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転位と亀裂の力学Mechanics of dislocations and cracks
低温での構造破壊
シャルピー衝撃試験
m : ハンマーの質量
振り上げた時のハンマーの高さ = h
mghU =位置エネルギー:
切り欠きを入れた試験片
試験片を破壊した後に振りあがる
高さ = h'
質量m
h
h′ hmgU ′=′位置エネルギー:
試験片の破壊に要した仕事
UhhmgUUUW f
∆
∆
−′−=
−′−=
)(
Α:破面の面積
衝撃エネルギー:A
WE f
imp =
∆U:振り子の摩擦エネルギーなど
s/10~10 43=ε
FCC、HCP、BCC金属のシャル
ピー衝撃エネルギーの比較4)
炭素鋼のシャルピー衝撃エネルギーの炭素濃度依存性4)
温度 (℃)温度
衝撃エ
ネルギ
ー
衝撃エ
ネルギ
ー
(J)
結晶構造に依存して衝撃破壊に対す
る抵抗ならびに温度依存性が異なる。
合金濃度に依存して破壊に対する
抵抗ならびに温度依存性が異なる。
炭素濃度硬くなるほど脆くなる
ひずみ (%)
炭素鋼の応力ーひずみ曲線
静的引張試験
s/10~10 24 −−=ε
応力(
MPa
)
引張試験機
破壊に費やされた仕事
=(破壊)靭性
≈塑性変形に要した仕事
高速変形
s/101.3 3×=ε
低速変形
s/10 3−=ε
Mo単結晶の応力ーひずみ曲線
高温 高温
低温低温
降伏強さの温度依存性
降伏強さの変形速度依存性
FCC純金属BCC純金属
イオン結合結晶
共有結合結晶
降伏強さ
変形温度/融点
FCC純金属
BCC純金属
イオン結合結晶
共有結合結晶
降伏強さ(対数)
変形速度(対数)
FCC純金属(Cu、Al)
降伏強さ
変形温度/融点
FCC合金(Cu-Al合金)
FCC純金属(Ni、Al)
降伏強さ
変形温度/融点
金属間化合物(Ni3Al)
合金化の影響 I
合金化の影響 II
Mo単結晶の強度に及ぼす温度とひずみ速度の影響
速い変形速度
低い温度
Sia Nemat-Nasser, Weiguo Guo and Mingqi Liu , "EXPERIMENTALLY-BASED MICROMECHANICAL MODELING OF DYNAMIC RESPONSE OF MOLYBDENUM", Scripta Materialia, Vol. 40, No. 7, pp. 859 –872, 1999.
高温で使われる材料 materials used at high temperatures
○単結晶○方向性凝固×通常の凝固
タービンブレード 遠心力
Monocrystalloys,a New Concept in Gas Turbine Materials, PWA 1409, Pratt and Whitney
例)ジェットエンジン
空気吸入
空気圧縮(30~40倍)
空気・ケロシン混合
1次燃焼(~2000 oC)タービン直前の
2次燃焼(~1000 oC)推進力
吸入・圧縮・推進を
同軸回転軸につけた
ブレードで行う。
実用合金の高温強度特性
0 100 200 300 400 500 600 700 800 900 1000 oC
3259
+= CF ooMPa6.895psi10ksi1 3 ==
MPa
600
500
400
300
200
100
0
融点の約半分以上の高温では、降伏強
さよりも低い応力負荷で変形が起こる。
ついには材料の破断を引き起こす。
クリープ曲線
10万時間(10年)
時間t
ひずみε
高温大きな応力
dtd
sεε =
定常クリープ速度
⎟⎟⎠
⎞⎜⎜⎝
⎛−=
TkQAB
ns expσε
クリープ速度の一般式
eV/K100.862
J/K101.38
/
:
