急性上気道炎に対するsulindac(clinoril(r))の 薬...

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260 感染症学雑誌 第57巻 第3号 急 性 上 気 道 炎 に 対 す るSulindac(CLINORIL(R))の 薬効評価 ― 多 施 設 二 重 盲 検 法 に よ るIbuprofenと の比較― 国立霞 ケ浦病 院内科 正 孝*安 達正則 早川正勝 川崎市立川崎病院内科 藤森一平**河 野通律 竹 田義 彦 関 田恒 二 郎 慈生会病院内科 読売診療所 野口 龍雄 飯塚 邦芳 高島屋医務室 伊藤内科 ク リニック 丸紅東京本社診療所 小松診療所耳鼻咽喉科 富美夫 日本放送協会診療所 中川 内 科 ク リニ ック 島田 内科 医 院 吉祥寺診療所 新 赤坂 ク リニ ッ ク 松木 康夫 浩二 東京電力病院 富 岡 内科 ク リニ ック 大坪 ク リニ ック 武 田 内科 ク リニ ック 東 京 大学 医学 部 保健 セ ン ター 佐 々木 也*** (昭 和57年11月12日 受 付) (昭 和57年12月7日 受 理) Key words: Sulindac, Upper Respiratory Tract Infection, Double blind controlled study 急 性上 気道 炎患者 に対 す る非 ス テ ロイ ド抗炎 症 ・鎮 痛剤Sulindacの 有 効 性 と安 全 性 お よ び 有 用 性 に つ い てIbuprofenを 対 照 薬 と して 多 施 設 二 重 盲 検 法 に よ り比 較 検 討 した.試 験 薬 投 与 期 間 は4日 間 で,1 日投 与 量 はSulindacは300mg,Ibuprofenは900mgと した. 有 効 性 お よ び 有 用 性 評 価 例 はSulindac群141例,Ibuprofen群150例 で,安 全 性 評 価 例 はSulindac群 144例,Ibuprofen群152例 で あ った.解 析 の 結 果,症 状 別 評 価 で は落 痛 症 状(6項 目)お よび局所 症 状(4項 目)の う ち3日 目評 価 で は 頭 痛,腰 痛 お よ び 扁 桃 発 赤 で,5日 目評 価 で は 腰 痛 でSulindac群 はIbuprofen群 に 比 べ 有 意 な 改 善 が み られ た 他 は全 身 ・気 道 症 状(8項 目)な らびに最終全般改善度, 概 括 安 全 度 お よ び 全 般 有 用 度 に お い て 両 薬 剤 間 に有 意 差 は 認 め られ な か っ た. 以 上 か らSulindacは 急 性 上 気 道 炎 に対 し てIbuprofenと 同等の効果を示す有用な薬剤 と考 えられ る 急性上気道炎は日常診療の場で最も多く遭遇す る疾 患 の1つ で あ るが,そ の 本 質 的 な原 因 は個 々 の症例においては突き止め難 く,従 って そ の治 療 別 刷 請 求先:(〒210)川 崎市 川 崎 区新 川 通12-1 川崎市立川崎病院内科 藤森 一平 *治 験責任者 **論 文執筆者 ***コ ン トロー ラー

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260 感染症学雑誌 第57巻 第3号

急 性上 気 道 炎 に対 す るSulindac(CLINORIL(R))の 薬 効評 価

―多 施設 二 重盲 検 法 に よ るIbuprofenと の比 較 ―

国立霞ケ浦病院内科

勝 正孝*安 達正則 早川正勝

川崎市立川崎病院内科

藤森一平**河 野通律 竹田義彦

関田恒二郎

慈生会病院内科

荻 原 宏 治

読売診療所

野口 龍雄 飯塚 邦芳

高島屋医務室

玉 川 鉄 雄

伊藤内科クリニック

伊 藤 周 治

丸紅東京本社診療所

榎 本 新 市

小松診療所耳鼻咽喉科

山 崎 富美夫

日本放送協会診療所

山 崎 昭 吉

中川内科 クリニ ック

中 川 浩

島田内科医院

島 田 佐 仲

吉祥寺診療所

大 菅 久 夫

新赤坂 ク リニック

松 木 康 夫 関 浩 二

東京電力病院

東 冬 彦

富岡内科 ク リニック

権 田 信 之

大坪 ク リニ ック

大 坪 謙 吾

武田内科 ク リニック

武 田 宏

東京大学 医学部保健 センター

佐 々木 智 也***

(昭 和57年11月12日 受 付)

