赤痢菌の抗スルフアミン性と臨床との關係(第...

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昭 和25年2月20日 69 (4) 血 色 素 量(ザ ー リー氏 比 色計 に よ る) (5) ヘマ トク リ ツ ト値(正 常 値35~40) 括 弧内死亡例 多數 を占め,重 症 死 亡例 で高 くな つ て ゐ る.以 か ら疫痢では血液の濃縮状態即 ち脱水状態にある こ とが想像 され る. 1) 疫 痢 患 兒 と赤 痢 患 兒 との 間 に,血 清カルシ ウ ム量 に關 す る限 り,有 意 の差 を認 め ず,又 健康 小 兒 との間 に も有意 の差 を認 めなかつた.即 ち, 疫 痢 で 血清 カ ル シウ ム量 は減 少 して ゐな か つ た. 2) 濳 在 性 テ タ ニー症 候 の 一 で あ るChvostek 及 びTrousseau徴 候 と低 カル シウム血症 との間に も一 定 の關 係 は認 め られ な か つ た. 3) 疫 痢 患 兒 で 血清pH値 が著 し く酸 性に傾 い た もの が約 半 數 に 見 られた.此 の傾向は重症及び 死亡例 で著 しかった.し か し極期 を過 ぎて囘復期 に 入 る とpH値 も正 常 に復 した. 4) 血 清CO2量 は 疫 痢,赤 痢 共 に減 少 して ゐた が,特 に疫 痢 で著 明 な減 少 を認 めた. 5) 血 液 の 諸 檢 査 の 結 果,血 液の濃縮即ち脱水 状 態 を示 す結 果 が え られた. 6) 血 漿 殘餘 窒 素 は疫 痢 で 著 し く増 加 した もの が 多 く見 られ た. 本 稿 の 一 部 は 昭 和24年10月 第26囘 日本 小 兒科 學 會 東 京 地 方 會 に 發表 した. 尚 本 研 究 に 當 り實 驗 成 績 の 一 部 を 與 へ ら れ た 東 大小兒科教室山田講師他醫局員各位に深謝する. 1) Catherine Dodd. et al. Pediatr 日本 醫 師會 雜 誌, 第23卷7號 (昭24年) に譯 載. - 2) 遠 城 寺, 安 藤: 臨 状 内 科 小 兒科, 第3卷7號. (昭23年). -3) 水 野 光大: 兒科 雜 誌, 第53卷1~ 2號 (昭24年). -4) 阿 部, 丹 治: 第2囘 東京衛生 局學 會 發 表. -5) 近 藤, 藤 井 他: 兒 科 雜 誌, 第53 卷1~2號 (昭24年). -6) 吉 川 春壽: 病室 と研究 室, 第5卷1號 (昭22年). -7) Sobel-Skl J. Biol. Chem. 122 665 (1938). -8 Ind. Eng. Chem. Annal Ed. 12, 11 増 山元 三郎: 少數例 の纏 め方 と實驗 計畫の 立 て方 (昭18年). -10) Kasting & Sendroy Chem. 61. 695 (1924). -11) 北村秀松 染 病 學 會 雜 誌, 第10卷1號 (昭10年). -12) 士: 日本 傳 染病 學 會 雜 誌, 第10卷2號 (昭10年). -13) 中 山 健 太郎: 兒科 診療, 12卷5號, 177 24年). 赤 痢 菌 の 抗 スル フア ミ ン性 と臨 床 と の關 係(第 一報) 啓(Intern) 各種疾病の化學療法劑は その發見せ られた當初 に 於 て は極 あ て 著 しい 效 果 を擧 げ るが,漸 次普及 す るに及んで その效果 が減 弱す る場合 が 屡 ゝ見 ら れ て い る.細 菌性 赤 痢 の化 學 療 法 に於 て も,Mar- shallが1940年 は じめ てSulfaguanidine して以 來,各 種 のサル フア劑 もまた卓效 を有す る ことが廣 く認 め られて來 たが,最 近各種サルフア 劑 に何 等 效 果 を示 さな い 赤 痢 の 症 例 が少 な か らず

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Page 1: 赤痢菌の抗スルフアミン性と臨床との關係(第 一報)journal.kansensho.or.jp/kansensho/backnumber/fulltext/23/...昭和25年2月20日 69 (4) 血色素量(ザーリー氏比色計による)

昭和25年2月20日

69

(4) 血色素量(ザ ー リー氏比 色計 に よる)

(5) ヘ マ トク リ ツ ト値(正 常 値35~40)

括弧内死亡例

多數 を占め,重 症死亡例で高 くなつてゐる.以 上

か ら疫痢では血液の濃縮状態即 ち脱水状態にある

ことが想像 される.