4
23
−
−
×=
×=
= ):ボルツマン定数(
ネルギー:クリープの活性化エ
:材料定数
応力
avB NRkQAσ
J10602.1eV1 19−×=※
mdBA = :結晶粒径d
結晶粒径に依存する場合
クリープ creep
M. F. Ashby, Acta Met.,Vol. 20 (1972).
変形機構図(Ni、d = 32 µm)
転位の(上昇)運動によるクリープ
純金属5~n
合金5>n
粒界拡散によるクリープ
1=n3=m
格子拡散によるクリープ
1=n1=m
⎟⎟⎠
⎞⎜⎜⎝
⎛−=
TkQAB
ns expσε
mdBA =
rB
nrsf t
TkQAtC ⎟⎟
⎠
⎞⎜⎜⎝
⎛−′=′= expσεε
破断のひずみをεfとし、破断までの
時間をtrとする。破断時間が定常ク
リープの時間に比例すると仮定で
きるものとすると、
:定数AC ′′,
これより、以下の関係を得る。
)(log10 CtTP rLM +=
ラーソン・ミラー因子
σε
lnlnln nTkQAtT
Bfr −=⎟
⎟⎠
⎞⎜⎜⎝
⎛ ′+
である。の単位は、の単位は時間ただし、
)、耐熱鉄鋼・合金材料:定数(
KThtC
r
20≈
S-590 鋼のラーソン・ミラー因子と応力の関係
R. M. Goldoff, Mat. Eng. Design, Vol. 49 (1961).
0 1 2 3 4 5
maxσ
minσ
応力σ
繰り返し数N
疲労 fatigue
降伏強さ以下の応力負荷でも、繰り返しの付加によって変形しクラック
が形成して破断にいたることがある。
回転曲げ試験機
:応力振幅aσ
アルミニウム合金(7075T-6)のS-N曲線焼鈍した鋼(4340鋼)のS-N曲線
疲労限度(耐久限度)の存在
107回の繰り返し数で破
断する時間強度
破断までの繰り返し数N 破断までの繰り返し数N
Al合金の疲労試験において
すべり線に沿って形成された初期クラック
疲労試験した鋼の表面に形成されたすべり線に沿った初期クラックの断面写真
すべり面
すべり方向
単結晶のすべりによる塑性変形
塑性変形と転位
アルミニウム単結晶のせん断応力ーひずみ曲線1)
(変形初期)
単一すべり
多重すべり
1 MPa
亜鉛3)
すべり線
引張変形した銅単結晶の転位組織1)
(a)(b)
(c)
(d)
セル構造
(a) (b)
(c) (d)
FCC、BCC、HCP金属単結
晶の応力ーひずみ曲線bbbb
x
z
y
θ
r
らせん転位
bbbbx
z
y
θr
刃状転位
余分の原子面
S
FS
F
)(/ handedrightRHSF −=bbbbバーガースベクトル:
0==== xyzzyyxx σσσσrGb
zxθ
πσ sin
2−=
rGb
yzθ
πσ cos
2=
らせん転位の周りの応力場:
引張、圧縮がない。転位線の方向に沿ったせん断応力のみ。
0===== rzrzzrr σσσσσ θθθ
もしくは、円筒座標で以下のようになる。
rGb
z πσθ 2
=
x
y
12=
Gbzθπσ
23
222
22
)()3(
)1(2 yxyxyGb
xx ++
−−=
νπσ 222
22
)()(
)1(2 yxyxyGb
yy +−
−=
νπσ
222
22
)()(
)1(2 yxyxxGb
xy +−
−=
νπσ22)1( yx
yGbzz +−=
νπνσ 0== yzzx σσ
刃状転位の周りの応力成分の向き
x
y
x
y
引張
圧縮
刃状転位の周りの静水圧場
刃状転位の周りの応力場
τ
τ
bbbbバーガースベクトル(原子の周期的配列を守る)
石鹸の泡を使った刃状転位のモデルすべり面
無転位の時
転位が生まれた後
銅ひげ結晶の応力ーひずみ曲線
= 1000 µmAl:焼きなまし材
の転位組織
Al:圧延材(圧延率10%)
の転位組織(セル)
22 /10~ cmρ転位密度 212 /10~ cmρ転位密度
l
フランク・リード転位源の活動応力
lGb
FR =τ
Si単結晶中で活動するフランク・リード源2)
:転位源の長さ
剛性率
lG :
)1(2 ν+=
EG※
強度の温度依存性、変形速度依存性は何故現れるのか?
Tiゲッター純鉄の降伏強さの温度依存性
材料力学
弾性力学
塑性力学
破壊力学
残念ながら
解答は出し
てくれない
室温
材料の塑性変形を担う転位の力
学を基にして、転位の運動を促進
する熱エネルギーの寄与を考える。
材料学
転位論
熱力学(統計力学)
反応速度論
が必要
何故BCC金属は低温、高速変
形で変形抵抗が大きいか?