(昭 和57年12月7日 受 理)

Key words: Sulindac, Upper Respiratory Tract Infection, Double blind controlled study

要 旨

急 性上 気道 炎患者 に対 す る非 ス テ ロイ ド抗炎 症 ・鎮 痛剤Sulindacの 有 効性 と安 全性 お よび有 用性 につ

い てIbuprofenを 対照薬 と して多 施設 二重 盲検 法 に よ り比較検 討 した.試 験 薬投 与期 間 は4日 間 で,1

日投 与量 はSulindacは300mg,Ibuprofenは900mgと した.

有 効性 お よび有 用性 評価 例 はSulindac群141例,Ibuprofen群150例 で,安 全 性評 価 例 はSulindac群

144例,Ibuprofen群152例 であ った.解 析 の結果,症 状別 評価 で は落 痛症 状(6項 目)お よび局所 炎症

症状(4項 目)の うち3日 目評価 で は頭痛,腰 痛 お よび扁桃 発赤 で,5日 目評価 で は腰痛 でSulindac群

はIbuprofen群 に比べ 有意 な改 善 がみ られた他 は全 身 ・気道 症状(8項 目)な らびに最 終全般 改善 度,

概括 安全 度 お よび全般 有用 度 にお いて両 薬剤 間 に有 意差 は認 め られ なか った.

以上 か らSulindacは 急 性上 気道 炎 に対 してIbuprofenと 同等 の効 果 を示す 有用 な薬剤 と考 え られ る.

緒 言

急性上気道炎は日常診療の場で最も多く遭遇す

る疾患の1つ であるが,そ の本質的な原因は個々

の症例においては突き止め難 く,従 ってその治療

別刷請求先:(〒210)川 崎市川崎区新川通12-1

川崎市立川崎病院内科 藤森 一平*治 験責任者

**論 文執筆者

***コ ン トローラー

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昭和58年3月20日 261

は原因療法ではなく,も っぱ ら対症療法が治療の

中心を占めている.

Sulindac(Fig.1)は,米 国メルク社が開発 した

インデン酢酸系の非ステロイ ド抗炎症 ・鎮痛剤で

あ り1),前臨床試験において明らかな抗炎症,鎮

痛,解 熱作用が認め られている2).臨床的には変形

性関節症3)4),慢性関節 リウマチ5)6),腰痛症7)および

肩関節周囲炎8)に対する薬効評価が行なわれ,こ

れら疾患に対する有用性が認められ,既 に汎 く使

用されている.

Fig. 1 Chemical structure of sulindac

今回,Sulindacの 急性上気道炎に対する臨床効

果と安全性についてまず非盲検試験 により検討を

行ない所期 の結果を得た ので9),引 き続 きIbu-

profenを 対照薬 として表記17施 設 による多施設

共同二重盲検群間比較試験を行なったので報告す

る.

なお,本 試験は昭和57年1月 より4月 までの4カ

月間に実施 されたものである.

試験対象 と方法

1.対 象

発症後2日 以内と推定 される急性上気道炎(か

ぜ症候群,急 性咽頭炎,急 性喉頭炎,急 性扁桃炎)

の成人患者を対象とした.た だし,次 のいずれか

に該当する症例は試験か ら除外 した.1)明 らかな

細菌感染の合併症を認め,抗 生物質の投与が必要

と考えられるもの.2)気 管支喘息および現在治療

中の肺気腫,慢 性気管支炎,肺 結核症などの呼吸

器疾患を有するもの.3)心 疾患,腎 疾患,肝 疾患,

悪性腫瘍,糖 尿病,血 液疾患,精 神疾患,そ の他

重篤な合併症を有す るもの.4)消 化管出血 ・潰瘍

また は そ の既 往 の 明 らか な もの.5)ア ス ピ リン等

の 非 ス テ ロイ ド抗 炎 症 剤 に 過 敏 の も の.6)妊 産

婦,授 乳 中 の婦 人 あ るい は妊 娠 可 能 な婦 人.7)そ

の他,主 治 医 が試 験 の 実 施 を不 適 当 と判 断 した も

の.

