることが必須であるまたQn の分布を調べるためにはガラスの

構造解析を行う必要性がある

ガラスの構造解析には種々の方法があり特にラマン分光法や赤外(IR)分光法核

磁気共鳴法(NMR)などの分光学的手法を用いた構造解析の報告が多い[3-5]ラマン分光

法および IR分光法は原理は異なるがどちらも結合の振動モードを測定する手法であり[6]

リン酸塩ガラスだけでなくケイ酸塩ガラスホウ酸塩ガラスなど様々なガラス系にて測

定がなされている[7 8]また得られた結合状態の情報からリン酸塩アニオンの Qn分布

を調べることも可能であるNMR は共鳴吸収ピークの化学シフト(共鳴周波数のズレ)

から構造を決定する手法であるガラスの場合SiO2や B2O3 P2O5といった網目形成酸化物

の Qn分布を得るために一般的に使用されている手法である[9]

今回これらの測定の中でラマン分光法を選択し構造解析を行ったラマン分光法は

測定する際にサンプル形状を気にすることなく基本的にそのまま測定できるためIR 分

光法のようにサンプル形状で測定方法を変える必要はないまたIR 分光法では例えば

KBr 錠剤法やヌジュール法のように測定を行うためのサンプル調整に手間がかかる場合が

ある[6]さらに比較対象の FP ガラスではNMR を測定できないため作製ガラスを全

て比較検討できるようにラマン分光法を選択した

本章ではラマン分光法を用いて各ガラスの構造解析を行い[PO4]ユニットの Qn分布を

調査し平均 BO数 nを算出することで耐水性と構造の関係性を検討したまたラマン

分光法によって得られた Qn分布の妥当性を確認するためにSP ガラスおよび 67S5N28P ガ

ラスの NMRを測定も行い比較した

32 実験方法

41

321 サンプル準備

ラマン分光およびメスバウアー分光の測定では第 2 章で作製した各ガラスのバルク体

を用いたWD試験に使用したサンプルとは別にラマン測定用のサンプルを用意した適

度な大きさ大体 15 cm角程度のサイズになるようにガラスカッターで切断しその後

十分な平滑性を得るために鏡面研磨を施した

322 ラマン分光測定

使用したラマン分光装置は顕微レーザーラマン分光装置(Jasco NRS-5100)を用いた

用いたレーザー波長は 53208 nmであり400 - 2000 cm-1の範囲で測定した

Qn 分布を導くためにピークフィッティングを行いリン酸塩アニオンのラマンバンド

が現れる950 - 1250 cm-1付近および 700 - 750cm-付近の範囲で定量した

323 31P MAS NMR測定

31P MAS NMRの測定は Varian NMR System 500 を用いて32 mmの MASプローブ

202309MHzにて行った測定パラメーターを以下に示すπ4 パルス長さ 14 μs 待ち時間

(pulse delay)10 s 積算回数 3600 scan シリンダー円筒形状の Zrローターの回転スピード

160 kHz referenceとして二番目の基準物質として使われる NH4H2PO4を使用化学シフト

は85 H3PO4溶液から δ = 10 ppmである

33 結果考察

331 各ガラス系のラマンスペクトル

Figs 31 - 35にラマンスペクトルを示す各ピークは以下の通りに帰属し各スペクト

ル中に該当する構造をピーク位置に示した

1230 - 1260 cm-1 P=O NBO Q

2 [10]

1110 - 1150 cm-1metaphosphate (PO3)

- Q

2 [10]

1030 - 1100 cm-1pyrophosphate (PO35)

2- Q

1 [10]

970 - 1000 cm-1orthophosphate (PO4)

3- Q

0 [10]

920 - 930 cm-1asymmetric (P-O-P) Q

1 [10]

730 - 750 cm-1symmetric (P-O-P) Q

1 [10]

710 - 720 cm-1asymmetric (P-O-P) Q

2 [10]

810 - 820 cm-1Nb-O [NbO4] tetrahedron [11]

900 - 920 cm-1Nb-O isolated [NbO6] octahedron [11]

42

SP ガラスのラマンスペクトル(Fig 31)を見ると50S50P 60S40P ではmetaphosphate

の Q2 構造が支配的であるがSnO 量が増えるにつれてその構造が変化し70S30P では

pyrophosphateの Q1構造と orthophosphateの Q

0構造が共存した構造となっているまたSnO

量の少ない 50S50P および 60S40P において確認されたQ2構造の P=O のピークが見えなく

なっているつまり耐水性と関連して考えるとSnO量が増えるにつれてP-O-P 結合か

ら Sn-O-P 結合に代わり水分子との反応である加水分解反応を妨げる構造に変化している

ことがわかる

Figs 32 33にNb2O5を添加した Sn-Nb-P ガラスおよび SNP ガラスのラマンスペクトル

を示すまずSn-Nb-P ガラスについてNb 無添加の 65Sn-0Nb-35P は主に Q1構造であ

りNbO25が添加されることによってQ0構造に変化しQ

1 Q

0構造が共存しているような

ピークが得られた添加量が少ないガラス系であるため徐々に変化しているのを確認し

た800 cm-1を少し越えた 810 - 820 cm

-1付近にNb2O5を添加することでピークが現れそ

して添加量を増量することで強度が強まるピークがありこのピークは四面体の[NbO4]

のものと判断した

SNP ガラスのラマンスペクトルについてはNb2O5添加量を固定した組成であるためSP

ガラスのような挙動が観察された50S50N45P では50S50P ガラスと同じようにQ2構造

が主な構造でありSnO量の増加に伴って60S5N35P Q1構造67S5N28P Q

0構造に支配

的な構造が変化しているこれはSP ガラスと同じ傾向を示しているためP-O-P rarr Sn-O-P

に置き替わっていることが示唆されるNb-O に関するピークでは50S5N45P のみ[NbO4]

四面体のピークを確認できず900 - 920 cm-1付近に[NbO6]八面体のピークが確認された

SnO量が増量した 60S5N35P では810 cm-1付近の [NbO4] 四面体のピークが現れているが

[NbO6]八面体のピークと 900 - 920 cm-1付近の Q

1構造のピークが非常に近い(ほぼ重なって

いる)ことから60S5N35P については[NbO4] 四面体および[NbO6]八面体の共存の可能性

も考えられるまた67S5NP28 では[NbO4] 四面体のみのピークが観察されたためこ

の Nb-O の配位数変化は[PO4] unitの状態によって変化している可能性も示唆された

ZnO を添加した S5ZP ガラスおよび 5SZP ガラスのラマンスペクトルを Fig 34 に示す

図の下部三つが S5ZP ガラス上部三つが 5SZP ガラスのスペクトルであるSZP ガラスの

二系統を比べるとあきらかなスペクトルの違いが確認された各ガラス系で確認すると

SnO 量が最小の 55S5Z40P はQ2構造と Q

1構造の範囲に跨っているようなスペクトルが得

られた62S5Z33P および 65S5Z30P のスペクトルからはどちらもほぼ Q1構造であると判

断した5SZP のスペクトルは1000 - 1250 cm-1付近の範囲で裾を引くような(なだらかな)

スペクトルが得られたZnO 量が最小の 5S55Z40P にはQ2構造が主な構造に見えるが

shoulderピークのような Q1構造(1030 - 1100 cm

-1)が確認できる5S62Z40P においては

1000 - 1250 cm-1付近の範囲まで幅広いスペクトルが得られた730 - 750 cm

-1付近にピーク

が現れているためおそらく Q1構造が最も多く存在していると考えられる65S5Z30P では

Q1構造Q

0構造が共存しているようなピークが得られた

43

FP ガラスのラマンスペクトルを Fig 35 に示すFe量の少ない 20F80P 25F75P と他の三

つで構造が異なっていることである20F80P 25F75P はQ2構造と Q

1構造が基本構造にな

っていると判断できる 30F70P は1110 - 1150 cm-1付近に shoulderピークのようなものがあ

りQ2 Q

1 Q

0構造が共存しているようなスペクトルであった35F65P 40F60P はQ1構造

が主な構造でQ0構造があると判断した

332 平均 BO数 n (Qn分布)

まずピーク分離について散乱断面積が見積もれなかったためラマンの散乱強度比

を Qn分布として簡易的にピーク分離を行い(Fig 36)そこから平均架橋酸素数 BO 数 n

を算出したここでFig 37 に 31P MAS NMRスペクトルを示しTable 31に NMRおよび

ラマン分光より得られた平均 BO 数 n を示す(NMR の帰属 reference [12])表よりNMR

とラマンから得られた Qn分布はほぼ一致していることが分かった60S40Pについては支

配構造が NMR(Q1) ラマン(Q

2)で逆になったこれは60S40P の組成がQ

2と Q1のほぼ中

間の組成になるためこのようなズレが生じたと考えられるしかし今回のラマンによ

る Qn分布の算出についてはほぼ問題ないと判断した

Table 32にラマンスペクトルより求めた Qn分布平均 BO 数 nをを示しTable 24に示

した DR 重量減の結果を併記する

SP ガラスのうち耐水性が低いガラスは Q2構造によって形成されているSnO量の増加

によって NBOの増加とともに耐水性の向上が確認できSnOが入ることでSn-O-P 結合を

形成し水分子からの攻撃を受けにくくなっていることが考えられる

Sn-Nb-P ガラスでは基本的に Q1構造が主構造でNb2O5の添加が増えるにつれQ

0構

造が支配的になり耐水性は次第に向上していく最も耐水性のよかった 65S-5Nb-30P は

Q0構造での割合が非常に高く平均 BO数 n値が 03であった

SNP ガラスではP2O5量が多い組成の 50S5N45Pにおいても平均 BO数 nが 60S40P と

同じながらも耐水性が良くなっている67S5N28P はほぼ完全に Q0構造であり平均 Q

n

値は 0となった

SZP ガラスについてはS5ZP 5ZSP のどちらの系列についても耐水性の結果に大きな差

というものは確認されなかったが構造的にも平均 BO数 nが 09 10 17という結果であ

った

FP ガラスについてはFe2O3 lt 30 molのときは平均 BO 数 nが20 19と高い数値を

示したが耐水性は非常に良好であったこの結果より組成だけでなく構造的にも耐

水性高くなる要因が不明である一つの原因の可能性としてメスバウアーより得られた

Fe2+の存在比が 40以上と高かったことがFe2O3含有量が少ない組成時には効果的になっ

ているのかもしれない

333 平均 BO数 nと耐水性の関係性

44

Fig 38に DRと平均 BO数 nの関係性についてFig 39に重量減と平均 BO数 nの関係

性をそれぞれ示すまたOP の時と同様に各図にリン酸塩の三つの構造の平均 BO数

n も表記した双方の図よりDR 重量減共に平均 BO 数 nが低下することで単調に下がっ

ていることが分かるまた耐水性の良かったNb2O5添加の Sn-Nb-P SNPガラスはの DR

の挙動(傾き)はOP 時とも異なった挙動が得られた

Fig 310に OP と平均 BO数 nの関係を示す図中に示す茶色metaphosphate 黄色

pyrophosphate 灰色orthophosphate であるこの図から耐水性改善には平均 BO 数

n を下げOP を上げることが重要であるのが分かるまたNb5+の添加はOP を上げる

だけでなく平均 BO 数も減少させることから非常に効果的な成分であることが明らかで

あるこれはP5+から同酸価数 Nb

5+に少量でも置き換えることで平均 BO 数 n を下げ

OP を上げることを可能としている(実際に orthophosphate の OP4 よりも高い OP でガ

ラスが作製できている)つまりNb5+の添加によって P-O-P 結合が減少し水和反応加

水分解反応が抑制されているからである

以上の結果SP 系ガラスの耐水性改善には低い平均 BO 数と高い OP の組成にするこ

とが重要でNb2O5の添加は非常に効果的であることが分かったその一方でガラス中の

詳細な構造的要因についてははっきりしていないため次章の第 4 章にてさらに詳し

い構造解析を行い耐水性改善の要因について調査を行った

34 結言

本章ではラマン分光を使用して各ガラス系のリン酸塩アニオンの構造を簡易定量で

評価し組成と構造の関係について考察した

平均 BO 数 n と耐水性に関してはDR および重量減が平均 BO 数 n の減少で単調に低下

した結果が得られた

平均 BO数 nと OP の図より耐水性改善には平均 BO数 nを下げることそして OP

を上げることが重要であることが明白であった

Nb5+の添加は平均 BO数を減少させるだけでなくOP も上げることからガラス構造内

の P-O-P 結合を減少させる故に水和反応加水分解反応が抑制され耐水性が大幅に

改善された故にNb2O5 のような高価数金属酸化物を添加することが効果的であること

が示唆された

参考文献

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[9] 中井利仁 NEW GLASS 28 [109] 17 -2 8 (2013)

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[12] D Holland A P Howes M E Smith and A C Hannon J Phys Condens Matter 14

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46

Fig 31 SP ガラスのラマンスペクトル

47

Fig 32 Sn-Nb-P ガラスのラマンスペクトル

48

Fig 33 SNP ガラスのラマンスペクトル

49

Fig 34 SZP ガラスのラマンスペクトル

50

Fig 35 FP ガラスのラマンスペクトル

51

Fig 36 ラマンスペクトルのピーク分離例(67S5N28P)

Raman Shift (cm-1)

52

Fig 37 NMRスペクトル

Table 31 NMR およびラマン分光より得られた SP 67S5N28P ガラスの

Qn分布および平均 BO数 n

53

Table 32 各ガラスのラマンスペクトルより求めた Qn分布結果

(表の赤線より右側の結果は Table 22 より)

1 仕込み組成による数値

2 Fig 2212 に示した析出物を取り除いた後の数値

54

Fig 38 DR と平均 BO数 nの関係性

55

Fig 39 重量減と平均 BO数 nの関係性

56

Fig 310 OP と平均 BO数 nの関係性

Meta

Pyro

Ortho

57

第 4章 放射光を用いたスズリン酸塩系ガラスの構造解析

41 緒言

前章の第 3 章にてラマン分光法を用いて SP 系ガラスの構造解析により Qn分布を導き

出したことで耐水性と構造の関係についてある程度関連性を導くことができたリン

酸アニオンについてはQ0(orthophosphate)構造 gt Q

1(pyrophosphate)構造 gt Q2

(metaphosphate)構造の順で良耐水性となるしかしSn Nbおよび Znの局所構造につ

いては知見が得られていないラマン分光や IR分光などの分光学的手法を用いてSnや

Nb Zn の周辺の局所構造を知るには限界があるまたガラスの構造解析を行う上で非常

に重要な因子である中距離構造の評価には分光学的手法は不向きである[1]

そこで局所構造や中距離構造を知るために有効な手法として放射光線を用いた構造

解析がある放射光(SR 光)とはシンクロトロンなどの加速器で高速に加速された電子

が進行方向を磁場によって変えられた際に放射する電磁波である[2]エネルギーが高く

(短波長)輝度が高い特性を有している日本国内では兵庫県佐用町の SPring-8や茨城

県つくば市の高エネルギー加速器研究機構佐賀県鳥栖市の佐賀県立九州シンクロトロン

光研究センターなど複数個所に放射光施設が設置されている

放射光を用いたガラスの構造解析には一般的に高エネルギーX 線回折(High Energy

X-ray diffraction HEXRD)が用いられるこの回折実験から高い散乱ベクトル Q(= 4π sinθλ)

まで回折データが得られる多種類の原子から構成される物質の場合はFaber-Ziman 型[3]

の構造因子 S(Q)を用いる以下の式に示すようにFaber-Ziman 型構造因子 S(Q)は同種また

は異種の原子による相関の重み関数付の和として示される例として SiO2ガラスで説明す

ると構造因子 S(Q)は三種類の原子付の S(Q)の重み付の和として表されていることが分か

I(Q) 散乱断面積 ltgt 原子一個当たりの平均値 f(Q) 原子散乱因子 W 重み関数

通常の研究室で使用される X 線回折(XRD)装置で用いられる特性 X 線はCuKα線(λ

= 0154 nm 81 keV)が最も良く用いられより高いエネルギーの X 線が必要な場合は

MoKα線(λ = 0071 nm 175 keV)が使用される一方でSPring-8のビームライン BL04B2

で行われる高エネルギーX 線回折(HEXRD)測定で使用される SR のエネルギーは378 keV

58

~ が使用可能である[2]従ってガラス以外の液体のような非晶質物質にも非常に精度

よく構造解析が行われている[4]

また局所構造解析の一つに X線異常散乱法という測定方法がある[5 6]これは通常

の X 線回折実験では分離不可能な特定元素に関連する部分構造因子(散乱強度曲線)を得

ることができる手法である今回 HEXRD の測定時に使用したエネルギー614 keV では各元

素の異常散乱項のエネルギー依存性は確認されない(Fig 41)その一方でFig 42に示す

Sn の吸収端付近の 292 keV付近ではSnの異常分散項のエネルギー依存性が確認できる

つまりSnの吸収端近傍より低エネルギー(E)側の異なるエネルギーの X線(E1 E2)を

使って散乱強度を測定し各 E における異常分散項(f`)の変化(つまり高い E1 から低い

E2 の散乱強度の差分)を利用して Snに関する部分構造因子を求める構造解析が AXS 法で

あるこの測定法は古くから知られている方法ではあるが装置の測定条件や設備の問

題からなどから使用があまり普及していなかった[5 6]近年になり金属ガラスの構造解

析について徐々に報告が出てきており今後注目される測定法である

HEXRD および AXS 法などから得られたデータ実測の構造因子 S(Q)は一次元の限られ

た構造情報であるためガラスなどの非晶質物質の中距離構造を解明するためにはこれ

らのデータを基に三次元構造を求める必要がある三次元構造モデルの作成には逆モンテ

カルロ(RMC)シミュレーションを使用することが有効である[7]このシミュレーション

は任意で決めたシミュレーションボックス内の粒子をランダムに動かすことで実測の

構造因子 S(Q)を再現する三次元構造モデルを構築する方法である

SP ガラスについては分光学的手法について数多く報告があるが放射光を用いた回折

法はほとんど適用されていないそこで本研究では HEXRD および AXS 法を用いた構造

解析を行うことでSn Nb周りの構造を解明すると共にSNP ガラスの耐水性改善のメカ

ニズムについて考察したまたAXS 法の有効性についても検討した測定を行ったガラ

スはSP ガラスおよび最も耐水性の高かった 67S5N28P を選択した

42 実験方法

421 HEXRD AXS法

HEXRDはSPring-8のビームライン BL04B2 で測定を行ったエネルギー614 keV の X

線を用いた測定サンプルの厚みは09 mm (plusmn0005 mm)になるまで研磨を行った

AXS 測定はSPring-8のビームライン BL13XUを使用した(Fig 43)それぞれの測定し

た X 線のエネルギーについて以下に示す

①Sn K吸収端hellip292 keV near edgehellip291452 keV (-60 eV) far edgehellip289751 keV (-230 eV)

②Nb K吸収端hellip1899 keV near edgehellip189562 keV (-30 eV) far edgehellip187863 keV (-230 eV)

測定に使用したサンプルの厚さが015 - 030 mmとなるまで研磨を施した

SP ガラスについて50S50P 60S40P 67S33P の三組成のガラスを測定した70S30P に関

59

しては測定を試みたが放射光照射によって結晶化してしまいガラス部分の正確な構

造因子を得るための強度補正ができず解析を断念した

422 RMCのモデリング

Table 41 に RMC の各種パラメーターを示す粒子数は約 5000 個でそれに伴う boxの一

辺の長さは約 42 ~ 46 Ǻになった拘束条件にP の配位数が 4になるような条件を付け

加えたFig 44にSn2P2O7結晶および Sn3P2O8結晶の動径分布関数(RDF)をTable 32

にRDFから得られた第一近接距離[8 9] を示すこれらの数値を使用しcutoffを決定し

たNb-O についてはいくつかの文献値を参考にした[10 11]

各ガラスの RMCのモデリングは①HEXRDから得られた S(Q)のみ②S(Q)および AXS

から得られた部分構造因子を加えた場合でそれぞれ計算した

43 結果考察

最初にNbの AXSから得られたデータについて解析を試みたが妥当な構造モデルが得

られなかったためSnの AXSのみで解析を進めたNb2O5の量が 5 molと少量であったた

めあまり精度の高いデータが得られなかったと推測される

431 実測の HEXRDおよび AXSの結果

4311 実測 HEXRDの S(Q)

Fig 45 に実測HEXRDの S(Q)を示す四つの組成ともに実測HEXRDの S(Q)が得られ

Nb2O5添加の 67S5N28P ガラスでは Low Q 側に変化が確認された

4312 実測散乱強度曲線

Fig 46 に Snの散乱強度曲線を示す(a) の 67S33P のこの曲線からはfar edgeおよび

near edge のエネルギー間で差分が見られエネルギーの依存性が確認された50S50P

67S5N28P のガラスについても同じように差分が確認されたが(b)の 60S40P についてのみ

他とは若干異なる結果(緑丸)であったためRMC の構造解析には差分の構造因子ではな

くfar edge near edge 二つの構造因子を用いた

4313 全相関関数 T(r)

Fig 47 に全相関関数 T(r) を示すHEXRD から得られたものを実線でSnの AXS から

得られたものは点線で示し組成ごとに重ねて表示した図中に各ピークについて帰属し

ているがSnの T(r)からはSn-O Sn-P Sn-Snのみのピークを確認した

432 RMCの計算結果および考察

60

構造モデルの一例として67S5N28P ガラスの得られた構造モデルをFig 48に示す水

色の多面体 unitSnON 黄色の多面体 unitPO4 ピンクの多面体 unitNbONである以下

詳細な構造解析の結果および考察を記す

4321 RMCのフィッティング結果

RMCのフィッティング結果の一例として67S33P の HEXRD と Snの AXS の構造因子か

ら得た結果を示す(Fig 49)二つの構造因子を加えて計算した結果においてもHEXRD

の S(Q) AXS の S(Q)に各々に対する良好なフィッティング結果が得られた他の組成も

同様なフィッティング結果が得られた

4322得られた各 pairの平均配位数平均角度平均結合距離

RMCの結果によって得られた各 pairの平均配位数平均角度平均結合距離を Tables 43

に示す上段が HEXRD の S(Q)のみ下段が HEXRD に Sn の AXS の部分構造因子を加え

て結果である最下部は比較のためにSn2P2O7の情報を記載した[8]

P-O pairについてRMCモデル中の PON多面体に関して平均配位数 Nが 4および P-O

の平均結合距離が約 160Å平均結合角度angO-P-O が約 109degという結果が得られた組成

による大きな違いは確認されなかったのはP の配位数が 4になるように拘束条件をかけた

結果であると考えられるSnON多面体についてはSnO量の増加 = OP の増加であり平

均配位数 Nが 3 ~ 35へ増加した平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約

22Åで組成による大きな変化はほとんど見られなかったNb2O5を 5 mol添加したガラ

スではNbON多面体の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平均配位数 N約 4Nb-O 平均結

合距離約 20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O(約 105deg)と値が近いこと

また6配位ではなく 4配位として主に存在していることからSnO と同じような働きをし

ていると推測される

以上の結果からNb2O5添加の耐水性改善の要因として結合距離が Sn-O が約 22Åに対

し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強固にして

いることも一つの要因として考えられる

また67S5N28P ガラスの各多面体モデルを確認すると(Fig 410)P は PO4Snは SnO4

と SnO3Nbは NbO4をそれぞれ再現している

4323得られた各 pairの結合様式

RMC の結果により得られた各 pair の結合様式を Tables 44 に示す上段が HEXRD の

S(Q)のみ下段が HEXRDに Snの AXS の部分構造因子を加えた結果である最下部は比

較のためにSn2P2O7の情報を記載した[8]

結合様式に関してはPO4四面体は他の多面体も含めてほぼ頂点共有で存在している

SnON多面体についてはSnO 量が少ない配位数が 3 に近い場合頂点共有以外の共有の

61

割合も多くSnO 量が増えるにつれて頂点共有が主になり網目形成体として振舞ってい

ると考えられる組成によって平均結合距離や平均角度の大きな変化が見られなかったこ

とから平均配位数が結合様式を決める重要なファクターであるということも考えられる

またHEXRD と AXS 法の結果がほぼ同じであったこれは主成分が SnO のガラスであ

るためHEXRDでも十分に詳細な構造が得られたため大きな変化が現れなかったと考え

られるNbON 多面体はPO4 四面体と SnON 多面体とはほぼ頂点共有で繋がっている以

上の結果よりSnO量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体的に各多面体同士の

頂点共有が増えていることから耐水性の改善には頂点共有を多く含む構造であること

が重要である或いは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的となって

いるということが推測されるFig 411に 67S5N28P ガラスの構造モデルを示す各多面

体はほぼ頂点共有で繋がっていることが確認できる

4324 平均 BO数の比較

Tables 45にNMR Raman RMC(HEXRD) RMC(HEXRD + AXS)の平均BO数を示すRMC

から得られた平均 BO 数 nはNMR Raman と同様に Nb2O5の添加による大幅な減少が確認

されたしかしNMR Raman と比較すると全組成において数値が大きすぎで適当でない

50S50P の構造モデルを観るとPO4四面体間で3配位 O の存在が確認された(Fig 412)た

め実測で得られた n値を再現できるようなPO4四面体モデル間の繋がり方に関する拘束条

件を加えて RMCを計算する必要性があるまた仮に3配位 Oの存在があるとすると電

子状態の変化が生じていることがと示唆されるため分子軌道計算を用いて電子状態解析

を行い確認する必要がある

4325 耐水性の改善について

Nb2O5を添加のガラス構造への影響について①6配位ではなく 4配位として主に存在し

ていることからSnO と同じような働きをしていると推測される②結合距離が Sn-O が約

22Åに対し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強

固にしている③ガラス構造中で全体的に各多面体同士の頂点共有が増えている以上の

ことが判明した以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性

耐候性を改善した要因として考えられる

44 結言

本章では分光学的手法では評価できないガラスの中距離構造局所構造について理解

するために放射光を用いた構造解析を実施しSP ガラスの構造と耐水性改善について考

察したHEXRDおよび AXS法を用いて測定を行い得られたデータを RMCシミュレーシ

ョンにて解析を行った

解析の結果 Sn-O pair については平均配位数 Nが 3 ~ 35でSnO量の増加 = OP の増

62

加に伴い高くなった平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約 22Åであ

ったP-O Sn-Oについては組成による大きな変化はほとんど見られなかった67S5N28P

ガラスの Nb-O pair の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平均配位数約 4Nb-O 平均結合距

離約 20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O(約 105deg)と値が近いことま

た6配位ではなく 4配位として主に存在していることからSnOと同じような働き(網目

形成体)をしていると推測されるまた結合距離が Sn-O が約 22Åに対し Nb-O は約 20

Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強固にしていると言える

SnO 量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体的に各多面体同士の頂点共有が増え

ていることから耐水性の改善には頂点共有を多く含む構造であることが重要である

もしくは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的であることが推測さ

れる以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性耐候性を

改善した要因として考えられる

またAXS 法の有効性についても確認し効果的であることが判明したただし今回

は主成分が Sn の組成のガラスでありHEXRD でも十分に詳細な構造が得られたため

大きな差は現れなかった

参考文献

[1] 山根正之 安井至 和田正道 国分可紀 寺井良平 近藤敬 小川晋永編ガラス光学ハ

ンドブック 朝倉書店(1999)

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[4] 小原真司 鈴谷健太郎 放射光 14 [5] 365-375 (2001)

[5] 早稲田嘉夫 齋藤正敏 放射光 10 [3] 299-315 (1997)

[6] 細川伸也 広島工業大学紀要研究編 46 197-204 (2012)

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MV Korolenko and PB Fabritchinyi J Chem Mater 17 284-290 (2005)

[9] M Mathew L W Schroeder and T H Jordan Acta Cryst B33 1812-1816 (1977)

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[11] D Munoz-Martin A Ruiz de La Cruz J M Fernandez-Navarro C Domingo J Solis and J

Gonzalo J appl Phys 110 023522 (2011)

63

Fig 41 各原子の異常分散項のエネルギー依存性

Fig 42 Sn の異常分散項のエネルギー依存性

64

Fig 43 SPring-8の BL13XU

65

Tab

le 4

1

RM

Cの各パラメーター

66

Fig 44 Sn2P2O7 Sn3P2O8結晶の RDF

Table 42 Sn2P2O7 Sn3P2O8結晶の各 pairの第一近接距離

67

Fig 45 得られた実測 HEXRDの S(Q)

68

Fig 46 Sn の異常散乱測定により得られた散乱強度のエネルギー依存性

(a)67S33P (b)60S40P

69

Fig 47 全相関関数 T(r)

太線 HEXRD より

細線 Sn の AXSより

70

Fig 48 67S5N28P ガラス構造のモデル

71

Fig 49 RMC フィッティングの結果

72

Tab

le 4

3 各

pairの平均配位数角度結合距離

73

Fig

4

10

67

S5

N2

8Pガラスの各多面体モデル

74

Tab

le 4

4 各

pairの結合様式

75

Fig 411 67S5N28P ガラスの構造モデル

76

Table 45 平均 BO 各数 nの比較

Fig 412 50S50P ガラスの構造モデル

77

第 5章 総括

本研究ではSP ガラスを対象とした本研究では鉛フリー代替ガラスまたは希土類フ

リー蛍光体として SP ガラスの新規高機能化を将来的に目指し問題点であるldquo化学的耐久

性rdquoの改善につながる知見を得ることを目的としたそこでまずSP ガラスを母体ガラ

スとし第三成分に Nb2O5を添加した Sn-Nb-P SNP ガラスZnO を添加した SZP ガラスを

作製し耐水性を中心とした物性評価を行った次に分光学的手法で構造解析を行い

Qn 分布を導き出した最後に放射光を用いた構造解析を行い耐水性改善に関する構造的

な考察を行った以下に本研究で行った検討内容を示す

(1)SPガラスおよび第三成分Nb2O5 ZnOを添加した三成分系SPガラスの物性評価(第 2章)

(2)SP 系ガラスの分光学的手法による Qn分布導出(第 3章)

(3)放射光を用いた SP 系ガラスの構造解析構造と耐水性改善の関連について(第 4章)

各章についてまとめた結果を以下に示す

第 2章

第 2章では二成分系および三成分系のリン酸塩系ガラスの各種物性(密度や熱的特性

耐水性)の評価を行った二成分系ではSP ガラスに加え良好な耐水性を有する鉄リン

酸塩(Fe2O3-P2O5)系ガラス(以下 FP ガラス)を比較のために三成分系では二成分系

の SP ガラスに Nb2O5を添加したニオブ含有 SP ガラス(SNP ガラス)および ZnO を添加し

た亜鉛含有 SP ガラス(SZP ガラス)を作製した

今回作製した SP 系ガラスは低ガラス転移温度を有していた各組成の温度域はSP

ガラスTg le 280 Sn-Nb-P SNPガラスTg le 3505SZP S5ZPガラスTg ≦ 450であった

各種 SP ガラスの耐水性試験の結果二成分系の SP ガラスよりも三成分系ガラスの方が

良好な耐水性を有していた65Sn-5Nb-30P 67S5N28P ガラスが最も耐水性が良好であり化

学的耐久性の改善には Nb2O5が ZnOよりも効果的であった

組成と耐水性に関してはDRおよび重量減がOP増加で単調に低下した結果が得られた

つまり耐水性を改善させるにはSP 系ガラスのガラス化範囲を拡大かつ OP を増大させ

る第三成分の添加が有効であることが示唆された

第 3章

第 3章ではSP 系ガラスの分光学的手法による Qn分布の導出を行ったラマン分光法を

用いて各ガラス系のリン酸塩アニオンの構造を簡易定量で評価し組成と構造の関係に

ついて考察した平均 BO 数 n と耐水性に関してはDR および重量減が平均 BO 数 nの減

少で単調に低下することが明らかとなった

平均 BO 数 n と OP の関係より耐水性改善には平均 BO 数 n を下げることそして

OP を上げることが重要であることが明らかになった

78

Nb5+の添加は平均 BO数を減少させるだけでなくOP も上げることからガラス構造

内の P-O-P 結合を減少させ水和反応加水分解反応が抑制され耐水性が大幅に改善さ

れることが示唆された故にNb2O5 のような高価数金属酸化物を添加することが効果的

であることが再度確認された

第 4章

耐水性向上についてより深く評価するためSP SNP ガラスの局所構造に関する知見を得

ることを目的に放射光を用いた構造解析を行った高エネルギーX 線回折(HEXRD)お

よび X 線異常散乱(AXS)法で測定したデータを再現する構造モデルを逆モンテカルロ

(RMC)シミュレーションで構築し構造解析を行った

RMC モデル中の PON多面体に関して平均配位数 Nが 4および P-O の平均結合距離が約

160Å平均結合角度angO-P-Oが約 109degという結果が得られた組成による大きな違いは確

認されなかったSnON多面体については平均配位数 N が 3~4 でSnO 量の増加に伴い 4

に近い値となった平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約 22Åで組成

による大きな変化は見られなかった

Nb2O5を 5 mol添加したガラスではNbON多面体の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平

均配位数N約4Nb-O平均結合距離約20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O

(約 105deg)と値が近いことまた6配位ではなく 4配位として主に存在していることから

SnO と同じような網目形成体として働いていると推測されたまた結合距離が Sn-O が約

22Åに対し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強

固にしていると考えられるまたSnO 量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体

的に各多面体同士の頂点共有が増えていることから耐水性の改善には頂点共有を多く

含む構造もしくは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的であること

が示唆された以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性

耐候性を改善した要因として考えられる

またAXS 法の有効性についても確認し効果的であることが判明したただし今回

は主成分が Snの組成のガラスでありHEXRD でも十分に詳細な Snの周辺構造が得られ

たためAXSを利用した場合との大きな構造の差は認められなかった

本研究では様々な優れた特徴を有する SP ガラスにおける耐水性改善のメカニズムにつ

いて検討を行ったこの系のガラスについてはこれまでほとんど利用されていなかった

放射光を用いた構造解析を駆使し第三成分の添加によってどのような構造的変化が生じ

耐水性を改善させるか新たな知見を得ることができた最終目標である機能性ガラスの

開発における新たなる材料設計指針の確立に対してldquo耐水性rdquoに関しては概ね明らかにな

ったと考えられる一方で今回検討していな電子状態化学結合性についても評価する

ことで溶出メカニズムの解明が可能になり材料設計指針の確立が期待される

79

発表論文リスト

口頭発表

第 2章および第 3章

(1) SnO-P2O5 系ガラスへの酸化物添加効果

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎

日本セラミックス協会第 25 回秋季シンポジウム No3C06 (名古屋市 2012年 9月)

(2) Effect of Nb2O5 addition to SnO-P2O5 glass (Poster)

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

International Union of Materials Research Societies International Conference on Electronic

Materials IUMRS-ICEM 2012 A-9-P26-003 (Yokohama 2012 年 9月)

(3) スズリン酸塩系ガラスの蛍光特性耐水性に及ばす酸化物の添加効果(ポスター)

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎

日本セラミックス協会 2013 年年会 1P070 (東京 2013年 3月)

第 4章

(1) 放射光を用いたスズリン酸塩ガラスの構造解析

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎小原真二臼杵毅

日本セラミックス協会第 27 回秋季シンポジウム 2B22 (鹿児島市 2014年 9 月)

(2) Structural analysis of tin phosphate glasses by synchrotron radiation (Poster)

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba Shinji Kohara Takeshi Usuki

International Congress on Glass ICG Annual Meeting Bangkok 2015 P14-138 p186 (2015)

発表論文

(1) Effect of Nb2O5 addition to SnO- P2O5 glass

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

Journal of the Ceramic Society of Japan Vol 120 No 11 pp530-533 (2012)

(2) Structural analysis of SnO- P2O5 glass

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

Journal of the Ceramic Society of Japan(準備中)

80

謝辞

本研究を遂行するにあたり終始暖かいご指導ご助言並びにご鞭撻を賜わりました岡

山大学大学院環境生命科学研究科 難波徳郎教授に心より感謝の意を表します

また本研究を遂行するにあたり懇切丁寧なご指導とご意見をしていただいた岡山大

学大学院環境生命科学研究科 紅野安彦准教授環境環理センター 崎田真一助教に心より

感謝いたします

本研究を遂行するにあたりラマン分光測定の使用についてご助言ご教授して頂い

た岡山大学自然科学研究科 藤井達生教授中西真助教に心より感謝の意を表します

Sn のメスバウアー測定の際に協力して頂いた岡山大学自然科学研究科先端自然科学教

育研究推進本部高田研究室 松本修治特任助教(当時旭硝子株式会社中央研究所)また

Feのメスバウアーを測定の際に協力して頂いた岡山大学自然科学研究科 藤井達生教授に

心より感謝の意を表します

固体 NMR の岡山大学自然科学研究科 早川聡教授に心より感謝の意を表します

本研究を遂行するにあたりSPring-8 にてHEXRD および AXS 法の測定法および原理

についてご教示頂きました物質材料研究機構 小原真司博士ならびに山形大学 臼杵毅

教授に心より感謝の意を表します

本研究は多くの後輩諸君の協力によって遂行されました特に実際に共同研究共同

実験を遂行して頂いたOG 藤原沙弥香さん博士前期課程 2 年 東利彦君OB 徳岡太誠

君学士課程 4年 塩田将大君に心より感謝の意を表しますまた難波研究室で共に研

究生活を過ごした卒業生在学生の方々に感謝の意を表します

また同時期に博士後期課程に在籍された香川高等専門学校の桟敷剛さんにはNbに

関する有益な情報だけでなく辛い状況でも励ましを頂きました心より感謝の意を表し

ます

最後に長きに渡る学生生活を認め経済面だけでなく精神面でも支援してくださった

家族に心より深く感謝の意を表します

平成 28年 3月

福井 聡史

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25

Table 21 各ガラスの組成分析結果

26

Fig 29 Sn-Nb-P ガラスのメスバウアースペクトル

Table 22 Sn-Nb-P ガラスのメスバウアーパラメーター

27

Fig 210 FP ガラスのメスバウアースペクトル

Table 23 FP ガラスのメスバウアーパラメーター

28

Table 24 各ガラスの物性(密度(ρ)ガラス転移温度(Tg)溶出速度(DR)重量減())

29

Fig 211 SP ガラスの耐水性試験前後の外観写真

Fig 212 Sn-Nb-P ガラスの耐水性試験前後の外観写真

30

Fig 213 SNP ガラスの耐水性試験前後の外観写真

Fig 214 S5ZP ガラスの耐水性試験前後の外観写真

Fig 215 5SZP ガラスの耐水性試験前後の外観写真

31

Fig 216 FP ガラスの耐水性試験前後の外観写真

32

Fig 217 SP ガラスの XRD パターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

33

Fig 218 Sn-Nb-P ガラスの XRD パターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

34

Fig 219 SNP ガラスの XRD パターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

35

Fig 220 5SZP ガラスの XRDパターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

36

Fig 221 S5ZP ガラスの XRDパターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

37

Fig 222 FP ガラスの XRD パターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

38

Fig 223 各ガラス系の DR と OP の関係性

39

Fig 224 各ガラス系の重量減と OP の関係性

40

第 3章 分光法を用いたスズリン酸塩系ガラスの構造解析

31 緒言

前章ではSP ガラスおよび第三成分に Nb2O5 ZnOを添加した Sn-Nb-P ガラスSNP ガラ

スSZP ガラスの物性特に耐水性に関する第三成分添加の有効性を明らかにしたその添

加した第三成分の二種類についてもNb2O5 の方が ZnO よりも溶出速度重量減ともに抑

制することができSP ガラスの低ガラス転移温度という特性も維持されていることが判明

したしかし現段階では本研究の主要な物性である耐水性改善の要因が明確になって

いない組成の観点からはOP の値が高い組成が良好な耐水性であることが分かったが

組成だけでは耐水性改善のメカニズムについて完全には理解できないここでリン酸塩

ガラスの溶出のメカニズムは第 1 章で述べたように加水分解反応と水和反応が要因とな

る[1 2]この機構はそれぞれリン酸の構造つまり架橋酸素 BO の数が大きく関わって

おりリン酸アニオンの[PO4]ユニットの架橋酸素数を知ることが重要であるこの BO の

情報を得るためにはガラス構造を示す指標の一つである Qn(n は[PO4]ユニット中の架橋

酸素数を表す)を調べることが必須であるまたQn の分布を調べるためにはガラスの

構造解析を行う必要性がある

ガラスの構造解析には種々の方法があり特にラマン分光法や赤外(IR)分光法核

磁気共鳴法(NMR)などの分光学的手法を用いた構造解析の報告が多い[3-5]ラマン分光

法および IR分光法は原理は異なるがどちらも結合の振動モードを測定する手法であり[6]

リン酸塩ガラスだけでなくケイ酸塩ガラスホウ酸塩ガラスなど様々なガラス系にて測

定がなされている[7 8]また得られた結合状態の情報からリン酸塩アニオンの Qn分布

を調べることも可能であるNMR は共鳴吸収ピークの化学シフト(共鳴周波数のズレ)

から構造を決定する手法であるガラスの場合SiO2や B2O3 P2O5といった網目形成酸化物

の Qn分布を得るために一般的に使用されている手法である[9]

今回これらの測定の中でラマン分光法を選択し構造解析を行ったラマン分光法は

測定する際にサンプル形状を気にすることなく基本的にそのまま測定できるためIR 分

光法のようにサンプル形状で測定方法を変える必要はないまたIR 分光法では例えば

KBr 錠剤法やヌジュール法のように測定を行うためのサンプル調整に手間がかかる場合が

ある[6]さらに比較対象の FP ガラスではNMR を測定できないため作製ガラスを全

て比較検討できるようにラマン分光法を選択した

本章ではラマン分光法を用いて各ガラスの構造解析を行い[PO4]ユニットの Qn分布を

調査し平均 BO数 nを算出することで耐水性と構造の関係性を検討したまたラマン

分光法によって得られた Qn分布の妥当性を確認するためにSP ガラスおよび 67S5N28P ガ

ラスの NMRを測定も行い比較した

32 実験方法

41

321 サンプル準備

ラマン分光およびメスバウアー分光の測定では第 2 章で作製した各ガラスのバルク体

を用いたWD試験に使用したサンプルとは別にラマン測定用のサンプルを用意した適

度な大きさ大体 15 cm角程度のサイズになるようにガラスカッターで切断しその後

十分な平滑性を得るために鏡面研磨を施した

322 ラマン分光測定

使用したラマン分光装置は顕微レーザーラマン分光装置(Jasco NRS-5100)を用いた

用いたレーザー波長は 53208 nmであり400 - 2000 cm-1の範囲で測定した

Qn 分布を導くためにピークフィッティングを行いリン酸塩アニオンのラマンバンド

が現れる950 - 1250 cm-1付近および 700 - 750cm-付近の範囲で定量した

323 31P MAS NMR測定

31P MAS NMRの測定は Varian NMR System 500 を用いて32 mmの MASプローブ

202309MHzにて行った測定パラメーターを以下に示すπ4 パルス長さ 14 μs 待ち時間

(pulse delay)10 s 積算回数 3600 scan シリンダー円筒形状の Zrローターの回転スピード

160 kHz referenceとして二番目の基準物質として使われる NH4H2PO4を使用化学シフト

は85 H3PO4溶液から δ = 10 ppmである

33 結果考察

331 各ガラス系のラマンスペクトル

Figs 31 - 35にラマンスペクトルを示す各ピークは以下の通りに帰属し各スペクト

ル中に該当する構造をピーク位置に示した

1230 - 1260 cm-1 P=O NBO Q

2 [10]

1110 - 1150 cm-1metaphosphate (PO3)

- Q

2 [10]

1030 - 1100 cm-1pyrophosphate (PO35)

2- Q

1 [10]

970 - 1000 cm-1orthophosphate (PO4)

3- Q

0 [10]

920 - 930 cm-1asymmetric (P-O-P) Q

1 [10]

730 - 750 cm-1symmetric (P-O-P) Q

1 [10]

710 - 720 cm-1asymmetric (P-O-P) Q

2 [10]

810 - 820 cm-1Nb-O [NbO4] tetrahedron [11]

900 - 920 cm-1Nb-O isolated [NbO6] octahedron [11]

42

SP ガラスのラマンスペクトル(Fig 31)を見ると50S50P 60S40P ではmetaphosphate

の Q2 構造が支配的であるがSnO 量が増えるにつれてその構造が変化し70S30P では

pyrophosphateの Q1構造と orthophosphateの Q

0構造が共存した構造となっているまたSnO

量の少ない 50S50P および 60S40P において確認されたQ2構造の P=O のピークが見えなく

なっているつまり耐水性と関連して考えるとSnO量が増えるにつれてP-O-P 結合か

ら Sn-O-P 結合に代わり水分子との反応である加水分解反応を妨げる構造に変化している

ことがわかる

Figs 32 33にNb2O5を添加した Sn-Nb-P ガラスおよび SNP ガラスのラマンスペクトル

を示すまずSn-Nb-P ガラスについてNb 無添加の 65Sn-0Nb-35P は主に Q1構造であ

りNbO25が添加されることによってQ0構造に変化しQ

1 Q

0構造が共存しているような

ピークが得られた添加量が少ないガラス系であるため徐々に変化しているのを確認し

た800 cm-1を少し越えた 810 - 820 cm

-1付近にNb2O5を添加することでピークが現れそ

して添加量を増量することで強度が強まるピークがありこのピークは四面体の[NbO4]

のものと判断した

SNP ガラスのラマンスペクトルについてはNb2O5添加量を固定した組成であるためSP

ガラスのような挙動が観察された50S50N45P では50S50P ガラスと同じようにQ2構造

が主な構造でありSnO量の増加に伴って60S5N35P Q1構造67S5N28P Q

0構造に支配

的な構造が変化しているこれはSP ガラスと同じ傾向を示しているためP-O-P rarr Sn-O-P

に置き替わっていることが示唆されるNb-O に関するピークでは50S5N45P のみ[NbO4]

四面体のピークを確認できず900 - 920 cm-1付近に[NbO6]八面体のピークが確認された

SnO量が増量した 60S5N35P では810 cm-1付近の [NbO4] 四面体のピークが現れているが

[NbO6]八面体のピークと 900 - 920 cm-1付近の Q

1構造のピークが非常に近い(ほぼ重なって

いる)ことから60S5N35P については[NbO4] 四面体および[NbO6]八面体の共存の可能性

も考えられるまた67S5NP28 では[NbO4] 四面体のみのピークが観察されたためこ

の Nb-O の配位数変化は[PO4] unitの状態によって変化している可能性も示唆された

ZnO を添加した S5ZP ガラスおよび 5SZP ガラスのラマンスペクトルを Fig 34 に示す

図の下部三つが S5ZP ガラス上部三つが 5SZP ガラスのスペクトルであるSZP ガラスの

二系統を比べるとあきらかなスペクトルの違いが確認された各ガラス系で確認すると

SnO 量が最小の 55S5Z40P はQ2構造と Q

1構造の範囲に跨っているようなスペクトルが得

られた62S5Z33P および 65S5Z30P のスペクトルからはどちらもほぼ Q1構造であると判

断した5SZP のスペクトルは1000 - 1250 cm-1付近の範囲で裾を引くような(なだらかな)

スペクトルが得られたZnO 量が最小の 5S55Z40P にはQ2構造が主な構造に見えるが

shoulderピークのような Q1構造(1030 - 1100 cm

-1)が確認できる5S62Z40P においては

1000 - 1250 cm-1付近の範囲まで幅広いスペクトルが得られた730 - 750 cm

-1付近にピーク

が現れているためおそらく Q1構造が最も多く存在していると考えられる65S5Z30P では

Q1構造Q

0構造が共存しているようなピークが得られた

43

FP ガラスのラマンスペクトルを Fig 35 に示すFe量の少ない 20F80P 25F75P と他の三

つで構造が異なっていることである20F80P 25F75P はQ2構造と Q

1構造が基本構造にな

っていると判断できる 30F70P は1110 - 1150 cm-1付近に shoulderピークのようなものがあ

りQ2 Q

1 Q

0構造が共存しているようなスペクトルであった35F65P 40F60P はQ1構造

が主な構造でQ0構造があると判断した

332 平均 BO数 n (Qn分布)

まずピーク分離について散乱断面積が見積もれなかったためラマンの散乱強度比

を Qn分布として簡易的にピーク分離を行い(Fig 36)そこから平均架橋酸素数 BO 数 n

を算出したここでFig 37 に 31P MAS NMRスペクトルを示しTable 31に NMRおよび

ラマン分光より得られた平均 BO 数 n を示す(NMR の帰属 reference [12])表よりNMR

とラマンから得られた Qn分布はほぼ一致していることが分かった60S40Pについては支

配構造が NMR(Q1) ラマン(Q

2)で逆になったこれは60S40P の組成がQ

2と Q1のほぼ中

間の組成になるためこのようなズレが生じたと考えられるしかし今回のラマンによ

る Qn分布の算出についてはほぼ問題ないと判断した

Table 32にラマンスペクトルより求めた Qn分布平均 BO 数 nをを示しTable 24に示

した DR 重量減の結果を併記する

SP ガラスのうち耐水性が低いガラスは Q2構造によって形成されているSnO量の増加

によって NBOの増加とともに耐水性の向上が確認できSnOが入ることでSn-O-P 結合を

形成し水分子からの攻撃を受けにくくなっていることが考えられる

Sn-Nb-P ガラスでは基本的に Q1構造が主構造でNb2O5の添加が増えるにつれQ

0構

造が支配的になり耐水性は次第に向上していく最も耐水性のよかった 65S-5Nb-30P は

Q0構造での割合が非常に高く平均 BO数 n値が 03であった

SNP ガラスではP2O5量が多い組成の 50S5N45Pにおいても平均 BO数 nが 60S40P と

同じながらも耐水性が良くなっている67S5N28P はほぼ完全に Q0構造であり平均 Q

n

値は 0となった

SZP ガラスについてはS5ZP 5ZSP のどちらの系列についても耐水性の結果に大きな差

というものは確認されなかったが構造的にも平均 BO数 nが 09 10 17という結果であ

った

FP ガラスについてはFe2O3 lt 30 molのときは平均 BO 数 nが20 19と高い数値を

示したが耐水性は非常に良好であったこの結果より組成だけでなく構造的にも耐

水性高くなる要因が不明である一つの原因の可能性としてメスバウアーより得られた

Fe2+の存在比が 40以上と高かったことがFe2O3含有量が少ない組成時には効果的になっ

ているのかもしれない

333 平均 BO数 nと耐水性の関係性

44

Fig 38に DRと平均 BO数 nの関係性についてFig 39に重量減と平均 BO数 nの関係

性をそれぞれ示すまたOP の時と同様に各図にリン酸塩の三つの構造の平均 BO数

n も表記した双方の図よりDR 重量減共に平均 BO 数 nが低下することで単調に下がっ

ていることが分かるまた耐水性の良かったNb2O5添加の Sn-Nb-P SNPガラスはの DR

の挙動(傾き)はOP 時とも異なった挙動が得られた

Fig 310に OP と平均 BO数 nの関係を示す図中に示す茶色metaphosphate 黄色

pyrophosphate 灰色orthophosphate であるこの図から耐水性改善には平均 BO 数

n を下げOP を上げることが重要であるのが分かるまたNb5+の添加はOP を上げる

だけでなく平均 BO 数も減少させることから非常に効果的な成分であることが明らかで

あるこれはP5+から同酸価数 Nb

5+に少量でも置き換えることで平均 BO 数 n を下げ

OP を上げることを可能としている(実際に orthophosphate の OP4 よりも高い OP でガ

ラスが作製できている)つまりNb5+の添加によって P-O-P 結合が減少し水和反応加

水分解反応が抑制されているからである

以上の結果SP 系ガラスの耐水性改善には低い平均 BO 数と高い OP の組成にするこ

とが重要でNb2O5の添加は非常に効果的であることが分かったその一方でガラス中の

詳細な構造的要因についてははっきりしていないため次章の第 4 章にてさらに詳し

い構造解析を行い耐水性改善の要因について調査を行った

34 結言

本章ではラマン分光を使用して各ガラス系のリン酸塩アニオンの構造を簡易定量で

評価し組成と構造の関係について考察した

平均 BO 数 n と耐水性に関してはDR および重量減が平均 BO 数 n の減少で単調に低下

した結果が得られた

平均 BO数 nと OP の図より耐水性改善には平均 BO数 nを下げることそして OP

を上げることが重要であることが明白であった

Nb5+の添加は平均 BO数を減少させるだけでなくOP も上げることからガラス構造内

の P-O-P 結合を減少させる故に水和反応加水分解反応が抑制され耐水性が大幅に

改善された故にNb2O5 のような高価数金属酸化物を添加することが効果的であること

が示唆された

参考文献

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46

Fig 31 SP ガラスのラマンスペクトル

47

Fig 32 Sn-Nb-P ガラスのラマンスペクトル

48

Fig 33 SNP ガラスのラマンスペクトル

49

Fig 34 SZP ガラスのラマンスペクトル

50

Fig 35 FP ガラスのラマンスペクトル

51

Fig 36 ラマンスペクトルのピーク分離例(67S5N28P)

Raman Shift (cm-1)

52

Fig 37 NMRスペクトル

Table 31 NMR およびラマン分光より得られた SP 67S5N28P ガラスの

Qn分布および平均 BO数 n

53

Table 32 各ガラスのラマンスペクトルより求めた Qn分布結果

(表の赤線より右側の結果は Table 22 より)

1 仕込み組成による数値

2 Fig 2212 に示した析出物を取り除いた後の数値

54

Fig 38 DR と平均 BO数 nの関係性

55

Fig 39 重量減と平均 BO数 nの関係性

56

Fig 310 OP と平均 BO数 nの関係性

Meta

Pyro

Ortho

57

第 4章 放射光を用いたスズリン酸塩系ガラスの構造解析

41 緒言

前章の第 3 章にてラマン分光法を用いて SP 系ガラスの構造解析により Qn分布を導き

出したことで耐水性と構造の関係についてある程度関連性を導くことができたリン

酸アニオンについてはQ0(orthophosphate)構造 gt Q

1(pyrophosphate)構造 gt Q2

(metaphosphate)構造の順で良耐水性となるしかしSn Nbおよび Znの局所構造につ

いては知見が得られていないラマン分光や IR分光などの分光学的手法を用いてSnや

Nb Zn の周辺の局所構造を知るには限界があるまたガラスの構造解析を行う上で非常

に重要な因子である中距離構造の評価には分光学的手法は不向きである[1]

そこで局所構造や中距離構造を知るために有効な手法として放射光線を用いた構造

解析がある放射光(SR 光)とはシンクロトロンなどの加速器で高速に加速された電子

が進行方向を磁場によって変えられた際に放射する電磁波である[2]エネルギーが高く

(短波長)輝度が高い特性を有している日本国内では兵庫県佐用町の SPring-8や茨城

県つくば市の高エネルギー加速器研究機構佐賀県鳥栖市の佐賀県立九州シンクロトロン

光研究センターなど複数個所に放射光施設が設置されている

放射光を用いたガラスの構造解析には一般的に高エネルギーX 線回折(High Energy

X-ray diffraction HEXRD)が用いられるこの回折実験から高い散乱ベクトル Q(= 4π sinθλ)

まで回折データが得られる多種類の原子から構成される物質の場合はFaber-Ziman 型[3]

の構造因子 S(Q)を用いる以下の式に示すようにFaber-Ziman 型構造因子 S(Q)は同種また

は異種の原子による相関の重み関数付の和として示される例として SiO2ガラスで説明す

ると構造因子 S(Q)は三種類の原子付の S(Q)の重み付の和として表されていることが分か

I(Q) 散乱断面積 ltgt 原子一個当たりの平均値 f(Q) 原子散乱因子 W 重み関数

通常の研究室で使用される X 線回折(XRD)装置で用いられる特性 X 線はCuKα線(λ

= 0154 nm 81 keV)が最も良く用いられより高いエネルギーの X 線が必要な場合は

MoKα線(λ = 0071 nm 175 keV)が使用される一方でSPring-8のビームライン BL04B2

で行われる高エネルギーX 線回折(HEXRD)測定で使用される SR のエネルギーは378 keV

58

~ が使用可能である[2]従ってガラス以外の液体のような非晶質物質にも非常に精度

よく構造解析が行われている[4]

また局所構造解析の一つに X線異常散乱法という測定方法がある[5 6]これは通常

の X 線回折実験では分離不可能な特定元素に関連する部分構造因子(散乱強度曲線)を得

ることができる手法である今回 HEXRD の測定時に使用したエネルギー614 keV では各元

素の異常散乱項のエネルギー依存性は確認されない(Fig 41)その一方でFig 42に示す

Sn の吸収端付近の 292 keV付近ではSnの異常分散項のエネルギー依存性が確認できる

つまりSnの吸収端近傍より低エネルギー(E)側の異なるエネルギーの X線(E1 E2)を

使って散乱強度を測定し各 E における異常分散項(f`)の変化(つまり高い E1 から低い

E2 の散乱強度の差分)を利用して Snに関する部分構造因子を求める構造解析が AXS 法で

あるこの測定法は古くから知られている方法ではあるが装置の測定条件や設備の問

題からなどから使用があまり普及していなかった[5 6]近年になり金属ガラスの構造解

析について徐々に報告が出てきており今後注目される測定法である

HEXRD および AXS 法などから得られたデータ実測の構造因子 S(Q)は一次元の限られ

た構造情報であるためガラスなどの非晶質物質の中距離構造を解明するためにはこれ

らのデータを基に三次元構造を求める必要がある三次元構造モデルの作成には逆モンテ

カルロ(RMC)シミュレーションを使用することが有効である[7]このシミュレーション

は任意で決めたシミュレーションボックス内の粒子をランダムに動かすことで実測の

構造因子 S(Q)を再現する三次元構造モデルを構築する方法である

SP ガラスについては分光学的手法について数多く報告があるが放射光を用いた回折

法はほとんど適用されていないそこで本研究では HEXRD および AXS 法を用いた構造

解析を行うことでSn Nb周りの構造を解明すると共にSNP ガラスの耐水性改善のメカ

ニズムについて考察したまたAXS 法の有効性についても検討した測定を行ったガラ

スはSP ガラスおよび最も耐水性の高かった 67S5N28P を選択した

42 実験方法

421 HEXRD AXS法

HEXRDはSPring-8のビームライン BL04B2 で測定を行ったエネルギー614 keV の X

線を用いた測定サンプルの厚みは09 mm (plusmn0005 mm)になるまで研磨を行った

AXS 測定はSPring-8のビームライン BL13XUを使用した(Fig 43)それぞれの測定し

た X 線のエネルギーについて以下に示す

①Sn K吸収端hellip292 keV near edgehellip291452 keV (-60 eV) far edgehellip289751 keV (-230 eV)

②Nb K吸収端hellip1899 keV near edgehellip189562 keV (-30 eV) far edgehellip187863 keV (-230 eV)

測定に使用したサンプルの厚さが015 - 030 mmとなるまで研磨を施した

SP ガラスについて50S50P 60S40P 67S33P の三組成のガラスを測定した70S30P に関

59

しては測定を試みたが放射光照射によって結晶化してしまいガラス部分の正確な構

造因子を得るための強度補正ができず解析を断念した

422 RMCのモデリング

Table 41 に RMC の各種パラメーターを示す粒子数は約 5000 個でそれに伴う boxの一

辺の長さは約 42 ~ 46 Ǻになった拘束条件にP の配位数が 4になるような条件を付け

加えたFig 44にSn2P2O7結晶および Sn3P2O8結晶の動径分布関数(RDF)をTable 32

にRDFから得られた第一近接距離[8 9] を示すこれらの数値を使用しcutoffを決定し

たNb-O についてはいくつかの文献値を参考にした[10 11]

各ガラスの RMCのモデリングは①HEXRDから得られた S(Q)のみ②S(Q)および AXS

から得られた部分構造因子を加えた場合でそれぞれ計算した

43 結果考察

最初にNbの AXSから得られたデータについて解析を試みたが妥当な構造モデルが得

られなかったためSnの AXSのみで解析を進めたNb2O5の量が 5 molと少量であったた

めあまり精度の高いデータが得られなかったと推測される

431 実測の HEXRDおよび AXSの結果

4311 実測 HEXRDの S(Q)

Fig 45 に実測HEXRDの S(Q)を示す四つの組成ともに実測HEXRDの S(Q)が得られ

Nb2O5添加の 67S5N28P ガラスでは Low Q 側に変化が確認された

4312 実測散乱強度曲線

Fig 46 に Snの散乱強度曲線を示す(a) の 67S33P のこの曲線からはfar edgeおよび

near edge のエネルギー間で差分が見られエネルギーの依存性が確認された50S50P

67S5N28P のガラスについても同じように差分が確認されたが(b)の 60S40P についてのみ

他とは若干異なる結果(緑丸)であったためRMC の構造解析には差分の構造因子ではな

くfar edge near edge 二つの構造因子を用いた

4313 全相関関数 T(r)

Fig 47 に全相関関数 T(r) を示すHEXRD から得られたものを実線でSnの AXS から

得られたものは点線で示し組成ごとに重ねて表示した図中に各ピークについて帰属し

ているがSnの T(r)からはSn-O Sn-P Sn-Snのみのピークを確認した

432 RMCの計算結果および考察

60

構造モデルの一例として67S5N28P ガラスの得られた構造モデルをFig 48に示す水

色の多面体 unitSnON 黄色の多面体 unitPO4 ピンクの多面体 unitNbONである以下

詳細な構造解析の結果および考察を記す

4321 RMCのフィッティング結果

RMCのフィッティング結果の一例として67S33P の HEXRD と Snの AXS の構造因子か

ら得た結果を示す(Fig 49)二つの構造因子を加えて計算した結果においてもHEXRD

の S(Q) AXS の S(Q)に各々に対する良好なフィッティング結果が得られた他の組成も

同様なフィッティング結果が得られた

4322得られた各 pairの平均配位数平均角度平均結合距離

RMCの結果によって得られた各 pairの平均配位数平均角度平均結合距離を Tables 43

に示す上段が HEXRD の S(Q)のみ下段が HEXRD に Sn の AXS の部分構造因子を加え

て結果である最下部は比較のためにSn2P2O7の情報を記載した[8]

P-O pairについてRMCモデル中の PON多面体に関して平均配位数 Nが 4および P-O

の平均結合距離が約 160Å平均結合角度angO-P-O が約 109degという結果が得られた組成

による大きな違いは確認されなかったのはP の配位数が 4になるように拘束条件をかけた

結果であると考えられるSnON多面体についてはSnO量の増加 = OP の増加であり平

均配位数 Nが 3 ~ 35へ増加した平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約

22Åで組成による大きな変化はほとんど見られなかったNb2O5を 5 mol添加したガラ

スではNbON多面体の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平均配位数 N約 4Nb-O 平均結

合距離約 20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O(約 105deg)と値が近いこと

また6配位ではなく 4配位として主に存在していることからSnO と同じような働きをし

ていると推測される

以上の結果からNb2O5添加の耐水性改善の要因として結合距離が Sn-O が約 22Åに対

し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強固にして

いることも一つの要因として考えられる

また67S5N28P ガラスの各多面体モデルを確認すると(Fig 410)P は PO4Snは SnO4

と SnO3Nbは NbO4をそれぞれ再現している

4323得られた各 pairの結合様式

RMC の結果により得られた各 pair の結合様式を Tables 44 に示す上段が HEXRD の

S(Q)のみ下段が HEXRDに Snの AXS の部分構造因子を加えた結果である最下部は比

較のためにSn2P2O7の情報を記載した[8]

結合様式に関してはPO4四面体は他の多面体も含めてほぼ頂点共有で存在している

SnON多面体についてはSnO 量が少ない配位数が 3 に近い場合頂点共有以外の共有の

61

割合も多くSnO 量が増えるにつれて頂点共有が主になり網目形成体として振舞ってい

ると考えられる組成によって平均結合距離や平均角度の大きな変化が見られなかったこ

とから平均配位数が結合様式を決める重要なファクターであるということも考えられる

またHEXRD と AXS 法の結果がほぼ同じであったこれは主成分が SnO のガラスであ

るためHEXRDでも十分に詳細な構造が得られたため大きな変化が現れなかったと考え

られるNbON 多面体はPO4 四面体と SnON 多面体とはほぼ頂点共有で繋がっている以

上の結果よりSnO量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体的に各多面体同士の

頂点共有が増えていることから耐水性の改善には頂点共有を多く含む構造であること

が重要である或いは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的となって

いるということが推測されるFig 411に 67S5N28P ガラスの構造モデルを示す各多面

体はほぼ頂点共有で繋がっていることが確認できる

4324 平均 BO数の比較

Tables 45にNMR Raman RMC(HEXRD) RMC(HEXRD + AXS)の平均BO数を示すRMC

から得られた平均 BO 数 nはNMR Raman と同様に Nb2O5の添加による大幅な減少が確認

されたしかしNMR Raman と比較すると全組成において数値が大きすぎで適当でない

50S50P の構造モデルを観るとPO4四面体間で3配位 O の存在が確認された(Fig 412)た

め実測で得られた n値を再現できるようなPO4四面体モデル間の繋がり方に関する拘束条

件を加えて RMCを計算する必要性があるまた仮に3配位 Oの存在があるとすると電

子状態の変化が生じていることがと示唆されるため分子軌道計算を用いて電子状態解析

を行い確認する必要がある

4325 耐水性の改善について

Nb2O5を添加のガラス構造への影響について①6配位ではなく 4配位として主に存在し

ていることからSnO と同じような働きをしていると推測される②結合距離が Sn-O が約

22Åに対し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強

固にしている③ガラス構造中で全体的に各多面体同士の頂点共有が増えている以上の

ことが判明した以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性

耐候性を改善した要因として考えられる

44 結言

本章では分光学的手法では評価できないガラスの中距離構造局所構造について理解

するために放射光を用いた構造解析を実施しSP ガラスの構造と耐水性改善について考

察したHEXRDおよび AXS法を用いて測定を行い得られたデータを RMCシミュレーシ

ョンにて解析を行った

解析の結果 Sn-O pair については平均配位数 Nが 3 ~ 35でSnO量の増加 = OP の増

62

加に伴い高くなった平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約 22Åであ

ったP-O Sn-Oについては組成による大きな変化はほとんど見られなかった67S5N28P

ガラスの Nb-O pair の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平均配位数約 4Nb-O 平均結合距

離約 20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O(約 105deg)と値が近いことま

た6配位ではなく 4配位として主に存在していることからSnOと同じような働き(網目

形成体)をしていると推測されるまた結合距離が Sn-O が約 22Åに対し Nb-O は約 20

Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強固にしていると言える

SnO 量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体的に各多面体同士の頂点共有が増え

ていることから耐水性の改善には頂点共有を多く含む構造であることが重要である

もしくは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的であることが推測さ

れる以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性耐候性を

改善した要因として考えられる

またAXS 法の有効性についても確認し効果的であることが判明したただし今回

は主成分が Sn の組成のガラスでありHEXRD でも十分に詳細な構造が得られたため

大きな差は現れなかった

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63

Fig 41 各原子の異常分散項のエネルギー依存性

Fig 42 Sn の異常分散項のエネルギー依存性

64

Fig 43 SPring-8の BL13XU

65

Tab

le 4

1

RM

Cの各パラメーター

66

Fig 44 Sn2P2O7 Sn3P2O8結晶の RDF

Table 42 Sn2P2O7 Sn3P2O8結晶の各 pairの第一近接距離

67

Fig 45 得られた実測 HEXRDの S(Q)

68

Fig 46 Sn の異常散乱測定により得られた散乱強度のエネルギー依存性

(a)67S33P (b)60S40P

69

Fig 47 全相関関数 T(r)

太線 HEXRD より

細線 Sn の AXSより

70

Fig 48 67S5N28P ガラス構造のモデル

71

Fig 49 RMC フィッティングの結果

72

Tab

le 4

3 各

pairの平均配位数角度結合距離

73

Fig

4

10

67

S5

N2

8Pガラスの各多面体モデル

74

Tab

le 4

4 各

pairの結合様式

75

Fig 411 67S5N28P ガラスの構造モデル

76

Table 45 平均 BO 各数 nの比較

Fig 412 50S50P ガラスの構造モデル

77

第 5章 総括

本研究ではSP ガラスを対象とした本研究では鉛フリー代替ガラスまたは希土類フ

リー蛍光体として SP ガラスの新規高機能化を将来的に目指し問題点であるldquo化学的耐久

性rdquoの改善につながる知見を得ることを目的としたそこでまずSP ガラスを母体ガラ

スとし第三成分に Nb2O5を添加した Sn-Nb-P SNP ガラスZnO を添加した SZP ガラスを

作製し耐水性を中心とした物性評価を行った次に分光学的手法で構造解析を行い

Qn 分布を導き出した最後に放射光を用いた構造解析を行い耐水性改善に関する構造的

な考察を行った以下に本研究で行った検討内容を示す

(1)SPガラスおよび第三成分Nb2O5 ZnOを添加した三成分系SPガラスの物性評価(第 2章)

(2)SP 系ガラスの分光学的手法による Qn分布導出(第 3章)

(3)放射光を用いた SP 系ガラスの構造解析構造と耐水性改善の関連について(第 4章)

各章についてまとめた結果を以下に示す

第 2章

第 2章では二成分系および三成分系のリン酸塩系ガラスの各種物性(密度や熱的特性

耐水性)の評価を行った二成分系ではSP ガラスに加え良好な耐水性を有する鉄リン

酸塩(Fe2O3-P2O5)系ガラス(以下 FP ガラス)を比較のために三成分系では二成分系

の SP ガラスに Nb2O5を添加したニオブ含有 SP ガラス(SNP ガラス)および ZnO を添加し

た亜鉛含有 SP ガラス(SZP ガラス)を作製した

今回作製した SP 系ガラスは低ガラス転移温度を有していた各組成の温度域はSP

ガラスTg le 280 Sn-Nb-P SNPガラスTg le 3505SZP S5ZPガラスTg ≦ 450であった

各種 SP ガラスの耐水性試験の結果二成分系の SP ガラスよりも三成分系ガラスの方が

良好な耐水性を有していた65Sn-5Nb-30P 67S5N28P ガラスが最も耐水性が良好であり化

学的耐久性の改善には Nb2O5が ZnOよりも効果的であった

組成と耐水性に関してはDRおよび重量減がOP増加で単調に低下した結果が得られた

つまり耐水性を改善させるにはSP 系ガラスのガラス化範囲を拡大かつ OP を増大させ

る第三成分の添加が有効であることが示唆された

第 3章

第 3章ではSP 系ガラスの分光学的手法による Qn分布の導出を行ったラマン分光法を

用いて各ガラス系のリン酸塩アニオンの構造を簡易定量で評価し組成と構造の関係に

ついて考察した平均 BO 数 n と耐水性に関してはDR および重量減が平均 BO 数 nの減

少で単調に低下することが明らかとなった

平均 BO 数 n と OP の関係より耐水性改善には平均 BO 数 n を下げることそして

OP を上げることが重要であることが明らかになった

78

Nb5+の添加は平均 BO数を減少させるだけでなくOP も上げることからガラス構造

内の P-O-P 結合を減少させ水和反応加水分解反応が抑制され耐水性が大幅に改善さ

れることが示唆された故にNb2O5 のような高価数金属酸化物を添加することが効果的

であることが再度確認された

第 4章

耐水性向上についてより深く評価するためSP SNP ガラスの局所構造に関する知見を得

ることを目的に放射光を用いた構造解析を行った高エネルギーX 線回折(HEXRD)お

よび X 線異常散乱(AXS)法で測定したデータを再現する構造モデルを逆モンテカルロ

(RMC)シミュレーションで構築し構造解析を行った

RMC モデル中の PON多面体に関して平均配位数 Nが 4および P-O の平均結合距離が約

160Å平均結合角度angO-P-Oが約 109degという結果が得られた組成による大きな違いは確

認されなかったSnON多面体については平均配位数 N が 3~4 でSnO 量の増加に伴い 4

に近い値となった平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約 22Åで組成

による大きな変化は見られなかった

Nb2O5を 5 mol添加したガラスではNbON多面体の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平

均配位数N約4Nb-O平均結合距離約20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O

(約 105deg)と値が近いことまた6配位ではなく 4配位として主に存在していることから

SnO と同じような網目形成体として働いていると推測されたまた結合距離が Sn-O が約

22Åに対し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強

固にしていると考えられるまたSnO 量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体

的に各多面体同士の頂点共有が増えていることから耐水性の改善には頂点共有を多く

含む構造もしくは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的であること

が示唆された以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性

耐候性を改善した要因として考えられる

またAXS 法の有効性についても確認し効果的であることが判明したただし今回

は主成分が Snの組成のガラスでありHEXRD でも十分に詳細な Snの周辺構造が得られ

たためAXSを利用した場合との大きな構造の差は認められなかった

本研究では様々な優れた特徴を有する SP ガラスにおける耐水性改善のメカニズムにつ

いて検討を行ったこの系のガラスについてはこれまでほとんど利用されていなかった

放射光を用いた構造解析を駆使し第三成分の添加によってどのような構造的変化が生じ

耐水性を改善させるか新たな知見を得ることができた最終目標である機能性ガラスの

開発における新たなる材料設計指針の確立に対してldquo耐水性rdquoに関しては概ね明らかにな

ったと考えられる一方で今回検討していな電子状態化学結合性についても評価する

ことで溶出メカニズムの解明が可能になり材料設計指針の確立が期待される

79

発表論文リスト

口頭発表

第 2章および第 3章

(1) SnO-P2O5 系ガラスへの酸化物添加効果

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎

日本セラミックス協会第 25 回秋季シンポジウム No3C06 (名古屋市 2012年 9月)

(2) Effect of Nb2O5 addition to SnO-P2O5 glass (Poster)

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

International Union of Materials Research Societies International Conference on Electronic

Materials IUMRS-ICEM 2012 A-9-P26-003 (Yokohama 2012 年 9月)

(3) スズリン酸塩系ガラスの蛍光特性耐水性に及ばす酸化物の添加効果(ポスター)

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎

日本セラミックス協会 2013 年年会 1P070 (東京 2013年 3月)

第 4章

(1) 放射光を用いたスズリン酸塩ガラスの構造解析

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎小原真二臼杵毅

日本セラミックス協会第 27 回秋季シンポジウム 2B22 (鹿児島市 2014年 9 月)

(2) Structural analysis of tin phosphate glasses by synchrotron radiation (Poster)

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba Shinji Kohara Takeshi Usuki

International Congress on Glass ICG Annual Meeting Bangkok 2015 P14-138 p186 (2015)

発表論文

(1) Effect of Nb2O5 addition to SnO- P2O5 glass

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

Journal of the Ceramic Society of Japan Vol 120 No 11 pp530-533 (2012)

(2) Structural analysis of SnO- P2O5 glass

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

Journal of the Ceramic Society of Japan(準備中)

80

謝辞

本研究を遂行するにあたり終始暖かいご指導ご助言並びにご鞭撻を賜わりました岡

山大学大学院環境生命科学研究科 難波徳郎教授に心より感謝の意を表します

また本研究を遂行するにあたり懇切丁寧なご指導とご意見をしていただいた岡山大

学大学院環境生命科学研究科 紅野安彦准教授環境環理センター 崎田真一助教に心より

感謝いたします

本研究を遂行するにあたりラマン分光測定の使用についてご助言ご教授して頂い

た岡山大学自然科学研究科 藤井達生教授中西真助教に心より感謝の意を表します

Sn のメスバウアー測定の際に協力して頂いた岡山大学自然科学研究科先端自然科学教

育研究推進本部高田研究室 松本修治特任助教(当時旭硝子株式会社中央研究所)また

Feのメスバウアーを測定の際に協力して頂いた岡山大学自然科学研究科 藤井達生教授に

心より感謝の意を表します

固体 NMR の岡山大学自然科学研究科 早川聡教授に心より感謝の意を表します

本研究を遂行するにあたりSPring-8 にてHEXRD および AXS 法の測定法および原理

についてご教示頂きました物質材料研究機構 小原真司博士ならびに山形大学 臼杵毅

教授に心より感謝の意を表します

本研究は多くの後輩諸君の協力によって遂行されました特に実際に共同研究共同

実験を遂行して頂いたOG 藤原沙弥香さん博士前期課程 2 年 東利彦君OB 徳岡太誠

君学士課程 4年 塩田将大君に心より感謝の意を表しますまた難波研究室で共に研

究生活を過ごした卒業生在学生の方々に感謝の意を表します

また同時期に博士後期課程に在籍された香川高等専門学校の桟敷剛さんにはNbに

関する有益な情報だけでなく辛い状況でも励ましを頂きました心より感謝の意を表し

ます

最後に長きに渡る学生生活を認め経済面だけでなく精神面でも支援してくださった

家族に心より深く感謝の意を表します

平成 28年 3月

福井 聡史

Page 29: 博士論文 スズリン酸塩系ガラスの物性と構造解析ousar.lib.okayama-u.ac.jp/files/public/5/54353/...博士論文 スズリン酸塩系ガラスの物性と構造解析

26

Fig 29 Sn-Nb-P ガラスのメスバウアースペクトル

Table 22 Sn-Nb-P ガラスのメスバウアーパラメーター

27

Fig 210 FP ガラスのメスバウアースペクトル

Table 23 FP ガラスのメスバウアーパラメーター

28

Table 24 各ガラスの物性(密度(ρ)ガラス転移温度(Tg)溶出速度(DR)重量減())

29

Fig 211 SP ガラスの耐水性試験前後の外観写真

Fig 212 Sn-Nb-P ガラスの耐水性試験前後の外観写真

30

Fig 213 SNP ガラスの耐水性試験前後の外観写真

Fig 214 S5ZP ガラスの耐水性試験前後の外観写真

Fig 215 5SZP ガラスの耐水性試験前後の外観写真

31

Fig 216 FP ガラスの耐水性試験前後の外観写真

32

Fig 217 SP ガラスの XRD パターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

33

Fig 218 Sn-Nb-P ガラスの XRD パターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

34

Fig 219 SNP ガラスの XRD パターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

35

Fig 220 5SZP ガラスの XRDパターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

36

Fig 221 S5ZP ガラスの XRDパターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

37

Fig 222 FP ガラスの XRD パターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

38

Fig 223 各ガラス系の DR と OP の関係性

39

Fig 224 各ガラス系の重量減と OP の関係性

40

第 3章 分光法を用いたスズリン酸塩系ガラスの構造解析

31 緒言

前章ではSP ガラスおよび第三成分に Nb2O5 ZnOを添加した Sn-Nb-P ガラスSNP ガラ

スSZP ガラスの物性特に耐水性に関する第三成分添加の有効性を明らかにしたその添

加した第三成分の二種類についてもNb2O5 の方が ZnO よりも溶出速度重量減ともに抑

制することができSP ガラスの低ガラス転移温度という特性も維持されていることが判明

したしかし現段階では本研究の主要な物性である耐水性改善の要因が明確になって

いない組成の観点からはOP の値が高い組成が良好な耐水性であることが分かったが

組成だけでは耐水性改善のメカニズムについて完全には理解できないここでリン酸塩

ガラスの溶出のメカニズムは第 1 章で述べたように加水分解反応と水和反応が要因とな

る[1 2]この機構はそれぞれリン酸の構造つまり架橋酸素 BO の数が大きく関わって

おりリン酸アニオンの[PO4]ユニットの架橋酸素数を知ることが重要であるこの BO の

情報を得るためにはガラス構造を示す指標の一つである Qn(n は[PO4]ユニット中の架橋

酸素数を表す)を調べることが必須であるまたQn の分布を調べるためにはガラスの

構造解析を行う必要性がある

ガラスの構造解析には種々の方法があり特にラマン分光法や赤外(IR)分光法核

磁気共鳴法(NMR)などの分光学的手法を用いた構造解析の報告が多い[3-5]ラマン分光

法および IR分光法は原理は異なるがどちらも結合の振動モードを測定する手法であり[6]

リン酸塩ガラスだけでなくケイ酸塩ガラスホウ酸塩ガラスなど様々なガラス系にて測

定がなされている[7 8]また得られた結合状態の情報からリン酸塩アニオンの Qn分布

を調べることも可能であるNMR は共鳴吸収ピークの化学シフト(共鳴周波数のズレ)

から構造を決定する手法であるガラスの場合SiO2や B2O3 P2O5といった網目形成酸化物

の Qn分布を得るために一般的に使用されている手法である[9]

今回これらの測定の中でラマン分光法を選択し構造解析を行ったラマン分光法は

測定する際にサンプル形状を気にすることなく基本的にそのまま測定できるためIR 分

光法のようにサンプル形状で測定方法を変える必要はないまたIR 分光法では例えば

KBr 錠剤法やヌジュール法のように測定を行うためのサンプル調整に手間がかかる場合が

ある[6]さらに比較対象の FP ガラスではNMR を測定できないため作製ガラスを全

て比較検討できるようにラマン分光法を選択した

本章ではラマン分光法を用いて各ガラスの構造解析を行い[PO4]ユニットの Qn分布を

調査し平均 BO数 nを算出することで耐水性と構造の関係性を検討したまたラマン

分光法によって得られた Qn分布の妥当性を確認するためにSP ガラスおよび 67S5N28P ガ

ラスの NMRを測定も行い比較した

32 実験方法

41

321 サンプル準備

ラマン分光およびメスバウアー分光の測定では第 2 章で作製した各ガラスのバルク体

を用いたWD試験に使用したサンプルとは別にラマン測定用のサンプルを用意した適

度な大きさ大体 15 cm角程度のサイズになるようにガラスカッターで切断しその後

十分な平滑性を得るために鏡面研磨を施した

322 ラマン分光測定

使用したラマン分光装置は顕微レーザーラマン分光装置(Jasco NRS-5100)を用いた

用いたレーザー波長は 53208 nmであり400 - 2000 cm-1の範囲で測定した

Qn 分布を導くためにピークフィッティングを行いリン酸塩アニオンのラマンバンド

が現れる950 - 1250 cm-1付近および 700 - 750cm-付近の範囲で定量した

323 31P MAS NMR測定

31P MAS NMRの測定は Varian NMR System 500 を用いて32 mmの MASプローブ

202309MHzにて行った測定パラメーターを以下に示すπ4 パルス長さ 14 μs 待ち時間

(pulse delay)10 s 積算回数 3600 scan シリンダー円筒形状の Zrローターの回転スピード

160 kHz referenceとして二番目の基準物質として使われる NH4H2PO4を使用化学シフト

は85 H3PO4溶液から δ = 10 ppmである

33 結果考察

331 各ガラス系のラマンスペクトル

Figs 31 - 35にラマンスペクトルを示す各ピークは以下の通りに帰属し各スペクト

ル中に該当する構造をピーク位置に示した

1230 - 1260 cm-1 P=O NBO Q

2 [10]

1110 - 1150 cm-1metaphosphate (PO3)

- Q

2 [10]

1030 - 1100 cm-1pyrophosphate (PO35)

2- Q

1 [10]

970 - 1000 cm-1orthophosphate (PO4)

3- Q

0 [10]

920 - 930 cm-1asymmetric (P-O-P) Q

1 [10]

730 - 750 cm-1symmetric (P-O-P) Q

1 [10]

710 - 720 cm-1asymmetric (P-O-P) Q

2 [10]

810 - 820 cm-1Nb-O [NbO4] tetrahedron [11]

900 - 920 cm-1Nb-O isolated [NbO6] octahedron [11]

42

SP ガラスのラマンスペクトル(Fig 31)を見ると50S50P 60S40P ではmetaphosphate

の Q2 構造が支配的であるがSnO 量が増えるにつれてその構造が変化し70S30P では

pyrophosphateの Q1構造と orthophosphateの Q

0構造が共存した構造となっているまたSnO

量の少ない 50S50P および 60S40P において確認されたQ2構造の P=O のピークが見えなく

なっているつまり耐水性と関連して考えるとSnO量が増えるにつれてP-O-P 結合か

ら Sn-O-P 結合に代わり水分子との反応である加水分解反応を妨げる構造に変化している

ことがわかる

Figs 32 33にNb2O5を添加した Sn-Nb-P ガラスおよび SNP ガラスのラマンスペクトル

を示すまずSn-Nb-P ガラスについてNb 無添加の 65Sn-0Nb-35P は主に Q1構造であ

りNbO25が添加されることによってQ0構造に変化しQ

1 Q

0構造が共存しているような

ピークが得られた添加量が少ないガラス系であるため徐々に変化しているのを確認し

た800 cm-1を少し越えた 810 - 820 cm

-1付近にNb2O5を添加することでピークが現れそ

して添加量を増量することで強度が強まるピークがありこのピークは四面体の[NbO4]

のものと判断した

SNP ガラスのラマンスペクトルについてはNb2O5添加量を固定した組成であるためSP

ガラスのような挙動が観察された50S50N45P では50S50P ガラスと同じようにQ2構造

が主な構造でありSnO量の増加に伴って60S5N35P Q1構造67S5N28P Q

0構造に支配

的な構造が変化しているこれはSP ガラスと同じ傾向を示しているためP-O-P rarr Sn-O-P

に置き替わっていることが示唆されるNb-O に関するピークでは50S5N45P のみ[NbO4]

四面体のピークを確認できず900 - 920 cm-1付近に[NbO6]八面体のピークが確認された

SnO量が増量した 60S5N35P では810 cm-1付近の [NbO4] 四面体のピークが現れているが

[NbO6]八面体のピークと 900 - 920 cm-1付近の Q

1構造のピークが非常に近い(ほぼ重なって

いる)ことから60S5N35P については[NbO4] 四面体および[NbO6]八面体の共存の可能性

も考えられるまた67S5NP28 では[NbO4] 四面体のみのピークが観察されたためこ

の Nb-O の配位数変化は[PO4] unitの状態によって変化している可能性も示唆された

ZnO を添加した S5ZP ガラスおよび 5SZP ガラスのラマンスペクトルを Fig 34 に示す

図の下部三つが S5ZP ガラス上部三つが 5SZP ガラスのスペクトルであるSZP ガラスの

二系統を比べるとあきらかなスペクトルの違いが確認された各ガラス系で確認すると

SnO 量が最小の 55S5Z40P はQ2構造と Q

1構造の範囲に跨っているようなスペクトルが得

られた62S5Z33P および 65S5Z30P のスペクトルからはどちらもほぼ Q1構造であると判

断した5SZP のスペクトルは1000 - 1250 cm-1付近の範囲で裾を引くような(なだらかな)

スペクトルが得られたZnO 量が最小の 5S55Z40P にはQ2構造が主な構造に見えるが

shoulderピークのような Q1構造(1030 - 1100 cm

-1)が確認できる5S62Z40P においては

1000 - 1250 cm-1付近の範囲まで幅広いスペクトルが得られた730 - 750 cm

-1付近にピーク

が現れているためおそらく Q1構造が最も多く存在していると考えられる65S5Z30P では

Q1構造Q

0構造が共存しているようなピークが得られた

43

FP ガラスのラマンスペクトルを Fig 35 に示すFe量の少ない 20F80P 25F75P と他の三

つで構造が異なっていることである20F80P 25F75P はQ2構造と Q

1構造が基本構造にな

っていると判断できる 30F70P は1110 - 1150 cm-1付近に shoulderピークのようなものがあ

りQ2 Q

1 Q

0構造が共存しているようなスペクトルであった35F65P 40F60P はQ1構造

が主な構造でQ0構造があると判断した

332 平均 BO数 n (Qn分布)

まずピーク分離について散乱断面積が見積もれなかったためラマンの散乱強度比

を Qn分布として簡易的にピーク分離を行い(Fig 36)そこから平均架橋酸素数 BO 数 n

を算出したここでFig 37 に 31P MAS NMRスペクトルを示しTable 31に NMRおよび

ラマン分光より得られた平均 BO 数 n を示す(NMR の帰属 reference [12])表よりNMR

とラマンから得られた Qn分布はほぼ一致していることが分かった60S40Pについては支

配構造が NMR(Q1) ラマン(Q

2)で逆になったこれは60S40P の組成がQ

2と Q1のほぼ中

間の組成になるためこのようなズレが生じたと考えられるしかし今回のラマンによ

る Qn分布の算出についてはほぼ問題ないと判断した

Table 32にラマンスペクトルより求めた Qn分布平均 BO 数 nをを示しTable 24に示

した DR 重量減の結果を併記する

SP ガラスのうち耐水性が低いガラスは Q2構造によって形成されているSnO量の増加

によって NBOの増加とともに耐水性の向上が確認できSnOが入ることでSn-O-P 結合を

形成し水分子からの攻撃を受けにくくなっていることが考えられる

Sn-Nb-P ガラスでは基本的に Q1構造が主構造でNb2O5の添加が増えるにつれQ

0構

造が支配的になり耐水性は次第に向上していく最も耐水性のよかった 65S-5Nb-30P は

Q0構造での割合が非常に高く平均 BO数 n値が 03であった

SNP ガラスではP2O5量が多い組成の 50S5N45Pにおいても平均 BO数 nが 60S40P と

同じながらも耐水性が良くなっている67S5N28P はほぼ完全に Q0構造であり平均 Q

n

値は 0となった

SZP ガラスについてはS5ZP 5ZSP のどちらの系列についても耐水性の結果に大きな差

というものは確認されなかったが構造的にも平均 BO数 nが 09 10 17という結果であ

った

FP ガラスについてはFe2O3 lt 30 molのときは平均 BO 数 nが20 19と高い数値を

示したが耐水性は非常に良好であったこの結果より組成だけでなく構造的にも耐

水性高くなる要因が不明である一つの原因の可能性としてメスバウアーより得られた

Fe2+の存在比が 40以上と高かったことがFe2O3含有量が少ない組成時には効果的になっ

ているのかもしれない

333 平均 BO数 nと耐水性の関係性

44

Fig 38に DRと平均 BO数 nの関係性についてFig 39に重量減と平均 BO数 nの関係

性をそれぞれ示すまたOP の時と同様に各図にリン酸塩の三つの構造の平均 BO数

n も表記した双方の図よりDR 重量減共に平均 BO 数 nが低下することで単調に下がっ

ていることが分かるまた耐水性の良かったNb2O5添加の Sn-Nb-P SNPガラスはの DR

の挙動(傾き)はOP 時とも異なった挙動が得られた

Fig 310に OP と平均 BO数 nの関係を示す図中に示す茶色metaphosphate 黄色

pyrophosphate 灰色orthophosphate であるこの図から耐水性改善には平均 BO 数

n を下げOP を上げることが重要であるのが分かるまたNb5+の添加はOP を上げる

だけでなく平均 BO 数も減少させることから非常に効果的な成分であることが明らかで

あるこれはP5+から同酸価数 Nb

5+に少量でも置き換えることで平均 BO 数 n を下げ

OP を上げることを可能としている(実際に orthophosphate の OP4 よりも高い OP でガ

ラスが作製できている)つまりNb5+の添加によって P-O-P 結合が減少し水和反応加

水分解反応が抑制されているからである

以上の結果SP 系ガラスの耐水性改善には低い平均 BO 数と高い OP の組成にするこ

とが重要でNb2O5の添加は非常に効果的であることが分かったその一方でガラス中の

詳細な構造的要因についてははっきりしていないため次章の第 4 章にてさらに詳し

い構造解析を行い耐水性改善の要因について調査を行った

34 結言

本章ではラマン分光を使用して各ガラス系のリン酸塩アニオンの構造を簡易定量で

評価し組成と構造の関係について考察した

平均 BO 数 n と耐水性に関してはDR および重量減が平均 BO 数 n の減少で単調に低下

した結果が得られた

平均 BO数 nと OP の図より耐水性改善には平均 BO数 nを下げることそして OP

を上げることが重要であることが明白であった

Nb5+の添加は平均 BO数を減少させるだけでなくOP も上げることからガラス構造内

の P-O-P 結合を減少させる故に水和反応加水分解反応が抑制され耐水性が大幅に

改善された故にNb2O5 のような高価数金属酸化物を添加することが効果的であること

が示唆された

参考文献

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[2] 春日敏弘 NEW GLASS 22 [2] 3 - 8 (2007)

[3] R K Brow D R Tallant S T Myers and C CPhifer J Non-Cryst Solids 191 45-55 (1995)

[4] T M Alam B C Tischendorf and R K Brow Solid State Nucl Magn Reson 27 99-111

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(2005)

[5] H Takebe Y Baba and M Kuwabara J Non-Cryst Solids 352 3088-3094 (2004)

[6] 服部敏明 綾瀬守 川口建 吉野明広編機器分析ナビ 化学同人(2006)

[7] K H Min and T Suzuki 旭硝子研究報告 59 29-33 (2009)

[8] I Waclawska and M Szumera J Therm Anal Calorim 101 423-427 (2010)

[9] 中井利仁 NEW GLASS 28 [109] 17 -2 8 (2013)

[10] I O Mazali L C Barbosa and O L Alves J Mater Sci 39 1987-1995 (2004)

[11] J M Jehng and I E Wachs J Am Ceram Solids 3 [1] 100-107 (1991)

[12] D Holland A P Howes M E Smith and A C Hannon J Phys Condens Matter 14

13609-13621 (2002)

46

Fig 31 SP ガラスのラマンスペクトル

47

Fig 32 Sn-Nb-P ガラスのラマンスペクトル

48

Fig 33 SNP ガラスのラマンスペクトル

49

Fig 34 SZP ガラスのラマンスペクトル

50

Fig 35 FP ガラスのラマンスペクトル

51

Fig 36 ラマンスペクトルのピーク分離例(67S5N28P)

Raman Shift (cm-1)

52

Fig 37 NMRスペクトル

Table 31 NMR およびラマン分光より得られた SP 67S5N28P ガラスの

Qn分布および平均 BO数 n

53

Table 32 各ガラスのラマンスペクトルより求めた Qn分布結果

(表の赤線より右側の結果は Table 22 より)

1 仕込み組成による数値

2 Fig 2212 に示した析出物を取り除いた後の数値

54

Fig 38 DR と平均 BO数 nの関係性

55

Fig 39 重量減と平均 BO数 nの関係性

56

Fig 310 OP と平均 BO数 nの関係性

Meta

Pyro

Ortho

57

第 4章 放射光を用いたスズリン酸塩系ガラスの構造解析

41 緒言

前章の第 3 章にてラマン分光法を用いて SP 系ガラスの構造解析により Qn分布を導き

出したことで耐水性と構造の関係についてある程度関連性を導くことができたリン

酸アニオンについてはQ0(orthophosphate)構造 gt Q

1(pyrophosphate)構造 gt Q2

(metaphosphate)構造の順で良耐水性となるしかしSn Nbおよび Znの局所構造につ

いては知見が得られていないラマン分光や IR分光などの分光学的手法を用いてSnや

Nb Zn の周辺の局所構造を知るには限界があるまたガラスの構造解析を行う上で非常

に重要な因子である中距離構造の評価には分光学的手法は不向きである[1]

そこで局所構造や中距離構造を知るために有効な手法として放射光線を用いた構造

解析がある放射光(SR 光)とはシンクロトロンなどの加速器で高速に加速された電子

が進行方向を磁場によって変えられた際に放射する電磁波である[2]エネルギーが高く

(短波長)輝度が高い特性を有している日本国内では兵庫県佐用町の SPring-8や茨城

県つくば市の高エネルギー加速器研究機構佐賀県鳥栖市の佐賀県立九州シンクロトロン

光研究センターなど複数個所に放射光施設が設置されている

放射光を用いたガラスの構造解析には一般的に高エネルギーX 線回折(High Energy

X-ray diffraction HEXRD)が用いられるこの回折実験から高い散乱ベクトル Q(= 4π sinθλ)

まで回折データが得られる多種類の原子から構成される物質の場合はFaber-Ziman 型[3]

の構造因子 S(Q)を用いる以下の式に示すようにFaber-Ziman 型構造因子 S(Q)は同種また

は異種の原子による相関の重み関数付の和として示される例として SiO2ガラスで説明す

ると構造因子 S(Q)は三種類の原子付の S(Q)の重み付の和として表されていることが分か

I(Q) 散乱断面積 ltgt 原子一個当たりの平均値 f(Q) 原子散乱因子 W 重み関数

通常の研究室で使用される X 線回折(XRD)装置で用いられる特性 X 線はCuKα線(λ

= 0154 nm 81 keV)が最も良く用いられより高いエネルギーの X 線が必要な場合は

MoKα線(λ = 0071 nm 175 keV)が使用される一方でSPring-8のビームライン BL04B2

で行われる高エネルギーX 線回折(HEXRD)測定で使用される SR のエネルギーは378 keV

58

~ が使用可能である[2]従ってガラス以外の液体のような非晶質物質にも非常に精度

よく構造解析が行われている[4]

また局所構造解析の一つに X線異常散乱法という測定方法がある[5 6]これは通常

の X 線回折実験では分離不可能な特定元素に関連する部分構造因子(散乱強度曲線)を得

ることができる手法である今回 HEXRD の測定時に使用したエネルギー614 keV では各元

素の異常散乱項のエネルギー依存性は確認されない(Fig 41)その一方でFig 42に示す

Sn の吸収端付近の 292 keV付近ではSnの異常分散項のエネルギー依存性が確認できる

つまりSnの吸収端近傍より低エネルギー(E)側の異なるエネルギーの X線(E1 E2)を

使って散乱強度を測定し各 E における異常分散項(f`)の変化(つまり高い E1 から低い

E2 の散乱強度の差分)を利用して Snに関する部分構造因子を求める構造解析が AXS 法で

あるこの測定法は古くから知られている方法ではあるが装置の測定条件や設備の問

題からなどから使用があまり普及していなかった[5 6]近年になり金属ガラスの構造解

析について徐々に報告が出てきており今後注目される測定法である

HEXRD および AXS 法などから得られたデータ実測の構造因子 S(Q)は一次元の限られ

た構造情報であるためガラスなどの非晶質物質の中距離構造を解明するためにはこれ

らのデータを基に三次元構造を求める必要がある三次元構造モデルの作成には逆モンテ

カルロ(RMC)シミュレーションを使用することが有効である[7]このシミュレーション

は任意で決めたシミュレーションボックス内の粒子をランダムに動かすことで実測の

構造因子 S(Q)を再現する三次元構造モデルを構築する方法である

SP ガラスについては分光学的手法について数多く報告があるが放射光を用いた回折

法はほとんど適用されていないそこで本研究では HEXRD および AXS 法を用いた構造

解析を行うことでSn Nb周りの構造を解明すると共にSNP ガラスの耐水性改善のメカ

ニズムについて考察したまたAXS 法の有効性についても検討した測定を行ったガラ

スはSP ガラスおよび最も耐水性の高かった 67S5N28P を選択した

42 実験方法

421 HEXRD AXS法

HEXRDはSPring-8のビームライン BL04B2 で測定を行ったエネルギー614 keV の X

線を用いた測定サンプルの厚みは09 mm (plusmn0005 mm)になるまで研磨を行った

AXS 測定はSPring-8のビームライン BL13XUを使用した(Fig 43)それぞれの測定し

た X 線のエネルギーについて以下に示す

①Sn K吸収端hellip292 keV near edgehellip291452 keV (-60 eV) far edgehellip289751 keV (-230 eV)

②Nb K吸収端hellip1899 keV near edgehellip189562 keV (-30 eV) far edgehellip187863 keV (-230 eV)

測定に使用したサンプルの厚さが015 - 030 mmとなるまで研磨を施した

SP ガラスについて50S50P 60S40P 67S33P の三組成のガラスを測定した70S30P に関

59

しては測定を試みたが放射光照射によって結晶化してしまいガラス部分の正確な構

造因子を得るための強度補正ができず解析を断念した

422 RMCのモデリング

Table 41 に RMC の各種パラメーターを示す粒子数は約 5000 個でそれに伴う boxの一

辺の長さは約 42 ~ 46 Ǻになった拘束条件にP の配位数が 4になるような条件を付け

加えたFig 44にSn2P2O7結晶および Sn3P2O8結晶の動径分布関数(RDF)をTable 32

にRDFから得られた第一近接距離[8 9] を示すこれらの数値を使用しcutoffを決定し

たNb-O についてはいくつかの文献値を参考にした[10 11]

各ガラスの RMCのモデリングは①HEXRDから得られた S(Q)のみ②S(Q)および AXS

から得られた部分構造因子を加えた場合でそれぞれ計算した

43 結果考察

最初にNbの AXSから得られたデータについて解析を試みたが妥当な構造モデルが得

られなかったためSnの AXSのみで解析を進めたNb2O5の量が 5 molと少量であったた

めあまり精度の高いデータが得られなかったと推測される

431 実測の HEXRDおよび AXSの結果

4311 実測 HEXRDの S(Q)

Fig 45 に実測HEXRDの S(Q)を示す四つの組成ともに実測HEXRDの S(Q)が得られ

Nb2O5添加の 67S5N28P ガラスでは Low Q 側に変化が確認された

4312 実測散乱強度曲線

Fig 46 に Snの散乱強度曲線を示す(a) の 67S33P のこの曲線からはfar edgeおよび

near edge のエネルギー間で差分が見られエネルギーの依存性が確認された50S50P

67S5N28P のガラスについても同じように差分が確認されたが(b)の 60S40P についてのみ

他とは若干異なる結果(緑丸)であったためRMC の構造解析には差分の構造因子ではな

くfar edge near edge 二つの構造因子を用いた

4313 全相関関数 T(r)

Fig 47 に全相関関数 T(r) を示すHEXRD から得られたものを実線でSnの AXS から

得られたものは点線で示し組成ごとに重ねて表示した図中に各ピークについて帰属し

ているがSnの T(r)からはSn-O Sn-P Sn-Snのみのピークを確認した

432 RMCの計算結果および考察

60

構造モデルの一例として67S5N28P ガラスの得られた構造モデルをFig 48に示す水

色の多面体 unitSnON 黄色の多面体 unitPO4 ピンクの多面体 unitNbONである以下

詳細な構造解析の結果および考察を記す

4321 RMCのフィッティング結果

RMCのフィッティング結果の一例として67S33P の HEXRD と Snの AXS の構造因子か

ら得た結果を示す(Fig 49)二つの構造因子を加えて計算した結果においてもHEXRD

の S(Q) AXS の S(Q)に各々に対する良好なフィッティング結果が得られた他の組成も

同様なフィッティング結果が得られた

4322得られた各 pairの平均配位数平均角度平均結合距離

RMCの結果によって得られた各 pairの平均配位数平均角度平均結合距離を Tables 43

に示す上段が HEXRD の S(Q)のみ下段が HEXRD に Sn の AXS の部分構造因子を加え

て結果である最下部は比較のためにSn2P2O7の情報を記載した[8]

P-O pairについてRMCモデル中の PON多面体に関して平均配位数 Nが 4および P-O

の平均結合距離が約 160Å平均結合角度angO-P-O が約 109degという結果が得られた組成

による大きな違いは確認されなかったのはP の配位数が 4になるように拘束条件をかけた

結果であると考えられるSnON多面体についてはSnO量の増加 = OP の増加であり平

均配位数 Nが 3 ~ 35へ増加した平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約

22Åで組成による大きな変化はほとんど見られなかったNb2O5を 5 mol添加したガラ

スではNbON多面体の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平均配位数 N約 4Nb-O 平均結

合距離約 20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O(約 105deg)と値が近いこと

また6配位ではなく 4配位として主に存在していることからSnO と同じような働きをし

ていると推測される

以上の結果からNb2O5添加の耐水性改善の要因として結合距離が Sn-O が約 22Åに対

し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強固にして

いることも一つの要因として考えられる

また67S5N28P ガラスの各多面体モデルを確認すると(Fig 410)P は PO4Snは SnO4

と SnO3Nbは NbO4をそれぞれ再現している

4323得られた各 pairの結合様式

RMC の結果により得られた各 pair の結合様式を Tables 44 に示す上段が HEXRD の

S(Q)のみ下段が HEXRDに Snの AXS の部分構造因子を加えた結果である最下部は比

較のためにSn2P2O7の情報を記載した[8]

結合様式に関してはPO4四面体は他の多面体も含めてほぼ頂点共有で存在している

SnON多面体についてはSnO 量が少ない配位数が 3 に近い場合頂点共有以外の共有の

61

割合も多くSnO 量が増えるにつれて頂点共有が主になり網目形成体として振舞ってい

ると考えられる組成によって平均結合距離や平均角度の大きな変化が見られなかったこ

とから平均配位数が結合様式を決める重要なファクターであるということも考えられる

またHEXRD と AXS 法の結果がほぼ同じであったこれは主成分が SnO のガラスであ

るためHEXRDでも十分に詳細な構造が得られたため大きな変化が現れなかったと考え

られるNbON 多面体はPO4 四面体と SnON 多面体とはほぼ頂点共有で繋がっている以

上の結果よりSnO量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体的に各多面体同士の

頂点共有が増えていることから耐水性の改善には頂点共有を多く含む構造であること

が重要である或いは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的となって

いるということが推測されるFig 411に 67S5N28P ガラスの構造モデルを示す各多面

体はほぼ頂点共有で繋がっていることが確認できる

4324 平均 BO数の比較

Tables 45にNMR Raman RMC(HEXRD) RMC(HEXRD + AXS)の平均BO数を示すRMC

から得られた平均 BO 数 nはNMR Raman と同様に Nb2O5の添加による大幅な減少が確認

されたしかしNMR Raman と比較すると全組成において数値が大きすぎで適当でない

50S50P の構造モデルを観るとPO4四面体間で3配位 O の存在が確認された(Fig 412)た

め実測で得られた n値を再現できるようなPO4四面体モデル間の繋がり方に関する拘束条

件を加えて RMCを計算する必要性があるまた仮に3配位 Oの存在があるとすると電

子状態の変化が生じていることがと示唆されるため分子軌道計算を用いて電子状態解析

を行い確認する必要がある

4325 耐水性の改善について

Nb2O5を添加のガラス構造への影響について①6配位ではなく 4配位として主に存在し

ていることからSnO と同じような働きをしていると推測される②結合距離が Sn-O が約

22Åに対し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強

固にしている③ガラス構造中で全体的に各多面体同士の頂点共有が増えている以上の

ことが判明した以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性

耐候性を改善した要因として考えられる

44 結言

本章では分光学的手法では評価できないガラスの中距離構造局所構造について理解

するために放射光を用いた構造解析を実施しSP ガラスの構造と耐水性改善について考

察したHEXRDおよび AXS法を用いて測定を行い得られたデータを RMCシミュレーシ

ョンにて解析を行った

解析の結果 Sn-O pair については平均配位数 Nが 3 ~ 35でSnO量の増加 = OP の増

62

加に伴い高くなった平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約 22Åであ

ったP-O Sn-Oについては組成による大きな変化はほとんど見られなかった67S5N28P

ガラスの Nb-O pair の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平均配位数約 4Nb-O 平均結合距

離約 20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O(約 105deg)と値が近いことま

た6配位ではなく 4配位として主に存在していることからSnOと同じような働き(網目

形成体)をしていると推測されるまた結合距離が Sn-O が約 22Åに対し Nb-O は約 20

Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強固にしていると言える

SnO 量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体的に各多面体同士の頂点共有が増え

ていることから耐水性の改善には頂点共有を多く含む構造であることが重要である

もしくは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的であることが推測さ

れる以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性耐候性を

改善した要因として考えられる

またAXS 法の有効性についても確認し効果的であることが判明したただし今回

は主成分が Sn の組成のガラスでありHEXRD でも十分に詳細な構造が得られたため

大きな差は現れなかった

参考文献

[1] 山根正之 安井至 和田正道 国分可紀 寺井良平 近藤敬 小川晋永編ガラス光学ハ

ンドブック 朝倉書店(1999)

[2]飯野潔 梅咲則正 NEW GLASS 19 [2] 31-40 (2004)

[3] T E Faber and J M Ziman Philos Mag 11 [109] 153-173 (1965)

[4] 小原真司 鈴谷健太郎 放射光 14 [5] 365-375 (2001)

[5] 早稲田嘉夫 齋藤正敏 放射光 10 [3] 299-315 (1997)

[6] 細川伸也 広島工業大学紀要研究編 46 197-204 (2012)

[7] RLMcGreevy and LPuszai Mol Simulation 1 359(1988)

[8] V V Chernaya A S Mitiaev P S Chizhov E V Dikarev R V Shpanchenko E V Antipov

MV Korolenko and PB Fabritchinyi J Chem Mater 17 284-290 (2005)

[9] M Mathew L W Schroeder and T H Jordan Acta Cryst B33 1812-1816 (1977)

[10] J S Taylar and M P Cohs J Am Ceram Solids 109 [9] 2834-2835 (1987)

[11] D Munoz-Martin A Ruiz de La Cruz J M Fernandez-Navarro C Domingo J Solis and J

Gonzalo J appl Phys 110 023522 (2011)

63

Fig 41 各原子の異常分散項のエネルギー依存性

Fig 42 Sn の異常分散項のエネルギー依存性

64

Fig 43 SPring-8の BL13XU

65

Tab

le 4

1

RM

Cの各パラメーター

66

Fig 44 Sn2P2O7 Sn3P2O8結晶の RDF

Table 42 Sn2P2O7 Sn3P2O8結晶の各 pairの第一近接距離

67

Fig 45 得られた実測 HEXRDの S(Q)

68

Fig 46 Sn の異常散乱測定により得られた散乱強度のエネルギー依存性

(a)67S33P (b)60S40P

69

Fig 47 全相関関数 T(r)

太線 HEXRD より

細線 Sn の AXSより

70

Fig 48 67S5N28P ガラス構造のモデル

71

Fig 49 RMC フィッティングの結果

72

Tab

le 4

3 各

pairの平均配位数角度結合距離

73

Fig

4

10

67

S5

N2

8Pガラスの各多面体モデル

74

Tab

le 4

4 各

pairの結合様式

75

Fig 411 67S5N28P ガラスの構造モデル

76

Table 45 平均 BO 各数 nの比較

Fig 412 50S50P ガラスの構造モデル

77

第 5章 総括

本研究ではSP ガラスを対象とした本研究では鉛フリー代替ガラスまたは希土類フ

リー蛍光体として SP ガラスの新規高機能化を将来的に目指し問題点であるldquo化学的耐久

性rdquoの改善につながる知見を得ることを目的としたそこでまずSP ガラスを母体ガラ

スとし第三成分に Nb2O5を添加した Sn-Nb-P SNP ガラスZnO を添加した SZP ガラスを

作製し耐水性を中心とした物性評価を行った次に分光学的手法で構造解析を行い

Qn 分布を導き出した最後に放射光を用いた構造解析を行い耐水性改善に関する構造的

な考察を行った以下に本研究で行った検討内容を示す

(1)SPガラスおよび第三成分Nb2O5 ZnOを添加した三成分系SPガラスの物性評価(第 2章)

(2)SP 系ガラスの分光学的手法による Qn分布導出(第 3章)

(3)放射光を用いた SP 系ガラスの構造解析構造と耐水性改善の関連について(第 4章)

各章についてまとめた結果を以下に示す

第 2章

第 2章では二成分系および三成分系のリン酸塩系ガラスの各種物性(密度や熱的特性

耐水性)の評価を行った二成分系ではSP ガラスに加え良好な耐水性を有する鉄リン

酸塩(Fe2O3-P2O5)系ガラス(以下 FP ガラス)を比較のために三成分系では二成分系

の SP ガラスに Nb2O5を添加したニオブ含有 SP ガラス(SNP ガラス)および ZnO を添加し

た亜鉛含有 SP ガラス(SZP ガラス)を作製した

今回作製した SP 系ガラスは低ガラス転移温度を有していた各組成の温度域はSP

ガラスTg le 280 Sn-Nb-P SNPガラスTg le 3505SZP S5ZPガラスTg ≦ 450であった

各種 SP ガラスの耐水性試験の結果二成分系の SP ガラスよりも三成分系ガラスの方が

良好な耐水性を有していた65Sn-5Nb-30P 67S5N28P ガラスが最も耐水性が良好であり化

学的耐久性の改善には Nb2O5が ZnOよりも効果的であった

組成と耐水性に関してはDRおよび重量減がOP増加で単調に低下した結果が得られた

つまり耐水性を改善させるにはSP 系ガラスのガラス化範囲を拡大かつ OP を増大させ

る第三成分の添加が有効であることが示唆された

第 3章

第 3章ではSP 系ガラスの分光学的手法による Qn分布の導出を行ったラマン分光法を

用いて各ガラス系のリン酸塩アニオンの構造を簡易定量で評価し組成と構造の関係に

ついて考察した平均 BO 数 n と耐水性に関してはDR および重量減が平均 BO 数 nの減

少で単調に低下することが明らかとなった

平均 BO 数 n と OP の関係より耐水性改善には平均 BO 数 n を下げることそして

OP を上げることが重要であることが明らかになった

78

Nb5+の添加は平均 BO数を減少させるだけでなくOP も上げることからガラス構造

内の P-O-P 結合を減少させ水和反応加水分解反応が抑制され耐水性が大幅に改善さ

れることが示唆された故にNb2O5 のような高価数金属酸化物を添加することが効果的

であることが再度確認された

第 4章

耐水性向上についてより深く評価するためSP SNP ガラスの局所構造に関する知見を得

ることを目的に放射光を用いた構造解析を行った高エネルギーX 線回折(HEXRD)お

よび X 線異常散乱(AXS)法で測定したデータを再現する構造モデルを逆モンテカルロ

(RMC)シミュレーションで構築し構造解析を行った

RMC モデル中の PON多面体に関して平均配位数 Nが 4および P-O の平均結合距離が約

160Å平均結合角度angO-P-Oが約 109degという結果が得られた組成による大きな違いは確

認されなかったSnON多面体については平均配位数 N が 3~4 でSnO 量の増加に伴い 4

に近い値となった平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約 22Åで組成

による大きな変化は見られなかった

Nb2O5を 5 mol添加したガラスではNbON多面体の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平

均配位数N約4Nb-O平均結合距離約20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O

(約 105deg)と値が近いことまた6配位ではなく 4配位として主に存在していることから

SnO と同じような網目形成体として働いていると推測されたまた結合距離が Sn-O が約

22Åに対し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強

固にしていると考えられるまたSnO 量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体

的に各多面体同士の頂点共有が増えていることから耐水性の改善には頂点共有を多く

含む構造もしくは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的であること

が示唆された以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性

耐候性を改善した要因として考えられる

またAXS 法の有効性についても確認し効果的であることが判明したただし今回

は主成分が Snの組成のガラスでありHEXRD でも十分に詳細な Snの周辺構造が得られ

たためAXSを利用した場合との大きな構造の差は認められなかった

本研究では様々な優れた特徴を有する SP ガラスにおける耐水性改善のメカニズムにつ

いて検討を行ったこの系のガラスについてはこれまでほとんど利用されていなかった

放射光を用いた構造解析を駆使し第三成分の添加によってどのような構造的変化が生じ

耐水性を改善させるか新たな知見を得ることができた最終目標である機能性ガラスの

開発における新たなる材料設計指針の確立に対してldquo耐水性rdquoに関しては概ね明らかにな

ったと考えられる一方で今回検討していな電子状態化学結合性についても評価する

ことで溶出メカニズムの解明が可能になり材料設計指針の確立が期待される

79

発表論文リスト

口頭発表

第 2章および第 3章

(1) SnO-P2O5 系ガラスへの酸化物添加効果

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎

日本セラミックス協会第 25 回秋季シンポジウム No3C06 (名古屋市 2012年 9月)

(2) Effect of Nb2O5 addition to SnO-P2O5 glass (Poster)

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

International Union of Materials Research Societies International Conference on Electronic

Materials IUMRS-ICEM 2012 A-9-P26-003 (Yokohama 2012 年 9月)

(3) スズリン酸塩系ガラスの蛍光特性耐水性に及ばす酸化物の添加効果(ポスター)

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎

日本セラミックス協会 2013 年年会 1P070 (東京 2013年 3月)

第 4章

(1) 放射光を用いたスズリン酸塩ガラスの構造解析

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎小原真二臼杵毅

日本セラミックス協会第 27 回秋季シンポジウム 2B22 (鹿児島市 2014年 9 月)

(2) Structural analysis of tin phosphate glasses by synchrotron radiation (Poster)

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba Shinji Kohara Takeshi Usuki

International Congress on Glass ICG Annual Meeting Bangkok 2015 P14-138 p186 (2015)

発表論文

(1) Effect of Nb2O5 addition to SnO- P2O5 glass

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

Journal of the Ceramic Society of Japan Vol 120 No 11 pp530-533 (2012)

(2) Structural analysis of SnO- P2O5 glass

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

Journal of the Ceramic Society of Japan(準備中)

80

謝辞

本研究を遂行するにあたり終始暖かいご指導ご助言並びにご鞭撻を賜わりました岡

山大学大学院環境生命科学研究科 難波徳郎教授に心より感謝の意を表します

また本研究を遂行するにあたり懇切丁寧なご指導とご意見をしていただいた岡山大

学大学院環境生命科学研究科 紅野安彦准教授環境環理センター 崎田真一助教に心より

感謝いたします

本研究を遂行するにあたりラマン分光測定の使用についてご助言ご教授して頂い

た岡山大学自然科学研究科 藤井達生教授中西真助教に心より感謝の意を表します

Sn のメスバウアー測定の際に協力して頂いた岡山大学自然科学研究科先端自然科学教

育研究推進本部高田研究室 松本修治特任助教(当時旭硝子株式会社中央研究所)また

Feのメスバウアーを測定の際に協力して頂いた岡山大学自然科学研究科 藤井達生教授に

心より感謝の意を表します

固体 NMR の岡山大学自然科学研究科 早川聡教授に心より感謝の意を表します

本研究を遂行するにあたりSPring-8 にてHEXRD および AXS 法の測定法および原理

についてご教示頂きました物質材料研究機構 小原真司博士ならびに山形大学 臼杵毅

教授に心より感謝の意を表します

本研究は多くの後輩諸君の協力によって遂行されました特に実際に共同研究共同

実験を遂行して頂いたOG 藤原沙弥香さん博士前期課程 2 年 東利彦君OB 徳岡太誠

君学士課程 4年 塩田将大君に心より感謝の意を表しますまた難波研究室で共に研

究生活を過ごした卒業生在学生の方々に感謝の意を表します

また同時期に博士後期課程に在籍された香川高等専門学校の桟敷剛さんにはNbに

関する有益な情報だけでなく辛い状況でも励ましを頂きました心より感謝の意を表し

ます

最後に長きに渡る学生生活を認め経済面だけでなく精神面でも支援してくださった

家族に心より深く感謝の意を表します

平成 28年 3月

福井 聡史

Page 30: 博士論文 スズリン酸塩系ガラスの物性と構造解析ousar.lib.okayama-u.ac.jp/files/public/5/54353/...博士論文 スズリン酸塩系ガラスの物性と構造解析

27

Fig 210 FP ガラスのメスバウアースペクトル

Table 23 FP ガラスのメスバウアーパラメーター

28

Table 24 各ガラスの物性(密度(ρ)ガラス転移温度(Tg)溶出速度(DR)重量減())

29

Fig 211 SP ガラスの耐水性試験前後の外観写真

Fig 212 Sn-Nb-P ガラスの耐水性試験前後の外観写真

30

Fig 213 SNP ガラスの耐水性試験前後の外観写真

Fig 214 S5ZP ガラスの耐水性試験前後の外観写真

Fig 215 5SZP ガラスの耐水性試験前後の外観写真

31

Fig 216 FP ガラスの耐水性試験前後の外観写真

32

Fig 217 SP ガラスの XRD パターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

33

Fig 218 Sn-Nb-P ガラスの XRD パターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

34

Fig 219 SNP ガラスの XRD パターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

35

Fig 220 5SZP ガラスの XRDパターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

36

Fig 221 S5ZP ガラスの XRDパターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

37

Fig 222 FP ガラスの XRD パターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

38

Fig 223 各ガラス系の DR と OP の関係性

39

Fig 224 各ガラス系の重量減と OP の関係性

40

第 3章 分光法を用いたスズリン酸塩系ガラスの構造解析

31 緒言

前章ではSP ガラスおよび第三成分に Nb2O5 ZnOを添加した Sn-Nb-P ガラスSNP ガラ

スSZP ガラスの物性特に耐水性に関する第三成分添加の有効性を明らかにしたその添

加した第三成分の二種類についてもNb2O5 の方が ZnO よりも溶出速度重量減ともに抑

制することができSP ガラスの低ガラス転移温度という特性も維持されていることが判明

したしかし現段階では本研究の主要な物性である耐水性改善の要因が明確になって

いない組成の観点からはOP の値が高い組成が良好な耐水性であることが分かったが

組成だけでは耐水性改善のメカニズムについて完全には理解できないここでリン酸塩

ガラスの溶出のメカニズムは第 1 章で述べたように加水分解反応と水和反応が要因とな

る[1 2]この機構はそれぞれリン酸の構造つまり架橋酸素 BO の数が大きく関わって

おりリン酸アニオンの[PO4]ユニットの架橋酸素数を知ることが重要であるこの BO の

情報を得るためにはガラス構造を示す指標の一つである Qn(n は[PO4]ユニット中の架橋

酸素数を表す)を調べることが必須であるまたQn の分布を調べるためにはガラスの

構造解析を行う必要性がある

ガラスの構造解析には種々の方法があり特にラマン分光法や赤外(IR)分光法核

磁気共鳴法(NMR)などの分光学的手法を用いた構造解析の報告が多い[3-5]ラマン分光

法および IR分光法は原理は異なるがどちらも結合の振動モードを測定する手法であり[6]

リン酸塩ガラスだけでなくケイ酸塩ガラスホウ酸塩ガラスなど様々なガラス系にて測

定がなされている[7 8]また得られた結合状態の情報からリン酸塩アニオンの Qn分布

を調べることも可能であるNMR は共鳴吸収ピークの化学シフト(共鳴周波数のズレ)

から構造を決定する手法であるガラスの場合SiO2や B2O3 P2O5といった網目形成酸化物

の Qn分布を得るために一般的に使用されている手法である[9]

今回これらの測定の中でラマン分光法を選択し構造解析を行ったラマン分光法は

測定する際にサンプル形状を気にすることなく基本的にそのまま測定できるためIR 分

光法のようにサンプル形状で測定方法を変える必要はないまたIR 分光法では例えば

KBr 錠剤法やヌジュール法のように測定を行うためのサンプル調整に手間がかかる場合が

ある[6]さらに比較対象の FP ガラスではNMR を測定できないため作製ガラスを全

て比較検討できるようにラマン分光法を選択した

本章ではラマン分光法を用いて各ガラスの構造解析を行い[PO4]ユニットの Qn分布を

調査し平均 BO数 nを算出することで耐水性と構造の関係性を検討したまたラマン

分光法によって得られた Qn分布の妥当性を確認するためにSP ガラスおよび 67S5N28P ガ

ラスの NMRを測定も行い比較した

32 実験方法

41

321 サンプル準備

ラマン分光およびメスバウアー分光の測定では第 2 章で作製した各ガラスのバルク体

を用いたWD試験に使用したサンプルとは別にラマン測定用のサンプルを用意した適

度な大きさ大体 15 cm角程度のサイズになるようにガラスカッターで切断しその後

十分な平滑性を得るために鏡面研磨を施した

322 ラマン分光測定

使用したラマン分光装置は顕微レーザーラマン分光装置(Jasco NRS-5100)を用いた

用いたレーザー波長は 53208 nmであり400 - 2000 cm-1の範囲で測定した

Qn 分布を導くためにピークフィッティングを行いリン酸塩アニオンのラマンバンド

が現れる950 - 1250 cm-1付近および 700 - 750cm-付近の範囲で定量した

323 31P MAS NMR測定

31P MAS NMRの測定は Varian NMR System 500 を用いて32 mmの MASプローブ

202309MHzにて行った測定パラメーターを以下に示すπ4 パルス長さ 14 μs 待ち時間

(pulse delay)10 s 積算回数 3600 scan シリンダー円筒形状の Zrローターの回転スピード

160 kHz referenceとして二番目の基準物質として使われる NH4H2PO4を使用化学シフト

は85 H3PO4溶液から δ = 10 ppmである

33 結果考察

331 各ガラス系のラマンスペクトル

Figs 31 - 35にラマンスペクトルを示す各ピークは以下の通りに帰属し各スペクト

ル中に該当する構造をピーク位置に示した

1230 - 1260 cm-1 P=O NBO Q

2 [10]

1110 - 1150 cm-1metaphosphate (PO3)

- Q

2 [10]

1030 - 1100 cm-1pyrophosphate (PO35)

2- Q

1 [10]

970 - 1000 cm-1orthophosphate (PO4)

3- Q

0 [10]

920 - 930 cm-1asymmetric (P-O-P) Q

1 [10]

730 - 750 cm-1symmetric (P-O-P) Q

1 [10]

710 - 720 cm-1asymmetric (P-O-P) Q

2 [10]

810 - 820 cm-1Nb-O [NbO4] tetrahedron [11]

900 - 920 cm-1Nb-O isolated [NbO6] octahedron [11]

42

SP ガラスのラマンスペクトル(Fig 31)を見ると50S50P 60S40P ではmetaphosphate

の Q2 構造が支配的であるがSnO 量が増えるにつれてその構造が変化し70S30P では

pyrophosphateの Q1構造と orthophosphateの Q

0構造が共存した構造となっているまたSnO

量の少ない 50S50P および 60S40P において確認されたQ2構造の P=O のピークが見えなく

なっているつまり耐水性と関連して考えるとSnO量が増えるにつれてP-O-P 結合か

ら Sn-O-P 結合に代わり水分子との反応である加水分解反応を妨げる構造に変化している

ことがわかる

Figs 32 33にNb2O5を添加した Sn-Nb-P ガラスおよび SNP ガラスのラマンスペクトル

を示すまずSn-Nb-P ガラスについてNb 無添加の 65Sn-0Nb-35P は主に Q1構造であ

りNbO25が添加されることによってQ0構造に変化しQ

1 Q

0構造が共存しているような

ピークが得られた添加量が少ないガラス系であるため徐々に変化しているのを確認し

た800 cm-1を少し越えた 810 - 820 cm

-1付近にNb2O5を添加することでピークが現れそ

して添加量を増量することで強度が強まるピークがありこのピークは四面体の[NbO4]

のものと判断した

SNP ガラスのラマンスペクトルについてはNb2O5添加量を固定した組成であるためSP

ガラスのような挙動が観察された50S50N45P では50S50P ガラスと同じようにQ2構造

が主な構造でありSnO量の増加に伴って60S5N35P Q1構造67S5N28P Q

0構造に支配

的な構造が変化しているこれはSP ガラスと同じ傾向を示しているためP-O-P rarr Sn-O-P

に置き替わっていることが示唆されるNb-O に関するピークでは50S5N45P のみ[NbO4]

四面体のピークを確認できず900 - 920 cm-1付近に[NbO6]八面体のピークが確認された

SnO量が増量した 60S5N35P では810 cm-1付近の [NbO4] 四面体のピークが現れているが

[NbO6]八面体のピークと 900 - 920 cm-1付近の Q

1構造のピークが非常に近い(ほぼ重なって

いる)ことから60S5N35P については[NbO4] 四面体および[NbO6]八面体の共存の可能性

も考えられるまた67S5NP28 では[NbO4] 四面体のみのピークが観察されたためこ

の Nb-O の配位数変化は[PO4] unitの状態によって変化している可能性も示唆された

ZnO を添加した S5ZP ガラスおよび 5SZP ガラスのラマンスペクトルを Fig 34 に示す

図の下部三つが S5ZP ガラス上部三つが 5SZP ガラスのスペクトルであるSZP ガラスの

二系統を比べるとあきらかなスペクトルの違いが確認された各ガラス系で確認すると

SnO 量が最小の 55S5Z40P はQ2構造と Q

1構造の範囲に跨っているようなスペクトルが得

られた62S5Z33P および 65S5Z30P のスペクトルからはどちらもほぼ Q1構造であると判

断した5SZP のスペクトルは1000 - 1250 cm-1付近の範囲で裾を引くような(なだらかな)

スペクトルが得られたZnO 量が最小の 5S55Z40P にはQ2構造が主な構造に見えるが

shoulderピークのような Q1構造(1030 - 1100 cm

-1)が確認できる5S62Z40P においては

1000 - 1250 cm-1付近の範囲まで幅広いスペクトルが得られた730 - 750 cm

-1付近にピーク

が現れているためおそらく Q1構造が最も多く存在していると考えられる65S5Z30P では

Q1構造Q

0構造が共存しているようなピークが得られた

43

FP ガラスのラマンスペクトルを Fig 35 に示すFe量の少ない 20F80P 25F75P と他の三

つで構造が異なっていることである20F80P 25F75P はQ2構造と Q

1構造が基本構造にな

っていると判断できる 30F70P は1110 - 1150 cm-1付近に shoulderピークのようなものがあ

りQ2 Q

1 Q

0構造が共存しているようなスペクトルであった35F65P 40F60P はQ1構造

が主な構造でQ0構造があると判断した

332 平均 BO数 n (Qn分布)

まずピーク分離について散乱断面積が見積もれなかったためラマンの散乱強度比

を Qn分布として簡易的にピーク分離を行い(Fig 36)そこから平均架橋酸素数 BO 数 n

を算出したここでFig 37 に 31P MAS NMRスペクトルを示しTable 31に NMRおよび

ラマン分光より得られた平均 BO 数 n を示す(NMR の帰属 reference [12])表よりNMR

とラマンから得られた Qn分布はほぼ一致していることが分かった60S40Pについては支

配構造が NMR(Q1) ラマン(Q

2)で逆になったこれは60S40P の組成がQ

2と Q1のほぼ中

間の組成になるためこのようなズレが生じたと考えられるしかし今回のラマンによ

る Qn分布の算出についてはほぼ問題ないと判断した

Table 32にラマンスペクトルより求めた Qn分布平均 BO 数 nをを示しTable 24に示

した DR 重量減の結果を併記する

SP ガラスのうち耐水性が低いガラスは Q2構造によって形成されているSnO量の増加

によって NBOの増加とともに耐水性の向上が確認できSnOが入ることでSn-O-P 結合を

形成し水分子からの攻撃を受けにくくなっていることが考えられる

Sn-Nb-P ガラスでは基本的に Q1構造が主構造でNb2O5の添加が増えるにつれQ

0構

造が支配的になり耐水性は次第に向上していく最も耐水性のよかった 65S-5Nb-30P は

Q0構造での割合が非常に高く平均 BO数 n値が 03であった

SNP ガラスではP2O5量が多い組成の 50S5N45Pにおいても平均 BO数 nが 60S40P と

同じながらも耐水性が良くなっている67S5N28P はほぼ完全に Q0構造であり平均 Q

n

値は 0となった

SZP ガラスについてはS5ZP 5ZSP のどちらの系列についても耐水性の結果に大きな差

というものは確認されなかったが構造的にも平均 BO数 nが 09 10 17という結果であ

った

FP ガラスについてはFe2O3 lt 30 molのときは平均 BO 数 nが20 19と高い数値を

示したが耐水性は非常に良好であったこの結果より組成だけでなく構造的にも耐

水性高くなる要因が不明である一つの原因の可能性としてメスバウアーより得られた

Fe2+の存在比が 40以上と高かったことがFe2O3含有量が少ない組成時には効果的になっ

ているのかもしれない

333 平均 BO数 nと耐水性の関係性

44

Fig 38に DRと平均 BO数 nの関係性についてFig 39に重量減と平均 BO数 nの関係

性をそれぞれ示すまたOP の時と同様に各図にリン酸塩の三つの構造の平均 BO数

n も表記した双方の図よりDR 重量減共に平均 BO 数 nが低下することで単調に下がっ

ていることが分かるまた耐水性の良かったNb2O5添加の Sn-Nb-P SNPガラスはの DR

の挙動(傾き)はOP 時とも異なった挙動が得られた

Fig 310に OP と平均 BO数 nの関係を示す図中に示す茶色metaphosphate 黄色

pyrophosphate 灰色orthophosphate であるこの図から耐水性改善には平均 BO 数

n を下げOP を上げることが重要であるのが分かるまたNb5+の添加はOP を上げる

だけでなく平均 BO 数も減少させることから非常に効果的な成分であることが明らかで

あるこれはP5+から同酸価数 Nb

5+に少量でも置き換えることで平均 BO 数 n を下げ

OP を上げることを可能としている(実際に orthophosphate の OP4 よりも高い OP でガ

ラスが作製できている)つまりNb5+の添加によって P-O-P 結合が減少し水和反応加

水分解反応が抑制されているからである

以上の結果SP 系ガラスの耐水性改善には低い平均 BO 数と高い OP の組成にするこ

とが重要でNb2O5の添加は非常に効果的であることが分かったその一方でガラス中の

詳細な構造的要因についてははっきりしていないため次章の第 4 章にてさらに詳し

い構造解析を行い耐水性改善の要因について調査を行った

34 結言

本章ではラマン分光を使用して各ガラス系のリン酸塩アニオンの構造を簡易定量で

評価し組成と構造の関係について考察した

平均 BO 数 n と耐水性に関してはDR および重量減が平均 BO 数 n の減少で単調に低下

した結果が得られた

平均 BO数 nと OP の図より耐水性改善には平均 BO数 nを下げることそして OP

を上げることが重要であることが明白であった

Nb5+の添加は平均 BO数を減少させるだけでなくOP も上げることからガラス構造内

の P-O-P 結合を減少させる故に水和反応加水分解反応が抑制され耐水性が大幅に

改善された故にNb2O5 のような高価数金属酸化物を添加することが効果的であること

が示唆された

参考文献

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46

Fig 31 SP ガラスのラマンスペクトル

47

Fig 32 Sn-Nb-P ガラスのラマンスペクトル

48

Fig 33 SNP ガラスのラマンスペクトル

49

Fig 34 SZP ガラスのラマンスペクトル

50

Fig 35 FP ガラスのラマンスペクトル

51

Fig 36 ラマンスペクトルのピーク分離例(67S5N28P)

Raman Shift (cm-1)

52

Fig 37 NMRスペクトル

Table 31 NMR およびラマン分光より得られた SP 67S5N28P ガラスの

Qn分布および平均 BO数 n

53

Table 32 各ガラスのラマンスペクトルより求めた Qn分布結果

(表の赤線より右側の結果は Table 22 より)

1 仕込み組成による数値

2 Fig 2212 に示した析出物を取り除いた後の数値

54

Fig 38 DR と平均 BO数 nの関係性

55

Fig 39 重量減と平均 BO数 nの関係性

56

Fig 310 OP と平均 BO数 nの関係性

Meta

Pyro

Ortho

57

第 4章 放射光を用いたスズリン酸塩系ガラスの構造解析

41 緒言

前章の第 3 章にてラマン分光法を用いて SP 系ガラスの構造解析により Qn分布を導き

出したことで耐水性と構造の関係についてある程度関連性を導くことができたリン

酸アニオンについてはQ0(orthophosphate)構造 gt Q

1(pyrophosphate)構造 gt Q2

(metaphosphate)構造の順で良耐水性となるしかしSn Nbおよび Znの局所構造につ

いては知見が得られていないラマン分光や IR分光などの分光学的手法を用いてSnや

Nb Zn の周辺の局所構造を知るには限界があるまたガラスの構造解析を行う上で非常

に重要な因子である中距離構造の評価には分光学的手法は不向きである[1]

そこで局所構造や中距離構造を知るために有効な手法として放射光線を用いた構造

解析がある放射光(SR 光)とはシンクロトロンなどの加速器で高速に加速された電子

が進行方向を磁場によって変えられた際に放射する電磁波である[2]エネルギーが高く

(短波長)輝度が高い特性を有している日本国内では兵庫県佐用町の SPring-8や茨城

県つくば市の高エネルギー加速器研究機構佐賀県鳥栖市の佐賀県立九州シンクロトロン

光研究センターなど複数個所に放射光施設が設置されている

放射光を用いたガラスの構造解析には一般的に高エネルギーX 線回折(High Energy

X-ray diffraction HEXRD)が用いられるこの回折実験から高い散乱ベクトル Q(= 4π sinθλ)

まで回折データが得られる多種類の原子から構成される物質の場合はFaber-Ziman 型[3]

の構造因子 S(Q)を用いる以下の式に示すようにFaber-Ziman 型構造因子 S(Q)は同種また

は異種の原子による相関の重み関数付の和として示される例として SiO2ガラスで説明す

ると構造因子 S(Q)は三種類の原子付の S(Q)の重み付の和として表されていることが分か

I(Q) 散乱断面積 ltgt 原子一個当たりの平均値 f(Q) 原子散乱因子 W 重み関数

通常の研究室で使用される X 線回折(XRD)装置で用いられる特性 X 線はCuKα線(λ

= 0154 nm 81 keV)が最も良く用いられより高いエネルギーの X 線が必要な場合は

MoKα線(λ = 0071 nm 175 keV)が使用される一方でSPring-8のビームライン BL04B2

で行われる高エネルギーX 線回折(HEXRD)測定で使用される SR のエネルギーは378 keV

58

~ が使用可能である[2]従ってガラス以外の液体のような非晶質物質にも非常に精度

よく構造解析が行われている[4]

また局所構造解析の一つに X線異常散乱法という測定方法がある[5 6]これは通常

の X 線回折実験では分離不可能な特定元素に関連する部分構造因子(散乱強度曲線)を得

ることができる手法である今回 HEXRD の測定時に使用したエネルギー614 keV では各元

素の異常散乱項のエネルギー依存性は確認されない(Fig 41)その一方でFig 42に示す

Sn の吸収端付近の 292 keV付近ではSnの異常分散項のエネルギー依存性が確認できる

つまりSnの吸収端近傍より低エネルギー(E)側の異なるエネルギーの X線(E1 E2)を

使って散乱強度を測定し各 E における異常分散項(f`)の変化(つまり高い E1 から低い

E2 の散乱強度の差分)を利用して Snに関する部分構造因子を求める構造解析が AXS 法で

あるこの測定法は古くから知られている方法ではあるが装置の測定条件や設備の問

題からなどから使用があまり普及していなかった[5 6]近年になり金属ガラスの構造解

析について徐々に報告が出てきており今後注目される測定法である

HEXRD および AXS 法などから得られたデータ実測の構造因子 S(Q)は一次元の限られ

た構造情報であるためガラスなどの非晶質物質の中距離構造を解明するためにはこれ

らのデータを基に三次元構造を求める必要がある三次元構造モデルの作成には逆モンテ

カルロ(RMC)シミュレーションを使用することが有効である[7]このシミュレーション

は任意で決めたシミュレーションボックス内の粒子をランダムに動かすことで実測の

構造因子 S(Q)を再現する三次元構造モデルを構築する方法である

SP ガラスについては分光学的手法について数多く報告があるが放射光を用いた回折

法はほとんど適用されていないそこで本研究では HEXRD および AXS 法を用いた構造

解析を行うことでSn Nb周りの構造を解明すると共にSNP ガラスの耐水性改善のメカ

ニズムについて考察したまたAXS 法の有効性についても検討した測定を行ったガラ

スはSP ガラスおよび最も耐水性の高かった 67S5N28P を選択した

42 実験方法

421 HEXRD AXS法

HEXRDはSPring-8のビームライン BL04B2 で測定を行ったエネルギー614 keV の X

線を用いた測定サンプルの厚みは09 mm (plusmn0005 mm)になるまで研磨を行った

AXS 測定はSPring-8のビームライン BL13XUを使用した(Fig 43)それぞれの測定し

た X 線のエネルギーについて以下に示す

①Sn K吸収端hellip292 keV near edgehellip291452 keV (-60 eV) far edgehellip289751 keV (-230 eV)

②Nb K吸収端hellip1899 keV near edgehellip189562 keV (-30 eV) far edgehellip187863 keV (-230 eV)

測定に使用したサンプルの厚さが015 - 030 mmとなるまで研磨を施した

SP ガラスについて50S50P 60S40P 67S33P の三組成のガラスを測定した70S30P に関

59

しては測定を試みたが放射光照射によって結晶化してしまいガラス部分の正確な構

造因子を得るための強度補正ができず解析を断念した

422 RMCのモデリング

Table 41 に RMC の各種パラメーターを示す粒子数は約 5000 個でそれに伴う boxの一

辺の長さは約 42 ~ 46 Ǻになった拘束条件にP の配位数が 4になるような条件を付け

加えたFig 44にSn2P2O7結晶および Sn3P2O8結晶の動径分布関数(RDF)をTable 32

にRDFから得られた第一近接距離[8 9] を示すこれらの数値を使用しcutoffを決定し

たNb-O についてはいくつかの文献値を参考にした[10 11]

各ガラスの RMCのモデリングは①HEXRDから得られた S(Q)のみ②S(Q)および AXS

から得られた部分構造因子を加えた場合でそれぞれ計算した

43 結果考察

最初にNbの AXSから得られたデータについて解析を試みたが妥当な構造モデルが得

られなかったためSnの AXSのみで解析を進めたNb2O5の量が 5 molと少量であったた

めあまり精度の高いデータが得られなかったと推測される

431 実測の HEXRDおよび AXSの結果

4311 実測 HEXRDの S(Q)

Fig 45 に実測HEXRDの S(Q)を示す四つの組成ともに実測HEXRDの S(Q)が得られ

Nb2O5添加の 67S5N28P ガラスでは Low Q 側に変化が確認された

4312 実測散乱強度曲線

Fig 46 に Snの散乱強度曲線を示す(a) の 67S33P のこの曲線からはfar edgeおよび

near edge のエネルギー間で差分が見られエネルギーの依存性が確認された50S50P

67S5N28P のガラスについても同じように差分が確認されたが(b)の 60S40P についてのみ

他とは若干異なる結果(緑丸)であったためRMC の構造解析には差分の構造因子ではな

くfar edge near edge 二つの構造因子を用いた

4313 全相関関数 T(r)

Fig 47 に全相関関数 T(r) を示すHEXRD から得られたものを実線でSnの AXS から

得られたものは点線で示し組成ごとに重ねて表示した図中に各ピークについて帰属し

ているがSnの T(r)からはSn-O Sn-P Sn-Snのみのピークを確認した

432 RMCの計算結果および考察

60

構造モデルの一例として67S5N28P ガラスの得られた構造モデルをFig 48に示す水

色の多面体 unitSnON 黄色の多面体 unitPO4 ピンクの多面体 unitNbONである以下

詳細な構造解析の結果および考察を記す

4321 RMCのフィッティング結果

RMCのフィッティング結果の一例として67S33P の HEXRD と Snの AXS の構造因子か

ら得た結果を示す(Fig 49)二つの構造因子を加えて計算した結果においてもHEXRD

の S(Q) AXS の S(Q)に各々に対する良好なフィッティング結果が得られた他の組成も

同様なフィッティング結果が得られた

4322得られた各 pairの平均配位数平均角度平均結合距離

RMCの結果によって得られた各 pairの平均配位数平均角度平均結合距離を Tables 43

に示す上段が HEXRD の S(Q)のみ下段が HEXRD に Sn の AXS の部分構造因子を加え

て結果である最下部は比較のためにSn2P2O7の情報を記載した[8]

P-O pairについてRMCモデル中の PON多面体に関して平均配位数 Nが 4および P-O

の平均結合距離が約 160Å平均結合角度angO-P-O が約 109degという結果が得られた組成

による大きな違いは確認されなかったのはP の配位数が 4になるように拘束条件をかけた

結果であると考えられるSnON多面体についてはSnO量の増加 = OP の増加であり平

均配位数 Nが 3 ~ 35へ増加した平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約

22Åで組成による大きな変化はほとんど見られなかったNb2O5を 5 mol添加したガラ

スではNbON多面体の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平均配位数 N約 4Nb-O 平均結

合距離約 20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O(約 105deg)と値が近いこと

また6配位ではなく 4配位として主に存在していることからSnO と同じような働きをし

ていると推測される

以上の結果からNb2O5添加の耐水性改善の要因として結合距離が Sn-O が約 22Åに対

し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強固にして

いることも一つの要因として考えられる

また67S5N28P ガラスの各多面体モデルを確認すると(Fig 410)P は PO4Snは SnO4

と SnO3Nbは NbO4をそれぞれ再現している

4323得られた各 pairの結合様式

RMC の結果により得られた各 pair の結合様式を Tables 44 に示す上段が HEXRD の

S(Q)のみ下段が HEXRDに Snの AXS の部分構造因子を加えた結果である最下部は比

較のためにSn2P2O7の情報を記載した[8]

結合様式に関してはPO4四面体は他の多面体も含めてほぼ頂点共有で存在している

SnON多面体についてはSnO 量が少ない配位数が 3 に近い場合頂点共有以外の共有の

61

割合も多くSnO 量が増えるにつれて頂点共有が主になり網目形成体として振舞ってい

ると考えられる組成によって平均結合距離や平均角度の大きな変化が見られなかったこ

とから平均配位数が結合様式を決める重要なファクターであるということも考えられる

またHEXRD と AXS 法の結果がほぼ同じであったこれは主成分が SnO のガラスであ

るためHEXRDでも十分に詳細な構造が得られたため大きな変化が現れなかったと考え

られるNbON 多面体はPO4 四面体と SnON 多面体とはほぼ頂点共有で繋がっている以

上の結果よりSnO量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体的に各多面体同士の

頂点共有が増えていることから耐水性の改善には頂点共有を多く含む構造であること

が重要である或いは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的となって

いるということが推測されるFig 411に 67S5N28P ガラスの構造モデルを示す各多面

体はほぼ頂点共有で繋がっていることが確認できる

4324 平均 BO数の比較

Tables 45にNMR Raman RMC(HEXRD) RMC(HEXRD + AXS)の平均BO数を示すRMC

から得られた平均 BO 数 nはNMR Raman と同様に Nb2O5の添加による大幅な減少が確認

されたしかしNMR Raman と比較すると全組成において数値が大きすぎで適当でない

50S50P の構造モデルを観るとPO4四面体間で3配位 O の存在が確認された(Fig 412)た

め実測で得られた n値を再現できるようなPO4四面体モデル間の繋がり方に関する拘束条

件を加えて RMCを計算する必要性があるまた仮に3配位 Oの存在があるとすると電

子状態の変化が生じていることがと示唆されるため分子軌道計算を用いて電子状態解析

を行い確認する必要がある

4325 耐水性の改善について

Nb2O5を添加のガラス構造への影響について①6配位ではなく 4配位として主に存在し

ていることからSnO と同じような働きをしていると推測される②結合距離が Sn-O が約

22Åに対し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強

固にしている③ガラス構造中で全体的に各多面体同士の頂点共有が増えている以上の

ことが判明した以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性

耐候性を改善した要因として考えられる

44 結言

本章では分光学的手法では評価できないガラスの中距離構造局所構造について理解

するために放射光を用いた構造解析を実施しSP ガラスの構造と耐水性改善について考

察したHEXRDおよび AXS法を用いて測定を行い得られたデータを RMCシミュレーシ

ョンにて解析を行った

解析の結果 Sn-O pair については平均配位数 Nが 3 ~ 35でSnO量の増加 = OP の増

62

加に伴い高くなった平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約 22Åであ

ったP-O Sn-Oについては組成による大きな変化はほとんど見られなかった67S5N28P

ガラスの Nb-O pair の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平均配位数約 4Nb-O 平均結合距

離約 20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O(約 105deg)と値が近いことま

た6配位ではなく 4配位として主に存在していることからSnOと同じような働き(網目

形成体)をしていると推測されるまた結合距離が Sn-O が約 22Åに対し Nb-O は約 20

Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強固にしていると言える

SnO 量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体的に各多面体同士の頂点共有が増え

ていることから耐水性の改善には頂点共有を多く含む構造であることが重要である

もしくは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的であることが推測さ

れる以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性耐候性を

改善した要因として考えられる

またAXS 法の有効性についても確認し効果的であることが判明したただし今回

は主成分が Sn の組成のガラスでありHEXRD でも十分に詳細な構造が得られたため

大きな差は現れなかった

参考文献

[1] 山根正之 安井至 和田正道 国分可紀 寺井良平 近藤敬 小川晋永編ガラス光学ハ

ンドブック 朝倉書店(1999)

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[6] 細川伸也 広島工業大学紀要研究編 46 197-204 (2012)

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MV Korolenko and PB Fabritchinyi J Chem Mater 17 284-290 (2005)

[9] M Mathew L W Schroeder and T H Jordan Acta Cryst B33 1812-1816 (1977)

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[11] D Munoz-Martin A Ruiz de La Cruz J M Fernandez-Navarro C Domingo J Solis and J

Gonzalo J appl Phys 110 023522 (2011)

63

Fig 41 各原子の異常分散項のエネルギー依存性

Fig 42 Sn の異常分散項のエネルギー依存性

64

Fig 43 SPring-8の BL13XU

65

Tab

le 4

1

RM

Cの各パラメーター

66

Fig 44 Sn2P2O7 Sn3P2O8結晶の RDF

Table 42 Sn2P2O7 Sn3P2O8結晶の各 pairの第一近接距離

67

Fig 45 得られた実測 HEXRDの S(Q)

68

Fig 46 Sn の異常散乱測定により得られた散乱強度のエネルギー依存性

(a)67S33P (b)60S40P

69

Fig 47 全相関関数 T(r)

太線 HEXRD より

細線 Sn の AXSより

70

Fig 48 67S5N28P ガラス構造のモデル

71

Fig 49 RMC フィッティングの結果

72

Tab

le 4

3 各

pairの平均配位数角度結合距離

73

Fig

4

10

67

S5

N2

8Pガラスの各多面体モデル

74

Tab

le 4

4 各

pairの結合様式

75

Fig 411 67S5N28P ガラスの構造モデル

76

Table 45 平均 BO 各数 nの比較

Fig 412 50S50P ガラスの構造モデル

77

第 5章 総括

本研究ではSP ガラスを対象とした本研究では鉛フリー代替ガラスまたは希土類フ

リー蛍光体として SP ガラスの新規高機能化を将来的に目指し問題点であるldquo化学的耐久

性rdquoの改善につながる知見を得ることを目的としたそこでまずSP ガラスを母体ガラ

スとし第三成分に Nb2O5を添加した Sn-Nb-P SNP ガラスZnO を添加した SZP ガラスを

作製し耐水性を中心とした物性評価を行った次に分光学的手法で構造解析を行い

Qn 分布を導き出した最後に放射光を用いた構造解析を行い耐水性改善に関する構造的

な考察を行った以下に本研究で行った検討内容を示す

(1)SPガラスおよび第三成分Nb2O5 ZnOを添加した三成分系SPガラスの物性評価(第 2章)

(2)SP 系ガラスの分光学的手法による Qn分布導出(第 3章)

(3)放射光を用いた SP 系ガラスの構造解析構造と耐水性改善の関連について(第 4章)

各章についてまとめた結果を以下に示す

第 2章

第 2章では二成分系および三成分系のリン酸塩系ガラスの各種物性(密度や熱的特性

耐水性)の評価を行った二成分系ではSP ガラスに加え良好な耐水性を有する鉄リン

酸塩(Fe2O3-P2O5)系ガラス(以下 FP ガラス)を比較のために三成分系では二成分系

の SP ガラスに Nb2O5を添加したニオブ含有 SP ガラス(SNP ガラス)および ZnO を添加し

た亜鉛含有 SP ガラス(SZP ガラス)を作製した

今回作製した SP 系ガラスは低ガラス転移温度を有していた各組成の温度域はSP

ガラスTg le 280 Sn-Nb-P SNPガラスTg le 3505SZP S5ZPガラスTg ≦ 450であった

各種 SP ガラスの耐水性試験の結果二成分系の SP ガラスよりも三成分系ガラスの方が

良好な耐水性を有していた65Sn-5Nb-30P 67S5N28P ガラスが最も耐水性が良好であり化

学的耐久性の改善には Nb2O5が ZnOよりも効果的であった

組成と耐水性に関してはDRおよび重量減がOP増加で単調に低下した結果が得られた

つまり耐水性を改善させるにはSP 系ガラスのガラス化範囲を拡大かつ OP を増大させ

る第三成分の添加が有効であることが示唆された

第 3章

第 3章ではSP 系ガラスの分光学的手法による Qn分布の導出を行ったラマン分光法を

用いて各ガラス系のリン酸塩アニオンの構造を簡易定量で評価し組成と構造の関係に

ついて考察した平均 BO 数 n と耐水性に関してはDR および重量減が平均 BO 数 nの減

少で単調に低下することが明らかとなった

平均 BO 数 n と OP の関係より耐水性改善には平均 BO 数 n を下げることそして

OP を上げることが重要であることが明らかになった

78

Nb5+の添加は平均 BO数を減少させるだけでなくOP も上げることからガラス構造

内の P-O-P 結合を減少させ水和反応加水分解反応が抑制され耐水性が大幅に改善さ

れることが示唆された故にNb2O5 のような高価数金属酸化物を添加することが効果的

であることが再度確認された

第 4章

耐水性向上についてより深く評価するためSP SNP ガラスの局所構造に関する知見を得

ることを目的に放射光を用いた構造解析を行った高エネルギーX 線回折(HEXRD)お

よび X 線異常散乱(AXS)法で測定したデータを再現する構造モデルを逆モンテカルロ

(RMC)シミュレーションで構築し構造解析を行った

RMC モデル中の PON多面体に関して平均配位数 Nが 4および P-O の平均結合距離が約

160Å平均結合角度angO-P-Oが約 109degという結果が得られた組成による大きな違いは確

認されなかったSnON多面体については平均配位数 N が 3~4 でSnO 量の増加に伴い 4

に近い値となった平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約 22Åで組成

による大きな変化は見られなかった

Nb2O5を 5 mol添加したガラスではNbON多面体の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平

均配位数N約4Nb-O平均結合距離約20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O

(約 105deg)と値が近いことまた6配位ではなく 4配位として主に存在していることから

SnO と同じような網目形成体として働いていると推測されたまた結合距離が Sn-O が約

22Åに対し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強

固にしていると考えられるまたSnO 量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体

的に各多面体同士の頂点共有が増えていることから耐水性の改善には頂点共有を多く

含む構造もしくは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的であること

が示唆された以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性

耐候性を改善した要因として考えられる

またAXS 法の有効性についても確認し効果的であることが判明したただし今回

は主成分が Snの組成のガラスでありHEXRD でも十分に詳細な Snの周辺構造が得られ

たためAXSを利用した場合との大きな構造の差は認められなかった

本研究では様々な優れた特徴を有する SP ガラスにおける耐水性改善のメカニズムにつ

いて検討を行ったこの系のガラスについてはこれまでほとんど利用されていなかった

放射光を用いた構造解析を駆使し第三成分の添加によってどのような構造的変化が生じ

耐水性を改善させるか新たな知見を得ることができた最終目標である機能性ガラスの

開発における新たなる材料設計指針の確立に対してldquo耐水性rdquoに関しては概ね明らかにな

ったと考えられる一方で今回検討していな電子状態化学結合性についても評価する

ことで溶出メカニズムの解明が可能になり材料設計指針の確立が期待される

79

発表論文リスト

口頭発表

第 2章および第 3章

(1) SnO-P2O5 系ガラスへの酸化物添加効果

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎

日本セラミックス協会第 25 回秋季シンポジウム No3C06 (名古屋市 2012年 9月)

(2) Effect of Nb2O5 addition to SnO-P2O5 glass (Poster)

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

International Union of Materials Research Societies International Conference on Electronic

Materials IUMRS-ICEM 2012 A-9-P26-003 (Yokohama 2012 年 9月)

(3) スズリン酸塩系ガラスの蛍光特性耐水性に及ばす酸化物の添加効果(ポスター)

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎

日本セラミックス協会 2013 年年会 1P070 (東京 2013年 3月)

第 4章

(1) 放射光を用いたスズリン酸塩ガラスの構造解析

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎小原真二臼杵毅

日本セラミックス協会第 27 回秋季シンポジウム 2B22 (鹿児島市 2014年 9 月)

(2) Structural analysis of tin phosphate glasses by synchrotron radiation (Poster)

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba Shinji Kohara Takeshi Usuki

International Congress on Glass ICG Annual Meeting Bangkok 2015 P14-138 p186 (2015)

発表論文

(1) Effect of Nb2O5 addition to SnO- P2O5 glass

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

Journal of the Ceramic Society of Japan Vol 120 No 11 pp530-533 (2012)

(2) Structural analysis of SnO- P2O5 glass

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

Journal of the Ceramic Society of Japan(準備中)

80

謝辞

本研究を遂行するにあたり終始暖かいご指導ご助言並びにご鞭撻を賜わりました岡

山大学大学院環境生命科学研究科 難波徳郎教授に心より感謝の意を表します

また本研究を遂行するにあたり懇切丁寧なご指導とご意見をしていただいた岡山大

学大学院環境生命科学研究科 紅野安彦准教授環境環理センター 崎田真一助教に心より

感謝いたします

本研究を遂行するにあたりラマン分光測定の使用についてご助言ご教授して頂い

た岡山大学自然科学研究科 藤井達生教授中西真助教に心より感謝の意を表します

Sn のメスバウアー測定の際に協力して頂いた岡山大学自然科学研究科先端自然科学教

育研究推進本部高田研究室 松本修治特任助教(当時旭硝子株式会社中央研究所)また

Feのメスバウアーを測定の際に協力して頂いた岡山大学自然科学研究科 藤井達生教授に

心より感謝の意を表します

固体 NMR の岡山大学自然科学研究科 早川聡教授に心より感謝の意を表します

本研究を遂行するにあたりSPring-8 にてHEXRD および AXS 法の測定法および原理

についてご教示頂きました物質材料研究機構 小原真司博士ならびに山形大学 臼杵毅

教授に心より感謝の意を表します

本研究は多くの後輩諸君の協力によって遂行されました特に実際に共同研究共同

実験を遂行して頂いたOG 藤原沙弥香さん博士前期課程 2 年 東利彦君OB 徳岡太誠

君学士課程 4年 塩田将大君に心より感謝の意を表しますまた難波研究室で共に研

究生活を過ごした卒業生在学生の方々に感謝の意を表します

また同時期に博士後期課程に在籍された香川高等専門学校の桟敷剛さんにはNbに

関する有益な情報だけでなく辛い状況でも励ましを頂きました心より感謝の意を表し

ます

最後に長きに渡る学生生活を認め経済面だけでなく精神面でも支援してくださった

家族に心より深く感謝の意を表します

平成 28年 3月

福井 聡史

Page 31: 博士論文 スズリン酸塩系ガラスの物性と構造解析ousar.lib.okayama-u.ac.jp/files/public/5/54353/...博士論文 スズリン酸塩系ガラスの物性と構造解析

28

Table 24 各ガラスの物性(密度(ρ)ガラス転移温度(Tg)溶出速度(DR)重量減())

29

Fig 211 SP ガラスの耐水性試験前後の外観写真

Fig 212 Sn-Nb-P ガラスの耐水性試験前後の外観写真

30

Fig 213 SNP ガラスの耐水性試験前後の外観写真

Fig 214 S5ZP ガラスの耐水性試験前後の外観写真

Fig 215 5SZP ガラスの耐水性試験前後の外観写真

31

Fig 216 FP ガラスの耐水性試験前後の外観写真

32

Fig 217 SP ガラスの XRD パターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

33

Fig 218 Sn-Nb-P ガラスの XRD パターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

34

Fig 219 SNP ガラスの XRD パターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

35

Fig 220 5SZP ガラスの XRDパターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

36

Fig 221 S5ZP ガラスの XRDパターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

37

Fig 222 FP ガラスの XRD パターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

38

Fig 223 各ガラス系の DR と OP の関係性

39

Fig 224 各ガラス系の重量減と OP の関係性

40

第 3章 分光法を用いたスズリン酸塩系ガラスの構造解析

31 緒言

前章ではSP ガラスおよび第三成分に Nb2O5 ZnOを添加した Sn-Nb-P ガラスSNP ガラ

スSZP ガラスの物性特に耐水性に関する第三成分添加の有効性を明らかにしたその添

加した第三成分の二種類についてもNb2O5 の方が ZnO よりも溶出速度重量減ともに抑

制することができSP ガラスの低ガラス転移温度という特性も維持されていることが判明

したしかし現段階では本研究の主要な物性である耐水性改善の要因が明確になって

いない組成の観点からはOP の値が高い組成が良好な耐水性であることが分かったが

組成だけでは耐水性改善のメカニズムについて完全には理解できないここでリン酸塩

ガラスの溶出のメカニズムは第 1 章で述べたように加水分解反応と水和反応が要因とな

る[1 2]この機構はそれぞれリン酸の構造つまり架橋酸素 BO の数が大きく関わって

おりリン酸アニオンの[PO4]ユニットの架橋酸素数を知ることが重要であるこの BO の

情報を得るためにはガラス構造を示す指標の一つである Qn(n は[PO4]ユニット中の架橋

酸素数を表す)を調べることが必須であるまたQn の分布を調べるためにはガラスの

構造解析を行う必要性がある

ガラスの構造解析には種々の方法があり特にラマン分光法や赤外(IR)分光法核

磁気共鳴法(NMR)などの分光学的手法を用いた構造解析の報告が多い[3-5]ラマン分光

法および IR分光法は原理は異なるがどちらも結合の振動モードを測定する手法であり[6]

リン酸塩ガラスだけでなくケイ酸塩ガラスホウ酸塩ガラスなど様々なガラス系にて測

定がなされている[7 8]また得られた結合状態の情報からリン酸塩アニオンの Qn分布

を調べることも可能であるNMR は共鳴吸収ピークの化学シフト(共鳴周波数のズレ)

から構造を決定する手法であるガラスの場合SiO2や B2O3 P2O5といった網目形成酸化物

の Qn分布を得るために一般的に使用されている手法である[9]

今回これらの測定の中でラマン分光法を選択し構造解析を行ったラマン分光法は

測定する際にサンプル形状を気にすることなく基本的にそのまま測定できるためIR 分

光法のようにサンプル形状で測定方法を変える必要はないまたIR 分光法では例えば

KBr 錠剤法やヌジュール法のように測定を行うためのサンプル調整に手間がかかる場合が

ある[6]さらに比較対象の FP ガラスではNMR を測定できないため作製ガラスを全

て比較検討できるようにラマン分光法を選択した

本章ではラマン分光法を用いて各ガラスの構造解析を行い[PO4]ユニットの Qn分布を

調査し平均 BO数 nを算出することで耐水性と構造の関係性を検討したまたラマン

分光法によって得られた Qn分布の妥当性を確認するためにSP ガラスおよび 67S5N28P ガ

ラスの NMRを測定も行い比較した

32 実験方法

41

321 サンプル準備

ラマン分光およびメスバウアー分光の測定では第 2 章で作製した各ガラスのバルク体

を用いたWD試験に使用したサンプルとは別にラマン測定用のサンプルを用意した適

度な大きさ大体 15 cm角程度のサイズになるようにガラスカッターで切断しその後

十分な平滑性を得るために鏡面研磨を施した

322 ラマン分光測定

使用したラマン分光装置は顕微レーザーラマン分光装置(Jasco NRS-5100)を用いた

用いたレーザー波長は 53208 nmであり400 - 2000 cm-1の範囲で測定した

Qn 分布を導くためにピークフィッティングを行いリン酸塩アニオンのラマンバンド

が現れる950 - 1250 cm-1付近および 700 - 750cm-付近の範囲で定量した

323 31P MAS NMR測定

31P MAS NMRの測定は Varian NMR System 500 を用いて32 mmの MASプローブ

202309MHzにて行った測定パラメーターを以下に示すπ4 パルス長さ 14 μs 待ち時間

(pulse delay)10 s 積算回数 3600 scan シリンダー円筒形状の Zrローターの回転スピード

160 kHz referenceとして二番目の基準物質として使われる NH4H2PO4を使用化学シフト

は85 H3PO4溶液から δ = 10 ppmである

33 結果考察

331 各ガラス系のラマンスペクトル

Figs 31 - 35にラマンスペクトルを示す各ピークは以下の通りに帰属し各スペクト

ル中に該当する構造をピーク位置に示した

1230 - 1260 cm-1 P=O NBO Q

2 [10]

1110 - 1150 cm-1metaphosphate (PO3)

- Q

2 [10]

1030 - 1100 cm-1pyrophosphate (PO35)

2- Q

1 [10]

970 - 1000 cm-1orthophosphate (PO4)

3- Q

0 [10]

920 - 930 cm-1asymmetric (P-O-P) Q

1 [10]

730 - 750 cm-1symmetric (P-O-P) Q

1 [10]

710 - 720 cm-1asymmetric (P-O-P) Q

2 [10]

810 - 820 cm-1Nb-O [NbO4] tetrahedron [11]

900 - 920 cm-1Nb-O isolated [NbO6] octahedron [11]

42

SP ガラスのラマンスペクトル(Fig 31)を見ると50S50P 60S40P ではmetaphosphate

の Q2 構造が支配的であるがSnO 量が増えるにつれてその構造が変化し70S30P では

pyrophosphateの Q1構造と orthophosphateの Q

0構造が共存した構造となっているまたSnO

量の少ない 50S50P および 60S40P において確認されたQ2構造の P=O のピークが見えなく

なっているつまり耐水性と関連して考えるとSnO量が増えるにつれてP-O-P 結合か

ら Sn-O-P 結合に代わり水分子との反応である加水分解反応を妨げる構造に変化している

ことがわかる

Figs 32 33にNb2O5を添加した Sn-Nb-P ガラスおよび SNP ガラスのラマンスペクトル

を示すまずSn-Nb-P ガラスについてNb 無添加の 65Sn-0Nb-35P は主に Q1構造であ

りNbO25が添加されることによってQ0構造に変化しQ

1 Q

0構造が共存しているような

ピークが得られた添加量が少ないガラス系であるため徐々に変化しているのを確認し

た800 cm-1を少し越えた 810 - 820 cm

-1付近にNb2O5を添加することでピークが現れそ

して添加量を増量することで強度が強まるピークがありこのピークは四面体の[NbO4]

のものと判断した

SNP ガラスのラマンスペクトルについてはNb2O5添加量を固定した組成であるためSP

ガラスのような挙動が観察された50S50N45P では50S50P ガラスと同じようにQ2構造

が主な構造でありSnO量の増加に伴って60S5N35P Q1構造67S5N28P Q

0構造に支配

的な構造が変化しているこれはSP ガラスと同じ傾向を示しているためP-O-P rarr Sn-O-P

に置き替わっていることが示唆されるNb-O に関するピークでは50S5N45P のみ[NbO4]

四面体のピークを確認できず900 - 920 cm-1付近に[NbO6]八面体のピークが確認された

SnO量が増量した 60S5N35P では810 cm-1付近の [NbO4] 四面体のピークが現れているが

[NbO6]八面体のピークと 900 - 920 cm-1付近の Q

1構造のピークが非常に近い(ほぼ重なって

いる)ことから60S5N35P については[NbO4] 四面体および[NbO6]八面体の共存の可能性

も考えられるまた67S5NP28 では[NbO4] 四面体のみのピークが観察されたためこ

の Nb-O の配位数変化は[PO4] unitの状態によって変化している可能性も示唆された

ZnO を添加した S5ZP ガラスおよび 5SZP ガラスのラマンスペクトルを Fig 34 に示す

図の下部三つが S5ZP ガラス上部三つが 5SZP ガラスのスペクトルであるSZP ガラスの

二系統を比べるとあきらかなスペクトルの違いが確認された各ガラス系で確認すると

SnO 量が最小の 55S5Z40P はQ2構造と Q

1構造の範囲に跨っているようなスペクトルが得

られた62S5Z33P および 65S5Z30P のスペクトルからはどちらもほぼ Q1構造であると判

断した5SZP のスペクトルは1000 - 1250 cm-1付近の範囲で裾を引くような(なだらかな)

スペクトルが得られたZnO 量が最小の 5S55Z40P にはQ2構造が主な構造に見えるが

shoulderピークのような Q1構造(1030 - 1100 cm

-1)が確認できる5S62Z40P においては

1000 - 1250 cm-1付近の範囲まで幅広いスペクトルが得られた730 - 750 cm

-1付近にピーク

が現れているためおそらく Q1構造が最も多く存在していると考えられる65S5Z30P では

Q1構造Q

0構造が共存しているようなピークが得られた

43

FP ガラスのラマンスペクトルを Fig 35 に示すFe量の少ない 20F80P 25F75P と他の三

つで構造が異なっていることである20F80P 25F75P はQ2構造と Q

1構造が基本構造にな

っていると判断できる 30F70P は1110 - 1150 cm-1付近に shoulderピークのようなものがあ

りQ2 Q

1 Q

0構造が共存しているようなスペクトルであった35F65P 40F60P はQ1構造

が主な構造でQ0構造があると判断した

332 平均 BO数 n (Qn分布)

