河川と海流を通じた内陸と外洋の...

60
1 河川と海流を通じた内陸と外洋の 生態系の結びつき -アムール川流域と親潮域のつながり- 中塚 (環境学・地球環境科学専攻) & アムールオホーツクプロジェクト 基礎環境学スタートアップセミナー( 基礎環境学スタートアップセミナー( 2010 2010 - - 2 2 - - 4 4 第一部.環境認識のSecurity Holeを埋める取り組みの重要性(長いイントロ) 第二部.河川と海流を介した鉄の輸送による内陸と外洋の生態系の結びつき 長いイントロ つき

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1

河川と海流を通じた内陸と外洋の生態系の結びつき

-アムール川流域と親潮域のつながり-

中塚 武(環境学・地球環境科学専攻)

& アムールオホーツクプロジェクト

基礎環境学スタートアップセミナー(基礎環境学スタートアップセミナー(20102010--22--44))

第一部.環境認識のSecurity Holeを埋める取り組みの重要性(長いイントロ)

第二部.河川と海流を介した鉄の輸送による内陸と外洋の生態系の結びつき

長いイントロつき

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環境問題の研究とは?

問題治療型研究問題診断型研究

ex. CO2による地球温暖化

メカニズムの解明

ex. CO2の吸収技術、

遺伝子組み換え植物の開発、環境税導入

第1部(長いイントロ)

「診断」と「治療」は関係しているが、一方向的な関係であり、これまでは、それぞれ、別々に研究が行われてきた。果してこの関係は妥当なのか? 新しい関係が、あるべきでは?

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3

「環境問題を治療する」とは、どういうことか?-人類は、“環境問題”を、どのように治療してきたか?-

与えられた問題 治療方法 新たに発生した問題

狩猟採集社会における慢性的食料不足

農業の発明

耕作可能な土地の不足 灌漑農法の発明

森林の伐採と木材燃料の不足

化石燃料の利用

洪水の頻発と産業・生活用水の不足

ダム・河口堰

感染症による寿命の慢性的な短さ

抗生物質の発明

人口爆発・土地不足

塩害・水資源枯渇

資源枯渇・地球温暖化

水圏生態系の変質

人口急増 / 薬剤耐性菌

・・・

人類史上、環境問題の治療の先にあったのは、常に、新たな環境問題(副作用)の発生であった!

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環境問題の「負の連鎖」を断ち切るためには?-「問題予測・発見型」研究の重要性-

既にある問題

の診断型研究

既にある問題

の治療型研究

治療法の導入により、これから起こる問題、既に密かに起きている問題を

予測・発見する研究

そのためには、現在の“我々の環境認識”におけるSecurity Holeを、

埋めていく取り組みが、必要!

地球温暖化研究は、実は、この問題予測・発見型研究の典型例!

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5

地球生命圏におけるSecurity Holeは、何処にある?-Global scaleの“Security Holeの見つけ方”例-

大気

陸面 海洋

気象学

海洋学、水産学

水文学、農学、林学…

大気海洋相互作用、大気海洋結合型大循環モデル…

大気・植生間ガス交換、水循環モデル、生態系モデル…

?未知の領域

異質な領域間での広域相互作用研究

の必要性

大気、陸面、海洋は、これまで別々に研究され、バラバラに認識が発展してきた。

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何故、陸面と海洋の関係は、良く分かっていないか?

大気

陸面海洋

広大な海面を通した相互作用広大な陸面を通した相互作用

沿岸域における陸-海相互作用

(LOICZ)

大気を介した内陸と外洋の遠隔作用(SOLAS)

陸面と海洋の直接の接点は、ここしかない。

沿岸を介した内陸と外洋の遠隔作用の潜在的重要性!

河川~沿岸~外洋系の潜在的連関の重要性*大気経由は迅速。河川・海中経由は大量。

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7

内陸と外洋をつなぐ「窓」としての沿岸域は、どこにあるか?

-海洋の大規模循環の特徴-

1.冬季の表面水の冷却

2.海氷からのブライン水の排出

海氷

大気の場合下からの加熱

赤道

海洋の場合 高密度水の沈み込み

氷は真水で出来ている!

