非従属発電を含む小水力発電の...

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Yuushi Suzuki, Yoshinori Sasaki, Chisen Yusa 平成27年度 非従属発電を含む小水力発電の 水利使用について ―再生可能エネルギーの導入促進とその現状― 旭川開発建設部 公物管理課 ○鈴木 悠史 佐々木 良徳 遊佐 智泉 平成25年の河川法改正により、河川管理上支障の少ない従属発電(他の水利使用に従属す る発電)の手続きが簡素化され、小水力発電は従属発電を中心に導入が進んでいる。 一方、道内では、従属発電だけでは発電量が制約される等の理由から、新規発電水利権の取 得を検討する事例も散見されるところである。 本稿では、今年度当部にて処分した「非従属期間を含めた小水力発電の新規許可の事例」に ついて報告する。 キーワード:用地・管理、河川管理、水利使用許可、小水力発電 1. はじめに 河川の流水は公共のものであり、限られた資産である ことから、その利用に当たっては、河川管理者の許可が 必要となる。 これは、河川の流水の利用について許可を与えること により、河川の流水の利用の秩序の維持、河川の正常な 機能の維持等を図る必要があるからである。 このように河川の流水を利用することを「水利使用」 と呼ぶ。 水利使用には、発電用水、かんがい用水、上水道用水、 工業用水などを目的とした取水の形態があり、発電水利 使用については、古くから河川の流水を利用し、山間部 等で水力発電が盛んに行われている。 近年においては、エネルギー自給率の向上や地球温暖 化対策への関心の高まりから、再生可能エネルギーの導 入促進が重要となっており、農業用水路等、既存の水路 工作物を利用した小規模、小出力の水力発電、いわゆる 「小水力発電」は温室効果ガスを排出しないクリーンな エネルギーとして注目されている。 現在、小水力発電は、河川環境等に新たに影響を与え ない、既に水利使用の許可を受けて取水しているかんが い用水等やダム等から一定の場合に放流される流水を利 用して発電を行う従属発電を中心に導入が進んでいる。 本稿では、今年度(平成27 7月)処分した、非従属 期間を含めた小水力発電の新規許可の事例について報告 する。 2. 再生可能エネルギー導入促進に向けた施策 再生可能エネルギーの導入促進に向けた関係省庁にお ける施策について紹介する。 (1) 国土交通省における施策 国土交通省においては、小水力発電の導入促進を図る ため、小水力発電(最大出力が1,000kw未満のもの)の ためにする水利使用の水利使用区分の見直しや一級河川 指定区間における都道府県知事等への許可権限の移譲 (平成25年4月)など、小水力発電に係る水利使用手続 の簡素化・円滑化を行っている。さらに、従属発電につ いて、許可制に代えて新たに登録制を導入(平成25年12 月)した。 1) (2) 農林水産省における施策 農林水産省においては、小水力発電施設により発生し た余剰電力の売電収入の充当範囲を地域の土地改良施設 全体の維持管理費にまで拡大(平成23 年)したり、新た な「土地改良長期計画」(平成24 年)において、『小水 力発電等の自立・分散型エネルギーシステムへの移行と 美しい農村環境の再生・創設』を政策目標とし、農業水 利施設の更新整備にあたって、水路の落差を利用した小 水力発電施設を導入するなど、再生可能エネルギーの利 用の取組を進めることとしている。 2) (3) 資源エネルギー庁における施策 資源エネルギー庁においては、「再生可能エネルギ

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Page 1: 非従属発電を含む小水力発電の 水利使用について...水力発電は、かんがい用水利使用に従属し、かんがい期 のみに発電を行うものがほとんどであり、この場合、発