まずピーク分離について散乱断面積が見積もれなかったためラマンの散乱強度比

を Qn分布として簡易的にピーク分離を行い(Fig 36)そこから平均架橋酸素数 BO 数 n

を算出したここでFig 37 に 31P MAS NMRスペクトルを示しTable 31に NMRおよび

ラマン分光より得られた平均 BO 数 n を示す(NMR の帰属 reference [12])表よりNMR

とラマンから得られた Qn分布はほぼ一致していることが分かった60S40Pについては支

配構造が NMR(Q1) ラマン(Q

2)で逆になったこれは60S40P の組成がQ

2と Q1のほぼ中

間の組成になるためこのようなズレが生じたと考えられるしかし今回のラマンによ

る Qn分布の算出についてはほぼ問題ないと判断した

Table 32にラマンスペクトルより求めた Qn分布平均 BO 数 nをを示しTable 24に示

した DR 重量減の結果を併記する

SP ガラスのうち耐水性が低いガラスは Q2構造によって形成されているSnO量の増加

によって NBOの増加とともに耐水性の向上が確認できSnOが入ることでSn-O-P 結合を

形成し水分子からの攻撃を受けにくくなっていることが考えられる

Sn-Nb-P ガラスでは基本的に Q1構造が主構造でNb2O5の添加が増えるにつれQ

0構

造が支配的になり耐水性は次第に向上していく最も耐水性のよかった 65S-5Nb-30P は

Q0構造での割合が非常に高く平均 BO数 n値が 03であった

SNP ガラスではP2O5量が多い組成の 50S5N45Pにおいても平均 BO数 nが 60S40P と

同じながらも耐水性が良くなっている67S5N28P はほぼ完全に Q0構造であり平均 Q

n

値は 0となった

SZP ガラスについてはS5ZP 5ZSP のどちらの系列についても耐水性の結果に大きな差

というものは確認されなかったが構造的にも平均 BO数 nが 09 10 17という結果であ

った

FP ガラスについてはFe2O3 lt 30 molのときは平均 BO 数 nが20 19と高い数値を

示したが耐水性は非常に良好であったこの結果より組成だけでなく構造的にも耐

水性高くなる要因が不明である一つの原因の可能性としてメスバウアーより得られた

Fe2+の存在比が 40以上と高かったことがFe2O3含有量が少ない組成時には効果的になっ

ているのかもしれない

333 平均 BO数 nと耐水性の関係性

44

Fig 38に DRと平均 BO数 nの関係性についてFig 39に重量減と平均 BO数 nの関係

性をそれぞれ示すまたOP の時と同様に各図にリン酸塩の三つの構造の平均 BO数

n も表記した双方の図よりDR 重量減共に平均 BO 数 nが低下することで単調に下がっ

ていることが分かるまた耐水性の良かったNb2O5添加の Sn-Nb-P SNPガラスはの DR

の挙動(傾き)はOP 時とも異なった挙動が得られた

Fig 310に OP と平均 BO数 nの関係を示す図中に示す茶色metaphosphate 黄色

pyrophosphate 灰色orthophosphate であるこの図から耐水性改善には平均 BO 数

n を下げOP を上げることが重要であるのが分かるまたNb5+の添加はOP を上げる

だけでなく平均 BO 数も減少させることから非常に効果的な成分であることが明らかで

あるこれはP5+から同酸価数 Nb

5+に少量でも置き換えることで平均 BO 数 n を下げ

OP を上げることを可能としている(実際に orthophosphate の OP4 よりも高い OP でガ

ラスが作製できている)つまりNb5+の添加によって P-O-P 結合が減少し水和反応加

水分解反応が抑制されているからである

以上の結果SP 系ガラスの耐水性改善には低い平均 BO 数と高い OP の組成にするこ

とが重要でNb2O5の添加は非常に効果的であることが分かったその一方でガラス中の

詳細な構造的要因についてははっきりしていないため次章の第 4 章にてさらに詳し

い構造解析を行い耐水性改善の要因について調査を行った

34 結言

本章ではラマン分光を使用して各ガラス系のリン酸塩アニオンの構造を簡易定量で

評価し組成と構造の関係について考察した

平均 BO 数 n と耐水性に関してはDR および重量減が平均 BO 数 n の減少で単調に低下

した結果が得られた

平均 BO数 nと OP の図より耐水性改善には平均 BO数 nを下げることそして OP

を上げることが重要であることが明白であった

Nb5+の添加は平均 BO数を減少させるだけでなくOP も上げることからガラス構造内

の P-O-P 結合を減少させる故に水和反応加水分解反応が抑制され耐水性が大幅に

改善された故にNb2O5 のような高価数金属酸化物を添加することが効果的であること

が示唆された

参考文献

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46

Fig 31 SP ガラスのラマンスペクトル

47

Fig 32 Sn-Nb-P ガラスのラマンスペクトル

48

Fig 33 SNP ガラスのラマンスペクトル

49

Fig 34 SZP ガラスのラマンスペクトル

50

Fig 35 FP ガラスのラマンスペクトル

51

Fig 36 ラマンスペクトルのピーク分離例(67S5N28P)

Raman Shift (cm-1)

52

Fig 37 NMRスペクトル

Table 31 NMR およびラマン分光より得られた SP 67S5N28P ガラスの

Qn分布および平均 BO数 n

53

Table 32 各ガラスのラマンスペクトルより求めた Qn分布結果

(表の赤線より右側の結果は Table 22 より)

1 仕込み組成による数値

2 Fig 2212 に示した析出物を取り除いた後の数値

54

Fig 38 DR と平均 BO数 nの関係性

55

Fig 39 重量減と平均 BO数 nの関係性

56

Fig 310 OP と平均 BO数 nの関係性

Meta

Pyro

Ortho

57

第 4章 放射光を用いたスズリン酸塩系ガラスの構造解析

41 緒言

前章の第 3 章にてラマン分光法を用いて SP 系ガラスの構造解析により Qn分布を導き

出したことで耐水性と構造の関係についてある程度関連性を導くことができたリン

酸アニオンについてはQ0(orthophosphate)構造 gt Q

1(pyrophosphate)構造 gt Q2

(metaphosphate)構造の順で良耐水性となるしかしSn Nbおよび Znの局所構造につ

いては知見が得られていないラマン分光や IR分光などの分光学的手法を用いてSnや

Nb Zn の周辺の局所構造を知るには限界があるまたガラスの構造解析を行う上で非常

に重要な因子である中距離構造の評価には分光学的手法は不向きである[1]

そこで局所構造や中距離構造を知るために有効な手法として放射光線を用いた構造

解析がある放射光(SR 光)とはシンクロトロンなどの加速器で高速に加速された電子

が進行方向を磁場によって変えられた際に放射する電磁波である[2]エネルギーが高く

(短波長)輝度が高い特性を有している日本国内では兵庫県佐用町の SPring-8や茨城

県つくば市の高エネルギー加速器研究機構佐賀県鳥栖市の佐賀県立九州シンクロトロン

光研究センターなど複数個所に放射光施設が設置されている

放射光を用いたガラスの構造解析には一般的に高エネルギーX 線回折(High Energy

X-ray diffraction HEXRD)が用いられるこの回折実験から高い散乱ベクトル Q(= 4π sinθλ)

まで回折データが得られる多種類の原子から構成される物質の場合はFaber-Ziman 型[3]

の構造因子 S(Q)を用いる以下の式に示すようにFaber-Ziman 型構造因子 S(Q)は同種また

は異種の原子による相関の重み関数付の和として示される例として SiO2ガラスで説明す

ると構造因子 S(Q)は三種類の原子付の S(Q)の重み付の和として表されていることが分か

I(Q) 散乱断面積 ltgt 原子一個当たりの平均値 f(Q) 原子散乱因子 W 重み関数

通常の研究室で使用される X 線回折(XRD)装置で用いられる特性 X 線はCuKα線(λ

= 0154 nm 81 keV)が最も良く用いられより高いエネルギーの X 線が必要な場合は

MoKα線(λ = 0071 nm 175 keV)が使用される一方でSPring-8のビームライン BL04B2

で行われる高エネルギーX 線回折(HEXRD)測定で使用される SR のエネルギーは378 keV

58

~ が使用可能である[2]従ってガラス以外の液体のような非晶質物質にも非常に精度

よく構造解析が行われている[4]

また局所構造解析の一つに X線異常散乱法という測定方法がある[5 6]これは通常

の X 線回折実験では分離不可能な特定元素に関連する部分構造因子(散乱強度曲線)を得

ることができる手法である今回 HEXRD の測定時に使用したエネルギー614 keV では各元

素の異常散乱項のエネルギー依存性は確認されない(Fig 41)その一方でFig 42に示す

Sn の吸収端付近の 292 keV付近ではSnの異常分散項のエネルギー依存性が確認できる

つまりSnの吸収端近傍より低エネルギー(E)側の異なるエネルギーの X線(E1 E2)を

使って散乱強度を測定し各 E における異常分散項(f`)の変化(つまり高い E1 から低い

E2 の散乱強度の差分)を利用して Snに関する部分構造因子を求める構造解析が AXS 法で

あるこの測定法は古くから知られている方法ではあるが装置の測定条件や設備の問

題からなどから使用があまり普及していなかった[5 6]近年になり金属ガラスの構造解

析について徐々に報告が出てきており今後注目される測定法である

HEXRD および AXS 法などから得られたデータ実測の構造因子 S(Q)は一次元の限られ

た構造情報であるためガラスなどの非晶質物質の中距離構造を解明するためにはこれ

らのデータを基に三次元構造を求める必要がある三次元構造モデルの作成には逆モンテ

カルロ(RMC)シミュレーションを使用することが有効である[7]このシミュレーション

は任意で決めたシミュレーションボックス内の粒子をランダムに動かすことで実測の

構造因子 S(Q)を再現する三次元構造モデルを構築する方法である

SP ガラスについては分光学的手法について数多く報告があるが放射光を用いた回折

法はほとんど適用されていないそこで本研究では HEXRD および AXS 法を用いた構造

解析を行うことでSn Nb周りの構造を解明すると共にSNP ガラスの耐水性改善のメカ

ニズムについて考察したまたAXS 法の有効性についても検討した測定を行ったガラ

スはSP ガラスおよび最も耐水性の高かった 67S5N28P を選択した

42 実験方法

421 HEXRD AXS法

HEXRDはSPring-8のビームライン BL04B2 で測定を行ったエネルギー614 keV の X

線を用いた測定サンプルの厚みは09 mm (plusmn0005 mm)になるまで研磨を行った

AXS 測定はSPring-8のビームライン BL13XUを使用した(Fig 43)それぞれの測定し

た X 線のエネルギーについて以下に示す

①Sn K吸収端hellip292 keV near edgehellip291452 keV (-60 eV) far edgehellip289751 keV (-230 eV)

②Nb K吸収端hellip1899 keV near edgehellip189562 keV (-30 eV) far edgehellip187863 keV (-230 eV)

測定に使用したサンプルの厚さが015 - 030 mmとなるまで研磨を施した

SP ガラスについて50S50P 60S40P 67S33P の三組成のガラスを測定した70S30P に関

59

しては測定を試みたが放射光照射によって結晶化してしまいガラス部分の正確な構

造因子を得るための強度補正ができず解析を断念した

422 RMCのモデリング

Table 41 に RMC の各種パラメーターを示す粒子数は約 5000 個でそれに伴う boxの一

辺の長さは約 42 ~ 46 Ǻになった拘束条件にP の配位数が 4になるような条件を付け

加えたFig 44にSn2P2O7結晶および Sn3P2O8結晶の動径分布関数(RDF)をTable 32

にRDFから得られた第一近接距離[8 9] を示すこれらの数値を使用しcutoffを決定し

たNb-O についてはいくつかの文献値を参考にした[10 11]

各ガラスの RMCのモデリングは①HEXRDから得られた S(Q)のみ②S(Q)および AXS

から得られた部分構造因子を加えた場合でそれぞれ計算した

43 結果考察

最初にNbの AXSから得られたデータについて解析を試みたが妥当な構造モデルが得

られなかったためSnの AXSのみで解析を進めたNb2O5の量が 5 molと少量であったた

めあまり精度の高いデータが得られなかったと推測される

431 実測の HEXRDおよび AXSの結果

4311 実測 HEXRDの S(Q)

Fig 45 に実測HEXRDの S(Q)を示す四つの組成ともに実測HEXRDの S(Q)が得られ

Nb2O5添加の 67S5N28P ガラスでは Low Q 側に変化が確認された

4312 実測散乱強度曲線

Fig 46 に Snの散乱強度曲線を示す(a) の 67S33P のこの曲線からはfar edgeおよび

near edge のエネルギー間で差分が見られエネルギーの依存性が確認された50S50P

67S5N28P のガラスについても同じように差分が確認されたが(b)の 60S40P についてのみ

他とは若干異なる結果(緑丸)であったためRMC の構造解析には差分の構造因子ではな

くfar edge near edge 二つの構造因子を用いた

4313 全相関関数 T(r)

Fig 47 に全相関関数 T(r) を示すHEXRD から得られたものを実線でSnの AXS から

得られたものは点線で示し組成ごとに重ねて表示した図中に各ピークについて帰属し

ているがSnの T(r)からはSn-O Sn-P Sn-Snのみのピークを確認した

432 RMCの計算結果および考察

60

構造モデルの一例として67S5N28P ガラスの得られた構造モデルをFig 48に示す水

色の多面体 unitSnON 黄色の多面体 unitPO4 ピンクの多面体 unitNbONである以下

詳細な構造解析の結果および考察を記す

4321 RMCのフィッティング結果

RMCのフィッティング結果の一例として67S33P の HEXRD と Snの AXS の構造因子か

ら得た結果を示す(Fig 49)二つの構造因子を加えて計算した結果においてもHEXRD

の S(Q) AXS の S(Q)に各々に対する良好なフィッティング結果が得られた他の組成も

同様なフィッティング結果が得られた

4322得られた各 pairの平均配位数平均角度平均結合距離

RMCの結果によって得られた各 pairの平均配位数平均角度平均結合距離を Tables 43

に示す上段が HEXRD の S(Q)のみ下段が HEXRD に Sn の AXS の部分構造因子を加え

て結果である最下部は比較のためにSn2P2O7の情報を記載した[8]

P-O pairについてRMCモデル中の PON多面体に関して平均配位数 Nが 4および P-O

の平均結合距離が約 160Å平均結合角度angO-P-O が約 109degという結果が得られた組成

による大きな違いは確認されなかったのはP の配位数が 4になるように拘束条件をかけた

結果であると考えられるSnON多面体についてはSnO量の増加 = OP の増加であり平

均配位数 Nが 3 ~ 35へ増加した平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約

22Åで組成による大きな変化はほとんど見られなかったNb2O5を 5 mol添加したガラ

スではNbON多面体の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平均配位数 N約 4Nb-O 平均結

合距離約 20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O(約 105deg)と値が近いこと

また6配位ではなく 4配位として主に存在していることからSnO と同じような働きをし

ていると推測される

以上の結果からNb2O5添加の耐水性改善の要因として結合距離が Sn-O が約 22Åに対

し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強固にして

いることも一つの要因として考えられる

また67S5N28P ガラスの各多面体モデルを確認すると(Fig 410)P は PO4Snは SnO4

と SnO3Nbは NbO4をそれぞれ再現している

4323得られた各 pairの結合様式

RMC の結果により得られた各 pair の結合様式を Tables 44 に示す上段が HEXRD の

S(Q)のみ下段が HEXRDに Snの AXS の部分構造因子を加えた結果である最下部は比

較のためにSn2P2O7の情報を記載した[8]

結合様式に関してはPO4四面体は他の多面体も含めてほぼ頂点共有で存在している

SnON多面体についてはSnO 量が少ない配位数が 3 に近い場合頂点共有以外の共有の

61

割合も多くSnO 量が増えるにつれて頂点共有が主になり網目形成体として振舞ってい

ると考えられる組成によって平均結合距離や平均角度の大きな変化が見られなかったこ

とから平均配位数が結合様式を決める重要なファクターであるということも考えられる

またHEXRD と AXS 法の結果がほぼ同じであったこれは主成分が SnO のガラスであ

るためHEXRDでも十分に詳細な構造が得られたため大きな変化が現れなかったと考え

られるNbON 多面体はPO4 四面体と SnON 多面体とはほぼ頂点共有で繋がっている以

上の結果よりSnO量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体的に各多面体同士の

頂点共有が増えていることから耐水性の改善には頂点共有を多く含む構造であること

が重要である或いは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的となって

いるということが推測されるFig 411に 67S5N28P ガラスの構造モデルを示す各多面

体はほぼ頂点共有で繋がっていることが確認できる

4324 平均 BO数の比較

Tables 45にNMR Raman RMC(HEXRD) RMC(HEXRD + AXS)の平均BO数を示すRMC

から得られた平均 BO 数 nはNMR Raman と同様に Nb2O5の添加による大幅な減少が確認

されたしかしNMR Raman と比較すると全組成において数値が大きすぎで適当でない

50S50P の構造モデルを観るとPO4四面体間で3配位 O の存在が確認された(Fig 412)た

め実測で得られた n値を再現できるようなPO4四面体モデル間の繋がり方に関する拘束条

件を加えて RMCを計算する必要性があるまた仮に3配位 Oの存在があるとすると電

子状態の変化が生じていることがと示唆されるため分子軌道計算を用いて電子状態解析

を行い確認する必要がある

4325 耐水性の改善について

Nb2O5を添加のガラス構造への影響について①6配位ではなく 4配位として主に存在し

ていることからSnO と同じような働きをしていると推測される②結合距離が Sn-O が約

22Åに対し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強

固にしている③ガラス構造中で全体的に各多面体同士の頂点共有が増えている以上の

ことが判明した以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性

耐候性を改善した要因として考えられる

44 結言

本章では分光学的手法では評価できないガラスの中距離構造局所構造について理解

するために放射光を用いた構造解析を実施しSP ガラスの構造と耐水性改善について考

察したHEXRDおよび AXS法を用いて測定を行い得られたデータを RMCシミュレーシ

ョンにて解析を行った

解析の結果 Sn-O pair については平均配位数 Nが 3 ~ 35でSnO量の増加 = OP の増

62

加に伴い高くなった平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約 22Åであ

ったP-O Sn-Oについては組成による大きな変化はほとんど見られなかった67S5N28P

ガラスの Nb-O pair の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平均配位数約 4Nb-O 平均結合距

離約 20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O(約 105deg)と値が近いことま

た6配位ではなく 4配位として主に存在していることからSnOと同じような働き(網目

形成体)をしていると推測されるまた結合距離が Sn-O が約 22Åに対し Nb-O は約 20

Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強固にしていると言える

SnO 量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体的に各多面体同士の頂点共有が増え

ていることから耐水性の改善には頂点共有を多く含む構造であることが重要である

もしくは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的であることが推測さ

れる以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性耐候性を

改善した要因として考えられる

またAXS 法の有効性についても確認し効果的であることが判明したただし今回

は主成分が Sn の組成のガラスでありHEXRD でも十分に詳細な構造が得られたため

大きな差は現れなかった

参考文献

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63

Fig 41 各原子の異常分散項のエネルギー依存性

Fig 42 Sn の異常分散項のエネルギー依存性

64

Fig 43 SPring-8の BL13XU

65

Tab

le 4

1

RM

Cの各パラメーター

66

Fig 44 Sn2P2O7 Sn3P2O8結晶の RDF

Table 42 Sn2P2O7 Sn3P2O8結晶の各 pairの第一近接距離

67

Fig 45 得られた実測 HEXRDの S(Q)

68

Fig 46 Sn の異常散乱測定により得られた散乱強度のエネルギー依存性

(a)67S33P (b)60S40P

69

Fig 47 全相関関数 T(r)

太線 HEXRD より

細線 Sn の AXSより

70

Fig 48 67S5N28P ガラス構造のモデル

71

Fig 49 RMC フィッティングの結果

72

Tab

le 4

3 各

pairの平均配位数角度結合距離

73

Fig

4

10

67

S5

N2

8Pガラスの各多面体モデル

74

Tab

le 4

4 各

pairの結合様式

75

Fig 411 67S5N28P ガラスの構造モデル

76

Table 45 平均 BO 各数 nの比較

Fig 412 50S50P ガラスの構造モデル

77

第 5章 総括

本研究ではSP ガラスを対象とした本研究では鉛フリー代替ガラスまたは希土類フ

リー蛍光体として SP ガラスの新規高機能化を将来的に目指し問題点であるldquo化学的耐久

性rdquoの改善につながる知見を得ることを目的としたそこでまずSP ガラスを母体ガラ

スとし第三成分に Nb2O5を添加した Sn-Nb-P SNP ガラスZnO を添加した SZP ガラスを

作製し耐水性を中心とした物性評価を行った次に分光学的手法で構造解析を行い

Qn 分布を導き出した最後に放射光を用いた構造解析を行い耐水性改善に関する構造的

な考察を行った以下に本研究で行った検討内容を示す

(1)SPガラスおよび第三成分Nb2O5 ZnOを添加した三成分系SPガラスの物性評価(第 2章)

(2)SP 系ガラスの分光学的手法による Qn分布導出(第 3章)

(3)放射光を用いた SP 系ガラスの構造解析構造と耐水性改善の関連について(第 4章)

各章についてまとめた結果を以下に示す

第 2章

第 2章では二成分系および三成分系のリン酸塩系ガラスの各種物性(密度や熱的特性

耐水性)の評価を行った二成分系ではSP ガラスに加え良好な耐水性を有する鉄リン

酸塩(Fe2O3-P2O5)系ガラス(以下 FP ガラス)を比較のために三成分系では二成分系

の SP ガラスに Nb2O5を添加したニオブ含有 SP ガラス(SNP ガラス)および ZnO を添加し

た亜鉛含有 SP ガラス(SZP ガラス)を作製した

今回作製した SP 系ガラスは低ガラス転移温度を有していた各組成の温度域はSP

ガラスTg le 280 Sn-Nb-P SNPガラスTg le 3505SZP S5ZPガラスTg ≦ 450であった

各種 SP ガラスの耐水性試験の結果二成分系の SP ガラスよりも三成分系ガラスの方が

良好な耐水性を有していた65Sn-5Nb-30P 67S5N28P ガラスが最も耐水性が良好であり化

学的耐久性の改善には Nb2O5が ZnOよりも効果的であった

組成と耐水性に関してはDRおよび重量減がOP増加で単調に低下した結果が得られた

つまり耐水性を改善させるにはSP 系ガラスのガラス化範囲を拡大かつ OP を増大させ

る第三成分の添加が有効であることが示唆された

第 3章

第 3章ではSP 系ガラスの分光学的手法による Qn分布の導出を行ったラマン分光法を

用いて各ガラス系のリン酸塩アニオンの構造を簡易定量で評価し組成と構造の関係に

ついて考察した平均 BO 数 n と耐水性に関してはDR および重量減が平均 BO 数 nの減

少で単調に低下することが明らかとなった

平均 BO 数 n と OP の関係より耐水性改善には平均 BO 数 n を下げることそして

OP を上げることが重要であることが明らかになった

78

Nb5+の添加は平均 BO数を減少させるだけでなくOP も上げることからガラス構造

内の P-O-P 結合を減少させ水和反応加水分解反応が抑制され耐水性が大幅に改善さ

れることが示唆された故にNb2O5 のような高価数金属酸化物を添加することが効果的

であることが再度確認された

第 4章

耐水性向上についてより深く評価するためSP SNP ガラスの局所構造に関する知見を得

ることを目的に放射光を用いた構造解析を行った高エネルギーX 線回折(HEXRD)お

よび X 線異常散乱(AXS)法で測定したデータを再現する構造モデルを逆モンテカルロ

(RMC)シミュレーションで構築し構造解析を行った

RMC モデル中の PON多面体に関して平均配位数 Nが 4および P-O の平均結合距離が約

160Å平均結合角度angO-P-Oが約 109degという結果が得られた組成による大きな違いは確

認されなかったSnON多面体については平均配位数 N が 3~4 でSnO 量の増加に伴い 4

に近い値となった平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約 22Åで組成

による大きな変化は見られなかった

Nb2O5を 5 mol添加したガラスではNbON多面体の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平

均配位数N約4Nb-O平均結合距離約20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O

(約 105deg)と値が近いことまた6配位ではなく 4配位として主に存在していることから

SnO と同じような網目形成体として働いていると推測されたまた結合距離が Sn-O が約

22Åに対し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強

固にしていると考えられるまたSnO 量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体

的に各多面体同士の頂点共有が増えていることから耐水性の改善には頂点共有を多く

含む構造もしくは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的であること

が示唆された以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性

耐候性を改善した要因として考えられる

またAXS 法の有効性についても確認し効果的であることが判明したただし今回

は主成分が Snの組成のガラスでありHEXRD でも十分に詳細な Snの周辺構造が得られ

たためAXSを利用した場合との大きな構造の差は認められなかった

本研究では様々な優れた特徴を有する SP ガラスにおける耐水性改善のメカニズムにつ

いて検討を行ったこの系のガラスについてはこれまでほとんど利用されていなかった

放射光を用いた構造解析を駆使し第三成分の添加によってどのような構造的変化が生じ

耐水性を改善させるか新たな知見を得ることができた最終目標である機能性ガラスの

開発における新たなる材料設計指針の確立に対してldquo耐水性rdquoに関しては概ね明らかにな

ったと考えられる一方で今回検討していな電子状態化学結合性についても評価する

ことで溶出メカニズムの解明が可能になり材料設計指針の確立が期待される

79

発表論文リスト

口頭発表

第 2章および第 3章

(1) SnO-P2O5 系ガラスへの酸化物添加効果

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎

日本セラミックス協会第 25 回秋季シンポジウム No3C06 (名古屋市 2012年 9月)

(2) Effect of Nb2O5 addition to SnO-P2O5 glass (Poster)

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

International Union of Materials Research Societies International Conference on Electronic

Materials IUMRS-ICEM 2012 A-9-P26-003 (Yokohama 2012 年 9月)

(3) スズリン酸塩系ガラスの蛍光特性耐水性に及ばす酸化物の添加効果(ポスター)

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎

日本セラミックス協会 2013 年年会 1P070 (東京 2013年 3月)

第 4章

(1) 放射光を用いたスズリン酸塩ガラスの構造解析

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎小原真二臼杵毅

日本セラミックス協会第 27 回秋季シンポジウム 2B22 (鹿児島市 2014年 9 月)

(2) Structural analysis of tin phosphate glasses by synchrotron radiation (Poster)

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba Shinji Kohara Takeshi Usuki

International Congress on Glass ICG Annual Meeting Bangkok 2015 P14-138 p186 (2015)

発表論文

(1) Effect of Nb2O5 addition to SnO- P2O5 glass

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

Journal of the Ceramic Society of Japan Vol 120 No 11 pp530-533 (2012)

(2) Structural analysis of SnO- P2O5 glass

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

Journal of the Ceramic Society of Japan(準備中)

80

謝辞

本研究を遂行するにあたり終始暖かいご指導ご助言並びにご鞭撻を賜わりました岡

山大学大学院環境生命科学研究科 難波徳郎教授に心より感謝の意を表します

また本研究を遂行するにあたり懇切丁寧なご指導とご意見をしていただいた岡山大

学大学院環境生命科学研究科 紅野安彦准教授環境環理センター 崎田真一助教に心より

感謝いたします

本研究を遂行するにあたりラマン分光測定の使用についてご助言ご教授して頂い

た岡山大学自然科学研究科 藤井達生教授中西真助教に心より感謝の意を表します

Sn のメスバウアー測定の際に協力して頂いた岡山大学自然科学研究科先端自然科学教

育研究推進本部高田研究室 松本修治特任助教(当時旭硝子株式会社中央研究所)また

Feのメスバウアーを測定の際に協力して頂いた岡山大学自然科学研究科 藤井達生教授に

心より感謝の意を表します

固体 NMR の岡山大学自然科学研究科 早川聡教授に心より感謝の意を表します

本研究を遂行するにあたりSPring-8 にてHEXRD および AXS 法の測定法および原理

についてご教示頂きました物質材料研究機構 小原真司博士ならびに山形大学 臼杵毅

教授に心より感謝の意を表します

本研究は多くの後輩諸君の協力によって遂行されました特に実際に共同研究共同

実験を遂行して頂いたOG 藤原沙弥香さん博士前期課程 2 年 東利彦君OB 徳岡太誠

君学士課程 4年 塩田将大君に心より感謝の意を表しますまた難波研究室で共に研

究生活を過ごした卒業生在学生の方々に感謝の意を表します

また同時期に博士後期課程に在籍された香川高等専門学校の桟敷剛さんにはNbに

関する有益な情報だけでなく辛い状況でも励ましを頂きました心より感謝の意を表し

ます

最後に長きに渡る学生生活を認め経済面だけでなく精神面でも支援してくださった

家族に心より深く感謝の意を表します

平成 28年 3月

福井 聡史

Page 32: 博士論文 スズリン酸塩系ガラスの物性と構造解析ousar.lib.okayama-u.ac.jp/files/public/5/54353/...博士論文 スズリン酸塩系ガラスの物性と構造解析

29

Fig 211 SP ガラスの耐水性試験前後の外観写真

Fig 212 Sn-Nb-P ガラスの耐水性試験前後の外観写真

30

Fig 213 SNP ガラスの耐水性試験前後の外観写真

Fig 214 S5ZP ガラスの耐水性試験前後の外観写真

Fig 215 5SZP ガラスの耐水性試験前後の外観写真

31

Fig 216 FP ガラスの耐水性試験前後の外観写真

32

Fig 217 SP ガラスの XRD パターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

33

Fig 218 Sn-Nb-P ガラスの XRD パターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

34

Fig 219 SNP ガラスの XRD パターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

35

Fig 220 5SZP ガラスの XRDパターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

36

Fig 221 S5ZP ガラスの XRDパターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

37

Fig 222 FP ガラスの XRD パターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

38

Fig 223 各ガラス系の DR と OP の関係性

39

Fig 224 各ガラス系の重量減と OP の関係性

40

第 3章 分光法を用いたスズリン酸塩系ガラスの構造解析

31 緒言

前章ではSP ガラスおよび第三成分に Nb2O5 ZnOを添加した Sn-Nb-P ガラスSNP ガラ

スSZP ガラスの物性特に耐水性に関する第三成分添加の有効性を明らかにしたその添

加した第三成分の二種類についてもNb2O5 の方が ZnO よりも溶出速度重量減ともに抑

制することができSP ガラスの低ガラス転移温度という特性も維持されていることが判明

したしかし現段階では本研究の主要な物性である耐水性改善の要因が明確になって

いない組成の観点からはOP の値が高い組成が良好な耐水性であることが分かったが

組成だけでは耐水性改善のメカニズムについて完全には理解できないここでリン酸塩

ガラスの溶出のメカニズムは第 1 章で述べたように加水分解反応と水和反応が要因とな

る[1 2]この機構はそれぞれリン酸の構造つまり架橋酸素 BO の数が大きく関わって

おりリン酸アニオンの[PO4]ユニットの架橋酸素数を知ることが重要であるこの BO の

情報を得るためにはガラス構造を示す指標の一つである Qn(n は[PO4]ユニット中の架橋

酸素数を表す)を調べることが必須であるまたQn の分布を調べるためにはガラスの

構造解析を行う必要性がある

ガラスの構造解析には種々の方法があり特にラマン分光法や赤外(IR)分光法核

磁気共鳴法(NMR)などの分光学的手法を用いた構造解析の報告が多い[3-5]ラマン分光

法および IR分光法は原理は異なるがどちらも結合の振動モードを測定する手法であり[6]

リン酸塩ガラスだけでなくケイ酸塩ガラスホウ酸塩ガラスなど様々なガラス系にて測

定がなされている[7 8]また得られた結合状態の情報からリン酸塩アニオンの Qn分布

を調べることも可能であるNMR は共鳴吸収ピークの化学シフト(共鳴周波数のズレ)

から構造を決定する手法であるガラスの場合SiO2や B2O3 P2O5といった網目形成酸化物

の Qn分布を得るために一般的に使用されている手法である[9]

今回これらの測定の中でラマン分光法を選択し構造解析を行ったラマン分光法は

測定する際にサンプル形状を気にすることなく基本的にそのまま測定できるためIR 分

光法のようにサンプル形状で測定方法を変える必要はないまたIR 分光法では例えば

KBr 錠剤法やヌジュール法のように測定を行うためのサンプル調整に手間がかかる場合が

ある[6]さらに比較対象の FP ガラスではNMR を測定できないため作製ガラスを全

て比較検討できるようにラマン分光法を選択した

本章ではラマン分光法を用いて各ガラスの構造解析を行い[PO4]ユニットの Qn分布を

調査し平均 BO数 nを算出することで耐水性と構造の関係性を検討したまたラマン

分光法によって得られた Qn分布の妥当性を確認するためにSP ガラスおよび 67S5N28P ガ

ラスの NMRを測定も行い比較した

32 実験方法

41

321 サンプル準備

ラマン分光およびメスバウアー分光の測定では第 2 章で作製した各ガラスのバルク体

を用いたWD試験に使用したサンプルとは別にラマン測定用のサンプルを用意した適

度な大きさ大体 15 cm角程度のサイズになるようにガラスカッターで切断しその後

十分な平滑性を得るために鏡面研磨を施した

322 ラマン分光測定

使用したラマン分光装置は顕微レーザーラマン分光装置(Jasco NRS-5100)を用いた

用いたレーザー波長は 53208 nmであり400 - 2000 cm-1の範囲で測定した

Qn 分布を導くためにピークフィッティングを行いリン酸塩アニオンのラマンバンド

が現れる950 - 1250 cm-1付近および 700 - 750cm-付近の範囲で定量した

323 31P MAS NMR測定

31P MAS NMRの測定は Varian NMR System 500 を用いて32 mmの MASプローブ

202309MHzにて行った測定パラメーターを以下に示すπ4 パルス長さ 14 μs 待ち時間

(pulse delay)10 s 積算回数 3600 scan シリンダー円筒形状の Zrローターの回転スピード

160 kHz referenceとして二番目の基準物質として使われる NH4H2PO4を使用化学シフト

は85 H3PO4溶液から δ = 10 ppmである

33 結果考察

331 各ガラス系のラマンスペクトル

Figs 31 - 35にラマンスペクトルを示す各ピークは以下の通りに帰属し各スペクト

ル中に該当する構造をピーク位置に示した

1230 - 1260 cm-1 P=O NBO Q

2 [10]

1110 - 1150 cm-1metaphosphate (PO3)

- Q

2 [10]

1030 - 1100 cm-1pyrophosphate (PO35)

2- Q

1 [10]

970 - 1000 cm-1orthophosphate (PO4)

3- Q

0 [10]

920 - 930 cm-1asymmetric (P-O-P) Q

1 [10]

730 - 750 cm-1symmetric (P-O-P) Q

1 [10]

710 - 720 cm-1asymmetric (P-O-P) Q

2 [10]

810 - 820 cm-1Nb-O [NbO4] tetrahedron [11]

900 - 920 cm-1Nb-O isolated [NbO6] octahedron [11]

42

SP ガラスのラマンスペクトル(Fig 31)を見ると50S50P 60S40P ではmetaphosphate

の Q2 構造が支配的であるがSnO 量が増えるにつれてその構造が変化し70S30P では

pyrophosphateの Q1構造と orthophosphateの Q

0構造が共存した構造となっているまたSnO

量の少ない 50S50P および 60S40P において確認されたQ2構造の P=O のピークが見えなく

なっているつまり耐水性と関連して考えるとSnO量が増えるにつれてP-O-P 結合か

ら Sn-O-P 結合に代わり水分子との反応である加水分解反応を妨げる構造に変化している

ことがわかる

Figs 32 33にNb2O5を添加した Sn-Nb-P ガラスおよび SNP ガラスのラマンスペクトル

を示すまずSn-Nb-P ガラスについてNb 無添加の 65Sn-0Nb-35P は主に Q1構造であ

りNbO25が添加されることによってQ0構造に変化しQ

1 Q

0構造が共存しているような

ピークが得られた添加量が少ないガラス系であるため徐々に変化しているのを確認し

た800 cm-1を少し越えた 810 - 820 cm

-1付近にNb2O5を添加することでピークが現れそ

して添加量を増量することで強度が強まるピークがありこのピークは四面体の[NbO4]

のものと判断した

SNP ガラスのラマンスペクトルについてはNb2O5添加量を固定した組成であるためSP

ガラスのような挙動が観察された50S50N45P では50S50P ガラスと同じようにQ2構造

が主な構造でありSnO量の増加に伴って60S5N35P Q1構造67S5N28P Q

0構造に支配

的な構造が変化しているこれはSP ガラスと同じ傾向を示しているためP-O-P rarr Sn-O-P

に置き替わっていることが示唆されるNb-O に関するピークでは50S5N45P のみ[NbO4]

四面体のピークを確認できず900 - 920 cm-1付近に[NbO6]八面体のピークが確認された

SnO量が増量した 60S5N35P では810 cm-1付近の [NbO4] 四面体のピークが現れているが

[NbO6]八面体のピークと 900 - 920 cm-1付近の Q

1構造のピークが非常に近い(ほぼ重なって

いる)ことから60S5N35P については[NbO4] 四面体および[NbO6]八面体の共存の可能性

も考えられるまた67S5NP28 では[NbO4] 四面体のみのピークが観察されたためこ

の Nb-O の配位数変化は[PO4] unitの状態によって変化している可能性も示唆された

ZnO を添加した S5ZP ガラスおよび 5SZP ガラスのラマンスペクトルを Fig 34 に示す

図の下部三つが S5ZP ガラス上部三つが 5SZP ガラスのスペクトルであるSZP ガラスの

二系統を比べるとあきらかなスペクトルの違いが確認された各ガラス系で確認すると

SnO 量が最小の 55S5Z40P はQ2構造と Q

1構造の範囲に跨っているようなスペクトルが得

られた62S5Z33P および 65S5Z30P のスペクトルからはどちらもほぼ Q1構造であると判

断した5SZP のスペクトルは1000 - 1250 cm-1付近の範囲で裾を引くような(なだらかな)

スペクトルが得られたZnO 量が最小の 5S55Z40P にはQ2構造が主な構造に見えるが

shoulderピークのような Q1構造(1030 - 1100 cm

-1)が確認できる5S62Z40P においては

1000 - 1250 cm-1付近の範囲まで幅広いスペクトルが得られた730 - 750 cm

-1付近にピーク

が現れているためおそらく Q1構造が最も多く存在していると考えられる65S5Z30P では

Q1構造Q

0構造が共存しているようなピークが得られた

43

FP ガラスのラマンスペクトルを Fig 35 に示すFe量の少ない 20F80P 25F75P と他の三

つで構造が異なっていることである20F80P 25F75P はQ2構造と Q

1構造が基本構造にな

っていると判断できる 30F70P は1110 - 1150 cm-1付近に shoulderピークのようなものがあ

りQ2 Q

1 Q

0構造が共存しているようなスペクトルであった35F65P 40F60P はQ1構造

が主な構造でQ0構造があると判断した

332 平均 BO数 n (Qn分布)

まずピーク分離について散乱断面積が見積もれなかったためラマンの散乱強度比

を Qn分布として簡易的にピーク分離を行い(Fig 36)そこから平均架橋酸素数 BO 数 n

を算出したここでFig 37 に 31P MAS NMRスペクトルを示しTable 31に NMRおよび

ラマン分光より得られた平均 BO 数 n を示す(NMR の帰属 reference [12])表よりNMR

とラマンから得られた Qn分布はほぼ一致していることが分かった60S40Pについては支

配構造が NMR(Q1) ラマン(Q

2)で逆になったこれは60S40P の組成がQ

2と Q1のほぼ中

間の組成になるためこのようなズレが生じたと考えられるしかし今回のラマンによ

る Qn分布の算出についてはほぼ問題ないと判断した

Table 32にラマンスペクトルより求めた Qn分布平均 BO 数 nをを示しTable 24に示

した DR 重量減の結果を併記する

SP ガラスのうち耐水性が低いガラスは Q2構造によって形成されているSnO量の増加

によって NBOの増加とともに耐水性の向上が確認できSnOが入ることでSn-O-P 結合を

形成し水分子からの攻撃を受けにくくなっていることが考えられる

Sn-Nb-P ガラスでは基本的に Q1構造が主構造でNb2O5の添加が増えるにつれQ

0構

造が支配的になり耐水性は次第に向上していく最も耐水性のよかった 65S-5Nb-30P は

Q0構造での割合が非常に高く平均 BO数 n値が 03であった

SNP ガラスではP2O5量が多い組成の 50S5N45Pにおいても平均 BO数 nが 60S40P と

同じながらも耐水性が良くなっている67S5N28P はほぼ完全に Q0構造であり平均 Q

n

値は 0となった

SZP ガラスについてはS5ZP 5ZSP のどちらの系列についても耐水性の結果に大きな差

というものは確認されなかったが構造的にも平均 BO数 nが 09 10 17という結果であ

った

FP ガラスについてはFe2O3 lt 30 molのときは平均 BO 数 nが20 19と高い数値を

示したが耐水性は非常に良好であったこの結果より組成だけでなく構造的にも耐

水性高くなる要因が不明である一つの原因の可能性としてメスバウアーより得られた

Fe2+の存在比が 40以上と高かったことがFe2O3含有量が少ない組成時には効果的になっ

ているのかもしれない

333 平均 BO数 nと耐水性の関係性

44

Fig 38に DRと平均 BO数 nの関係性についてFig 39に重量減と平均 BO数 nの関係

性をそれぞれ示すまたOP の時と同様に各図にリン酸塩の三つの構造の平均 BO数

n も表記した双方の図よりDR 重量減共に平均 BO 数 nが低下することで単調に下がっ

ていることが分かるまた耐水性の良かったNb2O5添加の Sn-Nb-P SNPガラスはの DR

の挙動(傾き)はOP 時とも異なった挙動が得られた

Fig 310に OP と平均 BO数 nの関係を示す図中に示す茶色metaphosphate 黄色

pyrophosphate 灰色orthophosphate であるこの図から耐水性改善には平均 BO 数

n を下げOP を上げることが重要であるのが分かるまたNb5+の添加はOP を上げる

だけでなく平均 BO 数も減少させることから非常に効果的な成分であることが明らかで

あるこれはP5+から同酸価数 Nb

5+に少量でも置き換えることで平均 BO 数 n を下げ

OP を上げることを可能としている(実際に orthophosphate の OP4 よりも高い OP でガ

ラスが作製できている)つまりNb5+の添加によって P-O-P 結合が減少し水和反応加

水分解反応が抑制されているからである

以上の結果SP 系ガラスの耐水性改善には低い平均 BO 数と高い OP の組成にするこ

とが重要でNb2O5の添加は非常に効果的であることが分かったその一方でガラス中の

詳細な構造的要因についてははっきりしていないため次章の第 4 章にてさらに詳し

い構造解析を行い耐水性改善の要因について調査を行った

34 結言

本章ではラマン分光を使用して各ガラス系のリン酸塩アニオンの構造を簡易定量で

評価し組成と構造の関係について考察した

平均 BO 数 n と耐水性に関してはDR および重量減が平均 BO 数 n の減少で単調に低下

した結果が得られた

平均 BO数 nと OP の図より耐水性改善には平均 BO数 nを下げることそして OP

を上げることが重要であることが明白であった

Nb5+の添加は平均 BO数を減少させるだけでなくOP も上げることからガラス構造内

の P-O-P 結合を減少させる故に水和反応加水分解反応が抑制され耐水性が大幅に

改善された故にNb2O5 のような高価数金属酸化物を添加することが効果的であること

が示唆された

参考文献

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[2] 春日敏弘 NEW GLASS 22 [2] 3 - 8 (2007)

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[8] I Waclawska and M Szumera J Therm Anal Calorim 101 423-427 (2010)

[9] 中井利仁 NEW GLASS 28 [109] 17 -2 8 (2013)

[10] I O Mazali L C Barbosa and O L Alves J Mater Sci 39 1987-1995 (2004)

[11] J M Jehng and I E Wachs J Am Ceram Solids 3 [1] 100-107 (1991)

[12] D Holland A P Howes M E Smith and A C Hannon J Phys Condens Matter 14

13609-13621 (2002)

46

Fig 31 SP ガラスのラマンスペクトル

47

Fig 32 Sn-Nb-P ガラスのラマンスペクトル

48

Fig 33 SNP ガラスのラマンスペクトル

49

Fig 34 SZP ガラスのラマンスペクトル

50

Fig 35 FP ガラスのラマンスペクトル

51

Fig 36 ラマンスペクトルのピーク分離例(67S5N28P)

Raman Shift (cm-1)

52

Fig 37 NMRスペクトル

Table 31 NMR およびラマン分光より得られた SP 67S5N28P ガラスの

Qn分布および平均 BO数 n

53

Table 32 各ガラスのラマンスペクトルより求めた Qn分布結果

(表の赤線より右側の結果は Table 22 より)

1 仕込み組成による数値

2 Fig 2212 に示した析出物を取り除いた後の数値

54

Fig 38 DR と平均 BO数 nの関係性

55

Fig 39 重量減と平均 BO数 nの関係性

56

Fig 310 OP と平均 BO数 nの関係性

Meta

Pyro

Ortho

57

第 4章 放射光を用いたスズリン酸塩系ガラスの構造解析

41 緒言

前章の第 3 章にてラマン分光法を用いて SP 系ガラスの構造解析により Qn分布を導き

出したことで耐水性と構造の関係についてある程度関連性を導くことができたリン

酸アニオンについてはQ0(orthophosphate)構造 gt Q

1(pyrophosphate)構造 gt Q2

(metaphosphate)構造の順で良耐水性となるしかしSn Nbおよび Znの局所構造につ

いては知見が得られていないラマン分光や IR分光などの分光学的手法を用いてSnや

Nb Zn の周辺の局所構造を知るには限界があるまたガラスの構造解析を行う上で非常

に重要な因子である中距離構造の評価には分光学的手法は不向きである[1]

そこで局所構造や中距離構造を知るために有効な手法として放射光線を用いた構造

解析がある放射光(SR 光)とはシンクロトロンなどの加速器で高速に加速された電子

が進行方向を磁場によって変えられた際に放射する電磁波である[2]エネルギーが高く

(短波長)輝度が高い特性を有している日本国内では兵庫県佐用町の SPring-8や茨城

県つくば市の高エネルギー加速器研究機構佐賀県鳥栖市の佐賀県立九州シンクロトロン

光研究センターなど複数個所に放射光施設が設置されている

放射光を用いたガラスの構造解析には一般的に高エネルギーX 線回折(High Energy

X-ray diffraction HEXRD)が用いられるこの回折実験から高い散乱ベクトル Q(= 4π sinθλ)

まで回折データが得られる多種類の原子から構成される物質の場合はFaber-Ziman 型[3]

の構造因子 S(Q)を用いる以下の式に示すようにFaber-Ziman 型構造因子 S(Q)は同種また

は異種の原子による相関の重み関数付の和として示される例として SiO2ガラスで説明す

ると構造因子 S(Q)は三種類の原子付の S(Q)の重み付の和として表されていることが分か

I(Q) 散乱断面積 ltgt 原子一個当たりの平均値 f(Q) 原子散乱因子 W 重み関数

通常の研究室で使用される X 線回折(XRD)装置で用いられる特性 X 線はCuKα線(λ

= 0154 nm 81 keV)が最も良く用いられより高いエネルギーの X 線が必要な場合は

MoKα線(λ = 0071 nm 175 keV)が使用される一方でSPring-8のビームライン BL04B2

で行われる高エネルギーX 線回折(HEXRD)測定で使用される SR のエネルギーは378 keV

58

~ が使用可能である[2]従ってガラス以外の液体のような非晶質物質にも非常に精度

よく構造解析が行われている[4]

また局所構造解析の一つに X線異常散乱法という測定方法がある[5 6]これは通常

の X 線回折実験では分離不可能な特定元素に関連する部分構造因子(散乱強度曲線)を得

ることができる手法である今回 HEXRD の測定時に使用したエネルギー614 keV では各元

素の異常散乱項のエネルギー依存性は確認されない(Fig 41)その一方でFig 42に示す

Sn の吸収端付近の 292 keV付近ではSnの異常分散項のエネルギー依存性が確認できる

つまりSnの吸収端近傍より低エネルギー(E)側の異なるエネルギーの X線(E1 E2)を

使って散乱強度を測定し各 E における異常分散項(f`)の変化(つまり高い E1 から低い

E2 の散乱強度の差分)を利用して Snに関する部分構造因子を求める構造解析が AXS 法で

あるこの測定法は古くから知られている方法ではあるが装置の測定条件や設備の問

題からなどから使用があまり普及していなかった[5 6]近年になり金属ガラスの構造解

析について徐々に報告が出てきており今後注目される測定法である

HEXRD および AXS 法などから得られたデータ実測の構造因子 S(Q)は一次元の限られ

た構造情報であるためガラスなどの非晶質物質の中距離構造を解明するためにはこれ

らのデータを基に三次元構造を求める必要がある三次元構造モデルの作成には逆モンテ

カルロ(RMC)シミュレーションを使用することが有効である[7]このシミュレーション

は任意で決めたシミュレーションボックス内の粒子をランダムに動かすことで実測の

構造因子 S(Q)を再現する三次元構造モデルを構築する方法である

SP ガラスについては分光学的手法について数多く報告があるが放射光を用いた回折

法はほとんど適用されていないそこで本研究では HEXRD および AXS 法を用いた構造

解析を行うことでSn Nb周りの構造を解明すると共にSNP ガラスの耐水性改善のメカ

ニズムについて考察したまたAXS 法の有効性についても検討した測定を行ったガラ

スはSP ガラスおよび最も耐水性の高かった 67S5N28P を選択した

42 実験方法

421 HEXRD AXS法

HEXRDはSPring-8のビームライン BL04B2 で測定を行ったエネルギー614 keV の X

線を用いた測定サンプルの厚みは09 mm (plusmn0005 mm)になるまで研磨を行った

AXS 測定はSPring-8のビームライン BL13XUを使用した(Fig 43)それぞれの測定し

た X 線のエネルギーについて以下に示す

①Sn K吸収端hellip292 keV near edgehellip291452 keV (-60 eV) far edgehellip289751 keV (-230 eV)

②Nb K吸収端hellip1899 keV near edgehellip189562 keV (-30 eV) far edgehellip187863 keV (-230 eV)

測定に使用したサンプルの厚さが015 - 030 mmとなるまで研磨を施した

SP ガラスについて50S50P 60S40P 67S33P の三組成のガラスを測定した70S30P に関

59

しては測定を試みたが放射光照射によって結晶化してしまいガラス部分の正確な構

造因子を得るための強度補正ができず解析を断念した

422 RMCのモデリング

Table 41 に RMC の各種パラメーターを示す粒子数は約 5000 個でそれに伴う boxの一

辺の長さは約 42 ~ 46 Ǻになった拘束条件にP の配位数が 4になるような条件を付け

加えたFig 44にSn2P2O7結晶および Sn3P2O8結晶の動径分布関数(RDF)をTable 32

にRDFから得られた第一近接距離[8 9] を示すこれらの数値を使用しcutoffを決定し

たNb-O についてはいくつかの文献値を参考にした[10 11]

各ガラスの RMCのモデリングは①HEXRDから得られた S(Q)のみ②S(Q)および AXS

から得られた部分構造因子を加えた場合でそれぞれ計算した

43 結果考察

最初にNbの AXSから得られたデータについて解析を試みたが妥当な構造モデルが得

られなかったためSnの AXSのみで解析を進めたNb2O5の量が 5 molと少量であったた

めあまり精度の高いデータが得られなかったと推測される

431 実測の HEXRDおよび AXSの結果

4311 実測 HEXRDの S(Q)

Fig 45 に実測HEXRDの S(Q)を示す四つの組成ともに実測HEXRDの S(Q)が得られ

Nb2O5添加の 67S5N28P ガラスでは Low Q 側に変化が確認された

4312 実測散乱強度曲線

Fig 46 に Snの散乱強度曲線を示す(a) の 67S33P のこの曲線からはfar edgeおよび

near edge のエネルギー間で差分が見られエネルギーの依存性が確認された50S50P

67S5N28P のガラスについても同じように差分が確認されたが(b)の 60S40P についてのみ

他とは若干異なる結果(緑丸)であったためRMC の構造解析には差分の構造因子ではな

くfar edge near edge 二つの構造因子を用いた

4313 全相関関数 T(r)

Fig 47 に全相関関数 T(r) を示すHEXRD から得られたものを実線でSnの AXS から

得られたものは点線で示し組成ごとに重ねて表示した図中に各ピークについて帰属し

ているがSnの T(r)からはSn-O Sn-P Sn-Snのみのピークを確認した

432 RMCの計算結果および考察

60

構造モデルの一例として67S5N28P ガラスの得られた構造モデルをFig 48に示す水

色の多面体 unitSnON 黄色の多面体 unitPO4 ピンクの多面体 unitNbONである以下

詳細な構造解析の結果および考察を記す

4321 RMCのフィッティング結果

RMCのフィッティング結果の一例として67S33P の HEXRD と Snの AXS の構造因子か

ら得た結果を示す(Fig 49)二つの構造因子を加えて計算した結果においてもHEXRD

の S(Q) AXS の S(Q)に各々に対する良好なフィッティング結果が得られた他の組成も

同様なフィッティング結果が得られた

4322得られた各 pairの平均配位数平均角度平均結合距離

RMCの結果によって得られた各 pairの平均配位数平均角度平均結合距離を Tables 43

に示す上段が HEXRD の S(Q)のみ下段が HEXRD に Sn の AXS の部分構造因子を加え

て結果である最下部は比較のためにSn2P2O7の情報を記載した[8]

P-O pairについてRMCモデル中の PON多面体に関して平均配位数 Nが 4および P-O

の平均結合距離が約 160Å平均結合角度angO-P-O が約 109degという結果が得られた組成

による大きな違いは確認されなかったのはP の配位数が 4になるように拘束条件をかけた

結果であると考えられるSnON多面体についてはSnO量の増加 = OP の増加であり平

均配位数 Nが 3 ~ 35へ増加した平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約

22Åで組成による大きな変化はほとんど見られなかったNb2O5を 5 mol添加したガラ

スではNbON多面体の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平均配位数 N約 4Nb-O 平均結

合距離約 20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O(約 105deg)と値が近いこと

また6配位ではなく 4配位として主に存在していることからSnO と同じような働きをし

ていると推測される

以上の結果からNb2O5添加の耐水性改善の要因として結合距離が Sn-O が約 22Åに対

し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強固にして

いることも一つの要因として考えられる

また67S5N28P ガラスの各多面体モデルを確認すると(Fig 410)P は PO4Snは SnO4

と SnO3Nbは NbO4をそれぞれ再現している

4323得られた各 pairの結合様式

RMC の結果により得られた各 pair の結合様式を Tables 44 に示す上段が HEXRD の

S(Q)のみ下段が HEXRDに Snの AXS の部分構造因子を加えた結果である最下部は比

較のためにSn2P2O7の情報を記載した[8]

結合様式に関してはPO4四面体は他の多面体も含めてほぼ頂点共有で存在している

SnON多面体についてはSnO 量が少ない配位数が 3 に近い場合頂点共有以外の共有の

61

割合も多くSnO 量が増えるにつれて頂点共有が主になり網目形成体として振舞ってい

ると考えられる組成によって平均結合距離や平均角度の大きな変化が見られなかったこ

とから平均配位数が結合様式を決める重要なファクターであるということも考えられる

またHEXRD と AXS 法の結果がほぼ同じであったこれは主成分が SnO のガラスであ

るためHEXRDでも十分に詳細な構造が得られたため大きな変化が現れなかったと考え

られるNbON 多面体はPO4 四面体と SnON 多面体とはほぼ頂点共有で繋がっている以

上の結果よりSnO量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体的に各多面体同士の

頂点共有が増えていることから耐水性の改善には頂点共有を多く含む構造であること

が重要である或いは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的となって

いるということが推測されるFig 411に 67S5N28P ガラスの構造モデルを示す各多面

体はほぼ頂点共有で繋がっていることが確認できる

4324 平均 BO数の比較

Tables 45にNMR Raman RMC(HEXRD) RMC(HEXRD + AXS)の平均BO数を示すRMC

から得られた平均 BO 数 nはNMR Raman と同様に Nb2O5の添加による大幅な減少が確認

されたしかしNMR Raman と比較すると全組成において数値が大きすぎで適当でない

50S50P の構造モデルを観るとPO4四面体間で3配位 O の存在が確認された(Fig 412)た

め実測で得られた n値を再現できるようなPO4四面体モデル間の繋がり方に関する拘束条

件を加えて RMCを計算する必要性があるまた仮に3配位 Oの存在があるとすると電

子状態の変化が生じていることがと示唆されるため分子軌道計算を用いて電子状態解析

を行い確認する必要がある

4325 耐水性の改善について

Nb2O5を添加のガラス構造への影響について①6配位ではなく 4配位として主に存在し

ていることからSnO と同じような働きをしていると推測される②結合距離が Sn-O が約

22Åに対し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強

固にしている③ガラス構造中で全体的に各多面体同士の頂点共有が増えている以上の

ことが判明した以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性

耐候性を改善した要因として考えられる

44 結言

本章では分光学的手法では評価できないガラスの中距離構造局所構造について理解

するために放射光を用いた構造解析を実施しSP ガラスの構造と耐水性改善について考

察したHEXRDおよび AXS法を用いて測定を行い得られたデータを RMCシミュレーシ

ョンにて解析を行った

解析の結果 Sn-O pair については平均配位数 Nが 3 ~ 35でSnO量の増加 = OP の増

62

加に伴い高くなった平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約 22Åであ

ったP-O Sn-Oについては組成による大きな変化はほとんど見られなかった67S5N28P

ガラスの Nb-O pair の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平均配位数約 4Nb-O 平均結合距

離約 20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O(約 105deg)と値が近いことま

た6配位ではなく 4配位として主に存在していることからSnOと同じような働き(網目

形成体)をしていると推測されるまた結合距離が Sn-O が約 22Åに対し Nb-O は約 20

Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強固にしていると言える

SnO 量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体的に各多面体同士の頂点共有が増え

ていることから耐水性の改善には頂点共有を多く含む構造であることが重要である

もしくは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的であることが推測さ

れる以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性耐候性を

改善した要因として考えられる

またAXS 法の有効性についても確認し効果的であることが判明したただし今回

は主成分が Sn の組成のガラスでありHEXRD でも十分に詳細な構造が得られたため

大きな差は現れなかった

参考文献

[1] 山根正之 安井至 和田正道 国分可紀 寺井良平 近藤敬 小川晋永編ガラス光学ハ

ンドブック 朝倉書店(1999)

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[4] 小原真司 鈴谷健太郎 放射光 14 [5] 365-375 (2001)

[5] 早稲田嘉夫 齋藤正敏 放射光 10 [3] 299-315 (1997)

[6] 細川伸也 広島工業大学紀要研究編 46 197-204 (2012)

[7] RLMcGreevy and LPuszai Mol Simulation 1 359(1988)

[8] V V Chernaya A S Mitiaev P S Chizhov E V Dikarev R V Shpanchenko E V Antipov

MV Korolenko and PB Fabritchinyi J Chem Mater 17 284-290 (2005)

[9] M Mathew L W Schroeder and T H Jordan Acta Cryst B33 1812-1816 (1977)

[10] J S Taylar and M P Cohs J Am Ceram Solids 109 [9] 2834-2835 (1987)

[11] D Munoz-Martin A Ruiz de La Cruz J M Fernandez-Navarro C Domingo J Solis and J

Gonzalo J appl Phys 110 023522 (2011)

63

Fig 41 各原子の異常分散項のエネルギー依存性

Fig 42 Sn の異常分散項のエネルギー依存性

64

Fig 43 SPring-8の BL13XU

65

Tab

le 4

1

RM

Cの各パラメーター

66

Fig 44 Sn2P2O7 Sn3P2O8結晶の RDF

Table 42 Sn2P2O7 Sn3P2O8結晶の各 pairの第一近接距離

67

Fig 45 得られた実測 HEXRDの S(Q)

68

Fig 46 Sn の異常散乱測定により得られた散乱強度のエネルギー依存性

(a)67S33P (b)60S40P

69

Fig 47 全相関関数 T(r)

太線 HEXRD より

細線 Sn の AXSより

70

Fig 48 67S5N28P ガラス構造のモデル

71

Fig 49 RMC フィッティングの結果

72

Tab

le 4

3 各

pairの平均配位数角度結合距離

73

Fig

4

10

67

S5

N2

8Pガラスの各多面体モデル

74

Tab

le 4

4 各

pairの結合様式

75

Fig 411 67S5N28P ガラスの構造モデル

76

Table 45 平均 BO 各数 nの比較

Fig 412 50S50P ガラスの構造モデル

77

第 5章 総括

本研究ではSP ガラスを対象とした本研究では鉛フリー代替ガラスまたは希土類フ

リー蛍光体として SP ガラスの新規高機能化を将来的に目指し問題点であるldquo化学的耐久

性rdquoの改善につながる知見を得ることを目的としたそこでまずSP ガラスを母体ガラ

スとし第三成分に Nb2O5を添加した Sn-Nb-P SNP ガラスZnO を添加した SZP ガラスを

作製し耐水性を中心とした物性評価を行った次に分光学的手法で構造解析を行い

Qn 分布を導き出した最後に放射光を用いた構造解析を行い耐水性改善に関する構造的

な考察を行った以下に本研究で行った検討内容を示す

(1)SPガラスおよび第三成分Nb2O5 ZnOを添加した三成分系SPガラスの物性評価(第 2章)

(2)SP 系ガラスの分光学的手法による Qn分布導出(第 3章)

(3)放射光を用いた SP 系ガラスの構造解析構造と耐水性改善の関連について(第 4章)

各章についてまとめた結果を以下に示す

第 2章

第 2章では二成分系および三成分系のリン酸塩系ガラスの各種物性(密度や熱的特性

耐水性)の評価を行った二成分系ではSP ガラスに加え良好な耐水性を有する鉄リン

酸塩(Fe2O3-P2O5)系ガラス(以下 FP ガラス)を比較のために三成分系では二成分系

の SP ガラスに Nb2O5を添加したニオブ含有 SP ガラス(SNP ガラス)および ZnO を添加し

た亜鉛含有 SP ガラス(SZP ガラス)を作製した

今回作製した SP 系ガラスは低ガラス転移温度を有していた各組成の温度域はSP

ガラスTg le 280 Sn-Nb-P SNPガラスTg le 3505SZP S5ZPガラスTg ≦ 450であった

各種 SP ガラスの耐水性試験の結果二成分系の SP ガラスよりも三成分系ガラスの方が

良好な耐水性を有していた65Sn-5Nb-30P 67S5N28P ガラスが最も耐水性が良好であり化

学的耐久性の改善には Nb2O5が ZnOよりも効果的であった

組成と耐水性に関してはDRおよび重量減がOP増加で単調に低下した結果が得られた

つまり耐水性を改善させるにはSP 系ガラスのガラス化範囲を拡大かつ OP を増大させ

る第三成分の添加が有効であることが示唆された

第 3章

第 3章ではSP 系ガラスの分光学的手法による Qn分布の導出を行ったラマン分光法を

用いて各ガラス系のリン酸塩アニオンの構造を簡易定量で評価し組成と構造の関係に

ついて考察した平均 BO 数 n と耐水性に関してはDR および重量減が平均 BO 数 nの減

少で単調に低下することが明らかとなった

平均 BO 数 n と OP の関係より耐水性改善には平均 BO 数 n を下げることそして

OP を上げることが重要であることが明らかになった

78

Nb5+の添加は平均 BO数を減少させるだけでなくOP も上げることからガラス構造

内の P-O-P 結合を減少させ水和反応加水分解反応が抑制され耐水性が大幅に改善さ

れることが示唆された故にNb2O5 のような高価数金属酸化物を添加することが効果的

であることが再度確認された

第 4章

耐水性向上についてより深く評価するためSP SNP ガラスの局所構造に関する知見を得

ることを目的に放射光を用いた構造解析を行った高エネルギーX 線回折(HEXRD)お

よび X 線異常散乱(AXS)法で測定したデータを再現する構造モデルを逆モンテカルロ

(RMC)シミュレーションで構築し構造解析を行った

RMC モデル中の PON多面体に関して平均配位数 Nが 4および P-O の平均結合距離が約

160Å平均結合角度angO-P-Oが約 109degという結果が得られた組成による大きな違いは確

認されなかったSnON多面体については平均配位数 N が 3~4 でSnO 量の増加に伴い 4

に近い値となった平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約 22Åで組成

による大きな変化は見られなかった

Nb2O5を 5 mol添加したガラスではNbON多面体の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平

均配位数N約4Nb-O平均結合距離約20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O

(約 105deg)と値が近いことまた6配位ではなく 4配位として主に存在していることから

SnO と同じような網目形成体として働いていると推測されたまた結合距離が Sn-O が約

22Åに対し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強

固にしていると考えられるまたSnO 量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体

的に各多面体同士の頂点共有が増えていることから耐水性の改善には頂点共有を多く

含む構造もしくは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的であること

が示唆された以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性

耐候性を改善した要因として考えられる

またAXS 法の有効性についても確認し効果的であることが判明したただし今回

は主成分が Snの組成のガラスでありHEXRD でも十分に詳細な Snの周辺構造が得られ

たためAXSを利用した場合との大きな構造の差は認められなかった

本研究では様々な優れた特徴を有する SP ガラスにおける耐水性改善のメカニズムにつ

いて検討を行ったこの系のガラスについてはこれまでほとんど利用されていなかった

放射光を用いた構造解析を駆使し第三成分の添加によってどのような構造的変化が生じ

耐水性を改善させるか新たな知見を得ることができた最終目標である機能性ガラスの

開発における新たなる材料設計指針の確立に対してldquo耐水性rdquoに関しては概ね明らかにな

ったと考えられる一方で今回検討していな電子状態化学結合性についても評価する

ことで溶出メカニズムの解明が可能になり材料設計指針の確立が期待される

79

発表論文リスト

口頭発表

第 2章および第 3章

(1) SnO-P2O5 系ガラスへの酸化物添加効果

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎

日本セラミックス協会第 25 回秋季シンポジウム No3C06 (名古屋市 2012年 9月)

(2) Effect of Nb2O5 addition to SnO-P2O5 glass (Poster)

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

International Union of Materials Research Societies International Conference on Electronic

Materials IUMRS-ICEM 2012 A-9-P26-003 (Yokohama 2012 年 9月)

(3) スズリン酸塩系ガラスの蛍光特性耐水性に及ばす酸化物の添加効果(ポスター)

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎

日本セラミックス協会 2013 年年会 1P070 (東京 2013年 3月)

第 4章

(1) 放射光を用いたスズリン酸塩ガラスの構造解析

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎小原真二臼杵毅

日本セラミックス協会第 27 回秋季シンポジウム 2B22 (鹿児島市 2014年 9 月)

(2) Structural analysis of tin phosphate glasses by synchrotron radiation (Poster)

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba Shinji Kohara Takeshi Usuki

International Congress on Glass ICG Annual Meeting Bangkok 2015 P14-138 p186 (2015)

発表論文

(1) Effect of Nb2O5 addition to SnO- P2O5 glass

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

Journal of the Ceramic Society of Japan Vol 120 No 11 pp530-533 (2012)

(2) Structural analysis of SnO- P2O5 glass

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

Journal of the Ceramic Society of Japan(準備中)

80

謝辞

本研究を遂行するにあたり終始暖かいご指導ご助言並びにご鞭撻を賜わりました岡

山大学大学院環境生命科学研究科 難波徳郎教授に心より感謝の意を表します

また本研究を遂行するにあたり懇切丁寧なご指導とご意見をしていただいた岡山大

学大学院環境生命科学研究科 紅野安彦准教授環境環理センター 崎田真一助教に心より

感謝いたします

本研究を遂行するにあたりラマン分光測定の使用についてご助言ご教授して頂い

た岡山大学自然科学研究科 藤井達生教授中西真助教に心より感謝の意を表します

Sn のメスバウアー測定の際に協力して頂いた岡山大学自然科学研究科先端自然科学教

育研究推進本部高田研究室 松本修治特任助教(当時旭硝子株式会社中央研究所)また

Feのメスバウアーを測定の際に協力して頂いた岡山大学自然科学研究科 藤井達生教授に

心より感謝の意を表します

固体 NMR の岡山大学自然科学研究科 早川聡教授に心より感謝の意を表します

本研究を遂行するにあたりSPring-8 にてHEXRD および AXS 法の測定法および原理

についてご教示頂きました物質材料研究機構 小原真司博士ならびに山形大学 臼杵毅

教授に心より感謝の意を表します

本研究は多くの後輩諸君の協力によって遂行されました特に実際に共同研究共同

実験を遂行して頂いたOG 藤原沙弥香さん博士前期課程 2 年 東利彦君OB 徳岡太誠

君学士課程 4年 塩田将大君に心より感謝の意を表しますまた難波研究室で共に研

究生活を過ごした卒業生在学生の方々に感謝の意を表します

また同時期に博士後期課程に在籍された香川高等専門学校の桟敷剛さんにはNbに

関する有益な情報だけでなく辛い状況でも励ましを頂きました心より感謝の意を表し

ます

最後に長きに渡る学生生活を認め経済面だけでなく精神面でも支援してくださった

家族に心より深く感謝の意を表します

平成 28年 3月

福井 聡史

Page 33: 博士論文 スズリン酸塩系ガラスの物性と構造解析ousar.lib.okayama-u.ac.jp/files/public/5/54353/...博士論文 スズリン酸塩系ガラスの物性と構造解析

30

Fig 213 SNP ガラスの耐水性試験前後の外観写真

Fig 214 S5ZP ガラスの耐水性試験前後の外観写真

Fig 215 5SZP ガラスの耐水性試験前後の外観写真

31

Fig 216 FP ガラスの耐水性試験前後の外観写真

32

Fig 217 SP ガラスの XRD パターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

33

Fig 218 Sn-Nb-P ガラスの XRD パターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

34

Fig 219 SNP ガラスの XRD パターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

35

Fig 220 5SZP ガラスの XRDパターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

36

Fig 221 S5ZP ガラスの XRDパターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

37

Fig 222 FP ガラスの XRD パターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

38

Fig 223 各ガラス系の DR と OP の関係性

39

Fig 224 各ガラス系の重量減と OP の関係性

40

第 3章 分光法を用いたスズリン酸塩系ガラスの構造解析

31 緒言

前章ではSP ガラスおよび第三成分に Nb2O5 ZnOを添加した Sn-Nb-P ガラスSNP ガラ

スSZP ガラスの物性特に耐水性に関する第三成分添加の有効性を明らかにしたその添

加した第三成分の二種類についてもNb2O5 の方が ZnO よりも溶出速度重量減ともに抑

制することができSP ガラスの低ガラス転移温度という特性も維持されていることが判明

したしかし現段階では本研究の主要な物性である耐水性改善の要因が明確になって

いない組成の観点からはOP の値が高い組成が良好な耐水性であることが分かったが

組成だけでは耐水性改善のメカニズムについて完全には理解できないここでリン酸塩

ガラスの溶出のメカニズムは第 1 章で述べたように加水分解反応と水和反応が要因とな

る[1 2]この機構はそれぞれリン酸の構造つまり架橋酸素 BO の数が大きく関わって

おりリン酸アニオンの[PO4]ユニットの架橋酸素数を知ることが重要であるこの BO の

情報を得るためにはガラス構造を示す指標の一つである Qn(n は[PO4]ユニット中の架橋

酸素数を表す)を調べることが必須であるまたQn の分布を調べるためにはガラスの

構造解析を行う必要性がある

ガラスの構造解析には種々の方法があり特にラマン分光法や赤外(IR)分光法核

磁気共鳴法(NMR)などの分光学的手法を用いた構造解析の報告が多い[3-5]ラマン分光

法および IR分光法は原理は異なるがどちらも結合の振動モードを測定する手法であり[6]

リン酸塩ガラスだけでなくケイ酸塩ガラスホウ酸塩ガラスなど様々なガラス系にて測

定がなされている[7 8]また得られた結合状態の情報からリン酸塩アニオンの Qn分布

を調べることも可能であるNMR は共鳴吸収ピークの化学シフト(共鳴周波数のズレ)

から構造を決定する手法であるガラスの場合SiO2や B2O3 P2O5といった網目形成酸化物

の Qn分布を得るために一般的に使用されている手法である[9]

今回これらの測定の中でラマン分光法を選択し構造解析を行ったラマン分光法は

測定する際にサンプル形状を気にすることなく基本的にそのまま測定できるためIR 分

光法のようにサンプル形状で測定方法を変える必要はないまたIR 分光法では例えば

KBr 錠剤法やヌジュール法のように測定を行うためのサンプル調整に手間がかかる場合が

ある[6]さらに比較対象の FP ガラスではNMR を測定できないため作製ガラスを全

て比較検討できるようにラマン分光法を選択した

本章ではラマン分光法を用いて各ガラスの構造解析を行い[PO4]ユニットの Qn分布を

調査し平均 BO数 nを算出することで耐水性と構造の関係性を検討したまたラマン

分光法によって得られた Qn分布の妥当性を確認するためにSP ガラスおよび 67S5N28P ガ

ラスの NMRを測定も行い比較した

32 実験方法

41

321 サンプル準備

ラマン分光およびメスバウアー分光の測定では第 2 章で作製した各ガラスのバルク体

を用いたWD試験に使用したサンプルとは別にラマン測定用のサンプルを用意した適

度な大きさ大体 15 cm角程度のサイズになるようにガラスカッターで切断しその後

十分な平滑性を得るために鏡面研磨を施した

322 ラマン分光測定

使用したラマン分光装置は顕微レーザーラマン分光装置(Jasco NRS-5100)を用いた

用いたレーザー波長は 53208 nmであり400 - 2000 cm-1の範囲で測定した

Qn 分布を導くためにピークフィッティングを行いリン酸塩アニオンのラマンバンド

が現れる950 - 1250 cm-1付近および 700 - 750cm-付近の範囲で定量した

323 31P MAS NMR測定

31P MAS NMRの測定は Varian NMR System 500 を用いて32 mmの MASプローブ

202309MHzにて行った測定パラメーターを以下に示すπ4 パルス長さ 14 μs 待ち時間

(pulse delay)10 s 積算回数 3600 scan シリンダー円筒形状の Zrローターの回転スピード

160 kHz referenceとして二番目の基準物質として使われる NH4H2PO4を使用化学シフト

は85 H3PO4溶液から δ = 10 ppmである

33 結果考察

331 各ガラス系のラマンスペクトル

Figs 31 - 35にラマンスペクトルを示す各ピークは以下の通りに帰属し各スペクト

ル中に該当する構造をピーク位置に示した

1230 - 1260 cm-1 P=O NBO Q

2 [10]

1110 - 1150 cm-1metaphosphate (PO3)

- Q

2 [10]

1030 - 1100 cm-1pyrophosphate (PO35)

2- Q

1 [10]

970 - 1000 cm-1orthophosphate (PO4)

3- Q

0 [10]

920 - 930 cm-1asymmetric (P-O-P) Q

1 [10]

730 - 750 cm-1symmetric (P-O-P) Q

1 [10]

710 - 720 cm-1asymmetric (P-O-P) Q

2 [10]

810 - 820 cm-1Nb-O [NbO4] tetrahedron [11]

900 - 920 cm-1Nb-O isolated [NbO6] octahedron [11]

42

SP ガラスのラマンスペクトル(Fig 31)を見ると50S50P 60S40P ではmetaphosphate

の Q2 構造が支配的であるがSnO 量が増えるにつれてその構造が変化し70S30P では

pyrophosphateの Q1構造と orthophosphateの Q

0構造が共存した構造となっているまたSnO

量の少ない 50S50P および 60S40P において確認されたQ2構造の P=O のピークが見えなく

なっているつまり耐水性と関連して考えるとSnO量が増えるにつれてP-O-P 結合か

ら Sn-O-P 結合に代わり水分子との反応である加水分解反応を妨げる構造に変化している

ことがわかる

Figs 32 33にNb2O5を添加した Sn-Nb-P ガラスおよび SNP ガラスのラマンスペクトル

を示すまずSn-Nb-P ガラスについてNb 無添加の 65Sn-0Nb-35P は主に Q1構造であ

りNbO25が添加されることによってQ0構造に変化しQ

1 Q

0構造が共存しているような

ピークが得られた添加量が少ないガラス系であるため徐々に変化しているのを確認し

た800 cm-1を少し越えた 810 - 820 cm

-1付近にNb2O5を添加することでピークが現れそ

して添加量を増量することで強度が強まるピークがありこのピークは四面体の[NbO4]

のものと判断した

SNP ガラスのラマンスペクトルについてはNb2O5添加量を固定した組成であるためSP

ガラスのような挙動が観察された50S50N45P では50S50P ガラスと同じようにQ2構造

が主な構造でありSnO量の増加に伴って60S5N35P Q1構造67S5N28P Q

0構造に支配

的な構造が変化しているこれはSP ガラスと同じ傾向を示しているためP-O-P rarr Sn-O-P

に置き替わっていることが示唆されるNb-O に関するピークでは50S5N45P のみ[NbO4]

四面体のピークを確認できず900 - 920 cm-1付近に[NbO6]八面体のピークが確認された

SnO量が増量した 60S5N35P では810 cm-1付近の [NbO4] 四面体のピークが現れているが

[NbO6]八面体のピークと 900 - 920 cm-1付近の Q

1構造のピークが非常に近い(ほぼ重なって

いる)ことから60S5N35P については[NbO4] 四面体および[NbO6]八面体の共存の可能性

も考えられるまた67S5NP28 では[NbO4] 四面体のみのピークが観察されたためこ

の Nb-O の配位数変化は[PO4] unitの状態によって変化している可能性も示唆された

ZnO を添加した S5ZP ガラスおよび 5SZP ガラスのラマンスペクトルを Fig 34 に示す

図の下部三つが S5ZP ガラス上部三つが 5SZP ガラスのスペクトルであるSZP ガラスの

二系統を比べるとあきらかなスペクトルの違いが確認された各ガラス系で確認すると

SnO 量が最小の 55S5Z40P はQ2構造と Q

1構造の範囲に跨っているようなスペクトルが得

られた62S5Z33P および 65S5Z30P のスペクトルからはどちらもほぼ Q1構造であると判

断した5SZP のスペクトルは1000 - 1250 cm-1付近の範囲で裾を引くような(なだらかな)

スペクトルが得られたZnO 量が最小の 5S55Z40P にはQ2構造が主な構造に見えるが

shoulderピークのような Q1構造(1030 - 1100 cm

-1)が確認できる5S62Z40P においては

1000 - 1250 cm-1付近の範囲まで幅広いスペクトルが得られた730 - 750 cm

-1付近にピーク

が現れているためおそらく Q1構造が最も多く存在していると考えられる65S5Z30P では

Q1構造Q

0構造が共存しているようなピークが得られた

43

FP ガラスのラマンスペクトルを Fig 35 に示すFe量の少ない 20F80P 25F75P と他の三

つで構造が異なっていることである20F80P 25F75P はQ2構造と Q

1構造が基本構造にな

っていると判断できる 30F70P は1110 - 1150 cm-1付近に shoulderピークのようなものがあ

りQ2 Q

1 Q

0構造が共存しているようなスペクトルであった35F65P 40F60P はQ1構造

が主な構造でQ0構造があると判断した

332 平均 BO数 n (Qn分布)

まずピーク分離について散乱断面積が見積もれなかったためラマンの散乱強度比

を Qn分布として簡易的にピーク分離を行い(Fig 36)そこから平均架橋酸素数 BO 数 n

を算出したここでFig 37 に 31P MAS NMRスペクトルを示しTable 31に NMRおよび

ラマン分光より得られた平均 BO 数 n を示す(NMR の帰属 reference [12])表よりNMR

とラマンから得られた Qn分布はほぼ一致していることが分かった60S40Pについては支

配構造が NMR(Q1) ラマン(Q

2)で逆になったこれは60S40P の組成がQ

2と Q1のほぼ中

間の組成になるためこのようなズレが生じたと考えられるしかし今回のラマンによ

る Qn分布の算出についてはほぼ問題ないと判断した

Table 32にラマンスペクトルより求めた Qn分布平均 BO 数 nをを示しTable 24に示

した DR 重量減の結果を併記する

SP ガラスのうち耐水性が低いガラスは Q2構造によって形成されているSnO量の増加

によって NBOの増加とともに耐水性の向上が確認できSnOが入ることでSn-O-P 結合を

形成し水分子からの攻撃を受けにくくなっていることが考えられる

Sn-Nb-P ガラスでは基本的に Q1構造が主構造でNb2O5の添加が増えるにつれQ

0構

造が支配的になり耐水性は次第に向上していく最も耐水性のよかった 65S-5Nb-30P は

Q0構造での割合が非常に高く平均 BO数 n値が 03であった

SNP ガラスではP2O5量が多い組成の 50S5N45Pにおいても平均 BO数 nが 60S40P と

同じながらも耐水性が良くなっている67S5N28P はほぼ完全に Q0構造であり平均 Q

n

値は 0となった

SZP ガラスについてはS5ZP 5ZSP のどちらの系列についても耐水性の結果に大きな差

というものは確認されなかったが構造的にも平均 BO数 nが 09 10 17という結果であ

った

FP ガラスについてはFe2O3 lt 30 molのときは平均 BO 数 nが20 19と高い数値を

示したが耐水性は非常に良好であったこの結果より組成だけでなく構造的にも耐

水性高くなる要因が不明である一つの原因の可能性としてメスバウアーより得られた

Fe2+の存在比が 40以上と高かったことがFe2O3含有量が少ない組成時には効果的になっ

ているのかもしれない

333 平均 BO数 nと耐水性の関係性

44

Fig 38に DRと平均 BO数 nの関係性についてFig 39に重量減と平均 BO数 nの関係

性をそれぞれ示すまたOP の時と同様に各図にリン酸塩の三つの構造の平均 BO数

n も表記した双方の図よりDR 重量減共に平均 BO 数 nが低下することで単調に下がっ

ていることが分かるまた耐水性の良かったNb2O5添加の Sn-Nb-P SNPガラスはの DR

の挙動(傾き)はOP 時とも異なった挙動が得られた

Fig 310に OP と平均 BO数 nの関係を示す図中に示す茶色metaphosphate 黄色

pyrophosphate 灰色orthophosphate であるこの図から耐水性改善には平均 BO 数

n を下げOP を上げることが重要であるのが分かるまたNb5+の添加はOP を上げる

だけでなく平均 BO 数も減少させることから非常に効果的な成分であることが明らかで

あるこれはP5+から同酸価数 Nb

5+に少量でも置き換えることで平均 BO 数 n を下げ

OP を上げることを可能としている(実際に orthophosphate の OP4 よりも高い OP でガ

ラスが作製できている)つまりNb5+の添加によって P-O-P 結合が減少し水和反応加

水分解反応が抑制されているからである

以上の結果SP 系ガラスの耐水性改善には低い平均 BO 数と高い OP の組成にするこ

とが重要でNb2O5の添加は非常に効果的であることが分かったその一方でガラス中の

詳細な構造的要因についてははっきりしていないため次章の第 4 章にてさらに詳し

い構造解析を行い耐水性改善の要因について調査を行った

34 結言

本章ではラマン分光を使用して各ガラス系のリン酸塩アニオンの構造を簡易定量で

評価し組成と構造の関係について考察した

平均 BO 数 n と耐水性に関してはDR および重量減が平均 BO 数 n の減少で単調に低下

した結果が得られた

平均 BO数 nと OP の図より耐水性改善には平均 BO数 nを下げることそして OP

を上げることが重要であることが明白であった

Nb5+の添加は平均 BO数を減少させるだけでなくOP も上げることからガラス構造内

の P-O-P 結合を減少させる故に水和反応加水分解反応が抑制され耐水性が大幅に

改善された故にNb2O5 のような高価数金属酸化物を添加することが効果的であること

が示唆された

参考文献

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46

Fig 31 SP ガラスのラマンスペクトル

47

Fig 32 Sn-Nb-P ガラスのラマンスペクトル

48

Fig 33 SNP ガラスのラマンスペクトル

49

Fig 34 SZP ガラスのラマンスペクトル

50

Fig 35 FP ガラスのラマンスペクトル

51

Fig 36 ラマンスペクトルのピーク分離例(67S5N28P)

Raman Shift (cm-1)

52

Fig 37 NMRスペクトル

Table 31 NMR およびラマン分光より得られた SP 67S5N28P ガラスの

Qn分布および平均 BO数 n

53

Table 32 各ガラスのラマンスペクトルより求めた Qn分布結果

(表の赤線より右側の結果は Table 22 より)

1 仕込み組成による数値

2 Fig 2212 に示した析出物を取り除いた後の数値

54

Fig 38 DR と平均 BO数 nの関係性

55

Fig 39 重量減と平均 BO数 nの関係性

56

Fig 310 OP と平均 BO数 nの関係性

Meta

Pyro

Ortho

57

第 4章 放射光を用いたスズリン酸塩系ガラスの構造解析

41 緒言

前章の第 3 章にてラマン分光法を用いて SP 系ガラスの構造解析により Qn分布を導き

出したことで耐水性と構造の関係についてある程度関連性を導くことができたリン

酸アニオンについてはQ0(orthophosphate)構造 gt Q

1(pyrophosphate)構造 gt Q2

(metaphosphate)構造の順で良耐水性となるしかしSn Nbおよび Znの局所構造につ

いては知見が得られていないラマン分光や IR分光などの分光学的手法を用いてSnや

Nb Zn の周辺の局所構造を知るには限界があるまたガラスの構造解析を行う上で非常

に重要な因子である中距離構造の評価には分光学的手法は不向きである[1]

そこで局所構造や中距離構造を知るために有効な手法として放射光線を用いた構造

解析がある放射光(SR 光)とはシンクロトロンなどの加速器で高速に加速された電子

が進行方向を磁場によって変えられた際に放射する電磁波である[2]エネルギーが高く

(短波長)輝度が高い特性を有している日本国内では兵庫県佐用町の SPring-8や茨城

県つくば市の高エネルギー加速器研究機構佐賀県鳥栖市の佐賀県立九州シンクロトロン

光研究センターなど複数個所に放射光施設が設置されている

放射光を用いたガラスの構造解析には一般的に高エネルギーX 線回折(High Energy

X-ray diffraction HEXRD)が用いられるこの回折実験から高い散乱ベクトル Q(= 4π sinθλ)

まで回折データが得られる多種類の原子から構成される物質の場合はFaber-Ziman 型[3]

の構造因子 S(Q)を用いる以下の式に示すようにFaber-Ziman 型構造因子 S(Q)は同種また

は異種の原子による相関の重み関数付の和として示される例として SiO2ガラスで説明す

ると構造因子 S(Q)は三種類の原子付の S(Q)の重み付の和として表されていることが分か

I(Q) 散乱断面積 ltgt 原子一個当たりの平均値 f(Q) 原子散乱因子 W 重み関数

通常の研究室で使用される X 線回折(XRD)装置で用いられる特性 X 線はCuKα線(λ

= 0154 nm 81 keV)が最も良く用いられより高いエネルギーの X 線が必要な場合は

MoKα線(λ = 0071 nm 175 keV)が使用される一方でSPring-8のビームライン BL04B2

で行われる高エネルギーX 線回折(HEXRD)測定で使用される SR のエネルギーは378 keV

58

~ が使用可能である[2]従ってガラス以外の液体のような非晶質物質にも非常に精度

よく構造解析が行われている[4]

また局所構造解析の一つに X線異常散乱法という測定方法がある[5 6]これは通常

の X 線回折実験では分離不可能な特定元素に関連する部分構造因子(散乱強度曲線)を得

ることができる手法である今回 HEXRD の測定時に使用したエネルギー614 keV では各元

素の異常散乱項のエネルギー依存性は確認されない(Fig 41)その一方でFig 42に示す

Sn の吸収端付近の 292 keV付近ではSnの異常分散項のエネルギー依存性が確認できる

つまりSnの吸収端近傍より低エネルギー(E)側の異なるエネルギーの X線(E1 E2)を

使って散乱強度を測定し各 E における異常分散項(f`)の変化(つまり高い E1 から低い

E2 の散乱強度の差分)を利用して Snに関する部分構造因子を求める構造解析が AXS 法で

あるこの測定法は古くから知られている方法ではあるが装置の測定条件や設備の問

題からなどから使用があまり普及していなかった[5 6]近年になり金属ガラスの構造解

析について徐々に報告が出てきており今後注目される測定法である

HEXRD および AXS 法などから得られたデータ実測の構造因子 S(Q)は一次元の限られ

た構造情報であるためガラスなどの非晶質物質の中距離構造を解明するためにはこれ

らのデータを基に三次元構造を求める必要がある三次元構造モデルの作成には逆モンテ

カルロ(RMC)シミュレーションを使用することが有効である[7]このシミュレーション

は任意で決めたシミュレーションボックス内の粒子をランダムに動かすことで実測の

構造因子 S(Q)を再現する三次元構造モデルを構築する方法である

SP ガラスについては分光学的手法について数多く報告があるが放射光を用いた回折

法はほとんど適用されていないそこで本研究では HEXRD および AXS 法を用いた構造

解析を行うことでSn Nb周りの構造を解明すると共にSNP ガラスの耐水性改善のメカ

ニズムについて考察したまたAXS 法の有効性についても検討した測定を行ったガラ

スはSP ガラスおよび最も耐水性の高かった 67S5N28P を選択した

42 実験方法

421 HEXRD AXS法

HEXRDはSPring-8のビームライン BL04B2 で測定を行ったエネルギー614 keV の X

線を用いた測定サンプルの厚みは09 mm (plusmn0005 mm)になるまで研磨を行った

AXS 測定はSPring-8のビームライン BL13XUを使用した(Fig 43)それぞれの測定し

た X 線のエネルギーについて以下に示す

①Sn K吸収端hellip292 keV near edgehellip291452 keV (-60 eV) far edgehellip289751 keV (-230 eV)

②Nb K吸収端hellip1899 keV near edgehellip189562 keV (-30 eV) far edgehellip187863 keV (-230 eV)

測定に使用したサンプルの厚さが015 - 030 mmとなるまで研磨を施した

SP ガラスについて50S50P 60S40P 67S33P の三組成のガラスを測定した70S30P に関

59

しては測定を試みたが放射光照射によって結晶化してしまいガラス部分の正確な構

造因子を得るための強度補正ができず解析を断念した

422 RMCのモデリング

Table 41 に RMC の各種パラメーターを示す粒子数は約 5000 個でそれに伴う boxの一

辺の長さは約 42 ~ 46 Ǻになった拘束条件にP の配位数が 4になるような条件を付け

加えたFig 44にSn2P2O7結晶および Sn3P2O8結晶の動径分布関数(RDF)をTable 32

にRDFから得られた第一近接距離[8 9] を示すこれらの数値を使用しcutoffを決定し

たNb-O についてはいくつかの文献値を参考にした[10 11]

各ガラスの RMCのモデリングは①HEXRDから得られた S(Q)のみ②S(Q)および AXS

から得られた部分構造因子を加えた場合でそれぞれ計算した

43 結果考察

最初にNbの AXSから得られたデータについて解析を試みたが妥当な構造モデルが得

られなかったためSnの AXSのみで解析を進めたNb2O5の量が 5 molと少量であったた

めあまり精度の高いデータが得られなかったと推測される

431 実測の HEXRDおよび AXSの結果

4311 実測 HEXRDの S(Q)

Fig 45 に実測HEXRDの S(Q)を示す四つの組成ともに実測HEXRDの S(Q)が得られ

Nb2O5添加の 67S5N28P ガラスでは Low Q 側に変化が確認された

4312 実測散乱強度曲線

Fig 46 に Snの散乱強度曲線を示す(a) の 67S33P のこの曲線からはfar edgeおよび

near edge のエネルギー間で差分が見られエネルギーの依存性が確認された50S50P

67S5N28P のガラスについても同じように差分が確認されたが(b)の 60S40P についてのみ

他とは若干異なる結果(緑丸)であったためRMC の構造解析には差分の構造因子ではな

くfar edge near edge 二つの構造因子を用いた

4313 全相関関数 T(r)

Fig 47 に全相関関数 T(r) を示すHEXRD から得られたものを実線でSnの AXS から

得られたものは点線で示し組成ごとに重ねて表示した図中に各ピークについて帰属し

ているがSnの T(r)からはSn-O Sn-P Sn-Snのみのピークを確認した

432 RMCの計算結果および考察

60

構造モデルの一例として67S5N28P ガラスの得られた構造モデルをFig 48に示す水

色の多面体 unitSnON 黄色の多面体 unitPO4 ピンクの多面体 unitNbONである以下

詳細な構造解析の結果および考察を記す

4321 RMCのフィッティング結果

RMCのフィッティング結果の一例として67S33P の HEXRD と Snの AXS の構造因子か

ら得た結果を示す(Fig 49)二つの構造因子を加えて計算した結果においてもHEXRD

の S(Q) AXS の S(Q)に各々に対する良好なフィッティング結果が得られた他の組成も

同様なフィッティング結果が得られた

4322得られた各 pairの平均配位数平均角度平均結合距離

RMCの結果によって得られた各 pairの平均配位数平均角度平均結合距離を Tables 43

に示す上段が HEXRD の S(Q)のみ下段が HEXRD に Sn の AXS の部分構造因子を加え

て結果である最下部は比較のためにSn2P2O7の情報を記載した[8]

P-O pairについてRMCモデル中の PON多面体に関して平均配位数 Nが 4および P-O

の平均結合距離が約 160Å平均結合角度angO-P-O が約 109degという結果が得られた組成

による大きな違いは確認されなかったのはP の配位数が 4になるように拘束条件をかけた

結果であると考えられるSnON多面体についてはSnO量の増加 = OP の増加であり平

均配位数 Nが 3 ~ 35へ増加した平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約

22Åで組成による大きな変化はほとんど見られなかったNb2O5を 5 mol添加したガラ

スではNbON多面体の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平均配位数 N約 4Nb-O 平均結

合距離約 20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O(約 105deg)と値が近いこと

また6配位ではなく 4配位として主に存在していることからSnO と同じような働きをし

ていると推測される

以上の結果からNb2O5添加の耐水性改善の要因として結合距離が Sn-O が約 22Åに対

し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強固にして

いることも一つの要因として考えられる

また67S5N28P ガラスの各多面体モデルを確認すると(Fig 410)P は PO4Snは SnO4

と SnO3Nbは NbO4をそれぞれ再現している

4323得られた各 pairの結合様式

RMC の結果により得られた各 pair の結合様式を Tables 44 に示す上段が HEXRD の

S(Q)のみ下段が HEXRDに Snの AXS の部分構造因子を加えた結果である最下部は比

較のためにSn2P2O7の情報を記載した[8]

結合様式に関してはPO4四面体は他の多面体も含めてほぼ頂点共有で存在している

SnON多面体についてはSnO 量が少ない配位数が 3 に近い場合頂点共有以外の共有の

61

割合も多くSnO 量が増えるにつれて頂点共有が主になり網目形成体として振舞ってい

ると考えられる組成によって平均結合距離や平均角度の大きな変化が見られなかったこ

とから平均配位数が結合様式を決める重要なファクターであるということも考えられる

またHEXRD と AXS 法の結果がほぼ同じであったこれは主成分が SnO のガラスであ

るためHEXRDでも十分に詳細な構造が得られたため大きな変化が現れなかったと考え

られるNbON 多面体はPO4 四面体と SnON 多面体とはほぼ頂点共有で繋がっている以

上の結果よりSnO量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体的に各多面体同士の

頂点共有が増えていることから耐水性の改善には頂点共有を多く含む構造であること

が重要である或いは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的となって

いるということが推測されるFig 411に 67S5N28P ガラスの構造モデルを示す各多面

体はほぼ頂点共有で繋がっていることが確認できる

4324 平均 BO数の比較

Tables 45にNMR Raman RMC(HEXRD) RMC(HEXRD + AXS)の平均BO数を示すRMC

から得られた平均 BO 数 nはNMR Raman と同様に Nb2O5の添加による大幅な減少が確認

されたしかしNMR Raman と比較すると全組成において数値が大きすぎで適当でない

50S50P の構造モデルを観るとPO4四面体間で3配位 O の存在が確認された(Fig 412)た

め実測で得られた n値を再現できるようなPO4四面体モデル間の繋がり方に関する拘束条

件を加えて RMCを計算する必要性があるまた仮に3配位 Oの存在があるとすると電

子状態の変化が生じていることがと示唆されるため分子軌道計算を用いて電子状態解析

を行い確認する必要がある

4325 耐水性の改善について

Nb2O5を添加のガラス構造への影響について①6配位ではなく 4配位として主に存在し

ていることからSnO と同じような働きをしていると推測される②結合距離が Sn-O が約

22Åに対し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強

固にしている③ガラス構造中で全体的に各多面体同士の頂点共有が増えている以上の

ことが判明した以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性

耐候性を改善した要因として考えられる

44 結言

本章では分光学的手法では評価できないガラスの中距離構造局所構造について理解

するために放射光を用いた構造解析を実施しSP ガラスの構造と耐水性改善について考

察したHEXRDおよび AXS法を用いて測定を行い得られたデータを RMCシミュレーシ

ョンにて解析を行った

解析の結果 Sn-O pair については平均配位数 Nが 3 ~ 35でSnO量の増加 = OP の増

62

加に伴い高くなった平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約 22Åであ

ったP-O Sn-Oについては組成による大きな変化はほとんど見られなかった67S5N28P

ガラスの Nb-O pair の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平均配位数約 4Nb-O 平均結合距

離約 20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O(約 105deg)と値が近いことま

た6配位ではなく 4配位として主に存在していることからSnOと同じような働き(網目

形成体)をしていると推測されるまた結合距離が Sn-O が約 22Åに対し Nb-O は約 20

Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強固にしていると言える

SnO 量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体的に各多面体同士の頂点共有が増え

ていることから耐水性の改善には頂点共有を多く含む構造であることが重要である

もしくは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的であることが推測さ

れる以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性耐候性を

改善した要因として考えられる

またAXS 法の有効性についても確認し効果的であることが判明したただし今回

は主成分が Sn の組成のガラスでありHEXRD でも十分に詳細な構造が得られたため

大きな差は現れなかった

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63

Fig 41 各原子の異常分散項のエネルギー依存性

Fig 42 Sn の異常分散項のエネルギー依存性

64

Fig 43 SPring-8の BL13XU

65

Tab

le 4

1

RM

Cの各パラメーター

66

Fig 44 Sn2P2O7 Sn3P2O8結晶の RDF

Table 42 Sn2P2O7 Sn3P2O8結晶の各 pairの第一近接距離

67

Fig 45 得られた実測 HEXRDの S(Q)

68

Fig 46 Sn の異常散乱測定により得られた散乱強度のエネルギー依存性

(a)67S33P (b)60S40P

69

Fig 47 全相関関数 T(r)

太線 HEXRD より

細線 Sn の AXSより

70

Fig 48 67S5N28P ガラス構造のモデル

71

Fig 49 RMC フィッティングの結果

72

Tab

le 4

3 各

pairの平均配位数角度結合距離

73

Fig

4

10

67

S5

N2

8Pガラスの各多面体モデル

74

Tab

le 4

4 各

pairの結合様式

75

Fig 411 67S5N28P ガラスの構造モデル

76

Table 45 平均 BO 各数 nの比較

Fig 412 50S50P ガラスの構造モデル

77

第 5章 総括

本研究ではSP ガラスを対象とした本研究では鉛フリー代替ガラスまたは希土類フ

リー蛍光体として SP ガラスの新規高機能化を将来的に目指し問題点であるldquo化学的耐久

性rdquoの改善につながる知見を得ることを目的としたそこでまずSP ガラスを母体ガラ

スとし第三成分に Nb2O5を添加した Sn-Nb-P SNP ガラスZnO を添加した SZP ガラスを

作製し耐水性を中心とした物性評価を行った次に分光学的手法で構造解析を行い

Qn 分布を導き出した最後に放射光を用いた構造解析を行い耐水性改善に関する構造的

な考察を行った以下に本研究で行った検討内容を示す

(1)SPガラスおよび第三成分Nb2O5 ZnOを添加した三成分系SPガラスの物性評価(第 2章)

(2)SP 系ガラスの分光学的手法による Qn分布導出(第 3章)

(3)放射光を用いた SP 系ガラスの構造解析構造と耐水性改善の関連について(第 4章)

各章についてまとめた結果を以下に示す

第 2章

第 2章では二成分系および三成分系のリン酸塩系ガラスの各種物性(密度や熱的特性

耐水性)の評価を行った二成分系ではSP ガラスに加え良好な耐水性を有する鉄リン

酸塩(Fe2O3-P2O5)系ガラス(以下 FP ガラス)を比較のために三成分系では二成分系

の SP ガラスに Nb2O5を添加したニオブ含有 SP ガラス(SNP ガラス)および ZnO を添加し

た亜鉛含有 SP ガラス(SZP ガラス)を作製した

今回作製した SP 系ガラスは低ガラス転移温度を有していた各組成の温度域はSP

ガラスTg le 280 Sn-Nb-P SNPガラスTg le 3505SZP S5ZPガラスTg ≦ 450であった

各種 SP ガラスの耐水性試験の結果二成分系の SP ガラスよりも三成分系ガラスの方が

良好な耐水性を有していた65Sn-5Nb-30P 67S5N28P ガラスが最も耐水性が良好であり化

学的耐久性の改善には Nb2O5が ZnOよりも効果的であった

組成と耐水性に関してはDRおよび重量減がOP増加で単調に低下した結果が得られた

つまり耐水性を改善させるにはSP 系ガラスのガラス化範囲を拡大かつ OP を増大させ

る第三成分の添加が有効であることが示唆された

第 3章

第 3章ではSP 系ガラスの分光学的手法による Qn分布の導出を行ったラマン分光法を

用いて各ガラス系のリン酸塩アニオンの構造を簡易定量で評価し組成と構造の関係に

ついて考察した平均 BO 数 n と耐水性に関してはDR および重量減が平均 BO 数 nの減

少で単調に低下することが明らかとなった

平均 BO 数 n と OP の関係より耐水性改善には平均 BO 数 n を下げることそして

OP を上げることが重要であることが明らかになった

78

Nb5+の添加は平均 BO数を減少させるだけでなくOP も上げることからガラス構造

内の P-O-P 結合を減少させ水和反応加水分解反応が抑制され耐水性が大幅に改善さ

れることが示唆された故にNb2O5 のような高価数金属酸化物を添加することが効果的

であることが再度確認された

第 4章

耐水性向上についてより深く評価するためSP SNP ガラスの局所構造に関する知見を得

ることを目的に放射光を用いた構造解析を行った高エネルギーX 線回折(HEXRD)お

よび X 線異常散乱(AXS)法で測定したデータを再現する構造モデルを逆モンテカルロ

(RMC)シミュレーションで構築し構造解析を行った

RMC モデル中の PON多面体に関して平均配位数 Nが 4および P-O の平均結合距離が約

160Å平均結合角度angO-P-Oが約 109degという結果が得られた組成による大きな違いは確

認されなかったSnON多面体については平均配位数 N が 3~4 でSnO 量の増加に伴い 4

に近い値となった平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約 22Åで組成

による大きな変化は見られなかった

Nb2O5を 5 mol添加したガラスではNbON多面体の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平

均配位数N約4Nb-O平均結合距離約20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O

(約 105deg)と値が近いことまた6配位ではなく 4配位として主に存在していることから

SnO と同じような網目形成体として働いていると推測されたまた結合距離が Sn-O が約

22Åに対し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強

固にしていると考えられるまたSnO 量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体

的に各多面体同士の頂点共有が増えていることから耐水性の改善には頂点共有を多く

含む構造もしくは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的であること

が示唆された以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性

耐候性を改善した要因として考えられる

またAXS 法の有効性についても確認し効果的であることが判明したただし今回

は主成分が Snの組成のガラスでありHEXRD でも十分に詳細な Snの周辺構造が得られ

たためAXSを利用した場合との大きな構造の差は認められなかった

本研究では様々な優れた特徴を有する SP ガラスにおける耐水性改善のメカニズムにつ

いて検討を行ったこの系のガラスについてはこれまでほとんど利用されていなかった

放射光を用いた構造解析を駆使し第三成分の添加によってどのような構造的変化が生じ

耐水性を改善させるか新たな知見を得ることができた最終目標である機能性ガラスの

開発における新たなる材料設計指針の確立に対してldquo耐水性rdquoに関しては概ね明らかにな

ったと考えられる一方で今回検討していな電子状態化学結合性についても評価する

ことで溶出メカニズムの解明が可能になり材料設計指針の確立が期待される

79

発表論文リスト

口頭発表

第 2章および第 3章

(1) SnO-P2O5 系ガラスへの酸化物添加効果

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎

日本セラミックス協会第 25 回秋季シンポジウム No3C06 (名古屋市 2012年 9月)

(2) Effect of Nb2O5 addition to SnO-P2O5 glass (Poster)

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

International Union of Materials Research Societies International Conference on Electronic

Materials IUMRS-ICEM 2012 A-9-P26-003 (Yokohama 2012 年 9月)

(3) スズリン酸塩系ガラスの蛍光特性耐水性に及ばす酸化物の添加効果(ポスター)

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎

日本セラミックス協会 2013 年年会 1P070 (東京 2013年 3月)

第 4章

(1) 放射光を用いたスズリン酸塩ガラスの構造解析

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎小原真二臼杵毅

日本セラミックス協会第 27 回秋季シンポジウム 2B22 (鹿児島市 2014年 9 月)

(2) Structural analysis of tin phosphate glasses by synchrotron radiation (Poster)

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba Shinji Kohara Takeshi Usuki

International Congress on Glass ICG Annual Meeting Bangkok 2015 P14-138 p186 (2015)

発表論文

(1) Effect of Nb2O5 addition to SnO- P2O5 glass

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

Journal of the Ceramic Society of Japan Vol 120 No 11 pp530-533 (2012)

(2) Structural analysis of SnO- P2O5 glass

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

Journal of the Ceramic Society of Japan(準備中)

80

謝辞

本研究を遂行するにあたり終始暖かいご指導ご助言並びにご鞭撻を賜わりました岡

山大学大学院環境生命科学研究科 難波徳郎教授に心より感謝の意を表します

また本研究を遂行するにあたり懇切丁寧なご指導とご意見をしていただいた岡山大

学大学院環境生命科学研究科 紅野安彦准教授環境環理センター 崎田真一助教に心より

感謝いたします

本研究を遂行するにあたりラマン分光測定の使用についてご助言ご教授して頂い

た岡山大学自然科学研究科 藤井達生教授中西真助教に心より感謝の意を表します

Sn のメスバウアー測定の際に協力して頂いた岡山大学自然科学研究科先端自然科学教

育研究推進本部高田研究室 松本修治特任助教(当時旭硝子株式会社中央研究所)また

Feのメスバウアーを測定の際に協力して頂いた岡山大学自然科学研究科 藤井達生教授に

心より感謝の意を表します

固体 NMR の岡山大学自然科学研究科 早川聡教授に心より感謝の意を表します

本研究を遂行するにあたりSPring-8 にてHEXRD および AXS 法の測定法および原理

についてご教示頂きました物質材料研究機構 小原真司博士ならびに山形大学 臼杵毅

教授に心より感謝の意を表します

本研究は多くの後輩諸君の協力によって遂行されました特に実際に共同研究共同

実験を遂行して頂いたOG 藤原沙弥香さん博士前期課程 2 年 東利彦君OB 徳岡太誠

君学士課程 4年 塩田将大君に心より感謝の意を表しますまた難波研究室で共に研

究生活を過ごした卒業生在学生の方々に感謝の意を表します

また同時期に博士後期課程に在籍された香川高等専門学校の桟敷剛さんにはNbに

関する有益な情報だけでなく辛い状況でも励ましを頂きました心より感謝の意を表し

ます

最後に長きに渡る学生生活を認め経済面だけでなく精神面でも支援してくださった

家族に心より深く感謝の意を表します

平成 28年 3月

福井 聡史

Page 34: 博士論文 スズリン酸塩系ガラスの物性と構造解析ousar.lib.okayama-u.ac.jp/files/public/5/54353/...博士論文 スズリン酸塩系ガラスの物性と構造解析

31

Fig 216 FP ガラスの耐水性試験前後の外観写真

32

Fig 217 SP ガラスの XRD パターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

33

Fig 218 Sn-Nb-P ガラスの XRD パターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

34

Fig 219 SNP ガラスの XRD パターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

35

Fig 220 5SZP ガラスの XRDパターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

36

Fig 221 S5ZP ガラスの XRDパターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

37

Fig 222 FP ガラスの XRD パターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

38

Fig 223 各ガラス系の DR と OP の関係性

39

Fig 224 各ガラス系の重量減と OP の関係性

40

第 3章 分光法を用いたスズリン酸塩系ガラスの構造解析

31 緒言

前章ではSP ガラスおよび第三成分に Nb2O5 ZnOを添加した Sn-Nb-P ガラスSNP ガラ

スSZP ガラスの物性特に耐水性に関する第三成分添加の有効性を明らかにしたその添

加した第三成分の二種類についてもNb2O5 の方が ZnO よりも溶出速度重量減ともに抑

制することができSP ガラスの低ガラス転移温度という特性も維持されていることが判明

したしかし現段階では本研究の主要な物性である耐水性改善の要因が明確になって

いない組成の観点からはOP の値が高い組成が良好な耐水性であることが分かったが

組成だけでは耐水性改善のメカニズムについて完全には理解できないここでリン酸塩

ガラスの溶出のメカニズムは第 1 章で述べたように加水分解反応と水和反応が要因とな

る[1 2]この機構はそれぞれリン酸の構造つまり架橋酸素 BO の数が大きく関わって

おりリン酸アニオンの[PO4]ユニットの架橋酸素数を知ることが重要であるこの BO の

情報を得るためにはガラス構造を示す指標の一つである Qn(n は[PO4]ユニット中の架橋

酸素数を表す)を調べることが必須であるまたQn の分布を調べるためにはガラスの

構造解析を行う必要性がある

ガラスの構造解析には種々の方法があり特にラマン分光法や赤外(IR)分光法核

磁気共鳴法(NMR)などの分光学的手法を用いた構造解析の報告が多い[3-5]ラマン分光

法および IR分光法は原理は異なるがどちらも結合の振動モードを測定する手法であり[6]

リン酸塩ガラスだけでなくケイ酸塩ガラスホウ酸塩ガラスなど様々なガラス系にて測

定がなされている[7 8]また得られた結合状態の情報からリン酸塩アニオンの Qn分布

を調べることも可能であるNMR は共鳴吸収ピークの化学シフト(共鳴周波数のズレ)

から構造を決定する手法であるガラスの場合SiO2や B2O3 P2O5といった網目形成酸化物

の Qn分布を得るために一般的に使用されている手法である[9]

今回これらの測定の中でラマン分光法を選択し構造解析を行ったラマン分光法は

測定する際にサンプル形状を気にすることなく基本的にそのまま測定できるためIR 分

光法のようにサンプル形状で測定方法を変える必要はないまたIR 分光法では例えば

KBr 錠剤法やヌジュール法のように測定を行うためのサンプル調整に手間がかかる場合が

ある[6]さらに比較対象の FP ガラスではNMR を測定できないため作製ガラスを全

て比較検討できるようにラマン分光法を選択した

本章ではラマン分光法を用いて各ガラスの構造解析を行い[PO4]ユニットの Qn分布を

調査し平均 BO数 nを算出することで耐水性と構造の関係性を検討したまたラマン

分光法によって得られた Qn分布の妥当性を確認するためにSP ガラスおよび 67S5N28P ガ

ラスの NMRを測定も行い比較した

32 実験方法

41

321 サンプル準備

ラマン分光およびメスバウアー分光の測定では第 2 章で作製した各ガラスのバルク体

を用いたWD試験に使用したサンプルとは別にラマン測定用のサンプルを用意した適

度な大きさ大体 15 cm角程度のサイズになるようにガラスカッターで切断しその後

十分な平滑性を得るために鏡面研磨を施した

322 ラマン分光測定

使用したラマン分光装置は顕微レーザーラマン分光装置(Jasco NRS-5100)を用いた

用いたレーザー波長は 53208 nmであり400 - 2000 cm-1の範囲で測定した

Qn 分布を導くためにピークフィッティングを行いリン酸塩アニオンのラマンバンド

が現れる950 - 1250 cm-1付近および 700 - 750cm-付近の範囲で定量した

323 31P MAS NMR測定

31P MAS NMRの測定は Varian NMR System 500 を用いて32 mmの MASプローブ

202309MHzにて行った測定パラメーターを以下に示すπ4 パルス長さ 14 μs 待ち時間

(pulse delay)10 s 積算回数 3600 scan シリンダー円筒形状の Zrローターの回転スピード

160 kHz referenceとして二番目の基準物質として使われる NH4H2PO4を使用化学シフト

は85 H3PO4溶液から δ = 10 ppmである

33 結果考察

331 各ガラス系のラマンスペクトル

Figs 31 - 35にラマンスペクトルを示す各ピークは以下の通りに帰属し各スペクト

ル中に該当する構造をピーク位置に示した

1230 - 1260 cm-1 P=O NBO Q

2 [10]

1110 - 1150 cm-1metaphosphate (PO3)

- Q

2 [10]

1030 - 1100 cm-1pyrophosphate (PO35)

2- Q

1 [10]

970 - 1000 cm-1orthophosphate (PO4)

3- Q

0 [10]

920 - 930 cm-1asymmetric (P-O-P) Q

1 [10]

730 - 750 cm-1symmetric (P-O-P) Q

1 [10]

710 - 720 cm-1asymmetric (P-O-P) Q

2 [10]

810 - 820 cm-1Nb-O [NbO4] tetrahedron [11]

900 - 920 cm-1Nb-O isolated [NbO6] octahedron [11]

42

SP ガラスのラマンスペクトル(Fig 31)を見ると50S50P 60S40P ではmetaphosphate

の Q2 構造が支配的であるがSnO 量が増えるにつれてその構造が変化し70S30P では

pyrophosphateの Q1構造と orthophosphateの Q

0構造が共存した構造となっているまたSnO

量の少ない 50S50P および 60S40P において確認されたQ2構造の P=O のピークが見えなく

なっているつまり耐水性と関連して考えるとSnO量が増えるにつれてP-O-P 結合か

ら Sn-O-P 結合に代わり水分子との反応である加水分解反応を妨げる構造に変化している

ことがわかる

Figs 32 33にNb2O5を添加した Sn-Nb-P ガラスおよび SNP ガラスのラマンスペクトル

を示すまずSn-Nb-P ガラスについてNb 無添加の 65Sn-0Nb-35P は主に Q1構造であ

りNbO25が添加されることによってQ0構造に変化しQ

1 Q

0構造が共存しているような

ピークが得られた添加量が少ないガラス系であるため徐々に変化しているのを確認し

た800 cm-1を少し越えた 810 - 820 cm

-1付近にNb2O5を添加することでピークが現れそ

して添加量を増量することで強度が強まるピークがありこのピークは四面体の[NbO4]

のものと判断した

SNP ガラスのラマンスペクトルについてはNb2O5添加量を固定した組成であるためSP

ガラスのような挙動が観察された50S50N45P では50S50P ガラスと同じようにQ2構造

が主な構造でありSnO量の増加に伴って60S5N35P Q1構造67S5N28P Q

0構造に支配

的な構造が変化しているこれはSP ガラスと同じ傾向を示しているためP-O-P rarr Sn-O-P

に置き替わっていることが示唆されるNb-O に関するピークでは50S5N45P のみ[NbO4]

四面体のピークを確認できず900 - 920 cm-1付近に[NbO6]八面体のピークが確認された

SnO量が増量した 60S5N35P では810 cm-1付近の [NbO4] 四面体のピークが現れているが

[NbO6]八面体のピークと 900 - 920 cm-1付近の Q

1構造のピークが非常に近い(ほぼ重なって

いる)ことから60S5N35P については[NbO4] 四面体および[NbO6]八面体の共存の可能性

も考えられるまた67S5NP28 では[NbO4] 四面体のみのピークが観察されたためこ

の Nb-O の配位数変化は[PO4] unitの状態によって変化している可能性も示唆された

ZnO を添加した S5ZP ガラスおよび 5SZP ガラスのラマンスペクトルを Fig 34 に示す

図の下部三つが S5ZP ガラス上部三つが 5SZP ガラスのスペクトルであるSZP ガラスの

二系統を比べるとあきらかなスペクトルの違いが確認された各ガラス系で確認すると

SnO 量が最小の 55S5Z40P はQ2構造と Q

1構造の範囲に跨っているようなスペクトルが得

られた62S5Z33P および 65S5Z30P のスペクトルからはどちらもほぼ Q1構造であると判

断した5SZP のスペクトルは1000 - 1250 cm-1付近の範囲で裾を引くような(なだらかな)

スペクトルが得られたZnO 量が最小の 5S55Z40P にはQ2構造が主な構造に見えるが

shoulderピークのような Q1構造(1030 - 1100 cm

-1)が確認できる5S62Z40P においては

1000 - 1250 cm-1付近の範囲まで幅広いスペクトルが得られた730 - 750 cm

-1付近にピーク

が現れているためおそらく Q1構造が最も多く存在していると考えられる65S5Z30P では

Q1構造Q

0構造が共存しているようなピークが得られた

43

FP ガラスのラマンスペクトルを Fig 35 に示すFe量の少ない 20F80P 25F75P と他の三

つで構造が異なっていることである20F80P 25F75P はQ2構造と Q

1構造が基本構造にな

っていると判断できる 30F70P は1110 - 1150 cm-1付近に shoulderピークのようなものがあ

りQ2 Q

1 Q

0構造が共存しているようなスペクトルであった35F65P 40F60P はQ1構造

が主な構造でQ0構造があると判断した

332 平均 BO数 n (Qn分布)

まずピーク分離について散乱断面積が見積もれなかったためラマンの散乱強度比

を Qn分布として簡易的にピーク分離を行い(Fig 36)そこから平均架橋酸素数 BO 数 n

を算出したここでFig 37 に 31P MAS NMRスペクトルを示しTable 31に NMRおよび

ラマン分光より得られた平均 BO 数 n を示す(NMR の帰属 reference [12])表よりNMR

とラマンから得られた Qn分布はほぼ一致していることが分かった60S40Pについては支

配構造が NMR(Q1) ラマン(Q

2)で逆になったこれは60S40P の組成がQ

2と Q1のほぼ中

間の組成になるためこのようなズレが生じたと考えられるしかし今回のラマンによ

る Qn分布の算出についてはほぼ問題ないと判断した

Table 32にラマンスペクトルより求めた Qn分布平均 BO 数 nをを示しTable 24に示

した DR 重量減の結果を併記する

SP ガラスのうち耐水性が低いガラスは Q2構造によって形成されているSnO量の増加

によって NBOの増加とともに耐水性の向上が確認できSnOが入ることでSn-O-P 結合を

形成し水分子からの攻撃を受けにくくなっていることが考えられる

Sn-Nb-P ガラスでは基本的に Q1構造が主構造でNb2O5の添加が増えるにつれQ

0構

造が支配的になり耐水性は次第に向上していく最も耐水性のよかった 65S-5Nb-30P は

Q0構造での割合が非常に高く平均 BO数 n値が 03であった

SNP ガラスではP2O5量が多い組成の 50S5N45Pにおいても平均 BO数 nが 60S40P と

同じながらも耐水性が良くなっている67S5N28P はほぼ完全に Q0構造であり平均 Q

n

値は 0となった

SZP ガラスについてはS5ZP 5ZSP のどちらの系列についても耐水性の結果に大きな差

というものは確認されなかったが構造的にも平均 BO数 nが 09 10 17という結果であ

った

FP ガラスについてはFe2O3 lt 30 molのときは平均 BO 数 nが20 19と高い数値を

示したが耐水性は非常に良好であったこの結果より組成だけでなく構造的にも耐

水性高くなる要因が不明である一つの原因の可能性としてメスバウアーより得られた

Fe2+の存在比が 40以上と高かったことがFe2O3含有量が少ない組成時には効果的になっ

ているのかもしれない

333 平均 BO数 nと耐水性の関係性

44

Fig 38に DRと平均 BO数 nの関係性についてFig 39に重量減と平均 BO数 nの関係

性をそれぞれ示すまたOP の時と同様に各図にリン酸塩の三つの構造の平均 BO数

n も表記した双方の図よりDR 重量減共に平均 BO 数 nが低下することで単調に下がっ

ていることが分かるまた耐水性の良かったNb2O5添加の Sn-Nb-P SNPガラスはの DR

の挙動(傾き)はOP 時とも異なった挙動が得られた

Fig 310に OP と平均 BO数 nの関係を示す図中に示す茶色metaphosphate 黄色

pyrophosphate 灰色orthophosphate であるこの図から耐水性改善には平均 BO 数

n を下げOP を上げることが重要であるのが分かるまたNb5+の添加はOP を上げる

だけでなく平均 BO 数も減少させることから非常に効果的な成分であることが明らかで

あるこれはP5+から同酸価数 Nb

5+に少量でも置き換えることで平均 BO 数 n を下げ

OP を上げることを可能としている(実際に orthophosphate の OP4 よりも高い OP でガ

ラスが作製できている)つまりNb5+の添加によって P-O-P 結合が減少し水和反応加

水分解反応が抑制されているからである

以上の結果SP 系ガラスの耐水性改善には低い平均 BO 数と高い OP の組成にするこ

とが重要でNb2O5の添加は非常に効果的であることが分かったその一方でガラス中の

詳細な構造的要因についてははっきりしていないため次章の第 4 章にてさらに詳し

い構造解析を行い耐水性改善の要因について調査を行った

34 結言

本章ではラマン分光を使用して各ガラス系のリン酸塩アニオンの構造を簡易定量で

評価し組成と構造の関係について考察した

平均 BO 数 n と耐水性に関してはDR および重量減が平均 BO 数 n の減少で単調に低下

した結果が得られた

平均 BO数 nと OP の図より耐水性改善には平均 BO数 nを下げることそして OP

を上げることが重要であることが明白であった

Nb5+の添加は平均 BO数を減少させるだけでなくOP も上げることからガラス構造内

の P-O-P 結合を減少させる故に水和反応加水分解反応が抑制され耐水性が大幅に

改善された故にNb2O5 のような高価数金属酸化物を添加することが効果的であること

が示唆された

参考文献

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[2] 春日敏弘 NEW GLASS 22 [2] 3 - 8 (2007)

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[5] H Takebe Y Baba and M Kuwabara J Non-Cryst Solids 352 3088-3094 (2004)

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[8] I Waclawska and M Szumera J Therm Anal Calorim 101 423-427 (2010)

[9] 中井利仁 NEW GLASS 28 [109] 17 -2 8 (2013)

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[11] J M Jehng and I E Wachs J Am Ceram Solids 3 [1] 100-107 (1991)

[12] D Holland A P Howes M E Smith and A C Hannon J Phys Condens Matter 14

13609-13621 (2002)

46

Fig 31 SP ガラスのラマンスペクトル

47

Fig 32 Sn-Nb-P ガラスのラマンスペクトル

48

Fig 33 SNP ガラスのラマンスペクトル

49

Fig 34 SZP ガラスのラマンスペクトル

50

Fig 35 FP ガラスのラマンスペクトル

51

Fig 36 ラマンスペクトルのピーク分離例(67S5N28P)

Raman Shift (cm-1)

52

Fig 37 NMRスペクトル

Table 31 NMR およびラマン分光より得られた SP 67S5N28P ガラスの

Qn分布および平均 BO数 n

53

Table 32 各ガラスのラマンスペクトルより求めた Qn分布結果

(表の赤線より右側の結果は Table 22 より)

1 仕込み組成による数値

2 Fig 2212 に示した析出物を取り除いた後の数値

54

Fig 38 DR と平均 BO数 nの関係性

55

Fig 39 重量減と平均 BO数 nの関係性

56

Fig 310 OP と平均 BO数 nの関係性

Meta

Pyro

Ortho

57

第 4章 放射光を用いたスズリン酸塩系ガラスの構造解析

41 緒言

前章の第 3 章にてラマン分光法を用いて SP 系ガラスの構造解析により Qn分布を導き

出したことで耐水性と構造の関係についてある程度関連性を導くことができたリン

酸アニオンについてはQ0(orthophosphate)構造 gt Q

1(pyrophosphate)構造 gt Q2

(metaphosphate)構造の順で良耐水性となるしかしSn Nbおよび Znの局所構造につ

いては知見が得られていないラマン分光や IR分光などの分光学的手法を用いてSnや

Nb Zn の周辺の局所構造を知るには限界があるまたガラスの構造解析を行う上で非常

に重要な因子である中距離構造の評価には分光学的手法は不向きである[1]

そこで局所構造や中距離構造を知るために有効な手法として放射光線を用いた構造

解析がある放射光(SR 光)とはシンクロトロンなどの加速器で高速に加速された電子

が進行方向を磁場によって変えられた際に放射する電磁波である[2]エネルギーが高く

(短波長)輝度が高い特性を有している日本国内では兵庫県佐用町の SPring-8や茨城

県つくば市の高エネルギー加速器研究機構佐賀県鳥栖市の佐賀県立九州シンクロトロン

光研究センターなど複数個所に放射光施設が設置されている

放射光を用いたガラスの構造解析には一般的に高エネルギーX 線回折(High Energy

X-ray diffraction HEXRD)が用いられるこの回折実験から高い散乱ベクトル Q(= 4π sinθλ)

まで回折データが得られる多種類の原子から構成される物質の場合はFaber-Ziman 型[3]

の構造因子 S(Q)を用いる以下の式に示すようにFaber-Ziman 型構造因子 S(Q)は同種また

は異種の原子による相関の重み関数付の和として示される例として SiO2ガラスで説明す

ると構造因子 S(Q)は三種類の原子付の S(Q)の重み付の和として表されていることが分か

I(Q) 散乱断面積 ltgt 原子一個当たりの平均値 f(Q) 原子散乱因子 W 重み関数

通常の研究室で使用される X 線回折(XRD)装置で用いられる特性 X 線はCuKα線(λ

= 0154 nm 81 keV)が最も良く用いられより高いエネルギーの X 線が必要な場合は

MoKα線(λ = 0071 nm 175 keV)が使用される一方でSPring-8のビームライン BL04B2

で行われる高エネルギーX 線回折(HEXRD)測定で使用される SR のエネルギーは378 keV

58

~ が使用可能である[2]従ってガラス以外の液体のような非晶質物質にも非常に精度

よく構造解析が行われている[4]

また局所構造解析の一つに X線異常散乱法という測定方法がある[5 6]これは通常

の X 線回折実験では分離不可能な特定元素に関連する部分構造因子(散乱強度曲線)を得

ることができる手法である今回 HEXRD の測定時に使用したエネルギー614 keV では各元

素の異常散乱項のエネルギー依存性は確認されない(Fig 41)その一方でFig 42に示す

Sn の吸収端付近の 292 keV付近ではSnの異常分散項のエネルギー依存性が確認できる

つまりSnの吸収端近傍より低エネルギー(E)側の異なるエネルギーの X線(E1 E2)を

使って散乱強度を測定し各 E における異常分散項(f`)の変化(つまり高い E1 から低い

E2 の散乱強度の差分)を利用して Snに関する部分構造因子を求める構造解析が AXS 法で

あるこの測定法は古くから知られている方法ではあるが装置の測定条件や設備の問

題からなどから使用があまり普及していなかった[5 6]近年になり金属ガラスの構造解

析について徐々に報告が出てきており今後注目される測定法である

HEXRD および AXS 法などから得られたデータ実測の構造因子 S(Q)は一次元の限られ

た構造情報であるためガラスなどの非晶質物質の中距離構造を解明するためにはこれ

らのデータを基に三次元構造を求める必要がある三次元構造モデルの作成には逆モンテ

カルロ(RMC)シミュレーションを使用することが有効である[7]このシミュレーション

は任意で決めたシミュレーションボックス内の粒子をランダムに動かすことで実測の

構造因子 S(Q)を再現する三次元構造モデルを構築する方法である

SP ガラスについては分光学的手法について数多く報告があるが放射光を用いた回折

法はほとんど適用されていないそこで本研究では HEXRD および AXS 法を用いた構造

解析を行うことでSn Nb周りの構造を解明すると共にSNP ガラスの耐水性改善のメカ

ニズムについて考察したまたAXS 法の有効性についても検討した測定を行ったガラ

スはSP ガラスおよび最も耐水性の高かった 67S5N28P を選択した

42 実験方法

421 HEXRD AXS法

HEXRDはSPring-8のビームライン BL04B2 で測定を行ったエネルギー614 keV の X

線を用いた測定サンプルの厚みは09 mm (plusmn0005 mm)になるまで研磨を行った

AXS 測定はSPring-8のビームライン BL13XUを使用した(Fig 43)それぞれの測定し

た X 線のエネルギーについて以下に示す

①Sn K吸収端hellip292 keV near edgehellip291452 keV (-60 eV) far edgehellip289751 keV (-230 eV)

②Nb K吸収端hellip1899 keV near edgehellip189562 keV (-30 eV) far edgehellip187863 keV (-230 eV)

測定に使用したサンプルの厚さが015 - 030 mmとなるまで研磨を施した

SP ガラスについて50S50P 60S40P 67S33P の三組成のガラスを測定した70S30P に関

59

しては測定を試みたが放射光照射によって結晶化してしまいガラス部分の正確な構

造因子を得るための強度補正ができず解析を断念した

422 RMCのモデリング

Table 41 に RMC の各種パラメーターを示す粒子数は約 5000 個でそれに伴う boxの一

辺の長さは約 42 ~ 46 Ǻになった拘束条件にP の配位数が 4になるような条件を付け

加えたFig 44にSn2P2O7結晶および Sn3P2O8結晶の動径分布関数(RDF)をTable 32

にRDFから得られた第一近接距離[8 9] を示すこれらの数値を使用しcutoffを決定し

たNb-O についてはいくつかの文献値を参考にした[10 11]

各ガラスの RMCのモデリングは①HEXRDから得られた S(Q)のみ②S(Q)および AXS

から得られた部分構造因子を加えた場合でそれぞれ計算した

43 結果考察

最初にNbの AXSから得られたデータについて解析を試みたが妥当な構造モデルが得

られなかったためSnの AXSのみで解析を進めたNb2O5の量が 5 molと少量であったた

めあまり精度の高いデータが得られなかったと推測される

431 実測の HEXRDおよび AXSの結果

4311 実測 HEXRDの S(Q)

Fig 45 に実測HEXRDの S(Q)を示す四つの組成ともに実測HEXRDの S(Q)が得られ

Nb2O5添加の 67S5N28P ガラスでは Low Q 側に変化が確認された

4312 実測散乱強度曲線

Fig 46 に Snの散乱強度曲線を示す(a) の 67S33P のこの曲線からはfar edgeおよび

near edge のエネルギー間で差分が見られエネルギーの依存性が確認された50S50P

67S5N28P のガラスについても同じように差分が確認されたが(b)の 60S40P についてのみ

他とは若干異なる結果(緑丸)であったためRMC の構造解析には差分の構造因子ではな

くfar edge near edge 二つの構造因子を用いた

4313 全相関関数 T(r)

Fig 47 に全相関関数 T(r) を示すHEXRD から得られたものを実線でSnの AXS から

得られたものは点線で示し組成ごとに重ねて表示した図中に各ピークについて帰属し

ているがSnの T(r)からはSn-O Sn-P Sn-Snのみのピークを確認した

432 RMCの計算結果および考察

60

構造モデルの一例として67S5N28P ガラスの得られた構造モデルをFig 48に示す水

色の多面体 unitSnON 黄色の多面体 unitPO4 ピンクの多面体 unitNbONである以下

詳細な構造解析の結果および考察を記す

4321 RMCのフィッティング結果

RMCのフィッティング結果の一例として67S33P の HEXRD と Snの AXS の構造因子か

ら得た結果を示す(Fig 49)二つの構造因子を加えて計算した結果においてもHEXRD

の S(Q) AXS の S(Q)に各々に対する良好なフィッティング結果が得られた他の組成も

同様なフィッティング結果が得られた

4322得られた各 pairの平均配位数平均角度平均結合距離

RMCの結果によって得られた各 pairの平均配位数平均角度平均結合距離を Tables 43

に示す上段が HEXRD の S(Q)のみ下段が HEXRD に Sn の AXS の部分構造因子を加え

て結果である最下部は比較のためにSn2P2O7の情報を記載した[8]

P-O pairについてRMCモデル中の PON多面体に関して平均配位数 Nが 4および P-O

の平均結合距離が約 160Å平均結合角度angO-P-O が約 109degという結果が得られた組成

による大きな違いは確認されなかったのはP の配位数が 4になるように拘束条件をかけた

結果であると考えられるSnON多面体についてはSnO量の増加 = OP の増加であり平

均配位数 Nが 3 ~ 35へ増加した平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約

22Åで組成による大きな変化はほとんど見られなかったNb2O5を 5 mol添加したガラ

スではNbON多面体の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平均配位数 N約 4Nb-O 平均結

合距離約 20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O(約 105deg)と値が近いこと

また6配位ではなく 4配位として主に存在していることからSnO と同じような働きをし

ていると推測される

以上の結果からNb2O5添加の耐水性改善の要因として結合距離が Sn-O が約 22Åに対

し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強固にして

いることも一つの要因として考えられる

また67S5N28P ガラスの各多面体モデルを確認すると(Fig 410)P は PO4Snは SnO4

と SnO3Nbは NbO4をそれぞれ再現している

4323得られた各 pairの結合様式

RMC の結果により得られた各 pair の結合様式を Tables 44 に示す上段が HEXRD の

S(Q)のみ下段が HEXRDに Snの AXS の部分構造因子を加えた結果である最下部は比

較のためにSn2P2O7の情報を記載した[8]

結合様式に関してはPO4四面体は他の多面体も含めてほぼ頂点共有で存在している

SnON多面体についてはSnO 量が少ない配位数が 3 に近い場合頂点共有以外の共有の

61

割合も多くSnO 量が増えるにつれて頂点共有が主になり網目形成体として振舞ってい

ると考えられる組成によって平均結合距離や平均角度の大きな変化が見られなかったこ

とから平均配位数が結合様式を決める重要なファクターであるということも考えられる

またHEXRD と AXS 法の結果がほぼ同じであったこれは主成分が SnO のガラスであ

るためHEXRDでも十分に詳細な構造が得られたため大きな変化が現れなかったと考え

られるNbON 多面体はPO4 四面体と SnON 多面体とはほぼ頂点共有で繋がっている以

上の結果よりSnO量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体的に各多面体同士の

頂点共有が増えていることから耐水性の改善には頂点共有を多く含む構造であること

が重要である或いは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的となって

いるということが推測されるFig 411に 67S5N28P ガラスの構造モデルを示す各多面

体はほぼ頂点共有で繋がっていることが確認できる

4324 平均 BO数の比較

Tables 45にNMR Raman RMC(HEXRD) RMC(HEXRD + AXS)の平均BO数を示すRMC

から得られた平均 BO 数 nはNMR Raman と同様に Nb2O5の添加による大幅な減少が確認

されたしかしNMR Raman と比較すると全組成において数値が大きすぎで適当でない

50S50P の構造モデルを観るとPO4四面体間で3配位 O の存在が確認された(Fig 412)た

め実測で得られた n値を再現できるようなPO4四面体モデル間の繋がり方に関する拘束条

件を加えて RMCを計算する必要性があるまた仮に3配位 Oの存在があるとすると電

子状態の変化が生じていることがと示唆されるため分子軌道計算を用いて電子状態解析

を行い確認する必要がある

4325 耐水性の改善について

Nb2O5を添加のガラス構造への影響について①6配位ではなく 4配位として主に存在し

ていることからSnO と同じような働きをしていると推測される②結合距離が Sn-O が約

22Åに対し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強

固にしている③ガラス構造中で全体的に各多面体同士の頂点共有が増えている以上の

ことが判明した以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性

耐候性を改善した要因として考えられる

44 結言

本章では分光学的手法では評価できないガラスの中距離構造局所構造について理解

するために放射光を用いた構造解析を実施しSP ガラスの構造と耐水性改善について考

察したHEXRDおよび AXS法を用いて測定を行い得られたデータを RMCシミュレーシ

ョンにて解析を行った

解析の結果 Sn-O pair については平均配位数 Nが 3 ~ 35でSnO量の増加 = OP の増

62

加に伴い高くなった平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約 22Åであ

ったP-O Sn-Oについては組成による大きな変化はほとんど見られなかった67S5N28P

ガラスの Nb-O pair の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平均配位数約 4Nb-O 平均結合距

離約 20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O(約 105deg)と値が近いことま

た6配位ではなく 4配位として主に存在していることからSnOと同じような働き(網目

形成体)をしていると推測されるまた結合距離が Sn-O が約 22Åに対し Nb-O は約 20

Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強固にしていると言える

SnO 量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体的に各多面体同士の頂点共有が増え

ていることから耐水性の改善には頂点共有を多く含む構造であることが重要である

もしくは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的であることが推測さ

れる以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性耐候性を

改善した要因として考えられる

またAXS 法の有効性についても確認し効果的であることが判明したただし今回

は主成分が Sn の組成のガラスでありHEXRD でも十分に詳細な構造が得られたため

大きな差は現れなかった

参考文献

[1] 山根正之 安井至 和田正道 国分可紀 寺井良平 近藤敬 小川晋永編ガラス光学ハ

ンドブック 朝倉書店(1999)

[2]飯野潔 梅咲則正 NEW GLASS 19 [2] 31-40 (2004)

[3] T E Faber and J M Ziman Philos Mag 11 [109] 153-173 (1965)

[4] 小原真司 鈴谷健太郎 放射光 14 [5] 365-375 (2001)

[5] 早稲田嘉夫 齋藤正敏 放射光 10 [3] 299-315 (1997)

[6] 細川伸也 広島工業大学紀要研究編 46 197-204 (2012)

[7] RLMcGreevy and LPuszai Mol Simulation 1 359(1988)

[8] V V Chernaya A S Mitiaev P S Chizhov E V Dikarev R V Shpanchenko E V Antipov

MV Korolenko and PB Fabritchinyi J Chem Mater 17 284-290 (2005)

[9] M Mathew L W Schroeder and T H Jordan Acta Cryst B33 1812-1816 (1977)

[10] J S Taylar and M P Cohs J Am Ceram Solids 109 [9] 2834-2835 (1987)

[11] D Munoz-Martin A Ruiz de La Cruz J M Fernandez-Navarro C Domingo J Solis and J

Gonzalo J appl Phys 110 023522 (2011)

63

Fig 41 各原子の異常分散項のエネルギー依存性

Fig 42 Sn の異常分散項のエネルギー依存性

64

Fig 43 SPring-8の BL13XU

65

Tab

le 4

1

RM

Cの各パラメーター

66

Fig 44 Sn2P2O7 Sn3P2O8結晶の RDF

Table 42 Sn2P2O7 Sn3P2O8結晶の各 pairの第一近接距離

67

Fig 45 得られた実測 HEXRDの S(Q)

68

Fig 46 Sn の異常散乱測定により得られた散乱強度のエネルギー依存性

(a)67S33P (b)60S40P

69

Fig 47 全相関関数 T(r)

太線 HEXRD より

細線 Sn の AXSより

70

Fig 48 67S5N28P ガラス構造のモデル

71

Fig 49 RMC フィッティングの結果

72

Tab

le 4

3 各

pairの平均配位数角度結合距離

73

Fig

4

10

67

S5

N2

8Pガラスの各多面体モデル

74

Tab

le 4

4 各

pairの結合様式

75

Fig 411 67S5N28P ガラスの構造モデル

76

Table 45 平均 BO 各数 nの比較

Fig 412 50S50P ガラスの構造モデル

77

第 5章 総括

本研究ではSP ガラスを対象とした本研究では鉛フリー代替ガラスまたは希土類フ

リー蛍光体として SP ガラスの新規高機能化を将来的に目指し問題点であるldquo化学的耐久

性rdquoの改善につながる知見を得ることを目的としたそこでまずSP ガラスを母体ガラ

スとし第三成分に Nb2O5を添加した Sn-Nb-P SNP ガラスZnO を添加した SZP ガラスを

作製し耐水性を中心とした物性評価を行った次に分光学的手法で構造解析を行い

Qn 分布を導き出した最後に放射光を用いた構造解析を行い耐水性改善に関する構造的

な考察を行った以下に本研究で行った検討内容を示す

(1)SPガラスおよび第三成分Nb2O5 ZnOを添加した三成分系SPガラスの物性評価(第 2章)

(2)SP 系ガラスの分光学的手法による Qn分布導出(第 3章)

(3)放射光を用いた SP 系ガラスの構造解析構造と耐水性改善の関連について(第 4章)

各章についてまとめた結果を以下に示す

第 2章

第 2章では二成分系および三成分系のリン酸塩系ガラスの各種物性(密度や熱的特性

耐水性)の評価を行った二成分系ではSP ガラスに加え良好な耐水性を有する鉄リン

酸塩(Fe2O3-P2O5)系ガラス(以下 FP ガラス)を比較のために三成分系では二成分系

の SP ガラスに Nb2O5を添加したニオブ含有 SP ガラス(SNP ガラス)および ZnO を添加し

た亜鉛含有 SP ガラス(SZP ガラス)を作製した

今回作製した SP 系ガラスは低ガラス転移温度を有していた各組成の温度域はSP

ガラスTg le 280 Sn-Nb-P SNPガラスTg le 3505SZP S5ZPガラスTg ≦ 450であった

各種 SP ガラスの耐水性試験の結果二成分系の SP ガラスよりも三成分系ガラスの方が

良好な耐水性を有していた65Sn-5Nb-30P 67S5N28P ガラスが最も耐水性が良好であり化

学的耐久性の改善には Nb2O5が ZnOよりも効果的であった

組成と耐水性に関してはDRおよび重量減がOP増加で単調に低下した結果が得られた

つまり耐水性を改善させるにはSP 系ガラスのガラス化範囲を拡大かつ OP を増大させ

る第三成分の添加が有効であることが示唆された

第 3章

第 3章ではSP 系ガラスの分光学的手法による Qn分布の導出を行ったラマン分光法を

用いて各ガラス系のリン酸塩アニオンの構造を簡易定量で評価し組成と構造の関係に

ついて考察した平均 BO 数 n と耐水性に関してはDR および重量減が平均 BO 数 nの減

少で単調に低下することが明らかとなった

平均 BO 数 n と OP の関係より耐水性改善には平均 BO 数 n を下げることそして

OP を上げることが重要であることが明らかになった

78

Nb5+の添加は平均 BO数を減少させるだけでなくOP も上げることからガラス構造

内の P-O-P 結合を減少させ水和反応加水分解反応が抑制され耐水性が大幅に改善さ

れることが示唆された故にNb2O5 のような高価数金属酸化物を添加することが効果的

であることが再度確認された

第 4章

耐水性向上についてより深く評価するためSP SNP ガラスの局所構造に関する知見を得

ることを目的に放射光を用いた構造解析を行った高エネルギーX 線回折(HEXRD)お

よび X 線異常散乱(AXS)法で測定したデータを再現する構造モデルを逆モンテカルロ

(RMC)シミュレーションで構築し構造解析を行った

RMC モデル中の PON多面体に関して平均配位数 Nが 4および P-O の平均結合距離が約

160Å平均結合角度angO-P-Oが約 109degという結果が得られた組成による大きな違いは確

認されなかったSnON多面体については平均配位数 N が 3~4 でSnO 量の増加に伴い 4

に近い値となった平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約 22Åで組成

による大きな変化は見られなかった

Nb2O5を 5 mol添加したガラスではNbON多面体の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平

均配位数N約4Nb-O平均結合距離約20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O

(約 105deg)と値が近いことまた6配位ではなく 4配位として主に存在していることから

SnO と同じような網目形成体として働いていると推測されたまた結合距離が Sn-O が約

22Åに対し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強

固にしていると考えられるまたSnO 量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体

的に各多面体同士の頂点共有が増えていることから耐水性の改善には頂点共有を多く

含む構造もしくは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的であること

が示唆された以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性

耐候性を改善した要因として考えられる

またAXS 法の有効性についても確認し効果的であることが判明したただし今回

は主成分が Snの組成のガラスでありHEXRD でも十分に詳細な Snの周辺構造が得られ

たためAXSを利用した場合との大きな構造の差は認められなかった

本研究では様々な優れた特徴を有する SP ガラスにおける耐水性改善のメカニズムにつ

いて検討を行ったこの系のガラスについてはこれまでほとんど利用されていなかった

放射光を用いた構造解析を駆使し第三成分の添加によってどのような構造的変化が生じ

耐水性を改善させるか新たな知見を得ることができた最終目標である機能性ガラスの

開発における新たなる材料設計指針の確立に対してldquo耐水性rdquoに関しては概ね明らかにな

ったと考えられる一方で今回検討していな電子状態化学結合性についても評価する

ことで溶出メカニズムの解明が可能になり材料設計指針の確立が期待される

79

発表論文リスト

口頭発表

第 2章および第 3章

(1) SnO-P2O5 系ガラスへの酸化物添加効果

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎

日本セラミックス協会第 25 回秋季シンポジウム No3C06 (名古屋市 2012年 9月)

(2) Effect of Nb2O5 addition to SnO-P2O5 glass (Poster)

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

International Union of Materials Research Societies International Conference on Electronic

Materials IUMRS-ICEM 2012 A-9-P26-003 (Yokohama 2012 年 9月)

(3) スズリン酸塩系ガラスの蛍光特性耐水性に及ばす酸化物の添加効果(ポスター)

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎

日本セラミックス協会 2013 年年会 1P070 (東京 2013年 3月)

第 4章

(1) 放射光を用いたスズリン酸塩ガラスの構造解析

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎小原真二臼杵毅

日本セラミックス協会第 27 回秋季シンポジウム 2B22 (鹿児島市 2014年 9 月)

(2) Structural analysis of tin phosphate glasses by synchrotron radiation (Poster)

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba Shinji Kohara Takeshi Usuki

International Congress on Glass ICG Annual Meeting Bangkok 2015 P14-138 p186 (2015)

発表論文

(1) Effect of Nb2O5 addition to SnO- P2O5 glass

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

Journal of the Ceramic Society of Japan Vol 120 No 11 pp530-533 (2012)

(2) Structural analysis of SnO- P2O5 glass

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

Journal of the Ceramic Society of Japan(準備中)

80

謝辞

本研究を遂行するにあたり終始暖かいご指導ご助言並びにご鞭撻を賜わりました岡

山大学大学院環境生命科学研究科 難波徳郎教授に心より感謝の意を表します

また本研究を遂行するにあたり懇切丁寧なご指導とご意見をしていただいた岡山大

学大学院環境生命科学研究科 紅野安彦准教授環境環理センター 崎田真一助教に心より

感謝いたします

本研究を遂行するにあたりラマン分光測定の使用についてご助言ご教授して頂い

た岡山大学自然科学研究科 藤井達生教授中西真助教に心より感謝の意を表します

Sn のメスバウアー測定の際に協力して頂いた岡山大学自然科学研究科先端自然科学教

育研究推進本部高田研究室 松本修治特任助教(当時旭硝子株式会社中央研究所)また

Feのメスバウアーを測定の際に協力して頂いた岡山大学自然科学研究科 藤井達生教授に

心より感謝の意を表します

固体 NMR の岡山大学自然科学研究科 早川聡教授に心より感謝の意を表します

本研究を遂行するにあたりSPring-8 にてHEXRD および AXS 法の測定法および原理

についてご教示頂きました物質材料研究機構 小原真司博士ならびに山形大学 臼杵毅

教授に心より感謝の意を表します

本研究は多くの後輩諸君の協力によって遂行されました特に実際に共同研究共同

実験を遂行して頂いたOG 藤原沙弥香さん博士前期課程 2 年 東利彦君OB 徳岡太誠

君学士課程 4年 塩田将大君に心より感謝の意を表しますまた難波研究室で共に研

究生活を過ごした卒業生在学生の方々に感謝の意を表します

また同時期に博士後期課程に在籍された香川高等専門学校の桟敷剛さんにはNbに

関する有益な情報だけでなく辛い状況でも励ましを頂きました心より感謝の意を表し

ます

最後に長きに渡る学生生活を認め経済面だけでなく精神面でも支援してくださった

家族に心より深く感謝の意を表します

平成 28年 3月

福井 聡史

Page 35: 博士論文 スズリン酸塩系ガラスの物性と構造解析ousar.lib.okayama-u.ac.jp/files/public/5/54353/...博士論文 スズリン酸塩系ガラスの物性と構造解析

32

Fig 217 SP ガラスの XRD パターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

33

Fig 218 Sn-Nb-P ガラスの XRD パターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

34

Fig 219 SNP ガラスの XRD パターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

35

Fig 220 5SZP ガラスの XRDパターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

36

Fig 221 S5ZP ガラスの XRDパターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

37

Fig 222 FP ガラスの XRD パターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

38

Fig 223 各ガラス系の DR と OP の関係性

39

Fig 224 各ガラス系の重量減と OP の関係性

40

第 3章 分光法を用いたスズリン酸塩系ガラスの構造解析

31 緒言

前章ではSP ガラスおよび第三成分に Nb2O5 ZnOを添加した Sn-Nb-P ガラスSNP ガラ

スSZP ガラスの物性特に耐水性に関する第三成分添加の有効性を明らかにしたその添

加した第三成分の二種類についてもNb2O5 の方が ZnO よりも溶出速度重量減ともに抑

制することができSP ガラスの低ガラス転移温度という特性も維持されていることが判明

したしかし現段階では本研究の主要な物性である耐水性改善の要因が明確になって

いない組成の観点からはOP の値が高い組成が良好な耐水性であることが分かったが

組成だけでは耐水性改善のメカニズムについて完全には理解できないここでリン酸塩

ガラスの溶出のメカニズムは第 1 章で述べたように加水分解反応と水和反応が要因とな

る[1 2]この機構はそれぞれリン酸の構造つまり架橋酸素 BO の数が大きく関わって

おりリン酸アニオンの[PO4]ユニットの架橋酸素数を知ることが重要であるこの BO の

情報を得るためにはガラス構造を示す指標の一つである Qn(n は[PO4]ユニット中の架橋

酸素数を表す)を調べることが必須であるまたQn の分布を調べるためにはガラスの

構造解析を行う必要性がある

ガラスの構造解析には種々の方法があり特にラマン分光法や赤外(IR)分光法核

磁気共鳴法(NMR)などの分光学的手法を用いた構造解析の報告が多い[3-5]ラマン分光

法および IR分光法は原理は異なるがどちらも結合の振動モードを測定する手法であり[6]

リン酸塩ガラスだけでなくケイ酸塩ガラスホウ酸塩ガラスなど様々なガラス系にて測

定がなされている[7 8]また得られた結合状態の情報からリン酸塩アニオンの Qn分布

を調べることも可能であるNMR は共鳴吸収ピークの化学シフト(共鳴周波数のズレ)

から構造を決定する手法であるガラスの場合SiO2や B2O3 P2O5といった網目形成酸化物

の Qn分布を得るために一般的に使用されている手法である[9]

今回これらの測定の中でラマン分光法を選択し構造解析を行ったラマン分光法は

測定する際にサンプル形状を気にすることなく基本的にそのまま測定できるためIR 分

光法のようにサンプル形状で測定方法を変える必要はないまたIR 分光法では例えば

KBr 錠剤法やヌジュール法のように測定を行うためのサンプル調整に手間がかかる場合が

ある[6]さらに比較対象の FP ガラスではNMR を測定できないため作製ガラスを全

て比較検討できるようにラマン分光法を選択した

本章ではラマン分光法を用いて各ガラスの構造解析を行い[PO4]ユニットの Qn分布を

調査し平均 BO数 nを算出することで耐水性と構造の関係性を検討したまたラマン

分光法によって得られた Qn分布の妥当性を確認するためにSP ガラスおよび 67S5N28P ガ

ラスの NMRを測定も行い比較した

32 実験方法

41

321 サンプル準備

ラマン分光およびメスバウアー分光の測定では第 2 章で作製した各ガラスのバルク体

を用いたWD試験に使用したサンプルとは別にラマン測定用のサンプルを用意した適

度な大きさ大体 15 cm角程度のサイズになるようにガラスカッターで切断しその後

十分な平滑性を得るために鏡面研磨を施した

322 ラマン分光測定

使用したラマン分光装置は顕微レーザーラマン分光装置(Jasco NRS-5100)を用いた

用いたレーザー波長は 53208 nmであり400 - 2000 cm-1の範囲で測定した

Qn 分布を導くためにピークフィッティングを行いリン酸塩アニオンのラマンバンド

が現れる950 - 1250 cm-1付近および 700 - 750cm-付近の範囲で定量した

323 31P MAS NMR測定

31P MAS NMRの測定は Varian NMR System 500 を用いて32 mmの MASプローブ

202309MHzにて行った測定パラメーターを以下に示すπ4 パルス長さ 14 μs 待ち時間

(pulse delay)10 s 積算回数 3600 scan シリンダー円筒形状の Zrローターの回転スピード

160 kHz referenceとして二番目の基準物質として使われる NH4H2PO4を使用化学シフト

は85 H3PO4溶液から δ = 10 ppmである

33 結果考察

331 各ガラス系のラマンスペクトル

Figs 31 - 35にラマンスペクトルを示す各ピークは以下の通りに帰属し各スペクト

ル中に該当する構造をピーク位置に示した

1230 - 1260 cm-1 P=O NBO Q

2 [10]

1110 - 1150 cm-1metaphosphate (PO3)

- Q

2 [10]

1030 - 1100 cm-1pyrophosphate (PO35)

2- Q

1 [10]

970 - 1000 cm-1orthophosphate (PO4)

3- Q

0 [10]

920 - 930 cm-1asymmetric (P-O-P) Q

1 [10]

730 - 750 cm-1symmetric (P-O-P) Q

1 [10]

710 - 720 cm-1asymmetric (P-O-P) Q

2 [10]

810 - 820 cm-1Nb-O [NbO4] tetrahedron [11]

900 - 920 cm-1Nb-O isolated [NbO6] octahedron [11]

42

SP ガラスのラマンスペクトル(Fig 31)を見ると50S50P 60S40P ではmetaphosphate

の Q2 構造が支配的であるがSnO 量が増えるにつれてその構造が変化し70S30P では

pyrophosphateの Q1構造と orthophosphateの Q

0構造が共存した構造となっているまたSnO

量の少ない 50S50P および 60S40P において確認されたQ2構造の P=O のピークが見えなく

なっているつまり耐水性と関連して考えるとSnO量が増えるにつれてP-O-P 結合か

ら Sn-O-P 結合に代わり水分子との反応である加水分解反応を妨げる構造に変化している

ことがわかる

Figs 32 33にNb2O5を添加した Sn-Nb-P ガラスおよび SNP ガラスのラマンスペクトル

を示すまずSn-Nb-P ガラスについてNb 無添加の 65Sn-0Nb-35P は主に Q1構造であ

りNbO25が添加されることによってQ0構造に変化しQ

1 Q

0構造が共存しているような

ピークが得られた添加量が少ないガラス系であるため徐々に変化しているのを確認し

た800 cm-1を少し越えた 810 - 820 cm

-1付近にNb2O5を添加することでピークが現れそ

して添加量を増量することで強度が強まるピークがありこのピークは四面体の[NbO4]

のものと判断した

SNP ガラスのラマンスペクトルについてはNb2O5添加量を固定した組成であるためSP

ガラスのような挙動が観察された50S50N45P では50S50P ガラスと同じようにQ2構造

が主な構造でありSnO量の増加に伴って60S5N35P Q1構造67S5N28P Q

0構造に支配

的な構造が変化しているこれはSP ガラスと同じ傾向を示しているためP-O-P rarr Sn-O-P

に置き替わっていることが示唆されるNb-O に関するピークでは50S5N45P のみ[NbO4]

四面体のピークを確認できず900 - 920 cm-1付近に[NbO6]八面体のピークが確認された

SnO量が増量した 60S5N35P では810 cm-1付近の [NbO4] 四面体のピークが現れているが

[NbO6]八面体のピークと 900 - 920 cm-1付近の Q

1構造のピークが非常に近い(ほぼ重なって

いる)ことから60S5N35P については[NbO4] 四面体および[NbO6]八面体の共存の可能性

も考えられるまた67S5NP28 では[NbO4] 四面体のみのピークが観察されたためこ

の Nb-O の配位数変化は[PO4] unitの状態によって変化している可能性も示唆された

ZnO を添加した S5ZP ガラスおよび 5SZP ガラスのラマンスペクトルを Fig 34 に示す

図の下部三つが S5ZP ガラス上部三つが 5SZP ガラスのスペクトルであるSZP ガラスの

二系統を比べるとあきらかなスペクトルの違いが確認された各ガラス系で確認すると

SnO 量が最小の 55S5Z40P はQ2構造と Q

1構造の範囲に跨っているようなスペクトルが得

られた62S5Z33P および 65S5Z30P のスペクトルからはどちらもほぼ Q1構造であると判

断した5SZP のスペクトルは1000 - 1250 cm-1付近の範囲で裾を引くような(なだらかな)

スペクトルが得られたZnO 量が最小の 5S55Z40P にはQ2構造が主な構造に見えるが

shoulderピークのような Q1構造(1030 - 1100 cm

-1)が確認できる5S62Z40P においては

1000 - 1250 cm-1付近の範囲まで幅広いスペクトルが得られた730 - 750 cm

-1付近にピーク

が現れているためおそらく Q1構造が最も多く存在していると考えられる65S5Z30P では

Q1構造Q

0構造が共存しているようなピークが得られた

43

FP ガラスのラマンスペクトルを Fig 35 に示すFe量の少ない 20F80P 25F75P と他の三

つで構造が異なっていることである20F80P 25F75P はQ2構造と Q

1構造が基本構造にな

っていると判断できる 30F70P は1110 - 1150 cm-1付近に shoulderピークのようなものがあ

りQ2 Q

1 Q

0構造が共存しているようなスペクトルであった35F65P 40F60P はQ1構造

が主な構造でQ0構造があると判断した

332 平均 BO数 n (Qn分布)

まずピーク分離について散乱断面積が見積もれなかったためラマンの散乱強度比

を Qn分布として簡易的にピーク分離を行い(Fig 36)そこから平均架橋酸素数 BO 数 n

を算出したここでFig 37 に 31P MAS NMRスペクトルを示しTable 31に NMRおよび

ラマン分光より得られた平均 BO 数 n を示す(NMR の帰属 reference [12])表よりNMR

とラマンから得られた Qn分布はほぼ一致していることが分かった60S40Pについては支

配構造が NMR(Q1) ラマン(Q

2)で逆になったこれは60S40P の組成がQ

2と Q1のほぼ中

間の組成になるためこのようなズレが生じたと考えられるしかし今回のラマンによ

る Qn分布の算出についてはほぼ問題ないと判断した

Table 32にラマンスペクトルより求めた Qn分布平均 BO 数 nをを示しTable 24に示

した DR 重量減の結果を併記する

SP ガラスのうち耐水性が低いガラスは Q2構造によって形成されているSnO量の増加

によって NBOの増加とともに耐水性の向上が確認できSnOが入ることでSn-O-P 結合を

形成し水分子からの攻撃を受けにくくなっていることが考えられる

Sn-Nb-P ガラスでは基本的に Q1構造が主構造でNb2O5の添加が増えるにつれQ

0構

造が支配的になり耐水性は次第に向上していく最も耐水性のよかった 65S-5Nb-30P は

Q0構造での割合が非常に高く平均 BO数 n値が 03であった

SNP ガラスではP2O5量が多い組成の 50S5N45Pにおいても平均 BO数 nが 60S40P と

同じながらも耐水性が良くなっている67S5N28P はほぼ完全に Q0構造であり平均 Q

n

値は 0となった

SZP ガラスについてはS5ZP 5ZSP のどちらの系列についても耐水性の結果に大きな差

というものは確認されなかったが構造的にも平均 BO数 nが 09 10 17という結果であ

った

FP ガラスについてはFe2O3 lt 30 molのときは平均 BO 数 nが20 19と高い数値を

示したが耐水性は非常に良好であったこの結果より組成だけでなく構造的にも耐

水性高くなる要因が不明である一つの原因の可能性としてメスバウアーより得られた

Fe2+の存在比が 40以上と高かったことがFe2O3含有量が少ない組成時には効果的になっ

ているのかもしれない

333 平均 BO数 nと耐水性の関係性

44

Fig 38に DRと平均 BO数 nの関係性についてFig 39に重量減と平均 BO数 nの関係

性をそれぞれ示すまたOP の時と同様に各図にリン酸塩の三つの構造の平均 BO数

n も表記した双方の図よりDR 重量減共に平均 BO 数 nが低下することで単調に下がっ

ていることが分かるまた耐水性の良かったNb2O5添加の Sn-Nb-P SNPガラスはの DR

の挙動(傾き)はOP 時とも異なった挙動が得られた

Fig 310に OP と平均 BO数 nの関係を示す図中に示す茶色metaphosphate 黄色

pyrophosphate 灰色orthophosphate であるこの図から耐水性改善には平均 BO 数

n を下げOP を上げることが重要であるのが分かるまたNb5+の添加はOP を上げる

だけでなく平均 BO 数も減少させることから非常に効果的な成分であることが明らかで

あるこれはP5+から同酸価数 Nb

5+に少量でも置き換えることで平均 BO 数 n を下げ

OP を上げることを可能としている(実際に orthophosphate の OP4 よりも高い OP でガ

ラスが作製できている)つまりNb5+の添加によって P-O-P 結合が減少し水和反応加

水分解反応が抑制されているからである

以上の結果SP 系ガラスの耐水性改善には低い平均 BO 数と高い OP の組成にするこ

とが重要でNb2O5の添加は非常に効果的であることが分かったその一方でガラス中の

詳細な構造的要因についてははっきりしていないため次章の第 4 章にてさらに詳し

い構造解析を行い耐水性改善の要因について調査を行った

34 結言

本章ではラマン分光を使用して各ガラス系のリン酸塩アニオンの構造を簡易定量で

評価し組成と構造の関係について考察した

平均 BO 数 n と耐水性に関してはDR および重量減が平均 BO 数 n の減少で単調に低下

した結果が得られた

平均 BO数 nと OP の図より耐水性改善には平均 BO数 nを下げることそして OP

を上げることが重要であることが明白であった

Nb5+の添加は平均 BO数を減少させるだけでなくOP も上げることからガラス構造内

の P-O-P 結合を減少させる故に水和反応加水分解反応が抑制され耐水性が大幅に

改善された故にNb2O5 のような高価数金属酸化物を添加することが効果的であること

が示唆された

参考文献

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[2] 春日敏弘 NEW GLASS 22 [2] 3 - 8 (2007)

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[8] I Waclawska and M Szumera J Therm Anal Calorim 101 423-427 (2010)

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[12] D Holland A P Howes M E Smith and A C Hannon J Phys Condens Matter 14

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46

Fig 31 SP ガラスのラマンスペクトル

47

Fig 32 Sn-Nb-P ガラスのラマンスペクトル

48

Fig 33 SNP ガラスのラマンスペクトル

49

Fig 34 SZP ガラスのラマンスペクトル

50

Fig 35 FP ガラスのラマンスペクトル

51

Fig 36 ラマンスペクトルのピーク分離例(67S5N28P)

Raman Shift (cm-1)

52

Fig 37 NMRスペクトル

Table 31 NMR およびラマン分光より得られた SP 67S5N28P ガラスの

Qn分布および平均 BO数 n

53

Table 32 各ガラスのラマンスペクトルより求めた Qn分布結果

(表の赤線より右側の結果は Table 22 より)

1 仕込み組成による数値

2 Fig 2212 に示した析出物を取り除いた後の数値

54

Fig 38 DR と平均 BO数 nの関係性

55

Fig 39 重量減と平均 BO数 nの関係性

56

Fig 310 OP と平均 BO数 nの関係性

Meta

Pyro

Ortho

57

第 4章 放射光を用いたスズリン酸塩系ガラスの構造解析

41 緒言

前章の第 3 章にてラマン分光法を用いて SP 系ガラスの構造解析により Qn分布を導き

出したことで耐水性と構造の関係についてある程度関連性を導くことができたリン

酸アニオンについてはQ0(orthophosphate)構造 gt Q

1(pyrophosphate)構造 gt Q2

(metaphosphate)構造の順で良耐水性となるしかしSn Nbおよび Znの局所構造につ

いては知見が得られていないラマン分光や IR分光などの分光学的手法を用いてSnや

Nb Zn の周辺の局所構造を知るには限界があるまたガラスの構造解析を行う上で非常

に重要な因子である中距離構造の評価には分光学的手法は不向きである[1]

そこで局所構造や中距離構造を知るために有効な手法として放射光線を用いた構造

解析がある放射光(SR 光)とはシンクロトロンなどの加速器で高速に加速された電子

が進行方向を磁場によって変えられた際に放射する電磁波である[2]エネルギーが高く

(短波長)輝度が高い特性を有している日本国内では兵庫県佐用町の SPring-8や茨城

県つくば市の高エネルギー加速器研究機構佐賀県鳥栖市の佐賀県立九州シンクロトロン

光研究センターなど複数個所に放射光施設が設置されている

放射光を用いたガラスの構造解析には一般的に高エネルギーX 線回折(High Energy

X-ray diffraction HEXRD)が用いられるこの回折実験から高い散乱ベクトル Q(= 4π sinθλ)

まで回折データが得られる多種類の原子から構成される物質の場合はFaber-Ziman 型[3]

の構造因子 S(Q)を用いる以下の式に示すようにFaber-Ziman 型構造因子 S(Q)は同種また

は異種の原子による相関の重み関数付の和として示される例として SiO2ガラスで説明す

ると構造因子 S(Q)は三種類の原子付の S(Q)の重み付の和として表されていることが分か

I(Q) 散乱断面積 ltgt 原子一個当たりの平均値 f(Q) 原子散乱因子 W 重み関数

通常の研究室で使用される X 線回折(XRD)装置で用いられる特性 X 線はCuKα線(λ

= 0154 nm 81 keV)が最も良く用いられより高いエネルギーの X 線が必要な場合は

MoKα線(λ = 0071 nm 175 keV)が使用される一方でSPring-8のビームライン BL04B2

で行われる高エネルギーX 線回折(HEXRD)測定で使用される SR のエネルギーは378 keV

58

~ が使用可能である[2]従ってガラス以外の液体のような非晶質物質にも非常に精度

よく構造解析が行われている[4]

また局所構造解析の一つに X線異常散乱法という測定方法がある[5 6]これは通常

の X 線回折実験では分離不可能な特定元素に関連する部分構造因子(散乱強度曲線)を得

ることができる手法である今回 HEXRD の測定時に使用したエネルギー614 keV では各元

素の異常散乱項のエネルギー依存性は確認されない(Fig 41)その一方でFig 42に示す

Sn の吸収端付近の 292 keV付近ではSnの異常分散項のエネルギー依存性が確認できる

つまりSnの吸収端近傍より低エネルギー(E)側の異なるエネルギーの X線(E1 E2)を

使って散乱強度を測定し各 E における異常分散項(f`)の変化(つまり高い E1 から低い

E2 の散乱強度の差分)を利用して Snに関する部分構造因子を求める構造解析が AXS 法で

あるこの測定法は古くから知られている方法ではあるが装置の測定条件や設備の問

題からなどから使用があまり普及していなかった[5 6]近年になり金属ガラスの構造解

析について徐々に報告が出てきており今後注目される測定法である

HEXRD および AXS 法などから得られたデータ実測の構造因子 S(Q)は一次元の限られ

た構造情報であるためガラスなどの非晶質物質の中距離構造を解明するためにはこれ

らのデータを基に三次元構造を求める必要がある三次元構造モデルの作成には逆モンテ

カルロ(RMC)シミュレーションを使用することが有効である[7]このシミュレーション

は任意で決めたシミュレーションボックス内の粒子をランダムに動かすことで実測の

構造因子 S(Q)を再現する三次元構造モデルを構築する方法である

SP ガラスについては分光学的手法について数多く報告があるが放射光を用いた回折

法はほとんど適用されていないそこで本研究では HEXRD および AXS 法を用いた構造

解析を行うことでSn Nb周りの構造を解明すると共にSNP ガラスの耐水性改善のメカ

ニズムについて考察したまたAXS 法の有効性についても検討した測定を行ったガラ

スはSP ガラスおよび最も耐水性の高かった 67S5N28P を選択した

42 実験方法

421 HEXRD AXS法

HEXRDはSPring-8のビームライン BL04B2 で測定を行ったエネルギー614 keV の X

線を用いた測定サンプルの厚みは09 mm (plusmn0005 mm)になるまで研磨を行った

AXS 測定はSPring-8のビームライン BL13XUを使用した(Fig 43)それぞれの測定し

た X 線のエネルギーについて以下に示す

①Sn K吸収端hellip292 keV near edgehellip291452 keV (-60 eV) far edgehellip289751 keV (-230 eV)

②Nb K吸収端hellip1899 keV near edgehellip189562 keV (-30 eV) far edgehellip187863 keV (-230 eV)

測定に使用したサンプルの厚さが015 - 030 mmとなるまで研磨を施した

SP ガラスについて50S50P 60S40P 67S33P の三組成のガラスを測定した70S30P に関

59

しては測定を試みたが放射光照射によって結晶化してしまいガラス部分の正確な構

造因子を得るための強度補正ができず解析を断念した

422 RMCのモデリング

Table 41 に RMC の各種パラメーターを示す粒子数は約 5000 個でそれに伴う boxの一

辺の長さは約 42 ~ 46 Ǻになった拘束条件にP の配位数が 4になるような条件を付け

加えたFig 44にSn2P2O7結晶および Sn3P2O8結晶の動径分布関数(RDF)をTable 32

にRDFから得られた第一近接距離[8 9] を示すこれらの数値を使用しcutoffを決定し

たNb-O についてはいくつかの文献値を参考にした[10 11]

各ガラスの RMCのモデリングは①HEXRDから得られた S(Q)のみ②S(Q)および AXS

から得られた部分構造因子を加えた場合でそれぞれ計算した

43 結果考察

最初にNbの AXSから得られたデータについて解析を試みたが妥当な構造モデルが得

られなかったためSnの AXSのみで解析を進めたNb2O5の量が 5 molと少量であったた

めあまり精度の高いデータが得られなかったと推測される

431 実測の HEXRDおよび AXSの結果

4311 実測 HEXRDの S(Q)