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8

冬季のオホーツク海における海氷と季節風の状況

北見工大

提供

東シベリアから吹く、冷たい冬季モンスーンによって、オホーツク海の北西部大陸棚の沿岸ポリニアでは、毎冬、大量の海氷が形成される。

北西風と、南向きに流れる東サハリン海流によって、海氷(と海氷由来のブライン水)は、オホーツク海南部に運ばれる。

北海道

サハリンサハリン

カムチャッカ半島カムチャッカ半島

沿岸ポリニア沿岸ポリニア

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9

科学技術振興科学技術振興事業団事業団 提供提供

海氷形成時に、冷たくて塩分の濃い水(ブライン水)=高密度水が、海氷から排出され、深さ300-500mの中層に沿って、

オホーツク海の南部に流出する

海氷形成時のブライン水排出のイメージ

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2月の海氷分布と平均気温(2001年)

・北半球における海氷域の南限 海氷の年々変動大

・北太平洋で唯一大気に接した水が中層へ潜り込まれる海大気・陸からの熱・物質を北太平洋中層水(400-800m)へ

北太平洋中層水

グローバルな目でみたオホーツク海

二橋氏作成

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高緯度沿岸域を介した多圏相互作用の重要性

大気

陸面海洋

世界の海(特に、中・深層)と、陸面・大気を結び付けているのは、高緯度沿岸“海氷”域!

表層ではなく、中・深層に入り込むことの重要性:

1.大気からの隔離(温室効果ガスなどの場合、一旦入ると大気に戻らない)

2.遠方まで輸送可能(栄養物質や粒状物質の場合、表層だと直ぐに消費・

沈降するが、中層だと、どこまでも運ばれうる)

重要だけれど、余り注目されてこなかったプロセス

=Security Hole !

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河川と海流を介した鉄の輸送による内陸と外洋の生態系の結びつき

-温暖化・水循環・土地利用変化の影響-

第2部(本題)

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Takahashi et al., 2002

親潮域を含む北太平洋亜寒帯域の西部海域は、世界で最も生物生産性の高い海域、つまり、水産資源の宝庫であると同時に、大気から海洋へのCO2の吸収

量の変化に、最も大きな影響を与える海域である。

海洋表面における二酸化炭素分圧の生物による季節変動幅の分布

親潮

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表層の硝酸塩(NO3-)濃度 植物プランクトン色素(クロロフィルa)濃度

北海道の近海では、冬に海面が冷えて対流が起こり、深層から表層に、大量の窒素やリン等の栄養塩が上がってくるので、生産力が高い。

北海道東方沖の北太平洋で、夏の植物プランクトンの生産を制限している要因は、微量金属の1つ、「鉄」であった。

北海道東方の海の生産力を決めている要因は何か?

ただし、夏でも、表層水に大量の栄養塩が残存(光が当るのに…)=長年の謎High Nutrient & Low Chlorophyll (HNLC)海域

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北太平洋亜寒帯域の夏の溶存鉄と栄養塩(硝酸)濃度

東部北太平洋亜寒帯域(北緯50°、西経145°)

(Martin et al., 1989)

北太平洋亜寒帯域の表層では、栄養塩(硝酸塩)以上に鉄の不足が目立つ。つまり、栄養塩は未だ余っているのに、鉄の方が、先に枯渇する。

鉄は、陸上では非常にありふれた元素だが、水に溶け

にくいため、海水中には、ほとんど存在しない。しかし、光合成や硝酸塩

を取り込む際に使う酵素を作るには、欠かせない元素。

鉄の海水中における濃度は極めて低いため、従来(10数年前まで)

は、その濃度の測定自身が、不可能であった

NO3-Fe

地球と生命の共進化の結果の1つ…

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親潮域における春季の植物プランクトンブルーム

北太平洋亜寒帯域における植物プランクトンの増殖

西部亜寒帯域および親潮域(北海道近海)では、東部と違って、植物プランクトンが、毎年必ず、春に大増殖する

→春の増殖を支える鉄は、どこから供給される?