な お,試 験 に組 み 入 れ る に先 立 ち,患 者 か ら試

験 に参 加 す る こ との 同意 を 得 た.

2.薬 剤 お よ び投 与 方 法

被 験 薬 はSulindac 50mg錠(黄 色 六 角 形 錠,日

本 メル ク萬 有 株 式 会 社 製 造),お よ び 同型 の プ ラ セ

ボ な ら び に,対 照 薬 と し てIbuprofen 100mg錠

(白 色 糖 衣 錠,科 研 薬 化 工 株 式 会 社 製 造)お よ び 同

型 の プ ラ セ ボ を 用 い てFig.2に 示 す 投 薬 ス ケ

ジ ュ ール に よ り4日 間 投 与 を行 な った.Sulindac

群 で は 朝Sulindac 150mg(3錠),Ibuprofenプ ラ

セ ボ3錠,昼Ibuprofenプ ラ セ ボ3錠,夕Suliル

dac 150mg(3錠)Ibuprofenプ ラ セ ボ3錠 を 投

与,Ibuprofen群 で は朝Ibuprofen 300mg(3錠)

Sulindacプ ラセ ボ3錠,昼Ibuprofen 300mg(3

錠),夕Ibuprofen 300mg(3錠)Sulindacプ ラ セ

ボ3錠 を 投 与 した.Sulindacの 投 与 量 は1日300

mg,Ibuprofenは1日900mgで あ った.尚,被 験

薬 お よ び対 照 薬 の 製 剤 学 的 試 験 は 星 薬 科 大 学 薬 剤

Fig. 2 Study design and dose-pack

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262 感染症学雑誌 第57巻 第3号

学教室永井恒司教授に依頼し,規 格に合格 した旨

の保証を得た.ま た識別不能性の確認お よび薬剤

の割付けはコン トローラーが行なった.

本試験中における併用療法に関 しては,効 果判

定に影響を及ぼす と考えられる薬剤(抗 生物質を

含有する含漱剤及び トローチ剤,他 の非 ステロイ

ド抗炎症剤,鎮 痛剤,解 熱剤,抗 ヒスタミン剤,

鎮咳剤,消 炎酵素剤,抗 生物質)の 併用は避け,

胃腸薬,制 酸剤は予防的には投与 しないこととし

た.

尚,合 併症に対 しては適切な治療を行なうこと

を容認 した.

3.評 価項 目および評価方法

1)症 状別評価

a,落 痛症状:咽 頭痛,嚥 下痛,頭 痛,腰 痛,関

節痛,筋 肉痛

b,全 身 ・気道症状:体 温(℃),全 身倦怠感,

鼻汁,鼻 閉,く しゃみ,嘆 声,咳,疾

c,局 所炎症症状:咽 頭発赤,咽 頭腫脹,扁 桃発

赤,扁 桃腫脹

上記評価項 目については,初 診 日(投与開始 日)

に対象患老へ 「かぜ 日記」を手渡 し,毎 日の各症

状の程度,体 温,服 薬状況および副作用などを記

載させ,そ れを参考 として同一医師が3:症 状が

著しい,2:症 状がはっきりしている,1:症 状

が少 しある,0:症 状なしの4段 階で初診 日(投

与開始 日),投与3日 目および投与5日 目に評価 し

た.尚,体 温 につい ては3:38.0℃ 以上,2:

37.5~37.9℃,1:37.0~37.4℃,0:36.9℃ 以

下の4段 階に評価 した.

