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政治学講義3
政治システムと政治学
2017前期
永山正男 於鳥取大学
システムモデル
• 価値的:政治的価値を巡る紛争
• 組織的:紛争を解決する一配分を強制執行する組織を巡る紛争
• 配分的:政治組織の具体的運用と運用の手続きを巡る紛争
• 1.上向過程:組織運用担当者の配分
• 政党・選挙システム、市民参加・行政参加システム等
• 2.下向過程:政治的価値の具体的な配分
• 圧力団体の活動、行政執行のシステム
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E:政治システム、A:政治システム、D:エリート
E
:支持・要求
A:
利益表出・総合等
D
:オピニオン・リーダー
E
:政策
A:
ルールの作成・適用等
D
:オピニオン・リーダー
E:外界、A:政治文化、D:国民
紛争モデルと経験モデルとの対応
紛争一般モデル 経験モデル
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組織的紛争
価値的紛争
配分的紛争
政治社会
政治過程
政治決定
社会構成のイデオロギー:4つの類型
• ① 個人的イデオロギー
• ② 社会的イデオロギー
• ③ 個人先行的イデオロギー
• ④ 社会先行的イデオロギー
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① 個人的イデオロギー:中世的身分秩序に代えて個人を発見し、その個人を社会構成の基本的単位に位置づけようとするイデオロギー。社会を個人に無限に分割しようとする(個人主義)。
• 系譜: ホッブズ(個人と作為)-ロックーアダム・スミス(労働価値説と見えざる手)
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② 社会的イデオロギー:分化された社会の構成単位を逆に今度は何らかの集団に統合しようとするイデオロギー。
• 個人を集団の枠組みに無限に統合しようとする(集合主義)
• 系譜: デカルト(秩序の発見)-ルソー(一般意志)
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• ③個人先行的イデオロギー:
• 心理的・精神的=財の拡大と疎外
• 社会的・物理的=過剰生産と資源枯渇
→社会的統合の原理の必要
• パーソンズ(社会学、AGIL)、ケインズ(経済学、有効需要)
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• ④社会先行的イデオロギー
• 欲望の世界における疎外=アノミーと自殺
• ありうべき全体像の意志としての「集合表象」を、画定し、社会に植え込むことによるアノミーの克服。
• 教育の重視。 :デュルケム
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個人構成のイデオロギー
アイデンティティの基準=家族・消費・民族・生産
• パーソンズの4つの帰属の基準(親族・コミュニティ・人種・階級)に対応
• 労働の社会的性格と消費の個人的性格
**消費と労働は主体的選択に係わる
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政治構造(3つの紛争の強弱による類型化)
• 第一期(45-60)
• 組織的紛争の時代:政治的責任を明確に意識した近代
• 日本ファシズムに結実した和魂にかわる、西洋固有の
• 二つの課題
• 思想:民主主義的なパーソナリティと思想構造の比較
• 組織:憲法改正、平和
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第二期(61-73)=配分的紛争の時代
• 体制の定着→組織を不断に作動させる運動の論理、
• 特に政治的人間を築き上げることが、最大のテーマ
• 民主主義的精神を日本に移植すること
政治的な価値配分を巡って
権力傾向と憲法体制の完全な実現
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第三期(73-現在)=価値的紛争の(減少の)時代
• 精神的平準化と物質的豊かさ(先進社会)
• →価値が稀少ではない
• →配分に無関心。科学的に財を拡大再生産する論理の登場
* 現在は価値自体の減少の時代か?
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政治研究と歴史過程との対応
• 第一期=思想としての政治学
• 第二期=運動としての政治学
• 第三期=科学としての政治学
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第一期=思想としての政治学
• 政治社会に位置する人々の組織的紛争への係わり合い方、組織形成以前の人々の政治思想の問題
• 近代主義の政治学
*民主主義を実現定着させる二つの方向
①制度改革:制度そのもののラディカルな変革が民主化の発条。組織自体の民主的な制度完備を目指す。
②エートス:制度を運用する人々の精神構造→「近代主義者達」
• =日本の民主化の可能性。特に丸山眞男
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近代主義者の課題:近代の意味と主体性の確立
• 「敗戦後最大の思想的課題とはなにか。私はそれは、<近代とは何か>という問に答えることであったと考える。そしてその課題は十分に解決されないまま、現在(1968年、藪野註)にも受け継がれていると考える」 (日高六郎)
•
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第二期=運動としての政治学
• 市民参加型の政治的配分がテーマ。
• 思想的観照的方法ではなく、精神財の価値実現を求める運動の論理。
• 高畠通敏、松下圭一
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第三期=科学としての政治学
• 価値の過剰な政治社会を完成した政策の分析。
• 既に民主化した日本政治の科学的分析。
• 現在は?