0

2

4

6

8

10

Chl.a

(m

g/m

3)

親潮域

西部

東部

春のブルーム

北太平洋亜寒帯域の東西での植物色素の季節変動

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17

海洋表層の鉄は、どこから来るか?一般的理解(鉄は大気から…)

Duce and Tindale, 1991大気から海面に落下するエアロゾル態の鉄のフラックス

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全鉛直フラックスの合計量 (μmol/m2/yr)

0

5

10

15

20

25

30

A4 St.22 St.KNOT SEEDS St.P

50ºN

45ºN

140ºE 145ºE 150ºE 155ºE 160ºE 165ºE 150ºW 120ºW

60ºN

130ºW140ºW160ºW40ºN

50ºN

St. KNOT

St.22

St. SEEDS

St.P

A4

親潮 西部亜寒帯 東部亜寒帯

Fe NO3-

鉄も硝酸塩と同様に、表層よりも、下層で、濃度が高い。

つまり、冬季の鉛直混合によって、表層に供給され得るはず。

北太平洋における“下から”表層に供給される溶存鉄の見積もり(西岡、2004)

大気由来の鉄と同様に、西側で大きい!

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19

-6000

-5000

-4000

-3000

-2000

-1000

00 1 2 3

Dept

h (

m)

OyashioOyashio RegionRegion

-200

-100

00 0.2 0.4 0.6 0.8 1

Fe conc. (nM)

Dept

h (

m)

-6000

-5000

-4000

-3000

-2000

-1000

00 1 2 3

Western Western SubarcticSubarctic

-200

-100

00 0.2 0.4 0.6 0.8 1

Fe conc.(nM)

-800

-600

-400

-200

00 1 2 3

Eastern Eastern SubarcticSubarctic

-200

-100

00 0.2 0.4 0.6 0.8 1

Fe conc.(nM)St. 22 St. KNOT St. PSt. P

Dissolved Fe (< 0.22 μm)Total acid soluble Fe

True dissolved Fe (< 200 kDa)

Green hatchGreen hatch Particulate Fe

鉄のもう1つの巨大ソース– “中層水鉄”

(Nishioka et al., 2003)

西部北太平洋亜寒帯域(特に、親潮域)では、中層に、東部亜寒帯域には無い、鉄の巨大な濃集層があった! (Nishioka et al., 2007)

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20

下層からの鉛直フラックスと大気経由のフラックスの比較

0

100

200

300

400

500

600

700

800

A4 St.22 St.KNOT SEEDS St.P Dust

μm

olFe/m

2/yr

Total Fe deposition

0

20

40

60

80

100

A4 St.22 St.KNOT SEEDS St.P Dust

μm

olFe/m

2/yr

Dust solubility 10 %

0

10

20

30

40

50

A4 St.22 St.KNOT SEEDS St.P Dust

μm

ol/

m2/yr

Dust solubility 1 %

Fung et al., 2000; Tegen and Fung,. 1994; 1995

大気経由フラックスの見積もり

★大気からのエアロゾル鉄は、もともと粒子なので、海洋表層では、あまり溶けないはず。

しかし、実際に植物プランクトンに使われているのは、どちらなのか?

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21

36

38

40

42

44

140 142 144 146 148 150 152 154 156 158 160

Longitude

Latitu

de

A17

A15

A11

A7

A3

A5

A9

A4

水産総合研究センター定期観測線 A-Line

親潮域における溶存鉄の鉛直分布の季節変動観測-鉛直輸送された鉄は、春季ブルームに、どう利用されているか-

(Nishioka et al., 2007)

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Dissolved Fe

0

0.2

0.4

0.6

0.8

1

1.2

1.4

J F M A M J

Month

Fe c

onc. (n

M)

A3

A4

A5

A7

A9

A11

A15

A17

NO3

0

5

10

15

20

25

30

J F M A M J

Month

NO

3 c

onc. (u

M)

A3

A4

A5

A7

A9

A11

A15

A17

Chl.a

0

5

10

15

20

J F M A M J

Month

Chl.a

conc. (u

g/L) A3

A4

A5

A7

A9

A11

A15

A17

MLD

0

50

100

150

200

250

J F M A M J

Month

MLD

. (m

)

A3

A4

A5

A7

A9

A11

A15

A17

1月 2月 3月 4月 5月 6月1月 2月 3月 4月 5月 6月

1月 2月 3月 4月 5月 6月 1月 2月 3月 4月 5月 6月4-5月に、混合層が浅く

なると植物プランクトンのブルームが起きる。

Feがほぼ枯渇した

時に、硝酸は、未だ十分に残っている。

(表面混合層の深さ)

1-5月までのAライン各測点の表層混合層内平均値の変化 (西岡ら)

