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1 CS メルマガ 2019 03 月号 <医薬品> 1)EBioMedicine. Articles in Press. Published onlineJanuary 25, 2019DOIhttps://doi.org/10.1016/j.ebiom.2019.01.012 ◆急性骨髄性白血病マウスモデルで増殖を強力に阻害する剤 HSN431 の創製 急性骨髄性白血病(AML)は、数十年に渡る AML 治療薬の精力的な開発にも拘わら ず、依然として最も致命的で稀にしか治療できない癌の 1 つである。現在、AML 患者の 5 年生存率は約 30%であり、そして高齢患者については、この率は<10%に低下する。 AML 患者の約 30%が、Fms 様チロシンキナーゼ 3FLT3:主に造血幹細胞に発現する受 容体型チロシンキナーゼで、血液細胞の分化や増殖のシグナル伝達に関与している)、 又は、FLT3 をコード化する遺伝子 ITDFLT3-ITDAML 30%に認められる遺伝子変 異)のチロシンキナーゼ領域(TKD:細胞の増殖・分化などに関わる信号の伝達に重要 な役割を果たすもので、この遺伝子の変異によってチロシンキナーゼが異常に活性化す ると、細胞が異常に増殖し、癌などの疾病の原因となる)で活性化突然変異を抱えてい る。最近 FDA により承認されたミドスタウリン(商品名:Rydapt)のような FLT3 阻害 剤は、良好な初期反応を示すが、FLT3 キナーゼ領域内での二次突然変異のために患者は しばしば再発することが知られている。今回、米国、パデユー大学の研究者らは、各種 のアルキニルアミノイソキノリン類とアルキニルナフチリジン類を、薗頭カップリング 反応を介して合成し、これら化合物類を、白血病増殖に対して in vitro/in vivo で評価 し、低ナノモル濃度で FLT3 キナーゼ活性を阻害する化合物として HSN431 を見出した ことを報告した。該剤は、ヒト白血病細胞株の生存率を強力に阻害し、IC50 値は 1nM 満で、更に、二次突然変異を有する薬剤耐性 AML 細胞の生存率も強力に阻害したこと を報告した。(マウスにお ける in vivo 有効性試験は、 該剤がマウスにおける AML 増殖を劇的に減少さ せることを実証したもので あり、FLT3、及び、Src ような下流の標的を阻害す る化合物は、抗 AML 剤と しての開発のための優れた 手がかりを与えるものと言えよう…)

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CS メルマガ 2019 年 03 月号

<医薬品> 1)EBioMedicine. Articles in Press. Published online:January 25, 2019|DOI:

https://doi.org/10.1016/j.ebiom.2019.01.012 ◆急性骨髄性白血病マウスモデルで増殖を強力に阻害する剤 HSN431 の創製 急性骨髄性白血病(AML)は、数十年に渡る AML 治療薬の精力的な開発にも拘わら

ず、依然として最も致命的で稀にしか治療できない癌の 1 つである。現在、AML 患者の

5 年生存率は約 30%であり、そして高齢患者については、この率は<10%に低下する。

AML 患者の約 30%が、Fms 様チロシンキナーゼ 3(FLT3:主に造血幹細胞に発現する受

容体型チロシンキナーゼで、血液細胞の分化や増殖のシグナル伝達に関与している)、

又は、FLT3 をコード化する遺伝子 ITD(FLT3-ITD:AML 約 30%に認められる遺伝子変

異)のチロシンキナーゼ領域(TKD:細胞の増殖・分化などに関わる信号の伝達に重要

な役割を果たすもので、この遺伝子の変異によってチロシンキナーゼが異常に活性化す

ると、細胞が異常に増殖し、癌などの疾病の原因となる)で活性化突然変異を抱えてい

る。最近 FDA により承認されたミドスタウリン(商品名:Rydapt)のような FLT3 阻害

剤は、良好な初期反応を示すが、FLT3 キナーゼ領域内での二次突然変異のために患者は

しばしば再発することが知られている。今回、米国、パデユー大学の研究者らは、各種

のアルキニルアミノイソキノリン類とアルキニルナフチリジン類を、薗頭カップリング

反応を介して合成し、これら化合物類を、白血病増殖に対して in vitro/in vivo で評価

し、低ナノモル濃度で FLT3 キナーゼ活性を阻害する化合物として HSN431 を見出した

ことを報告した。該剤は、ヒト白血病細胞株の生存率を強力に阻害し、IC50 値は 1nM 未

満で、更に、二次突然変異を有する薬剤耐性 AML 細胞の生存率も強力に阻害したこと

を報告した。(マウスにお

ける in vivo 有効性試験は、

該剤がマウスにおける

AML 増殖を劇的に減少さ

せることを実証したもので

あり、FLT3、及び、Src の

ような下流の標的を阻害す

る化合物は、抗 AML 剤と

しての開発のための優れた

手がかりを与えるものと言えよう…)

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2)Medical Xpress. January 31, 2019 / Cell. Published:January 31, 2019 |DOI: https://doi.org/10.1016/j.cell.2019.01.002