結 語

1) 疫痢患兒と赤痢患兒との間に,血 清カルシ

ウム量に關する限 り,有 意の差を認めず,又 健康

小兒 との間に も有意の差を認めなかつた.即 ち,

疫痢で血清 カルシウム量は減少 してゐなかつた.

2) 濳在性テタニー症候の一であるChvostek

及びTrousseau徴 候 と低カルシウム血症 との間に

も一定の關係は認め られなかつた.

3) 疫痢患兒で血清pH値 が著 しく酸性に傾い

た もの が約 半 數 に 見 られた.此 の傾 向 は 重症 及 び

死 亡 例 で著 しかっ た.し か し極期 を過 ぎて 囘 復 期

に 入 る とpH値 も正 常 に復 した.

4) 血 清CO2量 は疫痢,赤 痢 共 に減 少 して ゐた

が,特 に疫 痢 で著 明 な減 少 を認 めた.

5) 血液 の諸 檢 査 の 結 果,血 液 の濃 縮 即 ち脱 水

状 態 を示 す結 果 が え られた.

6) 血 漿 殘餘 窒 素 は疫 痢 で 著 し く増 加 した もの

が 多 く見 られ た.

本 稿 の 一部 は昭 和24年10月 第26囘 日本 小 兒科

學 會 東 京 地 方 會 に 發表 した.

尚 本 研 究 に當 り實 驗 成 績 の 一部 を 與 へ られた 東

大 小 兒科 教 室 山 田講 師他 醫 局 員 各 位 に 深 謝 す る.

文 獻

1) Catherine Dodd. et al. Pediatrics 9. Jan. 1949,

日本醫 師會雜誌, 第23卷7號 (昭24年) に譯載. -

2) 遠城 寺, 安藤: 臨状内科小 兒科, 第3卷7號.

(昭23年). -3) 水野光大: 兒科雜誌, 第53卷1~

2號 (昭24年). -4) 阿部, 丹 治: 第2囘 東京衛生

局學 會發表. -5) 近藤, 藤井 他: 兒科雜誌, 第53

卷1~2號 (昭24年). -6) 吉 川春壽: 病室 と研 究

室, 第5卷1號 (昭22年). -7) Sobel-Sklersky:

J. Biol. Chem. 122 665 (1938). -8) Sobel-Kaye:

Ind. Eng. Chem. Annal Ed. 12, 118 (1940). -9)

増 山元 三郎: 少數例 の纏 め方 と實驗 計畫の 立 て方

(昭18年). -10) Kasting & Sendroy: J. Biol.

Chem. 61. 695 (1924). -11) 北村秀松: 日本傳

染病 學會雜誌, 第10卷1號 (昭10年). -12) 林峻

士: 日本 傳染病學會雜 誌, 第10卷2號 (昭10年).

-13) 中山健太郎: 兒科 診療, 12卷5號, 177 (昭

24年).

赤 痢 菌 の抗 スル フア ミ ン性 と臨 床 との關 係(第 一報)

東 京 都 立 駒 込 病 院

小 張 一 峰

辻 村 啓(Intern)

各種疾病の化學療法劑は その發見せ られた當初

に於ては極あて著 しい效果を擧げるが,漸 次普及

す るに及んでその效果が減弱する場合が屡 ゝ見 ら

れている.細 菌性赤痢の化學療法に於て も,Mar-

shallが1940年 はじめてSulfaguanidineを 推奨

して以來,各 種のサルフア劑 もまた卓效 を有す る

ことが廣 く認め られて來たが,最 近各種サルフア

劑に何等效果を示 さない 赤痢の症例が少なか らず

Page 2: 赤痢菌の抗スルフアミン性と臨床との關係(第 一報)journal.kansensho.or.jp/kansensho/backnumber/fulltext/23/...昭和25年2月20日 69 (4) 血色素量(ザーリー氏比色計による)