]111[2a
=bbbb
左回り
右回り
1)らせん転位は右ねじまたは左ねじ
を押し込むように、転位線に沿って
[111]方向の原子列をbbbbだけ変位させる。
2)BCC結晶構造を[111]方向から眺め
ると、原子は右ねじまたは左ねじのら
せんが交互に並んでいる(安定構造)。
[111]方向の原子配列
L
L
L
R
R
R
3bbbb
32bbbb
bbbb
左回り(L)のbbbbを持つらせん転位が右ねじ(R)の位置に入った時
033
=⎟⎠⎞
⎜⎝⎛−+
bbbbbbbb
03
23
2=⎟
⎠⎞
⎜⎝⎛−+
bbbbbbbb
0)( =−+ bbbbbbbb
原子が近づきすぎてエネルギー的に高い状態になる!
x
aτbbbb
すべり面
xらせん転位
aτbbbb
QaW
熱エネルギー
0 bx
ポテンシャルエネルギー
BCC金属では、その結晶構造の性
質により、らせん転位がbだけ進む
時に高いポテンシャルの山を越え
なければならない。(結晶の地の
抵抗、パイエルス応力)
※FCC金属ではポテンシャル障壁の非常に
低く、転位の運動に対する抵抗はないとみ
なしてよい。
ポテンシャルの高さをQとし、
外から付加した荷重にすべり面
上に作用するせん断応力τaに
よって転位になされる仕事をWa
とする。障壁を越えるために不
足するエネルギーは
aWQQ −=∆
運動方向
w
不足したエネルギー分を熱エネルギーの助けによって乗り越える確率
は以下で与えられる。
⎟⎟⎠
⎞⎜⎜⎝
⎛ −−=⎟⎟
⎠
⎞⎜⎜⎝
⎛−=
TkWQ
TkQp
B
a
B
expexp ∆
単位時間当たりにポテンシャル障壁を乗り越える確率が高いほど、転位
の速度は速いと言える。すなわち、結晶の塑性変形速度は速くなる。こ
のことから、塑性変形速度をひずみ速度で表すと、以下の式が得られる。
⎟⎟⎠
⎞⎜⎜⎝
⎛ −−=
TkWQ
B
ao expγγ
時のひずみ速度
える力だけで障壁を乗り越すなわち、外部付加応
ない時のひずみ速度熱エネルギーの助けが:oγ
転位に作用する力の力学より、
bAW aa τ=面積)掃過した面積(活性化
のらせん転位が障壁を乗り越えた一部:wbA ≈
⎟⎟⎠
⎞⎜⎜⎝
⎛ −−=
TkbAQ
B
ao
τγγ expo
Ba bA
TkbAQ
γγ
τ
ln+=
以上より、ひずみ速度ならびに応力は以下のようになる。
aτ
T
bAQ
o =τ
1γ
)( 12 γγ >
aτ∆
1<oγγ
より 0ln <oγγ
1
2lnγγ
τ∆
bTkAa
B=
活性化面積=障害物を乗り越えるた
めに転位がすべり面上を運動しなけ
ればならない面積
熱活性化過程
1)温度が高くなると強度は低下
2)変形速度が速くなると強度は増加
(正の温度依存性)
すべり面
転位
固溶原子
x
xw h
l
ポテンシャルエネルギー
転位
QaW
熱エネルギーの助け
地の抵抗が無視できるFCC金属
では、何故合金化すると強度の
温度依存性が顕著になるのか?