Fig 45 に実測HEXRDの S(Q)を示す四つの組成ともに実測HEXRDの S(Q)が得られ

Nb2O5添加の 67S5N28P ガラスでは Low Q 側に変化が確認された

4312 実測散乱強度曲線

Fig 46 に Snの散乱強度曲線を示す(a) の 67S33P のこの曲線からはfar edgeおよび

near edge のエネルギー間で差分が見られエネルギーの依存性が確認された50S50P

67S5N28P のガラスについても同じように差分が確認されたが(b)の 60S40P についてのみ

他とは若干異なる結果(緑丸)であったためRMC の構造解析には差分の構造因子ではな

くfar edge near edge 二つの構造因子を用いた

4313 全相関関数 T(r)

Fig 47 に全相関関数 T(r) を示すHEXRD から得られたものを実線でSnの AXS から

得られたものは点線で示し組成ごとに重ねて表示した図中に各ピークについて帰属し

ているがSnの T(r)からはSn-O Sn-P Sn-Snのみのピークを確認した

432 RMCの計算結果および考察

60

構造モデルの一例として67S5N28P ガラスの得られた構造モデルをFig 48に示す水

色の多面体 unitSnON 黄色の多面体 unitPO4 ピンクの多面体 unitNbONである以下

詳細な構造解析の結果および考察を記す

4321 RMCのフィッティング結果

RMCのフィッティング結果の一例として67S33P の HEXRD と Snの AXS の構造因子か

ら得た結果を示す(Fig 49)二つの構造因子を加えて計算した結果においてもHEXRD

の S(Q) AXS の S(Q)に各々に対する良好なフィッティング結果が得られた他の組成も

同様なフィッティング結果が得られた

4322得られた各 pairの平均配位数平均角度平均結合距離

RMCの結果によって得られた各 pairの平均配位数平均角度平均結合距離を Tables 43

に示す上段が HEXRD の S(Q)のみ下段が HEXRD に Sn の AXS の部分構造因子を加え

て結果である最下部は比較のためにSn2P2O7の情報を記載した[8]

P-O pairについてRMCモデル中の PON多面体に関して平均配位数 Nが 4および P-O

の平均結合距離が約 160Å平均結合角度angO-P-O が約 109degという結果が得られた組成

による大きな違いは確認されなかったのはP の配位数が 4になるように拘束条件をかけた

結果であると考えられるSnON多面体についてはSnO量の増加 = OP の増加であり平

均配位数 Nが 3 ~ 35へ増加した平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約

22Åで組成による大きな変化はほとんど見られなかったNb2O5を 5 mol添加したガラ

スではNbON多面体の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平均配位数 N約 4Nb-O 平均結

合距離約 20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O(約 105deg)と値が近いこと

また6配位ではなく 4配位として主に存在していることからSnO と同じような働きをし

ていると推測される

以上の結果からNb2O5添加の耐水性改善の要因として結合距離が Sn-O が約 22Åに対

し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強固にして

いることも一つの要因として考えられる

また67S5N28P ガラスの各多面体モデルを確認すると(Fig 410)P は PO4Snは SnO4

と SnO3Nbは NbO4をそれぞれ再現している

4323得られた各 pairの結合様式

RMC の結果により得られた各 pair の結合様式を Tables 44 に示す上段が HEXRD の

S(Q)のみ下段が HEXRDに Snの AXS の部分構造因子を加えた結果である最下部は比

較のためにSn2P2O7の情報を記載した[8]

結合様式に関してはPO4四面体は他の多面体も含めてほぼ頂点共有で存在している

SnON多面体についてはSnO 量が少ない配位数が 3 に近い場合頂点共有以外の共有の

61

割合も多くSnO 量が増えるにつれて頂点共有が主になり網目形成体として振舞ってい

ると考えられる組成によって平均結合距離や平均角度の大きな変化が見られなかったこ

とから平均配位数が結合様式を決める重要なファクターであるということも考えられる

またHEXRD と AXS 法の結果がほぼ同じであったこれは主成分が SnO のガラスであ

るためHEXRDでも十分に詳細な構造が得られたため大きな変化が現れなかったと考え

られるNbON 多面体はPO4 四面体と SnON 多面体とはほぼ頂点共有で繋がっている以

上の結果よりSnO量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体的に各多面体同士の

頂点共有が増えていることから耐水性の改善には頂点共有を多く含む構造であること

が重要である或いは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的となって

いるということが推測されるFig 411に 67S5N28P ガラスの構造モデルを示す各多面

体はほぼ頂点共有で繋がっていることが確認できる

4324 平均 BO数の比較

Tables 45にNMR Raman RMC(HEXRD) RMC(HEXRD + AXS)の平均BO数を示すRMC

から得られた平均 BO 数 nはNMR Raman と同様に Nb2O5の添加による大幅な減少が確認

されたしかしNMR Raman と比較すると全組成において数値が大きすぎで適当でない

50S50P の構造モデルを観るとPO4四面体間で3配位 O の存在が確認された(Fig 412)た

め実測で得られた n値を再現できるようなPO4四面体モデル間の繋がり方に関する拘束条

件を加えて RMCを計算する必要性があるまた仮に3配位 Oの存在があるとすると電

子状態の変化が生じていることがと示唆されるため分子軌道計算を用いて電子状態解析

を行い確認する必要がある

4325 耐水性の改善について

Nb2O5を添加のガラス構造への影響について①6配位ではなく 4配位として主に存在し

ていることからSnO と同じような働きをしていると推測される②結合距離が Sn-O が約

22Åに対し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強

固にしている③ガラス構造中で全体的に各多面体同士の頂点共有が増えている以上の

ことが判明した以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性

耐候性を改善した要因として考えられる

44 結言

本章では分光学的手法では評価できないガラスの中距離構造局所構造について理解

するために放射光を用いた構造解析を実施しSP ガラスの構造と耐水性改善について考

察したHEXRDおよび AXS法を用いて測定を行い得られたデータを RMCシミュレーシ

ョンにて解析を行った

解析の結果 Sn-O pair については平均配位数 Nが 3 ~ 35でSnO量の増加 = OP の増

62

加に伴い高くなった平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約 22Åであ

ったP-O Sn-Oについては組成による大きな変化はほとんど見られなかった67S5N28P

ガラスの Nb-O pair の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平均配位数約 4Nb-O 平均結合距

離約 20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O(約 105deg)と値が近いことま

た6配位ではなく 4配位として主に存在していることからSnOと同じような働き(網目

形成体)をしていると推測されるまた結合距離が Sn-O が約 22Åに対し Nb-O は約 20

Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強固にしていると言える

SnO 量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体的に各多面体同士の頂点共有が増え

ていることから耐水性の改善には頂点共有を多く含む構造であることが重要である

もしくは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的であることが推測さ

れる以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性耐候性を

改善した要因として考えられる

またAXS 法の有効性についても確認し効果的であることが判明したただし今回

は主成分が Sn の組成のガラスでありHEXRD でも十分に詳細な構造が得られたため

大きな差は現れなかった

参考文献

[1] 山根正之 安井至 和田正道 国分可紀 寺井良平 近藤敬 小川晋永編ガラス光学ハ

ンドブック 朝倉書店(1999)

[2]飯野潔 梅咲則正 NEW GLASS 19 [2] 31-40 (2004)

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[5] 早稲田嘉夫 齋藤正敏 放射光 10 [3] 299-315 (1997)

[6] 細川伸也 広島工業大学紀要研究編 46 197-204 (2012)

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MV Korolenko and PB Fabritchinyi J Chem Mater 17 284-290 (2005)

[9] M Mathew L W Schroeder and T H Jordan Acta Cryst B33 1812-1816 (1977)

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[11] D Munoz-Martin A Ruiz de La Cruz J M Fernandez-Navarro C Domingo J Solis and J

Gonzalo J appl Phys 110 023522 (2011)

63

Fig 41 各原子の異常分散項のエネルギー依存性

Fig 42 Sn の異常分散項のエネルギー依存性

64

Fig 43 SPring-8の BL13XU

65

Tab

le 4

1

RM

Cの各パラメーター

66

Fig 44 Sn2P2O7 Sn3P2O8結晶の RDF

Table 42 Sn2P2O7 Sn3P2O8結晶の各 pairの第一近接距離

67

Fig 45 得られた実測 HEXRDの S(Q)

68

Fig 46 Sn の異常散乱測定により得られた散乱強度のエネルギー依存性

(a)67S33P (b)60S40P

69

Fig 47 全相関関数 T(r)

太線 HEXRD より

細線 Sn の AXSより

70

Fig 48 67S5N28P ガラス構造のモデル

71

Fig 49 RMC フィッティングの結果

72

Tab

le 4

3 各

pairの平均配位数角度結合距離

73

Fig

4

10

67

S5

N2

8Pガラスの各多面体モデル

74

Tab

le 4

4 各

pairの結合様式

75

Fig 411 67S5N28P ガラスの構造モデル

76

Table 45 平均 BO 各数 nの比較

Fig 412 50S50P ガラスの構造モデル

77

第 5章 総括

本研究ではSP ガラスを対象とした本研究では鉛フリー代替ガラスまたは希土類フ

リー蛍光体として SP ガラスの新規高機能化を将来的に目指し問題点であるldquo化学的耐久

性rdquoの改善につながる知見を得ることを目的としたそこでまずSP ガラスを母体ガラ

スとし第三成分に Nb2O5を添加した Sn-Nb-P SNP ガラスZnO を添加した SZP ガラスを

作製し耐水性を中心とした物性評価を行った次に分光学的手法で構造解析を行い

Qn 分布を導き出した最後に放射光を用いた構造解析を行い耐水性改善に関する構造的

な考察を行った以下に本研究で行った検討内容を示す

(1)SPガラスおよび第三成分Nb2O5 ZnOを添加した三成分系SPガラスの物性評価(第 2章)

(2)SP 系ガラスの分光学的手法による Qn分布導出(第 3章)

(3)放射光を用いた SP 系ガラスの構造解析構造と耐水性改善の関連について(第 4章)

各章についてまとめた結果を以下に示す

第 2章

第 2章では二成分系および三成分系のリン酸塩系ガラスの各種物性(密度や熱的特性

耐水性)の評価を行った二成分系ではSP ガラスに加え良好な耐水性を有する鉄リン

酸塩(Fe2O3-P2O5)系ガラス(以下 FP ガラス)を比較のために三成分系では二成分系

の SP ガラスに Nb2O5を添加したニオブ含有 SP ガラス(SNP ガラス)および ZnO を添加し

た亜鉛含有 SP ガラス(SZP ガラス)を作製した

今回作製した SP 系ガラスは低ガラス転移温度を有していた各組成の温度域はSP

ガラスTg le 280 Sn-Nb-P SNPガラスTg le 3505SZP S5ZPガラスTg ≦ 450であった

各種 SP ガラスの耐水性試験の結果二成分系の SP ガラスよりも三成分系ガラスの方が

良好な耐水性を有していた65Sn-5Nb-30P 67S5N28P ガラスが最も耐水性が良好であり化

学的耐久性の改善には Nb2O5が ZnOよりも効果的であった

組成と耐水性に関してはDRおよび重量減がOP増加で単調に低下した結果が得られた

つまり耐水性を改善させるにはSP 系ガラスのガラス化範囲を拡大かつ OP を増大させ

る第三成分の添加が有効であることが示唆された

第 3章

第 3章ではSP 系ガラスの分光学的手法による Qn分布の導出を行ったラマン分光法を

用いて各ガラス系のリン酸塩アニオンの構造を簡易定量で評価し組成と構造の関係に

ついて考察した平均 BO 数 n と耐水性に関してはDR および重量減が平均 BO 数 nの減

少で単調に低下することが明らかとなった

平均 BO 数 n と OP の関係より耐水性改善には平均 BO 数 n を下げることそして

OP を上げることが重要であることが明らかになった

78

Nb5+の添加は平均 BO数を減少させるだけでなくOP も上げることからガラス構造

内の P-O-P 結合を減少させ水和反応加水分解反応が抑制され耐水性が大幅に改善さ

れることが示唆された故にNb2O5 のような高価数金属酸化物を添加することが効果的

であることが再度確認された

第 4章

耐水性向上についてより深く評価するためSP SNP ガラスの局所構造に関する知見を得

ることを目的に放射光を用いた構造解析を行った高エネルギーX 線回折(HEXRD)お

よび X 線異常散乱(AXS)法で測定したデータを再現する構造モデルを逆モンテカルロ

(RMC)シミュレーションで構築し構造解析を行った

RMC モデル中の PON多面体に関して平均配位数 Nが 4および P-O の平均結合距離が約

160Å平均結合角度angO-P-Oが約 109degという結果が得られた組成による大きな違いは確

認されなかったSnON多面体については平均配位数 N が 3~4 でSnO 量の増加に伴い 4

に近い値となった平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約 22Åで組成

による大きな変化は見られなかった

Nb2O5を 5 mol添加したガラスではNbON多面体の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平

均配位数N約4Nb-O平均結合距離約20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O

(約 105deg)と値が近いことまた6配位ではなく 4配位として主に存在していることから

SnO と同じような網目形成体として働いていると推測されたまた結合距離が Sn-O が約

22Åに対し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強

固にしていると考えられるまたSnO 量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体

的に各多面体同士の頂点共有が増えていることから耐水性の改善には頂点共有を多く

含む構造もしくは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的であること

が示唆された以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性

耐候性を改善した要因として考えられる

またAXS 法の有効性についても確認し効果的であることが判明したただし今回

は主成分が Snの組成のガラスでありHEXRD でも十分に詳細な Snの周辺構造が得られ

たためAXSを利用した場合との大きな構造の差は認められなかった

本研究では様々な優れた特徴を有する SP ガラスにおける耐水性改善のメカニズムにつ

いて検討を行ったこの系のガラスについてはこれまでほとんど利用されていなかった

放射光を用いた構造解析を駆使し第三成分の添加によってどのような構造的変化が生じ

耐水性を改善させるか新たな知見を得ることができた最終目標である機能性ガラスの

開発における新たなる材料設計指針の確立に対してldquo耐水性rdquoに関しては概ね明らかにな

ったと考えられる一方で今回検討していな電子状態化学結合性についても評価する

ことで溶出メカニズムの解明が可能になり材料設計指針の確立が期待される

79

発表論文リスト

口頭発表

第 2章および第 3章

(1) SnO-P2O5 系ガラスへの酸化物添加効果

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎

日本セラミックス協会第 25 回秋季シンポジウム No3C06 (名古屋市 2012年 9月)

(2) Effect of Nb2O5 addition to SnO-P2O5 glass (Poster)

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

International Union of Materials Research Societies International Conference on Electronic

Materials IUMRS-ICEM 2012 A-9-P26-003 (Yokohama 2012 年 9月)

(3) スズリン酸塩系ガラスの蛍光特性耐水性に及ばす酸化物の添加効果(ポスター)

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎

日本セラミックス協会 2013 年年会 1P070 (東京 2013年 3月)

第 4章

(1) 放射光を用いたスズリン酸塩ガラスの構造解析

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎小原真二臼杵毅

日本セラミックス協会第 27 回秋季シンポジウム 2B22 (鹿児島市 2014年 9 月)

(2) Structural analysis of tin phosphate glasses by synchrotron radiation (Poster)

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba Shinji Kohara Takeshi Usuki

International Congress on Glass ICG Annual Meeting Bangkok 2015 P14-138 p186 (2015)

発表論文

(1) Effect of Nb2O5 addition to SnO- P2O5 glass

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

Journal of the Ceramic Society of Japan Vol 120 No 11 pp530-533 (2012)

(2) Structural analysis of SnO- P2O5 glass

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

Journal of the Ceramic Society of Japan(準備中)

80

謝辞

本研究を遂行するにあたり終始暖かいご指導ご助言並びにご鞭撻を賜わりました岡

山大学大学院環境生命科学研究科 難波徳郎教授に心より感謝の意を表します

また本研究を遂行するにあたり懇切丁寧なご指導とご意見をしていただいた岡山大

学大学院環境生命科学研究科 紅野安彦准教授環境環理センター 崎田真一助教に心より

感謝いたします

本研究を遂行するにあたりラマン分光測定の使用についてご助言ご教授して頂い

た岡山大学自然科学研究科 藤井達生教授中西真助教に心より感謝の意を表します

Sn のメスバウアー測定の際に協力して頂いた岡山大学自然科学研究科先端自然科学教

育研究推進本部高田研究室 松本修治特任助教(当時旭硝子株式会社中央研究所)また

Feのメスバウアーを測定の際に協力して頂いた岡山大学自然科学研究科 藤井達生教授に

心より感謝の意を表します

固体 NMR の岡山大学自然科学研究科 早川聡教授に心より感謝の意を表します

本研究を遂行するにあたりSPring-8 にてHEXRD および AXS 法の測定法および原理

についてご教示頂きました物質材料研究機構 小原真司博士ならびに山形大学 臼杵毅

教授に心より感謝の意を表します

本研究は多くの後輩諸君の協力によって遂行されました特に実際に共同研究共同

実験を遂行して頂いたOG 藤原沙弥香さん博士前期課程 2 年 東利彦君OB 徳岡太誠

君学士課程 4年 塩田将大君に心より感謝の意を表しますまた難波研究室で共に研

究生活を過ごした卒業生在学生の方々に感謝の意を表します

また同時期に博士後期課程に在籍された香川高等専門学校の桟敷剛さんにはNbに

関する有益な情報だけでなく辛い状況でも励ましを頂きました心より感謝の意を表し

ます

最後に長きに渡る学生生活を認め経済面だけでなく精神面でも支援してくださった

家族に心より深く感謝の意を表します

平成 28年 3月

福井 聡史

Page 36: 博士論文 スズリン酸塩系ガラスの物性と構造解析ousar.lib.okayama-u.ac.jp/files/public/5/54353/...博士論文 スズリン酸塩系ガラスの物性と構造解析

33

Fig 218 Sn-Nb-P ガラスの XRD パターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

34

Fig 219 SNP ガラスの XRD パターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

35

Fig 220 5SZP ガラスの XRDパターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

36

Fig 221 S5ZP ガラスの XRDパターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

37

Fig 222 FP ガラスの XRD パターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

38

Fig 223 各ガラス系の DR と OP の関係性

39

Fig 224 各ガラス系の重量減と OP の関係性

40

第 3章 分光法を用いたスズリン酸塩系ガラスの構造解析

31 緒言

前章ではSP ガラスおよび第三成分に Nb2O5 ZnOを添加した Sn-Nb-P ガラスSNP ガラ

スSZP ガラスの物性特に耐水性に関する第三成分添加の有効性を明らかにしたその添

加した第三成分の二種類についてもNb2O5 の方が ZnO よりも溶出速度重量減ともに抑

制することができSP ガラスの低ガラス転移温度という特性も維持されていることが判明

したしかし現段階では本研究の主要な物性である耐水性改善の要因が明確になって

いない組成の観点からはOP の値が高い組成が良好な耐水性であることが分かったが

組成だけでは耐水性改善のメカニズムについて完全には理解できないここでリン酸塩

ガラスの溶出のメカニズムは第 1 章で述べたように加水分解反応と水和反応が要因とな

る[1 2]この機構はそれぞれリン酸の構造つまり架橋酸素 BO の数が大きく関わって

おりリン酸アニオンの[PO4]ユニットの架橋酸素数を知ることが重要であるこの BO の

情報を得るためにはガラス構造を示す指標の一つである Qn(n は[PO4]ユニット中の架橋

酸素数を表す)を調べることが必須であるまたQn の分布を調べるためにはガラスの

構造解析を行う必要性がある

ガラスの構造解析には種々の方法があり特にラマン分光法や赤外(IR)分光法核

磁気共鳴法(NMR)などの分光学的手法を用いた構造解析の報告が多い[3-5]ラマン分光

法および IR分光法は原理は異なるがどちらも結合の振動モードを測定する手法であり[6]

リン酸塩ガラスだけでなくケイ酸塩ガラスホウ酸塩ガラスなど様々なガラス系にて測

定がなされている[7 8]また得られた結合状態の情報からリン酸塩アニオンの Qn分布

を調べることも可能であるNMR は共鳴吸収ピークの化学シフト(共鳴周波数のズレ)

から構造を決定する手法であるガラスの場合SiO2や B2O3 P2O5といった網目形成酸化物

の Qn分布を得るために一般的に使用されている手法である[9]

今回これらの測定の中でラマン分光法を選択し構造解析を行ったラマン分光法は

測定する際にサンプル形状を気にすることなく基本的にそのまま測定できるためIR 分

光法のようにサンプル形状で測定方法を変える必要はないまたIR 分光法では例えば

KBr 錠剤法やヌジュール法のように測定を行うためのサンプル調整に手間がかかる場合が

ある[6]さらに比較対象の FP ガラスではNMR を測定できないため作製ガラスを全

て比較検討できるようにラマン分光法を選択した

本章ではラマン分光法を用いて各ガラスの構造解析を行い[PO4]ユニットの Qn分布を

調査し平均 BO数 nを算出することで耐水性と構造の関係性を検討したまたラマン

分光法によって得られた Qn分布の妥当性を確認するためにSP ガラスおよび 67S5N28P ガ

ラスの NMRを測定も行い比較した

32 実験方法

41

321 サンプル準備

ラマン分光およびメスバウアー分光の測定では第 2 章で作製した各ガラスのバルク体

を用いたWD試験に使用したサンプルとは別にラマン測定用のサンプルを用意した適

度な大きさ大体 15 cm角程度のサイズになるようにガラスカッターで切断しその後

十分な平滑性を得るために鏡面研磨を施した

322 ラマン分光測定

使用したラマン分光装置は顕微レーザーラマン分光装置(Jasco NRS-5100)を用いた

用いたレーザー波長は 53208 nmであり400 - 2000 cm-1の範囲で測定した

Qn 分布を導くためにピークフィッティングを行いリン酸塩アニオンのラマンバンド

が現れる950 - 1250 cm-1付近および 700 - 750cm-付近の範囲で定量した

323 31P MAS NMR測定

31P MAS NMRの測定は Varian NMR System 500 を用いて32 mmの MASプローブ

202309MHzにて行った測定パラメーターを以下に示すπ4 パルス長さ 14 μs 待ち時間

(pulse delay)10 s 積算回数 3600 scan シリンダー円筒形状の Zrローターの回転スピード

160 kHz referenceとして二番目の基準物質として使われる NH4H2PO4を使用化学シフト

は85 H3PO4溶液から δ = 10 ppmである

33 結果考察

331 各ガラス系のラマンスペクトル

Figs 31 - 35にラマンスペクトルを示す各ピークは以下の通りに帰属し各スペクト

ル中に該当する構造をピーク位置に示した

1230 - 1260 cm-1 P=O NBO Q

2 [10]

1110 - 1150 cm-1metaphosphate (PO3)

- Q

2 [10]

1030 - 1100 cm-1pyrophosphate (PO35)

2- Q

1 [10]

970 - 1000 cm-1orthophosphate (PO4)

3- Q

0 [10]

920 - 930 cm-1asymmetric (P-O-P) Q

1 [10]

730 - 750 cm-1symmetric (P-O-P) Q

1 [10]

710 - 720 cm-1asymmetric (P-O-P) Q

2 [10]

810 - 820 cm-1Nb-O [NbO4] tetrahedron [11]

900 - 920 cm-1Nb-O isolated [NbO6] octahedron [11]

42

SP ガラスのラマンスペクトル(Fig 31)を見ると50S50P 60S40P ではmetaphosphate

の Q2 構造が支配的であるがSnO 量が増えるにつれてその構造が変化し70S30P では

pyrophosphateの Q1構造と orthophosphateの Q

0構造が共存した構造となっているまたSnO

量の少ない 50S50P および 60S40P において確認されたQ2構造の P=O のピークが見えなく

なっているつまり耐水性と関連して考えるとSnO量が増えるにつれてP-O-P 結合か

ら Sn-O-P 結合に代わり水分子との反応である加水分解反応を妨げる構造に変化している

ことがわかる

Figs 32 33にNb2O5を添加した Sn-Nb-P ガラスおよび SNP ガラスのラマンスペクトル

を示すまずSn-Nb-P ガラスについてNb 無添加の 65Sn-0Nb-35P は主に Q1構造であ

りNbO25が添加されることによってQ0構造に変化しQ

1 Q

0構造が共存しているような

ピークが得られた添加量が少ないガラス系であるため徐々に変化しているのを確認し

た800 cm-1を少し越えた 810 - 820 cm

-1付近にNb2O5を添加することでピークが現れそ

して添加量を増量することで強度が強まるピークがありこのピークは四面体の[NbO4]

のものと判断した

SNP ガラスのラマンスペクトルについてはNb2O5添加量を固定した組成であるためSP

ガラスのような挙動が観察された50S50N45P では50S50P ガラスと同じようにQ2構造

が主な構造でありSnO量の増加に伴って60S5N35P Q1構造67S5N28P Q

0構造に支配

的な構造が変化しているこれはSP ガラスと同じ傾向を示しているためP-O-P rarr Sn-O-P

に置き替わっていることが示唆されるNb-O に関するピークでは50S5N45P のみ[NbO4]

四面体のピークを確認できず900 - 920 cm-1付近に[NbO6]八面体のピークが確認された

SnO量が増量した 60S5N35P では810 cm-1付近の [NbO4] 四面体のピークが現れているが

[NbO6]八面体のピークと 900 - 920 cm-1付近の Q

1構造のピークが非常に近い(ほぼ重なって

いる)ことから60S5N35P については[NbO4] 四面体および[NbO6]八面体の共存の可能性

も考えられるまた67S5NP28 では[NbO4] 四面体のみのピークが観察されたためこ

の Nb-O の配位数変化は[PO4] unitの状態によって変化している可能性も示唆された

ZnO を添加した S5ZP ガラスおよび 5SZP ガラスのラマンスペクトルを Fig 34 に示す

図の下部三つが S5ZP ガラス上部三つが 5SZP ガラスのスペクトルであるSZP ガラスの

二系統を比べるとあきらかなスペクトルの違いが確認された各ガラス系で確認すると

SnO 量が最小の 55S5Z40P はQ2構造と Q

1構造の範囲に跨っているようなスペクトルが得

られた62S5Z33P および 65S5Z30P のスペクトルからはどちらもほぼ Q1構造であると判

断した5SZP のスペクトルは1000 - 1250 cm-1付近の範囲で裾を引くような(なだらかな)

スペクトルが得られたZnO 量が最小の 5S55Z40P にはQ2構造が主な構造に見えるが

shoulderピークのような Q1構造(1030 - 1100 cm

-1)が確認できる5S62Z40P においては

1000 - 1250 cm-1付近の範囲まで幅広いスペクトルが得られた730 - 750 cm

-1付近にピーク

が現れているためおそらく Q1構造が最も多く存在していると考えられる65S5Z30P では

Q1構造Q

0構造が共存しているようなピークが得られた

43

FP ガラスのラマンスペクトルを Fig 35 に示すFe量の少ない 20F80P 25F75P と他の三

つで構造が異なっていることである20F80P 25F75P はQ2構造と Q

1構造が基本構造にな

っていると判断できる 30F70P は1110 - 1150 cm-1付近に shoulderピークのようなものがあ

りQ2 Q

1 Q

0構造が共存しているようなスペクトルであった35F65P 40F60P はQ1構造

が主な構造でQ0構造があると判断した

332 平均 BO数 n (Qn分布)

まずピーク分離について散乱断面積が見積もれなかったためラマンの散乱強度比

を Qn分布として簡易的にピーク分離を行い(Fig 36)そこから平均架橋酸素数 BO 数 n

を算出したここでFig 37 に 31P MAS NMRスペクトルを示しTable 31に NMRおよび

ラマン分光より得られた平均 BO 数 n を示す(NMR の帰属 reference [12])表よりNMR

とラマンから得られた Qn分布はほぼ一致していることが分かった60S40Pについては支

配構造が NMR(Q1) ラマン(Q

2)で逆になったこれは60S40P の組成がQ

2と Q1のほぼ中

間の組成になるためこのようなズレが生じたと考えられるしかし今回のラマンによ

る Qn分布の算出についてはほぼ問題ないと判断した

Table 32にラマンスペクトルより求めた Qn分布平均 BO 数 nをを示しTable 24に示

した DR 重量減の結果を併記する

SP ガラスのうち耐水性が低いガラスは Q2構造によって形成されているSnO量の増加

によって NBOの増加とともに耐水性の向上が確認できSnOが入ることでSn-O-P 結合を

形成し水分子からの攻撃を受けにくくなっていることが考えられる

Sn-Nb-P ガラスでは基本的に Q1構造が主構造でNb2O5の添加が増えるにつれQ

0構

造が支配的になり耐水性は次第に向上していく最も耐水性のよかった 65S-5Nb-30P は

Q0構造での割合が非常に高く平均 BO数 n値が 03であった

SNP ガラスではP2O5量が多い組成の 50S5N45Pにおいても平均 BO数 nが 60S40P と

同じながらも耐水性が良くなっている67S5N28P はほぼ完全に Q0構造であり平均 Q

n

値は 0となった

SZP ガラスについてはS5ZP 5ZSP のどちらの系列についても耐水性の結果に大きな差

というものは確認されなかったが構造的にも平均 BO数 nが 09 10 17という結果であ

った

FP ガラスについてはFe2O3 lt 30 molのときは平均 BO 数 nが20 19と高い数値を

示したが耐水性は非常に良好であったこの結果より組成だけでなく構造的にも耐

水性高くなる要因が不明である一つの原因の可能性としてメスバウアーより得られた

Fe2+の存在比が 40以上と高かったことがFe2O3含有量が少ない組成時には効果的になっ

ているのかもしれない

333 平均 BO数 nと耐水性の関係性

44

Fig 38に DRと平均 BO数 nの関係性についてFig 39に重量減と平均 BO数 nの関係

性をそれぞれ示すまたOP の時と同様に各図にリン酸塩の三つの構造の平均 BO数

n も表記した双方の図よりDR 重量減共に平均 BO 数 nが低下することで単調に下がっ

ていることが分かるまた耐水性の良かったNb2O5添加の Sn-Nb-P SNPガラスはの DR

の挙動(傾き)はOP 時とも異なった挙動が得られた

Fig 310に OP と平均 BO数 nの関係を示す図中に示す茶色metaphosphate 黄色

pyrophosphate 灰色orthophosphate であるこの図から耐水性改善には平均 BO 数

n を下げOP を上げることが重要であるのが分かるまたNb5+の添加はOP を上げる

だけでなく平均 BO 数も減少させることから非常に効果的な成分であることが明らかで

あるこれはP5+から同酸価数 Nb

5+に少量でも置き換えることで平均 BO 数 n を下げ

OP を上げることを可能としている(実際に orthophosphate の OP4 よりも高い OP でガ

ラスが作製できている)つまりNb5+の添加によって P-O-P 結合が減少し水和反応加

水分解反応が抑制されているからである

以上の結果SP 系ガラスの耐水性改善には低い平均 BO 数と高い OP の組成にするこ

とが重要でNb2O5の添加は非常に効果的であることが分かったその一方でガラス中の

詳細な構造的要因についてははっきりしていないため次章の第 4 章にてさらに詳し

い構造解析を行い耐水性改善の要因について調査を行った

34 結言

本章ではラマン分光を使用して各ガラス系のリン酸塩アニオンの構造を簡易定量で

評価し組成と構造の関係について考察した

平均 BO 数 n と耐水性に関してはDR および重量減が平均 BO 数 n の減少で単調に低下

した結果が得られた

平均 BO数 nと OP の図より耐水性改善には平均 BO数 nを下げることそして OP

を上げることが重要であることが明白であった

Nb5+の添加は平均 BO数を減少させるだけでなくOP も上げることからガラス構造内

の P-O-P 結合を減少させる故に水和反応加水分解反応が抑制され耐水性が大幅に

改善された故にNb2O5 のような高価数金属酸化物を添加することが効果的であること

が示唆された

参考文献

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46

Fig 31 SP ガラスのラマンスペクトル

47

Fig 32 Sn-Nb-P ガラスのラマンスペクトル

48

Fig 33 SNP ガラスのラマンスペクトル

49

Fig 34 SZP ガラスのラマンスペクトル

50

Fig 35 FP ガラスのラマンスペクトル

51

Fig 36 ラマンスペクトルのピーク分離例(67S5N28P)

Raman Shift (cm-1)

52

Fig 37 NMRスペクトル

Table 31 NMR およびラマン分光より得られた SP 67S5N28P ガラスの

Qn分布および平均 BO数 n

53

Table 32 各ガラスのラマンスペクトルより求めた Qn分布結果

(表の赤線より右側の結果は Table 22 より)

1 仕込み組成による数値

2 Fig 2212 に示した析出物を取り除いた後の数値

54

Fig 38 DR と平均 BO数 nの関係性

55

Fig 39 重量減と平均 BO数 nの関係性

56

Fig 310 OP と平均 BO数 nの関係性

Meta

Pyro

Ortho

57

第 4章 放射光を用いたスズリン酸塩系ガラスの構造解析

41 緒言

前章の第 3 章にてラマン分光法を用いて SP 系ガラスの構造解析により Qn分布を導き

出したことで耐水性と構造の関係についてある程度関連性を導くことができたリン

酸アニオンについてはQ0(orthophosphate)構造 gt Q

1(pyrophosphate)構造 gt Q2

(metaphosphate)構造の順で良耐水性となるしかしSn Nbおよび Znの局所構造につ

いては知見が得られていないラマン分光や IR分光などの分光学的手法を用いてSnや

Nb Zn の周辺の局所構造を知るには限界があるまたガラスの構造解析を行う上で非常

に重要な因子である中距離構造の評価には分光学的手法は不向きである[1]

そこで局所構造や中距離構造を知るために有効な手法として放射光線を用いた構造

解析がある放射光(SR 光)とはシンクロトロンなどの加速器で高速に加速された電子

が進行方向を磁場によって変えられた際に放射する電磁波である[2]エネルギーが高く

(短波長)輝度が高い特性を有している日本国内では兵庫県佐用町の SPring-8や茨城

県つくば市の高エネルギー加速器研究機構佐賀県鳥栖市の佐賀県立九州シンクロトロン

光研究センターなど複数個所に放射光施設が設置されている

放射光を用いたガラスの構造解析には一般的に高エネルギーX 線回折(High Energy

X-ray diffraction HEXRD)が用いられるこの回折実験から高い散乱ベクトル Q(= 4π sinθλ)

まで回折データが得られる多種類の原子から構成される物質の場合はFaber-Ziman 型[3]

の構造因子 S(Q)を用いる以下の式に示すようにFaber-Ziman 型構造因子 S(Q)は同種また

は異種の原子による相関の重み関数付の和として示される例として SiO2ガラスで説明す

ると構造因子 S(Q)は三種類の原子付の S(Q)の重み付の和として表されていることが分か

I(Q) 散乱断面積 ltgt 原子一個当たりの平均値 f(Q) 原子散乱因子 W 重み関数

通常の研究室で使用される X 線回折(XRD)装置で用いられる特性 X 線はCuKα線(λ

= 0154 nm 81 keV)が最も良く用いられより高いエネルギーの X 線が必要な場合は

MoKα線(λ = 0071 nm 175 keV)が使用される一方でSPring-8のビームライン BL04B2

で行われる高エネルギーX 線回折(HEXRD)測定で使用される SR のエネルギーは378 keV

58

~ が使用可能である[2]従ってガラス以外の液体のような非晶質物質にも非常に精度

よく構造解析が行われている[4]

また局所構造解析の一つに X線異常散乱法という測定方法がある[5 6]これは通常

の X 線回折実験では分離不可能な特定元素に関連する部分構造因子(散乱強度曲線)を得

ることができる手法である今回 HEXRD の測定時に使用したエネルギー614 keV では各元

素の異常散乱項のエネルギー依存性は確認されない(Fig 41)その一方でFig 42に示す

Sn の吸収端付近の 292 keV付近ではSnの異常分散項のエネルギー依存性が確認できる

つまりSnの吸収端近傍より低エネルギー(E)側の異なるエネルギーの X線(E1 E2)を

使って散乱強度を測定し各 E における異常分散項(f`)の変化(つまり高い E1 から低い

E2 の散乱強度の差分)を利用して Snに関する部分構造因子を求める構造解析が AXS 法で

あるこの測定法は古くから知られている方法ではあるが装置の測定条件や設備の問

題からなどから使用があまり普及していなかった[5 6]近年になり金属ガラスの構造解

析について徐々に報告が出てきており今後注目される測定法である

HEXRD および AXS 法などから得られたデータ実測の構造因子 S(Q)は一次元の限られ

た構造情報であるためガラスなどの非晶質物質の中距離構造を解明するためにはこれ

らのデータを基に三次元構造を求める必要がある三次元構造モデルの作成には逆モンテ

カルロ(RMC)シミュレーションを使用することが有効である[7]このシミュレーション

は任意で決めたシミュレーションボックス内の粒子をランダムに動かすことで実測の

構造因子 S(Q)を再現する三次元構造モデルを構築する方法である

SP ガラスについては分光学的手法について数多く報告があるが放射光を用いた回折

法はほとんど適用されていないそこで本研究では HEXRD および AXS 法を用いた構造

解析を行うことでSn Nb周りの構造を解明すると共にSNP ガラスの耐水性改善のメカ

ニズムについて考察したまたAXS 法の有効性についても検討した測定を行ったガラ

スはSP ガラスおよび最も耐水性の高かった 67S5N28P を選択した

42 実験方法

421 HEXRD AXS法

HEXRDはSPring-8のビームライン BL04B2 で測定を行ったエネルギー614 keV の X

線を用いた測定サンプルの厚みは09 mm (plusmn0005 mm)になるまで研磨を行った

AXS 測定はSPring-8のビームライン BL13XUを使用した(Fig 43)それぞれの測定し

た X 線のエネルギーについて以下に示す

①Sn K吸収端hellip292 keV near edgehellip291452 keV (-60 eV) far edgehellip289751 keV (-230 eV)

②Nb K吸収端hellip1899 keV near edgehellip189562 keV (-30 eV) far edgehellip187863 keV (-230 eV)

測定に使用したサンプルの厚さが015 - 030 mmとなるまで研磨を施した

SP ガラスについて50S50P 60S40P 67S33P の三組成のガラスを測定した70S30P に関

59

しては測定を試みたが放射光照射によって結晶化してしまいガラス部分の正確な構

造因子を得るための強度補正ができず解析を断念した

422 RMCのモデリング

Table 41 に RMC の各種パラメーターを示す粒子数は約 5000 個でそれに伴う boxの一

辺の長さは約 42 ~ 46 Ǻになった拘束条件にP の配位数が 4になるような条件を付け

加えたFig 44にSn2P2O7結晶および Sn3P2O8結晶の動径分布関数(RDF)をTable 32

にRDFから得られた第一近接距離[8 9] を示すこれらの数値を使用しcutoffを決定し

たNb-O についてはいくつかの文献値を参考にした[10 11]

各ガラスの RMCのモデリングは①HEXRDから得られた S(Q)のみ②S(Q)および AXS

から得られた部分構造因子を加えた場合でそれぞれ計算した

43 結果考察

最初にNbの AXSから得られたデータについて解析を試みたが妥当な構造モデルが得

られなかったためSnの AXSのみで解析を進めたNb2O5の量が 5 molと少量であったた

めあまり精度の高いデータが得られなかったと推測される

431 実測の HEXRDおよび AXSの結果

4311 実測 HEXRDの S(Q)

Fig 45 に実測HEXRDの S(Q)を示す四つの組成ともに実測HEXRDの S(Q)が得られ

Nb2O5添加の 67S5N28P ガラスでは Low Q 側に変化が確認された

4312 実測散乱強度曲線

Fig 46 に Snの散乱強度曲線を示す(a) の 67S33P のこの曲線からはfar edgeおよび

near edge のエネルギー間で差分が見られエネルギーの依存性が確認された50S50P

67S5N28P のガラスについても同じように差分が確認されたが(b)の 60S40P についてのみ

他とは若干異なる結果(緑丸)であったためRMC の構造解析には差分の構造因子ではな

くfar edge near edge 二つの構造因子を用いた

4313 全相関関数 T(r)

Fig 47 に全相関関数 T(r) を示すHEXRD から得られたものを実線でSnの AXS から

得られたものは点線で示し組成ごとに重ねて表示した図中に各ピークについて帰属し

ているがSnの T(r)からはSn-O Sn-P Sn-Snのみのピークを確認した

432 RMCの計算結果および考察

60

構造モデルの一例として67S5N28P ガラスの得られた構造モデルをFig 48に示す水

色の多面体 unitSnON 黄色の多面体 unitPO4 ピンクの多面体 unitNbONである以下

詳細な構造解析の結果および考察を記す

4321 RMCのフィッティング結果

RMCのフィッティング結果の一例として67S33P の HEXRD と Snの AXS の構造因子か

ら得た結果を示す(Fig 49)二つの構造因子を加えて計算した結果においてもHEXRD

の S(Q) AXS の S(Q)に各々に対する良好なフィッティング結果が得られた他の組成も

同様なフィッティング結果が得られた

4322得られた各 pairの平均配位数平均角度平均結合距離

RMCの結果によって得られた各 pairの平均配位数平均角度平均結合距離を Tables 43

に示す上段が HEXRD の S(Q)のみ下段が HEXRD に Sn の AXS の部分構造因子を加え

て結果である最下部は比較のためにSn2P2O7の情報を記載した[8]

P-O pairについてRMCモデル中の PON多面体に関して平均配位数 Nが 4および P-O

の平均結合距離が約 160Å平均結合角度angO-P-O が約 109degという結果が得られた組成

による大きな違いは確認されなかったのはP の配位数が 4になるように拘束条件をかけた

結果であると考えられるSnON多面体についてはSnO量の増加 = OP の増加であり平

均配位数 Nが 3 ~ 35へ増加した平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約

22Åで組成による大きな変化はほとんど見られなかったNb2O5を 5 mol添加したガラ

スではNbON多面体の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平均配位数 N約 4Nb-O 平均結

合距離約 20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O(約 105deg)と値が近いこと

また6配位ではなく 4配位として主に存在していることからSnO と同じような働きをし

ていると推測される

以上の結果からNb2O5添加の耐水性改善の要因として結合距離が Sn-O が約 22Åに対

し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強固にして

いることも一つの要因として考えられる

また67S5N28P ガラスの各多面体モデルを確認すると(Fig 410)P は PO4Snは SnO4

と SnO3Nbは NbO4をそれぞれ再現している

4323得られた各 pairの結合様式

RMC の結果により得られた各 pair の結合様式を Tables 44 に示す上段が HEXRD の

S(Q)のみ下段が HEXRDに Snの AXS の部分構造因子を加えた結果である最下部は比

較のためにSn2P2O7の情報を記載した[8]

結合様式に関してはPO4四面体は他の多面体も含めてほぼ頂点共有で存在している

SnON多面体についてはSnO 量が少ない配位数が 3 に近い場合頂点共有以外の共有の

61

割合も多くSnO 量が増えるにつれて頂点共有が主になり網目形成体として振舞ってい

ると考えられる組成によって平均結合距離や平均角度の大きな変化が見られなかったこ

とから平均配位数が結合様式を決める重要なファクターであるということも考えられる

またHEXRD と AXS 法の結果がほぼ同じであったこれは主成分が SnO のガラスであ

るためHEXRDでも十分に詳細な構造が得られたため大きな変化が現れなかったと考え

られるNbON 多面体はPO4 四面体と SnON 多面体とはほぼ頂点共有で繋がっている以

上の結果よりSnO量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体的に各多面体同士の

頂点共有が増えていることから耐水性の改善には頂点共有を多く含む構造であること

が重要である或いは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的となって

いるということが推測されるFig 411に 67S5N28P ガラスの構造モデルを示す各多面

体はほぼ頂点共有で繋がっていることが確認できる

4324 平均 BO数の比較

Tables 45にNMR Raman RMC(HEXRD) RMC(HEXRD + AXS)の平均BO数を示すRMC

から得られた平均 BO 数 nはNMR Raman と同様に Nb2O5の添加による大幅な減少が確認

されたしかしNMR Raman と比較すると全組成において数値が大きすぎで適当でない

50S50P の構造モデルを観るとPO4四面体間で3配位 O の存在が確認された(Fig 412)た

め実測で得られた n値を再現できるようなPO4四面体モデル間の繋がり方に関する拘束条

件を加えて RMCを計算する必要性があるまた仮に3配位 Oの存在があるとすると電

子状態の変化が生じていることがと示唆されるため分子軌道計算を用いて電子状態解析

を行い確認する必要がある

4325 耐水性の改善について

Nb2O5を添加のガラス構造への影響について①6配位ではなく 4配位として主に存在し

ていることからSnO と同じような働きをしていると推測される②結合距離が Sn-O が約

22Åに対し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強

固にしている③ガラス構造中で全体的に各多面体同士の頂点共有が増えている以上の

ことが判明した以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性

耐候性を改善した要因として考えられる

44 結言

本章では分光学的手法では評価できないガラスの中距離構造局所構造について理解

するために放射光を用いた構造解析を実施しSP ガラスの構造と耐水性改善について考

察したHEXRDおよび AXS法を用いて測定を行い得られたデータを RMCシミュレーシ

ョンにて解析を行った

解析の結果 Sn-O pair については平均配位数 Nが 3 ~ 35でSnO量の増加 = OP の増

62

加に伴い高くなった平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約 22Åであ

ったP-O Sn-Oについては組成による大きな変化はほとんど見られなかった67S5N28P

ガラスの Nb-O pair の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平均配位数約 4Nb-O 平均結合距

離約 20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O(約 105deg)と値が近いことま

た6配位ではなく 4配位として主に存在していることからSnOと同じような働き(網目

形成体)をしていると推測されるまた結合距離が Sn-O が約 22Åに対し Nb-O は約 20

Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強固にしていると言える

SnO 量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体的に各多面体同士の頂点共有が増え

ていることから耐水性の改善には頂点共有を多く含む構造であることが重要である

もしくは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的であることが推測さ

れる以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性耐候性を

改善した要因として考えられる

またAXS 法の有効性についても確認し効果的であることが判明したただし今回

は主成分が Sn の組成のガラスでありHEXRD でも十分に詳細な構造が得られたため

大きな差は現れなかった

参考文献

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63

Fig 41 各原子の異常分散項のエネルギー依存性

Fig 42 Sn の異常分散項のエネルギー依存性

64

Fig 43 SPring-8の BL13XU

65

Tab

le 4

1

RM

Cの各パラメーター

66

Fig 44 Sn2P2O7 Sn3P2O8結晶の RDF

Table 42 Sn2P2O7 Sn3P2O8結晶の各 pairの第一近接距離

67

Fig 45 得られた実測 HEXRDの S(Q)

68

Fig 46 Sn の異常散乱測定により得られた散乱強度のエネルギー依存性

(a)67S33P (b)60S40P

69

Fig 47 全相関関数 T(r)

太線 HEXRD より

細線 Sn の AXSより

70

Fig 48 67S5N28P ガラス構造のモデル

71

Fig 49 RMC フィッティングの結果

72

Tab

le 4

3 各

pairの平均配位数角度結合距離

73

Fig

4

10

67

S5

N2

8Pガラスの各多面体モデル

74

Tab

le 4

4 各

pairの結合様式

75

Fig 411 67S5N28P ガラスの構造モデル

76

Table 45 平均 BO 各数 nの比較

Fig 412 50S50P ガラスの構造モデル

77

第 5章 総括

本研究ではSP ガラスを対象とした本研究では鉛フリー代替ガラスまたは希土類フ

リー蛍光体として SP ガラスの新規高機能化を将来的に目指し問題点であるldquo化学的耐久

性rdquoの改善につながる知見を得ることを目的としたそこでまずSP ガラスを母体ガラ

スとし第三成分に Nb2O5を添加した Sn-Nb-P SNP ガラスZnO を添加した SZP ガラスを

作製し耐水性を中心とした物性評価を行った次に分光学的手法で構造解析を行い

Qn 分布を導き出した最後に放射光を用いた構造解析を行い耐水性改善に関する構造的

な考察を行った以下に本研究で行った検討内容を示す

(1)SPガラスおよび第三成分Nb2O5 ZnOを添加した三成分系SPガラスの物性評価(第 2章)

(2)SP 系ガラスの分光学的手法による Qn分布導出(第 3章)

(3)放射光を用いた SP 系ガラスの構造解析構造と耐水性改善の関連について(第 4章)

各章についてまとめた結果を以下に示す

第 2章

第 2章では二成分系および三成分系のリン酸塩系ガラスの各種物性(密度や熱的特性

耐水性)の評価を行った二成分系ではSP ガラスに加え良好な耐水性を有する鉄リン

酸塩(Fe2O3-P2O5)系ガラス(以下 FP ガラス)を比較のために三成分系では二成分系

の SP ガラスに Nb2O5を添加したニオブ含有 SP ガラス(SNP ガラス)および ZnO を添加し

た亜鉛含有 SP ガラス(SZP ガラス)を作製した

今回作製した SP 系ガラスは低ガラス転移温度を有していた各組成の温度域はSP

ガラスTg le 280 Sn-Nb-P SNPガラスTg le 3505SZP S5ZPガラスTg ≦ 450であった

各種 SP ガラスの耐水性試験の結果二成分系の SP ガラスよりも三成分系ガラスの方が

良好な耐水性を有していた65Sn-5Nb-30P 67S5N28P ガラスが最も耐水性が良好であり化

学的耐久性の改善には Nb2O5が ZnOよりも効果的であった

組成と耐水性に関してはDRおよび重量減がOP増加で単調に低下した結果が得られた

つまり耐水性を改善させるにはSP 系ガラスのガラス化範囲を拡大かつ OP を増大させ

る第三成分の添加が有効であることが示唆された

第 3章

第 3章ではSP 系ガラスの分光学的手法による Qn分布の導出を行ったラマン分光法を

用いて各ガラス系のリン酸塩アニオンの構造を簡易定量で評価し組成と構造の関係に

ついて考察した平均 BO 数 n と耐水性に関してはDR および重量減が平均 BO 数 nの減

少で単調に低下することが明らかとなった

平均 BO 数 n と OP の関係より耐水性改善には平均 BO 数 n を下げることそして

OP を上げることが重要であることが明らかになった

78

Nb5+の添加は平均 BO数を減少させるだけでなくOP も上げることからガラス構造

内の P-O-P 結合を減少させ水和反応加水分解反応が抑制され耐水性が大幅に改善さ

れることが示唆された故にNb2O5 のような高価数金属酸化物を添加することが効果的

であることが再度確認された

第 4章

耐水性向上についてより深く評価するためSP SNP ガラスの局所構造に関する知見を得

ることを目的に放射光を用いた構造解析を行った高エネルギーX 線回折(HEXRD)お

よび X 線異常散乱(AXS)法で測定したデータを再現する構造モデルを逆モンテカルロ

(RMC)シミュレーションで構築し構造解析を行った

RMC モデル中の PON多面体に関して平均配位数 Nが 4および P-O の平均結合距離が約

160Å平均結合角度angO-P-Oが約 109degという結果が得られた組成による大きな違いは確

認されなかったSnON多面体については平均配位数 N が 3~4 でSnO 量の増加に伴い 4

に近い値となった平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約 22Åで組成

による大きな変化は見られなかった

Nb2O5を 5 mol添加したガラスではNbON多面体の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平

均配位数N約4Nb-O平均結合距離約20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O

(約 105deg)と値が近いことまた6配位ではなく 4配位として主に存在していることから

SnO と同じような網目形成体として働いていると推測されたまた結合距離が Sn-O が約

22Åに対し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強

固にしていると考えられるまたSnO 量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体

的に各多面体同士の頂点共有が増えていることから耐水性の改善には頂点共有を多く

含む構造もしくは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的であること

が示唆された以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性

耐候性を改善した要因として考えられる

またAXS 法の有効性についても確認し効果的であることが判明したただし今回

は主成分が Snの組成のガラスでありHEXRD でも十分に詳細な Snの周辺構造が得られ

たためAXSを利用した場合との大きな構造の差は認められなかった

本研究では様々な優れた特徴を有する SP ガラスにおける耐水性改善のメカニズムにつ

いて検討を行ったこの系のガラスについてはこれまでほとんど利用されていなかった

放射光を用いた構造解析を駆使し第三成分の添加によってどのような構造的変化が生じ

耐水性を改善させるか新たな知見を得ることができた最終目標である機能性ガラスの

開発における新たなる材料設計指針の確立に対してldquo耐水性rdquoに関しては概ね明らかにな

ったと考えられる一方で今回検討していな電子状態化学結合性についても評価する

ことで溶出メカニズムの解明が可能になり材料設計指針の確立が期待される

79

発表論文リスト

口頭発表

第 2章および第 3章

(1) SnO-P2O5 系ガラスへの酸化物添加効果

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎

日本セラミックス協会第 25 回秋季シンポジウム No3C06 (名古屋市 2012年 9月)

(2) Effect of Nb2O5 addition to SnO-P2O5 glass (Poster)

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

International Union of Materials Research Societies International Conference on Electronic

Materials IUMRS-ICEM 2012 A-9-P26-003 (Yokohama 2012 年 9月)

(3) スズリン酸塩系ガラスの蛍光特性耐水性に及ばす酸化物の添加効果(ポスター)

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎

日本セラミックス協会 2013 年年会 1P070 (東京 2013年 3月)

第 4章

(1) 放射光を用いたスズリン酸塩ガラスの構造解析

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎小原真二臼杵毅

日本セラミックス協会第 27 回秋季シンポジウム 2B22 (鹿児島市 2014年 9 月)

(2) Structural analysis of tin phosphate glasses by synchrotron radiation (Poster)

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba Shinji Kohara Takeshi Usuki

International Congress on Glass ICG Annual Meeting Bangkok 2015 P14-138 p186 (2015)

発表論文

(1) Effect of Nb2O5 addition to SnO- P2O5 glass

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

Journal of the Ceramic Society of Japan Vol 120 No 11 pp530-533 (2012)

(2) Structural analysis of SnO- P2O5 glass

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

Journal of the Ceramic Society of Japan(準備中)

80

謝辞

本研究を遂行するにあたり終始暖かいご指導ご助言並びにご鞭撻を賜わりました岡

山大学大学院環境生命科学研究科 難波徳郎教授に心より感謝の意を表します

また本研究を遂行するにあたり懇切丁寧なご指導とご意見をしていただいた岡山大

学大学院環境生命科学研究科 紅野安彦准教授環境環理センター 崎田真一助教に心より

感謝いたします

本研究を遂行するにあたりラマン分光測定の使用についてご助言ご教授して頂い

た岡山大学自然科学研究科 藤井達生教授中西真助教に心より感謝の意を表します

Sn のメスバウアー測定の際に協力して頂いた岡山大学自然科学研究科先端自然科学教

育研究推進本部高田研究室 松本修治特任助教(当時旭硝子株式会社中央研究所)また

Feのメスバウアーを測定の際に協力して頂いた岡山大学自然科学研究科 藤井達生教授に

心より感謝の意を表します

固体 NMR の岡山大学自然科学研究科 早川聡教授に心より感謝の意を表します

本研究を遂行するにあたりSPring-8 にてHEXRD および AXS 法の測定法および原理

についてご教示頂きました物質材料研究機構 小原真司博士ならびに山形大学 臼杵毅

教授に心より感謝の意を表します

本研究は多くの後輩諸君の協力によって遂行されました特に実際に共同研究共同

実験を遂行して頂いたOG 藤原沙弥香さん博士前期課程 2 年 東利彦君OB 徳岡太誠

君学士課程 4年 塩田将大君に心より感謝の意を表しますまた難波研究室で共に研

究生活を過ごした卒業生在学生の方々に感謝の意を表します

また同時期に博士後期課程に在籍された香川高等専門学校の桟敷剛さんにはNbに

関する有益な情報だけでなく辛い状況でも励ましを頂きました心より感謝の意を表し

ます

最後に長きに渡る学生生活を認め経済面だけでなく精神面でも支援してくださった

家族に心より深く感謝の意を表します

平成 28年 3月

福井 聡史

Page 37: 博士論文 スズリン酸塩系ガラスの物性と構造解析ousar.lib.okayama-u.ac.jp/files/public/5/54353/...博士論文 スズリン酸塩系ガラスの物性と構造解析

34

Fig 219 SNP ガラスの XRD パターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

35

Fig 220 5SZP ガラスの XRDパターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

36

Fig 221 S5ZP ガラスの XRDパターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

37

Fig 222 FP ガラスの XRD パターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

38

Fig 223 各ガラス系の DR と OP の関係性

39

Fig 224 各ガラス系の重量減と OP の関係性

40

第 3章 分光法を用いたスズリン酸塩系ガラスの構造解析

31 緒言

前章ではSP ガラスおよび第三成分に Nb2O5 ZnOを添加した Sn-Nb-P ガラスSNP ガラ

スSZP ガラスの物性特に耐水性に関する第三成分添加の有効性を明らかにしたその添

加した第三成分の二種類についてもNb2O5 の方が ZnO よりも溶出速度重量減ともに抑

制することができSP ガラスの低ガラス転移温度という特性も維持されていることが判明

したしかし現段階では本研究の主要な物性である耐水性改善の要因が明確になって

いない組成の観点からはOP の値が高い組成が良好な耐水性であることが分かったが

組成だけでは耐水性改善のメカニズムについて完全には理解できないここでリン酸塩

ガラスの溶出のメカニズムは第 1 章で述べたように加水分解反応と水和反応が要因とな

る[1 2]この機構はそれぞれリン酸の構造つまり架橋酸素 BO の数が大きく関わって

おりリン酸アニオンの[PO4]ユニットの架橋酸素数を知ることが重要であるこの BO の

情報を得るためにはガラス構造を示す指標の一つである Qn(n は[PO4]ユニット中の架橋

酸素数を表す)を調べることが必須であるまたQn の分布を調べるためにはガラスの

構造解析を行う必要性がある

ガラスの構造解析には種々の方法があり特にラマン分光法や赤外(IR)分光法核

磁気共鳴法(NMR)などの分光学的手法を用いた構造解析の報告が多い[3-5]ラマン分光

法および IR分光法は原理は異なるがどちらも結合の振動モードを測定する手法であり[6]

リン酸塩ガラスだけでなくケイ酸塩ガラスホウ酸塩ガラスなど様々なガラス系にて測

定がなされている[7 8]また得られた結合状態の情報からリン酸塩アニオンの Qn分布

を調べることも可能であるNMR は共鳴吸収ピークの化学シフト(共鳴周波数のズレ)

から構造を決定する手法であるガラスの場合SiO2や B2O3 P2O5といった網目形成酸化物

の Qn分布を得るために一般的に使用されている手法である[9]

今回これらの測定の中でラマン分光法を選択し構造解析を行ったラマン分光法は

測定する際にサンプル形状を気にすることなく基本的にそのまま測定できるためIR 分

光法のようにサンプル形状で測定方法を変える必要はないまたIR 分光法では例えば

KBr 錠剤法やヌジュール法のように測定を行うためのサンプル調整に手間がかかる場合が

ある[6]さらに比較対象の FP ガラスではNMR を測定できないため作製ガラスを全

て比較検討できるようにラマン分光法を選択した

本章ではラマン分光法を用いて各ガラスの構造解析を行い[PO4]ユニットの Qn分布を

調査し平均 BO数 nを算出することで耐水性と構造の関係性を検討したまたラマン

分光法によって得られた Qn分布の妥当性を確認するためにSP ガラスおよび 67S5N28P ガ

ラスの NMRを測定も行い比較した

32 実験方法

41

321 サンプル準備

ラマン分光およびメスバウアー分光の測定では第 2 章で作製した各ガラスのバルク体

を用いたWD試験に使用したサンプルとは別にラマン測定用のサンプルを用意した適

度な大きさ大体 15 cm角程度のサイズになるようにガラスカッターで切断しその後

十分な平滑性を得るために鏡面研磨を施した

322 ラマン分光測定

使用したラマン分光装置は顕微レーザーラマン分光装置(Jasco NRS-5100)を用いた

用いたレーザー波長は 53208 nmであり400 - 2000 cm-1の範囲で測定した

Qn 分布を導くためにピークフィッティングを行いリン酸塩アニオンのラマンバンド

が現れる950 - 1250 cm-1付近および 700 - 750cm-付近の範囲で定量した

323 31P MAS NMR測定

31P MAS NMRの測定は Varian NMR System 500 を用いて32 mmの MASプローブ

202309MHzにて行った測定パラメーターを以下に示すπ4 パルス長さ 14 μs 待ち時間

(pulse delay)10 s 積算回数 3600 scan シリンダー円筒形状の Zrローターの回転スピード

160 kHz referenceとして二番目の基準物質として使われる NH4H2PO4を使用化学シフト

は85 H3PO4溶液から δ = 10 ppmである

33 結果考察

331 各ガラス系のラマンスペクトル

Figs 31 - 35にラマンスペクトルを示す各ピークは以下の通りに帰属し各スペクト

ル中に該当する構造をピーク位置に示した

1230 - 1260 cm-1 P=O NBO Q

2 [10]

1110 - 1150 cm-1metaphosphate (PO3)

- Q

2 [10]

1030 - 1100 cm-1pyrophosphate (PO35)

2- Q

1 [10]

970 - 1000 cm-1orthophosphate (PO4)

3- Q

0 [10]

920 - 930 cm-1asymmetric (P-O-P) Q

1 [10]

730 - 750 cm-1symmetric (P-O-P) Q

1 [10]

710 - 720 cm-1asymmetric (P-O-P) Q

2 [10]

810 - 820 cm-1Nb-O [NbO4] tetrahedron [11]

900 - 920 cm-1Nb-O isolated [NbO6] octahedron [11]

42

SP ガラスのラマンスペクトル(Fig 31)を見ると50S50P 60S40P ではmetaphosphate

の Q2 構造が支配的であるがSnO 量が増えるにつれてその構造が変化し70S30P では

pyrophosphateの Q1構造と orthophosphateの Q

0構造が共存した構造となっているまたSnO

量の少ない 50S50P および 60S40P において確認されたQ2構造の P=O のピークが見えなく

なっているつまり耐水性と関連して考えるとSnO量が増えるにつれてP-O-P 結合か

ら Sn-O-P 結合に代わり水分子との反応である加水分解反応を妨げる構造に変化している

ことがわかる

Figs 32 33にNb2O5を添加した Sn-Nb-P ガラスおよび SNP ガラスのラマンスペクトル

を示すまずSn-Nb-P ガラスについてNb 無添加の 65Sn-0Nb-35P は主に Q1構造であ

りNbO25が添加されることによってQ0構造に変化しQ

1 Q

0構造が共存しているような

ピークが得られた添加量が少ないガラス系であるため徐々に変化しているのを確認し

た800 cm-1を少し越えた 810 - 820 cm

-1付近にNb2O5を添加することでピークが現れそ

して添加量を増量することで強度が強まるピークがありこのピークは四面体の[NbO4]

のものと判断した

SNP ガラスのラマンスペクトルについてはNb2O5添加量を固定した組成であるためSP

ガラスのような挙動が観察された50S50N45P では50S50P ガラスと同じようにQ2構造

が主な構造でありSnO量の増加に伴って60S5N35P Q1構造67S5N28P Q

0構造に支配

的な構造が変化しているこれはSP ガラスと同じ傾向を示しているためP-O-P rarr Sn-O-P

に置き替わっていることが示唆されるNb-O に関するピークでは50S5N45P のみ[NbO4]

四面体のピークを確認できず900 - 920 cm-1付近に[NbO6]八面体のピークが確認された

SnO量が増量した 60S5N35P では810 cm-1付近の [NbO4] 四面体のピークが現れているが

[NbO6]八面体のピークと 900 - 920 cm-1付近の Q

1構造のピークが非常に近い(ほぼ重なって

いる)ことから60S5N35P については[NbO4] 四面体および[NbO6]八面体の共存の可能性

も考えられるまた67S5NP28 では[NbO4] 四面体のみのピークが観察されたためこ

の Nb-O の配位数変化は[PO4] unitの状態によって変化している可能性も示唆された

ZnO を添加した S5ZP ガラスおよび 5SZP ガラスのラマンスペクトルを Fig 34 に示す

図の下部三つが S5ZP ガラス上部三つが 5SZP ガラスのスペクトルであるSZP ガラスの

二系統を比べるとあきらかなスペクトルの違いが確認された各ガラス系で確認すると

SnO 量が最小の 55S5Z40P はQ2構造と Q

1構造の範囲に跨っているようなスペクトルが得

られた62S5Z33P および 65S5Z30P のスペクトルからはどちらもほぼ Q1構造であると判

断した5SZP のスペクトルは1000 - 1250 cm-1付近の範囲で裾を引くような(なだらかな)

スペクトルが得られたZnO 量が最小の 5S55Z40P にはQ2構造が主な構造に見えるが

shoulderピークのような Q1構造(1030 - 1100 cm

-1)が確認できる5S62Z40P においては

1000 - 1250 cm-1付近の範囲まで幅広いスペクトルが得られた730 - 750 cm

-1付近にピーク

が現れているためおそらく Q1構造が最も多く存在していると考えられる65S5Z30P では

Q1構造Q

0構造が共存しているようなピークが得られた

43

FP ガラスのラマンスペクトルを Fig 35 に示すFe量の少ない 20F80P 25F75P と他の三

つで構造が異なっていることである20F80P 25F75P はQ2構造と Q

1構造が基本構造にな

っていると判断できる 30F70P は1110 - 1150 cm-1付近に shoulderピークのようなものがあ

りQ2 Q

1 Q

0構造が共存しているようなスペクトルであった35F65P 40F60P はQ1構造

が主な構造でQ0構造があると判断した

332 平均 BO数 n (Qn分布)

まずピーク分離について散乱断面積が見積もれなかったためラマンの散乱強度比

を Qn分布として簡易的にピーク分離を行い(Fig 36)そこから平均架橋酸素数 BO 数 n

を算出したここでFig 37 に 31P MAS NMRスペクトルを示しTable 31に NMRおよび

ラマン分光より得られた平均 BO 数 n を示す(NMR の帰属 reference [12])表よりNMR

とラマンから得られた Qn分布はほぼ一致していることが分かった60S40Pについては支

配構造が NMR(Q1) ラマン(Q

2)で逆になったこれは60S40P の組成がQ

2と Q1のほぼ中

間の組成になるためこのようなズレが生じたと考えられるしかし今回のラマンによ

る Qn分布の算出についてはほぼ問題ないと判断した

Table 32にラマンスペクトルより求めた Qn分布平均 BO 数 nをを示しTable 24に示

した DR 重量減の結果を併記する

SP ガラスのうち耐水性が低いガラスは Q2構造によって形成されているSnO量の増加

によって NBOの増加とともに耐水性の向上が確認できSnOが入ることでSn-O-P 結合を

形成し水分子からの攻撃を受けにくくなっていることが考えられる

Sn-Nb-P ガラスでは基本的に Q1構造が主構造でNb2O5の添加が増えるにつれQ

0構

造が支配的になり耐水性は次第に向上していく最も耐水性のよかった 65S-5Nb-30P は

Q0構造での割合が非常に高く平均 BO数 n値が 03であった

SNP ガラスではP2O5量が多い組成の 50S5N45Pにおいても平均 BO数 nが 60S40P と

同じながらも耐水性が良くなっている67S5N28P はほぼ完全に Q0構造であり平均 Q

n

値は 0となった

SZP ガラスについてはS5ZP 5ZSP のどちらの系列についても耐水性の結果に大きな差

というものは確認されなかったが構造的にも平均 BO数 nが 09 10 17という結果であ

った

FP ガラスについてはFe2O3 lt 30 molのときは平均 BO 数 nが20 19と高い数値を

示したが耐水性は非常に良好であったこの結果より組成だけでなく構造的にも耐

水性高くなる要因が不明である一つの原因の可能性としてメスバウアーより得られた

Fe2+の存在比が 40以上と高かったことがFe2O3含有量が少ない組成時には効果的になっ

ているのかもしれない

333 平均 BO数 nと耐水性の関係性

44

Fig 38に DRと平均 BO数 nの関係性についてFig 39に重量減と平均 BO数 nの関係

性をそれぞれ示すまたOP の時と同様に各図にリン酸塩の三つの構造の平均 BO数

n も表記した双方の図よりDR 重量減共に平均 BO 数 nが低下することで単調に下がっ

ていることが分かるまた耐水性の良かったNb2O5添加の Sn-Nb-P SNPガラスはの DR

の挙動(傾き)はOP 時とも異なった挙動が得られた

Fig 310に OP と平均 BO数 nの関係を示す図中に示す茶色metaphosphate 黄色

pyrophosphate 灰色orthophosphate であるこの図から耐水性改善には平均 BO 数

n を下げOP を上げることが重要であるのが分かるまたNb5+の添加はOP を上げる

だけでなく平均 BO 数も減少させることから非常に効果的な成分であることが明らかで

あるこれはP5+から同酸価数 Nb

5+に少量でも置き換えることで平均 BO 数 n を下げ

OP を上げることを可能としている(実際に orthophosphate の OP4 よりも高い OP でガ

ラスが作製できている)つまりNb5+の添加によって P-O-P 結合が減少し水和反応加

水分解反応が抑制されているからである

以上の結果SP 系ガラスの耐水性改善には低い平均 BO 数と高い OP の組成にするこ

とが重要でNb2O5の添加は非常に効果的であることが分かったその一方でガラス中の

詳細な構造的要因についてははっきりしていないため次章の第 4 章にてさらに詳し

い構造解析を行い耐水性改善の要因について調査を行った

34 結言

本章ではラマン分光を使用して各ガラス系のリン酸塩アニオンの構造を簡易定量で

評価し組成と構造の関係について考察した

平均 BO 数 n と耐水性に関してはDR および重量減が平均 BO 数 n の減少で単調に低下

した結果が得られた

平均 BO数 nと OP の図より耐水性改善には平均 BO数 nを下げることそして OP

を上げることが重要であることが明白であった

Nb5+の添加は平均 BO数を減少させるだけでなくOP も上げることからガラス構造内

の P-O-P 結合を減少させる故に水和反応加水分解反応が抑制され耐水性が大幅に

改善された故にNb2O5 のような高価数金属酸化物を添加することが効果的であること

が示唆された

参考文献

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46

Fig 31 SP ガラスのラマンスペクトル

47

Fig 32 Sn-Nb-P ガラスのラマンスペクトル

48

Fig 33 SNP ガラスのラマンスペクトル

49

Fig 34 SZP ガラスのラマンスペクトル

50

Fig 35 FP ガラスのラマンスペクトル

51

Fig 36 ラマンスペクトルのピーク分離例(67S5N28P)

Raman Shift (cm-1)

52

Fig 37 NMRスペクトル

Table 31 NMR およびラマン分光より得られた SP 67S5N28P ガラスの

Qn分布および平均 BO数 n

53

Table 32 各ガラスのラマンスペクトルより求めた Qn分布結果

(表の赤線より右側の結果は Table 22 より)

1 仕込み組成による数値

2 Fig 2212 に示した析出物を取り除いた後の数値

54

Fig 38 DR と平均 BO数 nの関係性

55

Fig 39 重量減と平均 BO数 nの関係性

56

Fig 310 OP と平均 BO数 nの関係性

Meta

Pyro

Ortho

57

第 4章 放射光を用いたスズリン酸塩系ガラスの構造解析

41 緒言

前章の第 3 章にてラマン分光法を用いて SP 系ガラスの構造解析により Qn分布を導き

出したことで耐水性と構造の関係についてある程度関連性を導くことができたリン

酸アニオンについてはQ0(orthophosphate)構造 gt Q

1(pyrophosphate)構造 gt Q2

(metaphosphate)構造の順で良耐水性となるしかしSn Nbおよび Znの局所構造につ

いては知見が得られていないラマン分光や IR分光などの分光学的手法を用いてSnや

Nb Zn の周辺の局所構造を知るには限界があるまたガラスの構造解析を行う上で非常

に重要な因子である中距離構造の評価には分光学的手法は不向きである[1]

そこで局所構造や中距離構造を知るために有効な手法として放射光線を用いた構造

解析がある放射光(SR 光)とはシンクロトロンなどの加速器で高速に加速された電子

が進行方向を磁場によって変えられた際に放射する電磁波である[2]エネルギーが高く

(短波長)輝度が高い特性を有している日本国内では兵庫県佐用町の SPring-8や茨城

県つくば市の高エネルギー加速器研究機構佐賀県鳥栖市の佐賀県立九州シンクロトロン

光研究センターなど複数個所に放射光施設が設置されている

放射光を用いたガラスの構造解析には一般的に高エネルギーX 線回折(High Energy

X-ray diffraction HEXRD)が用いられるこの回折実験から高い散乱ベクトル Q(= 4π sinθλ)

まで回折データが得られる多種類の原子から構成される物質の場合はFaber-Ziman 型[3]

の構造因子 S(Q)を用いる以下の式に示すようにFaber-Ziman 型構造因子 S(Q)は同種また

は異種の原子による相関の重み関数付の和として示される例として SiO2ガラスで説明す

ると構造因子 S(Q)は三種類の原子付の S(Q)の重み付の和として表されていることが分か

I(Q) 散乱断面積 ltgt 原子一個当たりの平均値 f(Q) 原子散乱因子 W 重み関数

通常の研究室で使用される X 線回折(XRD)装置で用いられる特性 X 線はCuKα線(λ

= 0154 nm 81 keV)が最も良く用いられより高いエネルギーの X 線が必要な場合は

MoKα線(λ = 0071 nm 175 keV)が使用される一方でSPring-8のビームライン BL04B2

で行われる高エネルギーX 線回折(HEXRD)測定で使用される SR のエネルギーは378 keV

58

~ が使用可能である[2]従ってガラス以外の液体のような非晶質物質にも非常に精度

よく構造解析が行われている[4]

また局所構造解析の一つに X線異常散乱法という測定方法がある[5 6]これは通常

の X 線回折実験では分離不可能な特定元素に関連する部分構造因子(散乱強度曲線)を得

ることができる手法である今回 HEXRD の測定時に使用したエネルギー614 keV では各元

素の異常散乱項のエネルギー依存性は確認されない(Fig 41)その一方でFig 42に示す

Sn の吸収端付近の 292 keV付近ではSnの異常分散項のエネルギー依存性が確認できる

つまりSnの吸収端近傍より低エネルギー(E)側の異なるエネルギーの X線(E1 E2)を

使って散乱強度を測定し各 E における異常分散項(f`)の変化(つまり高い E1 から低い

E2 の散乱強度の差分)を利用して Snに関する部分構造因子を求める構造解析が AXS 法で

あるこの測定法は古くから知られている方法ではあるが装置の測定条件や設備の問

題からなどから使用があまり普及していなかった[5 6]近年になり金属ガラスの構造解

析について徐々に報告が出てきており今後注目される測定法である

HEXRD および AXS 法などから得られたデータ実測の構造因子 S(Q)は一次元の限られ

た構造情報であるためガラスなどの非晶質物質の中距離構造を解明するためにはこれ

らのデータを基に三次元構造を求める必要がある三次元構造モデルの作成には逆モンテ

カルロ(RMC)シミュレーションを使用することが有効である[7]このシミュレーション

は任意で決めたシミュレーションボックス内の粒子をランダムに動かすことで実測の

構造因子 S(Q)を再現する三次元構造モデルを構築する方法である

SP ガラスについては分光学的手法について数多く報告があるが放射光を用いた回折

法はほとんど適用されていないそこで本研究では HEXRD および AXS 法を用いた構造

解析を行うことでSn Nb周りの構造を解明すると共にSNP ガラスの耐水性改善のメカ

ニズムについて考察したまたAXS 法の有効性についても検討した測定を行ったガラ

スはSP ガラスおよび最も耐水性の高かった 67S5N28P を選択した

42 実験方法

421 HEXRD AXS法

HEXRDはSPring-8のビームライン BL04B2 で測定を行ったエネルギー614 keV の X

線を用いた測定サンプルの厚みは09 mm (plusmn0005 mm)になるまで研磨を行った

AXS 測定はSPring-8のビームライン BL13XUを使用した(Fig 43)それぞれの測定し

た X 線のエネルギーについて以下に示す

①Sn K吸収端hellip292 keV near edgehellip291452 keV (-60 eV) far edgehellip289751 keV (-230 eV)

②Nb K吸収端hellip1899 keV near edgehellip189562 keV (-30 eV) far edgehellip187863 keV (-230 eV)

測定に使用したサンプルの厚さが015 - 030 mmとなるまで研磨を施した

SP ガラスについて50S50P 60S40P 67S33P の三組成のガラスを測定した70S30P に関

59

しては測定を試みたが放射光照射によって結晶化してしまいガラス部分の正確な構

造因子を得るための強度補正ができず解析を断念した

422 RMCのモデリング

Table 41 に RMC の各種パラメーターを示す粒子数は約 5000 個でそれに伴う boxの一

辺の長さは約 42 ~ 46 Ǻになった拘束条件にP の配位数が 4になるような条件を付け

加えたFig 44にSn2P2O7結晶および Sn3P2O8結晶の動径分布関数(RDF)をTable 32

にRDFから得られた第一近接距離[8 9] を示すこれらの数値を使用しcutoffを決定し

たNb-O についてはいくつかの文献値を参考にした[10 11]

各ガラスの RMCのモデリングは①HEXRDから得られた S(Q)のみ②S(Q)および AXS

から得られた部分構造因子を加えた場合でそれぞれ計算した

43 結果考察

最初にNbの AXSから得られたデータについて解析を試みたが妥当な構造モデルが得

られなかったためSnの AXSのみで解析を進めたNb2O5の量が 5 molと少量であったた

めあまり精度の高いデータが得られなかったと推測される

431 実測の HEXRDおよび AXSの結果

4311 実測 HEXRDの S(Q)

Fig 45 に実測HEXRDの S(Q)を示す四つの組成ともに実測HEXRDの S(Q)が得られ

Nb2O5添加の 67S5N28P ガラスでは Low Q 側に変化が確認された

4312 実測散乱強度曲線

Fig 46 に Snの散乱強度曲線を示す(a) の 67S33P のこの曲線からはfar edgeおよび

near edge のエネルギー間で差分が見られエネルギーの依存性が確認された50S50P

67S5N28P のガラスについても同じように差分が確認されたが(b)の 60S40P についてのみ

他とは若干異なる結果(緑丸)であったためRMC の構造解析には差分の構造因子ではな

くfar edge near edge 二つの構造因子を用いた

4313 全相関関数 T(r)

Fig 47 に全相関関数 T(r) を示すHEXRD から得られたものを実線でSnの AXS から

得られたものは点線で示し組成ごとに重ねて表示した図中に各ピークについて帰属し

ているがSnの T(r)からはSn-O Sn-P Sn-Snのみのピークを確認した

432 RMCの計算結果および考察

60

構造モデルの一例として67S5N28P ガラスの得られた構造モデルをFig 48に示す水

色の多面体 unitSnON 黄色の多面体 unitPO4 ピンクの多面体 unitNbONである以下

詳細な構造解析の結果および考察を記す

4321 RMCのフィッティング結果

RMCのフィッティング結果の一例として67S33P の HEXRD と Snの AXS の構造因子か

ら得た結果を示す(Fig 49)二つの構造因子を加えて計算した結果においてもHEXRD

の S(Q) AXS の S(Q)に各々に対する良好なフィッティング結果が得られた他の組成も

同様なフィッティング結果が得られた

4322得られた各 pairの平均配位数平均角度平均結合距離

RMCの結果によって得られた各 pairの平均配位数平均角度平均結合距離を Tables 43

に示す上段が HEXRD の S(Q)のみ下段が HEXRD に Sn の AXS の部分構造因子を加え

て結果である最下部は比較のためにSn2P2O7の情報を記載した[8]

P-O pairについてRMCモデル中の PON多面体に関して平均配位数 Nが 4および P-O

の平均結合距離が約 160Å平均結合角度angO-P-O が約 109degという結果が得られた組成

による大きな違いは確認されなかったのはP の配位数が 4になるように拘束条件をかけた

結果であると考えられるSnON多面体についてはSnO量の増加 = OP の増加であり平

均配位数 Nが 3 ~ 35へ増加した平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約

22Åで組成による大きな変化はほとんど見られなかったNb2O5を 5 mol添加したガラ

スではNbON多面体の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平均配位数 N約 4Nb-O 平均結

合距離約 20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O(約 105deg)と値が近いこと

また6配位ではなく 4配位として主に存在していることからSnO と同じような働きをし

ていると推測される

以上の結果からNb2O5添加の耐水性改善の要因として結合距離が Sn-O が約 22Åに対

し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強固にして

いることも一つの要因として考えられる

また67S5N28P ガラスの各多面体モデルを確認すると(Fig 410)P は PO4Snは SnO4

と SnO3Nbは NbO4をそれぞれ再現している

4323得られた各 pairの結合様式

RMC の結果により得られた各 pair の結合様式を Tables 44 に示す上段が HEXRD の

S(Q)のみ下段が HEXRDに Snの AXS の部分構造因子を加えた結果である最下部は比

較のためにSn2P2O7の情報を記載した[8]

結合様式に関してはPO4四面体は他の多面体も含めてほぼ頂点共有で存在している

SnON多面体についてはSnO 量が少ない配位数が 3 に近い場合頂点共有以外の共有の

61

割合も多くSnO 量が増えるにつれて頂点共有が主になり網目形成体として振舞ってい

ると考えられる組成によって平均結合距離や平均角度の大きな変化が見られなかったこ

とから平均配位数が結合様式を決める重要なファクターであるということも考えられる

またHEXRD と AXS 法の結果がほぼ同じであったこれは主成分が SnO のガラスであ

るためHEXRDでも十分に詳細な構造が得られたため大きな変化が現れなかったと考え

られるNbON 多面体はPO4 四面体と SnON 多面体とはほぼ頂点共有で繋がっている以

上の結果よりSnO量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体的に各多面体同士の

頂点共有が増えていることから耐水性の改善には頂点共有を多く含む構造であること

が重要である或いは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的となって

いるということが推測されるFig 411に 67S5N28P ガラスの構造モデルを示す各多面

体はほぼ頂点共有で繋がっていることが確認できる

4324 平均 BO数の比較

Tables 45にNMR Raman RMC(HEXRD) RMC(HEXRD + AXS)の平均BO数を示すRMC

から得られた平均 BO 数 nはNMR Raman と同様に Nb2O5の添加による大幅な減少が確認

されたしかしNMR Raman と比較すると全組成において数値が大きすぎで適当でない

50S50P の構造モデルを観るとPO4四面体間で3配位 O の存在が確認された(Fig 412)た

め実測で得られた n値を再現できるようなPO4四面体モデル間の繋がり方に関する拘束条

件を加えて RMCを計算する必要性があるまた仮に3配位 Oの存在があるとすると電

子状態の変化が生じていることがと示唆されるため分子軌道計算を用いて電子状態解析

を行い確認する必要がある

4325 耐水性の改善について

Nb2O5を添加のガラス構造への影響について①6配位ではなく 4配位として主に存在し

ていることからSnO と同じような働きをしていると推測される②結合距離が Sn-O が約

22Åに対し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強

固にしている③ガラス構造中で全体的に各多面体同士の頂点共有が増えている以上の

ことが判明した以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性

耐候性を改善した要因として考えられる

44 結言

本章では分光学的手法では評価できないガラスの中距離構造局所構造について理解

するために放射光を用いた構造解析を実施しSP ガラスの構造と耐水性改善について考

察したHEXRDおよび AXS法を用いて測定を行い得られたデータを RMCシミュレーシ

ョンにて解析を行った

解析の結果 Sn-O pair については平均配位数 Nが 3 ~ 35でSnO量の増加 = OP の増

62

加に伴い高くなった平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約 22Åであ

ったP-O Sn-Oについては組成による大きな変化はほとんど見られなかった67S5N28P

ガラスの Nb-O pair の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平均配位数約 4Nb-O 平均結合距

離約 20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O(約 105deg)と値が近いことま

た6配位ではなく 4配位として主に存在していることからSnOと同じような働き(網目

形成体)をしていると推測されるまた結合距離が Sn-O が約 22Åに対し Nb-O は約 20

Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強固にしていると言える

SnO 量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体的に各多面体同士の頂点共有が増え

ていることから耐水性の改善には頂点共有を多く含む構造であることが重要である

もしくは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的であることが推測さ

れる以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性耐候性を

改善した要因として考えられる

またAXS 法の有効性についても確認し効果的であることが判明したただし今回

は主成分が Sn の組成のガラスでありHEXRD でも十分に詳細な構造が得られたため

大きな差は現れなかった

参考文献

[1] 山根正之 安井至 和田正道 国分可紀 寺井良平 近藤敬 小川晋永編ガラス光学ハ

ンドブック 朝倉書店(1999)

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[5] 早稲田嘉夫 齋藤正敏 放射光 10 [3] 299-315 (1997)

[6] 細川伸也 広島工業大学紀要研究編 46 197-204 (2012)

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MV Korolenko and PB Fabritchinyi J Chem Mater 17 284-290 (2005)

[9] M Mathew L W Schroeder and T H Jordan Acta Cryst B33 1812-1816 (1977)

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[11] D Munoz-Martin A Ruiz de La Cruz J M Fernandez-Navarro C Domingo J Solis and J

Gonzalo J appl Phys 110 023522 (2011)

63

Fig 41 各原子の異常分散項のエネルギー依存性

Fig 42 Sn の異常分散項のエネルギー依存性

64

Fig 43 SPring-8の BL13XU

65

Tab

le 4

1

RM

Cの各パラメーター

66

Fig 44 Sn2P2O7 Sn3P2O8結晶の RDF

Table 42 Sn2P2O7 Sn3P2O8結晶の各 pairの第一近接距離

67

Fig 45 得られた実測 HEXRDの S(Q)

68

Fig 46 Sn の異常散乱測定により得られた散乱強度のエネルギー依存性

(a)67S33P (b)60S40P

69

Fig 47 全相関関数 T(r)

太線 HEXRD より

細線 Sn の AXSより

70

Fig 48 67S5N28P ガラス構造のモデル

71

Fig 49 RMC フィッティングの結果

72

Tab

le 4

3 各

pairの平均配位数角度結合距離

73

Fig

4

10

67

S5

N2

8Pガラスの各多面体モデル

74

Tab

le 4

4 各

pairの結合様式

75

Fig 411 67S5N28P ガラスの構造モデル

76

Table 45 平均 BO 各数 nの比較

Fig 412 50S50P ガラスの構造モデル

77

第 5章 総括

本研究ではSP ガラスを対象とした本研究では鉛フリー代替ガラスまたは希土類フ

リー蛍光体として SP ガラスの新規高機能化を将来的に目指し問題点であるldquo化学的耐久

性rdquoの改善につながる知見を得ることを目的としたそこでまずSP ガラスを母体ガラ

スとし第三成分に Nb2O5を添加した Sn-Nb-P SNP ガラスZnO を添加した SZP ガラスを

作製し耐水性を中心とした物性評価を行った次に分光学的手法で構造解析を行い

Qn 分布を導き出した最後に放射光を用いた構造解析を行い耐水性改善に関する構造的

な考察を行った以下に本研究で行った検討内容を示す

(1)SPガラスおよび第三成分Nb2O5 ZnOを添加した三成分系SPガラスの物性評価(第 2章)

(2)SP 系ガラスの分光学的手法による Qn分布導出(第 3章)

(3)放射光を用いた SP 系ガラスの構造解析構造と耐水性改善の関連について(第 4章)

各章についてまとめた結果を以下に示す

第 2章

第 2章では二成分系および三成分系のリン酸塩系ガラスの各種物性(密度や熱的特性

耐水性)の評価を行った二成分系ではSP ガラスに加え良好な耐水性を有する鉄リン

酸塩(Fe2O3-P2O5)系ガラス(以下 FP ガラス)を比較のために三成分系では二成分系

の SP ガラスに Nb2O5を添加したニオブ含有 SP ガラス(SNP ガラス)および ZnO を添加し

た亜鉛含有 SP ガラス(SZP ガラス)を作製した

今回作製した SP 系ガラスは低ガラス転移温度を有していた各組成の温度域はSP

ガラスTg le 280 Sn-Nb-P SNPガラスTg le 3505SZP S5ZPガラスTg ≦ 450であった

各種 SP ガラスの耐水性試験の結果二成分系の SP ガラスよりも三成分系ガラスの方が

良好な耐水性を有していた65Sn-5Nb-30P 67S5N28P ガラスが最も耐水性が良好であり化

学的耐久性の改善には Nb2O5が ZnOよりも効果的であった

組成と耐水性に関してはDRおよび重量減がOP増加で単調に低下した結果が得られた

つまり耐水性を改善させるにはSP 系ガラスのガラス化範囲を拡大かつ OP を増大させ

る第三成分の添加が有効であることが示唆された

第 3章

第 3章ではSP 系ガラスの分光学的手法による Qn分布の導出を行ったラマン分光法を

用いて各ガラス系のリン酸塩アニオンの構造を簡易定量で評価し組成と構造の関係に

ついて考察した平均 BO 数 n と耐水性に関してはDR および重量減が平均 BO 数 nの減

少で単調に低下することが明らかとなった

平均 BO 数 n と OP の関係より耐水性改善には平均 BO 数 n を下げることそして

OP を上げることが重要であることが明らかになった

78

Nb5+の添加は平均 BO数を減少させるだけでなくOP も上げることからガラス構造

内の P-O-P 結合を減少させ水和反応加水分解反応が抑制され耐水性が大幅に改善さ

れることが示唆された故にNb2O5 のような高価数金属酸化物を添加することが効果的

であることが再度確認された

第 4章

耐水性向上についてより深く評価するためSP SNP ガラスの局所構造に関する知見を得

ることを目的に放射光を用いた構造解析を行った高エネルギーX 線回折(HEXRD)お

よび X 線異常散乱(AXS)法で測定したデータを再現する構造モデルを逆モンテカルロ

(RMC)シミュレーションで構築し構造解析を行った

RMC モデル中の PON多面体に関して平均配位数 Nが 4および P-O の平均結合距離が約

160Å平均結合角度angO-P-Oが約 109degという結果が得られた組成による大きな違いは確

認されなかったSnON多面体については平均配位数 N が 3~4 でSnO 量の増加に伴い 4

に近い値となった平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約 22Åで組成

による大きな変化は見られなかった

Nb2O5を 5 mol添加したガラスではNbON多面体の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平

均配位数N約4Nb-O平均結合距離約20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O

(約 105deg)と値が近いことまた6配位ではなく 4配位として主に存在していることから

SnO と同じような網目形成体として働いていると推測されたまた結合距離が Sn-O が約

22Åに対し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強

固にしていると考えられるまたSnO 量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体

的に各多面体同士の頂点共有が増えていることから耐水性の改善には頂点共有を多く

含む構造もしくは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的であること

が示唆された以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性

耐候性を改善した要因として考えられる

またAXS 法の有効性についても確認し効果的であることが判明したただし今回

は主成分が Snの組成のガラスでありHEXRD でも十分に詳細な Snの周辺構造が得られ

たためAXSを利用した場合との大きな構造の差は認められなかった

本研究では様々な優れた特徴を有する SP ガラスにおける耐水性改善のメカニズムにつ

いて検討を行ったこの系のガラスについてはこれまでほとんど利用されていなかった

放射光を用いた構造解析を駆使し第三成分の添加によってどのような構造的変化が生じ

耐水性を改善させるか新たな知見を得ることができた最終目標である機能性ガラスの

開発における新たなる材料設計指針の確立に対してldquo耐水性rdquoに関しては概ね明らかにな

ったと考えられる一方で今回検討していな電子状態化学結合性についても評価する

ことで溶出メカニズムの解明が可能になり材料設計指針の確立が期待される

79

発表論文リスト

口頭発表

第 2章および第 3章

(1) SnO-P2O5 系ガラスへの酸化物添加効果

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎

日本セラミックス協会第 25 回秋季シンポジウム No3C06 (名古屋市 2012年 9月)

(2) Effect of Nb2O5 addition to SnO-P2O5 glass (Poster)

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

International Union of Materials Research Societies International Conference on Electronic

Materials IUMRS-ICEM 2012 A-9-P26-003 (Yokohama 2012 年 9月)

(3) スズリン酸塩系ガラスの蛍光特性耐水性に及ばす酸化物の添加効果(ポスター)

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎

日本セラミックス協会 2013 年年会 1P070 (東京 2013年 3月)

第 4章

(1) 放射光を用いたスズリン酸塩ガラスの構造解析

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎小原真二臼杵毅

日本セラミックス協会第 27 回秋季シンポジウム 2B22 (鹿児島市 2014年 9 月)

(2) Structural analysis of tin phosphate glasses by synchrotron radiation (Poster)

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba Shinji Kohara Takeshi Usuki

International Congress on Glass ICG Annual Meeting Bangkok 2015 P14-138 p186 (2015)

発表論文

(1) Effect of Nb2O5 addition to SnO- P2O5 glass

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

Journal of the Ceramic Society of Japan Vol 120 No 11 pp530-533 (2012)

(2) Structural analysis of SnO- P2O5 glass

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

Journal of the Ceramic Society of Japan(準備中)

80

謝辞

本研究を遂行するにあたり終始暖かいご指導ご助言並びにご鞭撻を賜わりました岡

山大学大学院環境生命科学研究科 難波徳郎教授に心より感謝の意を表します

また本研究を遂行するにあたり懇切丁寧なご指導とご意見をしていただいた岡山大

学大学院環境生命科学研究科 紅野安彦准教授環境環理センター 崎田真一助教に心より

感謝いたします

本研究を遂行するにあたりラマン分光測定の使用についてご助言ご教授して頂い

た岡山大学自然科学研究科 藤井達生教授中西真助教に心より感謝の意を表します

Sn のメスバウアー測定の際に協力して頂いた岡山大学自然科学研究科先端自然科学教

育研究推進本部高田研究室 松本修治特任助教(当時旭硝子株式会社中央研究所)また

Feのメスバウアーを測定の際に協力して頂いた岡山大学自然科学研究科 藤井達生教授に

心より感謝の意を表します

固体 NMR の岡山大学自然科学研究科 早川聡教授に心より感謝の意を表します

本研究を遂行するにあたりSPring-8 にてHEXRD および AXS 法の測定法および原理

についてご教示頂きました物質材料研究機構 小原真司博士ならびに山形大学 臼杵毅

教授に心より感謝の意を表します

本研究は多くの後輩諸君の協力によって遂行されました特に実際に共同研究共同

実験を遂行して頂いたOG 藤原沙弥香さん博士前期課程 2 年 東利彦君OB 徳岡太誠

君学士課程 4年 塩田将大君に心より感謝の意を表しますまた難波研究室で共に研

究生活を過ごした卒業生在学生の方々に感謝の意を表します

また同時期に博士後期課程に在籍された香川高等専門学校の桟敷剛さんにはNbに

関する有益な情報だけでなく辛い状況でも励ましを頂きました心より感謝の意を表し

ます

最後に長きに渡る学生生活を認め経済面だけでなく精神面でも支援してくださった

家族に心より深く感謝の意を表します

平成 28年 3月

福井 聡史

Page 38: 博士論文 スズリン酸塩系ガラスの物性と構造解析ousar.lib.okayama-u.ac.jp/files/public/5/54353/...博士論文 スズリン酸塩系ガラスの物性と構造解析

35

Fig 220 5SZP ガラスの XRDパターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

36

Fig 221 S5ZP ガラスの XRDパターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

37

Fig 222 FP ガラスの XRD パターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

38

Fig 223 各ガラス系の DR と OP の関係性

39

Fig 224 各ガラス系の重量減と OP の関係性

40

第 3章 分光法を用いたスズリン酸塩系ガラスの構造解析

31 緒言

前章ではSP ガラスおよび第三成分に Nb2O5 ZnOを添加した Sn-Nb-P ガラスSNP ガラ

スSZP ガラスの物性特に耐水性に関する第三成分添加の有効性を明らかにしたその添

加した第三成分の二種類についてもNb2O5 の方が ZnO よりも溶出速度重量減ともに抑

制することができSP ガラスの低ガラス転移温度という特性も維持されていることが判明

したしかし現段階では本研究の主要な物性である耐水性改善の要因が明確になって

いない組成の観点からはOP の値が高い組成が良好な耐水性であることが分かったが

組成だけでは耐水性改善のメカニズムについて完全には理解できないここでリン酸塩

ガラスの溶出のメカニズムは第 1 章で述べたように加水分解反応と水和反応が要因とな

る[1 2]この機構はそれぞれリン酸の構造つまり架橋酸素 BO の数が大きく関わって

おりリン酸アニオンの[PO4]ユニットの架橋酸素数を知ることが重要であるこの BO の

情報を得るためにはガラス構造を示す指標の一つである Qn(n は[PO4]ユニット中の架橋

酸素数を表す)を調べることが必須であるまたQn の分布を調べるためにはガラスの

構造解析を行う必要性がある

ガラスの構造解析には種々の方法があり特にラマン分光法や赤外(IR)分光法核

磁気共鳴法(NMR)などの分光学的手法を用いた構造解析の報告が多い[3-5]ラマン分光

法および IR分光法は原理は異なるがどちらも結合の振動モードを測定する手法であり[6]

リン酸塩ガラスだけでなくケイ酸塩ガラスホウ酸塩ガラスなど様々なガラス系にて測

定がなされている[7 8]また得られた結合状態の情報からリン酸塩アニオンの Qn分布

を調べることも可能であるNMR は共鳴吸収ピークの化学シフト(共鳴周波数のズレ)

から構造を決定する手法であるガラスの場合SiO2や B2O3 P2O5といった網目形成酸化物

の Qn分布を得るために一般的に使用されている手法である[9]

今回これらの測定の中でラマン分光法を選択し構造解析を行ったラマン分光法は

測定する際にサンプル形状を気にすることなく基本的にそのまま測定できるためIR 分

光法のようにサンプル形状で測定方法を変える必要はないまたIR 分光法では例えば

KBr 錠剤法やヌジュール法のように測定を行うためのサンプル調整に手間がかかる場合が

ある[6]さらに比較対象の FP ガラスではNMR を測定できないため作製ガラスを全

て比較検討できるようにラマン分光法を選択した

本章ではラマン分光法を用いて各ガラスの構造解析を行い[PO4]ユニットの Qn分布を

調査し平均 BO数 nを算出することで耐水性と構造の関係性を検討したまたラマン

分光法によって得られた Qn分布の妥当性を確認するためにSP ガラスおよび 67S5N28P ガ

ラスの NMRを測定も行い比較した

32 実験方法

41

321 サンプル準備

ラマン分光およびメスバウアー分光の測定では第 2 章で作製した各ガラスのバルク体

を用いたWD試験に使用したサンプルとは別にラマン測定用のサンプルを用意した適

度な大きさ大体 15 cm角程度のサイズになるようにガラスカッターで切断しその後

十分な平滑性を得るために鏡面研磨を施した

322 ラマン分光測定

使用したラマン分光装置は顕微レーザーラマン分光装置(Jasco NRS-5100)を用いた

用いたレーザー波長は 53208 nmであり400 - 2000 cm-1の範囲で測定した

Qn 分布を導くためにピークフィッティングを行いリン酸塩アニオンのラマンバンド

が現れる950 - 1250 cm-1付近および 700 - 750cm-付近の範囲で定量した

323 31P MAS NMR測定

31P MAS NMRの測定は Varian NMR System 500 を用いて32 mmの MASプローブ

202309MHzにて行った測定パラメーターを以下に示すπ4 パルス長さ 14 μs 待ち時間

(pulse delay)10 s 積算回数 3600 scan シリンダー円筒形状の Zrローターの回転スピード

160 kHz referenceとして二番目の基準物質として使われる NH4H2PO4を使用化学シフト

は85 H3PO4溶液から δ = 10 ppmである

33 結果考察

331 各ガラス系のラマンスペクトル

Figs 31 - 35にラマンスペクトルを示す各ピークは以下の通りに帰属し各スペクト

ル中に該当する構造をピーク位置に示した

1230 - 1260 cm-1 P=O NBO Q

2 [10]

1110 - 1150 cm-1metaphosphate (PO3)

- Q

2 [10]

1030 - 1100 cm-1pyrophosphate (PO35)

2- Q

1 [10]

970 - 1000 cm-1orthophosphate (PO4)

3- Q

0 [10]

920 - 930 cm-1asymmetric (P-O-P) Q

1 [10]

730 - 750 cm-1symmetric (P-O-P) Q

1 [10]

710 - 720 cm-1asymmetric (P-O-P) Q

2 [10]

810 - 820 cm-1Nb-O [NbO4] tetrahedron [11]

900 - 920 cm-1Nb-O isolated [NbO6] octahedron [11]

42

SP ガラスのラマンスペクトル(Fig 31)を見ると50S50P 60S40P ではmetaphosphate

の Q2 構造が支配的であるがSnO 量が増えるにつれてその構造が変化し70S30P では

pyrophosphateの Q1構造と orthophosphateの Q

0構造が共存した構造となっているまたSnO

量の少ない 50S50P および 60S40P において確認されたQ2構造の P=O のピークが見えなく

なっているつまり耐水性と関連して考えるとSnO量が増えるにつれてP-O-P 結合か

ら Sn-O-P 結合に代わり水分子との反応である加水分解反応を妨げる構造に変化している

ことがわかる

Figs 32 33にNb2O5を添加した Sn-Nb-P ガラスおよび SNP ガラスのラマンスペクトル

を示すまずSn-Nb-P ガラスについてNb 無添加の 65Sn-0Nb-35P は主に Q1構造であ

りNbO25が添加されることによってQ0構造に変化しQ

1 Q

0構造が共存しているような

ピークが得られた添加量が少ないガラス系であるため徐々に変化しているのを確認し

た800 cm-1を少し越えた 810 - 820 cm

-1付近にNb2O5を添加することでピークが現れそ

して添加量を増量することで強度が強まるピークがありこのピークは四面体の[NbO4]

のものと判断した

SNP ガラスのラマンスペクトルについてはNb2O5添加量を固定した組成であるためSP

ガラスのような挙動が観察された50S50N45P では50S50P ガラスと同じようにQ2構造

が主な構造でありSnO量の増加に伴って60S5N35P Q1構造67S5N28P Q

0構造に支配

的な構造が変化しているこれはSP ガラスと同じ傾向を示しているためP-O-P rarr Sn-O-P

に置き替わっていることが示唆されるNb-O に関するピークでは50S5N45P のみ[NbO4]

四面体のピークを確認できず900 - 920 cm-1付近に[NbO6]八面体のピークが確認された

SnO量が増量した 60S5N35P では810 cm-1付近の [NbO4] 四面体のピークが現れているが

[NbO6]八面体のピークと 900 - 920 cm-1付近の Q

1構造のピークが非常に近い(ほぼ重なって

いる)ことから60S5N35P については[NbO4] 四面体および[NbO6]八面体の共存の可能性

も考えられるまた67S5NP28 では[NbO4] 四面体のみのピークが観察されたためこ

の Nb-O の配位数変化は[PO4] unitの状態によって変化している可能性も示唆された

ZnO を添加した S5ZP ガラスおよび 5SZP ガラスのラマンスペクトルを Fig 34 に示す

図の下部三つが S5ZP ガラス上部三つが 5SZP ガラスのスペクトルであるSZP ガラスの

二系統を比べるとあきらかなスペクトルの違いが確認された各ガラス系で確認すると

SnO 量が最小の 55S5Z40P はQ2構造と Q

1構造の範囲に跨っているようなスペクトルが得

られた62S5Z33P および 65S5Z30P のスペクトルからはどちらもほぼ Q1構造であると判

断した5SZP のスペクトルは1000 - 1250 cm-1付近の範囲で裾を引くような(なだらかな)

スペクトルが得られたZnO 量が最小の 5S55Z40P にはQ2構造が主な構造に見えるが

shoulderピークのような Q1構造(1030 - 1100 cm

-1)が確認できる5S62Z40P においては

1000 - 1250 cm-1付近の範囲まで幅広いスペクトルが得られた730 - 750 cm

-1付近にピーク

が現れているためおそらく Q1構造が最も多く存在していると考えられる65S5Z30P では

Q1構造Q

0構造が共存しているようなピークが得られた

43

FP ガラスのラマンスペクトルを Fig 35 に示すFe量の少ない 20F80P 25F75P と他の三

つで構造が異なっていることである20F80P 25F75P はQ2構造と Q

1構造が基本構造にな

っていると判断できる 30F70P は1110 - 1150 cm-1付近に shoulderピークのようなものがあ

りQ2 Q

1 Q

0構造が共存しているようなスペクトルであった35F65P 40F60P はQ1構造

が主な構造でQ0構造があると判断した

332 平均 BO数 n (Qn分布)

まずピーク分離について散乱断面積が見積もれなかったためラマンの散乱強度比

を Qn分布として簡易的にピーク分離を行い(Fig 36)そこから平均架橋酸素数 BO 数 n

を算出したここでFig 37 に 31P MAS NMRスペクトルを示しTable 31に NMRおよび

ラマン分光より得られた平均 BO 数 n を示す(NMR の帰属 reference [12])表よりNMR

とラマンから得られた Qn分布はほぼ一致していることが分かった60S40Pについては支

配構造が NMR(Q1) ラマン(Q

2)で逆になったこれは60S40P の組成がQ

2と Q1のほぼ中

間の組成になるためこのようなズレが生じたと考えられるしかし今回のラマンによ

る Qn分布の算出についてはほぼ問題ないと判断した

Table 32にラマンスペクトルより求めた Qn分布平均 BO 数 nをを示しTable 24に示

した DR 重量減の結果を併記する

SP ガラスのうち耐水性が低いガラスは Q2構造によって形成されているSnO量の増加

によって NBOの増加とともに耐水性の向上が確認できSnOが入ることでSn-O-P 結合を

形成し水分子からの攻撃を受けにくくなっていることが考えられる

Sn-Nb-P ガラスでは基本的に Q1構造が主構造でNb2O5の添加が増えるにつれQ

0構

造が支配的になり耐水性は次第に向上していく最も耐水性のよかった 65S-5Nb-30P は

Q0構造での割合が非常に高く平均 BO数 n値が 03であった

SNP ガラスではP2O5量が多い組成の 50S5N45Pにおいても平均 BO数 nが 60S40P と

同じながらも耐水性が良くなっている67S5N28P はほぼ完全に Q0構造であり平均 Q

n

値は 0となった

SZP ガラスについてはS5ZP 5ZSP のどちらの系列についても耐水性の結果に大きな差

というものは確認されなかったが構造的にも平均 BO数 nが 09 10 17という結果であ

った

FP ガラスについてはFe2O3 lt 30 molのときは平均 BO 数 nが20 19と高い数値を

示したが耐水性は非常に良好であったこの結果より組成だけでなく構造的にも耐

水性高くなる要因が不明である一つの原因の可能性としてメスバウアーより得られた

Fe2+の存在比が 40以上と高かったことがFe2O3含有量が少ない組成時には効果的になっ

ているのかもしれない

333 平均 BO数 nと耐水性の関係性

44

Fig 38に DRと平均 BO数 nの関係性についてFig 39に重量減と平均 BO数 nの関係

性をそれぞれ示すまたOP の時と同様に各図にリン酸塩の三つの構造の平均 BO数

n も表記した双方の図よりDR 重量減共に平均 BO 数 nが低下することで単調に下がっ

ていることが分かるまた耐水性の良かったNb2O5添加の Sn-Nb-P SNPガラスはの DR

の挙動(傾き)はOP 時とも異なった挙動が得られた

Fig 310に OP と平均 BO数 nの関係を示す図中に示す茶色metaphosphate 黄色

pyrophosphate 灰色orthophosphate であるこの図から耐水性改善には平均 BO 数

n を下げOP を上げることが重要であるのが分かるまたNb5+の添加はOP を上げる

だけでなく平均 BO 数も減少させることから非常に効果的な成分であることが明らかで

あるこれはP5+から同酸価数 Nb

5+に少量でも置き換えることで平均 BO 数 n を下げ

OP を上げることを可能としている(実際に orthophosphate の OP4 よりも高い OP でガ

ラスが作製できている)つまりNb5+の添加によって P-O-P 結合が減少し水和反応加

水分解反応が抑制されているからである

以上の結果SP 系ガラスの耐水性改善には低い平均 BO 数と高い OP の組成にするこ

とが重要でNb2O5の添加は非常に効果的であることが分かったその一方でガラス中の

詳細な構造的要因についてははっきりしていないため次章の第 4 章にてさらに詳し

い構造解析を行い耐水性改善の要因について調査を行った

34 結言

本章ではラマン分光を使用して各ガラス系のリン酸塩アニオンの構造を簡易定量で

評価し組成と構造の関係について考察した

平均 BO 数 n と耐水性に関してはDR および重量減が平均 BO 数 n の減少で単調に低下

した結果が得られた

平均 BO数 nと OP の図より耐水性改善には平均 BO数 nを下げることそして OP

を上げることが重要であることが明白であった

Nb5+の添加は平均 BO数を減少させるだけでなくOP も上げることからガラス構造内

の P-O-P 結合を減少させる故に水和反応加水分解反応が抑制され耐水性が大幅に

改善された故にNb2O5 のような高価数金属酸化物を添加することが効果的であること

が示唆された

参考文献

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46

Fig 31 SP ガラスのラマンスペクトル

47

Fig 32 Sn-Nb-P ガラスのラマンスペクトル

48

Fig 33 SNP ガラスのラマンスペクトル

49

Fig 34 SZP ガラスのラマンスペクトル

50

Fig 35 FP ガラスのラマンスペクトル

51

Fig 36 ラマンスペクトルのピーク分離例(67S5N28P)

Raman Shift (cm-1)

52

Fig 37 NMRスペクトル

Table 31 NMR およびラマン分光より得られた SP 67S5N28P ガラスの

Qn分布および平均 BO数 n

53

Table 32 各ガラスのラマンスペクトルより求めた Qn分布結果

(表の赤線より右側の結果は Table 22 より)

1 仕込み組成による数値

2 Fig 2212 に示した析出物を取り除いた後の数値

54

Fig 38 DR と平均 BO数 nの関係性

55

Fig 39 重量減と平均 BO数 nの関係性

56

Fig 310 OP と平均 BO数 nの関係性

Meta

Pyro

Ortho

57

第 4章 放射光を用いたスズリン酸塩系ガラスの構造解析

41 緒言

前章の第 3 章にてラマン分光法を用いて SP 系ガラスの構造解析により Qn分布を導き

出したことで耐水性と構造の関係についてある程度関連性を導くことができたリン

酸アニオンについてはQ0(orthophosphate)構造 gt Q

1(pyrophosphate)構造 gt Q2

(metaphosphate)構造の順で良耐水性となるしかしSn Nbおよび Znの局所構造につ

いては知見が得られていないラマン分光や IR分光などの分光学的手法を用いてSnや

Nb Zn の周辺の局所構造を知るには限界があるまたガラスの構造解析を行う上で非常

に重要な因子である中距離構造の評価には分光学的手法は不向きである[1]

そこで局所構造や中距離構造を知るために有効な手法として放射光線を用いた構造

解析がある放射光(SR 光)とはシンクロトロンなどの加速器で高速に加速された電子

が進行方向を磁場によって変えられた際に放射する電磁波である[2]エネルギーが高く

(短波長)輝度が高い特性を有している日本国内では兵庫県佐用町の SPring-8や茨城

県つくば市の高エネルギー加速器研究機構佐賀県鳥栖市の佐賀県立九州シンクロトロン

光研究センターなど複数個所に放射光施設が設置されている

放射光を用いたガラスの構造解析には一般的に高エネルギーX 線回折(High Energy

X-ray diffraction HEXRD)が用いられるこの回折実験から高い散乱ベクトル Q(= 4π sinθλ)

まで回折データが得られる多種類の原子から構成される物質の場合はFaber-Ziman 型[3]

の構造因子 S(Q)を用いる以下の式に示すようにFaber-Ziman 型構造因子 S(Q)は同種また

は異種の原子による相関の重み関数付の和として示される例として SiO2ガラスで説明す

ると構造因子 S(Q)は三種類の原子付の S(Q)の重み付の和として表されていることが分か

I(Q) 散乱断面積 ltgt 原子一個当たりの平均値 f(Q) 原子散乱因子 W 重み関数

通常の研究室で使用される X 線回折(XRD)装置で用いられる特性 X 線はCuKα線(λ

= 0154 nm 81 keV)が最も良く用いられより高いエネルギーの X 線が必要な場合は

MoKα線(λ = 0071 nm 175 keV)が使用される一方でSPring-8のビームライン BL04B2

で行われる高エネルギーX 線回折(HEXRD)測定で使用される SR のエネルギーは378 keV

58

~ が使用可能である[2]従ってガラス以外の液体のような非晶質物質にも非常に精度

よく構造解析が行われている[4]

また局所構造解析の一つに X線異常散乱法という測定方法がある[5 6]これは通常

の X 線回折実験では分離不可能な特定元素に関連する部分構造因子(散乱強度曲線)を得

ることができる手法である今回 HEXRD の測定時に使用したエネルギー614 keV では各元

素の異常散乱項のエネルギー依存性は確認されない(Fig 41)その一方でFig 42に示す

Sn の吸収端付近の 292 keV付近ではSnの異常分散項のエネルギー依存性が確認できる

つまりSnの吸収端近傍より低エネルギー(E)側の異なるエネルギーの X線(E1 E2)を

使って散乱強度を測定し各 E における異常分散項(f`)の変化(つまり高い E1 から低い

E2 の散乱強度の差分)を利用して Snに関する部分構造因子を求める構造解析が AXS 法で

あるこの測定法は古くから知られている方法ではあるが装置の測定条件や設備の問

題からなどから使用があまり普及していなかった[5 6]近年になり金属ガラスの構造解

析について徐々に報告が出てきており今後注目される測定法である

HEXRD および AXS 法などから得られたデータ実測の構造因子 S(Q)は一次元の限られ

た構造情報であるためガラスなどの非晶質物質の中距離構造を解明するためにはこれ

らのデータを基に三次元構造を求める必要がある三次元構造モデルの作成には逆モンテ

カルロ(RMC)シミュレーションを使用することが有効である[7]このシミュレーション

は任意で決めたシミュレーションボックス内の粒子をランダムに動かすことで実測の

構造因子 S(Q)を再現する三次元構造モデルを構築する方法である

SP ガラスについては分光学的手法について数多く報告があるが放射光を用いた回折

法はほとんど適用されていないそこで本研究では HEXRD および AXS 法を用いた構造

解析を行うことでSn Nb周りの構造を解明すると共にSNP ガラスの耐水性改善のメカ

ニズムについて考察したまたAXS 法の有効性についても検討した測定を行ったガラ

スはSP ガラスおよび最も耐水性の高かった 67S5N28P を選択した

42 実験方法

421 HEXRD AXS法

HEXRDはSPring-8のビームライン BL04B2 で測定を行ったエネルギー614 keV の X

線を用いた測定サンプルの厚みは09 mm (plusmn0005 mm)になるまで研磨を行った

AXS 測定はSPring-8のビームライン BL13XUを使用した(Fig 43)それぞれの測定し

た X 線のエネルギーについて以下に示す

①Sn K吸収端hellip292 keV near edgehellip291452 keV (-60 eV) far edgehellip289751 keV (-230 eV)

②Nb K吸収端hellip1899 keV near edgehellip189562 keV (-30 eV) far edgehellip187863 keV (-230 eV)

測定に使用したサンプルの厚さが015 - 030 mmとなるまで研磨を施した

SP ガラスについて50S50P 60S40P 67S33P の三組成のガラスを測定した70S30P に関

59

しては測定を試みたが放射光照射によって結晶化してしまいガラス部分の正確な構

造因子を得るための強度補正ができず解析を断念した

422 RMCのモデリング

Table 41 に RMC の各種パラメーターを示す粒子数は約 5000 個でそれに伴う boxの一

辺の長さは約 42 ~ 46 Ǻになった拘束条件にP の配位数が 4になるような条件を付け

加えたFig 44にSn2P2O7結晶および Sn3P2O8結晶の動径分布関数(RDF)をTable 32

にRDFから得られた第一近接距離[8 9] を示すこれらの数値を使用しcutoffを決定し

たNb-O についてはいくつかの文献値を参考にした[10 11]

各ガラスの RMCのモデリングは①HEXRDから得られた S(Q)のみ②S(Q)および AXS

から得られた部分構造因子を加えた場合でそれぞれ計算した

43 結果考察

最初にNbの AXSから得られたデータについて解析を試みたが妥当な構造モデルが得

られなかったためSnの AXSのみで解析を進めたNb2O5の量が 5 molと少量であったた

めあまり精度の高いデータが得られなかったと推測される

431 実測の HEXRDおよび AXSの結果

4311 実測 HEXRDの S(Q)

Fig 45 に実測HEXRDの S(Q)を示す四つの組成ともに実測HEXRDの S(Q)が得られ

Nb2O5添加の 67S5N28P ガラスでは Low Q 側に変化が確認された

4312 実測散乱強度曲線

Fig 46 に Snの散乱強度曲線を示す(a) の 67S33P のこの曲線からはfar edgeおよび

near edge のエネルギー間で差分が見られエネルギーの依存性が確認された50S50P

67S5N28P のガラスについても同じように差分が確認されたが(b)の 60S40P についてのみ

他とは若干異なる結果(緑丸)であったためRMC の構造解析には差分の構造因子ではな

くfar edge near edge 二つの構造因子を用いた

4313 全相関関数 T(r)

Fig 47 に全相関関数 T(r) を示すHEXRD から得られたものを実線でSnの AXS から

得られたものは点線で示し組成ごとに重ねて表示した図中に各ピークについて帰属し

ているがSnの T(r)からはSn-O Sn-P Sn-Snのみのピークを確認した

432 RMCの計算結果および考察

60

構造モデルの一例として67S5N28P ガラスの得られた構造モデルをFig 48に示す水

色の多面体 unitSnON 黄色の多面体 unitPO4 ピンクの多面体 unitNbONである以下

詳細な構造解析の結果および考察を記す

4321 RMCのフィッティング結果

RMCのフィッティング結果の一例として67S33P の HEXRD と Snの AXS の構造因子か

ら得た結果を示す(Fig 49)二つの構造因子を加えて計算した結果においてもHEXRD

の S(Q) AXS の S(Q)に各々に対する良好なフィッティング結果が得られた他の組成も

同様なフィッティング結果が得られた

4322得られた各 pairの平均配位数平均角度平均結合距離

RMCの結果によって得られた各 pairの平均配位数平均角度平均結合距離を Tables 43

に示す上段が HEXRD の S(Q)のみ下段が HEXRD に Sn の AXS の部分構造因子を加え

て結果である最下部は比較のためにSn2P2O7の情報を記載した[8]

P-O pairについてRMCモデル中の PON多面体に関して平均配位数 Nが 4および P-O

の平均結合距離が約 160Å平均結合角度angO-P-O が約 109degという結果が得られた組成

による大きな違いは確認されなかったのはP の配位数が 4になるように拘束条件をかけた

結果であると考えられるSnON多面体についてはSnO量の増加 = OP の増加であり平

均配位数 Nが 3 ~ 35へ増加した平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約

22Åで組成による大きな変化はほとんど見られなかったNb2O5を 5 mol添加したガラ

スではNbON多面体の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平均配位数 N約 4Nb-O 平均結

合距離約 20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O(約 105deg)と値が近いこと

また6配位ではなく 4配位として主に存在していることからSnO と同じような働きをし

ていると推測される

以上の結果からNb2O5添加の耐水性改善の要因として結合距離が Sn-O が約 22Åに対

し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強固にして

いることも一つの要因として考えられる

また67S5N28P ガラスの各多面体モデルを確認すると(Fig 410)P は PO4Snは SnO4

と SnO3Nbは NbO4をそれぞれ再現している

4323得られた各 pairの結合様式

RMC の結果により得られた各 pair の結合様式を Tables 44 に示す上段が HEXRD の

S(Q)のみ下段が HEXRDに Snの AXS の部分構造因子を加えた結果である最下部は比

較のためにSn2P2O7の情報を記載した[8]

結合様式に関してはPO4四面体は他の多面体も含めてほぼ頂点共有で存在している

SnON多面体についてはSnO 量が少ない配位数が 3 に近い場合頂点共有以外の共有の

61

割合も多くSnO 量が増えるにつれて頂点共有が主になり網目形成体として振舞ってい

ると考えられる組成によって平均結合距離や平均角度の大きな変化が見られなかったこ

とから平均配位数が結合様式を決める重要なファクターであるということも考えられる

またHEXRD と AXS 法の結果がほぼ同じであったこれは主成分が SnO のガラスであ

るためHEXRDでも十分に詳細な構造が得られたため大きな変化が現れなかったと考え

られるNbON 多面体はPO4 四面体と SnON 多面体とはほぼ頂点共有で繋がっている以

上の結果よりSnO量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体的に各多面体同士の

頂点共有が増えていることから耐水性の改善には頂点共有を多く含む構造であること

が重要である或いは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的となって

いるということが推測されるFig 411に 67S5N28P ガラスの構造モデルを示す各多面

体はほぼ頂点共有で繋がっていることが確認できる

4324 平均 BO数の比較

Tables 45にNMR Raman RMC(HEXRD) RMC(HEXRD + AXS)の平均BO数を示すRMC

から得られた平均 BO 数 nはNMR Raman と同様に Nb2O5の添加による大幅な減少が確認

されたしかしNMR Raman と比較すると全組成において数値が大きすぎで適当でない

50S50P の構造モデルを観るとPO4四面体間で3配位 O の存在が確認された(Fig 412)た

め実測で得られた n値を再現できるようなPO4四面体モデル間の繋がり方に関する拘束条

件を加えて RMCを計算する必要性があるまた仮に3配位 Oの存在があるとすると電

子状態の変化が生じていることがと示唆されるため分子軌道計算を用いて電子状態解析

を行い確認する必要がある

4325 耐水性の改善について

Nb2O5を添加のガラス構造への影響について①6配位ではなく 4配位として主に存在し

ていることからSnO と同じような働きをしていると推測される②結合距離が Sn-O が約

22Åに対し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強

固にしている③ガラス構造中で全体的に各多面体同士の頂点共有が増えている以上の

ことが判明した以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性

耐候性を改善した要因として考えられる

44 結言

本章では分光学的手法では評価できないガラスの中距離構造局所構造について理解

するために放射光を用いた構造解析を実施しSP ガラスの構造と耐水性改善について考

察したHEXRDおよび AXS法を用いて測定を行い得られたデータを RMCシミュレーシ

ョンにて解析を行った

解析の結果 Sn-O pair については平均配位数 Nが 3 ~ 35でSnO量の増加 = OP の増

62

加に伴い高くなった平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約 22Åであ

ったP-O Sn-Oについては組成による大きな変化はほとんど見られなかった67S5N28P

ガラスの Nb-O pair の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平均配位数約 4Nb-O 平均結合距

離約 20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O(約 105deg)と値が近いことま

た6配位ではなく 4配位として主に存在していることからSnOと同じような働き(網目

形成体)をしていると推測されるまた結合距離が Sn-O が約 22Åに対し Nb-O は約 20

Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強固にしていると言える

SnO 量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体的に各多面体同士の頂点共有が増え

ていることから耐水性の改善には頂点共有を多く含む構造であることが重要である

もしくは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的であることが推測さ

れる以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性耐候性を

改善した要因として考えられる

またAXS 法の有効性についても確認し効果的であることが判明したただし今回

は主成分が Sn の組成のガラスでありHEXRD でも十分に詳細な構造が得られたため

大きな差は現れなかった

参考文献

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63

Fig 41 各原子の異常分散項のエネルギー依存性

Fig 42 Sn の異常分散項のエネルギー依存性

64

Fig 43 SPring-8の BL13XU

65

Tab

le 4

1

RM

Cの各パラメーター

66

Fig 44 Sn2P2O7 Sn3P2O8結晶の RDF

Table 42 Sn2P2O7 Sn3P2O8結晶の各 pairの第一近接距離

67

Fig 45 得られた実測 HEXRDの S(Q)

68

Fig 46 Sn の異常散乱測定により得られた散乱強度のエネルギー依存性

(a)67S33P (b)60S40P

69

Fig 47 全相関関数 T(r)

太線 HEXRD より

細線 Sn の AXSより

70

Fig 48 67S5N28P ガラス構造のモデル

71

Fig 49 RMC フィッティングの結果

72

Tab

le 4

3 各

pairの平均配位数角度結合距離

73

Fig

4

10

67

S5

N2

8Pガラスの各多面体モデル

74

Tab

le 4

4 各

pairの結合様式

75

Fig 411 67S5N28P ガラスの構造モデル

76

Table 45 平均 BO 各数 nの比較

Fig 412 50S50P ガラスの構造モデル

77

第 5章 総括

本研究ではSP ガラスを対象とした本研究では鉛フリー代替ガラスまたは希土類フ

リー蛍光体として SP ガラスの新規高機能化を将来的に目指し問題点であるldquo化学的耐久

性rdquoの改善につながる知見を得ることを目的としたそこでまずSP ガラスを母体ガラ

スとし第三成分に Nb2O5を添加した Sn-Nb-P SNP ガラスZnO を添加した SZP ガラスを

作製し耐水性を中心とした物性評価を行った次に分光学的手法で構造解析を行い

Qn 分布を導き出した最後に放射光を用いた構造解析を行い耐水性改善に関する構造的

な考察を行った以下に本研究で行った検討内容を示す

(1)SPガラスおよび第三成分Nb2O5 ZnOを添加した三成分系SPガラスの物性評価(第 2章)

(2)SP 系ガラスの分光学的手法による Qn分布導出(第 3章)

(3)放射光を用いた SP 系ガラスの構造解析構造と耐水性改善の関連について(第 4章)

各章についてまとめた結果を以下に示す

第 2章

第 2章では二成分系および三成分系のリン酸塩系ガラスの各種物性(密度や熱的特性

耐水性)の評価を行った二成分系ではSP ガラスに加え良好な耐水性を有する鉄リン

酸塩(Fe2O3-P2O5)系ガラス(以下 FP ガラス)を比較のために三成分系では二成分系

の SP ガラスに Nb2O5を添加したニオブ含有 SP ガラス(SNP ガラス)および ZnO を添加し

た亜鉛含有 SP ガラス(SZP ガラス)を作製した

今回作製した SP 系ガラスは低ガラス転移温度を有していた各組成の温度域はSP

ガラスTg le 280 Sn-Nb-P SNPガラスTg le 3505SZP S5ZPガラスTg ≦ 450であった

各種 SP ガラスの耐水性試験の結果二成分系の SP ガラスよりも三成分系ガラスの方が

良好な耐水性を有していた65Sn-5Nb-30P 67S5N28P ガラスが最も耐水性が良好であり化

学的耐久性の改善には Nb2O5が ZnOよりも効果的であった

組成と耐水性に関してはDRおよび重量減がOP増加で単調に低下した結果が得られた

つまり耐水性を改善させるにはSP 系ガラスのガラス化範囲を拡大かつ OP を増大させ

る第三成分の添加が有効であることが示唆された

第 3章

第 3章ではSP 系ガラスの分光学的手法による Qn分布の導出を行ったラマン分光法を

用いて各ガラス系のリン酸塩アニオンの構造を簡易定量で評価し組成と構造の関係に

ついて考察した平均 BO 数 n と耐水性に関してはDR および重量減が平均 BO 数 nの減

少で単調に低下することが明らかとなった

平均 BO 数 n と OP の関係より耐水性改善には平均 BO 数 n を下げることそして

OP を上げることが重要であることが明らかになった

78

Nb5+の添加は平均 BO数を減少させるだけでなくOP も上げることからガラス構造

内の P-O-P 結合を減少させ水和反応加水分解反応が抑制され耐水性が大幅に改善さ

れることが示唆された故にNb2O5 のような高価数金属酸化物を添加することが効果的

であることが再度確認された

第 4章

耐水性向上についてより深く評価するためSP SNP ガラスの局所構造に関する知見を得

ることを目的に放射光を用いた構造解析を行った高エネルギーX 線回折(HEXRD)お

よび X 線異常散乱(AXS)法で測定したデータを再現する構造モデルを逆モンテカルロ

(RMC)シミュレーションで構築し構造解析を行った

RMC モデル中の PON多面体に関して平均配位数 Nが 4および P-O の平均結合距離が約

160Å平均結合角度angO-P-Oが約 109degという結果が得られた組成による大きな違いは確

認されなかったSnON多面体については平均配位数 N が 3~4 でSnO 量の増加に伴い 4

に近い値となった平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約 22Åで組成

による大きな変化は見られなかった

Nb2O5を 5 mol添加したガラスではNbON多面体の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平

均配位数N約4Nb-O平均結合距離約20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O

(約 105deg)と値が近いことまた6配位ではなく 4配位として主に存在していることから

SnO と同じような網目形成体として働いていると推測されたまた結合距離が Sn-O が約

22Åに対し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強

固にしていると考えられるまたSnO 量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体

的に各多面体同士の頂点共有が増えていることから耐水性の改善には頂点共有を多く

含む構造もしくは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的であること

が示唆された以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性

耐候性を改善した要因として考えられる

またAXS 法の有効性についても確認し効果的であることが判明したただし今回

は主成分が Snの組成のガラスでありHEXRD でも十分に詳細な Snの周辺構造が得られ

たためAXSを利用した場合との大きな構造の差は認められなかった

本研究では様々な優れた特徴を有する SP ガラスにおける耐水性改善のメカニズムにつ

いて検討を行ったこの系のガラスについてはこれまでほとんど利用されていなかった

放射光を用いた構造解析を駆使し第三成分の添加によってどのような構造的変化が生じ

耐水性を改善させるか新たな知見を得ることができた最終目標である機能性ガラスの

開発における新たなる材料設計指針の確立に対してldquo耐水性rdquoに関しては概ね明らかにな

ったと考えられる一方で今回検討していな電子状態化学結合性についても評価する

ことで溶出メカニズムの解明が可能になり材料設計指針の確立が期待される

79

発表論文リスト

口頭発表

第 2章および第 3章

(1) SnO-P2O5 系ガラスへの酸化物添加効果

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎

日本セラミックス協会第 25 回秋季シンポジウム No3C06 (名古屋市 2012年 9月)

(2) Effect of Nb2O5 addition to SnO-P2O5 glass (Poster)

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

International Union of Materials Research Societies International Conference on Electronic

Materials IUMRS-ICEM 2012 A-9-P26-003 (Yokohama 2012 年 9月)

(3) スズリン酸塩系ガラスの蛍光特性耐水性に及ばす酸化物の添加効果(ポスター)

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎

日本セラミックス協会 2013 年年会 1P070 (東京 2013年 3月)

第 4章

(1) 放射光を用いたスズリン酸塩ガラスの構造解析

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎小原真二臼杵毅

日本セラミックス協会第 27 回秋季シンポジウム 2B22 (鹿児島市 2014年 9 月)

(2) Structural analysis of tin phosphate glasses by synchrotron radiation (Poster)

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba Shinji Kohara Takeshi Usuki

International Congress on Glass ICG Annual Meeting Bangkok 2015 P14-138 p186 (2015)

発表論文

(1) Effect of Nb2O5 addition to SnO- P2O5 glass

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

Journal of the Ceramic Society of Japan Vol 120 No 11 pp530-533 (2012)

(2) Structural analysis of SnO- P2O5 glass

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

Journal of the Ceramic Society of Japan(準備中)

80

謝辞

本研究を遂行するにあたり終始暖かいご指導ご助言並びにご鞭撻を賜わりました岡

山大学大学院環境生命科学研究科 難波徳郎教授に心より感謝の意を表します

また本研究を遂行するにあたり懇切丁寧なご指導とご意見をしていただいた岡山大

学大学院環境生命科学研究科 紅野安彦准教授環境環理センター 崎田真一助教に心より

感謝いたします

本研究を遂行するにあたりラマン分光測定の使用についてご助言ご教授して頂い

た岡山大学自然科学研究科 藤井達生教授中西真助教に心より感謝の意を表します

Sn のメスバウアー測定の際に協力して頂いた岡山大学自然科学研究科先端自然科学教

育研究推進本部高田研究室 松本修治特任助教(当時旭硝子株式会社中央研究所)また

Feのメスバウアーを測定の際に協力して頂いた岡山大学自然科学研究科 藤井達生教授に

心より感謝の意を表します

固体 NMR の岡山大学自然科学研究科 早川聡教授に心より感謝の意を表します

本研究を遂行するにあたりSPring-8 にてHEXRD および AXS 法の測定法および原理

についてご教示頂きました物質材料研究機構 小原真司博士ならびに山形大学 臼杵毅

教授に心より感謝の意を表します

本研究は多くの後輩諸君の協力によって遂行されました特に実際に共同研究共同

実験を遂行して頂いたOG 藤原沙弥香さん博士前期課程 2 年 東利彦君OB 徳岡太誠

君学士課程 4年 塩田将大君に心より感謝の意を表しますまた難波研究室で共に研

究生活を過ごした卒業生在学生の方々に感謝の意を表します

また同時期に博士後期課程に在籍された香川高等専門学校の桟敷剛さんにはNbに

関する有益な情報だけでなく辛い状況でも励ましを頂きました心より感謝の意を表し

ます

最後に長きに渡る学生生活を認め経済面だけでなく精神面でも支援してくださった

家族に心より深く感謝の意を表します

平成 28年 3月

福井 聡史

Page 39: 博士論文 スズリン酸塩系ガラスの物性と構造解析ousar.lib.okayama-u.ac.jp/files/public/5/54353/...博士論文 スズリン酸塩系ガラスの物性と構造解析

36

Fig 221 S5ZP ガラスの XRDパターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

37

Fig 222 FP ガラスの XRD パターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

38

Fig 223 各ガラス系の DR と OP の関係性

39

Fig 224 各ガラス系の重量減と OP の関係性

40

第 3章 分光法を用いたスズリン酸塩系ガラスの構造解析

31 緒言

前章ではSP ガラスおよび第三成分に Nb2O5 ZnOを添加した Sn-Nb-P ガラスSNP ガラ

スSZP ガラスの物性特に耐水性に関する第三成分添加の有効性を明らかにしたその添

加した第三成分の二種類についてもNb2O5 の方が ZnO よりも溶出速度重量減ともに抑

制することができSP ガラスの低ガラス転移温度という特性も維持されていることが判明

したしかし現段階では本研究の主要な物性である耐水性改善の要因が明確になって

いない組成の観点からはOP の値が高い組成が良好な耐水性であることが分かったが

組成だけでは耐水性改善のメカニズムについて完全には理解できないここでリン酸塩

ガラスの溶出のメカニズムは第 1 章で述べたように加水分解反応と水和反応が要因とな

る[1 2]この機構はそれぞれリン酸の構造つまり架橋酸素 BO の数が大きく関わって

おりリン酸アニオンの[PO4]ユニットの架橋酸素数を知ることが重要であるこの BO の

情報を得るためにはガラス構造を示す指標の一つである Qn(n は[PO4]ユニット中の架橋

酸素数を表す)を調べることが必須であるまたQn の分布を調べるためにはガラスの

構造解析を行う必要性がある

ガラスの構造解析には種々の方法があり特にラマン分光法や赤外(IR)分光法核

磁気共鳴法(NMR)などの分光学的手法を用いた構造解析の報告が多い[3-5]ラマン分光

法および IR分光法は原理は異なるがどちらも結合の振動モードを測定する手法であり[6]

リン酸塩ガラスだけでなくケイ酸塩ガラスホウ酸塩ガラスなど様々なガラス系にて測

定がなされている[7 8]また得られた結合状態の情報からリン酸塩アニオンの Qn分布

を調べることも可能であるNMR は共鳴吸収ピークの化学シフト(共鳴周波数のズレ)

から構造を決定する手法であるガラスの場合SiO2や B2O3 P2O5といった網目形成酸化物

の Qn分布を得るために一般的に使用されている手法である[9]

今回これらの測定の中でラマン分光法を選択し構造解析を行ったラマン分光法は

測定する際にサンプル形状を気にすることなく基本的にそのまま測定できるためIR 分

光法のようにサンプル形状で測定方法を変える必要はないまたIR 分光法では例えば

KBr 錠剤法やヌジュール法のように測定を行うためのサンプル調整に手間がかかる場合が

ある[6]さらに比較対象の FP ガラスではNMR を測定できないため作製ガラスを全

て比較検討できるようにラマン分光法を選択した

本章ではラマン分光法を用いて各ガラスの構造解析を行い[PO4]ユニットの Qn分布を

調査し平均 BO数 nを算出することで耐水性と構造の関係性を検討したまたラマン

分光法によって得られた Qn分布の妥当性を確認するためにSP ガラスおよび 67S5N28P ガ

ラスの NMRを測定も行い比較した

32 実験方法

41

321 サンプル準備

ラマン分光およびメスバウアー分光の測定では第 2 章で作製した各ガラスのバルク体

を用いたWD試験に使用したサンプルとは別にラマン測定用のサンプルを用意した適

度な大きさ大体 15 cm角程度のサイズになるようにガラスカッターで切断しその後

十分な平滑性を得るために鏡面研磨を施した

322 ラマン分光測定

使用したラマン分光装置は顕微レーザーラマン分光装置(Jasco NRS-5100)を用いた

用いたレーザー波長は 53208 nmであり400 - 2000 cm-1の範囲で測定した

Qn 分布を導くためにピークフィッティングを行いリン酸塩アニオンのラマンバンド

が現れる950 - 1250 cm-1付近および 700 - 750cm-付近の範囲で定量した

323 31P MAS NMR測定

31P MAS NMRの測定は Varian NMR System 500 を用いて32 mmの MASプローブ

202309MHzにて行った測定パラメーターを以下に示すπ4 パルス長さ 14 μs 待ち時間

(pulse delay)10 s 積算回数 3600 scan シリンダー円筒形状の Zrローターの回転スピード

160 kHz referenceとして二番目の基準物質として使われる NH4H2PO4を使用化学シフト

は85 H3PO4溶液から δ = 10 ppmである

33 結果考察

331 各ガラス系のラマンスペクトル

Figs 31 - 35にラマンスペクトルを示す各ピークは以下の通りに帰属し各スペクト

ル中に該当する構造をピーク位置に示した

1230 - 1260 cm-1 P=O NBO Q

2 [10]

1110 - 1150 cm-1metaphosphate (PO3)

- Q

2 [10]

1030 - 1100 cm-1pyrophosphate (PO35)

2- Q

1 [10]

970 - 1000 cm-1orthophosphate (PO4)

3- Q

0 [10]

920 - 930 cm-1asymmetric (P-O-P) Q

1 [10]

730 - 750 cm-1symmetric (P-O-P) Q

1 [10]

710 - 720 cm-1asymmetric (P-O-P) Q

2 [10]

810 - 820 cm-1Nb-O [NbO4] tetrahedron [11]

900 - 920 cm-1Nb-O isolated [NbO6] octahedron [11]

42

SP ガラスのラマンスペクトル(Fig 31)を見ると50S50P 60S40P ではmetaphosphate

の Q2 構造が支配的であるがSnO 量が増えるにつれてその構造が変化し70S30P では

pyrophosphateの Q1構造と orthophosphateの Q

0構造が共存した構造となっているまたSnO

量の少ない 50S50P および 60S40P において確認されたQ2構造の P=O のピークが見えなく

なっているつまり耐水性と関連して考えるとSnO量が増えるにつれてP-O-P 結合か

ら Sn-O-P 結合に代わり水分子との反応である加水分解反応を妨げる構造に変化している

ことがわかる

Figs 32 33にNb2O5を添加した Sn-Nb-P ガラスおよび SNP ガラスのラマンスペクトル

を示すまずSn-Nb-P ガラスについてNb 無添加の 65Sn-0Nb-35P は主に Q1構造であ

りNbO25が添加されることによってQ0構造に変化しQ

1 Q

0構造が共存しているような

ピークが得られた添加量が少ないガラス系であるため徐々に変化しているのを確認し

た800 cm-1を少し越えた 810 - 820 cm

-1付近にNb2O5を添加することでピークが現れそ

して添加量を増量することで強度が強まるピークがありこのピークは四面体の[NbO4]

のものと判断した

SNP ガラスのラマンスペクトルについてはNb2O5添加量を固定した組成であるためSP

ガラスのような挙動が観察された50S50N45P では50S50P ガラスと同じようにQ2構造

が主な構造でありSnO量の増加に伴って60S5N35P Q1構造67S5N28P Q

0構造に支配

的な構造が変化しているこれはSP ガラスと同じ傾向を示しているためP-O-P rarr Sn-O-P

に置き替わっていることが示唆されるNb-O に関するピークでは50S5N45P のみ[NbO4]

四面体のピークを確認できず900 - 920 cm-1付近に[NbO6]八面体のピークが確認された

SnO量が増量した 60S5N35P では810 cm-1付近の [NbO4] 四面体のピークが現れているが

[NbO6]八面体のピークと 900 - 920 cm-1付近の Q

1構造のピークが非常に近い(ほぼ重なって

いる)ことから60S5N35P については[NbO4] 四面体および[NbO6]八面体の共存の可能性

も考えられるまた67S5NP28 では[NbO4] 四面体のみのピークが観察されたためこ

の Nb-O の配位数変化は[PO4] unitの状態によって変化している可能性も示唆された

ZnO を添加した S5ZP ガラスおよび 5SZP ガラスのラマンスペクトルを Fig 34 に示す

図の下部三つが S5ZP ガラス上部三つが 5SZP ガラスのスペクトルであるSZP ガラスの

二系統を比べるとあきらかなスペクトルの違いが確認された各ガラス系で確認すると

SnO 量が最小の 55S5Z40P はQ2構造と Q

1構造の範囲に跨っているようなスペクトルが得

られた62S5Z33P および 65S5Z30P のスペクトルからはどちらもほぼ Q1構造であると判

断した5SZP のスペクトルは1000 - 1250 cm-1付近の範囲で裾を引くような(なだらかな)

スペクトルが得られたZnO 量が最小の 5S55Z40P にはQ2構造が主な構造に見えるが

shoulderピークのような Q1構造(1030 - 1100 cm

-1)が確認できる5S62Z40P においては

1000 - 1250 cm-1付近の範囲まで幅広いスペクトルが得られた730 - 750 cm

-1付近にピーク

が現れているためおそらく Q1構造が最も多く存在していると考えられる65S5Z30P では

Q1構造Q

0構造が共存しているようなピークが得られた

43

FP ガラスのラマンスペクトルを Fig 35 に示すFe量の少ない 20F80P 25F75P と他の三

つで構造が異なっていることである20F80P 25F75P はQ2構造と Q

1構造が基本構造にな

っていると判断できる 30F70P は1110 - 1150 cm-1付近に shoulderピークのようなものがあ

りQ2 Q

1 Q

0構造が共存しているようなスペクトルであった35F65P 40F60P はQ1構造

が主な構造でQ0構造があると判断した

332 平均 BO数 n (Qn分布)

まずピーク分離について散乱断面積が見積もれなかったためラマンの散乱強度比

を Qn分布として簡易的にピーク分離を行い(Fig 36)そこから平均架橋酸素数 BO 数 n

を算出したここでFig 37 に 31P MAS NMRスペクトルを示しTable 31に NMRおよび

ラマン分光より得られた平均 BO 数 n を示す(NMR の帰属 reference [12])表よりNMR

とラマンから得られた Qn分布はほぼ一致していることが分かった60S40Pについては支

配構造が NMR(Q1) ラマン(Q

2)で逆になったこれは60S40P の組成がQ

2と Q1のほぼ中

間の組成になるためこのようなズレが生じたと考えられるしかし今回のラマンによ

る Qn分布の算出についてはほぼ問題ないと判断した

Table 32にラマンスペクトルより求めた Qn分布平均 BO 数 nをを示しTable 24に示

した DR 重量減の結果を併記する

SP ガラスのうち耐水性が低いガラスは Q2構造によって形成されているSnO量の増加

によって NBOの増加とともに耐水性の向上が確認できSnOが入ることでSn-O-P 結合を

形成し水分子からの攻撃を受けにくくなっていることが考えられる

Sn-Nb-P ガラスでは基本的に Q1構造が主構造でNb2O5の添加が増えるにつれQ

0構

造が支配的になり耐水性は次第に向上していく最も耐水性のよかった 65S-5Nb-30P は

Q0構造での割合が非常に高く平均 BO数 n値が 03であった

SNP ガラスではP2O5量が多い組成の 50S5N45Pにおいても平均 BO数 nが 60S40P と

同じながらも耐水性が良くなっている67S5N28P はほぼ完全に Q0構造であり平均 Q

n

値は 0となった

SZP ガラスについてはS5ZP 5ZSP のどちらの系列についても耐水性の結果に大きな差

というものは確認されなかったが構造的にも平均 BO数 nが 09 10 17という結果であ

った

FP ガラスについてはFe2O3 lt 30 molのときは平均 BO 数 nが20 19と高い数値を

示したが耐水性は非常に良好であったこの結果より組成だけでなく構造的にも耐

水性高くなる要因が不明である一つの原因の可能性としてメスバウアーより得られた

Fe2+の存在比が 40以上と高かったことがFe2O3含有量が少ない組成時には効果的になっ

ているのかもしれない

333 平均 BO数 nと耐水性の関係性

44

Fig 38に DRと平均 BO数 nの関係性についてFig 39に重量減と平均 BO数 nの関係

性をそれぞれ示すまたOP の時と同様に各図にリン酸塩の三つの構造の平均 BO数

n も表記した双方の図よりDR 重量減共に平均 BO 数 nが低下することで単調に下がっ

ていることが分かるまた耐水性の良かったNb2O5添加の Sn-Nb-P SNPガラスはの DR

の挙動(傾き)はOP 時とも異なった挙動が得られた

Fig 310に OP と平均 BO数 nの関係を示す図中に示す茶色metaphosphate 黄色

pyrophosphate 灰色orthophosphate であるこの図から耐水性改善には平均 BO 数

n を下げOP を上げることが重要であるのが分かるまたNb5+の添加はOP を上げる

だけでなく平均 BO 数も減少させることから非常に効果的な成分であることが明らかで

あるこれはP5+から同酸価数 Nb

5+に少量でも置き換えることで平均 BO 数 n を下げ

OP を上げることを可能としている(実際に orthophosphate の OP4 よりも高い OP でガ

ラスが作製できている)つまりNb5+の添加によって P-O-P 結合が減少し水和反応加

水分解反応が抑制されているからである

以上の結果SP 系ガラスの耐水性改善には低い平均 BO 数と高い OP の組成にするこ

とが重要でNb2O5の添加は非常に効果的であることが分かったその一方でガラス中の

詳細な構造的要因についてははっきりしていないため次章の第 4 章にてさらに詳し

い構造解析を行い耐水性改善の要因について調査を行った

34 結言

本章ではラマン分光を使用して各ガラス系のリン酸塩アニオンの構造を簡易定量で

評価し組成と構造の関係について考察した

平均 BO 数 n と耐水性に関してはDR および重量減が平均 BO 数 n の減少で単調に低下

した結果が得られた

平均 BO数 nと OP の図より耐水性改善には平均 BO数 nを下げることそして OP

を上げることが重要であることが明白であった

Nb5+の添加は平均 BO数を減少させるだけでなくOP も上げることからガラス構造内

の P-O-P 結合を減少させる故に水和反応加水分解反応が抑制され耐水性が大幅に

改善された故にNb2O5 のような高価数金属酸化物を添加することが効果的であること

が示唆された

参考文献

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[2] 春日敏弘 NEW GLASS 22 [2] 3 - 8 (2007)

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[5] H Takebe Y Baba and M Kuwabara J Non-Cryst Solids 352 3088-3094 (2004)

[6] 服部敏明 綾瀬守 川口建 吉野明広編機器分析ナビ 化学同人(2006)

[7] K H Min and T Suzuki 旭硝子研究報告 59 29-33 (2009)

[8] I Waclawska and M Szumera J Therm Anal Calorim 101 423-427 (2010)

[9] 中井利仁 NEW GLASS 28 [109] 17 -2 8 (2013)

[10] I O Mazali L C Barbosa and O L Alves J Mater Sci 39 1987-1995 (2004)

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[12] D Holland A P Howes M E Smith and A C Hannon J Phys Condens Matter 14

13609-13621 (2002)

46

Fig 31 SP ガラスのラマンスペクトル

47

Fig 32 Sn-Nb-P ガラスのラマンスペクトル

48

Fig 33 SNP ガラスのラマンスペクトル

49

Fig 34 SZP ガラスのラマンスペクトル

50

Fig 35 FP ガラスのラマンスペクトル

51

Fig 36 ラマンスペクトルのピーク分離例(67S5N28P)

Raman Shift (cm-1)

52

Fig 37 NMRスペクトル

Table 31 NMR およびラマン分光より得られた SP 67S5N28P ガラスの

Qn分布および平均 BO数 n

53

Table 32 各ガラスのラマンスペクトルより求めた Qn分布結果

(表の赤線より右側の結果は Table 22 より)

1 仕込み組成による数値

2 Fig 2212 に示した析出物を取り除いた後の数値

54

Fig 38 DR と平均 BO数 nの関係性

55

Fig 39 重量減と平均 BO数 nの関係性

56

Fig 310 OP と平均 BO数 nの関係性

Meta

Pyro

Ortho

57

第 4章 放射光を用いたスズリン酸塩系ガラスの構造解析

41 緒言

前章の第 3 章にてラマン分光法を用いて SP 系ガラスの構造解析により Qn分布を導き

出したことで耐水性と構造の関係についてある程度関連性を導くことができたリン

酸アニオンについてはQ0(orthophosphate)構造 gt Q

1(pyrophosphate)構造 gt Q2

(metaphosphate)構造の順で良耐水性となるしかしSn Nbおよび Znの局所構造につ

いては知見が得られていないラマン分光や IR分光などの分光学的手法を用いてSnや

Nb Zn の周辺の局所構造を知るには限界があるまたガラスの構造解析を行う上で非常

に重要な因子である中距離構造の評価には分光学的手法は不向きである[1]

そこで局所構造や中距離構造を知るために有効な手法として放射光線を用いた構造

解析がある放射光(SR 光)とはシンクロトロンなどの加速器で高速に加速された電子

が進行方向を磁場によって変えられた際に放射する電磁波である[2]エネルギーが高く

(短波長)輝度が高い特性を有している日本国内では兵庫県佐用町の SPring-8や茨城

県つくば市の高エネルギー加速器研究機構佐賀県鳥栖市の佐賀県立九州シンクロトロン

光研究センターなど複数個所に放射光施設が設置されている

放射光を用いたガラスの構造解析には一般的に高エネルギーX 線回折(High Energy

X-ray diffraction HEXRD)が用いられるこの回折実験から高い散乱ベクトル Q(= 4π sinθλ)

まで回折データが得られる多種類の原子から構成される物質の場合はFaber-Ziman 型[3]

の構造因子 S(Q)を用いる以下の式に示すようにFaber-Ziman 型構造因子 S(Q)は同種また

は異種の原子による相関の重み関数付の和として示される例として SiO2ガラスで説明す

ると構造因子 S(Q)は三種類の原子付の S(Q)の重み付の和として表されていることが分か

I(Q) 散乱断面積 ltgt 原子一個当たりの平均値 f(Q) 原子散乱因子 W 重み関数

通常の研究室で使用される X 線回折(XRD)装置で用いられる特性 X 線はCuKα線(λ

= 0154 nm 81 keV)が最も良く用いられより高いエネルギーの X 線が必要な場合は

MoKα線(λ = 0071 nm 175 keV)が使用される一方でSPring-8のビームライン BL04B2

で行われる高エネルギーX 線回折(HEXRD)測定で使用される SR のエネルギーは378 keV

58

~ が使用可能である[2]従ってガラス以外の液体のような非晶質物質にも非常に精度

よく構造解析が行われている[4]

また局所構造解析の一つに X線異常散乱法という測定方法がある[5 6]これは通常

の X 線回折実験では分離不可能な特定元素に関連する部分構造因子(散乱強度曲線)を得

ることができる手法である今回 HEXRD の測定時に使用したエネルギー614 keV では各元

素の異常散乱項のエネルギー依存性は確認されない(Fig 41)その一方でFig 42に示す

Sn の吸収端付近の 292 keV付近ではSnの異常分散項のエネルギー依存性が確認できる

つまりSnの吸収端近傍より低エネルギー(E)側の異なるエネルギーの X線(E1 E2)を

使って散乱強度を測定し各 E における異常分散項(f`)の変化(つまり高い E1 から低い

E2 の散乱強度の差分)を利用して Snに関する部分構造因子を求める構造解析が AXS 法で

あるこの測定法は古くから知られている方法ではあるが装置の測定条件や設備の問

題からなどから使用があまり普及していなかった[5 6]近年になり金属ガラスの構造解

析について徐々に報告が出てきており今後注目される測定法である

HEXRD および AXS 法などから得られたデータ実測の構造因子 S(Q)は一次元の限られ

た構造情報であるためガラスなどの非晶質物質の中距離構造を解明するためにはこれ

らのデータを基に三次元構造を求める必要がある三次元構造モデルの作成には逆モンテ

カルロ(RMC)シミュレーションを使用することが有効である[7]このシミュレーション

は任意で決めたシミュレーションボックス内の粒子をランダムに動かすことで実測の

構造因子 S(Q)を再現する三次元構造モデルを構築する方法である

SP ガラスについては分光学的手法について数多く報告があるが放射光を用いた回折

法はほとんど適用されていないそこで本研究では HEXRD および AXS 法を用いた構造

解析を行うことでSn Nb周りの構造を解明すると共にSNP ガラスの耐水性改善のメカ

ニズムについて考察したまたAXS 法の有効性についても検討した測定を行ったガラ

スはSP ガラスおよび最も耐水性の高かった 67S5N28P を選択した

42 実験方法

421 HEXRD AXS法

HEXRDはSPring-8のビームライン BL04B2 で測定を行ったエネルギー614 keV の X

線を用いた測定サンプルの厚みは09 mm (plusmn0005 mm)になるまで研磨を行った

AXS 測定はSPring-8のビームライン BL13XUを使用した(Fig 43)それぞれの測定し

た X 線のエネルギーについて以下に示す

①Sn K吸収端hellip292 keV near edgehellip291452 keV (-60 eV) far edgehellip289751 keV (-230 eV)

②Nb K吸収端hellip1899 keV near edgehellip189562 keV (-30 eV) far edgehellip187863 keV (-230 eV)

測定に使用したサンプルの厚さが015 - 030 mmとなるまで研磨を施した

SP ガラスについて50S50P 60S40P 67S33P の三組成のガラスを測定した70S30P に関

59

しては測定を試みたが放射光照射によって結晶化してしまいガラス部分の正確な構

造因子を得るための強度補正ができず解析を断念した

422 RMCのモデリング

Table 41 に RMC の各種パラメーターを示す粒子数は約 5000 個でそれに伴う boxの一

辺の長さは約 42 ~ 46 Ǻになった拘束条件にP の配位数が 4になるような条件を付け

加えたFig 44にSn2P2O7結晶および Sn3P2O8結晶の動径分布関数(RDF)をTable 32

にRDFから得られた第一近接距離[8 9] を示すこれらの数値を使用しcutoffを決定し

たNb-O についてはいくつかの文献値を参考にした[10 11]

各ガラスの RMCのモデリングは①HEXRDから得られた S(Q)のみ②S(Q)および AXS

から得られた部分構造因子を加えた場合でそれぞれ計算した

43 結果考察

最初にNbの AXSから得られたデータについて解析を試みたが妥当な構造モデルが得

られなかったためSnの AXSのみで解析を進めたNb2O5の量が 5 molと少量であったた

めあまり精度の高いデータが得られなかったと推測される

431 実測の HEXRDおよび AXSの結果

4311 実測 HEXRDの S(Q)

Fig 45 に実測HEXRDの S(Q)を示す四つの組成ともに実測HEXRDの S(Q)が得られ

Nb2O5添加の 67S5N28P ガラスでは Low Q 側に変化が確認された

4312 実測散乱強度曲線

Fig 46 に Snの散乱強度曲線を示す(a) の 67S33P のこの曲線からはfar edgeおよび

near edge のエネルギー間で差分が見られエネルギーの依存性が確認された50S50P

67S5N28P のガラスについても同じように差分が確認されたが(b)の 60S40P についてのみ

他とは若干異なる結果(緑丸)であったためRMC の構造解析には差分の構造因子ではな

くfar edge near edge 二つの構造因子を用いた

4313 全相関関数 T(r)

Fig 47 に全相関関数 T(r) を示すHEXRD から得られたものを実線でSnの AXS から

得られたものは点線で示し組成ごとに重ねて表示した図中に各ピークについて帰属し

ているがSnの T(r)からはSn-O Sn-P Sn-Snのみのピークを確認した

432 RMCの計算結果および考察

60

構造モデルの一例として67S5N28P ガラスの得られた構造モデルをFig 48に示す水

色の多面体 unitSnON 黄色の多面体 unitPO4 ピンクの多面体 unitNbONである以下

詳細な構造解析の結果および考察を記す

4321 RMCのフィッティング結果

RMCのフィッティング結果の一例として67S33P の HEXRD と Snの AXS の構造因子か

ら得た結果を示す(Fig 49)二つの構造因子を加えて計算した結果においてもHEXRD

の S(Q) AXS の S(Q)に各々に対する良好なフィッティング結果が得られた他の組成も

同様なフィッティング結果が得られた

4322得られた各 pairの平均配位数平均角度平均結合距離

RMCの結果によって得られた各 pairの平均配位数平均角度平均結合距離を Tables 43

に示す上段が HEXRD の S(Q)のみ下段が HEXRD に Sn の AXS の部分構造因子を加え

て結果である最下部は比較のためにSn2P2O7の情報を記載した[8]

P-O pairについてRMCモデル中の PON多面体に関して平均配位数 Nが 4および P-O

の平均結合距離が約 160Å平均結合角度angO-P-O が約 109degという結果が得られた組成

による大きな違いは確認されなかったのはP の配位数が 4になるように拘束条件をかけた

結果であると考えられるSnON多面体についてはSnO量の増加 = OP の増加であり平

均配位数 Nが 3 ~ 35へ増加した平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約

22Åで組成による大きな変化はほとんど見られなかったNb2O5を 5 mol添加したガラ

スではNbON多面体の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平均配位数 N約 4Nb-O 平均結

合距離約 20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O(約 105deg)と値が近いこと

また6配位ではなく 4配位として主に存在していることからSnO と同じような働きをし

ていると推測される

以上の結果からNb2O5添加の耐水性改善の要因として結合距離が Sn-O が約 22Åに対

し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強固にして

いることも一つの要因として考えられる

また67S5N28P ガラスの各多面体モデルを確認すると(Fig 410)P は PO4Snは SnO4

と SnO3Nbは NbO4をそれぞれ再現している

4323得られた各 pairの結合様式

RMC の結果により得られた各 pair の結合様式を Tables 44 に示す上段が HEXRD の

S(Q)のみ下段が HEXRDに Snの AXS の部分構造因子を加えた結果である最下部は比

較のためにSn2P2O7の情報を記載した[8]

結合様式に関してはPO4四面体は他の多面体も含めてほぼ頂点共有で存在している

SnON多面体についてはSnO 量が少ない配位数が 3 に近い場合頂点共有以外の共有の

61

割合も多くSnO 量が増えるにつれて頂点共有が主になり網目形成体として振舞ってい

ると考えられる組成によって平均結合距離や平均角度の大きな変化が見られなかったこ

とから平均配位数が結合様式を決める重要なファクターであるということも考えられる

またHEXRD と AXS 法の結果がほぼ同じであったこれは主成分が SnO のガラスであ

るためHEXRDでも十分に詳細な構造が得られたため大きな変化が現れなかったと考え

られるNbON 多面体はPO4 四面体と SnON 多面体とはほぼ頂点共有で繋がっている以

上の結果よりSnO量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体的に各多面体同士の

頂点共有が増えていることから耐水性の改善には頂点共有を多く含む構造であること

が重要である或いは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的となって

いるということが推測されるFig 411に 67S5N28P ガラスの構造モデルを示す各多面

体はほぼ頂点共有で繋がっていることが確認できる

4324 平均 BO数の比較

Tables 45にNMR Raman RMC(HEXRD) RMC(HEXRD + AXS)の平均BO数を示すRMC

から得られた平均 BO 数 nはNMR Raman と同様に Nb2O5の添加による大幅な減少が確認

されたしかしNMR Raman と比較すると全組成において数値が大きすぎで適当でない

50S50P の構造モデルを観るとPO4四面体間で3配位 O の存在が確認された(Fig 412)た

め実測で得られた n値を再現できるようなPO4四面体モデル間の繋がり方に関する拘束条

件を加えて RMCを計算する必要性があるまた仮に3配位 Oの存在があるとすると電

子状態の変化が生じていることがと示唆されるため分子軌道計算を用いて電子状態解析

を行い確認する必要がある

4325 耐水性の改善について

Nb2O5を添加のガラス構造への影響について①6配位ではなく 4配位として主に存在し

ていることからSnO と同じような働きをしていると推測される②結合距離が Sn-O が約

22Åに対し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強

固にしている③ガラス構造中で全体的に各多面体同士の頂点共有が増えている以上の

ことが判明した以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性

耐候性を改善した要因として考えられる

44 結言

本章では分光学的手法では評価できないガラスの中距離構造局所構造について理解

するために放射光を用いた構造解析を実施しSP ガラスの構造と耐水性改善について考

察したHEXRDおよび AXS法を用いて測定を行い得られたデータを RMCシミュレーシ

ョンにて解析を行った

解析の結果 Sn-O pair については平均配位数 Nが 3 ~ 35でSnO量の増加 = OP の増

62

加に伴い高くなった平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約 22Åであ

ったP-O Sn-Oについては組成による大きな変化はほとんど見られなかった67S5N28P

ガラスの Nb-O pair の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平均配位数約 4Nb-O 平均結合距

離約 20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O(約 105deg)と値が近いことま

た6配位ではなく 4配位として主に存在していることからSnOと同じような働き(網目

形成体)をしていると推測されるまた結合距離が Sn-O が約 22Åに対し Nb-O は約 20

Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強固にしていると言える

SnO 量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体的に各多面体同士の頂点共有が増え

ていることから耐水性の改善には頂点共有を多く含む構造であることが重要である

もしくは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的であることが推測さ

れる以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性耐候性を

改善した要因として考えられる

またAXS 法の有効性についても確認し効果的であることが判明したただし今回

は主成分が Sn の組成のガラスでありHEXRD でも十分に詳細な構造が得られたため

大きな差は現れなかった

参考文献

[1] 山根正之 安井至 和田正道 国分可紀 寺井良平 近藤敬 小川晋永編ガラス光学ハ

ンドブック 朝倉書店(1999)

[2]飯野潔 梅咲則正 NEW GLASS 19 [2] 31-40 (2004)

[3] T E Faber and J M Ziman Philos Mag 11 [109] 153-173 (1965)

[4] 小原真司 鈴谷健太郎 放射光 14 [5] 365-375 (2001)

[5] 早稲田嘉夫 齋藤正敏 放射光 10 [3] 299-315 (1997)

[6] 細川伸也 広島工業大学紀要研究編 46 197-204 (2012)

[7] RLMcGreevy and LPuszai Mol Simulation 1 359(1988)

[8] V V Chernaya A S Mitiaev P S Chizhov E V Dikarev R V Shpanchenko E V Antipov

MV Korolenko and PB Fabritchinyi J Chem Mater 17 284-290 (2005)

[9] M Mathew L W Schroeder and T H Jordan Acta Cryst B33 1812-1816 (1977)

[10] J S Taylar and M P Cohs J Am Ceram Solids 109 [9] 2834-2835 (1987)

[11] D Munoz-Martin A Ruiz de La Cruz J M Fernandez-Navarro C Domingo J Solis and J

Gonzalo J appl Phys 110 023522 (2011)

63

Fig 41 各原子の異常分散項のエネルギー依存性

Fig 42 Sn の異常分散項のエネルギー依存性

64

Fig 43 SPring-8の BL13XU

65

Tab

le 4

1

RM

Cの各パラメーター

66

Fig 44 Sn2P2O7 Sn3P2O8結晶の RDF

Table 42 Sn2P2O7 Sn3P2O8結晶の各 pairの第一近接距離

67

Fig 45 得られた実測 HEXRDの S(Q)

68

Fig 46 Sn の異常散乱測定により得られた散乱強度のエネルギー依存性

(a)67S33P (b)60S40P

69

Fig 47 全相関関数 T(r)

太線 HEXRD より

細線 Sn の AXSより

70

Fig 48 67S5N28P ガラス構造のモデル

71

Fig 49 RMC フィッティングの結果

72

Tab

le 4

3 各

pairの平均配位数角度結合距離

73

Fig

4

10

67

S5

N2

8Pガラスの各多面体モデル

74

Tab

le 4

4 各

pairの結合様式

75

Fig 411 67S5N28P ガラスの構造モデル

76

Table 45 平均 BO 各数 nの比較

Fig 412 50S50P ガラスの構造モデル

77

第 5章 総括

本研究ではSP ガラスを対象とした本研究では鉛フリー代替ガラスまたは希土類フ

リー蛍光体として SP ガラスの新規高機能化を将来的に目指し問題点であるldquo化学的耐久

性rdquoの改善につながる知見を得ることを目的としたそこでまずSP ガラスを母体ガラ

スとし第三成分に Nb2O5を添加した Sn-Nb-P SNP ガラスZnO を添加した SZP ガラスを

作製し耐水性を中心とした物性評価を行った次に分光学的手法で構造解析を行い

Qn 分布を導き出した最後に放射光を用いた構造解析を行い耐水性改善に関する構造的

な考察を行った以下に本研究で行った検討内容を示す

(1)SPガラスおよび第三成分Nb2O5 ZnOを添加した三成分系SPガラスの物性評価(第 2章)

(2)SP 系ガラスの分光学的手法による Qn分布導出(第 3章)

(3)放射光を用いた SP 系ガラスの構造解析構造と耐水性改善の関連について(第 4章)

各章についてまとめた結果を以下に示す

第 2章

第 2章では二成分系および三成分系のリン酸塩系ガラスの各種物性(密度や熱的特性

耐水性)の評価を行った二成分系ではSP ガラスに加え良好な耐水性を有する鉄リン

酸塩(Fe2O3-P2O5)系ガラス(以下 FP ガラス)を比較のために三成分系では二成分系

の SP ガラスに Nb2O5を添加したニオブ含有 SP ガラス(SNP ガラス)および ZnO を添加し

た亜鉛含有 SP ガラス(SZP ガラス)を作製した

今回作製した SP 系ガラスは低ガラス転移温度を有していた各組成の温度域はSP

ガラスTg le 280 Sn-Nb-P SNPガラスTg le 3505SZP S5ZPガラスTg ≦ 450であった

各種 SP ガラスの耐水性試験の結果二成分系の SP ガラスよりも三成分系ガラスの方が

良好な耐水性を有していた65Sn-5Nb-30P 67S5N28P ガラスが最も耐水性が良好であり化

学的耐久性の改善には Nb2O5が ZnOよりも効果的であった

組成と耐水性に関してはDRおよび重量減がOP増加で単調に低下した結果が得られた

つまり耐水性を改善させるにはSP 系ガラスのガラス化範囲を拡大かつ OP を増大させ

る第三成分の添加が有効であることが示唆された

第 3章

第 3章ではSP 系ガラスの分光学的手法による Qn分布の導出を行ったラマン分光法を

用いて各ガラス系のリン酸塩アニオンの構造を簡易定量で評価し組成と構造の関係に

ついて考察した平均 BO 数 n と耐水性に関してはDR および重量減が平均 BO 数 nの減

少で単調に低下することが明らかとなった

平均 BO 数 n と OP の関係より耐水性改善には平均 BO 数 n を下げることそして

OP を上げることが重要であることが明らかになった

78

Nb5+の添加は平均 BO数を減少させるだけでなくOP も上げることからガラス構造

内の P-O-P 結合を減少させ水和反応加水分解反応が抑制され耐水性が大幅に改善さ

れることが示唆された故にNb2O5 のような高価数金属酸化物を添加することが効果的

であることが再度確認された

第 4章

耐水性向上についてより深く評価するためSP SNP ガラスの局所構造に関する知見を得

ることを目的に放射光を用いた構造解析を行った高エネルギーX 線回折(HEXRD)お

よび X 線異常散乱(AXS)法で測定したデータを再現する構造モデルを逆モンテカルロ

(RMC)シミュレーションで構築し構造解析を行った

RMC モデル中の PON多面体に関して平均配位数 Nが 4および P-O の平均結合距離が約

160Å平均結合角度angO-P-Oが約 109degという結果が得られた組成による大きな違いは確

認されなかったSnON多面体については平均配位数 N が 3~4 でSnO 量の増加に伴い 4

に近い値となった平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約 22Åで組成

による大きな変化は見られなかった

Nb2O5を 5 mol添加したガラスではNbON多面体の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平

均配位数N約4Nb-O平均結合距離約20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O

(約 105deg)と値が近いことまた6配位ではなく 4配位として主に存在していることから

SnO と同じような網目形成体として働いていると推測されたまた結合距離が Sn-O が約

22Åに対し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強

固にしていると考えられるまたSnO 量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体

的に各多面体同士の頂点共有が増えていることから耐水性の改善には頂点共有を多く

含む構造もしくは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的であること

が示唆された以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性

耐候性を改善した要因として考えられる

またAXS 法の有効性についても確認し効果的であることが判明したただし今回

は主成分が Snの組成のガラスでありHEXRD でも十分に詳細な Snの周辺構造が得られ

たためAXSを利用した場合との大きな構造の差は認められなかった

本研究では様々な優れた特徴を有する SP ガラスにおける耐水性改善のメカニズムにつ

いて検討を行ったこの系のガラスについてはこれまでほとんど利用されていなかった

放射光を用いた構造解析を駆使し第三成分の添加によってどのような構造的変化が生じ

耐水性を改善させるか新たな知見を得ることができた最終目標である機能性ガラスの

開発における新たなる材料設計指針の確立に対してldquo耐水性rdquoに関しては概ね明らかにな

ったと考えられる一方で今回検討していな電子状態化学結合性についても評価する

ことで溶出メカニズムの解明が可能になり材料設計指針の確立が期待される

79

発表論文リスト

口頭発表

第 2章および第 3章

(1) SnO-P2O5 系ガラスへの酸化物添加効果

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎

日本セラミックス協会第 25 回秋季シンポジウム No3C06 (名古屋市 2012年 9月)