Yuushi Suzuki, Yoshinori Sasaki, Chisen Yusa

平成27年度

非従属発電を含む小水力発電の 水利使用について

―再生可能エネルギーの導入促進とその現状―

旭川開発建設部 公物管理課 ○鈴木 悠史

佐々木 良徳

遊佐 智泉

平成25年の河川法改正により、河川管理上支障の少ない従属発電(他の水利使用に従属す

る発電)の手続きが簡素化され、小水力発電は従属発電を中心に導入が進んでいる。

一方、道内では、従属発電だけでは発電量が制約される等の理由から、新規発電水利権の取

得を検討する事例も散見されるところである。

本稿では、今年度当部にて処分した「非従属期間を含めた小水力発電の新規許可の事例」に

ついて報告する。

キーワード:用地・管理、河川管理、水利使用許可、小水力発電

1. はじめに

河川の流水は公共のものであり、限られた資産である

ことから、その利用に当たっては、河川管理者の許可が

必要となる。 これは、河川の流水の利用について許可を与えること

により、河川の流水の利用の秩序の維持、河川の正常な

機能の維持等を図る必要があるからである。 このように河川の流水を利用することを「水利使用」

と呼ぶ。 水利使用には、発電用水、かんがい用水、上水道用水、

工業用水などを目的とした取水の形態があり、発電水利

使用については、古くから河川の流水を利用し、山間部

等で水力発電が盛んに行われている。 近年においては、エネルギー自給率の向上や地球温暖

化対策への関心の高まりから、再生可能エネルギーの導

入促進が重要となっており、農業用水路等、既存の水路

工作物を利用した小規模、小出力の水力発電、いわゆる

「小水力発電」は温室効果ガスを排出しないクリーンな

エネルギーとして注目されている。 現在、小水力発電は、河川環境等に新たに影響を与え

ない、既に水利使用の許可を受けて取水しているかんが

い用水等やダム等から一定の場合に放流される流水を利

用して発電を行う従属発電を中心に導入が進んでいる。 本稿では、今年度(平成27年7月)処分した、非従属

期間を含めた小水力発電の新規許可の事例について報告

する。

2. 再生可能エネルギー導入促進に向けた施策

再生可能エネルギーの導入促進に向けた関係省庁にお

ける施策について紹介する。

(1) 国土交通省における施策 国土交通省においては、小水力発電の導入促進を図る

ため、小水力発電(最大出力が1,000kw未満のもの)の

ためにする水利使用の水利使用区分の見直しや一級河川

指定区間における都道府県知事等への許可権限の移譲

(平成25年4月)など、小水力発電に係る水利使用手続

の簡素化・円滑化を行っている。さらに、従属発電につ

いて、許可制に代えて新たに登録制を導入(平成25年12

月)した。1)

(2) 農林水産省における施策 農林水産省においては、小水力発電施設により発生し

た余剰電力の売電収入の充当範囲を地域の土地改良施設

全体の維持管理費にまで拡大(平成23年)したり、新た

な「土地改良長期計画」(平成24年)において、『小水

力発電等の自立・分散型エネルギーシステムへの移行と

美しい農村環境の再生・創設』を政策目標とし、農業水

利施設の更新整備にあたって、水路の落差を利用した小

水力発電施設を導入するなど、再生可能エネルギーの利

用の取組を進めることとしている。2) (3) 資源エネルギー庁における施策

資源エネルギー庁においては、「再生可能エネルギ

Page 2: 非従属発電を含む小水力発電の 水利使用について...水力発電は、かんがい用水利使用に従属し、かんがい期 のみに発電を行うものがほとんどであり、この場合、発

Yuushi Suzuki, Yoshinori Sasaki, Chisen Yusa

ーの固定価格買取制度」を導入(平成24年7月)した。

この制度は、再生可能エネルギーで発電した電気を、電

力会社が一定価格で買い取ることを国が約束する制度で

あり、電力会社が買い取りに要する費用を再生可能エネ

ルギー発電促進賦課金として電気を使うすべての者から

の負担により確保し、今はまだ高い発電コストの回収の

見通しを立ちやすくすることで、再生可能エネルギー普

及の促進を図ることとしている。3)(表-1)

3. 国営当麻永山用水地区小水力発電の事業計画

(1) 地区の概要

小水力発電が導入される国営当麻永山用水地区は、旭

川市及び上川郡当麻町に位置する、3,591haの水田地帯で

あり、北海道を代表する良食味米の産地である。取水口

である大雪頭首工(石狩川)や幹線用水路など、地区内

の用水施設については、国営当麻永山土地改良事業(昭

和43年度~昭和54年度)により整備されており、本地区

のかんがい期間である5月1日から8月31日までにおいて

使用するかんがい用水は、石狩川の自流と大雪ダム(直

轄)からの補給によるものであり、この水利使用につい

ては、農林水産大臣が「大雪頭首工」(水利使用の名

称)として許可を受けているものである。

表-1 平成27年度の水力の買取価格(税抜)

(2) 事業の概要 農林水産省が計画する発電施設「当麻永山用水地区管

理用発電」は、導水幹線用水路の落差を利用した小水力

発電である。発生した電力を施設内において自己消費す

るほか、余剰電力を売電し、その収入を土地改良施設全

体の維持管理費に充当することにより、土地改良区等の

維持管理費の低減を図ることを目的としており、平成29年度の供用開始を予定している。(図-1) これまで、北海道におけるかんがい用水を利用した小

水力発電は、かんがい用水利使用に従属し、かんがい期

のみに発電を行うものがほとんどであり、この場合、発 電期間が短いことから、経済性の確保というのが重要な

図-1 当麻永山用水地区管理用発電計画図

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Yuushi Suzuki, Yoshinori Sasaki, Chisen Yusa