◆発癌性 NRAS 誘発メラノーマを阻害す STK19 阻害剤 ZT-12-037-01 の開発

黒色腫(メラノーマ)は最も致命的な皮膚癌であり、従来の化学療法、放射線治療が効

きにくいことから、悪性度の高い腫瘍として知られている。又、既存薬剤に対して耐性

を獲得し、より治療が困難な癌となりつつある。黒色腫の約 25 パーセントが NRAS 遺

伝子の発癌性突然変異によって、そして、約 40~50%が BRAF 遺伝子の変異によって引

き起こされており、非常に魅力的な治療標的となっているが、何十年にも渡る研究にも

拘わらず、BRAF 遺伝子(BRAF の 600 番目のアミノ酸はバリン(V)と呼ばれる必須ア

ミノ酸ですが、これが変異によってグルタミン酸(E)に変わると、増殖しろという命

令が出し続けられ、癌が無秩序に増殖し続ける)とは対照的に、NRAS 遺伝子(癌遺伝

子のひとつで、細胞増殖を促進するシグナルを、細胞内で伝達するという役割を持つ

RAS タンパクを作り出す遺伝子)を標的とした効果的な治療法は未だ発表されていない

のが現状であった。今回、米国、ボストン大学医学部薬理学教室と、中国、復旦大学上

海癌病院の共同研究チームは、新規 NRAS 活性化剤として以前に特徴付けされていない

セリン/スレオニンキナーゼ STK19(活性化にともなって核内へと移行することから、細

胞外のシグナルを核内へと伝える鍵分子として機能)を特定し、STK19 が、発癌性

NRAS をリン酸化して活性化させてその下流のエフェクター(タンパク質に選択的に結

合してその生理活性を制御する小分子)への結合を増強し、発癌性 NRAS 誘発メラノサ

イト悪性転換を促進することを明らかにしすると共に、新規で強力、且つ、選択的な

SKT19 阻害剤として ZT-12-037-01 を開発したことを報告した。ZT-12-037-01 は、発癌性

NRAS 誘発メラノサイト細胞悪性転換とメラノーマ増殖を in vitro と in vivo で効果的に

阻害することも明らかにし報告した。(BRAF 遺伝子変異が認められていない患者に対し

てはオプジーボ(ニボルマブ)など癌免疫治療の新薬が開発され、BRAF 遺伝子変異の

患者に対してはゼルボラフ(ベムラフェニブ)

などの BRAF 阻害剤が開発されたことで治療成

績が向上しているが、問題は、NRAS 遺伝子変

異のある悪性黒色腫(メラノーマ)の治療薬の

開発であったが、最近では、ビニメチブ

(binimetinib)が開発され、ダカルバジン

(dacarbazine)と比べより有意に PFS(無増悪

生存期間)を延長することが明らかにされてい

るが、今回の結果は、NRAS 突然変異による黒

色腫の新しい実行可能な治療戦略を提供するも

のと言えよう…)

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3)Scientific Reports 9, Article number:1096 (2019):Published:31 January 2019

◆休眠前立腺癌細胞を殺すために設計された抗癌ポリマー 休眠中の癌細胞を排除するのに有効な抗癌治療薬の発見は、癌生物学における重要な課

題である。休眠中の癌細胞は増殖しないが、急速に増殖する細胞のみを標的とする従来

の化学療法には殆ど抵抗性があり、再発と転移に繋がる。今回、米国、ミシガン大学の

研究者らは、癌細胞表面に露出しているアニオン性脂質を標的とし、癌細胞膜を破壊す

ることによって作用するように設計されたデザイナー分子は、細胞増殖に依存しないの

で、該分子は、休眠癌細胞に対して活性であると仮定した。具体的には、細胞膜のバリ

ア機能を物理的に損なうことは致命的であろうが、必ずしも細胞周期の段階に依存する

わけではないこと、更に、癌細胞は、正常細胞と比較して細胞膜表面にホスファチジル

セリン(PS:リン脂質の成分であり、通常はフリッパーゼと呼ばれる酵素によって細胞

膜の内葉に留められているが、細胞にアポトーシスが起こる時、PS は、細胞膜の細胞

質側にもはや制限されず、細胞の表面に露出するようになる)を過剰発現しており、こ

れは癌選択的結合標的を提供する可能性がある。従って、PS 脂質に結合し、細胞膜を

破壊することができるデザイナー分子は、休眠中の癌細胞を効果的に殺し得るとの仮定

のもと、宿主防御ペプチド(別名、抗菌ペプチド、又は、抗癌ペプチドとも呼ばれ、病

原微生物の感染から宿主を守るための自然免疫としての生体防御機構のひとつ)からヒ

ントを得たものであり、これら抗癌ポリマーは、カチオン性と疎水性側鎖からなる二成

分モノマー組成物のランダム配列を有する低分子量メタクリレートコポリマーである。

該ポリマーは、増殖する前立腺癌に対して細胞傷害性を示し、重要なことに、ドセタキ

セル(docetaxel:タキサン系の抗癌剤の一つで、重合した微小管に結合して細胞の有糸

分裂を阻害する)に耐性であった休眠前立腺癌細胞を殺したとのことである。(該研究

は、癌細胞膜標的化機構が、薬剤耐性癌細胞を治療するための新しいアプローチを提供

するものであり、更に、その有効性や癌選択性を改善するべく更なる研究が必要ではあ

ると共に、該ポリマーの生体内分布や全身毒性は未知であり、治療有効性や送達システ

ムの開発が必要となろう…)

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4)C&EN. February 3, 2019 | Appeared in Vol. 97, Issue 5 / Medical Xpress. February 1, 2019 / Science.01 Feb. 2019. Vol. 363, Issue 6426, eaau8959. DOI:10.1126/science.aau8959