すべり面上に点状に分布する固
溶原子に転位が引っかかってし
まい、これらを乗り越えるのに
時間がかかってしまう。障害物
を乗り越えるための時間が変形
速度を支配する。そのため、
となり、以下を得る。
⎟⎟⎠
⎞⎜⎜⎝
⎛ −−=
TkWQ
B
ao expγγ
o
Ba bA
TkbAQ
γγ
τ
ln+=
wlA =ただし、
転位とクラック
a2
crack
σ
σ
遠方で一様な引張応力を受ける無限平板を貫くクラック(ただし、応力の向きはクラックと垂直)
23cos
2cos
2sin
2
23sin
2sin1
2cos
2
23sin
2sin1
2cos
2
θθθπ
σ
θθθπ
σ
θθθπ
σ
rK
rK
rK
Ixy
Iyy
Ixx
=
⎟⎠⎞
⎜⎝⎛ +=
⎟⎠⎞
⎜⎝⎛ −=
x
rθ
y
arK ijrI πσπσ ==→
2lim0
応力拡大係数
開口型(モードI)のクラックに対する破
壊力学の結果:
xK I
yy πσ
θ 20=
=
特にx軸上では
0=θσ yy
等価
刃状転位列開口型クラック
X
Y)0,( iX )0,(X
A
σ
σ
a2 a2
σ
σ
クラックの問題は、同じ応力状態に置かれた材料中において、転位を並べた状
態に置き換えることができる。このとき、転位列中の個々の転位が静止するため
に、それぞれの転位に対して、外部から与えた応力ならびに転位間の相互作用
力の総和は0にならなければならない。
クラックの転位モデル
刃状転位列
X
Y)0,( iX )0,(X
Aa2
σ
σ
i
iiyy XX
GbX−−
=1
)1(2)0,(
νπσ
転位列のi番目の転位によってA点に作用す
るy方向の法線応力は以下となる。
∑
∑
= −−=
=
N
i i
i
i
iyyyy
XXbG
XX
1)1(2
)0,()0,(
νπ
σσ
よって、転位列の全転位の応力場によるA点でのy方向の法線応力は以下となる。
転位列中の転位の密度が非常に大きいものとして、転位が連続的に分布してい
るとみなすことができるものとする。このとき、X ~ X + dXにある転位の数を
dXXfXn )()( =
とすれば、転位列中の全転位数Nは以下で与えられる。
∫∫ ==−
aa
adXXfdXXfN
0)(2|)(| )()( xfxf −−=∵
-10
-5
0
5
10
-1 -0.5 0 0.5 1
0)()1(2
2
=+−− ∫− b
XdfGb a
aσ
ξξξ
νπ
転位列内のXの位置にある転位について以下の力の釣り合いが成り立たねばな
らない。
Xの位置以外の転位の
応力場による力
Xの位置の転位に
作用する外部付加力
)( aXa <<−
22
)1(2)(ξ
ξσνξ−
−=
aGbf
上の方程式を満足する関数は以下で与えられる。
∫
∫
−
−
−−=
−−=
a
a
a
ayy
aXdX
dfGbX
22)(
)()1(2
)0,(
ξξ
ξξπσ
ξξξ
νπσ
)( aa <<− ξ
A点でのy方向の法線応力は以下で与えられる。
)( Xa <<ξ
σν )1(2)(
−XGbf
aX /
転位分布
σπ
σ
σφφπ
σ
σφφ
φπσ
σφφφ
φπσ
σφ
φπσ
φπσ
φφ
πσ
φφφ
πσ
ξξ
ξξπσ
σ
π
π
π
ππ
π
−−+
−=
−⎭⎬⎫
⎩⎨⎧
−+
−+++−
−=
−++−
=
−+−
=
−+−
=
−−
=−
−=−−
=
∫
∫
∫
∫
∫∫∫∫
−+
−
aXaX
aXX
aXaXd
aXaXaXaX
aXX
aXaXXd
aaXXd
aaXXd
daX
XdaX
da
aX
dX
aXaX
a
ayy
arctan2
)2/tan()}2/tan()/()({1
1)(
2
)2/(cos1
)2/(tan)()2/(2
)2/(cos1
)2/(tan2)2/(cos/)()2/(2
)2/(sin2)2/(2
coscoscos
)()0,(
22
)/()(
0 2
2
2/
0 2
2
2/
0 22
2/
0 2
00
0
22
後は計算実行のみである(数学の練習)。
のときには、aaXx <<−=
22arctanarctan π
≈+
=−+
xxa
aXaX
xa
xaxxa
aXX
22 222≈
+
+=
−
xK
xa
xaX I
yy πππσσσ
222)0,( ==≈
以上より、以下のように、破壊力学で導かれる応力集中の式が得られる。