密度の深度分布

(溶けている鉄)

Feは、黄砂が飛ぶ春ではなく、混

合層が深くなる冬に増大する。

ブルームの進行と共に、Feは減少し、Feの枯渇と

共に、ブルームは止まる。

(植物プランクトン) (硝酸塩の窒素)親潮域の春季ブルームを支える鉄は、主に、冬季の鉛直混合によって、まかなわれているらしい。(少なくとも、見かけ上、大気からの供給は無関係)

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23

Total labile Fe

0

1000

2000

3000

4000

5000

6000

0 2 4 6 8 10

Fe conc. nM

Depth

m

St.7.2

St.8

St.9

St.17

St. TEST

St.6

St.11

St.21

St.22

St.23

St. KNOT-2

50ºN

45ºN

140ºE 145ºE 150ºE 155ºE 160ºE 165ºE

St. KNOT

St.22

St.23

St. MA

St. SEEDSSt.21

St.11St.6

St.17St.8

St.9St.7.2

Total acid-dissolvable Fe (nM)

OkhotskOkhotsk

Western SubarcticOyashio

(Nishioka et al., 2007)

ところで、“中層鉄” は、オホーツク海から来るらしい!

Sea of Okhotsk

WesternSubarctic

PacificOyashio

では、何故、オホーツク海の中層水中には、これほど大量の鉄が含まれているのか?

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24

Temperature

Turbidity

オホーツク海の中層水(深さ500m付近)に大量の鉄が含まれている訳とは?

大量の粒状(溶存)物質は、中層海流に乗って、千島列島、親潮域に流出する

非常に冷たくて、非常に濁っている水(水深300-500m)

(Nakatsuka et al., 2002, 2004)

1

2

3

Rejection of cold brine water during sea-ice formation

Resuspension ofsedimentary particle due to strong tidal mixing

Outflow of turbidwater mass tointermediate layer

海氷の形成によるブライン水の排出

潮汐混合による海底の泥の巻上げ

濁った水の沖合い中層への流出

この濁った水は、植物プランクトンの成長に不可欠な「鉄」を豊富に含むらしい。

なぜ、この「濁り」の中には、鉄が豊富に含まれているのか? “アムール

川”の重要性

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25

アムール川

中・下流域に広大な湿地帯、上流域に広大な森林が広がる。

年間流量 300 km3; 流域域面積 200万km2

(北東ユーラシア最大の河川)

オホーツク海の北西部大陸棚に注ぐ。

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湿地 川

地下水の移動

鉄は、酸素の多いところでは、溶けないが、湿地の地下のように、酸欠の場所では溶ける。

フルボ酸のような腐植物質の河川への供給

鉄は、腐植物質と結びつくことで、沈殿を免れる。

川の水の中には酸素が一杯あるので、直ぐにまた

粒子になって沈殿する…

アムール川の水に、鉄が大量に溶けていると考えられる理由

(1) 広大な湿地の存在ー“酸欠”環境下での鉄の溶解

(2) 広大な森林の存在-“腐植物質”の供給

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27

河口域で、塩分に触れると、ほとんどの溶存鉄は一旦、海底に沈殿してしまう

(粒子として大陸棚海底を経て、オホーツク海の中層へ)

レナ川河口の場合 (Guieu et al., 1996)

Dis

solv

ed F

e (n

M)

Dis

solv

ed C

u (n

M)