(2) Effect of Nb2O5 addition to SnO-P2O5 glass (Poster)

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

International Union of Materials Research Societies International Conference on Electronic

Materials IUMRS-ICEM 2012 A-9-P26-003 (Yokohama 2012 年 9月)

(3) スズリン酸塩系ガラスの蛍光特性耐水性に及ばす酸化物の添加効果(ポスター)

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎

日本セラミックス協会 2013 年年会 1P070 (東京 2013年 3月)

第 4章

(1) 放射光を用いたスズリン酸塩ガラスの構造解析

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎小原真二臼杵毅

日本セラミックス協会第 27 回秋季シンポジウム 2B22 (鹿児島市 2014年 9 月)

(2) Structural analysis of tin phosphate glasses by synchrotron radiation (Poster)

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba Shinji Kohara Takeshi Usuki

International Congress on Glass ICG Annual Meeting Bangkok 2015 P14-138 p186 (2015)

発表論文

(1) Effect of Nb2O5 addition to SnO- P2O5 glass

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

Journal of the Ceramic Society of Japan Vol 120 No 11 pp530-533 (2012)

(2) Structural analysis of SnO- P2O5 glass

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

Journal of the Ceramic Society of Japan(準備中)

80

謝辞

本研究を遂行するにあたり終始暖かいご指導ご助言並びにご鞭撻を賜わりました岡

山大学大学院環境生命科学研究科 難波徳郎教授に心より感謝の意を表します

また本研究を遂行するにあたり懇切丁寧なご指導とご意見をしていただいた岡山大

学大学院環境生命科学研究科 紅野安彦准教授環境環理センター 崎田真一助教に心より

感謝いたします

本研究を遂行するにあたりラマン分光測定の使用についてご助言ご教授して頂い

た岡山大学自然科学研究科 藤井達生教授中西真助教に心より感謝の意を表します

Sn のメスバウアー測定の際に協力して頂いた岡山大学自然科学研究科先端自然科学教

育研究推進本部高田研究室 松本修治特任助教(当時旭硝子株式会社中央研究所)また

Feのメスバウアーを測定の際に協力して頂いた岡山大学自然科学研究科 藤井達生教授に

心より感謝の意を表します

固体 NMR の岡山大学自然科学研究科 早川聡教授に心より感謝の意を表します

本研究を遂行するにあたりSPring-8 にてHEXRD および AXS 法の測定法および原理

についてご教示頂きました物質材料研究機構 小原真司博士ならびに山形大学 臼杵毅

教授に心より感謝の意を表します

本研究は多くの後輩諸君の協力によって遂行されました特に実際に共同研究共同

実験を遂行して頂いたOG 藤原沙弥香さん博士前期課程 2 年 東利彦君OB 徳岡太誠

君学士課程 4年 塩田将大君に心より感謝の意を表しますまた難波研究室で共に研

究生活を過ごした卒業生在学生の方々に感謝の意を表します

また同時期に博士後期課程に在籍された香川高等専門学校の桟敷剛さんにはNbに

関する有益な情報だけでなく辛い状況でも励ましを頂きました心より感謝の意を表し

ます

最後に長きに渡る学生生活を認め経済面だけでなく精神面でも支援してくださった

家族に心より深く感謝の意を表します

平成 28年 3月

福井 聡史

Page 40: 博士論文 スズリン酸塩系ガラスの物性と構造解析ousar.lib.okayama-u.ac.jp/files/public/5/54353/...博士論文 スズリン酸塩系ガラスの物性と構造解析

37

Fig 222 FP ガラスの XRD パターン(a)耐水性試験前 (b)耐水性試験後

38

Fig 223 各ガラス系の DR と OP の関係性

39

Fig 224 各ガラス系の重量減と OP の関係性

40

第 3章 分光法を用いたスズリン酸塩系ガラスの構造解析

31 緒言

前章ではSP ガラスおよび第三成分に Nb2O5 ZnOを添加した Sn-Nb-P ガラスSNP ガラ

スSZP ガラスの物性特に耐水性に関する第三成分添加の有効性を明らかにしたその添

加した第三成分の二種類についてもNb2O5 の方が ZnO よりも溶出速度重量減ともに抑

制することができSP ガラスの低ガラス転移温度という特性も維持されていることが判明

したしかし現段階では本研究の主要な物性である耐水性改善の要因が明確になって

いない組成の観点からはOP の値が高い組成が良好な耐水性であることが分かったが

組成だけでは耐水性改善のメカニズムについて完全には理解できないここでリン酸塩

ガラスの溶出のメカニズムは第 1 章で述べたように加水分解反応と水和反応が要因とな

る[1 2]この機構はそれぞれリン酸の構造つまり架橋酸素 BO の数が大きく関わって

おりリン酸アニオンの[PO4]ユニットの架橋酸素数を知ることが重要であるこの BO の

情報を得るためにはガラス構造を示す指標の一つである Qn(n は[PO4]ユニット中の架橋

酸素数を表す)を調べることが必須であるまたQn の分布を調べるためにはガラスの

構造解析を行う必要性がある

ガラスの構造解析には種々の方法があり特にラマン分光法や赤外(IR)分光法核

磁気共鳴法(NMR)などの分光学的手法を用いた構造解析の報告が多い[3-5]ラマン分光

法および IR分光法は原理は異なるがどちらも結合の振動モードを測定する手法であり[6]

リン酸塩ガラスだけでなくケイ酸塩ガラスホウ酸塩ガラスなど様々なガラス系にて測

定がなされている[7 8]また得られた結合状態の情報からリン酸塩アニオンの Qn分布

を調べることも可能であるNMR は共鳴吸収ピークの化学シフト(共鳴周波数のズレ)

から構造を決定する手法であるガラスの場合SiO2や B2O3 P2O5といった網目形成酸化物

の Qn分布を得るために一般的に使用されている手法である[9]

今回これらの測定の中でラマン分光法を選択し構造解析を行ったラマン分光法は

測定する際にサンプル形状を気にすることなく基本的にそのまま測定できるためIR 分

光法のようにサンプル形状で測定方法を変える必要はないまたIR 分光法では例えば

KBr 錠剤法やヌジュール法のように測定を行うためのサンプル調整に手間がかかる場合が

ある[6]さらに比較対象の FP ガラスではNMR を測定できないため作製ガラスを全

て比較検討できるようにラマン分光法を選択した

本章ではラマン分光法を用いて各ガラスの構造解析を行い[PO4]ユニットの Qn分布を

調査し平均 BO数 nを算出することで耐水性と構造の関係性を検討したまたラマン

分光法によって得られた Qn分布の妥当性を確認するためにSP ガラスおよび 67S5N28P ガ

ラスの NMRを測定も行い比較した

32 実験方法

41

321 サンプル準備

ラマン分光およびメスバウアー分光の測定では第 2 章で作製した各ガラスのバルク体

を用いたWD試験に使用したサンプルとは別にラマン測定用のサンプルを用意した適

度な大きさ大体 15 cm角程度のサイズになるようにガラスカッターで切断しその後

十分な平滑性を得るために鏡面研磨を施した

322 ラマン分光測定

使用したラマン分光装置は顕微レーザーラマン分光装置(Jasco NRS-5100)を用いた

用いたレーザー波長は 53208 nmであり400 - 2000 cm-1の範囲で測定した

Qn 分布を導くためにピークフィッティングを行いリン酸塩アニオンのラマンバンド

が現れる950 - 1250 cm-1付近および 700 - 750cm-付近の範囲で定量した

323 31P MAS NMR測定

31P MAS NMRの測定は Varian NMR System 500 を用いて32 mmの MASプローブ

202309MHzにて行った測定パラメーターを以下に示すπ4 パルス長さ 14 μs 待ち時間

(pulse delay)10 s 積算回数 3600 scan シリンダー円筒形状の Zrローターの回転スピード

160 kHz referenceとして二番目の基準物質として使われる NH4H2PO4を使用化学シフト

は85 H3PO4溶液から δ = 10 ppmである

33 結果考察

331 各ガラス系のラマンスペクトル

Figs 31 - 35にラマンスペクトルを示す各ピークは以下の通りに帰属し各スペクト

ル中に該当する構造をピーク位置に示した

1230 - 1260 cm-1 P=O NBO Q

2 [10]

1110 - 1150 cm-1metaphosphate (PO3)

- Q

2 [10]

1030 - 1100 cm-1pyrophosphate (PO35)

2- Q

1 [10]

970 - 1000 cm-1orthophosphate (PO4)

3- Q

0 [10]

920 - 930 cm-1asymmetric (P-O-P) Q

1 [10]

730 - 750 cm-1symmetric (P-O-P) Q

1 [10]

710 - 720 cm-1asymmetric (P-O-P) Q

2 [10]

810 - 820 cm-1Nb-O [NbO4] tetrahedron [11]

900 - 920 cm-1Nb-O isolated [NbO6] octahedron [11]

42

SP ガラスのラマンスペクトル(Fig 31)を見ると50S50P 60S40P ではmetaphosphate

の Q2 構造が支配的であるがSnO 量が増えるにつれてその構造が変化し70S30P では

pyrophosphateの Q1構造と orthophosphateの Q

0構造が共存した構造となっているまたSnO

量の少ない 50S50P および 60S40P において確認されたQ2構造の P=O のピークが見えなく

なっているつまり耐水性と関連して考えるとSnO量が増えるにつれてP-O-P 結合か

ら Sn-O-P 結合に代わり水分子との反応である加水分解反応を妨げる構造に変化している

ことがわかる

Figs 32 33にNb2O5を添加した Sn-Nb-P ガラスおよび SNP ガラスのラマンスペクトル

を示すまずSn-Nb-P ガラスについてNb 無添加の 65Sn-0Nb-35P は主に Q1構造であ

りNbO25が添加されることによってQ0構造に変化しQ

1 Q

0構造が共存しているような

ピークが得られた添加量が少ないガラス系であるため徐々に変化しているのを確認し

た800 cm-1を少し越えた 810 - 820 cm

-1付近にNb2O5を添加することでピークが現れそ

して添加量を増量することで強度が強まるピークがありこのピークは四面体の[NbO4]

のものと判断した

SNP ガラスのラマンスペクトルについてはNb2O5添加量を固定した組成であるためSP

ガラスのような挙動が観察された50S50N45P では50S50P ガラスと同じようにQ2構造

が主な構造でありSnO量の増加に伴って60S5N35P Q1構造67S5N28P Q

0構造に支配

的な構造が変化しているこれはSP ガラスと同じ傾向を示しているためP-O-P rarr Sn-O-P

に置き替わっていることが示唆されるNb-O に関するピークでは50S5N45P のみ[NbO4]

四面体のピークを確認できず900 - 920 cm-1付近に[NbO6]八面体のピークが確認された

SnO量が増量した 60S5N35P では810 cm-1付近の [NbO4] 四面体のピークが現れているが

[NbO6]八面体のピークと 900 - 920 cm-1付近の Q

1構造のピークが非常に近い(ほぼ重なって

いる)ことから60S5N35P については[NbO4] 四面体および[NbO6]八面体の共存の可能性

も考えられるまた67S5NP28 では[NbO4] 四面体のみのピークが観察されたためこ

の Nb-O の配位数変化は[PO4] unitの状態によって変化している可能性も示唆された

ZnO を添加した S5ZP ガラスおよび 5SZP ガラスのラマンスペクトルを Fig 34 に示す

図の下部三つが S5ZP ガラス上部三つが 5SZP ガラスのスペクトルであるSZP ガラスの

二系統を比べるとあきらかなスペクトルの違いが確認された各ガラス系で確認すると

SnO 量が最小の 55S5Z40P はQ2構造と Q

1構造の範囲に跨っているようなスペクトルが得

られた62S5Z33P および 65S5Z30P のスペクトルからはどちらもほぼ Q1構造であると判

断した5SZP のスペクトルは1000 - 1250 cm-1付近の範囲で裾を引くような(なだらかな)

スペクトルが得られたZnO 量が最小の 5S55Z40P にはQ2構造が主な構造に見えるが

shoulderピークのような Q1構造(1030 - 1100 cm

-1)が確認できる5S62Z40P においては

1000 - 1250 cm-1付近の範囲まで幅広いスペクトルが得られた730 - 750 cm

-1付近にピーク

が現れているためおそらく Q1構造が最も多く存在していると考えられる65S5Z30P では

Q1構造Q

0構造が共存しているようなピークが得られた

43

FP ガラスのラマンスペクトルを Fig 35 に示すFe量の少ない 20F80P 25F75P と他の三

つで構造が異なっていることである20F80P 25F75P はQ2構造と Q

1構造が基本構造にな

っていると判断できる 30F70P は1110 - 1150 cm-1付近に shoulderピークのようなものがあ

りQ2 Q

1 Q

0構造が共存しているようなスペクトルであった35F65P 40F60P はQ1構造

が主な構造でQ0構造があると判断した

332 平均 BO数 n (Qn分布)

まずピーク分離について散乱断面積が見積もれなかったためラマンの散乱強度比

を Qn分布として簡易的にピーク分離を行い(Fig 36)そこから平均架橋酸素数 BO 数 n

を算出したここでFig 37 に 31P MAS NMRスペクトルを示しTable 31に NMRおよび

ラマン分光より得られた平均 BO 数 n を示す(NMR の帰属 reference [12])表よりNMR

とラマンから得られた Qn分布はほぼ一致していることが分かった60S40Pについては支

配構造が NMR(Q1) ラマン(Q

2)で逆になったこれは60S40P の組成がQ

2と Q1のほぼ中

間の組成になるためこのようなズレが生じたと考えられるしかし今回のラマンによ

る Qn分布の算出についてはほぼ問題ないと判断した

Table 32にラマンスペクトルより求めた Qn分布平均 BO 数 nをを示しTable 24に示

した DR 重量減の結果を併記する

SP ガラスのうち耐水性が低いガラスは Q2構造によって形成されているSnO量の増加

によって NBOの増加とともに耐水性の向上が確認できSnOが入ることでSn-O-P 結合を

形成し水分子からの攻撃を受けにくくなっていることが考えられる

Sn-Nb-P ガラスでは基本的に Q1構造が主構造でNb2O5の添加が増えるにつれQ

0構

造が支配的になり耐水性は次第に向上していく最も耐水性のよかった 65S-5Nb-30P は

Q0構造での割合が非常に高く平均 BO数 n値が 03であった

SNP ガラスではP2O5量が多い組成の 50S5N45Pにおいても平均 BO数 nが 60S40P と

同じながらも耐水性が良くなっている67S5N28P はほぼ完全に Q0構造であり平均 Q

n

値は 0となった

SZP ガラスについてはS5ZP 5ZSP のどちらの系列についても耐水性の結果に大きな差

というものは確認されなかったが構造的にも平均 BO数 nが 09 10 17という結果であ

った

FP ガラスについてはFe2O3 lt 30 molのときは平均 BO 数 nが20 19と高い数値を

示したが耐水性は非常に良好であったこの結果より組成だけでなく構造的にも耐

水性高くなる要因が不明である一つの原因の可能性としてメスバウアーより得られた

Fe2+の存在比が 40以上と高かったことがFe2O3含有量が少ない組成時には効果的になっ

ているのかもしれない

333 平均 BO数 nと耐水性の関係性

44

Fig 38に DRと平均 BO数 nの関係性についてFig 39に重量減と平均 BO数 nの関係

性をそれぞれ示すまたOP の時と同様に各図にリン酸塩の三つの構造の平均 BO数

n も表記した双方の図よりDR 重量減共に平均 BO 数 nが低下することで単調に下がっ

ていることが分かるまた耐水性の良かったNb2O5添加の Sn-Nb-P SNPガラスはの DR

の挙動(傾き)はOP 時とも異なった挙動が得られた

Fig 310に OP と平均 BO数 nの関係を示す図中に示す茶色metaphosphate 黄色

pyrophosphate 灰色orthophosphate であるこの図から耐水性改善には平均 BO 数

n を下げOP を上げることが重要であるのが分かるまたNb5+の添加はOP を上げる

だけでなく平均 BO 数も減少させることから非常に効果的な成分であることが明らかで

あるこれはP5+から同酸価数 Nb

5+に少量でも置き換えることで平均 BO 数 n を下げ

OP を上げることを可能としている(実際に orthophosphate の OP4 よりも高い OP でガ

ラスが作製できている)つまりNb5+の添加によって P-O-P 結合が減少し水和反応加

水分解反応が抑制されているからである

以上の結果SP 系ガラスの耐水性改善には低い平均 BO 数と高い OP の組成にするこ

とが重要でNb2O5の添加は非常に効果的であることが分かったその一方でガラス中の

詳細な構造的要因についてははっきりしていないため次章の第 4 章にてさらに詳し

い構造解析を行い耐水性改善の要因について調査を行った

34 結言

本章ではラマン分光を使用して各ガラス系のリン酸塩アニオンの構造を簡易定量で

評価し組成と構造の関係について考察した

平均 BO 数 n と耐水性に関してはDR および重量減が平均 BO 数 n の減少で単調に低下

した結果が得られた

平均 BO数 nと OP の図より耐水性改善には平均 BO数 nを下げることそして OP

を上げることが重要であることが明白であった

Nb5+の添加は平均 BO数を減少させるだけでなくOP も上げることからガラス構造内

の P-O-P 結合を減少させる故に水和反応加水分解反応が抑制され耐水性が大幅に

改善された故にNb2O5 のような高価数金属酸化物を添加することが効果的であること

が示唆された

参考文献

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46

Fig 31 SP ガラスのラマンスペクトル

47

Fig 32 Sn-Nb-P ガラスのラマンスペクトル

48

Fig 33 SNP ガラスのラマンスペクトル

49

Fig 34 SZP ガラスのラマンスペクトル

50

Fig 35 FP ガラスのラマンスペクトル

51

Fig 36 ラマンスペクトルのピーク分離例(67S5N28P)

Raman Shift (cm-1)

52

Fig 37 NMRスペクトル

Table 31 NMR およびラマン分光より得られた SP 67S5N28P ガラスの

Qn分布および平均 BO数 n

53

Table 32 各ガラスのラマンスペクトルより求めた Qn分布結果

(表の赤線より右側の結果は Table 22 より)

1 仕込み組成による数値

2 Fig 2212 に示した析出物を取り除いた後の数値

54

Fig 38 DR と平均 BO数 nの関係性

55

Fig 39 重量減と平均 BO数 nの関係性

56

Fig 310 OP と平均 BO数 nの関係性

Meta

Pyro

Ortho

57

第 4章 放射光を用いたスズリン酸塩系ガラスの構造解析

41 緒言

前章の第 3 章にてラマン分光法を用いて SP 系ガラスの構造解析により Qn分布を導き

出したことで耐水性と構造の関係についてある程度関連性を導くことができたリン

酸アニオンについてはQ0(orthophosphate)構造 gt Q

1(pyrophosphate)構造 gt Q2

(metaphosphate)構造の順で良耐水性となるしかしSn Nbおよび Znの局所構造につ

いては知見が得られていないラマン分光や IR分光などの分光学的手法を用いてSnや

Nb Zn の周辺の局所構造を知るには限界があるまたガラスの構造解析を行う上で非常

に重要な因子である中距離構造の評価には分光学的手法は不向きである[1]

そこで局所構造や中距離構造を知るために有効な手法として放射光線を用いた構造

解析がある放射光(SR 光)とはシンクロトロンなどの加速器で高速に加速された電子

が進行方向を磁場によって変えられた際に放射する電磁波である[2]エネルギーが高く

(短波長)輝度が高い特性を有している日本国内では兵庫県佐用町の SPring-8や茨城

県つくば市の高エネルギー加速器研究機構佐賀県鳥栖市の佐賀県立九州シンクロトロン

光研究センターなど複数個所に放射光施設が設置されている

放射光を用いたガラスの構造解析には一般的に高エネルギーX 線回折(High Energy

X-ray diffraction HEXRD)が用いられるこの回折実験から高い散乱ベクトル Q(= 4π sinθλ)

まで回折データが得られる多種類の原子から構成される物質の場合はFaber-Ziman 型[3]

の構造因子 S(Q)を用いる以下の式に示すようにFaber-Ziman 型構造因子 S(Q)は同種また

は異種の原子による相関の重み関数付の和として示される例として SiO2ガラスで説明す

ると構造因子 S(Q)は三種類の原子付の S(Q)の重み付の和として表されていることが分か

I(Q) 散乱断面積 ltgt 原子一個当たりの平均値 f(Q) 原子散乱因子 W 重み関数

通常の研究室で使用される X 線回折(XRD)装置で用いられる特性 X 線はCuKα線(λ

= 0154 nm 81 keV)が最も良く用いられより高いエネルギーの X 線が必要な場合は

MoKα線(λ = 0071 nm 175 keV)が使用される一方でSPring-8のビームライン BL04B2

で行われる高エネルギーX 線回折(HEXRD)測定で使用される SR のエネルギーは378 keV

58

~ が使用可能である[2]従ってガラス以外の液体のような非晶質物質にも非常に精度

よく構造解析が行われている[4]

また局所構造解析の一つに X線異常散乱法という測定方法がある[5 6]これは通常

の X 線回折実験では分離不可能な特定元素に関連する部分構造因子(散乱強度曲線)を得

ることができる手法である今回 HEXRD の測定時に使用したエネルギー614 keV では各元

素の異常散乱項のエネルギー依存性は確認されない(Fig 41)その一方でFig 42に示す

Sn の吸収端付近の 292 keV付近ではSnの異常分散項のエネルギー依存性が確認できる

つまりSnの吸収端近傍より低エネルギー(E)側の異なるエネルギーの X線(E1 E2)を

使って散乱強度を測定し各 E における異常分散項(f`)の変化(つまり高い E1 から低い

E2 の散乱強度の差分)を利用して Snに関する部分構造因子を求める構造解析が AXS 法で

あるこの測定法は古くから知られている方法ではあるが装置の測定条件や設備の問

題からなどから使用があまり普及していなかった[5 6]近年になり金属ガラスの構造解

析について徐々に報告が出てきており今後注目される測定法である

HEXRD および AXS 法などから得られたデータ実測の構造因子 S(Q)は一次元の限られ

た構造情報であるためガラスなどの非晶質物質の中距離構造を解明するためにはこれ

らのデータを基に三次元構造を求める必要がある三次元構造モデルの作成には逆モンテ

カルロ(RMC)シミュレーションを使用することが有効である[7]このシミュレーション

は任意で決めたシミュレーションボックス内の粒子をランダムに動かすことで実測の

構造因子 S(Q)を再現する三次元構造モデルを構築する方法である

SP ガラスについては分光学的手法について数多く報告があるが放射光を用いた回折

法はほとんど適用されていないそこで本研究では HEXRD および AXS 法を用いた構造

解析を行うことでSn Nb周りの構造を解明すると共にSNP ガラスの耐水性改善のメカ

ニズムについて考察したまたAXS 法の有効性についても検討した測定を行ったガラ

スはSP ガラスおよび最も耐水性の高かった 67S5N28P を選択した

42 実験方法

421 HEXRD AXS法

HEXRDはSPring-8のビームライン BL04B2 で測定を行ったエネルギー614 keV の X

線を用いた測定サンプルの厚みは09 mm (plusmn0005 mm)になるまで研磨を行った

AXS 測定はSPring-8のビームライン BL13XUを使用した(Fig 43)それぞれの測定し

た X 線のエネルギーについて以下に示す

①Sn K吸収端hellip292 keV near edgehellip291452 keV (-60 eV) far edgehellip289751 keV (-230 eV)

②Nb K吸収端hellip1899 keV near edgehellip189562 keV (-30 eV) far edgehellip187863 keV (-230 eV)

測定に使用したサンプルの厚さが015 - 030 mmとなるまで研磨を施した

SP ガラスについて50S50P 60S40P 67S33P の三組成のガラスを測定した70S30P に関

59

しては測定を試みたが放射光照射によって結晶化してしまいガラス部分の正確な構

造因子を得るための強度補正ができず解析を断念した

422 RMCのモデリング

Table 41 に RMC の各種パラメーターを示す粒子数は約 5000 個でそれに伴う boxの一

辺の長さは約 42 ~ 46 Ǻになった拘束条件にP の配位数が 4になるような条件を付け

加えたFig 44にSn2P2O7結晶および Sn3P2O8結晶の動径分布関数(RDF)をTable 32

にRDFから得られた第一近接距離[8 9] を示すこれらの数値を使用しcutoffを決定し

たNb-O についてはいくつかの文献値を参考にした[10 11]

各ガラスの RMCのモデリングは①HEXRDから得られた S(Q)のみ②S(Q)および AXS

から得られた部分構造因子を加えた場合でそれぞれ計算した

43 結果考察

最初にNbの AXSから得られたデータについて解析を試みたが妥当な構造モデルが得

られなかったためSnの AXSのみで解析を進めたNb2O5の量が 5 molと少量であったた

めあまり精度の高いデータが得られなかったと推測される

431 実測の HEXRDおよび AXSの結果

4311 実測 HEXRDの S(Q)

Fig 45 に実測HEXRDの S(Q)を示す四つの組成ともに実測HEXRDの S(Q)が得られ

Nb2O5添加の 67S5N28P ガラスでは Low Q 側に変化が確認された

4312 実測散乱強度曲線

Fig 46 に Snの散乱強度曲線を示す(a) の 67S33P のこの曲線からはfar edgeおよび

near edge のエネルギー間で差分が見られエネルギーの依存性が確認された50S50P

67S5N28P のガラスについても同じように差分が確認されたが(b)の 60S40P についてのみ

他とは若干異なる結果(緑丸)であったためRMC の構造解析には差分の構造因子ではな

くfar edge near edge 二つの構造因子を用いた

4313 全相関関数 T(r)

Fig 47 に全相関関数 T(r) を示すHEXRD から得られたものを実線でSnの AXS から

得られたものは点線で示し組成ごとに重ねて表示した図中に各ピークについて帰属し

ているがSnの T(r)からはSn-O Sn-P Sn-Snのみのピークを確認した

432 RMCの計算結果および考察

60

構造モデルの一例として67S5N28P ガラスの得られた構造モデルをFig 48に示す水

色の多面体 unitSnON 黄色の多面体 unitPO4 ピンクの多面体 unitNbONである以下

詳細な構造解析の結果および考察を記す

4321 RMCのフィッティング結果

RMCのフィッティング結果の一例として67S33P の HEXRD と Snの AXS の構造因子か

ら得た結果を示す(Fig 49)二つの構造因子を加えて計算した結果においてもHEXRD

の S(Q) AXS の S(Q)に各々に対する良好なフィッティング結果が得られた他の組成も

同様なフィッティング結果が得られた

4322得られた各 pairの平均配位数平均角度平均結合距離

RMCの結果によって得られた各 pairの平均配位数平均角度平均結合距離を Tables 43

に示す上段が HEXRD の S(Q)のみ下段が HEXRD に Sn の AXS の部分構造因子を加え

て結果である最下部は比較のためにSn2P2O7の情報を記載した[8]

P-O pairについてRMCモデル中の PON多面体に関して平均配位数 Nが 4および P-O

の平均結合距離が約 160Å平均結合角度angO-P-O が約 109degという結果が得られた組成

による大きな違いは確認されなかったのはP の配位数が 4になるように拘束条件をかけた

結果であると考えられるSnON多面体についてはSnO量の増加 = OP の増加であり平

均配位数 Nが 3 ~ 35へ増加した平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約

22Åで組成による大きな変化はほとんど見られなかったNb2O5を 5 mol添加したガラ

スではNbON多面体の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平均配位数 N約 4Nb-O 平均結

合距離約 20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O(約 105deg)と値が近いこと

また6配位ではなく 4配位として主に存在していることからSnO と同じような働きをし

ていると推測される

以上の結果からNb2O5添加の耐水性改善の要因として結合距離が Sn-O が約 22Åに対

し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強固にして

いることも一つの要因として考えられる

また67S5N28P ガラスの各多面体モデルを確認すると(Fig 410)P は PO4Snは SnO4

と SnO3Nbは NbO4をそれぞれ再現している

4323得られた各 pairの結合様式

RMC の結果により得られた各 pair の結合様式を Tables 44 に示す上段が HEXRD の

S(Q)のみ下段が HEXRDに Snの AXS の部分構造因子を加えた結果である最下部は比

較のためにSn2P2O7の情報を記載した[8]

結合様式に関してはPO4四面体は他の多面体も含めてほぼ頂点共有で存在している

SnON多面体についてはSnO 量が少ない配位数が 3 に近い場合頂点共有以外の共有の

61

割合も多くSnO 量が増えるにつれて頂点共有が主になり網目形成体として振舞ってい

ると考えられる組成によって平均結合距離や平均角度の大きな変化が見られなかったこ

とから平均配位数が結合様式を決める重要なファクターであるということも考えられる

またHEXRD と AXS 法の結果がほぼ同じであったこれは主成分が SnO のガラスであ

るためHEXRDでも十分に詳細な構造が得られたため大きな変化が現れなかったと考え

られるNbON 多面体はPO4 四面体と SnON 多面体とはほぼ頂点共有で繋がっている以

上の結果よりSnO量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体的に各多面体同士の

頂点共有が増えていることから耐水性の改善には頂点共有を多く含む構造であること

が重要である或いは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的となって

いるということが推測されるFig 411に 67S5N28P ガラスの構造モデルを示す各多面

体はほぼ頂点共有で繋がっていることが確認できる

4324 平均 BO数の比較

Tables 45にNMR Raman RMC(HEXRD) RMC(HEXRD + AXS)の平均BO数を示すRMC

から得られた平均 BO 数 nはNMR Raman と同様に Nb2O5の添加による大幅な減少が確認

されたしかしNMR Raman と比較すると全組成において数値が大きすぎで適当でない

50S50P の構造モデルを観るとPO4四面体間で3配位 O の存在が確認された(Fig 412)た

め実測で得られた n値を再現できるようなPO4四面体モデル間の繋がり方に関する拘束条

件を加えて RMCを計算する必要性があるまた仮に3配位 Oの存在があるとすると電

子状態の変化が生じていることがと示唆されるため分子軌道計算を用いて電子状態解析

を行い確認する必要がある

4325 耐水性の改善について

Nb2O5を添加のガラス構造への影響について①6配位ではなく 4配位として主に存在し

ていることからSnO と同じような働きをしていると推測される②結合距離が Sn-O が約

22Åに対し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強

固にしている③ガラス構造中で全体的に各多面体同士の頂点共有が増えている以上の

ことが判明した以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性

耐候性を改善した要因として考えられる

44 結言

本章では分光学的手法では評価できないガラスの中距離構造局所構造について理解

するために放射光を用いた構造解析を実施しSP ガラスの構造と耐水性改善について考

察したHEXRDおよび AXS法を用いて測定を行い得られたデータを RMCシミュレーシ

ョンにて解析を行った

解析の結果 Sn-O pair については平均配位数 Nが 3 ~ 35でSnO量の増加 = OP の増

62

加に伴い高くなった平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約 22Åであ

ったP-O Sn-Oについては組成による大きな変化はほとんど見られなかった67S5N28P

ガラスの Nb-O pair の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平均配位数約 4Nb-O 平均結合距

離約 20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O(約 105deg)と値が近いことま

た6配位ではなく 4配位として主に存在していることからSnOと同じような働き(網目

形成体)をしていると推測されるまた結合距離が Sn-O が約 22Åに対し Nb-O は約 20

Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強固にしていると言える

SnO 量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体的に各多面体同士の頂点共有が増え

ていることから耐水性の改善には頂点共有を多く含む構造であることが重要である

もしくは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的であることが推測さ

れる以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性耐候性を

改善した要因として考えられる

またAXS 法の有効性についても確認し効果的であることが判明したただし今回

は主成分が Sn の組成のガラスでありHEXRD でも十分に詳細な構造が得られたため

大きな差は現れなかった

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63

Fig 41 各原子の異常分散項のエネルギー依存性

Fig 42 Sn の異常分散項のエネルギー依存性

64

Fig 43 SPring-8の BL13XU

65

Tab

le 4

1

RM

Cの各パラメーター

66

Fig 44 Sn2P2O7 Sn3P2O8結晶の RDF

Table 42 Sn2P2O7 Sn3P2O8結晶の各 pairの第一近接距離

67

Fig 45 得られた実測 HEXRDの S(Q)

68

Fig 46 Sn の異常散乱測定により得られた散乱強度のエネルギー依存性

(a)67S33P (b)60S40P

69

Fig 47 全相関関数 T(r)

太線 HEXRD より

細線 Sn の AXSより

70

Fig 48 67S5N28P ガラス構造のモデル

71

Fig 49 RMC フィッティングの結果

72

Tab

le 4

3 各

pairの平均配位数角度結合距離

73

Fig

4

10

67

S5

N2

8Pガラスの各多面体モデル

74

Tab

le 4

4 各

pairの結合様式

75

Fig 411 67S5N28P ガラスの構造モデル

76

Table 45 平均 BO 各数 nの比較

Fig 412 50S50P ガラスの構造モデル

77

第 5章 総括

本研究ではSP ガラスを対象とした本研究では鉛フリー代替ガラスまたは希土類フ

リー蛍光体として SP ガラスの新規高機能化を将来的に目指し問題点であるldquo化学的耐久

性rdquoの改善につながる知見を得ることを目的としたそこでまずSP ガラスを母体ガラ

スとし第三成分に Nb2O5を添加した Sn-Nb-P SNP ガラスZnO を添加した SZP ガラスを

作製し耐水性を中心とした物性評価を行った次に分光学的手法で構造解析を行い

Qn 分布を導き出した最後に放射光を用いた構造解析を行い耐水性改善に関する構造的

な考察を行った以下に本研究で行った検討内容を示す

(1)SPガラスおよび第三成分Nb2O5 ZnOを添加した三成分系SPガラスの物性評価(第 2章)

(2)SP 系ガラスの分光学的手法による Qn分布導出(第 3章)

(3)放射光を用いた SP 系ガラスの構造解析構造と耐水性改善の関連について(第 4章)

各章についてまとめた結果を以下に示す

第 2章

第 2章では二成分系および三成分系のリン酸塩系ガラスの各種物性(密度や熱的特性

耐水性)の評価を行った二成分系ではSP ガラスに加え良好な耐水性を有する鉄リン

酸塩(Fe2O3-P2O5)系ガラス(以下 FP ガラス)を比較のために三成分系では二成分系

の SP ガラスに Nb2O5を添加したニオブ含有 SP ガラス(SNP ガラス)および ZnO を添加し

た亜鉛含有 SP ガラス(SZP ガラス)を作製した

今回作製した SP 系ガラスは低ガラス転移温度を有していた各組成の温度域はSP

ガラスTg le 280 Sn-Nb-P SNPガラスTg le 3505SZP S5ZPガラスTg ≦ 450であった

各種 SP ガラスの耐水性試験の結果二成分系の SP ガラスよりも三成分系ガラスの方が

良好な耐水性を有していた65Sn-5Nb-30P 67S5N28P ガラスが最も耐水性が良好であり化

学的耐久性の改善には Nb2O5が ZnOよりも効果的であった

組成と耐水性に関してはDRおよび重量減がOP増加で単調に低下した結果が得られた

つまり耐水性を改善させるにはSP 系ガラスのガラス化範囲を拡大かつ OP を増大させ

る第三成分の添加が有効であることが示唆された

第 3章

第 3章ではSP 系ガラスの分光学的手法による Qn分布の導出を行ったラマン分光法を

用いて各ガラス系のリン酸塩アニオンの構造を簡易定量で評価し組成と構造の関係に

ついて考察した平均 BO 数 n と耐水性に関してはDR および重量減が平均 BO 数 nの減

少で単調に低下することが明らかとなった

平均 BO 数 n と OP の関係より耐水性改善には平均 BO 数 n を下げることそして

OP を上げることが重要であることが明らかになった

78

Nb5+の添加は平均 BO数を減少させるだけでなくOP も上げることからガラス構造

内の P-O-P 結合を減少させ水和反応加水分解反応が抑制され耐水性が大幅に改善さ

れることが示唆された故にNb2O5 のような高価数金属酸化物を添加することが効果的

であることが再度確認された

第 4章

耐水性向上についてより深く評価するためSP SNP ガラスの局所構造に関する知見を得

ることを目的に放射光を用いた構造解析を行った高エネルギーX 線回折(HEXRD)お

よび X 線異常散乱(AXS)法で測定したデータを再現する構造モデルを逆モンテカルロ

(RMC)シミュレーションで構築し構造解析を行った

RMC モデル中の PON多面体に関して平均配位数 Nが 4および P-O の平均結合距離が約

160Å平均結合角度angO-P-Oが約 109degという結果が得られた組成による大きな違いは確

認されなかったSnON多面体については平均配位数 N が 3~4 でSnO 量の増加に伴い 4

に近い値となった平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約 22Åで組成

による大きな変化は見られなかった

Nb2O5を 5 mol添加したガラスではNbON多面体の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平

均配位数N約4Nb-O平均結合距離約20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O

(約 105deg)と値が近いことまた6配位ではなく 4配位として主に存在していることから

SnO と同じような網目形成体として働いていると推測されたまた結合距離が Sn-O が約

22Åに対し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強

固にしていると考えられるまたSnO 量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体

的に各多面体同士の頂点共有が増えていることから耐水性の改善には頂点共有を多く

含む構造もしくは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的であること

が示唆された以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性

耐候性を改善した要因として考えられる

またAXS 法の有効性についても確認し効果的であることが判明したただし今回

は主成分が Snの組成のガラスでありHEXRD でも十分に詳細な Snの周辺構造が得られ

たためAXSを利用した場合との大きな構造の差は認められなかった

本研究では様々な優れた特徴を有する SP ガラスにおける耐水性改善のメカニズムにつ

いて検討を行ったこの系のガラスについてはこれまでほとんど利用されていなかった

放射光を用いた構造解析を駆使し第三成分の添加によってどのような構造的変化が生じ

耐水性を改善させるか新たな知見を得ることができた最終目標である機能性ガラスの

開発における新たなる材料設計指針の確立に対してldquo耐水性rdquoに関しては概ね明らかにな

ったと考えられる一方で今回検討していな電子状態化学結合性についても評価する

ことで溶出メカニズムの解明が可能になり材料設計指針の確立が期待される

79

発表論文リスト

口頭発表

第 2章および第 3章

(1) SnO-P2O5 系ガラスへの酸化物添加効果

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎

日本セラミックス協会第 25 回秋季シンポジウム No3C06 (名古屋市 2012年 9月)

(2) Effect of Nb2O5 addition to SnO-P2O5 glass (Poster)

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

International Union of Materials Research Societies International Conference on Electronic

Materials IUMRS-ICEM 2012 A-9-P26-003 (Yokohama 2012 年 9月)

(3) スズリン酸塩系ガラスの蛍光特性耐水性に及ばす酸化物の添加効果(ポスター)

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎

日本セラミックス協会 2013 年年会 1P070 (東京 2013年 3月)

第 4章

(1) 放射光を用いたスズリン酸塩ガラスの構造解析

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎小原真二臼杵毅

日本セラミックス協会第 27 回秋季シンポジウム 2B22 (鹿児島市 2014年 9 月)

(2) Structural analysis of tin phosphate glasses by synchrotron radiation (Poster)

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba Shinji Kohara Takeshi Usuki

International Congress on Glass ICG Annual Meeting Bangkok 2015 P14-138 p186 (2015)

発表論文

(1) Effect of Nb2O5 addition to SnO- P2O5 glass

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

Journal of the Ceramic Society of Japan Vol 120 No 11 pp530-533 (2012)

(2) Structural analysis of SnO- P2O5 glass

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

Journal of the Ceramic Society of Japan(準備中)

80

謝辞

本研究を遂行するにあたり終始暖かいご指導ご助言並びにご鞭撻を賜わりました岡

山大学大学院環境生命科学研究科 難波徳郎教授に心より感謝の意を表します

また本研究を遂行するにあたり懇切丁寧なご指導とご意見をしていただいた岡山大

学大学院環境生命科学研究科 紅野安彦准教授環境環理センター 崎田真一助教に心より

感謝いたします

本研究を遂行するにあたりラマン分光測定の使用についてご助言ご教授して頂い

た岡山大学自然科学研究科 藤井達生教授中西真助教に心より感謝の意を表します

Sn のメスバウアー測定の際に協力して頂いた岡山大学自然科学研究科先端自然科学教

育研究推進本部高田研究室 松本修治特任助教(当時旭硝子株式会社中央研究所)また

Feのメスバウアーを測定の際に協力して頂いた岡山大学自然科学研究科 藤井達生教授に

心より感謝の意を表します

固体 NMR の岡山大学自然科学研究科 早川聡教授に心より感謝の意を表します

本研究を遂行するにあたりSPring-8 にてHEXRD および AXS 法の測定法および原理

についてご教示頂きました物質材料研究機構 小原真司博士ならびに山形大学 臼杵毅

教授に心より感謝の意を表します

本研究は多くの後輩諸君の協力によって遂行されました特に実際に共同研究共同

実験を遂行して頂いたOG 藤原沙弥香さん博士前期課程 2 年 東利彦君OB 徳岡太誠

君学士課程 4年 塩田将大君に心より感謝の意を表しますまた難波研究室で共に研

究生活を過ごした卒業生在学生の方々に感謝の意を表します

また同時期に博士後期課程に在籍された香川高等専門学校の桟敷剛さんにはNbに

関する有益な情報だけでなく辛い状況でも励ましを頂きました心より感謝の意を表し

ます

最後に長きに渡る学生生活を認め経済面だけでなく精神面でも支援してくださった

家族に心より深く感謝の意を表します

平成 28年 3月

福井 聡史

Page 41: 博士論文 スズリン酸塩系ガラスの物性と構造解析ousar.lib.okayama-u.ac.jp/files/public/5/54353/...博士論文 スズリン酸塩系ガラスの物性と構造解析

38

Fig 223 各ガラス系の DR と OP の関係性

39

Fig 224 各ガラス系の重量減と OP の関係性

40

第 3章 分光法を用いたスズリン酸塩系ガラスの構造解析

31 緒言

前章ではSP ガラスおよび第三成分に Nb2O5 ZnOを添加した Sn-Nb-P ガラスSNP ガラ

スSZP ガラスの物性特に耐水性に関する第三成分添加の有効性を明らかにしたその添

加した第三成分の二種類についてもNb2O5 の方が ZnO よりも溶出速度重量減ともに抑

制することができSP ガラスの低ガラス転移温度という特性も維持されていることが判明

したしかし現段階では本研究の主要な物性である耐水性改善の要因が明確になって

いない組成の観点からはOP の値が高い組成が良好な耐水性であることが分かったが

組成だけでは耐水性改善のメカニズムについて完全には理解できないここでリン酸塩

ガラスの溶出のメカニズムは第 1 章で述べたように加水分解反応と水和反応が要因とな

る[1 2]この機構はそれぞれリン酸の構造つまり架橋酸素 BO の数が大きく関わって

おりリン酸アニオンの[PO4]ユニットの架橋酸素数を知ることが重要であるこの BO の

情報を得るためにはガラス構造を示す指標の一つである Qn(n は[PO4]ユニット中の架橋

酸素数を表す)を調べることが必須であるまたQn の分布を調べるためにはガラスの

構造解析を行う必要性がある

ガラスの構造解析には種々の方法があり特にラマン分光法や赤外(IR)分光法核

磁気共鳴法(NMR)などの分光学的手法を用いた構造解析の報告が多い[3-5]ラマン分光

法および IR分光法は原理は異なるがどちらも結合の振動モードを測定する手法であり[6]

リン酸塩ガラスだけでなくケイ酸塩ガラスホウ酸塩ガラスなど様々なガラス系にて測

定がなされている[7 8]また得られた結合状態の情報からリン酸塩アニオンの Qn分布

を調べることも可能であるNMR は共鳴吸収ピークの化学シフト(共鳴周波数のズレ)

から構造を決定する手法であるガラスの場合SiO2や B2O3 P2O5といった網目形成酸化物

の Qn分布を得るために一般的に使用されている手法である[9]

今回これらの測定の中でラマン分光法を選択し構造解析を行ったラマン分光法は

測定する際にサンプル形状を気にすることなく基本的にそのまま測定できるためIR 分

光法のようにサンプル形状で測定方法を変える必要はないまたIR 分光法では例えば

KBr 錠剤法やヌジュール法のように測定を行うためのサンプル調整に手間がかかる場合が

ある[6]さらに比較対象の FP ガラスではNMR を測定できないため作製ガラスを全

て比較検討できるようにラマン分光法を選択した

本章ではラマン分光法を用いて各ガラスの構造解析を行い[PO4]ユニットの Qn分布を

調査し平均 BO数 nを算出することで耐水性と構造の関係性を検討したまたラマン

分光法によって得られた Qn分布の妥当性を確認するためにSP ガラスおよび 67S5N28P ガ

ラスの NMRを測定も行い比較した

32 実験方法

41

321 サンプル準備

ラマン分光およびメスバウアー分光の測定では第 2 章で作製した各ガラスのバルク体

を用いたWD試験に使用したサンプルとは別にラマン測定用のサンプルを用意した適

度な大きさ大体 15 cm角程度のサイズになるようにガラスカッターで切断しその後

十分な平滑性を得るために鏡面研磨を施した

322 ラマン分光測定

使用したラマン分光装置は顕微レーザーラマン分光装置(Jasco NRS-5100)を用いた

用いたレーザー波長は 53208 nmであり400 - 2000 cm-1の範囲で測定した

Qn 分布を導くためにピークフィッティングを行いリン酸塩アニオンのラマンバンド

が現れる950 - 1250 cm-1付近および 700 - 750cm-付近の範囲で定量した

323 31P MAS NMR測定

31P MAS NMRの測定は Varian NMR System 500 を用いて32 mmの MASプローブ

202309MHzにて行った測定パラメーターを以下に示すπ4 パルス長さ 14 μs 待ち時間

(pulse delay)10 s 積算回数 3600 scan シリンダー円筒形状の Zrローターの回転スピード

160 kHz referenceとして二番目の基準物質として使われる NH4H2PO4を使用化学シフト

は85 H3PO4溶液から δ = 10 ppmである

33 結果考察

331 各ガラス系のラマンスペクトル

Figs 31 - 35にラマンスペクトルを示す各ピークは以下の通りに帰属し各スペクト

ル中に該当する構造をピーク位置に示した

1230 - 1260 cm-1 P=O NBO Q

2 [10]

1110 - 1150 cm-1metaphosphate (PO3)

- Q

2 [10]

1030 - 1100 cm-1pyrophosphate (PO35)

2- Q

1 [10]

970 - 1000 cm-1orthophosphate (PO4)

3- Q

0 [10]

920 - 930 cm-1asymmetric (P-O-P) Q

1 [10]

730 - 750 cm-1symmetric (P-O-P) Q

1 [10]

710 - 720 cm-1asymmetric (P-O-P) Q

2 [10]

810 - 820 cm-1Nb-O [NbO4] tetrahedron [11]

900 - 920 cm-1Nb-O isolated [NbO6] octahedron [11]

42

SP ガラスのラマンスペクトル(Fig 31)を見ると50S50P 60S40P ではmetaphosphate

の Q2 構造が支配的であるがSnO 量が増えるにつれてその構造が変化し70S30P では

pyrophosphateの Q1構造と orthophosphateの Q

0構造が共存した構造となっているまたSnO

量の少ない 50S50P および 60S40P において確認されたQ2構造の P=O のピークが見えなく

なっているつまり耐水性と関連して考えるとSnO量が増えるにつれてP-O-P 結合か

ら Sn-O-P 結合に代わり水分子との反応である加水分解反応を妨げる構造に変化している

ことがわかる

Figs 32 33にNb2O5を添加した Sn-Nb-P ガラスおよび SNP ガラスのラマンスペクトル

を示すまずSn-Nb-P ガラスについてNb 無添加の 65Sn-0Nb-35P は主に Q1構造であ

りNbO25が添加されることによってQ0構造に変化しQ

1 Q

0構造が共存しているような

ピークが得られた添加量が少ないガラス系であるため徐々に変化しているのを確認し

た800 cm-1を少し越えた 810 - 820 cm

-1付近にNb2O5を添加することでピークが現れそ

して添加量を増量することで強度が強まるピークがありこのピークは四面体の[NbO4]

のものと判断した

SNP ガラスのラマンスペクトルについてはNb2O5添加量を固定した組成であるためSP

ガラスのような挙動が観察された50S50N45P では50S50P ガラスと同じようにQ2構造

が主な構造でありSnO量の増加に伴って60S5N35P Q1構造67S5N28P Q

0構造に支配

的な構造が変化しているこれはSP ガラスと同じ傾向を示しているためP-O-P rarr Sn-O-P

に置き替わっていることが示唆されるNb-O に関するピークでは50S5N45P のみ[NbO4]

四面体のピークを確認できず900 - 920 cm-1付近に[NbO6]八面体のピークが確認された

SnO量が増量した 60S5N35P では810 cm-1付近の [NbO4] 四面体のピークが現れているが

[NbO6]八面体のピークと 900 - 920 cm-1付近の Q

1構造のピークが非常に近い(ほぼ重なって

いる)ことから60S5N35P については[NbO4] 四面体および[NbO6]八面体の共存の可能性

も考えられるまた67S5NP28 では[NbO4] 四面体のみのピークが観察されたためこ

の Nb-O の配位数変化は[PO4] unitの状態によって変化している可能性も示唆された

ZnO を添加した S5ZP ガラスおよび 5SZP ガラスのラマンスペクトルを Fig 34 に示す

図の下部三つが S5ZP ガラス上部三つが 5SZP ガラスのスペクトルであるSZP ガラスの

二系統を比べるとあきらかなスペクトルの違いが確認された各ガラス系で確認すると

SnO 量が最小の 55S5Z40P はQ2構造と Q

1構造の範囲に跨っているようなスペクトルが得

られた62S5Z33P および 65S5Z30P のスペクトルからはどちらもほぼ Q1構造であると判

断した5SZP のスペクトルは1000 - 1250 cm-1付近の範囲で裾を引くような(なだらかな)

スペクトルが得られたZnO 量が最小の 5S55Z40P にはQ2構造が主な構造に見えるが

shoulderピークのような Q1構造(1030 - 1100 cm

-1)が確認できる5S62Z40P においては

1000 - 1250 cm-1付近の範囲まで幅広いスペクトルが得られた730 - 750 cm

-1付近にピーク

が現れているためおそらく Q1構造が最も多く存在していると考えられる65S5Z30P では

Q1構造Q

0構造が共存しているようなピークが得られた

43

FP ガラスのラマンスペクトルを Fig 35 に示すFe量の少ない 20F80P 25F75P と他の三

つで構造が異なっていることである20F80P 25F75P はQ2構造と Q

1構造が基本構造にな

っていると判断できる 30F70P は1110 - 1150 cm-1付近に shoulderピークのようなものがあ

りQ2 Q

1 Q

0構造が共存しているようなスペクトルであった35F65P 40F60P はQ1構造

が主な構造でQ0構造があると判断した

332 平均 BO数 n (Qn分布)

まずピーク分離について散乱断面積が見積もれなかったためラマンの散乱強度比

を Qn分布として簡易的にピーク分離を行い(Fig 36)そこから平均架橋酸素数 BO 数 n

を算出したここでFig 37 に 31P MAS NMRスペクトルを示しTable 31に NMRおよび

ラマン分光より得られた平均 BO 数 n を示す(NMR の帰属 reference [12])表よりNMR

とラマンから得られた Qn分布はほぼ一致していることが分かった60S40Pについては支

配構造が NMR(Q1) ラマン(Q

2)で逆になったこれは60S40P の組成がQ

2と Q1のほぼ中

間の組成になるためこのようなズレが生じたと考えられるしかし今回のラマンによ

る Qn分布の算出についてはほぼ問題ないと判断した

Table 32にラマンスペクトルより求めた Qn分布平均 BO 数 nをを示しTable 24に示

した DR 重量減の結果を併記する

SP ガラスのうち耐水性が低いガラスは Q2構造によって形成されているSnO量の増加

によって NBOの増加とともに耐水性の向上が確認できSnOが入ることでSn-O-P 結合を

形成し水分子からの攻撃を受けにくくなっていることが考えられる

Sn-Nb-P ガラスでは基本的に Q1構造が主構造でNb2O5の添加が増えるにつれQ

0構

造が支配的になり耐水性は次第に向上していく最も耐水性のよかった 65S-5Nb-30P は

Q0構造での割合が非常に高く平均 BO数 n値が 03であった

SNP ガラスではP2O5量が多い組成の 50S5N45Pにおいても平均 BO数 nが 60S40P と

同じながらも耐水性が良くなっている67S5N28P はほぼ完全に Q0構造であり平均 Q

n

値は 0となった

SZP ガラスについてはS5ZP 5ZSP のどちらの系列についても耐水性の結果に大きな差

というものは確認されなかったが構造的にも平均 BO数 nが 09 10 17という結果であ

った

FP ガラスについてはFe2O3 lt 30 molのときは平均 BO 数 nが20 19と高い数値を

示したが耐水性は非常に良好であったこの結果より組成だけでなく構造的にも耐

水性高くなる要因が不明である一つの原因の可能性としてメスバウアーより得られた

Fe2+の存在比が 40以上と高かったことがFe2O3含有量が少ない組成時には効果的になっ

ているのかもしれない

333 平均 BO数 nと耐水性の関係性

44

Fig 38に DRと平均 BO数 nの関係性についてFig 39に重量減と平均 BO数 nの関係

性をそれぞれ示すまたOP の時と同様に各図にリン酸塩の三つの構造の平均 BO数

n も表記した双方の図よりDR 重量減共に平均 BO 数 nが低下することで単調に下がっ

ていることが分かるまた耐水性の良かったNb2O5添加の Sn-Nb-P SNPガラスはの DR

の挙動(傾き)はOP 時とも異なった挙動が得られた

Fig 310に OP と平均 BO数 nの関係を示す図中に示す茶色metaphosphate 黄色

pyrophosphate 灰色orthophosphate であるこの図から耐水性改善には平均 BO 数

n を下げOP を上げることが重要であるのが分かるまたNb5+の添加はOP を上げる

だけでなく平均 BO 数も減少させることから非常に効果的な成分であることが明らかで

あるこれはP5+から同酸価数 Nb

5+に少量でも置き換えることで平均 BO 数 n を下げ

OP を上げることを可能としている(実際に orthophosphate の OP4 よりも高い OP でガ

ラスが作製できている)つまりNb5+の添加によって P-O-P 結合が減少し水和反応加

水分解反応が抑制されているからである

以上の結果SP 系ガラスの耐水性改善には低い平均 BO 数と高い OP の組成にするこ

とが重要でNb2O5の添加は非常に効果的であることが分かったその一方でガラス中の

詳細な構造的要因についてははっきりしていないため次章の第 4 章にてさらに詳し

い構造解析を行い耐水性改善の要因について調査を行った

34 結言

本章ではラマン分光を使用して各ガラス系のリン酸塩アニオンの構造を簡易定量で

評価し組成と構造の関係について考察した

平均 BO 数 n と耐水性に関してはDR および重量減が平均 BO 数 n の減少で単調に低下

した結果が得られた

平均 BO数 nと OP の図より耐水性改善には平均 BO数 nを下げることそして OP

を上げることが重要であることが明白であった

Nb5+の添加は平均 BO数を減少させるだけでなくOP も上げることからガラス構造内

の P-O-P 結合を減少させる故に水和反応加水分解反応が抑制され耐水性が大幅に

改善された故にNb2O5 のような高価数金属酸化物を添加することが効果的であること

が示唆された

参考文献

[1] B C Bunker G W Arnold and J A Wilder J Non-Cryst Solids 64 291-316 (1984)

[2] 春日敏弘 NEW GLASS 22 [2] 3 - 8 (2007)

[3] R K Brow D R Tallant S T Myers and C CPhifer J Non-Cryst Solids 191 45-55 (1995)

[4] T M Alam B C Tischendorf and R K Brow Solid State Nucl Magn Reson 27 99-111

45

(2005)

[5] H Takebe Y Baba and M Kuwabara J Non-Cryst Solids 352 3088-3094 (2004)

[6] 服部敏明 綾瀬守 川口建 吉野明広編機器分析ナビ 化学同人(2006)

[7] K H Min and T Suzuki 旭硝子研究報告 59 29-33 (2009)

[8] I Waclawska and M Szumera J Therm Anal Calorim 101 423-427 (2010)

[9] 中井利仁 NEW GLASS 28 [109] 17 -2 8 (2013)

[10] I O Mazali L C Barbosa and O L Alves J Mater Sci 39 1987-1995 (2004)

[11] J M Jehng and I E Wachs J Am Ceram Solids 3 [1] 100-107 (1991)

[12] D Holland A P Howes M E Smith and A C Hannon J Phys Condens Matter 14

13609-13621 (2002)

46

Fig 31 SP ガラスのラマンスペクトル

47

Fig 32 Sn-Nb-P ガラスのラマンスペクトル

48

Fig 33 SNP ガラスのラマンスペクトル

49

Fig 34 SZP ガラスのラマンスペクトル

50

Fig 35 FP ガラスのラマンスペクトル

51

Fig 36 ラマンスペクトルのピーク分離例(67S5N28P)

Raman Shift (cm-1)

52

Fig 37 NMRスペクトル

Table 31 NMR およびラマン分光より得られた SP 67S5N28P ガラスの

Qn分布および平均 BO数 n

53

Table 32 各ガラスのラマンスペクトルより求めた Qn分布結果

(表の赤線より右側の結果は Table 22 より)

1 仕込み組成による数値

2 Fig 2212 に示した析出物を取り除いた後の数値

54

Fig 38 DR と平均 BO数 nの関係性

55

Fig 39 重量減と平均 BO数 nの関係性

56

Fig 310 OP と平均 BO数 nの関係性

Meta

Pyro

Ortho

57

第 4章 放射光を用いたスズリン酸塩系ガラスの構造解析

41 緒言

前章の第 3 章にてラマン分光法を用いて SP 系ガラスの構造解析により Qn分布を導き

出したことで耐水性と構造の関係についてある程度関連性を導くことができたリン

酸アニオンについてはQ0(orthophosphate)構造 gt Q

1(pyrophosphate)構造 gt Q2

(metaphosphate)構造の順で良耐水性となるしかしSn Nbおよび Znの局所構造につ

いては知見が得られていないラマン分光や IR分光などの分光学的手法を用いてSnや

Nb Zn の周辺の局所構造を知るには限界があるまたガラスの構造解析を行う上で非常

に重要な因子である中距離構造の評価には分光学的手法は不向きである[1]

そこで局所構造や中距離構造を知るために有効な手法として放射光線を用いた構造

解析がある放射光(SR 光)とはシンクロトロンなどの加速器で高速に加速された電子

が進行方向を磁場によって変えられた際に放射する電磁波である[2]エネルギーが高く

(短波長)輝度が高い特性を有している日本国内では兵庫県佐用町の SPring-8や茨城

県つくば市の高エネルギー加速器研究機構佐賀県鳥栖市の佐賀県立九州シンクロトロン

光研究センターなど複数個所に放射光施設が設置されている

放射光を用いたガラスの構造解析には一般的に高エネルギーX 線回折(High Energy

X-ray diffraction HEXRD)が用いられるこの回折実験から高い散乱ベクトル Q(= 4π sinθλ)

まで回折データが得られる多種類の原子から構成される物質の場合はFaber-Ziman 型[3]

の構造因子 S(Q)を用いる以下の式に示すようにFaber-Ziman 型構造因子 S(Q)は同種また

は異種の原子による相関の重み関数付の和として示される例として SiO2ガラスで説明す

ると構造因子 S(Q)は三種類の原子付の S(Q)の重み付の和として表されていることが分か

I(Q) 散乱断面積 ltgt 原子一個当たりの平均値 f(Q) 原子散乱因子 W 重み関数

通常の研究室で使用される X 線回折(XRD)装置で用いられる特性 X 線はCuKα線(λ

= 0154 nm 81 keV)が最も良く用いられより高いエネルギーの X 線が必要な場合は

MoKα線(λ = 0071 nm 175 keV)が使用される一方でSPring-8のビームライン BL04B2

で行われる高エネルギーX 線回折(HEXRD)測定で使用される SR のエネルギーは378 keV

58

~ が使用可能である[2]従ってガラス以外の液体のような非晶質物質にも非常に精度

よく構造解析が行われている[4]

また局所構造解析の一つに X線異常散乱法という測定方法がある[5 6]これは通常

の X 線回折実験では分離不可能な特定元素に関連する部分構造因子(散乱強度曲線)を得

ることができる手法である今回 HEXRD の測定時に使用したエネルギー614 keV では各元

素の異常散乱項のエネルギー依存性は確認されない(Fig 41)その一方でFig 42に示す

Sn の吸収端付近の 292 keV付近ではSnの異常分散項のエネルギー依存性が確認できる

つまりSnの吸収端近傍より低エネルギー(E)側の異なるエネルギーの X線(E1 E2)を

使って散乱強度を測定し各 E における異常分散項(f`)の変化(つまり高い E1 から低い

E2 の散乱強度の差分)を利用して Snに関する部分構造因子を求める構造解析が AXS 法で

あるこの測定法は古くから知られている方法ではあるが装置の測定条件や設備の問

題からなどから使用があまり普及していなかった[5 6]近年になり金属ガラスの構造解

析について徐々に報告が出てきており今後注目される測定法である

HEXRD および AXS 法などから得られたデータ実測の構造因子 S(Q)は一次元の限られ

た構造情報であるためガラスなどの非晶質物質の中距離構造を解明するためにはこれ

らのデータを基に三次元構造を求める必要がある三次元構造モデルの作成には逆モンテ

カルロ(RMC)シミュレーションを使用することが有効である[7]このシミュレーション

は任意で決めたシミュレーションボックス内の粒子をランダムに動かすことで実測の

構造因子 S(Q)を再現する三次元構造モデルを構築する方法である

SP ガラスについては分光学的手法について数多く報告があるが放射光を用いた回折

法はほとんど適用されていないそこで本研究では HEXRD および AXS 法を用いた構造

解析を行うことでSn Nb周りの構造を解明すると共にSNP ガラスの耐水性改善のメカ

ニズムについて考察したまたAXS 法の有効性についても検討した測定を行ったガラ

スはSP ガラスおよび最も耐水性の高かった 67S5N28P を選択した

42 実験方法

421 HEXRD AXS法

HEXRDはSPring-8のビームライン BL04B2 で測定を行ったエネルギー614 keV の X

線を用いた測定サンプルの厚みは09 mm (plusmn0005 mm)になるまで研磨を行った

AXS 測定はSPring-8のビームライン BL13XUを使用した(Fig 43)それぞれの測定し

た X 線のエネルギーについて以下に示す

①Sn K吸収端hellip292 keV near edgehellip291452 keV (-60 eV) far edgehellip289751 keV (-230 eV)

②Nb K吸収端hellip1899 keV near edgehellip189562 keV (-30 eV) far edgehellip187863 keV (-230 eV)

測定に使用したサンプルの厚さが015 - 030 mmとなるまで研磨を施した

SP ガラスについて50S50P 60S40P 67S33P の三組成のガラスを測定した70S30P に関

59

しては測定を試みたが放射光照射によって結晶化してしまいガラス部分の正確な構

造因子を得るための強度補正ができず解析を断念した

422 RMCのモデリング

Table 41 に RMC の各種パラメーターを示す粒子数は約 5000 個でそれに伴う boxの一

辺の長さは約 42 ~ 46 Ǻになった拘束条件にP の配位数が 4になるような条件を付け

加えたFig 44にSn2P2O7結晶および Sn3P2O8結晶の動径分布関数(RDF)をTable 32

にRDFから得られた第一近接距離[8 9] を示すこれらの数値を使用しcutoffを決定し

たNb-O についてはいくつかの文献値を参考にした[10 11]

各ガラスの RMCのモデリングは①HEXRDから得られた S(Q)のみ②S(Q)および AXS

から得られた部分構造因子を加えた場合でそれぞれ計算した

43 結果考察

最初にNbの AXSから得られたデータについて解析を試みたが妥当な構造モデルが得

られなかったためSnの AXSのみで解析を進めたNb2O5の量が 5 molと少量であったた

めあまり精度の高いデータが得られなかったと推測される

431 実測の HEXRDおよび AXSの結果

4311 実測 HEXRDの S(Q)

Fig 45 に実測HEXRDの S(Q)を示す四つの組成ともに実測HEXRDの S(Q)が得られ

Nb2O5添加の 67S5N28P ガラスでは Low Q 側に変化が確認された

4312 実測散乱強度曲線

Fig 46 に Snの散乱強度曲線を示す(a) の 67S33P のこの曲線からはfar edgeおよび

near edge のエネルギー間で差分が見られエネルギーの依存性が確認された50S50P

67S5N28P のガラスについても同じように差分が確認されたが(b)の 60S40P についてのみ

他とは若干異なる結果(緑丸)であったためRMC の構造解析には差分の構造因子ではな

くfar edge near edge 二つの構造因子を用いた

4313 全相関関数 T(r)

Fig 47 に全相関関数 T(r) を示すHEXRD から得られたものを実線でSnの AXS から

得られたものは点線で示し組成ごとに重ねて表示した図中に各ピークについて帰属し

ているがSnの T(r)からはSn-O Sn-P Sn-Snのみのピークを確認した

432 RMCの計算結果および考察

60

構造モデルの一例として67S5N28P ガラスの得られた構造モデルをFig 48に示す水

色の多面体 unitSnON 黄色の多面体 unitPO4 ピンクの多面体 unitNbONである以下

詳細な構造解析の結果および考察を記す

4321 RMCのフィッティング結果

RMCのフィッティング結果の一例として67S33P の HEXRD と Snの AXS の構造因子か

ら得た結果を示す(Fig 49)二つの構造因子を加えて計算した結果においてもHEXRD

の S(Q) AXS の S(Q)に各々に対する良好なフィッティング結果が得られた他の組成も

同様なフィッティング結果が得られた

4322得られた各 pairの平均配位数平均角度平均結合距離

RMCの結果によって得られた各 pairの平均配位数平均角度平均結合距離を Tables 43

に示す上段が HEXRD の S(Q)のみ下段が HEXRD に Sn の AXS の部分構造因子を加え

て結果である最下部は比較のためにSn2P2O7の情報を記載した[8]

P-O pairについてRMCモデル中の PON多面体に関して平均配位数 Nが 4および P-O

の平均結合距離が約 160Å平均結合角度angO-P-O が約 109degという結果が得られた組成

による大きな違いは確認されなかったのはP の配位数が 4になるように拘束条件をかけた

結果であると考えられるSnON多面体についてはSnO量の増加 = OP の増加であり平

均配位数 Nが 3 ~ 35へ増加した平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約

22Åで組成による大きな変化はほとんど見られなかったNb2O5を 5 mol添加したガラ

スではNbON多面体の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平均配位数 N約 4Nb-O 平均結

合距離約 20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O(約 105deg)と値が近いこと

また6配位ではなく 4配位として主に存在していることからSnO と同じような働きをし

ていると推測される

以上の結果からNb2O5添加の耐水性改善の要因として結合距離が Sn-O が約 22Åに対

し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強固にして

いることも一つの要因として考えられる

また67S5N28P ガラスの各多面体モデルを確認すると(Fig 410)P は PO4Snは SnO4

と SnO3Nbは NbO4をそれぞれ再現している

4323得られた各 pairの結合様式

RMC の結果により得られた各 pair の結合様式を Tables 44 に示す上段が HEXRD の

S(Q)のみ下段が HEXRDに Snの AXS の部分構造因子を加えた結果である最下部は比

較のためにSn2P2O7の情報を記載した[8]

結合様式に関してはPO4四面体は他の多面体も含めてほぼ頂点共有で存在している

SnON多面体についてはSnO 量が少ない配位数が 3 に近い場合頂点共有以外の共有の

61

割合も多くSnO 量が増えるにつれて頂点共有が主になり網目形成体として振舞ってい

ると考えられる組成によって平均結合距離や平均角度の大きな変化が見られなかったこ

とから平均配位数が結合様式を決める重要なファクターであるということも考えられる

またHEXRD と AXS 法の結果がほぼ同じであったこれは主成分が SnO のガラスであ

るためHEXRDでも十分に詳細な構造が得られたため大きな変化が現れなかったと考え

られるNbON 多面体はPO4 四面体と SnON 多面体とはほぼ頂点共有で繋がっている以

上の結果よりSnO量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体的に各多面体同士の

頂点共有が増えていることから耐水性の改善には頂点共有を多く含む構造であること

が重要である或いは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的となって

いるということが推測されるFig 411に 67S5N28P ガラスの構造モデルを示す各多面

体はほぼ頂点共有で繋がっていることが確認できる

4324 平均 BO数の比較

Tables 45にNMR Raman RMC(HEXRD) RMC(HEXRD + AXS)の平均BO数を示すRMC

から得られた平均 BO 数 nはNMR Raman と同様に Nb2O5の添加による大幅な減少が確認

されたしかしNMR Raman と比較すると全組成において数値が大きすぎで適当でない

50S50P の構造モデルを観るとPO4四面体間で3配位 O の存在が確認された(Fig 412)た

め実測で得られた n値を再現できるようなPO4四面体モデル間の繋がり方に関する拘束条

件を加えて RMCを計算する必要性があるまた仮に3配位 Oの存在があるとすると電

子状態の変化が生じていることがと示唆されるため分子軌道計算を用いて電子状態解析

を行い確認する必要がある

4325 耐水性の改善について

Nb2O5を添加のガラス構造への影響について①6配位ではなく 4配位として主に存在し

ていることからSnO と同じような働きをしていると推測される②結合距離が Sn-O が約

22Åに対し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強

固にしている③ガラス構造中で全体的に各多面体同士の頂点共有が増えている以上の

ことが判明した以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性

耐候性を改善した要因として考えられる

44 結言

本章では分光学的手法では評価できないガラスの中距離構造局所構造について理解

するために放射光を用いた構造解析を実施しSP ガラスの構造と耐水性改善について考

察したHEXRDおよび AXS法を用いて測定を行い得られたデータを RMCシミュレーシ

ョンにて解析を行った

解析の結果 Sn-O pair については平均配位数 Nが 3 ~ 35でSnO量の増加 = OP の増

62

加に伴い高くなった平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約 22Åであ

ったP-O Sn-Oについては組成による大きな変化はほとんど見られなかった67S5N28P

ガラスの Nb-O pair の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平均配位数約 4Nb-O 平均結合距

離約 20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O(約 105deg)と値が近いことま

た6配位ではなく 4配位として主に存在していることからSnOと同じような働き(網目

形成体)をしていると推測されるまた結合距離が Sn-O が約 22Åに対し Nb-O は約 20

Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強固にしていると言える

SnO 量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体的に各多面体同士の頂点共有が増え

ていることから耐水性の改善には頂点共有を多く含む構造であることが重要である

もしくは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的であることが推測さ

れる以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性耐候性を

改善した要因として考えられる

またAXS 法の有効性についても確認し効果的であることが判明したただし今回

は主成分が Sn の組成のガラスでありHEXRD でも十分に詳細な構造が得られたため

大きな差は現れなかった

参考文献

[1] 山根正之 安井至 和田正道 国分可紀 寺井良平 近藤敬 小川晋永編ガラス光学ハ

ンドブック 朝倉書店(1999)

[2]飯野潔 梅咲則正 NEW GLASS 19 [2] 31-40 (2004)

[3] T E Faber and J M Ziman Philos Mag 11 [109] 153-173 (1965)

[4] 小原真司 鈴谷健太郎 放射光 14 [5] 365-375 (2001)

[5] 早稲田嘉夫 齋藤正敏 放射光 10 [3] 299-315 (1997)

[6] 細川伸也 広島工業大学紀要研究編 46 197-204 (2012)

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MV Korolenko and PB Fabritchinyi J Chem Mater 17 284-290 (2005)

[9] M Mathew L W Schroeder and T H Jordan Acta Cryst B33 1812-1816 (1977)

[10] J S Taylar and M P Cohs J Am Ceram Solids 109 [9] 2834-2835 (1987)

[11] D Munoz-Martin A Ruiz de La Cruz J M Fernandez-Navarro C Domingo J Solis and J

Gonzalo J appl Phys 110 023522 (2011)

63

Fig 41 各原子の異常分散項のエネルギー依存性

Fig 42 Sn の異常分散項のエネルギー依存性

64

Fig 43 SPring-8の BL13XU

65

Tab

le 4

1

RM

Cの各パラメーター

66

Fig 44 Sn2P2O7 Sn3P2O8結晶の RDF

Table 42 Sn2P2O7 Sn3P2O8結晶の各 pairの第一近接距離

67

Fig 45 得られた実測 HEXRDの S(Q)

68

Fig 46 Sn の異常散乱測定により得られた散乱強度のエネルギー依存性

(a)67S33P (b)60S40P

69

Fig 47 全相関関数 T(r)

太線 HEXRD より

細線 Sn の AXSより

70

Fig 48 67S5N28P ガラス構造のモデル

71

Fig 49 RMC フィッティングの結果

72

Tab

le 4

3 各

pairの平均配位数角度結合距離

73

Fig

4

10

67

S5

N2

8Pガラスの各多面体モデル

74

Tab

le 4

4 各

pairの結合様式

75

Fig 411 67S5N28P ガラスの構造モデル

76

Table 45 平均 BO 各数 nの比較

Fig 412 50S50P ガラスの構造モデル

77

第 5章 総括

本研究ではSP ガラスを対象とした本研究では鉛フリー代替ガラスまたは希土類フ

リー蛍光体として SP ガラスの新規高機能化を将来的に目指し問題点であるldquo化学的耐久

性rdquoの改善につながる知見を得ることを目的としたそこでまずSP ガラスを母体ガラ

スとし第三成分に Nb2O5を添加した Sn-Nb-P SNP ガラスZnO を添加した SZP ガラスを

作製し耐水性を中心とした物性評価を行った次に分光学的手法で構造解析を行い

Qn 分布を導き出した最後に放射光を用いた構造解析を行い耐水性改善に関する構造的

な考察を行った以下に本研究で行った検討内容を示す

(1)SPガラスおよび第三成分Nb2O5 ZnOを添加した三成分系SPガラスの物性評価(第 2章)

(2)SP 系ガラスの分光学的手法による Qn分布導出(第 3章)

(3)放射光を用いた SP 系ガラスの構造解析構造と耐水性改善の関連について(第 4章)

各章についてまとめた結果を以下に示す

第 2章

第 2章では二成分系および三成分系のリン酸塩系ガラスの各種物性(密度や熱的特性

耐水性)の評価を行った二成分系ではSP ガラスに加え良好な耐水性を有する鉄リン

酸塩(Fe2O3-P2O5)系ガラス(以下 FP ガラス)を比較のために三成分系では二成分系

の SP ガラスに Nb2O5を添加したニオブ含有 SP ガラス(SNP ガラス)および ZnO を添加し

た亜鉛含有 SP ガラス(SZP ガラス)を作製した

今回作製した SP 系ガラスは低ガラス転移温度を有していた各組成の温度域はSP

ガラスTg le 280 Sn-Nb-P SNPガラスTg le 3505SZP S5ZPガラスTg ≦ 450であった

各種 SP ガラスの耐水性試験の結果二成分系の SP ガラスよりも三成分系ガラスの方が

良好な耐水性を有していた65Sn-5Nb-30P 67S5N28P ガラスが最も耐水性が良好であり化

学的耐久性の改善には Nb2O5が ZnOよりも効果的であった

組成と耐水性に関してはDRおよび重量減がOP増加で単調に低下した結果が得られた

つまり耐水性を改善させるにはSP 系ガラスのガラス化範囲を拡大かつ OP を増大させ

る第三成分の添加が有効であることが示唆された

第 3章

第 3章ではSP 系ガラスの分光学的手法による Qn分布の導出を行ったラマン分光法を

用いて各ガラス系のリン酸塩アニオンの構造を簡易定量で評価し組成と構造の関係に

ついて考察した平均 BO 数 n と耐水性に関してはDR および重量減が平均 BO 数 nの減

少で単調に低下することが明らかとなった

平均 BO 数 n と OP の関係より耐水性改善には平均 BO 数 n を下げることそして

OP を上げることが重要であることが明らかになった

78

Nb5+の添加は平均 BO数を減少させるだけでなくOP も上げることからガラス構造

内の P-O-P 結合を減少させ水和反応加水分解反応が抑制され耐水性が大幅に改善さ

れることが示唆された故にNb2O5 のような高価数金属酸化物を添加することが効果的

であることが再度確認された

第 4章

耐水性向上についてより深く評価するためSP SNP ガラスの局所構造に関する知見を得

ることを目的に放射光を用いた構造解析を行った高エネルギーX 線回折(HEXRD)お

よび X 線異常散乱(AXS)法で測定したデータを再現する構造モデルを逆モンテカルロ

(RMC)シミュレーションで構築し構造解析を行った

RMC モデル中の PON多面体に関して平均配位数 Nが 4および P-O の平均結合距離が約

160Å平均結合角度angO-P-Oが約 109degという結果が得られた組成による大きな違いは確

認されなかったSnON多面体については平均配位数 N が 3~4 でSnO 量の増加に伴い 4

に近い値となった平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約 22Åで組成

による大きな変化は見られなかった

Nb2O5を 5 mol添加したガラスではNbON多面体の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平

均配位数N約4Nb-O平均結合距離約20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O

(約 105deg)と値が近いことまた6配位ではなく 4配位として主に存在していることから

SnO と同じような網目形成体として働いていると推測されたまた結合距離が Sn-O が約

22Åに対し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強

固にしていると考えられるまたSnO 量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体

的に各多面体同士の頂点共有が増えていることから耐水性の改善には頂点共有を多く

含む構造もしくは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的であること

が示唆された以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性

耐候性を改善した要因として考えられる

またAXS 法の有効性についても確認し効果的であることが判明したただし今回

は主成分が Snの組成のガラスでありHEXRD でも十分に詳細な Snの周辺構造が得られ

たためAXSを利用した場合との大きな構造の差は認められなかった

本研究では様々な優れた特徴を有する SP ガラスにおける耐水性改善のメカニズムにつ

いて検討を行ったこの系のガラスについてはこれまでほとんど利用されていなかった

放射光を用いた構造解析を駆使し第三成分の添加によってどのような構造的変化が生じ

耐水性を改善させるか新たな知見を得ることができた最終目標である機能性ガラスの

開発における新たなる材料設計指針の確立に対してldquo耐水性rdquoに関しては概ね明らかにな

ったと考えられる一方で今回検討していな電子状態化学結合性についても評価する

ことで溶出メカニズムの解明が可能になり材料設計指針の確立が期待される

79

発表論文リスト

口頭発表

第 2章および第 3章

(1) SnO-P2O5 系ガラスへの酸化物添加効果

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎

日本セラミックス協会第 25 回秋季シンポジウム No3C06 (名古屋市 2012年 9月)

(2) Effect of Nb2O5 addition to SnO-P2O5 glass (Poster)

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

International Union of Materials Research Societies International Conference on Electronic

Materials IUMRS-ICEM 2012 A-9-P26-003 (Yokohama 2012 年 9月)

(3) スズリン酸塩系ガラスの蛍光特性耐水性に及ばす酸化物の添加効果(ポスター)

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎

日本セラミックス協会 2013 年年会 1P070 (東京 2013年 3月)

第 4章

(1) 放射光を用いたスズリン酸塩ガラスの構造解析

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎小原真二臼杵毅

日本セラミックス協会第 27 回秋季シンポジウム 2B22 (鹿児島市 2014年 9 月)

(2) Structural analysis of tin phosphate glasses by synchrotron radiation (Poster)

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba Shinji Kohara Takeshi Usuki

International Congress on Glass ICG Annual Meeting Bangkok 2015 P14-138 p186 (2015)

発表論文

(1) Effect of Nb2O5 addition to SnO- P2O5 glass

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

Journal of the Ceramic Society of Japan Vol 120 No 11 pp530-533 (2012)

(2) Structural analysis of SnO- P2O5 glass

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

Journal of the Ceramic Society of Japan(準備中)

80

謝辞

本研究を遂行するにあたり終始暖かいご指導ご助言並びにご鞭撻を賜わりました岡

山大学大学院環境生命科学研究科 難波徳郎教授に心より感謝の意を表します

また本研究を遂行するにあたり懇切丁寧なご指導とご意見をしていただいた岡山大

学大学院環境生命科学研究科 紅野安彦准教授環境環理センター 崎田真一助教に心より

感謝いたします

本研究を遂行するにあたりラマン分光測定の使用についてご助言ご教授して頂い

た岡山大学自然科学研究科 藤井達生教授中西真助教に心より感謝の意を表します

Sn のメスバウアー測定の際に協力して頂いた岡山大学自然科学研究科先端自然科学教

育研究推進本部高田研究室 松本修治特任助教(当時旭硝子株式会社中央研究所)また

Feのメスバウアーを測定の際に協力して頂いた岡山大学自然科学研究科 藤井達生教授に

心より感謝の意を表します

固体 NMR の岡山大学自然科学研究科 早川聡教授に心より感謝の意を表します

本研究を遂行するにあたりSPring-8 にてHEXRD および AXS 法の測定法および原理

についてご教示頂きました物質材料研究機構 小原真司博士ならびに山形大学 臼杵毅

教授に心より感謝の意を表します

本研究は多くの後輩諸君の協力によって遂行されました特に実際に共同研究共同

実験を遂行して頂いたOG 藤原沙弥香さん博士前期課程 2 年 東利彦君OB 徳岡太誠

君学士課程 4年 塩田将大君に心より感謝の意を表しますまた難波研究室で共に研

究生活を過ごした卒業生在学生の方々に感謝の意を表します

また同時期に博士後期課程に在籍された香川高等専門学校の桟敷剛さんにはNbに

関する有益な情報だけでなく辛い状況でも励ましを頂きました心より感謝の意を表し

ます

最後に長きに渡る学生生活を認め経済面だけでなく精神面でも支援してくださった

家族に心より深く感謝の意を表します

平成 28年 3月

福井 聡史

Page 42: 博士論文 スズリン酸塩系ガラスの物性と構造解析ousar.lib.okayama-u.ac.jp/files/public/5/54353/...博士論文 スズリン酸塩系ガラスの物性と構造解析

39

Fig 224 各ガラス系の重量減と OP の関係性

40

第 3章 分光法を用いたスズリン酸塩系ガラスの構造解析

31 緒言

前章ではSP ガラスおよび第三成分に Nb2O5 ZnOを添加した Sn-Nb-P ガラスSNP ガラ

スSZP ガラスの物性特に耐水性に関する第三成分添加の有効性を明らかにしたその添

加した第三成分の二種類についてもNb2O5 の方が ZnO よりも溶出速度重量減ともに抑

制することができSP ガラスの低ガラス転移温度という特性も維持されていることが判明

したしかし現段階では本研究の主要な物性である耐水性改善の要因が明確になって

いない組成の観点からはOP の値が高い組成が良好な耐水性であることが分かったが

組成だけでは耐水性改善のメカニズムについて完全には理解できないここでリン酸塩

ガラスの溶出のメカニズムは第 1 章で述べたように加水分解反応と水和反応が要因とな

る[1 2]この機構はそれぞれリン酸の構造つまり架橋酸素 BO の数が大きく関わって

おりリン酸アニオンの[PO4]ユニットの架橋酸素数を知ることが重要であるこの BO の

情報を得るためにはガラス構造を示す指標の一つである Qn(n は[PO4]ユニット中の架橋

酸素数を表す)を調べることが必須であるまたQn の分布を調べるためにはガラスの

構造解析を行う必要性がある

ガラスの構造解析には種々の方法があり特にラマン分光法や赤外(IR)分光法核

磁気共鳴法(NMR)などの分光学的手法を用いた構造解析の報告が多い[3-5]ラマン分光

法および IR分光法は原理は異なるがどちらも結合の振動モードを測定する手法であり[6]

リン酸塩ガラスだけでなくケイ酸塩ガラスホウ酸塩ガラスなど様々なガラス系にて測

定がなされている[7 8]また得られた結合状態の情報からリン酸塩アニオンの Qn分布

を調べることも可能であるNMR は共鳴吸収ピークの化学シフト(共鳴周波数のズレ)

から構造を決定する手法であるガラスの場合SiO2や B2O3 P2O5といった網目形成酸化物

の Qn分布を得るために一般的に使用されている手法である[9]

今回これらの測定の中でラマン分光法を選択し構造解析を行ったラマン分光法は

測定する際にサンプル形状を気にすることなく基本的にそのまま測定できるためIR 分

光法のようにサンプル形状で測定方法を変える必要はないまたIR 分光法では例えば

KBr 錠剤法やヌジュール法のように測定を行うためのサンプル調整に手間がかかる場合が

ある[6]さらに比較対象の FP ガラスではNMR を測定できないため作製ガラスを全

て比較検討できるようにラマン分光法を選択した

本章ではラマン分光法を用いて各ガラスの構造解析を行い[PO4]ユニットの Qn分布を

調査し平均 BO数 nを算出することで耐水性と構造の関係性を検討したまたラマン

分光法によって得られた Qn分布の妥当性を確認するためにSP ガラスおよび 67S5N28P ガ

ラスの NMRを測定も行い比較した

32 実験方法

41

321 サンプル準備

ラマン分光およびメスバウアー分光の測定では第 2 章で作製した各ガラスのバルク体

を用いたWD試験に使用したサンプルとは別にラマン測定用のサンプルを用意した適

度な大きさ大体 15 cm角程度のサイズになるようにガラスカッターで切断しその後

十分な平滑性を得るために鏡面研磨を施した

322 ラマン分光測定

使用したラマン分光装置は顕微レーザーラマン分光装置(Jasco NRS-5100)を用いた

用いたレーザー波長は 53208 nmであり400 - 2000 cm-1の範囲で測定した

Qn 分布を導くためにピークフィッティングを行いリン酸塩アニオンのラマンバンド

が現れる950 - 1250 cm-1付近および 700 - 750cm-付近の範囲で定量した

323 31P MAS NMR測定

31P MAS NMRの測定は Varian NMR System 500 を用いて32 mmの MASプローブ

202309MHzにて行った測定パラメーターを以下に示すπ4 パルス長さ 14 μs 待ち時間

(pulse delay)10 s 積算回数 3600 scan シリンダー円筒形状の Zrローターの回転スピード

160 kHz referenceとして二番目の基準物質として使われる NH4H2PO4を使用化学シフト

は85 H3PO4溶液から δ = 10 ppmである

33 結果考察

331 各ガラス系のラマンスペクトル

Figs 31 - 35にラマンスペクトルを示す各ピークは以下の通りに帰属し各スペクト

ル中に該当する構造をピーク位置に示した

1230 - 1260 cm-1 P=O NBO Q

2 [10]

1110 - 1150 cm-1metaphosphate (PO3)

- Q

2 [10]

1030 - 1100 cm-1pyrophosphate (PO35)

2- Q

1 [10]

970 - 1000 cm-1orthophosphate (PO4)

3- Q

0 [10]

920 - 930 cm-1asymmetric (P-O-P) Q

1 [10]

730 - 750 cm-1symmetric (P-O-P) Q

1 [10]

710 - 720 cm-1asymmetric (P-O-P) Q

2 [10]

810 - 820 cm-1Nb-O [NbO4] tetrahedron [11]

900 - 920 cm-1Nb-O isolated [NbO6] octahedron [11]

42

SP ガラスのラマンスペクトル(Fig 31)を見ると50S50P 60S40P ではmetaphosphate

の Q2 構造が支配的であるがSnO 量が増えるにつれてその構造が変化し70S30P では

pyrophosphateの Q1構造と orthophosphateの Q

0構造が共存した構造となっているまたSnO

量の少ない 50S50P および 60S40P において確認されたQ2構造の P=O のピークが見えなく

なっているつまり耐水性と関連して考えるとSnO量が増えるにつれてP-O-P 結合か

ら Sn-O-P 結合に代わり水分子との反応である加水分解反応を妨げる構造に変化している

ことがわかる

Figs 32 33にNb2O5を添加した Sn-Nb-P ガラスおよび SNP ガラスのラマンスペクトル

を示すまずSn-Nb-P ガラスについてNb 無添加の 65Sn-0Nb-35P は主に Q1構造であ

りNbO25が添加されることによってQ0構造に変化しQ

1 Q

0構造が共存しているような

ピークが得られた添加量が少ないガラス系であるため徐々に変化しているのを確認し

た800 cm-1を少し越えた 810 - 820 cm

-1付近にNb2O5を添加することでピークが現れそ

して添加量を増量することで強度が強まるピークがありこのピークは四面体の[NbO4]

のものと判断した

SNP ガラスのラマンスペクトルについてはNb2O5添加量を固定した組成であるためSP

ガラスのような挙動が観察された50S50N45P では50S50P ガラスと同じようにQ2構造

が主な構造でありSnO量の増加に伴って60S5N35P Q1構造67S5N28P Q

0構造に支配

的な構造が変化しているこれはSP ガラスと同じ傾向を示しているためP-O-P rarr Sn-O-P

に置き替わっていることが示唆されるNb-O に関するピークでは50S5N45P のみ[NbO4]

四面体のピークを確認できず900 - 920 cm-1付近に[NbO6]八面体のピークが確認された

SnO量が増量した 60S5N35P では810 cm-1付近の [NbO4] 四面体のピークが現れているが

[NbO6]八面体のピークと 900 - 920 cm-1付近の Q

1構造のピークが非常に近い(ほぼ重なって

いる)ことから60S5N35P については[NbO4] 四面体および[NbO6]八面体の共存の可能性

も考えられるまた67S5NP28 では[NbO4] 四面体のみのピークが観察されたためこ

の Nb-O の配位数変化は[PO4] unitの状態によって変化している可能性も示唆された

ZnO を添加した S5ZP ガラスおよび 5SZP ガラスのラマンスペクトルを Fig 34 に示す

図の下部三つが S5ZP ガラス上部三つが 5SZP ガラスのスペクトルであるSZP ガラスの

二系統を比べるとあきらかなスペクトルの違いが確認された各ガラス系で確認すると

SnO 量が最小の 55S5Z40P はQ2構造と Q

1構造の範囲に跨っているようなスペクトルが得

られた62S5Z33P および 65S5Z30P のスペクトルからはどちらもほぼ Q1構造であると判

断した5SZP のスペクトルは1000 - 1250 cm-1付近の範囲で裾を引くような(なだらかな)

スペクトルが得られたZnO 量が最小の 5S55Z40P にはQ2構造が主な構造に見えるが

shoulderピークのような Q1構造(1030 - 1100 cm

-1)が確認できる5S62Z40P においては

1000 - 1250 cm-1付近の範囲まで幅広いスペクトルが得られた730 - 750 cm

-1付近にピーク

が現れているためおそらく Q1構造が最も多く存在していると考えられる65S5Z30P では

Q1構造Q

0構造が共存しているようなピークが得られた

43

FP ガラスのラマンスペクトルを Fig 35 に示すFe量の少ない 20F80P 25F75P と他の三

つで構造が異なっていることである20F80P 25F75P はQ2構造と Q

1構造が基本構造にな

っていると判断できる 30F70P は1110 - 1150 cm-1付近に shoulderピークのようなものがあ

りQ2 Q

1 Q

0構造が共存しているようなスペクトルであった35F65P 40F60P はQ1構造

が主な構造でQ0構造があると判断した

332 平均 BO数 n (Qn分布)

まずピーク分離について散乱断面積が見積もれなかったためラマンの散乱強度比

を Qn分布として簡易的にピーク分離を行い(Fig 36)そこから平均架橋酸素数 BO 数 n

を算出したここでFig 37 に 31P MAS NMRスペクトルを示しTable 31に NMRおよび

ラマン分光より得られた平均 BO 数 n を示す(NMR の帰属 reference [12])表よりNMR

とラマンから得られた Qn分布はほぼ一致していることが分かった60S40Pについては支

配構造が NMR(Q1) ラマン(Q

2)で逆になったこれは60S40P の組成がQ

2と Q1のほぼ中

間の組成になるためこのようなズレが生じたと考えられるしかし今回のラマンによ

る Qn分布の算出についてはほぼ問題ないと判断した

Table 32にラマンスペクトルより求めた Qn分布平均 BO 数 nをを示しTable 24に示

した DR 重量減の結果を併記する

SP ガラスのうち耐水性が低いガラスは Q2構造によって形成されているSnO量の増加

によって NBOの増加とともに耐水性の向上が確認できSnOが入ることでSn-O-P 結合を

形成し水分子からの攻撃を受けにくくなっていることが考えられる

Sn-Nb-P ガラスでは基本的に Q1構造が主構造でNb2O5の添加が増えるにつれQ

0構

造が支配的になり耐水性は次第に向上していく最も耐水性のよかった 65S-5Nb-30P は

Q0構造での割合が非常に高く平均 BO数 n値が 03であった

SNP ガラスではP2O5量が多い組成の 50S5N45Pにおいても平均 BO数 nが 60S40P と

同じながらも耐水性が良くなっている67S5N28P はほぼ完全に Q0構造であり平均 Q

n

値は 0となった

SZP ガラスについてはS5ZP 5ZSP のどちらの系列についても耐水性の結果に大きな差

というものは確認されなかったが構造的にも平均 BO数 nが 09 10 17という結果であ

った

FP ガラスについてはFe2O3 lt 30 molのときは平均 BO 数 nが20 19と高い数値を

示したが耐水性は非常に良好であったこの結果より組成だけでなく構造的にも耐

水性高くなる要因が不明である一つの原因の可能性としてメスバウアーより得られた

Fe2+の存在比が 40以上と高かったことがFe2O3含有量が少ない組成時には効果的になっ

ているのかもしれない

333 平均 BO数 nと耐水性の関係性

44

Fig 38に DRと平均 BO数 nの関係性についてFig 39に重量減と平均 BO数 nの関係

性をそれぞれ示すまたOP の時と同様に各図にリン酸塩の三つの構造の平均 BO数

n も表記した双方の図よりDR 重量減共に平均 BO 数 nが低下することで単調に下がっ

ていることが分かるまた耐水性の良かったNb2O5添加の Sn-Nb-P SNPガラスはの DR

の挙動(傾き)はOP 時とも異なった挙動が得られた

Fig 310に OP と平均 BO数 nの関係を示す図中に示す茶色metaphosphate 黄色

pyrophosphate 灰色orthophosphate であるこの図から耐水性改善には平均 BO 数

n を下げOP を上げることが重要であるのが分かるまたNb5+の添加はOP を上げる

だけでなく平均 BO 数も減少させることから非常に効果的な成分であることが明らかで

あるこれはP5+から同酸価数 Nb

5+に少量でも置き換えることで平均 BO 数 n を下げ

OP を上げることを可能としている(実際に orthophosphate の OP4 よりも高い OP でガ

ラスが作製できている)つまりNb5+の添加によって P-O-P 結合が減少し水和反応加

水分解反応が抑制されているからである

以上の結果SP 系ガラスの耐水性改善には低い平均 BO 数と高い OP の組成にするこ

とが重要でNb2O5の添加は非常に効果的であることが分かったその一方でガラス中の

詳細な構造的要因についてははっきりしていないため次章の第 4 章にてさらに詳し

い構造解析を行い耐水性改善の要因について調査を行った

34 結言

本章ではラマン分光を使用して各ガラス系のリン酸塩アニオンの構造を簡易定量で

評価し組成と構造の関係について考察した

平均 BO 数 n と耐水性に関してはDR および重量減が平均 BO 数 n の減少で単調に低下

した結果が得られた

平均 BO数 nと OP の図より耐水性改善には平均 BO数 nを下げることそして OP

を上げることが重要であることが明白であった

Nb5+の添加は平均 BO数を減少させるだけでなくOP も上げることからガラス構造内

の P-O-P 結合を減少させる故に水和反応加水分解反応が抑制され耐水性が大幅に

改善された故にNb2O5 のような高価数金属酸化物を添加することが効果的であること

が示唆された

参考文献

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[2] 春日敏弘 NEW GLASS 22 [2] 3 - 8 (2007)

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[12] D Holland A P Howes M E Smith and A C Hannon J Phys Condens Matter 14

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46

Fig 31 SP ガラスのラマンスペクトル

47

Fig 32 Sn-Nb-P ガラスのラマンスペクトル

48

Fig 33 SNP ガラスのラマンスペクトル

49

Fig 34 SZP ガラスのラマンスペクトル

50

Fig 35 FP ガラスのラマンスペクトル

51

Fig 36 ラマンスペクトルのピーク分離例(67S5N28P)

Raman Shift (cm-1)

52

Fig 37 NMRスペクトル

Table 31 NMR およびラマン分光より得られた SP 67S5N28P ガラスの

Qn分布および平均 BO数 n

53

Table 32 各ガラスのラマンスペクトルより求めた Qn分布結果

(表の赤線より右側の結果は Table 22 より)

1 仕込み組成による数値

2 Fig 2212 に示した析出物を取り除いた後の数値

54

Fig 38 DR と平均 BO数 nの関係性

55

Fig 39 重量減と平均 BO数 nの関係性

56

Fig 310 OP と平均 BO数 nの関係性

Meta

Pyro

Ortho

57

第 4章 放射光を用いたスズリン酸塩系ガラスの構造解析

41 緒言

前章の第 3 章にてラマン分光法を用いて SP 系ガラスの構造解析により Qn分布を導き

出したことで耐水性と構造の関係についてある程度関連性を導くことができたリン

酸アニオンについてはQ0(orthophosphate)構造 gt Q

1(pyrophosphate)構造 gt Q2

(metaphosphate)構造の順で良耐水性となるしかしSn Nbおよび Znの局所構造につ

いては知見が得られていないラマン分光や IR分光などの分光学的手法を用いてSnや

Nb Zn の周辺の局所構造を知るには限界があるまたガラスの構造解析を行う上で非常

に重要な因子である中距離構造の評価には分光学的手法は不向きである[1]

そこで局所構造や中距離構造を知るために有効な手法として放射光線を用いた構造

解析がある放射光(SR 光)とはシンクロトロンなどの加速器で高速に加速された電子

が進行方向を磁場によって変えられた際に放射する電磁波である[2]エネルギーが高く

(短波長)輝度が高い特性を有している日本国内では兵庫県佐用町の SPring-8や茨城

県つくば市の高エネルギー加速器研究機構佐賀県鳥栖市の佐賀県立九州シンクロトロン

光研究センターなど複数個所に放射光施設が設置されている

放射光を用いたガラスの構造解析には一般的に高エネルギーX 線回折(High Energy

X-ray diffraction HEXRD)が用いられるこの回折実験から高い散乱ベクトル Q(= 4π sinθλ)

まで回折データが得られる多種類の原子から構成される物質の場合はFaber-Ziman 型[3]

の構造因子 S(Q)を用いる以下の式に示すようにFaber-Ziman 型構造因子 S(Q)は同種また

は異種の原子による相関の重み関数付の和として示される例として SiO2ガラスで説明す

ると構造因子 S(Q)は三種類の原子付の S(Q)の重み付の和として表されていることが分か

I(Q) 散乱断面積 ltgt 原子一個当たりの平均値 f(Q) 原子散乱因子 W 重み関数

通常の研究室で使用される X 線回折(XRD)装置で用いられる特性 X 線はCuKα線(λ

= 0154 nm 81 keV)が最も良く用いられより高いエネルギーの X 線が必要な場合は

MoKα線(λ = 0071 nm 175 keV)が使用される一方でSPring-8のビームライン BL04B2

で行われる高エネルギーX 線回折(HEXRD)測定で使用される SR のエネルギーは378 keV

58

~ が使用可能である[2]従ってガラス以外の液体のような非晶質物質にも非常に精度

よく構造解析が行われている[4]

また局所構造解析の一つに X線異常散乱法という測定方法がある[5 6]これは通常

の X 線回折実験では分離不可能な特定元素に関連する部分構造因子(散乱強度曲線)を得

ることができる手法である今回 HEXRD の測定時に使用したエネルギー614 keV では各元

素の異常散乱項のエネルギー依存性は確認されない(Fig 41)その一方でFig 42に示す

Sn の吸収端付近の 292 keV付近ではSnの異常分散項のエネルギー依存性が確認できる

つまりSnの吸収端近傍より低エネルギー(E)側の異なるエネルギーの X線(E1 E2)を

使って散乱強度を測定し各 E における異常分散項(f`)の変化(つまり高い E1 から低い

E2 の散乱強度の差分)を利用して Snに関する部分構造因子を求める構造解析が AXS 法で

あるこの測定法は古くから知られている方法ではあるが装置の測定条件や設備の問

題からなどから使用があまり普及していなかった[5 6]近年になり金属ガラスの構造解

析について徐々に報告が出てきており今後注目される測定法である

HEXRD および AXS 法などから得られたデータ実測の構造因子 S(Q)は一次元の限られ

た構造情報であるためガラスなどの非晶質物質の中距離構造を解明するためにはこれ

らのデータを基に三次元構造を求める必要がある三次元構造モデルの作成には逆モンテ

カルロ(RMC)シミュレーションを使用することが有効である[7]このシミュレーション

は任意で決めたシミュレーションボックス内の粒子をランダムに動かすことで実測の

構造因子 S(Q)を再現する三次元構造モデルを構築する方法である

SP ガラスについては分光学的手法について数多く報告があるが放射光を用いた回折

法はほとんど適用されていないそこで本研究では HEXRD および AXS 法を用いた構造

解析を行うことでSn Nb周りの構造を解明すると共にSNP ガラスの耐水性改善のメカ

ニズムについて考察したまたAXS 法の有効性についても検討した測定を行ったガラ

スはSP ガラスおよび最も耐水性の高かった 67S5N28P を選択した

42 実験方法

421 HEXRD AXS法

HEXRDはSPring-8のビームライン BL04B2 で測定を行ったエネルギー614 keV の X

線を用いた測定サンプルの厚みは09 mm (plusmn0005 mm)になるまで研磨を行った

AXS 測定はSPring-8のビームライン BL13XUを使用した(Fig 43)それぞれの測定し

た X 線のエネルギーについて以下に示す

①Sn K吸収端hellip292 keV near edgehellip291452 keV (-60 eV) far edgehellip289751 keV (-230 eV)

②Nb K吸収端hellip1899 keV near edgehellip189562 keV (-30 eV) far edgehellip187863 keV (-230 eV)

測定に使用したサンプルの厚さが015 - 030 mmとなるまで研磨を施した

SP ガラスについて50S50P 60S40P 67S33P の三組成のガラスを測定した70S30P に関

59

しては測定を試みたが放射光照射によって結晶化してしまいガラス部分の正確な構

造因子を得るための強度補正ができず解析を断念した

422 RMCのモデリング

Table 41 に RMC の各種パラメーターを示す粒子数は約 5000 個でそれに伴う boxの一

辺の長さは約 42 ~ 46 Ǻになった拘束条件にP の配位数が 4になるような条件を付け

加えたFig 44にSn2P2O7結晶および Sn3P2O8結晶の動径分布関数(RDF)をTable 32

にRDFから得られた第一近接距離[8 9] を示すこれらの数値を使用しcutoffを決定し

たNb-O についてはいくつかの文献値を参考にした[10 11]

各ガラスの RMCのモデリングは①HEXRDから得られた S(Q)のみ②S(Q)および AXS

から得られた部分構造因子を加えた場合でそれぞれ計算した

43 結果考察

最初にNbの AXSから得られたデータについて解析を試みたが妥当な構造モデルが得

られなかったためSnの AXSのみで解析を進めたNb2O5の量が 5 molと少量であったた

めあまり精度の高いデータが得られなかったと推測される

431 実測の HEXRDおよび AXSの結果

4311 実測 HEXRDの S(Q)

Fig 45 に実測HEXRDの S(Q)を示す四つの組成ともに実測HEXRDの S(Q)が得られ

Nb2O5添加の 67S5N28P ガラスでは Low Q 側に変化が確認された

4312 実測散乱強度曲線

Fig 46 に Snの散乱強度曲線を示す(a) の 67S33P のこの曲線からはfar edgeおよび

near edge のエネルギー間で差分が見られエネルギーの依存性が確認された50S50P

67S5N28P のガラスについても同じように差分が確認されたが(b)の 60S40P についてのみ

他とは若干異なる結果(緑丸)であったためRMC の構造解析には差分の構造因子ではな

くfar edge near edge 二つの構造因子を用いた

4313 全相関関数 T(r)

Fig 47 に全相関関数 T(r) を示すHEXRD から得られたものを実線でSnの AXS から

得られたものは点線で示し組成ごとに重ねて表示した図中に各ピークについて帰属し

ているがSnの T(r)からはSn-O Sn-P Sn-Snのみのピークを確認した

432 RMCの計算結果および考察

60

構造モデルの一例として67S5N28P ガラスの得られた構造モデルをFig 48に示す水

色の多面体 unitSnON 黄色の多面体 unitPO4 ピンクの多面体 unitNbONである以下

詳細な構造解析の結果および考察を記す

4321 RMCのフィッティング結果

RMCのフィッティング結果の一例として67S33P の HEXRD と Snの AXS の構造因子か

ら得た結果を示す(Fig 49)二つの構造因子を加えて計算した結果においてもHEXRD

の S(Q) AXS の S(Q)に各々に対する良好なフィッティング結果が得られた他の組成も

同様なフィッティング結果が得られた

4322得られた各 pairの平均配位数平均角度平均結合距離

RMCの結果によって得られた各 pairの平均配位数平均角度平均結合距離を Tables 43

に示す上段が HEXRD の S(Q)のみ下段が HEXRD に Sn の AXS の部分構造因子を加え

て結果である最下部は比較のためにSn2P2O7の情報を記載した[8]

P-O pairについてRMCモデル中の PON多面体に関して平均配位数 Nが 4および P-O

の平均結合距離が約 160Å平均結合角度angO-P-O が約 109degという結果が得られた組成

による大きな違いは確認されなかったのはP の配位数が 4になるように拘束条件をかけた

結果であると考えられるSnON多面体についてはSnO量の増加 = OP の増加であり平

均配位数 Nが 3 ~ 35へ増加した平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約

22Åで組成による大きな変化はほとんど見られなかったNb2O5を 5 mol添加したガラ

スではNbON多面体の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平均配位数 N約 4Nb-O 平均結

合距離約 20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O(約 105deg)と値が近いこと

また6配位ではなく 4配位として主に存在していることからSnO と同じような働きをし

ていると推測される

以上の結果からNb2O5添加の耐水性改善の要因として結合距離が Sn-O が約 22Åに対

し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強固にして

いることも一つの要因として考えられる

また67S5N28P ガラスの各多面体モデルを確認すると(Fig 410)P は PO4Snは SnO4

と SnO3Nbは NbO4をそれぞれ再現している

4323得られた各 pairの結合様式

RMC の結果により得られた各 pair の結合様式を Tables 44 に示す上段が HEXRD の

S(Q)のみ下段が HEXRDに Snの AXS の部分構造因子を加えた結果である最下部は比

較のためにSn2P2O7の情報を記載した[8]

結合様式に関してはPO4四面体は他の多面体も含めてほぼ頂点共有で存在している

SnON多面体についてはSnO 量が少ない配位数が 3 に近い場合頂点共有以外の共有の

61

割合も多くSnO 量が増えるにつれて頂点共有が主になり網目形成体として振舞ってい

ると考えられる組成によって平均結合距離や平均角度の大きな変化が見られなかったこ

とから平均配位数が結合様式を決める重要なファクターであるということも考えられる

またHEXRD と AXS 法の結果がほぼ同じであったこれは主成分が SnO のガラスであ

るためHEXRDでも十分に詳細な構造が得られたため大きな変化が現れなかったと考え

られるNbON 多面体はPO4 四面体と SnON 多面体とはほぼ頂点共有で繋がっている以

上の結果よりSnO量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体的に各多面体同士の

頂点共有が増えていることから耐水性の改善には頂点共有を多く含む構造であること

が重要である或いは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的となって

いるということが推測されるFig 411に 67S5N28P ガラスの構造モデルを示す各多面

体はほぼ頂点共有で繋がっていることが確認できる

4324 平均 BO数の比較

Tables 45にNMR Raman RMC(HEXRD) RMC(HEXRD + AXS)の平均BO数を示すRMC

から得られた平均 BO 数 nはNMR Raman と同様に Nb2O5の添加による大幅な減少が確認

されたしかしNMR Raman と比較すると全組成において数値が大きすぎで適当でない

50S50P の構造モデルを観るとPO4四面体間で3配位 O の存在が確認された(Fig 412)た

め実測で得られた n値を再現できるようなPO4四面体モデル間の繋がり方に関する拘束条

件を加えて RMCを計算する必要性があるまた仮に3配位 Oの存在があるとすると電

子状態の変化が生じていることがと示唆されるため分子軌道計算を用いて電子状態解析

を行い確認する必要がある

4325 耐水性の改善について

Nb2O5を添加のガラス構造への影響について①6配位ではなく 4配位として主に存在し

ていることからSnO と同じような働きをしていると推測される②結合距離が Sn-O が約

22Åに対し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強

固にしている③ガラス構造中で全体的に各多面体同士の頂点共有が増えている以上の

ことが判明した以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性

耐候性を改善した要因として考えられる

44 結言

本章では分光学的手法では評価できないガラスの中距離構造局所構造について理解

するために放射光を用いた構造解析を実施しSP ガラスの構造と耐水性改善について考

察したHEXRDおよび AXS法を用いて測定を行い得られたデータを RMCシミュレーシ

ョンにて解析を行った

解析の結果 Sn-O pair については平均配位数 Nが 3 ~ 35でSnO量の増加 = OP の増

62

加に伴い高くなった平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約 22Åであ

ったP-O Sn-Oについては組成による大きな変化はほとんど見られなかった67S5N28P

ガラスの Nb-O pair の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平均配位数約 4Nb-O 平均結合距

離約 20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O(約 105deg)と値が近いことま

た6配位ではなく 4配位として主に存在していることからSnOと同じような働き(網目

形成体)をしていると推測されるまた結合距離が Sn-O が約 22Åに対し Nb-O は約 20

Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強固にしていると言える

SnO 量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体的に各多面体同士の頂点共有が増え

ていることから耐水性の改善には頂点共有を多く含む構造であることが重要である

もしくは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的であることが推測さ

れる以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性耐候性を

改善した要因として考えられる

またAXS 法の有効性についても確認し効果的であることが判明したただし今回

は主成分が Sn の組成のガラスでありHEXRD でも十分に詳細な構造が得られたため

大きな差は現れなかった

参考文献

[1] 山根正之 安井至 和田正道 国分可紀 寺井良平 近藤敬 小川晋永編ガラス光学ハ

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63

Fig 41 各原子の異常分散項のエネルギー依存性

Fig 42 Sn の異常分散項のエネルギー依存性

64

Fig 43 SPring-8の BL13XU

65

Tab

le 4

1

RM

Cの各パラメーター

66

Fig 44 Sn2P2O7 Sn3P2O8結晶の RDF

Table 42 Sn2P2O7 Sn3P2O8結晶の各 pairの第一近接距離

67

Fig 45 得られた実測 HEXRDの S(Q)

68

Fig 46 Sn の異常散乱測定により得られた散乱強度のエネルギー依存性

(a)67S33P (b)60S40P

69

Fig 47 全相関関数 T(r)

太線 HEXRD より

細線 Sn の AXSより

70

Fig 48 67S5N28P ガラス構造のモデル

71

Fig 49 RMC フィッティングの結果

72

Tab

le 4

3 各

pairの平均配位数角度結合距離

73

Fig

4

10

67

S5

N2

8Pガラスの各多面体モデル

74

Tab

le 4

4 各

pairの結合様式

75

Fig 411 67S5N28P ガラスの構造モデル

76

Table 45 平均 BO 各数 nの比較

Fig 412 50S50P ガラスの構造モデル

77

第 5章 総括

本研究ではSP ガラスを対象とした本研究では鉛フリー代替ガラスまたは希土類フ

リー蛍光体として SP ガラスの新規高機能化を将来的に目指し問題点であるldquo化学的耐久

性rdquoの改善につながる知見を得ることを目的としたそこでまずSP ガラスを母体ガラ

スとし第三成分に Nb2O5を添加した Sn-Nb-P SNP ガラスZnO を添加した SZP ガラスを

作製し耐水性を中心とした物性評価を行った次に分光学的手法で構造解析を行い

Qn 分布を導き出した最後に放射光を用いた構造解析を行い耐水性改善に関する構造的

な考察を行った以下に本研究で行った検討内容を示す

(1)SPガラスおよび第三成分Nb2O5 ZnOを添加した三成分系SPガラスの物性評価(第 2章)

(2)SP 系ガラスの分光学的手法による Qn分布導出(第 3章)

(3)放射光を用いた SP 系ガラスの構造解析構造と耐水性改善の関連について(第 4章)

各章についてまとめた結果を以下に示す

第 2章

第 2章では二成分系および三成分系のリン酸塩系ガラスの各種物性(密度や熱的特性

耐水性)の評価を行った二成分系ではSP ガラスに加え良好な耐水性を有する鉄リン

酸塩(Fe2O3-P2O5)系ガラス(以下 FP ガラス)を比較のために三成分系では二成分系

の SP ガラスに Nb2O5を添加したニオブ含有 SP ガラス(SNP ガラス)および ZnO を添加し

た亜鉛含有 SP ガラス(SZP ガラス)を作製した

今回作製した SP 系ガラスは低ガラス転移温度を有していた各組成の温度域はSP

ガラスTg le 280 Sn-Nb-P SNPガラスTg le 3505SZP S5ZPガラスTg ≦ 450であった

各種 SP ガラスの耐水性試験の結果二成分系の SP ガラスよりも三成分系ガラスの方が

良好な耐水性を有していた65Sn-5Nb-30P 67S5N28P ガラスが最も耐水性が良好であり化

学的耐久性の改善には Nb2O5が ZnOよりも効果的であった

組成と耐水性に関してはDRおよび重量減がOP増加で単調に低下した結果が得られた

つまり耐水性を改善させるにはSP 系ガラスのガラス化範囲を拡大かつ OP を増大させ

る第三成分の添加が有効であることが示唆された

第 3章

第 3章ではSP 系ガラスの分光学的手法による Qn分布の導出を行ったラマン分光法を

用いて各ガラス系のリン酸塩アニオンの構造を簡易定量で評価し組成と構造の関係に

ついて考察した平均 BO 数 n と耐水性に関してはDR および重量減が平均 BO 数 nの減

少で単調に低下することが明らかとなった

平均 BO 数 n と OP の関係より耐水性改善には平均 BO 数 n を下げることそして

OP を上げることが重要であることが明らかになった

78

Nb5+の添加は平均 BO数を減少させるだけでなくOP も上げることからガラス構造

内の P-O-P 結合を減少させ水和反応加水分解反応が抑制され耐水性が大幅に改善さ

れることが示唆された故にNb2O5 のような高価数金属酸化物を添加することが効果的

であることが再度確認された

第 4章

耐水性向上についてより深く評価するためSP SNP ガラスの局所構造に関する知見を得

ることを目的に放射光を用いた構造解析を行った高エネルギーX 線回折(HEXRD)お

よび X 線異常散乱(AXS)法で測定したデータを再現する構造モデルを逆モンテカルロ

(RMC)シミュレーションで構築し構造解析を行った

RMC モデル中の PON多面体に関して平均配位数 Nが 4および P-O の平均結合距離が約

160Å平均結合角度angO-P-Oが約 109degという結果が得られた組成による大きな違いは確

認されなかったSnON多面体については平均配位数 N が 3~4 でSnO 量の増加に伴い 4

に近い値となった平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約 22Åで組成

による大きな変化は見られなかった

Nb2O5を 5 mol添加したガラスではNbON多面体の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平

均配位数N約4Nb-O平均結合距離約20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O

(約 105deg)と値が近いことまた6配位ではなく 4配位として主に存在していることから

SnO と同じような網目形成体として働いていると推測されたまた結合距離が Sn-O が約

22Åに対し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強

固にしていると考えられるまたSnO 量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体

的に各多面体同士の頂点共有が増えていることから耐水性の改善には頂点共有を多く

含む構造もしくは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的であること

が示唆された以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性

耐候性を改善した要因として考えられる

またAXS 法の有効性についても確認し効果的であることが判明したただし今回

は主成分が Snの組成のガラスでありHEXRD でも十分に詳細な Snの周辺構造が得られ

たためAXSを利用した場合との大きな構造の差は認められなかった

本研究では様々な優れた特徴を有する SP ガラスにおける耐水性改善のメカニズムにつ

いて検討を行ったこの系のガラスについてはこれまでほとんど利用されていなかった

放射光を用いた構造解析を駆使し第三成分の添加によってどのような構造的変化が生じ

耐水性を改善させるか新たな知見を得ることができた最終目標である機能性ガラスの

開発における新たなる材料設計指針の確立に対してldquo耐水性rdquoに関しては概ね明らかにな

ったと考えられる一方で今回検討していな電子状態化学結合性についても評価する

ことで溶出メカニズムの解明が可能になり材料設計指針の確立が期待される

79

発表論文リスト

口頭発表

第 2章および第 3章

(1) SnO-P2O5 系ガラスへの酸化物添加効果

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎

日本セラミックス協会第 25 回秋季シンポジウム No3C06 (名古屋市 2012年 9月)

(2) Effect of Nb2O5 addition to SnO-P2O5 glass (Poster)

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

International Union of Materials Research Societies International Conference on Electronic

Materials IUMRS-ICEM 2012 A-9-P26-003 (Yokohama 2012 年 9月)

(3) スズリン酸塩系ガラスの蛍光特性耐水性に及ばす酸化物の添加効果(ポスター)

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎

日本セラミックス協会 2013 年年会 1P070 (東京 2013年 3月)

第 4章

(1) 放射光を用いたスズリン酸塩ガラスの構造解析

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎小原真二臼杵毅

日本セラミックス協会第 27 回秋季シンポジウム 2B22 (鹿児島市 2014年 9 月)

(2) Structural analysis of tin phosphate glasses by synchrotron radiation (Poster)

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba Shinji Kohara Takeshi Usuki

International Congress on Glass ICG Annual Meeting Bangkok 2015 P14-138 p186 (2015)

発表論文

(1) Effect of Nb2O5 addition to SnO- P2O5 glass

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

Journal of the Ceramic Society of Japan Vol 120 No 11 pp530-533 (2012)

(2) Structural analysis of SnO- P2O5 glass

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

Journal of the Ceramic Society of Japan(準備中)

80

謝辞

本研究を遂行するにあたり終始暖かいご指導ご助言並びにご鞭撻を賜わりました岡

山大学大学院環境生命科学研究科 難波徳郎教授に心より感謝の意を表します

また本研究を遂行するにあたり懇切丁寧なご指導とご意見をしていただいた岡山大

学大学院環境生命科学研究科 紅野安彦准教授環境環理センター 崎田真一助教に心より

感謝いたします

本研究を遂行するにあたりラマン分光測定の使用についてご助言ご教授して頂い

た岡山大学自然科学研究科 藤井達生教授中西真助教に心より感謝の意を表します

Sn のメスバウアー測定の際に協力して頂いた岡山大学自然科学研究科先端自然科学教

育研究推進本部高田研究室 松本修治特任助教(当時旭硝子株式会社中央研究所)また

Feのメスバウアーを測定の際に協力して頂いた岡山大学自然科学研究科 藤井達生教授に

心より感謝の意を表します

固体 NMR の岡山大学自然科学研究科 早川聡教授に心より感謝の意を表します

本研究を遂行するにあたりSPring-8 にてHEXRD および AXS 法の測定法および原理

についてご教示頂きました物質材料研究機構 小原真司博士ならびに山形大学 臼杵毅

教授に心より感謝の意を表します

本研究は多くの後輩諸君の協力によって遂行されました特に実際に共同研究共同

実験を遂行して頂いたOG 藤原沙弥香さん博士前期課程 2 年 東利彦君OB 徳岡太誠

君学士課程 4年 塩田将大君に心より感謝の意を表しますまた難波研究室で共に研

究生活を過ごした卒業生在学生の方々に感謝の意を表します

また同時期に博士後期課程に在籍された香川高等専門学校の桟敷剛さんにはNbに

関する有益な情報だけでなく辛い状況でも励ましを頂きました心より感謝の意を表し

ます

最後に長きに渡る学生生活を認め経済面だけでなく精神面でも支援してくださった

家族に心より深く感謝の意を表します

平成 28年 3月

福井 聡史

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40

第 3章 分光法を用いたスズリン酸塩系ガラスの構造解析

31 緒言

前章ではSP ガラスおよび第三成分に Nb2O5 ZnOを添加した Sn-Nb-P ガラスSNP ガラ

スSZP ガラスの物性特に耐水性に関する第三成分添加の有効性を明らかにしたその添

加した第三成分の二種類についてもNb2O5 の方が ZnO よりも溶出速度重量減ともに抑

制することができSP ガラスの低ガラス転移温度という特性も維持されていることが判明

したしかし現段階では本研究の主要な物性である耐水性改善の要因が明確になって

いない組成の観点からはOP の値が高い組成が良好な耐水性であることが分かったが

組成だけでは耐水性改善のメカニズムについて完全には理解できないここでリン酸塩

ガラスの溶出のメカニズムは第 1 章で述べたように加水分解反応と水和反応が要因とな

る[1 2]この機構はそれぞれリン酸の構造つまり架橋酸素 BO の数が大きく関わって

おりリン酸アニオンの[PO4]ユニットの架橋酸素数を知ることが重要であるこの BO の

情報を得るためにはガラス構造を示す指標の一つである Qn(n は[PO4]ユニット中の架橋

酸素数を表す)を調べることが必須であるまたQn の分布を調べるためにはガラスの

構造解析を行う必要性がある

ガラスの構造解析には種々の方法があり特にラマン分光法や赤外(IR)分光法核

磁気共鳴法(NMR)などの分光学的手法を用いた構造解析の報告が多い[3-5]ラマン分光

法および IR分光法は原理は異なるがどちらも結合の振動モードを測定する手法であり[6]

リン酸塩ガラスだけでなくケイ酸塩ガラスホウ酸塩ガラスなど様々なガラス系にて測

定がなされている[7 8]また得られた結合状態の情報からリン酸塩アニオンの Qn分布

を調べることも可能であるNMR は共鳴吸収ピークの化学シフト(共鳴周波数のズレ)

から構造を決定する手法であるガラスの場合SiO2や B2O3 P2O5といった網目形成酸化物

の Qn分布を得るために一般的に使用されている手法である[9]

今回これらの測定の中でラマン分光法を選択し構造解析を行ったラマン分光法は

測定する際にサンプル形状を気にすることなく基本的にそのまま測定できるためIR 分

光法のようにサンプル形状で測定方法を変える必要はないまたIR 分光法では例えば

KBr 錠剤法やヌジュール法のように測定を行うためのサンプル調整に手間がかかる場合が

ある[6]さらに比較対象の FP ガラスではNMR を測定できないため作製ガラスを全

て比較検討できるようにラマン分光法を選択した

本章ではラマン分光法を用いて各ガラスの構造解析を行い[PO4]ユニットの Qn分布を

調査し平均 BO数 nを算出することで耐水性と構造の関係性を検討したまたラマン

分光法によって得られた Qn分布の妥当性を確認するためにSP ガラスおよび 67S5N28P ガ

ラスの NMRを測定も行い比較した

32 実験方法

41

321 サンプル準備

ラマン分光およびメスバウアー分光の測定では第 2 章で作製した各ガラスのバルク体

を用いたWD試験に使用したサンプルとは別にラマン測定用のサンプルを用意した適

度な大きさ大体 15 cm角程度のサイズになるようにガラスカッターで切断しその後

十分な平滑性を得るために鏡面研磨を施した

322 ラマン分光測定

使用したラマン分光装置は顕微レーザーラマン分光装置(Jasco NRS-5100)を用いた

用いたレーザー波長は 53208 nmであり400 - 2000 cm-1の範囲で測定した

Qn 分布を導くためにピークフィッティングを行いリン酸塩アニオンのラマンバンド

が現れる950 - 1250 cm-1付近および 700 - 750cm-付近の範囲で定量した

323 31P MAS NMR測定

31P MAS NMRの測定は Varian NMR System 500 を用いて32 mmの MASプローブ

202309MHzにて行った測定パラメーターを以下に示すπ4 パルス長さ 14 μs 待ち時間

(pulse delay)10 s 積算回数 3600 scan シリンダー円筒形状の Zrローターの回転スピード

160 kHz referenceとして二番目の基準物質として使われる NH4H2PO4を使用化学シフト

は85 H3PO4溶液から δ = 10 ppmである

33 結果考察

331 各ガラス系のラマンスペクトル

Figs 31 - 35にラマンスペクトルを示す各ピークは以下の通りに帰属し各スペクト

ル中に該当する構造をピーク位置に示した

1230 - 1260 cm-1 P=O NBO Q

2 [10]

1110 - 1150 cm-1metaphosphate (PO3)

- Q

2 [10]

1030 - 1100 cm-1pyrophosphate (PO35)

2- Q

1 [10]

970 - 1000 cm-1orthophosphate (PO4)

3- Q

0 [10]

920 - 930 cm-1asymmetric (P-O-P) Q

1 [10]

730 - 750 cm-1symmetric (P-O-P) Q

1 [10]

710 - 720 cm-1asymmetric (P-O-P) Q

2 [10]

810 - 820 cm-1Nb-O [NbO4] tetrahedron [11]

900 - 920 cm-1Nb-O isolated [NbO6] octahedron [11]

42

SP ガラスのラマンスペクトル(Fig 31)を見ると50S50P 60S40P ではmetaphosphate

の Q2 構造が支配的であるがSnO 量が増えるにつれてその構造が変化し70S30P では

pyrophosphateの Q1構造と orthophosphateの Q

0構造が共存した構造となっているまたSnO

量の少ない 50S50P および 60S40P において確認されたQ2構造の P=O のピークが見えなく

なっているつまり耐水性と関連して考えるとSnO量が増えるにつれてP-O-P 結合か

ら Sn-O-P 結合に代わり水分子との反応である加水分解反応を妨げる構造に変化している

ことがわかる

Figs 32 33にNb2O5を添加した Sn-Nb-P ガラスおよび SNP ガラスのラマンスペクトル

を示すまずSn-Nb-P ガラスについてNb 無添加の 65Sn-0Nb-35P は主に Q1構造であ

りNbO25が添加されることによってQ0構造に変化しQ

1 Q

0構造が共存しているような

ピークが得られた添加量が少ないガラス系であるため徐々に変化しているのを確認し

た800 cm-1を少し越えた 810 - 820 cm

-1付近にNb2O5を添加することでピークが現れそ

して添加量を増量することで強度が強まるピークがありこのピークは四面体の[NbO4]

のものと判断した

SNP ガラスのラマンスペクトルについてはNb2O5添加量を固定した組成であるためSP

ガラスのような挙動が観察された50S50N45P では50S50P ガラスと同じようにQ2構造

が主な構造でありSnO量の増加に伴って60S5N35P Q1構造67S5N28P Q

0構造に支配

的な構造が変化しているこれはSP ガラスと同じ傾向を示しているためP-O-P rarr Sn-O-P

に置き替わっていることが示唆されるNb-O に関するピークでは50S5N45P のみ[NbO4]

四面体のピークを確認できず900 - 920 cm-1付近に[NbO6]八面体のピークが確認された

SnO量が増量した 60S5N35P では810 cm-1付近の [NbO4] 四面体のピークが現れているが

[NbO6]八面体のピークと 900 - 920 cm-1付近の Q

1構造のピークが非常に近い(ほぼ重なって

いる)ことから60S5N35P については[NbO4] 四面体および[NbO6]八面体の共存の可能性

も考えられるまた67S5NP28 では[NbO4] 四面体のみのピークが観察されたためこ

の Nb-O の配位数変化は[PO4] unitの状態によって変化している可能性も示唆された

ZnO を添加した S5ZP ガラスおよび 5SZP ガラスのラマンスペクトルを Fig 34 に示す

図の下部三つが S5ZP ガラス上部三つが 5SZP ガラスのスペクトルであるSZP ガラスの

二系統を比べるとあきらかなスペクトルの違いが確認された各ガラス系で確認すると

SnO 量が最小の 55S5Z40P はQ2構造と Q

1構造の範囲に跨っているようなスペクトルが得

られた62S5Z33P および 65S5Z30P のスペクトルからはどちらもほぼ Q1構造であると判

断した5SZP のスペクトルは1000 - 1250 cm-1付近の範囲で裾を引くような(なだらかな)

スペクトルが得られたZnO 量が最小の 5S55Z40P にはQ2構造が主な構造に見えるが

shoulderピークのような Q1構造(1030 - 1100 cm

-1)が確認できる5S62Z40P においては

1000 - 1250 cm-1付近の範囲まで幅広いスペクトルが得られた730 - 750 cm

-1付近にピーク

が現れているためおそらく Q1構造が最も多く存在していると考えられる65S5Z30P では

Q1構造Q

0構造が共存しているようなピークが得られた

43

FP ガラスのラマンスペクトルを Fig 35 に示すFe量の少ない 20F80P 25F75P と他の三

つで構造が異なっていることである20F80P 25F75P はQ2構造と Q

1構造が基本構造にな

っていると判断できる 30F70P は1110 - 1150 cm-1付近に shoulderピークのようなものがあ

りQ2 Q

1 Q

0構造が共存しているようなスペクトルであった35F65P 40F60P はQ1構造

が主な構造でQ0構造があると判断した

332 平均 BO数 n (Qn分布)

まずピーク分離について散乱断面積が見積もれなかったためラマンの散乱強度比

を Qn分布として簡易的にピーク分離を行い(Fig 36)そこから平均架橋酸素数 BO 数 n

を算出したここでFig 37 に 31P MAS NMRスペクトルを示しTable 31に NMRおよび

ラマン分光より得られた平均 BO 数 n を示す(NMR の帰属 reference [12])表よりNMR

とラマンから得られた Qn分布はほぼ一致していることが分かった60S40Pについては支

配構造が NMR(Q1) ラマン(Q

2)で逆になったこれは60S40P の組成がQ

2と Q1のほぼ中

間の組成になるためこのようなズレが生じたと考えられるしかし今回のラマンによ

る Qn分布の算出についてはほぼ問題ないと判断した

Table 32にラマンスペクトルより求めた Qn分布平均 BO 数 nをを示しTable 24に示

した DR 重量減の結果を併記する

SP ガラスのうち耐水性が低いガラスは Q2構造によって形成されているSnO量の増加

によって NBOの増加とともに耐水性の向上が確認できSnOが入ることでSn-O-P 結合を

形成し水分子からの攻撃を受けにくくなっていることが考えられる

Sn-Nb-P ガラスでは基本的に Q1構造が主構造でNb2O5の添加が増えるにつれQ

0構

造が支配的になり耐水性は次第に向上していく最も耐水性のよかった 65S-5Nb-30P は

Q0構造での割合が非常に高く平均 BO数 n値が 03であった

SNP ガラスではP2O5量が多い組成の 50S5N45Pにおいても平均 BO数 nが 60S40P と

同じながらも耐水性が良くなっている67S5N28P はほぼ完全に Q0構造であり平均 Q

n

値は 0となった

SZP ガラスについてはS5ZP 5ZSP のどちらの系列についても耐水性の結果に大きな差

というものは確認されなかったが構造的にも平均 BO数 nが 09 10 17という結果であ

った

FP ガラスについてはFe2O3 lt 30 molのときは平均 BO 数 nが20 19と高い数値を

示したが耐水性は非常に良好であったこの結果より組成だけでなく構造的にも耐

水性高くなる要因が不明である一つの原因の可能性としてメスバウアーより得られた

Fe2+の存在比が 40以上と高かったことがFe2O3含有量が少ない組成時には効果的になっ

ているのかもしれない

333 平均 BO数 nと耐水性の関係性

44

Fig 38に DRと平均 BO数 nの関係性についてFig 39に重量減と平均 BO数 nの関係

性をそれぞれ示すまたOP の時と同様に各図にリン酸塩の三つの構造の平均 BO数

n も表記した双方の図よりDR 重量減共に平均 BO 数 nが低下することで単調に下がっ

ていることが分かるまた耐水性の良かったNb2O5添加の Sn-Nb-P SNPガラスはの DR

の挙動(傾き)はOP 時とも異なった挙動が得られた

Fig 310に OP と平均 BO数 nの関係を示す図中に示す茶色metaphosphate 黄色

pyrophosphate 灰色orthophosphate であるこの図から耐水性改善には平均 BO 数

n を下げOP を上げることが重要であるのが分かるまたNb5+の添加はOP を上げる

だけでなく平均 BO 数も減少させることから非常に効果的な成分であることが明らかで

あるこれはP5+から同酸価数 Nb

5+に少量でも置き換えることで平均 BO 数 n を下げ

OP を上げることを可能としている(実際に orthophosphate の OP4 よりも高い OP でガ

ラスが作製できている)つまりNb5+の添加によって P-O-P 結合が減少し水和反応加

水分解反応が抑制されているからである

以上の結果SP 系ガラスの耐水性改善には低い平均 BO 数と高い OP の組成にするこ

とが重要でNb2O5の添加は非常に効果的であることが分かったその一方でガラス中の

詳細な構造的要因についてははっきりしていないため次章の第 4 章にてさらに詳し

い構造解析を行い耐水性改善の要因について調査を行った

34 結言

本章ではラマン分光を使用して各ガラス系のリン酸塩アニオンの構造を簡易定量で

評価し組成と構造の関係について考察した

平均 BO 数 n と耐水性に関してはDR および重量減が平均 BO 数 n の減少で単調に低下

した結果が得られた

平均 BO数 nと OP の図より耐水性改善には平均 BO数 nを下げることそして OP

を上げることが重要であることが明白であった

Nb5+の添加は平均 BO数を減少させるだけでなくOP も上げることからガラス構造内

の P-O-P 結合を減少させる故に水和反応加水分解反応が抑制され耐水性が大幅に

改善された故にNb2O5 のような高価数金属酸化物を添加することが効果的であること

が示唆された

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46

Fig 31 SP ガラスのラマンスペクトル

47

Fig 32 Sn-Nb-P ガラスのラマンスペクトル

48

Fig 33 SNP ガラスのラマンスペクトル

49

Fig 34 SZP ガラスのラマンスペクトル

50

Fig 35 FP ガラスのラマンスペクトル

51

Fig 36 ラマンスペクトルのピーク分離例(67S5N28P)

Raman Shift (cm-1)

52

Fig 37 NMRスペクトル

Table 31 NMR およびラマン分光より得られた SP 67S5N28P ガラスの

Qn分布および平均 BO数 n

53

Table 32 各ガラスのラマンスペクトルより求めた Qn分布結果

(表の赤線より右側の結果は Table 22 より)

1 仕込み組成による数値

2 Fig 2212 に示した析出物を取り除いた後の数値

54

Fig 38 DR と平均 BO数 nの関係性

55

Fig 39 重量減と平均 BO数 nの関係性

56

Fig 310 OP と平均 BO数 nの関係性

Meta

Pyro

Ortho

57

第 4章 放射光を用いたスズリン酸塩系ガラスの構造解析

41 緒言

前章の第 3 章にてラマン分光法を用いて SP 系ガラスの構造解析により Qn分布を導き

出したことで耐水性と構造の関係についてある程度関連性を導くことができたリン

酸アニオンについてはQ0(orthophosphate)構造 gt Q

1(pyrophosphate)構造 gt Q2

(metaphosphate)構造の順で良耐水性となるしかしSn Nbおよび Znの局所構造につ

いては知見が得られていないラマン分光や IR分光などの分光学的手法を用いてSnや

Nb Zn の周辺の局所構造を知るには限界があるまたガラスの構造解析を行う上で非常

に重要な因子である中距離構造の評価には分光学的手法は不向きである[1]

そこで局所構造や中距離構造を知るために有効な手法として放射光線を用いた構造

解析がある放射光(SR 光)とはシンクロトロンなどの加速器で高速に加速された電子

が進行方向を磁場によって変えられた際に放射する電磁波である[2]エネルギーが高く

(短波長)輝度が高い特性を有している日本国内では兵庫県佐用町の SPring-8や茨城

県つくば市の高エネルギー加速器研究機構佐賀県鳥栖市の佐賀県立九州シンクロトロン

光研究センターなど複数個所に放射光施設が設置されている

放射光を用いたガラスの構造解析には一般的に高エネルギーX 線回折(High Energy

X-ray diffraction HEXRD)が用いられるこの回折実験から高い散乱ベクトル Q(= 4π sinθλ)

まで回折データが得られる多種類の原子から構成される物質の場合はFaber-Ziman 型[3]

の構造因子 S(Q)を用いる以下の式に示すようにFaber-Ziman 型構造因子 S(Q)は同種また

は異種の原子による相関の重み関数付の和として示される例として SiO2ガラスで説明す

ると構造因子 S(Q)は三種類の原子付の S(Q)の重み付の和として表されていることが分か

I(Q) 散乱断面積 ltgt 原子一個当たりの平均値 f(Q) 原子散乱因子 W 重み関数

通常の研究室で使用される X 線回折(XRD)装置で用いられる特性 X 線はCuKα線(λ

= 0154 nm 81 keV)が最も良く用いられより高いエネルギーの X 線が必要な場合は

MoKα線(λ = 0071 nm 175 keV)が使用される一方でSPring-8のビームライン BL04B2

で行われる高エネルギーX 線回折(HEXRD)測定で使用される SR のエネルギーは378 keV

58

~ が使用可能である[2]従ってガラス以外の液体のような非晶質物質にも非常に精度

よく構造解析が行われている[4]

また局所構造解析の一つに X線異常散乱法という測定方法がある[5 6]これは通常

の X 線回折実験では分離不可能な特定元素に関連する部分構造因子(散乱強度曲線)を得

ることができる手法である今回 HEXRD の測定時に使用したエネルギー614 keV では各元

素の異常散乱項のエネルギー依存性は確認されない(Fig 41)その一方でFig 42に示す

Sn の吸収端付近の 292 keV付近ではSnの異常分散項のエネルギー依存性が確認できる

つまりSnの吸収端近傍より低エネルギー(E)側の異なるエネルギーの X線(E1 E2)を

使って散乱強度を測定し各 E における異常分散項(f`)の変化(つまり高い E1 から低い

E2 の散乱強度の差分)を利用して Snに関する部分構造因子を求める構造解析が AXS 法で

あるこの測定法は古くから知られている方法ではあるが装置の測定条件や設備の問

題からなどから使用があまり普及していなかった[5 6]近年になり金属ガラスの構造解

析について徐々に報告が出てきており今後注目される測定法である

HEXRD および AXS 法などから得られたデータ実測の構造因子 S(Q)は一次元の限られ

た構造情報であるためガラスなどの非晶質物質の中距離構造を解明するためにはこれ

らのデータを基に三次元構造を求める必要がある三次元構造モデルの作成には逆モンテ

カルロ(RMC)シミュレーションを使用することが有効である[7]このシミュレーション

は任意で決めたシミュレーションボックス内の粒子をランダムに動かすことで実測の

構造因子 S(Q)を再現する三次元構造モデルを構築する方法である

SP ガラスについては分光学的手法について数多く報告があるが放射光を用いた回折

法はほとんど適用されていないそこで本研究では HEXRD および AXS 法を用いた構造

解析を行うことでSn Nb周りの構造を解明すると共にSNP ガラスの耐水性改善のメカ

ニズムについて考察したまたAXS 法の有効性についても検討した測定を行ったガラ

スはSP ガラスおよび最も耐水性の高かった 67S5N28P を選択した

42 実験方法

421 HEXRD AXS法

HEXRDはSPring-8のビームライン BL04B2 で測定を行ったエネルギー614 keV の X

線を用いた測定サンプルの厚みは09 mm (plusmn0005 mm)になるまで研磨を行った

AXS 測定はSPring-8のビームライン BL13XUを使用した(Fig 43)それぞれの測定し

た X 線のエネルギーについて以下に示す

①Sn K吸収端hellip292 keV near edgehellip291452 keV (-60 eV) far edgehellip289751 keV (-230 eV)

②Nb K吸収端hellip1899 keV near edgehellip189562 keV (-30 eV) far edgehellip187863 keV (-230 eV)

測定に使用したサンプルの厚さが015 - 030 mmとなるまで研磨を施した

SP ガラスについて50S50P 60S40P 67S33P の三組成のガラスを測定した70S30P に関

59

しては測定を試みたが放射光照射によって結晶化してしまいガラス部分の正確な構

造因子を得るための強度補正ができず解析を断念した

422 RMCのモデリング

Table 41 に RMC の各種パラメーターを示す粒子数は約 5000 個でそれに伴う boxの一

辺の長さは約 42 ~ 46 Ǻになった拘束条件にP の配位数が 4になるような条件を付け

加えたFig 44にSn2P2O7結晶および Sn3P2O8結晶の動径分布関数(RDF)をTable 32

にRDFから得られた第一近接距離[8 9] を示すこれらの数値を使用しcutoffを決定し

たNb-O についてはいくつかの文献値を参考にした[10 11]

各ガラスの RMCのモデリングは①HEXRDから得られた S(Q)のみ②S(Q)および AXS

から得られた部分構造因子を加えた場合でそれぞれ計算した

43 結果考察

最初にNbの AXSから得られたデータについて解析を試みたが妥当な構造モデルが得

られなかったためSnの AXSのみで解析を進めたNb2O5の量が 5 molと少量であったた

めあまり精度の高いデータが得られなかったと推測される

431 実測の HEXRDおよび AXSの結果

4311 実測 HEXRDの S(Q)

Fig 45 に実測HEXRDの S(Q)を示す四つの組成ともに実測HEXRDの S(Q)が得られ

Nb2O5添加の 67S5N28P ガラスでは Low Q 側に変化が確認された

4312 実測散乱強度曲線

Fig 46 に Snの散乱強度曲線を示す(a) の 67S33P のこの曲線からはfar edgeおよび

near edge のエネルギー間で差分が見られエネルギーの依存性が確認された50S50P

67S5N28P のガラスについても同じように差分が確認されたが(b)の 60S40P についてのみ

他とは若干異なる結果(緑丸)であったためRMC の構造解析には差分の構造因子ではな

くfar edge near edge 二つの構造因子を用いた

4313 全相関関数 T(r)

Fig 47 に全相関関数 T(r) を示すHEXRD から得られたものを実線でSnの AXS から

得られたものは点線で示し組成ごとに重ねて表示した図中に各ピークについて帰属し

ているがSnの T(r)からはSn-O Sn-P Sn-Snのみのピークを確認した

432 RMCの計算結果および考察

60

構造モデルの一例として67S5N28P ガラスの得られた構造モデルをFig 48に示す水

色の多面体 unitSnON 黄色の多面体 unitPO4 ピンクの多面体 unitNbONである以下

詳細な構造解析の結果および考察を記す

4321 RMCのフィッティング結果

RMCのフィッティング結果の一例として67S33P の HEXRD と Snの AXS の構造因子か

ら得た結果を示す(Fig 49)二つの構造因子を加えて計算した結果においてもHEXRD

の S(Q) AXS の S(Q)に各々に対する良好なフィッティング結果が得られた他の組成も

同様なフィッティング結果が得られた

4322得られた各 pairの平均配位数平均角度平均結合距離

RMCの結果によって得られた各 pairの平均配位数平均角度平均結合距離を Tables 43

に示す上段が HEXRD の S(Q)のみ下段が HEXRD に Sn の AXS の部分構造因子を加え

て結果である最下部は比較のためにSn2P2O7の情報を記載した[8]

P-O pairについてRMCモデル中の PON多面体に関して平均配位数 Nが 4および P-O

の平均結合距離が約 160Å平均結合角度angO-P-O が約 109degという結果が得られた組成

による大きな違いは確認されなかったのはP の配位数が 4になるように拘束条件をかけた

結果であると考えられるSnON多面体についてはSnO量の増加 = OP の増加であり平

均配位数 Nが 3 ~ 35へ増加した平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約

22Åで組成による大きな変化はほとんど見られなかったNb2O5を 5 mol添加したガラ

スではNbON多面体の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平均配位数 N約 4Nb-O 平均結

合距離約 20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O(約 105deg)と値が近いこと

また6配位ではなく 4配位として主に存在していることからSnO と同じような働きをし

ていると推測される

以上の結果からNb2O5添加の耐水性改善の要因として結合距離が Sn-O が約 22Åに対

し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強固にして

いることも一つの要因として考えられる

また67S5N28P ガラスの各多面体モデルを確認すると(Fig 410)P は PO4Snは SnO4

と SnO3Nbは NbO4をそれぞれ再現している

4323得られた各 pairの結合様式

RMC の結果により得られた各 pair の結合様式を Tables 44 に示す上段が HEXRD の

S(Q)のみ下段が HEXRDに Snの AXS の部分構造因子を加えた結果である最下部は比

較のためにSn2P2O7の情報を記載した[8]

結合様式に関してはPO4四面体は他の多面体も含めてほぼ頂点共有で存在している

SnON多面体についてはSnO 量が少ない配位数が 3 に近い場合頂点共有以外の共有の

61

割合も多くSnO 量が増えるにつれて頂点共有が主になり網目形成体として振舞ってい

ると考えられる組成によって平均結合距離や平均角度の大きな変化が見られなかったこ

とから平均配位数が結合様式を決める重要なファクターであるということも考えられる

またHEXRD と AXS 法の結果がほぼ同じであったこれは主成分が SnO のガラスであ

るためHEXRDでも十分に詳細な構造が得られたため大きな変化が現れなかったと考え

られるNbON 多面体はPO4 四面体と SnON 多面体とはほぼ頂点共有で繋がっている以

上の結果よりSnO量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体的に各多面体同士の

頂点共有が増えていることから耐水性の改善には頂点共有を多く含む構造であること

が重要である或いは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的となって

いるということが推測されるFig 411に 67S5N28P ガラスの構造モデルを示す各多面

体はほぼ頂点共有で繋がっていることが確認できる

4324 平均 BO数の比較

Tables 45にNMR Raman RMC(HEXRD) RMC(HEXRD + AXS)の平均BO数を示すRMC

から得られた平均 BO 数 nはNMR Raman と同様に Nb2O5の添加による大幅な減少が確認

されたしかしNMR Raman と比較すると全組成において数値が大きすぎで適当でない

50S50P の構造モデルを観るとPO4四面体間で3配位 O の存在が確認された(Fig 412)た

め実測で得られた n値を再現できるようなPO4四面体モデル間の繋がり方に関する拘束条

件を加えて RMCを計算する必要性があるまた仮に3配位 Oの存在があるとすると電

子状態の変化が生じていることがと示唆されるため分子軌道計算を用いて電子状態解析

を行い確認する必要がある

4325 耐水性の改善について

Nb2O5を添加のガラス構造への影響について①6配位ではなく 4配位として主に存在し

ていることからSnO と同じような働きをしていると推測される②結合距離が Sn-O が約

22Åに対し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強

固にしている③ガラス構造中で全体的に各多面体同士の頂点共有が増えている以上の

ことが判明した以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性

耐候性を改善した要因として考えられる

44 結言

本章では分光学的手法では評価できないガラスの中距離構造局所構造について理解

するために放射光を用いた構造解析を実施しSP ガラスの構造と耐水性改善について考

察したHEXRDおよび AXS法を用いて測定を行い得られたデータを RMCシミュレーシ

ョンにて解析を行った

解析の結果 Sn-O pair については平均配位数 Nが 3 ~ 35でSnO量の増加 = OP の増

62

加に伴い高くなった平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約 22Åであ

ったP-O Sn-Oについては組成による大きな変化はほとんど見られなかった67S5N28P

ガラスの Nb-O pair の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平均配位数約 4Nb-O 平均結合距

離約 20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O(約 105deg)と値が近いことま

た6配位ではなく 4配位として主に存在していることからSnOと同じような働き(網目

形成体)をしていると推測されるまた結合距離が Sn-O が約 22Åに対し Nb-O は約 20

Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強固にしていると言える

SnO 量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体的に各多面体同士の頂点共有が増え

ていることから耐水性の改善には頂点共有を多く含む構造であることが重要である

もしくは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的であることが推測さ

れる以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性耐候性を

改善した要因として考えられる

またAXS 法の有効性についても確認し効果的であることが判明したただし今回

は主成分が Sn の組成のガラスでありHEXRD でも十分に詳細な構造が得られたため

大きな差は現れなかった

参考文献

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63

Fig 41 各原子の異常分散項のエネルギー依存性

Fig 42 Sn の異常分散項のエネルギー依存性

64

Fig 43 SPring-8の BL13XU

65

Tab

le 4

1

RM

Cの各パラメーター

66

Fig 44 Sn2P2O7 Sn3P2O8結晶の RDF

Table 42 Sn2P2O7 Sn3P2O8結晶の各 pairの第一近接距離

67

Fig 45 得られた実測 HEXRDの S(Q)

68

Fig 46 Sn の異常散乱測定により得られた散乱強度のエネルギー依存性

(a)67S33P (b)60S40P

69

Fig 47 全相関関数 T(r)

太線 HEXRD より

細線 Sn の AXSより

70

Fig 48 67S5N28P ガラス構造のモデル

71

Fig 49 RMC フィッティングの結果

72

Tab

le 4

3 各

pairの平均配位数角度結合距離

73

Fig

4

10

67

S5

N2

8Pガラスの各多面体モデル

74

Tab

le 4

4 各

pairの結合様式

75

Fig 411 67S5N28P ガラスの構造モデル

76

Table 45 平均 BO 各数 nの比較

Fig 412 50S50P ガラスの構造モデル

77

第 5章 総括

本研究ではSP ガラスを対象とした本研究では鉛フリー代替ガラスまたは希土類フ

リー蛍光体として SP ガラスの新規高機能化を将来的に目指し問題点であるldquo化学的耐久

性rdquoの改善につながる知見を得ることを目的としたそこでまずSP ガラスを母体ガラ

スとし第三成分に Nb2O5を添加した Sn-Nb-P SNP ガラスZnO を添加した SZP ガラスを

作製し耐水性を中心とした物性評価を行った次に分光学的手法で構造解析を行い

Qn 分布を導き出した最後に放射光を用いた構造解析を行い耐水性改善に関する構造的

な考察を行った以下に本研究で行った検討内容を示す

(1)SPガラスおよび第三成分Nb2O5 ZnOを添加した三成分系SPガラスの物性評価(第 2章)

(2)SP 系ガラスの分光学的手法による Qn分布導出(第 3章)

(3)放射光を用いた SP 系ガラスの構造解析構造と耐水性改善の関連について(第 4章)

各章についてまとめた結果を以下に示す

第 2章

第 2章では二成分系および三成分系のリン酸塩系ガラスの各種物性(密度や熱的特性

耐水性)の評価を行った二成分系ではSP ガラスに加え良好な耐水性を有する鉄リン

酸塩(Fe2O3-P2O5)系ガラス(以下 FP ガラス)を比較のために三成分系では二成分系

の SP ガラスに Nb2O5を添加したニオブ含有 SP ガラス(SNP ガラス)および ZnO を添加し

た亜鉛含有 SP ガラス(SZP ガラス)を作製した

今回作製した SP 系ガラスは低ガラス転移温度を有していた各組成の温度域はSP

ガラスTg le 280 Sn-Nb-P SNPガラスTg le 3505SZP S5ZPガラスTg ≦ 450であった

各種 SP ガラスの耐水性試験の結果二成分系の SP ガラスよりも三成分系ガラスの方が

良好な耐水性を有していた65Sn-5Nb-30P 67S5N28P ガラスが最も耐水性が良好であり化

学的耐久性の改善には Nb2O5が ZnOよりも効果的であった

組成と耐水性に関してはDRおよび重量減がOP増加で単調に低下した結果が得られた

つまり耐水性を改善させるにはSP 系ガラスのガラス化範囲を拡大かつ OP を増大させ

る第三成分の添加が有効であることが示唆された

第 3章

第 3章ではSP 系ガラスの分光学的手法による Qn分布の導出を行ったラマン分光法を

用いて各ガラス系のリン酸塩アニオンの構造を簡易定量で評価し組成と構造の関係に

ついて考察した平均 BO 数 n と耐水性に関してはDR および重量減が平均 BO 数 nの減

少で単調に低下することが明らかとなった

平均 BO 数 n と OP の関係より耐水性改善には平均 BO 数 n を下げることそして

OP を上げることが重要であることが明らかになった

78

Nb5+の添加は平均 BO数を減少させるだけでなくOP も上げることからガラス構造

内の P-O-P 結合を減少させ水和反応加水分解反応が抑制され耐水性が大幅に改善さ

れることが示唆された故にNb2O5 のような高価数金属酸化物を添加することが効果的

であることが再度確認された

第 4章

耐水性向上についてより深く評価するためSP SNP ガラスの局所構造に関する知見を得

ることを目的に放射光を用いた構造解析を行った高エネルギーX 線回折(HEXRD)お

よび X 線異常散乱(AXS)法で測定したデータを再現する構造モデルを逆モンテカルロ

(RMC)シミュレーションで構築し構造解析を行った

RMC モデル中の PON多面体に関して平均配位数 Nが 4および P-O の平均結合距離が約

160Å平均結合角度angO-P-Oが約 109degという結果が得られた組成による大きな違いは確

認されなかったSnON多面体については平均配位数 N が 3~4 でSnO 量の増加に伴い 4

に近い値となった平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約 22Åで組成

による大きな変化は見られなかった

Nb2O5を 5 mol添加したガラスではNbON多面体の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平

均配位数N約4Nb-O平均結合距離約20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O

(約 105deg)と値が近いことまた6配位ではなく 4配位として主に存在していることから

SnO と同じような網目形成体として働いていると推測されたまた結合距離が Sn-O が約

22Åに対し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強

固にしていると考えられるまたSnO 量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体

的に各多面体同士の頂点共有が増えていることから耐水性の改善には頂点共有を多く

含む構造もしくは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的であること

が示唆された以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性

耐候性を改善した要因として考えられる

またAXS 法の有効性についても確認し効果的であることが判明したただし今回

は主成分が Snの組成のガラスでありHEXRD でも十分に詳細な Snの周辺構造が得られ

たためAXSを利用した場合との大きな構造の差は認められなかった

本研究では様々な優れた特徴を有する SP ガラスにおける耐水性改善のメカニズムにつ

いて検討を行ったこの系のガラスについてはこれまでほとんど利用されていなかった

放射光を用いた構造解析を駆使し第三成分の添加によってどのような構造的変化が生じ

耐水性を改善させるか新たな知見を得ることができた最終目標である機能性ガラスの

開発における新たなる材料設計指針の確立に対してldquo耐水性rdquoに関しては概ね明らかにな

ったと考えられる一方で今回検討していな電子状態化学結合性についても評価する

ことで溶出メカニズムの解明が可能になり材料設計指針の確立が期待される

79

発表論文リスト

口頭発表

第 2章および第 3章

(1) SnO-P2O5 系ガラスへの酸化物添加効果

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎

日本セラミックス協会第 25 回秋季シンポジウム No3C06 (名古屋市 2012年 9月)

(2) Effect of Nb2O5 addition to SnO-P2O5 glass (Poster)

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

International Union of Materials Research Societies International Conference on Electronic

Materials IUMRS-ICEM 2012 A-9-P26-003 (Yokohama 2012 年 9月)

(3) スズリン酸塩系ガラスの蛍光特性耐水性に及ばす酸化物の添加効果(ポスター)

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎

日本セラミックス協会 2013 年年会 1P070 (東京 2013年 3月)

第 4章

(1) 放射光を用いたスズリン酸塩ガラスの構造解析

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎小原真二臼杵毅

日本セラミックス協会第 27 回秋季シンポジウム 2B22 (鹿児島市 2014年 9 月)

(2) Structural analysis of tin phosphate glasses by synchrotron radiation (Poster)

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba Shinji Kohara Takeshi Usuki

International Congress on Glass ICG Annual Meeting Bangkok 2015 P14-138 p186 (2015)

発表論文

(1) Effect of Nb2O5 addition to SnO- P2O5 glass

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

Journal of the Ceramic Society of Japan Vol 120 No 11 pp530-533 (2012)

(2) Structural analysis of SnO- P2O5 glass

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

Journal of the Ceramic Society of Japan(準備中)

80

謝辞

本研究を遂行するにあたり終始暖かいご指導ご助言並びにご鞭撻を賜わりました岡

山大学大学院環境生命科学研究科 難波徳郎教授に心より感謝の意を表します

また本研究を遂行するにあたり懇切丁寧なご指導とご意見をしていただいた岡山大

学大学院環境生命科学研究科 紅野安彦准教授環境環理センター 崎田真一助教に心より

感謝いたします

本研究を遂行するにあたりラマン分光測定の使用についてご助言ご教授して頂い

た岡山大学自然科学研究科 藤井達生教授中西真助教に心より感謝の意を表します

Sn のメスバウアー測定の際に協力して頂いた岡山大学自然科学研究科先端自然科学教

育研究推進本部高田研究室 松本修治特任助教(当時旭硝子株式会社中央研究所)また

Feのメスバウアーを測定の際に協力して頂いた岡山大学自然科学研究科 藤井達生教授に

心より感謝の意を表します

固体 NMR の岡山大学自然科学研究科 早川聡教授に心より感謝の意を表します

本研究を遂行するにあたりSPring-8 にてHEXRD および AXS 法の測定法および原理

についてご教示頂きました物質材料研究機構 小原真司博士ならびに山形大学 臼杵毅

教授に心より感謝の意を表します

本研究は多くの後輩諸君の協力によって遂行されました特に実際に共同研究共同

実験を遂行して頂いたOG 藤原沙弥香さん博士前期課程 2 年 東利彦君OB 徳岡太誠

君学士課程 4年 塩田将大君に心より感謝の意を表しますまた難波研究室で共に研

究生活を過ごした卒業生在学生の方々に感謝の意を表します

また同時期に博士後期課程に在籍された香川高等専門学校の桟敷剛さんにはNbに

関する有益な情報だけでなく辛い状況でも励ましを頂きました心より感謝の意を表し

ます

最後に長きに渡る学生生活を認め経済面だけでなく精神面でも支援してくださった

家族に心より深く感謝の意を表します

平成 28年 3月

福井 聡史

Page 44: 博士論文 スズリン酸塩系ガラスの物性と構造解析ousar.lib.okayama-u.ac.jp/files/public/5/54353/...博士論文 スズリン酸塩系ガラスの物性と構造解析

41

321 サンプル準備

ラマン分光およびメスバウアー分光の測定では第 2 章で作製した各ガラスのバルク体

を用いたWD試験に使用したサンプルとは別にラマン測定用のサンプルを用意した適

度な大きさ大体 15 cm角程度のサイズになるようにガラスカッターで切断しその後

十分な平滑性を得るために鏡面研磨を施した

322 ラマン分光測定

使用したラマン分光装置は顕微レーザーラマン分光装置(Jasco NRS-5100)を用いた

用いたレーザー波長は 53208 nmであり400 - 2000 cm-1の範囲で測定した

Qn 分布を導くためにピークフィッティングを行いリン酸塩アニオンのラマンバンド

が現れる950 - 1250 cm-1付近および 700 - 750cm-付近の範囲で定量した

323 31P MAS NMR測定

31P MAS NMRの測定は Varian NMR System 500 を用いて32 mmの MASプローブ

202309MHzにて行った測定パラメーターを以下に示すπ4 パルス長さ 14 μs 待ち時間

(pulse delay)10 s 積算回数 3600 scan シリンダー円筒形状の Zrローターの回転スピード

160 kHz referenceとして二番目の基準物質として使われる NH4H2PO4を使用化学シフト

は85 H3PO4溶液から δ = 10 ppmである

33 結果考察

331 各ガラス系のラマンスペクトル

Figs 31 - 35にラマンスペクトルを示す各ピークは以下の通りに帰属し各スペクト

ル中に該当する構造をピーク位置に示した

1230 - 1260 cm-1 P=O NBO Q

2 [10]

1110 - 1150 cm-1metaphosphate (PO3)

- Q

2 [10]

1030 - 1100 cm-1pyrophosphate (PO35)

2- Q

1 [10]

970 - 1000 cm-1orthophosphate (PO4)

3- Q

0 [10]

920 - 930 cm-1asymmetric (P-O-P) Q

1 [10]

730 - 750 cm-1symmetric (P-O-P) Q

1 [10]

710 - 720 cm-1asymmetric (P-O-P) Q

2 [10]

810 - 820 cm-1Nb-O [NbO4] tetrahedron [11]

900 - 920 cm-1Nb-O isolated [NbO6] octahedron [11]

42

SP ガラスのラマンスペクトル(Fig 31)を見ると50S50P 60S40P ではmetaphosphate

の Q2 構造が支配的であるがSnO 量が増えるにつれてその構造が変化し70S30P では

pyrophosphateの Q1構造と orthophosphateの Q

0構造が共存した構造となっているまたSnO

量の少ない 50S50P および 60S40P において確認されたQ2構造の P=O のピークが見えなく

なっているつまり耐水性と関連して考えるとSnO量が増えるにつれてP-O-P 結合か

ら Sn-O-P 結合に代わり水分子との反応である加水分解反応を妨げる構造に変化している

ことがわかる

Figs 32 33にNb2O5を添加した Sn-Nb-P ガラスおよび SNP ガラスのラマンスペクトル

を示すまずSn-Nb-P ガラスについてNb 無添加の 65Sn-0Nb-35P は主に Q1構造であ

りNbO25が添加されることによってQ0構造に変化しQ

1 Q

0構造が共存しているような

ピークが得られた添加量が少ないガラス系であるため徐々に変化しているのを確認し

た800 cm-1を少し越えた 810 - 820 cm

-1付近にNb2O5を添加することでピークが現れそ

して添加量を増量することで強度が強まるピークがありこのピークは四面体の[NbO4]

のものと判断した

SNP ガラスのラマンスペクトルについてはNb2O5添加量を固定した組成であるためSP

ガラスのような挙動が観察された50S50N45P では50S50P ガラスと同じようにQ2構造

が主な構造でありSnO量の増加に伴って60S5N35P Q1構造67S5N28P Q

0構造に支配

的な構造が変化しているこれはSP ガラスと同じ傾向を示しているためP-O-P rarr Sn-O-P

に置き替わっていることが示唆されるNb-O に関するピークでは50S5N45P のみ[NbO4]

四面体のピークを確認できず900 - 920 cm-1付近に[NbO6]八面体のピークが確認された

SnO量が増量した 60S5N35P では810 cm-1付近の [NbO4] 四面体のピークが現れているが

[NbO6]八面体のピークと 900 - 920 cm-1付近の Q

1構造のピークが非常に近い(ほぼ重なって

いる)ことから60S5N35P については[NbO4] 四面体および[NbO6]八面体の共存の可能性

も考えられるまた67S5NP28 では[NbO4] 四面体のみのピークが観察されたためこ

の Nb-O の配位数変化は[PO4] unitの状態によって変化している可能性も示唆された

ZnO を添加した S5ZP ガラスおよび 5SZP ガラスのラマンスペクトルを Fig 34 に示す

図の下部三つが S5ZP ガラス上部三つが 5SZP ガラスのスペクトルであるSZP ガラスの

二系統を比べるとあきらかなスペクトルの違いが確認された各ガラス系で確認すると

SnO 量が最小の 55S5Z40P はQ2構造と Q

1構造の範囲に跨っているようなスペクトルが得

られた62S5Z33P および 65S5Z30P のスペクトルからはどちらもほぼ Q1構造であると判

断した5SZP のスペクトルは1000 - 1250 cm-1付近の範囲で裾を引くような(なだらかな)

スペクトルが得られたZnO 量が最小の 5S55Z40P にはQ2構造が主な構造に見えるが

shoulderピークのような Q1構造(1030 - 1100 cm

-1)が確認できる5S62Z40P においては

1000 - 1250 cm-1付近の範囲まで幅広いスペクトルが得られた730 - 750 cm

-1付近にピーク

が現れているためおそらく Q1構造が最も多く存在していると考えられる65S5Z30P では

Q1構造Q

0構造が共存しているようなピークが得られた

43

FP ガラスのラマンスペクトルを Fig 35 に示すFe量の少ない 20F80P 25F75P と他の三

つで構造が異なっていることである20F80P 25F75P はQ2構造と Q

1構造が基本構造にな

っていると判断できる 30F70P は1110 - 1150 cm-1付近に shoulderピークのようなものがあ

りQ2 Q

1 Q

0構造が共存しているようなスペクトルであった35F65P 40F60P はQ1構造

が主な構造でQ0構造があると判断した

332 平均 BO数 n (Qn分布)

まずピーク分離について散乱断面積が見積もれなかったためラマンの散乱強度比

を Qn分布として簡易的にピーク分離を行い(Fig 36)そこから平均架橋酸素数 BO 数 n

を算出したここでFig 37 に 31P MAS NMRスペクトルを示しTable 31に NMRおよび

ラマン分光より得られた平均 BO 数 n を示す(NMR の帰属 reference [12])表よりNMR

とラマンから得られた Qn分布はほぼ一致していることが分かった60S40Pについては支

配構造が NMR(Q1) ラマン(Q

2)で逆になったこれは60S40P の組成がQ

2と Q1のほぼ中

間の組成になるためこのようなズレが生じたと考えられるしかし今回のラマンによ

る Qn分布の算出についてはほぼ問題ないと判断した

Table 32にラマンスペクトルより求めた Qn分布平均 BO 数 nをを示しTable 24に示

した DR 重量減の結果を併記する

SP ガラスのうち耐水性が低いガラスは Q2構造によって形成されているSnO量の増加

によって NBOの増加とともに耐水性の向上が確認できSnOが入ることでSn-O-P 結合を

形成し水分子からの攻撃を受けにくくなっていることが考えられる

Sn-Nb-P ガラスでは基本的に Q1構造が主構造でNb2O5の添加が増えるにつれQ

0構

造が支配的になり耐水性は次第に向上していく最も耐水性のよかった 65S-5Nb-30P は

Q0構造での割合が非常に高く平均 BO数 n値が 03であった

SNP ガラスではP2O5量が多い組成の 50S5N45Pにおいても平均 BO数 nが 60S40P と

同じながらも耐水性が良くなっている67S5N28P はほぼ完全に Q0構造であり平均 Q

n

値は 0となった

SZP ガラスについてはS5ZP 5ZSP のどちらの系列についても耐水性の結果に大きな差

というものは確認されなかったが構造的にも平均 BO数 nが 09 10 17という結果であ

った

FP ガラスについてはFe2O3 lt 30 molのときは平均 BO 数 nが20 19と高い数値を

示したが耐水性は非常に良好であったこの結果より組成だけでなく構造的にも耐

水性高くなる要因が不明である一つの原因の可能性としてメスバウアーより得られた

Fe2+の存在比が 40以上と高かったことがFe2O3含有量が少ない組成時には効果的になっ

ているのかもしれない

333 平均 BO数 nと耐水性の関係性

44

Fig 38に DRと平均 BO数 nの関係性についてFig 39に重量減と平均 BO数 nの関係

性をそれぞれ示すまたOP の時と同様に各図にリン酸塩の三つの構造の平均 BO数

n も表記した双方の図よりDR 重量減共に平均 BO 数 nが低下することで単調に下がっ

ていることが分かるまた耐水性の良かったNb2O5添加の Sn-Nb-P SNPガラスはの DR

の挙動(傾き)はOP 時とも異なった挙動が得られた

Fig 310に OP と平均 BO数 nの関係を示す図中に示す茶色metaphosphate 黄色

pyrophosphate 灰色orthophosphate であるこの図から耐水性改善には平均 BO 数

n を下げOP を上げることが重要であるのが分かるまたNb5+の添加はOP を上げる

だけでなく平均 BO 数も減少させることから非常に効果的な成分であることが明らかで

あるこれはP5+から同酸価数 Nb

5+に少量でも置き換えることで平均 BO 数 n を下げ

OP を上げることを可能としている(実際に orthophosphate の OP4 よりも高い OP でガ

ラスが作製できている)つまりNb5+の添加によって P-O-P 結合が減少し水和反応加

水分解反応が抑制されているからである

以上の結果SP 系ガラスの耐水性改善には低い平均 BO 数と高い OP の組成にするこ

とが重要でNb2O5の添加は非常に効果的であることが分かったその一方でガラス中の

詳細な構造的要因についてははっきりしていないため次章の第 4 章にてさらに詳し

い構造解析を行い耐水性改善の要因について調査を行った

34 結言

本章ではラマン分光を使用して各ガラス系のリン酸塩アニオンの構造を簡易定量で

評価し組成と構造の関係について考察した

平均 BO 数 n と耐水性に関してはDR および重量減が平均 BO 数 n の減少で単調に低下

した結果が得られた

平均 BO数 nと OP の図より耐水性改善には平均 BO数 nを下げることそして OP

を上げることが重要であることが明白であった

Nb5+の添加は平均 BO数を減少させるだけでなくOP も上げることからガラス構造内

の P-O-P 結合を減少させる故に水和反応加水分解反応が抑制され耐水性が大幅に

改善された故にNb2O5 のような高価数金属酸化物を添加することが効果的であること

が示唆された

参考文献

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[2] 春日敏弘 NEW GLASS 22 [2] 3 - 8 (2007)

[3] R K Brow D R Tallant S T Myers and C CPhifer J Non-Cryst Solids 191 45-55 (1995)

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[5] H Takebe Y Baba and M Kuwabara J Non-Cryst Solids 352 3088-3094 (2004)

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[7] K H Min and T Suzuki 旭硝子研究報告 59 29-33 (2009)