◆耐性結核菌の殺菌に効果的な小分子 8918 の同定

結核は他のどの感染性菌よりも多くの人々(毎年約 150 万人以上の人々)を死に至らし

ている。結核は、結核菌(Mtb)によって引き起こされる細菌感染症で、この空気感染

病原体は肺に感染する傾向があり、人から人へと感染する。1950 年代に研究者達は、こ

の病気を治療する薬を開発してきたが、その時以来、結核菌は耐性を発達させた結果、

今日、全新規症例の略 3 分の 1 は耐性菌によって引き起こされており、結核は世界的な

健康危機であり、既存薬に対する耐性が生じるにつれて悪化する恐れが指摘されてい

る。新薬を開発するためには理想的な標的を同定し、Mtb には特異的であるが宿主には

存在しない生化学的経路の弱点を阻害する分子を探す必要があった。今回、米国、Weill

Cornell Medicine、テキサス A&M 大学、及び、フランス、Sanofi の研究者らは、Mtb 中

のホスホパンテテイニルトランスフェラーゼ(PptT:CoA からホスホパンテテイン基を

脂肪酸合成酵素やポリケチド合成酵素 (PKS)、非リボソームペプチド合成酵素 (NRPS)

などのキャリア蛋白質に転移して活性化させる酵素)と呼ばれる酵素が、Mtb 中のマイ

コバクテリアの構造脂質、及び、ビルレンス脂質(病原性脂質)の生合成に必要である

ことを見出し、PptT を阻害する小分子 8918 を同定したことを報告した。該小分子によ

る処置は、in vitro とマウスモデルにおける病原菌の選択的な死滅を齎すこと、標的経路

は、その活性がトランスフェラーゼの活性に対抗する第二の酵素(ホスホパンテテイン

ヒドロラーゼ)によって PptT 阻害作用

が進行したことを報告している。(該剤

は、in vitro やマウスモデルで有効性を

示しているが、該剤は半減期が短く、

急速なミクロソーム代謝を齎すので、

多くの Mtb を殺傷するためには、長い

滞留時間を必要とするため、更なる改

良が必要ではないか…)

5)iScience. Vol. 12, Pages 280-292 |22 February 2019 ◆ひとつの金属錯体上でイオン結合、水素結合、ハロゲン結合の 3 種が協働して高立体選

択的な反応を促進する触媒の開発と光学活性ラクトン類の新規合成法の開発 静電気力は、幅広い分子間相互作用に働く基本的な力であり、触媒作用では、様々な金

属カチオン類(金属錯体触媒)が、基質に配位し反応性を高める触媒活性の中心として

機能する。又、水素結合は、水素(H)原子と電気陰性官能基との間で観察される他の

代表的静電相互作用であり、特に金属を用いない有機触媒の分野では最も根幹的で重要

な触媒機構をとして多用されている。そして、金属錯体触媒と有機触媒の融合も精力的

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に研究され、広く利用されたきたが、観察される多くの金属配位と水素結合ネットワー

クは、しばしば、基質の特異的活性化を困難にさせている。異種の非共有静電相互作用

として、ハロゲン結合は、有機化学において大きな注目を集めており、ハロゲン結合は

分子認識の方向を効果的に促進し、従って、官能基選択性を実現することができる。ハ

ロゲン結合は、最近、幾つかの液相触媒で検討されてきたが、不斉反応への応用の成功

は限られていた。今回、千葉大学大学院 理学研究院 基盤理学専攻 荒井 孝義 教授と

立教大学 理学部 化学科 山中 正 浩 教授らの研究チームは、ひとつの金属錯体上でイ

オン結合、水素結合、ハロゲン結合の 3 種が協働することで高立体選択的な反応を促進

する触媒を開発し、それを用いて、医薬などの創製に有用な光学活性ラクトンの新規合

成法を開発したことを報告した。同研究者らは、以前に、光学活性ヨードラクトンを与

える光学活性亜鉛三核錯体触媒(tri-Zn:Zn3(OAc)4-3,3’-bis(aminoimino)-binaphthoxide)

の開発に成功しおり、NMR 実験、並びに、ESI-MS 解析により、tri-Zn 錯体の外側に位

置する酢酸イオンが塩基性を有し、基質のカルボン酸が亜鉛カルボキシレートになって

反応が進行することを明らかにした。今回、 NBS(N-ブロモスクシンイミド)、又は、

NIS(N-ヨードスクシンイミド)は、不斉配位子のジアミン単位との水素結合によって

活性化され、ハロラクトン化は、触媒量の I2 の添加によって著しく増強されることを見

出したものである。そして、密度汎関数理論計算により、触媒量の I2 が基質と NIS のア

ルケン部分を媒介して高度にエナンチオ選択的なヨードラクトン化を実現することが明

らかになったと報告した。tri-Zn 触媒は、カルボン酸成分とアルケン成分の両側を活性

化し、その結果、プロキラルなジアリル酢酸の非対称 5 員環ヨードラクトン化が進行し

て、不斉 γ-ブチロラクトン類が得られるとのことである。尚、触媒サイクルにおいて、

NIS-I2 錯体を用いたヨードラクトン化は、I2 の再生と共に進行し、I2 の触媒的使用を可能

にする。そして、実際のヨウ素化試薬は、NIS ではなく I 2 であると報告している。(該

合成法による光学活性 5 員環ラクトン類は、分子内にヨウ化アルキル基と未反応のオレ

フィン部分を有しており、合成的価値が高い化合物である。今回、開発された方法は、

ハロゲン結合、水素結合、イオン結合の 3 種協働型触媒とそれを用いる不斉合成反応で

あり、合成化学にとって大きな進展と言えるし、新規機能性分子の創製にもその応用が

期待できるのでは…)

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6)Science Daily. February 11, 2019 / Antimicrobial Agents and Chemotherapy. Published online February 11, 2019 |DOI: 10.1128/AAC.02071-18