Salinity Salinity

Fe Cu

河川水中のほとんどの溶存鉄は、コロイド状であり、それらは河口域で

海水と触れると、凝集して、極細粒の粒子となって、沈殿してしまう。★一部は、そのまま、東サハリン海流に乗って、オホーツク海を南下するが、大部分は、河口で落ちる。

Sink

Source

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28

想定される「アムール川」が「親潮域」の生物生産を支えるプロセス

-中層水鉄仮説-

★アムール川から河口への溶存鉄の大量供給

河口域での大部分の鉄の沈殿と、粒状鉄のオホーツク海大陸棚への搬出

大陸棚海底からの潮汐混合による高密度底層水の中への鉄の取り込み

高密度水の外洋中層への流出による粒状鉄の中層輸送

海峡部での潮汐混合による幅広い水深への鉄の再配分 親潮・西部北太平洋

における中層を介した水平輸送

粒子状鉄の鉛直混合による表層への供給=生物による利用

アムール川周辺湿地からアムール本流への溶存鉄の流出

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29

「海域グループ」グループ①:海水循環の観測

グル-プ②:海洋化学、及び

海洋生物の観測

グループ⑨:海洋生物生産の

モデリング

「陸域グループ」

グループ⑤:土地利用改変の人的背景

グループ⑥:土地利用変化の空間分布、

歴史的変遷

グループ⑦:大気を通した

陸域起源物質輸送

「河川グループ」グループ⑧:陸上水循環モデリング

グループ③:川から海への物質輸送

グループ④:流域から川への物質輸送

アムール・オホーツクプロジェクトの立案・実施(期間 2005-2009)

ウラジオストック極東水文気象学研究所

ハバロフスク水・生態学研究所水文気象局

南開大学東北林業大学瀋陽応用生態研究所

ウラジオストック太平洋地理学研究所ハバロフスク水文気象局

長春地理研究所

ロシア 中国

日本

アムール川流域が、オホーツク海を経て、北太平洋に与える影響を理解するために…

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30

Okhotsk Sea

Japa

nSe

a

China

Russia●

●●

●●

●●

●●●

● ●●●

●●●●

Fe concentration(mg/l: average in 2002)Data from ROSHYDROMET

1.5 mg/l

1.0 mg/l

0.5 mg/l

0.1 mg/l

アムール川の水には、外洋海水の100万倍の

濃度の鉄が溶けていた!

アムール川が、1年間に

オホーツク海に供給する溶存鉄の量は、

オホーツク海西部~親潮域の中層に現存しているExcess-Feの量の

何倍にもなる!

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31

1~2 mg/L

0.5~1 mg/L

< 0.5 mg/L

> 2 mg/L

鉄の流出に対する河畔湿地の重要性

アムール川本流(ハバロフスクから約150km下流)

森林湿原

アムール川中流域における渓流水・湖水中の溶存鉄の濃度分布(7月と9月の平均)

(大路・楊、シャーモフら:ハバロフスクの水生態学研究所と共同)

湿地域では溶存鉄濃度が高い

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32

観測航海の航路図

(ウラジオストックのロシア極東水文気象研究所との共同研究)

2006、2007年8-9月のオホーツク海の航海

オホーツク海北西部で鉄の濃度を観測した初めての航海

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33

G10

G9G-9

0

5

10

15

20

0 500 1000 1500 2000

Fe conc. (nM)

Dept

h (m

)

Total Fe (nM)

Dissolved Fe

Soluble Fe (n

アムール河口域の底層には、親潮域中層の数100~1000倍の鉄が

懸濁している。

0

10

20

30

0 200 400 600 800 1000

Fe conc. (nM)

Dept

h (m

)

西岡・久万ら

アムール河口域では、河川水起源の莫大な量の溶存鉄が粒子化し、海底付近に懸濁・滞留している 弱酸で溶ける全Fe

(粒子態+溶存態)

全Fe

溶存Fe

溶存Fe

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34

E8

C5

E 8

0

50

100

0 2 4

Fe conc. (nM)

Dept

h (

m)

C-5

0

50

100

150

200

250

300

350

400

450

0 5 10 15Fe conc. (nM)

Dep

th (

m)

0

100

200

300

400

500

600

0 20 40 60 80

Dept

h (

m)

Dissolved Fe

Total Fe

親潮域の数倍

親潮域の数10倍

-2 0 2 4 6 8 10 12 14 16 180

100

200

300

400

500

600

Temperature(oC)

0 0.2 0.4 0.6 0.8 1

Beam Attenuation

-2 0 2 4 6 8 10 12 14 16 180

50

100

150

200

250

300

350

400

450

Temperature(oC)

0 0.2 0.4 0.6 0.8 1Beam Attenuation

低温・高濁度層に鉄が多い

低温・高濁度層に鉄が多い

低温・高濁度の大陸棚底層水(DSW)の外洋中層への流出

と共に、鉄は、流出している。

西岡・久万ら

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35

Bussol-9

西岡・久万ら

0

500

1000

1500

2000

2500

0 5 10Fe conc. (nM)

Depth

(m

)

bussol海峡内では、

表層から深層まで、一貫して高い濃度の鉄が分布している

1.8 2 2.2 2.4 2.6 2.8 30

500

1000

1500

2000

Temperature( oC)