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近代主義者の三つの系譜第一期の社会科学
• 大塚久雄(経済):資本主義の完成のための経済的な合理性を備えた近代的人間類型の確立
• 丸山眞男(政治):政治的行動の中で個人の責任の所在を明確にさせる必要の確立(責任倫理)
• 川島武宣(社会):家族関係の中に近代的な人間関係を定着させるための家族制度に於る規範意識の確立
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• モデルは欧州近代:共通=ウェーバーの影響、欧州の多元性
ウェーバーを通して
• 大塚:経済的合理性を機軸とした取引上の合理的近代的人間(イギリス型経済的個人主義)
• 丸山:思想的人格的に自立した近代的人間
(独型人格的個人主義)
*忠孝という集団主義的絆帯からの解放。政治社会に位置する人々の責任=民主化は、政治システム構成員一人一人の人格的な主体の確立の中でのみ完成される。
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• 大塚:行為の動機=理念(正義感)と利害(打算):両者の形式論理的な対立。近代的人間類型だけが、二つを統合できる。
• 丸山:「忠孝」の精神構造と表裏一体の関係にある心情倫理の停止。責任倫理の定着化=近代化。
• 川島:「忠孝」の集団的絆帯を最も身近に、最も強く作動させている空間が家族。近代的人間を形成していくには、家族関係の中に置ける「忠孝」イデオロギーの思想の破壊が必要。
*主体性の問題:精神的に覚醒した個人の確立が、あらゆる変革の基礎に必要。
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近代主義のイデオロギー構造
• 社会構成のイデオロギー=個人的
個人構成のイデオロギー=生産的
• 作為の論理(主意主義):個々人の精神的なあり方は、運命的に決定されているのではなく、人々は自らの精神構造を否定して新たな精神構造を形成することによって当該運命を改廃できる。 否定の作為性
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社会構成のイデオロギー=個人的
• 作為の論理(主意主義):人々は自らの精神構造を否定して新たな精神構造を形成するで当該運命を改廃できる。否定の作為性
• 作為の論理と人格的個人主義:否定における克己心をテコとした人格的個人主義←ドイツ歴史学派
• * 欲望の体系(ホッブズ)の個人主義
• **無自覚・無抵抗に所与の運命に従うべきと説くアジア宗教の運命観と、作為の論理を取らないヨーロフパの個人主義の運命観(例えば、運命は決定されているが、その運命を自覚的に理解しようとするカトリシズムの立場)
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• 作為の論理の全面的な展開:自らの思想的営為によって、政治システム自体をつくりあげる。
• 丸山:作為の論理が具体的に現れてくる状況=責任の体系
• 『日本政治思想史研究』:政治システム自体を自らの責任において作り上げようとした江戸期日本の思想構造の分析
「歴史意識の『古層』」:作為の論理を自らのものにできない日本人の精神構造の分析
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• 太平洋戦争の責任を明確化し、そこから新しい政治システムの創造も自らの責任によって果たすべきだという「個人的イデオギー」
• 外界の否定という作為の論理の中の、外界の排斥という「個人的イデオロギー」の作用
→覚醒されない人々への失望
→蔑視
←貴族主義的体臭への反発
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生産的イデオロギーとしての個人構成のイデオロギー
• 大塚:覚暉した個人の労働が合理的近代資本主義を形成(=近代化)することを可能にする。
• 非経済学者達(丸山、川島):覚醒した個人が、責任体系を完備した政治決定組織を作り上げる。
*狭義の「生産(労働)」ではないにしても。、「生産の場」のあり方を問題にした。政治社会の多くの人々の「消費的イデオロギー」(太平洋戦争は、財を入手する機会。その失敗への批判)と、オピニオン・リーダーの生産的イデオロギー。
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第二期の政治社会の状況
• 新しい憲法体制を堅持していくという大枠。この体制下での受益者と被害者がく受益・被害という視点から、配分的紛争をくり広げた時代。
• 政治構造の分析一配分的紛争の時代
• 全般的な財拡大化傾向の社会状況の中で、より物質性の高い財の配分を求める「利益圧力型」と、逆により精神性の高い財の配分を求める「市民参加型」が配分的紛争の中から生じた政治社会レベルの配分的紛争
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配分的紛争の時代としての第二期
• ①(下向過程)高度経済成長下での利益の受益者の拡大→保守派・現状維持派の拡大
• イ.政治的な意識:1963-4年の20歳代での社会党支持と自民党支持の逆転
• 口.生活意識:若者の消費文化の定着
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• ②(上向過程)日常性の要求をめざして、憲法の精神をより実体化しようとする「市民参加型」の憲法擁護の運動
• イ.直接的な被害者からの配分的紛争
• 口.地方自治体レベルの民主化.