◆患者の治療時間を短縮する新しい結核薬 AN12855

結核との闘いにおける著しい進歩にも拘わらず、結核は依然として世界中で主要な感染

症の一つであり、WHO によると、2017 年には 1000 万人が結核に罹患し、160 万人がこ

の疾患で死亡したとのことである。又、多剤耐性結核菌の出現は、世界的に結核を管理

するという使命の更なる挑戦でもある。今回、米国、コロラド州立大学マイコバクテリ

ア研究所の研究者らは、現行標準治療の一つであるイソニアジド(isoniazid:イソニコ

チン酸ヒドラジド、INH などとも称されており、結核予防や治療の第一選択薬とされて

いる抗結核薬であるが、イソニアジドに対して結核菌は耐性を急速に獲得することが知

られている)よりも結核に対して、新しい結核薬 AN12855 がより効果的であることを報

告した。マウスの研究では、AN12855 は、耐性発現傾向が遥かに低く、結核菌が存在す

る組織により長く留まり、より効果的に結核菌を殺傷するとのことである。ヒト結核の

特徴は、“不均一性肺疾患”の存在で、肉芽腫と呼ばれる小さな肝嚢胞様体中に侵入す

る細菌を閉じ込める宿主防御が働き、それは血管系が無く、そして、しばしば薬物が病

原体に達するのを妨げている。新薬の臨床評価に使用される殆どマウス TB モデルは、

この高度な肺病理学を生み出すことができないために、このマウスでは、ヒト結核に典

型的な進行性肺疾患の存在下で薬物がどのように作用するのかについてほとんど洞察を

与えることはできない。今回、同研究者らは、C3HeB / FeJ と名付けられた新たな TB マ

ウス有効性モデルを使用して、イソニアジドと AN12855 を比較しものであり、明らかな

薬剤耐性を示すことなく、AN12855 がより効果的であることを明らかにしたものであ

る。(該剤の開発は、TB マウス有効

性モデルの結果であり、該剤が、ヒ

ト結核治療における改善に繋がるか

どうかは、更なる研究が必要かと思

うが、TB マウス有効性モデルの開

発は、良い結核治療の開発を加速す

ることができるのでは…)

7)J. Med. Chem., Article ASAP. DOI:10.1021/acs.jmedchem.8b01725|Publication Date

(Web):January 28, 2019 ◆縮合二環式アロステリック SHP 2 阻害剤の最適化による SHP389 の同定

SHP2 は、細胞増殖、分化、及び、発癌性形質転換を制御する分裂促進因子活性タンパ

ク質キナーゼ(MAPK:mitogen-activated protein kinase)で、細胞質と核に存在し、細胞

質においては細胞増殖を促進する RAS-ERK 経路を活性化する一方、核におけるその役

割は不明であった。SHP2 は、又、免疫監視機構を支配するプログラム化細胞死経路

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(PD-1/PD-L1:PD-1 受容体は活性化 T 細胞の表面に発現し、一方 PD-1 のリガンドで

ある PD-L1 は、通常抗原提示細胞の表面上に発現する免疫チェックポイント・タンパク

質である)にも関与している。SHP-2 の小分子阻害は、トンネル様アロステリック結合

部位に結合する SHP099(IC50=0.071μM)を以前の報告を含めて広く研究されてきた。

SHP2 のアロステリック阻害作用へのアプローチを広げるために、今回、米国、Novartis

Pharmaceuticals と Novartis Institutes for Biomedical Research の研究者らは、更なるヒット

化合物の発見、評価、及び、構造ベース分子骨格変形を行った結果、SHP009 と同じア

ロステリックトンネルに結合する複数の 5,6-縮合二環式骨格分子を同定し、in vivo で

MAPK シグナル伝達を調節する最高点のピラゾロピリミジノン骨格分子 SHP389

(IC50=36nM)を同定したことを報告した。(細胞制御に関わる重要な分子である Ras タ

ンパク質の変異により癌化が促進するが、Ras の更に上流シグナル経路にある SHP2 と

呼ばれる脱リン酸化酵素をノックアウトすると癌増殖が低下することが明らかにされた

後、SHP2 阻害剤で Ras 経路の癌を制御しよう多くの研究が行われている。SHP099 は、

ALK のチロシンキナーゼ阻害剤セリチニブとの併用で、Ras の再活性化が阻害されて抵

抗性 PDC(ALK 阻害剤に抵抗性を示す患者由来の細胞)の増殖を停止することが明ら

かにされており、今回、開発された SHP389 は、より低濃度で効力を発揮するものであ

り、更なる研究を注視したい…)

8)Angewandte Chemie International Edition. Early View. Communication. Version of

Record online:07 February 2019 ◆触媒量の KOtBu を用いたベンジルアルコール類とアルキン類の位置選択的 C-C 結合形

成反応の開発 α-アルキル化ケトン類は、その薬理的特性と物理的特性から、医薬品類合成において、

重要な中間体の地位を占めている。従来の合成法は、化学両論量の塩基の存在下、ハロ

ゲン化アルキルでエノラートする方法、遷移金属触媒で水素化する方法、アルキル化剤

としてアルコールを用いたケトンの C-アルキル化法、及び、Ir、Ru、Pd、Mn、Co、

Fe、及び、Cu といった遷移金属に基づく幾つかの触媒を使用する方法があるが、これら

の殆どの合成法は添加剤として化学両論量の塩基を必要とし、更に、これらの方法は、

出発原料としてケトン類に限定されていた。アルキル剤としてアルコールを用いて α-ア

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ルキル化ケトン類製造の為に、ケトンの代わりに他の基質を使うことは魅力的であり、