70日本傳染病學會雜誌 第23卷 第5-8號

見 られ るようになつた.こ れは,赤 痢症状が特に

重 篤なためであるか,.サ ル フア劑の使用方法が適

確を缺 くためか,あ るいはまたサルフア劑 に對す

る耐性を生 じた赤痢菌株が流行 して いることによ

るのか,そ の原因はいろいろに考 えられ る.本 年

度(昭和24年)の 赤痢はこの數年來に於 て特に重

症が多いとい うことはな く,昭 和20 , 21年 度志賀

菌流行時 に較べればは るかに輕症が多い.使 用方

法 については,こ の數年來急激 サルフア劑使用

が普及 したために,殆 どすべての患者は送院前に

醫師か らサルフア劑の投藥を受けている現状であ

り,時 には下痢 をみれば受診前に直 ちにサルフア

劑 を服用するもの もあり,そ の服用方法が必ず し

も血 中あるいは腸管内の有效濃度を保持するよう

に行 われているとは思えない.そ のために,赤痢菌

が早期 に不完全 にサルフア劑の接觸を受け,入 院

後の適正を期 した治療に際 しで も,既 にある程度

のサルフア劑耐性 を得ていることも豫想 される.

あ るいはまた數次のサルフア劑との接觸を經た菌

株 による感染が起つて,は じめからサルフア劑の

無效な赤痢の發生する可能性 もある.

吾々はこの間の事情を知 ろうとして本年度赤痢

患者 より分離 せられた赤痢菌株 につ いて合成培地

上に於けるサルフア劑(Sulfatbiazole)の 抗菌價を

見,そ れと臨床症状特にサルフア劑の效果との關

係 を知ろうと試みた.

1. 化學療法の成績(昭 和23年 及び24年 度の

比較)

いかに本年度の化學療法の成績が 前年度に比べ

て劣るかを一應知 る必要があると思 う.第1表 のよ うな判定基準を もうけて サルフア劑 の效果を判

定 した.即 ち,細 菌學的並びに臨床的に赤痢 と診

斷 した症例について,1日 の排便囘數10囘 以下を

輕症,30囘 以上を重症,そ の中間を中等症 と分類

して,サ ルフア劑使用開始後い く日で赤痢の重要

症状 が消褪するかによつて,著 效(++)有 效(+)無

效(-)と に區別 した.こ の基準によつてサルフア

劑の兩年度に於ける效果 を判定,比 較 すると,本

年度は全例88例 中無效40例45.45%即 ち約半數

がサルフア劑 の效果を認めなかつたのである.こ

第 1 表

第 2 表

第 3 表

れに較べて昨年度無效例は32例 中6例18.75%に

過 ぎない.從 つて著效,有 效例は本年度は昨年度 に

較べて明 らかに減少 している.ま た,下 痢持續 日

數(排 便囘數減少迄の 日數及 び便性状囘復迄の日

數),有 熱期間,排 菌期間の各例の平均を兩年度で

比較すると第3表 のようになる.排 便囘數減少迄

の日數は本年度6.45,日 前年度は2.9日,便 性状囘

復に要 した 日數は本年度8.09日,前 年度5.06日

で者 しい差が見 られ る.有熱期間 も3.05日 と1.72

日で本年度が長時 日を要 しているが,排 菌期間の

みは稍 ゝ前年度が長 くなつている.こ の平均 日數

の比較か らも,排 菌期間は別として,赤 痢症状の

囘復が本年度は遲れていると考 えられる.

2. 實驗方法及び材料

抗菌試驗は次の處方による合成培地 を用い,サ

ル フア劑には通常吾々 が 臨 床上使用するSulfa

thiazoleを 選んだ.

合成培地處方

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昭和25年2月20日 71

Na2HPO4 2.5g MgSO4 7H2O 0.1NaCl 5.0 d-glutamic acid 0.5Glucose 1.0 l-asparagine 0 .5KH2PO4 0.35 l-tryptophane 0.01Aq. destill 1000cc

この合 成 培 地 にSulfathiazoleを10-3, 10-4,

10-5, 10-6 , 10-7 Mol濃 度 に 加 え,小 試 驗 管 に4cc

宛 分 注 した もの に,ブ イ ヨ ン12時 間培 養 赤 痢 菌 一

白金 耳 を混 し,第3,第4,第5日 の 白濁 度 の肉 眼

的 觀 察 に よつ て,發 育 阻 止 状 態 を 判 定 した.抗 菌

試 驗 に供 した 菌株 は 本 年 度 入院 した 赤痢 患 者 よ り

分 離 した 二 木 菌33株(駒 込BIII菌29株,昭 和 菌

3株,中 村 菌2株)大 原 菌7株 計40株 で あ る.