海峡を越える潮流による激しい潮汐作用により、上下に混合。

異常な温度構造

急激な水塊の上下動

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36

A-1

0

500

1000

1500

2000

2500

0 2 4 6 8

Fe conc. (nM)

Depth

(m

A-1

0

500

1000

1500

2000

2500

0 2 4 6 8

Fe conc. (nM)

Dept

h (m

A1

溶存Fe 全酸可溶Fe

Total labile Fe

0

1000

2000

3000

4000

5000

6000

0 2 4 6 8 10

Fe conc. nM

Depth

m

St.7.2

St.8

St.9

St.17

St. TEST

St.6

St.11

St.21

St.22

St.23

St. KNOT-2

オホーツク親潮北西太平洋

既存データ(Total-Fe)

親潮域での高い濃度も、再確認。西岡・久万ら

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37

検証された「アムール川」が「親潮域」の生物生産を支えるプロセス

★アムール川から河口への溶存鉄の大量供給

河口域での大部分の鉄の沈殿と、粒状鉄のオホーツク海大陸棚への搬出

大陸棚海底からの潮汐混合による高密度底層水の中への鉄の取り込み

高密度水の外洋中層への流出による粒状鉄の中層輸送

海峡部での潮汐混合による幅広い水深への鉄の再配分 親潮・西部北太平洋

における中層を介した水平輸送

粒子状鉄の鉛直混合による表層への供給=生物による利用

アムール川周辺湿地からアムール本流への溶存鉄の流出

新たに浮かび上がってきた状況=大陸棚でのFeの滞留時間は短い

(陸面から外洋への情報の伝播は、結構速い !?!)

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38

1960 1970 1980 1990 20000

1

2

3D

issol

ved

Fe co

ncen

tratio

n [m

g l–1

]

Year

ハバロフスクにおけるアムール川本流の溶存鉄濃度の時系列変化 -ロシア極東水文気象局のデータ-

1975

1980

1982-1983

1996-1998

2002

河川水中の溶存鉄の濃度は、激しく季節・経年変化することが、過去のデータの解析から明らかとなった。

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39

ハバロフスク(中流)とブラゴベスチェンスク(上流)における溶存鉄の年フラックスの経年変化

1970 1980 1990 20000

1

2

3

4

5

[×10+11]

Fe fl

ux [g

yea

r–1 ]

Year

ハバロフスク

ブラゴベスチェンスク

1996-1998

溶存鉄フラックスの変化は、“広域の現象“であり、背景に、降水・水文過程を反映した非線形なメカニズムがあるはず(河川水位の変化に伴う氾濫原からの、Sporadicな鉄の流出など)。

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40

河口、大陸棚でのタイムラグは?(堆積物や潮汐混合の状況から、「予想外に短い」と思われる!)

1970 1980 1990 20000

1

2

3

4

5

[×10+11]

Fe fl

ux [g

yea

r–1 ]

Year

ハバロフスク

ブラゴベスチェンスク

アムール本流における溶存鉄フラックスの経年変化

1996-98

ブラゴベシチェンスク

ハバロフスク

東サハリン海流による輸送のタイムスケールは、数ヶ月…

【設問】親潮域で、97-98年に

何かが起きたのか?

*何も起きていないのなら、

やっぱりアムール川の影響は、大したことは無い!?

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41

1970 1980 1990 20000

1

2

3

4

5

[×10+11]

Fe fl

ux [g

yea

r–1 ]

Year

ハバロフスク

ブラゴベスチェンスク

アムール本流における溶存鉄フラックスの経年変化

1996-98

ブラゴベシチェンスク

ハバロフスク

齊藤宏明(2007)より

A-Line Data

1997-98年の親潮域A-LineのChl-a の春季max値に、NO3濃度では、説明のつかない大きなピークがある…

アムール川とオホーツク海南部・親潮域の“直接”の結びつき

の可能性 !?

PDO

NO3

Chl-a

Zoopl.

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42

鉄の輸送に影響を与える因子

1.冬季の温暖化

海氷生産量の減少→大陸棚から中層への流出量の減少→鉄の「輸送量」の減少→親潮等での基礎生産量の減少

2.アムール流域の人間活動

湿地の農地化、森林の伐採・火災、ダムの建設など→鉄の「溶出量」の減少→→→親潮等での基礎生産量の減少

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43

最大の問題としての、地球温暖化!