アルキン類とアルコール類との遷移金属触媒による C-C 結合生成反応が報告されたが、

該反応は、アルキンのマルコニコフ型水和反応によって進行し、得られる生成物は、ア

ルキン類から誘導される側鎖側に C=O 基を含むものになっていた。遷移金属触媒は、毒

性、複雑な取り扱い技術、資源の乏しさ、及び、貴金属の高コストといった幾つかの制

限があるので、遷移金属を含まない触媒による α-アルキル化ケトン類製造には大きな関

心があった。今回、イスラエル、ワイツマン科学研究所の研究者らは、触媒量の KOtBu

の存在下でベンジルアルコール類とアルキン類を反応させることで、C-C 結合形成反応

を起こし、C =O 基が、アルコール由来の側鎖に位置する α-アルキル化ケトン類を生成

する方法を開発したことを報告した。反応は 125℃加熱条件下で進行し、廃棄物を発生

させず、反応は原子効率が高く、環境に優しく、そして持続可能的であると述べてい

る。尚、該反応機構は、ラジカル的

経路を通じて進行すると述べてい

る。(該方法は、触媒量の塩基を使用

するため廃棄物が殆ど無く、環境に

優しい方法と言えるし、C=O 基がア

ルコール由来の側鎖に位置する α-位

になるのが特徴であり、創薬開発や

フラバノンの一種であるナリンギン

の合成にも有用と言えるのでは…)

9)Medical Xpress. February 14, 2019 / Mol Neuropsychiatry. Online First Articles. DOI:

10.1159/000496086 / Science Daily. February 14, 2019 ◆副作用を低減した抗不安薬、抗痙攣薬、催眠鎮静薬としての新規イミダゾベンゾジアゼ

ピン(IBZD)アミド配位子化合物 GL-II-73、GL-II-74、GL-II-75 の創製 γ-アミノ酪酸(GABA)機能の変化は、精神障害、老化、及び、神経変性障害において

一貫して報告されており、GABA 介在ニューロンの機能低下は、気分障害、及び、認知

症の両方に関連している。ベンゾジアゼピン(BZ)類は、非特異的 GABA-A 受容体

(GABAA-R)標的化によって、広範囲な抗不安薬作用、催眠鎮静作用、抗痙攣作用、

及び、筋弛緩作用を有しており、広く用いられている標準的な薬剤である。しかしなが

ら、主な副作用として、眠気、ふらつき、眩暈、歩行失調、頭痛、失禁、言語障害、霧

視、複視、多幸症、黄疸が、更に重篤な副作用として、前向性健忘症、激昂、鬱病発

症、認知症発症を引き起こすことが知られている。そこで、GABAA-R における、BZ の

活性のプロファイルを変えることによって、これら副作用を軽減することで、更なる治

療的可能性が期待できるとの予測で、今回、カナダ、トロント中毒患者と精神疾患セン

ター(CAMH)の研究者らは、4 つの新規イミダゾベンゾジアゼピン(IBZD)アミド配

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位子化合物を合成し、それらを成体マウスにおける複数の α-GABAA-R(α-陽性アロス

テリックモジュレーター)、薬物動態特性、並びに、抗不安活性と抗鬱活性について試

験し、更に、自発的交替行動試験(Y 字路迷路課題)を使用して、ストレス誘発性、又

は、加齢に関連する作業記憶障害の回復における有効性を評価した。尚、ジアゼパム

(Diazepam:DZP:主に抗不安薬、抗痙攣薬、催眠鎮静薬として用いられる、ベンゾジ

アゼピン系の化合物)を対照として使用した。4 つの内、3 つの化合物 GL-II-73、GL-II-

74、及び、GL-II-75 は、十分な脳透過性を示し、抗不安作用と抗鬱作用を示すことなく

その有効性を示すこと、特に、GL-II-73 と GL-II-75 は、ストレス誘発性と加齢に関連す

る作業記憶欠損を有意に逆転させることを明らかにし報告している。対照的に、DZP

は、抗不安作用を示したが、抗鬱作用、又は、作業記憶欠損への改善は示さなかったこ

とを報告している。(今回、新たに設計・開発された IBZD アミド配位子化合物は、従来

の DZP に対して、抗不安活性、抗鬱活性、及び/又は、認知改善活性を示し、鬱病や老

化における IBZD 誘導体の新たな治療の可能性も示している…)

10)iScience. Article |Vol. 12, p.168-181, February 22, 2019 ◆ヒト iPS 細胞の維持と生成を促進し、強力な H3K4 脱メチル化 KDM5 阻害剤としての

イミダゾピリジン化合物 O413 の発見 最終分化細胞(分化の最終段階に到達した細胞)から人工多能性幹細胞(iPSC)への核

初期化(細胞を未分化状態に戻し多能性を獲得させること)は、所謂、4 つの山中因子

を含む幾つかの多能性関連転写因子の異所性発現によって達成される。この独創的技術

は、自己臓器移植、創薬、及び、疾患モデリングのために有望な情報を提供し、再生医

療の分野で新しい時代を切り開いている。体細胞核移植(未受精卵へ体細胞核を移植し

てクローン個体を作出する技術)と比較する時、ヒト線維芽細胞(HF)のリプログラミ

ング(既に分化した細胞を未分化の状態に戻すこと)は、3~4 週間という時間がかか

り、非効率的(細胞の 0.01%未満)プロセスである。又、ヒト iPSC(hiPSC)の遺伝的

変異と後成的変異のリスクを減らす為には、より高いリプログラミング効率と最適化さ

れた培養条件が非常に重要であり、更に、個々患者自身の iPSC 生成の為に改善された

リプログラミング効率は、同種異系移植によって引き起こされる免疫拒絶などのリスク

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を回避する個別化移植開発を可能にするものである。遺伝子操作と比較する時、小分子