次に、クラック内の開口の大きさ(クラック開口変位、COD)を求める。
)(x′δ
X x′
a
b
b−
xdxaa
xaG
xdxbfx
x
x
′′−−
′−−=
′′=′
∫
∫′
′
0 22
0
)()1(2
)()(
σν
δ
クラック先端から内側への距離をx'とする。CODは各転位がもっている変位bの和となるので、
特にクラック先端のごく近傍で x' << aのとき
ExK
Gxa
xaxad
Gx
I
x
πν
σνσνδ
′−=
′−=
′′−
≈′ ∫′
)1(242)1(4
2)1(2)(
2
0
面内せん断型(モードII)クラック
a2
τ
τ
ττ
yxττ =
τ
xr
y
θ
⎟⎠⎞
⎜⎝⎛ −=
=
⎟⎠⎞
⎜⎝⎛ +−=
23sin
2sin1
2cos
2
23cos
2cos
2sin
2
23cos
2cos2
2sin
2
θθθπ
σ
θθθπ
σ
θθθπ
σ
rK
rK
rK
Ixy
IIyy
IIxx
aK II πτ=
応力拡大係数
特にx軸上では、
xK II
xy πσ
2=
xr
y
θ
yxττ =
τ
yxττ =
τ
a2 a2
面内せん断型クラック 刃状転位列
X
Y
0)()1(2
2/
2/
2
=+−− ∫− b
XdfGb a
aτ
ξξξ
νπ
)(Xf転位の分布関数
i
ixy XX
GbX−−
=1
)1(2)0,(
νπσ
転位列内のi番目の転位による内部応力(Y軸に垂直な面でX軸方向の成分)
転位列内のXの位置にある転位に働く力(X方向)のつりあい
他の転位による力 外部付加力
),( aXa <<− ξ
22
)1(2)(ξ
ξτνξ−
−=
aGbf aa <<− ξ
xK
aXaX
aXXX II
xy πτ
π
τσ
2arctan2)0,(
22≈−
−+
−=
クラック先端近傍において、 として以下を得る。aaXx <<−=
つりあい方程式を満たす転位の分布関数は以下で与えられる。
)( Xa <
※ 開口型(モードI)クラックと等価な刃状転位の分布は、転位のすべりに
よって生じる塑性変形では形成されない。しかし面内せん断型(モード II)ク
ラックと等価な刃状転位の分布は、すべり面上を運動する転位の堆積に
よって生じ得る。面内せん断型クラックと等価な転位の集積は、両端を結晶
粒界によって止められて集積した転位分布に現われ、強度に及ぼす結晶
粒径の影響に対して同じ数学的解析を行える。
a2
τ
τ
面外せん断型(モードIII)クラック
yzττ =
τ
x
y
z
2sin
2θ
πσ
rK III
xz −=2
cos2
θπ
σr
K IIIyz= aK III πτ=
rθ
破壊力学:-
τ
τ
a2 a2
面外せん断型クラック らせん転位列
XY )(Xf
転位の分布関数yzττ =
τ
i
iyz XX
GbX−
=1
2)0,(
πσ
転位列中のi番目のらせん転位によるY軸に垂直な面におけるz方向の応力
0)(2
2
=+−∫− bd
XfGb a
aτξ
ξξ
πaXa <<− ξ,
22
2)(ξ
ξτξ−
=aGb
f
連続分布を仮定した際の転位列中の転位に作用する力のつりあい
※ 面外せん断型クラックも、すべり変形において両端を阻止されて形成される
らせん転位の分布の解析に用いることができる。
破壊に対する設計強度
、破壊靱性値) (臨界応力拡大係数応力拡大係数 CKK ≤
CKaY ≤πσ
あるいは
)応力の付加状態に依存 (クラックの形状、
:クラック形状因子 factorgeometrycrackY
a
σ
σ
表面の浅いクラック
12.1=Y
a2
σ
σ
無限体中の円状クラック
637.0/2 == πYσ
σ
a
表面の浅い半円状クラック
713.0/212.1 =×= πY
⎪⎪⎪
⎩
⎪⎪⎪
⎨
⎧
−
=
のクラック) (厚板中
平面ひずみ
表面近傍のクラック) (薄板中、
平面応力
21
2
2
νγ
γ
s
s
IC E
E
K
脆性材料
:表面エネルギーポアソン比、 ヤング率、 sE γν ::
開口型クラックに対する破壊靱性値(fracture toughness)
ε
σ
破壊
=原子間結合
の切断
=新しい表面
の形成
直線線形弾性
ここでは、上記の破壊条件の説明を、クラックの転位モデルを用いて、以下
に行う。
)(x′δ
x′
a a∆
11′
開口型クラック1が∆aだけその長さを増加し、ク
ラック1'となった場合に解放されるエネルギーを
考える。これは、クラック1の先端の応力場に