2)全 般改善度(医 師の評価)

投与3日 目および5日 目に全般的改善度につい

て初診 日と比較 して,1:著 明改善,2:中 等度

改善,3:軽 度改善,4:不 変,5:悪 化の5段

階で評価 した.尚,原 則 として投与5日 目の判定

を最終全般改善度 とした.

3)概 括安全度

試験薬剤投与期間中に発現 した副作用の種類,

期間,程 度,重 大性,薬 剤 との因果関係,転 帰な

どを考慮 して試験終了時に以下の4段 階で評価 し

た.0:副 作用なし,-1:軽 度の副作用(医 師の

判断で,副 作用が軽度に認め られたが試験薬の投

与がそのまま継続できた),-2:中 等度の副作用

(医師の判断で,副作用に対し他剤の併用あるいは

試験薬の減量などの処置を必要 とした),-3:高

度の副作用(医 師の判断で投与を中止した,あ る

いは中止すべきだ った)

4)全 般有用度

全般改善度および概括安全度を総合的に判断し

た有用度を1:極 めて有用,2:か なり有用,3:

やや有用,4:ど ちらともいえない,5:好 まし

くないの5段 階で評価 した.

5)患 者の印象

投与3日 目および5日 目に初診 日と比較 して,

1:非 常に良 くなった,2:か な り良 くなった,

3:少 し良くなった,4:か わ らなかった,5:

悪 くなったの5段 階で評価 した.

4.除 外 ・脱落例の決定およびその取扱い

幹事会およびコン トローラーがkeycode開 封

前に対象の選択基準,併 用治療の規約,評 価 日の

ずれ,服 薬率等を勘案 して除外 ・脱落例を決定 し

た.途 中脱落例(改 善 ・悪化 ・不変 ・副作用 ・合

併症等の理由による中止例)は 前述の除外 ・脱落

基準に従って,中 止時点までの評価を採用 した.

5.デ ータの統計解析

データの解析はx2検 定,Kruskal-Wallis検 定

等を用いて行なった.

試験結果

1.解 析対象例

試験 に組み入れられた症例は322例 であ り,内訳

はSulindac群(以 下SUL群)157例,Ibuprofen

群(以 下IBP群)165例 であった.そ の うち除外例

26例,脱 落例5例 あ り解析対象症例 として最終全

般改善度評価および全般有用度評価 に関 しては

291例(SUL群141例,IBP群150例)が,概 括安全

度評価 に関しては除外例26例 を除 き296例(SUL

群144例,IBP群152例)が 採用例 となった.

除外例では,イ ンフルエンザ罹患15例(SUL群

9例,IBP群6例),全 く再来院のなかった8例

(SUL群3例,IBP群5例)抗 生物 質併用1例

(IBP群1例)お よび第三者か らの情報 によって

評価された2例(SUL群1例,IBP群1例)を 除

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外例(合 計SUL群13例,IBP群13例)と して全評

価項 目に関する評価の対象外 とした.そ の他発症

4日 以降に試験に組み入れ られた症例および服薬

不全例(合 計SUL群3例,IBP群2例)は 概括安

全度 に関す る評価のみ行なった(Table 1).

2.解 析対象例の背景因子

最終全般改善度および全般有用度評価について

の解析対象例の背景因子 として性別,年 齢,体 重,

診断名,重 症度,病 日,合 併症の有無および併用

薬剤の有無について調べたが両薬剤群間に有意差

を認めなかった(Table 2).

また,試 験開始時における咽頭痛,嚥 下痛,頭

痛,腰 痛,関 節痛,筋 肉痛,発 熱,全 身倦怠感,

鼻汁,鼻 閉,く しゃみ,嗅 声,咳,疾,咽 頭発赤・

腫脹および扁桃発赤 ・腫脹についての重症度分布

でも,全 項 目において両薬剤群間に有意差を認め

なかった(Table3).