は、初期化プロセスを制御する上で優位性を示すので、積極的に調査されてきた。今

回、ドイツ、ハイデルベルグ大学 薬学・分子生物工学研究所の研究者らは、既知薬物の

機能的スクリーニングを用いて多能性幹細胞のリプログラミングに影響を及ぼす化合物

を探すことに注力し、薬物様ヒット化合物のハイスループットスクリーニングで、鎮静

催眠薬 zolpidem(ゾルピデム:イミダゾピリジン系に分類される非ベンゾジアゼピン系

の睡眠導入剤)類似体である O413 が、リプログラミング化効率を改善し、そして、耐

性ヒト初代線維芽細胞のリプログラミング化を促進することを見出したことを報告し

た。リード化合物 O413 は、顕著な OCT4(octamer-binding transcription factor 4:胎児の

幹細胞に存在する転写因子)誘発を示し、これは少なくとも部分的には、KDM5、

JARID1 とも呼ばれている H3K4(ヒストン H3 における 4 番目のメチル化リジン残基)

脱メチル化酵素の阻害作用によるものであると報告している。又、同研究者らは、同族

体 KDM5B でなく KDM5A が、OCT4 プロモーターで H3K4Me3 濃厚を妨げることによっ

てリプログラミングの進行を妨げることを明らかにしている。(該結果は、O413 が新し

いクラスの KDM5 化学阻害剤であり、KDM5 ファミリーメンバーの多能性関連特性に更

なる洞察を提供するものとなろう…)

11)ACS Med. Chem. Lett., Article ASAP. DOI: 10.1021/acsmedchemlett.8b00541 |

Publication Date (Web): February 17, 2019 ◆アルツハイマー病治療の為の二環式ピリミジン γ-セクレターゼモジュレーターBMS-

932481 の同定と前臨床評価 アルツハイマー病(AD)は、高齢者の神経変性疾患であり、次第に悪化する症状とし

て、記憶喪失、言語や抽象的思考の困難、身近な仕事の困難、そして家族や友人への認

識障害などがある。AD の病状は、脳内のアミロイド斑、及び、神経原線維変化の沈着

を特徴としており、現行の標準治療であるアセチルコリンエステラーゼ阻害薬(例え

ば、ドネペジル)及び、NMDA 受容体(N-Methyl-D-Aspartic Acid:この受容体が過剰に

活性化することによって、カルシウムイオンが過剰に脳神経細胞に流入することで神経

細胞の障害や記憶・学習機能の障害が生じるとされている)拮抗薬(例えば、メマンチ

ン)は、最小限、且つ、一時的に病状を停滞させるも本質的な疾患の進行を妨げるもの

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ではない。AD 薬開発の多くは、脳内に見られる特徴的なアミロイド斑を生成する Aβペ

プチド産生を減らすことに焦点を当て、Aβ産生を担う酵素である β-、及び、γ−セクレ

ターゼ(GS)阻害剤が開発され臨床試験に入ったが、商品化を達成するには至っていな

い。又、最近の β-セクレターゼ阻害剤(BACE:Aβ前駆体蛋白質(APP)の N 末端側を

切断する酵素)や、γ-セクレターゼ阻害薬(GSI:APP の C 末端側を切断する酵素)も

Phase-Out になっている。一方、γ-セクレターゼ依存性シグナリングを抑制することなく

Aβ産生を制御できる γ-セクレターゼモジュレー ター”と呼ばれる低分子化合物が同定

され、第 2 世代の γ-セクレターゼ活性制御による AD 治療薬として期待されている。γ-

セクレターゼモジュレーター(GSM)は、凝集して神経毒性オリゴマーを形成するため

に、幾つかの内因性 Aβ1-Xペプチド種の異なる可能性を利用しようとしている。具体的

には、GSM は、γ-セクレターゼ分解産物の分布を、より長い Aβ1-42 と Aβ1-40 ペプチドか

らより短い形態の Aβ1-38と Aβ1-37 にシフトさせるもので、より短い形態は、Aβ1-42 凝集体

よりも親油性が低く、凝集しにくく、神経毒性が少なく、実際、Aβ1-42 の凝集を妨げる

のに直接的な役割を果たす可能性がある。更に、GS 活性は阻害されないので、Notch シ

グナル伝達経路の活性化は GSM 機構によって回避される。従って、GSM は、GSI 毒性

を回避するための魅力的な代替の疾患修飾機序を提供するものである。この観点から、

米国、Bristol-Myers Squibb(BMS)社の研究者らは、GSM を発見するために、同社化合

物ライブラリーをスクリーニングすることで、一次 H4 細胞株分析(ヒト神経膠腫細胞

で AD に対する有効性を分析する)で、IC50=120nM で Aβ1-42 低下を示し、全 Aβ1-X 産生

に影響を与えなかったヒット化合物としてトリアジン誘導体を見出した。更に、該ヒッ

ト化合物のトリアゾリルアニソールビアリール部分(A-B 環)と芳香族基(E 環)が隣

接する中心のトリアジン核(C 環)を改変することで、最終的に、効力、in vivo 活性、

及び、off-target profile について最適化された二環式ピリミジン γ-セクレターゼモジュレ

ーターBMS-932481 を創製したものである。該剤は、マウス、及び、ラットの血漿液、

脳、及び、脳脊髄液中で Aβ1-42 と Aβ1-40 の顕著な減少を示し、逆に、Aβ1-37と Aβ1-38 の増

加が観察され、Aβ1-X の全産生量に変化は見られなかったと報告した。(γ-セクレターゼ

阻害剤は、Aβ産生活性の消失は認められるも、同時に、細胞分化や運命決定に重要な役

割を果たす受容体 Notch シグナルの喪失を引き起こすことが示されることから Phase-out

に至っているものである。今回、開発された剤は、Notch シグナルに影響を及ぼさず、

Aβ産生を優位に阻害する NS-GSI 剤である。尚、BMS 社では、既に、NS-GSI 剤の一つ

である Avagacestat の治験を既に進めている…)