[8] I Waclawska and M Szumera J Therm Anal Calorim 101 423-427 (2010)

[9] 中井利仁 NEW GLASS 28 [109] 17 -2 8 (2013)

[10] I O Mazali L C Barbosa and O L Alves J Mater Sci 39 1987-1995 (2004)

[11] J M Jehng and I E Wachs J Am Ceram Solids 3 [1] 100-107 (1991)

[12] D Holland A P Howes M E Smith and A C Hannon J Phys Condens Matter 14

13609-13621 (2002)

46

Fig 31 SP ガラスのラマンスペクトル

47

Fig 32 Sn-Nb-P ガラスのラマンスペクトル

48

Fig 33 SNP ガラスのラマンスペクトル

49

Fig 34 SZP ガラスのラマンスペクトル

50

Fig 35 FP ガラスのラマンスペクトル

51

Fig 36 ラマンスペクトルのピーク分離例(67S5N28P)

Raman Shift (cm-1)

52

Fig 37 NMRスペクトル

Table 31 NMR およびラマン分光より得られた SP 67S5N28P ガラスの

Qn分布および平均 BO数 n

53

Table 32 各ガラスのラマンスペクトルより求めた Qn分布結果

(表の赤線より右側の結果は Table 22 より)

1 仕込み組成による数値

2 Fig 2212 に示した析出物を取り除いた後の数値

54

Fig 38 DR と平均 BO数 nの関係性

55

Fig 39 重量減と平均 BO数 nの関係性

56

Fig 310 OP と平均 BO数 nの関係性

Meta

Pyro

Ortho

57

第 4章 放射光を用いたスズリン酸塩系ガラスの構造解析

41 緒言

前章の第 3 章にてラマン分光法を用いて SP 系ガラスの構造解析により Qn分布を導き

出したことで耐水性と構造の関係についてある程度関連性を導くことができたリン

酸アニオンについてはQ0(orthophosphate)構造 gt Q

1(pyrophosphate)構造 gt Q2

(metaphosphate)構造の順で良耐水性となるしかしSn Nbおよび Znの局所構造につ

いては知見が得られていないラマン分光や IR分光などの分光学的手法を用いてSnや

Nb Zn の周辺の局所構造を知るには限界があるまたガラスの構造解析を行う上で非常

に重要な因子である中距離構造の評価には分光学的手法は不向きである[1]

そこで局所構造や中距離構造を知るために有効な手法として放射光線を用いた構造

解析がある放射光(SR 光)とはシンクロトロンなどの加速器で高速に加速された電子

が進行方向を磁場によって変えられた際に放射する電磁波である[2]エネルギーが高く

(短波長)輝度が高い特性を有している日本国内では兵庫県佐用町の SPring-8や茨城

県つくば市の高エネルギー加速器研究機構佐賀県鳥栖市の佐賀県立九州シンクロトロン

光研究センターなど複数個所に放射光施設が設置されている

放射光を用いたガラスの構造解析には一般的に高エネルギーX 線回折(High Energy

X-ray diffraction HEXRD)が用いられるこの回折実験から高い散乱ベクトル Q(= 4π sinθλ)

まで回折データが得られる多種類の原子から構成される物質の場合はFaber-Ziman 型[3]

の構造因子 S(Q)を用いる以下の式に示すようにFaber-Ziman 型構造因子 S(Q)は同種また

は異種の原子による相関の重み関数付の和として示される例として SiO2ガラスで説明す

ると構造因子 S(Q)は三種類の原子付の S(Q)の重み付の和として表されていることが分か

I(Q) 散乱断面積 ltgt 原子一個当たりの平均値 f(Q) 原子散乱因子 W 重み関数

通常の研究室で使用される X 線回折(XRD)装置で用いられる特性 X 線はCuKα線(λ

= 0154 nm 81 keV)が最も良く用いられより高いエネルギーの X 線が必要な場合は

MoKα線(λ = 0071 nm 175 keV)が使用される一方でSPring-8のビームライン BL04B2

で行われる高エネルギーX 線回折(HEXRD)測定で使用される SR のエネルギーは378 keV

58

~ が使用可能である[2]従ってガラス以外の液体のような非晶質物質にも非常に精度

よく構造解析が行われている[4]

また局所構造解析の一つに X線異常散乱法という測定方法がある[5 6]これは通常

の X 線回折実験では分離不可能な特定元素に関連する部分構造因子(散乱強度曲線)を得

ることができる手法である今回 HEXRD の測定時に使用したエネルギー614 keV では各元

素の異常散乱項のエネルギー依存性は確認されない(Fig 41)その一方でFig 42に示す

Sn の吸収端付近の 292 keV付近ではSnの異常分散項のエネルギー依存性が確認できる

つまりSnの吸収端近傍より低エネルギー(E)側の異なるエネルギーの X線(E1 E2)を

使って散乱強度を測定し各 E における異常分散項(f`)の変化(つまり高い E1 から低い

E2 の散乱強度の差分)を利用して Snに関する部分構造因子を求める構造解析が AXS 法で

あるこの測定法は古くから知られている方法ではあるが装置の測定条件や設備の問

題からなどから使用があまり普及していなかった[5 6]近年になり金属ガラスの構造解

析について徐々に報告が出てきており今後注目される測定法である

HEXRD および AXS 法などから得られたデータ実測の構造因子 S(Q)は一次元の限られ

た構造情報であるためガラスなどの非晶質物質の中距離構造を解明するためにはこれ

らのデータを基に三次元構造を求める必要がある三次元構造モデルの作成には逆モンテ

カルロ(RMC)シミュレーションを使用することが有効である[7]このシミュレーション

は任意で決めたシミュレーションボックス内の粒子をランダムに動かすことで実測の

構造因子 S(Q)を再現する三次元構造モデルを構築する方法である

SP ガラスについては分光学的手法について数多く報告があるが放射光を用いた回折

法はほとんど適用されていないそこで本研究では HEXRD および AXS 法を用いた構造

解析を行うことでSn Nb周りの構造を解明すると共にSNP ガラスの耐水性改善のメカ

ニズムについて考察したまたAXS 法の有効性についても検討した測定を行ったガラ

スはSP ガラスおよび最も耐水性の高かった 67S5N28P を選択した

42 実験方法

421 HEXRD AXS法

HEXRDはSPring-8のビームライン BL04B2 で測定を行ったエネルギー614 keV の X

線を用いた測定サンプルの厚みは09 mm (plusmn0005 mm)になるまで研磨を行った

AXS 測定はSPring-8のビームライン BL13XUを使用した(Fig 43)それぞれの測定し

た X 線のエネルギーについて以下に示す

①Sn K吸収端hellip292 keV near edgehellip291452 keV (-60 eV) far edgehellip289751 keV (-230 eV)

②Nb K吸収端hellip1899 keV near edgehellip189562 keV (-30 eV) far edgehellip187863 keV (-230 eV)

測定に使用したサンプルの厚さが015 - 030 mmとなるまで研磨を施した

SP ガラスについて50S50P 60S40P 67S33P の三組成のガラスを測定した70S30P に関

59

しては測定を試みたが放射光照射によって結晶化してしまいガラス部分の正確な構

造因子を得るための強度補正ができず解析を断念した

422 RMCのモデリング

Table 41 に RMC の各種パラメーターを示す粒子数は約 5000 個でそれに伴う boxの一

辺の長さは約 42 ~ 46 Ǻになった拘束条件にP の配位数が 4になるような条件を付け

加えたFig 44にSn2P2O7結晶および Sn3P2O8結晶の動径分布関数(RDF)をTable 32

にRDFから得られた第一近接距離[8 9] を示すこれらの数値を使用しcutoffを決定し

たNb-O についてはいくつかの文献値を参考にした[10 11]

各ガラスの RMCのモデリングは①HEXRDから得られた S(Q)のみ②S(Q)および AXS

から得られた部分構造因子を加えた場合でそれぞれ計算した

43 結果考察

最初にNbの AXSから得られたデータについて解析を試みたが妥当な構造モデルが得

られなかったためSnの AXSのみで解析を進めたNb2O5の量が 5 molと少量であったた

めあまり精度の高いデータが得られなかったと推測される

431 実測の HEXRDおよび AXSの結果

4311 実測 HEXRDの S(Q)

Fig 45 に実測HEXRDの S(Q)を示す四つの組成ともに実測HEXRDの S(Q)が得られ

Nb2O5添加の 67S5N28P ガラスでは Low Q 側に変化が確認された

4312 実測散乱強度曲線

Fig 46 に Snの散乱強度曲線を示す(a) の 67S33P のこの曲線からはfar edgeおよび

near edge のエネルギー間で差分が見られエネルギーの依存性が確認された50S50P

67S5N28P のガラスについても同じように差分が確認されたが(b)の 60S40P についてのみ

他とは若干異なる結果(緑丸)であったためRMC の構造解析には差分の構造因子ではな

くfar edge near edge 二つの構造因子を用いた

4313 全相関関数 T(r)

Fig 47 に全相関関数 T(r) を示すHEXRD から得られたものを実線でSnの AXS から

得られたものは点線で示し組成ごとに重ねて表示した図中に各ピークについて帰属し

ているがSnの T(r)からはSn-O Sn-P Sn-Snのみのピークを確認した

432 RMCの計算結果および考察

60

構造モデルの一例として67S5N28P ガラスの得られた構造モデルをFig 48に示す水

色の多面体 unitSnON 黄色の多面体 unitPO4 ピンクの多面体 unitNbONである以下

詳細な構造解析の結果および考察を記す

4321 RMCのフィッティング結果

RMCのフィッティング結果の一例として67S33P の HEXRD と Snの AXS の構造因子か

ら得た結果を示す(Fig 49)二つの構造因子を加えて計算した結果においてもHEXRD

の S(Q) AXS の S(Q)に各々に対する良好なフィッティング結果が得られた他の組成も

同様なフィッティング結果が得られた

4322得られた各 pairの平均配位数平均角度平均結合距離

RMCの結果によって得られた各 pairの平均配位数平均角度平均結合距離を Tables 43

に示す上段が HEXRD の S(Q)のみ下段が HEXRD に Sn の AXS の部分構造因子を加え

て結果である最下部は比較のためにSn2P2O7の情報を記載した[8]

P-O pairについてRMCモデル中の PON多面体に関して平均配位数 Nが 4および P-O

の平均結合距離が約 160Å平均結合角度angO-P-O が約 109degという結果が得られた組成

による大きな違いは確認されなかったのはP の配位数が 4になるように拘束条件をかけた

結果であると考えられるSnON多面体についてはSnO量の増加 = OP の増加であり平

均配位数 Nが 3 ~ 35へ増加した平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約

22Åで組成による大きな変化はほとんど見られなかったNb2O5を 5 mol添加したガラ

スではNbON多面体の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平均配位数 N約 4Nb-O 平均結

合距離約 20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O(約 105deg)と値が近いこと

また6配位ではなく 4配位として主に存在していることからSnO と同じような働きをし

ていると推測される

以上の結果からNb2O5添加の耐水性改善の要因として結合距離が Sn-O が約 22Åに対

し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強固にして

いることも一つの要因として考えられる

また67S5N28P ガラスの各多面体モデルを確認すると(Fig 410)P は PO4Snは SnO4

と SnO3Nbは NbO4をそれぞれ再現している

4323得られた各 pairの結合様式

RMC の結果により得られた各 pair の結合様式を Tables 44 に示す上段が HEXRD の

S(Q)のみ下段が HEXRDに Snの AXS の部分構造因子を加えた結果である最下部は比

較のためにSn2P2O7の情報を記載した[8]

結合様式に関してはPO4四面体は他の多面体も含めてほぼ頂点共有で存在している

SnON多面体についてはSnO 量が少ない配位数が 3 に近い場合頂点共有以外の共有の

61

割合も多くSnO 量が増えるにつれて頂点共有が主になり網目形成体として振舞ってい

ると考えられる組成によって平均結合距離や平均角度の大きな変化が見られなかったこ

とから平均配位数が結合様式を決める重要なファクターであるということも考えられる

またHEXRD と AXS 法の結果がほぼ同じであったこれは主成分が SnO のガラスであ

るためHEXRDでも十分に詳細な構造が得られたため大きな変化が現れなかったと考え

られるNbON 多面体はPO4 四面体と SnON 多面体とはほぼ頂点共有で繋がっている以

上の結果よりSnO量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体的に各多面体同士の

頂点共有が増えていることから耐水性の改善には頂点共有を多く含む構造であること

が重要である或いは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的となって

いるということが推測されるFig 411に 67S5N28P ガラスの構造モデルを示す各多面

体はほぼ頂点共有で繋がっていることが確認できる

4324 平均 BO数の比較

Tables 45にNMR Raman RMC(HEXRD) RMC(HEXRD + AXS)の平均BO数を示すRMC

から得られた平均 BO 数 nはNMR Raman と同様に Nb2O5の添加による大幅な減少が確認

されたしかしNMR Raman と比較すると全組成において数値が大きすぎで適当でない

50S50P の構造モデルを観るとPO4四面体間で3配位 O の存在が確認された(Fig 412)た

め実測で得られた n値を再現できるようなPO4四面体モデル間の繋がり方に関する拘束条

件を加えて RMCを計算する必要性があるまた仮に3配位 Oの存在があるとすると電

子状態の変化が生じていることがと示唆されるため分子軌道計算を用いて電子状態解析

を行い確認する必要がある

4325 耐水性の改善について

Nb2O5を添加のガラス構造への影響について①6配位ではなく 4配位として主に存在し

ていることからSnO と同じような働きをしていると推測される②結合距離が Sn-O が約

22Åに対し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強

固にしている③ガラス構造中で全体的に各多面体同士の頂点共有が増えている以上の

ことが判明した以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性

耐候性を改善した要因として考えられる

44 結言

本章では分光学的手法では評価できないガラスの中距離構造局所構造について理解

するために放射光を用いた構造解析を実施しSP ガラスの構造と耐水性改善について考

察したHEXRDおよび AXS法を用いて測定を行い得られたデータを RMCシミュレーシ

ョンにて解析を行った

解析の結果 Sn-O pair については平均配位数 Nが 3 ~ 35でSnO量の増加 = OP の増

62

加に伴い高くなった平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約 22Åであ

ったP-O Sn-Oについては組成による大きな変化はほとんど見られなかった67S5N28P

ガラスの Nb-O pair の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平均配位数約 4Nb-O 平均結合距

離約 20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O(約 105deg)と値が近いことま

た6配位ではなく 4配位として主に存在していることからSnOと同じような働き(網目

形成体)をしていると推測されるまた結合距離が Sn-O が約 22Åに対し Nb-O は約 20

Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強固にしていると言える

SnO 量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体的に各多面体同士の頂点共有が増え

ていることから耐水性の改善には頂点共有を多く含む構造であることが重要である

もしくは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的であることが推測さ

れる以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性耐候性を

改善した要因として考えられる

またAXS 法の有効性についても確認し効果的であることが判明したただし今回

は主成分が Sn の組成のガラスでありHEXRD でも十分に詳細な構造が得られたため

大きな差は現れなかった

参考文献

[1] 山根正之 安井至 和田正道 国分可紀 寺井良平 近藤敬 小川晋永編ガラス光学ハ

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63

Fig 41 各原子の異常分散項のエネルギー依存性

Fig 42 Sn の異常分散項のエネルギー依存性

64

Fig 43 SPring-8の BL13XU

65

Tab

le 4

1

RM

Cの各パラメーター

66

Fig 44 Sn2P2O7 Sn3P2O8結晶の RDF

Table 42 Sn2P2O7 Sn3P2O8結晶の各 pairの第一近接距離

67

Fig 45 得られた実測 HEXRDの S(Q)

68

Fig 46 Sn の異常散乱測定により得られた散乱強度のエネルギー依存性

(a)67S33P (b)60S40P

69

Fig 47 全相関関数 T(r)

太線 HEXRD より

細線 Sn の AXSより

70

Fig 48 67S5N28P ガラス構造のモデル

71

Fig 49 RMC フィッティングの結果

72

Tab

le 4

3 各

pairの平均配位数角度結合距離

73

Fig

4

10

67

S5

N2

8Pガラスの各多面体モデル

74

Tab

le 4

4 各

pairの結合様式

75

Fig 411 67S5N28P ガラスの構造モデル

76

Table 45 平均 BO 各数 nの比較

Fig 412 50S50P ガラスの構造モデル

77

第 5章 総括

本研究ではSP ガラスを対象とした本研究では鉛フリー代替ガラスまたは希土類フ

リー蛍光体として SP ガラスの新規高機能化を将来的に目指し問題点であるldquo化学的耐久

性rdquoの改善につながる知見を得ることを目的としたそこでまずSP ガラスを母体ガラ

スとし第三成分に Nb2O5を添加した Sn-Nb-P SNP ガラスZnO を添加した SZP ガラスを

作製し耐水性を中心とした物性評価を行った次に分光学的手法で構造解析を行い

Qn 分布を導き出した最後に放射光を用いた構造解析を行い耐水性改善に関する構造的

な考察を行った以下に本研究で行った検討内容を示す

(1)SPガラスおよび第三成分Nb2O5 ZnOを添加した三成分系SPガラスの物性評価(第 2章)

(2)SP 系ガラスの分光学的手法による Qn分布導出(第 3章)

(3)放射光を用いた SP 系ガラスの構造解析構造と耐水性改善の関連について(第 4章)

各章についてまとめた結果を以下に示す

第 2章

第 2章では二成分系および三成分系のリン酸塩系ガラスの各種物性(密度や熱的特性

耐水性)の評価を行った二成分系ではSP ガラスに加え良好な耐水性を有する鉄リン

酸塩(Fe2O3-P2O5)系ガラス(以下 FP ガラス)を比較のために三成分系では二成分系

の SP ガラスに Nb2O5を添加したニオブ含有 SP ガラス(SNP ガラス)および ZnO を添加し

た亜鉛含有 SP ガラス(SZP ガラス)を作製した

今回作製した SP 系ガラスは低ガラス転移温度を有していた各組成の温度域はSP

ガラスTg le 280 Sn-Nb-P SNPガラスTg le 3505SZP S5ZPガラスTg ≦ 450であった

各種 SP ガラスの耐水性試験の結果二成分系の SP ガラスよりも三成分系ガラスの方が

良好な耐水性を有していた65Sn-5Nb-30P 67S5N28P ガラスが最も耐水性が良好であり化

学的耐久性の改善には Nb2O5が ZnOよりも効果的であった

組成と耐水性に関してはDRおよび重量減がOP増加で単調に低下した結果が得られた

つまり耐水性を改善させるにはSP 系ガラスのガラス化範囲を拡大かつ OP を増大させ

る第三成分の添加が有効であることが示唆された

第 3章

第 3章ではSP 系ガラスの分光学的手法による Qn分布の導出を行ったラマン分光法を

用いて各ガラス系のリン酸塩アニオンの構造を簡易定量で評価し組成と構造の関係に

ついて考察した平均 BO 数 n と耐水性に関してはDR および重量減が平均 BO 数 nの減

少で単調に低下することが明らかとなった

平均 BO 数 n と OP の関係より耐水性改善には平均 BO 数 n を下げることそして

OP を上げることが重要であることが明らかになった

78

Nb5+の添加は平均 BO数を減少させるだけでなくOP も上げることからガラス構造

内の P-O-P 結合を減少させ水和反応加水分解反応が抑制され耐水性が大幅に改善さ

れることが示唆された故にNb2O5 のような高価数金属酸化物を添加することが効果的

であることが再度確認された

第 4章

耐水性向上についてより深く評価するためSP SNP ガラスの局所構造に関する知見を得

ることを目的に放射光を用いた構造解析を行った高エネルギーX 線回折(HEXRD)お

よび X 線異常散乱(AXS)法で測定したデータを再現する構造モデルを逆モンテカルロ

(RMC)シミュレーションで構築し構造解析を行った

RMC モデル中の PON多面体に関して平均配位数 Nが 4および P-O の平均結合距離が約

160Å平均結合角度angO-P-Oが約 109degという結果が得られた組成による大きな違いは確

認されなかったSnON多面体については平均配位数 N が 3~4 でSnO 量の増加に伴い 4

に近い値となった平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約 22Åで組成

による大きな変化は見られなかった

Nb2O5を 5 mol添加したガラスではNbON多面体の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平

均配位数N約4Nb-O平均結合距離約20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O

(約 105deg)と値が近いことまた6配位ではなく 4配位として主に存在していることから

SnO と同じような網目形成体として働いていると推測されたまた結合距離が Sn-O が約

22Åに対し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強

固にしていると考えられるまたSnO 量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体

的に各多面体同士の頂点共有が増えていることから耐水性の改善には頂点共有を多く

含む構造もしくは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的であること

が示唆された以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性

耐候性を改善した要因として考えられる

またAXS 法の有効性についても確認し効果的であることが判明したただし今回

は主成分が Snの組成のガラスでありHEXRD でも十分に詳細な Snの周辺構造が得られ

たためAXSを利用した場合との大きな構造の差は認められなかった

本研究では様々な優れた特徴を有する SP ガラスにおける耐水性改善のメカニズムにつ

いて検討を行ったこの系のガラスについてはこれまでほとんど利用されていなかった

放射光を用いた構造解析を駆使し第三成分の添加によってどのような構造的変化が生じ

耐水性を改善させるか新たな知見を得ることができた最終目標である機能性ガラスの

開発における新たなる材料設計指針の確立に対してldquo耐水性rdquoに関しては概ね明らかにな

ったと考えられる一方で今回検討していな電子状態化学結合性についても評価する

ことで溶出メカニズムの解明が可能になり材料設計指針の確立が期待される

79

発表論文リスト

口頭発表

第 2章および第 3章

(1) SnO-P2O5 系ガラスへの酸化物添加効果

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎

日本セラミックス協会第 25 回秋季シンポジウム No3C06 (名古屋市 2012年 9月)

(2) Effect of Nb2O5 addition to SnO-P2O5 glass (Poster)

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

International Union of Materials Research Societies International Conference on Electronic

Materials IUMRS-ICEM 2012 A-9-P26-003 (Yokohama 2012 年 9月)

(3) スズリン酸塩系ガラスの蛍光特性耐水性に及ばす酸化物の添加効果(ポスター)

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎

日本セラミックス協会 2013 年年会 1P070 (東京 2013年 3月)

第 4章

(1) 放射光を用いたスズリン酸塩ガラスの構造解析

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎小原真二臼杵毅

日本セラミックス協会第 27 回秋季シンポジウム 2B22 (鹿児島市 2014年 9 月)

(2) Structural analysis of tin phosphate glasses by synchrotron radiation (Poster)

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba Shinji Kohara Takeshi Usuki

International Congress on Glass ICG Annual Meeting Bangkok 2015 P14-138 p186 (2015)

発表論文

(1) Effect of Nb2O5 addition to SnO- P2O5 glass

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

Journal of the Ceramic Society of Japan Vol 120 No 11 pp530-533 (2012)

(2) Structural analysis of SnO- P2O5 glass

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

Journal of the Ceramic Society of Japan(準備中)

80

謝辞

本研究を遂行するにあたり終始暖かいご指導ご助言並びにご鞭撻を賜わりました岡

山大学大学院環境生命科学研究科 難波徳郎教授に心より感謝の意を表します

また本研究を遂行するにあたり懇切丁寧なご指導とご意見をしていただいた岡山大

学大学院環境生命科学研究科 紅野安彦准教授環境環理センター 崎田真一助教に心より

感謝いたします

本研究を遂行するにあたりラマン分光測定の使用についてご助言ご教授して頂い

た岡山大学自然科学研究科 藤井達生教授中西真助教に心より感謝の意を表します

Sn のメスバウアー測定の際に協力して頂いた岡山大学自然科学研究科先端自然科学教

育研究推進本部高田研究室 松本修治特任助教(当時旭硝子株式会社中央研究所)また

Feのメスバウアーを測定の際に協力して頂いた岡山大学自然科学研究科 藤井達生教授に

心より感謝の意を表します

固体 NMR の岡山大学自然科学研究科 早川聡教授に心より感謝の意を表します

本研究を遂行するにあたりSPring-8 にてHEXRD および AXS 法の測定法および原理

についてご教示頂きました物質材料研究機構 小原真司博士ならびに山形大学 臼杵毅

教授に心より感謝の意を表します

本研究は多くの後輩諸君の協力によって遂行されました特に実際に共同研究共同

実験を遂行して頂いたOG 藤原沙弥香さん博士前期課程 2 年 東利彦君OB 徳岡太誠

君学士課程 4年 塩田将大君に心より感謝の意を表しますまた難波研究室で共に研

究生活を過ごした卒業生在学生の方々に感謝の意を表します

また同時期に博士後期課程に在籍された香川高等専門学校の桟敷剛さんにはNbに

関する有益な情報だけでなく辛い状況でも励ましを頂きました心より感謝の意を表し

ます

最後に長きに渡る学生生活を認め経済面だけでなく精神面でも支援してくださった

家族に心より深く感謝の意を表します

平成 28年 3月

福井 聡史

Page 45: 博士論文 スズリン酸塩系ガラスの物性と構造解析ousar.lib.okayama-u.ac.jp/files/public/5/54353/...博士論文 スズリン酸塩系ガラスの物性と構造解析

42

SP ガラスのラマンスペクトル(Fig 31)を見ると50S50P 60S40P ではmetaphosphate

の Q2 構造が支配的であるがSnO 量が増えるにつれてその構造が変化し70S30P では

pyrophosphateの Q1構造と orthophosphateの Q

0構造が共存した構造となっているまたSnO

量の少ない 50S50P および 60S40P において確認されたQ2構造の P=O のピークが見えなく

なっているつまり耐水性と関連して考えるとSnO量が増えるにつれてP-O-P 結合か

ら Sn-O-P 結合に代わり水分子との反応である加水分解反応を妨げる構造に変化している

ことがわかる

Figs 32 33にNb2O5を添加した Sn-Nb-P ガラスおよび SNP ガラスのラマンスペクトル

を示すまずSn-Nb-P ガラスについてNb 無添加の 65Sn-0Nb-35P は主に Q1構造であ

りNbO25が添加されることによってQ0構造に変化しQ

1 Q

0構造が共存しているような

ピークが得られた添加量が少ないガラス系であるため徐々に変化しているのを確認し

た800 cm-1を少し越えた 810 - 820 cm

-1付近にNb2O5を添加することでピークが現れそ

して添加量を増量することで強度が強まるピークがありこのピークは四面体の[NbO4]

のものと判断した

SNP ガラスのラマンスペクトルについてはNb2O5添加量を固定した組成であるためSP

ガラスのような挙動が観察された50S50N45P では50S50P ガラスと同じようにQ2構造

が主な構造でありSnO量の増加に伴って60S5N35P Q1構造67S5N28P Q

0構造に支配

的な構造が変化しているこれはSP ガラスと同じ傾向を示しているためP-O-P rarr Sn-O-P

に置き替わっていることが示唆されるNb-O に関するピークでは50S5N45P のみ[NbO4]

四面体のピークを確認できず900 - 920 cm-1付近に[NbO6]八面体のピークが確認された

SnO量が増量した 60S5N35P では810 cm-1付近の [NbO4] 四面体のピークが現れているが

[NbO6]八面体のピークと 900 - 920 cm-1付近の Q

1構造のピークが非常に近い(ほぼ重なって

いる)ことから60S5N35P については[NbO4] 四面体および[NbO6]八面体の共存の可能性

も考えられるまた67S5NP28 では[NbO4] 四面体のみのピークが観察されたためこ

の Nb-O の配位数変化は[PO4] unitの状態によって変化している可能性も示唆された

ZnO を添加した S5ZP ガラスおよび 5SZP ガラスのラマンスペクトルを Fig 34 に示す

図の下部三つが S5ZP ガラス上部三つが 5SZP ガラスのスペクトルであるSZP ガラスの

二系統を比べるとあきらかなスペクトルの違いが確認された各ガラス系で確認すると

SnO 量が最小の 55S5Z40P はQ2構造と Q

1構造の範囲に跨っているようなスペクトルが得

られた62S5Z33P および 65S5Z30P のスペクトルからはどちらもほぼ Q1構造であると判

断した5SZP のスペクトルは1000 - 1250 cm-1付近の範囲で裾を引くような(なだらかな)

スペクトルが得られたZnO 量が最小の 5S55Z40P にはQ2構造が主な構造に見えるが

shoulderピークのような Q1構造(1030 - 1100 cm

-1)が確認できる5S62Z40P においては

1000 - 1250 cm-1付近の範囲まで幅広いスペクトルが得られた730 - 750 cm

-1付近にピーク

が現れているためおそらく Q1構造が最も多く存在していると考えられる65S5Z30P では

Q1構造Q

0構造が共存しているようなピークが得られた

43

FP ガラスのラマンスペクトルを Fig 35 に示すFe量の少ない 20F80P 25F75P と他の三

つで構造が異なっていることである20F80P 25F75P はQ2構造と Q

1構造が基本構造にな

っていると判断できる 30F70P は1110 - 1150 cm-1付近に shoulderピークのようなものがあ

りQ2 Q

1 Q

0構造が共存しているようなスペクトルであった35F65P 40F60P はQ1構造

が主な構造でQ0構造があると判断した

332 平均 BO数 n (Qn分布)

まずピーク分離について散乱断面積が見積もれなかったためラマンの散乱強度比

を Qn分布として簡易的にピーク分離を行い(Fig 36)そこから平均架橋酸素数 BO 数 n

を算出したここでFig 37 に 31P MAS NMRスペクトルを示しTable 31に NMRおよび

ラマン分光より得られた平均 BO 数 n を示す(NMR の帰属 reference [12])表よりNMR

とラマンから得られた Qn分布はほぼ一致していることが分かった60S40Pについては支

配構造が NMR(Q1) ラマン(Q

2)で逆になったこれは60S40P の組成がQ

2と Q1のほぼ中

間の組成になるためこのようなズレが生じたと考えられるしかし今回のラマンによ

る Qn分布の算出についてはほぼ問題ないと判断した

Table 32にラマンスペクトルより求めた Qn分布平均 BO 数 nをを示しTable 24に示

した DR 重量減の結果を併記する

SP ガラスのうち耐水性が低いガラスは Q2構造によって形成されているSnO量の増加

によって NBOの増加とともに耐水性の向上が確認できSnOが入ることでSn-O-P 結合を

形成し水分子からの攻撃を受けにくくなっていることが考えられる

Sn-Nb-P ガラスでは基本的に Q1構造が主構造でNb2O5の添加が増えるにつれQ

0構

造が支配的になり耐水性は次第に向上していく最も耐水性のよかった 65S-5Nb-30P は

Q0構造での割合が非常に高く平均 BO数 n値が 03であった

SNP ガラスではP2O5量が多い組成の 50S5N45Pにおいても平均 BO数 nが 60S40P と

同じながらも耐水性が良くなっている67S5N28P はほぼ完全に Q0構造であり平均 Q

n

値は 0となった

SZP ガラスについてはS5ZP 5ZSP のどちらの系列についても耐水性の結果に大きな差

というものは確認されなかったが構造的にも平均 BO数 nが 09 10 17という結果であ

った

FP ガラスについてはFe2O3 lt 30 molのときは平均 BO 数 nが20 19と高い数値を

示したが耐水性は非常に良好であったこの結果より組成だけでなく構造的にも耐

水性高くなる要因が不明である一つの原因の可能性としてメスバウアーより得られた

Fe2+の存在比が 40以上と高かったことがFe2O3含有量が少ない組成時には効果的になっ

ているのかもしれない

333 平均 BO数 nと耐水性の関係性

44

Fig 38に DRと平均 BO数 nの関係性についてFig 39に重量減と平均 BO数 nの関係

性をそれぞれ示すまたOP の時と同様に各図にリン酸塩の三つの構造の平均 BO数

n も表記した双方の図よりDR 重量減共に平均 BO 数 nが低下することで単調に下がっ

ていることが分かるまた耐水性の良かったNb2O5添加の Sn-Nb-P SNPガラスはの DR

の挙動(傾き)はOP 時とも異なった挙動が得られた

Fig 310に OP と平均 BO数 nの関係を示す図中に示す茶色metaphosphate 黄色

pyrophosphate 灰色orthophosphate であるこの図から耐水性改善には平均 BO 数

n を下げOP を上げることが重要であるのが分かるまたNb5+の添加はOP を上げる

だけでなく平均 BO 数も減少させることから非常に効果的な成分であることが明らかで

あるこれはP5+から同酸価数 Nb

5+に少量でも置き換えることで平均 BO 数 n を下げ

OP を上げることを可能としている(実際に orthophosphate の OP4 よりも高い OP でガ

ラスが作製できている)つまりNb5+の添加によって P-O-P 結合が減少し水和反応加

水分解反応が抑制されているからである

以上の結果SP 系ガラスの耐水性改善には低い平均 BO 数と高い OP の組成にするこ

とが重要でNb2O5の添加は非常に効果的であることが分かったその一方でガラス中の

詳細な構造的要因についてははっきりしていないため次章の第 4 章にてさらに詳し

い構造解析を行い耐水性改善の要因について調査を行った

34 結言

本章ではラマン分光を使用して各ガラス系のリン酸塩アニオンの構造を簡易定量で

評価し組成と構造の関係について考察した

平均 BO 数 n と耐水性に関してはDR および重量減が平均 BO 数 n の減少で単調に低下

した結果が得られた

平均 BO数 nと OP の図より耐水性改善には平均 BO数 nを下げることそして OP

を上げることが重要であることが明白であった

Nb5+の添加は平均 BO数を減少させるだけでなくOP も上げることからガラス構造内

の P-O-P 結合を減少させる故に水和反応加水分解反応が抑制され耐水性が大幅に

改善された故にNb2O5 のような高価数金属酸化物を添加することが効果的であること

が示唆された

参考文献

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46

Fig 31 SP ガラスのラマンスペクトル

47

Fig 32 Sn-Nb-P ガラスのラマンスペクトル

48

Fig 33 SNP ガラスのラマンスペクトル

49

Fig 34 SZP ガラスのラマンスペクトル

50

Fig 35 FP ガラスのラマンスペクトル

51

Fig 36 ラマンスペクトルのピーク分離例(67S5N28P)

Raman Shift (cm-1)

52

Fig 37 NMRスペクトル

Table 31 NMR およびラマン分光より得られた SP 67S5N28P ガラスの

Qn分布および平均 BO数 n

53

Table 32 各ガラスのラマンスペクトルより求めた Qn分布結果

(表の赤線より右側の結果は Table 22 より)

1 仕込み組成による数値

2 Fig 2212 に示した析出物を取り除いた後の数値

54

Fig 38 DR と平均 BO数 nの関係性

55

Fig 39 重量減と平均 BO数 nの関係性

56

Fig 310 OP と平均 BO数 nの関係性

Meta

Pyro

Ortho

57

第 4章 放射光を用いたスズリン酸塩系ガラスの構造解析

41 緒言

前章の第 3 章にてラマン分光法を用いて SP 系ガラスの構造解析により Qn分布を導き

出したことで耐水性と構造の関係についてある程度関連性を導くことができたリン

酸アニオンについてはQ0(orthophosphate)構造 gt Q

1(pyrophosphate)構造 gt Q2

(metaphosphate)構造の順で良耐水性となるしかしSn Nbおよび Znの局所構造につ

いては知見が得られていないラマン分光や IR分光などの分光学的手法を用いてSnや

Nb Zn の周辺の局所構造を知るには限界があるまたガラスの構造解析を行う上で非常

に重要な因子である中距離構造の評価には分光学的手法は不向きである[1]

そこで局所構造や中距離構造を知るために有効な手法として放射光線を用いた構造

解析がある放射光(SR 光)とはシンクロトロンなどの加速器で高速に加速された電子

が進行方向を磁場によって変えられた際に放射する電磁波である[2]エネルギーが高く

(短波長)輝度が高い特性を有している日本国内では兵庫県佐用町の SPring-8や茨城

県つくば市の高エネルギー加速器研究機構佐賀県鳥栖市の佐賀県立九州シンクロトロン

光研究センターなど複数個所に放射光施設が設置されている

放射光を用いたガラスの構造解析には一般的に高エネルギーX 線回折(High Energy

X-ray diffraction HEXRD)が用いられるこの回折実験から高い散乱ベクトル Q(= 4π sinθλ)

まで回折データが得られる多種類の原子から構成される物質の場合はFaber-Ziman 型[3]

の構造因子 S(Q)を用いる以下の式に示すようにFaber-Ziman 型構造因子 S(Q)は同種また

は異種の原子による相関の重み関数付の和として示される例として SiO2ガラスで説明す

ると構造因子 S(Q)は三種類の原子付の S(Q)の重み付の和として表されていることが分か

I(Q) 散乱断面積 ltgt 原子一個当たりの平均値 f(Q) 原子散乱因子 W 重み関数

通常の研究室で使用される X 線回折(XRD)装置で用いられる特性 X 線はCuKα線(λ

= 0154 nm 81 keV)が最も良く用いられより高いエネルギーの X 線が必要な場合は

MoKα線(λ = 0071 nm 175 keV)が使用される一方でSPring-8のビームライン BL04B2

で行われる高エネルギーX 線回折(HEXRD)測定で使用される SR のエネルギーは378 keV

58

~ が使用可能である[2]従ってガラス以外の液体のような非晶質物質にも非常に精度

よく構造解析が行われている[4]

また局所構造解析の一つに X線異常散乱法という測定方法がある[5 6]これは通常

の X 線回折実験では分離不可能な特定元素に関連する部分構造因子(散乱強度曲線)を得

ることができる手法である今回 HEXRD の測定時に使用したエネルギー614 keV では各元

素の異常散乱項のエネルギー依存性は確認されない(Fig 41)その一方でFig 42に示す

Sn の吸収端付近の 292 keV付近ではSnの異常分散項のエネルギー依存性が確認できる

つまりSnの吸収端近傍より低エネルギー(E)側の異なるエネルギーの X線(E1 E2)を

使って散乱強度を測定し各 E における異常分散項(f`)の変化(つまり高い E1 から低い

E2 の散乱強度の差分)を利用して Snに関する部分構造因子を求める構造解析が AXS 法で

あるこの測定法は古くから知られている方法ではあるが装置の測定条件や設備の問

題からなどから使用があまり普及していなかった[5 6]近年になり金属ガラスの構造解

析について徐々に報告が出てきており今後注目される測定法である

HEXRD および AXS 法などから得られたデータ実測の構造因子 S(Q)は一次元の限られ

た構造情報であるためガラスなどの非晶質物質の中距離構造を解明するためにはこれ

らのデータを基に三次元構造を求める必要がある三次元構造モデルの作成には逆モンテ

カルロ(RMC)シミュレーションを使用することが有効である[7]このシミュレーション

は任意で決めたシミュレーションボックス内の粒子をランダムに動かすことで実測の

構造因子 S(Q)を再現する三次元構造モデルを構築する方法である

SP ガラスについては分光学的手法について数多く報告があるが放射光を用いた回折

法はほとんど適用されていないそこで本研究では HEXRD および AXS 法を用いた構造

解析を行うことでSn Nb周りの構造を解明すると共にSNP ガラスの耐水性改善のメカ

ニズムについて考察したまたAXS 法の有効性についても検討した測定を行ったガラ

スはSP ガラスおよび最も耐水性の高かった 67S5N28P を選択した

42 実験方法

421 HEXRD AXS法

HEXRDはSPring-8のビームライン BL04B2 で測定を行ったエネルギー614 keV の X

線を用いた測定サンプルの厚みは09 mm (plusmn0005 mm)になるまで研磨を行った

AXS 測定はSPring-8のビームライン BL13XUを使用した(Fig 43)それぞれの測定し

た X 線のエネルギーについて以下に示す

①Sn K吸収端hellip292 keV near edgehellip291452 keV (-60 eV) far edgehellip289751 keV (-230 eV)

②Nb K吸収端hellip1899 keV near edgehellip189562 keV (-30 eV) far edgehellip187863 keV (-230 eV)

測定に使用したサンプルの厚さが015 - 030 mmとなるまで研磨を施した

SP ガラスについて50S50P 60S40P 67S33P の三組成のガラスを測定した70S30P に関

59

しては測定を試みたが放射光照射によって結晶化してしまいガラス部分の正確な構

造因子を得るための強度補正ができず解析を断念した

422 RMCのモデリング

Table 41 に RMC の各種パラメーターを示す粒子数は約 5000 個でそれに伴う boxの一

辺の長さは約 42 ~ 46 Ǻになった拘束条件にP の配位数が 4になるような条件を付け

加えたFig 44にSn2P2O7結晶および Sn3P2O8結晶の動径分布関数(RDF)をTable 32

にRDFから得られた第一近接距離[8 9] を示すこれらの数値を使用しcutoffを決定し

たNb-O についてはいくつかの文献値を参考にした[10 11]

各ガラスの RMCのモデリングは①HEXRDから得られた S(Q)のみ②S(Q)および AXS

から得られた部分構造因子を加えた場合でそれぞれ計算した

43 結果考察

最初にNbの AXSから得られたデータについて解析を試みたが妥当な構造モデルが得

られなかったためSnの AXSのみで解析を進めたNb2O5の量が 5 molと少量であったた

めあまり精度の高いデータが得られなかったと推測される

431 実測の HEXRDおよび AXSの結果

4311 実測 HEXRDの S(Q)

Fig 45 に実測HEXRDの S(Q)を示す四つの組成ともに実測HEXRDの S(Q)が得られ

Nb2O5添加の 67S5N28P ガラスでは Low Q 側に変化が確認された

4312 実測散乱強度曲線

Fig 46 に Snの散乱強度曲線を示す(a) の 67S33P のこの曲線からはfar edgeおよび

near edge のエネルギー間で差分が見られエネルギーの依存性が確認された50S50P

67S5N28P のガラスについても同じように差分が確認されたが(b)の 60S40P についてのみ

他とは若干異なる結果(緑丸)であったためRMC の構造解析には差分の構造因子ではな

くfar edge near edge 二つの構造因子を用いた

4313 全相関関数 T(r)

Fig 47 に全相関関数 T(r) を示すHEXRD から得られたものを実線でSnの AXS から

得られたものは点線で示し組成ごとに重ねて表示した図中に各ピークについて帰属し

ているがSnの T(r)からはSn-O Sn-P Sn-Snのみのピークを確認した

432 RMCの計算結果および考察

60

構造モデルの一例として67S5N28P ガラスの得られた構造モデルをFig 48に示す水

色の多面体 unitSnON 黄色の多面体 unitPO4 ピンクの多面体 unitNbONである以下

詳細な構造解析の結果および考察を記す

4321 RMCのフィッティング結果

RMCのフィッティング結果の一例として67S33P の HEXRD と Snの AXS の構造因子か

ら得た結果を示す(Fig 49)二つの構造因子を加えて計算した結果においてもHEXRD

の S(Q) AXS の S(Q)に各々に対する良好なフィッティング結果が得られた他の組成も

同様なフィッティング結果が得られた

4322得られた各 pairの平均配位数平均角度平均結合距離

RMCの結果によって得られた各 pairの平均配位数平均角度平均結合距離を Tables 43

に示す上段が HEXRD の S(Q)のみ下段が HEXRD に Sn の AXS の部分構造因子を加え

て結果である最下部は比較のためにSn2P2O7の情報を記載した[8]

P-O pairについてRMCモデル中の PON多面体に関して平均配位数 Nが 4および P-O

の平均結合距離が約 160Å平均結合角度angO-P-O が約 109degという結果が得られた組成

による大きな違いは確認されなかったのはP の配位数が 4になるように拘束条件をかけた

結果であると考えられるSnON多面体についてはSnO量の増加 = OP の増加であり平

均配位数 Nが 3 ~ 35へ増加した平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約

22Åで組成による大きな変化はほとんど見られなかったNb2O5を 5 mol添加したガラ

スではNbON多面体の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平均配位数 N約 4Nb-O 平均結

合距離約 20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O(約 105deg)と値が近いこと

また6配位ではなく 4配位として主に存在していることからSnO と同じような働きをし

ていると推測される

以上の結果からNb2O5添加の耐水性改善の要因として結合距離が Sn-O が約 22Åに対

し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強固にして

いることも一つの要因として考えられる

また67S5N28P ガラスの各多面体モデルを確認すると(Fig 410)P は PO4Snは SnO4

と SnO3Nbは NbO4をそれぞれ再現している

4323得られた各 pairの結合様式

RMC の結果により得られた各 pair の結合様式を Tables 44 に示す上段が HEXRD の

S(Q)のみ下段が HEXRDに Snの AXS の部分構造因子を加えた結果である最下部は比

較のためにSn2P2O7の情報を記載した[8]

結合様式に関してはPO4四面体は他の多面体も含めてほぼ頂点共有で存在している

SnON多面体についてはSnO 量が少ない配位数が 3 に近い場合頂点共有以外の共有の

61

割合も多くSnO 量が増えるにつれて頂点共有が主になり網目形成体として振舞ってい

ると考えられる組成によって平均結合距離や平均角度の大きな変化が見られなかったこ

とから平均配位数が結合様式を決める重要なファクターであるということも考えられる

またHEXRD と AXS 法の結果がほぼ同じであったこれは主成分が SnO のガラスであ

るためHEXRDでも十分に詳細な構造が得られたため大きな変化が現れなかったと考え

られるNbON 多面体はPO4 四面体と SnON 多面体とはほぼ頂点共有で繋がっている以

上の結果よりSnO量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体的に各多面体同士の

頂点共有が増えていることから耐水性の改善には頂点共有を多く含む構造であること

が重要である或いは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的となって

いるということが推測されるFig 411に 67S5N28P ガラスの構造モデルを示す各多面

体はほぼ頂点共有で繋がっていることが確認できる

4324 平均 BO数の比較

Tables 45にNMR Raman RMC(HEXRD) RMC(HEXRD + AXS)の平均BO数を示すRMC

から得られた平均 BO 数 nはNMR Raman と同様に Nb2O5の添加による大幅な減少が確認

されたしかしNMR Raman と比較すると全組成において数値が大きすぎで適当でない

50S50P の構造モデルを観るとPO4四面体間で3配位 O の存在が確認された(Fig 412)た

め実測で得られた n値を再現できるようなPO4四面体モデル間の繋がり方に関する拘束条

件を加えて RMCを計算する必要性があるまた仮に3配位 Oの存在があるとすると電

子状態の変化が生じていることがと示唆されるため分子軌道計算を用いて電子状態解析

を行い確認する必要がある

4325 耐水性の改善について

Nb2O5を添加のガラス構造への影響について①6配位ではなく 4配位として主に存在し

ていることからSnO と同じような働きをしていると推測される②結合距離が Sn-O が約

22Åに対し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強

固にしている③ガラス構造中で全体的に各多面体同士の頂点共有が増えている以上の

ことが判明した以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性

耐候性を改善した要因として考えられる

44 結言

本章では分光学的手法では評価できないガラスの中距離構造局所構造について理解

するために放射光を用いた構造解析を実施しSP ガラスの構造と耐水性改善について考

察したHEXRDおよび AXS法を用いて測定を行い得られたデータを RMCシミュレーシ

ョンにて解析を行った

解析の結果 Sn-O pair については平均配位数 Nが 3 ~ 35でSnO量の増加 = OP の増

62

加に伴い高くなった平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約 22Åであ

ったP-O Sn-Oについては組成による大きな変化はほとんど見られなかった67S5N28P

ガラスの Nb-O pair の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平均配位数約 4Nb-O 平均結合距

離約 20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O(約 105deg)と値が近いことま

た6配位ではなく 4配位として主に存在していることからSnOと同じような働き(網目

形成体)をしていると推測されるまた結合距離が Sn-O が約 22Åに対し Nb-O は約 20

Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強固にしていると言える

SnO 量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体的に各多面体同士の頂点共有が増え

ていることから耐水性の改善には頂点共有を多く含む構造であることが重要である

もしくは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的であることが推測さ

れる以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性耐候性を

改善した要因として考えられる

またAXS 法の有効性についても確認し効果的であることが判明したただし今回

は主成分が Sn の組成のガラスでありHEXRD でも十分に詳細な構造が得られたため

大きな差は現れなかった

参考文献

[1] 山根正之 安井至 和田正道 国分可紀 寺井良平 近藤敬 小川晋永編ガラス光学ハ

ンドブック 朝倉書店(1999)

[2]飯野潔 梅咲則正 NEW GLASS 19 [2] 31-40 (2004)

[3] T E Faber and J M Ziman Philos Mag 11 [109] 153-173 (1965)

[4] 小原真司 鈴谷健太郎 放射光 14 [5] 365-375 (2001)

[5] 早稲田嘉夫 齋藤正敏 放射光 10 [3] 299-315 (1997)

[6] 細川伸也 広島工業大学紀要研究編 46 197-204 (2012)

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[8] V V Chernaya A S Mitiaev P S Chizhov E V Dikarev R V Shpanchenko E V Antipov

MV Korolenko and PB Fabritchinyi J Chem Mater 17 284-290 (2005)

[9] M Mathew L W Schroeder and T H Jordan Acta Cryst B33 1812-1816 (1977)

[10] J S Taylar and M P Cohs J Am Ceram Solids 109 [9] 2834-2835 (1987)

[11] D Munoz-Martin A Ruiz de La Cruz J M Fernandez-Navarro C Domingo J Solis and J

Gonzalo J appl Phys 110 023522 (2011)

63

Fig 41 各原子の異常分散項のエネルギー依存性

Fig 42 Sn の異常分散項のエネルギー依存性

64

Fig 43 SPring-8の BL13XU

65

Tab

le 4

1

RM

Cの各パラメーター

66

Fig 44 Sn2P2O7 Sn3P2O8結晶の RDF

Table 42 Sn2P2O7 Sn3P2O8結晶の各 pairの第一近接距離

67

Fig 45 得られた実測 HEXRDの S(Q)

68

Fig 46 Sn の異常散乱測定により得られた散乱強度のエネルギー依存性

(a)67S33P (b)60S40P

69

Fig 47 全相関関数 T(r)

太線 HEXRD より

細線 Sn の AXSより

70

Fig 48 67S5N28P ガラス構造のモデル

71

Fig 49 RMC フィッティングの結果

72

Tab

le 4

3 各

pairの平均配位数角度結合距離

73

Fig

4

10

67

S5

N2

8Pガラスの各多面体モデル

74

Tab

le 4

4 各

pairの結合様式

75

Fig 411 67S5N28P ガラスの構造モデル

76

Table 45 平均 BO 各数 nの比較

Fig 412 50S50P ガラスの構造モデル

77

第 5章 総括

本研究ではSP ガラスを対象とした本研究では鉛フリー代替ガラスまたは希土類フ

リー蛍光体として SP ガラスの新規高機能化を将来的に目指し問題点であるldquo化学的耐久

性rdquoの改善につながる知見を得ることを目的としたそこでまずSP ガラスを母体ガラ

スとし第三成分に Nb2O5を添加した Sn-Nb-P SNP ガラスZnO を添加した SZP ガラスを

作製し耐水性を中心とした物性評価を行った次に分光学的手法で構造解析を行い

Qn 分布を導き出した最後に放射光を用いた構造解析を行い耐水性改善に関する構造的

な考察を行った以下に本研究で行った検討内容を示す

(1)SPガラスおよび第三成分Nb2O5 ZnOを添加した三成分系SPガラスの物性評価(第 2章)

(2)SP 系ガラスの分光学的手法による Qn分布導出(第 3章)

(3)放射光を用いた SP 系ガラスの構造解析構造と耐水性改善の関連について(第 4章)

各章についてまとめた結果を以下に示す

第 2章

第 2章では二成分系および三成分系のリン酸塩系ガラスの各種物性(密度や熱的特性

耐水性)の評価を行った二成分系ではSP ガラスに加え良好な耐水性を有する鉄リン

酸塩(Fe2O3-P2O5)系ガラス(以下 FP ガラス)を比較のために三成分系では二成分系

の SP ガラスに Nb2O5を添加したニオブ含有 SP ガラス(SNP ガラス)および ZnO を添加し

た亜鉛含有 SP ガラス(SZP ガラス)を作製した

今回作製した SP 系ガラスは低ガラス転移温度を有していた各組成の温度域はSP

ガラスTg le 280 Sn-Nb-P SNPガラスTg le 3505SZP S5ZPガラスTg ≦ 450であった

各種 SP ガラスの耐水性試験の結果二成分系の SP ガラスよりも三成分系ガラスの方が

良好な耐水性を有していた65Sn-5Nb-30P 67S5N28P ガラスが最も耐水性が良好であり化

学的耐久性の改善には Nb2O5が ZnOよりも効果的であった

組成と耐水性に関してはDRおよび重量減がOP増加で単調に低下した結果が得られた

つまり耐水性を改善させるにはSP 系ガラスのガラス化範囲を拡大かつ OP を増大させ

る第三成分の添加が有効であることが示唆された

第 3章

第 3章ではSP 系ガラスの分光学的手法による Qn分布の導出を行ったラマン分光法を

用いて各ガラス系のリン酸塩アニオンの構造を簡易定量で評価し組成と構造の関係に

ついて考察した平均 BO 数 n と耐水性に関してはDR および重量減が平均 BO 数 nの減

少で単調に低下することが明らかとなった

平均 BO 数 n と OP の関係より耐水性改善には平均 BO 数 n を下げることそして

OP を上げることが重要であることが明らかになった

78

Nb5+の添加は平均 BO数を減少させるだけでなくOP も上げることからガラス構造

内の P-O-P 結合を減少させ水和反応加水分解反応が抑制され耐水性が大幅に改善さ

れることが示唆された故にNb2O5 のような高価数金属酸化物を添加することが効果的

であることが再度確認された

第 4章

耐水性向上についてより深く評価するためSP SNP ガラスの局所構造に関する知見を得

ることを目的に放射光を用いた構造解析を行った高エネルギーX 線回折(HEXRD)お

よび X 線異常散乱(AXS)法で測定したデータを再現する構造モデルを逆モンテカルロ

(RMC)シミュレーションで構築し構造解析を行った

RMC モデル中の PON多面体に関して平均配位数 Nが 4および P-O の平均結合距離が約

160Å平均結合角度angO-P-Oが約 109degという結果が得られた組成による大きな違いは確

認されなかったSnON多面体については平均配位数 N が 3~4 でSnO 量の増加に伴い 4

に近い値となった平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約 22Åで組成

による大きな変化は見られなかった

Nb2O5を 5 mol添加したガラスではNbON多面体の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平

均配位数N約4Nb-O平均結合距離約20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O

(約 105deg)と値が近いことまた6配位ではなく 4配位として主に存在していることから

SnO と同じような網目形成体として働いていると推測されたまた結合距離が Sn-O が約

22Åに対し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強

固にしていると考えられるまたSnO 量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体

的に各多面体同士の頂点共有が増えていることから耐水性の改善には頂点共有を多く

含む構造もしくは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的であること

が示唆された以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性

耐候性を改善した要因として考えられる

またAXS 法の有効性についても確認し効果的であることが判明したただし今回

は主成分が Snの組成のガラスでありHEXRD でも十分に詳細な Snの周辺構造が得られ

たためAXSを利用した場合との大きな構造の差は認められなかった

本研究では様々な優れた特徴を有する SP ガラスにおける耐水性改善のメカニズムにつ

いて検討を行ったこの系のガラスについてはこれまでほとんど利用されていなかった

放射光を用いた構造解析を駆使し第三成分の添加によってどのような構造的変化が生じ

耐水性を改善させるか新たな知見を得ることができた最終目標である機能性ガラスの

開発における新たなる材料設計指針の確立に対してldquo耐水性rdquoに関しては概ね明らかにな

ったと考えられる一方で今回検討していな電子状態化学結合性についても評価する

ことで溶出メカニズムの解明が可能になり材料設計指針の確立が期待される

79

発表論文リスト

口頭発表

第 2章および第 3章

(1) SnO-P2O5 系ガラスへの酸化物添加効果

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎

日本セラミックス協会第 25 回秋季シンポジウム No3C06 (名古屋市 2012年 9月)

(2) Effect of Nb2O5 addition to SnO-P2O5 glass (Poster)

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

International Union of Materials Research Societies International Conference on Electronic

Materials IUMRS-ICEM 2012 A-9-P26-003 (Yokohama 2012 年 9月)

(3) スズリン酸塩系ガラスの蛍光特性耐水性に及ばす酸化物の添加効果(ポスター)

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎

日本セラミックス協会 2013 年年会 1P070 (東京 2013年 3月)

第 4章

(1) 放射光を用いたスズリン酸塩ガラスの構造解析

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎小原真二臼杵毅

日本セラミックス協会第 27 回秋季シンポジウム 2B22 (鹿児島市 2014年 9 月)

(2) Structural analysis of tin phosphate glasses by synchrotron radiation (Poster)

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba Shinji Kohara Takeshi Usuki

International Congress on Glass ICG Annual Meeting Bangkok 2015 P14-138 p186 (2015)

発表論文

(1) Effect of Nb2O5 addition to SnO- P2O5 glass

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

Journal of the Ceramic Society of Japan Vol 120 No 11 pp530-533 (2012)

(2) Structural analysis of SnO- P2O5 glass

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

Journal of the Ceramic Society of Japan(準備中)

80

謝辞

本研究を遂行するにあたり終始暖かいご指導ご助言並びにご鞭撻を賜わりました岡

山大学大学院環境生命科学研究科 難波徳郎教授に心より感謝の意を表します

また本研究を遂行するにあたり懇切丁寧なご指導とご意見をしていただいた岡山大

学大学院環境生命科学研究科 紅野安彦准教授環境環理センター 崎田真一助教に心より

感謝いたします

本研究を遂行するにあたりラマン分光測定の使用についてご助言ご教授して頂い

た岡山大学自然科学研究科 藤井達生教授中西真助教に心より感謝の意を表します

Sn のメスバウアー測定の際に協力して頂いた岡山大学自然科学研究科先端自然科学教

育研究推進本部高田研究室 松本修治特任助教(当時旭硝子株式会社中央研究所)また

Feのメスバウアーを測定の際に協力して頂いた岡山大学自然科学研究科 藤井達生教授に

心より感謝の意を表します

固体 NMR の岡山大学自然科学研究科 早川聡教授に心より感謝の意を表します

本研究を遂行するにあたりSPring-8 にてHEXRD および AXS 法の測定法および原理

についてご教示頂きました物質材料研究機構 小原真司博士ならびに山形大学 臼杵毅

教授に心より感謝の意を表します

本研究は多くの後輩諸君の協力によって遂行されました特に実際に共同研究共同

実験を遂行して頂いたOG 藤原沙弥香さん博士前期課程 2 年 東利彦君OB 徳岡太誠

君学士課程 4年 塩田将大君に心より感謝の意を表しますまた難波研究室で共に研

究生活を過ごした卒業生在学生の方々に感謝の意を表します

また同時期に博士後期課程に在籍された香川高等専門学校の桟敷剛さんにはNbに

関する有益な情報だけでなく辛い状況でも励ましを頂きました心より感謝の意を表し

ます

最後に長きに渡る学生生活を認め経済面だけでなく精神面でも支援してくださった

家族に心より深く感謝の意を表します

平成 28年 3月

福井 聡史

Page 46: 博士論文 スズリン酸塩系ガラスの物性と構造解析ousar.lib.okayama-u.ac.jp/files/public/5/54353/...博士論文 スズリン酸塩系ガラスの物性と構造解析

43

FP ガラスのラマンスペクトルを Fig 35 に示すFe量の少ない 20F80P 25F75P と他の三

つで構造が異なっていることである20F80P 25F75P はQ2構造と Q

1構造が基本構造にな

っていると判断できる 30F70P は1110 - 1150 cm-1付近に shoulderピークのようなものがあ

りQ2 Q

1 Q

0構造が共存しているようなスペクトルであった35F65P 40F60P はQ1構造

が主な構造でQ0構造があると判断した

332 平均 BO数 n (Qn分布)

まずピーク分離について散乱断面積が見積もれなかったためラマンの散乱強度比

を Qn分布として簡易的にピーク分離を行い(Fig 36)そこから平均架橋酸素数 BO 数 n

を算出したここでFig 37 に 31P MAS NMRスペクトルを示しTable 31に NMRおよび

ラマン分光より得られた平均 BO 数 n を示す(NMR の帰属 reference [12])表よりNMR

とラマンから得られた Qn分布はほぼ一致していることが分かった60S40Pについては支

配構造が NMR(Q1) ラマン(Q

2)で逆になったこれは60S40P の組成がQ

2と Q1のほぼ中

間の組成になるためこのようなズレが生じたと考えられるしかし今回のラマンによ

る Qn分布の算出についてはほぼ問題ないと判断した

Table 32にラマンスペクトルより求めた Qn分布平均 BO 数 nをを示しTable 24に示

した DR 重量減の結果を併記する

SP ガラスのうち耐水性が低いガラスは Q2構造によって形成されているSnO量の増加

によって NBOの増加とともに耐水性の向上が確認できSnOが入ることでSn-O-P 結合を

形成し水分子からの攻撃を受けにくくなっていることが考えられる

Sn-Nb-P ガラスでは基本的に Q1構造が主構造でNb2O5の添加が増えるにつれQ

0構

造が支配的になり耐水性は次第に向上していく最も耐水性のよかった 65S-5Nb-30P は

Q0構造での割合が非常に高く平均 BO数 n値が 03であった

SNP ガラスではP2O5量が多い組成の 50S5N45Pにおいても平均 BO数 nが 60S40P と

同じながらも耐水性が良くなっている67S5N28P はほぼ完全に Q0構造であり平均 Q

n

値は 0となった

SZP ガラスについてはS5ZP 5ZSP のどちらの系列についても耐水性の結果に大きな差

というものは確認されなかったが構造的にも平均 BO数 nが 09 10 17という結果であ

った

FP ガラスについてはFe2O3 lt 30 molのときは平均 BO 数 nが20 19と高い数値を

示したが耐水性は非常に良好であったこの結果より組成だけでなく構造的にも耐

水性高くなる要因が不明である一つの原因の可能性としてメスバウアーより得られた

Fe2+の存在比が 40以上と高かったことがFe2O3含有量が少ない組成時には効果的になっ

ているのかもしれない

333 平均 BO数 nと耐水性の関係性

44

Fig 38に DRと平均 BO数 nの関係性についてFig 39に重量減と平均 BO数 nの関係

性をそれぞれ示すまたOP の時と同様に各図にリン酸塩の三つの構造の平均 BO数

n も表記した双方の図よりDR 重量減共に平均 BO 数 nが低下することで単調に下がっ

ていることが分かるまた耐水性の良かったNb2O5添加の Sn-Nb-P SNPガラスはの DR

の挙動(傾き)はOP 時とも異なった挙動が得られた

Fig 310に OP と平均 BO数 nの関係を示す図中に示す茶色metaphosphate 黄色

pyrophosphate 灰色orthophosphate であるこの図から耐水性改善には平均 BO 数

n を下げOP を上げることが重要であるのが分かるまたNb5+の添加はOP を上げる

だけでなく平均 BO 数も減少させることから非常に効果的な成分であることが明らかで

あるこれはP5+から同酸価数 Nb

5+に少量でも置き換えることで平均 BO 数 n を下げ

OP を上げることを可能としている(実際に orthophosphate の OP4 よりも高い OP でガ

ラスが作製できている)つまりNb5+の添加によって P-O-P 結合が減少し水和反応加

水分解反応が抑制されているからである

以上の結果SP 系ガラスの耐水性改善には低い平均 BO 数と高い OP の組成にするこ

とが重要でNb2O5の添加は非常に効果的であることが分かったその一方でガラス中の

詳細な構造的要因についてははっきりしていないため次章の第 4 章にてさらに詳し

い構造解析を行い耐水性改善の要因について調査を行った

34 結言

本章ではラマン分光を使用して各ガラス系のリン酸塩アニオンの構造を簡易定量で

評価し組成と構造の関係について考察した

平均 BO 数 n と耐水性に関してはDR および重量減が平均 BO 数 n の減少で単調に低下

した結果が得られた

平均 BO数 nと OP の図より耐水性改善には平均 BO数 nを下げることそして OP

を上げることが重要であることが明白であった

Nb5+の添加は平均 BO数を減少させるだけでなくOP も上げることからガラス構造内

の P-O-P 結合を減少させる故に水和反応加水分解反応が抑制され耐水性が大幅に

改善された故にNb2O5 のような高価数金属酸化物を添加することが効果的であること

が示唆された

参考文献

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46

Fig 31 SP ガラスのラマンスペクトル

47

Fig 32 Sn-Nb-P ガラスのラマンスペクトル

48

Fig 33 SNP ガラスのラマンスペクトル

49

Fig 34 SZP ガラスのラマンスペクトル

50

Fig 35 FP ガラスのラマンスペクトル

51

Fig 36 ラマンスペクトルのピーク分離例(67S5N28P)

Raman Shift (cm-1)

52

Fig 37 NMRスペクトル

Table 31 NMR およびラマン分光より得られた SP 67S5N28P ガラスの

Qn分布および平均 BO数 n

53

Table 32 各ガラスのラマンスペクトルより求めた Qn分布結果

(表の赤線より右側の結果は Table 22 より)

1 仕込み組成による数値

2 Fig 2212 に示した析出物を取り除いた後の数値

54

Fig 38 DR と平均 BO数 nの関係性

55

Fig 39 重量減と平均 BO数 nの関係性

56

Fig 310 OP と平均 BO数 nの関係性

Meta

Pyro

Ortho

57

第 4章 放射光を用いたスズリン酸塩系ガラスの構造解析

41 緒言

前章の第 3 章にてラマン分光法を用いて SP 系ガラスの構造解析により Qn分布を導き

出したことで耐水性と構造の関係についてある程度関連性を導くことができたリン

酸アニオンについてはQ0(orthophosphate)構造 gt Q

1(pyrophosphate)構造 gt Q2

(metaphosphate)構造の順で良耐水性となるしかしSn Nbおよび Znの局所構造につ

いては知見が得られていないラマン分光や IR分光などの分光学的手法を用いてSnや

Nb Zn の周辺の局所構造を知るには限界があるまたガラスの構造解析を行う上で非常

に重要な因子である中距離構造の評価には分光学的手法は不向きである[1]

そこで局所構造や中距離構造を知るために有効な手法として放射光線を用いた構造

解析がある放射光(SR 光)とはシンクロトロンなどの加速器で高速に加速された電子

が進行方向を磁場によって変えられた際に放射する電磁波である[2]エネルギーが高く

(短波長)輝度が高い特性を有している日本国内では兵庫県佐用町の SPring-8や茨城

県つくば市の高エネルギー加速器研究機構佐賀県鳥栖市の佐賀県立九州シンクロトロン

光研究センターなど複数個所に放射光施設が設置されている

放射光を用いたガラスの構造解析には一般的に高エネルギーX 線回折(High Energy

X-ray diffraction HEXRD)が用いられるこの回折実験から高い散乱ベクトル Q(= 4π sinθλ)

まで回折データが得られる多種類の原子から構成される物質の場合はFaber-Ziman 型[3]

の構造因子 S(Q)を用いる以下の式に示すようにFaber-Ziman 型構造因子 S(Q)は同種また

は異種の原子による相関の重み関数付の和として示される例として SiO2ガラスで説明す

ると構造因子 S(Q)は三種類の原子付の S(Q)の重み付の和として表されていることが分か

I(Q) 散乱断面積 ltgt 原子一個当たりの平均値 f(Q) 原子散乱因子 W 重み関数

通常の研究室で使用される X 線回折(XRD)装置で用いられる特性 X 線はCuKα線(λ

= 0154 nm 81 keV)が最も良く用いられより高いエネルギーの X 線が必要な場合は

MoKα線(λ = 0071 nm 175 keV)が使用される一方でSPring-8のビームライン BL04B2

で行われる高エネルギーX 線回折(HEXRD)測定で使用される SR のエネルギーは378 keV

58

~ が使用可能である[2]従ってガラス以外の液体のような非晶質物質にも非常に精度

よく構造解析が行われている[4]

また局所構造解析の一つに X線異常散乱法という測定方法がある[5 6]これは通常

の X 線回折実験では分離不可能な特定元素に関連する部分構造因子(散乱強度曲線)を得

ることができる手法である今回 HEXRD の測定時に使用したエネルギー614 keV では各元

素の異常散乱項のエネルギー依存性は確認されない(Fig 41)その一方でFig 42に示す

Sn の吸収端付近の 292 keV付近ではSnの異常分散項のエネルギー依存性が確認できる

つまりSnの吸収端近傍より低エネルギー(E)側の異なるエネルギーの X線(E1 E2)を

使って散乱強度を測定し各 E における異常分散項(f`)の変化(つまり高い E1 から低い

E2 の散乱強度の差分)を利用して Snに関する部分構造因子を求める構造解析が AXS 法で

あるこの測定法は古くから知られている方法ではあるが装置の測定条件や設備の問

題からなどから使用があまり普及していなかった[5 6]近年になり金属ガラスの構造解

析について徐々に報告が出てきており今後注目される測定法である

HEXRD および AXS 法などから得られたデータ実測の構造因子 S(Q)は一次元の限られ

た構造情報であるためガラスなどの非晶質物質の中距離構造を解明するためにはこれ

らのデータを基に三次元構造を求める必要がある三次元構造モデルの作成には逆モンテ

カルロ(RMC)シミュレーションを使用することが有効である[7]このシミュレーション

は任意で決めたシミュレーションボックス内の粒子をランダムに動かすことで実測の

構造因子 S(Q)を再現する三次元構造モデルを構築する方法である

SP ガラスについては分光学的手法について数多く報告があるが放射光を用いた回折

法はほとんど適用されていないそこで本研究では HEXRD および AXS 法を用いた構造

解析を行うことでSn Nb周りの構造を解明すると共にSNP ガラスの耐水性改善のメカ

ニズムについて考察したまたAXS 法の有効性についても検討した測定を行ったガラ

スはSP ガラスおよび最も耐水性の高かった 67S5N28P を選択した

42 実験方法

421 HEXRD AXS法

HEXRDはSPring-8のビームライン BL04B2 で測定を行ったエネルギー614 keV の X

線を用いた測定サンプルの厚みは09 mm (plusmn0005 mm)になるまで研磨を行った

AXS 測定はSPring-8のビームライン BL13XUを使用した(Fig 43)それぞれの測定し

た X 線のエネルギーについて以下に示す

①Sn K吸収端hellip292 keV near edgehellip291452 keV (-60 eV) far edgehellip289751 keV (-230 eV)

②Nb K吸収端hellip1899 keV near edgehellip189562 keV (-30 eV) far edgehellip187863 keV (-230 eV)

測定に使用したサンプルの厚さが015 - 030 mmとなるまで研磨を施した

SP ガラスについて50S50P 60S40P 67S33P の三組成のガラスを測定した70S30P に関

59

しては測定を試みたが放射光照射によって結晶化してしまいガラス部分の正確な構

造因子を得るための強度補正ができず解析を断念した

422 RMCのモデリング

Table 41 に RMC の各種パラメーターを示す粒子数は約 5000 個でそれに伴う boxの一

辺の長さは約 42 ~ 46 Ǻになった拘束条件にP の配位数が 4になるような条件を付け

加えたFig 44にSn2P2O7結晶および Sn3P2O8結晶の動径分布関数(RDF)をTable 32

にRDFから得られた第一近接距離[8 9] を示すこれらの数値を使用しcutoffを決定し

たNb-O についてはいくつかの文献値を参考にした[10 11]

各ガラスの RMCのモデリングは①HEXRDから得られた S(Q)のみ②S(Q)および AXS

から得られた部分構造因子を加えた場合でそれぞれ計算した

43 結果考察

最初にNbの AXSから得られたデータについて解析を試みたが妥当な構造モデルが得

られなかったためSnの AXSのみで解析を進めたNb2O5の量が 5 molと少量であったた

めあまり精度の高いデータが得られなかったと推測される

431 実測の HEXRDおよび AXSの結果

4311 実測 HEXRDの S(Q)

Fig 45 に実測HEXRDの S(Q)を示す四つの組成ともに実測HEXRDの S(Q)が得られ

Nb2O5添加の 67S5N28P ガラスでは Low Q 側に変化が確認された

4312 実測散乱強度曲線

Fig 46 に Snの散乱強度曲線を示す(a) の 67S33P のこの曲線からはfar edgeおよび

near edge のエネルギー間で差分が見られエネルギーの依存性が確認された50S50P

67S5N28P のガラスについても同じように差分が確認されたが(b)の 60S40P についてのみ

他とは若干異なる結果(緑丸)であったためRMC の構造解析には差分の構造因子ではな

くfar edge near edge 二つの構造因子を用いた

4313 全相関関数 T(r)

Fig 47 に全相関関数 T(r) を示すHEXRD から得られたものを実線でSnの AXS から

得られたものは点線で示し組成ごとに重ねて表示した図中に各ピークについて帰属し

ているがSnの T(r)からはSn-O Sn-P Sn-Snのみのピークを確認した

432 RMCの計算結果および考察

60

構造モデルの一例として67S5N28P ガラスの得られた構造モデルをFig 48に示す水

色の多面体 unitSnON 黄色の多面体 unitPO4 ピンクの多面体 unitNbONである以下

詳細な構造解析の結果および考察を記す

4321 RMCのフィッティング結果

RMCのフィッティング結果の一例として67S33P の HEXRD と Snの AXS の構造因子か

ら得た結果を示す(Fig 49)二つの構造因子を加えて計算した結果においてもHEXRD

の S(Q) AXS の S(Q)に各々に対する良好なフィッティング結果が得られた他の組成も

同様なフィッティング結果が得られた

4322得られた各 pairの平均配位数平均角度平均結合距離

RMCの結果によって得られた各 pairの平均配位数平均角度平均結合距離を Tables 43

に示す上段が HEXRD の S(Q)のみ下段が HEXRD に Sn の AXS の部分構造因子を加え

て結果である最下部は比較のためにSn2P2O7の情報を記載した[8]

P-O pairについてRMCモデル中の PON多面体に関して平均配位数 Nが 4および P-O

の平均結合距離が約 160Å平均結合角度angO-P-O が約 109degという結果が得られた組成

による大きな違いは確認されなかったのはP の配位数が 4になるように拘束条件をかけた

結果であると考えられるSnON多面体についてはSnO量の増加 = OP の増加であり平

均配位数 Nが 3 ~ 35へ増加した平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約

22Åで組成による大きな変化はほとんど見られなかったNb2O5を 5 mol添加したガラ

スではNbON多面体の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平均配位数 N約 4Nb-O 平均結

合距離約 20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O(約 105deg)と値が近いこと

また6配位ではなく 4配位として主に存在していることからSnO と同じような働きをし

ていると推測される

以上の結果からNb2O5添加の耐水性改善の要因として結合距離が Sn-O が約 22Åに対

し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強固にして

いることも一つの要因として考えられる

また67S5N28P ガラスの各多面体モデルを確認すると(Fig 410)P は PO4Snは SnO4

と SnO3Nbは NbO4をそれぞれ再現している

4323得られた各 pairの結合様式

RMC の結果により得られた各 pair の結合様式を Tables 44 に示す上段が HEXRD の

S(Q)のみ下段が HEXRDに Snの AXS の部分構造因子を加えた結果である最下部は比

較のためにSn2P2O7の情報を記載した[8]

結合様式に関してはPO4四面体は他の多面体も含めてほぼ頂点共有で存在している

SnON多面体についてはSnO 量が少ない配位数が 3 に近い場合頂点共有以外の共有の

61

割合も多くSnO 量が増えるにつれて頂点共有が主になり網目形成体として振舞ってい

ると考えられる組成によって平均結合距離や平均角度の大きな変化が見られなかったこ

とから平均配位数が結合様式を決める重要なファクターであるということも考えられる

またHEXRD と AXS 法の結果がほぼ同じであったこれは主成分が SnO のガラスであ

るためHEXRDでも十分に詳細な構造が得られたため大きな変化が現れなかったと考え

られるNbON 多面体はPO4 四面体と SnON 多面体とはほぼ頂点共有で繋がっている以

上の結果よりSnO量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体的に各多面体同士の

頂点共有が増えていることから耐水性の改善には頂点共有を多く含む構造であること

が重要である或いは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的となって

いるということが推測されるFig 411に 67S5N28P ガラスの構造モデルを示す各多面

体はほぼ頂点共有で繋がっていることが確認できる

4324 平均 BO数の比較

Tables 45にNMR Raman RMC(HEXRD) RMC(HEXRD + AXS)の平均BO数を示すRMC

から得られた平均 BO 数 nはNMR Raman と同様に Nb2O5の添加による大幅な減少が確認

されたしかしNMR Raman と比較すると全組成において数値が大きすぎで適当でない

50S50P の構造モデルを観るとPO4四面体間で3配位 O の存在が確認された(Fig 412)た

め実測で得られた n値を再現できるようなPO4四面体モデル間の繋がり方に関する拘束条

件を加えて RMCを計算する必要性があるまた仮に3配位 Oの存在があるとすると電

子状態の変化が生じていることがと示唆されるため分子軌道計算を用いて電子状態解析

を行い確認する必要がある

4325 耐水性の改善について

Nb2O5を添加のガラス構造への影響について①6配位ではなく 4配位として主に存在し

ていることからSnO と同じような働きをしていると推測される②結合距離が Sn-O が約

22Åに対し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強

固にしている③ガラス構造中で全体的に各多面体同士の頂点共有が増えている以上の

ことが判明した以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性

耐候性を改善した要因として考えられる

44 結言

本章では分光学的手法では評価できないガラスの中距離構造局所構造について理解

するために放射光を用いた構造解析を実施しSP ガラスの構造と耐水性改善について考

察したHEXRDおよび AXS法を用いて測定を行い得られたデータを RMCシミュレーシ

ョンにて解析を行った

解析の結果 Sn-O pair については平均配位数 Nが 3 ~ 35でSnO量の増加 = OP の増

62

加に伴い高くなった平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約 22Åであ

ったP-O Sn-Oについては組成による大きな変化はほとんど見られなかった67S5N28P

ガラスの Nb-O pair の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平均配位数約 4Nb-O 平均結合距

離約 20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O(約 105deg)と値が近いことま

た6配位ではなく 4配位として主に存在していることからSnOと同じような働き(網目

形成体)をしていると推測されるまた結合距離が Sn-O が約 22Åに対し Nb-O は約 20

Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強固にしていると言える

SnO 量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体的に各多面体同士の頂点共有が増え

ていることから耐水性の改善には頂点共有を多く含む構造であることが重要である

もしくは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的であることが推測さ

れる以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性耐候性を

改善した要因として考えられる

またAXS 法の有効性についても確認し効果的であることが判明したただし今回

は主成分が Sn の組成のガラスでありHEXRD でも十分に詳細な構造が得られたため

大きな差は現れなかった

参考文献

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63

Fig 41 各原子の異常分散項のエネルギー依存性

Fig 42 Sn の異常分散項のエネルギー依存性

64

Fig 43 SPring-8の BL13XU

65

Tab

le 4

1

RM

Cの各パラメーター

66

Fig 44 Sn2P2O7 Sn3P2O8結晶の RDF

Table 42 Sn2P2O7 Sn3P2O8結晶の各 pairの第一近接距離

67

Fig 45 得られた実測 HEXRDの S(Q)

68

Fig 46 Sn の異常散乱測定により得られた散乱強度のエネルギー依存性

(a)67S33P (b)60S40P

69

Fig 47 全相関関数 T(r)

太線 HEXRD より

細線 Sn の AXSより

70

Fig 48 67S5N28P ガラス構造のモデル

71

Fig 49 RMC フィッティングの結果

72

Tab

le 4

3 各

pairの平均配位数角度結合距離

73

Fig

4

10

67

S5

N2

8Pガラスの各多面体モデル

74

Tab

le 4

4 各

pairの結合様式

75

Fig 411 67S5N28P ガラスの構造モデル

76

Table 45 平均 BO 各数 nの比較

Fig 412 50S50P ガラスの構造モデル

77

第 5章 総括

本研究ではSP ガラスを対象とした本研究では鉛フリー代替ガラスまたは希土類フ

リー蛍光体として SP ガラスの新規高機能化を将来的に目指し問題点であるldquo化学的耐久

性rdquoの改善につながる知見を得ることを目的としたそこでまずSP ガラスを母体ガラ

スとし第三成分に Nb2O5を添加した Sn-Nb-P SNP ガラスZnO を添加した SZP ガラスを

作製し耐水性を中心とした物性評価を行った次に分光学的手法で構造解析を行い

Qn 分布を導き出した最後に放射光を用いた構造解析を行い耐水性改善に関する構造的

な考察を行った以下に本研究で行った検討内容を示す

(1)SPガラスおよび第三成分Nb2O5 ZnOを添加した三成分系SPガラスの物性評価(第 2章)

(2)SP 系ガラスの分光学的手法による Qn分布導出(第 3章)

(3)放射光を用いた SP 系ガラスの構造解析構造と耐水性改善の関連について(第 4章)

各章についてまとめた結果を以下に示す

第 2章

第 2章では二成分系および三成分系のリン酸塩系ガラスの各種物性(密度や熱的特性

耐水性)の評価を行った二成分系ではSP ガラスに加え良好な耐水性を有する鉄リン

酸塩(Fe2O3-P2O5)系ガラス(以下 FP ガラス)を比較のために三成分系では二成分系

の SP ガラスに Nb2O5を添加したニオブ含有 SP ガラス(SNP ガラス)および ZnO を添加し

た亜鉛含有 SP ガラス(SZP ガラス)を作製した

今回作製した SP 系ガラスは低ガラス転移温度を有していた各組成の温度域はSP

ガラスTg le 280 Sn-Nb-P SNPガラスTg le 3505SZP S5ZPガラスTg ≦ 450であった

各種 SP ガラスの耐水性試験の結果二成分系の SP ガラスよりも三成分系ガラスの方が

良好な耐水性を有していた65Sn-5Nb-30P 67S5N28P ガラスが最も耐水性が良好であり化

学的耐久性の改善には Nb2O5が ZnOよりも効果的であった

組成と耐水性に関してはDRおよび重量減がOP増加で単調に低下した結果が得られた

つまり耐水性を改善させるにはSP 系ガラスのガラス化範囲を拡大かつ OP を増大させ

る第三成分の添加が有効であることが示唆された

第 3章

第 3章ではSP 系ガラスの分光学的手法による Qn分布の導出を行ったラマン分光法を

用いて各ガラス系のリン酸塩アニオンの構造を簡易定量で評価し組成と構造の関係に

ついて考察した平均 BO 数 n と耐水性に関してはDR および重量減が平均 BO 数 nの減

少で単調に低下することが明らかとなった

平均 BO 数 n と OP の関係より耐水性改善には平均 BO 数 n を下げることそして

OP を上げることが重要であることが明らかになった

78

Nb5+の添加は平均 BO数を減少させるだけでなくOP も上げることからガラス構造

内の P-O-P 結合を減少させ水和反応加水分解反応が抑制され耐水性が大幅に改善さ

れることが示唆された故にNb2O5 のような高価数金属酸化物を添加することが効果的

であることが再度確認された

第 4章

耐水性向上についてより深く評価するためSP SNP ガラスの局所構造に関する知見を得

ることを目的に放射光を用いた構造解析を行った高エネルギーX 線回折(HEXRD)お

よび X 線異常散乱(AXS)法で測定したデータを再現する構造モデルを逆モンテカルロ

(RMC)シミュレーションで構築し構造解析を行った

RMC モデル中の PON多面体に関して平均配位数 Nが 4および P-O の平均結合距離が約

160Å平均結合角度angO-P-Oが約 109degという結果が得られた組成による大きな違いは確

認されなかったSnON多面体については平均配位数 N が 3~4 でSnO 量の増加に伴い 4

に近い値となった平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約 22Åで組成

による大きな変化は見られなかった

Nb2O5を 5 mol添加したガラスではNbON多面体の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平

均配位数N約4Nb-O平均結合距離約20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O

(約 105deg)と値が近いことまた6配位ではなく 4配位として主に存在していることから

SnO と同じような網目形成体として働いていると推測されたまた結合距離が Sn-O が約

22Åに対し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強

固にしていると考えられるまたSnO 量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体

的に各多面体同士の頂点共有が増えていることから耐水性の改善には頂点共有を多く

含む構造もしくは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的であること

が示唆された以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性

耐候性を改善した要因として考えられる

またAXS 法の有効性についても確認し効果的であることが判明したただし今回

は主成分が Snの組成のガラスでありHEXRD でも十分に詳細な Snの周辺構造が得られ

たためAXSを利用した場合との大きな構造の差は認められなかった

本研究では様々な優れた特徴を有する SP ガラスにおける耐水性改善のメカニズムにつ

いて検討を行ったこの系のガラスについてはこれまでほとんど利用されていなかった

放射光を用いた構造解析を駆使し第三成分の添加によってどのような構造的変化が生じ

耐水性を改善させるか新たな知見を得ることができた最終目標である機能性ガラスの

開発における新たなる材料設計指針の確立に対してldquo耐水性rdquoに関しては概ね明らかにな

ったと考えられる一方で今回検討していな電子状態化学結合性についても評価する

ことで溶出メカニズムの解明が可能になり材料設計指針の確立が期待される

79

発表論文リスト

口頭発表

第 2章および第 3章

(1) SnO-P2O5 系ガラスへの酸化物添加効果

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎

日本セラミックス協会第 25 回秋季シンポジウム No3C06 (名古屋市 2012年 9月)

(2) Effect of Nb2O5 addition to SnO-P2O5 glass (Poster)

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

International Union of Materials Research Societies International Conference on Electronic

Materials IUMRS-ICEM 2012 A-9-P26-003 (Yokohama 2012 年 9月)

(3) スズリン酸塩系ガラスの蛍光特性耐水性に及ばす酸化物の添加効果(ポスター)

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎

日本セラミックス協会 2013 年年会 1P070 (東京 2013年 3月)

第 4章

(1) 放射光を用いたスズリン酸塩ガラスの構造解析

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎小原真二臼杵毅

日本セラミックス協会第 27 回秋季シンポジウム 2B22 (鹿児島市 2014年 9 月)

(2) Structural analysis of tin phosphate glasses by synchrotron radiation (Poster)

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba Shinji Kohara Takeshi Usuki

International Congress on Glass ICG Annual Meeting Bangkok 2015 P14-138 p186 (2015)

発表論文

(1) Effect of Nb2O5 addition to SnO- P2O5 glass

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

Journal of the Ceramic Society of Japan Vol 120 No 11 pp530-533 (2012)

(2) Structural analysis of SnO- P2O5 glass

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

Journal of the Ceramic Society of Japan(準備中)

80

謝辞

本研究を遂行するにあたり終始暖かいご指導ご助言並びにご鞭撻を賜わりました岡

山大学大学院環境生命科学研究科 難波徳郎教授に心より感謝の意を表します

また本研究を遂行するにあたり懇切丁寧なご指導とご意見をしていただいた岡山大

学大学院環境生命科学研究科 紅野安彦准教授環境環理センター 崎田真一助教に心より

感謝いたします

本研究を遂行するにあたりラマン分光測定の使用についてご助言ご教授して頂い

た岡山大学自然科学研究科 藤井達生教授中西真助教に心より感謝の意を表します

Sn のメスバウアー測定の際に協力して頂いた岡山大学自然科学研究科先端自然科学教

育研究推進本部高田研究室 松本修治特任助教(当時旭硝子株式会社中央研究所)また

Feのメスバウアーを測定の際に協力して頂いた岡山大学自然科学研究科 藤井達生教授に

心より感謝の意を表します

固体 NMR の岡山大学自然科学研究科 早川聡教授に心より感謝の意を表します

本研究を遂行するにあたりSPring-8 にてHEXRD および AXS 法の測定法および原理

についてご教示頂きました物質材料研究機構 小原真司博士ならびに山形大学 臼杵毅

教授に心より感謝の意を表します

本研究は多くの後輩諸君の協力によって遂行されました特に実際に共同研究共同

実験を遂行して頂いたOG 藤原沙弥香さん博士前期課程 2 年 東利彦君OB 徳岡太誠

君学士課程 4年 塩田将大君に心より感謝の意を表しますまた難波研究室で共に研

究生活を過ごした卒業生在学生の方々に感謝の意を表します

また同時期に博士後期課程に在籍された香川高等専門学校の桟敷剛さんにはNbに

関する有益な情報だけでなく辛い状況でも励ましを頂きました心より感謝の意を表し

ます

最後に長きに渡る学生生活を認め経済面だけでなく精神面でも支援してくださった

家族に心より深く感謝の意を表します

平成 28年 3月

福井 聡史

Page 47: 博士論文 スズリン酸塩系ガラスの物性と構造解析ousar.lib.okayama-u.ac.jp/files/public/5/54353/...博士論文 スズリン酸塩系ガラスの物性と構造解析

44

Fig 38に DRと平均 BO数 nの関係性についてFig 39に重量減と平均 BO数 nの関係

性をそれぞれ示すまたOP の時と同様に各図にリン酸塩の三つの構造の平均 BO数

n も表記した双方の図よりDR 重量減共に平均 BO 数 nが低下することで単調に下がっ

ていることが分かるまた耐水性の良かったNb2O5添加の Sn-Nb-P SNPガラスはの DR

の挙動(傾き)はOP 時とも異なった挙動が得られた

Fig 310に OP と平均 BO数 nの関係を示す図中に示す茶色metaphosphate 黄色

pyrophosphate 灰色orthophosphate であるこの図から耐水性改善には平均 BO 数

n を下げOP を上げることが重要であるのが分かるまたNb5+の添加はOP を上げる

だけでなく平均 BO 数も減少させることから非常に効果的な成分であることが明らかで

あるこれはP5+から同酸価数 Nb

5+に少量でも置き換えることで平均 BO 数 n を下げ

OP を上げることを可能としている(実際に orthophosphate の OP4 よりも高い OP でガ

ラスが作製できている)つまりNb5+の添加によって P-O-P 結合が減少し水和反応加

水分解反応が抑制されているからである

以上の結果SP 系ガラスの耐水性改善には低い平均 BO 数と高い OP の組成にするこ

とが重要でNb2O5の添加は非常に効果的であることが分かったその一方でガラス中の

詳細な構造的要因についてははっきりしていないため次章の第 4 章にてさらに詳し

い構造解析を行い耐水性改善の要因について調査を行った

34 結言

本章ではラマン分光を使用して各ガラス系のリン酸塩アニオンの構造を簡易定量で

評価し組成と構造の関係について考察した

平均 BO 数 n と耐水性に関してはDR および重量減が平均 BO 数 n の減少で単調に低下

した結果が得られた

平均 BO数 nと OP の図より耐水性改善には平均 BO数 nを下げることそして OP

を上げることが重要であることが明白であった

Nb5+の添加は平均 BO数を減少させるだけでなくOP も上げることからガラス構造内

の P-O-P 結合を減少させる故に水和反応加水分解反応が抑制され耐水性が大幅に

改善された故にNb2O5 のような高価数金属酸化物を添加することが効果的であること

が示唆された

参考文献

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46

Fig 31 SP ガラスのラマンスペクトル

47

Fig 32 Sn-Nb-P ガラスのラマンスペクトル

48

Fig 33 SNP ガラスのラマンスペクトル

49

Fig 34 SZP ガラスのラマンスペクトル

50

Fig 35 FP ガラスのラマンスペクトル

51

Fig 36 ラマンスペクトルのピーク分離例(67S5N28P)

Raman Shift (cm-1)

52

Fig 37 NMRスペクトル

Table 31 NMR およびラマン分光より得られた SP 67S5N28P ガラスの

Qn分布および平均 BO数 n

53

Table 32 各ガラスのラマンスペクトルより求めた Qn分布結果

(表の赤線より右側の結果は Table 22 より)

1 仕込み組成による数値

2 Fig 2212 に示した析出物を取り除いた後の数値

54

Fig 38 DR と平均 BO数 nの関係性

55

Fig 39 重量減と平均 BO数 nの関係性

56

Fig 310 OP と平均 BO数 nの関係性

Meta

Pyro

Ortho

57

第 4章 放射光を用いたスズリン酸塩系ガラスの構造解析

41 緒言

前章の第 3 章にてラマン分光法を用いて SP 系ガラスの構造解析により Qn分布を導き

出したことで耐水性と構造の関係についてある程度関連性を導くことができたリン

酸アニオンについてはQ0(orthophosphate)構造 gt Q

1(pyrophosphate)構造 gt Q2

(metaphosphate)構造の順で良耐水性となるしかしSn Nbおよび Znの局所構造につ

いては知見が得られていないラマン分光や IR分光などの分光学的手法を用いてSnや

Nb Zn の周辺の局所構造を知るには限界があるまたガラスの構造解析を行う上で非常

に重要な因子である中距離構造の評価には分光学的手法は不向きである[1]

そこで局所構造や中距離構造を知るために有効な手法として放射光線を用いた構造

解析がある放射光(SR 光)とはシンクロトロンなどの加速器で高速に加速された電子

が進行方向を磁場によって変えられた際に放射する電磁波である[2]エネルギーが高く

(短波長)輝度が高い特性を有している日本国内では兵庫県佐用町の SPring-8や茨城

県つくば市の高エネルギー加速器研究機構佐賀県鳥栖市の佐賀県立九州シンクロトロン

光研究センターなど複数個所に放射光施設が設置されている

放射光を用いたガラスの構造解析には一般的に高エネルギーX 線回折(High Energy

X-ray diffraction HEXRD)が用いられるこの回折実験から高い散乱ベクトル Q(= 4π sinθλ)

まで回折データが得られる多種類の原子から構成される物質の場合はFaber-Ziman 型[3]

の構造因子 S(Q)を用いる以下の式に示すようにFaber-Ziman 型構造因子 S(Q)は同種また

は異種の原子による相関の重み関数付の和として示される例として SiO2ガラスで説明す

ると構造因子 S(Q)は三種類の原子付の S(Q)の重み付の和として表されていることが分か

I(Q) 散乱断面積 ltgt 原子一個当たりの平均値 f(Q) 原子散乱因子 W 重み関数

通常の研究室で使用される X 線回折(XRD)装置で用いられる特性 X 線はCuKα線(λ

= 0154 nm 81 keV)が最も良く用いられより高いエネルギーの X 線が必要な場合は

MoKα線(λ = 0071 nm 175 keV)が使用される一方でSPring-8のビームライン BL04B2

で行われる高エネルギーX 線回折(HEXRD)測定で使用される SR のエネルギーは378 keV

58

~ が使用可能である[2]従ってガラス以外の液体のような非晶質物質にも非常に精度

よく構造解析が行われている[4]

また局所構造解析の一つに X線異常散乱法という測定方法がある[5 6]これは通常

の X 線回折実験では分離不可能な特定元素に関連する部分構造因子(散乱強度曲線)を得

ることができる手法である今回 HEXRD の測定時に使用したエネルギー614 keV では各元

素の異常散乱項のエネルギー依存性は確認されない(Fig 41)その一方でFig 42に示す

Sn の吸収端付近の 292 keV付近ではSnの異常分散項のエネルギー依存性が確認できる

つまりSnの吸収端近傍より低エネルギー(E)側の異なるエネルギーの X線(E1 E2)を

使って散乱強度を測定し各 E における異常分散項(f`)の変化(つまり高い E1 から低い

E2 の散乱強度の差分)を利用して Snに関する部分構造因子を求める構造解析が AXS 法で

あるこの測定法は古くから知られている方法ではあるが装置の測定条件や設備の問

題からなどから使用があまり普及していなかった[5 6]近年になり金属ガラスの構造解

析について徐々に報告が出てきており今後注目される測定法である

HEXRD および AXS 法などから得られたデータ実測の構造因子 S(Q)は一次元の限られ

た構造情報であるためガラスなどの非晶質物質の中距離構造を解明するためにはこれ

らのデータを基に三次元構造を求める必要がある三次元構造モデルの作成には逆モンテ

カルロ(RMC)シミュレーションを使用することが有効である[7]このシミュレーション

は任意で決めたシミュレーションボックス内の粒子をランダムに動かすことで実測の

構造因子 S(Q)を再現する三次元構造モデルを構築する方法である

SP ガラスについては分光学的手法について数多く報告があるが放射光を用いた回折

法はほとんど適用されていないそこで本研究では HEXRD および AXS 法を用いた構造

解析を行うことでSn Nb周りの構造を解明すると共にSNP ガラスの耐水性改善のメカ

ニズムについて考察したまたAXS 法の有効性についても検討した測定を行ったガラ

スはSP ガラスおよび最も耐水性の高かった 67S5N28P を選択した

42 実験方法

421 HEXRD AXS法

HEXRDはSPring-8のビームライン BL04B2 で測定を行ったエネルギー614 keV の X

線を用いた測定サンプルの厚みは09 mm (plusmn0005 mm)になるまで研磨を行った

AXS 測定はSPring-8のビームライン BL13XUを使用した(Fig 43)それぞれの測定し

た X 線のエネルギーについて以下に示す

①Sn K吸収端hellip292 keV near edgehellip291452 keV (-60 eV) far edgehellip289751 keV (-230 eV)

②Nb K吸収端hellip1899 keV near edgehellip189562 keV (-30 eV) far edgehellip187863 keV (-230 eV)

測定に使用したサンプルの厚さが015 - 030 mmとなるまで研磨を施した

SP ガラスについて50S50P 60S40P 67S33P の三組成のガラスを測定した70S30P に関

59

しては測定を試みたが放射光照射によって結晶化してしまいガラス部分の正確な構

造因子を得るための強度補正ができず解析を断念した

422 RMCのモデリング

Table 41 に RMC の各種パラメーターを示す粒子数は約 5000 個でそれに伴う boxの一

辺の長さは約 42 ~ 46 Ǻになった拘束条件にP の配位数が 4になるような条件を付け

加えたFig 44にSn2P2O7結晶および Sn3P2O8結晶の動径分布関数(RDF)をTable 32

にRDFから得られた第一近接距離[8 9] を示すこれらの数値を使用しcutoffを決定し

たNb-O についてはいくつかの文献値を参考にした[10 11]

各ガラスの RMCのモデリングは①HEXRDから得られた S(Q)のみ②S(Q)および AXS

から得られた部分構造因子を加えた場合でそれぞれ計算した

43 結果考察

最初にNbの AXSから得られたデータについて解析を試みたが妥当な構造モデルが得

られなかったためSnの AXSのみで解析を進めたNb2O5の量が 5 molと少量であったた

めあまり精度の高いデータが得られなかったと推測される

431 実測の HEXRDおよび AXSの結果

4311 実測 HEXRDの S(Q)

Fig 45 に実測HEXRDの S(Q)を示す四つの組成ともに実測HEXRDの S(Q)が得られ

Nb2O5添加の 67S5N28P ガラスでは Low Q 側に変化が確認された

4312 実測散乱強度曲線

Fig 46 に Snの散乱強度曲線を示す(a) の 67S33P のこの曲線からはfar edgeおよび

near edge のエネルギー間で差分が見られエネルギーの依存性が確認された50S50P

67S5N28P のガラスについても同じように差分が確認されたが(b)の 60S40P についてのみ

他とは若干異なる結果(緑丸)であったためRMC の構造解析には差分の構造因子ではな

くfar edge near edge 二つの構造因子を用いた

4313 全相関関数 T(r)

Fig 47 に全相関関数 T(r) を示すHEXRD から得られたものを実線でSnの AXS から

得られたものは点線で示し組成ごとに重ねて表示した図中に各ピークについて帰属し

ているがSnの T(r)からはSn-O Sn-P Sn-Snのみのピークを確認した

432 RMCの計算結果および考察

60

構造モデルの一例として67S5N28P ガラスの得られた構造モデルをFig 48に示す水

色の多面体 unitSnON 黄色の多面体 unitPO4 ピンクの多面体 unitNbONである以下

詳細な構造解析の結果および考察を記す

4321 RMCのフィッティング結果

RMCのフィッティング結果の一例として67S33P の HEXRD と Snの AXS の構造因子か

ら得た結果を示す(Fig 49)二つの構造因子を加えて計算した結果においてもHEXRD

の S(Q) AXS の S(Q)に各々に対する良好なフィッティング結果が得られた他の組成も

同様なフィッティング結果が得られた

4322得られた各 pairの平均配位数平均角度平均結合距離

RMCの結果によって得られた各 pairの平均配位数平均角度平均結合距離を Tables 43

に示す上段が HEXRD の S(Q)のみ下段が HEXRD に Sn の AXS の部分構造因子を加え

て結果である最下部は比較のためにSn2P2O7の情報を記載した[8]

P-O pairについてRMCモデル中の PON多面体に関して平均配位数 Nが 4および P-O

の平均結合距離が約 160Å平均結合角度angO-P-O が約 109degという結果が得られた組成

による大きな違いは確認されなかったのはP の配位数が 4になるように拘束条件をかけた

結果であると考えられるSnON多面体についてはSnO量の増加 = OP の増加であり平

均配位数 Nが 3 ~ 35へ増加した平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約

22Åで組成による大きな変化はほとんど見られなかったNb2O5を 5 mol添加したガラ

スではNbON多面体の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平均配位数 N約 4Nb-O 平均結

合距離約 20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O(約 105deg)と値が近いこと

また6配位ではなく 4配位として主に存在していることからSnO と同じような働きをし

ていると推測される

以上の結果からNb2O5添加の耐水性改善の要因として結合距離が Sn-O が約 22Åに対

し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強固にして

いることも一つの要因として考えられる

また67S5N28P ガラスの各多面体モデルを確認すると(Fig 410)P は PO4Snは SnO4

と SnO3Nbは NbO4をそれぞれ再現している

4323得られた各 pairの結合様式

RMC の結果により得られた各 pair の結合様式を Tables 44 に示す上段が HEXRD の

S(Q)のみ下段が HEXRDに Snの AXS の部分構造因子を加えた結果である最下部は比

較のためにSn2P2O7の情報を記載した[8]

結合様式に関してはPO4四面体は他の多面体も含めてほぼ頂点共有で存在している

SnON多面体についてはSnO 量が少ない配位数が 3 に近い場合頂点共有以外の共有の

61

割合も多くSnO 量が増えるにつれて頂点共有が主になり網目形成体として振舞ってい

ると考えられる組成によって平均結合距離や平均角度の大きな変化が見られなかったこ

とから平均配位数が結合様式を決める重要なファクターであるということも考えられる

またHEXRD と AXS 法の結果がほぼ同じであったこれは主成分が SnO のガラスであ

るためHEXRDでも十分に詳細な構造が得られたため大きな変化が現れなかったと考え

られるNbON 多面体はPO4 四面体と SnON 多面体とはほぼ頂点共有で繋がっている以

上の結果よりSnO量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体的に各多面体同士の

頂点共有が増えていることから耐水性の改善には頂点共有を多く含む構造であること

が重要である或いは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的となって

いるということが推測されるFig 411に 67S5N28P ガラスの構造モデルを示す各多面

体はほぼ頂点共有で繋がっていることが確認できる

4324 平均 BO数の比較

Tables 45にNMR Raman RMC(HEXRD) RMC(HEXRD + AXS)の平均BO数を示すRMC

から得られた平均 BO 数 nはNMR Raman と同様に Nb2O5の添加による大幅な減少が確認

されたしかしNMR Raman と比較すると全組成において数値が大きすぎで適当でない

50S50P の構造モデルを観るとPO4四面体間で3配位 O の存在が確認された(Fig 412)た

め実測で得られた n値を再現できるようなPO4四面体モデル間の繋がり方に関する拘束条

件を加えて RMCを計算する必要性があるまた仮に3配位 Oの存在があるとすると電

子状態の変化が生じていることがと示唆されるため分子軌道計算を用いて電子状態解析

を行い確認する必要がある

4325 耐水性の改善について

Nb2O5を添加のガラス構造への影響について①6配位ではなく 4配位として主に存在し

ていることからSnO と同じような働きをしていると推測される②結合距離が Sn-O が約

22Åに対し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強

固にしている③ガラス構造中で全体的に各多面体同士の頂点共有が増えている以上の

ことが判明した以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性

耐候性を改善した要因として考えられる

44 結言

本章では分光学的手法では評価できないガラスの中距離構造局所構造について理解

するために放射光を用いた構造解析を実施しSP ガラスの構造と耐水性改善について考

察したHEXRDおよび AXS法を用いて測定を行い得られたデータを RMCシミュレーシ

ョンにて解析を行った

解析の結果 Sn-O pair については平均配位数 Nが 3 ~ 35でSnO量の増加 = OP の増

62

加に伴い高くなった平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約 22Åであ

ったP-O Sn-Oについては組成による大きな変化はほとんど見られなかった67S5N28P

ガラスの Nb-O pair の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平均配位数約 4Nb-O 平均結合距

離約 20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O(約 105deg)と値が近いことま

た6配位ではなく 4配位として主に存在していることからSnOと同じような働き(網目

形成体)をしていると推測されるまた結合距離が Sn-O が約 22Åに対し Nb-O は約 20

Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強固にしていると言える

SnO 量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体的に各多面体同士の頂点共有が増え

ていることから耐水性の改善には頂点共有を多く含む構造であることが重要である

もしくは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的であることが推測さ

れる以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性耐候性を

改善した要因として考えられる

またAXS 法の有効性についても確認し効果的であることが判明したただし今回

は主成分が Sn の組成のガラスでありHEXRD でも十分に詳細な構造が得られたため

大きな差は現れなかった

参考文献

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63

Fig 41 各原子の異常分散項のエネルギー依存性

Fig 42 Sn の異常分散項のエネルギー依存性

64

Fig 43 SPring-8の BL13XU

65

Tab

le 4

1

RM

Cの各パラメーター

66

Fig 44 Sn2P2O7 Sn3P2O8結晶の RDF

Table 42 Sn2P2O7 Sn3P2O8結晶の各 pairの第一近接距離

67

Fig 45 得られた実測 HEXRDの S(Q)

68

Fig 46 Sn の異常散乱測定により得られた散乱強度のエネルギー依存性

(a)67S33P (b)60S40P

69

Fig 47 全相関関数 T(r)

太線 HEXRD より

細線 Sn の AXSより

70

Fig 48 67S5N28P ガラス構造のモデル

71

Fig 49 RMC フィッティングの結果

72

Tab

le 4

3 各

pairの平均配位数角度結合距離

73

Fig

4

10

67

S5

N2

8Pガラスの各多面体モデル

74

Tab

le 4

4 各

pairの結合様式

75

Fig 411 67S5N28P ガラスの構造モデル

76

Table 45 平均 BO 各数 nの比較

Fig 412 50S50P ガラスの構造モデル

77

第 5章 総括

本研究ではSP ガラスを対象とした本研究では鉛フリー代替ガラスまたは希土類フ

リー蛍光体として SP ガラスの新規高機能化を将来的に目指し問題点であるldquo化学的耐久

性rdquoの改善につながる知見を得ることを目的としたそこでまずSP ガラスを母体ガラ

スとし第三成分に Nb2O5を添加した Sn-Nb-P SNP ガラスZnO を添加した SZP ガラスを

作製し耐水性を中心とした物性評価を行った次に分光学的手法で構造解析を行い

Qn 分布を導き出した最後に放射光を用いた構造解析を行い耐水性改善に関する構造的

な考察を行った以下に本研究で行った検討内容を示す

(1)SPガラスおよび第三成分Nb2O5 ZnOを添加した三成分系SPガラスの物性評価(第 2章)

(2)SP 系ガラスの分光学的手法による Qn分布導出(第 3章)

(3)放射光を用いた SP 系ガラスの構造解析構造と耐水性改善の関連について(第 4章)

各章についてまとめた結果を以下に示す

第 2章

第 2章では二成分系および三成分系のリン酸塩系ガラスの各種物性(密度や熱的特性

耐水性)の評価を行った二成分系ではSP ガラスに加え良好な耐水性を有する鉄リン

酸塩(Fe2O3-P2O5)系ガラス(以下 FP ガラス)を比較のために三成分系では二成分系

の SP ガラスに Nb2O5を添加したニオブ含有 SP ガラス(SNP ガラス)および ZnO を添加し

た亜鉛含有 SP ガラス(SZP ガラス)を作製した

今回作製した SP 系ガラスは低ガラス転移温度を有していた各組成の温度域はSP

ガラスTg le 280 Sn-Nb-P SNPガラスTg le 3505SZP S5ZPガラスTg ≦ 450であった

各種 SP ガラスの耐水性試験の結果二成分系の SP ガラスよりも三成分系ガラスの方が

良好な耐水性を有していた65Sn-5Nb-30P 67S5N28P ガラスが最も耐水性が良好であり化

学的耐久性の改善には Nb2O5が ZnOよりも効果的であった

組成と耐水性に関してはDRおよび重量減がOP増加で単調に低下した結果が得られた

つまり耐水性を改善させるにはSP 系ガラスのガラス化範囲を拡大かつ OP を増大させ

る第三成分の添加が有効であることが示唆された

第 3章

第 3章ではSP 系ガラスの分光学的手法による Qn分布の導出を行ったラマン分光法を

用いて各ガラス系のリン酸塩アニオンの構造を簡易定量で評価し組成と構造の関係に

ついて考察した平均 BO 数 n と耐水性に関してはDR および重量減が平均 BO 数 nの減

少で単調に低下することが明らかとなった

平均 BO 数 n と OP の関係より耐水性改善には平均 BO 数 n を下げることそして

OP を上げることが重要であることが明らかになった

78

Nb5+の添加は平均 BO数を減少させるだけでなくOP も上げることからガラス構造

内の P-O-P 結合を減少させ水和反応加水分解反応が抑制され耐水性が大幅に改善さ

れることが示唆された故にNb2O5 のような高価数金属酸化物を添加することが効果的

であることが再度確認された

第 4章

耐水性向上についてより深く評価するためSP SNP ガラスの局所構造に関する知見を得

ることを目的に放射光を用いた構造解析を行った高エネルギーX 線回折(HEXRD)お

よび X 線異常散乱(AXS)法で測定したデータを再現する構造モデルを逆モンテカルロ

(RMC)シミュレーションで構築し構造解析を行った

RMC モデル中の PON多面体に関して平均配位数 Nが 4および P-O の平均結合距離が約

160Å平均結合角度angO-P-Oが約 109degという結果が得られた組成による大きな違いは確

認されなかったSnON多面体については平均配位数 N が 3~4 でSnO 量の増加に伴い 4

に近い値となった平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約 22Åで組成

による大きな変化は見られなかった

Nb2O5を 5 mol添加したガラスではNbON多面体の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平

均配位数N約4Nb-O平均結合距離約20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O

(約 105deg)と値が近いことまた6配位ではなく 4配位として主に存在していることから

SnO と同じような網目形成体として働いていると推測されたまた結合距離が Sn-O が約

22Åに対し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強

固にしていると考えられるまたSnO 量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体

的に各多面体同士の頂点共有が増えていることから耐水性の改善には頂点共有を多く

含む構造もしくは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的であること

が示唆された以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性

耐候性を改善した要因として考えられる

またAXS 法の有効性についても確認し効果的であることが判明したただし今回

は主成分が Snの組成のガラスでありHEXRD でも十分に詳細な Snの周辺構造が得られ

たためAXSを利用した場合との大きな構造の差は認められなかった

本研究では様々な優れた特徴を有する SP ガラスにおける耐水性改善のメカニズムにつ

いて検討を行ったこの系のガラスについてはこれまでほとんど利用されていなかった

放射光を用いた構造解析を駆使し第三成分の添加によってどのような構造的変化が生じ

耐水性を改善させるか新たな知見を得ることができた最終目標である機能性ガラスの

開発における新たなる材料設計指針の確立に対してldquo耐水性rdquoに関しては概ね明らかにな

ったと考えられる一方で今回検討していな電子状態化学結合性についても評価する

ことで溶出メカニズムの解明が可能になり材料設計指針の確立が期待される

79

発表論文リスト

口頭発表

第 2章および第 3章

(1) SnO-P2O5 系ガラスへの酸化物添加効果

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎

日本セラミックス協会第 25 回秋季シンポジウム No3C06 (名古屋市 2012年 9月)

(2) Effect of Nb2O5 addition to SnO-P2O5 glass (Poster)

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

International Union of Materials Research Societies International Conference on Electronic

Materials IUMRS-ICEM 2012 A-9-P26-003 (Yokohama 2012 年 9月)

(3) スズリン酸塩系ガラスの蛍光特性耐水性に及ばす酸化物の添加効果(ポスター)

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎

日本セラミックス協会 2013 年年会 1P070 (東京 2013年 3月)

第 4章

(1) 放射光を用いたスズリン酸塩ガラスの構造解析

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎小原真二臼杵毅

日本セラミックス協会第 27 回秋季シンポジウム 2B22 (鹿児島市 2014年 9 月)

(2) Structural analysis of tin phosphate glasses by synchrotron radiation (Poster)

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba Shinji Kohara Takeshi Usuki

International Congress on Glass ICG Annual Meeting Bangkok 2015 P14-138 p186 (2015)

発表論文

(1) Effect of Nb2O5 addition to SnO- P2O5 glass

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

Journal of the Ceramic Society of Japan Vol 120 No 11 pp530-533 (2012)

(2) Structural analysis of SnO- P2O5 glass

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

Journal of the Ceramic Society of Japan(準備中)

80

謝辞

本研究を遂行するにあたり終始暖かいご指導ご助言並びにご鞭撻を賜わりました岡

山大学大学院環境生命科学研究科 難波徳郎教授に心より感謝の意を表します

また本研究を遂行するにあたり懇切丁寧なご指導とご意見をしていただいた岡山大

学大学院環境生命科学研究科 紅野安彦准教授環境環理センター 崎田真一助教に心より

感謝いたします

本研究を遂行するにあたりラマン分光測定の使用についてご助言ご教授して頂い

た岡山大学自然科学研究科 藤井達生教授中西真助教に心より感謝の意を表します

Sn のメスバウアー測定の際に協力して頂いた岡山大学自然科学研究科先端自然科学教

育研究推進本部高田研究室 松本修治特任助教(当時旭硝子株式会社中央研究所)また

Feのメスバウアーを測定の際に協力して頂いた岡山大学自然科学研究科 藤井達生教授に

心より感謝の意を表します

固体 NMR の岡山大学自然科学研究科 早川聡教授に心より感謝の意を表します

本研究を遂行するにあたりSPring-8 にてHEXRD および AXS 法の測定法および原理

についてご教示頂きました物質材料研究機構 小原真司博士ならびに山形大学 臼杵毅

教授に心より感謝の意を表します

本研究は多くの後輩諸君の協力によって遂行されました特に実際に共同研究共同

実験を遂行して頂いたOG 藤原沙弥香さん博士前期課程 2 年 東利彦君OB 徳岡太誠

君学士課程 4年 塩田将大君に心より感謝の意を表しますまた難波研究室で共に研

究生活を過ごした卒業生在学生の方々に感謝の意を表します

また同時期に博士後期課程に在籍された香川高等専門学校の桟敷剛さんにはNbに

関する有益な情報だけでなく辛い状況でも励ましを頂きました心より感謝の意を表し

ます

最後に長きに渡る学生生活を認め経済面だけでなく精神面でも支援してくださった

家族に心より深く感謝の意を表します

平成 28年 3月

福井 聡史

Page 48: 博士論文 スズリン酸塩系ガラスの物性と構造解析ousar.lib.okayama-u.ac.jp/files/public/5/54353/...博士論文 スズリン酸塩系ガラスの物性と構造解析

45

(2005)

[5] H Takebe Y Baba and M Kuwabara J Non-Cryst Solids 352 3088-3094 (2004)

[6] 服部敏明 綾瀬守 川口建 吉野明広編機器分析ナビ 化学同人(2006)

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[12] D Holland A P Howes M E Smith and A C Hannon J Phys Condens Matter 14

13609-13621 (2002)

46

Fig 31 SP ガラスのラマンスペクトル

47

Fig 32 Sn-Nb-P ガラスのラマンスペクトル

48

Fig 33 SNP ガラスのラマンスペクトル

49

Fig 34 SZP ガラスのラマンスペクトル

50

Fig 35 FP ガラスのラマンスペクトル

51

Fig 36 ラマンスペクトルのピーク分離例(67S5N28P)

Raman Shift (cm-1)

52

Fig 37 NMRスペクトル

Table 31 NMR およびラマン分光より得られた SP 67S5N28P ガラスの

Qn分布および平均 BO数 n

53

Table 32 各ガラスのラマンスペクトルより求めた Qn分布結果

(表の赤線より右側の結果は Table 22 より)

1 仕込み組成による数値

2 Fig 2212 に示した析出物を取り除いた後の数値

54

Fig 38 DR と平均 BO数 nの関係性

55

Fig 39 重量減と平均 BO数 nの関係性

56

Fig 310 OP と平均 BO数 nの関係性

Meta

Pyro

Ortho

57

第 4章 放射光を用いたスズリン酸塩系ガラスの構造解析

41 緒言

前章の第 3 章にてラマン分光法を用いて SP 系ガラスの構造解析により Qn分布を導き

出したことで耐水性と構造の関係についてある程度関連性を導くことができたリン

酸アニオンについてはQ0(orthophosphate)構造 gt Q

1(pyrophosphate)構造 gt Q2

(metaphosphate)構造の順で良耐水性となるしかしSn Nbおよび Znの局所構造につ

いては知見が得られていないラマン分光や IR分光などの分光学的手法を用いてSnや

Nb Zn の周辺の局所構造を知るには限界があるまたガラスの構造解析を行う上で非常

に重要な因子である中距離構造の評価には分光学的手法は不向きである[1]

そこで局所構造や中距離構造を知るために有効な手法として放射光線を用いた構造

解析がある放射光(SR 光)とはシンクロトロンなどの加速器で高速に加速された電子

が進行方向を磁場によって変えられた際に放射する電磁波である[2]エネルギーが高く

(短波長)輝度が高い特性を有している日本国内では兵庫県佐用町の SPring-8や茨城

県つくば市の高エネルギー加速器研究機構佐賀県鳥栖市の佐賀県立九州シンクロトロン

光研究センターなど複数個所に放射光施設が設置されている

放射光を用いたガラスの構造解析には一般的に高エネルギーX 線回折(High Energy

X-ray diffraction HEXRD)が用いられるこの回折実験から高い散乱ベクトル Q(= 4π sinθλ)

まで回折データが得られる多種類の原子から構成される物質の場合はFaber-Ziman 型[3]

の構造因子 S(Q)を用いる以下の式に示すようにFaber-Ziman 型構造因子 S(Q)は同種また

は異種の原子による相関の重み関数付の和として示される例として SiO2ガラスで説明す

ると構造因子 S(Q)は三種類の原子付の S(Q)の重み付の和として表されていることが分か

I(Q) 散乱断面積 ltgt 原子一個当たりの平均値 f(Q) 原子散乱因子 W 重み関数

通常の研究室で使用される X 線回折(XRD)装置で用いられる特性 X 線はCuKα線(λ

= 0154 nm 81 keV)が最も良く用いられより高いエネルギーの X 線が必要な場合は

MoKα線(λ = 0071 nm 175 keV)が使用される一方でSPring-8のビームライン BL04B2

で行われる高エネルギーX 線回折(HEXRD)測定で使用される SR のエネルギーは378 keV

58

~ が使用可能である[2]従ってガラス以外の液体のような非晶質物質にも非常に精度

よく構造解析が行われている[4]

また局所構造解析の一つに X線異常散乱法という測定方法がある[5 6]これは通常

の X 線回折実験では分離不可能な特定元素に関連する部分構造因子(散乱強度曲線)を得

ることができる手法である今回 HEXRD の測定時に使用したエネルギー614 keV では各元

素の異常散乱項のエネルギー依存性は確認されない(Fig 41)その一方でFig 42に示す

Sn の吸収端付近の 292 keV付近ではSnの異常分散項のエネルギー依存性が確認できる

つまりSnの吸収端近傍より低エネルギー(E)側の異なるエネルギーの X線(E1 E2)を

使って散乱強度を測定し各 E における異常分散項(f`)の変化(つまり高い E1 から低い

E2 の散乱強度の差分)を利用して Snに関する部分構造因子を求める構造解析が AXS 法で

あるこの測定法は古くから知られている方法ではあるが装置の測定条件や設備の問

題からなどから使用があまり普及していなかった[5 6]近年になり金属ガラスの構造解

析について徐々に報告が出てきており今後注目される測定法である

HEXRD および AXS 法などから得られたデータ実測の構造因子 S(Q)は一次元の限られ

た構造情報であるためガラスなどの非晶質物質の中距離構造を解明するためにはこれ

らのデータを基に三次元構造を求める必要がある三次元構造モデルの作成には逆モンテ

カルロ(RMC)シミュレーションを使用することが有効である[7]このシミュレーション

は任意で決めたシミュレーションボックス内の粒子をランダムに動かすことで実測の

構造因子 S(Q)を再現する三次元構造モデルを構築する方法である

SP ガラスについては分光学的手法について数多く報告があるが放射光を用いた回折

法はほとんど適用されていないそこで本研究では HEXRD および AXS 法を用いた構造

解析を行うことでSn Nb周りの構造を解明すると共にSNP ガラスの耐水性改善のメカ

ニズムについて考察したまたAXS 法の有効性についても検討した測定を行ったガラ

スはSP ガラスおよび最も耐水性の高かった 67S5N28P を選択した

42 実験方法

421 HEXRD AXS法

HEXRDはSPring-8のビームライン BL04B2 で測定を行ったエネルギー614 keV の X

線を用いた測定サンプルの厚みは09 mm (plusmn0005 mm)になるまで研磨を行った

AXS 測定はSPring-8のビームライン BL13XUを使用した(Fig 43)それぞれの測定し

た X 線のエネルギーについて以下に示す

①Sn K吸収端hellip292 keV near edgehellip291452 keV (-60 eV) far edgehellip289751 keV (-230 eV)

②Nb K吸収端hellip1899 keV near edgehellip189562 keV (-30 eV) far edgehellip187863 keV (-230 eV)

測定に使用したサンプルの厚さが015 - 030 mmとなるまで研磨を施した

SP ガラスについて50S50P 60S40P 67S33P の三組成のガラスを測定した70S30P に関

59

しては測定を試みたが放射光照射によって結晶化してしまいガラス部分の正確な構

造因子を得るための強度補正ができず解析を断念した

422 RMCのモデリング

Table 41 に RMC の各種パラメーターを示す粒子数は約 5000 個でそれに伴う boxの一

辺の長さは約 42 ~ 46 Ǻになった拘束条件にP の配位数が 4になるような条件を付け

加えたFig 44にSn2P2O7結晶および Sn3P2O8結晶の動径分布関数(RDF)をTable 32

にRDFから得られた第一近接距離[8 9] を示すこれらの数値を使用しcutoffを決定し

たNb-O についてはいくつかの文献値を参考にした[10 11]

各ガラスの RMCのモデリングは①HEXRDから得られた S(Q)のみ②S(Q)および AXS

から得られた部分構造因子を加えた場合でそれぞれ計算した

43 結果考察

最初にNbの AXSから得られたデータについて解析を試みたが妥当な構造モデルが得

られなかったためSnの AXSのみで解析を進めたNb2O5の量が 5 molと少量であったた

めあまり精度の高いデータが得られなかったと推測される

431 実測の HEXRDおよび AXSの結果

4311 実測 HEXRDの S(Q)

Fig 45 に実測HEXRDの S(Q)を示す四つの組成ともに実測HEXRDの S(Q)が得られ

Nb2O5添加の 67S5N28P ガラスでは Low Q 側に変化が確認された

4312 実測散乱強度曲線

Fig 46 に Snの散乱強度曲線を示す(a) の 67S33P のこの曲線からはfar edgeおよび

near edge のエネルギー間で差分が見られエネルギーの依存性が確認された50S50P

67S5N28P のガラスについても同じように差分が確認されたが(b)の 60S40P についてのみ

他とは若干異なる結果(緑丸)であったためRMC の構造解析には差分の構造因子ではな

くfar edge near edge 二つの構造因子を用いた

4313 全相関関数 T(r)

Fig 47 に全相関関数 T(r) を示すHEXRD から得られたものを実線でSnの AXS から

得られたものは点線で示し組成ごとに重ねて表示した図中に各ピークについて帰属し

ているがSnの T(r)からはSn-O Sn-P Sn-Snのみのピークを確認した

432 RMCの計算結果および考察

60

構造モデルの一例として67S5N28P ガラスの得られた構造モデルをFig 48に示す水

色の多面体 unitSnON 黄色の多面体 unitPO4 ピンクの多面体 unitNbONである以下

詳細な構造解析の結果および考察を記す

4321 RMCのフィッティング結果

RMCのフィッティング結果の一例として67S33P の HEXRD と Snの AXS の構造因子か

ら得た結果を示す(Fig 49)二つの構造因子を加えて計算した結果においてもHEXRD

の S(Q) AXS の S(Q)に各々に対する良好なフィッティング結果が得られた他の組成も

同様なフィッティング結果が得られた

4322得られた各 pairの平均配位数平均角度平均結合距離

RMCの結果によって得られた各 pairの平均配位数平均角度平均結合距離を Tables 43

に示す上段が HEXRD の S(Q)のみ下段が HEXRD に Sn の AXS の部分構造因子を加え

て結果である最下部は比較のためにSn2P2O7の情報を記載した[8]

P-O pairについてRMCモデル中の PON多面体に関して平均配位数 Nが 4および P-O

の平均結合距離が約 160Å平均結合角度angO-P-O が約 109degという結果が得られた組成

による大きな違いは確認されなかったのはP の配位数が 4になるように拘束条件をかけた

結果であると考えられるSnON多面体についてはSnO量の増加 = OP の増加であり平

均配位数 Nが 3 ~ 35へ増加した平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約

22Åで組成による大きな変化はほとんど見られなかったNb2O5を 5 mol添加したガラ

スではNbON多面体の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平均配位数 N約 4Nb-O 平均結

合距離約 20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O(約 105deg)と値が近いこと

また6配位ではなく 4配位として主に存在していることからSnO と同じような働きをし

ていると推測される

以上の結果からNb2O5添加の耐水性改善の要因として結合距離が Sn-O が約 22Åに対

し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強固にして

いることも一つの要因として考えられる

また67S5N28P ガラスの各多面体モデルを確認すると(Fig 410)P は PO4Snは SnO4

と SnO3Nbは NbO4をそれぞれ再現している

4323得られた各 pairの結合様式

RMC の結果により得られた各 pair の結合様式を Tables 44 に示す上段が HEXRD の

S(Q)のみ下段が HEXRDに Snの AXS の部分構造因子を加えた結果である最下部は比

較のためにSn2P2O7の情報を記載した[8]

結合様式に関してはPO4四面体は他の多面体も含めてほぼ頂点共有で存在している

SnON多面体についてはSnO 量が少ない配位数が 3 に近い場合頂点共有以外の共有の

61

割合も多くSnO 量が増えるにつれて頂点共有が主になり網目形成体として振舞ってい

ると考えられる組成によって平均結合距離や平均角度の大きな変化が見られなかったこ

とから平均配位数が結合様式を決める重要なファクターであるということも考えられる

またHEXRD と AXS 法の結果がほぼ同じであったこれは主成分が SnO のガラスであ

るためHEXRDでも十分に詳細な構造が得られたため大きな変化が現れなかったと考え

られるNbON 多面体はPO4 四面体と SnON 多面体とはほぼ頂点共有で繋がっている以

上の結果よりSnO量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体的に各多面体同士の

頂点共有が増えていることから耐水性の改善には頂点共有を多く含む構造であること

が重要である或いは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的となって

いるということが推測されるFig 411に 67S5N28P ガラスの構造モデルを示す各多面

体はほぼ頂点共有で繋がっていることが確認できる

4324 平均 BO数の比較

Tables 45にNMR Raman RMC(HEXRD) RMC(HEXRD + AXS)の平均BO数を示すRMC

から得られた平均 BO 数 nはNMR Raman と同様に Nb2O5の添加による大幅な減少が確認

されたしかしNMR Raman と比較すると全組成において数値が大きすぎで適当でない

50S50P の構造モデルを観るとPO4四面体間で3配位 O の存在が確認された(Fig 412)た

め実測で得られた n値を再現できるようなPO4四面体モデル間の繋がり方に関する拘束条

件を加えて RMCを計算する必要性があるまた仮に3配位 Oの存在があるとすると電

子状態の変化が生じていることがと示唆されるため分子軌道計算を用いて電子状態解析

を行い確認する必要がある

4325 耐水性の改善について

Nb2O5を添加のガラス構造への影響について①6配位ではなく 4配位として主に存在し

ていることからSnO と同じような働きをしていると推測される②結合距離が Sn-O が約

22Åに対し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強

固にしている③ガラス構造中で全体的に各多面体同士の頂点共有が増えている以上の

ことが判明した以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性

耐候性を改善した要因として考えられる

44 結言

本章では分光学的手法では評価できないガラスの中距離構造局所構造について理解

するために放射光を用いた構造解析を実施しSP ガラスの構造と耐水性改善について考

察したHEXRDおよび AXS法を用いて測定を行い得られたデータを RMCシミュレーシ

ョンにて解析を行った

解析の結果 Sn-O pair については平均配位数 Nが 3 ~ 35でSnO量の増加 = OP の増

62

加に伴い高くなった平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約 22Åであ

ったP-O Sn-Oについては組成による大きな変化はほとんど見られなかった67S5N28P

ガラスの Nb-O pair の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平均配位数約 4Nb-O 平均結合距

離約 20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O(約 105deg)と値が近いことま

た6配位ではなく 4配位として主に存在していることからSnOと同じような働き(網目

形成体)をしていると推測されるまた結合距離が Sn-O が約 22Åに対し Nb-O は約 20

Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強固にしていると言える

SnO 量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体的に各多面体同士の頂点共有が増え

ていることから耐水性の改善には頂点共有を多く含む構造であることが重要である

もしくは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的であることが推測さ

れる以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性耐候性を

改善した要因として考えられる

またAXS 法の有効性についても確認し効果的であることが判明したただし今回

は主成分が Sn の組成のガラスでありHEXRD でも十分に詳細な構造が得られたため

大きな差は現れなかった

参考文献

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63

Fig 41 各原子の異常分散項のエネルギー依存性

Fig 42 Sn の異常分散項のエネルギー依存性

64

Fig 43 SPring-8の BL13XU

65

Tab

le 4

1

RM

Cの各パラメーター

66

Fig 44 Sn2P2O7 Sn3P2O8結晶の RDF

Table 42 Sn2P2O7 Sn3P2O8結晶の各 pairの第一近接距離

67

Fig 45 得られた実測 HEXRDの S(Q)

68

Fig 46 Sn の異常散乱測定により得られた散乱強度のエネルギー依存性

(a)67S33P (b)60S40P

69

Fig 47 全相関関数 T(r)

太線 HEXRD より

細線 Sn の AXSより

70

Fig 48 67S5N28P ガラス構造のモデル

71

Fig 49 RMC フィッティングの結果

72

Tab

le 4

3 各

pairの平均配位数角度結合距離

73

Fig

4

10

67

S5

N2

8Pガラスの各多面体モデル

74

Tab

le 4

4 各

pairの結合様式

75

Fig 411 67S5N28P ガラスの構造モデル

76

Table 45 平均 BO 各数 nの比較

Fig 412 50S50P ガラスの構造モデル

77

第 5章 総括

本研究ではSP ガラスを対象とした本研究では鉛フリー代替ガラスまたは希土類フ

リー蛍光体として SP ガラスの新規高機能化を将来的に目指し問題点であるldquo化学的耐久

性rdquoの改善につながる知見を得ることを目的としたそこでまずSP ガラスを母体ガラ

スとし第三成分に Nb2O5を添加した Sn-Nb-P SNP ガラスZnO を添加した SZP ガラスを

作製し耐水性を中心とした物性評価を行った次に分光学的手法で構造解析を行い

Qn 分布を導き出した最後に放射光を用いた構造解析を行い耐水性改善に関する構造的

な考察を行った以下に本研究で行った検討内容を示す

(1)SPガラスおよび第三成分Nb2O5 ZnOを添加した三成分系SPガラスの物性評価(第 2章)

(2)SP 系ガラスの分光学的手法による Qn分布導出(第 3章)

(3)放射光を用いた SP 系ガラスの構造解析構造と耐水性改善の関連について(第 4章)

各章についてまとめた結果を以下に示す

第 2章

第 2章では二成分系および三成分系のリン酸塩系ガラスの各種物性(密度や熱的特性

耐水性)の評価を行った二成分系ではSP ガラスに加え良好な耐水性を有する鉄リン

酸塩(Fe2O3-P2O5)系ガラス(以下 FP ガラス)を比較のために三成分系では二成分系

の SP ガラスに Nb2O5を添加したニオブ含有 SP ガラス(SNP ガラス)および ZnO を添加し

た亜鉛含有 SP ガラス(SZP ガラス)を作製した

今回作製した SP 系ガラスは低ガラス転移温度を有していた各組成の温度域はSP

ガラスTg le 280 Sn-Nb-P SNPガラスTg le 3505SZP S5ZPガラスTg ≦ 450であった

各種 SP ガラスの耐水性試験の結果二成分系の SP ガラスよりも三成分系ガラスの方が

良好な耐水性を有していた65Sn-5Nb-30P 67S5N28P ガラスが最も耐水性が良好であり化

学的耐久性の改善には Nb2O5が ZnOよりも効果的であった

組成と耐水性に関してはDRおよび重量減がOP増加で単調に低下した結果が得られた

つまり耐水性を改善させるにはSP 系ガラスのガラス化範囲を拡大かつ OP を増大させ

る第三成分の添加が有効であることが示唆された

第 3章

第 3章ではSP 系ガラスの分光学的手法による Qn分布の導出を行ったラマン分光法を

用いて各ガラス系のリン酸塩アニオンの構造を簡易定量で評価し組成と構造の関係に

ついて考察した平均 BO 数 n と耐水性に関してはDR および重量減が平均 BO 数 nの減

少で単調に低下することが明らかとなった

平均 BO 数 n と OP の関係より耐水性改善には平均 BO 数 n を下げることそして

OP を上げることが重要であることが明らかになった

78

Nb5+の添加は平均 BO数を減少させるだけでなくOP も上げることからガラス構造

内の P-O-P 結合を減少させ水和反応加水分解反応が抑制され耐水性が大幅に改善さ

れることが示唆された故にNb2O5 のような高価数金属酸化物を添加することが効果的

であることが再度確認された

第 4章

耐水性向上についてより深く評価するためSP SNP ガラスの局所構造に関する知見を得

ることを目的に放射光を用いた構造解析を行った高エネルギーX 線回折(HEXRD)お

よび X 線異常散乱(AXS)法で測定したデータを再現する構造モデルを逆モンテカルロ

(RMC)シミュレーションで構築し構造解析を行った

RMC モデル中の PON多面体に関して平均配位数 Nが 4および P-O の平均結合距離が約

160Å平均結合角度angO-P-Oが約 109degという結果が得られた組成による大きな違いは確

認されなかったSnON多面体については平均配位数 N が 3~4 でSnO 量の増加に伴い 4

に近い値となった平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約 22Åで組成

による大きな変化は見られなかった

Nb2O5を 5 mol添加したガラスではNbON多面体の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平

均配位数N約4Nb-O平均結合距離約20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O

(約 105deg)と値が近いことまた6配位ではなく 4配位として主に存在していることから

SnO と同じような網目形成体として働いていると推測されたまた結合距離が Sn-O が約

22Åに対し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強

固にしていると考えられるまたSnO 量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体

的に各多面体同士の頂点共有が増えていることから耐水性の改善には頂点共有を多く

含む構造もしくは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的であること

が示唆された以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性

耐候性を改善した要因として考えられる

またAXS 法の有効性についても確認し効果的であることが判明したただし今回

は主成分が Snの組成のガラスでありHEXRD でも十分に詳細な Snの周辺構造が得られ

たためAXSを利用した場合との大きな構造の差は認められなかった

本研究では様々な優れた特徴を有する SP ガラスにおける耐水性改善のメカニズムにつ

いて検討を行ったこの系のガラスについてはこれまでほとんど利用されていなかった

放射光を用いた構造解析を駆使し第三成分の添加によってどのような構造的変化が生じ

耐水性を改善させるか新たな知見を得ることができた最終目標である機能性ガラスの

開発における新たなる材料設計指針の確立に対してldquo耐水性rdquoに関しては概ね明らかにな

ったと考えられる一方で今回検討していな電子状態化学結合性についても評価する

ことで溶出メカニズムの解明が可能になり材料設計指針の確立が期待される

79

発表論文リスト

口頭発表

第 2章および第 3章

(1) SnO-P2O5 系ガラスへの酸化物添加効果

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎

日本セラミックス協会第 25 回秋季シンポジウム No3C06 (名古屋市 2012年 9月)

(2) Effect of Nb2O5 addition to SnO-P2O5 glass (Poster)

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

International Union of Materials Research Societies International Conference on Electronic

Materials IUMRS-ICEM 2012 A-9-P26-003 (Yokohama 2012 年 9月)

(3) スズリン酸塩系ガラスの蛍光特性耐水性に及ばす酸化物の添加効果(ポスター)

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎

日本セラミックス協会 2013 年年会 1P070 (東京 2013年 3月)

第 4章

(1) 放射光を用いたスズリン酸塩ガラスの構造解析

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎小原真二臼杵毅

日本セラミックス協会第 27 回秋季シンポジウム 2B22 (鹿児島市 2014年 9 月)

(2) Structural analysis of tin phosphate glasses by synchrotron radiation (Poster)

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba Shinji Kohara Takeshi Usuki

International Congress on Glass ICG Annual Meeting Bangkok 2015 P14-138 p186 (2015)

発表論文

(1) Effect of Nb2O5 addition to SnO- P2O5 glass

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

Journal of the Ceramic Society of Japan Vol 120 No 11 pp530-533 (2012)

(2) Structural analysis of SnO- P2O5 glass

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

Journal of the Ceramic Society of Japan(準備中)

80

謝辞

本研究を遂行するにあたり終始暖かいご指導ご助言並びにご鞭撻を賜わりました岡

山大学大学院環境生命科学研究科 難波徳郎教授に心より感謝の意を表します

また本研究を遂行するにあたり懇切丁寧なご指導とご意見をしていただいた岡山大

学大学院環境生命科学研究科 紅野安彦准教授環境環理センター 崎田真一助教に心より

感謝いたします

本研究を遂行するにあたりラマン分光測定の使用についてご助言ご教授して頂い

た岡山大学自然科学研究科 藤井達生教授中西真助教に心より感謝の意を表します

Sn のメスバウアー測定の際に協力して頂いた岡山大学自然科学研究科先端自然科学教

育研究推進本部高田研究室 松本修治特任助教(当時旭硝子株式会社中央研究所)また

Feのメスバウアーを測定の際に協力して頂いた岡山大学自然科学研究科 藤井達生教授に

心より感謝の意を表します

固体 NMR の岡山大学自然科学研究科 早川聡教授に心より感謝の意を表します

本研究を遂行するにあたりSPring-8 にてHEXRD および AXS 法の測定法および原理

についてご教示頂きました物質材料研究機構 小原真司博士ならびに山形大学 臼杵毅

教授に心より感謝の意を表します

本研究は多くの後輩諸君の協力によって遂行されました特に実際に共同研究共同

実験を遂行して頂いたOG 藤原沙弥香さん博士前期課程 2 年 東利彦君OB 徳岡太誠

君学士課程 4年 塩田将大君に心より感謝の意を表しますまた難波研究室で共に研

究生活を過ごした卒業生在学生の方々に感謝の意を表します

また同時期に博士後期課程に在籍された香川高等専門学校の桟敷剛さんにはNbに

関する有益な情報だけでなく辛い状況でも励ましを頂きました心より感謝の意を表し

ます

最後に長きに渡る学生生活を認め経済面だけでなく精神面でも支援してくださった

家族に心より深く感謝の意を表します

平成 28年 3月

福井 聡史

Page 49: 博士論文 スズリン酸塩系ガラスの物性と構造解析ousar.lib.okayama-u.ac.jp/files/public/5/54353/...博士論文 スズリン酸塩系ガラスの物性と構造解析

46

Fig 31 SP ガラスのラマンスペクトル

47

Fig 32 Sn-Nb-P ガラスのラマンスペクトル

48

Fig 33 SNP ガラスのラマンスペクトル

49

Fig 34 SZP ガラスのラマンスペクトル

50

Fig 35 FP ガラスのラマンスペクトル

51

Fig 36 ラマンスペクトルのピーク分離例(67S5N28P)

Raman Shift (cm-1)

52

Fig 37 NMRスペクトル

Table 31 NMR およびラマン分光より得られた SP 67S5N28P ガラスの

Qn分布および平均 BO数 n

53

Table 32 各ガラスのラマンスペクトルより求めた Qn分布結果

(表の赤線より右側の結果は Table 22 より)

1 仕込み組成による数値

2 Fig 2212 に示した析出物を取り除いた後の数値

54

Fig 38 DR と平均 BO数 nの関係性

55

Fig 39 重量減と平均 BO数 nの関係性

56

Fig 310 OP と平均 BO数 nの関係性

Meta

Pyro

Ortho

57

第 4章 放射光を用いたスズリン酸塩系ガラスの構造解析

41 緒言

前章の第 3 章にてラマン分光法を用いて SP 系ガラスの構造解析により Qn分布を導き

出したことで耐水性と構造の関係についてある程度関連性を導くことができたリン

酸アニオンについてはQ0(orthophosphate)構造 gt Q

1(pyrophosphate)構造 gt Q2

(metaphosphate)構造の順で良耐水性となるしかしSn Nbおよび Znの局所構造につ

いては知見が得られていないラマン分光や IR分光などの分光学的手法を用いてSnや

Nb Zn の周辺の局所構造を知るには限界があるまたガラスの構造解析を行う上で非常

に重要な因子である中距離構造の評価には分光学的手法は不向きである[1]

そこで局所構造や中距離構造を知るために有効な手法として放射光線を用いた構造

解析がある放射光(SR 光)とはシンクロトロンなどの加速器で高速に加速された電子

が進行方向を磁場によって変えられた際に放射する電磁波である[2]エネルギーが高く

(短波長)輝度が高い特性を有している日本国内では兵庫県佐用町の SPring-8や茨城

県つくば市の高エネルギー加速器研究機構佐賀県鳥栖市の佐賀県立九州シンクロトロン

光研究センターなど複数個所に放射光施設が設置されている

放射光を用いたガラスの構造解析には一般的に高エネルギーX 線回折(High Energy

X-ray diffraction HEXRD)が用いられるこの回折実験から高い散乱ベクトル Q(= 4π sinθλ)

まで回折データが得られる多種類の原子から構成される物質の場合はFaber-Ziman 型[3]

の構造因子 S(Q)を用いる以下の式に示すようにFaber-Ziman 型構造因子 S(Q)は同種また

は異種の原子による相関の重み関数付の和として示される例として SiO2ガラスで説明す

ると構造因子 S(Q)は三種類の原子付の S(Q)の重み付の和として表されていることが分か

I(Q) 散乱断面積 ltgt 原子一個当たりの平均値 f(Q) 原子散乱因子 W 重み関数

通常の研究室で使用される X 線回折(XRD)装置で用いられる特性 X 線はCuKα線(λ

= 0154 nm 81 keV)が最も良く用いられより高いエネルギーの X 線が必要な場合は

MoKα線(λ = 0071 nm 175 keV)が使用される一方でSPring-8のビームライン BL04B2

で行われる高エネルギーX 線回折(HEXRD)測定で使用される SR のエネルギーは378 keV

58

~ が使用可能である[2]従ってガラス以外の液体のような非晶質物質にも非常に精度

よく構造解析が行われている[4]

また局所構造解析の一つに X線異常散乱法という測定方法がある[5 6]これは通常

の X 線回折実験では分離不可能な特定元素に関連する部分構造因子(散乱強度曲線)を得

ることができる手法である今回 HEXRD の測定時に使用したエネルギー614 keV では各元

素の異常散乱項のエネルギー依存性は確認されない(Fig 41)その一方でFig 42に示す

Sn の吸収端付近の 292 keV付近ではSnの異常分散項のエネルギー依存性が確認できる

つまりSnの吸収端近傍より低エネルギー(E)側の異なるエネルギーの X線(E1 E2)を

使って散乱強度を測定し各 E における異常分散項(f`)の変化(つまり高い E1 から低い

E2 の散乱強度の差分)を利用して Snに関する部分構造因子を求める構造解析が AXS 法で

あるこの測定法は古くから知られている方法ではあるが装置の測定条件や設備の問

題からなどから使用があまり普及していなかった[5 6]近年になり金属ガラスの構造解

析について徐々に報告が出てきており今後注目される測定法である

HEXRD および AXS 法などから得られたデータ実測の構造因子 S(Q)は一次元の限られ

た構造情報であるためガラスなどの非晶質物質の中距離構造を解明するためにはこれ

らのデータを基に三次元構造を求める必要がある三次元構造モデルの作成には逆モンテ

カルロ(RMC)シミュレーションを使用することが有効である[7]このシミュレーション

は任意で決めたシミュレーションボックス内の粒子をランダムに動かすことで実測の

構造因子 S(Q)を再現する三次元構造モデルを構築する方法である

SP ガラスについては分光学的手法について数多く報告があるが放射光を用いた回折

法はほとんど適用されていないそこで本研究では HEXRD および AXS 法を用いた構造

解析を行うことでSn Nb周りの構造を解明すると共にSNP ガラスの耐水性改善のメカ

ニズムについて考察したまたAXS 法の有効性についても検討した測定を行ったガラ

スはSP ガラスおよび最も耐水性の高かった 67S5N28P を選択した

42 実験方法

421 HEXRD AXS法

HEXRDはSPring-8のビームライン BL04B2 で測定を行ったエネルギー614 keV の X

線を用いた測定サンプルの厚みは09 mm (plusmn0005 mm)になるまで研磨を行った

AXS 測定はSPring-8のビームライン BL13XUを使用した(Fig 43)それぞれの測定し

た X 線のエネルギーについて以下に示す

①Sn K吸収端hellip292 keV near edgehellip291452 keV (-60 eV) far edgehellip289751 keV (-230 eV)

②Nb K吸収端hellip1899 keV near edgehellip189562 keV (-30 eV) far edgehellip187863 keV (-230 eV)

測定に使用したサンプルの厚さが015 - 030 mmとなるまで研磨を施した

SP ガラスについて50S50P 60S40P 67S33P の三組成のガラスを測定した70S30P に関

59

しては測定を試みたが放射光照射によって結晶化してしまいガラス部分の正確な構

造因子を得るための強度補正ができず解析を断念した

422 RMCのモデリング

Table 41 に RMC の各種パラメーターを示す粒子数は約 5000 個でそれに伴う boxの一

辺の長さは約 42 ~ 46 Ǻになった拘束条件にP の配位数が 4になるような条件を付け

加えたFig 44にSn2P2O7結晶および Sn3P2O8結晶の動径分布関数(RDF)をTable 32

にRDFから得られた第一近接距離[8 9] を示すこれらの数値を使用しcutoffを決定し

たNb-O についてはいくつかの文献値を参考にした[10 11]

各ガラスの RMCのモデリングは①HEXRDから得られた S(Q)のみ②S(Q)および AXS

から得られた部分構造因子を加えた場合でそれぞれ計算した

43 結果考察

最初にNbの AXSから得られたデータについて解析を試みたが妥当な構造モデルが得

られなかったためSnの AXSのみで解析を進めたNb2O5の量が 5 molと少量であったた

めあまり精度の高いデータが得られなかったと推測される

431 実測の HEXRDおよび AXSの結果

4311 実測 HEXRDの S(Q)

Fig 45 に実測HEXRDの S(Q)を示す四つの組成ともに実測HEXRDの S(Q)が得られ

Nb2O5添加の 67S5N28P ガラスでは Low Q 側に変化が確認された

4312 実測散乱強度曲線

Fig 46 に Snの散乱強度曲線を示す(a) の 67S33P のこの曲線からはfar edgeおよび

near edge のエネルギー間で差分が見られエネルギーの依存性が確認された50S50P

67S5N28P のガラスについても同じように差分が確認されたが(b)の 60S40P についてのみ

他とは若干異なる結果(緑丸)であったためRMC の構造解析には差分の構造因子ではな

くfar edge near edge 二つの構造因子を用いた

4313 全相関関数 T(r)

Fig 47 に全相関関数 T(r) を示すHEXRD から得られたものを実線でSnの AXS から

得られたものは点線で示し組成ごとに重ねて表示した図中に各ピークについて帰属し

ているがSnの T(r)からはSn-O Sn-P Sn-Snのみのピークを確認した

432 RMCの計算結果および考察

60

構造モデルの一例として67S5N28P ガラスの得られた構造モデルをFig 48に示す水

色の多面体 unitSnON 黄色の多面体 unitPO4 ピンクの多面体 unitNbONである以下

詳細な構造解析の結果および考察を記す

4321 RMCのフィッティング結果

RMCのフィッティング結果の一例として67S33P の HEXRD と Snの AXS の構造因子か

ら得た結果を示す(Fig 49)二つの構造因子を加えて計算した結果においてもHEXRD

の S(Q) AXS の S(Q)に各々に対する良好なフィッティング結果が得られた他の組成も

同様なフィッティング結果が得られた

4322得られた各 pairの平均配位数平均角度平均結合距離

RMCの結果によって得られた各 pairの平均配位数平均角度平均結合距離を Tables 43

に示す上段が HEXRD の S(Q)のみ下段が HEXRD に Sn の AXS の部分構造因子を加え

て結果である最下部は比較のためにSn2P2O7の情報を記載した[8]

P-O pairについてRMCモデル中の PON多面体に関して平均配位数 Nが 4および P-O

の平均結合距離が約 160Å平均結合角度angO-P-O が約 109degという結果が得られた組成

による大きな違いは確認されなかったのはP の配位数が 4になるように拘束条件をかけた

結果であると考えられるSnON多面体についてはSnO量の増加 = OP の増加であり平

均配位数 Nが 3 ~ 35へ増加した平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約

22Åで組成による大きな変化はほとんど見られなかったNb2O5を 5 mol添加したガラ

スではNbON多面体の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平均配位数 N約 4Nb-O 平均結

合距離約 20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O(約 105deg)と値が近いこと

また6配位ではなく 4配位として主に存在していることからSnO と同じような働きをし

ていると推測される

以上の結果からNb2O5添加の耐水性改善の要因として結合距離が Sn-O が約 22Åに対

し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強固にして

いることも一つの要因として考えられる

また67S5N28P ガラスの各多面体モデルを確認すると(Fig 410)P は PO4Snは SnO4

と SnO3Nbは NbO4をそれぞれ再現している

4323得られた各 pairの結合様式

RMC の結果により得られた各 pair の結合様式を Tables 44 に示す上段が HEXRD の

S(Q)のみ下段が HEXRDに Snの AXS の部分構造因子を加えた結果である最下部は比

較のためにSn2P2O7の情報を記載した[8]

結合様式に関してはPO4四面体は他の多面体も含めてほぼ頂点共有で存在している

SnON多面体についてはSnO 量が少ない配位数が 3 に近い場合頂点共有以外の共有の

61

割合も多くSnO 量が増えるにつれて頂点共有が主になり網目形成体として振舞ってい

ると考えられる組成によって平均結合距離や平均角度の大きな変化が見られなかったこ

とから平均配位数が結合様式を決める重要なファクターであるということも考えられる

またHEXRD と AXS 法の結果がほぼ同じであったこれは主成分が SnO のガラスであ

るためHEXRDでも十分に詳細な構造が得られたため大きな変化が現れなかったと考え

られるNbON 多面体はPO4 四面体と SnON 多面体とはほぼ頂点共有で繋がっている以

上の結果よりSnO量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体的に各多面体同士の

頂点共有が増えていることから耐水性の改善には頂点共有を多く含む構造であること

が重要である或いは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的となって

いるということが推測されるFig 411に 67S5N28P ガラスの構造モデルを示す各多面

体はほぼ頂点共有で繋がっていることが確認できる

4324 平均 BO数の比較

Tables 45にNMR Raman RMC(HEXRD) RMC(HEXRD + AXS)の平均BO数を示すRMC

から得られた平均 BO 数 nはNMR Raman と同様に Nb2O5の添加による大幅な減少が確認

されたしかしNMR Raman と比較すると全組成において数値が大きすぎで適当でない

50S50P の構造モデルを観るとPO4四面体間で3配位 O の存在が確認された(Fig 412)た

め実測で得られた n値を再現できるようなPO4四面体モデル間の繋がり方に関する拘束条

件を加えて RMCを計算する必要性があるまた仮に3配位 Oの存在があるとすると電

子状態の変化が生じていることがと示唆されるため分子軌道計算を用いて電子状態解析

を行い確認する必要がある

4325 耐水性の改善について

Nb2O5を添加のガラス構造への影響について①6配位ではなく 4配位として主に存在し

ていることからSnO と同じような働きをしていると推測される②結合距離が Sn-O が約

22Åに対し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強

固にしている③ガラス構造中で全体的に各多面体同士の頂点共有が増えている以上の

ことが判明した以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性

耐候性を改善した要因として考えられる

44 結言

本章では分光学的手法では評価できないガラスの中距離構造局所構造について理解

するために放射光を用いた構造解析を実施しSP ガラスの構造と耐水性改善について考

察したHEXRDおよび AXS法を用いて測定を行い得られたデータを RMCシミュレーシ

ョンにて解析を行った

解析の結果 Sn-O pair については平均配位数 Nが 3 ~ 35でSnO量の増加 = OP の増

62

加に伴い高くなった平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約 22Åであ

ったP-O Sn-Oについては組成による大きな変化はほとんど見られなかった67S5N28P

ガラスの Nb-O pair の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平均配位数約 4Nb-O 平均結合距

離約 20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O(約 105deg)と値が近いことま

た6配位ではなく 4配位として主に存在していることからSnOと同じような働き(網目

形成体)をしていると推測されるまた結合距離が Sn-O が約 22Åに対し Nb-O は約 20

Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強固にしていると言える

SnO 量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体的に各多面体同士の頂点共有が増え

ていることから耐水性の改善には頂点共有を多く含む構造であることが重要である

もしくは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的であることが推測さ

れる以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性耐候性を

改善した要因として考えられる

またAXS 法の有効性についても確認し効果的であることが判明したただし今回

は主成分が Sn の組成のガラスでありHEXRD でも十分に詳細な構造が得られたため

大きな差は現れなかった

参考文献

[1] 山根正之 安井至 和田正道 国分可紀 寺井良平 近藤敬 小川晋永編ガラス光学ハ

ンドブック 朝倉書店(1999)

[2]飯野潔 梅咲則正 NEW GLASS 19 [2] 31-40 (2004)

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[4] 小原真司 鈴谷健太郎 放射光 14 [5] 365-375 (2001)

[5] 早稲田嘉夫 齋藤正敏 放射光 10 [3] 299-315 (1997)

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[7] RLMcGreevy and LPuszai Mol Simulation 1 359(1988)

[8] V V Chernaya A S Mitiaev P S Chizhov E V Dikarev R V Shpanchenko E V Antipov

MV Korolenko and PB Fabritchinyi J Chem Mater 17 284-290 (2005)

[9] M Mathew L W Schroeder and T H Jordan Acta Cryst B33 1812-1816 (1977)

[10] J S Taylar and M P Cohs J Am Ceram Solids 109 [9] 2834-2835 (1987)

[11] D Munoz-Martin A Ruiz de La Cruz J M Fernandez-Navarro C Domingo J Solis and J

Gonzalo J appl Phys 110 023522 (2011)

63

Fig 41 各原子の異常分散項のエネルギー依存性

Fig 42 Sn の異常分散項のエネルギー依存性

64

Fig 43 SPring-8の BL13XU

65

Tab

le 4

1

RM

Cの各パラメーター

66

Fig 44 Sn2P2O7 Sn3P2O8結晶の RDF

Table 42 Sn2P2O7 Sn3P2O8結晶の各 pairの第一近接距離

67

Fig 45 得られた実測 HEXRDの S(Q)

68

Fig 46 Sn の異常散乱測定により得られた散乱強度のエネルギー依存性

(a)67S33P (b)60S40P

69

Fig 47 全相関関数 T(r)

太線 HEXRD より

細線 Sn の AXSより

70

Fig 48 67S5N28P ガラス構造のモデル

71

Fig 49 RMC フィッティングの結果

72

Tab

le 4

3 各

pairの平均配位数角度結合距離

73

Fig

4

10

67

S5

N2

8Pガラスの各多面体モデル

74

Tab

le 4

4 各

pairの結合様式

75

Fig 411 67S5N28P ガラスの構造モデル

76

Table 45 平均 BO 各数 nの比較

Fig 412 50S50P ガラスの構造モデル

77

第 5章 総括

本研究ではSP ガラスを対象とした本研究では鉛フリー代替ガラスまたは希土類フ

リー蛍光体として SP ガラスの新規高機能化を将来的に目指し問題点であるldquo化学的耐久

性rdquoの改善につながる知見を得ることを目的としたそこでまずSP ガラスを母体ガラ

スとし第三成分に Nb2O5を添加した Sn-Nb-P SNP ガラスZnO を添加した SZP ガラスを

作製し耐水性を中心とした物性評価を行った次に分光学的手法で構造解析を行い

Qn 分布を導き出した最後に放射光を用いた構造解析を行い耐水性改善に関する構造的

な考察を行った以下に本研究で行った検討内容を示す

(1)SPガラスおよび第三成分Nb2O5 ZnOを添加した三成分系SPガラスの物性評価(第 2章)

(2)SP 系ガラスの分光学的手法による Qn分布導出(第 3章)

(3)放射光を用いた SP 系ガラスの構造解析構造と耐水性改善の関連について(第 4章)

各章についてまとめた結果を以下に示す

第 2章

第 2章では二成分系および三成分系のリン酸塩系ガラスの各種物性(密度や熱的特性

耐水性)の評価を行った二成分系ではSP ガラスに加え良好な耐水性を有する鉄リン

酸塩(Fe2O3-P2O5)系ガラス(以下 FP ガラス)を比較のために三成分系では二成分系

の SP ガラスに Nb2O5を添加したニオブ含有 SP ガラス(SNP ガラス)および ZnO を添加し

た亜鉛含有 SP ガラス(SZP ガラス)を作製した

今回作製した SP 系ガラスは低ガラス転移温度を有していた各組成の温度域はSP

ガラスTg le 280 Sn-Nb-P SNPガラスTg le 3505SZP S5ZPガラスTg ≦ 450であった

各種 SP ガラスの耐水性試験の結果二成分系の SP ガラスよりも三成分系ガラスの方が

良好な耐水性を有していた65Sn-5Nb-30P 67S5N28P ガラスが最も耐水性が良好であり化

学的耐久性の改善には Nb2O5が ZnOよりも効果的であった

組成と耐水性に関してはDRおよび重量減がOP増加で単調に低下した結果が得られた

つまり耐水性を改善させるにはSP 系ガラスのガラス化範囲を拡大かつ OP を増大させ

る第三成分の添加が有効であることが示唆された

第 3章

第 3章ではSP 系ガラスの分光学的手法による Qn分布の導出を行ったラマン分光法を

用いて各ガラス系のリン酸塩アニオンの構造を簡易定量で評価し組成と構造の関係に

ついて考察した平均 BO 数 n と耐水性に関してはDR および重量減が平均 BO 数 nの減

少で単調に低下することが明らかとなった

平均 BO 数 n と OP の関係より耐水性改善には平均 BO 数 n を下げることそして

OP を上げることが重要であることが明らかになった

78

Nb5+の添加は平均 BO数を減少させるだけでなくOP も上げることからガラス構造

内の P-O-P 結合を減少させ水和反応加水分解反応が抑制され耐水性が大幅に改善さ

れることが示唆された故にNb2O5 のような高価数金属酸化物を添加することが効果的

であることが再度確認された

第 4章

耐水性向上についてより深く評価するためSP SNP ガラスの局所構造に関する知見を得

ることを目的に放射光を用いた構造解析を行った高エネルギーX 線回折(HEXRD)お

よび X 線異常散乱(AXS)法で測定したデータを再現する構造モデルを逆モンテカルロ

(RMC)シミュレーションで構築し構造解析を行った

RMC モデル中の PON多面体に関して平均配位数 Nが 4および P-O の平均結合距離が約

160Å平均結合角度angO-P-Oが約 109degという結果が得られた組成による大きな違いは確

認されなかったSnON多面体については平均配位数 N が 3~4 でSnO 量の増加に伴い 4

に近い値となった平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約 22Åで組成

による大きな変化は見られなかった

Nb2O5を 5 mol添加したガラスではNbON多面体の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平

均配位数N約4Nb-O平均結合距離約20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O

(約 105deg)と値が近いことまた6配位ではなく 4配位として主に存在していることから

SnO と同じような網目形成体として働いていると推測されたまた結合距離が Sn-O が約

22Åに対し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強

固にしていると考えられるまたSnO 量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体

的に各多面体同士の頂点共有が増えていることから耐水性の改善には頂点共有を多く

含む構造もしくは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的であること

が示唆された以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性

耐候性を改善した要因として考えられる

またAXS 法の有効性についても確認し効果的であることが判明したただし今回

は主成分が Snの組成のガラスでありHEXRD でも十分に詳細な Snの周辺構造が得られ

たためAXSを利用した場合との大きな構造の差は認められなかった

本研究では様々な優れた特徴を有する SP ガラスにおける耐水性改善のメカニズムにつ

いて検討を行ったこの系のガラスについてはこれまでほとんど利用されていなかった

放射光を用いた構造解析を駆使し第三成分の添加によってどのような構造的変化が生じ

耐水性を改善させるか新たな知見を得ることができた最終目標である機能性ガラスの

開発における新たなる材料設計指針の確立に対してldquo耐水性rdquoに関しては概ね明らかにな

ったと考えられる一方で今回検討していな電子状態化学結合性についても評価する

ことで溶出メカニズムの解明が可能になり材料設計指針の確立が期待される

79

発表論文リスト

口頭発表

第 2章および第 3章

(1) SnO-P2O5 系ガラスへの酸化物添加効果

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎

日本セラミックス協会第 25 回秋季シンポジウム No3C06 (名古屋市 2012年 9月)

(2) Effect of Nb2O5 addition to SnO-P2O5 glass (Poster)

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

International Union of Materials Research Societies International Conference on Electronic

Materials IUMRS-ICEM 2012 A-9-P26-003 (Yokohama 2012 年 9月)

(3) スズリン酸塩系ガラスの蛍光特性耐水性に及ばす酸化物の添加効果(ポスター)

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎

日本セラミックス協会 2013 年年会 1P070 (東京 2013年 3月)

第 4章

(1) 放射光を用いたスズリン酸塩ガラスの構造解析

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎小原真二臼杵毅

日本セラミックス協会第 27 回秋季シンポジウム 2B22 (鹿児島市 2014年 9 月)

(2) Structural analysis of tin phosphate glasses by synchrotron radiation (Poster)

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba Shinji Kohara Takeshi Usuki

International Congress on Glass ICG Annual Meeting Bangkok 2015 P14-138 p186 (2015)

発表論文

(1) Effect of Nb2O5 addition to SnO- P2O5 glass

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

Journal of the Ceramic Society of Japan Vol 120 No 11 pp530-533 (2012)

(2) Structural analysis of SnO- P2O5 glass

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

Journal of the Ceramic Society of Japan(準備中)

80

謝辞

本研究を遂行するにあたり終始暖かいご指導ご助言並びにご鞭撻を賜わりました岡

山大学大学院環境生命科学研究科 難波徳郎教授に心より感謝の意を表します

また本研究を遂行するにあたり懇切丁寧なご指導とご意見をしていただいた岡山大

学大学院環境生命科学研究科 紅野安彦准教授環境環理センター 崎田真一助教に心より

感謝いたします

本研究を遂行するにあたりラマン分光測定の使用についてご助言ご教授して頂い

た岡山大学自然科学研究科 藤井達生教授中西真助教に心より感謝の意を表します

Sn のメスバウアー測定の際に協力して頂いた岡山大学自然科学研究科先端自然科学教

育研究推進本部高田研究室 松本修治特任助教(当時旭硝子株式会社中央研究所)また

Feのメスバウアーを測定の際に協力して頂いた岡山大学自然科学研究科 藤井達生教授に

心より感謝の意を表します

固体 NMR の岡山大学自然科学研究科 早川聡教授に心より感謝の意を表します

本研究を遂行するにあたりSPring-8 にてHEXRD および AXS 法の測定法および原理

についてご教示頂きました物質材料研究機構 小原真司博士ならびに山形大学 臼杵毅

教授に心より感謝の意を表します

本研究は多くの後輩諸君の協力によって遂行されました特に実際に共同研究共同

実験を遂行して頂いたOG 藤原沙弥香さん博士前期課程 2 年 東利彦君OB 徳岡太誠

君学士課程 4年 塩田将大君に心より感謝の意を表しますまた難波研究室で共に研

究生活を過ごした卒業生在学生の方々に感謝の意を表します

また同時期に博士後期課程に在籍された香川高等専門学校の桟敷剛さんにはNbに

関する有益な情報だけでなく辛い状況でも励ましを頂きました心より感謝の意を表し

ます

最後に長きに渡る学生生活を認め経済面だけでなく精神面でも支援してくださった

家族に心より深く感謝の意を表します

平成 28年 3月

福井 聡史

Page 50: 博士論文 スズリン酸塩系ガラスの物性と構造解析ousar.lib.okayama-u.ac.jp/files/public/5/54353/...博士論文 スズリン酸塩系ガラスの物性と構造解析

47

Fig 32 Sn-Nb-P ガラスのラマンスペクトル

48

Fig 33 SNP ガラスのラマンスペクトル

49

Fig 34 SZP ガラスのラマンスペクトル

50

Fig 35 FP ガラスのラマンスペクトル

51

Fig 36 ラマンスペクトルのピーク分離例(67S5N28P)

Raman Shift (cm-1)

52

Fig 37 NMRスペクトル

Table 31 NMR およびラマン分光より得られた SP 67S5N28P ガラスの

Qn分布および平均 BO数 n

53

Table 32 各ガラスのラマンスペクトルより求めた Qn分布結果

(表の赤線より右側の結果は Table 22 より)

1 仕込み組成による数値

2 Fig 2212 に示した析出物を取り除いた後の数値

54

Fig 38 DR と平均 BO数 nの関係性

55

Fig 39 重量減と平均 BO数 nの関係性

56

Fig 310 OP と平均 BO数 nの関係性

Meta

Pyro

Ortho

57

第 4章 放射光を用いたスズリン酸塩系ガラスの構造解析

41 緒言

前章の第 3 章にてラマン分光法を用いて SP 系ガラスの構造解析により Qn分布を導き

出したことで耐水性と構造の関係についてある程度関連性を導くことができたリン

酸アニオンについてはQ0(orthophosphate)構造 gt Q

1(pyrophosphate)構造 gt Q2

(metaphosphate)構造の順で良耐水性となるしかしSn Nbおよび Znの局所構造につ

いては知見が得られていないラマン分光や IR分光などの分光学的手法を用いてSnや

Nb Zn の周辺の局所構造を知るには限界があるまたガラスの構造解析を行う上で非常

に重要な因子である中距離構造の評価には分光学的手法は不向きである[1]

そこで局所構造や中距離構造を知るために有効な手法として放射光線を用いた構造

解析がある放射光(SR 光)とはシンクロトロンなどの加速器で高速に加速された電子

が進行方向を磁場によって変えられた際に放射する電磁波である[2]エネルギーが高く

(短波長)輝度が高い特性を有している日本国内では兵庫県佐用町の SPring-8や茨城

県つくば市の高エネルギー加速器研究機構佐賀県鳥栖市の佐賀県立九州シンクロトロン

光研究センターなど複数個所に放射光施設が設置されている

放射光を用いたガラスの構造解析には一般的に高エネルギーX 線回折(High Energy

X-ray diffraction HEXRD)が用いられるこの回折実験から高い散乱ベクトル Q(= 4π sinθλ)

まで回折データが得られる多種類の原子から構成される物質の場合はFaber-Ziman 型[3]

の構造因子 S(Q)を用いる以下の式に示すようにFaber-Ziman 型構造因子 S(Q)は同種また

は異種の原子による相関の重み関数付の和として示される例として SiO2ガラスで説明す

ると構造因子 S(Q)は三種類の原子付の S(Q)の重み付の和として表されていることが分か

I(Q) 散乱断面積 ltgt 原子一個当たりの平均値 f(Q) 原子散乱因子 W 重み関数

通常の研究室で使用される X 線回折(XRD)装置で用いられる特性 X 線はCuKα線(λ

= 0154 nm 81 keV)が最も良く用いられより高いエネルギーの X 線が必要な場合は

MoKα線(λ = 0071 nm 175 keV)が使用される一方でSPring-8のビームライン BL04B2

で行われる高エネルギーX 線回折(HEXRD)測定で使用される SR のエネルギーは378 keV

58

~ が使用可能である[2]従ってガラス以外の液体のような非晶質物質にも非常に精度

よく構造解析が行われている[4]