尚,解 析対象例とされたSUL群141例,IBP群

150例 の うちで,試験期間中に投与を中止した症例

は各々23例 および22例 であった.投 与中止理由と

しては症状改善によるものがSUL群13例,IBP

群12例,症 状悪化ない し不変 によるものがSUL

群7例,IBP群5例,副 作用によるものがSUL群

1例,IBP群1例 および合併症その他の理由によ

るものがSUL群2例,IBP群4例 でいずれも両

群間に有意の差はみられなかった.

2.症 状別改善度

各症状別に試験開始時と比較 した症状の改善度

をみると,3日 目の評価では頭痛,腰 痛および扁

桃発赤,5日 目の評価では腰痛においてSUL群

はIBP群 に比 し改善度が有意に大 きかった.そ の

他の症状ではいずれの評価項 目においても両薬剤

間に有意差を認めなかった(Table4).

3.全 般改善度

a,3日 目評価

「中等度改善」以上例をみるとSUL群 は141例

Table 1. Total number of the cases controlled

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264 感染症学雑誌 第57巻 第3号

Table 2. Background of patients

*: X2-test NS: Not significant

**: Kruskal - Wallis test

中56例(39.7%),IBP群 は150例 中51例(34.0%)

で あ り 「軽 度 改 善 」以 上 例 で はSUL群141例 中117

例(83.0%),IBP群150例 中119例(79.3%)の 改

善 が み られ た が,両 薬 剤 群 間 に有 意 差 は 認 め られ

な か った(Table5-1).

b,5日 目評 価

「中等 度 改 善 」 以 上 例 を み る とSUL群 は119例

中81例(68.1%),IBP群 は129例 中88例(68.2%)

で あ り,「 軽 度 改 善 」以 上 例 で はSUL群 は119例 中

105例(88.2%),IBP群 は129例 中121例(93.8%)

の 改 善 が み られ た が,両 薬 剤 群 間 に 有 意 差 は認 め

られ な か った(Table 5-1).

c,最 終 全 般 改 善 度

「中 等 度 改 善 」 以 上 例 はSUL群141例 中95例

(67.4%),IBP群150例 中101例(67.3%)を 占め,

「軽 度 改 善 」 以 上 例 で は そ れ ぞ れ141例 中123例

(87.2%),150例 中134例(89.3%)で あ り,い ず

れ も両 薬 剤 群 間 に 有 意 な 差 は 認 め ら れ な か った

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Table 3. Severity of s ymptoms at baseline

* : Kruskal - Wallis test NS : Not significant

**: None; -36.9 •Ž , Mild; 37.0-37.4 •Ž , Moderate; 37.5-37.9 •Ž , Severe; 38.0 •Ž

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266 感染症学雑誌 第57巻 第3号

Table 4 -1 I mprovement of symptoms

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Table 4-2 Im provemem of symptoms

* : Kruskal -Wallis test NS: Not significant

S> I: Sulindac is superior to Ibuprofen.

(+) : improved (—) : aggravated

(Table5-2).

4.概 括安全度

副作用はSUL群 全144例 中7例(4.9%),IBP

群全152例 中6例(3.9%)に 発現したが概括安全

度評価で両薬剤群間に有意差は認め られなかった

(Table6-1).消 化器症状として嘔吐はSUL群

1例,食 欲減退はSUL群,IBP群 各1例,悪 心は

SUL群2例,IBP群3例,胃 部不快感SUL群2

例,IBP1例,腹 痛,下 痢および下痢の悪化がSUL

群に各1例 認め られた.ま た,中 枢神経症状 とし

て眠気がIBP群 に1例,そ の他顔面浮腫がSUL

群に1例 認め られた.こ の うち投薬中止例はSUL

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268 感染症学雑誌 第57巻 第3号

Table 5-1 Doctor's global improvement rating

Table 5-2 Final global improvement rating

( ) : % *: Kruskal - Wallis test NS: Not significant

Table 6-1 Overall safety rating

( ) : % *: Kruskal - Wallis test NS: Not significant

Table 6 -2 Side effects observed

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昭和58年3月20日 269

Table 7. Patients with side effect

群2例(1.4%),IBP群2例(1.3%)で いず れ も

消 化 器 症 状 で あ った(Table6-2).各 症 例 の詳 細

に つ い て はTable7に 示 した.ほ とん どの 副 作 用

が 投 与3日 以 内 に発 現 し,程 度 も軽 度 も し くは 中

等 度 で あ った.ま たSUL群 で は,投 与 を 中 止 した

2例 の他 に 止 潟 剤 を 併 用 し試 験 を 続 行 した 症 例 が

1例 あ った.