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12)日本経済新聞. 2019 年 02 月 20 日 / Communications Chemistry 2, Article number:20 (2019) | Published:20 February 2019

◆セラミド輸送タンパク質 CERT の天然リガンド非模倣阻害剤 HPCB-5 の開発

脂質輸送タンパク質(脂質は水に溶けないので、膜で囲まれた異なる小器官の間で脂質

分子が転移するには、タンパク質の助けが必要である。膜間の脂質の移動を助けるタン

パク質を脂質輸送タンパク質と呼び、ヒト細胞内には多くの種類の脂質輸送タンパク質

が存在していている)は、細胞内の細胞小器官接触部位における細胞内脂質の細胞内小

器官間輸送を媒介し、真核生物におけるリピドーム(lipidome:細胞中の脂質の総体)

と膜生合成において基本的な役割を果たしている一方、ウイルスのような細胞寄生性の

病原体が増えることにも利用されている。しかし、脂質輸送タンパク質に対する特異的

な阻害剤は開発されていなかった。東京大学大学院理学系研究科の小林修教授と国立感

染症研究所・細胞化学部の花田賢太郎部長を中心とした研究グループは、以前に、セラ

ミド輸送タンパク質 CERT の強力な阻害剤としてセラミド模倣化合物である HPA-12 を

開発したが、HPA-12 は、CERT 以外でセラミドを結合する因子にも影響する可能性は残

っていた。今回、同研究グループは、セラミドとの構造類似性のない新規な CERT 阻害

剤として HPCB-5 を開発したことを報告した。HPCB-5 開発に当たって、同研究者ら

は、セラミド様構造を有さず、セラミド結合 START(Steroidogenic Acute Regulatory

protein-related lipid Transfer)ドメイン中に水素結合ネットワークを形成する能力を有す

る化合物を同定するために、約 3×10 6個の化合物のバーチャルスクリーニング(創薬分

野で主に使われる単語で、計算機で薬の候補になりそうな化合物を選別する手法)によ

って同定し、更に、START ドメインに対する化合物の親和性を直接測定するための表面

プラズモン共鳴に基づくシステムも確立し、次に、シード化合物(SC1)を一連の in

silico 分子ドッキングシミュレーション(コンピュータを用いたリガンド−タンパク質の

結合構造の予測手法)、効率的な化学合成、アフィニティー分析、タンパク質-リガンド

共結晶学、及び、様々な in vivo 分析により、ヒト培養細胞において CERT の機能を強力

に阻害するセラミド構造と関係のない化合物 HPCB-5 を開発したものである。該剤は、

CERT 選択性阻害剤であり、細胞投与時の安定性は HPA-12 よりも優れていることを報告

している。(全ての小器官は細胞膜で区画化されており、独立した機能が保持されてお

り、この細胞膜

の構成脂質の代

謝異常によって

様々な病態を引

き起こすことも

明らかになって

おり、遺伝病の

症状緩和と治療

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分野で、今回、開発された剤は活躍できるかもしれない…)

<農薬関係> 1)Scientific reports 9, Article number:1625 (2019) |Published:07 February 2019

◆小麦の雑草防除用の新規 HPPD 阻害除草剤 QYM 201 の開発

冬小麦は、中国で 2 番目に広く栽培されている食用作物で、2015 年の植栽面積は 2410

万 ha、生産量は 1 億 3220 万㌧ですが、雑草が十分に防除されていない場合、小麦収量

の損失は、最大 15%減少の可能性があるとされている。今日では、化学雑草防除は依然

として高収量作物の生産に重要な役割を果たしており、様々な作用機序を持つ除草剤が

開発され、対象となる雑草の 90~99%を防除することができると言われているが、昨

今、252 以上の雑草種が世界中で 23 の異なる除草剤に対する抵抗性を発現したことが明

らかになっている。尚、中国では、これまでに約 30 の雑草種が約 50 の除草剤に対する

抵抗性を示すことが明らかとなり、それ故、高い効力を有し、小麦に安全に使用できる

新しい作用部位を有する除草剤の開発が急務であった。今回、中国、山東農業大学の研

究者らは、スズメノテッポウ(イネ科に属する小型の雑草)クジラグサ(アブラナ科の

雑草)、及び、ウシハコベ(ナデシコ科ハコベ属の越年草)のような雑草に対して、90g

~135g/ha の活性成分で、出芽後散布除草剤散布(POST)を行った結果、十分な全季節

防除を行うことができる新規な HPPD(4-ヒドロキシフェニルピルビン酸ジオキシゲナ

ーゼ:カロテノイドの生合成において、フィトエンを不飽和化する酵素フィトエンデサ

チュラーゼが作用する上で補酵素として必要となるプラストキノンの生合成に関与する

酵素である。阻害を受けるとプラストキノンの不足により PD が働かなくなるため、PD

阻害剤と同様に植物が白化して死に至る)阻害除草剤である QYM 201(1-(2-chloro-3-(3-

cyclopropyl-5-hydroxy-1-methyl-1H-pyrazole-4-carbonyl)-6-(trifluoromethyl)phenyl)piperidin-2-