美濃部東京都知事の誕生(1967)
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• O市民参加による民主化にとって適正な規模
• O,高度成長下での社会資本の充実要求
• 「ベトナムに平和を!市民連合」
• ←→マイホーム主義等(利益圧力型への転換の危険)
• 60年安保以降の、日常生活から出発した若年層の政治文化の典型
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政治社会のオピニオン・リーダー松下圭一・小田 実・鶴見俊輔
松下圭一:財の配分を通したシピル・ミニマムの形成
• 基本視角:「マス状況とムラ状況の二重構造」
ムラ状況=封建遺制、マス状況=大衆社会状況、
しかし「市民」の形成→都市政治の民主化問題
• 状況を変革する動機
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「シビル・ミニマム」
社会資本を充実することによって、自治体の提供する市民サービスとしての憲法25条の精神を自治体の中で実体化する
• 実体化の方法
• イ.25条の精神を日常生活のレベルに位置づける
• ロ. 政策学としての政治学
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小田 実:精神的な財の配分
• 民主主義や平和を、自己の内面=日常生活(ロウ・ポリティクス)から捉え、思索ではなく行動をおこす(政治を日常性のレベルでとらえようとした60年代の政治運動の原型)。
• 精神的価値の普遍性に対応した「タダの人」(人類的視角)。憲法の運用に対する「タダの人」からの批判
• (憲法=常識の体系)
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鶴見俊輔
• 民衆の側からものを考えるという態度を形成(思考の力の覚醒)する運動
• 日常性:ロウ・ボリティクスからの発想
• 具体性:目に見える実際的な概念からの出発
• 大衆 :民衆のレベルから物事をつみあげていくこと
• 批判 :ハイ・ポリfイクスに係わり合えない
• 自己批判:状況に密着することと状況を変革する動機
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第二期の構造
社会構成のイデオロギー 「利益圧力型」の個人先行的イデオロギーの圧倒的優位と、
「市民参加型」の社会先行的イデオロギー
個人構成のイデオロギー
政治社会の状況:消費的イデオロギーへの傾斜
オピニオン・リーダー達:生産的
*生産的=「公的総括」(アレント)
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松下圭一:
社会構成:物取り行政批判 シビル・ミニマムの二つの性格
• 市民の権利と自治体の政策公準
• 生活権・環境権は、同時に市民的ルール
個人構成:市民的自発性を拡大するためには、社会的な絆を考える余暇が必要であり、その余暇によって社会的な絆が生産されていくという論理
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小田 実:普遍原理一公一私の価値秩序
• 社会構成:公状況からの解放としての普遍原理によって裏うちされている限りにおける私状況への支援。
• 普遍原理とい。う社会枠
• 個人構成:常に普遍原理に一体化される必要のある「私状況」。社会的絆の重視
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鶴見俊輔
• 社会構成:普遍原理を求める以前に、「公状況」に対する「私状況」の優先をまず画定する。
• 個人構成:「マイホーム主義」無条件の肯定ではない。力点のおきかたの相違
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運動の政治学
• 「運動」の二重の意味=高畠通敏
• ①運動の客観的認識(マルクス主義・集合行動論などの運動論)の拒否/分析主体が渾動の中に巻き込まれ、その内在的な世界から運動を理論化する。
• ②思想化以前の生活状況=日常性の中での主体の確立
• (丸山の場合)政治の状況を思想として全的に捉えその思想状況に激しく対峙する主体の確立
• :民衆は即自的には思想を自覚していない。
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運動の政治学の政治認識
• 政治を還元主義的に捉える(アメリカ政治学)と同時に、動員される側からとらえる
• 運動の政治学の三つの位相
• 制度論=松下圭一。憲法制度の活用
• 運動論=高畠通敏。日常性の覚醒運動
• 情念論=内山秀夫。個人の内面に刻印された政治の意味からの出発。内なる政治の告発
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科学としての政治学 「政治学以前」の喪失
• 政治社会の状況:「先進社会」(財=価値の過剰な状態)
• 財をもとめて紛争が起きるのではなく、財=価値の余剰部分を利用して、紛争を解決していこうとする現象。
• 「利益圧力型」政治が、政治社会レベルまで及ぶ
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第三期の国際環境
• 第三次産業の絶対的優位→日本の国際収支黒字一対米・対ECとの経済摩擦一米の圧力による軍事費1%突破
• 国内の対応
• 円高による産業空洞化
• 臨調路線の定着と公社の民営化
• →労働組合の解体・社会党の減少
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政治社会のレベル:「豊かな社会」の享受と保守化現象
• 第一次(73)、第二次(79)石油ショック
• 消費者物価25%上昇、マイナス成長(74)不満爆発せず。
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第三期の政治社会の特徴
• ①余暇志向=食から住生活への関心の移行(何故,余暇か?)
• ②個人中心の生活様式
• 社会による生活保障を要求(56=38%,75=52S)
困窮者に対して(56=38%,75=40%)ではなく,
自分に対して(49=8%,56=15%,77=52%)。
• 社会保障のための増税は拒否
• ③政治的無関心44
3人のオピニオンリーダー
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