5.全 般 有 用 度

「か な り 有 用 」 以 上 はSUL群141例 中94例

(66.7%),IBP群150例 中96例(64.0%)に み られ,

「や や 有 用 」 以 上 例 は そ れ ぞ れ141例 中120例

(85.1%),150例 中131例(87.3%)で あ り,い ず

れ も 両 薬 剤 間 に 有 意 の 差 は 認 め ら れ な か った

(Table8).

6.患 者 の 印 象

a,3日 目評 価

「か な り良 くな った 」以 上 例 は,SUL群 お よ び

IBP群 そ れ ぞ れ141例 中58例(41.1%),150例 中49

例(32.7%)で あ り,「 少 し良 くな った 」以 上 例 は

SUL群 は141例 中113例(80.1%),IBP群 は150例

Table 8. Global utility rating

* : Kruskal -Wallis test NS: Not significant ( ): %

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270 感染症学雑誌 第57巻 第3号

Table 9. Patient's impression

*: Kruskal-Wallis test NS: Not significant ( ): %

中116例(77-3%)で あったが,両 薬剤群間に有意

差は認められなかった(Table 9).

b,5日 目評価

「かな り良 くなった」以上例は,SUL群 および

IBP群 それぞれ118例 中78例(66.1%),129例 中85

例(65.9%)で あ り 「少 し良 くなった」以上例で

はSUL群 は118例 中106例(89.8%),IBP群 は129

例中120例(93.0%)で あったが,両 薬剤群間に有

意差は認められなかった(Table 9).

7.層 別解析

最終全般改善度および全般有用度について,対

象の背景因子により層別 し,改 善率および有用率

を比較 したが,両 群間に有意差は認められなかっ

た.

考 案

多種多様な急性上気道炎の原因のなかで,一 般

的に最も頻度の高いものはウイルス感染にもとず

くものであろ う.し かし,抗 ウイルス剤として臨

床上有用な薬剤はいまだ実用化されておらず,こ

のため実地診療では原因療法よりも安静,栄 養補

給などの一般療法や落痛症状,全 身 ・気道症状お

よび炎症症状等の急性上気道炎の諸症状の軽減を

目的とした対症療法が主体 となることが多い.

この対症療法 としての薬物治療にはサ リチル

酸,Ibuprofen等 の非ステ ロイ ド抗炎症・鎮痛剤が

主に用い られている.

今回検討 したSulindacは 各種薬理試験 におい

て優れた抗炎症 ・鎮痛 ・解熱作用を有することが

認められており1),.本剤を ヒトに経 口投与 した場

合,1日2回 投与で有効血中濃度を維持すること

が知 られている2).

先に報告した非盲検試験による72例 での予備試

験9)ではSulindac 1回150mgを1日2回4日 間

投与 し,本 剤の有効性については最終全般改善度

でかな り有効以上例が72例 中45例(62.5%),や や

有効以上例が68例(94.4%)で あ り,副 作用につ

いては軽度の胃部不快感が2例 に認め られたのみ

であったことか ら,本 試験(二 重盲検試験)で も

Sulindac 1日 量を300mgと 決 定 しIbuprofen 1

日量900mgを 対照薬 とし4日 間投与 による両剤

の有効性,安 全性および有用性を比較検討 した.

得 られた試験成績についてみると,症 状別改善

度でSulindacは3日 目の頭痛,腰 痛および扁桃発

赤,5日 目の腰痛の改善でIbuprofenに 比 し有意

に優れ(p<0.05ま たは0.01)て いた.

医師の評価,患 者の印象における3日 目および5

日目での評価は両薬剤群間に有意差は認めなかっ

た.