3. 抗 菌 試 驗 成 績

抗 菌 試 驗 に供 した 赤 痢 菌株40株 中Sulfathia-

zole 10-3 Mol濃 度 に於 て もなお 發 育 阻 止 の 見 られ

な い もの が19株 あ り,10-4ま で發 育 をみ る もの14

株,10-5迄4株,10-6迄2株,10-7迄1株 とな つ て

い る.こ の成 績 は從 來 各 方 面 で行 わ れ て い るSul-

fathiazoleの 抗 菌 試 驗 が10-5か10-6に 於 て赤 痢

菌 の發 育 を阻 止 して い る の に 比 べ る とか な り異 る

もの で あ る.然 し,從 來 の報 告 に 用 い られ た 菌株

は大 部 分 が保 存 菌 株 で あ り,且 つ 各種 サ ル フア劑

の抗 菌價 の比 較 に重 點 を お か れ た もの が 多 く,既

に分 離 され た 菌株 に關 す る もの の 報 告 は殆 ど見 ら

れ な い.

この 成 績 と,サ ル フア劑 が臨 床 上 いか な る效 果

を示 した かの 關 係 を示 す もの が第4表 で あ る.-,

+, ++は 上 記 の判 定 基 準 に よ る もの で あ る.表 に

つ い て,臨 床 上 サル フア劑 の 無 效 で あ つ た17例 の

中,12株 が10-3に 於 て もな お發 育 阻 止 され て い な

い.然 し,發 育 阻 止 濃 度10-6の1株 も臨 床 的 には

無 效 に絡 つ て い る.臨 床 上 有 效 で あつ た16例 につ

い て み る と,10-3は5株 で前 者 よ り少 く,10-4,

10-5が 併 せ て10株 を算 えて い る.臨 床 上 卓效 を示

した7例 につ い て み る と,1株 の み10-7の 低 濃 度

で あ る が,10-3 2株,10-4 4株 とい う意 外 な結 果 を

示 して い る.即 ち,10-3か ら10-7 Mol濃 度 迄 の 發

育阻止 と,臨 床上の著效,有 效,無 效 との 間に有

意な差は認め難いのである.然 し,著 效を示 した

第 4 表

第 5 表

第 6 表

ものを有效例中に含めて,無 效 と有效に二分 し,

Mol濃 度は10-4か ら10-7迄 を一括 して10-3以 上

と10-4以 下に區別 して第5表 を作つて檢討 してみ

ると,無效例17株 中10-3に 於て も發育阻止を うけ

ないもの12株70%以 上あり,10-4以 下は5株 に過

ぎない.逆 に,有 效例 についてみると,23株 中16

株70%近 くは10-4以 下であり,前者 と反對になつ

てお り,こ こに有意の差を見出 しうる.換 言する

と,10-3に て阻止 されない菌株19株 中12株63%

以上は臨床上 サルフア劑無效の赤痢を惹起 してお

り,10-3濃 度にて發育 しない菌株21株 中16株76

%以 上は多少サルフア劑の效果を認めた 赤痢の症

例から分離 されている.

次 に.赤 痢菌型と發育阻止濃度 との 關係が當然

問題 となる.昭 和菌,中 村菌が僅少のため正確 な

比較は出來難いが,二 木菌屬と大原菌の兩者の比

較 は第6表 の如 く,有 意な差は見 られない.

二,三 の症例についてみると,第7表 第1例 は

大原菌成人赤痢であるが,臨 床的にサルフア劑服

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72日本傳染病學會雜誌 第23卷 第5-3號

第 1 例

第 2 例

第 3 例

第2-4例 のSuefatbiazoleはSulfathiazoleに 訂正

用 と共 に急 激 に輕 快 して い るが,試 驗管 内 に於 て

も10-6以 上 は 發育 阻 止 され て い る.第2例 は 昭和

菌 小 兒赤 痢,10-3 Mol濃 度 に於 て も發 育 阻 止 され

な い菌 株 で あ る が,臨 床 的 に も大 量長 時 日の サ ル

フア劑 投 與 に も拘 らず下 痢,發 熱 が輕 快 して い な

第 4 例

い.こ の兩例は臨床上及び試驗管内の成積が一致

した場合である.第3例 は大原菌小兒赤痢であつ

て臨床上は 下痢が突然止 り數 日間便秘が續いてい

るが,試 驗管内では10-3で もなお發育阻止が行わ

れない.第4例 は之 とは逆 に試驗管内では10-5以

上は發育阻止されているが 臨床的にはサル フア劑

に何等の反應 も示 きない例であつて,こ の兩例は

臨床上と試驗管内の實驗成積が相反する結果を示

した場合である.