また局所構造解析の一つに X線異常散乱法という測定方法がある[5 6]これは通常

の X 線回折実験では分離不可能な特定元素に関連する部分構造因子(散乱強度曲線)を得

ることができる手法である今回 HEXRD の測定時に使用したエネルギー614 keV では各元

素の異常散乱項のエネルギー依存性は確認されない(Fig 41)その一方でFig 42に示す

Sn の吸収端付近の 292 keV付近ではSnの異常分散項のエネルギー依存性が確認できる

つまりSnの吸収端近傍より低エネルギー(E)側の異なるエネルギーの X線(E1 E2)を

使って散乱強度を測定し各 E における異常分散項(f`)の変化(つまり高い E1 から低い

E2 の散乱強度の差分)を利用して Snに関する部分構造因子を求める構造解析が AXS 法で

あるこの測定法は古くから知られている方法ではあるが装置の測定条件や設備の問

題からなどから使用があまり普及していなかった[5 6]近年になり金属ガラスの構造解

析について徐々に報告が出てきており今後注目される測定法である

HEXRD および AXS 法などから得られたデータ実測の構造因子 S(Q)は一次元の限られ

た構造情報であるためガラスなどの非晶質物質の中距離構造を解明するためにはこれ

らのデータを基に三次元構造を求める必要がある三次元構造モデルの作成には逆モンテ

カルロ(RMC)シミュレーションを使用することが有効である[7]このシミュレーション

は任意で決めたシミュレーションボックス内の粒子をランダムに動かすことで実測の

構造因子 S(Q)を再現する三次元構造モデルを構築する方法である

SP ガラスについては分光学的手法について数多く報告があるが放射光を用いた回折

法はほとんど適用されていないそこで本研究では HEXRD および AXS 法を用いた構造

解析を行うことでSn Nb周りの構造を解明すると共にSNP ガラスの耐水性改善のメカ

ニズムについて考察したまたAXS 法の有効性についても検討した測定を行ったガラ

スはSP ガラスおよび最も耐水性の高かった 67S5N28P を選択した

42 実験方法

421 HEXRD AXS法

HEXRDはSPring-8のビームライン BL04B2 で測定を行ったエネルギー614 keV の X

線を用いた測定サンプルの厚みは09 mm (plusmn0005 mm)になるまで研磨を行った

AXS 測定はSPring-8のビームライン BL13XUを使用した(Fig 43)それぞれの測定し

た X 線のエネルギーについて以下に示す

①Sn K吸収端hellip292 keV near edgehellip291452 keV (-60 eV) far edgehellip289751 keV (-230 eV)

②Nb K吸収端hellip1899 keV near edgehellip189562 keV (-30 eV) far edgehellip187863 keV (-230 eV)

測定に使用したサンプルの厚さが015 - 030 mmとなるまで研磨を施した

SP ガラスについて50S50P 60S40P 67S33P の三組成のガラスを測定した70S30P に関

59

しては測定を試みたが放射光照射によって結晶化してしまいガラス部分の正確な構

造因子を得るための強度補正ができず解析を断念した

422 RMCのモデリング

Table 41 に RMC の各種パラメーターを示す粒子数は約 5000 個でそれに伴う boxの一

辺の長さは約 42 ~ 46 Ǻになった拘束条件にP の配位数が 4になるような条件を付け

加えたFig 44にSn2P2O7結晶および Sn3P2O8結晶の動径分布関数(RDF)をTable 32

にRDFから得られた第一近接距離[8 9] を示すこれらの数値を使用しcutoffを決定し

たNb-O についてはいくつかの文献値を参考にした[10 11]

各ガラスの RMCのモデリングは①HEXRDから得られた S(Q)のみ②S(Q)および AXS

から得られた部分構造因子を加えた場合でそれぞれ計算した

43 結果考察

最初にNbの AXSから得られたデータについて解析を試みたが妥当な構造モデルが得

られなかったためSnの AXSのみで解析を進めたNb2O5の量が 5 molと少量であったた

めあまり精度の高いデータが得られなかったと推測される

431 実測の HEXRDおよび AXSの結果

4311 実測 HEXRDの S(Q)

Fig 45 に実測HEXRDの S(Q)を示す四つの組成ともに実測HEXRDの S(Q)が得られ

Nb2O5添加の 67S5N28P ガラスでは Low Q 側に変化が確認された

4312 実測散乱強度曲線

Fig 46 に Snの散乱強度曲線を示す(a) の 67S33P のこの曲線からはfar edgeおよび

near edge のエネルギー間で差分が見られエネルギーの依存性が確認された50S50P

67S5N28P のガラスについても同じように差分が確認されたが(b)の 60S40P についてのみ

他とは若干異なる結果(緑丸)であったためRMC の構造解析には差分の構造因子ではな

くfar edge near edge 二つの構造因子を用いた

4313 全相関関数 T(r)

Fig 47 に全相関関数 T(r) を示すHEXRD から得られたものを実線でSnの AXS から

得られたものは点線で示し組成ごとに重ねて表示した図中に各ピークについて帰属し

ているがSnの T(r)からはSn-O Sn-P Sn-Snのみのピークを確認した

432 RMCの計算結果および考察

60

構造モデルの一例として67S5N28P ガラスの得られた構造モデルをFig 48に示す水

色の多面体 unitSnON 黄色の多面体 unitPO4 ピンクの多面体 unitNbONである以下

詳細な構造解析の結果および考察を記す

4321 RMCのフィッティング結果

RMCのフィッティング結果の一例として67S33P の HEXRD と Snの AXS の構造因子か

ら得た結果を示す(Fig 49)二つの構造因子を加えて計算した結果においてもHEXRD

の S(Q) AXS の S(Q)に各々に対する良好なフィッティング結果が得られた他の組成も

同様なフィッティング結果が得られた

4322得られた各 pairの平均配位数平均角度平均結合距離

RMCの結果によって得られた各 pairの平均配位数平均角度平均結合距離を Tables 43

に示す上段が HEXRD の S(Q)のみ下段が HEXRD に Sn の AXS の部分構造因子を加え

て結果である最下部は比較のためにSn2P2O7の情報を記載した[8]

P-O pairについてRMCモデル中の PON多面体に関して平均配位数 Nが 4および P-O

の平均結合距離が約 160Å平均結合角度angO-P-O が約 109degという結果が得られた組成

による大きな違いは確認されなかったのはP の配位数が 4になるように拘束条件をかけた

結果であると考えられるSnON多面体についてはSnO量の増加 = OP の増加であり平

均配位数 Nが 3 ~ 35へ増加した平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約

22Åで組成による大きな変化はほとんど見られなかったNb2O5を 5 mol添加したガラ

スではNbON多面体の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平均配位数 N約 4Nb-O 平均結

合距離約 20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O(約 105deg)と値が近いこと

また6配位ではなく 4配位として主に存在していることからSnO と同じような働きをし

ていると推測される

以上の結果からNb2O5添加の耐水性改善の要因として結合距離が Sn-O が約 22Åに対

し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強固にして

いることも一つの要因として考えられる

また67S5N28P ガラスの各多面体モデルを確認すると(Fig 410)P は PO4Snは SnO4

と SnO3Nbは NbO4をそれぞれ再現している

4323得られた各 pairの結合様式

RMC の結果により得られた各 pair の結合様式を Tables 44 に示す上段が HEXRD の

S(Q)のみ下段が HEXRDに Snの AXS の部分構造因子を加えた結果である最下部は比

較のためにSn2P2O7の情報を記載した[8]

結合様式に関してはPO4四面体は他の多面体も含めてほぼ頂点共有で存在している

SnON多面体についてはSnO 量が少ない配位数が 3 に近い場合頂点共有以外の共有の

61

割合も多くSnO 量が増えるにつれて頂点共有が主になり網目形成体として振舞ってい

ると考えられる組成によって平均結合距離や平均角度の大きな変化が見られなかったこ

とから平均配位数が結合様式を決める重要なファクターであるということも考えられる

またHEXRD と AXS 法の結果がほぼ同じであったこれは主成分が SnO のガラスであ

るためHEXRDでも十分に詳細な構造が得られたため大きな変化が現れなかったと考え

られるNbON 多面体はPO4 四面体と SnON 多面体とはほぼ頂点共有で繋がっている以

上の結果よりSnO量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体的に各多面体同士の

頂点共有が増えていることから耐水性の改善には頂点共有を多く含む構造であること

が重要である或いは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的となって

いるということが推測されるFig 411に 67S5N28P ガラスの構造モデルを示す各多面

体はほぼ頂点共有で繋がっていることが確認できる

4324 平均 BO数の比較

Tables 45にNMR Raman RMC(HEXRD) RMC(HEXRD + AXS)の平均BO数を示すRMC

から得られた平均 BO 数 nはNMR Raman と同様に Nb2O5の添加による大幅な減少が確認

されたしかしNMR Raman と比較すると全組成において数値が大きすぎで適当でない

50S50P の構造モデルを観るとPO4四面体間で3配位 O の存在が確認された(Fig 412)た

め実測で得られた n値を再現できるようなPO4四面体モデル間の繋がり方に関する拘束条

件を加えて RMCを計算する必要性があるまた仮に3配位 Oの存在があるとすると電

子状態の変化が生じていることがと示唆されるため分子軌道計算を用いて電子状態解析

を行い確認する必要がある

4325 耐水性の改善について

Nb2O5を添加のガラス構造への影響について①6配位ではなく 4配位として主に存在し

ていることからSnO と同じような働きをしていると推測される②結合距離が Sn-O が約

22Åに対し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強

固にしている③ガラス構造中で全体的に各多面体同士の頂点共有が増えている以上の

ことが判明した以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性

耐候性を改善した要因として考えられる

44 結言

本章では分光学的手法では評価できないガラスの中距離構造局所構造について理解

するために放射光を用いた構造解析を実施しSP ガラスの構造と耐水性改善について考

察したHEXRDおよび AXS法を用いて測定を行い得られたデータを RMCシミュレーシ

ョンにて解析を行った

解析の結果 Sn-O pair については平均配位数 Nが 3 ~ 35でSnO量の増加 = OP の増

62

加に伴い高くなった平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約 22Åであ

ったP-O Sn-Oについては組成による大きな変化はほとんど見られなかった67S5N28P

ガラスの Nb-O pair の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平均配位数約 4Nb-O 平均結合距

離約 20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O(約 105deg)と値が近いことま

た6配位ではなく 4配位として主に存在していることからSnOと同じような働き(網目

形成体)をしていると推測されるまた結合距離が Sn-O が約 22Åに対し Nb-O は約 20

Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強固にしていると言える

SnO 量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体的に各多面体同士の頂点共有が増え

ていることから耐水性の改善には頂点共有を多く含む構造であることが重要である

もしくは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的であることが推測さ

れる以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性耐候性を

改善した要因として考えられる

またAXS 法の有効性についても確認し効果的であることが判明したただし今回

は主成分が Sn の組成のガラスでありHEXRD でも十分に詳細な構造が得られたため

大きな差は現れなかった

参考文献

[1] 山根正之 安井至 和田正道 国分可紀 寺井良平 近藤敬 小川晋永編ガラス光学ハ

ンドブック 朝倉書店(1999)

[2]飯野潔 梅咲則正 NEW GLASS 19 [2] 31-40 (2004)

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[4] 小原真司 鈴谷健太郎 放射光 14 [5] 365-375 (2001)

[5] 早稲田嘉夫 齋藤正敏 放射光 10 [3] 299-315 (1997)

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[8] V V Chernaya A S Mitiaev P S Chizhov E V Dikarev R V Shpanchenko E V Antipov

MV Korolenko and PB Fabritchinyi J Chem Mater 17 284-290 (2005)

[9] M Mathew L W Schroeder and T H Jordan Acta Cryst B33 1812-1816 (1977)

[10] J S Taylar and M P Cohs J Am Ceram Solids 109 [9] 2834-2835 (1987)

[11] D Munoz-Martin A Ruiz de La Cruz J M Fernandez-Navarro C Domingo J Solis and J

Gonzalo J appl Phys 110 023522 (2011)

63

Fig 41 各原子の異常分散項のエネルギー依存性

Fig 42 Sn の異常分散項のエネルギー依存性

64

Fig 43 SPring-8の BL13XU

65

Tab

le 4

1

RM

Cの各パラメーター

66

Fig 44 Sn2P2O7 Sn3P2O8結晶の RDF

Table 42 Sn2P2O7 Sn3P2O8結晶の各 pairの第一近接距離

67

Fig 45 得られた実測 HEXRDの S(Q)

68

Fig 46 Sn の異常散乱測定により得られた散乱強度のエネルギー依存性

(a)67S33P (b)60S40P

69

Fig 47 全相関関数 T(r)

太線 HEXRD より

細線 Sn の AXSより

70

Fig 48 67S5N28P ガラス構造のモデル

71

Fig 49 RMC フィッティングの結果

72

Tab

le 4

3 各

pairの平均配位数角度結合距離

73

Fig

4

10

67

S5

N2

8Pガラスの各多面体モデル

74

Tab

le 4

4 各

pairの結合様式

75

Fig 411 67S5N28P ガラスの構造モデル

76

Table 45 平均 BO 各数 nの比較

Fig 412 50S50P ガラスの構造モデル

77

第 5章 総括

本研究ではSP ガラスを対象とした本研究では鉛フリー代替ガラスまたは希土類フ

リー蛍光体として SP ガラスの新規高機能化を将来的に目指し問題点であるldquo化学的耐久

性rdquoの改善につながる知見を得ることを目的としたそこでまずSP ガラスを母体ガラ

スとし第三成分に Nb2O5を添加した Sn-Nb-P SNP ガラスZnO を添加した SZP ガラスを

作製し耐水性を中心とした物性評価を行った次に分光学的手法で構造解析を行い

Qn 分布を導き出した最後に放射光を用いた構造解析を行い耐水性改善に関する構造的

な考察を行った以下に本研究で行った検討内容を示す

(1)SPガラスおよび第三成分Nb2O5 ZnOを添加した三成分系SPガラスの物性評価(第 2章)

(2)SP 系ガラスの分光学的手法による Qn分布導出(第 3章)

(3)放射光を用いた SP 系ガラスの構造解析構造と耐水性改善の関連について(第 4章)

各章についてまとめた結果を以下に示す

第 2章

第 2章では二成分系および三成分系のリン酸塩系ガラスの各種物性(密度や熱的特性

耐水性)の評価を行った二成分系ではSP ガラスに加え良好な耐水性を有する鉄リン

酸塩(Fe2O3-P2O5)系ガラス(以下 FP ガラス)を比較のために三成分系では二成分系

の SP ガラスに Nb2O5を添加したニオブ含有 SP ガラス(SNP ガラス)および ZnO を添加し

た亜鉛含有 SP ガラス(SZP ガラス)を作製した

今回作製した SP 系ガラスは低ガラス転移温度を有していた各組成の温度域はSP

ガラスTg le 280 Sn-Nb-P SNPガラスTg le 3505SZP S5ZPガラスTg ≦ 450であった

各種 SP ガラスの耐水性試験の結果二成分系の SP ガラスよりも三成分系ガラスの方が

良好な耐水性を有していた65Sn-5Nb-30P 67S5N28P ガラスが最も耐水性が良好であり化

学的耐久性の改善には Nb2O5が ZnOよりも効果的であった

組成と耐水性に関してはDRおよび重量減がOP増加で単調に低下した結果が得られた

つまり耐水性を改善させるにはSP 系ガラスのガラス化範囲を拡大かつ OP を増大させ

る第三成分の添加が有効であることが示唆された

第 3章

第 3章ではSP 系ガラスの分光学的手法による Qn分布の導出を行ったラマン分光法を

用いて各ガラス系のリン酸塩アニオンの構造を簡易定量で評価し組成と構造の関係に

ついて考察した平均 BO 数 n と耐水性に関してはDR および重量減が平均 BO 数 nの減

少で単調に低下することが明らかとなった

平均 BO 数 n と OP の関係より耐水性改善には平均 BO 数 n を下げることそして

OP を上げることが重要であることが明らかになった

78

Nb5+の添加は平均 BO数を減少させるだけでなくOP も上げることからガラス構造

内の P-O-P 結合を減少させ水和反応加水分解反応が抑制され耐水性が大幅に改善さ

れることが示唆された故にNb2O5 のような高価数金属酸化物を添加することが効果的

であることが再度確認された

第 4章

耐水性向上についてより深く評価するためSP SNP ガラスの局所構造に関する知見を得

ることを目的に放射光を用いた構造解析を行った高エネルギーX 線回折(HEXRD)お

よび X 線異常散乱(AXS)法で測定したデータを再現する構造モデルを逆モンテカルロ

(RMC)シミュレーションで構築し構造解析を行った

RMC モデル中の PON多面体に関して平均配位数 Nが 4および P-O の平均結合距離が約

160Å平均結合角度angO-P-Oが約 109degという結果が得られた組成による大きな違いは確

認されなかったSnON多面体については平均配位数 N が 3~4 でSnO 量の増加に伴い 4

に近い値となった平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約 22Åで組成

による大きな変化は見られなかった

Nb2O5を 5 mol添加したガラスではNbON多面体の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平

均配位数N約4Nb-O平均結合距離約20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O

(約 105deg)と値が近いことまた6配位ではなく 4配位として主に存在していることから

SnO と同じような網目形成体として働いていると推測されたまた結合距離が Sn-O が約

22Åに対し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強

固にしていると考えられるまたSnO 量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体

的に各多面体同士の頂点共有が増えていることから耐水性の改善には頂点共有を多く

含む構造もしくは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的であること

が示唆された以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性

耐候性を改善した要因として考えられる

またAXS 法の有効性についても確認し効果的であることが判明したただし今回

は主成分が Snの組成のガラスでありHEXRD でも十分に詳細な Snの周辺構造が得られ

たためAXSを利用した場合との大きな構造の差は認められなかった

本研究では様々な優れた特徴を有する SP ガラスにおける耐水性改善のメカニズムにつ

いて検討を行ったこの系のガラスについてはこれまでほとんど利用されていなかった

放射光を用いた構造解析を駆使し第三成分の添加によってどのような構造的変化が生じ

耐水性を改善させるか新たな知見を得ることができた最終目標である機能性ガラスの

開発における新たなる材料設計指針の確立に対してldquo耐水性rdquoに関しては概ね明らかにな

ったと考えられる一方で今回検討していな電子状態化学結合性についても評価する

ことで溶出メカニズムの解明が可能になり材料設計指針の確立が期待される

79

発表論文リスト

口頭発表

第 2章および第 3章

(1) SnO-P2O5 系ガラスへの酸化物添加効果

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎

日本セラミックス協会第 25 回秋季シンポジウム No3C06 (名古屋市 2012年 9月)

(2) Effect of Nb2O5 addition to SnO-P2O5 glass (Poster)

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

International Union of Materials Research Societies International Conference on Electronic

Materials IUMRS-ICEM 2012 A-9-P26-003 (Yokohama 2012 年 9月)

(3) スズリン酸塩系ガラスの蛍光特性耐水性に及ばす酸化物の添加効果(ポスター)

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎

日本セラミックス協会 2013 年年会 1P070 (東京 2013年 3月)

第 4章

(1) 放射光を用いたスズリン酸塩ガラスの構造解析

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎小原真二臼杵毅

日本セラミックス協会第 27 回秋季シンポジウム 2B22 (鹿児島市 2014年 9 月)

(2) Structural analysis of tin phosphate glasses by synchrotron radiation (Poster)

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba Shinji Kohara Takeshi Usuki

International Congress on Glass ICG Annual Meeting Bangkok 2015 P14-138 p186 (2015)

発表論文

(1) Effect of Nb2O5 addition to SnO- P2O5 glass

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

Journal of the Ceramic Society of Japan Vol 120 No 11 pp530-533 (2012)

(2) Structural analysis of SnO- P2O5 glass

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

Journal of the Ceramic Society of Japan(準備中)

80

謝辞

本研究を遂行するにあたり終始暖かいご指導ご助言並びにご鞭撻を賜わりました岡

山大学大学院環境生命科学研究科 難波徳郎教授に心より感謝の意を表します

また本研究を遂行するにあたり懇切丁寧なご指導とご意見をしていただいた岡山大

学大学院環境生命科学研究科 紅野安彦准教授環境環理センター 崎田真一助教に心より

感謝いたします

本研究を遂行するにあたりラマン分光測定の使用についてご助言ご教授して頂い

た岡山大学自然科学研究科 藤井達生教授中西真助教に心より感謝の意を表します

Sn のメスバウアー測定の際に協力して頂いた岡山大学自然科学研究科先端自然科学教

育研究推進本部高田研究室 松本修治特任助教(当時旭硝子株式会社中央研究所)また

Feのメスバウアーを測定の際に協力して頂いた岡山大学自然科学研究科 藤井達生教授に

心より感謝の意を表します

固体 NMR の岡山大学自然科学研究科 早川聡教授に心より感謝の意を表します

本研究を遂行するにあたりSPring-8 にてHEXRD および AXS 法の測定法および原理

についてご教示頂きました物質材料研究機構 小原真司博士ならびに山形大学 臼杵毅

教授に心より感謝の意を表します

本研究は多くの後輩諸君の協力によって遂行されました特に実際に共同研究共同

実験を遂行して頂いたOG 藤原沙弥香さん博士前期課程 2 年 東利彦君OB 徳岡太誠

君学士課程 4年 塩田将大君に心より感謝の意を表しますまた難波研究室で共に研

究生活を過ごした卒業生在学生の方々に感謝の意を表します

また同時期に博士後期課程に在籍された香川高等専門学校の桟敷剛さんにはNbに

関する有益な情報だけでなく辛い状況でも励ましを頂きました心より感謝の意を表し

ます

最後に長きに渡る学生生活を認め経済面だけでなく精神面でも支援してくださった

家族に心より深く感謝の意を表します

平成 28年 3月

福井 聡史

Page 51: 博士論文 スズリン酸塩系ガラスの物性と構造解析ousar.lib.okayama-u.ac.jp/files/public/5/54353/...博士論文 スズリン酸塩系ガラスの物性と構造解析

48

Fig 33 SNP ガラスのラマンスペクトル

49

Fig 34 SZP ガラスのラマンスペクトル

50

Fig 35 FP ガラスのラマンスペクトル

51

Fig 36 ラマンスペクトルのピーク分離例(67S5N28P)

Raman Shift (cm-1)

52

Fig 37 NMRスペクトル

Table 31 NMR およびラマン分光より得られた SP 67S5N28P ガラスの

Qn分布および平均 BO数 n

53

Table 32 各ガラスのラマンスペクトルより求めた Qn分布結果

(表の赤線より右側の結果は Table 22 より)

1 仕込み組成による数値

2 Fig 2212 に示した析出物を取り除いた後の数値

54

Fig 38 DR と平均 BO数 nの関係性

55

Fig 39 重量減と平均 BO数 nの関係性

56

Fig 310 OP と平均 BO数 nの関係性

Meta

Pyro

Ortho

57

第 4章 放射光を用いたスズリン酸塩系ガラスの構造解析

41 緒言

前章の第 3 章にてラマン分光法を用いて SP 系ガラスの構造解析により Qn分布を導き

出したことで耐水性と構造の関係についてある程度関連性を導くことができたリン

酸アニオンについてはQ0(orthophosphate)構造 gt Q

1(pyrophosphate)構造 gt Q2

(metaphosphate)構造の順で良耐水性となるしかしSn Nbおよび Znの局所構造につ

いては知見が得られていないラマン分光や IR分光などの分光学的手法を用いてSnや

Nb Zn の周辺の局所構造を知るには限界があるまたガラスの構造解析を行う上で非常

に重要な因子である中距離構造の評価には分光学的手法は不向きである[1]

そこで局所構造や中距離構造を知るために有効な手法として放射光線を用いた構造

解析がある放射光(SR 光)とはシンクロトロンなどの加速器で高速に加速された電子

が進行方向を磁場によって変えられた際に放射する電磁波である[2]エネルギーが高く

(短波長)輝度が高い特性を有している日本国内では兵庫県佐用町の SPring-8や茨城

県つくば市の高エネルギー加速器研究機構佐賀県鳥栖市の佐賀県立九州シンクロトロン

光研究センターなど複数個所に放射光施設が設置されている

放射光を用いたガラスの構造解析には一般的に高エネルギーX 線回折(High Energy

X-ray diffraction HEXRD)が用いられるこの回折実験から高い散乱ベクトル Q(= 4π sinθλ)

まで回折データが得られる多種類の原子から構成される物質の場合はFaber-Ziman 型[3]

の構造因子 S(Q)を用いる以下の式に示すようにFaber-Ziman 型構造因子 S(Q)は同種また

は異種の原子による相関の重み関数付の和として示される例として SiO2ガラスで説明す

ると構造因子 S(Q)は三種類の原子付の S(Q)の重み付の和として表されていることが分か

I(Q) 散乱断面積 ltgt 原子一個当たりの平均値 f(Q) 原子散乱因子 W 重み関数

通常の研究室で使用される X 線回折(XRD)装置で用いられる特性 X 線はCuKα線(λ

= 0154 nm 81 keV)が最も良く用いられより高いエネルギーの X 線が必要な場合は

MoKα線(λ = 0071 nm 175 keV)が使用される一方でSPring-8のビームライン BL04B2

で行われる高エネルギーX 線回折(HEXRD)測定で使用される SR のエネルギーは378 keV

58

~ が使用可能である[2]従ってガラス以外の液体のような非晶質物質にも非常に精度

よく構造解析が行われている[4]

また局所構造解析の一つに X線異常散乱法という測定方法がある[5 6]これは通常

の X 線回折実験では分離不可能な特定元素に関連する部分構造因子(散乱強度曲線)を得

ることができる手法である今回 HEXRD の測定時に使用したエネルギー614 keV では各元

素の異常散乱項のエネルギー依存性は確認されない(Fig 41)その一方でFig 42に示す

Sn の吸収端付近の 292 keV付近ではSnの異常分散項のエネルギー依存性が確認できる

つまりSnの吸収端近傍より低エネルギー(E)側の異なるエネルギーの X線(E1 E2)を

使って散乱強度を測定し各 E における異常分散項(f`)の変化(つまり高い E1 から低い

E2 の散乱強度の差分)を利用して Snに関する部分構造因子を求める構造解析が AXS 法で

あるこの測定法は古くから知られている方法ではあるが装置の測定条件や設備の問

題からなどから使用があまり普及していなかった[5 6]近年になり金属ガラスの構造解

析について徐々に報告が出てきており今後注目される測定法である

HEXRD および AXS 法などから得られたデータ実測の構造因子 S(Q)は一次元の限られ

た構造情報であるためガラスなどの非晶質物質の中距離構造を解明するためにはこれ

らのデータを基に三次元構造を求める必要がある三次元構造モデルの作成には逆モンテ

カルロ(RMC)シミュレーションを使用することが有効である[7]このシミュレーション

は任意で決めたシミュレーションボックス内の粒子をランダムに動かすことで実測の

構造因子 S(Q)を再現する三次元構造モデルを構築する方法である

SP ガラスについては分光学的手法について数多く報告があるが放射光を用いた回折

法はほとんど適用されていないそこで本研究では HEXRD および AXS 法を用いた構造

解析を行うことでSn Nb周りの構造を解明すると共にSNP ガラスの耐水性改善のメカ

ニズムについて考察したまたAXS 法の有効性についても検討した測定を行ったガラ

スはSP ガラスおよび最も耐水性の高かった 67S5N28P を選択した

42 実験方法

421 HEXRD AXS法

HEXRDはSPring-8のビームライン BL04B2 で測定を行ったエネルギー614 keV の X

線を用いた測定サンプルの厚みは09 mm (plusmn0005 mm)になるまで研磨を行った

AXS 測定はSPring-8のビームライン BL13XUを使用した(Fig 43)それぞれの測定し

た X 線のエネルギーについて以下に示す

①Sn K吸収端hellip292 keV near edgehellip291452 keV (-60 eV) far edgehellip289751 keV (-230 eV)

②Nb K吸収端hellip1899 keV near edgehellip189562 keV (-30 eV) far edgehellip187863 keV (-230 eV)

測定に使用したサンプルの厚さが015 - 030 mmとなるまで研磨を施した

SP ガラスについて50S50P 60S40P 67S33P の三組成のガラスを測定した70S30P に関

59

しては測定を試みたが放射光照射によって結晶化してしまいガラス部分の正確な構

造因子を得るための強度補正ができず解析を断念した

422 RMCのモデリング

Table 41 に RMC の各種パラメーターを示す粒子数は約 5000 個でそれに伴う boxの一

辺の長さは約 42 ~ 46 Ǻになった拘束条件にP の配位数が 4になるような条件を付け

加えたFig 44にSn2P2O7結晶および Sn3P2O8結晶の動径分布関数(RDF)をTable 32

にRDFから得られた第一近接距離[8 9] を示すこれらの数値を使用しcutoffを決定し

たNb-O についてはいくつかの文献値を参考にした[10 11]

各ガラスの RMCのモデリングは①HEXRDから得られた S(Q)のみ②S(Q)および AXS

から得られた部分構造因子を加えた場合でそれぞれ計算した

43 結果考察

最初にNbの AXSから得られたデータについて解析を試みたが妥当な構造モデルが得

られなかったためSnの AXSのみで解析を進めたNb2O5の量が 5 molと少量であったた

めあまり精度の高いデータが得られなかったと推測される

431 実測の HEXRDおよび AXSの結果

4311 実測 HEXRDの S(Q)

Fig 45 に実測HEXRDの S(Q)を示す四つの組成ともに実測HEXRDの S(Q)が得られ

Nb2O5添加の 67S5N28P ガラスでは Low Q 側に変化が確認された

4312 実測散乱強度曲線

Fig 46 に Snの散乱強度曲線を示す(a) の 67S33P のこの曲線からはfar edgeおよび

near edge のエネルギー間で差分が見られエネルギーの依存性が確認された50S50P

67S5N28P のガラスについても同じように差分が確認されたが(b)の 60S40P についてのみ

他とは若干異なる結果(緑丸)であったためRMC の構造解析には差分の構造因子ではな

くfar edge near edge 二つの構造因子を用いた

4313 全相関関数 T(r)

Fig 47 に全相関関数 T(r) を示すHEXRD から得られたものを実線でSnの AXS から

得られたものは点線で示し組成ごとに重ねて表示した図中に各ピークについて帰属し

ているがSnの T(r)からはSn-O Sn-P Sn-Snのみのピークを確認した

432 RMCの計算結果および考察

60

構造モデルの一例として67S5N28P ガラスの得られた構造モデルをFig 48に示す水

色の多面体 unitSnON 黄色の多面体 unitPO4 ピンクの多面体 unitNbONである以下

詳細な構造解析の結果および考察を記す

4321 RMCのフィッティング結果

RMCのフィッティング結果の一例として67S33P の HEXRD と Snの AXS の構造因子か

ら得た結果を示す(Fig 49)二つの構造因子を加えて計算した結果においてもHEXRD

の S(Q) AXS の S(Q)に各々に対する良好なフィッティング結果が得られた他の組成も

同様なフィッティング結果が得られた

4322得られた各 pairの平均配位数平均角度平均結合距離

RMCの結果によって得られた各 pairの平均配位数平均角度平均結合距離を Tables 43

に示す上段が HEXRD の S(Q)のみ下段が HEXRD に Sn の AXS の部分構造因子を加え

て結果である最下部は比較のためにSn2P2O7の情報を記載した[8]

P-O pairについてRMCモデル中の PON多面体に関して平均配位数 Nが 4および P-O

の平均結合距離が約 160Å平均結合角度angO-P-O が約 109degという結果が得られた組成

による大きな違いは確認されなかったのはP の配位数が 4になるように拘束条件をかけた

結果であると考えられるSnON多面体についてはSnO量の増加 = OP の増加であり平

均配位数 Nが 3 ~ 35へ増加した平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約

22Åで組成による大きな変化はほとんど見られなかったNb2O5を 5 mol添加したガラ

スではNbON多面体の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平均配位数 N約 4Nb-O 平均結

合距離約 20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O(約 105deg)と値が近いこと

また6配位ではなく 4配位として主に存在していることからSnO と同じような働きをし

ていると推測される

以上の結果からNb2O5添加の耐水性改善の要因として結合距離が Sn-O が約 22Åに対

し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強固にして

いることも一つの要因として考えられる

また67S5N28P ガラスの各多面体モデルを確認すると(Fig 410)P は PO4Snは SnO4

と SnO3Nbは NbO4をそれぞれ再現している

4323得られた各 pairの結合様式

RMC の結果により得られた各 pair の結合様式を Tables 44 に示す上段が HEXRD の

S(Q)のみ下段が HEXRDに Snの AXS の部分構造因子を加えた結果である最下部は比

較のためにSn2P2O7の情報を記載した[8]

結合様式に関してはPO4四面体は他の多面体も含めてほぼ頂点共有で存在している

SnON多面体についてはSnO 量が少ない配位数が 3 に近い場合頂点共有以外の共有の

61

割合も多くSnO 量が増えるにつれて頂点共有が主になり網目形成体として振舞ってい

ると考えられる組成によって平均結合距離や平均角度の大きな変化が見られなかったこ

とから平均配位数が結合様式を決める重要なファクターであるということも考えられる

またHEXRD と AXS 法の結果がほぼ同じであったこれは主成分が SnO のガラスであ

るためHEXRDでも十分に詳細な構造が得られたため大きな変化が現れなかったと考え

られるNbON 多面体はPO4 四面体と SnON 多面体とはほぼ頂点共有で繋がっている以

上の結果よりSnO量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体的に各多面体同士の

頂点共有が増えていることから耐水性の改善には頂点共有を多く含む構造であること

が重要である或いは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的となって

いるということが推測されるFig 411に 67S5N28P ガラスの構造モデルを示す各多面

体はほぼ頂点共有で繋がっていることが確認できる

4324 平均 BO数の比較

Tables 45にNMR Raman RMC(HEXRD) RMC(HEXRD + AXS)の平均BO数を示すRMC

から得られた平均 BO 数 nはNMR Raman と同様に Nb2O5の添加による大幅な減少が確認

されたしかしNMR Raman と比較すると全組成において数値が大きすぎで適当でない

50S50P の構造モデルを観るとPO4四面体間で3配位 O の存在が確認された(Fig 412)た

め実測で得られた n値を再現できるようなPO4四面体モデル間の繋がり方に関する拘束条

件を加えて RMCを計算する必要性があるまた仮に3配位 Oの存在があるとすると電

子状態の変化が生じていることがと示唆されるため分子軌道計算を用いて電子状態解析

を行い確認する必要がある

4325 耐水性の改善について

Nb2O5を添加のガラス構造への影響について①6配位ではなく 4配位として主に存在し

ていることからSnO と同じような働きをしていると推測される②結合距離が Sn-O が約

22Åに対し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強

固にしている③ガラス構造中で全体的に各多面体同士の頂点共有が増えている以上の

ことが判明した以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性

耐候性を改善した要因として考えられる

44 結言

本章では分光学的手法では評価できないガラスの中距離構造局所構造について理解

するために放射光を用いた構造解析を実施しSP ガラスの構造と耐水性改善について考

察したHEXRDおよび AXS法を用いて測定を行い得られたデータを RMCシミュレーシ

ョンにて解析を行った

解析の結果 Sn-O pair については平均配位数 Nが 3 ~ 35でSnO量の増加 = OP の増

62

加に伴い高くなった平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約 22Åであ

ったP-O Sn-Oについては組成による大きな変化はほとんど見られなかった67S5N28P

ガラスの Nb-O pair の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平均配位数約 4Nb-O 平均結合距

離約 20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O(約 105deg)と値が近いことま

た6配位ではなく 4配位として主に存在していることからSnOと同じような働き(網目

形成体)をしていると推測されるまた結合距離が Sn-O が約 22Åに対し Nb-O は約 20

Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強固にしていると言える

SnO 量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体的に各多面体同士の頂点共有が増え

ていることから耐水性の改善には頂点共有を多く含む構造であることが重要である

もしくは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的であることが推測さ

れる以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性耐候性を

改善した要因として考えられる

またAXS 法の有効性についても確認し効果的であることが判明したただし今回

は主成分が Sn の組成のガラスでありHEXRD でも十分に詳細な構造が得られたため

大きな差は現れなかった

参考文献

[1] 山根正之 安井至 和田正道 国分可紀 寺井良平 近藤敬 小川晋永編ガラス光学ハ

ンドブック 朝倉書店(1999)

[2]飯野潔 梅咲則正 NEW GLASS 19 [2] 31-40 (2004)

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[4] 小原真司 鈴谷健太郎 放射光 14 [5] 365-375 (2001)

[5] 早稲田嘉夫 齋藤正敏 放射光 10 [3] 299-315 (1997)

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[8] V V Chernaya A S Mitiaev P S Chizhov E V Dikarev R V Shpanchenko E V Antipov

MV Korolenko and PB Fabritchinyi J Chem Mater 17 284-290 (2005)

[9] M Mathew L W Schroeder and T H Jordan Acta Cryst B33 1812-1816 (1977)

[10] J S Taylar and M P Cohs J Am Ceram Solids 109 [9] 2834-2835 (1987)

[11] D Munoz-Martin A Ruiz de La Cruz J M Fernandez-Navarro C Domingo J Solis and J

Gonzalo J appl Phys 110 023522 (2011)

63

Fig 41 各原子の異常分散項のエネルギー依存性

Fig 42 Sn の異常分散項のエネルギー依存性

64

Fig 43 SPring-8の BL13XU

65

Tab

le 4

1

RM

Cの各パラメーター

66

Fig 44 Sn2P2O7 Sn3P2O8結晶の RDF

Table 42 Sn2P2O7 Sn3P2O8結晶の各 pairの第一近接距離

67

Fig 45 得られた実測 HEXRDの S(Q)

68

Fig 46 Sn の異常散乱測定により得られた散乱強度のエネルギー依存性

(a)67S33P (b)60S40P

69

Fig 47 全相関関数 T(r)

太線 HEXRD より

細線 Sn の AXSより

70

Fig 48 67S5N28P ガラス構造のモデル

71

Fig 49 RMC フィッティングの結果

72

Tab

le 4

3 各

pairの平均配位数角度結合距離

73

Fig

4

10

67

S5

N2

8Pガラスの各多面体モデル

74

Tab

le 4

4 各

pairの結合様式

75

Fig 411 67S5N28P ガラスの構造モデル

76

Table 45 平均 BO 各数 nの比較

Fig 412 50S50P ガラスの構造モデル

77

第 5章 総括

本研究ではSP ガラスを対象とした本研究では鉛フリー代替ガラスまたは希土類フ

リー蛍光体として SP ガラスの新規高機能化を将来的に目指し問題点であるldquo化学的耐久

性rdquoの改善につながる知見を得ることを目的としたそこでまずSP ガラスを母体ガラ

スとし第三成分に Nb2O5を添加した Sn-Nb-P SNP ガラスZnO を添加した SZP ガラスを

作製し耐水性を中心とした物性評価を行った次に分光学的手法で構造解析を行い

Qn 分布を導き出した最後に放射光を用いた構造解析を行い耐水性改善に関する構造的

な考察を行った以下に本研究で行った検討内容を示す

(1)SPガラスおよび第三成分Nb2O5 ZnOを添加した三成分系SPガラスの物性評価(第 2章)

(2)SP 系ガラスの分光学的手法による Qn分布導出(第 3章)

(3)放射光を用いた SP 系ガラスの構造解析構造と耐水性改善の関連について(第 4章)

各章についてまとめた結果を以下に示す

第 2章

第 2章では二成分系および三成分系のリン酸塩系ガラスの各種物性(密度や熱的特性

耐水性)の評価を行った二成分系ではSP ガラスに加え良好な耐水性を有する鉄リン

酸塩(Fe2O3-P2O5)系ガラス(以下 FP ガラス)を比較のために三成分系では二成分系

の SP ガラスに Nb2O5を添加したニオブ含有 SP ガラス(SNP ガラス)および ZnO を添加し

た亜鉛含有 SP ガラス(SZP ガラス)を作製した

今回作製した SP 系ガラスは低ガラス転移温度を有していた各組成の温度域はSP

ガラスTg le 280 Sn-Nb-P SNPガラスTg le 3505SZP S5ZPガラスTg ≦ 450であった

各種 SP ガラスの耐水性試験の結果二成分系の SP ガラスよりも三成分系ガラスの方が

良好な耐水性を有していた65Sn-5Nb-30P 67S5N28P ガラスが最も耐水性が良好であり化

学的耐久性の改善には Nb2O5が ZnOよりも効果的であった

組成と耐水性に関してはDRおよび重量減がOP増加で単調に低下した結果が得られた

つまり耐水性を改善させるにはSP 系ガラスのガラス化範囲を拡大かつ OP を増大させ

る第三成分の添加が有効であることが示唆された

第 3章

第 3章ではSP 系ガラスの分光学的手法による Qn分布の導出を行ったラマン分光法を

用いて各ガラス系のリン酸塩アニオンの構造を簡易定量で評価し組成と構造の関係に

ついて考察した平均 BO 数 n と耐水性に関してはDR および重量減が平均 BO 数 nの減

少で単調に低下することが明らかとなった

平均 BO 数 n と OP の関係より耐水性改善には平均 BO 数 n を下げることそして

OP を上げることが重要であることが明らかになった

78

Nb5+の添加は平均 BO数を減少させるだけでなくOP も上げることからガラス構造

内の P-O-P 結合を減少させ水和反応加水分解反応が抑制され耐水性が大幅に改善さ

れることが示唆された故にNb2O5 のような高価数金属酸化物を添加することが効果的

であることが再度確認された

第 4章

耐水性向上についてより深く評価するためSP SNP ガラスの局所構造に関する知見を得

ることを目的に放射光を用いた構造解析を行った高エネルギーX 線回折(HEXRD)お

よび X 線異常散乱(AXS)法で測定したデータを再現する構造モデルを逆モンテカルロ

(RMC)シミュレーションで構築し構造解析を行った

RMC モデル中の PON多面体に関して平均配位数 Nが 4および P-O の平均結合距離が約

160Å平均結合角度angO-P-Oが約 109degという結果が得られた組成による大きな違いは確

認されなかったSnON多面体については平均配位数 N が 3~4 でSnO 量の増加に伴い 4

に近い値となった平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約 22Åで組成

による大きな変化は見られなかった

Nb2O5を 5 mol添加したガラスではNbON多面体の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平

均配位数N約4Nb-O平均結合距離約20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O

(約 105deg)と値が近いことまた6配位ではなく 4配位として主に存在していることから

SnO と同じような網目形成体として働いていると推測されたまた結合距離が Sn-O が約

22Åに対し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強

固にしていると考えられるまたSnO 量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体

的に各多面体同士の頂点共有が増えていることから耐水性の改善には頂点共有を多く

含む構造もしくは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的であること

が示唆された以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性

耐候性を改善した要因として考えられる

またAXS 法の有効性についても確認し効果的であることが判明したただし今回

は主成分が Snの組成のガラスでありHEXRD でも十分に詳細な Snの周辺構造が得られ

たためAXSを利用した場合との大きな構造の差は認められなかった

本研究では様々な優れた特徴を有する SP ガラスにおける耐水性改善のメカニズムにつ

いて検討を行ったこの系のガラスについてはこれまでほとんど利用されていなかった

放射光を用いた構造解析を駆使し第三成分の添加によってどのような構造的変化が生じ

耐水性を改善させるか新たな知見を得ることができた最終目標である機能性ガラスの

開発における新たなる材料設計指針の確立に対してldquo耐水性rdquoに関しては概ね明らかにな

ったと考えられる一方で今回検討していな電子状態化学結合性についても評価する

ことで溶出メカニズムの解明が可能になり材料設計指針の確立が期待される

79

発表論文リスト

口頭発表

第 2章および第 3章

(1) SnO-P2O5 系ガラスへの酸化物添加効果

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎

日本セラミックス協会第 25 回秋季シンポジウム No3C06 (名古屋市 2012年 9月)

(2) Effect of Nb2O5 addition to SnO-P2O5 glass (Poster)

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

International Union of Materials Research Societies International Conference on Electronic

Materials IUMRS-ICEM 2012 A-9-P26-003 (Yokohama 2012 年 9月)

(3) スズリン酸塩系ガラスの蛍光特性耐水性に及ばす酸化物の添加効果(ポスター)

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎

日本セラミックス協会 2013 年年会 1P070 (東京 2013年 3月)

第 4章

(1) 放射光を用いたスズリン酸塩ガラスの構造解析

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎小原真二臼杵毅

日本セラミックス協会第 27 回秋季シンポジウム 2B22 (鹿児島市 2014年 9 月)

(2) Structural analysis of tin phosphate glasses by synchrotron radiation (Poster)

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba Shinji Kohara Takeshi Usuki

International Congress on Glass ICG Annual Meeting Bangkok 2015 P14-138 p186 (2015)

発表論文

(1) Effect of Nb2O5 addition to SnO- P2O5 glass

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

Journal of the Ceramic Society of Japan Vol 120 No 11 pp530-533 (2012)

(2) Structural analysis of SnO- P2O5 glass

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

Journal of the Ceramic Society of Japan(準備中)

80

謝辞

本研究を遂行するにあたり終始暖かいご指導ご助言並びにご鞭撻を賜わりました岡

山大学大学院環境生命科学研究科 難波徳郎教授に心より感謝の意を表します

また本研究を遂行するにあたり懇切丁寧なご指導とご意見をしていただいた岡山大

学大学院環境生命科学研究科 紅野安彦准教授環境環理センター 崎田真一助教に心より

感謝いたします

本研究を遂行するにあたりラマン分光測定の使用についてご助言ご教授して頂い

た岡山大学自然科学研究科 藤井達生教授中西真助教に心より感謝の意を表します

Sn のメスバウアー測定の際に協力して頂いた岡山大学自然科学研究科先端自然科学教

育研究推進本部高田研究室 松本修治特任助教(当時旭硝子株式会社中央研究所)また

Feのメスバウアーを測定の際に協力して頂いた岡山大学自然科学研究科 藤井達生教授に

心より感謝の意を表します

固体 NMR の岡山大学自然科学研究科 早川聡教授に心より感謝の意を表します

本研究を遂行するにあたりSPring-8 にてHEXRD および AXS 法の測定法および原理

についてご教示頂きました物質材料研究機構 小原真司博士ならびに山形大学 臼杵毅

教授に心より感謝の意を表します

本研究は多くの後輩諸君の協力によって遂行されました特に実際に共同研究共同

実験を遂行して頂いたOG 藤原沙弥香さん博士前期課程 2 年 東利彦君OB 徳岡太誠

君学士課程 4年 塩田将大君に心より感謝の意を表しますまた難波研究室で共に研

究生活を過ごした卒業生在学生の方々に感謝の意を表します

また同時期に博士後期課程に在籍された香川高等専門学校の桟敷剛さんにはNbに

関する有益な情報だけでなく辛い状況でも励ましを頂きました心より感謝の意を表し

ます

最後に長きに渡る学生生活を認め経済面だけでなく精神面でも支援してくださった

家族に心より深く感謝の意を表します

平成 28年 3月

福井 聡史

Page 52: 博士論文 スズリン酸塩系ガラスの物性と構造解析ousar.lib.okayama-u.ac.jp/files/public/5/54353/...博士論文 スズリン酸塩系ガラスの物性と構造解析

49

Fig 34 SZP ガラスのラマンスペクトル

50

Fig 35 FP ガラスのラマンスペクトル

51

Fig 36 ラマンスペクトルのピーク分離例(67S5N28P)

Raman Shift (cm-1)

52

Fig 37 NMRスペクトル

Table 31 NMR およびラマン分光より得られた SP 67S5N28P ガラスの

Qn分布および平均 BO数 n

53

Table 32 各ガラスのラマンスペクトルより求めた Qn分布結果

(表の赤線より右側の結果は Table 22 より)

1 仕込み組成による数値

2 Fig 2212 に示した析出物を取り除いた後の数値

54

Fig 38 DR と平均 BO数 nの関係性

55

Fig 39 重量減と平均 BO数 nの関係性

56

Fig 310 OP と平均 BO数 nの関係性

Meta

Pyro

Ortho

57

第 4章 放射光を用いたスズリン酸塩系ガラスの構造解析

41 緒言

前章の第 3 章にてラマン分光法を用いて SP 系ガラスの構造解析により Qn分布を導き

出したことで耐水性と構造の関係についてある程度関連性を導くことができたリン

酸アニオンについてはQ0(orthophosphate)構造 gt Q

1(pyrophosphate)構造 gt Q2

(metaphosphate)構造の順で良耐水性となるしかしSn Nbおよび Znの局所構造につ

いては知見が得られていないラマン分光や IR分光などの分光学的手法を用いてSnや

Nb Zn の周辺の局所構造を知るには限界があるまたガラスの構造解析を行う上で非常

に重要な因子である中距離構造の評価には分光学的手法は不向きである[1]

そこで局所構造や中距離構造を知るために有効な手法として放射光線を用いた構造

解析がある放射光(SR 光)とはシンクロトロンなどの加速器で高速に加速された電子

が進行方向を磁場によって変えられた際に放射する電磁波である[2]エネルギーが高く

(短波長)輝度が高い特性を有している日本国内では兵庫県佐用町の SPring-8や茨城

県つくば市の高エネルギー加速器研究機構佐賀県鳥栖市の佐賀県立九州シンクロトロン

光研究センターなど複数個所に放射光施設が設置されている

放射光を用いたガラスの構造解析には一般的に高エネルギーX 線回折(High Energy

X-ray diffraction HEXRD)が用いられるこの回折実験から高い散乱ベクトル Q(= 4π sinθλ)

まで回折データが得られる多種類の原子から構成される物質の場合はFaber-Ziman 型[3]

の構造因子 S(Q)を用いる以下の式に示すようにFaber-Ziman 型構造因子 S(Q)は同種また

は異種の原子による相関の重み関数付の和として示される例として SiO2ガラスで説明す

ると構造因子 S(Q)は三種類の原子付の S(Q)の重み付の和として表されていることが分か

I(Q) 散乱断面積 ltgt 原子一個当たりの平均値 f(Q) 原子散乱因子 W 重み関数

通常の研究室で使用される X 線回折(XRD)装置で用いられる特性 X 線はCuKα線(λ

= 0154 nm 81 keV)が最も良く用いられより高いエネルギーの X 線が必要な場合は

MoKα線(λ = 0071 nm 175 keV)が使用される一方でSPring-8のビームライン BL04B2

で行われる高エネルギーX 線回折(HEXRD)測定で使用される SR のエネルギーは378 keV

58

~ が使用可能である[2]従ってガラス以外の液体のような非晶質物質にも非常に精度

よく構造解析が行われている[4]

また局所構造解析の一つに X線異常散乱法という測定方法がある[5 6]これは通常

の X 線回折実験では分離不可能な特定元素に関連する部分構造因子(散乱強度曲線)を得

ることができる手法である今回 HEXRD の測定時に使用したエネルギー614 keV では各元

素の異常散乱項のエネルギー依存性は確認されない(Fig 41)その一方でFig 42に示す

Sn の吸収端付近の 292 keV付近ではSnの異常分散項のエネルギー依存性が確認できる

つまりSnの吸収端近傍より低エネルギー(E)側の異なるエネルギーの X線(E1 E2)を

使って散乱強度を測定し各 E における異常分散項(f`)の変化(つまり高い E1 から低い

E2 の散乱強度の差分)を利用して Snに関する部分構造因子を求める構造解析が AXS 法で

あるこの測定法は古くから知られている方法ではあるが装置の測定条件や設備の問

題からなどから使用があまり普及していなかった[5 6]近年になり金属ガラスの構造解

析について徐々に報告が出てきており今後注目される測定法である

HEXRD および AXS 法などから得られたデータ実測の構造因子 S(Q)は一次元の限られ

た構造情報であるためガラスなどの非晶質物質の中距離構造を解明するためにはこれ

らのデータを基に三次元構造を求める必要がある三次元構造モデルの作成には逆モンテ

カルロ(RMC)シミュレーションを使用することが有効である[7]このシミュレーション

は任意で決めたシミュレーションボックス内の粒子をランダムに動かすことで実測の

構造因子 S(Q)を再現する三次元構造モデルを構築する方法である

SP ガラスについては分光学的手法について数多く報告があるが放射光を用いた回折

法はほとんど適用されていないそこで本研究では HEXRD および AXS 法を用いた構造

解析を行うことでSn Nb周りの構造を解明すると共にSNP ガラスの耐水性改善のメカ

ニズムについて考察したまたAXS 法の有効性についても検討した測定を行ったガラ

スはSP ガラスおよび最も耐水性の高かった 67S5N28P を選択した

42 実験方法

421 HEXRD AXS法

HEXRDはSPring-8のビームライン BL04B2 で測定を行ったエネルギー614 keV の X

線を用いた測定サンプルの厚みは09 mm (plusmn0005 mm)になるまで研磨を行った

AXS 測定はSPring-8のビームライン BL13XUを使用した(Fig 43)それぞれの測定し

た X 線のエネルギーについて以下に示す

①Sn K吸収端hellip292 keV near edgehellip291452 keV (-60 eV) far edgehellip289751 keV (-230 eV)

②Nb K吸収端hellip1899 keV near edgehellip189562 keV (-30 eV) far edgehellip187863 keV (-230 eV)

測定に使用したサンプルの厚さが015 - 030 mmとなるまで研磨を施した

SP ガラスについて50S50P 60S40P 67S33P の三組成のガラスを測定した70S30P に関

59

しては測定を試みたが放射光照射によって結晶化してしまいガラス部分の正確な構

造因子を得るための強度補正ができず解析を断念した

422 RMCのモデリング

Table 41 に RMC の各種パラメーターを示す粒子数は約 5000 個でそれに伴う boxの一

辺の長さは約 42 ~ 46 Ǻになった拘束条件にP の配位数が 4になるような条件を付け

加えたFig 44にSn2P2O7結晶および Sn3P2O8結晶の動径分布関数(RDF)をTable 32

にRDFから得られた第一近接距離[8 9] を示すこれらの数値を使用しcutoffを決定し

たNb-O についてはいくつかの文献値を参考にした[10 11]

各ガラスの RMCのモデリングは①HEXRDから得られた S(Q)のみ②S(Q)および AXS

から得られた部分構造因子を加えた場合でそれぞれ計算した

43 結果考察

最初にNbの AXSから得られたデータについて解析を試みたが妥当な構造モデルが得

られなかったためSnの AXSのみで解析を進めたNb2O5の量が 5 molと少量であったた

めあまり精度の高いデータが得られなかったと推測される

431 実測の HEXRDおよび AXSの結果

4311 実測 HEXRDの S(Q)

Fig 45 に実測HEXRDの S(Q)を示す四つの組成ともに実測HEXRDの S(Q)が得られ

Nb2O5添加の 67S5N28P ガラスでは Low Q 側に変化が確認された

4312 実測散乱強度曲線

Fig 46 に Snの散乱強度曲線を示す(a) の 67S33P のこの曲線からはfar edgeおよび

near edge のエネルギー間で差分が見られエネルギーの依存性が確認された50S50P

67S5N28P のガラスについても同じように差分が確認されたが(b)の 60S40P についてのみ

他とは若干異なる結果(緑丸)であったためRMC の構造解析には差分の構造因子ではな

くfar edge near edge 二つの構造因子を用いた

4313 全相関関数 T(r)

Fig 47 に全相関関数 T(r) を示すHEXRD から得られたものを実線でSnの AXS から

得られたものは点線で示し組成ごとに重ねて表示した図中に各ピークについて帰属し

ているがSnの T(r)からはSn-O Sn-P Sn-Snのみのピークを確認した

432 RMCの計算結果および考察

60

構造モデルの一例として67S5N28P ガラスの得られた構造モデルをFig 48に示す水

色の多面体 unitSnON 黄色の多面体 unitPO4 ピンクの多面体 unitNbONである以下

詳細な構造解析の結果および考察を記す

4321 RMCのフィッティング結果

RMCのフィッティング結果の一例として67S33P の HEXRD と Snの AXS の構造因子か

ら得た結果を示す(Fig 49)二つの構造因子を加えて計算した結果においてもHEXRD

の S(Q) AXS の S(Q)に各々に対する良好なフィッティング結果が得られた他の組成も

同様なフィッティング結果が得られた

4322得られた各 pairの平均配位数平均角度平均結合距離

RMCの結果によって得られた各 pairの平均配位数平均角度平均結合距離を Tables 43

に示す上段が HEXRD の S(Q)のみ下段が HEXRD に Sn の AXS の部分構造因子を加え

て結果である最下部は比較のためにSn2P2O7の情報を記載した[8]

P-O pairについてRMCモデル中の PON多面体に関して平均配位数 Nが 4および P-O

の平均結合距離が約 160Å平均結合角度angO-P-O が約 109degという結果が得られた組成

による大きな違いは確認されなかったのはP の配位数が 4になるように拘束条件をかけた

結果であると考えられるSnON多面体についてはSnO量の増加 = OP の増加であり平

均配位数 Nが 3 ~ 35へ増加した平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約

22Åで組成による大きな変化はほとんど見られなかったNb2O5を 5 mol添加したガラ

スではNbON多面体の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平均配位数 N約 4Nb-O 平均結

合距離約 20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O(約 105deg)と値が近いこと

また6配位ではなく 4配位として主に存在していることからSnO と同じような働きをし

ていると推測される

以上の結果からNb2O5添加の耐水性改善の要因として結合距離が Sn-O が約 22Åに対

し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強固にして

いることも一つの要因として考えられる

また67S5N28P ガラスの各多面体モデルを確認すると(Fig 410)P は PO4Snは SnO4

と SnO3Nbは NbO4をそれぞれ再現している

4323得られた各 pairの結合様式

RMC の結果により得られた各 pair の結合様式を Tables 44 に示す上段が HEXRD の

S(Q)のみ下段が HEXRDに Snの AXS の部分構造因子を加えた結果である最下部は比

較のためにSn2P2O7の情報を記載した[8]

結合様式に関してはPO4四面体は他の多面体も含めてほぼ頂点共有で存在している

SnON多面体についてはSnO 量が少ない配位数が 3 に近い場合頂点共有以外の共有の

61

割合も多くSnO 量が増えるにつれて頂点共有が主になり網目形成体として振舞ってい

ると考えられる組成によって平均結合距離や平均角度の大きな変化が見られなかったこ

とから平均配位数が結合様式を決める重要なファクターであるということも考えられる

またHEXRD と AXS 法の結果がほぼ同じであったこれは主成分が SnO のガラスであ

るためHEXRDでも十分に詳細な構造が得られたため大きな変化が現れなかったと考え

られるNbON 多面体はPO4 四面体と SnON 多面体とはほぼ頂点共有で繋がっている以

上の結果よりSnO量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体的に各多面体同士の

頂点共有が増えていることから耐水性の改善には頂点共有を多く含む構造であること

が重要である或いは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的となって

いるということが推測されるFig 411に 67S5N28P ガラスの構造モデルを示す各多面

体はほぼ頂点共有で繋がっていることが確認できる

4324 平均 BO数の比較

Tables 45にNMR Raman RMC(HEXRD) RMC(HEXRD + AXS)の平均BO数を示すRMC

から得られた平均 BO 数 nはNMR Raman と同様に Nb2O5の添加による大幅な減少が確認

されたしかしNMR Raman と比較すると全組成において数値が大きすぎで適当でない

50S50P の構造モデルを観るとPO4四面体間で3配位 O の存在が確認された(Fig 412)た

め実測で得られた n値を再現できるようなPO4四面体モデル間の繋がり方に関する拘束条

件を加えて RMCを計算する必要性があるまた仮に3配位 Oの存在があるとすると電

子状態の変化が生じていることがと示唆されるため分子軌道計算を用いて電子状態解析

を行い確認する必要がある

4325 耐水性の改善について

Nb2O5を添加のガラス構造への影響について①6配位ではなく 4配位として主に存在し

ていることからSnO と同じような働きをしていると推測される②結合距離が Sn-O が約

22Åに対し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強

固にしている③ガラス構造中で全体的に各多面体同士の頂点共有が増えている以上の

ことが判明した以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性

耐候性を改善した要因として考えられる

44 結言

本章では分光学的手法では評価できないガラスの中距離構造局所構造について理解

するために放射光を用いた構造解析を実施しSP ガラスの構造と耐水性改善について考

察したHEXRDおよび AXS法を用いて測定を行い得られたデータを RMCシミュレーシ

ョンにて解析を行った

解析の結果 Sn-O pair については平均配位数 Nが 3 ~ 35でSnO量の増加 = OP の増

62

加に伴い高くなった平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約 22Åであ

ったP-O Sn-Oについては組成による大きな変化はほとんど見られなかった67S5N28P

ガラスの Nb-O pair の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平均配位数約 4Nb-O 平均結合距

離約 20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O(約 105deg)と値が近いことま

た6配位ではなく 4配位として主に存在していることからSnOと同じような働き(網目

形成体)をしていると推測されるまた結合距離が Sn-O が約 22Åに対し Nb-O は約 20

Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強固にしていると言える

SnO 量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体的に各多面体同士の頂点共有が増え

ていることから耐水性の改善には頂点共有を多く含む構造であることが重要である

もしくは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的であることが推測さ

れる以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性耐候性を

改善した要因として考えられる

またAXS 法の有効性についても確認し効果的であることが判明したただし今回

は主成分が Sn の組成のガラスでありHEXRD でも十分に詳細な構造が得られたため

大きな差は現れなかった

参考文献

[1] 山根正之 安井至 和田正道 国分可紀 寺井良平 近藤敬 小川晋永編ガラス光学ハ

ンドブック 朝倉書店(1999)

[2]飯野潔 梅咲則正 NEW GLASS 19 [2] 31-40 (2004)

[3] T E Faber and J M Ziman Philos Mag 11 [109] 153-173 (1965)

[4] 小原真司 鈴谷健太郎 放射光 14 [5] 365-375 (2001)

[5] 早稲田嘉夫 齋藤正敏 放射光 10 [3] 299-315 (1997)

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[7] RLMcGreevy and LPuszai Mol Simulation 1 359(1988)

[8] V V Chernaya A S Mitiaev P S Chizhov E V Dikarev R V Shpanchenko E V Antipov

MV Korolenko and PB Fabritchinyi J Chem Mater 17 284-290 (2005)

[9] M Mathew L W Schroeder and T H Jordan Acta Cryst B33 1812-1816 (1977)

[10] J S Taylar and M P Cohs J Am Ceram Solids 109 [9] 2834-2835 (1987)

[11] D Munoz-Martin A Ruiz de La Cruz J M Fernandez-Navarro C Domingo J Solis and J

Gonzalo J appl Phys 110 023522 (2011)

63

Fig 41 各原子の異常分散項のエネルギー依存性

Fig 42 Sn の異常分散項のエネルギー依存性

64

Fig 43 SPring-8の BL13XU

65

Tab

le 4

1

RM

Cの各パラメーター

66

Fig 44 Sn2P2O7 Sn3P2O8結晶の RDF

Table 42 Sn2P2O7 Sn3P2O8結晶の各 pairの第一近接距離

67

Fig 45 得られた実測 HEXRDの S(Q)

68

Fig 46 Sn の異常散乱測定により得られた散乱強度のエネルギー依存性

(a)67S33P (b)60S40P

69

Fig 47 全相関関数 T(r)

太線 HEXRD より

細線 Sn の AXSより

70

Fig 48 67S5N28P ガラス構造のモデル

71

Fig 49 RMC フィッティングの結果

72

Tab

le 4

3 各

pairの平均配位数角度結合距離

73

Fig

4

10

67

S5

N2

8Pガラスの各多面体モデル

74

Tab

le 4

4 各

pairの結合様式

75

Fig 411 67S5N28P ガラスの構造モデル

76

Table 45 平均 BO 各数 nの比較

Fig 412 50S50P ガラスの構造モデル

77

第 5章 総括

本研究ではSP ガラスを対象とした本研究では鉛フリー代替ガラスまたは希土類フ

リー蛍光体として SP ガラスの新規高機能化を将来的に目指し問題点であるldquo化学的耐久

性rdquoの改善につながる知見を得ることを目的としたそこでまずSP ガラスを母体ガラ

スとし第三成分に Nb2O5を添加した Sn-Nb-P SNP ガラスZnO を添加した SZP ガラスを

作製し耐水性を中心とした物性評価を行った次に分光学的手法で構造解析を行い

Qn 分布を導き出した最後に放射光を用いた構造解析を行い耐水性改善に関する構造的

な考察を行った以下に本研究で行った検討内容を示す

(1)SPガラスおよび第三成分Nb2O5 ZnOを添加した三成分系SPガラスの物性評価(第 2章)

(2)SP 系ガラスの分光学的手法による Qn分布導出(第 3章)

(3)放射光を用いた SP 系ガラスの構造解析構造と耐水性改善の関連について(第 4章)

各章についてまとめた結果を以下に示す

第 2章

第 2章では二成分系および三成分系のリン酸塩系ガラスの各種物性(密度や熱的特性

耐水性)の評価を行った二成分系ではSP ガラスに加え良好な耐水性を有する鉄リン

酸塩(Fe2O3-P2O5)系ガラス(以下 FP ガラス)を比較のために三成分系では二成分系

の SP ガラスに Nb2O5を添加したニオブ含有 SP ガラス(SNP ガラス)および ZnO を添加し

た亜鉛含有 SP ガラス(SZP ガラス)を作製した

今回作製した SP 系ガラスは低ガラス転移温度を有していた各組成の温度域はSP

ガラスTg le 280 Sn-Nb-P SNPガラスTg le 3505SZP S5ZPガラスTg ≦ 450であった

各種 SP ガラスの耐水性試験の結果二成分系の SP ガラスよりも三成分系ガラスの方が

良好な耐水性を有していた65Sn-5Nb-30P 67S5N28P ガラスが最も耐水性が良好であり化

学的耐久性の改善には Nb2O5が ZnOよりも効果的であった

組成と耐水性に関してはDRおよび重量減がOP増加で単調に低下した結果が得られた

つまり耐水性を改善させるにはSP 系ガラスのガラス化範囲を拡大かつ OP を増大させ

る第三成分の添加が有効であることが示唆された

第 3章

第 3章ではSP 系ガラスの分光学的手法による Qn分布の導出を行ったラマン分光法を

用いて各ガラス系のリン酸塩アニオンの構造を簡易定量で評価し組成と構造の関係に

ついて考察した平均 BO 数 n と耐水性に関してはDR および重量減が平均 BO 数 nの減

少で単調に低下することが明らかとなった

平均 BO 数 n と OP の関係より耐水性改善には平均 BO 数 n を下げることそして

OP を上げることが重要であることが明らかになった

78

Nb5+の添加は平均 BO数を減少させるだけでなくOP も上げることからガラス構造

内の P-O-P 結合を減少させ水和反応加水分解反応が抑制され耐水性が大幅に改善さ

れることが示唆された故にNb2O5 のような高価数金属酸化物を添加することが効果的

であることが再度確認された

第 4章

耐水性向上についてより深く評価するためSP SNP ガラスの局所構造に関する知見を得

ることを目的に放射光を用いた構造解析を行った高エネルギーX 線回折(HEXRD)お

よび X 線異常散乱(AXS)法で測定したデータを再現する構造モデルを逆モンテカルロ

(RMC)シミュレーションで構築し構造解析を行った

RMC モデル中の PON多面体に関して平均配位数 Nが 4および P-O の平均結合距離が約

160Å平均結合角度angO-P-Oが約 109degという結果が得られた組成による大きな違いは確

認されなかったSnON多面体については平均配位数 N が 3~4 でSnO 量の増加に伴い 4

に近い値となった平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約 22Åで組成

による大きな変化は見られなかった

Nb2O5を 5 mol添加したガラスではNbON多面体の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平

均配位数N約4Nb-O平均結合距離約20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O

(約 105deg)と値が近いことまた6配位ではなく 4配位として主に存在していることから

SnO と同じような網目形成体として働いていると推測されたまた結合距離が Sn-O が約

22Åに対し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強

固にしていると考えられるまたSnO 量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体

的に各多面体同士の頂点共有が増えていることから耐水性の改善には頂点共有を多く

含む構造もしくは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的であること

が示唆された以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性

耐候性を改善した要因として考えられる

またAXS 法の有効性についても確認し効果的であることが判明したただし今回

は主成分が Snの組成のガラスでありHEXRD でも十分に詳細な Snの周辺構造が得られ

たためAXSを利用した場合との大きな構造の差は認められなかった

本研究では様々な優れた特徴を有する SP ガラスにおける耐水性改善のメカニズムにつ

いて検討を行ったこの系のガラスについてはこれまでほとんど利用されていなかった

放射光を用いた構造解析を駆使し第三成分の添加によってどのような構造的変化が生じ

耐水性を改善させるか新たな知見を得ることができた最終目標である機能性ガラスの

開発における新たなる材料設計指針の確立に対してldquo耐水性rdquoに関しては概ね明らかにな

ったと考えられる一方で今回検討していな電子状態化学結合性についても評価する

ことで溶出メカニズムの解明が可能になり材料設計指針の確立が期待される

79

発表論文リスト

口頭発表

第 2章および第 3章

(1) SnO-P2O5 系ガラスへの酸化物添加効果

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎

日本セラミックス協会第 25 回秋季シンポジウム No3C06 (名古屋市 2012年 9月)

(2) Effect of Nb2O5 addition to SnO-P2O5 glass (Poster)

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

International Union of Materials Research Societies International Conference on Electronic

Materials IUMRS-ICEM 2012 A-9-P26-003 (Yokohama 2012 年 9月)

(3) スズリン酸塩系ガラスの蛍光特性耐水性に及ばす酸化物の添加効果(ポスター)

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎

日本セラミックス協会 2013 年年会 1P070 (東京 2013年 3月)

第 4章

(1) 放射光を用いたスズリン酸塩ガラスの構造解析

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎小原真二臼杵毅

日本セラミックス協会第 27 回秋季シンポジウム 2B22 (鹿児島市 2014年 9 月)

(2) Structural analysis of tin phosphate glasses by synchrotron radiation (Poster)

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba Shinji Kohara Takeshi Usuki

International Congress on Glass ICG Annual Meeting Bangkok 2015 P14-138 p186 (2015)

発表論文

(1) Effect of Nb2O5 addition to SnO- P2O5 glass

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

Journal of the Ceramic Society of Japan Vol 120 No 11 pp530-533 (2012)

(2) Structural analysis of SnO- P2O5 glass

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

Journal of the Ceramic Society of Japan(準備中)

80

謝辞

本研究を遂行するにあたり終始暖かいご指導ご助言並びにご鞭撻を賜わりました岡

山大学大学院環境生命科学研究科 難波徳郎教授に心より感謝の意を表します

また本研究を遂行するにあたり懇切丁寧なご指導とご意見をしていただいた岡山大

学大学院環境生命科学研究科 紅野安彦准教授環境環理センター 崎田真一助教に心より

感謝いたします

本研究を遂行するにあたりラマン分光測定の使用についてご助言ご教授して頂い

た岡山大学自然科学研究科 藤井達生教授中西真助教に心より感謝の意を表します

Sn のメスバウアー測定の際に協力して頂いた岡山大学自然科学研究科先端自然科学教

育研究推進本部高田研究室 松本修治特任助教(当時旭硝子株式会社中央研究所)また

Feのメスバウアーを測定の際に協力して頂いた岡山大学自然科学研究科 藤井達生教授に

心より感謝の意を表します

固体 NMR の岡山大学自然科学研究科 早川聡教授に心より感謝の意を表します

本研究を遂行するにあたりSPring-8 にてHEXRD および AXS 法の測定法および原理

についてご教示頂きました物質材料研究機構 小原真司博士ならびに山形大学 臼杵毅

教授に心より感謝の意を表します

本研究は多くの後輩諸君の協力によって遂行されました特に実際に共同研究共同

実験を遂行して頂いたOG 藤原沙弥香さん博士前期課程 2 年 東利彦君OB 徳岡太誠

君学士課程 4年 塩田将大君に心より感謝の意を表しますまた難波研究室で共に研

究生活を過ごした卒業生在学生の方々に感謝の意を表します

また同時期に博士後期課程に在籍された香川高等専門学校の桟敷剛さんにはNbに

関する有益な情報だけでなく辛い状況でも励ましを頂きました心より感謝の意を表し

ます

最後に長きに渡る学生生活を認め経済面だけでなく精神面でも支援してくださった

家族に心より深く感謝の意を表します

平成 28年 3月

福井 聡史

Page 53: 博士論文 スズリン酸塩系ガラスの物性と構造解析ousar.lib.okayama-u.ac.jp/files/public/5/54353/...博士論文 スズリン酸塩系ガラスの物性と構造解析

50

Fig 35 FP ガラスのラマンスペクトル

51

Fig 36 ラマンスペクトルのピーク分離例(67S5N28P)

Raman Shift (cm-1)

52

Fig 37 NMRスペクトル

Table 31 NMR およびラマン分光より得られた SP 67S5N28P ガラスの

Qn分布および平均 BO数 n

53

Table 32 各ガラスのラマンスペクトルより求めた Qn分布結果

(表の赤線より右側の結果は Table 22 より)

1 仕込み組成による数値

2 Fig 2212 に示した析出物を取り除いた後の数値

54

Fig 38 DR と平均 BO数 nの関係性

55

Fig 39 重量減と平均 BO数 nの関係性

56

Fig 310 OP と平均 BO数 nの関係性

Meta

Pyro

Ortho

57

第 4章 放射光を用いたスズリン酸塩系ガラスの構造解析

41 緒言

前章の第 3 章にてラマン分光法を用いて SP 系ガラスの構造解析により Qn分布を導き

出したことで耐水性と構造の関係についてある程度関連性を導くことができたリン

酸アニオンについてはQ0(orthophosphate)構造 gt Q

1(pyrophosphate)構造 gt Q2

(metaphosphate)構造の順で良耐水性となるしかしSn Nbおよび Znの局所構造につ

いては知見が得られていないラマン分光や IR分光などの分光学的手法を用いてSnや

Nb Zn の周辺の局所構造を知るには限界があるまたガラスの構造解析を行う上で非常

に重要な因子である中距離構造の評価には分光学的手法は不向きである[1]

そこで局所構造や中距離構造を知るために有効な手法として放射光線を用いた構造

解析がある放射光(SR 光)とはシンクロトロンなどの加速器で高速に加速された電子

が進行方向を磁場によって変えられた際に放射する電磁波である[2]エネルギーが高く

(短波長)輝度が高い特性を有している日本国内では兵庫県佐用町の SPring-8や茨城

県つくば市の高エネルギー加速器研究機構佐賀県鳥栖市の佐賀県立九州シンクロトロン

光研究センターなど複数個所に放射光施設が設置されている

放射光を用いたガラスの構造解析には一般的に高エネルギーX 線回折(High Energy

X-ray diffraction HEXRD)が用いられるこの回折実験から高い散乱ベクトル Q(= 4π sinθλ)

まで回折データが得られる多種類の原子から構成される物質の場合はFaber-Ziman 型[3]

の構造因子 S(Q)を用いる以下の式に示すようにFaber-Ziman 型構造因子 S(Q)は同種また

は異種の原子による相関の重み関数付の和として示される例として SiO2ガラスで説明す

ると構造因子 S(Q)は三種類の原子付の S(Q)の重み付の和として表されていることが分か

I(Q) 散乱断面積 ltgt 原子一個当たりの平均値 f(Q) 原子散乱因子 W 重み関数

通常の研究室で使用される X 線回折(XRD)装置で用いられる特性 X 線はCuKα線(λ

= 0154 nm 81 keV)が最も良く用いられより高いエネルギーの X 線が必要な場合は

MoKα線(λ = 0071 nm 175 keV)が使用される一方でSPring-8のビームライン BL04B2

で行われる高エネルギーX 線回折(HEXRD)測定で使用される SR のエネルギーは378 keV

58

~ が使用可能である[2]従ってガラス以外の液体のような非晶質物質にも非常に精度

よく構造解析が行われている[4]

また局所構造解析の一つに X線異常散乱法という測定方法がある[5 6]これは通常

の X 線回折実験では分離不可能な特定元素に関連する部分構造因子(散乱強度曲線)を得

ることができる手法である今回 HEXRD の測定時に使用したエネルギー614 keV では各元

素の異常散乱項のエネルギー依存性は確認されない(Fig 41)その一方でFig 42に示す

Sn の吸収端付近の 292 keV付近ではSnの異常分散項のエネルギー依存性が確認できる

つまりSnの吸収端近傍より低エネルギー(E)側の異なるエネルギーの X線(E1 E2)を

使って散乱強度を測定し各 E における異常分散項(f`)の変化(つまり高い E1 から低い

E2 の散乱強度の差分)を利用して Snに関する部分構造因子を求める構造解析が AXS 法で

あるこの測定法は古くから知られている方法ではあるが装置の測定条件や設備の問

題からなどから使用があまり普及していなかった[5 6]近年になり金属ガラスの構造解

析について徐々に報告が出てきており今後注目される測定法である

HEXRD および AXS 法などから得られたデータ実測の構造因子 S(Q)は一次元の限られ

た構造情報であるためガラスなどの非晶質物質の中距離構造を解明するためにはこれ

らのデータを基に三次元構造を求める必要がある三次元構造モデルの作成には逆モンテ

カルロ(RMC)シミュレーションを使用することが有効である[7]このシミュレーション

は任意で決めたシミュレーションボックス内の粒子をランダムに動かすことで実測の

構造因子 S(Q)を再現する三次元構造モデルを構築する方法である

SP ガラスについては分光学的手法について数多く報告があるが放射光を用いた回折

法はほとんど適用されていないそこで本研究では HEXRD および AXS 法を用いた構造

解析を行うことでSn Nb周りの構造を解明すると共にSNP ガラスの耐水性改善のメカ

ニズムについて考察したまたAXS 法の有効性についても検討した測定を行ったガラ

スはSP ガラスおよび最も耐水性の高かった 67S5N28P を選択した

42 実験方法

421 HEXRD AXS法

HEXRDはSPring-8のビームライン BL04B2 で測定を行ったエネルギー614 keV の X

線を用いた測定サンプルの厚みは09 mm (plusmn0005 mm)になるまで研磨を行った

AXS 測定はSPring-8のビームライン BL13XUを使用した(Fig 43)それぞれの測定し

た X 線のエネルギーについて以下に示す

①Sn K吸収端hellip292 keV near edgehellip291452 keV (-60 eV) far edgehellip289751 keV (-230 eV)

②Nb K吸収端hellip1899 keV near edgehellip189562 keV (-30 eV) far edgehellip187863 keV (-230 eV)

測定に使用したサンプルの厚さが015 - 030 mmとなるまで研磨を施した

SP ガラスについて50S50P 60S40P 67S33P の三組成のガラスを測定した70S30P に関

59

しては測定を試みたが放射光照射によって結晶化してしまいガラス部分の正確な構

造因子を得るための強度補正ができず解析を断念した

422 RMCのモデリング

Table 41 に RMC の各種パラメーターを示す粒子数は約 5000 個でそれに伴う boxの一

辺の長さは約 42 ~ 46 Ǻになった拘束条件にP の配位数が 4になるような条件を付け

加えたFig 44にSn2P2O7結晶および Sn3P2O8結晶の動径分布関数(RDF)をTable 32

にRDFから得られた第一近接距離[8 9] を示すこれらの数値を使用しcutoffを決定し

たNb-O についてはいくつかの文献値を参考にした[10 11]

各ガラスの RMCのモデリングは①HEXRDから得られた S(Q)のみ②S(Q)および AXS

から得られた部分構造因子を加えた場合でそれぞれ計算した

43 結果考察

最初にNbの AXSから得られたデータについて解析を試みたが妥当な構造モデルが得

られなかったためSnの AXSのみで解析を進めたNb2O5の量が 5 molと少量であったた

めあまり精度の高いデータが得られなかったと推測される

431 実測の HEXRDおよび AXSの結果

4311 実測 HEXRDの S(Q)

Fig 45 に実測HEXRDの S(Q)を示す四つの組成ともに実測HEXRDの S(Q)が得られ

Nb2O5添加の 67S5N28P ガラスでは Low Q 側に変化が確認された

4312 実測散乱強度曲線

Fig 46 に Snの散乱強度曲線を示す(a) の 67S33P のこの曲線からはfar edgeおよび

near edge のエネルギー間で差分が見られエネルギーの依存性が確認された50S50P

67S5N28P のガラスについても同じように差分が確認されたが(b)の 60S40P についてのみ

他とは若干異なる結果(緑丸)であったためRMC の構造解析には差分の構造因子ではな

くfar edge near edge 二つの構造因子を用いた

4313 全相関関数 T(r)

Fig 47 に全相関関数 T(r) を示すHEXRD から得られたものを実線でSnの AXS から

得られたものは点線で示し組成ごとに重ねて表示した図中に各ピークについて帰属し

ているがSnの T(r)からはSn-O Sn-P Sn-Snのみのピークを確認した

432 RMCの計算結果および考察

60

構造モデルの一例として67S5N28P ガラスの得られた構造モデルをFig 48に示す水

色の多面体 unitSnON 黄色の多面体 unitPO4 ピンクの多面体 unitNbONである以下

詳細な構造解析の結果および考察を記す

4321 RMCのフィッティング結果

RMCのフィッティング結果の一例として67S33P の HEXRD と Snの AXS の構造因子か

ら得た結果を示す(Fig 49)二つの構造因子を加えて計算した結果においてもHEXRD

の S(Q) AXS の S(Q)に各々に対する良好なフィッティング結果が得られた他の組成も

同様なフィッティング結果が得られた

4322得られた各 pairの平均配位数平均角度平均結合距離

RMCの結果によって得られた各 pairの平均配位数平均角度平均結合距離を Tables 43

に示す上段が HEXRD の S(Q)のみ下段が HEXRD に Sn の AXS の部分構造因子を加え

て結果である最下部は比較のためにSn2P2O7の情報を記載した[8]

P-O pairについてRMCモデル中の PON多面体に関して平均配位数 Nが 4および P-O

の平均結合距離が約 160Å平均結合角度angO-P-O が約 109degという結果が得られた組成

による大きな違いは確認されなかったのはP の配位数が 4になるように拘束条件をかけた

結果であると考えられるSnON多面体についてはSnO量の増加 = OP の増加であり平

均配位数 Nが 3 ~ 35へ増加した平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約

22Åで組成による大きな変化はほとんど見られなかったNb2O5を 5 mol添加したガラ

スではNbON多面体の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平均配位数 N約 4Nb-O 平均結

合距離約 20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O(約 105deg)と値が近いこと

また6配位ではなく 4配位として主に存在していることからSnO と同じような働きをし

ていると推測される

以上の結果からNb2O5添加の耐水性改善の要因として結合距離が Sn-O が約 22Åに対

し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強固にして

いることも一つの要因として考えられる

また67S5N28P ガラスの各多面体モデルを確認すると(Fig 410)P は PO4Snは SnO4

と SnO3Nbは NbO4をそれぞれ再現している

4323得られた各 pairの結合様式

RMC の結果により得られた各 pair の結合様式を Tables 44 に示す上段が HEXRD の

S(Q)のみ下段が HEXRDに Snの AXS の部分構造因子を加えた結果である最下部は比

較のためにSn2P2O7の情報を記載した[8]

結合様式に関してはPO4四面体は他の多面体も含めてほぼ頂点共有で存在している

SnON多面体についてはSnO 量が少ない配位数が 3 に近い場合頂点共有以外の共有の

61

割合も多くSnO 量が増えるにつれて頂点共有が主になり網目形成体として振舞ってい

ると考えられる組成によって平均結合距離や平均角度の大きな変化が見られなかったこ

とから平均配位数が結合様式を決める重要なファクターであるということも考えられる

またHEXRD と AXS 法の結果がほぼ同じであったこれは主成分が SnO のガラスであ

るためHEXRDでも十分に詳細な構造が得られたため大きな変化が現れなかったと考え

られるNbON 多面体はPO4 四面体と SnON 多面体とはほぼ頂点共有で繋がっている以

上の結果よりSnO量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体的に各多面体同士の

頂点共有が増えていることから耐水性の改善には頂点共有を多く含む構造であること

が重要である或いは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的となって

いるということが推測されるFig 411に 67S5N28P ガラスの構造モデルを示す各多面

体はほぼ頂点共有で繋がっていることが確認できる

4324 平均 BO数の比較

Tables 45にNMR Raman RMC(HEXRD) RMC(HEXRD + AXS)の平均BO数を示すRMC

から得られた平均 BO 数 nはNMR Raman と同様に Nb2O5の添加による大幅な減少が確認

されたしかしNMR Raman と比較すると全組成において数値が大きすぎで適当でない

50S50P の構造モデルを観るとPO4四面体間で3配位 O の存在が確認された(Fig 412)た

め実測で得られた n値を再現できるようなPO4四面体モデル間の繋がり方に関する拘束条

件を加えて RMCを計算する必要性があるまた仮に3配位 Oの存在があるとすると電

子状態の変化が生じていることがと示唆されるため分子軌道計算を用いて電子状態解析

を行い確認する必要がある

4325 耐水性の改善について

Nb2O5を添加のガラス構造への影響について①6配位ではなく 4配位として主に存在し

ていることからSnO と同じような働きをしていると推測される②結合距離が Sn-O が約

22Åに対し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強

固にしている③ガラス構造中で全体的に各多面体同士の頂点共有が増えている以上の

ことが判明した以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性

耐候性を改善した要因として考えられる

44 結言

本章では分光学的手法では評価できないガラスの中距離構造局所構造について理解

するために放射光を用いた構造解析を実施しSP ガラスの構造と耐水性改善について考

察したHEXRDおよび AXS法を用いて測定を行い得られたデータを RMCシミュレーシ

ョンにて解析を行った

解析の結果 Sn-O pair については平均配位数 Nが 3 ~ 35でSnO量の増加 = OP の増

62

加に伴い高くなった平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約 22Åであ

ったP-O Sn-Oについては組成による大きな変化はほとんど見られなかった67S5N28P

ガラスの Nb-O pair の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平均配位数約 4Nb-O 平均結合距

離約 20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O(約 105deg)と値が近いことま

た6配位ではなく 4配位として主に存在していることからSnOと同じような働き(網目

形成体)をしていると推測されるまた結合距離が Sn-O が約 22Åに対し Nb-O は約 20

Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強固にしていると言える

SnO 量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体的に各多面体同士の頂点共有が増え

ていることから耐水性の改善には頂点共有を多く含む構造であることが重要である

もしくは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的であることが推測さ

れる以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性耐候性を

改善した要因として考えられる

またAXS 法の有効性についても確認し効果的であることが判明したただし今回

は主成分が Sn の組成のガラスでありHEXRD でも十分に詳細な構造が得られたため

大きな差は現れなかった

参考文献

[1] 山根正之 安井至 和田正道 国分可紀 寺井良平 近藤敬 小川晋永編ガラス光学ハ

ンドブック 朝倉書店(1999)

[2]飯野潔 梅咲則正 NEW GLASS 19 [2] 31-40 (2004)

[3] T E Faber and J M Ziman Philos Mag 11 [109] 153-173 (1965)

[4] 小原真司 鈴谷健太郎 放射光 14 [5] 365-375 (2001)

[5] 早稲田嘉夫 齋藤正敏 放射光 10 [3] 299-315 (1997)

[6] 細川伸也 広島工業大学紀要研究編 46 197-204 (2012)

[7] RLMcGreevy and LPuszai Mol Simulation 1 359(1988)

[8] V V Chernaya A S Mitiaev P S Chizhov E V Dikarev R V Shpanchenko E V Antipov

MV Korolenko and PB Fabritchinyi J Chem Mater 17 284-290 (2005)

[9] M Mathew L W Schroeder and T H Jordan Acta Cryst B33 1812-1816 (1977)

[10] J S Taylar and M P Cohs J Am Ceram Solids 109 [9] 2834-2835 (1987)

[11] D Munoz-Martin A Ruiz de La Cruz J M Fernandez-Navarro C Domingo J Solis and J

Gonzalo J appl Phys 110 023522 (2011)

63

Fig 41 各原子の異常分散項のエネルギー依存性

Fig 42 Sn の異常分散項のエネルギー依存性

64

Fig 43 SPring-8の BL13XU

65

Tab

le 4

1

RM

Cの各パラメーター

66

Fig 44 Sn2P2O7 Sn3P2O8結晶の RDF

Table 42 Sn2P2O7 Sn3P2O8結晶の各 pairの第一近接距離

67

Fig 45 得られた実測 HEXRDの S(Q)

68

Fig 46 Sn の異常散乱測定により得られた散乱強度のエネルギー依存性

(a)67S33P (b)60S40P

69

Fig 47 全相関関数 T(r)

太線 HEXRD より

細線 Sn の AXSより

70

Fig 48 67S5N28P ガラス構造のモデル

71

Fig 49 RMC フィッティングの結果

72

Tab

le 4

3 各

pairの平均配位数角度結合距離

73

Fig

4

10

67

S5

N2

8Pガラスの各多面体モデル

74

Tab

le 4

4 各

pairの結合様式

75

Fig 411 67S5N28P ガラスの構造モデル

76

Table 45 平均 BO 各数 nの比較

Fig 412 50S50P ガラスの構造モデル

77

第 5章 総括

本研究ではSP ガラスを対象とした本研究では鉛フリー代替ガラスまたは希土類フ

リー蛍光体として SP ガラスの新規高機能化を将来的に目指し問題点であるldquo化学的耐久

性rdquoの改善につながる知見を得ることを目的としたそこでまずSP ガラスを母体ガラ

スとし第三成分に Nb2O5を添加した Sn-Nb-P SNP ガラスZnO を添加した SZP ガラスを

作製し耐水性を中心とした物性評価を行った次に分光学的手法で構造解析を行い

Qn 分布を導き出した最後に放射光を用いた構造解析を行い耐水性改善に関する構造的

な考察を行った以下に本研究で行った検討内容を示す

(1)SPガラスおよび第三成分Nb2O5 ZnOを添加した三成分系SPガラスの物性評価(第 2章)

(2)SP 系ガラスの分光学的手法による Qn分布導出(第 3章)

(3)放射光を用いた SP 系ガラスの構造解析構造と耐水性改善の関連について(第 4章)

各章についてまとめた結果を以下に示す

第 2章

第 2章では二成分系および三成分系のリン酸塩系ガラスの各種物性(密度や熱的特性

耐水性)の評価を行った二成分系ではSP ガラスに加え良好な耐水性を有する鉄リン

酸塩(Fe2O3-P2O5)系ガラス(以下 FP ガラス)を比較のために三成分系では二成分系

の SP ガラスに Nb2O5を添加したニオブ含有 SP ガラス(SNP ガラス)および ZnO を添加し

た亜鉛含有 SP ガラス(SZP ガラス)を作製した

今回作製した SP 系ガラスは低ガラス転移温度を有していた各組成の温度域はSP

ガラスTg le 280 Sn-Nb-P SNPガラスTg le 3505SZP S5ZPガラスTg ≦ 450であった

各種 SP ガラスの耐水性試験の結果二成分系の SP ガラスよりも三成分系ガラスの方が

良好な耐水性を有していた65Sn-5Nb-30P 67S5N28P ガラスが最も耐水性が良好であり化

学的耐久性の改善には Nb2O5が ZnOよりも効果的であった

組成と耐水性に関してはDRおよび重量減がOP増加で単調に低下した結果が得られた

つまり耐水性を改善させるにはSP 系ガラスのガラス化範囲を拡大かつ OP を増大させ

る第三成分の添加が有効であることが示唆された

第 3章

第 3章ではSP 系ガラスの分光学的手法による Qn分布の導出を行ったラマン分光法を

用いて各ガラス系のリン酸塩アニオンの構造を簡易定量で評価し組成と構造の関係に

ついて考察した平均 BO 数 n と耐水性に関してはDR および重量減が平均 BO 数 nの減

少で単調に低下することが明らかとなった

平均 BO 数 n と OP の関係より耐水性改善には平均 BO 数 n を下げることそして

OP を上げることが重要であることが明らかになった

78

Nb5+の添加は平均 BO数を減少させるだけでなくOP も上げることからガラス構造

内の P-O-P 結合を減少させ水和反応加水分解反応が抑制され耐水性が大幅に改善さ

れることが示唆された故にNb2O5 のような高価数金属酸化物を添加することが効果的

であることが再度確認された

第 4章

耐水性向上についてより深く評価するためSP SNP ガラスの局所構造に関する知見を得

ることを目的に放射光を用いた構造解析を行った高エネルギーX 線回折(HEXRD)お

よび X 線異常散乱(AXS)法で測定したデータを再現する構造モデルを逆モンテカルロ

(RMC)シミュレーションで構築し構造解析を行った

RMC モデル中の PON多面体に関して平均配位数 Nが 4および P-O の平均結合距離が約

160Å平均結合角度angO-P-Oが約 109degという結果が得られた組成による大きな違いは確

認されなかったSnON多面体については平均配位数 N が 3~4 でSnO 量の増加に伴い 4

に近い値となった平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約 22Åで組成

による大きな変化は見られなかった

Nb2O5を 5 mol添加したガラスではNbON多面体の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平

均配位数N約4Nb-O平均結合距離約20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O

(約 105deg)と値が近いことまた6配位ではなく 4配位として主に存在していることから

SnO と同じような網目形成体として働いていると推測されたまた結合距離が Sn-O が約

22Åに対し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強

固にしていると考えられるまたSnO 量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体

的に各多面体同士の頂点共有が増えていることから耐水性の改善には頂点共有を多く

含む構造もしくは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的であること

が示唆された以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性

耐候性を改善した要因として考えられる

またAXS 法の有効性についても確認し効果的であることが判明したただし今回

は主成分が Snの組成のガラスでありHEXRD でも十分に詳細な Snの周辺構造が得られ

たためAXSを利用した場合との大きな構造の差は認められなかった

本研究では様々な優れた特徴を有する SP ガラスにおける耐水性改善のメカニズムにつ

いて検討を行ったこの系のガラスについてはこれまでほとんど利用されていなかった

放射光を用いた構造解析を駆使し第三成分の添加によってどのような構造的変化が生じ

耐水性を改善させるか新たな知見を得ることができた最終目標である機能性ガラスの

開発における新たなる材料設計指針の確立に対してldquo耐水性rdquoに関しては概ね明らかにな

ったと考えられる一方で今回検討していな電子状態化学結合性についても評価する

ことで溶出メカニズムの解明が可能になり材料設計指針の確立が期待される

79

発表論文リスト

口頭発表

第 2章および第 3章

(1) SnO-P2O5 系ガラスへの酸化物添加効果

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎

日本セラミックス協会第 25 回秋季シンポジウム No3C06 (名古屋市 2012年 9月)

(2) Effect of Nb2O5 addition to SnO-P2O5 glass (Poster)

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

International Union of Materials Research Societies International Conference on Electronic

Materials IUMRS-ICEM 2012 A-9-P26-003 (Yokohama 2012 年 9月)

(3) スズリン酸塩系ガラスの蛍光特性耐水性に及ばす酸化物の添加効果(ポスター)

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎

日本セラミックス協会 2013 年年会 1P070 (東京 2013年 3月)

第 4章

(1) 放射光を用いたスズリン酸塩ガラスの構造解析

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎小原真二臼杵毅

日本セラミックス協会第 27 回秋季シンポジウム 2B22 (鹿児島市 2014年 9 月)

(2) Structural analysis of tin phosphate glasses by synchrotron radiation (Poster)

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba Shinji Kohara Takeshi Usuki

International Congress on Glass ICG Annual Meeting Bangkok 2015 P14-138 p186 (2015)

発表論文

(1) Effect of Nb2O5 addition to SnO- P2O5 glass

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

Journal of the Ceramic Society of Japan Vol 120 No 11 pp530-533 (2012)

(2) Structural analysis of SnO- P2O5 glass

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

Journal of the Ceramic Society of Japan(準備中)

80

謝辞

本研究を遂行するにあたり終始暖かいご指導ご助言並びにご鞭撻を賜わりました岡

山大学大学院環境生命科学研究科 難波徳郎教授に心より感謝の意を表します

また本研究を遂行するにあたり懇切丁寧なご指導とご意見をしていただいた岡山大

学大学院環境生命科学研究科 紅野安彦准教授環境環理センター 崎田真一助教に心より

感謝いたします

本研究を遂行するにあたりラマン分光測定の使用についてご助言ご教授して頂い

た岡山大学自然科学研究科 藤井達生教授中西真助教に心より感謝の意を表します

Sn のメスバウアー測定の際に協力して頂いた岡山大学自然科学研究科先端自然科学教

育研究推進本部高田研究室 松本修治特任助教(当時旭硝子株式会社中央研究所)また

Feのメスバウアーを測定の際に協力して頂いた岡山大学自然科学研究科 藤井達生教授に

心より感謝の意を表します

固体 NMR の岡山大学自然科学研究科 早川聡教授に心より感謝の意を表します

本研究を遂行するにあたりSPring-8 にてHEXRD および AXS 法の測定法および原理

についてご教示頂きました物質材料研究機構 小原真司博士ならびに山形大学 臼杵毅

教授に心より感謝の意を表します

本研究は多くの後輩諸君の協力によって遂行されました特に実際に共同研究共同

実験を遂行して頂いたOG 藤原沙弥香さん博士前期課程 2 年 東利彦君OB 徳岡太誠

君学士課程 4年 塩田将大君に心より感謝の意を表しますまた難波研究室で共に研

究生活を過ごした卒業生在学生の方々に感謝の意を表します

また同時期に博士後期課程に在籍された香川高等専門学校の桟敷剛さんにはNbに

関する有益な情報だけでなく辛い状況でも励ましを頂きました心より感謝の意を表し

ます

最後に長きに渡る学生生活を認め経済面だけでなく精神面でも支援してくださった

家族に心より深く感謝の意を表します

平成 28年 3月

福井 聡史

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51

Fig 36 ラマンスペクトルのピーク分離例(67S5N28P)

Raman Shift (cm-1)

52

Fig 37 NMRスペクトル

Table 31 NMR およびラマン分光より得られた SP 67S5N28P ガラスの

Qn分布および平均 BO数 n

53

Table 32 各ガラスのラマンスペクトルより求めた Qn分布結果

(表の赤線より右側の結果は Table 22 より)

1 仕込み組成による数値

2 Fig 2212 に示した析出物を取り除いた後の数値

54

Fig 38 DR と平均 BO数 nの関係性

55

Fig 39 重量減と平均 BO数 nの関係性

56

Fig 310 OP と平均 BO数 nの関係性

Meta

Pyro

Ortho

57

第 4章 放射光を用いたスズリン酸塩系ガラスの構造解析

41 緒言

前章の第 3 章にてラマン分光法を用いて SP 系ガラスの構造解析により Qn分布を導き

出したことで耐水性と構造の関係についてある程度関連性を導くことができたリン

酸アニオンについてはQ0(orthophosphate)構造 gt Q

1(pyrophosphate)構造 gt Q2

(metaphosphate)構造の順で良耐水性となるしかしSn Nbおよび Znの局所構造につ

いては知見が得られていないラマン分光や IR分光などの分光学的手法を用いてSnや

Nb Zn の周辺の局所構造を知るには限界があるまたガラスの構造解析を行う上で非常

に重要な因子である中距離構造の評価には分光学的手法は不向きである[1]

そこで局所構造や中距離構造を知るために有効な手法として放射光線を用いた構造

解析がある放射光(SR 光)とはシンクロトロンなどの加速器で高速に加速された電子

が進行方向を磁場によって変えられた際に放射する電磁波である[2]エネルギーが高く

(短波長)輝度が高い特性を有している日本国内では兵庫県佐用町の SPring-8や茨城

県つくば市の高エネルギー加速器研究機構佐賀県鳥栖市の佐賀県立九州シンクロトロン

光研究センターなど複数個所に放射光施設が設置されている

放射光を用いたガラスの構造解析には一般的に高エネルギーX 線回折(High Energy

X-ray diffraction HEXRD)が用いられるこの回折実験から高い散乱ベクトル Q(= 4π sinθλ)

まで回折データが得られる多種類の原子から構成される物質の場合はFaber-Ziman 型[3]

の構造因子 S(Q)を用いる以下の式に示すようにFaber-Ziman 型構造因子 S(Q)は同種また

は異種の原子による相関の重み関数付の和として示される例として SiO2ガラスで説明す

ると構造因子 S(Q)は三種類の原子付の S(Q)の重み付の和として表されていることが分か

I(Q) 散乱断面積 ltgt 原子一個当たりの平均値 f(Q) 原子散乱因子 W 重み関数

通常の研究室で使用される X 線回折(XRD)装置で用いられる特性 X 線はCuKα線(λ

= 0154 nm 81 keV)が最も良く用いられより高いエネルギーの X 線が必要な場合は

MoKα線(λ = 0071 nm 175 keV)が使用される一方でSPring-8のビームライン BL04B2

で行われる高エネルギーX 線回折(HEXRD)測定で使用される SR のエネルギーは378 keV

58

~ が使用可能である[2]従ってガラス以外の液体のような非晶質物質にも非常に精度

よく構造解析が行われている[4]

また局所構造解析の一つに X線異常散乱法という測定方法がある[5 6]これは通常

の X 線回折実験では分離不可能な特定元素に関連する部分構造因子(散乱強度曲線)を得

ることができる手法である今回 HEXRD の測定時に使用したエネルギー614 keV では各元

素の異常散乱項のエネルギー依存性は確認されない(Fig 41)その一方でFig 42に示す

Sn の吸収端付近の 292 keV付近ではSnの異常分散項のエネルギー依存性が確認できる

つまりSnの吸収端近傍より低エネルギー(E)側の異なるエネルギーの X線(E1 E2)を

使って散乱強度を測定し各 E における異常分散項(f`)の変化(つまり高い E1 から低い

E2 の散乱強度の差分)を利用して Snに関する部分構造因子を求める構造解析が AXS 法で

あるこの測定法は古くから知られている方法ではあるが装置の測定条件や設備の問

題からなどから使用があまり普及していなかった[5 6]近年になり金属ガラスの構造解

析について徐々に報告が出てきており今後注目される測定法である

HEXRD および AXS 法などから得られたデータ実測の構造因子 S(Q)は一次元の限られ

た構造情報であるためガラスなどの非晶質物質の中距離構造を解明するためにはこれ

らのデータを基に三次元構造を求める必要がある三次元構造モデルの作成には逆モンテ

カルロ(RMC)シミュレーションを使用することが有効である[7]このシミュレーション

は任意で決めたシミュレーションボックス内の粒子をランダムに動かすことで実測の

構造因子 S(Q)を再現する三次元構造モデルを構築する方法である

SP ガラスについては分光学的手法について数多く報告があるが放射光を用いた回折

法はほとんど適用されていないそこで本研究では HEXRD および AXS 法を用いた構造

解析を行うことでSn Nb周りの構造を解明すると共にSNP ガラスの耐水性改善のメカ

ニズムについて考察したまたAXS 法の有効性についても検討した測定を行ったガラ

スはSP ガラスおよび最も耐水性の高かった 67S5N28P を選択した

42 実験方法

421 HEXRD AXS法

HEXRDはSPring-8のビームライン BL04B2 で測定を行ったエネルギー614 keV の X

線を用いた測定サンプルの厚みは09 mm (plusmn0005 mm)になるまで研磨を行った

AXS 測定はSPring-8のビームライン BL13XUを使用した(Fig 43)それぞれの測定し

た X 線のエネルギーについて以下に示す

①Sn K吸収端hellip292 keV near edgehellip291452 keV (-60 eV) far edgehellip289751 keV (-230 eV)

②Nb K吸収端hellip1899 keV near edgehellip189562 keV (-30 eV) far edgehellip187863 keV (-230 eV)

測定に使用したサンプルの厚さが015 - 030 mmとなるまで研磨を施した

SP ガラスについて50S50P 60S40P 67S33P の三組成のガラスを測定した70S30P に関

59

しては測定を試みたが放射光照射によって結晶化してしまいガラス部分の正確な構

造因子を得るための強度補正ができず解析を断念した

422 RMCのモデリング

Table 41 に RMC の各種パラメーターを示す粒子数は約 5000 個でそれに伴う boxの一

辺の長さは約 42 ~ 46 Ǻになった拘束条件にP の配位数が 4になるような条件を付け

加えたFig 44にSn2P2O7結晶および Sn3P2O8結晶の動径分布関数(RDF)をTable 32

にRDFから得られた第一近接距離[8 9] を示すこれらの数値を使用しcutoffを決定し

たNb-O についてはいくつかの文献値を参考にした[10 11]

各ガラスの RMCのモデリングは①HEXRDから得られた S(Q)のみ②S(Q)および AXS

から得られた部分構造因子を加えた場合でそれぞれ計算した

43 結果考察

最初にNbの AXSから得られたデータについて解析を試みたが妥当な構造モデルが得

られなかったためSnの AXSのみで解析を進めたNb2O5の量が 5 molと少量であったた

めあまり精度の高いデータが得られなかったと推測される

431 実測の HEXRDおよび AXSの結果

4311 実測 HEXRDの S(Q)

Fig 45 に実測HEXRDの S(Q)を示す四つの組成ともに実測HEXRDの S(Q)が得られ

Nb2O5添加の 67S5N28P ガラスでは Low Q 側に変化が確認された

4312 実測散乱強度曲線

Fig 46 に Snの散乱強度曲線を示す(a) の 67S33P のこの曲線からはfar edgeおよび

near edge のエネルギー間で差分が見られエネルギーの依存性が確認された50S50P

67S5N28P のガラスについても同じように差分が確認されたが(b)の 60S40P についてのみ

他とは若干異なる結果(緑丸)であったためRMC の構造解析には差分の構造因子ではな

くfar edge near edge 二つの構造因子を用いた

4313 全相関関数 T(r)

Fig 47 に全相関関数 T(r) を示すHEXRD から得られたものを実線でSnの AXS から

得られたものは点線で示し組成ごとに重ねて表示した図中に各ピークについて帰属し

ているがSnの T(r)からはSn-O Sn-P Sn-Snのみのピークを確認した

432 RMCの計算結果および考察

60

構造モデルの一例として67S5N28P ガラスの得られた構造モデルをFig 48に示す水

色の多面体 unitSnON 黄色の多面体 unitPO4 ピンクの多面体 unitNbONである以下

詳細な構造解析の結果および考察を記す

4321 RMCのフィッティング結果

RMCのフィッティング結果の一例として67S33P の HEXRD と Snの AXS の構造因子か

ら得た結果を示す(Fig 49)二つの構造因子を加えて計算した結果においてもHEXRD

の S(Q) AXS の S(Q)に各々に対する良好なフィッティング結果が得られた他の組成も

同様なフィッティング結果が得られた

4322得られた各 pairの平均配位数平均角度平均結合距離

RMCの結果によって得られた各 pairの平均配位数平均角度平均結合距離を Tables 43

に示す上段が HEXRD の S(Q)のみ下段が HEXRD に Sn の AXS の部分構造因子を加え

て結果である最下部は比較のためにSn2P2O7の情報を記載した[8]

P-O pairについてRMCモデル中の PON多面体に関して平均配位数 Nが 4および P-O

の平均結合距離が約 160Å平均結合角度angO-P-O が約 109degという結果が得られた組成

による大きな違いは確認されなかったのはP の配位数が 4になるように拘束条件をかけた

結果であると考えられるSnON多面体についてはSnO量の増加 = OP の増加であり平

均配位数 Nが 3 ~ 35へ増加した平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約

22Åで組成による大きな変化はほとんど見られなかったNb2O5を 5 mol添加したガラ

スではNbON多面体の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平均配位数 N約 4Nb-O 平均結

合距離約 20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O(約 105deg)と値が近いこと

また6配位ではなく 4配位として主に存在していることからSnO と同じような働きをし

ていると推測される

以上の結果からNb2O5添加の耐水性改善の要因として結合距離が Sn-O が約 22Åに対

し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強固にして

いることも一つの要因として考えられる

また67S5N28P ガラスの各多面体モデルを確認すると(Fig 410)P は PO4Snは SnO4

と SnO3Nbは NbO4をそれぞれ再現している

4323得られた各 pairの結合様式

RMC の結果により得られた各 pair の結合様式を Tables 44 に示す上段が HEXRD の

S(Q)のみ下段が HEXRDに Snの AXS の部分構造因子を加えた結果である最下部は比

較のためにSn2P2O7の情報を記載した[8]

結合様式に関してはPO4四面体は他の多面体も含めてほぼ頂点共有で存在している

SnON多面体についてはSnO 量が少ない配位数が 3 に近い場合頂点共有以外の共有の

61

割合も多くSnO 量が増えるにつれて頂点共有が主になり網目形成体として振舞ってい

ると考えられる組成によって平均結合距離や平均角度の大きな変化が見られなかったこ

とから平均配位数が結合様式を決める重要なファクターであるということも考えられる

またHEXRD と AXS 法の結果がほぼ同じであったこれは主成分が SnO のガラスであ

るためHEXRDでも十分に詳細な構造が得られたため大きな変化が現れなかったと考え

られるNbON 多面体はPO4 四面体と SnON 多面体とはほぼ頂点共有で繋がっている以

上の結果よりSnO量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体的に各多面体同士の

頂点共有が増えていることから耐水性の改善には頂点共有を多く含む構造であること

が重要である或いは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的となって

いるということが推測されるFig 411に 67S5N28P ガラスの構造モデルを示す各多面

体はほぼ頂点共有で繋がっていることが確認できる

4324 平均 BO数の比較

Tables 45にNMR Raman RMC(HEXRD) RMC(HEXRD + AXS)の平均BO数を示すRMC

から得られた平均 BO 数 nはNMR Raman と同様に Nb2O5の添加による大幅な減少が確認

されたしかしNMR Raman と比較すると全組成において数値が大きすぎで適当でない

50S50P の構造モデルを観るとPO4四面体間で3配位 O の存在が確認された(Fig 412)た

め実測で得られた n値を再現できるようなPO4四面体モデル間の繋がり方に関する拘束条

件を加えて RMCを計算する必要性があるまた仮に3配位 Oの存在があるとすると電

子状態の変化が生じていることがと示唆されるため分子軌道計算を用いて電子状態解析

を行い確認する必要がある

4325 耐水性の改善について

Nb2O5を添加のガラス構造への影響について①6配位ではなく 4配位として主に存在し

ていることからSnO と同じような働きをしていると推測される②結合距離が Sn-O が約

22Åに対し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強

固にしている③ガラス構造中で全体的に各多面体同士の頂点共有が増えている以上の

ことが判明した以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性

耐候性を改善した要因として考えられる

44 結言

本章では分光学的手法では評価できないガラスの中距離構造局所構造について理解

するために放射光を用いた構造解析を実施しSP ガラスの構造と耐水性改善について考

察したHEXRDおよび AXS法を用いて測定を行い得られたデータを RMCシミュレーシ

ョンにて解析を行った

解析の結果 Sn-O pair については平均配位数 Nが 3 ~ 35でSnO量の増加 = OP の増

62

加に伴い高くなった平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約 22Åであ

ったP-O Sn-Oについては組成による大きな変化はほとんど見られなかった67S5N28P

ガラスの Nb-O pair の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平均配位数約 4Nb-O 平均結合距

離約 20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O(約 105deg)と値が近いことま

た6配位ではなく 4配位として主に存在していることからSnOと同じような働き(網目

形成体)をしていると推測されるまた結合距離が Sn-O が約 22Åに対し Nb-O は約 20

Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強固にしていると言える

SnO 量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体的に各多面体同士の頂点共有が増え

ていることから耐水性の改善には頂点共有を多く含む構造であることが重要である

もしくは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的であることが推測さ

れる以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性耐候性を

改善した要因として考えられる

またAXS 法の有効性についても確認し効果的であることが判明したただし今回

は主成分が Sn の組成のガラスでありHEXRD でも十分に詳細な構造が得られたため

大きな差は現れなかった

参考文献

[1] 山根正之 安井至 和田正道 国分可紀 寺井良平 近藤敬 小川晋永編ガラス光学ハ

ンドブック 朝倉書店(1999)

[2]飯野潔 梅咲則正 NEW GLASS 19 [2] 31-40 (2004)

[3] T E Faber and J M Ziman Philos Mag 11 [109] 153-173 (1965)

[4] 小原真司 鈴谷健太郎 放射光 14 [5] 365-375 (2001)

[5] 早稲田嘉夫 齋藤正敏 放射光 10 [3] 299-315 (1997)

[6] 細川伸也 広島工業大学紀要研究編 46 197-204 (2012)

[7] RLMcGreevy and LPuszai Mol Simulation 1 359(1988)

[8] V V Chernaya A S Mitiaev P S Chizhov E V Dikarev R V Shpanchenko E V Antipov

MV Korolenko and PB Fabritchinyi J Chem Mater 17 284-290 (2005)

[9] M Mathew L W Schroeder and T H Jordan Acta Cryst B33 1812-1816 (1977)

[10] J S Taylar and M P Cohs J Am Ceram Solids 109 [9] 2834-2835 (1987)

[11] D Munoz-Martin A Ruiz de La Cruz J M Fernandez-Navarro C Domingo J Solis and J

Gonzalo J appl Phys 110 023522 (2011)

63

Fig 41 各原子の異常分散項のエネルギー依存性

Fig 42 Sn の異常分散項のエネルギー依存性

64

Fig 43 SPring-8の BL13XU

65

Tab

le 4

1

RM

Cの各パラメーター

66

Fig 44 Sn2P2O7 Sn3P2O8結晶の RDF

Table 42 Sn2P2O7 Sn3P2O8結晶の各 pairの第一近接距離

67

Fig 45 得られた実測 HEXRDの S(Q)

68

Fig 46 Sn の異常散乱測定により得られた散乱強度のエネルギー依存性

(a)67S33P (b)60S40P

69

Fig 47 全相関関数 T(r)

太線 HEXRD より

細線 Sn の AXSより

70

Fig 48 67S5N28P ガラス構造のモデル

71

Fig 49 RMC フィッティングの結果

72

Tab

le 4

3 各

pairの平均配位数角度結合距離

73

Fig

4

10

67

S5

N2

8Pガラスの各多面体モデル

74

Tab

le 4

4 各

pairの結合様式

75

Fig 411 67S5N28P ガラスの構造モデル

76

Table 45 平均 BO 各数 nの比較

Fig 412 50S50P ガラスの構造モデル

77

第 5章 総括

本研究ではSP ガラスを対象とした本研究では鉛フリー代替ガラスまたは希土類フ

リー蛍光体として SP ガラスの新規高機能化を将来的に目指し問題点であるldquo化学的耐久

性rdquoの改善につながる知見を得ることを目的としたそこでまずSP ガラスを母体ガラ

スとし第三成分に Nb2O5を添加した Sn-Nb-P SNP ガラスZnO を添加した SZP ガラスを

作製し耐水性を中心とした物性評価を行った次に分光学的手法で構造解析を行い

Qn 分布を導き出した最後に放射光を用いた構造解析を行い耐水性改善に関する構造的

な考察を行った以下に本研究で行った検討内容を示す

(1)SPガラスおよび第三成分Nb2O5 ZnOを添加した三成分系SPガラスの物性評価(第 2章)

(2)SP 系ガラスの分光学的手法による Qn分布導出(第 3章)

(3)放射光を用いた SP 系ガラスの構造解析構造と耐水性改善の関連について(第 4章)

各章についてまとめた結果を以下に示す

第 2章

第 2章では二成分系および三成分系のリン酸塩系ガラスの各種物性(密度や熱的特性

耐水性)の評価を行った二成分系ではSP ガラスに加え良好な耐水性を有する鉄リン

酸塩(Fe2O3-P2O5)系ガラス(以下 FP ガラス)を比較のために三成分系では二成分系

の SP ガラスに Nb2O5を添加したニオブ含有 SP ガラス(SNP ガラス)および ZnO を添加し

た亜鉛含有 SP ガラス(SZP ガラス)を作製した

今回作製した SP 系ガラスは低ガラス転移温度を有していた各組成の温度域はSP

ガラスTg le 280 Sn-Nb-P SNPガラスTg le 3505SZP S5ZPガラスTg ≦ 450であった

各種 SP ガラスの耐水性試験の結果二成分系の SP ガラスよりも三成分系ガラスの方が

良好な耐水性を有していた65Sn-5Nb-30P 67S5N28P ガラスが最も耐水性が良好であり化

学的耐久性の改善には Nb2O5が ZnOよりも効果的であった

組成と耐水性に関してはDRおよび重量減がOP増加で単調に低下した結果が得られた

つまり耐水性を改善させるにはSP 系ガラスのガラス化範囲を拡大かつ OP を増大させ

る第三成分の添加が有効であることが示唆された

第 3章

第 3章ではSP 系ガラスの分光学的手法による Qn分布の導出を行ったラマン分光法を

用いて各ガラス系のリン酸塩アニオンの構造を簡易定量で評価し組成と構造の関係に

ついて考察した平均 BO 数 n と耐水性に関してはDR および重量減が平均 BO 数 nの減

少で単調に低下することが明らかとなった

平均 BO 数 n と OP の関係より耐水性改善には平均 BO 数 n を下げることそして

OP を上げることが重要であることが明らかになった

78

Nb5+の添加は平均 BO数を減少させるだけでなくOP も上げることからガラス構造

内の P-O-P 結合を減少させ水和反応加水分解反応が抑制され耐水性が大幅に改善さ

れることが示唆された故にNb2O5 のような高価数金属酸化物を添加することが効果的

であることが再度確認された

第 4章

耐水性向上についてより深く評価するためSP SNP ガラスの局所構造に関する知見を得

ることを目的に放射光を用いた構造解析を行った高エネルギーX 線回折(HEXRD)お

よび X 線異常散乱(AXS)法で測定したデータを再現する構造モデルを逆モンテカルロ

(RMC)シミュレーションで構築し構造解析を行った

RMC モデル中の PON多面体に関して平均配位数 Nが 4および P-O の平均結合距離が約

160Å平均結合角度angO-P-Oが約 109degという結果が得られた組成による大きな違いは確

認されなかったSnON多面体については平均配位数 N が 3~4 でSnO 量の増加に伴い 4

に近い値となった平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約 22Åで組成

による大きな変化は見られなかった

Nb2O5を 5 mol添加したガラスではNbON多面体の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平

均配位数N約4Nb-O平均結合距離約20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O

(約 105deg)と値が近いことまた6配位ではなく 4配位として主に存在していることから

SnO と同じような網目形成体として働いていると推測されたまた結合距離が Sn-O が約

22Åに対し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強

固にしていると考えられるまたSnO 量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体

的に各多面体同士の頂点共有が増えていることから耐水性の改善には頂点共有を多く

含む構造もしくは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的であること

が示唆された以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性

耐候性を改善した要因として考えられる

またAXS 法の有効性についても確認し効果的であることが判明したただし今回

は主成分が Snの組成のガラスでありHEXRD でも十分に詳細な Snの周辺構造が得られ

たためAXSを利用した場合との大きな構造の差は認められなかった

本研究では様々な優れた特徴を有する SP ガラスにおける耐水性改善のメカニズムにつ

いて検討を行ったこの系のガラスについてはこれまでほとんど利用されていなかった

放射光を用いた構造解析を駆使し第三成分の添加によってどのような構造的変化が生じ

耐水性を改善させるか新たな知見を得ることができた最終目標である機能性ガラスの

開発における新たなる材料設計指針の確立に対してldquo耐水性rdquoに関しては概ね明らかにな

ったと考えられる一方で今回検討していな電子状態化学結合性についても評価する

ことで溶出メカニズムの解明が可能になり材料設計指針の確立が期待される

79

発表論文リスト

口頭発表

第 2章および第 3章

(1) SnO-P2O5 系ガラスへの酸化物添加効果

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎

日本セラミックス協会第 25 回秋季シンポジウム No3C06 (名古屋市 2012年 9月)

(2) Effect of Nb2O5 addition to SnO-P2O5 glass (Poster)

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

International Union of Materials Research Societies International Conference on Electronic

Materials IUMRS-ICEM 2012 A-9-P26-003 (Yokohama 2012 年 9月)

(3) スズリン酸塩系ガラスの蛍光特性耐水性に及ばす酸化物の添加効果(ポスター)

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎

日本セラミックス協会 2013 年年会 1P070 (東京 2013年 3月)

第 4章

(1) 放射光を用いたスズリン酸塩ガラスの構造解析

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎小原真二臼杵毅

日本セラミックス協会第 27 回秋季シンポジウム 2B22 (鹿児島市 2014年 9 月)

(2) Structural analysis of tin phosphate glasses by synchrotron radiation (Poster)

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba Shinji Kohara Takeshi Usuki

International Congress on Glass ICG Annual Meeting Bangkok 2015 P14-138 p186 (2015)

発表論文

(1) Effect of Nb2O5 addition to SnO- P2O5 glass

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

Journal of the Ceramic Society of Japan Vol 120 No 11 pp530-533 (2012)

(2) Structural analysis of SnO- P2O5 glass

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

Journal of the Ceramic Society of Japan(準備中)

80

謝辞

本研究を遂行するにあたり終始暖かいご指導ご助言並びにご鞭撻を賜わりました岡

山大学大学院環境生命科学研究科 難波徳郎教授に心より感謝の意を表します

また本研究を遂行するにあたり懇切丁寧なご指導とご意見をしていただいた岡山大

学大学院環境生命科学研究科 紅野安彦准教授環境環理センター 崎田真一助教に心より

感謝いたします

本研究を遂行するにあたりラマン分光測定の使用についてご助言ご教授して頂い

た岡山大学自然科学研究科 藤井達生教授中西真助教に心より感謝の意を表します

Sn のメスバウアー測定の際に協力して頂いた岡山大学自然科学研究科先端自然科学教

育研究推進本部高田研究室 松本修治特任助教(当時旭硝子株式会社中央研究所)また

Feのメスバウアーを測定の際に協力して頂いた岡山大学自然科学研究科 藤井達生教授に

心より感謝の意を表します

固体 NMR の岡山大学自然科学研究科 早川聡教授に心より感謝の意を表します

本研究を遂行するにあたりSPring-8 にてHEXRD および AXS 法の測定法および原理

についてご教示頂きました物質材料研究機構 小原真司博士ならびに山形大学 臼杵毅

教授に心より感謝の意を表します

本研究は多くの後輩諸君の協力によって遂行されました特に実際に共同研究共同

実験を遂行して頂いたOG 藤原沙弥香さん博士前期課程 2 年 東利彦君OB 徳岡太誠

君学士課程 4年 塩田将大君に心より感謝の意を表しますまた難波研究室で共に研

究生活を過ごした卒業生在学生の方々に感謝の意を表します

また同時期に博士後期課程に在籍された香川高等専門学校の桟敷剛さんにはNbに

関する有益な情報だけでなく辛い状況でも励ましを頂きました心より感謝の意を表し

ます

最後に長きに渡る学生生活を認め経済面だけでなく精神面でも支援してくださった

家族に心より深く感謝の意を表します

平成 28年 3月

福井 聡史

Page 55: 博士論文 スズリン酸塩系ガラスの物性と構造解析ousar.lib.okayama-u.ac.jp/files/public/5/54353/...博士論文 スズリン酸塩系ガラスの物性と構造解析

52

Fig 37 NMRスペクトル

Table 31 NMR およびラマン分光より得られた SP 67S5N28P ガラスの

Qn分布および平均 BO数 n

53

Table 32 各ガラスのラマンスペクトルより求めた Qn分布結果

(表の赤線より右側の結果は Table 22 より)

1 仕込み組成による数値

2 Fig 2212 に示した析出物を取り除いた後の数値

54

Fig 38 DR と平均 BO数 nの関係性

55

Fig 39 重量減と平均 BO数 nの関係性

56

Fig 310 OP と平均 BO数 nの関係性

Meta

Pyro

Ortho

57

第 4章 放射光を用いたスズリン酸塩系ガラスの構造解析

41 緒言

前章の第 3 章にてラマン分光法を用いて SP 系ガラスの構造解析により Qn分布を導き

出したことで耐水性と構造の関係についてある程度関連性を導くことができたリン

酸アニオンについてはQ0(orthophosphate)構造 gt Q

1(pyrophosphate)構造 gt Q2

(metaphosphate)構造の順で良耐水性となるしかしSn Nbおよび Znの局所構造につ

いては知見が得られていないラマン分光や IR分光などの分光学的手法を用いてSnや

Nb Zn の周辺の局所構造を知るには限界があるまたガラスの構造解析を行う上で非常

に重要な因子である中距離構造の評価には分光学的手法は不向きである[1]

そこで局所構造や中距離構造を知るために有効な手法として放射光線を用いた構造

解析がある放射光(SR 光)とはシンクロトロンなどの加速器で高速に加速された電子

が進行方向を磁場によって変えられた際に放射する電磁波である[2]エネルギーが高く

(短波長)輝度が高い特性を有している日本国内では兵庫県佐用町の SPring-8や茨城

県つくば市の高エネルギー加速器研究機構佐賀県鳥栖市の佐賀県立九州シンクロトロン

光研究センターなど複数個所に放射光施設が設置されている

放射光を用いたガラスの構造解析には一般的に高エネルギーX 線回折(High Energy

X-ray diffraction HEXRD)が用いられるこの回折実験から高い散乱ベクトル Q(= 4π sinθλ)

まで回折データが得られる多種類の原子から構成される物質の場合はFaber-Ziman 型[3]

の構造因子 S(Q)を用いる以下の式に示すようにFaber-Ziman 型構造因子 S(Q)は同種また

は異種の原子による相関の重み関数付の和として示される例として SiO2ガラスで説明す

ると構造因子 S(Q)は三種類の原子付の S(Q)の重み付の和として表されていることが分か

I(Q) 散乱断面積 ltgt 原子一個当たりの平均値 f(Q) 原子散乱因子 W 重み関数

通常の研究室で使用される X 線回折(XRD)装置で用いられる特性 X 線はCuKα線(λ

= 0154 nm 81 keV)が最も良く用いられより高いエネルギーの X 線が必要な場合は

MoKα線(λ = 0071 nm 175 keV)が使用される一方でSPring-8のビームライン BL04B2

で行われる高エネルギーX 線回折(HEXRD)測定で使用される SR のエネルギーは378 keV

58

~ が使用可能である[2]従ってガラス以外の液体のような非晶質物質にも非常に精度

よく構造解析が行われている[4]

また局所構造解析の一つに X線異常散乱法という測定方法がある[5 6]これは通常

の X 線回折実験では分離不可能な特定元素に関連する部分構造因子(散乱強度曲線)を得

ることができる手法である今回 HEXRD の測定時に使用したエネルギー614 keV では各元

素の異常散乱項のエネルギー依存性は確認されない(Fig 41)その一方でFig 42に示す

Sn の吸収端付近の 292 keV付近ではSnの異常分散項のエネルギー依存性が確認できる

つまりSnの吸収端近傍より低エネルギー(E)側の異なるエネルギーの X線(E1 E2)を

使って散乱強度を測定し各 E における異常分散項(f`)の変化(つまり高い E1 から低い

E2 の散乱強度の差分)を利用して Snに関する部分構造因子を求める構造解析が AXS 法で

あるこの測定法は古くから知られている方法ではあるが装置の測定条件や設備の問

題からなどから使用があまり普及していなかった[5 6]近年になり金属ガラスの構造解

析について徐々に報告が出てきており今後注目される測定法である

HEXRD および AXS 法などから得られたデータ実測の構造因子 S(Q)は一次元の限られ

た構造情報であるためガラスなどの非晶質物質の中距離構造を解明するためにはこれ

らのデータを基に三次元構造を求める必要がある三次元構造モデルの作成には逆モンテ

カルロ(RMC)シミュレーションを使用することが有効である[7]このシミュレーション

は任意で決めたシミュレーションボックス内の粒子をランダムに動かすことで実測の

構造因子 S(Q)を再現する三次元構造モデルを構築する方法である

SP ガラスについては分光学的手法について数多く報告があるが放射光を用いた回折

法はほとんど適用されていないそこで本研究では HEXRD および AXS 法を用いた構造

解析を行うことでSn Nb周りの構造を解明すると共にSNP ガラスの耐水性改善のメカ

ニズムについて考察したまたAXS 法の有効性についても検討した測定を行ったガラ

スはSP ガラスおよび最も耐水性の高かった 67S5N28P を選択した

42 実験方法

421 HEXRD AXS法

HEXRDはSPring-8のビームライン BL04B2 で測定を行ったエネルギー614 keV の X

線を用いた測定サンプルの厚みは09 mm (plusmn0005 mm)になるまで研磨を行った

AXS 測定はSPring-8のビームライン BL13XUを使用した(Fig 43)それぞれの測定し

た X 線のエネルギーについて以下に示す

①Sn K吸収端hellip292 keV near edgehellip291452 keV (-60 eV) far edgehellip289751 keV (-230 eV)

②Nb K吸収端hellip1899 keV near edgehellip189562 keV (-30 eV) far edgehellip187863 keV (-230 eV)

測定に使用したサンプルの厚さが015 - 030 mmとなるまで研磨を施した

SP ガラスについて50S50P 60S40P 67S33P の三組成のガラスを測定した70S30P に関

59

しては測定を試みたが放射光照射によって結晶化してしまいガラス部分の正確な構

造因子を得るための強度補正ができず解析を断念した

422 RMCのモデリング

Table 41 に RMC の各種パラメーターを示す粒子数は約 5000 個でそれに伴う boxの一

辺の長さは約 42 ~ 46 Ǻになった拘束条件にP の配位数が 4になるような条件を付け

加えたFig 44にSn2P2O7結晶および Sn3P2O8結晶の動径分布関数(RDF)をTable 32

にRDFから得られた第一近接距離[8 9] を示すこれらの数値を使用しcutoffを決定し

たNb-O についてはいくつかの文献値を参考にした[10 11]

各ガラスの RMCのモデリングは①HEXRDから得られた S(Q)のみ②S(Q)および AXS

から得られた部分構造因子を加えた場合でそれぞれ計算した

43 結果考察

最初にNbの AXSから得られたデータについて解析を試みたが妥当な構造モデルが得

られなかったためSnの AXSのみで解析を進めたNb2O5の量が 5 molと少量であったた

めあまり精度の高いデータが得られなかったと推測される

431 実測の HEXRDおよび AXSの結果

4311 実測 HEXRDの S(Q)

Fig 45 に実測HEXRDの S(Q)を示す四つの組成ともに実測HEXRDの S(Q)が得られ

Nb2O5添加の 67S5N28P ガラスでは Low Q 側に変化が確認された

4312 実測散乱強度曲線

Fig 46 に Snの散乱強度曲線を示す(a) の 67S33P のこの曲線からはfar edgeおよび

near edge のエネルギー間で差分が見られエネルギーの依存性が確認された50S50P

67S5N28P のガラスについても同じように差分が確認されたが(b)の 60S40P についてのみ

他とは若干異なる結果(緑丸)であったためRMC の構造解析には差分の構造因子ではな

くfar edge near edge 二つの構造因子を用いた

4313 全相関関数 T(r)

Fig 47 に全相関関数 T(r) を示すHEXRD から得られたものを実線でSnの AXS から

得られたものは点線で示し組成ごとに重ねて表示した図中に各ピークについて帰属し

ているがSnの T(r)からはSn-O Sn-P Sn-Snのみのピークを確認した

432 RMCの計算結果および考察

60

構造モデルの一例として67S5N28P ガラスの得られた構造モデルをFig 48に示す水

色の多面体 unitSnON 黄色の多面体 unitPO4 ピンクの多面体 unitNbONである以下

詳細な構造解析の結果および考察を記す

4321 RMCのフィッティング結果

RMCのフィッティング結果の一例として67S33P の HEXRD と Snの AXS の構造因子か

ら得た結果を示す(Fig 49)二つの構造因子を加えて計算した結果においてもHEXRD

の S(Q) AXS の S(Q)に各々に対する良好なフィッティング結果が得られた他の組成も

同様なフィッティング結果が得られた

4322得られた各 pairの平均配位数平均角度平均結合距離

RMCの結果によって得られた各 pairの平均配位数平均角度平均結合距離を Tables 43

に示す上段が HEXRD の S(Q)のみ下段が HEXRD に Sn の AXS の部分構造因子を加え

て結果である最下部は比較のためにSn2P2O7の情報を記載した[8]

P-O pairについてRMCモデル中の PON多面体に関して平均配位数 Nが 4および P-O

の平均結合距離が約 160Å平均結合角度angO-P-O が約 109degという結果が得られた組成

による大きな違いは確認されなかったのはP の配位数が 4になるように拘束条件をかけた

結果であると考えられるSnON多面体についてはSnO量の増加 = OP の増加であり平

均配位数 Nが 3 ~ 35へ増加した平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約

22Åで組成による大きな変化はほとんど見られなかったNb2O5を 5 mol添加したガラ

スではNbON多面体の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平均配位数 N約 4Nb-O 平均結

合距離約 20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O(約 105deg)と値が近いこと

また6配位ではなく 4配位として主に存在していることからSnO と同じような働きをし

ていると推測される

以上の結果からNb2O5添加の耐水性改善の要因として結合距離が Sn-O が約 22Åに対

し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強固にして

いることも一つの要因として考えられる

また67S5N28P ガラスの各多面体モデルを確認すると(Fig 410)P は PO4Snは SnO4

と SnO3Nbは NbO4をそれぞれ再現している

4323得られた各 pairの結合様式

RMC の結果により得られた各 pair の結合様式を Tables 44 に示す上段が HEXRD の

S(Q)のみ下段が HEXRDに Snの AXS の部分構造因子を加えた結果である最下部は比

較のためにSn2P2O7の情報を記載した[8]

結合様式に関してはPO4四面体は他の多面体も含めてほぼ頂点共有で存在している

SnON多面体についてはSnO 量が少ない配位数が 3 に近い場合頂点共有以外の共有の

61

割合も多くSnO 量が増えるにつれて頂点共有が主になり網目形成体として振舞ってい

ると考えられる組成によって平均結合距離や平均角度の大きな変化が見られなかったこ

とから平均配位数が結合様式を決める重要なファクターであるということも考えられる

またHEXRD と AXS 法の結果がほぼ同じであったこれは主成分が SnO のガラスであ

るためHEXRDでも十分に詳細な構造が得られたため大きな変化が現れなかったと考え

られるNbON 多面体はPO4 四面体と SnON 多面体とはほぼ頂点共有で繋がっている以

上の結果よりSnO量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体的に各多面体同士の

頂点共有が増えていることから耐水性の改善には頂点共有を多く含む構造であること

が重要である或いは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的となって

いるということが推測されるFig 411に 67S5N28P ガラスの構造モデルを示す各多面

体はほぼ頂点共有で繋がっていることが確認できる

4324 平均 BO数の比較

Tables 45にNMR Raman RMC(HEXRD) RMC(HEXRD + AXS)の平均BO数を示すRMC

から得られた平均 BO 数 nはNMR Raman と同様に Nb2O5の添加による大幅な減少が確認

されたしかしNMR Raman と比較すると全組成において数値が大きすぎで適当でない

50S50P の構造モデルを観るとPO4四面体間で3配位 O の存在が確認された(Fig 412)た

め実測で得られた n値を再現できるようなPO4四面体モデル間の繋がり方に関する拘束条

件を加えて RMCを計算する必要性があるまた仮に3配位 Oの存在があるとすると電

子状態の変化が生じていることがと示唆されるため分子軌道計算を用いて電子状態解析

を行い確認する必要がある

4325 耐水性の改善について

Nb2O5を添加のガラス構造への影響について①6配位ではなく 4配位として主に存在し

ていることからSnO と同じような働きをしていると推測される②結合距離が Sn-O が約

22Åに対し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強

固にしている③ガラス構造中で全体的に各多面体同士の頂点共有が増えている以上の

ことが判明した以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性

耐候性を改善した要因として考えられる

44 結言

本章では分光学的手法では評価できないガラスの中距離構造局所構造について理解

するために放射光を用いた構造解析を実施しSP ガラスの構造と耐水性改善について考

察したHEXRDおよび AXS法を用いて測定を行い得られたデータを RMCシミュレーシ

ョンにて解析を行った

解析の結果 Sn-O pair については平均配位数 Nが 3 ~ 35でSnO量の増加 = OP の増

62

加に伴い高くなった平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約 22Åであ

ったP-O Sn-Oについては組成による大きな変化はほとんど見られなかった67S5N28P

ガラスの Nb-O pair の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平均配位数約 4Nb-O 平均結合距

離約 20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O(約 105deg)と値が近いことま

た6配位ではなく 4配位として主に存在していることからSnOと同じような働き(網目

形成体)をしていると推測されるまた結合距離が Sn-O が約 22Åに対し Nb-O は約 20

Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強固にしていると言える

SnO 量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体的に各多面体同士の頂点共有が増え

ていることから耐水性の改善には頂点共有を多く含む構造であることが重要である

もしくは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的であることが推測さ

れる以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性耐候性を

改善した要因として考えられる

またAXS 法の有効性についても確認し効果的であることが判明したただし今回

は主成分が Sn の組成のガラスでありHEXRD でも十分に詳細な構造が得られたため

大きな差は現れなかった

参考文献

[1] 山根正之 安井至 和田正道 国分可紀 寺井良平 近藤敬 小川晋永編ガラス光学ハ

ンドブック 朝倉書店(1999)

[2]飯野潔 梅咲則正 NEW GLASS 19 [2] 31-40 (2004)

[3] T E Faber and J M Ziman Philos Mag 11 [109] 153-173 (1965)

[4] 小原真司 鈴谷健太郎 放射光 14 [5] 365-375 (2001)

[5] 早稲田嘉夫 齋藤正敏 放射光 10 [3] 299-315 (1997)

[6] 細川伸也 広島工業大学紀要研究編 46 197-204 (2012)

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[8] V V Chernaya A S Mitiaev P S Chizhov E V Dikarev R V Shpanchenko E V Antipov

MV Korolenko and PB Fabritchinyi J Chem Mater 17 284-290 (2005)

[9] M Mathew L W Schroeder and T H Jordan Acta Cryst B33 1812-1816 (1977)

[10] J S Taylar and M P Cohs J Am Ceram Solids 109 [9] 2834-2835 (1987)

[11] D Munoz-Martin A Ruiz de La Cruz J M Fernandez-Navarro C Domingo J Solis and J

Gonzalo J appl Phys 110 023522 (2011)

63

Fig 41 各原子の異常分散項のエネルギー依存性

Fig 42 Sn の異常分散項のエネルギー依存性

64

Fig 43 SPring-8の BL13XU

65

Tab

le 4

1

RM

Cの各パラメーター

66

Fig 44 Sn2P2O7 Sn3P2O8結晶の RDF

Table 42 Sn2P2O7 Sn3P2O8結晶の各 pairの第一近接距離

67

Fig 45 得られた実測 HEXRDの S(Q)

68

Fig 46 Sn の異常散乱測定により得られた散乱強度のエネルギー依存性

(a)67S33P (b)60S40P

69

Fig 47 全相関関数 T(r)

太線 HEXRD より

細線 Sn の AXSより

70

Fig 48 67S5N28P ガラス構造のモデル

71

Fig 49 RMC フィッティングの結果

72

Tab

le 4

3 各

pairの平均配位数角度結合距離

73

Fig

4

10

67

S5

N2

8Pガラスの各多面体モデル

74

Tab

le 4

4 各

pairの結合様式

75

Fig 411 67S5N28P ガラスの構造モデル

76

Table 45 平均 BO 各数 nの比較

Fig 412 50S50P ガラスの構造モデル

77

第 5章 総括

本研究ではSP ガラスを対象とした本研究では鉛フリー代替ガラスまたは希土類フ

リー蛍光体として SP ガラスの新規高機能化を将来的に目指し問題点であるldquo化学的耐久

性rdquoの改善につながる知見を得ることを目的としたそこでまずSP ガラスを母体ガラ

スとし第三成分に Nb2O5を添加した Sn-Nb-P SNP ガラスZnO を添加した SZP ガラスを

作製し耐水性を中心とした物性評価を行った次に分光学的手法で構造解析を行い

Qn 分布を導き出した最後に放射光を用いた構造解析を行い耐水性改善に関する構造的

な考察を行った以下に本研究で行った検討内容を示す

(1)SPガラスおよび第三成分Nb2O5 ZnOを添加した三成分系SPガラスの物性評価(第 2章)

(2)SP 系ガラスの分光学的手法による Qn分布導出(第 3章)

(3)放射光を用いた SP 系ガラスの構造解析構造と耐水性改善の関連について(第 4章)

各章についてまとめた結果を以下に示す

第 2章

第 2章では二成分系および三成分系のリン酸塩系ガラスの各種物性(密度や熱的特性

耐水性)の評価を行った二成分系ではSP ガラスに加え良好な耐水性を有する鉄リン

酸塩(Fe2O3-P2O5)系ガラス(以下 FP ガラス)を比較のために三成分系では二成分系

の SP ガラスに Nb2O5を添加したニオブ含有 SP ガラス(SNP ガラス)および ZnO を添加し

た亜鉛含有 SP ガラス(SZP ガラス)を作製した

今回作製した SP 系ガラスは低ガラス転移温度を有していた各組成の温度域はSP

ガラスTg le 280 Sn-Nb-P SNPガラスTg le 3505SZP S5ZPガラスTg ≦ 450であった

各種 SP ガラスの耐水性試験の結果二成分系の SP ガラスよりも三成分系ガラスの方が

良好な耐水性を有していた65Sn-5Nb-30P 67S5N28P ガラスが最も耐水性が良好であり化

学的耐久性の改善には Nb2O5が ZnOよりも効果的であった

組成と耐水性に関してはDRおよび重量減がOP増加で単調に低下した結果が得られた

つまり耐水性を改善させるにはSP 系ガラスのガラス化範囲を拡大かつ OP を増大させ

る第三成分の添加が有効であることが示唆された

第 3章

第 3章ではSP 系ガラスの分光学的手法による Qn分布の導出を行ったラマン分光法を

用いて各ガラス系のリン酸塩アニオンの構造を簡易定量で評価し組成と構造の関係に

ついて考察した平均 BO 数 n と耐水性に関してはDR および重量減が平均 BO 数 nの減

少で単調に低下することが明らかとなった

平均 BO 数 n と OP の関係より耐水性改善には平均 BO 数 n を下げることそして

OP を上げることが重要であることが明らかになった

78

Nb5+の添加は平均 BO数を減少させるだけでなくOP も上げることからガラス構造

内の P-O-P 結合を減少させ水和反応加水分解反応が抑制され耐水性が大幅に改善さ

れることが示唆された故にNb2O5 のような高価数金属酸化物を添加することが効果的

であることが再度確認された

第 4章

耐水性向上についてより深く評価するためSP SNP ガラスの局所構造に関する知見を得

ることを目的に放射光を用いた構造解析を行った高エネルギーX 線回折(HEXRD)お

よび X 線異常散乱(AXS)法で測定したデータを再現する構造モデルを逆モンテカルロ

(RMC)シミュレーションで構築し構造解析を行った

RMC モデル中の PON多面体に関して平均配位数 Nが 4および P-O の平均結合距離が約

160Å平均結合角度angO-P-Oが約 109degという結果が得られた組成による大きな違いは確

認されなかったSnON多面体については平均配位数 N が 3~4 でSnO 量の増加に伴い 4

に近い値となった平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約 22Åで組成

による大きな変化は見られなかった

Nb2O5を 5 mol添加したガラスではNbON多面体の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平

均配位数N約4Nb-O平均結合距離約20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O

(約 105deg)と値が近いことまた6配位ではなく 4配位として主に存在していることから

SnO と同じような網目形成体として働いていると推測されたまた結合距離が Sn-O が約

22Åに対し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強

固にしていると考えられるまたSnO 量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体

的に各多面体同士の頂点共有が増えていることから耐水性の改善には頂点共有を多く

含む構造もしくは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的であること

が示唆された以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性

耐候性を改善した要因として考えられる

またAXS 法の有効性についても確認し効果的であることが判明したただし今回

は主成分が Snの組成のガラスでありHEXRD でも十分に詳細な Snの周辺構造が得られ

たためAXSを利用した場合との大きな構造の差は認められなかった

本研究では様々な優れた特徴を有する SP ガラスにおける耐水性改善のメカニズムにつ

いて検討を行ったこの系のガラスについてはこれまでほとんど利用されていなかった

放射光を用いた構造解析を駆使し第三成分の添加によってどのような構造的変化が生じ

耐水性を改善させるか新たな知見を得ることができた最終目標である機能性ガラスの

開発における新たなる材料設計指針の確立に対してldquo耐水性rdquoに関しては概ね明らかにな

ったと考えられる一方で今回検討していな電子状態化学結合性についても評価する

ことで溶出メカニズムの解明が可能になり材料設計指針の確立が期待される

79

発表論文リスト

口頭発表

第 2章および第 3章

(1) SnO-P2O5 系ガラスへの酸化物添加効果

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎

日本セラミックス協会第 25 回秋季シンポジウム No3C06 (名古屋市 2012年 9月)

(2) Effect of Nb2O5 addition to SnO-P2O5 glass (Poster)

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

International Union of Materials Research Societies International Conference on Electronic

Materials IUMRS-ICEM 2012 A-9-P26-003 (Yokohama 2012 年 9月)

(3) スズリン酸塩系ガラスの蛍光特性耐水性に及ばす酸化物の添加効果(ポスター)

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎

日本セラミックス協会 2013 年年会 1P070 (東京 2013年 3月)

第 4章

(1) 放射光を用いたスズリン酸塩ガラスの構造解析

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎小原真二臼杵毅

日本セラミックス協会第 27 回秋季シンポジウム 2B22 (鹿児島市 2014年 9 月)

(2) Structural analysis of tin phosphate glasses by synchrotron radiation (Poster)

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba Shinji Kohara Takeshi Usuki

International Congress on Glass ICG Annual Meeting Bangkok 2015 P14-138 p186 (2015)

発表論文

(1) Effect of Nb2O5 addition to SnO- P2O5 glass

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

Journal of the Ceramic Society of Japan Vol 120 No 11 pp530-533 (2012)

(2) Structural analysis of SnO- P2O5 glass

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

Journal of the Ceramic Society of Japan(準備中)

80

謝辞

本研究を遂行するにあたり終始暖かいご指導ご助言並びにご鞭撻を賜わりました岡

山大学大学院環境生命科学研究科 難波徳郎教授に心より感謝の意を表します

また本研究を遂行するにあたり懇切丁寧なご指導とご意見をしていただいた岡山大

学大学院環境生命科学研究科 紅野安彦准教授環境環理センター 崎田真一助教に心より

感謝いたします

本研究を遂行するにあたりラマン分光測定の使用についてご助言ご教授して頂い

た岡山大学自然科学研究科 藤井達生教授中西真助教に心より感謝の意を表します

Sn のメスバウアー測定の際に協力して頂いた岡山大学自然科学研究科先端自然科学教

育研究推進本部高田研究室 松本修治特任助教(当時旭硝子株式会社中央研究所)また

Feのメスバウアーを測定の際に協力して頂いた岡山大学自然科学研究科 藤井達生教授に

心より感謝の意を表します

固体 NMR の岡山大学自然科学研究科 早川聡教授に心より感謝の意を表します

本研究を遂行するにあたりSPring-8 にてHEXRD および AXS 法の測定法および原理

についてご教示頂きました物質材料研究機構 小原真司博士ならびに山形大学 臼杵毅

教授に心より感謝の意を表します

本研究は多くの後輩諸君の協力によって遂行されました特に実際に共同研究共同

実験を遂行して頂いたOG 藤原沙弥香さん博士前期課程 2 年 東利彦君OB 徳岡太誠

君学士課程 4年 塩田将大君に心より感謝の意を表しますまた難波研究室で共に研

究生活を過ごした卒業生在学生の方々に感謝の意を表します

また同時期に博士後期課程に在籍された香川高等専門学校の桟敷剛さんにはNbに

関する有益な情報だけでなく辛い状況でも励ましを頂きました心より感謝の意を表し

ます

最後に長きに渡る学生生活を認め経済面だけでなく精神面でも支援してくださった

家族に心より深く感謝の意を表します

平成 28年 3月

福井 聡史

Page 56: 博士論文 スズリン酸塩系ガラスの物性と構造解析ousar.lib.okayama-u.ac.jp/files/public/5/54353/...博士論文 スズリン酸塩系ガラスの物性と構造解析

53

Table 32 各ガラスのラマンスペクトルより求めた Qn分布結果

(表の赤線より右側の結果は Table 22 より)

1 仕込み組成による数値

2 Fig 2212 に示した析出物を取り除いた後の数値

54

Fig 38 DR と平均 BO数 nの関係性

55

Fig 39 重量減と平均 BO数 nの関係性

56

Fig 310 OP と平均 BO数 nの関係性

Meta

Pyro

Ortho

57

第 4章 放射光を用いたスズリン酸塩系ガラスの構造解析

41 緒言

前章の第 3 章にてラマン分光法を用いて SP 系ガラスの構造解析により Qn分布を導き

出したことで耐水性と構造の関係についてある程度関連性を導くことができたリン

酸アニオンについてはQ0(orthophosphate)構造 gt Q

1(pyrophosphate)構造 gt Q2

(metaphosphate)構造の順で良耐水性となるしかしSn Nbおよび Znの局所構造につ

いては知見が得られていないラマン分光や IR分光などの分光学的手法を用いてSnや

Nb Zn の周辺の局所構造を知るには限界があるまたガラスの構造解析を行う上で非常

に重要な因子である中距離構造の評価には分光学的手法は不向きである[1]

そこで局所構造や中距離構造を知るために有効な手法として放射光線を用いた構造

解析がある放射光(SR 光)とはシンクロトロンなどの加速器で高速に加速された電子

が進行方向を磁場によって変えられた際に放射する電磁波である[2]エネルギーが高く

(短波長)輝度が高い特性を有している日本国内では兵庫県佐用町の SPring-8や茨城

県つくば市の高エネルギー加速器研究機構佐賀県鳥栖市の佐賀県立九州シンクロトロン

光研究センターなど複数個所に放射光施設が設置されている

放射光を用いたガラスの構造解析には一般的に高エネルギーX 線回折(High Energy

X-ray diffraction HEXRD)が用いられるこの回折実験から高い散乱ベクトル Q(= 4π sinθλ)

まで回折データが得られる多種類の原子から構成される物質の場合はFaber-Ziman 型[3]

の構造因子 S(Q)を用いる以下の式に示すようにFaber-Ziman 型構造因子 S(Q)は同種また

は異種の原子による相関の重み関数付の和として示される例として SiO2ガラスで説明す

ると構造因子 S(Q)は三種類の原子付の S(Q)の重み付の和として表されていることが分か

I(Q) 散乱断面積 ltgt 原子一個当たりの平均値 f(Q) 原子散乱因子 W 重み関数

通常の研究室で使用される X 線回折(XRD)装置で用いられる特性 X 線はCuKα線(λ

= 0154 nm 81 keV)が最も良く用いられより高いエネルギーの X 線が必要な場合は

MoKα線(λ = 0071 nm 175 keV)が使用される一方でSPring-8のビームライン BL04B2

で行われる高エネルギーX 線回折(HEXRD)測定で使用される SR のエネルギーは378 keV

58

~ が使用可能である[2]従ってガラス以外の液体のような非晶質物質にも非常に精度

よく構造解析が行われている[4]

また局所構造解析の一つに X線異常散乱法という測定方法がある[5 6]これは通常

の X 線回折実験では分離不可能な特定元素に関連する部分構造因子(散乱強度曲線)を得

ることができる手法である今回 HEXRD の測定時に使用したエネルギー614 keV では各元

素の異常散乱項のエネルギー依存性は確認されない(Fig 41)その一方でFig 42に示す

Sn の吸収端付近の 292 keV付近ではSnの異常分散項のエネルギー依存性が確認できる

つまりSnの吸収端近傍より低エネルギー(E)側の異なるエネルギーの X線(E1 E2)を

使って散乱強度を測定し各 E における異常分散項(f`)の変化(つまり高い E1 から低い

E2 の散乱強度の差分)を利用して Snに関する部分構造因子を求める構造解析が AXS 法で

あるこの測定法は古くから知られている方法ではあるが装置の測定条件や設備の問

題からなどから使用があまり普及していなかった[5 6]近年になり金属ガラスの構造解

析について徐々に報告が出てきており今後注目される測定法である

HEXRD および AXS 法などから得られたデータ実測の構造因子 S(Q)は一次元の限られ

た構造情報であるためガラスなどの非晶質物質の中距離構造を解明するためにはこれ

らのデータを基に三次元構造を求める必要がある三次元構造モデルの作成には逆モンテ

カルロ(RMC)シミュレーションを使用することが有効である[7]このシミュレーション

は任意で決めたシミュレーションボックス内の粒子をランダムに動かすことで実測の

構造因子 S(Q)を再現する三次元構造モデルを構築する方法である

SP ガラスについては分光学的手法について数多く報告があるが放射光を用いた回折

法はほとんど適用されていないそこで本研究では HEXRD および AXS 法を用いた構造

解析を行うことでSn Nb周りの構造を解明すると共にSNP ガラスの耐水性改善のメカ

ニズムについて考察したまたAXS 法の有効性についても検討した測定を行ったガラ

スはSP ガラスおよび最も耐水性の高かった 67S5N28P を選択した

42 実験方法

421 HEXRD AXS法

HEXRDはSPring-8のビームライン BL04B2 で測定を行ったエネルギー614 keV の X

線を用いた測定サンプルの厚みは09 mm (plusmn0005 mm)になるまで研磨を行った

AXS 測定はSPring-8のビームライン BL13XUを使用した(Fig 43)それぞれの測定し

た X 線のエネルギーについて以下に示す

①Sn K吸収端hellip292 keV near edgehellip291452 keV (-60 eV) far edgehellip289751 keV (-230 eV)

②Nb K吸収端hellip1899 keV near edgehellip189562 keV (-30 eV) far edgehellip187863 keV (-230 eV)

測定に使用したサンプルの厚さが015 - 030 mmとなるまで研磨を施した

SP ガラスについて50S50P 60S40P 67S33P の三組成のガラスを測定した70S30P に関

59

しては測定を試みたが放射光照射によって結晶化してしまいガラス部分の正確な構

造因子を得るための強度補正ができず解析を断念した

422 RMCのモデリング

Table 41 に RMC の各種パラメーターを示す粒子数は約 5000 個でそれに伴う boxの一

辺の長さは約 42 ~ 46 Ǻになった拘束条件にP の配位数が 4になるような条件を付け

加えたFig 44にSn2P2O7結晶および Sn3P2O8結晶の動径分布関数(RDF)をTable 32

にRDFから得られた第一近接距離[8 9] を示すこれらの数値を使用しcutoffを決定し

たNb-O についてはいくつかの文献値を参考にした[10 11]

各ガラスの RMCのモデリングは①HEXRDから得られた S(Q)のみ②S(Q)および AXS

から得られた部分構造因子を加えた場合でそれぞれ計算した

43 結果考察

最初にNbの AXSから得られたデータについて解析を試みたが妥当な構造モデルが得

られなかったためSnの AXSのみで解析を進めたNb2O5の量が 5 molと少量であったた

めあまり精度の高いデータが得られなかったと推測される

431 実測の HEXRDおよび AXSの結果

4311 実測 HEXRDの S(Q)

Fig 45 に実測HEXRDの S(Q)を示す四つの組成ともに実測HEXRDの S(Q)が得られ

Nb2O5添加の 67S5N28P ガラスでは Low Q 側に変化が確認された

4312 実測散乱強度曲線

Fig 46 に Snの散乱強度曲線を示す(a) の 67S33P のこの曲線からはfar edgeおよび

near edge のエネルギー間で差分が見られエネルギーの依存性が確認された50S50P

67S5N28P のガラスについても同じように差分が確認されたが(b)の 60S40P についてのみ

他とは若干異なる結果(緑丸)であったためRMC の構造解析には差分の構造因子ではな

くfar edge near edge 二つの構造因子を用いた

4313 全相関関数 T(r)

Fig 47 に全相関関数 T(r) を示すHEXRD から得られたものを実線でSnの AXS から

得られたものは点線で示し組成ごとに重ねて表示した図中に各ピークについて帰属し

ているがSnの T(r)からはSn-O Sn-P Sn-Snのみのピークを確認した

432 RMCの計算結果および考察

60

構造モデルの一例として67S5N28P ガラスの得られた構造モデルをFig 48に示す水

色の多面体 unitSnON 黄色の多面体 unitPO4 ピンクの多面体 unitNbONである以下

詳細な構造解析の結果および考察を記す

4321 RMCのフィッティング結果

RMCのフィッティング結果の一例として67S33P の HEXRD と Snの AXS の構造因子か

ら得た結果を示す(Fig 49)二つの構造因子を加えて計算した結果においてもHEXRD

の S(Q) AXS の S(Q)に各々に対する良好なフィッティング結果が得られた他の組成も

同様なフィッティング結果が得られた

4322得られた各 pairの平均配位数平均角度平均結合距離

RMCの結果によって得られた各 pairの平均配位数平均角度平均結合距離を Tables 43

に示す上段が HEXRD の S(Q)のみ下段が HEXRD に Sn の AXS の部分構造因子を加え

て結果である最下部は比較のためにSn2P2O7の情報を記載した[8]

P-O pairについてRMCモデル中の PON多面体に関して平均配位数 Nが 4および P-O

の平均結合距離が約 160Å平均結合角度angO-P-O が約 109degという結果が得られた組成

による大きな違いは確認されなかったのはP の配位数が 4になるように拘束条件をかけた

結果であると考えられるSnON多面体についてはSnO量の増加 = OP の増加であり平

均配位数 Nが 3 ~ 35へ増加した平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約

22Åで組成による大きな変化はほとんど見られなかったNb2O5を 5 mol添加したガラ

スではNbON多面体の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平均配位数 N約 4Nb-O 平均結

合距離約 20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O(約 105deg)と値が近いこと

また6配位ではなく 4配位として主に存在していることからSnO と同じような働きをし

ていると推測される

以上の結果からNb2O5添加の耐水性改善の要因として結合距離が Sn-O が約 22Åに対

し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強固にして

いることも一つの要因として考えられる

また67S5N28P ガラスの各多面体モデルを確認すると(Fig 410)P は PO4Snは SnO4

と SnO3Nbは NbO4をそれぞれ再現している

4323得られた各 pairの結合様式

RMC の結果により得られた各 pair の結合様式を Tables 44 に示す上段が HEXRD の

S(Q)のみ下段が HEXRDに Snの AXS の部分構造因子を加えた結果である最下部は比

較のためにSn2P2O7の情報を記載した[8]

結合様式に関してはPO4四面体は他の多面体も含めてほぼ頂点共有で存在している

SnON多面体についてはSnO 量が少ない配位数が 3 に近い場合頂点共有以外の共有の

61

割合も多くSnO 量が増えるにつれて頂点共有が主になり網目形成体として振舞ってい

ると考えられる組成によって平均結合距離や平均角度の大きな変化が見られなかったこ

とから平均配位数が結合様式を決める重要なファクターであるということも考えられる

またHEXRD と AXS 法の結果がほぼ同じであったこれは主成分が SnO のガラスであ

るためHEXRDでも十分に詳細な構造が得られたため大きな変化が現れなかったと考え

られるNbON 多面体はPO4 四面体と SnON 多面体とはほぼ頂点共有で繋がっている以

上の結果よりSnO量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体的に各多面体同士の

頂点共有が増えていることから耐水性の改善には頂点共有を多く含む構造であること

が重要である或いは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的となって

いるということが推測されるFig 411に 67S5N28P ガラスの構造モデルを示す各多面

体はほぼ頂点共有で繋がっていることが確認できる

4324 平均 BO数の比較

Tables 45にNMR Raman RMC(HEXRD) RMC(HEXRD + AXS)の平均BO数を示すRMC

から得られた平均 BO 数 nはNMR Raman と同様に Nb2O5の添加による大幅な減少が確認

されたしかしNMR Raman と比較すると全組成において数値が大きすぎで適当でない

50S50P の構造モデルを観るとPO4四面体間で3配位 O の存在が確認された(Fig 412)た

め実測で得られた n値を再現できるようなPO4四面体モデル間の繋がり方に関する拘束条

件を加えて RMCを計算する必要性があるまた仮に3配位 Oの存在があるとすると電

子状態の変化が生じていることがと示唆されるため分子軌道計算を用いて電子状態解析

を行い確認する必要がある

4325 耐水性の改善について

Nb2O5を添加のガラス構造への影響について①6配位ではなく 4配位として主に存在し

ていることからSnO と同じような働きをしていると推測される②結合距離が Sn-O が約

22Åに対し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強

固にしている③ガラス構造中で全体的に各多面体同士の頂点共有が増えている以上の

ことが判明した以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性

耐候性を改善した要因として考えられる

44 結言

本章では分光学的手法では評価できないガラスの中距離構造局所構造について理解

するために放射光を用いた構造解析を実施しSP ガラスの構造と耐水性改善について考

察したHEXRDおよび AXS法を用いて測定を行い得られたデータを RMCシミュレーシ

ョンにて解析を行った

解析の結果 Sn-O pair については平均配位数 Nが 3 ~ 35でSnO量の増加 = OP の増

62

加に伴い高くなった平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約 22Åであ

ったP-O Sn-Oについては組成による大きな変化はほとんど見られなかった67S5N28P

ガラスの Nb-O pair の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平均配位数約 4Nb-O 平均結合距

離約 20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O(約 105deg)と値が近いことま

た6配位ではなく 4配位として主に存在していることからSnOと同じような働き(網目

形成体)をしていると推測されるまた結合距離が Sn-O が約 22Åに対し Nb-O は約 20

Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強固にしていると言える

SnO 量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体的に各多面体同士の頂点共有が増え

ていることから耐水性の改善には頂点共有を多く含む構造であることが重要である

もしくは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的であることが推測さ

れる以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性耐候性を

改善した要因として考えられる

またAXS 法の有効性についても確認し効果的であることが判明したただし今回

は主成分が Sn の組成のガラスでありHEXRD でも十分に詳細な構造が得られたため

大きな差は現れなかった

参考文献

[1] 山根正之 安井至 和田正道 国分可紀 寺井良平 近藤敬 小川晋永編ガラス光学ハ

ンドブック 朝倉書店(1999)

[2]飯野潔 梅咲則正 NEW GLASS 19 [2] 31-40 (2004)

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[4] 小原真司 鈴谷健太郎 放射光 14 [5] 365-375 (2001)

[5] 早稲田嘉夫 齋藤正敏 放射光 10 [3] 299-315 (1997)

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[8] V V Chernaya A S Mitiaev P S Chizhov E V Dikarev R V Shpanchenko E V Antipov

MV Korolenko and PB Fabritchinyi J Chem Mater 17 284-290 (2005)

[9] M Mathew L W Schroeder and T H Jordan Acta Cryst B33 1812-1816 (1977)

[10] J S Taylar and M P Cohs J Am Ceram Solids 109 [9] 2834-2835 (1987)

[11] D Munoz-Martin A Ruiz de La Cruz J M Fernandez-Navarro C Domingo J Solis and J

Gonzalo J appl Phys 110 023522 (2011)

63

Fig 41 各原子の異常分散項のエネルギー依存性

Fig 42 Sn の異常分散項のエネルギー依存性

64

Fig 43 SPring-8の BL13XU

65

Tab

le 4

1

RM

Cの各パラメーター

66

Fig 44 Sn2P2O7 Sn3P2O8結晶の RDF

Table 42 Sn2P2O7 Sn3P2O8結晶の各 pairの第一近接距離

67

Fig 45 得られた実測 HEXRDの S(Q)

68

Fig 46 Sn の異常散乱測定により得られた散乱強度のエネルギー依存性

(a)67S33P (b)60S40P

69

Fig 47 全相関関数 T(r)

太線 HEXRD より

細線 Sn の AXSより

70

Fig 48 67S5N28P ガラス構造のモデル

71

Fig 49 RMC フィッティングの結果

72

Tab

le 4

3 各

pairの平均配位数角度結合距離

73

Fig

4

10

67

S5

N2

8Pガラスの各多面体モデル

74

Tab

le 4

4 各

pairの結合様式

75

Fig 411 67S5N28P ガラスの構造モデル

76

Table 45 平均 BO 各数 nの比較

Fig 412 50S50P ガラスの構造モデル

77

第 5章 総括

本研究ではSP ガラスを対象とした本研究では鉛フリー代替ガラスまたは希土類フ

リー蛍光体として SP ガラスの新規高機能化を将来的に目指し問題点であるldquo化学的耐久

性rdquoの改善につながる知見を得ることを目的としたそこでまずSP ガラスを母体ガラ

スとし第三成分に Nb2O5を添加した Sn-Nb-P SNP ガラスZnO を添加した SZP ガラスを

作製し耐水性を中心とした物性評価を行った次に分光学的手法で構造解析を行い

Qn 分布を導き出した最後に放射光を用いた構造解析を行い耐水性改善に関する構造的

な考察を行った以下に本研究で行った検討内容を示す

(1)SPガラスおよび第三成分Nb2O5 ZnOを添加した三成分系SPガラスの物性評価(第 2章)

(2)SP 系ガラスの分光学的手法による Qn分布導出(第 3章)

(3)放射光を用いた SP 系ガラスの構造解析構造と耐水性改善の関連について(第 4章)

各章についてまとめた結果を以下に示す

第 2章

第 2章では二成分系および三成分系のリン酸塩系ガラスの各種物性(密度や熱的特性

耐水性)の評価を行った二成分系ではSP ガラスに加え良好な耐水性を有する鉄リン

酸塩(Fe2O3-P2O5)系ガラス(以下 FP ガラス)を比較のために三成分系では二成分系

の SP ガラスに Nb2O5を添加したニオブ含有 SP ガラス(SNP ガラス)および ZnO を添加し

た亜鉛含有 SP ガラス(SZP ガラス)を作製した

今回作製した SP 系ガラスは低ガラス転移温度を有していた各組成の温度域はSP

ガラスTg le 280 Sn-Nb-P SNPガラスTg le 3505SZP S5ZPガラスTg ≦ 450であった

各種 SP ガラスの耐水性試験の結果二成分系の SP ガラスよりも三成分系ガラスの方が

良好な耐水性を有していた65Sn-5Nb-30P 67S5N28P ガラスが最も耐水性が良好であり化

学的耐久性の改善には Nb2O5が ZnOよりも効果的であった

組成と耐水性に関してはDRおよび重量減がOP増加で単調に低下した結果が得られた

つまり耐水性を改善させるにはSP 系ガラスのガラス化範囲を拡大かつ OP を増大させ

る第三成分の添加が有効であることが示唆された

第 3章

第 3章ではSP 系ガラスの分光学的手法による Qn分布の導出を行ったラマン分光法を

用いて各ガラス系のリン酸塩アニオンの構造を簡易定量で評価し組成と構造の関係に

ついて考察した平均 BO 数 n と耐水性に関してはDR および重量減が平均 BO 数 nの減

少で単調に低下することが明らかとなった

平均 BO 数 n と OP の関係より耐水性改善には平均 BO 数 n を下げることそして

OP を上げることが重要であることが明らかになった

78

Nb5+の添加は平均 BO数を減少させるだけでなくOP も上げることからガラス構造

内の P-O-P 結合を減少させ水和反応加水分解反応が抑制され耐水性が大幅に改善さ

れることが示唆された故にNb2O5 のような高価数金属酸化物を添加することが効果的

であることが再度確認された

第 4章

耐水性向上についてより深く評価するためSP SNP ガラスの局所構造に関する知見を得

ることを目的に放射光を用いた構造解析を行った高エネルギーX 線回折(HEXRD)お

よび X 線異常散乱(AXS)法で測定したデータを再現する構造モデルを逆モンテカルロ

(RMC)シミュレーションで構築し構造解析を行った

RMC モデル中の PON多面体に関して平均配位数 Nが 4および P-O の平均結合距離が約

160Å平均結合角度angO-P-Oが約 109degという結果が得られた組成による大きな違いは確

認されなかったSnON多面体については平均配位数 N が 3~4 でSnO 量の増加に伴い 4

に近い値となった平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約 22Åで組成

による大きな変化は見られなかった

Nb2O5を 5 mol添加したガラスではNbON多面体の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平

均配位数N約4Nb-O平均結合距離約20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O

(約 105deg)と値が近いことまた6配位ではなく 4配位として主に存在していることから

SnO と同じような網目形成体として働いていると推測されたまた結合距離が Sn-O が約

22Åに対し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強

固にしていると考えられるまたSnO 量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体

的に各多面体同士の頂点共有が増えていることから耐水性の改善には頂点共有を多く

含む構造もしくは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的であること

が示唆された以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性

耐候性を改善した要因として考えられる

またAXS 法の有効性についても確認し効果的であることが判明したただし今回

は主成分が Snの組成のガラスでありHEXRD でも十分に詳細な Snの周辺構造が得られ

たためAXSを利用した場合との大きな構造の差は認められなかった

本研究では様々な優れた特徴を有する SP ガラスにおける耐水性改善のメカニズムにつ

いて検討を行ったこの系のガラスについてはこれまでほとんど利用されていなかった

放射光を用いた構造解析を駆使し第三成分の添加によってどのような構造的変化が生じ

耐水性を改善させるか新たな知見を得ることができた最終目標である機能性ガラスの

開発における新たなる材料設計指針の確立に対してldquo耐水性rdquoに関しては概ね明らかにな

ったと考えられる一方で今回検討していな電子状態化学結合性についても評価する

ことで溶出メカニズムの解明が可能になり材料設計指針の確立が期待される

79

発表論文リスト

口頭発表

第 2章および第 3章

(1) SnO-P2O5 系ガラスへの酸化物添加効果

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎

日本セラミックス協会第 25 回秋季シンポジウム No3C06 (名古屋市 2012年 9月)

(2) Effect of Nb2O5 addition to SnO-P2O5 glass (Poster)

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

International Union of Materials Research Societies International Conference on Electronic

Materials IUMRS-ICEM 2012 A-9-P26-003 (Yokohama 2012 年 9月)

(3) スズリン酸塩系ガラスの蛍光特性耐水性に及ばす酸化物の添加効果(ポスター)

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎

日本セラミックス協会 2013 年年会 1P070 (東京 2013年 3月)

第 4章

(1) 放射光を用いたスズリン酸塩ガラスの構造解析

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎小原真二臼杵毅

日本セラミックス協会第 27 回秋季シンポジウム 2B22 (鹿児島市 2014年 9 月)

(2) Structural analysis of tin phosphate glasses by synchrotron radiation (Poster)

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba Shinji Kohara Takeshi Usuki

International Congress on Glass ICG Annual Meeting Bangkok 2015 P14-138 p186 (2015)