また,副 作用はSulindac群7例(4.9%),Ibu-

profen群6例(3.9%)に 認められたが,そ れ らの

大部分は消化器系の症状であ り,副 作用発現傾向

についても両薬剤群間に有意差を認めなかった.

また,最 終全般改善度(有 効性),概 括安全度(安

全性)お よび全般有用度(有 用性)に ついても両

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昭和58年3月20日 271

薬剤間に有意の差は認められなかった.

Ibuprofenを 対照薬 とする他の急性上気道炎に

対す る二重盲検試験成績は既に我々によって報告

されている10)11).これ ら試験 におけるIbuprofen

投与群の有効率はいずれ も57%で あ り,ま た副作

用発現率については3.4%お よび4.0%と 低率を示

し,Ibuprofenが 本疾患に対し充分な有効性,安 全

性を有することは明らかである.こ れ らの成績 と

本試験におけるIbuprofen投 与群の有効率および

副作用発現率を対比すると,ほ とん ど等 しい成績

が得 られていると判断され,従 ってSulindac投 与

群がIbuprofen投 与群に比 し何ら遜色のない有効

性,安 全性を示 していると考えられた.さ らに,

日常生活を維持 しながら治療を行なわなければな

らない ことが多 い急性上気道炎疾患患者 にとっ

て,Sulindacは1日2回 投与 とい う使用上の簡便

さにおいて臨床上 メリットのある薬剤 と考えられ

る.

結 語

二重盲検群間比較試験 により1回150mg,1日

2回 のSulindacと1回300mg,1日3回 のIbu-

profenを4日 間急性上気道炎患者に投与 し,そ の

有効性,安 全性および有用性を比較検討 し,次 の

成績を得た.

1)症 状別改善度では,評 価した痺痛症状(6項

目),全 身・気道症状(8項 目),局 所炎症症状(4

項 目)の うち3日 目の評価で頭痛,腰 痛および扁

桃発赤,5日 目の評価で腰痛においてSulindac投

与群 はIbuprofen投 与群 に比 し有意 に優れてい

た.

2)医 師の評価および患者の印象では,両薬剤間

に有意な差は認められなかった.

3)最 終全般改善度では,両薬剤間に有意な差は

認め られなかった.

4)副 作用 は主 として消化器系症状がSulindac

投与群に7例(4.9%),Ibuprofen投 与群に6例

(3.9%)に み られた.概 括安全度では両薬剤間に

有意な差は認められなかった.

5)全 般有用度については両薬剤間に有意差を

認めなかった.

以上すべ ての評価 を通 してSulindac1日300

mg投 与はIbuprofen1日900mg投 与 とほぼ同等

の成績であると判断された.

文 枠1) Shen, T. Y.: Discovery and characterization

of sulindac and its metabolites, in "Clinoril inthe Treatment of Rheumatic Disorders", Ed. byHuskisson, E. C. & Franchimont, P., RavenPress, New York, 1976, p. 1-8.

2) Van Arman, C. G., et al.: Pharmacology of

Sulindac, idid, D. 9-36.3) 景 山孝 正 ほ か: 変形 性 関 節症 治 療 に お け るSulin-

dacの 有 用性 評 価-DiclofenacNaを 標 準 薬 とし

た多 施設 二重 盲検 比 較 試験 成 績 一. 薬 理 と治療,

7 (3): 761-781, 1979.

4) 豊 永 敏 宏 ほ か: 変 形 性 膝 関 節 症 に対 す るSulin-

dacの 二 重 盲 検 比 較 試 験. 臨 床 と研 究. 56 (9):

3011-3024, 1979.

5) 七 川歓 次 ほか: 慢 性 関 節 リウ マチ に お け るSulin-

dacの 薬 効 検 定. リ ウマ チ, 19 (2): 164-182,

1979.

6) 七 川 歓 次 ほ か: 慢 性 関節 リウマ チ に対 す るSulin-

dacの 長 期 薬効 検 定. リウマ チ, 22 (2): 168. 184,

1982.