よってクラック1'の変位を作るのに必要な弾性エ
ネルギーとなる。よって、板の厚さをt、クラック1'先端からの距離をx'として
xdxa
xE
tK
xtdE
xKxa
KxxtdxU
aI
Ia Ia
yye
′′−
′−−=
′′−
×′−
−≈′×′′−=
∫
∫∫∆
∆∆
∆πν
πν
∆πδσ∆
0
22
2
00
)1(2
)1(24)(22
1)()0,(21
X
2)sin1(
2
)2/(2/
2/2/
2/
2/
2/
2/ 22
2/
2/0
ada
dssa
sadssasaxd
xax a
a
a
a
a
∆πφφ∆
∆
∆∆∆
∆
π
π
∆
∆
∆
∆
∆
=+=
−
+=
−+
=′′−
′
∫
∫∫∫
−
−−
atE
KU Ie ∆
ν∆
22 )1( −−= ※ クラックが大きくなると荷重を受け持つ領域が減少して、
ポテンシャルエネルギーが減少することに注意。
t
a∆
新しいクラック面積 atAc ∆∆ =
新しい表面の面積
atAA cs
∆∆∆
22
==
クラック面積が∆Acだけ増えることで、増加
する表面の面積は∆As = 2∆Acである。よっ
て、単位面積あたりの表面のエネルギーを
γsとすると、新しい表面を作るために必要
な仕事は、
atAW ssss ∆γ∆γ∆ 2==
よって、クラック進展に伴う系のポテンシャ
ルエネルギーの変化は、
atE
KWUU sI
se ∆γν
∆∆∆⎭⎬⎫
⎩⎨⎧
+−
−=+= 2)1( 22
で表される。これより、クラックが進展することで系のポテンシャルエネルギーが
減少してより安定となる条件、
0≤U∆s
I
EK
γν
2)1( 22
≥−
より21
2νγ
−= s
ICEK臨界値
を得る。
炭素鋼(BCC)
銅(FCC)
軟鋼
中性子照射
衝撃試験時の破壊エネルギー1)
延性脆性遷移温度(DBTT)
※硬くなるとDBTTは上昇する
(セラミック)
静的試験(引張試験)時の応力ーひずみ曲線1)
冬の港でぽきりと折れた米軍のタンカー3)
延性材料の場合、何故硬くなると脆くなるか?
Y
IY r
Kπ
σ2
=
ππσσ YIr Ir
yypYrK
dxx
Kdxr YY 2200 ∫∫ ===
22
221
⎟⎟⎠
⎞⎜⎜⎝
⎛=⎟⎟
⎠
⎞⎜⎜⎝
⎛=
YY
IY
aKrσσ
σπ
yyσ
Yσ
yyσYσ
x x
塑性変形領域
a2 prYr
σ
σ
YY
Ip rKr 21
2
=⎟⎟⎠
⎞⎜⎜⎝
⎛=
σπ
もしくは塑性領域の力と初期の弾性応力の力のつりあいを考えて(Irwinの補正)
Yyy σσ ≥ のクラック先端近傍では塑性変形が起こるとして
硬い材料軟らかい材料
yyσ
Yσ
yyσ
Yσ
x
塑性変形領域
a2 pr
σ
σ
pr
実効的なクラック
pra +2
⎪⎭
⎪⎬⎫
⎪⎩
⎪⎨⎧
⎟⎟⎠
⎞⎜⎜⎝
⎛+=
+=
+=
2
,
211
)(
)2/(
Y
Y
peffI
a
ra
raK
σσπσ
πσ
πσ
実効的な応力拡大係数
Yr Yr
Yσ
Yσ
強度の温度依存性を示す材料低温、速い変形
変位 u
応力
σ
ps
r
yyy rdxxuxW p γσ 2)()(0
+= ∫
クラックが塑性領域を進展する際にでなされる仕事(単位厚さあたり)
psp
s
r
yyyp
p dxxuxr
γγγ
γσΓ
≈+=
+= ∫2
2)()(10
∫∝fu
p du0σγ
fu
クラック単位面積あたり
γp;破断までの塑性仕事
脆性材料
延性材料
In the period from 1948 to 1951 there were many fractures of natural gas pipelines. Mostoccurred during testing and most started at welding defects but propagated through soundmetal. One of the longest cracks was 3200 ft long. Once started, cracks run at speeds greater than the velocity of sound in the pressurized gas. Therefore there is no release of the gas pressure to reduce the stress at the tip of the crack.