大気中のCO2濃度が、年率1%で増大した場合の100年後の地球の年平均気温の変化

北半球の高緯度、特にオホーツク海の風上で温暖

化の影響は、最も大きい

気象庁「地球温暖化予測情報」より

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44

オホーツク海沿岸での冬の気温と海氷量の過去80年間の変化

100年で、5.1℃の気温上昇 海氷量は上下逆に表記

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45

北太平洋中層水の酸素量

オホーツク海氷の面積

北太平洋中層水酸素量の減少

llオホーツクからの中層水の供給の弱化

オホーツク海海氷の面積の減少

ll高密度水の生成量減少

Ono et al.,2002Watanabe et al.

実際に、もう影響は出始めている !?

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46

表層ではなく、中・深層に入り込むことのFe輸送における重要性

陸面海洋

★遠方までの輸送(鉄のような、栄養物質で、かつ粒子化し易い物質の

場合、表層だと直ぐに生物に消費されたり、生物に吸着して沈降したりするが、中層だと、生物が少ないので、どこまでも運ばれうる…)

×

鉄などの栄養物質海氷による中層水の沈み込みが止まると、アムール川の鉄は、太平洋までは、届かなくなる!

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47

西部北太平洋亜寒帯域(親潮域)における過去数10年間の植物プランクトン量の減少

表面混合層におけるクロロフィルaの存在量の変化

Ono et al. (2002)

温暖化による2つの影響

1.鉛直混合自身の低下2.鉄の水平輸送の低下

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48

農地化

森林火災

森林伐採

ダム建設

鉄の流出に影響を与えるアムール流域での土地利用変化

湿地や森林から水が抜かれて乾燥。酸化(酸欠の反対)。腐植物質の分解。

全て、鉄の陸から海への供給に対して、負の効果をもたらす!

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49

1980 1996 2000

19,450 km2 9,466 km2 9,069 km2

Zhang et al.

San San JiangJiang Plain (Plain (三江平原三江平原))

三江(アムール・松花江・ウスリー)平原における湿地面積の減少

アムール川流域で最も近年の陸面状態の変化が大きな地域アムール川流域で最も近年の陸面状態の変化が大きな地域

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50

中国三江平原の土壌間隙水中の溶存鉄の濃度の季節変化(郭・楊ら)

Seasonal changes from May to October 2006

 2006(Soi l depth:10cm)

0

1

2

3

4

5

6

5/1 6/1 7/2 8/2 9/2 10/3 11/3

Time

To

tal

Dis

so

lve

d F

e(m

g/

l)

We t land(Stat ion )

Paddy Fie ld(S tat ion )

2006(Soi l depth: 50cm)

0

1

2

3

4

5

6

5/1 6/1 7/2 8/2 9/2 10/3 11/3

Time

To

tal

Dis

so

lve

d F

e(m

g/

l)

We t land(Stat ion )

Paddy Fie ld(Staion )

Wetland

Paddy fieldDry land

10cm deep 50 cm deep

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51

April to October, 199822462 km2

Hot spot monitoring with NOAA AVHRR by Prof. Kudoh, Thohoku Univ.

アムール川下流域での森林火災

1976-2000年

焼けた森林面積の割合

アムール下流域は、ロシア全域の中でも、もっとも森林火災の激しい地域である。

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52

ロシア極東における森林火災の惨状ロシア極東における森林火災の惨状((山が丸ごと焼けて、木が残っておらず、地滑りが始まっている山が丸ごと焼けて、木が残っておらず、地滑りが始まっている……))

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53

1896年から1986年の間における黒龍江省の森林面積の変化

Land-use changes –Agriculture-中国黒龍江省での森林伐採

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54

ロシアから中国への木材輸出量の急増

0

5000

10000

15000

20000

25000

1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002

Total

Russian timber

1000m3

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55

ダム建設による河川水位の「安定化」と鉄流出への影響

Zeya Dam: 1978-Area: 2500 km2

Volume: 68.4 km3

Discharge (deviation from average)

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56

Khabarovsk

Komsomorisk-na-Amure

Nikolaevsk-na-Amure

Blagoveschensk

Cherniaevo

Amursk

Khabarovsk 2002

0

5000

1 104

1.5 104

J F M A M J J A S O N D

Wat

er D

isch

arge

(m3 /s

ec)