7) 長 屋 郁 郎 ほ か: 慢 性 腰 痛 性 疾 患 に 対 す るSulin-

dacの 臨 床 評 価-Ibuprofenを 基準 薬 とす る二 重

盲 検 比 較試 験-. 基礎 と臨 床, 13 (3): 1038-1048,

1979.

8) 薄 井 正 道 ほ か: 肩 関 節 周 囲 炎 に対 す るSulindac

の臨 床 評 価-Aspirinと の 二 重 盲 検 比 較 試験-.

基 礎 と臨床, 13 (2): 646-658, 1979.

9) 藤 森 一平 ほか: 急 性 上 気道 炎 に対 す る ク リノ リル

錠 の 臨床 治 験. 感 染 症誌, 56 (12): 1186-1195,

1982.

10) 勝 正 孝 ほ か. 急 性 上 気 道 炎 に 対 す るMiro.

profenの 薬 効 評 価-多 施 設 二 重 盲 検 法 に よ る

Ibuprofenと の 比 較-. 感 染 症 誌, 56 (5):

434-453, 1982.

11) 勝 正 孝 ほ か: か ぜ 症候 群 に対 す るFenbufenの

臨 床 効 果-多 施 設 二 重 盲 検 試 験-. 感 染 症 誌,

51 (4): 184-196, 1977.

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272 感染症学雑誌 第57巻 第3号

Clinical Evaluation of Sulindac (CLINORIL(R)) in the Treatment of AcuteUpper Respiratory Tract Infection-Double-Blind

Comparison with Ibuprofen-

Masataka KATSU * 1, Masanori ADACHI * 1, Masakatsu HAYAKAWA * 1, IppeiFUJIMORI * 2, Michinori KOHNO * 2, Yoshihiko TAKEDA * 2, Kohjiro SEKITA * 2, KohjiOGIHARA * 3, Tatsuo NOGUCHI * 4, Kuniyoshi IIZUKA * 4, Tetsuo TAMAGAWA * 5, ShujiITOH * 6, Shinichi ENOMOTO * 7, Fumio YAMAZAKI * 8, Shohkichi YAMAZAKI * 9, HiroshiNAKAGAWA * 10, Sacchu SHIMADA * 11, Hisao OHSUGA * 12, Yasuo MATSUKI * 13, KojiSEKI * 13, Fuyuhiko HIGASHI * 14, Nobuyuki GONDA * 15, Kengo OHTSUBO * 16, Hiroshi

TAKEDA * 17, Satoshi SASAKI * 18National Kasumigaura Hospital* 1, Kawasaki Municipal Hospital * 2, Jiseikai Hospital * 3, Yomiuri Clinic * 4,

Takashimaya Clinic * 5, Itoh Clinic * 6, Marubeni Tokyo Head Office Clinic* 7, Komatsu Clinic * 8,NHK Clinic * 9, Nakagawa Clinic * 10, Shimada Clinic * 11, Kichijoji Clinic * 12,

Shin-Akasaka Clinic * 13, Tokyo Denryoku Clinic * 14, Tomioka Clinic * 15,Ohtsubo Clinic * 16, Takeda Clinic * 17,

Tokyo University School of Medicine * 18

A multi-clinic double-blind study in comparison with ibuprofen was conducted to evaluate the

effectiveness, safety and usefulness of sulindac, a new non-steroidal analgesic/anti-inflammatory agent,

in acute upper respiratory tract infection. Patients were treated with sulindac 150 mg twice a day or

ibuprofen 300 mg three times a day for 4 days.

The effectiveness and usefulness were statistically analyzed and compared in 141 sulindac-treated

and 150 ibuprofen-treated patients; safety was similarly assessed in 144 and 152 patients, respectively.The sulindac group was superior to the ibuprofen group in improvement of headache, low back pain

and tonsil redness on the 3rd day, and in low back pain on the 5th day.

Not statistically significant difference was observed in the final global evaluations of the

effectiveness, safety or usefulness. Therefore, sulindac is considered to be a highly useful drug

equivalent or superior to ibuprofen in the treatment of acute respiratory tract infection.