WILLIAM F. HOSFORD, "Mechanical Behavior of Materials" (Cambridge)
ガス中の音速より速い速度で破壊した天然ガスパイプライン
強度に及ぼす結晶粒径の影響
多結晶を模擬した石鹸泡によるモデル
結晶粒界三重点
結晶粒1
結晶粒2
結晶粒3
結晶粒界ー隙間の多い乱れた構造
・不純物原子が集まる(偏析)
・析出物が形成しやすい(不均一析出)
・結晶粒間のすべりの伝播の障害となる
・結晶粒内よりもエネルギーが高い(粒界
エネルギーγGB)
・応力集中源となる(粒界上のボイド、ク
ラック、転位の発生源となる)
・粒界に沿ってすべりが発生する(粒界す
べり→クリープ、超塑性)
・電気的、磁気的、光学的性質などに影
響する
Typical HREM observation of as deposited nanocrystalline nickel with its nominal thickness of 60nm.
A typical HREM image of a thin area newly formed by deformation. A dislocation is trapped inside a grain close to the grain boundary (delineated by dark dash line). The inverse Fourier-filtered image (inset at upper right corner) from inside the white box shows the dislocation with more clarity.
オーステナイトステンレス鋼
Dk
o +=σσ変形応力:
ホールペッチの法則
転位源
x
y
)0,( ix )0,(x
Aaxr −=
結晶粒
結晶粒径, D
τ
τ
σo:定数(粒内の抵抗)
k:定数(粒間のすべりの伝播を
生じるのに必要な強度因子)
下降
伏点
(MPa
)
D−1/2 (mm−1/2)
構造用鋼(フェライト鋼)
0)(2
2/
2/
2
=−+′−′′
∫− bbxx
xdxfGbo
D
Dττ
πκ
転位列内のxの位置にある転位に関する力のつりあい
他の転位による力 外部付加力 結晶の抵抗力・摩擦力
11 =−= κνκ て、 らせん転位に対し※ 刃状転位に対して
22)2/()(2)(
xDx
Gbxf o
−
−=
ττκ転位の分布関数:
GbDxfN oD )(2)(2
2/
0
ττκ −== ∫位数: 結晶粒に含まれる全転
GbDDN o )(2
2
ττβκβρ −==密度: 結晶粒中の平均の転位
する因子は結晶粒の形状に依存ただし、β
転位源
x
y
)0,( ix )0,(x
AaxrA −=
結晶粒
結晶粒径, D
τ
τ
A
o
D
DA
rD
xxxdxfGb
2)(
)(2
2/
2/
ττπκ
τ
−≈
′−′′
= ∫−
隣接粒において粒界のすぐ近傍のA点
におけるせん断応力をτAとすると、
A点での応力がある一定以上の値τCに
なった時に、そこで転位源が活動するもの
とする。このすべりの伝播の条件より
CA
oA r
D ττττ ≥−
=2
)(
Dk
o′
+=ττ ホール・ペッチ則: AC rk τ2=′ただし、
これより、外部付加の応力に対して以下を得る。
2/32/3
2)(2D
AGbD
kGbD
o =′
=−
=βκττβκρ
すべりの伝播が起こった際の平均の転位密度は、ホール・ペッチ則を利用して
材料因子:A
とできる。
⎟⎠⎞
⎜⎝⎛=×=
−
−==
∫
∫∫
24sin
42
)2/()(4)(
2/1
2/
0
22
2/
0 22
22/
0
DdDD
xDdxx
GbNdxxxf
Nx
DoD
πφφ
ττκ
π
DGk
GDNb
DxbNu o
44)(
82/2′
=−
==⎟⎠⎞
⎜⎝⎛=
πκττπκπ
転位源からの転位の平均運動距離は以下となる。