発表論文

(1) Effect of Nb2O5 addition to SnO- P2O5 glass

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

Journal of the Ceramic Society of Japan Vol 120 No 11 pp530-533 (2012)

(2) Structural analysis of SnO- P2O5 glass

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

Journal of the Ceramic Society of Japan(準備中)

80

謝辞

本研究を遂行するにあたり終始暖かいご指導ご助言並びにご鞭撻を賜わりました岡

山大学大学院環境生命科学研究科 難波徳郎教授に心より感謝の意を表します

また本研究を遂行するにあたり懇切丁寧なご指導とご意見をしていただいた岡山大

学大学院環境生命科学研究科 紅野安彦准教授環境環理センター 崎田真一助教に心より

感謝いたします

本研究を遂行するにあたりラマン分光測定の使用についてご助言ご教授して頂い

た岡山大学自然科学研究科 藤井達生教授中西真助教に心より感謝の意を表します

Sn のメスバウアー測定の際に協力して頂いた岡山大学自然科学研究科先端自然科学教

育研究推進本部高田研究室 松本修治特任助教(当時旭硝子株式会社中央研究所)また

Feのメスバウアーを測定の際に協力して頂いた岡山大学自然科学研究科 藤井達生教授に

心より感謝の意を表します

固体 NMR の岡山大学自然科学研究科 早川聡教授に心より感謝の意を表します

本研究を遂行するにあたりSPring-8 にてHEXRD および AXS 法の測定法および原理

についてご教示頂きました物質材料研究機構 小原真司博士ならびに山形大学 臼杵毅

教授に心より感謝の意を表します

本研究は多くの後輩諸君の協力によって遂行されました特に実際に共同研究共同

実験を遂行して頂いたOG 藤原沙弥香さん博士前期課程 2 年 東利彦君OB 徳岡太誠

君学士課程 4年 塩田将大君に心より感謝の意を表しますまた難波研究室で共に研

究生活を過ごした卒業生在学生の方々に感謝の意を表します

また同時期に博士後期課程に在籍された香川高等専門学校の桟敷剛さんにはNbに

関する有益な情報だけでなく辛い状況でも励ましを頂きました心より感謝の意を表し

ます

最後に長きに渡る学生生活を認め経済面だけでなく精神面でも支援してくださった

家族に心より深く感謝の意を表します

平成 28年 3月

福井 聡史

Page 57: 博士論文 スズリン酸塩系ガラスの物性と構造解析ousar.lib.okayama-u.ac.jp/files/public/5/54353/...博士論文 スズリン酸塩系ガラスの物性と構造解析

54

Fig 38 DR と平均 BO数 nの関係性

55

Fig 39 重量減と平均 BO数 nの関係性

56

Fig 310 OP と平均 BO数 nの関係性

Meta

Pyro

Ortho

57

第 4章 放射光を用いたスズリン酸塩系ガラスの構造解析

41 緒言

前章の第 3 章にてラマン分光法を用いて SP 系ガラスの構造解析により Qn分布を導き

出したことで耐水性と構造の関係についてある程度関連性を導くことができたリン

酸アニオンについてはQ0(orthophosphate)構造 gt Q

1(pyrophosphate)構造 gt Q2

(metaphosphate)構造の順で良耐水性となるしかしSn Nbおよび Znの局所構造につ

いては知見が得られていないラマン分光や IR分光などの分光学的手法を用いてSnや

Nb Zn の周辺の局所構造を知るには限界があるまたガラスの構造解析を行う上で非常

に重要な因子である中距離構造の評価には分光学的手法は不向きである[1]

そこで局所構造や中距離構造を知るために有効な手法として放射光線を用いた構造

解析がある放射光(SR 光)とはシンクロトロンなどの加速器で高速に加速された電子

が進行方向を磁場によって変えられた際に放射する電磁波である[2]エネルギーが高く

(短波長)輝度が高い特性を有している日本国内では兵庫県佐用町の SPring-8や茨城

県つくば市の高エネルギー加速器研究機構佐賀県鳥栖市の佐賀県立九州シンクロトロン

光研究センターなど複数個所に放射光施設が設置されている

放射光を用いたガラスの構造解析には一般的に高エネルギーX 線回折(High Energy

X-ray diffraction HEXRD)が用いられるこの回折実験から高い散乱ベクトル Q(= 4π sinθλ)

まで回折データが得られる多種類の原子から構成される物質の場合はFaber-Ziman 型[3]

の構造因子 S(Q)を用いる以下の式に示すようにFaber-Ziman 型構造因子 S(Q)は同種また

は異種の原子による相関の重み関数付の和として示される例として SiO2ガラスで説明す

ると構造因子 S(Q)は三種類の原子付の S(Q)の重み付の和として表されていることが分か

I(Q) 散乱断面積 ltgt 原子一個当たりの平均値 f(Q) 原子散乱因子 W 重み関数

通常の研究室で使用される X 線回折(XRD)装置で用いられる特性 X 線はCuKα線(λ

= 0154 nm 81 keV)が最も良く用いられより高いエネルギーの X 線が必要な場合は

MoKα線(λ = 0071 nm 175 keV)が使用される一方でSPring-8のビームライン BL04B2

で行われる高エネルギーX 線回折(HEXRD)測定で使用される SR のエネルギーは378 keV

58

~ が使用可能である[2]従ってガラス以外の液体のような非晶質物質にも非常に精度

よく構造解析が行われている[4]

また局所構造解析の一つに X線異常散乱法という測定方法がある[5 6]これは通常

の X 線回折実験では分離不可能な特定元素に関連する部分構造因子(散乱強度曲線)を得

ることができる手法である今回 HEXRD の測定時に使用したエネルギー614 keV では各元

素の異常散乱項のエネルギー依存性は確認されない(Fig 41)その一方でFig 42に示す

Sn の吸収端付近の 292 keV付近ではSnの異常分散項のエネルギー依存性が確認できる

つまりSnの吸収端近傍より低エネルギー(E)側の異なるエネルギーの X線(E1 E2)を

使って散乱強度を測定し各 E における異常分散項(f`)の変化(つまり高い E1 から低い

E2 の散乱強度の差分)を利用して Snに関する部分構造因子を求める構造解析が AXS 法で

あるこの測定法は古くから知られている方法ではあるが装置の測定条件や設備の問

題からなどから使用があまり普及していなかった[5 6]近年になり金属ガラスの構造解

析について徐々に報告が出てきており今後注目される測定法である

HEXRD および AXS 法などから得られたデータ実測の構造因子 S(Q)は一次元の限られ

た構造情報であるためガラスなどの非晶質物質の中距離構造を解明するためにはこれ

らのデータを基に三次元構造を求める必要がある三次元構造モデルの作成には逆モンテ

カルロ(RMC)シミュレーションを使用することが有効である[7]このシミュレーション

は任意で決めたシミュレーションボックス内の粒子をランダムに動かすことで実測の

構造因子 S(Q)を再現する三次元構造モデルを構築する方法である

SP ガラスについては分光学的手法について数多く報告があるが放射光を用いた回折

法はほとんど適用されていないそこで本研究では HEXRD および AXS 法を用いた構造

解析を行うことでSn Nb周りの構造を解明すると共にSNP ガラスの耐水性改善のメカ

ニズムについて考察したまたAXS 法の有効性についても検討した測定を行ったガラ

スはSP ガラスおよび最も耐水性の高かった 67S5N28P を選択した

42 実験方法

421 HEXRD AXS法

HEXRDはSPring-8のビームライン BL04B2 で測定を行ったエネルギー614 keV の X

線を用いた測定サンプルの厚みは09 mm (plusmn0005 mm)になるまで研磨を行った

AXS 測定はSPring-8のビームライン BL13XUを使用した(Fig 43)それぞれの測定し

た X 線のエネルギーについて以下に示す

①Sn K吸収端hellip292 keV near edgehellip291452 keV (-60 eV) far edgehellip289751 keV (-230 eV)

②Nb K吸収端hellip1899 keV near edgehellip189562 keV (-30 eV) far edgehellip187863 keV (-230 eV)

測定に使用したサンプルの厚さが015 - 030 mmとなるまで研磨を施した

SP ガラスについて50S50P 60S40P 67S33P の三組成のガラスを測定した70S30P に関

59

しては測定を試みたが放射光照射によって結晶化してしまいガラス部分の正確な構

造因子を得るための強度補正ができず解析を断念した

422 RMCのモデリング

Table 41 に RMC の各種パラメーターを示す粒子数は約 5000 個でそれに伴う boxの一

辺の長さは約 42 ~ 46 Ǻになった拘束条件にP の配位数が 4になるような条件を付け

加えたFig 44にSn2P2O7結晶および Sn3P2O8結晶の動径分布関数(RDF)をTable 32

にRDFから得られた第一近接距離[8 9] を示すこれらの数値を使用しcutoffを決定し

たNb-O についてはいくつかの文献値を参考にした[10 11]

各ガラスの RMCのモデリングは①HEXRDから得られた S(Q)のみ②S(Q)および AXS

から得られた部分構造因子を加えた場合でそれぞれ計算した

43 結果考察

最初にNbの AXSから得られたデータについて解析を試みたが妥当な構造モデルが得

られなかったためSnの AXSのみで解析を進めたNb2O5の量が 5 molと少量であったた

めあまり精度の高いデータが得られなかったと推測される

431 実測の HEXRDおよび AXSの結果

4311 実測 HEXRDの S(Q)

Fig 45 に実測HEXRDの S(Q)を示す四つの組成ともに実測HEXRDの S(Q)が得られ

Nb2O5添加の 67S5N28P ガラスでは Low Q 側に変化が確認された

4312 実測散乱強度曲線

Fig 46 に Snの散乱強度曲線を示す(a) の 67S33P のこの曲線からはfar edgeおよび

near edge のエネルギー間で差分が見られエネルギーの依存性が確認された50S50P

67S5N28P のガラスについても同じように差分が確認されたが(b)の 60S40P についてのみ

他とは若干異なる結果(緑丸)であったためRMC の構造解析には差分の構造因子ではな

くfar edge near edge 二つの構造因子を用いた

4313 全相関関数 T(r)

Fig 47 に全相関関数 T(r) を示すHEXRD から得られたものを実線でSnの AXS から

得られたものは点線で示し組成ごとに重ねて表示した図中に各ピークについて帰属し

ているがSnの T(r)からはSn-O Sn-P Sn-Snのみのピークを確認した

432 RMCの計算結果および考察

60

構造モデルの一例として67S5N28P ガラスの得られた構造モデルをFig 48に示す水

色の多面体 unitSnON 黄色の多面体 unitPO4 ピンクの多面体 unitNbONである以下

詳細な構造解析の結果および考察を記す

4321 RMCのフィッティング結果

RMCのフィッティング結果の一例として67S33P の HEXRD と Snの AXS の構造因子か

ら得た結果を示す(Fig 49)二つの構造因子を加えて計算した結果においてもHEXRD

の S(Q) AXS の S(Q)に各々に対する良好なフィッティング結果が得られた他の組成も

同様なフィッティング結果が得られた

4322得られた各 pairの平均配位数平均角度平均結合距離

RMCの結果によって得られた各 pairの平均配位数平均角度平均結合距離を Tables 43

に示す上段が HEXRD の S(Q)のみ下段が HEXRD に Sn の AXS の部分構造因子を加え

て結果である最下部は比較のためにSn2P2O7の情報を記載した[8]

P-O pairについてRMCモデル中の PON多面体に関して平均配位数 Nが 4および P-O

の平均結合距離が約 160Å平均結合角度angO-P-O が約 109degという結果が得られた組成

による大きな違いは確認されなかったのはP の配位数が 4になるように拘束条件をかけた

結果であると考えられるSnON多面体についてはSnO量の増加 = OP の増加であり平

均配位数 Nが 3 ~ 35へ増加した平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約

22Åで組成による大きな変化はほとんど見られなかったNb2O5を 5 mol添加したガラ

スではNbON多面体の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平均配位数 N約 4Nb-O 平均結

合距離約 20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O(約 105deg)と値が近いこと

また6配位ではなく 4配位として主に存在していることからSnO と同じような働きをし

ていると推測される

以上の結果からNb2O5添加の耐水性改善の要因として結合距離が Sn-O が約 22Åに対

し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強固にして

いることも一つの要因として考えられる

また67S5N28P ガラスの各多面体モデルを確認すると(Fig 410)P は PO4Snは SnO4

と SnO3Nbは NbO4をそれぞれ再現している

4323得られた各 pairの結合様式

RMC の結果により得られた各 pair の結合様式を Tables 44 に示す上段が HEXRD の

S(Q)のみ下段が HEXRDに Snの AXS の部分構造因子を加えた結果である最下部は比

較のためにSn2P2O7の情報を記載した[8]

結合様式に関してはPO4四面体は他の多面体も含めてほぼ頂点共有で存在している

SnON多面体についてはSnO 量が少ない配位数が 3 に近い場合頂点共有以外の共有の

61

割合も多くSnO 量が増えるにつれて頂点共有が主になり網目形成体として振舞ってい

ると考えられる組成によって平均結合距離や平均角度の大きな変化が見られなかったこ

とから平均配位数が結合様式を決める重要なファクターであるということも考えられる

またHEXRD と AXS 法の結果がほぼ同じであったこれは主成分が SnO のガラスであ

るためHEXRDでも十分に詳細な構造が得られたため大きな変化が現れなかったと考え

られるNbON 多面体はPO4 四面体と SnON 多面体とはほぼ頂点共有で繋がっている以

上の結果よりSnO量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体的に各多面体同士の

頂点共有が増えていることから耐水性の改善には頂点共有を多く含む構造であること

が重要である或いは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的となって

いるということが推測されるFig 411に 67S5N28P ガラスの構造モデルを示す各多面

体はほぼ頂点共有で繋がっていることが確認できる

4324 平均 BO数の比較

Tables 45にNMR Raman RMC(HEXRD) RMC(HEXRD + AXS)の平均BO数を示すRMC

から得られた平均 BO 数 nはNMR Raman と同様に Nb2O5の添加による大幅な減少が確認

されたしかしNMR Raman と比較すると全組成において数値が大きすぎで適当でない

50S50P の構造モデルを観るとPO4四面体間で3配位 O の存在が確認された(Fig 412)た

め実測で得られた n値を再現できるようなPO4四面体モデル間の繋がり方に関する拘束条

件を加えて RMCを計算する必要性があるまた仮に3配位 Oの存在があるとすると電

子状態の変化が生じていることがと示唆されるため分子軌道計算を用いて電子状態解析

を行い確認する必要がある

4325 耐水性の改善について

Nb2O5を添加のガラス構造への影響について①6配位ではなく 4配位として主に存在し

ていることからSnO と同じような働きをしていると推測される②結合距離が Sn-O が約

22Åに対し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強

固にしている③ガラス構造中で全体的に各多面体同士の頂点共有が増えている以上の

ことが判明した以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性

耐候性を改善した要因として考えられる

44 結言

本章では分光学的手法では評価できないガラスの中距離構造局所構造について理解

するために放射光を用いた構造解析を実施しSP ガラスの構造と耐水性改善について考

察したHEXRDおよび AXS法を用いて測定を行い得られたデータを RMCシミュレーシ

ョンにて解析を行った

解析の結果 Sn-O pair については平均配位数 Nが 3 ~ 35でSnO量の増加 = OP の増

62

加に伴い高くなった平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約 22Åであ

ったP-O Sn-Oについては組成による大きな変化はほとんど見られなかった67S5N28P

ガラスの Nb-O pair の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平均配位数約 4Nb-O 平均結合距

離約 20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O(約 105deg)と値が近いことま

た6配位ではなく 4配位として主に存在していることからSnOと同じような働き(網目

形成体)をしていると推測されるまた結合距離が Sn-O が約 22Åに対し Nb-O は約 20

Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強固にしていると言える

SnO 量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体的に各多面体同士の頂点共有が増え

ていることから耐水性の改善には頂点共有を多く含む構造であることが重要である

もしくは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的であることが推測さ

れる以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性耐候性を

改善した要因として考えられる

またAXS 法の有効性についても確認し効果的であることが判明したただし今回

は主成分が Sn の組成のガラスでありHEXRD でも十分に詳細な構造が得られたため

大きな差は現れなかった

参考文献

[1] 山根正之 安井至 和田正道 国分可紀 寺井良平 近藤敬 小川晋永編ガラス光学ハ

ンドブック 朝倉書店(1999)

[2]飯野潔 梅咲則正 NEW GLASS 19 [2] 31-40 (2004)

[3] T E Faber and J M Ziman Philos Mag 11 [109] 153-173 (1965)

[4] 小原真司 鈴谷健太郎 放射光 14 [5] 365-375 (2001)

[5] 早稲田嘉夫 齋藤正敏 放射光 10 [3] 299-315 (1997)

[6] 細川伸也 広島工業大学紀要研究編 46 197-204 (2012)

[7] RLMcGreevy and LPuszai Mol Simulation 1 359(1988)

[8] V V Chernaya A S Mitiaev P S Chizhov E V Dikarev R V Shpanchenko E V Antipov

MV Korolenko and PB Fabritchinyi J Chem Mater 17 284-290 (2005)

[9] M Mathew L W Schroeder and T H Jordan Acta Cryst B33 1812-1816 (1977)

[10] J S Taylar and M P Cohs J Am Ceram Solids 109 [9] 2834-2835 (1987)

[11] D Munoz-Martin A Ruiz de La Cruz J M Fernandez-Navarro C Domingo J Solis and J

Gonzalo J appl Phys 110 023522 (2011)

63

Fig 41 各原子の異常分散項のエネルギー依存性

Fig 42 Sn の異常分散項のエネルギー依存性

64

Fig 43 SPring-8の BL13XU

65

Tab

le 4

1

RM

Cの各パラメーター

66

Fig 44 Sn2P2O7 Sn3P2O8結晶の RDF

Table 42 Sn2P2O7 Sn3P2O8結晶の各 pairの第一近接距離

67

Fig 45 得られた実測 HEXRDの S(Q)

68

Fig 46 Sn の異常散乱測定により得られた散乱強度のエネルギー依存性

(a)67S33P (b)60S40P

69

Fig 47 全相関関数 T(r)

太線 HEXRD より

細線 Sn の AXSより

70

Fig 48 67S5N28P ガラス構造のモデル

71

Fig 49 RMC フィッティングの結果

72

Tab

le 4

3 各

pairの平均配位数角度結合距離

73

Fig

4

10

67

S5

N2

8Pガラスの各多面体モデル

74

Tab

le 4

4 各

pairの結合様式

75

Fig 411 67S5N28P ガラスの構造モデル

76

Table 45 平均 BO 各数 nの比較

Fig 412 50S50P ガラスの構造モデル

77

第 5章 総括

本研究ではSP ガラスを対象とした本研究では鉛フリー代替ガラスまたは希土類フ

リー蛍光体として SP ガラスの新規高機能化を将来的に目指し問題点であるldquo化学的耐久

性rdquoの改善につながる知見を得ることを目的としたそこでまずSP ガラスを母体ガラ

スとし第三成分に Nb2O5を添加した Sn-Nb-P SNP ガラスZnO を添加した SZP ガラスを

作製し耐水性を中心とした物性評価を行った次に分光学的手法で構造解析を行い

Qn 分布を導き出した最後に放射光を用いた構造解析を行い耐水性改善に関する構造的

な考察を行った以下に本研究で行った検討内容を示す

(1)SPガラスおよび第三成分Nb2O5 ZnOを添加した三成分系SPガラスの物性評価(第 2章)

(2)SP 系ガラスの分光学的手法による Qn分布導出(第 3章)

(3)放射光を用いた SP 系ガラスの構造解析構造と耐水性改善の関連について(第 4章)

各章についてまとめた結果を以下に示す

第 2章

第 2章では二成分系および三成分系のリン酸塩系ガラスの各種物性(密度や熱的特性

耐水性)の評価を行った二成分系ではSP ガラスに加え良好な耐水性を有する鉄リン

酸塩(Fe2O3-P2O5)系ガラス(以下 FP ガラス)を比較のために三成分系では二成分系

の SP ガラスに Nb2O5を添加したニオブ含有 SP ガラス(SNP ガラス)および ZnO を添加し

た亜鉛含有 SP ガラス(SZP ガラス)を作製した

今回作製した SP 系ガラスは低ガラス転移温度を有していた各組成の温度域はSP

ガラスTg le 280 Sn-Nb-P SNPガラスTg le 3505SZP S5ZPガラスTg ≦ 450であった

各種 SP ガラスの耐水性試験の結果二成分系の SP ガラスよりも三成分系ガラスの方が

良好な耐水性を有していた65Sn-5Nb-30P 67S5N28P ガラスが最も耐水性が良好であり化

学的耐久性の改善には Nb2O5が ZnOよりも効果的であった

組成と耐水性に関してはDRおよび重量減がOP増加で単調に低下した結果が得られた

つまり耐水性を改善させるにはSP 系ガラスのガラス化範囲を拡大かつ OP を増大させ

る第三成分の添加が有効であることが示唆された

第 3章

第 3章ではSP 系ガラスの分光学的手法による Qn分布の導出を行ったラマン分光法を

用いて各ガラス系のリン酸塩アニオンの構造を簡易定量で評価し組成と構造の関係に

ついて考察した平均 BO 数 n と耐水性に関してはDR および重量減が平均 BO 数 nの減

少で単調に低下することが明らかとなった

平均 BO 数 n と OP の関係より耐水性改善には平均 BO 数 n を下げることそして

OP を上げることが重要であることが明らかになった

78

Nb5+の添加は平均 BO数を減少させるだけでなくOP も上げることからガラス構造

内の P-O-P 結合を減少させ水和反応加水分解反応が抑制され耐水性が大幅に改善さ

れることが示唆された故にNb2O5 のような高価数金属酸化物を添加することが効果的

であることが再度確認された

第 4章

耐水性向上についてより深く評価するためSP SNP ガラスの局所構造に関する知見を得

ることを目的に放射光を用いた構造解析を行った高エネルギーX 線回折(HEXRD)お

よび X 線異常散乱(AXS)法で測定したデータを再現する構造モデルを逆モンテカルロ

(RMC)シミュレーションで構築し構造解析を行った

RMC モデル中の PON多面体に関して平均配位数 Nが 4および P-O の平均結合距離が約

160Å平均結合角度angO-P-Oが約 109degという結果が得られた組成による大きな違いは確

認されなかったSnON多面体については平均配位数 N が 3~4 でSnO 量の増加に伴い 4

に近い値となった平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約 22Åで組成

による大きな変化は見られなかった

Nb2O5を 5 mol添加したガラスではNbON多面体の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平

均配位数N約4Nb-O平均結合距離約20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O

(約 105deg)と値が近いことまた6配位ではなく 4配位として主に存在していることから

SnO と同じような網目形成体として働いていると推測されたまた結合距離が Sn-O が約

22Åに対し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強

固にしていると考えられるまたSnO 量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体

的に各多面体同士の頂点共有が増えていることから耐水性の改善には頂点共有を多く

含む構造もしくは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的であること

が示唆された以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性

耐候性を改善した要因として考えられる

またAXS 法の有効性についても確認し効果的であることが判明したただし今回

は主成分が Snの組成のガラスでありHEXRD でも十分に詳細な Snの周辺構造が得られ

たためAXSを利用した場合との大きな構造の差は認められなかった

本研究では様々な優れた特徴を有する SP ガラスにおける耐水性改善のメカニズムにつ

いて検討を行ったこの系のガラスについてはこれまでほとんど利用されていなかった

放射光を用いた構造解析を駆使し第三成分の添加によってどのような構造的変化が生じ

耐水性を改善させるか新たな知見を得ることができた最終目標である機能性ガラスの

開発における新たなる材料設計指針の確立に対してldquo耐水性rdquoに関しては概ね明らかにな

ったと考えられる一方で今回検討していな電子状態化学結合性についても評価する

ことで溶出メカニズムの解明が可能になり材料設計指針の確立が期待される

79

発表論文リスト

口頭発表

第 2章および第 3章

(1) SnO-P2O5 系ガラスへの酸化物添加効果

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎

日本セラミックス協会第 25 回秋季シンポジウム No3C06 (名古屋市 2012年 9月)

(2) Effect of Nb2O5 addition to SnO-P2O5 glass (Poster)

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

International Union of Materials Research Societies International Conference on Electronic

Materials IUMRS-ICEM 2012 A-9-P26-003 (Yokohama 2012 年 9月)

(3) スズリン酸塩系ガラスの蛍光特性耐水性に及ばす酸化物の添加効果(ポスター)

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎

日本セラミックス協会 2013 年年会 1P070 (東京 2013年 3月)

第 4章

(1) 放射光を用いたスズリン酸塩ガラスの構造解析

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎小原真二臼杵毅

日本セラミックス協会第 27 回秋季シンポジウム 2B22 (鹿児島市 2014年 9 月)

(2) Structural analysis of tin phosphate glasses by synchrotron radiation (Poster)

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba Shinji Kohara Takeshi Usuki

International Congress on Glass ICG Annual Meeting Bangkok 2015 P14-138 p186 (2015)

発表論文

(1) Effect of Nb2O5 addition to SnO- P2O5 glass

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

Journal of the Ceramic Society of Japan Vol 120 No 11 pp530-533 (2012)

(2) Structural analysis of SnO- P2O5 glass

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

Journal of the Ceramic Society of Japan(準備中)

80

謝辞

本研究を遂行するにあたり終始暖かいご指導ご助言並びにご鞭撻を賜わりました岡

山大学大学院環境生命科学研究科 難波徳郎教授に心より感謝の意を表します

また本研究を遂行するにあたり懇切丁寧なご指導とご意見をしていただいた岡山大

学大学院環境生命科学研究科 紅野安彦准教授環境環理センター 崎田真一助教に心より

感謝いたします

本研究を遂行するにあたりラマン分光測定の使用についてご助言ご教授して頂い

た岡山大学自然科学研究科 藤井達生教授中西真助教に心より感謝の意を表します

Sn のメスバウアー測定の際に協力して頂いた岡山大学自然科学研究科先端自然科学教

育研究推進本部高田研究室 松本修治特任助教(当時旭硝子株式会社中央研究所)また

Feのメスバウアーを測定の際に協力して頂いた岡山大学自然科学研究科 藤井達生教授に

心より感謝の意を表します

固体 NMR の岡山大学自然科学研究科 早川聡教授に心より感謝の意を表します

本研究を遂行するにあたりSPring-8 にてHEXRD および AXS 法の測定法および原理

についてご教示頂きました物質材料研究機構 小原真司博士ならびに山形大学 臼杵毅

教授に心より感謝の意を表します

本研究は多くの後輩諸君の協力によって遂行されました特に実際に共同研究共同

実験を遂行して頂いたOG 藤原沙弥香さん博士前期課程 2 年 東利彦君OB 徳岡太誠

君学士課程 4年 塩田将大君に心より感謝の意を表しますまた難波研究室で共に研

究生活を過ごした卒業生在学生の方々に感謝の意を表します

また同時期に博士後期課程に在籍された香川高等専門学校の桟敷剛さんにはNbに

関する有益な情報だけでなく辛い状況でも励ましを頂きました心より感謝の意を表し

ます

最後に長きに渡る学生生活を認め経済面だけでなく精神面でも支援してくださった

家族に心より深く感謝の意を表します

平成 28年 3月

福井 聡史

Page 58: 博士論文 スズリン酸塩系ガラスの物性と構造解析ousar.lib.okayama-u.ac.jp/files/public/5/54353/...博士論文 スズリン酸塩系ガラスの物性と構造解析

55

Fig 39 重量減と平均 BO数 nの関係性

56

Fig 310 OP と平均 BO数 nの関係性

Meta

Pyro

Ortho

57

第 4章 放射光を用いたスズリン酸塩系ガラスの構造解析

41 緒言

前章の第 3 章にてラマン分光法を用いて SP 系ガラスの構造解析により Qn分布を導き

出したことで耐水性と構造の関係についてある程度関連性を導くことができたリン

酸アニオンについてはQ0(orthophosphate)構造 gt Q

1(pyrophosphate)構造 gt Q2

(metaphosphate)構造の順で良耐水性となるしかしSn Nbおよび Znの局所構造につ

いては知見が得られていないラマン分光や IR分光などの分光学的手法を用いてSnや

Nb Zn の周辺の局所構造を知るには限界があるまたガラスの構造解析を行う上で非常

に重要な因子である中距離構造の評価には分光学的手法は不向きである[1]

そこで局所構造や中距離構造を知るために有効な手法として放射光線を用いた構造

解析がある放射光(SR 光)とはシンクロトロンなどの加速器で高速に加速された電子

が進行方向を磁場によって変えられた際に放射する電磁波である[2]エネルギーが高く

(短波長)輝度が高い特性を有している日本国内では兵庫県佐用町の SPring-8や茨城

県つくば市の高エネルギー加速器研究機構佐賀県鳥栖市の佐賀県立九州シンクロトロン

光研究センターなど複数個所に放射光施設が設置されている

放射光を用いたガラスの構造解析には一般的に高エネルギーX 線回折(High Energy

X-ray diffraction HEXRD)が用いられるこの回折実験から高い散乱ベクトル Q(= 4π sinθλ)

まで回折データが得られる多種類の原子から構成される物質の場合はFaber-Ziman 型[3]

の構造因子 S(Q)を用いる以下の式に示すようにFaber-Ziman 型構造因子 S(Q)は同種また

は異種の原子による相関の重み関数付の和として示される例として SiO2ガラスで説明す

ると構造因子 S(Q)は三種類の原子付の S(Q)の重み付の和として表されていることが分か

I(Q) 散乱断面積 ltgt 原子一個当たりの平均値 f(Q) 原子散乱因子 W 重み関数

通常の研究室で使用される X 線回折(XRD)装置で用いられる特性 X 線はCuKα線(λ

= 0154 nm 81 keV)が最も良く用いられより高いエネルギーの X 線が必要な場合は

MoKα線(λ = 0071 nm 175 keV)が使用される一方でSPring-8のビームライン BL04B2

で行われる高エネルギーX 線回折(HEXRD)測定で使用される SR のエネルギーは378 keV

58

~ が使用可能である[2]従ってガラス以外の液体のような非晶質物質にも非常に精度

よく構造解析が行われている[4]

また局所構造解析の一つに X線異常散乱法という測定方法がある[5 6]これは通常

の X 線回折実験では分離不可能な特定元素に関連する部分構造因子(散乱強度曲線)を得

ることができる手法である今回 HEXRD の測定時に使用したエネルギー614 keV では各元

素の異常散乱項のエネルギー依存性は確認されない(Fig 41)その一方でFig 42に示す

Sn の吸収端付近の 292 keV付近ではSnの異常分散項のエネルギー依存性が確認できる

つまりSnの吸収端近傍より低エネルギー(E)側の異なるエネルギーの X線(E1 E2)を

使って散乱強度を測定し各 E における異常分散項(f`)の変化(つまり高い E1 から低い

E2 の散乱強度の差分)を利用して Snに関する部分構造因子を求める構造解析が AXS 法で

あるこの測定法は古くから知られている方法ではあるが装置の測定条件や設備の問

題からなどから使用があまり普及していなかった[5 6]近年になり金属ガラスの構造解

析について徐々に報告が出てきており今後注目される測定法である

HEXRD および AXS 法などから得られたデータ実測の構造因子 S(Q)は一次元の限られ

た構造情報であるためガラスなどの非晶質物質の中距離構造を解明するためにはこれ

らのデータを基に三次元構造を求める必要がある三次元構造モデルの作成には逆モンテ

カルロ(RMC)シミュレーションを使用することが有効である[7]このシミュレーション

は任意で決めたシミュレーションボックス内の粒子をランダムに動かすことで実測の

構造因子 S(Q)を再現する三次元構造モデルを構築する方法である

SP ガラスについては分光学的手法について数多く報告があるが放射光を用いた回折

法はほとんど適用されていないそこで本研究では HEXRD および AXS 法を用いた構造

解析を行うことでSn Nb周りの構造を解明すると共にSNP ガラスの耐水性改善のメカ

ニズムについて考察したまたAXS 法の有効性についても検討した測定を行ったガラ

スはSP ガラスおよび最も耐水性の高かった 67S5N28P を選択した

42 実験方法

421 HEXRD AXS法

HEXRDはSPring-8のビームライン BL04B2 で測定を行ったエネルギー614 keV の X

線を用いた測定サンプルの厚みは09 mm (plusmn0005 mm)になるまで研磨を行った

AXS 測定はSPring-8のビームライン BL13XUを使用した(Fig 43)それぞれの測定し

た X 線のエネルギーについて以下に示す

①Sn K吸収端hellip292 keV near edgehellip291452 keV (-60 eV) far edgehellip289751 keV (-230 eV)

②Nb K吸収端hellip1899 keV near edgehellip189562 keV (-30 eV) far edgehellip187863 keV (-230 eV)

測定に使用したサンプルの厚さが015 - 030 mmとなるまで研磨を施した

SP ガラスについて50S50P 60S40P 67S33P の三組成のガラスを測定した70S30P に関

59

しては測定を試みたが放射光照射によって結晶化してしまいガラス部分の正確な構

造因子を得るための強度補正ができず解析を断念した

422 RMCのモデリング

Table 41 に RMC の各種パラメーターを示す粒子数は約 5000 個でそれに伴う boxの一

辺の長さは約 42 ~ 46 Ǻになった拘束条件にP の配位数が 4になるような条件を付け

加えたFig 44にSn2P2O7結晶および Sn3P2O8結晶の動径分布関数(RDF)をTable 32

にRDFから得られた第一近接距離[8 9] を示すこれらの数値を使用しcutoffを決定し

たNb-O についてはいくつかの文献値を参考にした[10 11]

各ガラスの RMCのモデリングは①HEXRDから得られた S(Q)のみ②S(Q)および AXS

から得られた部分構造因子を加えた場合でそれぞれ計算した

43 結果考察

最初にNbの AXSから得られたデータについて解析を試みたが妥当な構造モデルが得

られなかったためSnの AXSのみで解析を進めたNb2O5の量が 5 molと少量であったた

めあまり精度の高いデータが得られなかったと推測される

431 実測の HEXRDおよび AXSの結果

4311 実測 HEXRDの S(Q)

Fig 45 に実測HEXRDの S(Q)を示す四つの組成ともに実測HEXRDの S(Q)が得られ

Nb2O5添加の 67S5N28P ガラスでは Low Q 側に変化が確認された

4312 実測散乱強度曲線

Fig 46 に Snの散乱強度曲線を示す(a) の 67S33P のこの曲線からはfar edgeおよび

near edge のエネルギー間で差分が見られエネルギーの依存性が確認された50S50P

67S5N28P のガラスについても同じように差分が確認されたが(b)の 60S40P についてのみ

他とは若干異なる結果(緑丸)であったためRMC の構造解析には差分の構造因子ではな

くfar edge near edge 二つの構造因子を用いた

4313 全相関関数 T(r)

Fig 47 に全相関関数 T(r) を示すHEXRD から得られたものを実線でSnの AXS から

得られたものは点線で示し組成ごとに重ねて表示した図中に各ピークについて帰属し

ているがSnの T(r)からはSn-O Sn-P Sn-Snのみのピークを確認した

432 RMCの計算結果および考察

60

構造モデルの一例として67S5N28P ガラスの得られた構造モデルをFig 48に示す水

色の多面体 unitSnON 黄色の多面体 unitPO4 ピンクの多面体 unitNbONである以下

詳細な構造解析の結果および考察を記す

4321 RMCのフィッティング結果

RMCのフィッティング結果の一例として67S33P の HEXRD と Snの AXS の構造因子か

ら得た結果を示す(Fig 49)二つの構造因子を加えて計算した結果においてもHEXRD

の S(Q) AXS の S(Q)に各々に対する良好なフィッティング結果が得られた他の組成も

同様なフィッティング結果が得られた

4322得られた各 pairの平均配位数平均角度平均結合距離

RMCの結果によって得られた各 pairの平均配位数平均角度平均結合距離を Tables 43

に示す上段が HEXRD の S(Q)のみ下段が HEXRD に Sn の AXS の部分構造因子を加え

て結果である最下部は比較のためにSn2P2O7の情報を記載した[8]

P-O pairについてRMCモデル中の PON多面体に関して平均配位数 Nが 4および P-O

の平均結合距離が約 160Å平均結合角度angO-P-O が約 109degという結果が得られた組成

による大きな違いは確認されなかったのはP の配位数が 4になるように拘束条件をかけた

結果であると考えられるSnON多面体についてはSnO量の増加 = OP の増加であり平

均配位数 Nが 3 ~ 35へ増加した平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約

22Åで組成による大きな変化はほとんど見られなかったNb2O5を 5 mol添加したガラ

スではNbON多面体の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平均配位数 N約 4Nb-O 平均結

合距離約 20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O(約 105deg)と値が近いこと

また6配位ではなく 4配位として主に存在していることからSnO と同じような働きをし

ていると推測される

以上の結果からNb2O5添加の耐水性改善の要因として結合距離が Sn-O が約 22Åに対

し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強固にして

いることも一つの要因として考えられる

また67S5N28P ガラスの各多面体モデルを確認すると(Fig 410)P は PO4Snは SnO4

と SnO3Nbは NbO4をそれぞれ再現している

4323得られた各 pairの結合様式

RMC の結果により得られた各 pair の結合様式を Tables 44 に示す上段が HEXRD の

S(Q)のみ下段が HEXRDに Snの AXS の部分構造因子を加えた結果である最下部は比

較のためにSn2P2O7の情報を記載した[8]

結合様式に関してはPO4四面体は他の多面体も含めてほぼ頂点共有で存在している

SnON多面体についてはSnO 量が少ない配位数が 3 に近い場合頂点共有以外の共有の

61

割合も多くSnO 量が増えるにつれて頂点共有が主になり網目形成体として振舞ってい

ると考えられる組成によって平均結合距離や平均角度の大きな変化が見られなかったこ

とから平均配位数が結合様式を決める重要なファクターであるということも考えられる

またHEXRD と AXS 法の結果がほぼ同じであったこれは主成分が SnO のガラスであ

るためHEXRDでも十分に詳細な構造が得られたため大きな変化が現れなかったと考え

られるNbON 多面体はPO4 四面体と SnON 多面体とはほぼ頂点共有で繋がっている以

上の結果よりSnO量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体的に各多面体同士の

頂点共有が増えていることから耐水性の改善には頂点共有を多く含む構造であること

が重要である或いは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的となって

いるということが推測されるFig 411に 67S5N28P ガラスの構造モデルを示す各多面

体はほぼ頂点共有で繋がっていることが確認できる

4324 平均 BO数の比較

Tables 45にNMR Raman RMC(HEXRD) RMC(HEXRD + AXS)の平均BO数を示すRMC

から得られた平均 BO 数 nはNMR Raman と同様に Nb2O5の添加による大幅な減少が確認

されたしかしNMR Raman と比較すると全組成において数値が大きすぎで適当でない

50S50P の構造モデルを観るとPO4四面体間で3配位 O の存在が確認された(Fig 412)た

め実測で得られた n値を再現できるようなPO4四面体モデル間の繋がり方に関する拘束条

件を加えて RMCを計算する必要性があるまた仮に3配位 Oの存在があるとすると電

子状態の変化が生じていることがと示唆されるため分子軌道計算を用いて電子状態解析

を行い確認する必要がある

4325 耐水性の改善について

Nb2O5を添加のガラス構造への影響について①6配位ではなく 4配位として主に存在し

ていることからSnO と同じような働きをしていると推測される②結合距離が Sn-O が約

22Åに対し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強

固にしている③ガラス構造中で全体的に各多面体同士の頂点共有が増えている以上の

ことが判明した以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性

耐候性を改善した要因として考えられる

44 結言

本章では分光学的手法では評価できないガラスの中距離構造局所構造について理解

するために放射光を用いた構造解析を実施しSP ガラスの構造と耐水性改善について考

察したHEXRDおよび AXS法を用いて測定を行い得られたデータを RMCシミュレーシ

ョンにて解析を行った

解析の結果 Sn-O pair については平均配位数 Nが 3 ~ 35でSnO量の増加 = OP の増

62

加に伴い高くなった平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約 22Åであ

ったP-O Sn-Oについては組成による大きな変化はほとんど見られなかった67S5N28P

ガラスの Nb-O pair の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平均配位数約 4Nb-O 平均結合距

離約 20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O(約 105deg)と値が近いことま

た6配位ではなく 4配位として主に存在していることからSnOと同じような働き(網目

形成体)をしていると推測されるまた結合距離が Sn-O が約 22Åに対し Nb-O は約 20

Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強固にしていると言える

SnO 量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体的に各多面体同士の頂点共有が増え

ていることから耐水性の改善には頂点共有を多く含む構造であることが重要である

もしくは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的であることが推測さ

れる以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性耐候性を

改善した要因として考えられる

またAXS 法の有効性についても確認し効果的であることが判明したただし今回

は主成分が Sn の組成のガラスでありHEXRD でも十分に詳細な構造が得られたため

大きな差は現れなかった

参考文献

[1] 山根正之 安井至 和田正道 国分可紀 寺井良平 近藤敬 小川晋永編ガラス光学ハ

ンドブック 朝倉書店(1999)

[2]飯野潔 梅咲則正 NEW GLASS 19 [2] 31-40 (2004)

[3] T E Faber and J M Ziman Philos Mag 11 [109] 153-173 (1965)

[4] 小原真司 鈴谷健太郎 放射光 14 [5] 365-375 (2001)

[5] 早稲田嘉夫 齋藤正敏 放射光 10 [3] 299-315 (1997)

[6] 細川伸也 広島工業大学紀要研究編 46 197-204 (2012)

[7] RLMcGreevy and LPuszai Mol Simulation 1 359(1988)

[8] V V Chernaya A S Mitiaev P S Chizhov E V Dikarev R V Shpanchenko E V Antipov

MV Korolenko and PB Fabritchinyi J Chem Mater 17 284-290 (2005)

[9] M Mathew L W Schroeder and T H Jordan Acta Cryst B33 1812-1816 (1977)

[10] J S Taylar and M P Cohs J Am Ceram Solids 109 [9] 2834-2835 (1987)

[11] D Munoz-Martin A Ruiz de La Cruz J M Fernandez-Navarro C Domingo J Solis and J

Gonzalo J appl Phys 110 023522 (2011)

63

Fig 41 各原子の異常分散項のエネルギー依存性

Fig 42 Sn の異常分散項のエネルギー依存性

64

Fig 43 SPring-8の BL13XU

65

Tab

le 4

1

RM

Cの各パラメーター

66

Fig 44 Sn2P2O7 Sn3P2O8結晶の RDF

Table 42 Sn2P2O7 Sn3P2O8結晶の各 pairの第一近接距離

67

Fig 45 得られた実測 HEXRDの S(Q)

68

Fig 46 Sn の異常散乱測定により得られた散乱強度のエネルギー依存性

(a)67S33P (b)60S40P

69

Fig 47 全相関関数 T(r)

太線 HEXRD より

細線 Sn の AXSより

70

Fig 48 67S5N28P ガラス構造のモデル

71

Fig 49 RMC フィッティングの結果

72

Tab

le 4

3 各

pairの平均配位数角度結合距離

73

Fig

4

10

67

S5

N2

8Pガラスの各多面体モデル

74

Tab

le 4

4 各

pairの結合様式

75

Fig 411 67S5N28P ガラスの構造モデル

76

Table 45 平均 BO 各数 nの比較

Fig 412 50S50P ガラスの構造モデル

77

第 5章 総括

本研究ではSP ガラスを対象とした本研究では鉛フリー代替ガラスまたは希土類フ

リー蛍光体として SP ガラスの新規高機能化を将来的に目指し問題点であるldquo化学的耐久

性rdquoの改善につながる知見を得ることを目的としたそこでまずSP ガラスを母体ガラ

スとし第三成分に Nb2O5を添加した Sn-Nb-P SNP ガラスZnO を添加した SZP ガラスを

作製し耐水性を中心とした物性評価を行った次に分光学的手法で構造解析を行い

Qn 分布を導き出した最後に放射光を用いた構造解析を行い耐水性改善に関する構造的

な考察を行った以下に本研究で行った検討内容を示す

(1)SPガラスおよび第三成分Nb2O5 ZnOを添加した三成分系SPガラスの物性評価(第 2章)

(2)SP 系ガラスの分光学的手法による Qn分布導出(第 3章)

(3)放射光を用いた SP 系ガラスの構造解析構造と耐水性改善の関連について(第 4章)

各章についてまとめた結果を以下に示す

第 2章

第 2章では二成分系および三成分系のリン酸塩系ガラスの各種物性(密度や熱的特性

耐水性)の評価を行った二成分系ではSP ガラスに加え良好な耐水性を有する鉄リン

酸塩(Fe2O3-P2O5)系ガラス(以下 FP ガラス)を比較のために三成分系では二成分系

の SP ガラスに Nb2O5を添加したニオブ含有 SP ガラス(SNP ガラス)および ZnO を添加し

た亜鉛含有 SP ガラス(SZP ガラス)を作製した

今回作製した SP 系ガラスは低ガラス転移温度を有していた各組成の温度域はSP

ガラスTg le 280 Sn-Nb-P SNPガラスTg le 3505SZP S5ZPガラスTg ≦ 450であった

各種 SP ガラスの耐水性試験の結果二成分系の SP ガラスよりも三成分系ガラスの方が

良好な耐水性を有していた65Sn-5Nb-30P 67S5N28P ガラスが最も耐水性が良好であり化

学的耐久性の改善には Nb2O5が ZnOよりも効果的であった

組成と耐水性に関してはDRおよび重量減がOP増加で単調に低下した結果が得られた

つまり耐水性を改善させるにはSP 系ガラスのガラス化範囲を拡大かつ OP を増大させ

る第三成分の添加が有効であることが示唆された

第 3章

第 3章ではSP 系ガラスの分光学的手法による Qn分布の導出を行ったラマン分光法を

用いて各ガラス系のリン酸塩アニオンの構造を簡易定量で評価し組成と構造の関係に

ついて考察した平均 BO 数 n と耐水性に関してはDR および重量減が平均 BO 数 nの減

少で単調に低下することが明らかとなった

平均 BO 数 n と OP の関係より耐水性改善には平均 BO 数 n を下げることそして

OP を上げることが重要であることが明らかになった

78

Nb5+の添加は平均 BO数を減少させるだけでなくOP も上げることからガラス構造

内の P-O-P 結合を減少させ水和反応加水分解反応が抑制され耐水性が大幅に改善さ

れることが示唆された故にNb2O5 のような高価数金属酸化物を添加することが効果的

であることが再度確認された

第 4章

耐水性向上についてより深く評価するためSP SNP ガラスの局所構造に関する知見を得

ることを目的に放射光を用いた構造解析を行った高エネルギーX 線回折(HEXRD)お

よび X 線異常散乱(AXS)法で測定したデータを再現する構造モデルを逆モンテカルロ

(RMC)シミュレーションで構築し構造解析を行った

RMC モデル中の PON多面体に関して平均配位数 Nが 4および P-O の平均結合距離が約

160Å平均結合角度angO-P-Oが約 109degという結果が得られた組成による大きな違いは確

認されなかったSnON多面体については平均配位数 N が 3~4 でSnO 量の増加に伴い 4

に近い値となった平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約 22Åで組成

による大きな変化は見られなかった

Nb2O5を 5 mol添加したガラスではNbON多面体の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平

均配位数N約4Nb-O平均結合距離約20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O

(約 105deg)と値が近いことまた6配位ではなく 4配位として主に存在していることから

SnO と同じような網目形成体として働いていると推測されたまた結合距離が Sn-O が約

22Åに対し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強

固にしていると考えられるまたSnO 量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体

的に各多面体同士の頂点共有が増えていることから耐水性の改善には頂点共有を多く

含む構造もしくは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的であること

が示唆された以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性

耐候性を改善した要因として考えられる

またAXS 法の有効性についても確認し効果的であることが判明したただし今回

は主成分が Snの組成のガラスでありHEXRD でも十分に詳細な Snの周辺構造が得られ

たためAXSを利用した場合との大きな構造の差は認められなかった

本研究では様々な優れた特徴を有する SP ガラスにおける耐水性改善のメカニズムにつ

いて検討を行ったこの系のガラスについてはこれまでほとんど利用されていなかった

放射光を用いた構造解析を駆使し第三成分の添加によってどのような構造的変化が生じ

耐水性を改善させるか新たな知見を得ることができた最終目標である機能性ガラスの

開発における新たなる材料設計指針の確立に対してldquo耐水性rdquoに関しては概ね明らかにな

ったと考えられる一方で今回検討していな電子状態化学結合性についても評価する

ことで溶出メカニズムの解明が可能になり材料設計指針の確立が期待される

79

発表論文リスト

口頭発表

第 2章および第 3章

(1) SnO-P2O5 系ガラスへの酸化物添加効果

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎

日本セラミックス協会第 25 回秋季シンポジウム No3C06 (名古屋市 2012年 9月)

(2) Effect of Nb2O5 addition to SnO-P2O5 glass (Poster)

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

International Union of Materials Research Societies International Conference on Electronic

Materials IUMRS-ICEM 2012 A-9-P26-003 (Yokohama 2012 年 9月)

(3) スズリン酸塩系ガラスの蛍光特性耐水性に及ばす酸化物の添加効果(ポスター)

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎

日本セラミックス協会 2013 年年会 1P070 (東京 2013年 3月)

第 4章

(1) 放射光を用いたスズリン酸塩ガラスの構造解析

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎小原真二臼杵毅

日本セラミックス協会第 27 回秋季シンポジウム 2B22 (鹿児島市 2014年 9 月)

(2) Structural analysis of tin phosphate glasses by synchrotron radiation (Poster)

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba Shinji Kohara Takeshi Usuki

International Congress on Glass ICG Annual Meeting Bangkok 2015 P14-138 p186 (2015)

発表論文

(1) Effect of Nb2O5 addition to SnO- P2O5 glass

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

Journal of the Ceramic Society of Japan Vol 120 No 11 pp530-533 (2012)

(2) Structural analysis of SnO- P2O5 glass

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

Journal of the Ceramic Society of Japan(準備中)

80

謝辞

本研究を遂行するにあたり終始暖かいご指導ご助言並びにご鞭撻を賜わりました岡

山大学大学院環境生命科学研究科 難波徳郎教授に心より感謝の意を表します

また本研究を遂行するにあたり懇切丁寧なご指導とご意見をしていただいた岡山大

学大学院環境生命科学研究科 紅野安彦准教授環境環理センター 崎田真一助教に心より

感謝いたします

本研究を遂行するにあたりラマン分光測定の使用についてご助言ご教授して頂い

た岡山大学自然科学研究科 藤井達生教授中西真助教に心より感謝の意を表します

Sn のメスバウアー測定の際に協力して頂いた岡山大学自然科学研究科先端自然科学教

育研究推進本部高田研究室 松本修治特任助教(当時旭硝子株式会社中央研究所)また

Feのメスバウアーを測定の際に協力して頂いた岡山大学自然科学研究科 藤井達生教授に

心より感謝の意を表します

固体 NMR の岡山大学自然科学研究科 早川聡教授に心より感謝の意を表します

本研究を遂行するにあたりSPring-8 にてHEXRD および AXS 法の測定法および原理

についてご教示頂きました物質材料研究機構 小原真司博士ならびに山形大学 臼杵毅

教授に心より感謝の意を表します

本研究は多くの後輩諸君の協力によって遂行されました特に実際に共同研究共同

実験を遂行して頂いたOG 藤原沙弥香さん博士前期課程 2 年 東利彦君OB 徳岡太誠

君学士課程 4年 塩田将大君に心より感謝の意を表しますまた難波研究室で共に研

究生活を過ごした卒業生在学生の方々に感謝の意を表します

また同時期に博士後期課程に在籍された香川高等専門学校の桟敷剛さんにはNbに

関する有益な情報だけでなく辛い状況でも励ましを頂きました心より感謝の意を表し

ます

最後に長きに渡る学生生活を認め経済面だけでなく精神面でも支援してくださった

家族に心より深く感謝の意を表します

平成 28年 3月

福井 聡史

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56

Fig 310 OP と平均 BO数 nの関係性

Meta

Pyro

Ortho

57

第 4章 放射光を用いたスズリン酸塩系ガラスの構造解析

41 緒言

前章の第 3 章にてラマン分光法を用いて SP 系ガラスの構造解析により Qn分布を導き

出したことで耐水性と構造の関係についてある程度関連性を導くことができたリン

酸アニオンについてはQ0(orthophosphate)構造 gt Q

1(pyrophosphate)構造 gt Q2

(metaphosphate)構造の順で良耐水性となるしかしSn Nbおよび Znの局所構造につ

いては知見が得られていないラマン分光や IR分光などの分光学的手法を用いてSnや

Nb Zn の周辺の局所構造を知るには限界があるまたガラスの構造解析を行う上で非常

に重要な因子である中距離構造の評価には分光学的手法は不向きである[1]

そこで局所構造や中距離構造を知るために有効な手法として放射光線を用いた構造

解析がある放射光(SR 光)とはシンクロトロンなどの加速器で高速に加速された電子

が進行方向を磁場によって変えられた際に放射する電磁波である[2]エネルギーが高く

(短波長)輝度が高い特性を有している日本国内では兵庫県佐用町の SPring-8や茨城

県つくば市の高エネルギー加速器研究機構佐賀県鳥栖市の佐賀県立九州シンクロトロン

光研究センターなど複数個所に放射光施設が設置されている

放射光を用いたガラスの構造解析には一般的に高エネルギーX 線回折(High Energy

X-ray diffraction HEXRD)が用いられるこの回折実験から高い散乱ベクトル Q(= 4π sinθλ)

まで回折データが得られる多種類の原子から構成される物質の場合はFaber-Ziman 型[3]

の構造因子 S(Q)を用いる以下の式に示すようにFaber-Ziman 型構造因子 S(Q)は同種また

は異種の原子による相関の重み関数付の和として示される例として SiO2ガラスで説明す

ると構造因子 S(Q)は三種類の原子付の S(Q)の重み付の和として表されていることが分か

I(Q) 散乱断面積 ltgt 原子一個当たりの平均値 f(Q) 原子散乱因子 W 重み関数

通常の研究室で使用される X 線回折(XRD)装置で用いられる特性 X 線はCuKα線(λ

= 0154 nm 81 keV)が最も良く用いられより高いエネルギーの X 線が必要な場合は

MoKα線(λ = 0071 nm 175 keV)が使用される一方でSPring-8のビームライン BL04B2

で行われる高エネルギーX 線回折(HEXRD)測定で使用される SR のエネルギーは378 keV

58

~ が使用可能である[2]従ってガラス以外の液体のような非晶質物質にも非常に精度

よく構造解析が行われている[4]

また局所構造解析の一つに X線異常散乱法という測定方法がある[5 6]これは通常

の X 線回折実験では分離不可能な特定元素に関連する部分構造因子(散乱強度曲線)を得

ることができる手法である今回 HEXRD の測定時に使用したエネルギー614 keV では各元

素の異常散乱項のエネルギー依存性は確認されない(Fig 41)その一方でFig 42に示す

Sn の吸収端付近の 292 keV付近ではSnの異常分散項のエネルギー依存性が確認できる

つまりSnの吸収端近傍より低エネルギー(E)側の異なるエネルギーの X線(E1 E2)を

使って散乱強度を測定し各 E における異常分散項(f`)の変化(つまり高い E1 から低い

E2 の散乱強度の差分)を利用して Snに関する部分構造因子を求める構造解析が AXS 法で

あるこの測定法は古くから知られている方法ではあるが装置の測定条件や設備の問

題からなどから使用があまり普及していなかった[5 6]近年になり金属ガラスの構造解

析について徐々に報告が出てきており今後注目される測定法である

HEXRD および AXS 法などから得られたデータ実測の構造因子 S(Q)は一次元の限られ

た構造情報であるためガラスなどの非晶質物質の中距離構造を解明するためにはこれ

らのデータを基に三次元構造を求める必要がある三次元構造モデルの作成には逆モンテ

カルロ(RMC)シミュレーションを使用することが有効である[7]このシミュレーション

は任意で決めたシミュレーションボックス内の粒子をランダムに動かすことで実測の

構造因子 S(Q)を再現する三次元構造モデルを構築する方法である

SP ガラスについては分光学的手法について数多く報告があるが放射光を用いた回折

法はほとんど適用されていないそこで本研究では HEXRD および AXS 法を用いた構造

解析を行うことでSn Nb周りの構造を解明すると共にSNP ガラスの耐水性改善のメカ

ニズムについて考察したまたAXS 法の有効性についても検討した測定を行ったガラ

スはSP ガラスおよび最も耐水性の高かった 67S5N28P を選択した

42 実験方法

421 HEXRD AXS法

HEXRDはSPring-8のビームライン BL04B2 で測定を行ったエネルギー614 keV の X

線を用いた測定サンプルの厚みは09 mm (plusmn0005 mm)になるまで研磨を行った

AXS 測定はSPring-8のビームライン BL13XUを使用した(Fig 43)それぞれの測定し

た X 線のエネルギーについて以下に示す

①Sn K吸収端hellip292 keV near edgehellip291452 keV (-60 eV) far edgehellip289751 keV (-230 eV)

②Nb K吸収端hellip1899 keV near edgehellip189562 keV (-30 eV) far edgehellip187863 keV (-230 eV)

測定に使用したサンプルの厚さが015 - 030 mmとなるまで研磨を施した

SP ガラスについて50S50P 60S40P 67S33P の三組成のガラスを測定した70S30P に関

59

しては測定を試みたが放射光照射によって結晶化してしまいガラス部分の正確な構

造因子を得るための強度補正ができず解析を断念した

422 RMCのモデリング

Table 41 に RMC の各種パラメーターを示す粒子数は約 5000 個でそれに伴う boxの一

辺の長さは約 42 ~ 46 Ǻになった拘束条件にP の配位数が 4になるような条件を付け

加えたFig 44にSn2P2O7結晶および Sn3P2O8結晶の動径分布関数(RDF)をTable 32

にRDFから得られた第一近接距離[8 9] を示すこれらの数値を使用しcutoffを決定し

たNb-O についてはいくつかの文献値を参考にした[10 11]

各ガラスの RMCのモデリングは①HEXRDから得られた S(Q)のみ②S(Q)および AXS

から得られた部分構造因子を加えた場合でそれぞれ計算した

43 結果考察

最初にNbの AXSから得られたデータについて解析を試みたが妥当な構造モデルが得

られなかったためSnの AXSのみで解析を進めたNb2O5の量が 5 molと少量であったた

めあまり精度の高いデータが得られなかったと推測される

431 実測の HEXRDおよび AXSの結果

4311 実測 HEXRDの S(Q)

Fig 45 に実測HEXRDの S(Q)を示す四つの組成ともに実測HEXRDの S(Q)が得られ

Nb2O5添加の 67S5N28P ガラスでは Low Q 側に変化が確認された

4312 実測散乱強度曲線

Fig 46 に Snの散乱強度曲線を示す(a) の 67S33P のこの曲線からはfar edgeおよび

near edge のエネルギー間で差分が見られエネルギーの依存性が確認された50S50P

67S5N28P のガラスについても同じように差分が確認されたが(b)の 60S40P についてのみ

他とは若干異なる結果(緑丸)であったためRMC の構造解析には差分の構造因子ではな

くfar edge near edge 二つの構造因子を用いた

4313 全相関関数 T(r)

Fig 47 に全相関関数 T(r) を示すHEXRD から得られたものを実線でSnの AXS から

得られたものは点線で示し組成ごとに重ねて表示した図中に各ピークについて帰属し

ているがSnの T(r)からはSn-O Sn-P Sn-Snのみのピークを確認した

432 RMCの計算結果および考察

60

構造モデルの一例として67S5N28P ガラスの得られた構造モデルをFig 48に示す水

色の多面体 unitSnON 黄色の多面体 unitPO4 ピンクの多面体 unitNbONである以下

詳細な構造解析の結果および考察を記す

4321 RMCのフィッティング結果

RMCのフィッティング結果の一例として67S33P の HEXRD と Snの AXS の構造因子か

ら得た結果を示す(Fig 49)二つの構造因子を加えて計算した結果においてもHEXRD

の S(Q) AXS の S(Q)に各々に対する良好なフィッティング結果が得られた他の組成も

同様なフィッティング結果が得られた

4322得られた各 pairの平均配位数平均角度平均結合距離

RMCの結果によって得られた各 pairの平均配位数平均角度平均結合距離を Tables 43

に示す上段が HEXRD の S(Q)のみ下段が HEXRD に Sn の AXS の部分構造因子を加え

て結果である最下部は比較のためにSn2P2O7の情報を記載した[8]

P-O pairについてRMCモデル中の PON多面体に関して平均配位数 Nが 4および P-O

の平均結合距離が約 160Å平均結合角度angO-P-O が約 109degという結果が得られた組成

による大きな違いは確認されなかったのはP の配位数が 4になるように拘束条件をかけた

結果であると考えられるSnON多面体についてはSnO量の増加 = OP の増加であり平

均配位数 Nが 3 ~ 35へ増加した平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約

22Åで組成による大きな変化はほとんど見られなかったNb2O5を 5 mol添加したガラ

スではNbON多面体の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平均配位数 N約 4Nb-O 平均結

合距離約 20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O(約 105deg)と値が近いこと

また6配位ではなく 4配位として主に存在していることからSnO と同じような働きをし

ていると推測される

以上の結果からNb2O5添加の耐水性改善の要因として結合距離が Sn-O が約 22Åに対

し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強固にして

いることも一つの要因として考えられる

また67S5N28P ガラスの各多面体モデルを確認すると(Fig 410)P は PO4Snは SnO4

と SnO3Nbは NbO4をそれぞれ再現している

4323得られた各 pairの結合様式

RMC の結果により得られた各 pair の結合様式を Tables 44 に示す上段が HEXRD の

S(Q)のみ下段が HEXRDに Snの AXS の部分構造因子を加えた結果である最下部は比

較のためにSn2P2O7の情報を記載した[8]

結合様式に関してはPO4四面体は他の多面体も含めてほぼ頂点共有で存在している

SnON多面体についてはSnO 量が少ない配位数が 3 に近い場合頂点共有以外の共有の

61

割合も多くSnO 量が増えるにつれて頂点共有が主になり網目形成体として振舞ってい

ると考えられる組成によって平均結合距離や平均角度の大きな変化が見られなかったこ

とから平均配位数が結合様式を決める重要なファクターであるということも考えられる

またHEXRD と AXS 法の結果がほぼ同じであったこれは主成分が SnO のガラスであ

るためHEXRDでも十分に詳細な構造が得られたため大きな変化が現れなかったと考え

られるNbON 多面体はPO4 四面体と SnON 多面体とはほぼ頂点共有で繋がっている以

上の結果よりSnO量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体的に各多面体同士の

頂点共有が増えていることから耐水性の改善には頂点共有を多く含む構造であること

が重要である或いは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的となって

いるということが推測されるFig 411に 67S5N28P ガラスの構造モデルを示す各多面

体はほぼ頂点共有で繋がっていることが確認できる

4324 平均 BO数の比較

Tables 45にNMR Raman RMC(HEXRD) RMC(HEXRD + AXS)の平均BO数を示すRMC

から得られた平均 BO 数 nはNMR Raman と同様に Nb2O5の添加による大幅な減少が確認

されたしかしNMR Raman と比較すると全組成において数値が大きすぎで適当でない

50S50P の構造モデルを観るとPO4四面体間で3配位 O の存在が確認された(Fig 412)た

め実測で得られた n値を再現できるようなPO4四面体モデル間の繋がり方に関する拘束条

件を加えて RMCを計算する必要性があるまた仮に3配位 Oの存在があるとすると電

子状態の変化が生じていることがと示唆されるため分子軌道計算を用いて電子状態解析

を行い確認する必要がある

4325 耐水性の改善について

Nb2O5を添加のガラス構造への影響について①6配位ではなく 4配位として主に存在し

ていることからSnO と同じような働きをしていると推測される②結合距離が Sn-O が約

22Åに対し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強

固にしている③ガラス構造中で全体的に各多面体同士の頂点共有が増えている以上の

ことが判明した以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性

耐候性を改善した要因として考えられる

44 結言

本章では分光学的手法では評価できないガラスの中距離構造局所構造について理解

するために放射光を用いた構造解析を実施しSP ガラスの構造と耐水性改善について考

察したHEXRDおよび AXS法を用いて測定を行い得られたデータを RMCシミュレーシ

ョンにて解析を行った

解析の結果 Sn-O pair については平均配位数 Nが 3 ~ 35でSnO量の増加 = OP の増

62

加に伴い高くなった平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約 22Åであ

ったP-O Sn-Oについては組成による大きな変化はほとんど見られなかった67S5N28P

ガラスの Nb-O pair の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平均配位数約 4Nb-O 平均結合距

離約 20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O(約 105deg)と値が近いことま

た6配位ではなく 4配位として主に存在していることからSnOと同じような働き(網目

形成体)をしていると推測されるまた結合距離が Sn-O が約 22Åに対し Nb-O は約 20

Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強固にしていると言える

SnO 量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体的に各多面体同士の頂点共有が増え

ていることから耐水性の改善には頂点共有を多く含む構造であることが重要である

もしくは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的であることが推測さ

れる以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性耐候性を

改善した要因として考えられる

またAXS 法の有効性についても確認し効果的であることが判明したただし今回

は主成分が Sn の組成のガラスでありHEXRD でも十分に詳細な構造が得られたため

大きな差は現れなかった

参考文献

[1] 山根正之 安井至 和田正道 国分可紀 寺井良平 近藤敬 小川晋永編ガラス光学ハ

ンドブック 朝倉書店(1999)

[2]飯野潔 梅咲則正 NEW GLASS 19 [2] 31-40 (2004)

[3] T E Faber and J M Ziman Philos Mag 11 [109] 153-173 (1965)

[4] 小原真司 鈴谷健太郎 放射光 14 [5] 365-375 (2001)

[5] 早稲田嘉夫 齋藤正敏 放射光 10 [3] 299-315 (1997)

[6] 細川伸也 広島工業大学紀要研究編 46 197-204 (2012)

[7] RLMcGreevy and LPuszai Mol Simulation 1 359(1988)

[8] V V Chernaya A S Mitiaev P S Chizhov E V Dikarev R V Shpanchenko E V Antipov

MV Korolenko and PB Fabritchinyi J Chem Mater 17 284-290 (2005)

[9] M Mathew L W Schroeder and T H Jordan Acta Cryst B33 1812-1816 (1977)

[10] J S Taylar and M P Cohs J Am Ceram Solids 109 [9] 2834-2835 (1987)

[11] D Munoz-Martin A Ruiz de La Cruz J M Fernandez-Navarro C Domingo J Solis and J

Gonzalo J appl Phys 110 023522 (2011)

63

Fig 41 各原子の異常分散項のエネルギー依存性

Fig 42 Sn の異常分散項のエネルギー依存性

64

Fig 43 SPring-8の BL13XU

65

Tab

le 4

1

RM

Cの各パラメーター

66

Fig 44 Sn2P2O7 Sn3P2O8結晶の RDF

Table 42 Sn2P2O7 Sn3P2O8結晶の各 pairの第一近接距離

67

Fig 45 得られた実測 HEXRDの S(Q)

68

Fig 46 Sn の異常散乱測定により得られた散乱強度のエネルギー依存性

(a)67S33P (b)60S40P

69

Fig 47 全相関関数 T(r)

太線 HEXRD より

細線 Sn の AXSより

70

Fig 48 67S5N28P ガラス構造のモデル

71

Fig 49 RMC フィッティングの結果

72

Tab

le 4

3 各

pairの平均配位数角度結合距離

73

Fig

4

10

67

S5

N2

8Pガラスの各多面体モデル

74

Tab

le 4

4 各

pairの結合様式

75

Fig 411 67S5N28P ガラスの構造モデル

76

Table 45 平均 BO 各数 nの比較

Fig 412 50S50P ガラスの構造モデル

77

第 5章 総括

本研究ではSP ガラスを対象とした本研究では鉛フリー代替ガラスまたは希土類フ

リー蛍光体として SP ガラスの新規高機能化を将来的に目指し問題点であるldquo化学的耐久

性rdquoの改善につながる知見を得ることを目的としたそこでまずSP ガラスを母体ガラ

スとし第三成分に Nb2O5を添加した Sn-Nb-P SNP ガラスZnO を添加した SZP ガラスを

作製し耐水性を中心とした物性評価を行った次に分光学的手法で構造解析を行い

Qn 分布を導き出した最後に放射光を用いた構造解析を行い耐水性改善に関する構造的

な考察を行った以下に本研究で行った検討内容を示す

(1)SPガラスおよび第三成分Nb2O5 ZnOを添加した三成分系SPガラスの物性評価(第 2章)

(2)SP 系ガラスの分光学的手法による Qn分布導出(第 3章)

(3)放射光を用いた SP 系ガラスの構造解析構造と耐水性改善の関連について(第 4章)

各章についてまとめた結果を以下に示す

第 2章

第 2章では二成分系および三成分系のリン酸塩系ガラスの各種物性(密度や熱的特性

耐水性)の評価を行った二成分系ではSP ガラスに加え良好な耐水性を有する鉄リン

酸塩(Fe2O3-P2O5)系ガラス(以下 FP ガラス)を比較のために三成分系では二成分系

の SP ガラスに Nb2O5を添加したニオブ含有 SP ガラス(SNP ガラス)および ZnO を添加し

た亜鉛含有 SP ガラス(SZP ガラス)を作製した

今回作製した SP 系ガラスは低ガラス転移温度を有していた各組成の温度域はSP

ガラスTg le 280 Sn-Nb-P SNPガラスTg le 3505SZP S5ZPガラスTg ≦ 450であった

各種 SP ガラスの耐水性試験の結果二成分系の SP ガラスよりも三成分系ガラスの方が

良好な耐水性を有していた65Sn-5Nb-30P 67S5N28P ガラスが最も耐水性が良好であり化

学的耐久性の改善には Nb2O5が ZnOよりも効果的であった

組成と耐水性に関してはDRおよび重量減がOP増加で単調に低下した結果が得られた

つまり耐水性を改善させるにはSP 系ガラスのガラス化範囲を拡大かつ OP を増大させ

る第三成分の添加が有効であることが示唆された

第 3章

第 3章ではSP 系ガラスの分光学的手法による Qn分布の導出を行ったラマン分光法を

用いて各ガラス系のリン酸塩アニオンの構造を簡易定量で評価し組成と構造の関係に

ついて考察した平均 BO 数 n と耐水性に関してはDR および重量減が平均 BO 数 nの減

少で単調に低下することが明らかとなった

平均 BO 数 n と OP の関係より耐水性改善には平均 BO 数 n を下げることそして

OP を上げることが重要であることが明らかになった

78

Nb5+の添加は平均 BO数を減少させるだけでなくOP も上げることからガラス構造

内の P-O-P 結合を減少させ水和反応加水分解反応が抑制され耐水性が大幅に改善さ

れることが示唆された故にNb2O5 のような高価数金属酸化物を添加することが効果的

であることが再度確認された

第 4章

耐水性向上についてより深く評価するためSP SNP ガラスの局所構造に関する知見を得

ることを目的に放射光を用いた構造解析を行った高エネルギーX 線回折(HEXRD)お

よび X 線異常散乱(AXS)法で測定したデータを再現する構造モデルを逆モンテカルロ

(RMC)シミュレーションで構築し構造解析を行った

RMC モデル中の PON多面体に関して平均配位数 Nが 4および P-O の平均結合距離が約

160Å平均結合角度angO-P-Oが約 109degという結果が得られた組成による大きな違いは確

認されなかったSnON多面体については平均配位数 N が 3~4 でSnO 量の増加に伴い 4

に近い値となった平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約 22Åで組成

による大きな変化は見られなかった

Nb2O5を 5 mol添加したガラスではNbON多面体の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平

均配位数N約4Nb-O平均結合距離約20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O

(約 105deg)と値が近いことまた6配位ではなく 4配位として主に存在していることから

SnO と同じような網目形成体として働いていると推測されたまた結合距離が Sn-O が約

22Åに対し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強

固にしていると考えられるまたSnO 量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体

的に各多面体同士の頂点共有が増えていることから耐水性の改善には頂点共有を多く

含む構造もしくは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的であること

が示唆された以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性

耐候性を改善した要因として考えられる

またAXS 法の有効性についても確認し効果的であることが判明したただし今回

は主成分が Snの組成のガラスでありHEXRD でも十分に詳細な Snの周辺構造が得られ

たためAXSを利用した場合との大きな構造の差は認められなかった

本研究では様々な優れた特徴を有する SP ガラスにおける耐水性改善のメカニズムにつ

いて検討を行ったこの系のガラスについてはこれまでほとんど利用されていなかった

放射光を用いた構造解析を駆使し第三成分の添加によってどのような構造的変化が生じ

耐水性を改善させるか新たな知見を得ることができた最終目標である機能性ガラスの

開発における新たなる材料設計指針の確立に対してldquo耐水性rdquoに関しては概ね明らかにな

ったと考えられる一方で今回検討していな電子状態化学結合性についても評価する

ことで溶出メカニズムの解明が可能になり材料設計指針の確立が期待される

79

発表論文リスト

口頭発表

第 2章および第 3章

(1) SnO-P2O5 系ガラスへの酸化物添加効果

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎

日本セラミックス協会第 25 回秋季シンポジウム No3C06 (名古屋市 2012年 9月)

(2) Effect of Nb2O5 addition to SnO-P2O5 glass (Poster)

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

International Union of Materials Research Societies International Conference on Electronic

Materials IUMRS-ICEM 2012 A-9-P26-003 (Yokohama 2012 年 9月)

(3) スズリン酸塩系ガラスの蛍光特性耐水性に及ばす酸化物の添加効果(ポスター)

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎

日本セラミックス協会 2013 年年会 1P070 (東京 2013年 3月)

第 4章

(1) 放射光を用いたスズリン酸塩ガラスの構造解析

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎小原真二臼杵毅

日本セラミックス協会第 27 回秋季シンポジウム 2B22 (鹿児島市 2014年 9 月)

(2) Structural analysis of tin phosphate glasses by synchrotron radiation (Poster)

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba Shinji Kohara Takeshi Usuki

International Congress on Glass ICG Annual Meeting Bangkok 2015 P14-138 p186 (2015)

発表論文

(1) Effect of Nb2O5 addition to SnO- P2O5 glass

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

Journal of the Ceramic Society of Japan Vol 120 No 11 pp530-533 (2012)

(2) Structural analysis of SnO- P2O5 glass

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

Journal of the Ceramic Society of Japan(準備中)

80

謝辞

本研究を遂行するにあたり終始暖かいご指導ご助言並びにご鞭撻を賜わりました岡

山大学大学院環境生命科学研究科 難波徳郎教授に心より感謝の意を表します

また本研究を遂行するにあたり懇切丁寧なご指導とご意見をしていただいた岡山大

学大学院環境生命科学研究科 紅野安彦准教授環境環理センター 崎田真一助教に心より

感謝いたします

本研究を遂行するにあたりラマン分光測定の使用についてご助言ご教授して頂い

た岡山大学自然科学研究科 藤井達生教授中西真助教に心より感謝の意を表します

Sn のメスバウアー測定の際に協力して頂いた岡山大学自然科学研究科先端自然科学教

育研究推進本部高田研究室 松本修治特任助教(当時旭硝子株式会社中央研究所)また

Feのメスバウアーを測定の際に協力して頂いた岡山大学自然科学研究科 藤井達生教授に

心より感謝の意を表します

固体 NMR の岡山大学自然科学研究科 早川聡教授に心より感謝の意を表します

本研究を遂行するにあたりSPring-8 にてHEXRD および AXS 法の測定法および原理

についてご教示頂きました物質材料研究機構 小原真司博士ならびに山形大学 臼杵毅

教授に心より感謝の意を表します

本研究は多くの後輩諸君の協力によって遂行されました特に実際に共同研究共同

実験を遂行して頂いたOG 藤原沙弥香さん博士前期課程 2 年 東利彦君OB 徳岡太誠

君学士課程 4年 塩田将大君に心より感謝の意を表しますまた難波研究室で共に研

究生活を過ごした卒業生在学生の方々に感謝の意を表します

また同時期に博士後期課程に在籍された香川高等専門学校の桟敷剛さんにはNbに

関する有益な情報だけでなく辛い状況でも励ましを頂きました心より感謝の意を表し

ます

最後に長きに渡る学生生活を認め経済面だけでなく精神面でも支援してくださった

家族に心より深く感謝の意を表します

平成 28年 3月

福井 聡史

Page 60: 博士論文 スズリン酸塩系ガラスの物性と構造解析ousar.lib.okayama-u.ac.jp/files/public/5/54353/...博士論文 スズリン酸塩系ガラスの物性と構造解析

57

第 4章 放射光を用いたスズリン酸塩系ガラスの構造解析

41 緒言

前章の第 3 章にてラマン分光法を用いて SP 系ガラスの構造解析により Qn分布を導き

出したことで耐水性と構造の関係についてある程度関連性を導くことができたリン

酸アニオンについてはQ0(orthophosphate)構造 gt Q

1(pyrophosphate)構造 gt Q2

(metaphosphate)構造の順で良耐水性となるしかしSn Nbおよび Znの局所構造につ

いては知見が得られていないラマン分光や IR分光などの分光学的手法を用いてSnや

Nb Zn の周辺の局所構造を知るには限界があるまたガラスの構造解析を行う上で非常

に重要な因子である中距離構造の評価には分光学的手法は不向きである[1]

そこで局所構造や中距離構造を知るために有効な手法として放射光線を用いた構造

解析がある放射光(SR 光)とはシンクロトロンなどの加速器で高速に加速された電子

が進行方向を磁場によって変えられた際に放射する電磁波である[2]エネルギーが高く

(短波長)輝度が高い特性を有している日本国内では兵庫県佐用町の SPring-8や茨城

県つくば市の高エネルギー加速器研究機構佐賀県鳥栖市の佐賀県立九州シンクロトロン

光研究センターなど複数個所に放射光施設が設置されている

放射光を用いたガラスの構造解析には一般的に高エネルギーX 線回折(High Energy

X-ray diffraction HEXRD)が用いられるこの回折実験から高い散乱ベクトル Q(= 4π sinθλ)

まで回折データが得られる多種類の原子から構成される物質の場合はFaber-Ziman 型[3]

の構造因子 S(Q)を用いる以下の式に示すようにFaber-Ziman 型構造因子 S(Q)は同種また

は異種の原子による相関の重み関数付の和として示される例として SiO2ガラスで説明す

ると構造因子 S(Q)は三種類の原子付の S(Q)の重み付の和として表されていることが分か

I(Q) 散乱断面積 ltgt 原子一個当たりの平均値 f(Q) 原子散乱因子 W 重み関数

通常の研究室で使用される X 線回折(XRD)装置で用いられる特性 X 線はCuKα線(λ

= 0154 nm 81 keV)が最も良く用いられより高いエネルギーの X 線が必要な場合は

MoKα線(λ = 0071 nm 175 keV)が使用される一方でSPring-8のビームライン BL04B2

で行われる高エネルギーX 線回折(HEXRD)測定で使用される SR のエネルギーは378 keV

58

~ が使用可能である[2]従ってガラス以外の液体のような非晶質物質にも非常に精度

よく構造解析が行われている[4]

また局所構造解析の一つに X線異常散乱法という測定方法がある[5 6]これは通常

の X 線回折実験では分離不可能な特定元素に関連する部分構造因子(散乱強度曲線)を得

ることができる手法である今回 HEXRD の測定時に使用したエネルギー614 keV では各元

素の異常散乱項のエネルギー依存性は確認されない(Fig 41)その一方でFig 42に示す

Sn の吸収端付近の 292 keV付近ではSnの異常分散項のエネルギー依存性が確認できる

つまりSnの吸収端近傍より低エネルギー(E)側の異なるエネルギーの X線(E1 E2)を

使って散乱強度を測定し各 E における異常分散項(f`)の変化(つまり高い E1 から低い

E2 の散乱強度の差分)を利用して Snに関する部分構造因子を求める構造解析が AXS 法で

あるこの測定法は古くから知られている方法ではあるが装置の測定条件や設備の問

題からなどから使用があまり普及していなかった[5 6]近年になり金属ガラスの構造解

析について徐々に報告が出てきており今後注目される測定法である

HEXRD および AXS 法などから得られたデータ実測の構造因子 S(Q)は一次元の限られ

た構造情報であるためガラスなどの非晶質物質の中距離構造を解明するためにはこれ

らのデータを基に三次元構造を求める必要がある三次元構造モデルの作成には逆モンテ

カルロ(RMC)シミュレーションを使用することが有効である[7]このシミュレーション

は任意で決めたシミュレーションボックス内の粒子をランダムに動かすことで実測の

構造因子 S(Q)を再現する三次元構造モデルを構築する方法である

SP ガラスについては分光学的手法について数多く報告があるが放射光を用いた回折

法はほとんど適用されていないそこで本研究では HEXRD および AXS 法を用いた構造

解析を行うことでSn Nb周りの構造を解明すると共にSNP ガラスの耐水性改善のメカ

ニズムについて考察したまたAXS 法の有効性についても検討した測定を行ったガラ

スはSP ガラスおよび最も耐水性の高かった 67S5N28P を選択した

42 実験方法

421 HEXRD AXS法

HEXRDはSPring-8のビームライン BL04B2 で測定を行ったエネルギー614 keV の X

線を用いた測定サンプルの厚みは09 mm (plusmn0005 mm)になるまで研磨を行った

AXS 測定はSPring-8のビームライン BL13XUを使用した(Fig 43)それぞれの測定し

た X 線のエネルギーについて以下に示す

①Sn K吸収端hellip292 keV near edgehellip291452 keV (-60 eV) far edgehellip289751 keV (-230 eV)

②Nb K吸収端hellip1899 keV near edgehellip189562 keV (-30 eV) far edgehellip187863 keV (-230 eV)

測定に使用したサンプルの厚さが015 - 030 mmとなるまで研磨を施した

SP ガラスについて50S50P 60S40P 67S33P の三組成のガラスを測定した70S30P に関

59

しては測定を試みたが放射光照射によって結晶化してしまいガラス部分の正確な構

造因子を得るための強度補正ができず解析を断念した

422 RMCのモデリング

Table 41 に RMC の各種パラメーターを示す粒子数は約 5000 個でそれに伴う boxの一

辺の長さは約 42 ~ 46 Ǻになった拘束条件にP の配位数が 4になるような条件を付け

加えたFig 44にSn2P2O7結晶および Sn3P2O8結晶の動径分布関数(RDF)をTable 32

にRDFから得られた第一近接距離[8 9] を示すこれらの数値を使用しcutoffを決定し

たNb-O についてはいくつかの文献値を参考にした[10 11]

各ガラスの RMCのモデリングは①HEXRDから得られた S(Q)のみ②S(Q)および AXS

から得られた部分構造因子を加えた場合でそれぞれ計算した

43 結果考察

最初にNbの AXSから得られたデータについて解析を試みたが妥当な構造モデルが得

られなかったためSnの AXSのみで解析を進めたNb2O5の量が 5 molと少量であったた

めあまり精度の高いデータが得られなかったと推測される

431 実測の HEXRDおよび AXSの結果

4311 実測 HEXRDの S(Q)

Fig 45 に実測HEXRDの S(Q)を示す四つの組成ともに実測HEXRDの S(Q)が得られ

Nb2O5添加の 67S5N28P ガラスでは Low Q 側に変化が確認された

4312 実測散乱強度曲線

Fig 46 に Snの散乱強度曲線を示す(a) の 67S33P のこの曲線からはfar edgeおよび

near edge のエネルギー間で差分が見られエネルギーの依存性が確認された50S50P

67S5N28P のガラスについても同じように差分が確認されたが(b)の 60S40P についてのみ

他とは若干異なる結果(緑丸)であったためRMC の構造解析には差分の構造因子ではな

くfar edge near edge 二つの構造因子を用いた

4313 全相関関数 T(r)

Fig 47 に全相関関数 T(r) を示すHEXRD から得られたものを実線でSnの AXS から

得られたものは点線で示し組成ごとに重ねて表示した図中に各ピークについて帰属し

ているがSnの T(r)からはSn-O Sn-P Sn-Snのみのピークを確認した

432 RMCの計算結果および考察

60

構造モデルの一例として67S5N28P ガラスの得られた構造モデルをFig 48に示す水

色の多面体 unitSnON 黄色の多面体 unitPO4 ピンクの多面体 unitNbONである以下

詳細な構造解析の結果および考察を記す

4321 RMCのフィッティング結果

RMCのフィッティング結果の一例として67S33P の HEXRD と Snの AXS の構造因子か

ら得た結果を示す(Fig 49)二つの構造因子を加えて計算した結果においてもHEXRD

の S(Q) AXS の S(Q)に各々に対する良好なフィッティング結果が得られた他の組成も

同様なフィッティング結果が得られた

4322得られた各 pairの平均配位数平均角度平均結合距離

RMCの結果によって得られた各 pairの平均配位数平均角度平均結合距離を Tables 43

に示す上段が HEXRD の S(Q)のみ下段が HEXRD に Sn の AXS の部分構造因子を加え

て結果である最下部は比較のためにSn2P2O7の情報を記載した[8]

P-O pairについてRMCモデル中の PON多面体に関して平均配位数 Nが 4および P-O

の平均結合距離が約 160Å平均結合角度angO-P-O が約 109degという結果が得られた組成

による大きな違いは確認されなかったのはP の配位数が 4になるように拘束条件をかけた

結果であると考えられるSnON多面体についてはSnO量の増加 = OP の増加であり平

均配位数 Nが 3 ~ 35へ増加した平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約

22Åで組成による大きな変化はほとんど見られなかったNb2O5を 5 mol添加したガラ

スではNbON多面体の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平均配位数 N約 4Nb-O 平均結

合距離約 20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O(約 105deg)と値が近いこと

また6配位ではなく 4配位として主に存在していることからSnO と同じような働きをし

ていると推測される

以上の結果からNb2O5添加の耐水性改善の要因として結合距離が Sn-O が約 22Åに対

し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強固にして

いることも一つの要因として考えられる

また67S5N28P ガラスの各多面体モデルを確認すると(Fig 410)P は PO4Snは SnO4

と SnO3Nbは NbO4をそれぞれ再現している

4323得られた各 pairの結合様式

RMC の結果により得られた各 pair の結合様式を Tables 44 に示す上段が HEXRD の

S(Q)のみ下段が HEXRDに Snの AXS の部分構造因子を加えた結果である最下部は比

較のためにSn2P2O7の情報を記載した[8]

結合様式に関してはPO4四面体は他の多面体も含めてほぼ頂点共有で存在している

SnON多面体についてはSnO 量が少ない配位数が 3 に近い場合頂点共有以外の共有の

61

割合も多くSnO 量が増えるにつれて頂点共有が主になり網目形成体として振舞ってい

ると考えられる組成によって平均結合距離や平均角度の大きな変化が見られなかったこ

とから平均配位数が結合様式を決める重要なファクターであるということも考えられる

またHEXRD と AXS 法の結果がほぼ同じであったこれは主成分が SnO のガラスであ

るためHEXRDでも十分に詳細な構造が得られたため大きな変化が現れなかったと考え

られるNbON 多面体はPO4 四面体と SnON 多面体とはほぼ頂点共有で繋がっている以

上の結果よりSnO量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体的に各多面体同士の

頂点共有が増えていることから耐水性の改善には頂点共有を多く含む構造であること

が重要である或いは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的となって

いるということが推測されるFig 411に 67S5N28P ガラスの構造モデルを示す各多面

体はほぼ頂点共有で繋がっていることが確認できる

4324 平均 BO数の比較

Tables 45にNMR Raman RMC(HEXRD) RMC(HEXRD + AXS)の平均BO数を示すRMC

から得られた平均 BO 数 nはNMR Raman と同様に Nb2O5の添加による大幅な減少が確認

されたしかしNMR Raman と比較すると全組成において数値が大きすぎで適当でない

50S50P の構造モデルを観るとPO4四面体間で3配位 O の存在が確認された(Fig 412)た

め実測で得られた n値を再現できるようなPO4四面体モデル間の繋がり方に関する拘束条

件を加えて RMCを計算する必要性があるまた仮に3配位 Oの存在があるとすると電

子状態の変化が生じていることがと示唆されるため分子軌道計算を用いて電子状態解析

を行い確認する必要がある

4325 耐水性の改善について

Nb2O5を添加のガラス構造への影響について①6配位ではなく 4配位として主に存在し

ていることからSnO と同じような働きをしていると推測される②結合距離が Sn-O が約

22Åに対し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強

固にしている③ガラス構造中で全体的に各多面体同士の頂点共有が増えている以上の

ことが判明した以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性

耐候性を改善した要因として考えられる

44 結言

本章では分光学的手法では評価できないガラスの中距離構造局所構造について理解

するために放射光を用いた構造解析を実施しSP ガラスの構造と耐水性改善について考

察したHEXRDおよび AXS法を用いて測定を行い得られたデータを RMCシミュレーシ

ョンにて解析を行った

解析の結果 Sn-O pair については平均配位数 Nが 3 ~ 35でSnO量の増加 = OP の増

62

加に伴い高くなった平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約 22Åであ

ったP-O Sn-Oについては組成による大きな変化はほとんど見られなかった67S5N28P

ガラスの Nb-O pair の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平均配位数約 4Nb-O 平均結合距

離約 20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O(約 105deg)と値が近いことま

た6配位ではなく 4配位として主に存在していることからSnOと同じような働き(網目

形成体)をしていると推測されるまた結合距離が Sn-O が約 22Åに対し Nb-O は約 20

Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強固にしていると言える

SnO 量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体的に各多面体同士の頂点共有が増え

ていることから耐水性の改善には頂点共有を多く含む構造であることが重要である

もしくは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的であることが推測さ

れる以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性耐候性を

改善した要因として考えられる

またAXS 法の有効性についても確認し効果的であることが判明したただし今回

は主成分が Sn の組成のガラスでありHEXRD でも十分に詳細な構造が得られたため

大きな差は現れなかった

参考文献

[1] 山根正之 安井至 和田正道 国分可紀 寺井良平 近藤敬 小川晋永編ガラス光学ハ

ンドブック 朝倉書店(1999)

[2]飯野潔 梅咲則正 NEW GLASS 19 [2] 31-40 (2004)

[3] T E Faber and J M Ziman Philos Mag 11 [109] 153-173 (1965)

[4] 小原真司 鈴谷健太郎 放射光 14 [5] 365-375 (2001)

[5] 早稲田嘉夫 齋藤正敏 放射光 10 [3] 299-315 (1997)

[6] 細川伸也 広島工業大学紀要研究編 46 197-204 (2012)

[7] RLMcGreevy and LPuszai Mol Simulation 1 359(1988)

[8] V V Chernaya A S Mitiaev P S Chizhov E V Dikarev R V Shpanchenko E V Antipov

MV Korolenko and PB Fabritchinyi J Chem Mater 17 284-290 (2005)

[9] M Mathew L W Schroeder and T H Jordan Acta Cryst B33 1812-1816 (1977)

[10] J S Taylar and M P Cohs J Am Ceram Solids 109 [9] 2834-2835 (1987)

[11] D Munoz-Martin A Ruiz de La Cruz J M Fernandez-Navarro C Domingo J Solis and J

Gonzalo J appl Phys 110 023522 (2011)

63

Fig 41 各原子の異常分散項のエネルギー依存性

Fig 42 Sn の異常分散項のエネルギー依存性

64

Fig 43 SPring-8の BL13XU

65

Tab

le 4

1

RM

Cの各パラメーター

66

Fig 44 Sn2P2O7 Sn3P2O8結晶の RDF

Table 42 Sn2P2O7 Sn3P2O8結晶の各 pairの第一近接距離

67

Fig 45 得られた実測 HEXRDの S(Q)

68

Fig 46 Sn の異常散乱測定により得られた散乱強度のエネルギー依存性

(a)67S33P (b)60S40P

69

Fig 47 全相関関数 T(r)

太線 HEXRD より

細線 Sn の AXSより

70

Fig 48 67S5N28P ガラス構造のモデル

71

Fig 49 RMC フィッティングの結果

72

Tab

le 4

3 各

pairの平均配位数角度結合距離

73

Fig

4

10

67

S5

N2

8Pガラスの各多面体モデル

74

Tab

le 4

4 各

pairの結合様式

75

Fig 411 67S5N28P ガラスの構造モデル

76

Table 45 平均 BO 各数 nの比較

Fig 412 50S50P ガラスの構造モデル

77

第 5章 総括

本研究ではSP ガラスを対象とした本研究では鉛フリー代替ガラスまたは希土類フ

リー蛍光体として SP ガラスの新規高機能化を将来的に目指し問題点であるldquo化学的耐久

性rdquoの改善につながる知見を得ることを目的としたそこでまずSP ガラスを母体ガラ

スとし第三成分に Nb2O5を添加した Sn-Nb-P SNP ガラスZnO を添加した SZP ガラスを

作製し耐水性を中心とした物性評価を行った次に分光学的手法で構造解析を行い

Qn 分布を導き出した最後に放射光を用いた構造解析を行い耐水性改善に関する構造的

な考察を行った以下に本研究で行った検討内容を示す

(1)SPガラスおよび第三成分Nb2O5 ZnOを添加した三成分系SPガラスの物性評価(第 2章)

(2)SP 系ガラスの分光学的手法による Qn分布導出(第 3章)

(3)放射光を用いた SP 系ガラスの構造解析構造と耐水性改善の関連について(第 4章)

各章についてまとめた結果を以下に示す

第 2章

第 2章では二成分系および三成分系のリン酸塩系ガラスの各種物性(密度や熱的特性

耐水性)の評価を行った二成分系ではSP ガラスに加え良好な耐水性を有する鉄リン

酸塩(Fe2O3-P2O5)系ガラス(以下 FP ガラス)を比較のために三成分系では二成分系

の SP ガラスに Nb2O5を添加したニオブ含有 SP ガラス(SNP ガラス)および ZnO を添加し

た亜鉛含有 SP ガラス(SZP ガラス)を作製した

今回作製した SP 系ガラスは低ガラス転移温度を有していた各組成の温度域はSP

ガラスTg le 280 Sn-Nb-P SNPガラスTg le 3505SZP S5ZPガラスTg ≦ 450であった

各種 SP ガラスの耐水性試験の結果二成分系の SP ガラスよりも三成分系ガラスの方が

良好な耐水性を有していた65Sn-5Nb-30P 67S5N28P ガラスが最も耐水性が良好であり化

学的耐久性の改善には Nb2O5が ZnOよりも効果的であった

組成と耐水性に関してはDRおよび重量減がOP増加で単調に低下した結果が得られた

つまり耐水性を改善させるにはSP 系ガラスのガラス化範囲を拡大かつ OP を増大させ

る第三成分の添加が有効であることが示唆された

第 3章

第 3章ではSP 系ガラスの分光学的手法による Qn分布の導出を行ったラマン分光法を

用いて各ガラス系のリン酸塩アニオンの構造を簡易定量で評価し組成と構造の関係に

ついて考察した平均 BO 数 n と耐水性に関してはDR および重量減が平均 BO 数 nの減

少で単調に低下することが明らかとなった

平均 BO 数 n と OP の関係より耐水性改善には平均 BO 数 n を下げることそして

OP を上げることが重要であることが明らかになった

78

Nb5+の添加は平均 BO数を減少させるだけでなくOP も上げることからガラス構造

内の P-O-P 結合を減少させ水和反応加水分解反応が抑制され耐水性が大幅に改善さ

れることが示唆された故にNb2O5 のような高価数金属酸化物を添加することが効果的

であることが再度確認された

第 4章

耐水性向上についてより深く評価するためSP SNP ガラスの局所構造に関する知見を得

ることを目的に放射光を用いた構造解析を行った高エネルギーX 線回折(HEXRD)お

よび X 線異常散乱(AXS)法で測定したデータを再現する構造モデルを逆モンテカルロ

(RMC)シミュレーションで構築し構造解析を行った

RMC モデル中の PON多面体に関して平均配位数 Nが 4および P-O の平均結合距離が約

160Å平均結合角度angO-P-Oが約 109degという結果が得られた組成による大きな違いは確

認されなかったSnON多面体については平均配位数 N が 3~4 でSnO 量の増加に伴い 4

に近い値となった平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約 22Åで組成

による大きな変化は見られなかった

Nb2O5を 5 mol添加したガラスではNbON多面体の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平

均配位数N約4Nb-O平均結合距離約20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O

(約 105deg)と値が近いことまた6配位ではなく 4配位として主に存在していることから

SnO と同じような網目形成体として働いていると推測されたまた結合距離が Sn-O が約

22Åに対し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強

固にしていると考えられるまたSnO 量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体

的に各多面体同士の頂点共有が増えていることから耐水性の改善には頂点共有を多く

含む構造もしくは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的であること

が示唆された以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性

耐候性を改善した要因として考えられる

またAXS 法の有効性についても確認し効果的であることが判明したただし今回

は主成分が Snの組成のガラスでありHEXRD でも十分に詳細な Snの周辺構造が得られ

たためAXSを利用した場合との大きな構造の差は認められなかった

本研究では様々な優れた特徴を有する SP ガラスにおける耐水性改善のメカニズムにつ

いて検討を行ったこの系のガラスについてはこれまでほとんど利用されていなかった

放射光を用いた構造解析を駆使し第三成分の添加によってどのような構造的変化が生じ

耐水性を改善させるか新たな知見を得ることができた最終目標である機能性ガラスの

開発における新たなる材料設計指針の確立に対してldquo耐水性rdquoに関しては概ね明らかにな

ったと考えられる一方で今回検討していな電子状態化学結合性についても評価する

ことで溶出メカニズムの解明が可能になり材料設計指針の確立が期待される

79

発表論文リスト

口頭発表

第 2章および第 3章

(1) SnO-P2O5 系ガラスへの酸化物添加効果

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎

日本セラミックス協会第 25 回秋季シンポジウム No3C06 (名古屋市 2012年 9月)

(2) Effect of Nb2O5 addition to SnO-P2O5 glass (Poster)

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

International Union of Materials Research Societies International Conference on Electronic

Materials IUMRS-ICEM 2012 A-9-P26-003 (Yokohama 2012 年 9月)

(3) スズリン酸塩系ガラスの蛍光特性耐水性に及ばす酸化物の添加効果(ポスター)

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎

日本セラミックス協会 2013 年年会 1P070 (東京 2013年 3月)

第 4章

(1) 放射光を用いたスズリン酸塩ガラスの構造解析

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎小原真二臼杵毅

日本セラミックス協会第 27 回秋季シンポジウム 2B22 (鹿児島市 2014年 9 月)

(2) Structural analysis of tin phosphate glasses by synchrotron radiation (Poster)

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba Shinji Kohara Takeshi Usuki

International Congress on Glass ICG Annual Meeting Bangkok 2015 P14-138 p186 (2015)

発表論文

(1) Effect of Nb2O5 addition to SnO- P2O5 glass

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

Journal of the Ceramic Society of Japan Vol 120 No 11 pp530-533 (2012)

(2) Structural analysis of SnO- P2O5 glass

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

Journal of the Ceramic Society of Japan(準備中)

80

謝辞

本研究を遂行するにあたり終始暖かいご指導ご助言並びにご鞭撻を賜わりました岡

山大学大学院環境生命科学研究科 難波徳郎教授に心より感謝の意を表します

また本研究を遂行するにあたり懇切丁寧なご指導とご意見をしていただいた岡山大

学大学院環境生命科学研究科 紅野安彦准教授環境環理センター 崎田真一助教に心より

感謝いたします

本研究を遂行するにあたりラマン分光測定の使用についてご助言ご教授して頂い

た岡山大学自然科学研究科 藤井達生教授中西真助教に心より感謝の意を表します

Sn のメスバウアー測定の際に協力して頂いた岡山大学自然科学研究科先端自然科学教

育研究推進本部高田研究室 松本修治特任助教(当時旭硝子株式会社中央研究所)また

Feのメスバウアーを測定の際に協力して頂いた岡山大学自然科学研究科 藤井達生教授に

心より感謝の意を表します

固体 NMR の岡山大学自然科学研究科 早川聡教授に心より感謝の意を表します

本研究を遂行するにあたりSPring-8 にてHEXRD および AXS 法の測定法および原理

についてご教示頂きました物質材料研究機構 小原真司博士ならびに山形大学 臼杵毅

教授に心より感謝の意を表します

本研究は多くの後輩諸君の協力によって遂行されました特に実際に共同研究共同

実験を遂行して頂いたOG 藤原沙弥香さん博士前期課程 2 年 東利彦君OB 徳岡太誠

君学士課程 4年 塩田将大君に心より感謝の意を表しますまた難波研究室で共に研

究生活を過ごした卒業生在学生の方々に感謝の意を表します

また同時期に博士後期課程に在籍された香川高等専門学校の桟敷剛さんにはNbに

関する有益な情報だけでなく辛い状況でも励ましを頂きました心より感謝の意を表し

ます

最後に長きに渡る学生生活を認め経済面だけでなく精神面でも支援してくださった

家族に心より深く感謝の意を表します

平成 28年 3月

福井 聡史

Page 61: 博士論文 スズリン酸塩系ガラスの物性と構造解析ousar.lib.okayama-u.ac.jp/files/public/5/54353/...博士論文 スズリン酸塩系ガラスの物性と構造解析

58

~ が使用可能である[2]従ってガラス以外の液体のような非晶質物質にも非常に精度

よく構造解析が行われている[4]

また局所構造解析の一つに X線異常散乱法という測定方法がある[5 6]これは通常

の X 線回折実験では分離不可能な特定元素に関連する部分構造因子(散乱強度曲線)を得

ることができる手法である今回 HEXRD の測定時に使用したエネルギー614 keV では各元

素の異常散乱項のエネルギー依存性は確認されない(Fig 41)その一方でFig 42に示す

Sn の吸収端付近の 292 keV付近ではSnの異常分散項のエネルギー依存性が確認できる

つまりSnの吸収端近傍より低エネルギー(E)側の異なるエネルギーの X線(E1 E2)を

使って散乱強度を測定し各 E における異常分散項(f`)の変化(つまり高い E1 から低い

E2 の散乱強度の差分)を利用して Snに関する部分構造因子を求める構造解析が AXS 法で

あるこの測定法は古くから知られている方法ではあるが装置の測定条件や設備の問

題からなどから使用があまり普及していなかった[5 6]近年になり金属ガラスの構造解

析について徐々に報告が出てきており今後注目される測定法である

HEXRD および AXS 法などから得られたデータ実測の構造因子 S(Q)は一次元の限られ

た構造情報であるためガラスなどの非晶質物質の中距離構造を解明するためにはこれ

らのデータを基に三次元構造を求める必要がある三次元構造モデルの作成には逆モンテ

カルロ(RMC)シミュレーションを使用することが有効である[7]このシミュレーション

は任意で決めたシミュレーションボックス内の粒子をランダムに動かすことで実測の

構造因子 S(Q)を再現する三次元構造モデルを構築する方法である

SP ガラスについては分光学的手法について数多く報告があるが放射光を用いた回折

法はほとんど適用されていないそこで本研究では HEXRD および AXS 法を用いた構造

解析を行うことでSn Nb周りの構造を解明すると共にSNP ガラスの耐水性改善のメカ

ニズムについて考察したまたAXS 法の有効性についても検討した測定を行ったガラ

スはSP ガラスおよび最も耐水性の高かった 67S5N28P を選択した

42 実験方法

421 HEXRD AXS法

HEXRDはSPring-8のビームライン BL04B2 で測定を行ったエネルギー614 keV の X

線を用いた測定サンプルの厚みは09 mm (plusmn0005 mm)になるまで研磨を行った

AXS 測定はSPring-8のビームライン BL13XUを使用した(Fig 43)それぞれの測定し

た X 線のエネルギーについて以下に示す

①Sn K吸収端hellip292 keV near edgehellip291452 keV (-60 eV) far edgehellip289751 keV (-230 eV)

②Nb K吸収端hellip1899 keV near edgehellip189562 keV (-30 eV) far edgehellip187863 keV (-230 eV)

測定に使用したサンプルの厚さが015 - 030 mmとなるまで研磨を施した

SP ガラスについて50S50P 60S40P 67S33P の三組成のガラスを測定した70S30P に関

59

しては測定を試みたが放射光照射によって結晶化してしまいガラス部分の正確な構

造因子を得るための強度補正ができず解析を断念した

422 RMCのモデリング

Table 41 に RMC の各種パラメーターを示す粒子数は約 5000 個でそれに伴う boxの一

辺の長さは約 42 ~ 46 Ǻになった拘束条件にP の配位数が 4になるような条件を付け

加えたFig 44にSn2P2O7結晶および Sn3P2O8結晶の動径分布関数(RDF)をTable 32

にRDFから得られた第一近接距離[8 9] を示すこれらの数値を使用しcutoffを決定し

たNb-O についてはいくつかの文献値を参考にした[10 11]

各ガラスの RMCのモデリングは①HEXRDから得られた S(Q)のみ②S(Q)および AXS

から得られた部分構造因子を加えた場合でそれぞれ計算した

43 結果考察

最初にNbの AXSから得られたデータについて解析を試みたが妥当な構造モデルが得

られなかったためSnの AXSのみで解析を進めたNb2O5の量が 5 molと少量であったた

めあまり精度の高いデータが得られなかったと推測される

431 実測の HEXRDおよび AXSの結果

4311 実測 HEXRDの S(Q)

Fig 45 に実測HEXRDの S(Q)を示す四つの組成ともに実測HEXRDの S(Q)が得られ

Nb2O5添加の 67S5N28P ガラスでは Low Q 側に変化が確認された

4312 実測散乱強度曲線

Fig 46 に Snの散乱強度曲線を示す(a) の 67S33P のこの曲線からはfar edgeおよび

near edge のエネルギー間で差分が見られエネルギーの依存性が確認された50S50P

67S5N28P のガラスについても同じように差分が確認されたが(b)の 60S40P についてのみ

他とは若干異なる結果(緑丸)であったためRMC の構造解析には差分の構造因子ではな

くfar edge near edge 二つの構造因子を用いた

4313 全相関関数 T(r)

Fig 47 に全相関関数 T(r) を示すHEXRD から得られたものを実線でSnの AXS から

得られたものは点線で示し組成ごとに重ねて表示した図中に各ピークについて帰属し

ているがSnの T(r)からはSn-O Sn-P Sn-Snのみのピークを確認した

432 RMCの計算結果および考察

60

構造モデルの一例として67S5N28P ガラスの得られた構造モデルをFig 48に示す水

色の多面体 unitSnON 黄色の多面体 unitPO4 ピンクの多面体 unitNbONである以下

詳細な構造解析の結果および考察を記す

4321 RMCのフィッティング結果

RMCのフィッティング結果の一例として67S33P の HEXRD と Snの AXS の構造因子か

ら得た結果を示す(Fig 49)二つの構造因子を加えて計算した結果においてもHEXRD

の S(Q) AXS の S(Q)に各々に対する良好なフィッティング結果が得られた他の組成も

同様なフィッティング結果が得られた

4322得られた各 pairの平均配位数平均角度平均結合距離

RMCの結果によって得られた各 pairの平均配位数平均角度平均結合距離を Tables 43

に示す上段が HEXRD の S(Q)のみ下段が HEXRD に Sn の AXS の部分構造因子を加え

て結果である最下部は比較のためにSn2P2O7の情報を記載した[8]

P-O pairについてRMCモデル中の PON多面体に関して平均配位数 Nが 4および P-O

の平均結合距離が約 160Å平均結合角度angO-P-O が約 109degという結果が得られた組成

による大きな違いは確認されなかったのはP の配位数が 4になるように拘束条件をかけた

結果であると考えられるSnON多面体についてはSnO量の増加 = OP の増加であり平

均配位数 Nが 3 ~ 35へ増加した平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約

22Åで組成による大きな変化はほとんど見られなかったNb2O5を 5 mol添加したガラ

スではNbON多面体の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平均配位数 N約 4Nb-O 平均結

合距離約 20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O(約 105deg)と値が近いこと

また6配位ではなく 4配位として主に存在していることからSnO と同じような働きをし

ていると推測される

以上の結果からNb2O5添加の耐水性改善の要因として結合距離が Sn-O が約 22Åに対

し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強固にして

いることも一つの要因として考えられる

また67S5N28P ガラスの各多面体モデルを確認すると(Fig 410)P は PO4Snは SnO4

と SnO3Nbは NbO4をそれぞれ再現している

4323得られた各 pairの結合様式

RMC の結果により得られた各 pair の結合様式を Tables 44 に示す上段が HEXRD の

S(Q)のみ下段が HEXRDに Snの AXS の部分構造因子を加えた結果である最下部は比

較のためにSn2P2O7の情報を記載した[8]

結合様式に関してはPO4四面体は他の多面体も含めてほぼ頂点共有で存在している

SnON多面体についてはSnO 量が少ない配位数が 3 に近い場合頂点共有以外の共有の

61

割合も多くSnO 量が増えるにつれて頂点共有が主になり網目形成体として振舞ってい

ると考えられる組成によって平均結合距離や平均角度の大きな変化が見られなかったこ

とから平均配位数が結合様式を決める重要なファクターであるということも考えられる

またHEXRD と AXS 法の結果がほぼ同じであったこれは主成分が SnO のガラスであ

るためHEXRDでも十分に詳細な構造が得られたため大きな変化が現れなかったと考え

られるNbON 多面体はPO4 四面体と SnON 多面体とはほぼ頂点共有で繋がっている以

上の結果よりSnO量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体的に各多面体同士の

頂点共有が増えていることから耐水性の改善には頂点共有を多く含む構造であること

が重要である或いは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的となって

いるということが推測されるFig 411に 67S5N28P ガラスの構造モデルを示す各多面

体はほぼ頂点共有で繋がっていることが確認できる

4324 平均 BO数の比較

Tables 45にNMR Raman RMC(HEXRD) RMC(HEXRD + AXS)の平均BO数を示すRMC

から得られた平均 BO 数 nはNMR Raman と同様に Nb2O5の添加による大幅な減少が確認

されたしかしNMR Raman と比較すると全組成において数値が大きすぎで適当でない

50S50P の構造モデルを観るとPO4四面体間で3配位 O の存在が確認された(Fig 412)た

め実測で得られた n値を再現できるようなPO4四面体モデル間の繋がり方に関する拘束条

件を加えて RMCを計算する必要性があるまた仮に3配位 Oの存在があるとすると電

子状態の変化が生じていることがと示唆されるため分子軌道計算を用いて電子状態解析

を行い確認する必要がある

4325 耐水性の改善について

Nb2O5を添加のガラス構造への影響について①6配位ではなく 4配位として主に存在し

ていることからSnO と同じような働きをしていると推測される②結合距離が Sn-O が約

22Åに対し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強

固にしている③ガラス構造中で全体的に各多面体同士の頂点共有が増えている以上の

ことが判明した以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性

耐候性を改善した要因として考えられる

44 結言

本章では分光学的手法では評価できないガラスの中距離構造局所構造について理解

するために放射光を用いた構造解析を実施しSP ガラスの構造と耐水性改善について考

察したHEXRDおよび AXS法を用いて測定を行い得られたデータを RMCシミュレーシ

ョンにて解析を行った

解析の結果 Sn-O pair については平均配位数 Nが 3 ~ 35でSnO量の増加 = OP の増

62

加に伴い高くなった平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約 22Åであ

ったP-O Sn-Oについては組成による大きな変化はほとんど見られなかった67S5N28P

ガラスの Nb-O pair の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平均配位数約 4Nb-O 平均結合距

離約 20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O(約 105deg)と値が近いことま

た6配位ではなく 4配位として主に存在していることからSnOと同じような働き(網目

形成体)をしていると推測されるまた結合距離が Sn-O が約 22Åに対し Nb-O は約 20

Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強固にしていると言える

SnO 量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体的に各多面体同士の頂点共有が増え

ていることから耐水性の改善には頂点共有を多く含む構造であることが重要である

もしくは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的であることが推測さ

れる以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性耐候性を

改善した要因として考えられる

またAXS 法の有効性についても確認し効果的であることが判明したただし今回

は主成分が Sn の組成のガラスでありHEXRD でも十分に詳細な構造が得られたため

大きな差は現れなかった

参考文献

[1] 山根正之 安井至 和田正道 国分可紀 寺井良平 近藤敬 小川晋永編ガラス光学ハ

ンドブック 朝倉書店(1999)

[2]飯野潔 梅咲則正 NEW GLASS 19 [2] 31-40 (2004)

[3] T E Faber and J M Ziman Philos Mag 11 [109] 153-173 (1965)

[4] 小原真司 鈴谷健太郎 放射光 14 [5] 365-375 (2001)

[5] 早稲田嘉夫 齋藤正敏 放射光 10 [3] 299-315 (1997)

[6] 細川伸也 広島工業大学紀要研究編 46 197-204 (2012)

[7] RLMcGreevy and LPuszai Mol Simulation 1 359(1988)

[8] V V Chernaya A S Mitiaev P S Chizhov E V Dikarev R V Shpanchenko E V Antipov

MV Korolenko and PB Fabritchinyi J Chem Mater 17 284-290 (2005)

[9] M Mathew L W Schroeder and T H Jordan Acta Cryst B33 1812-1816 (1977)

[10] J S Taylar and M P Cohs J Am Ceram Solids 109 [9] 2834-2835 (1987)

[11] D Munoz-Martin A Ruiz de La Cruz J M Fernandez-Navarro C Domingo J Solis and J

Gonzalo J appl Phys 110 023522 (2011)

63

Fig 41 各原子の異常分散項のエネルギー依存性

Fig 42 Sn の異常分散項のエネルギー依存性

64

Fig 43 SPring-8の BL13XU

65

Tab

le 4

1

RM

Cの各パラメーター

66

Fig 44 Sn2P2O7 Sn3P2O8結晶の RDF

Table 42 Sn2P2O7 Sn3P2O8結晶の各 pairの第一近接距離

67

Fig 45 得られた実測 HEXRDの S(Q)

68

Fig 46 Sn の異常散乱測定により得られた散乱強度のエネルギー依存性

(a)67S33P (b)60S40P

69

Fig 47 全相関関数 T(r)

太線 HEXRD より

細線 Sn の AXSより

70

Fig 48 67S5N28P ガラス構造のモデル

71

Fig 49 RMC フィッティングの結果

72

Tab

le 4

3 各

pairの平均配位数角度結合距離

73

Fig

4

10

67

S5

N2

8Pガラスの各多面体モデル

74

Tab

le 4

4 各

pairの結合様式

75

Fig 411 67S5N28P ガラスの構造モデル

76

Table 45 平均 BO 各数 nの比較

Fig 412 50S50P ガラスの構造モデル

77

第 5章 総括

本研究ではSP ガラスを対象とした本研究では鉛フリー代替ガラスまたは希土類フ

リー蛍光体として SP ガラスの新規高機能化を将来的に目指し問題点であるldquo化学的耐久

性rdquoの改善につながる知見を得ることを目的としたそこでまずSP ガラスを母体ガラ

スとし第三成分に Nb2O5を添加した Sn-Nb-P SNP ガラスZnO を添加した SZP ガラスを

作製し耐水性を中心とした物性評価を行った次に分光学的手法で構造解析を行い

Qn 分布を導き出した最後に放射光を用いた構造解析を行い耐水性改善に関する構造的

な考察を行った以下に本研究で行った検討内容を示す

(1)SPガラスおよび第三成分Nb2O5 ZnOを添加した三成分系SPガラスの物性評価(第 2章)

(2)SP 系ガラスの分光学的手法による Qn分布導出(第 3章)

(3)放射光を用いた SP 系ガラスの構造解析構造と耐水性改善の関連について(第 4章)

各章についてまとめた結果を以下に示す

第 2章

第 2章では二成分系および三成分系のリン酸塩系ガラスの各種物性(密度や熱的特性

耐水性)の評価を行った二成分系ではSP ガラスに加え良好な耐水性を有する鉄リン

酸塩(Fe2O3-P2O5)系ガラス(以下 FP ガラス)を比較のために三成分系では二成分系

の SP ガラスに Nb2O5を添加したニオブ含有 SP ガラス(SNP ガラス)および ZnO を添加し

た亜鉛含有 SP ガラス(SZP ガラス)を作製した

今回作製した SP 系ガラスは低ガラス転移温度を有していた各組成の温度域はSP

ガラスTg le 280 Sn-Nb-P SNPガラスTg le 3505SZP S5ZPガラスTg ≦ 450であった

各種 SP ガラスの耐水性試験の結果二成分系の SP ガラスよりも三成分系ガラスの方が

良好な耐水性を有していた65Sn-5Nb-30P 67S5N28P ガラスが最も耐水性が良好であり化

学的耐久性の改善には Nb2O5が ZnOよりも効果的であった

組成と耐水性に関してはDRおよび重量減がOP増加で単調に低下した結果が得られた

つまり耐水性を改善させるにはSP 系ガラスのガラス化範囲を拡大かつ OP を増大させ

る第三成分の添加が有効であることが示唆された

第 3章

第 3章ではSP 系ガラスの分光学的手法による Qn分布の導出を行ったラマン分光法を

用いて各ガラス系のリン酸塩アニオンの構造を簡易定量で評価し組成と構造の関係に

ついて考察した平均 BO 数 n と耐水性に関してはDR および重量減が平均 BO 数 nの減

少で単調に低下することが明らかとなった

平均 BO 数 n と OP の関係より耐水性改善には平均 BO 数 n を下げることそして

OP を上げることが重要であることが明らかになった

78

Nb5+の添加は平均 BO数を減少させるだけでなくOP も上げることからガラス構造

内の P-O-P 結合を減少させ水和反応加水分解反応が抑制され耐水性が大幅に改善さ

れることが示唆された故にNb2O5 のような高価数金属酸化物を添加することが効果的

であることが再度確認された

第 4章

耐水性向上についてより深く評価するためSP SNP ガラスの局所構造に関する知見を得

ることを目的に放射光を用いた構造解析を行った高エネルギーX 線回折(HEXRD)お

よび X 線異常散乱(AXS)法で測定したデータを再現する構造モデルを逆モンテカルロ

(RMC)シミュレーションで構築し構造解析を行った

RMC モデル中の PON多面体に関して平均配位数 Nが 4および P-O の平均結合距離が約

160Å平均結合角度angO-P-Oが約 109degという結果が得られた組成による大きな違いは確

認されなかったSnON多面体については平均配位数 N が 3~4 でSnO 量の増加に伴い 4

に近い値となった平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約 22Åで組成

による大きな変化は見られなかった

Nb2O5を 5 mol添加したガラスではNbON多面体の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平

均配位数N約4Nb-O平均結合距離約20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O

(約 105deg)と値が近いことまた6配位ではなく 4配位として主に存在していることから

SnO と同じような網目形成体として働いていると推測されたまた結合距離が Sn-O が約

22Åに対し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強

固にしていると考えられるまたSnO 量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体

的に各多面体同士の頂点共有が増えていることから耐水性の改善には頂点共有を多く

含む構造もしくは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的であること

が示唆された以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性

耐候性を改善した要因として考えられる

またAXS 法の有効性についても確認し効果的であることが判明したただし今回

は主成分が Snの組成のガラスでありHEXRD でも十分に詳細な Snの周辺構造が得られ

たためAXSを利用した場合との大きな構造の差は認められなかった

本研究では様々な優れた特徴を有する SP ガラスにおける耐水性改善のメカニズムにつ

いて検討を行ったこの系のガラスについてはこれまでほとんど利用されていなかった

放射光を用いた構造解析を駆使し第三成分の添加によってどのような構造的変化が生じ

耐水性を改善させるか新たな知見を得ることができた最終目標である機能性ガラスの

開発における新たなる材料設計指針の確立に対してldquo耐水性rdquoに関しては概ね明らかにな

ったと考えられる一方で今回検討していな電子状態化学結合性についても評価する

ことで溶出メカニズムの解明が可能になり材料設計指針の確立が期待される

79

発表論文リスト

口頭発表

第 2章および第 3章

(1) SnO-P2O5 系ガラスへの酸化物添加効果

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎

日本セラミックス協会第 25 回秋季シンポジウム No3C06 (名古屋市 2012年 9月)

(2) Effect of Nb2O5 addition to SnO-P2O5 glass (Poster)

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

International Union of Materials Research Societies International Conference on Electronic

Materials IUMRS-ICEM 2012 A-9-P26-003 (Yokohama 2012 年 9月)

(3) スズリン酸塩系ガラスの蛍光特性耐水性に及ばす酸化物の添加効果(ポスター)

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎

日本セラミックス協会 2013 年年会 1P070 (東京 2013年 3月)

第 4章

(1) 放射光を用いたスズリン酸塩ガラスの構造解析

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎小原真二臼杵毅

日本セラミックス協会第 27 回秋季シンポジウム 2B22 (鹿児島市 2014年 9 月)

(2) Structural analysis of tin phosphate glasses by synchrotron radiation (Poster)

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba Shinji Kohara Takeshi Usuki

International Congress on Glass ICG Annual Meeting Bangkok 2015 P14-138 p186 (2015)

発表論文

(1) Effect of Nb2O5 addition to SnO- P2O5 glass

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

Journal of the Ceramic Society of Japan Vol 120 No 11 pp530-533 (2012)

(2) Structural analysis of SnO- P2O5 glass

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

Journal of the Ceramic Society of Japan(準備中)

80

謝辞

本研究を遂行するにあたり終始暖かいご指導ご助言並びにご鞭撻を賜わりました岡

山大学大学院環境生命科学研究科 難波徳郎教授に心より感謝の意を表します

また本研究を遂行するにあたり懇切丁寧なご指導とご意見をしていただいた岡山大

学大学院環境生命科学研究科 紅野安彦准教授環境環理センター 崎田真一助教に心より

感謝いたします

本研究を遂行するにあたりラマン分光測定の使用についてご助言ご教授して頂い

た岡山大学自然科学研究科 藤井達生教授中西真助教に心より感謝の意を表します

Sn のメスバウアー測定の際に協力して頂いた岡山大学自然科学研究科先端自然科学教

育研究推進本部高田研究室 松本修治特任助教(当時旭硝子株式会社中央研究所)また

Feのメスバウアーを測定の際に協力して頂いた岡山大学自然科学研究科 藤井達生教授に

心より感謝の意を表します

固体 NMR の岡山大学自然科学研究科 早川聡教授に心より感謝の意を表します

本研究を遂行するにあたりSPring-8 にてHEXRD および AXS 法の測定法および原理

についてご教示頂きました物質材料研究機構 小原真司博士ならびに山形大学 臼杵毅

教授に心より感謝の意を表します

本研究は多くの後輩諸君の協力によって遂行されました特に実際に共同研究共同

実験を遂行して頂いたOG 藤原沙弥香さん博士前期課程 2 年 東利彦君OB 徳岡太誠

君学士課程 4年 塩田将大君に心より感謝の意を表しますまた難波研究室で共に研

究生活を過ごした卒業生在学生の方々に感謝の意を表します

また同時期に博士後期課程に在籍された香川高等専門学校の桟敷剛さんにはNbに

関する有益な情報だけでなく辛い状況でも励ましを頂きました心より感謝の意を表し

ます

最後に長きに渡る学生生活を認め経済面だけでなく精神面でも支援してくださった

家族に心より深く感謝の意を表します

平成 28年 3月

福井 聡史

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しては測定を試みたが放射光照射によって結晶化してしまいガラス部分の正確な構

造因子を得るための強度補正ができず解析を断念した

422 RMCのモデリング

Table 41 に RMC の各種パラメーターを示す粒子数は約 5000 個でそれに伴う boxの一

辺の長さは約 42 ~ 46 Ǻになった拘束条件にP の配位数が 4になるような条件を付け

加えたFig 44にSn2P2O7結晶および Sn3P2O8結晶の動径分布関数(RDF)をTable 32

にRDFから得られた第一近接距離[8 9] を示すこれらの数値を使用しcutoffを決定し

たNb-O についてはいくつかの文献値を参考にした[10 11]

各ガラスの RMCのモデリングは①HEXRDから得られた S(Q)のみ②S(Q)および AXS

から得られた部分構造因子を加えた場合でそれぞれ計算した

43 結果考察

最初にNbの AXSから得られたデータについて解析を試みたが妥当な構造モデルが得

られなかったためSnの AXSのみで解析を進めたNb2O5の量が 5 molと少量であったた

めあまり精度の高いデータが得られなかったと推測される

431 実測の HEXRDおよび AXSの結果

4311 実測 HEXRDの S(Q)

Fig 45 に実測HEXRDの S(Q)を示す四つの組成ともに実測HEXRDの S(Q)が得られ

Nb2O5添加の 67S5N28P ガラスでは Low Q 側に変化が確認された

4312 実測散乱強度曲線

Fig 46 に Snの散乱強度曲線を示す(a) の 67S33P のこの曲線からはfar edgeおよび

near edge のエネルギー間で差分が見られエネルギーの依存性が確認された50S50P

67S5N28P のガラスについても同じように差分が確認されたが(b)の 60S40P についてのみ

他とは若干異なる結果(緑丸)であったためRMC の構造解析には差分の構造因子ではな

くfar edge near edge 二つの構造因子を用いた

4313 全相関関数 T(r)

Fig 47 に全相関関数 T(r) を示すHEXRD から得られたものを実線でSnの AXS から

得られたものは点線で示し組成ごとに重ねて表示した図中に各ピークについて帰属し

ているがSnの T(r)からはSn-O Sn-P Sn-Snのみのピークを確認した

432 RMCの計算結果および考察

60

構造モデルの一例として67S5N28P ガラスの得られた構造モデルをFig 48に示す水

色の多面体 unitSnON 黄色の多面体 unitPO4 ピンクの多面体 unitNbONである以下

詳細な構造解析の結果および考察を記す

4321 RMCのフィッティング結果

RMCのフィッティング結果の一例として67S33P の HEXRD と Snの AXS の構造因子か

ら得た結果を示す(Fig 49)二つの構造因子を加えて計算した結果においてもHEXRD

の S(Q) AXS の S(Q)に各々に対する良好なフィッティング結果が得られた他の組成も

同様なフィッティング結果が得られた

4322得られた各 pairの平均配位数平均角度平均結合距離

RMCの結果によって得られた各 pairの平均配位数平均角度平均結合距離を Tables 43

に示す上段が HEXRD の S(Q)のみ下段が HEXRD に Sn の AXS の部分構造因子を加え

て結果である最下部は比較のためにSn2P2O7の情報を記載した[8]

P-O pairについてRMCモデル中の PON多面体に関して平均配位数 Nが 4および P-O

の平均結合距離が約 160Å平均結合角度angO-P-O が約 109degという結果が得られた組成

による大きな違いは確認されなかったのはP の配位数が 4になるように拘束条件をかけた

結果であると考えられるSnON多面体についてはSnO量の増加 = OP の増加であり平

均配位数 Nが 3 ~ 35へ増加した平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約

22Åで組成による大きな変化はほとんど見られなかったNb2O5を 5 mol添加したガラ

スではNbON多面体の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平均配位数 N約 4Nb-O 平均結

合距離約 20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O(約 105deg)と値が近いこと

また6配位ではなく 4配位として主に存在していることからSnO と同じような働きをし

ていると推測される

以上の結果からNb2O5添加の耐水性改善の要因として結合距離が Sn-O が約 22Åに対

し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強固にして

いることも一つの要因として考えられる

また67S5N28P ガラスの各多面体モデルを確認すると(Fig 410)P は PO4Snは SnO4

と SnO3Nbは NbO4をそれぞれ再現している

4323得られた各 pairの結合様式

RMC の結果により得られた各 pair の結合様式を Tables 44 に示す上段が HEXRD の

S(Q)のみ下段が HEXRDに Snの AXS の部分構造因子を加えた結果である最下部は比

較のためにSn2P2O7の情報を記載した[8]

結合様式に関してはPO4四面体は他の多面体も含めてほぼ頂点共有で存在している

SnON多面体についてはSnO 量が少ない配位数が 3 に近い場合頂点共有以外の共有の

61

割合も多くSnO 量が増えるにつれて頂点共有が主になり網目形成体として振舞ってい

ると考えられる組成によって平均結合距離や平均角度の大きな変化が見られなかったこ

とから平均配位数が結合様式を決める重要なファクターであるということも考えられる

またHEXRD と AXS 法の結果がほぼ同じであったこれは主成分が SnO のガラスであ

るためHEXRDでも十分に詳細な構造が得られたため大きな変化が現れなかったと考え

られるNbON 多面体はPO4 四面体と SnON 多面体とはほぼ頂点共有で繋がっている以

上の結果よりSnO量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体的に各多面体同士の

頂点共有が増えていることから耐水性の改善には頂点共有を多く含む構造であること

が重要である或いは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的となって

いるということが推測されるFig 411に 67S5N28P ガラスの構造モデルを示す各多面

体はほぼ頂点共有で繋がっていることが確認できる

4324 平均 BO数の比較

Tables 45にNMR Raman RMC(HEXRD) RMC(HEXRD + AXS)の平均BO数を示すRMC

から得られた平均 BO 数 nはNMR Raman と同様に Nb2O5の添加による大幅な減少が確認

されたしかしNMR Raman と比較すると全組成において数値が大きすぎで適当でない

50S50P の構造モデルを観るとPO4四面体間で3配位 O の存在が確認された(Fig 412)た

め実測で得られた n値を再現できるようなPO4四面体モデル間の繋がり方に関する拘束条

件を加えて RMCを計算する必要性があるまた仮に3配位 Oの存在があるとすると電

子状態の変化が生じていることがと示唆されるため分子軌道計算を用いて電子状態解析

を行い確認する必要がある

4325 耐水性の改善について

Nb2O5を添加のガラス構造への影響について①6配位ではなく 4配位として主に存在し

ていることからSnO と同じような働きをしていると推測される②結合距離が Sn-O が約

22Åに対し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強

固にしている③ガラス構造中で全体的に各多面体同士の頂点共有が増えている以上の

ことが判明した以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性

耐候性を改善した要因として考えられる

44 結言

本章では分光学的手法では評価できないガラスの中距離構造局所構造について理解

するために放射光を用いた構造解析を実施しSP ガラスの構造と耐水性改善について考

察したHEXRDおよび AXS法を用いて測定を行い得られたデータを RMCシミュレーシ

ョンにて解析を行った

解析の結果 Sn-O pair については平均配位数 Nが 3 ~ 35でSnO量の増加 = OP の増

62

加に伴い高くなった平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約 22Åであ

ったP-O Sn-Oについては組成による大きな変化はほとんど見られなかった67S5N28P

ガラスの Nb-O pair の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平均配位数約 4Nb-O 平均結合距

離約 20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O(約 105deg)と値が近いことま

た6配位ではなく 4配位として主に存在していることからSnOと同じような働き(網目

形成体)をしていると推測されるまた結合距離が Sn-O が約 22Åに対し Nb-O は約 20

Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強固にしていると言える

SnO 量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体的に各多面体同士の頂点共有が増え

ていることから耐水性の改善には頂点共有を多く含む構造であることが重要である

もしくは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的であることが推測さ

れる以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性耐候性を

改善した要因として考えられる

またAXS 法の有効性についても確認し効果的であることが判明したただし今回

は主成分が Sn の組成のガラスでありHEXRD でも十分に詳細な構造が得られたため

大きな差は現れなかった

参考文献

[1] 山根正之 安井至 和田正道 国分可紀 寺井良平 近藤敬 小川晋永編ガラス光学ハ

ンドブック 朝倉書店(1999)

[2]飯野潔 梅咲則正 NEW GLASS 19 [2] 31-40 (2004)

[3] T E Faber and J M Ziman Philos Mag 11 [109] 153-173 (1965)

[4] 小原真司 鈴谷健太郎 放射光 14 [5] 365-375 (2001)

[5] 早稲田嘉夫 齋藤正敏 放射光 10 [3] 299-315 (1997)

[6] 細川伸也 広島工業大学紀要研究編 46 197-204 (2012)

[7] RLMcGreevy and LPuszai Mol Simulation 1 359(1988)

[8] V V Chernaya A S Mitiaev P S Chizhov E V Dikarev R V Shpanchenko E V Antipov

MV Korolenko and PB Fabritchinyi J Chem Mater 17 284-290 (2005)

[9] M Mathew L W Schroeder and T H Jordan Acta Cryst B33 1812-1816 (1977)

[10] J S Taylar and M P Cohs J Am Ceram Solids 109 [9] 2834-2835 (1987)

[11] D Munoz-Martin A Ruiz de La Cruz J M Fernandez-Navarro C Domingo J Solis and J

Gonzalo J appl Phys 110 023522 (2011)

63

Fig 41 各原子の異常分散項のエネルギー依存性

Fig 42 Sn の異常分散項のエネルギー依存性

64

Fig 43 SPring-8の BL13XU

65

Tab

le 4

1

RM

Cの各パラメーター

66

Fig 44 Sn2P2O7 Sn3P2O8結晶の RDF

Table 42 Sn2P2O7 Sn3P2O8結晶の各 pairの第一近接距離

67

Fig 45 得られた実測 HEXRDの S(Q)

68

Fig 46 Sn の異常散乱測定により得られた散乱強度のエネルギー依存性

(a)67S33P (b)60S40P

69

Fig 47 全相関関数 T(r)

太線 HEXRD より

細線 Sn の AXSより

70

Fig 48 67S5N28P ガラス構造のモデル

71

Fig 49 RMC フィッティングの結果

72

Tab

le 4

3 各

pairの平均配位数角度結合距離

73

Fig

4

10

67

S5

N2

8Pガラスの各多面体モデル

74

Tab

le 4

4 各

pairの結合様式

75

Fig 411 67S5N28P ガラスの構造モデル

76

Table 45 平均 BO 各数 nの比較

Fig 412 50S50P ガラスの構造モデル

77

第 5章 総括

本研究ではSP ガラスを対象とした本研究では鉛フリー代替ガラスまたは希土類フ

リー蛍光体として SP ガラスの新規高機能化を将来的に目指し問題点であるldquo化学的耐久

性rdquoの改善につながる知見を得ることを目的としたそこでまずSP ガラスを母体ガラ

スとし第三成分に Nb2O5を添加した Sn-Nb-P SNP ガラスZnO を添加した SZP ガラスを

作製し耐水性を中心とした物性評価を行った次に分光学的手法で構造解析を行い

Qn 分布を導き出した最後に放射光を用いた構造解析を行い耐水性改善に関する構造的

な考察を行った以下に本研究で行った検討内容を示す

(1)SPガラスおよび第三成分Nb2O5 ZnOを添加した三成分系SPガラスの物性評価(第 2章)

(2)SP 系ガラスの分光学的手法による Qn分布導出(第 3章)

(3)放射光を用いた SP 系ガラスの構造解析構造と耐水性改善の関連について(第 4章)

各章についてまとめた結果を以下に示す

第 2章

第 2章では二成分系および三成分系のリン酸塩系ガラスの各種物性(密度や熱的特性

耐水性)の評価を行った二成分系ではSP ガラスに加え良好な耐水性を有する鉄リン

酸塩(Fe2O3-P2O5)系ガラス(以下 FP ガラス)を比較のために三成分系では二成分系

の SP ガラスに Nb2O5を添加したニオブ含有 SP ガラス(SNP ガラス)および ZnO を添加し

た亜鉛含有 SP ガラス(SZP ガラス)を作製した

今回作製した SP 系ガラスは低ガラス転移温度を有していた各組成の温度域はSP

ガラスTg le 280 Sn-Nb-P SNPガラスTg le 3505SZP S5ZPガラスTg ≦ 450であった

各種 SP ガラスの耐水性試験の結果二成分系の SP ガラスよりも三成分系ガラスの方が

良好な耐水性を有していた65Sn-5Nb-30P 67S5N28P ガラスが最も耐水性が良好であり化

学的耐久性の改善には Nb2O5が ZnOよりも効果的であった

組成と耐水性に関してはDRおよび重量減がOP増加で単調に低下した結果が得られた

つまり耐水性を改善させるにはSP 系ガラスのガラス化範囲を拡大かつ OP を増大させ

る第三成分の添加が有効であることが示唆された

第 3章

第 3章ではSP 系ガラスの分光学的手法による Qn分布の導出を行ったラマン分光法を

用いて各ガラス系のリン酸塩アニオンの構造を簡易定量で評価し組成と構造の関係に

ついて考察した平均 BO 数 n と耐水性に関してはDR および重量減が平均 BO 数 nの減

少で単調に低下することが明らかとなった

平均 BO 数 n と OP の関係より耐水性改善には平均 BO 数 n を下げることそして

OP を上げることが重要であることが明らかになった

78

Nb5+の添加は平均 BO数を減少させるだけでなくOP も上げることからガラス構造

内の P-O-P 結合を減少させ水和反応加水分解反応が抑制され耐水性が大幅に改善さ

れることが示唆された故にNb2O5 のような高価数金属酸化物を添加することが効果的

であることが再度確認された

第 4章

耐水性向上についてより深く評価するためSP SNP ガラスの局所構造に関する知見を得

ることを目的に放射光を用いた構造解析を行った高エネルギーX 線回折(HEXRD)お

よび X 線異常散乱(AXS)法で測定したデータを再現する構造モデルを逆モンテカルロ

(RMC)シミュレーションで構築し構造解析を行った

RMC モデル中の PON多面体に関して平均配位数 Nが 4および P-O の平均結合距離が約

160Å平均結合角度angO-P-Oが約 109degという結果が得られた組成による大きな違いは確

認されなかったSnON多面体については平均配位数 N が 3~4 でSnO 量の増加に伴い 4

に近い値となった平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約 22Åで組成

による大きな変化は見られなかった

Nb2O5を 5 mol添加したガラスではNbON多面体の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平

均配位数N約4Nb-O平均結合距離約20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O

(約 105deg)と値が近いことまた6配位ではなく 4配位として主に存在していることから

SnO と同じような網目形成体として働いていると推測されたまた結合距離が Sn-O が約

22Åに対し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強

固にしていると考えられるまたSnO 量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体

的に各多面体同士の頂点共有が増えていることから耐水性の改善には頂点共有を多く

含む構造もしくは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的であること

が示唆された以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性

耐候性を改善した要因として考えられる

またAXS 法の有効性についても確認し効果的であることが判明したただし今回

は主成分が Snの組成のガラスでありHEXRD でも十分に詳細な Snの周辺構造が得られ

たためAXSを利用した場合との大きな構造の差は認められなかった

本研究では様々な優れた特徴を有する SP ガラスにおける耐水性改善のメカニズムにつ

いて検討を行ったこの系のガラスについてはこれまでほとんど利用されていなかった

放射光を用いた構造解析を駆使し第三成分の添加によってどのような構造的変化が生じ

耐水性を改善させるか新たな知見を得ることができた最終目標である機能性ガラスの

開発における新たなる材料設計指針の確立に対してldquo耐水性rdquoに関しては概ね明らかにな

ったと考えられる一方で今回検討していな電子状態化学結合性についても評価する

ことで溶出メカニズムの解明が可能になり材料設計指針の確立が期待される

79

発表論文リスト

口頭発表

第 2章および第 3章

(1) SnO-P2O5 系ガラスへの酸化物添加効果

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎

日本セラミックス協会第 25 回秋季シンポジウム No3C06 (名古屋市 2012年 9月)

(2) Effect of Nb2O5 addition to SnO-P2O5 glass (Poster)

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

International Union of Materials Research Societies International Conference on Electronic

Materials IUMRS-ICEM 2012 A-9-P26-003 (Yokohama 2012 年 9月)

(3) スズリン酸塩系ガラスの蛍光特性耐水性に及ばす酸化物の添加効果(ポスター)

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎

日本セラミックス協会 2013 年年会 1P070 (東京 2013年 3月)

第 4章

(1) 放射光を用いたスズリン酸塩ガラスの構造解析

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎小原真二臼杵毅

日本セラミックス協会第 27 回秋季シンポジウム 2B22 (鹿児島市 2014年 9 月)

(2) Structural analysis of tin phosphate glasses by synchrotron radiation (Poster)

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba Shinji Kohara Takeshi Usuki

International Congress on Glass ICG Annual Meeting Bangkok 2015 P14-138 p186 (2015)

発表論文

(1) Effect of Nb2O5 addition to SnO- P2O5 glass

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

Journal of the Ceramic Society of Japan Vol 120 No 11 pp530-533 (2012)

(2) Structural analysis of SnO- P2O5 glass

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

Journal of the Ceramic Society of Japan(準備中)

80

謝辞

本研究を遂行するにあたり終始暖かいご指導ご助言並びにご鞭撻を賜わりました岡

山大学大学院環境生命科学研究科 難波徳郎教授に心より感謝の意を表します

また本研究を遂行するにあたり懇切丁寧なご指導とご意見をしていただいた岡山大

学大学院環境生命科学研究科 紅野安彦准教授環境環理センター 崎田真一助教に心より

感謝いたします

本研究を遂行するにあたりラマン分光測定の使用についてご助言ご教授して頂い

た岡山大学自然科学研究科 藤井達生教授中西真助教に心より感謝の意を表します

Sn のメスバウアー測定の際に協力して頂いた岡山大学自然科学研究科先端自然科学教

育研究推進本部高田研究室 松本修治特任助教(当時旭硝子株式会社中央研究所)また

Feのメスバウアーを測定の際に協力して頂いた岡山大学自然科学研究科 藤井達生教授に

心より感謝の意を表します

固体 NMR の岡山大学自然科学研究科 早川聡教授に心より感謝の意を表します

本研究を遂行するにあたりSPring-8 にてHEXRD および AXS 法の測定法および原理

についてご教示頂きました物質材料研究機構 小原真司博士ならびに山形大学 臼杵毅

教授に心より感謝の意を表します

本研究は多くの後輩諸君の協力によって遂行されました特に実際に共同研究共同

実験を遂行して頂いたOG 藤原沙弥香さん博士前期課程 2 年 東利彦君OB 徳岡太誠

君学士課程 4年 塩田将大君に心より感謝の意を表しますまた難波研究室で共に研

究生活を過ごした卒業生在学生の方々に感謝の意を表します

また同時期に博士後期課程に在籍された香川高等専門学校の桟敷剛さんにはNbに

関する有益な情報だけでなく辛い状況でも励ましを頂きました心より感謝の意を表し

ます

最後に長きに渡る学生生活を認め経済面だけでなく精神面でも支援してくださった

家族に心より深く感謝の意を表します

平成 28年 3月

福井 聡史

Page 63: 博士論文 スズリン酸塩系ガラスの物性と構造解析ousar.lib.okayama-u.ac.jp/files/public/5/54353/...博士論文 スズリン酸塩系ガラスの物性と構造解析

60

構造モデルの一例として67S5N28P ガラスの得られた構造モデルをFig 48に示す水

色の多面体 unitSnON 黄色の多面体 unitPO4 ピンクの多面体 unitNbONである以下

詳細な構造解析の結果および考察を記す

4321 RMCのフィッティング結果

RMCのフィッティング結果の一例として67S33P の HEXRD と Snの AXS の構造因子か

ら得た結果を示す(Fig 49)二つの構造因子を加えて計算した結果においてもHEXRD

の S(Q) AXS の S(Q)に各々に対する良好なフィッティング結果が得られた他の組成も

同様なフィッティング結果が得られた

4322得られた各 pairの平均配位数平均角度平均結合距離

RMCの結果によって得られた各 pairの平均配位数平均角度平均結合距離を Tables 43

に示す上段が HEXRD の S(Q)のみ下段が HEXRD に Sn の AXS の部分構造因子を加え

て結果である最下部は比較のためにSn2P2O7の情報を記載した[8]

P-O pairについてRMCモデル中の PON多面体に関して平均配位数 Nが 4および P-O

の平均結合距離が約 160Å平均結合角度angO-P-O が約 109degという結果が得られた組成

による大きな違いは確認されなかったのはP の配位数が 4になるように拘束条件をかけた

結果であると考えられるSnON多面体についてはSnO量の増加 = OP の増加であり平

均配位数 Nが 3 ~ 35へ増加した平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約

22Åで組成による大きな変化はほとんど見られなかったNb2O5を 5 mol添加したガラ

スではNbON多面体の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平均配位数 N約 4Nb-O 平均結

合距離約 20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O(約 105deg)と値が近いこと

また6配位ではなく 4配位として主に存在していることからSnO と同じような働きをし

ていると推測される

以上の結果からNb2O5添加の耐水性改善の要因として結合距離が Sn-O が約 22Åに対

し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強固にして

いることも一つの要因として考えられる

また67S5N28P ガラスの各多面体モデルを確認すると(Fig 410)P は PO4Snは SnO4

と SnO3Nbは NbO4をそれぞれ再現している

4323得られた各 pairの結合様式

RMC の結果により得られた各 pair の結合様式を Tables 44 に示す上段が HEXRD の

S(Q)のみ下段が HEXRDに Snの AXS の部分構造因子を加えた結果である最下部は比

較のためにSn2P2O7の情報を記載した[8]

結合様式に関してはPO4四面体は他の多面体も含めてほぼ頂点共有で存在している

SnON多面体についてはSnO 量が少ない配位数が 3 に近い場合頂点共有以外の共有の

61

割合も多くSnO 量が増えるにつれて頂点共有が主になり網目形成体として振舞ってい

ると考えられる組成によって平均結合距離や平均角度の大きな変化が見られなかったこ

とから平均配位数が結合様式を決める重要なファクターであるということも考えられる

またHEXRD と AXS 法の結果がほぼ同じであったこれは主成分が SnO のガラスであ

るためHEXRDでも十分に詳細な構造が得られたため大きな変化が現れなかったと考え

られるNbON 多面体はPO4 四面体と SnON 多面体とはほぼ頂点共有で繋がっている以

上の結果よりSnO量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体的に各多面体同士の

頂点共有が増えていることから耐水性の改善には頂点共有を多く含む構造であること

が重要である或いは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的となって

いるということが推測されるFig 411に 67S5N28P ガラスの構造モデルを示す各多面

体はほぼ頂点共有で繋がっていることが確認できる

4324 平均 BO数の比較

Tables 45にNMR Raman RMC(HEXRD) RMC(HEXRD + AXS)の平均BO数を示すRMC

から得られた平均 BO 数 nはNMR Raman と同様に Nb2O5の添加による大幅な減少が確認

されたしかしNMR Raman と比較すると全組成において数値が大きすぎで適当でない

50S50P の構造モデルを観るとPO4四面体間で3配位 O の存在が確認された(Fig 412)た

め実測で得られた n値を再現できるようなPO4四面体モデル間の繋がり方に関する拘束条

件を加えて RMCを計算する必要性があるまた仮に3配位 Oの存在があるとすると電

子状態の変化が生じていることがと示唆されるため分子軌道計算を用いて電子状態解析

を行い確認する必要がある

4325 耐水性の改善について

Nb2O5を添加のガラス構造への影響について①6配位ではなく 4配位として主に存在し

ていることからSnO と同じような働きをしていると推測される②結合距離が Sn-O が約

22Åに対し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強

固にしている③ガラス構造中で全体的に各多面体同士の頂点共有が増えている以上の

ことが判明した以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性

耐候性を改善した要因として考えられる

44 結言

本章では分光学的手法では評価できないガラスの中距離構造局所構造について理解

するために放射光を用いた構造解析を実施しSP ガラスの構造と耐水性改善について考

察したHEXRDおよび AXS法を用いて測定を行い得られたデータを RMCシミュレーシ

ョンにて解析を行った

解析の結果 Sn-O pair については平均配位数 Nが 3 ~ 35でSnO量の増加 = OP の増

62

加に伴い高くなった平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約 22Åであ

ったP-O Sn-Oについては組成による大きな変化はほとんど見られなかった67S5N28P

ガラスの Nb-O pair の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平均配位数約 4Nb-O 平均結合距

離約 20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O(約 105deg)と値が近いことま

た6配位ではなく 4配位として主に存在していることからSnOと同じような働き(網目

形成体)をしていると推測されるまた結合距離が Sn-O が約 22Åに対し Nb-O は約 20

Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強固にしていると言える

SnO 量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体的に各多面体同士の頂点共有が増え

ていることから耐水性の改善には頂点共有を多く含む構造であることが重要である

もしくは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的であることが推測さ

れる以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性耐候性を

改善した要因として考えられる

またAXS 法の有効性についても確認し効果的であることが判明したただし今回

は主成分が Sn の組成のガラスでありHEXRD でも十分に詳細な構造が得られたため

大きな差は現れなかった

参考文献

[1] 山根正之 安井至 和田正道 国分可紀 寺井良平 近藤敬 小川晋永編ガラス光学ハ

ンドブック 朝倉書店(1999)

[2]飯野潔 梅咲則正 NEW GLASS 19 [2] 31-40 (2004)

[3] T E Faber and J M Ziman Philos Mag 11 [109] 153-173 (1965)

[4] 小原真司 鈴谷健太郎 放射光 14 [5] 365-375 (2001)

[5] 早稲田嘉夫 齋藤正敏 放射光 10 [3] 299-315 (1997)

[6] 細川伸也 広島工業大学紀要研究編 46 197-204 (2012)

[7] RLMcGreevy and LPuszai Mol Simulation 1 359(1988)

[8] V V Chernaya A S Mitiaev P S Chizhov E V Dikarev R V Shpanchenko E V Antipov

MV Korolenko and PB Fabritchinyi J Chem Mater 17 284-290 (2005)

[9] M Mathew L W Schroeder and T H Jordan Acta Cryst B33 1812-1816 (1977)

[10] J S Taylar and M P Cohs J Am Ceram Solids 109 [9] 2834-2835 (1987)

[11] D Munoz-Martin A Ruiz de La Cruz J M Fernandez-Navarro C Domingo J Solis and J

Gonzalo J appl Phys 110 023522 (2011)

63

Fig 41 各原子の異常分散項のエネルギー依存性

Fig 42 Sn の異常分散項のエネルギー依存性

64

Fig 43 SPring-8の BL13XU

65

Tab

le 4

1

RM

Cの各パラメーター

66

Fig 44 Sn2P2O7 Sn3P2O8結晶の RDF

Table 42 Sn2P2O7 Sn3P2O8結晶の各 pairの第一近接距離

67

Fig 45 得られた実測 HEXRDの S(Q)

68

Fig 46 Sn の異常散乱測定により得られた散乱強度のエネルギー依存性

(a)67S33P (b)60S40P

69

Fig 47 全相関関数 T(r)

太線 HEXRD より

細線 Sn の AXSより

70

Fig 48 67S5N28P ガラス構造のモデル

71

Fig 49 RMC フィッティングの結果

72

Tab

le 4

3 各

pairの平均配位数角度結合距離

73

Fig

4

10

67

S5

N2

8Pガラスの各多面体モデル

74

Tab

le 4

4 各

pairの結合様式

75

Fig 411 67S5N28P ガラスの構造モデル

76

Table 45 平均 BO 各数 nの比較

Fig 412 50S50P ガラスの構造モデル

77

第 5章 総括

本研究ではSP ガラスを対象とした本研究では鉛フリー代替ガラスまたは希土類フ

リー蛍光体として SP ガラスの新規高機能化を将来的に目指し問題点であるldquo化学的耐久

性rdquoの改善につながる知見を得ることを目的としたそこでまずSP ガラスを母体ガラ

スとし第三成分に Nb2O5を添加した Sn-Nb-P SNP ガラスZnO を添加した SZP ガラスを

作製し耐水性を中心とした物性評価を行った次に分光学的手法で構造解析を行い

Qn 分布を導き出した最後に放射光を用いた構造解析を行い耐水性改善に関する構造的

な考察を行った以下に本研究で行った検討内容を示す

(1)SPガラスおよび第三成分Nb2O5 ZnOを添加した三成分系SPガラスの物性評価(第 2章)

(2)SP 系ガラスの分光学的手法による Qn分布導出(第 3章)

(3)放射光を用いた SP 系ガラスの構造解析構造と耐水性改善の関連について(第 4章)

各章についてまとめた結果を以下に示す

第 2章

第 2章では二成分系および三成分系のリン酸塩系ガラスの各種物性(密度や熱的特性

耐水性)の評価を行った二成分系ではSP ガラスに加え良好な耐水性を有する鉄リン

酸塩(Fe2O3-P2O5)系ガラス(以下 FP ガラス)を比較のために三成分系では二成分系

の SP ガラスに Nb2O5を添加したニオブ含有 SP ガラス(SNP ガラス)および ZnO を添加し

た亜鉛含有 SP ガラス(SZP ガラス)を作製した

今回作製した SP 系ガラスは低ガラス転移温度を有していた各組成の温度域はSP

ガラスTg le 280 Sn-Nb-P SNPガラスTg le 3505SZP S5ZPガラスTg ≦ 450であった

各種 SP ガラスの耐水性試験の結果二成分系の SP ガラスよりも三成分系ガラスの方が

良好な耐水性を有していた65Sn-5Nb-30P 67S5N28P ガラスが最も耐水性が良好であり化

学的耐久性の改善には Nb2O5が ZnOよりも効果的であった

組成と耐水性に関してはDRおよび重量減がOP増加で単調に低下した結果が得られた

つまり耐水性を改善させるにはSP 系ガラスのガラス化範囲を拡大かつ OP を増大させ

る第三成分の添加が有効であることが示唆された

第 3章

第 3章ではSP 系ガラスの分光学的手法による Qn分布の導出を行ったラマン分光法を

用いて各ガラス系のリン酸塩アニオンの構造を簡易定量で評価し組成と構造の関係に

ついて考察した平均 BO 数 n と耐水性に関してはDR および重量減が平均 BO 数 nの減

少で単調に低下することが明らかとなった

平均 BO 数 n と OP の関係より耐水性改善には平均 BO 数 n を下げることそして

OP を上げることが重要であることが明らかになった

78

Nb5+の添加は平均 BO数を減少させるだけでなくOP も上げることからガラス構造

内の P-O-P 結合を減少させ水和反応加水分解反応が抑制され耐水性が大幅に改善さ

れることが示唆された故にNb2O5 のような高価数金属酸化物を添加することが効果的

であることが再度確認された

第 4章

耐水性向上についてより深く評価するためSP SNP ガラスの局所構造に関する知見を得

ることを目的に放射光を用いた構造解析を行った高エネルギーX 線回折(HEXRD)お

よび X 線異常散乱(AXS)法で測定したデータを再現する構造モデルを逆モンテカルロ

(RMC)シミュレーションで構築し構造解析を行った

RMC モデル中の PON多面体に関して平均配位数 Nが 4および P-O の平均結合距離が約

160Å平均結合角度angO-P-Oが約 109degという結果が得られた組成による大きな違いは確

認されなかったSnON多面体については平均配位数 N が 3~4 でSnO 量の増加に伴い 4

に近い値となった平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約 22Åで組成

による大きな変化は見られなかった

Nb2O5を 5 mol添加したガラスではNbON多面体の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平

均配位数N約4Nb-O平均結合距離約20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O

(約 105deg)と値が近いことまた6配位ではなく 4配位として主に存在していることから

SnO と同じような網目形成体として働いていると推測されたまた結合距離が Sn-O が約

22Åに対し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強

固にしていると考えられるまたSnO 量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体

的に各多面体同士の頂点共有が増えていることから耐水性の改善には頂点共有を多く

含む構造もしくは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的であること

が示唆された以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性

耐候性を改善した要因として考えられる

またAXS 法の有効性についても確認し効果的であることが判明したただし今回

は主成分が Snの組成のガラスでありHEXRD でも十分に詳細な Snの周辺構造が得られ

たためAXSを利用した場合との大きな構造の差は認められなかった

本研究では様々な優れた特徴を有する SP ガラスにおける耐水性改善のメカニズムにつ

いて検討を行ったこの系のガラスについてはこれまでほとんど利用されていなかった

放射光を用いた構造解析を駆使し第三成分の添加によってどのような構造的変化が生じ

耐水性を改善させるか新たな知見を得ることができた最終目標である機能性ガラスの

開発における新たなる材料設計指針の確立に対してldquo耐水性rdquoに関しては概ね明らかにな

ったと考えられる一方で今回検討していな電子状態化学結合性についても評価する

ことで溶出メカニズムの解明が可能になり材料設計指針の確立が期待される

79

発表論文リスト

口頭発表

第 2章および第 3章

(1) SnO-P2O5 系ガラスへの酸化物添加効果

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎

日本セラミックス協会第 25 回秋季シンポジウム No3C06 (名古屋市 2012年 9月)

(2) Effect of Nb2O5 addition to SnO-P2O5 glass (Poster)

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

International Union of Materials Research Societies International Conference on Electronic

Materials IUMRS-ICEM 2012 A-9-P26-003 (Yokohama 2012 年 9月)

(3) スズリン酸塩系ガラスの蛍光特性耐水性に及ばす酸化物の添加効果(ポスター)

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎

日本セラミックス協会 2013 年年会 1P070 (東京 2013年 3月)

第 4章

(1) 放射光を用いたスズリン酸塩ガラスの構造解析

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎小原真二臼杵毅

日本セラミックス協会第 27 回秋季シンポジウム 2B22 (鹿児島市 2014年 9 月)

(2) Structural analysis of tin phosphate glasses by synchrotron radiation (Poster)

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba Shinji Kohara Takeshi Usuki

International Congress on Glass ICG Annual Meeting Bangkok 2015 P14-138 p186 (2015)

発表論文

(1) Effect of Nb2O5 addition to SnO- P2O5 glass

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

Journal of the Ceramic Society of Japan Vol 120 No 11 pp530-533 (2012)

(2) Structural analysis of SnO- P2O5 glass

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

Journal of the Ceramic Society of Japan(準備中)

80

謝辞

本研究を遂行するにあたり終始暖かいご指導ご助言並びにご鞭撻を賜わりました岡

山大学大学院環境生命科学研究科 難波徳郎教授に心より感謝の意を表します

また本研究を遂行するにあたり懇切丁寧なご指導とご意見をしていただいた岡山大

学大学院環境生命科学研究科 紅野安彦准教授環境環理センター 崎田真一助教に心より

感謝いたします

本研究を遂行するにあたりラマン分光測定の使用についてご助言ご教授して頂い

た岡山大学自然科学研究科 藤井達生教授中西真助教に心より感謝の意を表します

Sn のメスバウアー測定の際に協力して頂いた岡山大学自然科学研究科先端自然科学教

育研究推進本部高田研究室 松本修治特任助教(当時旭硝子株式会社中央研究所)また

Feのメスバウアーを測定の際に協力して頂いた岡山大学自然科学研究科 藤井達生教授に

心より感謝の意を表します

固体 NMR の岡山大学自然科学研究科 早川聡教授に心より感謝の意を表します

本研究を遂行するにあたりSPring-8 にてHEXRD および AXS 法の測定法および原理

についてご教示頂きました物質材料研究機構 小原真司博士ならびに山形大学 臼杵毅

教授に心より感謝の意を表します

本研究は多くの後輩諸君の協力によって遂行されました特に実際に共同研究共同

実験を遂行して頂いたOG 藤原沙弥香さん博士前期課程 2 年 東利彦君OB 徳岡太誠

君学士課程 4年 塩田将大君に心より感謝の意を表しますまた難波研究室で共に研

究生活を過ごした卒業生在学生の方々に感謝の意を表します

また同時期に博士後期課程に在籍された香川高等専門学校の桟敷剛さんにはNbに

関する有益な情報だけでなく辛い状況でも励ましを頂きました心より感謝の意を表し

ます

最後に長きに渡る学生生活を認め経済面だけでなく精神面でも支援してくださった

家族に心より深く感謝の意を表します

平成 28年 3月

福井 聡史

Page 64: 博士論文 スズリン酸塩系ガラスの物性と構造解析ousar.lib.okayama-u.ac.jp/files/public/5/54353/...博士論文 スズリン酸塩系ガラスの物性と構造解析

61

割合も多くSnO 量が増えるにつれて頂点共有が主になり網目形成体として振舞ってい

ると考えられる組成によって平均結合距離や平均角度の大きな変化が見られなかったこ

とから平均配位数が結合様式を決める重要なファクターであるということも考えられる

またHEXRD と AXS 法の結果がほぼ同じであったこれは主成分が SnO のガラスであ

るためHEXRDでも十分に詳細な構造が得られたため大きな変化が現れなかったと考え

られるNbON 多面体はPO4 四面体と SnON 多面体とはほぼ頂点共有で繋がっている以

上の結果よりSnO量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体的に各多面体同士の

頂点共有が増えていることから耐水性の改善には頂点共有を多く含む構造であること

が重要である或いは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的となって

いるということが推測されるFig 411に 67S5N28P ガラスの構造モデルを示す各多面

体はほぼ頂点共有で繋がっていることが確認できる

4324 平均 BO数の比較

Tables 45にNMR Raman RMC(HEXRD) RMC(HEXRD + AXS)の平均BO数を示すRMC

から得られた平均 BO 数 nはNMR Raman と同様に Nb2O5の添加による大幅な減少が確認

されたしかしNMR Raman と比較すると全組成において数値が大きすぎで適当でない

50S50P の構造モデルを観るとPO4四面体間で3配位 O の存在が確認された(Fig 412)た

め実測で得られた n値を再現できるようなPO4四面体モデル間の繋がり方に関する拘束条

件を加えて RMCを計算する必要性があるまた仮に3配位 Oの存在があるとすると電

子状態の変化が生じていることがと示唆されるため分子軌道計算を用いて電子状態解析

を行い確認する必要がある

4325 耐水性の改善について

Nb2O5を添加のガラス構造への影響について①6配位ではなく 4配位として主に存在し

ていることからSnO と同じような働きをしていると推測される②結合距離が Sn-O が約

22Åに対し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強

固にしている③ガラス構造中で全体的に各多面体同士の頂点共有が増えている以上の

ことが判明した以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性

耐候性を改善した要因として考えられる

44 結言

本章では分光学的手法では評価できないガラスの中距離構造局所構造について理解

するために放射光を用いた構造解析を実施しSP ガラスの構造と耐水性改善について考

察したHEXRDおよび AXS法を用いて測定を行い得られたデータを RMCシミュレーシ

ョンにて解析を行った

解析の結果 Sn-O pair については平均配位数 Nが 3 ~ 35でSnO量の増加 = OP の増

62

加に伴い高くなった平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約 22Åであ

ったP-O Sn-Oについては組成による大きな変化はほとんど見られなかった67S5N28P

ガラスの Nb-O pair の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平均配位数約 4Nb-O 平均結合距

離約 20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O(約 105deg)と値が近いことま

た6配位ではなく 4配位として主に存在していることからSnOと同じような働き(網目

形成体)をしていると推測されるまた結合距離が Sn-O が約 22Åに対し Nb-O は約 20

Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強固にしていると言える

SnO 量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体的に各多面体同士の頂点共有が増え

ていることから耐水性の改善には頂点共有を多く含む構造であることが重要である

もしくは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的であることが推測さ

れる以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性耐候性を

改善した要因として考えられる

またAXS 法の有効性についても確認し効果的であることが判明したただし今回

は主成分が Sn の組成のガラスでありHEXRD でも十分に詳細な構造が得られたため

大きな差は現れなかった

参考文献

[1] 山根正之 安井至 和田正道 国分可紀 寺井良平 近藤敬 小川晋永編ガラス光学ハ

ンドブック 朝倉書店(1999)

[2]飯野潔 梅咲則正 NEW GLASS 19 [2] 31-40 (2004)

[3] T E Faber and J M Ziman Philos Mag 11 [109] 153-173 (1965)

[4] 小原真司 鈴谷健太郎 放射光 14 [5] 365-375 (2001)

[5] 早稲田嘉夫 齋藤正敏 放射光 10 [3] 299-315 (1997)

[6] 細川伸也 広島工業大学紀要研究編 46 197-204 (2012)

[7] RLMcGreevy and LPuszai Mol Simulation 1 359(1988)

[8] V V Chernaya A S Mitiaev P S Chizhov E V Dikarev R V Shpanchenko E V Antipov

MV Korolenko and PB Fabritchinyi J Chem Mater 17 284-290 (2005)

[9] M Mathew L W Schroeder and T H Jordan Acta Cryst B33 1812-1816 (1977)

[10] J S Taylar and M P Cohs J Am Ceram Solids 109 [9] 2834-2835 (1987)

[11] D Munoz-Martin A Ruiz de La Cruz J M Fernandez-Navarro C Domingo J Solis and J

Gonzalo J appl Phys 110 023522 (2011)

63

Fig 41 各原子の異常分散項のエネルギー依存性

Fig 42 Sn の異常分散項のエネルギー依存性

64

Fig 43 SPring-8の BL13XU

65

Tab

le 4

1

RM

Cの各パラメーター

66

Fig 44 Sn2P2O7 Sn3P2O8結晶の RDF

Table 42 Sn2P2O7 Sn3P2O8結晶の各 pairの第一近接距離

67

Fig 45 得られた実測 HEXRDの S(Q)

68

Fig 46 Sn の異常散乱測定により得られた散乱強度のエネルギー依存性

(a)67S33P (b)60S40P

69

Fig 47 全相関関数 T(r)

太線 HEXRD より

細線 Sn の AXSより

70

Fig 48 67S5N28P ガラス構造のモデル

71

Fig 49 RMC フィッティングの結果

72

Tab

le 4

3 各

pairの平均配位数角度結合距離

73

Fig

4

10

67

S5

N2

8Pガラスの各多面体モデル

74

Tab

le 4

4 各

pairの結合様式

75

Fig 411 67S5N28P ガラスの構造モデル

76

Table 45 平均 BO 各数 nの比較

Fig 412 50S50P ガラスの構造モデル

77

第 5章 総括

本研究ではSP ガラスを対象とした本研究では鉛フリー代替ガラスまたは希土類フ

リー蛍光体として SP ガラスの新規高機能化を将来的に目指し問題点であるldquo化学的耐久

性rdquoの改善につながる知見を得ることを目的としたそこでまずSP ガラスを母体ガラ

スとし第三成分に Nb2O5を添加した Sn-Nb-P SNP ガラスZnO を添加した SZP ガラスを

作製し耐水性を中心とした物性評価を行った次に分光学的手法で構造解析を行い

Qn 分布を導き出した最後に放射光を用いた構造解析を行い耐水性改善に関する構造的

な考察を行った以下に本研究で行った検討内容を示す

(1)SPガラスおよび第三成分Nb2O5 ZnOを添加した三成分系SPガラスの物性評価(第 2章)

(2)SP 系ガラスの分光学的手法による Qn分布導出(第 3章)

(3)放射光を用いた SP 系ガラスの構造解析構造と耐水性改善の関連について(第 4章)

各章についてまとめた結果を以下に示す

第 2章

第 2章では二成分系および三成分系のリン酸塩系ガラスの各種物性(密度や熱的特性

耐水性)の評価を行った二成分系ではSP ガラスに加え良好な耐水性を有する鉄リン

酸塩(Fe2O3-P2O5)系ガラス(以下 FP ガラス)を比較のために三成分系では二成分系

の SP ガラスに Nb2O5を添加したニオブ含有 SP ガラス(SNP ガラス)および ZnO を添加し

た亜鉛含有 SP ガラス(SZP ガラス)を作製した

今回作製した SP 系ガラスは低ガラス転移温度を有していた各組成の温度域はSP

ガラスTg le 280 Sn-Nb-P SNPガラスTg le 3505SZP S5ZPガラスTg ≦ 450であった

各種 SP ガラスの耐水性試験の結果二成分系の SP ガラスよりも三成分系ガラスの方が

良好な耐水性を有していた65Sn-5Nb-30P 67S5N28P ガラスが最も耐水性が良好であり化

学的耐久性の改善には Nb2O5が ZnOよりも効果的であった

組成と耐水性に関してはDRおよび重量減がOP増加で単調に低下した結果が得られた

つまり耐水性を改善させるにはSP 系ガラスのガラス化範囲を拡大かつ OP を増大させ

る第三成分の添加が有効であることが示唆された

第 3章

第 3章ではSP 系ガラスの分光学的手法による Qn分布の導出を行ったラマン分光法を

用いて各ガラス系のリン酸塩アニオンの構造を簡易定量で評価し組成と構造の関係に

ついて考察した平均 BO 数 n と耐水性に関してはDR および重量減が平均 BO 数 nの減

少で単調に低下することが明らかとなった

平均 BO 数 n と OP の関係より耐水性改善には平均 BO 数 n を下げることそして

OP を上げることが重要であることが明らかになった

78

Nb5+の添加は平均 BO数を減少させるだけでなくOP も上げることからガラス構造

内の P-O-P 結合を減少させ水和反応加水分解反応が抑制され耐水性が大幅に改善さ

れることが示唆された故にNb2O5 のような高価数金属酸化物を添加することが効果的

であることが再度確認された

第 4章

耐水性向上についてより深く評価するためSP SNP ガラスの局所構造に関する知見を得

ることを目的に放射光を用いた構造解析を行った高エネルギーX 線回折(HEXRD)お

よび X 線異常散乱(AXS)法で測定したデータを再現する構造モデルを逆モンテカルロ

(RMC)シミュレーションで構築し構造解析を行った

RMC モデル中の PON多面体に関して平均配位数 Nが 4および P-O の平均結合距離が約

160Å平均結合角度angO-P-Oが約 109degという結果が得られた組成による大きな違いは確

認されなかったSnON多面体については平均配位数 N が 3~4 でSnO 量の増加に伴い 4

に近い値となった平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約 22Åで組成

による大きな変化は見られなかった

Nb2O5を 5 mol添加したガラスではNbON多面体の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平