Month

(March-Dec. in 2002)

0

0.2

0.4

0.6

0.8

1

1.2

Fe (m

g/l)

Sampling date

Khbarovsk

Blagoveschensk

Cherniaevo

MAM JJ A S O N D0

0.2

0.4

0.6

0.8

1

1.2

Fe (m

g/l)

Sampling date

Amursk

Nikolaevsk

Komsomolsk

MAM JJ A S O N D

河川水位と溶存鉄濃度の関係-鉄は高水位時に流出する-

Fe (mg/l) Fe (mg/l)

Discharge (cubic m/s)

Nagao et al.

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57

1~2 mg/L

0.5~1 mg/L

< 0.5 mg/L

> 2 mg/L

鉄の流出に対する河畔湿地の重要性

アムール川本流(ハバロフスクから約150km下流)

森林湿原

アムール川中流域における渓流水・湖水中の溶存鉄の濃度分布(7月と9月の平均)

河川水位が高くなり、氾濫源に冠水することで、初めて、この高濃度の溶存鉄が、河川に出て行く !

=ダムができると出て行かなくなる!

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58

表面流出 沿岸海洋での動態河川移行

Dissolved ironFrom wetlandAnd Forest Transport by river

Estuary processes

Okhotsk &Oyashio

Amur Liman

巨大魚付林としてのアムール川流域Amur River Watershed

as Giant “Fish Feeding Forest”Primary Production

Fish growth

Russia(Mongolia) China/Russia Japan

Regional/International relationships

How can we manage How can we manage this system ?this system ?

FarmersFarmers

ForestersForesters

FishermenFishermen

free Fe

fish, money ?

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59

プロジェクトとしてのまとめ日中露の共同観測研究により、以下の事項が明らかになりました。

(1) 北西部北太平洋の植物プランクトンの生産を支配している要因は、陸から供給される「鉄」である。

(2) オホーツク海南部~親潮域へもたらされる鉄の主な供給源は、アムール川。その主な輸送ルートは、オホーツク海の中層水(深さ~500m)。

(3) オホーツク海南部~親潮域への鉄の輸送量は、「地球温暖化」、「アムール流域の開発」によって、大きな影響を受ける。

How can we manage this system ?How can we manage this system ?

1)政府間協力-“日露生態系保全協力プログラム(2009年5月調印)”

2)研究者間協力-“アムールオホーツクコンソーシアム(2009年11月発足)”

3)住民間協力 -“日本・ロシアの漁業者・消費者と中国・ロシアの農林業者・消費者の間の直接の協力”は可能か?

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60

Japan-Russia Cooperation on the Conservation of EcosystemsWhy necessary? Why necessary?

• React to rapid sea-ice decrease in the Sea of Okhotsk caused by global warming (Sea-ice extent have decreased by 20% in the last 30 years.)→Decrease of sea ice greatly affects wildlife relying on sea ice and material circulations in the ocean.→We need to analyze mechanism of climate change including influence of cold air over Siberia upon the sea-ice formation.

• Understand marine environment including effect of runoff from Amur River→The Sea of Okhotsk provides North Pacific with fresh oxygen and “iron” from Amur River, which is indispensable for phytoplankton growth.

• React to the trans-boundary problems such as oil spill pollutions, Avian influenza

• Conserve the rich ecosystem around the Four Islands (Etorofu, Kunashiri, Shikotan and Habomai)

The Intergovernmental Cooperation Program carry below into effecThe Intergovernmental Cooperation Program carry below into effect t

Joint study of marine and terrestrial ecosystems. Research on endangered species.

Exchange information about ecosystems. Make an integrated data base.

Establish a communication mechanism for operative information exchange in urgent situations such as oil spill pollutions, Avian influenza.

Understand marine environment in the neighboring areas by studying of sea-ice formation, runoff from Amur River.

Study climate change and its influences on ecosystems in the Far East, Siberia and other regions.

Promote Japan-Russia intergovernmental cooperation and expert exchange including non-visa visit framework with Four Islands’inhabitants.

Japan-Russia cooperation on

these issues became matters of great urgency

『日露政府間協力』(2008年7月公表→2009年5月正式調印)