4. 考 按

以上の抗菌試驗の結果Sulfathiazole 10-3及 び

10-4 Mol濃 度を境 として,10-3に 於てもなお發育

する赤痢菌株は サルフア劑無效の赤痢を起すこと

多 く,10-4以 下 に於て發育阻止 される赤痢菌株の

場合はサルフア劑が效果を奏することが多いとい

う結論を得た.然 し,10-5の 低濃度で發育阻止 さ

され る菌株にはサルフア劑無效例があ り,逆 にサ

ルフア劑が卓效を示 した7例 中6例 迄が10-4以 上

に於てもなお發育阻止 されない菌株である等少な

からざる例外を含んでいる.ま た,こ の實驗に於

て,各 菌型各菌株 による合成培地上の發育度の相

違は當然考慮すべ きであろ う.こ の結果を以つて,

サルフア劑效果減弱の原因を直 ちに赤痢菌のサル

フア耐性 に歸することは勿論出來ない.こ の外,

サルフア劑服用の際,藥 劑の體内分布の個體的相

違.市 販サルフア劑の純良度の問題,あ るいは ま

た他に何等かのサルフア劑の效果 を減弱せ しめる

要素の有無の究明等,こ の問題の檢討 はあらゆる

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昭 和25年2月20日 73

方面か らなされなければならない.こ の小實驗は

ただ各赤痢菌株の サ ル フア 劑耐性とい う點のみ

で,臨 床上のサルフア劑效果 との關係を知 ろうと

した.

赤痢患者糞便中の粘液を以てする凝集反應に就て

都 立 駒 込 病 院

御 簾 納 孝 次 郎

緒言 昭和19年 有島,飯 島兩氏によつて發見 さ

れた本法は沼田氏によつて紹介 されたが,そ れに

よれば粘液便を排泄する赤痢患者6粘 液 中に病原

菌 に特異の抗體が存在 し,こ の抗體は發病當初か

ら相當高度に生 じ治癒後殘留す ることな く病状の

消長 と運命を共にする點が特異であつて,血 中凝

集素 と異な り發病早期 に診斷が出來 る.本 法 によ

れば細菌性赤痢 とアメーバ赤痢を判別することが

出來るのは勿論,菌 型 を知 ることも出來,本 法に

よつて判定 された菌型 と後か ら檢 出された菌型 と

符合 しなかつた ものは1例 もな く,從 つて本法に

よれば菌檢索 も不要 であつて.菌 檢索に一畫夜を

要するに比 し僅か1時 間位で決定 が出來るとして

ゐる.即 ち本法は糞便中より抗原を證明す るので

はな く抗體を證明するのであつて,そ の趣旨は粘

液便を排泄する赤痢患者の粘液の中に病原菌特異

の抗體が存するとの考へに基いてゐる.

私は昭和24年 夏本院に入院 した 赤痢,疫 痢患

者中51例 に就て飯島氏の法によつ て粘液の凝集

反應を試みると同時に各 例か ら病原菌の分離を試

み成積 を比較檢討 し,次 の成積 を得たのでこゝに

報 告する.

實驗方法 飯島氏の法に從ひ,赤 痢,疫 痢患者

糞便の粘液部 をとり0.5%石 灰酸加生理食鹽水 で

約10倍 に稀釋 し,試 驗管内で駒込ピペツレを用ひ

よく吸引吸出後遠心沈澱 して上清 をとる.こ の上

清0.5ccと 診斷液0.5ccを 小試驗管内で混和 し

37℃ 2時 間放置後凝集反應を觀察した.

診斷液は普通寒天18時 間培養のS型 菌苔を,生

理食鹽水1cc中 に1mg割 に平等に浮游懸濁 し,

60度30分 加温後 フク シン液で薄桃色程度に着色;

且0.5%の 割に石炭酸 を加へた ものを用ひた.菌株

は當院保存のものを用ひた.

檢査成績 患者51例 から分離證明 した菌型は次

の通 りである.即ち駒込B菌29例,中 村菌3例,大

原菌5例,菌 型未定1例,菌 陰性13例 でこれらの

例の糞便粘液 について 上述の方法により凝集反應

を行つた.病 日は第1病 日より第10病 日迄,檢 査囘

數は1例 につき連 日3~4囘 施行 した ものが多い.

第 1 表

患者 と同一菌種 のみ を凝集 せ る もの 8例

患者 と同一菌種及 び他の菌種 を凝集 せ る もの 11

他 の菌種 のみ を凝集 せ る もの 1

菌陰性例 で何れ かの菌種 を凝 集せ る もの 6

菌陽性例 で何れ の菌種 を も凝 集せ ざる もの 18

菌 陰性例で何れ の菌 種 を も凝集せ ざる もの 7

第 1 圖