均配位数N約4Nb-O平均結合距離約20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O

(約 105deg)と値が近いことまた6配位ではなく 4配位として主に存在していることから

SnO と同じような網目形成体として働いていると推測されたまた結合距離が Sn-O が約

22Åに対し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強

固にしていると考えられるまたSnO 量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体

的に各多面体同士の頂点共有が増えていることから耐水性の改善には頂点共有を多く

含む構造もしくは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的であること

が示唆された以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性

耐候性を改善した要因として考えられる

またAXS 法の有効性についても確認し効果的であることが判明したただし今回

は主成分が Snの組成のガラスでありHEXRD でも十分に詳細な Snの周辺構造が得られ

たためAXSを利用した場合との大きな構造の差は認められなかった

本研究では様々な優れた特徴を有する SP ガラスにおける耐水性改善のメカニズムにつ

いて検討を行ったこの系のガラスについてはこれまでほとんど利用されていなかった

放射光を用いた構造解析を駆使し第三成分の添加によってどのような構造的変化が生じ

耐水性を改善させるか新たな知見を得ることができた最終目標である機能性ガラスの

開発における新たなる材料設計指針の確立に対してldquo耐水性rdquoに関しては概ね明らかにな

ったと考えられる一方で今回検討していな電子状態化学結合性についても評価する

ことで溶出メカニズムの解明が可能になり材料設計指針の確立が期待される

79

発表論文リスト

口頭発表

第 2章および第 3章

(1) SnO-P2O5 系ガラスへの酸化物添加効果

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎

日本セラミックス協会第 25 回秋季シンポジウム No3C06 (名古屋市 2012年 9月)

(2) Effect of Nb2O5 addition to SnO-P2O5 glass (Poster)

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

International Union of Materials Research Societies International Conference on Electronic

Materials IUMRS-ICEM 2012 A-9-P26-003 (Yokohama 2012 年 9月)

(3) スズリン酸塩系ガラスの蛍光特性耐水性に及ばす酸化物の添加効果(ポスター)

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎

日本セラミックス協会 2013 年年会 1P070 (東京 2013年 3月)

第 4章

(1) 放射光を用いたスズリン酸塩ガラスの構造解析

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎小原真二臼杵毅

日本セラミックス協会第 27 回秋季シンポジウム 2B22 (鹿児島市 2014年 9 月)

(2) Structural analysis of tin phosphate glasses by synchrotron radiation (Poster)

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba Shinji Kohara Takeshi Usuki

International Congress on Glass ICG Annual Meeting Bangkok 2015 P14-138 p186 (2015)

発表論文

(1) Effect of Nb2O5 addition to SnO- P2O5 glass

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

Journal of the Ceramic Society of Japan Vol 120 No 11 pp530-533 (2012)

(2) Structural analysis of SnO- P2O5 glass

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

Journal of the Ceramic Society of Japan(準備中)

80

謝辞

本研究を遂行するにあたり終始暖かいご指導ご助言並びにご鞭撻を賜わりました岡

山大学大学院環境生命科学研究科 難波徳郎教授に心より感謝の意を表します

また本研究を遂行するにあたり懇切丁寧なご指導とご意見をしていただいた岡山大

学大学院環境生命科学研究科 紅野安彦准教授環境環理センター 崎田真一助教に心より

感謝いたします

本研究を遂行するにあたりラマン分光測定の使用についてご助言ご教授して頂い

た岡山大学自然科学研究科 藤井達生教授中西真助教に心より感謝の意を表します

Sn のメスバウアー測定の際に協力して頂いた岡山大学自然科学研究科先端自然科学教

育研究推進本部高田研究室 松本修治特任助教(当時旭硝子株式会社中央研究所)また

Feのメスバウアーを測定の際に協力して頂いた岡山大学自然科学研究科 藤井達生教授に

心より感謝の意を表します

固体 NMR の岡山大学自然科学研究科 早川聡教授に心より感謝の意を表します

本研究を遂行するにあたりSPring-8 にてHEXRD および AXS 法の測定法および原理

についてご教示頂きました物質材料研究機構 小原真司博士ならびに山形大学 臼杵毅

教授に心より感謝の意を表します

本研究は多くの後輩諸君の協力によって遂行されました特に実際に共同研究共同

実験を遂行して頂いたOG 藤原沙弥香さん博士前期課程 2 年 東利彦君OB 徳岡太誠

君学士課程 4年 塩田将大君に心より感謝の意を表しますまた難波研究室で共に研

究生活を過ごした卒業生在学生の方々に感謝の意を表します

また同時期に博士後期課程に在籍された香川高等専門学校の桟敷剛さんにはNbに

関する有益な情報だけでなく辛い状況でも励ましを頂きました心より感謝の意を表し

ます

最後に長きに渡る学生生活を認め経済面だけでなく精神面でも支援してくださった

家族に心より深く感謝の意を表します

平成 28年 3月

福井 聡史

Page 65: 博士論文 スズリン酸塩系ガラスの物性と構造解析ousar.lib.okayama-u.ac.jp/files/public/5/54353/...博士論文 スズリン酸塩系ガラスの物性と構造解析

62

加に伴い高くなった平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約 22Åであ

ったP-O Sn-Oについては組成による大きな変化はほとんど見られなかった67S5N28P

ガラスの Nb-O pair の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平均配位数約 4Nb-O 平均結合距

離約 20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O(約 105deg)と値が近いことま

た6配位ではなく 4配位として主に存在していることからSnOと同じような働き(網目

形成体)をしていると推測されるまた結合距離が Sn-O が約 22Åに対し Nb-O は約 20

Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強固にしていると言える

SnO 量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体的に各多面体同士の頂点共有が増え

ていることから耐水性の改善には頂点共有を多く含む構造であることが重要である

もしくは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的であることが推測さ

れる以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性耐候性を

改善した要因として考えられる

またAXS 法の有効性についても確認し効果的であることが判明したただし今回

は主成分が Sn の組成のガラスでありHEXRD でも十分に詳細な構造が得られたため

大きな差は現れなかった

参考文献

[1] 山根正之 安井至 和田正道 国分可紀 寺井良平 近藤敬 小川晋永編ガラス光学ハ

ンドブック 朝倉書店(1999)

[2]飯野潔 梅咲則正 NEW GLASS 19 [2] 31-40 (2004)

[3] T E Faber and J M Ziman Philos Mag 11 [109] 153-173 (1965)

[4] 小原真司 鈴谷健太郎 放射光 14 [5] 365-375 (2001)

[5] 早稲田嘉夫 齋藤正敏 放射光 10 [3] 299-315 (1997)

[6] 細川伸也 広島工業大学紀要研究編 46 197-204 (2012)

[7] RLMcGreevy and LPuszai Mol Simulation 1 359(1988)

[8] V V Chernaya A S Mitiaev P S Chizhov E V Dikarev R V Shpanchenko E V Antipov

MV Korolenko and PB Fabritchinyi J Chem Mater 17 284-290 (2005)

[9] M Mathew L W Schroeder and T H Jordan Acta Cryst B33 1812-1816 (1977)

[10] J S Taylar and M P Cohs J Am Ceram Solids 109 [9] 2834-2835 (1987)

[11] D Munoz-Martin A Ruiz de La Cruz J M Fernandez-Navarro C Domingo J Solis and J

Gonzalo J appl Phys 110 023522 (2011)

63

Fig 41 各原子の異常分散項のエネルギー依存性

Fig 42 Sn の異常分散項のエネルギー依存性

64

Fig 43 SPring-8の BL13XU

65

Tab

le 4

1

RM

Cの各パラメーター

66

Fig 44 Sn2P2O7 Sn3P2O8結晶の RDF

Table 42 Sn2P2O7 Sn3P2O8結晶の各 pairの第一近接距離

67

Fig 45 得られた実測 HEXRDの S(Q)

68

Fig 46 Sn の異常散乱測定により得られた散乱強度のエネルギー依存性

(a)67S33P (b)60S40P

69

Fig 47 全相関関数 T(r)

太線 HEXRD より

細線 Sn の AXSより

70

Fig 48 67S5N28P ガラス構造のモデル

71

Fig 49 RMC フィッティングの結果

72

Tab

le 4

3 各

pairの平均配位数角度結合距離

73

Fig

4

10

67

S5

N2

8Pガラスの各多面体モデル

74

Tab

le 4

4 各

pairの結合様式

75

Fig 411 67S5N28P ガラスの構造モデル

76

Table 45 平均 BO 各数 nの比較

Fig 412 50S50P ガラスの構造モデル

77

第 5章 総括

本研究ではSP ガラスを対象とした本研究では鉛フリー代替ガラスまたは希土類フ

リー蛍光体として SP ガラスの新規高機能化を将来的に目指し問題点であるldquo化学的耐久

性rdquoの改善につながる知見を得ることを目的としたそこでまずSP ガラスを母体ガラ

スとし第三成分に Nb2O5を添加した Sn-Nb-P SNP ガラスZnO を添加した SZP ガラスを

作製し耐水性を中心とした物性評価を行った次に分光学的手法で構造解析を行い

Qn 分布を導き出した最後に放射光を用いた構造解析を行い耐水性改善に関する構造的

な考察を行った以下に本研究で行った検討内容を示す

(1)SPガラスおよび第三成分Nb2O5 ZnOを添加した三成分系SPガラスの物性評価(第 2章)

(2)SP 系ガラスの分光学的手法による Qn分布導出(第 3章)

(3)放射光を用いた SP 系ガラスの構造解析構造と耐水性改善の関連について(第 4章)

各章についてまとめた結果を以下に示す

第 2章

第 2章では二成分系および三成分系のリン酸塩系ガラスの各種物性(密度や熱的特性

耐水性)の評価を行った二成分系ではSP ガラスに加え良好な耐水性を有する鉄リン

酸塩(Fe2O3-P2O5)系ガラス(以下 FP ガラス)を比較のために三成分系では二成分系

の SP ガラスに Nb2O5を添加したニオブ含有 SP ガラス(SNP ガラス)および ZnO を添加し

た亜鉛含有 SP ガラス(SZP ガラス)を作製した

今回作製した SP 系ガラスは低ガラス転移温度を有していた各組成の温度域はSP

ガラスTg le 280 Sn-Nb-P SNPガラスTg le 3505SZP S5ZPガラスTg ≦ 450であった

各種 SP ガラスの耐水性試験の結果二成分系の SP ガラスよりも三成分系ガラスの方が

良好な耐水性を有していた65Sn-5Nb-30P 67S5N28P ガラスが最も耐水性が良好であり化

学的耐久性の改善には Nb2O5が ZnOよりも効果的であった

組成と耐水性に関してはDRおよび重量減がOP増加で単調に低下した結果が得られた

つまり耐水性を改善させるにはSP 系ガラスのガラス化範囲を拡大かつ OP を増大させ

る第三成分の添加が有効であることが示唆された

第 3章

第 3章ではSP 系ガラスの分光学的手法による Qn分布の導出を行ったラマン分光法を

用いて各ガラス系のリン酸塩アニオンの構造を簡易定量で評価し組成と構造の関係に

ついて考察した平均 BO 数 n と耐水性に関してはDR および重量減が平均 BO 数 nの減

少で単調に低下することが明らかとなった

平均 BO 数 n と OP の関係より耐水性改善には平均 BO 数 n を下げることそして

OP を上げることが重要であることが明らかになった

78

Nb5+の添加は平均 BO数を減少させるだけでなくOP も上げることからガラス構造

内の P-O-P 結合を減少させ水和反応加水分解反応が抑制され耐水性が大幅に改善さ

れることが示唆された故にNb2O5 のような高価数金属酸化物を添加することが効果的

であることが再度確認された

第 4章

耐水性向上についてより深く評価するためSP SNP ガラスの局所構造に関する知見を得

ることを目的に放射光を用いた構造解析を行った高エネルギーX 線回折(HEXRD)お

よび X 線異常散乱(AXS)法で測定したデータを再現する構造モデルを逆モンテカルロ

(RMC)シミュレーションで構築し構造解析を行った

RMC モデル中の PON多面体に関して平均配位数 Nが 4および P-O の平均結合距離が約

160Å平均結合角度angO-P-Oが約 109degという結果が得られた組成による大きな違いは確

認されなかったSnON多面体については平均配位数 N が 3~4 でSnO 量の増加に伴い 4

に近い値となった平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約 22Åで組成

による大きな変化は見られなかった

Nb2O5を 5 mol添加したガラスではNbON多面体の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平

均配位数N約4Nb-O平均結合距離約20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O

(約 105deg)と値が近いことまた6配位ではなく 4配位として主に存在していることから

SnO と同じような網目形成体として働いていると推測されたまた結合距離が Sn-O が約

22Åに対し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強

固にしていると考えられるまたSnO 量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体

的に各多面体同士の頂点共有が増えていることから耐水性の改善には頂点共有を多く

含む構造もしくは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的であること

が示唆された以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性

耐候性を改善した要因として考えられる

またAXS 法の有効性についても確認し効果的であることが判明したただし今回

は主成分が Snの組成のガラスでありHEXRD でも十分に詳細な Snの周辺構造が得られ

たためAXSを利用した場合との大きな構造の差は認められなかった

本研究では様々な優れた特徴を有する SP ガラスにおける耐水性改善のメカニズムにつ

いて検討を行ったこの系のガラスについてはこれまでほとんど利用されていなかった

放射光を用いた構造解析を駆使し第三成分の添加によってどのような構造的変化が生じ

耐水性を改善させるか新たな知見を得ることができた最終目標である機能性ガラスの

開発における新たなる材料設計指針の確立に対してldquo耐水性rdquoに関しては概ね明らかにな

ったと考えられる一方で今回検討していな電子状態化学結合性についても評価する

ことで溶出メカニズムの解明が可能になり材料設計指針の確立が期待される

79

発表論文リスト

口頭発表

第 2章および第 3章

(1) SnO-P2O5 系ガラスへの酸化物添加効果

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎

日本セラミックス協会第 25 回秋季シンポジウム No3C06 (名古屋市 2012年 9月)

(2) Effect of Nb2O5 addition to SnO-P2O5 glass (Poster)

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

International Union of Materials Research Societies International Conference on Electronic

Materials IUMRS-ICEM 2012 A-9-P26-003 (Yokohama 2012 年 9月)

(3) スズリン酸塩系ガラスの蛍光特性耐水性に及ばす酸化物の添加効果(ポスター)

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎

日本セラミックス協会 2013 年年会 1P070 (東京 2013年 3月)

第 4章

(1) 放射光を用いたスズリン酸塩ガラスの構造解析

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎小原真二臼杵毅

日本セラミックス協会第 27 回秋季シンポジウム 2B22 (鹿児島市 2014年 9 月)

(2) Structural analysis of tin phosphate glasses by synchrotron radiation (Poster)

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba Shinji Kohara Takeshi Usuki

International Congress on Glass ICG Annual Meeting Bangkok 2015 P14-138 p186 (2015)

発表論文

(1) Effect of Nb2O5 addition to SnO- P2O5 glass

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

Journal of the Ceramic Society of Japan Vol 120 No 11 pp530-533 (2012)

(2) Structural analysis of SnO- P2O5 glass

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

Journal of the Ceramic Society of Japan(準備中)

80

謝辞

本研究を遂行するにあたり終始暖かいご指導ご助言並びにご鞭撻を賜わりました岡

山大学大学院環境生命科学研究科 難波徳郎教授に心より感謝の意を表します

また本研究を遂行するにあたり懇切丁寧なご指導とご意見をしていただいた岡山大

学大学院環境生命科学研究科 紅野安彦准教授環境環理センター 崎田真一助教に心より

感謝いたします

本研究を遂行するにあたりラマン分光測定の使用についてご助言ご教授して頂い

た岡山大学自然科学研究科 藤井達生教授中西真助教に心より感謝の意を表します

Sn のメスバウアー測定の際に協力して頂いた岡山大学自然科学研究科先端自然科学教

育研究推進本部高田研究室 松本修治特任助教(当時旭硝子株式会社中央研究所)また

Feのメスバウアーを測定の際に協力して頂いた岡山大学自然科学研究科 藤井達生教授に

心より感謝の意を表します

固体 NMR の岡山大学自然科学研究科 早川聡教授に心より感謝の意を表します

本研究を遂行するにあたりSPring-8 にてHEXRD および AXS 法の測定法および原理

についてご教示頂きました物質材料研究機構 小原真司博士ならびに山形大学 臼杵毅

教授に心より感謝の意を表します

本研究は多くの後輩諸君の協力によって遂行されました特に実際に共同研究共同

実験を遂行して頂いたOG 藤原沙弥香さん博士前期課程 2 年 東利彦君OB 徳岡太誠

君学士課程 4年 塩田将大君に心より感謝の意を表しますまた難波研究室で共に研

究生活を過ごした卒業生在学生の方々に感謝の意を表します

また同時期に博士後期課程に在籍された香川高等専門学校の桟敷剛さんにはNbに

関する有益な情報だけでなく辛い状況でも励ましを頂きました心より感謝の意を表し

ます

最後に長きに渡る学生生活を認め経済面だけでなく精神面でも支援してくださった

家族に心より深く感謝の意を表します

平成 28年 3月

福井 聡史

Page 66: 博士論文 スズリン酸塩系ガラスの物性と構造解析ousar.lib.okayama-u.ac.jp/files/public/5/54353/...博士論文 スズリン酸塩系ガラスの物性と構造解析

63

Fig 41 各原子の異常分散項のエネルギー依存性

Fig 42 Sn の異常分散項のエネルギー依存性

64

Fig 43 SPring-8の BL13XU

65

Tab

le 4

1

RM

Cの各パラメーター

66

Fig 44 Sn2P2O7 Sn3P2O8結晶の RDF

Table 42 Sn2P2O7 Sn3P2O8結晶の各 pairの第一近接距離

67

Fig 45 得られた実測 HEXRDの S(Q)

68

Fig 46 Sn の異常散乱測定により得られた散乱強度のエネルギー依存性

(a)67S33P (b)60S40P

69

Fig 47 全相関関数 T(r)

太線 HEXRD より

細線 Sn の AXSより

70

Fig 48 67S5N28P ガラス構造のモデル

71

Fig 49 RMC フィッティングの結果

72

Tab

le 4

3 各

pairの平均配位数角度結合距離

73

Fig

4

10

67

S5

N2

8Pガラスの各多面体モデル

74

Tab

le 4

4 各

pairの結合様式

75

Fig 411 67S5N28P ガラスの構造モデル

76

Table 45 平均 BO 各数 nの比較

Fig 412 50S50P ガラスの構造モデル

77

第 5章 総括

本研究ではSP ガラスを対象とした本研究では鉛フリー代替ガラスまたは希土類フ

リー蛍光体として SP ガラスの新規高機能化を将来的に目指し問題点であるldquo化学的耐久

性rdquoの改善につながる知見を得ることを目的としたそこでまずSP ガラスを母体ガラ

スとし第三成分に Nb2O5を添加した Sn-Nb-P SNP ガラスZnO を添加した SZP ガラスを

作製し耐水性を中心とした物性評価を行った次に分光学的手法で構造解析を行い

Qn 分布を導き出した最後に放射光を用いた構造解析を行い耐水性改善に関する構造的

な考察を行った以下に本研究で行った検討内容を示す

(1)SPガラスおよび第三成分Nb2O5 ZnOを添加した三成分系SPガラスの物性評価(第 2章)

(2)SP 系ガラスの分光学的手法による Qn分布導出(第 3章)

(3)放射光を用いた SP 系ガラスの構造解析構造と耐水性改善の関連について(第 4章)

各章についてまとめた結果を以下に示す

第 2章

第 2章では二成分系および三成分系のリン酸塩系ガラスの各種物性(密度や熱的特性

耐水性)の評価を行った二成分系ではSP ガラスに加え良好な耐水性を有する鉄リン

酸塩(Fe2O3-P2O5)系ガラス(以下 FP ガラス)を比較のために三成分系では二成分系

の SP ガラスに Nb2O5を添加したニオブ含有 SP ガラス(SNP ガラス)および ZnO を添加し

た亜鉛含有 SP ガラス(SZP ガラス)を作製した

今回作製した SP 系ガラスは低ガラス転移温度を有していた各組成の温度域はSP

ガラスTg le 280 Sn-Nb-P SNPガラスTg le 3505SZP S5ZPガラスTg ≦ 450であった

各種 SP ガラスの耐水性試験の結果二成分系の SP ガラスよりも三成分系ガラスの方が

良好な耐水性を有していた65Sn-5Nb-30P 67S5N28P ガラスが最も耐水性が良好であり化

学的耐久性の改善には Nb2O5が ZnOよりも効果的であった

組成と耐水性に関してはDRおよび重量減がOP増加で単調に低下した結果が得られた

つまり耐水性を改善させるにはSP 系ガラスのガラス化範囲を拡大かつ OP を増大させ

る第三成分の添加が有効であることが示唆された

第 3章

第 3章ではSP 系ガラスの分光学的手法による Qn分布の導出を行ったラマン分光法を

用いて各ガラス系のリン酸塩アニオンの構造を簡易定量で評価し組成と構造の関係に

ついて考察した平均 BO 数 n と耐水性に関してはDR および重量減が平均 BO 数 nの減

少で単調に低下することが明らかとなった

平均 BO 数 n と OP の関係より耐水性改善には平均 BO 数 n を下げることそして

OP を上げることが重要であることが明らかになった

78

Nb5+の添加は平均 BO数を減少させるだけでなくOP も上げることからガラス構造

内の P-O-P 結合を減少させ水和反応加水分解反応が抑制され耐水性が大幅に改善さ

れることが示唆された故にNb2O5 のような高価数金属酸化物を添加することが効果的

であることが再度確認された

第 4章

耐水性向上についてより深く評価するためSP SNP ガラスの局所構造に関する知見を得

ることを目的に放射光を用いた構造解析を行った高エネルギーX 線回折(HEXRD)お

よび X 線異常散乱(AXS)法で測定したデータを再現する構造モデルを逆モンテカルロ

(RMC)シミュレーションで構築し構造解析を行った

RMC モデル中の PON多面体に関して平均配位数 Nが 4および P-O の平均結合距離が約

160Å平均結合角度angO-P-Oが約 109degという結果が得られた組成による大きな違いは確

認されなかったSnON多面体については平均配位数 N が 3~4 でSnO 量の増加に伴い 4

に近い値となった平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約 22Åで組成

による大きな変化は見られなかった

Nb2O5を 5 mol添加したガラスではNbON多面体の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平

均配位数N約4Nb-O平均結合距離約20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O

(約 105deg)と値が近いことまた6配位ではなく 4配位として主に存在していることから

SnO と同じような網目形成体として働いていると推測されたまた結合距離が Sn-O が約

22Åに対し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強

固にしていると考えられるまたSnO 量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体

的に各多面体同士の頂点共有が増えていることから耐水性の改善には頂点共有を多く

含む構造もしくは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的であること

が示唆された以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性

耐候性を改善した要因として考えられる

またAXS 法の有効性についても確認し効果的であることが判明したただし今回

は主成分が Snの組成のガラスでありHEXRD でも十分に詳細な Snの周辺構造が得られ

たためAXSを利用した場合との大きな構造の差は認められなかった

本研究では様々な優れた特徴を有する SP ガラスにおける耐水性改善のメカニズムにつ

いて検討を行ったこの系のガラスについてはこれまでほとんど利用されていなかった

放射光を用いた構造解析を駆使し第三成分の添加によってどのような構造的変化が生じ

耐水性を改善させるか新たな知見を得ることができた最終目標である機能性ガラスの

開発における新たなる材料設計指針の確立に対してldquo耐水性rdquoに関しては概ね明らかにな

ったと考えられる一方で今回検討していな電子状態化学結合性についても評価する

ことで溶出メカニズムの解明が可能になり材料設計指針の確立が期待される

79

発表論文リスト

口頭発表

第 2章および第 3章

(1) SnO-P2O5 系ガラスへの酸化物添加効果

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎

日本セラミックス協会第 25 回秋季シンポジウム No3C06 (名古屋市 2012年 9月)

(2) Effect of Nb2O5 addition to SnO-P2O5 glass (Poster)

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

International Union of Materials Research Societies International Conference on Electronic

Materials IUMRS-ICEM 2012 A-9-P26-003 (Yokohama 2012 年 9月)

(3) スズリン酸塩系ガラスの蛍光特性耐水性に及ばす酸化物の添加効果(ポスター)

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎

日本セラミックス協会 2013 年年会 1P070 (東京 2013年 3月)

第 4章

(1) 放射光を用いたスズリン酸塩ガラスの構造解析

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎小原真二臼杵毅

日本セラミックス協会第 27 回秋季シンポジウム 2B22 (鹿児島市 2014年 9 月)

(2) Structural analysis of tin phosphate glasses by synchrotron radiation (Poster)

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba Shinji Kohara Takeshi Usuki

International Congress on Glass ICG Annual Meeting Bangkok 2015 P14-138 p186 (2015)

発表論文

(1) Effect of Nb2O5 addition to SnO- P2O5 glass

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

Journal of the Ceramic Society of Japan Vol 120 No 11 pp530-533 (2012)

(2) Structural analysis of SnO- P2O5 glass

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

Journal of the Ceramic Society of Japan(準備中)

80

謝辞

本研究を遂行するにあたり終始暖かいご指導ご助言並びにご鞭撻を賜わりました岡

山大学大学院環境生命科学研究科 難波徳郎教授に心より感謝の意を表します

また本研究を遂行するにあたり懇切丁寧なご指導とご意見をしていただいた岡山大

学大学院環境生命科学研究科 紅野安彦准教授環境環理センター 崎田真一助教に心より

感謝いたします

本研究を遂行するにあたりラマン分光測定の使用についてご助言ご教授して頂い

た岡山大学自然科学研究科 藤井達生教授中西真助教に心より感謝の意を表します

Sn のメスバウアー測定の際に協力して頂いた岡山大学自然科学研究科先端自然科学教

育研究推進本部高田研究室 松本修治特任助教(当時旭硝子株式会社中央研究所)また

Feのメスバウアーを測定の際に協力して頂いた岡山大学自然科学研究科 藤井達生教授に

心より感謝の意を表します

固体 NMR の岡山大学自然科学研究科 早川聡教授に心より感謝の意を表します

本研究を遂行するにあたりSPring-8 にてHEXRD および AXS 法の測定法および原理

についてご教示頂きました物質材料研究機構 小原真司博士ならびに山形大学 臼杵毅

教授に心より感謝の意を表します

本研究は多くの後輩諸君の協力によって遂行されました特に実際に共同研究共同

実験を遂行して頂いたOG 藤原沙弥香さん博士前期課程 2 年 東利彦君OB 徳岡太誠

君学士課程 4年 塩田将大君に心より感謝の意を表しますまた難波研究室で共に研

究生活を過ごした卒業生在学生の方々に感謝の意を表します

また同時期に博士後期課程に在籍された香川高等専門学校の桟敷剛さんにはNbに

関する有益な情報だけでなく辛い状況でも励ましを頂きました心より感謝の意を表し

ます

最後に長きに渡る学生生活を認め経済面だけでなく精神面でも支援してくださった

家族に心より深く感謝の意を表します

平成 28年 3月

福井 聡史

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64

Fig 43 SPring-8の BL13XU

65

Tab

le 4

1

RM

Cの各パラメーター

66

Fig 44 Sn2P2O7 Sn3P2O8結晶の RDF

Table 42 Sn2P2O7 Sn3P2O8結晶の各 pairの第一近接距離

67

Fig 45 得られた実測 HEXRDの S(Q)

68

Fig 46 Sn の異常散乱測定により得られた散乱強度のエネルギー依存性

(a)67S33P (b)60S40P

69

Fig 47 全相関関数 T(r)

太線 HEXRD より

細線 Sn の AXSより

70

Fig 48 67S5N28P ガラス構造のモデル

71

Fig 49 RMC フィッティングの結果

72

Tab

le 4

3 各

pairの平均配位数角度結合距離

73

Fig

4

10

67

S5

N2

8Pガラスの各多面体モデル

74

Tab

le 4

4 各

pairの結合様式

75

Fig 411 67S5N28P ガラスの構造モデル

76

Table 45 平均 BO 各数 nの比較

Fig 412 50S50P ガラスの構造モデル

77

第 5章 総括

本研究ではSP ガラスを対象とした本研究では鉛フリー代替ガラスまたは希土類フ

リー蛍光体として SP ガラスの新規高機能化を将来的に目指し問題点であるldquo化学的耐久

性rdquoの改善につながる知見を得ることを目的としたそこでまずSP ガラスを母体ガラ

スとし第三成分に Nb2O5を添加した Sn-Nb-P SNP ガラスZnO を添加した SZP ガラスを

作製し耐水性を中心とした物性評価を行った次に分光学的手法で構造解析を行い

Qn 分布を導き出した最後に放射光を用いた構造解析を行い耐水性改善に関する構造的

な考察を行った以下に本研究で行った検討内容を示す

(1)SPガラスおよび第三成分Nb2O5 ZnOを添加した三成分系SPガラスの物性評価(第 2章)

(2)SP 系ガラスの分光学的手法による Qn分布導出(第 3章)

(3)放射光を用いた SP 系ガラスの構造解析構造と耐水性改善の関連について(第 4章)

各章についてまとめた結果を以下に示す

第 2章

第 2章では二成分系および三成分系のリン酸塩系ガラスの各種物性(密度や熱的特性

耐水性)の評価を行った二成分系ではSP ガラスに加え良好な耐水性を有する鉄リン

酸塩(Fe2O3-P2O5)系ガラス(以下 FP ガラス)を比較のために三成分系では二成分系

の SP ガラスに Nb2O5を添加したニオブ含有 SP ガラス(SNP ガラス)および ZnO を添加し

た亜鉛含有 SP ガラス(SZP ガラス)を作製した

今回作製した SP 系ガラスは低ガラス転移温度を有していた各組成の温度域はSP

ガラスTg le 280 Sn-Nb-P SNPガラスTg le 3505SZP S5ZPガラスTg ≦ 450であった

各種 SP ガラスの耐水性試験の結果二成分系の SP ガラスよりも三成分系ガラスの方が

良好な耐水性を有していた65Sn-5Nb-30P 67S5N28P ガラスが最も耐水性が良好であり化

学的耐久性の改善には Nb2O5が ZnOよりも効果的であった

組成と耐水性に関してはDRおよび重量減がOP増加で単調に低下した結果が得られた

つまり耐水性を改善させるにはSP 系ガラスのガラス化範囲を拡大かつ OP を増大させ

る第三成分の添加が有効であることが示唆された

第 3章

第 3章ではSP 系ガラスの分光学的手法による Qn分布の導出を行ったラマン分光法を

用いて各ガラス系のリン酸塩アニオンの構造を簡易定量で評価し組成と構造の関係に

ついて考察した平均 BO 数 n と耐水性に関してはDR および重量減が平均 BO 数 nの減

少で単調に低下することが明らかとなった

平均 BO 数 n と OP の関係より耐水性改善には平均 BO 数 n を下げることそして

OP を上げることが重要であることが明らかになった

78

Nb5+の添加は平均 BO数を減少させるだけでなくOP も上げることからガラス構造

内の P-O-P 結合を減少させ水和反応加水分解反応が抑制され耐水性が大幅に改善さ

れることが示唆された故にNb2O5 のような高価数金属酸化物を添加することが効果的

であることが再度確認された

第 4章

耐水性向上についてより深く評価するためSP SNP ガラスの局所構造に関する知見を得

ることを目的に放射光を用いた構造解析を行った高エネルギーX 線回折(HEXRD)お

よび X 線異常散乱(AXS)法で測定したデータを再現する構造モデルを逆モンテカルロ

(RMC)シミュレーションで構築し構造解析を行った

RMC モデル中の PON多面体に関して平均配位数 Nが 4および P-O の平均結合距離が約

160Å平均結合角度angO-P-Oが約 109degという結果が得られた組成による大きな違いは確

認されなかったSnON多面体については平均配位数 N が 3~4 でSnO 量の増加に伴い 4

に近い値となった平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約 22Åで組成

による大きな変化は見られなかった

Nb2O5を 5 mol添加したガラスではNbON多面体の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平

均配位数N約4Nb-O平均結合距離約20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O

(約 105deg)と値が近いことまた6配位ではなく 4配位として主に存在していることから

SnO と同じような網目形成体として働いていると推測されたまた結合距離が Sn-O が約

22Åに対し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強

固にしていると考えられるまたSnO 量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体

的に各多面体同士の頂点共有が増えていることから耐水性の改善には頂点共有を多く

含む構造もしくは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的であること

が示唆された以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性

耐候性を改善した要因として考えられる

またAXS 法の有効性についても確認し効果的であることが判明したただし今回

は主成分が Snの組成のガラスでありHEXRD でも十分に詳細な Snの周辺構造が得られ

たためAXSを利用した場合との大きな構造の差は認められなかった

本研究では様々な優れた特徴を有する SP ガラスにおける耐水性改善のメカニズムにつ

いて検討を行ったこの系のガラスについてはこれまでほとんど利用されていなかった

放射光を用いた構造解析を駆使し第三成分の添加によってどのような構造的変化が生じ

耐水性を改善させるか新たな知見を得ることができた最終目標である機能性ガラスの

開発における新たなる材料設計指針の確立に対してldquo耐水性rdquoに関しては概ね明らかにな

ったと考えられる一方で今回検討していな電子状態化学結合性についても評価する

ことで溶出メカニズムの解明が可能になり材料設計指針の確立が期待される

79

発表論文リスト

口頭発表

第 2章および第 3章

(1) SnO-P2O5 系ガラスへの酸化物添加効果

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎

日本セラミックス協会第 25 回秋季シンポジウム No3C06 (名古屋市 2012年 9月)

(2) Effect of Nb2O5 addition to SnO-P2O5 glass (Poster)

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

International Union of Materials Research Societies International Conference on Electronic

Materials IUMRS-ICEM 2012 A-9-P26-003 (Yokohama 2012 年 9月)

(3) スズリン酸塩系ガラスの蛍光特性耐水性に及ばす酸化物の添加効果(ポスター)

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎

日本セラミックス協会 2013 年年会 1P070 (東京 2013年 3月)

第 4章

(1) 放射光を用いたスズリン酸塩ガラスの構造解析

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎小原真二臼杵毅

日本セラミックス協会第 27 回秋季シンポジウム 2B22 (鹿児島市 2014年 9 月)

(2) Structural analysis of tin phosphate glasses by synchrotron radiation (Poster)

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba Shinji Kohara Takeshi Usuki

International Congress on Glass ICG Annual Meeting Bangkok 2015 P14-138 p186 (2015)

発表論文

(1) Effect of Nb2O5 addition to SnO- P2O5 glass

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

Journal of the Ceramic Society of Japan Vol 120 No 11 pp530-533 (2012)

(2) Structural analysis of SnO- P2O5 glass

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

Journal of the Ceramic Society of Japan(準備中)

80

謝辞

本研究を遂行するにあたり終始暖かいご指導ご助言並びにご鞭撻を賜わりました岡

山大学大学院環境生命科学研究科 難波徳郎教授に心より感謝の意を表します

また本研究を遂行するにあたり懇切丁寧なご指導とご意見をしていただいた岡山大

学大学院環境生命科学研究科 紅野安彦准教授環境環理センター 崎田真一助教に心より

感謝いたします

本研究を遂行するにあたりラマン分光測定の使用についてご助言ご教授して頂い

た岡山大学自然科学研究科 藤井達生教授中西真助教に心より感謝の意を表します

Sn のメスバウアー測定の際に協力して頂いた岡山大学自然科学研究科先端自然科学教

育研究推進本部高田研究室 松本修治特任助教(当時旭硝子株式会社中央研究所)また

Feのメスバウアーを測定の際に協力して頂いた岡山大学自然科学研究科 藤井達生教授に

心より感謝の意を表します

固体 NMR の岡山大学自然科学研究科 早川聡教授に心より感謝の意を表します

本研究を遂行するにあたりSPring-8 にてHEXRD および AXS 法の測定法および原理

についてご教示頂きました物質材料研究機構 小原真司博士ならびに山形大学 臼杵毅

教授に心より感謝の意を表します

本研究は多くの後輩諸君の協力によって遂行されました特に実際に共同研究共同

実験を遂行して頂いたOG 藤原沙弥香さん博士前期課程 2 年 東利彦君OB 徳岡太誠

君学士課程 4年 塩田将大君に心より感謝の意を表しますまた難波研究室で共に研

究生活を過ごした卒業生在学生の方々に感謝の意を表します

また同時期に博士後期課程に在籍された香川高等専門学校の桟敷剛さんにはNbに

関する有益な情報だけでなく辛い状況でも励ましを頂きました心より感謝の意を表し

ます

最後に長きに渡る学生生活を認め経済面だけでなく精神面でも支援してくださった

家族に心より深く感謝の意を表します

平成 28年 3月

福井 聡史

Page 68: 博士論文 スズリン酸塩系ガラスの物性と構造解析ousar.lib.okayama-u.ac.jp/files/public/5/54353/...博士論文 スズリン酸塩系ガラスの物性と構造解析

65

Tab

le 4

1

RM

Cの各パラメーター

66

Fig 44 Sn2P2O7 Sn3P2O8結晶の RDF

Table 42 Sn2P2O7 Sn3P2O8結晶の各 pairの第一近接距離

67

Fig 45 得られた実測 HEXRDの S(Q)

68

Fig 46 Sn の異常散乱測定により得られた散乱強度のエネルギー依存性

(a)67S33P (b)60S40P

69

Fig 47 全相関関数 T(r)

太線 HEXRD より

細線 Sn の AXSより

70

Fig 48 67S5N28P ガラス構造のモデル

71

Fig 49 RMC フィッティングの結果

72

Tab

le 4

3 各

pairの平均配位数角度結合距離

73

Fig

4

10

67

S5

N2

8Pガラスの各多面体モデル

74

Tab

le 4

4 各

pairの結合様式

75

Fig 411 67S5N28P ガラスの構造モデル

76

Table 45 平均 BO 各数 nの比較

Fig 412 50S50P ガラスの構造モデル

77

第 5章 総括

本研究ではSP ガラスを対象とした本研究では鉛フリー代替ガラスまたは希土類フ

リー蛍光体として SP ガラスの新規高機能化を将来的に目指し問題点であるldquo化学的耐久

性rdquoの改善につながる知見を得ることを目的としたそこでまずSP ガラスを母体ガラ

スとし第三成分に Nb2O5を添加した Sn-Nb-P SNP ガラスZnO を添加した SZP ガラスを

作製し耐水性を中心とした物性評価を行った次に分光学的手法で構造解析を行い

Qn 分布を導き出した最後に放射光を用いた構造解析を行い耐水性改善に関する構造的

な考察を行った以下に本研究で行った検討内容を示す

(1)SPガラスおよび第三成分Nb2O5 ZnOを添加した三成分系SPガラスの物性評価(第 2章)

(2)SP 系ガラスの分光学的手法による Qn分布導出(第 3章)

(3)放射光を用いた SP 系ガラスの構造解析構造と耐水性改善の関連について(第 4章)

各章についてまとめた結果を以下に示す

第 2章

第 2章では二成分系および三成分系のリン酸塩系ガラスの各種物性(密度や熱的特性

耐水性)の評価を行った二成分系ではSP ガラスに加え良好な耐水性を有する鉄リン

酸塩(Fe2O3-P2O5)系ガラス(以下 FP ガラス)を比較のために三成分系では二成分系

の SP ガラスに Nb2O5を添加したニオブ含有 SP ガラス(SNP ガラス)および ZnO を添加し

た亜鉛含有 SP ガラス(SZP ガラス)を作製した

今回作製した SP 系ガラスは低ガラス転移温度を有していた各組成の温度域はSP

ガラスTg le 280 Sn-Nb-P SNPガラスTg le 3505SZP S5ZPガラスTg ≦ 450であった

各種 SP ガラスの耐水性試験の結果二成分系の SP ガラスよりも三成分系ガラスの方が

良好な耐水性を有していた65Sn-5Nb-30P 67S5N28P ガラスが最も耐水性が良好であり化

学的耐久性の改善には Nb2O5が ZnOよりも効果的であった

組成と耐水性に関してはDRおよび重量減がOP増加で単調に低下した結果が得られた

つまり耐水性を改善させるにはSP 系ガラスのガラス化範囲を拡大かつ OP を増大させ

る第三成分の添加が有効であることが示唆された

第 3章

第 3章ではSP 系ガラスの分光学的手法による Qn分布の導出を行ったラマン分光法を

用いて各ガラス系のリン酸塩アニオンの構造を簡易定量で評価し組成と構造の関係に

ついて考察した平均 BO 数 n と耐水性に関してはDR および重量減が平均 BO 数 nの減

少で単調に低下することが明らかとなった

平均 BO 数 n と OP の関係より耐水性改善には平均 BO 数 n を下げることそして

OP を上げることが重要であることが明らかになった

78

Nb5+の添加は平均 BO数を減少させるだけでなくOP も上げることからガラス構造

内の P-O-P 結合を減少させ水和反応加水分解反応が抑制され耐水性が大幅に改善さ

れることが示唆された故にNb2O5 のような高価数金属酸化物を添加することが効果的

であることが再度確認された

第 4章

耐水性向上についてより深く評価するためSP SNP ガラスの局所構造に関する知見を得

ることを目的に放射光を用いた構造解析を行った高エネルギーX 線回折(HEXRD)お

よび X 線異常散乱(AXS)法で測定したデータを再現する構造モデルを逆モンテカルロ

(RMC)シミュレーションで構築し構造解析を行った

RMC モデル中の PON多面体に関して平均配位数 Nが 4および P-O の平均結合距離が約

160Å平均結合角度angO-P-Oが約 109degという結果が得られた組成による大きな違いは確

認されなかったSnON多面体については平均配位数 N が 3~4 でSnO 量の増加に伴い 4

に近い値となった平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約 22Åで組成

による大きな変化は見られなかった

Nb2O5を 5 mol添加したガラスではNbON多面体の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平

均配位数N約4Nb-O平均結合距離約20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O

(約 105deg)と値が近いことまた6配位ではなく 4配位として主に存在していることから

SnO と同じような網目形成体として働いていると推測されたまた結合距離が Sn-O が約

22Åに対し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強

固にしていると考えられるまたSnO 量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体

的に各多面体同士の頂点共有が増えていることから耐水性の改善には頂点共有を多く

含む構造もしくは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的であること

が示唆された以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性

耐候性を改善した要因として考えられる

またAXS 法の有効性についても確認し効果的であることが判明したただし今回

は主成分が Snの組成のガラスでありHEXRD でも十分に詳細な Snの周辺構造が得られ

たためAXSを利用した場合との大きな構造の差は認められなかった

本研究では様々な優れた特徴を有する SP ガラスにおける耐水性改善のメカニズムにつ

いて検討を行ったこの系のガラスについてはこれまでほとんど利用されていなかった

放射光を用いた構造解析を駆使し第三成分の添加によってどのような構造的変化が生じ

耐水性を改善させるか新たな知見を得ることができた最終目標である機能性ガラスの

開発における新たなる材料設計指針の確立に対してldquo耐水性rdquoに関しては概ね明らかにな

ったと考えられる一方で今回検討していな電子状態化学結合性についても評価する

ことで溶出メカニズムの解明が可能になり材料設計指針の確立が期待される

79

発表論文リスト

口頭発表

第 2章および第 3章

(1) SnO-P2O5 系ガラスへの酸化物添加効果

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎

日本セラミックス協会第 25 回秋季シンポジウム No3C06 (名古屋市 2012年 9月)

(2) Effect of Nb2O5 addition to SnO-P2O5 glass (Poster)

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

International Union of Materials Research Societies International Conference on Electronic

Materials IUMRS-ICEM 2012 A-9-P26-003 (Yokohama 2012 年 9月)

(3) スズリン酸塩系ガラスの蛍光特性耐水性に及ばす酸化物の添加効果(ポスター)

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎

日本セラミックス協会 2013 年年会 1P070 (東京 2013年 3月)

第 4章

(1) 放射光を用いたスズリン酸塩ガラスの構造解析

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎小原真二臼杵毅

日本セラミックス協会第 27 回秋季シンポジウム 2B22 (鹿児島市 2014年 9 月)

(2) Structural analysis of tin phosphate glasses by synchrotron radiation (Poster)

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba Shinji Kohara Takeshi Usuki

International Congress on Glass ICG Annual Meeting Bangkok 2015 P14-138 p186 (2015)

発表論文

(1) Effect of Nb2O5 addition to SnO- P2O5 glass

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

Journal of the Ceramic Society of Japan Vol 120 No 11 pp530-533 (2012)

(2) Structural analysis of SnO- P2O5 glass

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

Journal of the Ceramic Society of Japan(準備中)

80

謝辞

本研究を遂行するにあたり終始暖かいご指導ご助言並びにご鞭撻を賜わりました岡

山大学大学院環境生命科学研究科 難波徳郎教授に心より感謝の意を表します

また本研究を遂行するにあたり懇切丁寧なご指導とご意見をしていただいた岡山大

学大学院環境生命科学研究科 紅野安彦准教授環境環理センター 崎田真一助教に心より

感謝いたします

本研究を遂行するにあたりラマン分光測定の使用についてご助言ご教授して頂い

た岡山大学自然科学研究科 藤井達生教授中西真助教に心より感謝の意を表します

Sn のメスバウアー測定の際に協力して頂いた岡山大学自然科学研究科先端自然科学教

育研究推進本部高田研究室 松本修治特任助教(当時旭硝子株式会社中央研究所)また

Feのメスバウアーを測定の際に協力して頂いた岡山大学自然科学研究科 藤井達生教授に

心より感謝の意を表します

固体 NMR の岡山大学自然科学研究科 早川聡教授に心より感謝の意を表します

本研究を遂行するにあたりSPring-8 にてHEXRD および AXS 法の測定法および原理

についてご教示頂きました物質材料研究機構 小原真司博士ならびに山形大学 臼杵毅

教授に心より感謝の意を表します

本研究は多くの後輩諸君の協力によって遂行されました特に実際に共同研究共同

実験を遂行して頂いたOG 藤原沙弥香さん博士前期課程 2 年 東利彦君OB 徳岡太誠

君学士課程 4年 塩田将大君に心より感謝の意を表しますまた難波研究室で共に研

究生活を過ごした卒業生在学生の方々に感謝の意を表します

また同時期に博士後期課程に在籍された香川高等専門学校の桟敷剛さんにはNbに

関する有益な情報だけでなく辛い状況でも励ましを頂きました心より感謝の意を表し

ます

最後に長きに渡る学生生活を認め経済面だけでなく精神面でも支援してくださった

家族に心より深く感謝の意を表します

平成 28年 3月

福井 聡史

Page 69: 博士論文 スズリン酸塩系ガラスの物性と構造解析ousar.lib.okayama-u.ac.jp/files/public/5/54353/...博士論文 スズリン酸塩系ガラスの物性と構造解析

66

Fig 44 Sn2P2O7 Sn3P2O8結晶の RDF

Table 42 Sn2P2O7 Sn3P2O8結晶の各 pairの第一近接距離

67

Fig 45 得られた実測 HEXRDの S(Q)

68

Fig 46 Sn の異常散乱測定により得られた散乱強度のエネルギー依存性

(a)67S33P (b)60S40P

69

Fig 47 全相関関数 T(r)

太線 HEXRD より

細線 Sn の AXSより

70

Fig 48 67S5N28P ガラス構造のモデル

71

Fig 49 RMC フィッティングの結果

72

Tab

le 4

3 各

pairの平均配位数角度結合距離

73

Fig

4

10

67

S5

N2

8Pガラスの各多面体モデル

74

Tab

le 4

4 各

pairの結合様式

75

Fig 411 67S5N28P ガラスの構造モデル

76

Table 45 平均 BO 各数 nの比較

Fig 412 50S50P ガラスの構造モデル

77

第 5章 総括

本研究ではSP ガラスを対象とした本研究では鉛フリー代替ガラスまたは希土類フ

リー蛍光体として SP ガラスの新規高機能化を将来的に目指し問題点であるldquo化学的耐久

性rdquoの改善につながる知見を得ることを目的としたそこでまずSP ガラスを母体ガラ

スとし第三成分に Nb2O5を添加した Sn-Nb-P SNP ガラスZnO を添加した SZP ガラスを

作製し耐水性を中心とした物性評価を行った次に分光学的手法で構造解析を行い

Qn 分布を導き出した最後に放射光を用いた構造解析を行い耐水性改善に関する構造的

な考察を行った以下に本研究で行った検討内容を示す

(1)SPガラスおよび第三成分Nb2O5 ZnOを添加した三成分系SPガラスの物性評価(第 2章)

(2)SP 系ガラスの分光学的手法による Qn分布導出(第 3章)

(3)放射光を用いた SP 系ガラスの構造解析構造と耐水性改善の関連について(第 4章)

各章についてまとめた結果を以下に示す

第 2章

第 2章では二成分系および三成分系のリン酸塩系ガラスの各種物性(密度や熱的特性

耐水性)の評価を行った二成分系ではSP ガラスに加え良好な耐水性を有する鉄リン

酸塩(Fe2O3-P2O5)系ガラス(以下 FP ガラス)を比較のために三成分系では二成分系

の SP ガラスに Nb2O5を添加したニオブ含有 SP ガラス(SNP ガラス)および ZnO を添加し

た亜鉛含有 SP ガラス(SZP ガラス)を作製した

今回作製した SP 系ガラスは低ガラス転移温度を有していた各組成の温度域はSP

ガラスTg le 280 Sn-Nb-P SNPガラスTg le 3505SZP S5ZPガラスTg ≦ 450であった

各種 SP ガラスの耐水性試験の結果二成分系の SP ガラスよりも三成分系ガラスの方が

良好な耐水性を有していた65Sn-5Nb-30P 67S5N28P ガラスが最も耐水性が良好であり化

学的耐久性の改善には Nb2O5が ZnOよりも効果的であった

組成と耐水性に関してはDRおよび重量減がOP増加で単調に低下した結果が得られた

つまり耐水性を改善させるにはSP 系ガラスのガラス化範囲を拡大かつ OP を増大させ

る第三成分の添加が有効であることが示唆された

第 3章

第 3章ではSP 系ガラスの分光学的手法による Qn分布の導出を行ったラマン分光法を

用いて各ガラス系のリン酸塩アニオンの構造を簡易定量で評価し組成と構造の関係に

ついて考察した平均 BO 数 n と耐水性に関してはDR および重量減が平均 BO 数 nの減

少で単調に低下することが明らかとなった

平均 BO 数 n と OP の関係より耐水性改善には平均 BO 数 n を下げることそして

OP を上げることが重要であることが明らかになった

78

Nb5+の添加は平均 BO数を減少させるだけでなくOP も上げることからガラス構造

内の P-O-P 結合を減少させ水和反応加水分解反応が抑制され耐水性が大幅に改善さ

れることが示唆された故にNb2O5 のような高価数金属酸化物を添加することが効果的

であることが再度確認された

第 4章

耐水性向上についてより深く評価するためSP SNP ガラスの局所構造に関する知見を得

ることを目的に放射光を用いた構造解析を行った高エネルギーX 線回折(HEXRD)お

よび X 線異常散乱(AXS)法で測定したデータを再現する構造モデルを逆モンテカルロ

(RMC)シミュレーションで構築し構造解析を行った

RMC モデル中の PON多面体に関して平均配位数 Nが 4および P-O の平均結合距離が約

160Å平均結合角度angO-P-Oが約 109degという結果が得られた組成による大きな違いは確

認されなかったSnON多面体については平均配位数 N が 3~4 でSnO 量の増加に伴い 4

に近い値となった平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約 22Åで組成

による大きな変化は見られなかった

Nb2O5を 5 mol添加したガラスではNbON多面体の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平

均配位数N約4Nb-O平均結合距離約20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O

(約 105deg)と値が近いことまた6配位ではなく 4配位として主に存在していることから

SnO と同じような網目形成体として働いていると推測されたまた結合距離が Sn-O が約

22Åに対し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強

固にしていると考えられるまたSnO 量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体

的に各多面体同士の頂点共有が増えていることから耐水性の改善には頂点共有を多く

含む構造もしくは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的であること

が示唆された以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性

耐候性を改善した要因として考えられる

またAXS 法の有効性についても確認し効果的であることが判明したただし今回

は主成分が Snの組成のガラスでありHEXRD でも十分に詳細な Snの周辺構造が得られ

たためAXSを利用した場合との大きな構造の差は認められなかった

本研究では様々な優れた特徴を有する SP ガラスにおける耐水性改善のメカニズムにつ

いて検討を行ったこの系のガラスについてはこれまでほとんど利用されていなかった

放射光を用いた構造解析を駆使し第三成分の添加によってどのような構造的変化が生じ

耐水性を改善させるか新たな知見を得ることができた最終目標である機能性ガラスの

開発における新たなる材料設計指針の確立に対してldquo耐水性rdquoに関しては概ね明らかにな

ったと考えられる一方で今回検討していな電子状態化学結合性についても評価する

ことで溶出メカニズムの解明が可能になり材料設計指針の確立が期待される

79

発表論文リスト

口頭発表

第 2章および第 3章

(1) SnO-P2O5 系ガラスへの酸化物添加効果

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎

日本セラミックス協会第 25 回秋季シンポジウム No3C06 (名古屋市 2012年 9月)

(2) Effect of Nb2O5 addition to SnO-P2O5 glass (Poster)

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

International Union of Materials Research Societies International Conference on Electronic

Materials IUMRS-ICEM 2012 A-9-P26-003 (Yokohama 2012 年 9月)

(3) スズリン酸塩系ガラスの蛍光特性耐水性に及ばす酸化物の添加効果(ポスター)

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎

日本セラミックス協会 2013 年年会 1P070 (東京 2013年 3月)

第 4章

(1) 放射光を用いたスズリン酸塩ガラスの構造解析

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎小原真二臼杵毅

日本セラミックス協会第 27 回秋季シンポジウム 2B22 (鹿児島市 2014年 9 月)

(2) Structural analysis of tin phosphate glasses by synchrotron radiation (Poster)

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba Shinji Kohara Takeshi Usuki

International Congress on Glass ICG Annual Meeting Bangkok 2015 P14-138 p186 (2015)

発表論文

(1) Effect of Nb2O5 addition to SnO- P2O5 glass

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

Journal of the Ceramic Society of Japan Vol 120 No 11 pp530-533 (2012)

(2) Structural analysis of SnO- P2O5 glass

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

Journal of the Ceramic Society of Japan(準備中)

80

謝辞

本研究を遂行するにあたり終始暖かいご指導ご助言並びにご鞭撻を賜わりました岡

山大学大学院環境生命科学研究科 難波徳郎教授に心より感謝の意を表します

また本研究を遂行するにあたり懇切丁寧なご指導とご意見をしていただいた岡山大

学大学院環境生命科学研究科 紅野安彦准教授環境環理センター 崎田真一助教に心より

感謝いたします

本研究を遂行するにあたりラマン分光測定の使用についてご助言ご教授して頂い

た岡山大学自然科学研究科 藤井達生教授中西真助教に心より感謝の意を表します

Sn のメスバウアー測定の際に協力して頂いた岡山大学自然科学研究科先端自然科学教

育研究推進本部高田研究室 松本修治特任助教(当時旭硝子株式会社中央研究所)また

Feのメスバウアーを測定の際に協力して頂いた岡山大学自然科学研究科 藤井達生教授に

心より感謝の意を表します

固体 NMR の岡山大学自然科学研究科 早川聡教授に心より感謝の意を表します

本研究を遂行するにあたりSPring-8 にてHEXRD および AXS 法の測定法および原理

についてご教示頂きました物質材料研究機構 小原真司博士ならびに山形大学 臼杵毅

教授に心より感謝の意を表します

本研究は多くの後輩諸君の協力によって遂行されました特に実際に共同研究共同

実験を遂行して頂いたOG 藤原沙弥香さん博士前期課程 2 年 東利彦君OB 徳岡太誠

君学士課程 4年 塩田将大君に心より感謝の意を表しますまた難波研究室で共に研

究生活を過ごした卒業生在学生の方々に感謝の意を表します

また同時期に博士後期課程に在籍された香川高等専門学校の桟敷剛さんにはNbに

関する有益な情報だけでなく辛い状況でも励ましを頂きました心より感謝の意を表し

ます

最後に長きに渡る学生生活を認め経済面だけでなく精神面でも支援してくださった

家族に心より深く感謝の意を表します

平成 28年 3月

福井 聡史

Page 70: 博士論文 スズリン酸塩系ガラスの物性と構造解析ousar.lib.okayama-u.ac.jp/files/public/5/54353/...博士論文 スズリン酸塩系ガラスの物性と構造解析

67

Fig 45 得られた実測 HEXRDの S(Q)

68

Fig 46 Sn の異常散乱測定により得られた散乱強度のエネルギー依存性

(a)67S33P (b)60S40P

69

Fig 47 全相関関数 T(r)

太線 HEXRD より

細線 Sn の AXSより

70

Fig 48 67S5N28P ガラス構造のモデル

71

Fig 49 RMC フィッティングの結果

72

Tab

le 4

3 各

pairの平均配位数角度結合距離

73

Fig

4

10

67

S5

N2

8Pガラスの各多面体モデル

74

Tab

le 4

4 各

pairの結合様式

75

Fig 411 67S5N28P ガラスの構造モデル

76

Table 45 平均 BO 各数 nの比較

Fig 412 50S50P ガラスの構造モデル

77

第 5章 総括

本研究ではSP ガラスを対象とした本研究では鉛フリー代替ガラスまたは希土類フ

リー蛍光体として SP ガラスの新規高機能化を将来的に目指し問題点であるldquo化学的耐久

性rdquoの改善につながる知見を得ることを目的としたそこでまずSP ガラスを母体ガラ

スとし第三成分に Nb2O5を添加した Sn-Nb-P SNP ガラスZnO を添加した SZP ガラスを

作製し耐水性を中心とした物性評価を行った次に分光学的手法で構造解析を行い

Qn 分布を導き出した最後に放射光を用いた構造解析を行い耐水性改善に関する構造的

な考察を行った以下に本研究で行った検討内容を示す

(1)SPガラスおよび第三成分Nb2O5 ZnOを添加した三成分系SPガラスの物性評価(第 2章)

(2)SP 系ガラスの分光学的手法による Qn分布導出(第 3章)

(3)放射光を用いた SP 系ガラスの構造解析構造と耐水性改善の関連について(第 4章)

各章についてまとめた結果を以下に示す

第 2章

第 2章では二成分系および三成分系のリン酸塩系ガラスの各種物性(密度や熱的特性

耐水性)の評価を行った二成分系ではSP ガラスに加え良好な耐水性を有する鉄リン

酸塩(Fe2O3-P2O5)系ガラス(以下 FP ガラス)を比較のために三成分系では二成分系

の SP ガラスに Nb2O5を添加したニオブ含有 SP ガラス(SNP ガラス)および ZnO を添加し

た亜鉛含有 SP ガラス(SZP ガラス)を作製した

今回作製した SP 系ガラスは低ガラス転移温度を有していた各組成の温度域はSP

ガラスTg le 280 Sn-Nb-P SNPガラスTg le 3505SZP S5ZPガラスTg ≦ 450であった

各種 SP ガラスの耐水性試験の結果二成分系の SP ガラスよりも三成分系ガラスの方が

良好な耐水性を有していた65Sn-5Nb-30P 67S5N28P ガラスが最も耐水性が良好であり化

学的耐久性の改善には Nb2O5が ZnOよりも効果的であった

組成と耐水性に関してはDRおよび重量減がOP増加で単調に低下した結果が得られた

つまり耐水性を改善させるにはSP 系ガラスのガラス化範囲を拡大かつ OP を増大させ

る第三成分の添加が有効であることが示唆された

第 3章

第 3章ではSP 系ガラスの分光学的手法による Qn分布の導出を行ったラマン分光法を

用いて各ガラス系のリン酸塩アニオンの構造を簡易定量で評価し組成と構造の関係に

ついて考察した平均 BO 数 n と耐水性に関してはDR および重量減が平均 BO 数 nの減

少で単調に低下することが明らかとなった

平均 BO 数 n と OP の関係より耐水性改善には平均 BO 数 n を下げることそして

OP を上げることが重要であることが明らかになった

78

Nb5+の添加は平均 BO数を減少させるだけでなくOP も上げることからガラス構造

内の P-O-P 結合を減少させ水和反応加水分解反応が抑制され耐水性が大幅に改善さ

れることが示唆された故にNb2O5 のような高価数金属酸化物を添加することが効果的

であることが再度確認された

第 4章

耐水性向上についてより深く評価するためSP SNP ガラスの局所構造に関する知見を得

ることを目的に放射光を用いた構造解析を行った高エネルギーX 線回折(HEXRD)お

よび X 線異常散乱(AXS)法で測定したデータを再現する構造モデルを逆モンテカルロ

(RMC)シミュレーションで構築し構造解析を行った

RMC モデル中の PON多面体に関して平均配位数 Nが 4および P-O の平均結合距離が約

160Å平均結合角度angO-P-Oが約 109degという結果が得られた組成による大きな違いは確

認されなかったSnON多面体については平均配位数 N が 3~4 でSnO 量の増加に伴い 4

に近い値となった平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約 22Åで組成

による大きな変化は見られなかった

Nb2O5を 5 mol添加したガラスではNbON多面体の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平

均配位数N約4Nb-O平均結合距離約20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O

(約 105deg)と値が近いことまた6配位ではなく 4配位として主に存在していることから

SnO と同じような網目形成体として働いていると推測されたまた結合距離が Sn-O が約

22Åに対し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強

固にしていると考えられるまたSnO 量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体

的に各多面体同士の頂点共有が増えていることから耐水性の改善には頂点共有を多く

含む構造もしくは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的であること

が示唆された以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性

耐候性を改善した要因として考えられる

またAXS 法の有効性についても確認し効果的であることが判明したただし今回

は主成分が Snの組成のガラスでありHEXRD でも十分に詳細な Snの周辺構造が得られ

たためAXSを利用した場合との大きな構造の差は認められなかった

本研究では様々な優れた特徴を有する SP ガラスにおける耐水性改善のメカニズムにつ

いて検討を行ったこの系のガラスについてはこれまでほとんど利用されていなかった

放射光を用いた構造解析を駆使し第三成分の添加によってどのような構造的変化が生じ

耐水性を改善させるか新たな知見を得ることができた最終目標である機能性ガラスの

開発における新たなる材料設計指針の確立に対してldquo耐水性rdquoに関しては概ね明らかにな

ったと考えられる一方で今回検討していな電子状態化学結合性についても評価する

ことで溶出メカニズムの解明が可能になり材料設計指針の確立が期待される

79

発表論文リスト

口頭発表

第 2章および第 3章

(1) SnO-P2O5 系ガラスへの酸化物添加効果

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎

日本セラミックス協会第 25 回秋季シンポジウム No3C06 (名古屋市 2012年 9月)

(2) Effect of Nb2O5 addition to SnO-P2O5 glass (Poster)

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

International Union of Materials Research Societies International Conference on Electronic

Materials IUMRS-ICEM 2012 A-9-P26-003 (Yokohama 2012 年 9月)

(3) スズリン酸塩系ガラスの蛍光特性耐水性に及ばす酸化物の添加効果(ポスター)

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎

日本セラミックス協会 2013 年年会 1P070 (東京 2013年 3月)

第 4章

(1) 放射光を用いたスズリン酸塩ガラスの構造解析

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎小原真二臼杵毅

日本セラミックス協会第 27 回秋季シンポジウム 2B22 (鹿児島市 2014年 9 月)

(2) Structural analysis of tin phosphate glasses by synchrotron radiation (Poster)

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba Shinji Kohara Takeshi Usuki

International Congress on Glass ICG Annual Meeting Bangkok 2015 P14-138 p186 (2015)

発表論文

(1) Effect of Nb2O5 addition to SnO- P2O5 glass

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

Journal of the Ceramic Society of Japan Vol 120 No 11 pp530-533 (2012)

(2) Structural analysis of SnO- P2O5 glass

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

Journal of the Ceramic Society of Japan(準備中)

80

謝辞

本研究を遂行するにあたり終始暖かいご指導ご助言並びにご鞭撻を賜わりました岡

山大学大学院環境生命科学研究科 難波徳郎教授に心より感謝の意を表します

また本研究を遂行するにあたり懇切丁寧なご指導とご意見をしていただいた岡山大

学大学院環境生命科学研究科 紅野安彦准教授環境環理センター 崎田真一助教に心より

感謝いたします

本研究を遂行するにあたりラマン分光測定の使用についてご助言ご教授して頂い

た岡山大学自然科学研究科 藤井達生教授中西真助教に心より感謝の意を表します

Sn のメスバウアー測定の際に協力して頂いた岡山大学自然科学研究科先端自然科学教

育研究推進本部高田研究室 松本修治特任助教(当時旭硝子株式会社中央研究所)また

Feのメスバウアーを測定の際に協力して頂いた岡山大学自然科学研究科 藤井達生教授に

心より感謝の意を表します

固体 NMR の岡山大学自然科学研究科 早川聡教授に心より感謝の意を表します

本研究を遂行するにあたりSPring-8 にてHEXRD および AXS 法の測定法および原理

についてご教示頂きました物質材料研究機構 小原真司博士ならびに山形大学 臼杵毅

教授に心より感謝の意を表します

本研究は多くの後輩諸君の協力によって遂行されました特に実際に共同研究共同

実験を遂行して頂いたOG 藤原沙弥香さん博士前期課程 2 年 東利彦君OB 徳岡太誠

君学士課程 4年 塩田将大君に心より感謝の意を表しますまた難波研究室で共に研

究生活を過ごした卒業生在学生の方々に感謝の意を表します

また同時期に博士後期課程に在籍された香川高等専門学校の桟敷剛さんにはNbに

関する有益な情報だけでなく辛い状況でも励ましを頂きました心より感謝の意を表し

ます

最後に長きに渡る学生生活を認め経済面だけでなく精神面でも支援してくださった

家族に心より深く感謝の意を表します

平成 28年 3月

福井 聡史

Page 71: 博士論文 スズリン酸塩系ガラスの物性と構造解析ousar.lib.okayama-u.ac.jp/files/public/5/54353/...博士論文 スズリン酸塩系ガラスの物性と構造解析

68

Fig 46 Sn の異常散乱測定により得られた散乱強度のエネルギー依存性

(a)67S33P (b)60S40P

69

Fig 47 全相関関数 T(r)

太線 HEXRD より

細線 Sn の AXSより

70

Fig 48 67S5N28P ガラス構造のモデル

71

Fig 49 RMC フィッティングの結果

72

Tab

le 4

3 各

pairの平均配位数角度結合距離

73

Fig

4

10

67

S5

N2

8Pガラスの各多面体モデル

74

Tab

le 4

4 各

pairの結合様式

75

Fig 411 67S5N28P ガラスの構造モデル

76

Table 45 平均 BO 各数 nの比較

Fig 412 50S50P ガラスの構造モデル

77

第 5章 総括

本研究ではSP ガラスを対象とした本研究では鉛フリー代替ガラスまたは希土類フ

リー蛍光体として SP ガラスの新規高機能化を将来的に目指し問題点であるldquo化学的耐久

性rdquoの改善につながる知見を得ることを目的としたそこでまずSP ガラスを母体ガラ

スとし第三成分に Nb2O5を添加した Sn-Nb-P SNP ガラスZnO を添加した SZP ガラスを

作製し耐水性を中心とした物性評価を行った次に分光学的手法で構造解析を行い

Qn 分布を導き出した最後に放射光を用いた構造解析を行い耐水性改善に関する構造的

な考察を行った以下に本研究で行った検討内容を示す

(1)SPガラスおよび第三成分Nb2O5 ZnOを添加した三成分系SPガラスの物性評価(第 2章)

(2)SP 系ガラスの分光学的手法による Qn分布導出(第 3章)

(3)放射光を用いた SP 系ガラスの構造解析構造と耐水性改善の関連について(第 4章)

各章についてまとめた結果を以下に示す

第 2章

第 2章では二成分系および三成分系のリン酸塩系ガラスの各種物性(密度や熱的特性

耐水性)の評価を行った二成分系ではSP ガラスに加え良好な耐水性を有する鉄リン

酸塩(Fe2O3-P2O5)系ガラス(以下 FP ガラス)を比較のために三成分系では二成分系

の SP ガラスに Nb2O5を添加したニオブ含有 SP ガラス(SNP ガラス)および ZnO を添加し

た亜鉛含有 SP ガラス(SZP ガラス)を作製した

今回作製した SP 系ガラスは低ガラス転移温度を有していた各組成の温度域はSP

ガラスTg le 280 Sn-Nb-P SNPガラスTg le 3505SZP S5ZPガラスTg ≦ 450であった

各種 SP ガラスの耐水性試験の結果二成分系の SP ガラスよりも三成分系ガラスの方が

良好な耐水性を有していた65Sn-5Nb-30P 67S5N28P ガラスが最も耐水性が良好であり化

学的耐久性の改善には Nb2O5が ZnOよりも効果的であった

組成と耐水性に関してはDRおよび重量減がOP増加で単調に低下した結果が得られた

つまり耐水性を改善させるにはSP 系ガラスのガラス化範囲を拡大かつ OP を増大させ

る第三成分の添加が有効であることが示唆された

第 3章

第 3章ではSP 系ガラスの分光学的手法による Qn分布の導出を行ったラマン分光法を

用いて各ガラス系のリン酸塩アニオンの構造を簡易定量で評価し組成と構造の関係に

ついて考察した平均 BO 数 n と耐水性に関してはDR および重量減が平均 BO 数 nの減

少で単調に低下することが明らかとなった

平均 BO 数 n と OP の関係より耐水性改善には平均 BO 数 n を下げることそして

OP を上げることが重要であることが明らかになった

78

Nb5+の添加は平均 BO数を減少させるだけでなくOP も上げることからガラス構造

内の P-O-P 結合を減少させ水和反応加水分解反応が抑制され耐水性が大幅に改善さ

れることが示唆された故にNb2O5 のような高価数金属酸化物を添加することが効果的

であることが再度確認された

第 4章

耐水性向上についてより深く評価するためSP SNP ガラスの局所構造に関する知見を得

ることを目的に放射光を用いた構造解析を行った高エネルギーX 線回折(HEXRD)お

よび X 線異常散乱(AXS)法で測定したデータを再現する構造モデルを逆モンテカルロ

(RMC)シミュレーションで構築し構造解析を行った

RMC モデル中の PON多面体に関して平均配位数 Nが 4および P-O の平均結合距離が約

160Å平均結合角度angO-P-Oが約 109degという結果が得られた組成による大きな違いは確

認されなかったSnON多面体については平均配位数 N が 3~4 でSnO 量の増加に伴い 4

に近い値となった平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約 22Åで組成

による大きな変化は見られなかった

Nb2O5を 5 mol添加したガラスではNbON多面体の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平

均配位数N約4Nb-O平均結合距離約20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O

(約 105deg)と値が近いことまた6配位ではなく 4配位として主に存在していることから

SnO と同じような網目形成体として働いていると推測されたまた結合距離が Sn-O が約

22Åに対し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強

固にしていると考えられるまたSnO 量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体

的に各多面体同士の頂点共有が増えていることから耐水性の改善には頂点共有を多く

含む構造もしくは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的であること

が示唆された以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性

耐候性を改善した要因として考えられる

またAXS 法の有効性についても確認し効果的であることが判明したただし今回

は主成分が Snの組成のガラスでありHEXRD でも十分に詳細な Snの周辺構造が得られ

たためAXSを利用した場合との大きな構造の差は認められなかった

本研究では様々な優れた特徴を有する SP ガラスにおける耐水性改善のメカニズムにつ

いて検討を行ったこの系のガラスについてはこれまでほとんど利用されていなかった

放射光を用いた構造解析を駆使し第三成分の添加によってどのような構造的変化が生じ

耐水性を改善させるか新たな知見を得ることができた最終目標である機能性ガラスの

開発における新たなる材料設計指針の確立に対してldquo耐水性rdquoに関しては概ね明らかにな

ったと考えられる一方で今回検討していな電子状態化学結合性についても評価する

ことで溶出メカニズムの解明が可能になり材料設計指針の確立が期待される

79

発表論文リスト

口頭発表

第 2章および第 3章

(1) SnO-P2O5 系ガラスへの酸化物添加効果

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎

日本セラミックス協会第 25 回秋季シンポジウム No3C06 (名古屋市 2012年 9月)

(2) Effect of Nb2O5 addition to SnO-P2O5 glass (Poster)

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

International Union of Materials Research Societies International Conference on Electronic

Materials IUMRS-ICEM 2012 A-9-P26-003 (Yokohama 2012 年 9月)

(3) スズリン酸塩系ガラスの蛍光特性耐水性に及ばす酸化物の添加効果(ポスター)

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎

日本セラミックス協会 2013 年年会 1P070 (東京 2013年 3月)

第 4章

(1) 放射光を用いたスズリン酸塩ガラスの構造解析

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎小原真二臼杵毅

日本セラミックス協会第 27 回秋季シンポジウム 2B22 (鹿児島市 2014年 9 月)

(2) Structural analysis of tin phosphate glasses by synchrotron radiation (Poster)

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba Shinji Kohara Takeshi Usuki

International Congress on Glass ICG Annual Meeting Bangkok 2015 P14-138 p186 (2015)

発表論文

(1) Effect of Nb2O5 addition to SnO- P2O5 glass

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

Journal of the Ceramic Society of Japan Vol 120 No 11 pp530-533 (2012)

(2) Structural analysis of SnO- P2O5 glass

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

Journal of the Ceramic Society of Japan(準備中)

80

謝辞

本研究を遂行するにあたり終始暖かいご指導ご助言並びにご鞭撻を賜わりました岡

山大学大学院環境生命科学研究科 難波徳郎教授に心より感謝の意を表します

また本研究を遂行するにあたり懇切丁寧なご指導とご意見をしていただいた岡山大

学大学院環境生命科学研究科 紅野安彦准教授環境環理センター 崎田真一助教に心より

感謝いたします

本研究を遂行するにあたりラマン分光測定の使用についてご助言ご教授して頂い

た岡山大学自然科学研究科 藤井達生教授中西真助教に心より感謝の意を表します

Sn のメスバウアー測定の際に協力して頂いた岡山大学自然科学研究科先端自然科学教

育研究推進本部高田研究室 松本修治特任助教(当時旭硝子株式会社中央研究所)また

Feのメスバウアーを測定の際に協力して頂いた岡山大学自然科学研究科 藤井達生教授に

心より感謝の意を表します

固体 NMR の岡山大学自然科学研究科 早川聡教授に心より感謝の意を表します

本研究を遂行するにあたりSPring-8 にてHEXRD および AXS 法の測定法および原理

についてご教示頂きました物質材料研究機構 小原真司博士ならびに山形大学 臼杵毅

教授に心より感謝の意を表します

本研究は多くの後輩諸君の協力によって遂行されました特に実際に共同研究共同

実験を遂行して頂いたOG 藤原沙弥香さん博士前期課程 2 年 東利彦君OB 徳岡太誠

君学士課程 4年 塩田将大君に心より感謝の意を表しますまた難波研究室で共に研

究生活を過ごした卒業生在学生の方々に感謝の意を表します

また同時期に博士後期課程に在籍された香川高等専門学校の桟敷剛さんにはNbに

関する有益な情報だけでなく辛い状況でも励ましを頂きました心より感謝の意を表し

ます

最後に長きに渡る学生生活を認め経済面だけでなく精神面でも支援してくださった

家族に心より深く感謝の意を表します

平成 28年 3月

福井 聡史

Page 72: 博士論文 スズリン酸塩系ガラスの物性と構造解析ousar.lib.okayama-u.ac.jp/files/public/5/54353/...博士論文 スズリン酸塩系ガラスの物性と構造解析

69

Fig 47 全相関関数 T(r)

太線 HEXRD より

細線 Sn の AXSより

70

Fig 48 67S5N28P ガラス構造のモデル

71

Fig 49 RMC フィッティングの結果

72

Tab

le 4

3 各

pairの平均配位数角度結合距離

73

Fig

4

10

67

S5

N2

8Pガラスの各多面体モデル

74

Tab

le 4

4 各

pairの結合様式

75

Fig 411 67S5N28P ガラスの構造モデル

76

Table 45 平均 BO 各数 nの比較

Fig 412 50S50P ガラスの構造モデル

77

第 5章 総括

本研究ではSP ガラスを対象とした本研究では鉛フリー代替ガラスまたは希土類フ

リー蛍光体として SP ガラスの新規高機能化を将来的に目指し問題点であるldquo化学的耐久

性rdquoの改善につながる知見を得ることを目的としたそこでまずSP ガラスを母体ガラ

スとし第三成分に Nb2O5を添加した Sn-Nb-P SNP ガラスZnO を添加した SZP ガラスを

作製し耐水性を中心とした物性評価を行った次に分光学的手法で構造解析を行い

Qn 分布を導き出した最後に放射光を用いた構造解析を行い耐水性改善に関する構造的

な考察を行った以下に本研究で行った検討内容を示す

(1)SPガラスおよび第三成分Nb2O5 ZnOを添加した三成分系SPガラスの物性評価(第 2章)

(2)SP 系ガラスの分光学的手法による Qn分布導出(第 3章)

(3)放射光を用いた SP 系ガラスの構造解析構造と耐水性改善の関連について(第 4章)

各章についてまとめた結果を以下に示す

第 2章

第 2章では二成分系および三成分系のリン酸塩系ガラスの各種物性(密度や熱的特性

耐水性)の評価を行った二成分系ではSP ガラスに加え良好な耐水性を有する鉄リン

酸塩(Fe2O3-P2O5)系ガラス(以下 FP ガラス)を比較のために三成分系では二成分系

の SP ガラスに Nb2O5を添加したニオブ含有 SP ガラス(SNP ガラス)および ZnO を添加し

た亜鉛含有 SP ガラス(SZP ガラス)を作製した

今回作製した SP 系ガラスは低ガラス転移温度を有していた各組成の温度域はSP

ガラスTg le 280 Sn-Nb-P SNPガラスTg le 3505SZP S5ZPガラスTg ≦ 450であった

各種 SP ガラスの耐水性試験の結果二成分系の SP ガラスよりも三成分系ガラスの方が

良好な耐水性を有していた65Sn-5Nb-30P 67S5N28P ガラスが最も耐水性が良好であり化

学的耐久性の改善には Nb2O5が ZnOよりも効果的であった

組成と耐水性に関してはDRおよび重量減がOP増加で単調に低下した結果が得られた

つまり耐水性を改善させるにはSP 系ガラスのガラス化範囲を拡大かつ OP を増大させ

る第三成分の添加が有効であることが示唆された

第 3章

第 3章ではSP 系ガラスの分光学的手法による Qn分布の導出を行ったラマン分光法を

用いて各ガラス系のリン酸塩アニオンの構造を簡易定量で評価し組成と構造の関係に

ついて考察した平均 BO 数 n と耐水性に関してはDR および重量減が平均 BO 数 nの減

少で単調に低下することが明らかとなった

平均 BO 数 n と OP の関係より耐水性改善には平均 BO 数 n を下げることそして

OP を上げることが重要であることが明らかになった

78

Nb5+の添加は平均 BO数を減少させるだけでなくOP も上げることからガラス構造

内の P-O-P 結合を減少させ水和反応加水分解反応が抑制され耐水性が大幅に改善さ

れることが示唆された故にNb2O5 のような高価数金属酸化物を添加することが効果的

であることが再度確認された

第 4章

耐水性向上についてより深く評価するためSP SNP ガラスの局所構造に関する知見を得

ることを目的に放射光を用いた構造解析を行った高エネルギーX 線回折(HEXRD)お

よび X 線異常散乱(AXS)法で測定したデータを再現する構造モデルを逆モンテカルロ

(RMC)シミュレーションで構築し構造解析を行った

RMC モデル中の PON多面体に関して平均配位数 Nが 4および P-O の平均結合距離が約

160Å平均結合角度angO-P-Oが約 109degという結果が得られた組成による大きな違いは確

認されなかったSnON多面体については平均配位数 N が 3~4 でSnO 量の増加に伴い 4

に近い値となった平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約 22Åで組成

による大きな変化は見られなかった

Nb2O5を 5 mol添加したガラスではNbON多面体の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平

均配位数N約4Nb-O平均結合距離約20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O

(約 105deg)と値が近いことまた6配位ではなく 4配位として主に存在していることから

SnO と同じような網目形成体として働いていると推測されたまた結合距離が Sn-O が約

22Åに対し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強

固にしていると考えられるまたSnO 量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体

的に各多面体同士の頂点共有が増えていることから耐水性の改善には頂点共有を多く

含む構造もしくは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的であること

が示唆された以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性

耐候性を改善した要因として考えられる

またAXS 法の有効性についても確認し効果的であることが判明したただし今回

は主成分が Snの組成のガラスでありHEXRD でも十分に詳細な Snの周辺構造が得られ

たためAXSを利用した場合との大きな構造の差は認められなかった

本研究では様々な優れた特徴を有する SP ガラスにおける耐水性改善のメカニズムにつ

いて検討を行ったこの系のガラスについてはこれまでほとんど利用されていなかった

放射光を用いた構造解析を駆使し第三成分の添加によってどのような構造的変化が生じ

耐水性を改善させるか新たな知見を得ることができた最終目標である機能性ガラスの

開発における新たなる材料設計指針の確立に対してldquo耐水性rdquoに関しては概ね明らかにな

ったと考えられる一方で今回検討していな電子状態化学結合性についても評価する

ことで溶出メカニズムの解明が可能になり材料設計指針の確立が期待される

79

発表論文リスト

口頭発表

第 2章および第 3章

(1) SnO-P2O5 系ガラスへの酸化物添加効果

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎

日本セラミックス協会第 25 回秋季シンポジウム No3C06 (名古屋市 2012年 9月)

(2) Effect of Nb2O5 addition to SnO-P2O5 glass (Poster)

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

International Union of Materials Research Societies International Conference on Electronic

Materials IUMRS-ICEM 2012 A-9-P26-003 (Yokohama 2012 年 9月)

(3) スズリン酸塩系ガラスの蛍光特性耐水性に及ばす酸化物の添加効果(ポスター)

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎

日本セラミックス協会 2013 年年会 1P070 (東京 2013年 3月)

第 4章

(1) 放射光を用いたスズリン酸塩ガラスの構造解析

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎小原真二臼杵毅

日本セラミックス協会第 27 回秋季シンポジウム 2B22 (鹿児島市 2014年 9 月)

(2) Structural analysis of tin phosphate glasses by synchrotron radiation (Poster)

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba Shinji Kohara Takeshi Usuki

International Congress on Glass ICG Annual Meeting Bangkok 2015 P14-138 p186 (2015)

発表論文

(1) Effect of Nb2O5 addition to SnO- P2O5 glass

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

Journal of the Ceramic Society of Japan Vol 120 No 11 pp530-533 (2012)

(2) Structural analysis of SnO- P2O5 glass

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

Journal of the Ceramic Society of Japan(準備中)

80

謝辞

本研究を遂行するにあたり終始暖かいご指導ご助言並びにご鞭撻を賜わりました岡

山大学大学院環境生命科学研究科 難波徳郎教授に心より感謝の意を表します

また本研究を遂行するにあたり懇切丁寧なご指導とご意見をしていただいた岡山大

学大学院環境生命科学研究科 紅野安彦准教授環境環理センター 崎田真一助教に心より

感謝いたします

本研究を遂行するにあたりラマン分光測定の使用についてご助言ご教授して頂い

た岡山大学自然科学研究科 藤井達生教授中西真助教に心より感謝の意を表します

Sn のメスバウアー測定の際に協力して頂いた岡山大学自然科学研究科先端自然科学教

育研究推進本部高田研究室 松本修治特任助教(当時旭硝子株式会社中央研究所)また

Feのメスバウアーを測定の際に協力して頂いた岡山大学自然科学研究科 藤井達生教授に

心より感謝の意を表します

固体 NMR の岡山大学自然科学研究科 早川聡教授に心より感謝の意を表します

本研究を遂行するにあたりSPring-8 にてHEXRD および AXS 法の測定法および原理

についてご教示頂きました物質材料研究機構 小原真司博士ならびに山形大学 臼杵毅

教授に心より感謝の意を表します

本研究は多くの後輩諸君の協力によって遂行されました特に実際に共同研究共同

実験を遂行して頂いたOG 藤原沙弥香さん博士前期課程 2 年 東利彦君OB 徳岡太誠

君学士課程 4年 塩田将大君に心より感謝の意を表しますまた難波研究室で共に研

究生活を過ごした卒業生在学生の方々に感謝の意を表します

また同時期に博士後期課程に在籍された香川高等専門学校の桟敷剛さんにはNbに

関する有益な情報だけでなく辛い状況でも励ましを頂きました心より感謝の意を表し

ます

最後に長きに渡る学生生活を認め経済面だけでなく精神面でも支援してくださった

家族に心より深く感謝の意を表します

平成 28年 3月

福井 聡史

Page 73: 博士論文 スズリン酸塩系ガラスの物性と構造解析ousar.lib.okayama-u.ac.jp/files/public/5/54353/...博士論文 スズリン酸塩系ガラスの物性と構造解析

70

Fig 48 67S5N28P ガラス構造のモデル

71

Fig 49 RMC フィッティングの結果

72

Tab

le 4

3 各

pairの平均配位数角度結合距離

73

Fig

4

10

67

S5

N2

8Pガラスの各多面体モデル

74

Tab

le 4

4 各

pairの結合様式

75

Fig 411 67S5N28P ガラスの構造モデル

76

Table 45 平均 BO 各数 nの比較

Fig 412 50S50P ガラスの構造モデル

77

第 5章 総括

本研究ではSP ガラスを対象とした本研究では鉛フリー代替ガラスまたは希土類フ

リー蛍光体として SP ガラスの新規高機能化を将来的に目指し問題点であるldquo化学的耐久

性rdquoの改善につながる知見を得ることを目的としたそこでまずSP ガラスを母体ガラ

スとし第三成分に Nb2O5を添加した Sn-Nb-P SNP ガラスZnO を添加した SZP ガラスを

作製し耐水性を中心とした物性評価を行った次に分光学的手法で構造解析を行い

Qn 分布を導き出した最後に放射光を用いた構造解析を行い耐水性改善に関する構造的

な考察を行った以下に本研究で行った検討内容を示す

(1)SPガラスおよび第三成分Nb2O5 ZnOを添加した三成分系SPガラスの物性評価(第 2章)

(2)SP 系ガラスの分光学的手法による Qn分布導出(第 3章)

(3)放射光を用いた SP 系ガラスの構造解析構造と耐水性改善の関連について(第 4章)

各章についてまとめた結果を以下に示す

第 2章

第 2章では二成分系および三成分系のリン酸塩系ガラスの各種物性(密度や熱的特性

耐水性)の評価を行った二成分系ではSP ガラスに加え良好な耐水性を有する鉄リン

酸塩(Fe2O3-P2O5)系ガラス(以下 FP ガラス)を比較のために三成分系では二成分系

の SP ガラスに Nb2O5を添加したニオブ含有 SP ガラス(SNP ガラス)および ZnO を添加し

た亜鉛含有 SP ガラス(SZP ガラス)を作製した

今回作製した SP 系ガラスは低ガラス転移温度を有していた各組成の温度域はSP

ガラスTg le 280 Sn-Nb-P SNPガラスTg le 3505SZP S5ZPガラスTg ≦ 450であった

各種 SP ガラスの耐水性試験の結果二成分系の SP ガラスよりも三成分系ガラスの方が

良好な耐水性を有していた65Sn-5Nb-30P 67S5N28P ガラスが最も耐水性が良好であり化

学的耐久性の改善には Nb2O5が ZnOよりも効果的であった

組成と耐水性に関してはDRおよび重量減がOP増加で単調に低下した結果が得られた

つまり耐水性を改善させるにはSP 系ガラスのガラス化範囲を拡大かつ OP を増大させ

る第三成分の添加が有効であることが示唆された

第 3章

第 3章ではSP 系ガラスの分光学的手法による Qn分布の導出を行ったラマン分光法を

用いて各ガラス系のリン酸塩アニオンの構造を簡易定量で評価し組成と構造の関係に

ついて考察した平均 BO 数 n と耐水性に関してはDR および重量減が平均 BO 数 nの減

少で単調に低下することが明らかとなった

平均 BO 数 n と OP の関係より耐水性改善には平均 BO 数 n を下げることそして

OP を上げることが重要であることが明らかになった

78

Nb5+の添加は平均 BO数を減少させるだけでなくOP も上げることからガラス構造

内の P-O-P 結合を減少させ水和反応加水分解反応が抑制され耐水性が大幅に改善さ

れることが示唆された故にNb2O5 のような高価数金属酸化物を添加することが効果的

であることが再度確認された

第 4章

耐水性向上についてより深く評価するためSP SNP ガラスの局所構造に関する知見を得

ることを目的に放射光を用いた構造解析を行った高エネルギーX 線回折(HEXRD)お

よび X 線異常散乱(AXS)法で測定したデータを再現する構造モデルを逆モンテカルロ

(RMC)シミュレーションで構築し構造解析を行った

RMC モデル中の PON多面体に関して平均配位数 Nが 4および P-O の平均結合距離が約

160Å平均結合角度angO-P-Oが約 109degという結果が得られた組成による大きな違いは確

認されなかったSnON多面体については平均配位数 N が 3~4 でSnO 量の増加に伴い 4

に近い値となった平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約 22Åで組成

による大きな変化は見られなかった

Nb2O5を 5 mol添加したガラスではNbON多面体の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平

均配位数N約4Nb-O平均結合距離約20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O

(約 105deg)と値が近いことまた6配位ではなく 4配位として主に存在していることから

SnO と同じような網目形成体として働いていると推測されたまた結合距離が Sn-O が約

22Åに対し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強

固にしていると考えられるまたSnO 量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体

的に各多面体同士の頂点共有が増えていることから耐水性の改善には頂点共有を多く

含む構造もしくは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的であること

が示唆された以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性

耐候性を改善した要因として考えられる

またAXS 法の有効性についても確認し効果的であることが判明したただし今回

は主成分が Snの組成のガラスでありHEXRD でも十分に詳細な Snの周辺構造が得られ

たためAXSを利用した場合との大きな構造の差は認められなかった

本研究では様々な優れた特徴を有する SP ガラスにおける耐水性改善のメカニズムにつ

いて検討を行ったこの系のガラスについてはこれまでほとんど利用されていなかった

放射光を用いた構造解析を駆使し第三成分の添加によってどのような構造的変化が生じ

耐水性を改善させるか新たな知見を得ることができた最終目標である機能性ガラスの

開発における新たなる材料設計指針の確立に対してldquo耐水性rdquoに関しては概ね明らかにな

ったと考えられる一方で今回検討していな電子状態化学結合性についても評価する

ことで溶出メカニズムの解明が可能になり材料設計指針の確立が期待される

79

発表論文リスト

口頭発表

第 2章および第 3章

(1) SnO-P2O5 系ガラスへの酸化物添加効果

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎

日本セラミックス協会第 25 回秋季シンポジウム No3C06 (名古屋市 2012年 9月)

(2) Effect of Nb2O5 addition to SnO-P2O5 glass (Poster)

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

International Union of Materials Research Societies International Conference on Electronic

Materials IUMRS-ICEM 2012 A-9-P26-003 (Yokohama 2012 年 9月)

(3) スズリン酸塩系ガラスの蛍光特性耐水性に及ばす酸化物の添加効果(ポスター)

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎

日本セラミックス協会 2013 年年会 1P070 (東京 2013年 3月)

第 4章

(1) 放射光を用いたスズリン酸塩ガラスの構造解析

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎小原真二臼杵毅

日本セラミックス協会第 27 回秋季シンポジウム 2B22 (鹿児島市 2014年 9 月)

(2) Structural analysis of tin phosphate glasses by synchrotron radiation (Poster)

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba Shinji Kohara Takeshi Usuki

International Congress on Glass ICG Annual Meeting Bangkok 2015 P14-138 p186 (2015)

発表論文

(1) Effect of Nb2O5 addition to SnO- P2O5 glass

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

Journal of the Ceramic Society of Japan Vol 120 No 11 pp530-533 (2012)

(2) Structural analysis of SnO- P2O5 glass

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

Journal of the Ceramic Society of Japan(準備中)

80

謝辞

本研究を遂行するにあたり終始暖かいご指導ご助言並びにご鞭撻を賜わりました岡

山大学大学院環境生命科学研究科 難波徳郎教授に心より感謝の意を表します

また本研究を遂行するにあたり懇切丁寧なご指導とご意見をしていただいた岡山大

学大学院環境生命科学研究科 紅野安彦准教授環境環理センター 崎田真一助教に心より

感謝いたします

本研究を遂行するにあたりラマン分光測定の使用についてご助言ご教授して頂い

た岡山大学自然科学研究科 藤井達生教授中西真助教に心より感謝の意を表します

Sn のメスバウアー測定の際に協力して頂いた岡山大学自然科学研究科先端自然科学教

育研究推進本部高田研究室 松本修治特任助教(当時旭硝子株式会社中央研究所)また

Feのメスバウアーを測定の際に協力して頂いた岡山大学自然科学研究科 藤井達生教授に

心より感謝の意を表します

固体 NMR の岡山大学自然科学研究科 早川聡教授に心より感謝の意を表します

本研究を遂行するにあたりSPring-8 にてHEXRD および AXS 法の測定法および原理

についてご教示頂きました物質材料研究機構 小原真司博士ならびに山形大学 臼杵毅

教授に心より感謝の意を表します

本研究は多くの後輩諸君の協力によって遂行されました特に実際に共同研究共同

実験を遂行して頂いたOG 藤原沙弥香さん博士前期課程 2 年 東利彦君OB 徳岡太誠

君学士課程 4年 塩田将大君に心より感謝の意を表しますまた難波研究室で共に研

究生活を過ごした卒業生在学生の方々に感謝の意を表します

また同時期に博士後期課程に在籍された香川高等専門学校の桟敷剛さんにはNbに

関する有益な情報だけでなく辛い状況でも励ましを頂きました心より感謝の意を表し

ます

最後に長きに渡る学生生活を認め経済面だけでなく精神面でも支援してくださった

家族に心より深く感謝の意を表します

平成 28年 3月

福井 聡史

Page 74: 博士論文 スズリン酸塩系ガラスの物性と構造解析ousar.lib.okayama-u.ac.jp/files/public/5/54353/...博士論文 スズリン酸塩系ガラスの物性と構造解析

71

Fig 49 RMC フィッティングの結果

72

Tab

le 4

3 各

pairの平均配位数角度結合距離

73

Fig

4

10

67

S5

N2

8Pガラスの各多面体モデル

74

Tab

le 4

4 各

pairの結合様式

75

Fig 411 67S5N28P ガラスの構造モデル

76

Table 45 平均 BO 各数 nの比較

Fig 412 50S50P ガラスの構造モデル

77

第 5章 総括

本研究ではSP ガラスを対象とした本研究では鉛フリー代替ガラスまたは希土類フ

リー蛍光体として SP ガラスの新規高機能化を将来的に目指し問題点であるldquo化学的耐久

性rdquoの改善につながる知見を得ることを目的としたそこでまずSP ガラスを母体ガラ

スとし第三成分に Nb2O5を添加した Sn-Nb-P SNP ガラスZnO を添加した SZP ガラスを

作製し耐水性を中心とした物性評価を行った次に分光学的手法で構造解析を行い

Qn 分布を導き出した最後に放射光を用いた構造解析を行い耐水性改善に関する構造的

な考察を行った以下に本研究で行った検討内容を示す

(1)SPガラスおよび第三成分Nb2O5 ZnOを添加した三成分系SPガラスの物性評価(第 2章)

(2)SP 系ガラスの分光学的手法による Qn分布導出(第 3章)

(3)放射光を用いた SP 系ガラスの構造解析構造と耐水性改善の関連について(第 4章)

各章についてまとめた結果を以下に示す

第 2章

第 2章では二成分系および三成分系のリン酸塩系ガラスの各種物性(密度や熱的特性

耐水性)の評価を行った二成分系ではSP ガラスに加え良好な耐水性を有する鉄リン

酸塩(Fe2O3-P2O5)系ガラス(以下 FP ガラス)を比較のために三成分系では二成分系

の SP ガラスに Nb2O5を添加したニオブ含有 SP ガラス(SNP ガラス)および ZnO を添加し

た亜鉛含有 SP ガラス(SZP ガラス)を作製した

今回作製した SP 系ガラスは低ガラス転移温度を有していた各組成の温度域はSP

ガラスTg le 280 Sn-Nb-P SNPガラスTg le 3505SZP S5ZPガラスTg ≦ 450であった

各種 SP ガラスの耐水性試験の結果二成分系の SP ガラスよりも三成分系ガラスの方が

良好な耐水性を有していた65Sn-5Nb-30P 67S5N28P ガラスが最も耐水性が良好であり化

学的耐久性の改善には Nb2O5が ZnOよりも効果的であった

組成と耐水性に関してはDRおよび重量減がOP増加で単調に低下した結果が得られた

つまり耐水性を改善させるにはSP 系ガラスのガラス化範囲を拡大かつ OP を増大させ

る第三成分の添加が有効であることが示唆された

第 3章

第 3章ではSP 系ガラスの分光学的手法による Qn分布の導出を行ったラマン分光法を

用いて各ガラス系のリン酸塩アニオンの構造を簡易定量で評価し組成と構造の関係に

ついて考察した平均 BO 数 n と耐水性に関してはDR および重量減が平均 BO 数 nの減

少で単調に低下することが明らかとなった

平均 BO 数 n と OP の関係より耐水性改善には平均 BO 数 n を下げることそして

OP を上げることが重要であることが明らかになった

78

Nb5+の添加は平均 BO数を減少させるだけでなくOP も上げることからガラス構造

内の P-O-P 結合を減少させ水和反応加水分解反応が抑制され耐水性が大幅に改善さ

れることが示唆された故にNb2O5 のような高価数金属酸化物を添加することが効果的

であることが再度確認された

第 4章

耐水性向上についてより深く評価するためSP SNP ガラスの局所構造に関する知見を得

ることを目的に放射光を用いた構造解析を行った高エネルギーX 線回折(HEXRD)お

よび X 線異常散乱(AXS)法で測定したデータを再現する構造モデルを逆モンテカルロ

(RMC)シミュレーションで構築し構造解析を行った

RMC モデル中の PON多面体に関して平均配位数 Nが 4および P-O の平均結合距離が約

160Å平均結合角度angO-P-Oが約 109degという結果が得られた組成による大きな違いは確

認されなかったSnON多面体については平均配位数 N が 3~4 でSnO 量の増加に伴い 4

に近い値となった平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約 22Åで組成

による大きな変化は見られなかった

Nb2O5を 5 mol添加したガラスではNbON多面体の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平

均配位数N約4Nb-O平均結合距離約20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O

(約 105deg)と値が近いことまた6配位ではなく 4配位として主に存在していることから

SnO と同じような網目形成体として働いていると推測されたまた結合距離が Sn-O が約

22Åに対し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強

固にしていると考えられるまたSnO 量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体

的に各多面体同士の頂点共有が増えていることから耐水性の改善には頂点共有を多く

含む構造もしくは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的であること

が示唆された以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性

耐候性を改善した要因として考えられる

またAXS 法の有効性についても確認し効果的であることが判明したただし今回

は主成分が Snの組成のガラスでありHEXRD でも十分に詳細な Snの周辺構造が得られ

たためAXSを利用した場合との大きな構造の差は認められなかった

本研究では様々な優れた特徴を有する SP ガラスにおける耐水性改善のメカニズムにつ

いて検討を行ったこの系のガラスについてはこれまでほとんど利用されていなかった

放射光を用いた構造解析を駆使し第三成分の添加によってどのような構造的変化が生じ

耐水性を改善させるか新たな知見を得ることができた最終目標である機能性ガラスの

開発における新たなる材料設計指針の確立に対してldquo耐水性rdquoに関しては概ね明らかにな

ったと考えられる一方で今回検討していな電子状態化学結合性についても評価する

ことで溶出メカニズムの解明が可能になり材料設計指針の確立が期待される

79

発表論文リスト

口頭発表

第 2章および第 3章

(1) SnO-P2O5 系ガラスへの酸化物添加効果

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎

日本セラミックス協会第 25 回秋季シンポジウム No3C06 (名古屋市 2012年 9月)

(2) Effect of Nb2O5 addition to SnO-P2O5 glass (Poster)

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

International Union of Materials Research Societies International Conference on Electronic

Materials IUMRS-ICEM 2012 A-9-P26-003 (Yokohama 2012 年 9月)

(3) スズリン酸塩系ガラスの蛍光特性耐水性に及ばす酸化物の添加効果(ポスター)

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎

日本セラミックス協会 2013 年年会 1P070 (東京 2013年 3月)

第 4章

(1) 放射光を用いたスズリン酸塩ガラスの構造解析

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎小原真二臼杵毅

日本セラミックス協会第 27 回秋季シンポジウム 2B22 (鹿児島市 2014年 9 月)

(2) Structural analysis of tin phosphate glasses by synchrotron radiation (Poster)

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba Shinji Kohara Takeshi Usuki

International Congress on Glass ICG Annual Meeting Bangkok 2015 P14-138 p186 (2015)

発表論文

(1) Effect of Nb2O5 addition to SnO- P2O5 glass

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

Journal of the Ceramic Society of Japan Vol 120 No 11 pp530-533 (2012)

(2) Structural analysis of SnO- P2O5 glass

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

Journal of the Ceramic Society of Japan(準備中)

80

謝辞

本研究を遂行するにあたり終始暖かいご指導ご助言並びにご鞭撻を賜わりました岡

山大学大学院環境生命科学研究科 難波徳郎教授に心より感謝の意を表します

また本研究を遂行するにあたり懇切丁寧なご指導とご意見をしていただいた岡山大

学大学院環境生命科学研究科 紅野安彦准教授環境環理センター 崎田真一助教に心より

感謝いたします

本研究を遂行するにあたりラマン分光測定の使用についてご助言ご教授して頂い

た岡山大学自然科学研究科 藤井達生教授中西真助教に心より感謝の意を表します

Sn のメスバウアー測定の際に協力して頂いた岡山大学自然科学研究科先端自然科学教

育研究推進本部高田研究室 松本修治特任助教(当時旭硝子株式会社中央研究所)また

Feのメスバウアーを測定の際に協力して頂いた岡山大学自然科学研究科 藤井達生教授に

心より感謝の意を表します

固体 NMR の岡山大学自然科学研究科 早川聡教授に心より感謝の意を表します

本研究を遂行するにあたりSPring-8 にてHEXRD および AXS 法の測定法および原理

についてご教示頂きました物質材料研究機構 小原真司博士ならびに山形大学 臼杵毅

教授に心より感謝の意を表します

本研究は多くの後輩諸君の協力によって遂行されました特に実際に共同研究共同

実験を遂行して頂いたOG 藤原沙弥香さん博士前期課程 2 年 東利彦君OB 徳岡太誠

君学士課程 4年 塩田将大君に心より感謝の意を表しますまた難波研究室で共に研

究生活を過ごした卒業生在学生の方々に感謝の意を表します

また同時期に博士後期課程に在籍された香川高等専門学校の桟敷剛さんにはNbに

関する有益な情報だけでなく辛い状況でも励ましを頂きました心より感謝の意を表し

ます

最後に長きに渡る学生生活を認め経済面だけでなく精神面でも支援してくださった

家族に心より深く感謝の意を表します

平成 28年 3月

福井 聡史

Page 75: 博士論文 スズリン酸塩系ガラスの物性と構造解析ousar.lib.okayama-u.ac.jp/files/public/5/54353/...博士論文 スズリン酸塩系ガラスの物性と構造解析

72

Tab

le 4

3 各

pairの平均配位数角度結合距離

73

Fig

4

10

67

S5

N2

8Pガラスの各多面体モデル

74

Tab

le 4

4 各

pairの結合様式

75

Fig 411 67S5N28P ガラスの構造モデル

76

Table 45 平均 BO 各数 nの比較

Fig 412 50S50P ガラスの構造モデル

77

第 5章 総括

本研究ではSP ガラスを対象とした本研究では鉛フリー代替ガラスまたは希土類フ

リー蛍光体として SP ガラスの新規高機能化を将来的に目指し問題点であるldquo化学的耐久

性rdquoの改善につながる知見を得ることを目的としたそこでまずSP ガラスを母体ガラ

スとし第三成分に Nb2O5を添加した Sn-Nb-P SNP ガラスZnO を添加した SZP ガラスを

作製し耐水性を中心とした物性評価を行った次に分光学的手法で構造解析を行い

Qn 分布を導き出した最後に放射光を用いた構造解析を行い耐水性改善に関する構造的

な考察を行った以下に本研究で行った検討内容を示す

(1)SPガラスおよび第三成分Nb2O5 ZnOを添加した三成分系SPガラスの物性評価(第 2章)

(2)SP 系ガラスの分光学的手法による Qn分布導出(第 3章)

(3)放射光を用いた SP 系ガラスの構造解析構造と耐水性改善の関連について(第 4章)

各章についてまとめた結果を以下に示す

第 2章

第 2章では二成分系および三成分系のリン酸塩系ガラスの各種物性(密度や熱的特性

耐水性)の評価を行った二成分系ではSP ガラスに加え良好な耐水性を有する鉄リン

酸塩(Fe2O3-P2O5)系ガラス(以下 FP ガラス)を比較のために三成分系では二成分系

の SP ガラスに Nb2O5を添加したニオブ含有 SP ガラス(SNP ガラス)および ZnO を添加し

た亜鉛含有 SP ガラス(SZP ガラス)を作製した

今回作製した SP 系ガラスは低ガラス転移温度を有していた各組成の温度域はSP

ガラスTg le 280 Sn-Nb-P SNPガラスTg le 3505SZP S5ZPガラスTg ≦ 450であった

各種 SP ガラスの耐水性試験の結果二成分系の SP ガラスよりも三成分系ガラスの方が

良好な耐水性を有していた65Sn-5Nb-30P 67S5N28P ガラスが最も耐水性が良好であり化

学的耐久性の改善には Nb2O5が ZnOよりも効果的であった

組成と耐水性に関してはDRおよび重量減がOP増加で単調に低下した結果が得られた

つまり耐水性を改善させるにはSP 系ガラスのガラス化範囲を拡大かつ OP を増大させ

る第三成分の添加が有効であることが示唆された

第 3章

第 3章ではSP 系ガラスの分光学的手法による Qn分布の導出を行ったラマン分光法を

用いて各ガラス系のリン酸塩アニオンの構造を簡易定量で評価し組成と構造の関係に

ついて考察した平均 BO 数 n と耐水性に関してはDR および重量減が平均 BO 数 nの減

少で単調に低下することが明らかとなった

平均 BO 数 n と OP の関係より耐水性改善には平均 BO 数 n を下げることそして

OP を上げることが重要であることが明らかになった

78

Nb5+の添加は平均 BO数を減少させるだけでなくOP も上げることからガラス構造

内の P-O-P 結合を減少させ水和反応加水分解反応が抑制され耐水性が大幅に改善さ

れることが示唆された故にNb2O5 のような高価数金属酸化物を添加することが効果的

であることが再度確認された

第 4章

耐水性向上についてより深く評価するためSP SNP ガラスの局所構造に関する知見を得

ることを目的に放射光を用いた構造解析を行った高エネルギーX 線回折(HEXRD)お

よび X 線異常散乱(AXS)法で測定したデータを再現する構造モデルを逆モンテカルロ

(RMC)シミュレーションで構築し構造解析を行った

RMC モデル中の PON多面体に関して平均配位数 Nが 4および P-O の平均結合距離が約

160Å平均結合角度angO-P-Oが約 109degという結果が得られた組成による大きな違いは確

認されなかったSnON多面体については平均配位数 N が 3~4 でSnO 量の増加に伴い 4

に近い値となった平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約 22Åで組成

による大きな変化は見られなかった

Nb2O5を 5 mol添加したガラスではNbON多面体の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平

均配位数N約4Nb-O平均結合距離約20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O

(約 105deg)と値が近いことまた6配位ではなく 4配位として主に存在していることから

SnO と同じような網目形成体として働いていると推測されたまた結合距離が Sn-O が約

22Åに対し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強

固にしていると考えられるまたSnO 量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体

的に各多面体同士の頂点共有が増えていることから耐水性の改善には頂点共有を多く

含む構造もしくは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的であること

が示唆された以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性

耐候性を改善した要因として考えられる

またAXS 法の有効性についても確認し効果的であることが判明したただし今回

は主成分が Snの組成のガラスでありHEXRD でも十分に詳細な Snの周辺構造が得られ

たためAXSを利用した場合との大きな構造の差は認められなかった

本研究では様々な優れた特徴を有する SP ガラスにおける耐水性改善のメカニズムにつ

いて検討を行ったこの系のガラスについてはこれまでほとんど利用されていなかった

放射光を用いた構造解析を駆使し第三成分の添加によってどのような構造的変化が生じ

耐水性を改善させるか新たな知見を得ることができた最終目標である機能性ガラスの

開発における新たなる材料設計指針の確立に対してldquo耐水性rdquoに関しては概ね明らかにな

ったと考えられる一方で今回検討していな電子状態化学結合性についても評価する

ことで溶出メカニズムの解明が可能になり材料設計指針の確立が期待される

79

発表論文リスト

口頭発表

第 2章および第 3章

(1) SnO-P2O5 系ガラスへの酸化物添加効果

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎

日本セラミックス協会第 25 回秋季シンポジウム No3C06 (名古屋市 2012年 9月)

(2) Effect of Nb2O5 addition to SnO-P2O5 glass (Poster)

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

International Union of Materials Research Societies International Conference on Electronic

Materials IUMRS-ICEM 2012 A-9-P26-003 (Yokohama 2012 年 9月)

(3) スズリン酸塩系ガラスの蛍光特性耐水性に及ばす酸化物の添加効果(ポスター)

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎

日本セラミックス協会 2013 年年会 1P070 (東京 2013年 3月)

第 4章

(1) 放射光を用いたスズリン酸塩ガラスの構造解析

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎小原真二臼杵毅

日本セラミックス協会第 27 回秋季シンポジウム 2B22 (鹿児島市 2014年 9 月)

(2) Structural analysis of tin phosphate glasses by synchrotron radiation (Poster)

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba Shinji Kohara Takeshi Usuki

International Congress on Glass ICG Annual Meeting Bangkok 2015 P14-138 p186 (2015)

発表論文

(1) Effect of Nb2O5 addition to SnO- P2O5 glass

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

Journal of the Ceramic Society of Japan Vol 120 No 11 pp530-533 (2012)

(2) Structural analysis of SnO- P2O5 glass

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

Journal of the Ceramic Society of Japan(準備中)

80

謝辞

本研究を遂行するにあたり終始暖かいご指導ご助言並びにご鞭撻を賜わりました岡

山大学大学院環境生命科学研究科 難波徳郎教授に心より感謝の意を表します

また本研究を遂行するにあたり懇切丁寧なご指導とご意見をしていただいた岡山大

学大学院環境生命科学研究科 紅野安彦准教授環境環理センター 崎田真一助教に心より

感謝いたします

本研究を遂行するにあたりラマン分光測定の使用についてご助言ご教授して頂い

た岡山大学自然科学研究科 藤井達生教授中西真助教に心より感謝の意を表します

Sn のメスバウアー測定の際に協力して頂いた岡山大学自然科学研究科先端自然科学教

育研究推進本部高田研究室 松本修治特任助教(当時旭硝子株式会社中央研究所)また

Feのメスバウアーを測定の際に協力して頂いた岡山大学自然科学研究科 藤井達生教授に

心より感謝の意を表します

固体 NMR の岡山大学自然科学研究科 早川聡教授に心より感謝の意を表します

本研究を遂行するにあたりSPring-8 にてHEXRD および AXS 法の測定法および原理

についてご教示頂きました物質材料研究機構 小原真司博士ならびに山形大学 臼杵毅

教授に心より感謝の意を表します

本研究は多くの後輩諸君の協力によって遂行されました特に実際に共同研究共同

実験を遂行して頂いたOG 藤原沙弥香さん博士前期課程 2 年 東利彦君OB 徳岡太誠

君学士課程 4年 塩田将大君に心より感謝の意を表しますまた難波研究室で共に研

究生活を過ごした卒業生在学生の方々に感謝の意を表します

また同時期に博士後期課程に在籍された香川高等専門学校の桟敷剛さんにはNbに

関する有益な情報だけでなく辛い状況でも励ましを頂きました心より感謝の意を表し

ます

最後に長きに渡る学生生活を認め経済面だけでなく精神面でも支援してくださった

家族に心より深く感謝の意を表します

平成 28年 3月

福井 聡史

Page 76: 博士論文 スズリン酸塩系ガラスの物性と構造解析ousar.lib.okayama-u.ac.jp/files/public/5/54353/...博士論文 スズリン酸塩系ガラスの物性と構造解析

73

Fig

4

10

67

S5

N2

8Pガラスの各多面体モデル

74

Tab

le 4

4 各

pairの結合様式

75

Fig 411 67S5N28P ガラスの構造モデル

76

Table 45 平均 BO 各数 nの比較

Fig 412 50S50P ガラスの構造モデル

77

第 5章 総括

本研究ではSP ガラスを対象とした本研究では鉛フリー代替ガラスまたは希土類フ

リー蛍光体として SP ガラスの新規高機能化を将来的に目指し問題点であるldquo化学的耐久

性rdquoの改善につながる知見を得ることを目的としたそこでまずSP ガラスを母体ガラ

スとし第三成分に Nb2O5を添加した Sn-Nb-P SNP ガラスZnO を添加した SZP ガラスを

作製し耐水性を中心とした物性評価を行った次に分光学的手法で構造解析を行い

Qn 分布を導き出した最後に放射光を用いた構造解析を行い耐水性改善に関する構造的

な考察を行った以下に本研究で行った検討内容を示す

(1)SPガラスおよび第三成分Nb2O5 ZnOを添加した三成分系SPガラスの物性評価(第 2章)

(2)SP 系ガラスの分光学的手法による Qn分布導出(第 3章)

(3)放射光を用いた SP 系ガラスの構造解析構造と耐水性改善の関連について(第 4章)

各章についてまとめた結果を以下に示す

第 2章

第 2章では二成分系および三成分系のリン酸塩系ガラスの各種物性(密度や熱的特性

耐水性)の評価を行った二成分系ではSP ガラスに加え良好な耐水性を有する鉄リン

酸塩(Fe2O3-P2O5)系ガラス(以下 FP ガラス)を比較のために三成分系では二成分系

の SP ガラスに Nb2O5を添加したニオブ含有 SP ガラス(SNP ガラス)および ZnO を添加し

た亜鉛含有 SP ガラス(SZP ガラス)を作製した

今回作製した SP 系ガラスは低ガラス転移温度を有していた各組成の温度域はSP

ガラスTg le 280 Sn-Nb-P SNPガラスTg le 3505SZP S5ZPガラスTg ≦ 450であった

各種 SP ガラスの耐水性試験の結果二成分系の SP ガラスよりも三成分系ガラスの方が

良好な耐水性を有していた65Sn-5Nb-30P 67S5N28P ガラスが最も耐水性が良好であり化

学的耐久性の改善には Nb2O5が ZnOよりも効果的であった

組成と耐水性に関してはDRおよび重量減がOP増加で単調に低下した結果が得られた

つまり耐水性を改善させるにはSP 系ガラスのガラス化範囲を拡大かつ OP を増大させ

る第三成分の添加が有効であることが示唆された

第 3章

第 3章ではSP 系ガラスの分光学的手法による Qn分布の導出を行ったラマン分光法を

用いて各ガラス系のリン酸塩アニオンの構造を簡易定量で評価し組成と構造の関係に

ついて考察した平均 BO 数 n と耐水性に関してはDR および重量減が平均 BO 数 nの減

少で単調に低下することが明らかとなった

平均 BO 数 n と OP の関係より耐水性改善には平均 BO 数 n を下げることそして

OP を上げることが重要であることが明らかになった

78

Nb5+の添加は平均 BO数を減少させるだけでなくOP も上げることからガラス構造

内の P-O-P 結合を減少させ水和反応加水分解反応が抑制され耐水性が大幅に改善さ

れることが示唆された故にNb2O5 のような高価数金属酸化物を添加することが効果的

であることが再度確認された

第 4章

耐水性向上についてより深く評価するためSP SNP ガラスの局所構造に関する知見を得

ることを目的に放射光を用いた構造解析を行った高エネルギーX 線回折(HEXRD)お

よび X 線異常散乱(AXS)法で測定したデータを再現する構造モデルを逆モンテカルロ

(RMC)シミュレーションで構築し構造解析を行った

RMC モデル中の PON多面体に関して平均配位数 Nが 4および P-O の平均結合距離が約

160Å平均結合角度angO-P-Oが約 109degという結果が得られた組成による大きな違いは確

認されなかったSnON多面体については平均配位数 N が 3~4 でSnO 量の増加に伴い 4

に近い値となった平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約 22Åで組成

による大きな変化は見られなかった

Nb2O5を 5 mol添加したガラスではNbON多面体の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平

均配位数N約4Nb-O平均結合距離約20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O

(約 105deg)と値が近いことまた6配位ではなく 4配位として主に存在していることから

SnO と同じような網目形成体として働いていると推測されたまた結合距離が Sn-O が約

22Åに対し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強

固にしていると考えられるまたSnO 量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体

的に各多面体同士の頂点共有が増えていることから耐水性の改善には頂点共有を多く

含む構造もしくは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的であること

が示唆された以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性

耐候性を改善した要因として考えられる

またAXS 法の有効性についても確認し効果的であることが判明したただし今回

は主成分が Snの組成のガラスでありHEXRD でも十分に詳細な Snの周辺構造が得られ

たためAXSを利用した場合との大きな構造の差は認められなかった

本研究では様々な優れた特徴を有する SP ガラスにおける耐水性改善のメカニズムにつ

いて検討を行ったこの系のガラスについてはこれまでほとんど利用されていなかった

放射光を用いた構造解析を駆使し第三成分の添加によってどのような構造的変化が生じ

耐水性を改善させるか新たな知見を得ることができた最終目標である機能性ガラスの

開発における新たなる材料設計指針の確立に対してldquo耐水性rdquoに関しては概ね明らかにな

ったと考えられる一方で今回検討していな電子状態化学結合性についても評価する

ことで溶出メカニズムの解明が可能になり材料設計指針の確立が期待される

79

発表論文リスト

口頭発表

第 2章および第 3章

(1) SnO-P2O5 系ガラスへの酸化物添加効果

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎

日本セラミックス協会第 25 回秋季シンポジウム No3C06 (名古屋市 2012年 9月)

(2) Effect of Nb2O5 addition to SnO-P2O5 glass (Poster)

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

International Union of Materials Research Societies International Conference on Electronic

Materials IUMRS-ICEM 2012 A-9-P26-003 (Yokohama 2012 年 9月)

(3) スズリン酸塩系ガラスの蛍光特性耐水性に及ばす酸化物の添加効果(ポスター)

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎

日本セラミックス協会 2013 年年会 1P070 (東京 2013年 3月)

第 4章

(1) 放射光を用いたスズリン酸塩ガラスの構造解析

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎小原真二臼杵毅

日本セラミックス協会第 27 回秋季シンポジウム 2B22 (鹿児島市 2014年 9 月)

(2) Structural analysis of tin phosphate glasses by synchrotron radiation (Poster)

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba Shinji Kohara Takeshi Usuki

International Congress on Glass ICG Annual Meeting Bangkok 2015 P14-138 p186 (2015)

発表論文

(1) Effect of Nb2O5 addition to SnO- P2O5 glass

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

Journal of the Ceramic Society of Japan Vol 120 No 11 pp530-533 (2012)

(2) Structural analysis of SnO- P2O5 glass

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

Journal of the Ceramic Society of Japan(準備中)

80

謝辞

本研究を遂行するにあたり終始暖かいご指導ご助言並びにご鞭撻を賜わりました岡

山大学大学院環境生命科学研究科 難波徳郎教授に心より感謝の意を表します

また本研究を遂行するにあたり懇切丁寧なご指導とご意見をしていただいた岡山大

学大学院環境生命科学研究科 紅野安彦准教授環境環理センター 崎田真一助教に心より

感謝いたします

本研究を遂行するにあたりラマン分光測定の使用についてご助言ご教授して頂い

た岡山大学自然科学研究科 藤井達生教授中西真助教に心より感謝の意を表します

Sn のメスバウアー測定の際に協力して頂いた岡山大学自然科学研究科先端自然科学教

育研究推進本部高田研究室 松本修治特任助教(当時旭硝子株式会社中央研究所)また

Feのメスバウアーを測定の際に協力して頂いた岡山大学自然科学研究科 藤井達生教授に

心より感謝の意を表します

固体 NMR の岡山大学自然科学研究科 早川聡教授に心より感謝の意を表します

本研究を遂行するにあたりSPring-8 にてHEXRD および AXS 法の測定法および原理

についてご教示頂きました物質材料研究機構 小原真司博士ならびに山形大学 臼杵毅

教授に心より感謝の意を表します

本研究は多くの後輩諸君の協力によって遂行されました特に実際に共同研究共同

実験を遂行して頂いたOG 藤原沙弥香さん博士前期課程 2 年 東利彦君OB 徳岡太誠

君学士課程 4年 塩田将大君に心より感謝の意を表しますまた難波研究室で共に研

究生活を過ごした卒業生在学生の方々に感謝の意を表します

また同時期に博士後期課程に在籍された香川高等専門学校の桟敷剛さんにはNbに

関する有益な情報だけでなく辛い状況でも励ましを頂きました心より感謝の意を表し

ます

最後に長きに渡る学生生活を認め経済面だけでなく精神面でも支援してくださった

家族に心より深く感謝の意を表します

平成 28年 3月

福井 聡史

Page 77: 博士論文 スズリン酸塩系ガラスの物性と構造解析ousar.lib.okayama-u.ac.jp/files/public/5/54353/...博士論文 スズリン酸塩系ガラスの物性と構造解析

74

Tab

le 4

4 各

pairの結合様式

75

Fig 411 67S5N28P ガラスの構造モデル

76

Table 45 平均 BO 各数 nの比較

Fig 412 50S50P ガラスの構造モデル

77

第 5章 総括

本研究ではSP ガラスを対象とした本研究では鉛フリー代替ガラスまたは希土類フ

リー蛍光体として SP ガラスの新規高機能化を将来的に目指し問題点であるldquo化学的耐久

性rdquoの改善につながる知見を得ることを目的としたそこでまずSP ガラスを母体ガラ

スとし第三成分に Nb2O5を添加した Sn-Nb-P SNP ガラスZnO を添加した SZP ガラスを

作製し耐水性を中心とした物性評価を行った次に分光学的手法で構造解析を行い

Qn 分布を導き出した最後に放射光を用いた構造解析を行い耐水性改善に関する構造的

な考察を行った以下に本研究で行った検討内容を示す

(1)SPガラスおよび第三成分Nb2O5 ZnOを添加した三成分系SPガラスの物性評価(第 2章)

(2)SP 系ガラスの分光学的手法による Qn分布導出(第 3章)

(3)放射光を用いた SP 系ガラスの構造解析構造と耐水性改善の関連について(第 4章)

各章についてまとめた結果を以下に示す

第 2章

第 2章では二成分系および三成分系のリン酸塩系ガラスの各種物性(密度や熱的特性

耐水性)の評価を行った二成分系ではSP ガラスに加え良好な耐水性を有する鉄リン

酸塩(Fe2O3-P2O5)系ガラス(以下 FP ガラス)を比較のために三成分系では二成分系

の SP ガラスに Nb2O5を添加したニオブ含有 SP ガラス(SNP ガラス)および ZnO を添加し

た亜鉛含有 SP ガラス(SZP ガラス)を作製した

今回作製した SP 系ガラスは低ガラス転移温度を有していた各組成の温度域はSP

ガラスTg le 280 Sn-Nb-P SNPガラスTg le 3505SZP S5ZPガラスTg ≦ 450であった

各種 SP ガラスの耐水性試験の結果二成分系の SP ガラスよりも三成分系ガラスの方が

良好な耐水性を有していた65Sn-5Nb-30P 67S5N28P ガラスが最も耐水性が良好であり化

学的耐久性の改善には Nb2O5が ZnOよりも効果的であった

組成と耐水性に関してはDRおよび重量減がOP増加で単調に低下した結果が得られた

つまり耐水性を改善させるにはSP 系ガラスのガラス化範囲を拡大かつ OP を増大させ

る第三成分の添加が有効であることが示唆された

第 3章

第 3章ではSP 系ガラスの分光学的手法による Qn分布の導出を行ったラマン分光法を

用いて各ガラス系のリン酸塩アニオンの構造を簡易定量で評価し組成と構造の関係に

ついて考察した平均 BO 数 n と耐水性に関してはDR および重量減が平均 BO 数 nの減

少で単調に低下することが明らかとなった

平均 BO 数 n と OP の関係より耐水性改善には平均 BO 数 n を下げることそして

OP を上げることが重要であることが明らかになった

78

Nb5+の添加は平均 BO数を減少させるだけでなくOP も上げることからガラス構造

内の P-O-P 結合を減少させ水和反応加水分解反応が抑制され耐水性が大幅に改善さ

れることが示唆された故にNb2O5 のような高価数金属酸化物を添加することが効果的

であることが再度確認された

第 4章

耐水性向上についてより深く評価するためSP SNP ガラスの局所構造に関する知見を得

ることを目的に放射光を用いた構造解析を行った高エネルギーX 線回折(HEXRD)お

よび X 線異常散乱(AXS)法で測定したデータを再現する構造モデルを逆モンテカルロ

(RMC)シミュレーションで構築し構造解析を行った

RMC モデル中の PON多面体に関して平均配位数 Nが 4および P-O の平均結合距離が約

160Å平均結合角度angO-P-Oが約 109degという結果が得られた組成による大きな違いは確

認されなかったSnON多面体については平均配位数 N が 3~4 でSnO 量の増加に伴い 4

に近い値となった平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約 22Åで組成

による大きな変化は見られなかった

Nb2O5を 5 mol添加したガラスではNbON多面体の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平

均配位数N約4Nb-O平均結合距離約20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O

(約 105deg)と値が近いことまた6配位ではなく 4配位として主に存在していることから

SnO と同じような網目形成体として働いていると推測されたまた結合距離が Sn-O が約

22Åに対し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強

固にしていると考えられるまたSnO 量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体

的に各多面体同士の頂点共有が増えていることから耐水性の改善には頂点共有を多く

含む構造もしくは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的であること

が示唆された以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性

耐候性を改善した要因として考えられる

またAXS 法の有効性についても確認し効果的であることが判明したただし今回

は主成分が Snの組成のガラスでありHEXRD でも十分に詳細な Snの周辺構造が得られ

たためAXSを利用した場合との大きな構造の差は認められなかった

本研究では様々な優れた特徴を有する SP ガラスにおける耐水性改善のメカニズムにつ

いて検討を行ったこの系のガラスについてはこれまでほとんど利用されていなかった

放射光を用いた構造解析を駆使し第三成分の添加によってどのような構造的変化が生じ

耐水性を改善させるか新たな知見を得ることができた最終目標である機能性ガラスの

開発における新たなる材料設計指針の確立に対してldquo耐水性rdquoに関しては概ね明らかにな

ったと考えられる一方で今回検討していな電子状態化学結合性についても評価する

ことで溶出メカニズムの解明が可能になり材料設計指針の確立が期待される

79

発表論文リスト

口頭発表

第 2章および第 3章

(1) SnO-P2O5 系ガラスへの酸化物添加効果

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎

日本セラミックス協会第 25 回秋季シンポジウム No3C06 (名古屋市 2012年 9月)

(2) Effect of Nb2O5 addition to SnO-P2O5 glass (Poster)

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

International Union of Materials Research Societies International Conference on Electronic

Materials IUMRS-ICEM 2012 A-9-P26-003 (Yokohama 2012 年 9月)

(3) スズリン酸塩系ガラスの蛍光特性耐水性に及ばす酸化物の添加効果(ポスター)

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎

日本セラミックス協会 2013 年年会 1P070 (東京 2013年 3月)

第 4章

(1) 放射光を用いたスズリン酸塩ガラスの構造解析

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎小原真二臼杵毅

日本セラミックス協会第 27 回秋季シンポジウム 2B22 (鹿児島市 2014年 9 月)

(2) Structural analysis of tin phosphate glasses by synchrotron radiation (Poster)

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba Shinji Kohara Takeshi Usuki

International Congress on Glass ICG Annual Meeting Bangkok 2015 P14-138 p186 (2015)

発表論文

(1) Effect of Nb2O5 addition to SnO- P2O5 glass

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

Journal of the Ceramic Society of Japan Vol 120 No 11 pp530-533 (2012)

(2) Structural analysis of SnO- P2O5 glass

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

Journal of the Ceramic Society of Japan(準備中)

80

謝辞

本研究を遂行するにあたり終始暖かいご指導ご助言並びにご鞭撻を賜わりました岡

山大学大学院環境生命科学研究科 難波徳郎教授に心より感謝の意を表します

また本研究を遂行するにあたり懇切丁寧なご指導とご意見をしていただいた岡山大

学大学院環境生命科学研究科 紅野安彦准教授環境環理センター 崎田真一助教に心より

感謝いたします

本研究を遂行するにあたりラマン分光測定の使用についてご助言ご教授して頂い

た岡山大学自然科学研究科 藤井達生教授中西真助教に心より感謝の意を表します

Sn のメスバウアー測定の際に協力して頂いた岡山大学自然科学研究科先端自然科学教

育研究推進本部高田研究室 松本修治特任助教(当時旭硝子株式会社中央研究所)また

Feのメスバウアーを測定の際に協力して頂いた岡山大学自然科学研究科 藤井達生教授に

心より感謝の意を表します

固体 NMR の岡山大学自然科学研究科 早川聡教授に心より感謝の意を表します

本研究を遂行するにあたりSPring-8 にてHEXRD および AXS 法の測定法および原理

についてご教示頂きました物質材料研究機構 小原真司博士ならびに山形大学 臼杵毅

教授に心より感謝の意を表します

本研究は多くの後輩諸君の協力によって遂行されました特に実際に共同研究共同

実験を遂行して頂いたOG 藤原沙弥香さん博士前期課程 2 年 東利彦君OB 徳岡太誠

君学士課程 4年 塩田将大君に心より感謝の意を表しますまた難波研究室で共に研

究生活を過ごした卒業生在学生の方々に感謝の意を表します

また同時期に博士後期課程に在籍された香川高等専門学校の桟敷剛さんにはNbに

関する有益な情報だけでなく辛い状況でも励ましを頂きました心より感謝の意を表し

ます

最後に長きに渡る学生生活を認め経済面だけでなく精神面でも支援してくださった

家族に心より深く感謝の意を表します

平成 28年 3月

福井 聡史

Page 78: 博士論文 スズリン酸塩系ガラスの物性と構造解析ousar.lib.okayama-u.ac.jp/files/public/5/54353/...博士論文 スズリン酸塩系ガラスの物性と構造解析

75

Fig 411 67S5N28P ガラスの構造モデル

76

Table 45 平均 BO 各数 nの比較

Fig 412 50S50P ガラスの構造モデル

77

第 5章 総括

本研究ではSP ガラスを対象とした本研究では鉛フリー代替ガラスまたは希土類フ

リー蛍光体として SP ガラスの新規高機能化を将来的に目指し問題点であるldquo化学的耐久

性rdquoの改善につながる知見を得ることを目的としたそこでまずSP ガラスを母体ガラ

スとし第三成分に Nb2O5を添加した Sn-Nb-P SNP ガラスZnO を添加した SZP ガラスを

作製し耐水性を中心とした物性評価を行った次に分光学的手法で構造解析を行い

Qn 分布を導き出した最後に放射光を用いた構造解析を行い耐水性改善に関する構造的

な考察を行った以下に本研究で行った検討内容を示す

(1)SPガラスおよび第三成分Nb2O5 ZnOを添加した三成分系SPガラスの物性評価(第 2章)

(2)SP 系ガラスの分光学的手法による Qn分布導出(第 3章)

(3)放射光を用いた SP 系ガラスの構造解析構造と耐水性改善の関連について(第 4章)

各章についてまとめた結果を以下に示す

第 2章

第 2章では二成分系および三成分系のリン酸塩系ガラスの各種物性(密度や熱的特性

耐水性)の評価を行った二成分系ではSP ガラスに加え良好な耐水性を有する鉄リン

酸塩(Fe2O3-P2O5)系ガラス(以下 FP ガラス)を比較のために三成分系では二成分系

の SP ガラスに Nb2O5を添加したニオブ含有 SP ガラス(SNP ガラス)および ZnO を添加し

た亜鉛含有 SP ガラス(SZP ガラス)を作製した

今回作製した SP 系ガラスは低ガラス転移温度を有していた各組成の温度域はSP

ガラスTg le 280 Sn-Nb-P SNPガラスTg le 3505SZP S5ZPガラスTg ≦ 450であった

各種 SP ガラスの耐水性試験の結果二成分系の SP ガラスよりも三成分系ガラスの方が

良好な耐水性を有していた65Sn-5Nb-30P 67S5N28P ガラスが最も耐水性が良好であり化

学的耐久性の改善には Nb2O5が ZnOよりも効果的であった

組成と耐水性に関してはDRおよび重量減がOP増加で単調に低下した結果が得られた

つまり耐水性を改善させるにはSP 系ガラスのガラス化範囲を拡大かつ OP を増大させ

る第三成分の添加が有効であることが示唆された

第 3章

第 3章ではSP 系ガラスの分光学的手法による Qn分布の導出を行ったラマン分光法を

用いて各ガラス系のリン酸塩アニオンの構造を簡易定量で評価し組成と構造の関係に

ついて考察した平均 BO 数 n と耐水性に関してはDR および重量減が平均 BO 数 nの減

少で単調に低下することが明らかとなった

平均 BO 数 n と OP の関係より耐水性改善には平均 BO 数 n を下げることそして

OP を上げることが重要であることが明らかになった

78

Nb5+の添加は平均 BO数を減少させるだけでなくOP も上げることからガラス構造

内の P-O-P 結合を減少させ水和反応加水分解反応が抑制され耐水性が大幅に改善さ

れることが示唆された故にNb2O5 のような高価数金属酸化物を添加することが効果的

であることが再度確認された

第 4章

耐水性向上についてより深く評価するためSP SNP ガラスの局所構造に関する知見を得

ることを目的に放射光を用いた構造解析を行った高エネルギーX 線回折(HEXRD)お

よび X 線異常散乱(AXS)法で測定したデータを再現する構造モデルを逆モンテカルロ

(RMC)シミュレーションで構築し構造解析を行った

RMC モデル中の PON多面体に関して平均配位数 Nが 4および P-O の平均結合距離が約

160Å平均結合角度angO-P-Oが約 109degという結果が得られた組成による大きな違いは確

認されなかったSnON多面体については平均配位数 N が 3~4 でSnO 量の増加に伴い 4

に近い値となった平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約 22Åで組成

による大きな変化は見られなかった

Nb2O5を 5 mol添加したガラスではNbON多面体の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平

均配位数N約4Nb-O平均結合距離約20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O

(約 105deg)と値が近いことまた6配位ではなく 4配位として主に存在していることから

SnO と同じような網目形成体として働いていると推測されたまた結合距離が Sn-O が約

22Åに対し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強

固にしていると考えられるまたSnO 量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体

的に各多面体同士の頂点共有が増えていることから耐水性の改善には頂点共有を多く

含む構造もしくは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的であること

が示唆された以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性

耐候性を改善した要因として考えられる

またAXS 法の有効性についても確認し効果的であることが判明したただし今回

は主成分が Snの組成のガラスでありHEXRD でも十分に詳細な Snの周辺構造が得られ

たためAXSを利用した場合との大きな構造の差は認められなかった

本研究では様々な優れた特徴を有する SP ガラスにおける耐水性改善のメカニズムにつ

いて検討を行ったこの系のガラスについてはこれまでほとんど利用されていなかった

放射光を用いた構造解析を駆使し第三成分の添加によってどのような構造的変化が生じ

耐水性を改善させるか新たな知見を得ることができた最終目標である機能性ガラスの

開発における新たなる材料設計指針の確立に対してldquo耐水性rdquoに関しては概ね明らかにな

ったと考えられる一方で今回検討していな電子状態化学結合性についても評価する

ことで溶出メカニズムの解明が可能になり材料設計指針の確立が期待される

79

発表論文リスト

口頭発表

第 2章および第 3章

(1) SnO-P2O5 系ガラスへの酸化物添加効果

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎

日本セラミックス協会第 25 回秋季シンポジウム No3C06 (名古屋市 2012年 9月)

(2) Effect of Nb2O5 addition to SnO-P2O5 glass (Poster)

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

International Union of Materials Research Societies International Conference on Electronic

Materials IUMRS-ICEM 2012 A-9-P26-003 (Yokohama 2012 年 9月)

(3) スズリン酸塩系ガラスの蛍光特性耐水性に及ばす酸化物の添加効果(ポスター)

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎

日本セラミックス協会 2013 年年会 1P070 (東京 2013年 3月)

第 4章

(1) 放射光を用いたスズリン酸塩ガラスの構造解析

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎小原真二臼杵毅

日本セラミックス協会第 27 回秋季シンポジウム 2B22 (鹿児島市 2014年 9 月)

(2) Structural analysis of tin phosphate glasses by synchrotron radiation (Poster)

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba Shinji Kohara Takeshi Usuki

International Congress on Glass ICG Annual Meeting Bangkok 2015 P14-138 p186 (2015)

発表論文

(1) Effect of Nb2O5 addition to SnO- P2O5 glass

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

Journal of the Ceramic Society of Japan Vol 120 No 11 pp530-533 (2012)

(2) Structural analysis of SnO- P2O5 glass

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

Journal of the Ceramic Society of Japan(準備中)

80

謝辞

本研究を遂行するにあたり終始暖かいご指導ご助言並びにご鞭撻を賜わりました岡

山大学大学院環境生命科学研究科 難波徳郎教授に心より感謝の意を表します

また本研究を遂行するにあたり懇切丁寧なご指導とご意見をしていただいた岡山大

学大学院環境生命科学研究科 紅野安彦准教授環境環理センター 崎田真一助教に心より

感謝いたします

本研究を遂行するにあたりラマン分光測定の使用についてご助言ご教授して頂い

た岡山大学自然科学研究科 藤井達生教授中西真助教に心より感謝の意を表します

Sn のメスバウアー測定の際に協力して頂いた岡山大学自然科学研究科先端自然科学教

育研究推進本部高田研究室 松本修治特任助教(当時旭硝子株式会社中央研究所)また

Feのメスバウアーを測定の際に協力して頂いた岡山大学自然科学研究科 藤井達生教授に

心より感謝の意を表します

固体 NMR の岡山大学自然科学研究科 早川聡教授に心より感謝の意を表します

本研究を遂行するにあたりSPring-8 にてHEXRD および AXS 法の測定法および原理

についてご教示頂きました物質材料研究機構 小原真司博士ならびに山形大学 臼杵毅

教授に心より感謝の意を表します

本研究は多くの後輩諸君の協力によって遂行されました特に実際に共同研究共同

実験を遂行して頂いたOG 藤原沙弥香さん博士前期課程 2 年 東利彦君OB 徳岡太誠

君学士課程 4年 塩田将大君に心より感謝の意を表しますまた難波研究室で共に研

究生活を過ごした卒業生在学生の方々に感謝の意を表します

また同時期に博士後期課程に在籍された香川高等専門学校の桟敷剛さんにはNbに

関する有益な情報だけでなく辛い状況でも励ましを頂きました心より感謝の意を表し

ます

最後に長きに渡る学生生活を認め経済面だけでなく精神面でも支援してくださった

家族に心より深く感謝の意を表します

平成 28年 3月

福井 聡史

Page 79: 博士論文 スズリン酸塩系ガラスの物性と構造解析ousar.lib.okayama-u.ac.jp/files/public/5/54353/...博士論文 スズリン酸塩系ガラスの物性と構造解析

76

Table 45 平均 BO 各数 nの比較

Fig 412 50S50P ガラスの構造モデル

77

第 5章 総括

本研究ではSP ガラスを対象とした本研究では鉛フリー代替ガラスまたは希土類フ

リー蛍光体として SP ガラスの新規高機能化を将来的に目指し問題点であるldquo化学的耐久

性rdquoの改善につながる知見を得ることを目的としたそこでまずSP ガラスを母体ガラ

スとし第三成分に Nb2O5を添加した Sn-Nb-P SNP ガラスZnO を添加した SZP ガラスを

作製し耐水性を中心とした物性評価を行った次に分光学的手法で構造解析を行い

Qn 分布を導き出した最後に放射光を用いた構造解析を行い耐水性改善に関する構造的

な考察を行った以下に本研究で行った検討内容を示す

(1)SPガラスおよび第三成分Nb2O5 ZnOを添加した三成分系SPガラスの物性評価(第 2章)

(2)SP 系ガラスの分光学的手法による Qn分布導出(第 3章)

(3)放射光を用いた SP 系ガラスの構造解析構造と耐水性改善の関連について(第 4章)

各章についてまとめた結果を以下に示す

第 2章

第 2章では二成分系および三成分系のリン酸塩系ガラスの各種物性(密度や熱的特性

耐水性)の評価を行った二成分系ではSP ガラスに加え良好な耐水性を有する鉄リン

酸塩(Fe2O3-P2O5)系ガラス(以下 FP ガラス)を比較のために三成分系では二成分系

の SP ガラスに Nb2O5を添加したニオブ含有 SP ガラス(SNP ガラス)および ZnO を添加し

た亜鉛含有 SP ガラス(SZP ガラス)を作製した

今回作製した SP 系ガラスは低ガラス転移温度を有していた各組成の温度域はSP

ガラスTg le 280 Sn-Nb-P SNPガラスTg le 3505SZP S5ZPガラスTg ≦ 450であった

各種 SP ガラスの耐水性試験の結果二成分系の SP ガラスよりも三成分系ガラスの方が

良好な耐水性を有していた65Sn-5Nb-30P 67S5N28P ガラスが最も耐水性が良好であり化

学的耐久性の改善には Nb2O5が ZnOよりも効果的であった

組成と耐水性に関してはDRおよび重量減がOP増加で単調に低下した結果が得られた

つまり耐水性を改善させるにはSP 系ガラスのガラス化範囲を拡大かつ OP を増大させ

る第三成分の添加が有効であることが示唆された

第 3章

第 3章ではSP 系ガラスの分光学的手法による Qn分布の導出を行ったラマン分光法を

用いて各ガラス系のリン酸塩アニオンの構造を簡易定量で評価し組成と構造の関係に

ついて考察した平均 BO 数 n と耐水性に関してはDR および重量減が平均 BO 数 nの減

少で単調に低下することが明らかとなった

平均 BO 数 n と OP の関係より耐水性改善には平均 BO 数 n を下げることそして

OP を上げることが重要であることが明らかになった

78

Nb5+の添加は平均 BO数を減少させるだけでなくOP も上げることからガラス構造

内の P-O-P 結合を減少させ水和反応加水分解反応が抑制され耐水性が大幅に改善さ

れることが示唆された故にNb2O5 のような高価数金属酸化物を添加することが効果的

であることが再度確認された

第 4章

耐水性向上についてより深く評価するためSP SNP ガラスの局所構造に関する知見を得

ることを目的に放射光を用いた構造解析を行った高エネルギーX 線回折(HEXRD)お

よび X 線異常散乱(AXS)法で測定したデータを再現する構造モデルを逆モンテカルロ

(RMC)シミュレーションで構築し構造解析を行った

RMC モデル中の PON多面体に関して平均配位数 Nが 4および P-O の平均結合距離が約

160Å平均結合角度angO-P-Oが約 109degという結果が得られた組成による大きな違いは確

認されなかったSnON多面体については平均配位数 N が 3~4 でSnO 量の増加に伴い 4

に近い値となった平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約 22Åで組成

による大きな変化は見られなかった

Nb2O5を 5 mol添加したガラスではNbON多面体の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平

均配位数N約4Nb-O平均結合距離約20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O

(約 105deg)と値が近いことまた6配位ではなく 4配位として主に存在していることから

SnO と同じような網目形成体として働いていると推測されたまた結合距離が Sn-O が約

22Åに対し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強

固にしていると考えられるまたSnO 量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体

的に各多面体同士の頂点共有が増えていることから耐水性の改善には頂点共有を多く

含む構造もしくは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的であること

が示唆された以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性

耐候性を改善した要因として考えられる

またAXS 法の有効性についても確認し効果的であることが判明したただし今回

は主成分が Snの組成のガラスでありHEXRD でも十分に詳細な Snの周辺構造が得られ

たためAXSを利用した場合との大きな構造の差は認められなかった

本研究では様々な優れた特徴を有する SP ガラスにおける耐水性改善のメカニズムにつ

いて検討を行ったこの系のガラスについてはこれまでほとんど利用されていなかった

放射光を用いた構造解析を駆使し第三成分の添加によってどのような構造的変化が生じ

耐水性を改善させるか新たな知見を得ることができた最終目標である機能性ガラスの

開発における新たなる材料設計指針の確立に対してldquo耐水性rdquoに関しては概ね明らかにな

ったと考えられる一方で今回検討していな電子状態化学結合性についても評価する

ことで溶出メカニズムの解明が可能になり材料設計指針の確立が期待される

79

発表論文リスト

口頭発表

第 2章および第 3章

(1) SnO-P2O5 系ガラスへの酸化物添加効果

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎

日本セラミックス協会第 25 回秋季シンポジウム No3C06 (名古屋市 2012年 9月)

(2) Effect of Nb2O5 addition to SnO-P2O5 glass (Poster)

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

International Union of Materials Research Societies International Conference on Electronic

Materials IUMRS-ICEM 2012 A-9-P26-003 (Yokohama 2012 年 9月)

(3) スズリン酸塩系ガラスの蛍光特性耐水性に及ばす酸化物の添加効果(ポスター)

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎

日本セラミックス協会 2013 年年会 1P070 (東京 2013年 3月)

第 4章

(1) 放射光を用いたスズリン酸塩ガラスの構造解析

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎小原真二臼杵毅

日本セラミックス協会第 27 回秋季シンポジウム 2B22 (鹿児島市 2014年 9 月)

(2) Structural analysis of tin phosphate glasses by synchrotron radiation (Poster)

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba Shinji Kohara Takeshi Usuki

International Congress on Glass ICG Annual Meeting Bangkok 2015 P14-138 p186 (2015)

発表論文

(1) Effect of Nb2O5 addition to SnO- P2O5 glass

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

Journal of the Ceramic Society of Japan Vol 120 No 11 pp530-533 (2012)

(2) Structural analysis of SnO- P2O5 glass

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

Journal of the Ceramic Society of Japan(準備中)

80

謝辞

本研究を遂行するにあたり終始暖かいご指導ご助言並びにご鞭撻を賜わりました岡

山大学大学院環境生命科学研究科 難波徳郎教授に心より感謝の意を表します

また本研究を遂行するにあたり懇切丁寧なご指導とご意見をしていただいた岡山大

学大学院環境生命科学研究科 紅野安彦准教授環境環理センター 崎田真一助教に心より

感謝いたします

本研究を遂行するにあたりラマン分光測定の使用についてご助言ご教授して頂い

た岡山大学自然科学研究科 藤井達生教授中西真助教に心より感謝の意を表します

Sn のメスバウアー測定の際に協力して頂いた岡山大学自然科学研究科先端自然科学教

育研究推進本部高田研究室 松本修治特任助教(当時旭硝子株式会社中央研究所)また

Feのメスバウアーを測定の際に協力して頂いた岡山大学自然科学研究科 藤井達生教授に

心より感謝の意を表します

固体 NMR の岡山大学自然科学研究科 早川聡教授に心より感謝の意を表します

本研究を遂行するにあたりSPring-8 にてHEXRD および AXS 法の測定法および原理

についてご教示頂きました物質材料研究機構 小原真司博士ならびに山形大学 臼杵毅

教授に心より感謝の意を表します

本研究は多くの後輩諸君の協力によって遂行されました特に実際に共同研究共同

実験を遂行して頂いたOG 藤原沙弥香さん博士前期課程 2 年 東利彦君OB 徳岡太誠

君学士課程 4年 塩田将大君に心より感謝の意を表しますまた難波研究室で共に研

究生活を過ごした卒業生在学生の方々に感謝の意を表します

また同時期に博士後期課程に在籍された香川高等専門学校の桟敷剛さんにはNbに

関する有益な情報だけでなく辛い状況でも励ましを頂きました心より感謝の意を表し

ます

最後に長きに渡る学生生活を認め経済面だけでなく精神面でも支援してくださった

家族に心より深く感謝の意を表します

平成 28年 3月

福井 聡史

Page 80: 博士論文 スズリン酸塩系ガラスの物性と構造解析ousar.lib.okayama-u.ac.jp/files/public/5/54353/...博士論文 スズリン酸塩系ガラスの物性と構造解析

77

第 5章 総括

本研究ではSP ガラスを対象とした本研究では鉛フリー代替ガラスまたは希土類フ

リー蛍光体として SP ガラスの新規高機能化を将来的に目指し問題点であるldquo化学的耐久

性rdquoの改善につながる知見を得ることを目的としたそこでまずSP ガラスを母体ガラ

スとし第三成分に Nb2O5を添加した Sn-Nb-P SNP ガラスZnO を添加した SZP ガラスを

作製し耐水性を中心とした物性評価を行った次に分光学的手法で構造解析を行い

Qn 分布を導き出した最後に放射光を用いた構造解析を行い耐水性改善に関する構造的

な考察を行った以下に本研究で行った検討内容を示す

(1)SPガラスおよび第三成分Nb2O5 ZnOを添加した三成分系SPガラスの物性評価(第 2章)

(2)SP 系ガラスの分光学的手法による Qn分布導出(第 3章)

(3)放射光を用いた SP 系ガラスの構造解析構造と耐水性改善の関連について(第 4章)

各章についてまとめた結果を以下に示す

第 2章

第 2章では二成分系および三成分系のリン酸塩系ガラスの各種物性(密度や熱的特性

耐水性)の評価を行った二成分系ではSP ガラスに加え良好な耐水性を有する鉄リン

酸塩(Fe2O3-P2O5)系ガラス(以下 FP ガラス)を比較のために三成分系では二成分系

の SP ガラスに Nb2O5を添加したニオブ含有 SP ガラス(SNP ガラス)および ZnO を添加し

た亜鉛含有 SP ガラス(SZP ガラス)を作製した

今回作製した SP 系ガラスは低ガラス転移温度を有していた各組成の温度域はSP

ガラスTg le 280 Sn-Nb-P SNPガラスTg le 3505SZP S5ZPガラスTg ≦ 450であった

各種 SP ガラスの耐水性試験の結果二成分系の SP ガラスよりも三成分系ガラスの方が

良好な耐水性を有していた65Sn-5Nb-30P 67S5N28P ガラスが最も耐水性が良好であり化

学的耐久性の改善には Nb2O5が ZnOよりも効果的であった

組成と耐水性に関してはDRおよび重量減がOP増加で単調に低下した結果が得られた

つまり耐水性を改善させるにはSP 系ガラスのガラス化範囲を拡大かつ OP を増大させ

る第三成分の添加が有効であることが示唆された

第 3章

第 3章ではSP 系ガラスの分光学的手法による Qn分布の導出を行ったラマン分光法を

用いて各ガラス系のリン酸塩アニオンの構造を簡易定量で評価し組成と構造の関係に

ついて考察した平均 BO 数 n と耐水性に関してはDR および重量減が平均 BO 数 nの減

少で単調に低下することが明らかとなった

平均 BO 数 n と OP の関係より耐水性改善には平均 BO 数 n を下げることそして

OP を上げることが重要であることが明らかになった

78

Nb5+の添加は平均 BO数を減少させるだけでなくOP も上げることからガラス構造

内の P-O-P 結合を減少させ水和反応加水分解反応が抑制され耐水性が大幅に改善さ

れることが示唆された故にNb2O5 のような高価数金属酸化物を添加することが効果的

であることが再度確認された

第 4章

耐水性向上についてより深く評価するためSP SNP ガラスの局所構造に関する知見を得

ることを目的に放射光を用いた構造解析を行った高エネルギーX 線回折(HEXRD)お

よび X 線異常散乱(AXS)法で測定したデータを再現する構造モデルを逆モンテカルロ

(RMC)シミュレーションで構築し構造解析を行った

RMC モデル中の PON多面体に関して平均配位数 Nが 4および P-O の平均結合距離が約

160Å平均結合角度angO-P-Oが約 109degという結果が得られた組成による大きな違いは確

認されなかったSnON多面体については平均配位数 N が 3~4 でSnO 量の増加に伴い 4

に近い値となった平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約 22Åで組成

による大きな変化は見られなかった

Nb2O5を 5 mol添加したガラスではNbON多面体の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平

均配位数N約4Nb-O平均結合距離約20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O

(約 105deg)と値が近いことまた6配位ではなく 4配位として主に存在していることから

SnO と同じような網目形成体として働いていると推測されたまた結合距離が Sn-O が約

22Åに対し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強

固にしていると考えられるまたSnO 量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体

的に各多面体同士の頂点共有が増えていることから耐水性の改善には頂点共有を多く

含む構造もしくは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的であること

が示唆された以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性

耐候性を改善した要因として考えられる

またAXS 法の有効性についても確認し効果的であることが判明したただし今回

は主成分が Snの組成のガラスでありHEXRD でも十分に詳細な Snの周辺構造が得られ

たためAXSを利用した場合との大きな構造の差は認められなかった

本研究では様々な優れた特徴を有する SP ガラスにおける耐水性改善のメカニズムにつ

いて検討を行ったこの系のガラスについてはこれまでほとんど利用されていなかった

放射光を用いた構造解析を駆使し第三成分の添加によってどのような構造的変化が生じ

耐水性を改善させるか新たな知見を得ることができた最終目標である機能性ガラスの

開発における新たなる材料設計指針の確立に対してldquo耐水性rdquoに関しては概ね明らかにな

ったと考えられる一方で今回検討していな電子状態化学結合性についても評価する

ことで溶出メカニズムの解明が可能になり材料設計指針の確立が期待される

79

発表論文リスト

口頭発表

第 2章および第 3章

(1) SnO-P2O5 系ガラスへの酸化物添加効果

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎

日本セラミックス協会第 25 回秋季シンポジウム No3C06 (名古屋市 2012年 9月)

(2) Effect of Nb2O5 addition to SnO-P2O5 glass (Poster)

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

International Union of Materials Research Societies International Conference on Electronic

Materials IUMRS-ICEM 2012 A-9-P26-003 (Yokohama 2012 年 9月)

(3) スズリン酸塩系ガラスの蛍光特性耐水性に及ばす酸化物の添加効果(ポスター)

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎

日本セラミックス協会 2013 年年会 1P070 (東京 2013年 3月)

第 4章

(1) 放射光を用いたスズリン酸塩ガラスの構造解析

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎小原真二臼杵毅

日本セラミックス協会第 27 回秋季シンポジウム 2B22 (鹿児島市 2014年 9 月)

(2) Structural analysis of tin phosphate glasses by synchrotron radiation (Poster)

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba Shinji Kohara Takeshi Usuki

International Congress on Glass ICG Annual Meeting Bangkok 2015 P14-138 p186 (2015)

発表論文

(1) Effect of Nb2O5 addition to SnO- P2O5 glass

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

Journal of the Ceramic Society of Japan Vol 120 No 11 pp530-533 (2012)

(2) Structural analysis of SnO- P2O5 glass

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

Journal of the Ceramic Society of Japan(準備中)

80

謝辞

本研究を遂行するにあたり終始暖かいご指導ご助言並びにご鞭撻を賜わりました岡

山大学大学院環境生命科学研究科 難波徳郎教授に心より感謝の意を表します

また本研究を遂行するにあたり懇切丁寧なご指導とご意見をしていただいた岡山大

学大学院環境生命科学研究科 紅野安彦准教授環境環理センター 崎田真一助教に心より

感謝いたします

本研究を遂行するにあたりラマン分光測定の使用についてご助言ご教授して頂い

た岡山大学自然科学研究科 藤井達生教授中西真助教に心より感謝の意を表します

Sn のメスバウアー測定の際に協力して頂いた岡山大学自然科学研究科先端自然科学教

育研究推進本部高田研究室 松本修治特任助教(当時旭硝子株式会社中央研究所)また

Feのメスバウアーを測定の際に協力して頂いた岡山大学自然科学研究科 藤井達生教授に

心より感謝の意を表します

固体 NMR の岡山大学自然科学研究科 早川聡教授に心より感謝の意を表します

本研究を遂行するにあたりSPring-8 にてHEXRD および AXS 法の測定法および原理

についてご教示頂きました物質材料研究機構 小原真司博士ならびに山形大学 臼杵毅

教授に心より感謝の意を表します

本研究は多くの後輩諸君の協力によって遂行されました特に実際に共同研究共同

実験を遂行して頂いたOG 藤原沙弥香さん博士前期課程 2 年 東利彦君OB 徳岡太誠

君学士課程 4年 塩田将大君に心より感謝の意を表しますまた難波研究室で共に研

究生活を過ごした卒業生在学生の方々に感謝の意を表します

また同時期に博士後期課程に在籍された香川高等専門学校の桟敷剛さんにはNbに

関する有益な情報だけでなく辛い状況でも励ましを頂きました心より感謝の意を表し

ます

最後に長きに渡る学生生活を認め経済面だけでなく精神面でも支援してくださった

家族に心より深く感謝の意を表します

平成 28年 3月

福井 聡史

Page 81: 博士論文 スズリン酸塩系ガラスの物性と構造解析ousar.lib.okayama-u.ac.jp/files/public/5/54353/...博士論文 スズリン酸塩系ガラスの物性と構造解析

78

Nb5+の添加は平均 BO数を減少させるだけでなくOP も上げることからガラス構造

内の P-O-P 結合を減少させ水和反応加水分解反応が抑制され耐水性が大幅に改善さ

れることが示唆された故にNb2O5 のような高価数金属酸化物を添加することが効果的

であることが再度確認された

第 4章

耐水性向上についてより深く評価するためSP SNP ガラスの局所構造に関する知見を得

ることを目的に放射光を用いた構造解析を行った高エネルギーX 線回折(HEXRD)お

よび X 線異常散乱(AXS)法で測定したデータを再現する構造モデルを逆モンテカルロ

(RMC)シミュレーションで構築し構造解析を行った

RMC モデル中の PON多面体に関して平均配位数 Nが 4および P-O の平均結合距離が約

160Å平均結合角度angO-P-Oが約 109degという結果が得られた組成による大きな違いは確

認されなかったSnON多面体については平均配位数 N が 3~4 でSnO 量の増加に伴い 4

に近い値となった平均結合角度angO-Sn-O は約 105degで平均結合距離は約 22Åで組成

による大きな変化は見られなかった

Nb2O5を 5 mol添加したガラスではNbON多面体の平均結合角angO-Nb-O約 106deg平

均配位数N約4Nb-O平均結合距離約20Åという結果が得られた平均結合角がangO-Sn-O

(約 105deg)と値が近いことまた6配位ではなく 4配位として主に存在していることから

SnO と同じような網目形成体として働いていると推測されたまた結合距離が Sn-O が約

22Åに対し Nb-O は約 20Åであるためこの結合距離の短さがガラス網目の結合をより強

固にしていると考えられるまたSnO 量増加Nb2O5の添加に伴いガラス構造中で全体

的に各多面体同士の頂点共有が増えていることから耐水性の改善には頂点共有を多く

含む構造もしくは頂点共有以外が少量含まれることが耐水性改善に効果的であること

が示唆された以上の Nb2O5の添加による構造の変化が二成分系 SP ガラスより耐水性

耐候性を改善した要因として考えられる

またAXS 法の有効性についても確認し効果的であることが判明したただし今回

は主成分が Snの組成のガラスでありHEXRD でも十分に詳細な Snの周辺構造が得られ

たためAXSを利用した場合との大きな構造の差は認められなかった

本研究では様々な優れた特徴を有する SP ガラスにおける耐水性改善のメカニズムにつ

いて検討を行ったこの系のガラスについてはこれまでほとんど利用されていなかった

放射光を用いた構造解析を駆使し第三成分の添加によってどのような構造的変化が生じ

耐水性を改善させるか新たな知見を得ることができた最終目標である機能性ガラスの

開発における新たなる材料設計指針の確立に対してldquo耐水性rdquoに関しては概ね明らかにな

ったと考えられる一方で今回検討していな電子状態化学結合性についても評価する

ことで溶出メカニズムの解明が可能になり材料設計指針の確立が期待される

79

発表論文リスト

口頭発表

第 2章および第 3章

(1) SnO-P2O5 系ガラスへの酸化物添加効果

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎

日本セラミックス協会第 25 回秋季シンポジウム No3C06 (名古屋市 2012年 9月)

(2) Effect of Nb2O5 addition to SnO-P2O5 glass (Poster)

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

International Union of Materials Research Societies International Conference on Electronic

Materials IUMRS-ICEM 2012 A-9-P26-003 (Yokohama 2012 年 9月)

(3) スズリン酸塩系ガラスの蛍光特性耐水性に及ばす酸化物の添加効果(ポスター)

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎

日本セラミックス協会 2013 年年会 1P070 (東京 2013年 3月)

第 4章

(1) 放射光を用いたスズリン酸塩ガラスの構造解析

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎小原真二臼杵毅

日本セラミックス協会第 27 回秋季シンポジウム 2B22 (鹿児島市 2014年 9 月)

(2) Structural analysis of tin phosphate glasses by synchrotron radiation (Poster)

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba Shinji Kohara Takeshi Usuki

International Congress on Glass ICG Annual Meeting Bangkok 2015 P14-138 p186 (2015)

発表論文

(1) Effect of Nb2O5 addition to SnO- P2O5 glass

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

Journal of the Ceramic Society of Japan Vol 120 No 11 pp530-533 (2012)

(2) Structural analysis of SnO- P2O5 glass

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

Journal of the Ceramic Society of Japan(準備中)

80

謝辞

本研究を遂行するにあたり終始暖かいご指導ご助言並びにご鞭撻を賜わりました岡

山大学大学院環境生命科学研究科 難波徳郎教授に心より感謝の意を表します

また本研究を遂行するにあたり懇切丁寧なご指導とご意見をしていただいた岡山大

学大学院環境生命科学研究科 紅野安彦准教授環境環理センター 崎田真一助教に心より

感謝いたします

本研究を遂行するにあたりラマン分光測定の使用についてご助言ご教授して頂い

た岡山大学自然科学研究科 藤井達生教授中西真助教に心より感謝の意を表します

Sn のメスバウアー測定の際に協力して頂いた岡山大学自然科学研究科先端自然科学教

育研究推進本部高田研究室 松本修治特任助教(当時旭硝子株式会社中央研究所)また

Feのメスバウアーを測定の際に協力して頂いた岡山大学自然科学研究科 藤井達生教授に

心より感謝の意を表します

固体 NMR の岡山大学自然科学研究科 早川聡教授に心より感謝の意を表します

本研究を遂行するにあたりSPring-8 にてHEXRD および AXS 法の測定法および原理

についてご教示頂きました物質材料研究機構 小原真司博士ならびに山形大学 臼杵毅

教授に心より感謝の意を表します

本研究は多くの後輩諸君の協力によって遂行されました特に実際に共同研究共同

実験を遂行して頂いたOG 藤原沙弥香さん博士前期課程 2 年 東利彦君OB 徳岡太誠

君学士課程 4年 塩田将大君に心より感謝の意を表しますまた難波研究室で共に研

究生活を過ごした卒業生在学生の方々に感謝の意を表します

また同時期に博士後期課程に在籍された香川高等専門学校の桟敷剛さんにはNbに

関する有益な情報だけでなく辛い状況でも励ましを頂きました心より感謝の意を表し

ます

最後に長きに渡る学生生活を認め経済面だけでなく精神面でも支援してくださった

家族に心より深く感謝の意を表します

平成 28年 3月

福井 聡史

Page 82: 博士論文 スズリン酸塩系ガラスの物性と構造解析ousar.lib.okayama-u.ac.jp/files/public/5/54353/...博士論文 スズリン酸塩系ガラスの物性と構造解析

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発表論文リスト

口頭発表

第 2章および第 3章

(1) SnO-P2O5 系ガラスへの酸化物添加効果

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎

日本セラミックス協会第 25 回秋季シンポジウム No3C06 (名古屋市 2012年 9月)

(2) Effect of Nb2O5 addition to SnO-P2O5 glass (Poster)

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

International Union of Materials Research Societies International Conference on Electronic

Materials IUMRS-ICEM 2012 A-9-P26-003 (Yokohama 2012 年 9月)

(3) スズリン酸塩系ガラスの蛍光特性耐水性に及ばす酸化物の添加効果(ポスター)

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎

日本セラミックス協会 2013 年年会 1P070 (東京 2013年 3月)

第 4章

(1) 放射光を用いたスズリン酸塩ガラスの構造解析

福井聡史崎田真一紅野安彦難波徳郎小原真二臼杵毅

日本セラミックス協会第 27 回秋季シンポジウム 2B22 (鹿児島市 2014年 9 月)

(2) Structural analysis of tin phosphate glasses by synchrotron radiation (Poster)

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba Shinji Kohara Takeshi Usuki

International Congress on Glass ICG Annual Meeting Bangkok 2015 P14-138 p186 (2015)

発表論文

(1) Effect of Nb2O5 addition to SnO- P2O5 glass

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

Journal of the Ceramic Society of Japan Vol 120 No 11 pp530-533 (2012)

(2) Structural analysis of SnO- P2O5 glass

Satoshi Fukui Shinichi Sakida Yasuhiko Benino Tokuro Nanba

Journal of the Ceramic Society of Japan(準備中)

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謝辞

本研究を遂行するにあたり終始暖かいご指導ご助言並びにご鞭撻を賜わりました岡

山大学大学院環境生命科学研究科 難波徳郎教授に心より感謝の意を表します

また本研究を遂行するにあたり懇切丁寧なご指導とご意見をしていただいた岡山大

学大学院環境生命科学研究科 紅野安彦准教授環境環理センター 崎田真一助教に心より

感謝いたします

本研究を遂行するにあたりラマン分光測定の使用についてご助言ご教授して頂い

た岡山大学自然科学研究科 藤井達生教授中西真助教に心より感謝の意を表します

Sn のメスバウアー測定の際に協力して頂いた岡山大学自然科学研究科先端自然科学教

育研究推進本部高田研究室 松本修治特任助教(当時旭硝子株式会社中央研究所)また

Feのメスバウアーを測定の際に協力して頂いた岡山大学自然科学研究科 藤井達生教授に

心より感謝の意を表します

固体 NMR の岡山大学自然科学研究科 早川聡教授に心より感謝の意を表します

本研究を遂行するにあたりSPring-8 にてHEXRD および AXS 法の測定法および原理

についてご教示頂きました物質材料研究機構 小原真司博士ならびに山形大学 臼杵毅

教授に心より感謝の意を表します

本研究は多くの後輩諸君の協力によって遂行されました特に実際に共同研究共同

実験を遂行して頂いたOG 藤原沙弥香さん博士前期課程 2 年 東利彦君OB 徳岡太誠

君学士課程 4年 塩田将大君に心より感謝の意を表しますまた難波研究室で共に研

究生活を過ごした卒業生在学生の方々に感謝の意を表します

また同時期に博士後期課程に在籍された香川高等専門学校の桟敷剛さんにはNbに

関する有益な情報だけでなく辛い状況でも励ましを頂きました心より感謝の意を表し

ます

最後に長きに渡る学生生活を認め経済面だけでなく精神面でも支援してくださった

家族に心より深く感謝の意を表します

平成 28年 3月

福井 聡史

Page 83: 博士論文 スズリン酸塩系ガラスの物性と構造解析ousar.lib.okayama-u.ac.jp/files/public/5/54353/...博士論文 スズリン酸塩系ガラスの物性と構造解析

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謝辞

本研究を遂行するにあたり終始暖かいご指導ご助言並びにご鞭撻を賜わりました岡

山大学大学院環境生命科学研究科 難波徳郎教授に心より感謝の意を表します

また本研究を遂行するにあたり懇切丁寧なご指導とご意見をしていただいた岡山大

学大学院環境生命科学研究科 紅野安彦准教授環境環理センター 崎田真一助教に心より

感謝いたします

本研究を遂行するにあたりラマン分光測定の使用についてご助言ご教授して頂い

た岡山大学自然科学研究科 藤井達生教授中西真助教に心より感謝の意を表します

Sn のメスバウアー測定の際に協力して頂いた岡山大学自然科学研究科先端自然科学教

育研究推進本部高田研究室 松本修治特任助教(当時旭硝子株式会社中央研究所)また

Feのメスバウアーを測定の際に協力して頂いた岡山大学自然科学研究科 藤井達生教授に

心より感謝の意を表します

固体 NMR の岡山大学自然科学研究科 早川聡教授に心より感謝の意を表します

本研究を遂行するにあたりSPring-8 にてHEXRD および AXS 法の測定法および原理

についてご教示頂きました物質材料研究機構 小原真司博士ならびに山形大学 臼杵毅

教授に心より感謝の意を表します

本研究は多くの後輩諸君の協力によって遂行されました特に実際に共同研究共同

実験を遂行して頂いたOG 藤原沙弥香さん博士前期課程 2 年 東利彦君OB 徳岡太誠

君学士課程 4年 塩田将大君に心より感謝の意を表しますまた難波研究室で共に研

究生活を過ごした卒業生在学生の方々に感謝の意を表します

また同時期に博士後期課程に在籍された香川高等専門学校の桟敷剛さんにはNbに

関する有益な情報だけでなく辛い状況でも励ましを頂きました心より感謝の意を表し

ます

最後に長きに渡る学生生活を認め経済面だけでなく精神面でも支援してくださった

家族に心より深く感謝の意を表します

平成 28年 3月

福井 聡史