よって転位列形成によって生じるすべり面上の変位は以下となる。
DGk
GDu o
slip 44)( ′=
−==
πκττπκγ
これより、すべりの伝播が生じる際の結晶粒のせん断ひずみは以下となる。
1D
1D
2D
2D
2D
1D
1D
2D
1u
2u
2N
1N
転位密度と結晶粒径に関して:-もうひとつの考え方
大きな結晶粒(粒径D1)と小さな結晶粒(粒
径D2)を考える。単純のため、粒の形は立方
とする。同じせん断ひずみを生じるためには、
それぞれの粒において
2
2
1
1
Du
Du
==γ
を満たすせん断変位が必要となる。それぞれ
の粒の転位の数をN1、N2とするとき
1
111 D
bxNu =2
222 D
bxNu =
となる。ただし、x1、x2はそれぞれの粒におけ
る転位の平均運動距離である。これより
2211 bxbx ρργ ==
の転位密度、:結晶粒、 21// 2222
2111 DNDN == ρρ
1x
2x
1)塑性変形量が小さく、転位組織が疎で、変形にはすべりの伝播が主要な
役割を果たす場合、αを比例係数として、以下を仮定できるものとする。
11 Dx α= 22 Dx α=
1
2
2
1
DD
=ρρ
よって、転位密度に対して以下の結果を得る。
真ひずみ
転位密度 μm1001 =D
μm152 =D
鉄
2)塑性変形量が大きく、転位
組織が密で、転位の運動距離
が加工組織の特徴長さ(セルの
大きさ)dに支配される場合。
dxx α ′== 21
21 ρρ =
DDooρρ =
DkGb oo′′
+=+= τραττ
変形した銅多結晶表面のすべり線
Dsu1
sN1
D su2
sN2
12
同じ粒径の結晶粒1と2が、それぞれ反対称の関
係にある同じすべり系の単一すべりで変形したと
仮定する。
幾何学的に必要な転位 geometrically necessary dislocation
このとき、それぞれの粒の変形量、転位数(密度 )、運動距離は同じであり、以下を得る。
sss
s bxDu ργ ==
sxxx == 21 sss uuu == 21 sss NNN == 21
ssss
DN
DN
DN ρ=== 22
22
1
Dsu1
sN1
D su2
sN2
12
GN2 GN1
単一のすべりだけでは粒界で隙間(あるいは
重なり)が生じてしまう。このため、これを埋
める(重なりをなくす)ための別のすべりが生
じる。このように変形の拘束を補う転位のこ
とを、幾何学的に必要な転位という。
※ 粒界の拘束なしで導入される転位のことを統計的に
蓄積される転位statistically stored dislocationという。
GsGs
DN
DN
ρρρ +=+= 22
統計的転位の数をNs、幾何学的転位の数をNGとすれば、粒内の全転位密度
は、以下となる。
的転位の密度:統計的転位、幾何学Gs ρρ ,
Gl
DbxNMu GG
Gs =
幾何学的転位の平均運動距離をxGとすれば、補償すべき変位と以下の関係
になる。
ただし、MGは幾何学転位によるせん断変位をusの
方向に変換する幾何学因子である。
2G
Glx =
GG
ss
GGG blM
DublMDN γ222
==
幾何学的転位の作るすべり線の長さ lGとし、転位は一様に分布しているもの
と仮定すると、平均運動距離は以下で与えられる。
これらより、幾何学転位の数と密度は以下で与えられる。
GG
sGG blMD
N γρ
22 ==
※現在、統計学的に蓄積される転位、幾何学的に必要な転位に関する研
究はホットであり、計算機シミュレーション、先端の分析機器による研究が
行われている。
課題
先端科学特別講義 転位と亀裂の力学(中村担当)と書いて
講義の概要をA4、1枚にまとめて提出すること
提出期限:5月28日(金)
提出場所:材料工学実験室設置段ボール箱
学籍番号、氏名を忘れぬように。
参考: http://www.mech.kagoshima-u.ac.jp/~nakamura/