課題であった。 しかし、再生可能エネルギーの固定価格買取制度の創

設により、発電コストの回収の見通しが立ちやすくなっ

たことに伴い、非かんがい期も含め発電する計画が検討

されるようになり、本事業においても非かんがい期を含

め発電を行う計画としている。 4. 当麻永山用水地区管理用発電における水利使用

取水口は本地区のかんがい用水利使用と同じく石狩川

の大雪頭首工とする。最大6.25㎥/sを取水し、導水幹線

用水路にあらたに設ける側水路に発電施設を設置し、有

効落差3.15mによる最大142kwの発電を行うものである。 かんがい期の5月1日から8月31日までは、大雪頭首工

のかんがい用水利使用に従属した発電を行い、非従属期

間の発電用水については、あらたに石狩川の自流から取 水することとなるため、本件は、発電用水利使用の新規 取得の形態となる。

なお、大雪頭首工など各施設のゲート設備は、かんが い用水の取水を目的に設置されているものであり、現状、

冬期におけるゲート操作に対応した凍結防止対策などは

施されていない。このため、非かんがい期の発電は、凍

結の影響を受けない4月1日から4月30日までと9月1日か

ら11月30日までの期間のみ行うこととしている。 非かんがい期における河川水のあらたな取水により、

5.9kmの減水区間(取水口である大雪頭首工から放流口

である百間掘川合流地点まで)が生じることから、河川

の正常な機能を維持するため、減水区間の正常流量であ

る21.015㎥/sを頭首工地点における取水制限流量として

義務付け、それを超える場合に限り、その超える部分の

範囲を取水可能量とした。また、水利使用の新規取得に

際し、比布町(簡易水道既得水利権)の同意書が提出さ

れており、減水区間における水利使用者への影響はない。

(図-2, 図-3)

図-2 小水力発電の模式図

図-3 大雪頭首工取水パターン図

最大取水量 6.25 ㎥/s

常時取水量 4.93 ㎥/s

有効落差 3.15 m

最大出力 142 kw

小水力発電施設諸元

比布町簡易水道 既得水利権 0.0150 ㎥/s

石狩川

河川維持流量 21 ㎥/s

導水幹線用水路

百間掘川 ( 普通河川)

大雪頭首工 非かんがい期

取水制限流量 21.015 ㎥/s

当麻永山用水地区管理用発電 ( 4月~ 11 月)

伊香牛放水工

当麻幹線用水路・ 永山幹線用水路へ

(直轄区間) 減水区間 5.9km

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Yuushi Suzuki, Yoshinori Sasaki, Chisen Yusa

図-4 取水放流管理模式図 発電後の用水については、かんがい期においては、側

水路に放流後、導水幹線用水路を経てかんがい用水とし

て受益地へ配水することとなるが、非かんがい期におい

ては、取水元の石狩川に全量還元しなければならないこ

とから、導水幹線用水路の伊香牛放水工から百間掘川

(普通河川)を経て石狩川に放流するものである。 本件処分においては、非かんがい期における放流管理

が重要であり、そのために必要となる水位計等の観測施

設の設置及び制水ゲート等の操作について協議を重ね、

適切な取水・放流管理について整理を図ったものである。

(図-4) 本件水利使用は、かんがい期は既許可かんがい用水利

使用に従属し、非かんがい期はあらたに河川から流水を

取水する新規発電用水利使用である。 登録制の対象となる、完全従属の形態の発電用水利使

用については、これまで旭川開発建設部管内においても

事例はあるが、「当麻永山用水地区管理用発電」のよう

な「非従属期間を含めた小水力発電の水利使用」の新規

許可については、北海道開発局管内において、初の事例

となる。(図-5)

図-5 登録制の対象となる従属発電の設置事例

5. おわりに

今回、このような水利使用の事例に携われたことは、

大変貴重な経験であった。

水利権の許可にあたっては、複雑、広範囲の検討を行

っているが、今後も有効かつ適切な河川の流水の利用を

確保した水利行政を遂行していくことが重要である。

参考文献

1)国土交通省:小水力発電設置のための手引きVer.2(2013) 2)農林水産省:土地改良長期計画(2012)

3)資源エネルギー庁:再生可能エネルギー固定価格買取制度ガ

イドブック(2015)

石狩川

(直轄区間)

百間掘川(普通河川)

当麻幹線用水路・

永山幹線用水路へ

導水幹線用水路大雪頭首工

当麻永山用水地区

管理用発電

伊香牛放水工

自記水位計

(量水標)自記水位計(河川)

自記水位計

(量水標)

量水標

制水ゲート

水位調整ゲート

放水ゲート

制水ゲート水位流量観測施設

ゲート

① ③

① ② ② ④

③③④ ⑤

① かんがい期の操作手順

① 非かんがい期の操作手順

③⑥

③⑥ ⑦自記水位計