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1 透明電極を用いた 生きた環境微生物の回収法 海洋研究開発機構 海洋生物多様性研究分野 技術副主幹 小山純弘

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Page 1: 透明電極を用いた 生きた環境微生物の回収法 - JST...土壌サンプルからの微生物回収 -0.4V vs. Ag/AgClの定電位印加条件で、もっとも多くの土壌微生物が付着。12

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透明電極を用いた生きた環境微生物の回収法

海洋研究開発機構

海洋生物多様性研究分野

技術副主幹 小山純弘

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従来技術とその問題点

〇環境微生物は、抗生物質や抗がん剤、免疫抑制剤など、医療化合物だけでなく、バイオテクノロジー技術に活用される有用酵素も生み出している。

○有用な資源となりうる大半の環境微生物は、従来の手法では培養が極めて困難。

原因としては、・微生物の培養条件が不的確な点。・微生物の増殖速度が非常に遅い可能性。・栄養源との物理的な接触阻害が生じている可能性。・土壌微粒子や生体物質に付着した微生物の状態が、増殖活性そのものに阻害作用をもたらしている可能性。

など。

新たな微生物のスクリーニング法が求められている。

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新技術の特徴・従来技術との比較

○環境中から微生物由来のDNAを回収解析するメタゲノム技術が、これまで研究されている。

しかし、生きた微生物を回収していないため、単離培養や各種オミックス解析に研究展開が出来なかった。

○電極基板に微生物が好む微弱な電位を印加することで、生きた微生物を電磁石で砂鉄を吸い付けるように回収する技術を開発。

○電気回収された環境微生物は、培養時の初速度が促進する傾向がある。 Tsubouchi, T. et al., Int J Syst Evol Microbiol. 64, 3709-3716 (2014)

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水の電気分解反応の生じない微弱電位を印加することで、微生物を電極基板上に誘引、付着させることができるか検討。

Indium Tin Oxide/glass electrode

ITO electrode

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in PBS(-) at RT

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(O.C.)

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-0.4Vを印加した直径5mの円形ITO微小電極上に、シングルセルレベルの大腸菌を配置させることに成功。

at RT

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at RT

好気 好気嫌気 嫌気

グルコース存在下では大腸菌は付着しない。

嫌気:アネロパックケンキを使用

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○大腸菌は、PBS(-)条件下でマイナス電位を印加した電極に付着。

非栄養培地中に分散させた大腸菌は、細胞内ATP濃度を極力減らさないため、マイナス電位を印加した電極基板に付着し、電子を受け取っている可能性がある。

○60℃、70%エタノール固定した大腸菌は、電極に付着しない。

○グルコース存在下において、電極基板上に大腸菌はほとんど付着しない。

○嫌気、PBS(-)条件下で、電極上の大腸菌の付着数は増加。

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at RT

土壌サンプルからの微生物回収

-0.4V vs. Ag/AgClの定電位印加条件で、もっとも多くの土壌微生物が付着。

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12電極基板上に付着した微生物は、強固に付着。

電極基板上に付着した微生物をAFM探針で剥がし、生きた状態で回収可能か調査。

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生きた微生物の回収率はバックライト染色から71%

高周波変動電位印加により、電極上に付着した土壌微生物を共振させ剥離回収。

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直接、深海底泥の16S-rRNA遺伝子解析で検出されるバクテリアのうち、95% のPhylotypeに相当するバクテリアの電気回収技術を開発。

相模湾初島沖の深海底泥

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三浦半島沿岸、水深2mに棲息するオオパンカイメン(Spirastrella insignis)

〇カイメン由来共生微生物が生産する有機化合物は、動物細胞毒性、抗ガン、抗ウィルス、抗バクテリア、抗真菌活性があるため、カイメンは創薬研究に長年用いられている。

〇カイメン共生菌のおよそ90~99%が難培養性(not amenable to cultivation)と推定されている。

電位印加による生きた微生物の回収法が、海綿動物由来の共生微生物に利用可能か検討。

生物サンプルからの微生物回収

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電気回収後、寒天培地で培養した共生微生物

死んだ共生微生物は、-0.3V vs. Ag/AgClを印加した電極基板上に付着しない。

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想定される用途

• 生物サンプルや土壌堆積物中から、生きた有用微生物を選択的に回収する技術。

• 水溶液中から微生物を除去する技術。

• 微小電極上に単一細胞レベルで微生物を付着培養後、各種オミックス技術解析に供する技術。

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実用化に向けた課題

• 現在、バクテリア31門、アーキア3門、酵母Saccharomyces cerevisiaeを電気回収することに成功。

• 今後は、生きた特定の有用微生物種のみを、環境中から選択的に電気回収する実験を進める。

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企業への期待

• 未解決の有用微生物の選択的な電気回収については、電気による誘引付着と剥離回収の技術により克服できると考えている。

• 各種オミックス技術を持つ、企業との共同研究を希望。

• 微生物からの有用物質生産を利用した展開を考えている企業には、本技術の導入が有効と思われる。

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本技術に関する知的財産権• 動物細胞をアレイ状に配置するための基板の調製方法及び動物細胞をアレイ

状に配置した基板の調製方法,発明者:小山純弘, 出願人:海洋研究開発機構, 特願2009-250516, 登録番号:5527651, 出願日:2009年10月30日, 国内

• 増殖可能な動物細胞の調製方法, 発明者:小山純弘,出願人:海洋研究開発機構, 特願2009-250518, 登録番号:5515094, 出願日:2009年10月30日, 国内

• 生きた微生物の固定化方法および調製方法, 発明者:小山純弘、丸山正、加藤千明、秦田勇二、大田ゆかり、坪内泰志、小西正朗、能木裕一, 出願人:海洋研究開発機構, 特願2011-10693, 出願日:2011年1月21日, 国際登録番号:8790907

• 土壌微生物の調整方法及びその利用, 発明者:小山純弘、坪内泰志, 出願人:海洋研究開発機構, 特願2012-55306 特開2013-188154 , 出願日:2012年3月13日, 国際出願番号:PCT/JP2013/056815 国際公開番号:WO2013/137255A1

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お問い合わせ先

国立研究開発法人海洋研究開発機構

事業推進部 産学連携課

TEL 046-867-9309(共同研究)

046-867-9232(知財・特許)

FAX 046-867-9195

e-mail [email protected]

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Saccharomyces cerevisiaeの電気吸着実験

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24マイナス電位印加したITO電極への二倍体酵母の付着には、Flo10が強く関与

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1x105cells/wellで播種

1.4±0.7(平均±sem)個の二倍体酵母を100x100m2のITO微小電極上に付着配置