one)を見出したことを報告した。該剤は、小麦交雑耐性試験において、17 種の小麦交

雑種の殆どについて高いレベルの安全性を示し、選択性指数 SI 値は≧5.7 に達した。

尚、小麦への被害は見られず、小麦収量を増加させて、効果的な雑草防除を達成するた

めに、90~180ga.i./ha 散布が推奨されるとのことである。(小麦は生育期間が長いため雑

草が繁り易く、特に、越冬前の発生量が多い

と小麦生育の悪影響は避けられず、収穫時の

収量と品質に影響を及ぼすので、除草剤の使

用が必須であるが、長い間の使用に伴い抵抗

性雑草の発達を促している。小麦の雑草対策

は中国に限った問題ではなく、至る所で抵抗

性雑草の逆襲が始まっている…)

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<電材関係> 1)Science Portal. 大学等プレスリリース.2019 年 1 月 29 日 / Journal of Materials

Chemistry A 2019, Advance Article |DOI:10.1039/C8TA10476J ◆世界最高水準の有機系 Li イオン伝導体の作製に成功 北陸先端科学技術大学院大学の先端科学技術研究科・環境エネルギー領域の金子達雄教

授と物質化学領域の松見紀佳教授らは、バイオ分子(3-アミノー4-ヒドロキシ安息香

酸)を化学的に調整することでポリベンズイミダゾール(PBI)という超高耐熱高分子

を合成し、その一部を有機ボランで化学修飾することでイオン化することができる有機

ボラン修飾ポリベンズイミダゾール(B-PBI)の合成に成功したこと、そして、イオン

液体(IL)である 1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメタン-スルホ

ニル)イミド(BMImTFSI)をコンポジット化することで 10-2 Scm-1 弱のイオン伝導性を

持つ擬固体電解質の作製に世界で初めて成功したことを報告した。該固体電解質は、他

の固体ポリマー電解質系とは異なり、既にリチウムを組み込んでいるので、新たにリチ

ウム塩の添加を必要としない。又、BMImTFSI 量(w/w%)は、複合ポリマー電解質の

イオン輸送挙動に影響を与え、電解質のイオン伝導度は、IL 含有量の増加と共に増加す

ること、そして、B-PBI/BMImTFSI(w/w%=25/75)を含む電解質は、51℃で 8.8×10-3

Scm-1 の最も高い導電率を示した。それはまた室温で最も広い TLi +値 0.63(Li イオン輸

率)を示し、5.45V のより広い電気化学ポテンシャルウィンドウを示した。複合電解質

を陽極半電池(Si /電解質/ Li)に使用し、それらは最大 1300 までの高い可逆容量を示し

た。高い充電速度でも維持された mA hg -1 充放電測定の前後に電気化学インピーダンス

分光法と動的電気化学インピーダンス分光法を行い、B-PBI / BMImTFSI(w/w%)で安

定した固体電解質界面が形成されていることを確認した。(今回、開発された有機系 Li

イオン伝導体は、ハイブリッド車や次世代電気自動車に必須とされる高性能二次電池

や、高電圧を必要とする他のエネルギーデバイス(風力発電、太陽光発電等)の機能材

料の要素技術として有効と考えられるのでは…)

<その他> 1) 読売新聞. 2019 年 02 月 08 日/J. Am. Chem. Soc., Vol. 141, Issue 7, pp. 3249-3257(2019)

|DOI:10.1021/jacs.8b13316 | Publication Date (Web):February 6, 2019 ◆理研、スカンジウム触媒によるエチレンとアニシルプロピレンの共重合自己修復性ポリ

マーの開発に成功

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自己修復材料は、学術的関心と実用的重要性がある。従来の自己修復性材料としては、

水素結合やイオン相互作用などを活用し、合成・設計されたものが知られているが、自

然環境下で壊れ易く、現状では、実用的には機能せず、又、多段階合成を必要とし、実

用化に向けた大量合成が困難であった。理化学研究所 環境資源科学研究センター 先進

機能触媒研究グループの研究者らは、以前に、希土類金属と酸素や硫黄などのヘテロ原

子との特異な相互作用によって、ヘテロ原子を含む α-オレフィンの重合活性が著しく向

上することを明らかにしたが、今回、希土類金属触媒を用いたエチレンとアニシルプロ

ピレン類との共重合反応の開発に取り組み、立体的に嵩高いハーフサンドイッチ型スカ

ンジウム触媒を用いることで、1 段階で比較的高分子量のポリオレフィンを得ることに

成功すると共に、得られたポリオレフィンは、伸び率約 2200%と優れたエラストマー物

性を示すだけではなく、自己修復性能を持つこと、そして、該共重合は、制御された様

式で進行し、比較的長い交互のエチレン-アニシルプロピレン配列とエチレン-エチレン

連鎖構造であることを報告した。分子量制御とアニシル置換基を変えることにより、広

範囲のガラス転移温度(Tg)と機械的性質を示す一連のコポリマーが得られ、室温より

低い Tg を有するコポリマーは、高弾性率、高靭性、及び、顕著な自己修復能を示し、

乾燥環境だけでなく、水、酸、及び、アルカリ水溶液中でも機械的損傷に対して自律的

に自己修復することができることを報告している。(今回、開発されたコポリマーは、

簡便に合成可能であり、置換基の適切な選択によって、熱物性や機械物性を制御できる

ことから、様々な環境で自己修復可能で、且つ、実用性の高い新規機能性材料としての

価値は大きいと言えよう…)

以上